長谷川千雨「鳴護アリサ、って知ってるか?」 (979)
「魔法先生ネギま!」と映画「エンデュミオンの奇蹟」(とある魔術の禁書目録)
のクロスオーバー作品です。
ネギま!の終盤からのサザエさん時空が映画の時期にリンクしています。
自分でも先が計り切れませんが、当面の予測として
多分、ネギま!側がメインの進行になります。
ネギま!一通りと禁書の映画(と前提になる禁書)観てないと厳しいと思います。
正直言って、自分の禁書の知識、地雷あるかも(汗)、
ご都合独自解釈もありますが、爆炎上げて吹っ飛んでる様でしたら、お手柔らかに
それでは投下、スタートです。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1368805523
ネギま!は最低何巻読んでおけばいい?
長すぎて読む気がなかったし、打ち切りだった記憶が……
>>2
早速にどうも。
ごめん、最終盤からのリンクです(汗)
只、そこまで読まないと理解出来ない話になるか…
網羅的に参照してそうで正直把握しきれてません。
>>1
× ×
一見すると、ちょっと変わった姉弟、と言った所だろうか。
姉の方は、日本人の目線で言えば白人ハーフの日本人を普通に連想させる
流れる様なロングの金髪も美しいすらりとした美少女。
弟の方は、その意味ではこの辺では珍しくないだろう赤毛の白人少年。
年齢は精々が十代前半かそれよりも下だが、
きちんとスーツを着こなしているのが変わっていると言えば変わっている。
それでは姉の方はと言えば、
見る人が見れば結構な金額になる装いをセンス良く着こなしている。
丁度お茶の時刻、ロンドン市内のオープンカフェで落ち合ったそんな二人は、
実際の所は姉弟と言う訳ではない。
「いかがでしたか、ネギ先生?」
金髪の美少女が尋ねた。
「有意義なお話しが出来ました」
ネギ先生と呼ばれた男の子がそう言ってにこっと微笑む。
金髪の美少女雪広あやかならずとも天使の微笑みと言う表現に躊躇は要らない。
回りくどい表現をしたが種も仕掛けも無い、正真正銘ネギ・スプリングフィールド先生である。
スコーンでミルクティーを楽しみながら、話を続ける。
「夕食の席で改めてお話ししたいと。
先方への取り次ぎに就いても色よい返事を頂きました」
「まあっ」
あやかが目を輝かせた。
「でも、よろしかったのですか?」
あやかが話を続けた。
>>3
「色々と事情があると伺いましたが。
やはり、わたくしのカードを使うのが確実だったのでは…」
「いえ、カードを使えば発覚してそれに対抗される、
最悪、それだけで宣戦布告とみなされてしまう。そう思った方がいい相手です。
それに、この先、どれだけ困難でも誠意をもって向き合わなければならない相手ですから」
ぐっ、と前を見るその表情を、あやかは優しく、そして惚れ惚れと眺めていた。
「それでいいんちょさん」
「はい、ネギ先生」
「お願いがあるんですけど」
「なんなりと」
「はい。それでは、僕も勉強はしたんですが、
改めて少し、日本の古文を教えていただけないでしょうか?」
「え?あの、ネギ先生?」
「はい」
「あの、確か、イギリス紳士であるネギ先生が
こちらの方と面談なされたのですよね?」
「ええ、そうなんですが」
× ×
「メイゴ、アリサ、ですか?」
「知らんな」
長谷川千雨にとって、想定された通りの反応が返って来た。
場所は麻帆良大学工学部、葉加瀬聡美の研究室。
返答したのは桜咲刹那に犬上小太郎。
葉加瀬聡美は千雨、刹那と同じ女子校麻帆良学園中等部三年A組の生徒であるが、
大学にも研究室を許された天才科学者の一面も持ち合わせている。
「歌手のARISAの本名、って言っても余計分からなくなりそうだな」
そう言いながら、千雨が自分のノーパソを操作してアリサのサイトを映し出す。
そこに映し出されたのは、自身のキーボード演奏と共に歌うアリサの路上ライブの映像だ。
歳は千雨の一つ二つ上か、容姿は可愛いと言っていいだろう。
>>4
「…いいですね…」
刹那が言った。
「こういう歌は余り聴かないのですが、何と言いますか、いいです」
「あー、俺もそうや。そういうテレビとか見ぃへんけどなぁ。いいなこれ」
「ああ、歌手って言ってもマイナーだからな。今ん所路上やネットがほとんどだ。
実際いい歌だよ。何て言うか心が洗われると言うか、
例えば、アクセスランキングなんて詰まらないものに囚われて、
アリサのサイトにウィルス送り込んでやろうとか掲示板荒らしてやろうとか、
そんな邪な心を抱いたとしてもこれを聞いたらすっきり洗い流されるってぐらいいい歌だ」
「確かに、何かがありますね」
刹那が続ける。
「魔力的なものではありませんが、質のいい御詠歌を聞いた後の様でもある、
歌そのものの力なのでしょうか」
「そうですね、確かに脳科学的な音波、周波数のパターンの見地からも、
この歌に関するある程度の見解は出せるのですが、
やはり、そうした科学の領域を留保した感覚的なものがあるのではと」
刹那と聡美がそれぞれの見解を述べた。
「で、ひょんな事からこのアリサと知り合いになったんだ」
「千雨姉ちゃんがか?」
「ああ」
少々退屈の虫がうずき始めた犬耳ワンパク小僧犬上小太郎の問いに千雨が応じる。
千雨が「ちう」の名前で運営しているウェブサイトでARISAを紹介した所、
「ちう」の愛読者だったと言うアリサ本人からのアクセスがあり、
非公開のやり取りをしている間柄だった。
「未来のステージ衣装の事とか色々話している中で、
アリサの部屋撮り写真を何度かもらったんだが」
そう言って、千雨はプリントアウトした写真を何枚か取り出して刹那、小太郎に渡す。
当初は何と言う事も無く目を通していた二人が、眉をぴりりと動かし始めた。
>>5
「いるな」
「ええ、いますね」
写真に目を通す二人の呟きを聞きながら、聡美が室内の大型モニターを操作する。
そこに映し出されたのは千雨が受け取ったアリサの部屋の画像だったが、
モニターの中でその部屋の窓が徐々に拡大される。
その作業が、別の部屋撮り画像で幾度か繰り返される。
「なあ、何に見える?」
「魔法使い」
千雨の問いに、刹那がぽつっと応じた。
既に、刹那からは珍しい友人からの招きに寛いだ雰囲気は消え失せ、
その眼差しは頼もしい仕事モードだ。
「だよなぁ」
はあっと嘆息した千雨は、バリバリと後頭部を掻く。
「確定的な結論を出すには元の画像の質が不足していましたが、
分析結果として現時点で確実に言えるのは、対象は人間、判明している限り三人です」
聡美が説明した。
「変態コスプレストーカーにしちゃあ気合いが入り過ぎてる」
「只のコスプレやなかったら西洋魔術師やな」
千雨の言葉に、小太郎はややウキウキとした口調で言った。
只、刹那の周辺に洋の東西と外見とのマッチングに少々問題があるケースが無いではないのが引っ掛かる。
「場所は、どこですか?」
「科学の学園都市です」
千雨の言葉に、刹那と小太郎が顔を見合わせた。
「おかしい」
刹那が呟く。
>>6
「科学の学園都市がどういう場所だか、長谷川さんはご存じですよね?」
「まあ、表に出てる程度の事はな。
街ぐるみで最先端科学を研究してる実質的な独立国家」
「科学覇権主義、と言ってもいいですね。
今や、世界の科学技術そのものがあの都市のお下がりも同然。
それでいて、物理的にも法的にも厳重に閉ざされたブラックボックス」
聡美が言った。
「インターネットも、少なくとも科学の学園都市側からの発信は
何重にも検閲されています、想像を絶する技術で。
簡単に言えば、向こう側の人間でも害の無い限り支障はありません。
しかし、単純な単語検索を初めとして、
把握される流出情報の質や悪意のレベルに合わせて、エラーを偽装した差し止めから逆探知まで
直ちに対応出来るシステムになっている、と、
これが当たらずとも遠からじな実情であると私は把握しています。
加えて、そもそもソフトもハードも何世代も先に行っていますから、
基本的なものはとにかく、サブ的なものは、
向こうではそれが普通でもそんなものをうっかりこちら側に送られたら」
「ああ、まるっきり解読不能、下手すりゃ開いた途端に冷凍庫、何回か引っ掛かったよ」
聡美の言葉に千雨が応じた。
「より閉鎖的なのは魔法との関係です」
刹那が言った。
「端的に言います。科学の学園都市に魔法使いは立ち入れません。西洋東洋問わずです」
「そうなのか?」
「そうです。余りにも進みすぎた科学の学園都市の科学技術と魔法の技術。
それが交わる事で生ずる現実的、政治的な影響は未だ計り知れないと言う事で、
現時点では、少なくとも外交関係が成立している魔法の勢力は
科学の学園都市には関わりを持たない。その旨の協定を結んでいます」
「一時期はあったみたいなんですけどね」
聡美がデコを光らせながらくいっと眼鏡を直す。
>>7
「人間の能力に関して、彼らの科学は魔法を受け容れない。
どうも現時点ではそういう結論に達しているらしいんです」
「この辺じゃロボがうろうろしてるってのに、違うモンだな」
「ええ。こちらはそれこそ魔法を科学するのが流儀ですから、
その流れで色々と話を聞く事もあるんですけど。
一時期向こうでもそのギャップを埋める研究も進められていたらしいんですが、
事は人間の能力と魔術に関わる事です。
研究者のアングラ情報では何かイギリスで凄惨な犠牲が出て立ち消えになったと言う話も聞いています」
「人体実験で人体爆発もやらかしたのかよ」
「恐らくその線だと思います」
「取り敢えず、魔法関係でアリサさんが何か付きまとわれている可能性がある、と」
「そういう事になるな」
刹那の言葉に千雨が同意する。
「分かりました。少し心当たりを当たってみます」
「ああ、そうしてくれると助かる」
千雨が感謝を示し、刹那が頷いた。
一般人でいたい筈の長谷川千雨だが、今やネギ・パーティーと言うべき魔法勢力にどっぷり浸って
ついこの間夏休みがてら世界一つ救出して来た所だ。
そのネギ・パーティーの誰よりも頼りなく誰よりも頼もしいリーダーである
ネギ・スプリングフィールドは、十歳の少年にして飛び級卒業の千雨の担任教師であるにも関わらず、
ここ暫く、夏休み明けからずっとろくに学校にも来ておらず接触する機会が乏しい。
マイナーでも歌手が相手でもある。
千雨の周囲に事欠かない、火力はあってもやかましい面々は余り巻き込みたくない。
だからと言って、現在の実質的な担任とか色黒ノッポな巫女とか恐怖心が先に立つのもあれだ。
等と考えている内に、当面の相談相手としてこの人選に至ったと言う事だ。
人間としては誠実そのものである刹那はもちろん、元はいっぱしの悪ガキをやっていた小太郎も、
喋っていい事と悪い事の区別ぐらいは付くだろう。
見た所、裏側の知恵もある。何よりも半端なく強い。
>>8
× ×
「よう」
「いらっしゃい」
麻帆良大学工学部を後にした千雨は、夕食後に女子寮の665号室を訪れ、
住人である村上夏美と挨拶を交わしていた。
「よっ」
「ああ」
リビングで、つい先ほど顔を合わせていた小太郎とも挨拶を交わす。
本来この部屋は村上夏美、那波千鶴、雪広あやかが住人であり
小太郎が暫定的に居候している状態であるが、
最近、夏美以外の元々の住人、特にあやかの外出は頻繁なものだった。
「いらっしゃい」
「ああ」
にこっと微笑む那波千鶴に千雨が挨拶を返す。
ゆったりした部屋着の上からも、やはり圧倒的な胸のボリューム、
だけではない、年齢さしょ…とにかく緩やかでいながら圧倒的に大人びた何かがある。
「どうぞ」
「ああ、ありがとう」
途中で思考を強制的な切り替えた千雨が、ウーロン茶を用意した千鶴に頭を下げる。
「珍しいな、そっちから呼び出しって」
「それはお互い様やけどな」
「まあ、確かに。さっきの件か?」
「ああ」
小太郎の表情は真面目なものだった。
「ちぃと、まずいかも知れんな」
「と、言うと?」
「問題は、刹那の姉ちゃんが言うてた心当たり、や」
「知ってるのか?」
「多分な。千草の姉ちゃん所で小耳に挟んだ。
だとすると、逆の目に出るかも知れん」
>>9
「何何だよ一体?」
珍しい奥歯に物が挟まった様な小太郎の言葉に、千雨が苛立ちを覗かせる。
「科学の学園都市で魔法使いがもう動き出してるって事になるとな、
その刹那の姉ちゃんの心当たりが当たりかも知れん。
まあ、簡単に言うとそういう事なんやけど、簡単に言えないから困るんやこの辺の関係は」
「つまり、そっちの業界の話か?」
「まあ、そういう事やな」
「つまり、桜咲が連絡入れる相手が実はストーカー連中と繋がってる、そういう事か?」
「ああ、正直あり得る状況や」
「じゃあなんで止めなかった?」
「そこや。特に刹那の姉ちゃんの場合、元々の人間関係なんかもあって、
あの話の流れだとそっちに話を持っていかなあかん、そういう関係もあるさかいな。
それが当たりやったら、ちぃとまずい事になるかもなぁ」
「何なんだよ、一体…
あいつ、アリサ、一体何に巻き込まれてやがるんだ」
「自分らで確かめるしかないなぁ」
バリバリと頭を掻く千雨に、小太郎が言った。
今回はここまでです。
作りながらこの辺でスタートしないと思考が迷宮突入しそうで
踏ん切りに始めたみたいな所がありますが、始めたからにはぼちぼち頑張ります。
続きは折を見て。
ほォ…ネギま×禁書とは珍しい!
ありそうで無かったクロスSSだから嬉しい!
両方共好きな作品だから期待!
禁書の「魔術」とネギまの「魔法」をいかに上手に使い分けてくれるかに期待
感想どうもです。
>>11
実際、難しいですよ。
大きく違う二つよりも似ている上にどっちもやたら凝ってるってなると、
齟齬があると小さくても硬い、ここは譲れないと言う定義、世界観の摺り合わせなんかが。
>>12
まあ、考えが無いではないですが…
汗ダラッダラで>>12 のレスを読んでいたと
サクシャは内心の動揺を押し隠し何食わぬ顔で着々と投下の準備をしています。
…と、言う事で、もしもの時は、
ちょっとばかし察してくれると嬉しい…
ついでに、細かい事ですが
>>6で間違えて千雨が敬語喋ってますね。
「場所はどこですか?」
「科学の学園都市だ」
これが本来の記述になります。。
では、今回の投下、入ります。
>>10
>>13
× ×
科学の学園都市内境界周辺特別招待所。
日本に帰国したネギとあやかは、その高級ホテルでも十分通用する招待所の一室で待機していた。
ここ科学の学園都市は、国際法及び日本国の立法、公式見解の下に於いては日本国内であるにも関わらず、
独立国家に近い実質を有し外部の人間の出入りは厳重に制限されている。
ネギが交渉した英国の関係及び、
あやかの関わる科学の学園都市の外部協力企業のルートから当面の「入国」許可を得た二人は、
アンチスキルと読み警備員と漢字を当てる科学の学園都市の警察職員から
都市への入国手続きと共にここで待機する様に案内されていた。
部屋のドアがノックされる。
あやかがインターホンで応対し、ドアを開く。
現れたのは、取り敢えず部屋まで案内した、
十分なホテル的挙動を訓練されたここの職員だった。
「ネギ・スプリングフィールドさん」
「はい」
「お電話です」
ネギが立ち上がり、職員の案内を受けて部屋を出る。
ネギが戻って来る前に、ドアがノックされた。
あやかがインターホンで応対し、ドアが開かれる。
相手は、「合い言葉」を知っていた。
ドアを開けて中に入った結標淡希は、何の気無しにあやかを上から下まで一瞥した。
一言で言えば贅沢至極。
クォーターだと言う事だが、そっち系の美少女そのままの容姿、流れる長い金髪。
すらりと背が高く出る所引っ込む所のメリハリが半端じゃない。
服装のセンスもお上品でさり気なく金がかかっていながら成金的な下品さが無い。
そんな圧倒的な相手が自分よりも年下の中学生。
渡された資料がそうだと言うだけではなく、同年代の女子の勘、
特に中学とその上の違いは、事、同性の間に於いては察知出来るものだ。
>>14
一方のあやかの方は、特に悪い印象は持っていない。
ばっさりとしたショートカットで上半身はサラシの様なピンクの布を胸に巻いて
ジャケットを羽織っているだけ、下はミニスカート。
露出過多とも言えるが、元々あやかは色々な意味で変人は見慣れている。
結標の方は少々剣呑、鼻白んだ様な雰囲気をあやかに示しているが、
それも又、特にネギの「事業」に関わり始めてからは雪広あやかの宿命として
初対面で一々気にする程の事ではない。
「あー、どうも、雪広あやかさんでいいんですね?」
「はい」
「そちらを担当する統括理事から連絡役として派遣された結標淡希です」
そう言って結標は一通の書面を差し出し、あやかの差し出した書面と照合される。
「ここ、学園都市は初めてですね。
まあ、聞いてるスケジュールだと、
こっちの理事会からの代表と事業に関わる企業関係者、
その辺の挨拶回りで滞在予定はオーバーって所だね。
ここは外とは違って色々と面倒な所だから、
あんまりうろうろしないで予定通りさくっと用事済ませて貰いましょう。
外の人間が余計な事したら色々と保障できない場所柄なもんで」
鼻で笑ってツカツカと歩み寄る結標は、あやか余裕のクイーン・スマイルが何とも言えず勘に障る。
いっそ、スキルアウト御用達の廃ビル辺りにご案内してやろうかと頭をよぎった辺りで、
学園都市謹製スーパー医療技術で病み上がりに引っ張り戻されて早々に
こき使われても文句の言えない現状を辛うじて思い出す。
そんな、微妙な雰囲気を物音が破壊する。
「お待たせしました、少し補足連絡がありまして。
もう案内の人がついてるって伺ったんですが」
結標が開いて閉ざされたドアに目を向け、改めて資料を確認する。
そして、現れたネギの前に片膝をつき、
白い両手を自らの両手で包み込み情熱的に熱く潤んだ眼差しではっしとネギを見据える。
>>15
「初めまして、ネギ・スプリングフィールド先生。
わたくし、この学園都市におきましてネギ先生の露払いという
大役を仰せつかり恐悦至極に存じ奉りまする栄誉に預かりました結標淡希と申す者にございます。
今後はわたくしにご用命あらば例え火の中水の中、
湖の水を飲み干してでも身命を賭してお助け致しまする所存にて
それではさっそくホテルにご案内いたしまして最も重要なバス・ベッドの使用方法を実地にて…」
あやかは近くにあった巨大な模造紙を山折り、谷折りして、
腰を入れて結標の顔面目がけてフルスイングする。
「あ、あの、大丈夫ですか?」
「HAHAHAちょっとはしゃぎ過ぎてしまった様ですな」
心配そうに覗き込んだネギの前で、
結標は半ば埋もれた壁からボコッと復活して、むくっと立ち上がり後頭部を撫でながら高笑いする。
「まあ、そういう訳で、学園都市のご案内は淡希お姉さんにお任せして
大船に乗ったつもりでどーんと安心しちゃって頂戴って事でHAHAHA」
「はい、有り難うございます」
ダクダクと鼻血を垂れ流しながら高笑いする結標にネギは礼儀正しくぺこりと頭を下げ、
ニコッと天使の笑顔を向ける。
一際激しく鮮血を噴射しながら天を仰いだ結標は、
そっと鼻にハンケチを当てると改めてその天然女殺しな笑顔を目から脳味噌に煙が出るまで焼き付ける。
そして、その隣で慈母の微笑みを浮かべているあやかを見据える。
あやかと結標は共に不敵な笑みを浮かべ、そしてガシッと熱い握手を交わした。
「それじゃあ少し具体的な話をさせてもらうね。
この学園都市は、街自体が外からうん十年進んだ巨大な最先端科学研究機関。
そのために、研究上の便宜、何よりも秘密漏洩防止のために国から様々な特例が認められている。
ざっくり言ってここは日本であって日本ではない、実質的な独立国家、OK?」
人懐っこくも不敵な笑みを浮かべる結標に、ネギとあやかは頷いた。
「あなた達が今持っているのは、ここを含むゲートエリアだけで通用する入国専用ID 。
これが滞在用ID、それからマネーカードにレンタルの携帯電話、PDA。諸々の説明書。
端っから言っておけば、学園都市は最先端科学の街、言い換えれば効率的なデジタル管理の街。
その学園都市内に於いて、
様々な意味での重要人物であるあなた達の滞在中の電子的記録は監視され集約され管理されている。
ここでのあなた達のプライベートは、あるとするなら精々トイレの中までと思った方がいい」
>>16
そこまで言って、結標はすたっとネギの前に片膝をつき、
両手で両手を包み込み情熱的に熱く潤んだ眼差しではっしとネギを見据える。
「但し、ネギ先生が一言仰せ付けられましたらこの結標淡希、
すぐさまあらゆる治安組織統括理事会暗部組織から完全に隠匿された
絶対秘密厳守のセーフハウスをダース単位で用意して
静寂の寝室に於いてネギ先生との熱く親密な秘密の一時を」
その時には、目をぎゅぴーんと輝かせたあやかが鶴の体勢で飛翔していた。
「わー」パチパチ
雪広流vs裏社会実戦組手演武を一通り観賞したネギがパチパチ手を叩いたのを潮に、
あやかと結標の二人はガシッと熱い握手を交わして結標が説明を続ける。
「と、まあ、そういう事なので。
あなた達の申請予定も入力済みのこのレンタル端末使えば
学園都市でも表の事は大概分かるし、
わざわざ私みたいのが付きまとってガイドしてると却って邪魔でしょう。
そっちにはそっちの都合があるでしょうし、どうせこの街にいる限り
監視は電子的にやられてるんだから、この上ガイド兼監視役なんてのもね。
と言う訳で、一応ホテルまでは案内するけど後は自由行動って事で。
許可が出てるぐらいだから大丈夫だと思うけど、
端末にも入れといた通り、危ない所には近づかない、
いや、ホントこれだけはお願い。最先端科学の街だからこそ裏通りは本気で危ないから。
私のケー番とメアドも入れてあるけど、私もすぐ出られるか分からないし、
あんたらのVIPなIDならホテルとか公共機関に頼れば
大概なんとかなるからその辺は私の事あんまり当てにしないで」
>>17
そこまで言って、結標はすたっとネギの前に片膝をつき、
両手で両手を包み込み情熱的に熱く潤んだ眼差しではっしとネギを見据える。
「但し、ネギ先生が夜の相談室に大人の階段を上りたいとこっそりお電話いただけるのでしたら
この結標淡希五秒でベッドメイキングの上不肖わたくし自ら懇切丁寧熱意溢れる肉体言語…」
その時には、鋭い角度で跳躍したあやかの膝が結標の顔面に肉薄していた。
「わー」パチパチ
雪広流vs裏社会実戦組手演武を一通り観賞したネギがパチパチ手を叩いたのを潮に、
あやかと結標二人はガシッと熱い握手を交わして結標が話を続ける。
「それではこれよりホテルまでご案内しまーす」
× ×
「夏の大事件を解決して今も精力的に駈けずり回っている正に英雄」
「その英雄の学園都市訪問許可。協定違反なんてレベルじゃないな」
「彼のプランを大方針として支持する事に就いては、
学園都市を含む各勢力で合意が成立している。
宇宙エレベーターは既に先んじて出来上がってしまっている」
「なぜか、な」
「彼のプランに不可欠なものである以上、
それは既に了承された範囲内の事だろう」
「その理屈で根回しか。もっとも、大方の所は向こうさんで済ませた後だ、なかなか抜かりの無い」
「大上段の人道主義と突拍子もないプランを掲げる、丸で子どもだ」
「その子どものプランは既に基本合意以上のコンセンサスが成立している。
向こうの火力がデカ過ぎるってだけじゃない。
そのデカ過ぎる火力の威嚇を絶妙に鞘の内にしながら、
人道主義と現実的な利権。科学と魔術が角突き合わせてる宇宙の覇権にとんでもない所から唾付けて、
ヨダレを見せた連中を上手く転がしてやがる。無邪気な顔してなかなかの腹芸だぜあいつら」
>>18
× ×
「着いたんか?」
「で、ござるな」
科学の学園都市内のとある廃ビル。
長瀬楓のアーティファクト「天狗之隠蓑」から姿を現したのは、
犬神小太郎、長谷川千雨、村上夏美と言う面々だった。
色々考えた末、一応まとめ役となるネギがいない現状、
そして科学の学園都市と言う越境作業の都合上、思慮深い面子による少数精鋭と言う結論に達した。
まず、言い出しっぺの千雨、そして、総合力の高い「忍術」を使う楓と小太郎。
楓は多人数を異次元空間に収納運搬出来る「天狗之隠蓑」を使う点でも何としても欲しい人材だった。
夏美に関しては小太郎の実質的なパートナーであり、
それでいて本来一般人であるべき立ち位置なのだが、
まず、彼女の使うアーティファクトが隠密行動の上で侮れない。
先の会合の都合上、話を聞いた夏美に一応振ってみたら、
それでも何でも夏休みの苦楽を共にした友人の友人の魔法的な危機であり
自分の能力が頼られると言う事は満更でもない、そんな感じで同行が決定していた。
「ここ、科学の学園都市か?」
小太郎が尋ねる。
「で、ござるな」
「まあ、越境時の一時的な電子的監視システムのごまかし、
それに、いるだけで逮捕されない程度には葉加瀬がやってくれてるって事だが」
千雨が周囲を一瞥して言う。
とにかく、科学の学園都市に於ける電子的な監視網は半端なものではない。
衛星の目による常時監視を初めとした様々な監視網は、
密入国者が都市内を文字通り出歩く事自体を困難ならしめる。
無論、「国境線」の越境も決して簡単な事ではない。
麻帆良学園都市から、「外(科学の学園都市の外)」の科学相手であれば
大概の事が出来そうな葉加瀬でも、科学の学園都市相手では相当に勝手が違う話だった。
>>19
「何せ相手は科学の学園都市だ。
とにかくアリサの状況を把握するまでは可能な限りトラブルを回避して
くれぐれも余計な揉め事等を起こさない様に…」
そう言いながらくるりと振り返った千雨の前には、
いかにも頭の悪そうな風体の見るからにチンピラ集団が死屍累々の巷を形成し、
最新情報を更新するならば、その巨大な槍の如き脚の一撃でコンクリ柱を蹴り砕いた巨漢が、
そのバカ破壊力な脚槍の上をひらりと舞う小太郎の跳び蹴りを顔面に叩き込まれた今その時だった。
そして、そんな二人の背景では、千雨がコオオと更にその背景に炎を燃え上がらせて拳を握っていた。
今回はここまでです。続きは折を見て。
縺殻 荵
文の最初に>>とかしなくていいと思うんだけど
まあ乙
>>22
どうもです。
慣れもありますので取り敢えずこのまま続けます。
それでは、今回の投下、入ります。
>>20
× ×
千雨は腕組みしていた。
そこは、学園都市地下街の一軒のゲームセンター。
「あのー」
楽をして悪いとは思うのだが、途中まで楓の「天狗之隠蓑」に隠れつつそこまで到着した一行は、
千雨の発案で賑やかなゲームセンターに入っていた。
取り敢えず手分けした後、その一角にある機械の前で、千雨は立ち止まり熟考していた。
(カナミンが出来るのか)
「あのー」
(とは言え、こんな所であいつらに裏の顔を知られる訳にはいかない)
「あのー」
(それに、こんな事をしている暇は無い)
「あのー」
(あくまで、路上シンガーと言うイメージからなんとなくゲーセンに手がかりを求めて入ったに過ぎない)
「あのー」
(に、してもよく出来ている、特にこのカナミン。さすが科学の学園都市)
「あのー」
(一度科学の学園都市を訪れたからには、レイヤーとしてこの機会を)
「あのー」
(だからと言って一人で)
「あのー」
(とは言え、こんな所であいつらに裏の顔を知られる訳にはいかない)
「あのー」
「なんだ、あ?」
「こちら、使うんですか?」
>>23
ちょっと驚きながら声の聞こえた横を見て、千雨は目をパチパチさせる。
そちらに現れたちょっと年上らしき少女の姿にほんの少し考えて、納得する。
さすがは科学の学園都市、実にハイスペックな案内用ホログラムだ。
それは、科学的な技術力だけではない。
(ストレートの黒髪眼鏡、絶妙なバランスでちょっと頼りない仕草、
清楚な白い制服姿でありながら一点突破のインパクト。シンプルだが実によく分かってる)
「あー、うん、そうだな。えーと、あんた一緒に撮ってくれるとか?」
「いいんですか?」
「ああ、そうしてくれると助かる」
気が付いたら、千雨は自分でも意外な程に気さくに応じていた。
後腐れが無さそうだと言うのもあるが、千雨にして安心して応じる何かがあった。
「こ、これはっ」
かくして、更衣室の中に入った千雨は、改めて科学の学園都市の技術力に驚嘆する。
(あのボリューム、なんと言ってもあのボリューム、ああ、この手の技術ってなると、
多分もっとアレな用途にも流用されてるんだろうな、科学の学園都市とは言っても脳内は、
何と言っても日本の技術革新はビデオデッキしかりインターネットしかり常にその方面から…
ふむ、そうやってあたかも用意された衣装にチェンジする様に…)
>>24
「なん、だと?…」
(…いやいやいや、おまえちょっとそれどっから見ても悪役用ブラック紐ビキニアーマーだと?
そうか、そうかよ。いかにも大人しいオドオドキャラとのギャップ萌えをピンポイントで狙って来たってか。
ふふ、ふふははは、ふふふははははは、
その分野に手を出すと言う事は誰に喧嘩を売っているのか理解しているのかなこのホログラム?
いいだろう。相手が悪かったな。無限にして有限の空間を ネ申 として君臨して来た
女王ちうランルージュがそのちょーっとはっちゃけた幻想を華麗にぶち殺してやるぜこのド素人が)
「」
(………唖然。いや、ちょっと待て。デカイってのもオドオドキャラってのも分かってはいたが、
愕然。これは、凄い、凄すぎる。何の罰ゲームだ?
つまりあれだ、男子に見られて恥ずかしいのなオドオド爆乳眼鏡キャラが
そのまんま悪の秘密結社の女幹部、それも紐、いっちゃったって事ですかァ?
いやいやいやいや間違いなく純度百パー天然本物の恥じらいとダイナマイト過ぎるナイスバディでもって
悪の秘密結社の紐ビキニアーマー、ね。
ねェェェェェェェェェよォォォォォォォォォっっっっっ!!!
ねェよねェって盛り過ぎってレベルじゃねェって、
その、眼鏡の向こうのうるうると、もじもじした腕と紐の向こうから見えるむっちむちのぱつんぱつんのが
真っ裸フルオープンの一京倍凶悪過ぎるだろおいっ、
アハ、アハハハハ、アヒャヒャヒャアヒャハハハ、エラーエラーエラー
天使!これは天使!!
地上に降臨して全てを焼き尽くす破壊力満点の凶悪過ぎるマジ天使っと、って奴だ…)
「ふむ、虚数学区の核心に迫る者が」コ゚ポッ
「はい、チーズ」
>>25
× ×
なんとなくちょっと寂しい気もした、それも余りによく出来ていたからなのか。
臨時パートナーが、にこっと微笑んで礼儀正しく頭を下げたかと思うと
気が付いたら早々に姿を消した事もあり、
犬耳小僧が気付いた頃には完璧な証拠隠滅を終えていた千雨は、
結局手がかりの欠片も無かった面々を促して次の行動に移る。
「ここだここ」
次にご一行様が訪れたのは一軒のファミリーレストランだった。
「アリサからも聞いた事あるんだけど、ドリンクバーが豊富で使い易いってさ」
それぞれ適当に食事を注文し飲物を運びながら、千雨がノーパソを取り出す。
「結局の所、ネットしか手がかりが無いからな」
「ARISAってネット中心のシンガーだっけ?」
夏美が言う。
「まあ、今ん所はそうだな。ネットとか学園都市の路上がメイン」
「そんなインディーズでも凄く人気あるんだよね」
夏美が言う。夏美も今の所端役とは言え演劇部員、
しかも、本来が決して主役向きでは無いと自覚しているタイプ。
自分と同年代で、メジャーアイドルならそれはそれで別世界にも見えるのだが、
アリサの様に自ら表に出て切り開こうと言う気概には敬意を覚える。
「なんだよな、歌が清々しいせいか面白い話もあるし」
「面白い?」
「ネット上の都市伝説だな、ARISAの歌を聴いたらいい事がある、って」
「うん、あれから私もネットとか見たけど普通に言われてるね。
それに、あの歌聞いたらなんか、分かる」
千雨の言葉に夏美が反応した。
「さあて、どの辺に出没して、るのかな…」
「な、何!?」
突如、ガタッと立ち上がった千雨に夏美が驚きの声を掛ける。
>>26
「リアル遭遇だっ!」
叫んだ千雨が、じろっと周囲を見回す。
「…二人分、食うか?…」
「おうっ」
千雨が、小太郎の肩をガシッと掴んで言った。
言い出しっぺとして、自分が退く訳にはいかない。
店を飛び出した千雨は、心の中で叫んでいた。
(不幸だあぁぁぁぁぁ)
流石に残りの面々もそれなりに急いで注文を平らげ、
窓際のテーブルからどがしゃーんと轟音が響き
ぞろぞろと店内の客が引き揚げるのに合わせる様に店を後にした。
× ×
「あっ、いた」
携帯で連絡を取り合いながら、楓と共にとある空中通路に駆け付けた夏美が、
通路の柱の陰で千雨の姿を発見した。
「それで、アリサ殿は?」
楓の問いに、千雨が親指を向ける。
「あれが、アリサさん?」
「ああ。で、あっちは何か、
初見のファンみたいだったけど、馬が合ってるらしいな」
夏美と千雨が言葉を交わす。その視線の先では、鳥撃ち帽を被ったアリサが、
アリサと同年代、高校生ぐらいの少年と談笑している。
黒髪がウニの様なツンツン頭の少年だ。そしてもう一人。
>>27
「シスター?」
「コスプレだな」
夏美の言葉に、千雨がすぱっと言った。
「ちょっと近くで見たが、マジモンの修道服にあんな装飾あり得ない、
って言うか装飾以前に何の前衛芸術だよありゃ」
「ふーん」
やたら快活そうに喋っている一見シスターなちびっこを眺めながら、言葉を交わす。
「おう、まだいたか」
不意に後ろからガシッと肩を掴まれ、千雨がギョッとして振り返る。
「コタロー君」
「なんだ、一緒じゃなかったのか」
「ああ、ちぃと近場の見晴らしのいい所にな。
いる、いや、いたで」
「いた、って?」
夏美が尋ね、小太郎の表情を見て夏美もやや不安気な表情を見せる。
「魔法ちゅうのは一つに薬草使いや。それは西も東も変わらへん」
「で、ござるな。それをもう少し科学的即物的にしたのが忍びでござる」
「ああ。微かにやけど微妙に癖の違う同じ系統の匂いが三つ、確かに残ってた」
「魔法使いか」
千雨の口調も真剣なものとなる。
「ああ。それも、基本の調合は最近嗅いだな。
日本でも、魔法世界でもない…」
千雨と夏美の喉がごくりと動いた。
「今は逃げられたけど、諦めたかは分からん。
夏美姉ちゃんと千雨姉ちゃんが手ぇ繋いでそのアリサにはっ付いて、
俺と楓姉ちゃんでちぃと離れて別々に追い掛ける、ちゅう事でどや?」
真面目な眼差しの小太郎の言葉に、一同小さく頷いた。
>>28
× ×
村上夏美はつい先ほども訪れたファミリーレストランで目を丸くしていた。
「ブラックホールかよ」
それは、夏美の隣で呆れ返っている長谷川千雨も同じだった。
取り敢えず、席に空きはあるし、あの様子だとこちらが食事を終えても悠々間に合う、
何よりあれを見ながら匂いを嗅ぎながら店の真ん中で突っ立っているのは精神的に厳しい。
と言う訳で、夏美と千雨は一端店の外に出て、
使用していた夏美のアーティファクトを解除してから店に入り、手早そうなスパゲティを注文する。
だが、結論を言えば、その後も暫くドリンクバーで粘る羽目に陥りひたすら呆れる。
「あーあ、泣き入ったよ」
千雨の言葉に、夏美は苦笑した。
二人が見ていた先では、伝票が天高く上り詰める勢いでとぐろを巻き、
とうとうスポンサーらしきウニ頭の少年がオーダーストップを哀願していた。
「あのコスプレシスターも凄いけど、アリサさんも」
「ああ、アリサの歌は歌っても作っても思いっ切りエネルギー燃焼系だってさ」
「自分で作ってるんだ」
「ああ」
目標の三人組が動き出したのを潮に、千雨と夏美も重い腰を上げる。
歩き出した二人に合わせる様に、やはり皿の山を残した別のテーブルからもふらりと動きがある。
「うっぷ。勝った、筈や」
千雨が、額に手を当てて嘆息する。
「うん、後でちづ姉ぇに報告しとくから」
「ち、ちっと待てぇ、ここは男として退けん所でなぁ…」
「いや、その有様の時点で負けてるって」
「げぷっ、お、恐るべし暴食エセシスター」
>>29
そこまで聞いて、千雨以下の面々は一斉に他人の振りをする。
当の本人が、足運びだけでスタターッとこちらに向かって来たからだ。
「誰がエセシスターなのかな!?それはイギリス清教に対する…」
「おいっ!………」
入口の方から、例の少年が呼ぶ声が聞こえる。
見た目からして、そのウニ頭の少年が保護者っぽい。
一方、小太郎に詰め寄ったシスターは、ちょっと首を傾げて小太郎が被っていた帽子に視線を向ける。
「行くぞーっ」
「待つんだよーっ!」
シスターがタタターッと立ち去り、一同ほっと胸を撫で下ろす。
「イギリス清教?あいつ、マジでシスターだったのか?
千雨がぽつりと呟く。
今回はここまでです。続きは折を見て。
それでは今回の投下、入ります。
>>30
× ×
長谷川千雨は、一般人であり一般人ではない。
その事はとうに自覚している。
非常識な環境を自覚し、その中で一般人でありたいと思い、それを口に出しながら、
自らの意思で魔法の世界に関わりを持った。
今更違う、と言い切るつもりはない。諸々の事は長谷川千雨の意思だった。
世の中、いいトコ取りなんて都合のいい話は無い。
魔法が奇蹟であり希望であるのなら、そこには必ず対価がある。
取り敢えず、その事は暑すぎる夏に何遍か死にかけた辺りで勘弁してくれ、
と、長谷川千雨は言っておく、今の所は。
自分の意思で魔法に関わり、
魔法の世界の大騒動から大切な人達を引っ張り戻して生きて帰って来た。
だからこそ思う。
リアルに姿を現してリアルの住人を魔法を使って襲っている魔法使いを見て、だからこそ思う。
「何やってんだてめぇらあぁぁっっっっっ!!!」
>>31
× ×
「うわぁー…」
ほんの少し前、村上夏美は、うっとりと聞き入っていた。
それは、隣で手を繋いでいる千雨も同じ様子だ。
ファミレスを出た後、アリサ以下三人組は夜の公園を訪れていた。
石段のちょっとした丘を上ると池がある。
池の畔で、夏美は美しいメロディーを聴いた。
それは、まだメロディーだけだったが、
紛れもなく人の心を震わせるARISAの歌だった。
に、しても、このメロディーでムードは最高潮だ。
シスターがちょこちょこ一緒にいるのもこうなると可愛らしいぐらいで、
見た目には、アリサとウニ頭が全くもって実にいい雰囲気を醸し出しているとしか言い様がない。
夏美はいつしか天を仰ぎ、その頭の中では、
自分がもうちょっと大雑把なツンツン頭と夜の公園で雰囲気を出している構図が急速に具体化する。
あ、駄目、と言うそのシーンは、後一歩の所で、ぐいっと引っ張られる手の感触にぶち壊される。
「へ?」
踵を返す千雨の必死の形相。
見ると、池が洪水を起こしていた。
「はいっ!?」
夏美は叫んだが、足は勝手に動いていた。伊達にあの夏休みを生き残った訳ではない。
その経験からも言えるのだが、洪水と言うにはちょっとおかしい。
そもそも、あの池が洪水を起こしている時点でおかし過ぎる。
何か、生き物の様な巨大な水の塊が池の中から噴出し、そして鞭打つ様に襲いかかって来ている。
とにかく、流石に危ないと言う事でとっさに繋いでいた手を離し、
二人で池の畔から石段を転がり落ちる。
>>32
「つ、つーっ、あ、アリサ…」
転落が済んだ所で、夏美が周囲を見回す。
どうやらアリサは無事、あのウニ頭、なかなかのナイト様だ。
そこで、気付いた。千雨の表情に。
顔だけ上げた千雨の視線の先には池が見える。
その池の中では、突如出来上がった噴水の上に、
「魔女?」
夏美が呟く。噴水の上に「立っている」のは、見た目も行動もまさしく魔女、
絵本の魔女が自分達ぐらいに若くなった様な姿の金髪の魔女がそこには立っていた。
「水のエレメントを操る術式なんだよっ!」
「って事は魔術の連中かっ!」
近くの叫びの応酬に、夏美と千雨は改めて顔を見合わせる。
「やっぱりこっちかよ…」
夏美は、隣で呻く千雨の目がつり上がるのを見る。
千雨の右手はポケットの中でぎゅっと握られていた。
「あいつら、どこに…」
「ちょっ!」
千雨が味方を探して周囲を見回す。
ウニ頭が、叫びを漏らした夏美達に気付かぬまま石段を駆け上がる。
ごうっ、と、風が聞こえた。これも夏美と千雨の経験から言って、只の風ではない。
夏美は石段に隠れながらそちらを見る。
池の畔に上り、池の魔女に駆け寄ろうとした少年の足下がボコッと盛り上がる。
それは筒となって少年の両脚を拘束する。
池の魔女が、何本のも水の槍を生成する。
離れた所にいる風の魔女がそれを吹き散らし、その猛スピードの軌道を少年に向けた。
「やああっ!」
夏美の叫びは声にならなかった。
相当な威力だったのだろう。土煙が上がり、それが晴れた時、
夏美も千雨も凄惨な光景を覚悟した。
>>32
「え?え?」
夏美の経験から言っても、どう見てもほぼ無傷と言う少年の状態はどう見てもおかしい。
少年が何か、例えば夏美も知ってる防御魔法とかそういうのを使った形跡は無い。
そして、長谷川千雨も、その事を理解していた。
「…けるな…」
夏美がうめき声を聞いた、と、思った時には、
「長谷川っ!?」
長谷川千雨は駆け出していた。
× ×
目の前の光景に、水の魔女メアリエは目を丸くしていた。
あり得ない、あの攻撃を受けてほぼ無傷、そんな事はあり得ない。
見た所、普段着の生身の少年、魔術的な防御を使用した形跡も無い。
とにかく、驚いている暇はない。
次の攻撃を、と、水のエレメントたるウンディーネの使役を続けようとした時、
メアリエは新たな怒号に視線を向けた。
その相手、こちらも普段着の眼鏡の少女を視界に捉えたのも一瞬、
「いっ!」
鋭い痛みと不快感がメアリエを襲う。
「これはっ!?」
何匹もの小動物が、宙を浮いてメアリエをつついていた。
つついていたと言うのはメアリエの感触の問題であり、
気絶する程ではないがパチパチと電撃を放って付きまとって来るのだから、
馬鹿にならない痛さだしひたすらにうっとうしい。
しかも、水使いのメアリエでは防御に相性が良くない。簡単な防御ではそのまま貫かれてしまう。
>>34
「メアリ、えっ!?」
メアリエよりも幼い風貌体格に隙間の多い蠱惑の黒妖精衣装を身にまとった風の魔女ジェーン、
メアリエを援護すべく近くのビルの上から動こうとして、バッと横を見た。
ジェーンが手にした扇子が巻き起こす超怪力ってレベルではない暴風が、
手裏剣と言うレベルではない鉄の塊を吹き飛ばした。
ゾクッ、と、何かを感じたジェーンは、更に振り向き様にその暴風を巻き起こす。
「くっ!」
前に進もうとしたウニ頭の脚を、再び土が拘束する。
だが、次の瞬間には、それを行った土の魔女、やはりメアリエより年下、似た様な黒妖精衣装だが
モンペチックに膨らんだズボンが可愛らしいマリーベイトとは逆方向から強力な衝撃波が地面を揺らす。
衝撃波を受け、ウニ頭の拘束がバカンと破裂した。
衝撃波の出所から、学ランにニット帽の小僧っ子、犬上小太郎が駆け付ける。
「いい漢やな、姉ちゃんらの事頼むわ」
「…?…分かったっ!」
漢と漢が、すれ違った。
× ×
「っとっ!?」
マリーベイトへと走る小太郎は、間一髪、
地面から脚を狙って巻き付こうとした土の塊を交わしてひらりと跳び上がる。
そして、糸つき棒手裏剣に繋いだ札を地面に放ちながらもごもごと唱える。
「…ビリチエイ…ソワカ!」
「くっ」
着地した小太郎が走り出し、その先にいるマリーベイトは地面にベタッと掌を付いて四つん這いになる。
小太郎が今正にマリーベイトを摘み上げようと言う所まで接近したその時、
ドカンと巨大なハンマーで地面をぶん殴ったかの様な衝撃に小太郎が一瞬バランスを崩す。
その間にマリーベイトが横に逃げ、
追跡しようとする小太郎の前に人の背ほどもある土柱がズガンと突き上がる。
土柱が瞬時に小太郎の四方を囲み、その中心から更に猛スピードで何メートルもの土柱が突き上がった。
>>35
「ははっ、その程度の東洋魔術で私のノームにかなうと思ったかっ!」
「そやなぁ」
「!?」
ほぼ真横にニッと笑う小太郎の姿を見て、マリーベイトは恐慌して横に走った。
「俺、こっちの方が得意やさかい」
「あ、あわわわわ…」
二人の間に突き上がる土柱を次々と叩き壊し蹴り砕き
ろくな障害も感じさせずに接近する小太郎を前にして、
マリーベイトは確実に震えを自覚する。
「くっ!」
マリーベイトはほぼ本能で、両腕を顔の前で組んでいた。
だが冗談ではない、そもそも、エレメントの使役のために肉体的な条件を削っている部分がある。
それであんなものを食らった日には。
「………あーーーーーーーーうーーーーーーーーーーーーー………」
「うっし!」
気が付いた時には、マリーベイトは宙を舞っていた。
小太郎の手が下の方で空を切ったかと思うと、そちらから吹き上がった強風に吹き飛ばされていた、
一番妥当な所ではジェーンと同系列の術者と言う事になるのだが、
力ずくでやった、と言う仮説は考えたくない。
とにかく、とっさに土の柱を後方に突き上げ、その上に背中から着地する事に成功した。
>>35
「!?」
ほんの一瞬安堵した、ほんの一瞬。
だが、次の瞬間には、マリーベイトはいよいよもって顔から血の気が引く心地と言うものを実感する。
マリーベイトのいる柱の上に、四方から黒ずくめが殺到していた。
その黒ずくめは黒い外套に白い仮面、何よりかにより、
マリーベイトらの立場なればこそ分かる事だが、
一番肝心な事としてこいつら人間、否、生物ですらない。
せめてほんの何秒かでどうにかなったかも知れないのだが、流石に時間が無さ過ぎた。
「ちぃとここ頼むわ」
今回はここまでです。
続きは折を見て。
がんばって
>>39
ありがとうございます。
それでは今回の投下、入ります。
>>37
× ×
「ええいっ!」
メアリエが固形化した水の障害物をふるい、まとわりつく小動物を強引に振り払う。
次の行動に移ろうとした時、突如、足下が頼りなくなった。
「!?」
ウンディーネの使役により臨時の噴水となり、そしてメアリエがその上に乗る事が許されていた、
池の水にもたらされていたそれらの効果が突如として解除され、
只の水と化して崩壊する噴水に自分の体が沈んでいる事をメアリエは理解する。
何とか水から顔を出したメアリエは状況を理解する。
「スペル・インターセプト!?」
ビルの屋上で事態に振り回されていたジェーンも又、
自分の感想について語彙を間違えていない筈だと思い直す。
「空を、跳んでる!?」
突如現れたノッポの妨害者は、ジェーンの扇子から吹き荒れる突風を交わしながら、
丸でそこに足場がある様にジェーンの周囲で空を「跳んで」いた。
「くっ!」
とっさに下から突風に乗ってジェーンも又飛び上がり、
その下でぐるぐるとぐろを巻いている鎖から逃れる。
「ええいっ!」
その途端、目の前ににっくき妨害者の糸の様な目が姿を現した、
かと思ったらその姿は即座に消滅する。
ハッとしたジェーンが振り返りざまに扇子をふるい、
飛来していた手裏剣を遥か彼方に吹き飛ばす。その視界の先には既に手裏剣の元の持ち主の姿は無い。
>>40
× ×
何とか術を再開出来そうだ。
スペル・インターセプトの中断を確認したメアリエが池から足場の水柱を突き上げ、
再び柱の力で浮上してブチギレモードの禍々しき凶器を生成しようと力を込める。
だが、イザ放たんとしたその時、ガクンと強い衝撃がそれを阻む。
今度はスペル・インターセプトではない。もっと力ずくの妨害。
メアリエが出所に目を向ける。
そちらでは、池の畔に中学生ぐらいの少女が立ってこちらを睨んでいる。
帽子の下で三つ編みツインテールに結っているのは綺麗な黒髪で、
お似合いの眼鏡も合わせていかにも日本人の女の子。
だが、問題は、そのゴシック調の黒い装束に、
何よりもこちらに向けているステッキ、その先の大きな球体。
「大丈夫かっ!?」
鳴護アリサは、前と横から同時に同じ事を叫ばれて、取り敢えず前を見る。
つい先ほど出会ったファンの男の子、上条当麻が駆け戻って来た所だ。
何だか訳の分からない状況だが、とにかく、文字通り死ぬほど危ない状況でも
自分達のために身を挺して駆け出して、こうして戻って来てくれた。
それは十分過ぎる程に分かる。
そして、横から現れたのはちょっと年下かと言う二人の少女、
赤毛っぽい癖っ毛のショートカットの娘と眼鏡を掛けたセミロングの娘。
「何か心当たりはっ!?」
上条に問われても、アリサは首を横に振る事しか出来ない。
その時、更なる闖入者の登場にアリサは目を丸くした。
「メイちゃん!?」
すぐ近くの石段に、不意にスターンと着地した少女を見て、
叫んだのは村上夏美だった。
>>41
「なんだよっ!?」
叫んだのは上条当麻だった。
目の前に突如登場した最新キャストは、一見するとこちらの新規の二人同様御坂ぐらいの歳か、
後ろ髪を巻きツインテールに束ねた、年相応に可愛らしいと言える女の子だったが、
問題は余り普段着とは言い難いゴシック系の黒い衣装にトドメは手にした箒。
この状況でそんな姿の佐倉愛衣に敵意を持つなと言う方が無理がある。
「ここは危険ですっ!急いで…」
「だから…」
石段から池の方を向き、後ろを向きながら告げる佐倉愛衣と苛立ちを露わにしている上条当麻は
明らかに噛み合っていない。
その間に、長谷川千雨と村上夏美は目配せを交わしていた。
「なっ!?」
「近くの人と手を繋いで下さいっ!」
夏美と千雨が直接実行に移した事もあって、どうにかチェーンが繋がる。
「…村上さん、早く一般人を隠して下さいっ!」
「隠れてない?」
「ですからっ」
「やっぱり、なんか上手く発動しないっ!」
「はあっ!?」
愛衣と夏美が焦った口調でしまいに怒鳴り合う内に、夏美の腕がガクンと重くなる。
「存在感をあいさよりも小さくしてそこにいる事を分からなくする術式なんだよ、
術者と繋がってる人に効果が発生するんだよっ!」
夏美がそちらを見ると、シスターが夏美の腕に縋り付いていた。
「…俺達を守ってくれるって事でいいんだなっ!?」
「はいっ!」
「分かったっ!そのまま続けてくれっ」
「分かりました」
ネギま!はアニメと漫画全部みたから大丈夫だが映画みてないからなぁ漫画は読んでるが
>>43
えーと、映画ってどちらですか?
本作の参照、ネギま!はおおよそ原作ですが禁書は映画観てないと厳しいかも
では続き
>>42
× ×
どうやら視界から消えて、ほっと胸を撫で下ろして池に向かおうとした愛衣が、
近づく気配にギクッとする。
「あ、あなた」
「ああ」
「戻って、隠れて下さい」
何か、だるそうなぐらいの気配で近づく、先ほど半ば怒鳴り合ったウニ頭の少年に、
愛衣は押し殺した様な口調で警告する。
「ごめん、それ無理」
「…男だから、ですか?」
「いや、体質的に」
「あなた、素人ではありませんね。
ウンディーネ、シルフ、ノーム、術式から考えても後一人いる筈です」
自分に背を向けたままの愛衣に近づきながら、上条は、
きびきびとした愛衣の声に徐々に信頼を覚える。
事情により自らの過去の多くを知らない上条だが、
その少なくなった過去の中に、こういう声が幾つもある。
大きな力を持って命を左右する仕事に責任と誇りを持っている。
今はそれで十分だと上条は直感していた。
「余り私から離れないで下さい。特に、迂闊にその辺の物陰に入らないで下さい。
私の予想通りだと、死にます。灰も残さず」
「物陰?灰も残さず…おいっ、お前の予測って…」
ああ、>>43よく読んだら>>44の自己解決出来ました。
では続き
>>44
× ×
「ウンディーヌ…」
「ラプ・チャプ・ラ・チャップ・ラグプウル…」
類似系統の魔術、単純な力比べだった。
((出来る…))
互いに池の水を支配し相手を打ち倒さんとする魔術が
ギリギリと押し合いへし合い今にも弾けそうにせめぎ合う。
その意味で、タイミングとは言え水柱を維持したまま挑んだメアリエは少し後悔する。
日本人にして想像以上に出来る相手だ、本来余力を使っていられる状況ではないのだが、
今更足場を緩めたら当然真っ逆さまだ。
かと言って、池の畔からメアリエと一進一退の攻防を展開している夏目萌通称ナツメグとて
コメカミから背中からじっとりと汗を掻いて、決して楽観できるとは思っていない。
相手は相当な実力者、互いに一番よく知る分野だからこそそれがよく分かる。
しまいに、二人の間に当たる池の縁近くで爆発音と共に水柱が上がり、
メアリエは崩壊した水柱に呑まれて沈まない深さの池に浸かり、
ナツメグもその場に尻餅をつく。
>>45
顔を上げたメアリエは、ナツメグの背後から現れた増援を見て歯がみをする。
現れたのは、ナツメグよりも二つ三つ年上であろうか、
すらりとした背の高いスタイルにロングの金髪、日本人が言う所のハーフ美少女にぴったりな姿形。
最悪なのはゴシックの黒衣に影法師を何体も従えていると言う事だ。
黒い外套に白い仮面の影法師、一見すると仮装行列だが、
影法師と言うのは例えでもなんでもなく、
(…操影術者…)
メアリエはぐっとそちらを見る。その、やや誇張された人間大に実体化された影法師は四体、
しかも、内一体は黒い触手で拘束されたマリーベイトを引っ立てている。
メアリエが感じ取れる様々な事からも、金髪の術者が相当な実力者である事は分かる。
対して、メアリエはせめて少し休めば、
と、思うが、一連の闘いで魔力を使い果たした今の自分は、素人相手でも危ないぐらいだ。
「お姉様」
ナツメグに声を掛けられ、金髪の操影術者高音・D・グッドマンは頷く。
「どこのお馬鹿さんかは知りませんが、
よりにもよって科学の学園都市で一般人を巻き込んでの馬鹿騒ぎ、
こちらの作業に支障が出ます」
高音が凛とした口調で言い、右手を掲げる。
「拘束させていただきます!」
手ぶらの影法師がばばばっと池に走る。
「!?」
メアリエに殺到した影法師達が、到達しようという正にその時、
横殴りの火炎波になぎ倒された。
「来ます!」
愛衣が叫びと共に右足を引いた。
今回はここまでです。
続きは折を見て。
乙です
それでは今回の投下、入ります。
>>46
× ×
「紫炎の捕らえ手っ!」
背の高い赤毛の男がマントを膨らませて突っ込んで来る。
赤毛マントの手からごうっと炎の剣が立ち上り、
愛衣の放った捕縛魔法がその炎剣に押し潰された。
愛衣が速攻の無詠唱で幾つもの火炎弾を放つ。
その火炎弾が迎え撃つ火炎波に呑み込まれる。
愛衣は、顔の前で箒を立てて、たっぷり余勢を残した火炎波に対抗して防壁を張る。
「麻帆良が探りを入れているとは聞いていたが…」
「どういう事ですか?」
相手の呟きはよく聞こえなかったが、とにかく愛衣はぐっと前を見て問いを発する。
素人じゃない。
上条当麻は、その言葉をそっくりそのまま返してやりたい所だった。
赤毛マントのステイル=マグヌスの事は知らない間柄ではない。
従って、今ステイルが振るっている炎剣の事も知っている。
上条の目の前で押され気味の愛衣だが、それでも、
火力そのもので触れたら命に関わる炎剣を箒でさばいて善戦するなど、
技術だけではなく素人に出来る事ではない。
ごうっと横薙ぎの炎剣を交わして、愛衣は後ろに跳躍する。
「!?しまっ!…!」
その愛衣の体は、その辺に幾つも並んでいる石造りのアーチの一つにすっぽり飛び込んでいた。
「………」
死すら覚悟していた愛衣が目を開くと、
体ががっちり抱き留められている。
>>48
「…あ…」
「迂闊に物陰に入るな、って言ったのはお前だろ?」
「え?」
状況を確認する。
愛衣は、上条当麻の左腕に抱き締められた状態で、アーチを出て地面に転がっていた。
アーチの中を見て、改めて愛衣の顔から血の気が引く。
発動前に間に合ったのか、そんな暇は無かった筈だがそうとしか思えない。
とっさに全魔力を防御に回して、それでも生命維持を最優先、と言う状態だった筈だが。
とにかく、生身の人間が発動後に飛び込んでいたら、死ぬどころか消滅しかねない。
それでもなんでも、飛び込んで助けてくれたのは確かな訳で。
「どういう事だステイル!?」
(知り合い?)
ダッと立ち上がった上条の怒号に、ようやく身を起こした愛衣が考える。
「Fortis931」
(魔法名、完全に本気)
「魔法名、本気かよっ!」
とにかく、愛衣は慌ててその場から半ば蛙の様に後退する。
その後であの少年を、と見返して息を呑む。
「何?」
愛衣は思わず呆然と突っ立っていた。
ステイルの炎剣は、たった今自分も闘ったばかり、
その方面に多少の覚えがある愛衣でも対処は至難の業の生半可な威力ではない。
だが、あのウニ頭の少年上条当麻は、魔法の欠片も見えない丸腰で
ステイルの「魔法名」つまり「殺し名」を相手にして、
原形を保っているどころか生きているどころか取り敢えず大ケガ一つしていない。
「…メイプル・ネイプル・アラモード…」
愛衣が魔法の始動キーを唱える。
押されているのは上条だが、それでも何とか攻撃を凌いでいる、仕掛けるなら今だ。
>>49
「いいぜ、お前ら魔術師が好き勝手やろうって言うんなら…」
「紫炎の捕らえ手っ!」
「!?」
ステイルが発動を察して引きつった顔を愛衣に向けたが、
その時には緩い螺旋の炎がステイルに向かっていた。
「その幻想をぶち殺す!!」
「!?」
「…へっ?」
愛衣は、一瞬の満足の後、ぽかんとそちらを見ていた。
確かに、ジャストタイミングで捕縛魔法がステイルを捕らえた。
筈だったのだが、その次の瞬間には、
手慣れた魔法、十分に練られた筈の炎の戒めが綺麗さっぱり消滅していた。
「…さて、馴れ合うつもりは無いんだが。
君には礼を言うべきなのか、ねっ!」
「ちっ!」
「…あわわわ…」
意味不明の事態に愛衣の脳内処理が急ブレーキしている間に、
勢いを取り戻したステイルの炎剣が上条を追い詰めていく。
対処しようとしても、捕縛魔法を使わずにステイルをどうにかしようとした場合、
その上で上条を巻き込まない職人芸は容易な事ではない。
ステイルに追い込まれ、上条の体が、先ほどとは別の石造りのアーチの中に飛び込む。
二人の距離が開いた、そう見た愛衣が出せるだけの無詠唱の火炎弾をステイルに撃ち込むが、
それはことごとくステイルの炎剣に呑み込まれた。
「いけないっ!」
愛衣がもどかしく思いながらも疲労した肉体から魔術を再調整している内に、
ステイルの攻撃が上条のいるアーチに集中している。
猛攻撃を前に上条は動きを封じられる。
愛衣の耳にも、工業レベルの高温によりアーチの軋む嫌な音が届くぐらいだ。
>>50
「メイプル・ネイプル・アラモード…」
詠唱と共に、愛衣は斜めに跳躍した。
愛衣の箒から、強化された炎の帯が発せられる。
それは、ステイルの横を斜めに走り、防護の檻となって上条を取り巻く。
が、取り巻いたと思った途端、檻は雲散霧消した。
「どうして?」
ぺたんと座り込む愛衣をチラッと横目に入れて、ステイルは僅かに嘆息する。
「おいっ!」
アーチが業火に包まれるのを見て、千雨も夏美も青ざめて硬直する。
その千雨の叫びを背に、アリサが隠れ身のチェーンを離れて駆け出していた。
「!?」
愛衣が魔法で身体を強化して駆け出す。
その目の前で、アーチが、一際嫌な音を立てて崩壊する。
(間に合わないっ!)
愛衣が魔力を練る。最大出力の物理的ショック弾で上条を体ごと吹っ飛ばす事を考える。
それだけで大ケガしかねない威力だが完全圧死よりはマシだ。
だが、それ以前に頭の隅に引っ掛かるのが先ほどからの上条の特異現象。
だが、考えている暇は無い。
「やめてえぇぇぇぇぇっっっ!!!」
>>51
× ×
「!?」
一瞬、石段を上がって立ち尽くし悲鳴を上げたアリサに目を向けた愛衣は、
視線を戻し、目撃した。奇蹟を。
横棒の形で上条の上に降り注ごうとしていた石の柱が
空中でバカンと真っ二つにへし折れて上条の左右の地面に突き刺さる様に落下した。
そして、ステイルはあからさまに嫌な顔で舌打ちをしていた。
そのステイルが振り向き様に炎剣を振るい、迫っていた触手の束を払いのける。
振り返ったステイルと高音が対峙する。
その間に、解放されたマリーベイトとメアリエが入って四角形となり、
高音の隣にナツメグがついた。
その側に、ジェーンと長瀬楓がスターンと着地した。
涼しい顔の楓の前で、ジェーンは両膝を手で押さえて荒い息を吐く。
「Stale Are you…」
「日本語で結構、君のアメリカ英語とまともな日本語ならね。
もっとも、答えるつもりもないが」
問いかける愛衣に、ステイルはすげなく応ずる。
「この科学の学園都市で魔術のもめ事を起こしておいて、それで通るとでも?」
高音が続いた。
「このタイミングでと言う事は、そちらの狙いも同じと言う事か」
「質問で返さないで下さい」
「だから答えるつもりもない。彼女の事はこちらで扱う、退いてもらおう」
「たまに勘違いしている人がいる様ですが、
魔法協会が十字教の下についたと言う事実は存在しない」
「魔法使いが僕らを妨げると?」
「押し通りますか?」
「ちょっと待てえっ!!」
ズンズン盛り上がるステイルと高音の会話に怒声が割って入った。
>>52
「何やってんだてめぇらっ!?
何アリサを魔法使い同士の景品にしてやがるんだてめえらはっ!?」
「ん?全く、困ったものだ」
「!?」
駆け上がって怒号を上げた千雨の目の前で、ステイルの炎剣を愛衣の箒が抑える。
「少しは場数を踏んでいるか」
単に反応出来なかっただけだが、
腰を抜かして漏らさなかったのが上出来だと言うのが千雨の実感だった。
「次は無いでござるよ」
それは、仲間も滅多に聞かないゾッとする様な声だった。
ステイルもこれまで経験した修羅場が無ければ、
腰を抜かして漏らすイメージも決して遠くはないと実感する。
ステイルが鼻で笑って両手を上げ、苦無を手にした楓がステイルの背後から離れる。
「日陰で黙々と人助けをしていると思うから見逃してやっているものを、
表裏の管理もろくに出来ないでは、少し考え直す必要があるのかな」
「魔法協会が十字教の許認可団体だとでも思っているのなら、
まずその幻想をブチ…」
「今は、目の前のリアルを優先した方が良さそうだぜ」
ステイルと高音が宣戦布告を告げようとした正にその時、
親指を後ろに向けた千雨の言葉に、周囲の面々も周囲を見回す。
>>53
× ×
「こないな所で高みの見物か、姉ちゃん」
とあるビルの上、犬上小太郎は不敵に笑った。
「!?」
相手がゆっくり、悠然と振り返るのを見届けた小太郎が一踊りして、着地する。
着地した小太郎が、左腕の裂けた学ランの中をぺろりと舐める。
その小太郎が見据えた相手は、たった今、悠然と小太郎の方に向き直した美女だった。
長い黒髪を後ろで束ね、臍上をばっさりカットした白いTシャツに、
こちらこそ片脚をバッサリ切り落としたジーンズと言うラフなスタイルは、
縦には目を引く背の高さ、それでいてバンとばかりに出る所の出た
抜群のプロポーションに見事にはまってる。
そんな長身美女神裂火織が、それこそ平均男性の背丈を上回る長さの刀、儀式用の令刀を構える。
その姿は、イカレてる様だが野性味溢れるファッションも相まって実に凛々しい。
小太郎が駆け出し、令刀の鯉口が切られた。
ニッと笑った小太郎は、ダンスの様にキレた動きを見せながら神裂に向けて突き進む。
「!?」
小太郎の元いた場所から神裂までの中間点辺り、そこで小太郎が屋上の床に右手を着く。
右手を中心に床に影が広がり、二次元から三次元へと実体化を始める。
影から現れた黒狗の群れが小太郎の露払いの如く神裂に躍りかかり、
そして瞬時に弾かれる様に消滅する。
「狗神ですか」
呟きながら神裂は、タッ、と垂直ジャンプする。
その下で、体のあちこちからたらりと血の筋を溢れさせた小太郎が、
カポエラだが骨法だかを見真似に応用した超低空キックを空振りさせていた。
トン、と、神裂は屋上の縁に丸で危なげなく片足で直地した。
着地した、と、思った時には、神裂の姿は小太郎の目の前にあった。
半ばリンボーダンスをして身を交わした小太郎は、じっとり走る冷や汗をごまかす様に口笛を吹く。
その小太郎の上空を突き抜けた神裂の脚が、
小太郎に向けて突き、薙ぎを浴びせようと吸い付く様に繰り出される。
>>54
「や、やるやんけ」
とにかく、一瞬でも気を抜いたらブチ抜かれる、その恐怖と闘いながら屋上を踊り、
ようやく大きな動きで間合いを取った小太郎は強がってはいるが、冗談ではない。
まず、絶対交わしたと思った脚の薙ぎが鋭く顎をかすめ脳を揺らされた。
それ以外にも、クリーンヒットは確実に避けている筈なのに、
神裂の見事な脚線美が閃く度に吐き気がする程にダメージが蓄積している。
それを、蹴り技だけでやってのけた上に実力の何分の一にもなっていない筈。
「その歳にしては筋がいい、相当な鍛錬と実戦をくぐり抜けた動きです。
だからこそもういいのでは?」
「何?」
歯牙にも掛けない余裕綽々、むかっ腹の一つも立てたくなるがそれを当然とする力量。
小太郎の肉体と感情がぐるぐる回る。
「例え、その帽子を不要にした所で私には指一本触れられない、とうに理解している筈」
「言うなぁ、ああ、いたなそういう事言われたわ、ついこないだの事の筈やけどなぁ」
小太郎の表情に、神裂は一瞬こぼれそうになる笑みを呑み込む。
いい目だ、違う場面であれば存分に稽古を付けてやりたいものだと。
「なかなかおもろい手品やったけど、そのデカブツ只の手品ちゃうやろ。
紐付きやなくてもそんなん使うのあんただけちゃうからなぁ。
目配り足運び、みんなよう分かる。
抜いてみぃやオバ――――――」
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙
ネギまはよく知らんがが狗神となると神殺しに特化したねーちん相手はかなりキツくないか?
乙
実際戦えばねーちん相手でもそうそう遅れをとらないと思う、狗神とは言ってるが自称精霊使いらしいし能力面でも不利なし
でも小太郎はほとんどかませキャラになっちゃってるし仕方ないかと(ねーちんもよくかませになるが)
クロスもので一方的に無双しちゃってもあれだしね
ネギ先生だけは戦闘力がDBに片足つっこんでるから無双しても違和感ないけど
小太郎死んだな
ねーちんに歳の話をするとは
感想有り難うございます。
その辺のバランスは難しい所ですが。
それでは今回の投下、入ります。
>>55
× ×
ステイルが、ばっと周囲を見回した。
周囲は、甲虫と鴉をミックスした様なデザインの黒い機械に囲まれていた。
「我々は統括理事会より認可を受けた………」
「マジかよ…」
長谷川千雨は、麻帆良学園都市の住人である。
科学の学園都市とは系統が違うが麻帆良学園都市も先端科学の街であり、
目の前でアナウンスしている機械が、一人乗りの有人多機能メカであろう、と言う大体の見当は付いた。
加えて、千雨は嗜みとしてフィクションにもそれなりの造詣がある。
更に、丸でフィクションみたいな変な世界にも実体験としてそれなり以上の知識を持っている。
科学の学園都市に就いても、ネット上で可能な限りの下準備はして来た。
科学の学園都市は実質独立国家であり、独自の治安システムを持っている。
その一環として、言わば民営にして公に近いタイプの警備部隊が存在する。
情報の欠片は持っていたし、そう考えるとしっくり来る。
「………「黒鴉部隊」である。これより特別介入を開始する」
「千雨殿、皆をっ!」
「分かった!アリサっ!!」
「は、はいっ!」
楓に促され、千雨がアリサの手を引いて逃げる。
その楓の目の前では、「黒鴉部隊」の機動メカが一台、楓を捕らえようとして
身を交わした楓の放った鎖を食い込ませ不快音を立てて軋んでいた。
>>59
「メイ、ナツメグッ!」
「はいっ!」
高音が踵を返し、後の二人を連れて逃走を開始した。
「ええいっ!」
思い切り跳躍した愛衣が、強力な火炎魔法を帯びた箒を力一杯振り下ろす。
丸で漫画かゲームの巨大ハンマーでも食らった様な一撃に、
その目の前を跳躍していた機動メカが一台ふらふらと着地して停止する。
× ×
神裂が瞬時に飛び退き、小太郎に背を向けた、
次の瞬間には、ビルの外から神裂の目の前の空中に「黒鴉部隊」のメカが現れ、
神裂とメカの間で爆発が巻き起こる。
「………やりますね………」
呟いた神裂は、そのまま下のステイルに撤退を指示する。
こんな連中まで関わって来たとなると、
これ以上引き延ばせばここの正式な警察機関である警備員の介入を招く。
そもそも正規の許可を受けての出入りですらない、
ここでは存在自体が御法度の魔術サイドとしては論外の事態だ。
「あなたも、背中を狙わなかったのですね」
「アホ抜かせ」
ぼそっと言った小太郎は、
ほんの一瞬とてつもない気が神裂から噴き上がったあの時、
少なくとも10万3千通りは展開された自分のサイコロステーキの妄想を汗と共に拭い去る。
すれ違い駆け抜ける神裂を、小太郎はやる気なさげに手を振って見送った。
>>60
× ×
「鳴護アリサに関わるな、死ぬぞ」
その少女は、黒いライダースーツの様な強化服がよく似合っていた。
歳は余り自分と変わらないのだろう、セミロングの黒髪でキリッとした雰囲気。
見た目は美人の部類に入れてもいいだろう。
だからと言って、機動メカから出て来た少女に告げられた言葉に納得した上条当麻ではない。
だから、懸命に追走し、通りの真ん中で停止したメカから現れた黒い少女に散々に食い下がり、
その結果がこの最後通告だ。
そして、少女は警告した先からオートマチックの拳銃を抜いている。
いやいやいやいや、言ってる事とやってる事が違う、
右手以外は一般人である筈の上条さんとしてはあんだけ言っといて今殺す気ですかあんた、
と、内心の突っ込みが口から出る前に、少女は無造作に発砲する。
「よう」
着弾した建物の陰からメカの機体に跳び乗った小太郎が不敵な笑みを見せた時には、
拳銃は右手から左手に移り、ナイフが突き、退いていた。
「ナイフと拳法をいっぺんに使う、あっちの軍隊の流儀やな」
「貴様も素人ではないな」
既に拳銃をしまい、女性にはごついナイフを片手に構えを取る少女と、
急所こそ外した一撃を交わした小太郎が向き合う。
少女もコクピットを完全に離れ、機体上での攻防が開始された。
鋭い刃を交わす小太郎の動きには、まだ余裕があった。
しまいに、小太郎はナイフを手掴みにしてへし折って見せる。
だが、少女は表情に驚きを見せながらも即座にナイフを捨て、
小太郎の脇腹目指して右脚を跳ね上げていた。
「いい判断や」
小太郎は回転しながら大きく後ろに跳び、通りに着地する。
>>61
「!?さっきのかっ!」
先ほど、屋上での片脚ジーパン姉ちゃん神裂火織との攻防は見ていた。
正確に把握した訳ではないが、とにかくワイヤーに繋がった爆弾、
実際にはレアアースペレットが幾つも放たれ小太郎の上で展開しているのは確か。
「おいっ!」
離れた所で事態を見守るしかなかった上条当麻の叫びも虚しく、
レアアースペレットはオレンジ色の光を放ち爆発する。
その跡には、肉片一つ残っていなかった。
「逃げたか」
× ×
「な、なんなのよ、こいつ」
夏美が震えながら呟く。
高音チーム、ステイルチームはそれぞれに逃走。
ステイルが工業レベルの高温火炎で、メアリエが消火栓の水を暴走させ、
マリーベイトが土の筒を絡めてメカを文字通り足止めしながら逃走するのを、
上条当麻も追走して姿を消した。
長瀬楓も別の機動メカに追われて姿を消し、残ったのは火力最低少女四人組。
夏美と千雨、アリサにシスターが手を繋いで公園に残っているのだが、
その理由はひとえに動けないから。
黒い機動メカが一台、夏美達の周囲をうろうろして離れようとしない。
「センサーだ」
千雨が言った。
「このアーティファクトは存在感を消すだけ…」
「アーティファクト?」
シスターの呟きが聞こえるが、千雨は少し失敗を自覚しつつ言葉を続ける。
>>62
「多分、センサーで機械的にここに人間の反応がある事を察知してる。
だけど、パイロットの脳が私達を認知出来ないんでうろうろしてるって状態に見える」
「そしたらどうするのよ?」
「あれが諦めて出て行くか、あれを潰せるのが来るまで、
オートマチックの無差別砲撃でも始めない事を祈るしかないな」
言ってる先から、機動メカに上からすごいあつりょくが叩き付けられ、
メカが煙を上げる。
「こ、この…」
「あらよっ!」
コクピットが開き、中の男性隊員が拳銃を抜こうとしたが、
小太郎が頭突きでKOするのが先だった。
「小太郎君っ!」
「助かった」
夏美が叫び、実際は腰が抜けそうだった千雨もふうっと嘆息した。
「いるでござるか?もうこの辺りは大丈夫でござる」
しゅたっと着地した楓が言い、一端隠れ身を解いて合流した。
「さて、こっからどうするかだ」
とにかくぐっちゃぐちゃの状況を千雨が整理しようと周囲を見回す。
「アディウトル・ソリタリウス」
荘厳に澄んだ発音を聞き、千雨がそちらを見た。
「日本語だと孤独な黒子。
日本語だと皮膚の黒い点とか学園都市産のグドンのエサも同じ漢字を当てるみたいだけど、
同じ意味の漢字で言うなら、お芝居で黒い服を着て、そこにはいない事になっている人だね。
言い伝えられているだけでも280年前より後の記録が無い魔法具。
生きている間に伝説通りの効果を身をもって知る事が出来るとは思わなかったんだよ」
そう言いながら、シスターは、きょとんとしている夏美から視線を移す。
>>63
「パクティオーカードと言う事は君がマスターなのかな?
日本でも西の方の魔術師は西洋の魔術を使うのを嫌う人が多いって聞いていたけど」
ちょっと聞く分には子どもっぽい口調でもあるが、穏やかな威厳すら感じられる。
そんなシスターの声に夏美が息を呑み、小太郎が身構えた。
「君の術式は陰陽術、基礎を覚えて、後は使う所を我流で摘む使い方だね。
体術の補助に、「血の制御」にも使っているんだね」
小太郎の眉がぴりりと上がった。
「あなたの後ろに隠れているのは雷の精霊、
電気を媒介に急速に発展した科学に介入するために進化した変種だね。
直接知らなくてもコンセプトから理屈は分かるんだよ。
いとめののっぽさんは甲賀流の忍者さんだね」
「何の事でござるかな?」
ごくりと息を呑む千雨の側で楓が飄々と応じる。
「甲賀忍術の発祥は諏訪明神、そこに地理的な条件が加わって
薬草使い、陰陽道、密教、修験道、各種の山岳信仰の魔術と科学が実用的に進化したのが忍術。
日本の戦国時代には軍師と呪術師の明確な境界線は無かったんだよ」
「な、何なんだよ、こいつ…」
「それで、どうするの?」
焦りを見せる千雨に、シスターは静かに尋ねる。
「さっきの黒いサラマンダーも知り合いなんだね。
サラマンダーが使っていた箒はオソウジダイスキ。
いわゆる魔女の箒を定形化した、「学校」の魔術師を中心に使われているもの。
基本から体系的なラテンの詠唱魔術を使う統率のとれた集団。
日本、それも関東であの歳であれだけの実力でそういう魔術集団は一つしか考えられないんだよ。
あなた達は別行動だったみたいだけど、
そういう繋がりがあってこれだけの魔術を使う集団がここに、学園都市にいていいのかな?」
>>64
「ヤバイぞ」
「で、ござるな」
チラと周囲を伺った小太郎と楓が、揃って硬い口調で言う。
「これ、いよいよ警察か何かか?」
「その様でござるな」
「アンチスキルが来たのかな?
だったらこれ以上いられない、あなた達はもっとだよね。
行こう、アリサ」
「え?」
元々通じない話を千雨達に向いて喋っていたシスターに
不意に声を掛けられてアリサも戸惑いを見せる。
「頼んでいいんだな」
「アリサは私の、私とととうまの、大切な友達なんだよ」
「頼んだ」
「夏美姉ちゃん」
「分かったっ!」
間一髪、千雨とシスターの間で合意が成立し、
アリサ達が姿を消して夏美に始まる人のチェーンが繋がるのと、
アンチスキルが本格投入されるのは辛うじて入れ違った。
>>65
× ×
「転移ポイントはっ!?」
「もうすぐですっ!」
「ん?」
上条当麻は、本日も不幸であった。
ここまでの騒ぎとなると、流石にアンチスキルも動き出す。
そもそも、「学園」と「都市」が同義語に近いこの学園都市では、
学園的秩序、発想に直結して学生の夜間外出自体が厳しく制限されている。
と言う訳で、上条当麻は今日も走る、走る走る走る、
目の合った職務熱心な警備員ボランティア先生を振り切るべく全力でダッシュする事幾度か、
薄氷を踏む思いをしながら、目の合わない内に建物から建物へと駆け抜けた事が幾度か、
近くに聞こえるサイレンと逆方向に駆け出した事もしばしば。
そうこうしている内に、既に大方の営業が終わったビル街で、
上条の視界を見覚えのある人影がよぎった。
「おいっ!」
ビル街の中の空き地で、
高音・D・グッドマン率いる魔女見習い三人娘は呼びかけに振り向いた。
「あの人…」
全三人のチームの内の一人、佐倉愛衣が呟く。
視線の先で両手を腿に当てて息を切らしているのは、
先ほどなし崩し的に共闘する事となったウニ頭の少年だった。
「ハァハァ一体ゼェどういうハァ事なんだゼェゼェっ!?
どういうハァハァ事なんだ?
ゼェハァお前達もゼェ魔術のゼェ人間なんだろ?ハァハァ
魔術の人間がどうしゼェゼェてアリサをゼェゼェ襲う?アリサに何がハァハァあるって言うんだ?」」
「お姉様、時間が。それにこれ以上は…」
同行した夏目萌に促され、
元来の誠実な性格でウニ人間のブツ切り言語を解読しようとしていた高音が頷いて歩き出す。
>>66
「待てよっ!」
力強い怒声が、三人の歩みを止めた。
そして、振り返った三人の美少女は、叫びの主、上条当麻と正面から向き合う事となる。
「お前ゼェゼェら魔術ハァハァ師ハァハァアリサハァ、ハァ」
既に相手の事すら半ば見えない状態で、只、逃がしてたまるかと言う一念だった。
駆け出した上条当麻だったが、体力は限界。
言葉もほとんど繋がらず、吐き気を抑え込むのがやっとの有様。
それでも、歩みを止めた三人にようやく向き合う事が出来る、
と言う客観的状況下で、上条の脚が限界を迎えた。
「お前ハァハァらハァハァアリサハァハァにハァハァ」
もつれた足が大きめの石ころを踏みつける。
完全に限界を迎えた脚の均衡が崩壊する。
三人の美少女は一歩、二歩と、上条当麻に正面から向かい合う形で後退していたが、
「ハァハァ一体ハァハァ何ハァハァをハァハァハァハァ」
何とか痛い転倒は回避しようとした上条当麻は、
ゴシック調の揃いの黒衣姿で自分の方を向いて横並びに立っている
目の前の三人の中でも真ん中で一際背の高い、
金髪のロングヘアがよく似合う美少女の肩を、空中を泳がせていた
右手で、ガシッ、と掴んでいた。
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です。
上条さんwwwwwwwwこの展開はwwwwwwww
乙。
面白いなぁ。
高音さんガンバ
フラグ建築士か
感想ありがとうございます。
それでは今回の投下、入ります。
>>67
× ×
「爆弾でも使ったんですかねこれ?」
「…いや…」
科学の学園都市内、とあるビル街の空き地で、
アンチスキルの女性隊員黄泉川愛穂と鉄装綴里が言葉を交わす。
周囲の建物への被害こそ少ないが、一見すると爆発的な惨状である。
だが、先輩であり上司に当たる黄泉川は鉄装の推測に疑問を呈する。
「丸で、暴風雨と火炎竜巻がいっぺんに来たみたいじゃん」
「少なくとも発火能力ですか」
破片を放り出した黄泉川に鉄装が言う。
「能力」、外部で言う「超能力」を持つ学生相手の捕り物も通常業務であるアンチスキル。
そちらに勘が働くのも職業柄。
「物理的な道具を使ったか、能力者だとすると相当な威力じゃん。
明らかに性質の違う破壊が入り交じってる」
「だとすると、犯人は複数、それも相当強力な能力者。
まずはバンクから該当する能力者の検索ですね」
打ち合わせをしながら、黄泉川は予感を覚えていた。
恐らく、この捜査はどこかで尻切れ蜻蛉になる。
最初からこれではまずいのだが、勘は働くものだ。
人一人が余りにもちっぽけな「科学」を我が者にせんとする学園都市。
科学的、理論的、その言葉を操る者は余りにも人間臭い。
その学園都市の正規の警察組織に属する黄泉川だからこそ底が知れない何かがある。
それを感じる事が、最近特に多い気がする。
>>71
「あー」
書庫と書いてバンクと呼ばれるデータベース検索に考えを向ける鉄装をちょっと離れ、
黄泉川は別の男性隊員を呼び止める。
「黒鴉の方は?」
「先鋒の法務部が出て来て」
「分かった」
尋ねた黄泉川もさして期待はしていない。
流石にごまかし切れない規模の目撃情報があったから先方にも照会を出したのだが、
有益な回答は半分も当てにならない。早速予感的中だ。
アンチスキルが正規の警察ならば、「黒鴉部隊」の様な認可警備部隊は言わば新撰組の様なものだ。
軍事力こそ「能力者」相手の捕り物からイザとなったら「戦争」をこなすだけの軍備を誇るとは言え、
建前上はあくまでも「学園」として、
教師ボランティアの「警備員」アンチスキルをメインとする正規の警察機能。
その一方で、巨大な利権に直結する最先端研究をその存在意義としているのも学園都市。
安全面に於いてその最優先命題をクリアするためには、利益を得る者に負担を任せる。
学園都市の最高権力である統括理事会は、
高レベルの民間警備部隊に武器使用を含む部分的な民営警察の権限を認可していた。
「黒鴉部隊」の母体が宇宙関連企業オービット・ポータル社である様に、
そうした部隊はそもそもが民間の警備部隊であり、民間の研究の保護を主目的とした認可制度なのだから、
大企業や先端研究所の私兵が活動の便宜上認可を受けているケースが大半である。
アンチスキルとして統括理事会から認可を受けた様な部隊と迂闊に揉めたら、
学園都市と利害関係の深い部隊の経営母体や認可責任者である統括理事会の面子も絡んで来る。
何かが浮上しても、上での書類上の決着を押し付けられる事もしばしばだ。
「こりゃあ、明日の授業の準備に専念するのが賢明じゃん」
独り言であり、冗談である。
最初から諦める、そこまで自分が利口だと思っていない。
>>72
× ×
「参ったな」
途中で楓の「天狗之隠蓑」に隠れ、
葉加瀬のサポートを受けながらようやく戻って来た麻帆良学園都市内で、
千雨は自分の携帯電話を手にして呟いた。
「あいつら…高音さんらの連絡先って誰か知ってるか?早めに話しとかないと」
その言葉に、一緒だった面々が顔を見合わせる。
「ああ」
思い出した様に小太郎が自分の携帯を取り出す。
「何だ?あいつらとメルアドなんて交換してたのか?」
意外な展開に千雨が言った。
「ああ、前に練習約束した時に急用で行き違ったさかいな」
「むー…」
あっさりと説明する小太郎であるが、
そうやって実際口に出したらあっさり応諾されたその申し出に至る迄に
主に脳内で展開されたラノベ上中下巻が埋まる分量の葛藤とか、
そんな小太郎をむーっと見ている夏美の広辞苑一冊が優に埋まる心中とかはこの際おいておく。
それから程なくして、千雨チームは高音チームとダビデ広場で落ち合う事が出来た。
「すいませんね」
「いえ、こちらも話がありましたから」
詫びる千雨に高音が言う。
「ん?」
「?」
「あ、ポニーテール珍しいなあって、似合ってるよ」
夏美に言われて、愛衣がぺこりと頭を下げる。
普段は後ろ髪を巻きツインテールにしている愛衣だが、
この時は何故か後ろで一つに束ね、
丈の短いVカットのタンクトップにミニスカでそのままチアでも出来そうな格好だった。
>>73
「ああ」
ひょいと小太郎がそちらに声を掛ける。
「動きやすそうやなぁ」
小太郎にそう言われて、しかも、ぴこぴこした子馬の尻尾をひょいと指ですくわれたりして、
顔が見えないぐらい深々と頭を下げる愛衣を、
側で夏美がむーっと見守っている。
千雨が、自分が呼び出した面々を見てみると、
高音はジャージ姿、夏目萌は体操着の白いTシャツにショートパンツと、
人と会うには些かラフな格好をしている。
そんな格好で動くラインがやけにやわやわたゆたゆしている辺り、
気楽な女子校暮らしを鑑みるにもしかしたら帰宅して寛いでいる所を無理に呼び出してしまったかと
千雨もちょっと悪い気がしないでもない。
「一体何がどうなってあの様な事になったか、ご説明いただけますね?」
高音の真面目な口調に、千雨も真面目に大凡の経緯を説明する。
「それで、高音さんは?麻帆良の学園警備が
それこそどうして魔法使い御法度の科学の学園都市に?」
「正直に言います、よく分かりません」
「はあ?」
「上からの指示です。つい最近、鳴護アリサを調査する様に指示が出ました。
調査の上、緊急時の保護の判断は任せると言う非常に曖昧な内容です。
上もハッキリとは把握していない様です」
「何だそりゃ?」
高音の曖昧な返答に、千雨がバリッと頭を掻く。
「確かに、鳴護アリサの周辺に魔術師の影が伺えましたので、我々も警戒していました。
元々科学の学園都市での魔術の行動は魔術サイドの協定でも禁止されていますから」
愛衣が付け加えた。
>>74
「調査の過程で、おぼろげながら見えて来た事はあります」
「何でござるかな?」
高音の言葉に楓が尋ねる。
「鳴護アリサ、歌手ARISAに関する噂をご存じですか?」
「…それって、もしかしていい事があるとかそういうの?」
愛衣の質問に夏美が応じ、愛衣は頷いた。
「どうも、只のジンクスでは済まない節があります。
そもそも、ジンクスと言う言葉自体、本来は魔術的な意味に基づくものでもあるのですが」
高音が言う。
「おいおい、まさかアリサの歌を聴いたらマジでご利益がある、
………とか言い出すのか?」
今更非常識が非常識だと驚く筋合いでもない。
千雨の質問に高音も真面目な表情で応じる。
「直接回答出来るだけの根拠は乏しい、只、調査に於ける魔法使いの勘、と言いましょうか。
問題は、彼女がいる場所が科学の学園都市だと言う事です。
学園都市の学生であると言う事は、直接的な研究材料である事をも意味する。
我々と違って、科学の学園都市の科学と魔法との接触は危険、
それが魔法協会を含む魔術の世界の共通認識です。
彼らが介入に打って出たのもそれ故でしょう」
「彼ら…あの赤毛ノッポとチビ魔女共か。魔法使いかありゃ?」
「ステイル=マグヌス。イギリス清教所属の魔術師です」
千雨の質問に愛衣が答えた。
>>75
「イギリス清教?十字教か」
「はい。十字教三大勢力の中でも魔術担当、そう思ってもらって結構です」
記憶を辿っている千雨に、愛衣が簡単に説明した。
「十字教の中でも魔術に関わる秩序を司る、おおよそその役割である彼らです。
魔術的な何かが関わると踏んで動き出したと推測されます」
高音が続けて説明した。
「どういう奴なんだ、ステイルってのは?」
「いけ好かないジョン・ブルですよ」
「知り合いか?」
「留学中に少々」
「まあ、知り合いと言えば知り合いですね」
千雨の問いに、愛衣が珍しく不機嫌な応答をする。
その後に夏目萌が続いた。
「留学中に術式の優劣を巡って
グラウンド一杯のイノケンティウスの鎮圧実験とか
校舎を一つ溶鉱炉にするぐらいには白熱した激論を交わした相手ですから」
千雨チームの視線が愛衣に集中する。
「ひゃうううっ!!!」
わたわた手を振り出す愛衣の前で、小太郎が噴き出した。
「お、おいおい愛衣姉ちゃん、大人し顔しといて随分やんちゃしてるやないけ!!」
「む、昔の話ですっ!お腹を抱えないで下さいっ!!」
「認めたくないものだな、若さ故の過ちと言うものは」
「長谷川さァンっ!」
「全く、先方は元気があってよろしいと言う事でお掃除三ヶ月で済ませてくれましたが、
送り出したこちらは先生方が平謝りで大変だったんですよ」
「お姉様ひゃうぅぅ…」
>>76
「しかし、それならステイルってのも大概だな。
留学先であんたと一緒だったって、教師にしちゃあ若い感じだったけど」
「え?」
千雨の言葉に、愛衣はきょとんとした。
「ステイルですか?
年齢的には愛衣とそう変わらないと聞いていますが」
「何?」
高音の答えに、千雨以下数人がきょとんとした。
「あー、おほん。黒歴史はおいといて現在の話をしようか」
一部を除き場が和んだ辺りで千雨が話を戻した。
「どう見てもアリサは大丈夫、って状況には見えなかったんだがな。
イギリス清教じゃあダブルオーの指令でも出してるのか?」
「否定は出来ません。あちらの実質トップは名うての雌狐、
何を企んでいるのか読み間違えたら足をすくわれる。
元々、その雌狐率いるイギリス清教と科学の学園都市の上層部の間に
非公式のパイプがあるのは裏の人間の間では公然の秘密となっています」
「それであんな連中が出入りしてるってのか」
「そうでしょうね」
千雨の言葉を、高音は否定しなかった。
「じゃあ、本人に聞くかぁ」
上を向いた小太郎が言った。
「そのステイル、結局は強いんか?魔法使いなら愛衣姉ちゃんが相手したら…」
「まず私が負けます、と言うか死にます。灰も残さず」
「即答やな」
大真面目に返答する愛衣に、小太郎の目も興味を示すものとなった。
>>77
「同系統の魔術ですから優劣がハッキリしています。
彼はルーンの天才、操る火炎魔術の威力は桁違いです」
「ルーン?ネギなんかが時々使こてるごにょごにょ文字か?」
「そうです。北欧を起源に私達のものを含めて魔術の大きな基礎となっているルーン、
彼はその究極に辿り着き尚かつ自らの至高を求め手にした天才です」
「うーん、愛衣姉ちゃんは真面目な秀才タイプやからなぁ」
「その意味でステイルは魔術において頭一つ抜けています。
あの術式であの威力と発動速度はキレてるとしか言い様がありません。
真面目と言いました、私も今も留学中もあるべき魔法使いたろうと、
自分で言うのは恥ずかしいですが目標に恥じない事はしてきたつもりです。
しかし彼は、そこに辿り着くまで、
何か決して譲れない想いがあってその姿勢は尋常なものではなかった」
あの小さく大きな存在を思い出させるその言葉に、千雨は斜め下を見る。
「そうやって肉体も魂も削る様にして究みに立ったルーンの魔術です。
しかも、所属がネセサリウス、今の私の学校魔法でどうこう出来る相手じゃない」
「ネセサリウス?」
「イギリス清教の魔女狩り部隊です」
「おいおい」
「もちろん、今はやたらとそんな事をしている訳ではありませんけどね」
愛衣と千雨のやり取りの後に、高音が続いた。
「十字教の教義においては、あくまでも魔術は穢れ。
しかし現実問題として魔術は存在する。
故に、十字教のために穢れた魔術に対抗するために魔術を行使する。
だからネセサリウス、日本語に訳すると必要悪の教会」
「ご都合主義だな」
愛衣の説明に、千雨が感想を漏らす。
「それでも、今では魔法協会との間でも不可侵と言う事になっていて、
現実的に魔術を使うだけに、十字教の中では話が分かると言ってもいいでしょう。
一応の秩序を乱す魔術のトラブルを解決する、事によっては討伐する。
それが今の彼らの仕事です。
そこに抵触した団体をその手で幾つも壊滅させているのが
ステイル=マグヌスですから実力、実戦経験も確かです」
>>78
「聞いてるだけでやばいのが出て来たなぁ」
高音の説明に千雨が嘆息する。
「魔術師としても実力者、その上、私達が彼らと、
それも科学の学園都市でぶつかれば、
それは魔法協会とイギリス清教と言う組織と組織の問題になりかねない」
夏目萌が厳しい表情で言った。
「その意味では長谷川さん、あなた達にも自重していただかないと困ります。
登録上は、麻帆良学園教師であるネギ先生の従者のカードを持っている身、
まして、能力の助け無しに何か出来ると言う状況ではない。
私の言っている意味が分かりますね?」
「やっぱり、俺が連中シメて聞き出すっちゅうんは?」
高音の真剣な口調に千雨が言葉に詰まり、そこに小太郎が割って入った。
「一応麻帆良の生徒で仕事もしてるけど、仕事に関してはあくまで契約やからな。
ドジッたら俺の責任でそっちは指名手配でもなんでもしてくれれば」
「コタロー君」
「小太郎さん」
夏美と愛衣の反応は、千雨が中指を頭と逆側に両手を上げたくなるものだった。
>>79
「出来ますか?」
「…いや…」
高音に真面目に問われ、少し考えて小太郎が苦い声を出す。
「あの赤毛ノッポとチビ連中なら、生きてる内に勘が掴めたら何とかなると思う。
けど、問題はもう一人や」
「ですね」
小太郎の答えを、愛衣が肯定する。
「こちらが聞いている通りだとすると、難しいですね。
ネギ先生なら何とかなるかも知れませんけど…」
「愛衣姉ちゃん、つまりそれは俺がネギより下、ちゅう事か?」
「い、いえ、決してその様な、
小太郎さんがネギ先生より下とか噛ませとか中国式のティータイムとか
そんな事は決して一言たりとも申し上げておりませんから」
「オーケー分かった、
ちぃとひとっ走りドーバー海峡泳いで寺院と大聖堂と宮殿更地にして来るわ!」
「小ォォォォォ太郎ォォォォォォォさァァァァァァンっっっっっ!!」
「コタロー君っっっ!!!」
「お話し、進めてもよろしいですか?」
「お、おう」
ドカカッと地面に突き刺さる黒い触手に足を止め、
高音が彩る素晴らしい陰影の刻まれた笑顔を見ない様にしながら小太郎が返答する。
>>80
× ×
後に、佐天涙子は語る。
とある高校男子寮を徘徊する落ち武者の都市伝説を。
その都市伝説が発祥した夜、微かな目撃証言の原形となった男子寮住人が、
現在の自宅である男子寮居室へと落ち延びる事に成功していた。
「……ただ……今……」
「お帰りなんだよ、とうま!」
「……ああ……今……帰……った……」
「あのスリムブロンドは操影術者、
魔術で実体化した影を操る術式の、それも若手ではかなり高位の術者だね。
影の鎧は、そうやって作られた影の防護具を身に着ける術式なんだよ。
一度に複数用意して、チームメイトも一緒に防護する事も出来るんだよ。
影の鎧は、通常であれば三倍、素肌に直接装着する事で七倍の防御力を発揮するんだよ。
だから、高い防御力を求める時は、影を魔力で実体化させた鎧だけを身に着ける事で、
魔術的に表裏一体とされている影と本体の肉体、
それだけを不純物無く交わらせて最大の効果を得るんだよ。
影はあくまで本体に従うもの、だから、術者の術が解けた時には、
その影の術は発生していたものが全て解除されるんだよ。
ずぶ濡れでこんがりローストだけど、術者の影響を離れて
独立した物理現象として反射したものによる影響だね。
あのチームの実力を考えると、直接攻撃を受けたら
そのまま中まで黒こげハンバーグになってると思うから。
それに、打撃力をアップする影の触手が消えても、
パンチそのものが消える訳じゃないんだよ」キラーン
今回はここまでです。
続きは折を見て。
乙です
それでは今回の投下、入ります。
>>81
× ×
「アリサは…休んでるのか」
「うん、疲れてるだけだから大丈夫なんだよ」
寮の居室で言葉を交わす。ベッドの上のアリサの寝顔は文句無しのマジ天使。
上条ミイラ男当麻としては、背後で笑みが白く輝く前に本題に入る。
「ステイルもステイルで何考えてるのか分かんねーけど、
その、操影術者とか言うのも何何だありゃ?」
「魔法使いなんだよ」
× ×
「とにかく、こちらとしても黙って手をこまねいているつもりはありません。
そもそも、科学の学園都市での魔術活動は協定により強く制限されています。
先方の黙許で勝手な真似をされたらそれこそ秩序に関わります。
まして、一般人を巻き込んでの狼藉など魔法使いとして見過ごす訳にはいかない」
頑固で思い込みが激しい高音だが、
ぎゅっと拳を握る高音は使命に一途であると言う言い方も出来る。
なまじ突き抜けた力があれば余計に人間色々と明暗もあるものだが、
人間として、それも力のある人間として高音は好ましい人物である。
それは、あの夏を共にした長谷川千雨も知っている事だった。
「鳴護アリサに何があるかは分かりませんが、
イギリス清教が動き出すとなるとそれ以外もどう出るか分からない。
これで彼らが力ずくで何かを手に入れよう等とふざけるのも大概に…」
「…高音さん、荒れてるな」
「裏の世界で、十字教全体の情勢がきな臭くなっていますから」
千雨の感想に愛衣が答えた。
「十字教?イギリス清教だけじゃなくてか」
>>83
「十字教は世界三大宗教の一つ、
政治、文化、精神、そして魔術、総合した場合の影響力は世界屈指の規模になる巨大勢力です。
その十字教の中の三大勢力の一つがイギリス清教。
イギリス清教が魔術を用いる事に特化している様に、十字教三大勢力は、
一般信徒には知られていない所でそれぞれの形で魔術と関わりを持っています。
私達魔法協会は、宗教の直接支配を受けていない魔術師そのもののための団体。
しばしばそこから齟齬が生じているのが実際です」
高音が、ざっと触りを説明する。
× ×
「あのー、インデックスさん?」
「何なのかな?」
「先日、魔法使いと言う言葉を非常に馬鹿にされていたと上条さんは記憶しているのですが」
「うん、あの時はね。この場合の魔法使いと言うのは、
魔法協会に所属する魔術師の慣習上の呼び方なんだよ」
「魔法協会?魔術結社とか言う奴の事か?」
「うん、こちらの定義ではそういう事になるんだよ。
世界の主要な魔術文化の拠点ごとに、日本には関東と関西の魔法協会があるんだけど、
西洋魔術をメインに使っていたから関東の所属、多分麻帆良関連の学生なんだよ」
「もう少し詳しく頼む」
「魔法協会は、簡単に言うと魔術師そのものの業界団体。
宗教団体を介さずに魔術師が直接所属している団体で、
宗教団体との掛け持ちを許すかどうかはその宗教団体によるんだよ。
普段は、魔法で影ながら人助けや魔術的なトラブルを解決しているんだよ」
「それだと、いい事してる様に聞こえるけど」
「うん、実際、余り大きな問題は聞いた事が無いんだよ。
仕事やルールもきちんとしているから、魔術サイドの宗教や政治の関係機関は、
直接的な支配者や雇い主とは別のルートで所属している
魔術師そのもののの公的機関として認知して各種の協定を結んでいるんだよ」
「それで、上手くいってるのか?」
「うん。例えば十字教の中には、宗教の支配を受けず大規模な異能の集団を形成している、
その事自体に拒否反応を示す人がトラブルになる事も少なくないんだけど、
それでも魔法協会が認知されている事で事を大きくせずに済ませる事も出来ているんだよ」
>>84
× ×
「うーん」
夏美が首を傾げて唸っていた。
「でも、十字教ってうちのクラスにもいるよね、それも普通に魔法関連で」
「十字教自体が巨大ですから、勢力によって温度差があります。
だから、こちらとの掛け持ちが許容されている所もあります。
魔法協会自体は、協会によって方針に違いはありますが、
全体として一つの宗教に限定はしていません。
しかし、あくまでも自らの唯一神の下で、
俗世に於いても異能の力はすべからく俗世で信仰を管理する団体に服属するべき。
こう考えている向きは決して少なくありません。
そういう人達にとっては、魔法協会の存在自体が感情的に許容し難い」
「お姉様も、ヨーロッパでの仕事でトラブルになって大喧嘩して帰って来たばかりです」
高音の解説に、愛衣が付け加えた。
「ご存じだと思いますが、お姉様はこの通り、
頑固で思い込みの激しい所はありますが、決して無闇に人を傷付けたりはしない。
むしろそうした事を強く嫌い、筋を通して行動に移す人です。
あの時の事も、お姉様に非があった訳ではない。
最終的に上の話し合いでそれは分かっていただけましたが、一歩間違えたら戦争でした」
「マジかよ」
例えでは済みそうに無い物騒な愛衣の解説に千雨が呟いた。
「先方は一部の過激派の所行として処分を約束、
こちらはお咎め無しの代わりに帰国命令が出ました。
裏が裏であるための必要な措置でしたからそれは納得しています」
「つー事は、実際にはもっとヤバイ黒幕が上の方にいる、ちゅう話になるんか?」
小太郎の言葉に、高音は真面目な顔で頷いた。
>>85
「私も知り得る限りの情報を上に上げて調査を促しましたが、
お互い政治的なパイプのある大勢力同士だけに簡単にはいかない。
しかし、明らかに中枢に近い所に危険な徴候がある。
半ば魔法使いとしての勘ですが、私の見る限りそれは確かです。
特にあちら、欧州における表と裏の影響力を考えると、それはとても看過できない」
「何でそんな物騒な話になってるんだ、十字教ってのは?」
「一つには、ネギ先生です」
千雨の問いに、愛衣が応じる。
× ×
「彼ら、魔法協会の最大の強みは魔法世界との外交権を握っている事なんだよ」
「魔法、世界?」
「そうなんだよ。イギリスにも一つ出入り口があるんだけど、
日本でもこの間テレビのアニメで紹介していたね。
日本の民話にしばしば出て来る迷った先の異界を日本の湯女文化に結び付けて表現していた…」
「えーと、つまりあれか、浦島太郎とか、あれも桃太郎みたいな実は魔導書だとか?
山ん中で霧の向こうはあっちの世界だったとかそういう…」
「そう、それ。十字教が一時期頑なな事をしていた事もあって、
魔法協会は、そういう世界の中でも最も大規模な所との
伝統的な結びつきを今に至るまで維持し続けて魔術の発展に貢献してきた。
連綿と続く魔術の直接的な継承と言う意味では、十字教関係を超えるんだよ」
「あっちの世界と交信出来る老舗の魔法使いの集まりか」
「うん。入口が開く事自体が時間的に限られているから
あっちの世界に行くのは難しいんだけど、その近くの魔法学校には行ったんだよ。
ネセサリウスとも外交関係は結んでいるし、貴重な伝統魔術の宝庫だから。
「禁書目録」には相応しい場所だったんだよ」
そう言ったインデックスは、ふふっと優しい笑みを浮かべた。
それは思い出し笑い、何か楽しい思い出でもあったのだろうか。
そう、思い出。それは上条とインデックスにとって人一倍深い意味を持つ言葉。
それを考えると、この様な表情を作る事が出来る、そんな期間は非常に限られる筈だ。
>>86
「そういう所だから、彼らは本来人助けはしても害は無い人達だから。
もし不心得な魔術師がいても彼らは自分達で始末が付けられる人達なんだよ」
× ×
「十字教が歴史的に敵対関係をとった事もあって、
魔法世界との外交は事実上こちら、魔法協会が独占しています。
そして、一言では言い尽くせない裏の社会的属性を持った間違いなくこちら側の人間であるネギ先生が
魔法世界にとてつもない恩を売り、更に、途方もないエネルギーと利権の関わる
二つの世界を丸ごと巻き込んだプランの主導権を握った」
「あー、なるほどなー」
小太郎が上を向いて言った。
「ネギ先生も、十字教その他の宗教勢力にも相当の配慮を払って、
魔術、宗教、政治、各方面の裏のトップ会合は
ネギ先生のプラン承認でおおよその同意、協定が成立しています。
十字教の各勢力も、裏の中でも表向きはそれに賛同しています。
人道的に良心的、或いは計算高い人間であれば、
政治的妥協であってもそれが最善であると理解もしています。
しかし、世界の主導権で頭一つ抜ける様なプラン、
それを宗教に従属しない異能の、それも桁違いのパワーの持ち主に握られる事に就いて、
まず心情的にその事自体が耐えられない、或いはあり得ない、
そう感じる者は決して少なくない。まして、事は宇宙開発、超高度科学の関わる事ですから」
高音の説明に、千雨は嘆息したくなる。
冗談じゃない、なんだか知らないがあの事は自分達、
何よりもガキのネギがとてつもないものと引き替えに命を張って手に入れたものだ。
後から来て文句なんて言わせてたまるか。
それは、あの時最前線でとてつもない攻撃から最前線で仲間を守り、
敗れたとは言え術式発動を阻止する一歩手前まで闘い抜いた高音も
それをサポートした愛衣も麻帆良で闘った夏目萌も立派に含まれている事だ。
「加えて、こちらは情報の入手が非常に難しいのですが、
どうも、科学の学園都市に関わるトラブルで何か痛い目を見ている、
それも、勢力そのものに関わる痛手である、その様な情報すらあります。
それらは全て、現実的な痛手以上に欧州から世界を制して来た彼らのプライドに関わる事です。
そして、歴史を見るならば、そのプライドのために何をするか分からない部分がある」
>>87
「実際、ヤバイんか?」
高音の説明に小太郎が尋ねた。
「私がヨーロッパで調べた限りでは決して楽観は出来ない、
それも、あの人達の発想からして一般市民、人道的な事態すら懸念される。
魔法協会と十字教、それぞれ独立した巨大勢力で軽々な事は出来ないとは言え、
非常に嫌な感触です。もたもたしていると恐ろしい手遅れになると言うぐらいの」
「そんな連中が今度の件に噛んで来てるってのか?」
「そうなっては本当に困ります。
イギリス清教は、こちらからしたらむしろ話の通じる相手です。
それでも、協定無視でネセサリウスを動かしている以上、容易に話し合いが出来るとも思えませんし、
あの雌狐が何を考えてそんな事をしているか、迂闊に関わるとこちらが危なくなる。
最悪なのは、鳴護アリサが彼らの欲する何かを持っていた場合、
そして、イギリス清教の協定違反を呼び水にもっと面倒な勢力が介入する事です」
「じょーだんじゃねぇぞ」
顔の前で拳を握る高音の側で、
千雨が吐き出す様に言った。
「分かっています。こちらも魔法使いです。
元々、鳴護アリサの保護は現時点では私達の任務でもあります。
科学の学園都市で勝手な事をして、しかも一般人すら巻き込む等と。
その上事態がこじれる様な事になる等と、
いい加減あの自分達こそが世界であるかの如き
十字軍気取りの幻想をブチこぉおぼろおおおおおおおっっっっっ!!!」
「お姉様っ!?」
突如、高音が右脚を天高く突き上げ、バターンとぶっ倒れた。
千雨は、一瞬頭に血が上りすぎたのかとも思ったが、
とにかく、突き上げられた見事な脚線美をぴくぴく震わせて
白目を剥いてぶくぶく泡を吹いている姿は余り楽観的なものではない。
>>88
× ×
「あー、いたいた」
「?…はあっ?間違いってワケ!?…」
「そうである、テンプレ用に作成した指令書が間違えてそちらに届いてしまったのである」
「なんだ、科学かぶれした異能の連中まとめて片付けるって準備万端やって来たのに」
「さ、帰るである。出番はもう少し先なのである」
× ×
「あー、疲れたー。
だから舞踏会なんてガラじゃないにのに、ホント肩凝るわー」
「!?」
千雨が、ハッとしてその声の方を見ると、
見慣れた異国の姫君の同級生が自分の肩を叩きながら、どうやら帰路に就いている所らしかった。
「おーい」
「ん?」
千雨が駆け出して声を掛け、ダビデ広場に参加者がもう一人加わる。
「えーと、高音さん?」
「ん、まあ、色々あって疲れてるんだな。
只、こいつらの見た所なんか変なモンが引っ掛かってるかも知れないとかで」
「つまり、一発ひっぱたいてみろと」
「ダメ元だ、ちょっとやって見てくれ」
「ん、アデアット」
スパコーン
>>89
× ×
「う、うーん…」
石段で夏目萌にぐらぐらと半身を起こされていた高音が、頭を振って唸っていた。
「あ、あの、大丈夫ですか、お姉様?」
「ええ、少々頭に血が上ったのでしょうか?」
「ホントに大丈夫かよ…」
愛衣の問いに高音が答え、千雨が呟く。
「ええ、大丈夫です。ああ、有り難うございます」
「なんか知らないけど役に立ったんなら良かった。後何か?」
「いや、これから私らも帰る所だから」
「そ、じゃ、お休み」
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
乙でした。
高音さん不憫なり
では、今回の投下、入ります。
>>90
× ×
かくして、お疲れの姫君が帰路に就くのを注意深く見守ってから会合を再開した。
「それから、あのウニ男、あれもただ者じゃないだろ」
言いかけて、千雨は一瞬血の凍る様な何かを感じた。
「ちょっと見魔法を使ったって感じじゃなかったけど、
だからって言って只のヒーローの普通人じゃ間違いなく死んでるぞあの場面」
常識、非常識に一際目敏い千雨が言った。
「マジックキャンセル(魔法無効化)」
愛衣が呟く様に言う。
「それって神楽坂のか?」
千雨が尋ねると愛衣が頷いた。
「信じられませんが、あの人の肉体自体、
恐らく右手にマジックキャンセルの機能がある。それ以外に説明が出来ません」
「確かに、にわかには信じがたい事ですが、他の説明が難しいのも確かです」
愛衣の説明に高音が賛同を示した。
「シスター」
千雨が呟いた。
「そうだ、シスターだ。元々あのウニ男の連れだった筈だ。
あの時一緒にいたシスター、あいつもイギリス清教だって言ってた」
「ああ、そんな事言うてたな」
「シスター、ですか?」
高音が言う。
>>93
「そう言えば。確かにあのタイプの修道服はイギリス清教」
愛衣が言う。
「只のシスターじゃねぇぞ」
千雨の言葉に、千雨チームがうんうん頷く。
「ガキみたいにちっこいシスターだけど、
見ただけでこっちの手の内を完璧に言い当てやがった」
「そう。私達のやり方を全部知ってた。
あのツンツン頭の人が何て言ってたかな?イン、イン…」
「Internet」
首を捻る夏美に愛衣が言う。
「Ink-jet printer 気になるものがあったら止めて下さい。
impotenz insert immoral incubus injuu incubator
intelhaitteru install interbal indeprndence
indies interactive interpole instant indonesia
interface insider in-course inspire interior
Midkine index」
「それ」
「!?」
「だから、最後に言った奴」
夏美の返答に、高音チームの三人が顔を見合わせた。
三人の顔は青ざめている。
「索引?…何だそれ…」
言いかけた千雨を、高音はビッと指差した。
「これ以上関わらないで下さい」
「なっ」
「これは、本格的に裏側の話、
事は魔法協会とイギリス清教の組織と組織の問題です、
力ずくでどうにか出来る話じゃないと言うか手出しをしてもらっては大変困ります」
>>94
「だから、一体何…」
「ネギ先生のプランにも関わります」
千雨の質問に押し被せる様に高音が言う。
「場所は、世界の科学の覇権を握る学園都市、
そして、魔術サイドも学園都市に就いては不可侵の協定を結んでる」
「聞いたよ。それをイギリス清教が堂々ぶち壊してアリサをどうにかしようって事もな」
「その点に就いては、イギリス清教と科学の学園都市の間でどの程度の密約があるのか、
今は伺い知る事は出来ませんが、
仮に密約があったとしても少なくとも表には出せない程度の黙認の筈です。
十字教三大勢力の一つであるイギリス清教、科学の学園都市、そして魔法協会。
この三者の間で政治的紛争が勃発したら、
そこに敵対する者味方をする者が入り乱れて収拾の付かない事になる。
イギリス清教の中でも本気で洒落にならないキーパーソンまで絡んでいるなら
本格的な紛争に発展する事も考えなければならない。いいですか」
そこまで言って、更にずいっと高音は迫った
「世界の科学の覇権を握る科学の学園都市、
そして、特に欧米の精神的文化的支柱として政治的にも魔術的にも重きを為して来た十字教。
その様な所と本格的な政治的紛争を引き起こす事が何を意味するか。
ネギ先生は魔法協会サイドの人間として、
今もあの世界を救うために奔走している、ご存じですね?」
「お陰さんで教え子の私もろくに顔を合わせちゃいませんがね」
>>95
「私自身仕事ですれ違いに顔を合わせましたが、
その事は、ネギ先生自身非常に心苦しく思っています。
ネギ先生はそうやって、若年にしてとてつもない実績と圧倒的な魔力、
その裏側の表面を知る人間から様々な感情を抱かれながら、
綺麗な表側も私達も伺い知れない程のどす黒い欲望や利権の渦巻く裏も
そんな世界と渡り合っています。
そして長谷川さん、あなた個人ならまだしも、その能力は間違いなくそのネギ先生、
魔法協会に属するあの世界での偉業を成し遂げたネギ・スプリングフィールドの従者としてのもの。
その様な人間が科学の学園都市、十字教に繋がる導火線に火を付けたらどういう事になるか。
ネギ先生のプランに対する裏側の同意は、
表向きはあくまで人道上、文化的な配慮に基づく極めて危うい均衡の上に成り立っているもの。
莫大な利権、能力の絡むプランが魔法協会陣営主導で進められている事を内心嫌悪し
虎視眈々としている者も決して少なくはない。長谷川さん」
先輩としての厳しい目線が千雨を圧倒する。
「あなたはあの世界を、あの世界の数多の命を、
あの夏、私もあなたもその身を張って守り抜いたものを、
あの歳で最も危険な場所で闘い抜いて今この時も奔走しているネギ先生の労苦を、
水泡に帰するつもりですか?」
千雨が圧倒されている間に、高音はすくっと立ち上がった。
「あなたは賢い人であると理解しています。
行きますよ。今後の事は山ほどありますから」
高音に促され、二人の魔女見習いも立ち上がり、退散へと動き出す。
>>96
× ×
「ん?」
小太郎は、ちょいちょいと手招きしている夏目萌に気付いた。
「あー、小太郎君小太郎君、
これこれ、留学中にミスターステイルに感化されて
ファッショナブルに気合いが入った思い出の…」
ナツメグの背後で、黒目が消えたイメージ映像の愛衣が
ゴゴゴゴゴゴゴゴと効果音を立てながら太陽の様に巨大な火球を掲げるのを、
夏美は只大汗を浮かべて眺めていた。
短くてすいませんが今回はここまでです。
続きは折を見て。
乙!
それでは今回の投下、入ります。
>>97
× ×
「ん?」
「おや?」
女子寮大浴場「涼風」の前で、
帰宅すべく通りかかった千雨チームと高音チームがばったり鉢合わせした。
「これから入浴でござるか?」
「ええ、こちらでの打ち合わせもありましたから多少の便宜をいただいて。
なんでしたら皆さんもどうですか?使えるのは一部ですが、この人数なら十分です。
なんだかんだ言って大変な一日でしたから」
先ほどから少し落ち着いたのか、高音はおおらかに言って見せた。
× ×
「んー」
「涼風」の脱衣所で、首をゴキゴキ鳴らしながら籠に着衣を収納していた
夏目萌通称ナツメグが気配を感じて隣を見る。
「よっ」
「どうも」
隣に現れたのは、長谷川千雨だった。
夏休みの大事件でも留守番組で学校も違うナツメグは、
長谷川千雨とはほとんど面識が無い。
只、知識としてネギ・パーティーの一人だと言うぐらいの認識だ。
で、今夜の一件に関しては、ネギ・パーティー側の首謀者であるらしいとも。
「お疲れさん、今日はどうもな」
「ああ、いえ」
そういう関係なので、曖昧に言葉を交わす。
社交辞令とも言えるが、ごくごく穏当で常識的と言った所だ。
余り親しいとも言えない仕事上の会話が終わると、
ナツメグの目はちょっと年頃の女の子のものとなる。
>>99
(スタイルいいな…)
セミロングの髪の毛を手でざっと除けて脱衣しているのに横目を走らせると、
年下のナツメグから見たら千雨は知り合いのちょっと綺麗なお姉さんと言った所だ。
元々はリアルの人間関係に余り強くなかった性格と
年頃から来る自信過剰の逆の無意味なコンプレックスにより、
ネットアイドルとしては修正の限りを尽くしている千雨だが、
この年代の少女としては素の見た目としても悪くない、結構イケてる方だ。
自然なセミロングヘアに顔立ちも整って、笑うと可愛いとフラグっぽい属性も伺える。
ネトアとしてはバン、と、一見して分かる修正を施している千雨だが、
年の近い下級生として今千雨の素のままに遭遇しているナツメグから見ても、
その体つきは大袈裟に言えば年上の女性として十分大人っぽい。
普段余り目立たないのはむしろ均整が取れているからで、
一歩二歩先んじてバランスよく確実に膨らみ成熟している千雨の姿は、
年下のナツメグが素直に羨む所だった。
× ×
一般生徒には知られていない大浴場「涼風」裏スケジュール。
つまり、通常の使用スケジュールから外れた時間帯の一部も使用可能となっており、
しかるべき地位にある者が裏から便宜を図る事が可能となっている。
その裏スケジュールの使用を許可されたと言う事で、
佐倉愛衣は左右に仕切り壁があるタイプのシャワーブースに入り、汗を流していた。
「いっ」
治癒魔法も使っておいた筈だが、漏れがあったのか染みる所もある。
あれだけの本格戦闘は久しぶりだ。お湯を浴びながら、体の節々に疲れが響いている。
きゅっとダイヤルを回して湯を止め、これからを頭に浮かべてつと下を見る。
「んっ」
腕を掲げて一つ、背伸びをして、愛衣は扉を開きブースを出た。
>>100
「あ」
「あ、佐倉さん」
丁度、隣のブースから村上夏美が出て来た所だった。
「………」
かくして、互いにタオルを一本右手から体の外側にぶら下げた状態で正面から向かい合う。
ほんの一瞬だけそちらにピントを合わせてから、
両者は大浴場に於いて不躾にならない角度を採用する。
(…やっぱり…)
と、夏美は心の中で呟いてしまう。
愛衣は、パッと見て素直な可愛らしさがそのまま見て取れる美少女タイプ。
愛衣の方が年下で普段は大人しそうにも見えるのだが、
たった今の記憶を巻き戻すならばそれでは終わらない。
美にして微に非ずのバランスの良さによりやたらと目立ちはしないものの、
こうなるとその体型は一見して間違いなく女の子を超えた女性、と言う所に届いている。
年の割には早熟の部類に入るスタイルの良さは見逃せるものではない。
夏美も十分に可愛い女の子なのだが、この年頃で本人が一番気になるソバカスで
大勢の中では見過ごされるタイプだと、本人がよくよく自覚している。
体力勝負の演劇部員として至って健康的に育ってはいるが、
中肉中背、ごくごく年相応にまだまだこれからなのは、
この年頃で一番気になるデコボコ具合も又しかり。
そんな平々凡々の可愛い思春期の女の子としては、
普段自分の右見て左見てにいるぐらい非常識な
同い年でも可愛い女の子と言うよりスーパー美女相手なら諦めもつくと言うものだが、
相手がちょっとした美少女で、しかも本人が至って素直で、
一番気になる年頃の一番気になるピンポイントと言うのが辛い。
これが只の他人、後輩ならまだいい、素直で可愛い娘と思えそうだし実際思っているが、
この年頃、或いは女性たるもの全てにおいていっちばん厄介なものを挟んだ関係、
と言うのが最高に厳しい所だ。
愛衣は愛衣で、そうした辺りの事を全然気が付かない訳ではない、
むしろ、日常に埋没しがちな夏美よりも愛衣の方が意識しがちと言う面もあって、
やはり夏美にすっと交わされると愛衣も気後れしてしまう。
>>101
× ×
「ア゛ア゛ア゛ァァァァァギモヂイ゛イ゛ィィィィィィィィィ」
「ご満悦でござるな」
「涼風」の一角で、ジェットバスで背中を刺激していた夏目萌に楓が言った。
「あー、どうも。
崖っぷちでガチンコの力比べしてたみたいなモンですからねー。
体力もそうですが精神的に凝るんですよねー」
「で、ござろうな」
コキコキ首を慣らす萌の隣で楓がのんびりと湯に浸かる。
「んー」
湯から上がる楓を見て、萌が口を開いた。
「ガタイいいですねー。
やっぱ、体力的に余裕あったら少しは楽なんですかねー」
言いながら、萌も湯から上がり、んーっと伸びをする。
萌からは見上げる長身と言う他は、普段は案外目立たない体格。
それこそが忍びと言うもので、中身はぎゅっと鍛えられて悪目立ちする無駄が無い。
それでいて、要所要所はバン、とばかりに逞しいぐらいの肉付きを見せて
女性としてもぶるんと見事な張りと共に十分すぎるアピールが展開され、
ヤワな男など捻り潰されそうな力強さだ。
それを見ているナツメグの、歳から見たら中肉中背、
白い華奢な体つきがようやくふっくらし始めた、いかにも少女らしい体つきが
こうなると本人としてはどうにも頼りなく感じられてしまう。
「ふむ、一つ、マッサージなどいかがでござるか?」
「いいんですか?」
何となく、忍者のマッサージと言うのは効きそうだ。
実際疲れて体が固まっているのも億劫であり、ナツメグは促されるままサウナに入る。
そこで、席にタオルを敷いてうつぶせに寝そべった。
>>102
「色が白いでござるな」
「んー、デスクワークが多いですからねー」
楓が、艶やかに流れる黒髪を分け、滑らかに白い背中を指で探る。
その楓の言葉にナツメグが応じる。
「ニン」
「いっ!」
「ここでござるかな?」
「そう、そこ、そこそこ、キク、キクキク、いいっ、あ、いひっ、ひいいいいっ!」
「ふむ、だいぶ凝っているでござるな。それでは、こういうのはいかがでござるかな?」
「ん?いいっ!お、おおおおおっっっっっ!!!」
楓に右脚を何十度か持ち上げられ、足の裏をぐりぐりされると、
激痛である筈なのだが洪水の様な汗も痛みも何故か心地よいナツメグであった。
「あっ、あおおっ、そ、そこ、おおっ、もっと、もっと突いておおおおおおおおおっ!!!」
× ×
「んー」
サウナを出たナツメグが、
大浴場の一角で指を組んだ両腕を掲げて伸びをする。実に気分爽快。
「ありがとうございます長瀬さん」
「喜んでいただけて何よりでござる」
「それでは、水風呂もいいですけど」
ナツメグが桶に隠した小型の練習杖をさっと振ると、
丸でスプリンクラーの様にざーっと冷水が二人のいる一帯に降り注いだ。
>>103
「ひゃー、きっもちいぃーっ」
洪水の様に、それでいて何かべっとりと絞り出す様に全身を濡らしていた汗こそが、
この冷水シャワーによって最高の爽快感に変換される。
「爽快でござるなー」
「余り羽目を外してはいけませんよ」
両腕を広げて伸びをする楓の隣で
ぱしゃぱしゃと中途半端なグリコポーズではしゃいでいるナツメグに向けて、
洗い場の腰掛けに掛けて洗い髪の豊かな金髪を片側に寄せていた高音が注意を口にした。
× ×
「…ふーっ…」
千雨が汗を流して大きな湯船に浸かっていると、
すっ、と、白い足首が視界に入る。
つと視線を上げると、つい先ほど真正面から噛み付かんばかりに向かい合っていた
高音・D・グッドマンが立った姿から身を屈めて湯に入る所だった。
(…やっぱり…)
千雨は圧倒される。
滑らかなクリームの肌色に長身の見事なプロポーション。
同級生の雪広あやかがこのタイプだが、
この年頃の少女がハッキリ区別する中学、高校の違いはこうして見ても歴然。
全体にすらりと長身でいながら、その肉体は力強い程に女性的で、
ニンフに近づこうと言うハーフ美少女のイメージそのままだった。
そんな高音の裸体が湯に沈み、千雨の側で金髪の頭にタオルを乗せて寛いでいる。
「先ほどは少々言葉が過ぎたかも知れません」
「いえ、こちらこそ。
私は本来一般人でいたい人間なもので、ビッとラインを引いてくれると助かります。
何せあの夏休みで感覚が未だにグラグラしてる」
「だよねー」
気が付くと、夏美が身を屈めて湯に入る所だった。
>>104
「だって、未だにお米のご飯食べながら感涙にむせんで
コタロー君にキモイって言われてるんだから」
「村上さんもですか?」
「え?メイちゃんも?」
いつの間にか遠慮がちに側にいた愛衣の反応に夏美が応じた。
「はい、あの時は急な大事故でいつ帰れるか分からなくなって、
それがいつの間にか大事件のど真ん中で」
「あはは、メイちゃん、佐倉さんも大変だったねー」
「えーと、メイでも構いませんよ」
「あ、そう。んー、じゃあ私も名前で」
「はい、夏美さん…そうですか、夏美さんって小太郎さんと寮で同居してるんでしたね」
「うん、まあ、色々あって。メイちゃんも魔法の特訓頑張ってるんだよね。
コタロー君にも手伝ってもらってるんでしょ?」
「はい、時々、時間の空いている時にアドバイスを頂いて」
「ふーん」
「長谷川さん」
つつつと近づいた高音が小声で言う。
「実に親しげに打ち解けた会話の背後に、
何かとてつもないドラゴンやタイガーの姿がかいま見えるのは…」
「奇遇ですね、ゴゴゴゴゴゴゴゴと重低音と一緒にそれが見えるって事は、
私も魔法使いの才能あるんですから」
「でも、メイちゃんも大変だね」
夏美のその言葉は、至って素直なものだった。
「魔法使いの仕事って、いっつも今日みたいな感じなの?」
「いえいえ、流石にあんなのは滅多に、
今日とか夏休みとか、毎回だったら命が幾つあっても足りません」
「だよねー」
「当たり前です」
アハハと笑う夏美に高音が割って入る。
>>104
「本来、魔法使いの任務は地味なもの、
人々の為に、ほんの僅かな助けになる事が出来る様に、
影ながら地道に人助けを行うのが魔法使いの本来の在り方です」
千雨は改めて思う。もちろん、世の中ままならない事の方が多いだろう。
それでも高音は心からそうあろうとして可能な限りの努力と行動を惜しまない。
そういう人間なのだと。
「長谷川さん」
「はい」
「魔術師の狼藉に一般人が巻き込まれて、
それを目にしてはいそうですかと引き下がる我々ではありません。
あなたは学生として、ネギ先生の従者として、分かりますね」
「ええ、お願いします高音さん」
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
乙です。
高音さんがいっぱい出てて嬉しい。
>>108
どうもです。
未確定ですが、展開上ガタ減りしたらご勘弁を
それでは、今回の投下、入ります。
>>106
× ×
「あ、夏美さん」
三々五々浴場を出て、
これから帰路に就こうとしていた夏美は愛衣に声を掛けられる。
「あの、小太郎さんに伝えてくれますか?
