※福本伸行作品より「銀と金」と「賭博黙示録カイジ」のSS
※銀と金の森田がカイジのエスポワールに乗ることになった場合のお話
※一部モブキャラに名前や苗字あり(参考はかの有名な鬼畜ゲーから)
※三部構成の予定
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1407883201
森田「嫌になった……何もかも……」
森田「悪党のお守りなんて、もう……」
裏社会でのし上がるため、「銀王」こと裏社会のフィクサー平井銀二と共に活動を続けていた森田鉄雄――
しかし彼は、神威家の内部抗争における出来事をきっかけに、裏社会から足を洗うことを決意する。
天才的・悪魔的な才能を持つ平井銀二に魅かれていた森田は、銀二と袂を分かつこととなる。
もう二度と、彼のような自分を引き上げてくれる特別な人間とは出会えないことに涙して――
森田「さよなら、銀さん……」
1994年3月、森田鉄雄引退――
それから2年後……1996年2月――
森田はカイジの上位互換だからいけそう
森田鉄雄は、無気力な日々を送っていた。
平井銀二という、彼が魅せられ、信頼し、そして超えたいと思っていた存在を喪失した森田は「自分の中の何かを失った」ように満たされない毎日を繰り返す。
裏社会の稼業で数億という大金を稼いだ森田であったが、彼はその金を全て捨て去っていた。
悪党として稼いだ金を見ているだけで、彼は自分の感覚が壊されていくような嫌悪を感じるようになったからだ。
引退後、森田は銀二と出会う前の日雇いの仕事などで地道に稼ぐフリーター生活へと逆戻りしていた。
さすがに競馬などのギャンブルに手を染めることはなかったが。
だが、再び戻ってきたシャバでの生活にまるで生き甲斐など感じられない……。
森田「ふぅー……ズルズル」
今日は仕事もなくアパートでカップラーメンを食べていた森田。
コン、コン
と、そこに扉をノックする音が。
森田「はい? ……ん!?」
応対のために扉を開けた所、そこに立っていたのはサングラスをかけたヤクザのような男が一人……。
かつて裏稼業をしていた頃に自分達をサポートしてくれていた元新聞記者、巽 有三と似たような面影があった。
森田「な、何だよ? あんたは」
???「……森田鉄雄さんだね? 俺はこういうものだ」
ヤクザ風の男、懐から一枚の名刺を差し出す。
『TEIAI Group 遠藤金融 株式会社 代表取締役 遠藤勇次』
つまりこの男はサラ金会社の社長ということだ。
だが、森田が目をつけたのはこの男の身分や会社などではなく、会社が属しているグループ名……!
森田「て、帝愛だと……!?」
遠藤「ほう、我ら帝愛グループをご存知とは光栄だねぇ」
森田(銀さんが言っていた、財閥じゃねえか……!)
森田はかつて裏社会で活動していた際、銀二から帝愛グループの話を少しだが聞かされていた。
何でも金融業を主体にした日本最大の巨大グループ企業であり、他にもカジノなどの娯楽業など様々な経営を生業にし、有名政治家とのパイプも持つほどだという……!
かつて対決した巨大グループ企業の一つ、誠京とは長年に渡り水面下で争っていたとか……。
これから出勤。再開は午後以降で
期待。
遠藤「中でいいかな? こんな戸口で話すようなことじゃないんだ」
森田「……帰んな。俺はあんた達に用はない。金なんか一銭も借りたことはないぞ!」
そう。森田は過去に一度たりとも「帝愛」から金を借りたことなどない。
帝愛が債務者に課す金利は極めて法外なものであり、10万借りただけでも1年後には200万もの負債に膨れ上がるというのだ。
金を借りていない以上、帝愛が自分に金を取り立てる道理などないはずだ。
遠藤「クックック……確かにな。お前さんは確かに、ウチからは一銭も金を借りちゃあいない」
遠藤、不敵に笑みを浮かべる……!
森田「だったら……!」
遠藤「まあ、落ち着きな。そのことについては、これから色々と話すよ……」
森田、仕方なく遠藤を中に招き入れる。
互いに床に座り込み、遠藤は持ってきたケースから一枚の紙を取り出しテーブルに置く。
遠藤「一ヶ月前、ウチの親会社が金融会社の一つを買収して、グループに加えたんだ。その会社が持っていた債権をいくつか俺の所に回してくれてね。その一つが、こいつだ」
森田「ぐ……!」
森田、唖然とする……! それは4年前、銀二にスカウトされる前に一度だけ借りたことがあった消費者金融の契約書……!
帝愛とはまるで関係の無い、金利も至って普通のサラ金であった……!
だがまさかそこまで思い至らなかった……! 買収と債権の譲渡が行われていたとは……!
裏稼業に集中しすぎて、すっかり忘れていた……! 痛恨のミス……!!
遠藤「元金は20万、月5%の複利で4年と4ヶ月転がったことになるから……」
遠藤、電卓を取り出し計算する……その負債額は252万……!
裏社会で活動していた頃であればすぐにでも返済はできただろうが、今となっては素寒貧同然の森田に払える額ではない……!
森田「それで、俺に今すぐそいつを払えというのか?」
遠藤「森田鉄雄、25歳……両親は既に死去している上、保証人もいない以上はそういうわけなんだが……」
さらに遠藤は取り出したのは債務者の情報を記した資料に目を通すが……。
遠藤「今日俺が来たのはそういうことじゃない……」
森田「なに?」
遠藤が言うには、一ヵ月後に晴海埠頭から出港するエスポワールという大型客船で帝愛が主催する負債者同士を集めてギャンブルが行われるという。
そのギャンブルに参加し、勝つことができれば負債は全て帳消しになる。それどころか1000万や2000万を稼ぐことも可能だそうだ。
ただし、負ければさらに借金は増えるだけでなく、どこぞで数年強制労働をしなければならない。
森田(やっぱり、銀さんが言っていた通りだ……こいつら……!)
かつて銀二から聞いた話だと、帝愛は裏では負債者の人権・命を奪う凶悪なギャンブルを行なわせているらしい。
と、なればそのエスポワールで行われるというギャンブルもそこらで行われるようなただのギャンブルではないのは想像に難くない……!
森田(何が、希望の船だ……!)
誠京の会長、蔵前仁が政治家をギャンブルによる負債で縛り、さらには負債者を地下で飼い殺しにしていたのと同じ……いや、それ以上……!
遠藤「どうだい、森田鉄雄……? その船で勝てば、お前さんの借金はチャラになる。選ぶのはお前次第だが、今の借金は数年そこらで返せるものじゃねえぞ……」
森田「くっ……ぬかすな。要するに、俺に選択の余地はないってことなんだろう?」
たとえその主催するギャンブルに参加しなくとも、結局は負債者を生殺しにしようとするのは当然のこと。
つまりは、帝愛に借金をした時点で負債者の命運・生殺与奪は奴らに握られているも同然なのだ……!
遠藤「まあ、そういうことさ……」
遠藤、タバコに火を点けると森田の威嚇を軽くいなす……!
遠藤(森田鉄雄……ふっ、噂にたがわない男だな……。さすがに、あの「銀王」と組んでいたという話なだけはある。もっとも、今となってはお前もクズの一員……)
一ヶ月後、晴海埠頭――
結局、森田は帝愛が主催するギャンブル、エスポワールのクルーズに参加することになった。
参加者は時間差をつけて招集され、帝愛の黒服に身元や持ち物などのチェックを行われ、それが済むと乗船し、船内の一室へと通される。
そこに集められていたのは100人弱の負債者たち……。理由は様々だろうが、帝愛に借金をして集められた囚人……。
生気が無く負のオーラで満たされた群衆の中に、森田も足を踏み入れる……。
森田(俺も銀さんに拾われなければ遅かれ早かれこうなってたってことか……。それが伸びていただけ……)
森田、部屋の隅の壁に寄りかかり自嘲する……。
カイジ(何だ、この男……他の奴らとは何か雰囲気が違うっていうか……)
森田のすぐ隣に立っていたその男の名は、伊藤開司……森田同様に遠藤によってこの希望の船に導かれた者……。
彼自身が借金をしたわけではないが、友人の借金の保証人となったことがきっかけで、この船へと落ちてしまった……!
カイジは森田が発する他の参加者とはまるで別物のオーラを感じ取っていたのである。
黒服「お待たせいたしました。早速ですが、これから軍資金の貸付を行います」
数分後、現れた黒服は参加者たちの前に台車に乗せてきた札束の山を見せる。ざっと8億はあるのではなかろうか?
札束の山に、参加者たちの目は釘付けになる……。ただ一人、森田を除いて……。
黒服「貸付の上限は1000万、下限は100万。但し30歳以上の方の上限は500万となっております。金利は利率1.5%の10分複利……クルーズは4時間の予定ですので、借りた額に4割ほど上乗せして返して頂ければ結構……」
カイジ「よ、四割……!?」
森田(とんだぼったくりだな……。帝愛もとんでもない悪党だぜ……)
つまり、たとえシャバでの借金がチャラになってもこのクルーズで新たな借金を抱える可能性もあるということだ。
負債者救済と言いながら、帝愛はどこまでも金を搾り取ろうとしている……。
かつて平井銀二が不正融資をしていたのと良い勝負かもしれない……。
期待
その後、軍資金の利息に対して石田という男を筆頭に次々と参加者たちが抗議を始めるも、黒服は軽くいなしていた。
降りたければ降りろ、10年、20年をかけて借金を返すのも一つの選択だと言って。
カイジ(汚ねぇ……! 俺たちはそんな選択ができねえから、この船に乗ってるんじゃねえか)
森田(いや、むしろ一生負債を抱えていろってことか……)
たとえ石田の言ったようにこの船を降りたとしても、帝愛が課す金利は元金さえ払えずに膨れ上がっていくだけ。
つまり、一生はおろか数代でさえ返せるようなものではないのである。
黒服「どうなさいます? 石田様」
石田「100万だ……! くそぅ……」
黒服「ありがとうございます。次の方」
「沢村、100!」
「中根、100万!」
「今田、100万!」
「佐藤、100!」
「こっちも100!」
「俺も100だ!」
その後も参加者たちは軍資金を次々と借り受けていくが、ほとんどが下限の100万ばかり。
カイジと森田が組んだら逆に怖い
カイジ(ふざけんな……誰があんな奴らのために高い金利で金を借りる必要がある)
普通に考えればそうであるが、森田はカイジとは別のことを考えていた。
森田(だが、俺たちはまだどんなギャンブルをするのか聞かされていない……)
そう。まだこのクルーズのメインであるギャンブルの詳細を森田たちは知らない……!
軍資金はいわば命……! リスクではあるが、生命線が多いにこしたことはない。
森田(帝愛の主催するギャンブルだ……どんな危険なことをするのか分からない……よし……!)
そして何より、そのギャンブルの主催者が帝愛という存在であることを考えれば……!
船井「どいつもこいつも話にならんわ……何をするか分からんっちゅうに」
森田が軍資金を借り受けようとした所、そう呟きながら歩み出てきた一人の男……。
森田(あの男……)
船井「船井や。上限いっぱいまで」
その船井という男は何の迷いもなく上限の1000万を借り受けていったのだ。
参加者たちはその光景に一眼となって驚愕、唖然とする……!
森田も同様であるが、その船井という男に違和感を感じ取っていた。
森田(あいつ……何であそこまで余裕でいられるんだ……?)
まるでこれから始まることが何であるかが分かっているようなあの態度……森田からしてみれば不信感を抱くのは当然である。
森田(何かある……あいつには……)
パンパンッ
伊藤カイジ「伊藤カイジ、1000万!」
その後、カイジも船井の姿を見て思い直したのか上限を借りていく。
森田(あいつ、気がついたみたいだな……あの金が俺たちの命であることを)
見たところ森田よりは若いようだが、軍資金の重要性に気付いた点は他の参加者たちとは違うようである。
森田「森田、1000万」
カイジの後に続き、森田も上限を借り受ける。
そうした三人の姿に感化されたのか、下限以上を借り受ける者達が次々に現れる……!
「創田、300」
「加東、500!」
「山根、200」
「橋本、100……」
軍資金を借りた者はホールから廊下に出て、プレイルームへと移動する。
その際、参加者にはマジックテープの胸プレートと「A」「B」と書かれた二枚の封筒を、森田らのように大金を借り受けた者たちにはホルスターも渡され、それを服の内側などにしまえるようにしていた。
こうして参加者たちは全員、プレイルームへと集められると同時にエスポワールが埠頭を離れ、出港した。
ここまで来た以上、もはや引き返せない……!
その後、壇上の上にはホールマスターを名乗る利根川という男が現れ、これから行われるギャンブルの説明が行われることとなる。
ただし、説明は一度だけ……! 質問は一切受け付けない……!
利根川は渡された封筒を開けるよう参加者たちに指示する。
利根川「それが今夜、みなさんの命運を握るギャンブルの種目……!」
カイジ「馬鹿な、だってこれは……」
森田「おいおい、これがギャンブルになるのかよ……」
出てきたのは12枚のカード……そして、それらに示されているのはグー、チョキ、パーの絵柄……!
そして、もう一つの封筒には星が3つ……。それを胸のプレートにつける……!
かいつまんで話せば、これから行われるのは「限定ジャンケン」という種目。
グー、チョキ、パー、各4枚のカードを使い、他の参加者たちと勝負。勝てば相手の星を入手することができ、あいこであれば星の移動は無い。
一度使ったカードは使えず、途中の経過はどうあれ最終的に星を3つにし、カードを使い切ることができれば勝利……!
ただし、星を失うか、4時間内にカードを使い切れなかったり、星が3つ未満でカードがなくなれば失格……! 当然、カードの廃棄は許されない……。
利根川「以上で私の説明は終了させていただきます」
カイジ「ちょっと! この借りた金はどうすんだよ!」
森田(そういえば、軍資金の使い道はどうなるんだろうな……)
これまでの説明の中で借り受けた軍資金の使用については一切含まれていない。
森田(単純にジャンケンを続けていくだけなら、軍資金そのものが必要ないはず……。ということは、このゲームにはジャンケンをする以外に何か裏があるということなのか?)
利根川「どうぞ、ご自由に。各自の判断でお使いください」
森田(利根川は途中の経過は一切問わないと言った……。ジャンケンという単純明快なゲームを続けていく以上は途中経過もくそもない……)
森田(ということは、やはり何かあるんだ……。ジャンケン以外でこの金を使う何かが……)
利根川「Fuck You……! ブチ[ピーーー]ぞ、ゴミめら……!!」
森田が一人熟考する中、参加者たちが負けた時の処遇について問いただしていたが、利根川に一喝される……!
その後、利根川のお説教が始まるが、森田はゲームについて熟考するのに集中していて聞き流す!
利根川「お前らがなすべきことは勝つこと! 勝ってここから抜け出ること! 心に刻め! 勝つことこそ全てだ! 勝たなければゴミ!」
――バニッ!!
利根川は参加者たちに檄を飛ばし壇上から降りる。そして、勝負が始まった……!
勝負開始から5分……。森田とカイジらは一度も勝負に行かない……。
ホールの隅で他の参加者たちの様子をじっと窺っている……。
そうこうするうちに星を3つ失い、別室へと移されるものが出る始末。中には負けたという自覚がなくヘラヘラする者までいる……。
カイジ(何考えてやがるんだ、こいつら……!)
森田(とても大勝負に負けたって顔じゃないな。……これからどうなるか、検討もつかないっていうのに)
二人は真剣に戦っていない参加者たちの姿を見て呆れ返る……。
特に帝愛のことについてある程度は知っている森田は敗者たちに待ち受ける過酷な運命とやらを考えるだけで息を呑む……!
とてもじゃないが、ただではすまないのは明らかだ……!
この限定ジャンケン、運否天賦の勝負で勝ちあがれるようなゲームではない!
船井「ふっふっふ……分かるで、アンさんの考えてること」
カイジ「な、何だよお前」
森田(こいつは……)
同じことを考えている二人の元に現れた男は、あの船井という男。
彼はカイジの元へと近づき、何やら色々と話し始めている。
全然人が来てないようですので、別の場所で投下しなおします
みとるで
いや、このレベルなら完結したらまとめなられるだろうしまだ早い
もう少し待ってみたら?
書かないならHTML化依頼出しとけよ
ざわ・・・ざわ・・・
みている
書く気がないなら依頼出せゴミ
※とりあえず、一部目は全て書き溜めてるのでそこだけは最後まで続けます
森田はその場からさり気なく離れると、すぐに二人からは死角となる位置に戻り、柱とカーテンの影に身を隠して会話に耳を傾ける……!
近くに立っていた黒服もカモフラージュとすることで気配と不自然さを消す……。
船井「なあ、カイジさん。組もうやないか、俺とあんたの二人で」
カイジ「組む?」
馴れ馴れしい態度でカイジに話しかけてきた船井はこのギャンブルで生き残るにはパートナーが必要だと語り始める。
何でもゲームのルールの盲点をついた100%の必勝法があるのだとか。
星3つで全てのカードをあいこで処理することができれば、それだけで生き残れると。
カイジ「お、お前……よくそんなことを……」
森田(なるほど、確かにそいつは盲点と言える)
船井の熱弁にカイジが唖然、感心する中で森田も同様のことを考えた。
だが、何故この短時間でそこまで考えられた?
船井「実は俺、リピーターなんよ」
カイジ「リ、リピーター?」
森田(なるほど、それなら勝負開始前からあそこまで余裕でいられたのも合点がいくぜ……)
リピーター……すなわち、以前にもこのクルーズに参加したことがある経験者。だからこのゲームがどういうものであるかを熟知し、精通しているのだ。
船井によれば他にも何人かがいるらしい。誰がそうであるかは森田らには分からないが。
となればこの勝負、当然経験者が有利という展開になる。
カイジ「でも俺……1000万も借りちまってるし、金利が……」
船井「アホやなあ、カイジさん。金利なんか早上がりしてしまえばたったの数十万程度ですむんやで?」
森田(……待てよ、リピーター?)
軍資金の使い道であるが、ゲーム終了後に星を売買する時間があり、その時に使うのだそうだ。
だが、船井の話を盗み聞きしていた森田はここである疑問が浮かぶ……。
船井がリピーターであること。そして、このゲームのシステムそのものとの矛盾。
見てたのに見切り早いなぁ……
森田(参加者が負債者であろうが、借金をしていない奴であろうが帝愛にとっては金を搾取する家畜に過ぎないはず……)
森田(奴が言うようにリピーターが短時間でゲームを終わらせてしまう展開になってしまえば帝愛にとっては損害にしかならない……)
森田(それこそリピーター同士で結託すれば自明の理……。あいつが早く上がりたいのであればその顔見知りのリピーターと組めば良いだけのはず……)
森田(それをしないということは……!)
森田「あっ……! あいつら、どこへ行きやがった!?」
気がつけば、カイジと船井の姿が消えていた!
森田、慌ててホール内を駆け回りカイジたちの姿を探す!
森田(馬鹿野郎! あんな胡散臭いやつの言うことを信じる奴がいるか!)
森田(リピーターは何も知らない奴を食い物にしようとしているんだぞ!)
リピーターである以上、初参加の者とは別に何か追加で上がる条件があるはずだ。と、なれば現状維持をする意味などゼロ……!
それに誰がこんな地獄の釜の底で生き残りを賭けたゲームをしたがるというのだ!
リピーターであれば自主的に参加する奴もいるはず……!
再びこのゲームに自ら望んで参加する理由はただ一つ――金儲けのためだ!
カイジ「船井いいいぃぃ!! ふざけるなぁ! 返せぇ! 俺の星!」
森田「あそこか!」
やがてカイジと船井の姿を見つける森田! カイジは船井の口車に乗せられ、組んでしまったのだ!
案の定、カイジは船井に星2つを騙し取られていた!
船井に食って掛かるカイジは黒服に制止される……!
船井「アホんだらが! ものの5分も話しただけなのに友達にでもなったつもりか! 甘ったれが! 俺はお前を奪って食うただけや! クソが!」
船井はそのままカイジに唾を吐きかけ、その場を去っていく。
黒服「ここはお前らのこれからの人生を賭けて戦っている、言うならば戦場だ」
黒服「その戦場で後ろから撃たれたと騒ぎ立てる兵士がどこにいる。お前はただ後ろから刺された……それだけだ! 散れ!」
黒服に叱責され、放心するカイジはそのまま途方に暮れていた……。
森田は遠巻きにその顛末を見届けていた……。
森田(確かにそうさ。ここは戦場……いかなる手段をもってしても勝ち残らなければ意味はない……。あんな胡散臭い奴にあっさり騙されたカイジにも落ち度はある)
森田、歩き去っていく船井を睨み付ける……!
森田「てめえらみたいな奴ばかりが得をするなんて認められるか!」
それから数分、森田は船井の動きを遠巻きに探っていた。
見れば、船井は星3つでカードを1、2枚持て余している参加者に声をかけているのが分かる。
また騙すのかと思えば、そのままホールとは別の場所へ移動していった。
少しすると、船井が声をかけた参加者が喜び勇んで戻ってきた。見た所、カードを持っていない?
森田「ちょっと、あんた」
「あん? 何だよ」
森田「さっき、関西弁を喋る男と話してたろ? 何を話してたんだ?」
「ああ、あのおっさんがカードを1枚20万で売ってくれって言ってきてさ。それで俺を上がらせてくれるって」
「すぐに上がれて借金もチャラにできるなんて、ラッキーだぜ!」
森田「何? 何のカードを売ったんだ?」
「ああ、あのおっさんグーしか無くて心細いからってパーとチョキを売ってやったよ」
男は上機嫌にそのまま階段を上がり、ゲームから上がっていった。
そして、船井が再びホールに姿を現す。そして、また同じように参加者に声をかけては別の場所に連れて行く。
森田(なるほど……まだ荒稼ぎをしようってわけか……)
船井はカイジの星を騙し取ったことで星を5つにしている。だが、それでもまだ飽き足らずに星を稼ごうとしているのだ。
売買とやらで星を売り、金を稼ぐために……。
森田(ふざけるな……! 貴様らの財布にされてたまるか!)
森田は船井が声をかけてカードを買収した参加者からどのカードを売ったのか情報を引き出していく。
それによれば船井はさらに1枚、グーのカードを買ったそうだ。
その後も船井は二人の参加者からチョキ、パーのカードを買い取ったという。
これで船井の手持ちはグー、チョキ、パーのカードがそれぞれ2枚ずつになる。
これ以上、船井はカードを買い足すようなことはせずにホール内でカモ探しを始めていた。
森田(向こうの情報は分かっている。あとはどうやってあいつから星を手に入れるかってことだが……)
森田は考える……! 策を使い、弱者から星を騙し取ろうとする船井と戦い、勝つ方法を……!
森田(上手くいくかは分からんが、これで行ってみるか……。あいつ次第だが……)
下手をすれば逆に自分が船井に食われることになるだろうが、行くしかない……!
森田、船井との接触を図る……!
船井「どないしたんや、森田さん。そんな浮かない顔をして」
森田「あんたは……船井さん、だっけか」
噴水の淵に腰掛け、これからどうしようかというような雰囲気で迷っているように見せていた森田の元に現れた船井。
これから新たな獲物を狩らんとするかのような雰囲気が丸見えだ。
船井「おお、俺の名を覚えといてくれたんか。光栄やなぁ。俺もあんたも、貸し付けの時に上限を借りとったから印象深かったんやな」
森田「ま、そういうことさ。で、俺に何か用かい?」
船井「なぁに、あんさんが何やら困ってる様子なのを見てな。気になったんや。見た所、まだ1回も勝負をしてないやないか」
森田「いざ勝負をしようと思っても星が減るのだけは避けたいと思うとな……おまけに、おたおたしていても金利が増えていくだけ……困ったものだよ」
森田、手持ちのカード12枚をチラつかせる……。
船井(ククク……こいつもカイジと同じ、カモやな)
だが船井、森田の胸に輝く星に目をつける……!
カイジから奪い取ることで自分の星は5つ。だが、もっと星を稼いで余分な星で金を儲けたいのだ。
貪欲……あまりにも貪欲……!
何とかこいつからも星を奪い取ってみせると考えるのは当然……!
森田もあのカイジと同じく、初参加の素人……! ならば問題はない……。
船井「実はな。俺は今、あんさんが持っているのとちょうど半分なんよ」
船井、自分のカードをこれ見よがしに堂々と森田に見せ付ける……!
確かにこれまでの森田が情報通り、そこにはグー、チョキ、パーが各2枚ずつあった。
船井「どうや? 俺とあいこで消費せんかい? 実は俺も、どないして余ったカードを使い切ろうか困っとった所なんよ」
森田(そらきた……)
それからカイジと同じようにあいこ勝負で金利が増える前に早上がりすることを提案してくる船井。
明らかに森田を狩ろうとしている……!
だが、それは森田も同じこと……!
森田「馬鹿かお前。俺のカードは12枚。あんたは6枚。この時点であいこ勝負なんてできないだろうが」
船井「ふっふっふっふ……森田さん。だったら、俺たちの間だけで数を合わせればいいんや……!」
森田「合わせる?」
船井「ゲームの説明で言っとったのを覚えとるか? 『カードの破棄は認めない』てのを……!」
船井、森田に耳打ちをする……。
船井「実はな、破棄は駄目でも……他の相手と受け渡したりするのはOKなんよ」
森田「渡す?」
船井いわく、船側が認めていないのはカードそのものを捨てたり燃やしたりするなどして処分すること。
他の参加者と交換したり、売るなどするなどのやり取りは黙認している……。
だが、それは森田も知っている……! 船井の行動を実際に見ていたのだから。
船井「あんさんの持っているカード3種類を1枚ずつ、一度俺が引き取るさかい。そうすればお互いに合計はグー、チョキ、パーが3枚ずつ。これであいこにできる!」
森田「……よせよ。あんたが本当にそのあいことやらでカードを使いきってくれるとは限らないだろう?」
だが、森田はすぐには信じず話に乗らないように見せかける……!
