ありす「私達とPさんの」 桃華「出会いのお話ですわ!」 ―櫻井桃華編― (116)

このSSは
ありす「Pさんに認められた方が」 桃華「大人、ですわね?」
ありす「Pさんの家に!」 桃華「お泊りですわ!」
に続く3作目ですが
どれもこれも1話完結式なので、前の作品を読まなくても大して問題ありません。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1405140394

http://i.imgur.com/j50Nx6d.jpg


※歴史秘話ヒストリア OPテーマ曲

ttp://www.youtube.com/watch?v=OG6u8CDvpI4


歴史、それは――

絶え間なく流れる大河

その中の“一滴”を

秘話と呼ぶ

ちひろ「お嬢様がアイドルに!?」

ちひろ「東京の小さなアイドルプロダクションに新しく入った少女、櫻井桃華ちゃん。なんと大手企業のご令嬢!」

ちひろ「一体どうして、神戸出身の少女が遠く600kmも離れた東京のプロダクションに来ることになったのか」

ちひろ「そのまま過ごして手に入る栄光の地位よりも、凋落の可能性がある芸能界に進むことを決意したのか?」

ちひろ「彼女の覚悟と、そこに至るまでの物語です」


――オトナのレディーたるもの ~令嬢 櫻井桃華の苦悩と決意~――


【エピソード1:心の輝き 兵庫の地で見つけた桜】


社長「P君! さあスカウトだ! 出張だ!」

モバP「そんな突然『さあ牛だ!』みたいに言われましても」

社長「では言い方を変えよう。P君、スカウトで出張だ」

モバP「何も変わってないじゃないですか!」

社長「ほら、さっきと比べて言葉の溜めとか無駄要素を省いただろう?」

モバP(そういう問題なんだ……)

