真姫「海未と毒薬」 (31)

希「真姫先生の回診はいつに変わったの」

海未「三時半です」

希「また会議かな」

海未「はい」

希「浅ましい世の中やね。
そんなにみんな、医学部長になりたいものかな」

一月の風が破れた窓をならしていた。
窓硝子に張り付いた爆風避けの紙がその風に少し剥がれて、
カサ、カサと音を立てている。

第三研究室はこの病棟の北側にあったから、
まだ午後二時半すぎたばかりだというのに夕暮れのように冷え冷えとしていた。





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遠藤周作か

人体実験

机の上に新聞紙をひろげて希は薬用葡萄糖を古いメスで削っていた。
少し削りるたびに、彼女は掌にその白い粉を着けて如何にも惜しそうに舐めるのである。

病棟は静まりかえっている。
一階の大部屋患者も二階の個室患者も三時までは絶対安静なのだ。

黄色い痰を白金線でガラス板に引き伸ばしていた海未はそれを青いガス火の上で乾かした。
痰の焼けるイヤな臭いが鼻についた。

海未「…ガベット液が足りない」

希「なに?」

海未「ガベット液が足りないんです」

希「誰の痰なの、それは?」

海未「おばさん -----の」

希「…まだあなた」

希「何時まであなたあの施療患者の面倒を見るの」

海未「面倒見る訳じゃ、ないんだけど」

希「けどどうせ死ぬ(ステル)患者じゃないの。ガベット液を使うだけ無駄やで…」


おばはんしんでまうんよね

海未「でも、まだ助かるかも」

希「助かるものですか。」

希「助かったとしても、どうなるねん。大部屋にも、個室にも、ダメな奴はごろごろしているやないの。なぜ、おばさんだけに執着するの」

海未「執着しているわけじゃ、ないです」

希「おばさん、あなたのお母さんにでもにてますか」

海未「まさか」

希「甘いね、海未ちゃん」

希「何時まで女子学生の気分でいるんや」

>>1ちゃん中高生かな?
中二の時の読書会で読んだ記憶

希「みんな死んでいく時代ね」

希「病院で死なない人は、毎晩、空襲で死ぬんや。おばさん一人、憐れんでいたってどうにもならない。それよりもホノキチを治す新方法を考えるべし」

壁にかけてある診察服に袖を通すと、希は、姉が妹を諭すように微笑んで出ていった。

中2でこんなもん読ませるんか(驚愕
今日はここまでです

俺も高校生だが
コレは中学生が読むレベルじゃない

さっとwiki見てエグい話だなぁと思った(粉ミカン)

どんな話か知らんけど胸糞じゃなさそう

穂乃果ちゃんまじえんじぇー
http://i.imgur.com/uCZLXGm.png

穂乃果のスカートをめくった男子は成敗
http://i.imgur.com/M7V5AQs.png
http://i.imgur.com/l42kacN.png

>>14
消えてるよぉ…

こういうシリアスな空気をぶち壊す誤爆好き

都合で明日まで投下できません
申し訳ないです

たんなる医局の研究生にすぎない海未にも毎日、
真姫教授の苛立った表情を見るたびに部長の椅子をめぐって医学部の教授たちが動揺していることが薄々と感ぜられる。

この頃、回診の時など、真姫教授は妙に医局員に当たったり、施療患者を叱りつけたりするのだ。

希の表現によると教授達の大半は高坂穂乃果第二外科部長の勢力に、「丸めこまれた」のだそうである。
実際のところ、部内の経歴から言って、真姫教授が医学部長を継ぐのは至極当然の話に思われた。

その当然が覆りはじめたのは高坂派がF市の西部軍と結び付いて足固めを前からしていたからだ。

これも希の話だが、高坂教授は自分が医学部長になれば大学の二病棟に傷痍軍人だけを収容するという内約を軍に与えたということだ。

そういう複雑な学内の内情は下積みの研究員にすぎぬ海未にはハッキリ呑み込めなかった。
もっとも呑み込めたところでそれが自分の将来とは深い関係があるとは思えなかった。

海未(私は、どこか山の診療所で結核医として働けば、それで結構だ)

その午後も真姫教授の機嫌が海未の心配の種だった。
三時半の回診時間が来た時は第一外科部長室の前で矢澤助手や希と真姫教授がでてくるのをまっていた。

海未「会議の様子、とうでしたか」

にこ「知らないわね」

一研究員にはそんな医学部の事情に嘴を挟む権利はないと言うように、矢澤助手はジロッと海未の顔を見た。

にこ「それよりあなた、阿部ミツの胃液検査表をまだ持ってきてこないわね。今日真姫先生に聞かれたら、どうするんです」

予備軍医として研究室に戻ったばかりのこの助手は、この機会を利用して第一外科での自分の位置を固めようとしていた。
普段は天真爛漫な所を見せる人でもあったが、ここ最近はそんなこともなくなってきていた。
この時は誰も彼も病院内での立場の確保に汲々としていた。

