青年「お、ここだここだ」
青年「ここのオヤジって、すげえ頑固で評判なんだ!」
青年「客の態度はもちろん、食い方にも文句つけてくるんだ!」
男「えぇ~……食い方にまで文句つけるのかよ」
男「そんなんじゃ、あっという間に客足なんか途絶えるんじゃないか?」
青年「いや、案外そこに惚れ込んでるファンも多いんだよ」
青年「それに、ラーメンの味はそうするだけのことはあるしな!」
男「ふうん」
青年「さ、入ろうぜ!」ガラッ…
<ラーメン屋>
オヤジ「へい、らっしゃい!」
オヤジ「空いてるとこに座ってくんな!」
男(声でけぇ~……空気もピリピリしてるな、まるで戦場って感じだ)
青年「モタモタしてると怒鳴られちゃうから、とっとと座っちまおう」ガタッ
男「う、うん」ガタッ
乙 そしてさようなら
男「えぇ~と、どれにしよっかな……」
青年「お前は初めてだから、ただのラーメンにしとけ」
男「え、あ……うん(そんなルールもあるのか……)」
青年「あと……この店は必要以上の私語禁止だからな」
青年「あまり余計なことは喋らない方がいい。でないと──」
オヤジ「お客さぁ~ん、しゃべってばかりじゃ、麺がのびちまうよ!」
客A「あ……す、すみません」
客B「すぐ食べます!」ズルズル…
青年「ああなる」
男「はぁ……」
男(しゃべっちゃいけないなら、スマホでもいじるか)モゾ…
青年「おい、ケータイやスマホをいじるのもダメなんだ」
男「へ?」
青年「怒鳴られちまうぞ」
オヤジ「ちょっとちょっと、ケータイなんていじらないでくれよ!」
オヤジ「ラーメンに失礼だろうが!」
客C「す、すぐしまいます!」ササッ
青年「な?」
男「すごい世界だな……」
オヤジ「へい、お待ち!」ドンッ
青年「さ、食っちまおうぜ」
男「うん」
青年「あ、もちろん麺や具から食うなよ」
男「へ? なんで?」
青年「怒られるからだよ」
オヤジ「まずスープから味わってくれなきゃ! 俺のラーメンが泣いちゃうよ!」
客D「あ、いや……不勉強で……」
男(そういや食い方にも文句つけるっていってたっけ……)
男(うん……)ズル…
男(たしかにうまい!)ズルズル…
男(ラーメン通ってわけでもないけど、今までで一番うまいかも!)ズズッ…
男(だけど……)モグモグ…
男(このいつ怒鳴られるか分からない緊張感には馴染めない……)モグモグ…
男(なんというか、怖い先生の授業の時みたいな雰囲気だ……)ズズズッ…
シ~ン……
青年「さっさと食わないと、怒鳴られちまうぜ」
男「あ、ああ」ズルズル…
青年「あ~食った、食った」ポンポン…
青年「な、うまかっただろ?」
男「たしかにうまかったけど……」
男「俺としては、もうちょっと気軽に食べられる店のがいいかなぁ」
青年「ん~、そうか?」
青年「ま、何度も通い続けてりゃ、そのうち慣れるって!」
男(正直、もうあまり来たくないけどな……)
<男の自宅>
男(今は外食したら掲示板『フードちゃんねる』に感想を書くのが流行ってるけど)
男(せっかく食べたし、あの店のスレに感想を書いておこうかな)
男「ええっと──」カタカタ…
“ラーメンはとてもおいしかったけど”
“あのピリピリした雰囲気はちょっと苦手”
“もっとのんびり食べられるようにすればいいのに”
男「──っと」
<ラーメン屋>
オヤジ「…………」
オヤジ(匿名掲示板なんか見なきゃいいのに)
オヤジ(『フードちゃんねる』に書き込みがあると、ついつい見てしまうんだよな)
オヤジ(見ると嫌な気分になるって分かってるのに……)
オヤジ(ええっと──)
オヤジ(“おいしかったけど、もっとのんびり食べられるようにすればいいのに”か)
オヤジ(うん……もっともな意見だ)
オヤジ(だけど──)
“なにがのんびりだよ、これがゆとりか”
“二度と来んな!”