社長「P君、うちのアイドル今何人だい?」

モバP「……この間スカウトした、まゆ一人だけです」

社長「だよなぁ……」

社長「スタートダッシュして間もないとはいえ、やっぱり人足りないよなぁ……」

社長「でも、見切り発車の割には佐久間君もファッション雑誌の撮影入ったりして、好調な滑り出しなのは良い傾向だよ」

モバP「すいません。自分がもっと何人も連れて来れば……」

社長「いやいや、P君のせいじゃないさ。むしろP君のおかげでファッション誌の仕事取れたんだもの」

ちひろ「社長、焦りは禁物です。切羽詰まっている感じを出すと女の子は警戒してしまいますから」

社長「うん、とりあえず適当になんとかなるだろう! 人生なんてそういうもんだ、なぁP君!」

モバP「そ、そうですね。できれば暗いよりも明るいほうが」

社長「ポジティブに行こうじゃないか! はっはっは!」

ちひろ「社長。ポジティブなのは良いんですけど、とりあれず危機感は少しくらい持ってくださいね」

社長「あい」

社長「私としては、正直言うと千川君は事務員よりアイドルに向いていると思うんだよね」

ちひろ「へっ!?」

モバ「あ、それは自分も思いますね」

ちひろ「Pさん!?」

社長「もうアイドルになっちゃおうぜ千川君!!」

ちひろ「わ、私は事務員になるために勉強してきたので」

社長「ちっひ、アイドルになってくれないのん?」

ちひろ「なりませんよ……」

社長「つらいのんな……」

社長「ということで、P君か私がなんとかスカウトして来ないと現状が打開しないわけだ」

社長「そこでだな、P君に再び地方出張スカウトをお願いしたい」

モバP「この間の仙台の時みたいにですか?」

社長「そうそう」

モバP「でも、この間のはスカウトというより、まゆが自主的に来てくれたたけみたいなものなので。そういう意味ではあのスカウトも成功していないような……」

社長「ポジティブにとさっき言ったばかりじゃないか。経緯はともかく結果として一人スカウトできたんだからね」

社長「私だって時間がある時は、渋谷とか原宿とかで同じように名刺やチラシ差し出しているけどさ……君ならわかるだろう?」

モバP「ええ。ガン無視決め込まれるか、通り過ぎてくすくす笑われるか、そんな感じですね」

社長「そう、そうなんだよ! 若い子が集まる場所ほど、ガードが堅い!」

社長「そりゃあね、道を歩いていて突如オッサンに『うちの事務所来てアイドル目指しませんか!』なんて言われたら、警戒するのが普通なんだけどさ」

モバP「自分も社長も都内の勝率0%ですからね……」

ちひろ「23区外とかはどうなんです?」

モバP「一回、社長と東福生までは行きましたよ」

社長「八高線ってボタン開閉ドアなんだな。ああいうの初めて乗った」

モバP「あれ、俺は実家が田舎の方でしたけど、近くのローカル線のドアはあのタイプでしたよ?」

社長「そうなの? じゃあ私がそういうのに乗ったこと無いだけか……」

社長「ちょっと脱線しちゃったね……電車だけに。なーんつってー!」

社長「というのはジョークなんだけど、やっぱり都内じゃ正直微妙なので、地方にしかいないようなダイアモンドの原石を見つけて欲しい」

モバP「わかりました。そうすると、次はどの辺が良いですかね?」

社長「前回が東北だったから、今回は関西圏行こうか」

ちひろ「大阪ですか?」

社長「いや、大阪もここと似たような反応される気がするから除外だ。そこよりも西に行こう」

モバP「中国・四国・九州地方ですか……」

社長「うむ。どこが良いかなぁ~。うどん県こと香川も良いなぁ。山陽の大都市こと岡山も良いなぁ」

※岡山県 http://i.imgur.com/7NifSaV.jpg

社長「よっしゃ! 100万ドルの夜景の神戸だ! 兵庫だ!」

モバP「えっ、そんな観光みたいな理由で決めるんですか?」

社長「遠くまで行って仕事だけなんてつまんないじゃん。空き時間で観光してきなよ。あ、おみやげよろしくね」

ちひろ「神戸のおみやげ欲しいだけですよね、それ」

社長「まあまあ千川君。期間は特に決めていないけど、めどは大体一週間から十日くらいで」

社長「手ごたえがあったら二・三日でささーっと戻ってきても良いし、長くいても全然ダメだな……って時は一週間で打ち切って戻っても良い」

モバP「裁量は自分次第、と」

社長「学校のテストとかスポーツの試合と同じだよ。こういうの終盤の時間無い状況で煮詰まると巻き返すの厳しいから」

モバP「なるほど……」

モバP「了解です。神戸でアイドルの卵、探してきます!」

社長「おぉ、素晴らしい意気込みだ! さすがP君!」

社長「で、今日が木曜日だから……P君は今週土日に予定はあるかい? 土日をまたいで向こうに行ってもらいたいんだけど」

モバP「今週は特に。何故ですか?」

社長「観光地ともなれば、土日のタイミングで県内外から観光客も多く来るだろうからね」

ちひろ「……なるほど! より多くの人から、アイドルになれそうな人を探せると!」

社長「平日の真昼間に駅前へ行ったって、地元民しかいないからね。少しでも可能性は高めたほうが賢明だろう?」

モバP「社長、そこまで考えて……!」

社長「ビジネスは先読み勝負だよ。先物取引だよ」

ちひろ「……適当なのにこういうところが変に気が回りますよね、この人」

モバP「……慧眼というか先見というか。すごいはずなのにいつものアホさで台無しなのが謎ですね」

社長「おいおい、全部聞こえているぞー。褒めるなよー」

モバP「土日の件は良案だと思います。人が多いに越したことはありませんから」

社長「よし、じゃあ新幹線の券は私が手配しておこう」

モバP「えっ、社長がですか?」

社長「だって君、通勤で使っているのメトロだろう? 私もメトロだけど、近くに山手線の駅あるから、帰りに窓口行ってくるよ」

ちひろ「インターネットで新幹線の券は予約できますよ?」

モバP「というか前回はネットで予約したじゃないですか、ちひろさんが」

社長「んん~? そうだったかな~? オッサンもう歳だから曖昧でさぁ」

社長「まぁ、たまにはみどりの窓口にいる制服女性職員から手渡しで受け取るのも良いものだぞ~?」

モバP「そこが目的ッスか……」

社長「はっはっは! 否定も肯定もしないでおくよ!」

モバP(すげー心配だ……)

ちひろ(すこぶる心配だ……)

社長「頼んだよ……って言うとプレッシャーかかるかもしれないけど、他に言葉が無くてね」

モバP「任せてください。必ずご期待に応えてみせますよ」

社長「うむ! その言葉が聞きたかった! 好きなようにスカウトしてきたまえ!」

社長「ところで……神戸のおみやげといえば何だろう? 神戸居留地の缶ジュース?」

ちひろ「それ全国のスーパーで売っていますよ」

モバP「何かそれっぽいの見繕ってきますから」

次の日


モバP「一度会社に顔を出して、社長から購入した乗車券をもらったのは良いけど……」

モバP「これ」



【 東 京(都区内) → 姫 路 】



モバP「……」

モバP「姫路じゃねーか!!」

モバP「なんで神戸行って来いって言った本人が姫路行きの券を買ってくるんだよ!!」

モバP「あかん。社長の適当レベルが高すぎて考えが読めない」

モバP「そもそも考えあっての姫路行きなんだろうか……」

モバP「払い戻ししようかなぁ。でも『やっぱ神戸じゃなくて姫路で!』って意味なのかもしれないし」

モバP「とりあえず行くか」

三時間後 姫路


モバP「新幹線のぞみにはコンセントがあるのは知らなかった。他の新幹線はどうなんだろう」

モバP「……平日のお昼だから、買い物のおばちゃんとスーツ着たオッサンしかいないな」

モバP「一回会社に連絡しよう」

ちひろ『はい、シンデレラガールズプロダクションです』

モバP「あ、ちひろさん、俺です。到着しました、姫路」

ちひろ『Pさんお疲れ様で……えっ、姫路?』

モバP「はい」

ちひろ『ちょ、ちょっと待ってください!』

社長『やぁ、P君! 到着したかい?』

モバP「しましたよ。ただし姫路ですけど」

社長『そうかそうか。いやね、窓口の近くにあった観光地のポスター見たんだけど、明るい時間なら神戸より姫路のほうが良いかなー、なんて思ったんだよね。急遽変更しちゃった』

モバP「なんとなくそんな気はしていたので、払い戻ししないでちゃんと姫路来ましたよ」

ちひろ『社長! またそんな勝手なことして!』

社長『ははは、すまんすまん』

社長『P君、コンコースや駅周辺の人はどんな感じだい?』

モバP「今南側の出口ですけど、ダメですね。スーツのオッサンとかはいますが、アイドルに相応しい女の子は見当たりません」

モバP「北側は商店街ですし、何より姫路城がありますから人は多いと思います。そっち側はまだ行ってないのでわかりませんが」

社長『なるほどな。でも明日になれば否応が無く人が来るんだ、今日は宿取って観光したら良いんでない?』

モバP「良いんですか?」

社長『オッサンに名刺配ってもしょうがないもん』

ちひろ「Pさん、すいません。私が無理にでもネット予約すればこんな事態にならずに済んだのですが……」

モバP「観光できるので結果オーライですよ。もちろん女の子探しもしますけどね。では」

モバP「よし、社長の許可が下りたし、荷物もキャリーケースだけだからこのまま姫路城に行ってみよう」

モバP「そういえば城を見るのなんて初めてだなぁ。別名、白鷺城なんだっけ? 楽しみだなぁ」

姫路城 http://i.imgur.com/MQTRSkL.jpg


>>1が行った時はこの状態でした。2014年6月14日にはこの建屋が外されたそうです。これは過去話だし、モバマスのサービス開始時はまだこの状態だったから問題無いです。

