もし現代に艦娘が舞い降りたら。side:加賀 (108)
もし現代に~的なif物語が中心です。夢と妄想と願望を煮込んだような感じなので突っ込みどころ満載ですが目をつぶってください。
初SSなので、稚拙&意味不的表現が多々あると思いますが大目に見てやってくださいイベント前の資材繰りで死にかけてます。
加賀さんがメインです。
加賀さんと旅行したいです。
駄文に付き合ってくれる心優しい人は読んでくれると嬉しいです。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1398087850
目が覚めるともうすでに下車駅のすぐ手前であった。薄暗く人が少ないからか冷房が効きすぎた車内に響く私鉄車掌独特の放送は目的地である駅を案内している。膝の上のパソコンを閉じ、降りる支度を整え、ドアの前まで移動する。トンネルを抜けるとすぐに駅だ。
神奈川県横須賀市、横須賀鎮守府。
明治17年に横浜東海鎮守府が横須賀に移転されて以来、昭和20年の太平洋戦争終戦時までの約60年間、大日本帝国海軍の中枢軍港であり、終戦後もその場所には在日米海軍が基地を構え、周辺には海上自衛隊の施設もあった。
「あっついなー」
電車のドアが開くと日本とは到底思えないような熱気に襲われ、全身から汗が滲み出てきた。思わずネクタイを緩める。
発車ベルが鳴り終わりドアが閉まると、赤い電車はホームに俺だけを残し、滑るようにまたトンネルへと消えていった。雲ひとつ無い快晴の空から燦々と太陽が照りつけ、俺は逃げるように出口へと向かう。
改札を抜け、駅前ロータリーにはまばらに人がいる程度でいつになく活気が無い。駅前のコンビニでスポーツドリンクと新聞、あとチョコ菓子を買う。ここいら周辺じゃ営業している商業施設と言えばここくらいで、俺がここに配属されてからは随分とお世話になっていた。店員と軽く会釈を交わし、店を出る。嫌に甘いスポドリを口に含み閉鎖された駅前の大型商業施設の脇へと歩みを進める。普段、徒歩5分とかからないのにその5分がまるで致命傷になりかねないようなくらいに日差しが強い。商業施設の脇は大層な大通りなのに車は一台も通らなく、ただただ逃げ水を映すだけだ。
(たった数年でここまで変わるものなのか)
誰もいない、街だった場所を歩きながら、そんな事を思った。
変化。
そして、こうも思う。
この数年で一番大きく変わったもの。
それは世界情勢でもなければ時の政権でも、この寂れた横須賀の街でもない。
俺自身であった。
今から2年ほど前に、貨物船やタンカーが外洋航海中に頻繁に襲われる事件を期に沿岸地方への攻撃が多発した。稀に低空で飛行していた旅客機が撃墜される事態までもが発生した。当初はテロ組織による襲撃事件とされていたが、それも表向きのもので実際には違っていた。
深海棲艦。
その存在が事件の真相だと広く世の中に知れ渡ったのは今年に入ってからである。それが何者でどこから来たのか、何を理由に人を襲うのかなど、全てが謎のベールに包まれていた。ハッキリしている事は、それが人類の敵である事、そして、人類が有する核以外のありとあらゆる攻撃手段に有効性が見られないという事であった。現に、米国、ロシアを初め各国の陸海空軍が数え切れない程の戦闘を交えているがどれも深海棲艦の侵攻を阻むことは出来ても、倒すことは出来なかった。その深海棲艦の発現からは世界情勢が大きく乱れ、沿岸地域の避難、外洋航路の封鎖、資源輸出入の滞り、物資の不足、人々の生活に大きな支障が出るようになっていった。特に島国である我が国は甚大な影響を受け、沖縄県と鹿児島県の一部を含む全域全島避難から始まり、小笠原諸島などの本土から離れた離島、また本土でも危険とされる沿岸部からの避難指示が出され多くの市民が内陸への避難を強いられる事となった。加えて多くを輸入に頼っている食料や燃料等の不足、それに伴う電力不足が深刻になり、特に電力については一時、国内総発電量の半分を喪失する事態にまで至り、東京などの大都市圏以外の送電が全てストップされるという、まさに非常事態。そう、まるで戦争のような状況に陥ったのだった。
俺は駅から庁舎まで片道5分の長い長いシルクロードを歩き終え、庁舎玄関のドアを開ける。冷気。最高だ。ああ、もう死んでもいい。
「おはようございます、提督」
極上の脱力感に身を委ねていると、横から声を掛けられた。
「今日は随分と早かったんですね。まだ午前中ですよ。」
栗色でロングストレートの髪におっとりとした目元口元。白い上衣に赤い袴の弓道着の装い。声の主は赤城だった。
「ああ、単に事務連絡だったからな。このくらい電話で欲しいものだ。赤城はどこ行ってたんだ?」
「えっ?!わ、私ですか!ええと、食d……中庭を散歩していました。」
嘘こけ!誰が好き好んでこの灼熱の炎天下の中を散歩すんだよ!
「これから執務室へ戻られますか?」
「ああ、そうだよ。」
「では、ご一緒します。」
なんでだよ。何故ついてくる。
「今日も猛暑の中ご苦労様です提督。あ、カバンお持ちしましょうか。」
うわ、キモい。
「……本音は?」
「お菓子をください。」
ですよねー。そうだと思いましたよ。俺が本省に呼び出される度になんか買って帰っていたらこのざまである。本当に食べ物には目がないやつだ。そういうところも、そっくりだけどな。
「はい、これ」
と駅前で買ったチョコ菓子を与える。
「わー、ありがとうございます」
これはちょっと可愛い。うん。
「って、これ、きのこじゃないですか。私、たけのこ派なんですけど。」
うるせぇ文句あっか、俺はきのこ派だ。
「じゃあ、お返し願おう。」
「嘘です。ごめんなさい、すごい嬉しいです。」
なんて茶番を繰り広げている間に執務室につく。
「ああ、疲れた。てか、暑かった。」
椅子に座り机に突っ伏す。
「提督、着替えないのですか?」
と、赤城がカバンを机に置きながら言う。
「着替えなきゃダメ?」
突っ伏したまま返答。
「ダメです」
即答。なんでも彼女らからするとスーツ姿というのは好みでは無いらしい。俺は基本的に自衛官では無いからあまり制服を着たくないのだが彼女らが言うんだからしょうがない。
「はいはい、わかりましたよ。着替えますよ。」
「そうですか、では私は外に出てますね。」
と言って赤城は素早く出て行ってしまった。そんなに制服のがいいのかね。仕方がないのでお着替え、上着を脱ぎ、ネクタイを外す。
(半袖のやつでいいよな。暑いし。)
「ちゃんと第一種の方を着用してくださいよ」
ドアを少し開け、顔だけを出した赤城が釘を挿す。思い切り見透かされたようだ。
「はいはいはい、わかったわかった」
正直、第一種の方は長袖だから嫌なんだけど。確かに、この制服の方が海軍らしいっちゃらしいけどね。
渋々それに着替え終え、カバンからPCを出し電源に繋げると赤城が戻ってきた。
「やはり、その格好の方が様になりますね。はい、これ麦茶です。冷えてますよ。」
コップを机の上に置いた。結構、気が利くじゃないか。
「ありがとう。」
夏に冷えた麦茶って最高だと思いませんか。出来ればビールの方がいいけども。赤城は自分の分の麦茶を持ちながら秘書机の椅子に座り、少し真剣な眼差しで俺を見つめた。
「提督。」
「んー?」
あー麦茶ウマイ。
「加賀に会ったことあるって本当ですか?」
「ぶっ!!!?」
盛大に吹きこぼした。
「ど、どこでそれを!?」
「提督が戻る前に食堂でマミヤさんに聞きました」
何ゲロっちゃってんのあの人ォォ!てか赤城さん散歩してたんじゃないんですか!
一応艦これの舞台って現代じゃなかったか?
まぁ普通の生活してたらって感じか
現代とは明記されてないが、現代でないという証拠もない
じゃなかったっけ?
人類にとって希望が無いわけでは無い。これも2年前、そう、深海棲艦が確認されたのとほぼ同じ時期、新たな存在が確認されたのである。まるで深海棲艦に対抗するべき為この世に生を受けたような存在。見た目はごく普通の人間なのに人間ならざる人間。性別は決まって女性で身体の器官も全て普遍的な人間となんら変わりは無く、対話による意思疎通も可能であった。唯一、我々、人類と異なる事は、戦う運命を背負っているか、否か。ただそれだけ。彼女らは等しく自らの前世と呼べる記憶を持ちそれに伴う能力を持っている。その能力こそ、人類の希望であり活路であった。我々、人類は彼女らをこう呼んでいる。
艦娘。
何故そう呼ぶのか。それはまさに、文字通り、である。
「で、どうなんですか提督」
赤城がしつこく聞いてくる。それより、盛大に吹き出してむせ盛っている俺のことを心配しろよ。
「……本当だよ。」
息を整えながら小さく答える。
「!!、いつ!どこで!どのような理由でですか!」
赤城が音を立てて椅子から飛び上がると執務机の前まですっ飛んできた。近い、顔が近い。
「落ち着けって赤城!」
「落ち着いていられますか!なんで加賀の事を黙ってたんですか!しかも、私に!」
だから近いって。なんだ、なぜそこまで食いつくの。
「色々と事情があったんだよ!というか、なんで赤城がそこまで気にするんだ」
そこまで言うとヒューズが飛んだかのように赤城は静まり、懐疑的な表情になった。
「なんでって……。知らないですか?」
「知らないです。」
「本当に知らないんですか!?」
「し、知らないです。」
絶句してる。赤城が。ふらふらとよろめきながら頭を抱え、元いた椅子に腰掛け大きく項垂れた。
「ああ、もう。提督……。是非、そのパソコンで調べてみてください。」
片手で頭を抱えながら赤城は机上の麦茶にまみれたPCを指差す。そこまで落胆しちゃうのか、ごめん赤城、俺、世界史選択だったんだ。とりあえず、PCを起動しGoogle先生に調査を依頼する。
「提督、わかりましたか?」
ふくれっ面で赤城が尋ねてきた。検索結果は大戦中の軍艦あれこれ。昔にも一回調べたことがあるような気がする。
「えーと、ああ、これね。一航戦?」
「そうです、それを詳しく。」
第一航空戦隊、略称一航戦。帝国海軍の機動部隊の筆頭であり、海軍戦力の主力を担っていたらしい。そこには赤城と加賀の名前があった。なるほど、そういう関係なのか。
「そうですそうです、加賀とはすごく強い絆があるんです。私と加賀はすごかったんですよ!栄光の一航戦なんて呼ばれちゃったりして」
前に聞いたような気がする説明を得意げに話す赤城、少し機嫌が治った様子だ。しかし、栄光の一航戦。強い絆、ね。
年表を一読すると少し複雑な心境になる。1942年ミッドウェー海戦……。まさに一心同体だな。
「あの時の呼び間違えはそういうことか。」
懐かしい。別に忘れていたわけでも無かったが、気に留めていたわけでも無かった。
「聞いてますか、提督。提督ったら!」
「はいはい」
「いいですか、提督たるもの、私達のプロフィールくらいは知っておくべきです!もっと勉強して下さい」
それも以前に言われたっけな。
「なぁ赤城。他の娘達は今、どうしてる?」
「え?他の娘達ですか?そうですね、第一艦隊と特段任務がない娘は待機中で第二艦隊は東京内湾と外湾の警備任務に就いています。」
こいつくらいになら話してもいいだろう。いや、話すべきか。
「帰港予定は?」
「17時頃です。」
「そうか、なら出掛けるぞ。赤城。」
「えっえっ?急になんですか?まだ加賀の……」
「だから、聞きたいんだろ?」
俺が初めて艦娘に出会った日の事。
艦これの世界って現代だったのか(゚Д゚)
1
エンジンの音で目が覚める。
「長時間の移動は流石に堪えるな。」
小刻みに揺れる機内で愚痴を吐きながら、窓のブラインドを上げると遠くの朝日が仄暗い雲の海を赤く照らしていた。
(えーと……あと、3時間くらいか)
窮屈な座席で軽く伸びながら手元の時計を確認すると時刻は午前6時10分指していた。
目的地であるホノルル国際空港には定刻で9時10分に到着予定だ。
昨夜、いきなり上司に呼び出されたと思ったらカバンとパスポート押し付けられ「アメリカに出張行ってこい。今夜成田から出る飛行機に乗れ。急げ。」と、突然の出張辞令。
もちろん事前説明も一切無し。ただ目が回る様にして市ヶ谷から成田に向かい、受け取ったパスポートにはせられていた搭乗券でこの飛行機に搭乗した。
行き先も空港の出発案内と搭乗券を照らし合わせた時、初めてハワイだと知った。というか、なんで上司が俺のパスポート持ってるんだ?いや、それ以前に俺はパスポートを作った事ないはずなんだが……。今一度パスポートの自写真を見てみる。
(間違いない。これは俺だ。)
改めて記憶を遡ってもパスポート用の写真を撮った記憶など無い。ま、まぁ部署が部署だから写真くらいどうとでもなるのかな?深く考えないようにした。しかし、これで行き先がハワイじゃなくてアラスカとかだったら、まさに左遷だ。
(というより公務員に海外出張ってあるのか?)
