真美「彩り」 (28)
私、双海真美は。駆け出しアイドルだった。
来る日も来る日もレッスンで、半年前にデビューしたばかりだというのに、鳴かず飛ばず。
……別にレッスンが嫌な訳じゃないんだけど、こうもデビューしたのに売れていないって、凄く寂しかった。
同期のみんなは徐々にステップアップしているのに、真美だけ……。
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でも、いいんだ。今頑張れば、後できっと報われる。誰かに褒められる訳じゃないけど、ここでへこたれるようなプライドじゃあない。
「ふーっ、今日もいい汗かいたー」
愛飲のスポーツドリンクをごくごく飲んで、今日のダンスレッスンをお終いにする。
まだまだ全然お仕事は回ってこないけど、こうやって日々の積み重ねをすれば、いざ本番と言うときに準備が出来てるから安心だし、
後、頑張ってる事が伝わって、見ている人が笑ってくれる、そんな感じがいいなって思ってる。
そう言う事を支えに、やりがいにすると、世界に小さな彩がついていく気がするんだ。
「お疲れ様」
「どっひゃあああ!?み、見てたの!?」
柄にも無い事を考えてたらいきなり後ろから声を掛けられて凄くビックリ。
振り返ると、真美より少し先にデビューして、今はそれなりに売れている、いわば先輩みたいな人が立っていた。
その人は、如月千早って言って、事務所の中で一位二位を争うほどのストイックさを誇っているアイドル。
真美は密かにそのストイックさを見習って頑張ってて、なんというか、憧れみたいな物も持っている。
「ええ、見ていたわよ」
「な、は、恥ずかしいっしょ……」
千早お姉ちゃんは、この後ここを使うらしくて、早めに来たんだとか。
そうしたら、真美が一人で自主レッスンに励んでる所にたまたま遭遇して、ずっと見てたんだそうで。
「レッスンに励んでいれば何時かはチャンスが巡ってくる、頑張って」
「う、うん。真美、めっちゃ頑張るよ!千早お姉ちゃん、ありがと!」
真美はこう返すのが精一杯で、身支度もそこそこにばーっとレッスンルームから出て行く事にした。
――――
私、双海真美は。まだまだ駆け出しアイドルだった。
以前に比べたら売れるようになったけど、同じ事務所のみんなに比べたらまだまだ全然で。
でも、アイドルとしてようやく名前が売れるようになってきたから、自分のしてきた事は間違ってないんだなぁって言うのが分かって嬉しかった。
真美も少し名前が売れたし、少し大きめのオーディションに応募しても大丈夫だよね?
なんて思ってエントリーしたのが間違いだった。
真美以外の人は、大抵が大手プロダクションの新人アイドルか、売り出し中のアイドル。
積み重ねたレッスン量でも、アイドルとしての実力でも、真美は負けてなかったと思うんだけど、大手プロダクションの力は強かった。
真美は選考にかすりさえもせず、コネだけで大手プロダクションのアイドルが選ばれてった。
とぼとぼと事務所に帰って、ソファーに倒れ込むと、真美は誰に言う訳でもないけど、愚痴り始めた。
「あの新人アイドル、全然楽しそうに歌ってなかったのに……うあうあ~!」
ひとしきり愚痴ってスッキリすると、途端に自分がちっちゃく見えてしまった。
いくら大手プロダクションの力に負けたとはいえ、少し慢心したんじゃないの?って考えちゃって。
そっから、どんどん自分のやり方が間違ってただとか、真美のちっぽけなプライドは意味がなかったんじゃないんかって。
その内、やりがいにしてた事まで間違っていたんじゃないかって考え出した所で、声を掛けられた。
「お疲れ様」
「……千早お姉ちゃん」
千早お姉ちゃんは、対面に座ると、真美の事を励ますように声を掛けてきた。
「オーディションは残念だったけど、真美の努力は間違ってなかったと思う」
「結果、知ってたの?」
千早お姉ちゃんは、ごめんと小さく謝って、さっきの愚痴をたまたま聞いちゃったと言う事を教えてくれた。
別にいいよ、と返した真美は、考え込んでもやもやしてた事を思い出しかけてハッとする。
「……真美は、間違ってなかった」
「努力の結果は無駄じゃない。次があるわ」
次がある。そっか……そうだよね。あのオーディションで受からなかったからって、終わりな訳じゃない。
双海真美はまだまだこれからなんだ。
「……うん。間違ってない」
確かめるように呟いて、真美は立ち上がって宣言する。
「真美、悔しいけどまた頑張るよ」
右手をぐっと突き出して、決意のポーズ。この悔しさをバネにして、もっと大きな所を目指してやるっしょ!