モバP「……なんじゃ、あの縦長体育館みたいなの。城の絵が描いてあるけど」

モバP「え、2009年6月27日から修復工事中? マジかよ」

モバP「でも中は見れるんだ。じゃあ別にいいか」

モバP「おぉ~桜満開になってんじゃん。すげー」

次の日


モバP「姫路城も観光したし、一泊したし、スカウトの準備は充分整った。さぁ、名刺配るぞ!」

モバP「社長の目論見通り人が多い。駅のコンコースにも家族連れとかカップルとかわんさか来ている」

モバP「まず、コンコースで素質のありそうな女の子を探して、次は姫路城前のおみやげ屋の通りあたりでやってみよう。城の敷地内は……」

モバP「……うん、通報されそうだからやめておこう」

モバP「二人三人良い人はいたけど、手ごたえはあんまり無かった……」

モバP「話しかけて急に小走りで走り去ったり、無視とかされないだけ良い。立ち止まってくれることがこれだけありがたいとは!」

モバP「地道に探してみよう。こんなに人がいるんだから」

モバP「うーん……」

モバP「……!」

モバP「あの子は……」

少女「ここに来るのは久しぶりですわね。神戸よりも風情がありますの」

男「わざわざ人の多い日を選ばずとも好かったのではありませんか?」

少女「貸切にしろ、とでも言いたいのかしら?」

男「人の集まる場所です。お嬢様に不貞を働こうとする輩もいるかもしれません」

少女「そうならないようにあなたがおりますのよ。頼みますわね♪」

男「……かしこまりました」

http://i.imgur.com/I1OwXjf.jpg

モバP「……これは、これが俗に言う“ピンと来た”ってやつかな」

モバP「あの子、良いじゃないか。何が良いのか自分でもよくわからないけど、何か良い! ここしばらくの中で一番良い!」

モバP(けど、何かこう一般人っぽく無いオーラが出ているんだよね。話しかけづらい)

少女「あら?」

男「どうなさいましたか」

少女「あの方」

モバP(これは悩むな……あっ、こっち見た)

少女「……」

モバP「……」

少女「♪」

モバP(微笑んだ。うん、かわいい)

モバP(俺の勘違いとかチラ見じゃないよな、あれ。じっとこっち見ているし、笑いかけてくれたし)

モバP(やっぱり声をかけるべきか……)

モバP(いや、何を悩んでいるんだ俺! 思い出せ、今日残っているから明日来ても買えるだろう……と思って次の日に買いに行ったら売り切れていたイルブリードのことを!)

売り切れていたやつ http://i.imgur.com/1pEaP0k.jpg

モバP「とりあえずやっちまえ!」

モバP「君! えぇと、君! ブロンドの髪の!」

男「……お嬢様」

少女「わたくしの安全が気になるのはわかりますが、あの方は大丈夫だと思いますわ」

男「しかし」

少女「ではお互いに仕込みのイヤホンとマイクだけはこのままで、これ越しに連絡を。すぐに出て来れるような、付かず離れずの距離にいてください。わたくしも見える範囲におりますわ」