明日の約束すいませんがキャンセルしたいって」
「約束?」
「はい、ちょっと魔法を見て頂く約束を」
「そうだったんだ、って、やっぱり敬語なんだね」
「あは、小太郎さんにもよく言われます」
そう言って、二人は顔を見合わせくすくす笑う。
こうして見ると、素直に笑う愛衣は素直に可愛い、夏美はそう思う。
「明日予定とか?」
「はい、明日から科学の学園都市に潜ります」
「高音さん達と?」
真面目な顔になって尋ねた夏美に、愛衣は笑って首を横に振った。
「お姉様とナツメグさんは上に報告、イギリス清教との連絡役との下交渉を初め、
組織として動ける様にこちらでの準備を徹底していただきます」
「えっと、それじゃあ…」
「その間、私があちらに潜伏する事になります」
「ち、ちょっと待って」
夏美はチラッと周囲を見たが、既に他の面々は立ち去った後だった。
>>109
「確か、あのステイルってメイちゃんより強いって言ったよね。
で、他にも三人、いや、コタロー君よりも強いって人までいてそれからあの黒いメカとか…」
「別に全面戦争しに行くつもりはありませんから。
それに、今の状態の鳴護アリサさんをそのままにしてはおけません。
現に魔術師がいるなら、対抗出来るのは魔法使いですから」
笑っていた愛衣が、真面目に言ってぺこりと頭を下げる。
「では、お願いします」
「…あ…」
夏美は何かを言おうとしたが、
普段の巻きツインテールが解かれた緩いウェーブの洗い髪がふわりと翻り、
気が付いたら夏美は一人で立ち尽くすばかりだった。
× ×
「まずいで」
665号室で夏美の話を聞き、床に座った小太郎が腕組みをして唸った。
「愛衣姉ちゃんが自分で言うてるけど、
同じ系統の魔法使い同士でそんだけ火力に違いがあったら
埋めるのは至難の業や。しかも、愛衣姉ちゃんやしな」
「しかも、って?」
「愛衣姉ちゃんの魔法は秀才の優等生タイプ。
教科書通りなら先に進んでる方が有利で曲げようがない。
しかも、聞いてる限り、ネセサリウス言うんは裏の中でも裏の連中、
実戦で阿漕なやり方も慣れてる筈や」
そう言って、小太郎は首を横に振った。
「大丈夫、じゃないの?」
「厳しいな。それに、多分高音姉ちゃん、魔法協会は最悪愛衣姉ちゃんを切る気や、
上の方までゴタつかんようにな」
「そんなっ!」
「それを愛衣姉ちゃんも望んでる」
そう言う小太郎の歯も又、ギリッと軋んでいた。
>>110
「直接は知らんかったけど、裏にいた時に小耳に挟んでる。
西洋魔術の魔女狩り連中はえげつない、そんなんに捕まったら相当ヤバイてな。
詳しくは知らんし多分知りともない話やけど、
ウスイホンとか何とか、とにかく本気でヤバイ事になるて聞いてる」
「…それじゃあ…」
「あー、まあ、上の連中もアホちゃうやろしパーでもないやろ。
そんな所に愛衣姉ちゃん一人放り込んでどうにかなるて考えへんて。
あれで結構前途有望なエリート候補聞いてるからな。使い捨ては無いやろ」
青い顔でガタガタし始めた夏美に、小太郎はハハッと笑って告げる。
告げた後は、真顔だった。
× ×
楓に声を掛けられ、廊下の一角に移動していた千雨の前で、
楓は携帯電話を取り出した。
「葉加瀬殿から預かったでござる。
学園都市に潜入すると言う事で、独自の暗号技術と衛星電話の機能が使われているでござる」
「そりゃ凄いが、この電話がなんなんだ?」
楓に促されるままに電話を調べていた千雨が、ごくりと息を呑んだ。
「あのドサクサに先方にも滑り込ませておいたでござる。
後の判断は任せるでござるよ、ニンニン♪」
>>111
× ×
それは、日付も変わろうという時刻だった。
寮の部屋でベッドに入っていた千雨だったが、眠っていた訳ではない。
どれだけ待つか、徹夜するべきなのか?
かつては深夜作業自体はさして珍しくもない不健康人だったのだが、
ごく最近体が資本な生活をやけに長い事続けていた。
それに、長谷川千雨のキャラクターとして、わざわざ徹夜して待つ、と言う、
そこまでの事をするべきなのだろうか?
窓を見る。ふと、明日の天気を心配する。
こちらの魔法使いさんがどうするつもりか知らないが、余り悪条件のお仕事にはなって欲しくない。
星空を眺めてふとよぎった、千雨のそんな思いが伝わった様に携帯から歌が迸り、
千雨は思わずベッドの上に跳び上がる様に座り直した。
「もしもしっ!」
「もしもし、ちうちゃん?」
「あ、ああ」
「私、アリサ。メールくれたんだね、連絡欲しいって」
「アリサ、なのか?」
「うん」
アリサの声は、辺りを憚る様な小声だった。
「アリサ、無事なのか?」
「うん。さっき、助けてくれたのちうちゃんなんだね?」
「あー、まあ、私は大した事してないけど」
「ううん、有り難う」
「今、どうしてる?」
「当麻君とインデックスちゃんの所に泊めてもらってる」
「インデックスってのはあのシスターの事か?」
「うん」
「で、とうま、ってのは…
あのシスターインデックスと一緒にいたウニ頭の事でいいのか?」
「うん、上条当麻君。当麻君の寮なんだけど、
そういう人の多い所の方が危険が少ないだろうって。
二人とも寝てるからトイレから掛けてるんだけど…」
「ん?ちょっと待て」
「何?」
>>112
「寮って言ったよな。上条当麻とインデックスが住んでるって。
それって、他に誰かいるのか?」
「ううん、私達三人」
「あー、ちょっと待て、あんたら一体どういう状況で寝てるんだ?」
それを尋ねた時、電話の向こうからクスクス笑う声が聞こえた。
「私とインデックスちゃんがベッドに寝て、当麻君がバスルーム。
悪いと思ったんだけど、どうしてもって」
「何だそりゃ…って、いや、そんな事はどうでもいい。
アリサ、さっきの連中、何で襲われてるのか心当たりあるのか?」
「ううん。当麻君にも聞かれたんだけど、
私にも何がなんだか分からない」
「そうか…けど、正直言って明らかに普通じゃないだろ。
何でもいい、思い当たる事って何か無いか?」
魔法に関しては一般人であるアリサに、千雨は慎重に言葉を選ぶ。
「分からない」
「そうか」
「私には、三年より前の記憶が無い」
「え?」
「三年前、大きな事故があって、私はそこで救出されて、
それより前の事は覚えていないの。身寄りの人も見付からなかった。
鳴護アリサって名前も、施設が付けてくれた名前」
「そう、だったんだ」
一言で言えば異常な状況。であるならば、そこに鍵があると考えるのも自然。
千雨の頭脳にもやもやしたものが引っ掛かる。
「ちうちゃん」
「ん?」
「私、オーディションに合格したんだよ」
「オーディション?」
「うん、エンデュミオン、って知ってる?」
「ああ、科学の学園都市の宇宙エレベーターの事だろ?」
「そう、そのエンデュミオンのイメージソングに選ばれたの」
「…おい…それって、凄い事だろ。まんまメジャーデビューって事で」
>>113
「…うん…」
「嬉しくないのか?」
「嬉しいよ、凄く!」
それは、悲鳴にも聞こえた。
「凄く、嬉しい。
ちうちゃん外の人だよね。だから詳しい事は言えないんだけど、
この学園都市では私は最低ランク、学校の成績も良くない、家族もいない。
私には歌だけだった。だから、歌だけを支えにここまでやって来た」
「だったら…」
「でも、もしそれが原因なら…
当麻君だってあんな危ない目に遭って、
それが、私が歌いたいって、私の我ワガママであんな事になるんだったら…
だったら、私…」
「…けるな…」
「え?」
千雨は、とっさに送話口を指で塞いだ。
「ざけてんじゃねぇぞ魔術師…」
呻きと共に、千雨は指を離す。
「だったら、歌えよ。やりたい事があって、
今まで自分の力で頑張って来て、認められたんだろ。
誰に遠慮する事があるんだよ。
何だか分かりもしない訳の分かんない邪魔されて、
それではいそうですかって、鳴護アリサは、アリサの歌はそんなモンなのかよ」
千雨がそこまで言った時、電話の向こうから又クスクスと笑う声が聞こえた。
「ん?」
「あ、ごめん。ありがとう。
当麻君も同じ事言って、励ましてくれた。だから、私歌う」
>>114
「ああ…あー、アリサ」
「何?」
「いや…何が出来るか分からないけど、私も出来るだけの事はする。
だから、アリサはアリサ、自分の事で頑張れ。
只、そういう訳だから、私の事は内密で頼む」
「うん、分かってる」
「上条当麻、か」
「うん」
実に分かりやすく声が弾んでいる。
「いい男なんだな」
「!?ち、ちうちゃんっ!?」
「じゃあ、もう寝ろ、寝られる時にな大スターさん」
「もうっ、お休み」
「お休み」
× ×
「何だそりゃ?」
翌日、朝のホームルームが始まる前に夏美に目で誘われ、
廊下で話を聞いてから千雨が険しい声を出した。
「じゃあ、潜入してるのは佐倉愛衣だけって事か?」
「メイちゃんの話だけだとそういう事になると思う」
「ああ、うちの関係がバカ強いってだけで、あれで結構優秀な魔法使いってのは聞いちゃいるが、
あのステイル、その佐倉が天才って言ってたな。
しかも、まあまあ使えそうなのが何人もくっついて」
「コタロー君も直接闘ったら厳しいだろうって」
「間に合ったぁ。はよーっス…ぐえっ」
千雨が、横を通り過ぎようとした春日美空の襟首を捕まえた。
>>115
「ちょっと聞きたい事がある」
「何?」
「ああ、知っての通りの事情で、
ネットで世界情勢を色々調べてる。表も裏もだ」
「それで?」
「ネセサリウスと一戦交える、って言ったらどう言う事になる?」
スザザザアッと、千雨が気付いた時には美空は視界の果ての点と化していた。
はあっと嘆息して左手で顔を押さえた千雨がくいくい手招きする。
「非常にヤバイって事は理解した。
取り敢えずあれがどういう組織なのか分かるだけ知っておきたい」
「取り敢えず、あそこと戦争は洒落にならないから。
こっちの魔術の世界の中でも半端なく強いし」
それは、千雨が見た片鱗からでも伺えると言うものだ。
「うーん、どういうって言うと、あそこは基本、来る者は拒まずの実力主義だからね。
技術があれば、基本的な約束事さえ守っていれば余り宗教にはうるさくないって言うか。
あくまでイギリス清教のために邪魔になる魔術を狩る、
イギリス清教の利益の中でそれが出来るなら何教でも構わない、ぶっちゃけそんな感じで」
「女狐」
千雨がぼそっと言った。
「そこまで掴んでる?」
「ネットで拾っただけだ」
そういう千雨に、美空は小さく首を横に振る。
「私も詳しい事は知らないけど、そこまで分かってるなら迂闊に触らない方がいいね。
ネセサリウスの女狐は業界でも知られてるから」
「なるほどなぁ」
「ネセサリウスは魔術の世界でも裏の作業だから私も直接知ってる事は少ないけど、
そういう連中だから腕だから確かって事で、
まあー、まず喧嘩はしない方がいいね。
それ自殺志願者だから、いや、元が魔女狩り軍団だから楽に死なせてくれないし。
正確には分かりかねるけど、ネギ先生ならとにかく、
そっちのパーティーでも中堅所ぐらいだとかなり厳しい事になると見ていいね」
>>116
「ああ、ま、調べててちょっと興味があったって事で。
流石に今更ドンパチは夏休みで十分だ」
「まあ、長谷川だからね」
美空が、ヒラヒラ手を振って教室に入る。
「どうするの?」
夏美に聞かれ、千雨は目を閉じて天を仰ぐ。
「…っきゃねぇか…」
千雨の一人言に、夏美はしっかりと頷いていた。
「………」
背筋に入る冷気は、振り返る事を躊躇させる。
それでも、千雨はチラッとそちらに視線を向ける。
(既に床から十センチほど浮かんでるってかよ)
「副担任として、時計の見方から教えるべきなのかな?」
ここで、主に肉体言語で、等と言われたら、
滅びようとしていた「世界」に比較してとてつもなく脆弱な自分の肉体の事など、
想像以前の問題だった。
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
それでは今回の投下、入ります。
>>117
× ×
「ってか、水中から女の子が飛び出して来るってなんだ!?
お前達の好みのタイプはネイビーシールズ所属なのか!?」
放課後のとある路上、補習を共にした悪友共の毎度の馬鹿話に、
上条当麻は叫び声を上げていた。
実際つい最近水の中から飛び出して来た女の子に割と痛い目を見せられた訳だが、
多分関係無い事の筈だ。
「はっ、何甘っちょろい事言うんてんねカミやんは」
それに対して示された途方もない包容力の全貌について、
ここで詳述を避けた事に就いてはひとえに作者の根性の問題とご理解いただきたい。
「一個明らかに女性じゃねーのが混じってんだろ」
「えぇーっかっ!カミやんっ!!」
通常ならそれで終わる筈のだるそうな突っ込みに対して、
とてつもない包容力の持ち主はその場に片膝をついて、
ビッ、と反対側の歩道を指差して熱弁を振るう。
「あっちの金髪のオネーチャンもすぅぅぅぅぅぅっごくいい線行ってるけどなぁ、
その隣の子、そう、あの子、あの子がや、
髪の毛をセミロングに伸ばしてセーラー服姿でもじもじしてる姿を想像してみぃっ!!」
「………」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっかああああっ!
カミやんっっっっっ!!!」
ふと、言葉を止めた上条を追い打ちで一挙に攻め落とすべく、
バッと反対方向の歩道へと右腕を振って力説した。
「そっからメタモルフォーゼや、
あの子が腿まで白いセクシー浴衣でキツネの耳と尻尾を装着して
両手をくいっと曲げてウインクしてる所を思い浮かべてみぃやっ!!」
>>119
「………」
「ほな行ってきまあっすっっっっっ!!!」
上条が上を向いてふと思考に沈んでいる間に、
青髪ピアスの大柄な不審人物が全速力で車道を突っ切っていた。
「雪!月!花!!
春!夏!秋!冬!!
豪!華!絢!爛!!
天!!罰!!覿!!面!!!」
「ごうぅぅぅぅぅぅぅぅほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
ううぅぅぅぅぅぅぅぅぅびいぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっっっ!!!」
その後、地面にぶっ刺さって林立した鉄骨の檻の中から発見された
コルク抜きのオブジェから察するに、
愛と言うものはやはり何かを凌駕するものであるらしい。
「んじゃ、カミやん後でにゃー」
「ああ」
× ×
「当麻君?」
「何をしているのかなとうま?」
「………」
寮の居室で、帰るなりその場で膝立ちとなり、
両手の指を組んで目を閉じて頭を垂れるこの部屋の主に、
居候二名が怪訝な表情と言葉を向ける。
「うん、とうま、私はシスターだからね、懺悔なら聞いてあげるんだよ」
そう言って、猫の様な笑顔と共にドンと胸を叩く。
「だから、正直に告白して欲しいんだよ、
今度は一体誰の着替えを見たのかな?」キラーン
>>120
× ×
そこは、丸で巨大な図書館だった。
麻帆良学園には図書館島と言う桁違いの大規模図書館が存在するが、
この、しんと静まった図書館も、
長谷川千雨が「図書館」として立ち入った限りでは引けを取る様には見えない。
その長谷川千雨の格好は、図書館の利用者と言うには相当奇矯な、
アニメキャラクタービブリオン・ルーランルージュをそのまま模した姿をしている。
かくして、長谷川千雨は、その奇矯な姿で途方もなく巨大な書庫の中を、
案内板や冊子状の蔵書リストを一つ一つ確認して四苦八苦していた。
今日び、市立図書館に行っても蔵書案内ぐらい機械的な検索、ネットワークで行う事が出来る。
ここでもやろうと思えば出来るのだが、
今の千雨の立場でそれをやればそのままの意味で身の危険がある。
只でさえ、小型UFOやら虫型、タコ型の小型ロボットやらが
サーチライトを光らせて辺りを巡回している。
千雨はそれをかいくぐり、必要な資料を探し出し、手作業でコピーを取る。
察知の危険がある検索や一斉コピーの機能は迂闊に使えない。
この膨大な書庫の中での手作業は気が遠くなりそうだ。
「ちう様、ちう様っ!?」
「ん?」
そんな千雨の元に、警戒に出していた電子精霊達が泡を食って戻って来る。
「!?なんだあっ!?」
危険な行為であるがすーっと空中に浮遊した千雨が、そこから見える光景に絶叫する。
遠くからこちらに向けて、林立する本棚が猛スピードで花びらに化けて次々と粉砕していた。
一端着地した千雨が、バッとジャンプする。
地面から赤い花の咲いた蔓がしゅるしゅると千雨を追う様に伸びてくる。
「ちう様あっ!」
「ちいっ!」
電子精霊た゛いこが蔓に捕獲される。千雨がミニステッキからの電撃でその蔓を焼き切る。
空中を浮遊する千雨に向けて、蔓が下から次々と伸びてくる。
千雨は電撃を帯びたステッキで懸命に其れを振り払う。
>>121
「!?」
更に前方に、とんでもないものを発見した。
それは、丸で巨大な薔薇の木の塊だった。
その塊の真ん中から、ボコンと巨大なトカゲ、肉食恐竜を思わせる首が飛び出す。
その口がガパッと開いた時、千雨にはイメージが目に見えた。
「だああああっ!!」
大トカゲ、ハッキリ言って怪獣の口から放射された青白い光を、千雨は必死に交わす。
「ちう・パケットフィルタリィーングッ!!!」
怪獣の二撃目、回避が間に合わないと踏んだ千雨が攻撃魔法で対応する。
出力がお話しにならない。バリバリバリと今にも食い破られそうな脆弱な魔力で
相手の攻撃の直撃を避けながら、辛うじて攻撃を回避する時間を稼ぐ。
その間に、薔薇の塊からは、やはり爬虫類と思しき腕が、
脚が、ボコン、ボコンと伸び出して動き始めていた。
「ちう様あっ!」
「撤収撤収撤収ううううっっっっっ!!!」
× ×
科学の学園都市内のホテルの一室。
長谷川千雨は、魔法陣の描かれた床に四つん這いになる形で
ぜぇぜぇと荒い息を吐き腕で額を拭っていた。
「大丈夫でござるか?」
「なんとかな」
長瀬楓に問われ、ふらり立ち上がった千雨はどさっと座椅子に座り込む。
>>122
「バンク、どうだった?」
「どうもこうも、葉加瀬とこいつ、「力の王笏」の力を借りて、
それでこの様だ。さすがは科学の学園都市だ」
夏美の質問に千雨が応じる。科学の学園都市に再度潜入した千雨は、
科学者として何れ科学の学園都市との対決も視野に入れていた葉加瀬聡美から借りた機器と
電子精霊を使役する千雨のアーティファクト「力の王笏」の力を借りて、
バンクと呼んで書庫と書く、科学の学園都市の総合データベースへの侵入を試みてこの結果となっていた。
電子精霊の力で、丸で電脳世界をイメージ映像化した世界を自分の肉体が直接体験している様な
感覚変換が行われていたのだが、
そんな状態での猛烈な追撃に、それは文字通り命からがらの脱出だった。
「なんとか追っ手は撒いた筈だが、そもそもおかしいんだ」
一息つきながら千雨が言った。
「アリサは三年より前の記憶が無い、事故で救出されて施設に入っていた、
自分の本名すら分からない。そう言ってた、嘘を言っている様には聞こえなかった。
その設定自体、科学の学園都市と根本的に矛盾する。
ネットや葉加瀬の伝手でなるべく精度の高い情報をかき集めた所では、
科学の学園都市は能力開発とやらのために学園都市の外から所定の手続きを経て学生を集めてる。
そして、書庫は最先端のデータベース、そこで学生のデータを生体認証付きで詳細に管理している。
そんな所に、なんで名無しの権兵衛が存在出来るんだ?」
「それを確認するためにアクセスしたんだよね」
「答えを見付ける前にこっちの存在がヤバくなったけどな」
夏美の言葉に千雨が言う。まだ、気分がハイになっているらしい。
「どうだ、葉加瀬?」
「駄目ですねー」
葉加瀬謹製多機能PDA越しに、千雨と聡美が言葉を交わす。
>>123
「馬鹿みたいに高度な暗号化技術が使われています。
しかも、一つ一つのデータに対してです。
これを解析して元の状態手に復元出来るとしても、最低でもスパコン使い放題で
十字教の神の子が生まれてから今までの時間を何度か繰り返すレベルの時間が…」
「あー、分かった、悪かったな」
「いえ、こちらこそ力不足で」
ああなったらむしろ大丈夫だろうと言う事で
一応、あの本棚の跡地からかき集めて来た
「花びら」のデータ解析を依頼した結果がこれだった。
暗号と言っても麻帆良学園、葉加瀬聡美の手腕をもってすれば大概のものは何とかなる。
やはり科学の学園都市の技術は桁が違っていた。
× ×
ホテルの部屋では、千雨の「帰還」を受けた打ち合わせで再開される。
面子は、千雨が何となくリーダーで長瀬楓、犬上小太郎、村上夏美、
それに、朝倉和美と相坂さよが加わっていた。
なぜ朝倉和美と、現状では人形に封じられて交信している
幽霊生徒相坂さよがここにいるのかと言えば、
要は不審な行動を和美に気取られたからであり、
無理に隠すよりは情報戦の凄腕である和美を引き込んだ方が話が早いと言う判断でもあった。
「科学の学園都市で行動出来る様に葉加瀬には色々やってもらったけど、
それでもバンクへのアクセスが出来る程じゃないからな。
無い物ねだりをすれば、せめて基本情報だけでも閲覧したい状況なんだが」
千雨が、PDAを覗きながらバリッと頭を掻く。
「やっぱり、ここの、科学の学園都市の人間じゃないと無理?」
「まあ、そういう事だな。それも、当然個人情報、
それも能力開発とやらに直結してるからここの人間なら誰でもって訳でもない」
和美の問いに、千雨が応じる。
>>124
「ってなると、そのアクセス出来る人間を味方に付ける、って線か?」
小太郎が口を挟む。
「私もそれを考えた。
この科学の学園都市にはジャッジメントとアンチスキルって二つの警察がある。
アンチスキルは教師、ジャッジメントは学生で組織されていて、
こいつらにはある程度のアクセス権限があるらしい。
アンチスキルは本格的に危ないらしいが…」
「ジャッジメント、風紀委員だっけ?所詮学生は学生」
和美が悪い笑みを浮かべた。この手の話が最も得手なタイプだ。
「バンクで集めるだけ集めた情報から絞り込んで見た」
そう言って、千雨はPDAの画面を示す。
「とても全データには追い付かないが、
一年で見た目もちびっこくていかにもってツインテール、お嬢様学校、
しかも、特記事項として負傷休職の情報まで入ってる」
「悪いけど狙い目、だね」
千雨の紹介に和美が言った。
「まずは探りを入れてもらいたい所だが…」
千雨が、妙に役に立ちそうな面々に視線を順送りした。
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙ー
でも、千雨弱すぎると思った。
学園都市でも実現してないアンドロイドとやり合えるんだし、そこまで隔絶してないと思う。
>>126を修正。
アンドロイド→メイドロボ
学園都市はメイドロボ作れてないんだよね。
チャオなら余裕だろう
30年進んだ学園都市と100年以上先から来たチャオじゃはなしにならん
千雨withアーティファクトのハッキングがこのレベルってなると初春のハッキング技術は人外どころの騒ぎじゃないってことに
それでは今回の投下、入ります。
>>125
× ×
「ヒャッハwwwwwwwww」
科学の学園都市には、スキルアウトと言われる存在がある。
「ヒャッハwwwwwwwww」
正確に定義されている所では武装無能力集団。
しかし、広義で言えば、無能力の不良連中、と言ってもいい。
「ヒャッハwwwwwwwww」
その中のとある一団、そのマイブームは単車であった。
「ヒャッハwwwwwwwww」
それも、ごついオフロードバギーを爆音上げて乗り回すと言う、
科学の学園都市にしてはえらくレトロな連中だ。
「ヒャッハwwwwwwwww」
外の世界から何十年と発展した科学の街でも、
この手の人間の愚かさまでは到底根治されない。
そんな現実の見本の様なものだ。
「ヒャッハwwwwwwwww」
今日も今日とて、揃いのごつい肩パッドを装着して、
背中にホースつきタンクを背負って公害と共に暴走している。
「ヒャッハwwwwwwwww」
両サイドをすっきりそり落として高々と伸ばした髪を空気抵抗になびかせて、
十字路に突っ込んだバギー軍団。その曲がり角では、
一般には街を巡回して自動的に汚物を消毒する用途に使われているロボに跨った
ちっこいメイドさんが驚愕していた。
>>130
× ×
「ああ、見付かったよ」
科学の学園都市の一角で、佐倉愛衣は携帯電話で通話をしていた。
魔法的な通信は却って危険と言う事で、
独自の暗号に魔術を組み合わせ衛星を経由する特別製だ。
「Index-Librorum-Prohibitorum。
科学の学園都市の出入国に記録が残っていた」
電話の相手は弐集院光。麻帆良学園の魔法先生として麻帆良からの情報収集を行っていた。
電子精霊の使い手として極めて高い技術で電脳空間に干渉出来る弐集院だが、
それでも科学の学園都市へのハッキングは並の難しさではないと聞いていた。
そんな弐集院が掴んだと言う情報は決して多くはないが、無駄とも思えない。
愛衣は携帯を肩で抑えてメモをとる。
「上条当麻…」
× ×
「………」
小太郎は、巨大な水槽の前で腕組みをしていた。
この手の裏の仕事には経験がある、一応忍術使い。
と言う事で、潜入調査に当たった小太郎は、
話せば長くなる紆余曲折を経て数々の艱難辛苦を乗り越えて
寮の天井裏から適当な部屋に降り立ち、こうして水槽を眺めていた。
水槽の中では、でっかいアロワナが悠然と泳いでいる。
周辺の調度品を見てもこの水槽一つとっても、やはりお嬢様は違うと言う事か。
>>131
× ×
「戻ったでござる」
ホテルの部屋に、長瀬楓が戻って来た。
「あー、今戻った、つーかすまんな、ドジッてもうたわ」
楓について来た小太郎が言う。
潜入調査を開始した小太郎が連絡時間を超過しても音信不通となっていたため
二手に分かれて動いていた楓がその後を追って追跡調査していたのだが、
結論を言えば、小太郎は行き先を間違えていた。
間違えて別の寮に潜入していて、楓が力ずくでその小太郎を連れ戻し、
一端麻帆良に戻って神楽坂明日菜にドツキ漫才を頼んでから戻って来た所だ。
取り敢えず小太郎本人は道を間違えたとか思っていない訳なので、
その間に展開されたお手に始まる女子校育ちの好奇心に充ち満ちた黒歴史の数々に就いては
武士の情けとして詳細な描写は敢えて差し控えるものとする。
× ×
当初は楓に全面的に交替する事も検討されたのだが、
一度受けた以上プライドの問題として、
小太郎による潜入調査続行が決定された。
「まぁー、出入りはちぃと厄介やったけど、
ここまで来たら何とかなるかいな」
天井裏から廊下に降り立ち、気配を探りながらささっ、ささっ、と、
目標地点に影の如く歩を進める。
「ほう、今日学ラン姿に該当する立入許可は無かった筈だが?」
小太郎がぴたりと動きを止める。
察知し損ねたのも十分脅威だが、察知した今、
背後から感じられるその雰囲気は、強者のそれに相違ない。
>>132
「面白い。
まだこの時間から堂々無断侵入とは
良 い 度 胸 だ」
ホテルの部屋で、長谷川千雨は報告を受ける。
「いやー、流石科学の学園都市、警備に追っ掛けられてすっ転んでもうたわ。
ちぃーとこのか姉ちゃんと茶ぁーしばいてすぐ戻って来るさかい」
「ああ、ごゆっくり」
首を白く固めたミイラの出来損ないの言葉に、千雨は片手をひらひらふって送り出す。
× ×
「で、又行くのか?」
「ああ、色々準備はして来たさかいな、成功は目前や。
ま、ちぃとごたついたけど待っててや」
ホテルの部屋に戻って来た小太郎が千雨と言葉を交わしてから、
和美と密談を交わす。
「眼鏡の年増や、なんとかそいつの動向見張ってくれ。
そいつさえ何とかなれば後はこっちでどうにかするさかい」
かくして、影の如く出て行った小太郎が戻って来てからの報告を、
千雨はホテルの部屋で腕組みしながら聞いていた。
「いやー、さすがは科学の学園都市やなー、
どこに逃げてもどこに隠れても、あっつう間に居所察知されて
電流は飛んでくるわ手裏剣は飛んでくるわ。
どうしてもっちゅうから、
これからちぃとこのか姉ちゃんとゾンビライダー一勝負して来るけど、
ここは一つ、方針の変更ちゅう奴を進言したいんやけど」
>>133
「ああ、そうしてくれると助かる、私の精神衛生上もな」
カラカラ笑って後頭部を掻いているアフロなハリネズミを前に、
はあっと息を吐き、バリバリと後頭部を掻きながら千雨が言う。
「そもそも、相手が悪かったねこりゃ」
ノーパソを操作していた和美が言う。
「千雨ちゃんがかき集めたデータ、
バンクだけじゃなくてあちこち集められるだけ集めた奴、
色々分析して見たけど、噂に聞く超能力者、それもかなり上位だよその娘」
「超能力、か」
科学の学園都市の超能力、魔法のまほネットも含めた電子情報に長けた千雨や
天才科学者としてのルートを持つ葉加瀬聡美が関わっての今回の作業だ、
その辺の事も嫌でも耳に入る。
「科学の学園都市で超能力って言うと別の意味になるから、
私達が言う所のエスパー、ジャッジメントでも相当なやり手みたいだしね。
その辺のデータはやっぱり機密だね。千雨ちゃんの電子精霊に色々やってもらったけど、
ファイル自体が見付けにくい上にややこしい鍵が掛かってる。
これは符丁で書かれたメモみたいなものかな、おおよそ解いてはみたけど」
「ふむ、案外アナログに頭を使って意味を読み解くタイプでござるな」
「機械的に解こうとしたら、往々にしてそっちの方が難しい事があるからな」
楓の言葉に千雨が続いた。
「んー」
「村上?」
浮かない顔で呻く夏美に千雨が声を掛ける。
全くチームリーダーなんて向いていないと千雨としては思うのだが、
自分が無力で頼んだ以上は責任がある。
それに、夏美の相棒はまだ戻って来ていない。
>>134
「本当にとんでもない街なんだね。メイちゃん大丈夫かな?」
「まあ、滅多な事は無いとは思うけどな」
「うーん」
千雨が言うのは気休めではない。
夏休みの事では、特化した能力で事件の中枢近くで活躍したのは夏美でも、
その裏で愛衣がぶっ飛ばされながらも少数精鋭の一兵士の役割を堅実に頑張っていたのは見聞きしている。
もちろん夏美も怖い思いも大変な仕事もした、それは誇るべき事だと思っているが、
同時にすぐに美味しく物凄く美味しいアーティファクトの大当たりと言うラッキーも大いに自覚している。
そう考えても、あの夏休みの愛衣の仕事は決して容易なものではない。
それをこなした愛衣が容易にどうにかなるものではない、それは理屈だと夏美も思う。
だが、夏美の見た所、愛衣は真面目な頑張り屋で、それが割とストレートに報われるタイプだ。
普段は素直ないい子ちゃんタイプにも見えるが、だからこそ忠実に貫くものを持っている。
本当は強い芯を持つ頑固者だ。個人的には、ある分野で張り合うのにだからちょっと怖かったりもする。
魔法の事はまだ詳しいとは言えなくても、これは何の仕事、何の夢を叶えるのでも同じ事で、
そうでなければ小太郎からも一目置かれる、それなり以上に優秀と聞こえる魔法使いにはなれない筈だ。
自分の様に弱いと分かっている人間なら早めに諦める事が出来るのだが。
それが、夏美に一抹の不安を抱かせる。
「確かに、色々簡単じゃないけどな」
千雨も、決して無闇に楽観的ではなかった。
「向こうは仕事でやってるんだ。こっちはこっちの都合で勝手にやってる。
下手に一緒に動いて何かあったら先生や高音さん達に
私達の勝手の分まで直に火の粉飛ばして責任問題になっちまう。
あいつの実力なら滅多な事は無い、引き時も知ってる筈だ、
今はそれぞれで出来る事をするしかない」
「うん」
夏美も、それで納得するしかなかった。
>>135
「やっぱ断片的だなぁ。千雨ちゃん、もう一回アクセス出来ない?」
「厳しいな。そもそも、身元の特定、不特定と引き替えにルートが限定されてて
そこをかいくぐって中に入るだけでも一苦労だ。
同じルートからの侵入は向こうも手を打ってるだろう。
しかも、そのセキュリティーやってる奴が見事にイカレてやがる」
「そんなに凄いの?」
夏美が尋ねた。
「技術は極上、使うワクチンプログラムはぶち殺し上等の極悪品、
その上、あの規模を迷わず焦土作戦かけるキレっぷりだ。
何て言うか、総合力ではこっちが上でも向こうは特化した殺し屋か人食い虎みたいなモンだ。
手加減してたら侵入出来ないが、
あんなの相手に感覚リンクして殺り合ったらこっちの精神がヤバくなる」
「と、すると、他に誰か…こっちの方使えないかな?」
ガシガシ頭を掻く千雨の側で、
収集したデータを読み込んでいた和美が改めて口を挟んだ。
「何か見付けたか?」
「うん。ジャッジメントの内部資料の隠しファイル。
人事関係の資料だねこれ、それも裏の調査資料」
説明しながら、和美は操作を進める。
「黒い交際って奴だね。
本人の情報なんかを総合すると、昔の話だし優秀な人材だから不問に付した、って所だね。
只、他のデータなんかを見る限り、多分この情報はこのファイルだけ、
人事関係の一部分に限定された情報で他には知られていない」
「…何か、物凄い悪役めいた事考えてないか?」
「だーいじょうぶだって、この手の交渉事は得意なんだから」
千雨の問いに、和美はニカッと悪い笑みを浮かべた。
>>136
× ×
「交通事故だって!?」
友人が巻き込まれた一報を聞き、御坂美琴は病院に駆け込んでいた。
「ああー、いっきなり突っ込んで来たからすっ転んじゃった」
「大丈夫なのっ!?」
「うん、かすり傷なんだぞー」
「良かったぁ」
思いの外元気な笑顔に、美琴は額の汗を拭い座り込む。
× ×
「ったくよぉー」
上条当麻は、ぶつぶつと呟きながら帰路に就いていた。
流石に今回は「不幸だ」とは言わない、正当に健康的な苛立ちを募らせている。
例の一件に就いて情報を得るべく、
上条は自分の知るとある多重スパイにコンタクトを取り、密談の手筈を整えていた。
しかし、蓋を開けると相当時間すっぽかされた上に緊急事態に就きスマンと
丁重な謝罪メールが送りつけられて今に至っている。
無論、その間にとある多重スパイが実行していた
命懸けの昆虫等採取ノルマ百の事などは上条当麻の与り知らない所であった。
>>137
× ×
佐倉愛衣は、科学の学園都市のとある通りを歩いていた。
人気の無い道を進んでいた愛衣は、その事に気付いて足を止める。
ハッと周囲を伺った愛衣の顔からは既に血の気が引いていた。
「アデアット!」
愛衣が、呼び出した箒の底でガン、と地面を突き座り込む。
「…メイプル・ネイプル・アラモード…」
「………偉大なる始まりの炎よ………それは………邪悪を罰する………」
今回はここまでです。
感想ありがとうございます。
シリアスをコミカルに処理した部分もありますが、
パワーバランスマジむずいです。
千雨の能力って、ゲーデルの仕掛けをセキュリティごとぶち破ったり茶々丸の衛星も乗っ取る
その分野に限って言えばチート級の性能でしたね。
確かに、学園都市相手でも大概の事が出来そうですが、この場合大概の事で済むのか
超りんが本格参戦するならいっそ滞空回線ゲフンゲフン
考証的に考えが無いでもないですが、
禁書ssでこういう話題深入りするとヤバイとも聞くのでこの辺で
続きは折を見て。
乙です
乙です。
初春瞬殺ならどうかと思うけど、流石に千雨弱すぎだと思たかな。
ネギまsageかよと。
乙
魔術サイドで学園都市侵入
イギリス清教と交戦
科学サイドとも交戦
魔術サイドで科学と魔術の混合技術を使用
ジャッジメントと電子戦
学び舎の園でスパイ(レベル5二人を敵に回してもおかしくない)
etc…
正に全方位喧嘩ごし外交
続きが楽しみだなw
感想ありがとうございます。
>>141
自分で書いておいてなんだけど、
箇条書きにされると改めて吹くw
映画元ネタだから科学サイドと魔術サイドの間で戦争がとか言うなら
真っ先にこいつら蒸気にしろよステイルってレベルw
それでは今回の投下、入ります。
>>138
× ×
轟音を上げて通りを埋め尽くす炎の塊。
そのまっただ中から、左手で箒を掴んだ佐倉愛衣が文字通り飛び出す。
「くああああっ!!」
その愛衣に、よく見ると人の形を原形とする炎から
巨大な紅蓮の拳が腕と共に突き出される。
愛衣がその炎に右手を差し出し、悲鳴と共に宙を舞う。
空に逃れるまでの僅かな時間、魔力のほとんどを防御に回して辛うじて一撃目での蒸発を避ける。
そして今、魔法による浮力だけを僅かに残しながら、
炎の拳に対抗する右手に魔力を集中させる。
単純防御だけではない、蜥蜴使いのスキルを駆使していわゆるベクトル操作、
愛衣を呑み込まんとする炎に対して受け流し、僅かな力で軌道を反らし、
愛衣の知る炎に関する魔法理論を出し尽くして、
可能な限り小さな力で直撃の回避だけを最優先とする。
「あーーーーーーーうーーーーーーーーー」
だが、上空では、ばぁんと強烈な抵抗力によって愛衣が弾き飛ばされた。
火力が余りにも違いすぎる。相手に比べて限られた愛衣の魔力では、
ほんの僅かでも効率のバランスを間違えていれば今頃間違いなく蒸発していた所だ。
本当に出来るかどうかはとにかく、真正面からこちらに飛んでくるビル解体用の振り子鉄球を、
ピンポイントの弱点をとらえて小石をぶつけて軌道を反らし、爪楊枝で静止させた様なもの。
炎使いとして、それぐらい無茶苦茶な攻撃と防御の力差のやり取りを何とか凌いだ、ここまでは。
>>142
「く、あっ」
愛衣が地面に叩き付けられる。防御魔法により人体内部への直撃は避けられたが、
それでも二次的な衝撃の苦痛は半端なものではない。
「!?」
そんな愛衣に、大きな炎の拳がぐあっと殴り付けて来る。
愛衣は、両手で掲げた巨大な火球を叩き付けて一瞬だけそれを打ち消す。
「まだ抜け出していない、一体どれだけの…」
立ち上がろうとした愛衣の膝が砕けた。
肉体もそうだが、既にして精神的に追い込まれている事が自分でも分かる。
只でさえ実力が大きく離れている。遭遇戦でなら多少の分があっても、
ここまで完璧に待ち伏せされた場合、相性が悪過ぎる事がよく分かっている相手だ。
(…ドウスル?ドウスル?ドウス?…)
× ×
愛衣の目の前で、触れただけでも灰となる巨大な炎の拳が消し飛んだ。
愛衣と紅蓮の炎の間に立つのは、右手を突き出した、
「上条、当麻?」
ぽつりと呟き、愛衣は頭をぶんぶんと振る。
次に進めない容量一杯の状態で問いだけを続けていた自分の思考に気が付いた。
「早く逃げろっ!こいつは…」
「かの教皇の名を冠した魔女狩りの王。
その意味は…必ず殺す…」
上条は振り返りながら相手を見据える。
すくっと立ち上がった愛衣の顔には力強さが戻っていた。
>>143
「やっぱりマジック・キャンセル」
「魔法使いはそう呼ぶのかよ」
「少しだけ時間を下さい」
「ああ、長くは無理だぞっ!」
ぽつ、ぽつと、しかし確かな愛衣の口調に上条は叫び声を返し、
瞬時に再生する炎に右手を向ける。
パン、と両手で顔を叩いた愛衣が自分の状況を把握する。
懸命の防御魔法で首から上は維持、首から下も、
防御範囲をギリギリまで限定した事で人体への直撃は回避出来た。
肉体を外れた焼失範囲は95%を超え、二次的なダメージは吐き気がする程だが、
それでも魔術の直撃を受けていたら灰も残っていない筈だ。
愛衣は右の脛に縛り付けた布を解く。布状の高価な魔法素材だ。
その布の中から大量のカードを取り出し、トランプの様な扇状に広げると、
たたっ、とその場でステップを踏んだ。
「メイプル・ネイプル・アラモード…」
(バレエ?)
爪先でつつつーっとその辺を動き出した愛衣の挙動に
激しく突っ込みたい上条当麻であったが、実行には移さない。
一つにはそんな余裕は毛程も無いと言う事。
この相手は、今ここでトドメをさせない。ひたすら攻撃即ち防御の一方的展開で、
右手以外に僅かに触れたら人体など瞬時に灰になる薄氷がその場で蒸気になる展開。
それに、詠唱しながらと言う事はあれも魔術的な意味があるのだろうと、
上条も経験で学んでいる。盆踊りの魔術師がいるのだからバレエぐらい突っ込む迄も無い。
「う、おおおおっ!」
(四大元素の…流れを…読めたっ!…)
いよいよ上条が、優勢であるほんの一点を除いて圧倒的な火勢に呑まれようかと言うその時、
ぐるん、と回転した愛衣から大量のカードが放たれ、
愛衣は両腕両脚をあちらこちらに伸ばしてスタンとポーズを取る。
別に格好を付けたかった訳ではなく、
勢いを放出しつつガシッと地面をとらえない事にはそのまま転倒しそうな勢いだった。
>>144
× ×
「!?」
上条の目の前で、一帯を呑み込む巨大な炎は
バッ、と、大量の花びらとなって風と共に消え去っていった。
ハッと上条がそちらを見ると、ステイルと愛衣が交差していた。
ステイルの手には炎剣が燃え上がり、
交差してザッと振り返った愛衣は、後ろ髪から右側の束ねが失われて
セミロングの後ろ髪の半ばをぞろりと流れていた。
「スペル・インターセプトに近いものか。
ルーンの配置を逆算して別のルーンカードを差し込んで別の意味に書き換える。
僕のイノケンティウスは術式自体が複雑、その上に何重にも強調しておいた筈だが、
ああ、魔法理論の成績は優秀だったか」
「卒業は首席でしたから」
「そうかいっ」
ダッと駆け寄るステイルの手には、既に二振の炎剣が現れていた。
炎剣と箒が激しくぶつかり合い、弾かれる。
タンッと飛び退いた愛衣が地面に両手をつき、大量の火球がステイルに飛ぶ。
ステイルの炎剣がそれをうっとうしそうに払う。
その間に急接近していたステイルが愛衣の箒さばきに押され、炎剣を大きく振った。
「ちっ!」
何度か攻撃を交差しながら、ステイルは予想外のうっとうしい思いをしていた。
ステイルの知る愛衣は純然たる魔法使い。
それだけの実力もあった。無詠唱の速射一つとっても並の魔術師を圧倒する程だ。
だが、今回はそれに比べて、箒さばきが格段に上達している。
元々箒はポピュラーなマジックアイテムであり、魔法の補助として直接使う事もしばしばある。
だが、今の愛衣は箒自体を武器として上手に使いこなしている。
本来ならば、炎剣一つとってもステイルの火力は圧倒的、
サラマンダーの使役者同士であれば、そのまま灰になるまでねじ伏せて押し通るだけの力差がある筈だが、
愛衣は武術とサラマンダーの知識、魔法の両方の技量で押されながらも上手くさばいている。
>>145
更にそれを補う様に、ステイルの動きが大きくなった時、
低い位置を狙って来る愛衣の蹴り技が意外と鋭く馬鹿にならない。
距離を取ったら無詠唱の飛び道具が来る。
ステイルから見たら飛来する火球の威力自体はどうにでもなる程度だが、
元々得意だった無詠唱の速攻に磨きが掛かっている。
「少しは場数を踏んだらしいな。あの夏、君もあそこにいたのか?」
「ええ、センターとまではいきませんでしたが」
「そうかい」
「!?」
愛衣がハッと振り返り、顔の前に立てた箒に防壁を集中させる。
愛衣の正面でワイヤーを弾き飛ばされた神裂火織が、チラと目線で周囲を伺う。
紅い蛍の様に大量の火の粉が神裂の周囲に自然発生している。
その蛍が、不揃いのボール大になり神裂に一斉に吸い寄せられた。
大量の火球が瞬時に消滅した後、神裂は特にその場を動く事も無く、
腕の動きだけで自分の側頭部を狙った蹴りを受け止めていた。
「あ、ぐっ…」
「神裂っ!」
愛衣の脛を掴み、そのまま近くの建物の壁まで放り投げた行為に、
ステイルの炎剣をさばいていた上条が怒号する。
「大丈夫ですよ」
神裂の声からは、むしろ慈悲深さすら感じられた。
「残り少ないとはいえ、彼女は体を守るぐらいの魔力と技術は持っています」
「つ、うっ…」
言葉の通り、愛衣はくらくらしながら立ち上がった。
「拳法に棒術、堅実に基本を踏まえていますね。
速攻性の強いあなたの魔術と組み合わせるなら侮れない。
しかし、イノケンティウスの回避だけで九割方使い果たした魔力と
その覚えたての初歩的な格闘技で私達とこれ以上続けますか?」
「今のを交わされたら、正直無理ですね。
元々1%も当たると思ってませんでしたが…ステイル」
「ん?」
>>146
「あれだけの規模のイノケンティウス…完全に動きを読まれて先回りされた…
私がそこに目を付けると言う事を、知っていた。魔道図書館…」
上条と神裂の足が動く。愛衣の一言で、ステイルの目つきが明らかに変わっていた。
「鳴護、アリサ…ネセサリウスの戦略兵器とも言うべき禁書目録、
ここまで引っ張り出したのはアリサの解析のため?…」
「ステイル!」
切れ切れの口調で辛うじて問うていた愛衣が気が付いた時には、
彼女の目の前で上条がステイルの炎剣を握り潰していた。
「これだけは言っておく」
ステイルは怒気を隠そうともしない。
「あの子に手を出すな。
いいか、指一本触れてみろ、麻帆良、否、魔法協会まとめて魔法名にかけて灰も残さない」
「ステイル!」
神裂の鋭い言葉に、ステイルはつかつかと、殺意そのものの眼差しを向けたままその場を離れた。
「退いて下さい」
神裂が低い口調で言った。
「今これ以上は学園都市の介入も抑えきれない、互いに益も無い。
麻帆良は穏健な魔法勢力、あなたは賢明で優秀な魔法使いと聞いています」
「分かりました」
鼻を鳴らすステイルを脇に、合意が成立した。
神裂が頷き、引き揚げが始まろうとする。
少し下を向いていた愛衣が顔を上げた。
「ステイル」
「何だ?」
返答があっただけ上等だ。
>>147
「ステイル。その力を得て、あなたは望んだものを手にしたの?」
「…忌々しい事にな…」
不思議な反応だった。ステイルの殺意に等しい眼差しは愛衣を僅かに逸れていて、
それでいて、愛衣は殺意の奥底にほんの僅か安堵の様なものを嗅ぎ取る。
神裂の表情も心なし柔らかく見えた。
× ×
「おいっ!」
ステイルと神裂が見えなくなった頃、ふらりとバランスを崩した愛衣を上条が支えた。
「あ、すいません」
立ち上がろうとした愛衣の脚と脚が絡まり、
上条と正面から向き合う形で倒れ込む。
「お、おい、大丈夫か?」
「え、ええ、何とか」
余り大丈夫とは言えない、意識を保つ事すら辛いのを愛衣は自覚している。
肉体的なダメージが馬鹿にならない上に、
火力では圧倒的に優位、言わば人の身でクマと力比べをする様に
イノケンティウスと自分の魔力で正面対決する羽目に陥った。
魔力の素となる気力、精神力はあと何欠片かと言う有様で、
今すぐにでもベッドに倒れ込みたいと言う渇望が脳内メーカーのほとんどを塗り潰している。
「本日は大変もってありがとうございました。これにて失礼おばつかまつります」
よろよろと立ち上がり上条から距離をとった愛衣は、
日本語すら滅茶苦茶になりつつある状態で
ばたんと二つ折りにお礼をしてひらりと箒に跨る。
>>148
「…おいっ!…」
「ひゃっ!?…あうあうあうあうあうっ!!」
離陸直後、只でさえ残り僅かな魔力で無理やり急上昇しようとした状態から
上条の右手に足首を掴まれ、魔力の循環不全を起こして
ガクガクガクと震動する箒に揺られた愛衣が、
しまいに異常を察して手を離した上条の側でドタンとその場に箒ごと墜落した。
「たたた…」
「あ、悪い。大丈夫か?」
「え、ええ、なんとか…」
いよいよもって意識が危険水域に達したのか、
血の気の昇った顔色で口からは見るだけで聞こえて来そうな大きな呼吸を出入りさせ、
とろぉーんと瞳を潤ませて立ち上がるやつつつとあらぬ方向に動き出した愛衣だったが、
上条の声を聞き、ぱしぱし頬を叩いて意識をつなぎ止める。
「お前には色々聞きたい事が」
「え、ええ。気持ちは分かります。でも、ここに長居は出来ません。
その場の口約束とは言え、互いの立場で交わした約束。
特にステイルは本気です。今は誤解すら許されません」
「…ああ、そうだな。悪い」
元々は桁違いに諦めが悪く小利口ではないと言う意味で頭の悪い上条が、
意外な程に素直に応じる。
それは、ステイルの事を多少なりとも知っているからでもあった。
「それではこれにて失礼します」
再びバタンと体を折った愛衣が箒に跨って飛び去っていく。
自分の説明もその通りなのだが、本当の所は、寝たい、と、
当然の要求をした一般市民に対する魔法少女にあるまじき欲求が思考の大部分を占めていた。
「とうまーっ」
「インデックス?」
その通り、声のした方から、見慣れた白い塊が上条に向けて駆け寄って来た。
>>149
「どうしたんだ?」
「とうま、おなかへったんだよ。いつまでも帰って来ないから」
「ああ、悪りぃ」
「でも、まさか学園都市でサバトを見られるとは思わなかったんだよ。
今夜はワルプルギスだったかな?」
「は?それってあのスーパーセルで結界がいらなくて
上下逆さまで笑い声で歯車でビルが飛んで来て…」
「とぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ
ま?」キラーン
× ×
科学の学園都市風紀委員第177支部周辺のとある喫茶店。
そこで、着席した朝倉和美が右手を挙げる。
「お電話下さったのはあなたですか?
私を名指しで重要な情報提供があると」
「ええ」
テーブル席で自分の対面に相手が着席するのを見届けながら、和美は問いに答える。
「すいません」
和美は、茶封筒をテーブルに置いてウエイトレスに声を掛ける。
「パイナップルジュース」
「ミルクティーを」
「かしこまりました」
オーダーを書き込んだウエイトレスが一礼してその場を離れた。
「ごめんなさい、お手洗いを。
用事を抜けて急いで来たもので。お話しはその後でいいかしら?」
「ええ」
和美が頷き、テーブル席には和美が残される。
>>150
「パイナップルジュース、お待たせしました」
「ありがと…さよちゃん」
「はい」
テーブル席で一人椅子に掛けた和美が、
一見すると鞄に付けたぬいぐるみアクセサリーの相坂さよに話しかける。
「ちょーっと手伝ってくれないかなー?」
「何でしょうか?」
「うん、当面の目標は、麻帆良に戻って肉まんを食べたいかなーって」
バチバチッ
シャキーン
カキーン
カタカタカタカタ
今回はここまでです。
続きは折を見て。
乙です
それでは今回の投下、入ります。
>>151
× ×
「ジャッジメントですの、少々お話しを伺いたいのですが」
話しかけてきた相手を、朝倉和美は把握していた。
白井黒子、かつて、ジャッジメント懐柔作戦の標的としてマークしていた相手だ。
黒子は車椅子に乗っており、その車椅子を別の少女が押している。
車椅子を押す少女も又、ジャッジメントの腕章を着用している、
頭の花飾りがやたら個性的な女の子だ。
そして、この二人の背後にさり気なく配置しているもう二人も、
黒子の仲間と見て間違いない。和美はそう踏んだ。
「!?」
「白井さんっ!?」
近くの無人のテーブル席で、椅子が僅かに床から浮いてそのまま落下した。
その音に気を取られた一瞬、手が離れた車椅子が後方に暴走し、
花飾りの少女初春飾利が叫び声を上げた。
「このっ!」
「避けて下さいっ!」
「わっ!」
初春が車椅子に気を取られた隙に和美が入口に走り出す。
その背後で、それを見た御坂美琴が怒気も露わに立ち上がっていた。
さよの警告を聞き、和美が斜め前方にスライディングする。
その近くを電撃が走り抜けた。
「わあっ!?」
「ジャッジメントですのっ!」
どがしゃーんと音を立て、車椅子が和美が逃げ込んだ側のテーブルに着地した。
(テ、テレポートだねどう見ても)
ごろごろ床を転がりながら和美は現実を把握する。
>>153
「!?」
黒子が放った鉄矢が明後日の方向に飛んでいく。
「このおっ!?」
「佐天さんっ!」
テーブルの上で車いすがぐるぐる回転する。
和美が元のルートに戻って走り出し、佐天がそれを追った。
その佐天の前方に、椅子がシャーッと滑り込んだ。
「佐天さん伏せてっ!」
美琴の放った電撃のルートに幾つものテーブルが飛び出し、
電撃を浴びたテーブルが帯電しながら落下した。
「サイコキネシス、それもかなり強力な」
「釣りは要らないとっときなっ!」
カウンターに札を放り込んで店を飛び出す和美を睨み、美琴はぎりっと歯がみした。
× ×
「上手くいった、って感じじゃねーな」
とある路地裏で、長谷川千雨が駆け込んで来た朝倉和美に声を掛ける。
打ち合わせ中にこの辺で佐天涙子と遭遇する類の連中が
わらわらと沸いて来たのを掃除して、今ここで死屍累々の背景となっているため、
却って安全だろうと言う事でここに待機して和美を待っていた。
「だーめだね、最初っからエスパー待機させて話し合いの前にOHANASHIしましょってパターン。
何とかかんとか逃げて来たけど、流石にヤバかったねー」
「ちょっと待て、逃げて来たって?」
千雨の言葉に、小太郎と楓がザッと周辺に視線を向ける。
楓の放った棒手裏剣が金属音を立てて空中で弾けた。
「これは、驚きましたわね」
手裏剣と鉄矢が地面に散らばり、空中から更に地上へと瞬間移動を繰り返した黒子が言った。
>>154
「村上っ!」
路地裏に駆け付けようとする足音が聞こえる。
叫びながら、千雨が和美の手を掴む。
楓の放った巨大手裏剣が黒子に飛び、黒子が姿を消す。
「あいつらはっ!?」
「それが…」
路地裏に駆け込んだ美琴が叫ぶが、
瞬間移動で手裏剣を交わして三次元に帰還した黒子は首を傾げていた。
「逃げられましたの?」
「追い掛けましょう」
駆け出そうとする初春を、美琴が手で制する。
そして、美琴は右手の指で額を抑える。
(…目でも耳でもない、この違和感…機械に徹して…反射だけに反射的に…)
「ヤバイっ!」
美琴の放った電撃は、手繋ぎで繋がった千雨チームを直撃するコースだった。
その前に、小太郎が気で大きな物理障壁を張り、辛うじて直撃を免れる。
だが、そのゴタゴタで夏美と繋がる手繋ぎのチェーンが外れ、千雨チームが姿を現す。
「何っ!?」
美琴、初春と団子になっていた佐天が金属バットを正眼に構える。
小太郎が地面に着いた手からどろりと現れて美琴達に殺到した黒狗の群れが美琴に一掃されるのと、
楓の放った煙玉が爆発するのはほぼ同時だった。
>>155
× ×
「お待ちなさいっ!ジャッジメントですのっ!!」
路地裏を駆け抜け、屋根から屋根へと飛翔する楓に、
車椅子に乗ったままの黒子が瞬間移動で追いすがる。
「これ以上は墜落も辞さない実力行使になりますわよっ!」
楓からニッと笑みをもって返答され、黒子の頭に血が上る。
だが、果たして、黒子が楓の左横に追い付き様に放った鉄矢は、
空中で楓の握る苦無に弾き飛ばされた。
「黒子どいてっ!」
こちらは文字通り空を飛んで猛追して来た美琴が楓の右隣で叫んだ。
美琴の放った電撃が、楓の放った巨大手裏剣に呑み込まれる。
「!?」
近くのビルの屋上に着地した楓をピンポイントで狙って
巨大手裏剣が突っ込んでくる。
「ニンッ!」
間一髪、巨大手裏剣は轟音を響かせて屋上の床を砕きながら突き刺さり、
楓は前方に跳躍して直撃を回避していた。
そして、その周辺の上空では、二振の、
これもやけに大振りな苦無がバチバチと電撃を吸収していた。
「邪魔っ!」
美琴が、空中で障害物となった苦無をあらぬ方向に吹き飛ばして屋上の楓に迫る。
「!?」
タンッ、と、再び跳躍した楓に向けて軌道修正しようとした美琴は、
下方から蛇の様にとぐろを巻いて上昇する鎖に絡み付かれていた。
美琴の視線の先で、楓は手近な別のビルの屋上に到着し、屋上入口のドアを強行突破していた。
>>156
「お姉様っ!今すぐテレポートで…」
「くっ、あああああっ!!」
黒子が事態に気付いた時には、
一瞬真っ白になった美琴に巻き付いていた鎖はビキビキと一挙に硬度を落とし、
美琴の肉体的全力をもって破綻するまでに脆くなっていた。
「あいつ…」
黒子は憧憬し戦慄し劣情した。あの忍者紛いが何者であれ、贈る言葉はご愁傷様。
学園都市超能力者レベル5第三位常盤台の超電磁砲を本気で怒らせた。
その愚か者に掛ける言葉など他にあろう筈も無い。
「どうだった?」
ビルの屋上で、駆け上がって来た佐天、初春に美琴が尋ねるが二人とも首を横に振る。
「逃げられましたの?」
呟く黒子の側で、初春は一心不乱にミニノートを操作している。
「準備完了」
「初春?」
「行きましょう。絶対に、許しませんから」
初春の言葉に、そこにいた一同は頷いた。
× ×
「!?」
村上夏美は戦慄した。
楓と手を繋ぎ、「孤独な黒子」を発動しながら表通りを歩いていたのだが、
そこに、見覚えのある四人組が次々と集まって来たからだ。
「ひゃっ!?」
楓が夏美を抱いてゴロゴロ転がり、
夏美の側にあった街灯が電撃を受けてショートし消灯しつつバチバチと帯電していた。
>>157
「ちいっ!」
又も飛んで来た巨大手裏剣を美琴が反らし、
その隙に楓と夏美は手を繋ぎ直してダッシュで逃走していた。
「そっちっ!?」
「佐天さんストォーップッ!」
勢い込んで曲がり角を曲がろうとした佐天を美琴が大声で制した。
「っ、何これっ!?」
「撒き菱ですわね、随分と古典的な」
「ふんっ!」
美琴がザッと右手を払うと、
曲がり角から先の歩道にバラ撒かれた鉄菱は建物の壁際に一斉に移動する。
「さぁ…」
獲物を見付けた猟犬の目をした美琴が駆け出す体勢に入る。
「さっすが御坂さんっ!…」
「佐天さんストップですのっ!」
「これ、天然物ですね。炒って食べると美味しいみたいですよ…ひいいっ!?」
駆け出そうとする佐天に黒子が叫ぶ。
ぺたんと地面にしゃがんでいた初春が背筋に走る戦慄に振り返り、喉から引きつった悲鳴を上げる。
ふわあっと髪の毛を浮き上がらせてバチバチと白く放電し、
ギリギリと表情を引きつらせながら素晴らしいいい笑顔を浮かべる
学園都市超能力者レベル5第三位常盤台の超電磁砲御坂美琴の勇姿を拝し奉り、
白井黒子は劣情し欲情し絶頂した。
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
夏美のアーティファクトって、透明マントや光学迷彩じゃ無くて
石ころ帽子の方だったと思うんだけど
元から目に映ってるし、センサーもバンバン反応してるけど
その存在を認識する事は出来ないんじゃないのかなあ
>>160
「孤独な黒子」の解釈は、私の知る限りでもそれで合ってると思います。
強引な話をするなら、
学園都市にどれだけいるのか電気系能力者の頂点
学園都市レベル5第三位を張ってる汎用性ありのスーパー能力者まで行くと
特化した部分では最早常識は通用しねぇ領域の勘が働いてたりしてる、
かも知れない、って事でw
さて、時間もよろしい頃合ですか
それでは今回の投下、入ります。
>>158
× ×
「こっちが見えてるってのか?」
駆け込んだ路地裏で、「天狗之隠蓑」を出た小太郎が夏美の説明を聞いて言った。
「それ以前に、撒いた筈が着実に追い付いて来てるって事だよね」
和美が言う。
「種が割れたみたいだぜ」
イヤホンマイクの携帯電話を使っていた千雨が言い、
葉加瀬と繋がった電話をスピーカーに切り替える。
「皆さんが科学の学園都市の通常の侵入者監視システムから外れる様にこちらで手配しましたが、
学園都市の防犯カメラの大部分と繋がるホストコンピューターに、
カメラに皆さんの顔が映り次第
データを所定のコンピューターに送信する様に優先命令を上書きした人がいます。
過去の防犯カメラの映像から皆さんの顔のサンプルを取り出して、
顔面認証システムに照合させてヒットしたら情報を送るやり方です」
「やっぱりな。そのプログラム、どうにかならないのか?」
>>161
「強力なプロテクトが掛かっていて現在鋭意解体中です。
しかし、恐るべき精度でチラッと一瞬でも判別した上にタイムラグを無くすために使われている
プログラムの性能と言い使用されているスパコンの規模と言い、
明らかにジャッジメントのセクタ単位の権限を越えています。
非常に犯罪の匂いがするレベルなのですが、
一体何をやって誰を怒らせたらこんな事になるんですかっ?」
「来たっ!」
足音を聞いて和美が叫ぶ。
「あの花飾りだ」
建物の角の壁に張り付いた千雨が小太郎に言う。
「あいつのPDAなんとか出来るか?」
「分かった」
小太郎が駆け出す。
「防犯カメラが見付けた先からあの花飾りのPDAに送られてるって寸法だろうな。
機械的に示されるこっちの居所の座標に合わせて電撃までぶち込んで来てるって事だ」
「いや」
そこで、楓は意を唱えた。
「おおよそ合っているとは思うでござるが、拙者の見た所、
あの韋駄天娘、夏美殿が隠したこちらの居所を自身で把握していたでござる。
あれは、人間が把握して微調整した動きでござった」
「何だそりゃ…バックにハイテクチームがいて、
割り出したデータを花飾りに送ってるんだろうが…」
「よっ」
まずひとっ飛びして美琴の電撃を交わしてから、小太郎はひらりと初春の側に着地する。
「とっ!」
そこにすかさず飛んでくる電撃も、これは交わしたのだが、
電磁砲のレギュラー全員に敵視されるとか
こいつら一体何したんだよ
>>162
「何や?」
小太郎は嫌な感じに襲われた。次々と電撃が近づいて来て近づけない。
それは、単に早いと言うのとも違う、何か丸で吸い付いて来る様な反撃だ。
動いた先から付け狙われて、予想以上に接近出来ない。
夏美の手を握っていた千雨が、一瞬だけ離脱して指笛を吹いてから再び手を握る。
「みんな下がってっ!」
タンッと飛び退きながら、小太郎が空牙の連打を放った。
美琴が物理的に防御出来る防壁を張った隙に、駆け付けた小太郎の手を楓が握った。
「消えた…」
「大丈夫初春っ!?」
「え、ええ、何とか」
「何の能力かはとにかく、相手は私達から認識出来ない状態になってる。
防犯カメラからコンピューターで割り出した機械的な情報を聞いて、
私のレーダーで物理的な反応だけを確定する、こっちのやり方を読んで初春さんを狙って来た」
「最初からそう出て来ると読んで迎撃したお姉様に仕留められず妙な技で逃走するとは、何者?」
「追うわよっ!学園都市にいる限り逃げられはしないんだからっ」
叫びながら、美琴は考える。
(それも分かっているとしたら…)
× ×
「ふーん」
いかにもと言った感じで目の前に広がる工事現場で、
美琴は頷いていた。
「よう、強いらしいなぁ姉ちゃん」
「強い、らしい?」
姿を現してニヤッと笑った小太郎に、美琴は不敵な笑みを見せる。
そして、明後日に向けた右手から電撃を放つ。
>>164
「ひっ!?」
その先で、夏美、千雨、和美がバッと散り散りになる。
小太郎が、美琴と夏美の間に滑り込んだ。
「光でも曲げていたのですの?」
「違うわね、この娘の能力は系統としては脳波干渉系、信じられないけど他に考えられない。
私の脳にするりと侵入してほとんど目的を達するなんて、
桁違いに凄い演算をしているか何か全く違う思いもよらない法則を使っているか。
それでも、ほんの僅かなフィルタリングの成功が引っ掛かりだけでも残してる」
こちらを見る夏美に、千雨は首を横に振った。
夏美の能力が完全ではなくても破られているのなら、
この電撃使い相手に手を繋いで動き回るのは却って危険だ。
「ひっ!?」
ノッポが土煙を上げる勢いでこちらに突進して来ている。
佐天涙子が悲鳴を上げるのも無理はなかった。
「お下がりなさいっ!」
それでも初春の前で金属バットを振った佐天の前に黒子が移動した。
「!?」
黒子の右横で、棒手裏剣と鉄矢が弾けた。
(この女もテレポート?いや、違う。紛れもなく…)
「身体能力ですのおっ!?」
「えええええっ!?」
「ニンニン♪」
限りなく瞬間移動に近い物理的移動という現実を把握し、
佐天と共に絶叫する黒子の左横で楓はにこにこ笑っていた。
>>165
「ちぇいさぁーっ!」
「おおっ!」
地の身体能力も結構高いらしい。
速いけどやけに直線的な動きからして多分なんかズルもしていると小太郎は見当を付けるが、
ともあれ、美琴の打撃と電撃を組み合わせた攻撃に、小太郎はまずは防戦に回る。
「このおっ!」
「よっ!」
バチバチと放電しながら攻撃して来る美琴と攻防を展開しながら
その気合いの入った絶叫を聞いていると、
小太郎は何か胸躍るものを感じていた。
「ぶぶぶ、分身っ!?」
「ちょこまかと、お見事な背丈の割りにはマメですわね」
びゅんびゅんびゅんと視界のあっちこっちに現れる楓に
佐天が悲鳴を上げて黒子が呻く。
「てれぽおとがどういうものか、それによっては
何としても的を絞らせる訳にはいかないでござるからな」
「!?」
細切れ気味ですいませんが今回はここまでです。
続きは折を見て。
乙です
乙乙!
認識阻害系の能力って現実にも似たような話があるんだって
ほぼ常時視界に入ってる「鼻」これを煩わしく感じないのは
脳が鼻の存在を、なるべく意識しないように処理してるんだそうな
>>168
本当なら左右の目から入る情報に差があるのを脳内で補正して一つにまとめてるって話は聞いたことあるけど
それは初耳だな>鼻
前から気になってたんだけど学園側に全く知識がないんで避けてたが
結構説明が詳しいからここまで読めた
続き期待してます、どっちもトンでもっぽいから匙加減が難しそう
>>169
゙鼻 視界に入る 脳゛でググると最近のネットの記事が出てくるぞ
元ネタは探しても分からなかったけど
だいぶ前のツイートにこんなのはあった
感想ありがとうございます。
それでは今回の投下、入ります。
>>166
× ×
千雨、夏美と一緒にいた和美がつつつと動き出す。
さよを連れてイレギュラーを仕掛ける、
アーティファクトのラジコンを使うタイミングを伺う、そんな事を考えて。
無論、千雨もここで単に逃げ出すだけの和美ではないと分かっている。
その和美の前に、があんとバットが打ち下ろされた。
「どこ行くの?」
そこに立っていたのは、普段の陽気な女の子をばっさり封印した佐天涙子と
その背後でPDAを手にぐっと和美を睨む初春飾利だった。
和美は一端千雨達の所に戻るが、
あの様子だと夏美と共に消えた瞬間に今度こそ美琴の最優先攻撃が来る。
「おおおっ!!」
地面から人間よりも巨大な土柱が上がり、それが剣と化して小太郎に突っ込む。
小太郎が前方に気の防壁を張り、小太郎を貫こうとした砂鉄の剣を力ずくでぶち壊す。
「とっ」
視界で砂鉄の剣が砕けている、その隙に接近していた小太郎を美琴がひらりと交わした。
「とっ、とっ、とっ」
(何や?)
又だ。小太郎は、この御坂美琴本人にはそこはかとない好感があるのだが、
美琴との闘いには何か嫌なものがある。
電撃は侮れないし身体能力や動き自体にキレがあるのは確かだが、それ自体はむしろ楽しめる。
それにしても、何と言うか変な交わされ方をしている。そういう薄気味悪さがある。
「小太郎君?」
「どうした?」
呟いた夏美に千雨が尋ねた。
>>172
「何か、様子がおかしい。体の調子が悪いみたい」
「何だと?」
千雨がそちらを見ると、小太郎が掌底で自分の額をこんこん叩いていた。
「!?」
キーンと金属音が響き、美琴がそちらに視線を走らせる。
手裏剣と金属矢が衝突して地面に落下し、
着地した黒子がぎりっと睨み付けている先で楓の姿がナックルの様に微妙にぶれている。
「黒子の実力は能力だけじゃない、
黒子のテレポート攻撃に身体能力で対応してる?」
「流石やな」
鼻を鳴らしながら、小太郎は腕で汗を拭う。
ダメージらしいダメージは受けていない、運動量もまだまだの筈なのだが、
この御坂美琴と闘っていると何か嫌な感じがする。
その嫌な感じは彼女の闘い方だけではない。
はっきりとは分からないのだが、自分の体に何らかの変調がある。
「くおおおっ!」
「!?」
小太郎が、人間相手には十分過ぎる速攻を仕掛けた。
美琴はよくそれを凌ぐ。
「あつっ!」
最終的には、バチーンと両者が弾け飛ぶ。美琴がとっさに張った電気防壁による強制終了だ。
「つーっ」
とっさに防御した両腕を小太郎が振る。
割りとうっとうしい火傷をしたかと、もちろん、只の人間ならそんな程度では済まない。
「ちっ!」
そんな小太郎を追い掛ける様に、速射の電撃が次々と飛んでくる。
無論、電撃のスピードである。小太郎でも瞬時の判断を誤ればそれで終わりだ。
>>173
「ヤバイぞ」
千雨が呟いた。
「あんたの能力は電気だなっ!て事は人間センサーって訳か!?」
千雨の叫び声に、美琴の唇の端が緩んだ。
美琴の行動の端々から見て、能力はとにかく根は素人、
つまりうまく煽てれば乗って来ると千雨は踏んでいた。
「どういう事?」
夏美が聞いた。
「自分の周囲に張った微弱な電気の動きを感じる事が出来る。
多分結構な広範囲でな。
そいつで相手の動きを目で見るよりも早く肌で感じて、
いや、もしかしたら神経回路に直結して動いてるってからくりさ」
「正解♪」
美琴の返答が弾み、小太郎も理解した。
とにかく相手は電撃だ。今までも雷使いと闘う機会はあった。
電撃そのもののスピードと張り合う事は出来ない。
その上、電気で直接感知してワンモーションでの攻撃に手慣れているのなら、
これは想像以上の難敵かも知れない。
「!?」
次の瞬間、小太郎の視界がぐにゃりと歪み、くらっと倒れそうな程の何かを感じた。
見ると、勝負をかけて電磁波レーダーの出力を一挙に上げた美琴の両手が
バチッと音を立ててまるでカ○ハ○波寸前のごとく白く大きく帯電していた。
「くあああっ!」
「!?」
小太郎が大きく跳躍、美琴を飛び越す。
>>174
(なっ!?間に合わないっ!?)
「うっ!」
「お姉様っ!?」
小太郎の動きが余りに速く、そして、美琴は攻撃に集中しすぎていた。
背後に回った小太郎への反応が遅れている間に血の尾が引き、黒子が絶叫する。
美琴の背中に何筋も、丸で刃物で斬りつけられた様な痛みが走る。
「つっ…刃物は…持ってない。まだ、妙な能力隠してるって訳?
まさか暗器とか言わないわよね」
指先の血をひゅっと振るった小太郎に、右手で背中を押さえながら振り返った美琴が言う。
大丈夫、かすり傷だ。闘いにはつきものだ。
肉を抉るまではいっていない、その程度にとらえていた美琴に対し、
小太郎は苦り切った表情だ。
「小太郎君…」
「逃がさないし手出しもさせないって!」
佐天と初春が駆け出そうとした夏美の前に回り、千雨が引っ張り戻した。
「どうしよう」
「どうした?」
「あの人強い」
「当たり前でしょっ!」
ごにょごにょ話していた夏美に佐天が叫んだ。
「学園都市レベル5第三位、常盤台の超電磁砲だよっ!」
「じゃあ、集中しないと負ける。でも、小太郎君このまま勝ったら…」
ごくりと喉を鳴らした夏美の表情は、明らかに青ざめていた。
「くっそおっ!」
「何よっ!?」
叫び声を上げて、目の前でぎゅっと右手を握った小太郎に美琴が叫んだ。
そして、美琴が速射で電撃を放つ。
小太郎は、それを妙な姿勢で交わしながら、気が付くと美琴のすぐ側にいた。
>>175
「あっ!」
低い姿勢から全身を伸ばして回す様に小太郎から打ち出された足払い。
美琴には色々付属品の強さはある、それ以外でも平均よりは強い方だが、
相手が小太郎では、格闘センスそのものは違い過ぎる。
「あ、ぐっ!」
美琴が辛うじて受け身を取った時の、激痛とどろりとした血の感触。
「!?」
地面に突き刺さる勢いの拳を美琴は転がって交わす。
「?」
見た所、そこまでの負担でもない筈なのに、
小太郎は地面に拳を立てたまま、荒い息を吐いて動きを止めていた。
小太郎はもう一度、ドン、と地面を殴り、ぐっと立ち上がり美琴を見る。
「何よ」
立ち上がった美琴の右手からは、バチッと電気がスパークする。
「あんた、まさか手加減とかしてた?」
「いや、手加減ちゅうか順序ちゅうか…」
「あったま来た…」
苛ついた口調でもごもご言う小太郎を見て、美琴の髪の毛の先がバチッと弾ける。
「コイン?おいっ!」
「何よ?」
自分に向けた千雨の叫びに佐天が応じる。
「さっき、常盤台のレールガンって言ったなっ!?」
「言ったけど?」
目の前で御坂美琴がバチバチッと白くスパークを始めた。
レールガンと言うのが物の例えには見えない勢いだ。
>>176
「レールガンって分かってる?」
「分かってるし笑えねぇぞ」
「当たり前でしょっ!」
千雨の引きつった言葉に佐天が激昂した。
「小太郎君っ!」
夏美が悲鳴を上げた。小太郎は美琴に向けてぐっと前傾姿勢を取る。
そのやる気に緩んだ美琴の唇が、夏美を更に震え上がらせる。
夏美は小太郎が負けるとは思っていない。レールガンにも詳しくはない。
それでも、雰囲気は分かる。生半可な強さではない。
今の状態の小太郎がそんなものとヤリアウと言う事の恐ろしさも。
千雨も、その事は十分分かっている様子だ。
「お姉様…くっ」
暴走しつつある美琴を懸念し、何とか今の自分の状況を、
と、自分のスカートの中を触れた黒子が、一本の鉄矢に触れて呻きを噛み殺す。
その前方では、相変わらずにこにこと糸目を微笑ませた楓がぶれている。
「うっ…あああーっ!!」
絶叫と共に黒子が姿を消した。
一度、二度、三度、別の場所に姿を現す。
空中で、鉄矢と棒手裏剣が火花を散らした。
「あぁあああぁぁっっっ!!!」
「黒子っ!?」
「白井さんっ!?」
断末魔すら感じさせる悲鳴に、仲間達が叫び声を上げた。
そちらを見ると、黒子が楓に組み敷かれていた。
無人の車椅子が離れた場所で動きを止めている。
「う、ぐっ…」
そのまま、楓はゆっくり立ち上がる。
>>177
「鉄矢を囮、体一つの瞬間移動で間合いを詰めて、
肉体的負担の少ない合気道で一発勝負。見事でござった。
その様子では…」
「黒子おっ!?」
楓の右目が見開かれ、美琴が絶叫した。
その楓の側で、黒子がゆらりと立ち上がっていた。
「ジャッジメントですの…」
こめかみに汗を浮かべた楓の足が、じりっと後退していた。
「やめなさい黒子っ!後は私は…」
「お姉様は、一般人。大丈夫、ジャッジメントですの」
「な、なんだよ」
「止まりませんよ」
大体、さっきまで車椅子に乗っていた時、演技と見るべき要素は皆無だった。
今、脚の震えと言い汗と言い、黒子の様子は素人目に見ても尋常ではない。
それでも、その事を決して声に出そうとはしない。
戦慄した千雨に、初春が言った。
「止まりませんよ、白井さんは。止まる理由が無いんですから」
地が甘い声だからこそ響く凄みに、千雨は改めて戦慄した。
今回はここまでです。続きは折を見て。
黒子のテレポートって、インターバル1秒程度する上に集中しないと使えないから、組み伏せられた時点で詰みでしょ。
つーか、ネギまでは超電磁砲も大した物じゃないよな。
ちょっと修正
でしょ→じゃない?
断定はよくないな
乙!
そのままだとチート臭いのもいるし
多少はレベルを合わせないと話にならんでしょ
乙です
>>181
でも、理由付けて戦力絞るならともかく、一方を弱体化や強化させるのは違うだろ。
禁書にもチート臭いのはいるし、バックボーン(魔法世界)がデカいんだから、禁書より平均的な戦闘力高いのは当然じゃね?
というか、美琴って禁書でもそう強い方じゃないし。
修正
美琴→美琴とか黒子
感想ありがとうございます。
それでは今回の投下、入ります。
>>178
× ×
「あんたら」
呻く様に低く言う美琴は、既にバチバチ帯電している。
「黒子に後遺症でも残ってみなさいよ、消し炭なんかじゃ済まないからね」
本格的にまずい、バトルモードの過熱がヤバ過ぎる。
ここはどう考えても後方担当が、と、千雨達が動きを見せようとしても、
目の前の佐天が同じぐらい熱くなっている。
佐天が凶器持ちだとしても刃物ではない。恐らく荒事は専門外同士で三対二。
仮にもあの夏を乗り切ったメンバーだ、そこはどうにかなるか、
まずは相坂さよとコンタクトを、等と、千雨は思案する。
「絶対に、許さない」
佐天がぼそっと言う。
「絶対に、許さない」
それに、美琴が続いた。
「今はそうでもないけど、ジャッジメントになりたての頃は
あんたらみたいなのがちょくちょく来てたって。
笑って話してくれたけど、本当は嫌な思いしてた筈。
そんなの、私達が二度と許さない。まずはあんたから」
「おいっ」
>>185
美琴が摘んだコインを持ち上げ、小太郎が千雨に視線を向ける。
千雨が深呼吸をする。
小太郎が言いたい事は分かっている。
いくらなんでも、世界一つどうこうと言うレベルではないだろう。
だが、今の状況を例えるならば、こちらの手持ちが日本刀と核爆弾で
サブマシンガンの一団とやり合っている様なものだ。
核爆弾と言ってもこちらにリスクは無い。
ここで切実に問題になるのは、ここでそれを使う大義があるのか、と言う事だ。
自分達が何者で、何者と闘っているのか?
何を学んで帰って来たのか、大切なものはなんなのか?
千雨が、一歩踏み出した。
小さく両手を上げて、歩みを進める。
気圧された佐天、初春の横を通り過ぎる。
大体の中心地に立った千雨は、深々と頭を下げた。
「私が悪かった」
その千雨の姿を、超電磁砲四人組がじっと見ている。
「ちょっと千雨ちゃん、あれやったの私…」
「私の力不足でみんなに協力を頼んだ。
それでいて、知っていて止めなかった。弁解の余地はない。
私が悪かった、申し訳ない」
「ちょっ」
「ごめんなさいっ!」
叫ぶ佐天の横を走り抜け、千雨の横に立った和美が頭を下げた。
「ごめんなさい」
「すまんかった」
「申し訳ないでござる」
>>186
× ×
はあっと息を吐いた美琴が、バリバリと頭を掻いた。
「話、聞かせてくれる?理由がありそうだってのは分かったけど、
正直意味分からないし、ここまでやっといてろくな理由も無いって言うなら、
謝って済む話じゃないから本当に消し炭にするけど」
そう言った美琴を、楓が一旦手で制して姿を消す。
美琴と佐天、初春がすわっとなる中、楓は黒子の側にいた。
「拙者で構わぬでござるか?」
無念ながら座り込んでいた黒子は、
楓が差し伸べた手を取った。
「んっ、くっ」
「真に申し訳ないでござる」
「承りましたの。先ほどは合気道に合気道でお相手いただき、見事な手並みでしたの」
「光栄にござる」
お姫様抱っこされた黒子の元に、美琴が車椅子を押して来る。
楓が美琴に黒子を引き渡す。
「大丈夫、黒子?」
「あぁああぁー、お姉様あぁー、黒子は、黒子はもおうぅー…」
これまででも一際大きな雷鳴が轟いたところで、改めて本題に入った。
「まず、私達は外の人間、いわゆる密入国者だ」
「オーケージャッジメントですの、
動くと刺す逃げたら刺す武器を出しても刺すですの」
「話、続けて」
「鳴護アリサ、って知ってるか?」
「アリサ…アリサって、もしかして歌手のARISA?」
佐天の答えに千雨が頷く。
>>187
「まさか、アリサのストーキングのために密入国してこんな騒ぎ起こした、
とか言わないわよね?」
実にいい笑顔を見せた学園都市レベル5第三位常盤台の超電磁砲御坂美琴の全身からは
バチバチと白い火花が散り始めていた。
「逆だ」
そう言って、千雨は写真を取り出す。
「私とアリサは元々知り合いだ、ネット上のな。
で、部屋の写真を送ってもらった訳だが…」
そこから先は、
魔法使いの事は伏せて不審人物が写り込んでいると言う話を続けた。
「麻帆良学園ですか」
初春が言った。
「知ってるの?」
「知ってると言いますか、言わばもう一つの学園都市です。
科学技術ではこちらの方が上ですが、それでも先端技術開発に関しては相当な水準と聞いています。
この写真技術に関しても頷けます」
佐天の質問に初春が答える。
「ここはこういう街だ、超能力に関しては私達の所にもある程度の噂が聞こえてる。
このストーカー共もちょっと普通じゃない。
そんなこんなで考えた末にあんたらに非常に迷惑を掛ける事になった、本当に悪かった」
改めて深く頭を下げる千雨の前で、美琴以下は少々考えあぐねていた。
「…ここ、ちょっと電波が良くないですね。
御坂さん、すいませんがこの人たちの見張りをお願いします」
「う、うん、分かった」
資材の上でミニノートを操作していた初春が表通りに向けてスタスタと歩き出し、
そちらに佐天が同行する。
>>188
× ×
「あの人の言ってる事、信用出来ます」
表通りから近くの物陰に入り、初春が佐天に言った。
「そうなの?」
佐天の問いに、初春は真面目な顔で頷いた。
「ちょっと、持っててくれます?」
「うん」
かくして、佐天を支えに初春はミニノートを操作する。
「コスプレ?アイドルのホームページ?」
「メジャーではないですけどね」
そう言いながら、初春が操作を続ける。
画面が二分割され、左側が今まで通り、
右側に隠し撮りした長谷川千雨の写真が映し出される。
「ん?…ちょっと待って。これって…いや、でも…」
初春が操作を続けると、
左側に映し出されたウェブサイトの人物画像が徐々に変化していく。
「これって、同じ人?」
「そうです。写真に施された修正を復元しました」
そう言って、初春は改めて左側に元のウェブサイトを映し出す。
初春の操作に連れて、画面には目や耳、唇を拡大した小窓が映し出され、
それぞれの小窓の下に98%を超えるパーセンテージが表示される。
「通常同一人物と判定されるレベルです」
「このサイトって」
「ネットアイドル「ちう」のホームページです」
「その「ちう」とあの「長谷川千雨」が?」
「同一人物です」
>>189
「化けるモンだね、ちょっと見だと分からないんだけど」
「修正技術に関してはかなりの使い手ですね。
もっとも、本人の自覚がマイナスなだけで素材の良さも十分なんですけど。
だから、さり気なくナチュラルなレベルで盛るだけでもぐっと見栄えがしてる」
「それはそう思う、結構いい線行ってる」
「最初に彼女を見た時から引っ掛かっていたんです。
それで、情報収集用のウィルスの詰め合わせをこのサイトにごっそり送信しておきました」
「ちょいと初春…」
「それぐらいやってもバチは当たりません。
正式な手続きをするなら令状が出るレベルの容疑者なんですし」
「うん、まあ、それは」
「それから、そこを取っかかりに私が解除ツールを使って、
サイトの管理者メニューから彼女の個人PCまで丸ごと把握しました。
現状において彼女が使っているPCのデータに関しては、
公式サイトと言う店先からその裏のバックヤード、事務所、分離されている筈の自宅スペース。
机の引き出しのガソリン袋付きの二重底の向こうの裏帳簿から
額縁の裏のへそくりからベッドの下の秘匿書籍から床下の隠し金庫に至るまで、
全てを把握出来る地図と通行許可証と合鍵を手に入れた状態です」
この友人だけは絶対に敵に回してはいけない。佐天涙子は改めて痛感する。
「只、単にアイドルとしてサイトを作るのに長けていると言うだけじゃない。
長谷川千雨のネット、PCに関するセキュリティーを含む技術は極めて高い水準です。
正規の手続きを取ったとしても、学園都市の大概の専門家でも容易には突破出来ないかも知れない」
「それって、凄くない?」
「凄いです。得られたデータから見て、彼女が直接手がけているみたいですね。
学園都市の水準でも市販のセキュリティーソフトならスルーして丸裸にして中身を送信してくれる筈の、
私が開発、改良を重ねてきたウィルスの大半が独自のセキュリティーソフトで粗方駆除されていました。
麻帆良で開発したんでしょうか?非常にユニークと言うか独特のプログラムを色々使っていて、
先ほどの修羅場の真っ最中の作業なのを差し引いても想像以上に手間が掛かりました。
ハッキングによる直接の攻防戦でも…彼女とそうなったとしても厳しい」
「で、そこまでして分かった事は?」
「彼女の言う事は信頼出来ます。彼女がARISAと友人であると言う裏付けも取れましたし、
断片的ですが今回の越境計画に就いても形跡が残されています」
「それじゃあ早速…」
>>190
そこで、佐天は、どこか浮かない顔をしている友人の様子に気付く。
「どうしたの、初春?」
「このちう、長谷川千雨と言う人は、クレバーでいて人恋しい、そういう人です」
「はあ?」
「セミプロとしておちゃらけて内心斜に構えてそう思いながらもそれに徹する事が出来ない、
心のどこかで真っ直ぐな事をしたい、そう思っている人です」
「ちょっと、どうしちゃったの初春?」
「悪く言えば、少し頭が良すぎるネット弁慶、だから容易に他人の事を信頼しない。
信頼出来ないと言う理解が先に立って、まず防衛を優先させる。
自分が強くない事も理解しているからです」
「…それを読んだら、それが分かるの?…」
「セミプロの作りに乗せられているだけかも知れませんが」
初春の答えに、佐天は小さく首を横に振る。
「プライベートも読んだんでしょ?」
佐天の問いに、初春は頷く。
「全部ではありません。鍵を開いて見つけ出した日記やメモの中には、
理解出来ない記述が少なからずありましたから」
「理解できないって?アラビア語か何かで書かれてたの?」
「いえ、間違いなく日本語です。
そして、厳重に隠されて鍵が掛けられた金庫から見つけ出したものですが、
使われている符丁が本人に聞かないと理解出来ないタイプの暗号日記です。
奇跡も魔法もあるんだよ、とでも言うんなら話は別ですけど、
そうでなければ、一つ一つの単語の変換が分からなければ意味が通らない。
それでも、読める所からだけでも分かるのは、
長谷川千雨は鳴護アリサの友人です」
「そう」
>>191
「クレバーで、自分の無力を誰よりも自覚している、
他人は他人だと自覚して、むしろ、恐れていると言ってもいい。
写真修正、匿名性の向こうでリスクを冒さず人からの賞賛を求め、
時に真面目な事を言い、どこか共鳴するものがあるから匿名の人達から受けている。
そんな人が、友人のために破滅的なリスクを冒してここに来た。
そして、御坂さんや白井さんを圧倒する能力があるとは言え、
とても打算的には見えない事に協力する仲間がいる。それだけのチームを作ってしまう。
決定的な矛盾を踏み越えてでも自分で行動した結果です」
「初春」
「はい」
「惚れた?」
「え?」
「だーめ」
「佐天さん…」
「だって…ねぇ」
「ですよね…」
「だって…初春は私の嫁になるのじゃあああっ!!!」
「ひゃああっ!だからスカート、っ…」
初春がバッと口を掌で閉じて周囲を伺い、二人で顔を見合わせ、笑い声を上げた。
「あの二人がどう言うかな?」
「そこなんです。白井さんはあくまでもジャッジメントです。
それに、御坂さんは何と言うか、こういう屈折したと言うか、
そういう人の心理を理解してもらうには非常に…」
「ああ、うん」
初春の要領を得ない言葉でも、佐天は納得した様に頷く。
>>192
× ×
「あ、初春さん」
「戻りましたの?」
「ええ、お待たせしました。長谷川さん」
「ああ」
「つまり、友人である鳴護アリサの安全確保、
それがあなた達の目的だと言う事ですね」
「そういう事だ」
「外の人間として、友人の危険に際して
その手がかりを得るきっかけを求めて無謀な情報収集を行ったと」
「三年前だ」
初春の問いに、千雨が言った。
「三年前、大きな事故があって、それで鳴護アリサはそれ以前の記憶を喪っている。
鳴護アリサと言う名前も施設の人間がつけてくれたもので、
自分の身元すら知らない、これは私が直接聞いた話だ。
この時点でどれだけおかしな話か、あんたらなら分かるだろう」
千雨の言葉は、先ほどまで敵対していた四人にも十分説得力のある話だった。
「私は、そこが知りたかった。何か鍵があると思ったからな。
だけど、外の人間に出来る事は限られていると言うか本来何も出来ない。
何にせよ悪かった、申し訳ない」
「分かった」
美琴が口を挟んだ。
「アリサの事は私が引き受けた」
「御坂さん」
請け合う美琴に佐天が声を掛ける。
「元々、アリサとは知らない間柄じゃないし」
「本当か?」
千雨の問いに美琴が頷いた。
>>193
「さっきも話したが、そのストーカー連中、
いっぺんとっ捕まえようとしたけど結構厄介な能力者だ」
こういう時、超能力都市なのは実に助かる、話が作り易い。
「私を誰だと思ってるの?」
美琴と千雨が不敵な笑みを交わした。
「んじゃー、帰ってもらおうか」
「お姉様っ!?この人達は学園都市に不法侵入を…」
「その辺はまぁー、元々表沙汰にすると却って嫌な事もある話だし。
本当に条例で裁判ってなると、私達もここまで色々無茶しちゃったしね、初春さんも。
それに、悔しいけどこっから総力戦って訳にもいかなそうだし」
「お姉様、黒子は…」
言い募ろうとする黒子を美琴が手で制して、
やはり正義と言えるのか分からないものが反対側の正義を
力でねじ伏せる結果になってしまったと、黒子の悔しそうな顔が千雨の心に刺さる。
「そういう事なら、これ以上の悪さもしないでしょう?」
「本当に、悪かった」
「と、言う事なんだけど、手伝ってくれる?」
御坂美琴も又、素晴らしい仲間に恵まれていた。
× ×
「それじゃあ、私は支部で関係する情報を集めて見ます。
御坂さんと白井さんは寮に戻って下さい、これ以上は」
「そうね、寮監が洒落にならないわね」
「ですわね」
「それじゃあ、私達は引き揚げさせてもらう。
本当に恩に着る、申し訳ない」
「分かったから、後は任せて」
「ああ」
めいめい、それぞれの方向に動き出した。
>>194
「朝倉」
「はいはい」
先ほどの現場からしばらく歩いた所で、
千雨に声を掛けられた和美は、アーティファクトの携帯モニターを手にしている。
× ×
「黒子」
「はいな」
途中の屋根の上で、美琴は黒子に声を掛けた。
「先に戻っててくれる?」
「えっ?」
× ×
今回はここまでです。
自分でも分かるぐらいの力業な収拾になりました。正直展開上の都合もあります。
このキャラの思考がおかしいとか、特に、超電磁砲組がブチギレてた理由が理由ですから、
色々畏れ入りますが荒れない程度が有り難いです。
続きは折を見て。
おつー
なんなく千雨って、大事なデータはオフラインに置いときそうな性格な気もする
自分より上手がいることも知っているし
乙
千雨って今時のハッカーをモデルにしたのかもしれないが
プログラマじゃなくてtool使いとかボットマスターのイメージなんだよな
七部衆それぞれが電子精霊群の長で
七つの高性能ボットネットを支配してる
だからオフラインよりはオンラインを活用してそう
超のプログラムを自分で改良して使ってたからそっちの才能もありそうだけどさ
でもそれだけにあっさりデータベースハックされちゃうのはちょっとアレだがww
乙
学園側を知らないからだろうけど、流石に根こそぎやられるのはどうかなぁと思った
千雨が戦ってきた相手が軽くなってしまう
>>197
昔の話だけど、アメリカ人ハッカーに取材した記事を見た事があるが
モニタにIDやらPASSやら貼りまくってて
セキュリティー意識のかけらも無かったらしい
攻めるのが得意な人は、守る方には意識が向かないもんだよ
そら画面に貼るシールはコードの先からは絶対に見えないからなぁ。
トレードオフってやつですよ
>>201
ソーシャルハックの基本はメモ書きからだと俺は思う
感想どうもです。
まあ、初春だしw
まあ、SSだしww
展開上、初春もハッキングした時点ではバーサークドスブラックモード入ってた訳で(汗
と、言う事にしておいて下さい(滝汗
>>199の意味で
千雨が作中で闘った相手って主な所で言えば
学祭の茶々丸とネギ救出時のゲーデルでしたか。
アスナ姫救出作戦は千雨でも外から結界破るのは無理って結論でしたし、
体育祭では茶々丸の衛星をカード状態でハックする離れ業をやってのけたとか。
だからどうしたと言う意味ではありませんが、防御力に就いての描写は直接は無かったかと。
基本、ネギが物理的に突破して発覚して箱詰めで沖縄旅行したりしてた訳ですから。
もちろん、普通に考えたら普通じゃないレベルのセキュリティ張ってると考えるべきですが。
ゴルゴ13でフリーウェアのワクチンソフト開発者が拉致された時、
ゴルゴがハッカー雇って開発者の自宅の調査したら
本人の自宅PCはノーガードで、凄腕技術者でも個人の自宅って案外そんなもの。
張り切って用意したパスワード解除ツール使う迄も無かったぜって話やってたけど。
只、本作の千雨の場合、公表されてるサイトを取っかかりに乗っ取られてるのでちょっと話は別ですが
そこはやっぱり初春だし(土下座
誰か鉄板あっため始める前に本題に入ります。
>>203
それでは今回の投下、入ります。
>>195
× ×
科学の学園都市風紀委員第177支部。
「鳴護アリサ…元々の基本電子データはトラブルにより破損。
統括理事会権限により再発行、根拠となる紙資料は統括理事会扱い…
露骨に怪しいですね。一応探しましたがスキャニングその他で閲覧出来る箇所は無し。
これでは手が出せません」
他に誰もいないオフィスで、聞こえそうな声でぶつぶつ言いながら
初春飾利はパソコンを操作する。
「三年前の大事故、と言うとオリオン号事件、
多分これで合ってますよね。あれ?」
途中で、初春は首を傾げた。
「なんだろう、これ?」
言いながら、初春は手元のメモに「正」の字を書き始める。
「…セクウェンツィア…何これ?
数が、合わない?え、でも…どうして、これこんな簡単な…」
初春は、紙のミニノートに走り書きをしながら急ピッチでパソコンを操作する。
「開いた…これってホロスコープ?…」
初春の頭が不意にカクンと揺れた。
初春が、一転して無機質にキーボードを打鍵し始める。
「やばいっ、あいつを落とせっ!」
千雨が叫び、小太郎が飛び出して初春の首筋に手刀を叩き込む。
少し遅れて、部屋の一角からその他の千雨と愉快な仲間達が姿を現した。
千雨の放った電子精霊がモニターに呑み込まれる。
>>204
「長谷川、これって?」
「藪を突いて、かよ。まさかこんな所に…」
和美の問いに言いかけた千雨が物音に目を向ける。
「初春ー、差し入れ持ってモガモガッ!!」
「オーケー落ち着け、今は誰かに危害を加えるつもりも無いし
これやったのも私達じゃない、その事を理解して騒ぎを起こさないでくれると有り難い」
楓の掌に口を塞がれた佐天に千雨が言い、佐天が小さく頷く。
「初春っ!?」
「なーにしてくれちゃってるのかしらねぇー?」
それでも佐天が叫びながら初春に駆け寄り、
千雨が、ギギギと音を立てそうな首の動きで不意に聞こえた声の方向を見ると、
傍らに白井黒子を従えた御坂美琴が実にいい笑顔でバチバチと白く光り始めていた。
「近くまで来て一応携帯掛けても出ないから来て見たらさぁー」
「分かった、私に責任があるのは確かだけど私がやった訳じゃない、
それを踏まえて初春さんのこれからに就いて話し合いをしたい」
裏声で歌う様に朗らかに発言する美琴を相手に、
十分過ぎる命の危険を感じながら両手を上げた千雨が言葉を選ぶ。
「初春、初春っ!?」
「これはどういう事ですの?」
佐天がぐったりした初春をゆさゆさ揺さぶり、そちらに移動した黒子も千雨に厳しい視線を向ける。
「パソコン?」
「見るなっ!」
元凶に気付いた佐天に千雨が叫んだ。
>>205
「な、何?パソコンが?」
「ああ、まず分かりやすく言う。原因は昔の漫画で言う所の電子ドラッグだ。
パソコンから人間の五感が受信出来る各種の刺激を人為的に調整して有害化する」
「そんな、初春がそんなものに…」
「初春さんだからだ」
佐天の反論に千雨が言った。
「大概の人間なら、手前の意識誘導で
ネット上のミスディレクションに落とし込む所で終わっちまう。
だけど、初春さんはハッカーとして切れ過ぎた。
それで、深入りし過ぎた対抗措置として用意されていた虎の尾を踏んじまった」
「つまり、何か見せたくないものがあって、
それを無理に見ようとするとこうなる、そう言いたいのね」
「そういう事だ」
美琴の理解に千雨が応じた。
「じゃあ、取り敢えずパソコンの電源…」
「駄目よ」
そう言った美琴の表情には苦いものが浮かんでいた。
「まさかと思ったけど、パソコンの電磁波と初春さんの脳波の境界が不明瞭になってる。
この状態で電源落としたら、僅かなリスクだと思うけど…」
「プログラム稼働中のPCのコンセントを引っこ抜く、
そいつを彼女の脳味噌でやる事になる、って事か」
電気使いの意外な視点に舌を巻きながら千雨が言い、美琴が頷いた。
「ちょっと待て、何してる?」
そして、パソコンに手を添えた美琴に千雨が尋ねた。
「パソコンの電磁波と脳波を解析して分離して初春さんを治療する」
「今、そいつを操作したらあんたも巻き込まれるぞ」
>>206
「私の体内電気で直接このパソコンに干渉するわ。
外の人間には信じられないかも知れないけど、体内電気を電気機器の電気信号に接続させて、
とてつもなく細かい単位の電気信号をとてつもなく細かい演算で、
例え高性能コンピューターでも、私の体から私の意思で直接支配して操作する事も
そこからネットワークに接続して操作する事も出来る。
初春さんに取り憑いた不正電磁波を解析して…」
「もっと駄目だっ!」
千雨が叫んだ。
「そんな事したら逆流してあんたの脳が食われるっ!」
「私を誰だと思っているの!?
学園都市のエレクトロマスター電撃使いの頂点に立つ
学園都市レベル5第三位、常盤台の超電磁砲よ。
例えスパコンレベルの高度な電気信号でも自在に出来る」
「これは只の電気信号じゃないっ!」
「電気は電気よ、私には見える」
「いいかよく聞け、これ以上続けるなら私達はあんたに総攻撃を掛ける。
これ以上被害を拡大させる訳にはいかない」
千雨は我ながら情けないと思いながら、構えを取る小太郎と楓を見る。
美琴と黒子の目つきからも退く意思は一片も見えない。
「じゃあ初春はっ!…」
「私が行く」
叫ぶ佐天に押し被せる様に千雨が言った。
「あんた達の超能力とは別の系統のトンデモ能力が絡んでる、
これは私達の領分だ」
「それ、冗談だったら消し炭とか言うレベルじゃないんだけど」
千雨の取り出した「力の王笏」を見て美琴が言った。
>>207
「これは、私の責任だ」
両手持ちにした「力の王笏」を床に水平にパソコンに向けながら、千雨が言った。
「そうだよ、これは私がやらなきゃいけないんだ」
「………」
「私が初春さんを巻き込んだ。だから、絶対に助け出す。
広漠の無、それは零。大いなる霊、それは壱。
電子の霊よ、水面を漂え。
「我こそは電子の王」!!」
× ×
ぐらりと脱力した千雨を楓が支える。
そのまま、床に横たえた。
「な、何よこれ?まさか本当にパソコンの中にダイブした、
とか言わないよね」
佐天が青い顔をして言った。
「今の初春さんの状況を応用して考えるなら、
決してあり得ないとは言えない」
美琴が真面目に言った。
× ×
ルーランルージュ姿の千雨が歩いていたのは、暗い、薄気味の悪い岩場だった。
そこで千雨が見付けたのは、小柄な人の背丈ぐらいで湯気を立てている蛇の塊だった。
「どきやがれっ!」
千雨が「力の王笏」を振ると、蛇の大群が半ば剥がれ落ちて、
その下から大理石製初春飾利1/1フィギュア最低落札価格以下略が姿を現した。
「この野郎っ!」
改めて呪文を唱えて「力の王笏」を石像に向けると、蛇は石像から離れて逃げ出した。
>>208
「良かった…損傷は自己修復出来る範囲内か。
お前ら、プログラム(呪い)を解除しろ、私の相手は…」
電子精霊に指示を出し、嫌な汗を感じながら千雨が視線を向けた先には、
巨大な犬の双頭、そこから光る凶悪な光が隠し様もなかった。
「こっちだっ!」
千雨が走り出した。
それに合わせて、双頭の犬ケルベロスは石像とは別の方向を向く。
「!?」
千雨がとっさに身を交わす。
千雨に猛スピードで突っ込んで来た一抱えほどもある大きな鳥は、
そのまま引き返した所を千雨のパケットフィルタリングで撃ち落とされた。
同じ双頭の人面鳥が二羽、三羽と、千雨の周囲を旋回する。
千雨が「力の王笏」を振るい、必死で追い払いながら逃走する。
「くっ!」
ケルベロスの口が光る。千雨が手近な岩陰に飛び込み、
ケルベロスの吐き出す青白い炎の直撃を避けた。
更に、ケルベロスの足下にも、
今度はやたら現代的と言うか近未来的な人型敵キャラの一団が姿を現す。
全身真っ黒な装甲、ヘルメットに身を固め、
その一部である黒い仮面に目の部分だけが不気味に赤く光っている。
「ちう・パケットフィルタリーングッ!!」
その黒い装甲が抱え持ちの大型機関銃を一斉掃射して来たからたまらない。
千雨はとっさに防壁を張りながら岩陰に飛び込む。
>>209
「遅いんだよバカがっ!」
只、敵兵は頭の方に多少の問題があったらしく、
一斉に弾薬交換を始めたタイミングで千雨はジャンプで岩の上に飛び出し、
そのままパケットフィルタリングで黒装甲どもを一掃した。
見て目通りの多少の硬度はあっても、所詮はプログラムと言う事だ。
だが、ほっとする間も無く双頭鳥が千雨を狙い、
千雨は「力の王笏」で牽制しながら岩陰に逃げ込む。
「うげっ」
見ると、ケルベロスの周囲には、その双頭の人面鳥がふわふわと浮いている、
一羽や二羽ではない群れだ。
「おい、まだかっ!?」
「まだです、ちう様。非常に複雑な術式が使われています」
「何だと?」
「直ちに取り寄せる事が出来るワクチンプログラム(解呪法)では効果がありません。
手がかりは見付かりましたから、
現在まほネットから必要な情報を取り寄せてワクチンプログラムを構築しています。
しかし、それらの材料には禁呪や上位に指定された情報が多数含まれていまして、
そこを突破して手に入れる事自体に困難を極めているのが現状であると…」
双頭鳥が千雨の頭上から急降下して来た。
千雨が横っ飛びに交わし、「力の王笏」からのビームで撃ち落とす。
そのまま別の岩陰に飛び込み、ケルベロスの炎から防御する。
そうしながら、今の状態であればイメージとして直接脳内で操作出来る携帯電話に接続する。
>>210
「葉加瀬かっ、頼まれて欲しい…」
言ってる側から、千雨は飛び込んで来る双頭鳥を叩き落としながら岩陰を駆け出す。
「だからこっちだって…だああっ!!」
千雨は向きを変えようとしたケルベロスにビームを浴びせ、
ギロリとこちらを向いたケルベロスの口が光るのを目にしながら
命からがら岩陰に飛び込む。
「…もしもし…」
「もしもしっ!」
「話は聞きましたです。
とにかく、分かるだけの情報をこちらに送って下さい」
今回はここまでです。
うむ、電子ドラッグと言う用語が微妙に間違ってた気がするのは
雰囲気で流していただこう、スマンカッタ
続きは折を見て。
乙
電子ドラッグつーか攻殻のゴーストハックだな
乙です
乙。
初春だしって言うけど、乱雑解放でも出来た事多くなかったし、創作のハカーとしては其処までは突き抜けてなくね?
そういうのはBPSレベルでないと。
それでは今回の投下、入ります。
>>211
× ×
「と、言う事だ。
情報を共有してアドバイスに従って、一刻も早く、
だけどプログラム化した精神には傷一つ残さずに修復する。
厳しい条件だけどよろしく頼むっ!」
「ラジャーちう様っ!」
「我ら命に替えてっ!」
「どうぞ何々しろと命じて下さいませちう様っ!」
「とっととやりやがれっ!!」
「「「「「「「ラジャーッ!!」」」」」」」
「命に替えて、か」
背中を岩に預け、ずずっ、と千雨は座り込む。
一瞬だけまどろんでから、岩の地面を転がり双頭鳥の頭突きを回避する。
どかん、どかん、どかんと、地面に当たるや爆発する
ケルベロスの青い炎を、地面を転がりながら懸命に交わし続ける。
× ×
じっとしゃがみ込んでいた御坂美琴が、すっと立ち上がる。
腰を浮かせようとした小太郎が、楓の制止に従う。
「正解」
美琴が、ぽつっと言った。
「女は殴れないとか、やっぱりそういうタイプか。
殺す覚悟が無いなら私の前に立たないで」
ぼそぼそと、しかし、圧倒的な雰囲気と共に言いながら、
美琴は歩みを進めた。
>>215
× ×
「っそおっ!だからそっちじゃねぇって言ってるだろっ!!」
一休みしたかった体を叱咤して、千雨は駆け出した。
走りながら、「力の王笏」からの光弾の速射を足下に撃ち込んでケルベロスを牽制する。
走り抜けて、一息ついていた千雨がバッと体勢を立て直した。
初春を背にした千雨が、双頭鳥の体当たりをまともに受けて背中で岩の地面を滑る。
「っ、てぇーっ…」
肋骨がまともに折れた感覚だ。
生身よりはマシなのだろうが、それでも呼吸が苦しい。
「やっ、ろおっ!!」
トドメを刺す様に飛来した鳥を「力の王笏」でぶん殴り、
そしてその杖の底で鳥の体をブッ刺し、抉り殺す。
「うええっ」
嫌な感触に嘔吐している場合では無かった。
「ちう・パケットフィルタリィーングッ!!!」
それは、ケルベロスの大出力の火炎放射との真っ向勝負だった。
流石に巻き込まれたら危ないのか、未だうじゃうじゃ飛び回っている双頭鳥も上空を旋回するばかりだ。
火炎放射が止まった。千雨もそのまま「力の王笏」からのビームを止めて尻餅をつく。
「うざいっ!!」
ここぞとばかりに飛来した双頭鳥を三羽ほど、
立ち上がり様に悲鳴を上げている肉体を酷使してボコボコボコと「力の王笏」で叩き殺す。
「キリがね、えっ?」
ケルベロスの背後から、更なる巨大生物の姿が見えた。
ずるっ、ずるっとその身を引きずって現れたのは、十分に怪獣サイズの大蛇。
但し、胴体の後ろ半分は一本でも、そこから先は幾つもに枝分かれしてそれぞれに蛇の頭がついている。
>>216
「ヤマタノオロチ?いや、ここまでのチョイスって、事は?…」
脚が砕け、座り込みながら千雨は呟く。そこに、更なる新手。
双頭鳥とは比べ物にならない巨大な鳥らしきものがばさっ、ばさっと着地する。
但し、こちらは前半分は巨大な鷲だが、その後は獅子の肉体。
ケルベロス同様、麻帆良の地下でもお見かけした相手だが、
「これもまあ、幻って言えば幻なんだけどダメージは幻じゃすまないしなぁ、
誰かイングラム持って来い…」
千雨は、よいしょと立ち上がる。
しかし、大蛇ヒュドラの多数の首は明後日の方向に伸びて、
伸びた先端が空間に呑み込まれる様に消滅する。
開かれた大鷲のクチバシからも、猛烈な火炎放射がヒドラの方向に噴射され、
その炎も途中で空間に呑み込まれる。
「そう言や、バ○ドンってのも強いよなぁバー○ンってのも…」
千雨は、自分の思考が危険なレベルで取り留めがなくなりつつある事を自覚する。
新手がこちらを向いていないのは助かった、
今一斉に来られたら確実に挽肉の消し炭だ。
だが、事態は丸で改善されていない。
ケルベロスに双頭鳥の群れは丸で衰える気配が無い。
実際、千雨も防御が手一杯で効果的なダメージを与えられていない。
最初から本気で殺り合えばやり様もあったのだが、それが出来ない事情がある。
千雨が、チラッと後方に視線を走らせる。
初春の灰色の全身にピシッ、ピシッとひびが入り始める。
「何とか、なるか…」
何度目になるか、プログラミング補正された動きで、
体ごとひゅんひゅんと「力の王笏」を振り回す。
飛来した三羽の双頭鳥の内、二羽はケルベロスの上空に戻る。
>>217
× ×
「御坂さんっ!?」
ガクン、と体を揺らした美琴を見て、佐天が悲鳴を上げた。
「つーっ、気持ち悪っ、これが…うぐうっ!!」
「ああっ!」
床に座り込んでいた佐天が、どんと床を叩いて顔を伏せた。
美琴は、吐き気を堪えながらも両手でしっかりとパソコンを握る。
千雨ほど鮮明ではないが、
それでも、接続に成功してかなりの所まで感覚的なイメージ化には成功しつつある。
× ×
「ぐあっ!」
感情任せに墜落していた双頭鳥を踏み付けた、その脛を噛み付かれて千雨は悲鳴を上げる。
その隙に、防御した千雨の左腕に噛み付いた別の双頭鳥共々
千雨は「力の王笏」の発する至近距離の高出力ビームで確実に消滅させる。
「パケットフィルタリングっ!!」
ケルベロスの青白い炎を「力の王笏」の力ずくで抑え込み、凌ぎ切る。
千雨が後ろに視線を走らせる。初春の全身に、ビシッ、とギザギザに縦一筋の大きな亀裂が入った。
「いける、間に合う…」
× ×
「ああああっ!!」
「御坂さんっ!!」
「お姉様っ!」
ガクガクと全身を痙攣させる美琴を見て、今度こそ佐天が悲鳴を上げた。
だが、それが収まった時、美琴の口元は綻んでいた。
「くくっ」
その笑みは、ここにいる意識のある全員が退くに十分のものだった。
>>218
「くくっ、くかかっ、くかかかかかかっ、かかかかきくけこォォォォォっっっっっ!!!
なンですかなンなンですかァ!?
別系統の能力ってこの程度なンですかァァァァァァっ!?!?!?」
叫んだ先から、美琴の体が海老反りする。
「くか、くかか、くかかかかかかかか、
だーいじょうぶ大丈夫、あーはははははははっ、ほろ酔い気分だにゃー。
結局、電気信号は電気信号、私に制圧されるために存在してるって訳よ。
こんなので私に勝ったとか思っちゃったのかにゃーん?
ハリーハリーハリーハリーハリーッ!!!おぶうううううううっ!!!」
「御坂さん…」
「お姉様…」
「うふっ、うふ、うふふふふふふっ、うふぅふふふふふふふふ
だぁーいすきっ!!
[sogebu][sogebu][sogebu][sogebu]
だいだいだいだいだーいすきっ大好き大好き愛してるうっ!!
好き好き好き好き好き好き好きあぁぁぁいぃぃぃぃしぃぃぃてぇぇぇぇぇ
好きで好きで好きで好きであぁぁぁぁぁたまらないたまらないのおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
はああぁぁーーーーーんっらめえぇぇぇぇぇぇぇぇぇいっ………ふぅーっ………
アハハハハ………あああああっ!!!」
絶叫と共に美琴が荒い息を吐いた時、同室の面々は一斉にそっぽを向いた。
「んっ、ぐっ…」
想像を絶する干渉感覚だ。そんな電圧がある筈が無い等と考えている暇も無い程。
いや、これは法則が違う。村上夏美と対した時もそうだったが、
長谷川千雨の言う「系統の違う」と言うのも満更デタラメでは無い。
こうしてぶつかり合っている以上完全な別物ではないが、電気で御坂美琴の脳を突き破る、
それをストレートにやるにはどう考えても出力が足りな過ぎる。
それ以外の思いもよらぬ要素がある筈だが、今はそれを解く暇は無い。
ギリギリと歯がみしながら意識を演算に集中させる。
>>219
「うぐっ!」
「お姉様!」
「御坂さんっ!」
「何や?いいの貰ったんかっ!?」
ドゴン、と、ボディーブローの様に強烈な刺激が美琴の神経から脳に描き出され、
それに合わせて美琴が体を半ばくの字に折りながらその手を必死にパソコンに繋ぎ止める。
美琴の視線がつと外れる。
床にぐったりと横たわっている長谷川千雨、その目尻を見た時、
御坂美琴の頭の中で、何かがブチッ、といい音を立てた。
× ×
千雨が魔力を込め、「力の王笏」にガジガシと噛み付いていた双頭鳥が煙を上げて剥がれ落ちる。
同時に、「力の王笏」もガランと地面に落ちた。
「くっそおっ!」
「力の王笏」から発せられた電撃に耐え兼ねて手放した千雨が、
岩の地面を転がりながら「力の王笏」を拾う。
「うらあっ!!」
突っ込んで来た双頭鳥が千雨を狙って開いた口に
千雨が「力の王笏」を突っ込み、そのまま後頭部までぶち破る。
足をかけて引っこ抜き、群れで飛来する双頭鳥を帯状のビームで追い払う、が、
(出力が、全然足りてねぇ…ハゲタカかよ…)
双頭鳥が、千雨の上空でぐるぐる旋回を始める。
ケルベロスの口も光り始める。
千雨が音に気付き後ろを向く。
初春の花飾りからぱあんと表面が弾けて、カラフルな色彩が戻って来る。
「何とか、なりそうだな」
「力の王笏」を握った右手諸共両腕がだらんと下がり、
千雨の口元に笑みが浮かぶ。
>>220
「…有り難うな。御坂美琴の性格読んで、上手く乗せてくれたんだよな…」
千雨が、前を向いた。
「これは、私の責任だ。私がやらなきゃ、いけないんだ。
私が、初春さんを戻さなきゃいけない、大丈夫、戻れる。
初春さんは、戻れる…」
呼吸を整えながら、千雨はぶつぶつと頭の中で繰り返した。
両手持ちした「力の王笏」を天に掲げる。
バチバチと放電する「力の王笏」を掲げ、巨大な双頭犬を見据える。
「戻れる…戻して、見せる。
来るなら来い…けど、なるべくなら来るな。
終わるまでは付き合ってやる。人としてやんなきゃなんねぇ、それまではな…
………終わり、かよ………」
耐え切れず、千雨の顔が下を向いた。
「…あの夏にも…戻って来て…なのに…
………すけ………て………ギ………んせい………」
ケルベロスが吠えた。甲高く吠えた。
千雨が、はっと天を仰ぐ。
ヒュドラの首が戻って来た。
戻って来たまま、空中で踊り狂い、全体がばったりと衰弱する。
その隣で、勇ましい大鷲の羽毛と獅子の毛も絶叫と共に炎に包まれる。
双頭鳥の群れが上空で異常な旋回軌道を取り、ケルベロスも不安げに足踏みを始めた。
聞いた気がした。千雨が最も待ち望んでいた、勇ましきその声を。
>>221
× ×
「お姉様っ!?」
「つーっ…最悪の目覚めって感じかなぁ…」
「御坂さんっ」
「ははっ、私の責任、巻き込みたくない、ははっ、はぁーっ。
いたなぁー、そんな事言ってた奴。
うふっ、あはははははっ、ねぇ、何が見えてる?あんたの目には今何が見えてる?
私の目の前でこの人達泣かせるとかさぁ、
あんた、この学園都市レベル5第三位、常盤台の超電磁砲にどんだけ恥掻かせたら気が済む訳?
何一人で格好付けてんのよ。
っざけてんじゃないわよおおおおおっっっっっっっ!!!」
今回はここまでです。続きは折を見て。
おつ
あー
やっぱり、ネギまが踏み台なんだな。
乙!
ネギ勢少し弱くないか?
全滅はないだろ
まぁネギまは過去のものだしね、期待する方が愚かというオチ
禁書というよりレールガン贔屓の展開だな
というか、学園都市内で魔術要素有りの電子ドラッグ?
贔屓される代償なのか禁書側の設定が片っ端から壊されてんな
禁書上位勢≒ネギパーティ上位勢とすれば
禁書中の上くらいの美琴>>ネギパ中堅くらいのちうだし
こんなもんでは?
ただ消し炭にするとか言ってたけど楓と美琴じゃどうしようもない力量差があると思うが
色々気にはしてますが、今回はこのまま投下行きます。
それでは、今回の投下、入ります。
>>222
× ×
「っけるな、っざけるな!ふっざけるなあっ!!
あんた分かってんの?
アリサも初春さんも私の友達だっつーのっ!