“こいつ、分かってねぇ~”
“あの頑固っぷりがいいんだろうが!”
“こういうクソド素人に、あのラーメンを食って欲しくないわ”
オヤジ(やっぱりメチャクチャ叩かれてる……)
オヤジ「ハァ……」
オヤジ(いったいいつからこうなったんだろう?)
オヤジ(俺だって好きで頑固オヤジをやってるわけじゃないのに……)
オヤジ(もうずっと昔、一念発起してラーメン屋を開業しようって決めて)
オヤジ(客商売に詳しい友人に相談したら──)
友人『うん、たしかにお前のラーメンはうまい!』
友人『だけど、味だけじゃ客は呼べないってのが実情なんだ』
友人『味以外の“付加価値”がなきゃな』
友人『これからの時代は、店主のキャラってのも重要なポイントになるんだ』
友人『そうだな……たとえば口うるさい頑固オヤジでも演じてみたらどうだ?』
オヤジ(あのアドバイスがきっかけだったっけ……)
オヤジ(だけど……開店当初から細かいルールがあったわけじゃなく)
オヤジ(最初はいちいち小うるさいオヤジ、程度のキャラ付けにしておいた)
オヤジ『お客さん、ヒジついて食べるのはみっともないよ!』
オヤジ『チャーシューメンお待ち! ブタさんに感謝して食ってくんな!』
オヤジ『のびないうちに食ってくれよ! さすがにのびたら味に自信ないからさ!』
オヤジ(はっきりいって、これぐらいいうのだけでも心臓バクバクものだった)
オヤジ(そういやあの頃は、閉店後いつも発声練習してたよな)
オヤジ(だけど、いつしかそれにも慣れてきた頃──)
オヤジ(ものすごく態度の悪い客が現れた)
オヤジ(テーブルに足を乗せるわ、タバコを床に捨てるわ、すごかったよなぁ)
オヤジ(怖かったけど、他のお客のためにも俺は大声で怒鳴りつけた)
シ~ン……
オヤジ『!』ハッ
チンピラ『す、すみませんでした……』
オォ~…… パチパチ……
オヤジ(あのチンピラ、金を置いて逃げるように店を出て行った)
オヤジ(思えばあそこからだ……徐々に歯車が狂っていったのは)
オヤジ(なんというか、俺が怒鳴るのを期待する妙なファンが増え始めた)
ファンA『おやっさん、今日もシャウト期待してます!』
ファンB『こないだは本当に感動させてもらいました!』
ファンC『オヤジさんこそ、真のラーメン道を歩まれている方です!』
オヤジ(そりゃ戸惑ったけど、悪い気はしなかったってのも正直なところだ)
オヤジ(だから俺も調子に乗って、だんだん怒鳴る回数が増えていった)
オヤジ(やがて、俺のウワサを聞きつけたマスコミがやってきた)
オヤジ(彼らの取材で、俺はとんでもない頑固オヤジだってことにされ……)
リポーター『ここが日本一の頑固オヤジがいるというラーメン屋です!』
オヤジ『え……あ、おうよ!』
オヤジ『てか、カメラなんか入れるんじゃねえ! ラーメンの風味が落ちる!』
リポーター『おお~、ウワサ通りの怒鳴り声です!』
リポーター『このように、この店には独自のルールが無数にあるのです!』
オヤジ『守らねえ奴は叩き出すから、覚悟しとけよな!』
オヤジ(ここまでくると、俺ももう後戻りできなくなっていた……)
オヤジ(もちろん、俺だっていつも怒鳴ってるのは正直疲れる)
オヤジ(で、たまに怒鳴るのをやめていると──)
オヤジ(どういうわけか、俺のファンたちが代わりに怒鳴ることもあった)