(……。)
(……あれ、もしかして本当に左遷?)
しばらくそんな事を考えていたら、機内アナウンスと共に朝食のサービスが始まり、客室乗務員が後方から朝食を配り始めた。さすが国際線。俺も初めての海外との事もあって少なからず興奮している。配られた朝食に手を付けながら、昨日上司から受け取ったカバンに入っていた書類を眺める。中には数十枚の書類を纏めた幾つかのファイルがあった。
<<極秘>>
そう書かれたファイルを手に取る。
……こんな場所で読んでいいものなのだろうか。
……嫌絶対、ダメだよな。
あと、他には、これは、セキュリティカード?それにこれは、地図か。あと、これは、クレジットカード……。これは自由に使っていいのか?しかし、どれもあまり人目に着くところではひろげないほうが良さそうなものばかりだ。そもそも、まだペーペーの俺になんでこんな重要そうな仕事が?しかも、俺1人に。パスポートの事といい、つくづく謎だ。
「あ、コーヒーをおかわりいただけますか?」
朝食も食べ終わり、食器の片付けに来た客室乗務員にコーヒーのおかわりを頼む。
「はい、かしこまりました。」
どちらにせよ、この書類とカバンの中身は現地のホテルで目を通すとして、あと2時間強をどうやって過ごすか。近頃の飛行機じゃWi-Fiを使えるらしいが、どうもこの機種はダメらしい。しかも充電切れときたもんだ。他に暇をつぶせるものといえば……。
「お待たせしました。ホットコーヒーです。」
「ありがとうございます。……あと、この飛行機に新聞とか置いてありますか?」
「新聞ですか?昨日夕刊でしたらございますよ。お持ちしますか?」
「あ、お願いします。」
たまには新聞もいい。紙の質を感じながら一文字一文字読むのもまた粋だ。電源もいらないしな。そういえば、着替えとかの日用品一切持ってきてないけど、どうすればいいのだろうか。
……。
到着したら早速クレカが役立ちそうだな。これって必要経費で落ちるよね。いや落とす。
「お待たせしました。」
「ありがとうございます。」
客室乗務員から新聞を受け取る。一度、国際線の機内で新聞を広げてコーヒーを嗜むビジネスマンというものをやってみたかったんだが、なんというかエコノミーだと逆に惨めだ。変に高翌揚した気分で受け取った新聞を読み耽る。紙面には、消費税増税の影響などが特集として取り上げられていた他、首相の欧州歴訪や2020オリンピック関連、党代表借入問題などの記事が載っていた。その中の日本籍のタンカーが航海中にテロ攻撃を受けて沈没したとういう記事が目に止まる。1ヶ月程前から、航海中のタンカーや貨物船などを襲撃するテロ攻撃が頻発しているらしく、現にうちの部署も最近慌ただしく走り回っていた。
何が目的なのかも不明とのことで、ただ闇雲に襲撃しているとしか思えないらしい。
「まるで戦争だな。」
そう呟きながら窓の外を眺める。眼科には先程までの仄暗い雲海から真っ青な海原へと変わっていた。随分高度を下げたらしい。
《皆様、おはようございます。只今の時刻はハワイ現地時間午前7時ちょうどでございます。当機はこの先、2時間程でハワイ・ホノルル国際空港へ定刻での着陸を予定しております。到着時のホノルルの天気は晴れ。気温は…》
客室乗務員のアナウンスを聞き流しながら、発揚した気持ちでまた新聞に目を戻した。
その後、飛行機は1時間程遅れて、ホノルルに到着した。
あ、ちょびちょび書いていきます。なのです。遅いです。
頑張って!
まぁコンビニあるしな(byくまのん)
スマホも有ったはず
少し書くのです。確かに、ワオ168がスマホ発言してた。
>>14 頑張るのです。
2
参った。
まさか飛行機が1時間も遅れて到着するとは…。時刻は午前10時半。
到着する間際、空港が1時間程閉鎖された影響だった。
「おかげでホテルに寄る時間がないよ、まったく。」
だが、あまり焦ってはいない。ホテルに立ち寄る時間と日用品を買う時間を削れば余裕で指定時間には間に合いそうだからだ。
上司からもらったカバンに入っていた地図にはおそらく目的地であるところにボールペンで大きな丸が何重にも書かれてあり走り書きで「AM11:00」とあった。地図を見るには空港からさほど離れてはいなそうである。
タクシーが一番手っ取り早いだろう。早速、空港の案内板にしたがって空港内を歩く。初めての海外でそう感じるだけなのか、ピリピリとした空気が空港内を満たしていた。警備員の数も日本と比べものにならない程多い。アレは軍人か?物々しい銃を持っている。
改めて海外に来たのだと実感しつつ、空港の建物を出た。生暖かい空気を感じる。何故か少し緊張が和らぎ顔が緩んだ。
その後、少し歩きタクシー乗り場に着いた、が。
「なんでこんなに並んでるの……」
思わず声に出るほどのまさに長蛇の列だった。仕方なく並ぶ。
「あっついなー」
空港の中は冷房が効いていたが、一旦、外に出て、しばらくすると大量の汗が噴き出してきた。さすが常夏の島。
周囲を伺ってもビチッっとスーツを着ているのは俺くらいで、暑さとアウェイ感に耐え切れなくスーツの上着を脱ぎ、ネクタイを緩めた。日本と違い心地よい暑さではある。正直、このまま仕事など忘れてバカンスにでも行きたい気分だ。
そういえば、俺はいつ帰国すればいいのだろうか。一回、上司に確認を取るか。どっちにしろあとで連絡しなくてはならないしな。そう思い携帯を手に取る。
「っと、そうだった。充電……。」
忘れていた。充電しようにもホテルに行かなくては行けないし、まぁ後回しでも大丈夫、だろう……。
あとで怒られそうが、この出張もある意味、常識的労基的に反しているからどっこいどっこいだよな、うん。
どうでもいいが、ハワイのタクシーは黄色くないんだな。アメリカのタクシーは黄色いものだとばかり思ってた。
やっと順番が回ってきた。時刻は10時45分。間に合うか…。
地図を運転手に見せて目的地に向かってもらう。
その時、運転手の顔が一瞬、怪訝になったのは気のせいだろうか。
タクシーが止まった。乗車してから10分と経っていない。
運転手が後ろを振り向き、俺の顔を見ながら顔をすくめる。どうやら目的地のようだ。
「あ、そうだ。お金ね。えーと、いくら?」
眉をひそめる運転手。
「ああ、そうか。How much?」
そう聞くと運転手は前に向き直し、無言でメーターを指でつついた。
「あ、うん。15ドルね。」
うん…?ドル?