船井「だったら、こうしようやないか。お互いに出すカードをチェックの時、一度相手に確認させた上でカードをセットする」
船井「セットが完了した時点でもうカードのチェンジはできへん。これでお互いにズルはできんやろ?」
森田(確かにな……そうなればイカサマのしようはないだろう。だが……!)
森田「……分かったよ。あんたのその提案、乗らせてもらうぜ」
森田、船井とのあいこ勝負を承諾……!
その後、森田と船井は勝負台につき、船井の提案通りのあいこ勝負を実践する……。
グー、チョキ、パーの順で互いに同じカードを出し合い、イカサマ防止のためにチェックの際は必ず出すカードを相手に見せた上でセット。
これで互いにイカサマができる余地はない……!
森田「チェック」
船井「セット」
まず宣言どおりに最初にグー、チョキ、パーの順番であいこにすると、四巡目でグーのカードを見せ合い、勝負台にセットする……。
森田(……)
船井(……ククク)
森田「オープン」
と、言いながらも先にオープンしたのは船井! 船井が出したカードは……。
森田「……!」
船井はチョキ! 宣言を無視した掟破りのチョキ!
だが、始めに宣言したのはグー! これでは船井が逆に負けることになるが……。
船井「あんさん……カイジのアホよりちっとはできるみたいやな。気付いとったんやろ? 俺がカードをすり替えようとしていたのを」
こいつはペテン師。しかも以前にこの限定ジャンケンを経験したことがあるリピーター……!
ならば、カードの扱いやトリックに関しては様々な手段に長けていると森田は読んでいた……!
それこそ、セットした時にカードをすり替えることなど朝飯前……!
船井はチェック時に見せたカードの裏側にピッタリともう1枚のカードを貼り付け、見せたカードだけをセット時に戻し、見せていない側のカードだけを置いてきたのだ……!
船井「けど、まだまだ素人やなぁ。見え見えだったで……あんさんの手つき」
森田「……」
そう。森田もまた、船井と同じようにパーのカードをセットした際にカードをすり替えていたのだ……!
だが、その考えと動きは船井に読まれていた……!
船井「俺の考えを読んだところまでは良かったが、そこから先はまだまだやな。俺を出し抜こうなんて100年早いわ」
下劣な笑いを漏らす船井……! 森田はカードをセットしたまま動かない……。
森田「……バカが」
だが、森田はこの結果に落胆はしない……。むしろ、不敵に笑う……。
船井「あん?」
森田「確かにそうさ。俺はお前がイカサマをするのを警戒し、カードをすり替えた……しかし、それはお前には読まれていた」
森田「だがな……」
森田、セットしていたカードに手をかける……。
森田「すり替えたものが、全く違うものとは――」
森田、オープン! そのカードは……!
船井「……なっ!」
森田「限らないんだよ」
船井、驚愕……! 森田のカードはグー! 宣言どおりのグー!! チョキを[ピーーー]グー!!
船井「な、何でや! カードをすり替えたのとちゃうんか!」
船井、納得できない! 確かに森田はカードをすり替える動きを見せていたのだから……!
森田「ちゃんとすり替えたぜ? お前と同じように、グーを2枚重ねてな……!」
船井「ぐ……!」
森田「お前はリピーター。初めて参加する素人の浅知恵じゃあ、逆に討ち取られるのが関の山……」
森田「自慢じゃないが、俺はお前みたいにカードの扱いに慣れているわけじゃあない。そんな素人が下手にカードをすり替えようとしてもお前のような奴にはまず見破られる……」
森田「だから俺は見せてやったのさ。俺の下手なすり替えでお前がさらに裏の裏をかいてくるのを信じてな……!」
森田「賭けだったぜ。お前が俺の裏だけをかいてパーを出されたらこっちが負けていた……」
しかし、森田は賭けに勝った……! 自らが窮地に陥りかねないにも関わらず、船井がリピーターであることを逆手にとったこのトリックを成功させてみせたのである……!
船井「チキショー! ……クソがっ! ほら、星や! これ持ってとっとと向こうへ行け!」
船井、逆ギレ! カモだと思っていた相手に逆に星を奪われる結果となり、星を叩きつけて早々にその場を離れる……!
森田、星を4つに増やす!
森田(さてと……)
面白い
一方その頃のカイジ、ホールの隅のソファーに腰掛け悔やむ……!
船井に騙されてから約20分……何もせず、ただただ己の愚行を悔やみ続ける……!
ゲーム開始から僅か20分……分けも分からぬまま、命同然の星を2つ失い、さらには残ったカードはチョキ1枚だけ……!
カイジ(ちきしょう……! 大事な勝負だと分かっていたのに……何であんな奴に自分の行く末を委ねちまったんだ……!)
ボロ……ボロ……!
カイジ(何故、自分で考えようと……自分で決めようとしなかった……!)
悔いというにはあまりに重い……! だが、これまでも人生の大半を流されて生きてきたのだから、ある意味自業自得……!
カイジ(救えねぇ……救えるわけがねぇ……)
坂井「任せとけって、俺の言う通りにすればいい。言うなら、必勝法さ……」
石田「本当ですか?」
明らかに騙そうとしているのが見え見え……! だが石田、何の疑いもせず坂井についていく……!
その二人の横を通り過ぎる、一人の男……!
森田「よう、カイジ。隣、いいかな」
カイジ「え?」
カイジの前に現れたのは、森田鉄雄……!
森田、返答も待たず勝手にカイジの隣に座るとタバコに火をつけ一服する。
カイジ「あんた、どうして俺の名前を……」
森田「貸し付けの時に名乗ってたろ。俺もお前と同じ、1000万を借りたんだ」
カイジ「……何の用だよ。いったい」
カイジ、馴れ馴れしく話しかけてくる森田を警戒する。無理もない……! たった今、こうした感じで話しかけてきた船井に騙される結果となったのだから。
こいつもリピーターか? と勘ぐるのは当たり前……! もっとも、森田はリピーターではない……!
森田「……お前、さっき船井の奴にハメられただろ?」
カイジ「あんた、見てたのか……!?」
森田「悪いが、お前と奴との会話を盗み聞きさせてもらったよ。あの野郎、とんでもない手を思いつきやがる」
森田「俺たちみたいな素人相手に絶対助かる話を持ちかけてやれば、何も知らない奴は甘い蜜に誘われるのは当然のこと」
森田「奴らのようなリピーターは上手い話を餌にして、そうした連中から逆に汁を吸おうって考えてるんだ」
カイジ「それで、何だよ……! 俺を笑いに来たのか!」
森田「そうじゃない……ああいう『悪党』が得をするのが嫌なだけさ……」
森田、ポケットから2枚のカードと星を取り出す……。
カイジ「え?」
森田「やるよ。船井から一つだけだが取り返してやった。元はお前の星だろ?」
森田「それにお前、あとチョキしかはずだ。それで狙い撃ちにはされない」
ソファーに星とカードを置いた森田、その場から立ち去ろうとする。
カイジ、唖然……! 森田がわざわざカイジのために船井から星を取り返し、しかもカードまでくれることに……!
カード自体は森田が他の参加者から1枚10万で買い足してきたもの……!
カイジ「お、おい……! 本当に、いいのか?」
森田「ああ。こんな地獄の釜の底でくたばるなよ、カイジ」
カイジ「森田ぁ……! あんた、いい奴だよ……!」
カイジも覚えていた……! 森田の名前を……!
ウル……ウル……!
感謝……! 圧倒的、感謝の涙……!
こんな地獄の釜の底で、まさかの救済……! あり得るはずのない奇跡……!
この船で、他の参加者のためにわざわざそのようなことをする人間などいないはずなのに……!
森田(あいつだけは救ってやりてぇ……あいつだけは……)
カイジを救うことで自分が得をすることなど一つもない……。
だが、そんなことは関係ない……。
ただ、森田はカイジを見捨てておけなかっただけ。ただ、それだけのこと……。
森田(さて……俺もこんな釜の底でくたばるわけにはいかねぇな)
森田
★3
G1 C2 P2
カイジ
★2
G1 C1 P1
ここはプレイルームの二階に設けられた一室……。
ホールマスターの利根川は、ここで寛ぎながら地獄の釜の底を這い回るクズどもを見下ろしている……。
一人の老人と共に……!
老人「ヒッヒッヒ……愚民どもが……浅ましく、醜く蠢いておるのぉ……」
狂気と愉悦を含んだ悪魔の笑み……!
男の名は、兵藤和尊……! この希望の船の主催者、帝愛グループの全てを統括する総帥にして、裏社会を金で支配する王……!
利根川「まったくですな。しかし、会長。今回は面白いやつが一人参加しているそうです」
兵藤「ほう? 何だ、それは……」
利根川、1枚の資料をテーブルに投げ出す。それはこのクルーズの参加者のデータ……!
その参加者の名前は、森田鉄雄……!
利根川「2年ほど前、銀王と組んでいたという若者ですよ。調査によれば、今は引退しているみたいで」
兵藤「おお……! 銀王……! あの銀王か……!」
裏社会を牛耳る者ならば知らぬ者はいない、裏社会のフィクサー・平井銀二……!
兵藤「ワシも知っておるぞ。あやつはワシの知っておる男の中じゃまず間違いなく、つわものじゃ!」
利根川「その銀王が2年前、誠京会長・蔵前仁との勝負を制する際に森田鉄雄をパートナーとしていたそうです」
兵藤「クックック……! 誠京か……! 懐かしいのぉ……」
兵藤、心底楽しそうに哄笑する……! その笑いに愉悦と嗜虐を含ませて……!
利根川「あの勝負は、我らの大勝利でございましたな。会長」
兵藤「当然だ。真の王は勝つべくして勝つ……。所詮奴は飾りの王に過ぎんのだ……!」
~回想~
2年前、帝愛グループはかねてより敵対していた誠京グループを潰すため、誠京の株式30%を取得した……!
銀王との戦いに敗れ、500億と56人の政治家の借用証の損害を被った誠京の混乱に乗じ、帝愛は莫大な資産とあらゆる情報網を駆使することで株を買い占め誠京を陥落させる準備を整えたのである……!
兵藤は、誠京の会長・蔵前仁と互いの財閥の株式60%をサシ馬にして誠京ルールの麻雀勝負を行ったのだ……!
サシ馬だけでも狂気の沙汰だというのに、その麻雀は1局だけで数億の大金を消耗するという狂気に満ち溢れた麻雀なのである……!
兵藤と蔵前、互いに無尽蔵の金を操る王……! 故に数億の金など全く痛手にはならない……!
勝負は中盤戦まで五分五分に見えた……!
兵藤「蔵前よ……お前の強運は既に失せておる……」
蔵前、肝心な時にツモれず、兵藤からも直撃できない……!
兵藤は2度ヅモも駆使し、逆に蔵前の攻撃をかわす……!
兵藤「王は臣下を使いこなすことも重要……!」
たとえ蔵前が兵藤から直撃をとったとしても、下家の利根川が頭ハネ……! 蔵前のトップを阻止する……!
抜群のコンビネーションで蔵前陣営を翻弄する……!
兵藤「ワシはもう少し楽しみたいのだが、そうもいかん……」
兵藤「ワシはこれから始まるこの一局で、この勝負を制するであろう……!」
兵藤「何故ならワシは、王なのだから……!」
オーラス、蔵前と兵藤の点差はギリギリ兵藤が上……! 蔵前陣営は必死に兵藤のあがりを阻止するべく早上がりをしようとするが実らない……!
蔵前(兵藤との点差はわずか500……1飜でもあがればワシの勝ち……!)
蔵前「ポン!」
蔵前は下家の石井からの差し込みで白を1鳴きし、8巡目でテンパイ……! 3,6索のリャンメン待ち……!
萬 筒 筒 索
[22][567][234][白白白] [45]
2度ヅモや石井からの差し込みを行おうとしても肝心の上がり牌が引けない……! 引けない……! 引けない……!
3索は兵藤と利根川の河にそれぞれ1つある……! 残る待ち牌は6……!
兵藤「いかんな……ワシは己が強運を抑え、貴様にチャンスを与えてやったというのに……」
兵藤「ワシはこういう時、どういうわけか……引けてしまうんじゃ……引きたくないのに、引いてしまう……!」
15巡目、兵藤、暗カン……! 6索をカン……!
蔵前のあがり牌の一つは握りつぶされていた……!
さらにドラは5索なので、ドラ4……いや、新ドラも5索でありドラ8……! なんという強運……!
兵藤「クックック……実に残念な結果だ。ワシはもう少し楽しみたいというのに……!」
ツモったリンシャン牌は中……! 兵藤、中単騎待ち……!
索 索 索 索
[123][234][789][6666][中中]
面前ホンイツ、リンシャンツモ、ドラ8……! 数え役満……!
つまり、蔵前のあがり牌は全て兵藤に握りつぶされていたのである……!
兵藤、蔵前が必死にあがろうと足掻いていたのを嘲笑っていたのだ……!
誠京ルールの麻雀では役満で上がった場合はサシ馬相手は役満祝儀というものを支払わなければならない……!
その金額は変動制……! これまでの半荘で払ってきた供託金×場代1000万につき1倍……!
現在の供託金は128億……場代は2億5600万……! つまり、およそ3276億となる……!
蔵前「ぐっ……! ぐぅ~~~~……!」
蔵前、敗北を喫する! それに対し兵藤、大勝!
兵藤「言ったろう……真の王の強運とはこういうものなのだ……。勝つべくして勝つのが真の王……!」
実は兵藤、この局が始まる際、王牌のドラ表示牌に5索を2つ潜り込ませていた……!
さらに勝負の最中、リンシャン牌を中にすり変える……! それこそが王の強運の正体……!
それができたのは、圧倒的な配牌の良さ……! それもまた、王の強運……!!
兵藤以外にカンをされればそれだけで破綻であるにも関わらず、兵藤は成しえたのだ……!
こうして兵藤、誠京グループの乗っ取りに成功する!
誠京の株式60%を得たことにより、その経営を意のままにすることができる……!
もはや蔵前は経営の実権を持たぬ、名だけの会長でしかない……!
後日、兵藤の意思によって緊急役員会が開催される……! その席に出席したのは誠京の幹部達と名だけの会長の蔵前仁……!
兵藤「誰が崩れかけた城などを欲しがる……ワシが貴様らに要求するのはただ一つ……!」
兵藤、狂気と愉悦の笑みを浮かべる……! 獲物を甚振る悪魔のごとき嗜虐の笑みを……!
兵藤「貴様らのこの60%の紙くずを5倍の値で買い戻してもらう……! それができぬのなら、貴様らはおろか臣下達もろとも全員地下行き……!」
兵藤は始めから誠京グループの豊穣な資金を奪い取ることだけが目的……! 敵の牙城を討ち、さらにその資産をも己がものとする……!
これはいわゆるグリーンメールという敵対的買収……! 買い占めた株の値を釣り上げて買戻しを要求する……!
誠京、この脅迫に屈するしかない……! 結果的に麻雀の負けの約3400億と自社株の買戻しによる4500億の損害……! 計7900億……!
これにより、誠京グループは時間もなくして完全に破滅したのは言うまでもない……。
~回想終わり~
兵藤「実に愉快愉快……長年の敵が破滅する姿は実に快感じゃったわ……」
兵藤「……で、その森田という男がこの船に落ちていたと?」
利根川「はっ……先月、グループに加えられた金融会社に負債があったようですな」
兵藤「そうかそうか……銀王と組んでいたというそやつがどう足掻くか、楽しみではないか……! ククク……!」
前半戦終了……! 中盤戦に続く……!
第一部・前半戦はここまで。やっぱり中盤戦、終盤戦も書き溜めてから続けて投下するか迷ってる…
やっぱり、一度書き上げた話はどうあれ完結させたい…
乙
2ヶ月はスレが残るから書き溜めてからでいいんじゃない?
途中でレス挟んじゃまずいと思うくらいには見入った
ぜひ完走してください
コメント期待してかくなら最初からやめとき
いい作品には勝手にコメントつくのがここだから
面白いから頑張って
後日、書き溜めたら第二部・中盤戦を再開
ちなみに文章に規制が入っている部分は全て同じ文章
メールのとこにsagaっていれとくと規制されないよ
なるほど考えたな……「コメント少ないから書くのやーめた」とレスすれば普段あまりコメントをしない奴や場合によっちゃROM専からも続行を願うためレスするという算段……!なんとずる賢い……それでいて面白いssだからこそ出来る悪魔的思惑……!!
やられた・・・!
>>1の謀略と気づかぬまま・・・
まんまと・・・出し抜かれた・・・!
レスしてる人数と萎えて見なくなる人数、どっちが多いんだろうな
乙
>>1
ここは投下中のコメントを控える傾向があるから
乙
第二部の書き溜めができたので、再開します。ちなみに規制部分の文章は両方とも「殺す」です
そして、痛恨のミス……! 森田の年齢が25となっているけど、森田は夏で21歳になっているのでもし25歳なら鉄骨渡りに出た時……! エスポワール時は24歳……!
希望の船、エスポワールのクルーズで行われるギャンブル・限定ジャンケン……!
ゲーム開始から、もうすぐ一時間が経過しようとしている……。
森田「しかし、本当に色々な奴が来ているんだな……」
森田、敗者が送りこまれ収容されるという別室へと続く扉の近辺で佇み、参加者たちを見回す……。
参加者は主に森田のような30代以下の若者が多く、それ以上の年代の者は割合としてはかなり少ない方だ。
「よっしゃあ! 勝ったぁ! 勝ったぜぇ!」
「へへへへ……哀れだな。遅かれ早かれ、お前も私も、みんなまとめて別室へ送られるんだ……。寿命が少し伸びただけに過ぎない……」
森田(こんな気味の悪いやつまで……)
元は浮浪者かと疑うようなかなり不潔な出で立ちの参加者までいる……。
森田は先ほどから参加者たちの様子を伺うだけで、一向に勝負には行かない……。
森田(リピーターどもの特徴は、他の参加者と比べて余裕な態度であることだな)
森田(そして、決して運否天賦の勝負などしない……)
船井以外にも確実にリピーターは何人かが乗り込んでいる。経験者である以上、初参加者のように無闇やたらな勝負など行わない。
森田(奴らは必ず、何かしらの策を立ててこのゲームを生き残ろうとするはずだ)
そして、確実に自分が生き残るために様々な作戦を立てている。船井のように初参加者を騙して星を得るのもその手の一つ……。
いや、むしろそちらの手段をとるのがほとんどだろう。経験者であることのアドバンテージは大きい。
何も知らない参加者を陥れ餌にすることで、楽々と快勝。あがることはもちろん、星を稼いで大儲けすることも簡単である。
森田(見た限りではあいつもリピーター……)
森田が目をつけたのは、白いスーツを着たサングラスの男……。先ほど、石田という中年に必勝法があるなどと言っていた坂井というやつ……。
その坂井はその後、石田と勝負をして星を一つ獲得し、石田を別室へと送り込んでいた。
だが、石田はその事実に嘆くようなことはなく、むしろ逆に安堵していた……。
坂井という男は石田を利用して何かを企んでいるのだろう。
森田(てめぇらみたいな悪党ばかりに得なんかさせるかよ)
この限定ジャンケンで森田が狙うのは、様々な策を立てて初参加者たちを食い物にしようとするリピーター。
参加者を地獄送りにすることさえ躊躇わず、利だけを求める悪党……!
奴らの策の裏をつき、逆手にとることで勝利をもぎとる……!
銀二(森田よ――人の隙をつけ……!)
銀二(欲望が飽和点に達した時、人の注意力は脆くも飛散する……!)
銀二(そこを撃て……!)
かつて平井銀二から教えられた心得……。
たとえ袂を分かったとしても、それは今尚森田の心に刻まれている……!
森田(分かってる……分かってるよ、銀さん)
森田(俺は奴らの隙をつき、生き残る……! この地獄の釜の底から……!)
とはいえ、そのリピーターたちの策が一体どのようなものであるかを知らない限り、攻略は難しい……!
坂井というやつはあの石田という男を利用してどのようなことをするのか、予想ができない。
故に、まだあいつを返り討ちにすることは不可能だ。
森田(あいつは……そうか、仲間を作ることにしたのか)
上がりの階段の下に目を向ければ、そこにいたのは少し前に森田が船井から星を取り戻し星をくれてやった男、カイジ。
他にも二人の男と共におり、どうやらこれからこの船を生き残るためのグループを編成することにしたようだ。
一人でいるよりは二人か三人でいる方がいい。共闘できる仲間がいた方が様々な作戦が取れる……。
カイジ以外にもチラホラと、グループを組もうとする参加者たちが見受けられる。
赤いジャケットの金髪を筆頭にした男たちもその一組のようだ。
森田(共闘か……こんな場所じゃあとてもな……)
しかし、周りは敵だらけ……! 全員が四面楚歌の中で他人が信用できるかなど保証はできない……!
カイジが組んだあの二人が信用できる相手かどうかは正直、分からない……!
この船に乗り、ものの数十分程度しか顔を合わせていない赤の他人同士では、後々裏切られる可能性もあるのだ……!
あのカイジの場合、カイジ自身が裏切ったり、二人を切り捨てるということはないだろうが……。
信用できるとすれば、ある程度は顔見知りであることが最低条件……。
だが、亡者蔓延るこの地獄の釜の底で都合よくそのようなものなどあるはずがないのだ……!
「ちょっと、しっかりしてよ!」
「2回も連続で負けちゃって!」
森田(ん? 何だ、女までいたのか?)
突如、響き渡ったその叫び声はこの船ではあまりにも珍しいもの。紛れも無い、女性の声だ。
参加者たちは男ばかりであり、女の姿など全く見かけることはなかったのだが、まさか女の参加者もいたというのか。
森田、声が聞こえてきた方へと移動……!
ホールの一角では今、三人の女性グループの代表が一人、勝負の真っ最中だった……!
普通であれば女の参加者がいた、という事実を一々深く気にすることもない……。
だが、森田は気になったのだ……!
その女たちの声は、どこかで聞き覚えのある声であったが故に……!
女「分かってるわよ……今度こそ……」
「さあて、お嬢ちゃん。もう一勝負といこうぜ」
勝負をする女、右隣の女から1枚カードを受け取りシャッフルし、手元の3枚のカードのどれを選ぼうか迷いに迷う……!
星は4つ……。これで負ければここまでの勝ち分が全て溶けてしまう……!
女「チェック、セット」
女、ようやく1枚のカードを選び、セットに入る……!
森田(……!? み、美緒!?)
勝負をしているその見覚えのあるショートカットの女……。
3年前、西条建設の御曹司・西条進也とポーカーで勝負をするきっかけとなった人物……!
それは紛れもなく森田が一時期通っていた喫茶店のウェイトレス、伊藤美緒……!!
森田、驚愕……! このエスポワールで、決して出会うはずのない女が、何故かそこに……しかし明らかに目の前にいたのだ……!
美緒「オープン!」
美緒のカードはグー! 対戦相手のカードは……パー!
美緒「あああ~~~~……!」
美緒、無念の敗北にがっくりとうな垂れる……。
明穂「もぉ~~、これで振り出しじゃないのぉ~~!」
そして美緒の後ろにいるのは彼女の友人である明穂と由香理……!
美緒「ごめん……由香里、明穂……」
由香理「もぉ……あら?」
と、ここで由香里の視界に森田の姿が入る……。
まさかの三人wwwww
まさかの登場に俺興奮
由香理「ねぇ、美緒……あれって森田くんじゃない?」
美緒「えぇ?」
明穂「何言ってるのよ、森田くんがこんな所にいるわけないじゃない。人違いよ」
秋穂、一笑に付すが顔を上げた美緒は愕然とする……。
3年前、街中の喫茶店で働いていた中で知り合った常連客……。
西条進也とのイカサマポーカーで窮地に陥った時、助け舟を出してくれた恩人……。
美緒「森田くん……森田くんなの?」
美緒が心惹かれた男が、間違いなくそこにいる……!
森田と美緒一行、双方共に唖然としたままその場に立ち尽くす……。
思いがけず、美緒ら三人の女性と再会を果たすこととなった森田……。
一行は先ほど森田が待機していた別室近くの鏡の前へと移動していた。
明穂「驚いたわ。森田くんがこの船に乗ってたなんて……」
由香理「本当……。まさか、こんなとんでもないクルーズに森田くんまで参加していただなんて思わなかったわ……」
明穂「あれからどうしてたの? 美緒もずいぶん心配してたのよ? 森田くんがもっとヤバイ仕事してるんじゃないかって」
森田、ちらりと美緒の方を見ると困ったような顔をする……。
3年前、西条進也とのポーカー勝負を制した夜から一週間後、次の仕事に出ようという直前に美緒は森田に交際を申し込んできていたのだ。
といっても、あの時の森田は裏家業に集中していてとても女にまで気が回る余裕などなかった。
事実、森田はその後もまさに命懸けの勝負を続けてきたのだ……。
故に、美緒から交際を申し込まれた時も森田は断っていたのだ。
平井銀二の悪党仲間である警視庁OB安田巌からは「下手くそ」とか「I NEED YOUとかいって繋ぎとめておくの」などと言われてしまったが。
福本作品の貴重な女キャラ
美心?知らない人ですね…
美緒「この船に乗ったのも、森田くんの仕事ってやつなの?」
森田「……いや。あれから色々あってね。もう足を洗ったよ。今じゃただの素寒貧さ」
美緒たちはその発言に少し驚く……。
かつての森田の一片を知っている者としてはこのクルーズも森田の裏家業の仕事場か、仕事に失敗した結果なのかと思っていたのだが。
森田「しかし、君らこそ何故、この船に?」
森田が一番気になったのは彼女たちがエスポワールに乗り込むこととなったきっかけ……!