海未は少し言い淀み、その様子を見た矢澤助手はそれを一瞥すると、またカルテの整理に戻っていった。

希「今日も荒れるね」

真姫教授が黙って廊下を歩き始めたとき、希は海未と肩を並べながら、そっとささやいた。

希「海未ちゃん、ほんまに阿部ミツさんの胃液を調べなかったん」

海未「あの患者(クランケ)、苦しがってチューブを飲まないんです。あまりに可哀想だから」

希「……やりきれないね」

海未「しょうがないでしょう…真姫教授に聞かれたら だったと答えるしかない…ガフキー番号も適当に言っとくしかないです…」

× 海未「しょうがないでしょう…真姫教授に聞かれたら だったと答えるしかない…ガフキー番号も適当に言っとくしかないです…」

○ 海未「しょうがないでしょう…真姫教授に聞かれたらプラスだったと答えるしかない…ガフキー番号も適当に言っとくしかないです…」

やがて真姫教授の回診が始まった。

真姫教授は矢澤助手を引き連れて大部屋へと入っていった。

にこ「寝間着を脱いでください」

矢澤助手がはじめの患者に命令する。

にこ「背をこちらに向けて、薔薇疹は元通りですが耳から膿が出始めました」

だが真姫教授は体温表を手にしたまま、ぼんやりとしていた。

真姫「フィーベルは?」

真姫教授はぼうっとした感じで訪ねる。

にこ「耳が痛みはじめてから三十八度を越しているわ」

患者「もう痛くござっせん」

中年の患者は泣き出しそうに髭だらけの顔を歪めた。

患者「もう今は痛くござっせん」

この症状は明らかに耳結核の前兆だった。
右耳のまわりで淋巴(りんぱ)腺が膨れ上がり、小さな瘤を作っていた。

患者「たいしたことござっせん」

真姫「……」

真姫教授は、それきりだまったまま、他の患者を見て周った。

真姫「もう、いいわ」

暫く患者を見て周った後、くたびれたように真姫教授は矢澤助手の差し出した新しいカルテを右手で遮った。

真姫「急変した患者はいないんでしょう」

にこ「はあ、疲れているんだったらやめようか」

矢澤助手は差し出したカルテを引っ込めて、そのまま海未の方を向いた。

にこ「それで……」

にこ「海未ちゃんに診さしておいた患者(クランケ)のことだけど……」

真姫「だれ?」

にこ「そこに寝ている施療の女性患者です…」

おばさんはその声を聞くと、一段と粗末なベッドから破れた軍用毛布に体を包むようにして起き上がった。

にこ「いいですよ、寝ててください」

矢澤助手は優しく患者をベッドに戻す。

にこ「実は本人も納得しているんですけど、どうせ死ぬのなら手術(オペ)をやってみたいと思うんだけど……」

真姫「……ええ…」

真姫教授は不明瞭な声で振り返った。
彼女の顔には別にこの事について関心も好奇心もないようだった。

にこ「ちょうど良い機会よ。左肺に二つカネルベが、右肺に浸潤部があるから両肺オペの実験にはもってこいだわ」

真姫「………」

にこ「…小泉助教授が是非、やってみたいと言っていて…」

真姫「ええ…」

にこ「じゃ、予備検査を海未ちゃんにやらせておくよ。その上で決定してね」

矢澤助手はこちらを振り向いて、「いいよね」と促した。

海未は救いを求めるように看護婦長と希の顔を探し求めたが、看護婦長は能面のような表情を作っていたし、希は希で顔を背けていた。

にこ「……海未ちゃん、やってくれるよね」

海未「…はい……」

海未はか細い声で答えた。

くたびれたように真姫教授が廊下に出た後、海未は壁にもたれて深いため息をついた。

海未(オペをやればあのおばさんは百のうち五十は死ぬに決まっている。
まして、この医学部でも二例しかない両肺整形を行えば九十五パーセントは殺してしまうだろう。だが、オペをしなくとも彼女は半年以内に衰弱死する)

海未は、今日の午後、希がいっていた言葉を思い出していた。

海未(……病院で死なない人は、毎晩、空襲で死ぬ……)

本当にみんなが死んでいく世の中だった。
病院で息を引き取らぬものは、夜ごとの空襲で死んでいく。

病院の本館の屋上に上ると、日ごとにF市の町が小さくなっていくのがわかる。

もう空襲警報も警戒警報もないようだった。鉛色をおびた低い雲のどこかで絶えず、ごろん、ごろんと鈍い響きが聞こえ、時々思い出したようにパチ、パチと、豆の弾けるような音がした。

昨年までは中洲が焼けた、薬院の一帯も焼けたと患者や学生たちは大騒ぎをしていたが、この頃は何処が燃えようが誰も口に出すものはいない。
人々が死のうが、死ぬまいが、気にかけるものもいなくなった。

医学部の西には海が見える。

屋上にでるたびに海未は、時には苦しいほど碧く光り、時には陰鬱に黒ずんだ海を眺める。
すると海未は戦争のことも、あの大部屋のことも少しは忘れられる気がする。
海の様々な色は、美しいうす青い髪を持った彼女と同化して、様々な空想を彼女に与えた。

この戦争が終わったら、医師の立場を捨てて夢だった歌謡の歌姫になっても良いかもしれない…さもなくば、小さな町で医者をやって、平凡に暮らすのが良いかもしれない…ともかくも平凡が一番幸せなのだ

学生時代から海未は詩を作るのが趣味のひとつであった。そのため、詩には深い親しみを持っていた。

海未には、海が碧く光っている日には不思議と心に浮かんでくる、希から教えてもらった詩があった。

羊の雲の過ぎるとき

蒸気の雲が飛ぶ毎に

空よ お前が散らすのは

白い しいろい 綿の列

(空よ お前の散らすのは 白い しいろい 綿の列)

今日はここまで
お付き合いくださりありがとうございます

乙 ええな

このスレからインテリジェンスの波動を感じる

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