【オリジナル】少女 「ドラゴンの王子様?」【長編】 (97)

だいぶ前に書いた小説を、暇つぶしに載せていきます。

ファンタジーもののオリジナル長編小説です。

読みやすいように改行は入れますが、基本的に地の文が大半ですので、ご了承下さい。



また、ご閲覧いただくにあたりお願いがあります。

時たま応援の書き込みをいただけますと嬉しいです。

投下速度は早めだと思いますので、規制にかかったら投下が途絶えます。

その際は再開まで気長にお待ちください。



――全ての人に幸せと平穏がやってきますように……。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1406721731

1.ドラゴン

その夜、彼女は風を裂く音と共に、満天の月に照らされた、天を覆うほどの翼をその目にした。

屋根裏部屋から、ぼんやりとその光景を見ていた。

最初は薄暗い空に浮かんだ、雲の群れかとも思った。

しかし、見上げたそれは、翼のように見えた。

雑然とした部屋で時たま見かける、コウモリの翼そっくりだった。

何十メートルあるのだろうか。それがゆっくりとはためきながら、山の奥に向かって段々と高度を下げている。

空には薄く雪がちらついていた。

暖房もない屋根裏は凍えるように寒く、彼女……ナキは擦り切れた毛布に包まりながら、両手をすり合わせて空を見ていた。

段々と、そのはためくコウモリの翼は落ちていき、そして山の向こう側に消えた。

少しして、離れた場所から鳥の一団が飛び立つのが見えた。

ナキは白い息を吐き出しながら毛布を手繰り寄せ、そして目を閉じた。

体が軽く震えている。

この寒さで、体をやられているらしかった。

剥き出しの小さな足を毛布の奥に入れ、しもやけが出来ないようにと、手で軽く揉み始める。

壁にかけられたくたびれた時計が、カチリと夜中の十二時を指した。

ゴミ捨て場から拾ってきたものだ。

その無機質なコチ、コチという音を聞きながら、ナキは自分の両肩を抱いて小さくなった。

夢でも見たのだろうと思った。

あまりの寒さと、疲れで白昼夢を見てしまったんだ。そう思った。

だって、今日は私の誕生日。

それなのに私はここで一人。

たとえ今見たものが、悪魔だったとしても、私の誕生日が終わったということは変わらない。

だったら、どうでもいいかもしれない。

一つため息をついて、目を閉じる。

部屋の隅で丸くなりながら、今日も彼女は、凍えないようにと震えながら、細く息をついた。



誕生日の朝だろうと、いつもと変わらない怒号で、少女は目を覚ました。

「いつまで寝てるんだい! とっとと起きて水を汲んでくるんだよ! 」

しばらくぼんやりとしてから、目を擦って毛布から抜け出す。

薄暗い屋根裏部屋の窓からは、うっすらと朝日が覗いていた。

体が凍えるように寒い。

その反面、立つと少しふらついた。

頭が熱い。熱があるらしい。

しかしそんなことを説明しても、どうせ鞭が飛んでくるだけだろう。

そう思い、ナキは震えながら汚れたポンチョを頭から被り、裸足のまま階段を降りた。

今日、十二歳の誕生日を迎えた。

その割には痩せていて、小柄だ。

ボサボサのショートの金髪を撫でつけながら、ナキはそっと柱の影から顔を出した。

木造りの家の中では、太った恰幅のいい女性が暖炉に火をつけようとしているところだった。

裸足のナキとは違い、毛皮のブーツやコートを身につけている。

女性の耳はツンととがっていて、涙のような形をしていた。

人間ではない、森の妖精と言われる、シルフという種族だ。

ナキには、反面目に付くような特徴が何もなかった。

ただ肌の色が妙に白い。

具合が悪いのが顔に出ていて、目には少しくまが浮いていた。

女性……バーノンおばさんは、震えているナキを一瞥すると、耳に障るがみがみ声を上げた。

「何をしてるんだい! お父さん達が起きてくる前に、とっとと井戸から水を持ってきな! あと早く食事の支度をするんだよ! 」

「はい……」

素直に頷いて、軽くふらつきながら脇の桶を持ち上げる。

口答えをしてぶたれるよりはましだ。

ドアを開けて外に出ると、夜の間に降ったのか、一面銀色の様子になっていた。

森の中には、シルフの、特徴がある茅葺家が点々と建っている。

ここは群落の中でも隅の方なので、この朝早くに外に出ている人は見かけなかった。

少し躊躇してから、足を踏み出す。

雪の凍える寒さが、小さな足の裏から脳天に染み渡る。

少し体を震わせてから、ナキは思い切って、雪にくるぶしまで埋まらせながら歩き出した。

途中で小さくくしゃみをして、何とか家の裏の井戸にたどり着く。

手を擦り、そして桶を縄に結び付けて下に放る。

表面が凍り付いていたらしく、鈍い音を立てて氷が割れる感触がした。

小さな手で一生懸命綱を引き、水を上まで持ち上げる。

そして両手で掴んで、家の裏にある水道の貯水槽に流し込む。

それを何度か繰り返していると、家の中からバタバタという足音が聞こえてきた。

次いで、おばさんそっくりのがみがみした耳障りな声が耳に入る。

「ナキはどこ?」

「今外で水を汲ませてるよ」

「まったく、本当愚図ね! まだご飯できてないの? 今何時だと思ってるのかしら。母さん、奴隷の換え時じゃないの?」

「うるさいね! あんなガキでもちゃんと金を払って買ったんだ。モノは大事に使いな! 」

肩をちぢこませながら、何度目かの水を運び、そこでナキは、勢いよくドアが開かれ、ビクッとして立ち止まった。

おばさんそっくりの、恰幅がいいシルフの娘が、まるで汚いものを見るかのような目でナキを見ていた。

この家の娘である、リフだった。最近二十の成人を迎えたのに、まだ結婚相手が決まらないので、彼女はその鬱憤をナキに当り散らすようになっていた。

シルフは大概成人前に結婚する。遅れてしまっているという苛立ちが、最近全部向けられているので、自然と体が萎縮してしまう。

案の定、リフは桶を持っているナキに鼻息荒く、大声を出して命令をした。

「サボってんじゃないよ! 早く山羊の乳を搾ってきなさい!」

「はい……ごめんなさい」

ぶたれると思って反射的に謝ってから、ナキは桶を脇に置いて、そそくさと家畜場の方に足を向けた。

膝から下が冷え切ってしまい、痛い。せめて両手に息を吹きかけると、潰れた血豆がしくじくと痛んだ。

ため息をついて、彼女は空を見上げた。

まだ分厚く雲がかかっている。今日はまた、雪が降るかもしれない。

いつもと変わらない山並みだった。

昨日と違うのは、木に白い雪が積もっていることだ。

いつもリフが食べている、生クリームがたっぷり乗ったパンのようだ。

そう考えるとお腹が小さく鳴った。

俯いてまた歩き出す。

それが、ナキの日常だった。

山羊の乳を搾った後は、食事を作る。

自分の食事は、後に残った残飯だ。

それから後は、掃除や繕い物、洗濯。

全部終わったら、くたくたのまま眠ってしまって、そして次の日になる。

その繰り返し。

こんな生活が始まって、何度目の誕生日なのだろうか。

熱に浮いた頭では、考えようとしても霧のように散ってしまい、まとまらない。

また小さくくしゃみをして、彼女は背中を丸めて足を踏み出した。



ふらつく頭で何とか食事の準備をして、ナキはパンとスープを平らげているシルフの家族から目を離した。

バーノンの夫である、やはり恰幅のいいモダンが、スープを口に運びながら口を開く。

「それで、舞踏会に行く衣装は出来上がったのか?」

問いかけられて、リフが口の周りをクリームだらけにしながら頷いた。

面白いですね!支援&期待です!