この船の参加者は負債を抱えている者か、金儲けのために自主参加を志願したリピーターしかいない……。
美緒「実は……」
~回想~
それは半月前にさかのぼる……!
美緒は友人たちと一緒にとあるカジノを訪れた……。
そこは会員制の裏カジノであり、由香理が会員であったことがすべての始まりであった。
美緒「本当にここがカジノなの?」
由香理「ええ。そうよ」
由香理に連れられた美緒、明穂は呆然とする。そこは、何の変哲もない雑居ビル……!
由香理はインターホンを押し、会員証を提示するとビル内へと入っていく。
こんな老朽化した寂れたビルにカジノなどあるはずがない……美緒はそう思った。
美緒「うわ……本当にカジノだ……」
だがしかし……実際に入ってみれば、そこは紛れもなくカジノ……!
建物の外観からは全く想像もできないほどに立派なカジノが目の前にあった……!
ルーレット、ブラックジャック、バカラ、ポーカー、クラップス、シックボー……何でもある……。
明穂「最小の賭け額が5万……嘘、10万に100万まであるじゃない……」
一般のアミューズメントクラブのカジノでさえ、最小レートは3000から5000くらいが相場、高くても3万が限度……!
だが、ここはそんな常識を超えたレートが常識……! 少しでも熱中し過ぎてしまえば破滅しかねない……!
しかし、美緒たちはギャンブル中毒者というわけでもない。一般のアミューズメントクラブと同じ感覚で、あくまで遊びのつもりで来ただけ……。
適当に遊んで引き上げる……はずだったのだが。
由香理「きゃあー、すごいすごい!」
明穂「4回も連続で勝つなんて! ラッキー!」
裏カジノとはいえ、何の変哲もないゲームが続いた。勝ったり、負けたりの繰り返し……。
というより、今日は彼女たちに運があるのか、ルーレット、バカラ、ブラックジャックとゲームを続けて美緒たちの勝ちは徐々に積もっていく……!
始めは3人のタネ銭30万で買ったチップが、1時間足らずで300万を越す量へと膨れ上がる……!
由香理「次はどれにする?」
美緒「まだやっていないのにしましょうよ」
勝ちに勝ちまくって美緒たちのテンションは上がる……!
が、そんな彼女らの大勝をカジノ側が黙認するわけがない……。
一条「キャーキャー黄色い声を上げて、醜いメス豚どもだ……」
この青年、帝愛グループ系列の裏カジノの若き店長、一条聖也。
彼は店内に仕掛けられた監視カメラからの映像を店長室のモニターを通して美緒たちの大勝を見物していた……!
一条「お前らの甘い夢もそこまでなんだよ……アホが」
村上「店長、あの――」
一条「ああ、分かっている」
客たちがギャンブルに熱中する様を尊大に見届ける中、入ってきたのは主任の村上。
だが一条、主任である彼が何を言いたいのかを既に察している……。
村上「どうします? あの女たち、ずいぶんと調子が良いみたいですが」
一条「ふふふっ……なら、そろそろ現実というものを味あわせてやらないとな……。あいつら、次はシックボーの台に行くようだ」
村上「はい。……担当のディーラーに連絡を入れておきますか?」
一条「ああ。そうしろ」
村上「それともう一つ……本部からの連絡で今夜、例の『沼』の賞金の回収に来るようです」
一条「そうか。確か今、『沼』に貯まっている出玉は……15億だったな。……ならば、接待の準備を整えねばなるまい」
一条「それじゃあ、あの女どもの始末をさっさと済ませるとするか」
村上「はいっ」
由香理「せっかくいい所まで行ってたのに……」
明穂「本当。調子が出てきたのに、外れてばかりだなんて」
結局、美緒たちはダイスゲームのシックボーでそれまでの勝ち分のチップを全て溶かしてしまった。
はじめは美緒たちが今まで通りに勝ち続けていたのだが、ゲームを始めて5分ほどしてから調子が悪くなり、今度は全く勝てなくなってしまったのである。
美緒の代わりに明穂や由香理も出目の予想をしたが、大きく張った時には全てが外れ……それまでの勝ち運が尽きたかのような大敗であった。
結果としてチップを全て失い、タネ銭を失った以上はカジノにい続ける意味はない。
美緒たちは今日はこれで引き上げることに決めたのだが……。
一条「お帰りになられますか? お嬢様方」
そこに現れたのはカジノの店長、一条。温和な態度で退出しようとする美緒たちに近づいてくる……。
一条「本日は当カジノで楽しんでいただき従業員一同、心より感謝を申し上げます」
美緒「はあ……どうも」
一条「そして本日のお嬢様方のご健闘に私も驚きました。そんなあなた方に私どもから当店のサービスとして差し上げたいものがございます」
唖然とする美緒たちを他所に一条、懐から3枚のチケットを取り出す……。
福本漫画では田中沙織(神威編の子)の初登場シーンが一番可愛いと思う
あの猫目がたまらん
由香理「『クリエイティブクルーズ・希望の船』?」
明穂「何よそれ?」
一条「当カジノが属するグループの大手ファイナンス会社が主催する一夜限りのクルーズでございます」
一条「チケットに記された日時と場所へ行って頂ければ、豪華客船エスポワールが待っているはずです」
一条「その船の催しとしてギャンブルが開催されております。うまくいけば1000万~2000万という大金を手にすることも可能でしょう」
一条「ぜひ、お嬢様方がご参加していただければ幸いでございます」
美緒「はあ。あ、ありがとう……」
由香理「へぇ。ラッキーじゃない。そんなクルーズにタダで参加できるなんて」
明穂「豪華客船のクルーズかぁ……ねぇ、せっかくだから行ってみましょうよ」
由香理と明穂、クルーズに興味津々の様子である……。
一条(バカが。金に群がるメス豚どもの最期には打ってつけなんだよ)
だが一条、表面上の温和な態度の内側では尊大に彼女たちを嘲笑う……!
一条(その船がただのクルーズなわけないだろうが……! せいぜい、今のうちに甘い夢を見続けているんだな)
村上「彼女たち、降りられますかね? あの船を」
一条「ま、無理だろうよ。あんな能天気な女なんか、いの一番に食い物にされるだけさ……」
耳打ちをしてきた村上に一条、秘かに美緒たちを嘲笑い続けていた……。
~回想終わり~
美緒たちが乗船するきっかけとなった話を聞き、森田は呆然とする……。
その裏カジノも帝愛に属していたとなれば、恐らく参加者を集めるために彼女たちを誘い込んできたのだろう。
負債を抱えていようがいまいが関係ない。結果的にこの船で負債を抱えることになるのだから、そうした方法で参加者を集めるのも手段の一つ……!
明穂「あのキザ男のやつ、本当に腹が立つわ……」
由香理「何が希望の船よ。こんなとんでもない船にあたし達を乗せるだなんて」
明穂と由香理、当然のように憤慨する。
豪華客船のクルーズというと優雅なものを想像していたのだが、現実はあまりにも違いすぎた……。
万が一にでもこのギャンブルに敗北すればどこぞに連れて行かれて体を売られるか……とにかく最悪な結末が待っているに違いない。
森田「それでみんなして今、こうしているってわけか。災難だったな……」
借金を返済するわけでもなく、金儲けのために自主参加をしたわけでもなく、純粋な好奇心によって彼女たちは不運にもこの地獄の釜の底へと落ちてしまったのだ。
美緒「何とか星を3つにしたまま30回以上も勝負をしないといけないんだけど……」
美緒、20枚以上あるカードの束を差し出す。
明穂「どう考えても無理よ。運否天賦で星を3つ以上にしたまま生き残るなんて」
彼女たちの間では失意が生まれつつある……。
元より参加者に与えられた12枚のカードが36枚に増えている以上、勝負をする回数も必然的に多くなる……!
しかもジャンケンという運の要素が強いこのゲームの勝敗率をコントロールすることなど不可能と考えていた。
森田「……いや、何とかなるかもしれない」
だが森田、そんな彼女たちを見て逆に彼女たちの生き残りの道を見出す……!
美緒「え?」
森田「美緒、今持っているカードは何が残っているか教えてくれないか?」
美緒「は、はい……」
美緒たちのこれまでの戦績は5勝 4敗 3分……。
策もなく運否天賦で勝負をし、勝ったり負けたりを繰り返していた美緒たちだが、幸か不幸か先ほどのここまでで失った星は上がるために必要な星の余剰分だけ。
3人とも星3つの状況なのである……!
そして残ったカードの枚数はグー8枚、チョキ9枚、パー7枚。
カードの種類ができるだけ偏らないように調整した結果がこうなったのである。
森田「3人とも始めの軍資金の貸し付けでどれだけ借りた?」
美緒「3人合わせて300万だから、みんな100万ずつ借りたわ」
軍資金の管理をしているのは由香理である。
明穂「当たり前じゃない。10分で1.5%の金利だなんて……ふざけてるわよ」
由香理「だいたい、このゲームってお金を使う要素がまるでないのよ。宝の持ち腐れもいい所だわ」
由香理「森田くんはどれくらい借りたの?」
森田「俺は1000万。……といっても、さっき少し使っちまってるけどな」
美緒「いっ、1000万……!?」
明穂「何を考えてるのよ? 金利のこと知らないわけじゃないでしょ?」
美緒たち、森田の軍資金の額に唖然とする……。
森田「あの時は何をするか分かったもんじゃなかったからな。軍資金は多いに越したことはなかった」
外の世界でもそうだが、この世が戦場であるなら金とは実弾なのだ……!
実弾が無ければいかに強力な銃を持っていても意味がないのである……。
そして、大して多くもないこの実弾をバラバラばら撒くこともない。
100万には100万の、1000万には1000万の価値がある。資本が無ければ手も足も出ないのは既に経験済みなのだ。
だが美緒たちの言うように、後のことを考えれば最低限度額だけを借りておくのもこの船から生き残る戦略の一つ……。
軍資金の使い道はゲームのルールそのものには関わらないが、それ以外の取引で使用されるもの。
要は、軍資金を使うような行動さえしないのであれば最低限度額だけを借りて4時間いっぱいまで続けていたとしても、200万以上を借りた場合に比べて遥かに安い金利で上がることができる……!
借金のチャラこそ無くなるが、100万近い負債を抱えて船を下りるよりは遥かにマシである。
森田「残り時間は3時間05分……つまり、金利はギリギリ5回転がってるってことだ」
森田「……うん。これなら大丈夫だ。3人とも上がれる」
美緒「上がれる? 私たちが?」
森田「ああ。3人でカードをあいこにしちまえば良いんだよ」
森田「みんなの星は3つだから、仲間内であいこを繰り返せば星の移動も無しでカードだけを消費できる」
美緒「あ……」
由香理「すごいわ……それなら本当に何時間もゲームを続けなくても良いじゃない……! 楽勝じゃない!」
明穂「気がつかなかったわ……」
美緒たちの失敗は、ゲームが始まるよりずっと以前にグループを組んでいたことにあった。
その時点でグループを組むことで3人で1組という考えになり、3人とも本来は1人の独立した参加者であることを失念していたのだ。
ゲームの内容も知らない初心者故に、3人で共闘して何とか勝ち残ろうという考えを既に構築していたため、仲間内でカードを消費するといった考えに至らなかったのだ……!
森田「そっちのグーとパーを1枚ずつ、俺に回してくれ。それでそれぞれの総数は偶数になる」
美緒「え? そんなことをしても良いの? カードの破棄は……」
森田「大丈夫。これは譲渡であって破棄じゃない。現に美緒たちの間ではカードが行き来していただろう?」
これもまた美緒たちのグループの盲点……!
だが、この仲間内でカードを消費するにはカードの総数とバランスが重要……!
1試合で必ず2枚が消費される以上、総数が奇数では最後に1枚余ってしまう。
そして、たとえ総数が偶数であってもカードバランスが偏ったりしていると調整が難しくなり、そもそも仲間内で星の移動が発生してしまう……!
美緒たちのカードの総数は24……しかし、美緒たちのカードバランスでは偶数のグーは問題なくあいこ勝負で消費しきれるが、問題はチョキとパー……!
双方ともに奇数……! これでは最後に両方が1枚ずつ余り、最終的には星が移動してしまう……!
ゲームのルール上、必ず星の移動はしなければならないがその後に仲間内で星を譲渡するという手もあるかもしれない……が、さすがに船側がどこまでそうした行為を黙認しているかは分からない……!
それこそ複数のグループが仲間内だけで結託してまともな勝負もせずに上がり続けてしまえば、そもそもこのゲームが成り立たないのだ……!
下手をすればルール違反として止められる可能性もある……。
美緒「はぁ……」
美緒たちは森田の考えに呆然とする。自分たちと同じ初参加でありながら、そこまでこのゲームの戦略を組んでいたことに……。
森田「よし、それじゃあまずは二人でグーを全部あいこにするんだ。俺と美緒でチョキとパーをあいこにしてくる」
明穂「え、ええ。行きましょう、由香理」
チョキとパーを1枚ずつ引き取った森田は三種類のカードを分割して個別にまとめ、明穂と由香理にグーの束を渡す。
グーとチョキを交互に出して星の移動はあるが、最終的にはプラスマイナスゼロにすることもできるのだが、これは彼女たちにはややこしいのでやめにする。
森田「よし、俺たちも始めようか」
美緒「ええ……」
美緒、半ば放心した気分で森田と共にあいこ勝負を実践する。
森田「なあ、あんた。悪いが、こいつを勝負の間預かっててくれないか?」
森田、勝負台の横につく黒服にこれからあいこ消費をする以外の自分のカードを差し出す。
黒服、無言でカードを受け取るとそのまま待機……機械のように勝負を見守る……。
森田「この方が公平だろう? 俺ばかりが主導権を握っているのも良くない」
美緒「森田くんは変なことなんてしないでしょ?」
森田「だが、この船にはそうした連中がたくさんいるんだよ……。他の参加者をハメようとしてくる奴がな」
森田、パーの束を脇に置き、チョキのあいこを始める……!
一勝負には10秒とかからない。瞬く間にチョキとパーのカードをあいこで消費し、1分足らずで美緒たちのカードを全て使い切ることができた……!
星は3つでカード0枚……ゲーム開始から1時間が経過しているので100万を借りていた彼女たちの金利はたったの77000円……! しかも軍資金は1円たりとも使っていない……!
もしシャバでの借金が50万だの100万というものであれば、それに比べれば沈みはしたものの全く問題の無い許容範囲……!
明穂「すごい、すごい! 私たちこれで上がれるのよね!」
由香理「森田くんに会えて本当にラッキーだったわ!」
明穂と由香理、歓喜……! もし万が一にでも負ければ破滅していたのだからそうならなかったことは実に喜ばしい結果……!
だがそんな二人とは対照的に美緒は素直には喜ばない……。
美緒「森田くんはこれからどうするの?」
森田「俺はまだやることがあるんでね。もうしばらくはここにいるよ」
森田「みんなはゲームが終わるまで2階の応接室で寛いでいるといい。たぶん、船側もビールか何かは用意してくれるだろ」
喜び勇んで上がりの階段を上がっていく二人の友人を尻目に、美緒は群衆の中へ消えていく森田の背中を見つめる。
明穂「美緒、何やってるの? 早く来なさいよ」
2階で清算を済ませた明穂に促される。
だが美緒、階段の手前で動かない……。
黒服「何をしている。上がるのか? 上がらないなら勝負に戻れ。そこにいると邪魔だ」
美緒(森田くんは、これから一人で勝負をしに行かなきゃならないのよ。しかも、私たちのカードを2枚も引き取った……)
美緒(森田くんのことだから何か考えがあるのかもしれないけど……)
だが森田一人でその戦略が功を奏し、満願成就するとは限らない……!
美緒「みんなは先に上がってて」
明穂「ちょ、ちょっと! 美緒!」
美緒、意を決すると勝負の場――地獄の釜の底へと自ら舞い戻る……!
森田によってもたらされた地獄に垂れ下がった糸を自ら手離す……!
正直愚かとしか言いようがない
森田「さて、カイジのやつはどうしたかな……」
森田、ホール内を歩き回り、カイジの姿を探す……。カイジもグループを作っているのでそれなりに目立つはずであるが……。
「あのー……」
森田「ん?」
と、そこへ突如森田に話しかけてきたのは眼鏡をかけた肥満体の男……。
この男、安藤守。十数分前まで星2つでカード0枚という最悪の状況に陥っていた者……。
そこをグループを作ろうとしていたカイジに拾われたのだが……。
安藤「僕と勝負をしてくれませんか?」
森田「勝負? お前、カイジと一緒にいたはずだろう。カイジたちはどうした?」
安藤「し、知りませんよ。そんな人は……! とにかく、僕と勝負をしてください! お願いしますよ!」
安藤、その言葉に激しく動揺し焦りだし、懇願する……!
森田は先ほどカイジが安藤と組もうとしていたのを遠巻きに見ていたのだ……! それを安藤が知るはずもない……!
安藤「は、早く! お願いします! 僕と勝負をしてくださいよぉ!」
森田「おいおい、落ち着けよ。まだ残り時間は3時間くらい残ってるんだから焦ることもないだろ?」
必死になって森田に勝負を懇願する安藤……! だがそこへ……!
古畑「カイジさん! あそこです!」
カイジ「待ちやがれ! 安藤、てめぇ!」
そこへ現れたのは数十分前……森田によって窮地を救われたカイジ……!
だが今、彼は再び窮地へと陥りかけていた……!
十数分前、彼は自分がこの船へ乗るきっかけとなった借金の保証人にしてトンズラした元バイト仲間の古畑を見つけ、さらに安藤をグループに加えることで共同戦線を張ろうとした……。
ところがそれから間もなくして、カイジと古畑がトイレへ行っている隙に安藤は古畑から貰い受けたカード2枚を手に一人、勝負を行おうとしていた……!
これでもしも安藤が勝てば星3つ……そうなればグループから抜けて当然……!
カイジと古畑は慌てて戻ってくると、安藤を捜して回っていたのである……!
安藤「ひっ!?」
カイジ「も、森田……!?」
森田「どうしたんだ、カイジ。そんなに慌てて」
カイジ「どうしたもこうしたも……!」
カイジ、安藤に掴みかかる!
カイジ「安藤! てめぇ、何勝手なことしてやがるんだ!」
安藤「ひいぃっ!」
森田「落ち着けよ、カイジ。黒服に目をつけられるぞ」
とりあえずこの場は森田の手で収拾……!
その後、カイジのグループと森田はホールの隅のソファーへと移動……!
森田が安藤との勝負を渋ったため、かろうじてセーフ……! 安藤は2枚のパーを持っていたが、カイジに没収される……!
安藤「す、すいません……! 何とかみんなの星を……古畑さんの星だけでも稼ごうと思って……!」
古畑「嘘つけ! もしもこの人と勝負をして勝っていたら、俺たちを切るつもりだったんだろ!」
カイジと共にソファーに座り込む森田を指差し古畑、憤慨……!
安藤「ご、誤解ですよぉ……!」
古畑「カイジさん、こんな奴もう切りましょうよ! こんな裏切り者……!」
安藤「本当です……! カイジさん、信じてください……! 裏切るつもりなんか毛ほども……」
森田「……いいや、お前はあの時にカイジたちを切り捨てる気だった。それだけは疑いようもない」
安藤「そ、そんな……何を言うんですか!?」
森田「見苦しいぞ、安藤。じゃあ、何であの時にお前は俺にカイジのことなんか知らないって言ったんだ?」
安藤「そ、それは……」
森田「お前がグループを組んだはずのカイジのことを知らないなんて白を切ったのが何よりの証拠……お前はカイジたちに見つかる前に勝って上がりたかったんだ」
森田「星が3つになってしまえさえすれば、もうカイジたちと組んでいる理由なんてない。カイジたちが後はどうなろうが、知ったことじゃないってことだろうが」
森田「カードを2枚持っていったのは引き分けか負けだった時の保険か……それとも余分に星を余らせるつもりか?」
古畑「安藤、貴様ぁ!」
古畑、安藤に掴みかかり手を振り上げる!
カイジ「やめろ! 古畑!」
カイジ「……森田の言うように、安藤が俺たちを切ろうとしていたのは事実だ。信じろもくそもない……」
カイジ「だが安心しろ……俺はお前を切らねぇ。悪しきを切ってたら団結はねえんだ」
そしてカイジは言う……! もしもカイジが安藤を切ればその事実が足枷となり、古畑はカイジが次は自分も切るかもしれないと考えを抱くかもしれない……!
そすることでグループの心はバラバラとなる……!
切りたくても切れない……! 本心であればすぐにでも安藤を切りたいが、切れない……!
一頭のライオンが三つに分かれて生きていくことなどできないのだ……!
森田(なるほど……苦渋の決断というわけか)
カイジ(本当だったら、森田と組みたかったぜ……)
実際、古畑と組み、さらにもう一人をグループに加える際に森田に声をかけようかとも思ったが、森田が実はリピーターであるかもしれないという疑念が湧いてしまったためにそれはできなかった……。
自分の窮地を救ってくれたとはいえ、カイジもまだ森田を警戒していたのであった……! あれも自分を油断させるための行為ではないのかと……!
ともかく、カイジのグループの分裂は回避……!
だが、これからどうやってこのゲームを生き残っていくかを考えなければならない……!
カイジグループの現在の状況は
カイジ ★2 古畑 ★1 安藤 ★2
G1 C4 P2
このうち、チョキ3枚とパー1枚は古畑のもの……!
古畑「まったく、森田さんが勝負を受けなかったから良いものを……危うくパーが無くなっちまう所だったんだぞ!」
古畑、ねちねちと安藤を罵倒……! だが、そうなるのは無理もないのだ……!
古畑「そうなったら、パー無しのバランスが悪い状態になってる所だったんだ!」
カイジ(バランス? ……ああ! そうか! その手があった……!)
森田(バランス……バランスか。そうそういれば良いんだがな……)
カイジと森田に電流走る……!
カイジ「勝てる……! 100%ってわけじゃねえが、勝算がある……!」
カイジ「古畑、安藤。これから俺が言う条件の相手を捜すんだ」
カイジの言う条件とは手持ちカードが9枚で、これから2回の勝負の勝ち負けに関わらず結果的に7枚となった男……!
ただし、何のカードを使ったのかはチェックすること……!
カイジ「よし、分担して動こう」
古畑&安藤「は、はい」
古畑と安藤、ホール内に分散する……!
森田「お前の作戦ってのはあれか? ……バランス派の相手を狙い撃つってやつか」
カイジ「そうさ。悪くはないだろ?」
お互いに考えていたことは同じ……!
カイジの作戦は森田の言うように、カードのバランスを重視する相手との勝負……!
カードの選択肢をゲーム終盤まで自由に選べるようにすることで一種類のカードが数枚だけしかないという状況を嫌う……もしくは相手もそうだと考えている奴……!
直感による運否天賦なおではなく、ある程度自分をコントロールする戦略を持つ相手……!
森田「ま、7割~8割はいけるかもしれねえな。あとは運次第……」
カイジ「森田、あんたはこれからどうする?」
森田「俺は俺のやり方でこのゲームを生き残る。気にしなくていい」
カイジ「すまねえ。またあんたに借りを作ることになっちまって」
森田「別に構わんさ。ほら、お前もさっさと目当ての相手を捜しに行けよ」
森田に促され、カイジもホール内に散る……!
森田「さて、俺もじっとしてられないな」
森田、ソファーから腰を上げると再び別室近くの鏡の前へと移動……!
そこで再び参加者たちの様子を覗い始める……!
バランス理論の男「やったぜ! ははっ! 地獄へ落ちな! おっさん!」
「へへへへ……お前、私の姿をその目に焼き付けておけよ……私と同じようにお前も別室へ堕ちる。お前も他の奴らも……みんなまとめて地獄へ堕ちるんだ……。お前ももってあと30分ってところか?」
目の前でまた一人、星を全てを失った男が連行されていく……。
だが地獄へ自ら突き落としたというのに、罪悪感を抱いている様子もない。むしろ、してやったりといった態度である。
これまでの観察で様々な参加者たちの動きはだいぶ把握できた。今勝った男は星1つの相手としか勝負をしないハイエナのようなタイプだ……。
これから自分はどの相手……特にリピーターと戦うか……。森田、考えに考える……。
美緒「森田くん」
と、そこに現れたのは先ほど別れたはずの伊藤美緒……!
