主人公 「ボクはどこにでもいる高校二年生」(仮)(28)

平穏な日々─

今日は塾に行って、それから帰りにコンビニへ寄る。漫画雑誌を買うためだ。
その後、帰宅した。

主人公母 「ご飯あるから食べなさい」

主人公 「うん」

主人公母 「ご飯食べたら、お風呂入っちゃいなさい。もう直ぐ、お父さん帰って来るから」

主人公 「うん」

主人公母 「そういえば…塾の模試はどうだったの?」

主人公 「まぁ…普通?」

主人公母 「…そう。あ、食べたら食器はシンクに入れといてね、洗濯してくるから」

主人公 「うん」

ただ何となく漫画本を読み、ごろごろする。特にする事も無く、TVを見たりしてだらだら過ごす。

主人公 「メールは2件か。返事返して寝るか…」

布団に入り、寝転がりながら返信をして眠りにつく。就寝。

登校、教室にて─

主人公 「うーす」

友人A 「うーす」
友人B 「うーす」
友人A 「昨日あれ見た?この前話してたやつ?」

主人公 「あ、忘れたわ」

友人A 「そっか、面白かったのに。録画してた?」

主人公 「いや」

授業は普通に続く。そして休み時間。

友人A 「そう言えば、隣のクラスに転校生が来たんだって?知ってたか?」

主人公 「ううん」

友人A 「何か美少女らしいんだけど、隣に桐山って居るじゃん?いつも変な事やってる。そいつの知り合いだった
     らしくて、クラスは結構騒ぎになったらしいぜ?」

主人公 「へー、そうなんだ」

友人A 「後で見に行ってみないか?」

主人公 「あー俺は良いや」

何事も無く、学校は平穏無事に過ぎ、主人公は帰宅する。

通学途中、友人Aと二人─
ドガーーーーン!!!

友人A 「おい、今何か凄い音しなかったか?」
主人公 「したな、何だろ?」

女 「ちょっと待ちなさい!私から逃げられると思ってんの!!!???」
桐山 「ご、誤解だって!!!まてまてまて!!その棒を下ろせ!振り下ろそうとすんな!」

友人A 「ナンだあれ?ん?あいつ、隣の桐山じゃね?」
主人公 「そうだな…なんだろ?喧嘩かな?」

女 「くっそ!何て逃げ足の速い!!!待ちなさいこらっ!!!!」

主人公 「すげー早い。陸上の選手か何かなのかな?」
友人A 「どうなんだろ?あ、おい、遅刻するぞ!」
主人公 「あ。やべー走るか!」

遅刻はせずにギリギリセーフ。
数学の授業中当てたれたが、塾でやってた所なので無難に答える。

昼ごはんは学食で友人Aと食べる事になった。
朝の変な女と、隣のクラスの桐山が学食で、また騒いでたので中庭で友人Aと二人でパンを食べながら、昨日のTV
の話をする。朝の変な女は転校生らしかった。その後、授業を普通に受け、帰宅した。

帰宅後、主人公自室─
コンコン。参考書の問題で悩んでいると、ドアをノックする音が聞こえた。

妹 「にーちゃーん」

主人公 「うーい。開いてるぞー」

妹 「辞書貸してくんない?」

主人公 「そこの棚にあるから持ってって良いよ。そそ、その図鑑の隣」

妹 「あんがと、じゃねー」

主人公 「あ、そうだ。この前貸した漫画早く返せよ」

妹 「まだ途中なんだよね」

主人公 「早く返せよ」

妹 「あいよー。」

母 「二人ともーごはんよ、早く降りてきなさい」

主人公 「わかったー」
妹 「今行くよー!」

今日のご飯はカレー。特に隠し味とかもない、ごく普通の家庭のカレー。

その後、部屋で漫画を読む主人公─

主人公 「ん?」
今は夜、窓の外を翼の生えた女が猛スピードで横切ったような気がするが…。
現実的に考えて、鳥かなんかの見間違えだと思う。たぶん、そう。そんな事はありえない。漫画じゃあるまいし。