少女「これでよろしいかしら?」

男「……お気をつけて」

少女「ええ」

モバP「き、君!」

少女「あらあら、ごきげんようですわ♪」

モバP「どうも、ごきげんよう。すまないね、いきなり声をかけてしまって」

少女「アナタ、わたくしを見る目つきが普通の人のソレと違ってよ?」

モバP「そんな不審者っぽく見えていたのか……」

少女「いえ、ちょっと違いますわ。でも……」

少女「……ウフ。いったいナニを考えていらしたの? 教えて下さる?」

モバP「実は、自分はこういう者で」

少女「まあ。プロデューサーさんですのね」

モバP「突然なんだが……君、アイドルにならないかい?」

少女「アイドル? わたくしが?」

モバP「そう。アイドル」

モバP「あまりにも突然だから疑ったりするかもしれないけど、俺がプロデューサーなのは本当だし、君に魅力を感じたのも本当だ。君の中には輝くものを感じる」

モバP「少しで良いんだ。話をする時間を貰っても良いかな!」

少女「時間は別に大丈夫ですわ。でもどうしましょうか……」

男『お嬢様、聞こえますでしょうか。向こうの人通りの多いひらけた場所にベンチがございます。私もそちらに移動しますので』

少女「……では、あちらに座って続きをお話しましょう。屋根もありますし」

モバP「良いのかい!? ありがとう!!」

少女「シンデレラガールズプロダクション、東京のアイドルの芸能事務所なのですね?」

モバP「そう。でも起業したてでさ、仕事は少しあるんだけど人がいなくて……」

男『只今確認してみましたが、どうやら本当のことのようです。東京の芸能事務所で、従業員が三名、所属アイドルが一名です』

少女「東京の事務所なのに兵庫までいらしたの?」

モバP「東京以外にもアイドルになりたい女の子はいるだろうからね」

少女「それもそうですわね♪」

モバP「本当にもうね、話しかけたりはするんだけど、東京だと基本無反応で。こっち来てからも話くらいは聞いてくれるんだけど」

モバP「腰を落ち着けてここまでじっくり女の子と話したの、何週間ぶりかわからない」

少女「プロデューサーも大変なのですわね」

モバP「道で見知らぬ男に話しかけられたら、普通は警戒するよ。このご時世は話しかけただけで通報されるから人に近づく時も注意しているつもりだ」

モバP「でも、君はアイドルになるべきだ! その素質は間違いなく持っているんだ! って言われて悪い気する人はたぶんいないだろうから、そこは自信持っているつもり」

少女「一つ聞いてもよろしいかしら?」

モバP「どうぞどうぞ」

少女「土日ですから周りにはこんなにも人がおりますのに」

少女「ほら、そのお店の前にいる方や、あそこで一人歩いている方も。顔も服もわたくしより素敵ですわ」

少女「何故、わたくしのことをじっと見ていらしたの?」

モバP「何故っていうか、うーん……直感? 自分でもわからないや」

少女「わからない?」

モバP「顔が良いとか着こなしのセンスがあるとか、そういう基準を持って女の子を探しているわけじゃないんだよね」

モバP「それなら節操無くその辺の女の子みんなに話しかければ良いんだし」

モバP「この子は内に何かを持っていそうだな……とか、この子はきっと分野によっては化けるだろうな……みたいな」

モバP「そこに感じたものを信じている、ってなもんで。だから、うん、理由っていう理由とかは無いかもしれない」

少女「そうでしたの……」

モバP「と言っても、プロデューサーなんて始めたばかりのド素人だし。こんな方法に頼っているから人が増えないだけなのかもしれないね。やっぱこの方法間違いなのかな」

モバP「でも社長は『たぶんその方法で良いと思うから、そんな感じでやっちゃっていいよ』って言うんだよなぁ」

少女「うふふ、何も間違っておりませんわよ。あなた方は」

モバP「そうかな?」

少女「わたくしがアイドル……それは面白そうですわ!」

男『お嬢様、何を……』

少女「たくさんの人の中でわたくしを選んでくださったこと、光栄に思います」

少女「そのご提案、謹んでお受けいたしますわ♪」

男『お嬢様!』

モバP「本当に!?」

少女「ええ、大人のレディーを目指す者として二言はありませんわ」

モバP「そうか、ありがとう。でも、この話は一度持ち帰って欲しいんだ」

少女「どうしてですの?」

モバP「芸能活動って学校や家の生活と両立させることになるから、だんだん大変になってくるんだよ。だから、お父さんやお母さんに聞いて、許可が下りないとね」

モバP「でないと怒られちゃうから。君も。俺も。俺も、っていうかうちの事務所が」

少女「そういうことなら……わかりましたわ」

少女「可能か不可能か、後ほどこのお名刺の電話番号におかけしますわね♪」

モバP「ああ、わかった!」

少女「まだこの辺りでスカウトを続けられますの?」

モバP「あと三日か四日くらいは。今日と明日は人も多いし、まだまだ才能の持っていそうな子がいるかもしれないからね!」

少女「まあ、それは大変でしょうけど頑張ってくださいませ」

モバP「これはこれは。お気遣いどうも」

少女「うふふ♪」

少女「それでは、わたくしはこれで」

モバP「あーっと! ごめん、最後にちょっとだけ! 肝心なこと忘れてた!」

少女「はい、何ですの?」

モバP「君の名前」

少女「あら、わたくしとしたことが!」

少女「わたくしは――」

桃華「櫻井桃華ですわ♪」


◆ ◆ ◆ ◆

ちひろ「社長の気まぐれで訪れた場所で出会った少女、櫻井桃華ちゃん」

ちひろ「モバPさんは彼女の雰囲気にたじろぎつつもスカウトを行い、その結果、見事に了承を得られました」

ちひろ「この後彼は数日のスカウト活動の後に東京に戻り、連絡を待ちつつ仕事をこなす日が続いて……となるはずが」

ちひろ「なんと東京に戻った次の日に、思いもよらない出来事が起こったのです」

◆ ◆ ◆ ◆


【エピソード2:可憐な華に秘められたもの】


東京 事務所


モバP「是非にかかわらず連絡はいただけるということで」

ちひろ「やりましたねPさん♪」

社長「でかしたぞP君! ここまでの手ごたえはスカウト史上初めてじゃないか!」

モバP「たしかに、まゆの時はこれほど食いついたって感じではありませんでしたからね」

社長「その子以降はどうだったんだい?」

モバP「何人も声かけて名刺も渡して、話もしたんですけど。良い返事は……」

社長「そうか……でも、みんな話だけは聞いてくれたんだな。やっぱり地方の子は違うなぁ~」

着信音『♪~ ♪~ ♪♪~』(エンドネシアのタイトル画面の曲)

