唯「きのう何食べた?」 (27)
元ネタが漫画『きのう何食べた?』のパロディけいおんSSです。
以前書いた作品の続編になっておりますので、そちらを先に読んだ方がわかりやすいと思われます。
和「きのう何食べた?」http://www58.atwiki.jp/25438/pages/2236.html
また、超未来設定、捏造、拡大解釈等がございますので、そういった要素を許容出来る方のみお読みください。
それでは、どうぞ。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1406996175
これは、あの卒業式から二十五年以上が過ぎた十月のお話……
――金曜の夜。駅前の居酒屋にて。
唯「おーい、りっちゃん。こっちこっち」ブンブン
律「おー、いたいた。ひっさしぶり!」
唯「ホント久しぶりだよね。何年ぶりかな」
律「最後にみんな集まったのが澪の結婚式ん時だから、もう四年ぶりになるのか? 電話や
メールくらいだったもんな。 ……しっかし唯は変わらないなぁ」
唯「いやぁ、さすがの私も結構あちこちガタガタだよ。もう来月には四十五だし……」
律「さすがの、ってコノヤロw」
店員「いらっしゃいませ。こちらお通しの松前漬けとイカの塩辛です。お飲み物はお決まり
ですか?」
律「とりあえず生で。唯は?」
唯「あ、私も。生二つでお願いします」
店員「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
律「で、どうよ。最近」
唯「それこそ変わらないよ。毎日何とか先生やってる。でも最近の子はよくわからないねえ。
私達が高校生の頃はもうちょっとこう、ね」
律「まあ、そんなもんだろ。私達だってそんな風に言われてたんじゃない? っていうか、
そうじゃなくてさ。いい加減、男のひとつもいないのかって」
唯「あ、え、えーと…… 彼、氏…… こ、恋人ならいるよ。今一緒に住んでるし……」
律「マジで!? ついに唯にも春が来たか! どんな人!?」
唯「え? あー……」
店員「生ビール中ジョッキお待たせしましたー」ガチャガチャ
唯「あ、はーい。はい、りっちゃん」ヒョイッ ヒョイッ
律「お、サンキュ」
店員「ご注文はお決まりですか?」
唯「あ、もずく酢とマグロ山かけください」
律「渋いなぁ」
唯「こう見えても健康に気を遣ってるんだよ」
律「私、ホッケと刺身七種盛り合わせ。あと厚焼き玉子」
店員「かしこまりました」
唯「見事に肉も油物も無いねw」
律「最近それ系キツくてなw まあ、年相応ってヤツだw」
唯「じゃ、再開を祝して、かんぱーい」スッ
律「乾杯」カチッ
ングッングッングッ
唯「ふう」
律「ぶはーっ。で、唯さんの彼氏はどんな人なの? ちょっとおばさんに聞かせなさいよ」ワクワク
唯「うーんと…… 先に同窓会のこと話そうよ。今日のメインはこっちだし」
律「あ、そうだった。いやー、なんか悪いなぁ。唯にまかせっきりにしちゃって」
唯「だいじょぶだいじょぶ。母校の教師やってるとそっち方面も色々とやりやすいしね。
えーと、こっちが資料でー…… あ、ちょっと待ってね」スチャッ
律「あれ? 眼鏡なんてかけてたっけ? 目悪くなったのか?」
唯「これ老眼鏡。最近小さい文字が厳しくてねー」
律「うへー、ついに来たかー」
唯「ホントは和ちゃんが昔かけてたような赤いのがよかったんだけどね、『四十過ぎて赤は
無いでしょ』って言われたから、この黒のアンダーリムにしたの」
律「なんだ。和とは会ってたんだ」
唯「あ……! あー、ホラ、幼馴染みだから。親同士も仲いいし。それより、りっちゃんは
老眼まだ?」
律「幸いなことにねー。まあ、老眼はまだだけど今度おばあちゃんになるよ」
唯「へ!? おばあちゃん!?」
律「うん、娘の出産が近いんだ」
唯「ええ!? あの娘さん、もうそんな大きくなったの!? はぁー、そりゃ私も老眼に
なるはずだよ…… そっかぁ、りっちゃんがおばあちゃんかぁ……」
律「昔から澪に『律二号だな』なんて言われるくらい似てはいたけど、若くして未婚の母、
ってとこまで似なくてよかったのにな…… まったく……」
唯「大変だね……」
律「もう二十四にもなるいい大人なんだから、私もあれこれは言わないし、好きなように
生きてくれていいんだけどさ…… まあ、せいぜい孫の面倒でも見てやるさw」
唯「産まれたら私にも会わせてね。ばあばw」
律「それはもちろんだけど、先に唯の彼氏に会わせろよ。なあ、どんな人?」
唯「さあ、同窓会の話し合い始めるよ!」
律「話をそらすなー!w」
――午後11:00過ぎ。唯と和が住むマンションにて。
唯「ただいまーっと。和ちゃん、起きてるかな?」ガチャ
和「おかえり……」グッタリ
唯「の、和ちゃん! テーブルに突っ伏してどうしたの!? 具合悪いの!?」
和「大丈夫、疲れてるだけ…… 倒産した北白川重工の仕事に加えて、裁判所依頼の破産
管財人の仕事が重なっちゃってね…… 数年に一度の祭りみたいな状況なのよ……」
唯「ええっ、北白川重工って大企業だよね?」
和「うん…… とんでもなくめんどくさい上に、もうひとつの裁判所依頼の方は絶対に
断れないのよ…… 断ると二度と来ないから……」
唯「ありゃあ…… で、でも日付が変わる前に帰ってこれてよかったね! あとはゆっくり
休んで――」
和「ううん…… 一旦、シャワーと着替えをしに戻ってきただけ……」
唯「え? 一旦?」
和「またこれから事務所に戻るわ……」
唯「そんな! 身体壊しちゃうよ!」
和「しょうがないのよ…… 祭りだから……」
唯「祭りって…… ご飯は? 食べた?」
和「ううん……」フルフル
唯「……よし! 和ちゃんはシャワー浴びてて! その間に私がご飯作っとくから!」フンス
和「え……? でも……」
きのう何食べたをけいおん!でやるとわ・・・
あの二人の雰囲気は確かに唯と和そっくりやな
唯「いいから! ちゃんと食べなきゃ身体がもたないよ!」
和「うん…… じゃあお願い…… 私、シャワー浴びてくるから……」
唯「まかせて!」
――キッチンにて。
唯「じゃあ、まずは卵焼きからっと。結構苦手だけど…… あれ、前に和ちゃんが書いて
くれたメモどこだったっけ」
唯「えーと、まず合わせだしだね。水80cc、和風だしの素少々、醤油小さじ1、お塩2つまみ、
お砂糖大さじ1.5をよく混ぜ合わせると……」カチャカチャ
唯「で、卵三個をボウルに割って、菜箸の隙間を開けてボウルの底に白身をこすりつけて
千切るようにまっすぐ前後に10往復……」シャカシャカシャカ
唯「そしたらボウルを90度回してまた前後に10往復。『卵はあまり混ぜ過ぎない。白身の
ダマが残るくらいで』か。なるほどー……」シャカシャカシャカ
唯「ここで卵に合わせだしをだーっと…… で、また菜箸で縦横10往復ずつ前後に切るように
卵とだしを混ぜると……」シャカシャカシャカ
唯「さて、こっからが大変なんだよねー」
唯「サラダ油をしみ混ませたキッチンペーパーを用意して、卵焼き鍋を強火で1分加熱
させたら……? え、えーと『卵焼き鍋の横からはみ出さない程度に火を落とす』
と……」モタモタ
唯「ペーパータオルで油を引いて…… な、なんか鍋がすごく熱そうでドキドキする……」シュウウウウウ
唯「ま、まずお玉1杯分の卵液を入れ―― きゃあああああ!」ジュワアアアアアッ
唯「ちょっとちょっと! すごい勢いで卵が焼けちゃってる! やだもう、卵液がだしで
柔らかくってお箸じゃ全然返せなーい!」ジュウオオオオオッ
※和メモ『大きな気泡だけつぶしながら待ち、表面がドロドロになってきたら卵を奥から
手前へ三つ折りにたたむ』
唯「お箸無理! フライ返しにしよう! ええっと、手前に三つ折りって、ああん、もうダメ!