俺は重要な問題に気づいた。
出発時も到着時も時間的余裕が無く、僅か12時間前まで日本にいた男の財布には誰がいるか。
もちろん諭吉さんである。
ここはアメリカ合衆国。いくら日系人が多いハワイといえ通貨はもちろんドルだ。
「うっわ、やっちまった。」
初めての海外なので完全に通貨の事を失念していた。何かとトラブルに巻き込まれやすいんだよな俺。飛行機の到着も遅れるし。
不穏な空気を察知したのか、運転手が再度振り向き、俺の顔を見た。明らかにマズイ。
「あー。円。YEN。Do you accept Japanese Yen? 」
「No.」
そういいながら小さくしっかりと首を横に振る。当たり前だ。否定はきっぱりだなチクショー。
しかし、これは本格的にマズい。空港に戻ってもらうにも待ち合わせに完全に遅刻する。
ああ、こんな事なら空港で日用品でも買っておいたほうが良かったか。そうすればもっと早く……。
「ん、そうか!へい!へいへい、運転手さん!あ、英語か。えーと、Do you accept Credit Card??」
頼む。
「…ok」
おっしゃあ!初海外の初トラブル。なんとかなるもんだ。
「Thank you!!」
元気ハツラツにそういって、やっとのこさタクシーを飛び出すように降りる。日本人だってたまにははっきり物事を言うのだ。
時刻は11時ちょうど。時間ぴったり。
降りた場所は広い道路だった。その場所がどういう場所なのかを知らないまま現地まで来た俺である。見回す長い直線の道路と交差点、そして物々しいゲートがあり、そこには軍人が立っていた。
そして、その横の看板に目が行く。
「うお、マジかよ……」
つい口に出た。俺も職業柄、日本のこういう場所には訪れたこともある。しかし、それはあくまでもそれは日本の中だ。
現地ともなるとなんというかオーラがすごい。自分がこの場所に立っていること自体場違いな気がする。運転手が怪訝な顔をするのもわかる気がする。
呆気にとられている俺の背中に誰かが呼びかけた。
「失礼、日本から来られた方ですか?」
「は、はいっ?!」
不意に声を掛けられ裏声になりながら振り向く。
そこには白髪頭の男性が薄い笑顔を浮かべながら立っていた。明らかにアジア系。いや、日本人である。
「そうですか。遠路はるばる申し訳ない。」
「ようこそ、アメリカ海軍真珠湾基地へ」
3
アメリカ海軍真珠湾基地。米太平洋艦隊の最重要施設の一つであり、米空軍のヒッカム空軍基地が隣接している。
約70年前、あの戦争もここから始まった。
「私はマミヤと申します。ここで職員をしています。よろしく。」
はにかみながら右手を差し伸べられる。
「俺、あ、いや私は防衛省情報本部のアマギと申します。」
まだ少し動揺しながら握手を交わす。
「情報本部?……そうですか。まぁ立ち話もなんです。どうぞ施設へ。あっそうだ。これは受け取っていますか?」
と言いながら、マミヤさんは首にかけているカードを指した。
カバンに入っていたセキュリティカードだ。
「あ、はい。受け取っています。」
慌ててカバンからセキュリティカードを引っ張りだす。
「はは、そんなに慌てなくても大丈夫ですよ」
そんな事を言われても慌てない方がおかしい。
まだ、入省2年も経って無い係員レベルの俺が一人でアメリカの米軍基地へ出張なんて荷が重すぎる。
やっと国内での仕事をこなせるようになったばかりなのに、あの上司は一体なに考えてんだ。
「それと、厚かましいお願いですが、この先、私に話を合わせていただけると助かります。では、行きますよ。」
「は、はい!」
基地内に入っていくマミヤさんの後を追う。話を合わせる?一体どうゆう意味なのだろうか。
話の腰を折るようなことはやめて欲しいということか?人に合わせるのはあまりすきじゃないけどしょうがない。
しかし、人生初の海外が米軍基地出張とは……。とんでもない状況だ。
潮の香りが微かにする基地内の道路を少し歩くとマミヤさんが話しかけてきた。
「アマギさんは今日の事をなにか日本で言われましたか?」
「いえ、昨日の夜にいきなりここに来ることを命じられたので、何も……。すいません。」
「謝る必要はありません。なにせ私らが昨日、日本の方に連絡を差し上げたんですから。逆に対応が早くて助かっているくらいです。」
そんなにも急な事態なのだろうか。
考え返せば、俺はここに「来る」ことだけ命じられただけで「何」をするのかをまだ聞いていない。
「あの、すみません。私、まだこの出張の要件を聞いていなくて……」
折角なので尋ねてみる。
「そうですね。もう少し先でお話します。ここでは人目につく。さぁ、このコチラです。」
そう言ってマミヤさんは3階建てほどの白い建物に入っていった。だいぶ入り口から歩いた気がする。
人目につくと話せないような何か。直感的に不安が募る。
「私はここの職員と言いましたよね。正確にいうと今は通訳をしています。」
建物内の廊下を歩きながらマミヤさんが言った。
「通訳?日本語と英語でですか?それとも他の言語です?」
「もちろん日本語と英語です。」
となると、日本人が関わっているのか。だったら外務省関連な気がするが。
「でも、その通訳も2週間ほど前から始めたのです。いや、始まったと言うべきでしょう。」
「……というと?」
ここまで話すとエレベーターホールに付いた。
3基の無機質なエレベーターがあり、一番左のエレベーターには「OUT OF ORDER」の張り紙。つまり故障中だ。
「このカードを用意してください」
とマミヤさんがさっきのセキュリティカードを指した。
「はい、ここにあります。」
そう言って俺はポケットのセキュリティカードを出して見せる
それを確認したマミヤさんは頷くと、一番左のエレベーターの前に立った。
「あれ、そこ故障中じゃ
そこまで言うとマミヤさんが故障中のエレベーター呼び出しボタンの下部にカードを触れた。
すると、呼び出しボタンが点灯。まもなく故障中であろうエレベーターの扉が開いたのだ。
マミヤさんはすかさず乗り込んだ。
「では、お先に失礼します。」
と、軽くお辞儀をしたのと扉が閉まりきるのは同時だった。
あまりの現実味の無さにしばらく呆けていると、呼び出しボタンのランプが消灯した。
「……これは、俺もやれって事だよな。」
そう呟きながらマミヤさんと同じようにボタンの下部にカードをかざす。
ランプ点灯。またまた故障中であろうエレベーターの扉が開いた。
すかさず俺も乗り込む。中に入るきると同時にエレベーターの扉が閉まった。しばらくすると身体にかかる重力の僅かな変化を感じた。
「なんでもありだな、合衆国」
面白い
続けてくれたまえ
エレベーター内のモニターは作動していなく上下どちらに行っているのかがいまいちわからない。30秒ほど乗っていたと思う。エレベーターが静かに停止した。
扉が開くとそこにはマミヤさんが笑顔で待っていた。
「まるで映画みたいでおもしろいでしょう?」
意外とお茶目なところがあるんだなこの人。
そこは明るく長い廊下だった。例えて言うなら若干新しい病棟のような。
冷房が効いているのか、少し寒い。
「さ、こっちです。どうぞ。」
マミヤさんがまた歩き出したので後をついていく。
「あの、さっきの話の続きですけど……。」
また歩きながら尋ねる。マミヤさんは先程までの少しはにかんだ顔から一気な真面目に表情になる。
「そうですね、お話します。要件ですよね。何も難しいことでは無いのです。ただ、付き添って日本に連れて返って欲しい人……いや、持ち帰って欲しい兵器と言ったほうがいいでしょうか。」
人?兵器?言っていることがこれっぽっちも理解できない。
「それはどういう」
「アマギさんは近頃急増している船舶への襲撃事件をご存知ですか?」
「え、ええ。まぁ。あの、タンカーとか貨物船が襲撃されているやつですよね。」
今朝にも新聞で見かけたばかりだ。マミヤさんは神妙な顔で頷きながら廊下と廊下がクロスしている交差点で右に曲がった。俺もそれについていく。というか、どれだけ広いんだこの施設。
「そうです。原因は何かご存知ですか?」
「テロリストによる攻撃、だと。」
「はい、そうですね。」
そう言うとマミヤさんは歩きながら振り返った。
「表向きは、ですけどね。」
ますます混乱してきた。
「表向きは、というと。実際には違うと」
マミヤさんは再び前を向き直し、冷静なトーンで淡々と言った。
「ええ、そうです。違います。実際はテロリストでは無い何かです。その何か、というのが現状ほぼ不明。いうなれば、未知なる敵といったところでしょうか。一体どこから来て、何故襲ってくるのかも不明。攻撃手段も攻撃兵器も不明。わかってるいる事といえば、我々人類の敵である事と米軍の通常兵器では対抗することが出来ない、ということだけです。」
どれだけ強靭な敵なんだ。その何かとやらは。しかも米軍じゃお手上げ状態ってとんでもない。それに……
「まるで相手が人間じゃないような言い方ですね。」
俺がそう言うとマミヤさんは少し間をおいてこう言い放った。
「今からいうことは大真面目なことです」
「敵は、おおよそ人類ではありません。」
耳を疑った。悪い冗談かエイプリルフールなのかと思った。人間では無い何か?いやいや、信じるほうが無理だって。
「……いや、まさか、宇宙人とでもいうんじゃないでしょうね」
「その可能性も否定できません。」
「……。」
言葉を失う。嘘を言っているわけでも無さそうだ、それに嘘をつくメリットもないこともわかっている。だが、あまりにファンタジーだ。
「信じられない、って顔していますね。」
マミヤさんがまた振り返って俺の顔を見ていた。
「とても信じられない。というのはわかります。私だって今でも完全に信じているわけでは無いのですからね。ただ、このままじゃ否が応でもその存在を認め無くてはならなくなります。先程も言ったように現状、米軍ではこの敵に対抗する通常兵器を持っていません。いえ、米軍どころか全世界のあらゆる軍隊でも持っていないでしょう。しかも、敵の勢力は拡大傾向にあります。あなたも国防に携わる人間ならどれだけ危機的状況かはわかるでしょう。」
別に国防に関わっていなくても大変な危機だということは理解できる。その話が本当なら、全世界が危険に晒される事になる。
「ここまでは前置きです。」
とマミヤさんが区切る。随分壮大な前置きだ。ここまで話す頃には廊下の終点が見え、そこには大きめの扉があった。
「初めにも言いましたが、我々はあなたに日本へ持ち帰ってほしいものがあります。」
マミヤさんが突き当りの扉の前で立ち止まり、そう言った。
つまり、その何かとやらに関係する兵器を日本に持ち帰って欲しいということなのか。
マミヤさんは扉の鍵穴に鍵を差し込み解錠するとドアノブに手を掛け、俺の顔を見た。マミヤさんの顔は神妙な顔から最初に会った時の薄い笑顔に変わっていた。
「それが、彼女です。」
扉を開けるとそこには大きな部屋があった。高校の教室くらいの大きさで、白い壁には星条旗と間接照明が幾つか付いており、床はよく会議室で見るような灰色をしたタイル状のカーペットだ。窓が無いからか、少し圧迫感を感じる。そして部屋の奥にはベッドと本棚にテレビ。隅には観葉植物など、まるで病室のような感じだ。その部屋の中央には大きな白いソファが対面に並ぶように2つ置いてあり、その1つに日本人の女性が本を読みながら座っていた。
「どうぞ、中へ」
マミヤさんに促され、おずおずと部屋に踏み入る。ソファの上の女性はこちらに気づいたのか、本を閉じ視線を俺に移してきた。よく見るとかなり若い女性だった。顔立ちはとても整っていてかなりの美人と言えよう。赤墨色の髪を片側で結わいており、白い上衣に青い袴の身なり、胸当てから察するにおそらく弓道着の装いに見える。だが袴がいやに短く、袴というよりはどちらかと言うとスカートのようだ。そして腰のあたりにはカタカナの「カ」と書かれた見慣れない防具のようなものをつけていた。
「え、えーと。」
完全にたじろぐ俺。どういう反応を示せばいいのかがさっぱりわからないし、さっきの未知なる敵と彼女が一向に結びつかない。
「掛けていいかな?」
彼女の対面のソファをマミヤさんは指差す。
「……。」
小さく頷いた。
「失礼するよ。……アマギさんもどうぞこちらにお掛けください。」
そう言われ、俺はマミヤさんの隣に座った。彼女の真正面である。
「……。」
彼女にじっと見られる。年端もいかない子なはずなのにとてつもない威圧感がある。
「えー、この方は、日本の外務省から来られたアマギさんです。」
マミヤさんが俺のことを軽く紹介する。外務省……。基地に入る前にマミヤさんと交わした言葉を思い出す。
(話を合わせろって事か)
「どうも、えと、外務省の……えー、りょ、領事局のアマギと申します。」
なぜ所属を偽る必要があるのか、多々疑問に思うが今まで聞かされた事のインパクトが強すぎてそこまで気にならない。ここは相手に合わせる方がいいと思い咄嗟に思いついたことを口走った。外務省には確かそんな部署があったような気がする。上半身だけで軽くお辞儀をしながら相手の反応を待った。少し間が開く。ほんの少しだけ。
彼女はじっと観察するように俺を凝視しながら、静かな声でポツリと言った。
「……加賀です。」
き、今日分の書き溜めが無くなったぽい……。
読んでくれてる人いたら感謝っぽい。
乙でしたー。
次も楽しみ。
アルペジオの世界と似てるねー
アマギってーと、何となくウルトラ警備隊のアマギ隊員を想像してしまいますw
かなりの長編になりそうだけど頑張ってね、応援するよ
イベント攻略に集中してたっぽい。
確かにアルペジオと似てますなww
ちょっとだけ書くのです。頑張ります。
4
「加賀です。」
それが俺が初めて聴いた彼女の言葉であり、名前だった。低いトーンで小さな声だが透き通っている。それに日本語。やはり日本人のようだ。
「加賀さん、ですか。えと、よろしくお願いします。」
明らかに年下なのだが、何故か敬語になってしまう。
「……よろしく、お願いします。」
と彼女は小さくお辞儀をする。控えめな人なのかもしれない。
「では、互いの自己紹介がすんだので早速本題と、いきたいところですが、まずはお茶でもお入れしましょう。」
と、マミヤさんが席を立つ。いや待て待て、今この状態で二人きりは気まずい。
「いや!あの、お構いなく。」
全力で遠慮する。
「いえ、遠慮せずに。」
違う、そういう遠慮じゃないんだマミヤさん。国家を揺るがす程の脅威と関係した人物と二人きりにしないで欲しいという俺の切なる願いだ。しかも女性だ、なおさら嘆願する。
「では、ごゆっくりご歓談を。」
ご歓談!?初対面なのにご歓談!?日本人に初対面同士の歓談なんて最強難度だってあなたも日本人の端くれだったらわかるでしょう!と心内で絶叫。しかし願いは届かず、マミヤさんは部屋を出て行ってしまった。めでたく俺は加賀さんと二人きりになった、わーい。あかん。
「……。」
「……。」
互いに黙りこむ。沈黙が重い。普段の1秒が10秒に感じる。加賀さんに至ってはずっとこちらを見ている。なんだそんなに面白い顔か?