主人公 「あれ?三巻どこやったっけ…?ベッドの下じゃないし…妹に貸してる漫画は違うし…あ」

友人A 『あいあい』

主人公 『○○の三巻、この前、俺んチに来た時に持ってったよな?』

友人A 『あーうん。必要か?だったら、明日持って行くけど?』

主人公 『そうしてくれ』

友人A 『あいあい』

夜のコンビニ、喉が渇いた主人公、コンビニに来る。

主人公 「お茶でいいかな…あとポテチかな…」

急に強く吹く風。この季節には少し肌寒い風。
ひゅうっと一陣の風に、雲に隠れていた月がはっきり見えるようになって周囲を明るく青白く照らす。

主人公 「え!?」

見上げた目に映ったのは、大きく光る月を背景に跳ぶ、翼の生えた女の子。
嘘だろ?!と思ってもう一度見ようとしたら、強い風でゴミが目に入って見えなかった。多分、飛行機の見間違えだ
なって言うことで納得した。UFOの目撃談もその手が多いし。そもそも、空を飛ぶ女の子なんて居ないし。

三日後、学校で事件があった─

何者かが夜の学校で暴れたらしく、体育館は半壊、校庭もぼろぼろだった。
友人Aの話によると、どうも転校生の女と隣のクラスの桐山が関係しているらしく、更にもう一人の女の生徒も関係しているらしい。
学校側はこの事を公に出来ないらしく、警察消防などは来なかったらしい。らしいらしいで怪しさ満載なのだが
噂話を又聞きの又聞きらしいので、その辺りは特に気にしなかった。噂話など、こんな程度だ。

私立の学校なので、資金は潤沢で、校舎はそれほどかからずに修復されるとの事。期間は一週間とか。
「あれほどの被害なのにやけに早いな…」と思ったけど、土木関係は詳しくないので、ボクが知らないだけで、一般的にその程度なのかもしれない。
一週間休校になるらしいので、ボクはその間、塾の特別講習を受ける事にしたのだが…ここで重大な事件が起こった。インフルエンザに罹ってしまったのだ。

つらい一週間を送る。
ボクのインフルエンザが治ると同時に、学校も直って、また普通に通う事になった。
すっかり元通りになった学校を見たが、そんなもんだなってって事しか浮かばなかった。土木関係には興味ないし。
長期休みになると、さぼりがちになったりサイクルが狂ったりするので、若干のサボり癖があるボクにとっては、早く直ってくれた方が良い。