オヤジ≪携帯電話をいじってるのがいるな……ま、放っておこう≫
ファンA『コラァッ! ラーメン待ってる最中に、ケータイいじってんじゃねえぞ!』
ファンB『オヤジさんが見過ごしても、俺らの目はごまかせねえぞ!』
茶髪『な、なんだよ……いきなり! 店員でもねえくせに!』
オヤジ≪お、おいおい……≫
オヤジ(それで客同士で殴り合い寸前にまでなったこともあった)
オヤジ(俺は悟った……。俺はもうこのキャラ付けをやめちゃいけないんだと……)
オヤジ(たしかに店は繁盛した)
オヤジ(それは決して俺のラーメンの味だけによるものじゃなく)
オヤジ(俺のキャラ作りがうまくいったから、というところもあるのは間違いない)
オヤジ(だが……辛い)
オヤジ(もう、頑固オヤジではいたくない……)
オヤジ(だけど、もし俺が頑固オヤジでなくなったら──)
オヤジ(幻滅するファンが大勢出て、売上が激減してしまうかもしれない)
オヤジ(この世界は一度評判が落ちたら、取り返すのは並大抵のことじゃないからな)
オヤジ(俺はいったいどうしたら……)
今回はここまでです
乙!続き期待
これはもう怒鳴り専門の頑固親父を雇うしかないな
まじでどっかにはいそうなオヤジ
そんなある日のこと──
<ラーメン屋>
女「…………」ズルズルッ…
眼鏡女「…………」チュルルッ…
オヤジ(あっちの眼鏡かけてる娘、ずいぶん食べるのが遅いな……)
オヤジ(もちろん、俺としてはどんなペースで食ってもらってもいいんだけど──)
ファンA「…………」チラッチラッ
ファンB「…………」チラッ
オヤジ(ものすごく見られてる……期待されてる……)
オヤジ(それに放っておけば、多分彼らが俺に代わって怒鳴りつけるだろう……)
オヤジ(やるしかないか……!)
オヤジ「…………」グッ…
オヤジ「おうおう、眼鏡の嬢ちゃん!」
眼鏡女「は、はいっ!」ビクッ
オヤジ「後がつかえてんだ! 食うペース上げてくんねえかな!」
眼鏡女「すっ、すみませんっ……!」
オヤジ(うわぁ~、すごく謝ってるよ。ただゆっくり食べてただけなのに)
ファンA「…………」ニヤッ
ファンB「…………」ニコッ
オヤジ(だが、これでいい……これでいいんだ!)
オヤジ(俺は日本一のガミガミ頑固オヤジ! 罪悪感を抱く必要なんかないんだ!)
女「あの……」
オヤジ「!」
女「この子、猫舌で……あまり急いで食べられないんです」
女「なので……ゆっくり食べさせてもらえないでしょうか?」
オヤジ(どうぞどうぞごゆっくり……といいたい場面ではあるが──)
オヤジ(背中にファンたちの眼差しが突き刺さる……期待されてる……)
オヤジ(この店は俺の国……というか俺の中にいる“頑固オヤジ”の国……)
オヤジ(店のルールに反しているお客さんはろくな目にあわない……)
オヤジ(ここで俺が怒鳴ってやる方が、この娘たちのためなんだ!)
オヤジ「だ……だったら……」
オヤジ「今すぐ出てってもらおう! 金はいらねえから!」
女「イヤです」
オヤジ「!」
女「このラーメンはおいしいですし、最後まで食べさせて下さい」
女「お願いします!」
オヤジ「…………!」
オヤジ(ここで対応を誤るとファンがキレる! どうする……?)
オヤジ(よし……たまには寛大な心を見せる頑固オヤジ、でいこう!)
