男「…なんでだろね」
男「今月入って、新生活にも小慣れて、五月病も抜けて…」
男「仕事とか頑張ろうとか思って、夜遅くまで残業代を稼ごうとしたりして…」
男「ちょっとした時間を見付けて、料理の本なんか買い込んだりして…」
男「地方勤務のこともあって、教習所の予定を立てたりして…」
男「デスクワークで身体を鈍らせぬよう、会社帰りにマラソンしたりして…」
男「……でも休日、前の週の洗濯モノが溜まってたりして…」
男「気付いたら、床掃除とか始めて…」
男「結局片付かなくって、めんどくさくなって、近所の総菜屋に行ったりして…」
男「いつの間にか夕方になってて、tvつけて、アワビさんとか鉄筋ダッシュとか見てて…」
男「んーで、なーんか日付跨いでて、翌週の月曜日にはそれまでのやる気が無ってて…」
男「…あれだ、集中力とか途切れんのかね?」
男「こう、背中とかにやる気スイッチがついてたら便利なんだよなー。ぽちっと押したら、俄然はつらつ24時間アッカーマン!…みたいな感じでさ」
男「ああ、結局、今夜も淋しく侘しくコンビニ弁当っと」
チカッチカッ
男「げ…、蛍光灯が点かない。前からグローが怪しかったし、買いに行くか?」
…………………
…………………
男「♪んんん~、土曜の晩、給料入った宵越しの金は持たない俺さ~、あの子もロック、この子もロック~。…パーリィー始まりゃなんとやら~」
?(…コメタベロマメツマメ…)
男「あー、まだ春とは言え冷えるねェ」
おっさん「♪おーれーとーおまえーはどーきのさーくらー、やっほーい!」
男「…ん、やっぱり春だわ。変なの湧いてるし」
おっさん「うるへー、じょーしがなんじゃもんじゃのはなもげら!」
男「あ、おっさん財布落してやんの。おっさん、ほら、財布」
おっさん「…んーだ、このわかぞう、なーんでおれさまのさいふをもっとんじゃ!おまわりさーーーん、ここにドロボーーーがーーーーーーー!!!!!!」
男(…ダメだ。完全に酔っ払ってやがる)
おっさん「…りーまんなめんな! ひっさつくらっくしゅー!!」
グルングルン!…バシュッ!!
男「…おお凄ェ! このおっさん、前宙しながら踵落しとか! どうみてもただのメタボおっさんなのに!」
おっさん「…わかぞう、おまえはおえのげきりんにふれた!」
男「勘弁してくれ…、俺はあんたの財布を拾った。で、あんたに渡したいだけ、話せば理解る!」
おっさん「…もんどうむようッ!! はおうしょうこうけんっ!!」
ボム!!…ビチビチビチッ!!!
男「くっさ!このおっさんウンコ漏らしやがった!!」
おっさん「うぬう…、わがはどう、いまだちょうてんはとおく…」ビチビチビチ
男「…そんなズボンを脹らませながら凄まれて、覇道も波動もねえよ」
おっさん「ぬぬぬ、わかぞう、このしょうぶはひきわけじゃ!…のーかん!のーかん!もう!まん!たい!」
男「あーはいはい、分かった分かった、財布、ポケットに入れとくから足元に注意して帰れよ?」
おっさん「…いやんばかん、えっちすけっちわんたっち///!」
男「はあ、もう何でも良いや…」
………………
…………
おっさん「……かーってくるぞーといーさましくーーー!ふんふかぬんふかでたならばーーーー!!!」フラフラ
男「ああ、やっと変なおっさんから解放された…」
…ボーン…ボーン。
男「…あう、もう午前二時? えー、嘘だろ?」
?「」パチパチパチパチ
男「ん? 拍手?」
?「…見事な岡っ引き振りじゃな。今は亡き我が主に代わって礼を言うぞ」パチパチパチ
男「?? …勘弁してくれ。おっさんの次は子供かよぉ…」
?「ほれほれ、何をしておる。早う頭を下げよ。なでなでが出来ぬじゃろう」
男「…は? 撫で撫で??」
?「? どうした? わしの言葉が分からんか? 頭を撫でてやろうと言うのじゃ」
男(え、なにこのガキ? …よく見りゃ服はぼろいし全身傷だらけじゃん。もしかしてdv? ドメスティックなバイオレンス? 今流行りの児童虐待ってやつ??)