あんたが二人を助けるために一人で危ない橋を渡るって言うんなら、
まずはその幻想をおおおおっ………」
× ×
「こりゃあ、イメージ的にもやってくれたのって…」
長谷川千雨は苦笑した。
双頭鳥の群れは、爆発する様にして消滅していた。
巨大な落雷を受けてぷすぷすと煙を上げているケルベロスも、
消滅こそ免れたが明らかに弱体化している。
「御坂さんっ!つっ」
「あ…ごめん…」
駆け寄った佐天が、パソコンを手放してぐらりと揺れた御坂美琴の体を支える。
特大の静電気を連想させる感触が佐天に突き刺さる。
美琴の声に、佐天は首を横に振った。
「ここまで、かぁ…大口叩いたんだから、後は…」
佐天にゆっくり座る様に誘導されながら、美琴はまどろむ様に言った。
>>230
× ×
「初春っ!?」
佐天の叫びと共に、
机に突っ伏していた初春がガバッと身を起こした。
「良かったぁ」
「あ、ありがとうございます」
机の側に座り込んでいた美琴も安堵し、頭を下げる初春に笑みを返す。
初春は、少しの間両手で顔を覆っていた。
それから、USBメモリを接続し、猛烈な勢いでパソコンを操作し始めた。
「初春っ!?」
「大丈夫ですの」
叫ぶ佐天に黒子が言った。
「この目は、ジャッジメントですの」
× ×
「っつこいっこのバカ犬っ!!」
ちうはにげだした
しかし、まわりこまれてしまった
只の電気信号ではない、自分の言葉が突き刺さる。
感情があるのだろうか、大ダメージを受けたからこそ思い切り執着されているとしか思えない。
「くあっ!」
蹴躓いた千雨目がけて、ケルベロスの巨大な前足が持ち上げられる。
>>231
(やべぇやべぇやべぇ…)
「ギャインッ!!」
かつての痛覚を伴う幻覚を思い出しかけたその時、絶叫したケルベロスの足の裏には、
地面から突き出してビンと鉄筋の如く硬直した薔薇の蔓が何本も突き刺さっていた。
その隙に千雨は逃走し、薔薇も軟化して引き抜かれる。
体勢を立て直した千雨の目の前では、
ケルベロスが自分の体に絡み付いた大量の薔薇の蔓を悲鳴を上げながら引きちぎる所だった。
「ちう様っ!」
「ああっ、目的は果たした、行くぞっ!!」
「ラジャーッ!!」
千雨が脱兎の如く出口へと駆け出す。
ケルベロスがざっ、ざっと後ろ脚を跳ねて追走を構える。
「あなたの門に帰りなさい」
そのケルベロスに、凛として、それでいてどこか優しい声が聞こえる。
「あなたは、あなたの門に帰りなさい。
ここは学園都市。私は、私の門を守る。決してその先には進ませない」
× ×
「ただ今、でいいのか?」
「お帰り」
横たわっていた床で身を起こし、側頭部を抑えながらの千雨の質問に美琴が応じた。
「初春さんは?」
「お早うございます」
「ああ、お早う」
のんびりとしたやり取りに拍子抜けして、ついでに腰が抜けて千雨はすとんと座り込む。
>>232
「ああ、来て下さったんですね」
「あ?」
「いえ、確認したい事があったので、
帰る前にこちらに来ていただいたんですが、
どういう訳か私が昏倒してしまったらしくて」
「ああー、そう言やそうだったな。で、何が分かった?」
「それなんですが、記憶が曖昧で。ご足労おかけしました」
「いやいや、わざわざ有り難う」
初春と千雨の棒読み一歩手前のやり取りを眺めて、初春の友人の中には肩を竦める者もいた。
「ところで」
美琴がちょっと首を傾げて尋ねる。
「やっぱ電子ドラッグね、思いっ切り思考回路引っかき回された感触あるんだけど、
その間に私、何か言って無かった?」
素直に小首を傾げた者以外は、
黒幕も情報源も吐かなくなる条件を即座に思い出して首を横に振った。
「そう」
何となく納得していなさそうな美琴を前に、
白井黒子は胃袋に転移させるロンギヌスの槍を探す旅立ちを決意し、
佐天涙子は録画した携帯ムービーの用途を脳内で模索する。
「それじゃあ、今度こそ帰らせてもらうわ」
「うん、アリサの事は私達に任せて」
「これ以上黙認し難い事はくれぐれも避けて下さいまし」
「ああ、迷惑かけた」
>>233
× ×
「で、帰るんやなかったんか?」
「一箇所だけ、寄りたい所がある」
歩みを進めながら、千雨は仲間にPDAを回す。
「オリオン号事件、三年前に発生した宇宙旅客機の墜落事件だ。
乗客乗員88人全員が無事救出されて、学園都市じゃあ88の奇蹟って事で知られている」
「先ほど、初春殿が調べていた事でござるな」
「ああ、だからこれはwikiレベルの最低情報だ。
電子精霊総動員で潜在ブラクラチェック掛けながらキーワードからの基礎情報だけ引っ張り出した」
「この事件が鳴護アリサの言う三年前の大事故」
PDAを手にした和美が言う。
「その可能性は高いな。
少なくとも初春さんはそう踏んで探って虎の尾を踏んだ。何かが引っ掛かる」
「何が?」
千雨の呟きに夏美が問うた。
「これは能力なのかなんなのか分からないけど、私は魔法に関する勘が働くらしい。
魔法のごまかしに対して、おかしいものをストレートにおかしいってなんとなくでも思える勘がな。
だから、これは勘だが、多分理論化したら理論とも言えないぐらい
バカみたいな簡単な事がごまかされてる。初春さんの反応を見てもそう思った」
「だけど、その簡単な事に気付かない様に仕掛けがされていて、
気が付いたら、食われる」
和美の言葉に千雨が頷いた。
「奇蹟…88の奇蹟…奇蹟の歌…そろそろだ…」
言いかけた千雨を、小太郎の腕が制した。
「どうした?」
「誰かいる」
>>234
小太郎に促され、一同は物陰に入った。
確かに、目的地の石碑の前にたたずむ人影があった。
「あいつ…」
「知り合いか?」
「こないだの公園で、黒いカブトムシメカに乗ってた」
「なんだと?」
千雨は、自分よりやや年上だろうか、
少女と言ってもいいその黒ずくめの女をじっと観察した。
「…なぁ…何してる様に見える?」
「お墓参り」
千雨の質問に、夏美がぽつっと答えた。
別に線香も何もないが、雰囲気がそれ以外の何物でもない。
黒ずくめの女が無言でその場を立ち去る。
アーティファクトを発動した夏美と手を繋ぎ、
一同は女の後を追っていたが、千雨がそれを制した。
「悪い、先行っててくれ」
離脱したのは千雨と和美だった。
二人が駆け寄ったのは入れ違う様に石碑に現れ、花束を拾った作業服の男だった。
「本当に墓参りか」
「だからだ」
男の握る黒いリボンに気付いた千雨の言葉に、作業服が言った。
「縁起でもない、片付けさせてもらうよ」
作業服が、バッと腕を振り払う。
「に、しても」
千雨が言う。
>>235
「やけに早い片付けですね。たった今までいた筈ですが」
「あー、連絡があるんだよ」
「連絡?」
「ああ、ちょっと頭がアレな女だってな。
実際、こんなモン置いて行かれてるんだ。
本当なら業務妨害で届けを出してもいいぐらいなんだが」
「誰が報せて来るんですか?」
「分からん。同じ人物から管理事務所に匿名の予告電話が掛かって来る。それだけだ」
「分かりました、有り難うございます」
今回はここまでです。
感想ありがとうございます。
続きは折を見て。
禁書をよく知らないからだと思うが
台本形式みたく名前が無いと、どれが誰のセリフなんだかサッパリだww
急ぎ足ですいませんが今回の投下行きます。
それでは今回の投下、入ります。
>>236
× ×
「シャットアウラ・セクウェンツィア?」
千雨が、夏美と小太郎からその報告を受けたのは、
すっかり夜更けの麻帆良大学工学部の研究室での事だった。
「うん、間違いない。彼女の部屋で色々確認したから」
夏美が言う。
結局の所、絶対条件である夏美と身軽な小太郎のペアで
尾行相手の黒ずくめの女、シャットアウラにぴったり張り付く様にして
彼女の住むマンションとフラットの玄関をくぐり抜ける事に成功。
以後、お疲れの彼女が入浴中にしっかり手を握ったまま
僅かな痕跡も残さぬ様に悪戦苦闘して身元を示す手がかりを室内から見つけ出した。
が、夏美達が脱出する前に予想外の早さで浴室からリビングまでストレート移動して来たために、
そのままリビングで思索に耽る彼女やその他の家具にぶつからぬ様に右往左往しながら、
ようやく出入りが聞こえないタイミングに至ってフラットを脱出。
先に他の面子を脱出させてから
科学の学園都市に戻って来て待機していた楓と合流してようやく今に至っていた。
「これが、彼女の部屋ねぇ」
和美が、夏美の撮影して来た携帯電話の画面を覗いて言う。
「これって、パイロット?写真に、帽子?」
「ぼろい帽子やなぁ」
「ん?」
会話を聞き、千雨も携帯電話に録画された映像を見る。
>>238
「何と言うか、すっごいアホな事が起きてそうな気がするんだが、
マジだったら笑い事じゃ済まない様なな。
だが、それを確認する事は多分出来ない。
普通の調べ方をしたら、催眠誘導でなんとなく忘れるか納得させられる。
そいつを突破しちまったら」
「初春殿の二の舞でござるか」
「多分な。あれ見ると、私がアーティファクトで手こずった所から見ても、
初春さんと同じルートを辿るのはリスクが高過ぎる。
科学の学園都市は電子データの街、
そいつを利用して、辿り着くルートにあの手の地雷が仕掛けられてる、そう見るべきだ。
素直に理論化したら100プラス100イコールゼロってぐらい、
馬鹿馬鹿し過ぎて却っておかしいのが分からなくなるんじゃないかって、私のゴーストは囁いてる。
この辺に生えてるでっかい樹がなぜ世界遺産じゃないのかってぐらい。
だからこそあんな物騒なモンを仕掛けた。そうでもなけりゃあんな事までする意味が無い」
「その、初春さんですか?彼女が引っ掛かったトラップの事なのですか」
「ああ、綾瀬、今回はサンキューな」
「いえ、お役に立てて何よりです」
研究室に待機していた綾瀬夕映と長谷川千雨が言葉を交わす。
「それで、さっきの件だが」
「呪いですね、西洋魔術系の呪いを応用した術式です」
「だったら、やっぱりイギリス清教の連中か?」
「あり得ません」
「何?」
夕映のあっさりとした返答は意外なものだった。
「ネセサリウスですね、あそこには色々な使い手がいるのは確かですが、
おおよそ近代魔術と呼ばれるものを使っています。
全般的な傾向として、現代科学のハイテクノロジーとは非常に相性が悪い。
恐らく、携帯電話の表向きの機能を使うのが精々でしょう。
とてもじゃありませんが、
高度な魔術の術式をインターネット上に組み込むなんて芸当は彼らには出来ません。
下手したらそのまま本来の意味で脳味噌が吹っ飛びます」
>>239
「おいおい…」
「それに、術式の問題があります。
使われていた術式は、古典的なギリシャ語系の術式でした」
「ちょっと待て、確か、ギリシャ語って西洋魔術では」
「はい、ギリシャ語自体は、ランクこそ高いですが西洋魔術の中ではポピュラーな語学です。
魔法学校から始まるこちらの西洋魔術では、
ラテン語に始まってより高位のギリシャ語の呪文詠唱を行います。
ですから、ネセサリウスにもギリシャ語の詠唱魔術を使う術者自体はいてもおかしくありません。
しかし、今回使われたのはそういう次元のギリシャ語術式ではありません」
「どこが違うんだ?」
「古典的、古過ぎます。
千雨さんや弐集院先生、電子精霊を使う術者は麻帆良学園、魔法協会にもそれなりの数がいます。
しかし、それとこんな古典的な術式を組み合わせる人はいません」
「そんなに珍しいのか?」
「魔法そのものが一般には迷信と目されている訳ですが、
その魔法、魔術が進化する過程の中でも非論理的、非合理的として切り捨てられて廃れた筈のもの。
そうしたものが少なからず含まれていたです」
「それで、あれだけの威力があるってのかよ」
「そもそも、千雨さんの電子精霊魔法で電脳空間内の闘いであれば、本来大概の事に対処出来る筈です。
それが容易に出来なかったのは、表現が難しいのですが、
電脳空間だからこそ本来通じるべき共通ロジックがそのままでは通用しなかったからです」
「いや、それは感覚で分かる。
電脳戦じゃ割と修羅場くぐったつもりだが、いくら何でもあれは無い」
>>240
「「王の力笏」による共感は、
あくまで千雨さんの主観としてイメージ出来る様に感覚が変換されているものであって、
高度な電子戦である以上、闘っているのはあくまでロジックとロジックです。
実際に魔術なのですから、電子精霊は魔術として感知して対応しようとする。
しかし、対応するロジックが電子精霊の扱うデータバンクに含まれていない為に、
相手に直接対応する電子的なロジックを直接構築する事が出来ない結果、攻防が上手く噛み合わない。
例えば魔物の中でも物理的に存在するものの何割かは
タンクローリーやトマホークミサイルを直撃させれば退治できます。
話に聞く御坂美琴さんは、あれをあくまで電脳空間の電気信号と言う
それ自体理論上間違ってはいない定義で把握して、
物理的な存在そのものをロジカルに解析して対応した事が、
今回に関しては上手くはまったものと思われます」
「化け物だろうとぶん殴れるものは殴った方が早かったって事か」
「無論、例え科学の学園都市でも
そこらのセキュリティソフトでどうこう出来るレベルの話ではありません。
それで済むならそもそも科学の学園都市に連なる電脳空間に潜伏し得なかった筈です。
その意味では、やはり御坂美琴と言う人はその分野に於ける想像を絶する天才なのでしょう。
デジタルにしてアナログ、自分の能力として自分の意思と直結して電気を使うからこそ、
電気の中の魔術と言う自ら変異する生き物の尻尾を捕まえる事も出来た。
それでも、只でさえ材料が乏しく困難な初春さんの解呪を行っている間、
現在進行形の破壊プログラムで初春さんが破壊されない様に盾になりながら
正体不明の敵が相手なので敵に最適化した攻撃が出来ず対症療法しか出来ない。
この非常にまずい条件下の闘いです。
こちらでモニターした限り、対処したのがどちらか一方であれば、
初春さんを断念して脱出するか自分が廃人になるかが現実的な選択肢となる危機的状況でした」
「紙一重で二重遭難かよ。言いたい事は大体理解出来る。
しかし、魔法自体が科学とどこまで折り合うかって話なのに、
そんな骨董品紛いの魔法が電子戦でそこまで恐ろしいのか」
>>241
「例え話として言いますと、口伝えの伝統と修行して覚えた感覚、
それだけで患者に触れて草と鉱石を調合する。
現代医学から見て、その結果は理論的におよそ三つに分類されます。
迷信として切り捨てられ忘れ去られるもの。
現代医学によっても合理的な説明が出来る範囲のものも少なからずある。
そして、現代医学では説明すら出来ずに、尚かつ現代医学を遥かに凌駕する結果が生ずるケース」
「何と言うか、魔法使いそのものだな」
「迷信が実は迷信では無かった。
当時の最先端の科学が迷信として切り捨てたものに実は大変な価値があった
科学的な分野でも歴史的にしばしば生じている事です。
今回使われたギリシャ語術式はどうもそういう匂いがします。
実際、私の「世界図絵」でも丸っきり駄目でした」
「そう言や、綾瀬の「世界図絵」は自動更新だったか」
夕映が示したパクティオーカードを見て千雨が言う。
「はいです、まほネットによる情報更新システムによって、
容量がオーバーすると使用頻度その他重要度の低い情報から上書き領域に回されてしまいます。
今回の様な考古学に属するレベルのケースでは本来相性が良くないアーティファクトです」
「本当にすまんかった」
「いえ、実に貴重な経験でした。
それでも、巨大図書館レベルの情報量を誇る「世界図絵」です。
無論、ギリシャ語系の魔法研究に関しても、通常を遥かに超えるレベルで網羅している。
それでも、今回のケースでは必要な情報をそのまま検索する事が出来なかった。
千雨さんの電子精霊と協力して、実際使われた呪詛と現存するギリシャ語研究資料の僅かな痕跡を辿って、
既に削除された原形を突き止め、或いは発生している現象に対して現在の魔術を代替品として応用して、
再構築する作業を重ねてようやく初春さんの呪いを解くワクチンプログラムを作り上げました」
「誰がそんな化石を掘り出して来たって言うんだ…」
>>242
「現代のギリシャを含む西洋魔術全体で見ても、
使われた術式のかなりの部分に就いては、そのまま使う所か原形、
断片すらを把握している人すらいないと思われます。
しかも、土に解けた恐竜の心臓を復元する様にこちらで把握した術式自体は極めて高度、
元々は相当に高いレベルのシビル、ギリシャ系の専門術者によるものと推察せざるを得ない。
考えられるとしたら、エヴァンジェリンさん…」
「何だと?」
夕映から出た思わぬ名前に、千雨は腰を浮かせそうになる。
「今回使われた術式は只古いだけではありません。
温故知新、とてつもなく古く進化の過程で葬られた術式をそのまま覚えていて、
しかも、進化の過程も把握し尚かつ最先端科学に組み合わせる離れ業です。
一番手っ取り早いやり方は、その時代から覚えていながら現代に至るまで学習する事です」
「なるほど、千年ロリ婆ぁなら条件に合致するってか」
適当な数字と共に千雨が言った。
多分、本人が聞いていたら次に千雨が発掘されるのは氷河の中であっただろう。
「いえ、エヴァンジェリンさんでは無理です。
エヴァさん本人にそこまでのメカへの適性はありません。
やるとしたら茶々丸さんによる補助が必要ですが、
麻帆良学園で科学の学園都市に関わる事でそんな事をしたら流石に何らかの形で察知されます。
それに、茶々丸さんの魔法科学の基礎は現代魔法ですから
あそこまでストレートに古典を反映させる事も困難です。もう一つ考えたのは、禁書目録」
「その時点で危ないネーミングだな」
「実際危ないのですから仕方がありません。
今回の事件にも関わっていると言うネセサリウスによる術式と言うか存在です。
一度覚えた事を忘れる事が出来ない完全記憶能力者に古今の膨大な魔道書、
それも、特殊な高位の防護術式を何重にも施して、
本来読むだけで命に関わる猛毒の呪いの文献のオリジナルを記憶させる人間図書館。
ネセサリウス、イギリス清教にとっては戦略兵器と言うべき存在。
しかし、先ほども言った通り、それ程までの魔道書の記憶者だからこそ、
インデックスと先端科学との相性は絶望的に悪い。その線も却下です」
>>243
「ちょっと待て、今なんて言った?」
「は?」
「いや、インデックス?」
「ええ、インデックス、禁書目録魔道図書館、どれも同一人物に使われる呼称ですが」
「なるほどなぁ、道理で高音さん達が泡を食う訳だ。物騒過ぎる」
千雨が、大雑把に説明する。
「そうですか…確かに科学の学園都市での事件で禁書目録まで引っ張り出して来たとなると、
この業界の人間であればネセサリウスが尋常ではないと見るのが当然です」
「だが、私の見た所ではちょっと違う。
あいつら、ステイルのチームとインデックスは明らかに別行動で、
インデックスは意図を知らないでむしろ邪魔をしていた。
何よりもアリサ本人を大切に思っていた。
とにかく、これで一つハッキリした事がある」
「はい」
「イギリス清教でも魔法協会でも無い、
しかも、こっちからも正体不明の第三の魔法勢力がこの事件のヤバイ所に噛んでるって事がな」
今回はここまでです。
続きは折を見て。
乙です
乙
夕映が来たか
微妙に口調が違う気がするがww
夕映ってアーティファクトより魔法学校で得た経験やら人脈の方が役にたちそう
実力自体は器用貧乏といった感じだけど、ゆえの「こんなこともあろうかと」感は異常
大概のピンチは遅延呪文エーミッタムでなんとか乗り切れそう
ネギま!はvs超鈴音篇が全盛期だった。
>>246
感想どうもです。
夕映の口調と言えば例のです口調ですが、
やり過ぎるとおかしいと無意識で思ったのか、
読み返してみると控え過ぎの様にも。勘が鈍ったのか。
>>241
では「力の王笏」を「王の力笏」と書き間違えてるしorz
そろそろ時刻もよろしい頃合ですか。
それでは今回の投下、入ります。
× ×
「あ、千雨ちゃん」
「お前ら」
放課後、授業を終えた千雨が小太郎、夏美、夕映と合流して
麻帆良大学病院を訪れると、見慣れた先客がいた。
神楽坂明日菜に近衛木乃香、桜咲刹那、何れも千雨のクラスメイトに他ならない。
そして、検査コース中の待機所でベッドに腰掛けている佐倉愛衣の頭を
木乃香が扇子でぱたぱた扇いでいる。
「千雨ちゃんもお見舞い」
「まあ、そんな所だ」
明日菜の問いに千雨が答える。
その間にも、ぺこりと頭を下げる愛衣と偉そうかつ謙虚な小太郎とそのすぐ側にいる夏美が
空間を軋ませている音を千雨の心の耳は確かに聞いていた。
「上から私を通じてお嬢様に依頼がありましたので、
後で面倒が無い様にアスナさんも一緒に」
「ああ、分かった」
夕映と明日菜が話し込んでいる隙に刹那が千雨に耳打ちする。
>>250
「大した事ではありませんが、頭に関わる事故でしたので念のため」
「なるほど」
愛衣の言葉に、千雨は素知らぬ顔で応じる。
小太郎を通じて愛衣に連絡を入れた所ここにいると言う事で、
夏美の能力で高音達が帰ったのを確認した上でここを訪れていた。
「…少々人数が多過ぎますね」
「じゃあ、私達先出てるから」
かくして、先発組がその場を離れる。
「さて、と」
腕組みした千雨が、横目で愛衣を見る。
「主な外傷は先に対処したのですが、
割と激しく頭をシェイクしてしまったもので一応検査を受けろとの指示が」
「科学の学園都市か」
「はい」
「やられたんか?」
小太郎のやや剣呑な口調に、夏美の視線が走る。
「勝負で言えば完敗です。ステイル=マグヌスです」
「あの赤毛のっぽか」
愛衣の返答に小太郎が言う。
「あんたらが焦ってた理由はインデックス、禁書目録か」
千雨の言葉に愛衣は少し驚いた表情を見せたが、夕映が目で語って納得させる。
「私の見た所、アリサに関してステイルとインデックスの思惑、行動は一致していない。違うか?」
「私もそう思います。ステイルはこの件にインデックスを巻き込むつもりは無い」
「けど、実際に巻き込まれてるな」
「ネセサリウス、或いはステイルの意に反した状況、そう見るべきです」
「どこまで調べた?」
「インデックスと鳴護アリサとの関わり、その周辺調査、
それをやろうとしてステイルから追い払われたのが実際です」
>>251
「じゃあ、そこを突っ込んで…」
「やめて下さいっ!あ、すいません」
「いや」
小太郎の言葉に愛衣が悲鳴に近い声を上げ、千雨がそれに応じる。
「ヤバイのか?」
小太郎も真面目に問う。
「はい。もし私達がインデックスに接触しようとするならば、
あのステイルなら麻帆良学園都市の外周全部にルーンを張って
そのままこの街をソドムとゴモラにするか、
それが無理でも学園結界ぶち破って炎剣二刀流振り翳して突貫して来かねません」
「無茶苦茶だな」
「無茶苦茶です」
千雨の言葉に愛衣が真面目に応じた。
「最悪なのは、必ずしもネセサリウスの意思ではないと言う事です」
「何だと?」
「幾ら禁書目録が大事でも、イギリス清教、ネセサリウスと言う組織は、
同じく巨大組織である麻帆良学園、引いては関東、日本に留まらない魔法協会自体に
一触即発で全面戦争仕掛ける程キレてはいません。この事でキレてるのはステイル個人です」
「あいつ、いけ好かないけど馬鹿じゃないと思ったけど」
千雨が首を傾げる。
「基本的にはその通りの筈です。
イギリス清教と裏で繋がっていて表向き魔術師が介入できない科学の学園都市に
禁書目録を滞在させておく事が却って安全。それがイギリス清教の判断である事は把握しました。
しかし、今回のインデックスに関するステイルの判断はステイル自身の判断です。
実際、接触しようとした私は先回りされて火焙り寸前の目に遭いました」
「おい…」
「それでも魔術師、魔法使いの裏と裏が裏で接触した際の事ですから」
何か言いかける小太郎を愛衣が制する。
>>252
「私はステイル、仲介に入った神裂火織とのその場の合意でインデックスから手を引きましたが、
その場凌ぎの口約束でも、其れを破ればステイルは本気で
麻帆良はおろか魔法協会に今言ったレベルの反撃をしかねない。
ネセサリウスどうこうではなくてです」
「なんだそりゃ?いくら何でもステイル一人でそんな事した日にゃ、
こっちにはそれこそネギ先生から何から、
こっちの猛者が集合したらあの夏の黒幕連中とガチバトルしたレベルだぞ」
千雨の言葉に愛衣は首を横に振った。
「そういう事態になれば、ステイルの頭にそういう事は判断材料に入っていません。
元々、ネセサリウスに所属しているとは言っても、本質的に魔術師は我が儘な存在です。
私達がそこに触れるならば、彼は一人の魔術師としての判断を優先させると言う事です。
一人の魔術師、或いは、一人の…」
「マジかよ…」
愛衣が呑み込んだ言葉の気配を察して千雨は額を抑える。
「ですから、インデックスとセットであれば、
少なくともこちら側の人間として顔を覚えられた人間では鳴護アリサにも迂闊に接近出来ません。
無論、ステイルが本当にそこまで馬鹿をやったとして、こちらの学園であれば早々に対処出来ますが、
彼は過去幾つもの魔術結社を炭化ハンバーグと共に殲滅して来た魔女狩りの王です。
ステイル一人の本気と言うか狂気でもこちらの犠牲者は避け難い。と言う現実的な問題が一つ」
「非現実的な理由があるのか?」
「旧友、と言う程の仲でもありませんが、
あれ程のルーン魔術を我が者とした魔術への狂気にも似た情熱の一端は私も見ました。
私はあくまで現実的な判断をしますが、少しは尊重したい気持ちもあります」
「インデックスか」
愛衣の言葉を聞いて、千雨も思い返していた。
一見幼いガキ、何とも我が儘で頼りなく見えるシスターだったが、
それでも知識だけではない、禁書目録としての片鱗、ハートはしっかりと見せてもらった。
「インデックスには、ステイルにそこまでさせる何かがあるって言うんだな?」
「そこに触れたらそのまま血の雨硫黄の雨が降ります」
千雨の質問に小さく頷いて愛衣は告げる。
>>253
「問題はもう一つある。インターネット経由で調査を進めてたら妙なものにぶつかった」
「妙なもの?」
「魔術を使った電子ドラッグ、第一段階の催眠誘導を突破しちまったら
そのままこっちの脳味噌に電波流し込んで廃人直行って代物だ」
「電子精霊、ですか?」
夕映が紙の束を差し出す。
「これは…ギリシャ語の術式ですね。まだ私が到達していない部分もあるみたいですが…」
「それどころか現存しない術式が多数含まれているです」
「何ですって?」
「こっちの協力者がやられた。それで、呪いの電子ドラッグから本人の魂を引っ張り戻すために
私と綾瀬でやっとの事で分析してなんとかかんとか呪いを解いた。その分析結果だ」
「魔法学校やギリシャを含む現在の西洋魔術の世界では実用化されていない、
それどころか記録すら残されていない古典のギリシャ語術式をベースとして、
それをインターネットに組み込んで閲覧者を呪詛する離れ業です」
「ちょっと待って下さい、そんな事って」
「ええ、そうです。今魔法業界一般に把握されている限りではまず出来ません」
「つまりだ、この事件には、イギリス清教、魔法協会、
それに加えて正体すら分からない骨董品を使う第三の魔法勢力が関わって来てる、そういう事だ」
「第三の…」
千雨の説明に愛衣が息を呑む。
「当然、ここに至るまで私達も高音さんには話しにくい事を色々やってる。
それに関しては、申し訳ないがこっちにも思うところがある。
それでも、状況だけは説明する必要がある。佐倉が一人で潜入してるってんなら尚の事、
そんな物騒な動きがあるってのは報せないとまずい」
「有り難うございます。
それで、長谷川さん達はどうするんですか?
この上、この事件に関わり続けるんですか?」
そう問う愛衣の目は、確かな仕事モードだった。
守るべきものは守り、邪魔はさせないと言う。
「そこなんだよな」
千雨が自分の頭を掴む。
>>254
「アリサの過去、鍵になる事件がオリオン号事件、そこまでは掴んだんだが、
その先の電子データには今言った地雷が埋め込まれてて手が出せない。
今聞いた状態だとアリサ本人に近づくのも厳しい。
科学の学園都市じゃあ余所者が出歩く事自体危険、
変に探りを入れたら地獄を見るって身を以て教わった。
私達で動くには手詰まりだ。アリサ自身の安全は何とかなりそうなんだがな」
「その、電子ドラッグに行き着くルートを教えて下さい」
「どうする気だ?」
「こちらの電子精霊術者に対処を依頼します。
長谷川さんの立場を考えると説明が少し難しいですが」
「それはすまん。最初に言っておく。
自分で言うのもなんだが私が死にかけた相手だ、相当ヤバイぞ。
今言った鳴護アリサとオリオン号事件、
そっから注意深く入口の誘導、催眠を避けて探っていけば多分ぶつかる」
「分かりました。私は検査が終わったら科学の学園都市に戻ります。
魔法協会の裏からのバックアップもあります。
そんな状態なら尚更、魔法使いとして放置していられる状況ではありません」
「病院に来た先からあれだが、頼む」
「はい。ステイルにはステイルの思いがあるのかも知れませんが、
私も魔法使いです。魔法使いの在り方に背くつもりはありません」
愛衣が言って、千雨と愛衣が頷き合った。
× ×
とあるショッピングモール側で、吹寄制理は嘆息していた。
「ねぇねぇ、俺らといいトコ行こうよ」
「こっち来てよおじょーさん」
元々、最先端科学の街と言いながらこの手の治安には不安がある学園都市だが、
この辺にもこんなのがいたかと、もう一度心の中で嘆息する。
いかにもチンピラと言った風体のスキルアウトの集団に対して、
吹寄は女子高校生一般として見ても堅過ぎるぐらいに堅いタイプ。
そういう女にこそ下衆な興味が湧くと言うロクでも無い連中に囲まれて、
ひくひくと動く眉が吹寄の苛立ちを現している。
>>255
それでも、無愛想なのも堅実と言う内実を正当に評価するならば、
束ねた髪の毛は長い綺麗な黒髪。そこから輝くデコもチャームポイントなぐらい、
力強いぐらいにしっかりした顔立ちは凛々しく整って頼もしい。
実は一見してバーンと膨らみすらりと健康的な素晴らしいプロポーションなのも見て取れる、
十分にいい女の部類に入っている。
行き交う通行人は、素知らぬ顔で通り過ぎる。まあ、これもいつもの事だ。
ここだけでも5人の集団だ、武装している事も多い。
そこそこの能力者でも無い限り、関わり合うのも面倒と言うのが実際の所だ。
どうせなら、もう少し会場に近い所であれば警備の目も行き届いていたのではないか、
それも後の祭りなので誰かさっさとアンチスキルでも呼んでくれないかと。
「ほらほら、黙ってないで行こうぜほらー」
いい加減ウザくなって来た、実力行使で突破しようか、と思った時、
「あー、いたいた」
タタタッとこちらに駆け寄って来る気配あり。
「あー、どうも、ナギ・スプリングフィールドです。
山田さんですね?予定と違ってすいませんがちょっと駅まで連れて行って下さい」
駆け寄って来た白人の男の子は、
そう言って吹寄の手を引っ張りながら一瞬ぱちんとウインクした。
「ああ、ナギ君ね?待ってた。駅ならこっちだから…」
× ×
「あのー、どうして皆さん付いて来られるのでしょうか?」
ネギは、吹寄に手を引かれながら、ぞろぞろと付いてくるスキルアウトに礼儀正しく質問した。
「場所が悪かったなガキ、最近この界隈じゃあ、そういうやり方が流行ってるんだよ」
「ああ、そうなんですか」
それは、吹寄アイアンハートにして何か詰まるものを覚える、そんな天使の微笑みだった。
「ちょっ」
ネギが吹寄の手を引いて猛ダッシュを始めた。
>>256
「待てこらガキゃあっ!!」
「ち、ちょっと、君、もういいからっ!」
「大丈夫です」
その返答には、何故か頼もしい程の自信が含まれていた。
そして、ネギは吹寄の手を引いて路地裏に突っ込む。
「すいません、ちょっとあっちに」
「はあっ!?」
吹寄は、押し込まれる様に路地裏の曲がり角に押し込まれていた。
「ちょっ!?」
「てめぇええええっ!?」
冗談ではない、あの子ども一人をスキルアウトの群れに直面させるなど論外だ。
慌てて引き返した吹寄は、目を丸くした。
吹寄の記憶が正しければ、あの男の子がスキルアウトの中をすっと通り過ぎた、
と思った時には、スキルアウトは揃って転倒していた。
「行きましょうっ!」
そう思った時には、吹寄は再び手を引かれていた。
× ×
「ここまで来たら、もう大丈夫だと思い、ます」
そう言って、ネギは腕で額の汗を拭い、後ろを向いた。
そちらでは、腿に両手を当てる姿勢で腰を曲げた吹寄が
建物の間から差す太陽にデコを輝かせ、
ネギの目の前で大きく呼吸を整えている所だった。
そして、吹寄は大きく背筋を反らす。
まだまだ残暑の季節、Tシャツにショートパンツとラフな格好の吹寄だが、
そうやって背筋を伸ばしながら袖口で汗を拭う。
>>257
「ん?こぉらっ、十年早いっ」
「はうううっ」
つつつと顔の向きを変えたネギに気付き、
吹寄は拳でネギの額をぐいっと押してからくすっと笑った。
えらくお利口で頭が回って更には非常識に強い様にも見えた。
加えて、下手をすると女の子よりも可愛らしい男の子の見せる隙は微笑ましいものだった。
「でも、君足早いね」
「あなたも早かったですね」
「まあねぇ。に、しても、君ねぇ」
「はい」
「いつもあんな事してるの?」
「あんな事とは?」
「だから、あんな風に誰かを助けたりしてるの?」
「それは、女性が往来で困っていれば、イギリス紳士ですから」
天然過ぎる回答に目をぱちくりさせていた吹寄は、
頬の熱さに気付きそれをごまかす様にして水筒に口を付ける。
これが、似た様な事をしてそうな自分と同年配のウニ頭であれば拳が出ていたかも知れない。
「うぇー、にがっ」
「グリーンドリンクですか?」
「うん、飲む?健康にいいんだぞ」
「いただきます」
ネギが、水筒のカップで口を付ける。
「どう?まずい?」
吹寄が、本当に珍しく意地悪くも素直な笑みで尋ねる。
「まずいと言いますか、失敗作ですよこれ」
「え?」
「ああ、ごめんなさいご馳走になっておいて」
「いや、そこまで言ったんなら参考までに聞かせてくれる?」
「元は市販の粉末だと思いますけど、わざわざグリーンドリンクを生で飲んでるんですよね?」
「うん、通販で買ったんだけど」
「一般的な栄養学で言っても、この配合だとわざわざ栄養価を殺し合ってるみたいなものです」
そう言って、ネギはすらすらと書き付けた紙片を吹寄に渡す。
>>258
「コンセプトは分かりましたから、
普通にこれを買ってきてミキサーした方がずっと増しです。飲みやすいですし」
「…ありがとう…」
メモを受け取りながら、吹寄は素直ににこにこ微笑んでいるネギと見比べる。
何と言うか、この少年このまま成長したらとんでもないものになりそうだ。
何よりこの天然っぷりが始末に負えない。
「あっ」
「どうしました」
「友達と待ち合わせしてたんだ。戻らないと」
「僕もあちらに用事がありますから」
「そう、じゃあ行こうか」
× ×
「来たかあっ!」
路地裏では、先ほどのスキルアウトの集団が待望した後続部隊の気配に叫んでいた。
「あのガキ、ナメやがっ、て…」
スキルアウトがそちらを見ると、
彼らの待ち人達は既にダース単位で死屍累々を形成していた。
そして、その背後では、表通りの陽光を受けて、
鶴の構えを取る金髪のゴージャス美少女と、
コルク抜き満載のワイン樽を抱えた見た目まあまあいい線いってるショートカットの痴女スタイル少女が、
コオオオオと禍々しいオーラを背景にこちらに向かっていた。
>>259
× ×
「じゃ、ここで」
「はい」
路上で吹寄と分かれたネギは、後ろを振り返って仰け反りそうになった。
「ほう、こんな所でも僕と仮契約してミニステルになってよと誘っている訳か。
流石は僅か数ヶ月であれだけのパーティーを作り上げて世界を救済した英雄は違うものだな」
「ママママスターっ!?違いますよ、あの人はたまたま」
「ふむ、たまたまラッキーなんとかで又一人毒牙に掛けたと言う事か。
やはりその無自覚天然な有様こそが武器なのだろうなぼーや」
「だだだ、だから、科学の学園都市でそんな事してたら大変ですって。
大体、ここの人って魔法そのものが使えない人も多いですし。
大体、どうしてマスターがこんな所まで?」
ナニアレカワイー
と言う事で、ゴスロリ日傘のエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル相手に
ネギはようやく本題に入る。
取り敢えず、科学の学園都市にダーク・エヴァンジェリンの入場を許した事が発覚した場合の
政治的影響その他は後で考える事にする。
「うむ、マ○オブ○○○ズ、あくまで頭にスーパーすら付かないものだ。
それを終えてフ○○リーコ○ピ○○ターの電源を落として何気にリモコンを操作した時に
珍しい顔が目に入ったものでな」
「は?」
「学園都市は学園都市だ、と言う事で、学園都市の移動と言う事で
爺ぃ(麻帆良学園学園長)には秒速で判子を押し続ける簡単に仕事に勤しんでもらっている」
「はあ…」
言葉が見付からないネギの前で、エヴァは天を仰いだ。
>>260
「…宇宙エレベーターか…」
「はい」
真面目な顔で応じるネギの前で、エヴァはつと視線を外す。
「…愚かな…」
「バベルの塔、ですか」
「ぼーやはこれから商談か?」
「はい、これから少し」
言いながら、ネギは再びエンデュミオンに視線を走らせる。
「科学の粋を集めたバベルの塔、星の彼方に連なる新世界。
まさに新しい時代未来への道筋、そういう事か」
そこまで言って、エヴァは意味ありげな笑みを浮かべる。
「何事も修行だ、精々頑張ればいい。
まあ、私もぶらっと来てどうこう出来る訳ではないからな、
そろそろ引き揚げるとするが、面白い街だ。
何とはなしに芳醇な香りすら感じられる」
「ごめん、待った?ちょっと変なのに絡まれてさ」
「ううん。大丈夫。今来た所だから」
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙
そういや禁書設定の吸血鬼は本編にでれないほどチートだけど、エヴァの扱いはどうなるのかね
何れにせよ本格的に参戦なら魔術サイド上位勢が割り込まないと釣り合いが取れなくなりそうだが
ネギとロリばばあ出して大丈夫かよ
戦力のバランス取るためにネギは最後の方まで出てこないのかと思ったら
更に凶悪なのがセットで出て来たww
乙です
ネギま上位は普通に禁書上位ともやりあえると自分は思うけどクロスSSとなると扱いが難しそう
魔神化して調子に乗ってるオティヌスちゃんのパンツを問答無用で脱がすラカンさんが見たいです
乙
夕映が出るならのどかも期待
のどかのアーティファクトは強さとかは無いけど
結構チートだよな
■■さんの出番クルー?
乙
エヴァって一応始祖なんだっけ?
真祖じゃね?
感想有り難うございます。
まず、手痛いミスの報告です。
>>209犬の方は双頭じゃなくて三つ頭だよ、
原作でわざわざのどかがテンパリ説明してくれたのにorz
ふふ。何かレスの期待がヤバイ。
まあ適当にやらせてもらいます。
多分そこまでやらんと思うので(多分ね)冗談話するけど、
前回投下の状態のエヴァだと、一方さん並に時間制限厳しいけど
結界の外でフルパワー行ける状態ですからね。
学園都市第三位以下は瞬間冷凍で終わりでしょう。
あくまで推測だけど、ネギま!原作だとデフォで読心術やってるぐらいだし
それこそのどかもエヴァと目と目で通じ合って簡単に飲まれたぐらいだから
系統違ってもエヴァ相手に迂闊にそんなモン使ったら発狂思念ぐらい逆流されかねないし
麦野がマジギレ自爆したら塵も残さず再生不能って目も無いではないけど、
そこまで行く前に氷塊にされて終わりでしょうね。
どう考えても理由が無いけど、学園都市とガチバトルってなったら
魔術ジャミング機能付きアヘ顔ダブルピース(前六文字削除)爆乳巨人召還して
どうにかなるだろうか(以下略)
魔術サイドの言及は…スマン
雑談はこの辺で。
>>270
それでは今回の投下、入ります。
>>261
× ×
元々、科学の学園都市は学生の街である。
ショッピングモールのファーストフード店と言う事になれば、
時刻になれば放課後の学生で大にぎわいになる。
そんな店内の真ん中辺りで、二人がけのテーブル席にダークスーツの一組の男女が着席していれば、
どちらかと言うと場違いな雰囲気になる。
ネギ・スプリングフィールドは、その二人を見付けて近づき、
声を掛けようとして怪訝な表情を浮かべる。
それでも、目印となる文庫本がテーブルの上にあるので、声を掛けようとする。
すると、ネギが声を掛けようとした女性ががたりと立ち上がり、一礼して席を勧めた。
ネギがぺこりと頭を下げて席に就く。
無駄にイケメンとしか言い様がない対面にいる男も立ち上がり、
入れ替わりに一人の女の子が着席する。
「飲物は何がいいかしら?それとも何か食べる?」
ネギの対面に座った女の子が尋ねる。
「じゃあ、ウーロン茶を」
この店舗内では相当に異様な状況であるが、ネギは臆せず応じる。
「そう。じゃあウーロン茶とグレープジュースを」
この女の子の秘書らしきダークスーツの女が一礼し、カウンターに向かう。
同じくダークスーツの男は、先ほどまで自分達が口を付けていたドリンクを片付ける。
「改めまして、レディリー=タンクルロードよ。
詳しい紹介は必要かしら?」
「いえ、タンクルロード代表。ネギ・スプリングフィールドです」
>>271
唇で笑みを作るレディリーにネギが礼儀正しく応じる。
実質的には雪広グループ中心の政府・企業合同でひっそり起ち上げられた研究会。
プランに関わる事では、ネギは当面この研究会の参与と言う肩書きで活動している。
それは雪広あやかも同じ事であるが、それでも何でもあやかには、
既にして表の政財界にも多少は顔が利く血筋と学生としての実績もある。
対して、ネギの知名度は知っている人の間では絶対でも本当に知っている人しか知らない。
結論を言えば、この二人がプランの中枢近くにいると言う事は、
必要な人間だけに事前に報されて交渉がセットされる、と言う状態になる。
或いは、最初からあやかのアーティファクトで問答無用のセッティングが為されるか。
取り敢えず、そんな感じでも、二人の精力的な働きにより、
各界のトップクラス、本当の実力者の間では、あまり派手に知られても逆に困るが
知られるべき所にはそれなりに顔が売れているのが今のネギとあやか。
それでも、今の所は、表の実力者に近い位置にいるあやかを立てているのがネギの立場。
それは科学の学園都市でも同じ事の筈だったが、
最有力の交渉相手として打診していたオービット・ポータル社から思わぬ連絡が入った。
面会相手はネギ一人を指名して、ここでの会談に担当者を寄越すと。
ネギもあやかも当惑した。余り偉ぶりたくもないが仮にも国家レベルをも超えたプロジェクトである。
当然、オービット・ポータル社にもそれ相応のしかるべき筋を通じて打診している。
研究会の中でも言わば只の天才少年の一種と言う形を取っているネギ一人を指名して、
何よりもこんな場所を指定して来ている時点で、普通に考えるならばガキ一人と侮っている。
しかし、ネギが指名相手であると言う事は、もう一つの可能性もあり得る。
事、科学の学園都市では余り考えられないしまずい事態とも言えるのだが、
こうしてレディリー=タンクルロード直々のお出ましとなると、
もう一つの可能性を考えるのが自然。
かくして、ネギ・スプリングフィールドは、
本日二度目のゴスロリ美少女とのご対面を果たしていた。
「ごめんなさいね、あなた程ではなくても私も少々忙しい身で、
スケジュール上こんな所での会談になったわ」
表で会っていたエヴァのゴスロリが黒を基調としていたのに対し、
今、ネギが相対しているレディリー=タンクルロードの衣服は赤系の色彩だった。
何れにせよ、どこか蠱惑的な西洋人形、そんな形容が似合う事は共通している。
そんなレディリーの背後に、ビシッと黒服スーツの男女の秘書がドリンクを配り終えて控えている。
>>272
「いえ、お時間を頂きありがとうございます」
「ご丁寧に、やはり噂に違わぬイギリス紳士さんね」
レディリーは右手で不躾に頬杖をつき、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「あなたのプロジェクトにエンデュミオンを使いたい、そういう話だったわね」
「はい」
「送っていただいた提案書は読ませて貰ったわ。
雪広や関連企業、関係する政府機関、
夢想的でありながら芯となる計算は確かで企業人として見ても魅力的な内容。
我が社のプレゼンにも十分耐え得る内容だわ」
「有り難うございます」
「ふふっ、その無邪気な笑顔でどれだけの乙女を死地に赴かせたのかしら?」
「感謝しています」
ふふっと小悪魔の笑みで抉って来るレディリーに、
ネギはさらりと、しかし正面から答える。
「実際、今このタイミングで宇宙エレベーターを完成させた以上、
あなたのプランにおいてエンデュミオンの利用は避けて通れない。そういう事ね」
「はい。是非御社の協力を頂きたい」
「そうね、今も言った通り、我が社にとっても魅力的な提案。
現時点で断る理由は見当たらないわね。
あなたのプラン、それはあなたがあなたを慕い信頼する幾人もの乙女達と共に、
その命を懸けて入口を開き、そして一代では済まない年月を掛けて実現に邁進しているもの。
この理解で正しいのかしら?」
「その通りです」
薄く笑みを浮かべて尋ねるレディリーにネギはしっかりと返答する。
「知られている事に毛程の動揺も見せないのね」
「オービット・ポータルの代表が僕を直接指名しての会談です」
「知らないと考える方が間抜けと言う事ね。確かにその通りだわ。
気が付いているんでしょう?
あなたがその気になれば今すぐにでも本物の木偶人形になるのだと」
レディリーは、右手を秘書が控える後ろに払って言った。
>>273
「そうですね」
ネギの答えは、曖昧な微笑と共に発せられた。
「オリオン号事件」
ネギのその言葉にも、レディリーの口元には面白そうな微笑が浮かんだままだ。
「オービット・ポータル社は、あの事件で経営危機に陥りながら、
宇宙エレベーターエンデュミオンの開発主体としてその成功に漕ぎ着けた。
その過程で経営再建のために巨額の出資を行い経営権を獲得したのが
あなたが率いるファンドだった。そういう事ですね」
「特に間違ってはいないわね。一夏で一つの世界を救った英雄と、
少しは肩を並べる事が出来ているかしら?」
「弱冠十歳の天才経営者、尊敬に値します」
「只のお人形かも知れないわよ。天才で通じる学歴ぐらいは本物かも知れないけど。
インターネット上では私は宣伝用のお人形かホログラムなのだそうよ」
「お人形さんみたいに綺麗で可愛らしいですから」
「流石、素で言ってくれるのね。
あれだけの麗しい軍団、ハーレムを率いる雄々しいリーダーだけの事はあるわ。
気を付けなさい。あなたみたいなハンサムが素でその有様じゃあ、
いつ刺されてもおかしくないわ」
レディリーの言葉に、ネギがくすっと笑みを浮かべる。
「…どうやら、私が言う迄も無かったみたいね。
そこまで優しく懸念して裏でメラメラ嫉妬してくれるお姉様にも恵まれたみたい」
「ご明察です。本当に人に恵まれました」
「あなたの場合、せっせと種を蒔いて耕して収穫しているのよ、自分でも知らない内に。
そう、お褒めにあずかって光栄の通り私はお人形だとしましょう。
天才ゴスロリ美少女社長、普通に考えるなら胡散臭さが先に立つ。
最早生物学的なレベルでそんなの良くて専門馬鹿常識的には只のマスコットじゃないかしら?」
「僕は、それは無いと思います」
「そう?どうして?」
「勘です。今こうして目の前にした」
>>274
「実に非論理的ね。
これから学園都市でスーパー宇宙工学レベルのプロジェクトの話をすると言うのに」
会話をしながらネギは、良く似た雰囲気、パターンの相手を知っている、
と言う内心の言葉をさらりとカモフラージュに包み込む。
「だけど、その程度の勘も働かないなら、今頃とっくに終わってるわね。
大体、あなた自身の年齢と実績と言う存在がとうに常識の限界を突き抜けている」
「つまり、あなたが僕を英雄と呼んでくれるのなら、
あなたは本物だと言う事になります」
「有り難う、と、お礼を言うべき所なのかしらね」
「あのエンデュミオンを完成させるためには、
資金力があったとしても、オリオン号事件から今に至るまでの時間をフルに使っても
本来ならばとても足りない。あらゆる意味での超人的な働きがあってこその奇蹟の成果です。
超人的な奇蹟と言う前例は過去に幾つもありますが、それでも時間には絶対量があります」
僕もその辺相当無茶をしました、と言う本音は呑み込む。
そんなネギを、片方の頬杖をついたレディリーは面白そうに眺めている。
「オリオン号事件から今に至るまで、エンデュミオンの開発計画、
一体誰の指示で行われたんですか?」
ネギが尋ねた時、ネギもレディリーも真顔だった。
「あなたは、交渉相手の社史も読めないのかしら?
何なら社史編纂室にでもご案内しましょうか?」
「ハンコを押した人間なら把握出来ます。
それはこちらも同じです。少なくとも表向きのハンコを押した人間の事はですね」
「そう言えばそうだったわね。一応私はポジションを得ているけれども、
お互いお子様経営者と言うのは大変ね。だから、英雄も今の所は黒幕に落ち着いている訳ね」
「元々が裏の仕事ですから。ですけど、エンデュミオンに関しては、
設計図を書き上げ着工させて完成までのあらゆる問題を解決する。
少なくともこの短期間で完成させるためには、
それら諸々の事を一貫して一つの流れとして把握していた人間がいる筈です」
「つまり、この計画にも黒幕がいる、そう言いたい訳かしら?」
「ある要素を抜きにするならば、最も合理的な予測は簡単に出来ます。
結局の所、あなたが三年に渡る絵図面を書いて、
色々とカモフラージュ要素を織り交ぜながらあなたの手元に行き着く様に操作していた」
>>275
「私が三年前から」
言下に、「面白い事を言うわね」と言う表情をレディリーは作っている。
「もちろん、そこが最大のネックになります」
そう言って、ネギがドリンクのストローに口を付ける。
「こうは考えられないかしら?」
「何でしょうか?」
「そもそも、今の私がオービット・ポータル社を代表している、その事が非常識極まりない話。
最初から常識が通用しないのであるならば、別に三年ぐらい遡っても構わないと」
「そうなんですか?」
「どうかしら?」
素直に尋ねるネギに、レディリーは今度こそ面白そうな含み笑いを浮かべた。
紳士と淑女は、完璧なスマイルと共に心の中で剣を鞘に納める。
そして、レディリーは一枚のカードをネギに渡す。
「お土産よ」
「これは、関係者パス?」
「これから、ここのホールでちょっとしたコンサートがあるわ。
奇蹟の歌姫鳴護アリサ、エンデュミオンのキャンペーンガールよ。
これをスタッフに見せたらいい場所に案内してくれる」
「有り難うございます」
「名残惜しいけどそろそろ時間だわ。コンサートも始まる」
「そうですか」
潮時と見て両者が立ち上がり、ネギがテーブルを離れた。
「その手で全てを、世界をもつかみ取れる程の強き英雄。
奇蹟の歌姫の加護をどう見るかしらね?」
>>276
× ×
ショッピングモールの吹き抜けホール。
そこに設営された特設ステージ周辺で、
ネギ・スプリングフィールドは聞き入っていた。
可愛らしいマスコット・ガールズを従えた歌姫、鳴護アリサ。
歳は普段教師としてネギと縁のある女生徒達よりやや年上らしいが、
ステージ上の彼女は実に活き活きとしていた。
そんなアリサの歌は、歳の割りには色々と経験値の高過ぎるネギでも
そうそう体験できない程に素晴らしい。
素晴らし過ぎるからこそ、ネギは熱狂の中ですっ、と、目を細める。
それは、心に響く感触だった。
歌が心に響く。物の例えではなく、本当に響いている様な感触。
魔法使いだからこそ怪しむ。だが、魔術の気配はしない。
例え科学的なものだったとしても、直接的な干渉術であればネギ程の魔法使いが気付かぬものではない。
だとすると、結論は、本当にそんな感覚を覚える程に素晴らしい歌だと言う事。
改めて思う、素晴らし過ぎる。
この鳴護アリサを手に入れたのがレディリー=タンクルロードなのだとしたら、
そこに何かの意図があるのか、そこまで疑いたくなる。
(…あれは…)
ふと、一般観客スペースを見たネギが見知った顔に気を止める。
次の瞬間、彼の歴戦の勘が鋭く働いた。
(この震動?…)
「!?」
地響きに先んじて、ネギはバランスを取っていた。
「ああっ!」
ネギが、とっさに一般観客スペースの吹寄制理に向けて一筋の風を放つ。
風は、吹寄にぶつかるとそのまま彼女を取り巻き、落下して来た破片を弾き飛ばした。
>>277
「わっ!?」
気が付いた時には、吹寄の体は誰かに抱き付かれる感触と共に跳躍していた。
「君っ!?」
一瞬だけ見たのは、先ほど表で出会った白人の坊やだった。
自分がいた辺りから響く嫌な音は聞かなかった事にする。
「失礼っ」
「うぷっ!」
吹寄の視界がぎゅっと押し付けられるネギの胸で埋められた。
やはり外国人、何やら口から漏れるぶつぶつと呟く言葉が吹寄に聞こえる。
そのネギの視線はステージ上に向いていた。
ステージ上では、短髪のマスコットガールが鳴護アリサを庇う様に抱き付いている。
「ラ・ステル・マ・スキル・マギステル…」
パニックに乗じて、ネギはとっさに撃てるだけの光の矢を飛ばす。
それは螺旋を描いてアリサの頭上へと吸い込まれ、落下する照明や鉄骨の破片を人の頭上から回避させる。
「くおおおっ!」
丁度友人である本人から頼まれ、長谷川千雨一派の事は伏せて付き人として同行し、
行きがかりでマスコット・ガールまでやらされて
恥ずかしい事この上無かったがこの状況では本当に良かった。
と言う訳で、同じくマスコットをしていた佐天涙子、初春飾利が
こういう時は本当に頼もしい車椅子で待機していた白井黒子の手で避難したのを見届けた御坂美琴は、
アリサを抱え、頭上から落下する鉄骨を大出力の電磁バリアで回避する。
その鉄骨が弾かれている時、ネギは左腕でぎゅっと吹寄の頭を抱えて目くらましをしながら
右腕でもう一度光の矢群を鉄骨の上からの落下物に飛ばしアリサの周辺へと落下点を散らす。
だが、それでも、数が多すぎる。ネギにしても周囲に人が多すぎて、
まずは目の前の吹寄の目をごまかす都合もあって全力の何分の一も力を使えない。
((全部は無理っ!))
>>278
「もがもがもがっ!」
「あっ!」
ネギは慌てて左腕を緩めると、衝撃に顔が揺れた。
「つーっ、何をしている貴様あっ!」
こちらも、逃れた拍子に硬い感触に襲われたおでこを押さえ、
立ち上がった吹寄制理が相手を忘れたかの様にいつものペースで叫ぶ。
「全く…!?」
「あっ、ごめんな…うぶぶっ!?」
ハッと上を見た吹寄は、
今度は自分が目の前の男の子をぎゅっと抱き寄せて力一杯その場を駆け出す。
自分のいた所に落下する鉄骨を見て、吹寄は目を丸くしながら恐怖に震えた。
「ぶはっ!あ、あのっ…」
両者立ち上がり通常の背丈となった状態のために、
吹寄の両腕で頭を力一杯胸に抱かれる形となったネギが、
緩んだ腕を逃れようやく顔を上げて塞がれていた呼吸を取り戻す。
言いかけてステージに目を向けたネギが呆然と立ち尽くし、
一旦そのネギに視線を向けた吹寄もネギに視線を合わせて目をばちくりさせる。
ステージ上では、御坂美琴が「助かったの?」と言った表情で唖然としていた。
「あっ、大丈夫ですかっ!?」
「う、うん、貴様、君が助けてくれたんだな」
言いかけて吹寄が目を見開く。
「私は大丈夫、友達がっ!」
「えっ!?」
ネギが吹寄のいた辺りに視線を走らせると、
吹寄と同年配のセーラー服姿の少女がばっ、ばっと胸を押さえて狼狽していた。
綺麗な黒髪を伸ばして淡い一重の顔立ちの、ネギから見て丸で日本人形を思わせる少女だった。
しかし、ネギが目を見開いたのはその斜め後方の光景だった。
丸で金色の矢の如く、金髪をなびかせるどころか金色に輝きながら、
この状況をガン無視してその少女に向けて凄まじい勢いで突進して来る存在がネギの目を捕らえる。
>>279
「大体君は…へ?」
吹寄が気付いた時には、側からネギの姿が消えていた。
そして、常人の目には届かない勢いの金色の矢にタックルしていた。
「何をしているんですかっ!?」
この二人でなければこの時点で大ケガをしている
瓦礫だらけの地面で、小声で叫ぶネギとエヴァンジェリンがもつれ合っていた。
「ちょうどいい、ぼーや、私をしっかり抑えて組み伏せていろ!」
「は、はい」
珍しく焦燥するエヴァの様子からして、ただ事ではないと見て取ってネギは従った。
「もうすぐだ、3、2、1で私から手を離せ、
もうすぐ麻帆良への強制召還魔法が発動する」
「はあっ?あの、このままここから消えるつもりなんですかっ!?」
「仕方が無かろう。経験と知識で辛うじて理性は、
だから肉体が、3、2、1!」
エヴァの姿は、ぷつんとかき消す様に消えていた。
「皆さーん、ジャッジメントですのっ!」
ようやく、公的機関の救助が始まった様だ。
腕で汗を拭ったネギが立ち上がり、吹寄の姿を探す。
吹寄はどうやら先ほどのセーラー服の友人と合流したらしい。
吹寄の前で、ようやく見付けた落とし物を足下から拾い上げてほっとしている。
吹寄と合流しようとしていたネギはふと足を止めて向きを変えた。
どっち道、騒ぎに巻き込まれるのはまずい。
ショッピングモールを出たネギは、表通りで見付けた電話ボックスに入った。
「もしもし…はい、確認していただきたい事が…」
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
乙!
ネギま!のwiki見て思い出したけど
エヴァだけじゃ無くてネギももう人間じゃ無いんだよね
そんな二人が激突してて学園都市のレッドアラートとか鳴らないのかしら
乙
よく考えたら虚数学区が発動するだけでネギまパーティー全滅するのか
さらに吸血殺しでロリババア封殺も容易
この分なら魔術上位勢来なくともある程度バランスは取れそうだな
感想ありがとうございます。
それでは今回の投下、入ります。
>>280
× ×
佐倉愛衣のお見舞い兼打ち合わせを終えた長谷川千雨等の一行は、
適当にどこかで打ち合わせようかと場所を探して通りを歩いていた。
その様な中、千雨は携帯電話の震動に気付き、手に取る。
知らないメルアドからの着信、元々やたらとメール交換をする性格でもない千雨は、
迷惑メールかと思いつつ一応覗いてみる。
村上夏美はぎょっとした。
携帯電話を手にした千雨の表情が一変し、
目を見開いた千雨はどこかに電話を掛け、会話無しで電話を切ってからメールを送信する。
それから、心配そうに千雨を見ていた夏美に携帯を投げ渡し、
自分は電話ボックスに入ってノーパソを接続する。
「おいっ!?」
後ろから覗き込んだ小太郎が声を上げ、夏美も震え出す。
鳴護アリサのイベントが行われていたショッピングモールで大規模崩落
鳴護アリサは無事
× ×
ショッピングモール周辺に設置された仮設テント内。
コンサート会場からそこに入った初春が、携帯電話を置いてパソコン操作を再開する。
「初春ー」
そこに、佐天、美琴、黒子が現れる。
「どう、初春さん?」
美琴が尋ねた。
>>284
「当然アンチスキルの仕切りになってますけど、これは事件ですね」
「だよね、事故って崩れ方じゃなかったし」
初春の言葉に美琴が同意する。
「只、アンチスキルの初動捜査も余り上手くいっていません」
「どういう事?」
「初期段階で民間の防災部隊が救助名目で大量投入されて、
アンチスキルの捜査を事実上妨害したんです」
「………だから………じゃんよっ!!」
それで十分だった。ここからでも、その苛立った口調が聞こえてくる。
かと思うと、黄泉川は鉄装を呼び寄せ肩を抱いて何やら指示を出す。
「防災部隊も、統括理事会からの認可で一定の権限を認められています。
警備部隊、それを雇っているショッピングモール自体がオービット・ポータル社の資本ですね。
アンチスキルに対してオービット・ポータル本社の法務部が出て来て折衝していますが、
人命救助優先の現場の判断と言う事でアンチスキルもその辺は強くは言えません。
それでも、最初の段階で土建屋レベルのレスキューが大量投入されて
解体し直す勢いで動いた結果、少なからぬ証拠の散逸が発生しています」
初春の言葉に黒子が額を抑えた。
一応大型災害であり話の筋が通っているが、どうも色々ときな臭い。
大体、それ程の部隊がアンチスキルに先んじて即応した時点で怪しい。
中学生の身ではあるが、それでもジャッジメントだ。多少なりとも汚い話を見聞きする事もある。
それは、実質上部団体であり教師である筈のアンチスキルに関してもしかりだ。
露骨なものではないにしても、話が通る、通らないと言う事は耳にしないでもない。
× ×
愛衣は、検査中別に置いておいた携帯電話が放つ光に気付き、携帯を手にする。
一通りの検査を終えた愛衣は、トイレに入り個室で携帯を確認する。
個室を出てから鏡の前で頬を叩き、後ろ髪を巻きツインテールに束ねる。
既に、動きやすくどこにでもいそうな感じで白いTシャツにショートパンツを選んでいた。
>>285
× ×
「ああ、俺や」
科学の学園都市に急行した小太郎は、
半ば崩壊した地下施設で片膝をついて携帯電話を使っていた。
「間違いない、爆弾、それも高性能の化学爆弾や。
裏の仕事で嗅いだ事のある匂いや。ああ、分かった事があったら又な」
小太郎が電話を切る。
「そこで何をしている?」
それは、凛々しい女の声だった。
「両手を上げてゆっくりと立ち上がれ」
背後から聞こえる声に、小太郎はゆっくりそれに従う。
「あんた、ここにいたな?」
「何だと?」
「血の匂いや、大きいのと小さいの。
大きい方はちぃと無事に済ますのは難しい量やが、
小さい方はあんたのや。大体、事件があった頃合の乾き方や」
「冗談を言っている様には聞こえないな。嗅覚でも強化する能力なのか?」
「さあな。あんたこそ、こないな所で何してた?
まさかここ吹っ飛ばそうとして自分も巻き込まれたんか?」
振り返り、小太郎はニッと笑みを浮かべた。
「表にはまだ警察もいる、チャカぶっ放して大丈夫なんか?」
「心配は有り難いが、私は統括理事会の認可を受けた警備部隊に所属している。
立入禁止区域で不審者が抵抗逃走すると言うなら、褒められこそすれ問題は無い」
「出来るんか?シャットアウラ=セクウェンツィア」
地下道に銃声が響いた。
>>286
「いい判断や」
小太郎の右手は、シャットアウラが左手で突き出したナイフの棟をしっかり掴んでいる。
最初から小太郎が拳銃弾を交わし飛び込んで来る事を前提とする動きだった。
「うっ!」
そのまま、銃把で小太郎を殴り付けようとしたのを逆用して、
握られた小太郎の左手がシャットアウラの右腕のツボを一撃し拳銃が落とされた。
それでも鋭く鋭く抉って来る足技も小太郎は交わして見せる。
判断は的確、表の世界では十分出来る方だと小太郎はシャットアウラを評価していた。
だが、性格も生真面目なのだろう。
まだまだ教科書通りから抜け出ていないやり方では、裏のやり取りには及ばないとも。
「しっ!」
小太郎の目の前で振られる筈だったシャットアウラの右手の指も完全に虚空を切る。
「ぐふっ!」
そして、小太郎の頭突きが実際女性の急所である胸を一撃し、
シャットアウラは息が詰まる激痛に体を折る。
「目摺りな、ちぃとはエグイの知っとったな。こっちも合わさせてもろたで」
そのまま、小太郎はシャットアウラの左腕もねじ上げて後ろに回る。
「自分には聞きたい事がある」
「ふざけるな、何も喋らないぞ」
「おーおー、いいねぇ、何つーか久々に悪役つーか、
ビリビリねーちゃんとかこないだから嫌われっ放しや」
「当たり前だ、ぐっ!」
「姉ちゃんの場合、あんまり遠慮すると却って失礼みたいやな。
あんたの名前はシャットアウラ=セクウェンツィアでいいんやな?」
小太郎の質問にも、シャットアウラは視線を斜め下に落としたままだ。
>>287
「あんたに聞きたいのは…!?」
小太郎がシャットアウラをその場にドンと突き倒し、バッと飛び退く。
たった今まで二人がいた空間を銃弾がすり抜ける。
「くっ!」
拳銃に飛び付いたシャットアウラが遠くの柱に向けて発砲する。
そちらで人影が逃げ去る。
「待てっ!」
シャットアウラが人影を追跡し、小太郎は一旦近くの柱の陰に身を隠す。
シャットアウラが向かった方向から銃声が響く。
小太郎が物陰に入りながら注意深くそちらに近づく。
「逃げられたか…」
呟いたシャットアウラが一度拳銃をしまい、右手で左腕を押さえる。
「怪我したんか?」
「ふん、かすり傷だ…」
そして、歩き出した途端に転倒した。
「な、なんだ…」
「おい、どうした?」
「…つっ、これは、毒でも仕込まれたか…」
立ち上がろうとして上手くいかないシャットアウラに小太郎が近づく。
「お、おいっ!」
小太郎がシャットアウラの左腕の傷にかぶりつき、吸った血を吐き出す。
>>288
「こりゃあ…」
「何をしているのかな?」
険しい顔をしていた小太郎が振り返ると、
いかにも場違いな修道服姿のちびっこシスターが近づいて来ていた。
「この間の子だね。この人は…怪我人?」
「インデックス言うんは自分か?」
「私の事を知っているんだね」
「血に石の匂いが混じってる。
そのまま体そのものが石になる、これを使う奴と組んだ事もやりおうた事もある」
「ぐ、っ」
インデックスが怪我の周辺を握ってみる。
「手持ちの道具を見せてくれるかな?」
「ああ」
小太郎が札を何枚か取り出した。
「これならいけるかも」
「ちょっと待て、こないだあんたが言うた通り、
俺はぶん殴る専門、補助出来る程度に覚えてる程度や」
「私が教えるんだよ。君なら出来ると思うけどやるの、やらないの?」
「分かった」
インデックスの迷いのない眼差しを見て小太郎も真面目に頷く。
インデックスが、落ちていた破片でシャットアウラの周辺の地面に紋様を描き、
小太郎が指示通りに札を置く。
「…オン・コロコロ・センダリ…」
インデックスに合わせて、小太郎が印を切り詠唱する。
その周囲では、狗神が伏せたまま低く唸り声を上げている。
>>289
「…オン・コロコロ・センダリ…
オン・ガルダヤ・ソワカ・オン・ガルダヤ・ソワカ…」
「ぐ、あう…あああっ!」
「出て来るんだよ、蛇は火喰い鳥に食べられちゃうよ」
「オン・ガルダヤ………オン………
………バサラ………カン………!!」
急激に突き刺さる焼け付く様な痛みに、
横たわっていたシャットアウラが声を上げて魚の様に地面に跳ねそうになる。
だが、それでも堪えているのは、これが病巣を抉り出す痛みと言う予感があったからだ。
その側で、昔覚えた頭を絞って印を切っていた小太郎が相撲の仕切りの体勢を取る。
「おらあああっ!!!」
見える者には見える、シャットアウラの左腕からぐわっと現れたアナコンダ以上の大蛇を、
小太郎の光る右腕が思いきり殴り付ける。
「とっとと去ねうらあああっ!!」
そのまま、とっ捕まえて傷口から引きずり出し両手で地面に押さえ付ける。
「あぶなっ…」
インデックスが言いかけた時には、くわっと大口を開けた大蛇の側で小太郎がひらりと飛び退いていた。
「させるかっ!」
傷口に戻ろうとした大蛇に向けて、小太郎が印を切ると共に
伏せていた狗神が殺到しあっと言う間にぺろりと平らげてしまった。
「こっつぉーさんってな。ご苦労さん」
小太郎が言い、狗神も姿を消す。
>>290
「ま、狗神使いも本業やしな」
「大丈夫かな?」
「あ、ああ、何だか知らないが随分と楽になった」
「さてと、早速聞きたい事が…」
「とうまを見なかったかな?」
「何?」
割り込まれた小太郎が尋ねた。
「とうまがいないんだよ。アリサのイベントで事故があったって、
とうまの事だから巻き込まれたとしか思えないんだけど、どこにもいないんだよ」
「あー、とうまってあのこないだ一緒だったウニ頭か?」
「そうなんだよ」
「それなら病院に運ばれてる。主治医がいると言っていたからな、
救急のラインからは外れているのだろう」
「ありがとうなんだよ!」
調伏の終わりの方の記憶が激痛と共にほぼ無くなっていた、
未だどこか朦朧としたシャットアウラの言葉を聞き、インデックスがトテテと動き出す。
「インねーちゃん」
「何かな失礼な狗族の坊や」
「術式はギリシャ、それも古い奴か?」
真剣な眼差しが交錯してインデックスが頷く。
「もう少し洗練された術式を予想していたんだけど、
私達の魔術に対する反応が信じられないほど荒々しいのに効力は決して悪くなかったんだよ。
調伏に手一杯で詳しい分析までは無理だったけど、
近代以降では滅多に実用されないレベルの古典術式だと思うんだよ」
「有り難うな」
「君、やっぱり筋がいいんだよ。
ちゃんと系統立てて勉強したらモノになると思うんだよ。でも…」
「ん?」
「君が自慢する通り、体術の方が得意みたいだから、
魔術との両立は難しいかも知れないけど…」
その言葉を聞き、小太郎がニッと笑った。
>>291
「そう聞かされたら退けんなぁ」
「負けず嫌いなんだね」
「ああ、そう聞かされたらなぁ。
俺は、その「難しい」を超えな、そこに追いつけんさかい」
「そう。なんだか知らないけど目標があるんだね」
「ああ…けど、一番凄いのはあんたや」
小太郎の口調は真面目なものだった。
「あんた、イギリス清教のシスターやろ。
インデックス、禁書目録、ちぃとは聞いてたけど、
俺らんトコでも関東と関西でこないだまで角突き合わせてたのに、
シスターがあんな本式な調伏でギリシャの蛇をねじ伏せるて
無茶にも程があるわ」
「それを実行した術者の素質もあるんだよ」
全く、純粋だからこそ食えない笑顔、どうにもかなわないと小太郎は肩を竦める。
「なあ」
「何かな?」
「あのウニのあんちゃん、いい漢やな」
「そうなんだよ」
輝く様な笑みを見せてトテテと立ち去るインデックスの傍らで、
シャットアウラの美しく謹厳な顔が年相応に綻んでいた事に
気付く者がいなかったのは実に惜しい事だった。
「さぁて、いい加減あんたには聞きたい事が」
「たいちょーっ!」
立ち上がり部下に応答して周囲を見回したシャットアウラは、
瞬時に消えた気配にふっと笑みを浮かべた。
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
そろそろ時刻もよろしい頃合ですか。
それでは今回の投下、入ります。
>>292
× ×
「つまり、そのまま逃走して来たって事か?」
「ああ、そういう事や。あの程度ならシメて話聞いても良かったけどな」
「やめろ、相手は科学の学園都市の認可部隊だ。
そんだけ目立った上に本格的に敵に回すな」
「ほな、いっぺん引き揚げるわ。
これ以上いても夜間外出自体が厳しいしなぁ」
「分かった、急ぎにしちゃあ十分収穫だ、有り難うな」
葉加瀬の研究室で、千雨が携帯電話を切る。
「禁書目録の見立てもギリシャの古典術式ですか」
その側で、夕映が捻った親指と人差し指で顎を掴む。
「じゃあ、やっぱりそういう魔法使いが関わってるって事だよね」
夏美が言う。
「くくっ」
そして、続けていたパソコンの操作に没頭していた千雨が、喉から笑い声を漏らした。
「長谷川?」
夏美が声を掛ける。
「相変わらず科学の学園都市の情報統制は厳しい。
こんだけネットが発達してあんだけ大っぴらに色々やっていながら、
外から普通のやり方じゃあろくな事が分からない」
「しかーしっ、その程度の情報制御、我ら電子精霊七部衆の手に掛かれば…」
「こんだけの事件でありながら死傷者ゼロ。
色々情報錯綜してるけど、どうやらこの結果もマジらしい。
上条当麻だけが病院に担ぎ込まれたらしいがな」
>>294
「良かった、アリサも他の人も無事で」
「ああ、良かったよ」
素直に反応した夏美に千雨が言う。
「ああ、良かった、本当に良かった。鳴護アリサの奇蹟の歌」
棒読みの喜びの言葉の後で、千雨が付け加える。
「くくっ、くくくっ、あははははははははっ」
それは、椅子にこそ掛けているが反っくり返った、
丸で最後に見破られて地べたに座り込んだ死神ノートの使い手の様な、
つまり、どこか狂気じみた笑い声だった。
「はせ、がわ?」
「鳴護アリサの奇蹟の歌だってさ。温い、実に温い。チャチな事してくれるぜ。
まあ、少しはやり方心得てる、
一般人相手なら余裕で騙せるレベルだけど相手が悪かったな。
さり気なく、しかし着実に、そしてとてつもない質量を、
そうやって麻帆良学園都市の対抗措置を凌駕してネット世論を掌握した
学園祭の茶々丸を知ってる私から見たら駄目だな、全然駄目だ」
「それって…」
「ああ、高度な電子戦って奴さ。
いや、あの時みたいなカウンターがいないんだ、電子戦ですらない一方的蹂躙か。
奇蹟の歌姫鳴護アリサ。今回の事に乗じて、
誰かが意図的にアリサを奇蹟の女神に祭り上げようとしてやがる。
ネット上でも玄人以上の巧妙さで工作が為されてる。
一見自然発生的に偽装されているが違う、
いや、相当数は見たままありのままを伝えてはいるが、
最初っからそれを上手に利用して意図的に誘導してる奴がいる」
>>295
「ちょっと待って!」
千雨の解説に夏美が叫ぶ。
「ちょっと待って、それじゃあコンサートが爆破されたのって…」
それに対する千雨の眼差しを見た時、夏美は握った拳を震わせていた。
その側で、千雨は吐き出す様に言う。
「ふざけるなだ」
千雨が操作したパソコンには、ファンの隠し撮りらしい一枚の写真。
それを見て夏美が呟く。
「御坂、美琴さん?」
「約束、守ってくれたんだよ。命懸けでな」
× ×
科学の学園都市にとんぼ返りした愛衣は、ショッピングモールの周辺にいたが、
流石にまだアンチスキルの警戒があって容易には接近出来ない。
それでも、様々な周辺観察から、
ここに来る迄に見たテレビニュースとはかけ離れて、
これが明らかに只の事故では無い事だけは把握出来た。
そうやって、現場周辺を歩き回る内に、愛衣はぴたりと足を止めた。
黒いフードを被ったローブ姿の人物とすれ違ったからだ。
その相手には、二つの意味の匂いがあった。
一つは、いわゆる雰囲気としての匂い、そしてもう一つは文字通りの意味での匂い。
どちらも微かなものであるが、ここで嗅ぐのは問題がある、
魔術師の匂いでありその材料の匂いだった。
>>296
× ×
「アデアット!」
とっさにオソウジダイスキを呼び出した愛衣は、その箒を右手に握り間一髪浮上した。
今まで自分が踏みしめていた足下には、ぼこっ、ぼこっと絡み付く様な土の塊が盛り上がっている。
「風楯っ!」
愛衣が左手で張った防壁が、前方から吹き付ける強力な暴風を断ち割って愛衣の左右に受け流す。
その暴風は、愛衣が追跡していた黒いローブの相手が扇子を一振りして巻き起こしていた。
どうやら、嫌になるほど単純なトラップに引っ掛かったらしいと、
愛衣は自分の馬鹿さ加減を痛感してしまう。
既に日の落ちた時刻とは言え、この市街地の公園にしては不自然な人の気配の無さ。
相手がこの相手では、つまり用意した場所に誘い込まれたと見るしかない。
果たして、少し離れた場所の噴水から相変わらず水柱の椅子に乗ったメアリエが姿を現し、
水の大蛇が愛衣に向かってぐあっと伸びてきた。
「メイプル・ネイプル・アラモード!…」
それを、出力的に対抗出来そうな火炎魔法で迎え撃ったものだから、
轟音と言うべき音と共に、辺り一面が霧に包まれた。
とにかく、このまま脱出するしかない。
あの三魔女の実力は前回にもある程度把握していたが、
一対一ならとにかくそれがまとめて、しかもチームプレイで来るとなると、
並以上程度の愛衣がまともに対抗するのは危険過ぎる選択だ。
「くうっ!」
しかし、一瞬で霧を吹き散らした程の強風が空中の愛衣から敏速さを奪う。
とうとう文字通り吹き飛ばされた愛衣が空中で体勢を整えようとするが、
その暇は与えられず、
「!?」
太い水の紐が愛衣の体を捕らえ、絡み付いていた。
>>297
「がぼがぼがぼっ!!」
そのまま、愛衣は水の紐に力ずくで噴水に引きずり込まれ、
噴水の池の中に沈められる。
「麻帆良学園の佐倉愛衣さんですね」
そんな愛衣に、水柱に乗ったメアリエが見下ろしながら尋ねる。
「聞きたい事があります」
「随分と手荒な質問ですね」
「最初から素直に答えてもらえる内容でもありませんから。
である以上、最初に立場を理解していただきます。こうやって」
「がぼがぼがぼっ!!」
引きずり込む力が緩み、顔を上げていた愛衣だったが、
にょきっと伸びた巨大な水の腕が愛衣の後頭部を掌で水の中に向けて押さえ付ける。
「今回の件に就いて、麻帆良はどの程度まで把握しているのですか?
どの程度の規模で行動していて拠点はどこですか?」
「げほっ、それは、八千人の部下が…がぼがぼがぼっ!!!」
「私達が日本の人気コミックに精通していないとでも思っていたのですか?」
「その割りには冗談が通じないですねごぼごぼごぼっ!!!」
かくして、息も絶え絶えの有様で愛衣の顔は上半身ごと水から引き揚げられる。
「そろそろ喋りたくなったでしょう…!?」
愛衣を拘束していた水の紐が音を立てて切断される。
そして、愛衣は池の中を駆け出した。
「ぐ、っ」
だが、すぐに池の水が流れ出し重い抵抗を生み出す。
力加減一つで簡単に足をすくわれ、転倒する。
「アーユーフーリッシュ?一度水に入って私から逃れようなどと」
池から湧き出す逆U字の水柱で池の中の愛衣の背中を押さえ付けながらメアリエが言い、
池の畔でそれを覗いている仲間二人共々笑みを浮かべる。
>>298
「ぶはっ…ぶぶぶ…」
圧力が消え、立ち上がった愛衣の姿は、
次の瞬間には直径一メートルを超えて屹立する水柱のど真ん中に立たされていた。
× ×
「全く」
公園内の、少し離れた木立の中で、ステイル=マグヌスは一服付けていた。
勝手に弟子と言いながら相変わらず先走って勝手な事ばかりをする連中だ。
だからと言って、今の所止める理由はない。
元々、ネセサリウスはその任務の大半を暗殺が占める、
中世風の異端審問にも磨きを掛けた紛う事無き裏の部署。
そして魔術師は我が儘な存在、組織に属していても簡単に組織に縛られるものではない。
自分達のやり方で成果を上げているのなら下手に止める必要は無い。
そんな事をしていてはこちらに火の粉が飛ぶぐらい面倒な存在なのが魔術師と言うものだ。
佐倉愛衣も裏の世界に関わりを持って仕事をしている以上、覚悟があっての事だろう。
「えっ、えほっ!」
「今から水を飲んでたら保ちませんよ」
「はわわわっ!」
ばしゃーんと崩壊した水柱の真ん中で胸を押さえて体を折っていた愛衣が強烈な浮遊感に悲鳴を上げる。
奇っ怪な形の太い水の腕が、手掴みにした愛衣の足首を持ち上げている。
そのまま、逆さ吊りに持ち上げられた愛衣の頭が池に沈められる。
二度、三度、何十秒もの間頭を沈めては、
水滴滴る巻きツインテ髪の先が水面スレスレになるまで持ち上げる作業が繰り返される。
「どう?そろそろ喋る気になった?」
三人娘の中でも比較する迄も無くスタイル抜群のメアリエが、
水柱の椅子で悩ましげに脚を組みながら笑みを浮かべて言う。
「その気になったなら喋らせて下さいお願いしますって言って頂戴ね」
「ごぼごぼごぼっ!!」
今度は60秒きっかり頭が沈められる。
>>299
「どう?そろそろ喋る気になった?
あなたは水には対抗出来ない、ましてここは私の術中。
所詮学校の学生、全部白状しますから命ばかりはお助け下さいって縋り付いて来ても
全然恥じゃないわよ」
「そうそう、ししょーの足下にも及ばない魔法使いなんて、
所詮私達の敵じゃないって訳よ」
「だからー、ダダ捏ねてるともぉーっときついお仕置きしちゃうんだからね」
「だから…っ!?」
愛衣の足首を掴む水の手に、愛衣の右手から火線が伸びる。
メアリエは瞬時に水柱を立てて愛衣を丸ごとその中に呑み込む。
「ぶはっ、げほっ…」
「本気で馬鹿?今のあなたに焼き切れる程私の術は甘くない。
その前に熱湯火傷で脚が死ぬだけよ。どうする?心が折れるまで続ける?
これだけでもね、あんまり続けて本当に折れちゃったら
結構再起不能でお部屋から出て来られなくなるわよ前例から言って」
愛衣を閉じ込めた水柱が音を立てて崩壊する。
メアリエは、僅かに怒気を滲ませながらも余裕を取り戻し、
改めて警告してから愛衣を唇まで水に沈める。
そして、逆さ吊りのまま高々と持ち上げた。
メアリエは、ひょいと水柱を降りてバシャバシャと愛衣に近づく。
「あなたも知ってるでしょう?イギリス清教の異端審問。
このまま水を胃袋に直結させたら(1)お食事ごとすっきり吐いちゃう事になると思うんだけど」
そして、丁度目の前の高さにある愛衣の腿を、
メアリエがキュロットの上から掌でぺたぺた叩く。
それを合図にした様に、残る二人も噴水に入る。
「お水が怖いのなら、
お空に吊したままで丸裸に剥いてあげましょうか?(2)」
>>300
× ×
級友、と、言う程ではないが、
互いに多少の覚えのある炎の魔術師として、
学校一つソドムとゴモラにしかけるぐらいには切磋琢磨した覚えはある。
あれから少々時間が経って、色々変わった事もあった。
幾度か相まみえた時にも、それだけの時の流れは確かに感じられた。
で、あるならば、些かの縁のある者として、
その成長をこの目で確かめると言うのも一つの定めと言うものであろう。
ステイル=マグヌスは煙草を携帯灰皿に押し込む。
全般的に、ネセサリウスの魔術師と最新科学との相性は良くない。
そもそも、あるレベルを超えた場合、科学と魔術の融合自体が
言わば彼らの「法」、「条約」として禁止されている。
そこが、麻帆良の魔法とは決定的に違う所であるが、今はそこには触れない。
とは言え、ステイル自身は科学の一端を小道具として、
あくまで科学を従として効率よく魔術を使う事は割と得意な方であり、
加えて、全くちんぷんかんぷんに等しい周囲の中では、
個人的に一般的な科学機材を用いるのは上手な方である。
従って、元々が調査業務も含まれている今回の任務に、
ステイルがこうして望遠機能付き高性能デジタルビデオカメラを持参していたとしても
さ程驚くべき出来事でもない。
>>301
「ここなら超能力とやらの仕業にしてごまかす事も出来るみたいだし、
人払いのルーンを逆転して人寄せにして差し上げましょう」
メアリエがそう言っている間にも、残る二人の魔女は
目の前に吊された愛衣のそこここを面白そうにぺたぺたむにむにと手掴みにする。
見た目は明らかに愛衣よりも年下、無邪気故の残酷。
イギリス清教ネセサリウス異端審問の専門部隊、
何が心に痛いのかをよく知り、実行する事が出来る。
「最近の科学は携帯とかインターネットとか色々便利と聞いていますよ。
科学かぶれはそちらが得手でしたね、麻帆良の美少女魔法使いさんw」
ステイル=マグヌスは安堵する。
高性能かつ多機能である。使う機会が少なければ即座に必要な対応が出来ない恐れがあったが、
モニターには高性能の望遠、補正機能により、
求めた通りの距離感、アングルの映像が映し出されている中、
赤字のRECランプが無事点灯している。無論、電池残量等という初歩的なミスは無い。
「その1とその2、どっちにするか>>で決めるってやり方もあるみたいだけど
後々の展開上作者が困るみたいからそれはやめておきましょう」
メアリエがひょいと降下した水柱の椅子に戻り椅子が上昇する。
後の二人も噴水を出る。
愛衣の足首を捕らえた水の腕が又、ゆっくりと下がり始める。
その愛衣の、恐らく最後の強がりを浮かべる表情を舐める様に眺めて、
メアリエは実際に自分の唇を嘗める。
>>302
夏の大事件以来、主導権を握った魔法協会と魔術、科学、政治、宗教、
表と裏のあらゆる勢力、権力が展開している政治、謀議、暗闘。
イギリス清教は裏でも表向きは魔法協会主導のプランに賛同し、静観の構えを取っている。
だが、腹に一物も二つも三つも、
魔物なんて生ぬるいものではないものを飼っているのは知っている人間なら分かり切っている事。
例え英雄を擁して圧倒的なスタートダッシュを決めた魔法協会相手でも、
こんなでっかく美味しい話、何れじわじわと総取りにかっさらいに掛かる。
そういう組織である事はメアリエの様な末端でも知っている。
ならば、裏と裏の暗闘で済むドサクサに、
末端でもちょっとは上にいるらしい魔法協会の手駒の一つや二つ、
完全に掌握しておくのも後々悪くない。
そしてメアリエは異端審問ネセサリウス所属の魔術師として、知っている。
心が折れる音も、その音がもたらす感触も。
そこそこ優秀な魔法使いと言う情報通り、大人し気だが芯の強いタイプ。
だからこそ、もうその舌の上に滴りそうなその甘美な心の悲鳴、
這いつくばって許しを乞う姿は、色々勃っちゃいそうなぐらいに上等と夢想できる。
「もう一回、頭冷やして考える?今度は三分?四分?十分?あ、死んじゃうか」
そう言いながら、愛衣の髪の毛に続いて額が沈んだ頭部がふるふる横に震えるのを眺め、
メアリエは腕組みして唇の端を歪める。
いける、恐らく頭の中では突っ張っているつもりでも、既に体が言う事をきかなくなっている。
「あんまり続けてると、私も疲れて事故とか起きちゃうかもね。
水の中に固定したまま解除の方法忘れちゃうとかスイカ割りの高さから全面解除しちゃうとか。
そろそろお鼻いっちゃうけど、お返事まだかしら?
又お口まで沈んだら五分ぐらい待たないといけないじゃない…」
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
乙
三弟子のフルボッコ喰らうフラグが立ちまくりやね
乙
処刑塔に連れていかれない時点でネセサリウスというかステイルのやる気のなさが伝わってくるな
現時点では完全に3弟子のお遊び
このSS見てネギま読み直したけど
結構面白いよな
設定アシが抜けたのが残念すぎる
巻末の魔術語彙集はすごく好きだったし
設定アシが抜けてなければあんな終わり方にはならなかっただろうな
ふふ。マリーベートの表記間違ってた。
今までがマリーベイト
正しくはマリーベート
耳コピで確認をぬかったわ。すいませんでした。
感想有り難うございます。
>>303
そう言っていただけると冥利です。
長かった連載も終わりさてどうかと思っていた所、
本作へのレスを見ていて、ネギま!を使った事をしっかり見られている事、
改めて身が引き締まります。
それでは今回の投下、入ります。
>>303
× ×
次の瞬間、魔女三人組と佐倉愛衣は、
近くを通り過ぎた、それだけでも吹き飛ばされそうな衝撃波の方向に首を動かしてぽかんとしていた。
「なーんか、レーダーの反応がおかしいと思ったらさぁ…」
その衝撃波の出所を見ると、親指を上げた、制服姿の中学生ぐらいの少女の姿。
(人払いを抜けて来たのか?)
「もしかしてあんたらも別系統の能力者とか?
そういう反応、こないだ見たばっかなんだよね」
(学園都市の能力者か)
メアリエは嫌な汗を感じる。
雰囲気と言い先ほどの威力一つとっても、話に聞く学園都市の中でも高いランクが推察される。
それが、人払いの術式を突破し、魔術を知っている口ぶりで敵に回りそうな情勢。
>>309
ごめん一つ目のアンカは>>307宛
続きいきます
>>309
「只でさえ虫の居所悪いのに、能力使って随分ムカツク事やってんじゃない!?」
三人娘の視線のサインと共に、乱入した御坂美琴の足に土の筒が絡み付く。
だが、美琴は、それをブチ割って走り出していた。
「何をしているマリーベート!?」
「何か、中で変な反応がっ!上手く統一出来、っ!」
マリーベートと美琴の間で、地面が意味不明にぐにゃぐにゃ動き所々で破裂する。
焦って両手を地面に着いたマリーベートは気が付かなかった。
地面の表面に、そのマリーベートの両手に向けて黒い線が移動していた事を。
「ぎゃんっ!」
果たして、術を練る前にマリーベートの両手は地面から弾き飛ばされる。
「ひっ!?」
痺れる体を懸命に動かそうとしていたマリーベートは悲鳴を上げる。
その周囲では、次々と爆発する地面から丸で噴水の様にどす黒いものが噴出している。
「目と口を閉じなさい、死ぬわよ」
それは、ぞっとする程冷ややかな警告だった。
マリーベートの仲間にその敵である愛衣ですら、俗に言うドン引きだった。
マリーベートを巻き込んだ黒い竜巻が収まると、
彼女達の前で、マリーベートの頭部は見た目一回りも大きなボーリングの球と化している。
「えっ、ええっ、べっ、べっべっ、べっ!…」
球状の砂鉄がバカンと割れて、膝をついて懸命に口を動かすマリーベートの前に、
エクスカリバーの如く細長い三角形の鉄片が勢いよく降下して地面に突き刺さり、
そこでバラバラと砂鉄に戻り砕け散る。
「あ、あああ、あ…」
「どう?息の根止められた感想は?それも自分の武器で?」
その返答は、心理的に筋肉が意思から完全に遮断された下半身と、
冷ややかな言葉と共にマリーベートにアイアンクローをきめた
美琴の掌に触れる液体が十分に物語っている。
むしろ、そのまま昏倒するだけの電撃を食らった事が幸せだった程である。
>>310
「このおっ!」
「くっ!(風力使いっ?)」
怒気を露わにしたジェーンが扇子を振るい、美琴の背中は近くの街灯へと突っ込んだ。
激突したと見たジェーンは、手を緩めず風を跳ね上げて、美琴の体を上空へと弾き飛ばす。
「他愛もない」
パチンと扇子を閉じたジェーンが鼻で笑って落下を待つ。
グロ画像は見たくもないし面倒なので、
取り敢えず降りて来たら地球接触寸前に吹き飛ばして
マリーベートの分まで精々人間ジャグリングを楽しませてもらうつもりだ。
果たして、美琴が真っ逆さまに墜落して来る。
(そろそろ…!?)
扇子を開いてタイミングを伺ったジェーンが目を見開いた。
その時には、軌道を変えた美琴の額が一直線にジェーンの額に激突していた。
「ちぇいさぁーっ!!」
目から星が飛び出した感覚が収まる暇も与えられず、
空中でひらりと体勢を立て直し着地した美琴の回し蹴りがまともに炸裂して
ジェーンの体が物理的に吹っ飛んだ。
「素直に吹っ飛ばされたから油断してたでしょう。
あんたに一直線に一撃出来る様に微調整してたんだけどね。
背中だって本当は街灯にぶつかる前に反発しといたし」
よろりと半身を起こして扇子を振るおうとしたジェーンは、
電撃込みのイナズマ走りで間合いを詰めた美琴に、
人間スタンガン機能付き裏拳を頬に叩き込まれて今度こそ昏倒した。
>>311
「浮かべっ!!」
「!?」
愛衣の聞き慣れた声と共に、
噴水の池の水がどっぱぁーんっと大音響を上げて爆発した。
拘束が緩んだその一瞬に、愛衣は力を振り絞って上昇気流を巻き起こす。
だが、不完全。空中でわたわたと整えようとしていた体勢が不意に安定する。
目に入ったのはずぶ濡れの黒髪。
気付いた時には、池の中に立つ犬上小太郎に、
太股と背中を下から支えられる形で抱え上げられていた。
「こ、こここっ、ここ、あうあうあうあう」
今の自分の体勢と、髪の毛もお肌も白いTシャツも茶色のキュロットも何もかも
たった今水の底から引っ張り出されたそのままの有様を見比べて、
愛衣は冷え切っていた筈の体で焼ける様な熱さを顔に感じながら縺れる舌を懸命に動かそうとする。
「は、ははは、力ずくでウンディーネを圧倒しましたか」
余りの馬鹿馬鹿しさに笑うしかないメアリエが大揺れした水柱を修復しながら言った。
「いやいや、大した事あらへんて。
ほんまに凄いおっさんやったら、今頃この池全部十メートルぐらい噴水して、
あんた逆さ吊りでパンツ引ん剥いて匂い嗅いでる所やさかい」
そう言った時には、小太郎は愛衣を立たせてから札を水に沈めていた。
「ヴァーリヴァンダナッ!」
「!?」
小太郎の詠唱と共に、水柱に乗ったメアリエに向けて水で出来た大量の手が伸びる。
「…邪悪なる…逆らいし…ウンディーネ!」
全身を掴まれたメアリエの叫びと共に、その腕は水に還る。
>>312
「き、さ、ま…」
怒りに震えるメアリエを前に、愛衣はぶるりと身を震わせる。
「ナ、メ、て、い、る、の、か?あの程度の、付け焼き刃の東洋魔法で
水の使役で私をどうにかしようだと?
余程、死にたい様だな。貴様がいるのは水の中、私のホームだと言うのに」
「そやなぁ」
それに対して、小太郎は頭の後ろで手を組んでのんびり返答する。
「何せ西洋魔術師でも使えるぐらいやからそうなんやろうな。
誰かさんにきちんと勉強せぇ言われたさかい、
丁度思い出したのやってみたかっただけやさかい。
どっちかって言うと、俺の専門はこっちやし」
「!?」
小太郎の拳が、ドカンと池の水に叩き込まれる。
「ふんっ、馬鹿の一つ覚えの馬鹿力…!?」
ばっしゃーんと上がった水柱を見たメアリエは、慌てて身を交わそうとしたが遅かった。
小太郎の叩き出した水柱から降ってきた黒いものがメアリエの視界を塞ぐ。
(あいつ、ウェアウルフ-人狼-それも使役者。
派手にやらかしている間に水中に待機させておいた、
鴨撃ち用の犬がいるぐらいだ。まして精霊であれば…!?)
その間にも、小太郎はどっかんどっかん池の中に拳を叩き込む。
そして、次々と噴出する水柱の上から、
既に先行組に押さえ付けられたメアリエ目がけて黒狗が次々と覆い被さっていく。
「やっ、やめっ、ひゃっ!?
お、おいっ、それを下げるなだから上げるなまくるな引っ張るな
ひゃうっ!や、やめっ、そこは、術式に集中ううっ出来いいいいっ
ああうっやめああっらめっそこはそこのっかったらあおうううっ
やめっらめ、なめらかられろれろらめぇ
らめらめっらめらめえええええええええっっっっっ!!!」
「ほな行こか、寒かったやろ」
「はい」
>>313
× ×
「何をやっている…」
苦り切った口調で呻いたステイル=マグヌスは、
高性能望遠デジタルビデオカメラをしまいこみ、ルーンカードを手にする。
そのまま池でお湯でも沸かすのかと言うぐらいに
全身ピンク色に湯気まで立ててほこほこと茹で上がり、
息も絶え絶えに舌を頬へと流しながらぷかーっと浮かぶメアリエの無惨な敗北は、
カメラのモニター越しにこの目で確かめてデータによる視覚的な再確認も可能であるが、
この展開はちょっとまずい、どころではない。
「でも小太郎さん、どうしてここに?」
「ああ、ショッピングモールの件で現場に行ってたからなぁ。
そしたら、愛衣姉ちゃんも来てたの分かったさかい、
ちぃと話でも出来ないか追い掛けてたんやけど、
誰か結界ぶち破ってくれたらしいな。それまでこの辺うろうろしてたわ」
「そうでしたか…!?」
とにかく、深呼吸して、これからの事に就いて
魔法使いとして相応しい対応をしようと思考を整えていた矢先、
愛衣はバッと呼び寄せた箒を振るっていた。
空中で、火炎波と火炎波が激突する。
「やはり炎を察知するのは早いか。面倒な…」
木立の中で、ステイル=マグヌスは当然苛立っていた。
麻帆良のみならず、よりによって高レベルの能力者まで絡んで来たとなると、
科学の学園都市側との暗黙の了解すら面倒な事になりかねない。
炎を飛ばして酸欠に出来れば上等だと思ったのだが、
こうなっては本気を出すしかないかも知れない。
>>314
「おい」
「?………
………あーーーーーーーーうーーーーーーーーーーーーー………」
何かを察知した小太郎と愛衣と美琴は、
遠くから飛翔してきらーんとお星様になった何かが
ドッパーンと池に墜落するのに合わせて首を動かしていた。
「何か嫌な感じがするから敢えてジョギングコースにしてみれば。
陰でコソコソ見物しながら遠距離の不意打ちとは根性が足りんな」
「お、のれっ、
そもそも僕はこういう直接的な暴力、は…」
元の場所から遠く離れて誰に言っているのか分からない言葉を呟きながら
池の中で立ち上がろうとしたステイルは、
メデューサ、と言うよりはヒュドラとしか思えない黒い影が
我が身に被るのを目にしてそろそろと視線を上げる。
そこで目にしたのは、素晴らしいおみ脚だけなら良かったのだが、
ヒュドラだろうがケルベロスだろうがゼウスだろうがキャン言って
尻尾を巻いてダッシュで逃走する程の眼光が漏れなくセットでついてきていた。
「愛衣との連絡が付かないから探して来て見れば。
随分と丁寧なご挨拶を頂いた様ですね」
ご丁寧な返礼と共にぼきっ、と拳を慣らしていたが、
その背景はゴゴゴゴゴと禍々しいオーラだけでは無かった。
「あ、あーあー、ちょっと待ちたまえ、
高音・D・グッドマンさん?君、学園都市のど真ん中で黒衣の夜想曲を発動させるって事が…」
「ご心配なく。さすがは科学の学園都市、
この程度のサプライズは実験用ホログラムと言う事で納得いただける様ですわ」
ステイル=マグヌスの懸念を、
高音・D・グッドマンはエレガントな微笑みと共に一蹴した。
「と、言う訳で、[ピー]ね」
簡潔な命令と共に、大量の触手が突入した池がばっしゃーんと大波を上げる。
やぶれかぶれのステイルの火炎ルーン発動と共に一帯が霧に包まれる。
>>315
「た、退却だ退却退却ーっ!いいか、これは決して敗走ではない、
あくまで総合的判断による転身と言うものであって!…」
「はいししょーっ!!」
「待てやゴラアアアアアアアッッッッッッ!!!!!」
本来力仕事は専門外の筈だが、這々の体で池を脱出して
行きがかり上完全にKOされていたチビ魔女二人を小脇に抱えて爆走するステイルと、
ぐにゃぐにゃにふらつく体をぎくしゃく立て直しながら必死に追走するメアリエの周辺の地面に、
ズガンズガンズガンと容赦なく杭打ち機の様な触手が打ち込まれる。
「おい」
「ん?」
「さっきのパンチ、なかなか根性が入ってたな」
「ああ、兄ちゃん強そうやな。雰囲気で分かるわ」
「「………」」
どっぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんんんんんんんんっっっっっっっっっ
色彩豊かな煙に巻き込まれ、目が点になっていた愛衣と美琴に辛うじて理解出来たのは、
吹っ飛んだ何かが自動販売機を直撃したと言う事だった。
「やばっ、私達も逃げるわよっ」
「は、はいっ!」
× ×
「………」
神裂火織は、物思いに耽っていた。
例の弟子とか言うオテンバ達に引っ張られてる危なっかしさを懸念してこうして追い掛けて来た訳だが、
時既に遅し、こうなってはここで自分が出て行っても余計収拾が付きそうにない。
まあ、ステイルならなんとかなるだろう。
取り敢えず、神裂の手には空から降って来たデジタルビデオカメラ。
神裂はネセサリウスに相応しく生粋の機械音痴。
基本、距離と言う概念が限りなく無効化している神裂火織である。
何だか知らないけど何かの証拠品なら後で女子寮の面々にでも聞いてみよう。
そんな神裂の最大上司も、これ又そうである事が信じられないぐらいのハイテク愛好家である訳だし。
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
おつ
それでは今回の投下、入ります。
>>316
× ×
生き返る。
佐倉愛衣が温かいシャワーを浴びて感じたのは、この例え言葉そのままだった。
時間をおいて少しは回復したかと思っていたが、
温かなシャワーを浴びて洗い流すと、
衛生的とは言えない冷水で芯まで冷え切っていた事が改めて分かる。
御坂美琴と共にダッシュで逃走し、その後、
コンビニすら入店の憚られる有様の愛衣は某所で美琴に見張ってもらって
Tシャツとキュロットだけ雑巾搾りしてから今に至っていた。
こうして、冷え切っていた肉体に些かの余裕が出来た所で、
凍てついていた脳味噌が動き出すイメージも感じられる。
彼女は魔法使いのエリート候補として内なるプライドは低い方ではないが、
同時に、聡明な少女である。事、仕事に於いては物事を無駄に高くも低くも考えない様に努めている。
うかうかと敵の術中に踏み込んでしまった事は反省点だろう。
ステイル=マグヌスを初めとして、相手のホームに踏み込んでしまったら
その時点で命が危ないと言う事は魔術の性質上、それ以外の場面でもよくある事、
それは注意しなければならない。
一方で、戦闘で負けたのはそれは総評としては仕方がないと言える。
魔法戦は相乗作用、方程式の要素が強い。
余程の力差が無ければ、系統の違う三人の魔術師を一人で迎え撃つ事など出来る相談ではない。
あれは、負けるべくして負けた状況であり、
細部の工夫はあり得ても結果自体を変えるのは極めて困難だった。
無論、只の言い訳はしたくはないが、こうして生きて次を迎えられた以上は、
仕事である以上冷静に現実を認識しなければならない。
きゅっと蛇口を止めて壁に向かって考える。つい先ほどの記憶を辿る。
転機が乱入して来る迄の自分はどうだったか?
果たして、後一分それが遅かったら、自分の口は何を喋っていたか?
それが恥であったかどうかじゃない、何でもありを相手にする事もしばしばある仕事であり、
である以上、限界がある人間である以上そもそもその状況を作ってはならないのが反省点だ。
>>319
そう考えても、心から溢れ出すものを完全に止める事は出来ない。
このぐらいの心のブレも又人間だから、仕方がない。
只、出来るのは頭から温かいシャワーを浴びる事だけ。
悔しい思いは消せない。それも現実。
体に残る記憶は、痛みと共に、しっかりと支えられて抱え上げられた力強い感触。
「…情けない所、見られちゃったなぁ…」
× ×
気配を感じて、愛衣は身を起こす。
そして、自分をにこにこ笑って覗き込んでいる顔を見て、
ほんの少し考えてからガバッと身を起こした。
愛衣は、バスローブ姿でリビングのソファーに横たわっていた。
「す、すいません」
「いいって。疲れてたんだね、よく寝てたから」
立ち上がった御坂美琴がそう言って、折り畳まれた衣服を近くに置く。
「洗濯上がったわよ」
「ありがとうございます」
美琴の言葉に、愛衣はぺこりと頭を下げる。
まともに出歩ける状況ではなかった愛衣は、
美琴に勧められるままにこのホテルの部屋に来ていた。
下着は途中のコンビニで購入したが、
後はこの通りシャワーを使っている間に洗濯して貰っていた。
「あの」
「うん?」
「御坂さんはどこか別の所から?このホテル…」
「いや、佐倉さんがあのままじゃ出歩けなかったでしょう。
だからこうやって支度するのに借りたんだけど」
最初、愛衣には、逃走中に名乗り合った御坂美琴の言っている事がよく理解出来なかった。
何とか辿り着いた結論が、
この同年代の少女の金銭感覚は少々かけ離れていると言う正確な分析結果だった。
かなり面白い!
>>321有り難うございます。
では続き
>>320
「いただきます」
「美味しい?」
「はい」
テーブルを挟み愛衣の対面の椅子に掛けてにこにこしている美琴に愛衣は応じる。
状況的に至ってポピュラーな選択と言えたが、
美琴のいれてくれたココアは美味しく、有り難かった。
「でもさぁ、佐倉さん」
「はい」
「何で又あんな事になってた訳?」
「分かりません。あの三人に絡まれてああ言う事になったとしか」
あの場面で打算無しに助けてくれた気のいい、崇高なと言ってもいい相手に胸が痛むが、
元々、魔法使いの仕事は嘘が多い仕事、その辺の割り切り、
時間があれば話を作っておく事は仕事柄弁えている。
「佐倉さんを助けてたあの男の子、知り合い?」
「いえ」
「そう、私は知ってるんだけど」
「お知り合いなんですか?」
入浴中に覚悟は決めておいた、相手は科学の学園都市でもあれだけの能力の持ち主。
勝手に巻き込むのは政治的レベルでも問題がありすぎると。
だから、今もポーカーフェイスは貫いている筈だ。
「うん、ちょっとね。あの三人も能力にしてはちょっと変だったし、
多分別系統の能力なんだと思うんだけど」
愛衣の背中にじっとりと汗が伝う。別系統の能力、それは魔法に違いない。
ここまで短時間見ていても、かなり頭の回転が速い少女だ。
助けてもらって悪いが徹底的に交わすしかない。後で小太郎に要確認だ。
「それで、佐倉さんってどこの学校?レベルは?
発火能力でもいい線いってたみたいだけど」
「まだ決まっていません」
「え?」
>>322
「ごめんなさい、詳しい事情はお話しできないんですが、
とある事情により、これからとある研究機関での研究を経て
編入先を決める事になっています。それ以上は今はお話し出来ません」
「そういう事」
美琴が、ホテルのメモ帳にさらさらと何かを書き付ける。
「佐倉さんの事信じてない訳じゃないけど、秘密の研究って、
この街の研究は色々イカレてる事もあるの。今回の事だって裏があるかも知れない。
だから、何か危ない事があったら私に連絡して。
私は学園都市レベル5第三位御坂美琴、少しは何か出来るかも知れない」
「有り難うございます」
心から感謝の言葉を述べた愛衣は、メモを受け取ろうとして、
テーブルの上でメモを摘んだ美琴の温かな手をその手で包み込む様にしていた。
不意に、大魔王降臨と言われても一切違和感の無い
とてつもなく禍々しいオーラを感じた愛衣は、それを辿り窓に目を向ける。
(ひいいいいいっ!!!)
ホテルの一室でバスローブ姿で御坂美琴と向かい合い、
手を手で包み込む様にしていたバスローブ姿の佐倉愛衣は、本日二度目の死を覚悟した。
× ×
「逆さ吊りの水責めだ?」
カツカツと女子寮の廊下を歩きながら、千雨は急報を告げた携帯電話に向けて言った。
「ああ、何とかかんとか助け出したんやけど、
アンチスキルやらが動き出したんで詳しい事はまだ分かってない」
「おい、大丈夫なのか?」
「ああ、俺は大丈夫、何とか振り切った。
愛衣姉ちゃんもゴタゴタしてる間に逃げたらしいけど」
「って言っても、あの三人にとっ捕まってずぶ濡れだったんだろ」
「ああー、ありゃ結構痛め付けられてたな。
向こうさんもお互い表に出せない科学の学園都市にいる間に
麻帆良学園側がどんだけ掴んでるか掴んでやろうって辺りやろうけど」
>>323
「佐倉、大丈夫なのかよ」
「ああ、じゃぶじゃぶに水浸しにされてたけど大きな怪我は無かったわ」
「そうか…それで、お前に助けられたって言ったな」
「ああ」
当たり前の様に返答する小太郎の声に、千雨は嘆息する。
さてどうするか、フォローする様に夏美に言わせるのも色々おかしい気もするし、
大体、今この状況でええいもう知らんと言うのが本音の所だ。
「取り敢えず分かった、落ち着いたら又ゆっくり聞かせてくれ」
「分かった」
電話を切った千雨は目の前のインターホンを鳴らし、
現れた同級生神楽坂明日菜に促されるままに麻帆良学園女子寮643号室に入る。
明日菜からの呼び出しでここを訪れたのだが、ふうっと息を吐いて中に入ると、
明日菜と共にこの部屋に住む近衛木乃香がお茶を入れてくれた。
明日菜、木乃香の住むこの部屋を事実上の住所としているネギは今もいない。
そう言えば、自分がこの部屋を訪れたのはいつだっただろう?
自分はここでこの部屋でネギと会ったのだろうか。
その間に、携帯電話を使っていた明日菜がそれを千雨に差し出した。
「もしもし」
「もしもし、チサメ!?」
それは、賑やかで幼い声だった。
「あ、アーニャか?」
「そうよ。科学の学園都市で何かしてる麻帆良の生徒ってチサメの事なのっ!?」
「ちょっと待て、何がどうなってる?順を追って話してくれ」
千雨が驚きを踏み止まる。
イギリスにおけるネギの年の近い同窓生であるアンナ・ココロウァ通称アーニャ。
なんでそんな所に話が飛んでいるのか、ここは慎重に進める必要がある。
>>324
「あのね、ウェールズはケルトの本場、
大雑把に言えば日本人がイメージする魔法使いのかなりの部分がウェールズの魔法文化なの。
だから、ウェールズ自体が魔術の世界でも一大勢力であり人脈、
ネセサリウスにもウェールズ出身の魔術師は何人もいるわ。
そこから麻帆良と科学の学園都市に関する情報が入って来てたからアスナに調べてもらってたのよ。
麻帆良が関わるって事になったら、ネギの出身であるウェールズにも関わって来る事だから、
ネセサリウスよりも優先的にこっちに情報を持って来る人もいる」
「分かった、大体飲み込めた」
「それで、どうなの?」
「確かに、私は今科学の学園都市に関わってる。
それが表になったらネギ先生や他の人に迷惑になる事も知っている。それは済まないと思ってる」
「鳴護アリサ、って知ってる?」
「私の友達だ。そのアリサが科学の学園都市でネセサリウスに狙われてる。
ストーカーが魔術師なら警察に頼む訳にもいかない」
「そういう事ね」
「そっちでもアリサの事は何か?」
「生憎、魔法協会系列では、アリサ関係の情報は出遅れてるわ」
「みたいだな。麻帆良の方も同じらしい」
「それでも、ネセサリウスの方針は分かった。
ネセサリウスはアリサの力、奇蹟の力を恐れている。
正確に言えば、それが科学の学園都市に渡る事をね。
奇蹟が魔術であるなら、それが科学的に分析されて再現された時、
魔術と科学のパワーバランスに大きな影響が出るから」
「麻帆良でも、ネセサリウスの目的に就いては大体その筋で読んでるよ。
アリサの事をそれ程恐れているのか?」
「聖人、聖なる人、神の子に似たもの。
ネセサリウスは鳴護アリサの能力、みたいなものに就いてそのレベル、
つまり非常に高いレベルで考えている。
聖人絡みだとすると、ネセサリウスが無茶するのも頷ける」
「それで、連中アリサをどうするつもりなんだ?」
「その事なんだけど、ショッピングモールのアリサのイベントが爆破されたって話聞いてる?」
「ああ、聞いてる、あれはやっぱり爆破されたのか?」
>>325
「こっちに入ってる情報から見ても、それが正しいみたいね。
あれだけの規模の爆発事件でありながら死者重傷者はゼロ、正に奇蹟の歌ね。
そして、この事件にもイギリス清教の関わりが疑われてる」
「なんだと?」
「現場でイギリス清教のエージェントが目撃されてるのよ」
「それは、ステイルか?それとも、うちの桜咲並にバカデカイ刀持った
本人もかなりデカイ日本人の女か?」
「どっちも違う。女の方は神裂火織ね。経歴がユニークだし実力者だからこっちにも聞こえてる。
ステイルも、ルーンの天才の魔女狩りの王。
でも、そんなレベルのエージェントじゃないわ」
「そんなレベルじゃない?」
「これは、私が魔法学校でも信頼出来る人から聞いた話で、
その人も絶対に信頼出来る筋からの情報だとしか教えてくれなかったんだけど、
ショッピングモールの爆破現場でイギリス清教のエージェント、
それもかなりの上級者が目撃されてるのよ」
「それは聞いた」
「うん。そのエージェントって言うのが、どこから見ても日本人の女子高校生、
むしろ日本人以上に日本人って言ってもいい、
丸で墨で描いた日本画に出て来そうな、最近の日本では珍しいぐらい日本人っぽい女の人なんだって」
「女子高校生って事は制服でも着てたのか?」
「そうみたいね。その日本人の女の人が身に着けていたのがイギリス清教の霊装、
簡単に言えば魔法具なんだけど、ステイル辺りが許される様な霊装じゃなかったって」
「その霊装が高いレベルだったって事か?」
「そういう事。ステイル辺りが持ち歩くものじゃない、
非常に高いランクのイギリス清教の霊装だったって。
それを、どこから見ても日本人の女子高校生が所持して鳴護アリサの爆破現場に出没していた」
>>326
「やったのはイギリス清教だってのか?」
「分からない。第一、ネセサリウスにしてはやり口が派手過ぎる。
こんなに表立って、それも科学の学園都市で事件を起こすのは本来彼らのやり方じゃない。
だけど、どこまで難しく考えるべきか分からないって考えもある」
「現場の落とし物は単純に犯人が落としたのか事前に盗まれたのか、ってか」
「でも、こっちの魔法関係では関係する事件に就いての警戒ランクが上がって
水面下の情報収集が本格化してる。
イギリス清教とこちらの魔法関係との関係は両者の立場を考えると良好だし、
イギリス清教と科学の学園都市の関係に就いても、
こっちの魔法関係でも裏側の窓口として黙認していた部分があるんだけど、
余り派手に好き勝手されると話は別になって来る。
お互い、世界でも有数の魔術勢力が外套の下でナイフ研ぎながら笑って握手してるみたいなモンだからね、
抜け駆けを許してたら命取りになる」
「お前らも本格的に動き出す、って事になるのか?」
「そうなった場合、直接的に動くのは、
現地の管轄で直接の提携関係にある関東の魔法協会だと思う」
「じゃあ麻帆良か」
「その可能性が高い。もちろん、こっちはこっちでイギリス清教との
表と裏の交渉、工作を続けて無駄な争いは避けようとする筈だけど、
こっちとしても譲れる事と譲れない事があるから」
「そうか」
>>327
「とにかく、これは魔法関係の話で、
しかもかなりきな臭い情勢になってるって事だけは伝えておくからね。
それで、チサメは自分がネギの従者だって事分かってるわよね」
「ああ、分かってる…」
そこまで言って、一度言葉を切る。
「分かってる、ネギ先生に迷惑掛ける様な真似はしない」
「分かってるならいい。でも…」
「ん?」
「鳴護アリサはチサメの友達、なんだよね」
「ああ、そうだよ」
「分かった。元々、アスナならとにかく
チサメが自分から危ない事するなんて最初から考えられないし」
「そりゃそうだ」
「分かった。じゃあ、バーイ」
「お休み、いや、そっちは時間違ったか。じゃあな」
千雨が電話を切った。
「千雨ちゃん?」
明日菜が心配そうに声を掛ける。
「少し、疲れた。後でゆっくり話すって事で頼む」
今回はここまでです。
>>323
()の下、一つ目の「バスローブ姿で」
削除したつもりが削れてなかったorz
続きは折を見て。
乙
本人が知らないとこで重要度上がる■■ェ・・・
乙です
久しぶりに来たが面白いな。
感想有り難うございます。
それでは今回の投下、入ります。
>>318
× ×
「アデアット!」
バック転で自分の座っていたソファーを飛び越した佐倉愛衣は、
そのままテーブルに向かって片膝ついて、両手持ちした箒を捧げる様に横に持つ。
その間に、テーブル上空の空間に突如姿を現した車椅子少女が
重力に従いドガシャーンとばかりにテーブルに着地する。
「…メイプル・ネイプル…」
「やめいいっ!!!」
「あうぅぅぅぅぅ…」
御坂美琴の絶叫と電撃と共に、突如室内に流れ出した
シリアスバトルシーン的BGMがよく似合いそうな雰囲気は唐突に中断する。
佐倉愛衣は箒を両手持ちしたまま前のめりに倒れ込み、
握った両手の指の間全てに鉄矢を挟んだ白井黒子は
そのポーズのまま恍惚の表情で酔い痴れる。
「おにぇえしゃまあぁぁぁ…」
「お姉様?」
気を取り直した愛衣が呟く。
「あのー、ご姉妹…いや、後輩さんですか?」
「正解」
美琴がちょっと驚いた表情で言う。
次の瞬間、佐倉愛衣は飛び退き、片膝ついて箒を捧げる様に横に持つ。
その前方に白井黒子がどっかーんと着地する。
「まぁーっ!よろしいですか見知らぬあなた!?
わたくしとお姉様はその様な平易な概念でとにかくあなたの様な…」
「くっ!メイプル・ネイプル…」
「やめいいっ!!!」
>>332
愛衣がもう一度バック転して距離を取り視線と視線が火花を爆裂させた次の瞬間、
御坂美琴の絶叫と電撃と共に、突如室内に流れ出した
シリアスバトルシーン的BGMがよく似合いそうな雰囲気は唐突に中断する。
佐倉愛衣は箒を両手持ちしたまま前のめりに倒れ込み、
握った両手の指の間全てに鉄矢を挟んだ白井黒子は
そのポーズのまま恍惚の表情で酔い痴れる。
「はらひれほれ…」
「あんたねぇ、この狭い部屋ん中で水浸しの次は火事場に突っ込みたいの?」
「ごめんなさいです…」
「くぅーろぉーこおぉー…」
「お姉様あはああああんっっっあの様なあぁぁぁぁぁぁぁんっっっ
わたくしと言うものがあぉぉぉぉぉぉぉんんんありながらはああああああんんんんん!!!」
「やぁーめぇーいいいいいっっっっっ!!!!!」
目の前の火花舞い散る密着戦をぽかんと眺めていた愛衣は、
やがてくすくすと笑い出した。
「あはっ、あはははっ」
余りに快活な笑い声に、ようやく二人ともそちらを見る。
「あ、ごめんなさい。仲、いいんですね」
くすくす笑いながら言う愛衣の前で、
黒子がどかんと両手で車椅子の肘掛けを叩く。
「仲がいい?仲がいいですって?
いいですかどこぞの馬の骨さん、わたくし白井黒子、
お姉様の露払いとしてその絆はその様な凡庸なほぎゃあああああっ!!」
「あー、まあ気にしないで、悪い娘じゃないから」
「はい」
くすっと笑って答える愛衣は、こりゃ男が見たらかなわんわこのザ・女子め、と美琴に思わせる。
それでいて、自分が見ても不快ではない。
女子校の中でも高見で一歩引いている美琴から見ても、素直ないい娘なのだろう。
と言うのもあるが、どうも女子校の呼吸を知っている匂いがする。
>>333
「それでは失礼」
ぺこりと頭を下げて、愛衣は着替えを持ってバスルームに引っ込む。
「では、そろそろ行きます。待たせている人もいますので。
今日は本当にありがとうございました」
リビングに戻って来た愛衣が、改めて一礼する。
清々しくて圧倒的なぐらいだ。
「うん…良かった」
「え?」
「いや、結構えぐかったからさぁ。
もしかしたら無理してるかも知れないけど、元気そうで」
「そうですね。ご心配有り難く受け取らせてもらいます。それでは」
「ん」
かくして、ぱたんとドアが閉じられる。
御坂美琴は、顎を指で撫でて考えていた。
(発火能力者…別系統の能力なのかはちょっとおいておいて…
さっき、黒子の突入と同時に陽炎を作ってた。
焦点をぼかしてレーダーを張った?相手がテレポーターだから?
体で感知出来る?判断力も実戦経験も…)
ずりずりと腰から上がって来る両腕の感触を把握しつつ、
御坂美琴は背後の白井黒子の頭を左腕でがしっと掴み、
白井黒子は本日幾度目かのご褒美の時を迎える。
× ×
「もしもしっ!」
女子寮の廊下で、
携帯を取りだした長谷川千雨は縋り付く様にしてメールを読み電話を掛けていた。
「もしもし、ちうちゃん?」
「ああ、無事だったんだなっ!」
ようやく周囲を見回し、千雨は小声で叫ぶ。
>>334
「うん」
「怪我は?」
「大丈夫」
「みさっ、いや、えーと、他に怪我人とかは?」
「大丈夫、みんな無事だった」
「良かったぁ…マジ奇蹟かよ…」
「奇蹟…」
「ん?」
「うん、奇蹟だって、みんな言ってる」
「だな、ネットを見ても、相当な大事…大きな事故だったんだろ、
それで大きなけが人が出なかったんだから」
「でも、本当に奇蹟があるんなら、そもそもあんな事起きなかったんじゃないかって…」
「あっ」
アリサの悲しそうな声に、安堵で一杯だった千雨がようやく本来の何かを取り戻す。
「この間だってそう、当麻君も危ない所だった、
本当ならそのまま下敷きになるぐらい危ない事で、
それで怪我して、私と一緒にいてそんな事になって。
それが奇蹟の歌だって、奇蹟だって」
「それは…」
「言ったよね、私、三年前からの記憶が無いって」
「ああ」
「歌っている時だけは私でいられる。
私の歌でみんなを幸せに出来るんなら、いつか取り戻す事が出来るかも。
そんな気がしていた。だから私、歌い続けた。
でも、私の歌が奇蹟なら、選ばれたのも奇蹟なのかも知れない」
「おい」
「本当に奇蹟かあるのなら、そもそもあんな事は起こらなかったんじゃないかって。
あんな事故が起きて、それでも私の奇蹟だって、
私の歌で、私だけ幸せになって、それが奇蹟…」
「JK」
「え?」
>>335
「常識で考えろ。
科学の学園都市には色々な能力があるかも知れないが、
そこまで行ったら能力じゃない、神様だ。
そして、そんな中途半端な神様がいてたまるか。
何が奇蹟で何が幻か、そんな事知るか。
分かってるのはアリサが自分で努力して一歩も二歩も自分の足で進み続けたって事だ。
努力だけでどうにかなれば世の中苦労しない。それでも、努力抜きじゃあ絶対どうにもならない。
それをやって来たんだろうアリサは」
「うん」
「じゃあ信じろ。
神様なんかじゃない、自分で前に出た人間の力だ。
あの歌を歌って来たアリサ、関わって来たスタッフ、
そして後押しして来たファンの、人間が力を尽くしたステージだ。
自分が何者か?私の知ってる鳴護アリサは堂々たる歌姫で私の自慢の友達だ。
今は、そいつを信じろ。そいつを信じて吹っ切って前に進んじまえっ」
「うんっ」
「それで、奇蹟ってのがあるんなら、ああ、あるんだろうよ、
一歩踏み出した勇気についてくる奇蹟とか魔法とかあるんだよって言う奴がな。
アリサが自分で掴み取った奇蹟の歌姫なんだ、きっと適うさ」
「ありがとう、ちうちゃん」
「ああ、まあアレだ、自分で言ってて今すぐ枕で窒息してぇ」
「くすっ、有り難う、ちうちゃん。
もう大丈夫みたい。頑張るから、私」
「ああ、及ばずながら応援してる」
電話を切った千雨は、握った左手の側面でガン、と近くの壁を殴っていた。
「千雨ちゃん…」
「神楽坂か」
背後に姿を現した明日菜に千雨が声を掛ける。
>>336
「知るかよ」
千雨が吐き出す様に言った。
「知るかよ、ギリシャだろうがイギリスだろうが知った事かよ…
神楽坂、まだこっちにいるのか?」
「うん、次の予定まで何日か空きがあるみたい」
「大変だな…いや、素直にそう思う。そうか…」
× ×
「おねーさまー」
「メイ、来ましたか」
「すいません、遅くなりました」
科学の学園都市内の合流地点で、駆け付けた愛衣に腕組みした高音が言う。
「大丈夫ですか?怪我等は?」
「はい、大丈夫です。すいませんでした」
「そうですね、それで情報の漏洩などは?
正確に把握する必要があります」
「正確に言います。大丈夫です。
私は何も喋っていませんし奪われた情報も無い筈です」
「そうですか。全くの無反省でも困りますが、
元々無理な戦力での活動を指示したのも確かです。
ですから程ほどに反省なさい、あなたなら出来るでしょう」
「はい」
「では、報告は後で。無事で良かった。心配しました」
「はい。すいませんでした」
「では、行きますよ」
「はい」
高音が言った事はおおよそ本心だった。
愛衣は真面目な性格なので、体は元より心のダメージも懸念していたが、
幸いにも回復出来そうな傷で済んだらしい。
無いに越した事はないが、今後の仕事もある。経験として糧になれば幸いだ。
>>337
× ×
「聖人か…」
土御門と神裂からアリサに関する大凡の説明を受け、上条当麻は呻いていた。
聖人である可能性が指摘されている鳴護アリサ。
故に、イギリス清教は科学の学園都市による分析を恐れ、
アリサの確保に動いている。
そこで、上条は思い出した。
「魔法使いもそれで動いているのか?」
「魔法使い?」
「ああ、魔法協会とか言う連中が動いてるだろ?」
「カミやん、麻帆良学園の事は知ってるかにゃー?」
「インデックスが言ってたな、あれは麻帆良の学生だって」
「だろうな。麻帆良学園、学園のある麻帆良学園都市は、
事実上関東魔法協会そのもの、実態は魔法の学園都市。
たかーい塀に囲まれてる訳じゃないけど、入った人間を魔法でナチュラルに洗脳して
不思議な事が不思議に思えなくなるこわーい街だにゃー」
土御門の冗談とも真面目ともつかぬ説明は、早速に上条を苛つかせる。
「それで、その魔法の学園都市がどうしてこの件に噛んで来てるんだ?」
「それが、向こうさんの意図は今の所よく分からんですたい。
情報収集しようにも、おしゃまなクソガキ共が先走った事してくれたもんで、
次に顔合わせたら血の雨が降るにゃー」
土御門の言葉に、神裂も目を閉じて暗黙に同意している。
土御門はビッと三本の指を立てた右手を突き出す。
「麻帆良の人間がこっちに出入りしてるのは間違いないにゃー、
それも、三つの勢力がそれぞれに動いてる」
「三つ?」
「まず、麻帆良の学園警備。向こうの学園で正式に仕事をしている魔法使いぜよ。
この連中がこの学園都市に出入りしてる。
この連中の目的は、恐らく鳴護アリサに関する情報収集だにゃあ」
>>338
「こないだステイルとやり合ってた箒の娘やその仲間か?」
「そうです」
上条の問いに神裂が答えた。
「二つ目、これが本格的に正体不明、って事になってるにゃあ。
どうも、お友達のためにプライベートで出入りしてるみたいだからにゃあ」
「あの時会った眼鏡とか学ランとか姿を消す魔術師連中の事か」
何となく雰囲気を察知していた上条の言葉に神裂が頷いた。
「プライベート」
「多分にゃあ。だから却って分からない。
まあ、僕もかわいー幼馴染みフラグの一本や二本立ててるっつー事ですたい。
ま、義妹には適わないけどにゃー」
「何が僕だよ」
本格的に訳の分からない事を言い出す土御門に上条が毒づく。
「そして三つ目の、ヒーロー」
「ヒーロー?」
「そう、ヒーロー。
世界の全てを救済して全ての人が笑って暮らせる世界を創る。
それを自分で現実に出来るぐらいにとてつもなく巨大なパワーと
実現させるための心の強さを持つ正真正銘本物のスーパーヒーロー。
そんなものが実在するのは非実在少女の世界だけじゃなかったって事だにゃあ」
「そのヒーローが魔法協会の人間でこっちで動いてるって事でいいのか?」
「オーケーですたい。こちらは表向きの意図がハッキリしてて学園都市にも話は通してる。
だからこそ、この時期なのが故意か偶然か、そこが問題だにゃあ」
「魔法協会ってのは陰で人助けをしてるだけで害は無いって話だったぞ」
「それが状況が変わったんだにゃあ、カミやんが禁書目録とバタバタやってる夏の間に」
土御門は、つと中指でグラサンに触れ、やや上目に上条を見る。
「魔法協会について、どの程度の事を知っていますか?」
神裂が尋ねた。
>>339
「ああ、イギリス清教とか他の所からも認められてる大きなほとんど公式の魔術師の団体で、
普段は陰で人助けや魔術のトラブルに関わってる。
それから…魔法世界との外交権を独占してるって言ったか」
「その魔法世界がこの夏、崩壊の危機に立たされました」
「何?」
「世界の基盤そのものに重大な問題があった様です。
もう少しで世界そのものが住人諸共消滅する所でした」
「それを救ったのがヒーローなんだにゃー」
「彼を中心にした魔法協会所属の一つの勢力が中心に、
最終的には関東魔法協会が総出で取りかかる事となりました。
結果、魔法世界の消滅は一時的に食い止められ、
恒久的な世界維持のためにこちらの世界が救済策を実行する事で合意が成立しました」
「当然、そこで主導権を握ったのが魔法協会、そしてヒーロー。
今すぐ崩壊する一つの世界を力業でつなぎ止めたのみならず、
百年単位の時間と天文学的な支出を伴うプロジェクト、
文字通り表と裏の世界総出でかかる必要があるものを、
短期間で基本合意に漕ぎ着けたんだから大した政治家、外交官ぜよ」
「根回しに当たっては、極めて高度な魔術的な要素を巧妙に用いた様ですね」
「イギリス清教のてっぺんに直接それを使ったらバレる所か最悪宣戦布告。
だからこそ、イギリス清教は各個撃破で周辺を固められて
外堀を埋められる形で合意に参加させられたにゃあ。
まあ、どっちがどこまで気付かずに気付かない振りをしていたかはアレだけどな」
「魔法世界か、ピンと来ないなぁ」
ここまで話を聞いて、上条が呻いた。
「そうですね。
私達のランクでは現時点で分かっている事は限られています」
神裂が言う。
>>340
「そうだにゃー、詳しく説明したくても、漫画にしても九割方の読者が脱落するとかしないとか
カミやんがそこに踏み込んだらその時点で消えて無くなるとか無くならないとか、
それぐらいややこしい話が色々諸説入り乱れてるからにゃー。
只、はっきりしてるのは、極秘裏に、それでもとてつもない規模で動き出してるって事だにゃあ。
世界を一つ丸々救済するプロジェクトだから、
それにかかる費用は天文学的、国が一つ二つ傾くなんてレベルじゃない。
それに関わる以上、関わる所にはそれ相応の見返りがある。
魔法世界の魔法技術と宇宙規模の巨大な世界構築。その利権は計り知れない。
それを細心の注意を払って上手に利害調整をしているから、
今の所、理性的に計算すればヒーローのプランに乗るのが上策。
裏の世界のトップクラスではその事が浸透していて妨害が無い様に牽制し合っている状態ぜよ」
「魔法協会のヒーローか」
「とてつもないパワーと行動力と私利私欲の無い誠意、
丸で子どもの描くヒーローがそのまま全てを救う勢いで動いてる。
人道的に反対する理由が無いし
裏付けとなる力があるから誰もが従わざるを得ない状況だにゃあ、今の所は」
どう聞いても毒のある土御門の言葉に、神裂の表情にも翳りが差す。
それがどれ程の力であっても、その道はどれ程の困難が、力があるからこそ知っている事だ。
「その上、みんなが幸せになる様に妥協出来る筈のギリギリのラインで分配してる。
理性的に考えるなら、このまま従えば得、抜け駆けを許す方が損だと
周知させてるから今の所は大きなトラブルも無い。あくまで今の所だにゃあ。
それがどれだけ分かっていても、この利権は巨大過ぎる。
隙あらば抜け駆け、事によっては魔法協会に握られている主導権を奪取しようと、
そう考える人間が出て来ても不思議じゃないにゃあ」
「特定の宗教に属さず異能の魔術を掌握している、
その様な魔法協会を苦々しく思っている勢力も少なからず存在しています」
「聞いたよ。だけど、今まではもめ事はあっても上手くやって来たんだろ?」
「だけど、今はその魔法協会が積極的に世界と関わって
とんでもない巨大利権の主導権を握っているにゃあ。
緻密な計算と圧倒的なヒーローのパワー、その上に成り立ってる脆弱なバランス。
乗っかってるものが巨大なだけに、一つ間違えて暴走が始まったら」
>>341
「闇の中で、事によっては表にまで現れて、混沌、戦乱」
段々真面目な口調になる土御門に神裂が続けた。
「まあ、実際、今回の事でもどっかのお馬鹿さんが
麻帆良に唾付けようって先走ってこっちの仕事をやり難くしてくれたぐらいだしにゃー。
どこも一枚岩じゃないって事ぜよ。
そんな状況下で、聖人、魔術と科学の戦争すらあり得る存在、
その鳴護アリサに関わる問題にまで魔法協会が絡んで来てる。
それも、魔法協会側のキーパーソンが本来の目的で動いている今その時にだにゃあ」
土御門は壁に背を預け、気取った仕草でグラサンをついっと上げる。
「魔術と科学の間で戦争を引き起こしかねない。アリサの件はそれだけでも頭の痛い話ぜよ。
その上に魔術の中でも宗教と魔術結社の有力団体である
イギリス清教と魔法協会がアリサに絡んで火花を散らし始めたって、正直胃が痛いぜい」
「アリサが悪い訳じゃないだろう…」
友人の苦衷を察するからこそ苦い声で、それでも言わざるを得ない。
「救いは、今こっちに滞在してるスーパーヒーローなVIPのキーパーソンが
今の所はこの件に絡んで来る気配が無いって事だにゃー」
「まあ、それだけの大魔術師を超えた重要人物が
学園都市で公式を外れた行動を取る事自体目立ち過ぎますからね。
プランの事で当然多忙を極めているでしょうし」
「確かに、死ぬ程忙しい身の上みたいだしそんな暇無いかにゃー。
この上そんな超大物までお相手するなんて言ったら、
流石の土御門さんも胃に穴が空いちゃうにゃー」
>>342
× ×
「あらあらネギ先生、熱心に何をお調べに?」
ホテルの居室で難しい顔でパソコンに向かっているネギに近づき、
にこやかに声を掛けたあやかが足を止めて硬直する。
「ん?なーに突っ立ってんですかーお嬢様。
さっすがネギ先生、お仕事の出来る男は凛々しい…
…こ…これはっ!?…」
結標淡希が文字通りその場から姿を消した後、あやかはこほんと咳払いをする。
「お茶を入れて参りますわネギ先生。
好奇心旺盛結構結構オホホホホ…」
あやかがつつつと離れた頃、
ホテルの屋上では結標が強い口調で携帯電話に指示を出していた。
「そう、すぐに手に入れて?何に使う?ん、んんっ、潜入、に、決まってるでしょうそんなのっ!
だから、多少割高でもいいから一刻も早く、あの小娘に先を…いやいやなんでもないとにかく…」
ネギの指がカチッ、カチッとマウスをクリックする。
ウェブサイト「学園都市JK制服図鑑」の中の一つのページを表示したまま、
ネギは画面をじっと見据えて考え込んでいた。
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
乙
乙!
火星のテラフォーミングだっけ?
確かに動く金は尋常じゃあ無さそうだよな
乙
いま仕事場の回りでネギが雷化して暴れ回ってるんだけど
乙
ネギまは絵的においろけ漫画のイメージがあるから読みにくいし、キャラが多いから把握できるかな……
とりあえず何巻まで読めばいいか教えて
テスト終わったらそこまでぶっ通しで読む!