ともかく、彼女は少なくとも日本語はわかるようだし、何か会話をしなくては、会話だ会話。コミュニケーション。えーと、えと。何か話題を。搾り出せ俺のコミュ力。
「えっと、あっ、可愛いですね」
え、今俺なんて言った?えっ?反射的に加賀さんをチラと見る。加賀さん、目を見開いていて固まっていた。当たり前だ。
「あ!いや!違います!いや違わないですけど、えと!そういうことを言いたかったのではなく!」
腕をぶんぶん振りながら全力で混乱する俺。生涯で一番パニクっている。お袋にエロ本バレた時以上だ。
「いや!その!アレです!間違えました!可愛いっじゃなくて、そう!美しいですね!」
もうダメだ。やらかした、完全に。ああ、引いてる、加賀さん完全にどん引いている。さっきまで目を見開いていた加賀さんは完全に俯いてしまった。そりゃ5分前に初顔合わせの相手との初会話が口説き言葉なんてコミュ力高い欧米人でもやらないからな。むしろ加賀さんからの返答が無いことも配慮すると会話にすらなってないからただ独り言。どうやら俺の秘められたコミュ力のステータスはとんでもない変態的方向へと振り切れていたようだ。
「……破廉恥ね。」
俯いていた加賀さんはそう言うと机に置かれた読みかけの本に手を伸ばし顔を隠すように広げた。やばい。第一印象最悪間違いなしだ。そして、まるで世界が静止したような沈黙。どうやら変態には顔を見られたくないようである。
「お待たせしました。」
30分ほど経過したくらいに感じた頃、飲み物が入ったコップとお菓子を乗せたお盆を持ったマミヤさんが帰ってきた。時計を確認するとほんの5分ほどである。
「あれ。なにかありましたか?」
マミヤさんは加賀さんと俺を交互に見ながら言った。
「いやいやいやいや、なにも無かったです。」
額にじわりと嫌な感触。話だけ聞けば初対面の女の子を口説いてる女癖の悪い男にしか見えないし、一応社会的立場的にあの発言は非常にまずい気がする。
「そう、ですか。……どうぞ、アイスコーヒーと羊羹です。」
すごい組み合わせだ。なんていうかアメリカン。
「わざわざ申し訳ありません。頂きます。」
正直、喉を潤わせたかったのでありがたかった。アイスコーヒーを口に含み、続いて羊羹を口に運ぶ。アイスコーヒーと合うかは別として、なにこの羊羹めちゃくちゃ美味い。どこの羊羹だろう。
「はい、加賀さんもどうぞ。」
そう言われると、加賀さんはまた本を机の上に静かに置いた。何かさっきと雰囲気が少し違う。
「加賀さんも羊羹、食べますか?」
「頂きます。」
即答。今までに聞いた中で一番、はっきりしてる声だ。
「では、先程は何かあったんですか?」
ん?とてつもなくよろしくない流れだ。
「口説かれました。」
即答。
俺のYシャツがコーヒーまみれになった。
加賀さんかわいい
これはよいものだ
初対面でも歓談くらいできるだろ
機体
ちょっと書くデース。
加賀さん好き多くて嬉しい。
恥ずかしすぎて死にたい。羞恥の念で顔が焼けそうだ。自分で吹き出したコーヒーをハンカチで吹きつつ、当の加賀さんを覗くと素知らぬ顔して羊羹を頬張っていた。まるで他人事のようだ。
「あっはっは、そうですかそうですか!」
何がおかしいのかマミヤさんが大爆笑している。もうやだ、お家帰りたい。
「いやぁ、いいですね。そういうの。僕は嫌いじゃないですよ。」
マミヤさんはまだ少し笑いながら俺の隣に座った。日本の職場だったら今日にもクビが飛びそうな問題発言だけどな。
「すみません。」
もうこの話は終わりにしましょうマミヤさん。
「いえいえ、確かに、加賀さんは美人さんですからね。あ、でも時間と場所は弁えてくださいね。」
もう掘り下げないでくださいお願いします。
「……茶化さないで。」
羊羹を食べ終えた加賀さんが少し尖った声でそう言うとマミヤさんが苦笑いを浮かべながら申し訳程度に肩を竦めた。
「さて、程よく場が和んだので早速本題へ行きましょうか。」
和むの定義がおかしいでしょう。というか、さっきまでは未知なる敵やら人類の危機とか、ぶっ飛んだ雰囲気からの落差が大きすぎる。
あぁ、これを和むというのか、納得。
「えと、では、そうですね。加賀さん。僕が初めてあなたと会った時の説明を今一度、していただけますか?」
こくり、と頷く加賀さん。場の空気が若干鈍くなる。
「私は、加賀。」
「航空母艦です。」
こうくう、ぼかん。なんだそれは。
「空母の事ですよ、アマギさん。」
横のマミヤさんがそう言う。空母ってあの空母?原子力で動いて戦闘機飛ばすあの空母?
「ごめんなさい。正直に言います、意味わかりません。」
だって本当に解らないからそう言うしかあるまい。理解しようとしていないのではなくただ単純に理解できない。1ミリも。
「そうですね、その反応が当たり前です。では、言い方を替えましょう。彼女は超能力者、それに値する存在です。」
胡椒の粒くらいなら今の説明で理解出来た。先ほどの話から推測するに、要は人類の敵が現れ、それは人類ではない何かで、それに対抗するのは加賀さんの超能力が必要。マミヤさんが言いたいことは多分こうだろう。ということは加賀さんは人間じゃないのか?ごめん、やっぱり理解できない。
「ええと、その。うまく理解できないのですが……。では、加賀さんは人間では無いんですか?」
ここは単刀直入に聞こう。まずは順序を置いて整理だ。
「人間です。物理と生物学的には、完璧に我々と同じです。それは米軍が保証します。」
人間らしい。ロボットのような軍事ヒューマノイド的な事を想像したが違うようだ。では、なんだ、人間空母?余計に思考が混乱してきた。頭を抱える。
「では、その超能力?というのはどんな」
「先程も言いましたが、未知なる敵に対抗する唯一の能力、としか言いようが無いです。」
やっぱりだ。人類の希望が彼女の能力、部屋に入った時のあの持ち帰って欲しい兵器は彼女という言葉は、象徴的にも願望的なものでもなくただそれの現実的な対処能力を持つ希望という意味なのだ。ちょっとまてよ。その前に、俺は確か、兵器を日本に持ち帰って欲しいとか言われたよな。ああ、ダメだ、ダメだ。もう、何が何だか解らない。ふと、顔をあげた一瞬、ただそれだけ加賀さんと目が合った。その一瞬に加賀さんの口が開く。
「信じて。」
ただ一言、その一言で俺は考えるのをやめた。まっすぐ、迷いなく俺と目を合わせていた加賀さんの瞳の中に何かを感じたのだ。それが何物にも勝る説得力となった。
「わかりました。」
そういうと、加賀さんは合わせた目線を外し、安堵の表情を浮かべたような気がした。たぶん。マミヤさんは少し驚いている様子だった。
「驚きました。こうもすんなりと信じてもらえるとは、こう言っちゃなんですが私だったら信じれません。」
別に理解して信じたわけじゃない。未知なる敵うんぬんとか超能力がうんぬんはまだ確信の一つとして持ってはいない。ただ、
「ただ、理解するより信じたほうが早いと思っただけです。」
我ながらなんというクサいセリフだろう。でも、本当にそう思ったんだから仕方がない。
「なるほど。うん、何故あの人があなたをここに寄越したのかわかった気がします。」
マミヤさんがなにか他に別のことを納得している様子だ。どういうことだろう。俺の上司とマミヤさんは何かしらの繋がりがあるのだろうか。そうなのだとすれば俺がこの場所に送られた理由もなんとなく理屈が通る気がする。いや、あまり深く考えないようにしよう。今は加賀さんの事だ。
「すみません。あの、信じる信じない已然にイマイチ、空母が加賀さん?という意味がよく解らないのですが。」
だってそうだろう。俺の友人に空母なんていないし。
「そうですね、それに関しては目で見てもらって確認していただいたほうが早いと思います。」
「ということは、見られるんですか?」
はい、と言ってマミヤさんは頷き、席を立った。それに加賀さんも続き立ち上がり、部屋の隅に置いてある大きなロッカーから何かを取り出して来た。
「それは、弓ですか?」
「はい。そうですね、我々のいうところの弓です。」
なんか意味深だ。本物の弓なんて見る機会なんて無いから分からないけど、少し大きめな弓だと思う。いつの間にか加賀さんは矢筒を持ち、右手には手袋が嵌められていた。
「では、移動しますよ。」
どうやら、本当に今から見せてくれるらしい。
俺も上着とカバンを持ち立ち上がる。
間違いなくこの提督はDT
5
マミヤさんが運転する軍用車に乗りながら基地内の海に面した場所をひた走る。あのけったいなカラクリ施設の奥には車庫があり車で直接外部に出られる仕組みとなっていた。なんだろう、金の掛け方がまるで違う。日本なんて職場のPCのOSすら変えてないんだぞ。
建物に囲まれた道路から少し離れた場所を走りながら、マミヤさんは無線で誰かとずっと交信していた。英語が達者なので何を言っているのかはよく分からない。横に座っている加賀さんはずっと窓の外、真珠湾を眺めていた。
途中、いくつかのゲートを抜けると、車は広く開けた場所へと入った。少し離れたところには軍用機が綺麗に並んでいる。どうやら空軍の方の基地に入ったようだ。いつの間にかマミヤさんは無線交信を終えていた。
「もう少しで着くので、暑い中申し訳ないのですが、このジャケットを着用してもらえますか」
片手でハンドルを握りながら助手席に置いてあったジャケットを俺に渡してきた。おそらく演習場のような場所へ行くのだから普通のスーツではいけないということだろう。シートベルトを外し、言われたとおりマミヤさんから受け取ったジャケットに袖を通す。袖口のところに何か金色のラインが入っていた。長袖なので暑い。
ふと視線を感じ、横を向くと、加賀さんがこちらを向き、無言で自分の首元を指さしていた。釣られて俺も自分の首元に触れてみる。ネクタイが緩んでいた。なるほど。ネクタイを締め直すと加賀さんはまた窓の外に視線を送った。このくらい口で教えてくれればいいのにと思ったが、考えて見れば初対面最悪なのにネクタイの緩みに気づいてくれて教えてくれたのだから感謝感激だ。そういえば、空港に到着してからずっとネクタイ緩みっぱなしだったということか?うっわ、なんて礼儀がない……。今になって恥ずかしさと呆れがこみ上げ、反射的に窓の外に視線を逃がす。車は海上の広い広い道路を通り抜け島のような場所へ入った。どこいくんだこれ。