美緒は既に上がれるにも関わらず、森田を捜しに戻ってきたのだ。
森田「美緒。何で早く上がらないんだ。星はもう3つなんだから二人と一緒に上がれるだろう?」
美緒「でもそれじゃあ、森田くんはどうするの?」
森田「俺は大丈夫さ。星も3つあるし、時間だってまだまだ余裕がある。生き残るチャンスはいくらでもある」
美緒「だったら、私も手伝うわ」
森田「え?」
美緒の発言に森田、面食らう……。
美緒「森田くんは1000万を借りてるんでしょう? だったら、もう金利だけでも100万近くのはずよ。早く上がらないと、借金がどんどん大きくなってしまうわ」
森田「いや、それは問題ない。4時間いっぱいまで続けても星を4つか5つを余分に持って上がればその分、借金は減らせるんだ」
美緒「でも、森田くんのカードは7枚でしょう? これから勝負を続けて何回も確実に勝つ保証だってないはずよ」
確かにそうである。リピーターの裏をかき、隙をつくのがこれからの森田の計画であるが……それも決して100%成功するとは限らない……!
森田「その時はその時さ。別室へ落ちることになったらそれまでの話……」
美緒「そんなの駄目よ! 別室に落ちたら、その後はどうなるか分からないのよ!」
美緒、森田が別室へ落ちることを覚悟していると知り、思わず声を上げる!
せっかく再会できた森田がこの船に消えてしまうなど、美緒は考えたくもないのだ……!
「ぎゃあああああ~~~……ひいいぃぃ~~~……」
と、突如二人の耳に入ってきたのは悲鳴……!
それは別室へと続く扉の奥から聞こえてきたものだった……!
実は別室へ続く扉の向こう側には部屋が2つ連続しており、防音扉に遮られてホールには届かない……。
だがたった今、星を失った失格者が別室へ連行される際、偶然にも2つの扉が同時に開けられ、別室からの声が届いてしまったのだ……!
地獄からの悲鳴を聞き、男は必死に抗い始める……! だが、黒服たちにより無情にも別室へと引きずり込まれていく……!
このアクシデントに気がついたのは極僅かであるが、別室近くにいた森田たちはもちろん、勝負相手を探していたカイジの耳にも届いていた……!
カイジ(何やってるんだよ、こいつら……あの扉の向こうで……)
森田(明らかに今のは痛感を伴う類の悲鳴……手足でも折るか、切り刻んでるのか?)
カイジ(狂ってやがる……!)
美緒「今の聞いたでしょ? 森田くんがもし落ちたら、下手をしたらあの奥で本当に酷い目に遭わされるのよ」
美緒、青ざめた顔で必死になる……!
美緒「私たちだってグループを組めていたから、森田くんのおかげで上がれたのよ。だったら、森田くんだって一人くらいは仲間がいれば色々なことができるはずでしょう?」
美緒「それだったら、私が森田くんが上がれるように色々と手伝うわ。万が一にでも、別室に落ちるなんて駄目よ」
美緒「金利だって私は4時間いっぱいまでいても40万かそこらなんだから、船を下りてもちゃんと働いて返せるわ」
美緒「一緒にこの船を降りましょうよ!」
森田(まいったな……)
必死に説得をしてくる美緒に、森田はほとほと困惑する……。
美緒が森田についていても得をすることなど無いというのに、あえて残るという……。
美緒は森田が喫茶店の常連客であった頃から森田のことを気に入っていたようで、すぐに懐かれてしまった。
その後の西条進也との一件の中ですっかり惚れこまれたようで、結果的に交際を申し込むまでになったのである。
森田はそれを断りはしたものの、どうやら美緒自身はまだ森田のことは諦めているわけではないようだ。
美緒「今の聞いたでしょ? 森田くんがもし落ちたら、下手をしたらあの奥で本当に酷い目に遭わされるのよ」
美緒、青ざめた顔で必死になる……!
美緒「私たちだってグループを組めていたから、森田くんのおかげで上がれたのよ。だったら、森田くんだって一人くらいは仲間がいれば色々なことができるはずでしょう?」
美緒「それだったら、私が森田くんが上がれるように色々と手伝うわ。万が一にでも、別室に落ちるなんて駄目よ」
美緒「金利だって私は4時間いっぱいまでいても40万かそこらなんだから、船を下りてもちゃんと働いて返せるわ」
美緒「一緒にこの船を降りましょうよ!」
森田(まいったな……)
必死に説得をしてくる美緒に、森田はほとほと困惑する……。
美緒が森田についていても得をすることなど無いというのに、あえて残るという……。
美緒は森田が喫茶店の常連客であった頃から森田のことを気に入っていたようで、すぐに懐かれてしまった。
その後の西条進也との一件の中ですっかり惚れこまれたようで、結果的に交際を申し込むまでになったのである。
森田はそれを断りはしたものの、どうやら美緒自身はまだ森田のことは諦めているわけではないようだ。
ミスした……
森田(こんな地獄の釜の底で片手に花だなんてどうかしてるぜ……)
結局森田、美緒に押し切られる形でパートナーとして同行を認めたのだった。
実際、森田一人だけでは苦労することも多いため、協力者が必要であったのも事実……。
軍資金は残り900万以上あるので、グループを組むことはできずとも参加者を上手く使って立ち回ろうと考えていたのだが……。
美緒「それで、これからどうするの?」
森田「ああ。何人かマークしている奴らがいてな。そいつらの裏を掻こうと思ってるんだ」
美緒「何か作戦があるのね」
森田「ああ。アテはあるんだがな。まだ勝負に行くチャンスがないんだ」
今、一番に目をつけているのは坂井というリピーターである……。
が、彼の戦略がどういったものなのかがまだ把握できていない。
今のところ分かっているのは、坂井は必ず別室近くの鏡の前、すなわち森田のすぐ近くで勝負を行っているということだけ……。
バランス理論の男「どうしてなんだ……! どうしてチョキが4枚……!」
カイジ「あんたの読みは正しかったさ。だが、一歩狂えばそこに隙ができる……! ましてやその理で勝ってきたとなればな……!」
ふと見ればカイジもちゃんと生き残っているようだ。
カイジはカイジなりの作戦を立てて勝利をもぎとっている……!
森田(俺も負けていられんな)
森田も改めて闘志を燃やす……!
と、そんな中……。
美緒「どうしたのかしら?」
見れば休憩室の方から星3つの男が黒服に連行されてきているではないか。
突然の事態にホールは騒がしくなる……。
黒服「静粛に! この男は今、トイレで余分なカードを便器に捨て流した!」
黒服「最初に言ったはずだ! そういう行為は一切認めていないと!」
黒服「繰り返す! カードの破棄は無条件で別室行きだ! 不正行為は見つけ次第、厳罰に処す!」
森田(馬鹿なことしやがるな……)
トイレにまで黒服たちが目を光らせているとなると、危機的状況に陥ろうが船側を欺くことは絶対に不可能……。
万が一落ちることが決定すれば、その時は落ちる。……この地獄の釜の底へ落とされた時から森田は覚悟している……!
中盤戦終了……! 後半戦に続く……!
以上、第二部終了。後日、書き溜めて三部を再開
乙
見入ったぜ
支援
乙
カイジ側はカイジ側でちゃんとストーリーがあるのが面白い
致命的ミス……! 森田が美緒から引き取ったカードがグーとパーになっていた……!
本来はチョキとパーです……HTML化した時に修正できれば……
おおいつの間にか続ききてたのか乙
第三部の書き溜めができたので、再開します。
三部構成の予定でしたが、書いているうちに三部ではとても足りないのでもう少し増やします
プレイルームの階段を2階へ上がったその先は、地獄の釜の底から這い上がってきた勝者たちの寛ぎの場……!
星3つ以上でカードを使い切ることに成功した者たちのみがゲーム終了までの間、天国と地獄の境で磨り減らしてきた心を休めることができるのだ。
これでシャバでの借金はチャラ……! ただし、この船での借金は別だが、金利がまだ安い状態で上がれたことは願っても無い幸運……!
最低限度で借り受けた軍資金を一切使っていない者たちにとっては数十万にも満たない、極めて低い沈みなのである。
由香理「美緒ったら、わざわざ下に残るだなんて……」
森田のおかげで早々に上がりを決めることができたこの二人は、船側から提供されたビールなりつまみを手に応接室で寛いでいた。
参加者108名のうち、ここまでに上がったのはまだ10人前後と少ない。早々に上がりを決めたのは、運否天賦で勝ち負けを繰り返し、運よく勝利した者ばかり。
他の上がりを決めた者たちも、互いの労をねぎらい、酒を酌み交わしていた。
明穂「森田くんのことまだ諦めてるわけじゃないのかしらね」
由香理「たしか、森田くんはヤバイ仕事から足を洗ってるんでしょ?」
明穂「そうよね。カタギになってるってことは、前よりはチャンスはあるってことかしら」
2年前、西条進也とのポーカー勝負での交流をきっかけに美緒は森田に惚れ込み、交際を申し込もうとした。
明穂や由香理からしてみれば、確かに森田は人間性も良く大金を稼ぐ甲斐性もあるが、同時にヤバそうな仕事をしている裏社会の人間であるため付き合うのはやめた方が良いのではと考えていた。
美緒はそれでも良いと、森田に告白をしたのだが、結局、その時は断られてしまったが……。
森田いわく「俺は今すごく忙しいんだ」だとか。
明穂「そういえば森田くんって1000万借りてるのよね。このままずっとゲームを続けていったらもっと借金が増えるってこと?」
由香理「あっ、そうよ。もう100万超えてるはずよ」
制限時間は残り2時間30分を切った……! つまり利息は9回分回している計算になり、現在の森田の利息は143万3000円……! 残った美緒の方はその1/10である……!
由香理「……っていうか、このゲームって負債者救済とか言いながら結局このゲームで新しい借金ができるってことじゃない」
明穂「本当よね。利息が10万とか100万に増えてたら、どうやって返すって言うのよ」
「あれ? 姉ちゃんたち知らないのかい?」
ぶつぶつ愚痴を零している中、突然話しかけてきたのは同じく上がりを決めていた参加者の一人……。
「何でもこの星がさ、4個以上持ってれば100万とか200万の金で売れたりするんだってよ」
明穂「え? 嘘……」
そんな話は初耳である……!
「ゲーム終了時に星の売買タイムってやつがあるんだってさ。星の足りない奴に参加者が星を売って良いんだって」
「ま、俺はそんなことしなくても、ほぉら見てくれ!」
そこに現れたもう一人がこれ見よがしに見せ付けてくる札束……! ざっと400万ほど……!
「上がった時に星を余分に持ってれば船側が買ってくれるんだぜ!」
由香理「ひぇ……」
明穂「……っていうことは、森田くんも星を多く稼げば借金チャラにして大金も稼げるってことよね」
森田ほどの人間であればこのゲームで100万はおろか、その10倍以上の大金を稼ぎそうなものだ。
あいこ勝負などという策を実践してみせたのであれば、まだ森田にもこのゲームを浮きにして生き残る方法は残されている……。
美緒はそんな森田のサポートをするために残ったのだろう。
由香理「あら? 何だか急に上がりの人が多くなったわね」
ふと気がつけば、ぞろぞろと応接室にやってくる上がりの人間たち……。
そしてその全員が札束を手にして満足げにしている……。
さて、こちらはホールで未だ足掻き続けるカイジグループ……。
数分前、バランス派の参加者との4連戦で星を2つ増やすことに成功した……!
カイジは一番星が少ない古畑に稼いだ星を全て渡し、古畑は3つまで増やすこととなった。
残り2つの星を稼ぎ、カードを使い切ればカイジのグループの勝利は確定する……!
カイジ「どいつだ、古畑」
古畑「あそこです……!」
カイジ、古畑に連れられてある勝負台へ向かう……。
数分前、これからカイジがとろうとしていた作戦は参加者の裏をつくというもの。
参加者たちの勝負を見て回り、変な動きをしている奴は何かしらの策を打ち立てて参加者から星を奪おうと考えている。
ゲーム開始早々、船井に騙されて星を奪われていたカイジはそうした連中の裏をかいて逆に星を手にしようという算段を思いついたのだ。
もしもあの時、少しでも怪しんでいれば船井から星を奪取できたかもしれない、と考えて。
この限定ジャンケン、決して運否天賦ではない。参加者たちはあらゆる手を使って生き残ろうと様々な戦略を練っている者が何人もいるはずなのだ……!
古畑「ね……! あのハンチング帽の男と勝負をしてる男の後ろの方……!」
安藤「確実に、覗いてますね……あれは……」
怪しい動きをしている奴を見つけるために一度散っていた三人であったが、すぐに古畑がそれらしき相手を見つけたのだ。
ハンチング帽をかぶっている男の視線の先、サングラスの金髪の対戦者のやや後方でじっと立っている男……。
「チェック」
その時、その後ろで立っている男が何やら首を小さく横に振る。
「セット」
ハンチング帽の男、その男の動きを見てからカードを選びセットに入った。
「オープン!」
チョキとパー! 勝負はハンチング帽の勝ち! ハンチング帽、星を1つ奪取!
カイジ(なるほど……! そういうことか……!)
勝負を見ていたカイジに電流走る……!
カイジ「古畑。お前、あいつの前の勝負も見てたんだよな。その時、何を出してた?」
古畑「は、はい。その時は2連戦パーとグーを出してました。で、あいつはパーの時は少し上を向いて、グーの時は頷いてました」
ちなみにその連戦の1回目ではあいこで、2回目でハンチング帽は勝っていた。
カイジ「なるほど……明らかな通しだ」
古畑「通し?」
通し……つまりは二人組の参加者が結託し一人が勝負、もう一人が対戦者のカードを覗き見しつつ仲間に合図を送ることで何のカードを出すのかを知るという不正行為……!
本来、勝負をしている台に他の参加者が近づくことは許されない。だから黒服が勝負の時に立ち会っているわけで、やや離れた位置から目立たぬように覗き見をすればこの戦略も可能……!
事実、ハンチング帽の男の星は現在7……!
安藤「それじゃあ、チェックの時に覗き見をしてくるってことは何を出してくるか分かるわけだから……対戦相手は勝ちようがないってことじゃないですか」
カイジ「いや……そうでもない」
だがカイジ、不敵に笑う……! あの男に勝利する策を見出す……!
カイジ「高い授業料だったが……あの手が使える」
古畑「あの手って?」
カイジ「とっておきの秘策さ。だがもう少しはカードがいるな……よし、みんなでチョキを譲ってくれる奴を探そう」
古畑&安藤「はい!」
カイジグループ、一時散開……! それから数分後、チョキを3枚かき集めることに成功する。
これで準備は整った……後は勝負に行くだけ……!
カイジ「おい、あんた。俺と勝負をしないか?」
ハンチング帽「ん?」
カイジ、ソファーに座り一服をしている目当ての男と接触……!
ハンチング帽「ふふ……いい度胸しているな、お前。俺は今、ツイてるんだぜ?」
男はこれ見よがしに胸に輝く7つの星を見せ付ける……。
だが、それも所詮は汚い策を弄して得た星……!
カイジ「関係ねえさ。あんたのツキもそろそろ終わってる頃だろ? 一勝負と行こうぜ」
ハンチング帽「ふぅーん……いいぜ。受けよう、その勝負」
自信満々に男は承諾し立ち上がる……!
こうしてカイジとその男の一戦が始まることになる……!
互いに打ち立てた策がぶつかる一戦が……!
ハンチング帽「ところで、一つ提案なんだが……」
カイジ「何だよ?」
ハンチング帽「何、星1つの勝負なんてつまらなくてね。……どうせなら星4つといこうじゃないか」
カイジがこれから提案しようとしていたのよりさらに倍の数……! 狂気の沙汰ではない……!
だが、カイジの星は2つ……! これでは足りるわけが無い……!
カイジ「ば、馬鹿言うな! 俺の星は2つだぞ!」
ハンチング帽「あそこにいるあの二人、お前の仲間だろ?」
男は勝負台横の離れた場所から観戦しようとする古畑と安藤を指差す……!
ハンチング帽「さっきお前の勝負を見させてもらったよ。中々良い勝負だったじゃないか」
カイジ(バランス野郎との対決を、この男も見ていたのか……)
カイジ(だが星を2つも上乗せしてくるなら、今この勝負を受けない手も無い)
恐らく星をそこまで賭けてくるのも勝算があるからだ。何しろ奴は通しの戦術を使っている……!
少々予定とは違ってしまうが、星が余分に得られるのであれば問題は無い。
ましてやこの勝負、カイジには勝機があるのだから……!
カイジ「……良いだろう。受けよう、星4つの勝負!」
古畑「ちょ、ちょっと! カイジさん!」
安藤「勘弁してくださいよ! 星2つで十分じゃないですか!」
カイジの元へ駆け寄る二人。自分たちの星まで賭けられるなんて冗談ではない!
カイジ「大丈夫だ……! 俺たちは奴の戦略を知っているんだぞ……! その裏をつけば何とかなる……!」
古畑「あっ……そ、そうでしたね……」
ハンチング帽「どうした? オンリかい? どっちにしても、俺は星4つの勝負しかお前とは受けてやらないぜ」
こっそり耳打ちをする三人に男が追い討ちをかける。
だがカイジたち、腹をくくり三人の命の星4つ分を出し合う……!
カイジ(見てやがれ……! すぐに思い知らせてやる……!)
一方、こちらはホールに残った美緒をパートナーに加えていた森田……。
噴水の前で待機していた森田の元へ美緒も駆け寄ってくる。
美緒「森田くん。これ、グーのカードよ」
森田「ありがとう。俺も何とか1枚手に入れたよ」
森田、美緒よりグーのカードを1枚受け取る。
現在、森田の手持ちカードはたった今美緒と二人で仕入れたのと合わせてグー3枚、チョキとパーも3枚……。
リピーターたちのような策を弄する相手を討ち取るにはカードの種類が1つでも欠けていては駄目だ。
そのためグーが足りなかったので他の参加者たちから譲り受けて補充していたのだ。
森田「カードは揃った……後は連中と接触するだけだな」
既にリピーターとおぼしき参加者の何人かはどういった策を用いているのかが分かっている。その裏をつけば勝てる……!
ただ、相変わらず坂井の策は見抜けていなかったが。
森田「美緒、あの白スーツのサングラスの男にしばらく張り付いていてくれ。……これ以上、俺があいつの近くにいると警戒されるかもしれない」
美緒「ええ。分かったわ」
森田「ああ、それとこれを。一応、美緒も参加者の一人なんだからカードを持ってないと余計に怪しまれる。誰かに声をかけられても勝負はしないようにな」
美緒にパーのカードを1枚だけ渡し、二人は再び別れる……。美緒は森田のマークしていた坂井の行動を怪しまれないように見張り始める。
森田、ホール内を歩き回り、これまでにマークしてきたリピーターたちの行動を観察する……!
仕掛けるタイミングを見極めなければ逆にこちらが討ち取られかねない……。
安藤&古畑「えええええええ~~~っ!?」
と、突然聞こえてきた叫び声。
森田「何だ?」
今のはカイジと組んでいた二人の男の声だ。
森田は勝負台についているカイジたちを見つけると、そこへ近づいていく。どうやら勝負がついたようだが……。
森田(さ、西条!?)
森田、カイジの対戦相手を見て驚愕……!
見覚えのあるハンチング帽の男……それは紛れも無く2年前、ポーカーで9億の勝負をした一流企業・西条建設の御曹司……!
だが彼はその後、誠京会長・蔵前仁と麻雀勝負をして敗北し、完全に破滅したはず……!
カイジ「ば、馬鹿な……!」
カイジ、勝負の結果に愕然としている……!
西条は勝負台の隅に置かれていた4つの星へ手を伸ばし、奪取する……! あれはカイジが賭けていた星のようだ。
カイジ「な、何で! どうして……!」
カイジ、がっくりとうな垂れ愕然とする……!
仲間を通して後ろから覗き見をしている西条の裏をかくため、グーでチェックをしたカイジはセットの際に2枚重ねていたチョキだけを置いてきたのだ。
船井が自分にやってみせたカードのすり替えをカイジも実践することで成せた業。手先は器用なカイジは一発で成功した……!
チェックで西条が通しで受け取るグーの情報でパーを出すと踏んでいたカイジは実際にセットしたチョキで討ち取ろうとしたのだが……。
西条のカードはグー! チョキを討ち取るグー!
当然、すり替えたチョキで勝負をしたカイジは返り討ち! 結果、星4つを奪われる!
カイジ、古畑、安藤の三人は一気に星1つへと追い詰められる!
西条「お前、中々の切れ者みたいだったが……俺の方が一枚上手だったな」
カイジ「ぐ……!」
古畑「カイジさん……」
カイジは納得できない……! 何故、西条がこちらの手を読んでいたのか……!
と、星を4つ手に入れた西条の元へやってくる三人……。
それはこれまでに西条と勝負をしてきた二人の対戦者と通しをしていた男……!
西条「ふふふ……ご苦労さん。ほら、約束の金と星だ」
「やった! 100万……100万だ!」
西条、懐から取り出した札束を駆け寄ってきた男たちに手渡すと、男は札束を手に喜び勇んで立ち去っていく。
さらに先ほど西条に敗れた男二人には星が1つずつ渡される……!
カイジ「き、貴様ら……! グルだったのか!?」
西条「ああ。お前みたいな浅はかなマヌケをハメるにはこれが一番でね」
カイジ、敗北を喫する!
西条はカイジのような自分たちの裏をかいてきそうな相手をカモにするため三人の参加者を買収し、一人をおとりの通し役にさせ、もう二人を八百長勝負に引き込む……!
そうして自分たちが通しでサインを送っていると相手に思わせ、その裏をついてくる者のさらに裏をかいたのだ!
結果、西条は星を9個へと増やす!
カイジ「ぐっ……ぐうぅ~~……!」
古畑「汚いぞ、お前! そんな演技なんかで騙して!」
安藤「そうだ、そうだ!」
西条「騙されるお前らが悪いのさ。この船は弱肉強食……より強い者だけが生き残り、弱者は駆逐されるのさ……。くくく……」
西条、古畑と安藤の抗議を一笑に伏し、その場から立ち去る……。
カイジたちは一気に窮地に陥れられる結果となってしまった。
西条「あと4つ……」
西条、愛おしそうに星に手を触れ安堵する……。
森田「西条……」
西条「お前……森田か?」
森田、カイジとの一戦を終えた西条と接触する……!
互いに思いがけない形で再会する事になり、唖然とする……!
西条「お前までこの船に乗ってたのか? ……ふふ、災難だったな」
森田「それはこっちのセリフだ。お前、誠京の麻雀に負けた後、勘当されたって聞いたが……」
元々、西条は森田とのポーカー勝負に9億を負けてしまい、残った11億を元手に蔵前仁と麻雀勝負をしたのだ。
さらにその際、誠京からの借金で15億……結局麻雀勝負に負けて26億の負債……さらに森田との敗北で9億……計35億もの負債を実家の西条建設にもたらしてしまったのだ。
それだけの事態となって西条がただですむはずがない。事実、あの後誠京への負債を肩代わりされる代わりに父親から負債を返すまで西条建設との関係を断ち切られたのである。
だが、森田には今の西条は完全に破滅した時のような様子には見えないのだ……。
しかし、この船に落ちている以上は未だ破滅したままなのだろうが……。
西条「俺にもチャンスが来たのさ……。もう一度、やり直すためのな……」
森田「チャンス?」
西条「このクルーズを企画した帝愛の気まぐれさ」
~回想~
2年前、蔵前仁に敗れ実家からも勘当された西条は以前から組んでいた有田不動産・長男の有田新一の元へ転がり込むことで何とか急場を凌いでいた。
その後、実家への負債を何とかするべく有田や同じく仲間だった正和薬品・次男の岡部真人らと、例のポーカーを行っていた渋谷のクラブで相談することにしたのだ。
まずは足がかりを作らなければ話にならない。
だが、そのクラブで西条らはある男と邂逅することとなった……!
「坊っちゃん! どうか、どうかお願いします!」
「俺にチャンスを! チャンスを!」
「いや、どうか俺に!」
西条「何だあれ……?」
カウンター席に座る西条らとは別に、何人もの男たちがある一つの席に詰め掛けているではないか。
見た所、このようなクラブでは場違いな、明らかに人生を失敗してきたような連中ばかり……。
そして、男たちが詰め掛けているのはサングラスをかけた派手な出で立ちの男……!
懇願をする男たちとは明らかにレベルが違う……かつての西条と同じ金を支配する側の人間……!
有田「あいつ、帝愛グループの御曹司だぜ。確か、兵藤和也とかいう……」
当然、西条も有田たちも巨大企業グループである帝愛についてはある程度聞き入れている。
故にあの詰め掛けている者たちは帝愛に対して多額の借金を抱えた負債者たちであることを即座に察する……!
和也「分かった、分かった。安心しなって……あんた達にはちゃんとやり直すためのチャンスを与えてやるよ」
和也「ただな、俺のプロデュースは下手をするとな……負けたりすればそいつは死んじまうかもしれねえんだ……」
和也「勝てば借金はチャラで人生をやり直せる……だが、負ければそいつのその後はどうなっても保障はしない……それでもいいか?」
「構いません!」
「覚悟を決めました!」
「どうかやらせてください!」
酒を嗜みつつそう念を押す和也に、負債者たちはまるで憑かれたかのように和也に懇願を続ける。
それを傍目で見ていた有田と岡部は辟易としていた……。
有田「アホか、あいつらは……」
岡部「ま……落ちる所まで落ちた人間の末路ってやつさ……」
噂に聞けば、あの和也という男の行うプロデュースとは負債者同士をギャンブルで戦わせて一方は救済……もう一方は完全に破滅させるという……。
いや、破滅などというものではない。……それ以上のことまで執行しているとか…!