なんかグチャッとなっちゃって! でも、とにかく卵を手前に寄せて……!」グイグイ
唯「んで、今度は前に寄せてから、開いたとこにまた油を引いて、お玉2杯分の卵液を
入れてっと! は、早くしなきゃ……!」ジュウジュウ
唯「『15秒ほど置いて、まだ固まっていない卵を卵焼きの下に流し入れる』って、これでいいの?
で、またドロドロになるまで待って……? あー、もう15秒とか全然わかんないよぅ!
これ大丈夫かな……」ジュウジュウ
唯「と、とにかく焼けてきたら卵を奥から手前にパタンと……」グイグイ
唯「えっと、そしたらまた卵液を、うわわわわ! あ、あとはまた同じ工程を繰り返して……!
ああもう、すっごいテキトーになっちゃったけど、まあいいや、もう……」ワタワタ
唯「な、何とか卵焼き出来たよぉ……」グッタリ
唯「……あっ、続き続き」ハッ
唯「軽く2膳分の冷凍ご飯をチンして、軽く水で洗って……」ジャー
和「ふう、スッキリした……」ガチャッ
唯「あっ、もうちょっとだけ待っててね。すぐ出来るから」
和「ええ。楽しみにしてるわ」
唯「この洗ったご飯にたっぷりの水と白だしをテキトーに入れて火にかけるっと……」カチッ
和(あ、貴重な白だしをそんなに……)
唯「その間に鶏モモ肉を一口大に切って、鍋が沸騰してご飯がふやけてきたら鶏モモ肉を
入れてっと……」グツグツ
和(たぶん雑炊だと思うんだけど、雑炊二人分に鶏モモ肉1パックって多すぎじゃ……)
唯「ん、味はこんなものかな。お吸い物よりちょっと薄め。で、最後は卵でとじて……
あっ、三つ葉切っとかなきゃ! わわっ、鶏肉切ったからまずまな板洗わなきゃ!」オタオタ
和(相変わらず手際が悪い……)
唯「出来た! 和ちゃん、出来たよー!」
〈今日の夜食〉
・鶏肉と卵と三つ葉の雑炊
・卵焼き
和「あら、美味しそうじゃない(卵焼きと卵とじ雑炊って、おもいっきり卵がダブってる……)」
唯「ささ、食べよう食べよう!」
和「いただきます」
唯「いただきまーす!」
和(あら、もしかしてこの卵焼きかなり上手く出来てる……?)モグモグ
唯「ねえねえ、和ちゃん! この卵焼き、見た目悪くなっちゃったけど美味しいよ!
お店屋さんのみたいにじゅわっとジューシー! さすが和ちゃんのレシピだね!」
和(雑炊も結構いい味。やれば出来るんじゃない。これならもう少し教えて実践を重ねれば
もっと上手くなるわね。今までは私ばかり作ってきたけど、これからのことを考えたら
唯も料理が出来た方がいいわよね。老後に健康でいるのが私とも限らない訳だし……)モグモグ
唯「の、和ちゃん? 味の方はどう……?」
和「……え? ああ、すごく美味しいわよ。ありがとう、唯」
唯「えへへー、よかったぁ」ニコニコ
~20分後~
和「ごちそうさま」
唯「ごちそうさまー!」
和「あ、そういえば唯……」
唯「なぁに?」
和「……やっぱり後で話すわ。今抱えてる仕事が全部終わらないと時間も取れないし」
唯「そうなの? じゃあ落ち着いたらお話してね」
和「うん。さて、戻らなきゃ……」
唯「あまり無理しないでね……?」
和「ありがとう。行ってきます」ニコッ
――数日後。私立桜が丘女子高等学校。放課後、職員室にて。
唯「はぁあああああ……」ドヨーン
さわ子「お疲れ様、平沢先生。どうしたの? そんな浮かない顔して」
唯「あ、山中先生。お疲れ様です」
さわ子「悩み事があるなら聞くわよ。職場の先輩としてがいい? それとも友人として?」
唯「じゃ、じゃあ友人として」
さわ子「よーし。話してみて、唯ちゃん」
唯「それがねー、のど…… パ、パートナーの仕事が忙しくて最近全然一緒にいられなくて。
毎日毎日一人の食事がさびしくてさー」
さわ子「浮気してるんじゃないの?」
唯「そんなことないよ! のど…… あ、あの人に限って浮気なんて絶対ありえないんだから!」ガタッ
さわ子「じょ、冗談よ。冗談」
唯「冗談になってないよ! まったくもう、さわちゃんったら」プンプン
さわ子「でも、真面目な話、その忙しいのはいつものことなの?」
唯「ううん。数年に一度って言ってた。実際、一緒に住み始めてから初めてだし」
さわ子「それなら辛抱しなきゃ。むしろそんな時くらい唯ちゃんが彼氏を支えてあげないと
ダメよ。どうせいつもおんぶに抱っこなんでしょ? 唯ちゃんのことだから」
唯「むむむ。言い返せない……」
さわ子「何がむむむよ。いい? そのくらいで腐ってるヒマがあったら、彼氏が唯ちゃんの
ことを気にかけること無く安心して仕事に打ち込めるくらい、自分を磨きつつ家の
中をキチンとする努力をしなさい」
唯「はーい……」ショボン
さわ子「とりあえず、まずは自分一人だからってパスタばかりとかスーパーのお惣菜とかを
やめることね。栄養が片寄るし、不経済よ」
唯「な、なんで知ってるの!?」ドキッ
さわ子「そりゃわかるわよ。自分の通ってきた道だもの」
唯「なぁんだ。さわちゃんも同じだったんじゃん」
さわ子「私がそうだったのは二十代までだけどね」
唯「ぐぬぬ……」
さわ子「まあ、精進しなさい。ここで気づけてよかったじゃない。始めるのが遅すぎること
なんて、この世には無いんだから」
唯「頑張ります……」
さわ子「よろしい」
唯「……ねえ、さわちゃん」
さわ子「ん? なに?」
唯「さわちゃんは私のパートナーのこと、『どんな人?』とか『まだ結婚しないの?』とか
聞かないんだね」
さわ子「あら、聞いてほしかった?」
唯「ううん。そうじゃないけど……」
さわ子「じゃあ、いいじゃない」
唯「……ありがとう、さわちゃん先生」
さわ子「どういたしまして」
教頭「オホン! 井戸端会議は終わりましたかな? 山中先生、平沢先生」
さわ子「さーて、仕事仕事ー!」
唯「け、軽音部の様子を見に行かなきゃー!」
――その日の夜。自宅マンションにて。