?「……おぬし、何か失礼なことを考えておらぬか? わしはおぬしを褒めてやろうと…」
男「あーはいはい、わかったわかった。…ちょっと待ってろ、お兄さんはそこのコンビニで飴でも買ってきてやる。…それからまあ、一晩くらいなら宿も貸してやるし。だからほれ、朝になったら一緒に警察に行こうぜ、な」ナデナデ
?「? …はて? どうしてわしが頭を撫でられるのだ??」
男「…うんうん、何も言わなくても良いぞ」
?「???」
男「お前、そんなにボロボロになるまで戦ってきたんだろ? …さぞ、つらい思いをしたんだろうなあ…」ヨシヨシ
?「? ああ、この傷のことか? …これらは名誉の負傷。わしにとっては云わば勲章のようなものじゃ…」フンス!
男「…ああ、そうだろうそうだろう。お前にとって、壮絶な戦いの日々だったんだろう」
?「うむ…、迫り来る数多の悪漢を前に、粉骨砕身全身全霊…」
男「…うんうん」
?「奴らは悪逆非道、傍若無人を絵に描いたようなものでな。…対して、わしらは多勢に無勢、頼りになる味方はほとんどおらなんだ…」
男(…あー、最近の子供は難しい言葉を知ってんだなー)
?「…連中は隣の町で猛威を奮い、幾人もの命を奪ってきた後、ついにわしらの町にやってきて……」
男(え? なにそれこわい)
?「わしらは連中の侵入を防ごうと、必死になって防戦したが…」
男(うん?…防戦??)
?「…唯一、八丈島から救援に駆け付けてくれた為朝公も、奴らの猛進を前にしては抵抗虚しく膝をつかれ、ついにわしらも矢尽き剣折れて…、防衛線は突破…」グスッ
男「……えーっと???」
?「…我が主も最期まで勇戦しておられたが、そこの一本松における合戦で、敵の刃がその咽喉元に……」グスグスッ
男「…あのーもしもーし」
?「……なんじゃ? おぬしは我が主の最期を聞きたくないのか?」ズビズビ
男「…うっわー俺すっげーききたいなー(棒」
?「……おお、そうじゃろうそうじゃろう、我が主は、相州伝正宗が鍛えし宝刀を振るうと、居並ぶ敵勢をばったばったと斬り倒し…、百か二百か三百か…。ふがいないわしらを援護するように、突進突進また突進……」
男「…へーすごいねー(棒」
?「…三峯と御岳の狼殿を従えて、敵総大将の首を討たんと奔り込み…」
男(ミツミネ、オオカミドノ?)
?「しかし、敵は津波となって我が主を包むと卑怯にも、四方八方から刃を伸ばしてきおって…、ああ、思い出すだけでもハラワタが煮え繰りかえる!!」
男「……」ナデナデ
?「…一面、黒い津波となった奴らが、聡明清廉なる我が主を吞み込んだのが、わしの見た我が主の最期じゃ…、あともう少しわしらに力があったのなら…」
男「あー、なんとなく…、お前が誰か分かった気がするぞ」ナデナデ
?「? …なんじゃ、おぬし、気付いておらなんだのか?」グシグシ
男「まあな…。で、その戦いって、いつ頃の出来事だったかわかるか?」
?「……ふんっ、文久2年(1862年)8月2日子の刻。まだ、ほんの150年しかたっとらんわ…」
男(…そーいや、この交差点は区画整理されるまでは祠が祭られてたっけ。…懐かしいなぁ、俺らが小学生の時、ここって集団登校の待ち合わせにも使ってたし…)
?「ほれ、どうせ撫でるならもう少し優しく撫でい…。先刻から随分と指先の動きがぞんざいになっておるぞ…」
男「…悪い悪い、つい昔の自分を思い出してな…」サワサワ
?「うむ…、たまには昔日を偲ぶのも良かろう…」
男「でも俺、初めてだぜ? 神様の頭とか触わってんの。これって罰とか当たるじゃね?」
?「…正確には神の眷属。わしはただの土地守じゃから罰を与えられん。…それに酔っ払いの暴挙を止めたのじゃ、まあそれくらいの無礼は許されようて…」
男「? 暴挙?」
土地守「あの祠の中身は我が主の首塚だったのじゃ」
男「…………」
土地守「と、言っても、わしらが勝手に奉っただけの仮初めの社で、正式な手続きをしとらんかったから、合祀の時には、文言にすら入れて貰えなんだがな」
男「…………」
土地守「…結果、もう我が主はこの世におらぬが、亡骸とはいえ、独りきりにするのは寂しいじゃろ?」
男「ん、そうかもな」ポンポンッ
土地守「…これ、頭を叩くでない。まあ、の…。祠が撤去されてからは、唯のアスファルト道路の一角でしかないのじゃから、本来なら、あの酔っ払いが何所で野糞を垂れようと、わしが口出しする謂れはないのじゃが…」