西条「……」
有田「おい? 西条……?」
有田たちの声を振り切り、西条は男達が土下座をしてまで懇願されている和也の元へと向かう……!
西条「お前……勝てば人生をやり直すチャンスを与えるって言ってたな……」
和也「ん? そうだが、あんたは?」
西条「俺も参加させろ……! お前のプロデュースとやらに……!」
有田「お、おい! 西条! 本気で言ってるのか!?」
岡部「お前までそいつの馬鹿げたゲームに参加するなんて、正気かよ!?」
西条「黙れ……! どの道、俺はこのままじゃ一生冷や飯のままなんだ……!」
和也「ああ~……あんた、西条建設の……くくく、話は聞いてるぜ。麻雀勝負で負けて勘当されたんだって?」
和也「本当は、俺のプロデュースはウチのグループから借金してる奴しか参加させないんだけど……」
和也「いいぜ……! 来る者は拒まずだ!」
和也、心底楽しそうに笑う……! 悪魔の笑みを……!
結果、西条は和也のプロデュースしているギャンブルに参加した……!
本来は勝てば借金チャラで1000万の金が与えられるというのだが、西条の場合は1000万の金と実家に対しての負債35億のうち1億を肩代わりするという話で決着……!
西条は負債者とのギャンブルで勝負をし、難なく勝ってみせた!
結果、西条は1000万の金と負債を少しだけだが減らすことに成功……!
西条は和也に気に入られたのか、プロデュースや帝愛が主催するギャンブルに参加したければ連絡をするよう提案をしてきた……!
その後も西条は和也プロデュースに参加しては勝利を収め、数千万の金を得ていた……!
現在、この2年間にプロデュースのギャンブルで得た金は5000万……借金は5億分をチャラ……!
西条はその5000万の一部を元手にして株の投資を実施する……!
東証一部上場している有田不動産と正和薬品の株を買い、配当金を受け取り続けていたのだ。
勘当される前ほどではないが、西条は復活を果たした……! ただし、未だ実家への負債は30億残っている……。
そうした中、先月和也とクラブで会った西条は……。
和也「なあ、西条。毎年3月ぐらいにさ、ウチのグループが主催するクルーズがあるんだ……」
西条「クルーズ?」
和也「ああ。といっても、まだ2回しかやってなくて、今度で3回目……負債者救済のクリエイティブクルーズ・希望の船ってやつなんだけど……」
和也「あんた、その船に乗らない?」
突然の和也の提案に西条、困惑する……。
和也「その船では大人数でギャンブルをやっていてさ、勝てば借金がチャラで1000万以上儲けることだってできるんだぜ」
西条「それで負ければお前のプロデュースみたいに破滅ってわけか?」
和也プロデュースに参加したことがある西条はそのクルーズも命がけのギャンブルをすると見た……。
和也「ああ。どこぞに連れて行かれて過酷な強制労働か、新薬のモルモットにされるか……そのまま廃人は決定だね」
和也「といっても、別に負債者ばかり集めてるんじゃなくて興味本位で乗る奴も何人かいるんだけど……」
和也「で、このクルーズはさ……星っていうものを賭けて特別なギャンブルをやってるんだ。おっと、ギャンブルが何かは向こうで聞いてくれよ!」
和也「その星を3個以上確保していれば生き残りが確定ってわけ。負ければ地獄行きだけどね……!」
くくく、と和也は嗜虐の笑みを浮かべる……!
和也「でさ、本来その星を余った分だけ何100万かで買い取ってるんだけど……」
和也「あんた、その星の余り分1個につき、俺が3億分負債を肩代わりしてやるよ」
西条「さ、3億!?」
和也「そう。だから星を13個持って上がればあんたの負債はチャラってわけ。ただし……負ければさっきも言ったように二度とシャバには戻れないぜ?」
和也「どう? 乗ってみない?」
~回想終わり~
結果、西条はこのクルーズに参加したのだった。
軍資金の貸付の際は当然、上限の1000万を借り受ける。参加者たちを上手く買収して利用するためには金は必要だ。
金利についてもシャバに戻れば払えるし、何より実家への負債が無くなればその程度の負債など痛くも痒くもなくなる。
森田「帝愛の御曹司……」
西条「奴ははっきり言って悪魔だよ。……何でも自分のプロデュースで負けた負債者は容赦なく殺してるって話だぜ……」
森田、西条の話を通じ改めて帝愛の恐ろしさを思い知る……!
その帝愛の御曹司も負債者を甚振ることを何よりの愉悦としているのだ……!
森田「するとあれか? お前にギャンブルで負けた奴は……」
西条「ま、確実にあの和也に殺されてるだろうな。……だが、そのおかげで俺だけじゃなく他の負債者も救われてるってことだ」
敗者を犠牲にして這い上がってみせた西条……自分が直接手を下したわけでもないためかかなり他人事のように言う……。
だが、結果としてそれで人が死んでいるのは事実。負ければ西条が逆に殺されていたであろうから、どうとも言えない……。
しかし、少なくとも西条は自分が負かした相手が命を落としたことに抵抗を抱いている様子はない……!
西条「俺にとってはあいつの趣味嗜好なんてどうでも良いけどな。……とにかく、俺はこの船で星をもっと稼がなきゃならないんだ」
西条「そういうわけで、俺は失礼するよ。森田、勝負をする時になったらお手柔らかにな。……ふふふ」
立ち去る西条を森田は立ち尽くしたまま見届ける……。
西条が以前の破滅する前の状態に戻っていた理由を知り、愕然……。
まさかそのような経緯で破滅から這い上がり復活を果たし、さらにはこのクルーズにも参加していたとは……。
だが先ほどのカイジを罠にハメた様子からして西条もまた自分なりの戦略を立てているのは確かだ。
これから先、西条と一戦を交える機会があるかもしれない……!
美緒「何よ。あんなに怒ることなんてないじゃない……!」
と、そこに現れたのは美緒だ。何やら怒っている様子だが……。
森田「どうしたんだ、美緒」
美緒「それが森田くんの言っていたサングラスの男が、突然私に突っかかってきたのよ。「お前は邪魔だからそこをどけ」なんて……」
森田「坂井のやつはどこにいる?」
美緒「あそこよ。今、勝負に入ろうとしていたところ」
美緒、森田を案内し遠目に坂井の勝負を覗う……。
そして坂井はその勝負に勝利し、星を手に入れる。現在、手持ちの星は6……!
坂井はそれから再びホール内を歩き回り始める。
森田(やはり、あいつが勝負をするのは決まってあそこ……しかも位置的には……)
これまでに坂井の行動を覗い、勝負も何度か見届けてきた森田はある疑惑を抱く。
坂井が勝負をするのは必ずあの別室近くにある鏡の近くにある勝負台。そして、坂井は必ずその鏡と自分が面する側に立って勝負を行っていたのだ。
森田「美緒、坂井に絡まれた時、どこにいた?」
美緒「あの鏡の前よ」
森田の時は鏡のすぐ前ではなく、その端辺りで待機をしていた……。それでも坂井は森田に因縁をつけてくることもなかった。
一方、美緒は鏡の前にいて絡まれた……これが意味することは……。
そして、坂井が別室へ送り込んだ石田を利用して行おうとしていることとは……。
森田(そういえば西条のやつはポーカー勝負の時、カードを通しで覗き見ていた……。もし、その手がここでも使えるのなら……)
森田「そういうことか……。分かったぜ、あいつのこの船での必勝法とやらが」
美緒「え?」
森田「と、なれば奴を討ち取る方法も組み立てられる……。美緒はここで待っていてくれ」
納得できない美緒であるが、森田は坂井との接触を図る……!
坂井は噴水前でカードを数枚持て余している様子である。
森田「なあ、あんた。どうだい? 俺と一戦、勝負をしないか?」
坂井「あん? ……冗談じゃねえ。俺は今、気分じゃないんだ……あっち行ってな」
坂井、何故か森田の誘いを無下に突っぱねると足早に立ち去っていく。
森田も美緒の元へと戻ってくる。
美緒「どうしたの? 勝負を断られたの?」
森田「ああ。……何だか俺を警戒してるみたいだったな。嗅ぎ回ってるのがバレたか……?」
坂井もリピーターである以上、自分に話しかけてくる相手のことなど信用していないのは当然。
確実に自分の作戦で勝てるカモしか標的にしていないのだから、ましてや森田のように自分の周りを嗅ぎ回っている相手と勝負などしない。
美緒「森田くんの考えていた作戦ってどんなの? ……それ、私に教えてちょうだい」
森田「それはいいけど、どうして?」
美緒「私が勝負をしてくるわ。私ならまだあいつもそんなに警戒しているわけじゃないでしょう?」
森田ほど長く張り付いていたわけではない美緒であれば坂井も勝負を受け入れてくれるかもしれないのだ。
ここで森田が勝負をしようにもそれを拒まれればどうしようもない。
森田「……分かった。ここじゃ目立つから、一度休憩室へ行こう」
森田、美緒を連れてホールから一時退室……!
一方、こちらはカイジのグループ。西条にまんまとハメられて星を4つも奪われてしまった一行はソファーの前で途方に暮れていた。
三人とも星1つという窮地に逆戻りしてしまい、絶望のどん底に突き落とされてしまったのだ……。
しかしまだ残り時間は2時間を切っていない。猶予のある絶望であった……。
カイジ「ちきしょう……すまねえ……俺がしくじったばかりに……」
古畑「カイジさんのせいじゃないですよ。あんな手を使ってくるなんて、誰も想像できませんって」
しかし、現に負けたのは事実……! あそこで西条が星を4つも賭けてきたこと事態に疑問を持つべきであった……!
あまりにも迂闊すぎた……! カイジ、猛省……!
カードの残りはG1 C2 P2
これで闇雲に勝負をするわけにもいかない……。
ましてや自分達を逆にハメようと罠を張っている者もいるのだ。迂闊に勝負をすること自体がもはや危険……。
しかし、星1つの状態でこのまま過ごしていれば時間切れで別室行き……!
カイジ(あれは……森田か?)
これからどうしようかと考える中、目に付いたのは自分たちとは別に行動をしている参加者、森田鉄雄。
何やら女の参加者にカードとそして星を渡し、促している……。
カイジ(あいつもチームを組んだのか? しかも女と……)
女がいること自体が驚きだが、森田たちのあの様子からしてどうやら森田のグループはこれから勝負を行うようだ。
だがあの様子……自分たちに勝算があるような……。
安藤「どうしたんですか? カイジさん」
カイジ「あの森田のグループ、これから勝負をするみたいだな。ちょっと覗いてこよう」
古畑「の、覗くって?」
カイジ「本来、他の参加者の勝負を除くのはご法度だが遠巻きからなら大丈夫だ。それで何かヒントが得られるかもしれないだろ」
森田鉄雄なら……一体、どのようにして勝負を行っているのか……カイジは見てみたい……!
ホールに戻ってきた美緒は森田からチョキとパーのカードを渡されると、すぐに坂井に勝負の申し込みを行っていた。
坂井は少し訝しんだものの、美緒との勝負を快諾。
それから勝手に自分で勝負台を選び、位置も鏡に面する側を選んでいた。
坂井「なあ、姉ちゃん。どうせなら星3つの勝負といかないか?」
美緒「3つ?」
坂井「ああ。さっきのお詫びってところかな。俺に勝てればあんたの星は8つ。どうだ? 夢のある話だろ?」
美緒の現在の星は5つだが、これは森田が坂井と勝負をするためにわざわざ自身の星を渡してくれたのだ。
坂井にその気があれば星複数の勝負を吹っかけられるかもしれないということでその気にさせるために星を水増ししたのである。
森田の読みどおり、坂井は自らその勝負を提案してきた。
美緒「……いいわよ。受けるわ、星3つよ」
美緒の承諾に坂井は得意げに笑う……! 確実に自分が勝つという確信があるように……!
そして相手が女だということでカモ同然と侮っているのは明らか……!
坂井「さあて、何を出そうかな……?」
美緒(森田くんの言ってた通り。やっぱり、こいつ覗き見してるんだわ……)
坂井を討ち取る作戦を森田から聞かされていた美緒は、坂井のその態度と今の行動から確信を得る……!
坂井はすぐにカードを出そうとせず、対戦者のチェックに合わせて自分のカードをチェックする。
そして坂井はそのカードに対して必ず勝利するのだ。
それは坂井が対戦者のカードを覗き見しているからに他ならない……だが、森田はその裏をかく方法を教えてくれた……!
美緒「チェック」
坂井「チェック」
美緒、一瞬肩越しにちらりと背後の鏡を見やる……。
現在チェックをしているのはパー。坂井が覗き見をしているのであればこのままセットをすれば負けは確定する……。
だが、森田は教えてくれた……この一戦を制する戦略を……。
それは……!
坂井「セット。……ん!?」
美緒「セット!」
美緒、何とチェックしていたパーと一緒にもう片方の手で持っていたグーとチョキまで並べてセットする!
坂井、その行動に対して一瞬混乱……! だが、すぐに美緒へ詰め寄る……!
坂井「おい、お前! 何してやがるんだ! そんなに一辺にカードをセットしても良いと思ってるのか! ふざけんじゃねえ!」
当然、坂井は激昂する! だが、美緒は聞き入れずに3枚のカードをセットしたまま……!
坂井「さっさとカードを元に……!」
森田「別に問題はないだろう?」
と、そこに現れたのは森田鉄雄……!
坂井、森田の出現に狼狽する……!
坂井(まさかこの女とこいつ、組んでやがったのか……!?)
船井から森田がリピーターの動きを嗅ぎ回っているという情報を耳にしていた坂井は森田を警戒して勝負を拒否したが、まさか美緒とグルであることまでは読めていなかった……!
坂井「な、何だと……! こんな滅茶苦茶なのがいいわけねえだろうが!」
森田「お前、利根川のルール説明を聞いてなかったのか? チェックをしたカードだけしかセットしてはならないなんて、奴は一言も言ってなかったろうが」
・・・・
森田「それにチェックをするのはあくまでこれから出すカードだ。ならばそのカードさえ出せば、他に1枚だろうが2枚だろうが同時にセットしても何も問題はないはずだ」
坂井「馬鹿野郎! そんなことが許されるわけが……!」
黒服「その通りだ。カードを複数セットしても何の問題はない」
反論する坂井であるが、そこに審判の黒服から鶴の一声がかかる。
黒服「ただし、オープンをする時はどれか1枚だけを選んでオープンしろ。それ以外のカードをオープンすることは許されない」
坂井「ふ、ふざけるな……! だったら変える……! 俺のカードを……!」
黒服「駄目だ。一度セットに入った以上、カードの変更も追加も許されない。後はただ開くだけだ」
坂井の悪足掻きに黒服は無情にそう告げる。
森田、その黒服の言葉に頷くと美緒もしたり顔で頷いてみせた。
そして、自分がセットした1枚のカードを指差す……! それはチェックしたものとは別のカード……!
美緒、オープン! そのカードはグー!
坂井「ま、待て……! は、離せ! やめろ……やめてくれぇーーーっ!」
別の黒服に後ろから抱え込まれ押さえつけられた坂井、絶叫を上げる……!
審判の黒服は坂井がセットしていたカードに手を伸ばし、オープンする。そして美緒と森田を見やり、不敵に微笑む……。
坂井のカードはチョキ! 美緒、勝利!
美緒「やった、やったわ!」
思わず歓声を上げる美緒。
黒服が押さえ込んでいる坂井から星を3つ引っぺがし、美緒へと受け渡される。
これで美緒の星は手前上8つ。しかし……。
美緒「はい、森田くん」
森田から借り受けていた2つの星と共に勝ち分3つの星も渡される。
森田「ありがとう。おかげで助かったよ」
坂井との勝負は警戒されている森田一人では成立しなかった。美緒がパートナーとなっていたからこそ、その勝負は実現したのである。
結果として、森田の星は6つに増える……!
坂井「……ぐ、ぐぐ……ちくしょう……!」
森田「自分の策を過信しすぎたな」
坂井「……何?」
森田「あんた、石田っていう男を別室に送り込んでただろ。その男から合図をもらって、対戦者のカードを盗み見てたんだろ?」
坂井「ば……馬鹿なことを言うな! 言いがかりはよせ!」
森田「恐らく、あそこにある鏡はマジックミラー……別室で落ちる先があの向こうであればあそこにいる石田が鏡を叩くか何かで合図を送れば対戦者のカードが何か知ることができる……」
森田「事実、お前は勝負をする時は必ずあの鏡が見える位置で勝負をしていたし、美緒が鏡の前にいた時は鏡の向こうにいる石田が相手のカードを覗けなくなるかもしれないからどかした……」
森田「からくりを知っているからこそ出た過剰反応さ」
坂井(こいつ……そこまで気づいてやがったのか……!?)
坂井、戦慄……! 船井の言っていた通り、この森田という男……! 相当の切れ者だ……!
森田「大方、星を大量に稼いでその余分な星で別室から出してやるって話をつけてわざと別室に落としたんだろうが……」
森田、坂井を睨みつける……。まるで汚いものでも見るように……!
森田「あんた、最初から石田を助ける気なんてさらさらないんだろ?」
坂井「……」
森田「通しをしたいんだったら、わざわざ別室に落とさずに遠くから合図をもらえばいい」
森田「それをしなかったのは石田の星を手に入れて別室に落とし、利用するだけ利用して使い捨てるつもりだった」
森田「別室に落としてしまえさえすれば、星を独り占めにできるし、相手に文句があっても顔を合わせることもない……。落ちた奴は地獄行きが決定している以上はな……!」
美緒「そ、そんなの……ひどいわ!」
あまりにも非道な行いに美緒、思わず声を上げる。
坂井の通し戦略は決して協力するのではなく、あくまでも金儲けのためにカモを利用し尽くし、用済みとなればゴミのように捨て去る……あまりにも非道な所業……!
坂井「当たり前だ! 誰があんな奴のために星を稼ぐと思ってやがる!」
坂井、開き直ったように逆ギレ……!
坂井「奴は俺が星を稼ぐための捨て駒なんだよ! 捨て駒! もうあんな役立たずのクズになんか用はねえ!」
坂井「貴様はそのまま地獄に落ちやがれ! ゴミクズが! ケッ!」
坂井、鏡の方を睨みつけて吐き捨てるとそのまま立ち去る……!
森田、鏡の方を哀れむように見つめる……。
あの石田という男は、あんな男の利のために地獄送りにされてしまうのか……。
結局、この限定ジャンケンはリピーターがカモを利用し尽くし地獄へ送り、金儲けをするための餌場みたいなものだ。
森田「行こう……美緒」
だが、森田にはどうすることもできない……。
美緒を引き連れ、その場を後にする……。
そして今の森田との勝負を見ていた参加者たちは森田の指摘を聞いたため、誰も鏡に面する勝負台で勝負をしようとしなくなった。
古畑「あの森田さん……すごいですね。まさかあんな手を使うだなんて」
安藤「まず確実にあの人と勝負なんてできないっすよ……返り討ちにされるのがオチだ!」
森田と坂井の一戦を目の当たりにしていたカイジたち一行は息を呑む……!
まさかゲームのルールそのものの裏をつくことで勝利をもぎ取るとは……!
明らかに他の参加者たちとはレベルが違う切れ者……!
だがあれでリピーターでないとすれば、森田は相当な修羅場を潜り抜けてきたのかもしれない……。
カイジ(それにしてもあのおっさん……)
カイジは森田の話を聞き、坂井に騙されて別室へ送り込まれた石田という男のことを気にかける。
最初のカイジのように何も考えずに坂井の言いなりになった石田にも落ち度はあるが……。
その石田を完全に利用し尽くした坂井はとんでもない外道……!
カイジ「……ゲームの盲点か。何か、何かあるはずだ……」
森田が成していたのであれば、自分にもできるはず。そして勝機を……この窮地を脱する手が見つかるはず……!
カイジは考えに考え……そしてある作戦を閃くこととなる。
注目したのは、電光掲示板……!
美緒の協力もあり坂井との一戦で一気に星を3つ増やした森田。
美緒「これで星を余らせられるし、今残ってるカードを私たちで使い切っちゃいましょうよ。それで森田くんは上がれるわ」
美緒は森田に早上がりを提案する。現在、森田グループの手持ちカードはG2 C3 P3
これをまず森田がグー、美緒でチョキ。次に森田がグーと美緒がパー。
さらに森田がチョキと美緒がパー。最後に森田がパーに美緒がチョキで処理すればあいこ勝負はできずとも星はプラスマイナスゼロで処理できる……。
星を3つも余らせれば森田の借金もチャラになるはずである。
森田「いや。まだ駄目だ」
だが、森田は美緒の打診を却下する。
美緒「どうして? まだ星を稼ぐっていうの?」
森田「結果的にはそうなるだろうが……俺には他にやることがあるんだ」
美緒「やること?」
森田、ちらりとホール内を見渡し一人の男を見つける。
それはこの船で出合った男、伊藤カイジ……。
森田「できればあいつと一緒に上がりたいんだ」
美緒「あのカイジって人と? 森田くんの友達?」
森田「いや。……ただ、何となく放っておけなくてな」
別にカイジを助けた所で自分が得をするわけでもない。カイジも他の負債者や今の自分と同じただの凡人。
ただ、どういうわけか森田はカイジのことが放っておくことができなかったのだ。
一つ言えることは、あのカイジは他の負債者とは何かが違う……ただ、それだけははっきりと分かる。
幾多の修羅場を潜り抜けてきた森田はカイジの何かを察していた……。
森田「少なくとも、あいつは金の上に人を置いてるのは確かだ……まず間違いなく、信用できるだろう」
一方、限定ジャンケンが行われる光に満ち溢れたホールとは逆に暗黒に覆われたある一室……。
そこはゲームに敗北し、星を3つ失った者たちが落とされる別室……。破滅・破綻者の巣窟……。
ここに落ちた人間は服を身に着けることさえ許されない……人間以下の扱いしかされない……。
この後に待ち受けるのは地獄のみ……。
石田「あ……あああ……どうして……どうして……」
目の前にはホールが見える巨大な窓の前でうな垂れ、絶望し涙する一人の男……。
この男、石田光司。ゲーム開始直後、坂井に通しの戦略に誘われ自ら別室へと落ちた男。
坂井が星を6つ稼いで別室から出してやると約束された石田は坂井に言われるがままに参加者のカードをここから盗み見て坂井に合図を送っていた。
森田の指摘どおり、この別室の窓はマジックミラーであり、ホール側からはただの鏡にしか見えない。
順調に勝ちを重ねていた坂井に先ほども合図を送っていた石田であったが、まさかその時に思いもしない事態が巻き起こる……。
坂井は石田が美緒のカードを盗み見ていたにも関わらず敗北し、星3つを奪われてしまう。
しかも森田の指摘で坂井は初めから石田を助ける気など無かったことを暴露……!
石田は完全に自分が利用されていたことを知り、絶望する……!
もはやこの別室から出ることはできない……。
「へへへへ……心配することはない。直にあのサングラスも別室へ落ちる……あの男も、あの女も、みんなまとめて別室へ落ちるんだ……」
石田の背後で不気味に笑う、同じ別室へ落ちた男……。
この男、かつては某大学の教授であったが数年前誠京会長、蔵前仁に地下で飼い殺しにされていた……。
誠京が崩壊した後、地下から解放されその後色々あってこの船に落ちたクチ……!
だが、その精神は既に破綻……狂人と化している……。
岡林「……ちっ。これじゃあ俺もやり辛くなったな」
そして札束を手に窓の側で座り込む男、岡林もまた外にいる仲間と共に石田と同じ通しの戦略を行っていた者。
だが、今の騒動で誰も別室前の勝負台で勝負をしてくれなくなった……!
これでは自分が対戦者たちのカードを盗み見ることはできない……!
だが、自分には外にいる仲間に切り捨てられないように助けられる保障がある……! 最悪、星は稼げなくても外には出られる……!
後半戦終了……! 終盤戦に続く……!
以上、第三部終了。後日、書き溜めて四部を再開
乙なんだよ
まさか教授までいたとはwwwwww
できれば次回で終わりたい……終われるか分かりませんけど
支援
第四部の書き溜めができたので、再開します。
やっぱり四部でも足りませんでしたので、五部構成にしました。
五部はすぐに終わりそうなのでたぶん、今日中に完結します
希望の船エスポワールのギャンブル、限定ジャンケン……!
その残り時間は1時間30分を切った……!
リピーター・坂井との一戦から既に40分以上が経過。森田は星6つのまま誰とも勝負を行わずに時間を過ごしていた。
いや、正確には勝負ができない状況にあった。
森田(連中、完全に俺を警戒してやがるな……)
森田がマークしてきたリピーターたちに勝負を申し込もうとしてもあっさりと拒絶される。
坂井の時もそうだったが、やはり自分がリピーターたちの動きを嗅ぎ回って標的にしている情報が流れているようだ。
先ほどの坂井との一戦が引き金となり、森田がリピーターを標的にして策を逆手にとると知ったために相手にしてくれなくなったのだ。
金儲けを目的にしているリピーターたちにとってはあくまで自分たちの必勝パターンで狩ることができるカモが標的であり、森田のような切れ者は相手にしないのだ。
故に森田はこれ以上の勝負ができずに頓着状態へと陥っていた。
星を稼ぐというのであればリピーターではない普通の参加者を相手に勝負をしていくしかなくなる……。
しかし、初参加者の人間はリピーターと違い何の戦略も立てずに運否天賦で勝負をする素人ばかり。相手を逆手にとること自体が不可能。
よって、しばらくは美緒と二手に別れて情報収集を行っていたのだった。
森田「さっきからあいこばっかだな……」
遠巻きに他の参加者たちの勝負を覗いていた森田は気がかりなことがあった。
情報収集開始から20分……何故かどの勝負も引き分けばかりであり、カードだけを消耗する消化試合しか行われていないのだ。
何かが今、このホールで起きている……森田は直感的に悟る……。
森田(カイジのやつ、どこに消えた?)