〈今日の晩ご飯〉
・ハヤシライス
・トマトとレタスとキュウリとパプリカのサラダ
唯「市販のルウだけどちゃんとハヤシライスを作ってみました! 玉ねぎ多めでシメジも追加!
テキトーに切っただけだけどサラダも添えて栄養バランスもバッチリ!」フンス
唯「ハヤシなら冷凍しといて後で和ちゃんにも食べてもらえるしね。いっただっきまーす」
カチャ モグモグモグ カチャカチャ モグモグ
唯「とはいえ、一人の食事がさびしいことに変わりはないワケで……」クスン
唯「頑張ってお料理しても和ちゃんが帰ってくるかどうかすらわかんない状況だし……
そもそも『泊まり込みが多くなるから私の分はいらないわよ』なんて言われてるし……」ドヨヨーン
ヴーンヴーンヴーン
唯「およ? りっちゃんからだ。 ――はい、もしもし」
律『今、大丈夫か?』
唯「うん、大丈夫だよ。どしたの?」
律『同窓会の会場でいくつか確認したいことがあってさ。あと連絡や段取り、私も手伝うから
手分けしようかと思って』
唯「あー、助かるー。ありがとう、りっちゃん。ちょっと待っててね。今、資料取ってくる」
~1時間30分後~
唯「――って感じでいこうか」
律『オッケー、こっちはまかせといて。 ……あ、そうだ』
唯「なぁに?」
律『ちょっとさ、スマホをスピーカーにしてテーブルの上に置いてくんない?』
唯「いいけど…… 何するの?」ピッ コトッ
律『……こんばんはぁー!! 唯の友人の田井中律と申しまぁーす!! 唯の彼氏さん
ですかぁー!?』
唯「ちょ、ちょっとりっちゃん!」
律『いやー、唯の彼氏と話してみたくてさw この時間なら一緒かなって――
チョットリツ! アンタナンジダトオモッテンノヨ!
キュウニオオキナコエダサナイデヨカアサン! ビックリスルデショ! ハスイシタラドウスンノサ!
ごめんって! 悪かったよ! ――もしもし、唯? 彼氏に声届いた?』
唯「んもー! りっちゃんったら! 今日は仕事が遅くていないの!」
律『なぁんだ、つまんね。でかい声出して損した』
唯「いてもいなくても非常識でしょ!」
律『ご、ごめんごめん。怒んなってw』
唯「そんな怒ってはいないけどさ…… じゃあ、また近くなったら連絡するから。一応、
最終の打ち合わせしようね」
律『わかったー。んじゃ、またなー』ピッ
唯「ふう、こんだけさわちゃんと正反対だと逆に清々しいよ……」
唯「……」
唯「……」
唯「……」
唯「私と和ちゃんの関係を知ってるのって誰だっけ……? お父さんと、お母さんと、憂と、
憂の旦那さんと…… あと姫子ちゃんと風子ちゃんか……」
唯「それほどカミングアウトしてるってワケでもないんだよねー……」
唯「いつになったら誰にも秘密にしなくていい時が来るのかなぁ……」ハア
――それから更に二週間後。自宅マンションにて。
唯(今日はご飯どうしよう。めんどいけど、お魚焼いてみようかなぁ。あ、でも同じお魚なら
お刺身がいいなぁ。でも、スーパーまで戻るのもやっぱりめんどい……)スタスタ
唯「はぁ…… ただいまぁ……」ガチャン
唯「ん!? なんかいい匂いがする! も、もしかしてっ!」タタッ
唯「和ちゃん帰ってるの!?」ガチャッ
和「あら。おかえり、唯」クルッ
唯「の、和ちゃんだ! 和ちゃんがいる! 帰ったら和ちゃんがお料理してるー!」ギュッ
和「お、面白い喜び方ね……」ナデナデ
唯「お仕事、もう終わったの? あの数年に一度の大きいの!」
和「ええ、ようやくね。今日からまたいつもの暮らしに戻れるわ。今までごめんね。さみしい
思いばかりさせて」
唯「よかったぁ……」ギュウウウ
和「子供じゃないんだから、まったく。ホラ、着替えてきなさい。すぐにご飯よ」
唯「うん!」
〈今日の晩ご飯〉
・米飯
・アジのたたき
・キャベツと厚揚げの煮浸し
・ピーマンとじゃこのきんぴら
・トマトと長芋の味噌汁
唯「おおー! お刺身だー! ちょうど食べたかったの!」
和「それは良かったわ。結構大きめの刺身用アジが1尾100円だったから迷わず買ったのよ」
唯「いっただっきまーす!」
和「いただきます」
唯「んー! お刺身おいしー! このキャベツの煮浸しも私の好きな味! 幸せー!」
和「大袈裟なんだから。ああ、あと今日は味噌汁が変わりダネよ」
唯「トマトだね。私、トマトのお味噌汁大好き! あとこれは…… とろろ? うん、
美味しい!」
和「すっぱい味のおかずが無いからちょうど良かったわね。トマトの味噌汁」
唯「はー、やっぱり和ちゃんのお料理が一番……!」ジーン
和「そうそう、明日は買い物に付き合ってほしいんだけど。もう冷蔵庫の食材も無いし、
今日の買い物だけじゃ全然足りなかったから」
唯「うん、いいよ。私、いっぱい持っちゃうよ」
和「ありがとう」
唯「ねえねえ、和ちゃん。ご飯おかわりしてもいい? ピーマンのきんぴらが美味し過ぎて
さぁ……」
和「……ま、今日くらいいいでしょ」
唯「いやったー!」トテトテ
和(ずっと一人にさせちゃってたし、今日くらいは、ね……)クスッ
――翌日。駅前の大手スーパーにて。
和「アスパラ1束248円? 高いわねえ。先週は138円だったのに……」
唯「上がり下がり激しいね」
和「うーん、ブロッコリーも安くないし、ほうれん草や小松菜も同じくね……」
唯「オクラは? タイ産が1袋100円だよ?」
和「それは昨日買ったのよ。 ……でもまあ、今日は久しぶりの買い物だし、高いけど
初志貫徹でアスパラは買いましょう。この高いアスパラに特売の卵を組み合わせる
ことでプラマイ0にするわ」
唯「わぁ、なんかアスパラと卵って色合いがキレイでおいしそー!」
和「それに牛乳とあと特売の冷凍海老と…… あとワカメが無くなってたわね。買わなきゃ」
店員「はい、キュウリ詰め放題1袋98円でーす!」