そう思った時、マミヤさんの無線に突如交信が入った。瞬間、俺の身体が前に押し出され上半身を女樹石に強打した。急停車したようだ。身体の痛みでそう理解する。シートベルト外してたの忘れていた。
「すみません!大丈夫ですか!?」
マミヤさんが後部座席を振り返りざまにそう言う。
「だ、大丈夫です。どこも痛いとこ無いですし。シートベルトしてなかった自分が悪いので気にしないでください。えっと到着ですか?」
本当は鼻が死ぬほど痛い。というより、なんでいきなり急停車したんだ。
「到着は到着なんですが、今連絡があってちょっとまだ不都合があるのでもうちょっとここで待機します。あと、耳塞いでください。」
耳を塞ぐ?どういうことだ。というより、ここどこだ。まわりを見回し、加賀さん側の窓の向こうを見た時に意味がわかった。慌てて耳を塞ぐ。
数秒後、爆裂音の塊のようなジェットエンジンを轟かせながら、空気を大きく震わせ、目の前を旅客機が猛スピードで通過していった。鉄道の高架下なんてレベルの音では無い。
「くぅー。相変わらず、間近で聞くジェットエンジン音は堪えますね。すみません、急遽予定を繰り上げたので管制側のランウェイクローズの措置が遅れたそうで。さて、降りますか。」
そう言うとマミヤさんはドアノブに手を掛け、ドアを開けた。よく平気でいられるもんだ。俺なんかちびりそうになったぞ。まだビリビリと空気が震えてる気がする。
どうやら、到着したのは演習場とか訓練所とかそういう場所ではなくホノルル空港の滑走路のようだ。しかもランウェイクローズって直訳で滑走路閉鎖だよな。米軍の権限って凄すぎるだろ。
「あ、あと、この帽子も着用お願いします。」
車から降りる直前にマミヤさんから白い制帽を受け取る。
黒いつばに金色の模様に真ん中に紋章。これ完全に、米海軍の軍帽だ。ということ、やっぱりこのジャケットも金色の6つボタン……米軍の制服だ。しかも、幹部仕様。
「似合ってますよ。」
嬉しいけどそういう問題じゃない気がする。笑顔でそういうマミヤさんは道路作業員が来ているようなオレンジ色の蛍光色ジャケットを着ていた。てか、制服って他人が着ちゃいけないんじゃ無かったっけ。俺は苦笑いしか出来ない。
「あれ、加賀さんは……」
マミヤさんがまわりを見回す。確かに、加賀さんがどうも車から降りてきていない。どうしたんだろうか。
「ちょっと見てきます」
ここは俺が見に行くべきだと思いそう申し出る、加賀さんとは日本までは付き添わなきゃいけないのだろうから出来るだけ親切にして損はないだろう。
車の反対側に回りこみ、加賀さんの席のドアを開ける。
「ッ……。」
そこには耳を塞いで目を瞑り丸く固まっている加賀さんがいた。若干ぷるぷる震えている。さっきの爆音が相当凶だったようだ。しかし、なんだこの見てはいけないものを見た感は……やばい。……ここでこう言う感想が出るのは、俺が変態だからなのか。すごく可愛い。あ、いかんいかん。
「加賀さん、加賀さん!大丈夫ですか」
呼びかけると、加賀さんが薄く目を開き、耳から手をどかす。超顔色悪い。
「あっ」
短く加賀さんが感嘆符。そして、俺を認識すると慌てて手を降ろし、顔色以外部屋で合った時のような表情に戻った。
「も、問題無いです。すみません、今おります。」
少しふらついているような感じだ。そして、なにより変なところを見せてしまった羞恥からかほんのりと耳が紅く染まっていた。もしかして加賀さんて表情に出ないだけで実は凄い心情の振れ幅が豊かな人なのかな。
「手、貸しましょうか?」
すかさず手を差し出す。別にやましい気持ちはないよ。紳士的に当然だ。あと男として。
加賀さんは差し伸べられた手に素直につかまり車から降りると小さな声で少し俯きながら言った。
「……あの、ありがとう」
まだ少し動揺を感じさせる声だった。やっぱり凄いクールだと思ったら本当に案外そうでもないのかもしれない。それにさっきより耳がほんの少しだけ紅くなったような気がする。ここで俺は実感するのだった。
これがギャップ萌えというやつか。
丸くなる加賀さんかわいい
ひとりでときめく俺をよそに加賀さんは車から弓と矢筒を取り出し、滑走路上へ移動したマミヤさんの方へ向かって歩いて行った。俺も後ろから加賀さんを追う。もう、正午は回っただろうか、太陽は南の空に高く登り強い日差しを降り注がせていた。アスファルトの照り返しも海の上なだけあって風が強く気にならない。向こう岸にはおそらくホノルル空港の管制塔であろう施設が小さく見える。
「準備が出来ました。しかし、少々時間がないので」
俺達が滑走路の真ん中に着くとマミヤさんは時計を見ながらそう言う。了解しました、と、もうすっかり平常な声で加賀さんがそれに答える。
「では、私達は車の近くまで戻るので、私が手をあげたら、開始の合図という事でお願いします。」
加賀さんをひとり滑走路のど真ん中に残し、俺らは誘導路上に停まっている車の周辺まで戻ってきた。何故か少しワクワクしたような高翌揚感を感じる。
「アマギさん、加賀さんの事、どう思いますか。」
離れた位置にいる加賀さんを眺めながらなんとも意味深な質問を投げかけられた。
「えっと、そうですね。少なくともまだ普通の人間に見えます。」
失礼な言い方だと思った。
「そうですか」
それだけ、言うとマミヤさんはすっと手をあげた。それを見た加賀さんは滑走路にまっすぐ向き、背中から弓を取り出し弦に掛けた。一瞬だけ加賀さんが俺たちの方に目線を流すと、大きく足を開き、弓を構える。矢先を左手の親指の付け根に乗せ弦を引きはじめた。なんというか絵になるような美しい姿勢だ。
次の瞬間、加賀さんの弓から矢が勢いよく放たれた。
俺は今この目で確かに加賀さんが放つのを見た。
そう、放ったのは「矢」のはずだった。
すまぬ、完全に書き溜め切れた。
需要あれば、また来週辺りに来るデース
乙したー
待ってんぞ
需要しかないから
乙
待ってる
読んでくれてる人居たか
頑張って書くっぽい
なかなかおもしろいっぽい
つづき待ってるっぽい
土曜の夜に続き書くでち
普通、放たれた矢は重力に従って放物線を描き落下するものだ。俺だってテレビの特集とかで弓道を見たことだってあるから分かる。だが、加賀さんが放った矢はそうではなかった。ただ真っ直ぐ、放った方向へ直線に飛んでいく。そして、30mくらい直線に飛んだくらいだろうか。まるで翼が風を切るような音と共に靄のような煙が矢を包み込んだ。次の瞬間だった、到底矢から発せられるとは思えない発動機のような音。そして、矢だったはずのものおそらく航空機にその姿を変え、体に纏っていた靄煙を大きな翼で切り裂き、真珠湾の空へ急上昇した。
何がどうなってるのかわからない。よく手品師が空っぽのハット帽子から白い鳩を出現させる手品やっているが、それを目の前で見ているようなあの感覚だ。ただただ驚いた。アメージング。
「さて、アマギさん」
急上昇していった加賀さんの矢、もとい飛行機らしきものを額に手をあてがい目で追いながらマミヤさんは再度、問いかけた。
「加賀さんの事、どう思いますか。」
舞い上がっていった飛行機は点のように小さくなってしまった。空の奥から鈍い残響がこだまし、風と交じる。
「そうですね、普通の人間では無い、ということはわかりました。ただ」
そこまで言って、引っかかる。空から地に視線を下ろすと広い滑走路の上には普通の人間ではない何かが弓を片手に持ち、その髪を風に揺らしていた。姿勢は変わらず、足を開き俺たちに背中を向けたまま。そして、その背中は、兵器として確固たる能力を持つ大様さと強靭さを感じると共に人間としてあまりに小さく、か弱いように見えた。意思を持った兵器?能力を持った人間?あの滑走路の上にある、もしくはいる、のは何なのだろうか。誰しもがそう思い、その答えが何なのかを欲しているのだろうが、おそらくその答えを知っているのはいない、と直感的に感じる。そして、なによりその答えを一番欲している誰しもが加賀さん自体であると気づいた時に喉奥で引っかかっていた思いが言葉になった。
「普通の人間ではないから、人間では無いとは思いません。」
前者か後者か、つまり兵器か人間か解らないなら、自分の都合がいい方で解釈すればいいだろう。後々、本当は違いましたと分かったなら、それはその時考えればいいのだ。人間に男女のような性別があると一緒で能力の有る無しがあってもいいじゃねぇか。
そんな思いから出た答えを聞いたマミヤさんは、ふふ、と少し笑い、心から安堵するような声でこう言ったのだった。
「それは本当によかった」
この人もこの人なりに加賀さんを心配してるようだ。考えてみれば、最初に加賀さんを兵器と揶揄したのは加賀さんを人間として見ているからこそなのかもしれない。
「……全ての人が、アマギさんのような考えを持ってくれればいいのですが」
風の音に消されそうな細い声で意味深な事を囁く。
「それは一体」
「え、ああ、いやいや、なんでもありません。気にしないでください。」
こちらこそ、いやいやですよ。そこまで聞いたら気になってしかたがないでしょうが。俺が後5年若ければ絶対に踏み込んでるとこだよここ。
「それより、加賀さんの能力は単に飛行機を出現させるだけじゃないんですよ。」
話をはぐらかされたように感じたがまぁいい。
「やっぱり飛行機だったんですか、あれ」
自己紹介で空母と言われたしな、形も飛行機だったし。
「まぁ飛行機です。詳しくは後でお話するとして、その飛行機を使って加賀さんは未知なる敵と対等に戦闘を行う事が可能なんです。」
やはり、そういう事だったか。まさに人類の希望である。
「えと、その加賀さんの能力?じゃないとその未知なる敵とやらは倒せないですよね、確か。」