オヤジ「ふん、まぁいいや! 今回は俺から折れてやらぁ!」
オヤジ「が、次はねえぞ!?」
女「ありがとうございます」
眼鏡女「あ、ありがとうございます……!」
ファンA&B「…………」
その夜──
オヤジ(あ~、終わった終わった)
オヤジ(今日も一日、ずっとラーメン作って怒鳴りっぱなしだったな)
オヤジ(さぁて、のれんをしまって、と……)ガタッ
「あの……」
オヤジ「ん?」
オヤジ「悪いな、今日はもう閉店で──」
オヤジ「!」
オヤジ「ア、アンタ……さっきの……!」
女「夜分おそくにすみません……」
オヤジ(え、なに? もしかしてさっきの仕返しとか?)ドキドキ…
オヤジ(とにかく頑固オヤジとして接しなきゃ!)
オヤジ「ホントだよ、こんな時間になんだってんだ!?」
オヤジ「いっとくが、もう食わせるラーメンなんてねえぞ!? スープもな!」
女「単刀直入にお聞きします」
オヤジ「おうよ」
女「店主さん……」
女「あなたって無理してません?」
オヤジ「!」ギクッ
オヤジ「な、なんだってんだ!? やぶから棒に!?」
女「昼間の店主さん、私たちに怒鳴るのを躊躇してるように見えて……」
女「もしかして無理してるんじゃ、って思ってしまったら」
女「どうしても気になってしまって……」
オヤジ「な、なにいってやがるんだ!」
オヤジ「とっとと帰らねえと、ただじゃおかねえぞ!」
女「!」ビクッ
女「すっ、すみませんでした……非常識ですよね」
女「失礼します……」ススッ…
オヤジ「…………」
おやっさん!今日も期待してやす!
オヤジ「ま、待ってくれ!」
女「はい?」
オヤジ「……時間があるんなら、話を聞いていってくれないか」
オヤジ「ラーメンは出せないが、水ぐらいは出せるしね」
女(あれ? なんだか急に物腰が……)
オヤジ「なんというか……急に本当のことを話したくなってしまった」
女「……もちろん、かまいません!」
………………
…………
……
女「──そういうことだったんですか」
オヤジ「笑ってくれ……」
オヤジ「俺は頑固オヤジどころか、自分の商売のために自分の性格を捨てた……」
オヤジ「とんだ臆病者だよ」
女「いえ、そんなことありません!」
オヤジ「!」
女「人間誰だって、生活や仕事をする上で多少は自分というものを変えるものですが」
女「あそこまで徹底している人はそうはいません」
女「あなたはすごい人です!」
オヤジ「ハハ……ありがとう」
オヤジ(あんまり褒められてる気はしないけど……)
女「ですが……」
女「このままでは、やはりどこかで限界がくると思います」
オヤジ「だよねぇ……」
オヤジ「しかし、今さらどうにもならない……」
オヤジ「俺はこれからも、胃をキリキリさせながらラーメンを作るしかないんだよ」
女「いえ、今からだって変えられますよ!」
オヤジ「そりゃあ、変えられるものなら変えたいけど──」
オヤジ「俺の頑固さは、店のウリみたいなもんだし……」
女「逆ですよ、逆! 店主さんが変わったことをウリにすればいいんです!」
オヤジ「!」
女「実は……私、こういう者です」スッ…
オヤジ「『月刊のびのびフード』編集部……」
オヤジ(読んだことはないけど、コンビニとかで見たことある雑誌だ)
女「名前の通り、のんびりと食事することをテーマとした雑誌です」
女「正直に話しますが、私はあなたの店をいわゆる“悪い例”として書くつもりでした」
女「食べるのがおそい子を連れていったのも、実はわざとです」
女「“あるお店では食事の作法どころかスピードにまで指図する”」
女「“これでは食事でリラックスできるどころか、ストレスが溜まってしまうだろう”」
女「──なんて、記事を書くために」
女「店主さんの態度に気づいたのも、どちらかというとあら探しをしてたからでしょう」
オヤジ「なるほどね」
女「……申し訳ありませんでした!」バッ
オヤジ「別にいいよ、名前出すつもりじゃなかったんだろうし」
オヤジ(自覚してるし……)