休み時間中、その1─

他愛も無い雑談をしている途中、友人Aが唐突に言った
田辺 「俺の苗字、田辺って普通過ぎるよな?」

主人公 「そうか?普通で良いじゃん。変な苗字じゃなくて」

田辺 「オマエも普通の苗字だから、特別な苗字とかにさ、あこがれとか無いの?漫画っぽいやつとか?」

主人公(佐藤)「いや特には…佐藤って苗字は別に嫌でも無いしな。」

田辺 「ふーん…そんなもかね。そう言えば…となりの転校生の話だけどさ」

主人公(佐藤) 「うん」

田辺 「ハーフらしいぜ?」

主人公(佐藤) 「へぇ~珍しいな、こんな田舎なのに」

田辺 「でさ、名前がこの前聞いたんだけど、イリエス・あいか・フランダージュって言うらしいぜ?」

主人公(佐藤) 「アニメみたいだな」
田辺 「だよな」

だだだだだだだだ!!!!!!!
イリエス 「こらー!!!!待ちなさいっての!!!」
桐山 「待てって言われて待つ馬鹿がどこに居るんだっての!!」

田辺 「いっつも走ってるな、あいつら…」
主人公(佐藤) 「ああ、疲れないのかね…てか、次移動授業だろ?移動すんぞ」

休み時間 その2(午後)─
友人Aと購買近くの自販機でジュースを飲みながら、他愛も無い雑談中。

女生徒 「佐藤」

主人公(佐藤) 「あ、加藤先輩」

田辺 「あ、どもっす」

加藤 「たまには部活顔出しなさいよ」

主人公(佐藤)「すいません、幽霊部員で」

加藤 「まぁ、部員の数が少ないからね。居るだけでも助かってはいるんだけど…」

主人公(佐藤)「その内、顔を出します」

加藤 「頼むね。じゃ、田辺君もまたね」

田辺 「はい、またっす」

田辺 「まだ在籍してたんだ、書道部」

主人公(佐藤)「なんとなくね、無部活ってのも何か印象悪いし」

田辺 「推薦とか取ろうとしてんの?」

主人公(佐藤) 「取れりゃ良いけどね…五分って所だろ」

田辺 「…ふーん」

それから数日後の放課後─
田辺と本屋に寄って帰ろうかと話ながら帰ろうとしたとき、廊下の窓から中庭を何気なく見る。

主人公(佐藤) 「なぁ?あれ何やってんだ?」

田辺 「さぁ?…何か配ってるのか?」

主人公(佐藤) 「あれ、のぼりの旗みたいの持ってるのって隣の桐山じゃね?」

田辺 「だな。ん?…同好会員募集中?なんだあれ?」

主人公(佐藤) 「隣に居るの、転校生のイリエスって奴じゃね?…もう一人居るな」

田辺 「あれ、三年生の若ノ宮千奈津じゃね?一年の時、生徒会の総務委員会で見かけた事あるぞ、…あ」

主人公(佐藤) 「なんか、制服無理矢理脱がされそうになってんな」

田辺 「あ、何か桐山吹っ飛んだ」

主人公(佐藤) 「あの吹っ飛び方、死んだんじゃね!?…あ、起き上がった…てか、全然怪我してない…」

田辺 「…なんなんだ?あれ…あ、光った」

主人公(佐藤) 「あれ?全員いなくね?」

田辺 「…いねーな…何だったんだ?」

何をやってたのか?たぶん何かの勧誘だろうが、その後に何があったのか意味も解らず、本屋へ向かう。
目当ての漫画の単行本は売り切れだった。

二週間後、主人公(佐藤)─
幽霊部員と化してる書道部に久しぶりに顔を出す

主人公(佐藤) 「こんにちわー」

先輩 「ん?…珍しいな」

主人公(佐藤) 「あれ?加藤先輩一人だけですか?」

加藤 「まーね」

主人公(佐藤) 「相変わらずやる気の無い部活ですよね、ここ」

加藤 「佐藤君が言う?、それ?…てか、ちょっと書いてく?」

主人公(佐藤) 「そーですねぇ、最近塾で忙しかったから、腕がなまってるんで書いて行きます」

─。

加藤 「んー、相変わらず普通だよねぇ、君の字。特別上手いわけでも、下手でもない。普通中の普通」

主人公(佐藤) 「別に上手くなろうとしてる訳じゃないですしね、普通が一番です」

加藤 「…普通が一番ねぇ…」

主人公(佐藤) 「でも、先輩の字は女っぽいですよね」