和「唯、行くわよ」
唯「はーい」
ヒョイヒョイヒョイヒョイ
和「こんなものかしらね」
唯「もっとぎゅうぎゅうぎゅうううううってしないの?」
和「しないわよ。10本もあれば二人暮らしには充分だもの。さあ、次行きましょう」
~30分後~
店員「ありがとうございましたー」
唯「ふう、買ったねえ」
和「……ねえ、唯。せっかくの休日だし、ちょっと足を延ばしてお茶にしない?」
唯「えっ、いいの?」
和「たまにはね。生ものも保冷バッグに入れてるから大丈夫だし」
唯「やったぁ! じゃあ、すぐ近くにかわいい感じのカフェがあるから、そこに行こうよ!」
和「ええ、いいわよ」
――駅前のカフェにて。
唯「ここねー、一人で何回か来てたんだけど、一度和ちゃんと一緒に来てみたかったんだよね。
お店の雰囲気、かわいい感じで素敵でしょ?」
和「そうね」クスッ
唯「スコーン、大きいでしょ? イギリスサイズなんだって」
和「すごいわね。あら、紅茶も美味しい」
唯「かわいいカフェで和ちゃんと二人でティータイムなんて私幸せー」ニコニコ
和「フフッ、それは良かったわ」
唯「……ねえ、和ちゃん」
和「なに?」
唯「どうして今日、買い物に誘ってくれたの? しかもカフェでお茶まで…… あ、もちろん
すごく嬉しかったよ? でもホラ、和ちゃんって近所でそういうことするのいつも
嫌がってたし」
和「うん…… 別にいいかなって。何となくね」
唯「そうなんだ。何か心境の変化でもあった?」
和「……以前、依頼人との繋がりで芸能プロダクションの方と食事する機会があってね。
その方がゲイだったの」
唯「へー。初対面の和ちゃんにそれを言うってことは周りに全然隠してないんだね」
和「うん、あの業界は結構オープンだし、わりと年配の方だから。ああ、私は自分のことは
話してないわよ? それで、色々な話をしてくれたんだけどね。その方が言うには、
自分がゲイってことを隠したいと思った時に何が面倒かというと『自分はゲイだ』って
事実だけに嘘をつけば済む訳ではないところが面倒なんだ、って」
唯「んん? どういうこと?」
和「例えば、中学や高校の時に友達と『好きな女の子のタイプ』とか『好きなファッション』
とか『どんな女性芸能人のどこが好きか』とかを話してても、そういうことのすべてに
嘘をつかないとゲイだってことを隠して生きていけないから、すごく苦しいのよ」
唯「あー、わかるかも。私も好きな男性のタイプを聞かれても困るし、男性芸能人にハマる
ことも無いしね」
和「そうよね。だから、その話を聞いた時に『ああ、ゲイもレズビアンも大なり小なり
同じようなことで悩むんだなあ』って思ったの」
唯「うん、確かに」
和「それと…… こうも思ったの。『そんなに苦しい思いをこんな年齢になるまでしてきて、
この先ずっと死ぬまで続けるの? 死ぬまで続けさせるの?』って……」
唯「和ちゃん……?」
和「私も、年をとったのかもね……」
――同窓会前日。深夜、自宅マンションにて。
和「唯、あまり夜更かししちゃダメよ」
唯「うん。ちょっと明日の準備したら寝るから」
和「明日は唯、早めに出るんでしょ? 私は買い物済ませてからだから、どちらにしても
別行動になるわね」
唯「そうだね。私、同窓会の最中は何だかんだで結構動き回るかもしれないから、あまり
話せないかも。あ、でも和ちゃんが仲良くしてたグループはみんな来る予定だよ。
風子ちゃんと夏香ちゃんとおかあさん」
和「風子が『しょっちゅう会ってるから新鮮味を味わえないのが残念ね』って笑ってたわ」
唯「確かにねw ご近所さんだもんw」
和「じゃあ私、寝るから。おやすみ」
唯「うん、おやすみ」
――同窓会当日。会場、受付にて。
澪「唯、久しぶり」
紬「お久しぶりね。唯ちゃん、りっちゃん」
唯「おー、久しぶりー!」
律「ムギ、しばらくだなー(よ、四年前よりまた一段とふくよかな感じになられて……)」
唯「澪ちゃん、スーツでバシッと決めてカッコいいね! さすがキャリアウーマン!」
澪「い、いや、会社に寄らなきゃいけない用事があっただけだから…… まあ、話は後にして、
先に会費払って中に入るよ」サッ
唯「はいはーい、お預かりします。あっ、ここに名前書いてね」
澪「ああ。日笠澪、っと……」サラサラ
紬「あ、私も。琴吹紬、と……」サラサラ
唯「そっか、ムギちゃんはお婿さんもらったんだもんね」
律「この四人で名字変わったの澪だけだなw」
日笠wwww
唯「人生いろいろだね」
澪「じゃあ、また後で」
唯「後でねー」
姫子「こんにちはー。幹事、大変ね」
唯「おー、姫子ちゃん!」
律「えっ、姫子? 久しぶり。律だよ」
姫子「わっ! 律!? 久しぶり! 卒業式以来だね!」
律「ホントだな。でも、ごめんw 最初全然わかんなかったw」
姫子「私もw お互い苦労重ねちゃったみたいだねw」
唯「息子さんは元気?」
姫子「元気過ぎて困ってるよ。中学入ってからサッカー始めてさ、毎日泥だらけだわ、
ご飯は馬鹿みたいに食べるわでもう大変」
唯「そうなんだぁ。りっちゃんの弟さんみたいになれたらいいね」
姫子「あ、やっぱりあの田井中聡って律の弟さんだったんだ! ドイツのチームに行ってた
んだよね」
律「バイエルン・ミュンヘンな。もう十五年くらい前の話だけど。それにしても唯、姫子とは
会ってたの?」
唯「あ、うん。えっと……」
姫子「私が相談に行った法律事務所で担当になってくれた弁護士が偶然、和だったのよ。
その繋がり」
律「そうだったんだ。世間は狭いなあ」
姫子「おっと、他のみんなもそろそろ集まってきたね。中に入っちゃおうかな。はい、会費。
あとここに名前だよね。立花姫子、っと……」サラサラ
律(ん……? そっか。姫子、本当に苦労してきたんだな……)
姫子「じゃ、後でね」
律「ああ、後でな」
