アパート──
男(さぁて……)
男(今日はある会社の集団面接の日……)
男(つっても、もうすでに俺はあの会社の社員なんだけどね)
男(なんで社員なのに、面接受けなきゃならないんだろ? ……めんどくせぇ)
【ポイント1:面接は、すでに自分は社員になっているつもりで臨め!】
会社──
男(入り口……案内役の社員が立っている)
男(大物感を漂わせるため──あえてネクタイはゆるめる)シュル…
男(シャツは第二ボタンぐらいまで外し、スーツもわざとよれよれにする)ススッ
男(トドメに、ハンドポケット!)ジャキンッ
社員A(な、なんだあの学生は……!?)ゴクッ…
【ポイント2:大物感を漂わせるため、服装はだらしなくしろ!】
控え室──
男(俺を含め、四人の学生が待機……)
男(ここは、かましておくか!)
男「そういや俺の親父、この会社の大株主だったっけ」
学生A「!」
学生B「!」
学生C「!」
男(フッ、決まった……!)
【ポイント3:コネがあることを匂わせ、周囲のライバルを威嚇しろ!】
社員B「順番になりましたので、面接室まで来て下さい」
男「分かったよ、ナベちゃん」
社員B「!?」
学生A「!」
学生B「!」
学生C「!」
男(社員をフレンドリーに呼んで、コネがあるハッタリを強化しとく!)
社員B(オレの名前、鈴木なんだけど……)
【ポイント4:社員をあだ名で呼ぶことで、ライバルをさらに委縮させろ!】
面接室前──
男(さぁて、ノックするか……)
男(もちろん、ノックでもハッタリは忘れちゃならない)
男(空手の正拳突きっぽい構えで……ノック!)シュッ
ゴッ、ゴッ、ゴッ!
学生A「!」
学生B「!」
学生C「!」
男(こいつら、俺が空手の達人だと思い込んで青ざめてやがる……)
【ポイント5:ノックを空手っぽく行えば、ライバルはもはや戦意喪失だ!】
面接室──
男(どっこいしょっと)ギシッ…
男(面接官は三人か……つまり、四対三)
男(俺たちが数的有利といえるな)
男「たった三人で、俺たち“四天王”の相手が務まるとでも?」
面接官A「!」
面接官B「!」
面接官C「!」
【ポイント6:“四天王”を自称することで、面接官をも威嚇せよ!】
面接官A「では……大学名をおっしゃって下さい」
学生A「明治大学です」
男(こいつ、日本人っぽいけど、ブルガリア人だったのか……)
学生B「早稲田大学です」
男(ぷっ、こいつマスオさんと同じ大学かよ)
学生C「同志社大学です」
男(1875年に創立された同志社英学校を前身とする大学だったよな、たしか)
男(どのみち、俺の敵じゃないわけだがな)
男(さて、かますか……ハッタリを!)
男「東京大学です」
面接官A「……へ?」
面接官A「えぇっと……エントリーシートには『呉竜大学』と書いてありますが……?」
男「すみません、書き間違いです」
男「私が通っている大学は、東京大学です」
面接官A「は、はぁ……」
男(決まった……これで俺は東大生だ!)
【ポイント7:しょせん日本は学歴社会、どんどん学歴を詐称せよ!】
面接官B「では……一分間で自己PRをしてもらいましょうか」
学生A「~~~~~~です」
男(58秒……ダメだな、こいつ)
学生B「~~~~~~です」
男(5秒オーバー……これがチキンレースだったら、谷底に落ちてるぜ)
学生C「~~~~~~です」
男「53秒……。7秒ありゃ、ボルトなら70mは走れるぞ!」
男(どいつもこいつも“一分間で”って意味をまるで分かっちゃいない)
男(俺が“一分間きっかりの自己PR”ってやつを教えてやる!)
面接官B「どうぞ」
男「時間よ、止まれッ!」ババッ
面接官B「!?」ビクッ
男「今……時を止めて、一分間ジャストで自己PRをした」
男「もし聞いていなかったとしたら、それはあなた方の怠慢です」
面接官B「え、え……?」
面接官B「で、では……次の質問に移ります」
男(もちろん、俺は時なんか止めちゃいない)
男(だが、面接官には『俺が一分間ジャストで自己PRした』という事実と)
男(それを『自分たちの不手際で聞けなかった』という罪悪感が残ったはず)
男(つまり……だいぶ採用に近づいたことを意味する!)
【ポイント8:時間制限つきの質問の際は、時間を止めるフリをしろ!】
面接官C「当社に対する志望動機をお聞かせ下さい」
学生A「~~~~~~です」
男(この会社のいいところを並べ立てただけじゃねーか)
学生B「~~~~~~です」
男(こいつは自分がやりたいことをいってるだけじゃねーか)
学生C「~~~~~~です」
男(この会社の製品に関する思い出を語ってるだけじゃねーか)
男(どいつもこいつもまるでなっちゃいない)
男(どれ、俺の志望動機で度肝を抜いてやるか!)
男「気づいたら……御社を志望してた」
面接官C「…………!?」
男「食事をしていても、運動していても、バイトをしていても」
男「いいや、眠っている時でさえも、御社のことで頭が一杯になった」
男「この気持ちはなんなのだろうか?」
男「運命? 宿命? はたまた天命?」
男「いやいや、これらチープな言葉では到底説明しきれないような縁を」
男「私は御社に感じている」
男「I love you」チュパッ
面接官C「…………」
男(これは俺が高校の時書いたラブレターの文を改良したものだ)
男(あの時はフラれたが、その分今回は大丈夫なはず!)