「ふふ、何時もの真美が帰ってきたわね」
「んっふっふ~、完全復活しちゃったよん!」
千早お姉ちゃんは、まるで自分の事のように嬉しそうに笑ってくれた。
それがなんだかとても嬉しくて、真美の心の中はさっきよりずっと晴れやかになる。にじみかけてた彩も取り戻せた気がした。
「……ただいま」
「おかえり」
――――
私、双海真美は、名実ともにトップアイドルだ。
あの日の悔しさをバネに、日々のレッスンをさらに大事にするようになった。
この単純な繰り返しが、ぐるぐると回って、今事務所の前を通った誰かの顔を笑顔に出来る。
きっとそうなる、と言い聞かせてやりがいにして、がむしゃらに真っ直ぐ進んできた。
がむしゃらに進んだ結果。真美は、他の事務所のみんなも追い越して、アイドルの何かすっごい賞を貰う事ができた。
この賞をもらえる事は、トップアイドルを意味する、と言う話をみんなから聞いて、真美はまず身体の力が抜けていった。
そんな事知らないでもらっちゃったよ!って言ったら、事務所が爆笑の渦に包まれて、何か凄く恥ずかしかったのを覚えてる。
でも、そっか。真美は、なんて事ない日常のレッスンが、回り回り回り回って。
今、真美の目の前の人達の、笑い顔を作っているんだって思うと、凄く嬉しくなって。
嬉しさと、ちょっとした恥ずかしさから、真美の顔が熱くなっていくのが分かってそれがまた何とも言えない、変な感じだった。
色々な嬉しさや笑いや確かな幸せがあった、真美のトップアイドル祝いも終わって、少し静かな事務所で、真美はソファーに座る。
隣には、千早お姉ちゃんが座っていて、真美は千早お姉ちゃんと二人きり。
「ありがとう、千早お姉ちゃん」
「何?藪から棒に」
改めて感謝を伝えると、千早お姉ちゃんは少し驚いたような顔をしてこっちを向く。
「あのね、みんなの応援も嬉しかったけど、真美、千早お姉ちゃんの応援が一番嬉しかった」
「私の?」
「うん。真美は、あの時からずっと千早お姉ちゃんが憧れだったんだ」
「憧れ」
そう、鳴かず飛ばずだった真美の憧れは、ストイックに努力する、千早お姉ちゃんの姿だったんだ。
「だから、ありがとう、千早お姉ちゃん」
「そんな、私はただ頑張っている真美に少し声を掛けただけよ」
照れくさそうに笑う千早お姉ちゃんは、お姉ちゃんだなぁ、って思って、その姿も真美の心に刻まれていく。
トップアイドルになったから、近いうちに真美が憧れになっていくんだろうけど……、真美の原点は、千早お姉ちゃんへの憧れなんだ。
「真美、これからもっともっと頑張る。憧れになれるようになるっしょ!」
「ええ、私もうかうかしてられないわね」
なんて言って、二人で笑い合う。この瞬間がたまらなく幸せ。そう、真美の世界には、こんな風にたくさんの彩がついているんだ。
おわり
https://www.youtube.com/watch?v=BprYDuumMks
Mr.Childrenの彩りという曲をテーマに書きました
見てくれてありがとう
おっつおっつ
千早が表に出過ぎてないのが良いな
乙!
いい話だった、掛け値なしに
泣いた
他人への応援歌じゃなくて自分への応援歌を歌うアイマスの世界を単純明快に感じられてとても良かった
と、マジレスしてみる
あんきも作家かよ、ないわ
>>27
あなたがあんきも先輩か…
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