「ええ。今日出来上がる予定。後でナキにとりに行かせるわ」

「貴族も沢山来るんでしょう? リフちゃん、今度こそしっかりと取り入ってくるのよ」

バーノンおばさんがそう言うと、大きくおじさんも頷いた。

「ああ。こんなチャンスは滅多にないぞ。今回の舞踏会では、あのアルノーも来るらしい」

「アルノー? ドラゴンの?」

リフが咳き込んで聞くと、おばさんが頷いて、砂糖壷に入っているクリームを手ですくい、パンに塗った。

「まだ噂だけど、ドラゴンなんて貴族中の貴族よ。お目に止まることが出来れば、信じられない玉の輿だわ」

ドラゴンというものをナキは見たことがなかったが、少なくともリフのような娘が、貴族の目に留まることが出来るとは思えなかった。

貴族は、大きなお城に住んでいて、綺麗な服を着ていて、とても優美だというイメージがナキにはあった。

一度街の外れを行進している貴族の移動列を目にしたことがあったのだ。

きらびやかな宝石で装飾された、沢山の白馬に引かれ、黒塗りの馬車が走っていたのだった。

その周りには、茶色の毛並みがいい馬に乗った、帝国軍人の制服を着た男の人たちが警護に当たっていた。

馬車のカーテンは開いていて、中に座っていた女の人がチラリと見えたのだった。

流れるような白い髪に、透き通るような青い目をしている人だった。

まるで人形のようだったという記憶がある。

ああいう人を貴族っていうんだろうな、とその時は思ったものだ。

間違っても、汚らしいポンチョを着て、裸足でこき使われている自分なんて、手の届かない存在なんだろうなとも感じたものだった。

目の前で、食べかすを散らかしながら大声で喋っているシルフの娘を見て、頭の中の、人形のような貴族の女性と照らし合わせる。

リフが馬車に乗っている姿は、想像ができなかった。

ぼんやりとした脳裏でそんなことを思っていると、バーノンおばさんが、横目でこちらを睨んできた。

「何突っ立ってるんだい。食器を片付けて洗ってきな。それから、薪が足りなくなったから、山から切り出してくるんだよ」

「え……でも、雪が……」

雪が積もっていて、山の中に入るのは躊躇われた。

それに、湿っていて、地面に落ちている木片は薪には使えない。

必然的に、乾いている木を狙って切り出してくるという重労働になる。

「私、今日具合が……」

最期まで言えなかった。リフが

「口答えするんじゃないよ! 」

と怒鳴って、手にしていたコップをナキに投げつけたのだった。

中のぬるくなったスープが頭からかかり、目の前にコップが落ちる。

分厚い陶器だったゆえに割れはしなかったが、突然の暴力に縮こまり、ナキは消え入りそうな声で

「ごめんなさい……」

と謝った。その様子をせせら笑って見ながら、リフは吐き捨てるように言った。

「午前中のうちに、ムカデの店に行って、私のドレスを持ってきなさい。薪はその後でいいわ」

「はい……お嬢様……」

泣きそうになりながら、コップを拾って流し台の方に歩いていく。

そこで、ナキはたまらず小さく咳をした。

その様子を見て、モダンおじさんが太った脂肪の奥で細い目を剥いて、意地悪く口を開いた。

「何だ、具合が悪いふりか? 大層な身分になったものだな」

「奴隷はみんなそうよ。私知ってるもの。奴らは自分の身分を理解しないで、権利ばっかり主張するの。たいした生産性もないくせに、いい気な奴らなのよ」

「違いないわ。ナキ! 病気のふりで同情引こうったってそうはいかないよ。ただでさえ舞踏会の準備で忙しいんだから、サボってる暇なんてないんだよ! 」

謝ろうとしたナキの腹に、そこでバーノンおばさんが投げつけた空のカップがめり込んだ。

小さく悲鳴をあげ、その場に尻餅をつく。

その様子が面白かったのか、リフが甲高い笑い声を上げた。

本当に痛かったので、お腹を押さえながらその場にうずくまったナキを、冷たい目で一瞥し、バーノンおばさんは

「ぐずぐずしないで片付けな! 」

と吐き捨てた。

目の奥に熱い涙が湧き上がってきたのを何とか抑えて、頷き、カップを持って立ち上がる。

ここで泣いてしまったら、それをだしにまた、どれだけ虐められるか分かったものではない。

山に入らなきゃいけない……。

心が暗くなった。誰が手伝ってくれるわけでもない。

しかし重い木片を引きずって、村まで帰らなければならない。

それに、斧を振り回すのもかなりの重労働だ。

想像してしまい、体にまた湧き上がった寒気を何とか抑え、ナキは大きな桶に溜めていた、食器洗い用の水にカップを入れた。



朝食が終われば、おじさんとおばさんは仕事に出かける。

リフも学校に出ていく。

しかし残されたとしても、ナキは気を抜くわけにいかなかった。

洗濯などを終わらせなければ、手痛くお仕置きをされてしまうのだ。

とりあえず、雪の道を踏みしめて、村はずれの裁縫屋さんに行き、舞踏会のドレスが入った箱を受け取る。

店を出た頃は、もう太陽は昇りきり、薄い雲の間越しに白い光を発していた。

舞踏会というのは、年に何回か行われる、この土地の領主の屋敷が開催するパーティーのことだ。

土地に暮らす人々を労うために企画されているものだが、当然ナキのような奴隷の身分は出席することも、近づくことさえ許されていない。

どんなところなんだろうな、と外の寒さに震えながら思う。

しかし中で、綺麗な装飾に囲まれて踊っている自分を想像することが出来ず、ナキは妄想を頭から振り出した。

家の鍵を開けて、リフのドレスをテーブルの上に置く。

少し興味が湧いて、蓋をちょっとだけ開けて中を覗いてみる。

白い絹で織られた、羽のようなドレスが入っていた。思わず手を伸ばして触ろうとしてから、ナキは慌てて手を押し留めた。

指先が潰れた血豆の黒い痕で汚れている。

汚してしまったら、後でどんな仕打ちを受けるか分かったものではない。

蓋を閉めて、彼女は一度屋根裏部屋に戻った。

そして、もうだいぶボロボロになってしまった、リフのお古の靴下を足に履く。

かじかんで、この短い間にしもやけになり、膨らんでしまっていた。

また一つため息をついて、床に放り出してあった小さな手斧を掴み、縄を肩にかけてから家の外に出る。

鍵をかけて、しっかりとポケットにしまってから、彼女はトボトボと山に向かって歩き出した。

シルフの村には、あまり奴隷はいない。

山奥なので、あまり商人が来ないからだ。

同じような身分の子と話でも出来たら、随分と気が晴れるのかもしれないが、ナキと同年代の奴隷など近くにはいなかった。