「そのとおりです。それは先ほど廊下で話した通り、我々の兵器ではまったくもって有効打を与えられませんでした。1発100万ドルのミサイルが聞いて呆れますよね。」
ミサイル1発1億円か。うまい棒1000万本分だな。
「では、何故加賀さんがその未知なる敵と渡り合えると分かるんですか?」
「ああ、それはですね。実際にこの目で見たからですよ。」
実際にこの目で、どうマミヤさんは言った。ということは少なくとも1回は加賀さん含めここの米軍部隊がその未知なる敵と会敵したことになる。空港の警備の厳重さも少しわかった気がした。
「私が見たのは今までに2回、でも加賀さんはそのうちの1回しか覚えていないようですが」
「そ、それは私が話を聞いてもいい案件なんですか?」
実際の戦闘の話となると何故か身構えてしまう平和国家の公務員である。
「ええ、構わないですよ。いつかあなたの耳にも入ることですし、まずは1回目、それは2週間前ですね」
いつか俺の耳に入る?意味深発言が連発している。そんなことより2週間前というとマミヤさんが通訳を始めたとか言ってた時期とかぶるじゃないか。
「そうですね、我々が加賀さんを発見したまさにその時です。」
通訳を始めたってそういうことだったのか。加賀さんが発見された時、それは気になる。
「2週間前の夕刻、我々の軍事衛星がミッドウェー諸島近くの領海に不明艦を発見したんです、全長は700フィート、いえ200m以上。とてつもない大型艦でした。」
200m以上の大型艦を領海に侵入されるまで気づかないものなのだろうか。
「もちろん、ミッドウェーと言ったら一番近いのはここの基地なので、直ちに戦闘機をスクランブルさせ戦闘艦を緊急出港させたそうです。」
「あの、話の途中ですいません。アマギさんはここの基地にいたんじゃないですか?」
ここの職員をしています、とか通訳とか言ってなかったけマミヤさん。
「いえ、その時はジョージ・ワシントンに乗艦していました。空母ですね。」
ジョージ・ワシントン。米海軍で唯一、米国外に活動拠点を設ける原子力空母。職業上よく知っている艦だった。それに乗艦していたとは、この人、本当にただの職員なのか。
「知ってます。横須賀基地に配備されている艦ですよね。」
「そうです。第7艦隊の一部になりますね。その当時我々は、ミッドウェー島の300km南を横須賀に向け航行している最中で、不明艦発見の一報もジョージ・ワシントンに逐一情報が寄せられいつでもスクランブルが出来る準備が整えられていました。」
両手を腰の前で握り加賀さんを見ながらマミヤさんは続ける。
「そして、我々にも出撃命令が出たのです。ナイトホーク、えとヘリですね。」
そこは戦闘機では無いのか。
「我々に出撃命令が出るということは、それなりに事態が逼迫しているという状況ですので仮にその不明艦が敵戦闘艦であった場合は戦闘機を飛ばすはずです。ですが、その時のオーダーはヘリ、しかも、戦闘関係ではなく要救助者の救出という内容でした。」
不明艦発見と要救助者の救出。どうも繋がらない。
「我々としてはとんだ拍子抜けでしたね。一時は戦闘を身構えていたので、まぁなんというか安堵感がありました。そして、直ちに搭載しているヘリを現場海域まで向かわせる事なったのですが、その場所はどう見ても不明艦が発見された場所と一致していたんです。後々わかったことですが、その不明艦は加賀さんだったらしいんですよ。」
んん?一気にまたわからなくなってしまった。不明艦が加賀さん?さっき全長200m以上とか言ってなかったけか?どうみても170cmも無いですよ加賀さん。
「その不明艦については置いておくとして、その要救助者というのが加賀さんだったんです。」
置いておくんだ。到底信じられない事が起きる世の中なのだからまぁ色々あるんだろう。
話は変わるが、俺、今日1日でかなり順応力が高くなった気がする。今なら万能細胞の存在も信じるよ。
「海に漂っているところを我々に救助されヘリが母艦まで戻っくる間もずっと加賀さんは意識を失ったままでした。ヘリから降ろした時は、まず最初に服装に違和感を覚えましたね。いまでこそ見慣れましたが、どう考えても不釣り合いですからね。」
そりゃ、ミッドウェー島近海に弓道着(仮)を纏った女性が漂っていることなんて万に一つもないような状況だからな。俺は陸で初めて加賀さんを見たからあまり違和感を覚えなかったけど海上で漂流者として見た人はかなり驚愕だろう。
「その時の加賀さんはよく覚えています。外見でも分かるくらい衰弱していましたからね。顔面蒼白で不謹慎な話、生きているのか亡くなっているのかわからないくらいでしたよ。日没前ギリギリで救助出来なければ死んでしまっていたかもしれません。すぐ艦内の医務室に運ばれました。」
そこまで言うと、マミヤさんはズボンの右のポケットから1枚の写真を取り出し、俺に見せてくれた。
「これ、なんだと思いますか?」
望遠を目一杯きかしたようなその写真には、靄のようなものに覆われた船影のような姿が写っていた。まるで風呂場のガラス越しに船を見たような、おおまかな輪郭しか捉えられないようなそんな感じ。
「これが、その未知なる敵というやつですか?」
「そうです。レーダーにも映らない謎の船。この写真を撮ったのは加賀さんを収容してから12時間くらい経った昼前時ですかね。艦の横に突如現れ、攻撃してきたんです。」
いきなり攻撃か、未知なる敵というのは随分と好戦的なようだ。
「我々もありとあらゆる形で応戦しましたが、全て効果がありませんでした。ゆうなれば、手を縛った状態でボクシングするものですよ。一方的に攻撃を浴び続けるわけです。そして攻撃を浴び続ければいつしかダウンします。ジョージ・ワシントンもそんな状況でした。ただ唯一救いであったのは、我々のもとには加賀さんが居たということでした。」
そう言うとマミヤさんはは加賀さんの方を向き、少し笑う。
「あの時は、どうすればいいか皆が右往左往しているなか、医務室で意識を失っていた加賀さんがいきなり飛行甲板上に現れるやいなや、救助時には何も持っていなかったはずなのに、大きな弓を携え、次々に甲板から矢を放ち、敵を沈黙させてしまったのです。」
すごいな加賀さん。原子力空母をも凌ぐ戦闘力の持ち主なのかよ。
「敵を完全に沈黙させた後、加賀さんはまた膝から崩れ落ちるように意識を失ったそうです。この事自体、加賀さんは覚えていないらしいのですが。もし加賀さんがいなかったら、今頃ジョージ・ワシントンは海の上に浮いていられなかったのかもしれません。それが1回目の未知なる敵との戦闘です。」
加賀さんがこの基地内で随分と丁重に饗されている理由がわかった。まさか原子力空母1つを救っていたとは。
「なるほど、それで2回目は?」
そう尋ねるとマミヤさんは未知なる敵の写真をポケットに戻しながら言った。
「アマギさんがいらっしゃる1時間ほど前です」
マジかよ!!
「ハワイ島の沖合にて小型ですが未知なる敵との会敵がありました。今回の戦闘においても加賀さん大活躍でしたよ。出来ればお見せしたかったんですが。」
ハワイに来る途中、空港の閉鎖で1時間遅れたことを思い出す。
「あ、そろそろ時間のようです、では行きましょう。」
滑走路の方へ近づくマミヤさん。加賀さんは弓を射る構えを解き、滑走路の真ん中で空を見上げていた。自らが飛ばした飛行機の行方でもみているのだろうか。遠くからまた音が近づいてくるのが聞こえ、加賀さんが滑走路の先に目をやる。1機のプロペラ機が滑走路へと高度を下げてきていた。大きな翼の下には車輪が2脚展開され、航空大の訓練機のような単発のプロペラ、遠目でもエンジンの周りが黒いのが分かる。機体は全体的に灰色のような色で尾翼と胴体には赤い線が何本か入っており、大きな日の丸が印されていた。
少なくとも現代の飛行機では無い、それだけは理解できた。
飛行機は滑るように滑走路へと降り、真っ直ぐとこちらに近づいてきていた。そして、ちょうど加賀さんの手前5m程で完全に停止し、それに合わせてエンジンも止まった。プロペラの動きが鈍くなる。大きなエンジンの音が消えると滑走路上では風と波の音だけになり、妙な静寂に包まれた。それにしても目の前から迫ってきている飛行機を前に微動だにしない加賀さんすごい。
「いやぁ、ここまで間近で見るのはこれが初めてですけど、本当に零戦なんですね!」
マミヤさんがやや興奮気味にその飛行機へと駆け寄るように近づいていき、回転が停まったプロペラに触れる。ん、え?
「ゼロ戦?!?!」
裏返る声が滑走路に響く。零戦、それは俺でも知っている。それどころか日本人なら誰しもが一度は耳にしたことがあるだろう。太平洋戦争時、日本軍が有した艦上戦闘機の略称、それが零戦である。問題はこの代物が70年前の戦闘機であることで、今は零戦が活躍していた時期から70年後ということだ。
「そうです!零戦です!本物です!」
マミヤさんは満面の笑みで右翼側の胴体の部分をポンポン叩いていた。加賀さんも何故か満更でもないような感じでプロペラを手で撫でている。どうやら俺が想像していた空母とはまるで違う様だった。特に時代が。
「さっぱりわからない、って顔してますね」
いつの間にか主翼の裏にまで回っていたマミヤさんが言う。
「え、ええ、何がなんだか」
加賀さんが空母であり未知なる敵と戦えて飛行機を出現させる能力があるのは分かった、だけど何故零戦。
「もしかして、加賀さんの、「加賀」ってわかりませんか?」
加賀さんの加賀の意味?日本の旧国名とか石川県の市名とかしか知らない。
「加賀さんのお名前じゃ無いんですか?」
「そうです、確かにそうですけど。……ああ、そうか、ごめんなさい説明するの忘れてましたね」
何?なになに?まだ驚愕する事実があるの?もう俺の理解の範疇はとうに超えているんですけど。
「加賀さんの加賀は旧日本海軍が所有していた空母の名前です。」
ということは、加賀さん言っていた空母というのは昔、日本海軍にいた本物の空母ということか?