そしてこの間、森田はカイジたちのグループの姿を見かけることはなかった。
情報集めに動き出す直前ほどまでカイジたちは何やら他の参加者たちに交渉を持ちかけていた様子だったが……。
美緒「森田くん」
森田「どうだった?」
残り1時間を切る5分前、噴水の前で森田、美緒と合流。お互いに集めた情報を交換し合う。
森田「なるほど。やっぱりあいこばかりなんだな」
美緒「ええ。勝ち負けはほんの1、2回程度しか決まっていないみたいなの」
どうやら美緒の方でも状況は同じ……。現在、このホールで行われているのは引き分けのみ……。
森田「まったくの偶然とも思えないな……」
こう何度も数十分に渡って消化試合ばかりが続くのは明らかに変である……。
この状況も何者かの策なのか……森田、考えに考える……。こんなことをして何の意味があるのか……。
正体不明の動きと流れに不穏を感じる……。
美緒「あら?」
森田「どうした?」
美緒「……チョキってあんなに少なかったかしら」
森田「ん?」
電光掲示板を見てみると、現在フロアーに残っているカードは「G92 C98 P95」
……情報集めに動く直前はチョキは120枚以上で他のカードは大体今と同じかプラス10程度であったはず。
こんなにもごっそりと、他のカードの減少も少なく激減するなどおかしい……。
森田「また減った……」
98であったチョキがたった今、96へと減少した。……いや、さらに94、92と数を減らしていく。
対してグーとパーは張り付いたように動かない。時に減ることがあっても、チョキに比べればそれはあまりにもおとなしい。
美緒「もしかして今、引き分けばかりになっているのってチョキなんじゃない?」
森田「……ああ。間違いない。今、このフロアーで動いているのはチョキだけだ」
だからこそ他のカードはほとんど消費されないのだ。チョキが2つずつ消費され一気に数を激減させているのもあいこで潰し合っているから。
これが意味することは……。
この時、森田に電流走る……!
美緒「……森田くん?」
森田(リピーターどもが勝負を受けてくれない以上、この状況を利用するしかないか……)
森田「美緒。これ1枚で誰かと勝負をしてきてくれ。九割方勝てるはずだ。俺もこいつで勝負をしてくる」
森田、手持ち2枚のグーの1枚を渡すと再び美緒と別れ星に余裕がある参加者に声をかけ、勝負をする。
現在、このフロアーで使用されている比率がチョキが圧倒的に多い以上、グーで勝負に行けばかなり高い確率で勝てる……!
森田の読みどおり、二人はチョキのカードをグーで討ち取った……!
森田は星を8つへと増やす……!
美緒「本当に勝てちゃったわ。……でも、どうしてチョキばかり使われてるのかしら」
森田「誰かがカードを独占してやがるんだ」
美緒「独占?」
森田「ああ。グーとパーのカードを何十枚も独占している奴がいる。だからチョキばかりあいこで消費されていくんだよ」
美緒「でも……何のためにそんなことを」
森田「簡単なことさ。例えば時間切れ間際で残っているカードの枚数がグーとチョキが10枚以上余裕があって、パーが2、3枚と極端に少なくなっていたとする」
森田「その時、その余裕のあるグーの相当数を使って勝負に行けばどうなるか……」
美緒「あっ……!」
森田の説明に美緒も気づく……!
もしそうなればグーはほぼ無敵のカードと化し、チョキを持つ相手に完勝……悪くてもあいこで引き分けとなる。
これがもしグループで独占をしていれば、カードが必要なくなった時にあいこ勝負で自由に消耗ができる。
森田「恐らく、どこかの悪知恵の働くやつがそうした状況を作るためにカードを他の参加者たちから買い占めてるんだろ。そして待っているんだ……」
美緒「なるほど……それで今、グーとパーを一辺に押さえているのね」
森田「いや、恐らく複数のグループで別々に独占しているんだろう。……と、なればこのままだとグーを買い占めてるやつが惨敗するな」
残り1時間を切り、チョキはあっという間に60、50、そして40と激減……!
対してグーとパーは依然、90前後のまま……。このままいけばグーはただ負けるだけのカードと化す……!
既にグーを使い切った森田には関係のないことだが……。
美緒「あら? 森田くん。あれ、カイジじゃない?」
森田「ん?」
見ればこれまで姿を消していたはずのカイジグループが血相を変えて掲示板を見上げている……。
カイジに至っては膝までつき何やら落胆としているが……。
古畑「動くなら、動くなら今しかない……! グーが屑カードになる前に!」
安藤「お、俺も……!」
カイジ「……待て! 今もし負けたら、それこそお終いだろうが!」
異常なまでの恐怖に駆られた古畑と安藤をカイジが必死に制する……!
森田「どうしたんだ? お前ら」
古畑「あっ! 森田さん!」
安藤「その……俺たち……」
カイジ「……待て!」
再びカイジは呼び止める!
カイジ「何でもない……森田。気にするな……。行くぞ」
カイジは古畑と安藤を連れ、森田の元を離れて隅のソファーへと移動していく。
だが森田は察する。何故、カイジたちがここまで切迫しているのかを……!
森田(なるほど。こいつらだったのか……)
そう。グーを買い占めていたのはカイジグループだったのだ。
カイジたちは手持ちの資金800万を使い、参加者からグーのカードを掻き集めた。その数、30枚……!
その後、理想的な状況となるまでトイレに身を潜めつつ交代で電光掲示板を見張っていたのだが、結果はチョキばかりが消費されるばかり……。
カイジとは別の誰かがパーを買い占めていることに、たった今気がついたのだ。
全ては破綻……。このままでは大量に買い占めたグーはパーにただ殺されるだけとなる……。
古畑、安藤の二人は恐怖に駆られてグーが役立たずになる前に勝負へ行こうとしたがカイジに止められた。
星が3人とも1つしかない以上、負ければ別室行きとなるのだ……!
計画が破綻したカイジたちはこれからどうすべきか途方に暮れている。
もはや1時間を切って猶予はないのに星はカイジグループは合わせて3つだけ……。
戦略もなしに闇雲に戦うしかないのか……。
美緒「ねぇ、森田くん。もしかして……」
森田「ああ。十中八九、あいつらがグーを買い占めたんだな。……ん?」
と、そんなカイジたちの元に近づいてくる三人の男たち……。
赤ジャケットの金髪の男は、森田も何度か見かけている北見という男だ。
北見たちはカイジと接触し、何やら話し合っている様子だ。
森田「なるほど。あいつらがパー買い占め派というわけか」
森田の推察は当たっていた……!
北見グループもまた、カイジたちと同じようにグーを買い占めようとしていたが既に買占めが行われていることを知ると予定変更……!
買い占めが行われているグーを殺すパーを買い占めることにした……!
そうしてカイジたちを狙い撃ちにしようとしていたがこれは失敗……だが、北見たちの優勢は変わらない。
そして、どうやらカイジグループと北見グループが勝負をすることになったらしい。
森田たちはカイジの戦いを遠巻きに見学することになる……。
だが一向に勝負は始まらない。何故なら、両者の間でいざこざが起きたからだ。
代表のカイジは互いのグループの星3つを賭けての大勝負を提案……! だが、当然古畑と安藤の両者はそれを拒絶……!
安藤「カイジさんが自分の星をどう賭けようと勝手っスけど、俺たちの星を巻き込まないでくださいよ!」
古畑「撤回してください! 撤回!」
しかし、今ここで星をグループで6つにはしておかなければカイジたちにはもはや後はない……!
カイジ「分かって、死んでくれ……安藤、古畑……!! もう俺たちには退路なんてねえんだ!」
カイジは既に死を覚悟した……! 今さらは自分の保身など求めはしない……!
森田(死ぬことを決意した……か)
かつては森田もカイジと同じ状況にあったのだ。誠京麻雀で蔵前仁に敗れれば破滅し永遠の飼い殺しとなる運命……。
あの時、もし負ければ森田は己の心臓を刀で貫き、自らを始末していた……!
銀二(死ぬことを決意しろ……。道はそこから開かれる……!)
似ている……この男は自分自身と……! 森田はカイジが自分と同類なのだということを悟る……!
そうこうするうちに北見たちは立ち去ろうとするが、カイジは何とか話をつけて古畑と安藤も説得する……。
カイジたちの背後では負けた瞬間、別室へ連行するための黒服たちが待機する……まるで死神のように……。
そして周りには森田らのようにギャラリーたちが集まってくるがみんな、カイジたちの破滅を期待しているかのよう……。
美緒「な、何なのよ……」
森田「亡者どもが……」
周りにいるギャラリーは星足らずの者たちばかり。カイジたちが破綻し、人数が減った上で星がフロアー内にあふれる事を期待しているのだ。
森田(死なせはしねえよ……こんな地獄の釜の底で……!)
万が一の時は森田が自らの星をカイジたちに与えて別室行きだけは回避させるつもりだった。
元々、己の星が減ろうが構わないのだから。星を売って儲けようだなんて考えてもいない。
カイジ&北見「チェック!」
そしていよいよ、カイジの生き残りを賭けた決死の勝負が開始される!
カイジ&北見「セット!」
後はカードを開くだけ……これでカイジの命運は決まる!
だが、その直前……。
北見「ま、待った! この勝負!」
何故か北見は勝負を思いとどまる……!
カイジ「審判! セットに入ったんだぞ! この時点での中断なんてあり得るのか!」
当然、既にチェックに入った以上、カードのチェンジも不可……。後は開くだけ……!
カイジ「北見! カードを置け! 置けぇ!」
北見、仕方なくカードをセットする……。
森田(何かに気づいたか……?)
だが、森田は北見のその動きで北見が何らかの不穏な予感を感じたことを察する。
まるで自分が確実に負けることが分かったかのように……!
結果的に、勝負はカイジの勝ちであった。
カイジは北見との接触時の発言と勝負時の動き、そしてパー買い占めという事実からある理を導き出したのだ。
北見は余分なカードを消費したいがためにカイジとの一戦を申し入れた。本来なら勝っても負けても後はあいこで消費すればそれで上がれる。
だが、その余分なカードが買い占めたパーであることをカイジに読まれた……。結果、星を3つも失うハメになる。
さらに北見グループはこの敗北により内部分裂……! グループは解体せざるを得なくなる……!
逆にカイジグループは星を3つ獲得……! かろうじて地獄送りは回避される……!
カイジたちに希望の灯ともる……!
一方、森田はカイジたちが生き残ったことに安堵する……。自分と同類のカイジが死を覚悟して生き残ったことに。
森田「とりあえずは安心かな……」
西条「へぇー、あいつらもやるもんだな」
美緒「……あ! あんたは!」
突然森田の前に現れたのは西条……。
1時間ほど前、西条はカイジたちをまんまと絡めとり星を9つにまで増やしていた……。
あれから結構な時間が経っているが西条の星は目標の13個となっている。
西条「くくく……ああいう底辺を這っている連中にはお似合いの姿だよな。たかが星2つになったくらいで大喜びしやがって。生き残りが確定したわけじゃないってのに……」
西条「なあ、森田?」
西条、お互いの獲得した星を見てほくそ笑む……!
森田「……」
西条「ふふ……あいつらはまだマシかもしれんが、どうしようもないのはあっち……」
西条が指差した先、ホールの隅で固まっている20人近くのプレイヤーたち。
現在、このフロアーで生き残っているのは森田らを含めて44名。その中のおよそ20人が勝負にも行かずに何かを待ち続けている……。
美緒「どうして勝負に行かないの? あの人たち……」
西条「それはカードが無いからさ。カードが無ければ勝負にも行けない。しかも連中、星が足りてない」
よくよく見ればそうである。彼らは皆、星が1つか2つの者のみ。
このままでは確実に別室行き……しかし、勝負は諦めている様子。と、なれば残された道は……。
西条「ゲーム終了後に星の売買タイムとかいうのがあるらしい。連中、それに全てを賭けているのさ」
命を賭けて勝負をするよりも、金を使って安全に生き残るという道……!
西条「まあ、俺は星を奴らに売る気なんてないけどな。くくく……」
西条は星を船側に引き取ってもらわねばならないため、用が済めばとっとと2階へ上がってしまう気だ。
森田らのように星を多く獲得している者が売買タイムに現れずに上がってしまえば、その分だけフロアー内の星は足らなくなる。
結果的に確実に別室へと落ちる者が増えることとなる……!
西条「もう少し早ければああいう連中にもカードが譲れたかもしれないのに。今じゃカードを受け取る気もない。知ってるか? カードを破棄したやつのこと」
森田「ああ」
数時間前、余分なカードをトイレで破棄し別室へ送られた参加者がいたのだ。
西条「それじゃ、俺は先に上がらせてもらうよ。森田もせいぜい、地獄行きにはならないようにな。くくく……」
西条は不敵に笑い、階段へと向かっていく。
美緒「相変わらず嫌なやつ……。みんな生き残りを賭けて必死なのに……!」
立ち去っていく西条を見届けた美緒は嫌悪を露にしていた。
さて、カイジたちがギリギリ生き残り、時間も残り30分を切ろうとしている中、森田たちはソファーの所にカイジの姿を見つけていた。
が、同時にある男の姿もある……。
船井「ひ、拾うな! 俺の星やぞ!」
それはゲーム開始直後にカイジから星を騙し取ったリピーター、船井譲次。
何やら床を這いつくばり散らばった星を掻き集めている。
船井「せっかく垂れた救いの糸を自ら切る気か? 救えぬ偽善者が! せいぜい後悔せいや!」
自らの星を回収し、船井はカイジの元から去っていった。
カイジは露骨に嫌悪を露にした表情を浮かべている……。
美緒「何かあったのかしら」
森田たちはカイジの元へと近づいていく。
森田「何があった? カイジ」
カイジ「森田か。何でもない……」
森田「またあの野郎が甘い話でも吹っかけてきたのか?」
その通りである。カイジと接触した船井はマークをしてい数名に勝つため、カイジに星を1つ渡す代わりに買い占めているカードの一部が欲しいと交渉してきた。
だが、カイジはそれを拒否……! もはやフロアーに残っている人数は残り少ないというのに船井に星を持っていかれるのは堪ったものではないというのもあるが何より……。
船井は古畑、安藤を用が済んだら切り捨てれば良いと言ってきたのだ……!
確かに船井から星を受け取ればカイジは100%救われるが、他の二人は救われない……!
カイジは手を組んだ二人を裏切ることなどできなかった……!
古畑「カイジさん。どうしたんですか? 何だか揉めてたみたいだったけど……」
と、そこに古畑と安藤が戻ってくる。
カイジ「何でもねえ……。それより、お前らに渡しておくものがある」
カイジ、手持ちの軍資金の残り600万のうち400万をソファーに投げ出す。
森田、美緒、古畑、安藤はカイジのその行動に眉をひそめる……。
カイジ「200万ずつ渡しておく。これで俺だけ星を買って上へ行くわけにはいかなくなった。これでみんな条件は同じだ……」
古畑「はあ……?」
安藤「いいんスか?」
カイジ「今は仲間同士疑ったりしてる時じゃねえ。互いに半端な気持ちは命取りだ」
カイジ「俺はお前らを信じる。だからお前らも俺を信じろ……!」
カイジ「初戦に勝って星3つになったからって勝手にカードを売ったり、何かおいしそうなことを吹きかける奴にフラフラついていったりするなよ」
カイジ「古畑、安藤……絶対に裏切るな……!」
森田(そうか……そういうことか)
森田、カイジが船井に何を吹きかけられたかを察する。
古畑「そ、そりゃもちろん……! 当然ですよ!」
カイジ「それじゃあ、もうしばらく様子を見ていてくれ」
古畑&安藤「はい!」
古畑、安藤は再びホール内に散らばっていった。
森田と美緒はカイジと同じくソファーに座りだす。
森田「しかし、カードの独占とはまたえらい手段を思いついたな。さっき、北見のやつらからもパーを全部引き取ってたろう」
カイジ「やっぱり知ってたのか……」
森田鉄雄のことだ。あれだけ騒ぎにもなれば買い占めを行っていることは勘付かれると思っていたが……。
事実、森田はカイジたちが北見グループと交渉をしている場面を遠巻きに目にしていた。
森田「それで、いつ仕掛けようっていうんだ? もう時間は30分切ってるんだぞ」
カイジ「……俺たちの手持ちはグー30、チョキ3、パー36……。フロアーで動いているパーが残り3枚になったら動く」
森田は他人に情報をバラしたりするような男ではないため、カイジはこっそりと自分の手持ちカードと戦略を語る。
電光掲示板のカードの残数は「G48 C27 P55」であるが、現在カイジたちが所持しているカードを除外すれば実際に動いているカードは「G18 C24 P19」となっている。
カードを大多数独占することによりこのように決定的な情報が得られるのだ。
そしてパーが種切れになれば残りはグーとチョキ……グーで勝負に行けば負けだけは決してない……!
カイジ「これが俺たちの最終戦略だ……」
森田「つまり……俺たちが勝負にいかない限り大丈夫なわけだな」
カイジ「なに?」
美緒「私たちはチョキとパーを3枚ずつ持っているのよ」
美緒、手持ちカードをカイジに見せる。
森田「お前たちが星を稼ぐまで俺たちは勝負にはいかん。安心しろ。何なら、俺たちがパーで勝負をしてやってもいい」
カイジ「……何? いいのか?」
森田「別に星8つが5つになるだけだ。問題ない」
カイジにしてみれば自分たちの情報を自ら明かす森田から星を手にするのは楽勝……だが!
カイジ「いや、あんたには色々世話になっちまってるからな。俺たちは俺たちで星を稼ぐ」
森田「そうか」
カイジ「ただ……あんたたちが欲しいカードや処理したいカードがあるっていうなら俺たちも手を貸そう」
森田「……わかった。その時はよろしく頼む。……そうだ、お前にもう一つ言っておきたいことがある」
カイジ「何だ?」
森田「お前、さっき古畑と安藤に裏切るなとか色々言ってたみたいだが……」
森田、妙に真剣な顔になり、話を続ける……!
森田「……勝った後でも絶対に気は抜くなよ」
カイジ「何……?」
森田「正直な話……俺はあの二人は信用に置けないんだ。特に安藤のやつはな……」
森田の言うことはカイジも分かる。安藤は一度自分たちを裏切ろうとしたのだから。
しかし、一度手を組んだ以上カイジは決して二人を切り捨てたりはしない。生き残りが確定するまで……!
森田「連中、お前が北見と勝負をする時に色々ゴネてただろう」
森田「安藤はあの時、お前が自分の星をどう賭けようと勝手だが、自分まで巻き込むなと言った……」
森田「つまりそれは言い換えてみれば、他人がどうなろうと知ったことじゃないって言ってるんだ。その前に勝手にカードを使おうとしたのもそう……」
森田「自分の都合のためなら他人がどうなっても構わないなんてそんなのは駄目だ」
森田「根っこの所で卑しいやつは信用できない……」
カイジ「だから安藤のことは信用するなっていうのか?」
森田「そうじゃない。切らなくてもいい。ただ、最後の最後まで絶対に油断するなってことさ」
森田「それじゃ、俺たちはもう行くぜ。くたばるなよ、カイジ」
森田は美緒を連れ、カイジの元を離れていく。
カイジ、忠告をしてきた森田の背中をじっと見届ける……。
ゲームの残り時間はあっという間に17分となっていた……! 23分頃の時、カイジたちはついに最後の勝負に出るため動き出したのだが、肝心の勝負ができない……!
残った参加者たちはカイジたちはおろか他の参加者たちとの勝負さえ拒否。
全員身を堅くして固辞……! 場は膠着化……! 閉塞する……!
美緒「どういうこと? 誰も勝負をしないなんて……」
森田「恐らくみんな不信感を抱いているんだろうな……」
自分の残り少ない手持ちカードがバレているのではないかと疑心暗鬼となり、参加者たちは勝負をしようとしないのだ……!
そして、自分に話しかけてくる参加者が何かを企んでいるのではと考え、結局勝負をしない……。
しかし、このままでは時間切れとなり全員別室行きとなる……!
結局は勝負に出なければならない時がくる……!
カイジたちのグループはそれをただひたすらにじっと耐えて待つ……。
そんな中――
船井「いい加減にしようや、みんな! こんなん互いに牽制し合っていても埒があかん! 時間が無駄に流れるだけや!」
船井が大声で参加者たちに呼びかけ始める……。
船井「聞け! 俺に提案がある!」
この閉塞した状況を打破するための船井の提案とは、カードのシャッフル……!
参加者全員のカードを集めてシャッフルし配りなおす……! そうすることでゲーム開始の時と同じ状態に戻るのだから疑念の雲は晴れると説く……!
森田「あいつ……またおかしな考えを……」
これが実行されればカイジたちの買い占めが参加者全員にバレることになる。その戦略は破綻する。
船井の案に反対する者が何人か出てくるが、船井の巧みな弁舌に説得・誘導され、結局は船井の案に乗ることとなる……。
森田たちやカイジグループ、他数名はその輪には入ろうとしない。
さらに船井はカードシャッフルを行った者だけでしか勝負をしないとまで言い出した!
こうなってはカイジらも入らざるを得ない……。
森田と勝負をしてもらうという最終手段もあったが、これ以上世話になるわけにはいかない。
美緒「どうする? 森田くん」
森田「放っておくわけにもいかないだろう。それにあの野郎……何か企んでやがる」
どうせ船井のことであろうから何か策を打ち立てているはずだ。
それにカイジたちが絡め取られてはどうにもならない。
森田「待て、俺たちも参加しよう」
船井「……森田さんか。ま、いいやろ。来るもんは拒まずや」
一度苦渋を舐めさせられた相手の登場に船井は一瞬、渋い顔をするが森田たちの参加も認める。
こうして参加者全員の手持ちカードが集められるが……。
船井「グー38にパー39……これはいいんや。でも、チョキが3枚足らん! 16しかないやないか!」
高田「それじゃあ、誰かが嘘の申告をしてるのか?」
船井「いや、それはあり得ん。恐らくは向こうの中の誰かが隠し持ってるんやな……」
船井が指したのは星売買タイムに全てを賭けた20人あまりの勝負放棄者たち……。
船井「どんな戦略か知らんが、こんな土壇場でカードを抱えているⅩがいるんや。ま、放っておこうや。さっきも言ったように俺らだけで勝負をすればいい」
森田(……いや。そんなはずはない。あそこにいる連中にはそんな駆け引きをする余裕なんてないんだ)
森田(と、すれば……やはりこの中の誰かが……あるいは……)
まず船井がカードをシャッフル……そして全員が1人ずつシャッフルを行い、再び船井の元へと戻りさらに床でかき混ぜる……。
森田「待て」
船井「あん? 何や、森田さん」
森田「カードを配りなおす時についてだが、俺から一つ提案がある」
船井「何や。この土壇場に……」
船井、森田の突然の言葉に訝しそうにする……。
森田「まずそのカードを真ん中に置け。それからまず一人が1枚ずつ順番にカードを引く。そして必要なカード枚数が少ない奴から順にさらにカードを引いていく……」
森田「これなら誰かが必勝となるイカサマが入る余地はほぼなくなるはずだ」
船井「な、何やと! 俺を信用しとらんのか!」
森田「信用できるかよ。お前は星を奪うためにカイジや俺に策を打って来たんだからな……万が一の保険をかけるのは当然だ」
カイジ「そうだな。俺も賛成だ。置け! 船井!」
森田のその提案に、カイジはおろか他の参加者たちも同意……!
船井(ぐぐ……! こ、こいつ……! 余計な真似を!)
森田の指摘どおり、船井はシャッフルで公平にしたように見せかけて自分のための必勝法を組み込もうとしていた……。
だが、やはりそこはリピーターに目をつけていた森田……! 船井の企みは見抜かれていた……!
しかし、あくまでこれは紳士協定と言ったのだから無碍に断ることなどできない……!
それにまだ勝算は残っている……!
森田「さあ、勝負再開だ!」
森田の提案通りに全員がシャッフルされたカードを手にし、中断されていたゲームが再開される……!
美緒「グー2枚、チョキ1枚、パー3枚……」
森田「あいつら……何をモタモタしてやがる!」
美緒がカードを数える中、森田は同じようにカードの枚数を数えるカイジたちを見る。
カイジたちのカードの総数は69……! 買い占めによって総数が多くなっていたが故に数えるのに時間がかかる……! 致命的な痛手……!
こうしている間にも他の参加者たちは最後の決着をつけていく……!
森田「カイジ、もう時間がない。俺たちでカードを処理しよう」
14人いたシャッフルグループの決着があっという間に6人つき、残るは8人。森田とカイジのグループ5人を除けば船井と他2人だけ。
この3人と戦えばカードを独占しているカイジたちも3連勝はあるかもしれないが、確実とは言えない。
ましてや相手が勝負をしてくれなければ意味がない。カイジたちの買い占めがバレている以上は……!