内容からすると最終巻の38巻まで
感想どうもです。
>>348
すまん>>349で正解です
それでは今回の投下、入ります。
>>343
× ×
確かに、あの後事情聴取もあったしちょっとした騒ぎだった。
それでも、今日にはいつも通りの学校生活が過ぎていく。
そのまま、いつも通りの放課後、吹寄制理はそう思っていた。
「すいませーん」
「?」
校門を出ようとした辺りで、吹寄が声のした方に目を向ける。
「君は?」
声の主は、先日コンサート会場の修羅場とその前の会場周辺で出会った白人の男の子だった。
「君、大丈夫だった?あれから姿が見えなかったから…」
「ああ、はぐれてから一人で帰ったもので。ご心配おかけしました。
あなたは大丈夫でしたか?」
「うん、私は大丈夫、君…」
「あ、ごめんなさい、申し遅れました。
僕はネギ・スプリングフィールドと言います」
「私は吹寄制理、よろしく」
「よろしくです」
「ん」
自然な所作で右手を差し出され、吹寄はその手を握り返す。
>>350
「それでネギ君、今日は?学校に何か用事?」
「あ、はい。先日吹寄さんと一緒だった友達の方」
「友達?」
「ええ、コンサートの会場で、制服を着てストレートの黒髪の」
「それって…ネギ君、何か用事?」
「はい、是非とも一度お会いしたいと」
「は?」
何を言っているのか分からないネギの発言に、吹寄が戸惑いを見せる。
その間に、ネギはトテテと動き出していた。
「あの、すいません」
「君は?」
「はい、ネギ・スプリングフィールドと言います」
「ネギ君?」
相手に怪訝な顔をされても、ネギはにっこり無邪気な笑みを向ける。
そこに吹寄が駆け付ける。
「知り合い?」
「うん、コンサートの時にちょっとね。ネギ君、彼女に何か御用?」
「えーと、ですね、アリサさんのコンサートの時にお見かけしたのですが」
「うん。私もあの時あそこにいた」
「それで、少しお話しを伺いたいと」
「だから、何でそうなる…」
「そう。私。姫神秋沙」
「姫神さんですか。日本の女神様ですね」
「私。巫女さん」
「日本創造の伝説以来、八百万の神々の中に数多く伝えられる女神様。
由緒正しいお名前ですね。
僕はイギリスのウェールズから来ました。
ウェールズは国としてはイギリスの一部になっていますが元々は独立した国で、
今でもイングランドとは違うブリテン人の独自の文化を伝えています」
「ウェールズか、そういう話は聞いた事があるが」
吹寄が相槌を打つ。
>>351
「有り難うございます。
いにしえにヨーロッパを制したケルトの文化を伝えるブリテン人の土地から来ました」
そう言ったネギの目は、しっかりと姫神の目を捕らえていた。
「そういう訳で、少しあなたと二人でお話しをしたいのですが」
「分かった」
姫神はこくんと頷く。
「それでは、有り難うございました」
「いえ…」
礼儀正しく一礼してから姫神と共に立ち去るネギを、吹寄はぽかんと見送る。
「ふふ。ふふふふふ。ふふふふふふふふふ。
そう。やっぱり外国人ってああ言うタイプがストライクなんだ」
「あ、あーあー、吹寄、それ吹寄ちゃう。それ姫神のキャラクターやで」
「はぁー、どうなってんですかねー」
吹寄をこっちの世界に引っ張り戻さんと懸命の突っ込みをかます青髪ピアスの側で、
頭の後ろで手を組んだ上条が感想を漏らす。
上条から見て、横並びながらにこにことお互いを見て歩いている姿は
そのまま姉弟の様で微笑ましいものだった。
そして、つと横を見たが、さっきまでそこにいた筈の友人の姿がない。
× ×
「あ、こんな所に古本屋が」
「そう。入る?」
「ええ」
学園都市は新興都市である。
昔ながらの学生街であれば古本屋とセットでおかしくないが、
今や、ネギと姫神が入場した様なタイプの古本屋自体が
大手新古書店に徹底的に圧倒されている。
まして、新興都市である学園都市なのだから、珍しい存在であると言えた。
>>352
「なぁー、入って見て来ましょうか?」
「駄目だ、店が狭すぎて気付かれる」
「だからー、何を気付かれない様に俺達は…」
「黙れ、貴様」
古本屋の側の塀の角で、振り返った吹寄がキランと放つ輝きに上条はのけ反った。
「一時間は経過したで」
「こりゃー、何か前世に振った女の因縁か何かかにゃー」
「お前が言うと洒落にならないんだよ」
「出て来た」
いつの間にか合流していた土御門に突っ込む上条を制して、
吹寄が古本屋に着目する。
× ×
「一杯買いましたね」
「ふふ。収穫」
ウェートレスが一礼して下がったファミレスのテーブル席で、
向かい合って座るネギと姫神がにこやかに会話を交わす。
「魔法、お好きなんですか?」
「私。魔法使い」
「そうですか」
普通ならこの時点でドン引きな買い物と発言のチョイスにも、
ネギのジェントルマンシップは小揺るぎも見せない。
もっとも、ネギ自身のアンデンティティーをわざわざ否定する必要も無い訳で。
「君も?」
「そうですね。先ほども言いましたが僕はウェールズから来ました。
ウェールズのケルト文化はドルイド、妖精、そして騎士と魔法使いの言い伝え。
アーサー王のマーリンなどが有名ですね」
「そう。君も教会から来たの?」
「きょうかい…ああ、日本だと発音が同じになってしまうんですね。
ちょっと失礼します…ラ・ステル・マ・スキル・マギステル…」
>>353
「はははははははれんぐんぐんぐっ!!」
「だぁーっ、だから吹寄それは別の漫画の風紀委員やて」
その近くのテーブル席で吹寄と青髪ピアスがすったもんだしている間、
土御門のグラサンの向こうの眼差しは、既にデルタフォースのものではなかった。
「つっ」
姫神のセーラー服の胸元に右手を伸ばしていたネギは、
電線にでも触れた様にその手を引っ込める。
「大丈夫?」
「ええ、有り難うございます。少し、歩きましょうか」
丁度お茶も一服した辺りで、ネギが促した。
× ×
「ウェールズって。どんな所?」
「いい所ですよ、自然豊かで…」
「そう」
「いい雰囲気ですねぇ…」
にこやかに言葉を交わしながら道行くネギと姫神の後方で、
言いかけた上条は背後から漂う禍々しき何かを察知して口をつぐむ。
「こりゃあ、いよいよショタに乗り換えで
ひろーい守備範囲の良さ言うモンを」
「姫神さんを貴様の如き変態と一緒にするな馬鹿者」
ネギは、ふっと息を吐き歩みの速度を緩める。
「姫神さん」
「はい」
「戦いの歌」
ネギが、ぼそっと唱える。
次の瞬間には、ネギ以外のことごとくが目を丸くした。
>>354
「くっ、くくっ、くくくっ、
くかかかかかかかきくけこォォォォォォォォっっっっっっっっっ!!!」
「吹寄、吹寄吹寄はん吹寄様、
どーして掲げた手の上で風がごおごお巻いて何かヤバイモンがバチバチしてんねんっ!?」
姫神のスカート越しの太股と背中をひょいと下から支え上げ、
ダッシュで路地裏に消えたネギをぽかんと見送るしか無かった後、
懸命、文字通り命懸けの域に至りつつある突っ込みに磨きを掛ける青髪ピアスと
不穏過ぎる空の下、デコをキラーンと輝かせて何かとある領域にたどり着きそうな吹寄を余所に、
その場を離脱し携帯電話に齧り付いた残る二人の目つきは、完全にデルタフォースを離脱していた。
「あー、どうしてお前が出ている?」
「ししょーは蒼白な顔で携帯ごとマントを放り出して
兄弟も友人もいない狭い密室で孤軍奮戦いたしておりますため
ただ今電話に出る事は出来ません」
「分かった、必ず伝えろ。
さもないと百匹の頂点に立った虫入りの壺をプレゼントしてやるぞガキが」
「もしもしっ」
「はいはいインデックスなんだよ」
「姫神がさらわれた!」
「…あいさが!?」
「ああ。多分魔術の連中だと思う。
確かウェールズがどうとか言ってたな。ケルト十字の事も知ってるみたいだった」
「ウェールズはケルト文化、引いては西洋の魔術文化の一つの要。
ウェールズの魔術師ならケルト十字を知らない方がおかしいんだよ。
それで、どんな魔術師だったのかな?」
「まだ子どもだった、十歳ぐらいの男の子、十三歳ぐらいの女の子でも通るタイプだったな。
白人で赤毛でちいさい眼鏡を掛けて、
そう、背中にそれこそ魔法使いみたいなでっかい杖を背負って…」
>>355
「どこっ!?」
「何?」
「だから、そのウェールズの魔法使いはどこにいるのっ!?」
「だから、見失ったって、今の場所は…」
「分かったんだよっ!」
場所を報せた後に一方的に電話を切られた上条は、ネギの後を追って路地裏に入る。
その進路には、路地裏エリアで遭遇しがちな
佐天さんのお知り合い候補がダース単位で転がっていた。
× ×
「どうしたの?」
表通りでひょいと地面に下ろされていた姫神がネギに尋ねる。
「いえ、確か恵方巻きって日本の節分の食べ物だと…」
ネギが見ていたのは、コンビニのポスターだった。
「最近は色々ある。食べたい?」
「そうですね」
言いかけたネギのお腹がぐうと鳴った。
「あ、失礼」
「いい。お腹空いてた?」
流石に赤くなったネギが下を向いて言う。
「ええ、ちょっと朝から忙しかったですから」
かなり無理に時間を割いてここに来ていたネギが言った。
>>356
× ×
「美味しい?」
「はい、そちらは?」
「美味しい」
近くの公園を訪れたネギと姫神は、
二人でベンチに座りコンビニで買ってきた恵方巻きを食べていた。
「お茶」
「ありがとうございます」
「お寿司。食べるんだね」
「ええ、大好きです。
僕の友達にも、お刺身天ぷらが大好きな友達がいますから」
「そう」
変則的なランチタイムを終えて、二人は一息ついた。
「そろそろ、本題に入りましょうか」
「うん」
「お尋ねしたいのは…」
>>357
言いかけたネギの優しい目つきに、歴戦をくぐり抜けた猛者の鋭さが宿る。
「ここでじっとしていて下さい」
「分かった」
ネギがベンチを離れ、もごもご言いながら右手を挙げるとベンチは竜巻に包まれた。
それとは別に吹き荒れる突風がネギを取り巻き、
砕け散って粉末状になった落ち葉の一群がネギの鼻を直撃する。
突風の中、三方向から飛び出した黒い影がネギに急接近する。
(こちらの所属を示す霊装所有者に手を出した、口実としては十分。
こぉーんな可愛いぼーやなら、
イギリス清教流の飴と鞭でとろとろに骨抜きのペットにしてあ、げ、る!)
(前回は予想外の事でちょっとした醜態を晒したが、
ヒーローと言ってもパーティーのリーダーとしての実績。
ここでど真ん中から一気に把握して名誉返上汚名挽回!!)
(それだけのパーティーのリーダーで魔法学校の天才的卒業生。
決して油断するつもりはないが相手はお子ちゃま魔法使い一人。
獅子が兎を狩るがごとく三元素による全力の総攻撃で負ける要素が無い。
もう何も怖くない!!!)
「「「ヒャッハwwwwwwwwwwwwwwwww!!!」」」
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
乙!
なんか色々フラグ立ててるようなww
乙
しかし相変わらずどれが誰の台詞なのか分かりにくい
虫入りの壺が云々言ってるの誰だよ
乙です
細かいところだけど、ネギの始動キーって「ラス・テル マ・スキル マギステル」じゃなかったか?
当然のようにネギが目の前に現れてイギリス清教が唾つけた要人に堂々と接触
挙句さらに3弟子がさらにやらかす
土御門の胃がねじ切れそうな展開だな
感想どうもです。
それでは今回の投下、入ります。
>>358
× ×
「やれやれ。
ぶちのめされるぐらいなら、たまにはいい薬かとも思ったんだけどね」
それは、どこか気取った気怠い口調だった。
「さすがにこの様となると、僕、引いては組織の沽券にも関わって来る」
一部において女性観に関するある種の方向性に関する風聞の側聞される
ステイル=マグヌス氏の名誉のためにも敢えて正確を期した記述を行うと、
ステイル=マグヌス氏は、頭の回りにヒヨコを回転させながら揃って伸びている
ジェーン、マリーベート、メアリエを一秒一秒3.5秒一瞥しながら、
わざとらしくばりっと頭を掻いて顔を上げる。
ネギに向けられた眼差しは決して笑ってはいなかった。
(…掌のカード、火のルーン魔術、
自分を焼かずに使えるのなら推定三千度レベルの術式…)
「Fortis931いいいいいっ!!」
丁度、>がまともに突っ込んできた、と言うのがぴったりのイメージだった。
ネギを包んだ風の防壁がステイルの両手からぶわっと噴き出した炎剣を突き破り、
そのネギの肘がステイル=マグヌスの水月を直撃する。
「ラス・テル マ・スキル マギステル………」
ステイルから距離をとったネギは、杖を振り上げて本格的に呪文を唱える。
二人の周囲が暴風に包まれ、風に巻き上げられたその上空が爆発炎上する。
「風楯っ!」
改めて、体をくの字に折ったままのステイルに駆け寄ったネギが、
杖を上に掲げて呪文を唱える。
上空から落下して来た、拳を振り翳した巨大な炎の巨人が
ネギの展開した防壁にぶち当たり、砕け散る。
>>365
「大丈夫ですか?魔法戦の礼儀としてお返ししたんですけど、
想像以上に出力が大きかったみたいで…」
「アハ、アハハハハ、アハハハハハハハハ…」
「…風楯っ!」
察知されて破壊されて再現されて破壊された事を知ったステイルをおいて、
ネギはバッと左手を後ろに差し出し障壁を張る。
バシーンと障壁越しに衝撃が響き、
振り返り駆け出したネギは、撃てるだけの光の矢を空中から無詠唱で叩き出した。
光の矢が空中で次々と爆発する。
後何歩、と言う所まで神裂火織に接近したネギは、杖を下に振り下ろし、
豪傑の鉄鞭、剛槍にも匹敵するワイヤーの一本を地面に叩き付ける。
鞘入りの令刀を槍の様に持った神裂がネギが突き出した杖を鞘で叩き、
そのままねじり上げようとする。双方が弾けて退く。
何度となく鞘に納まったままの刀が突き出される。
ネギがそれを交わす先から先に、神裂の見事な脚線美が柔軟に閃く。
攻め込んでいる神裂だったが、
何度となく身近な空気を裂く杖によるカウンターは肝を冷やすに十分なもの。
((一撃でも貰ったら終わり!))
神裂がまともに打ち込んだ面打ちを、片膝をついたネギが両手持ちにした杖で受ける。
ネギがギリギリ押され、得物がぐるりとねじられる。気が付いた時には神裂は踏み込まれていた。
繰り出される杖の打撃を神裂は猛然と受け太刀し、
大振りの蹴りを放ってそれを交わすネギとようやく距離を取った。
「無茶苦茶ですね」
肩で息をしながら神裂が言った。
「太極拳の槍術、十分に達人と言える技量です。
でありながら、明らかに神鳴流の影響を受けている。
一つの武器で複数の流派を究めるなら、高みに行く程に矛盾は避けられなくなる。
しかし、あなたの技量は小器用に使い分けていると言う次元ではない、
その大元をしっかり呑み込んでいる。そもそも出力が馬鹿げてる」
言いながら、神裂はすーっと令刀を鞘走らせた。
>>366
「有り難うございます」
ネギが一礼し、構えを取る。
言う迄もなく、納刀したままの打ち合いは日本刀としてはイレギュラー、
そのフォルムは当然白刃をもって用いるために完成されている。
大体、鞘に納めたままの攻撃を維持するだけでも面倒この上無い。
即ち、ここからが本番。
「Salvare000!」
白刃と杖が幾度となく打ち合い、双方ターンと退く。
空中で光の矢とワイヤーがバババッと弾ける。
その間にもネギは神裂に踏み込まれて必死に刃を交わし、退く。
刃と杖が打ち合う間にも、双方爆弾級の足技が何度となく交わされる。
飛び退き、何カ所も裂かれ辛うじて戦闘不能を免れている事を自覚しつつ、ネギは集中する。
すぐにでも神裂は間合いを詰めてくる。
「小賢しい、っ?」
ぶわっと風が巻き、一瞬だけ視界を塞がれた神裂が気配に刃を振るう。
「つっ」
跳躍した左脚をかすめた刃の感触に一瞬顔を顰めながらも、
ネギは一瞬の遅れだけでやりかけの事を完成させた。
「!?」
とてつもないスピード、神裂はそれを感じてとにかく勘の命じるままに刃を振るう。
距離が開くと同時にワイヤーを放つ。
それが一瞬の交錯だった事が信じられない密度の濃い攻防。
神裂が命を繋いだのは、厳しい修練と歴戦の勘の賜物。
それでも、一瞬の交錯を生き残ったに過ぎない。
>>367
「雷の魔術、身体を強化?身にまとって?いや、違う…」
つーっと汗を感じながら、神裂はごくりと息を呑む。
神裂も歴戦の猛者だ。しかも、その中で敗戦は数える程も知らない。
事、一対一であれば俗に言う怪獣や兵器レベルの相手でも
今と同じ条件でタイマンを張ってその上での戦績だ。
雷に関する能力も知らない訳ではない。魔術ではなく神裂が直接知らなくても
典型的には御坂美琴の様な能力者も世の中にはいる。
だが、白く輝く今のネギは明らかにそれら神裂の経験からも逸脱している。
何よりも、能力を「使う」と言うレベルの速さではない、と、すると、
「雷、そのもの?」
次の一瞬、神裂がネギの猛攻から生きて脱出したのは、
彼女も又規格外の歴戦の猛者だったから、
だからこそ、その一瞬を紙一重で生き抜く事が出来た。
(攻勢に転じ、死中に生を、ですか)
神裂の選択に、ネギはどこか嬉しさを感じる。
今の状態のネギであっても、ネギの攻撃を凌ぎ交わしてぶつかってきた
神裂の反撃は決して侮る事の出来るレベルではない。だからこそ、ネギも全力でぶつかる。
故に、双方侮れぬダメージを受けながら、ターンと距離を取る。
そこから踏み込んだネギが、猛然と襲いかかるワイヤーを弾きながら飛び退く。
ネギは神裂から距離を取り、そのまま動きを止めた。
>>368
(居合?)
それ自体、脅威だった。
そもそも、2メートル近い令刀で居合など出来る相談ではないのだが、
その辺の常識についてはネギ自身の経験則からも当てにならない事を知っている。
だとすると、居合の一撃必殺は日本刀の最強攻撃。
相手が神裂の様な達人であれば十分すぎる程の脅威。
それ以上に、ネギは嫌な汗を覚える。ネギの経験と勘がアラームを鳴らしている。
ネギ自身がそうしたタイプの術者だから分かる、神裂を中心に恐ろしく精緻な何かが均衡している。
何よりもネギは知っている。その体で知っている。
例え全く同じでなくても、もしネギが考える、知っているものに重なる類型のものであるならば、
それは最強である筈の今のネギだからこそ危ない。この神裂ならやりかねない。
何より、この変な格好ののっぽの綺麗なお姉さんは滅茶苦茶に強い、
強さが馬鹿げているなんて言葉はそっくりそのまま熨斗を付けてお返ししたい。
その馬鹿げた強さでカタナの居合抜きでネギの悪い予感を的中されたら命が無い。
ネギは低く構え、杖を神裂に向ける。
「ラス・テル マ・スキル マギステル…」
勝負は次の一瞬、その次はない。
今回はここまでです。
続きは折を見て。
乙
ふと思ったがネギが雷化して戦ってる時って
ものすごくうるさいんじゃないのかね
乙です
ねーちんだったら雷天2使わなくても素で余裕じゃね?
ねーちん程度に苦戦してたら先が思いやられる
感想どうもです。
それでは今回の投下、入ります。
>>369
× ×
「おいっ!」
緊迫感限界一杯の空気をぶち破ったその声に、二人は視線を向けた。
「神裂?お前、だよな?」
学生ズボンにワイシャツ、
いかにも高校生と言うウニ頭の少年に指差され、ネギは自分を指差す。
「おいっ、姫神はどうしたっ!?」
ネギの視線を追ってウニ頭上条当麻はベンチに駆け寄る。
「おい、姫神っ!大丈夫かっ!?」
「上条君?」
(覚醒が早すぎる?)
ベンチで姫神を揺り起こす上条を見て、ネギは怪訝な顔をする。
「姫神に何をしたっ!?」
「何を?ああ、ちょっと眠って頂いただけです。健康に害はありません」
「どういう事なんだ?お前魔術師か?姫神をどうするつもりだ?」
「取り敢えず、直接お話を伺いたかったのですが…
お知り合いですか?イギリス清教の?」
ネギが神裂に視線を走らせる。
「イエスでありノー、彼は学園都市の一般学生です。
学園都市に関わる事で少々こちらに協力いただいた事があります」
「そうですか」
上条がツカツカとネギに近づく。
神裂が一歩踏み出した時には、ネギは上条に練習杖を向けていた。
>>373
「何かしたのか?」
右手を突き出した上条が険しい顔で言う。
「姫神さんと同じ眠りの霧を嗅いでいただいた筈なんですが」
言いながら、ネギはダッと飛び退いた。
「まさかあなた達がマジック・キャンセルを探し出していたとは思わなかった。
少し厄介な増援ですね」
「彼は無関係です」
「では、どうして姫神さんを?」
「彼女は彼のクラスメイトです」
「だから、姫神がなんなんだよ魔法使いっ!?」
「一般人だと言うなら外していただけますか?」
「じゃあ、姫神も連れて行くぞ」
「それは出来ません。姫神さんには直接伺いたい事があります」
「あなたは知った上で姫神秋沙を連れ回している。
それは、イギリス清教への宣戦布告にも繋がる発言だと理解していますか?」
「それはこちらの台詞です」
上条を制しながら刀に手を掛けた神裂に、
ネギが静かに、しかし威厳すら漂わせて言い返した。
「こういう事は言いたくありませんが、
事はイギリス清教と魔法協会では済みません。それを確かめに来たんです」
「言っている意味が理解出来ない。考えてみれば私達は今争う理由が無い。
なぜ姫神秋沙が関わって来るんですか?」
「先日、僕は商談先の誘いでコンサートを見に行きました。
そうしたら、そのコンサート会場が爆破された。
現場にイギリス清教の上級エージェントがいた。
政治的に言えば、僕の暗殺であれば論外。それ以外でも、よりによって学園都市、
そうでなくてもイギリス清教があんな事件に関わったと言うのならそれは捨ててはおけません」
「コンサートって、イギリス清教の上級エージェント?」
「まさか…」
怪訝な顔をする上条の横で、神裂が呟いた。
>>374
「どこから見ても日本人以上に日本人の学生に見える、
それでいながらイギリス清教でも極めて高い地位の霊装を着用していた。
日本、それも科学の学園都市では余りにも珍しい存在です。
それも非常に珍しいシチュエーションで目撃しました。
これだけでも十分過ぎる程に面倒な話です。
ストレートに組織を通した話にした場合、非常に難しい事になるのはご理解いただけますね?
そもそも、僕としてはイギリス清教と言う組織が愚かな事をするとは思えないし、
であれば尚の事、この奇妙な状況は出来るだけ穏便に秘やかに事態を把握して
どの程度の関与があっても無くても、プランへの支障は最小限に食い止めたい」
「非常に遺憾な誤解です」
見た目丸でそのまま大人と子ども。
それでも、毅然としたネギの態度に揺るぎはなく、神裂の態度にも一分の侮りも無い。
上条が息を呑む程だった。
「あの事件に就いて、イギリス清教が関わったと言う事実は存在しない。
無論、敵対する意思も無い。まして、姫神秋沙はその様な存在ではありません。
姫神秋沙はこの学園都市で我々に何等拘束されず日常生活を送っている。
プライベートでコンサートを見に行った、それだけの事の筈です」
「おいっ!」
神傷の丁重な返答を聞き、今度こそ上条が怒声を上げた。
「魔法使い、お前、まさか姫神があの事件をやった、とか言ってるのかっ!?」
「それを確かめに来ました」
「ふざけるなっ!」
本当なら殴り飛ばしたい所だが、それでも一応の筋が通っているのも分かる。
むしろ、事を荒立てずに身一つで乗り込んで来たネギの真剣も伝わるからこそ上条も踏み止まる。
「姫神はなっ、この学園都市でやっと平穏な生活を手に入れた普通の女の子なんだよ」
「やっと?」
「お前、魔法使いだよな。それなら吸血殺しって知ってるか?」
「聞いた事はあります。吸血鬼を引き寄せ、そして殺す血液の事ですね」
「姫神秋沙はその体質保有者です。ケルト十字架はその抑制の為に下された霊装。
これはあくまで人道的な措置であってあなたが考えている様な意味ではない」
そこで、ネギは少し考え込む。
>>375
「分かりました」
一礼したネギがベンチに近づく。
「悪い、頭に血が上ってベラベラと。喋っちまって良かったのか?」
「いえ、却って助かりました。我々は、手持ちの情報を口に出すのは抵抗があります。
しかし、今回の件はそうは言っていられない。
どこまでが偶然かはとにかく、関わった人間がピンポイントで最悪過ぎる。
ここでもたもたしていたら、疑念を持たれただけでも「魔法」サイド、
そこに協調する全ての勢力がイギリス清教との戦端を開きかねなかった」
目の前でぺこりと頭を下げるネギを、姫神は見上げる。
「姫神さん」
「何?」
「見せていただけますか?」
頷いた姫神が、セーラー服の胸元からケルト十字を引き出す。
ネギは跪き、手に取り一礼する。
「旅先でいいものを見せていただきました、有り難うございます」
「どういたしまして」
「名残惜しいですが、これから予定がありますのでこれでお別れです」
「そう。今日はありがとう。楽しかった」
「僕もです」
言葉を交わしながら、あの二人の言っている事は多分本当だろうとネギは見当を付ける。
勘に過ぎないが、まず、あんな事件に関わるエージェントには見えない。
姫神と話しながら何となく、
いよいよとなったら頭の中を覗く様に手配しようか等とも一応は考える。
>>376
「………神裂、やっぱり一発殴っておくか?ナンカムカツク」
「確かに、あなたの右手であれば常時展開障壁でも打ち抜けますが、
やはり今の内に刀の錆にしておくべきかも知れませんね。プラン以前に、
これ以上
特大の修羅場の発生源を増やしたくないものです」
離れた場所でベンチを眺めながら、至って真面目な口調の会話が交わされる。
その二人に、ネギはスタスタと近づく。
「と、言う事です。
旅先で見かけた素敵な日本の女性に声を掛けさせていただいたのですが」
「分かりました。余り羽目を外さない様にして下さい」
「了解しました。僕はこれから予定があります、彼女の事をお願いします」
「ああ、分かった」
上条が食えないマセガキと思いながらも憎めないと思い従うのは、
お利口に理屈が通っているのと同時に、何かを背負った誠意が感じられるから。
攻撃の行方と共に、心のどこかでそれを察するに敏感になりつつあるから。
「この様な決着でいいんですか?」
目の端でこの場を離れる二人を見送りながら神裂が尋ねる。
「いけませんか?」
「中途半端に後を引かれると却って困ります」
「信じたいと思います、あの人を。
あの人の怒り、友達への思いに偽りが見えなかった」
単純と言われても馬鹿と言われても、そういう心の在り方をネギは知っている。
言いながら、目の前の神裂も又その事を知っているのだろうとネギは察知していた。
>>377
「無茶をします。上級エージェントだと思っていたのなら尚の事、
何が出て来るか分からないとは思わなかったのですか?
あれだけの腕に覚えがあればどうにでもなるとでも?」
「ここは学園都市です。
あなた達が裏で友好的で潜入していたとしても出来る事には限度があります。
それに、今も言った通り、イギリス清教自体がそれ程愚かとも思えませんでしたし、
事を荒立てる事無く最速で最善が求められました」
「自分への危険は度外視、ですか」
「あなたが出て来て多少では済みませんでしたが。久しぶりです」
「え?」
「この夏、思えば随分と無茶をしました。闘い、闘い、闘い。
こちらに戻って来てからは、師匠との修行はあっても、
やはり政治向きの仕事がずっと続いていました。
いけませんね。真面目に任務に当たったあなた達に大変失礼で申し訳ないのですが、
さっきの様に血湧き肉躍る息詰まる緊張感の闘いは本当に久しぶりでした」
「漏れ聞くだけでも彼の地での英雄の働き、最強の称号。
今の言葉は大変光栄なものとして承りました。
正々堂々剣と拳で向かい合って解決出来る事ばかりならいいのですが」
「全くです」
そして、互いに一礼し、背中を向け合って歩き出す。
「食えない政治家でジェントルマン、その中身は男の子、ですか」
今だけは、その心に残るのは清々しさだけだった。
>>378
× ×
「おい」
「ん?」
力尽き、大の字になっていたステイル=マグヌスが顔を上げると、
妙齢の女性が腕組みをして立っていた。
硬い黒い制服ながら、それでも胸がつかえて顔が半ば見えない。
これは、まずいかも知れない。いつの間にか人払いが外れていたのか。
どうやら忘れ去られていたらしく、
三人の弟子もステイルが発見した時のままそのまま転がっている。
「ごめんなさぁーいお仕置きはあぁーんっzzzzz」
「きゃうぅーん飛んぢゃうぅーっzzzzz」
「らめぇぇそんな激しいのぉーzzzzz」
身を起こしながら、ステイルの顔にダラダラと熱い汗が洪水を起こす。
「真っ昼間の公園でいい度胸じゃん。
これは、アンチスキルに対する挑戦かじゃん?」
どごんとルーンを爆発させたステイルは、
そのままぐにゅっとマントの中に三人をかっさらいダッシュする。
とにかく、ここで捕まれば終わる、色々と。
今回はここまでです。続きは折を見て。
>>366
>でありながら、明らかに神鳴流の影響を受けている。
鶴子の傭兵時代にパララケルスにでも行ったことあるのかね
乙
しかしステイル達がネギに千雨らのちょっかいを止めさせるよう要求しなかったことが不可思議
乙です
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茶々丸がいないぞー
秘書やってるんじゃないのか?
それとも学園都市とは相性悪いのか
感想どうもです。
それでは今回の投下、入ります。
>>379
× ×
「あ」
放課後、学園の敷地内で小太郎と夏美と愛衣がばったりと顔を合わせる。
「あ、こっちに戻ってたんだ?」
「はい、連絡がありましたから」
夏美と言葉を交わしてから、愛衣はじっと押し黙る。
「?」
「先日は、有り難うございました」
すーはーすーはー深呼吸した愛衣が、ぱたんと体を折った。
「?」
「どうしたのコタロー君?」
「あ、いえ、学園都市でちょっと助けていただいて」
「あーあー」
尋ねる夏美の前で愛衣がスカートをぎゅっと握って簡単に説明し、
小太郎が思い出した素振りを見せる。
「ああ、そやったな。
あー、あのイギリスの三馬鹿魔女と揉めててなぁ、追っ払ったんや」
「ふーん」
説明する小太郎と聞いている夏美の前で、愛衣は地面を見続ける。
「んー、あん時はよう頑張ってたな」
「有り難うございます。それでは!」
愛衣は、もう一度ぱたんと体を折ってたたたとその場を立ち去った。
>>385
× ×
「とうまー」
「インデックス?」
上条と姫神が公園を離れた辺りで、インデックスがタタタと駆け寄って来た。
「とうまにあいさも」
「おいおい、ここまで来たのかよインデックス」
「うん。それで、そのウェールズの…」
「ああ、さっき分かれた所だ」
「分かれた?」
「ああ、えーとあれだ、別の用事で出入りしてたみたいだけど、
姫神が気に入って声を掛けたらしい」
「本当に?」
インデックスがじーっと姫神を見て、姫神はこくんと頷く。
「ほら、姫神っていかにも地味にロングの黒髪で地味に外国人受けしそうな
地味にお人形さんみたいな地味に巫女さんタイプだろ。
そのケルト十字架が気になったってのもあったらしいけど、
向こうさんも忙しいみたいでさ、ちょっとしたデートして大した話もしないでお別れした所だ」
「今の移動、幽幻の域に達しているんだよ…」
すーっと上条の背後に移動していた姫神の手には、白く光る魔法のステッキが握られていた。
「とうま、その魔法使いと会ったの?」
よろりと立ち上がる上条にインデックスが尋ねる。
「ああ、ま、悪い奴じゃなさそうだったぞ。
まあー、お子ちゃまの癖に将来フラグを束で立てまくりの
スーパー女ったらしになりそうな別の意味で危ない奴だったけどな。
しかもあれ、多分天然だから最高にタチが悪いって言うか。今に刺されるんじゃないか」
インデックスと姫神にじっと凝視されながら上条が解説する。
>>386
「とうま」
「ん?」
「女たらしって、その、ちゃらおとかいうそういう子だった?」
「いや、正反対。日本語ぺらぺらで凄く礼儀正しくて、
まだ子どもだけどしっかりとしたいい男だったんじゃないですかね」
「匂いがする」
上条の言葉に姫神が付け加える。
「なんとなく。もしかしたら私と同じ。
あの子の目。あの目。何を見て来た目?
もしかしたら。私が見たもの。それを乗り越えたからあんなにしっかりしてる?」
「…そう…分かったんだよ…」
× ×
土御門元春は、舌打ちして携帯を切る。
最初の連絡以来イギリス清教側の要員との連絡がつかない。
それ以外の情報網からも今のところめぼしい情報は得られない。
決して楽観的な状況ではない。トラブルが拡大した場合への備えも必要になる。
直接関わっている相手が相手だ。
特にあのステイルの連れの三馬鹿は、
それがたまたま幻想殺しと禁書目録だっただけで学園都市で一般人連れの標的を殺しモードで襲撃するわ
穏便に動いてる魔法協会を問答無用で拷問掛けるわ、
組織を利用するものとしか思っていない自分勝手な魔術師の典型で本格的に頭のネジがぶっ飛んでる。
そこまで馬鹿ではないと思いたいが、
そんな調子で一応公式訪問中の魔法世界の超大物にして宇宙規模プロジェクトの中心人物に絡んだ日には、
宮殿と寺院に世界滅亡規模の魔法攻撃が来る事すら想定されるレベルだ。
「?」
その時、土御門は、目の前にひらひらと落ちてきた紙片を空中で受け取る。
そして、周囲を見ると、景色が一変していた。
つい先ほどまで学園都市の路上にいた筈が、気が付くと庭に立っていた。
そこは、野生化一歩手前の日本庭園。うっすらと霧が掛かっている。
取り敢えず周辺の捜索を開始した土御門だったが、
途中から目標物を固定して歩いても歩いてもいつの間にか元の場所に戻ってきている。
>>387
「無間方処か」
呟いた土御門は、庭園の中の最大のアクセント、そこに踏み込む覚悟を決める。
ここで血まみれになりながら術式の出所を見破ったとしても
その先に何が待ち構えているか分からない。
土御門は手水を使い、にじり口から建物の中に入る。
その向こうは、広いが落ち着いた茶室だった。
「座りなさい」
穏やかにして威厳を秘めた声に勧められ、土御門は下座に正座する。
そして、茶室の主を見た土御門は腰を抜かしそうになった。
茶釜の側、茶室の主の位置にいるのは、
神主を思わせる和服に豊かな白眉に白い髭を長く伸ばした、
それこそトンカチみたいな才槌頭の後頭部からも一房の白髪を伸ばしている老人。
いやいやいやいやアロハにグラサンはねーよすいませんでしたと、
土御門にして全力で非礼にひれ伏して退散したい所だが、それが出来ない事が分かっている。
今までもトップクラスとは決して無縁では無かったエージェントとして腹をくくる。
そして、左前方を見る。その時点で、イメージとしてはグラサンがピシッと音を立てる。
そちらに座るスーツ姿の中年男は、
一見すると不健康そうにやつれの見える顔立ちながら、その落ち着きはただ者ではない。
そのスーツの男が眼鏡の向こうから穏やかな眼差しを土御門に向けた時、
土御門は熱湯の様な汗が背中に溢れるのを自覚する。
そのスーツの男は、傍らの野太刀を引き寄せ柄に手を掛ける。
そして、座り直して目の前にあった盆を才槌の亭主に手渡す。
「御義父様」
「ん」
かくして、才槌の亭主が茶席に今手渡された菓子を回す。
回された最高級の羊羹は精緻に切断され、丹念に塗り重ねられた漆塗りの器には傷一つ無い。
>>388
土御門の目の前では、日本人形の様に可憐な少女が、
桃色の地に花をあしらった若い華やぎを匂わせる、それでいて落ち着いた和服姿で茶を点てている。
派手さは無くてもまず粗相をしてフコウダーで済む値段とは思えない和服姿の大和撫子を前にしながら、
土御門元春にしてこれは到底眼福などと言う心境ではない。ただただ喉が渇く。
絹の様に滑らかな色白の肌に淡くも整った顔立ち。
そして、烏羽そのままの艶やかな長い黒髪には可愛らしい花簪のアクセント。
ようやく女の子から少女へと踏み出したと言う辺りの、
ちんまりと小柄で折れそうに華奢な脆さの中にもふうわりとした柔らかさが感じられる。
名のある日本人形、或いは日本画から抜け出た様に端正に整った美少女が
幼少時からである事を伺わせる手並みで茶を点てたその時、
花の蕾の様に柔らかく綻び年頃の娘の温かな明るさをその微笑みに覗かせる。
デルタフォースを除隊した土御門はその高貴さに圧倒され、そして温かさに包み込まれている。
その上に、土御門の知識通りであるならばシチュエーションに圧倒されるしかない。
茶碗が回される。
右前方の上座の女性から土御門は茶碗を受け取る。
こちらは、大学生ぐらいの年頃の美人のお姉様。
薄い紺色を基調に少々あしらった、渋い中にも若さを感じさせる和服姿。
さっぱりとしたショートカットの黒髪に力強さの覗く整った顔立ちは
普段はキリッとしているのが想像できるのだが、
今は落ち着きある年上の女性としての所作の一つ一つが土御門を引き付ける、
筈であった普段であれば。
その女性の一つ上座には、もう少し年上の美女。
こちらも見事にナチュラルな黒髪ロングヘアで、
いかにも若奥様と言った風情の、品のいい薄紫の色無地。
青髪ピアスであれば無限の包容力と表現したかも知れない、
そして、その果てに同居する菩薩と鬼が土御門を圧倒する。
二人の美女の顔立ちは血の繋がりを示す様にどこかに通っているのだが、所持品も似通っている。
土御門としては、その脇に置かれている長い、
手元に切れ込みのある房紐の付いた木の棒に就いては全力で見なかった事にしておきたい所だ。
土御門が漆黒の天目茶碗を手に取り、傾ける。
碗の内側で白く縁取りされ溶け合った星々が瞬く。うん、考えたくない、全力で。
>>389
「何事も修行」
亭主が口を開いた。
「若い内はの。故に、後の事は我ら年寄りが引き受ける。
世界を背負うと言っても一人ではない。
何事も修行。
婿君に、と、考えないでもないでもないでもないでもないでもないでもないでもない者、
それぐらいの器量がなくては困る」
「ややわーお爺ちゃん」
美しく整った日本人形から花が綻ぶ様に、
可憐な大和撫子が明るくも品良くコロコロ笑いながらトンカチで突っ込みを入れている、
実にほのぼのと微笑ましく温かな光景であるのだから、
土御門の全身、顔面に、パチンコ台に機械連打されたパチンコ玉の如く
大量の汗が伝い落ちてるのも不思議ではない。
互いの望みが「何も無かった事にする」で一致していると確信し、役目を貫く理性が無ければ、
土御門は間違いなくこの場にひれ伏して額を擦り付けていただろう。
「老人が左様に呑気な事を言っていられるのも、
危うい所で世界の均衡を支える陰の働きがあってこそ。
真に、感謝する」
才槌の亭主が、静かに頭を下げる。
土御門が、床に手をつき礼を返す。
× ×
「おいっ、土御門っ」
「ん?あ、カミやんに、禁書目録?」
「何やってんだお前?」
そこは、科学の学園都市の歩道だった。
そこで、土御門は呆然と突っ立っている所を上条に声を掛けられていた。
「あ、ああ、ちょっとな」
「もしかして、魔術…魔法、の事か?」
「カミやん?」
>>390
「解決した、一応な。詳しい事は神裂に聞いてくれ」
「そうか、分かった。何だか知らないけど面倒掛けるな」
「で、それは?」
上条に言われて、土御門はようやく自分が手にぶら下げた紙袋に気付く。
「生八つ橋なんだよっ!」
「おーし、そんじゃー帰ってみんなで食べようかにゃー」
取り敢えず生還して一応の解決を見たと言う所で、
土御門は僅かに気を大きくしていた。
「んで、カミやん、概略だけでも聞いておこうかにゃー」
「ああ、何か一色触発だったぜ。
居合抜き構えた神裂と白く光った子どもの魔法使いが…そっちは?」
「ん?」
紙袋の中身を引っ張り出しながら、上条が指差したのは瓶詰めだった。
本格料亭の味最高級明石の鯛茶漬けのラベルを見た時、
土御門はその場に引っ繰り返った。
「………あのクソガキ三匹、絶対殺す………」
× ×
麻帆良学園女子寮643号室。
この日は、久しぶりの千客万来だった。
今まで、この部屋には何かある度に、
主にネギ目当てのクラスメイトが押し寄せていつの間にかどんちゃん騒ぎ、
しまいに明日菜がブチ切れて叩き出す。これがパターンになっていた。
最近はそのネギがいない上に明日菜も麻帆良を離れがち、随分と静かになったものだ。
そして、この日に集合を掛けたのは、他でも無い神楽坂明日菜その人だった。
集合しているのは、クラスメイトの中から通称ネギま部のメンバー。
そして、運動部四人組と村上夏美。犬上小太郎。
只、その中で一人、ここにはいない人間がいる。
「お待たせ」
そう言って部屋に現れたのは長谷川千雨、そして葉加瀬聡美も同行していた。
>>391
「神楽坂に頼んで集合掛けてもらったのは私だ。
まず、そこん所の礼を言っておく。有り難う。
で、今起きてる事を説明する」
そう言って、千雨は茶々丸を促し一同に用意したレジュメを回す。
葉加瀬の助けを借りてモニターとパソコンを接続しプレゼンテーションを行う。
「つまり、千雨ちゃんの友達の鳴護アリサが悪い魔法使いに狙われてるって事でFA?」
大凡の説明が終わった所で明石裕奈が手を上げて尋ねる。
普段はお祭り娘だが今は至って真面目な表情だ。
夏休みを経てネギのプラン、母親の関わった魔法の裏への関心を強めつつある。
そして、長谷川千雨はあの夏を共に闘った友人だ。
「おおよそ、そんな所だ」
「悪い魔法使い、と言う定義が少々微妙ですね」
口を挟んだのは綾瀬夕映だった。
「聖人の能力、それも学園都市が関わって来るとなると、
イギリス清教が必死になるのも分かります。
下手をすると世界規模の文字通り戦争の引き金を引くですから」
「あっちに潜ってた佐倉も一時とっ捕まって水責めの拷問食らったぐらいだ、
相当ピリピリしてやがる」
千雨の言葉に、夏美がぎょっと小太郎を見て小太郎が頷く。
「その辺はお互い仕事の事やけどな。
愛衣姉ちゃんも俺らが助けるまで気張って黙り通したみたいやし」
「問題なのは、魔法使い、魔術師の争いならまだしも、
アリサの周辺で起きてる事が尋常じゃ無いって事だ」
「コンサート会場が爆破された、って…、これ本当に?」
「少なくとも会場は爆破された」
「ああ、俺もこの目で見て来た。化学的に作られた爆弾で計画的に吹っ飛ばされてた」
和泉亜子が震える声で発した疑問に千雨と小太郎が答えた。
「その犯人ってネセサリウスなの?」
「その疑いがある、書いた通りだ」
裕奈の問いに千雨が答えた。
>>392
「妙ですね」
夕映が言う。
「コタローさんが言う手口だと、ネセサリウスのやり口とは思えない。
大体、学園都市のど真ん中でそんな派手なテロ事件を起こす性質の組織ではありません」
「それはアーニャも言ってた」
夕映の言葉に千雨も半ば同調する。
「現場にギリシャの魔術師が出張ってた。そっちの方が気になるな」
小太郎が言う。
「アリサさんに関わる電子情報を隠蔽していたのもギリシャの魔術」
夕映が呟いて考え込む。
「だけど、裏の裏をかくって事もあるし、動機からしても科学の学園都市に渡る前にいっそ、って、
組織の上がどこまで噛んでるか、焦ったら絶対無い、って事も無いよね」
朝倉和美が言う。
「そういう事だ」
千雨が言う。
「パズルのピースは足りなすぎる。だけど、起きてる事がデカ過ぎる。
こんな状況じゃあアリサの奴、命が幾つあっても足りない。
現実問題として魔術師は徘徊してる。表の警察じゃあ対処出来ない。
うちの学園の魔法使いもいつ本格的に動けるか分からない」
千雨が、ばりっと頭を掻いて立ち上がった。
「考えたのは一番単純な手だ。
アリサをマークして、出て来た奴をぶっ叩いて引きずり出す」
そこまで言って、千雨が一同を見回す。
>>393
「分かっているだけでも侮る事の出来る相手じゃない。
ここにいる全員で総力戦を掛けたいぐらいだ。
だけど、科学の学園都市は一般人でも無断立入禁止、魔法関係はもっと駄目だ。
そこで引っ掛かったらネギ先生や学校に迷惑が掛かる。
悪くすると首が飛ぶ、学校的な意味もそうだけど、最悪物理的に首が飛ぶって事だ。
赤の他人のためにそんだけのリスクがあって、私からの見返りは何も無い。
だから、関わらないのが当たり前だ。関わらないなら今の話は聞かなかった事にして欲しい。
その上で、私の友達のためにみんなの協力をお願いしたい」
頭を下げる千雨の前に、部屋がしんと静まる。
「もう一度だけ言う。
関わらないなら黙って退席して何も聞かなかった事にしてほしい」
頭を下げる千雨の前に、部屋がしんと静まり小揺るぎもしない。
千雨がすとんと腰を抜かす様に座り込む。
「有り難う」
かすれた声で言い、千雨は座り直す。
「神楽坂、近衛、桜咲、茶々丸」
「ん」
「はいな」
「お前らはこっちに残ってくれ」
「ちょっ」
「千雨ちゃんっ?」
千雨の言葉に、明日菜と木乃香が詰め寄る様に声を上げる。
>>394
「茶々丸はですねー、
そもそも、千雨さんが当初から気付いていたと言う話ですから
麻帆良の外で活動する事自体今の時点では色々ありますし、
科学の学園都市で魔術関連の紛争中に魔法動力で動く、
自我、ゴーストの成立したガイノイドとなると一種の悪夢ですから。
こちらにいて貰います」
まず、葉加瀬が説明した。
「で、茶々丸さんにお前ら三人。
他のみんなには申し訳無いが、ネギ先生のプランを考えるとこの四人はもう一つ別の次元で替えがきかない。
例え私ら全員ぶっ潰れても、あんたら一人でも欠けたらプラン、ネギ先生の根幹がヤバくなる。
だから、何かあっても知らなかった事にしていてくれ。
もちろん、あっちで私らに何かあれば、その時点でネギ先生に大迷惑がかかるって話なんだが…」
まだ何か言いたそうな明日菜を見て、千雨がぎゅっと右手の拳を握った。
「それでも、そこにお前らまで関わってたら余りに事がデカくなり過ぎる。
そうだ。こいつはさ、とびっきりタチの悪いガキの遊びだ」
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
乙乙!
漫画だと
茶々丸ってネギの秘書になった後は
ずっとネギと一緒に行動してるみたいだったけど
乙
感想どうもです。
ちょっと久しぶりですが、そろそろ時刻もよろしい頃合ですか。
それでは今回の投下、入ります。
>>395
× ×
「携帯、通信の調整はいいな。
向こうに着いたら今言った通りの班分けと配置で、
私がバックアップで仕切らせてもらう」
「鳴護アリサの居所は分かってるの?」
千雨の言葉に裕奈が尋ねた。
「今日、これからコンサートがある。
出来ればその前に把握したいが、多分勝負はそっからだ」
「携帯持ってるんじゃないの?」
「それなんだが、確かにこっちで渡した衛星携帯は持ってる。
だけど、居場所に関しては私達が直接アクセス出来る状態じゃない」
「科学の学園都市と言う性質上、位置情報を直接確認し合える設定にしておくのは
何かあった場合に却って危険であると判断しました。
もちろん、関係筋に照会したら可能ですが」
葉加瀬が説明を追加した。
「御坂さんには?」
夏美の質問に、千雨は首を横に振った。
「こっちの密入国の規模がデカ過ぎる。
あっちにはジャッジメントもいる、事前に報せて協力するのは無理だ。
ジャッジメントに妨害されるか科学の学園都市の住人であるあの人達に迷惑がかかるか。
総力上げて短期決戦。こっちは余所者、他のやり方は難しい」
>>401
× ×
とある病院。
ロビーでバタバタしてる女の子がいる。
まだ思春期にも到達していない、
本当なら今にもはしゃぎ回りたいところを辛うじて我慢していると言った感じだ。
そのアホ毛の女の子に、長身の黒いコートの男が接近する。
「やあ、お嬢さん」
「何か御用?ってミサカはミサカは問いかけてみるー」
「うん、おたくの先生の知り合いなんだけどね、はい飴あげようね」
「知らない人から物を貰ったらいけないんだよーって
ミサカはミサカはペロペロキャンディーの誘惑にぐっと堪え忍んでみる」
「だから、ミサカちゃんのトコの先生の知り合いなんだけど、
その先生からね、ミサカちゃんに急に…」
「なァにやってるンですかァ………」ピキッピキピキッピキッ
「うわーいってミサカはミサカはこの後の修羅場を想像してはしゃいでみたりー」
「だァってろ。便所だ便所、ちょォっと男同士の連れしょん行こう、な」
「ご愁傷様ってミサカはミサカは拝んでみる」
\ごっがあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!/
「誘い出す様に金で雇われただけってかァ、
ま、嘘は言ってなかったみてェだな。くっそ面倒臭ェ」
大便器を用いて犬○家を演じる愉快なオブジェの前で、
携帯電話を手に凶悪な呟きを漏らしていた。
>>402
× ×
「どうしてこうなった?」
早乙女ハルナは、とある公園で頭を抱えていた。
楓のアーティファクトに隠れる形で科学の学園都市への密入国に成功。
事前の計画に従い配置についていたのだが、そこで、一旦行動をストップしていた。
同行していた綾瀬夕映が
自動販売機に張り付いてキラキラした眼差しで釘付けとなっているのはまだいいのだが、
同じく宮崎のどかは、通りすがりの大名行列の先頭に対峙する形で本を開いたまま膠着していた。
その女だらけの大名行列の先頭は、
意外なぐらいに幼い顔立ちからして自分達と同年代にも見える。
だが、そのシルエットだけを見てそう判断する者は稀であろう。
早乙女ハルナも同年代の中では割と自信がある方である、ちょいぽちゃなのも魅力を損なうものではない。
だが、のどかの目の前では、服の上からもぶるんと震えそうなけしからん膨らみが
きゅっと引き締まったスリムな全体から余計に目立っている。
無邪気な眼差しに柔らかな金髪がお人形さんの様だが、
ハルナはその一見悪意無き眼差しに、むしろ悪意が無い方が怖い類の何かを嗅ぎ取る。
のどかの眼前で形のいい唇がふっと歪み、そして、行列を率いて去っていく。
>>403
× ×
とある路地裏。
路地裏の風物詩スキルアウトの皆さんが得物を手に物陰から獲物を観察している。
「おい、あれって?」
「マジかよ」
「いや、待て、無能力者に負けたって聞いたぞ」
「しかもなんだ?怪我してんの?」
「もしかして楽勝?」
「って言うか、これ勝ったらやっぱり最強?」
「つー事で」
「ヒャッハwwwwwwwwwwwwwwww!!!」
\ごっがあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!/
「ま、ままま待ってくれ、おおおおお俺達が悪かった、
手、手を引く。たたた頼まれただけななななななななな」
\ごっがあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!/
「たたた頼まれただけただただただ
こっちに来るひょろい白モヤシをボコッて土下座させるだけの簡単なお仕事って
はははははいっただ今世界一美しい土下座をををををっっっっっ」
\ごっがあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!/
\ごっがあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!/
\ごっがあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!/
「ほ、本当に知らないんだ。只、金で頼まれてここに来る奴を、
俺ら一人頭イチマン…」
>>404
\ごっがあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!/
\ごっがあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!/
\ごっがあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!/
\ごっがあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!/
\ごっがあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!/
「だぁーかぁーらぁー…ホントに、しらな…
終わったら、ケータイ、後金…」
\ごっがあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ………/
「くっそ野郎がァ…」
× ×
「時間だな」
待機中の現場で、シャットアウラ=セクウェンツィアが腕時計を見て呟く。
「私は休憩に入る、後の事はルール通りに」
「了解しました」
黒鴉部隊は近代的な組織である。
根性論に固執せずコンディションを整えるのも仕事の内だ。
「来た」
犬上小太郎の隣で村上夏美が頷く。
路上を進むシャットアウラがマンションの建物玄関の自動ドアをくぐり、
その後ろに、小太郎と夏美がぴたっと張り付いて自動ドアをくぐる。
小太郎と夏美はマンション周辺に張り込んでいた。
可能性は半々、予定時刻までにシャットアウラが帰宅しなければ次の行動に移る予定だったが、
ここは賭けに勝ったと言う事だった。
「孤独な黒子」を発動した夏美と小太郎が手を繋ぎ、シャットアウラを追跡する。
>>405
「………」
夏美は、小太郎の掌の汗としっかりとした体格をその身に感じる。
通常モードの外見で小柄な小太郎でも、体力に関しては比べ物にならない。
かくして、居室のドアが開くと同時に、
その行動には無理やりな体勢、手を繋いでかつ抱き締められたまま、
跳躍した小太郎と共に夏美はドアの中に滑り込んだ。
その後から本来の部屋の主が入室する。
とにかく、シャットアウラがアリサの警備をしている事は確か、
それ以上に何かありそうだが、今は少しでも確かな情報が欲しいと言う千雨の方針だった。
× ×
「いたいたっ」
一仕事終えて一旦戻ろうとしたネギの前に、
セーラー服姿の結標淡希が現れた。
「結標さん?」
「ネギ先生、雪広さんから何か変更聞いてましたか?」
「いえ、午前中から会談場所のホテルに詰め切りの筈です。
これから合流しようと思った所でしたが」
「それが、おかしいのよ」
「どういう事ですか?」
「雪広さんの携帯電話、電源が切られてる。
それでも作動する非常用のGPSにアクセスしたんだけど」
結標がPDAに地図を表示した。
「場所が全然違うし、雪広さんが行く様な場所じゃないわ。
こんな所に事情を知らないカタギの女が出入りしたら大変な事になるっ、ちょっ!」
一陣の風が通り過ぎた後、その場に一人ぽつんとたたずむ結標は携帯電話を手にする。
「だから何やってんのよっ!?用意しろって言ったのは…
こういう胸パッカーン魅惑の太股スレスレパンチラは逆効果なんだって何このコスプレ!?
ああ言う子はね、一応先生なの、まんま校則通り野暮ったいぐらいに、だから、
はあっ!?私の趣味だから?××××とケ×ん穴コルク抜き抉るぞゴラアアアッ!!!」
>>406
× ×
科学の学園都市風紀委員177支部。
「どう、初春さん?」
「この娘ですか?後ろ髪を巻いたツインテールにしたって言う」
「うん、この娘」
初春が、美琴の依頼で集めて検索した防犯ビデオ映像をパソコンのモニターに映し出し、
美琴が頷く。
「間違いありませんわこの女狐。
過日お姉様とホテルホテルホテルホテルホテルバスローブバスローブバスローブフフフフフフフフフフフ」
「例の事件の関係者?」
「分からない」
佐天の問いに美琴が答える。
「だけど、多分何らかの繋がりがあると思う。
例の、私達の能力開発とは違う何らかの能力。
この娘も侮れない実力だと思う」
「長谷川千雨の一派、ですか」
初春が呟く。
>>407
「それも分からない。あの娘も悪い娘じゃないとは思うんだけど…」
「いぃーえっ、お姉様っ!!!」
黒子がバァーンッと机を叩いてから車椅子に着席する。
「今すぐ、総力を挙げてとっ捕まえてひっくくって吊し上げて
この白井黒子直々にお姉様にお近づきになるに当たっての身の程と言うものを…」
「ただ、おかしいんですよね」
「?」
「多分、これなんかやってますよ。
彼女の映像、断片的に見付かっていますけど、途中から不自然に消失しています。
一見すると不自然には見えませんが」
「ハッキングして自分のいた痕跡を消した?デジタル映像を修正して?」
「一つの可能性ですが」
「そういや、あいつらデジタル関係にも変な能力持ってたっけ」
全ての指の間に鉄矢を挟んで踊っている白井黒子を背景に、
初春と美琴が状況を確かめ合う。
「変な能力ねぇ…」
佐天が親指の根元で顎を挟んでうーんと唸り声を上げる。
そして、半ば苦し紛れに人差し指を立てて結論を出した。
「科学の能力開発じゃないって言うんなら、
いっそ、魔法、とでも呼んでみよっか?
実は杖とか箒に跨ってその辺飛んでたりして」
>>408
× ×
「はわわわっ!!」
飛行モードの杖に跨って空中を吹っ飛んでいたネギが、
目の前に現れた飛行船を回避して急降下する。
防壁をまとったまま何本かの街路樹を突っ切り、
杖飛行中の常識として発動している認識阻害を身にまといながら
風紀委員177支部の窓の向こうを風の様に横切り急上昇する。
「さぁー、今度こそ頑張りますよおぉぉぉぉぉぉ
あぁぁーーーーーーーーうぅぅぅぅーーーーーーーーっ!!!」
飛行モードの箒に跨って空中を吹っ飛んでいた佐倉愛衣が、
目の前に現れた飛行船を回避して急降下する。
防壁をまとったまま何本かの街路樹を突っ切り、
箒飛行中の常識として発動している認識阻害を身にまといながら
風紀委員177支部の窓の向こうを風の様に横切り急上昇する。
今回はここまでです。
はい、
>>403は完全にギャグです。やってみたかっただけと言う。
大体、本作の作戦配置で何のためにどこに配置したらこんな遭遇戦になるんだって言う。
能力の汎用性が凶悪に違いすぎますから、ガチでぶつかったら
ブラックエロモードでカモ製始動キーを連呼しながら
マッパでネギの所にダッシュする未来しか想像出来ない訳で。
まあ、一応真面目に考えると、それで見逃してくれたのは気紛れと言うか、
さすがに今気紛れに喧嘩を売るのはヤバイ相手だと理解したのか。
続きは折を見て。
アリサ可愛い
乙です
乙
そういやネギまでは割とホイホイ人が飛んでるけど禁書では実質使えないんだよな
その辺りの設定誤差どうすんだ?
魔術ではなく魔法だから!飛行魔術とは体系が違うから!でごまかす
ネギまではデフォルトの魔法障壁で防ぐ
虚空瞬動で乗り切る
飛んでなんぼの魔法使いにはペテロの術式ごとき効かないよう対策してることにする
そもそもネギまサイドは飛ぶ程度のことに魔翌力は使っているがいちいち魔法(魔術)など使ってないことにする
神鳴流的に考えるなら魔翌力がなくても気を扱えれば空中戦は出来ないこともない。
完全な飛行は聖人第十位の特権って事になってるらしい
後は魔神かシークレットチーフの窓口とかの神域突破組か自称全能のトールとか黄金錬成、右方のフィアンマ辺りが例外かもしれない
このSSでは魔法=魔術みたいに扱われてたけど
やっぱ最初から別物にした方が良かったのかね
まあその辺も含めて上手く描いてくれる事を期待します
十字教術式で飛んでるならともかく他の術式で飛んでる場合落とされる意味がわからんよな
ミョルニルさんも飛行は十字教術式だったのかもしれん
例えば日本神話とか利用して飛んでる場合
「術者を担ぐ悪魔達よ、速やかにその手を離せ!!」キリッ
とか言われても「悪魔?なんのこっちゃ」って感じだろうし
そもそもライフメーカーとかからしたら「ペテロ?ああ昔いたわ、そんな名前の雑魚」って感じだろう
迎撃術式自体にも抜け道はあるようだし、落とされる筋合いが無ければ効かないだろう。というか意味不明すぎて効いて欲しくない
まあライフメーカークラスには効かんだろう
ネギにも効かんだろうしアーティファクトとか使えば一般的魔術師にもその限りでは無いかもしれん
ただ教義の違うと効かないって事は無いだろう
もしそうなると原作の矛盾が倍増しちまうので勘弁してください
>>416
>>417
最初の方の単純な話になるけど
ねーちんが天使ぶった斬ってたのもそんな理屈だったな
一応十字教って事になってますけど
うちは神道でも仏教でもなんでもありですから
十字教ならとにかく神様が八百万もいるとフツーに神様とか殺ってますんでって
感想有り難うございます。
はは、ははははは、
まあ、適当に期待してて下さい、
と、サクシャは汗だらっだらで曖昧な回答をしておきます。
正直、この先、作品考証的に更にヤバイ事が起きそうな予感ですし…
刺激になるのは楽しみなれどもしもの時は荒れないぐらいにお手柔らかに、
と言うのは作者の我が儘な性で、
はい、頑張ります。
それでは今回の投下、入ります。
>>409
× ×
「お待たせ」
「おう」
コンサートホールの外で、夏美と小太郎は千雨と合流した。
そして、適当な物陰を探す。
「ほな、戻るで」
「ああ」
そこに寄って来た少々物騒なナンパ集団を片付けてから小太郎が引き返した。
シャットアウラの部屋に侵入した小太郎と夏美は、
片手同士悪戦苦闘しながら64個とまではいかなくても大量の隠しカメラを設置。
その後で隙を見て部屋を脱出、犬狗飛行でここまで飛んで来たと言う訳だ。
この後、小太郎はシャットアウラの自宅マンションの屋上に戻りモニター監視に勤しむ予定である。
「じゃあ、行くぞ」
「うん」
残った二人は手を繋ぎ、「孤独な黒子」を発動して機材搬入口を探し出して中に入る。
「しかし」
「ん?」
>>419
「アリサの奴、これが本番直前イベント。
こないだまでのストリートがいつの間にかこんなホールであの大行列。
で、ふらっと来てそん中に入ってる私達。
村上とか宮崎とか、アーティファクトの神様だか協会だかが、
与える人間間違わなくて良かったってつくづく思うよ」
「んー、そんなに私人畜無害なのかなー。
本屋ちゃんならまだ分からないでもないけど」
「安心しろ、至ってまともだ」
「そう」
そう言って、千雨は携帯電話を取り出す。
「…なんだと…」
「どうしたの?」
それは、先行してここに潜入していた筈の楓からのメールだった。
「つけられている、振り切って戻る」
「嘘…」
夏美が呟き、千雨も顔を顰める。
「ここにいるの私達だけ?」
「そういう事になるな。ここで何かあったら火力が足りない。
まあ、それは無いって前提だからそういう配置にしたんだが…」
千雨が苦い声で言う。
相手がネセサリウスであれば、コンサートのど真ん中で何かを仕掛けて来るとは考えにくい。
だが、現実にショッピングモールで大爆発をやらかした何者かがいる。
出たトコ勝負、こうなったら効能自体は高い夏美の能力で出来る所までやるしかない。
「ごめんなさい」
「おい」
夏美が謝り、千雨が夏美に声を掛ける。
と、言うのも、誰かにぶつかったからなのだが、
コンサートホールの通路でもたもたしていては、それは誰かにぶつかると言うものだ。
それでも、今は「孤独な黒子」で存在感を消しているのだから、本来相手も気にならない筈。
>>420
「おいっ!」
「!?」
「そこにいるのかっ!?」
「!?やべっ!あだだだだだっ!!」
その、結果的には過信により逃走が遅れた。
そして、闇雲に掴み出された右手により、千雨のセミロングの後ろ髪がまともに掴まれていた。
「悪い、だけど今離す訳にはいかないな」
「あんた、上条、当麻?」
千雨の目配せを受けて夏美が離脱した。
「ぶつかった時に右手が掠めたんだな。一瞬だったけど、
それでいたりいなかったりしたからな」
「マジック・キャンセルかよ…」
次の瞬間、上条は千雨の髪の毛から右手を離し、さっと身を交わして右手で掴み掛かった。
「その消える魔術、攻撃する瞬間には途切れるらしいな。
悪いけど、少しは喧嘩慣れしてるんで、女の子にそんな回し蹴りされても、な…」
その通り、上条の目の前では、右手に「孤独な黒子」を掴んだ夏美が、
ついつい素人が派手にやりがちな回し蹴りを交わされ、
危うくずっこける所を上条に体を掴まれ辛うじて踏み止まっていた。
「ん?」
そこで、上条当麻は葛藤する。
敵か味方かはよく分からないが、自分の政治的立場と相手の特性を考えると、
今、もう一度透明化させるのは決して得策ではない。
だからと言って、ようやくその掌の中に違和感と言う程の弾力に気付いた上で、
更に掴みっぱなしにしておくと言うのも別の意味で色々と問題が生ずる。
そのほんの何秒かの葛藤の間に、
夏美の顔が青くなり赤くなり、千雨のイメージ背景がゴォーッと業火に包まれてカーンとゴングが鳴る。
>>421
「いぃぃぃぃぃぃぃぃぃやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」
「わ、わりっ…」
夏美の悲鳴は最早悲鳴にならず、上条が常識的な速度で常識的な判断に至った時には時既に遅く、
魔法世界の新たな英雄にして救世主を宙に舞わせて来た長谷川千雨の拳は今日も快調な滑り出しだった。
「あー、今のは上条さんが悪かった、ごめん」
電灯代わりに突き刺さった天井からボコッと頭を抜いて着地した上条が、
バツ字の腕で体の前を抑えた涙目の夏美と
玩具にしか見えないミニステッキを構えてじりっと後ずさりする千雨に近づく。
「改めて聞くけど、お前ら魔法協会の魔法使いだろ?」
上条が、周囲に聞いてる者がいないのを確かめて小声で尋ねる。
「曖昧で悪いが、違う、とも言い切れないけど完全にそうだって事でもない」
「ああ、何か正式な魔法使いとも違うってな」
「あんたこそ、どうしてそんな事情に詳しいんだ?インデックスと一緒だったからか」
「まあ、そんな所だ」
上条当麻と長谷川千雨、お互いカードの読み合いが始まったと自覚する。
「お前ら、アリサの敵なのか、味方なのか?」
「味方だ」
千雨が即答する。
上条当麻の事を詳しく知っている訳ではない。
だが、鳴護アリサが全幅の信頼をおいている「いい男」。
現に、自分達の間では決して高いとは言えない筈の戦闘能力、
しかも、そういう世界である事を自覚しながらも
拳一つで決して退かなかった「漢」の姿は千雨も見ている。
それも又裏がある、とは考えたくもないが、
二対一とは言え相手は男、喧嘩慣れしていると言うのも嘘ではなさそうだ。
「孤独な黒子」があってもマジック・キャンセル相手では今の様に万が一もある。
今、真正面からやり合うのは得策とは言えない。
>>422
「同じ質問をする」
千雨が上条を見据える。
「あんたを信じていいのか?アリサのナイトとして?」
「俺はそのつもりだ」
上条も正面から応じる。
「分かった。悪いがここまでだ、あんたとは相性が悪い。
こっちで出来る事をやらせてもらう」
「おいっ、待てよっ!!」
目配せと共に夏美と千雨が姿を消し、上条が逃すかとばかりに掴み掛かる。
そこで、上条当麻は葛藤する。
敵か味方かはよく分からないが、自分の政治的立場と相手の特性を考えると、
今ここで透明化させずにしっかりと話し合っておく必要がある筈。
だからと言って、突き出した右手の中に捕らえた違和感と言うにはしっかりとし過ぎた
少なくとも先ほどとは倍掛けの確かな弾力に気付いた上で、
更に掴みっぱなしにしておくと言うのも別の意味で色々と問題が生ずる。
そのほんの何秒かの葛藤の間に、
長谷川千雨のイメージ映像はドゴーンと噴出する火柱に包まれていた。
「わ、わり…」
汗だらっだらで上条が常識的な速度で常識的な判断に至った時には時既に遅く、
魔法世界最強の傭兵にして理屈無用の最強バグキャラチートを一撃した
長谷川千雨の跳び蹴りは今日も快調な滑り出しだった。
「わ、わり、ぃ…」
「おい」
通路の床に這いつくばっていた上条当麻が顔を上げると、
相手の二人は既に姿を消して、妙齢の女性が腕組みをして立っていた。
硬い黒い制服ながら、それでも胸がつかえて顔が半ば見えない。
「警備に駆り出されて誰かと思えば、
コンサートだからってナンパから先のステップスピード違反し過ぎじゃん。
月詠先生が悲しむじゃん」
「あ、あのですね、これにはふかーい訳が…」
>>423
× ×
「俺は内臓潰しの横須がああああっ!!
あいつらを可愛がっでえええええ!!!
れたようだなあぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」
いかにも数カ国に及ぶ傭兵上がりと言わんばかりのむきむき人間兵器外見な巨漢が、
ゴキゴキ首を鳴らしながらむくりと立ち上がる。
但し、その大木の如き両脚は既に震動を開始している。
「だがしがあぁぁぁぁぁいぃぃぃぃぃぃっっっ!!
まずい所にぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっっっ!!!
ここは後がいおおおおおおおおおおっっっっっ!!!
対能力者戦闘のえぎずばあああああっっっっっ!!!
ざばの前にだっぢまっ、だあああああっ!!!」
ぎ、ざ、ま、ば、ご、ご、で…」
巨漢が、朽ちた大木の如くずーんと倒れ込む。
確かに、前回の反省からか口上と突進が同時進行だったのだから
その間に攻撃を受けても文句の言える筋合いではない。
「大丈夫アルか?」
「あ、ええ、有り難うございます」
にっこり無邪気に微笑む少女に手を差し伸べられ、
薄汚い路地裏で腰を抜かしていた原谷矢文は素直にその手を取る。
周辺は既にして死屍累々。
それに対する中学生ぐらいのむしろ小柄な少女の動きは実に軽やかで、
それでいて一撃一撃はとてつもなく重い。
それより何より、これで何度目かの遭遇だろうか、
ここでぶっ倒れた巨大モツ鍋ももこんな所でケチなカツアゲしてないで
世界征服でも企んで下さいよと言いたくなるいいキャラであるが、
こちらの初対面の少女も褐色アジア系にチャイナ服で多分中国拳法で見た目結構可愛くて、
怪し過ぎるアル言葉で拳銃よりも早くスキルアウトの大群を轟沈と、キャラが立ちすぎている。
「うむ。しかし、路地裏のチンピラにしてはまあまあいい根性をしていたアルね。
あれだけヒットして立っていられたとは」
>>424
「ごん、ぢょう」
そのチャイナ娘の言葉に、あの巨漢横須賀がゆらりと立ち上がる。
あー、気持ちは分かる、と言うのが原谷。
「あ゛あ゛ー、確がにー、俺はごんなモンだぁ。
げどなぁ、本物の根性、ってのはこんなモンじゃねぇー。
女ぁ、お、前は、まだ、しら、れぇ…」
巨漢が、朽ちた大木の如くずーんと倒れ込む。
「本物の根性アルか」
× ×
「ニンッ!」
科学の学園都市だからこそ、その方々に造成された緑地帯。
その、とっぷりと陽も沈んだ森の一角で、
長瀬楓がさっと身を交わす。
そして、楓のいた辺りの樹木にピシッ、ピシッと着弾する。
「もう一度だけ聞く、居場所はどこだ?」
「だから、その様な者は知らないでござる」
「甲賀者が学園都市をうろついていながらか?」
「んー、何の事でござるかなー」
楓がタッ、と飛び退き、木の幹に券銃弾が着弾した。
確かに、射撃の腕は悪くないのだろう。
それで、今の所は身を隠して狙っている自分が楓よりも優位である、
そう受け取っている口ぶりだった。
とにもかくにも楓としては大切な私的任務中である。
拳銃をぶっ放す様な相手なら会場を離れて誘い込んだ判断は正解だったが、
こんな所で時間を掛けてはいられない。
今回はここまでです。
続きは折を見て。
乙です
そんな馨も、プログラムに巻き込まれた。
教室を出た後、B=05エリアとB=06エリアの境目に設置されているベンチに腰掛けていた。
もしかしたら誰かに襲われるかもしれないという不安はあるが、同時に、まさかクラスメイト同士で殺し合いなどしないだろうという安心感もある。
誰かに見つかっても問題ない、そう思っていた。
…朱里……
教室内で斬殺された水上朱里(女子18番)の無残な姿が目に浮かぶ。
朱里とは、同じ外で活動する運動部員という共通点もあり、クラス内の女子の中でも親しい方だった。
好戦的な良悟と卜部かりん(女子4番)が口論するのを眺めては、2人共飽きないもんだね、と一緒に見学していた。
とても明るい、元気な子だった。
それなのに。
小さな少女の人生は、一瞬にして幕を下ろされた。
無我夢中で名前を呼んだ。
呼んでどうなるものでもないが、そうせずにはいられなかった。
朱里…助けられなくて…ごめんね…
馨は目の前にそびえ立つ3号棟を見た。
あの中に、朱里の亡骸はある。
朱里を殺害した、政府の人間と一緒に。
「許せないね…やっぱ…」
ぽつりと呟いた。
声は、暗闇に溶けていく。
「…でも、どうすればいいんだろうね?」
訊いた。
誰にともなく。
返事を期待しているわけではないが、声を出さずに入られなかった。
とりあえず、良悟を待つ。
このクラスの誰よりも信頼している。
テニスで共に全国大会まで進んだ、最も気の合う親友だ。
良悟も恐らく朱里の死が気に入らないはずだ。
だったら、きっと何かできる。
好戦的な良悟の事だ、復讐などを考えていてもおかしくない。
もしそうなら、それを手伝いたい。
馨に支給された武器は、アイスピックだった。
氷を砕く為の物でさえ、武器となるのか。
気分が優れない。
それでも、朱里を殺害した岸田総悟(担当教官補佐)に一矢報いる事くらいはできるかもしれない。
高校の春休みにさまざまなテレビ局や雑誌の編集部へマネージャーと共にあいさつ回りをするために東映本社を訪れた際、仮面ライダーのプロデューサーと偶然に出会い翌日にある仮面ライダーWのオーディションの誘いを受け、見事、桐山漣とともに平成11代目の主演ライダーの座を手に入れる。
ちなみに本人はこの作品で学んだことは、人生は面白いという事と年齢に関係なく人や友情の素晴らしさを知ったことだそうであり、菅田自身が俳優として得た最初のオーディションである。
Wでフィリップが単独変身することになった場合、劇中のファングメモリに愛着があるため「仮面ライダーファングをやりたい」と「仮面ライダーWリターンズ公式読本」などで度々語っている。
誤爆?
取り敢えず私じゃないです
荒らしだからスルーしとけ
それでは今回の投下、入ります。
>>425
× ×
言葉にならない。
手を繋いだままコンサート会場に忍び込んだ千雨と夏美は、
圧倒されるばかりだった。
過去、二人が直接鳴護アリサを目にしたのは一度だけ。
千雨はライブも見ているがそれは普段着のストリートでの事。
しかし、今、熱狂的な歓声を浴びながらステージ上に現れたアリサは、
赤い、凝ったチアリーディングと言った感じの
ステージ衣装に身を包んだステージ上のアイドル。
歌い出し、そして歓声。二人はそれだけでKO級に圧倒された。
「…凄い…」
夏美が震える声で呟く。
やはり、言葉にならない。文学的にも論理的にも。
出来る者はいるのかも知れないが、少なくともその表現はどこぞのヘボ作者の手には余る。
只、ここに直面し心を震わせる。
夏美が手に痛みを感じて隣を見る。
夏美の手をぎゅっと握った千雨の表情は真剣そのものだ。
千雨の喉がごくりと動き、息まで荒くなっている。
「…これが…アリサ…」
千雨の口から漏れる呟き。たたえている様であり、恐れている様である。
その諸々を全て呑み込ん心を幸福で満たす。
一曲目が終わった頃には、それはよくよく自らの気持ちとして理解出来る事だった。
>>431
× ×
夢の様な、そして、丸で戦場から帰還したかの様でもある。
そんな一時が終わり、千雨と夏美は通路にいた。
千雨は、パンパンと掌で顔を叩く。
そして、慣れないチームリーダーの顔を無理やり取り戻す。
泣きたい、叫びたいその心を一度深呼吸と共に呑み込んで。
千雨は、イヤホンマイク接続の携帯電話を操作する。
「もしもし、朝倉」
「ああ、千雨ちゃん、いけるよこれっ」
「ああ、詳しく頼む」
「私のスパイゴーレムが目標捕捉した。イギリス清教と鳴護アリサね。
ネセサリウスの方は千雨ちゃんに聞いた見た目分かり易過ぎたから
そっちがライブ中だと思って近くにいる奴を動かした。
鳴護アリサは今さっき出て来た所を捕捉。取り敢えず尾行させるって事でいい?」
「それでいい、もう始めてるんだろ予定通りに」
「ばっちり」
今回潜入した千雨他ネギ・パーティーの大部分によるチームは、
携帯のGPS機能とPDAによりメンバーの居場所が把握出来る様になっている。
但し、把握出来るのはリーダーの千雨とサブリーダーの朝倉。
和美がサブリーダーになったのは第一にアーティファクトの性質故だが、
無論その頭の切れも買っている。
全員が把握出来る形も考えたのだが、万一と言う事がある。
こちらの人数が少なくない、決して侮れる相手ではない以上、
一人捕まって芋蔓と言うのは避けると言う事になった。
>>432
× ×
「………」
全くもってかしましい。
但し、日本語が堪能と言っても外国人の限度である以上、
ここで、丁度女三人、一番相応しい漢字における表現にまでは思い至らないステイル=マグヌス。
そのステイルの目の前では、メイド服型ユニフォームやらカチューシャやらを手にした三人娘が
ピーチクパーチクワーワーキャーキャーさえずっている。
その様子を、三人娘の師匠と言う事になっているらしい。
なっているらしいと自ら心の中で解説するステイル=マグヌスは、
指に挟んだ煙草の煙を頭上の換気扇に吸わせながら、長椅子に掛けて黙って見守っている。
「ししょー、問題はありません。予定通りこれでいきます」
「そうかい」
ステイルがやれやれと立ち上がり仕切りカーテンに手を掛ける。
そして、しゃっと横に手を動かす、筈だったのだが実行はされなかった。
ドガーンと音を立ててぶち破られた扉に、中の四人の目が集中する。
「ししょーっ!?」
「しまっ!?」
自分を撃ち抜いた何かと共に、ステイルは物凄く嫌な感じを覚える。
「きゃあっ!?」
「わあっ!」
狭い室内であり、撃ち抜く的が、
動こうとした先から中途半端に身に着けていた黒い衣装やメイドワンピが
引っ掛かってすってんころりんな事を差し引いても見事な速射と言うべきだった。
「君達は?」
煙草を挟んだ二本指を垂直に立てた余裕ぶった態度でステイルが尋ねる。
>>433
「通りすがりのチャイニーズアルね」
「同じく通りすがりのカウボーイ」
「どこの世界に駐車中のトラックのコンテナの中に扉ぶち破って
通りがかるチャイニーズとカウボーイがいるんですかっ!?」
「そーよそーよ、それってまんまホールドアップよっ!」
「うん、それが分かってるなら話が早い」
魔女っ子達の当然の抗議の声にニカッと笑って自称カウボーイ明石裕奈が応じ、
さっとジェーンが先頭に回り扇子を振る。
「はれ?」
「あー、涼し。空調効いててもコンテナって蒸すねー。
さっきのであんたらの魔力大幅削減だから無駄な抵抗やめといた方がいいよ。
と、言う訳で、皆さんちょーっと一緒に来てくれるかなー?
出来れば穏便に話を付けたいんだけど」
「話にならないね」
ステイルが鼻で笑って立ち上がる。
「大体、君はどこから見てもボーイではないだろう。
やはり英語は難しかったのかい?」
そのステイルの言葉に、ジェーンとマリーベートは右見て、左見て、
イザ潜入と準備中に不意打ちを食らったメアリエと
自称カウボーイのバリッバリのアーティファクト衣装を見比べる。
ざっくざくの山型にカッティングされた衣装からはみ出しそうにけしからぬ存在感は、
憎ったらしいメアリエにも勝るとも劣らない、
我が同盟の敵がもう一人増えたと、ジェーンとマリーベートは頷き合う。
「ふーん、身一つで盾になるとか師匠冥利だね」
両腕を広げてステイルの前に両腕を広げて立ちはだかる魔女三人を見て、裕奈が言った。
だが、実際問題やり難い。バンバンバンバンと射撃してしまえば話は早いのであるが、
魔力を封印してしまえば見た所ちびっこい可愛らしい女の子相手に躊躇を覚える。
まして、古菲が自分の拳を使うのはもっとそういう事になる。
>>434
「そんなものじゃないよ」
ステイルが言った。
「魔術師とは自分勝手なものさ。こうする事が得だと分かっている、それだけだ」
裕奈が息を呑む。ゆらりと前進するステイルの行動はハッタリには見えない。
「イノケンティウスッ!!」
「なっ!?」
弟子三人がザッと展開し、裕奈は光線を発砲しながら飛び退く。
「ハッ!」
その裕奈に殴りかからんとした人間型の炎に古菲が如意棒を叩き付ける。
果たして、炎は一瞬拡散したもののすぐに元の形を取り戻す。
「このおっ!!」
裕奈が炎に立て続けに発砲するが、一瞬縮小してもすぐに元に戻る。
ステイルが発動したのは完全証拠隠滅用に、
このコンテナに予め設置しておいたルーンを用いたもの。
つまり、裕奈に何割減されても分母が巨大すぎて人一人灰にするには十分な計算だった。
「亜子っ!」
「はいなっ!」
(魔力が急上昇っ!?)
「チイッ!」
背後から巨大な注射を射たれた裕奈の発砲した光線がイノケンティウスを爆散し
その向こうの壁までぶち壊してステイルは辛うじて身を交わす。
>>434
「散れっ!」
「くっ!」
ステイルの指示で弟子達も走り出す。
それに対応しようとした裕奈は、復活したイノケンティウスへの対処を先に迫られる。
イノケンティウスに背中を見せられない裕奈の隙を突いて、
魔女っ子三人はコンテナから駐車中の空き地に転がり出た。
「捕まえたっ!」
「くっ!」
メアリエが佐々木まき絵のリボンに脚を取られてスリップする。
その地面を走るリボンにステイルが飛び付いた。
「行けっ!」
「はいっ!」
リボンが焼き切れ、メアリエが這々の体で走り出す。
本来は人体など瞬時に蒸気にする炎剣を一瞬だけ掌で包み込んだ局所に集中したステイルが、
全く馬鹿馬鹿しいと思いつつも掌のルーンカードをまき絵に見せながら威嚇する
その威嚇が効いているらしいオツムの相手に苦戦していると言う事が又悔しい。
「このっ、このっ、このおっ!」
半ば乱射に近い状態になっているコンテナの裕奈を見て、
アキラが携帯を操作した。
>>436
× ×
「大河内か?は?何?ああ分かった」
電話を切った千雨が電話をかけ直す。
「出てくれよ…もしもしっ!」
「はい」
「急ぎだ、ステイルが使う消えない炎の消し方分かるか?」
「ステイルの、消えない?…何してるんですか長谷川さんっ!?」
「だから急ぎだ」
「すぐにその場を離れて下さいっ!!」
「頼むっ!」
「…ルーンです。炎は影か鏡像みたいなもの。
周辺に張られた大量のルーンカードが本体ですっ!
今どこにいるんですかっ!?今すぐ…」
「悪い、佐倉」
電話を切った千雨がかけ直した。
>>436のアンカが一つ飛んでるな。ミスですすいません。
続き
>>437
× ×
「まき絵っ!」
「オッケーッ!!」
アキラとのコンタクトでまき絵がコンテナに飛び込んだ。
追跡しようとするステイルの前にアキラが立ちふさがる。
ステイルが本調子であればその場で灰にされていた所だ。
イザとなったら、近くに用意しておいた水たまりにワープするしかない。
「ゆーな、ちょっとだけあいつお願いっ!」
「分かった!」
裕奈が発砲し、瞬間だけ炎人形が吹き飛ぶ。
「!?」
ステイルが目を見張り、吐き捨てそうになる。
まき絵のリボンがざーっとコンテナの壁を、天井を一掃していた。
ステイルが舌打ちして横に走り出す。
「待て…」
「死にたいのかっ!?」
憎々しげなステイルの言葉に、一瞬だけアキラの足が止まる。
それは、紛れもなく本物の人殺しの迫力。
そして、アキラが直接的な攻撃魔法に乏しい事を察知した現場の勘。
実際、只組み付いて来るだけであれば、
今の自分でも、筋肉から内臓まで貫通する程度の近距離魔術なら
どうにか出来る自信はステイルにもあった。
>>438
× ×
「待つアルねーっ!」
「あああーしつこいっ!」
苛立ちながらも、絶体絶命のピンチだった。
こうやって、右手に魔女衣装左手にメイドワンピを握ったまま這々の体で空き地を脱出したマリーベートを
あのチャイニーズがドドドドドドドドと効果音を立てる勢いで追跡して来ている。
いつもなら土の魔法で相手の脚を拘束すれば追跡を止めてもお釣りが来る、
土の筒に脚を飲まれている所をボッコボコにしてやってもいい所なのだが、
今回はそれが上手く発動しない。
ボコッ、ボコッと多少デコボコに隆起する地面を
あのチャイニーズはホッホッと面白そうに避けて突き進む。
いやいやいやいや、ああ言うのは映画の中の話であって、
本物のチャイニーズがみんなカンフーマスターだとかそういうのは、
日本に来たらチョンマゲで刀差してゲイシャが歩いている類の話だと思ってたら、
その映画みたいな一撃必殺を目の当たりにしてくれる非常識が
そんな弱り目に祟り目のマリーベートを追跡して来ているのだからたまらない。
しかも、任務の性質上、余り目立つ訳にもいかない。
追い回されている上にアンチスキルなんかの保護欲をかき立ててもいけないのだから
ややこしい事この上無い。
そんなこんなで、古菲とマリーベートは表通りを避けて、
いつの間にか空き地のコンテナ置き場で追いかけっこしていた。
マリーベートがコンテナの曲がり角を曲がる。古菲がその後を追う。
ドッパーンッと盛大に爆発し周辺にもうもうと立ちこめるカラフルな煙と共に、
吹っ飛ばされた古菲が空き地に弾き戻された。
>>439
× ×
「もしもし」
「もしもし、定期連絡です。無事ですね?」
「はい、お姉様」
「何か分かりましたか?」
「いえ、特には」
「そうですか」
「あの、お姉様」
「何ですか?」
「今後の参考までにお伺いしたいのですが、
もし、今回の件で長谷川千雨さん辺りが痺れを切らして
ネギ・パーティーを引き連れて科学の学園都市に侵入して
ネセサリウスと交戦状態に突入した、何て事になったらどうなるでしょうか?」
「ネギ先生がいないとは言え、
ネギ・パーティーはそれ自体があの夏の世界戦争レベルの帰趨を決した、
とてつもない潜在能力レアアイテムを所有する一大勢力です。人数の問題ではありません。
魔法協会も含めて裏同士で探り合い殴り合いをしている程度ならやり様もありますが、
そんなものがよりによって科学の学園都市で真正面からぶつかり合ってそれが表沙汰になった、
なんて事になったら」
「なったら?」
「既に我々が調査に着手していると言う事情もあります。
そんな事になったら、他の魔術勢力への説明と言うものもあります。
私達も上の先生達もまとめてオコジョ、と言う事も十分にあるパターンです」
「そ、そうですよね」
「そうです。ですから、もしその様な徴候を発見したならば直ちに対処しなさい。
いくらあのいけ好かない極道神父その他が相手だと言っても、
間違ってもネギ・パーティーが彼らを襲撃して直接交戦状態に突入する、
等という洒落にならない事態に陥らない様に迅速に対処するのです」
「リ、リョウカイシマシタキモニメイジテオネエサマ」
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
乙
乙
それでは今回の投下、入ります。
>>440
× ×
科学の学園都市内、とある男子寮。
「?」
工山規範は、玄関ドアの妙な物音に気付いて首を傾げる。
施錠はしていた筈だが。
腰を浮かせて玄関に向かった工山は、その途中で腰を抜かした。
「よォ」
「ま、ままままま、待ってくれっ!」
腰を抜かし、歯をカタカタ鳴らしながら工山は絶叫していた。
「た、たたたた、頼まれた、知り合いに頼まれただけなんだ、
た、たたた、只、見たいもんがあるからちょっと入口を開けてくれって、
アアアアア一方通行襲撃計画に使われるななななんて事はししししし知らなかった
知らなかった全然知らなかっただだだだから…」
「あァー」
腰を抜かし、右手を突き出して絶叫する工山の言葉を、
一方通行は平常運転でだるそうに聞いている。
そして、一方通行はテーブルの上に襲撃者から取り上げたノーパソを置く。
「これからお前ェがやる事を教える」
「ま、待ってくれっ!」
「あァ?」
「い、今、条件付きの保護観察中なんだ。
だから、パソコンに触る事すら禁止されてる」
「運良く発覚せずに済むか悪くすると檻ン中か
今すぐ鶏ガラな感じの肉塊になるか、五秒で選べ」
>>444
× ×
科学の学園都市風紀委員第177支部。
初春飾利がパソコンのキーボードを離れて携帯電話を手にする。
「はい、幾つかダミーを噛ませてますけど間違いないです。
電波の発信源と何よりも解析した花の形からして彼のものであると。
記録は確保しました。性質上令状は間に合わないかも知れませんが注意だけでもお願いします」
電話を切り、クッキーを摘んだ初春はパソコンに目を向ける。
「又、上書きされてますね。今度はどこから…」
× ×
「ニクマン・ピザマン・フカヒレマン!!」フオオオオオッ
「き、気合い入ってますね」
麻帆良学園内に隠匿されている学園警備オフィスで、
ナツメグこと夏目萌が弐集院に声を掛ける。
「佐倉君、マークされているよ」
「え?」
「科学の学園都市、君達が動ける様に、
あの街の通常の裏セキュリティーから除外される様に仕組んでおいた訳だが、
個別設定で佐倉君の顔面認証データを入力して
街頭カメラが察知したらあちらの学園都市内のどこかに送信するプログラムを組んだ人間がいる」
「なんですって?」
「対処していた電子精霊が手に負えないとマスターの僕に泣き付いてきた。
相当手強い、一流のセキュリティーとしてハッカーと言うものをよく知っている相手だ。
さり気なく改竄しておいたものをすぐ後に正確に察知して地雷まで仕掛けて待ち構える。
僕はその上を行って再度改竄する。この鼬ごっこだ。丸で抗生物質と耐性菌みたいにね。
ここまでお互いに拠点と見せかけたダミーを幾つも潰し合って、それがダミーだと察知して対処してる」
「詳しい事は喋っていないと言っていましたけど、
さすがにあちらのレベル5に接触したのは痛かったですか」
>>445
× ×
「こ、これ以上はマジで無理だ。
本当だ、本当に開かないしこれ以上アクセスを続けたらか、確実に殺られる」
「そォか」
「しかし、なんなんだこれは?
僕には通用しなかったけど追跡回避に並のハッカーじゃ抜けられない規模のサーバー噛ませて、
それで、辿り着いた先も巧妙な偽装に包まれた正体不明カップル、いや、カップルって言うより…」
「深入りすンな」
それだけ言って、一方通行はひらりと窓から飛び降りる。
「おいっ、ここは…」
「おーい、開いてるのかーっ」
玄関から最近聞き慣れた声が聞こえる。
「家庭訪問じゃん真面目にやってるかー」
× ×
「ああ、分かった」
「どう?」
電話を切った千雨に夏美が尋ねる。
「逃げられた、取り敢えずもうちょい周辺捜索するらしい」
「そう」
「だが、ステイルと三人娘には明石が魔法禁止食らわせた。
完全とはいかなくても戦力としては大幅減。幸先は悪くない」
千雨が自分の言葉に納得する様に頷く。
「…待てよ…」
「ん?」
「いや、さっき上条当麻、なんで…」
「何?」
「魔法協会とかの政治的な枠組みを知ってるのは分かる。
だけど、つい最近この世界に関わった私達の事、
正式じゃない魔法使いがいて、それでこっちで動いてる。何でそんな事知ってるんだ?」
>>446
× ×
「間に合ったぁ」
「大丈夫?」
事前に集合場所に決めておいた路地裏で、
最後に現れたマリーベートにメアリエが尋ねる。
「ええ、何とかまいて来たから」
「でも、困りました」
ジェーンが浮かない顔で言う。
「まだ、力が完全には戻りません」
「恐らく、時間制限で魔力を制限する術式だろうね。
時間が経てば元に戻る感触だけど」
ステイルが嘆息して言う。
「でも、このペースだと…」
「作戦時間ぎりぎり、だな」
そう言いかけたステイルが通りに視線を向けた。
「不幸だ…」
幸いと言うべきか、調書を取る前に「被害者」が姿を消した事もあり、
あくまで事故と言う事で謝り倒してお説教で済ませてもらって
コンサート会場を後にしたウニ頭がぶつぶつ言いながら歩いていた。
「上条当麻」
「お前らっ!?」
つい先日も派手に殺し合いをしたばかりの魔術師軍団がずらっと目の前に現れたら、
只でさえ不幸体質を自認し、たった今まで不幸だった上条当麻が警戒するのも当然である。
>>447
「ああ、僕らも忙しいからね。これから奇蹟の歌姫を拉致監禁して
千客万来のギャラリーの前に生まれたままの姿で逆さ吊りにして
何が何でも自白する魔女裁判に掛けてから生贄の祭壇に鎖で大の字に縛り付けて
我がロンギヌスの槍をもってその処女地の奥深くに生命の源を注ぎ込んで
その紅と白の体液を百八回ドクロに塗り込めたしかる後に
牛に引っ張らせて八つ裂きにしてその心臓を捧げる儀式を行う予定だから
君と遊んでいる暇は無いんだよ分かったか馬鹿が」
[sogebu][sogebu][sogebu][sogebu]
テレパシールーンを手にした四人の魔術師が軽快に通りを疾走する。
「ばっちりです、フルパワーいけますっ!」
「でもぉ、女の子の顔をグーで全力殴ります普通!?」
「上条当麻だからな」
「でも、これでは次の作戦が」
「ごまかせ、出力不足よりはましだ」
「はうぅ…」
「それよりも…」
「うん?」
「イギリス清教に対する非常に深刻な誤解が生じた様な気がするのですが…」
「そんなもの、生きていればどうとでも説明出来る」
そこまで会話して、ステイルは別の通信霊装を取り出した。
「あらステイル、随分と愉快なる儀式をプロデュースしたりけるのかしら?」
「………」
「私の知りける限り聖書に左様なる記述はなかりけるのだけれども
取り敢えずは異端審問の準備をしておけと言わんとしているのでありけるのかしら?」
>>448
まだ、ぱたぱたと水滴の音が聞こえる。
「おい」
ウォーミングアップ代わりに
周辺の消火栓全部から総攻撃を受けて引っ繰り返っていた上条当麻が顔を上げると、
妙齢の女性が腕組みをして立っていた。
硬い黒い制服ながら、それでも胸がつかえて顔が半ば見えない。
「ナンパに失敗した腹いせにDQNな水遊びか?
いい加減、月詠センセが泣く前に
涙も出なくなるまで締め上げた方が良さそうじゃん」
× ×
ネギが降り立った所は、これから大型の工事が行われる所らしく、
現在は資材置き場となっている広い空き地だった。
直接的には察知出来ないが、何か嫌な感じがする。
「!?」
ネギが、ハッと向きを変えて防壁を張る。
それでも、地面から伝わって来た強烈な衝撃波を受けて、
ネギの小さな体は軽く吹っ飛ぶ。
ネギは、とっさに出所と目される資材の山に光の矢を撃ち込む。
「?」
光の矢が、物陰に入ってから変な方向に打ち上がった。
「ネェェェェェェェェェギィィィィィィィくゥゥゥゥゥゥン!!!」
>>449
× ×
麻帆良学園都市世界樹前広場。
野太刀夕凪の柄側を正面から左肩に当てる様にして、
桜咲刹那は石段に腰掛け一人静かに待っていた。
「彼なら来ませんよ」
背後からの声に、刹那は目を見張った。
「かの地での縁を過信しましたか。あちらの人にありがちな事です。
大体、正式な学園都市の生徒が簡単に出て来られる筈がない」
刹那の喉がごくりと動く。
「こちらの、「魔法」サイドは鳴護アリサの件に関して
どの程度把握してどの程度の規模で動いているのですか?」
刹那の掌が、鞘から柄にそろそろと動く。
「麻帆良学園、関東魔法協会の性質から考えて、
余り無茶な横紙破りを組織的にやっているとは考えがたい。
その麻帆良の中でも、英雄のパワーと求心力、そして個々の要員の強力な潜在能力によって、
世界を一つ救う程に急激に膨張した一大勢力。
力頼みの急成長故に統率が取り切れず、
或いは協会自体その全容を必ずしも把握していない半ば独立愚連隊。
それ故の暴走と見るのが妥当でしょう」
落ち着いた説明と共に、コッ、コッと足音が近づいて来る。
>>450
「穏便に話を進めましょう。
こちらとしても「魔法」サイドとの摩擦は避けたい。それは「魔法」サイドも同じの筈。
悪い様にはしません、あなたの知っている事を話して下さい。
その歳にして夏の事件の核心近くで奮戦した、
英雄、そして西の姫の信任も事の他厚い素晴らしい手練れである事は聞いています。
であればこそ、今はまだ、無駄な足掻きにしかならない事も理解している筈」
「無駄、そうですね」
「そうです。あなたは聡明で、そして誠実で忠実な人物であると伺っています。
私もその様なあなたを傷付けたいとは思わない」
「二つほど申し上げておきます。確かに私も皆もまだまだ未熟。
しかし、そんな若僧にも譲れない、力一杯ぶつからなければならない信義がある。
私も又、それを譲る事は出来ない。
そして、私一人の無駄な足掻きであればそれはゼロに過ぎない。マイナスにはならない」
「…残念です…」
× ×
科学の学園都市、とある電話ボックスの中。
「はいはいー、それではよろしくお願いしまーす」
月詠小萌は、よいしょと背伸びして受話器をフックに戻す。
「いけませんねー、携帯電話を忘れるなんて。上条ちゃんの事を言えません。
早く取りに戻ってお風呂に行きましょう」
こちんと自分の頭を拳で叩いた小萌は、
くるりと振り返りガラスドアを開く。
そこで待っていたふわふわに白い女の子にぺこりと頭を下げる。
>>451
「ひょおおぉーーーーーーーーーーっっっっっ!!!」
「貴様、何を往来で奇声を発している」
「あれは。小萌先生」
車道の向こうの電話ボックスを目にした青髪ピアスの平常運転の変態振りに、
そこを通りがかった吹寄制理と姫神愛沙も又、普段通りの反応を示す。
「見てみぃ!最っ高のミニロリと甘ロリ、
奇跡のコラボレーションやあぁーーーーーっっっ!!」
「馬鹿者」
小萌先生がボックスを出た後、すれ違いに中に入ったふわふわ白い甘ロリは、
ひょいと受話器を取ってカードを差し込みダイヤルボタンをプッシュする。
「もしもしー、はいー、仰せの通り到着しましたえー。
それで次はどないしたらよろしおすかー?」
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
乙
相変わらず唐突な戦闘だな
特に一方さんはネギに木原級の恨みでもあったんかい?
一方さんがブチ切れてる理由がわからん
感想どうもです。
もちろん辻褄合わせるつもりはありますが、説得力に関しては、鋭意努力の上で
以下サクシャは延々常套句での答弁終了をもくろんでいます。
確かにブチギレてはいるんですが、
それでも「ネェギィくゥン」はさすがにちょっと早かったかも知れない(汗
それでは時刻もよろしい頃合ですか、
>>452
× ×
一分間も要しなかった事は言う迄もない。
路地裏で待ち構えていたスキルアウトの集団が、
ネギの突入と共に一山幾らで転がされる。
「ご、の………おおおっ!!………」
それでもほんの僅か当たりが甘く、
拳銃を手にくらくらと立ち上がったチンピラの右腕にコルク抜きが突き刺さり、
そのチンピラの目の前に現れた結標淡希の脛がチンピラの股間にヒットする。
「ったく」
「結標さんっ!場所は…」
「もう移動してる」
セーラー服をその本来の使用先の規定から寸分違わずに着こなし
黒のウィッグで首から上をメ○ほむ化した結標がPDAを見せる。
「有り難うございますっ!」
力強い言葉と共に周辺が突風に包まれ、
イメージアップ用の黒縁伊達眼鏡も防御にはならず
結標がようやく目を開いた時にはネギの姿はそこには無かった。
>>456
× ×
廃ビルの階段を駆け上がったネギは、途中のフロアで足を止める。
「しっ!」
黒いツナギ姿の者が、軍用ナイフを手に
剥き出しの柱の陰から次々と襲いかかってくる。
(特殊部隊レベル)
ネギが、少しだけ本気を出した。
ツナギ集団は、ナイフ、場合によっては拳銃を手にネギを襲撃するが、
そのことごとくが昏倒させられるまでの時間はさ程のものではない。
「分かった」
壁際で、この連中のボスらしいやはりツナギ姿の威厳のある漢が、
用意しておいたポケットの携帯のボタンを一つ押してから、
体の前で一度腕をバツ字に組み呼吸する。
「コマンド・サンボですか」
「やはり、八極拳」
× ×
ネギとボスが一手交えたその時、
その廃ビルにほど近いビルの屋上で、砂皿緻密はポケットに携帯電話の震動を受けて動き出す。
砂皿の手にするライフルのスコープ内を掠めた、
次の瞬間砂皿は、はっと全くあらぬ方向にスコープを向けた。
スコープの中は別のビルのフロア。
(…同業者…レミントンか…)
その同業者は、フード付きの黒いローブを着用して得物をこちらに向けている。
「…嘘、だろ…」
フードの中から覗く黒髪、それを束ねる赤い紐、僅かに見える浅黒い容貌。
>>457
「何やってるんですかっ!?」
「馬鹿っ!」
砂皿の側にいたステファニー=ゴージャスパレスがミサイルランチャーを構え、
屋上に着弾と銃声が響き始める。
「うっし…いっ!?」
着弾確実と目されたミサイルが空中で爆発する。
「!?」
「僕一人ならまだしも、プロでもあれだけ大勢の巻き添えはぞっとしません」
次の瞬間には、ランチャーを捨てて立ち上がったステファニーとネギは
互いに構えを取って対峙していた。
((速いっ!))
一手、二手、技を交わして双方タッと距離を取る。
(この人、多分飛び道具よりもこっちが専門。ベースは警察官系?)
(な、何、この子?能力での強化?
いや、能力開発だけでは説明出来ない本質的な、
天賦の才と厳しい修行だけが作り出せる本物の格闘センス、こんな子どもがっ!?)
多分気付かれている、そう感じながらも、
ステファニーは後ろ腰に横差しにした特殊警棒にそろそろと右手を伸ばす。
「シッ!」
抜き打ちでネギの顔に横に叩き付ける。
その時には、ネギの体は低く沈んで変則回し蹴りがステファニーの脚をすくう。
ネギが迫った、次の瞬間ステファニーの意識はブラックアウトする。
>>458
「武器を置いて下さい。この距離では僕が優位です」
「テレポーター?」
呟きながらも、砂皿はライフルを置く。
元々、どっちかと言うとそういうのが得手なステファニーがこんなガキに見事にKOを取られている。
それ自体は学園都市ならあり得そうだが、テレポーターとセットとなると話は別だ。
ガキにしか見えないが、その身のこなしから見てもどうも嘘は言っていないらしい。
装填済みのライフルでチャンバラしても勝てる気がしない。
そして、ネギは震動した自分の携帯電話を使う。
「ええ、はい、ではメールで」
電話を切ったネギが、スタスタと砂皿に近づく。
「今、プロを相手に自白を求める手間は要らないしかけられない。
邪魔はしないで下さい」
ネギは砂皿を気絶させてからメールで移動先を確認する。
かくして、急行した先の資材置き場で、ネギは学園都市最強と対峙する。
× ×
「神鳴流奥義・極大雷鳴剣!!」
大爆発の上空で、桜咲刹那の野太刀夕凪と神裂火織の令刀七天七刀が激突する。
「神鳴流奥義・斬空掌散!」
着地した刹那が、掌から大量の気弾を放つ。
刹那は届く前にことごとく弾き飛ばされたその手応えを確かめ、神裂は読まれた事を察知する。
「神鳴流奥義・斬鉄閃っ!!」
豪剣に匹敵するワイヤーが、
夕凪の一振りが巻き起こした「気」に呑み込まれ突き破る勢いで抗いバリバリと音を立てている。
「神鳴流奥義・斬岩剣っ!!」
その一瞬で間合いを詰めた刹那の一太刀を、
神裂が掲げた七天七刀の柄近くがガチッと受け取める。
その神裂の表情は涼し気ですらあった。
双方飛び退いて距離を取る。
>>459
「神鳴流秘剣・百花繚乱っ!」
神裂火織に迫る花吹雪をワイヤーが弾き飛ばす。
桜咲刹那と神裂火織が世界樹を背景に交差し、通り抜けてスリップ気味に距離を取る。
その後、幾度となく交差し、刃を交わし、打ち合う。
だが、その度ごとに、刹那は思い知り懸命に気力を奮い立たせる。
強固に動こうとしない、動く見込みが全く見えない「死」と言うジョーカーを手に
ボロボロと凄まじい勢いでカードが消える感覚。
「がはっ!」
その刹那の腹に神裂の蹴りが炸裂し、刹那の背中が広場の壁に叩き付けられた。
その刹那の顔の横で、ワイヤーの一撃を受けた壁がガラガラと音を立てる。
「未熟」
その場にずるずる座り込んだ只でさえ無様な姿勢で、
神裂の長身からの見下ろしは刹那の心に見事に響く。
「それでもあなたの力量であれば、未熟である事が骨身に染みたでしょう。
もう一度だけお願いします。こちらに協力してそちらの動き、
誰がどの様にどの程度の規模で活動しているのかを教えるのです。
悪い様にはしません。我々も魔術の世界の秩序のために働いているもの」
「く、あああっ!」
立ち上がり様の一刀、これでも、並の達人であれば簡単に面を取られる一撃。
その刹那の一撃が空を斬った時には、神裂のボレーシュートが刹那の腹に炸裂していた。
神裂が左手に刀を持ち替える。ガン、と、突き刺さる勢いで、
刹那の左耳のちょっと外側にある壁に鞘の底が叩き付けられる。
「互いに裏で働く人間、覚悟の上の事でしょう。
この上は体に聞く事になります。
その様子では、終わった時には剣を握ることはおろか
二度と立ち上がる事すら保障できない。あなた程の者を実に惜しい。
だから、早めの心変わりを切に願います」
壁の前にずるずる座り込んだ刹那を前に、すーっと右手に握った鞘を天に掲げた神裂は、
ザッと振り返りその鞘を振るう。
>>459
(南京玉簾?)
自分が弾き飛ばしたものを見て、一瞬神裂は怪訝な顔をする。
しかし、そんな暇は無かった。
「やあああっ!!」
神裂の目の前で、神裂が放ったワイヤー七閃が
大型のハリセンチョップでことごとく弾き返されている。
普通、普通の達人でもそうそう抜けられない七閃が突破された。
ガキン、カン、キン、と、鞘とハリセンが激しく打ち合う。
ハリセンがスチール製、と、言うかその道のプロに言わせれば強化されているのはいいとして、
ここまでを可能とする技量は決して侮れるものではない。
(この太刀筋、神鳴流?)
「せっちゃんっ!」
ハリセンを手に飛び込んで来た神楽坂明日菜がザッと距離を取り、
近衛木乃香が刹那に駆け寄ろうとするが、その進路を神裂が横に振り出した白刃が妨げる。
「あんた、何やってるのよ?」
明日菜が爆発寸前の低さで尋ねる。
「退いて下さい」
二人を把握した神裂が言う。
「これは裏側で行う摺り合わせ、姫様が知る必要の無い事です」
「…あんた…」
すーっと、絶対零度に達する声。
「何、寝惚けた事言ってんの?」
低く、重い声。それと共に、明日菜の全身で何かが燃え上がる。
(完全な情報が届いていない、独自情報により姫君に値すると仮称させるプランキーパーソンVIP。
ハリセンが大剣、アーマー、話に聞く魔法のアーティファクト。そしてその素質は…巨大…)
>>461
× ×
ミサイルが突っ込んで来た。
そう思った時には、すぐ側に白い人間の姿があった。
普通であればそのスピード自体で何も見えなくなる所だが、
それが見えているネギにして見れば力は弱く、むしろ素人っぽくすらある。
だからこそ、ネギの勘は異常な危険を察知する。
ダンッ、と、ネギはそのむしろひ弱そうな攻撃を大きく横っ飛びで交わすと、
交わされた一方通行の拳はネギの背後にあった鉄材の山を崩壊させる。
(力が、急速に?)
「くァァァァァァァァァァァァァ」
「風っ!?」
ゴオッと異様に力強く重い風がネギに向けて叩き付けられる。
魔法使いの中でも元々の専門が優秀な風使いであるネギだからこそ、その異常さを実感する。
「ラス・テル マ・スキル…」
「!?」
一瞬で吹き飛ばされるべき所を、小さな練習杖を向けながらそれを回避し、
それどころか一方通行の絶対の支配下にあった風の向きが乱される。
しまいに、二人の中間でゴオッと竜巻が噴き上がり一瞬で消滅する。
「おィおィおィおィィィィィっっっ!!!」
「!?」
一方通行の一撃を受けた、それだけで大量の資材が大爆発した。
「マギステル…風花・風障壁っ!!」
「おっ?」
その資材が上空で自分の頭上に集中していた、その事に気付かないネギではない。
そして、「常識」で考えるならば資材の下で圧縮圧縮圧縮しかあり得ない結果が
その落下物の異常な拡散と共に回避された事が分からない一方通行ではない。
そして一方通行は、自分の頭上で翻るネギを見る。
>>462
「ラス・テル マ・スキル マギステル…」
(物凄く強力な念力?他にも何かある。光の矢の変な感触…
とにかく、分かっているのは物凄く強い。出し惜しみしていい相手じゃないっ)
「…薙ぎ払え雷の斧っ!!………!?」
吹っ飛ばされたネギが、ダンッと着地した。
殺しきれないダメージがくらっと来る。
「風楯っ!」
「ン?」
ぶわっと風楯を抉られながら、ネギは急接近して来た一方通行から飛び退いて距離を取る。
「おィおィおィおィ、何だ何だ何ですかァ?
威力だけでもオリジナルより上じゃねェのかァー?
しかも、全部てめェンとこに戻る筈がさっきから変な反応で拡散されて、
戻って行った分もこれも変な壁でシールドされてるじゃねェかァ。
ごちゃごちゃ小うるさいダミー噛ませててめェの正体も上手く偽装して
裏で糸引ィてたみてェだが、こりゃあやァっと当たりだなァ」
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙乙
山場なのかな?
乙
麻帆良に無許可で聖人潜入させるとかその時点で戦争ものじゃね?
あとねーちんとの実力差はそんなにないきが
まぁ未熟という発言についてなら中学生と18歳(自称)で間違ってないけど
乙です
乙
噛ませのイメージが強いけどねーちんの実力は世界を破壊できる大天使だの聖人最強と思しきアックアだのと打ち合える時点で折り紙付き
刹那がどの程度なのか知らないけど
とりあえず100分の1秒以内に攻撃、魔術の仕込みと発動、余計な事考えて笑む位の事ができないと厳しい
感想有り難うございます。
以下、テキトーに書きます。
>>467の基準で言ったら
さすがにバグキャラならいけるでしょうが後は最早ネギとかそのクラスの話の気もしますが、
逆にその段階だと神裂の方も火力がデカ過ぎて加減がきかないとかなんとか
だから本作みたいな特殊任務だとどこまで出来るか出来ないか
刹那の実力は結構分かり難いです。
刹那は確か武道四天王最強の存在で武道会の辺りだと一応負けましたがネギよりは強そうだったり
その後も上位グループでその評価自体は変わりなかったのですが
終盤のインフレが凄くて一つの基準点のネギや連動してその敵がイミフな領域でしたし
建御雷仮契約後の刹那本人の終盤戦はMM正規兵を一蹴は当然として
墓守り宮殿突入で最大クラスの石の龍?をぶった斬った辺りはさすがでしたが、
負けたとは言えその刹那を半殺しの目に遭わせた
「ひな」モードの月詠ってのも全体でどの程度か判断難しいし。
後、テキトーついでに深く考えない冗談で
上条さんがあっちに遊びに行ったらMMから離れた時点で歩く造物主の掟と化すのだろうか?w
それでは今回の投下、入ります。
>>463
× ×
(とは言え、本当に姫様を斬ったらそれはそれで面倒)
明日菜に向かって突進する神裂。
その明日菜の周辺でワイヤーが複雑に展開されるのを、明日菜の並外れた視力が捕らえる。
多少の経験と視力で、明日菜もそれが何だか把握する。
(魔法陣?)
「!?」
明日菜が、ぶおんと大剣を一振りすると、明日菜の周囲でパアンと何かが弾け飛んだ。
>>468
(今の感触、まさかイマジン・ブレーカー!?それが向こうの世界、の!?)
ザッと飛び退いた神裂は、気が付くと目の前に明日菜を見ていた。
神裂がそうなると言うだけでも相当の事だ。
明日菜の斬撃を何度か防御し、力任せの大振りで明日菜を突き放す。
「やはり神鳴流、自己流の混ざる荒さがありますが、
一流の剣士と言うには十分な技量と底知れぬ程の才能。併存の難しい気と魔力の使い分け。
少し、厄介ですね…」
明日菜は、ぐっと構えを取る。
(この女、達人のその上のネギ?向こうで闘ったトップレベル?のクラス?)
ぶつぶつ言っているが、神裂は決して追い詰められている訳ではない。
それは、今こうして剣を交えた明日菜が一番よく分かっている。
「ぐ、っ、ああっ」
「せっちゃんっ!?待ってな、今っ!」
刹那が立ち上がろうとするが、かなわない。
防壁の限界まで叩き込まれて辛うじて命を繋いだフルボッコ以上。
ここまでの有様は最後に月詠と闘って以来だろうか。
しかも、月詠と違ってそれでも明らかに手加減してくれたと言う辺り、
やはり話に聞いた、それ以上の本物の実力者。
「いけ、ません、アス、ナさん…」
「あああっ!!」
「アスナっ!?」
刹那と木乃香の目の前で明日菜が吹っ飛ばされていた。
>>469
× ×
「インデックス?シスターと一緒に席についた所」
「分かった」
千雨は、夏美の力を借りて、適当な建物の屋上でノーパソを広げて朝倉和美からの報告を受けていた。
「朝倉だけかよ。おい、早乙女、どうなってる?」
鳴護アリサとインデックス、それを追跡した朝倉和美がファミレスに入店した状況を把握した後、
千雨は早乙女ハルナに連絡を取る。
「ごめんごめん、この街のチンピラってどんだけ重武装なのよ。
のどかが絡まれたからちょっと捻ってやったら
拳銃標準装備とか柄の悪いエスパーとかゴキブリみたいに沸いてきてさぁ、今片付いた所」
「分かった、場所を報せる。ファミレスでアリサ達のガードに当たってくれ」
「オッケー」
その直後、別方面から連絡が入る。
「こちら大河内、運動部チーム現着。
離れた席しか空いてなかったけど取り敢えずガードに入る」
「頼む」
× ×
明日菜は、あちこち生傷だらけの有様で辛うじて正眼に大剣を構えている。
その後ろに、水干姿の木乃香が立っている。
「文字通り命懸けの突貫。
紙一重の瀕死の重傷から強力な治癒魔術による回復以下繰り返し、
一体どこの人魚姫ですか」
神裂が呆れた様に言う。だが、その表情には苛立ちが混じり始めている。
「西の姫の魔力は桁違いの様ですが、それでも無限ではない筈。
何より、これまでもこれからも一つ当たり所が悪ければ
治癒魔術と存在しない蘇生魔術の一線を越えてしまう」
「おおおおっ!!!」
>>470
次の瞬間にはすれ違った血達磨がごろごろと転がり、
渋い顔をした神裂が七天七刀を天に掲げている。
「行かせません、意識を失う、までっ!」
木乃香に向けて差し出された七天七刀の刀身が上から押さえ付けられる。
神裂がその大剣を跳ね上げた時、血達磨がぐらりと後ろによろける。
だが、その一瞬で十分だった。
「ぜぇ、ぜぇ…サンキューこのか」
明日菜がチラッと後ろを見て言い、木乃香が頷いた。
次の瞬間、突っ込んで来た神裂と明日菜がガキッと剣を交える。
明日菜が馬鹿力で弾き飛ばし肩で息をする。
「このか離れてっ!」
弾き飛ばされたと見えたのは只のステップ、倍掛けの勢いで神裂が突っ込んで来る。
神裂が明日菜から離れた時には、地面には赤黒く血だまりが広がり、
明日菜が剣を杖に懸命に立ち上がり、その側で木乃香が地面に両手を付いて荒い息を吐いている。
「西の姫様の負担も最早限界。次は本物の達磨になってその手足を繋ぎ合わせれば、
最早それだけでも西の姫様の負担は命にすら関わる筈です。
これが冗談ではないのはその身で十分理解している筈」
神裂が、片手持ちした刀の切っ先をすっと二人に向ける。
「何も見なかった事にして家に戻って下さい。
これ以上はお二人が姫様でも、姫様だからこそ、
私としても本当に何も無かった事にしなければならない。
例え事件になっても、こちらに繋がる一片の証拠も
物理的に存在しない事にして立ち去らなければならなくなります。
これは裏側で終わらせる話、あなた方が関わる次元の事ではない。
私は退けない。あなた達には役割がある。弁えて下さい」
>>471
「…分かった…」
「アスナ…」
この場にいる武闘派二人がこの有様では、木乃香は余りにも無力に過ぎる。
本当は三人の関係に軽重など無い筈なのだが、
それでも、木乃香としては刹那の事は自分の事と言う意識がある。
これ以上明日菜に無理を言うのも、自分が対抗するのも簡単な事ではない。
「よく、分かった。
あんたが人の事をそういう風にしか見れない奴だって事はね」
明日菜が、ゆらりと姿勢を立て直す。
「刹那さんをこんなにされて、私にどうしろって?」
明日菜が一歩踏み出す。その確固たる眼差し、全てを圧倒する気迫。
神裂ですらその足を後方に退く誘惑にかられる一歩だった。
「刹那さんをこんなにして、このか悲しませて、関係無い?誰に関係ないって?
そんな事、出来る訳ない。それが出来るぐらいなら夏休みの話はとっくに終わってる!」
(尽きた筈の力、急速にっ!)
神裂は、とっさの動きで強烈な一撃を受け太刀する。
動けない、と言う段階だった筈の明日菜の、とてつもなく速く、強烈な一撃。
「そんな事も分からないあんたなんかに絶対負けないっ!!」
「くあああああっ!!!」
二度、三度、強烈な斬撃が神裂に叩き付けられる。
確かに強烈、そして、並の達人なら為す術もない程の技量。
だが、神裂が見るならそれは、荒削りに叩き付けられる暴走。
「…っ…」
「このおおお、っっっ!?」
「………せ………ぇんだよこのド素人があああっっっっっ!!!」
「アスナっ!!」
剣を弾き返されたその勢いのまま、明日菜のボディーに神裂の鞘の突きが炸裂する。
広場の壁に背中を叩き付けるまで吹っ飛ばされ、
元々ボロボロだった明日菜は痙攣して動かない。
>>472
「か………はっ………」
「…何が、分かる…!?」
刀を振り上げ、明日菜に迫る神裂の頬に鋭い痛みが走る。
振り返りざまに神裂が刀を一振りし、木乃香が放った玉簾が砕け散る。
そのまま斬り伏せる勢いだった神裂が動きを止め、七閃を放つ。
そのワイヤーは、ふわりと下向きに扇がれた白扇の動きと共に地面に叩き付けられる。
神裂は、刀を八双に構え直した。
「限界に近いとは言え無尽蔵クラスの魔力に素質。そして、幽幻の域に達した舞。
確かに、並の手練れならば触れる事も適わないでしょう。
カウンター狙いで十分相手を仕留められる素質、技量です。並の手練れであれば!」
「…うちも、諦めない…」
「それはあなたの役割ではないっ!あなたは…」
「わことる!綺麗なお人形で控えて笑ってお目見えして、
それだけでも大事な大事な、ネギ君みんなのためにもうちやないとあかん役割やて。
それでも、それでも今、今はせっちゃん、アスナ、うちも闘うっ!!」
「…あなたなら大丈夫でしょう。自分で修復して十二時間ほど寝ていて下さい、っ!?」
その瞬間が来た、それを感じた木乃香は目を閉じそうになった。
「!?」
だが、神裂は立ち止まり、二度、三度振り返り、刀を振るう。
その度に紅白の羽毛が舞い散るが、特に記憶を焼き消す効力はないらしい。
神裂が刀を正眼に構え直す。その長い黒髪が束ねを失い、
既に白いシャツが汗でべったりと張り付いた背中にばらりと流れる。
「………ナニヲ………シテイル………
………お嬢様………フレル………ナ………」
神裂の視線の先で、刹那が大きく脚を開き夕凪を正眼に構えを取る。
「あなたは………烏族の血を、それも忌まわしき………!?」
神裂は、斜め横からの大剣の強烈な一撃を辛うじて受け太刀した。
>>473
「その先、一言でも口に出したらコロス…」
「くあああっ」
神裂に押し返された明日菜が弾き飛ばされ尻餅をつきそうになるのを辛うじて堪える。
「…そうですか…」
神裂が、刀を鞘に納める。
「Salvare000」
「京都神鳴流、桜咲刹那」
熱く煮えたぎっていたものが、しんと冷たいぐらいに静まり返る。
「アデアット」
「最期に、剣士としての礼をもって応じましょう」
今この時だけ、その身の震えを押さえ付け建御雷を呼び出した刹那の前で、
神裂が刀の柄に手を掛けてその指で握っていく。
「せっちゃん…」
「刹那、さんっ…」
木乃香は動けない。今度こそ、目に見える現実の可能不可能とかけ離れて無駄な事は出来ない。
明日菜も動けない。今度こそ限界を突破している。邪魔にしかならない事は出来ない。
低く構えを取る。
「!?」
不意に、神裂が跳躍した。
そして、その下で、バキバキと石造りの地面をかち割って神裂を絡め取ろうとする
ぶっとい木の根の大群が七閃によって切り刻まれる。
そして、神裂は一度、びゅんと鞘を振るう。
着地した神裂が、目にも止まらぬ速さで周囲をステップし始めた。
ターンと神裂が着地し、離れた所に火達磨が着地する。
そして、空に向けてバッと七閃を放つ。大量の石針が弾き飛ばされた。
>>474
「錬成肉体による位相移動活動テストも兼ねていた訳だけど、成果は上々と言った所だね。
まず、彼女を喪った時点でプランはそのまま空中分解する。
それから、今、彼のメンタルに破局的な打撃を与えるのも又しかり。
もっとも、その程度の事を防ぐ事が出来ずに挫折するのであればそれはそれまで、
一時休戦に応じて時を逸した僕の眼鏡違いと言うだけで誰の責任でもない」
神裂が息を呑み、鞘に納めた刀の柄を握る。
「それでも契約した身だ。契約した上は、雇われ人としての信義を果たさなければならない。
それに、その役割を果たす事で僕は学習しなければならない。
深夜徘徊の不良生徒の捕導、そして保護も又その役割の一つだからね」
満身創痍の不良生徒共の頬に僅かに浮かんだのは、喜色だった。
「言わんとする事は、割とシンプルだ。
僕の生徒に手を出すな
」
死の淵まで覗いた今、明日菜達の心に安堵が生まれたのは当然だった。
この職務熱心な副担任、敵に回したらどれ程恐ろしい相手であるか、
その事は彼女達が誰よりも骨身に染みて理解している。
「と言う訳で、深夜徘徊の上での破壊活動に関する後程の指導については覚悟しておく様に」
骨身に染みて理解している。
「僕としても慣れない事をしているから色々分からない事もあるのだけど、
取り敢えず、僕の立場におけるこのオバサンに対する通告は
こんなもので良かったのかな?」
天を仰いだ神裂のメロンと化した頭部からは、
二本三本プシューッと細い赤い噴水が噴出していた。
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
乙
麻帆良から出れないけどエヴァとかアルとかいるし
このかの爺さんとかデスメガネとかも実力者見たいだし
麻帆良に攻め込むのは結構大変そう
上条さんが魔法世界にいったとして
明日菜のハマノツルギと同じ感じなんじゃ無いだろか
魔法やアーティファクトは無効化出来るけど
魔法世界の生物そのものには普通の剣みたいだったし
浮き島に剣突き立ててたりしたけど島が落ちたりしなかったし
どういう理屈かは分からんがww
乙
上やんの右手と明日菜のマジックキャンセルは割と根本的に違う気がする
マジックキャンセルはおそらくラストのチート「創造主の掟」の不完全版だろう(というか大元?)
だから魔術の消失というよりは魔翌力そのものの絶対支配権というのが正しい
対して上やんの右手は確か世界を強引に基準値に戻す作用って考察が作中でされている
もしその通りなら無効果力としてはおそらく上やんの右手が一番低次元で作用してる事になる
魔法世界はそもそも行けない気がするが、もし行けたらその瞬間から世界が崩壊しだすな
乙
上条さんはよく知らんのだが右手で触れなきゃ問題ないんじゃないの?
それとも作用する範囲とかあるのか?
その範囲が数mとか数十mとかだと転送ゲートが動作しなさそうだから
そもそも魔法世界に行けない気もするが
てか「創造主の掟」とマジックキャンセルの関係については>>1が既に述べてたな
>>479
むしろこちらがネギまの設定をよく知らずに断言してしまって恐縮だが
とりあえず空間的に右手が含まれれば、あるいは「上条当麻」全体が対象になっていれば効果はある
転送ゲートは「転送する」作用そのものが後者のパターンに属するから無効果されると思われ
乙
力をもって全力で脅迫してきてるこの神裂は死んだほうがいい
麻帆良側からすれば侵入者が生徒を嬲ってるだけだし殺してかまわんだろ
生かして帰さなくちゃいけない理由もないし
ステイルって瞬歩やら縮地に反応できるの?見えても体がついていかなそう
と言うより破壊力が拮抗しててもスピードでネギま側が圧倒してるはずなのに、なんでチンタラしてんのって気がしてくる
あ、神裂さんは別よ?