モバP「うおっと、知らない番号だ。これはもしかして……」

社長「相変わらず異様に切ない曲使ってんなー」

モバP「良いじゃないですか。これ好きなんですから」

ちひろ「Pさん早く出ないと!」

モバP「わかってます」

※エンドネシアのタイトル曲 ttp://www.youtube.com/watch?v=ff1eIE1t7nY

モバP「はい、もしもし」

桃華『ごきげんようですわ。わたくし、櫻井桃華と申します』

桃華『シンデレラガールズプロダクションのプロデューサー様のお電話はこちらでよろしいでしょうか?』

モバP「はい。間違いないですよ櫻井さん」

桃華『またお声が聞けて嬉しいですわ♪』

モバP「あぁ、こちらもまた君の声が聞けて嬉しいよ」

モバP「以前のお返事のことなんだけど……」

桃華『はい。しかし、このような大切なお話を電話口で言うのも、いささか不躾と思いましたので』

桃華『直接、事務所に参りましたわ♪』

モバP「そう……って、何? 来た? ここまで!?」

ちひろ「Pさん、下に車が停まっているのが見えます」

社長「ほぉー。これはひょっとするとひょっとするんじゃない?」

桃華「ここが事務所ですのね」

モバP「急に来たのは驚いたけど、わざわざ遠くからありがとう」

ちひろ「ゆっくりしていってくださいね。今、お茶をお持ちしますから」

モバP「ところで櫻井さん、そちらの方は……お兄さん?」

桃華「違いますわ。こちらはわたくしお付きのボディーガードですの」

男「はじめまして」

モバP「ボディーガード? ボディーガードってあの要人警護のボディーガード?」

社長「SPか、なるほど」

男「いえ、SPとボディーガードは違う存在です」

社長「うーむ、違いがよくわからない」

男「私の方から改めてご紹介の形を取らせていただきます。こちらは、大手櫻井グループのご令嬢、櫻井桃華様です」

モバP「……えっ」

社長「令嬢かー。P君もすごいところからスカウトしちゃうねー、はっはっは!」

ちひろ「櫻井グループって、あの?」

社長「どの櫻井グループを想像しているのかわからないけど、たぶんその想像で合っているんじゃないかな」

モバP「まさか、そんなところのお嬢さんだったとは」

桃華「ふふっ、驚かれました?」

モバP「今ので驚かない人がいたら、それはそれで尊敬できるよ」

モバP「でも正直、最初に見た時から気品ある雰囲気はなんとなく感じていたんだけど」

桃華「まあ、そこに気付かれるとはさすがですわ♪」

桃華「アイドルの件に関してですが……熟慮の結果、お受けすることにしましたわ」

モバP「いいの?」

桃華「いやですわね、そちらからおっしゃられた話ですのに」

男「既にご当主様、および奥様の了承は得ております」

社長「親御さんの許可が出ている、っと。良かったねP君! おっかないくらい順調だよ!」

モバP「ええ、まぁ。こんなポンポン進むのはまゆ以来ですね」

桃華「それでですね、失礼なのですが一度お父様やお母様に会っていただきたいんですの」

桃華「今日は二人とも用事があったので、彼とわたくしだけですが……」

モバP「とんでもない! むしろ許可が下りたってことなら、こちらから挨拶に出向くつもりだったさ!」

桃華「では、追って可能な日にちをご連絡いたしますので」

ちひろ「その後はこちらでスケジュール調整しますね」

桃華「では皆様、ごきげんよう! そして次回からはよろしくお願いいたしますわ!」

ちひろ「はい、よろしくお願いします♪」

社長「P君が数ある人の中で君に目をかけたんだ。輝ける未来は約束されたようなものだよ~」

モバP「そんな大げさな」

社長「そこは謙遜するなって。それだと、まるで櫻井君は素質が無いように聞こえるよ。ねぇ?」

桃華「わたくしは精一杯頑張るつもりでしたのに……ひどいですわ……」

モバP「あ、いや、そういう意味じゃないから! 違うから!」

モバP「約束する。必ず君をアイドルとして、輝けるところに連れて行ってみせるよ」

桃華「嬉しいですわ♪ 当然、わたくしもそれに報いる働きをしてみせますので」

モバP「よし、共に高みを目指そう!」

社長「いよっ! アツイねー!」

ちひろ「社長……良い場面なんですから、余計な茶々入れないでください」

社長「あーい」

数日後 兵庫県神戸市、校外


モバP「こんな短期間でまた兵庫に来るとは。今回はちゃんと神戸だけど」

モバP「やっぱり大手企業の櫻井グループとなると、家も相当なんだろうな。すごい気になる」

モバP「漫画にでも出てきそうなとんでもない広い邸宅だったりして」

モバP「住所的にあの辺の、たぶんあれ……が」

櫻井家 http://i.imgur.com/ZXdiYfU.jpg

モバP「うっわ、すっげー! なんだあれ! テンプレっていうか、ザ・洋館って感じがする!」

モバP「俺これ知ってる! バイオハザードで見たことある!」

モバP「入って左の部屋に行ったらゾンビいるのかな」



※やばい、誤字った。校外じゃない郊外だ。

モバP(おわっ、入ってすぐの大階段。お屋敷だなぁ。バイオみたいだなぁ)

モバP「シンデレラガールズプロダクションの者です。櫻井桃華さんのお宅はこちらでしょうか?」

使用人「プロデューサー様ですね。お話は伺っております。すぐにお嬢様をお呼びいたしますので、少々お待ちください」

桃華「その必要はありませんわ」

使用人「お嬢様。今、お呼びに行こうと……」

桃華「部屋から姿が見えましたので、踊り場で待機していましたわ」

桃華「わたくしの家にようこそいらっしゃいまし♪」

http://i.imgur.com/I1ar4dC.jpg

モバP「やぁ桃華さん。数日ぶり」

桃華「まあ、名前で呼んでくださるのね?」

モバP「櫻井さん家で“櫻井さん”って言ったら誰を指しているのかわからないからな。気を悪くしたのなら申し訳ない」

桃華「そんなことありませんわ! むしろ嬉しいですわ♪」

桃華「お父様とお母様は、右手の応接間におりますの。一緒に参りましょう?」

モバP「わかった」

モバP(右の部屋って一階の地図が手に入るところだっけ……)

桃華「お父様、お母様。いらっしゃいましたわ」

モバP「失礼します」

モバP(あ、やっぱり構造違う。いやいや! 俺は何を考えているんだ! 真面目にやれ真面目に!)