古畑「カイジさん! ここは森田さんと……!」
カイジ「すまねえ、森田……!」
カイジグループのカードはG32 C3 P34。そして森田のカードはG2 C1 P3。
これでカイジがチョキを、森田がパーを3枚ずつ出せば森田の星3つがカイジたちに行き渡り、生き残りが確定する。
その後は余分なカードを仲間うちで消費するだけ。いっそ、今すぐ星を譲渡してあいこ消耗だけをすればいい。
……だが、しかし!
カイジ「ちょ、ちょっと待て! 駄目だ! 1枚余っちまう!」
そう。カードの総数は75の奇数! 仲間内での消耗をするのであれば2枚ずつカードを消費される以上、偶数でなければ駄目……!
必ず1枚が余ってしまう……!
安藤「そうだ! カイジさん、Ⅹですよ! Ⅹがチョキ3枚を持ってるじゃないですか!」
シャッフルグループ以外にまだチョキ3枚を隠し持っている者がいる……。
安藤「そいつと勝負するなり、カードを1枚でももらえば……!」
カイジ「アホか! あれだけチョキ3枚持っていると公言されているやつが俺たちと勝負なんてするわけないだろう!」
そもそもカード自体がⅩから貰い受けられるかどうかが問題である……!
一方、シャッフルを提案した張本人、船井はというと……。
船井(ぐぐ……! 森田とカイジのせいで……!)
船井は手持ちカードはグーとチョキが1枚ずつであるが、未だに勝負を行っていない。いや、正確には勝負をしてもらえない。
先ほどの森田の発言で船井がこのシャッフル自体に何か仕掛けをしているのではと参加者たちは疑念を抱き、誰も勝負をしたがらなくなってしまった。
結果、船井は孤立……! 自分の戦略がバレたわけでもないのに……!
船井はシャッフルされたカードの中のチョキに目印をつけており、それが配られたプレイヤーをグーで殺そうとしていたが、それも無理……!
損を覚悟でカードを消費させてもらうこともできない……!
残り時間はあっという間に7分を切る……!
既に船井とカイジたち以外の全てのプレイヤーの決着がつき、残っているカードはG35 C8 P37
パーはカイジたちが全て手中に収め他も独占している以上、実質残りはグー1枚とチョキ4枚……!
船井とⅩが持っているカードのみ! Ⅹがチョキ3枚を隠し持っているので船井のカードの内訳も明白……!
森田「たとえ船井と勝負したとしても、結局カードが1枚余るぞ。奴もカードが2枚だけなんだから1枚余らせる真似だけはしない……」
一戦だけを申し込もうとしても船井に拒絶されるのが当たり前……!
最悪、星を失うにしてもカードを使い切れる2連戦でなければ勝負はしてくれない……!
カイジたちもろとも、船井と共に別室へ落ちることになる。
古畑「こうなったら、やっぱりⅩとも勝負をしないと!」
美緒「そもそも、そのⅩが何で出てこないの? もうこんなに時間が少なくて、勝負ができる相手もいなくなるっていうのに」
美緒「何かおかしいわ。……本当にⅩなんていうのがいるの?」
古畑「でも、現にチョキ3枚が隠されているんですよ。必ず誰かが……」
森田(待てよ……美緒の言うとおりだ。そもそも、本当にⅩなんてやつがいるのか?)
カイジ(こんな局面でカードを隠し持っていても意味はない。自殺願望でもない限り……)
森田(自殺……自殺……? 自滅……)
カイジと互いに同じ思考を巡らせる森田、ここである考えへと至る……。
そのヒントは、数十分前に西条が言っていたこと……!
西条(もう少し早ければああいう連中にもカードが譲れたかもしれないのに。今じゃカードを受け取る気もない。知ってるか? カードを破棄したやつのこと)
カードを破棄……破棄……! 破棄……!!
森田&カイジ「あああ……!」
二人は互いに驚愕……!
カイジ「何てこった……! Ⅹなんて初めからいなかったんだ……!」
古畑「ど、どういうことですか!? カイジさん!」
安藤「Ⅹがいない?」
美緒「それ、どういうこと?」
森田たちの意図が分からない三人……!
森田「簡単なことさ。Ⅹあのチョキ3枚はもうここには存在しないんだ」
美緒「そ、存在しないって……」
カイジ「みんな覚えてるか? ゲーム中盤で起きたアクシデント……別室に送り込まれたやつのこと」
数時間前、森田が美緒とパートナーを組んだ時に起きた異常事態……。
星3つなのにトイレに余分なカードを捨て流したことで不正行為が発覚し、黒服に別室へと連行された男……。
通常、使用されたカードは勝負台のボックスに投入されることで電光掲示板の表示が変化する。恐らく、マイクロチップか何かが組み込まれているからだ。
しかし、その時トイレで破棄されたカードは電光掲示板にカウントされていない……! そのカードがチョキ3枚だったのだ!
これが謎のⅩの正体……! 既に存在しないプレイヤー……!
つまり、どうあってもフロアー内にカードが1枚残ることとなり、その1枚を持っている者は確実に別室行きとなる……!
古畑「何でそんな余計なことを~!」
安藤「Ⅹの大馬鹿野郎~! 人の迷惑も考えてくれよ~!」
やはり勝負をする相手は船井しかいない……! だが当然、船井も別室行きは嫌であろうから1戦だけの申し込みは不可能……!
船井「誰や! 誰が持っとるんや! 出て来い、Ⅹ!!」
その船井は存在しないⅩを求めて勝負放棄組に呼びかけるが、当然いないのだから無駄な足掻きに過ぎない……!
もう残り時間は5分……! ぐずぐずしていれば全員別室行き!
森田「と、なれば残された道は……」
カイジ「……これしかないってことか」
互いに顔を見合わせる森田とカイジ……。どうやら考えていることは一緒……!
カイジ「俺にやらせてくれ……森田。あんたには何度も世話になっちまってるんだ。いつまでもあんたに貸しばかり作るわけにはいかねえ」
森田「だが、お前自らがやることは……」
カイジ「いいんだ。いざとなれば、俺が船井を抱いて落ちる……!」
古畑&安藤「カ、カイジさん? 何を言ってるんです」
美緒「森田くん?」
二人の導き出した策が分からない三人は困惑……!
だが二人の様子からしてそれは苦渋の決断のものであると察する……!
カイジ「船井のカードはグーとチョキだけだったな。なら、グーが2枚ありゃ何とかなる。……言ってくる」
まるで死地へと赴こうとするように、カイジは大量のカードを手にして船井の元へと向かう……!
それを見送る森田たち4人……!
美緒「何をしようっていうの?」
森田「……どう足掻いても誰かが別室へ落ちるしかない。カイジはそれを自ら請け負った……」
古畑&安藤「ええ!?」
美緒「で、でも……それじゃあカイジは」
森田「いや、ただ落ちるわけじゃない。この後の売買タイムで別室から引き上げられればかろうじて助かる……」
これが森田とカイジの最終戦略……!
カイジが船井と戦い星を得たその後、誰か一人があえて別室へと落ちる……。
しかし、星の売買タイムで星が足りない者に星を与えて救われるというのであれば、それは別室へ落ちた者にも適用されるはず……!
まさに背水の陣、生死を賭けた破滅的戦略……!
船井(くそ……! あと少し……あと少しやったのに……!)
がっくりと肩を落とし、とぼとぼと力なくフロアーから去っていく船井。8つあった星は4つへと激減……!
現れたカイジにⅩはいないと告げられカイジ以外に勝負をする相手がいなくなったこと、そして現在のカードの総数が奇数である以上、誰か一人は別室へ落ちなければならないことまで告げられた……。
カイジは星4つ賭けの2連戦を申し入れた。船井は当然、それに抗うがこのままでは結局カイジと共に地獄行きとなるため、観念して勝負を受け入れたのだ。
船井の手持ちが知られている以上、グーさえ出せばあいこはあっても負けはない……! 結果、船井は星4つを失うハメに……。
カイジはこの土壇場で星を4つ得る! これでカイジグループの星は10個。このまま終われればまさに快挙だが……そうもいかない!
森田「カイジ……やはり俺が……」
カイジ「良いって。俺はただ落ちるわけじゃないんだ。みんなに託して落ちるんだ。俺は必ず復活する……!」
カイジ、勝負台に金とたった今得た星を置く。
カイジ「森田。あんたたちのカードも俺が全部引き取ろう」
森田、カイジに手持ちカードを全て渡す。
自ら一度破滅することを選んだこの男……決死の覚悟をもって決意したカイジが破滅するのは忍びないが……。
カイジ「頼むぞ。古畑、安藤」
古畑&安藤「もちろんですよ!」
カイジ、自らの星4つを全て二人に譲渡させ自滅する。もはや勝負などしても意味がない以上、これで大量のカードを手にしていたカイジの別室行きは決定……!
余った大量のカードをボックスに入れる……。
黒服「さあ、来るんだ」
森田&美緒「カイジ……」
カイジ「心配すんなって。……船を下りたら一杯飲もうぜ、森田」
森田「……ああ」
森田とカイジ、共に地獄を生き延びた二人の男は約束を交わす。
カイジ、黒服たちに連行されていく。それを森田たちは見届ける……。
古畑「ありがとうございます……カイジさん!」
安藤「必ず……必ず救い出しますから……!」
感涙に咽びながら頭を下げ感謝する古畑と安藤。だが……。
カイジ(え……?)
この時、カイジは違和感を感じていた。自分の命を託した古畑と安藤がとても遠くにいるような、黄泉の世界からの声のように……。
森田たちとは違い、現実味が希薄な、虚ろな声……。
カイジは自らのグループである古畑と安藤に自分の命を託した。森田鉄雄はこれまで下心も損得も無しでカイジと接触し、時には助けてもらっていた。
森田はまず間違いなく信用に足りる男。森田に託せば100%自分を救い上げてくれるだろう。
だが、それは同時に仲間である古畑と安藤を信用していないことに他ならない。
決して裏切らないと誓ったカイジは同じ仲間である二人に自分の命を託したのだ。
カイジ(俺は……何か間違ったことを……)
だが、カイジは感じていた。自らのこの行為が誤ったものなのではないかと……。
森田「お前ら、責任もってカイジを救い上げてやれよ」
古畑「当然ですよ!」
安藤「俺たちは仲間なんですよ! 救って当たり前じゃないですか!」
『ゲームオーバー……! 各自そのまま待機……!』
森田が二人に釘を刺し、カイジが別室へ送り込まれると同時に制限時間はゼロとなり、ホール内に終了のブザーとアナウンスが鳴り響く……!
これで4時間に渡る限定ジャンケンは終了……!
森田(あの別室……一体、中で何をやってるんだ?)
帝愛が破滅者たちに科すであろう悪魔の所業に森田、戦慄する……。
終盤戦終了……! エピローグへ続く……!
以上で第四部終了。数時間後に完結編のエピローグを開始します
そしていくつか文にミス発覚……
乙
安定の安藤の信用のなさww
もしかしたら次回の再開は明日の朝になるかもしれません。
それまでお待ちを
あっさり負ける教授
宣告どおり、書き溜めが終わったので完結編のエピローグを開始します。
カイジ「ぐああああっ……!」
別室へ送り込まれたカイジ……服を脱がされ目隠しまでされたカイジは左肩に激痛を感じていた……!
そして乱雑に暗い部屋へと放り込まれ、床に投げ出される……。
カイジ「や、焼印……?」
左肩には21と数字の書かれた焼印が刻み込まれている……。
つい先ほど、熱せられた焼きごてを押し付けられ、カイジは言い知れぬ激痛を味わったのだ。
ゲーム中盤、別室から響いてきた悲鳴の正体はこれ……!
「ううう……」
「ううう~~……」
「ああ……あ……」
カイジ「うっ……」
闇に包まれた殺風景な部屋に響く地を這うようなうめき声……。
それは事情は違えどカイジと同じように星を失い、服を剥ぎ取られた失格者たち……。
シャバはもちろん、この地獄の釜の底でも完全に敗北し、絶望する破滅者たちの巣窟……。
岡林「来なよ、そこの。あんた助かる見込みがあるんだろ? こっちに来な。ここが特等席だ」
ホールが見渡せる大きな窓の側で座り込む岡林に呼ばれカイジ、移動……。
そこでカイジが見かけたのは……。
石田「う……ううう……うう~~……」
カイジ「あんた……」
それは坂井に騙され別室へ送られ、そのまま捨て駒にされた男、石田光司。
本性を現した坂井に地獄行きを宣告されてから、ずっと泣き崩れていたのだ。
「へへへへ……哀れな男だ。あのサングラスに見捨てられなくてもいずれは地獄行きは決まっていた……それが早まっただけに過ぎない……」
石田の背後で不気味に笑う男……。
カイジ(何だよ……こいつ……)
狂気さえ感じられる異様な不気味さにカイジ、戦慄……。別室にはこんな亡者そのもののような破滅者もいたのか……。
明らかに他の失格者たちとは異なる姿に絶句……。
岡林「放っておきな。そいつは噂じゃあシャバで悪趣味な金持ちのペットだったって話だ。もうとっくにイカれてるよ」
岡林の指摘どおりまともな会話は不可能と見たカイジは、石田の隣に座り込む。
カイジ「おっさん……」
石田「ああ……君は……1000万を借りていた……確か、カイジくんと言ったね」
カイジに気づき顔を上げた石田、涙目で弱々しいながらも笑顔を浮かべる。
石田「見た所、君は助けてもらえる約束ありでここに来たみたいだね……」
カイジ「はあ、まあ……」
石田「それは良かったなぁ……。君なら大丈夫……大丈夫だよ。きっと、君の仲間が助けてくれる……」
坂井に切り捨てられた後、全てを諦めていた石田はこの別室からカイジたちの奮闘を密かに見届けていた。
石田「俺はもうここからは出られない……。でも、それももう仕方がないんだ……」
石田「坂井さんの言いなりになっていなくても、いつかはこうなっていたかもしれないんだから……」
カイジ「おっさん……」
岡林「おいおい、あんた助かる見込みがあるっていうのにもう地獄行き確定のやつの相手なんかしてる暇があるのか?」
カイジ「何っ……!」
あんまりな言い方にカイジ、岡林を睨む……。
岡林「見ろよ、登場だぜ。俺たちの命運を握る悪党、利根川が……」
カイジ「うっ……」
ホールの壇上に姿を現す、ホールマスター利根川幸雄……。
その前にはフロアーに残った参加者たちが集められている。当然、そこには森田たちの姿があった。
壇上の前に集められた30人あまりのプレイヤーたち……。彼らのほとんどは星が1つ2つでゲームを終えた者たちばかり。
そして残るは余分な星を彼らに売り渡すために残った者たち。星を多く持つ森田たちは当然、こちら側である。
利根川「4時間が経過し、限定ジャンケンの全てが終了した。……しかし見た所、星1つ2つの者たちがあふれている」
利根川「この者たちを全員別室へ送るというのはあまりにも忍びない。何とか救いたい……何とか……」
利根川「そこで検討を重ねた結果、星売買の機会を急遽設けることにした。その売買で星3つに辿り着いたものも救済する」
利根川の演説にプレイヤーたちの間に安堵の空気が流れる……。
森田(何が救済だよ……前々から情報を流していやがったくせに)
もうずいぶん前から星が足りないプレイヤーに売買タイムの情報を流し、勝負で決着をつけられる前にこちらに誘導していたのだ。
帝愛側としては別室へ送り込む人間が多い方が良いに決まっている。典型的な詭弁……。
だがこれでもし今回は売買タイムは無しだ、などと言われればカイジを別室から引き上げることはできなくなるのだ。
腹立たしいが、今はそうしてもらわねば困る……。
「ひっ……」
「うう……」
これまでただの鏡でしかなかった別室へ続く扉近くの大鏡の向こう側に、ぼんやりと人影が露となる……。
やはりマジックミラーであったその向こう側が別室であり、薄暗い照明が点くことで別室の中が明らかとなった。
美緒「何よ、あれ……」
森田「あれが別室……」
そこにいたのは全裸に剥かれて絶望に嘆き、崩れ落ちる破滅者たちの姿が……。
彼らの扱いはもはや人間としての尊厳さえ奪われたも同然だった。……かつて森田が戦った蔵前仁が地下で人を飼い殺しにしていたように。
それは別室というより破滅者たちの牢獄……屠殺場にも等しい。
森田「カイジ……」
当然、そこには自ら別室へ落ちたカイジの姿もあった。
カイジを別室から引き上げ、共に生還した時こそ森田のこの船での役目は終わる。
古畑「あの……一つ質問が! 別室の人を復活させたいんですけど……」
利根川「どうぞご自由に」
古畑「ありがとうございます!」
見た所、古畑はカイジを助ける気はちゃんとあるようだ。
カイジ「古畑……」
石田「良かったな……カイジくん……。しっかりとした仲間がいてくれて……」
カイジの表情に希望が宿る……。後は古畑と安藤が自分を救い上げてくれるのを待つだけ。
森田たちは星を結構余らせていたので恐らくはそのまま売買で売るだろうが、これで安心だ。
この船から生還したら、森田と一緒に酒を酌み交わそう。地獄を共に生き残った者同士で。
岡林「くくく……まだ分からんぞ」
カイジ「何?」
不敵に笑う岡林にカイジ、訝しむ……。
岡林「土壇場になって欲に目が眩んで、やっぱり助けるのをやめたなんて言い出すかもしれない。最後にお膳を引っ繰り返すこともあり得る」
岡林「見た所あんた、俺みたいに何か保険があるわけでもないみたいだな。それじゃあ、奴らが本当に救ってくれるとは限らない」
岡林はその手に札束を抱えている……。これが岡林の保険とやらか。
カイジ「あいつらが俺を裏切るってのか! お前は何も知らないんだ! 俺たちがこの船で潜ってきた地獄を! 絆を! 信頼を!」
岡林「寝惚けたことを言ってアホか、お前は。この船で本当に助かりたいっていうなら、そんなくだらないものじゃまず無理だ」
岡林「俺みたいにこうして金を抱いて落ちるか、強力なお宝でも隠しておいて助けざるを得なくするしかないのさ。……お前、間違いなく死ぬぞ」
カイジ「黙れ、黙れぇ!」
石田「カイジくん……。彼に怒っても仕方がないよ……」
嘲笑する岡林に激昂するカイジを石田は宥める……。
利根川「では今より10分。この10分で星3つに至らない場合は今度こそ別室へ行ってもらう!」
利根川「星の売買、始め!」
利根川の宣言と共に、20人を超える星足らずのプレイヤーたちが目を爛々とさせて星を余分に持つ者たちを見つめだす……。
「売ってぇ……!」
「売って!」
「売ってくれぇ~!」
そして次々に手持ちの金を差し出しながら星を求めて凄まじい勢いで迫り来る……!
自らの命がかかっている以上、その気迫はもはや地獄をさ迷う亡者そのもの……!
古畑「ちょ、ちょっと待てよ……!」
森田「待て……! お前ら……!」
当然、森田たちの元にも星の亡者たちは思わず恐ろしさを感じるほどの勢いでなだれかけてきた……!
あまりの大人数の波に森田たちはあっという間に飲み込まれてしまう……!
下手をすればこのまま力ずくで星を奪いにきそうだ。
美緒「も、森田くん!」
さすがの森田もこの大人数の波には正面から立ち向かえない……!
それは古畑や安藤も同じこと……!
「500万だ! 500万ある!」
「いや、俺も500だ! これで売ってくれ!」
「売ってくれぇ~!」
森田「やめろ! 押すな! 一辺に来るんじゃない……!」
古畑「安藤、1つ星を売るぞ! 1つ売っても星は3つ余る! カイジさんは救える! ……ほら、500万のやつ! 持ってけぇ!」
森田も古畑たちも四苦八苦だ。だが、古畑は星1つを売ることで何とかその場を乗り切る……!
だが、森田は未だに亡者たちに掴みかかられて身動きさえ取れない……!
古畑「どけっ! どけよ! 残りの星は別室の仲間を引き上げるための星だ! 離れろ! 他をあたんな!」
何とか抜け出した古畑はそれでも迫り来る亡者たちを必死に牽制……!
そしてよろよろと別室のカイジの元へと向かっていく……。
今の星の売買によって得た金、500万は安藤が回収する……。
「売ってくれ! 頼む!」
「売ってぇ~!」
一方、森田は亡者たちに囲まれて未だ身動きが取れない……!
美緒「あんた達、他に星を持ってる人はまだいるんだからそっちもあたりなさいよ!」
「星3つのやつに用なんかねえよ!」
「引っ込んでてくれ!」
亡者たちに取り囲まれた森田を心配し、美緒が呼びかけるも興奮する彼らは聞く耳を持たない。
このままでは売買どころではないというのに。
美緒「森田くん! こっちに1つ星を投げて!」
森田「ぐっ……! くそっ! ……ほらっ!」
森田は必死に胸から星を1つ剥ぎ取ると、美緒目掛けて星を放り投げた。
美緒、それを空中で見事にキャッチする!
「姉ちゃん、俺に売ってくれ!」
「売ってくれよ~!」
美緒が星を手にした途端に亡者たちは星を求めて美緒にまでなだれかける!
美緒「だから落ち着きなさいってば……!」
美緒、慌てて亡者たちから離れホール内を逃げ惑う!
一度に迫ってくる亡者たちの数が減ったことで森田も何とか動けるようになる。
森田「待て! ちゃんとお前らにも星は売ってやる! まだ星が余ってる奴がいるんだから、そいつらとも交渉してこい!」
星余りのプレイヤーは森田たち以外にもざっと数名いるのだ。全員が一気に来られても困る。
亡者たちは森田から一度離れ、森田は何とか亡者たちの群れから抜け出した。
森田「……ったく、これじゃこっちが殺されそうだ」
森田、亡者たちに追い回され壁際へと追い詰められた美緒を見つけると急いで彼女の元へと駆け寄っていく。
カイジ(ははっ……森田のやつも苦労してやがる……)
古畑たちはおろか森田までもが星を求めるプレイヤーたちに迫られていた光景に思わずカイジは笑っていた。
星の売買とやらで買う側も売る側もこんな滑稽なものとなるとは。
星の亡者たちを退けるのに苦労する森田たちとは反対に、何とか脱出することができた古畑がこっちにやって来る。
カイジ「古畑ぁ~……」
共に地獄を潜り抜け、自分の命を預けた仲間の姿に思わず安堵するカイジ。
これでようやく地獄から開放される……。
古畑「あの……別室の人を星を使って助けたいんですけど」
黒服に声をかけ、一人を伴ってミラーのすぐ前にいるカイジの元までやってきた。
古畑「この人です。この人を……」
いざ古畑がカイジを指名しようとしたその時――
古畑「むぐっ……! ううっ……!」
それを阻むかのように背後から古畑の口を塞ぐ者が……!
古畑「言ったろ! もう星は――」
振り向くと、そこにいたのは安藤だ。だが、何やら様子がおかしい……。
古畑「……どうしたんだ? 安藤?」
安藤「ダメだ……。この星も金も俺のもの、手放さない……放したくない……」
カイジ「……え?」
安藤が発したその言葉にカイジと古畑、困惑……。
それはつまり……。
古畑「な、何を言ってるんだ。安藤……それじゃあカイジさんを救えないだろ? もう星に余裕はないんだ」
安藤「構わない」
古畑の反論に対し、安藤は何の躊躇いもなく平然とそう答えた。
つまり、それはカイジを別室から引き上げる気はないということ……!
カイジ「あ……あ……安藤……!」
カイジ、愕然……! 救出を託した仲間の土壇場での拒絶に……!
美緒「はぁ……はぁ……」
一方、森田たちは星を求める亡者たちをかろうじて退け、小休止していた。
壁に追い詰められた星を持つ美緒を何とか亡者たちから救い出し、星2つを500万と600万で売ることでとりあえず場の沈静化を図ったのだ。
それでも亡者たちは森田たちに迫ってきたが、森田はしばらくの間は他の星を持っている者をあたるように彼らを落ち着かせたのである。
森田「大丈夫か? 美緒」
美緒「ええ……何とか」
余分な星はあと3つあるが、これを一気に処分したとなれば彼らの興奮と熱狂は強まるばかりだ。
ある程度落ち着くまでは待たなければ。
美緒「でもこれで、森田くんの借金もチャラになるのね」
森田の借りた軍資金は1000万。4時間いっぱいまでゲームを続けているため、その金利は429万5000……!
さらに森田はカードを買い足すために50万ほど使っているため、最終的には479万5000。
使っていない分も含めて返せば620万5000が余りの金となる。美緒の借金も返すとなればそれでも550万以上の浮きだ。
さらに今残っている3つも売れば1500万がプラスされるが……。
森田としてはできれば星を安易に売るようなことは控えたいと感じていた。
森田「船を下りたら、上の二人とみんなで祝杯でもあげようか」
美緒「ええ」
2階の応接室で待っているであろう明穂と由香理……そして、別室から救い上げられたカイジと共に地獄からの生還を祝おう。
さて、肝心の古畑と安藤は……。
安藤「星だぁ! 500万以上出せるやつ!」
「俺にくれ!」
「500万だ!」
「いや、俺に!」
森田「何……!?」
森田が目にしたのは、ホールの一角で亡者たちが群がる1つの掲げられた星……!
それを掲げているのは、自ら破滅者の牢獄へ落ちたカイジが救出を託した安藤……!