唯「りっちゃん、中の方をお願い出来る? ここは私だけでも大丈夫っぽいから」
律「ん、オッケー」
――そして、同窓会が始まって。
唯「山中先生、ありがとうございました。それでは皆様、しばしばご歓談をお楽しみください」
姫子「唯ー、『しばし』でしょー」
アハハハハハ
唯「ご、ごめんなさい! なにぶん不慣れなものでっ!」アセアセ
春子「放課後ティータイムの生演奏はないのー!?」
アハハハハハ ヤッテヤッテー キキターイ
唯「えーっと、今日はサイドギターがいないものでー! ごめんなさーい!」
紬「りっちゃん、お飲み物は何がいい?」
律「焼酎がいいな。ロックで。あ、ローストビーフも食べたい」
紬「はーい♪」
澪「な、なあ、高校の時のノリはやめろよ…… ムギは今じゃ大企業の社長なんだからさ……」ヒヤヒヤ
律「楽しそうにしてるからいいじゃん。しっかしやっぱムギが一番『母親』って感じだなー。
三人も育てりゃそうなるもんなのかね」
澪「しかも経営者をしながらだからな。働く女性の鑑だよ」
律「まあなー。子供抱えて働くのは正直しんどかったわ。あの頃は無我夢中だったけどな。
澪んとこ、いくつだっけ」
澪「二歳になったよ。もう毎日てんやわんや。すぐ熱出して保育園からお呼びがかかるし」
律「あるあるw」
澪「会社の人間もさ、『まだ結婚しないのか』とか『四十過ぎの出産は危険』とか言いたい
放題だったくせに、いざ結婚出産となったら産休育休や呼び出しは白い目で見るしさ」
律「勝手なもんだよな、あいつら」
澪「もう疲れちゃうよ。何するにも手がかかるし、言うことは聞かないし、旦那もあまり
手伝ってくれないし……」ハァ
律「……あっという間だよ、澪。あっという間。子供なんてすぐに手がかからなくなって、
生意気なこと言うようになって、親から離れていくもんだ。そうなってみなよ。一歳や
二歳のヨチヨチ歩きで『ママ、ママ』ってしがみついてきた頃が一番良かったって
思えるから」
澪「そんなものかな……」
律「そうさ。まあ、ウチの娘もこの前母親にはなったけど、私にとっちゃ今でもヨチヨチ
歩きのあの頃のままだよ」
澪「あ、そうだ。もう産まれたんだもんな。写真は? 見せてよ」
律「ああ、待受にしてるんだ。ホラ」ヒョイ
澪「アハハハハハ!w 律にも娘さんにもそっくり!w 律三号だ!w」
律「それ、やめろよーw」
澪「いつかウチの子と遊ばせような」
律「ああ、勿論。アイスクリームはそっち持ちだからな?w」
唯「ふう……」スタスタ
律「おう、お疲れさーん」
澪「唯は相変わらずだなあ」
唯「もー、司会はりっちゃんにやってもらえばよかったよー」
律「唯がやるから面白いんじゃん」
紬「りっちゃん、お待たせー」
律「サンキュ。それにしてもさあ、さわちゃんも年とっちゃったよな。もう五十過ぎだっけ?」
澪「それ絶対先生の前で言うなよ……?」
律「まあ、人のことは言えないけどさw」
紬「私もダイエット頑張らなきゃって思うんだけど、なかなか……」
唯「あれ? 和ちゃんは?」
律「あっちで風子や夏香と喋ってるよ。やっぱり自然と高校の頃のグループになっちゃうもんだ」
澪「でも、来てない人も結構いるな」
唯「出席率は七割ってとこだね。結構頑張ってみたんだけど…… 春菜ちゃんは女優さんの
お仕事が忙しいみたいだったし、キミ子ちゃんは所在そのものがわからなくなってたし」
律「春菜、すごいよなー。アイドルでデビューして、今じゃ大女優だもん。3年2組の三大
出世頭だよ」
澪「後の二人は?」
律「そりゃ大企業の社長してるムギと弁護士の和だろ」
紬「そんな…… 私なんて父の会社を継いだだけだから……」
信代「おーい。四人共、久しぶりー。憶えてる? 信代だよ、信代」スタスタ
律「えっ、信代…… 信代!?」
唯「すっごくスリムになったよね。私も受付でビックリしたもん」
信代「うっははははははw そうでしょそうでしょw」
律「どうしたんだよ!? そんなに痩せちゃって!」
澪「律…… お前、結構失礼だぞ……」
信代「いやー、実は長年の飲んで食べてがたたって、二年前に膵臓炎で倒れちゃってさ」
唯「あらー……」
信代「膵臓炎ってホラ、自覚症状が無いって言うじゃない。だから気づいた時にはひどく
進行しちゃっててさ。吐くわ背中に激痛だわ、冗談抜きで死の淵さまよっちゃったのよ。
で、それ以来もう旦那共々、すっかり健康志向ってワケ。ウォーキングやったり、
雑穀食べたりね。うはははw」
澪「なあ、ムギ…… 私達ってもう、見た目とかじゃなくて死なない為に摂生しなきゃ
ダメな年齢になってきたんだな……」
紬「うん、実感した…… ダイエット頑張る……」
和「澪、律、ムギ。お久しぶり」スタスタ
澪「和! 元気にしてた!?」
和「何とかね」
紬「お久しぶり、和ちゃん。お仕事の調子はどう?」
和「そこそこ順調よ。ムギももし会社のことで何かあったら相談してね」
紬「うん。一番に和ちゃんに相談するね」
律「あ、そうだ! 和なら知ってるよな! 幼馴染みなんだから!」ピコーン
和「何を?」
律「唯の彼氏だよ! かーれーしー! こいつなかなか白状しないんだ!」
唯「もー、りっちゃんったらー……」
紬「ええっ!? 唯ちゃん、彼氏が出来たの!?」
澪「本当に!? ついに唯にも春が来たか! どんな人!?」
唯「りっちゃんと同じこと言わないでよ!w」
律「なあ、和は知ってるんだろ? こっそり教えろよー」
和「そうねえ…… 唯、言ってもいいでしょ?」クスッ
唯「えっ!? 言ってもって…… の、和ちゃん!?」
律「さっすが和! 話がわかる!」
紬「聞きたい聞きたい! 教えて!」ワクワク
澪「ど、どんな人なんだ!?」ドキドキ
和「唯の恋人ならここにいるわよ」
唯「い、言っちゃった……」