櫻井父「おぉ、遠くからわざわざありがとうございます」

櫻井母「こちらにどうぞいらしてください。ほら、桃華も」

桃華「はい♪」

桃華「横に座ってもよろしいかしら?」

モバP「うん、いいよ」

櫻井母「こら桃華!」

モバP「大丈夫です。構いませんから」

モバP「はじめまして、私はプロデューサーのPと申します。よろしくお願いいたします」

櫻井父「こちらこそはじめまして。桃華の父です。こちらは妻で」

櫻井母「はじめまして」

櫻井父「プロデューサーさんがこんなお若い方だったとは。失礼ながら、桃華の話を聞いた時、どうも先入観からかもう少しお歳を召した方だと勝手に思っておりまして」

モバP「いえいえ、お気持ちはよくわかります。プロデューサーといえば、やはり威厳や貫禄があるものですし」

モバP「私もまだ社会に出て間もない二十代なもので、堂々とプロデューサーを名乗るのもおこがましいとは思うのですが」

櫻井母「二十代ですか。お若いのに、なかなかこのお仕事も大変じゃありません?」

モバP「やはり営業は。しかし、アイドルのためという目標が見えていますので、やりがいはあります」

櫻井父「実に誠実で有望な方だ」

モバP「確認なのですが、桃華さんの件はご両親公認ということで間違いございませんか?」

櫻井父「はい、間違いありません」

桃華「お父様もお母様も、ちょっと心配そうな顔をしていましたのよ?」

モバP「それは心配するだろうね。だって親なんだから」

櫻井母「そうそう。芸能界に行くのだから、心配するのは当たり前よ」

モバP「わかりました。では改めて了承は得たということで、この場で確認させていただきました」

桃華「お父様、お母様、見ていてくださいまし。桃華は歌って踊れる大人のレディーになってみせますわ!」

櫻井母「わかっているわ。期待するからね」

櫻井父「進むからには頑張ってもらわないとな!」

モバP「任せてください。事務所こそ小さいですが、他のアイドルに並ぶ大きな活躍をさせてみせます!」

櫻井父「本当に実直な方だ。是非、桃華の婿になってほしい」

モバP「い、いやそれは……」

桃華「もう、お父様ったら♪」

櫻井母「あなた」

櫻井父「すまん」

櫻井父「桃華、私達は彼とアイドル活動について込み入った話があるから、先に部屋に戻っていなさい」

桃華「わかりましたわ。では……」

桃華「どうぞ、ゆっくりしていってくださいませ」

モバP「ああ。ゆっくりさせてもらうよ」

櫻井父「さて、Pさん」

櫻井父「あの子から聞きました。先日、姫路に行った際に出会ったと」

モバP「そうですね。姫路城の近くで、私の方から声をかけさせていただきました」

櫻井父「喜んでいましたよ。おそらく、自分を評価してくれたことに対しての喜びでしょう」

モバP「評価? ええ、まぁアイドルの素質がありそうだと言いましたが……」

櫻井母「事務所を訪ねられた時、付添でボディーガードがいましたよね? 彼からその時のお話を聞きまして――」

――――――――――――――――――――――――――――

櫻井父「アイドルのスカウト?」

男「はい。東京の芸能事務所から来たプロデューサーだと」

櫻井父「スカウトか、なるほど」

櫻井母「かわいいですからね、あの子は」

櫻井父「ああ! 私達の自慢の娘だしな! ははははは!」

男「とはいえ見知らぬ男性でしたので制止しようとしたのですが、お嬢様が大丈夫だと。申し訳ございません」

櫻井父「桃華にはそのような時、まず相手をよく見ろと教えてある。よく見た上で大丈夫と言ったのなら、大丈夫だったんだろう」

櫻井父「実際、スカウトマンを装った誘拐犯……というわけでも無かったろう?」

男「それはそうでしたが」

櫻井母「勧誘されたあの子はどんな反応を?」

男「はい、それが……」

男「彼の話や説得をお聞きになるや否や、即断で快諾の返事を」

櫻井父「それはなんとも珍しい」

櫻井母「桃華らしく無いですね。笑顔でやんわり断ると思ったのに」

櫻井父「なんだかんだで意見ははっきり言う子だからな」

櫻井父「しかし、芸能界に興味がある風でも無かったが」

櫻井母「パーティーで芸能人の方と会っても、特に何も……」

櫻井父「そのプロデューサーさんは何と?」

男「……君に魅力を、中に輝くものを感じると。そう言っておられました」

男「その後、別れ際にお嬢様が大量の人の中から自分を選んだ理由をたずねられました」

男「すると彼は……理由は無いと」

櫻井母「理由が無い?」

男「先の通り、見た目や雰囲気ではなく内側に何かを感じたと続けて言っておりましたが」

男「お嬢様は何か納得なされた模様でしたが」

櫻井父「そうか……」

男「当主様?」

櫻井父「事の委細を話してくれてありがとう。アイドル云々については、私達が直接あの子と話いてみるよ」

櫻井母「そうね。明日にでも聞いてみましょうか?」

櫻井父「だな。夕食の時くらいにでも」

――――――――――――――――――――――――――――

櫻井父「――次の日になって桃華と話しました。話したといっても、本気でアイドルになるかどうかの確認をしただけで」

櫻井母「即答でしたね。もちろんですわ! って」

櫻井父「元気一杯に言っていたな。それなら頑張れ、応戦はするぞ、そんな感じで終わりましたね」

モバP「そんなにあっさりと?」

櫻井父「はい。あっさりと」

櫻井父「去り際に言ったこと、覚えていますか。歌って踊れる……」

モバP「大人のレディー、ですか?」

櫻井母「あの子は特に、大人のレディーという立場にこだわっている節があるのです。完璧というか、一人前として認められたいというか」

櫻井父「……正直、その原因も大方わかるのですよ」

モバP「と、申しますと?」

櫻井父「人前では令嬢として気丈に振る舞い、まず弱みなど見せないのですが、あれが枷になっているのが手に取るようにわかるんです」

櫻井父「『櫻井家』という大きな名が」

櫻井母「自分達で言うのもあれですけど、櫻井グループは非常に大きな組織です。参加の会社や社員も多く、政治家や銀行家とも交流があります」

櫻井父「その度に言われているのですよ、桃華は」

櫻井父「『なんと素晴らしいお嬢さんだ。櫻井グループの未来は安泰ですな』『このご年齢でこれほどとは、さすが櫻井様のご息女』」

櫻井母「『由緒ある櫻井の血を引いていらっしゃるなんて、有望そのものですね』」

モバP「それは……」

櫻井父「自分はこの家に生まれ、築いてきた事業を継ぐ次期当主として教育を」