感想どうもです。
自分で振ったのもあるんでなんですが、考察はちょっと置いておきます。
それでは今回の投下、入ります。
>>475
× ×
神裂火織が、下から突き上げる木の根のみじん切りをまき散らしながら突進して来る。
周辺に薫製用チップの山を築いている豪剣にも匹敵するワイヤーの帯びる衝撃波が、
ヴァイオリンから放たれる超音波の破壊効力を呑み込みかき消す。
七天七刀の柄近くの鞘を握る神裂の左手がすっと前後し、調は体をくの字に折って倒れ込む。
それを終えた神裂火織が、ふと周囲を伺う。
「幻覚?いや、結界の類ですか」
巨大な柱が立ち並ぶだけの無機質な空間で神裂が呟く。
「はい、ご名答です」
「こちらは幻覚ですか」
目の前に現れた環の姿に、神裂が言った。
「出来れば降伏して欲しいのですが、武器を置いて手を上げていただいても
軍隊の十やそこら殲滅出来そうなので正直どうしましょうか。
十日ほど断食していただいたらさすが、に…
ほぎゃあああああっっっ!!!」
這々の体で脱出した環の目の前で、環が座っていた柱が粉砕される。
「どどどどうやって私の居場所をををっっっ!?!?!?」
「気配が多分こちらだろうと」
「は?いえ、あのですね、
私としましてもミニステルとしての意地と言うものがありますから、
私は決してこの結界を解くつもりはありませんので、例えどの様な…
あのー、何を?」
環が、近くの柱の上で居合抜きの構えを取る神裂に質問する。
>>483
「お嬢様っ!」
一瞬だけ膨張する何かを察知した刹那が、木乃香を羽に包み込んだ。
世界樹広場にちょっとした大爆発が巻き起こる。
「…もう、嫌…」
広場では、既に抜いた刀を鞘に納めた神裂の側で環が引っ繰り返っていた。
「つっ!」
「どけっ!」
ワイヤーが暦の手から「時の回廊」を弾き飛ばした次の瞬間には、
七天七刀の柄近くの鞘を握る神裂の左手がすっと前後し、
その前で焔が体をくの字に折って倒れ込む。
「にゃ、にゃんで、獣化、した私の、動き…」
「何かが接近して来たと思えば獣の力を使った狩りのスタイルでの襲撃でしたか。
体に炎を巻いていたみたいですね。確かに少々熱かったですけど。
それで、あなたは?」
「い、いえ、接吻…させてくれませんよね。
出来てもお役に立ちそうにありませんし。それでは」ソソクサ
「ふむ」
千の剣が弾き飛ばされた。
「なるほど」
万の剣が弾き飛ばされた。
「結構」
家を潰す巨大な石柱複数だったサイコロが周辺に降り注ぐ。
「厄介かな」
石像の首が百個ほど転がる。
>>484
「高密度の砂壁ですか、少々厄介ですね」
と言いつつ、神裂の刃は砂壁が爆砕してから再生するまでの一瞬でフェイトの体を捕らえる。
「これも石像」
フェイト・アーウェルンクス。知識ぐらいは神裂にもある。
関西呪術協会の襲撃やゲートポートの破壊。
これらは「魔法」サイドのテリトリーの事であるが、
イギリス清教としても無視出来ない規模の事件になる。
フェイトに関しては名前が出ていながら、その点不可解な形で幕引きとなったのだから尚更だ。
イギリス清教の公式な関与は避けられたが、微妙な所で表から裏から聞こえて来る事はそれなりにある。
ガン、と、神裂が刀を地面に突き立てる。
次の瞬間、神裂の左手はフェイトの拳を掴んでいた。
「いい拳です」
「光栄だね」
パッと手を離した神裂が間合いを詰めて来た。
右のパンチとボディーを狙った右脚の蹴り込みのコンボ。
一瞬の差で顎から脳を揺らされてぶっ倒れていたと、フェイトは神裂の確かな技量を把握する。
「知りたいね」
「?」
「十分に、重い。その拳、知るに値する重さだよ」
「では、その身で存分にっ!」
互いの腕が伸び、腕が反らされ、拳が空を切る。
相変わらず見事に伸びた神裂の脚が空を切った。
「と、言いながら逃げますか?」
「いや、これは思い入れの差かな?」
「?」
タンターンと後方にジャンプするフェイトを見送った神裂は、悪寒を覚えた。
>>485
「僕が留守がちにしていて、元教え子に何か不始末があったのなら、
大人として省みるべきなのだろうね。
まして、互いに政治的な問題が絡んで来るVIPと外部勢力に関わる話」
それは重圧、言葉通り押し潰されそうなプレッシャー。
「だけどね、幼稚な話で申し訳ないが、
僕にもそれ以上の漢の信義と言うものがあるんだ」
七天七刀を鞘に納め、必殺の構えに入ろうとする。
「そうか。
ア ス ナ く ん を き ざ ん だ の か
」
× ×
予定が変わったのー
だからお友達に会いに行くのー
もしかしたらいつも行ってるって言うファミリーレストランにいるのかなって思ったのー
だからちょっとそっちに行ってみるのー
× ×
「鳴護アリサがさらわれたっ!!」
朝倉和美からの悲鳴に近い急報に、長谷川千雨がノーパソを操作する。
第一報のメールを一斉送信する。
× ×
「さよちゃんっ!」
「はいっ!」
ファミレスでウェートレスに化けてアリサをさらった三人組。
その素早さの上に認識に関わる何かを仕掛けたらしい。
報道部の鷹の目で注視していた和美ですらその瞬間に注意を反らされた。
既にテーブルを大きく離れた犯人グループに、和美とさよが反撃を開始する。
>>486
「!?」
「この反応、ポルターガイスト?」
「ちいっ!」
人さらいの前にドドドッと滑り込んだ無人の椅子が、
突風に巻き上げられて店内の宙を舞う。
「そっちかっ!」
「くっ!」
「ええいっ!」
風に乗って飛んで来た椅子を、さよが弾き飛ばした。
「待てこの…」
「おいっ」
立ち上がり追い縋ろうとした和美が、肩を掴まれて足を止める。
「んー、ちょっと見この辺とか立派だけど中学生ぐらいじゃん。
さっきのお前の能力じゃん」
さあーっと青ざめながら、和美は振り返ろうとする誘惑に耐える。
「と言う訳で、主に妙に忙しかった一日のシメに相応しい
自分へのご褒美ドーンとステーキセットビールつき、
の上に落下して来た椅子の事とか、アンチスキルの取調室でとっくり聞かせてもらうじゃん」メキメキメキメキ
「あ、UFO!」
「ふざけ…」
「はいチーズ!」
和美が左手に持ったデジカメのストロボが和美の背後に向けられていた。
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉらあ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
待つじゃんよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!」
>>487
「まだなんか…いたっ!」
周囲を伺ったマリーベートが向けられる銃口に悲鳴を上げた。
「伏せてっ!」
察知するや、いの一番にダダダッと飛び出した明石裕奈。
元の席が離れ過ぎてとても追い付けないが、その必要は無い。
裕奈が発砲した魔法弾はしかし一瞬の差で人さらい達の頭上を突き抜ける。
「仕方がないっ!」
裕奈が空きテーブルに跳び乗り、狙いを付ける。
「ええいっ!」
「ちっ!」
メアリエが走りながら手を振り、引き金を引こうという裕奈に向けて水差しが飛んできた。
「おっと…わわっ!」
上からのは囮、もう一つ下から突き上がって来た水差しを交わしながら引き金が引かれた。
その銃弾は裕奈と誘拐団の間で丁度オーダーが届いてウェートレスが去った所だった、
赤茶色っぽいセミロングヘアの見た目一番年増のいい女と
ブランド制服っぽい装いと綺麗な金髪によく似合うベレーを被った小柄な少女と
どこか剣呑なパーカー姿のショートカットの女の子と黒髪寝惚け娘の着席した
テーブルの上を直撃して爆発する。
>>488
× ×
「どうなってる…」
千雨の指が、ノーパソのキーボードの縁をタンタンタンと叩き続ける。
「こちらチームTTBコードネームパル!」
「長げえっ!」
「もうすぐファミレスに到着する!」
「ちょっと待って下さいです」
早乙女ハルナからの電話に綾瀬夕映が横から割り込む。
「何か、様子がおかしいです」
「?」
「小さなシスターが路上で拘束されています」
「小さなシスター?」
「白い修道服に銀色の髪の毛…」
「インデックスだ」
「ですね。あれは、恐らく水の魔術で口を塞がれているです。
そのインデックスを女の子が取り囲んでいます」
「何だと?どんなだ?」
「三人組ですね、一人が扇子を持って…」
「そいつらだっ!」
千雨の叫びに、電話の向こうも驚く気配だ。
「他に誰かいるかっ!?アリサはっ!?
緑マントのノッポとかバカデカイ刀持った背の高い年増痴女とか」
「どちらもいません」
「その三人がネセサリウスの魔女だ、今すぐ抑えろっ!
かなり手強いぞ、先手必勝で一気にやれっ!!」
「りょーかいっ!!」
ハルナが電話を奪還していた。
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙
多面展開し過ぎな気もするが
乙です
乙
乙
>>486
明日菜がケガしたら一番怒りそうな人だね
ネギや友達よりも激怒しそう
いい………
やっぱりこの映画
冒頭部だけでも記憶頼りの本作の該当箇所と照らすと
ちょっと我が作り込みは甘かったかorzな所があったり
遠く及ばずながらも諦めたら試合終了、尻尾の一端にでも食い付いてやろうと改めて
それでは時刻もよろしい頃合ですか。
今回の投下、入ります。
>>489
× ×
ゾクッ
目の前で発生した大爆発に、明日菜は血の凍る感覚を覚える。
ネギと闘った時の手加減を知っている。だからこそ、
カテゴリー的に色々間違ってる気がしても一応人間の女相手に
初手からこれを叩き付ける、想像を絶する事の重大性はよく分かる。
凄腕の仕事人であっても、明日菜の前では優しいお兄さん、おじさんであったのだから尚の事だ。
間一髪空中に逃れた神裂火織は、二発、三発、
辛うじて急所を外しながらもいいのをもらいながら、その攻撃の正体を体で学習する。
着地した神裂の前で、大量の拳圧が七閃に弾かれて爆発する。
「くっ!」
遠距離の飛来拳圧の防御に追われている間に、
正真正銘のパンチが神裂を襲う。
一発、二発、三発、神裂は辛うじて交わし続けるが速い上に絡み付く様にしつこい熟練の「殺し技」だ。
僅かに歩が遅れたその瞬間に三途の川を飛び越える一撃だ。
神裂が跳躍して距離をとる。そして、次の攻撃を予測して七閃を放つ。
果たして、七閃の衝撃波と大量の拳圧が激突した。
(殺し、切れないっ!)
神裂が、体に響く打撃に乗る形で後ろに跳躍した。
そのまま、背後にあった壁を蹴って高畑の頭上を飛び越える。
>>494
「く、っ…」
辛うじて一撃必殺は避けたものの、何発もいいのを貰った、
見事に肉に、骨に響く打撃。大概の使い手ならかすっただけでも一発KOだ。
「タカミチ…」
「高畑、先生…」
神裂が一瞬でも顔を歪めて跳躍する間、
高畑の両手に光る凶悪な光に、明日菜と刹那が息を呑む。
神裂が着地し、同時に抜刀する。
神裂と高畑の間で、とてつもない衝撃波が激突し大爆発が起きた。
神裂が一気に間合いを詰める。七閃が高畑の残像を切り裂いた。
残像を切り裂く、残像を切り裂く、残像を切り裂く。
(やはり、パワーだけではなく速さも)
「っ!!」
ドドドドドドッと、飛来した連打連打連打が神裂の体を壁に叩き付ける。
(それでも全て急所はセーフ、か)
「ひっ!」
明日菜が、喉から引きつった声を上げる。
高畑の両手の間が光り出す。
「…や、め…」
ついさっきまでの事を忘れるぐらい、明日菜が何かを言いたくなる。
「あああっ!!」
ダンッ、と、神裂が力一杯高畑を飛び越えて背後に回る。
そして、丸太ぐらいチーズも同然と言わんばかりの七天七刀の抜き打ちは
その場で空を切る。
>>495
「くっ!」
神裂が刀を鞘に戻して構えを取る。
「タカミチっ!!」
明日菜が絶叫し、広場が大爆発する。
「く、っ…ぐふっ!」
「吹っ飛んで勢いを殺した、か」
左で持った鞘で辛うじてその身を支えた神裂のボディーに
着地した高畑の拳が炸裂していた。
壁を背後にタタッと着地した神裂の前に高畑がごうと迫る。
神裂が這々の体で転がってすれ違った時、高畑の目の前の壁には拳を中心にすり鉢が広がる。
「先ほどの一撃も、あの上からの打ち下ろしを力負けせずに切り裂いた、
やはり彼女も並々ならぬ達人、いや…」
「で、でも、でもこのまま、このままじゃ…」
明日菜は、完全に恐れていた。この先に待つ決着を。
立ち上がった神裂の七閃が石の地面を削り、大量の小砂利が撒き上がる。
高畑は、それを詰まらなそうに見ていた。
(目くらまし、時間稼ぎ)
(その通り!)
神裂にとってもそれ以上の意味は無かった。
とにかく、ほんの僅かなインターバル、次に繋ぐにはそれが必要だった。
ザシュッと間合いを詰めた神裂が、
ガン、と、地面に刀を突き立て鞘を地面に落とす。
そして、すぅーっと呼吸を整えて自然体で前を見る。
高畑が小さく頷き、二人の姿が消えた。
明日菜と刹那が目を丸くした。
辛うじて見える領域にいた二人。その二人に見えた事実は至って単純。
高畑のパンチの勢いをそのまま乗せて神裂が高畑に一本背負いを決めたと言う事。
>>496
「タカミチッ!!」
「紙一重の違いで私の上半身が塵になっていた所です」
明日菜の絶叫が響く広場で、
乱れた黒髪を頬に張り付かせ土砂降り後を思わせる程の汗にまみれた神裂が
本当に生還、と言った雰囲気でふーっと呼吸を整えた。
「「悠久の風」タカミチ・T・高畑、
術式の規定により肩書きが得られないだけで、
実力、実績はマギステル・マギに匹敵する「魔法」サイド最強クラスの英雄。
なるほど姫様のナイトとしては最適な人選です」
「違うっ!!」
ひび割れたすり鉢と化した地面に伸びる高畑を静かに見下ろしていた神裂に
割れる様な叫びが叩き付けられる。
「違う!そんなんじゃないっ!!
そこ動くなっ!ぶっ[ピーーー]![ピーーー][ピーーー][ピーーー][ピーーー][ピーーー]うっ!
殺してやる殺してやるっ!!殺してやるううっっっ!!!、っ…」
全ての激痛を無視して立ち上がろうとした明日菜が、ふと動きを止めた。
そして、僅かに違和感を覚える。微かに唇を動かす神裂の、どこか寂しげな表情に。
常軌を逸した感度の明日菜イヤーが微かに音声を拾う。
「……ん、ですね……しい、ですね………」
「……んな……ものじゃないよ……しかく、は……」
さっと、明日菜達の目の前をスーツの腕が塞ぐ。
「ここを動かないで下さい。これは、大人の仕事です」
「刀子さん」
「ここがどこか、自分の行い自分の置かれている状況を把握していますか?」
明日菜達の前に現れた葛葉刀子の言葉を聞きながら、神裂が周囲の気配を察する。
「………魔法教師本隊ですか………」
>>497
× ×
爆発的な勢いでネギに迫る一方通行が、素早くネギに掴み掛かる。
よく分からないが触れただけで命の保障が無いのは分かる。
「風楯っ!」
「ンァっ!?」
一方通行の手を交わしながら、とっさに防壁を張って攻撃を回避する。
(確かに速い、だけど直線的。何か機械的な仕掛けの動き…
それよりも、風楯が又えぐられて、どういう効果…)
「ちょこまかと」
文字通り分身しているネギの動きに、一方通行が舌打ちする。
取り敢えず、今の所どれだけ速かろうがネギがそこから一歩踏み出せば終わりなのだが、
それでもうっとうしい。
「風よっ!」
「あ゛?」
ごうっと風が巻き、空の木箱が幾つも一方通行に突っ込んで来る。
「おィおィおィ、ナメてるンですかァ!?」
箱そのものや爆発してナイフと化した木箱の破片が一直線にネギに向かう。
「風楯っ!」
「ンァ?」
風の防壁でそれらが叩き落とされた後、跳躍したネギを一方通行は一応目で負った。
「光の三矢っ!」
「まァた反射がねじ曲がってやがる。けど、当たりはしねェンだよなァ」
「白き雷っ!…つあっ!!」
ざざざっと低く移動しながら光の矢を撃ち込んでいたネギは、
一方通行の背後に回り白き雷を発動する。
それに対する一方通行の動きなど、ネギでなくてもド素人と感じる緩慢さだ。
>>498
「だからァ、電気でもおンなじなンだってェの。
けど、ねじ曲がってる上にやっぱり妙なシールドでガードしてンだな」
ネギは自分の白き雷に吹っ飛ばされ、スタンと着地し片膝をついていた。
そこに、又、ミサイルの様な突進が来る。
「風楯、っ!?」
一方通行の手が風楯を突き破り、ネギの顔を掴もうとする手をとっさに転がって交わした。
(動きが素人で助かった…!?)
「風楯っ!」
ネギが防壁を張りながら、ターンと飛び退く。
果たして、風楯は易々とぶち破られた。
(僅かな抵抗を残してるけど、風があの腕を避けてた。
間違いない。これも基本は同じルールだ)
ネギが、じわっと嫌な汗を覚える。
「どォすンァだ?頼りの壁も解析済みだぜェ」
「…解析…」
イメージは、繋がった。
片膝をついたネギが、手近な石ころを一方通行に投げ付ける。
そして、戻って来た石をパシッと受け止める。
それは、弾丸の様な行き来。
「何か、分かったってツラだよなァ」
「防壁とか、そんなものじゃない。
根本的にそういう事になってる」
「多分、正解だぜェ。オマエの頭ン中を文字に起こしたらな。
じゃあどうすンだァ!?」
>>499
一方通行の足踏みと共に、ネギの周辺で爆発が起こる。
巻き上がる土の中から小砂利が弾丸の様にネギに飛来する。
跳躍したネギの目の前に一方通行の姿が現れる。
ネギはとっさに突風を操り吹っ飛んだ所への着地で難を逃れる。
そこに向かって空中を一直線に突っ込んで来る一方通行を交わし様に、
ネギは目を付けていた鉄パイプを投げ付ける。
鉄パイプは、その直後に跳び上がったネギにまっすぐ向かって跳ね返って来た。
「杖よっ!」
杖で鉄パイプを叩き落としながらネギは考える。
(防壁とか、そんなものじゃない四大元素の理。全部じゃなくてもその法則そのものの一端を把握して、
大元の流れそれ自体に干渉して鏡と光みたいに自動的に反射、そして任意の調整すら可能にしている)
突っ込んで来る一方通行にネギの手からバババババッと光の矢の連打が撃ち込まれるが、
それはあちこちに拡散するだけだ。
風を操る事で、ネギは辛うじて一方通行の手を逃れて着地する。
今度は資材の山に大量の光の矢を撃ち込む。
爆発した資材がネギの操る風に乗り一方通行へと突っ込んでいく。
「うぜえっ!!」
そして、近くの資材の山を文字通り吹き飛ばして一方通行に叩き付ける。
「風花・風障壁っ!」
それはそのまま大半がネギに向けて跳ね返り、ネギは防壁で難を逃れる。
それでも、派手にやり過ぎて僅かばかりでも一方通行の視界を妨げるぐらいには役に立った。
「かくれんぼですかァ?ネェェェェェェギィィィィィィくゥゥゥゥゥゥゥン
あァァァァァァァそびィィィィィィィましょォォォォォォォォォ」
一方通行の足踏みと共に彼の正面の資材の山が爆発する。
ほぼ同時に、その向こうから何か白いものが突っ込んで来た。
>>500
「おォ?」
すごいちからが正面から一方通行に浴びせられる。
「ぐがががっ!」
跳ね返って来たすごいちからに耐えながら、
ネギは更にすごいひかりを一方通行に向けた。
一方通行を逸れた光が資材の山を塵にする。
戻って来たすごいちからを受けて、吹っ飛んだネギが着地した。
「ギャハッ、力押しですかァ。
確かに桁違いのパワーだったけど、ざァーンねンでしたァ。
オマエが言う様に力で壊せるとか根本がちげェンだよ。
ま、大陸の一つ二つぶっ飛ばせるってンなら違うかも、なっ!」
未来予知が出来る訳でもないので適当を言いながら、
びゅん、と、弾丸移動した一方通行とすごくはやく移動したネギがすれ違う。
「何ンですかァ?何か、音がオマエを追い掛けてっぞォ」
(ついて来るっ!)
ネギの視界に、くわっとこちらを狙う一方通行の姿が飛び込む。
「あっ!」
「あァ?」
ネギが飛び退き、一方通行が自分の手を見る。
(彼の口ぶりから考えても、物理的な存在であれば、
彼に触れたものは固形物から光まで彼の法則に支配される。
だけど、そこに魔法が関わると支配力が弱まる。でも、完全に振り切るまでは行かないから当たらない。
しかも、時間を掛ければ不完全でも実用的なまでに魔法の法則すら解読出来る。
彼の、法則、解読…)
>>501
「おィおィおィ…」
一方通行の顔には、実に不気味な喜色が広がっていた。
「なンだなンだなンですかァ?
電気そのものってのはなンですかァ?
例によって妙な混ぜもン入ってやがるが、
なァンですかァって聞かれたら電気としか答えようがねェじゃねェかおィ」
ババババババッと地面から土塊がネギに突っ込み、ネギはバツ字の腕でガードする。
「ちィと抉ったツラが、瞬、で再生したのも電気で出来てるからですかァ?」
(この体でも、不完全でも今は彼の支配を免れない)
「オマエ、電気の神様かなンかですかァ?
ニンゲンの電気のトップの回数がアレなら、
オマエを掴めば届いちまうのかもなァ、そんなモンが今更出て来やがって」
(速さと精度を考えると、触れるだけで全ての「構造」を「理解」してる。
今を理解して、ほんの少し何をどうすれば望む変化が起こるのかも理解してる。
だから、この体でも、
まともに掴まれたら最悪構造の根っこから分解される、命の保障は無い)
「面白れェ、
面白過ぎンぞ三下ァァァァァァァァァァァァ!!!」
(受けるのも駄目、打つのも駄目、
とにかく触れる事が出来ない。攻撃が届かないと先が無いっ!)
× ×
「………なのー………なのー………なのー………なのー………
………なのー………なのー………なのー………なのー………」
「ごめん、周りがうるさ、もう一回最初から………
ふんふん………凄い風が吹き荒れて雷が横に飛んで物が浮かんで
謎のマッチョが暴れて本が空を飛んでビームが………」
今回はここまでです。続きは折を見て。
神鳴流なら反射すり抜けて斬れそうよな
乙です
>>503
どうやってすり抜けんの?
>>505
神鳴流 二の太刀シリーズは飛ぶ斬撃みたいのが魔法障壁などを素通りして本体だけに直接ダメージを与える
禁書でいうところの「的確精度」みたいなもん
たぶん普通に反射も抜けんじゃね?ましてや気を使ってるし、抜けるどころかそもそもまともに反射が機能しない可能性もある
>>506
「すり抜ける」って以上、移動はしていてベクトルはある
三次元的制約を無視できるテレポートすら反射する一方には通じないはず(体内に直接移動すら反射する)
ついでに「気」も禁書においては魔翌力と同一視されてる今の一方は反射可能
あっ>>1乙です
物理的に攻撃できない雷そのものなネギ君を斬ったからのう、概念的な攻撃かもしれん。一通の反射はベクトル操作、つまりは物理法則を操る能力によるもんだからなんとも
それに障壁すり抜け斬りなんて反射フィルターに引っかかるかわからんね
最終的にはどっちの能力というか設定を優先させるかによるよね
突き詰めると「幻想殺しの異能を消す力にもベクトルはあるだろうから反射可能」ということにもなりかねないし
高畑センセが戦艦の上で人間砲台してた場面思いだして
麻帆良学園に被害出るんじゃね
とか思ったがあっさりやられちゃったな
反射の演算って脳細胞で電気でしてるようなものだから
電気の速度で動かれたら演算が間に合わないんじゃね
とか思ったが導体を通る電気の速度よりは
ネギの移動速度の方がだいぶ遅いんだな
流石に高速にはなれんなw
それでも思考速度も雷の速度らしいよな。おそろしや
一方の能力発動がその時その時での演算速度相応ならレーザーや雷撃どころか不意打ちの狙撃にすら対応できないはずなんだが
木原神拳()のせいでそのあたりが矛盾しちゃったからなぁ
能力の有効範囲は科学サイドだから基本的には物理法則が対象だけど厳密には「自分だけの現実」に内包されている範中
一方さんは作中でちょくちょく支配領域を拡大してるよな
魔術による概念攻撃は結構ポピュラー
「アドリア海の女王」の例を出すまでもなく「物理的に壊せないモノを壊す」みたいな伝承は溢れてるからね
しかし、超能力のようなかつて存在しなかった全く未知の概念に対する術式なんて作れるのだろうか
感想どうもです。
なんか、盛り上がってる。有り難い事なのですが、これで益々、
今回の投下に当たり、最初に申し上げておきます。
………どうぞお手柔らかに………
それでは今回の投下、入ります。
>>502
× ×
「ああ、シャットアウラに連絡が入った、アリサがさらわれたてな。
これから部隊と合流するらしい。俺も後を追う」
マンションの屋上で、小太郎が連絡事項を告げて携帯を切る。
手近なミニノートのモニターには、つい先ほどまでシャットアウラが映し出されていた。
隠しカメラの位置の関係で、寝そべった姿勢で正面から間近に彼女を見上げるのと同じ視界で
部下からの連絡を受けるシャットアウラの姿を小太郎はモニター越しに見ていたのだが、
既に彼女は素早く必要なものを身に着けて部屋を出た所だ。
× ×
「黒鴉部隊が動き出した、アリサ拉致の連絡が入ったらしい」
電話を切ってそう言った長谷川千雨の顔は真っ青だった。
「どうなってやがる…」
アリサ拉致直後を最後に、仲間からの連絡がことごとく途絶えていた。
携帯のGPSで確認した所では、
アリサ拉致の一報を報せた朝倉和美は、その後見る見る現場のファミレスを遠ざかった。
同じくファミレスの店内に配置していた運動部、
現場近くまで来た図書館探検部マイナス近衛木乃香のチームは、その場に留まったまま。
火力要員として期待されていた古菲、長瀬楓も全く意味の分からない所に留まっている。
そして、そのことごとくが、千雨の報告要請に対して無視を決め込んでいる。
今の所、希望は二つ。小太郎がシャットアウラの追跡に当たっているので、
組織力のある彼女がアリサに行き着けば対応能力のある小太郎が必然的にアリサに行き着く。
もう一つは、朝倉和美。元々それが能力である彼女が拉致されたアリサを追跡している、そう思いたい所だ。
>>513
それにしても、この状況は尋常ではない。
連絡の途絶えている面々のそのことごとくが、経験の浅い深いはあっても、
曲がりなりにもあの夏の事件を闘い抜いた強者達だ。
それが、揃いも揃って、そもそもの目的であるアリサの緊急事態に際して
あったとしても一報の後は何一つ連絡を寄越して来ない。嫌な予感しかしない。
今更ながら、千雨は人選の問題に頭を痛める。
最大の失敗は、通信を軽視した事だ。
遠隔指示をするならば、遠隔偵察、通信能力のある朝倉和美を司令部付にするか、
今千雨の隣で心配そうにしている村上夏美を監視専門で前線に張り付けておくか、
情報を把握できるラインを確保しておくべきだった。
あの夏に上手に行った、それだけのパワーに知らず知らずに頼り過ぎていた。
結果、見事に孤立している。流れに任せてアバウトにやり過ぎたと千雨は内心で頭を抱えていた。
× ×
「ゆーなっ!」
席を立ったアキラが裕奈を追い掛けようとする。
その前に、小柄な人影が素早く割り込む。
運動神経のいいアキラがさっと一撃目を交わし、
立ち上がったアキラはとっさに手近な空きテーブルを楯にする。
「超馬鹿力ですね。あの刺客の超仲間ですか?」
一言目に就いては、あんたに言われたくない。
悠々とテーブルを貫通した穴から腕を引っこ抜く絹旗最愛を前に、
大河内アキラはぞーっとしながらしみじみ思う。
結局、テーブル一つ半ば振り回して楯にするアキラも
そのテーブルを最終的には木屑になるまで破壊する絹旗最愛もどっちもどっちって訳よ。
「やあああっ!!」
亜子が殴り付けた椅子が絹旗の鎖骨付近で粉砕され、絹旗がくるりとそちらを向く。
「別に超痛くもありませんが、
五億円回収して超倍返しされる覚悟は超あるんですよね」
「ち、超倍返しって超痛そうなんやけど」
>>514
「亜子っ!」
声と共に、絹旗の体が着弾の衝撃を受ける。
「?」
そこで、絹旗は異変に気付いた。
「パンチ力キック力普段着なのに異常な防御力、それ自体なんかの術でしょ」
「オフェンスアーマーの効力が超減退している。能力に超干渉する能力者ですか?」
絹旗が両手を握って事態を把握する。
「お仲間の援護とは余裕だにゃーん、ナメてんのかああああっ!!」
絹旗に向けてニカッと笑った裕奈がダッと飛び退き、そばにあったテーブルが爆発した。
「!?」
そのままビーム、原子崩しの狙いを付けようとした麦野沈利の視界が塞がれる。
「麦野っ!」
「わわっ!」
麦野の顔に巻き付けたリボンを途中で切断され、佐々木まき絵がバランスを崩す。
「結局、その程度って訳よっ!!」
リボンに飛び付き焼き切って身軽に飛び込んで来た
フレンダ=センヴェルンの回し蹴りをまき絵が辛うじて交わした。
「でかしたっ!」
実戦拳法?vs格闘新体操棍棒術の激突開始を尻目に、
顔に巻き付いたリボンを床に叩き付け叫んだ麦野がぼっぼっぼっと空中に光を浮かべる。
裕奈がドンドンドンと拳銃を発砲するが、
その銃撃は即座に強力なビームに呑み込まれて裕奈は這々の体で転げ回る。
>>515
「オラオラオラッー!何マット運動やってたんだぁーっ!!
そんなオモチャでどうにかなるとか思ってんのかにゃーんっ!?」
ダッと飛び込んだテーブルの下から裕奈は又飛び出す。
そのテーブルがどうなったかに就いては見なかった事にしておく。
「つっ!?」
割れたガラス壁からびゅうと突風が吹き込んで来た。
裕奈がそっちに視線を走らせると、
表では突風が吹き荒れ
なんとなく見覚えのありそうなマッチョがジャンプ力の設定を間違えたかの様に空に消える。
「な、何…」
「だーから、何よそ見してんだおらあああっ!!!」
ざっ、と、通路を一歩進み出た麦野の原子崩しを転がる様に交わした裕奈がそのまま銃口を向ける。
「はひゃっ、どこ狙ってるのかにゃーん…」
麦野のすぐ隣の空きテーブルで、ソースが醤油が水差しが着弾を受けて爆発する。
「大丈夫、私はそんなまだら模様のむぎのを応援してる」
「………ガキが汚ねぇケツ振って逃げてんじゃねぇぞオラァーッ!!!
その半端なコスプレひん剥いて
ご自慢のデカチチごと腐れ×××丸出しご開帳で吊してやっからよおおおおっっっっっ!!
パリィパリィパリィパリィィィィッッッ!!!」
ガタッと立ち上がったクドイ肉塊候補達がテキトーに放たれた原子崩しで阿鼻叫喚を展開する中、
通路をしゃかしゃか逃走する裕奈のすばしっこさは
麦野の危ない目盛りを着々とMAX近くまで押し上げる。
>>516
× ×
資材置き場に立つ一方通行の元に集団で殺到して来たのは、
光で出来た、箒をまたいで空を飛ぶ人間だった。
知っている人間に言わせれば戦闘用の使役精霊だった。
それらも、一方通行にかかるとぶつかる先から弾き飛ばされ、
いい加減苛立った一方通行に適当に殴られる先から消滅する。
「分身の術、つーか…」
一方通行は呆れて見ていた。
一方通行の周辺四方八方を目にも止まらぬ速さで飛び回るネギが、
物凄い数の光の矢を一挙動ごとに一方通行に打ち込み、更にその合間に白き雷を放つ。
そのかなりの部分は不完全反射で明後日の方に消え失せるのだが、
真っ直ぐネギの元に戻って来るもの、ネギ自身が速すぎて前の攻撃の反射とかち合ってしまうもの、
ネギだけが自分自身の攻撃で多少なりともダメージを受けながらも、
この高速攻撃をネギはやめない。
(考えている暇は無い筈。どれだけ撃っても確実に跳ね返ってる。
目算で言えばかなり高い確率で機械的に一定の反射、
当たる直前に機械的に元の方向に…)
「ヒャハッ、下手な鉄砲数撃ちゃ当たるってそンな希望に縋ってるンですかァ?」
「雷の斧っ!!」
強力な落雷の打ち下ろしにも一方通行は傷一つ負わず、
その一部の跳ね返りを受けたネギが吹っ飛ばされるだけだった。
呆れたのか、幸い一方通行は追ってこない。
チラッと懐の小さな精霊に視線を走らせたネギが呪文詠唱を完成させ、
一方通行が竜巻に巻き込まれる。
その中心は比較的安定していて例え一般人でも巻き上げられる事は無かったが、
その代わり、周囲を渦巻く風の壁から大量の石礫が飛来し降り注ぐ。
常人であれば一分も掛からずグロ画像直行の勢いだ。
だが、当然そんなものを歯牙にもかけない一方通行が、風の壁に腕を突っ込む。
>>517
(こいつが、不自然に動かしてる核か?)
一方通行が念を込める様に何かをすると、竜巻はあっさり消滅した。
巻き込まれていたものがバラバラと降り注いでいるのをまるっきり無視して、
背後からネギが急接近して来ていた。
「くっ、あああああっっっっっ!!!」
両手に凝縮して包んだ光の球を一方通行の背中に叩き付けたネギが、
思い切り吹っ飛ばされて資材の山に背中から叩き付けられる。
「ほォーおっ、零距離なら反射を突き破れるとか考えたのかァ?
ざーンねンでしたァ。分かってンだろ、そういう理屈じゃねェって。
それでも縋り付いてみたくなるってかァ?」
パン、パン、パンと手を叩きながら、一方通行が緩慢に歩み寄る。
「前に一度だけ、俺に土を付けて見せたのはレベル0の無能力者だった。
まァ、普通のレベル0じゃァなかったけどな、
それでも、最弱だからこそ最強の強さをすり抜ける何かがあったってなァ。
だから、オマエが初めてなンだよ。
オマエみたいに強い奴でここまで食らい付いて来たのはなァ。だから」
資材の山の前でずるずる崩れるネギに、一方通行はいびつな笑みを向ける。
「敬意を表して、最強の最っ強って奴で終わらせてやるぜ」
(風が、流れ…)
一方通行の掲げた両手の上で、大気の変動が始まる。
魔法の風使いであるネギは、肌で感じるそのとてつもない規模の動き、力に戦慄する。
「くかっ、くかかっ、かかかきくけけこかきくけかこくかけかかきくけけけけけかかかかかか」
上空で空気が圧縮され、放電が始まる。
「最強からの最っ強の電気のプレゼントだ、
呑まれちまえよ電気の神様よォォォォォォォォォ!!!」
>>518
「………エーミッタム………」
それは、最初は微かな違和感だった。
「あン?はァーずれェー?」
遠くの爆発音を聞いた一方通行が言う。
だが、音色の違う爆発音が不規則に始まると、違和感は無視できない程にうるさくなる。
一方通行が周囲を見回すと、下から上に、竜巻が、火柱が、稲妻が下から上に、
更に地面も局地的に震動している。
それは、ネギがそこら中にばらまいたルーン札が巻き起こすものだった。
ネギは、勉強熱心な魔法使いであり、そして天才、である。
その技量、特にパワーは専門のルーン魔術師に勝るとも劣らない。
そのネギがばらまいたルーンが次々と、不規則に発動する。
「何だァ?どれもこれもデカいって程でもねェのによ、
密度が異常に濃いじゃねェか、演算をかき乱してくれやがる。
面白れェ、面白れェ面白過ぎンぞ三下ァァァァァァァァァ!!!」
(ルーンが呼び出す四大元素、それがどう響いて歪んで変化しているか)
ネギ・スプリングフィールドは天才と呼ばれている。
その理由は色々ある。
拳法の師である古菲が舌を巻き、時間遅延の反則があったにせよ、
そんな程度の有利さなど話にならない成果をもって、
とうとう不死の真祖すら諦めた禁断の術式をも身に着けた学習能力。
そして、頭脳の天才葉加瀬聡美を驚愕させた基礎応用力。
そう、今そうである様に、
小さな補助精霊の力を借りながら基礎的な魔法の応用を徹底的に突き詰める事で、
超高性能コンピューターに補助された時間魔法すら真っ向から打破して見せた。
理論的に可能と実現可能のラグを限りなく無効化してしまう天才、
ネギ・スプリングフィールド。
>>519
「おォ、まだやる気ですかァ?」
(ルーンからの反響、精霊の反射、光の矢の反射、白き雷、雷の斧の反射、
物理的反射と魔法による攪乱反応の落差………正確な理論値を出すには全然足りない。
最後の所はこの体の記憶、感覚に頼るしかない)
尻餅をつきながらも、決して死んではいないネギを見て一方通行が喜色を浮かべる。
「勘違いすンなよ。大技が使い難くなったってだけだからな」
「ラス・テル マ・スキル マギステル…」
(チャンスは一度だけ。僅かでも数値を変更されたら全部が分からなくなる。
それ以上に、これは無理そのもの。
有効な威力で普通に実行したらその場で引き裂かれて破綻する。
この体だからこそ、辛うじて修復が効く。二度目が出来る程の回復時間はもらえない)
ネギがぎゅっと握った手が光を帯びても、今更一方通行は驚かない。
「分かった、掴み取ってやンよ。
この手でな、この手でオマエを掴み取って終わらせてやる!!」
(だから、理論的な成功率は限りなくゼロに近い。それでも…)
今回はここまでです。続きは折を見て。
おつ
乙
ネギ先生だったらもし二戦目があれば障壁破壊掌 試作伍号的なノリで普通に反射膜攻略できそう
そもそも完璧に見える反射も一掃クラスの攻撃だったらゴリ押しでも抜けるしね
闇モードネギの黒龍雷迎でもあんがい抜けるかも
乙です
乙
風の支配は普通に阻害されてるのに何でプラズマ砲が決めてになるとおもうのやら
しっかしまあアレスタがサボってんのか知らんけど学園都市の対応が鈍亀だな
この学園都市ならネギまパーティーだけで戦争仕掛けても勝てるんじゃね?
乙
雷が絶縁体の大気中を進む速度は秒速150km~200km
電気が導体を伝わる速度は秒速30万km
JOJO4部に出てきたレッド・ホット・チリ・ペッパーは電線内を移動してた
ネギまの原作でそんな描写は無かったけど
雷化してるネギも電線内を移動とかできるんじゃないのかね
学園都市なら網の目の様に電線張り巡らされているだろうし
電線内を移動中なら目視で追う事もできないから有利になる気もする
>>525
要するにねーちんと組めば最強?
送電線内で雷速超えても出てきて攻撃する時は雷速だろうからあまり意味は無いような
それに電線なんかに篭ると新約の垣根戦の時と同じやり方でやられるかもしれん
学園都市中の大気を操ったくらいだし学園都市の一地域の送電線くらいは掌握されるだろうし
感想どうもです。
それでは今回の投下、入ります。
>>520
× ×
「ちっ!」
七閃が、一見すると小砂利、正確には主に神裂による破壊活動の痕跡を大量に巻き上げる。
思わず腕で顔を覆った次の瞬間には、
ガンドルフィーニはたった今まで銃口を向けていた神裂の手刀を後ろ首に叩き込まれて昏倒する。
なお、銃口を向けながら発砲しなかったのは、遥か射程距離外にいたからに他ならない。
神裂がタッと飛び退きながら七閃を放ち、何かがバババッと弾き飛ばされる。
(カマイタチ、風の術式…)
「………奥義………斬岩剣っ!!」
大跳躍からの打ち下ろしを、七天七刀がガキッと受け止めた。
葛葉刀子と神裂火織が互いに手にした大太刀がギリギリ押し合う。
ガキンと刃が弾かれ距離が開くと同時に、又、カマイタチの連射が神裂を襲った。
(遠距離の後衛と接近戦の前衛。
オーソドックスな魔法使いの戦闘スタイルですが実力があるだけに厄介)
七閃でカマイタチを凌ぎながら飛び退いた所に、刀子が食らいついて来る。
七閃で刀子を牽制する。
「神鳴流奥義・斬鉄閃!」
だが、刀子はタッと飛び退くや手堅く次の攻撃を仕掛けてくる。
神裂がそれを七天七刀で弾き飛ばしている間に、刀子は間合いを詰めて来ている。
大太刀同士である事などどうでもいい、
物理とか人体とか全くもってどうでもいいと言んばかりの、ガガガガガッと速く鋭い刃の応酬。
勢い余って流されたのは神裂の方だった。
「風花旋風風牢壁!」
その気を逃さず、離れた場所で後衛に当たっていた魔法教師神多羅木が風の魔法を放ち、
神裂は渦巻く強風の中に閉じ込められた。
>>528
「監禁術式、少々厄介ですね」
呟きながら、神裂は刀を鞘に納める。
「…ぬっ…まずいっ!」
「いけないっ!」
確実とは思わなかったが術自体は決まった、
一仕事終えた一服したいぐらいの心地だった神多羅木が伝わる感触に緊迫し、
刀子が大きく跳躍した。
凄まじく強烈な逆回転をぶつけられ、神裂を取り巻いていた風の檻は瞬時に消滅した。
その時には、神多羅木の上空で神裂と刀子の刀が激突していた。
ターンと弾け、両者は神多羅木を挟む形で着地した。
「くっ!」
神多羅木が無詠唱で連射するカマイタチを、神裂は抵抗と言える遅れ一つ見せず
七閃で弾き飛ばしながら見る見る距離を縮める。
「神多羅木さんっ!」
刀子が駆け付けた時には、
刀子は水月に刀の柄を叩き込まれた神多羅木の体をとっさに支える事しか出来なかった。
「ちいっ!」
刀子がさっと神多羅木を地面に横たえ動き出す。
跳躍した刀子と神裂がすれ違い、着地した時、
神裂のTシャツの右袖に出来た裂け目は限りなく内側の小高い隆起のスタートに近づき、
元々長いとは言えない刀子のタイトスカートにベルトに迫ろうかと言うスリットが加わる。
「見事」
「流石ですね」
「長年剣をもって叩き上げて来た経験豊富な古強者」
「長い年月を経て磨き上げて来たまさしく熟練の技」
ピキッ、ピキピキッ、ピキッ、プチィィィィィィィィィンンンンンンンンン
>>529
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁたしはまだじゅうはちだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁれが
としまのじゅくじょですかああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」
何かユイセンとかシンメイリュウケッセンオウギとか言う発音が聞こえたのは
多分気のせいだろうそうに違いない
「ねえ、何が起きてるの?」
「うーん、第三次世界大戦にはまだ間ぁがあるんやけどなぁ」スイショウダマノゾク
「起こる事前提ですか」
ガキーンと弾き飛ばされ、
ダメージを流すために敢えてそれに乗った神裂は、振り返り様に七閃を放つ。
バッと切断された大量の触手が舞い散り、
高音・D・グッドマンは次の一撃を「黒衣の夜想曲」の自動防御で回避する。
高音が、自分が動けない程の完全防御を固める。
神裂であれば下手をすれば力業、そうでなくても浸透打撃術で打破する事も可能だったが、
この無意味な行為そのものに就いて一瞬思考し、ざっと飛び退く。
「メイプル・ネイプル・アラモード…」
「ラプ・チャプ・ラ・チャップ・ラグプウル…」
神裂の周囲に、急遽呼び戻された佐倉愛衣と夏目萌の放つ火球と水球が
放物線を描いて次々と落ちて来る。
(やけに命中精度が低い?………!?)
神裂を逸れる遠距離攻撃と亀を決め込む高音にチラと視線を走らせた神裂がザッと大きく飛び退いた。
バランスを調整された火と水の球が空中で激突し、次々と爆発する。
「………小賢しいっ!!」
爆発を避けて跳躍していた神裂が、着地前に七閃を放つ。
魔法の隠れ身札を手に潜伏していた瀬流彦他槍持ちの魔法教師が一蹴された。
「捕縛結界でしたか」
神裂は、駄目押しに地面に刃を突き立て、地面に仕掛けられた魔法陣を粉砕した。
>>530
次の瞬間には、振り返り様に目にも止まらぬ速さで鞘に納めた刀を抜き放つ。
そして、真っ直ぐ突っ込んでいく。
神裂の進路が一本の道となってその両サイドには人が埋まる程のかき氷の山がこんもり積み上がり、
超高速移動から急ブレーキした神裂が納めた刀を鞘走らせ
ガン、と、某ジャンプ漫画の某元新撰組副長助勤警視庁巡査を思わせる突きを繰り出す。
かくして、とてつもない速度でその一挙動を終えた神裂の手にした七天七刀は
エヴァンジェリン・A/K・マクダウェルの胸板をぶち抜いて後ろの壁に突き刺さっていた。
「なるほど、不完全とは言え結界を緩めてまで、
つまらん言葉で私を挑発してここに仕向けただけの事はある。あの爺ぃ」
エヴァンジェリンは神裂に不敵な笑みを向ける。
「光栄ですね。出会い頭から駆け引き無し戦争レベルのフルパワーで一気に仕掛けていなければ、
恐らく私は氷河の中です。そういう訳で」
E/
v/
a/
n/
g/
e/
l/
i/
n/
e/
A/
K/
M/
c/
D/
o/
w/
e/
l/
l/
>>531
「あなたの事は聞いています。終わったら修復してもらって下さい」
神裂が刀を鞘に納め背を向けて歩き出す。
「私達、あんなのと闘ってたの?」
「何か、そのまま宇宙でも闘えそうやなぁ」ゼイチクジャラジャラ
「いや、どこかの塾長じゃないんですから」
ここで、攻撃に転じた高音と妹分の魔女見習い二人、
そして刀子がじりっ、じりっと神裂に近づく。
人数はもちろんだが、ここまでチートをやっておいて何だが、
この四人がチームで来ると言うのは神裂にとっても決して侮る事が出来る状態ではない。
相性の都合で遠距離タイプを最初に潰した神裂だったが、
年月を重ねた熟練の技を使う刀子は、剣士、魔術師として神裂に相対するに十分値する。
高音も魔法使いとして高い能力を持っており、
絶対防壁の使い方次第で神裂を苦しめるぐらいの目はある。
その上、まともな戦闘であればそこそこ使える妹分二人を従えている。
(いざっ!)
各陣営が腰を浮かせた次の瞬間、
ドガーンと巨大な石の拳が麻帆良側の両サイド近くの地面に叩き付けられた。
「何やってんのっ!?」
神裂の側でぼこっと湧き出した土塊の中の目玉が開き、声を伝える。
「情報収集に行って麻帆良の魔法教師と全面戦争とかあんた頭大丈夫っ!?
んな事されたら今度こそバックアップの私まで処刑塔行きだっての!!
そいつら片付けても上の方で見てるんだよ、ユニークな脳天の爺ぃと多分変態のニヤケ面が、
多分だけどそいつら私らがタッグでも瞬殺されるぐらい強いから」
>>532
× ×
「はあっ!?多重能力者!?」
「いや、だから御坂さん、都市伝説じゃなくって、
春上さんが報せてくれたんだけど…」
「それはだから不可能だって」
「でも、一人は間違いなく風と電気を一人で扱ってて、
それから、妙な具現化能力使う奴もいて、
何とか凌いでるみたいだけどかなりヤバイ状況だって」
「分かった、近くにいるからちょっと行ってみる。
どっちにしても、放っておけない」
「気を付けてっ!」
× ×
一方通行がロケットスタートした。
(ほおおっ、渾身の一撃って奴ですかァ。そィつァ命取りになるぜェネェギィくゥン。
それとも、核爆弾十個分のパンチとか怪獣図鑑に載ってるパンチか何かですかァ?
アハ、アハアハッ)
「やって見ろやァ三下あァっっっっっ!!!」
「………桜華崩拳………」
(………ここ………だっ!!!………)
「………退っ!!」
「………ごっがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!」
ネギの拳を受けた一方通行の体が吹っ飛ぶ。
資材の山から山へ、ピンボールの様に叩き付けられて跳ね飛ばされ、
その内角度が変わって地面を何度かバウンドして
ようやくの事で大の字にぶっ倒れる。
当然、自動反射でなければとっくに即死だ。
>>533
「くああああああっっっ!!!」
そのネギはネギで、そのまま地面に倒れ込んで悶絶していた。
一通り絶叫して、やはり地面に大の字に倒れ込む。
押せば引く、押すも引くもこの場合方向が違うだけで同義、
そうであれば、引くが押す。
この馬鹿馬鹿しい理屈を、その一瞬、
押すが引かれるそのほんの一瞬だけに全てを懸けて大真面目に実践して、
その馬鹿馬鹿しさの反動で無理やりな方向に引っ張られた体に未だ激痛が走る。
生身の人体であれば引き裂かれた勢いだ。
「あー、もう終わってたかにゃー」
「土御門、元春さん」
「あー、魔法世界の英雄様がご存じとは、光栄の至りだにゃー」
かくして、土御門はひょいひょいと気楽な足取りでネギに近づき、そして、
深々と頭を下げた。
「まず、この不始末を謝罪する」
「今回はどの立場ですか?」
「お前…君を招いた側、学園都市統括理事会、そこに連なる立場、そう思ってもらっていい」
「お前で結構です。お互いここでは表に出ない立場。
歳と立場がアンバランスだとやり難いですから」
「そうか」
真面目な口調で話していた土御門がネギに携帯を渡す。
「もしもし、ネギ先生?ただ今会食を終えました。
ホテルに戻りますのでネギ先生もお戻りの際は連絡下さい」
「いいんちょさん?」
「ネギ先生?聞こえておられますか?」
「え、ええ、大丈夫なんですか?」
「ええ、お陰様で有意義に交渉が進められました。
電話ではなんですので詳細はホテルでゆっくりと」
「わ、分かりました」
ネギが電話を切る。
>>534
「只の行き違い」
土御門が言う。
「連絡が行き違って予定変更に関するちょっとした連絡漏れがあった。
携帯も信用出来る人間が預かっていただけ。
それを持ち出した人間、それを故意にやった人間がいるって事だ。
あっちの学園都市最強一方通行に関してもな。
人の死体の上に犬の死体を埋めておけばそれ以上は詮索されない。
犬の死体にお前達に貸し出されている電子機器を使った奴がいるって事だ」
「じゃあ、あの人も?」
「ああ、あいつの大切なものに手を出した奴、そいつの正体を追跡して行けば、
最初の偽装を突破すると学園からお前に貸し出された機器に行き着く。
もちろん、こっそりとハッキングした結果だが、
何しろお前ら自身お忍びのために名目を色々偽装してるって事もある。
犬の死体に引っ掛かったって事さ。本来敵対する理由は無い」
「そうですか」
「誰がやったのか、聞かないのか?」
「雪広あやかの無事は確認出来ました。そうですね」
「ああ、お前が戻るまで決して手は出させない」
「後は土御門元春さんにお任せするのが最上、この結論は間違っていますか?」
「今回、出だしは抜かったがな。
こっちの事はこっちで始末を付ける。任せてくれて感謝する」
>>535
心当たりはあり過ぎた。
少なくとも、この学園都市の中でもトップクラスが関わらないと今回の仕掛けは無理だ。
ネギ達とて、学園都市内でも簡単に行動を乗っ取られない様にそれ相応の用心はしている。
ざっと想定するだけでも、主導権を握るネギを亡き者にして
エンデュミオンを足がかりに学園都市がプランを総取りするもくろみ、
或いは、ネギの訪問による魔法、或いは魔法を含む魔術と科学の歩み寄りを警戒する立場。
或いは一方通行の方に何か含む所が、科学の最強一方通行と魔法の最強ネギとの闘い、
少なくとも、このどっちかを倒すにはもう一方がいるのは絶好の機会。
ありとあらゆる意味で客観的には愚かな試みなのだが、
今のネギは社会的地位のある愚か者など掃いて捨てる程見ている立場だ。
学園都市の事は学園都市に任せる。今はそれが最善であるとネギは踏んでいた。
善悪は別にして、ネギは学園都市自体の聡明さに就いては相応に信頼していた。
少なくともこれが学園都市最終意思の本意ではなかろうと言うぐらいには。
許可を得た上で訪問している「魔法」の「英雄」、
引いては「魔法」を含む「魔術」サイドの大物に
学園都市の上層部が関わって「科学」の「最強」を差し向けた。
或いは、学園都市内でその科学の最強を魔法の英雄がぶちのめした。
それが知れた時点で、全軍進撃を指示し兼ねない者をネギはダース単位で知っている。
当然、それはネギのプランに取って軽視し難い悪影響となる。そして、その事を望む者も存在する。
それだけのプランのために学園都市を訪問している以上、
土御門元春と言う男に就いてもネギは相応に情報を得ている。
少なくとも、彼に就いてネギ自身が知り尽くしていると勘違いしない程度には確かな情報を得ている。
そして、学園都市に絡む下らない戦争を止めるためには
取り敢えず彼に乗った方がいい事を知っている時点で、そこは流石ネギ先生と言う事だ。
「大丈夫なのか?」
「ええ、何とか」
人間の体に戻り、よいしょと立ち上がるネギと土御門が言葉を交わす。
>>536
「まだ動けるんなら、本業の方も片付けてもらおうかにゃー」
「本業?」
「ああ、ちょーっとオイタが過ぎて困った事になってる
ネギ先生、を、大好きな可愛子ちゃんのお説教タイムぜよ。この学園都市でにゃー」
「ちょっと、待って下さい、この学園都市で、って」
「まぁー、お互いややこしい街に住んでると色々あるモンぜよ。
取り敢えず、少し急いだ方がいい。
今回の件で分かっただろう。見た目可愛子ちゃんで
その実あの夏にお前と戦火をくぐり抜けた強者でも、この街はそう甘くはない」
「分かりました」
ぐっと真面目な顔で返答したネギに、土御門はグラサンで目を隠したまま口元を緩める。
「あー、杖はいらないにゃ。魔法でごまかせるって言っても
ここは科学の学園都市だからにゃー、確実とは保障出来ないぜよ」
右手を挙げるネギに土御門が言い、ついっと視線を脇に向ける。
「ネェェェェェェェェェギせぇぇぇぇぇぇぇんせぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
「あ、結標さん」
「話は伺いました。さ、参りましょうネギ先生。
ええ、私の能力は私自身に極めて密着したもので無ければ移動する事が出来ない能力でして、
ですからそう、こうやってぎゅっと力一杯ぎゅーって、
それで、決して長距離を一度に移動できる訳ではございませんし場所的な制約もありますから
目的地に向けて小刻みにぐるりと移動する事になります。
もーちーろーん、私自身が一緒に移動する事に就いてはぜーんぜんオッケーと言うか
そうしなければならない訳でございましてこの結標淡希地獄の底までネギ先生とご一緒に。
はい、ですからしっかりと力を込めて
埋まる勢いで大丈夫ですよそうめくるめく時を過ごす勢いでネギ先生、
はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ漲るぅぅぅぅぅぅぅぅぅ
これは全てを乗り越えられるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ
はい、ぎゅぅーっと、さーんにぃーいーち
我が人生一片の悔いなぁーっしいっ!!!」
>>537
「………」
結標淡希ネギ・スプリングフィールドの消失を見届け、
土御門は地面にいまだ大の字になっている一方通行に近づく。
「あ゛ァ?」
「あー、今ん所無関係なお前で悪いんだが、ちょっと仕事を頼みたい。
ま、いっぺんやった事だ」
「ンだァ?」
「なーに、今さっき顔面から赤い噴水まき散らしてぶっ飛んでって
そろそろ絶頂を極めて戻って来るキャラ崩壊を究めたムーブポインターに
肉体言語で原作ってモンを思い出してもらう簡単なお仕事だにゃー」
それだけ言って、土御門は一方通行からも離れる。
「はぁーあ、「魔法」の英雄が「科学」の「最強」をねぇ…
それ抜きにしても凛々しいにゃあ、流石は英雄か、真っ直ぐとまぁ。
あいつが惚れる訳ぜよ。
こっちの収拾に奔走させられたが、あっちの方は…」
取り出した携帯を覗いた土御門は、
イメージ映像で言えばサングラスがピシッと音を立て顔中にだーっと汗が伝い落ちていた。
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
乙
乙です
気弾・呪文問わず己の力として取り込む太陰道なら幻想殺し、もしくは学園個人的な使い方ができるんじゃなかろうか
一方通行が魔法陣に入ったと同時に一方通行の周りのAIM拡散力場ごと引っぺがして吸収とか
そして掌握!ですね
AIM拡散力場そのものを体に取り込むネギ君
それでは今回の投下、入ります。
>>538
× ×
「くっ!」
絹旗最愛の回し蹴りを受けて、
ボクサーガードしたアキラの腕が痺れ足が大きく後退する。
「超もういっちょうっ!」
「つっ!」
窒素装甲が大幅に削減しても絹旗にもそこそこ経験値はある。
絹旗のひらりと身軽な回し蹴りを後退して交わしたアキラの足がスリップし
空きテーブルに背中から倒れ込んだ。
経験値と残りの窒素装甲で今でも格闘家ぐらいシメる勢いの絹旗。
これで絹旗がフルパワーであれば、一撃でもまともに受けたら
防御関係なく骨格、筋肉が無事では済まなかった筈だ。
アキラがそのテーブルを自分の前に倒し、絹旗は危うく拳を止める。
「超肩凝りを治してくれた超お礼をしますか」
絹旗はコキコキ肩を鳴らしながらアキラに背を向けて、
半ば腰を抜かしている亜子の元にツカツカと歩み寄る。
「超外れです」
アキラが放り投げた水差しが放物線を描いて絹旗の前に落下する。
「アデアット!」
「!?」
絹旗は目を見張る。
逃げ遅れた亜子を一撃する予定だった拳が、
両腕を広げたアキラのボディーを一撃していた。
>>544
「アキラっ!」
アキラが、叫ぶ亜子の手を取る。
そして、絹旗の前から二人は姿を消し、倒れた水差しだけが残される。
「あれは、超テレポート?それも余りレベルが高くない」
混乱した店内のあちこちに現れるアキラと亜子を見て絹旗が呟く。
そして、そんなアキラに視線が向いた隙に、
裕奈が店のあちこちの水差しを狙って拳銃を乱射していた。
「くあっ!」
「アキラっ!」
フレンダとの一進一退の末に後ろに跳躍したまき絵が、
アキラの大きな体で空中で抱き留められて叫ぶ。
床に待たせた亜子もすぐに縋り付く。
「結局、逃げられたって訳よ」
フレンダの前から姿を消した運動部三人組が、パッと通路に蹲る様に姿を現す。
むっちり色っぽいおみ脚からそーっと上を見ると、
どこぞのお嬢様が実に素晴らしい笑みを浮かべていた。
「…はーい…」
「こんにちわぁ…」
まき絵と亜子が引きつった笑みで愛想を返す。
「パリィパリィパリィパリィィィィィィィィィッッッッッ!!!」
取り敢えず、自分らの肉体が液体を通り越して蒸発する前に三人は姿を消す。
心得たもので、ささっととあるテーブルの下に隠れていた裕奈は、
早速に通路に水差しをぶちまけていた。
「アッキラッ」
そして、通路に姿を現したアキラの背中に裕奈が勢いよく抱き付く。
ジャッと原子崩しが空を切り、四人揃った運動部の姿は入口近くに存在していた。
>>545
「はいごめんなさいっ!!」
(………犯罪者だ、犯罪者の群れだぁ………)
裕奈、まき絵が次々とテーブルからカウンター前を飛び越えていく。
心中の呟きを余所に、アキラも又、腰の抜けた亜子をお姫様抱っこして現実に従い、
「ホントーにごめんなさいっ!」
申し訳にお会計だけカウンターに放り込み入口にダッシュする。
「テレポーターかよ、ったく…」
呟いて、麦野沈利は携帯を取り出す。
「と言う訳で、事態を穏便に収拾するために修理代その他含めてこっちで負担しといたから。
次の仕事の報酬はその辺考慮されるって事でよろしく」
「はわわわわわわわわわ………」
「超ブチギレてますね」
「大丈夫、私はそんな髪の毛がふわーっと浮かんで
目から赤い光を放ってるむぎのを応援してる」
麦野の手の中で携帯がバキンと嫌な音を立てる。
「ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね」
× ×
「な、なんですのっ!?」
ファミレス近くの路上で
二人の友人共々大型のくらーけんはんどに拘束されて、婚后光子は声を上げた。
「何だか知りませんが無闇にじゃれつくものではありませんわよ」
「はあっ?」
角から覗いていた図書館三人組が唖然とする。
そうやって、婚后に撫で撫でして話しかけている内にくらーけんはんどが力を緩め、
三人とも脱出してしまった。
>>546
「あなたたち、どういうつもりですか?」
「やばっ」
「フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ…」
(………何か、風が感じられますわね………)
くらーけんはんどを脱出した泡浮万彬がつかつかと曲がり角へと歩き出す。
ハルナが焦りを見せている間にも、綾瀬夕映は着実に手を打つ。
「………戒めの風矢………!?」
「はわわわっ!」
「防壁っ!」
婚后光子の扇子の動きに合わせる様に、突如巻き起こった突風が図書館組を襲う。
風は夕映の放った捕縛魔法を易々と呑み込み、
ハルナが防御用ゴーレム「盾の乙女」を召還しなければまとめて吹き飛ばされていた勢いだ。
「行けっ!」
「これは、少なくとも人間ではありませんわね。能力の物質?」
ハルナが「盾の乙女」をそのまま攻撃に回す。
相手の三人組の先頭に泡浮万彬が立ちはだかった。
「ハルナ、飛ばしたですか?」
夕映の質問にハルナが首を横に振り、「盾の乙女」はデタラメにジャンプして相手を飛び越える。
「こりゃー、千雨ちゃんの言った通り、相当厄介な相手だね」
「ですね」
ハルナと夕映が意見を一致させる。
図書館チームが、隠れるのをやめてさささっと前進して動き出した。
「くっ!」
新たな突風に吹き飛ばされそうになりながら、夕映は練習杖を前に出す。
>>547
「あなたも風の能力者ですの?
しかし、その程度ではどうにもなりませんわよ!」
扇子で笑みを隠して言う婚后光子の言う通りだった。
とっさにそのまま強風をぶつける魔法で対抗した夕映だったが、
風の出力だけなら、間違いなく婚后の方が圧倒していた。
ならば、まずはどうやって上手に負けるかだ。
「………白き雷っ!」
「!?」
上手に転がって身を低くした夕映が、練習杖から雷を放つ。
とっさにそれを交わしながらも婚后はギョッとしていた。
「そんな、まさか………?」
夕映から見て、優位に闘いを進めていた筈の婚后の狼狽は異常な程だった。
「隙ありっ!」
その婚后に気を取られた泡浮万彬にハルナがマッチョゴーレムを差し向ける。
「又っ!?」
だが、ゴーレムは、泡浮の前で投げ飛ばされたと言うのか奇妙な軌道を描いて
泡浮を飛び越えてしまった。
「もう一度…」
「ハルナよけてっ!」
宮崎のどかの声に、ハルナがとっさに地面を転がる。
ハルナがいた辺りを、細長い水の塊がびゅうと通り過ぎる。
素通しになったガラス壁から店内に入っていた残る一人、湾内絹保が路上に戻って来る。
のどかがとっさに湾内に空飛ぶ本を放つが、
それは湾内が混乱する店内で集約して飛ばした水の塊に呑み込まれる。
「(とにかく、これはいけそうです)白き雷、っ!?」
追い打ちを掛けようとした夕映は、ぞわっとしたものを覚える。
>>548
「(風楯ならぬ)雷楯っ!!」
夕映がとっさに応用防壁を張る。
強力な電撃に白き雷が呑み込まれ、更に防壁をも突き破り夕映に一撃を食らわせる。
「ゆえっ!」
「大丈夫!?」
「ええ、何とか」
友人の声に、後方に吹っ飛ばされた夕映は頭を振って応じた。
「ふうん。今の感触、あんた体にも電磁バリア張ってたわね」
(これはっ、生半可な出力じゃないです)
「盾の乙女っ!」
ハルナが「盾の乙女」を上に展開する。
何故なら、破片の様な五月雨電撃が上から降り注いで来たから。
そのハルナに夕映が耳打ちする。
ハルナが前方に展開した「盾の乙女」が激しく帯電する。
「「盾の乙女」が力負けっ!?」
「くっ!」
予測されていたとは言え、「盾の乙女」の消失と共に図書館三人はざっと横に飛び退く。
「跳んだっ!?」
ハルナが叫ぶ。夕映が打ち出した風の塊が、異様なジャンプ力で交わされていた。
>>549
「なぁにしてくれちゃってるのかしらねぇ…」
「ま、さか、風、電気…」
「婚后さんっ!」
もう一度、我が目を疑っていた婚后光子が、割り込んで来た友人の呼びかけに我に返る。
「ここは任せてみんな逃げてっ!」
「し、しかし、この婚后光子…」
「私が抑えておくからいいから早くっ!」
「は、はいっ!!」
それは、押しが強い筈の婚后が圧倒される程の迫力だった。
(………例の事件の関係?だとすると、婚后さん達を巻き込めない………)
(上位の相手だとすると、こちらに聞いた方が早い?でも、何かがおかしいです…)
「とにかく………まずはお礼をさせてもらおうかしら!!!」
「ハルナっ!」
「盾の乙女っ!」
目の前で掌に宿る青い光に、夕映が小さく叫ぶ。
ゴーレムを盾にしながらも予測される攻撃力に図書館組は覚悟を決める。
轟音が響き、一同目を見張る。
「な、に?…」
通常、雷と言うものは上から下に落ちるものである。
その意味では、彼女達の目の前で展開された光景はある意味正しい。
但し、問題なのは、雷と言うには小さすぎる、
しかし、図書館三人組に向かって放たれた電撃を阻止する程の電撃が
上から下に天から放たれたと言う事だった。
>>550
× ×
「らちがあかねぇ」
とある建物の屋上で千雨がノーパソを閉じる。
「前線に行くぞ。ファミレスまでは分かってる」
「分かった」
「何とかタクシーでも捕まえて…」
言いかけて、千雨が夏美を手で制する。
ドアノブの音を聞いた千雨は、即座に夏美の手を握り夏美は「孤独な黒子」を発動する。
次の瞬間、千雨の体は強烈な衝撃波に吹っ飛ばされて屋上の柵に激突していた。
「つ、っ!?」
身を起こそうとした千雨が、ようやくそれが出来ない事に気付く。
右肩に強い圧力が掛かってる。
強い力が押し付けられて背中が床から離れず今にも関節が外れそうな程に。
(や、べぇ…)
「出て来いっ。
もう一人いる事もここからの電波が妙な事件に繋がってる事も分かってんだよ、クソボケ」
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙
今までで一番読みづらい
誰が何言ってるかかも分からないが
誰が何してるかも分からない
創作板の人で台本形式を下に見てるのかも知れないが
その辺の台本形式で書いてるSSの方がずっと読みやすい
読解力が足りないだけ
普通に読みにくいだろ
乙です
乙
パリィがむぎのんの鳴き声みたくなってるけど、あれ英語だからな
「回避する」って意味の
あんま意味わからん発言させるなよ
>>556
通りすがりに一言
記憶と勢いで書いた
反省はしている
色々と有り難うございます。まずは御礼申し上げます。
思うところもありますが、このまま行きます。
時刻もよろしい頃合には少々遅くもありますが、
では、今回の投下、入ります。
>>551
× ×
「くそっ!」
小太郎が狗神に乗ってトンネルに突入した途端、視界がオレンジ色に染まった。
「モモモモンスターッ!?」
高速道路とは言え暴走と言うべき速度でかっ飛ばす車の後部座席で、
後続を見たジェーンが叫んだ。
「イヌガミと言ったか。
日本では我々が精霊と呼ぶものも含め、神様の数がやたらと多いとな」
半ば炎に包まれた怪獣に片脚突っ込んだ巨大狼が
辛うじてその前段階のス○○ーサ○ヤ人もどきに収束するのを見てステイルが言った。
「先日の麻帆良者、やはりウェアウルフですか」
自分がアクセルを踏み込みかっ飛ばしているスピードに
半ば硬直しながらハンドルを握るメアリエがバックミラーを見て言う。
「………引き返す?………」
>>558
× ×
「………この気配………」
科学の学園都市上空で、箒に跨った佐倉愛衣が自分の向かう方向からこちらに向かう気配に呟く。
緊急警報による麻帆良学園都市への緊急帰還。
その後、科学の学園都市の通信網に接続していた弐集院からの報せで、
秘かに繋いでおいた転送ポイントを通って科学の学園都市に蜻蛉返り。
かなりきな臭い事件が進行しているとの情報だったが、
目的地に向かう途中、行き先の方からとてつもなく危険な気配が突き刺さって来た。
(…これは機械ではない。魔力、いや、どちらかと言うと…)
果たして、猛スピードですれ違った後で、
愛衣は箒の方向を変え、その金色の光の尾に食らい付く様に猛追した。
「どうしたんですかっ!?」
追い縋りながら愛衣は絶叫する。
(尋常な顔つきじゃない。一体…)
「………が………ぶな………」
>>559
× ×
「………おおお………」
「ネギせんせー?………」
迂闊に前を見る事の出来ない電撃連打の後で、
大きいとは言えない人影が雄叫びと共に
バチバチ白く放電して突っ込んで来ると言う希少現象を前にした場合、
宮崎のどかが一瞬自分の知っている現象と勘違いするのも無理からぬ所もあった。
「ちぇいさぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっっっっっ!!!」
しかし、現実には、白く輝きながら突っ込んで来たのが御坂美琴で、
上空からスタンと着地したのがネギ・スプリングフィールドだった。
もう少し詳しく説明すると、歌って踊れるハイテンションムーブポインターと共に移動を繰り返し、
窒息寸前の高密着状態のネギが到着したのがこの近くのビルの屋上。
後は、認識阻害を張った杖に乗ってここの上空から白き雷を放ち、
まずは知ってる顔を狙った電撃を阻止していた。
ネギは、とっさに跳び蹴りを交わすと、電気防壁を張った腕で続く回し蹴りを流す。
たんっと後退した美琴がネギを跳び越えた。
双方振り返る。美琴が放った電撃をネギが受け流す。
「………これは………」
「ちょっと、何でネギ君が………って言うか………」
夕映もハルナも目の前の展開に唖然となる。
白く放電しながら攻勢に出ている美琴に対して、
ネギも相手の主力が電気と理解して、
雷天とまではいかなくても通常の魔法防壁の性質を出力増しの雷に切り替えて対処している。
普通の感覚であれば目にも止まらぬ早業と言う事になる美琴の猛攻撃に対して
ネギも決して油断せず小刻みに対処している。
そんな二人、見た目では一般的な中学生女子とこれから思春期に入ろうかと言う男の子が
そんなトンデモ状態でバチバチ白く放電しながら気合いと共にすばしっこく動き回っているのだから、
ちょっと目を離すとどっちがどっちか一瞬見分けが難しくなるぐらいだ。
>>560
「白き雷っ!」
距離を取った美琴の電撃がネギの白き雷に呑み込まれる。
「ちぇいさあっ!!」
その時には、ネギの目の前に着地した美琴の回り蹴りがネギに受け流される。
(さっきの電撃が呑まれた、並の電撃使いじゃない、ってまさかレベル5の私よりっ!?)
ぱぱぱっと美琴の胴体を狙う拳を美琴が受け流す。
(やっぱり、攻撃も防御も常時電磁バリア張ってるし、
しかも拳法使いってどういうスペックしてるのよこいつっ)
ターンと後ろに斜め飛びしながら次にネギを跳び越え、
双方振り返り美琴が放った電撃がネギの腕に跳ねられた。
(速い、多分電気を使った機械的な速さ。
直線的だから難しくはないけど、使い慣れてる分厄介な動き方。)
美琴のスタンガン機能付き体術攻撃を交わしながらネギは考える。
かつて高畑に足を出されて蹴躓きそうになった、美琴の動きはネギから見てそんな動きだ。
只、それでも、電気のこういう使い方には慣れている印象だ。
タッ、とネギが後退する。
ネギがいた辺りの地面が爆発して噴出した土が固定化する。
「風楯っ!!」
「なっ!?」
刺突を掛けて来た砂鉄の剣が、ネギの張った風楯に阻まれて左右に割れる。
(これもさっきの資材置き場の?いや、電気の感触、あくまでそういう術式)
「電気じゃない、風?やっぱり多重能力ってのは…」
跳躍した美琴がその高さから五月雨電撃を撃ち込む。
>>561
「白き雷っ!!」
それが白き雷に一度に呑み込まれた。
「つーっ………」
美琴が、白き雷から自分をガードした両腕を振る。
無論、電磁バリアだが、重要なのは、
(電気の勝負で私が押し負けた…)
考えたくない事だが、レベル5の優秀過ぎる能力は美琴の発想を現実から逃さない。
レベル5第三位、「学園都市最強のエレクトロマスター」の自分よりも上、
それも桁違いに上の電気使いなのかも知れないと言うあってはならない現実。
「そんな事、そんな事をぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!」
バチバチイッと青い電撃がネギを襲う。
ネギが白き雷で拮抗している間に美琴が吹っ飛ばされる様に跳躍する。
「そんな事おおおっっっ!!!」
落雷の様な一撃だった。
着地した美琴は、悠然と振り返るネギを見た。
「あああああああっっっっっ!!!」
ネギは、瞬時に詰め寄って来た美琴の右の拳を腕ごとネギ自身の左腕で跳ね上げる。
そして、ネギの右の掌がとん、と、美琴の水月を押す。
次の瞬間、美琴の背中は近くの街灯に激突していた。
>>562
「………か、はっ………」
ネギは、ふうっと一息つく。
余り良くない言葉で言えば、面倒な相手だった。
戦闘力で言えば、圧倒的にネギの方が上になる。
だが、それは、瞬時に塵も残さずにと言う意味だ。
色々な意味でそれが出来ない状態では、
御坂美琴が「そこそこ出来る」と言うのが実に厄介だった。
多分、美琴のあの電磁バリアの状態ならそんなに大きな怪我はしていない筈だが。
その美琴の右手がきゅっと握られる。
「場所が悪すぎる、と、思ったんだけどなぁー………つっ………」
「のどかさん?」
美琴が腕に軽い痛みを覚え、視線だけそちらに向ける。
どうやら石を投げられたらしい。
(………陰険な真似、するじゃない………)
美琴が、ゆらりと立ち上がる。
(これはっ!)
右手を握った美琴がバチバチッと放電し、ネギが踏み出そうとしたその刹那、
「!?」
両腕を広げた宮崎のどかが両者の間に割って入った。
「なっ!?」
「のどかさんっ!?」
「ごめんなさいっ!!」
のどかが、まず、美琴に向けてぱたんと体を折った。
>>563
「人違いでしたっ!」
「はあっ!?」
美琴は知らないが、普段ののどかとはかけ離れた大声に美琴は気を削がれる。
「えっと、近くで盗難事件があって、それでその、
たまたま特徴がお友達の人に似ていてそれで私達の方から捕まえようとして、
お互いに能力者で事が大きくなってホントーにごめんなさいっ!!」
謝りながら、のどかは開いた右手を差し出していた。
「………マジ?………」
美琴の言葉にしっかり頷いたのどかの右掌に張られたメモには、
「長谷川千雨友人
メイゴアリサさらわれた」
と書かれている。
「すいませんでしたっ」
「ごめんなさいっ!」
そこでようやく、夕映とハルナものどかに従い、頭を下げた。
「分かった」
美琴が言った。
「あんた、いい度胸してるじゃない」
美琴の言葉にのどかがほっと胸を撫で下ろす。
御坂美琴の事は事前にある程度聞いてはいたが、本来惚れ惚れする様な気風なのだろう。
「とにかく、こっちでも確認するからそう伝えて」
すれ違い様に美琴がのどかに囁く。
>>564
「あー、知り合い?何か、悪かったわねお互い誤解あったみたいで」
「いえ、こちらこそ。大丈夫ですか?」
「うん、あそこまで見事にやられちゃあね。
じゃ、いいんなら私急ぐんで」
「そうですか」
ネギと言葉を交わし、美琴が走り去りながら携帯電話を操作する。
「それで、どうして皆さんがここに?」
ネギが根本的な疑問を口にする。
「申し訳ありません」
夕映が言った。
「その事に就いてはお話ししますが、それよりも忘れている事があるです」
「え?」
「今言った事件の事です。縛られていた人がいなくなってるです」
「なんですって?」
「縛られた白いシスターです。何かあったら大変ですっ!」
× ×
「むーっ、むーっむーっ!!」
ファミレスからそれ程遠くない路地裏で、インデックスは物音にぎくりとした。
通行人に助けを求めた所魔術師が乱入し魔術と科学の直接戦闘が勃発する超展開を前に、
身の危険を感じたインデックスは尺取り虫の様に逃亡する内に
よりデンジャラスなエリアに辿り着いていた。
「じっとしていて下さい。やはり水の術式でしたか。この術式は…」
「ぶはっ!!」
インデックス口を塞いでいた水の塊に金属棒が差し込まれ、
呪文詠唱が終わるとようやく口が自由になった。
>>565
「有り難うなんだよ。それは「世界図絵」だね」
「その通りです」
「道具もあなたの解除も見事なんだよ」
「有り難うございます。あなたにそう言っていただけるのは光栄です」
その時、トテテと聞こえる足音にインデックスが反応する。
「大丈夫です」
インデックスの口を解放した綾瀬夕映が言う。
「ああ、いた。よかったー。
Index-Librorum-Prohibitorumさんですね」
「………それ………は………」
「すいません、状況の確認、を」
「………あ………あ………だめえええええええええっっっっっっっっっ!!!」
「?…のどか…?」
今回はここまでです。続きは折を見て。
思考は読めても今おもいだしていない記憶はやめない気もす。だから日記を使う前にいつも口頭で質問してたし。
なんてことを考えるやつは俺は早濡
乙です
原典を書き出す能力と考えればつおいかもしれない
乙
原典は盗み見たところで脳が耐えられない
哀れのどかちゃんは廃人コースかな?
魔法世界でトレジャーハンターしてたんなら魔導書の1つや2つ位見たことありそうな気もするね。あと一方通行にお名前なんですかー!してみたい
原典による侵食って幻想殺しで治せるのかね
なんか魂まで及ぶ汚染は消せても瞬間的にバグって壊れる脳までは戻せないような気がするんだが
まあここでは木乃香が出れば問題ないか
………皆さん、いい線いってますね(汗
同一世界だとすると、クレイグ辺りなら「触らない」か何等かの防護術式か
外装を見るのを含めて事前に原典と分かっていれば扱いも知ってるかも知れませんが。
闇咲はがっつり読み込んで一冊保たずにKOで偽海原は目を掠めただけでもダメージ受けてましたが。
闇咲の件から見て、幻想殺しは呪いには効くみたいですね。
質量は破壊は消せないと言うのは映画でも明言されていましたが、
そもそも、そんな治療が出来るなら自分の頭を、って話にもなるし。
んで、
>>572さん ふふふふふ。
それでは今回の投下、入ります。
>>566
× ×
「………え?………あ………
………あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっっっ!!!」
「…のどか?…のどかあっ!!」
「何っ!?」
路地裏にハルナとネギが飛び込んで来た。
「ちょっ、のどかっ!?」
血まみれになって地面に横たわるのどかを見付け、ハルナがストンと座り込む。
「のどかさんっ!?これは…つっ!」
地面に落ちたパクティオーカードを拾おうとしたネギがその手を引っ込める。
「いどのえにっき」
虚ろな表情で見ていたインデックスが口を開いた。
>>573
「容量オーバーを起こしたか安全装置が働いたか」
「つっ、まさかのどかさんオリジン(原典)をっ!?」
「な、なんなのよ…」
ネギの驚愕は、ハルナが震え上がるに十分なものだった。
「いどのえにっきは表層意識を読み取るアーティファクトです。
インデックスさんの完全記憶能力を考えると、何かの術式の事を考えていたならば、
魔道図書館全ての記載内容と一繋がりになっていた可能性は否定出来ません。
しかし、魔道図書館に収蔵されている本物の原典であれば、
そんなものを目にした時点でこれでは済まない筈です。
レベルの差こそあれ、読心術自体は魔術の中でもそこそこ普及しているもの。
魔道図書館であれば当然その対策もしてある筈。
読心術に対応する迎撃術式に当てられたと見るのがこの場合自然です」
「だから何なのよ夕映っ!!」
ネギに向けて説明する夕映に、ハルナが痺れを切らした。
「とにかく、ここは色々とまずいです。ネギ先生、それにハルナ」
× ×
「「落書帝国」でこんな精巧な錬成使役が出来るんだね」
「有り難う。で、一体のどかはどうなってる訳!?」
ネギが防壁を張った手でパクティオーカードをしまい、意識を失ったのどかを抱いて箒に乗り、
夕映とインデックスはハルナの用意した空飛ぶマンタに乗って
総員近くのビルの屋上に移動していた。
「こちらのインデックスさんは禁書目録、魔道図書館とも呼ばれています。
一度見たものを忘れない完全記憶能力を持って、
10万3000冊の魔道書のオリジン、原典を頭の中に記憶するイギリス清教ネセサリウスの魔道図書館。
その魔道書には、本来一冊、そのページが目を掠めただけでも
人の脳を直接攻撃する程の魔術的な毒が込められています。
それを特別な術式で防護して記憶しているのがインデックス、禁書目録、魔道図書館です」
>>574
「ひっ!」
夕映の説明を聞いて、ハルナはインデックスを見て腰を抜かして後ずさりする。
「ハルナっ。今回の件は、
緊急事態とは言え他人の頭を勝手に覗き込んだこちら側に非があります。
申し訳ありませんでした」
夕映がインデックスにぺこりと頭を下げる。
「な、何言ってるのよ夕映。
のどかがこんな、あんた、やっぱりまだ…」
「………ゆえの、いうとおりだよー………」
微かな、声が聞こえた。
「のどかっ!」
「かみ、じょう…」
「え?」
「かみじょう、とうま、報せて、インデックス、電話…」
「そうなんだよっ!」
横たわるのどかの声に、既に拘束を解かれたインデックスが携帯電話を取り出した。
「うーんと、えーっと…」
「事件の事を報せるのですか?」
「そうなんだよっ!」
夕映がインデックスの携帯を手にする。
「恐らく、短縮の1………もしもし、上条当麻さんですか?」
「なんだ?あんた誰だ、どうしてインデックスの携帯に?」
「インデックスさんの代理の者です。
麻帆良の魔法使い、と言えばご理解いただけるでしょうか?」
「ああ、お前らまさかインデックスに?」
「いえ、こちらで保護しました」
「保護?」
「とうま、とうまっ!」
>>575
「鳴護アリサさんがさらわれました」
「何だって!?」
「場所は………のファミリーレストラン。
状況と、私の記憶を鑑みるに、現場から猛スピードで逃走した車両が非常に怪しいです。
インデックスさん、犯人を見ましたか?」
「あの公園のウンディーネ達だったんだよっ!!」
「と、言う事です。申し訳ありませんがこちらも事情がありますので一度電話を切ります」
「ああ、分かった」
一旦夕映が電話を切る。
「問題はのどかです」
「ああああーっ!!」
片膝をついて思考する夕映を前に、ハルナが頭をかきむしって絶叫する。
「インデックス、さん」
「ここにいるんだよ」
「ごめん、なさい。勝手に心を読んで、
あの本を、持つ者としてしてはいけない事をしました」
「分かった、分かったんだよ。
まだ、物凄い痛みが続いてる筈なんだよ。だからもう喋らないで楽にしていて」
「うん」
とても透明で、魅力的な宮崎のどかの笑みに、ハルナは涙を浮かべて震え上がる。
「何とかしてっ!」
そして絶叫する。
「原因は何なのか」
ネギが呻き、カードを見る。
「オーバーフローが収まるまで開けないと思います。
よしんば開いたとしても、原因となった記述を削除せずに本を開いたら
目にした瞬間にこちらが危ないので意味がないです。
アーティファクト自体は最新の記述をデリートして使い直すより他にないです」
>>576
「じゃあ、のどかは…道具があったってのどかがいないと…」
不意に、気配が一つ増えた。
「こんな所にいたの」
「あ、結標さん」
そこに現れたのは、半ばミイラ女と化して蒼白な顔面に笑みを浮かべた結標淡希だった。
「ちょっと失礼」
ビニール袋を手に一旦姿を消した結標が、
ハンカチを唇に当てながら屋上出入口のドアから戻って来た。
「えーと、どうしたんですか?」
「ああ、ちょっと愉快なオブジェを体で表現してね、
ついでに私の活躍する8巻の220ー221ページを
百回音読してから自分で迎えに行けって言われたモンで」
「………結標さんっ!!」
「は、はいっ!!」
ネギが、ざっと結標の前に立って叫んだ。
結標はその瞬間、叩き付ける様に始まるピアノ演奏のBGMを聞いた気がした。
「僕と、結婚して下さい!
一目見た時から決めてました、本気なんですっ!!」
パンパカパーン
リーンゴーンリーンゴーンリーンゴーン
「あっ、でもそんないきなりっ、年の差なんて関係ない、ああっそんな情熱的、
えへら、えへらえへらえへらえへらぐふぐへぐふぇ…」
「ハルナ、この人もしかして…」
「うん、多分同類だと思う…」
夕映とハルナがよく知る金髪を脳内に描いてヒソヒソ話している前で、
結標淡希は二行ほど台詞を水増しした自分だけの世界を着々と構築していた。
>>577
「これから言う僕のお願いを聞いていただけるか否か、それだけ教えて下さい」
「聞かせてくれる」
ぴしっとお姉さんの顔を取り戻した結標が言い、ネギが説明する。
「どうでしょうか?かなり無茶な…」
「まぁーっかせなさぁーいっ!!
ネギ先生のお願いとあらばこの結標淡希、例え地の果てまででも…」
「ありがとうございますっ!」
ハルナと夕映がヒソヒソ話し込む横で、ネギはパタッと体を折り携帯を使う。
× ×
「でも、まさかあんたらと共闘とはねぇ」
「勘違いするにゃ」
引き揚げの頃合に、近くにいた焔に明日菜が話しかけた。
「たまたまテスト中にフェイト様の指示があったから従ったまで、
誰が馴れ合うものか」
「ツンデレ乙や」
木乃香の言葉に、焔はぷいっと横を向く。
「しかし、なんなんですかあの人は」
側にいた環があきれ顔で言った。
「ああ、何でもこちらの世界では20人に満たないの聖人の一人だと言う事だ。
まあ、標準的な存在じゃないのは確かかな」
ふらりと通り過ぎるフェイトが言った。
「ですよねー、
流石に気合いや根性で私の結界をぶち破る人がこれ以上いるとは思いたくありませんし」
「まぁね。大体、常識は通用しねぇとか、
そんなのホイホイいたらそれ既に常識だから」
環とアハハと笑い合っていた明日菜が携帯電話を取り出す。
「もしもし…え?うん、いるけど…」
>>578
× ×
「ラス・テル マ・スキル マギステル…」
「フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ…」
インデックスの助言で対処療法を続けるネギと夕映を、
ハルナは見守る事しか出来ない。
「はい、軽いから受け取って」
突如聞こえた声に合わせて、ハルナは腕を差し出し木乃香をお姫様抱っこする。
「お待たせいたしましたネギ先生」
屋上出入り口のドアから、ハンカチを唇に当てながら結標淡希が現れた時、
ネギと夕映は練習杖を振り翳して渾身の一撃をのどかに与えていた所だった。
「消えないですね」
「ですね」
「これは、既に内部に住み着いているのかな」
腕で汗を拭うネギと夕映の側でインデックスが悲痛な声で言う。
「ネギくんっ!」
「このかさんっ!」
「のどかっ」
「このかー」
弱々しく微笑むのどかに、木乃香が頷く。
次の瞬間、のどかの体が一回海老反りした。
「時間がありません。はっきり言って呪詛の術式は不明、
だから吹っ飛ばすしかない。いけますか?」
ネギの言葉に木乃香は力強く頷いた。
木乃香はネギや他の友人に気付く暇を与えなかった。
ここに着く直前、嫌な汗は全て拭ったばかりだ。
>>579
「結標さんっ!」
「はい、ネギ先生」
「本当に有り難うございましたっ!」
「何を仰せられますネギ先生っ!」
パタンと体を折るネギの前に結標がさっと跪く。
「この結標淡希、ネギ先生のご希望とあらば例え銀河の果てまでも」
「なぁハルナ、もしかしてあの人…」
「うん、いいんちょと旨い酒が呑めるタイプの淑女だと思う」
叩き付ける様に始まるピアノ演奏のイメージの下、
結標がキラキラした眼差しをネギに向けながらそっとネギの両手を掌で包み込む側で、
木乃香とハルナがヒソヒソ言葉を交わす。
「と言う訳で、僕は少しだけ本業の用事がありますから
先に戻っていて下さい。すぐに戻ります」
「分かりました、予定が詰まっていますのでなるべく速くお願いします」
隠して、結標は改めてその場から姿を消す。
「水干?」
そこで、インデックスはようやく木乃香の姿に気付く。
その間にも、木乃香は静かにその場に立つ。
「………もしかして神楽舞なのかな?
素質と技術のある術者なら神楽舞で呪詛を祓う事は可能なんだよ。
だけど、私の魔道書は洋の東西を問わずにフォローしていてどの系統の呪いか
さっきまで絞り込みをしてたけどもう少しの所で把握出来ない。
オリジンの毒は強烈でここには陣となる舞台の用意も無くて、
組み合わせを間違えたら相乗作用すら………」
そこまで言って、インデックスはぽかんと口を開けた。
>>580
× ×
千雨は喜ぶべきか悲しむべきか、村上夏美はその姿を現して立っていた。
踏まれていた足を外された長谷川千雨が立ち上がろうとして、
ばあんと胸板を蹴られてその場に転がされる。
「う、ぐっ…」
「長谷川っ!」
その時には、夏美は目にも止まらぬ速さで移動した敵に捕まっていた。
「おいテメェ、パソコンと携帯、ロック解除してこっちに寄越せ。
パスは全部喋ってもらうからな。
俺の敵になるか否か、テメェの生き死にの選択肢はそれだけだ。
その選択にちょっとでもブレが見えたらテメェの両脚へし折って
このソバカスちゃん材料の愉快なオブジェの製造過程をライブで見せてやっからなぁ、
悲鳴聞くだけでも五秒で狂うピカソ級だ、妙な気起こすんじゃごはあああああっっっっっ!!!」
ドン、と、夏美を捕らえた腕に痛みが走り、次の瞬間には全身が吹っ飛んでいた。
「誰に、何をするて?もっぺんぬかしてみぃやクソダボ。
ついでに言うとくけど、
近くでコソコソしてたライフルとヒラヒラねーちゃんと機械頭も寝かせてあるからなぁ」
下向きに空牙を放ち着地早々回り蹴りをかました小太郎は既に金色に光っていた。
(?紫炎の捕らえ手が何かに弾かれた?それなら)
「………炎牢壁っ!」
「助かった…」
ごうっとミニチュア火炎竜巻レベルの防壁に閉じ込められるのを見て、
千雨は安堵に腰を抜かす。
>>581
「大丈夫ですかっ!?」
「ああ、なんとかな」
箒から着地した佐倉愛衣に千雨が答え、よいしょと立ち上がる。
「夏美姉ちゃん、怪我ないか?」
「う、うん、大丈夫」
「しかし、どうしてここに?」
「ですよね」
千雨と愛衣が疑問を呈すると、夏美がとん、と愛衣の前に移動する。
携帯を差し出した夏美は、実にいい笑顔だった。
「これ、ちづ姉ぇがどうしてもって勧めるから、
小太郎君と
ペア契約
したんだけど、その時GPS搭載にした訳。
普段はそういうのやり過ぎだから、本当にイザって言う時、
予め決めたテンプレを相手のGPS検索を許可するパスワードと一緒にメール送信したら
有無を言わさず駆け付ける、そういう約束しておいたの」
「そうでしたか、ご無事で何よりです」
愛衣が実に素晴らしい笑顔で夏美の無事を祝し、
その側で千雨は先ほどまでの直接的な恐怖とは又別のとてつもない冷気を心に感じながら、
みしいっ、と、何か空気が軋む音を聞いた気がした。
>>582
「うん、コタロー君メイちゃん有り難う」
「ちょっと待て」
小太郎が口を挟む。
「………何か、ヤバイぞ………」
「え?あ、何、軋んで………危ないっ!!」
愛衣の悲鳴と共に全員が横っ飛びした。
「つ、っ」
「メイ姉ちゃんっ!?」
火炎竜巻の中から突っ込んで来た白い羽が、
愛衣の張った風楯をぶち破り術者の腕を掠めていた。
その火炎竜巻がバキバキと破壊され、
「は?あ?あんな天使、いてたまるか…」
「心配するな。自覚はある」
千雨の疑問に自信たっぷりの返答が返って来る。
「人質とって粋がってるチンピラやなさそうだな」
小太郎のコメカミにつーっと汗が流れ不敵な笑みが浮かぶ。
「当たり前だ。仕事だから効率的にやってるだけなんだよ。
女子供相手にくだらねぇ、
やるってんならやるが本当なら口先だけで済んだんだクソボケ」
「嘘………まともに決まってたのに」
「質量のある炎か。それもまあまあ非常識だが教えといてやる。
俺の未元物質に常識は通用しねぇ!!」
今回はここまでです。
考証的に着々とヤバイ予感しかしない…
続きは折を見て。
乙です
それでは今回の投下、入ります。
>>583
× ×
脚が震える、体が震える、致命的な判断ミス。
これは例えでもなんでもなく、今すぐにでも命が危ない。
息が詰まりそうな所を無理やり呼吸し、懸命にその脚を叱咤し、前に進みながら、
長谷川千雨はつい先ほどまでの事を思い返す。
× ×
その時、取り敢えず今の所は人間形態を取っている小太郎が、
自身の体を呑み込まんと言う大きさの黒球を幾つも打ち出した。
その小太郎は、手首同士を重ねた両手に黒いものを渦巻かせ、
もうもうと立ち上る爆煙に突っ込む。
「!?」
バーンと弾き飛ばされた小太郎の背中が屋上の柵に激突する。
その時には、急浮上していた佐倉愛衣が、
箒を左手に、オレンジ色の右手を思い切り振り下ろす。
「きゃあああっ!!!」
強烈な熱量が上から下に叩き付けられた、筈が、
吹き飛ばされたのはそれを引き起こした愛衣の方だった。
「ひっ!」
辛うじて右手で鉄柵を掴んだ愛衣は、上空に巨大な白い羽を見て引きつった悲鳴を上げる。
羽、と、言うが、長さが人の身長を大きくオーバーしてて幅が人一人すっぽり隠れそうで、
しかも、見た目が羽と言うだけで人ぐらいぶった斬るレベルの極めて硬質。
そんなのが何枚も展開している。
>>585
「うおっ!?」
羽の中心から声が上がる。巨大な黒狗が空中で羽に激突し、
そのまま羽を踏み台にジャンプして屋上に戻る。
その間に、愛衣は熱魔法で浮力を作り、屋上に戻った。
「くああああっ!!」
「はあああああっ!!」
夏美と千雨を背にした愛衣がまず防壁を張り、
少し遅れて小太郎が後ろから前への「気」を広範囲に流動させる。
それでも、前衛となった小太郎と愛衣の全身から少しずつ、血が迸る。
僅かでも気を抜いたら全員ミンチになる衝撃波だ。
「おいっ!」
小太郎が叫ぶ。
「夏美姉ちゃん、千雨姉ちゃんと逃げえっ。
下手打ったら屋上どころかビルごと吹っ飛ばされる!」
「………で………も………分かった」
夏美は、朝倉和美にひっぱたかれた最終局面を経験している。
そして何より、千雨としては思い出したく無い事実だが、
「………」
「孤独な黒子」を左手に、そっと差し出された夏美の右手に、千雨は心底安堵していた。
あの時既に、千雨は自分の震えが限界に近づいていた、その自覚があった。
衝撃波が収まる。
ドガガン、と、屋上の床に羽が突き刺さった時には、
小太郎と愛衣が横っ飛びに身を交わしていた。
「逃がしやがったか」
爆煙の向こうに、若い男の姿。
>>586
「無駄な事をしやがる。
テメェらを一瞬でぶち殺して追い掛けてとっ捕まえるだけなんだからよ」
「やってみぃや、チャラいあんちゃん」
小太郎の後ろにいる愛衣としては、
お願いですからそんな挑発しないで下さいと言うのが本心だったが、
そうでも言わないと、今は己を支えられない。
コメカミにつーっと汗を伝わせている小太郎にもその予感があった。
一見して軽薄なホスト風の優男、その全身から突き刺さる剣呑な空気。
科学の学園都市レベル5超能力者第二位垣根帝督。
その名を知らずとも頂点には遠くともあの夏を闘い抜いた強者二人を震わせるに十分な存在。
「ムカついた!ご希望通り愉快なオブジェにしてやるぜ!!」
× ×
千雨と夏美が屋上出入り口のドアを潜り、階段を下り始めた頃には、
既にして屋上から聞きたくない音が響いて来た。
階段を下り、必死に逃げる。
建物の外に出る。そうすると、同じ空気を伝わって、更に何かが伝わって来る。
上は見ない、見てもどうにもならない。千雨はそれを硬く心に決めていた。
角を幾つ曲がっただろう。
「………村上………」
そこで、足を止め、千雨は声を掛けた。
それは、千雨にとって気の迷いとしか言い様がなかった。
知っていた。夏美が千雨の足に合わせ手足を動かしてくれていたのを。
「これだけは言っておく」
千雨の言葉に、夏美が千雨の顔を見る。
その思いを丸で隠せない表情で千雨を見る。
今思えば、その時だけ、不思議な程に千雨の心は静かだった。
何かがぶっ壊れていたとしか思えない。
>>587
「今から、村上がどう言う選択をしても、
私は決してお前を恨まない」
夏美は、怪訝な顔をした。
「さっきのメルヘンホスト、ありゃガチでヤバイぞ。
あの二人が相手してもだ。その一つ上のランクかも知れない。
あれでもまだ何パーセント実力出したかも分からない。
で、どう見ても殺す勢いでやってやがる」
千雨も、常軌を逸した観戦経験だけは豊富である。
異常な闘いの実態を多少は理解する事が出来る。
それは、夏美も同じ事だった。
「力比べで勝てるかどうか分からない。
単純火力で負けたら相当ヤバイ、狡い手が使えなきゃあな」
千雨の目の前で夏美はガタガタと震え出していた。
「速く決めろ、時間がねぇぞっ!!」
気が付いた時には、千雨は叫んでいた。
「………格好付けやがって………」
そして今、長谷川千雨は震えながら独りごちる。
で、結局、男を選んだと言う訳だ。
女の友情と天秤に掛けて、それはもう分かり切った結論だ。
冗談じゃない。リアルではありとあらゆる意味で一般的な女子中学生一人、
どこにどんなインフレカンストが敵キャラで潜んでるか分からない街中に放り出されて、
馬鹿としか言い様がない。どう考えても合理的ではない。
麻帆良の地下で化け物に踏み付けられた時、幻覚がそれを教えてくれた時に学習すべきでは無かったのか。
ついさっき踏み付けられて蹴られて、体に残る痛みはつくづく自分が雑魚だと教えている。
それでも生きているんだから、そこで何故理解していないのか理解出来ない。
>>588
恨まない、そんな訳がない。
千雨を黒幕として狙って来ていた。
そんな連中に捕まってあーされてこーされてどうされて、誰がそんな約束守れるか。
それでも、結局自分は弱虫だった。合理的な選択をして、
その代償としての怨みを受け取る覚悟すら無くリーダーを気取っていた。
とにかく、他の仲間の居所を把握して、そこに合流するしかない。
最初は、そんな極限の恐怖から来る空耳かと思った。
だが、被害妄想と天秤に掛けながらも、千雨は希望的観測を振り捨てる。
確かに近づいてきている。
それは、足音だった。
そして、金属音だった。
カシャン、カシャンと、軽快なぐらいに。
機械音、金属音と言うのが適切なのかも知れないが、
それでいて、それは確かに足音として千雨に近づいて来ていた。
× ×
「ふわぁー」
それは、インデックスの感嘆の声だった。
こんな感動はつい最近、鳴護アリサの歌に触れて以来。
知識記憶に残る素晴らしい聖歌にもどれだけ匹敵するものがあっただろう。
白拍子の姿で優美に舞っていた近衛木乃香は、
気が付くと横たわる宮崎のどかに重なっていた。
木乃香がのどかにその身を重ね、周囲が清らかな、温かい光に包み込まれる。
「………ん………んっ………」
夢うつつとも思える時間は、小さなうめき声にひび割れた。
「のどかっ!?」
ぴくりと指を動かし、うっすら目を開いたのどかにハルナが駆け寄り抱き起こす。
>>589
「ハル、ナ?」
「のどか!?のどか大丈夫のどかっ!?」
「うん、だい、じょうぶ…楽になった、痛くない…」
そのひどい顔は友情の証だった。
気が付くとそんな顔ですぐ隣に両膝を突いていた夕映をのどかは抱き締める。
夕映は嗚咽した。
「………す………すごいんだよすごいんだよっ!!」
舞を終えてふーっと前髪を払っていた木乃香にインデックスが駆け寄った。
「こんなに完全ないぶきどのおおはらへを見る事が出来るなんて信じられないんだよっ!!
魔法協会の近衛家の人なのかなっ!?」
「はいな。近衛木乃香言います。インデックスさんですやろか?」
「そうなんだよっ」
「はい。父と祖父がその職に就いてますよって、何かご縁があるかも知れまへんなぁ」
「やっぱり………血筋もあると思うけど、
その歳であれだけの治癒術式を実行するには大変な天賦の才と努力が必要な筈なんだよ。
とにかく、魔力の容量が尋常じゃないんだよっ!」
「そやなぁ、確かに地獄の特訓はさせてもろてますけど、
その高みにはまだまだですわ。
でも、うち、その力で大事な友達を助ける事が出来た。凄く、嬉しい」
うんうん頷くインデックスの前で木乃香はすとんと両膝を突いた。
「このか?」
言いかけたインデックスの両手を、木乃香の両手が包み込む。
「良かった、本当に良かった…」
「うん、このかのために祈るんだよ」
「おおきに」
理解したインデックスに、木乃香は温かな笑みを返した。
>>590
「大丈夫ですか?無理は?」
「うん、大丈夫」
夕映の肩を借りて、座り込んだ木乃香とインデックスの側にのどかが近づく。
「このか、有り難う」
「良かった。もう大丈夫なん?」
「うん、大丈夫。このかのお陰だよー」
「そう。うち、凄く嬉しい」
「インデックスさん、改めて、ごめんなさい」
「その言葉、受け取ったんだよ。
いどのえにっき、術者を認めて授けられたものだと思うんだよ。
だから、のどかは信じられる、そう思うからこそ気を付けてこれからも頑張るんだよ」
「有り難うございます」
「こーのかっ!!」
静かに座り込んだ木乃香の鎖骨に、ぐにゅっと力強い感触が伝わる。
「このかこのかこのかっ!さっすがこのかお嬢様有り難う有り難う有り難うMVPっ!!!」
「もー、ハルナはぁ」
涙を止めないハルナの手を、木乃香は優しく撫でていた。
「Negi・Springfield」
「Index=Librorum=Prohibitorum」
「君がマスターさんなのかな?」
「はい」
すれ違い様にインデックスが声を掛け、ネギと言葉を交わす。
「あんなに可愛い女の子ばかりミニステルにして、
何を考えているのかな?」
何か身近に心当たりでもあるのか、インデックスの言葉にはしっかりとトゲが尖っていた。
>>591
「は、はは、それにはちょっと色々と事情がありまして。
でも、本当に素晴らしいミニステル、僕の仲間達です」
僕には勿体ないと言う彼女達への侮辱となる言葉を、ネギはぐっと呑み込む。
「そうだね、みんな素晴らしい魔法使いの卵、素晴らしい仲間なんだよ」
「有り難うございます」
素直に認めるインデックスにネギが頭を下げた。
「そうなんだね、見付けたんだねNegi」
「Indexも」
かつて虚ろな心を抱え、図書館の闇の中でひたすらに禁書の力を求めた。
かつて過去も未来も知らず、只、禁書目録であり続けた。
今、その先に見えるのは、未来、絆。
「ところで、皆さんはどうしてこの科学の学園都市に?」
「私から説明します」
ネギの質問に夕映が一歩前に出た。
「千雨さんの友人で歌手の鳴護アリサさんが
この科学の学園都市で魔術に関わるトラブルに巻き込まれているとの情報が入りました。
この学園都市が部外者、特に魔法関係者の出入りを禁じている事は知っていましたが、
現に発生している魔術のトラブルは知らない人間には解決出来ない。
そう考えて、敢えてこうして介入させていただきました。
現状の情報では、今正にリアルタイムでイギリス清教の魔術師がアリサさんをさらって逃走中、
私達も直前までそこに介入しようとしましたが、今さっきのトラブルにより断念しました。
インデックスさんの知人でこちらの学生の上条当麻さんに対処を求めた所です」
>>592
「上条当麻?」
「その身にマジック・キャンセルを宿しているとの情報を得ているです」
「本当ですかっ?」
ネギが、少し驚いてインデックスに尋ねる。
「マジック・キャンセルは向こうの王族を起源とするのが今の所私が知る有力な解釈だね。
とうまの右手の「幻想殺し」は多分別物だと思うけど、
伝えられている限りの効果はよく似ているんだよ」
「でも、イギリス清教が歌手をですか。Index、何か事情を?」
「ううん、私は知らないんだよ。
私はこの夏からとうまの所に預けられて、向こうの詳しい事情は分からないから」
「何やら込み入った事情があるらしいのですが」
「分かりました………うぶぶぶぶっ!!」
「あらごめんあさーせ、ちょっと到着地点の座標に誤差が生じたかしら」
目の前に現れた結標淡希の両腕にがっしりと頭を抱かれ、ネギの両腕がばたばた踊る。
「ぶはっ、結標さん」
「ごめんなさい、ネギ先生これを」
結標がネギにメモを渡す。
>>593
「こんな時間だけど、想定外のVIPとのコンタクトが可能と言う事で
雪広さんが是非とも一緒に顔合わせをしたいと」
「分かりました。これは極めて重要です。
夕映さん、その件は僕の方からも働きかけてみます。
ここは魔法禁止の学園都市、
イギリス清教、ネセサリウスが関わっていた場合、政治的にも武力的にも
これは非常に厄介な事態も考えられます。皆さんはこれ以上危ない事はしないで下さい」
「分かりました、ネギ先生。お忙しい所を申し訳ないです」
「何を言っているんですか」
夕映の言葉に、ネギがやや気色ばんだ。
「僕は皆さんの先生で、仲間ですよ。
とにかく、麻帆良に帰るルートはあるんですね?」
「はい」
「それじゃあ、そういう事で皆さんお願いします。すいませんが…」
「じゃあ、行きますよネギ先生、
はい、しっかり捕まってはいそうそこにこれはあくまで安定のためにぎゅーっと」
「はわわわわわわわ…」
「のどか、そろそろいっちばん分厚い本で脳天に狙い付けた方がいいわあれ」
「はいいーちにーさーんパァーラダーイッスッ!!!」
「………………」
小さな風だけがそこを吹き抜け、ネギは結標と共に姿を消した。
一息ついた所で、夕映はふと夜空に目を向ける。
視線の先には、学園都市の建物の群れ。
その中から一つ抜けて上へ上へと、頂きの果てを見せる事なく伸び続ける緑色の光の塔。
「あれが、エンデュミオンですか。
だとすると、ネギ先生は………」
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
乙
何というか…千雨達は暗部に付け狙われてる時点でいろいろアウトっぽくね
ほとんど学園都市そのものを相手にしてるも同然だし
上やんが直接関わってないからイレギュラー認定はされないし
本来真っ先に対処すべき立場だけあって土御門はこの件では発言権皆無だろうし
何より実際かなり好き勝手やっちゃってるし
完璧積んでるよね
にしてもアレイスターが何も動いてないのが怪しいな
アレイスターといえばネギの会合相手がこいつの可能性もあるにはあるんだよな
まあ基本的に非公式な会合しか参加しないし、公式に接触することはまず無いから違うだろうけど
でも唐突に声だけで接触して千雨達の身内とかを人質に取って従わせようとするくらいは普通にやりそうではある
今週からネギまの続き?始まったな
あんま期待してないが
今週からマガジンで赤松っつぁんの新作が連載開始!
新連載はどちらのルートの世界なのかが気になる。
扉見る限り正規ルートっぽいけど……
なんかネギが死んでるっぽいな
エヴァが700歳って事はあわ
すまん途中で書き込んでしまった
ネタバレなんでもうやめるわ
亀だが読み直して見たけどヴェアヴォルフじゃないのか?
おれのほうがおかしかったらごめんね。
感想どうもです。
いや
いやいや
いやいやいやいや
何だ何だ何ですかァ?
マガジン読んだ。
最初に言っておきますが、面白いと思うし否定的な事を言うつもりも理由も全くありません。
このタイミングにこんなモン書いてる奴の
取るに足らぬちょっとした葛藤などと言うものはご想像にお任せします。
以下、更に丁度こんなん書いてる事も影響して完全なる個人的印象
もちろんネギまが先なのは分かってるけど、
実物が最後の方に出ただけで、その後にあれ観たモンで
絵的に言ってどうしてもエンデュミオンを思い浮かべる。
ホントにまあ、円盤発売と超接近タイミングで………
冒頭のカラーページ
非常に嬉しい。
エヴァのイメージなのかも知れないけど、
それでもなんでも、
ああ言う集まりになんだかんだ言ってもって感じで加わってる千雨が嬉しい。
みんな嬉しい、物悲しい、それがいい。
とにもかくにも、僅かばかり触れているこの時のスタートに勝手に感謝して
それではそろそろ投下行きます。
>>605
それでは今回の投下、入ります。
>>594
× ×
箒では間に合わず、床に炎を爆発させ自分の身は防壁に任せながら上昇気流に乗る荒技。
そうしないと、たった今ズガンと床をぶっ壊した羽の一撃は交わせない。
「風楯っ!!」
そうやって跳び上がり左手で箒を掴んで位置を固定した佐倉愛衣が前方に防壁を張る。
羽の一つがバリバリとそれを強硬突破して辛うじて交わした愛衣の身に傷を一つ増やす。
「らあああっ!!」
小太郎が垣根に黒く渦巻く拳を叩き込むが、それは羽でガードされ、
吹っ飛ばされるのは小太郎の方。
空中で小太郎は自分を狙う羽に黒球を打ち込み、その反動で、
その身の一部が抉られる感触と共に辛うじて羽から身を交わす。
「おいおいおい、スタイルは魔法使い○○ーちゃんかよ、
とんだメルヘンだなおいっ!」
勢いのまま、愛衣の跨る箒の後部座席に座る小太郎に垣根が叫ぶが、
取り敢えず愛衣としては、あなたに言われたくないと言う
命懸けのジョークを口に出す余裕は無い。
それに、一応秘密の身としては、魔法使いの見た目が一種のスタイルと見られるのは好都合だ。
「私の体を、しっかり掴んで下さい」
愛衣が小声で小太郎に言った。
空中の二人に衝撃波が叩き付けられる。
「あーーーーーーーーうーーーーーーーーーーーー………
………ひっ!!」
「くっ!」
空中に弾き飛ばされた二人の先にメルヘン飛行少年垣根帝督が先回りしていた。
ドドドッと突き出された羽の先に小太郎が両手で黒い塊を突き出し
再び二人は吹っ飛ばされる。
元のビルの屋上に着地した二人に向けて、真上からドドドドッと羽が打ち込まれ、
二人は床を穴だらけにしながら懸命に逃げ回る。
>>606
「衝撃を利用して上手く逃げようとか、ナメてやがるな」
「バレてましたね」
「そやな」
愛衣としては、何か闘った場合の見込みがシビアであり、別に無理に勝たなくてもいいのだから、
この際、左手で箒を掴みながら右手で防壁を張る。小太郎には自分に掴まっていてもらう。
その状態で垣根の衝撃波を受けて、
この二人であるから大ケガしない程度にどっかに着地して
垣根にはお星様になった私達に満足していただこう。
そういう作戦であったが、あっさり喝破されたと言う事だ。
「しっかし、おっそろしい威力やな」
「ですね………つっ………」
「どないした?ああ、何かえらい揺れたさかい力入れすぎたか?」
「あ、大丈夫です」
「じゃれてんじゃねぇぞっ!!」
小太郎の言う通り、思い切り掴まれた首から少し下を抑えた愛衣と小太郎目がけて、
又、羽の槍が叩き込まれる。
「(………いい加減………)メイプル・ネイプル・アラモード………」
横っ飛びに交わしながら、愛衣も些か苛立ちを覚え始める。
確かに相当力量のある相手なのは分かるが、いい加減少しは何とかしたい。
「効かねぇっつってんだよクソボケッ!!!」
視界の端で、黒球を投げ付けた小太郎を羽の斧が追跡する。
「………我が手に宿りて敵を喰らえ紅き焔っ!!!」
「ん?」
結構強力な愛衣の火炎魔法だったが、それも又、垣根の羽にガードされる。
「フレイムバスターキィーックッ!!」
「うらあっ!!」
その間隙を縫って垣根の本体を狙った愛衣の跳び蹴りも羽で弾き飛ばされ、
更に羽の槍が空中で体勢を立て直した愛衣の体のど真ん中をぶち抜こうと突っ込んで来るが、
それは風楯で辛うじて反らす事に成功する。
>>607
「野郎っ!!」
小太郎が放った狗神達が瞬時に垣根に一掃される。
その間に、小太郎は愛衣に駆け寄っていた。
「ざっくり、イカレたか」
べっとりと赤く染まる愛衣のシャツを見て小太郎が呻く。
「このぐらいなら………紅き焔っっっっっ!!!」
「お、おいっ!」
「平気、です」
悪臭に包まれた煙の向こうで今度は光が起こり、確かに傷口は塞がったらしい。
「一旦焼き潰しました。火傷なら治せますから」
「理屈ではな、むっちゃ根性要るでそれ…」
次の瞬間には、二人は左右にジャンプして羽の一撃を交わす。
そして、何とか一発でも中まで通れば、と言った感じで、
別方向に展開し走り続ける小太郎と愛衣の気弾と火炎弾が次々と撃ち込まれるが、
それらが効いている気配は全くない。
二本の羽の槍に狙われ、ジャンプしながら小太郎は大きな黒球を撃ち込むが
それも又三本目の羽に弾き飛ばされる。
「紅き焔おっ!!っ………」
その垣根の右手から愛衣が撃ち込んだ炎も又、羽でガードされるが
垣根はふと動きを止めて、その羽をびゅんびゅん上下に振り出した。
「…?…メイプル・ネイプル・アラモード
ものみな焼き尽くす浄化の炎破壊の王にして再生の徴よ………」
愛衣が、今攻撃が来たら、と、もどかしさを感じながらも空中で詠唱する
「我が手に宿りて敵を喰らえ………」
小太郎の歴戦の勘が閃く。
「やめぇ、罠やっ!!」
>>608
「紅き焔っ!!!」
果たして、垣根の二枚の羽が愛衣の火炎魔法を上下から挟み込む様に動き出す。
「くっ!」
愛衣が放った炎がごおっと愛衣に向けて向きを変える。
「え?あ?………あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!」
「愛衣姉ちゃんっ!?くっ!」
火だるまが床に墜落した。
垣根の追跡を反らそうとしてジャンプした小太郎も又、
血の尾を引きながら黒球を投げ付ける。
「あ゛あ゛っ!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっっっ!!!」
「やばいっ!!」
絶叫と共に床を転がる火だるまを巨大な黒狗の腹が押し潰す。
「お、ぐっ…(………こいつは………)」
それは、炎には違いなかった。
だが、イメージとしては、何か物凄く重く粘っこい油が燃えている、
そんな異様な感触がある。そうでもなければ、
優秀な火炎術者である愛衣が簡単に致命的な呑まれ方をする筈がない。
「ぐ、っ!!」
ようやく炎を押し潰した愛衣を左腕に抱えてジャンプした獣化小太郎が、
左肩を抉られ血の尾を引きながら屋上の一角にジャンプする。
>>609
「おい、さっきから何だそりゃあ、メタモルフォーゼか肉体強化か、
妙な飛び道具はバンバン撃ちやがるし、
剥製にしてやっからそのまま愉快なオブジェになりやがれっ!!!」
ドガン、と、小太郎が間一髪交わして床に斜めに突き刺さった羽に獣化小太郎が乗り、
そのままジャンプする。
「消え、た?」
「夏美姉ちゃんか」
小太郎の問いに、汗だらっだらにして顔面蒼白な夏美が小太郎の長い体毛を掴みながら頷いた。
色々言いたい事はあったが、とても言える状態ではない。
「う、うう…」
「メイちゃんっ!大丈夫っ!?さっき、凄く燃えて………」
「夏美、さん?助かりました」
「う、うん」
愛衣も又、獣化小太郎の逞しい腕に縋る様に立ち上がる。
「ムカついた!隠れても無駄だぞ出て来いおいっ!!」
「くっ!」
闇雲だが、そもそも面積体積からして存在自体が危険な羽が振るわれ、
縋り付く夏美、愛衣と共に獣化小太郎がジャンプし辛うじて身を交わす。
「発火能力者か?テメェの炎ならテメェのものだと思っただろ、残念だったなぁ!!
俺の未元物質に常識は通用しねぇ!!
俺の未元物質を通った炎はテメェの知ってる炎じゃねぇ、分かったかクソボケ!!」
(………ってのは確かなんだが意外と効いてない?炭になる勢いだった筈だが……………)
(………常識が………通用しない?………)
「隠れろっ!!」
小太郎が楯となり、夏美と愛衣がずずずと下がる小太郎の後ろで垣根の放つ衝撃波を凌ぐ。
>>610
「夏美姉ちゃん、愛衣姉ちゃんを連れて逃げぇ。
応急処置はしたみたいやが、あいつの強さにその体じゃこれ以上は無理や。
このままなら隠れててもビルごと吹っ飛ばされる」
「コタロー君は?」
「ここで時間を稼ぐ。
本体は生身やろうし獣化の力と回復力ならそれぐらいは出来る筈や。
頼む、夏美姉ちゃん」
「メイちゃん?」
夏美の問いかけに、愛衣は辛そうに顔を歪めて頷いた。
「よし、行けっ!!」
「懲りねぇな!
よっぽど愉快なオブジェになりてぇらしい!!」
ダーンと飛びかかった獣化小太郎に羽が殺到した。
× ×
「はあっ、はあっ!!」
長谷川千雨が路地裏に転がり込んだ。限りなく転倒に近い形で。
「ああああああっ!!!」
丁度手に触れた棒きれを思い切り振るう。
それは、銀のボディーに激突してあっさりと木屑になる。
「くそっ!」
その場にあったガラクタで道を塞ぎ、千雨は逃走する。
「う、ぷ………」
完全に体の限界を超えた走りすぎ。
路上でその吐き気をこらえた千雨は、
無理やり体を動かして視界に入る銀色の塊から逃げ出す。
>>611
「完全に、誘い込まれた………ちっくしょうっ!!!」
建築現場で鉄パイプを振り回し威嚇するが、
取り囲んだ銀色の犬共には傷一つ負わせる事が出来ない。
「さすが、科学の学園都市、かよ………」
十匹前後と言った所か、千雨を取り囲む犬型メカを割って、
千雨よりやや年上と言った感じの小太りの男が姿を現す。
「なかなか、勇ましいね」
脚が縺れ腰が抜けた千雨にその男、馬場芳郎が慇懃に言った。
「なんだよ、あんたもあいつ、羽つきメルヘンホストの仲間かよ?」
「スクールとかち合ったらしいな。二股を掛けられたか別筋の依頼があったか。
うん、彼らと僕らは別の組織だ。
僕らは君達の情報が欲しいだけだ、君達が協力的であれば君達の安全は保障する。
このT:GD(タイプ・グレートデン)を使えば、
すぐにでも君の息の根を止める事が可能だった、その事は理解しているだろう?」
「ああ」
「じゃあ、こちらの要求に応じて無駄な抵抗はやめて欲しい。
じゃないとお薬を使って無理やり…って事になるよ?」
「どう転んでも何とか、出来そうにないな」
その場に座り込み、荒い息を吐きながら千雨が言う。
「理解が早くて助かるよ」
「正直、もっとヤバイ能力者に追われて逃げて来た所だ。
あんたらに情報を提供したら身の安全を保障してくれるのか?」
「ああ、大丈夫。僕らの協力者として保護下に入るなら、
情報の正確さを確認した上で今後の安全を保障しよう」
「…助かった…」
千雨が、座り込んだままはあっと息を吐いて脱力した。
>>612
× ×
先ほど往復したばかりのビルの階段の途中で、夏美は足を止めた。
それは、夏美が肩を貸して歩いていた愛衣が足を止めたからだ。
「夏美さん、お話しがあります」
「引き返してコタロー君を助けに行くって話?」
「初めに言わせていただきます。
トータルとして馬鹿な話なのは認めますが、
自己満足のために命を捨てに行くつもりはありません」
「つまり、勝算はあるって事?」
夏美の問いに愛衣は頷いた。
「本当なんだね?」
夏美がもう一度念を押す。
「はい」
「信じるよ。一生心に住み着くために、とかやられたらかなわないからね」
夏美の言葉に、愛衣は笑みを痛みで歪める。
「ここからが問題です」
「うん」
「まず、このままだと小太郎さんは非常に危険です。
裏の経験者で匹夫の勇にとらわれず退き時は心得ている、と信じたいのですが、
バトルに没頭していないか、私達の逃げ道としてどれだけの時間を想定しているか、
それ以上に、あの羽男を振り切って逃げる事が技術的に可能か。
一対一で闘った場合、実力で言って小太郎さんでも非常に厳しい相手です。
そして、私に考えがあります。僅かばかり勝算の確率を上げる事が出来ます」
そこで愛衣は言葉を切る。
そして、涙を流す。
>>613
「ごめんなさい」
「メイちゃんは魔法使いなんだよね」
「はい、まだ見習いですが」
「教えて、くれるかな」
「はい」
「私が行けば、可能性は上がるの?」
「僅かばかり。只、夏美さん一人であれば非常に高い確率で逃げ切る事が出来ます。
夏美さんが同行しても、ハッピーエンドの可能性がほんの少し上がるだけ。
お願い、します」
愛衣は、涙を流しながら夏美の両肩を掴んでいた。
「敢えて戻って来た夏美さんです、こう言えば断る事が出来ない。分かっています。
私は夏美さんを無事に逃がさなければいけない。
私は、魔法使い失格です。それでも、ハッピーエンドを諦められない。
だから絶対に、夏美さんは絶対に死なせませんっ!」
夏美の左手が、くしゅくしゅと愛衣の頭を撫でる。
「年下なのに、無理しちゃって。
魔法使いとして、それだけ頑張って来たんだよね。
行こうか」
「はい」
「王子様を助太刀してみんなで麻帆良に帰ろうかっ!!」
「はいっ!」
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
乙
メンバーにスクール後アイテムからも追われてるんだったか
いい加減土御門がパンクしそうだな
というかアレイスターに抗議してそう
そして博士のオジギソウとか対処できる奴いるのか?
超能力者みたいな常時防御か超観測がないと不意打ちで終わるだろあれ
感想どうもです。
前から言ってたんで予防線みたいになってしまいましたが、
少々無茶させてもらいます。
それでは時刻もよろしい頃合ですか。
今回の投下入ります。
>>614
× ×
「さて、と…」
立ち上がる千雨を見て、馬場が怪訝な顔を見せる。
馬場がその場に頽れた。
「な?…」
「ナノデバイスか、おっそろしいモン持って来たな。
ハナからそのつもりかよ」
「なん、で…?」
強烈な寒気と脱力感に襲われながら、馬場は懸命に舌を回す。
「観るだけなら何遍か見てるんだ、世界を天秤に掛けた言葉のタイマンって奴をな。
私も大概雑魚だけど、あんたも雑魚だよ」
そう言い残し、千雨はスタスタ歩き出す。
「ま、待て、お、おい、あいつを、あいつを…」
「無理っぽいけど無理して動かない方がいいぞ」
千雨が馬場に背を向けたまま言う。
「今、こいつらの包囲を抜けようとしたら、あんたの命の保障はない」
馬場が、動かぬ体を叱咤して、慌ててPDAを使用する。
「ば、かな、コントロールが書き換えられてる、だと…」
>>617
「まあ、さすがは科学の学園都市、修復まで精々十分って所だけどな。
私をどうするつもりだったか考えたくもないが、
ここであんたが脂がクドイ感じの肉塊になるってのはこっちも寝覚めが悪いんで、
それまでは動かないどいてもらおうか。
今、あんたがこの囲みを破ったら一斉攻撃だ」
馬場が、這いずりながら顔を上げる。
無機質な包囲の対象は、自分だけになっていた。
「…間に合った。死ぬ気で時間稼ぎしたけど…サンキュー、助かったぜ相棒」
服の胸元をちょっと開いた千雨が、その中の黄色い光に向けて囁いた。
× ×
「もしもし」
表通りに面する無人のオープンカフェ。
そこで一人フルーツを楽しむ博士が携帯に出る。
「………捕捉に失敗、標的がそちらに向かっています」
「その様だね」
博士が、目の前の反対車線側の歩道を走る長谷川千雨に視線を向けて言った。
「早急に確保して下さい」
「残念だが、それは無理だ」
「何故ですか?」
「うん、オジギソウの制御プログラムを乗っ取られていてね。
馬場君のコクピットを奪って、更にそこからファイヤーウォールを突破して
こちらのプログラムを書き換えたのだから実に見事な手並みだ。
まあ、復旧まで十分以内と言った所だが、
それまでにこの囲みを突破しようとしたら、私は白骨死体になって転がっているだろうね。
私が芸術に絶望したのは、一二歳の冬だった………」
>>618
× ×
「………あ、ぐっ………」
ボタッ、ボタッと、屋上の床に血が塊の様に滴る。
その上で、巨大な黒狗と化した小太郎の両脇腹に、
白い羽が突き刺さり抉り込まれている。
「辛うじて内臓には届いてないって所か。動いたらどうなるか分からねぇけどな」
まず、小太郎に突き刺さった二枚の羽をその絶妙な位置を維持しながら、
垣根帝督は更に二枚の羽を上に向ける。
上から斜め下に向けて一気にぶっ刺そうと言う体勢だ。
「ん?」
「!?」
突如として、その垣根の目の前で、箒に跨った佐倉愛衣が鋭い角度の斜め上に急上昇した。
上に向けていた羽がその愛衣を追跡する。
「ああああぁぁぁぁーーーーーーーーー………」
槍と化した羽が空を突く。
「メイ・フレイムバスターアタァーックッ!!!」
愛衣が、空中で炎を帯びた箒を振りかぶっていた。
小太郎の右脇腹に突き刺さっていた羽が、箒の一撃を受けてガキィーンッと音を立てる。
「おおおおおっ!!!」
その焦げた罅の場所を鋭く察知した小太郎の右腕が、
羽に絡みつき押し付けられて羽がバキッ、とへし折れる。
「があああっ!!」
更に、小太郎は左の羽を噛み千切った。
「この、おっ?」
残る羽で仕留めようとした垣根の視界が歪み、敵勢の姿が変わらず数だけ増殖する。
>>619
「発火能力………陽炎かうぜえっ!!」
そんなものまとめて、と言う勢いの羽の槍が愛衣に殺到し、
愛衣は右手に掴んだ箒で急上昇する。そこにも羽の槍が追い付いてくる。
強力な突きが突き刺さった、と、思った時には、そこには箒だけがあった。
愛衣は、跳躍した小太郎のモフモフな背中に、背中からぼふっと着地していた。
「ぐ、うっ」
流石に、着地した時には小太郎もうめき声を禁じ得ない。
「あっちの角のちょっと手前まで跳んで下さいっ!」
「!?分かった!」
「逃がすかあっ!!!」
間一髪、床にドガガガッと羽が突き刺さり、
小太郎はもう一度別の位置へと跳躍する。
「又、消えやがった…いい加減にしやがれえっ!!!」
「掴まってろっ!!」
吹き荒れる衝撃波の中、夏美と愛衣が小太郎に縋り付き、小太郎が懸命に楯となる。
「ごめんなさいっ!」
垣根が一休みした所で、愛衣が悲痛な声で頭を下げた。
「夏美さんを連れて来てしまいました」
「で、手筈は?」
小太郎が言う。
裏の仕事で実戦経験を積んだ小太郎と理論派の愛衣だが、
どちらも多少なりとも標準を上回っている。
考えつく確率など似た様なもの、後は選択の問題だ。
「勝負は一瞬、その瞬間を絶対に逃さないで下さい」
>>620
× ×
「来やがったかっ!!」
「メイプル・ネイプル・アラモード」
左サイドから黒球を叩き込まれ、羽で凌いだ垣根が叫んだ。
反撃の羽の斧を、獣化小太郎は跳躍して交わす。
「ヒャハハッ、その着ぐるみでも分かるぜ、
衝撃の度に顔が歪んで貧血でぶっ倒れる寸前だってなぁ」
「契約に従い我に従え炎の覇王」
その通り、そんな小太郎に羽の槍が殺到する。
小太郎はそれでも大きくも鋭い動きでそれを交わしながら、
牽制程度でも垣根に黒球を放ち続ける。
「おらあっ!!」
「来たれ浄化の炎燃え盛る大剣」
羽の槍の一斉攻撃が間一髪で最早ボロボロの床に突き刺さる。
跳躍した小太郎はその羽の上に乗り、更に跳躍する。
それでも、残しておいた一枚羽が槍となり小太郎を襲い、
小太郎は黒球で反らしながらも血の尾を引いて離れた場所に着地する。
「ほとばしれソドムを焼きし火と硫黄」
「何を待ってやがるっ!!」
「ああああっ!!!」
垣根が衝撃波を放つ前に、小太郎が頭から体当たりをかけた。
余りにも危険な行為だったが、があんと羽の防御に阻まれて垣根は実質無傷ながらも、
小太郎も又間一髪、振り上げられ突き刺さる羽の攻撃を交わして飛び退く。
「!?」
「………罪ありし者を死の塵に………」
小太郎が大きく跳躍し、羽の槍がそこに狙いを付ける。
次の瞬間、垣根の視界から小太郎の姿が消滅し、
突如として空中に現れた愛衣が箒に跨って急上昇する。
その頃、小太郎の背中では、
愛衣の箒から飛び移ってモフモフにしがみついた夏美がゼーハー荒い息をしていた。
>>621
「くおっ!」
(有り難うございますっ!)