「わかりやすく言うと、ほら、アマギさんも戦艦大和は知っているでしょう。大和はその艦の名前ですよね。それと同じで、その昔、日本海軍では航空母艦として加賀という艦名の艦を運用していたんです。それが加賀さんです。」
今の説明でわかりやすくなっているのなら、俺はまた理解するという事を投げ捨てなくてはならない。
「え、えーと、じゃ、加賀さんはその日本海軍の加賀という船の生まれ変わりみたいなものなんですか?」
「ああ!そうです!そっちのほうがわかりやすいですね!」
なんとか理解できた。いやもうなんていうか、常識を理性で押さえつけてやっと理解できた。
「な、なーるほどー」
幸いマミヤさんは零戦に夢中で自分でも分かる最高の棒読みは聞かれていなかった。
俺も観察してみようと零戦に近づこうとすると加賀さんがプロペラは撫でる手を止め、こちらを振り向き、少し身構え俯く。明らかにこの能力を見せる前と雰囲気が違う。
「えっと、俺も見ていい?」
そう断ってみる。加賀さんは、まだ何かに怯えるような表情を醸し出す。やばい、また俺なんかやらかしたのか。
「いや!別に加賀さんが嫌だったらいいよ!全然!」
そう言って胸の前で手を振りながら、踏み出した足を一歩戻すと、加賀さんが重く閉じた口を開いた。
「…………私の事、怖いとか、奇妙だとか思わないの?」
それさっきもマミヤさんに同じようなこと聞かれたような気がする。あ、怖いとか変とかは聞かれなかったか。……そうか、もしかして加賀さん気にしてるのか。でも考えてみれば恐怖とか奇妙というのは感じなかったな。ただただ驚くだけで。
「いや、まぁただ常人とは違う能力を持っているだけで、それ以外は変わらないんでしょ。加賀さんは加賀さんなんだからそれで俺はいいと思う。」
やばい、超偉そうに加えていつの間にか言葉が砕けて丁寧語忘れてる。しかも、なんか全て分かってます的な態度がクソムカつく。自分でもそう思う。
「そう、ですか。」
やばいやばい、「そう」と「ですか」の間に句点が入っている。これは嫌われたかもしれない。
「変わった人ね、あなたって。」
やばいやばいやばい、これ完全に嫌われたじゃん。
そう言って加賀さんは背を向けた。
こ、これしか今週は書き溜めれなかったっぽい。
また、来週までに書くっぽい。
見てくれた人、すぱしーば。
乙したー
いいねー
おつおつ
いいねぇ~、しびれるね~
おかわり
今日の夜から、書くぴょん。
待ってるぴょん
待ってるのです
そんな俺の気も知れないで、マミヤさんは零戦の周りも何回も行ったり来たりしながら、至る所を見たり触ったりしている。余程、零戦を見れたのが嬉しいらしい。俺の零戦のイメージはなんかこう緑色だった気がするんだが、零戦にも色々と種類があるのだろうか。
「この零戦はですね。21型と言って、零戦と呼ばれる戦闘機シリーズの初期型なんですよ。緑色の機体はもう少し後になってからです。」
マミヤさんが零戦のまわりを堪能し終えたのか加賀さんのところへ戻ってきながら説明してくれた。やはり零戦にも種類があるみたいだ。改めて零戦を観察する。そして、俺は一つ重大なことに気づいた。この零戦、操縦席が空っぽなのである。
「これ、操縦とかどうやってるんです?」
咄嗟に疑問がそのまま声となって出てしまった。加賀さんが口を開く。
「私……かしら?」
そう顎に指を少し付けながら答えた。まさかの疑問形で帰ってきやがったぜ。
「えっとその、なんというか、私の思うように動いてくれるのだけど、私が意識してなくてもちゃんと思うように動いていてくれるの。だから、私が操縦しているという実感は無いのだけれども、操縦しているのは私だと思うわ。」
そして、またなんともわかりにくい説明が帰ってきた。とりあえずは加賀さんが飛ばしているという認識で間違いは無さそうである。
「じゃ、意識的に動かすことも出来るの?」
「ええ」
そう言うと、加賀さんはまたプロペラに触れる。すると、零戦の垂直尾翼が機械的な音をたてて右、左と動いた。
「「おぉ」」
俺とマミヤさん二人同時に声を上げる。すげぇ、ラジコンみたいだ。
「では、折角なので写真でも撮りましょうか。」
いきなり、マミヤさんが突拍子もない事を言い出した。
「写真、ですか?」
「はい、写真です。」
なんか写真とか撮る雰囲気ではないのだが……。この人もこの人でなんかつかめない人だ。マミヤさんは遠慮する俺の腕を引き加賀さんと零戦の右斜め前に並べると、自分の携帯で写真を撮り始めた。そしてそして、まさかのツーショット。ひしひしと感じる隣の加賀さんとの微妙な距離感。2、3枚シャッターを切るとマミヤさんが苦笑しながら言う。
「加賀さん、もっと笑ってくださいよ。アマギさんも。」
触れてはいけない何かに触れるんじゃないかその発言。しかも、俺とツーショットだし笑顔が最も無いシチュエーションだろ。
「これが限界」
と、加賀さん。
「あ、あはは」
頑張って営業スマイルを浮かべながらちらと横の加賀さんを見ると、仏頂面の加賀さんがそこにいた。その顔が俺と写真を取るときの限界かよ。超悲しい。
「うん、まぁいいでしょう」
そう言うと同時に、マミヤさんの腕時計のアラームが鳴る。
「あ、そろそろ時間ですね。急いで撤収しましょう。加賀さん、その零戦は格納は出来ますか?」
ええ、と答える加賀さん。今日は時間に押される日なんか知らんが色々急ぎ足だな。
「では、しまってください。私は車を持ってくるので。」
携帯をしまいながら、車へと足早に戻っていくマミヤさん。後ろでは加賀さんが零戦に正面に立っていた。
「危ないわよ」
そう一言。慌てて零戦から離れると、機体全体に靄を纏い、突風と共に零戦は跡形もなく消え去った。それも一瞬で。そして、1本の矢が滑走路上に残されていた。なんというかもう然程驚かなくなっている。慣れって怖いものだ。
「それでは、行きましょう。」
近くまで乗り入れてきた車の運転席からマミヤさん呼ばれ、加賀さんと俺は弓を回収し、車に乗った。日差しでかなりの熱を持った米制服を脱ぎ、制帽と共にマミヤさんへ返す。車内のクーラーが実に心地よい。Yシャツはコーヒーのシミが滲むほど汗で濡れていた。
帰りも海の上の誘導路をひた戻る。遠くに見えていた管制塔は徐々に近づいてきた。そういえば滑走路に来て大体20分位が経過していた、要は滑走路閉鎖からそれくらいの時間が経ったというわけだ。航空管制官の皆様、本当にお疲れ様です。しかも、今日2回目だもんな、それなら尚更、お察しする。長い誘導路を渡り終わり、終端で左に曲がると空軍基地、それを抜け、行きと同じようにセキュリティゲートを2回ほど通過すると湾横の細い通りに出た。
街路樹の緑の隙間から見え隠れする真珠湾をまた加賀さんは眺めている。
乙
毎度区切りが分からん
ごめん。週末しか書く時間ないから土日中心に書いてるん。まだ、今日の夜と明日の夜に書くでち。
こんなところで何やってんだ土日関係なくオリョクル行くぞ
>>71 というか投下終わったのかまだ続くのか分からんから乙とも書き込みにくいってこと
投下ペースは別にこのままで構わないけど
投下するときは「これから投下します」
終了する時は「本日の投下終了です」
とか入れておくといいよ
日曜の夜に続き書くでち。
待ってるなのです!
今から投下するっぽい。
待ってたでち
6
「では、お預かりしますね。」
炎天下の滑走路から部屋に戻るとすぐマミヤさんがそう言って加賀さんの弓や矢筒などを持った。時刻は12時近くになっている。ここに戻る途中、車の中で聞いた話では、どうやら加賀さんは俺と一緒に民間人として飛行機に搭乗して日本へ戻るらしい。しかし、弓や矢は手荷物なんて言うまでもなく受託手荷物にも出来ないということで、別にマミヤさんが日本へ送るということだ。
「……ええ」
少し心配そうに加賀さんがそう言った。
「では、担当の者に預けてきますので」
そう言われ、マミヤさんが部屋を出ようとする。あ、やばい。
「あ、あの!私も持ちますよ!」
このままじゃまたふたりきりにされてしまう。さすがに、また加賀さんとふたりきりは非常に気まずい。そして、今度は何やらかすか知れたもんじゃないしな。
「そうですか、助かります。ではこの弓を」
いえいえ、俺も助かります。
「はい、わかりました」
大きな弓を受け取った。改めて手にしてみると重量も大して無く一般的な弓と総大差ないように思える。つくづく摩訶不思議だ。
その時、刺さるような視線を後ろから感じた。
「……」
加賀さんが無言をコンクリにミキサーした様な表情でじっと凝視。もしかして触られたくないとかそういうん!?泣くよ俺!?
「気を付けて扱って」
あ、あー、なるほどね、そういうことか。発言内容じゃ帰りの飛行機の席が離れざるおえないとこだった。
「分かりました。丁重に扱います。」
納得したのかまだ心配なのか。なんとも言えないような表情だ。いや、1ミリも変わらないけども。
「では、少し急ぎなので、行きますよアマギさん。」
そう急かされ、マミヤさんと共にそそくさと部屋を出た。ガチャンと鈍い音を立てて閉まる扉。そして、まっすぐ伸びる小奇麗な廊下が再び目に入る。滑走路に行くときは気付かなかったが、加賀さんの部屋と廊下を隔てる扉はオートロックのようだった。中からも外からも鍵がないと開かない。言葉が悪いが、この廊下の雰囲気からして精神病棟の管理病棟みたいな感じだ。初めて通った時はトンデモ話を聞かされて、周りなんて気に掛ける暇なんてなかったから気付かなかった。
しかし、今はうすうすと感じている。
とてつもなく嫌な感じがするとういう事を。
「ずいぶんと厳重ですね。」
もちろん、この言葉にはもちろん裏がある。そして、返答まで少し間が開いたマミヤさんも、俺の思っていることに勘付いたのだろう。
「ええ、まぁ、軍事基地ですからね。外部から侵入されたら事が重大になりますので。」
確かにそうだ。だが、ここの厳重さは違うような気がする。もちろん外部からの侵入者を防ぐと言うのはその通りなのだろうが、だったらあの扉は何で内と外で解錠が必要な構造なのだろうか。外部からの新入を防ぐならば、エレベーターの鍵で十分だろう。
「確かに、ここは重要な基地ですもんね」
さっきも精神病棟とは言ったが、これじゃ監獄と言った方が適訳だ。今までこの厳重さは加賀さんを守るためだとばかり思っていたが、真逆なのかもしれない。鍵はむしろ加賀さんを軟禁する為に感じた。しかし、どこか腑に落ちない。
「まさか、マミヤさん。加賀さんとか監視してたりするんですか?」
もちろん加賀さんがそういう対象なのは間違いない無いし、監視がつくのは当たり前だろう。だが、この加賀さんへの対応に感じるのは、ひとつしか無い。そう、敵意だ。しかし、マミヤさんからはそれを感じないし、ましてやそういう素振りすら見せない。マミヤさんの他に、誰かがいるということなのか。それ故の質問。
「いえいえ!私はそんなことしませんよ!」
「ですよね。なら良かったです。」
いよいよ間違いない。マミヤさんの他に別の思惑が絡んでいるんだろう。しかし、マミヤさんもマミヤさんで加賀さんへのこの対応の仕方に違和感を感じないはずはないのだが、黙っているのは何故だ。それは考えるまでもない。マミヤさんの影響力が弱いから。というよりも、加賀さんを人間として見ている人のほうが少ないということだろう。
簡単な話、米軍は一枚岩では無いということだ。この施設に加賀さんを軟禁している連中のように加賀さんをある意味敵視する側とマミヤさんのように加賀さんを味方とする側、その両方がいる。そして、残念な事に前者の方が米軍内で圧倒的多数なのだろう。
考えてみれば当然といえば当然だ。なぜなら、米軍が苦しめられている未知なる敵の正体は不明で加賀さんも同じく正体不明。米軍には有効打を与えられない未知なる敵への攻撃が加賀さんは当てることができる。しかも、マミヤさんに見せてもらった写真を見れば敵もおそらく船であり、加賀さんも事実上の船だ。この条件で、加賀さんとその未知なる敵が同じ種族か同等の能力者としてイコールで結ばれると思われてしまうのは明白であり、敵意を向けられ軟禁されるのも当然だ。
いや、当然では無いか、あくまでも理にかなった、加賀さんの軟禁を正当化する理由、というただそれだけだ。人間らしい生活を出来ていることのは、せめてもの救いで、このマミヤさんに感謝すべきなのかもしれないな。
長距離移動と世界のあらゆる法則を揺るがす事実を色々目の当たりしたせいで混乱してきたけど、落ち着いてきたのか、冷静に周りを見ることが出来てきた。こんなに周りを見れるのになんでこれっぽっちもモテないんだろう。
「……なるほど、ねぇ」
片手に弓を持ちながらもう一方の手で顎に手を当て、ふと口に出てしまった。いかんいかん、あくまでも推測だし。マミヤさんが抑えたトーンで口を開いた。
「何を考えているのか私には一切わかりませんが、お察しのとおりです。」
俺が何考えているのか一切わからないのに、お察しのとおりだって。まぁ、つまりそういうことだ。防衛省の職員が弾丸出張に派遣された真の理由は加賀さんを連れて帰るだけでなく、加賀さんを安全に連れて帰る、ということなんだろう。
しかし、何故俺なんだ。そこだけはまだわからん。防衛省内にはもっと適任者がいるだろう。むしろ、自衛隊が行けばいいのに。
「話は変わりますが、加賀さん、ずいぶん貴方のこと気に入ってるみたいですよ」
……はぁ?