加藤 「女だしね…てか…」

加藤 「あのさ、ちょっと良い?」

主人公(佐藤) 「はい?」

加藤 「唐突なんだけどさ、最近さ、何かさ」

主人公(佐藤) 「はい」

加藤 「君の周りで変な事、起こってない?」

主人公(佐藤) 「…変な事ですか?」

加藤 「そう」

主人公(佐藤) 「変な事…変な事…特には思い当たりませんね」

加藤 「本当にそう?」

主人公(佐藤) 「そんな真剣な顔で聞かれても…」

加藤 「良く思い浮かべてみてくんないかな?最近の事」

主人公(佐藤) 「…」

加藤 「…」

主人公(佐藤) 「あ、そう言えば」

加藤 「…そう言えば?」

主人公(佐藤) 「最近、隣のクラスが騒がしいと思います」

加藤 「うん」

主人公(佐藤) 「転校生のイリエスって人でしたっけ?その人が来てから、騒がしいような気がします」

加藤 「うんうん」

主人公(佐藤) 「桐山と何か何時も騒いでるような…」

加藤 「それで?」

主人公(佐藤) 「それだけです」

加藤 「それだけ?」

主人公(佐藤) 「はい、それだけです」

加藤 「…はぁ」

主人公(佐藤) 「いや、そんなメガネ取って、目頭押さえてまでがっかりされるような事、俺言いましたか?」

加藤 「…」

主人公(佐藤) 「先輩?」

加藤 「あ、ごめんごめん」

主人公(佐藤) 「なんですか、これ?」
加藤 「なんなんだろね…ホントに」

加藤 「…」

主人公(佐藤)「先輩?」

加藤 「ああ、ごめんごめん。…ところで、時間は良いの?」

主人公(佐藤) 「あ、そろそろ帰ります。バスの時間、これ以上過ぎると遅くなるんで」

加藤 「はいはい」

主人公(佐藤) 「先輩は帰らないんですか?」

加藤 「私はほら、片付けとかあるし…もうちょっと遅くなるかも」

主人公(佐藤) 「じゃ、帰ります」

加藤 「たまーーーーにじゃなくて、ちょこちょこ顔は出しなさいよ。幽霊部員でも学校の規則である程度の活動がないと部員として認められないんだから」

主人公(佐藤) 「はい、じゃぁまたです」

加藤 「はいよー」


書道部の部室は旧校舎棟にある。二階建て木造建築なのだが、造りがしっかりしていて、手入れも行き届いてるので
見た目よりはずっと、綺麗で使い勝手も良い。現在は、小さすぎるその棟は教室としては使用されていなく、文化部の部室として使用されていた。
その一階に書道部は位置し、畳敷きになっており、外の小さな日本庭園風の庭を望む事が出来る。
その部室、そろそろ日が傾き、夕日になろうとする淡い光の差す部屋の窓際に立って、書道部部長、加藤理沙は外を眺めている。
視線の先には、主人公(佐藤)が居て、校門を出ようとしていた。それを見やってから、時計に目を移し、呟いた。
「…一時間後か」

書道部部室─主人公(佐藤)が帰宅後、1時間後─

加藤 「はぁ…」

イリエス 「なんなのよ、これ。理沙ちん」

加藤 「私が知りたいわよ、てか、私も誰かに教えて欲しい所なんだけど」

桐山 「どこかで変になってる事は確かなんだよな…」

加藤 「まぁねぇ…」

若ノ宮 「どこかで間違ってる事は確かなんですけど…」

イリエス 「ねえ、理沙ちん。この世界線軸上では必ず上手く行くって言ったのはあんたでしょ?」

桐山 「俺が代役やってんのも、無理が来はじめてるぞ、理沙」

イリエス 「藤吾さ、何か喜んでやってたように見えるんだけど?」

桐山 「はぁ?俺が?お前相手に?ふざけんなよ!?」

若ノ宮 「はいはい、そこ、喧嘩しない」

加藤 「桐山君にはすまないと思ってる。でも、数限りない世界線軸上、パラレルワールド上で、イリエスと佐藤君
    が生きてる世界ってのは、ここしか無いのは確かなのよ、管理局のトップデータベースを参照したんだから。
    でも、事象の交差点で、イリエスと佐藤君は見事に交差しない。」