櫻井母「私はこの人が当主になった後に嫁ぎ、嫁いだ者として、そしてこの人の次の世代を生んで育てるための教育を」

櫻井父「櫻井の者は過去に、大なり小なり皆ぶつかっているんです。己の立場の悩みに」

櫻井父「自分の時は自分のことだったので精一杯でしたが、娘がそうなっているのを見るのは心が痛いものです……」

櫻井母「Pさん」

モバP「はい」

櫻井母「あの子は今、岐路に立っています」

櫻井父「もしも本気でアイドルになりたいと言うのなら、わずかでも良いです。あの子の部屋で、あの子と少し話してくださいませんか?」

モバP「私は……」

モバP「それほどの期待と責任を負ったことはありません。お二人のことも、桃華さんのことも、その気持ちをお察しいたしますなんて軽々しく口に出すことができません」

モバP「ですが、彼女が望むのでしたら。その手助けくらいはできると思います」

モバP「早く来たこともあってか、今日はまだまだ時間がありますので」

櫻井母「ありがとうございます。あの子もきっと喜びます」


◆ ◆ ◆ ◆

ちひろ「桃華ちゃんの両親から聞いたこと、それは桃華ちゃん自身の悩み」

ちひろ「かつて同じ立場にいたからわかる、同じ苦悩」

ちひろ「そしてアイドルになりたいと言った彼女の、その心中はいかに」

ちひろ「モバPさんは応接間を後にし、桃華ちゃんの元へ向かいました」

ちひろ「大人のレディーとして、令嬢か、アイドルか。彼女に決断の時が迫ります」

◆ ◆ ◆ ◆


【エピソード3:桃李言わざれども下自ら蹊を成す】


モバP「失礼、入っても良いかな?」

桃華「はいはい。どうぞお入りになって」

桃華「下でのお話はお済みになりましたの?」

モバP「ああ。どうプロデュースするか、みっちり話し合ってきだぞ!」

モバP「で、今日はまだまだ時間があるし、君とも今後のことについて話していこうかなーって」

桃華「うふ、そんなにわたくしのことが知りたいんですの?」

モバP「知りたいさ。君のプロデューサーなんだから」

モバP「それにしても広いなこの部屋。これで一人の部屋なんだもんな。お屋敷ってすごいわ」

桃華「もう、あまりじろじろと見られると恥ずかしいですわ……」

モバP「たしかに、レディーのお部屋を舐めるように眺めるのはマナー違反だな。失敬失敬」

モバP「おっ! 部屋にピアノまであるんだ! ということは、よく引いておられるので?」

桃華「嗜み程度にですわ。先生を雇って教えていただいたりしていますが、わたくしなどまだまだ……」

桃華「ですが、櫻井の者としてピアノくらい弾けませんと」

桃華「大人のレディーになる身として当然ですわ♪」

モバP「櫻井の者、か……」

桃華「?」

モバP「あー、いや、別になんでもないよ」

桃華「そうですの? わかりましたわ」

桃華「お話するならこちらのバルコニーはいかがでしょう? 今日は風が気持ち良いですわよ?」

モバP「特に場所は限定しないよ。おまかせする」

桃華「ではこちらへどうぞ♪」

モバP「おぉー……本当に風が気持ち良いなぁ……。海が見えるバルコニーなんて、まるで映画の世界か外国だよ」

モバP「あれ四国か? うわー、こんな近くに見えるのか」

桃華「違いますわ。あれは淡路島。その向こうが四国。左手に見えるのは紀伊半島ですわ」

モバP「そうなのか。いや、それでもすごい贅沢なロケーションだって」

桃華「庭も良いですが、ここで海を見ながらお茶をするのも最高ですの♪」

モバP「この場所だ。何をやっても最高だろう」

桃華「さて、何からお話しましょうか」

モバP「じゃあ先に俺から」

桃華「どうぞ」

モバP「俺が声をかけた時、普通に話してくれたよね。人もかなり多かったし、街頭で声かけるなんて別に無視されてもおかしくない状況だったのに」

桃華「あら、そんなことですの?」

モバP「うん」

桃華「あの時言ったことそのままですわ。あなたが、わたくしを見る目が他と違ったんですの」

桃華「わたくしを見る目……ゾクゾクしましたわ」

モバP「ぞくぞくぅ~?」

桃華「いぶかしげですのね?」

モバP「ゾクゾクするような目で見ていた、って言われてもピンと来なくて」

桃華「わたくしは感じたままを言ったまでですわ♪」

桃華「あの強い視線、まるで心の中を見透かされていたみたいで……」

桃華「そして、あなたから言われた『君の中に輝くものを感じる』ですもの」

桃華「本当に驚きましたわ」

モバP「それこそ俺も同じさ。感じたままを言ったにすぎない」

桃華「うふふ♪」

モバP「本当だよ?」

桃華「わたくしも本当ですわ」

桃華「わたくしね、心からどうしても“やりたい”って思って、お父様達に伝えたのは、これが初めてかもしれませんわ」

桃華「習い事や、このピアノもそう。やりたいではなく“やらなければいけない”と考えて始めましたの」

モバP「やらなければいけない……」

桃華「大人のレディーになるため、認められるためには、それ相応の能力を身に付けなければ……」

桃華「誰も私を『桃華』として見てくれませんの」

桃華「楽しいとか面白いなど二の次ですわ」

桃華「優雅に立ち振る舞い、教養を持ち、完璧をもってわたくしは褒めてもらえるのです」

桃華「でも、それはお父様やおじい様達が代々継いできた『櫻井』の名前あっての評価……」

桃華「それを櫻井の娘として、期待と、前提と、あって当然の思いから出される評価……」

桃華「『桃華』単独に対しての感想ではありませんわ」

モバP「……」

桃華「あなたに言われて、決めました」

桃華「櫻井家から歌手やアイドルになった人はいません。なので」

桃華「わたくしがアイドルとなり、櫻井ではなく、桃華個人をすべての方に見せつけるのです!」

桃華「一人前の大人のレディーとして」

モバP「そっか。でも、それって……」

モバP「自分を認めてもらう手段としてアイドルになりたいってことだよね? アイドルになってからどうのこうのじゃなくて、アイドルになること自体が最終目標に聞こえる」

桃華「そうかもしれませんわね……」

モバP「しょげるなって! 怒っているわけじゃないよ? もちろん説教でもない! 力を抜いて軽く聞いてよ」

モバP「君には輝くものを感じるって言ったじゃん?」

モバP「宝石は時間をかけて丁寧に磨くから、ピッカピカに光るんだ」

モバP「焦っちゃって、誰よりも早く誰よりもピカピカにしようと、手早く力任せに磨こうとする。そうしちゃうと……」

モバP「バキッ! ……となるわけだ」

