男「ハッタリで就職活動を乗り切る!」(32)

アパート──

男(さぁて……)

男(今日はある会社の集団面接の日……)

男(つっても、もうすでに俺はあの会社の社員なんだけどね)

男(なんで社員なのに、面接受けなきゃならないんだろ? ……めんどくせぇ)





【ポイント1:面接は、すでに自分は社員になっているつもりで臨め!】

会社──

男(入り口……案内役の社員が立っている)

男(大物感を漂わせるため──あえてネクタイはゆるめる)シュル…

男(シャツは第二ボタンぐらいまで外し、スーツもわざとよれよれにする)ススッ

男(トドメに、ハンドポケット!)ジャキンッ



社員A(な、なんだあの学生は……!?)ゴクッ…




【ポイント2:大物感を漂わせるため、服装はだらしなくしろ!】

控え室──

男(俺を含め、四人の学生が待機……)

男(ここは、かましておくか!)

男「そういや俺の親父、この会社の大株主だったっけ」

学生A「!」

学生B「!」

学生C「!」

男(フッ、決まった……!)





【ポイント3:コネがあることを匂わせ、周囲のライバルを威嚇しろ!】

社員B「順番になりましたので、面接室まで来て下さい」

男「分かったよ、ナベちゃん」

社員B「!?」

学生A「!」

学生B「!」

学生C「!」

男(社員をフレンドリーに呼んで、コネがあるハッタリを強化しとく!)

社員B(オレの名前、鈴木なんだけど……)





【ポイント4:社員をあだ名で呼ぶことで、ライバルをさらに委縮させろ!】

面接室前──

男(さぁて、ノックするか……)

男(もちろん、ノックでもハッタリは忘れちゃならない)

男(空手の正拳突きっぽい構えで……ノック!)シュッ

ゴッ、ゴッ、ゴッ!

学生A「!」

学生B「!」

学生C「!」

男(こいつら、俺が空手の達人だと思い込んで青ざめてやがる……)





【ポイント5:ノックを空手っぽく行えば、ライバルはもはや戦意喪失だ!】

面接室──

男(どっこいしょっと)ギシッ…

男(面接官は三人か……つまり、四対三)

男(俺たちが数的有利といえるな)

男「たった三人で、俺たち“四天王”の相手が務まるとでも?」

面接官A「!」

面接官B「!」

面接官C「!」





【ポイント6:“四天王”を自称することで、面接官をも威嚇せよ!】

面接官A「では……大学名をおっしゃって下さい」



学生A「明治大学です」

男(こいつ、日本人っぽいけど、ブルガリア人だったのか……)

学生B「早稲田大学です」

男(ぷっ、こいつマスオさんと同じ大学かよ)

学生C「同志社大学です」

男(1875年に創立された同志社英学校を前身とする大学だったよな、たしか)

男(どのみち、俺の敵じゃないわけだがな)

男(さて、かますか……ハッタリを!)

男「東京大学です」

面接官A「……へ?」

面接官A「えぇっと……エントリーシートには『呉竜大学』と書いてありますが……?」

男「すみません、書き間違いです」

男「私が通っている大学は、東京大学です」

面接官A「は、はぁ……」

男(決まった……これで俺は東大生だ!)





【ポイント7:しょせん日本は学歴社会、どんどん学歴を詐称せよ!】

面接官B「では……一分間で自己PRをしてもらいましょうか」



学生A「~~~~~~です」

男(58秒……ダメだな、こいつ)

学生B「~~~~~~です」

男(5秒オーバー……これがチキンレースだったら、谷底に落ちてるぜ)

学生C「~~~~~~です」

男「53秒……。7秒ありゃ、ボルトなら70mは走れるぞ!」

男(どいつもこいつも“一分間で”って意味をまるで分かっちゃいない)

男(俺が“一分間きっかりの自己PR”ってやつを教えてやる!)

面接官B「どうぞ」

男「時間よ、止まれッ!」ババッ

面接官B「!?」ビクッ

男「今……時を止めて、一分間ジャストで自己PRをした」

男「もし聞いていなかったとしたら、それはあなた方の怠慢です」

面接官B「え、え……?」

面接官B「で、では……次の質問に移ります」

男(もちろん、俺は時なんか止めちゃいない)

男(だが、面接官には『俺が一分間ジャストで自己PRした』という事実と)

男(それを『自分たちの不手際で聞けなかった』という罪悪感が残ったはず)

男(つまり……だいぶ採用に近づいたことを意味する!)





【ポイント8:時間制限つきの質問の際は、時間を止めるフリをしろ!】

面接官C「当社に対する志望動機をお聞かせ下さい」



学生A「~~~~~~です」

男(この会社のいいところを並べ立てただけじゃねーか)

学生B「~~~~~~です」

男(こいつは自分がやりたいことをいってるだけじゃねーか)

学生C「~~~~~~です」

男(この会社の製品に関する思い出を語ってるだけじゃねーか)

男(どいつもこいつもまるでなっちゃいない)

男(どれ、俺の志望動機で度肝を抜いてやるか!)

男「気づいたら……御社を志望してた」

面接官C「…………!?」

男「食事をしていても、運動していても、バイトをしていても」

男「いいや、眠っている時でさえも、御社のことで頭が一杯になった」

男「この気持ちはなんなのだろうか?」

男「運命? 宿命? はたまた天命?」

男「いやいや、これらチープな言葉では到底説明しきれないような縁を」

男「私は御社に感じている」

男「I love you」チュパッ

面接官C「…………」

男(これは俺が高校の時書いたラブレターの文を改良したものだ)

男(あの時はフラれたが、その分今回は大丈夫なはず!)