女「ですが……店に入って席についたとたん、印象が変わりました」
女「清潔さはもちろん、テーブルの位置や、箸の置き方に至るまで……」
女「とても丁寧で、食べる側のことを考えたレイアウトで……驚いてしまいました」
オヤジ「ハハ、褒めすぎだよ。飲食店はどこもそんなもんだって」
オヤジ(たしかに……だいぶ研究したもんな、その辺は)
女「そして……私たちに向けて怒鳴った時、確信したんです」
女「この人は決して好きで怒鳴ったりしてるわけじゃない」
女「むしろ……根はとても繊細なんだって」
オヤジ「…………」
女「これは雑誌編集者というより、一人の客としての意見です」
女「ラーメンの味はいうまでもないですし、店内のレイアウトもすばらしい」
女「あなたは頑固オヤジキャラでなくとも、絶対に一流になれます!」
女「そして、私も……全力でバックアップしてみせます!」
女「ここで一つ、イメージチェンジをしてみませんか?」
オヤジ「……俺も人を見る目には自信があるつもりだ」
オヤジ「アンタが単に商売っ気だけで話をしてるわけじゃないことは分かる」
オヤジ「こちらこそ、お願いするよ」
女「はいっ!」
オヤジ(彼女との打ち合わせの結果、俺は二つのことを決めた)
オヤジ(一つは、いきなり頑固オヤジをやめても色々と不自然なので)
オヤジ(一週間ほど体調不良という名目で店を休んでから、キャラを変えることにした)
オヤジ(一週間も休むのは正直いって痛いが)
オヤジ(逆にいえばそれぐらい休めば、心境が変化してもおかしくないという判断だ)
オヤジ(そしてもう一つは──)
オヤジ(俺はもう頑固オヤジではないことを、店先にハッキリ示すことにしたのだ)
オヤジ(彼女と出会ってから二週間後、俺は店を休み……)
オヤジ(さらにそれから一週間後、いよいよ店を再開する日がやってきた)
オヤジ(つまり、俺が生まれ変わる日が……)
ザワザワ……
通行人A「おお、やっと再開したのか!」
通行人B「よかった!」
通行人C「あたし、あのラーメンのファンだったのよね~」
通行人D「だけどちょっと待てよ? 店の前にでかい看板が置いてある!」
通行人E「なんだ、あの看板は?」
ザワザワ……
『頑固オヤジ、やめました』
<ラーメン屋>
客E「あんな看板を置いたってことは、もう頑固オヤジじゃなくなったんですか?」
オヤジ「ああ、一週間も休んでると、色々と思うところがあってね……」
オヤジ「ま、リラックスして食べてくれよ」
客E「はい、そうします!」
ファンA「…………」ズルズルッ…
ファンB「…………」ズズッ…
オヤジ(どうやら、ファンの人たちも分かってくれたようだ)
オヤジ(どこか不満げなのがちょっと気になるけど……)
さらに、雑誌でも──
『月刊のびのびフード』
『特集! 頑固をやめたラーメン屋!』
『オヤジさん談! のびのびとのびないうちにラーメンを食べよう!』
読者A「あ、この店聞いたことある! すごいルールに厳しい店だっていってたっけ!」
読者B「なんか雰囲気がピリピリしてて入りづらかったけど、一度行ってみるか」
読者C「この写真、丸くなったオヤジさんもなかなかいいじゃん!」
<ラーメン屋>
ワイワイ…… ガヤガヤ……
女「こんにちは~!」
眼鏡女「こ、こんにちは……」
オヤジ「へい、らっしゃい!」
オヤジ「そっちのお姉さん、前は怒鳴ってしまってすまなかったね」
オヤジ「今日は自分のペースでゆっくり食べてくれ」
眼鏡女「は……はいっ!」
女(飲食店はなにが原因でお客が増減するか分からないところがあるし)
女(少し不安だったけど……よかった、繁盛してるじゃない!)
客F「うまいね~」ズルズルッ
客G「うん、このメンマがまたイケる」モグモグ…
女「ほら、猫舌なんだから、ゆっくり食べなさいって」
眼鏡女「は、はい!」
ファンA「…………」イライラ…
ファンB「…………」ムカムカ…
ファンA(やっぱりこんなのは間違ってる!)