一瞬だけ小太郎が視界に入り、大きな黒球が垣根を揺るがす。
その一瞬に、愛衣の目が光った。
「………エーミッタム…燃える天空っ!!!………」
「おおおおっ!!!」
そのとてつもない気配に垣根が愛衣を見据える。
次の瞬間、垣根は巨大な炎に呑み込まれた。
「くはっ、くははっくははははっ!!!」
その中心で、幾つもの羽を広げた垣根帝督が高笑いする。
「戻って来やがって、切り札は只のでっかい炎かぁ笑えるぞクソボケッ!」
羽の動き、突風、衝撃波、炎は方向を変え、
半ば光球と化して愛衣を呑み込む。
「コタロー君、大丈夫?」
「ああ…狗族の回復力ナメるなや…」
夏美の能力で一息ついて、金色まで戻った小太郎がどう聞いても大丈夫ではない声で答える。
その小太郎の目は、空中の巨大な光球に向けられる。
「………大、丈夫?………」
「あんなん、まともに食ろて大丈夫言うたらラカンのおっさんぐらいのモンやで。
俺らでも秒速で命が危ない。しかもあの野郎が言う未元物質。
愛衣姉ちゃん、火炎術者の専門技術で凌いでると思うんやけど…」
「火力さえ増やせばぶち抜けるとか思ったのかあっ!?
俺の未元物質に常識は通用しねぇ!!
灰も残さず蒸発しやがれ死に損ないがああああっっっっっ!!!」
(………やっぱり、完全じゃない………こっちの領分………)
僅かな気の緩みで灰も残らない。
光球の真ん中で、ギリギリのラインで浸食に耐えながら愛衣は全身で感じ取る。
>>622
「………っ、ぐ、つっ………掴んだ………メイプル・ネイプル・アラモード………
………炎の精霊………サラマンダー………契約により我命ず………形作りしエーテルを………」
光球の中心で、愛衣が右腕を力一杯振り上げる。
光球が火炎竜巻に化けて天高く巻き上がる。
「イニミークム・エダットッ(敵を喰らえ)!!」
愛衣が右腕を振り下ろした。
「ハハハ、倍返しかぁ!?それなら百倍返しで終わりだ、あ………」
上空から急降下する炎の龍。
ガパッと開かれたその口が垣根帝督垣根帝督を呑み込んだ。
「………ん、だと?………」
はっと周囲を見回す垣根は相変わらず無傷だ。
但し、その周囲では、大量の羽毛がオレンジ色に着火してふわふわ浮遊落下していた。
「よう」
垣根の目の前に、ついさっき会った、そして随分会っていなかった気のする学ランのクソガキ。
「くっ!…!」
垣根が構築し直す隙は無かった。
黒く渦巻く双掌打を叩き込まれ、
垣根の背中は建物への出入り口のある側面の壁に叩き付けられる。
ようやく現れた羽に辛うじて背中は守られるが、それでも衝撃、
そしてまともに食らった打撃のダメージは消せない。
ふうっと腕で汗を拭う小太郎はしかし、構え直す。
「女、ぁ」
ゆらりと立ち上がった垣根が呻く。
「テメ、何、しやがった?俺の、未元物質…」
「言っても、分からないと思いますよ」
半ば瓦礫と化しつつある床に横たわっていた愛衣が言う。
しもた、>>623で垣根帝督が重なってるorz
では続き
>>623
「(あなた方の)常識は、通用しませんから」
「は、はっ、非常識に、非常識を重ね掛け、しやがった」
「正、解」
そのまま、垣根はすとんと頽れる。
「メイちゃんっ!………」
駆け寄った夏美の足がたじっと退く。
「その、反応、ちょっと、傷つきますね」
「…ごめん…」
「冗談です。上手く、いきましたね。
大丈夫。知ってました?火炎術者、は、火傷の治療も得意なんですよ」
ぼっ、と、愛衣の全身が炎に包まれる。
炎が消えて、炭化に片脚突っ込んでいた愛衣の体に髪の毛が、全身の肌艶が戻って来る。
愛衣が、首を横に折った。
「メイちゃんっ!?」
「あー、魔力切れ、当然やな」
そう言って、小太郎はくてっとした愛衣の左腋の下から背中、右の腋の下に右腕を回す。
小太郎も西洋魔術の詳しい知識はないが、
まず、攻撃もこの治療も個人で直ちに扱うには桁違いの術式を使った事は分かる。
規模も大きいが内容が複雑。火炎術者として、未元物質による変質と共に、
変質していない、科学の支配を受けない部分がある事を察知して魔法使いとしてそれを解析。
エーテル理論に始まりその他諸々、魔法の理屈で炎の支配を取り戻して、
科学の常識の通用しない魔法の物質として叩き付ける。
起きた事を後付けの理屈で言ってしまえばそういう事になるが、最後は火炎術者の勘で、
今すぐにでも自分が焼き尽くされるその刹那にそれを成功させる、
余りにも細い綱渡りとそれを行うために必要な大量の魔力。
「千雨姉ちゃんには悪いがここでリタイヤや。
夏美姉ちゃんもな。取り敢えず愛衣姉ちゃんすぐにでも届けなあかん」
「うん」
小太郎自身の身体的負担も限界の筈。それは、あの夏付いて歩いた夏美にもよく分かる。
だからして、寝息を立てる愛衣を背負う小太郎の横で、ありとあらゆる理性と現実を総動員して
コンカイダケコンカイダケコンカイダケと口の中で唱えていた夏美が頷いた。
>>624
「………つっ………」
「コタロー君」
「ああ、俺もな、流石に獣化でも回復には限度あるみたいやわ。
あー、夏のラカンのおっさんにあのフェイトの野郎以来かなこりゃ。
しかしあれや」
「ん?」
「確か、あのビリビリねーちゃんが第三位とか言うてたな。
て事はあのメルヘンはもっと上や。つー事はここでも頂点辺りて事になるな」
「うん」
「そりゃ強い筈や。ま、三対一ちゅうのがアレやけど、
そんなんぶっ飛ばしたら、これで俺もちぃとはネギの奴にも近づけたかな」
「もー、コタロー君」
「ははっ、ほな行こか」
「うん」
× ×
「この屈辱ッ、ただ殺すだけではおさまらないッ!!」
ようやくT:GDの包囲とナノデバイスの効果から脱した馬場芳郎が、
駐車場のトレーラーに偽装したコクピットに縋り付く様に戻って来た。
「ズタボロにして捕らえるッ
(中略)
精神も躰も壊した上に社会的にも抹殺してやるッ
(中略)
殺してくださいと泣いて懇願しても許してなどやるものか…」
そこで気付く、画面に自分の写真が映し出されている事に。
「なん、だ?」
それは、コクピットで馬場の周囲を埋め尽くす大量のモニターに瞬く間に伝染する。
「な、なんだこれはっ!?僕がターゲットッ!?
何をやってるふざけるな………」
ガチャガチャと操作していた馬場が着信音に気付き、直ちに通話に切り替える。
>>625
「丁度良かった、今、こっちで…」
「ニーツァオ♪」
「は?」
朗らかにして胡散臭い挨拶に、馬場はぽかんとする。
「自分の置かれている状況は把握したカナ?」
「おいおい、誰だか知らないが、まさか君がやったと?大体、この回線は…」
「うむ、秘匿通信用の機能をこちらに繋ぎ直させてもらたネ」
「ふざけるなっ!!そんな事が…」
「実際こうしてやているのだから仕方無いネ。
改めて言ておくがネ、もし、君の愛犬の視界や聴覚センサーを僅かでも
君の顔や声が掠めたら、全ての愛犬達は君が挽肉になるまで一斉に攻撃に向かう筈ネ。
加えて、カマキリも直ちに動き出すヨ、君を地面にスタンプするために。
疑うならいくらでも調べるがいいネ」
言われるまでもなく、馬場は懸命に状況を把握する。
「ば、かな…どうやって、こんな…
さっきの詰まらぬ失態から、数十年先を行くこの学園都市でも最新鋭のセキュリティーで万全を、
乗っ取りなど、出来る、筈が…」
「数十年?それは受けを狙ているのカネ?」
「お、お前、自分が何をしているのか、こんな事をして…」
馬場が言いかけた所で、画面が切り替わる。
「これは………おいっ!?」
今度こそ狼狽に絶叫する馬場を余所に、通信からは鼻歌が聞こえてくる。
>>626
「これを、そちらの学園都市最大のネットワークサービスを介して
登録する全てのメルアドに公式メールを偽装して送信するネ、君の私物のパソコンからネ」
「ふざけるなああああっっっっっ!!!」
「色々な意味で三桁の刑務所生活にも値する機密文書の数々を、私物のパソコンに取り込んだ上に、
貴重なよう○ょ画像に漏れなくついて来たウィルスによって一斉送信した、
等と知れたら君の評価、待遇はどうなるカネ?」
更に別の画面が開かれる。
「こういうものもネ、こちらはアンチスキルの経済犯罪部門に送信しておこう」
「ふんっ、そんなもの形だけだ。裏で了承は…」
「裏で、ネ。やている事は企業、公的機関による詐欺、改竄による不正支出に他ならない。
「被害者」が裏の活動資金として了承している中でネ。
それでも、表向きの偽装が余りにも明らかになれば、それを放置するのは難しいネ。
そして、形ばかりの責任追及がどこで留まるか、まして、情報の流出した出所がバレたら、ネ」
「な、何何だよ、何が目的なんだよ…」
「取り敢えず足止めかネ。ま、タイムリミットはトゥエンティーフォーって所ヨ。
それまではそこでじっとしているよろし。
さもなくば、路上で機械的に挽肉にされるカ、
裏の機密情報漏洩の責任者として得体の知れない技術総動員で追われるカ、
どちらにせよ命が無い事だけは保障出来るネ。
迂闊な事はしない方がいいヨ。回復したと思てもそれが罠だた。
そんな仕掛けは至る所に用意してある。命を懸けて試して見るカネ?」
>>627
「24時間だあっ!?」
「正解。ついでに貴様のデータベースから削除しておいた、
過去の作業の過程で貴様が撮影した趣味と実益を兼ね備えたのであろう
実に胸がムカつく画像の数々を見た衝動で
時刻設定を二億四千万年にしなかた私の寛大さに跪いて感謝する事ネ。
但し、コピーはこちらの手の内ネ、貴様以外の顔に穴を空けて、
貴様の名で作たアカウントで貴様の粗末な武勇伝の数々を公表するには何等支障は無いの事ネ」
その時には、このふざけた口調のトーンは丸で笑っていなかった。
「まあ、今回の件は仕事であろうから少々気が引けるのだがネ、
それでも私には譲れない優先順位がある。
だから、相手が貴様の様な外道で、命じる上ではむしろ安心したネ」
「あの女の仲間だ、って言うのか?」
「そういう事にしておこうカネ。だから、要は手を引け、これが貴様への命令ネ。
何度鍵を付け替えても、この程度の事はいつでも出来るの事ネ。
君は余り学習能力が高くないらしいネ、二度目も駄目で三度目で終わり」
「な、何を言ってる…」
「それでも、今の事態を理解しているなら一度目の警告をするネ。
今回はここで24時間震えていればヨロシ。それで終わりヨ。
ただしもし今後私の視界で、私の仲間のまわりで
一瞬でもこのガラクタどもを見かけたら
アナタがどこにいようが必ず見つけ出して潰す」
× ×
西日本のとある地下。
形状記憶合金としか思えない微妙な着崩しが、
そこから上辺のはみ出る豊満な乳房の熟れ切ったラインを際だたせる。
つと指に止まった虫の音に耳を澄ませる。
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
乙
そういえば、コタロー君って逃げるだけなら転移で逃げれんじゃね? スクールにテレポーターなんておらんから追ってこれんだろうし。
というツッコミは野暮なんでしないことにしました。
乙
だいぶ風呂敷広げたけどここからどう巻き返すか気になるね
とはいえここまで事態が悪化するとご都合な解決以外は望めないかな
こたろも相当に万能キャラだよなあ。変化すればラカンともそれなりに張り合えるし
>>630
………やっべぇ………
私の勘がそれを押しとどめたのだとしたら、
調のヴァイオリンも大概ですが、流石に垣根帝督と比べると色々段違いでしょうから。
垣根の方は正直よく分からない所があるし、
本来ならこの組み合わせだと接待じゃないとネギま側が瞬殺されてもおかしくない気がする相手なんで
状況的に言って、隙を見せた時点で瞬殺、
今回は自分が楯になってすぐ側にいる女を逃がす事を優先せざるを得なかった
と言うか正確な正否は別にしてその場でそう判断したのではないかと
夏美の能力使っても小太郎が目を引いておかないと場所ごと吹っ飛ばされる危険があった訳で
等と、サクシャはさあぁーっと血の気が引いて汗ダラッダラで陳弁にこれ務めております。
>>631
かなりその予感がしてならない
それでは今回の投下、入ります
>>628
× ×
「あー、俺の覚えている限り、ねーちんは情報収集のために麻帆良に行ったんだにゃー」
科学の学園都市の一角で、土御門元春は携帯電話に問いかける。
「…その通りです…」
「で、その交渉がこじれて、近衛の護衛をフルボッコのタコ殴りにした。
そこまではありそうな話だと思うぜぃ。
そこから、あっちの世界の姫様を膾に刻んだと、近衛の姫様の眼前で。
で、その三人は恐らくあの夏の戦場を共にして命に替えて友情を貫くレベルの親友同士。
しまいに完全治癒能力をいい事に近衛の姫様の脚の一本も頂こうと。
そんで、「魔法」サイドの伝説的な英雄クラスの最強野郎に一本勝ち決めて
学園警備の魔法教師魔法生徒の本隊相手に無双を展開したと、麻帆良学園都市の敷地内で。
見たままありのままをまとめて言うとそういう事でおk?」
>>633
「…そうです…」
「いやいや、神裂ねーちんの事だから、
よんどころの無い事情で役割を果たす過程で生じたトラブルだって事は理解してるにゃー。
だからもちろん責めるつもりなんか全然無かですたい。
燕さんがにゃー、どこからともなく季節の最高級至高の鱧松茸鍋パーティーの招待状、
なるものを届けてくれたもんだから、ちょーっと正確な事情だけでも知りたいにゃーってナハハハハー」
× ×
埼玉県内、山中。
大西洋太平洋を泳ぎ渡り尾根から尾根に走破した騎士が二十騎余り。今正に進撃の構えを取っていた。
丸で飾り物の如く全身に装着された西洋甲冑の腕には連合王国を示す記号。端的に所属を現している。
「いつぞやは苦汁をなめさせてくれた神裂火織のこたびの失態」
「こうなっては、麻帆良学園、引いては日本の「魔法」サイドとの戦端が開かれる事は避けられぬ」
「で、あるならば、対処するのみ」
「騎士として、先方に交渉に赴く」
「十字軍遠征時に数多の異教徒を葬った神僕騎士より受け継ぎし御業の数々をもってすれば、
この様な島国の魔術勢力など恐るるに足らず」
「その事を先方が理解したならば、事は直ちに収拾する」
「今後とも、ちっぽけな東洋の辺境に相応しく身の程を弁えた関係と言うものを理解する、
様に我ら直々にその事を目に見える形で教授して差し上げよう。身の程を弁えねば身を滅ぼすとな」
× ×
バッキンガム宮殿、庭園。
女王エリザードは、報告を受けていた。
「と、言う訳で、どこからともなく氷山がここに送りつけられて来たのですが」
「うわー、クリスタルアイスの中に甲冑が反射して輝いてるんだし」
「いかがいたしましょうか?」
「捨ておけ、溶けたら生き返る仕掛けだろう。ナイトリーダーは?」
「この一部部隊の暴挙を知り、事態を収拾すべく現地に向かったのですが…」
>>634
× ×
「婿殿、真に相済まぬ事になった。
こちらで預かっていながら学園内でこの様な事を」
「義父様、その様な。
このかも又、自らこちらの世界に関わる事を決めたもの。
無事であるならば、この世界に関わる以上こういう事がある、
それも又一つの経験です」
「うむ、そう言っていただけるなら有り難い。
そういう事じゃ。問題なのは今後の事。
もちろん、これだけの事件を放置する訳にはいくまい。
「魔法」全体の威信にも大きく関わって来る」
「やむを得ません。こちらが望まずとも、「魔法」が十字教に侮られる事となれば、
その事で又無用の被害が生じるのも事実」
「そういう事じゃ。だが、事はあくまで慎重に運ばねばならぬ。
事、このかの事に就いては、こちらの不手際で父である婿殿に申すは辛い所だが」
「無論、承知しております」
「うむ、決して軽挙妄動に繋がる事の無き様に、慎重に運んでもらいたい。
こちらでも全力で事に当たっている所じゃ」
「はい。こちらもその様に」
関西呪術協会の一室で、近衛詠春はホットラインの電話を切る。
そして、傍らの石の置物を見る。
普段は、鏡の様に磨かれた断面を観賞するものである。
>>635
× ×
「放さんかいダァアホォォォォォッッッッッ!!!」
関西呪術協会地下牢の一角で、大群に押し包まれた真ん中から女の絶叫が響き渡る。
「何やあっ!?自分ら看守やのうて直属の特別術師部隊やないかいっ!?
おどれらこないな所で何ぼやぼやしてる!?さっさと戦支度整えんかいっ!!!」
「黙れっ!受刑中の身で何を騒いでいるかっ!!」
「軽挙妄動は慎むべしとのお達しなるぞっ!!!」
「じゃかぁしぃこんの腰抜け共があっ!!
近衛の姫に刃ぁ向けられたんや、これは西の東のの話やない、
日本の呪術勢力腐れ魔法勢力も含めた日の本全部に唾吐きよった!!
これが宣戦布告やなくて何や、
今こそ我が血書したる檄文をっ、日の本の術者ならば必ず決起する筈やっ!!!」
「やむを得ん」
「意識を落とせっ!」
「やめんかいっ、今こそ、今こそ国を挙げ攘夷のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ………」
× ×
石の鏡に映し出されていた映像を消し、近衛詠春はふうっと息を吐く。
「長、青山家、到着しました」
「うむ。これ以上この様な者が出ぬ様に、現時点での情報管理は厳重に。
特に、この事は先に告げた面々のみに限定して」
「承知」
>>636
× ×
「たった今の戦いの上にこちらの事だけでも手一杯の状況で申し訳ないが、
君の方からも接触をして欲しい。
特に西の方で暴発する様な事の無き様に情報収集としかるべき根回しを」
「承知いたしました」
近衛近右衛門学園長の指示を受け、葛葉刀子が一礼して学園長室を出る。
× ×
(あの馬鹿共の居場所は未だ把握出来ない)
(ああ、忙しい忙しい)
(こちらにも譲れない一線はある。
だからと言って、今行うべきではない軽挙妄動と言うものがある)
(私の方から話がつくのはあの人とあの人と…)
(ここのトップは老獪だが無用な争いは好まぬとも聞く)
(学園側の被害状況、それから)
(最悪、味方を売る形となるが、先に先方と胸襟を開き交渉して
今の開戦は本意にあらずと…)
「ったぁー………」
気が付いた時、書類の山を抱えて校舎から校舎へと駆け回っていた葛葉刀子は
弾き飛ばされ尻餅をついていた。
「ごめんなさい」
「これは、失礼した」
刀子は、衝突した男性と共にばらまかれた書類を拾い集める。
既に綴じ込み済みであったため、さ程悲惨な事にはならなかった。
>>637
「ごめんなさい」
「いや、こちらこそ」
互いに礼を交わし、そこで改めて刀子は思考を働かせる。
そもそも、いかに慌ただしい状況とは言え、刀子は仮にも神鳴流の達人剣士。
そうそう隙があって我が身を危うくする事などあるものではない。
そして、目の前の男性。
確かに国際色豊かな麻帆良学園都市であるが、
西洋人の男性が街中でもない場所を夜間にうろついている。
壮年の男性で、目に見えるマッチョではないのがむしろ見事な鍛え方。
刀子の身に残る記憶からも、見せびらかす無駄さとは無縁な鋼の鍛え方をしている筈だ。
ナイトの礼と剣、その双方を十二分に兼ね備えている、
達人葛葉刀子はその事を見て取る事が出来る。
「こ、これは、大変失礼した。何れ又」
刀子が考えをまとめて行動する寸前、男はその場をとてつもない速度で立ち去っていた。
ほんの少し後、彼の姿は途中で通りかかっていた商店街の店先に存在していた。
「夜分遅く誠に失礼する。
この花を一輪、購入したい。それから、出来合でいい。
タキシードを一丁用意できる店を教えて欲しい」
× ×
バッキンガム宮殿庭園
「と、言う訳で、
麻帆良学園都市からシャッターの修理代、
夜間開店手当を含む請求書が送られて来たのですが…」
「だ、駄目だこいつら、早く何とかしないとだし…」
「あー、久々にカーテナの実戦調整でも行わないとなぁー」
>>638
× ×
科学の学園都市レベル5超能力者第七位、削板軍覇は、
とあるコンテナ置き場の地面にどうと大の字に倒れ込み、夜空を仰いで高笑いしていた。
「か弱い幼女を連れ去るチャイニーズ・マフィアの手先にしては
なかなか根性あるなお前」
「ニャハハハハ、やっぱりそういう事になってたアルか」
麻帆良学園中国武術研究会部長古菲は、
とあるコンテナ置き場の地面にどうと大の字に倒れ込み、夜空を仰いで高笑いしていた。
× ×
長瀬楓は、緑地帯の中を一周して元の場所に戻ってきていた。
なぜそれが分かるのかと言えば、目印があるからだ。
木の幹に鎖鎌が突き刺さり、手裏剣やら何やらもバラまかれている。
楓はコメカミに汗を浮かべる。
「そこもとも、伊賀者でござるかな?
この娘ごが尋ねて参った。拙者であれば誰それの居場所を存じておろうと」
楓が、近くで頭にヒヨコを回転させて伸びている少女を一瞥する。
その顔立ちや装いはややケバい方面にきつめとも言えるが、
それでも素の所はあどけないものが見て取れる。
ギャルっぽさを混ぜ込んだ髪色や、浴衣と言う事が迷われる程に改造された、
それでもやけに高価な布地の太股サイズのコスプレ浴衣なども可愛いものであるが、
そのあどけなさとは裏腹のけしからぬサイズがばいーんと半ばこぼれている辺り、
着崩す事をその目的としたデザインのコスプレ浴衣とそれを選んだセンスの面目躍如と言った所だ。
「それを問うて、答えると思うか甲賀者」
「何の事でござるかな?」
ようやく返って来た男の声、楓はその出所を探ろうとするが、
その前に気配が別の場所を感知する。背筋が冷たくなる程に細い気配。
最初の尾行者、こちらもそれなりに歯応えがあったが、
噛み合わない押し問答に相手がじれた結果こうしてぶちのめした後、
僅かに感じた違和感を振り切ろうと緑地帯を堂々巡りして、
ようやく妄想ではなく実在している事を確信出来た。それ程に頼りない気配の相手。
>>639
「いつまで隠れん坊を続けるつもりでござるかな?
そろそろ、拙者の首を刈りに来るものと待っているのでござるが」
「なれば、尚の事それは出来ないな、
お前と正面から殴り合って勝てる自信など全くない」
「つまり、不意打ちであれば首を掻く事が出来る。
本来の在り方でござるな」
「理解しているらしいな」
「あらゆる条件に適応する、言い訳など不要でござるが、
その意味で拙者はこの身が少々不利でござる。
そこもとは見事に害虫となり雑草となり脇役となって、
確かに存在しながら特別な認知を妨げているでござる」
「光栄だ、お前の様な手練れからの最高の褒め言葉だよ」
楓は、全神経を研ぎ澄ませて居場所を探る。
本来、プロ同士の忍びと剣士であれば、
正面から斬り結べば忍びに多少のトリックがあっても剣士が勝つ。
その上で、今、影に潜んでいるのは忍びとしての勝ち方をよく知っている、
何のてらいもなくそれが出来る、正に影の様な気配を楓は感じていた。
楓は忍びとしても優秀である上に、優秀な忍びとして、
並以上の武術では手も足も出ない程の戦闘力を保持している。
だが、今回の相手は、忍びの本質に特化している。
まともな「戦闘」なら楓にそれなりの自信はあるが、
この溶け込み方をされると、そこに行き着くまでが危険過ぎる。
プロとプロが、闇の中で読み合いを続ける。
「害は、なさそうだな。
あれだけ存分に手加減したんだ、命に別状もないのだろう。
そちらにその気が無ければこちらに今どうこうする理由も無い。
失礼させてもらう」
「そうしてもらえるならば有り難いでござる」
楓は、本心ではふうっと安堵の息を漏らす。
そして、これが、か細い気配が消えた理由なのだろう。
バタバタと慌ただしい足音が駆け込んできた。
>>640
「…な…がせ…」
「千雨殿でござるか。すまない………」
一度開いた脚の両膝に掌を置いた千雨が、物も言わず駆け付けてきた。
「長瀬、あれだ、あれ出してくれあれっ!」
「あれ?」
「アーティファクトだよっ!!
早く出してくれ早くあれ出してあの中に私を隠してくれ
頼む早く私を隠して早く早く早くっ!!!」
「千雨殿」
荒い息を吐きながら縋り付く様に絶叫した千雨は、
落ち着いた呼びかけを聞いてそれをやめる。
楓は、相変わらずの糸目で穏やかにそんな千雨を見ていた。
「あ、ああ…」
「よく、頑張ったでござるな」
楓に声を掛けられ、千雨はその場にすとんと座り込んだ。
楓も、恐らく他のみんなも、
千雨が圧倒的に頼もしいヒーロー、そんなリーダーでは無い事ぐらい最初から知っている。
知っていても、それに値する、自分達なら仲間として補う事が出来る、
そう考えて付いて来ている筈だ。
「は、はは…いや悪いちょっと取り乱した。
ああ、そうだよな。先にやる事やらないとな。
情勢を把握だ、正直結構ヤバイ事になってるから見張りを頼む」
「承知した」
機材を確かめる千雨に楓が返答する。
「小太郎が撤収した。無茶苦茶強い超能力者から私達を逃がしてだ。
ああ、取り敢えず無事だったんだな、良かった。
結局の所、メールもまともに返って来てない。
撤収だ。今夜はもうどうにもならない。
長瀬、悪いがメインでやってもらうぞ。こっちで場所を指示するから回収に当たってくれ」
「承知したでござる」
>>641
× ×
「ナメくさりよって!
絵ぇ描いたんは安倍のクソガキか?あいつらが共倒れでも策してる言うんかっ!?
手始めに血祭りに上げて攘夷の魁けとし、呪術社会、復興、の………」
「長、処置を終えました。第一次隔離に移します」
机上の石からの通信を切り、近衛詠春は椅子の背に体重を掛けて嘆息する。
「長、葛葉刀子氏より今後の…」
× ×
「ねーちんもまぁ、久々に派手にやってくれたモンだにゃあ…ん?…」
何やらぶるると震えた土御門が携帯の通話ボタンを押す。
「もしもし…情報提供?…こっちの受け持ちだと思った?…それで…
同じ系列と見られるアンノウンによる事件が頻発?特徴は…
総合的に見てほぼ全員が中学生女子程度の年齢層。
その中には、目算で4以上に該当するスペックの能力使用者が複数。
但し、これまでの能力開発理論では説明が難しい能力を使っている疑いが…
…現状は…
直轄の暗部組織の内、少なくとも三つが直接交戦して、その内二つが実質的に機能停止した。
そう聞こえたんだが…」
「そう伝えた筈だけど」
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
乙
学園都市の追撃から逃れられる気がしない
何か最悪は魔法勢力VSイギリス&学園都市で戦争しかねない感じだけど
その場合どっちが勝つんだろう
>>644
魔術側の撃墜術式とか対空魔術が魔法側にどれだけ影響を与えるかでかなり変わるんじゃないかな?
魔術サイドで飛行戦闘できる人少ないし、能力者もほとんど飛べないから、最終的には、
魔法サイドでは大規模転移魔法とか実用化してるから、テレポ→広域殲滅魔法による空爆
学園都市はHsBシリーズで空爆みたいな感じで、東京、埼玉壊滅で日本の一人負け!みたいな
魔法勢力は初手で最強クラスの奴を転移させてぶっ放しまくれば勝てる
学園都市連合は初手でゲート寸断した後虚数学区とかカーテナで固めれば勝てる
早い者勝ちである以上単純な戦力以外の要素、戦争開始前の情報収集や政治的経済的影響力で勝敗が決まる
結論、学園都市連合の戦略勝ち
ねぎましらんけど原作でもこんなアホ脳筋集団なのか…
>>647
基本考えるのはネギ君担当で周りは駒に徹する、ネギ君が悩んだり迷ったら千雨筆頭に周りの人間が助言やらする感じ
戦闘面においてはどんな大火力も当たらなければどうという事は無いの考えの元近接技術が必須
何か…凄い話題になってますが…
結果までは分からないので局地的に適当な話を思い付くまま列挙すると
戦端が開かれたら京都も当然参戦。イスタンブールとかの実力もよく分からないし、
ウェールズとロンドンでも戦端が開かれるか。
ウェールズの魔術人脈に関しては禁書の原作でも触れられてるから政治的に微妙な話になるけど。
ざっくり考えるなら、やるとなったら学園都市側で麻帆良と京都、一挙に空爆掛けるかな。
戦争になったら超能力者も厄介だけど、学園都市はロシア戦で出て来た最新兵器がキレてるから。
麻帆良もそこそこ科学的空戦力はあるしまだ潜在力あるかも知れないけど、
特にヒコーキ関連は多分学園都市に対抗するまでは無理かな。
学園都市側が制空権押さえに来たら墓守り宮殿上空的にネギせつ他の
チート魔法火力主体で対抗出来るか。
京都がキレたら千草の作戦を標的変えて実行するか
それやったら、一番考えられるのが関ヶ原辺りでヒューズ・カザキリと激突するのか。
麻帆良の格落ち鬼神複数も科学リミッター解除したらどれだけだろう。
京都と東大に召還かかったら、この二人がかりで来られたら神裂でも厳しいかな。
詠春とか月詠とかひなとか加わったら神裂でも刻まれるレベルw多分…ギャグ描写過ぎてわかんねーし…
戦力として動員出来るなら、常盤台総動員したら麻帆良でも相当ヤバイ事になりそう。
最終的に高畑先生その他上位陣が出たら何とかなるけど、
常盤台だけでも学園警備で対処するのは相当難しそう。
サイバー戦争になったら千雨・茶々丸・弐集院と学園都市のどっちが上か
明日菜ならペンデさんにも対抗出来るか
フェイトが麻帆良側に付いてると学園・イギリス連合にとっても相当な脅威
使い所の難しい茶々丸の使い所も問題だな。
冗談で言えば窓の無いビルでも直撃出来そうだし(まあ、実際にはそれでも無理だろうけど)
それは無理でも殲滅戦覚悟でやったら戦争仕様アンチスキルでも洒落にならない。
只、やるならすぐ決着付けないと、学園都市側が衛星兵器に対抗手段持っていないとは思えない。
一発目で窓の無いビルと寺院と宮殿狙ってやっぱり無理でしたってなるか、
もう少し頭がよければ堅実に大損害出そうな所狙って撃ち込むか。
>>649
風斬氷華は上条さんの事怖がってたけど、
上条さんの魔法専門下位互換、但し破壊力は段違いで上、
である明日菜がヒューズを本気でぶった斬りに行ったらどういう事になるだろうか。
魔法の使用が難しくなるって言っても接近までは出来るかどうか、それが無理なら科学で接近するか、
いっそ茶々丸砲で力ずくで上からの怪獣退治モード突っ込むか。
でも、ネギパ連中だとそれ、メンタル的に無理だろうな…そもそもあれも魔法だし。
超能力者連中、個人的感情を抜きにして考えると、
三位以下は麻帆良との戦争までいっちゃうと戦力的にどうかって事で、
その局面だと、情報入手して先手打たないと一番おっそろしいのは第五位だけど。
後の二人、特に第一位に関しては、確実に対処出来ないなら、
所詮一人と割り切って致命的損害を避けつつ戦争自体で勝利するしかないかな。
場合によっては、誰かが言ってるゲート封鎖先行しないと
あっち側でも人間であるゲーデル艦隊の介入まで招きかねないし。
まあ、実際そんなんなったら、
双方の、まあ根本的な悪人でもなく馬鹿でも無い筈って所で、
上条さんが百回死にかけながら誰かをぶん殴って仲裁成功させる構図しか見えない(適当)
>>647>>648
本作では、本来ストッパー役の千雨が個人的な事情で主犯になってしまってるのが大きいですね。
夕映とか楓なんかはもう少し頭がいい様な気もしますが、
他にも幾つかまずい要因が重なって。
>>650
長話をしてしまいましたが、って言うかどう見ても長過ぎ。しかも完全に思いつきで。
この話題、深く突っ込んだら絶好調に荒れそうなのに勢いに乗ってしまいましたですごめんなさい。
そろそろ投下行きます。
それでは今回の投下、入ります。
>>642
× ×
「ん?」
科学の学園都市内のとある屋上で、図書館チームを見た千雨が怪訝な顔をした。
と、言うのも、それが紛う事無き麻帆良学園中等部3A図書館探検部完全体チームだったからだ。
GPSで居場所を把握し、当面の危険がない事を楓に聞いた上で楓と共に迎えに行っていた。
本当ならば麻帆良に戻るまでずっと「天狗之隠蓑」に引きこもっていたかったが、
それをやると自分が本当に出られなくなりそうだし、
やはり、自分が頼んだ以上、自分自身も相手からも信頼を喪いそうな気もする。
「何で近衛がここにいる?」
「はい、話せば長くなりますが、緊急治療が必要となり急遽こちらに呼び寄せました。
あれを発動したため、電池切れの状態です。起こしますか?」
「いや、休ませてやってくれ」
ハルナに背負われている木乃香を見て千雨が言う。
かくして、千雨と図書館チームを「天狗之隠蓑」に収納して楓が動き出す。
(…一般人の様でござるな。些か不本意なれど………)
楓は、手拭いで覆面を作り、自分が覗いていた路地裏にそーっと侵入する。
「!?」
しかし、楓が相手の首筋に放った手刀は寸手の所で相手の腕に受け止められる。
>>651
「素人じゃないじゃん。でも、まだ子どもじゃん。教育的指導いくじゃん」
「実に有り難い、映画館に転職して欲しいでござる」
ここから、感涙にむせんだ楓が拳を鳩尾に打ち込み、
体を折った所を後ろ首に組んだ手を撃ち込んでようやく撃沈に至るまで
三十秒を超えたと言う時点で、黄泉川愛穂の鍛錬と使命感は十分賞賛に値するものであった。
「助かったぁ…しっつこいのなんのって」
近くの角から朝倉和美が姿を現す。
「それからこの近くに………なんだこりゃ?…………」
「どーした?」
取り敢えず近場で少し落ち着ける場所に移動してから、
GPS画面を確認する千雨に和美が言った。
「そういう事か、どうもややこしいな」
千雨がノーパソを操作しながら言った。
「この移動の仕方だと、楽観できない様子ですね」
ひょこっと覗き込んだ綾瀬夕映が言う。
「このデータを見る限り、恐らくここに至る筈です」
かくして、スパリゾート安泰泉でのんびり湯に浸かっていた長瀬楓は、
近くの浴槽でどぷーんと水柱が上がるや目にも止まらぬ速さでそこに駆け付け、
水柱が沈下し終わる前にその中心をさささっと「天狗之隠蓑」に呑み込んだ。
「あれ?ここって?」
「やっぱりお前か」
大柄にスタイル抜群の人魚姫が周囲をきょろきょろ見回すのを見下ろし、千雨が言った。
>>652
「助かったぁ」
やはりびしょ濡れの佐々木まき絵が言った。
「何がどうなってこうなった?ある程度は想像付くけどな」
「ビーム」
「は?」
明石裕奈の返答に千雨が聞き返す。
「なんつーかさ、店を出て振り切ったかと思ったんだけど、
メデューサみたいなオバサンがビーム乱射しながらもんの凄い勢いで追い掛けてきて」
「で、大河内のアーティファクトで手当たり次第水から水に逃げ回ってここまで来たって事か。
立体構造や建物の地図が必要になるから、予測して捕捉するの苦労したぜ」
「ごめん…ごめん、誘拐犯、捕まえられなかった」
「ああ」
真面目に頭を下げる裕奈に千雨が声を掛ける。
小太郎は夏美、愛衣と共に単独で離脱したと千雨の所にメールが入っている。
古菲は、ほぼ唯一と言っていい程、平穏に回収する事が出来た。
かなり遅くなったが、それでも探索を再開するとメールで伝えて来たので、
待ち合わせ場所を伝えて撤収を指示した。
>>653
× ×
「千雨ちゃん、千雨ちゃん」
「ん?」
千雨は、朝倉和美にゆさゆさと揺り起こされた。
確か、ここまでの経緯に就いて各自の話を聞いて摺り合わせを行っていた筈だが。
「着いたよ、麻帆良」
「ああ………私、寝てたのか?………」
「うん、みんなが揃って、詳しい事情を聞こうって会議が始まってから五分もしなかったかな」
「そりゃ悪かった」
「いや、ほとんどみんなそんなモン。
あの夏を経験したみんながね。ハードだね科学の学園都市って」
「全くだ。麻帆良に着いたって?」
「うん、大学病院にね」
「病院?」
「千雨ちゃん含めて無事じゃない子も結構いるしさ、
それに、こっちの留守部隊に連絡したらなんか情報錯綜してるけどこっちに集合になって」
「そうか」
かくして、一同一旦病院に入ったのだが、
どうも様子がおかしい、既にいい時間なのに雰囲気がやけに慌ただしいと千雨も感じていた。
取り敢えず、こっちで待機してた奴を探そう。そう思って千雨はちょっと廊下を移動する。
「あ、高音さん…」
視界に入った先から声を掛けた次の瞬間、千雨の頬に激痛が走り壁に体がぶつかっていた。
些少ながら今回はここまでです。
続きは折を見て。
乙です
乙
全面戦争するとしてインチキ臭い話でいいならば
麻帆良側は超が違う時間や世界から
ネギやらエヴァやら強い連中を複数連れてくれば良いんじゃね
麻帆良祭でネギが二人になったことあったし不可能じゃない
[たぬき]であったネタだけどね
のび太は何人になってもたいして役に立たなかったけどさww
乙
ヒューズはあくまで科学サイドの存在だし明日菜のマジックキャンセルが通じるとは考えにくいんじゃないかな
東大に娘を輩出した青山さん家はこれ以上出るのかしら
>>650
>上条さんの魔法専門下位互換、但し破壊力は段違いで上、
魔法の回復受けられる時点で相互互換だし(震え声)
>>658
今頃エロ小説でも書いてるんじゃね?
感想どうもです。
>>649で、常盤台総動員まで行くなら、麻帆良モブ全体のレベルの高さが抜けてたorz
戦争になったら、内部利害抜きでいけるなら、
一番怖いのは黒子か復活結標と食蜂のタッグを動かす事だろうな。
正直、開戦になったら、ピンポイントでこれやられたらヴェント並に対処出来ない。
それでは今回の投下、入ります。
>>654
× ×
「つ、っ…」
「あなたは、自分が何をしたか分かっているのですか?」
「すいませんでした」
平手を振り切った姿勢のその静かな口調は、本気で怒っている。
千雨は体勢を立て直し、頭を下げた。
「どういうつもりなんですか?
そもそも科学の学園都市は魔法使いの出入り禁止。
言いましたよね、私は、これは、イギリス清教と科学の学園都市が関わる、
政治的にも非常に微妙な問題であると」
「はい」
「今、ここで何が起きたか、知っていますか?」
「ここで?」
「ここ、麻帆良で」
「…何が…」
「戦争」
「なん、ですって?」
「神裂火織、イギリス清教でも途方もない使い手。
それが、この麻帆良学園都市で大暴れして行きました、
学園警備側に負傷者多数。それに…」
「それに…」
千雨がごくりと息を呑み、高音が頷く。
>>660
「重傷には至らなくても、そちらのクラスにも被害が出ました。
あなたのせいではない、と言えますか?」
「言えない。私達が動いたのが原因だった、そう言われても仕方がない」
「上の方で懸命に対処していますが、こちらの敷地内で武力衝突に至った以上、
事は組織と組織の、対応を誤れば浮沈にすら関わる問題になります。
事態を知った者の中には、心の中、事によっては表面化して、
このままでは完全にナメられると激昂している者も少なくない。
実際、ナメられたら食い尽くされる、そうである以上当然の反応です。
一度事が起きた以上、そうならないためには」
「戦争、ですか」
「容易には否定出来ません。
その上に、あなた達は科学の学園都市にまで火種を撒きにいった」
「すいません」
千雨には、只、頭を下げる事しか出来なかった。
「このまま亀裂が拡大すれば、それだけでも政治的影響、
プランへの悪影響は計り知れない。
何よりも、戦争すら現実的に考慮される事態、分かっているんですか?
あなたはあの夏、何を見て来たんですか?
リライトはあの世界だけの事、この世界で戦争が起こる、
それが何を意味するのか…」
もう一度、千雨の頬に激痛が走り、背中を壁に打ち付けていた。
「痛い、では済まないと言う話なのですよ、大勢の人間が」
「ごめん、なさい…」
泣き出したかったが、それすら許されないと、千雨はギリギリ自制していた。
「あ、長谷川…」
そこにタタタッと村上夏美が駆け付けて来たが、
只、黙って頭を下げている千雨と一瞥している高音の姿は物語るに十分であり、
夏美は二の足を踏む。
「覚悟はしておいて下さい」
高音が口を開く。
>>661
「魔法を忘れて麻帆良を追放。それでもマシかも知れない。
その力に責任を負えない人間にそれを扱う資格はありません」
「すいませんでした」
「………そんなに、私達が信用出来ませんでしたか………」
ぐっ、と、千雨は頭を下げたまま、
悲しげな声音を聞き鼻の奥から涙腺への刺激に耐える。
その間に、高音は気付いた様にスタスタと動きだしていた。
「!?」
千雨は、はっと顔を上げる。
「ち、ちょっと待ってくれ、村上は…」
止めに入ろうとした千雨が硬直する程の迫力で、
夏美の頬を張った高音は、右手で夏美の胸倉を掴み引っ張って行く。
途中、カードを使って廊下を塞ぐ扉を開き、その向こうのドアを開いて一室に入る。
そこは、がらんとした部屋だった。
「メイ、ちゃん?」
壁にはめ込まれた窓の向こうに、少々分かりにくいが佐倉愛衣の姿があった。
何が分かりにくいのかと言えば、
まず、何の飾りもない髪の毛が流れるがままになっているから。
佐倉愛衣と言う人間そのもの、それだけが、何の飾りもなくそのままふわりと空中に浮かんでいる。
眠ったまま仰向けに横たわった姿勢で空中に浮遊し、柔らかな光を浴びている。
「中程度の魔力失調です」
高音が言った。
「元々、ネギ先生や近衛さんがイレギュラーなのです、
あんなタンカーみたいな魔力タンクなど、まともな魔法使いの体質ではありません。
流石に、回復が出来なくなる程の無茶はしませんでしたが、
それでも、数値で言えばマイナスの位置に至っている。
これは、生身の身体を握り潰して魔力を絞り出した様なものです。
この程度なら早期に治癒すれば回復はしますが、放置すれば肉体にも障害が発生します。
一時的に限界を超えた酷使を行った事には違いない」
既に手を離した高音に告げられて、夏美の目は下を向く。
>>662
「引き続き、科学的魔術的なCTスキャンを含め、
現状で可能な精密検査も継続して行っています。
只でさえ限界まで魔力を消費した後に、
緊急の生命維持と臓器の一部の他は外側の修復を最優先してしまった。
そんなもの、例え完璧でなくても、無事戻って来たらこちらの技術であればどうにでもなったものを、
あの大火傷の上に治癒と力の源である魔力を使い尽くしてしまった。
あのダメージと対処法では、臓器、脳細胞、霊体レベルで隠れた損傷が残っていないか、予断を許さない」
「大丈夫、なんですか?メイちゃんは…」
「現時点ではその意味での重大な危険因子は発見されていません」
そこまで言って、高音の両手がガッと夏美の胸倉を掴み上げた。
「職務放棄によって、鳴護アリサ誘拐事件に関する決定的な状況把握の機会を逸した。
本来存在が公表されていない魔法使いが、まして科学の学園都市において、
存在自体が政治性を帯びる目算レベル5の能力者との独断での戦闘行為。
しかも避難させるべき民間人を巻き込んだ。
目が覚めたら査問が待っている事でしょう」
「メイ、ちゃん…」
「例えそうなっても、愛衣は後悔しない、少なくともそれを見せようとはしない筈です。
いいですか、これはあの娘の判断、あなたに恩に着せるのは愛衣を侮辱する事です。
それでも、あの時あの娘が迷わずそうした理由、分からないとは言わせない。
心に留め置いて欲しいと、妹の矜持を踏みにじってでも、
この出来の悪い愚かなシスターは勝手に切に願います」
下を向く夏美を放し、高音は手を離し歩き出す。
「………この大事な時期に………何をこの様に愚かな事を………」
「………加減、に………」
「?」
高音に一瞥されて下を向いていた千雨が、理解出来ない声を聞いてそちらを見る。
「………いい、加減にしろよ、っつってんだよっ!!!」
そちらを見て、目の前で聞いても、千雨は何が起きているのか理解出来なかった。
>>663
「いい加減にしろよ…じゃあ、それじゃあセンパイは、
魔法使いは一体何やってたんですかっ!?」
「お、おいっ!」
それが、夏美が高音の胸倉を掴み上げて叫んでいる言葉だと、
千雨はようやく気付いた。
「失敗しましたよ、ええ、確かに私達はgdgdに失敗しましたよ。
それでも、私達は何とかアリサを助け出そうって、
みんなアリサがさらわれたその現場で、もうすぐ側まで迫ってたんですよ。
その時先輩、一体何やってたんですか?
メイちゃんにあのステイルに三人もおまけ付いてるの、
一人で相手させるつもりだったんですか?
アリサ見捨ててメイちゃんを殺す気だったんですか先輩はっ!?!?!?」
そこで、千雨は違和感に気付く。
毅然として斬り捨てる声が聞こえない。
「………私、は………」
夏美もそれに気付いたらしい。
「私、は………守ろうと………プラン………
あの夏、私、あの大きな炎の剣、目の前で、闘って守って………
私、プランを、全てを救う、守らないと………」
「悪かったっ!」
千雨が、既に力を失った夏美を引きはがし、頭を下げた。
「悪かった、全部悪かったのは私だ、高音さんは、高音さんは精一杯、
一生懸命やってる、私なんかが言える事じゃない、だから高音さんっ」
「…あ………あ………ご、ごめんなさい」
夏美も頭を下げたが、
ふらりと動き出した高音は丸でガックリ老け込んだ様だった。
「ん!?」
「もがっ!?」
あらぬ方向に動き出した高音を見て、入口のドアを開けようとした千雨は、
とっさにその後について来た夏美と高音の口を塞ぐ。
>>664
(な、何?…)
夏美が、ドアの隙間を見る。
「高畑先生?」
杖を突く高畑の姿に、夏美が息を呑んだ。
更に信じがたい光景が。
「なんだ、ひどい有様じゃないか」
「ああ、若いのとちょっと派手にやり合ってな」
「鈍ったんじゃないか?」
「おいおい、何で総督が…」
憎まれ口を交わす高畑とゲーデル総督を見て、千雨が呟く。
「お忍びと言う奴だ。
こちら側でプランの正否に関わる重大な情報があると聞いたからな。
学園都市の宇宙エレベーターとやらを視察して非公式会談を一つこなして来た所だ」
「収穫は?」
「足を運んで終わりだ、今回はな。
それで、そんな有様でこっち側は大丈夫なんだろうな?」
「ああ、大丈夫だ。必ず成功させる」
「いいか、このプランには我々の世界そのものが関わっているんだ。
そちら側で中途半端な事をすると言うのなら、こちらも黙ってはいないぞ」
「ああ、分かってるよクルト」
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
これは凄いな…!
二つの世界が違和感なく絡み合ってる。
世界観も設定もキャラも壊さず、この完成度は凄過ぎる。
>>1はネギま!も禁書目録も本当に大好きなのね。
愛と熱意を感じるわ。
乙
確かゲーデルって葉加瀬とくっついたんだよな
原作じゃ馴れ初めも経緯も分からないままだったけど
まぁ学園祭も魔法世界も自分達で勝手に動き回って問題解決してきたんだから調子乗っちゃうよな
少なくとも毎回自信満々に出てきては一撃で脱げる人に信用無いのかとか言われても…
感想どうもです。
>>667
有り難うございます。
特に禁書の二次だと、その方面で褒めていただくのは正直後が怖くもありますが…
頑張ります。
>>669
本作でも少々触れていますが、高音さんって学園祭で脱げてテンパッてる印象定着してますけど、
ネギやネギパの強さの異常さも含めて遭遇した事象がいちいち常軌を逸してただけで、
本来は真面目にお仕事してるだけなんですよね。
魔法世界の終盤で調には接戦で押し負けましたが、
インフレブーストしまくった危険な最前線で楯役をしていたのも又彼女の本領なのだろうと。
それでは今回の投下、入ります。
>>665
× ×
「あ、千雨ちゃん」
高音と分かれて廊下を歩いていた千雨に明日菜が声を掛けた。
「…おい…」
明日菜に連れて行かれた病室では、ベッドで刹那が横たわっていた。
「寝てる、のか?」
「うん。怪我はこのかがほとんど治したんだけど、
霊体レベルのダメージとか極限の精神的疲労とか、色々あって」
「やったのは…」
「神裂火織。刹那さん最後まで闘って、ボロボロになって…」
「お前も…」
「うん、大丈夫」
と、本人は言っているが、どう見ても大丈夫ではない、
文字通り重傷の匂いは明日菜もたっぷり漂わせている。
>>670
「ん、っ…」
「桜咲?」
「ああ、長谷川さんでしたか」
「桜咲…」
「すいません、でした」
「え?」
「私の情報収集に、手抜かりがありました。
誤った所を引いて、事が表面化するのを、防げませんでした」
「…ふざ、けるな…」
大真面目に言う刹那を前に、千雨の両手の拳が震えていた。
「何、言ってんだよ桜咲…何謝ってるんだよっ!?」
「千雨ちゃんっ」
刹那の胸倉を掴んだ千雨を、刹那は真摯に見据えていた。
「何でだよ…そしたら、私なんか、どうなんだよ…ふざけるなよ…
私のせいだろ、私の頼みのせいで、桜咲も、みんな、こんな大ケガして、
それで何で桜咲が謝ってるんだよ」
「これは、私の、不手際でした」
千雨は、刹那を突き放し、病室を飛び出していた。
× ×
「きゃっ」
「あっ」
曲がり角で人にぶつかり、千雨は何とか踏み止まった。
「ああ、悪、い」
「ごめん」
千雨の前で半ば体を折った大河内アキラは、
笑みを浮かべながらも蒼白な顔で脂汗を流していた。
「いっ…」
その時、千雨も胸の辺りに激痛を覚えた。
>>671
「やべ、これ、又…」
「アキラ?それに…」
廊下に座り込んだ千雨が気が付いた時には、
和泉亜子が誰かの手を引いて戻って来ていた。
「近衛か、お前、大丈夫なのか?」
「うん。ちょっと待ってな」
そう言って、木乃香は脂汗を浮かべてその場に立つアキラのシャツをめくり上げる。
顔を上げた千雨は息を呑んだ。
「お、おい、それ…」
「あの時、アキラうちを庇って…」
「ちょっと待ってな」
泣き出しそうな亜子の横で、木乃香が扇子を取り出す。
詠唱と共にバッと扇子を仰ぐと、その毒々しい痕跡はいつもの白い肌に戻っていった。
「千雨ちゃん」
「あ、ああ…いっ!」
「ここや」
懸命に立ち上がった千雨は、その胸を探る亜子の手の動きに声を上げる。
理性を忘れて文句が口を滑りそうになった所で、木乃香が千雨のシャツをめくる。
「ここやな」
「ああ」
肩の近くを触れられ、千雨が言う。木乃香の繊細な柔肌すら突き刺さる痛みだ。
「治れーっ」
その痛みも、すぐに消えて無くなる。
「サンキュー、助かっ、た」
「このか?」
バッと扇子で扇いだ木乃香を、飛び出したアキラが抱き留めていた。
そのまま、アキラに太股と背中を担ぎ上げられた木乃香の黒髪が重力に従いぞろりと下に流れる。
>>672
「取り敢えず、誰を呼ぶ…」
アキラが長椅子を見付けて木乃香を横たえ、協議していた。
「魔力欠乏によるスリープ状態ですか」
するりと現れた葛葉刀子に、一同何も言えなかった。
「運んで下さい」
そして、木乃香は若い魔法教師により運び出される。
「葛葉先生?」
そのまま、千雨と刀子は並んで長椅子に座っていた。
「神裂火織との闘いの際、瀕死の重傷を負った神楽坂明日菜さんを治癒しました。
何度も、何度も、瀕死の重傷から戦線に復帰するまで、
実力のある治癒術者でも一度で倒れる程の事を何度も。
その後も、あの闘いで傷ついた者全員を治療しました。
刹那のために完全治癒術式を使おうとして固辞され、
それでも通常の最高級の治癒魔法でその気持ちを伝えた。
そして、その後に、宮崎のどかさんにいぶきどのおおはらへを使用。
いくら無尽蔵に等しい魔力容量があると言っても物には限度と言うものがあります」
刀子の言葉に、千雨は青くなって肩を押さえる。
「大丈夫ですよ。すぐに発見出来たのならばここなら対処出来ますから」
「良かった」
それは本心であったが、それと同時に刀子の恐れざるを得ない。次の言葉を。
「全てを救いたい」
それが、刀子の次の言葉だった。
「魔法に関わった者であれば、誰もが通る道です。
恐らくは、あの魔法名を持つ神裂火織も」
「神裂火織、ここに乗り込んで学園警備とも渡り合ったって。
そんなに強いんですか?」
>>673
「強かった。直接剣を交えた私も、あの様な思いはいつ以来か。
私どもの範疇では、一対一では本山のトップでもなければ対処出来ないかも知れない。
聖人、と言う言葉を知っていますか?」
「ええ、確か最近聞いた覚えが。何と言うか凄い魔法使いと言うか」
「大雑把に言って間違っていません。十字教魔術側の定義で神の子に類する世界に二十人にも満たない存在。
こちら側であれば、マギステル・マギクラスでもなければ渡り合えないのではないかと。
実際、実力的にはその位置にいる高畑先生も紙一重とは言え敗北しました。
神裂火織は、その中でも上位に入ると言われています」
「…どうなるんですか、この先」
「本当に戦争に迄至る可能性は、さ程大きなものではありません。
恐らく回避されます」
「本当ですか?」
「漁夫の利。魔法とイギリスと科学だけであれば本当に戦端が開かれたかも知れない。
しかし、敵の敵は味方と言う現実的な側面で私達はイギリス清教と一応の友好関係を結んでいます。
十字教も一枚岩ではない。形だけでも神への服従を絶対とせず科学にも親しむ我々を嫌う原理主義。
もちろんそうした者は丸い地球が動いてこの方先端科学も又嫌悪しながら、
インターネット上にも原理主義の伝導、集会を広めている。
十字教の中でも新興勢力にして元々が政治の道具と言う成り立ちから、
比較的融通の利く勢力として魔法・科学と協調してきたのがイギリス清教。
だから、十字教の中でも頑なな、もっと言うと原理主義的な勢力の中には
イギリス清教を異端に迎合的な勢力として敵視する向きも少なくない。
比較的小規模なイギリス清教が、
その柔軟さと知略で三大宗派内に同等の地位を築いているのですから尚の事です」
「そんな状態で同盟関係の中で内輪揉めをしてたら、
元々の敵に横からやられる。漁夫の利ですか」
「そういう事です。魔法とイギリス・科学が戦争になって、
疲弊した所を保守的な巨大勢力に横から割り込まれたら、
最悪魔法、イギリス、科学、まとめて総取りされてしまう。
それを恐れてどちらも迂闊に動けない。平和と言う意味では有り難い三すくみ状態です」
「まだ出て来ていないキャストが虎視眈々と狙ってる」
>>674
「ええ。情報は少ないですが、
それだけの強者である事は間違いないあの四人がそのために動いたら、
平常時でも難しいのに戦争中ではひとたまりもありません。
互いのトップは決して無能ではありません。
現実問題としてそれが分かっているから、何とか落とし所を探っている。
直接面子に関わる事では妥結の条件設定が難しいのも確か。
その間に政治的な勢力図が水面下で書き換えられる事も十分考えられますが、
それでも、両者の間で戦端を開くのは何の得にもならない、そのコンセンサスは出来ています。
少なくとも責任者の間では」
(ヤバイのは、顔で粋がる下の暴発、か)
「全てを救いたい。
あの夏、そう願って生死を懸けた最前線に立ち、そしてそれを成功させた。
得難い経験だった筈です」
「分かっています」
千雨は、絞り出す様に言った。
「一度の成功、それが大きければ大きい程、囚われすぎてはいけないと」
「あなたの事はネギ先生からも伺っています。
元来慎重で聡明。そして優しく、熱い心を内に秘めていると。
この麻帆良学園都市、あなた達の見た科学の学園都市、魔法協会、イギリス清教。
引いてはあなた達が命懸けでスタートさせた魔法世界救済プラン。
世界そのもの。そこに生きる無数の人々。
大人、教師として、それを仕事とする魔法使いとして、
どれにも当てはまらないあなたにそんな責任は負わせられない」
千雨は立ち上がり、無言で頭を下げた。
「明日は休みです。この件に関して麻帆良としての調査は避けられない。
そのつもりで頭を冷やして待機していて下さい」
>>675
× ×
「世界樹?」
千雨がふと見上げると、頭上に通称世界樹、ご神木蟠桃の枝が生い茂っている。
ここまでどう来たのか覚えていない。
恐らく、ふらふらと夜道を歩いていたのだろう。
「………う………あ………」
その絶叫は、世界樹の枝枝を揺らす様にも見えた。
「私はっ、私、私ぃ………あ………ああっ………ああああっ………
うあ、あ、うああ、うああああ………」
座り込んだ千雨は、ようやく気配に気付く。
「長瀬か」
「千雨殿」
楓が、千雨の前で片膝を突いた。
「本当の魔法はほんの少しの勇気。リスクがあるから勇気なんだ。
条理に反するから奇蹟、奇蹟には対価がある。
そいつにみんなを巻き込んじまった」
千雨は、両手を地についてうなだれていた。
「私、私っ、みんな、みんなを傷付けた、私のせいでみんな、みんなあんな………
恨み言も言わない、そんなみんなを私が、私が駄目だったせいだ。
分かってた、分からなかったのかよ私は、そんな、
ついこないだまで他人との付き合いもろくにしてこなかった。
何でそんな人間がリーダーなんてやってんだよ?いっぺん上手くいって、
それもちょっと端っこで噛んでたってだけで勘違いしてんじゃねーよ。
そんな、そんな馬鹿が馬鹿みたいな勘違いして、それで、それでみんな、
みんな傷付けて迷惑かけて、私、私は、私はああああっっっっっ!!!」
「だから、でござるよ」
縋り付いて来た千雨の背を撫でながら、楓が口を開く。
>>676
「容易に近づかない程に、傷つく事の痛さ、人と関わる事の重さを知っている。
だからでござる。
獅子の強さを持たず、兎の様に臆病。だからこそ己の身を守る知略を持っている。
それでも、悩み抜いても危険を承知でも最後には関わる事を選ぶ。そうせざるにはいられない、
そんな優しく、熱い芯を持っている。それを皆見て来たでござる。
だから、皆千雨殿に自ら付いて来た。
自らが言う通り無力で頼りないリーダー、であればこそ、誰が強制されて付いて来るでござる?
それでも大事な人を助けようと言う千雨殿のために、
その想いを信じて手助けをする事が出来る、そう思うからこそ皆付いて来たでござる」
「…長瀬…」
しばし、泣きじゃくっていた千雨が、ゆっくりと楓から離れた。
「悪い」
渡された手拭いで顔を拭う。
「ん?」
千雨が携帯電話を取り出し、通話ボタンを押した。
「もしもし?綾瀬?何?いや、今夜は…」
「すぐに来て下さい、大至急ですっ!」
× ×
長谷川千雨が訪れていたのは、
麻帆良大学工学部の中でもがらんとした大型実験室だった。
よく見ると、中心に大きな空間があって、数々の機材が其れを取り囲んでいる形だ。
「村上に…那波?」
「うん、ゆえちゃんがどうしても連れて来てくれって」
千雨の疑問に夏美が答える。
「申し訳ないです、那波さんもプランに関わって色々忙しい所を」
綾瀬夕映の言葉に、那波千鶴はにっこり笑って首を横に振る。
その夕映は、口調からして相当に焦燥していた。
>>677
「綾瀬、どういう事なんだ?今の状況聞いてるか?
最悪ネセサリウスや科学の学園都市とガチ戦争になりそうだって事で、
私達もこれ以上勝手には…」
「次元が違います」
千雨の言葉に、夕映は噛み合わない返答を返す。
その顔色は蒼白でただ事ではない。
「時間がありません。ここまでのトラブルの調査が進めば、
学園警備に物理的に活動を制約される恐れがあります。それ迄に…」
「何なんだよ、この上何かやろうって言うのか?」
引いている千雨に、夕映が手書きのメモを渡した。
「もう一度言います、時間がありません。
大至急、この作業を行って下さい。
必要な事は作業の進行に合わせて説明するです」
「何々、まほネットを接続して…」
夕映の真剣、千雨にも他の面々にも、それだけで十分だった。
「電子精霊のサブ指揮権を私に貸して下さいです」
× ×
「取り敢えず、誘拐事件の決着だけは分かった」
「内容は?」
「ネセサリウスは鳴護アリサの身柄確保に失敗してる。
高速道路でアリサの身柄を確保したのはシャットアウラと見て間違いない。
現場で奪い返されたらしい」
「確かですか?」
「ああ。元々、目撃者は大勢いた。
科学の学園都市の閉鎖されたネット環境にアクセスして、
流言飛語から確度の高い情報を分析してフィルタリングした。
人為的な情報操作の形跡もあった。誘導を見抜いて削除された情報を復帰させて、
これだけの人数で別の結論はまず無いと思っていい」
「イエス!ちうさまっ!!」
「そう、ですか」
千雨の説明に対する夕映の声は苦いものだった。
>>678
「駄目なの?」
夏美が尋ねる。
「ステイル達がアリサを誘拐してたんでしょ?
科学の学園都市で警備してるシャットアウラがそれを取り返したって」
実験室の電灯が消された。
「これって、宇宙?」
暗闇の実験室に映し出される立体映像を見て夏美が言った。
その間にも、夕映は千鶴と打ち合わせをしながら端末に色々と入力する。
「これがエンデュミオンか」
地球から伸びる宇宙エレベーターの映像を見て千雨が言う。
「エンデュミオンの設計図その他、とにかく表も裏も集められるだけの情報をかき集めてくれ、
それもオーダーの一つだったな?」
「その通りです。お陰様で貴重な資料が集まりました」
千雨の言葉に夕映が言う。
葉加瀬聡美が、部屋にいる面々にゴーグルと耳栓を配って回る。
夕映が小さく頷く。その顔は汗が輝く程に緊張に引きつっていた。
「!?」
機材がう゛ぅぅぅんと低い音を立てる。
皆が防具を装着するのを見て、夕映の指がリターンキーを叩く。
千雨が、異変に気付いた。
それは、素人目にも生理的に異常を感じる程、
機材のモニターが次々と赤い文字に埋め尽くされていく。
「ひゃっ!?」
夏美が悲鳴を上げる。
それは、スタン・グレネードそのものだった。
防具越しにも分かる白い光と音響が実験室を支配していた。
>>679
「なん、なんだ?」
照明が復活し、葉加瀬が防具を外したのを見て、千雨達もそれに倣った。
「茶々丸」
葉加瀬が実験室の隅っこに着席していた茶々丸に声を掛ける。
「干渉がありました。変異はありましたが、
先に千雨さん達が解析したギリシャ語系の電子魔術のパターンです」
「来やがったか」
千雨が呻く。
「電脳空間、それもここで私が直接対処する限り、
未知の敵だとしても傷の一つも許しません。
取り敢えず、力ずくで排除して一度外部接続を全面停止、
内側を徹底洗浄して鍵を付け替えてから復帰に成功しました」
「頼りにしてる」
その力強い言葉の頼もしさは、渡り合った千雨が一番知っている事だった。
「で、一体何のシミュレーションなんだ?」
千雨が尋ねる。
「これが、何だか分かりますか?」
「エンデュミオンだろ?」
夕映がノーパソに映し出された映像を夕映が示し、
千雨の返答に夕映は首を横に振る。
「いざ、我らくだり、かしこにて彼らの言葉を乱し、
互に言語を通ずることを得ざらしめん」
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
乙
戦争云々はともかく、一度暗部に命を狙われた以上学園都市の外に出れば安全って事は無いと思うんだけど
よく暗殺とかの危険を考えずにいられるよね
逆に科学の学園都市の人間が麻帆良で殺人なんておこしたらそれこそ戦争だからじゃない?
確かに条約を無視したとはいえ大した戦果を持ち帰れてない千雨達を戦争を起こしてまで潰す理由は無いように見える
でも学園都市、というかアレイ☆に是が非でも潰したい理由が出来たら話は別だろう
例えば千雨の能力って滞空回線でもアクセスできる可能性があるんじゃね?とか
そうなると当然プランに支障がでるかも、とか
てかそれ位無いと暗部組織まで差し向ける理由が無い気がする
感想どうもです。
それでは今回の投下、入ります。
>>680
× ×
「災いなるかなバビロン。そのもろもろの神の像は砕けて地に臥したり」
「村上?」
夕映に続いて夏美の歌い上げた言葉に、千雨が声を掛ける。
「一度舞台で覚えた事がある」
「は、はは、何か、とてつもなく悪い予感しかしねぇぞ綾瀬」
「安心して下さい、とびきり悪い事態です。
科学の学園都市にネギ先生がいました」
「何?」
意外な夕映の言葉に、千雨が聞き返した。
「夏休みが明けてから、ネギ先生の動向は私達にもほとんど把握出来ていません。
那波さん、ネギ先生が科学の学園都市を訪れた理由を教えて下さい」
「エンデュミオン」
夕映の言葉に千鶴が応じた。
「科学の学園都市が完成させた宇宙エレベーター。
ネギ先生のプランは宇宙開発と密接な関わりを持っている。
だから、那波重工、雪広財閥も宇宙開発に関わる情報収集を強化して、
科学の学園都市にも協力機関を通じて関わりを強めている。
もちろん、エンデュミオンにもね。
ネギ先生は外部からエンデュミオンに関する情報を収集して、
満を持して科学の学園都市にコンタクトをとったと聞いてるわ」
「ああ、それなら私にも分かる。
確か火星テラフォーミングだったかな?
とにかく宇宙に関わるとんでもないプロジェクトだ。
宇宙エレベーターが完成したってなったら、使わない手は無い」
>>685
「そうだと思います」
千鶴と千雨の言葉に夕映も同調した。
「しかし、これは本来非常におかしな事なのです」
「何がだ?」
「科学の学園都市を訪れた時、私はすぐに気付きました。
ステイル達も間違いなく気付いた筈です。
であるならば、ネギ先生も気付いた筈。或いは最初から理解していた。
体系的に魔術を学んだ人間なら、気付かない方がおかしいのです」
「………バベルの塔、かよ………」
「或いはシュメールのジグラッド。
合理性を超えた規模の建造物は、それだけで魔術的な意味合いを持つ。
科学の学園都市が星の輝く宇宙に向けてそんなものを建造しようとした時点で、
魔法協会を含む魔術サイドは決して黙ってはいない。
洋の東西を問わず、魔術的に重要な意味を持つ星の世界に対する覇権主義とみなされます。
それこそ強行するなら戦争も辞さない事態になった筈です」
「しかし、そんな話は全くと言っていい程聞いていません。
魔法と科学に直結するそんなトピック、私の耳に入らない筈が無いのですが。
そんな状態でエンデュミオンが完成したと言うのですか?実際完成しているのですが」
夕映の言葉に、葉加瀬聡美が首を傾げる。
「その通りです。現実には気付いた時には完成していた。
これは、科学と魔術の関係性から言ってどう考えてもおかしい。
そもそも、千雨さんに情報を集めてもらいましたが、
幾ら半ば鎖国している科学の学園都市でも、
あれだけの規模の宇宙エレベーターエンデュミオンプロジェクトに関して、
後から見ると事前の存在感の薄さは異常としか言い様がない」
「情報操作…認識操作を仕掛けたって事か?」
「他に考えられません。
一般の注目も避け、特に魔術の目を欺き建造されたバベルの塔、
意図的に行われたと考えるのが当然です」
そして、夕映がノートパソコンを操作する。
>>686
「これは、茶々丸さんの衛星から撮影されたエンデュミオンです」
「ああ」
そこに映し出されているのは、宇宙空間を貫き突き出された科学の最先端の姿。
「幻影術式を解除します」
「…なんだこりゃ!?」
「何、これ?…」
エンデュミオンを取り巻く空間に刻まれた異様な紋様を見て、
千雨が叫び声を上げ夏美も声を震わせる
只、多少なりともこの世界に関わった者として、禍々しさだけは直感できる。
「分かりません。ある程度の所までは魔法の学問的に分析出来るのですが、
恐らく、これだけではありません。明らかに欠けているピースが幾つもあってこれだけでは意味を為さない。
但し、ここからだけでも推定される事は余りに尋常では無い。
それが、明らかに魔術によって外部からの目から隠蔽されていると言う事です。
当然です。イギリス清教であれ魔法協会であれ、
科学の学園都市の宇宙エレベーターが宇宙でこんなものを張り巡らせている。
そんな事を知った時点で迷わず全軍突入物理的破壊、科学の学園都市との戦争に直結します。
それだけに、非常に高度な術式で隠蔽されていましたが、
茶々丸さんや千雨さんの電子精霊の助け等々を受けてここまではようやく解除出来ました。
解析作業は途中で中断。恐らく、これ以上の映像解析を進めた場合…」
「ここで又高度な電子戦が行われるって事か?」
千雨の質問に夕映が頷く。
「茶々丸とここの設備であれば退ける事は出来ますが、
隠蔽に使われている魔術も極めて高度です。
同時進行で行うとなると、時間が掛かりすぎます」
葉加瀬が説明する。
「そして今、シミュレーションを実行しました。
かなりの部分は推定に頼らざるを得ないのですが、
那波さんにも協力して頂いて、ギリシャ占星術をベースに
地球を含む星座の配置と分かっている情報を当てはめて何が起きるのかを予測しました」
>>687
「それが、さっきの爆発か?」
「その通りです。そして、星の配置は今から24時間以内のものです」
「一体、何が起きるんだよ?」
「アルマゲドンです。
この術式をこの規模で発動したら、どう小さく見積もっても地球側の大陸の一つや二つ、
物理的な意味で吹き飛びます。
地図上では、最低でも日本を中心に中国、東南アジアのエリアまで青一色になります」
「は、あっさり言いやがったな」
千雨が、どさっと椅子に座り込んだ。
「えっと…ごめん、ちょっと付いていけないんだけど」
夏美が言う。
「実際、私もギリギリの精神状態で話しているです」
「本来ならば、そんなとてつもない大規模術式、
発動させるだけでも可能性を振り切っています」
そう言って、葉加瀬は手にしたタブレットの画面を示す。
「これって?」
「術式発動に必要とされる魔術的エネルギー。
ネギ先生の雷の暴風を基準に算定したものです」
「何、これ?」
それを見て、夏美が乾いた笑い声を上げる。
「えーっと、何これ?雷の暴風が幾つ分?
そんな魔力どっから持って来る訳?
又、このエンデュミオンでネギ君とコタ君とフェイトとラカンさんに
本気で殴り合いでもして貰うって言うの?」
「確かに、その規模の魔力です」
「なーんだ」
葉加瀬の同意を聞き、夏美は呆れ返った様に首を後ろに反らす。
「脅かさないでよゆえちゃん」
>>688
「………ああああああああーーーーーーーーーっっっっっ!!!…………」
同じ様に、一人で椅子に掛け、安堵して天を仰いでいた千雨が背筋を伸ばして絶叫した。
そして、ノーパソに変異したアーティファクトを操作する。
「正解、です」
夕映が苦り切った顔で言った。
画面に映し出されているのは、エンデュミオン完成記念コンサートの公式HPだった。
「鳴護アリサ自身、謎のエネルギーの持ち主です。
魔術であるのかすら判然としませんが、その力は聖人にも匹敵すると聞きます。
ハレの祭り、それは本来神に捧げる神事。それを、星々のただ中の祭壇で行う。
日本に於いても、祭りの夜には
祭壇の儀式や御神域全体から放出される男女の交合によるエクスタシーを神仏に捧げていました。
聖人の魔術にも匹敵するとされる奇蹟の歌、それを核として、
ステージ一杯の大観衆の規模で擬似的なエクスタシーが集約されるならば、
機械的に言えば間違わずに配線する技術があれば
この馬鹿げた規模の術式ですら十分に起爆する事が可能です」
「何よ、それ…」
夕映の説明を聞いた夏美の声は、震えていた。
「なんで、そんな事するんだ?そんな馬鹿げた事?」
千雨が、喉から乾いた笑いを漏らしながら言った。
「えーと、日本を中心にアジア全滅とか言ったよな?意味分んねぇぞ。
あれか?死の商人?株式か復興財源かイカレた金儲けの当てでもあるのか?
それともイカレた自殺志願者かイカレた時代遅れの世紀末予言者か?」
「まあ、まともでないのは確かでしょうが…
犯人の見当は付いていますし、勿体ぶってる暇もありません。
私の見立てた犯人はレディリー・タングルロードです」
「確か、その名前…」
「オービット・ポータル社の代表です」
「ああ、例の天才ゴスロリ美少女社長、確かにイカレてる」
>>689
「ええ、イカレています」
千雨の反応に、夕映が賛同を示した。
「生物学的に」
「何?」
「まず、現状で確かに存在している馬鹿げた魔術装置。
これは、エンデュミオンと鳴護アリサの存在が前提となります。
エンデュミオンを建造し、かつ、魔術サイドの介入を予見して
黒鴉部隊を動員して是が非でもコンサートを開催させる。
それ以前に、一介のストリートミュージシャンだった「奇蹟の歌姫」鳴護アリサを
これだけのビッグプロジェクトの歌姫として抜擢する。
それが出来る者は限られていますし、それが出来なければ、
あの馬鹿げた大規模術式は只の落書きになってしまいます。
少なくとも、オービット・ポータル社そのものが関与している、そう考えるのが妥当です」
「奇蹟、か」
千雨の歯がぎりっと軋む。
「電子精霊の助けも借りて調査した結果、
レディリーがギリシャ占星術のシビルであると言う情報も得られました。
魔術サイドの人間であれば、エンデュミオンを隠していた覆いが外れた後の対抗策を考えるのも当然です」
「決まりだな」
「ええ。しかし、ここで一つ問題が生じます」
結論を出した千雨に、夕映が付け加える。
「エンデュミオンは一体誰の意思で創られたものなのですか?
一般社会、魔術サイドすら欺く途方もない情報操作と途方もない技術の粋を集めて。
完成に至るまで、とてつもなく強固な意志の力がなければ不可能ですそんなものは」
「ちょっと待って」
夕映の言葉に、夏美が口を挟む。
>>690
「素人目に見たって、こんなの構想段階から言って準備も含めて一年や二年の話じゃないよね。
レディリー・タングルロード?これって、どう見ても十歳ぐらいだよね」
「オービット・ポータル社は三年前の宇宙シャトルの大事故で一度倒産の危機に立たされています。
それを金銭的に救済して支配したのが天才少女レディリー率いる投資ファンド。
確かに、形の上ではそういう事になっています。
しかし、見付からないのです、該当する中の人が」
「綾瀬、分かる様に説明してくれ」
「確かに、書類上は辻褄が合う様に経過が作られています。
しかし、実際にその通りであったと言う保障は無い。
むしろ、違うと考えた方がいい。オービット・ポータル社の状況から考えて、
その時期から今に至る迄のエンデュミオン計画と準備が記録されている通りに進んだ、
そう考えるのは非常に無理があるです」
「三年前…88の奇蹟か」
そう言って、千雨が額を抑える。又、繋がった。悪い予感しかしない。
「とある一つの要素を省いた場合、一番筋の通る説明はこの通りです。
それは、最初から徹頭徹尾、これはレディリー・タングルロードによる企画立案製作であったと」
夕映の言葉に、実験室はしんと静まり返った。
「ゆえちゃん、だからそれは…」
言いかけて、夏美は口をつぐむ。少なくとも冗談には聞こえない。
「なあ、綾瀬…」
千雨がぽつっと口に出す。
「これは、科学の事件であり魔術の事件なんだよな?」
「その通りです」
「ちょっと、一つ、ごく身近な経験則からちょっとした心当たりがあるんだが」
「奇遇ですね、私もです」
ほとんど答えは出たも同然なのだろう。夕映はそう思った。
>>691
「そう考えると、動機って奴もなんとなくだが」
「はいです」
言いながら、夕映はノーパソを操作する。
「アナログ写真?」
画面に現れたセピア色の写真を見て、千雨はふっ、ふふふっと端から笑みを漏らした。
「顔面認証鑑定の結果、この少女は間違いなくレディリー・タングルロードです。
双子かクローンでも無い限りこの一致率はあり得ません」
葉加瀬が説明する。
「ゆえちゃん、この写真、見るからに物凄く古いんだけど…」
夏美が、ノーパソの画面の中で
二人の紳士と共にレディリーと言われた少女が写っているセピア色の写真を示して言った。
「葉加瀬さん」
「ああ」
葉加瀬がノーパソを操作する。
画面が二分割され、新たに現れた画面にはネット辞典の一ページが示される。
「あれ、この人?」
辞典に添付されている顔写真とセピア色の写真の紳士の一人は酷似していた。
画面に数値が示される。
「同一人物と言うべき数値です」
「つまり、どういう事?」
千雨は、無言で辞典に示されている生没年を示し、結論を告げる。
>>692
「この非常時に訳の分からない偽画面を使ってお前を担ぐ暇人って可能性を省いた場合、
科学的に一番筋の通る説明が、
このロリはロリのまんまで最低百年は生きてるロリ婆ぁだって事だ」
夏美は、千雨の出した結論をぽかんと聞いていた。
「い、いやいやいやいや、筋が通る、ってそこで科学的とか言われても…」
「科学的、ではありませんね。現実的と言い換えましょうか?
ナツミさんは現実的な心当たり、ご存じありませんか?」
「…ごめん、あるわ…」
返答して、夏美はどさりと座り込む。
その側で、夕映がぽつりと言った。
「エンデュミオン、ですか。
目覚めの刻を刻み悪夢から解き放される事を望みますか」
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
乙
やっと本題か
それでは今回の投下、入ります。
>>693
× ×
しんと静まり返った実験室で、千雨は携帯を手にする。
「もしもし、アーニャか?」
「イギリス清教の指令内容が変更になった」
千雨が、電話をスピーカーに切り替える。
「まだ情報が整理出来てないからこちらが掴んだ言葉をそのまま伝える。
イギリス清教の試算では、北半球が全滅する規模。
最優先指令は術式の阻止。術式の核を破壊してでも絶対的に阻止せよと」
「………そっちの状況は?………」
「凄く慌ただしい、としか言い様がないわ。
先行きが不透明過ぎる。上の方は各方面との連絡や会議に追われてる。
ウェールズの魔法勢力内で麻帆良とロンドンからの情報が錯綜して、
こっちの主立った武闘派は武装して集結してる。
今にもロンドンへの軍事侵攻が始まるみたいな話まで流れてる」
「そうか」
「とにかく、慎重に行動して。この状況だとどこで爆発するか分からないから」
「ああ、分かった、有り難う」
千雨が電話を切った。
「術式の核を破壊、だってよ」
どさっと座り直した千雨が、はっと笑って言った。
その側で、夏美の拳がぎゅっと握られる。
「北半球が全滅、ですか」
夕映が言う。
>>696
「純粋な魔術の分析、向こうが得ている情報の量。
我々とどちらの精度が上か、決して荒唐無稽な数字ではありません。
とにかく、今は私が動きます」
葉加瀬が、眼鏡をくいっと上げて言った。
「大至急レポートにまとめて、私の研究結果として魔法人脈に提出します。
事が事です、協会も本格的に動き出す筈です」
「問題はそこです」
夕映が言う。
「問題はそこ、既にネセサリウスが先んじて組織として把握して動いていると言う事です。
そこに、横から魔法協会が割って入るとなると、主導権争いになりかねない。
先例から言って、魔術勢力、特に十字教とそれ以外で合同作戦、
しかも、通常であれば魔術サイドの立入が禁止されている科学の学園都市でそれをやろうとしたら、
協議しようとすれば会議は踊り無断で現場に突入したら先に進む前に足を引っ張って殴り合いです」
「んな暇ねぇだろっ!!コンサートいつだと思ってんだよっ!?」
千雨が立ち上がり、テーブルをばあんと叩いて激昂した。
「その通りです」
夕映が、ぎゅっと前を見て言った。
「正義の反対側は別の正義です。
事、魔術師は頑固なもの、それが効率的だと思っているからこそ自分達のやり方を容易に譲らない。
組織と言うのは、特に別の組織と関わると時に非常に面倒なものなのです」
(くそっ!)
組織的な魔法の警備現場を知っている夕映に言われると、千雨も座り直すしかない。
「美しいですね」
葉加瀬聡美の場違いな言葉に、一同ぽかんとする。
「本来、宇宙エレベーターは赤道直下に造るものです。
それを、数多の困難を乗り越えてあの場所に完成させた。さすがは科学の学園都市です。
それだけの困難を乗り越え、完成されたその姿は正に空に駆け上る天橋立。
とても、美しい」
>>697
千雨が腰を浮かせる。
千雨の喉まで出かかった罵倒を食い止めたのは、聡美の横顔だった。
「只でさえ無限の宇宙に橋を掛ける壮大な物理的試練。
しかも、北半球の日本と言う圧倒的に不利な地理的条件。
だからこそ、僅かなズレでも巨大な破綻を招いてしまう。
それでも、完成したんですエンデュミオンは。科学の粋と莫大な財力労力を注ぎ込んで。
そのために科学者、技術者、作業員、経済的にも、途方もない英知と労苦を結集させて。
だからこそ、これ程までに美しいんです。
それにより宇宙に関わる様々な事、ネギ先生のプランにも大きく貢献できる筈だった。
それは人類の科学の歴史を刻む偉業だった筈です。
私は、私が出来る事すべき事をします」
「頼む」
葉加瀬の宣言に、千雨が応じた。
× ×
アーニャは、携帯の電源ボタンを押した。
「確かに、嘘は言ってなき事よね」
アーニャが、ぎろりと背後に視線を向ける。
視線の先で、ステンドグラスの光を浴びて遠くを見る姿は、
アーニャにはすっとぼけている様にしか見えない。
「教会に迷い込んだ子猫ちゃんが大事に保護されたる事などはこの際関係なきにつき。
故に、確かにあなたが伝えた情報は何一つ間違いはなき事よ」
確かに、大事に保護されていた。
あの、瞬時に即座に考慮の余地なく出会い頭に敵として認定した、
この極悪に慈悲深い大ボスに負けず劣らず喋りの危ないシスターの運んで来た
海鮮丼と天ぷらは確かに絶品だった。そこが又憎らしい。
>>698
「どういうつもりなの?わざわざこんなやり方でリークさせるとか」
「それがよろしき範囲であれば隠すつもりもなければ、
伝える事を止めるつもりもなきにつき、それだけの事よ」
「それをリークって言うんじゃないの?」
「ふふん。大きな組織のトップともなると面子がうるそうてかなわなき事なのよ。
大事件を前に緊密に協力したくとも、表立って仲良く出来ないのだからああ煩わしや」
「それで、そちらの利益は?」
「世界の危機なのだから、失敗したら利益も何もなき事なのよ。
かの魔法の英雄が信ずる麗しき同志達が又世界全てを救い出すか、それとも、
科学と魔法が共倒れするか
」
とてつもない分量の金髪の只中、そこに浮かぶ無邪気な笑顔は、
精神的にアーニャの血を凍らせるに十分過ぎた。
「分かってるんでしょうね?」
相変わらずの微笑みに向けられたアーニャの声は、押さえようとしても震えを帯びる。
「その時は、そもそも利益以前にこの島自体が存在していないって事を」
「だから、打てる手は全て打つ、最善を尽くすのが当然でありけると。違いたるかしら?
嗚呼、最早そうなれば競合せざる事を祈るばかり」
「失礼しても良かったでしょうか?」
「ええ。この事が片付いたらお茶でもご一緒しましょう。
かの英雄を輩出せしウェールズの次の世代を担う、
しかも、その英雄にも極めて近しき優秀なる魔法使い。
輝かしき未来のために関係を密にするは互いのためでありけるでしょう。もっとも…」
「もっとも?」
「かの英雄様、かように可愛き幼馴染みを郷里に残し、
先に進めば進むだけ、行く先々で真に強く美しき数多のおなごが付き従うのを受け容れる。
と言う辺り、やはり男、それも英雄と言うものはかくありけるとの見本にて。
ついていくのも苦労するのでありけるのかしら」
「失礼しますっ!」
>>699
× ×
「どうだった?」
「うーん、一瞬だけ、爆発っぽいの見た話はあったんだけど」
スパリゾート安泰泉のロビーで、麦野に問われたフレンダが報告する。
「こっちもだ。
あいつら、あのデカブツだな。多分水を媒介にしたテレポーター。
そんなモン聞いた事もないけど、ここまでの話からしてそう考えるのが一番自然ね」
「ルートからも情報からも、ここに来たと考えるのが超自然なのですが」
麦野の言葉に絹旗が続いた。
「滝壺、どうだ?」
麦野の問いに、滝壺が首を横に振る。
「やっぱり、追跡できない。そもそも感知出来なかった」
「どういう事だ?テレポートと言いあの妙な武器と言い、
能力者ってのは確かなんだが…」
麦野が顎を指で撫でて呟く横で、絹旗が携帯を取りだした。
「公衆電話?」
「あん、どうした?」
「ええ、何かさっきから超しつこく携帯が鳴っていまして。
公衆電話からです」
「構わないから出てみろ。何かの罠って事も無いでもないが、
見張っててあげるわ」
「分かりました」
絹旗が電話に出る。
「もしもし?」
「……学区の中央近くに児童公園がある」
「……学区の中央近くに児童公園がある」
絹旗は、相手の言葉を繰り返しながら周囲に手招きする。
>>700
「Accordilgny
公園のベンチの右側、その裏側にブツが張り付けてある。
あなたにあげるわ」
「すいません、何を言っているんだか超分からないんですけど」
「Reason
それはマシだからよ。タフでリアリストで狡猾。
少なくともオカルト狂いのマッド・サイエンティストに任せるよりはずっとマシだから。
私利私欲の方がまだまともな計算が通じる」
「恐らく何か超勘違いしてるのだと思いますけど、私の事を超どこで知ったんですか?」
「ここは、成果さえ上がればいいみたいね。
それが効率的なら鳥かごの中ならやりたい様にやれって事。面倒臭いから権限も適当に使えってね。
however
私が直接関わった訳ではないわ。
根本的にぶち壊しにされたら元も子も無い、それだけの事」
「超一応聞いておきます。
あなたは超一体何者ですか?」
「It
匿名の情報提供者よ」
「………超、隠せてるつもりですか?」
電話が切れた。
× ×
帰路に就く途中、千雨はごしごしと目をこする。
そして、追い掛ける様に駆け出す。
息を切らせながら走る。
それは、願望だったのかと諦め掛けた時、視界を掠める。
千雨は、駆け出し、追い掛ける。
そしてようやく、数秒間確かにその目に焼き付けた。
今すぐにでも縋り付きたい、文字通りの意味で誰よりも強いヒーローの姿を。
駆け出した千雨は、建物の角を曲がる直前で急ブレーキを掛ける。
「やあ、ネギ君」
「先ほどはどうも」
ふらりと現れたゲーデルにネギがぺこりと頭を下げる。
>>701
「そのついでにこちらに寄らせてもらったが、
何か随分と慌ただしい様じゃないか」
「すいません」
互いの軽い口調はジャブの応酬だった。
「大丈夫なんだろうな?」
ゲーデルの目は、決して笑ってはいなかった。
「時間が無いから端的に言う。
大変な負担で心苦しくは思うが、
こちら側が土台となって協力すると言う前提で我々は君に同意し諸々の事を放棄した」
「はい」
「その、こちら側が破綻したら元も子もない。
そのまま我々の世界そのものが破綻すると言う事だ。
僅かでも救われる機会をみすみす逃した上でだ。
ゲートは通行可能、向こうに艦隊を待機させている。
事は我々の世界そのものだ、その様な現実的可能性があると言うのなら、
こちらも手段は選ばない」
「分かっています」
ネギが静かに、しかし確かな声で応じる。
「こちらの世界で総督の手を煩わせる様な事は決してありません。
全て、こちらで決着を付けます」
「あれをやり抜いた君の言う事だ、
それは信ずるに値する言葉なんだな?」
「はい。総督にも、フェイトにもその他の皆さんにも、
僕は約束しましたから、その約束は果たします、必ず」
ネギは、すっと拳を握り、そちらに視線を向ける。
「皆さんとの約束、あの世界との約束は必ず」
千雨は、壁に背を向けたまま、ずるずると腰を抜かしていた。
>>702
× ×
個室サロンの一室に、麦野沈利率いる「アイテム」の正規メンバーが集結していた。
「結局、これがブツって訳よ」
テーブルに置かれたUSBメモリを見てフレンダが言う。
「一応、色々予防策張って下の連中に回収させた訳だけど」
言いながら、麦野がノーパソを操作する。
「発信器その他のチェック済み、
これもPCごと新しく買って来てネット接続も一旦切ってある」
口に出して確認しながら、麦野はノーパソにメモリを差し込み操作した。
黙ってマウスを動かしていた麦野が、面白そうに笑い出した。
「きーぬはたぁ」
「はい」
「こーんなアホなストーリー、B級映画でもなっかなかお目にかかれないにゃー」
>>703
× ×
寮の部屋に戻った千雨は、
伊達眼鏡を外してどっと仰向けにベッドに倒れ込んでいた。
そして、携帯電話を確認する。
「留守番電話?そう言えば…」
そう言えば、ずっと作戦の方の連絡にかかり切りだった。
操作しながらも、今の千雨の頭は現実に追い付いていなかった。
ららーらーら
ららーらーら
ららーらーらー
ららら、ららら
「…これ…」
「出来たんだよ、新しい曲間に合った」
「…あ…」
「これから最後の詰め、本当に歌うのはリハになると思う。
コンサートで、みんなの前で思い切り歌って来るね。
ちうちゃんにも、きっと届くよね。
当麻君にも、ちうちゃんにも、勇気を貰ったから。
ありがとう、ちうちゃん」
「やっぱ、男が先かよ………
………り………さ………」
うつぶせになった千雨の顔は、掛け布団に埋もれていた。
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
さて時刻もよろしい頃合ですか。
それでは、今回の投下、入ります。
>>704
× ×
「まずはゲートだ。
機械的なものが解除出来たとしても、人間の警備だって当然いるんだろうな。
強行突破した途端に蜂の巣か?
そこを突破したとして、エンデュミオンに入るセキュリティをだ、
普通に考えて武装したセキュリティ、
セキュリティだってカード使っても相手は科学の学園都市で、
そんであの超能力者とか出て来たりしたら…」
「おや」
「おお、長瀬」
朝靄の中、指折り数えていた千雨が楓と挨拶を交わす。
「何やってんだこんな朝っぱらから?」
「散歩でござる」
「…行き先は?…」
「そうでござるな」
「あー、視線の先が天を向いてるよ…」
心の中で呟きながら、千雨は斜め後ろを見る。
「よお」
「おっはよー千雨ちゃん」
「ああ、お早う」
「ニーツァオ」
脳天気に挨拶する佐々木まき絵以下、
運動部ご一行様に古菲が加わっての到着だった。
「お早うございます千雨さん」
「はよーちうっち」
綾瀬夕映と早乙女ハルナ。妙な取り合わせだ。
この二人が一緒なのはいいとして、この二人だけと言うのがなかなかに珍しい。
>>706
× ×
彼女は、鳥の鳴き声と共に動き出す。
「せっちゃん」
「お嬢様っ!?」
話を付けておいた大学病院の関係者出入り口を出た所で、
桜咲刹那は聞こえて来た声にぎくりとする。
「ど、どうしてここに?
あれだけの酷使、まだ休んでいただかないと」
「んー、それ、せっちゃんに言われとないんやけどなぁ」
にこにこと木乃香に言われると、刹那もたじろいでしまう。
「申し訳ございませんが、先を急ぎます故」
「どこ行くのせっちゃん?」
「は、はい、これからその、今回の事態に関する打ち合わせ等々…」
「科学の学園都市」
「ななな何を仰いますやらお嬢様はお人が悪い…」
汗ダラダラの刹那とその刹那の顔をニコニコ覗き込む木乃香。
勝負は簡単に決まっていた。
「お嬢様」
「はいな」
「これは、裏側で話を付ける事。
お嬢様が出て来ては却って話が大きくなってしまいます。
何よりも危険です」
「で、けじめ付けに行くんやろ」
「はい。わたくしが確かに」
「んー、まあ、色々難しい事もあるんやろうけどなぁ、
これだけは一番最初にはっきり分かってる事があるえ」
「何でしょうか?」
>>707
「
桜咲刹那が侮辱を受けた、
言う事や」
その言葉を、近衛木乃香は笑って語るつもりは一片たりとも無かった。
「桜咲刹那が侮辱を受けた。
これは、近衛木乃香が侮辱を受けた、言う事や。
せっちゃん、桜咲刹那」
「は、はいっ」
「せっちゃんは、この、近衛木乃香の顔に泥塗ったままにしとく気かえ?」
「け、決して、その様な…」
「あり得へんし許さへん。
これはうちにとっては誰の問題でもない。うちの、近衛木乃香の問題や。
うちの手で、どこぞの銀行屋さんと同じくせな腹の虫が治まらん。
せっちゃん、手伝どうてくれるな?」
誰よりも凛々しい剣士と思われていた桜咲刹那は、
誰よりも凛々しい姫君の前に片膝を付いた。
「この桜咲刹那、地の果てまでも」
「…へへっ…」
薄闇の中、二人はきゅっと手を繋いで歩き出す。
木乃香の視線に追い掛けられながらもつつつーっと反らしがちだった刹那だが、
途中で、トテテと駆け寄る気配にバッと木乃香の前に回る。
>>708
「のどか?」
「宮崎、さん?」
そこに現れたのは、木乃香の割と古い友人で刹那の知る勇気ある少女
宮崎のどかだった。
「やっぱり…ユエがね、
桜咲さんとこのかで間違いなくけじめ取りに行くだろう、
情報戦になるだろうから私が手伝えたらって」
ハァハァ息を切らせながらのどかが言う。
「綾瀬さん…」
「のどか、来てくれるん?」
「うん」
× ×
「やっ」
「よう」
呆れた表情で、千雨は夏美と言葉を交わす。
朝倉和美までセットでついて来た。
「朝のお散歩、って訳じゃないよな」
「ん、まあちょっと、科学の学園都市から空の果てまでお散歩に」
夏美がにこにこ笑って言った。
「状況分かってるのか、お前ら?」
「とーぜん」
ハルナが不敵な笑みと共に返答する。
>>709
「記憶消されてこの学校から追放。
それで済めばいいが、普通に命飛ぶぞ。
あの夏に色々やって来た訳だが、あれは半分以上成り行きだ。
今度は分かってて自分らから飛び込む事になる。
きちんとしたリーダーがいる訳でもない。
ガキでもなんでも、責任のある先生で飛び抜けた魔法使い、
ってリーダーがいた前回とは決定的に違う。
今更言い訳したくないけど、そういう意味じゃあ私は、
私は多少ネットが使えるだけの只の中学生だ」
「それに関しては、ここにいるおおよそ全員同じだと思いますが」
夕映が言う。
「だからだ。上手くいってる時はいい。
まずい時に仕切れる奴がいないと今回はマジで死ぬ」
「んー、まあ、何とかなるっしょ」
「マジで言ってんのか早乙女?」
「まあ、あの夏にみんなあんだけ修羅場くぐったんだし、
今回も結構経験値になったからね。
最悪、自分の身ぐらいは守れるし、それで恨みっこなしって事で来てる訳だから」
ハルナの言葉に、まき絵、裕奈辺りが小さく頷く。
「それでさ、長谷川の方こそどうするつもりだったの?
ネットだけでどうにか出来るとか思ってた?」
「………思って、ねぇよ………」
夏美の質問に、千雨が答える。
「私だってそこまで馬鹿じゃねぇよ。でも、出来なかったんだよ私は。
あの夏の幻想から抜けられない。逃げなきゃいけないのに、
それが出来ないんだ私は」
「幻想でござるか?」
>>710
「ああ、あの夏、みんなで上手く行ったのは現実だ。
だけど、この状況で私一人に何か出来るなんてのは幻想だ。
私は、只の中学生、悪の秘密組織と闘うとかそれで世界を救うとか、
そんな誇大妄想、命が幾つあっても足りないって、
当たり前の事なのに、それでも駄目だった。
出来るかも知れないって、その幻想に縋っちまう」
「今はどう?」
夏美が尋ねる。
「このキャストなら?」
「確かに、これで行くなら勝ち目はある。
客観的に見てもあの夏を闘い抜いた中のかなりのメンバーが揃ってる、
実力的には強力な軍団だよ」
そこまで言って、千雨は目を閉じる。
「もう一度言う。
何より命が危ない。イギリス清教、科学の学園都市、
何とカチ合うか分からない。
化け物じみた超能力者に追い回されたばかりだ、
今度向こうに行ったら向こうも本腰入れて仕掛けて来るかも知れない。
怖かった、本気で命の危険を感じた」
千雨の言葉を、一同は静かに聞いている。
>>711
「命が助かっても、もう二度とこうしていられないかも知れない。
一つ間違えたら戦争の引き金を引く。
そうでなくても、色んな勢力が絡み合ってる今回の事件だ、
勝手に科学の学園都市に行ってイギリス清教も動いてる件で
政治問題になったら学園だって庇いきれない。
その時は、記憶を消されて学園追放でもマシってぐらいだ。
そうなったらネギ先生だって無事じゃ済まないし、
ネギ先生が進めて来たプランだってどうなるか分からない。
私達を思ってくれた人々にとんでもない大迷惑を掛けて怨みを買う事になる。
全ての信頼を失う事になる。
しかもだ、天秤は北半球丸ごとと人間一人。
選択肢次第では、私達は生き残っても前代未聞の大量殺人鬼って事になる」
「…つまり…」
一回か二回か、表情を微妙に変えた早乙女ハルナが黒髪を指で梳いて口を開く。
「オールクリアしちゃえばオールオッケーって事?」
「そういう事になるな」
千雨が呆れた口調で言った。
確かに、この面子なら、事、荒事であれば出来ない事を考える方が難しい。
遊びじゃない、いかに脳天気に見えてもそのぐらいの事は分かっている筈だが。
「綾瀬は?」
「私は、麻帆良の魔法生徒であると共に騎士です。
騎士として守るべきものがあるです。
騎士として、再会を約した仲間がいるです。妨げる者は、斬り払うです」
「ユエが行くってんなら、私の結論は一つでしょ。
これってネギパーティーのすっごい外伝になるよ。誰が見逃すかってーの!」
「と、言う事になれば、私も特落ちはヤバイっしょ」
ハルナに続いて和美がキツネの目で笑って見せる。
テラ脳筋wwwwww
>>712
「ま、どっち道そんなの成功された時点で北半球が駄目なら私達も駄目って事で、
もしかしたら誰か他の人が上手くやってくれるかも知れないけどさ、
こんなぐちゃぐちゃの状況じゃ自分らで出来る事やっちゃいたいよね。
本当に組織のエージェントになったら色々縛られるんだろうけど、
その前に、今回はこの手で好き勝手やらせてもらうよ。
だから、ちゃちゃっと世界を救ってきましょうか」
軽口ほど軽くはない、裕奈の言葉には何か根付いたものがあった。
「小太郎もまだ病院か。夏休みに続いてマジで死にかけて、
それで、どうするよ村上?」
「分かってる」
千雨の問いに、夏美は答える。
「分かってる。怖いよ。あの時、三人がかりでようやく生きて戻って来て。
それで、二人とも大ケガして、私一人だったらどうにもならない、
本当に死んじゃうかも知れない、って、考えただけでも脚が震えそう。
でも…今、命懸けなのは私達だけじゃない。
私達は仲間がいる。今、一人で命の危険にさらされてるのは…
…せ…ない…」
夏美が、ぎゅっと両手の拳を握った。
「あいつは、レディリー・タングルロードはステージを踏みにじった。
自分の力で一歩前に出て、観客に向き合って掴み取ったアリサのステージを、
アリサを、ギャラリーをスタッフを侮辱した。
アリサの、みんなの夢が北半球の皆殺し?
ふざけるな…ふざけるなっ!!絶対に許せないっ!!!」
体を曲げ、地面に叫びを叩き付けた夏美の肩に、千雨は震える手を置いた。
「…される…」
ぽつっと口を開いた千雨の次の言葉を、皆待っていた。
>>714
「科学に任せても魔術に任せてもアリサは殺されるっ!」
千雨が、憤怒の顔を上げた。
「アリサは、アリサは只、歌が好きで、夢に向かって一生懸命、
自分で努力して、ストリートだって楽じゃねぇよ。
自分を信じてみんなの前で自分の身一つ晒して歌い続けて、
それで大勢のファンに愛されて夢を掴んだ。
それが、それがなんで北半球を滅ぼす悪者?
そんな事、なんでそんなふざけた話がリアル気取ってやがる。
そんなふざけたリアルもファンタジーに出来ないって言うんなら、
そんなちから、使えねぇにも程があるっ!!」
一気に吐き出して、肩で息をした千雨が皆を見た。
どこか遠くの、ふざけた幻想をぶち殺す少年と想いを共にして。
「アリサの命と地球の全ての命、その上魔法世界まで天秤に掛かってる。
高音さん達が頑張ってくれてるって、信用したい。
それでも、ここまでややこしく絡み合った状況だ。
一つの我が儘の優先順位がどうなるか分からない。
私は…私はアリサを、私の友達を助けたい」
千雨が、ばっと頭を下げた。
「もちろん、それ以上の死人なんて見たくも聞きたくもない。
難易度は相当高い、高すぎる。
だけど、この面子ならいける、かも知れない。
それなら諦めるなんてやっぱり出来ない。
成功条件はただ一つ、みんな笑ってハッピーエンド、
この緊迫し過ぎた状況で他の選択肢の無い無理ゲーだ。
それでも、力を貸してくれ。頼む!」
千雨が頭を下げて、どれぐらいの時間が経っただろう?
少なくとも千雨にはとても長く感じられた、
その静寂は一つの叫び声で破られた。
>>715
「…北半球なんて知るか!!」
千雨が、はっとしてそちらを見る。
「そんな誇大妄想のファンタジー話はもう知らん!」
千雨は、不敵な笑みを浮かべる周囲の中で、
夏美の叫びを唖然として聞いていた。
「千雨ちゃんの友達を助けに行こうかっ!」
沸き上がる声に、千雨は懸命に涙を呑み込む。
こちらを見た夏美と目が合った。
千雨は精一杯の笑みを返した。
夏美も又、にこっと笑みを返して見せた。
× ×
素直になれなかった二人も遂に20
「はあっ、はあっ、はあっ!!」
薄暗い病室で、佐倉愛衣がバネの様にガバッと飛び起きた。
「な、なんでしょう、
何かとてつもなくこの世の終わりの様な悪い夢を見た様な…」
腕で額を拭いながら、愛衣は入院着の胸元を摘みきょろきょろ周囲を見回す。
探し当てた洗面器に水を汲んで来る。
病室のベッドに戻って濡らしたタオルを絞り、
ひどい寝汗で気持ち悪い衣服を脱いで体を拭う。
傷一つ残っていない。
ごめんなさい、お姉様
あの時、火炎術者である愛衣の命すら危うくなる未知の業火の後、
愛衣は緊急の生命維持の後は外側の修復に魔力を集中させてしまった。
そんな事したら、只でさえ危険なレベルで魔力が消耗している上に
直接的なダメージを受けた体の中がどうなるか分からない状況だった筈なのに、それでも、
>>716
ごめんなさい、お姉様
正確な記憶ではないが、イメージは頭の中に残っている。
あれは、間違いなく意識を失った愛衣が病院に担ぎ込まれた時の事だろう。
あの時の、高音の顔、叫び声。
ふと気が付き、携帯を手にしてメールを確認する。
病室に畳んで置いてあった着替えを身に着け、髪を結い、その下にあった仮契約カードを手にする。
自分のした事は理解している。
いつまで手にしていられるか分からない。だからこそ。
「お早うございます」
「お早うございます」
一応下は確認した筈だったが、窓から地面に着地した所で、
愛衣はナツメグを引き連れた高音と朝の挨拶を交わしていた。
「元気そうで何よりです」
「お、おにぇえ様っ、こ、これはそにょ…」
「愛衣が休んでいる間にも世界情勢は刻一刻と動いています。
私達はこれから科学の学園都市に現状調査に行きます。
もちろん、魔術関連の立入許可など出ていませから秘かにです」
「は、はい」
「どこに行こうが私達は魔法使いです。
で、ある以上、事に遭遇したならば、
現場の判断により悪い魔女に閉じ込められた一般人のお姫様を救出したり
ついでに世界を救ったりする事もあるかも知れません。
ついては、人手が足りません。体の方は大丈夫ですか?
最新の検査結果でも身体的な支障は小さいと聞いていますが」
>>717
「え、でも、あの私…」
「現時点において、私は愛衣の行動制限に就いて何も聞いていません。
例えこれから聞いたとしても、伝令兵を後ろから撃ち殺してでも全力で聞かなかった事にします。
冗談ではありません。敵地のど真ん中で只でさえ少ない人手を減らされてたまるものですか。
来るのか、来ないのか、返答は?」
「行きます。行かせて下さい」
「分かりました。ある程度事態は飲み込めてるみたいですね。
どうせ、向こうも止めても行くでしょう。
何のための魔法使いか、魔法使いの仕事と言うものをやり遂げに行きましょう」
「はいっ!」
「………愛衣、あなたが余りあの人達に感化されると、私の胃が危なくなります」
「すいません…」
「とは言え、あなたが、振り返らせて引き付ける程カッコイイ女にならなければ、
私の姉たる立場が廃ります。いいですね」
「はいっ」
今回はここまでです。続きは折を見て。
こう言っちゃなんだが、こいつら魔法世界での戦いから成長してないんだなぁと思ってしまう。
勿論、良い意味でも悪い意味でも。
成長してないから数十億の命を勝手に賭けてしまってるけど、未熟だからこそ友達の為にリスクを無視して突き進める。
序盤から中盤までは白き翼は失敗ばかりだが、ラストで挽回できるか楽しみ。
ふと思ったのは一応科学のトップの許可を得て入ってるステイル達は良いとして、麻帆良の魔法使いは許可を取ってるんだろうか?
乙
しかしこいつら書庫をハッキングしたり学舎の園に侵入したり超能力者に接触したり余裕で条約ブッチしてんのに何で捕まらないんだ?
暗部組織が魔術サイドの人間を襲ったのも前代未聞だし
学園都市がやられっぱなしで終わる理由はない気がするんだけど
乙です
捕まんないのは裏でアレイスターがもみ消してんじゃね。
>>720
雑談に
「超能力者」関連だけまとめて見た
おおよその時系列一部順不同?だと
小太郎が常盤台女子寮潜入・撤退
千雨チームが超電磁砲組と逃走バトル・一応和解
三弟子に捕獲された佐倉愛衣を御坂美琴が救出
運動部がアイテムと交戦逃走
ネギが一方通行をタイマン撃破
図書館三人組・ネギと婚后グループ・美琴がストリートファイト
くーふぇが削板軍覇とタイマン
小太郎・夏美・愛衣が垣根帝督撃破
ハハハハハ笑うしかねーよ、いや、私がサクシャなんだけど(汗 …
まあ、何とかします、多分…
感想有り難うございます。
>>719
核心を突くレスをどうもです。
以下、ちょっと軽口として言えば、
特に魔法世界編のネギ先生も上条さん特にこの映画のも>>719の意味では
理屈や責任ぶち超えてでも百点満点取りに行く似た様な所がありますからね。
それから、本作の麻帆良の魔法使いですけど、基本、科学の学園都市へは無許可立入です。
少なくとも千雨や高音さんが知っている限りでは。
ネギ先生はプランの関係で公式訪問してますけど、
事件関係で出入りしてる訳ではないですから。
千雨達は最初から論外、
その辺の事は前回の投下で高音さんも言っちゃってるし、
愛衣も弐集院先生にセキュリティごまかしてもらったりしてる訳で。
まあ、禁書の原作の描写考えると、限りなく泳がされてるっぽいですけどね…
…ええ、分かってます、ここでは私が作者だと…
以上、「作者の公式」に非ずって事にしといて欲しいお喋りはこの辺にして
それでは今回の投下行きます。
>>718
× ×
「もしもし?で、何か分かった?」
携帯に出た麦野が尋ねる。
「ああー、その情報、大体当たりだね。
研究所の方じゃひた隠しにしてるけどさ、
確かにその研究員がブツ持って姿消してる。
オカルトにはまってたってのも本当みたいだね」
「そのブツってのは?」
「まあー、遺伝子工学系のヤバイ代物なのは間違いないわ。
で、その研究所、資本がオービット・ポータルなんだよね」
「オービット・ポータル?」
>>724
「例の宇宙エレベーターエンデュミオンの親会社。
しかも、色々ダミー介してその研究所を裏から支配してる状態。
そこ巡ってこっちの世界じゃあかんなり訳分からない状況になってるよこれ」
「そう言われてもこっちだって訳分かんないわよ」
「だろうね。これからお披露目だって時に、エンデュミオンに絡んで相当ヤバイ事してて、
それに対してどこをどの程度の規模で動かすかって、こっちの上の方でもごちゃごちゃしてるって訳。
只、こっちの御同輩?そいつらの方が又訳分んない事になっててさ。
これも又色々取り繕ってるけど、ざっくり言って、
スクールの第二位がKO負けで病院担ぎ込まれて、
メンバーの犬使いはコンテナ入ったまま避暑地にダッシュって感じで、
はっきり言って駒不足なんだわ。これでなんかあったら確実にお鉢回って来るね」
「ちょっと待て、第二位がKO?」
「ああー、間違いないね。裏の裏の情報でもなんとかかんとか
せめて交通事故って事でよろしくって感じで必死こいてるみたいだけど、
連中側の情報管制からの裏読みとかなんとか、そっから見て、
どぉーっかの能力者にボコられたとしか思えないわこれ」
「おいおい、第一位様でも出て来たってか?
けど、第一位も、スキルアウト辺りならとにかく、
第二位とやり合えるって状況じゃあない筈だぜ」
「ああー、それに関しても何か変な話が聞こえて来たり来なかったりだけど、
この辺の事は不確定でね、しかも突っ込むと本気でヤバそうだったり。
話戻すけど、その、バイオ関連のアブナイ研究、
そいつ主導したのも金の流れやらなんやらから考えてオービット・ポータルで間違いないね。
今んトコ仕事って訳じゃないんだけどどうする?唾付けとく?
こっちで先行して情報握ってる訳だし、
オービット・ポータルは多分こっちに火の粉飛んで来るよ」
>>725
× ×
科学の学園都市の外周で塀の上に飛翔した刹那は、
そこから長い長いロープを二本、下に垂らす。
塀の上で見付けたポイントに金具を接続し、
その固定を確かめてからのどかと木乃香がロープで塀の上まで上ってきた。
「改めて、凄いですねお二人とも」
「図書館探検部ナメたらあかんえせっちゃん」
葉加瀬に借りた光学迷彩をずらして木乃香が言う。
「急ぎましょう。
葉加瀬さんがギリギリの所で衛星や機械的なセキュリティの穴になる様に調整してくれましたが、
それも長くは保たない筈です」
言いながら、刹那は携帯で葉加瀬に連絡を取る。
セキュリティーホールの方向転換の依頼だ。
× ×
「…さて…」
ようやく塀を降りて科学の学園都市の中に入った刹那一行は、
地図を見て思案していた。
「行き先は第七学区…侵入セキュリティの便宜のためとは言え、
ここからでは少々遠いですね。タクシーでも…」
言いかけた刹那は、瞬動術で一瞬にして木乃香に駆け寄った。
その時には、親指を立てて微妙に体をくねらせた木乃香の前に
一台のワゴン車が停車していた。
>>726
「オッケーやてせっちゃん」
「え、いや、あの…」
「あー、お連れさん?
お友達もかわいーねー。オッケーオッケー」
運転席から、いかにも軽薄そうな金髪の男が歯を見せて言った。
「え、いや、あの…」
かくして、木乃香に押し負けた刹那も、のどか共々ワゴン車に乗り込む。
× ×
「あー、そう、分かった」
個室サロンで、麦野が携帯を切る。
「尻尾が掴めた、行くよ」
「超了解です」
アイテムの面々が部屋を出る。
ベキッ、ベキメキッ
「結局、滝壺どったのって訳よ?」
最後に部屋を出ようとした滝壺理后と、
その滝壺の指の形に変形したドアノブを見比べ、
フレンダ=セイヴェルンがつーっと汗を伝わせて尋ねた。
「なんとなく、非常に不愉快な信号が第七学区方面に向かってる」
>>727
× ×
「行き先は第七学区?」
「は、はい」
「まあ、車ならそんなかからないかなー」
刹那は、注意深く車内を伺う。
どう見ても、余り芳しいとは言えない状況だ。
この運転手の明らかに不良少年的に染めた金髪野郎。
男にしても結構大柄だが、それにしたって年齢的に自動車の運転免許を持っているとは考え難い。
そして、元から乗っていた男性二人。
どちらもおおよそ似た様な年頃だろう。運転手ほど軽薄な感じではないが、
「匂い」が似たりよったりだ。
運転手も大柄な方だが、男性二人の内一人は堂々たる巨漢。
貫禄十分に無言で腕組みして座っている。
刹那も相当に出来る相手だと踏んでいた。
「おい」
そしてもう一人、こちらは取り立てて特徴と言う程のものも無い男が口を開く。
「どういうつもりだ?こんな時に」
「いーじゃん。だってこんな可愛いし、困ってたみたいだからさ」
「いやいや、お前、困った人に手を差し伸べるタイプだったかこの段階で?
しかも今俺達は何やってるか…」
「はーいお嬢さん、その後ろに積んでるシートの中とかめくって見たら駄目だからねー、
ぜーったいその中の機械とか触ったら駄目だからねー」
何か私気になりますとばかりに好奇心を蠢かせる木乃香に、
運転席から丸でお笑い芸人が押すなよと言わんばかりの釘が刺される。
そして、運転手はチラとバックミラーを見る。
>>728
「で、行き先は第七学区だったね?」
「はいな」
「じゃー掴まっててぇー、リニアモーターカーでブッ千切っちゃうからさーっ!!!」
ぎゃぎゃぎゃぎゃっと不穏な音と共にガクガク揺れる車が発進し、
外から何かスピーカー越しの絶叫が聞こえて来た。
「ぐぉぉぉぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ
待つじゃんよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっっっ!!!」
× ×
「はいこの辺で良かったね、それじゃあねー」
「はーい、おおきにー」
第七学区のとある一角で、半ば目を回したのどかを支える様にしながら美少女三人が降車し、
ワゴン車はぎゃぎゃぎゃっと激しい音を立ててその場を離れる。
全く、売り飛ばされないだけ助かった、ミンチにならなかったあいつらが、
等と考えていた刹那の前を、決死的なドリフトで近くの角を曲がった
一台のパトカーが猛スピードで通り過ぎる。
たった今自分達が通ったルートを通り刹那達の目の前を通り過ぎたパトカーの行き先で、
何やら大爆発が起きたのは見なかった事にする事で三人のコンセンサスが成立する。
「あれは…」
反対車線側の歩道を見た刹那が、二人に耳打ちした。
「すいませーん」
「はーい」
木乃香が声を掛けたのは、清掃ロボに跨った土御門舞夏だった。
>>729
「あのー、土御門元春さんを探しているんですけど、
もしかしたら可愛いメイドの妹さんがいるて伺いましたさかい」
「あなたは誰、何の用なんだー?」
「はいな、うち藤原言います。お兄さんに出先で少々ハンケチをお借りしまして」
「兄貴かー、悪いなー、ちょっと今留守だからー。
私から返しておくけど」
「そうですか。ほなすいませんけどうち急ぎますよって」
「ご丁寧にどうもだぞー」
ハンケチを渡された舞夏がヒラヒラと手を振って二人はそれぞれ別方向に移動する。
少しして、木乃香が戻って来て路地裏で刹那、のどかと合流する。
「どうやった?」
「…それが…」
木乃香の問いかけにのどかがいどのえにっきを差し出す。
「…胃と十二指腸の十数カ所から突如出血して緊急入院?」
「何か、無理な術式でも使ったのでしょうか…」
呟く刹那の声は乾いていた。
今回はここまでです。続きは折を見て。
禁書の新刊を読んだけど、禁書のトップクラスって真っ当な手段で倒せる奴が殆んど居なくてワロタ。
ネギま作中での破壊力やスピードの描写を参考にする限り、ネギま勢のトップクラスが全盛期アックアに勝つのが限界っぽいからバランス調整が難しそう(ネギの雷天双壮のスピードで咸卦法タカミチ並みのパワーがデフォな聖人とか頭おかしい)。
乙です
ラカンさんだったらオティヌスでも脱がせる気がする
造物主に勝てない時点で一撃で世界を壊すオティヌスちゃんは倒せない
てか脱がせるまでも無くほぼ裸体じゃん
やっちまったぜぃorz
>>727>>728
間違えた。金髪じゃなくて茶髪だった。
>>731
本作を書いている身として一言だけ言っておこう。
…頭イテェ…
それでは今回の投下、入ります。
>>730
× ×
ホテルを出て、朝の学園都市を鼻歌交じりに散歩している。
それだけでも、十分に周囲の目を引いていた。
「へぇー」
「可愛いー」
元々が可愛らしい小柄な女の子。
一つ間違えたら悲惨な事になる、
真っ白ふわふわなドストレートに甘ロリファッションも見事にマッチしている。
元々変な格好なのだから、本来甘ロリファッションにしても意味不明な木の棒を両手に握っていても
そこを気にする者は、少なくともすれ違うだけの通行人には存在していない。
そんなこんなで、毎度のロリータ姿の月詠は、
その胸の高揚を今のところは気合いで制御しつつテクテクと街を歩いている。
後何歩歩けば元は鴨川に磨かれた白き頬が美酒に酔うたが如くに染まり、
そして、よだれがたらりと溢れ出すのだろう。
今でも、嗚呼、この度の仕事、想像するだけでも手にした木の棒を(以下略)
だが、目的地に着くよりも随分早く、
月詠の関心はもう少し間近に現実的なものに向けられ、唇に薄い笑みが浮かぶ。
月詠ほどの達人でも、ほんの僅かな、一瞬で消える風の違和感しか感じられなかった。
もし、一般的な通行人が月詠をずっと監視していたならば、
こう表現した筈だ、消えた、と。
>>735
タンッ、と、月詠は爆発的なステップで方向を転換し、路地裏に突っ込んだ。
そのまま、行く先々に引っ繰り返った将来の佐天さんのお知り合い候補だけを残して
タンタンタンタンターンッと表から裏に、路地裏から路地裏に鋭い動きで移動し続ける。
しまいに、何か高い塀とビルの間に入った月詠は、
そのビルの壁を蹴って塀へとジャンプしその塀を蹴ってビルの壁に、と言うふざけた連続技で
どんどん高度を上げていく。
そして、ひらりと塀を跳び越えて普通なら怪我では済まない高さにすたーんと着地する。
周囲の光景を見て、月詠は唇を緩める。
何かトラブルでもあったのか、破壊された建物の残骸に、
資材の山があちこちに残された雑然とした空き地。
実に、おあつらえ向きだ。
ほら来た。
月詠の握る小太刀二刀流が、襲い来る刃を次々と弾き飛ばす。
逃げ巧者、月詠の第一印象はこうだった。
受けて立った印象が、何となく頼りない。
物陰から物陰へ、するりするりと移動している。
そして、隙を見ては攻撃を仕掛けて来る。
それでいて、こちらの刃からはするりと身を交わす。
丸で鰻でも相手にしている様だ。
「…ほなら、うちから行きますえ…」
物陰に、ぞおおっと戦慄が走る。
白黒入れ替わった様な目でにいいっと笑った月詠が行動を開始する。
水槽に手を突っ込んでかき回す様に、物陰から物陰へと、
圧倒的なスピードとパワーを叩き付けて襲撃して回る。
月詠が元の場所に戻った時、まずは這々の体で生き残ったと言った感じで、
その者達は月詠の周囲に姿を見せていた。
>>736
それは、手ぶらであれば、そのまま道を歩いていれば只の通行人にしか見えない集団。
老若男女、服装もバラバラ、得物も一般的に見るなら物騒だが
統一感のある軍団と言ったものには見えない。
それぞれがめいめいの剣やら槍やらを手にして月詠を囲んでいる。
(………の、様でいて、意味は無いではない………)
じりっ、じりっと包囲を横目に月詠は使い手の目で見定める。
ゆらゆらと動く包囲から何度か攻撃が仕掛けられ、月詠がそれを凌いで反撃する。
その度に、ゆらゆらとした包囲からするりと交わされる。
「………一人一人は木偶。厄介なのは陣構え………
神道でもあり仏教でもあり、陰陽もあり、根っこは十字教でそれでいて土着の八百万…
ごちゃごちゃややこしいわ………」
× ×
「常盤台の女子寮、ですか」
土御門舞夏を追跡していた刹那が物陰で呟く。
「御坂美琴さんがいるのが常盤台って千雨さんの資料にもありました」
その近くでのどかが言う。
「来るかなぁ」
「病院を探すのも手間ですし、このルートで接触を待つのが手堅いかと」
木乃香と言葉を交わしていた刹那が、立てた人差し指を唇に当てた。
アロハに金髪、グラサン、一目でそれと分かるその男、
土御門元春が確かにその近くの路上に姿を現した。
三人が動き出す前に、土御門は携帯を取り出す。
>>737
× ×
「もしもし」
着信した携帯の通話ボタンを押し、土御門は問いかける。
「もしもし」
その返答は、少女の声だった。
「お加減いかが?随分重症だと聞いたけど」
「ああー、お陰さんでな。
ま、結構にトンデモな技術でこうやってぴんしゃん動き回ってるよ、
何せ、寝てる状況じゃねぇからな」
既にして、軽い口調はそのまま相手の背筋に刃の冷たさを感じさせる。
「それで、思わせ振りなメールでこんな所に呼び出してくれて、
デートでもしてくれるのかにゃー?
可愛いロリっ子ってのも悪くないけど」
「いいのかしら、ここでそんな馬鹿話してて。
聞こえたら嫌われるわよ」
「テメェこそ、ここでそれを口にするって事がどういう事か、
分かってて言ってるんだろうな?」
「あらあら、病み上がりで余り興奮すると、
又、胃に穴が空くわよ」
「なら、早急にその原因を根本から取り除きたい所だな。
なんなら是非とも今すぐ俺の前に面出してもらいたい、それが特効薬だ」
「お生憎、これでも忙しい身なのよ、分かるでしょう?
何せ、本日お披露目の宇宙エレベーターエンデュミオンの最高責任者、
なんて事をしているのだから」
「みすみすそれをさせるとでも思っているのか?」
「どの手駒を使うのかしら?
ネセサリウス?それとも科学サイド?あるいは…」
>>738
「…Mのイレギュラー、暗部と噛み合わせたのもテメェだな?」
「この街でこれだけの企業を経営している以上、
相応の人脈も情報力も持ってるわ。
幸いな事に、あの得体の知れないオテンバ達、境界線上の技術を使ってた。
あたかもあちらサイドの怪事件の様に決裁まで誘導するのはそう難しい事じゃなかったわ」
「それで、本気で騙されてるとでも思ってるのか?」
「そんな事知らないわ。要は、今の結果さえあればいい。
今この時に、少しでも不安材料を排除する事が出来ればね。
どちらのサイドも一番厄介な実働部隊で軽くはない、
恐らく身動き取れないぐらいのダメージ、政治的なカオスがもたらされた筈。
元々、それを防ぐのはそちらの得意分野だと思ってたけど、案外大した事無いのね」
「挑発か、底が知れるぜぃ。
そんな事で脅威を取り除けた、なんて本気で思ってるのかにゃー?」
「フェイク、それが本当だろうが、
今更そんな事で何かが変わるとでも思っているのかしら?」
「さぁな、こっちも忙しいんだ、あんまり無駄話をしてる暇は…」
「暇じゃないと困るのよ、あなたは」
「何?」
「あなたの目の前には今、何があるかしら?」
「ん?」
そこは第七学区、一般的な現代的街並みの中に、
古めかしい洋館を思わせるモダンな女子寮。
「今、そこの食堂には誰がいるのかしら?」
「おいおい、勘弁してくれねぇかにゃあ」
土御門が、バリバリと金髪を掻いて言った。
「テメェがその先言っちまうと、
俺としちゃあ、どこがどうあろうが後に引けなくなっちまうぜぃ」
「だからこそよ。よく聞きなさい、今置かれている状況を」
「テメェの嬲り殺しの刻が刻一刻と迫ってるって言う状況か?」
「それは嬉しいわね。過程を省いてくれるならもっと嬉しいんだけど」
「だが断る。言ってはならない事を口に出した、
その時点で生きながらミンチでそのままハンバーグで地獄行きは譲れねぇ」
>>739
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
「何がおかしいっ!?」
挑発合戦であったが、
それにしても異様な笑い声についに土御門が声を荒げた。
「教えてあげるわ、今置かれている状況をね」
「分かりやすく頼む」
「あの女子寮には、特殊部隊のその道のプロが潜伏してるわ。
ハッタリだと思っているでしょう?残念ながら不正解よ」
「正解を、俺が納得出来る形で教えてくれないか?」
「ええ。難易度で言えばとびきり高い、でも、こちらも譲れない。
僅かな綻びであっても破綻する前に対処出来る様に、惜しむ事は何もなかったわ。
お陰で、今、この日この時この一瞬のためだけに、
とてつもない費用と時間を掛けて潜入させた業者に化けた特殊部隊が、
瞬時に身柄を確保して時間を稼ぐ手筈になっている。
もう、間に合わないわよ。
せめて無傷で解決したかったら、今日一日だけ大人しくしている事。
それだけでいいの。今日一日だけ連絡を絶って大人しくお茶でも飲んで待っていてくれるなら、
それ以上の事をさせるつもりはないわ。
無論、向こうもプロだから、女の子一人に余計な事はしない」
「あー、そのプロって言うのは…」
「ええ、これまでも不可能と言われた数々のミッションを成功させて来た…」
「男三人女三人…」
「女と言ってもSPにしても突入にしても超一流、
隠密行動もパーフェクト、もちろんその辺の男…」
電話越しにごくりと唾を飲み込む音を聞きながら、
土御門は別に取り出した携帯のムービー機能を作動させる。
>>740
「あの俺の目の前の路上で丁度男三人女三人で素っ裸になって
四十八手の実演パフォーマンスやってるあいつらの事ですかにゃー?」
「くぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!
なぁぁぁぁぁにやってるじゃんよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっっっ!!!」
「な、何?」
物陰で木乃香の目を塞ぐ刹那の事など知る由も無く、
電話越しにぽかんとした声を聞き、土御門は鼻で笑う。
「あの学校の中のとある派閥は、親睦を深めるために、
時々別の寮の生徒も招いて合同朝食会を開催してるんだにゃー。
そんな時に、どっかの野暮がどなた様かの逆鱗にでも触れたんじゃないのかにゃー」
「そう」
「ああ、そういう事だ。
つまり、こういう事だ。
お 前 は 俺 を 怒 ら せ た
」
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
乙
相変わらずレディリーたん詰めが甘いなぁ
暗部上層に干渉できるならもっと効果的な手段があったろうに
このSSでもホルマリン漬けは避けられそうも無いかな
土御門を怒らせた時点でホルマリンは最低ラインだな
毛皮生物で勘弁してあげてください><
感想どうもです。
それでは今回の投下、入ります。
>>741
× ×
「ここか?」
研究所だった建物の廊下で、「アイテム」のメンバーを従えた麦野沈利が呟く。
学園都市は科学研究の街。数ある研究所の中には、
こうしてもろもろの事情で閉鎖される研究所も少なからず存在する。
調査担当の下部組織の報告を受けて動いている訳だが、
麦野がドアを開き、まずは頑丈さに定評のある絹旗最愛が、
それに続いて他のメンバーも中に踏み込む。
「チェックメイトだ」
がらんとした部屋に踏み込んだ麦野は、目の前に座り込む白衣の男に声を掛ける。
「持ち出したブツ、渡してもらおうか?
