モバP「日菜子ー?」日菜子「すぅ……」 (22)
地の文あります、短いです
「寝てるのか……」
春の昼下がり、事務仕事を終えソファに目線を移すと日菜子が寝ていた。
机の上の飲みかけのコーヒーを一口含んでソファに近寄った。
どうやらさっきまで起きていたらしい、その証拠に机の上には途中まで読んでいたらしいアイドル雑誌が置かれていた。
「おーい、日菜子ー? 」
日菜子のほっぺたを軽く2、3回ぺちぺちとしてみる
「くぅ…………むふぅ……」
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この様子だと完璧に夢の世界に行っているようだ。
こんなときでもむふむふと言っているのは夢が妄想の延長だからなのか、それとも夢の中でも妄想しているのか、
もっともそれを考えたところで答えは出ないが。
「最近忙しかったもんな……」
言葉通り最近は事務所全体が本当に忙しかった。
新年度が始まり総選挙やワンダフルマジックのライブ、新しいCDデビュー組のレコーディング等々
思い出すだけでも夥しい量の仕事をこなしてきた
もっとも、自分はそれらのアイドルの担当ではなかったのでほとんどは日菜子の営業などをこなしつつ
手に負えなくなった事務作業を手伝っていただけだった
それでもかなりの量だったが
一方日菜子はというと仕事量はそれほど変わらなかったがほとんどが単独の仕事であった、同時に事務に忙殺されていた俺は日菜子を一人で仕事場にいかすことが多かった。
そのときの日菜子のプレッシャー、ストレスの諸々はとても大きなものだっただろう
期待
「すぅ……」
その疲れが出たのかとても幸せそうな顔を俺に晒しながら寝ている。
いつもはだらしのないむふふ顔だが寝ているときは美少女らしさを最大に発揮している
ととのった顔立ち、長い睫毛、細やかな肌
「ふむふむ……」
観察すればするほど日菜子は可愛い、正統派アイドルの流れを組んでいる。以前日菜子は自分を生まれついてのアイドルだったのかもと言っていたが、間違いではないらしい
「なんか子犬みたいだな」
そんな日菜子の寝顔を見ているとつい口に出てしまった。体躯も華奢で寝ている姿は遊び疲れた子犬のような愛くるしさがある。
実際日菜子はファンからも事務所のアイドルからも愛されている。
年少組からは日菜子お姉ちゃんとして、同年代からはマスコットキャラとして、上の世代からもよく可愛がられているのは知っている。
自分もプロデューサーという壁がなく日菜子みたいな妹がいたら甘やかしてしまいそうだ
「……動物番組もありかな」
犬と散歩しているところを映像にするだけでなかなか癒しになるかもしれない。問題点は日菜子が妄想中のまま散歩して、どこまでもいってしまいそうなところか。
「よっこいせ……と」
とりあえずこんなところで寝かしているのもあれなのでお姫様だっこして仮眠室まで連れていく。
そういえば日菜子は朝早くからモデルの撮影で帰って来た後も昼までレッスンだった。
ジャージにシャツのままでいたのは休憩した後も自主レッスンをするつもりだったのだろうか。
「今日は少し暑かったかな……」
抱えているとシャツがほんの少し湿っていることに気づいた、もしここに志希がいたら日菜子は匂いを嗅がれていたかもしれない。
「ゆっくり休めよ……」
仮眠室のベッドに寝かして、冷えないようにタオルケットをかけてあげる。
日菜子は皆が思ってるより真面目だ、芯のある強い子だがまだ日菜子は15歳なのだ。
同年代よりハードな生活をし、アイドルゆえの人より辛い思いを一人で受けているのだ。
そんなまだ幼い子を守る、管理もしなければいけないのもプロデューサーの役目と思っている。
「さてと」
日菜子を寝かした後はソファに座り自分もアイドル雑誌を読む、暇なときもこうやって仕事みたいなことをしているのはおそらく日菜子にもっと上に連れて行ってあげたい気持ちだからだろう。
数十分後
「今年は水着もアリかな……」
雑誌を何冊か見終え軽くメモをつけていた、今年はなにか新しい仕事も考えている、日菜子自身も意欲は大いにあるのでどんどん挑戦させていきたい
「おはようございますぅ……」
まだ少しぼーっとしている日菜子が起きてきた。
「お疲れのようだな……まだ寝ててもいいんだぞ?」
「もう眠くはないですよ、それよりPさん今暇ですか?」
「やることもないな、どうしたんだ?」
「日菜子と散歩しませんかぁ?」
少し間延びした声で聞いてきた、この時間なら外も歩きやすいだろう
「あぁ、いいぞ……でも着替えなくていいのか?」
「そうですねぇ、どうしましょうか……」
