空を飛ぶ夢を見た (18)
私は鳥が好きだ。
籠に入れて飼うとかそんなんじゃなくて、空を自由に飛び回る鳥が。
あんまり覚えていないけれど、あの日も鳥を眺めながら歩いていた気がする。
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気付けば私は、病院のベッドの上だった。
何が起きたのか分からない私に、お医者さんがやってきて教えてくれた。
生きているのが奇跡だったらしい。
そんなこと突然言われたって分からない。
お医者さんの方へ詰め寄ろうとして、ベッドから落ちる私。
申し訳なさそうな顔のお医者さん。
泣いてる両親。
分からないことだらけで眩暈がした。
しばらくして彼が、病室に来た。
久しぶりに鼻に、絆創膏を付けている。
母親から聞いたが、私を助けてくれたのも彼で、私の事を聞いてお医者さんに殴りかかったのも彼らしい。
そういえば確かに、お医者さんの眼鏡が割れていた気がする。
口下手な彼の口数が今日は妙に多くて、私を励まそうとしてくれているのが感じ取れた。
自棄になりかけていたが、私の為に頑張ってくれる人のために生きてみようと思った。
今日、窓際に鳥が飛んできた。
触れようと手を伸ばすと、ひらりと躱して再び飛び上がってしまう。
その背中が見えなくなるまで見つめて、私は小さく溜息を吐いた。
まるで今の私は鳥籠の鳥だ。
そんな私を見て鳥も可哀想だと思ったのだろうか?
かつて私が鳥籠の鳥を見て、そう思っていたように。
こうずっと味気ない食事が続くと、うんざりしてくる。
体に不調はあまり感じないのだからなおさらだ。
あなたの足は付いている、だが動いてくれない。
いっその事無くなってしまっていれば、余計な希望なんて持たなくてすんだのに。
口が裂けてもこんな事、両親には言えないけれど、彼は黙って聞いてくれた。
こんな事を言えば、彼が傷付くのは分かっている。
なんと身勝手なのだろう、私は。
久しぶりに肌で感じる、風の感触。
屋上へ来れるようになるまでどのぐらいの期間がかかっただろう?
数日だったかもしれないし、もう年単位で時間が過ぎたかもしれない。
でも今はそんなことより、この感触を楽しみたい。
付きあわせちゃ悪いし後は自分で戻れるから、と彼に言う。
すると彼はお前と一緒ならなんだっていい、なんてキザな事を言ってきた。
耳まで赤くぐらいなら言わなきゃいいのに。
私はついくすり、と笑ってしまった。
笑うなんて、いつぶりだろう?
今日、私の知らない人が病室に来た。
私がこうなってしまう原因となった事故、その事故を起こした会社の社長さんだとかなんとか。
社長さんは涙ながらにあなたに土下座してきた。
テレビで見る政治家さんとかの謝罪とは違う、本気の謝罪。
そんなことをされても困る。
皮肉でもなく、恨みでもなく、ただ淡々と言葉が口から出た。
きっと私が言いたいことは、もうすでに誰かが言ってしまっているだろうから。
社長さんの方は見ない、見れない。
続く
続け
その日、私は空を飛んでいた
隣を飛ぶ鳥さんに挨拶をすると、急上昇
そのまま雲を抜けて、さらに上へ
夢はそこで終わったけれどあのまま飛んで行ったらどうなっていたんだろう?
そんなことを両親に話したら、泣かれた
私としては世間話みたいな感覚だったのだが、今思えば確かに無神経だった
同じ夢の話を、彼にもしてみた
彼は何を言うでもなく、腕を組んであなたの話を聞いていた
全部話終えて私がふぅ、と息を付くと
彼もふむ、と息を一つ吐いてから
「飛びたいのか?」と聞いてきた
まっすぐ私を見つめる、彼の瞳
私の大好きな、瞳
その瞳をじっくりと見ながら、私は頷きを返した
その日、私は空に近づいた
彼の肩に乗って、掴もうとした空は
以前まで見ていた空より、ほんの少しだけ近くて
それでも手を伸ばせば掴めるような気がして、私は手を思い切り伸ばした
誰かの叫ぶ声が聞こえたような気がしたけれど
彼が走り出したので、気にせず風に身を任せる事にした
こんなに気持ちい風、久しぶり
続く
しばらく、彼が病室に入れなくなった
両親が本気で心配してくれて、お医者さんも私の身を案じてくれている
それは分かっている、分かっている……のだけれど
やっぱり彼の顔が見れないのは、寂しい
小さく付いた溜息を、聞いてくれる人もいない
チチチ、と窓に止まった鳥に手を伸ばす
キミも遊び相手が、いないの?と
伸ばした私の手を躱すように飛んで行ってしまった
しばらくして、彼が病室へ入ることを許された頃
私は自分の足が、もうどうしようも無いのだと理解し始めた
ほんの少しだけ、期待していた
ドキュメンタリー番組なんかでは決まって、こういう時奇跡が起きるものだから
だから……私にだってそんな奇跡あっていいじゃないか、と
「大丈夫か?」と彼が優しく頬に触れる
気付かないうちに、泣いていたようだ
久しぶりに触れる彼の温もりに、私の涙が止まらなくなった
私は今、彼と一緒に河原にいる
ここまで運んでくれたのは彼
ここまで来ようと行ったのは私
「あ」と小さく呟いた彼の視線の先で、小鳥が飛んで行った
私はそんな小鳥へ手を伸ばし、空を見る
そう言えば最近、空を飛ぶ夢は見ない
私にはちゃんと、羽がある
終わる
乙
こういう現実的な話好きだ
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