イリエス 「…」

加藤 「あたかも、物語の脇役のごとく、メインであるはずのイリエスと佐藤君の代役の桐山君の状態を傍観してるだけ」

桐山 「…んー」

若ノ宮 「完全に物語の脇役ですよね、これ。彼が主人公であるはずなのに」

イリエス 「…やり直せないの?」

加藤 「もう一回、世界をなぞる事は出来ない。私たちは失敗しすぎている」

イリエス 「でも!!」

加藤 「システムをもう一度稼動させる事はできる。ただ、枠組みが壊れる。つまりこの世界の位置情報が崩壊して
    断片的な情報に霧散、そして各世界線軸上にちらばっていくのは確か。そうしたら私たちも…」

イリエス 「…」

桐山 「例えば…たとえばの話だぞ?他の世界のを犠牲にして、この世界を補填する事は?」

加藤 「それは無理」

桐山 「どうして?」

加藤 「それは…」

若ノ宮 「細かい説明は省くけど、遠すぎるのよ、この世界は他の世界から。だから、他の世界からも独立というか唯一であったって事でもあるんだけどね」

イリエス 「他に手は無いの?」

加藤 「…」

桐山 「強制介入…」

加藤 「桐山君、この前の事、忘れたの?」

若ノ宮 「強制介入じゃなくて、ちょっとした介入をしようとしただけでも、あれですよ?トレイサーに察知されて
     私たちが消されそうになったじゃないですか。あれは未だ独立収集型だったから良かったものの、通信型
     のトレイサーだったら、今、私達居ないよ?」

桐山 「じゃあ、どうすりゃ良いんだよ?このまま続けるのか?近いうちに破綻するぞ?」

加藤 「とりあえず二人とも落ち着いて。もう一度原点に返って状況を整理しましょう。イリエス、それで良い?」

イリエス 「…」

加藤 「イリエス?」

イリエス 「え?何?」

加藤 「大丈夫?」

イリエス 「…ええ、状況の整理だよね?」

加藤 「本当に大丈夫?」

イリエス 「大丈夫だから、初めて」

加藤 「わかった…それじゃあ、始めましょう」

20XX年、8月31日─

夏の終わりのその日、一人の少年と一人の少女が交通事故で死んだ。

少年の名前は、佐藤宗一
少女の名前は、イリエス・あいか・フランダージュ

普通に生きてきた少年と少女の命は同じくそこで失われた。たった17年間の命。
しかし、それは大きなニュースになる事も無く、毎日起きる交通事故の話に紛れ、周囲に起こした小さな波紋は広がる事無く消えた。
─たった一つの事柄を除いては。

序章 「何事もない平穏な日々」終


ストーリータイトル 【ロスト・インターセクション】

次回、第一章

期待

期待age

─第一章─ 「交差点の関係者たち」

 午後七時半過ぎ。日は落ち、校舎内には既に人影は無かった。部活動が盛んなこの私立志成崎学園であっても、この時間では
既に生徒は居なかった。旧校舎、書道部部室に居るイリエス・あいか・フランダージュ、加藤理沙、桐山藤吾、若ノ宮千奈津の四人
を除いては。