男「ああもう、勝手な自己満足万々歳! …んーな顔すんな。あのおっさんのお陰で、俺は古い顔馴染みと再開できたんだ。お互い喜ぼうぜ!!」
土地守「…物は言い様じゃの」ヤレヤレ
昔?の知識と言いまわしがすごいな
男「………………」ポンッポンッ
土地守「…………//////」
男「な? お前、いつもこの時間帯にここに居るのか?」
土地守「…ぬ? それは分からん。今日はたまたま、我が主の危機を察知して駆け付けただけじゃ。普段は時間を選ばず、人間達の手助けを行う土地神の真似事をしとる」
男「土地守の役目は大変だなぁ?」
土地守「まあ、それが仕事じゃ。されそろそろ世も更けた…」
男「げ、もう午前三時かよ!」
土地守「……ふふっ。ばいばい、それじゃあの」スッ
男「おお、消える時は相変わらず一瞬か! さーて、俺もさっさと飯だ飯!! 明日も仕事だっ!!!」
土地守かわいい
…………………
…………………
(月曜日 )
後輩「男先ぱーい! おっはよーございまーすっ!!」
男「よっ、後輩か。おはようさん、今日も元気一杯だな」ニコニコ
後輩「…ええ、昨日近所で美味しい海鮮料理屋を見つけて、…って男さんの方こそ、何か良い事あったんですか?? えらくご機嫌そうですけど???」
男「お、分かるか? 昨日、古い知り合いにバッタリ会ってな。つい話し込んじまった」ニヨニヨ
後輩「あー分かります…。社会人になると、町で懐かしい幼馴染とかに出会ったりすると、つい、お互いの近況やらで盛り上がっちゃいますよねー」
男「そーそー、不思議とそうなんだよなー」
後輩「…もしかして、その知り合いさん、女性の方ですか?」
男「…あーどうなんだろ? 確認してねーや」
後輩「は? 確認してない??」
男「確か、あいつと遊んだのって、小学2年生の夏休みの間だけだったし……」
後輩「………………」
男「…言われてみれば、かくれんぼとかはしてたけど、直接あいつに触れたのって、もしかして昨日が初めてやも???」
後輩「…あー。時々いますよねー。中性的な方って(性別的に)」
男「ん、確かに…。あいつは昔ッから中世的なヤツ(口調的に)だったな。姿や服装とかも、今思えば、あんまし昔と変わってなかったようだったし…」
後輩(ぬ、合法ロリっ娘登場ですか?)
男「んでさ、あいつ、いきなり子供時代みたいに頭を撫でようとするからさ、隙をついて、俺の方が撫で返してやってな…」クスクス
後輩(……ううう、もう、そんなに親密な間柄にご進展ですか…)
男「んー、今度会ったら確認してみるか? なーんか人恋しそうだったし、…胸でも揉んでやるべきか? あーでも、そうしたらさすがに怒られそうだなあ…」
後輩「いやいや先輩…、それは怒らない人は居ませんって///」
男「で、今日はどうした。うちの部の会報でも取ってくるように言われたのか?」
後輩「ふふーん! 違いますよう!!」ムネハリ!
男「えーと、進展状況の報告は先週だったし…、あとは何だっけ?」
後輩「…ほら先輩! 私の胸!!」ムネハリ!ムネハリ!
男「胸ってお前…、『たいそーでもひんそーでもない、到って普通の胸ですね』?」
後輩「ちーがーいーまーすーーッ!!」
男「???」
後輩「…確かに、私の胸は、男性を篭絡する魔性のメロンでも、貧乳的なステータスでもないのは事実ですけど…」ブツブツ
男「あー降参、答えをよろしく」
後輩「…研修バッチですー、研修が今日から取れたんですー」ツーン
男「ああ…、むくれんなむくれんな、…気付かんくて悪かったよ」
後輩「えーえー、甚く大変傷つかせて頂きましたー。…せっかくの月曜日の朝なのに、私のガラスの心は痛く深く、硝子のロンリネスー」
男「あ、子守唄じゃないんだ」
後輩「…………」ツーン
ガラガラガラ…
上司「おう、男君じゃないか。おはよう」
男「あ、上司さん。おはようございます。もう帰国されたてたんですか?」
上司「ああ、昨日の夜中に関空。…お陰さまで、多分、今日一日は時差ぼけだ」アフアフ
後輩(……おお、ダンディーな人だ)
上司「あ、既婚だぞ?」
男「? どうしたんですか突然…、知ってますよ?」
上司「…いやいや、今ここで言っておかないと、家内がいろいろと五月蝿くてね」
男「??」
上司「まあ、僕のことなんて正直どうでもいい。…それより、そちらのふくれっ面のお嬢さんは何処のどなたさん?」
後輩(……お、お嬢さん///)
男「おい後輩、俺の上役の上司さんだ。挨拶しろ」
後輩「ええと、あ、はい! 本日付でこちらに配属されることになった、新人の後輩と申します!! 上司さんよろしくお願いします!!」