こっちは高位能力者揃いだ、痛い目見るだけ無駄よ」
白衣の肩が震え、風の様な笑い声が聞こえる。
「なーにがおかしいんだにゃー?…あれか?」
麦野と座り込んだ男が一直線の向きとなり、
その更に先の床に、何か泥の塊の様なものが見える。
近くには開かれた金属のカプセルが。
「まさかもう?…」
「くくっ…」
「おいっ」
笑い声を漏らす男に麦野が声を荒げる。
ぐるりとこちらを向いた男を見て、麦野が僅かに目を見開いた。
>>746
「逃げろっ!絹旗あっ!」
「超了解っ!」
腕を広げた絹旗が楯となる形で、絹旗をしんがりにアイテム一同がドアへと走る。
振り返った男の顔は、ギャグ描写ではなく、
メロンの様に血管が浮き上がり表現し難い色に染まっていた。
「アーヒャヒャヒャヒャヒャヒャwwwwwww……………」
白衣の男の高笑いを聞きながら、アイテムの面々は廊下に駆け出しドアを閉めた。
「おいっ、血とか被ってないだろうな」
「結局、大丈夫って訳よ」
「だいじょうぶ…」
「超大丈夫です。衣服には届きませんでした」
「バイオハザードかぁ?冗談じゃねぇぞ…」
その時、ドアが何かごっ、ごっと音を立てた。
「生きてる?」
滝壺が呟く。
「おいっ、生きてるのかっ?」
麦野が尋ねるが返答は無い。
その内、音はガン!ドン!と明らかに破壊的なものに変化する。
一同がドアから距離を取った。
ドガン!と、ドアそのものが吹き飛んで廊下に倒れ込んだ。
「な、何?」
フレンダが目を丸くして声を漏らす。
部屋から廊下に、ずりっ、ずりっ、と、異様なものが這い出てきた。
そして、隙間から見える部屋の中には、白衣がちらっと映っている。
白衣に包まれているのは真っ赤な肉塊に等しいものだった。
>>747
それは、蛭の様な蛇だった。
蛭の様にどろりとぬめぬめとした大蛇。
胴体は麦野の肩よりも広く、しかも、途中で枝分かれして、
麦野の太股よりも太い首が何本も伸びて
その一つ一つにきちんと蛇の頭がついて鋭い前歯の間からチロチロ舌を出している。
「ひいっ!」
「化け物おおおっっっっっ!!!」
明らかに食らい付く勢いでフレンダに伸びた何本もの首を、
麦野の原子崩しが胴体ごと吹っ飛ばした。
「サ、サンキュー麦野…」
「遺伝子工学で怪獣製造、B級映画ってレベルじゃねぇぞ…」
流石に麦野も汗を拭いながら麦野が言う。
「あ、あ…」
「ん?…!?」
フレンダが震えて指差した先を見て、麦野も一瞬たじろぎを見せた。
全体的に半壊していた大蛇の肉体が修復され、
その上、ちぎれた首の切り口から二股に分かれた首が生えて来た。
「このっ!」
しゃあっと突っ込んで来た二本の首を原子崩しで吹っ飛ばす。
そのちぎれた切り口一つから、めきめきと二本の首が生えて来る。
「ヒュドラかよ」
更なる原子崩しで大蛇に穴を空け、
牽制した麦野が苦り切った顔で吐き捨てた。
「ヒュドラ?」
フレンダが尋ねる。
>>748
「ギリシャ神話に出て来る蛇の化け物さ。
気付かなかったか?さっきの部屋、多分こいつの原形だったのが魔法陣の真ん中に鎮座してた。
壁もギリシャ語の走り書きだらけだったよ。
オカルトにトチ狂ってたってのはマジらしいなぁ」
首の一つがアイテムに向けて鎌首を上げた。
絹旗が、ざっと麦野の前に回り込む。
「な、な、な…今、何?何か吐いた?」
「コブラだって出来る事だ、ビビッてんじゃねぇ」
震えるフレンダに麦野が言う。
開いた口の牙から噴射された毒液は、
絹旗を直撃して窒素の壁に阻まれて床を濡らすに留まる。
「オカルト狂いのマッドサイエンティストが
バイオテクノロジーで神話上の怪物を超再現、ですか。
超眠そうなストーリーですねっ」
そう言って、絹旗がタンッ、とヒュドラに突っ込んだ。
手近な頭を殴り付け、別の首を小脇に抱えながら近づく頭に蹴りを入れる。
「どけっ!シリコンバーンで塵にしてやるっ!!」
「超不確実ですっ!肉片から分裂でもされたら超洒落になりません。
最悪、私達がスケープゴートにされます。
フレンダっ、食い止めている間に火炎放射器かナパーム
超ありったけ持って来て下さいっ!!」
左腕に噛み付かれながら絹旗が叫ぶ。
「分かったっ!」
「死ぬんじゃねぇぞ絹旗っ!!」
「そんな絹旗を応援してる」
「超フラグ立てないで下さいっ!」
「あんのアマ、ぶち殺し確定だっ!!」
>>749
× ×
第七学区常盤台女子寮前に二台のワゴン車が急停車する。
その中から、突撃銃を手にした黒ずくめの軍団がドドドドッと飛び出して玄関に突入する。
独裁者の首の一つや二つ通常業務の範囲内であるそのバックアップ部隊が玄関から突入し、
玄関から反対車線側の建物の壁に叩き付けられる勢いで退場するまで一分と掛からなかった。
「あー、満足したかにゃー?
そもそも、ホワイトハウスでも制圧出来るって常盤台を正攻法とか正気か?」
「まあ、潜入部隊が失敗した時点でこういう結論に達するわね、このプランだと」
「それが分かってるなら無駄な足掻きはその辺にしとけ。
ここに狙いを付けたって時点で、先に進めば進むほど、
テメェの死に様の愉快さ加減がアップして行くってもんだぜ」
「ふっ、ふふ」
「ん?」
「ふ、はは、ふはは、アハハハハハハハハハハハハ!!!!!」
「!?」
路地裏で、刹那が鋭い目つきで女子寮を見上げた。
「お嬢様はここに、宮崎さん、引き続き土御門のウォッチを」
「分かった」
「分かりました」
× ×
第七学区常盤台女子寮内。
迷い込んだ小蝿も追い払って朝食会も無事終了し、
すっと横目を走らせた食蜂操祈は、その視界に一人の女子生徒を捕らえていた。
その女子生徒は、制服姿で携帯電話を使うと、そのまま廊下に向けて歩き出す。
「女王」
「付いて来なくていいわぁ」
取り巻きを手で制した食蜂は、歓談を抜けて先ほどの女子生徒の後を追う。
>>750
女子生徒は階段を上り、廊下の奥まった部屋に入る。
食蜂の前方で幾つものドアが一斉に開き、中からぞろぞろと何人もの女子生徒が出て来る。
彼女達は制服姿、それはここでは当たり前として、特徴が二つ。
一つは、振り回すには手頃なサイズの槍を手にしている事。
もう一つは、最上位の精神系能力者である食蜂であれば容易に分かる、
目に独特の淀みが見られる事。
食蜂が、生気なくぞろぞろと移動を始める槍持ち達にリモコンを向けてスイッチを押す。
「!?」
正気に戻った目に一瞬で淀みが戻り、そして、その目は食蜂に向けられた。
「や、やめなさぁいっ」
もう一度リモコンを使うが、先頭の女子生徒が一瞬ひるんだだけだった。
食蜂は内心後悔する。取り巻きから物理的火力のある人間を連れて来るべきだった。
先頭の女子生徒が食蜂に突き出した槍の穂先は大きく逸れ、壁に突き刺さる。
それを見て、すわっと凶暴化した女子生徒達の先頭に電撃が浴びせられ、
吹き飛ばされた先頭組の少女の背中で後続も吹き飛ばされる。
「御坂さん?どうしてここに?」
「あんたが又、こっちに来てまで妙な動きしてるからでしょ」
「妙なのはこの娘達よぉ」
食蜂が言ってる側から、槍持ちの生徒達はゆらりと立ち上がる。
「嘘?今の直撃しても立ち上がる?」
ざざっと攻撃を仕掛けて来た槍持ち達に美琴が向かって行った。
電磁力で切っ先を反らし、電気能力で身体速度を増しながら
彼女達に人間スタンガンアタックを次々と浴びせて行く。
だが、それでも、彼女達はのそり、のそりと立ち上がる。
こうなったら御坂美琴にとって好みの好悪は無い。
どうやら手が打てないらしい食蜂の前で腕を広げ、事態を見定めようとする。
槍持ち達が一斉に立ち上がり、突っ込んで来た。
>>751
「!?」
美琴がとっさに電磁バリアを張った。
近くの窓硝子が窓ごと吹っ飛ぶ。
次の瞬間、窓から突入して来た小柄な少女がバカデカイ刀を一閃し、
槍持ちの女子生徒達はまとめて壁まで吹っ飛ばされていた。
「大丈夫ですかっ!?」
黒髪をサイドポニーに束ねた少女が、
小柄な体躯に似合わぬ野太刀を片手に叫ぶ。
「大丈夫、みたいねぇ。あの娘達…」
食蜂の言葉に、視線はそちらに向けられる。
のそりと動き出した槍持ち達は、上着を脱ぎ捨て、
立ち上がるとボタンを弾き飛ばしてブラウスの前を開く。
開いた胸元から抜き出した右手で槍を握り立ち上がっていた。
× ×
月詠は、じりっ、じりっと敵を見定めていた。
実力差は圧倒的の筈、この程度の相手であれば百人千人来ても月詠は苦もなく切り抜けられる。
ぬるりぬるりと自然な集団戦法に馴染んでいる、
そのために人数以上の相乗効果を出している点が厄介だったが、それにしたって限度がある。
ざわっ、とした気配と共に人波が割れた。
(西洋剣っ!)
月詠の右の小太刀が重い西洋剣を受け太刀する。
見た目そのままであれば月詠のちっこい肉体ごと断ち割られる重量、勢いだが、
現実にはしっかりと拮抗している。
そして、左の小太刀が身近で起こった爆発から月詠の肉体をガードし、
西洋剣を弾き飛ばした月詠がタッと距離を取る。
>>752
「おやおや、剣士はんかと思うたら手品師はんどしたか?
手品師はんが何の御用ですやろか?」
「足止め」
その言葉に、月詠がぴくりと反応する。
「それがお前さんの仕事だってな。
不慣れな仲介人を使ったらしいな。
蛇の道は蛇、こっちまでダダ漏れなのよな。
それなら、こっちのやる事は足止めの足止め、
勝手にやらせて貰うのよなぁ」
「くっ、ふっ、うふふふふっ」
月詠の顔に、にまあっと笑みが浮かぶ。
「この実力差でよう言いますわ。
とびきりのご馳走が待ってるさかい、
時間取らせて精々前菜ぐらいにはなってくれますんやろなあっ!!」
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
それでは今回の投下、入ります。
>>753
× ×
第七学区、常盤台中学学生寮食堂
「ん?兄貴?病院もういいのかー?」
既に閑散とした食堂に駆け込んだ土御門元春が、物も言わず土御門舞夏の手を掴む。
「お、おい兄貴」
「行くぞっ!」
「ち、ちょっと、まだ実習中…」
「いいから、ここはヤバイ…」
「ほう…」
土御門元春の素手喧嘩と書いてステゴロは相当な実力である。
少々時代遅れのヤンキー漫画のキャラクター相手でも、
民ナントカ書房のレベルまで行かないなら相当の相手まで勝利出来るだろう。
「朝っぱらから禁断の関係で駆け落ちか。
い い 度 胸 だ
」
その、軽薄な外見に中身はマッチョな実力者土御門元春が眼鏡を見た、
と、思った時には、寮の玄関から向かい側の建物辺りまで放り出されていた。
「くっそぉ…」
立ち上がり行動を開始しようとしたが、
既に玄関には車椅子に乗った白井黒子がふんすとばかりに居座っている。
正面対決では黒子だけでも話にならないのに、その背後にも何人かの影が見える。
警戒された状態の土御門が最低レベル3の常盤台の女子寮に強行突入、それ自体が無茶な話だ。
>>755
× ×
第七学区、常盤台中学学生寮廊下。
一度は桜咲刹那の一撃で背中を壁に叩き付けられるまでに吹っ飛ばされた女子生徒達が、
制服の上着を脱ぎ捨て、ブラウスの前ボタンを下着ごと引き千切って、
ブラウスの胸元から右腕を出してうようよと立ち上がろうとしている。
立ち上がり、左手に握っていたお手頃サイズの槍を右手でもしっかと握る。
「…アマゾンの戦士…」
「え?」
呟いた食蜂に美琴が聞き返す。
「何て言うか、あの娘達の頭の中に流れるコード名か何か、
確かに、そう見えない事もない」
めいめいゆるゆると構えをとった十人余りの槍持ち女子生徒を前に、
刹那は野太刀夕凪を正眼に構える。
「な、何?」
「剣気ねぇ」
膠着した状態を見て御坂美琴が呟き、食蜂操祈が応じた。
「今、あの大きな刀を構えてる全身からは、虎でも尻尾を巻いて逃げ出す程の剣気が放たれてるわぁ。
もっとも、あの娘達の精神状態から見て、一時の牽制にしかならないと思うけど」
「どうなってるのよ、ちょっと、あんた達っ、
いい加減そんな物騒なもの置いて、本気で怒るわよっ!」
「説得は無理ねぇ」
「これは、憑き物…」
刹那が呟く。
「私もそう思うわぁ」
退魔師である桜咲刹那と科学の学園都市第五位食蜂操祈の意見が一致した。
>>756
「は?ツキモノ?って?」
「取り憑かれてるって意味よぉ」
「取り憑く、って、幽霊でも取り憑いてるとか言うの?」
「そうよぉ、人間の脳は科学の世界でもまだまだ未知のブラックボックス。
そういうオカルト染みた言葉でしか表現出来ない、
言い換えるなら職人の勘としか説明出来ない概念が現実として稀に発生するのよぉ」
「何とかならないの?」
「難しいわぁ。タチの悪いコンピューターウィルスみたいね。
根っこになるウィルスがどこか、多分脳以外の場所にあって、
常時脳に悪性の信号を発信してる。
だから、元を断たなければいくら脳を書き換えても又同じ状態にされてしまうわぁ」
刹那は、正直面白いと思って聞いていた。
科学の学園都市は魔法禁制、理論的にも人間が吹っ飛ぶ程の様々な軋轢があるとも聞いているが、
本当にそれ程遠い存在なのだろうかと。
「来ますっ!」
刹那が叫ぶ。
美琴が前に出て、槍持ちの女子生徒の集団に向き合う形で、
食蜂が後ろ、右前方に刹那、左前方に美琴と言う配置が自然に出来上がる。
美琴の事を勘のいい、戸惑っても今やる事を理解出来る少女だと刹那は見る。
次の瞬間、刹那が破壊した窓から更なる突入があった。
突入者は槍持ちの集団に突っ込み、槍持ち達がことごとく吹っ飛ばされる。
「け、けけけ、拳銃ってあんたっ!?」
「安心しろ、麻酔弾だ」
叫ぶ美琴に、低い姿勢から立ち上がった龍宮真名が二挺拳銃を手に真顔で言う。
「の、割りには、取り憑いた元凶も消滅してるわねぇ。
ああ、もちろん、生命も一緒に、って事ではないわ正常な反応で生存してる」
そう言って、食蜂が薄く笑う。
>>757
「フリーのエージェントとして、とある筋から事態解決の依頼を受けた。
もちろん、仕事である以上、口が裂けても石を抱かされても
依頼人の名前を出すつもりはない」
すれ違い様、真名が刹那に言った。
「………だが、全員は無理だった」
見ると、直撃を回避し爆発的な攻撃に巻き込まれただけだった四人の槍持ちがよろよろと立ち上がる。
「おいっ、何の騒ぎだっ!?」
「寮監っ!」
「寮監か、面倒になるな。少し足止めして来る。後は任せた」
「え、あ、ちょっと…」
真名が、ドスドスと足音の聞こえる階段へと突っ走った。
ドガン!!
ドガン!!
ドガン!!
ドガン!!
ドガン!!
「な、なぁに?この二大怪獣が激突してるみたいな壮絶な気配は…」
「うん、寮監だし、それよりも今はこっちっ」
美琴が叫び、その目の前では、槍持ちの女子生徒二人と刹那が切り結んでいた。
刹那の夕凪が、背後の二人諸共相手を吹っ飛ばす。
それでも、槍持ち達は立ち上がる。
>>758
「な、なに、よ?」
そこで、美琴がゾクッとする。
槍持ち達の唇の端からつーっと赤い血が溢れ出す。
見ると、目尻や耳からも赤い筋が溢れている。
「御坂さん、脳波、感じられる?」
「あんたみたいに精密に他人の…何、これ?…」
「常盤台の生徒は最低でもレベル3。
精密に理論的に開発された脳のシステムに変なものが流れ込んでるわぁ。
何か、本来とは別の言語で無理やり動かそうとしているみたいな。
この状態が続くなら…脳が保たないわ」
前を見据えた食蜂は、
普段が普段なだけに陰気にすら見える。それ程に凄絶だった。
「お嬢様っ、すぐにこちらに来て下さいっ!」
その脇で刹那は携帯を使っていた。
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
乙
しかし緊急事態なのに土御門なんかに構ってる暇あるのかよ寮監
てか土御門がシリアスシーンで手も足も出ないってネタの領域超えてるだろ
感想どうもです。色々スマンかも知れませんが
それでは今回の投下、入ります。
>>759
× ×
第七学区常盤台学生寮廊下。
槍持ちの女子生徒のほとんどは真名の手で解呪された上で意識を失っている。
残りは四人、ここではA、B、C、Dとでも呼んでおこう。
状況的に見て、彼女達も恐らく被害者だ。出来れば傷付けたくはない。
桜咲刹那としては、そのために思う所もあったが、
(…私に、出来るか…)
唸り声と共に、槍持ちが襲撃を掛けて来た。
刹那の夕凪がそれを凌ぎ、押し返す。
次の瞬間、槍持ち達のこめかみから鮮血が噴き出した。
「長くは保たない、と言う事ですか?」
「そう見るべきね」
刹那の問いに食蜂が応じる。
今までキャラを作っていたのか、
これまでから一転して、刹那の身近にもいる様なしっかりした印象すら与える。
「一人一人なら私が何とか…なんとかしますっ!」
「分かった」
「分かったわ」
刹那の言葉に、美琴と食蜂が即答した。
「おおおぉーっ!」
刹那がA、Bと切り結ぶ。
「あんたこっちっ!」
「こっちに来なさいっ!」
そこに加勢しようとしたCの槍が美琴に引き付けられ、
Dも又、高出力の干渉脳波で食蜂に引き付けられる。
>>762
(…とは言え…)
美琴の張った電磁バリアに弾き飛ばされたCが、
体勢を立て直して槍を突き出して来る。
美琴はその切っ先を磁力で反らし、柄を掴んで相手の胴体を蹴り付ける。
それだけでもヤワな攻撃では無い筈なのだが、Cは丸で痛覚を度外視している様だ。
(やり難い…)
今の状態の相手に効果的な攻撃をしてしまうと、相手の肉体的ダメージが大き過ぎて寝覚めが悪い。
「おおおおっ!!」
Cが馬鹿力を振るって槍の柄を掴んでいた美琴を振り払う。
後ろによろけたCの鼻から血が迸る。
「この…」
「おおおっ!」
ぎりっと歯がみした美琴がバッと手を下に振る。
突き進んで来たCの槍がガクンと落ちて床に突き刺さる。
「ちぇいさぁーっ!!」
そのまま美琴が間合いを詰めてCを蹴り飛ばす。
「!?しまっ!」
一瞬の油断を突かれた。ざざっと床をはい進んだCが両腕で美琴の脚をすくい、
尻餅をついた美琴にCが襲いかかる。
「が、っ!」
Cの両手が美琴の首を締める。
Cの両腕を美琴の両手が掴み、バチバチッと紫電が迸る。
>>763
「くっ!」
夕凪でA、Bの槍を凌ぐ刹那だが、想像以上に手強い。
常盤台の生徒だと言う点で、能力開発以外にも素で何でもありの人材であり、素質がある。
しかも、呪いの力で何等かの補正が掛かっているとしか思えない。
その補正が彼女達に負担を掛けているのだから時間を掛ける事も出来ない。
それでいて相手の肉体的負担は最小限、俗に言う無理ゲーと言う奴だ。
「しまっ!」
ぎりっ、と、夕凪とAの槍の柄が押し合うその横をするりと抜けて、
Bが先行したのを見て刹那が叫ぶ。
Bの行き先の御坂美琴、そしてDと相対している食蜂操祈もとてもその相手が出来る状態ではない。
御坂美琴自身、Cとの相手で手一杯。
そんな御坂美琴の肉体を貫かんと、今正にBの手にした槍が一直線に突き出される。
御坂美琴も、今正に背中を抉る勢いの槍の穂先に気付くが、
辛うじて呼吸を確保している状態の御坂美琴には到底交わす余裕は無い。
(…バリ、ア…間に合わない…死んだ?…)
次の瞬間、一筋の光が窓からその内へと突き刺さる。
すかっ、と、あり得ない空振りにBはつんのめった。
確実に御坂美琴の肉体を抉る筈だったBの槍は半ばから切断され、
窓から差し込んで槍をぶった切った光はそのまま光の軌道のままに壁までぶち抜いてしまう。
Bが戸惑っている間にひらりと跳躍した刹那が、
Bの頭部をずぼっと自分の太股の間に挟み込んで、
そのままBの体を脚力で持ち上げ地面に叩き付ける非常識アタックを展開する。
「普通なら十分KOなんですが…」
よろりと立ち上がるBを見て刹那はコメカミにつーっと汗を伝わせる。
「げ、げほっ!」
辛うじて締める手が離れ、美琴とCが立ち上がる。
だが、そのまま、ギリギリと力比べが続き、ぶしゅっ、ぶしゅっ、と、
Cの額から、胸元から鮮血が迸る。
>>764
「あんたっ、いい加減にいっ!…」
目の前の状況と込められる力に美琴が苛立ち、止められない紫電が二人を舐め回す。
バババッと一度大きくスパークした。
「な、に、これ?又、流れ込んで…」
直接美琴の頭に流れ込む様な暗い声が美琴を戸惑わせる。
それは、最高のエレクトロマスターである美琴自身にも抑制の効かない、
暴走した体内電気の不正なリンクが脳で変換されたものと推測は出来る。
………ノウリョク………ノビナイ………ドウシテ………ワタクシハ………
………デキナイ………アルテミス……………
「………むっかついたぁ………しっかりしろおっ!!!」
美琴の叫びと共に、もう一度、大きなスパークが輝いた。
その脇では、ガキン、ガキインと、夕凪が振り回される槍を弾き飛ばし、
その一瞬のタイミングを巧みに作り上げる。
「神鳴流奥義、斬魔剣弐の太刀っ!!!」
神鳴流の中でもトップクラスの奥義を、それも二人まとめて。
本来であれば、流派の剣士としては、
刹那の身ではまだ正式な教授を受ける前の段階だった。
それでも、見様見真似でも、やるしかなかった。そして、成功した。
A、Bは、やすらかな顔でその場にくずおれる。
「…そこかっ!神鳴流奥義斬魔剣っ!」
次は、もう少し楽だった。
跳躍した刹那が、スパークが終わったCの上で何かをぶった斬った。
Cが、カクンと糸が切れた様に倒れ込む。
その側で展開されているのは、一見すると意味不明な光景だった。
槍を構えたDに食蜂がリモコンを向け、
二人は微動だにしない。
しかし、刹那にも、そして美琴の勘にもそれは理解出来ていた。
ぶくぶくと赤い泡を吹いたDが、げはっと血反吐を吐いた。
>>765
「このっ!」
食蜂に向けて真っ直ぐ飛んだ血反吐が、美琴の放った電撃球を受けて上に向けて爆ぜる。
「神鳴流奥義斬魔剣っ!」
飛び付いた刹那の一太刀と共に、おぞましい叫び声が確かに聞こえた気がした。
Dが後ろに倒れてとっさに美琴が支え、食蜂もすとんと膝を突いてそのまま突っ伏した。
細かくてすいませんが今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
乙
でもこれ美琴がいつもみたいに火傷しない程度に感電させて行動不能にすればいいだけのような気がするんだけど…
あと刹那ってリミッター外した普通の能力者一人気絶させられない程弱いのか?
それに食蜂も専門分野でここまで何も出来ないってことは無いと思うんだが…
何かいろいろ過小評価し過ぎじゃない?
普通に相手してたら気絶しないんじゃね?
まあ食蜂ならなんとか出来そうな気もするけど
………オイチョットマテコラ………
斬魔剣弐の太刀って、そんなに簡単に出せるものだったのか?
素子はあれで青山家直系の正統継承者だし
本作では強引に使わせたけど刹那は使えないって自分で言ってるし
刹那が言う通り宗家クラスなのか未来ではそっちのレシピまでアプリ流出でもしてるのか…
実際使ってるんだから使えるのはまあいいとして、
あの技は本来憑き物退治の技だから物理体に傷を付けずに魔のみを断つ
そのために存在している技であって
不死体は既に魔のカテゴリーに入るのか、
だとするとネギの雷体すらぶった斬るあの技で
刀身に反応しながら斬る事が出来ない宗家クラスの秘技ってそれも又意味が分からんし
こっちの作中で使って読んでが昨日の今日って感じなもんで、
これは我が原作読み二次書きとしての面子にも………
………もちろん冗談です。そんな大層な面子なんてありませんですよはい。
ちょっと話してみたかっただけなモンでして、
見当違いの事を口走ってたらこれもすいません。
感想どうもです。
本作に就いては、およそ>>769が正解です。
では、そろそろ投下行きます。
>>770
それでは今回の投下、入ります。
>>766
× ×
「と、言う訳で、こっちで対処しますから大丈夫と言う事です。
と言うか殺さないで下さいっ」
第七学区常盤台中学学生寮近くのとある建物の屋上で、
桜咲刹那が使役する半自律型式神通称バカせつながぱたぱた手を振りながら言った。
「そうですか。そこまで仰るのなら。
御坂さんに刃を向けた、その時点で四肢寸断でも生ぬるい所ですが。
たまたま自分が見付けていなければどうなっていた事か」
「………」
× ×
ドガシャーンと寮の大窓をぶっ壊して金色に輝きながら飛来する大きな塊を、
土御門元春は路上でがっしと受け止めた。
「土御門元春か」
「これはこれは、この世界でも最強のスナイパーにご記憶いただけるとは光栄だにゃー。
しかも、本来撃ち抜かれるまで気付かないところを、鬼神に迫った勇姿を拝見できるとは」
「たった今その勇姿とやらを永久に忘れさせてやってもいいんだが?」
「いやいやいやいや、ナイスキャッチの恩人に対する態度じゃないぜぃ」
ごりっと顎の下にデザートイーグルの銃口を押し付けられても、土御門のペースは変わらない。
取り敢えず体を鎮めた龍宮真名は、ふんと鼻を鳴らして着地し、携帯を取り出す。
「中の方は片はついた、まあ、無事と言う事らしい」
「そうか」
それを聞いた土御門の返答は小さく、真面目だった。
「………助けたのは桜咲刹那だ………」
「………そうか………」
呟き、土御門はサングラスの真ん中を中指で押す。
>>771
「礼を言っておいてくれ」
「おいっ!」
一言だけ告げて背を向けた土御門に、真名が珍しく荒い声を浴びせる。
「人質に取ろうとした、俺の動きを止めるためにだ」
足を止め、独り言の様に土御門は言った。
「それが何を意味するか、解らせなければならない。
あいつの筋目、待って欲しいと言うつもりはないが、
何としてでも解らせる。それだけは譲れない、絶対にだ」
本職がスナイパーでも、殴り合いで真名に勝てる者など滅多にいるものではない。
土御門も並の人間、プロから見ても弱い方ではないが、その例外に当てはまる程ではない。
力ずくで止めるか、土御門を。
真名に背を向けたままの土御門、その肩の少し上に、土御門の摘む折り鶴がつーっと浮いている。
はったりか、否か?
確実なのは、土御門の覚悟が確実だと言う事。
× ×
「大丈夫ですか?」
「ええ。あなたは「本体」を直接叩く事が出来るのねぇ」
駆け寄った刹那に、食蜂が立ち上がりながら言った。
「正式に、ではありませんが。
今回は他に方法がありませんでしたので少し強引にやらせてもらいました。あなたは?」
「あの娘の脳に送られていた信号の内容とルートを解析して、
嫌いであろう信号を「本体」に逆流させたわぁ。
まあ、ヘタのついた甘くて酸っぱいパイにしても美味しい赤い玉だと言う事は理解できても
それが何であるかはよく分からない、と言うのが実際だったけどねぇ。
御坂さんも。「本体」に直接リンクして追い出したみたいだけどぉ」
「たまたまよ、狙って出来る訳じゃない。
精神と神経回路と電気と幽霊と、厳密に何が違うかなんて
本当は勉強すればする程分からなくなるんじゃないの?」
「ふふっ、その通りよぉ」
>>772
その時、壊された窓にガチッと熊手が引っ掛かり、ぐいっと何度か引っ張ってから、
熊手に結んだ縄を木乃香がするすると上って来た。
「どないしたんこれ?」
「話は後です。こちらの四人をお願いします」
言いながら、刹那は木乃香に囁く。
「完全治癒すると後々の話が面倒ですので、
脳に外傷が残らない様にそれだけお願いします」
「分かった。治れーっ!」
木乃香がひゅんひゅんと白扇を振るうと、確かに四人の顔色が良くなる。
(………再生能力者か何か?………)
美琴が首を傾げている間に、刹那と木乃香はささっと近くで開いたドアに姿を隠す。
「何の騒ぎだっ!?これは…」
ようやくドカドカと姿を現した寮監の前に、食蜂が進み出て一礼した。
「敢えてレベル5第五位、学園最高の精神系能力者の名をもって申し上げます。
御坂さんと共に、一方的な攻撃に対する正当防衛で被害を拡大しないためにやむを得ず制圧しましたが、
何かの弾みによる集団ヒステリーの一種と思われます。
無論、名門常盤台の秩序は重々理解しておりますが、
思春期における高度の能力開発中の一時的に不安定な精神状態によるものとして、
どうかご配慮の程をお願いいたします」
「それにしては、先ほど妙な者が乱入して来たが?」
「こちらの異常を察して窓から飛び込んで来てくれた通りすがりの能力者みたいです」
「分かった。無論無罪放免とはいかないが心に留め置こう」
「お心遣い、感謝致します」
「有り難うございます」
食蜂に並んで美琴が頭を下げる。
「医務室に運んでやれ。話はそれからだ」
「分かりました」
>>773
そして、この場を一旦立ち去る寮監と入れ違う様に、
美琴の電話を受けた白井黒子が姿を現す。
「お姉様っ!?」
「…人の心の弱味に付け込んでカルトに勧誘してる馬鹿野郎がいるわ。至急調べて」
「はいですのっ。彼女達が、なのですね」
「…ギリシャ系の占星術…」
食蜂が、ぽつりと言った。
「人の心を扱うものだから、一応の知識力は持ってるわぁ。
この娘達の頭の中に流れていた特殊なワードはギリシャ占星術に使われているものよぉ。
恐らく、不安定な女の子の占い好きに付け込んだのねぇ」
「とことんゲスね」
美琴がぎりっと歯がみする。
普段は食蜂の事もゲスだと思っている美琴だが、これは許しておけない。
「それも、最近の事の筈よぉ。
御坂さん一人がそうなるなら話は別だけど、
常盤台の中にそんなものが侵入したなら、遅くとも一週間以内には私の耳に届くわぁ。
まして、例え一人でも私の派閥のメンバーに関わるなら、三日と掛からない…」
静かに歩き出した食蜂はぽつりと呟く。
「一日だって許し難い恥」
食蜂が先ほど自分と対峙していた少女の前に片膝を突き、静かに前髪を撫でた。
「…あ…女王…」
「あらぁ、今朝はアレが重くて欠席する、と伺ってたけどぉ」
「あ…そうでした…申し訳ございません女王…」
「いいのよぉ、あちらで、二人でゆっくりお話ししましょう」
「はい…」
その食蜂の口調が普段通りであるからこそ、
美琴は血の凍る様な恐怖を覚えていた。
>>774
× ×
隠れた部屋の窓から木乃香と共に脱出した刹那は、
撮影した部屋の様子を携帯で心当たりに送信する。
すると、すぐに返信が来た。
相手は佐倉愛衣だった。
正規の魔法生徒、学園警備として仕事をしている愛衣と刹那はそれなりに付き合いがある。
癖のない性格の愛衣と生真面目な刹那は互いに悪くないタイプであり、
丁度西洋と東洋で知識的に逆を向いている。
夕映なら最も高い精度の答えを得られそうだったが、
愛衣も西洋魔術の理論に関しては相応以上の実力者だ。
「もしもし」
「もしもし、桜咲さん、今どこにいるんですか?
もしかして科学の学園都市ですかっ!?」
「え、ええ…」
「お尋ねの件ですけど、これはゴエティア系の日本で言う召還魔術を占いグッズに偽装したものですね。
誰がこんなふざけた事をしたんですか?
中身は非常に危険なものです。素人が使っていい内容じゃない、
こんな偽装から推察される客層で扱ったら大変な事になりますっ!」
そう言う愛衣の声は、本気で憤っていた。
「その事も聞きたいのですが、至急こちらに来て下さい。
科学の学園都市内で魔力を感じました。
パターンからして恐らく魔獣、それも非常に危険なものです。
しかも、魔獣で間違いないと思うんですがそれにしては何かがおかしい、
何と言うか感じられる波長に変なパターンが混ざっています。
とにかく、私もそちらに急行していますが、
魔獣狩りで頼りになる桜咲さんがいるなら一刻も早く合流して下さいお願いしますっ!」
「分かりました、場所を教えて下さい」
>>775
× ×
「くっ!」
一人の少女が、横殴りの二刀小太刀を剣で受け取る。
その後も、五月雨の様に月詠の斬撃がその少女、浦上を襲い、
仲間の援護も楽々と牽制されて近寄る事が出来ない。
浦上達天草式十字凄教一般のレベルであれば、
天草式一人が一度に三人も四人も相手にしている様な塩梅だ。
「ざーんがーんけーんっ♪」
ズガァーンッと響く爆発と共に、浦上が近くの資材の山に叩き付けられる。
「浦上っ!」
「まだ、闘えます…」
教皇代理建宮斎字の叫びに、浦上はよろりと立ち上がる。
(…こりゃあ…想像を絶してるのよな…)
建宮のコメカミに嫌な汗が浮かぶ。
偽装霊装で辛うじて致命傷は避けている、と言うより、
月詠の方が明らかに遊んでいるのが悔しいが幸いだとは言え、
天草式の稼働率は既に半減を超えている。
今、無理に体を起こす浦上も、それが分かっているのだろう。
「!?……ひっ!!!…」
浦上が、ずるずると腰を抜かした。
立ち上がろうとした浦上は、その瞬間、目の前に白黒反転した様な歪んだ笑みを見て、
その頭の横を通って背後の資材にドカンと小太刀が突き刺さっていた。
「…あ…あああ…あ…」
建宮は、顔を押さえて嘆息したかった。
それなり以上の修羅場をくぐっている筈の天草式の実戦部隊のかなりの部分が、
これで一時的にでも戦闘不能になっていた。
振り返った月詠が、ガン、キン、ガン、と、突き立てられる槍の柄を弾き飛ばしながら移動する。
月詠がざざざっと場所を変えた時には、
海軍用船上槍を構えた五和が牛深、香焼、野母崎、諫早を従える形で鶴翼に構えを取っていた。
>>776
「ぐふうっ!」
陣が変形し、月詠が取り囲まれる。
斬撃の応酬の果てに、無傷の月詠が牛深を蹴り飛ばす。
それでも攻撃はやまない。
(…ユニット攻撃に徹して…力押しでも破れはします、が…)
この程度の相手の僅かな隙を見付けるのは月詠には容易い事だった。
ダンッと後ろに跳躍して丸で針の穴を抜ける様に囲みを突破すると、
ダンッ、と、爆発的な前進で再突入して見せる。
「くっ!」
ガガガガンと小太刀の連打を浴びせられ、五和が防戦一方で陣から押し出される。
他の面々が慌ててそれを追い掛け、陣を組み直す。
「ロンギヌス」
「!?」
月詠の呟きに五和が反応する。
「結局は耶○、うちらは退治のプロ、大概の対処法は知ってますわ。
○蘇のロンギヌスになぞらえた、あんたさんが陣立ての旗頭」
「くっ!」
ぶうんと振られた槍が空振りし、小柄な月詠の爪先がとん、と、その穂先に乗り着地する。
一度引かれた槍先が月詠の残像を貫く。
五和が振り返ったその瞬間、月詠が放ったスーパーかぱ君が五和の胸元で爆発し、
五和が目を見開いた時には、ざざっと間合いを詰めた月詠が
五和の皮膚に触れる僅か手前の所で一寸刻み五分試しに小太刀を鋭く振るっていた。
「はい神鳴流奥義斬岩けーんっ烈蹴斬ぁーんっ♪」
五和がはっと左右を見たその先で、
香焼、野母崎、諫早が吹き飛びずしゃあっと叩き付けられてがくっと倒れ込む。
>>777
「あ、ああ…」
「ご協力おおきにぃ♪」
「あああぁーーーーーっっっっっ!!!」
「あはっ♪」
端から見ると、猛烈な勢いで突き出され、振り回される槍の先に月詠が現れては消えている。
「そこお、っ!…」
穂先は、月詠の残像を貫き、材木の山に深々と突き刺さる。
「ごふっ!」
そして、月詠の肘が五和の水月を直撃し、五和が吹き飛ばされる。
「あ、はい、はい、はい、はいっ!」
ぱんぱんぱんぱーんと炸裂する月詠の蹴りの中心で五和の体が空中静止する。
「はい、お疲れさん。
ほな隠れ耶○のロンギヌスに相応しく、でもトドメの槍は勘弁して差し上げますわ」
月詠の放った札が爆発し、
三体の一反木綿が五和の全身を当分生存に支障無き程度にギリギリ締め付ける。
後ろ手に縛られてギチギチに締め付けられた胴体をぐいっと反らされ、
両脚が上向く様に浮遊する。
「………う………あああああっ!!」
「ふんっ」
震える全身を叱咤し、斬り込んで来た浦上が同時に動いた対馬と共に
小太刀の一振りに吹き飛ばされる。
その間に、五和の体が爆発に包まれ、どさっと地面に着地する。
「………あ………ぐ………」
「もう無理だ、休んでろ………テメェ、いい加減にするのよな………」
地面で全身を軋ませる五和に上着が投げ付けられる。
ゾクゾクする様な殺気に当てられ、月詠はにいっと笑みを浮かべた。
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
それでは今回の投下、入ります。
>>778
× ×
月詠は、間近で起きた爆発を、左手の小太刀にまとった気で弾き飛ばしていた。
その爆発を縫って突っ込んで来る建宮斎字の剣と月詠の小太刀が
何度となく交わり、空を切る。
すれ違った後には、建宮の身からは幾筋も鮮血が溢れ出す。
対して、月詠は悠々としたものだ。
元々、建宮に補助に回っている仲間を加えても、月詠相手では相当な実力差がある。
加えて、建宮或いは天草式の手口は、一つには偽装霊装によるトリック攻撃。
建宮はその利点をフルに生かして多彩な攻撃を仕掛けているが、それも限度がある。
まず、実力差を埋める事自体が難しい上に、
相手である月詠も又、年月を重ねた退魔の流派出身。見破る目は肥えている。
その上に、神鳴流では使う者の少ない小太刀、それも二刀流を自在に操るために、
細かい攻撃に対してその場での対処能力が高い。
実際、天草式の真骨頂であるさり気ない陣形からの攻撃も、
それを仕掛けると言う事を月詠は素早く見抜き、
そのすばしっこさで僅かにでもややこしい位置に陣形がずらされる。
そうやって、噛み合わない状態で各個撃破される。とことんやり難い相手だった。
タンッ、と、月詠が軽々跳躍して建宮を跳び越え、
月詠が建宮の背後に着地した時には、月詠を挟む形にいた二人の男性信徒がくらりと倒れていた。
彼らとて間違っても素人ではないのだが、月詠が着地するまでに
彼女の爪先でコメカミを撫でられ脳を揺らされる事を防ぐ事が出来なかった。
「そろそろ、詰みとちゃいますか?」
月詠がふふっと笑って言った。
「あんさんらが何人集もうても、それだけではうちの前では木偶も同然。
辛うじて分がある集団魔術を使うにしても、
陣形を作る最低人数すら割り込んでるのが現実ですやろ。
それでもうちの前に立ち塞がりますか?」
返答は、燃える目で月詠の前に立ち塞がり刃を向ける
建宮以下数少ない手勢の動きだった。
>>780
「そうですか…
見捨てられたあなた方が何故そこまでしはるんですかいな」
「何?」
「余りの不甲斐なさに見捨てられた言う事ですなぁ。
せめてうちが間に合わん様に足止めして、
それで又認めてもらう、そのつもりでしたか?
けど、この有様。弱き者の不甲斐なさが証明されただけでしたなぁ」
「黙るのよな。テメェに何が分かる。
我らの弱さはようく理解してる、が、
テメェごとき外道が解った様な事を抜かせるお方じゃない」
「はぁ、何が違うんですかぁ?
足手まといと見るべきか、それとも、優しさと見るべきか。
結局は同じ事ですやろ。その領域では使いものにならん程弱いだけやと」
「あああああっ!!」
ドンドンッ、と、建宮の背後から月詠に斬り込んだ男性信者二人が、
月詠に一蹴されて倒れ込む。
「いい加減、趣向でも考えんと、ここまで歯応えが無いと退屈で仕方がありませんでしたわ。
まぁ、撒き餌も十分撒けましたしなぁ」
「何だと?」
「この有様を知ったら、その優しいお方はどのぐらい怒り狂って下さるんですやろ。
うふっ、ふっ、ふっ…」
建宮達が、じりっ、と、退いた。
ぽーっと頬を染め、潤んだ瞳で天を仰ぐ月詠、
その隙にと思わないでもない、それは無駄だともここまで十分に経験済みだったが、
それ以前の問題として、とにもかくにも不気味そのものだった。
「は、あ、あぁ…そうや、ここであんたら刻んだら、
そのお人はどれだけ激しい剣をうちにぶつけてくれはるんやろ。
嗚呼、いけずやぁ、そんなん、考えるだけでぇ…」
「まぁじで[ピー]ぬのよなこのド変態があああああっっっっっ!!!」
ぞおおと総毛立った建宮の絶叫と共に、先行した二人の男性信徒は、
半開きの唇の端からたらりと液体を溢れさせて
左手の小太刀の柄をくねくねと体に半ば挟み込んだままの月詠の
ひょいひょいと繰り出されるキックに吹き飛ばされて沈黙する。
>>781
「あ、は、あはあっ!
最っ高の敵意、憎悪、最高に強き剣を知るためにぃ、
ここで撒き餌になっておくれやすうううっ!!!」
「お断りなのよなこのクソ変態がっ!!!」
ギインッと、建宮の西洋剣と月詠の二刀小太刀が正面から激突する。
「あは、は、ざーんがーんけーんっ!!」
「くおっ!!」
ずがあんと鳴り響く爆発、そして、それをかいくぐる様に斬り付ける剃刀の様に鋭い斬撃。
(くっそぉ、変態覚醒しやがったら鋭さがましてるのよなっ!)
「疼く、疼く。はよう、はようせんととろけて溢れる邪魔せんときいっ!!」
「こ、のっ!」
ギシギシと抑え込んだ、武器からも体格からも見た目だけなら圧倒している筈の建宮の剣は、
抑え込んでいた月詠の小太刀にあっさり弾き飛ばされる。
「は、はは、あはは、木偶どもが、群れても同じ、この無様や。
もう、あんたらの出る幕はとうに終わり、分からんのかいな。
足手まといをかぼうて何が出来る。ええ加減自覚しぃや。
ええ加減、退屈な前菜が長過ぎや、メインディッシュが冷めてまうやないですかぁ」
次の瞬間、辺りが爆発に包まれる。
煙が晴れると、建宮は月詠から少し離れた場所に立っていた。
「はようどきぃ。撒き餌はもう十分、
ここまでやれば、うちに向けて存分に叩き付けてくれはる筈。
分かったら道を空けぇ」
「そいつぁ無理なのよな」
「理由は?出来の悪いてんご聞かされたら、刻んで撒き餌になってもらいますえ」
「テメェが如きゲス、お手を煩わせる迄も無いって事なのよな」
「あは、は、何ですか?
あんたさんら、まだ、露払いでもしてるつもりですかぁ?」
「そうだと言ったら?」
「あんたらが露と消えるだけですわ」
>>782
「敵意?憎悪?」
建宮が、くっくっと笑い出した。
「笑わせてくれる。テメェが如きゲスと一緒にしてるんじゃねぇのよな。
それで、あの人と闘う力を手に入れたつもりだと言うのが最高に滑稽なのよな」
「そうですかぁ、まさかあなた、
本当の強さは守るべきもののために、なんててんご言い出すつもりちゃいますやろな?」
にっこり微笑んだ月詠に、建宮は最高に格好いい笑みを向ける。
月詠の顔から、笑みが消えた。
次の瞬間、建宮の剣がロケットスタートした月詠の刃を受け太刀した。
月詠がするりとかいくぐった、と、思った時には、建宮は蹴り飛ばされていた。
そこに急接近した月詠の刃を建宮が辛うじて交わした、
かに見えたが、辛うじて致命傷を避けるに留まる。
ぱあんと、辺りが光に包まれる。
月詠が小太刀に込めた気で魔術からの打撃を防ぎ、距離を取る。
「手品の種は、それで手じまいですかいな?
結局、この玉の肌に傷の一つもあらしまへんえ満身創痍の木偶の坊はん」
言いながらも、闘志を丸で失わない建宮の姿に月詠の眉が僅かに動く。
何か、非常に嫌な感じがする。ここで、潰す。
如何にトリッキーな天草式でも、ここでねじ伏せるのに疑う必要等ない、筈。
月詠が、周囲に視線を走らせる。
先ほどまで転がっていた天草式の面々がゆるゆると動き出していた。
それは分かる、が、今更月詠をどうこうする力は残されていない筈。
(…頭を潰して、決着を付ける…)
例え陣形を組み直しても、今の天草式が一撃で月詠を倒す事など不可能。
その間に一挙にねじ伏せる事など容易い。月詠にとっては簡単な目算だった。
>>783
「神鳴流奥義…」
「…シム…」
「ざーん…」
「トゥ、ア…」
「?」
「パルスッ!!」
「!?」
まばゆい光と共に、一瞬だけ、月詠は目眩を覚えた。
ぐらりと体が揺れる。ほんの僅かに、引き裂かれる感触。
「…歯ぁ食いしばるのよな強き者よ」
「しまっ!」
「この弱き者はちぃとばかり響くのよなあっ!!!」
「あ………ごっがあああっっっっっ!!!」
その一瞬、月詠が体勢を立て直したと思ったその瞬間に、
建宮の剛拳が月詠を吹っ飛ばしていた。
(…気と相反する魔術…)
天草式が使ったのは、それ自体は簡単な魔力供給魔術。
それを残る力を振り絞り最も効率的な陣形で総力で浴びせた、それだけだ、月詠に向けて。
但し、月詠が攻撃のために集約させた気が最高潮に達したそのタイミングに、
気に相反する魔術をありったけ叩き付けた。
普通は味方に対して使う術式であるため、対応する月詠も流石に勘が狂う。
月詠程の術者であれば瞬時に調整出来る程度の事だが、
それでも、その反作用の一瞬、そこに全てが賭けられていた。
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
>>770自己解答
結構上位っぽい家だったからいいんじゃね
切れる分には切れるみたいだから、描写からして刀の棟か腹でも叩いたのかな
一人芝居終了
それでは今回の投下、入ります。
>>784
× ×
吹っ飛ばされた月詠が、痺れの残る体を叱咤して立ち上がる。
小さい打撃ではないが、実戦であればこの程度のダメージ、まだまだいけるものだ。
「おあぁぁぁぁぁぁ………あああああっ!?………」
ドン、と、ミサイルの様に建宮に向けて突っ込んだ月詠が、
とっさにブレーキを掛けてそれでも近くの材木の山に突っ込む。
「こ、れは、調整が上手くいかないっ?」
「らああああっ!!」
「くっ!」
そこに襲いかかって来た信徒の刃を月詠が弾き返し、信徒は又陣形に戻る。
「うっとうしい木偶があ、ああっ!!」
その陣形に突っ込んだ月詠がびゅんびゅんと小太刀を振り回し、
信徒達にするすると交わされる。
(こ、れは、脈が乱されて、気が波打って制御を乱されてるっ!?あかんっ!!)
周辺から一斉に放たれる鋼糸の気配を察し、月詠がたあんっと跳躍する。
そこに向けても、半数が待機していた大量の鋼糸が放たれる。
「ええいっ!」
間一髪、小太刀の一振りで防壁を張り、鋼糸を振り払う。
絡み付かれたらとてつもなく厄介だ。
そのまま、空中から小太刀で放つ気の波動で敵を何人か打ち倒し着地する。
>>786
「ああああっ!!」
着地の後、何人もの信徒の刃が月詠にやり過ごされ、すれ違う。
逆に言うと、迂闊に攻撃に移れない。今の状態で攻撃に移ったら、
相手の骨まで断ち切ってそのまま地面をえぐり取っている間に総攻撃を受ける。
「!?」
月詠の頬に、鋭い痛みが走った。
「おめでとさん、一番槍や」
にいっと笑った月詠がダンッと地面を蹴り、目の前の五和に刃を振るう。
二人の間がだあんと爆発し、
距離を取ろうとした月詠の左の小太刀が絡み付いた鋼糸にぐいっと引っ張られた。
「しつこいなぁっ、うちに絡み付いていいおなごはんはセンパイだけやっ、
先急ぐ言うてるやろがこの木偶がっ!!」
「大丈夫!!あなたの事は責任をもって
さんざんさんざんさんざんさんざんグチャグチャのグチャのメキャメキャのメキャに
ブチのめして差し上げますから後の事はご心配なく!」
「アハハハハハハハハハハハハ!!」
「ですからっ!あなたを徹底的にメキャメキャのメキャにブチのめして
自分のした事を後悔させてあげますから!!
その後なら誰も止めやいたしませんっ!!!」
「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャそんな熱心に自分の運命自己紹介せんでもよろしおま!!!」
建宮がぞおおっとその光景を見ている側で、
ぶつっ、と、鋼糸を切断して月詠が一旦飛び退き距離を取る。
(…又、陣形っ…)
天草式は隠密裡な陣形術式のプロフェッショナル集団。
月詠は高度な個人技でそれを力業で圧倒して来た訳だが、
相手もそれだけのプロ、言わば、これまで個人で集団を圧倒して来た演算競争に
僅かにでも後れを取れば、その場で呑み込まれる。
>>787
「くあああっ!!!」
とうとう、満身創痍から戦線に復活した天草式一同の放った大量の鋼糸が、
四方八方から月詠を絡め取る。
(…まだ、や…この程度のワイヤー、まだ今のタイミング…
…何や?この緩み、切れて誘うてる?…)
きりっ、と、右手に握った小太刀がワイヤーをぶった斬る寸前で月詠の力が緩む。
「ひとぉーつー」
「?」
建宮は眉を潜める。
それは、透き通り物悲しい、歌だった。
「つぅーんでぇーはぁー、ちちぃーのぉたぁーめぇー、
もひとぉーつぅー、つぅーんでぇーはぁー、ははのぉー、たぁー、めぇー」
「こいつぁ…」
建宮が、ごくりと唾を飲み込む。これは、事によっては、
「オン・カカカ・ビサンマエン・ソワカ
オン・カカカ・ビサンマエン・ソワカ
オン・カカカ・ビサンマエン・ソワカ…」
次の瞬間、刃の付いた独楽の如く、月詠が一回転した。
それは本来、天草式の狙ったその時だった、筈だったが…
「気を付けるのよなっ!!!」
「やかましいっ!!神鳴流決戦奥義・極大雷光剣っっっっっ!!!」
ブチ切られた鋼糸からぶわっと広がった赤い霧の中から、大爆発が起こった。
赤い霧の中で嫌な声を聞くや、
月詠は完全に閉じ込められる寸前に大爆発を起こして霧をぶち破る。
天草式から吹き飛ばされ再び昏倒する者が続出した。
>>788
「やりよったのよな…」
ギリッと歯がみして建宮が呻く。
恐らく最後は勘の領域だった筈だが、
それでも、月詠は天草式が仕掛けた必殺の術式の特徴と対処法をその瞬間に解読し、不完全でも実行した。
それも、危険を承知で形振り構わず思い切りよく優先順位を決定して。
その頭の冴えと度胸、何より可能とする技量はやはり並ではない。
「ざーんてぇーつせぇぇーんっ!!!」
「ちいっ!!」
「あははあああああああっっっっっ!!!」
「くっ!」
空から放った気で幾人もの天草式を打ち倒す月詠。
その月詠の着地と共に、五和が辛うじて槍でその刃を受ける。
「ざーんがぁーんけぇーんっっっ!!!」
そのまま、五和も激しい爆発に吹き飛ばされる。
元々、ここまでの闘いで五和も、他の面々もまともに戦闘が出来る体力など残されてはいない。
そして、それは…
「あぁーっはははあぁぁーっ!!!」
「くおっ!!」
突っ込んで来た月詠の斬撃を建宮が受け太刀する。
「ひどい、有様なのよな」
爆発コントの鬼女と化した月詠に建宮が言う。
元がふわふわに真っ白な甘ロリだったその滑稽さが背筋が凍る程に凄惨だ。
「ご心配なくぅ」
月詠が、にっこり微笑んだ。
>>789
「あんたさんを
さんざんさんざんさんざんさんざんグチャグチャのグチャの
メキャメキャのメキャに切り刻んでから、
メインディッシュの剣のまぐわいにはちゃぁーんとシャワー浴びて行きますさかいきゃはっ」
「伝染してるのよな…」
「はい、神鳴流奥義、ざーんがーんけぇーんっ!!」
「くおおおっ!!!」
厄介な事に、むしろパワーアップしている。
それは当然だ、元々天草式がパワーアップさせていたのだから。
天草式は西洋東洋なんでも使う。
月詠を車に例えるなら、天草式の術式によって、
規格外のニトロをエンジンにぶち込まれた様なものだ。
それでも、普通ならその場で爆発炎上するか激突死するしかない所を
今の所は、肉体を維持し梶を切っている辺り、
元の技量の高さは相当なものだ。
「あはっ、あはぁーはぁぁーっ、さぁー終わりや、これで終わりぃ。
うふ、うふふ、うふふふふ、ようやく、ようやくようやく
こないな雑魚共蹴散らして今、今今、今行きますえホンマの強き刀を
うち、うちにその刀、その強さで立ち向こうて、はあ、はああ、はふううぅ」
建宮の突き出した脚に蹴躓いた月詠が、
ロケットの勢いで地面を滑ってその先の資材の山を頭突きで崩壊させる。
「うおっとおっ!」
ミサイルの様に戻って来た月詠を建宮がするりと交わし、
月詠はその全身で資材の山を爆発させた。
「く、うっ」
その間にも、幽鬼の様に蠢く天草式が月詠を包囲する陣形を崩さない。
「うああああああああっっっっっ!!!」
又、月詠の体当たりを受けた資材が爆発した。
>>790
「うふ、うふふ、うふふふふふふ、ええ加減、斬る斬る斬る斬る斬る………
この、この溢れる想い、芯から沸き起こる体の疼き、
収まらん、収まらん収まらん、
あんさんら役者不足や、ホンマの、ホンマの剣と太刀おうて、
そうせぇへんと収まらんのやあああっっっっっ!!!」
槍を構えていた五和がすいっと身を交わし、
そこを通り過ぎてキラーンと遠景になった月詠が程無く戻って来て
思い切り跳躍して角材の山を一刀両断にする。
「あああああーーーーーーっっっっっ!!!」
急ぐのは一方的に月詠の都合であり、天草式としては足止めが適えばそれでいい。
天草式自体最早満身創痍の状態であり、
このまま状況を維持し持久戦に持ち込めば危険は薄い。
「悪りぃな」
それでも、建宮斎字は、月詠にじりっと向き合う。
彼は天草式十字凄教教皇代理、彼ら彼女達は天草式十字凄教教。
「うちのメインディッシュは最高級品なんだ」
「おおおおお…」
横殴りの刃が、クワガタヘヤーの一部を削る。
「テメェみてぇなゲスが喰ったら、腹ぁ壊すのよな」
彼は天草式十字凄教教皇代理、彼ら彼女達は天草式十字凄教教。
故に、救いの手を差し伸べ、終わらせる。
「お、お…」
「雑魚も悪くねぇぜ、前菜で我慢しとけ」
相手の勢いをそのままに、月詠の水月にその拳を叩き込んだ右手を振りながら、
建宮がその場を離れた。
>>791
× ×
月詠から離れようとしていた建宮が、はっと振り返る。
無論、月詠が到底動けない事は確かめているし、
それでも、ここまで化け物じみた相手に背を向けながら油断はしない。
立っているのもやっとの五和もざっと槍を構える。
そこに現れたは、巫女服に長い黒髪が素晴らしく似合う背の高い妙齢の美女。
それが、真上からすとーんと着地して、月詠の体をひょいと肩に担ぎ上げる。
じりっと動こうとした五和を建宮が手で制する。
建宮も、五和も、取り巻く他の面々も、
例え万全の体調でフル装備で総掛かりを掛けても秒単位で全滅する自信に満ち溢れていた。
格が違いすぎる。
「こちらの特徴と地脈龍脈に合わせて陣形を作り、
必要以上かつ不安定な気を相手に流し込み自滅を誘う。
「神鳴殺し」、話には聞いてましたけどなぁ」
「ご先祖様の時代に、そちらさんとは不幸な歴史って奴があったのよな。
まあ、本当なら、精々下のクラスの術者しか引っ掛からないモンですがねぇ」
「それを、力に傲り焦りを見せたその隙を見逃さず
後は蟻地獄の如く術中に呑み込んで行く」
「弱き者の戦いはえぐいものよ」
「既に独立して仕事をしてるモンに、余り口出しするモンやおへん。
煮て食おうが焼いて食おうが言うてもええんやけど、
この醜態は強き者としての名折れ。
当分は山歩きや。少しは性根も出来上がりますやろ。よろしおすか?」
「ああー、どうぞどうぞ、どうぞお持ち帰り下さい」
「ほな、おおきに」
ひゅんと立ち去った、その後に思い出に焼き付けられたその笑みは、
完璧に美しく、そして、指一本をも動かす事を許さぬ程に圧倒的なものだった。
>>792
× ×
「高音お姉様とナツメグさんは本来の任務で動いています。
その途中で気配を察知したために、私が当面の事を任されました」
「そうですか」
佐倉愛衣の操縦する箒の上で、桜咲刹那が顔を顰める。
愛衣と待ち合わせをして現場に向かっているのだが、
愛衣の言う通り、感じられる魔力のパターンは魔獣と見て間違いない。
それも、完全に現出している。相当危険な気配だ。
よりにもよって科学の学園都市でこれだけの規模の魔獣。
それだけでも十分危険な状態なのだが、刹那は首を傾げる。
「これは…なんでしょう?」
「分かりません。私自身経験が深いものではありませんが、
この魔力に混ざっているノイズと言いますか、学問的にもちょっと理解出来ません。
あの建物です」
「…何か、研究所の様ですね。今は使っていないみたいですが…」
× ×
開いた窓から侵入した刹那と愛衣は、魔獣の気配を追って建物の奥に走る。
その行き着いた先では、廊下で一人の少女が魔獣相手に奮戦している所だった。
「あれは…八岐大蛇?…」
「いえ…まさか…桜咲さんっ!?」
「おおおぉーっ!神鳴流奥義、斬岩剣っ!」
どぱーんっと斬撃が爆発し、刹那は少女を背後に隠す。
「大丈夫ですかっ!?」
「え、ええ、私は超大丈夫ですけど…」
その少女、絹旗最愛の指差す先を見て、刹那が息を呑む。
>>793
「再生?しかも…」
「あーあ…」
「どけて下さいっ!!」
刹那が絹旗をかっさらい、床を転がる。
大きな火球を叩き付けられて魔獣ヒュドラが吹っ飛ばされた。
「八岐大蛇ではなくヒュドラ、でした」
愛衣が呟く。
「切り口から二股に分かれて再生、ですか」
「ええ、かなり厄介ですよ。なんでこんなものが…紫炎の捕らえ手っ!!」
一時のダメージを凌いで動き出したヒュドラに、
愛衣の放った炎が絡み付き動きを止める。
「迂闊に斬る事が出来ないとなると、確かに厄介ですね」
「あの部屋?」
愛衣が、扉の破られた部屋に興味を示す。
そこで、刹那は改めて絹旗に視線を走らせる。
間違いなく素人ではない。ヒュドラと素手で渡り合っている時点であり得ないのだが、
それに関しても、先ほど身を交わした時に触れた感触では、何か変わった防壁を張ってる。
それも、魔術サイドの感覚ではない。とすると科学サイド。ここは科学の学園都市。
愛衣の動きに対する視線からして、少なくとも通りすがりと言うレベルとは思えないと刹那は読み解く。
かなりの実力者であり、だからこそ、刹那と愛衣の事を注意深く伺っている。
>>794
「桜咲さんっ!」
愛衣の声を聞き、刹那は部屋に入る。
「…これは…」
赤く染まった肉塊、魔法陣、横文字の大量の落書き、
一見するとオカルト映画そのものの光景。
「ゴエティア系の召還術式、それにギリシャ系の術式」
「そうだとすると、仕掛けたのは…」
「綾瀬さんの推論は私の所にもメールで届いています。
ギリシャの、それも私にも何であるかのレベルで理解すら出来ないこんな古典術式を絡めて
使いこなす勢力が幾つもあるとは思えない」
「この死体は依り代、或いは術に喰われた…」
「そちらと見るのが自然でしょうね」
「おいおいおい」
刹那と愛衣が入口に視線を走らせる。
足音と声が一挙に増えている。
「きぃぬはたぁー、首が増えちまってるけど難しかったのかにゃーん?」
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
発売日前にネタバレは止めて欲しい
こんな所で不意打ちで食らうとは思わなかったよ
鶴子マダー
愛衣はまーた箒で飛んでんのか
一般人や監視衛星に見つかって騒ぎになったり魔術師に見つかって落とされたりとか、そういうリスクは考えんのかな
>>800の続きで
昨日は火曜日でギリギリ紛らわしいタイミングだったか。
先週販売分の話のつもりだったけど
色々遅れたものでなんかマズッたんなら改めてすまん。
>>799
一般人に関しては飛行中は認識阻害使えるって
ネギが原作の修学旅行後辺りに解説してたけど
それ以外に就いては…
以下雑談終了。今回の投下、まだ入りません。ひとまず失礼
それでは今回の投下、入ります。
>>795
× ×
「なーんだ、こりゃ?炎みたいだけど、これで縛られてるのか?」
「そうみたいですね」
「絹旗がやった、って訳じゃないわよね」
そこに刹那と愛衣が駆け戻って来た。
「ここは危険です、避難して下さい」
「あ?」
愛衣の言葉に麦野が僅かに眉を上げる。
「ここは私達が対処します」
「おいおい、まさかテメェがあの首ぶった切ったのか?」
夕凪の鯉口を切る刹那に麦野が尋ねる。
「ええ、彼女を救助するために」
「そりゃ感謝しとくけど、それで事態が悪くなってんだけど?」
「そうと分かればやり様もあります。
とにかく、こちらで対処しますのであなた達は避難して下さい」
「ほぉー、言うねぇヒヨッコがぁ。
テメェらも見た所裏の掃除屋だろう」
「そう受け取っていただいて構いません」
麦野の言葉に刹那が応じる。言ってる事自体に間違いは無い。
「私らも首突っ込んじまったからねぇ」
麦野が首をゴキゴキ鳴らして言った。
「こっちも準備して来たんだからね。
半端に終わったらこっちに火の粉飛んで来るし、
結局、はいそうですかじゃ済まない訳よ」
「まさか、あなた達が呼び出したんですか?」
フレンダの言葉に刹那が鋭く尋ねる。
>>802
「ばぁーかかヒヨッコ、
この街の闇で賢く生きてくってのに、あんな化け物に用は無いってぇの」
「そう、怪獣みたいに強いって、結局そんなの麦野がいれば十分って訳よぉぉぉぉぉ」
麦野の拳がフレンダのベレーを押し潰した。
「とにかく、それじゃあここを出て下さいっ、
素人の手に負えるものじゃありませんっ!」
「んだとおっ?」
強い口調で言う愛衣を麦野がギロッと睨み付ける。
(………このガキ………)
睨み合いになった麦野の眉がひくりと動く。
麦野が只者ではない事は愛衣にも分かる。
個人と個人であれば、正直言って関わり合いたくない怖いタイプだ。
それでも、魔法と言う自分の持ち場で簡単に押し負ける訳にはいかない。
麦野から見て、刹那は案外転がしやすそうだが、
それでも場数は踏んでそうだ、あの巨大刀も伊達ではないだろう。
そのぐらいの事は分かる。
一見大人し気ないい子ちゃんにも見える愛衣の芯の強さ、
そして、それを蛮勇に終わらせない何かを持っている。
そうした事は、麦野も又尋常の者ではないからこそ伝わるものだ。
「斬空掌・散っ!!」
「よけてっ!!」
ヒュドラを拘束していた炎が弾け、ヒュドラが一際大きく咆哮した。
瞬時にそれを見定めた刹那が複数の気弾を撃ち込み、
絹旗が叫びながらロケットスタートして伸びて来た首の一つを蹴り飛ばす。
「風楯っ!!」
複数の口から毒液が噴射され、愛衣が防壁を張って直撃を回避する。
「(一つ一つは無理っ!)神鳴流奥義、斬鉄閃っ!!!」
刹那の放った気の波動がヒュドラの首と首との付け根のど真ん中に飛んだ。
>>803
「お、おい…」
周囲に光球を浮遊させていた麦野が足を止めて目を見開く。
ど真ん中から真っ二つに断ち割られた形のヒュドラが、
一度左右に倒れてからバランスを取り戻してむくりと起きあがり、行動を再開する。
「何やってんだっ!」
真っ二つに割られた半分ずつの個体、
仮にヒュドラA、ヒュドラBがそれぞれに動き出したのを見て、麦野が叫ぶ。
「滝壺っ!」
向かって右側のヒュドラBがざざざざっと猛スピードで前進して滝壺を襲撃する。
その滝壺の前で絹旗が複数の首に噛み付かれて、
その首は絹旗を離れ上に首を伸ばして絶叫する。
「斬鉄閃っ!!」
ヒュドラBの胴体の横っ腹に刹那が気を打ち込み、そちらの個体は一旦壁に叩き付けられる。
「絹旗あっ!そっち抑えてろっ!!
フレンダ、あっちをやるぞっ!」
「はいよっ麦野っ!!」
「何を…」
動こうとした刹那と愛衣の近くの床にビームが炸裂する。
「邪魔すんならこいつで穴空けてやっからよぉ、
どうせまだ知らねぇんだろガキがっ!!」
低い姿勢から斜めに構えてシリコンバーンを通して、
麦野の放った原子崩しはヒュドラAの首をまとめて吹っ飛ばした。
その直後、フレンダの大量の手持ちロケットがヒュドラAに飛来し、爆発炎上する。
「あれは、火炎弾…」
愛衣が呟く。
>>804
「ふんっ…う、えええっ!!!」
「げっ、げほっ!!」
「これは、毒かも知れませんっ」
「とにかく、いらんねぇぞっ!!」
強烈な異臭と刺激の籠もる煙をまき散らしながらヒュドラAは炎上し、
そこにいた面々がたまらず廊下から逃走する。
「ひゃああああっ!!!」
「フレンダッ!!」
ドンドンドーンと背後の煙の中で爆発音と獣の絶叫が響き、
その中からフレンダが懸命に駆け出して来る。
× ×
ヒュドラから逃走した面々は、広い作業場の様な場所でようやく人心地ついた。
「あのヒュドラは…」
「結局、ビルだって飴細工になっちゃう量の焼夷ロケット弾の直撃って訳よ」
「ああー、神話通りなら一匹はこれで終わりの筈なんだがな、
もう一匹増えちまってるからなぁ」
刹那の呟きにフレンダと麦野が言う。
「来た…」
滝壺が呟き、絹旗が滝壺の前に立つ。
果たして、廊下の方からヒュドラBが煙を上げながらざざざざっと高速で這い進んできた。
「来たあっ!!」
フレンダが悲鳴を上げ、ロケット弾を飛ばしながら這々の体で逃走する。
「首飛ばして焼き潰すには火力が足りねぇ」
炎上しながらのたうち回っているヒュドラを見て麦野が言う。
>>805
「あのー、麦野」
「あん?」
「焼夷ロケット弾、今ので終わり…」
「何っ?」
「結局、二匹になるとか計算外だったし、
さっきも物凄い勢いで追い掛けて来て足止めしないと食べられた訳だし…」
「ちっきしょう…」
そこで、麦野が携帯を手にする。
「もしもし?」
「もしもーし、何かヤバイ事になってる?」
「分かってんならこんな時に掛けてくんな」
「うん、ヤバイ事がもう一つ追加しちゃったみたいだから」
「何だ?」
「研究所の連中が勝手に掃除屋雇ったみたいでさぁ、
まだ金出せば内輪で隠せると思ってるとか。
そいつら、目撃者とかまとめて消しちゃう勢いで突っ込んで来ると思うからよろしく」
携帯を切った麦野は、その側でカカカカンと軽快に弾丸を弾いている絹旗の目を向ける。
絹旗がさっとその場を離れた。麦野がシリコンバーンを構えて、
その方角にいた迷彩服に黒覆面で突撃銃を手にした集団の中の何人かが瞬時に塵となり大爆発する。
「な、ななな、なんだあいつはっ?」
「おいおーい、この業界にいて知らないのかにゃーん?」
「今のはっ、ま、まさか、第四位?」
「馬鹿なっ、この仕事に、聞いていないあああああっ!!!」
その間にも、原子崩しが迷彩服をぶち抜いていく。
更に、フレンダが予備に持ってきていた破裂ロケット弾に襲撃された迷彩服も肉塊となる。
>>806
「桜咲さん…」
「銃口を向けた以上、口出しは出来ません」
神鳴流に飛び道具は効きまへんえと、
刹那は突入して来た迷彩服を体術で次々なぎ倒す。
愛衣も魔法防壁で銃弾を防ぎながら魔力を込めた箒で死なない程度にぶちのめした。
その間にも、ヒュドラに無駄弾を撃ち込んでいた迷彩服が
毒液の直撃を受けておぞましい絶叫と共にグロ画像を残して絶命する。
「おのれえっ!!」
「馬鹿っ!」
麦野が叫んだ時には、迷彩服の一人がヒュドラに手榴弾を投げ込んでいた。
しかも、途中でザクロに爆ぜた首を見て一息ついた黒ずくめが、
その次の瞬間には左右からアタックして来た頭部にその身を噛み裂かれる。
「あっ、あっ、あああああーーーーーーーーーっっっ!!!」
突撃銃、更には拳銃弾を撃ち尽くした黒ずくめ達に
次々と巨大な蛇の首が伸びて口が開くまんま怪獣映画の光景が展開される。
それと言うのも、こんな事もあろうかとロケットランチャーを担いで来た迷彩服は、
いの一番にシリコンバーン原子崩しの直撃を受けたために遺体も残されてはいなかった。
「くおおおおっ!!!」
既に何人もが真っ赤に噛み千切られ、
その側でズボンの湿度を溢れさせながらのたうち回っている迷彩服の側で、
飛び込んだ刹那が夕凪を振るう。
「ざけてんじゃねぇぞっ!!」
その刹那に麦野の怒号が飛んだ。
「ヒヨッコが、殺しに来やがったんだ自業自得だろうがっ!
下らねぇお情けでこっちまでヤバくするってんならテメェ殺すぞっ!!」
「ええいっ!!!」
刹那が切り落とした切り口に、愛衣が振り回す箒から伸びる炎剣を叩き付け押し付ける。
>>807
「間に、合いました。どっちかと言うとこちらの方が神話通りです」
ぜぇぜぇ荒い息を吐きながら愛衣が言う。
刹那の剣は達人の鋭い速さ、そこからの再生よりも早く焼き潰す必要がある。
その間に、絹旗が首と首の股に高い所からズドーンと着地してヒュドラの胴体にダメージを与える。
どう見ても小柄な少女の圧力ではない。軽く見ても自動車でも落下して来た様な衝撃だ。
「風楯っ!!」
その間にも、愛衣が吐き出される毒液を防御し、
愛衣と刹那が速射の火炎弾、気弾で懸命にヒュドラを牽制する。
(………首が、多すぎる………)
「秘剣、百花繚乱っ!!」
首を切り落とさない様に注意しながら刹那が気の波を放ち、
愛衣、絹旗共々一旦大蛇の大群との乱戦から距離を取る。
「こっち、こっちぃーっ!!」
見ると、フレンダが別の通路の入口から手を振って叫んでいる。
まずはアイテムの面々がそちらに走る。
「このおっ!!」
その後に、刹那と、ヒュドラにミニ太陽じみた火球を投げ付けた愛衣も追走する。
「おいっ、何やってるっ!?」
通路の途中で立ち止まった愛衣に麦野が怒鳴った。
「へばりやがったか?死ぬだけだぞっ!!」
「先に行って下さい」
「あ?」
元来た方を向いて、大きく脚を開いて腿に手を当てた愛衣の回答に麦野が足を止めて聞き返す。
>>808
「距離を取って足止めが出来るのは私しかいませんから」
「発火能力か…利用させてもらうぜ」
「どうぞ。ご利用は計画的に」
「そうかい。じゃあ、伏せろっ!!」
ざざざざっと追い付いて、そのまま胴体にドンドンドンと原子崩しを撃ち込まれたヒュドラが
どぷっどぷっと出血しながら絶叫してのたうち回る。
「餞別だっ!」
「メイプル・ネイプル・アラモード…」
× ×
「何ですってっ!?」
通路を抜け、吹き抜けの壁際に張り出した鉄柵つきのフロアに出た所で、
刹那は麦野から短く事情を聞き叫び声を上げる。
「待てこらっ!」
そして、刀に手を掛けて引き返そうとする刹那の襟を麦野が後ろから掴む。
その時、どおんと爆発音と共に、元来た通路からオレンジ色の光が噴出する。
「今、あそこにテメェが行ったらぶった斬るしかやり様がねぇ。
あいつが生きて戻って来るか捨て石になるか、
どっちにしろ時間は稼げるこっちに損はねえっ!」
刹那が何かを言う前に麦野は先を急ぐ。
刹那もその後を追った。
「えっ、えほっ…」
その後で、丸で漫画でSLの煙に巻き込まれた様な有様の愛衣が吹き抜けのフロアに姿を現す。
そして、大きな火球を元来た通路に投げ込み先を急ぐ。
>>809
「こっちこっちぃーっ!!」
フレンダの叫び声に従い、愛衣は吹き抜けの真ん中を通る橋を渡り始めた。
既にフレンダは橋の向こう側、大凡の面々も向こう側に到着したか到着する所だ。
「来たあぁぁ…早く、早くうっ!!!」
通路から吹き抜けのフロアに、
煙を上げながらもずざざざざと怒り狂った勢いでヒュドラが追跡して来る。
対して、愛衣はふらりと足を止める。
実際疲れていたのもあるが、ふと周囲を見る。
「…吹き抜け?…」
橋の鉄柵から下を見ると、橋の下は少なくとも五階建てぐらいの高さはありそうだ。
(…どうして…こんな危険なルート…)
「わああああっ!!!」
「急いで下さいっ!!」
フレンダが悲鳴を上げ、刹那が叫ぶ中、ヒュドラが橋を渡り始めた。
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
乙
神裂さん相手にボロカスに負けるのは、雷天ネギより速く動けて、思考も伴ってる聖人相手だから仕方ないけど、刹那が弱体化し過ぎな印象。
弍の太刀は本家じゃないから使ってないだけだし、白き翼だと2・3番目に強いのに……
乙
麦野が随分と面倒見が良いな
浜面に懐柔される前までは足引っ張る商売敵とかその場で頭吹っ飛ばしてもおかしくないような性格だった気がするんだけど…
明らかに「闇」の匂いなんてしそうも無い刹那を裏稼業だとか断定してるし、何か事情があったりするんかね
感想どうもです。
>>813
強さって言うよりは中途半端に強い、条件が悪いでやり難いって状態ですね。
常盤台では「本体」にコントロールされてる状態で打撃を与えても気絶しない。
元が常盤台生で「本体」にリミッター切られてるから中途半端に強い。
しかも、その無理な出力アップと科学と魔術の拒絶反応で肉体が危ないから決着を急ぐ。
肉体的に損傷するダメージを与える事が道義的に出来ないって言う状態で。
ヒュドラは下手に斬ったら増殖してもっと強くなるって剣使いと相性の悪い相手だし、
屋内戦でアイテムも側にいるから迂闊な爆砕技も使えない。
ミンチにしたら勝てるかも知れないけど、再生とかの勝手もよく分からない。
確実な方法は神話通りの焼く事しか分からないって感じで。
確かに、もう少し上手くやれるかも、とも思うけど、一応理屈としてはこんな所で。
>>814
刹那の場合、仕事に関しては「表」とも言い難いですからね。
ネギま!の「裏」の定義もちょっとなんですけど、自分でも裏って言ってたと思うし。
エヴァも「昔のお前は」とか言ってて、
仕事モードに入ったら小太郎が惚れ惚れするのが刹那だし。
麦野は学園都市の常識でものを考えているから、
あの状況で二人ぐらいで対処に駆け付ける実力部隊って言ったら表とは考えない訳で。
麦野は姐御お嬢とターミネーターと、どんな配合のパーソナリティか
垣根前と垣根後、旧約と新約での変化過程もあると思うけど、
暗部で実力部隊を率いて最終的には生き残ってるだけの標準以上の器量と頭脳はあるでしょう。
この段階で麦野がどれぐらい情が深いかってのもあるけど、
今の段階だと利害が一致してるってのが大きいかと。
麦野から見ても意味不明に近い状況で初対面からヒュドラを斬って拘束するぐらいには強い訳だし、
取り敢えず退去警告は受けても直接敵対してた訳でもない。
途中で多少トチッてもヒュドラと刹那・愛衣の二面攻撃受けるよりはマシと言う事では。
性格的にも悪いサイクルに入らなければ、利害が合う内はそれなりの度量はありそう。
>>815
それでは、時刻もよろしい頃合ですか。
今回の投下、入ります。
>>810
× ×
「メイプル・ネイプル・アラモード…」
「わああああっ!!」
フレンダの悲鳴の中、跳躍した愛衣が、
ヒュドラの胴体から伸びる大蛇の群れに絡む様に大きな火球を投げ付けた。
「あ、あ、あ…」
フレンダが愕然としてそれを見ている。
その間に、愛衣は着地して座り込み、左手で箒を握ってすっと床に右手を差し伸べる。
愛衣が僅かな熱伝導を読み取って小さく頷き、その形のいい唇に薄い笑みが浮かんだ。
ぼっ、ぼっ、と愛衣の周囲に火球が浮かび、それが一斉に飛び上がり放物線を描いて落下する。
次の瞬間、橋は大量のブロックへと変貌し、下の階層の橋を巻き込みながら落下した。
「佐倉さんっ!!」
鉄柵から身を乗り出す様な刹那の叫び声の後、
闇の中の下層のフロアからぼっ、と一度炎が点灯し、刹那ははあっと座り込む。
愛衣は愛衣で、命を繋いだ箒を左手に握ったまま、
壁に背を預けてずるずると座り込んでいた。
>>816
× ×
「マジかよ…」
吹き抜けの最下層で、麦野が舌打ちした。
そこには、下の階を巻き込みながら落下した橋の残骸が積み重なり、
そこで潰された肉の塊もそこここに見える。
それと共に大量の血痕も残されていたのだが、
その血痕はずるずると移動の痕跡を示しており、それが途中で途切れていた。
「あれでまだ生きてるって、超下等生物なのか、それとも…」
「文字通りの化け物か、ってかぁ」
絹旗の言葉に麦野が苦い口調で言う。
そこで、麦野が携帯を手にする。
「もしもし…フレンダ?」
「ば、ば、爆弾っ!」
「あ?」
「爆弾、仕掛けられてるっ!!
全部は見てないけど、多分建物ごと潰す気っ、
結局、私から見たら稚拙極まるけど、
それでも私がやろうとした配置に酷似してる訳だからっ!!」
「クソがあっ!!」
「えーと、分かるかな、今から合図するからその方向に走ってっ!!
結局どこまで仕掛けてるか分からないし撤去し切れないから一直線だけやっといたって訳!」
「分かったっ!!」
その時、通路の一つの奥から爆発音が聞こえた。
「出るぞっ!!」
>>817
× ×
研究所外の荒れた空き地で、一同荒い息を吐いていた。
その直後、ズズ、ン、と研究所が崩壊して見る見る瓦礫の山と化して沈んでいく。
ヒュドラが橋と共に落下した先も地下三階だった。
バッと立ち上がった絹旗が大の字に体を広げ、カカカカンと銃弾が弾ける。
空き地に突っ込んで来て窓から細い煙を上げていたバンが原子崩しを受けて爆発する。
それでも、キキキッと数台の車が突入して来て突撃銃を手にした迷彩服が続々と降車する。
「神鳴流秘剣・百花繚乱っ!!」
麦野が原子崩しを連射している側では、刹那も夕凪から強烈な気の衝撃波を放つ。
「ひゅうっ」
麦野が口笛を吹く。刹那の放った一撃が一直線に断ち割った敵陣のラインを、
刹那と愛衣が突っ走り妨げる者をなぎ倒して出口に向かう。
元々、銃弾ぐらいは何とかするスキルを持ってもいるらしい。
「ふんっ、こっちはそんな器用じゃないんだにゃー。
だ、か、ら、
ブチコロシ確定だあっ!!!」
乱戦の中、更にもう一台のワゴン車がクラクションを鳴らして突っ込んで来た。
それも、防弾車らしい。
クラクションが自分達の符丁の緊急信号であると気付き、
急停車した車にアイテムの面々が乗り込む。
「おらあっ!!」
帰り際、半ば箱乗りした麦野がシリコンバーンで迷彩服を一掃する。
>>818
× ×
「ったくよぉ、小賢しく欲かいて先回りなんてするモンじゃねぇぜ」
幾つか車を乗り換え、研究所からかなり離れた場所で、
麦野は下部組織の運転手と分かれて嘆息した。
「ん?」
その時、麦野がすかっと身を交わす。
本を読みながらトテテと小走りして来た人物が、どてんとその場に転倒した。
「Sorry!」
被っている白いフードが邪魔だが、声や体格からして中学生ぐらいの少女らしい。
「ぺらぺらぺらぺらコンニチワぺらぺらぺらぺらコンバンワぺらぺらぺらぺらオハヨウゴザイマス
ぺらぺらぺらぺらぺらゴキゲンヨウぺらぺらぺらぺらアナタノオナマエナンデスカ
ぺらぺらぺらぺらオバンデスぺらぺらぺらぺらぺらゴメンクダサイぺらぺらぺらぺらシツレイシマス」
ぺらぺらぺらぺらまくし立て、ぺこりと頭を下げてアイテムの面々からトテテと遠ざかる。
そこで、絹旗が自分の携帯を差し出した。
「で、辞世の句でも聞かせてくれるのかにゃー?」
「Sorry あなた方に回収されるなら大丈夫と思ってた」
「私達にあの化け物をどうしろってんだ?」
「That’s
それが分かっているからよ。
前にも言ったわ、少なくともオカルト狂いしたマッドサイエンティストに任せるよりはマシだと。
欲得ずくの現実的な選択肢として、あれを外に放ってどうこうすると言うものは存在しない筈」
>>819
「なんなんだよアレは?」
「Hmm
私自身が直接関わっている訳じゃないから正確なところは分からないわ。
研究所の現場研究と情報を掌握したカルト団体が一歩出し抜いて
目的の物を作り上げて現物を持ち出したみたい」
「カルトだと?」
「ええ。統括理事会、オービット・ポータル、研究所、カルト宗教。
それぞれがそれぞれの思惑と名目で騙し合いながら作り上げた
クローン或いはキメラ或いは生物兵器。結局の所はバイオテクノロジーが作り出したモンスター。
自分が作っている、作らせているものはそれぞれがそう見ていたと言う事。
その中で、最終的にカルトが出し抜いた」
「そんな事が出来るのかよ」
「Probably
だけど、資金の流れその他を考えると、
オービット・ポータルの側、それも上の方とカルト団体が一体である、
そう考えるのが自然だわ」
「で、あの化け物の弱点なんかは分かってるのか?」
「情報は錯綜してる。
Repeat
元々、私が直接関わってた研究ではないわ。
聞こえて来ている情報では、
データから見ても異常な進化を遂げていて、最早元の知識は参考にもならない。
それに、もうあなた達の領域ではないわ」
「なんだと?」
>>820
「統括理事会が腰を上げたと言う事よ。
主要な部分は逃走した研究者の独断に近い状態だったけど、
関係者からの情報収集、小型核爆弾レヴェルの広範囲高熱爆弾の使用も検討されてる。
Already
事前の回収に失敗した時点で、あなた達のレベルでもう出来る事は無い」
「くっ、くくく」
「Something?」
「人にケツ回しとしてナメてんじゃねぇぞ負け犬。
こっちも鉄砲玉向けられてはいそうですかって話じゃねぇんだ。
この街の闇を巻き込んだんだ。精々首洗って待ってろ」
麦野が携帯を切る。
「で、さっきのガキ、
英語に中国語に日本語のチャンポン、けど、
適当の様でいて無意識の法則性があって
そこから外れた不自然なものが隠せてないってのが所詮二流よ。
サイコメトラー、あれがチャンネルを繋ぐキーワードってとこか。
はぁーい、聞いてるー?原書とか読んでるインテリお嬢様で驚いたかにゃーん?
つー訳で…」
元々近くまで合流していて、
空中から追跡していた愛衣と刹那に携帯で呼び出されていた宮崎のどかが、
物陰で本からそーっと視線を上げてだーっと顔に汗を垂れ流す。
その先では、結構インテリなお嬢様が実にいい笑顔を浮かべて
周囲にぼっぼっと光球を浮かべている。
「ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね」
>>821
× ×
「ああっ、あっ、あっ、あぁーっ!!!」
バッグを抱え、きょろきょろと周囲を伺っていた男が逃走し、
その内に路地裏に追い詰められる。
そこに、ざざざっとどこからともなく特殊部隊もどきの黒ずくめが殺到する。
「ま、待ってくれ、お、俺は関係ない、関係ないんだ、あああーっ!!!」
その側で、携帯電話を使う男が一人。
「書類がテーブルに?ああ、それ今日じゃなくても大丈夫だから。
ついでに…ああ、分かった、急がないなら買って帰るわ。
じゃあ、今日は遅くなるから。帰って来るまで起きてるって?上手く言っといてくれや。
じゃあな」
電話が切られる。
「あーあーあーあー、
班を三つに分ける。
一つは引き続き関係者の捜索、一つはブツっつーかアレの回収
後一つは、押さえるぞ」
ついっと天に視線を走らせ、大雑把な指示が終わる。
>>822
× ×
建物の角に向けて原子崩しを撃ち込んだ麦野がそちらに走る。
「護衛がついてたって事か?
それとも、あのガキにそんだけの腕っ節があったって事か」
アイテムの面々が追い付いた先で麦野が言う。
逃走ルートと思しき路地裏には、
将来の佐天さんのお知り合い候補が1ダースほど転がってるだけだった。
「餌ぶら下げてやりゃあ尻尾でも掴めると思ったんだけどなぁ」
「超すばしっこいですね。もしかしたらさっきの二人組」
「かもな。どうだ滝壺?」
麦野の言葉に、滝壺が首を横に振る。
「昨日からみょーな事ばっかりだ。
低く見ても強能力者レベルの連中が動いてるってのになぁ」
ぶつぶつ言いながら、麦野は路地裏から通りに出る。
「どっちにしろ、ヒュドラじゃねぇが
私らのケツ狙って来るってんなら頭潰してやんねぇとなぁ。
私らが勝手に巻き込まれたって言っても、
あんだけ噛み付いてくれたんだ、飼い主さんにはきっちり挨拶してやるさ。
ヒュドラだけじゃねぇ、ヒュドラは多分尻尾の欠片。
頭はどこにある?あるとすりゃあ。
得体の知れないイレギュラー共もそれが目当てなんだとしたら…
行くぞ」
「どこに?」
尋ねるフレンダの視線の先で、
麦野の視線は天を向いていた。
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
乙
何つーか嘆息する様な裏事情だな…
統括理事会と外部のカルト宗教が協力関係とか日本政府とオウム真理教が協力関係だったみたいなもんだと思うが、よく麦野驚かないな
学園都市ではよくあること
感想どうもです。
それでは今回の投下、入ります。
>>823
× ×
どっちかと言うと、作者自身が忘れそうなので
一度確かめておく。
現時点に於ける千雨チームの面子。
相坂さよ 明石裕奈 朝倉和美 綾瀬夕映
和泉亜子 大河内アキラ 古菲 早乙女ハルナ
佐々木まき絵 長瀬楓 長谷川千雨 村上夏美
では、以下本編。
科学の学園都市工事用地下道。
歩いているのは長瀬楓、長谷川千雨、村上夏美、綾瀬夕映、明石裕奈。
後の面々は「天狗之隠蓑」に潜伏している。
「変わってなきゃいいんだがなぁ」
ノーパソ化した「力の王笏」を手に千雨が言う。
「最新のデータなんでしょ?」
裕奈が言う。
「多分な。集められるだけのデータを真偽も含めて解析して、
なんとかエンデュミオンに潜り込めそうなルートがこのルートって事になるんだけど」
そこで、夕映が携帯を取り出す。
画面を見た夕映が携帯を掛ける。
「もしもし、詳細を千雨さんに回して下さい、可能な限り迅速かつ詳細にです」
「どうした?」
「のどかからの報せです」
尋ねた千雨が自分のノーパソを見る。
>>827
「本屋ちゃん、刹那さん達についてるんだよね」
「想像以上にまずい状況です」
夕映が苦い顔で言う。
「なんだ、こりゃ?」
届いたメールを見て、千雨も息を呑む。
「テロです。科学の学園都市内で、魔術カルトによるテロが続発してるです」
「テロぉ?」
夕映の物騒な言葉を裕奈が聞き返した。
「ええ、そうです。
何かカルト的なグループが魔術を使ったテロを頻発させています。
実行犯は科学の学園都市側の人間。
科学の高みに近づく時、人は往々にして非科学の誘惑を受ける。
過去幾度も繰り返されて来た事です」
「それって、本物の魔術の事なの?」
夏美の問いに夕映が頷く。
「常盤台だけなら催眠術とも解釈できますが、
ヒュドラまで持ち出しているのですから」
「ヒュドラって、ギリシャ神話でヘラクレスと闘ったあの大蛇の事?」
「その通りです」
夏美の言葉を夕映が肯定する。
「なんでそんなモンが科学の学園都市に…」
「召還した者がいると言う事です、こんな所に」
千雨の言葉に、夕映が応じた。
>>828
「術式の特徴からして、カルトの黒幕はレディリー・タングルロード、それ以外に考えられません。
ヒュドラの召還に使われた核となる生物は科学の学園都市のバイオテクノロジーによって生み出されたもの。
そこに、魔獣の召還術式を融合させたハイブリッド・モンスター」
「は、はは、なんかそんな映画あったんじゃない?」
夕映の説明に、裕奈が乾いた笑いを浮かべた。
「ああー、こりゃあその手の映画そのものの筋書きだな」
ノーパソに目を通していた千雨が言った。
「この街の最高権力である統括理事会の承認の下でクローン関係のヤバイ研究やらせてて、
研究所の現場を裏で操っていたカルトがそこに乗じて
もっとヤバイものを創り上げた挙げ句にブツを持ち出した。こういう筋書きだ」
「のどかが読んだ内容やその他の情報から推察するに、大凡そんな所でしょうね。
カルトの黒幕はレディリー・タングルロードで確定。
そして、研究所のスポンサーはオービット・ポータル。
利用するつもりが利用されての堂々巡りです。どうでしょうか?」
「そうですねー」
夕映の問いに、千雨のノーパソを通して葉加瀬聡美の声が答えた。
聡美は麻帆良学園警備の調査を警戒して、
麻帆良にいながら学園祭の陰謀の遺物と言うべき隠れアジトに待機していた。
「オービット・ポータルは、
科学の学園都市の中でも極めて高い水準の技術力を有する企業。
専門である宇宙開発以外にも各分野の研究開発や軍需関係に強い影響力を持っています。
あの街の統括理事会がそこまで抜けているとは考え難い所もありますが…
出し抜かれたとしたならば、今頃あの街の闇が血眼で対処しているでしょうね。
科学の学園都市、その異常とも言える技術力と独立性を維持している、
私達の世界でもそう囁かれている裏の暴力装置の存在を」
「だとすると…これって、科学の学園都市の超能力者か?」
葉加瀬の言葉を聞いて、千雨が言う。
>>829
「ヒュドラの現場に強力なエスパーがいたって話だ。
そもそも、宮崎が持って来た情報もそいつからあの本で引っ張り出してる」
「どんなの?」
裕奈が尋ねる。
「女ばかりの四人のチーム。
ロケット弾を使うお洒落な金髪の女の子、一目で見るからにゆっさゆっさのたゆんたゆんのおかっぱ」
裕奈が顎に指を添えて考え込む。
「小柄な女の子、但し、やたら怪力でやたら頑丈、少なくともまともな人間業じゃない。
リーダーはもしかしたら十代、もしかしたら三十路でその間のどれか。
シーンによって言葉遣いがぶっ飛ぶ、空中からビームを出す、名前はムギノシズリ…」
「間違いないわ」
裕奈が言う。
「昨日、ファミレスで私達とドンパチやった連中。
流れ弾そいつらのテーブルに撃ち込んじゃってさ、
鬼の追い込み掛けられてアキラ怪我させちゃって」
「刹那さんは彼女達に就いて、
言動などから科学の学園都市でも裏側で特殊な任務を行っている人間と推定しているですね。
それでは暗殺を疑われても仕方がない状況です」
「だよね…それでアリサも助けられなかったし…」
「今言っててもしょうがない。
問題は、そんな連中が動いてるって事は、どっかでかち合う事になるかも知れないって事だ。
そいつら強いのか?」
「かなり強い」
裕奈が真面目な表情で言う。
>>830
「でしょうね。刹那さんもそう言っています。
ヒュドラ相手でも引けを取らなかった、
対立した軍隊レベルの武装集団を瞬時に、皆殺しにした。
戦いになったら容易な相手ではないと」
「うん。この面子で戦う事になったら本気で総力戦掛けないと危ないと思う」
「そんなモンとやり合わないのを祈るしか無いな」
「その、ヒュドラってどうなったの?」
夏美が尋ねる。
「行方不明です。刹那さんと佐倉さんが合流して対処しようとしましたが逃げられました」
「ちょっ、じゃあ捕まえないとっ!」
夏美が叫ぶ。
「ヒュドラって、大袈裟に言ってるんじゃなければ正真正銘の怪獣だよっ!
そんなのが街に逃げ出したら大変な事になるっ!!」
「それが狙いです」
夏美の言葉に夕映が続けた。
「レディリーが今、このタイミングで魔術テロを続発させると言う事は、
科学の学園都市と共に魔術サイドの目をそちらに向けるためと見るべきです。
ですから、ヒュドラの件は刹那さん達に任せるです。
ハイブリッドとは言っても相手は魔獣です。刹那さんであれば十分に信用できる。
まして、今の刹那さんのユニットであれば盤石の少数精鋭と言ってもいい」
「ああ、相手が魔物なら、あいつらならどうにでもなるだろ。
私らがそんなモン追い掛けて上の街を動き回ったら、最悪昨日の二の舞だ。
ムギノシズリと言い、超能力者とも散々トラブッた後だしな」
千雨の言葉に、夏美も頷いた。
>>830
「しっ」
楓が唇の前で指を立てる。
「孤独な黒子」の発動中ではあるが、
この科学の学園都市では絶対とは言えない事を千雨達は何度も経験している。
一同は、放置されたロッカーの陰に隠れて前方の十字路を伺う。
「ひっ!?」
誰かが引きつった声を上げる。
十字路を右から左に、一本の胴体から大量の首が伸びた大蛇が
体から煙を上げながらずざざざざっと移動していた。
「ハッハーッ!!おーいおいおい、
実験動物って、こんぐらいここの科学なら軽いってマジかぁーっ!?
これって完全に怪獣退治だよなーアレイスターよぉーっ。
どっか懐かしいテーマパークでヒーローショーでもやれってかぁーっ!?」
その大蛇の後を追って、
白衣に刺青のマッチングがなかなか斬新な男を中心に取り囲む様にしながら、
一見して特殊部隊と言う風体の小銃と火炎放射器を担いだ
黒ずくめの集団がドドドドドドと通り過ぎる。
>>832
× ×
風紀委員第177支部。
「あ、御坂さん」
「何か分かった?アリサの事とか…」
訪れた美琴の問いに、初春が首を横に振った。
「さらわれたのは鳴護アリサ、それは間違いない筈なんですけど」
「アリサの件は、直接事件として認知されてはいないわ。
道路上で結構派手な事件にはなったみたいだけど、
その辺のアンチスキルの捜査も難航してる。
一方の当事者が黒鴉部隊と言う事で、なんのかんのと非協力的みたいね。
表向きは認可部隊と言えど治外法権って訳じゃないけど、
結局はバックとの政治の問題になるって事」
「…オービット・ポータル…」
「に、しても形振り構わな過ぎる。こんなやり方してたら、
遅くなっても無事で済むとは思えないんだけど」
美琴に説明しながら、固法も怪訝な顔をする。
「カルトの方は?」
「ギリシャ系の占い愛好会を偽装したカルトグループ。
厳密には越権になるけど、学生を食い物にしてる。
少しこちらでやらせて貰ったわ」
「有り難うございます」
美琴は頭を下げるが、それに対する固法美偉の表情はどこかうかないものだった。
>>832のアンカは>>831で
では続き
>>833
× ×
「………絶好調だな………」
「魔法を学ぶ者として、聞いてはならない名前を聞いた気がするですが…」
「今の、ヒュドラ?」
「見た目はそうですね」
千雨が呆れ返り、夏美の問いに夕映が頷く。
「なんつーか、あんまし心配するの馬鹿らしくなって来たって言うか、
さすがは科学の学園都市か?」
呆れる千雨の横で、夕映が思案している。
「これで済みますか?」
「何?」
「レディリーは形振り構っていません。その必要が皆無だからです。
だから、科学と魔術の混合技術、それも不完全なものを惜しげもなく投入して来ているです。
バレたらどうなるかとか、それによる科学と魔術の紛争など知った事ではない、
むしろ、今であればそれをやってくれる方が有り難い」
「今、そこで科学と魔術が衝突したらそれこそ思う壺か」
「その通りです。最悪、科学サイドが既存の魔術サイドのテロと考える、
その逆も又あり得る、そういう事です。
とにかく、莫大な資産と侮れない情報網、そして数百年の知識。
その全てを今夜一晩、その一瞬のためだけにつぎ込んで来ている相手です。
捨てるものが何もない、何しろ全てを捨てる事それ自体が目的なのですから」
夕映の指摘に、一同は改めてぞおっとした。
>>834
× ×
ヒュドラを追跡した黒ずくめの集団は、地下道の三叉路に辿り着く。
それでも、全く迷う事無く、ヒュドラの逃走した方向へと進路を取る。
「!?」
次の瞬間、先行した黒ずくめ三人が三叉路へと吹っ飛ばされて戻って来た。
「んだぁ?…!?」
次の瞬間、バシーンと巨大な鞭が叩き付けられた様な音が辺りに響いた。
「ひ、ひ、ひっ!?」
黒ずくめが後ずさりするが、無言で立っている上司の姿に何かを取り戻す。
目の前に蠢いているのは、ミミズの化け物だった。
太さからして人の二人や三人縦に飲み込めそうな、
長さもそれに見合った正真正銘の化け物。
だが、化け物だろうが何だろうが、そんな下等生物を相手にした所で、
失敗しても死ぬだけの話だ。
それを思い出した黒ずくめがミミズの化け物に一斉射撃を開始する。
「あーあー、B2、こっちに合流しろ、少し人数が要る」
「了解、これより…はひゃっ?」
「ん?」
「ひゃっ?あひゃっ、ちょ、ちょっなにらめあはあああんっ」
「ちょっ、あんた何やっ、あっ、あっだめ何そこもんでやっ、
あああもまなああっらめらあぁぁぁぁ」
「何をして………ナンシー、ヴェーラ行動不能っ!!………
このぉ、ぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!……………」
「……………」
今回はここまでです。続きは折を見て。
木原クンは平常運転
乙です
乙
夕映も適当なこと言うねぇ
学園都市はオカルトと科学を徹底して分けて考えたからこそ超能力開発に成功している
根本的にその二つを混同するような仕組みや風潮が存在しないんだよね
例外は学園都市をそう造った本人であるアレイスターくらいだけど、それすら魔術そのものは使っていない
それにしてもレディリーが随分と好き勝手してるけどアレイスターにはこいつをここまで泳がせるメリットがあるのか?
地味に都市の機能が不全を起こしてるっぽいんだけど
感想どうもです。
>>838
難しい所ですね。
正しい指摘だと思いますよ。
もちろん、余り世界観から無茶な事はしない様に、と心がけていますが、
と、だけ、今は敬意と共にコメントしますとサクシャは(略
自身思う所はある筈ですが、作中で表現出来るか、どうか…
それでは今回の投下、入ります。
>>835
× ×
「しかし、それはこちらにとっても付け目かも知れません」
「どういう事?」
夕映の言葉に夏美が尋ねた。
「レディリーが、
他の勢力の目をヒュドラやその他の魔術テロに向けると言うのであれば」
「それが成功した場合、本命に向かうのは私達だけ」
夕映の言葉から裕奈が結論づける。
「その通りです。ここで私達が魔術サイドと競合した場合、
北半球と言われればそれに対抗するのは容易ではありません。
こちらは、ヒュドラの事は刹那さん達に任せて先を急ぎます。
始まる前に術式か術式の核に対処する、それが出来ればこちらの勝ち。
そういう事です」
「北半球と千雨ちゃんの友達、
そいつをブッ千切りで抜け駆けゲットしに行く。責任重大だね」
夕映の説明に、裕奈は改めて不敵に笑って見せた。
>>839
「は、はは、って、事だな」
千雨が、脚の震えを抑えて言った。
「ここに来た時点で、ハナっからそれ以外の選択肢は捨ててるんだ」
「その通りです。先を急ぎましょう」
千雨が改めて腹をくくり、夕映がそれに応じた。
× ×
「元々、固定的な教団と言うイメージとはちょっと違う組織みたいですね。
細胞分裂しながら相互に連絡を取っているとでも言うのか…
取り敢えず、白井さんの調査結果などからアジトに踏み込んである程度の情報は得たのですが…」
「何と言うか、先回りされてたのよ」
初春の言葉を固法が引き取る。
「常盤台と直接的に関わってた小さな組織については、大方の証拠は得られました。
関係する書類と、それから電子データはUSBに落とされてテーブルの上に用意されていました」
「用意されてた?」
「はい。只、明らかな欠損もありましたが」
「金星の儀式、月の儀式」
初春の説明に、固法が眼鏡をついっと上げて付け加える。
「元のデータからUSBに移す時に、
この儀式の関連データだけは外されていた、そうよね」
「その通りです。削除その他の形跡もありませんでしたから、
最初からコピーの対象から外していた筈です」
「その、元のデータは?」
「焼却されてたわ。
パソコンや周辺機器記憶媒体、デジカム、デジカメ、携帯、アナログの写真やネガ、
そう言ったものが大量にお風呂にぶち込まれてサラダオイルで焼却されてた。
技術的にも復元は困難ね」
「証拠隠滅?」
「普通ならそう考えますよね…」
美琴の言葉に初春が妙な反応を返した。
>>840
「その、本来なら証拠隠滅する側、
主にそのアジトを仕切っていたカルトの幹部は拘束したわ。身柄はね」
固法の言葉も、何か引っ掛かる言い方だ。
そんな美琴の感想など百も承知で固法は続ける。
「引き渡したアンチスキルのサイコメトラーの方がダウンしちゃったんだけど、
なんでも本人の記憶通りだと、中国王朝の後宮に仕えるための外科的な措置を
最低百回は経験してる事になってるみたい。
身体検査の結果ではそんな形跡は一切存在しない、
外形的にも外科的な機能も正常そのものだと言う事だけど。
それでも、事情聴取どころか廃人以外の選択肢を見付ける方が難しい状況だと言う事よ」
「月の儀式、金星の儀式…」
固法の説明を聞きながら、美琴は顎に指を当てて呟く。
「カルトに関わっていた何人かの身元は把握したんですけど、
下っ端にいたグループは、
廃ビルの中でその仲間同士で殴り合いを行って入院しています」
「仲間割れ、って規模じゃないわ。明らかに肉体的な限度を超えて殴り合いを続けてたみたい。
全員肉も骨もズタズタで瀕死の重傷よ。
そして、逃走中だったもう一つ上の幹部は、土下座をした状態で発見された」
「土下座?」
「ええ。2メートル四方の竈に木炭を埋め込んでオリーブオイルを振りかけて、、
その上に鉄板を乗せてその上で全裸で土下座をしていた。
木炭の中には時限発火装置が仕込まれていたわ。
現場近くで時限装置つきの大量の花火が打ち上げられたから死ぬ前に発見出来たけどね」
「現場からタイマーつきブザーが見付かったので或いは、とも思われたのですが、
自殺みたいなものですから後催眠の様な催眠術で出来る事ではありません。
何等かの手段で強制するか、或いは、少なくとも直前まで本人の置かれている状況を完全に騙しきるか。
本人も一命を取り留めましたがとても事情を聞ける状態ではありませんので」
固法と初春の説明を、美琴はじっと聞いている。
そこに見えるのは、決して触れてはならない逆鱗に触れてしまった事への底知れぬ怒り。
>>841
「占い、か。ギリシャ系の占いって言ったよね」
美琴が、思い出した様に方向転換する。
「はい。ギリシャ占星術、星占いです。
それも、素人向けに色々アレンジされてはいますが、
かなり本格的な知識も組み込まれているみたいですね。
もっとも、私も押収された資料や写真をネット検索しただけですけど」
「第一二学区の専門家にも当たったんだけど、
かなり高度な知識がさり気なく織り込まれている、そういう反応だったわ」
「占い、か…」
「………この科学万能の学園都市でも、
あるいはだからこそ、人の心が縋るものを求める。
そういう時があるのかも知れない」
美琴の呟きに答え、固法の目はついと斜め下を向く。
「それで、御坂さんこれ」
初春がパソコンを操作し、画面を示す。
「これって、ホロスコープ?…」
「関連資料の中にあったものなんですけど、私、多分これ見ています」
「見た?」
「ええ。このホロスコープ、
あの時の電子ドラッグの入口にあったもの、そんな気がします」
「なんですって…」
初春の言葉に、美琴が低い声を漏らす。
>>842
「相手の脳、或いは意識に取り憑く未解明の技術。
二つの事件の性質を考えると無関係とも言い切れないわね」
「じゃあ、やっぱりあの事件とも繋がってるって言う訳?」
固法の言葉に美琴が呟く。
「このカルト集団、想像以上に得体の知れない存在よ。
一見すると仲間内のミニカルトなんだけど、実際にはそれを偽装している。
グループを小さく目立たなく見せる、それでいて高い効果を上げる。
そのために使われているコストが尋常ではないわ。
裏帳簿とかそういうものは全て押収できたからアンチスキルもその辺は調べるとは思うんだけど」
固法が歯切れ悪く言っている側で、初春がパソコンのモニターに視線を向けた。
手早くキーボードを操作する。
「初春さん?」
「ようやく、引っ掛かったみたいです。出し抜けました」
× ×
「桜咲さん」
科学の学園都市のとある歩道で、刹那と愛衣が合流した。
「どうでした?」
「研究所から探知魔法を試したかったんですが、
近づける状況ではありません」
刹那の問いに、愛衣が首を横に振って答えた。
「その、ヒュドラの最近の居場所が分かりました」
「どこですかっ?」
「この科学の学園都市の地下を逃走中です。
リアルタイムで逃走中ですが、近い時刻の大まかな場所も分かります」
>>843
「それは、どうやって?」
「今はとある情報網、と言う事で」
「…その情報網は信頼に値するんですか?」
「確かに」
「分かりました」
愛衣が納得して見せる。
まず、裏の仕事だと言っても、桜咲刹那と言う剣士は、
事、今組んで作業をしている自分を相手にしての腹芸は全く似合わない。
刹那が信頼出来ると言うのなら、少なくとも桜咲刹那と言う人物は信頼出来る。
そして、愛衣としてはその気遣いに心の中で嘆息したが、
その情報源であれば確実な情報なのであろう。
むしろ、変に手出しをせずにこちらに任せてくれるだけ助かる。
「問題が一つあります」
「なんですか?」
「そのヒュドラをこちら、
科学の学園都市のものと思しき特殊部隊が追跡中だと言う事です。
先ほどの四人組は、恐らくある程度自由の効く請負型のチーム。
ヒュドラを追跡しているのがこの街の部隊だとすると、恐らく裏の部隊でしょうが、
迂闊に接触すると面倒な事になります」
「しかし…」
刹那の言葉に愛衣が続ける。
「万一、ヒュドラをこの科学の学園都市に引き渡す、
と言う結果も看過する訳にはいきません。
何より、魔獣を知らない素人の対処では一般レベルまで被害が拡大する危険があります」
「そうですね。急ぎましょう。ルートも把握しています」
>>844
× ×
紆余曲折、いくつかの意外なリンクを通過して、
刹那と愛衣は未使用の地下道に侵入していた。
「少し距離がありますけど、
他のルートはセキュリティの問題があると」
「そうですか。では、急ぎましょう」
誰が言っているんだ?と言う言葉を愛衣は呑み込んで返答する。
直接対処するならばセキュリティを突破するのも得手な相手なのだろう。
「研究所地下の爆破のドサクサに紛れてこのルートに繋がるトンネルを開いた、
恐らくそういう事ですね」
「恐らくは。既に研究所は瓦礫の山ですからそちら側からのアプローチは無理ですし」
携帯に転送された地図を見る刹那と愛衣が言葉を交わしながら先に進む。
その内、刹那が怪訝な表情を見せる。
「桜咲さん?」
「血の匂い…」
「なんですって?」
「間違いない、それも、これはただ事ではありません」
刹那の表情は鋭いものだった。
× ×
「…これ…は…」
踊り場と言うか合流点と言うか、
地下通路の中でもちょっとした家ぐらいはありそうな広い空間で、
愛衣の足はたじっと退いた。
「少なくとも獣による被害ですね、間違いなく」
落ち着いた姿勢を崩さない刹那も、その顔色は決していいものではない。
壁も床も半ば以上赤く染まり、
その辺りに転がっている遺体は人型から肉塊から肉片までバラエティに富んでいた。
>>845
「毒液で溶かされています。ヒュドラと見て間違いありません」
「です、よね。たまたまこんなタイミングでこんな所で熊や虎が暴れるとも思えませんから」
その匂いに喉からせり上がるものを抑え込みつつ、
愛衣は自分を納得させる様に言う。
「この人数に装備であれば、ヒグマぐらいならそれこそ原形も残らない筈です」
刹那が転がる自動小銃を見て言った。
拳銃やSMGもその辺に転がっているが、
とにかく、ここで特殊部隊系の黒ずくめ姿で死んでいる面々の人数と武装を考えるなら、
一応武器の使い方を知っていればド素人でも獣を仕留めるぐらいは出来そうだ。
相手が怪獣でも無い限りは。
腕で汗を拭いながら、青い顔でふらふらと動いていた愛衣が何かを拾い上げる。
「佐倉さん?」
刹那が、低い姿勢で壁際に走る愛衣の異変に気付く。
「う、お、おおっ、おおおおおっ」
駆け寄った刹那の前で、愛衣は蹲りげぇげぇ戻している。
無理も無いと刹那も思う。愛衣の経験値がどの程度か分かりかねる所もあるが、
裏の仕事をして来た刹那でもこれは耐え難いものがある。
「う、えええっ、す、すい、ません」
背中をさする刹那に、既に胃液まで吐き出して目尻に涙を浮かべた愛衣が小さく頭を下げる。
その時、刹那は愛衣の脇に置かれたデジタルビデオカメラに気付く。
モニターを再生に成功した刹那の目が見開かれた。
それは、実験記録映像だった。
もっとも、撮影者も事情によりその作業を途中で放棄を余儀なくされたらしく、
途中から放り出された様な固定アングルの映像だけが続いている。
ヒュドラの生態、特に攻撃パターンに関する飽くなき実験が繰り返され、
ありとあらゆるパターン、状況を実際に作り上げ、対処した上での実験データが集積されている。
そして、それに基づく準備が行われるまでの時間稼ぎが実行されたしかる後に、
恐らく元の人数の五分の一よりも少ない人数になった黒ずくめの集団が、
多分その三分の二以上は無駄であったとしか思えない膨大な実験の結果から得られた
最も効率的な攻撃を展開しながらヒュドラを追跡してここから姿を消していた。
>>846
× ×
その瞬間、刹那の目からは慈愛も驚きも鎮魂も消滅し、
仕事に向かう鋭さだけが向けられた。
抜き打ちに夕凪が振るわれ、キキキキキンと弾き飛ばされる音を聞いて、
愛衣はようやく唇を拭い立ち上がった。
「風楯っ!」
その愛衣を襲った銃弾も彼女の防壁に弾かれる。
「大丈夫ですか?」
「はい、すいませんでした」
背中合わせになった刹那と愛衣を取り囲む様にわらわら現れたのは、
白い繋ぎにゴーグル、防塵マスクと言う出で立ちの集団だった。
中には農薬のタンクつき噴霧器の様なものを背負っている者もあり、
用意されたカートには色々と機材も搭載されていたが、
今は全員が拳銃を手にしている。
装弾数の多いオートマチックのマガジンを撃ち尽くし、順次交換している。
愛衣がバッと腕を振ると、一帯がふわあっと熱気に包まれ、
愛衣がもう一度腕を振ると空間の天井近くがぼうっと炎に包まれた。
「何か、妙なものを空気に溶かし込みましたね。
温度差気流のセンサーを張っていて助かりました」
「本来清掃用なのだがね。仕方がない、こちらで我慢しよう。
広がりの小さな直接噴霧、死体か精々瀕死の重傷者しか消せないと不便だが…」
刹那に囁いた愛衣の言葉を聞いたか否か、白ずくめの長らしき男が言う。
タンクから何かを噴霧されると、血痕が見る見る消滅し、
黒ずくめの衣服もぶかぶかになっていく。
>>847
「本物の、掃除屋」
刹那が小さく呟く。
裏側の作業で後が大変なハイパワーで暴れるの者がいるぐらいだから、
その後始末をする専門家がいてもむしろ当然だ。
拳銃の弾幕の後に、白ずくめの何人かが突っ込んで来た。
刹那が夕凪を振るうと、その者達はささっと距離を取る。
それでも、一人は刹那に叩きのめされた。
突っ込んで来た面々は、手に大振りの軍用ナイフを握っている。
「佐倉さん、自分の距離を保って下さい」
「了解です」
愛衣は、ぶわっと炎をまとった箒を振るってから、
無詠唱の火炎弾で相手を牽制する。
「発火能力者か」
白ずくめから呟きが漏れる。
愛衣も、飛んでくる弾丸から我が身を防御しつつ、意外と当たらないすばしっこさにじれて来る。
刹那は夕凪の棟を肩に掛け、油断無く相手を伺う。
裏の掃除屋。出動する場所が場所である以上、
無に帰すると言うその作業が妨げられるならば、その妨げごと無に帰する。
そして常に遭遇の機会がある裏側の危険から我が身を守り、
作業の信頼を保持するだけの力量を持っている。
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
乙
今更だけど統括理事会と魔術の技術提携って戦争モノだよね
まずは言っておこう。
ブラボーと。
お疲れ様でした。何はともあれ、楽しませてもらいました。
ああ、そう、あの人海外行っちゃうんだ、ふーん………
感想どうもです。
時刻もよろしい頃合ですか。
それでは今回の投下、入ります。
>>848
× ×
華奢な少年。
「社長」が見た最初の印象はこうだった。
少々物騒な清掃業者を率い、本業では無いが必要に迫られて技術力のあるサブ業務、
つまり、この文字通り死屍累々の血腥い巷で目撃者を消す。
そのために、学園都市の地下の広場で二人の少女を包囲していた所、
広場から地下道に出る通路の入口にその人影は立っていた。
その人影は、キャップを目深に被り、黒いTシャツにショートパンツと言うラフな姿。
その体全体もパンツからすらっと伸びた脚もどこか成長途上の脆さを感じさせる。
取り敢えず、この場合も、余り気の進まないセオリー通りに事を進めるしかない。
「社長」の顎の動きと共に、
「社長」同様白い繋ぎにゴーグル、マスク姿の面々が通路の入口に向けて一斉に発砲した。
× ×
それは、瞬時、と言っても良かった。
更に増加した目撃者に対して、裏の業者が裏のセオリー通りの事をやろうとしている。
それを察知した佐倉愛衣は、とっさにその通路に向けて防御力のある小さな火炎竜巻を放った。
だが、新たな登場人物はタンターンッと
通路入口の真上の壁に飛び付き壁を蹴って前方に大きくジャンプしていた。
そして、そのまま一直線に広場中央近くの佐倉愛衣と桜咲刹那の元へと突っ走って来る。
放たれる銃弾を物ともせず立ち塞がる白ずくめを叩きのめして。
背中合わせに立っていた刹那と愛衣は、
とっさにその乱入者を加えた三方向を見るシフトに切り替える。
>>851
「やっぱり、あんた達繋がってた」
刹那と愛衣が、間近でその声を聞く。
「色々聞きたい事はあるんだけど、取り敢えずこの状況ってなんなの?」
そう言われて刹那はようやく驚嘆する。
もう一押しの刺激があったとは言え、愛衣等は耐え切れずに胃液まで吐き出してしまった惨状。
そこいら中に噛み千切られた遺体が転がった血まみれの広場で、
拳銃を手にした集団に取り囲まれている。
確かに強いのは分かる。だが、身にまとう雰囲気は明らかに表の人間のそれ。
にも関わらず、自分達と同い年ぐらいであり自分の経験値がかなり尋常ではない筈である、にも関わらず、
この状況に対してその声にはさ程の動揺が見えず確かに状況を把握しようとしている。
「この学園都市自体が非常に危険な事になっています。
対処したいのですが、見ての通りの事情でここから先に進めません」
愛衣が答える。
「どこから出たらいいか、分かる?」
「あの出入り口ですね」
刹那が答える。
「最後にもう一つ、ギリシャなんとかはあんた達の敵なの?」
「敵です」
「分かった」
愛衣の返答と共に、刹那が指した出入り口に青白い光が走った。
刹那と愛衣が光の後を追う。
白ずくめ達はそれを阻止せんと発砲したが、
刹那と愛衣自体の防御に加え、
次の一撃が、二人の両サイドを阻む壁の様に迸る。
刹那と愛衣が合流広場を脱出し、数人の白ずくめが後を追う。
>>852
「何故だ」
「社長」が呟く。
「カタギの匂いだ。
何故だ?
何を見たらこの場所で、その歳で平然としていられる?」
しかし、キャップの下に自嘲を思わせる笑みが僅かばかり浮かぶだけだった。
「何を、見て来た?」
「社長」の呟きと共に、白ずくめがじりっ、じりっと包囲を立て直す。
× ×
「科学と魔術、ハイブリッド・モンスターですか」
「そういう事の様です」
「その情報はどこから?」
取り敢えず、刹那が知っている最近のヒュドラの目撃地点に急ぎながら愛衣が尋ねる。
「とある確実な情報源からです」
「ですよね」
はあっと嘆息したい心地で愛衣が応じる。
白々しいにも程があるが、この場合、知って困るのはむしろ愛衣の方だ。
だからと言って、後で気が付きませんでしたとも言えないので、
一応型どおりのやり取りだけはしておく。
元々裏の任務に当たっている刹那との合流だけなら
ギリギリアウトの筈だがセーフと言う事にしておこうと言う範疇だ心理的には。
>>853
「魔力に感じられたノイズもそのせいですね。
バイオテクノロジーによる新生物を核にしてヒュドラを召還する。
科学の学園都市でこの様な事が行われたと知れたら、その時点で戦争ものですよ」
「科学の学園都市の大企業であるオービット・ポータル、
そのトップのレディリー・タングルロードが勝手にやった、
で通る話ではないでしょうね」
愛衣の言葉に刹那も同意した。
「しかもややこしい事に、レディリー自身はギリシャ占星術のシビル、
つまり魔術のサイドの人間です。
それが魔術で科学の学園都市でテロを起こしたと言う事になれば、
今度は魔術サイドが科学サイドに敵対したとも解釈出来ます」
「そこはもっと厄介ですね」
愛衣の言葉に刹那が続ける。
「そのギリシャ占星術のシビルが科学の学園都市で最先端の科学的大企業を経営した上に、
裏で魔術カルトを作ってその上に科学の技術まで結び付けた。
そもそも、エンデュミオンを使うと言う事自体、とてつもない科学的な事です」
「あーうー」
愛衣がとうとう頭をぐしゃぐしゃかき回し始めた。
>>854
「ホントーに無茶苦茶してくれます」
「後は野となれ山となれを地でいってますね。
それでは、私達ごときが出来る事は精々限られています」
刹那が言う。
「科学の学園都市にいるのは知っている人であれ知らない人であれ、人は人。
そこにヒュドラが現れたらどうなるか、
エンデュミオンによるレディリーのもくろみが成功したらどうなるか」
「どちらにせよ、それに関わっているのが魔術であれば、
止めるのは魔法使い、です」
一度頷き、愛衣が落ち着きを取り戻した。
「瓦礫の山もノアの方舟も御免ですから」
× ×
異臭が近づいてくる。
その正体が分かったのは、地下道が三叉路になった合流点だった。
「これは、魔物?ヒュドラ…」
「違いますね」
丸焦げになって転がっている何かを見付け、
スタスタと近づいた刹那がその巨大な炭化物をこんこん叩きながら愛衣の言葉を否定する。
「銃創が大量にあります。
ほぼ炭化しているので分かりにくいですが、これは恐らく蟲…」
「ワームですか?」
愛衣の言葉に刹那が頷き、周辺から肉片などを探知する。
「状況の不自然さ、遺留品から見て蟲使いが噛んでると見るべきです」
「でも、燃え方の状態から見て、これを焼いたのは科学の炎です。
蟲使いと科学サイドが衝突したと言う事ですか?」
「総合するとそういう可能性が出て来ます。
急ぎましょう。そんな状態が続いたらいよいよ収拾が付かなくなる」
>>855
× ×
「おおおぉぉぉーーーーーーーーーっっっっっ!!!」
背後からの援護射撃を受けながら、
猟犬部隊と呼ばれる部隊の隊員である数人の黒ずくめがそれぞれ、
チェーンソー、斧、マグロ包丁をヒュドラの首に叩き込む。
絶叫と共にひたすら巨大な刃を振るい、
ボトン、ボトンと巨大な首が落ちる。
「うーん、切り口に関係無しに首は二股で復活するって事か。
で、首に合わせて全体のサイズも調整される」
阿鼻叫喚の絶叫が響く中、
木原数多は実験結果を眺め記録のためにノーパソのキーボードを叩きながら、
それに貢献した結果我が身を二つ以上に引き裂いている
部下の勇姿を五秒ほどは記憶しておこうと心に決める。
少し、時間を食ってしまった。
こちらに報されない所で別の遺伝子工学実験でもやっていたのか、
新たに出て来たミミズの化け物を突発で駆除する羽目に陥り、
ミミズだけにやたらしぶとい駆除作業で物理的に火炎放射器の燃料その他が心許なくなった。
結果、木原数多は、その特徴からヒュドラと仮称した化け物とそのまま戦闘に入った場合、
木原数多の安全に関わると判断して一旦地上に帰還し再度の準備を行った。
合流命令に従わなかったB2チームの大半を原料とした愉快な芸術活動に一汗流した後、
些か筆にする事を憚られる内容の誠意と謝罪の限りを尽くした事に免じて
ナンシーとヴェーラにワンチャンスを与え、
執行猶予のリミットを適当に9月30日23時59時59秒に設定する。
ヒュドラに関しては、それ以前に部下が突進して発信器つきのペグを胴体に打ち込み、
そのまま部/下になったから見失う心配もなかった。
と、言う事で、木原数多はこうして再編成した猟犬部隊の部下達を引き連れ、
悠々と追い付いて駆除作業及び実験を再開していた。
>>856
「う、あ、お、おおおぉーっ!!!」
チラッ、チラッと後ろを見ていた数名の隊員の絶叫と共に、
ドドドドドンと、ヒュドラの胴体にその隊員達が手にしていた銛が撃ち込まれる。
「………薬物、毒物に関しては何れにしても効果は見込めず、と………」
阿鼻叫喚の絶叫が響く中、
木原数多は実験結果を眺め記録のためにノーパソのキーボードを叩きながら、
割と近い距離からホース・注射器を大型に改造した作りの銛打ち銃を撃ち込み、
仕込まれた薬物を確実に体内に注入した後、
大まかに取り揃えた毒物薬物各種が
ヒュドラの元気な活動に全く影響が無かった事を木原の目に知らしめてくれた
部下の勇姿を三秒ほどは記憶しておこうと心に決める。
「う、あ、お、おおおぉーっ!!!」
チラッ、チラッと後ろを見ていた数名の隊員の絶叫と共に、
ドドドドドンと、ヒュドラの胴体にその隊員達が手にしていた銛が撃ち込まれる。
「んー、携行用の電源じゃあこれが限度か。
いっそ、レールガンでも戦らせてみてぇ所だが、許可でねぇだろうなぁ」
阿鼻叫喚の絶叫が響く中、
木原数多は実験結果を眺め記録のためにノーパソのキーボードを叩きながら、
簡単に言えば超強力遠距離スタンガンである銛打ち銃を撃ち込まれたヒュドラの様子を確認する。
ダメージと言う程のものは見えない。
精々怒らせたと言う程度の効果であるからして、全く無意味と言う事でもないらしい。
木原は、有線と言う性質上大きく距離を取る事の出来ない
銛打ち銃をヒュドラに撃ち込んだ部下の勇姿を一秒ほどは記憶しておこうと心に決める。
>>857
「これを使え」
木原数多は、目の前に招集された部下の隊員達に
やけに太く長く黒光りしている拳銃を手渡す。
「あーあーあー、あれだ、要はダムダム弾の強力な奴だ。
飛距離はあんましないけど、当たったらデカイ。
そんなだから火薬と銃身と弾丸の配分も難しくてな。
ま、弾が飛び出さないで後ろに向かうって言っても
統計上は精々五回に一回だ、実験データに大した支障はねぇ。
つー訳で、張り切って行って来い」
ドンドンドンドンドンと重苦しい銃声と爆発音が響き、
ヒュドラの上顎から上が次々と吹き飛ばされる。
それでも、全ての首を飛ばすには数が足りない。
自動小銃による援護射撃や手持ちの拳銃をものともせずに、
生き残った首が怒りに燃えた目を光らせた頭部がくあっと大口を開けて降りてくる。
「うーん、上半分吹っ飛ばされてもそのまま修復するんだな。
て事は、あの頭は飾りで、下等生物がそう見えるってだけの事か?
