古の力と四人の戦士 帰還編 (14)



ーー見ていた。


見ることしか出来なかった。

目が覚めてから。と言うより、自分という存在を自覚した。

私か僕か俺か自分か、性別すらも分からないが、存在している。


この世界に漂う、誰の目にも見えない存在。

ふわふわと流れ、肉体はなく、何かに触れることは出来ない。

世界の何処にでも行ける、全てを見れる。


そんな無数の、自由である私が、何処を見るのか誰を見るのか。

だが全てを知り、全てを見れるのにも拘わらず、それを決めているのは自分ではない。

どうやら、最初から何を見るべきか、何処にゆくべきか選択していたようだ。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1400607639



初めに見たのは、白地に赤の刺繍が入った派手な着物。

それを着た若い男性。赤い刺繍は炎を模しているようだ。


彼の名は、カル。

カルは穏やかな表情で眠っている。

眠る彼の側には黒服の女性が一人。


髪も瞳も黒いが、僅かに露出している肌は白い。

その所為か、顔や首、手が一層に際立ち、はっきりと見える。

彼女はカルの手を握り、泣き崩れている。


何度も彼の名を呼び、死を嘆いていた。

見たところ、カルの遺体には全く損傷はない。

彼女の声が無ければ、それが遺体だとは気付きもしなかっただろう。


カルの肉体には、まだ血が通っている。

ただ、そんな物より重要な何かが抜けているのは確かだ。

寧ろ泣き崩れている彼女よりも血色は良い。

いつ目覚めても不思議ではないように見える。


「貴方は命を燃やしてしまったのね」
「でも、貴方は還って来る。貴方は必ず私を照らしてくれる」


袖で涙を拭い、華奢な体からは想像も出来ない程に力強い声。


その直後、人影が現れた。

人ではなく、人の形をした影が立つ。

それは床から浮かび上がるようにして何体も現れ、彼女を囲む。


とても異常な光景だ。

しかし彼女に怖れる様子は一切なく、全ての人影に何らかの指示を出している。

どういった関係なのかは不明だが、彼女が彼等人影より高い位にいるのは確かだ。


人影に対する指示の中

回収、火の粉、欠片、浄火、精霊石という言葉が目立った。


指示を終えた彼女は「もう、行かなきゃ」ふらつきながらも立ち上がり。

細く整った指先で、彼の頬を愛おしそうに撫でると「また来るから」部屋を後にした。


次は何処の何を見るのかと考えていたが、中々切り替わらない。

どうやら、私はまだ此処を見なければならないらしい。


見るものも無いので、遺体と部屋を観察する。

彼、カルは十代半ばくらいだろうか。身長はさほど高くない。

陽が当たり赤く輝く髪はやや長く。顔は人懐っこそうで、まあまあ整っていると言える。


良く言えば優しそうな、悪く言えば気の弱そうな青年。

争いなどとは縁遠い人物。

外見から判断した私はそう思っていたが、実はそうではないらしい。

彼等。影からは


「仲間を逃がす為に命を燃やした」
「己の痛みや己の死よりも、他者の死を怖れているようだ」

「守る為ならば己すら犠牲にする」
「やはり浄火は危険だ」


影に表情は無い。

ただ心底苦々しく、嬉しそうでもある声で、彼はこんな風に評されていた。


浄火とは彼を指す言葉で間違い無い。

彼女もしきりにそれを口にしていた。


初めは髪色の赤。

それを火に例えて言っているのかとも思ったが、そういうことでは無いらしい。

遥か昔。精霊という不可思議な存在が実在していて、その中の一つが、炎を司る精霊。


その炎の精霊が、彼等には浄火と呼ばれている。

影によれば、カルはそれを宿しており、浄火そのもの。


影の会話にあったカルの仲間。

ソニャという名の少女は、地を司る者のようだ。

仲間であるソニャを逃がす為、敵である彼等を焼き払う為に、カルは精霊の力を使ったらしい。


彼等と彼女。

影はその精霊達と過去に敵対し、結果、彼等は精霊達に敗北したようだ。

しかし、影を統べる存在である彼女は何故か浄火を欲している。

取り巻き、彼女を囲んでいた人影はそこまで熱心ではないようだったが。


ーーまだ切り替わらない。


遺体と二人きりというのは、正直退屈だ。

遺体は話さない。遺体からは、何も得られない。

遺体は話さないが、影は話す。不思議だ。


この場に存在した少しの間に見聞きして分かったのは、此処は火の国、火の王の城。

王は、影がもたらす黒い力に酔いしれ、とてもじゃないが正常な状態とは言えない。


王はいない。

この国の実権は彼等の手中にある。


彼等、影の存在。

その大部分は、彼女によって統率されている。

独自に動く影も少数ながら存在しているようだった。


彼等は一つの形を取っている。

これも不思議な話しだが、同一の形を取りながら、彼等の思考は一つでは無い。


その為に内部で揉めることもしばしばあるようだ。

影ではなく、唯一実態を持つ彼女は、やはり特別な存在なのだろう。


ーー場面が切り替る。


それを感じる肉体は無い筈なのに、そんな感覚がした。

ここまで。今回は説明みたいなものになると思います。

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泣き叫ぶ少女を乗せ、懸命に走り続ける白馬。

もう止まれ、無茶するなと、そう叫ぶ少女の声を無視して、白馬は走り続けた。

ーーもうどれくらい走っただろうか。

日は傾き始め、少女の声は枯れ、遂には限界を迎えた白馬が転倒した。


「白月、もう休もうな?無理しちゃダメだ。カルだって、きっとそう言う」


投げ出され地に叩きつけられるが、ソニャは痛みを堪え、朦朧とする白馬に駆け寄る。

白馬はもがいていた。

どうやらまだ走るつもりでいるようだ。その瞳は、主に与えられた使命に燃えている。


少女の名はソニャ、白馬の名は白月。

ソニャはカルと共に黒鎧の兵と戦った。

次々と黒鎧を破壊し、残り僅かとなった時、黒鎧の残骸から黒泥が現れ、それに苦戦。

ソニャは形を持たない黒泥を土で固め、カルは焼き払う。


しかしソニャの力は尽きかけ、カルに至っては未だ力そのものに慣れていなかった。

二人共に諦めなどしなかったが、敗北は目に見えていた。

そこでカルは仲間捜しをソニャに頼み、愛馬にソニャを託したのだ。


ソニャの声から、これら全てが『見えた』。

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>>1が謝罪するまで続けます!
文句があればこのスレまで!

加蓮「サイレントヒルで待っているから。」
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