あずさ「車輪の唄」 (15)

きい、きい、きい、きい。

錆び付いた車輪の音が、明け方の町に響いていきました。私と彼女は、自転車に二人乗って駅までの道のりを走っています。

「もうちょっとよ、頑張って~。」

彼女の背中にしがみつきながら、声援を送ります。背中からは、彼女の暖かさが伝わってきました。きっと、私の暖かさも伝わっているでしょう。

上り坂にさしかかると、彼女と車輪が一緒に悲鳴を上げはじめて、私と大きな鞄を一緒に乗せて、力強く坂を登っていきます。

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線路沿いの坂道には、彼女と車輪の悲鳴と鳥のさえずりしか聞こえなくて、とっても静かです。

「あらあら、まるで世界中に私たち二人だけみたいね~。」

そんな事を彼女に言うと同時に、坂を登り切りました。それと同時に、彼女が自転車を止めて息を整えています。

坂を登った私たちにおめでとう、と言ってくれるかのように朝日が昇り、暗かった青色が明るい青色に変わっていきました。

「とっても綺麗ね~。ふふっ、思い出になりそう。」

おどけて彼女に向けて話すけれど、彼女は肩を震わせるだけでした。

…これからの別れがきっと辛いのかもしれません。

私は、今日生まれ育った町から東京に出て、アイドルになります。

きっかけは、町を散歩していた時に出会った社長さんの一言、

『ティンと来た!』

だけでした。社長さんは、765プロと言う芸能事務所に来てくれるアイドルを探していたそうです。

私も、アイドルならきっと運命の人に見つけてもらえるかしら、と思って二つ返事で承諾して、

書類を送ったり、両親を説得したり、東京での家を見つけたり、色々準備をして、

今、こうして自転車で駅まで送ってもらっている所なんです。

駅に着くまで彼女は振り返る事もせず、そのまま駅の駐輪場の方まで自転車を動かしていきます。

「ありがとうね~、助かったわ~、私一人じゃ駅まで行けそうになくて…。」

自転車を降りた私は、送ってくれた彼女にお礼を言います。ええ、私は方向音痴なんです。

生まれ育ったこの町でも、良く迷ってお巡りさんのお世話になっている事を、彼女をよく知っています。

だから彼女は苦笑いを浮かべて、駅の切符売り場まで着いてきてくれました。

ここからだと、東京に行くには…とりあえず一番端っこの一番高い切符を買えばいいのよね。

彼女にそう聞いてみるけれど、彼女は曖昧な表情を浮かべたまま入場券を買っていました。

そうよね、私たちは殆どこの町と近くの街にしか行った事無いものね。

切符を買って、時刻表を見ると、もうそろそろ電車が来る時間です。

鞄を持って、改札を抜けようとすると、鞄の紐が引っかかります。

困ったわね、一昨日買ったばかりなのに、ここで紐が切れちゃったら大変よねぇ…。

そんな事を思いながら彼女を見ると、頷いて、引っかかった鞄の紐を外してくれます。

私は、ありがとうと言って、改札を抜けて、ホームに滑り込む電車のドアが開くのを待ちます。

いよいよ、この町ともしばらくお別れね。ベルが鳴り響き、ドアが開きます。

このドアの先に足を踏み入れれば、もう後戻りは出来ないでしょう。勇気を出して、一歩。

一歩さえ出してしまえば、後はドアの中に行くだけです。電車に乗り込むと、振り返って、彼女に向かって声を掛けます。

「約束よ、必ず、またいつかここで会いましょう?」

彼女は、俯いたまま手を振りました。その姿がやけに悲しくて、少しだけ涙をこぼします。

「元気でね?」

声が少し震えていたかもしれません。もしかしたら、泣いていた事も悟られたかもしれません。

彼女はハッと顔を上げて、そのまま駅から出て行きました。別れがとっても辛いのでしょう。

私は、空いている席を探しに電車の中に行きます。

きょろきょろと目を動かしていると、視界の端に、銀髪が映りました。

綺麗な髪ね、なんて思いながら、窓側の席が空いていたので、座って一息吐きます。

席に座ってすぐ、電車が走り出しました。いよいよ…いよいよね。

がたん、ごとん。

名残惜しく窓の外を見ていると、線路沿いの坂道を、自転車が走っています。

窓を開けると、自転車に乗った彼女が手を振りながら、叫びました。

「あずさーっ!!!アイドルになっても、忘れないでねーーーっっ!!!」

そして、自転車はそのまま電車に置いて行かれ、彼女の姿も見えなくなっていきました。

ああやって、最後まで見送ってくれるなんて、私は、幸せ者ね。

冷たい雫が膝の上に落ちた、と気づいた時にはもう、涙の大洪水です。

会えない訳じゃない。電車に乗れば二時間ちょっとで辿り着くこの町、だけどその距離は私たちにとってはとてつもなく遠い距離。

私はまるで今生の別れのように感じていました。

名残惜しく窓の外を見ると、もうそこは知らない景色。

知っている景色は、涙と一緒に流れて行ってしまいました。

知らない景色でも人は動いていて、電車の中にも人はいるけれど、私はまるで世界中に一人だけみたいに感じていました。

それから、錆び付いたあの車輪の音を思い出して、一人じゃない、と自分に言い聞かせます。

あの町では、彼女が私の事を応援してくれています。アイドルになっても彼女が私を忘れないように、私ももう忘れません。

貴女にもしっかり見えるように、アイドルを頑張ります。また会いに行けるその日まで、元気で居てね。

おわり

https://www.youtube.com/watch?v=x9S9oygUEW0

以前書いた

貴音「銀河鉄道」
貴音「銀河鉄道」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1396857705/)

とリンクさせて書いてみました
上手く形に出来たかは分からないけれど、楽しんでもらえたなら幸いです

二時間ちょっと、と言う下りもBUMP OF CHICKENの別の楽曲から持ってきたので、気になったら探して聞いてみてくだし
俺はその曲が大好き

見てくれてありがとう

乙です

乙ですよ、乙!

歌詞そのまんまじゃねえか。
少しは工夫しろよ

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