それにしちゃあ狡賢い、脳味噌は別の場所にあるってのか」
阿鼻叫喚の絶叫が響く中、
木原数多は実験結果を眺め記録のためにノーパソのキーボードを叩きながら、
実際にヒュドラの頭部を破壊して見せた部下達の勇姿を0.5秒ほどは記憶に留めておこうと心に誓う。
既に顔が物理的に存在しないしわざわざ履歴書を確認し直す程暇でもない。
>>858
「つまり、結局の所は、神話の通り首落として焼いて潰すしかねぇって事かぁ」
木原数多は、ここまでの実験結果に就いて一応の総括をする。
「コントロールが効いてる様にも見えねぇし、
マジで暴れて人喰うだけの怪獣映画ってかぁ?」
ノーパソを操作しながら、木原は舌打ちをした。
「あーあー、アレだアレ、ほら、出せよ…」
ガサガサとケースを漁っていた隊員が引きつった薄ら笑いを木原に向け、
当然その微笑は瞬時に真っ赤に崩壊する。
「あーあーあー、ちょろっと電器屋行って、
ついでに適当なクズの追加見繕ってくるわ。
つー訳で、ここで足止めやっとけや」
木原数多は拳銃をしまい、颯爽と白衣を翻す。
× ×
風紀委員第177支部。
「もしもしっ!」
「初春さんっ?」
携帯がつながった事に、初春と側にいる固法は小さく安堵する。
取り敢えず、何かリズミカルに聞こえる火薬の破裂音とか
小さな金属が超高速で通過していそうなBGMに就いては聞かなかった事にしておきたい。
「今、地下にいるんですかっ?」
「うん、今…」
「もしもし、もしもしっ!!」
「初春さん…」
固法の言葉に、初春は首を横に振る。
>>859
「駄目です。地下で多分御坂さん自身が雷撃を使っています」
「大丈夫だと、思うんだけど」
固法が、通信端末に目を向けながら呟く様に言う。
「その、佐倉愛衣も地下にいるのよね」
「恐らく。何かずっと妨害されていましたけど、ようやく不正プログラムを出し抜いて、
ごく近い時間の防犯カメラから彼女の顔面認証がヒットしました。
ルートから考えて閉鎖されている地下道に入った筈です。
御坂さんの話だと、鳴護アリサの絡んだ色んな事件、
特に長谷川千雨、その辺と関わっているんじゃないかって」
× ×
「あー…」
木原数多は、死屍累々の巷に佇んでいた。
取り敢えず、ここで少し気を抜いても喰われる心配だけはなさそうだ。
「生存者ですっ」
新たに連れて来た隊員が言った。
「あ、ああ…」
木原が近づいて見ると、両脚が実に複雑な形状をもってデコボコし、
黒いズボンがぐっしょりと湿って地面まで赤く染まっていた。
「引き揚げろ、両脚ぶった斬ってその他は必ず治せって医者に伝えろ。
あーあー、だからって腕の良すぎる名医は駄目だぞ、あくまでこっちの御用達を使え。
とにかくだ、愉快な芸術活動ってのは完全健康体じゃねーと面白くねぇからなぁ」
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
乙
知られたら戦争とか言ってるけど、そもそもヒュドラを初めとする科学魔術ハイブリットテロってその他の魔術勢力を引きつけるための囮とか言ってなかったっけ?
何れにせよここまで世界の全勢力にケンカ売ったなら流石にレディリーも[ピーーー]るかもしれんね
しかし魔術的なコネが肝要なネギのプランは粉々になっただろうな…
感想どうもです。
それでは今回の投下、入ります。
>>860
× ×
エンデュミオン・シティの一角に集う面々。
中肉中背、ぱっつん横一直線に切りそろえられた飾り気のない前髪におかっぱがポイント高し。
そして、極めて重要度の高い情報を書き加えるならば、眼鏡。
クールと言うよりは地味に大人し生真面目なタイプの容貌をそのまま体現するキーアイテム。
惜しむらくは、それらの利点を最大限に活性化させる白衣と言う普段着が
今回だけはちょっと背伸び気味の秋物の上下に変わっていると言う事であるが、たまにはそれも良し。
かくの如くストライクゾーンど真ん中の紅一点を含む、
高校生ぐらい、或いはその上かも知れないどこかイモっぽくもキザたらしい眼鏡着用の一団。
その中から、割と短い髪型の男が、
実にキザたらしい所作ですいと前に進み出て口を開く。
「詳しい説明こそ無かったが、あの程度の奉仕活動で終わったと言う事こそ、
まだまだこの学園都市が我々の頭脳を必要としている証拠」
言いながら、酷薄な目を覗かせている眼鏡の真ん中を、中指の腹でくいと押した。
「つまり、我々の戦いはこれからだと言う事だ。
故に、本日は英気を養うと言う意味も兼ねて奇蹟の歌姫鳴護アリサ女神のコンサートを楽しみ、
しかる後、科学の粋を集めたその頂点で、あくまでも科学研究こそが………」
宣言してばあっと外側に広げた右腕のその付け根、つまり右肩ががしっと後ろから掴まれる。
「ひぃーっさしぶりだにゃーん♪」
今より後その場に五人あらば、一人は肩を掴まれたまま硬直し、
三人は腰を抜かしてカチカチと歯を鳴らし、
そして一人はその場にひれ伏し頭を抱えて祈りを捧げる。
その辺りを、腰を曲げたフレンダがうろうろ歩き回る。
>>863
「ふぅーん、一人だけ女の子なんだー。
ねー麦野ぉー、やっぱりお仕置きいっちゃう?
暗部十四式のとぉーってもなまめかしい奴」
腰を曲げたフレンダにツカツカと接近された結果、
既に腰を抜かした下半身から完全に脱力して
首をかくっと折ってぶくぶく泡を吹いている姿を見て、絹旗は嘆息する。
そして、真っ先にひれ伏していながらガタッと身を起こした
オタ系眼鏡の尻を蹴っ飛ばした絹旗は、
響き渡る艶めかしい喘ぎ声への吐き気を堪える。
「私にしちゃあ初めまして、なんだけど。そーゆー訳で」
「?」
ひらりと差し出された右手に、一同は首を傾げる。
「渡して貰おうか、チケット」
「は?」
「結局、エンデュミオン行きのチケットを寄越せ、そう言ってる訳よ」
「頭数が揃ったら、細かい改竄もこれから超やってもらいますからと言うかやれ。
どうせこの面子で超全員当選している時点で、超まともな手段じゃないでしょう。
大体、あんな事に利用しようとした時点で超出っ禁の筈でしょう」
「いや、だから、どうして僕達が…」
麦野が、林檎をぽいと絹旗に投げ渡す。
「ああ、あれはこっちで用意した廃棄処分確定だ、だから安心しろ。
ま、スクラップはスタジアムで散々見て来ただろうが」
ふわっと緑色の光を浮かべた麦野の親指の先で、近くのビルの屋上のペントハウスが爆発した。
「もしかして、この街の闇をさんざんさんざんさんざんさんざん
ナメくさってコケにして唾吐いてくれちゃったりしちゃったと言う事に
時効がある、とか思ってるのかにゃーん?」
「はいフレンダ超林檎ジュース」
「わーい、結局絞りたてって訳よ」
「大丈夫、陰影くっきり素晴らしくいい笑顔のむぎのを応援してる」
>>864
× ×
「ちぇいさぁーっ!!!」
まず、力ずくで広場を突破する。
お誂え向きの通路を見付け、そこに飛び込む。
そこから引き返し、ほぼ一列となった追跡者をすれ違い様に片付けていく。
「作業に戻れ」
「社長」が短く命じる。
所詮、悪くすれば使い捨ての裏のフリー業者。
それ相応の技術力でかなりの部分までカバー出来るとは言え、今回は少々相手が悪いらしい。
事によってはレベル5級の能力者。しかも、多少は裏の流儀を囓っている、只の力任せではない。
そうなると、地力の違いがもたらすダメージは小さなものではない。
このまま戦闘を続けるよりも見なかった事にした方が害が無さそうだと、
さっさと見切りを付けるのもこの世界で生き抜く知恵だった。
「こっち、でいいのかなぁーっ!」
追撃が消えたのを察して、懸命に走りながら御坂美琴は口に出す。
電磁波に反応らしきものはある。
だが、迷路に片脚突っ込んだ地下で遠すぎる反応、確実に把握する事は出来ない。
柱ながら、美琴は国道トンネルの様な広い空間通路に入り込む。
そこで、ぞわっとする感覚を覚えた。
「何、この反応?
この大きさで、複数いるって、それにこの動き、場所って…」
その場で美琴がぐるんと一回転した。
それに合わせて、ざざざざーっと這い進んできた群れが弾き飛ばされる。
「…って、ムカデ!?何このサイズっ!?」
半ば真の闇だったトンネルに自らの体から「電灯」を灯し、
ようやく目が慣れて来た辺りで美琴が悲鳴を上げる。
>>865
「!?くああっ!!」
ターンターンと飛び退く美琴の周辺に、
ぼとん、ぼとんと何かが落ちて来る。
落下して来た「敵」を美琴が電撃で薙ぎ払って行く。
「ナメ、クジ?どうなってるの?
変な栄養剤でも?それとも又この学園の闇で変な実験…!?」
どれもこれも横幅太股突破サイズの化け物が転がっているのを見て、
息を呑んでいた美琴が喉に引っ掛かる様に悲鳴を上げた。
「な、なに、ちょっ、あんっ、なあっ!?」
「モフフフフ、小振りながら形といい弾力といい、
今この時がたまらない、それでいて成長も十分見込める一級品ネ」
「な、に、を、やってるうぅーっ!!!」
稲光が、美琴の体を中心に下から上に逆に突き上がった。
「モフフフフ、出来るネ」
「って、今のに反応した?女の子?」
美琴が目を丸くした。
理由は色々ある、嫌悪感のままにやってしまったとは言え、
今の一撃、我に返って間違いなく最初に心配したのは痴漢が生きてここを出られるかと言う話だ。
だが、目の前のその相手はぴんぴんしている。
それどころか、そもそも美琴の方に相手を攻撃出来た手応えが無い。
そしてその相手、ついさっきまで美琴の体に取り憑いて傍若無人に両手を使っていた変態。
その変態が目の前にいるのだが、それはどこから見ても…
「女、の子?…」
どう見ても、美琴よりも年下の女の子だった。
美琴から見て外国人らしく褐色の肌に銀髪。角の飾りを頭に付けている。
>>866
「何、を…このおっ!!」
言いかけた時に、美琴は背後にジャンプして電撃を飛ばす。
前方からざざざざっと接近していた巨大線虫が一掃される。
「ひゃっ!?」
美琴が着地したその瞬間、美琴の電磁波レーダーが侵犯を察知する。
美琴が反応したのは、背後からわしっと掴まれたかどうかと言うその瞬間。
(速いっ!)
美琴は、振り返りながらスタンガンエルボーが空を切る感触に舌を巻いた。
(あの感覚からして、こいつ、レーダー瞬殺ギリギリの距離を取りつつ
影の様に後ろにぴたっと張り付いて着地したその瞬間に…)
「モフフ、ここまでよくぞ凌いだネ。しかし、これはどうかネ?」
「!?」
急接近して来るのは、変形巨大イソギンチャクが三匹だった。
「ちょっと待って、これってあんたがコントロールしてる訳?」
イソギンチャクは、
跳躍した美琴目がけて腕ほどの太さのある触手を一斉に伸ばして来る。
「くおっ!!」
その触手を、美琴がバババッと電撃で弾き飛ばす。
何かで聞いた覚えがあるが、相手がイソギンチャクなら触手に触れるのは危険だ。
何とか空中で体勢を整え、場所を移動してイソギンチャクから離れた場所に着地する。
>>867
「何なのよ、あんた?あんたもギリシャで悪さしてる連中の仲間な訳?」
「モフフ、私は雇われただけの者ネ。
そのついでに趣味を堪能しているが、微なる領域においては最上の至宝に遭遇し、
頭の中を趣味全開の最優先に切り変えた所。こういう風にネ!!」
「フツーに女の敵ねっ!!
雇い主吐かせてやるから覚悟しなさいっ!!!」
タンッ、と、目の前で展開されたロケットスタートと共に、
次の瞬間に察知した気配目がけて美琴が電撃を放つ。
その時には、目の前に元通りにの場所に戻っていた。
そちらに突っ込んだ美琴が、前方に立ち塞がるイソギンチャクを次々と電撃KOしていく。
「とっ!」
足下で、線虫がぐるんっ、と巻き付く。
足を取られる寸前に美琴は跳躍していた。電磁波レーダーが無ければ確実に足を取られていた。
跳躍したまま、真下に電撃を放って線虫を始末してから着地する。
× ×
桜咲刹那と佐倉愛衣は走る。
本日二度目の虐殺現場を通過し、その奥へと走る。
「嫌な、感じがします」
愛衣が言う。
「途中から、悪性の魔力の気配が変な感じに増加しています。
パターンから言ってヒュドラのものと見て間違いありません」
「そうですね。瘴気と言うのでしょうか、
確かにそれは感じられます」
言いながら、二人は足を止める。
見ると、壁に大きな穴が空いていた。
愛衣がすっとその場にしゃがみ地面に指を向ける。
>>868
「ヒュドラはこの穴を通って向こうに入っています」
言いながら、愛衣が爪に火を灯し注意深く穴の向こうを伺う。
「段差になっています、気を付けて」
「分かりました」
穴を通って二人が降り立ったのは、
「下水道」
刹那が呟く。
「後から人為的に、無理やりつけられた穴でした。
ヒュドラである事を考えると、元々下水道に誘い込むつもりだったのでしょうか」
先に進みながら、時々愛衣が顔を顰める。
「本当に、まずいかも知れません」
「ええ」
刹那も小さく頷き同意する。
「何か、今までよりも更に尋常ではない事が起きている筈です」
>>869
× ×
「モフフフ、これはどうかネ?」
「はあっ!?」
ザザザザザザッと迫って来るのはムカデ数匹。
しかも、その横幅は、ざっと見てハワイ系大型力士の1.5倍。
「このおっ!」
振り返り様にそれを見た美琴が右腕を振って電撃を叩き付ける。
「モフフフ、素晴らしい反応ネ。
その素晴らしい雷のスキルと言い、或いはどこかで会ったかネ?」
「さぁー、あんたみたいな変態…
あんたみたいのは覚えがない、わねっ!!」
ムカデは、一瞬ひるんだだけで美琴に突っ込んで来る。
背後に跳躍した美琴が、そのついでに右腕を振り下ろし、
ミニ落雷の様な強烈な電撃がムカデの先頭を沈黙させる。
「くっ」
着地した美琴が、先頭の死骸を踏み越え戦車よろしく突進して来るムカデに歯がみし、
ぴーんとコイントスを行う。
「このおおおおおおおっっっっっ!!!」
流石に突進は止まったが、まだひくひく動いているのもいる、
体液と肉片の巷を前にして、レールガン御坂美琴の気分も余りいいものではない。
>>870
(な、なんなのよこれ?やっぱバイオテクノロジー?)
考えたくもないものだが、人間を増殖させたり幼女をまんま作ったりするぐらいだ、
虫の類の改造などどうにでもなるのかも知れない。
(でも、スペース的におかしいでしょ、どこに隠れてるのよ)
着地して、美琴が腕で汗を拭う。
「このペースだと、電池切れ…おおおおおおおっっっっっ!!!」
美琴を中心に青い稲妻が下から上に突き抜ける。
その側で、ずしゃあっと後方にスリップしながら着地している。
「モフ、モフフ、モフフフフ、よもや今の我がオパーイ奥義四十八手を突破して見せるとは。
その反応、そのキレ、数多のオパーイ戦争をくぐり抜けた歴戦の勇士すら彷彿とさせる
まさかの熟練すら伺わせる鋭敏にして沈着なる恐るべきスキル。
滾る、昂ぶる!漲るっっっ!!
これを揉んで揉んで揉みしだいてこそ究めたと言えるの事ネ!!!」
「ハァ、ハァ…女子校ナメんじゃないわよ。
って言うか、電磁波レーダーかいくぐって
放電の刹那の瞬間まで手を離さないでそれでほぼ無傷でいられるって、
あんたこそ何なのよおおおおおっっっっっ!!!」
今回はここまでです。
続きは折を見て。
乙です
乙
そろそろ禁書の原作組が何してるかも知りたいな
>>873
………アア、ウン、ワスレテナイヨ………
ちょっと話が延び気味でそろそろな予感もするんだけど違うかも結局は進行次第と言うか
それでは今回の投下、入ります。
>>871
× ×
「!?」
水音に混じり聞こえた、乾いた破裂音。
「銃声っ!?」
愛衣が小さく叫ぶ。
「方向は合っています」
刹那が言い、二人は駆け出した。
× ×
「な、な、んだ、こりゃあ?」
木原数多は、目の前に光景に歪んだ笑みを浮かべる。
その木原の前で、猟犬部隊の隊員が三人、毒液の噴射を浴びて悪臭と共に絶叫する。
「は、はは…班を二つに分ける」
阿鼻叫喚の巷でも、隊員達は上司である木原の言葉には直ちに傾聴し、
その間にも次々と食いちぎられ或いは毒液を噴射されて数を減らしていく。
「A班はマグナムライフルで首を吹っ飛ばせ、
B班は、火炎放射器でその切断面を焼け。以上だ」
既に一時凌ぎのために焼く暇無く首だけ吹っ飛ばしたケースが続いた事もあって、
今の人数でこの作戦をとっても、とても相手の首は全滅とまではいかない。
それでも、やらないよりはマシだ。
取り敢えず、木原が生き残った場合の事だけを考えた隊員達が、
絶叫と共に忠実に命令を遂行する。
>>874
× ×
「もう、いないわよね」
次々と襲いかかって来る巨大怪虫を電撃で薙ぎ倒しつつ、
その隙を突いて取り憑いて来る変態に間一髪逃げられ続けている御坂美琴が、
肩で息をしながら言った。
「モフフフ、お疲れモードかネ?」
「くっ」
その美琴の前で、頭の後ろで手を組んで悠々と言うパイオ・ツゥに美琴は殺意に近い眼差しを向ける。
しかし、その正体を知らない美琴でもパイオ・ツゥが只者ではない事は分かる。
学園都市レベル5第三位、最強のエレクトロマスターである御坂美琴は、
例えではなく理屈として触れる事それ自体が難しい。
にも関わらず、パイオ・ツゥはその第三位の電磁防壁をかいくぐる様にして
命懸けのアタックを繰り返し、そして半ば近くまで成功している。
「モフフゥゥーーーーーッッッッッ!!!」
「おおおおおおおおっ!!!!!」
トンネルエリアの真ん中で、二人が交差する。
間一髪、御坂美琴は我が身に伸びた魔の手を交わし、
すれ違い様に電撃を浴びせるがそれも間一髪交わされていた。
(…フェイント…)
すれ違った美琴は腕で汗を拭いながら改めて舌を巻く。
普通に近づいて来るだけの相手なら、速度がどうあれ接触直前に放電してやれば片が付く。
だが、この相手はそれを見越して、
何等かのフェイントで美琴の鋭敏な感覚すらごまして見せた。
そして、そのほんの一瞬、一瞬だけの隙をかいくぐって来たのだが、それだけでも十分に脅威。
それはまさしく毒手。掴まったら終わりと言うその片鱗を美琴は既に知っている。
思い出してぶるりと震える。
>>875
「モフ、モフフフッ」
その御坂美琴と相対する魔法傭兵パイオ・ツゥは滾る情熱を抑えきれない。
相手の御坂美琴が歴戦の強者である事は、
強者であるパイオ・ツゥだからこそ即座に察知した。
だからこそ、だからこそ滾る、漲る。
その鉄壁の向こうにあるのは、パイオ・ツゥには分かる。
恐らくそれは、このほんの一時だけの慎ましき蕾。
その道の ネ申 を任ずるパイオ・ツゥには見えている、
恐らくは遠からぬ時に美しく大輪の花を咲かせるであろう事を。
それも又よし、だからこそ、今この時愛でる事に全てを懸けて。
「だから、あんた一体何者なのよ?」
「ある時は傭兵、ある時は賞金稼ぎ、そして今は至高の手応えを求める者!!!」
「つまり、変質者って訳ね」
魔法世界での肩書きを正直に答えたパイオ・ツゥに対して、
体の前で自分の顔に向けた両手をわしっ、わしっと動かすパイオ・ツゥを見て、
御坂美琴はこれも又実に的確な肩書きを彼女に授ける。
「それはいいとして、全然良くないんだけど、
だから、全然良くないからさっさとそっちの方は終わらせて、
雇い主の事白状してもらうわよっ!!!」
「モフフフフ、プロの傭兵にして
慎ましやかな膨らみの良さも愛してやまない究みを求めるあるていすと。
その私を止める事が出来るかネ?」
「だぁーから今すぐやめろって言ってんのよ
こぉのド変態がああああっっっっっ!!!」
美琴が、ごおおおっと腕を振り電撃を放つ。
だが、パイオ・ツゥはひらりと跳躍し、電撃が当たるよりも前に美琴を跳び越えてしまった。
美琴の体がバババッと青白く放電する。
だが、放電が静まった時、美琴は怪訝な顔で周囲に視線を走らせる。
「そこ、っ!?」
美琴の前で、スナップショット電撃を喰らった大型カマドウマが引っ繰り返る。
>>876
「ち、いっ?」
後ろに跳躍しながら、改めて体に帯電し直した美琴が異変に気付く。
パイオ・ツゥがしゃきっとその場に直立不動の体勢を取っていた。
「な、何?」
「ハイ、タダイマヨリ、
コンカイノ、ニンムニツイテ、スベテ、ハクジョウサセテ、イタダキマス」
× ×
「………お、っ………」
木原数多の意識が途切れ、下水道の通路にぐらりと倒れ込む。
「どうやら、体術の心得はさ程のものでは無かった様ですね呆気ない」
近くの曲がり角から飛び出すや、木原が目に留める暇も与えず当て落とした桜咲刹那が言う。
「科学者…何か科学的な条件でも整わなければ只の人、と言う事でしょうか」
「どうしますか?」
尋ねる愛衣の側で、刹那がひょいと木原を担ぎ上げる。
そして、一旦行き先への道を外れて奥まった通路に移動する。
「………………」
行き先は、下水道の中二階的な場所にあった待避所を兼ねた小部屋だった。
その中で、刹那は淡々と木原を裸に剥くとテーブルの上に仰向け大の字に広げ、
紐を取り出して両手両足首をテーブルの脚に繋いだ上にその体をテーブルに縛り付けていく。
「確か縄、緊縛術は日本の魔術的な意味合いがある、と言いましたか?」
「その通りです。これは一人ではまず解けません。
危険な鬱血に至らない様な配慮もしておきました。
適当なタイミングで救急車でも呼んでおきます。
今までの状況から見て、まともに話し合いの出来る相手とは思えませんから」
「そうですね」
>>877
× ×
地下道トンネルエリアと通路が繋がる角で、
リモコンを向けていた食蜂祈操は自分の肩を見る。
そこで、にょろにょろとそこまで這い上っていた細腕サイズの太さの線虫の先端と対面する。
「………ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ
やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」
美琴は、その絶叫にようやくそちらに目を向けた。
「ち、ちょっ、な、何よこれえっ!?
やっ、ちょっ、演ざんっ、できっ、
離れ、駄目そんな締めっ、ひぃぃぃぃぃぃぃっっっっっ!!!!!」
「ん?」
何かを話そうとしていたパイオ・ツゥも又、
完全にその事は忘れて何やら賑やかな声に目を向ける。
「………あ…………」
するすると線虫にまとわりつかれゴーゴーダンスを踊る食蜂の縦運動に、
パイオ・ツゥはキラーンと目を光らせるや、
美琴が気付いた時にはばびゅーんとロケットスタートしていた。
「だ、だめぇ、は、はなれてぇ?え?あ?な?」
「ちょっと、離れ、くっ………」
まあ、食蜂だからまんままとめて消し炭にしてやろうかと99%程本気で検討もしてみた美琴だったが、
やはり後であの口調でネチネチ言われそうなのも鬱陶しい。
何よりプライドの問題として、こいつにだけは自分の能力で他人を巻き込むと言う行動を見せたくはない、
等と考えている間に、美琴の目の前で事態は加速度的に悪化していく。
「あっ、ちょっ、何あ、あんっ、何この、
いい、加減にぃ、いいっ、そ、んなっえん、っ算っ集中ああああんっ
何あっ何この………力ああっ、だ、だめよぉっそんなぁっああっ
強くぅ弱くぅリズム力ぅううっおおっ、あ、ら、や、あ、
だっ、ああ、あああっらめっ、らめよぉっそんなはああはああああんっっっっっ………」
―――美しい映像をお楽しみ下さい―――
>>878
「………ナカッタコトニ、ナカッタコトニ………」
白く艶やかな太股も露わに地面にくったりと横たわり、
半開きの唇の端からたらりと溢れさせてとろける様な表情で脱力している食蜂と、
その側で腕で汗を拭いながらツヤーッと輝いているパイオ・ツゥを、
御坂美琴は只只、大汗を浮かべて見比べる。
「モフ、モフフフフ、これは素晴らしき収穫。
まさしく第一級のボリュームでありながら今この時だけが持つたゆんなる弾力に満ち溢れ、
オオー、感謝の言葉も見付からないネ」
両手を捧げて歓喜するパイオ・ツゥに無言の電撃が降り注ぐが、
そう思った時には、パイオ・ツゥはすとーんと美琴の目の前に着地していた。
「あのボリューム感の最高級サーロイン・ステーキを存分に堪能したからこそ、
あっさりさっぱり慎ましき微かなるものを愛でて締めとする。
これが通の道と言うものネッ!!!」
「じゃかぁしぃこのドォォォォォォ変態があああああああっっっっっっっっっ!!!」
トンネルは、昼間の如く明るくなった。
× ×
「………こ、れは………」
佐倉愛衣は、呆然と目を丸くする。
桜咲刹那ですら、似た様なものだった。
そこは、幾つかの方角からの下水の合流点。
故に、かなりの広さと高さのスペースが文字通り死屍累々の巷と化している事は
もうここまでで何度も見て来た事だ。
そして、ヒュドラも又、本日何度か目にしている訳だが、
それがマンモスのサイズと言う事になると、話は別だ。
「どう、してこんな…」
「佐倉さんっ!神鳴流奥義、斬鉄閃っ!!」
「はっ!」
愛衣の目の前で首が爆ぜ、愛衣はその傷口に火球を投げ付けながら飛び退く。
>>879
「風楯っ!!」
そして、他の口から噴射される毒液を懸命に防御するが、
いよいよもって怪獣だ、こうなると動く事すら簡単ではない。
「いやいやいやいや、
これ又でっかく育ったもんだにゃー」
× ×
「………消え、た?いや、まだ………」
美琴が電磁レーダーで索敵するが、どうやらまだ手駒を残しているらしい。
このトンネルに繋がる通路が幾つもあって、そこに蠢くダミーが引っ掛かって鬱陶しい。
どっちにしろ、超電磁砲と今の大量放電で少し体力を使い過ぎた。
次で決めないと、本当にまずい。
今横目に見える、ひくっ、ひくっと地面に横たわっている姿を自分の未来図にしないためにも。
そこで、ようやく美琴は携帯の着信に気付く。
「もしもし…初春さん?」
「今、地下にいるんですかっ?」
「うん、今…」
「すぐにそこを出て下さいっ!」
「え?だって、これからあいつら追い掛けて…」
「地下施設他十箇所前後で大きな爆発が発生しました。
状況からして事件と見るべきです」
「何ですって?」
「そこからは離れていますし、元々使用されていないので封鎖の対象からも外れていますが、
安全が保障出来ません。早く地上に上がって下さいっ!!」
「分かった」
電話を切った美琴が、一つ舌打ちをして駆け出す。
「御坂、さぁん」
「あー、立てる。出るわよ。ちょっとここヤバそうだから」
「ん、んーん、大丈夫よぉ、少し敏感力に痺れただけだからぁ」
「そう」
言いながら、美琴か注意深く周囲を伺う。
>>880
「あんた、どうしてここに?」
「さぁ、どうしてかしら?」
「あんたねぇ…!?」
「ひっ!!」
腕一本、脚一本と言った所だろうか。
そんなサイズの蟲の大群がわああああっと二人に向かう。
「逃げるわよっ!」
「分かったわぁっ!!!」
美琴がなけなしの電撃で蟲を薙ぎ払いながら、二人は這々の体でトンネルから遠く離れる。
「目論見通り、みたいねぇ」
「は?」
互いに荒い息を吐きながら、言葉を交わす。
「あの娘、多分、暗部に関わる相当なプロフェッショナルよぉ。
だから、私が正気力を取り戻したらどうなるか、
その一点だけに絞って逃げの一手を打った、そういう事よぉ」
「なるほどね」
だからと言って、ここから引き返すつもりもない。
爆発事件の事もそうだし、ここから仕切り直して、
実力だけでも生半可ではなかった変態を相手にするには電池残量が余りに心許ない。
「………モフ、モフフフフ………」
トンネルから美琴達とは別方向に離れた通路で、
パイオ・ツゥは一人その手応えを反芻する。
「あの電撃娘を揉み切れなかった悔いこそ残るがネ、
あれほどの見事なボリューム、そして弾力、これは思わぬ収穫ネ。
後は…大制覇祭とやらまで潜伏する事が出来たら、
素晴らしきターゲットに巡り会う事が出来るとの極秘情報は得ているのダガネ…
ネセサリウス女子寮食堂の情報も捨て難いガ…」
>>881
× ×
「土御門元春っ!!!」
「!?」
愛衣が、刹那の目の前を横切る様に、箒から帯状の炎剣を放った。
「本気で斬るつもりですかっ!?」
怒号と共に夕凪の鯉口を切った刹那に、愛衣も悲鳴に近い声で叫んでいた。
その時の刹那の有様は、その通りにしか見えなかった。
「今、オマエは何をすべきなんだ?」
梯子を下りながら、土御門元春は至って真面目な口調で言う。
はっと周りを見た刹那のすぐ側で、愛衣が風楯で強烈な毒液噴射を防御していた。
「やれやれ、冷静沈着、蒼き炎の退魔師、そう聞いてたんだけどにゃー」
「神鳴流秘剣、百花繚乱っ!!!」
すとんと梯子から下水道の岸辺に着地した土御門の側で、
刹那が叩き付ける様に夕凪を振るいヒュドラが僅かばかり後退する。
>>881訂正
大制覇祭→大覇星祭
では続き
>>882
「アデアット!!」
「桜咲さんっ!?」
ばあっと虚空瞬動で跳躍した刹那が、ババババッと大量の匕首を放つ。
「はあああぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」
そして、襲い来る二本の首を建御雷でぶった斬った。
「おおおおおおおおっっっっっ!!!」
「ひゅうっ」
刹那が、巨大化した建御雷の刀身を内一つの切り口に押し付け、熱化した魔力を注ぐ。
それを見て口笛を吹く土御門に鋭い眼差しを向ける。
「もう一つ…」
「あああああっ!!!」
刹那が動くよりも速く、愛衣の箒がぼわっと巨大な炎を上げて切り口に押し付けられていた。
「くおっ!」
「このっ!!」
その間にも、刹那に飛んだ毒液を愛衣が放った火球が蒸発させ、
刹那は一旦下水の岸辺に戻る。
「簡単、にはいきませんね」
刹那が、腕でぐいっと汗を拭う。
>>883
「一体、なんなんですか…これも、科学ですか?
いくらなんでも異常ですっ!!」
「ついさっき、爆破事件があった」
愛衣の叫びに、土御門が真面目な口調で言う。
「下水処理施設や堤防、ダミーも含めて幾つもやられた。
その結果、水脈が乱れ穢れがここ、この場所に集中する事となった」
「つまり、ヒュドラの本来の棲息状況である毒沼に近づけたと言う事ですか」
「せーいかーいっ。さっすがジョンソン首席の秀才ちゃんだにゃー」
「………ひっ!………」
ぎりっ、と歯がみを聞いた愛衣の血が凍る。
愛衣は、本気で死を覚悟した。
明らかに強化されている未知数の化け物相手に、
今のこんな刹那と組んで上手くいくとはとても思えない。
それは、愛衣自身が未熟だからこそよく分かる。
ヒュドラがいなければ今にも一刀両断に叩き斬る様にしか見えない、
それを丸で隠せていない。
普段が冷静沈着な刹那だけに異常さが際だっている。
だからと言って、それでもひっぱたいて引っ張り戻す、
漫画なら間違いなくそうなるシチュエーションでも、
刹那相手にそれをやる程の器量は自分には無い。そう思えてしまう。
そして、今ここで逃げ出すと言う選択肢も無い以上、
とことん付き合うしかない。愛衣は腹をくくった。
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
パイオ・ツゥって腕が4本とかなかった?
乙
刹那が土御門に対して何を怒っているのか分からない
てか土御門がわざわざ来たってことはエンデュミオンは別途に手を打ったってことかな
必要悪の教会はアレイスターと繋がってる以上、囮には騙されないだろうし
感想どうもです。
それでは今回の投下、入ります。
>>884
× ×
桜咲刹那が、肩で息をしている。
ヒュドラの状態からして先も長いのに、オーバーワークにも程がある。
「おおおっ!」
「サンキューにゃっ」
刹那がはっとそちらに視線を向けると、
岸辺を移動していた土御門の前で、愛衣が風楯を張っていた。
「くっ!
シーカ・シシクシロッ!!」
跳躍した刹那が、その二人の前で匕首群を飛ばして迫るヒュドラの首を牽制する。
そのまま印を組んで防壁を張る。
「じゃあ、ここはプロに任せるぜぃ、
俺がいても足手まといなるからなっ」
しゅたっと指で敬礼し、土御門は合流している下水道の奥へと逃走する。
刹那は背を向けたままだ。
その背は、振り返ったらそのままぶった斬りかねない何かを秘めている。
「佐倉さん?」
愛衣が、箒に跨り動き出した。
左手で防壁を張り、無詠唱で火炎弾を放ちながら、土御門とは反対方向へと飛行する。
その内、両手に炎の槍を握り、投げ付ける。
「佐倉さんっ!!」
首を槍で貫かれたものを含め、怒り狂ったヒュドラの頭が愛衣へと殺到する。
そこに追い付いた刹那が、気を込めた鞘でその頭を片っ端からぶん殴っていく。
その間に、二人は一旦下水の岸へと辿り着いた。
>>888
「上手く、逃げたみたいですね」
刹那が独鈷の結界を張る中で、愛衣が闇の奥を見て言った。
「そうですね」
刹那がぼそっと言う。
そして、深呼吸をする。
「桜咲さんっ!?」
愛衣が、今度こそ悲鳴を上げた。
詠唱した愛衣の放った巨大火球がヒュドラに叩き付けられるのと、
刹那が翼を広げてヒュドラに突っ込んだのはほぼ同時だった。
火球が爆ぜ、ヒュドラが悲鳴を上げた、時には既に刹那は刃を振るっていた。
標準建御雷が次々と首を跳ね飛ばし、巨大建御雷に込められた魔力熱がその切り口を焼き潰していく。
問題は、刹那の異常なスピードと、
そのために使われている魔力がどれほど巨大なものであるか、と言う事だ。
「く、っ」
「風楯っ!!」
いまだ蠢く首のただ中、空中でくらっと傾いだ刹那の隣で愛衣が防壁を張る。
独鈷結界で壁を作りながら、刹那が減殺された衝撃を受けて弾き飛ばされる。
「う、おお…」
空中で体勢を立て直した刹那が、再び建御雷を振るおうとする。
それよりも速く、目の前に迫っていた首に火球が叩き付けられる。
「くおっ!」
建御雷が、ひょいと後退した首にすかっと空振りした。
次の瞬間、刹那は体が重くなるのを感じた。
見ると、愛衣に抱き付かれている。
「おおおおおっ!!!」
そして、炎の繭に包まれて、下水の岸に戻っていた。
>>889
× ×
結界が弾けた。
食らい付いて来た顎を交わして、二人は空中に飛び出す。
刹那は鞘で、愛衣は炎剣で噛み付いて来るヒュドラの頭を牽制し、機会を伺う。
「おおおおおっ!!!」
刹那が落下し首を一つ刎ねた。
すかさず、愛衣が火球と化した箒を押し付ける。
「佐倉さんっ!!」
その愛衣の側で刹那が印を組み、
独鈷を組み合わせた防壁で噴射される毒液から愛衣を守る。
二人が一旦離れ、
愛衣が頭の一つに両手持ちした炎の槍を投げ付けた。
その首が悲鳴を上げたその瞬間に刹那が頭部を切り落とし、
そこに急接近していた愛衣が切り口に強力な火炎放射を浴びせる。
「神鳴流奥義・斬岩剣っ!!」
「紅き焔、っ!!」
愛衣が放った炎の中を、切り口から再生された二股の首が伸びて愛衣に食らい付いてくる。
愛衣は炎の防壁を張りながら必死で箒を後退させる。
「斬空閃っ!!」
刹那が飛ばした気の波動で頭部に打撃を与えている間に、
愛衣は何とかヒュドラの射程から外れた。
下水道の岸で、荒い息を吐く愛衣の隣で刹那も腕で汗を拭っている。
「佐倉さん、大丈夫ですか?」
「ええ」
愛衣が頷く。愛衣も厳しい所だが、グロッキーなのはむしろ刹那の筈だ。
>>890
「回復が、速過ぎる」
刹那が呟く。切断して焼き潰す、そのタイミングが僅かにずれただけで首が増殖してしまう。
「やはり、強化されているんでしょうか?急成長と言い回復速度と言い」
「ですね。ここに集約された瘴気がヒュドラを強大化させたとしか」
愛衣の問いに刹那が答えた。
そこに、ヒュドラが口を開けて首を伸ばして来る。
二人が飛翔し、ヒュドラへと突き進む。
だが、まだ幾つも残っている首が空中の二人に殺到し、反撃の糸口がなかなか掴めない。
「シーカ・シシクシロッ!!」
大量の匕首が殺到する首を牽制して二人が距離を取る。
気をまとった夕凪と魔力炎を帯びた箒でヒュドラの顔面をぶん殴りながら距離を取って機会を伺う。
「風楯えっ!!!」
噴射される毒液に防壁を張りつつ、後退を余儀なくされる。
「ああっ!」
そして、愛衣の背中と刹那が空中で衝突した。
「斬鉄閃っ!!」
刹那がヒュドラの顔に気の波動をぶつけて二人は距離を取る。
「!?」
「いけないっ!!」
二人は一度岸に戻った。
そして、西洋東洋魔術の結界を張る。
その二人に向けて、ヒュドラが毒液噴射の一斉攻撃を展開した。
>>891
× ×
刹那も、愛衣も、率直に言って死を覚悟していた。
特に刹那に関しては前半戦で力を使いすぎた。
それに加えて、ヒュドラは言わば映画の自衛隊から見た大怪獣とでも言うべき、
相応以上に腕の立つ二人からも桁違いの化け物に成長している。
概算で言って、ヒュドラが毒液での総攻撃に集中した場合、それだけで結界が保たない。
毒液を回避した所で、あの規模のヒュドラに更なる波状攻撃を掛けられたら凌げる状況ではない。
進化に併せて知能も発達している節もある。
そんな二人が、気が付いて結界を解除する。
見ると、ヒュドラは何か戸惑っている様だった。
「禍々しい魔力が、減少している?」
愛衣が呟き、はっとした刹那が印を切る。
「これは………瘴気が断たれ穢れが浄化………
水脈が正された?こんな力業、
こんな事が出来るのは………」
はっとした刹那の前で、オレンジ色の炎が迫るヒュドラの頭を追い返す。
「何か、チャンスみたいですね」
「ええ」
愛衣の言葉に刹那が頷いた。
「おおおぉーーーーーーっっっっっ!!!」
斬っ、と、刹那が手近な首を斬り落とし、愛衣がすかさず切り口に炎を当てる。
根元近くを斬らないと切り口が暴れ回って炎を当てる前に再生してしまう。
その間にも、襲ってくる別の首を交わしながら刹那が首を落とし、愛衣がその切り口を焼き潰す。
簡単な作業ではないが、今の二人には希望がある。
今までは人間が「怪獣」に立ち向かっていた様なものだったが、
>>892
(この程度なら、強くても魔獣の範疇)
(魔獣退治は)
((魔法使い・退魔師の仕事!!!))
しかし、それでも黙って終わるヒュドラでもなかった。
「風楯っ!!」
「独鈷錬殻っ!!」
未だ数で勝るヒュドラの首が、二人の動きを学習してか、
毒液の遠距離攻撃や複数攻撃が段々と洗練されている様だ。
ヒュドラ退治に必要な斬首から焼却の二段攻撃が容易ではない。
その間にも、人の身である二人の体力は限界近くまで消耗していく。
「あうっ!」
「くっ!」
翼で飛翔する刹那と箒に跨る愛衣が衝突しそうに空中で絡む。
そこに迫るヒュドラの攻撃。
二人が回避しようとした瞬間、二人の間で下水からどぱんと水柱が上がった。
二人は下水の岸に着陸し、その間にも下水からどぱん、どぱんどぱんと
ヒュドラを超える高さの水柱が上がってヒュドラを牽制した。
「もうグロッキーなのかしら?」
この場所に繋がる下水道の一つからツカツカと現れたメアリエが、
そう言いながら、バッ、と箒をヒュドラに向ける。
下水から噴出された強烈な水流がヒュドラの顔面を次々と直撃する。
「このエリア単位の攻撃魔法。
一度だけ、呪文を詠唱する時間が欲しい。出来ますか?」
「誰に言ってるの?」
愛衣の問いにメアリエが鼻で笑い、愛衣と刹那が頷き合う。
>>893
× ×
「ウンディーネ、杯の象徴により万物から抽出されしものよ…」
「メイプル・ネイプル・アラモード…」
メアリエの呪文詠唱と共に、どっぱぁーんっ!と、大量の水柱が上がる。
それはあたかももう一体のヒュドラの如くヒュドラと絡み合い、
上から見るとヒュドラの首と首の間を大量の水柱が横切り押さえ付ける形になる。
「ジェーン!!」
メアリエの叫びに応じて、このエリアの壁に張り出したフロアでジェーンが扇子を振るう。
下水から浮上した大量の水槍がばばばばはっとヒュドラに突き刺さりヒュドラが咆哮する。
その時には、刹那は翼を広げてエリアの隅の法へと飛翔していた。
「契約に従い我に従え炎の覇王」
「アデアット!」
「…わぁ…」
ステイルの弟子三人が口と目を開いてそちらに見入る。
その前で、建御雷が見る見る巨大化する。
「来たれ浄化の炎燃え盛る大剣」
「(今は精々後一回、これで、決める)神鳴流奥義、百花繚乱っ!!!」
建御雷の一閃は、爆撃の如くこの地下エリアに響き渡った。
「く、っ…」
腕で目を塞ぎながら踏み止まっていたメアリエが、
ヒュドラの上部を中心とする爆煙の隙間に目をこらす。
その間に、愛衣は箒でふわりと刹那とは反対側の空中へと移動していた。
「!?」
その瞬間、メアリエの体がぐらりと揺れて尻餅を着いた。
>>894
「これはっ?」
何かに気付いた刹那が、紙型を四方に飛ばし印を切る。
紙型は紫色の泡を吹いて見る見る崩壊していく。
「水脈が又っ、
抑え込まれていたものまで流れ込んでっ!!」
「………ほとばしれソドムを焼きし火と硫黄………」
「ま、待ってウンディーネ、
すぐに清浄なる泉に、だから今はああああっ!!!」
下水に箒を向けたメアリエが弾き飛ばされて背中が壁に叩き付けられ、
ヒュドラを抑え込んでいた水の戒めがぱあんと弾ける。
「いけないっ!!」
「………罪ありし者を死の塵に………!?」
爆発した戒めが塊と化して、空中の愛衣を呑み込んだ。
「ジェーン!」
「アイサーッ!!」
「くっ!神鳴流…」
「ごっ、がぼっ!!」
ジェーンの巻き上げた風に乗り、メアリエが飛翔する。
「はああああぁーっ!!!」
メアリエが唐竹割りに箒を振るい、
愛衣を閉じ込めたまま浮遊していた水の塊が断ち割られる。
断ち割られた水の塊は落下して下水道に水柱を立てた。
「くおおおおおっ!!!」
刹那が独鈷を放ち印を組み、
刹那に首を吹っ飛ばされたヒュドラの再生を懸命に遅らせる。
>>895
「ぶはっ、はっ!」
「だいじょう、ぶっ!?」
言いかけたメアリエが、箒で前進しようとする愛衣の襟首を掴んだ。
「どこ行くのっ!?」
「詠唱が途切れた!今すぐ直接切り口を焼きます!!」
「なっ!?いや、あの量の真ん中って」
「少しでも減らさないと、あの数が増殖再生したら終わりですっ!!」
「ああああっ!!!」
ヒュドラを囲んでいた独鈷が弾け飛び、
刹那も吹っ飛ばされて壁に叩き付けられる。
「メイプル・ネイプル………」
「世界を構築する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ。
それは生命を育む恵の光にして、邪悪を罰する裁きの光なり」
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
乙
話が進んでるようで進まないな
感想どうもです。
>>898
心配するな、自覚はある
頭イテェ…
それでは今回の投下、入ります。
>>896
「それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき闇を滅する凍える不幸なり。
その名は炎、その役は剣。
顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ………
………イノケンティウスッ(魔女狩りの王)!!!」
「!?風楯っ!!!」
(やっぱり大きっ、じゃなくてっ!!)
間一髪、空中で箒に跨った愛衣が、メアリエをぎゅむっと掻き抱き防壁を張る。
爆発、轟音と水蒸気が晴れた時、
巨大な炎の塊、よく見ると炎の巨人がヒュドラに覆い被さっていた。
下水道の岸辺では刹那が独鈷で結界を張り、ジェーン、マリーベートも難を逃れたらしい。
「もう、いいかしら?」
「あ、ごめんなさい」
「いえいえ、助かりました」
腕を緩めながら改めて視線を下、しっかりと押し付け合っていた辺りに向けた愛衣に、
メアリエはちょっと困ったお姉さんの笑みを浮かべて距離を取る。
「遅いんだよバカがっ」
すとーんと下水道の岸に飛び降りた愛衣に、
顔を合わせるなり飛んで来た第一声がこれだった。
>>899
「やれやれ、一つ手順が狂ったらもう玉砕か。
これだから学校秀才と言う奴は」
一瞥したステイルの前で、愛衣は小さくなるばかりだった。
「ルーンを貼る時間を稼いでくれた事には感謝しておこうか」
「こちらこそ、感謝します」
少々押し殺した声で愛衣が儀礼的に頭を下げる。
刹那が離れた場所にすとんと着地し、ステイルがそちらに視線を走らせる。
「…あれは…」
形状は和服の範疇だろう。
だが、簡単な作りでいて黒に近い紺色のその裾はやけに短い。
そして、その和服に白いエプロンを合わせ、短めの後ろ髪にも白いリボン、そして、
「ネコミミ、と言うものですね師匠」
ステイルの隣でメアリエが解説する。
「あれは恐らくメイド用の服装を日本風にアレンジしたもの。
ネコミミと合わせて、いわゆるコスチュームプレイ、
日本でコスプレと呼ばれる文化のパターンであると思われます」
「なるほど、ね。土御門の守備範囲か。
まあ、露出狂の聖人がいるぐらいだ。
ネコミミ和風メイド服コスプレが
東洋魔術に於ける重要な霊装の意味を持っていたとしても不思議は無いだろう」
元々、アーティファクト自体は普段着でも発動できる。
科学の学園都市での活動と言う事で、目立つ事は極力控えていた。
だが、関係者以外無人の地下での最終決戦と言う事で、
余計な事を考えずセットオプションもそのままに建御雷を発動した。
と言う大凡の事情を把握している佐倉愛衣としては、
京都神鳴流の名誉のためにここで取るべき行動を模索していた。
だが、それを実行に移す前に刹那が動き出していた。
>>900
「!?神鳴流奥義、斬鉄閃っ!!」
既に刹那の限界を超えようとしていた建御雷をカードに戻していた刹那が、
とっさに夕凪の抜き打ちで気の波動を放つ。
それは、目の前でヒュドラを呑み込む炎の山から飛び出してきた何かを弾き飛ばした。
それは、紅蓮の炎をまといながら空中で巻き上がる。
「首、か?………
灰は灰に、塵は塵に、吸血殺しの紅十字っ!!!」
ステイルが、戻って来たものを二振りの炎剣で更に弾き飛ばした。
この時には、ここにいる一同にもおよその状況は掴めていた。
「炎を消してっ!」
愛衣が叫ぶ。
「あれは、炎では殺せないっ!!」
「ちいっ!!」
愛衣の叫びを聞き、ステイルがイノケンティウスを鎮火する。
刹那が吹き飛ばした傷口を焼き潰すには十分だった筈だ。
それでも、一本だけ、直径が人の肩幅を超える大蛇の形をしたヒュドラの首が、
紅蓮の炎をまといながら原形を留めて鎌首をもたげていた。
その首の口が開き、
「くっ!!」
一同が左右に散り、その間にヒュドラの口から火炎が噴射される。
「いよいよ、怪獣だなっ!」
ヒュドラの横っ面を炎剣でひっぱたきながらステイルが叫ぶ。
「効いてますかっ!?」
「ゼロではない、って所か」
メアリエの問いにステイルが苛立った口調で答える。
>>901
「メアリエ、ウンディーネは?」
「無理です、これ以上怒らせたら一瞬で天井まで水没しますっ」
「秘剣、百花繚乱っ!!!」
夕凪の一閃がヒュドラの頭を押し返すが、決定的なダメージは与えられていない。
寄せては返すヒュドラの突撃に、ステイルが炎剣を振り翳して懸命に応戦する。
「風楯っ!!」
そのステイルの前に立った愛衣が毒液噴射を防壁で弾き返す。
「どけっ、来るぞっ!!」
ステイルの叫びに、愛衣が横っ飛びする。
臨時のパートナーが好きも嫌いもない、これは現場で生き残る判断だ。
そのためなら例え自分からとんでもないものを奪い取った相手だろうがやむを得ない。
と言う訳で、愛衣を的確に退けたステイルがルーンを貼った両手を構える。
「アデアットッ、おおおおおーーーーーーーーーっっっっっ!!!」
その時、アーティファクトを召還しながら飛翔した刹那が建御雷を両逆手に握り、
巨大化させてヒュドラの脳天から下顎を経て下水道の岸辺の床まで、
ぶち抜いてそのまま釘付けにした。
それは、ステイルの目前で、今正にステイルに迫っていたヒュドラに起きた事だった。
「………下がって下さいっ!!」
「分かった」
もしかしたら寄せ餌に使われた?と思ったステイルであるが、
それも又プロとしての判断。特にこの桜咲刹那の戦いぶりを見ていると、
餌に食らい付く事をよしとするタイプではない。
そういう誇り高い魔術師である事は分かっている。
そうでなければ、格上どころではない相手にあそこまでこじれなかった筈だ。
そんなステイルの前で、刹那はネコミミを外していた。
>>902
「何だ?」
ステイルが呟く。
刹那は、祝詞とも御詠歌ともつかぬものを口ずさみながらゆらゆらと動き出していた。
白いリボンを解き、黒髪の乱れに合わせる様にエプロンも外す。
段々と刹那の一見華奢なぐらいにほっそりとした両腕、両脚が
優美にゆらめき、時に鋭い動きを見せる。
そうしながら刹那の歌は続き、歌いながら和装メイド服の襟元も緩められる。
それを見ていた愛衣も、箒の上に立って浮遊する。
そこで、巻きツインテールを解き、ジャケットに手を掛ける。
「ふうん………ワルプルギス」
メアリエが、唇に人差し指を当てて呟いた。
「師匠」
「ん?」
「後ろ向いてた方がいいですよ。
刺激が強すぎると思いますから、し、しょ、う」
ステイルに断ってから、メアリエはぱんぱん手を叩きながらスタスタと前進した。
「はいはいはいはい、そんなひんそーなお子ちゃま揃いで、
お客さん寝かせるつもりかしら?」
「侘び寂びが分からないド素人はすっこんでて下さい」
メアリエと愛衣が言葉を交わす。
「そーそー、ムラサキシキブ曰くロ○コンは日本の文化なのでーすっ!!」
「また、\ガラッ/とかってAA付きで誤解を招く発言を…」
「はいはいはいはい、賑やかに行くわよぉーっ!!
ろーんどばーしおちたーおちたーおちたぁーっ」
メアリエの口火でそれはトリオの輪唱となり、
愛衣は愛衣で、原語のダンスミュージックを歌い出している。
その中でも、刹那の舞と歌は続く。
>>903
「これはっ!?時空が歪んで…」
衣服が空中乱舞し賑やかな歌えや踊れやの最中、それに気付いてハッと振り返ったステイルに、
水流と突風と泥流と火炎放射と気の波動が叩き付けられる。
「…フコウダ…」
その瞬間、刹那の目がくわっと鋭く見開かれる。
「おおおおおぉぉぉーーーーーーーーーっっっっっ!!!」
刹那が、ずぼっと建御雷を引っこ抜いた。
「神鳴流奥義、斬魔剣っっっっっ!!!!!」
ぶおんっ!と、巨大な剣が振り回された。
次の瞬間、半透明の黒い大蛇が、空中に揺らめく黒い陽炎へと吹き飛び、
そのまま姿を消す。
その陽炎を独鈷が囲み、刹那が素早く印を組み詠唱を決めると、陽炎も又消滅した。
× ×
「もしもし?」
麻帆良の秘密アジトで、葉加瀬聡美は電話を取った。
「え?イギリスの人体実験の事?
ええ、私も詳しく知っている訳では………
ええ、失敗、死亡と言う事で間違いないと。
ええそうです、私の知る限り、科学の学園都市の能力開発と魔術は、
ええ、恐らくどちらの術式でもそうであると………」
× ×
「終わりましたよ、し、しょ、う。残念ながら」
「ああ、そうか」
ステイルが振り返る。
下水の真ん中では、巨大な腐肉がぼろぼろと崩壊して水洗に消えている所だった。
>>904
「ヒュドラの不死の首か」
そう言って、ステイルは一服付けた。
「神話では石を乗せて封印する所だけど、
ここでそれをやる訳にはいかないから」
「それで、異界の扉をこじ開けて霊魂をひっぺがしてその中に押し込んだ、か。
東洋の神秘と言うべきだな」
「科学と魔術のハイブリッド・モンスター。
それも不完全なものだった。
だから、科学的に作られた肉体の核と召還された魔獣の融合の隙間を拡大して
魔獣の魔術的な本体だけを追い返す事が比較的容易でした」
ふーっと煙を吐くステイルと愛衣が言葉を交わしていた。
「あれも、東洋の神秘なのかい?」
「え?」
ステイル指した先では、
四方に紙型を浮かべた刹那が、上向き垂直に向けた夕凪の棟を撫でながら、
目を閉じてぶつぶつ唱えて懸命に何かを念じていた。
カッと目を見開いた刹那が、刀を鞘に納め走り出す。
そのまま、この地下エリアから下水道の奥の闇へと消えて行った。
「ステイル」
「ん?」
「人を焼いて来たの?」
「ああ、野心的な小規模魔術結社を二十程ね。
ヒュドラの事をリークした上にこちらへの潜入を手引きした人間がいる。
大元を叩き潰しても魔術サイド全般に証拠つきで情報が広まった後では意味がない」
「イギリス清教はあれの事を?」
「ふん、まあ、魔術サイドの一つとして科学サイドに対する我慢にも限度はあるが、
今レディリーに乗せられると言うのは利口な選択ではない。
どっちみち、これが表に出たらその時点で流石に隠蔽どころの話じゃないからな、
全く、陽動と分かっていながらとんだ手間を掛けさせてくれる」
「そう」
愛衣が静かに言い、ステイルと愛衣がすぐ近くでちぐはぐを向く。
>>905
「じゃあ、私もそろそろ、っ………」
「ん?」
ステイルがそちらを見ると、愛衣が壁に手を着いた所だった。
壁に手をつきながらよたよたと動いている愛衣の顔に、メアリエが掌から真水を噴射する。
水の使役者ではあっても、愛衣の同僚夏目萌と違いメアリエはその場にある水を使うタイプだ。
本来、水を作り出す事が決して上手ではないメアリエが確実に作り出した清水だった。
「少しは楽になった?」
「すいません」
「只でさえ下水道で、しかもヒュドラの浸った毒水に閉じ込められた。無理も無い」
「医者に行け」
メアリエの言葉の後に、ステイルが吐き捨てる様に言った。
「基本的な防御、回復ぐらいは出来ているのだろう。
いい医者がいる、あの素人が生きている時点で腕は保障する。
メアリエ、連れて行け」
「え?」
聞き返したメアリエの胸倉がぐいっと掴まれていた。
「こいつを病院に放り込んでから予定の場所に合流しろ。
分 か っ た な ?
」
メアリエが息を呑む。
落ち着いたお姉さん役としてそこまでガキっぽい態度は取らないが、
それでも、普段のステイルは彼女達からは「ししょー」と呼ばれる存在。
しかし、今のステイルの目は、
数多の魔術結社を灰燼に帰した歴戦の殺し屋のそれだった。
「ありがとう」
「足手まといに絡まれると邪魔なんだよバカが」
その側で、ジェーンとマリーベートがひそひそ会話する。
「やっぱりししょーって」
「かーわいい………」
>>906
× ×
「もしもし?ああ、片が付いたか。そうか、分かった」
青空の下、携帯電話を切る。
「何とかなったか。
………いい女になったにゃー」
ぬるりと熱い感触も、その奥から突き立てる様な激痛も、
「ま、義妹には適わないけどな。
後ぁ、任せた、ぜいステイル………刹那………
………まい………か………」
それは、赤インクを詰めた人間大の水風船が破裂したかの如く。
今回はここまでです。
ちょっとした雑談を。
この板のSSを原案に自分のサイトで別視点で書いてみたい、
って思った場合、どんな手順を踏むものなのでしょうか?
私の作品に関しては、
基本、二次書きの仁義さえ守って面白くしてくれれば、
って感じなのですが。
どっちかと言うと、やるんだったらここでやった方がいいのか。
少々思う所があって参考までに。今の所私が書こうって話でも無いのですが。
続きは折を見て。
乙です
ここ自体が二次創作の塊だということを忘れるなら、
・連絡がつくなら許可を得て>>1にリンクやら経緯やらを載せてそのスレとは別スレで。
・連絡がつかないならその旨を>>1に載せつつお勝手に。
極論、これだって赤松やかまちーに連絡したわけじゃないでしょ?
>「魔法先生ネギま!」と映画「エンデュミオンの奇蹟」(とある魔術の禁書目録)のクロスオーバー作品です。
だからこんな感じのことを同じように書けばいい
乙
土御門の末期の言葉を聞くと上条さんや神裂さんの存在がスルーされてるんだが…
え?マジで本来の映画の主役キャラを除外して話を進める気?
感想どうもです。
>>909
有り難うございます。
その線で了解、把握しておきます。
それでは今回の投下、入ります。
× ×
(………何だ?即死じゃなかったのか?
………参ったにゃー………あんだけの力業をやった以上肉体は………
………最悪脳味噌だけぷかぷか浮いて、なんて御免だにゃー………)
意識だけは、ある。
良くない状況だ。学園都市であればこの状態で百年生きろと言われても全然不思議ではないが、
その場合正気を保つ自信は全くない。
何かが見える。
意識を集中する。
顔が見える。覗き込まれている。
澄んだ、大きな黒い瞳が印象的な、
ぱっと見て美少女と言っていい可愛らしい女の子だ。
(………天使さんかにゃー、だったらいいにゃー………)
「生きてる…生きてるっ!
このか、まだ生きてるよこのかっ!!!」
(………この、か?………おい………ちょっと待て………そりゃあ…………)
さくさくと慌ただしく草を踏まれる音。
ばさっと下に流れる豊かな黒髪と共に、
覗き込むお人形の様に整った、それでいて温かな可愛らしさが満点な顔。
「………お゛、お゛お゛お゛、お゛お゛お゛お゛お゛お゛………
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…………」
木乃香がばっ、ばっ、と扇子から光を送り込むに連れて、
部分的な修復箇所とそれ以外の境界線から心臓を止める勢いの激痛が全身に突き抜ける。
それを見た木乃香の顔が歪み、決意が宿る。
>>911
「………いぶきどのおおはらへ………」
(………な………っ………)
「………たかまがはらにかむづまります………」
「………お゛、い゛………」
「………かむろきかむろ………」
「!?駄目ですっ!!」
血みどろ、と、言うより最早血の塊に等しい身を起こそうとする土御門の姿に、
のどかが悲鳴を上げた。
「………ぢょっど、ま、で………」
「………みのみことをもちて………すめがみたちのまえにまうさく………」
「ご、が、あ゛っ………」
「だから駄目ですっ!治りますから、そのまま………ひっ!」
どう見ても瀕死の重傷者に恐るべき力で振り払われ、
のどかは驚愕しながら尻餅を着く。
「………ま、て………
オ、マエ、ら、ごご、ごごじゃない、
オマエ、らの戦場、ば、ここじゃ、ねぇんら………」
木乃香が僅かに修復した肉体で這い進もうとした土御門が
ごぼっと血を吐いて倒れ伏し、それでも前進をやめようとしない。
「俺を、誰だと思って、る?
俺、土御門、俺、は、土御門元春、
だから分かって、その、術式。
そいつは、如何に近衛本家、累代並び無きもの、だと、しても、
と、しても精々、一度お゛お゛、っ、一日、一度がげ、んど、だろうが」
「………くるしみうれふわがともを………」
「………だったら、だから………オマエらの仲間、
オマエらの仲間、夏に世界を救った、オマエら、なら、
レディリー、どこまで、やりやがった、厳しい戦い、何が起こるか分からない、
それでも、やって、もらわなきゃ、困るんだよっお゛お゛お゛お゛お゛っ!!」
呻きとも叫びともつかぬ声と共に倒れ伏した土御門は、
それでも、ずりっ、ずりっと木乃香に近づこうとする。
>>912
「ああ、そうだ、言い忘れてたなぁ。
麻帆良学園に聖人様ご案内して
お嬢様のご学友、の皆さん、ズタボロの膾斬りにして、やったぜぇー、ワ○ルドだろぉー」
「………まもりめぐまひさきはへたまへと………」
「やる、んだろうが来て、る、んだろうが、
賢いオトナがどんだけ止めようが、よぉ。
分かる、んだよ、そういうバカの事は、身近で見て、る」
身を起こそうとするが、それも出来ない体の限界がもどかしい。
「………だったら、貫け。
レディリー、仕掛け、これ以上何か、奴を止めて、も、戦争に、
じゃないと駄目なんだよ。魔術科学思惑、超えた、バカな奴らじゃ、ないと。
あの夏に、テメェ勝手に世界を救った、オマエら………」
土御門の顔が上がる。
未だ激痛の響く腕を地面に押し付け、持ち上がるか懸命に試みる。
「これ、は戦争なん、だよ。
その最高級の治癒魔術は、オマエらの仲間のためにとっとけって、分かん、ねぇのかよ。
オマエらは、この、街、ま、いか、いる、この、街この世界………
だから、こんな所で無駄弾撃ってんじゃねぇっ
つってんだよこのクソアマアッッッッッ!!!!!………
へぶうううっ!!!」
ぐおおおおっと奇蹟の前進をかけようとしていた土御門の体が、
ごろりと横に転がる。
「次に侮辱したら斬りますよ」
「いや、どっちかって言うとそれを望んでいるんだが…」
瀕死の重傷患者相手に容赦なく平手を振り抜いた刹那に土御門が言う。
>>913
「…だまりおし…」
その、透き通っていながら重みのある声に、一同息を呑む。
「………ぎゃあぎゃあやかましいわ………」
声だけは素晴らしく典雅で優しかった。
土御門と刹那の脳内では、「はい」と一言だけ告げて即座に正座していた。
のどかは何か前世の因縁の如く震え上がっているが、
別に八岐大蛇を背景に薙刀を振りかぶっている訳ではない。
「命を懸けて守る?てんごも大概にしとき」
「………な、に?………」
本当ならば殴っていただろう、例え近衛の姫であっても。
それを押し止めたのは、重傷を負っていた事でも、目の前の少女の肩書きでもない。
それは、彼女の肩書きではなく彼女自身が本物の近衛の姫だったから。
「自分、守る言うて一番大切なモンに何背負わせる気ぃや。
守られる重みも知らず心も護らず何をさえずる。
認めん。うちの目の前で、うちの目ぇの黒い内は、
近衛木乃香が認めん。この身に替えて誰が認めるかっ!!」
その時、ごぷっと咳き込んだ木乃香の唇の端から、
その絹の如き頬につーっと赤いものが溢れる。
「お、いっ」
「藤原朝臣近衛木乃香能」
「分かりますよね。例えどれだけの大魔法使いでも、あれだけの大規模魔法。
完成前に自滅させないために、ほんの僅かな時間でも我が身に留めたまま中断すると言う事が。
これでダダ捏ねるなら地獄の底まで追い込みますよ」
刹那がギラリと覗かせた夕凪の刃の威力は、
死にたがってる重傷患者等という理屈を完全に超越していた。
「いくむすびをうづのみてぐらにの
そなへたてまつることをもろもろきこしめせ」
それは優しく、温かく、
言葉を失わせ魂をも抜き取ろうと言う、
そんな圧倒的な光だった。
>>914
× ×
「お嬢様っ!」
土御門から離れ、くたっと脱力した木乃香に刹那が駆け寄る。
「だい、じょうぶ。自分で治せる程度やから。
でも、少し疲れたぁ」
「はい。お休み下さい。この桜咲刹那が側に」
「ん」
こっくり頷いた木乃香に安心してから、刹那は気配に気付く。
「大丈夫、ですか?」
身を起こし、手をグーパーする土御門に片膝を着いた刹那が尋ねる。
土御門は、みょんみょんと刹那のネコミミを引っ張ると、
サインペンを取り出してキャップを取り、
刹那の両方のほっぺたに横線を三本ずつ書き込むと言う勇者の行動に至る。
「神鳴流決戦奥義、真・雷光剣んんんんんっっっっっ!!!」
「あーーーーーーうーーーーーーーーーーーー」
何か宙を舞っているらしいのを、
木乃香がころころ笑い、のどかがハワワと大汗を浮かべて眺めている。
「肉体の修復、無事完了した様ですお嬢様」
チン、と、夕凪を鞘に納め、刹那は実に冷静に報告した。
「えーと、桜咲さんがトドメを刺そうとした様に見えたのは…」
「気にしない気にしない気にしたら負けや」
夕凪の鯉口を切ってザッと振り返った刹那の前に、土御門は立っていた。
「素晴らしいっ!」
「え?」
土御門の素っ頓狂な生還第一声に、刹那はきょとんとした。
>>915
「ネコミミ和風メイド服最っ高ですたいっ!
コスプレメイドなんて邪道だって鉄拳が飛んで来て肩身が狭かったぜぃっ、
あの刹那がここまで理解を深めてくれていたとはこの土御門元春一生の不覚!!」
「なー、かわえーやろせっちゃんなー」
腕を目に当てておーいおーい号泣する土御門に木乃香が声を掛け、
刹那の顔からざああっと血の気が引く。
「なななななななななな!?かかか勘違いしないで下さいっ!!
こ、これはあくまでアーティファクトのオプションであって
決して私自身の選択と言う事ではなく…」
わたわたと刹那が取り乱している側で、
木乃香が携帯片手にちょいちょい手招きする。
「おおっ!こ、これはっ!?」
「運営から特別に回してもろたまほら武道会でのせっちゃんの勇姿、
それも神アングルやで」
「お嬢様ァァァァァァァァァァっっっっっっっっっ!!!」
「アーティファクト?やっぱり魔法のヒーローと契りを結んだ、
そういう事だったのかにゃー?ま、あれは仮にでも出来るみたいだが」
そう言った土御門の唇は薄く緩んでいる。
「んー、それもあるんやけど、こっちはうちや。うちがマスター」
「これは何と、お嬢様っ。
つまり、二股二重契約で今後どちらがあの刹那めの本妻としての座を射止めるか
三角関係の三角関数をもってドロドロ昼ドラの修羅場が…」
刹那を羽交い締めして野外にも関わらず殿中でござるをしているのどかと、
黒目の消えたイメージ状態で巨大化した建御雷を振り翳している刹那の側で、
土御門は両手を後頭部に当てて反っくり返り木乃香は扇子で口元を隠している。
そんな刹那に土御門はすたすたと歩み寄り、ぽんと肩を叩いた。
「いい女になったにゃー、お嬢様も、刹那も」
天を仰ぐ土御門の側で、刀を納めた刹那はつんと斜め下を見る。
>>916
「面ぁ拝ませてもらったぜぃ、魔法のヒーロー君」
「ネギ先生にですか?」
「ああー、ありゃー流石に世界を救った男、ヒーローの器、いい男ですたい。
何せ、あの堅物のせっちゃんに女の顔、させるんだからにゃー」
「そうですね。何と言っても誠実で誠実で誠実なひと(男性)ですから」
「そんな事言ってると、又、背中刺されるぜぃ」
「死にはしませんよ。人を信じて、騙されたら百倍返しです。
独りではありませんから」
「なるほどにゃ」
ふっと口元を綻ばせた土御門が動き出し、木乃香の前にざっと片膝をつく。
「大変遅ればせながら、
この度姫に多大なる負担を強いた上での我が一命をお助けいただいた事、
この土御門元春お礼の申し上げようも無き事。
改めて、深く御礼申し上げる」
「おおきに」
典雅に微笑む木乃香の前で、土御門が立ち上がり改めて一礼して歩き出す。
「どこに?」
「ケツ蹴っ飛ばして来るさ、こっちのヒーロー様のにゃー」
「…兄様?…」
「とっくにそっちとは切れてるんだけどにゃー」
「他の呼び方を知りません」
「さっきは凛々しかったぜぃ。又な」
「………はい………」
手を上げた土御門の背がゆっくり遠ざかって行った。
今回はここまでです。
>>788間違えました。
極大雷光剣じゃなくて真雷光剣でした
続きは折を見て。
乙です
乙
しかし土御門は麻帆良学園への殴りこみを唆して何がしたかったんだ…戦争でも起こしたかったのか…?
てかとうの昔に上条さんは映画の手順でエンデュミオンに侵入したと思ってたんだが違うのか
まあそうで無いならそうでないで何処で油を売っているのか気になるところだが
感想どうもです。
少々慌ただしいですが投下行きます。
それでは今回の投下、入ります。
>>917
× ×
「もしもし、そっちはどうだい?」
「暗くて狭いです。そちらは?」
「ああ、何とか片が付いたよ」
「そうですか」
「それで、一つ聞いていいか?」
「何ですか?」
「いや、日本の術式の事なんだが、
歌って踊って異界の入口を開く、と言う術式はあるのか?」
「そうですね、それは恐らく天の岩戸を擬したものではないかと。
そのやり方だと、正確には内側から開けさせたのでしょうね。
それを行ったのは桜咲刹那ですか?」
「ああ」
「そうですか。京都神鳴流は遥か古より王城の地を守って来た退魔の流派。
その技術を身に着けていたとしても不思議ではありませんが…」
「なるほどね。桜咲刹那に佐倉愛衣、
それにこっちの三人まで加わって歌えや踊れやのどんちゃん騒ぎだ」
「ステイル…」
「ん?」
「天の岩戸の術式…あなたはその時そこにいたのですか?」
「ああ、いたけど」
「…そうですか…
よ く 分 か り ま し た
」ツーツーツーツー
>>920
× ×
「ここのスペースを通って、
その向こうからエンデュミオンに基幹部の業務用ルートに入る筈だ」
そう言いながら、千雨はノーパソ変化した「力の王笏」を注視する。
「解除出来ましたちう様」
電子精霊の声に、千雨はぐっと汗ばんだ手を握る。
そして、電子ロックが解除された扉を開く。
千雨が入手した地図によると、
この向こうには、建築時の資材置き場だった空きスペースが広がっている。
無論、ロックはされているが、ここを通れば本格的にエンデュミオンに侵入が適う筈だ。
「真っ暗だな」
「そうですね」
夕映が、練習杖から光を灯す。
そして、息を呑んだ。
「牛?」
「魔獣ですね。魔力が感じられるです」
「だろうな。じゃなけりゃあ通報先は学界か畜産試験場か」
夕映と千雨が言葉を交わす視線の先、
向こう側の出入り口の前でぬーんと不機嫌そうに寛いでいるのは、
形は牛、サイズは象と言う見るからに尋常ではない生物だった。
「一つ、補足していいでしょうか?」
「悪い情報なんだよな?」
「もちろんです。
今までの情報から言って、ギリシャ系の召還魔獣であると考えた場合、
私達の生物学的な肉食、草食の常識は時に非常識なものとなると」
「ああそうですかありがとよ!!」
夕映の解説に、千雨は丁寧に礼を述べた。
「あれ、狩れるか?」
千雨が楓に尋ねる。
>>921
「未知数でごさるな。
竜程度ならあちらの世界でそれなりに闘って来たでござるが…」
「普通に考えたらそれよりは弱い筈なのですが…
メールで届いている途中経過を見ても、
あの刹那さんと佐倉さんが手こずると言う事は、
レディリーの召還魔術それ自体の威力なのだとしたら…」
「ここで騒ぎを起こしたら、最悪本格的なセキュリティーの介入か」
夕映の説明に千雨が呻く。
「でも、隠れたまま出入り出来る隙間無いよあれ」
「孤独な黒子」を発動させている夏美が言った。
「電子情報が間違ってなけりゃあ、ここ自体に直接的な監視カメラは無い。
あんなのが居座ってるんだ、レディリーが解除したのか。
綾瀬、少しだけ足止め出来るか?」
「少し、ですね」
「ああ。長瀬。総力戦だ。
魔獣ってんなら話は早い、全員引っ張り出して瞬殺するぞ。
もちろん長瀬もすぐに合流してくれ」
「了解でござる」
「………Ready go!!」
「装剣!」
夕映が牛に向けて駆け出し、同時に、
「天狗之隠蓑」に潜伏していた面々が一斉に外に飛び出す。
「フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ………!?」
瞳を怒りに燃え立たせた巨牛がざっざっと後ろ脚で地面を蹴り、
夕映が初撃を入れようとした正にその時、
牛の首根っこが上からぐいっと押さえ付けられた。
見るからにそんな事でどうなる筈がないのだが、現実に牛は動きを止める。
そして、牛の全身が見る見る灰色になり、
前脚後ろ脚全てが体重に耐えかねる様にバキンとへし折れた。
>>922
「やれやれ」
ぴたっ、と、動きを止めた千雨パーティーの顔から血の気が引く。
ほんの一月前か二月前か、そうであれば正しく地獄からの招待状。
今もその条件はさ程変わっていない、そうとしか見えない。
「僕の表向きの立場は随分変化した筈なんだけどね。
君達は相変わらず手を焼かせてくれる」
× ×
科学の学園都市第七学区。
「その様子だと目はいい様だね?」
「はい、有り難うございました」
病院の廊下で、佐倉愛衣が担当医にぺこりと頭を下げる。
「それで、他に何か?
出来ればすぐにでも現場復帰したいのですが」
「死ぬ気かい?」
特別に自覚症状の無い愛衣がぽかんとする。
「昨日今日と随分無茶をした様だね?
前回の検査では見付からない程の微細なクラックが出来ていたみたいだね。
それが拡大していて、場所が非常に良くない。
このまま動き続けた場合、半身不随或いは命の保障も無いよ?」
淡々とした説明を受け、愛衣はごくりと息を呑んで右手で胸元を押さえる。
確かに、若干でも鈍痛が強くなった気はする。
だが、むしろ痛みがある事で、よくある外傷ぐらいにしか思っていなかったのだが。
>>923
「な、治るんですか?」
「僕を誰だと思っているんだい?
クラックの完全修復は可能だ。場所を鑑みると、そうしなければ時限爆弾だ。
今日中には出来るが、これから一時間二時間で出来ると言う話ではないね」
「そん、な…」
愛衣が何か言い返そうとしたが、目の前の初老の医師の、
どこか飄々としているからこそ、
その落ち着きから感じられる自信と誠意に圧倒される。
「分かりました」
「うん、じゃあ準備が出来るまで待っていてくれるね?」
ぺこりと頭を下げ、愛衣はくるりと医師に背を向けて歩き出す。
「そっちは非常口だぜ」
歩みの止まらない愛衣の肩が掴まれる。
「一つだけ聞かせろ。
オマエはアリサの敵か、味方か?」
「………仰っている意味がよく分かりませんが………」
愛衣は、そっとポケットのカードを手にする。
「オマエはアリサを殺すために命を捨てるのか?そう聞いているんだ」
「なぜ私がそんな事をすると思うんですか?」
「オマエらにはオマエらの正義とかそういうものがあるんだろ?
例え一人の命を犠牲にしても大勢を助けるとかって」
「知っているんですね?あの塔でこれから起きる、起きようとしている事を」
「ああ」
「私は、今は地球の安全を優先………」
その先の言葉が出ない。背後からの何かが愛衣の喉を詰まらせる。
愛衣がギリッ、と、歯がみをして振り返った。
>>924
「全てを救いたいっ!!」
そして、叫んでいた。
「地球も、アリサさんも、全てを救いたいっ!
お姉様も、桜咲さん達も、長谷川さん達だってきっとそのために動いてる。
自分の立場も、命の保障だって全然無いのに、
それでも、それでもみんなそのために、
分が悪くても諦めないで、それでも全てを救おうとその身を懸けて頑張ってる!!
まだ体は動きます。今、今やらないと駄目なんです寝てなんかいられないっ、だから…
私達は、そのためのま…」
そんな愛衣の肩が、ぽんと叩かれた。
「休んでろ」
「だから…」
「オマエが命捨てるのが、それが魔法使いだって言うんなら、
そのふざけた幻想をこの右手がぶち殺す」
愛衣は、カードを手にぐっ、と、前を見る。
「クラックでもなんでも、ここでなら一発ぐらいぶん殴っても大丈夫だろ。
そのご大層な力を否定しちまうこの右手でな、掴み取ってやるよ。
みんなが笑っていられるハッピーエンドって奴を。
その中には当然オマエも含まれてるんだ。
公園で俺達を助けてくれた、その「魔法使い」のために格上の魔術師、
あの馬鹿げたイノケンティウスとでも張り合って見せたオマエもな。
だから、今は休んでろ」
恐らく今の自分は実に酷い顔になっているのだろう。
床から水滴の音が聞こえる程の有様でいながら、
愛衣は顔を上げる事が出来なかった。
>>925
今回はここまでです。
>>919
まず、確かに時系列は非常にヤバくなっていますが、
気休め程度の言い訳をしますと、
本作の現状は映画のあの当日の早朝から各チームの動きが始まっています。
そして、土御門ですが、
ニュアンスに誤差があるかも知れませんが
多分こんな所かなとそんな話を(だから作者の言う事じゃねーよ)
この際書いてみますかおよその流れでは
麻帆良サイド、特に千雨チームの思惑、行動が本格的にイミフ
ステイルの三弟子が麻帆良方面に喧嘩売りまくって情報収集が困難
その最中に本筋であるアリサに関わる陰謀も進行
ある程度千雨チームの事情にも通じてるらしい?
昔馴染みの刹那と接触してたけど、悠長にやってる余裕は無い。
経験のある退魔師の刹那なら、
流石に聖人様差し向けられて喧嘩する程バカじゃないだろう、諦めて喋ってくれる筈
バカでした
もっとバカが絡んで来ました
更に洒落にならない英雄な保護者まで出て来ました
魔法先生本隊の到着です
学園都市では千雨チームと暗部が武力衝突始めました
結果>>730
と言う訳で、後での二人の電話の内容からしても、別に神裂さんにカチ込み頼んだ訳ではありません。
木乃香への言葉は、まあ土御門は嘘つきでもそれが嘘とまでは言えないし、
土御門としてはあえてああ言う言い方をする必要があった、と、言う事で。
それでは続きは折を見て。
乙です
乙
なるほど、土御門がやたら刹那達に肩入れするのは元々の身内なのと上条さん寄りの馬鹿さを見せ付けられたからか
刹那の謎おこは昔の因縁の類かな?
何にせよようやく話が進んだし、これからの展開に期待
やっちまった…
>>889->>890
の間、丸々一ページ抜けてた…
しかも、かなりいい所だし。
>>889->>890の修正版投下します。
投下入ります。
>>888
「上手く、逃げたみたいですね」
刹那が独鈷の結界を張る中で、愛衣が闇の奥を見て言った。
「そうですね」
刹那がぼそっと言う。
そして、深呼吸をする。
「桜咲さんっ!?」
愛衣が、今度こそ悲鳴を上げた。
詠唱した愛衣の放った巨大火球がヒュドラに叩き付けられるのと、
刹那が翼を広げてヒュドラに突っ込んだのはほぼ同時だった。
火球が爆ぜ、ヒュドラが悲鳴を上げた、時には既に刹那は刃を振るっていた。
標準建御雷が次々と首を跳ね飛ばし、巨大建御雷に込められた魔力熱がその切り口を焼き潰していく。
問題は、刹那の異常なスピードと、
そのために使われている魔力がどれほど巨大なものであるか、と言う事だ。
「く、っ」
「風楯っ!!」
いまだ蠢く首のただ中、空中でくらっと傾いだ刹那の隣で愛衣が防壁を張る。
独鈷結界で壁を作りながら、刹那が減殺された衝撃を受けて弾き飛ばされる。
「う、おお…」
空中で体勢を立て直した刹那が、再び建御雷を振るおうとする。
それよりも速く、目の前に迫っていた首に火球が叩き付けられる。
>>929
「くおっ!」
建御雷が、ひょいと後退した首にすかっと空振りした。
次の瞬間、刹那は体が重くなるのを感じた。
見ると、愛衣に抱き付かれている。
「おおおおおっ!!!」
そして、炎の繭に包まれて、下水の岸に戻っていた。
「桜咲、さん」
「はい」
「まだ、建御雷を振るえますか?」
改めて張られた独鈷結界の中で、愛衣が尋ねる。
「大丈夫です」
「怒りますよ」
愛衣と刹那の目と目が真正面からぶつかった。
「あれだけの相手、後先考えて効率的にやってもらわないと困るんです。
あんなの斬ってる途中で桜咲さんにガス欠起こされたら私が死にます。
桜咲さんが倒れる前にあれを半減させたとしても私独りで対処出来る相手じゃありません。
何より、私の火炎魔法単独ではあれに致命的な打撃を与える事は出来ません」
「そう、ですね」
「目の前の敵と、味方である私と桜咲さんと、
この状態で私達が生きて帰るためにはどうすればいいんですか?
桜咲さんなら当然客観的にこの状況を分析して真実に近い結果を出せる筈です。
作戦、変更するんですか?それとも、そのままいくんですか?」
「佐倉さんは、どうすればいいと?佐倉さんの技量によります」
「オーソドックスに地道にやるしかないと思います。
桜咲さんの消耗も酷く、相手も強大。分の悪い勝負ですが、
それでも、剣と魔法のこの二人の技量であれば、ギリギリ出来ない事もない、
と言うかやるしかないと」
「そう、ですね。私も他の方法が思い付きません」
「決まりですね」
>>930
× ×
結界が弾けた。
食らい付いて来た顎を交わして、二人は空中に飛び出す。
刹那は鞘で、愛衣は炎剣で噛み付いて来るヒュドラの頭を牽制し、機会を伺う。
「おおおおおっ!!!」
刹那が落下し首を一つ刎ねた。
すかさず、愛衣が火球と化した箒を押し付ける。
「佐倉さんっ!!」
その愛衣の側で刹那が印を組み、
独鈷を組み合わせた防壁で噴射される毒液から愛衣を守る。
二人が一旦離れ、
愛衣が頭の一つに両手持ちした炎の槍を投げ付けた。
その首が悲鳴を上げたその瞬間に刹那が頭部を切り落とし、
そこに急接近していた愛衣が切り口に強力な火炎放射を浴びせる。
「神鳴流奥義・斬岩剣っ!!」
「紅き焔、っ!!」
愛衣が放った炎の中を、切り口から再生された二股の首が伸びて愛衣に食らい付いてくる。
愛衣は炎の防壁を張りながら必死で箒を後退させる。
「斬空閃っ!!」
刹那が飛ばした気の波動で頭部に打撃を与えている間に、
愛衣は何とかヒュドラの射程から外れた。
下水道の岸で、荒い息を吐く愛衣の隣で刹那も腕で汗を拭っている。
「佐倉さん、大丈夫ですか?」
「ええ」
愛衣が頷く。愛衣も厳しい所だが、グロッキーなのはむしろ刹那の筈だ。
修正版投下終了です。
凡ミスですいませんでした。
それでは失礼。
お久しぶりです。
それでは今回の投下、入ります。
>>926
× ×
目を覚ました村上夏美が周囲を見回す。
どこか、よく分からない所に横たわっているらしい。
そして、「現実」を認識した。
割と広い空間に、見覚えのある石像がごろごろと転がっている。
それは、恐ろしく精巧なクラスメイト達の石像だった。
そこで、夏美は事情を把握する。
夢だったのだと。
世界を救って魔法世界から専門用語で言う所の旧世界、
現実世界に戻って来た、等と言うのは都合のいい夢で、
本当はあの時、ゲームオーバーを迎えていたのだ、
いや、自分だけこうしていると言う事は、これからその時を迎えるのだと。
ほら、来た、何故か副担任等と言う非常識な記憶が残っている悪魔の使いが。
「術が解けた様だね」
詰め襟姿の男の子、白髪だが一般的な尺度で言えば美少年と言ってもいいだろう。
村上夏美の知るフェイト・アーウェルンクスがつかつかと近づいてくる。
「わっ、わっわっ、わっ」
夏美はわたわたと逃げだそうとするが、腰が抜けてて上手くいかない。
「ここから外に逃げる事は出来ない。
出来るかも知れないけど、僕の知る生物学的常識に照らせば間違いなく命はないと思うね」
「は?え、えーっと、ちょっと待って、
フェイト、うん、フェイトで間違いないんだよね。
あっちの世界でネギ君とボコボコの殴り合いやってそれでえーっと、
私達の学校の副担任をしてる、で、いいんだったよね?」
>>932
「概ね正しい。である以上、呼び捨ては感心できない。」
「ああ、うん。フェイト君、フェイト先生、
この石像って、作り物、じゃないよね…
…まさか…又、何か悪の使命に目覚めて私達を石にする、とか?」
「僕は契約は誠実に果たす質だ、教師としてあの学校に雇われた上はそれを全うする。
失礼な事は言わないでもらおう」
「じゃあこれは何なのよっ!?」
「個人差だ」
「は?」
「色々やる事があるから時限式の解呪術式を掛けておいたが、
案外大雑把だったらしい」
「ん、んー?」
「はにゃ?」
「あれ?」
「ここは…」
声に気付いて夏美がそちらを見ると、
見慣れた面々が寄り集まって目を覚ましている所だった。
「あ、コタロー君?」
「なんや夏美姉ちゃんもいたんか?」
「どーしたの?」
「ああ、病院抜け出した所で不意打ち喰ろてもうた」
「あー、フェイト…」
言いかけた長谷川千雨臨時リーダーが、
カコーンと額にチョークを受けて後ろ向きにぶっ倒れる。
「あー長谷川、こいつ先生と言う契約を非常に気に入っているみたいだから」
一足先に目覚めた夏美が補足する。
「契約を果たすと言っているだけだ」
「ああそうかい、フェイト先生。
確か、私の記憶の最後は、
科学の学園都市の地下で空中に浮かんでいる大量の石の針だったんだけどな」
>>933
「それを聞く限り、君の脳細胞の機能は至って正常、異常は無いと言う事になる」
「で、ここはどこで、どうしてそんな真似をしたんだ?」
「麻帆良学園の教師として、
この切迫した状況下で生徒の、それも力だけは世界一つ救済した程に大規模な魔法軍団の
身勝手な軽挙妄動を看過できると思っているのかい?」
正論過ぎて一言も無かった。
「と、言う訳で、宇宙に来てもらった」
「は?」
はっと気付いた一同が、だっと広間の壁際に走る。
そして、ガラス壁から外を見ると、そこから見えるのは紛れもなく一面の星々。
「科学の学園都市での失敗の後、
麻帆良学園都市が秘かに改良、開発を続けていた宇宙旅客機だよ。
とにかく、麻帆良学園の立場では、この問題に就いて君達の勝手に動き回られては非常にまずい。
君達の場合、地の果てに飛ばしても無駄だと言う事を一番知っているのは僕だ。
それなら宇宙にでも連れて来るしかないだろう。
臨時の課外授業と言う事で暫く宇宙観察に付き合ってもらう」
色々おかしいが、それでいて辻褄が合いすぎて言葉が無いと言うのが実際だった。
「フェイト様」
「ん?」
そこに、たたたっと調が駆け寄って来る。
「コクピットからの伝言です。
計器にエラーが見られるため近くの宇宙構造物に一時避難の要請を行ったのですが先方からの返答が無いと」
「ちょっと待て、計器のエラーだと?」
調の言葉に千雨が聞き返す。
「はい。今の所運行に支障が生ずる程の事ではないのですが、
何しろ宇宙旅行中ですので万一に備えて一度着陸の上で整備を行うべきであると。
しかし、一番近くの、と、言うより現状において唯一の着陸地点となる宇宙構造物からは
こちらからの要請に対して一切の回答がありません」
>>934
「なるほど」
そう言って、フェイトは調に何やら耳打ちをする。
一度コクピットに向かった調が改めて戻って来てフェイトに何かを渡す。
「長谷川千雨」
「ん?」
フェイトが千雨に渡したのはUSBメモリだった。
「君のアーティファクトを使って、
ここのコクピットとリンクすると共に宇宙構造物の宇宙航空管制システムにもリンクして
当機が侵入する手筈を整えるがよい」
「は?」
「ここは宇宙だ、整備上の僅かな緩みも見逃せない、
間違いが当たりとなったその時は即ち逃れ様の無い死」
フェイトが淡々と言う事に、千雨はごくりと息を呑む。
「と、言う訳で、先方からの回答が無い以上、
こちらから勝手に先方の門を破らせてもらう。
本来違法な行為ではあるが、人命に関わる非常事態である以上はまことにもってやむを得ない」
「…一つ、聞いていいか?」
「何かな?」
「その、私らが不法侵入して着陸を目指す宇宙構造物とやらの名前は?」
「宇宙エレベーター「エンデュミオン」の中継ステーションだが何か?」
「…マジで言ってんのか?」
「課外授業を引率姿勢との安全を最優先とする
教師と言う仕事を至って真面目に遂行しているつもりだけどね」
「もう一度聞く、どういうつもりだ?」
「別にぶれるつもりも馴れ合うつもりもない。
そもそも僕が何のために存在して、
わざわざ僕が勝てる筈の殴り合いを一時停戦して不確かな筈の計画に委ねる事になったのか。
それを考えるなら、今現在における物事の優先順位も自ずと理解出来ると思っていたが。
至って個人的な妄執のダダに付き合わされるつもりはない、とね」
>>935
「元も子もない、か」
へっ、と、笑いながら、千雨はミニステッキをノーパソに変異させメモリを差し込む。
「千雨、さん」
「なんだ?茶々丸?」
「はい、絡操茶々丸、当機のパイロットでもあります」
「マジかよ…」
ノーパソのスピーカーから聞こえる声に千雨が嘆息する。
「こちらからも可能な限りバックアップします。
相手方との電脳戦に備えて、ハカセが百体余りの補助電脳を用意しました」
「分かった」
千雨が言い、ごくりと喉を鳴らす。
「千雨ちゃん?」
しんと静まった空間で明石裕奈が呟く。
千雨は、ノーパソを前に目を閉じ、拳を握っていた。
「今回の事件に関わってから、
千雨ちゃんの電脳戦での勝率はあんまり高くない」
朝倉和美が裕奈に囁く。
「相手は科学の学園都市、そして電脳世界でも未知の術式を使う魔術師。
深入りしたら自分が危なくなる、千雨ちゃんはそれを体験してきた」
和美の説明に、裕奈も小さく頷く。
その時、スペースの照明がふっと消灯した。
そして、中心近くにぼうっと浮かび上がる人影が徐々に鮮明化する。
「な、っ?」
そちらを見た長谷川千雨が、驚愕に目を見開く。
>>936
「これって…」
裕奈が目をぱちくりさせる。
「…鳴護、アリサ…」
夏美が呟く。
その姿は、鳴護アリサその人。
ステージ衣装に身を包み、静かに顔を伏せるその姿からは、
充実した緊張感が伝わって来る。
「エンデュミオンの中でも、比較的防御の甘いイベント系の回線を先に把握しました」
茶々丸の声が説明を始める。
「先方で現在進行形で記録している映像、音声情報をこちら側にも分配させて、
それをこちらで使える最新鋭最大規模のコンピューターと専用プログラムで解析して
限りなくリアルタイムで同一に近い形の視覚、聴覚情報を再現しています」
「…ほえー…」
大体分かった佐々木まき絵が間抜けな声を出して超高性能3D映像に見入る。
「…ったく…無駄に容量使いやがって…」
千雨が鼻で笑い、乾いた声で憎まれ口を呟く。
「行かせねぇよ…」
呟いて、千雨は自分の右手を見る。
「一人じゃ行かせねぇ」
呟いて左手で右手首を握った千雨が、アリサに眼差しを向ける。
千雨が、ぐっと右手を握る。
アリサが顔を上げる。
窓からは一面の星空、ここは空のただ中。
>>937
「…行こうかアリサ。
今行くぜ、光の塔に。私らの戦場に!!」
千雨がピアノの様にキーボードの上で被せた両手を浮かせた。
「Ready go!!」
× ×
科学の学園都市エンデュミオンシティ作業テント内。
「んー」
「どう初春?」
長机の前に着席し、ノーパソを操作していた初春飾利に佐天涙子が尋ねる。
「駄目ですねー、下からの出入りは全部封鎖されています。
多分これ物理的にやられてますよ。
それじゃあハッキングの領分じゃない…」
言いかけた初春が、何かに気付いた様に操作を再開した。
「これって…ハッキング?
場所は、宇宙側…この侵入、プログラミングの癖…
今、どうしてこんな…まさか…」
じっとモニターを注視してキーボードを操作していた初春が、
慌ててUSBメモリを差し込み、マウスクリックする。
「初春?」
その画面をじっと見ていた初春が、
ぐわっと獲物を見付けた様に猛烈な勢いでキーボードの高速打鍵を開始した。
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙
乙です
乙
終盤か
映画では複雑無比な大規模術式の安定した無効化はインデックスの強制詠唱と奇跡の謎ミュージアムのコンボで無効化したけど、ネギまチームはどうやってやるかな
>>941
感想どうもです。
次スレ入ると思いますけど、
トンデモいっちゃうか、覚悟はしておいて下さい。
それでは今回の投下、入ります。
× ×
「あれかなっ!?」
千雨チームが集まっている宇宙旅客機内のホールで、
窓際に立った佐々木まき絵が叫ぶ。
鳴護アリサ3Dコンサートに聴き入っていた面々もその声に反応した。
「あれが、エンデュミオンの…」
「宇宙である事を考えると、正しく壮観でござるな」
遠くに見えて来た目的地を目にしながら、一同が感心の声を漏らす。
「あれは…やはり…」
その内、綾瀬夕映が最初に苦い声を漏らした。
「あれって…」
朝倉和美の声もピリッとしたものとなる。
「魔法陣、だよね」
宇宙に浮かびエンデュミオンを囲む図形の数々を見て、村上夏美が言った。
他の面々の表情にも緊張が走る。
普通に見ても十分禍々しい。あの夏を戦い抜いた面々であれば尚の事だ。
「この時に合わせて星座に連動させているのですね。
しかし、これは…」
「ユエ?」
じっとりと汗を浮かべる夕映にハルナが声を掛ける。
>>942
「ふむ」
そんな面々の中にフェイト・アーウェルンクスがひょいと現れると、
ざざざっと退く音が聞こえる。
この面々の中では、
突如としてフェイトが隣に現れる恐怖に慣れろと言う方が無理だと言う面々も少なくない。
「綾瀬夕映、あの術式は?」
「ゴエティア系の術式、そこまでは分かるのですが…」
フェイトの問いに夕映が答える。
「ギリシャ占星術のそれも古典に属する術式」
フェイトが言い、夕映も頷く。
「魔法陣と星座との連動、そこから予測される効果。
かの時代の、既に省みられる事のなくなった理論の数々を再構築して組み立てたもの。
この事件の黒幕がギリシャ占星術の、
それも古典の分野に於ける優秀なシビルであった事はこれを見てもよく分かる。
しかも、独自の研究を重ねてユニークと言える程の再構築を行っている」
「現代の魔法の知識からでは理解し難い部分が少なからずありますが」
「あれならそういう事になるだろうね」
フェイトが淡々と言う。
「フェイト先生は理解出来てるの?」
痺れを切らした裕奈が尋ねた。
「あれがどういうものであるか、その程度の事は把握している。
奇蹟の姫を核に世界を一つ滅ぼす程の強力無比な術式を発動させるとは、
全く気が知れないよ」
「…………………………」
「フェイト様」
そこに、調がたたたっと駆け寄って来た。
>>943
「お報せがあります」
「何だ?」
「エンデュミオンのセンサーに引っ掛かりました、
こちらにアンチ・デブリミサイルが向かっています。
それから、当機の通信システムに割り込んだ、
ペンネーム人生と書いて妹と呼ぶと称する人物からの伝言です。
構わん、行け」
「構わん、行け」
「了解しました」
調が、たたたっとコクピットに戻る。
「………なあ、夏美姉ちゃん………」
「ん?」
アリサの歌声が今正に一曲の絶頂を迎えようという時、
夏美は小太郎の呼びかけにそちらを見る。
「俺、こないだ刀抜いて掛かって来いやって粋がって見せた覚えがあった様な…」
窓に張り付く様に外を見ていた犬上小太郎が乾いた声で言う。
そして、その小太郎の鋭い視覚は間違いなくそれを捕らえていた。
青く輝きゆっくり落下しながら動く唇。
よ く お ぼ え て い ま す よ
「認めたくないものだな、若さ故の過ちと言うものは」
夏美が声を掛けた時、
小太郎の震動はエヴァンジェリンの本気の特訓以来のものだったかも知れない。
「ああああっ!」
バリッと両手で頭を掻いた千雨がガタッと立ち上がる。
そして、ノーパソを元の杖の形に戻した。
>>944
「………広漠の無、それは零。大いなる霊、それは壱………」
アリサの歌とルーランルージュの踊りのコラボレーションが始まった。
朝倉和美はそれを真剣な眼差しで見守る。
学園都市の科学とギリシャ系魔術の古典術式。
不完全であってもそれらを融合して未知の術式を組み立てるレディリー・タングルロード。
電子精霊を駆使する電脳の覇者長谷川千雨であっても、
直接接続してレディリーの術式と電脳戦を闘うのは命の危険すら十分にある。
和美も夏美も、千雨自身も間近でそれを見て、体験して来た。
他の面々も一通りの知識は共有しているし、それ以上に感じ取るものがある。
で、あるならば、見守り、見届けなければならない。
「我こそは電子の王っ!!」
× ×
草原で、騒々しい戦いが展開されていた。
ルーランルージュの姿で突き進む長谷川千雨。
その前を遮るのは鳥の大群。
しかし、千雨も又、一人ではなかった。
それどころか、軍団の指揮官だった。
茶々丸妹量産機の大軍を三つに分けて進軍する。
茶々丸妹軍団の一隊は銅鑼を鳴らして鳥を攪乱し、一隊は楯で防御し、
そして一隊は機関銃で銃撃する。
「千雨さんっ!」
幾つもの声が重なり、千雨の前に楯隊が来る。
しかし、避け損ねた何体かの茶々丸妹が、
鳥が翼から飛ばす鉄矢の様な羽を受け、消滅した。
>>945
「野郎っ!」
千雨がミニステッキを振り、そこからの光線で鳥をざあっと消滅させるが、
それでも敵の数はまだまだ多い。
大体、新手がどんどん追加されている様であるのに対して千雨の側は減る一方だ。
今回の敵も又集団行動、群れで飛び回り、鉄矢の様な羽を機関銃の様に飛ばして来る。
これを一度にやられたらひとたまりもない。
だから、攪乱し防御しながら集団にさせない様に集団で戦うしかない。
とにかく、前に進まなければならない。
ようやく草原が終わろうとした頃、周囲には既に数える程の茶々丸妹しか残されていなかった。
「おおおおおおっ!!!」
千雨がダッシュする。
鳥は恐らく草原エリア限定の敵キャラなのだろう。
追い抜かれた鳥の群れが後ろから追って来る。
残った茶々丸妹が千雨の背後で奮戦する。
「千雨さんっ!」
「っ!?」
千雨の背後で、羽矢を受けた茶々丸妹が、全滅した。
「ちう・パケットフィルタリィーングッ!!」
その隙に、千雨がその鳥達を掃射する。
「すまない…いや、ありがとうっ!!」
千雨は、一瞬でも笑顔を見た。そう思いたかった。
「残機ゼロ………今から上上下下左右、とか、出来ねぇよなぁっっっ!!!」
岩場のエリアに入った千雨が、
ぐわっと急降下して間一髪で千雨にやり過ごされた巨大鷲を見て叫ぶ。
>>946
「レバー寄越せ、レバー寄越せ…
生レバー禁止って知らねぇのかバカ鳥があっ!!」
浮上、急降下を繰り返す鷲の鳴き声が何故か千雨の頭の中で翻訳される。
それに律儀に返答しながら、千雨はゴロゴロと岩の地面を転がり鷲の爪から逃れる。
「パケットフィルタリィーング………ッ!!」
鷲は、千雨がミニステッキから放った光線を受け、
ぎりぎりと静止してから突っ込んできた。
「だああっ!力負けかよっ!!」
辛うじて爪を交わした千雨が荒い息を吐く。
岩陰に隠れ、千雨は周囲を伺う。
鷲は空中を旋回して油断無く獲物を狙っている。
今の出力で倒すのは無理らしい。
だが、持久戦をしている暇もない。刻一刻と目的地に近づいている筈だ。
宇宙で寄り道してタイミングを外すのは素人でも分かる致命傷。
「っ、とっ!?」
そして、立ち上がり動き出した千雨の脚が縺れ、転倒する。
× ×
華やかな振り付けとBGM、それがむしろ静けさを強調する。
床に横たわりぴくりとも動かない千雨。
じっと見守る仲間達。
振り払おうとしても頭をよぎる、眠り姫が目覚めぬ悪夢。
夏美達の様にあの戦いを身近に見ていれば尚の事。
どうやら、この曲の終わりは近い様だ。
次は目覚めの歌になるだろうか、なるに決まっている。
「…あ…」
夏美がぽつりと呟く。
彼女達の目の前で、映像と実体の視覚情報が重なる。
アリサが膝を折り一礼する。
それは、顔に顔を寄せる様に。
>>947
× ×
「?」
間に合わない、と、思った時、
何かに弾かれた様に千雨の頭上で鷲は急上昇した。
千雨が体勢を立て直し、駆け出す。
チャンスは今しかない。
だが、鷲はごおおっと空を滑る様にして距離を縮めて来る。
「!?」
千雨が、とっさに左に跳び岩と岩の間に飛び込む。
千雨が走っていた地面がバキッとひび割れ、巨大な蔓草が姿を現した。
蔓草は赤い花を咲かせながら上へ上へと伸び上がる。
そして、上空から降下をはかっていた鷲を捕らえ、絡みつき拘束した。
「助かった?」
とにかく、千雨は先を急いだ。
「新手、かよ」
行き止まりの人工的で巨大な石壁。
その右斜め前方に改めて巨大なモンスター。
だが、今の所、襲って来る気配はない。
そして、千雨は石壁に彫り込まれた文章に気付く。
「これは…ギリシャ語…変換プログラム…」
千雨が電脳空間の利点で語学プログラムを起動する。
文章の下には四角い穴が並んでいる。
「パズルだな」
脇のテーブルには文字を彫り込んだ石のサイコロが用意されている。
「答えは………人間だっ!………」
>>948
× ×
「Good luckです」
「?」
エンデュミオンシティの作業テントの下で、
ノーパソに向かい一人親指を立てる友人初春飾利を、
佐天涙子は不思議そうに眺めていた。
ズレテンノヨネー ギャギャギャギャギャーッ バビューン ドカーン
× ×
「千雨ちゃんっ!?」
「長谷川っ!」
むくっと身を起こした千雨の姿に、一同から歓声が上がった。
千雨の視線の先では、
鳴護アリサが観客に向けて一心に歌を届けている。
頷いた千雨が立ち上がり、ノーパソに戻した「力の王笏」の操作を再開した。
「茶々丸!」
「はい」
ノーパソを通して千雨と茶々丸が音声交信する。
「システムは抑えた」
「把握しました」
「もう一機来てる、あっちは正門から入るつもりだ。
こっちはバックヤードから突っ込むぞ。
作業用出入り口。
本来の仕様じゃない、理論値ではギリギリ可能。
それがこっちで把握してる情報だ、茶々丸」
「行けます。微調整はこちらで行います。
千雨さん、お願いします」
「りょーかいっ!!
てめぇら掴まってろよっ!!!」
時系列に微妙な問題があるかも知れませんが
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
それでは今回の投下、入ります。
>>949
× ×
「だから、エラーなのは分かってる、完璧は求めていないっ!」
ノーパソを操作しながら千雨が叫ぶ。
「やるって言う前提での一番マシなやり方と成功率を出せ、そう言ってるだ分かったなっ!」
「ラジャーちう様っ!!」
指示が伝わり、千雨は深呼吸をする。
「出たか…まあ、こんなモンだろうな。
茶々丸、後は頼んだ」
「了解です、千雨さん。必ず、成功させます」
返答を聞き、千雨はふうっと脱力する。
「契約に当たり、始末書と言うものの書式も把握しておいたのだが、
教師と言う仕事は想像以上の難事業らしい」
「まあー、そういう事だ」
淡々と言うフェイトに千雨が言う。
「覚悟しとけよ、何せ私らの副担任なんだ」
「無論、そのために補習授業のパターンと言うものの
十万三千通り程はダウンロードしてある、問題はない」
「………………」
「皆さん、着席して手順に従い緊急着陸に備えて下さい」
機長室の茶々丸からの機内アナウンスが聞こえて来た。
>>951
× ×
「………なんとか、なったみたいだね………」
衝撃が収まった後、窓から外を見て夏美が言う。
そこは、巨大な格納庫の様な空間だった。
そこから宇宙服を装着し、
手順に従い中継ステーションの業務エリアに潜入するまでは描写を省略させていただく。
「取り敢えず、こっちで用意した地図は渡ったな?
こっちで把握したデータだと、
既にこのエンデュミオン内を得体の知れないエネルギーが流通している。
この流れも把握した」
通路を進みながら、既に宇宙服を脱いで身軽になった千雨が一同に説明する。
そして、エレベーター脇の壁のパネルとノーパソ化した「力の王笏」をケーブル接続する。
程なく、エレベーターが到着する。
「じゃあ、頼んだ」
エレベーターに乗り込んだのはフェイト軍団と綾瀬夕映だった。
扉が閉まり、エレベーターが上昇する。
「あのエレベーター、重量制限で一度には今のが限度だ。
行き先は特別展望室に繋がるエリア、構造的にもそこがラスボスの間だ。
術式関連でどうこう出来るのはあいつらしかいない。
今のは準備してやったけどこの特別エレベーター、
マスターキー無しのハッキングだと、
一回一回中身を組み替えられて大きく時間を食うと言うか破れる保障も無いのがこいつだ」
千雨が、ケーブルを外して拳でパネルを叩く。
「こっからは分担作業だ。
私と朝倉でサブコントロールを抑えて出来る事がないかを調べる。
後のみんなはアリサの保護って事で、後は出たトコ勝負。行くぞっ!!」
「おーっ!!」
>>952
× ×
千雨達は地図を見ながら階段を上り、
扉を開き地図上では大きなホールとなっている空間に突入した。
「何これ岩場?」
「何となく、ジオラマっぽいって言うか…」
夏美の言葉に朝倉和美が続ける。
確かに、ホールの中は暗闇で岩場にしか見えない光景が続いている。
「伏せっ!」
小太郎が叫び、一同が従う。
これでもドンパチの修羅場はくぐっている、反応は早い。
果たして、連続した銃声と共に岩場に銃撃が反射する。
「盾の乙女っ!」
ハルナが防護ゴーレムを張り、闇になれて来た目で周囲を伺う。
うぞうぞと機関銃を抱えた黒ずくめが動いている、
と、思った時には小太郎が飛び出していた
「おらあっ!!」
元々、並の銃撃でどうこう出来るタマではない。
小太郎が身軽に飛び回り黒ずくめをぶちのめしていく。
「何だこいつら!?」
「取り敢えず人やない、人形やっ。ぶっ潰してかめへんっ!!」
そう言って実際何人かぶっ壊してみせるが、
それでもMG34相手に突貫して無傷と言うのは難しい。
怪我する前に一度岩場に隠れる。
>>953
「魔術か?」
「ああ、見た目はえらいモダンやけどな」
岩陰を通って千雨達の所に戻って来た小太郎が言う。
ヘルメットから全面マスクに至るまで、
黒一色の装甲服を着用した人間形の存在がMG34を抱えてぶっ放して来るのだから
見た目はまずもって魔術戦ではない。
「別にここで馬鹿正直にやり合う必要もないでしょ、突っ切ろう」
ハルナが言う。勝算がある目だ。
「盾の乙女全面展開っ!go!!」
乾いた銃声が響く中、
ハルナの展開した防護ゴーレムに囲まれながら一同は走り出す。
「!?」
「やばっ!!」
しかし、出口の扉が見えて来た、その時に、
一同はとっさに左右に飛び退き手近な岩陰に隠れた。
「わわっ!」
「盾の乙女前面っ!!」
何人かが隠れた岩に大きな火球が弾け、ハルナが防護ゴーレムを再構成する。
「出やがったな…」
千雨が、嫌な汗を感じながらギリッと歯がみする。
「地獄の番犬ケルベロス」
一同が出口に駆け込もうとしたその時、
その獅子にも勝る体躯を誇る三首の黒犬は、
上空から扉の前にふわーっと着地して火球を吐いて雄叫びを上げていた。
>>954
「くっ!!」
背後からの一斉射撃に、ハルナが防護ゴーレムの位置を変える。
「地獄の番犬ケルベロス、入る者は咎めず出る者は決して許さない」
夏美が呟いた。
「うらあっ!!」
小太郎が、その真ん中の頭の横っ面にいいパンチを叩き込む。
雄叫びを上げたケルベロスがドドドドドと小太郎を追跡し始めた。
「おおっし、犬同士仲良くいこかあっ!!」
「雑魚は任せて先行ってっ!!」
ハルナの防護ゴーレムが背後からの銃弾を阻止し、
攻撃ゴーレムが蜂の巣になりながらも黒ヘル部隊に突っ込んでいく。
「頼んだっ!!」
千雨が叫び、扉に走る。
金色に輝く小太郎とケルベロスがギリギリと力比べをしている間に扉が開いた。
× ×
「てな感じでどんだけ火力が要るか分からないっ!!」
科学の学園都市エンデュミオンシティに到着した桜咲刹那が、
千雨からの電話で概略を説明されていた。
「麻帆良学園とはフェイトが話を付けた。
こっちの調べじゃあアクセスポイントがもう一箇所ある。
但し、場所は成層圏だ。
麻帆良学園が用意する道具で成層圏のポイント近くまで吹っ飛んで、
後は桜咲が気合いで突っ込む、お前なら何とかなるだろう、って話だ。
但し、流石にそこまでの距離と正確性で移動できる機械ってなると
麻帆良学園でも簡単には用意出来ない。
時間ギリギリか間に合わないか、
とにかく、手伝ってくれるってんなら連絡とれる様にしててくれっ」
>>955
「分かりました」
周囲で近衛木乃香と宮崎のどかが耳を寄せている中、
刹那は一旦携帯を切った。
「大変な事になってるなぁ」
木乃香がいつもの口調ながら真面目に言う。
「元々正規のルートでは出入りできませんが、
どうも下からのルートはただ事ではないみたいです。
合流するのは、麻帆良からの支援が間に合うかですね」
刹那が言い、一同は表通りを歩いていた。
「あら、あなたは?」
「え?あ…」
そこに歩み寄って来たのは、婚后光子とその親友二名だった。
「あ、あの…先日は…」
「御坂さんから事情は伺いました。
あの折りは勘違いがあったとは言え、ご友人のために大変な尽力をなさっていると。
この婚后光子、感じ入った次第ですわ」
「はあ………とにかく、先日はご迷惑をおかけしました」
「いえいえ」
開いた扇子を右手で掲げる婚后の脇で宮崎のどかがぺこりと頭を下げ、
泡浮万彬、湾内絹保が穏やかに応対する。
「ところで皆さん、何やらお困りの様ですけど」
パチンと扇子を閉じた婚后が問いかけた。
「もしかして、鳴護アリサさんの事ですの?」
「え?」
婚后から出た名前に刹那が聞き返した。
>>956
「やはりそうでしたのねっ!?」
「え、いや、あのっ」
ぐわっと迫って来る婚后に、刹那がたじっと引き気味になった。
「御坂さんのご友人の鳴護アリサさんが何かトラブルに巻き込まれていると伺い、
この婚后光子、非常に憂慮しておりますの」
「その通りです」
湾内絹保が後に続いた。
「先日のトラブルの後、御坂さんから些かの説明を頂いたのですが、
今日になってそのアリサさんのいるエンデュミオンでトラブルとか
御坂さんや白井さん達も寮で何かトラブルがあった後に連絡が付かなくなったり。
婚后さんも泡浮さんもちろんわたくしも心配しておりますの」
刹那から見ても、この三人の表情からは一片のごまかしも読み取れない。
「あのー」
そこで、のどかが口を開いた。
「中で何かトラブルが起きているのは確かです」
そう言ったのどかに視線が集まる。
「既に私達の友達もその中に入って対処していますが、
手が足りるか分かりません。
今は中に入るのも難しいと聞いています」
「そうでしたの」
説明を聞き、婚后も思案顔になる。
「なんとか手助け出来たらええんやけどなぁ」
木乃香が言った。
「何か、中に入る方法は?」
泡浮が口を挟んだ。
>>957
「通常のルートは難しいみたいです」
「んー、方法は無いではないみたいやけど…」
のどかの言葉に木乃香が続けた。
「どの様な?」
「んー、かくかくしかじか」
「つまりまるまるうまうまで、
成層圏の特定のポイントまで到達する事が出来たら、
後はあなた達の能力で突入する事が出来ると言う事ですか」
木乃香の説明を、婚后が要約する。
ある程度の事は能力と言う事でごまかしが聞くと、
その点は刹那達も予め聞いていた。
× ×
宇宙エレベーターエンデュミオン基部エリア内。
「メイはドクターストップで暫く動けない、
私達で対処するしかありません」
携帯電話をしまい、高音・D・グッドマンが言う。
「外部アクセスが閉ざされたみたいです。
正規のルートは無理です、
ここから上に行くルートが見付かるでしょうか」
あちこちで機械やコンクリが剥き出しになっている通路を進みながら、
ナツメグこと夏目萌がPDAを操作しながら言う。
>>958
「失礼、お嬢さん」
「はい」
ナツメグが指を止めて問いかけに応じる。
「人を捜しているんだけど、こういう子がどこに行ったか知らないかな?」
ナツメグが、見せられた写真を数秒間じっと注目する。
録画映像からプリントアウトしたものらしいが、
巻きツインテールの髪型のぱっと見て可愛らしい感じの少女が写っている。
もちろん、この写真と同じ顔が少なくとも今朝まで合流して
一緒に行動していた同僚である事を忘れる程ナツメグの記憶力は劣化してはいない。
「いいえ、残念ですけど、見てないですね」
「そうか。ありがとう」
「それでは先を急ぎますので」
「ああそうだ、お嬢さん。言い忘れた事があるけど」
その瞬間、ナツメグはドン、と、突き飛ばされていた。
「たたた………お姉様?」
身を起こしたナツメグの前で、高音がざっ、と、両脚を踏みしめていた。
(…影防壁越しにもこの衝撃…)
「テメェがコイツと一緒にいた事は分かってんだよ、クソボケ」
今回はここまでです。
レス含めたこのペースですと、次スレ建ては980ぐらいですかね。
続きは折を見て。
乙です
麻帆良側って学園都市で問題行為しかしてないな。
暴れ回ったり、何もしてない一般人を拉致したり。
まぁ、科学側のトップ陣が出て来ない限り、何とかなるんだろうけど。
単純な戦闘力は
科学トップ陣(アレイ☆やエイワス)>時代の壁?>魔術トップ陣>越えられない壁>魔術上位陣(フィアンマ以外の神の右席)≧ネギまトップ陣≧聖人>ネギま上位陣(タカミチ級)>科学側上位陣(上位能力者達)>白き翼主戦力>魔術主戦力(ステイル級)>魔術モブ≧ネギま標準戦力≧科学モブ
くらいな印象。
勿論、上条さんやアスナなどのイレギュラーもあるけど、2人とも聖人みたいな身体能力ゴリ押しには弱いみたいなので魔術上位陣以下魔術主戦力以上な位置で。
ネギまは最強クラスが山を一つ吹っ飛ばすのが限界な時点で禁書陣どころか数多のインフレ共を相手にするのが厳しいのはお察しだろ。
身体能力だけなら型月といい勝負か勝てるくらいだろうけど、あちらは特殊能力責めして来るし。
乙です
続きを待ってるぜ
感想どうもです。
それでは今回の投下、入ります。
>>959
× ×
エンデュミオンに潜入した千雨が、着信に気付いて携帯を取り出す。
ショッピングモール爆破事件を報せて来たアドレスからのメール着信だった。
「私の友人はサクラザキセツナさんを誠実そうな人だと言っています」
この一行に対して、千雨は返信する。
「折り紙に太鼓判を押して保障する」
× ×
「そっちにも出ましたか」
「ああ、出た、って事は?」
「はい、エレベーターを乗り換える通路に。
石にされる前に石にしましたが」
「そうか」
千雨は、階段を駆け上りながら、
朝倉和美のアーティファクト「渡鴉の人見」を通じて綾瀬夕映と言葉を交わす。
「既に術式が動き出していると言う事です」
夕映の声は緊迫したものだった。
「鳴護アリサを核にコンサート会場から発せられるエネルギーが、
エンデュミオンに張り巡らされた回路を通じて
召還魔術の装置に流れ込んでいると見るべきです」
「状況がヤバイ所まで来てるって事かよ」
「楽観視は出来ません。術式が完成する前に手を打つ必要があるです」
「いっぺん会話やめるぞ」
千雨が階段を上り切ると、目の前は行き止まりにドアが設置されている。
>>965
「非常用の貯水槽だ」
ドアを開いたその向こうはちょっとした湖とも言える貯水池が広がっている。
一同は、その中心を横切る橋を進む。
「モンスター、あっちにも出たって?」
「ああ、そうらしいな」
走りながら、夏美の問いに千雨が応じる。
「向こうはあの面子だ。モンスターレベルなら、
ギリシャ神話フルキャストでも一人で瞬殺しちまうだろ」
「だよね」
千雨の言葉に夏美も同意する。
「あれっ!?」
朝倉和美が叫ぶ。
上から見たら池を十字に橋が横切っていて、千雨は真っ直ぐ進む予定。
地図の上では、左右の橋の先にあるのは倉庫の筈だ。
その左右の倉庫の扉が開いていた。
「おいっ!」
「あれって…」
千雨が叫び、夏美が息を呑む。
古菲と長瀬楓が駆け出し、橋の中央から左右に分かれる。
古菲がアーティファクトの巨大如意棒を振るい、
楓が巨大手裏剣を飛ばして池に叩き落としたのは、
「ケンタウロス」
夏美が呟く。
倉庫の中から下半身が馬、上半身が人間の男性のモンスターの群れが
手に手に棍棒を握り橋の中央に向けて駆け出して来る。
「状況は?」
「渡鴉の人見」を通じてフェイトの声が聞こえた。
>>966
「ケンタウロスだ、馬人間。
それが倉庫からうじゃうじゃ出て来やがる」
千雨が返答する。
「村上夏美。
ケンタウロスの群れとはどういう逸話を持っている?」
フェイトからの質問が続いた。
「ええと、中には知的なケンタウロスもいるって言うけど、
確かお酒を飲んで結婚式をぶち壊して退治された、だったかな」
「元々、推定されているレディリー・タングルロードの作戦は、
感情エネルギーの起爆に強く依存したものだ。
鳴護アリサの奇蹟の歌を術式の核として、
それと共に大規模なギャラリーによる歓喜の感情エネルギーを使って術式を発動させる。
そして、感情のエネルギーと言うものは、
希望から絶望に転移する瞬間にこそもっとも強烈な爆発力推進力を発揮するものである、と、
最近も悪魔と神の物語の原典に於いて語られた所である」
「つまりあれか」
千雨が、眉間を揉みながら言う。
「ボルテージ最高潮のコンサートに武装モンスター突入させて
阿鼻叫喚の地獄絵図を作り出す事でエントロピーを凌駕すると」
「実に論理的だ」
「おい、そこに偽神楽坂いるか?」
「はいはい」
「フェイトの奴、最近妙なもんダウンロードしてねぇだろな?」
「失礼なっ!」
割り込んだのは暦だった。
「旧世界の日本の学校で己の役割を果たすと決めて以来、
日本の文化習俗その他諸々、高度な学術書から市井の俗書の類に至るまで、
日々寝る間も惜しみ…」
「よーく分かった偽神楽坂」
「はい」
>>967
「これ終わったらフェイト私ん所に寄越せ。
高度じゃない方のとある分野に関しては一からレクチャーする」
「妙なものを教えるのではないでしょうね?」
又、暦が割り込む。
「少なくとも絶対領域はいてないからスタートするつもりはないから安心しろ」
「そうですか。それではパルさんがあちらの世界でも広く布教された総受け男の娘の神髄を…」
「うん分かったこれが終わったらあの腐れゴキブリ屋上でゆっくり話付けとく。
一旦やめるぞっ!!」
栞との会話を打ち切り千雨が叫んだのは、大きな羽音を聞いたからだった。
「鳥人間?」
佐々木まき絵が呟く。
開かれた倉庫の扉から、
背中に羽の生えた全裸の女性が何人もと言うか何羽もと言うかバサバサと飛び出す。
「!?」
そして、池の中でばしゃばしゃもがいているケンタウロスに殺到するや、
池が見る見る赤く染まっていった。
「マジ、か?」
千雨がごくりと息を呑む間にも、ぷかーっと白い塊が水に浮かぶ。
「セイレーン?」
「ちょっと待って、セイレーンって人魚の事じゃ」
夏美の呟きにアキラが続いた。
「いや、セイレーンで正しい」
抜け目なく和美が「渡鴉の人見」で撮影していた実況を見て、
フェイトが画面の向こうで言った。
その間にも、セイレーン達は橋の中央近くに辿り着いていた千雨達に殺到する。
古菲が如意棒を、楓が巨大手裏剣を振り回して追い払うが、
ふわふわ交わされてダメージを与えられない。
>>968
「このっ!!」
中央から千雨達から見た出口寄りの場所で、
千雨達のしんがりについた明石裕奈が、
ドドドドドと追い掛けて来るケンタウロスを銃撃する。
一頭、二頭と撃ち倒すが、
馬の大きさのマッチョがそれを乗り越えて突き進んで来るから適わない。
「ハイィーッ!!」
気合い一閃、裕奈の前に回り込んだ古菲が、
橋を塞ぐ様にケンタウロスを池に叩き落としていく。
「助かっ、た…あ…」
片膝の姿勢から脱力した裕奈が、
ふらりと立ち上がり池と隔たる橋の鉄柵に向けてふらふら歩き出す。
「ふん、ふん、ふんっ!!」
そして、橋中央からの声にはっと我に返る。
見ると、古菲が自分の顔面をボコボコにぶん殴った所だった。
「ね、セイレーンでしょ、こんな、綺麗なの…」
「うん…」
「にんっ!!臨兵闘者…」
ダッと駆け寄って夏美とアキラに当て身を入れた楓が、
九字を切り経文を唱えながら脂汗を浮かべる。
「や、べ、え…」
耳を塞ぎ蹲りながら、千雨は池に視線を走らせる。
視線の先では、池にぷかぷか浮かぶ浮島に腰掛け、
生まれたままの姿で羽を休める美女達が、
この世のものとも思えぬ歌声で一同を水面へと誘っている。
「おいっ!」
和美から「渡鴉の人見」をひったくった千雨が叫ぶ。
>>969
「ブリジットバルド………もといブリジットっ!」
「はい」
「ヴァイオリン持ってるな、思いっ切り弾けっ!!但し衝撃波はいらん」
「はい」
その戦慄すべき旋律は、最大音量で貯水槽エリアに届けられた。
「ああ、あの歌声が一段と美しく…」
「身近で聞き直して癒されたい…」
「にんっ!!臨兵闘者…」
目を覚ました夏美とアキラにダッと駆け寄り当て身を入れた楓が、
九字を切り経文を唱えながら脂汗を浮かべる。
「失敗かっ」
「長谷川千雨」
「渡鴉の人見」からは実にクールな声が伝わって来た。
「現在、我々が乗り換えエレベーターに搭乗中だと言う事を念頭に置いた上で
帰宅後の補習授業の沙汰を待つがよい」
「…はい…」
「…でも…聞きたい…」
「…なんて…綺麗な歌…」
「………んだって………いいかも………」
ふらふら柵に近づく面々を見て、千雨の頭の隅でぶちりと何かが切れた。
「っざけんなっ!!!」
叫んだ千雨がノーパソ化した「力の王笏」を猛烈な勢いで操作する。
今にも柵を乗り越えダイブしかねなかった面々が、ぴたりと動きを止めた。
「…繋がった…どうだ化け物、
世界を滅ぼす歌じゃねぇ世界を救う歌だ馬鹿野郎っ!!」
貯水槽用非常放送回線とコンサート会場のイベント用回線を混線させて、
記録様の歌声をそのままこちらに回した千雨が叫ぶ。
>>970
「ここは任せるアル!!」
中央から出口寄りの橋の上で如意棒をぶん回し、殺到するケンタウロスと対峙して古菲が叫んだ。
だが、その古菲に、飛翔したセイレーンがばさばさと蹴撃を仕掛け、
隙を見せるとギラリと噛み付いてくる。
一本橋で数の優劣こそ少ないが、そうしながらケンタウロスと闘わなければならない。
「アデアット!」
「大河内!?」
池に飛び込んだアキラを見て千雨が叫ぶ。
「アキラっ!!」
果たして、セイレーン達は空中からアキラを追跡する。
一旦潜水していたアキラが浮上し、それと共に噴き上がった水柱をセイレーンが辛うじて交わす。
アキラは水中を高速移動し、潜水し、浮上し水を噴射して、
鋭い蹴りや歯で迫られながらも、巧みにセイレーンを翻弄していた。
「ここは任せて先に行ってっ!」
「…分かったっ!!…」
「お願いっ!!」
水中から叫ぶアキラに応じたのは裕奈、まき絵だった。
「頼むっ!」
千雨が叫び、一同は駆け出す。
それでも、駆け出した面々に気付いて何羽かのセイレーンが追い付いて来る。
「このおっ!!」
その内の一羽がリボンでがんじがらめにされて水面に叩き付けられ、
別の一羽は裕奈からの激しい銃撃に這々の体で逃走する。
>>971
× ×
「あのー、もう一度伺いますが、これは?」
「エカテリーナⅢ世号・改、ですわっ!!」
桜咲刹那の問いに、無線越しに自信満々の返答が返って来た。
「この様な事もあろうかと、秘かに準備していただいておりました。
本来は御坂さんに搭乗いただく予定でしたが、
その御坂さんと連絡が取れず困惑しておりました所でしたの。
なんでも既に潜入を遂げたと言う話でもありまして」
「…はあ…」
「以前ご協力いただいたジャッジメント理系チームの皆様の協力を得て、
そちらから伺ったポイントへ到達する手だてを計算させていただきました。
あの件に比べるならば随分楽な計算で済んだと言うお話しでしたの」
「えーと、と、言う事なんですけど、大丈夫ですか?」
別系統に設定した無線から声が聞こえる。
「初春さんでしたね?」
「はい。何故か正体不明の大容量コンピューターの介入による援助もあって
理論上の計算は成功しましたが、
それでも非常識で無茶苦茶な話です。
何より、桜咲さんとは初対面ですらない…」
「初春飾利さんですね?」
「はい」
「そちらには疎い私ではありますが、それでも、
その分野で私が最も信頼する仲間から信ずべき方と聞きました。
ならばそれは信ずべき人であると言う事です」
「最高の褒め言葉、と、お伝え下さい」
「エカテリーナⅢ世号・改かぁ」
「あんまり引いてないですね」
木乃香ののんびりした口調に初春が言う。
>>972
「ん、ああ言うタイプの人、よう知っとるからなぁ。
ええいとはんやな、婚后はん」
「はい、立派なお嬢様で素敵な先輩です」
「ならええわ、始めたって」
「了解ですっ」
「それでは、手筈通りにお願いします」
別に繋いだ携帯から、コクピットの面々に葉加瀬聡美の声が聞こえる。
「桜咲さん」
「はい」
「エンデュミオンの異常事態、この学園都市自体が不穏であるからこそ通した無茶ですが、
御坂さんのお友達をどうぞよろしくお願いします」
「分かりました」
「………どっせぇぇぇーーーーーーーーーいいいいいいっっっっっ!!!!!」
今回はここまでです。続きは折を見て。
乙です
乙
何か無茶しまくってるはずなのにノーリスク禍根なし大勝利大団円の予感しかしない
てかいい加減葉加瀬は情報管理にやたら神経質な学園都市にハックし過ぎだな
事が終わったら暗殺されてもおかしくないぞ
葉加瀬の未来の旦那が思わせぶりに出てきた割にはフェードアウトしたままだな
乙乙
このスレでは終わらなそうだな
次スレ立てました。
長谷川千雨「鳴護アリサ、って知ってるか?」2(ネギま!×とある禁書)
長谷川千雨「鳴護アリサ、って知ってるか?」2(ネギま!×とある禁書) - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1384882889/)
以降は次スレで投下します。
こちらは状況見て
必要なら多分必要でしょうね依頼出しておきます。
(>>1000まで埋めても)ええんやで
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