「最初に、強制介入は最終手段として除外します。桐山君、それは了承してくれますか?」
「ああ、俺もトレイサーに消されるのは良いと思ってないさ。最終手段で良い。」
背筋をピンと伸ばしつつ正座を崩さず告げる理沙に対して、桐山は手を挙げて答える。横柄な態度に見えるが、見えるだけで、桐山
のそれはそれとは違う所と言うのを、理沙は既に理解していた。
「それは重畳。」
茶々を入れる風に言いながら、猫のように少し笑いながら桐山を見る若ノ宮を視線で制しつつ理沙は続ける。
「私達の最優先事項は、彼、佐藤宗一君の自分自身への物語、つまり本来あるべき彼の人生への復帰を彼に悟られないようにしつ
つ行う事です。ただし…彼への強制介入、つまり積極的な彼への接触、"事象へのアプローチ"、等をするとトレイサーが現れます。」
「理沙…トレイサーって何なんだ?他の世界では見なかったよな?強制介入を阻む物って言うのは解るんだけど。」
窓際の壁に近づいて、どかっと腰を下ろし胡座をかきながら桐山は尋ねた。
「ああ、桐山君は周回が浅いから未だちゃんと説明してなかったわね。…解りやすく言うとね、『運命管理人』。人じゃ無いんだけどね
…」
「運命管理?」
「解りにくい物だから運命に例えただけだけど…それが一番理解し易いと思う。決まった運命のラインを動かす物を排除する物。だか
ら運命管理人。この世界はイリエスと佐藤宗一君が生きてる世界。これは決まった運命だから、トレイサーが出てくる事は無い。でも
、イリエスと佐藤宗一君が事象上、交差する世界では無い。それを能動的に交差させようとするとトレイサーが現れて、排除される。
だから強制介入は出来ない。強制加入をしない方法で、別のラインを立てて、つまり桐山君を代役に立てて、それに自然な形で佐藤
宗一君を挿げ替える計画だったんだけどね…」
「それが出来ないと、私たちも消える。」感情を込める訳でも冷徹でも無く、淡々と若ノ宮が言う。
「そう、イリエスと佐藤宗一君はこのままだと、交差する事は無いけど普通に生きて行ける事が出来る。」
「…それは」イリエスは何か言おうとして言えなく、伏し目がちになり視線を逸らすが理沙は続ける。
「私は理解してるよ、大丈夫。つづけるよ?」
「…うん」

「イリエスと佐藤宗一君は事象、つまり運命を交差させると8月31日に必ず死亡する。それは事象の自然交差世界で私は何度も確
認した事。事象が交差すると、私たちは消えない。けど貴方達が死ぬ。事象を交差させないと私たちが消える。つまり、イリエスにと
っても私達にとっても、事象を交差させつつ、貴方達を死なせないという方法を取らなくてはいけない。彼への積極的介入を無しにし
てね」
「私達にはイリエス達を見捨てるって方法もあるけどね。」
「千奈津!」
「冗談だって、そんなに怒らなくても」
「でも、それは危険な賭けなんだろ?理沙?」ぞんざいな言い方をした若ノ宮を無視しつつ桐山は会話を続けた。
「管理局のトップデータを参照したと言っても、全てを参照した訳じゃない。私が知らない何かがあるあもしれない。それにイリエス達
の事象と、私達の事象がこんなにも重なってるのも『そうなんですか』って言って直ぐ納得出来る物じゃない。私達は、イリエス達が亡
くなった世界の2週間後位までしか知らない。それ以降に私達が消えるって可能性もある。」
「どっちにしろ、一蓮托生なんだよな」
そう言いながら畳の上に大の字になる桐山をため息一つ吐きながら見やって、理沙は気持ちを入れ替えるように言った。
「だから、私達はこれをやり遂げなくちゃいけない」

「なぁ、ところで、理沙。ここには警備員とか周って来ないのか?」
旧校舎と言えど、校舎の一部。学校の運営が終っていて、警備員が回っていてもおかしくは無い時間。警備員が回ってる様子も無く
セキュリティが動いてる様子も無い。不思議に思っても無理は無く、桐山は理沙に尋ねる。
「ああ、それは…」
理沙が言いかけた所で、静かに部室の扉が開いた。4人に緊張感が走っる。しかしそこから入って来たのは、若ノ宮千奈津だった。
ただ、服装と年齢が少し違うようで…。
「あら、みんなで集まって秘密談義?駄目な生徒さん達ねぇ…加藤さん?」
「理事長」
「あ、ママ」
「遅くなって御免なさいね。理事長の仕事が長引いてね。もう"事象の交差点"の会議はもう終わった?」
そう言って妙齢の女性、若ノ宮千恵理は静かに微笑んだ。

