【呪】猿蟹合戦【殺】 (22)

むかしむかし、ある所にサルとカニがおりました。

サルが腹を減らしてフラフラしていると、道端に黒いモノが落ちています。

食べ物かと思って拾ってみれば、黒いモノの正体は只の柿の種でした。

それを見るなりサルはガックリ。柿の種なんか食べられません。

と、そこにオニギリを持ったカニが通りかかりました。

サルはオニギリが欲しいあまり、カニにずるい相談を持ちかけました。

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「やあカニさん。君の持ってるオニギリと、この柿の種を交換しないかい?

 この種を蒔けば、毎年おいしい柿の実が成るよ」

「いいよサルどん」

素直なカニは、二つ返事でその提案を呑みました。

早速家に帰って柿の種を地面に蒔きます。

そして水をやりながら

「早く芽を出せ柿の種、出さねばハサミでほじくるぞ」

チョキチョキとハサミを鳴らしながら柿の種を脅します。

柿の種は「ほじくられちゃたまらん」と、急いで地面から芽を出しました。

それに気を良くしたカニは、さらに脅しを続けます。


「早く伸びろや柿の種。伸びねばハサミでちょん切るぞ」


「早く太れや柿の種。太らにゃハサミでちょん切るぞ!」


「早く実を成せ柿の種。成さねばハサミでちょん切るぞ!!」


「早く熟れろや柿の種。熟れねばハサミでちょん切るぞ!!!」


柿の種は恐怖のあまり、グングン成長して立派な木に成長しました。

そして熟れた真っ赤な実を沢山成らし、とうとう食べごろの時期を迎えました。

早速、カニは柿の実を食べようと木に足を掛けました。

しかしカニの足では、いくら登ろうとしてもツルリと滑ってしまいます。

「困ったなぁ、どうしよう」

そうやって悪戦苦闘している所へ、あのサルがやってきました。

「ややっ、柿の実が成っているぞ」

サルはスルスルと木に登ると、熟れた実を一つ取ってガブリと噛り付きました。

それを見たカニは

「サルどん、サルどん。僕にも取って下さいな」

「さぁて、どうしようかなぁ」

サルは柿を頬張りながら意地悪な笑みを浮かべました。

サルは相変わらず柿をムシャムシャやり続け、カニは木の下でウロウロしています。

そんな困り果てたカニを見て、柿の木は思いました。

「私をあんなに脅した罰だ」と。

そもそも既に柿の木は、目の前のカニよりずっと大きく成長しています。

今さら小さなハサミなど恐れるに足りません。

そう思うと、柿の木はだんだんと腹が立ってきました。

柿の木はサルにこっそり耳打ちしました。

「サルどん、あんなヤツに実をやる事なんて無いさ。青いのでもぶつけてやろうよ」

それを聞いたサルはニンマリとした笑みを浮かべ

「それもそうだ」と、カニに青い実を投げつけました。

青く固い実はカニの背中に見事命中し、カニは潰れて死んでしまいました。

「ありがとうサルどん。私はあのカニに脅されて困っていたんだ。

 さあさあ、お礼に私の実を沢山食べておくれ」

そう言ってサルに食を勧めます。

サルは「悪いねぇ」と言いながら、腹一杯に柿の実を平らげました。

そして一通り満足すると、大きなお腹を擦りながら自分の家に帰っていきました。

が、

その夜悲劇は起こりました。

「ううっ、苦しい……!」

サルは吐き気と腹痛に襲われました。脂汗が顔から滝のように流れ出ます。

この正体は『柿胃石』といい、空腹時に柿を大量に食べる事によって引き起こされる病気なのです。

酷い時には吐き気や腹痛で収まらず、胃の粘膜が傷付き、ただれや潰瘍となる場合もあります。

サルは三日三晩苦しみ通し、最期は全身から血を噴き出して絶命しました。


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━━ おわり ━━

━━ 屁こき女房 ━━


むかしむかし、ある所に新婚の夫婦がおりました。

夫婦は旦那のおっかあと一緒に仲良く暮らしていました。

しかし、そんなある日の事です。

「おらぁ、屁がこきてぇ」

女房はおっかあに打ち明けました。

それを聞いたおっかあは笑って「屁ぐらいこけばええ」と答えました。

「じゃあおっかあ、何処かに掴まっておいてくれ」

おっかあは女房の言葉を不思議に思いながらも、いろりの淵にしっかりと掴まりました。

そして女房はケツをまくって一捻り。

ブオオという轟音と共に、台風のような屁が家の中をほとばしりました。

その風速、実に毎秒60メートル。

これは木造住宅が倒壊を始めるレベルです。

おっかあは成す術もなく、表の大根畑へ吹き飛ばされました。

「こんな嫁ごは置いておけねえ!」

おっかあはプリプリと腹を立て、女房を実家へ送り返す事にしました。

旦那が嫁入り道具を担ぎ、女房と一緒に実家への道を歩きます。

その途中、港町を通りかかりました。

するとそこには、風が無くて出航できない貨物船の姿が。

「なんでぇ、情けねぇ。おらなら一発で船を沖まで運んでやらぁ」

女房が言うものですから、港の男は

「そこまで言うならやってみろぃ。出来たら米三俵くれてやらぁ」

売り言葉に買い言葉。女房を焚きつけます。

それならと、女房はケツをまくって一捻り。