道ゆくシルフの人たちに、汚いものでも見るように一瞥される。

その視線から逃れるように、ポンチョのフードを頭に被り、背中を丸めながら歩く。

足が寒い。しかし、この村の中では、誰一人として、靴下だけで雪の中を歩いているナキに声をかけるシルフはいなかった。

森の妖精というのは、かなり閉鎖的な種族だ。

自分達以外は劣等な生き物だと考える節がある。

だから、ふらついて歩いているナキのことを汚らしいとは思えど、かわいそうだと思うことはなかった。



しばらくして村の外れに出て、ナキは雪を踏みしめながら、なるべく歩調のリズムが整うように歩き出した。

一面銀世界に変わっている山の中には、少し前とは異なって生き物の気配がなかった。

時折空に鳥が飛び立つ程度だ。

降り積もった雪が、しん……と周りの音を吸い込んでしまっているかのようだった。

そこで、ふと昨日の夜に見たコウモリのような羽を思い出す。

月の光を浴びて、白く光っていた。森の中、位置だと少し離れた湖に落ちていったような気がする。

木を切り出して、そこを少し見てみたとしても、ばれなければ怒られないだろう。

何かあったら面白いかもしれない。

ちょっとした、自分の誕生日へのプレゼントに、少しだけ足を伸ばしてみよう、と思う。

どうせ木を切り出していたら、湖の方には出ると思われた。

そう考えるとちょっぴり気が楽になる。

そしてナキは、手斧を手に持ち直し、森に足を踏み入れた。

少し進んでいくと、靴下に雪が染み込んで、体中に寒さが染みこんでくる。

紫色になった唇を噛んで、ナキは、だいぶ歩いてから、視界が少しぶれて足を止めた。

山道を少し登ってきたが、これはまずいと、頭のどこかで思う。

入る前は、すぐ木を集めて帰ればいいと思っていたが、思った以上に雪に体力を奪われてしまっていた。

しもやけの手足がじんじんと痛む。

次いで、目の奥がつつかれているように痛み、ナキはそこで足を踏み外し、膝をついた。

次の瞬間、彼女の体が、雪で滑って下に落ち込んだ。

丁度、草に覆われた急勾配になっている坂に足をとられてしまったらしい。

崖から落ち込むように、ナキはそのまま、十数メートル下の道へと滑り落ちてしまった。

緩やかになってきたところで、したたかに木に頭をぶつけてしまい、一瞬目の前が真っ赤になる。

そのまま、熱もあったこともあいまって、彼女は倒れこんだまま、どこかに引きずり込まれるような感覚と共に、ゆっくりと視界が暗くなっていくのを感じた。



どのくらい気を失っていたのかは分からなかった。

頬に冷たい感触がして、ナキは腫れぼったい目を開けた。

体中が冷え切っていて、だるかった。何とか立ち上がろうとして目の前がぐらりと揺れる。

具合が悪かったところ、体を思い切り冷やしてしまったのが、致命傷だったらしかった。

鼻をすすってから、ぶつけてしまった頭を押さえる。

こぶができているようだ。まだ少し痛む。

涙目になりながら、滑り落ちてしまった道を見上げる。

藪の中に落ちてしまったわけではなく、湖へ向かう道に丁度滑り降りたようだった。

本当なら随分と遠回りしなければいけないのだが、かなり大雑把な方法で来たことになる。

木の向こうには、湖がある。

そこで水を少し飲もうと、ナキは思った。

喉がカラカラだ。朝には残り物のスープとパンくずしか食べていない。

近くの木につかまり、何とか立ち上がって、よろめきながら顔を上げた。

そこで彼女は、ポカンと口を開けて停止した。

湖に、何か大きな黒いものが浮かんでいた。

上半分に雪が積もっている。

端が見えないほどの大きさの湖、その反対側に、何か浅黒い小山のようなものが浮かんでいた。

目で追っていくと、先端が岸に乗り上げるような形になっている。

何だろう……と少し迷ってから、彼女は手斧を腰の帯に差し、木に捕まりながらそれに近づいた。

時折揺れる視界に、何か鱗のようなものが見える。

時たま森を歩いていると出てくる、蛇のものに似ていた。

大きさは、全体で十メートルは超えるだろうか。

口を開けながら、岸に打ち上がった部分に歩み寄る。

半分ほど雪に埋もれていたが、そこには、トカゲの頭を何十倍にも大きくしたような、異様なモノが鎮座していた。

頭には燃えるような真っ赤なトサカがある。

口元からは真っ白い牙が飛び出していた。

トカゲの頭のように見えるのだが、大きさはナキ一人分くらいある。

牙なんて彼女の腕くらいの長さはあった。

「何これ……」

思わず呟いてしまい、呆然として口元に手をやる。

トカゲ頭からは長い首が伸びていて、膨らんだ胴体に繋がっている。

魚のように背びれがあり、その先には、爪が光る、身体の割には小さな手足と……コウモリのような、力を失い萎れた翼があった。

羽は一対だったが物凄く大きく、肌色の飛膜がぷかぷかと湖に浮いている。

尻尾もあるようだが、水に沈んでいて見えなかった。

ナキには、目の前にある大きなモノがなんだか、よく分からなかった。

時折大きな鼻の穴から、生温い風が出ている。生きているらしい。

その口に当たる、裂けたところには、まるで口輪のように、金属の枷が取り付けられていた。

口が開かないようにぐるぐる巻きにされていて、端が南京錠で留めてある。

別の端は、分厚い皮に杭が打たれ、突き刺さっていた。

少しして、ナキは手斧でつんつん、とその鼻先をつついた。

何かしら反応がないかと思ったのだ。

不思議なことに、彼女はその大きなモノを目の前にしても恐怖を感じなかった。

いや、既に熱で何かが麻痺していたせいなのだろうか。

ぶれた視界で巨大トカゲを見てはいたが、危険なものだとは思えなかったのだ。

それよりも、彼女はもし、これが生きているのだとしたら……口に杭を刺されて、そして鎖でぐるぐる巻きにされ、痛いだろうな、と思ったのだった。

鉄杭が埋没している皮膚からは、青い血のような液体が流れ出ている。

反応がないので、もう一度、つんつんと鼻をつついてみる。

かなり分厚い、弾力がある皮の感触がした。

やはり反応がないので、手斧を下ろす。

そこで後ろに下がろうとして足がもつれ、彼女は湖の岸に尻餅をついてしまった。

そこでナキは、トカゲ頭の少し上の部分……丁度目に当たる箇所が開き、両手で抱えても持てないほどの大きさの、眼球……真っ赤な、猫のような瞳孔がこちらを見ているのを目にし、だらしなく口を開けたまま、その場に停止した。

巨大トカゲは、目玉をぐるりと回して、そして目の前で尻餅をついてポカンとしている、小さな人をじっと見つめた。

次いで、その喉から、ぐるるるる……という、猛獣の鳴き声そっくりな音が飛び出した。

まだ停止している少女をしばらく見つめ、そして、その大きなモノは、鎖で縛られている口を少しだけ開いた。

ひゅぅ、ひゅぅ、という空気の鳴る音がして、数秒後、かすれた、妙に反響する男性の声がそこから飛び出した。

「……ここで何をしている、愚民」

上手く喋れないのか、声がくぐもっている。

それ以前に巨大トカゲが口を利いたことで、ナキは今更ながら、動転していた。

まさか喋るとは思わなかったのだ。

呆然とこちらを見上げている少女の答えを待っていたが、彼女が言葉を発しないのに業を煮やしたのか、それはまたくぐもった声を発した。

「帝国の者か……? 脆弱な民……無様な俺を引き渡すつもりか……?」

見た目は恐ろしかったが、口調や喋り方はまだ若い青年のものだった。

ナキは唾を飲み込み、そして巨大トカゲに向けて口を開いた。

「あなた……何?」

「何……とはどういうことだ……?」

「怪我してるの……?」

問いにどう答えたらいいか分からなかったので、寒さで震えながら、彼女は聞いた。

巨大トカゲは、その質問が意外だったらしく、少しの間目をぱちくりさせた。

「……貴様、俺が恐ろしくはないのか……?」

「別に、怖くないよ」

熱で頬を真っ赤にしながら、ナキはそう言った。

「家のおじさんとおばさん達の方が、怖いよ」

「…………」

「痛そうだよ。外してあげる?」

呼びかけられて、巨大トカゲは、自分の口元に突き刺さっている杭に目をやった。

そして不思議そうに問いかける。

「何故だ?」

「私だって、顔に何か刺さったら痛いよ」

「…………」

「自分で抜けないの?」

「ああ。魔法がかかっていて、俺が自分の手では解呪が出来ないようになっている……」

「かいじゅ?」

「何故俺を怖がらない? これを解呪したら、俺は貴様のような小人など、一呑みだぞ」

言われた意味が良く分からず、ナキは少し迷った後、ふらつきながら立ち上がった。

そして巨大トカゲの方に近づく。

「私で抜けるかどうか分からないけど……」

「貴様死にたいのか? 何故俺を助けようとする?」

「刺さってると痛いよ」

「…………」

疑いの目で沈黙した彼の鼻先によじ登り、ナキは、口元に突き刺さっている杭に手を当てた。

氷のように冷えていて、慌てて手を離す。

そして手に息を吹きかけ、ポンチョの端と一緒にそれを握りこんだ。

杭の先端には、宝石のような石が嵌めこまれていた。

緑色で、丸い。

綺麗な石だなぁと思いながら、ナキは手に力を込めた。

杭は、そんなに深くは刺さっていなかったらしく、ぐらぐらと揺れた。

返しもついていないようで、足を踏ん張ると、少しずつ抜けていく。

痛いらしく、巨大トカゲは歯をカチカチと鳴らしながら目を見開いた。

少しの間力を込めると、意外なほど簡単に、杭はスポンと抜けた。

反動で鼻先にお尻を打ちつけ、ナキは手に杭を持ったまま、数秒間その場にうずくまった。

抜けた解放感と、動かなくなった少女の様子に目を白黒とさせ、少ししてから彼は、くぐもった声を発した。

「だ……大丈夫か?」

「うん……ごめんね、今全部外すからね」

腫れぼったい目を細めて笑いかけ、ナキは見た目よりも重い鎖を引きずって、そして口から解いていった。

最期に牙に穴が空き、南京錠が通されているのを見る。

「鍵がないからあかないよ」

「ここまでやってもらえれば、後は簡単だ」

巨大トカゲはそう言うと、爬虫類の手で鎖を掴み、横に引っ張った。

バキンと硬い音がして、南京錠が壊れて飛び散る。

それを脇に投げ捨て、彼は杭を珍しそうに見ているナキに視線を落とした。

「何者だ貴様……帝国の者ではないな?」

「ていこく?」

「名を名乗れ」

尊大に命令され、ナキは、彼の鼻先に尻餅をついたまま言った。

「ナキだよ」

「姓は何と言う? 主は誰だ? どの命令を受けて、私を追ってここまで来た?」

「追われてるの? あなたは誰?」

問いを無視して純真に聞かれ、調子を狂わされたのか、巨大トカゲは口をつぐんだ。

そして息をついてから言う。

「俺はラッシュ。ラッシュ・クンベルトだ。脆弱な民は、俺のことを、北のアルノーと呼ぶ」

「アルノー? それって、何?」

「ドラゴンだ」

その問いを聞いて、ラッシュと名乗った巨大トカゲは、呆れたように端的に返した。

ドラゴンと言えば、貴族の中の貴族。王侯族とも言える、まるで雲の上のような存在だ。

え? ドラゴン?

……ドラゴンって、あのドラゴン?

そこで始めて、ナキは唖然と言葉を失って、自分が座り込んでいる巨大なモノを見つめた。

熱でぼんやりとしていた視界に、不意にはっきりと、目の前の巨大な猛獣の目が映る。

ドラゴンを見るのは初めてだったが、奴隷である自分が、話しかけていいような存在ではないことは、すぐに理解が出来た。

道端の捨て犬が神様に声をかけるようなものだ。

奴隷は、貴族の通り道をふさいだだけで銃殺されてしまうことだってある。

それなのに自分は、こともあろうに、その頭に乗ってしまっているのだ。

昨日の夜に見た翼は、夢でも妄想でもなかったのだ。

このドラゴンさんが、墜落したところだったんだ。

十二歳の誕生日、その熱に浮かされた日中に、ナキは自分が今、いかに危機的状況に入るのかをやっと理解し……。

乾いた喉に、少ない唾を飲み込んだ。



そろそろ規制がかかりそうなので、小休止します。

第2話は0:00に更新を再開します。

とりま乙

2 乱暴な王子

先ほどまでの調子とは打って変わって呆然として、停止しているナキを見て、ラッシュは生暖かい息を吐いた。

そして、少し考えてから口を開く。

「お前は……何だ? そしてここはどこだ?」

「…………」

どう反応したらいいか分からなかった。

とりあえず、彼の口から降りようとして慌てて腰を浮かせる。

その調子に視界がぐらりと揺れ、ナキは鼻皮から足を滑らせた。

小さく悲鳴を上げて転がった彼女が地面にぶつかる寸前に、ラッシュは爬虫類の手を伸ばして、その体をキャッチした。

そしてぬかるんだ地面にそっと下ろす。

「す……すみません。王族様とは分からなくて……」

口ごもりながら、ナキは慌てて地面に膝を突いて頭を下げた。

彼女達奴隷が、貴族に面したときにはこうしなければいけない。

いきなり膝まづいた少女を、ドラゴンはガラス球のような目で見ていたが、やがて息をついて言った。

「面を上げろ。貴様のような小さいモノを、別に取って食うつもりはない。ここには俺とお前しかいないのだろう? ならば、咎めるつもりはない」

彼としてみれば精一杯優しく言ったつもりだったようだが、ナキは唾を飲み込んで、さらに深く頭を下げた。

「ごめんなさい……」

「……何故謝る。いいから面を上げろ」

「…………」

「顔を上げろと言っている」

尊大に命令され、ナキは少し下がりながら上半身を起こした。

自分を見る目に、先ほどとは違って恐怖がこめられているのを見て、ラッシュは少し口をつぐんだ。

「貴様は何だ? ここはどこだ?」

また問いかけられ、ナキは少し考えてから、小さな声でそれに答えた。

「ここは、フェルンクロストの、シルフの森です……私はナキです」

「それは先ほど聞いた。貴様もシルフか?」

「私は……ただの私です……」

肩をすぼめながら、自信なくそう言った彼女を、馬鹿にされていると思ったらしく、しばらくラッシュは見下ろしていた。

そして、小さくなった少女の、剥き出しの肩に、みみず腫れのような痕が沢山ついているのを見る。

鞭で打たれた痕だ。

「なるほど、俺は奴隷に助けられた訳か」

そう言って、ラッシュは薄いボロをまとっているナキの様子に、納得がいったように頷いた。

「しかしフェルンクロストの森まで来てしまったのか……随分と逃げてきた」

呟いて、巨体を起こそうとする。

しかし体が動かないらしく、彼は何度か体を波打たせたが、湖の表面に波が起こっただけだった。

数秒して深く息を吐き、そして彼は忌々しそうに言った。

「体が動かん……」

「大丈夫……?」

おどおどと、ナキは口を開いた。ラッシュは体の大半を水に浸けたまま、巨大な頭を横に振った。

「正直に言うと、大丈夫ではない。変身する体力もなくなっているようだ」

「私に何か、出来ることはありませんか?」

問いかけられ、ドラゴンは少し考えた。

そして周りに視線を向け、人の気配がないことを確認してから、目の前の小さな人間に言った。

「俺の体を引き上げるのは無理だろう。貴様には出来ることはもう、ない。後は自分で何とかする。貴様には封印を解いてもらった。何もせずに見逃してやる。消えろ」

「でも、体が水に入ったまま……このままだと凍えちゃう」

「だからと言って、貴様に何が出来る。脆弱な民」

「そうだ。火を起こせば少しはあったまるかも……」

呟いて、ナキは少しふらつきながら立ち上がった。

そしてラッシュに熱ぼったい顔でぎこちなく微笑んでから言う。

「ちょっと待っててください。すぐに薪を集めてきます……」

「おい、待て。貴様、様子が……」

ドラゴンの返事を最後まで聞かずに、ナキはぐしょぬれの靴下を履きなおし、手斧を持って近くの森に足を向けた。



もしも山の中で凍え死にそうになったら使おうと持っていたマッチは、殆どがしけってしまっていた。

紙箱にはカビが生えている。

十二歳の女の子が、熱に浮かされながら集めてこれる木々など、たかが知れている。

一応一生懸命に切っては来たのだが、燃えそうな比較的乾燥しているものをより分けると、ほんの小さな枝の集まりにしかならなかった。

ポンチョの端を手斧で千切り、火種にしようとしている。

マッチを薪の中に投げて、また次をつけようとしているナキを、ラッシュは戸惑いの顔で見ていた。

少ししてやっと成功したようで、彼女はそれを、そっとポンチョの切れ端に燃え移らせた。

体で覆いかぶさるように火を守り、しばらくして枝に燃え移ったのを確認し、息をつく。

ラッシュの鼻先で、小さな焚き火が炎を上げた。

ほんの少しだったが温かくなり、ナキはしもやけと血豆だらけの手を、慌てて火にかざした。

しばらく、その様子を黙ったまま見ていたラッシュは、やがてだいぶ火が消えてから、白い息を吐き出しながら呼吸が整ってきたナキに言った。

「お前は、病気なのか?」

「あ……ごめんなさい。寒くて、つい……」

思わず謝ってしまい、ナキは慌ててその場に正座をした。

「別に咎めているわけではない」

「もっと集めてきます……」

立ち上がろうとした彼女を、ラッシュはくぐもった声で呼び止めた。

「人の話を聞かん娘だな。体は温まったのか? ならば、この火は俺がもらってもいいのか?」

「え? あ……はい。あなたのために集めてきましたから……」

「…………」

しばらく押し黙ってから、ラッシュは先ほどまで鎖で封じられていた口を開いた。

ピンク色の口の周りに、おびただしい数のとがった牙が並んでいる。

一瞬、噛みつかれる、とナキは体を硬くしたが、ラッシュはそうはしなかった。

息を吸って、火が残り少なくなった焚き火の方に口を近づける。

空気が彼の口の中に吸い込まれていき、しばらくすると、火のついた枝が、ポヒュンという軽い音を立てて飛び込んでしまった。

ポカンとしているナキの前で、彼は火を口の中で咀嚼してから、ごくりと飲み込んだ。

「不味い火だ……」

呟いて焦げ臭い息を吐き出す。

「火を食べちゃった……」

「うむ。ないよりはましだ。脆弱な小人。そこをどけ。ここから体を動かす程度は出来そうだ」

鼻先でナキを脇に押しやり、ラッシュは湖の縁を手で掴んで、そしてずるずると体を持ち上げ始めた。

それにしたがって冷たい水が勢いよく波打ち、ナキは慌てて下がり、木に寄りかかりながら、巨大なドラゴンが自ら出てくるのを見た。

右足を怪我しているらしく、青い血のようなものが流れている。

近くの茂みを体で押しつぶしながら、ラッシュは数分もかけて大きな体を岸に横たえた。

尻尾を出す力はなかったらしく、巨体だけが草木を押しつぶして、雪の上に横たわっている。

荒く息をついている彼の鼻先に近づき、ナキは、杭が刺さっていた場所に手を触れた。

まだ青い血が出ている。足のほうに移動し、傷を見ている彼女を、ラッシュは目だけを回転させて見つめた。

右足は、足首の部分が何か刃物で切られたようになっていた。

傷自体は小さいが、深い。

ナキは少し考えると、来ていたポンチョを脱いで、そして彼の足に巻きつけた。

小さくてしかもボロボロなため、足を一巻きしただけで、青い血が染みこんでくる。

しかし傷を覆っていないよりはましだろうと思い、彼女は結び目を固く縛ると、ボロのワンピース姿でガタガタと震えながら、ラッシュの鼻先に戻った。

「何かお薬持ってきます……」

「待て。何故お前は俺にここまでする?」

怪訝そうに聞かれ、ナキはその意味が分からずに首を傾げた。

「今の俺には、お前に取らせる褒美はないぞ。何かを要求しても、何も出せん」

「要求だなんて……」

「何を企んでいる? 正直に話せば、よきに計らおう」

偉そうに言われ、しかしナキは反論するでもなく、汚れた靴下を両方とも脱ぐと、彼の口元の、傷口に貼り付けた。

「誰にも言わないです。安心してください……」

質問と噛み合わない台詞だったが、ラッシュは口をつぐんだ。そして口元で青く染まった靴下を見る。

「私、お家から薬を持ってきます。お仕事があるので、夜中になると思いますけれど……待っててください」

「……いい。これくらい半日もすれば治る。それより、お前は寒くないのか?」

少ししてから、ドラゴンは静かにナキに呼びかけた。

そこで始めて彼女は巨大な目の前のモノを見上げた。

熱でうつろになっている目を細めて、小さく笑ってみせる。

「慣れてますから……」

「……こちらに来い」

呼ばれて、ナキはふらつきながらラッシュの鼻先に立った。

そして膝をつく。

「俺の血を舐めろ」

命令され、彼女は戸惑って彼の目を見た。

動こうとしないナキに、苛立ったようにラッシュは続けた。

「どうした? アルノーが愚民に血を授けるなど、滅多にないことだ。何をためらうことがある?」

「血を舐めて、どうするの?」

「やかましい。何故貴様は質問に答えずに質問を返す。俺が褒美を取らせてやろうと言っているんだ。これで貸し借りはなしだ。その代わり約束だ。俺のことは忘れて、とっとと家に戻れ。そして二度とここには来るな」

しかしナキは、少し考えてから、困ったような表情を浮かべて立ち上がった。

そして首を振る。

「私、いらないよ……」

「何? 何故だ! 」

大声を出したラッシュから、身を引いて距離をとり、彼女は腰帯に手斧を挟んだ。

「貴様は俺を愚弄するのか! 命令だ、血を舐めろ! 」

怒鳴りつけられ、しかし少女は怯えたような顔をしただけだった。

彼の傷ついた顔と足を見て、また一歩下がる。

「また来ます。お薬を持ってくるから……」

「いらんと言っている。おい、待て! 」

ドラゴンの怒号を聞き、しかしナキは足早にその場に背を向けた。

どうして血なんて舐めろと言ったのか、それは分からないが、このまま彼を放っておいていいわけがない、と彼女は思ったのだった。

ここでお礼をもらってしまっては、約束どおりに忘れなければいけない。

久しぶりに、意味もなく怒鳴りつけられるだけではなく他人と会話をしたのだ。

そんなことは寂しすぎた。

それに、彼女には、半分凍った湖に浸かった巨大な生き物が、どこか自分と重なって見えたのだった。

雪の中に一人でいれば、寒いし冷たい。

それに、心も体も痛いのだ。

何故か、放っておけなかった。



結局ポンチョも靴下もなくなり、熱が高くなってきたために、ナキはガタガタと震えながら家に戻ることになってしまった。

途中でしけった枝を何本か拾って抱きかかえていったが、薪に足りる量ではなかった。

熱で倒れそうなナキは、しかしおばさんが投げつけたコップに迎えられることになった。

散々嫌味を言われたが、おじさんが仕事から帰ってきて、背負っていたものを見て、ナキはさらに哀しい気持ちになった。

最初から彼女のことなど当てにしていなかったらしく、彼はちゃんと街で売っている薪を買ってきていた。

ようは、ナキが虐められて弱っている様を見て喜んでいただけだったのだ。

ラッシュの所に行きたかったが、おばさんの監視の目が厳しくて、それどころではなかった。

鼻をすすりながら、何とか夕食の準備をして、井戸の冷たい水で洗濯をする。

ラッシュのことも気になったが、仕事をちゃんと終わらせなければ、またぶたれるかもしれない。

何年も虐められてきたことで、彼女はどんなに辛くても言われたことはちゃんと守るように躾けられてしまっていた。

両手の指が、あまりの寒さに真っ赤に腫れて膨れ上がってしまっている。

足も、靴下をラッシュの血止めに使ってしまったために、しもやけで膨らんでいて、歩くたびにビリビリとした痛みが走った。

しかし何よりきつかったのは、殆ど裸同然の格好で森を歩いて帰ってきたことによる、風邪の悪化だった。

もう目の前がぼんやりしてしまって、よく前が見えない。

今までは何とかやり過ごしてきていたが、今年の寒さは異常だった。

それに、ナキが買われてきた頃はまだおじさんもおばさんも死なないように気をつけていたのだが、彼女が大きくなってから、その気遣いがほとんどなくなってしまっていた。

一応領主の方針で、奴隷を買ってから五年間は使う義務が、領民にはある。

ナキはそろそろ六年になる。

法律的には、病気で死んでしまっても、雇用主にとっては痛手にはならない。

むしろいなくなってもらって、新しい奴隷を買った方が役に立つ。

そのような、何の保護もない事実が、ナキに対する過酷な仕打ちの裏づけになっていた。

彼女がポンチョではなく、ボロのワンピースに裸足であることに、おじさん達は、まるで気づかないように無視を決め込んでいた。

夕食の時、本当に倒れそうになり、誤ってリフの服にスープを少しこぼしてしまった。

激昂した彼女に、いつでもナキを叩けるようにとテーブルに取り付けられていた、乗馬用の鞭で顔を殴られ、左目のまぶたが少し切れてしまった。

やっと家族が寝静まり、ナキはよろよろと屋根裏部屋に足を運んだ。そして毛布に頭から倒れこむ。

切れた目が腫れている。

じんじんと痛んで、涙が出てきた。

しかしいつものことなので、動かない体を何とか引きずるようにして、毛布を頭から被る。

部屋の隅に置いておいた、拾った役に立ちそうなゴミを詰めた麻袋の紐を解き、中身を取り出す。

少しすると、かなりどろどろに穴が空いていたが、何とか自分で繕って直した靴下が見つかった。

ないよりはましだと思って足に履く。少しだけ気が楽になったような気がした。

(お薬持っていかなくちゃ……)

次に彼女はそう思った。既に身を切るほど寒く、時計は夜中の一時を過ぎていた。

しかし、自分よりももっとラッシュは寒いのだ。

ドラゴンで、貴族で、はるかに偉い人だとしても、怪我をしている。

あそこから動けないようだった。

はやくお薬を持っていってあげなければ、凍死してしまうかもしれない。

そこまで考えたが、ナキは自分が薬を持っていないという事実に今始めて気がついた。

念のために麻袋の中身を全部床にあけてみるが、ガラクタがでてきただけで、薬らしきものは見当たらなかった。

代わりに、捨てられていたのを拾って、洗った、薄汚れた包帯が少し見つかったので、特に痛みが酷い右手の指に巻きつける。

そして、少し考えてから、彼女は決心して毛布を体に巻きつけた。

ポンチョはラッシュにあげてしまったので、防寒できるものはそれくらいしか持っていない。

やはりゴミで捨てられていた、まだ使えるカンテラを持って、足音を忍ばせて階下に下りる。

寝ているところを起こしてでもしまったら、しこたま鞭で殴られてしまう。

自然と足が震えたが、何とか暖炉脇の戸棚にたどり着く。

そして、ナキはタンスを開き、中から薬箱を取り出した。

取り出したはいいが、暗くてよく分からない。

一本だけならばれないだろうと、暖炉脇のマッチを擦ってカンテラに火をつける。

燃えカスを暖炉に入れ、彼女は薄暗い明かりに薬箱を照らした。

確か、薬湯を煮込んだ傷薬は、小さな瓶に小分けにされていたはずだ。

他ならぬナキが、自分の手で作ったものだった。

案の定、綺麗に整頓されて置いてある。

どんな怪我をしても使わせてもらえず放置されたが、やはり一本だけならばれないだろうと、勇気を出して小瓶を取る。

そしてそっとタンスの中に戻し、蓋を閉めた。

家の裏口から外に出ると、昼間とはまったく違う、肌を刺すような寒さが体を貫いた。

地面なんて、降り積もった雪が氷になって固まっている。

時折滑りながら、彼女は、また降ってきた雪を頭に積もらせながら、ラッシュのいる湖に足を向けた。

夜の森を歩くのは初めてで、思ったよりもずっと時間がかかった。

想像していたよりもはるかに、寒さが体に染みこんでくる。

小さく、なるべく寒気を吸い込まないように息をしながら、何とか泉にたどり着く。

今夜は月が雪雲に覆われているため、かなり薄暗い。

草を掻き分けて、震えながら泉に近づく。

しかし、ナキは泉に、昼間のように大きな影がないのを目にして動きを止めた。

カンテラをかざしてみるが、確かに昼間、ラッシュが横たわっていたはずの場所には、今は何かが這ったような痕しかなかった。

少し離れた場所の木が、中ほどから折れて倒れている。

「ラッシュ様?」

震える声で呼びかけてみる。

あれほどの巨体だ。近くにいればすぐ気がつくはずだ。

良くなって、飛んで行ったのだろうか。

それはいいことなのだが、そう考えるとナキの心には少しだけ、チクリとした痛みが走った。

一人ぼっちで湖に浮かんでいたラッシュが、自分と重なって見えた。

でも、彼と私は違う。

彼は大きくて、強そうで……そして、何より空を飛ぶ翼を持っていた。

その気になればどこへだって行ける、大きな翼を。

私には何もない。

この寒さの中、ここに来るだけで凍えて死にそうな、弱い自分。

夕食の席で殴られて腫れている左目が、膿んだようにじくじくと痛んだ。

岸に下りてみる。

地面が少しだけ抉れていたが、そこにも薄く氷が張っていた。

鼻をすすって、肩を抱く。

髪の毛まで凍ってしまいそうだった。

……帰ろう。そう思って、ポケットの薬の小瓶を握り締める。

そこで始めて、ナキは自分が主人の薬を盗んできたという事実に肝が冷えた。

ばれてしまったら、左目を殴られるだけじゃすまないかもしれない。

最近の家族の虐めは度を越していた。

本当に動けないまで痛めつけられても、容赦なく仕事を強要されるだろう。

もう一度湖を見回してみる。

不意に、心細さから無事な方の目から小さく涙が出た。

それをごしごしと手で擦り、毛布を手繰り寄せて、背中を向ける。

そこで彼女は、少し離れた場所から、一対の金色に光る目を見た。

いや、一つではない。獣の瞳が四つ……六つ。三対、こちらを茂みの中から見ていた。

少ししてうなり声が聞こえてくる。

昼間聞いた、ラッシュの喉鳴りそっくりだった。

森の中には、いろいろな獣がいる。

夜中に入ったことはないので、ナキには分からなかったが、当然夜行性の肉食獣も生息していた。

本能的にそれらに恐怖を感じて後ずさる。

しかし背後は、冷たい、薄く氷が張った湖だった。

カンテラを掲げると、薄暗い明かりに照らされ、茶褐色の毛皮をした四足の動物が、うなりながら木の陰から頭を出した。

目が血走っていて、牙がむき出しになっている。

昼間のラッシュには恐怖を感じなかったが、これは怖かった。

明らかな敵意を感じる。

簡単に傷つけて、そして喰らってしまいそうな、そんな圧迫感を感じる。

しかしその時のナキには、走って逃げる気力も、大声を上げて助けを求める元気もなかった。

尻餅をついて、包囲するように近づいてくる獣を見回す。

子供一人分くらいの大きさの、涎をたらした獣だった。

森に生息している森オオカミの群れだった。

普段は死肉を貪る臆病な動物だが、獲物が小さく弱いと、徒党を組んで襲うことがある。

それに今は真冬だった。食料も少なく、気が立っているようだった。

彼女は気づいていなかったが、水場がある所はこのような獣の縄張りになりやすい。

測らずも、ナキは自分からのこのこと飛び込んできた形になってしまっていた。

弱った子供一人くらいなら殺せると踏んだらしく、動けないナキを見て、三匹の獣はまた方位を縮めた。

完璧にもう、木の陰から体を現している。

その殺気を含んだ獰猛な目に、ナキは唾を飲み込んで、何とか逃れようとして這うようにしてその場から立ち上がった。

その途端だった。

腹を空かせた動物は、彼女が高熱を出していようと、どんなに弱っていようと待ってはくれない。

それ以前に、その方が彼らにとっては好都合なのだ。

一匹がうなり声で威嚇しながら、ナキに飛び掛ってきた。

悲鳴を上げて腕を前に出すと、焼けるような痛みが上腕に走った。

噛み付かれたらしい。

見た目よりもずっと重く、小さな少女は簡単にその場に押し倒された。

痛みに引きつった声を上げながら、何とか引き剥がそうとする。

しかしもがけばもがくほど、鋭い牙は、ナキの細い肩に食い込んだ。

森オオカミは頭を振っているので、体が大きくぶれて訳が分からない。

爪で胸を押さえつけられ、羽織っていた毛布が引き裂かれた。

そこでナキは、放り出したカンテラの明かりに、こちらに向かってくる残りの二匹を見た。

心臓が何かに掴まれたように、ぎゅっと詰まる感触がした。

殺される。そう、頭の奥の方の部分で感じたのだった。

細い首筋に、もう一匹の森オオカミが噛み付く。

皮が破れ、血が出てきて……喉笛が噛み千切られる……そう思った時だった。

不意に、体に覆いかぶさっていた獣の重さがなくなった。

次いで、何かを蹴り飛ばす重い音と共に、「ギャン! 」という森オオカミの悲鳴が聞こえる。

少し離れた地面に、ナキの喉に噛み付いて息の根を止めようとしていた森オオカミが、宙を飛んで叩きつけられた。

ナキの前には、コートを羽織った背の高い人影があった。

薄暗いカンテラの明かりに照らされ、その人の燃えるような赤い髪……膝裏まで伸びている、長いざんばら髪が見える。

その人は、ガッシリした体つきをしていた。片手で、まるで子犬のように、ナキに覆いかぶさっていた森オオカミの首を掴んでいる。

そして太い腕を振るって、後ろ手にそれを湖に投げ捨てた。

弧を描いて獣が飛んでいき、だいぶ離れた湖の対岸部分に、水柱を上げて落ちる。

蹴り飛ばされた森オオカミの首も掴み、また、突然の邪魔者に牙を剥いていたもう一頭の首も難なく掴んで、その人は同様に湖の向こう側に投げ捨てた。

ボシャンボシャンと連続した音が響き、次いで頼りない獣の声が夜空に反響する。

恐怖と痛みで訳が分からなくなり、体を丸めて泣きじゃくりながら震えているナキの脇にしゃがみ、彼は聞き覚えのある声を発した。

「……何故また来た? ここには来るなと言ったはずだ」

それは、ラッシュの声だった。ナキは荒く息を吐きながら、涙と鼻水でぐしょぐしょの顔を彼に向けた。

本当に怖くて、恐ろしくて、彼女は声を発することが出来なかった。

硬直した右手は、いつの間にか、ポケットに入れていた薬の小瓶を握り締めていた。

その様子を見て、ラッシュの声をしている青年は少し押し黙った後、彼女を抱き上げた。

そして肩から血を流しているのを見て息をついた。

「……お前のおかげで、帝国の者に見つからずに、変身をして身を隠すことが出来た。本来なら、愚民に手を触れてはいけないのだが、確かにか恩がある」

「…………」

歯をガチガチと鳴らしている彼女を、彼は見下ろした。

薄明かりの中、彼の右目の下……丁度昼間のドラゴンが杭を打たれていた場所に、深い傷がついているのが見えた。

「仕方がない……助けてやる。光栄に思え。お前の村まで案内をするがいい」



ナキを抱いて青年が村に着いたときには、雪も本降りになっていた。

黒色の体にフィットした、ピッチリとしたコートだった。

足は長く、丹精な顔立ちをしている青年だった。

額に爪のような形をした、真っ青な刺青が掘ってある。

目の下の傷が痛々しかったが、ナキが、彼はラッシュであると気がついたのは、そのコートの肩に薄汚れたポンチョがかかっていたからだった。

昼間に、ドラゴンの傷口に結んであげた服だった。

程なくしてシルフの村に入り込み、彼はナキが弱弱しく指し示した家の玄関に立った。

かなり背が高いため、比較的体が小さいシルフの扉は、身を屈めなければドアノブに手が届かないほどだった。

彼は面倒くさそうに、裏口ではなく、鍵がかかっている正面口のドアを引いた。

当然ガチャガチャと音がして、扉が軋みを上げる。

裏口に回って欲しいと伝えるより先に、彼はノブに力を込めると、無造作にそれをひねった。

重低音がして、木作りの頑丈な扉、そのちょうつがいが真っ二つに割れる。

壊れたドアを掴んで、彼は森オオカミにしたように脇に投げ捨てた。

音に驚いて出てきたモダンおじさん達が、髪の長い青年が、ぬぅっと部屋に入ってきたのを見て、唖然と停止している。

彼は部屋の中を見回すと、だいぶ背中を丸めながら口を開いた。

「何だ? 何か文句があるのか?」

喧嘩腰に呟き、彼は近くのソファーに、震えているナキを横たえた。

そして近くのブランケットを掴んで、彼女にかける。

「寒いな」

そう言って、ペッと暖炉に唾を吐く。

途端にくべてあった薪に、真っ赤な火がついた。

「何をしている。湯を湧かせ」

尊大に命令した彼に、そこでやっと我に返ったのか、モダンおじさんが壁の猟銃を抜いて突きつけた。

リフがバタバタと降りてきて、突然の侵入者に甲高い悲鳴を上げる。

バーノンおばさんを背後に庇い、おじさんは引きつった大声を上げた。

「誰だ! 警備隊を呼ぶぞ! 」

「愚民が……俺に鉄を向けるか」

歯を噛み、忌々しそうに彼はそこから目を離した。

そして壁にかかっている燭台を順繰りに睨みつけていく。

その瞳が一瞬、昼間のドラゴンのように、光を反射する金色に輝いた。

それに当てられたように、次々と燭台の蝋燭に、何故か自然と火がともされていく。

そして彼は、熱が高くなり、眼を閉じて意識を朦朧とさせているナキに視線を落とした。

その左目から血が流れているのを見て、鼻をしかめる。

「な……何なんだ? バーノン、警備隊だ! 」

「ナキを連れてるよ! 人攫いかい! 」

「お父さん、怖いよ! 」

恐慌を起こしながら、太ったシルフ達が叫んでいる。

それを冷たい目で見ながら、彼はソファーの掛け布に手をやると、承諾も得ずにビリビリと引きちぎった。

そしてナキの目の傷を抑え、少し考えた後、自分の右手の親指を口に含む。

歯で指先を噛み千切ると、赤ではなく、真っ青な血液が流れ出した。

それを見て、彼に銃を突きつけていたモダンおじさんが息を呑む。

青年は、青い血が流れている指をナキの口に突っ込んだ。

そして自分の血を彼女の中に絞り出し、指を抜く。

小さな口を掴んで閉じ、無理やりに飲み込ませてから、彼はまだ血が出ている指先を、彼女の左まぶたと右肩の傷口に押し付けて塗りたくった。

「へ……返事をしろ! 」

モダンおじさんが、どもりながら素っ頓狂な声を上げる。

青年は、血を飲み込んだナキが小さく息をつき、数秒して寝息を立て始めたのを見てから、すっくと立ち上がった。

そしてコートのポケットに手を入れながら、身をかがめてモダンおじさんを睨みつける。

「鉄を降ろせ、愚民めが」

尊大に命令され、シルフの家族が唾を飲み込む。

彼は瞳をうっすらと金色に光らせながら、もう一度繰り返した。

「鉄を俺に向けるな。俺を誰だと思っている。殺されたいのか?」

脅迫まがいの棘がある言葉を吐き、彼は髪を掻き上げ、額の爪のような紋章をあらわにした。

それを見た途端、バーノンおばさんが悲鳴をあげ、おじさんが口を開けてポカンとした後、慌てて銃を脇に投げ出す。

「控えろ。頭が高い」

蔑むように青年に見下ろされ、おじさんとおばさんは、慌ててその場に膝をつき、頭が床につくくらい深々と下げて平伏した。

両親の様子にただならぬものを感じたのか、リフまでも、床に両膝をつく。

「まさか、あなた様は……」

緊張と恐怖からか、喉を震わせながらおじさんが言う。

青年は髪を元に戻し、胸をそらして、地面に小さくなったシルフの家族を見た。

「我が名はラッシュ・アルノー・クンドルフ十二世。ドラゴン族、北のアルノーの、由緒正しき末裔である。妖精風情が、俺に鉄を向けるか」

「お……王子様? そんなまさか……」

バーノンおばさんが震える声を発する。

ラッシュはそれに答えずに、ナキの額に手を当てた。

熱が下がっていることを確認し、彼はブーツの足を上げ、モダンおじさんの頭を踏みつけた。

まるで虫ケラを踏むように、何の躊躇もない行動だった。

「無礼者が。その首へし折って……」

そこまで口にして、しかし彼は横目でナキを見て口をつぐんだ。

しばらく迷ってから息をつき、硬直しているモダンから足をどけ、ソファーに乱暴に腰を下ろす。

そして尊大な態度を崩さずに、居丈高に口を開いた。

「ぐずぐずするな。戸を閉めよ。湯を沸かし、この娘を快方するのだ」

「…………」

「何度言わせるつもりだ! 」

唖然としている彼らをまた一瞥し、ラッシュは苛ついたように、乱暴にブーツで家の床を踏みつけた。

物凄い音がして、足が床板を踏み抜き、半ばまでめり込む。

それに突き飛ばされるようにおばさんが立ち上がり、慌てて台所に向かった。

ラッシュはそれを見て息をつき、足を床から抜いて、そして寝息を立てているナキを見た。

段々と顔の血色が良くなってきている。

顔と肩には絵の具のようにラッシュの血液が塗られていたが、そこに触れた傷口は、数分も経っていないのに、もう塞がってきていた。



本日の分の更新は以上です。

第3話は7月31日の午後にUPさせていただきます。

乙!面白いね!

おつ

まだか

2014年の7月31日ではなかったようだ

もう来ないかな?

まってる

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年10月17日 (月) 11:14:46   ID: 4dU6t93x

いつの0:00なの?

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