話し変わりすぎでしょう!てか、どこからどう見たらそういう見解になるんですか!?是非ご教授願いたいです!教えてマミヤさん!
「いやいやいやいや、まさか」
「本当ですよ。現に、加賀さんは基地内で私以外と初めてまともに会話したのはアマギさんだけですし。」
それは俺が日本人だからじゃないだろうか。俺だって日本人以外から話しかけられただんまりしちゃうかもだし。
「それに、少し楽しそうです。」
無い無い。絶対にそれは無い。もし万が一、億が一本当にそう思ってるならお友達になりたいね。いややっぱり無いわ。一体マミヤさんが何考えてるのかわかんね。もしかして茶化されるのかそうなのか。
「さぁ、着きましたカードキー用意してくださいね。地上に出ますよ。」
いや待って、その話を丸投げですか!?もう少し掘り下げたいんですけど!そう口に出る寸前にマミヤさんを乗せたエレベーターの扉が閉まった。やはり、うん、きっと茶化されてるんだ。
例のエレベーターで再び、エレベーターホールに戻った。相変わらず金の掛け具合に圧巻する。
「今度はこちらです。」
そうマミヤさんは、俺が施設に入ってきた入口とは逆の方、エレベーターホールのさらに先へ案内した。そこには、加賀さんの部屋のものとは比べ物にならないくらいに重々しい扉があった。赤と白の警告模様のテープで装飾されている扉にはでかでかと英語で立入禁止の文字。
マミヤさんは懐から別のカードキーを用意すると、今度はかざすのではなく、扉脇に取り付けえてある機械の溝にさっと通した。すると、その機械の画面に番号ボタンが出現し、マミヤさんは何桁かの番号を入力する。すると、機構的な音を出して扉が解錠され、少し開いた。逆に呆れるほどのセキュリティである。
「さぁ行きましょう。」
扉の奥はどうやら外だった。日差しがこれでもかというくらいにじりじり強く照りつけ、コンクリートの地面が照り返す。無風。滑走路ではある程度の風が吹いていたので、こちらのが方が断然暑く感じる。こんなに暑いのにもかかわらず、あちこちでヘルメットをかぶった作業員が慌ただしく移動していた。そして、目の前にはところどころ錆びついた巨大な灰色の壁が覆いかぶさるように反り立っている。なんだこれは。
「こちらです。離れないでくださいね。」
困惑している俺をよそにマミヤさんは右肩に担いでいた矢筒を左側に担ぎ直すと、壁に沿って歩き出した。離れないでください、という言葉が緊張を高める。俺も汗ばむ手で弓を握り、マミヤさんに続いた。1歩2歩、足を進めるごとに汗が額を覆う。今日程新陳代謝が激しい日も無いだろう。気まずいのを我慢して部屋に留まればよかったと思えるくらいに、暑い。
しばらく壁沿いに歩いただろうか、壁にはところどころに開けた空間があり、上部の反っている場所にビニールシートが被されているのが見えた。本当に壁なんなんだろうか。弓を持ちながらキョロキョロ周りを見回していると、ふとマミヤさんが立ち止まった。
目の前には真っ白い半袖のおそらく海軍の軍服であろうものを身を包み、黒と白の制帽をかぶった俺より一回りも二回りも大きい男がなんとも気難しい表情でそこにいた。この酷暑にもかかわらず汗一つかいていない。歳はマミヤさんと同じくらいか、少し若い感じだ。マミヤさんとその男は向かい合うと、バッと両者敬礼。
絵になるくらいに立派な敬礼だった。
マミヤさんはその男と英語で何か話をしている。そして、俺の事をその男に紹介すると、マミヤさんは加賀さんの矢筒とその他装備を男に渡した。この男は信用できるのだろうか。いやいや、信用するもクソも今はマミヤさんを信じるしか無い。
「さ、マミヤさんも彼に装備を」
そう促され俺も男に弓を渡す。真正面に近づくとすげぇ威圧感。顔を下に傾けているせいで帽子のツバの影が男の表情を薄く見え隠れさせているれる。見おろされる事なんて子供の時以来だ。軍人らしい毅然とした態度が小心者の俺をビビらす。
しかし、意外にも弓を静かに受け取ると、男は俺の事を指差しながら、マミヤさんの方を向き、何か言ってるようだ。その話を聞いたマミヤさんは俺を向き尋ねた。
「失礼ですが、アマギさんは英語は分かりますか?」
「え、ええ。まぁそれなりに。」
そう答えると、そうですか、とマミヤさんが微笑み、またその男に向き直して何かを言い始めた。どうやら、俺が英語がわかることを伝えているようだ。げっ!しまった!英語がわかると言っても意識して聞かないと分からないし、ネイティブの発音なんて聞き取る自信ないし、英文法的とかなら出来ますよって意味なんですよマミヤさんん!!
しかし、それを聞いた男は今度は俺の方を向き何か言おうとしている雰囲気。やばい、真剣に聞かないとシバかれそう。俺は耳に全神経を集中させてその男の言葉を聞いた。
しかし、無念。俺の耳は文頭のプリーズしか聞き取れなく、言うまでもなく男の言葉の意味は汲み取れなかった。引きつった顔をして固まる俺を見かねたマミヤさんが咄嗟に通訳をしようと口を開こうとした瞬間、男は右手を出してマミヤさんを軽く制止すると、俺にも分かる言葉で言い直したのだった。
「彼女をヨロシク頼ミ、マス。」
うろ覚えなのか、アクセントもつかめていない拙い日本語であった。
だが、その言葉になんとも言い表しがたい感動を覚えたのは何故だろうか。こうも簡単に信用していいものなのかわからないが、この瞬間に何故かこの男を信用したくなったのだった。
気がついた時には差し出された右手を俺は両手で握り返し、拙い英語で答えたのだ。多分、笑っていたと思う。
「Leave it to me,please.」
それからすぐその男と別れ、マミヤさんと来た道をまた戻る。
「そういえば、聞き忘れたんですが、あの男の人は誰なんですか?」
実に今更であることはわかってる。加賀さんの大事な装備も預けちゃったわけだし。
「え?彼ですか?彼はそうですね、まぁ私の古い友人と言えばいいでしょうか。」
古い友人、マミヤさんと共に昔から軍関係者だったってことか。
「軍人に見えましたが……」
「ええ、彼は私と違って本物の軍人ですよ」
やはり、軍人だった。でもマミヤさんはどうやら違うらしい。
「やはり、そうですか。私はてっきり、国際郵便かなんかに届けるのかと」
そう言うとマミヤさんは、笑いながらこう言った。
「そうですね、その方が安価でスピーディですし本当はそうしたいものです。しかし、配慮に配慮を重ねた結果、彼に預け、日本まで持って行ってもらうのが一番安全だと思ったので」
わからん。あの軍人が日本に持ち込むにしても手段は何だ?やはり、国際郵便くらいしか検討がつかない。もしかして、あの軍人、実は軍人に扮した航空関係者みたいなものなのか?まさかな。
「あの人って何者なんですか?」
「え、気付きません?」
いえ、まったくこれっぽっちも皆目検討がつかないです。むしろ、今までなにかヒントがあったのか。
「彼は、艦長ですよ。この船の」
そうして、マミヤさんは左横に見える灰色の馬鹿でかい壁を指差した。はい?いやまて、それ以前に……
「この壁、船だったんですか!?」
それを聞いたマミヤさんは一瞬、きょとんとした後すぐに吹き出した。そこまで爆笑しなくてもいいじゃんってレベルで笑っている。
「いやいや、今までなんだと思ってたんですか」
笑いながらそういうマミヤさん。いや、だって、周りが海に面しているいう認識があればそれが船だってわかるけど、扉を抜けたら目の前にこれがあったらわからないですって。
「いや、てっきり何かの施設かと……」
そう言うと、まだひーひー言っているマミヤさんは俺を引き連れ、その壁、もとい船に近づいた。確かに近づいてみると、地面とその船には間が空いており、そこには水が張っていた。うわまじかよ、超恥ずかしい人じゃん俺。
「まぁ、確かにここはドックですので、船体がかなり岸に近づいてるので、わかりにくかったかもしれませんね。それにこの船もかなり大きいですからね。それに周りに海も見えないですし。ほら海はあっちですよ。」
そう言って、マミヤさんが指差す方の彼方にクレーン数基と水門の様なものが見える。ドッグってあれだよな。船の保全やら建造やらするやつだよな。そうかドックだったのかここ。言われてみれば、潮の香りがしないでもない。また灰色の船体に目をやってみる。確かに船と言われれば船にしか見えなくなってきた。なんかすごい形だよな。上のほうとかかなり反ってるし。なんの船だこれ。
ん。まてよ、そんなことより、あの男の事、マミヤさんなんて言った?
艦長……!?
ここで書き溜め終了っぽい。
はっやーい()
一レス毎の分量多いからしかたないね
乙
乙
乙
期待
続きはよ
すまぬ(´・ω:;.:... 忙しくて書けてなかったもうちょい待っちくられ
待ってる
書けるときに書いてくれればええんやで
待ってる
こういうスタンスのは初めてで面白いな
待ってくれてる人申し訳ない(´・ω・`)
今週中には書けると思うのですなのです。
了解、引き続き潜行を続ける
待ってる
待ってる
待ってる
舞ってる
∧_∧ ♪
(´・ω・`) ♪
( つ つ
(( (⌒ __) ))
し' っ
♪
♪ ∧_∧
∩´・ω・`)
ヽ ⊂ノ
(( ( ⌒) ))
c し'
もう無理っぽい?
まだ生存報告から一月も経ってないから、ゆっくり待とうよ
待ってる
待ってる
もう無理でち?
落ちちゃうぞ!
待ってる
保守
このSSまとめへのコメント
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