ファンB(こんなの……俺たちの店じゃない!)
ガタッ!
ファンA「いい加減にしろ!」
ファンA「グダグダとしゃべりながら食う客、スマホいじる客、チンタラ食う客……」
ファンA「こんなの俺らが求めてるラーメン道じゃない!」
ファンB「そうだそうだ!」
ファンB「お前たちがやっているのは、ラーメンを汚す行為だ!」
シ~ン……
女(この人たちは、昔の店主さんのファンだった人たち!?)
ファンA「おやっさん、アンタには失望したよ!」
ファンA「アンタは真のラーメン道を分かってくれてると思ってたのに!」
ファンA「こんな安っぽい店にしやがって!」
ファンB「そうだそうだ!」
ファンB「体壊したって聞いたから目をつぶってたけど、やっぱり我慢できない!」
オヤジ「…………」
ドヨドヨ……
女(ど、どうするの店主さん!?)
オヤジ「……黙りな」ジロッ…
ファンA&B「!?」ビクッ
オヤジ「しゃべろうが、スマホいじろうが、チンタラ食おうが、いいじゃねえか」
オヤジ「俺は俺のラーメンをおいしく食ってくれりゃ、それでいいんだ!」
ファンA&B「うっ……!」ギクッ
オヤジ「それに俺は頑固をやめる宣言をしたが、完全にやめたわけじゃねえぜ」
オヤジ「俺は全力でうまいラーメンを作ってみせる!」
オヤジ「客は楽しく他人に迷惑かけないようにおいしくラーメン食う!」
オヤジ「これが……この店の新ルールだ!」
オヤジ「誰にも文句はいわせねえッ!!!」
ファンA&B「はうっ!」ビクビクッ
オヤジ「だけど……」
オヤジ「アンタたちがウチの店やラーメンを愛してくれてることは、よぉく知ってる」
オヤジ「いつもありがとよ!」
ファンA「はいっ! 光栄でっす!」ビシッ
ファンB「これからは楽しくラーメンを食べます!」ビシッ
女(す、すごい……!)
女(あの過激なファンたちを一喝で大人しくさせてしまうなんて……)
女(もしかして店主さんって、頑固オヤジの皮をかぶった気弱おじさん、じゃなくって)
女(実は本当の本当に頑固オヤジだったのかも……!)
その後──
<ラーメン屋>
『頑固オヤジ、ちょっとやめました』
女「あれ? 少し看板を変えたんですね」
オヤジ「うん……」
オヤジ「色々考えたんだけど、頑固って決して悪いことばかりじゃないし」
オヤジ「俺が頑固な雰囲気を出してた方が、店のムードも引き締まるし」
オヤジ「これからもちょっとだけ頑固オヤジを演じようかと思ってね」
女「チョイ悪オヤジならぬチョイ頑オヤジ、ですか」
オヤジ「ハハ、そんなとこだね」
ワイワイ…… ガヤガヤ……
男「この店も気軽に来れるようになったよな」ズルッ…
青年「ちょっと物足りないけどな……ま、これもいいか」ズルズル…
ファンA「楽しくおいしくラーメンをすする!」ズズ…
ファンB「これが俺たちの新ラーメン道!」ズルズル…
女「あら、あなたも来てたの!」
眼鏡女「はい……すっかりファンになってしまって!」チュルルッ…
オヤジ「さぁて、注文は決まったかな?」
女「じゃあ、店主さん……じゃなくて、ちょっとだけ頑固オヤジさん」
女「チャーシューメン、一つ!」
オヤジ「あいよ!」
オヤジ「楽しくおいしく食ってくれよな!」
女「はいっ!」
<おわり>
以上で完結です
「もしも頑固オヤジがキャラ作りに苦労してたら」という妄想をSSにしてみました
どうもありがとうございました!
文句なく面白かった!俺もおやっさんと>>1のファンになったわ
今回もよかった
オヤジ乙
頑固全否定じゃないのがよかった
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