律「ここに来てんの!? ははあ。さては唯、駐車場で待たせてるんだろ。悪いヤツだなあ、
お前も」
紬「それはかわいそうよ、唯ちゃん」
和「違う違う。そうじゃなくて、唯の恋人なら唯の隣にいるわよ」
澪「へ……?」
律「唯の隣って、和じゃん……」
紬「ゆ、唯ちゃんの恋人は和ちゃん、ってこと……?」
唯「……///」コクコク
和「私達、同性愛者なの」
律「ええええええええええ!!」
澪「ええええええええええ!!」
紬「キマシタワアアアアア!!」
唯「な、なんでこのタイミングで……///」
和「あら、唯はずっとみんなに言いたがってたんじゃなかったの?」
唯「そうだけどさ……」
紬「いつから!? いつからなの!? もしかして高校の時にはもう!?」
律「ムギがすっげー食いついてる……」
澪「そういえばムギ、そういうの好きだったもんな……」
和「中学や高校の頃はまだお互い何となくって感じだったわ。意識はしていたけどね。
よく一緒に出歩いたりはしたけども、それがデートかと言ったら怪しいものだったし」
唯「でも好きって気持ちはあったよ。え、和ちゃんは無かったの?」
和「……まあ、あったわ」
律「リアルな会話なんだろうけども、同性愛が身近じゃないから全然リアルに聞こえない……」
澪「私、四十四年生きてて初めて同性愛者に会った…… まさかそれが友人だったなんて……」
和「フフッ、珍しい生物に出会った気分?」
澪「あ、いや、ご、ごめん! そういう意味で言ったんじゃなくて! ただ、あまりにも
ビックリしちゃって……」
紬「それでそれで!?」
和「ちゃんと付き合い始めたのは大学生の時かしら。いつだったか唯の家に遊びに行った時に、
二人きりでいたらそんな話になって。確か唯の方から話を振ってきた記憶があるんだけど」
唯「うん、そうそう。もうその頃には自分が女の子しか好きになれないってのも、和ちゃんを
恋愛対象として好きってのも完全に自覚してたけど、それを確認したことは無かったからさ」
和「私もそんなものね」
律「かわった両想いだなー……」
唯「それで思いきって和ちゃんに確認してみたら、和ちゃんもそうだったから、『じゃあ』って。
あの時は一生分の勇気を振り絞ったよ……」
紬「素敵……」ウットリ
澪「素敵というか、大変だな。相手が同性愛者か確認するのと、恋心の告白と、普通の倍も
悩まなきゃいけないんだから」
律「あ、なあなあ。前に唯が言ってた『一緒に住んでる』ってのも和だよな?」
唯「うん。もちろん」
律「じゃあ、もう同居してかなり経つんじゃないか? もしかしたらこの中で一番夫婦
生活ってのが長かったりして」
和「一緒に住み始めたのは四十一歳の時ね」
律「つい最近じゃん!」
紬「ど、どうして!? お互い愛し合っているのに!」
和「うーん…… きっかけが無かった、ってところかしら。あえて一緒に住む必要性も
感じなかったし」
唯「感じなかったんだ……」ガーン
澪「何だか和らしいな」プッ
紬「それで、二十年もの交際を経て同居に至ったきっかけは!?」
律「なんか芸能レポーターみたいだぞ、ムギ」
和「あれは…… レストランで食事をしていた時ね。その前の日がひどい大雨で唯の住んでる
辺りの道路が冠水して、それで――
唯『和ちゃーん…… ウチ、床上浸水しちゃった……』ハァ
和『ええっ! あんたの部屋、一階でしょ!? 今、どうしてるのよ!?』
唯『とりあえず実家に避難してるけど……』
和『もしかして、家財全部水に浸かっちゃったの?』
唯『うん…… 家電も家具もほぼ全滅…… もう私、どうしたらいいか……』ズーン
和『……』
和『……』
和『……』
和『……ウ、ウチに来る?』
唯『え……? い、いいの……?』
和『い、いいわよ……』
唯『じゃ、じゃあ、行っちゃおうかな……』
――っていう感じだったわね」
澪「全然ロマンチックじゃない……」
律「まあ、二人にとっては背中を押してくれた大雨だな」
和「結婚っていう制度が無い日本のゲイやレズビアンにとって同居はひとつの区切りだから、
あの時は一生分の勇気を振り絞ったわ……///」
紬「それって事実上のプロポーズよね!?」
唯「うん。あの時はビックリしたけど、ホントに嬉しかったなぁ」
紬「キャアアアアアアアアアア!!」
唯「ムギちゃん、うるさいw」
澪「和、無かったのはきっかけや必要性じゃなくて勇気だったんじゃないか?」ドヤァ
律「何、いいこと言ったみたいな顔してんだよ。馬鹿じゃないの」
澪「……」ズーン
和「以上。主だったことは話したでしょ? じゃあ私、山中先生のところへご挨拶に行くね」スタスタ
律「逃げたw 和が逃げたw」
紬「もう、和ちゃんったら照れ屋さんなんだから」
唯(でも、どうして急に……? なんか嬉しさよりも不安が……)
――その日の夜。自宅マンションにて。
和「はあ、やっと我が家に到着ね。唯もお疲れ様。お茶でもいれる?」
唯「うん……」
和「あら、どうしたの? 元気無いわね。疲れちゃった?」
唯「……あのね、どうして今日、みんなに私達の関係を話したの? 和ちゃんが一番嫌がってた
ことなのに。あんなに大勢の人がいる前で。たぶん、軽音部のみんな以外にも聞いてた人が
いるよ?」
和「ああ、それは――」
唯「和ちゃん、何かあったの? ううん、何かあったに決まってるよ。だって、風子ちゃんに
口を滑らせただけであんなに怒ってた和ちゃんがだよ? 二人の関係をオープンにしちゃう
なんて!」
和「ちょ、ちょっと唯、落ち着いて。あの時はすぐ後、私から姫子にも話したし、おかしくは
ないでしょ?」
唯「それとこれとは話が別! 絶対おかしいよ! 近所でデートしたり、友達にカミングアウト
したり! 何かあったんでしょ!? この前の検診で癌が見つかったとか! もう時間が
無いからあんなことしたんでしょ!? ぐすっ…… 和ちゃん、死んじゃうんだ!