船は海上を滑空するが如く、勢い良く水平線の向こうまで吹き飛んでゆきました。

港の男達はあんぐりと口を開けて呆けておりましたが、

やがて我に帰って夫婦に米俵を三俵渡しました。

それを受け取り、夫婦は実家への道を急ぎます。

あとこの山を越えれば実家だという所で、夫婦は一人の商人に出会いました。

商人は馬の背に乗り、柿の木から柿を取ろうとしています。

ですが、僅かに高さが足りません。

「こんな柿、おらが一発で全部落としてやらぁ」

「そんな事が出来るのか? 出来たらこの馬と反物、全部くれてやろうじゃないか」

そこでケツをまくって一捻り。

柿は一つ残らず、木の枝から地面に落ちてしまいました。

夫婦は約束通り、馬と反物を商人から受け取ります。

旦那は思いました。

「こんな素晴らしい女房を実家へ帰すなんて勿体無い」

そして女房へヨリを戻すように提案しましたが

「そんな事言うて、都合が悪くなったらまたおらを捨てるだぁ!」

言うが早いが屁が先か、女房はケツをまくって渾身の一捻りを見舞いました。

旦那はあれよあれよと空を飛び、その後、彼の姿を見た者はおりません。


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━━ おわり ━━

━━ 柿売りと唐辛子売り ━━


むかしむかし、ある所に一人の商人がおりました。

商人は馬と反物を持っておりましたが、道中、一組の夫婦にそれを渡してしまいました。

仕方なく、商人は拾った柿を売る事にしました。

しかし臭いがアレなので、一向に買い手がつきません。

宿を取る金も無く、柿売りは荒れ果てたお堂で一夜を過ごす事にしました。

するとそこには先客がおりました。唐辛子売りです。

彼もまた柿売りと同じく、唐辛子が売れずにお堂で一夜を過ごすようです。

夜はめっきりと冷えてきました。お腹もグーグー鳴り始めます。

柿売りは止むなく、拾った柿を食べる事にしました。

臭いはアレですが、物理的には美味いのです。

柿売りが鼻を摘みながら柿を食べていると、唐辛子売りが言いました。

「のう柿売りさん、儂にも一つ分けてくれんか」

しかし拾った柿を売るようながめつい男です。

「これは大事な商品じゃ。売るのだったら構わんよ」

しかし唐辛子売りには宿代もありません。

「そう言わず分けてくれんか。何なら儂の商品と交換ではどうだろう?」

「駄目だ駄目だ。唐辛子なんか食べたって腹が膨れるものか」

結局、唐辛子売りは柿を譲ってもらえませんでした。

止むなく、唐辛子売りは自分の商品を食べる事にしました。

空きっ腹に唐辛子は色々とキツイですが、空腹で死ぬよりはマシです。

唐辛子売りはある程度の唐辛子を腹に収めると、ゴロリと横になってとっとと眠ってしまいました。

柿売りも腹一杯柿を食べて眠りました。

そして、次の日の朝の事です。

唐辛子売りが目覚めると、隣で柿売りが死んでいました。凍死のようです。

逆に唐辛子売りは体がポカポカ。昨夜の寒さにもヘッチャラでした。

柿を食べると体が冷え、唐辛子を食べると体が温まるのです。

こうして昔から、寒い日には柿を食べ過ぎないようにと言い伝えられています。


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━━ おわり ━━

きたい

━━ 頭に柿の木 ━━

むかしむかし、ある所に一本の柿の木がありました。

しかし柿の木は、いくらお日様を浴びても一向に元気になりません。

何故なら以前浴びた屁が、柿の全身を蝕んでいたのです。

「このままでは死んでしまう」

柿の木が困っていると、そこへ一人の男が通りかかりました。

これぞ僥倖。

柿の木は頃合いを見計らい、男の頭に柿の種を落としました。

それに男は気が付きません。

柿の種はすくすくと大きくなりました。

やがて柿の根が男の脳に到達し、ついにはその体を乗っ取る事に成功したのです。


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柿は新しい体を手に入れ、お日様を浴びながらスヤスヤと昼寝をしていました。

と、そこに木こりが通りかかります。

木こりは男の頭から生える木を見てビックリ仰天。

「ややっ!? 人の頭から木が生えているぞ!?」

そう言って柿の木を斧で切り倒してしまいました。


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ヽ ̄ニ‐、__.」乢!L!lヱL」__     /       l}   从「 /    - 土ユ
 \ `ヽ\      /l |    { ___ / ij //       了 Iコ
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   '}  l  ゙,    /   |:::\      }     ,.イ/         ,
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こうして、柿の呪いで殺される人はいなくなったとさ。


━━ めでたしめでたし ━━

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