【ポイント9:志望動機は好きな人に愛を伝えるように話せ!】

面接官A「趣味はなんですか?」

男「世界平和……かな」



面接官B「もし、嫌な仕事を頼まれたらどうしますか?」

男「仕事すること自体が嫌です」



面接官C「当社には海外支社もありますが、語学に自信はありますか?」

男「タッカラプトポッポルンガプピリットパロ」





【ポイント10:どんな質問が飛んできても、冷静に対処せよ!】

面接官A「本日はお疲れさまでした」

面接官A「本日の結果に関しては合否に関わらず、一週間以内にお知らせします」

男(ようやく終わりか……よし、最後にもう一発!)

男「いやぁ~、今日も疲れた! じゃ、帰りに飲みに行こっか! な!」

学生A「え……」

学生B「あの……」

学生C「えぇっと……」

男(いかにもサラリーマンっぽく退室!)

男(これで即戦力として、見なされることまちがいなし!)

面接官A&B&C「…………」





【ポイント11:退出する時は、サラリーマンっぽく!】

学生A「いやぁ~、緊張した」

学生B「俺はまだ面接に慣れてないから、途中キョドっちゃったよ」

学生C「四人全員、次の面接に進めるといいなぁ」

男「ま、俺は絶対受かってるけどな」ニヤッ

学生A「…………」

学生B「…………」

学生C「…………」




【ポイント12:最後まで威嚇を忘れるな!】

一週間後……



『この度は、弊社の新卒採用にご応募頂き、誠にありがとうございました。

 選考の結果、残念ながら今回はご期待に添えない結果となりました。

 今後のご健闘をお祈り申し上げます』



男「…………」

男「フッ、ここまでは想定の範囲内だ」

男「俺の就活……ここからが本番!」





【ポイント13:不採用通知が届いても、決して諦めるな!】

10月某日 内定式──

学生A「みんな、久しぶり!」

学生B「何社か受かったけど、結局ここに決めたぜ!」

学生C「あのメンバーはみんな受かってたんだね、嬉しいなぁ!」

男「俺の採用は最初から決まってたけどな」



社員A「おい、あいつって落ちたんじゃないの?」ヒソヒソ…

社員B「いや、自信満々で採用されましたっていってるし……」ヒソヒソ…





【ポイント14:たとえ不採用でも、内定式に紛れ込め!】

4月1日 入社式──

新入社員A「いよいよ社会人か、気を引き締めないと!」

新入社員B「早く一人前になりたいぜ!」

新入社員C「やっていけるか、不安だなぁ」

男「お前ら三人とも、将来的には俺の部下になるんだけどな!」



社員A「あいつの名前、やっぱり採用者名簿に載ってないって……」ヒソヒソ…

社員B「だけど、すげー自信満々だし、こっちの不備なのかも……」ヒソヒソ…





【ポイント15:入社式にも参加してしまえ!】

社員C「君の存在には色々疑問が残るが、結局研修まで受けてもらっちゃったから」

社員C「とりあえず、営業に配属ってことで」

男「営業ですか……」

男「いきなり社長にしてもらってもよかったんですが」

男「まぁ致し方ないでしょう」

男「しばらくはヒラで我慢しますよ」

社員C(うむむ、すごいのが入ってきたもんだ……)ゴクッ…





【ポイント16:うまく会社に潜り込んだからには、目指すは社長のみ!】

対上司──

上司「なんだね、このミスは!?」

男「いや、それはあなたのミスです」

上司「なにをいってるんだ、君は!? 君のミスだろうが!」

男「ちゃんと見て下さい、アンタのミスですよ」

上司「え、だって君が──」

男「お前のミスだ」

上司「そ、そうかもしれん……。すまなかった……」





【ポイント17:他人のミスは他人のミス、俺のミスも他人のミス!】

対取引先──

男「契約して下さいよ!」

取引先「この条件では、とてもハンコは押せんよ」

男「俺の目を見て下さい」ジッ…

取引先(なんだ、この目は……すっごいウソっぽい、誠意の感じられない目つき!)

男「…………」ジッ…

取引先(悔しい……! でも……押したくなっちゃう!)

取引先「契約しよう」ポンッ

男「礼は……いわないぜ」





【ポイント18:営業は押して押させろ!】

居酒屋──

課長A「あの集団面接の四人で、会うのも久しぶりだな」

課長B「みんな、元気そうでなによりだ」

課長C「みんなすっかり年食ったよなぁ」

男「ま、俺にクビにされないよう、せいぜい定年までがんばれよ」

課長A「…………」

課長B「…………」

課長C「…………」





【ポイント19:同期への威嚇、怠るべからず!】

社長室──

男(ハッタリだけで入社して、はや数十年……)

男(ついに……ついにここまでたどり着いた)ギシッ…

男(ついに俺が社長になったんだ……)

男(とはいえ、やることはなんにも変わらない)

男(出世はもちろん、妻もハッタリで手に入れたし)

男(経営だって、株主総会だって、今まで通りのやり方で乗り越えてみせる)





【ポイント20:社長になってもおごることなく、初心を忘れるな!】

男(しかしまぁ、なんだな……)

男(こうしてトップに立ってみて、初めて分かることもある)

男(世の中の──いわゆるトップらへんにいる連中ってのは)

男(俺ほど極端ではないにせよ、程度の差はあるにせよ)

男(きっとみんな、俺みたいな生き方してのし上がったんだろうなって)









< 完 >

これで終わりです
楽しんでもらえれば嬉しいです

乙です

ホントにやったらその2の時点でつまみ出されるだろうけど乙


面白かった

あるある

凄いな。俺も実践してみよう(棒)

多分この男には凄みとかオーラがあるんだろうな

途中までまあ面白かったけど>>19の時点で夢過ぎてダメだったと思う

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