うえええええええええん! 和ちゃんが死んじゃううううう!!」ポロポロ
和「ちょっ……! し、死なないわよ! 私は健康そのもの! ちゃんと話すから、とにかく
落ち着いて。ね?」
唯「うぅ…… ひっく……」グスッグスッ
和「実はね、あのすごく忙しかった時の少し前、父に癌が見つかったのよ」
唯「えっ……!」
和「食道癌だったけど、幸いなことに転移はしてなくてね、念には念を入れて胃の全摘出手術を
受けることになったの」
唯「そうだったんだ…… でも、どうして話してくれなかったの?」
和「今すぐ命がどうこうっていう状況じゃなかったし、それに私自身も仕事があって、経済的な
援助は出来ても直接は頻繁に関われないってわかってたからよ。それで唯に話しても不安を
煽るだけでしょ? 実際、すぐに手術になって、その後の経過も良かったしね」
唯「でも……」
和「わかってる。わかってるわ、唯の言いたいことは……」
唯「……」
和「もう、ずっと疎遠でね。こんな年まで独身で全然実家に寄りつかない私と違って、弟や
妹は結婚して孫の顔まで見せてあげてる。それを思うとますます両親とは顔を合わせ
づらくなって、『あの人達には親孝行な息子や娘がいる。かわいい孫もいる。私なんて
いなくても大丈夫だ』なんて考えるようになったわ。それと、私が生まれながらの
レズビアンだという事実。その事実を家族に隠し通してきたこれまで。それも私が
あの家から心を離すようにしてた原因……」
唯「……」
和「でも、今回の父の病気があって思ったの。自分は先のことを考える年になって、
親はもう先が見える年になって…… いい加減キチンと向き合わなきゃ、って。
両親ともそうだけど、唯とも、自分とも。だから……」
唯「そうだったんだ……」
和「それでね、唯にお願いがあるの」
唯「なに?」
和「今度、私の両親に会ってほしいの」
唯「何回も会ってるよ? 子供の頃から遊びに行ってるんだもん」
和「あんたね…… そうじゃなくて、私の恋人として両親に会ってほしいってことよ」
唯「ええっ!? そ、それってよくある、あの、ご挨拶みたいな……?」
和「そうなるわね。唯を私の一生の人として紹介したいの」
唯「え…… ええええええええええ!!」
――数週間後。和の実家にて。
唯「の、和ちゃん! 私、変じゃないかな!?」ビシッ
和「変じゃないけど変ね。何だかビシッと決め過ぎてて」
唯「はぁあああああ、緊張するよぅ……」ビクビク
和「そんなに緊張してもしようがないでしょ」ピンポーン
和母「はいはい。和、いらっしゃい。あら、唯ちゃん。しばらくだったわね。さあ、入って」
唯「お、お、お久しぶりですっ! こ、これっ、つゅまらないものですがっ!」バッ
和(大丈夫かしら…… 不安が増してきたわ……)
唯(か、噛んだー……)
和母「あらあら、そんな気を遣わなくてもいいのに。どうもありがとうございます」
和「色々な種類が入ってるエクレアよ。唯のオススメなの」
和母「じゃあ、お茶をいれましょうね。お父さん、リビングよ」
和「うん」
唯(あああああ、心臓が口から飛び出しそう……)ドキドキ
スタスタスタスタ
和「お父さん、こんにちは」
和父「おお、来たか。唯ちゃんもしばらく。まあ、座んなさい」
唯「しししし失礼します!」ギシッ
和父「……? 唯ちゃんはどこか具合でも悪いのか?」
和「元々おかしいでしょ。いつも通りよ(これはあまり引っ張ると唯が大変なことになるわね……
予定変更しなきゃ……)」
和父「ああ、和。この前はすまなかったな。退院後のハイヤー代なんかも考えると年金生活には
厳しくてなあ。助かったよ」
和「ううん、こっちこそお金を送るだけになってごめんなさい。病院にも全然行けなくて……」
和父「お前は忙しい仕事だから仕方無いさ。入院中は母さんやあいつらがよくやってくれたから、
特に問題も無かったよ」
唯「あいつら?」
和「弟のお嫁さんと妹よ。どっちも専業主婦だから」
和父「今日はゆっくりしていくんだろう? 夕食はトンカツにしなさいと母さんに言いつけて
あるからな。唯ちゃん好きだったろう、トンカツ」
唯「あはは、ありがとうございます……」
和母「お茶がはいったわよ、お父さん。和と唯ちゃんが買ってきてくれたエクレア、美味しそうよ」コトッ
和父「おお、これはいいな」
和「……お父さん、お母さん。今日は話したいことがあって来たの」
唯(キター! え、でもなんか予定より早くない!?)ドキドキ
和父「何だね、そんなに改まって。真剣な話か?」
和「うん、すごく真剣な話」
和父「よし。聞こうじゃないか」
和母「何だか緊張するわね」
和「率直に言うわ。 ……私は同性愛者です。物心ついた時からの。女性しか愛せません。
唯もそう。唯とは恋人同士、いいえ、一生のパートナーだと思ってます。お父さんと
お母さんの関係のような」
唯(率直過ぎるよぅ……)ドキドキ
和父「……」
和母「ええっ!? でも、そんな…… お父さん……?」オロオロ
和父「……」
和「……」
唯(空気が重たい…… 帰りたい……)ドキドキ
和父「……唯ちゃん、それは本当かい?」
唯「は、はいっ! ホントです! あの、実は四年くらい前から一緒に住んでるんです……
そういう関係として……」
和父「そうか……」
和「今まで黙っていて、ごめんなさい……」
和父「……」
和母「そんな、どうしてウチの子が……」
和「……」
唯「……」
和父「……和」
和「はい」
和父「お前は…… お前は昔からどこか思い詰めたような、考え込んでいることが多い、
あまり胸の内を話してくれない子だったな」
和「はい……」
和父「勉強はよく出来て、素行も良い、しっかりした子でもあった。けど、それだけにお前の
ことはいつも心配だった。不安や悩みを親子で話し合うこともあまり無かっただけにな」
和「……」
和父「そのお前がこうやって話してくれたんだ。よほど悩んでいたのだろうし、よくよく考えての
ことなんだろう」
和「はい……」
和母「周りには変な目で見られてないの? お仕事にも影響するんじゃ……」
和「人生の道のりに障害があったり、100%祝福されなかったりは異性愛者でも同じよ。
独身でいることもそう」
唯「今ではずっと隠してきたけど、これからは何があっても二人で乗り越えていきます!