確か、さっき古畑が星を1つ売っていたはず……。カイジたちの得た星は10個……星が9個でなければカイジを救うための星は足りなくなる……!
カイジ「貴様ら……貴様らぁ……! それでも人間か……!」
力なく膝を折り、うなだれるカイジ……。
ミラーを隔てたその先では、安藤と古畑がカイジを救うための星の1つを他のプレイヤーに売り渡していた。
この瞬間、カイジの別室からの生還……その願いは破綻する……!
安藤はカイジとの約束を反故にし、余った星を売って自分たちの借金を清算すると言ってきた……!
当然、それではカイジは別室から救われないため、古畑も一度は反対した。
しかし、安藤はカイジを救っても自分たちが船から借りた軍資金の負債をチャラにはできないと言いだした……。
仮に船から下りられても結局は数百万の大赤字となる。それならばカイジを切り捨てて古畑と安藤の二人で星と金をで山分けすれば得になる、と……!
あまりにも利己的な考えにカイジは殺意を持って反論したが、既に別室へ落ちている以上、いくら喚こうがもう二度と顔を合わせることもない。
故にカイジが地獄へ落ちて自分たちを恨もうが、復讐をされる心配もないなどと言ってきた……。
カイジは古畑が安藤の誘惑を拒んで自分を救ってくれることを願った。
だが、古畑の答えは……。
古畑(カイジさん……ごめん……)
こうしてそそのかされた古畑は安藤に従い、そのままカイジを見捨てて星を売ってしまったのだ……。
信じていたはずの仲間たちのあまりの裏切りにカイジは絶望する……。
岡林「連中に捨てられるのは当然さ。人間感傷は一時、決断は結局実利に流れる。空手では救われるわけがないのさ……」
石田「カイジくん……」
仲間に裏切られたカイジを嘲笑う岡林と、そんなカイジの身を案じる石田……。
「へへへへ……どんなに足掻いてここを出たって所詮は人生の落伍者……社会の荷物に過ぎない……お前もあの男も……」
そして、背後で不気味に笑う狂人の男……。
だがカイジ、そいつの声など聞き入れずにただ失意と絶望に味わっていた。
カイジ(遠いはずだ……あの時、奴らの声を遠く感じて当然……)
カイジが自ら別室へ落ちる時、あの二人は必ずカイジを助け出すと咽んでいたが……あの涙は結局は自分たちだけで気持ちよくなっている一時の感傷に過ぎない……。
二人からしてみれば自分たちの安全が確保されたあの時点でカイジの命など他人事でしかなかったのだ。
実際は腹の底で冷酷に切り捨てようとしていたのだ……。
安藤は見ての通りであり、始めは積極的に救おうとしていた古畑も結局は流されてカイジを裏切った……。
つまり、あの時の二人から本気でカイジを救うという意志や温もりなど何一つ無かったのだ……。
カイジ(あいつらに比べれば……)
それに対し、森田や美緒は本気で自分を気にかけてくれる温かさや共に生還しようという意志がはっきりと感じられた……。
下心や損得も何も無しで……。
カイジ(森田の言う通りだった……。何で安藤が裏切ることを考えなかったんだ……!)
そもそも安藤はグループを組んですぐに自分たちを裏切って抜け駆けをしようとしたのだ。
それは結局、森田が言ったように他の者のことなどどうでもいい……自分の都合しか考えない利己的な人間であったからである。
安藤がこれまで自分たちについてきたのも、そうしなければ自分が助かる道などないと分かっていたから。
言ってみれば、積極的に作戦を練るカイジにあやかり利用してきただけに過ぎない。
森田はあの時点で安藤の根っこの卑しさを看破していた。だからカイジに忠告をしてきたのだ。
万が一の時は仲間を見殺しにしてでも生き残ろうとするのだと説いて。
カイジ(森田に……森田に託していれば……!)
自分の安全さえ確定すれば、他の者の命などどうなっても構わないのだ。
それこそ別室に落ち、風前の灯となったカイジなど安藤にしてみれば用済みでしかない。
岡林「気づくのが遅かったな、カイジ。友情や口約束なんかでは旅先からの土産や思い出の品なんていうガラクタくらいしかもらえないのさ……」
カイジ「く……!」
石田「カイジくん……」
岡林の更なる嘲笑にカイジ、後悔する……! そんなカイジのことを気にかけ続ける石田……。
美緒「あんた達、それでも人間なの!?」
突然響き渡ってきたのは、森田のパートナーである美緒の叫び。
カイジ、顔を上げるとそこには安藤たちに詰め寄る森田たちの姿が……。
カイジ「森田ぁ……」
森田がまだ星を3つ残してくれていれば、自分を救ってくれるかもしれない……。残っていれば……。
安藤「へへへ……見ろよ、古畑さん。これで1000万だぜ……。もっと吊り上げれば星1つで700万はいけるよ」
安藤「そうすれば3000万はいけるよ……大黒字だ」
たった今、カイジを救うために使われるはずだった星の1つを売り、手に入れた500万を手にして歓喜する安藤……。
古畑はただ黙って頷く……。下手に歯向かって何か言われるのは嫌であった……。
それで自分が切り捨てられるかもしれない……。そうなるくらいなら……。
森田「お前ら、何をしてやがる!」
安藤たちが星を売っているのを目にした森田は安藤たちに詰め寄っていた。
森田「カイジはどうしたんだ!」
美緒「その星はカイジを助けるための星でしょ!?」
安藤「知らないよ。あの人を助けたって何の得にもならないんだ」
平然とそう言い放つ安藤に森田、絶句……!
森田「お前ら、本気か!? さっきちゃんとカイジを救うって言っただろう!」
先ほどの宣言を無視し、安藤たちはカイジを見捨てて地獄送りにしようとしていることに愕然……!
森田の思っていた通り、安藤は救出を託したカイジを裏切ったのだ!
安藤「あれからすぐに冷静になって考えたんだよ。もしカイジさんを救って船を降りたとしても、俺たちに残るのは一人頭300万の借金だけなんだ」
安藤「そんな借金背負ったままじゃやり直せない。でもあの人さえいなくなればそんなケチな借金なんて帳消しになるんだよ」
森田「何だと……!」
あまりにも利己的な考えに森田の怒りは頂点に達しようとしている……!
その剣幕に古畑は激しく動揺していた……。
森田「貴様、自分が言っていることが分かっているのか! カイジを地獄送りにするってことなんだぞ!」
安藤「問題はないさ。緊急事態となったら人を殺すことだって許されるんだ」
森田「人殺しが、許されるだと……?」
悪びれた風もなく言い放つ安藤に森田の怒りは既に通り越していた……!
森田「貴様、何寝惚けたこと言ってやがる! どんな事情だろうが人を殺すことが許されるわけないだろうが!」
自分の欲のために人を殺し地獄送りにしても構わないなど……! 許されるはずがない……!
安藤「だいたい、今星3つでカイジさんだけを救うこと自体がもう犯罪的さ」
安藤「そんなことより3人に星を1つずつ渡せばとりあえず3人が救えて俺たちも救われるんだ」
安藤「大きな視点で見れば5人救った方が良いか、カイジさん一人だけ救うかどっちが正しいかは比べるまでもないさ……!」
何という身勝手な屁理屈……詭弁……!
それはつまり結局は自分たちが得をしたいがためにその3人をカモにしようということではないか。
こんな男の強欲のためにたった一人が犠牲になるなどあっていいわけがない……!
森田「貴様……貴様ぁ!」
森田、安藤に殴りかかろうとするが黒服に押さえ込まれる……!
それを見て安藤、下衆な笑みを浮かべる……。
森田「古畑! お前もカイジを裏切るっていうのか! そんな奴のために!」
森田が古畑に呼びかけるも、古畑は目を逸らす……。
厄介事に関わるのはごめんだと言いたそうに……。
安藤「気にすることなんてないよ、古畑さん。別にこの人とグループを組んでいたってわけじゃないんだから」
美緒「あんた達、それでも人間なの!? カイジはあんた達と一緒に生き残ろうとがんばってたのに……!」
安藤「知ったことじゃないさ……。第一、初めて会ってたったの数時間程度しか一緒にいなかった人を助けてどんな得があるのさ」
安藤「と、なれば俺たちの大切な金を削ってまであの人を助ける価値なんて何一つない。どいてよ!」
美緒「きゃっ!」
安藤、美緒を床に突き飛ばして立ち去ろうとする。古畑、まるで腰巾着のように安藤の後をついていく。
安藤「森田さんも早くその星を売った方が良いよ。でないと俺たちが人を救った分、星を買ってくれる人はいなくなっちゃうからね。ふふふ……」
森田「安藤! 古畑ぁ!」
立ち去っていく安藤たちを森田と美緒は見届けるしかなかった……。
ようやく黒服に解放された森田は、安藤に暴行を加えられた美緒を起き上がらせる。
美緒「最低……最低だわ、あいつら……」
汚いものでも見るように美緒はさらに星を売ろうとしている安藤たちを睨む……。
森田、もはや安藤たちを気にかけることなく自分の胸にある5つの星に手を触れる。
美緒「森田くん」
森田「ああ。当然だ……!」
森田が星を全て一度に売らずに3つ残していたのは、カイジの身に何かが起きた時のための保険でもあったのだ……!
既にあの二人が仲間を救う気がないというのなら、自分が地獄から引き上げてやるまで!
安藤たちに見捨てられたカイジは今、黒服に押さえ込まれていた。
たった今、岡林が仲間に星で引き上げられて別室を出ようという時にカイジは殴りかかったからである。
自棄になったような、八つ当たりに等しい暴行に黒服たちは当然、カイジを制しようと押さえかかってきていた。
石田「カイジくん……どうして……? こんなことをしても何の得にもならないのに……」
石田「これからのことを考えたら無茶をするのはいけないよ……。大人しくしているのが一番さ……暴れても良いことなんて一つも……」
仲間に裏切られ、自棄になって暴れるカイジの身を案じる石田。
カイジ「へへへ……そうでもねえさ……。じたばたすることで開ける活路……逆転……生還がある……」
石田「え?」
カイジは岡林が散々口にしていた実利からある考えに至っていた。
岡林は仲間に裏切られないように大金を持って別室へ落ちたのだ。助けた方が得であるという状況にするため……。
だが、今星が1つ500万で取引されている以上、700~800万程度のあれだけでは不十分……。
最低1500万以上は持っていなければ助ける価値などない。
と、なれば他に考えられるのはそれに匹敵するお宝か何かまでも持って別室へ落ちていたのではないかとカイジは見ていた……!
石田「でも、俺たちはこの通りなんだよ……」
服を剥がされている状態で宝など隠し切るのはまず無理……。
しかし、カイジは右手に握っていたある物を石田に見せ付ける……。
それは岡林の背中に張ってあった絆創膏……! そしてその中には……!
石田「そ、それは……!」
カイジの手の中には絆創膏と共に、2つの小さなダイヤの指輪が!
これが岡林の隠していたというお宝……! どさくさに紛れて掠め取ったもの……!
これを餌にして岡林のグループから引き上げてもらおうと画策していた……!
だが、これはあくまで最終手段……。
カイジ(森田……俺はあんたを信じてるぜ……!)
しかし森田の星に余裕があるかどうか分からない以上、自力で脱出する手段も得ておかなければならない……!
だが、そんな心配は杞憂に終わる……。
カイジ「森田……!」
カイジの前に現れたのは、この船で何度と無く世話になっていた男、森田鉄雄……!
安藤に詰め寄っていた森田は美緒と共にカイジの元へと一直線にやってきたのだ。
森田、カイジと目を合わせると強く頷く……。
そして、自らの胸にある星3つを黒服に差し出した。
森田、カイジと目を合わせると強く頷く……。
そして、自らの胸にある星3つを黒服に差し出した。
森田「こいつでこの男を救ってくれ……」
カイジ「森田ぁ……!」
カイジ、思わず落涙……! しかし、それは先ほどまでの絶望ではなく、歓喜と希望に満ちた涙……!
やはり利だけが交錯するこの船で、森田たちだけは別格……!
カイジを拘束していた黒服、解放が決まったことでその手を離す……。
カイジ「……おっさん。これやるよ」
石田「カイジくん……」
カイジ、岡林から掠め取った絆創膏と宝石を石田に手渡す……。
既に自分の脱出が決まった以上、持っている意味は無い。
しかし、カイジはこの宝石を使って石田を別室から出してやりたいと考えていた。
自分と同じく裏切られ、後に待つのは地獄だけだというのに、それでもカイジの身を本気で案じてくれたことに恩義を感じて。
この船で下心も無しで接してくれたのは、森田たちとこの石田だけだった……。
こうしてカイジ、森田鉄雄の手によって別室からの生還を果たす……!
森田にしても自分とどこか似ているカイジを、共にこの地獄を生き残った彼を見殺しになどできなかった。
その気になれば星を余分に持って上がれるにも関わらず、カイジのためにこのゲームを最後まで続けたのである。
カイジ「森田……すまねえ……最後の最後まで……」
森田「いいさ……。船を降りたら飲むって言ったろ?」
ボロボロと涙を流すカイジの肩を叩き、労う森田。
と、そこへ……。
岡林「カイジ! 貴様!」
隠し持っていた宝石をどさくさに紛れてカイジに掠め取られたことに気づいた岡林のグループがやってきたのだ。
岡林「返せ! あれは俺たちの……!」
カイジ「俺はもう持ってねぇ……石田さんにくれてやったよ」
岡林「何!?」
カイジが指差す先、ミラーのすぐ向こう側でカイジから渡された宝石を手に座り込んだままの石田……。
森田(こいつ……あの別室で必死に抗ってたのか)
地獄行きが決定したというのにそれでも諦めずに抗ったカイジは自力で脱出することさえできた。
逆境を乗り越えるため、最後の最後まで諦めようとしなかったその意思の強さと行動力、機転には森田も唖然……。
あんな希望も何もないはずの場所でそんな逆転が起きるとは……。
カイジ「あの宝石に1500万以上の価値があるなら、石田さんを救わざるを得まい……!」
「この馬鹿!」
「クズ! ゴミ! 何やってやがるんだ!」
岡林の仲間たち、岡林をリンチ……! 彼らは星をまだ3つ余らせていたのに、これで石田を救えば確実に損をする!
だが、宝石を持っている以上は救わざるを得ない!
古畑「ひぃっ……! 安藤、あれ……」
安藤「そ……そんな……! どうして……!」
星の値を吊り上げてさらに大儲けをしようとする安藤たちが見たのは、別室から脱出しているカイジの姿……!
もう後に待っているのは地獄だけ……今後顔を合わせることなどないはずだったのに、カイジは別室の外にいた!
このままでは自分たちは報復されるかもしれない……!!
古畑「まさか、森田さんが……?」
見れば森田が自分の星を使ってカイジを救い上げたようだ。
安藤「な、何でそんな余計なことを……!?」
森田たちがカイジを救っても何の得もないというのに、その行動原理が理解できない。
それは当然。所詮は損得勘定と実利でしか動けない安藤たちには、損得を超えた感性で自分の行動を決定付けられる森田のことなど理解できようもない。
カイジと森田たちは一直線に安藤たちの元へゆっくりと迫ってくる。
明らかにその様子は穏やかではない……。
安藤「か、カイジさん……そ、その……!」
安藤と古畑、カイジたちのその気迫に圧倒され逃げ腰になる。
先ほどまで地獄行きが決定していた者が自分たちと同じ立場になったことで、強気に出ることはできない。
安藤「よ、よして……! 魔が差したんだ! ちょっと……ほんのちょっとだけ――」
あれだけカイジを地獄送りにしても平然としていたはずのくせに、いざ地獄送りにしたカイジが現れればあっさりと掌を返す……!
カイジが一部始終を見ていたのにも関わらず何たる見苦しい言い訳……! カイジを地獄送りにすると決めたのは誰でもない、安藤たち自身なのだ!
安藤「ぐはっ!」
古畑「ひいっ!」
カイジ、当然のごとく安藤に膝蹴りを叩き込み、追撃で蹴り倒す!
そして、カイジを救うためだったはずの星を売って得た金を大事そうに抱える古畑を睨みつける。
古畑「や、やめようって……僕は、ギリギリまで……その……!」
そのやめようというのを、カイジを地獄送りにする前にちゃんと言えば良かったのだ。
なのに古畑はそれをせずに安藤についていった。結局は古畑は強い立場になった者に付き従うコウモリに等しい……!
当然、カイジは古畑にも一発張り手を喰らわせる!
カイジ「さえずるな……! 欲をかいて俺を抹殺しようとした奴らが今さら何を言う!」
カイジが激怒するのも当然……! 森田たちがいなければ、危うく地獄へ落とされる所だったのだから。
カイジ「てめえらみたいな裏切り者の腐れきった最低の奴らなんかとは口も聞きたくねえ!」
カイジ「黙って今持っている薄汚ねえ星と金を全部出しやがれ!」
カイジ、古畑から星を剥ぎ取り金を取り上げ、さらに床に散らばった安藤の星と金も拾っていく。
安藤「カイジさん、酷いっすよ……! 最後はともかく俺たちは途中まで仲間だったじゃないですか!」
古畑「そうっすよ!」
美緒「何言ってるのよ! その仲間を見捨てたのはどこのどいつよ!」
途中だろうが最後だろうが、カイジを切り捨てたその瞬間からもはや仲間などではない。
なのにこの二人はそれを棚に上げてさえずり続ける……。醜い下衆の極み……!
安藤「何だよ! 俺たちとグループを組んでいたわけでもないのに横からしゃしゃり出て!」
森田「よせ! ……お前らがカイジにあやかる資格なんてない!」
美緒に掴みかかろうとする安藤を森田が制し、美緒とカイジと共に離れていく。
安藤「だったら、俺らにも少し取り分をくださいよ! カイジさん!」
古畑「そうですよ! 取り分を!」
この期に及んでまだそんなことを言うか。どうしようもないクズども……!
しかし森田、持っていた金を200万、二人の前に放り出した。
森田「それを持って消え失せろ……! 二度とカイジの前に現れるな!」
安藤「森田さん! 俺たちの借金は300万近くなんですよ! 100万ずつじゃ……!」
カイジ「いい加減にしろ! 貴様らぁ!」
突然、カイジが憤慨し大声を上げていた。
カイジの一喝に森田でさえ沈黙……。
気がつけば、カイジは大量の涙を流していた……。
カイジ「もううんざりだ! 反吐が出る!」
カイジ、持っていた星と金を足元に叩き付けた!
森田&美緒「カイジ……?」
石田「カイジくん……?」
別室から引き上げられた石田は、恩人のカイジに一言でも礼を言おうとやってきたのだが……。
カイジ「損だ、得だ、金だ、資産だ、取り分だ……! そんな話はもううんざりだ!」
カイジ「そんなことを話せば話すほど、俺たちはこの地獄の釜の底を、醜く浅ましく這い回ってることになるんだ! それが分からねえのか!?」
森田「カイジ……」
突然のカイジの言葉に森田たちは唖然……。
星の売買で騒いでいた他の参加者たちまでもが動きを止めて沈黙……。
カイジ「そんな俺たちの姿を見て、結局は主催者が喜ぶ……! その互いに貶め合う仕組みを考えたブタ野郎がほくそ笑むんだ!」
カイジのその心の叫びに森田は愕然……!
このゲームを主催したのは帝愛グループ……!
帝愛にとっては負債者が苦しみ、醜く足掻く姿を見ることこそが目的……!
負債者を救済するなど、結局は自分たちが楽しむための詭弁に過ぎない……!
カイジ「俺たちが損得に振り回されれば振り回されるほど、血道をあげればあげるほど結局はそのゲス野郎の思う壷だ!」
カイジ「悔しくねえのか!? 悔しくねえのかよぉ!?」
カイジ、やり場の無い怒りを勝負台へと叩きつけ蹴りつける……!
何度も何度も、自分の怒りをぶつけ続ける……!
カイジ「くそっ! くそっ! くそぉ! くそ野郎ぉ!!」
この船を支配していた利という世界観……人間の浅ましさに嫌気がさしたカイジは湧き上がる怒りをただ意味もなくぶつけ続けるしかなかった……
怒り、嘆きの叫びを上げ続け涙を流すカイジの姿を見て、森田はこの船に乗って初めて沈痛な気分となっていた。
結局は自分たちがこの船でやってきたことは帝愛が……悪党たちが得をすることでしかなかったのだ。
森田(くそっ……! 結局、奴らの手の上で踊ってただけなのか!)
その事実にようやく気づき……森田の心にもカイジと同様にやり場の無い怒りが生まれだす。
森田「ぐっ! くそっ……!」
カイジが勝負台を蹴りつけるように、森田もまた勝負台を殴りつけた!
こうすることでしか、怒りのやり場を消すことは無かったのだ。
今頃、カイジや森田たちのこの姿を見て利根川は……帝愛はほくそ笑んでいることだろう。
それがどうにも悔しくて……結局は怒りをぶつけるしかなかった。
美緒「森田くん……」
石田「カイジくん……」
参加者たちは二人の男たちの怒りに猛る姿を、見つめ続けていた。
もう売買タイムは残り少ないというのにも関わらず……ただじっと……。
兵藤「カカカ……コココ……キキキ……」
2階の一室で負債者たちが醜く這い回る姿を見続けていた兵藤はカイジたちが怒りに燃える姿を見て歓喜する……。
兵藤「実に楽しい……楽しめそうな男ではないか……」
兵藤「今宵は実に楽しかったぞ、利根川……あの森田鉄雄も、カイジとやらも楽しませてくれた……!」
利根川「は……! 恐縮でございます……」
兵藤「あのカイジという男も中々の強者だが……さすがに森田鉄雄は他の奴らとは格が違う……!」
兵藤「またあやつの踊る姿を見てみたいものじゃ……!」
利根川「はっ。お望みであればまたの機会に力ずくでも……」
銀王のかつての右腕、森田鉄雄……。その男がここまで兵藤を楽しませてくれた……!
ならば再び、その男が自分を楽しませてくれると兵藤は期待している……!
こうして森田とカイジたちの長い夜、狂気と策略が交差する4時間あまりが終了した。
参加者108名のうち、42名が星3つに至らずエスポワールに呑み込まれ、地獄へ落ちた。
その後の彼らはエスポワールに乗ったまま何処かへと連れて行かれる。
彼らの人間としての人生は終わった……。ここから先は悲惨でしかない。
かろうじて地獄送りを免れた66名であるが、その半分以上はシャバでの借金はチャラにはなったが船で新たな負債を背負うことになる。
森田とカイジたちはあの後、怒りを静めて残った星2つを売り、下船した。
カイジは最初、自棄になって自らの金を全て捨て去ろうとしていたが、さすがにそんなことをすしては帝愛に目をつけられ続けることになる。
森田に説得され、何とか思い留まることにしたのだ。
結果、森田が星を2つ売り1100万……しかし、そのうち200万は手切れ金として安藤と古畑へ渡した。
そしてカイジが二人から没収した1000万とさらに星を600ずつで売り、2200万……。
計3100万であるが、森田たちが船で負った借金は……。
森田&カイジ 負債:-1429万5000×2 残軍資金950万&600万
美緒 負債:-142万9000 残軍資金:100万
これらの負債と金利を支払うと残りは1748万1000となる。
森田もカイジも借金を全てチャラにすることができた……!
石田「カイジくん……ありがとう……本当にありがとう……」
カイジ「いいさ……気にするなよ」
カイジは自分を気遣ってくれた石田に礼として100万を渡したのだ。
結果的に残った1648万を森田、カイジ、美緒、明穂、由香理の5人で分け合うこととなった。
明穂「ひぇ~……さすが森田くんだわ……」
祝杯をあげるために立ち寄った寿司屋でバッグから出した札束に明穂と由香理、唖然……。
森田「きっちり329万6000……5等分だ……。1000円余分に多いが……お前にやるよ」
森田、1枚の1000円札を祝杯に参加したカイジに渡す。
カイジ「すまねえ……森田」
カイジからしてみれば300万は大金……。一夜にして大金を手にしたのだ。
色々あってはっきりと嬉しさは湧いてこないが……それは森田も同じだ。
森田「もうくよくよしてても仕方が無い……。さ、今夜はみんなで楽しもう」
今は互いに、共に地獄から生還したこの時を祝おう。
希望とは名ばかりの地獄の船を共に乗り越えた仲間として。
明穂&由香理「乾杯!」
美緒「乾杯!」
森田&カイジ「乾杯!」
銀と金とカイジ 完……!
以上で銀と金、カイジのクロスSSは終了です
森田たち銀と金のキャラがエスポワールに乗った場合はどうなるか考えてこの作品を書きました
かの有名なPSの鬼畜ゲームだと銀と金のキャラが結構登場してましたからね……
そちらだと女性キャラもちゃんと登場していたので、福本作品では珍しく登場数が多い銀と金から
美緒たちを登場させることにしました。
なお、今のところは絶望の城編を書く気はありません
所々に文や連投のミスがあったのが後悔……HTML化の時に修正できれば良いのですが……
乙
次は賭博覇王伝森田かな?(すっとぼけ)
乙
乙
大局は変化しておらずカイジが救われたって形だけど日常カイジは屑だからまた沈むんだろうなぁ…
乙なんだよ
面白かった
このSSまとめへのコメント
構ってバカだけは本当に勘弁
どんなに面白い作品でも一気に白けるだけだから
構って欲しいのなら、Twitterとか顔本の狭い世界だけで投稿なりしてればいい
銀と金スキーのワイには堪らん