面白い、期待

「とりあえず、これね。腹が減ってはなんとかって言うしね。私の分は気にしなくて良いわよ?来る前にちょっと摘んで来たから。ああ、
そうだ、加藤さん、ちょっと給湯室借りるわね。」ビニール袋に入った荷物を置くと、若ノ宮千恵理はこれと言って気にする事無く、部室
備え付けの奥手にある給湯室に消えていった。「ああ、そう言う事か」と聞く間も無く納得した桐山は袋に手を伸ばす。千奈津も持参さ
れた荷物に手を伸ばし、それぞれ好きな物が無いかと探し始めた。
「イリエスは何か飲まないの?」
持参された荷物に手を付ける事無く、思案気に給湯室に目を向けるイリエスに理沙が問いかけると、イリエスは思い出したように理沙
に「じゃあ…」と微笑み返し、袋の中からオレンジジュースを二本取り出し、一本を理沙に渡した。
「はい、理沙」
「ありがと…ねぇイリエス?確かに状況は厳しいけど、思い詰めない方が良いわよ。未だ時間はあるし方策が全く無い訳でも無いし」
「それは解ってるよ…大丈夫」
 桐山と千奈津がどちらがどのパンを取るかで揉め始めようとした時、若ノ宮千恵理が給湯室から、湯飲みに入ったお茶を持って、再
び姿を表した。「それで、お話は何処まで行ってたのかな?加藤さん?」
桐山が座布団を差し出し、若ノ宮千恵理はそれを受け取りながら、四人より少し離れた位置に座って傍らに湯のみを置いた。
「今、現状を再確認してた所です。そして、理事長が来るのを待って、これから今後の対処の方法について話そうと思っていました。」
「なるほどね」
「あのー…すみません、理事長」
「何?藤吾君」
「前から思ってて、これからの事にも関係して来るんですけど、転校して来たイリエスを佐藤宗一のクラスにしなかったのは、何でなん
ですか?そりゃあ、強制介入的な事は出来ませんけど、理事長の立場を利用すれば、それなりに…というか…何か出来なかったん
ですか?それさえ出来れば、こんなには苦労しないと思うんですけど…そんなのは理事長は百も承知でしょうけど、俺にはいまいち理
解出来なくて」
「うん、藤吾君の言う事も、もっともだと思うよ。でも、この学校のあり方上の理由で、それは出来なかったのよ。この学校は私立で、
一応、理事が一番上に居るんだけど、理事及び理事会は学校の運営の部分を負ってて、学校の大きな方針とか、それに付随する教
諭の雇用とかは出来るんだけど、教育の方は先生に任せる。転校生がどのクラスに行けば適切か?とかの判断もね。これは伝統で
受け継がれて来たから。漫画とかドラマにあるような、理事長が絶対的権力を持ってるとかでは無いの。」
「ちょっと…藤吾はそんな事も知らないでやってたの?信じられない…」
「うるさいな!知らなかったんだよ…俺は未だ"浅い"んだから仕方ないだろ。」
「二人とも、話を先に進めていいかな?」
口喧嘩を始めようとする二人を理沙は制し、持っていたペットボトルの蓋を閉め、時間を確認しつつ皆に向き直った。二人はバツが悪
そうにそっぽを向くが、千恵理のゆるやかな視線に促され、前に向き直った。

「理沙、整理のついでに時系列の確認をして良い?」
先ほどのバツの悪さを消すように、千奈津が真面目な顔をして言った。
「全員の思い違いがない様に、通常並行世界の時系列の再確認をお願い。掲示板に書き出してくれるかな?それを元に、これまでと
これからの事を話しましょう。」
「解った」
部室の壁に備え付けのホワイトボード型掲示板に向かい、そこにあったペンで時系列を書き出す。

【4月】
・新学期、全員進級し、佐藤宗一のクラスにイリエスが転校して来る。
・イリエス、同好会を立ち上げる。佐藤宗一、なし崩し的に巻き込まれる。
・順次、佐藤宗一と同じクラスの桐山藤吾、私が巻き込まれる。
【5月】
・GW、同好会親睦会兼勉強会と称して、遊びに出掛ける。
・GW明け、生徒会より、同好会として認められない事が告げられ、認められる為に奮闘する。
・中間テスト
【6月】
・生徒会より、同好会として認められる。
・認められると同時に、部室探し騒動が起きる。
・その結果、佐藤宗一が元々所属していた書道部が、同好会兼書道部部室になる。同時に加藤理沙、同好会に参加。
【7月】
・期末テスト
・佐藤宗一、塾の夏期講習。

