響「traveling」 (12)
プロデューサーが仕事で遠方に飛ばされた
はじめは皆寂しそうにしてたけど別に会えない距離じゃなかったから今はそうでもない
自分はまだ一回も会いに行っていない
特に理由は無いけど
皆は、寂しくないの?って言う。ちょっとだけ、寂しい
けどそんな素振りは見せない。自分は完璧だから
そんな、プロデューサーがいなくなってから3ヶ月目の、明日は久々のオフで予定も無い夜だった
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いつも通り仕事を終わらせて、事務所に一回戻ろうとタクシーを拾った
「どちらまで?」
「76……○○○までお願いします」
何と無く家に直帰することにした
Twitterを見るとプロデューサーは今から晩御飯の準備らしい
「少し、待ってて貰えますか?」
「はい」
家に着いて、棚に投げられたプロデューサーの住所が載った手紙と箪笥に入れてあった現金を多めに内ポケットに突っ込んで家を出て、また家に入って家族の餌を何日か分用意して今度こそ鍵を閉めた
「どちらまで?」
「…………ちょっと遠く、×××の方へ」
「……わかりました」
少し嫌そうな顔をされた……気がした
運転手さんが眠そうだったので途中で降りる事にした。元からこれだけで着けるとは思ってなかった。今日はとっくに昨日だ
なんでも近くのタクシーを呼んでくれるらしい。好意に甘える事にした
「……ありがとうございました」
「お気をつけて……あなた、765proの我那覇さん……だよね?」
奥さんがファンらしい。精一杯の営業スマイルで写真を撮り、名刺にサインをして渡した
件のタクシーが来た。Twitterを見るとどうもプロデューサーは仕事を持ち帰っているらしい
熱心だなぁ……
そんなプロデューサーを想像して、なんだか体は暖まった
ここからは車でならそこまで遠くない。大体の住所を告げて椅子に体を沈めた
今更ちょっと恥ずかしくなって、帰りたくなる
「着きましたよ」
「ぁ……」
上手く声が出なかった。恥ずかしい
少し震える手でお金を渡してタクシーを降りる。テールランプが見えなくなってから大きく深呼吸
もう徒歩で15分もかからない。ケータイを見てプロデューサーがまだ起きている事を確認して
一歩、プロデューサーの家に向かって歩き出した
プロデューサーが住んでいるアパートが見えてきた。くしゃくしゃになった手紙を取り出して住所を確認する
……大丈夫。間違ってない
番号的に二階だろうと階段に足を乗せた。駆け出したい。夜だから我慢
そもそもプロデューサーとは別にトクベツな関係じゃない。普通に考えて迷惑なんじゃ……階段はもう昇りきった方が早かった
だけど……プロデューサーは自分の事を好きだと思う。ただの自惚れかもしれないけど。まぁフられたら適当にホテルでも探して寝るだけだ。お金ならまだあった
……そもそも自分は何でプロデューサーに告白するつもりなんだろう。いつも通りの一日だった筈なのに、あのタクシーに乗ってから何かがおかしい
嗚呼、駄目だ。目の前の部屋の番号は手紙の住所欄のそれと同じ数字で、自分の手はケータイを握りしめながら既にドアベルのボタンに指を置いてて、考えなんてまとまってなくて
…………指を、離した。無理矢理
自分の手を自分で抱き締めて、抓って、さすって、暖めて、冷まして、服で拭ってみたりして
ケータイの画面を撫でてみても真っ暗なままで、それになんだか腹が立った
アドレス帳を開いてプロデューサーを探してみた。電話番号にカーソルを合わせて、決定とクリアのキーを交互に押してみたりした
「……あ」
決定キーを二回押してしまった。プルルルル、プルルルル。片手で口元を隠して、もう片手は痛いくらいケータイを耳に押し付ける
プルルルル、プル
プロデューサーが電話に出た。久しぶりに声を聞いた。プロデューサーの部屋からピンポーンと音がして、ドタバタドタバタ。扉の向こうにプロデューサーの気配がして、電話の向こうでプロデューサーが息を飲んだのが聞こえて、自分は、頭が真っ白で、
「『かなさんどー』ってね。うちなーぐちで
よくわからない事を喋りながら、目の前で開く扉を見ていた
おわり
乙おつ
響は完璧だなぁ
おつ
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