【ポイント9:志望動機は好きな人に愛を伝えるように話せ!】
面接官A「趣味はなんですか?」
男「世界平和……かな」
面接官B「もし、嫌な仕事を頼まれたらどうしますか?」
男「仕事すること自体が嫌です」
面接官C「当社には海外支社もありますが、語学に自信はありますか?」
男「タッカラプトポッポルンガプピリットパロ」
【ポイント10:どんな質問が飛んできても、冷静に対処せよ!】
面接官A「本日はお疲れさまでした」
面接官A「本日の結果に関しては合否に関わらず、一週間以内にお知らせします」
男(ようやく終わりか……よし、最後にもう一発!)
男「いやぁ~、今日も疲れた! じゃ、帰りに飲みに行こっか! な!」
学生A「え……」
学生B「あの……」
学生C「えぇっと……」
男(いかにもサラリーマンっぽく退室!)
男(これで即戦力として、見なされることまちがいなし!)
面接官A&B&C「…………」
【ポイント11:退出する時は、サラリーマンっぽく!】
学生A「いやぁ~、緊張した」
学生B「俺はまだ面接に慣れてないから、途中キョドっちゃったよ」
学生C「四人全員、次の面接に進めるといいなぁ」
男「ま、俺は絶対受かってるけどな」ニヤッ
学生A「…………」
学生B「…………」
学生C「…………」
【ポイント12:最後まで威嚇を忘れるな!】
一週間後……
『この度は、弊社の新卒採用にご応募頂き、誠にありがとうございました。
選考の結果、残念ながら今回はご期待に添えない結果となりました。
今後のご健闘をお祈り申し上げます』
男「…………」
男「フッ、ここまでは想定の範囲内だ」
男「俺の就活……ここからが本番!」
【ポイント13:不採用通知が届いても、決して諦めるな!】
10月某日 内定式──
学生A「みんな、久しぶり!」
学生B「何社か受かったけど、結局ここに決めたぜ!」
学生C「あのメンバーはみんな受かってたんだね、嬉しいなぁ!」
男「俺の採用は最初から決まってたけどな」
社員A「おい、あいつって落ちたんじゃないの?」ヒソヒソ…
社員B「いや、自信満々で採用されましたっていってるし……」ヒソヒソ…
【ポイント14:たとえ不採用でも、内定式に紛れ込め!】
4月1日 入社式──
新入社員A「いよいよ社会人か、気を引き締めないと!」
新入社員B「早く一人前になりたいぜ!」
新入社員C「やっていけるか、不安だなぁ」
男「お前ら三人とも、将来的には俺の部下になるんだけどな!」
社員A「あいつの名前、やっぱり採用者名簿に載ってないって……」ヒソヒソ…
社員B「だけど、すげー自信満々だし、こっちの不備なのかも……」ヒソヒソ…
【ポイント15:入社式にも参加してしまえ!】
社員C「君の存在には色々疑問が残るが、結局研修まで受けてもらっちゃったから」
社員C「とりあえず、営業に配属ってことで」
男「営業ですか……」
男「いきなり社長にしてもらってもよかったんですが」
男「まぁ致し方ないでしょう」
男「しばらくはヒラで我慢しますよ」
社員C(うむむ、すごいのが入ってきたもんだ……)ゴクッ…
【ポイント16:うまく会社に潜り込んだからには、目指すは社長のみ!】
対上司──
上司「なんだね、このミスは!?」
男「いや、それはあなたのミスです」
上司「なにをいってるんだ、君は!? 君のミスだろうが!」
男「ちゃんと見て下さい、アンタのミスですよ」
上司「え、だって君が──」
男「お前のミスだ」
上司「そ、そうかもしれん……。すまなかった……」
【ポイント17:他人のミスは他人のミス、俺のミスも他人のミス!】
対取引先──
男「契約して下さいよ!」
取引先「この条件では、とてもハンコは押せんよ」
男「俺の目を見て下さい」ジッ…
取引先(なんだ、この目は……すっごいウソっぽい、誠意の感じられない目つき!)
男「…………」ジッ…
取引先(悔しい……! でも……押したくなっちゃう!)
取引先「契約しよう」ポンッ
男「礼は……いわないぜ」
【ポイント18:営業は押して押させろ!】
居酒屋──
課長A「あの集団面接の四人で、会うのも久しぶりだな」
課長B「みんな、元気そうでなによりだ」
課長C「みんなすっかり年食ったよなぁ」
男「ま、俺にクビにされないよう、せいぜい定年までがんばれよ」
課長A「…………」
課長B「…………」
課長C「…………」
【ポイント19:同期への威嚇、怠るべからず!】
社長室──
男(ハッタリだけで入社して、はや数十年……)
男(ついに……ついにここまでたどり着いた)ギシッ…
男(ついに俺が社長になったんだ……)
男(とはいえ、やることはなんにも変わらない)
男(出世はもちろん、妻もハッタリで手に入れたし)
男(経営だって、株主総会だって、今まで通りのやり方で乗り越えてみせる)
【ポイント20:社長になってもおごることなく、初心を忘れるな!】
男(しかしまぁ、なんだな……)
男(こうしてトップに立ってみて、初めて分かることもある)
男(世の中の──いわゆるトップらへんにいる連中ってのは)
男(俺ほど極端ではないにせよ、程度の差はあるにせよ)
男(きっとみんな、俺みたいな生き方してのし上がったんだろうなって)
< 完 >
これで終わりです
楽しんでもらえれば嬉しいです
乙です
ホントにやったらその2の時点でつまみ出されるだろうけど乙
乙
面白かった
あるある
凄いな。俺も実践してみよう(棒)
多分この男には凄みとかオーラがあるんだろうな
途中までまあ面白かったけど>>19の時点で夢過ぎてダメだったと思う
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