「ねぇ?…8月も全部書く?」ここまで書いて筆を止めた千奈津は、イリエスの方を見て、静かに頷くイリエスを確認すると筆を進めた。

【8月】
・初旬、同好会夏合宿
・8月31日、イリエス、佐藤宗一、交通事故に遭って死亡。

「これが通常並行世界の、言ってみればイベントテーブルだね。細かい所は省いて大きな所だけ書き出したから。」

「書いてて、思ったんだけどさ、イリエスには悪いけど、やっぱりこれって何かのラブコメ漫画とかラノベみたいだよね。」
千奈津はペンを置き、腰に手を当てながら書き上がった掲示板をもう一度見回す。
「まぁ、…確かに言われてみれば、何処かで見たような感じもする流れだよな。これだって特定の物を指せる訳じゃないけど。」
藤吾も腕組みしながら同じく掲示板を見て、呟く。
「今となっては、イリエスに何でこんな流れを辿ったのか聞いても意味無いですし。イリエス自身も、もう詳しくは覚えていなでしょう。重
要なのはこれからの事です。さぁ、続けましょう加藤さん。」
お茶を飲みながら千恵理はイリエスの方を向いて微笑む、イリエスはその微笑に上手く返そうとしたが、上手な笑顔にはならなかった
そんな二人の様子を視界の端に感じなら、理沙は立ち上がり、掲示板の方へ向かい、千奈津と入れ替わって、その場に立った。
「通常並行世界に照らし合わせると、現在の世界は"4月の第二イベントから第三イベントの中間程度"に当たります。イリエスの転校
が終わり、そして同好会設立後の時期です。私達は現在失敗途中です。大きなイベントは既に二つ逃しました。次来る大きなイベント
は、GWの親睦会兼勉強会です。このイベントに来るまでに私達は強制介入では無い、何らかのアクションを起こさなければいけませ
ん。」
「それの案は何かあるの?」
「あ、ママ、それには私に案がある。」
理沙の隣に居た千奈津はカバンからノートを取り出し、ペラペラと捲り出し、目的のページを見つけると理沙に差出し示した。
「私もそれは考えていたのよ」
「そっか、次に打つとしたら、これしか無いものね」
「何なんだ?」訝しげな表情を浮かべる桐山。
「掲示板には大きなイベントしか書き出してないけど、細かいイベントが無数に存在するの。それを利用する。GWの親睦会兼勉強会
があるんだけど、それはきちんと集まって決められた計画ではなく、同好会の活動後に喫茶店に集まった時に、雑談で唐突に出てき
た話なのよ。」
「でも、それはこの世界では、佐藤宗一と何ら関係無いよな?」
「確か直接的には関係無い。そもそも佐藤宗一君はこの世界では今だ同好会に関わっている訳じゃないしね。でも、今回重要なのは
話し合いが持たれた事じゃなくて、話し合いが持たれた場所が重要なの。」
「場所?」
「そう、佐藤宗一君の通ってる塾は、通常並行世界も、この世界も同じ塾なの。」
「…あ」思い出したようにイリエスは呟いた。それを確認したかのように微笑んだ理沙は続ける。
「その雑談が行われた喫茶店って言うのが、佐藤宗一君が通ってる塾に行く通り道にあるのよ。そして、この世界の佐藤宗一君も時
々顔を見せる事がある。つまり、ここが次の"事象の交差点"に成る可能性があると言える所なの。」

まだー?

待ってる

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年04月22日 (火) 19:21:37   ID: 8xcG8aM9

気になる……

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