上司「あはは、元気の良い新人さんだね。…僕は上司、名義上はこの部署の責任者だけど、営業に出ることが多くてね…。男君には世話を焼いたり焼かれたり、後輩君も慣れてくれば、気楽に接してくれると僕としても嬉しいね」
後輩(紳士や、ダンディズム紳士…)
男「上司さん、今回の営業先ドバイでしたっけ?」
上司「ああ、成果はまずまずかな? …何件か業務提携の打診が来ているみたいだから、後で確認しておいてくれないか?」
男「さすが上司さん。営業成績no1の名は伊達じゃない」
上司「んんん、残念ながら半分は中国資本の撤退の影響だけどね…。あの国にとって、今が新しいパートナー探しの時期だったんだよ」
男「また御謙遜を」
上司「…ああ、それから残りの半分、男君のプレゼンがかなり好評だったよ。…あのプレゼンのお陰で、顧客の半分は、うちの製品に興味を持ってくれたようでね? 東京本社の人も褒めていたよ」
男「おー、連日遅くまで残った甲斐がありました…」ホッ
後輩「? そんなに凄い内容だったんですか??」
上司「…ふふっ、この新人さん、どうやら君の業績に関心があるようだ。ついでだし、少し説明して差し上げろ」
男「ええー…、業績もなにも、単に気を衒わなかっただけですよ?」
後輩「……」ワクワク
期待
…………………
男「はぁ、まさか午前中全部使って、プレゼンの反省点の洗い出しをやるなんてなー」
後輩「でも、面白かったですよー。ドバイと日本の関係性をお話しするのに、三木本幸吉さんのお話から始めるなんて、お二人は博識さんです」
男「…恥ずかしながら、あのpv、最初から全部上司さんの思いつきなんだよ。俺は、あの人の指示で資料を作っただけ。凄いのは上司さんなんだよ」
後輩「謙遜謙遜―。新人の私からすれば、お二方は凄い方々に見えます」
男「そんなもんかー」
後輩「そんなもんですー」
男「…ふうむ」
後輩「それより男先輩は、お昼どうされるんですか?」
男「ん、ああ、今日は弁当で」ゴソゴソ
後輩「お、おべんトゥ???」
男「ん、どうした? お前帰国子女だっけ?」
後輩「…えーと、いや何でもないデスヨ? …あの、そのおべんと、もしや恋人さんのお手製とかdeathか?」
男「いいや、今朝話したろ? 昨日古い知り合いと意気投合して、遅くまで話してたって」
後輩「あ、ということは先輩、もしかして徹夜明けですか?」
男「ん、まあな。あの後帰宅したら寝るのに中途半端な時間で、一旦眠りに落ちたら、出社時刻に起きれそうになくて、せっかくだから久しぶりに料理に手を出してみた」
後輩「カレーピラフに、ミニコロッケ。豪勢なお弁当ですね」
男「おう、冷蔵庫にジャガイモと挽き肉があったんで、わりとコロッケは自信作。ひとつだけなら摘んでもいいぞ?」
後輩「わーい♪ いただきます」
男「………………」
後輩「もごもご…、あ、本当に冷凍モノ臭くない」
男「総菜屋のラード揚げのコロッケもいいが、いかんせん衣が厚いのが、どうにも気にいらんくてな? だから、この薄皮コロッケは俺のお気に入りなんだよ」
後輩「ってか普通に美味しい。なんか女の子的に悔しい。…先輩、お料理系男子?」
男「? お料理系男子? よく分からんが気に入って貰えたんならいいや。それで、お前は昼飯はどうするんだ?」
後輩「ええと、私もおべんとなんですけど、ここで食べても?」
男「んああ、構わないが、椅子もってこいよー。さすがに一つきりの俺の席を半分にするわけにもいかんし」
後輩「はーい」
ドタドタバタバタ…
男「…あー、眠い」
上司「ふふふ、お二人は随分と仲が良いようだね」
男「あはは…、なーんか、新人研修の案内係をしてた時に妙に懐かれましてね。この二ヶ月間、ずーっとあんな感じですよ」
上司「いやいや。あんな可愛い子に近寄られて、男として悪い気はしないだろう?」
男「ま、嫌われるよりは何倍もマシです。…ですが、どーにも何て言うか、どんな具合にあの子を扱っていいか考えあぐねいている最中で」
上司「ふむ、分かるような気はする」
男「…俺ら男同士の距離感とは、明らかに違い過ぎます。つーか、近すぎます」
上司「まあまあ、これから長い付き合いになるかも知れないのだから、仲良くしてくれよ?」
男「ええ、失望させない程度には『先輩』でいますよ」
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