桃華「ええ」

モバP「君は間違いなく輝く。でも今週とか、今月とか、一瞬で輝くわけじゃない」

モバP「さらに言うと、君が輝く努力をいない限りは一生かかっても到達できない」

モバP「俺はプロデューサーだ。俺ができることは……」

モバP「君が輝くための『道』を作ること」

モバP「そして道を進んでいる途中でも、その輝きに気付いた人達が一人二人と自然に集まってくる」

モバP「ファン、って呼ばれる人達だね」

モバP「道はできた。後ろには俺もファンもいる。あとは、君が思う通り好きなように歩けば良い!」

桃華「そこを歩けば……みんなが、大人のレディーとして見てくださいますの?」

モバP「わからん! 見え方なんて人それぞれだしな!」

モバP「でも、一つだけ言っておくぞ」

モバP「櫻井の名前じゃなく、『桃華さん』個人として俺はその才能を保障する」

モバP「そして『桃華さん』個人を見ている。そういうことだ」

桃華「……ふふっ、素敵な表現をなさるのね。『道』なんて」

モバP「言うのに夢中になって、自分でもわけわかんなくなってきた! あーもう、なんて言えば良いのかなぁ~……」

桃華「いいえ、伝わりましたわ。充分」

桃華「単にアイドルになれば認めてもらえるという、この甘い考え。わたくしもまだまだ大人のレディーにはほど遠いですわね……」

モバP「まだ12歳の小学生なんだから、そのうち自然に大人になるって。人生なんてそういうもんだ」

モバP「……なんかこれじゃあオッサンみたいだな、俺。社長に毒されたかな」

桃華「不思議ですわ。あなたとお話していたら、こんなわたくしもアイドルになれそうな気がしてきましたわ」

モバP「なれる。間違いない」

桃華「わたくしのために道を作ってくださる?」

モバP「もちろんだ!」

桃華「では、一歩ずつ可憐なレディーに成長して、『桃華』の名に恥じないアイドルになってみせますわ!」

モバP「よっしゃ! その心意気だ!」

桃華「そうそう、一つよろしいかしら?」

モバP「うん?」

桃華「これからは、あなたの元でアイドルとして学ぶのですから。名前にさん付けは何だか他人行儀ですわ」

モバP「そうか? じゃあどうしたら良い?」

桃華「桃華、と呼び捨てで結構です。東京に行った時に聞きましたが、もう一人のまゆさんという方は呼び捨てになさっていましたよね?」

モバP「うーん……別に呼び捨てでも構わないなら良いけど」

桃華「構いませんの」

モバP「では、桃華!」

桃華「はい!」

モバP「ようこそ」

モバP「今から君は、アイドルだ」


◆ ◆ ◆ ◆

ちひろ「それでは、最後にもう一つ」

ちひろ「不安と重責を乗り越え、アイドルを目指すことを決めた櫻井桃華ちゃん」

ちひろ「モバPさんの力もあり、お嬢様系アイドルとして道を開いて行きました」

ちひろ「目覚ましく躍進する彼女」

ちひろ「そんな秘話を、どうぞ」

◆ ◆ ◆ ◆




※歴史秘話ヒストリア EDテーマ曲

ttp://www.youtube.com/watch?v=farZts9CaOY


現在


桃華「Pちゃま、ここですのね?」

モバP「そう。ここで番組宣伝の街頭ライブ。まぁ、歌うわけじゃないからライブとは言わないか」

桃華「何を言っておりますの! カメラがあって、わたくしのファンもそれを見ているのですから! それだけで良いではありませんか!」

ありす「そうですよ、こういう場があるだけで私達は輝くんですから」

モバP「そうかもしれないな。これもアイドルとしての大切なお仕事だもんな」

http://i.imgur.com/eRa1FEM.jpg

モバP「そういえば、なんでありすは来たんだ? 今日休みだろう?」

ありす「桃華さんと共演したことはありましたが、間近な観客視点でお仕事を見たことが無かったので」

モバP「そうか~、ライバルの研究か~。ありすは勉強熱心だな~」

ありす「な、撫でないでください……もう」

桃華「あっ! ずるいですわよ、ありすさん! わたくしも撫でてほしいのですわ!」

モバP「髪セットしたんだからダメだってば」

桃華「むぅ……では、お仕事を完璧にこなしたら、その時はお願いしますわね♪」

モバP「応ともよ。頭撫でるだけで良いのか? もっと何か無いの?」

桃華「いいえ、それだけで充分な力が出せますの!」

桃華「それでは行ってまいりますわ♪」

モバP「おう、やったれやったれ!」

ありす「ここから見ていますから。頑張ってきてください」

桃華「はい♪」

桃華「おまたせしましたわね! 桃華の登場ですわ!」




――fin――

【次回予告】


ちひろ「アイドルになってみたい。それは女の子なら誰もが思うこと」

ちひろ「名前はかわいいけれど、その珍しさに抵抗のある少女、橘ありすちゃん」

ちひろ「他人の目を気にしてか、本人は自分の名前をあまり好んでいない模様」

ちひろ「しかし、そこにはある矛盾した感情が……」

ちひろ「次回! 少女に秘められた葛藤を追って行きましょう!」


――不思議の国のありすとアリス ~母から娘に託されたもの~――

乙なのさ

ここまで見てくれた兄貴たち、ありがとう!
超兄貴大好き、俺です! 今回は超兄貴ネタ出して無いけどね!

姫路に出張(と観光)した経験がこんなところで生きると思っていなかった。
やっぱり、自分は兵庫出身のありすとちゃまのSSを書くために生まれてきたんだ(使命感)

今回はところどころ自分が大好きなあの番組みたいにしてみました。満足した。
タイトル画像もフリー画像とフォトショで、それっぽく作ったの。そっくりでしょー。えへへー。
では、次回の橘ありす編もよろしくお願いいたします。

ボディーガードの人が超兄貴じゃなかったのか

>>111
ガードの人が超兄貴! それは考えてなかった!
ちゃまがかわいくて目立って、ボディーガードが筋骨隆々で黒光りした人でさらに目立つ。
いいなコレ。今度ボディーガード出す時にこのネタ使おう。アイディアありがとうね!

反映していくのか(困惑)
乙乙

>>112
アイディアで使ってくれるのは嬉しい
俺としてはPの「そちらの方は……お兄さん」が超兄貴のフリなのかと思ってた

>>113
コメントが貰えることがありがたいから
それら意見は積極的に反映させてゆくスタンスなのです!

サムソンアドン……は流石にお兄さんと間違えないかw

乙乙

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