「あんまり遠くに行かないならそのまんまでもいいんじゃないか?」
「あ、近場なのでこのままでいいですよぉ
」
「ならすぐ出るか?」
「行きましょうかぁ♪」
そう言って日菜子と一緒に事務所を出て一緒にならんで道を歩く
「~♪」
日菜子はえらく上機嫌なようだ。
小柄な日菜子の歩幅に合わせて歩く
「どこまで行くんだ?」
「近くの公園ですよ、もう少しですねぇ」
あぁ、あそこか……まだ駆け出しの頃一緒にレッスンとかしていたっけか、日菜子はまだ覚えていたんだな
そんなことを思い出しながらまた歩みを進めるともう公園が見えてきた。
日菜子は公園のベンチに座ると俺も続いて座った。見渡しても景色は変わっていない、変わったのは俺たちの方か…そんなことを考えていた。
「今日ですねぇ、日菜子夢の中でお姫様だっこされちゃったんですよぉ♪」
あぁ、おそらく仮眠室にいくときのあれだろう。ロマンがないので口には出さないでおくが。
「Pさんがしてくれたんですよねぇ?ありがとうございますぅ♪」
あっさりバレているが。
「いいよ、最近お疲れだったもんな」
そんなとりとめのない話をしながら俺は考えた、日菜子は何故ここに俺を連れてきたのか。何かいうことでもあるのだろうか……はたまた日菜子の気まぐれだろうか
「日菜子、考えてみたんです」
「なにをだ?」
日菜子が真剣な顔になる、こちらも何かあるのかと身構えてしまう。
一体どうしたんだ?まさか……引退?
「日菜子……最近ふわふわしすぎてたんじゃないかって……」
「……ふふっ」
真面目な顔でそんなことを言ってくるので思わず笑いが出てしまった、日菜子からそんな言葉を聞くとは。ふわふわしててなんぼのキャラだっていうのに。
「Pさん笑い事じゃないですよぉ」
日菜子が少し不満そうにこっちを見つめている、なんとも可愛らしいが。
「すまんすまん、それでふわふわってどういうことだ?」
「総選挙のことです……」
「…………」
言葉に詰まる。だが実際のところ日菜子は目を覆いたくなるような結果では無かった。確かに中間から少し順位は落ちたが35位と躍進はしている。
順位を伝えた時の日菜子は確かに喜んでいたはずだ。
日菜子は一体何を考えているんだろう
「総選挙がどうしたんだ?」
「……日菜子は今と本当に向き合って……いなかったんですね」
「今?」
今と言われても選挙はもちろんのことその後も目一杯努力してきたはずだ。
それで結果を残しているのだから。
「選挙のあとの皆を見ていると……」
そうか、そうだった
確かに日菜子はランクインできているんだ
でも名前が乗らなかったアイドルはそれ以上にいる
実力の世界とはいえ結果で割り切れない部分も嫌というほどある
周りを見る方が辛い時もある中で……
「それで日菜子はどうしたいんだ?」
どこか遠くを見ている日菜子に問いかける
「日菜子は……もっと上に行きたいんです」
「それはなぜ?」
「悔しかったんです……すごく。はっきり言ってもっと上にいると思ってました。でも、そんな先のことばかり見ていても意味がなかったんですねぇ」
俺の出る幕はないらしい、日菜子はとっくに自分で答えを見つけていたようだ
「そうだな、結果が全てじゃあないさ」
「また難しいこといいますねぇ」
少し困ったような顔をする日菜子
「それができるって日菜子を信じてるからさ」
「また嬉しいこといいますねぇ♪」
いつものようにどこか抜けたような顔をする日菜子
「また二人で始めなおすか! あの頃みたいに」
「あの頃とは比べ物にならないくらい成長してますけどねぇ」
「俺もお前も……それに他のアイドルだって成長してるさ、なおさら負けるわけにはいかんな」
「トップアイドルになるのは妄想だけじゃないんですからねぇ……日菜子のライブを皆に……むふふ」
「……そろそろ帰ろうか、また事務所でミーティングだ」
「あのぅ……手を繋いでもいいですか?」
「あぁ、事務所に帰るまでに日菜子のやりたいことや目標とかも教えて欲しいな、今後の参考にな……」
「むふふ♪たーっぷり聞かせてあげますよぉ♪」
俺たちは手をつないで事務所まで帰った、その間日菜子の熱い妄想を聞いた、あんな衣装を着たい、こんなライブをしたい、今と真っ直ぐ向き合いたい、皆と高めあいたいと
どうやら日菜子はアイドルにゾッコンらしい、いつだか日菜子は自分を生まれついてのアイドルだと言っていたが確かにそう思う。
「俺たちなら行けるさ……輝きの向こう側にだってな……」
おわり
乙
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