絶対に! 昨日今日の関係じゃないもん!」
和「唯……」
唯「あ、もちろんTPOはわきまえますけど……」
和父「……」
和「お父さん……」
和父「驚いていないと言えば嘘になる。腹が立たないと言っても嘘になる。実の娘がある日
突然『私は同性愛者です』と言ってきて、平静でいられる訳が無いだろう。いくら良い
言葉を並べ立てられてもな」
和「……」
唯「……」
和父「……唯ちゃん」
唯「は、はい!」
和父「今、幸せかね?」
唯「は、はい。幸せです。若い頃からずっと大好きな和ちゃんと一緒に暮らしたかったから、
私今すごく幸せです。これからもずっと死ぬまで一緒にいたい、です」
和父「そうか……」
和「……」
和父「義理の息子の顔も孫の顔も見せてくれない親不孝者だが…… それでも一人の人間を
こうやって幸せにしているのだから、上出来な娘なのかもな」
和「お父さん……!」ハッ
和父「たまには帰ってこい。唯ちゃんも一緒に」
和「うん……」ジワッ
唯「ありがとう、おじさん……」
和父「母さん、夕飯の仕度は? トンカツは時間がかかるからな」
和母「え、ええ」スッ
和父「和、母さんの台所を手伝いなさい。お前の手料理なんてもう何年も食べてない」
和「わかったわ。待っててね」スッ
和父「その間、唯ちゃんには和のことを聞かせてもらおうかな。何せ滅多に帰ってこないし、
自分のことを話してくれない子だからな」
唯「うん! いいよ!」
〈今日の晩ご飯〉
・米飯
・トンカツ
・切り干し大根の煮物
・スパゲティサラダ
・ほうれん草と油揚げの味噌汁
――その夜。帰り道にて。
唯「の、和ちゃん…… 胸焼けが……」ゲフー
和「わ、私もよ…… 普段あんな大量の肉と油なんて食べつけてないからね……」ゲフッ
唯「でも、久しぶりに若者向けっぽいガッツリ系なメニューを食べられて、ちょっとだけ
懐かしかったかも」
和「私に関しては基本的に二十年前くらいで時間が止まってるのよ、あの人達」
唯「それよりも私、夢みたいだよ」ニコニコ
和「何が?」
唯「だってね、和ちゃんの実家には数えきれないほど遊びに行ってるけど、恋人としてご挨拶
出来る日なんて永久に来ないと思ってたもん。ホント、嬉しくて嬉しくてたまらないの。
もう私、ここで死んでもいい!」ニコニコ
和「大袈裟なんだから」クスクス
唯「ホントにね、ぐすっ…… 死んでもいいくらい、嬉しかったの…… ううっ……」ポロッ
和「唯……」
唯「ぐすっ……」ポロポロ
和「……馬鹿ね。死んでもいい、なんて言うものじゃないわよ」ギュッ
唯「和ちゃん、愛してるよ……!」ギュウウウ
和「うん。私も愛してるわ……」
ギャル1「ちょ、アレ見て!」
ギャル2「うわキモッ! マジ? うわキモいキモいキモいキモい」
ギャル1「オバサンが抱き合ってんじゃねっつーの」
ギャル2「ダメ、アタシ。生理的にダメ。レズってマジ死んでほしーんですけど! 死んで!
てゆーか死ね!」 スタスタスタスタ
ギャル1「ギャハハハハ!」 スタスタスタスタ
唯「……な」プルプル
和「ゆ、唯?」
唯「なにをー! このー!」クワーッ
和「ちょっと唯! 落ち着きなさい! あんなのほっとけばいいでしょ!」ガシッ
唯「……」ゼエゼエ
和「唯? だ、大丈夫?」
唯「私、死なないもん! 生きてずっと和ちゃんと一緒にいるんだから! 前言撤回!」クルッ
和「そ、そうね。死んじゃダメよ」
唯「……あ、そうだ」
和「どうしたの?」
唯「あのね、手繋いで帰ろっか」
和「え? で、でも、わざわざ周りにジロジロ見られるのも……」
唯「そんなのほっとけばいいよ。ね?」スッ
和「……フフッ、そうね」キュッ
唯「ねえ、和ちゃん」
和「ん? なに?」
唯「いい夜だね」ニコニコ
和「そうね。本当にいい夜」ニコッ
おしまい
乙したー
うん、このホッコリした感じ好きだわ
和父のところで落涙したわ
>>1で挙げた以外に過去作ある?
>>24
唯「だいはーど!」マクレーン「ケイオン?」
唯「けいむしょ!」
律「うぉっちめん!」
唯「きもねり!」
唯「ぱるぷ・ふぃくしょん!?」
唯「しゅーるすとれみんぐ!」
唯「さばげー!」
梓「すまっくだうん!」
うぉっちめん!とパルプ・フィクションの人だったのか
ちょっとスレ違いかもしれないけど、うぉっちめん!で憂もイカ突撃の生け贄になったのはなんで?
呼び出された中では唯一紬の驚異になりえるとは思えなかったし、罰を受けるような事もしていなかったように読めたし
……二作重ねただけやん。少しは捻ろうや
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません