男「君の眼に映るのは、輝く世界ですか」(91)

少女「んあ~つまんない!!」

ボフッ

少女「今日も、なにもやることがないわ……」

少女「こんな小さな部屋で一人ぼっち……」

ボフボフッ

少女「これ可愛くないしさあ」

ボフボフッ

少女「なにか面白いこと、起こらないかしら」

ボフボフッ

男「お呼びでしょうか?」

少女「っ!! 誰!?」

少女「え、え、え」

男「なにか、面白いことが起こらないかと聞こえましたが?」

少女「え、えっと」

男「僕にできることがありましたら、なんなりと」

少女「……」

少女「執事?」

男「違います」

少女「……奴隷?」

男「発想が怖いな、君」

少女「どうやって入ってきたの?」

男「ふふふ」

少女「ドアには鍵がかかってるし……ていうか気づかなかったし……」

男「窓もないし……ね」

少女「幽霊?」

男「違います」

少女「……亡霊?」

男「その二つの違いが僕にはわからない」

男「じゃあ聞くけど、君は人間ですか?」

少女「……うん」

男「じゃあ、僕は人間ではありません」

少女「……人間以下……」

男「以下とは言ってない!!」

少女「人間未満?」

男「酷くなってます!!」

男「それ、可哀想ですよ」

少女「それって、このぬいぐるみ?」

男「そう、綿が出てる」

少女「だって、可愛くないんだもん」

ボフッ

男「だからって……」

少女「じゃあこれ、可愛くして」

男「ほう」

少女「なんでもしてくれるんでしょ?」

男「はい」

男「借りますよ」

ヒョイ

少女「……」

男「具体的に、どこが可愛くないと思いますか?」

少女「鼻」

男「鼻ですか」

シュワン

少女「!?」

男「他には?」

少女「目をもっと無気力にして、べろ仕舞って、ゆるい感じに」

シュワワン

少女「!?」

男「はい、こんな感じでどうでしょう?」

少女「か、可愛い!!」

少女「え、え、え、魔法?」

男「さあ、どうでしょうね」

少女「すごい!! すごい!!」

男「さて、では君に聞かなければならないことが」

少女「ん?」

男「君の眼に映るのは、輝く世界ですか」

少女「……」

少女「全然!! 全然つまらないわ!!」

男「では、私がそのすべてをぶち壊して差し上げましょう」

少女「!!」

男「そのかわり」

少女「……そのかわり?」

男「君の魂を頂きます」

少女「……いつ?」

男「君が死んだら、です」

少女「……死んだら……」

男「もちろん無理に死んでもらうことはしませんが」

少女「どうして私なの?」

男「魂は、若い女性が一番美味しいのです」

少女「若い女性ねえ」

男「そういう意味で、君は最適でした」

少女「美味しそう?」

男「はい、とても美味しそうです」ニコッ

少女「……うふふ」

のんびり、少しずつですが
また明日です



hamさんのss好き

少女「でもね、若い女性が美味しいっていうけどさ」

男「ええ」

少女「私がよぼよぼのおばあちゃんになるまで死ななかったら、どうなるの?」

男「ふふふ、知りたいですか」

少女「うん」

男「人間の方にはよく誤解されますけどね、おばあちゃんの魂も美味しいんですよ」

少女「そうなの?」

男「ええ、それに、死んだときの年齢は関係ないんです」

少女「でも若い方がって言ったじゃない」

男「正確には、この取引をしたときの年齢です」

少女「ふむ?」

男「つまり今の君の魂と契約をしたわけです」

男「君が今死のうがおばあちゃんになってから死のうが、美味しさは同じです」

少女「……よくわからないわ」

男「まあ、そうでしょうね」

少女「で、魂との引き換えは、ぬいぐるみだけ?」

男「いえいえ、言ったでしょう」

男「君の気に入らないこの世界を壊してあげると」

少女「うん」

男「あれはただのデモンストレーションです」

少女「ふうん」

男「君の望むままに、一つ、なんでも壊して差し上げます」

少女「私、この部屋から出たいのだけど」

男「では、壁をぶち壊しましょうか?」

少女「うん、あ、でもそれでもいいんだけど……」

男「だけど?」

少女「あなたができるのは、壊すことだけ?」

男「いえいえ、創ることもできますよ」

少女「例えば?」

男「君がほら、持っている、そのぬいぐるみ」

少女「あ、そっか」

男「ただし」

少女「ただし?」

男「元通りに戻す力は、私にはありません」

少女「どうして?」

男「そういう制限があるのです」

少女「じゃあ、壁を壊したら、もう穴はふさげないわけ?」

男「そういうことです」

少女「なんだか不便ねえ」

少女「ねえ、あなた死神?」

男「いえ、少し違いますね」

少女「どう違うの?」

男「死神とは、人の死期を知らせたり、魂を吸い取ったりするものです」

少女「あなたは?」

男「僕は、ただ魂を食べるのが好きなだけです」

少女「……」

男「お分かりいただけましたか?」

少女「死神が牛で、あなたはベジタリアンみたいなもの?」

男「……それでいいです」

支援

男「見たところこの部屋から出られないようですが、君は閉じ込められているのですか?」

少女「ええ」

男「いつから?」

少女「ずっとよ」

男「なぜ?」

少女「あなた、そんな変な存在なんだったら、それくらい知っててもおかしくないのに」

男「全能ではありませんからね」

少女「不便ね」

男「ええ、残念ながら」

少女「私ね、ちょっと変なんだって」

男「頭が?」

少女「ちょっと、失礼じゃないかしら」

男「口が滑りました」

少女「身体よ、身体が変なの」

男「見たところ、普通に見えますが」

少女「あなたにとっての普通ってどういうのよ」

男「健康そうな少女に見えますが」

少女「そう、そうね、まあ、健康ね」

男「どこが変なのですか?」

少女「頭以外の全部よ」

男「全部?」

少女「んん、むしろ脳だけが変なんだったっけ?」

男「じゃあ僕の言ったこと、当たっているのでは?」

少女「もう、気にしているんだから、これ以上聞かないで」

男「それはそれは、失礼」

少女「とにかく、変だから閉じ込められているの」

男「なるほど、君を見る人の方が、頭が変なわけだ」

少女「そういう捉え方も、いいわね」

男「だったら、やはりここを壊して外の世界に行きたいのでは?」

少女「そうね」

男「それとも、外の世界を壊しますか?」

少女「……」

男「ああ、失礼、急かしているわけではありません」

男「ゆっくり考えてもらって結構ですよ」

少女「……」

区切りが難しいです
また明日です



少女「私の所に来たのは、魂が美味しそうって理由だけなのかしら」

男「というと?」

少女「私、なにかを壊したがっているように見えたのかしら、と思って」

男「なるほど」

男「正直に言うと、それはあります」

少女「やっぱり」

男「ガンジーのもとへ行って、なにかを壊して差し上げますと言ったところで……ね」

少女「それはそうね」

少女「あなた、昔からそんなことを繰り返しているの?」

男「ええ、まあ」

男「攻め込んでくる軍艦をぶち壊すことを望んだ人がいましたね」

少女「へえ」

男「自分のライバルの作品を壊すよう願った美術家もいましたし」

男「ライバルの地位を壊してくれと言われたこともありましたね」

男「ああそうそう、国家や王朝を壊せと言われたこともあります」

少女「ロクな死に方しないわね、そんな人たち」

男「ええ、確かにそうでした」

支援支援

少女「壊すだけ? 創ることはしなかったの?」

男「なにかを創るときというのは、ある程度イメージができているのです」

少女「?」

男「イメージができている人は、自力で創ることができることが多いのですよ」

少女「ああ、願うまでもないってことかあ」

男「ええ」

男「もちろんその人自身がうまくイメージできていない物を、私が創ることはできませんし」

少女「そういうものなのね」

男「ですからほとんど、壊すことしかしてきませんでしたね」

少女「ねえ、この壁の向こうは、今どうなっているの?」

男「君は、そういった情報は全く与えられてないのですか?」

少女「ええ、なにも知らないの」

男「今、病気で苦しんでいる人がたくさんいます」

少女「……うん」

男「戦争も始まりました」

少女「……うん」

男「はっきり言って、地球規模では、もうあと少しの寿命だと思っています」

少女「地球?」

男「星が滅ぶのは、時間の問題かも、と」

少女「それなら、もっともっと壊したがっている人はたくさんいるんじゃないかしら」

男「そうですね」

少女「そちらへ行けばいいのに」

男「ふふ、魂が惜しくなりましたか?」

少女「そんなんじゃないけど」

男「私の気まぐれですよ、ただの」

男「君の次に、戦争をしている国の統領の所へ行くかもしれませんね」

少女「ねえ、お話をしてほしいんだけど」

男「お話?」

少女「ええ、私、お医者さん以外とお話するのはずいぶん久しぶりなの」

男「それはそれは」

少女「壊した話、創った話、なんでもいいわ」

男「そうですねえ、では……」

男「ある少女のお話をしましょう」

男「あるところに、両親にとても厳しく育てられた少女がいました」

男「門限、持ち物、付き合う友だち、勉強……」

男「すべて両親の思うまま、縛られて生きてきました」

少女「かわいそう」

男「そんな少女が、なにを願ったと思いますか?」

少女「……」

少女「両親を、壊して?」

男「いえいえ、そんな物騒な願いではありませんでしたよ」

少女「……」

少女「私を縛る鎖を壊して……」

男「ええ、正解です」

少女「あなたは、それを壊したの?」

男「はい、ぶち壊して差し上げましたよ」

少女「それで、その子はどうなったの?」

男「自由に、気ままに、生きることができるようになりましたよ」

少女「幸せになったのかしら?」

男「さあ、それはどうでしょう」

男「両親に縛られることのなくなったその少女は、好き勝手なことをしだしました」

男「髪を染め、悪い友だちと付きあうようになり、勉強をしなくなり……」

少女「……」

男「悪い遊びにはまるようになり、それから、色々と……」

少女「悪い遊び?」

男「君に言うような内容ではないので、割愛します」

少女「私、そんなの平気よ」

男「それでも、ええ、僕なりの配慮です」

少女「ふん」

少女「で、両親は?」

男「少女の行動に、なにも関心を示さなくなりましたよ」

男「髪を染めても、煙草を吸っても、警察に補導されても……」

男「なにも言わない、叱らない、期待しない」

男「まるで他人を見るように、少女を見たと言います」

少女「……そう」

男「幸せでしょうか?」

少女「不幸ね」

男「そうかもしれませんね」

少女「あなたは、その少女に忠告をしなかったの?」

少女「そんな願いを言っても、望む結末は来ないだろうって」

男「僕には未来透視の力はありませんから」

男「ただ望むまま、それを壊したまでです」

少女「酷いのね」

男「酷いでしょうか?」

少女「無責任、というか」

男「そうですね、無責任ではあります」

では、おやすみなさい



wktk

少女「神様は無責任なの?」

男「無条件に人間の味方、というわけでは決してありません」

少女「まあ、それはそうでしょうけど」

少女「でも人は切羽詰まると神様に祈るわ」

男「ええ」

少女「救ってはくれないの?」

男「手を貸すことはしますよ」

男「ただ、その結果、望まない結末だとしても、それはどうしようもありません」

少女「こんなはずじゃなかったって、恨んでも?」

男「ええ、僕には関係がありません」

少女「ねえ、あなた、悪魔に近いんじゃない?」

男「よく言われます」

少女「悪魔なの?」

男「それは、違います」

男「ただ、超常現象的な存在としては、人間よりは近いですけれどね」

少女「……」

少女「ねえ、ハッピーなお話はないの?」

男「そうですね……大昔の話をしましょうか」

少女「ええ」

男「あるところに、立って歩く猿がいたのですよ」

少女「猿?」

男「ええ」

少女「モンキー?」

男「そうです」

少女「猿の願いも叶えるの?」

男「まあ、最後まで聞いてください」

男「その猿は、みんなと違って立って歩くことができたのです」

男「ところが、みんなはその猿を、異端扱いしたのです」

男「立って歩くなんて信じられない、気持ち悪い、あいつは頭がおかしい」

少女「……」

男「その猿は、なにを願ったでしょう?」

少女「……立って歩ける足なんて、爆発したらいい」

男「怖いな」

少女「立って歩かないみんなの足なんて、爆発したらいい」

男「物騒すぎます!!」

少女「そうじゃないの?」

男「ええ、ものを壊したのではありませんよ」

少女「さっきみたいな?」

男「そう、概念です」

少女「……」

少女「立って歩くのが変だ、という概念を?」

男「そう、それを壊してくれと望みました」

少女「それ、いつの話?」

男「ヒトが生まれる前、ですかね」

少女「あなた、そんな頃から同じことをやっていたの?」

男「いえ、これは聞いた話です」

男「僕ではなく、誰かの、ね」

少女「『人から聞いた話なんだけど』っていうとき、大体その人の話じゃない?」

男「ふふふ、ご想像にお任せします」

少女「それで、猿は立って生活するようになったの?」

男「ええ」

少女「……ハッピー?」

男「ご想像にお任せします」

少女「そうね、さっきの話よりかはいくらか、ね」

男「ええ」

少女「もっと最近の話はないのかしら」

男「最近ですか……」

男「あるところに、とある貧しい少年がいました」

男「少年は食べたいものも、欲しいものも我慢して暮らしていました」

男「なぜなら……」

少女「なぜなら?」

男「少年の住む所には、少年が望むものがなかったのです」

男「つまり、街自体がとても貧しい、そういう時代でした」

少女「……」

男「しかし、街の真ん中にある大きな壁の向こうには、それを手に入れた人たちが住んでいました」

男「少年はなにを望んだと思いますか?」

少女「その壁を壊して」

男「ええ、その通りです」

男「その壁がなくなった結果、街の住民は壁の向こうへなだれ込みました」

少女「それは……危ないんじゃない?」

男「いえ、壁の向こう側の住民も、なだれ込んできた人たちを優しく迎え入れたのです」

少女「どうして?」

男「人々を見下していた貴族ではない、同じ人間のはずだったのです」

男「それが、ただ壁の右か左かだけで、まったく文化が変わってしまっただけだったのです」

男「少年以外にも、壁の向こう側にだって、壁を壊したいと思った人間はたくさんいたのです」

男「僕はただそのお手伝いを、ほんの少し、しただけ」

少女「それは……ハッピー、かもしれないわね」

男「ええ」

少女「その少年は?」

男「壁を越え、迎え入れられ、バナナを食べていましたよ」

少女「バナナ?」

男「ええ、高級品でしたからね」

少女「それ、ほんとのお話?」

男「ええ」

少女「幸せになった人たちも、いるのね」

男「それはもう、もちろん」

少女「幸せって、その人の価値観によるものだとは思うけれど」

男「ええ」

少女「周りから見たら幸せでも、本人は不幸だと感じていることだってあるだろうし」

男「……ええ」

男「逆も、ありますね」

少女「そうね」

男「夢に破れ、酒に溺れ、世の中すべてを恨んで生活をしている男がいました」

少女「……」

男「その日暮らし、希望もなにもない、ただ『生きている』だけの男」

男「汚い四畳半で、やることも、やりたいこともなく、誰とも顔を合わせない生活」

少女「辛いわね」

男「その男が願ったのは、『このくそったれな世界を壊せ』でした」

少女「……いい迷惑ね」

少女「……え? あれ?」

少女「あなたはそれを叶えたの?」

男「はい、叶えましたよ」

少女「……いつの話?」

男「つい、最近です」

少女「世界は……壊れたの?」

男「ええ、壊しましたよ」

男「その男の世界を、ぶち壊しました」

少女「つまり?」

男「その男を取り巻く『世界』はなくなり、男は『無』の中で生活をすることになりました」

少女「その人にとっての世界を壊した、ということ?」

男「ええ、そうです」

男「だから、そのほかの人にとっての世界は、変わらず続いています」

少女「私も、生きているし」

男「ええ」

少女「本望だったのかしら」

男「その男にとっては、望んだものと変わらぬ結果だと思いますよ」

男「夫と浮気相手の女の仲をぶち壊せと願った人もいましたよ」

男「あっと、こんな話はやめておきましょうか」

少女「別に、平気だってば」

男「そうですか?」

少女「なに、気を遣ってるのよ」

男「しかし、残念ながら幸せな結末ではありませんでしたね」

少女「……別の女と浮気したの?」

男「ご明察」

少女「『夫の浮気癖を壊して』なら、うまくいったんじゃないかしら」

男「ええ、それなら別の結末になったでしょうね」

少女「その人はどうなったの?」

男「まだ、亡くなってはいませんね」

男「現在幸せかどうかは、僕にはわかりません」

少女「浮気はやっぱり、ダメよね」

男「ええ、僕もそう思います」

今日はこの辺で
おやすみなさい



少女「なにかを創った人は、いないの?」

男「そうですねえ……」

少女「少ないと言ってたけれど、いないわけじゃないんでしょう?」

男「幸せな家庭を創りたい、と願った人なら、たくさん」

少女「……案外普通ね」

男「普通の考えを持っている人は、案外たくさんいるものですよ」

少女「それはそうかもしれないけれど……」

少女「タイムマシンを創りたい、とか願った人はいなかったのかしら」

男「ええ、いましたね」

少女「それは? どうなったの?」

男「できるだけ詳しく機能を考えていた人ですが、ええ、失敗しました」

少女「どうして?」

男「時空を越える際、人体に何の影響もないようにコーティングすることを忘れたのです」

少女「?」

男「つまり、時空を越える際に人体が消失しました」

少女「……不幸ね」

男「あるいは、魂だけは時空を越えられたかもしれませんが」

少女「その魂は? 食べなかったの?」

男「私の捕捉できないところまで行ってしまいましたからね」

男「それは、諦めました」

少女「そう、食べそこなったのか」

男「ええ、数少ない残念な結末です」

少女「それはあなたにとっての、でしょ」

男「その通り」

少女「ま、暇つぶしにはなかなかのお話だったわ」

男「そうですか」

少女「さ、私はなにを壊してもらおっかなあ」

少女「あんまり下手な願いを言うと、不幸になりそうだから気をつけなくちゃ」

男「ふふ、そうですね」

少女「例えばこの壁を壊してもらっても、きっとすぐ見つかって私はまた閉じ込められるわ」

少女「例えば外の世界を壊してもらっても、私の環境はきっと変わらない」

男「君は、いつもそんな話し方なの?」

少女「?」

男「いや、少し外見にそぐわないかな、と感じましてね」

男「少々大人びているというか、ね」

少女「ふふ、そうかもね」

少女「よく言われるの」

男「はあ……」

少女「じゃあね、あ、そうだ、その前に……」

男「?」

少女「私がもし死ななかったら、あなたは魂を食べそこねることになるの?」

男「……」

男「死なない?」

少女「ええ、もし、死ななければ」

男「今まで、そんな人間は一人としていませんでしたが……」

少女「もし、よ」

少女「もし私が死ななかったら?」

男「ええ、食べそこねることになるでしょうね」

少女「それは、不幸?」

男「ええ、不幸ですね」

少女「そっか」ニヤニヤ

男「どうして、そんな話を?」

少女「神様を困らせるっていうのも、悪くないわね、と思って」

男「話が見えませんね」

少女「ううん、そうね、楽しいお話をしてくれたお礼に、少しだけ教えてあげる」

少女「私のこと」

男「君のことを?」

少女「私ね、死なないの」

男「……?」

少女「変でしょ?」

男「……」

少女「それが、私がここに閉じ込められている理由」

男「死なない?」

男「死なない人間は、いませんよ」

少女「あ、もちろん首を切ったら死ぬと思うわ」

少女「食べ物を与えられなかったり、首を絞めたり、水に沈めたら死ぬんじゃないかしら」

男「はあ……」

少女「でもね、きっと、そういうことがなければ、私はずっとこのままなのよ」

男「このまま、とは」

少女「つまり、今の、この姿」

男「今の……」

少女「私ね、ずっとこの部屋に閉じ込められているの」

少女「ざっと、15年くらい」

男「15年!?」

少女「15年前も、今と変わらない姿だったのよ」

少女「いえ、家族が気づくまで、あと何年かあったかしらね」

男「君は、今、何歳なのですか?」

少女「さあ、数えるのを忘れちゃった」

少女「私がこのままだったら、あなたは困るのかな、と思ってちょっと愉快だったの」

男「……」

少女「複雑なお顔ね」

男「複雑にもなりますよ」

少女「困ってる?」

男「ええ、少しね」

男「君は、面白い人だ」

少女「そうかしら?」

男「では、君の願いを叶えたところで、僕は魂にはありつけないわけだ」

少女「そう、残念ながらね」

男「ふふ、まあ、そういうこともあるでしょう」

少女「あら、立ち直りが早いのね」

男「初めてではありませんからね、魂をお預けされることは」

少女「なあんだ」

男「残念でしたか?」

少女「いえいえ、全然」

少女「じゃあやっぱり、願いは叶えてくれない?」

男「え?」

少女「お預けなら、願いを叶える意味はないもんね」

男「あ、いえ、最初に言った通り、なんでもお望みのまま、壊して差し上げますよ」

少女「あ、そう」

少女「優しいんだ」

男「そんな」

少女「じゃあ、ね、私のこの病気を、壊して」

男「病気を、壊す?」

少女「ええ」

少女「それとも、成長しない私のこの殻を壊して、でもいいわね」

男「……なるほど」

少女「できる?」

男「ええ、僕に壊せない物などありません」

男「でも、いいんですか?」

男「せっかくの死なない身体じゃないんですか」

少女「そんなものに価値はないわ」

男「不老や不死は、人類の永遠の憧れなのでは?」

少女「確かに、大人になりたくないと願ったこともあったけど……」

少女「でも、大人になれないことの辛さとか、閉じ込められて自由に生きられない辛さとか」

少女「そんなものとの引き換えには、まったく不要の憧れだわ」

男「そうですか……」

少女「それに、あなたも魂にありつけるだろうしね」

男「ははは、そんな風に気を遣ってくれたんですか」

少女「さ、ほら、壊して」

少女「私のこの病気を、ね」

男「ええ、君の魂と引き換えに、ぶち壊して差し上げましょう」


パキィン!!


少女「……っ」

男「……さて、きっかけはあげました」

男「あとは、君のご自由に」

少女「え、えっと、特に変化はないようだけれど」

男「成長はいずれ、やってきますよ」

男「ああ、もちろん一気に老けこんでシワシワに、みたいな浦島太郎的な展開はないと思います」

男「……多分」

少女「最後、不安にさせるような言い方しないでよ」

男「ははは」

少女「でも、私がこの結果不幸になってたとしても……」

男「ええ、僕は責任を持ちません」

少女「でしょうね、そうでなきゃ、ね」

男「ええ」

男「これから髪を伸ばすのも、いいかもしれませんね」

少女「え?」

男「髪、伸ばしたかったんでしょう?」

少女「……どうしてそれを?」

男「……それくらい、お見通しなんです」

男「これでも、曲がりなりにも、神ですからね」

少女「それ駄洒落?」

男「ち、違います!!」

少女「髪、伸びるかなあ」

男「ええ、きっとね」

少女「ヒール、履けるかなあ」

男「ええ、それもきっと」

少女「ブラも付けられるかしら」

男「……きっと」

少女「なに照れてんのよ」

男「気のせいです」

男の話のせいで怖い

男「さて、ではそろそろ行かなくては」

少女「もう行くの?」

男「ええ、次の人の所に、ね」

少女「他にも、壊したいものがある人がいるのね」

男「ええ、たくさんね」

少女「ねえ、もし私が、『世界中のすべての病気を壊して』と願ったら、どうなったの?」

男「……聞きたいですか?」

少女「……一応」

男「世界中の医者と研究者と薬品開発者が路頭に迷います」

少女「……それは……不幸、かしら」

男「さあ、どうでしょうね」

男「それから、世界中から恋に落ちる少年少女がいなくなりますね」

少女「……」

少女「恋の病、ってこと?」

男「ええ」

少女「それはなくなったらダメねえ」

男「ええ、僕もそう思います」

男「さ、では君がお亡くなりになる頃、またお会いしましょう」

少女「別れ際には最低の台詞だわ」

男「ロマンチックさは不要でしょう」

少女「まあ、ね」

男「君が僕に恋してしまっては大変ですから」

少女「ははっ、ばーか」

男「では」

少女「ええ、またね」

男「今、君の目に映るのは、輝く世界ですか?」

少女「ええ、きっと、ね」


★おしまい★

というわけで、若干薄い内容で申し訳ありませんが、
いずれ神様が出てくるシリーズのまとめになるssを書きたいと思っています

    ∧__∧
    ( ・ω・)   それでは、ありがとうございました
    ハ∨/^ヽ   またどこかで
   ノ::[三ノ :.、   http://hamham278.blog76.fc2.com/

   i)、_;|*く;  ノ
     |!: ::.".t~
     ハ、___|
"""~""""""~"""~"""~"






流石のクオリティ
たまには薄くていい、サラダも食べたいもの

おつおつ
はむちゃんはむはむ!

乙でした

おつん

おつー

内容が薄いというか、腕が落ちている

興味深い内容で楽しめた



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