あらすじ:都落ちした義経主従は大物浦にある船宿渡海屋に隠れていた。そこへ北条時政の家来、相模五郎と入江丹蔵が追手としてやってくる。手荒な事をする二人を渡海屋の主である銀平が懲らしめる。しかし、実は銀平は平知盛で、その娘のお安はひそかに助けていた安徳帝であった。世間を欺き、義経を討つ機会を狙っていた知盛はついに動き出すが…
出演
渡海屋銀平 実は新中納言知盛:高槻やよい
女房お柳 実は典侍の局:水瀬伊織
相模五郎:天海春香
入江丹蔵:日高愛
銀平娘お安 実は安徳帝:高槻かすみ
武蔵坊弁慶:我那覇響
源九郎判官義経:四条貴音
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第一場 渡海屋内の場
愛「亭主は居ませんかー!!!亭主亭主!!!」
「そんな大きな声を出さずとも聞こえております。今そちらへ参りますのでお待ちください」
春香「…」
伊織「申し訳ありませんが、今亭主の銀平は出かけております。私は銀平の女房、お柳でございますが、あなた様は一体…」
春香「私は北条の家来、相模五郎と申す者よ!義経主従を討つために西国までわざわざ来たってわけ。だけど最近の雨のせいで海を渡るための船が全然ないの。でもここならすぐにでも船を出せるって聞いて来たの。さあ、私達の為に船を出してもらいましょうか!」
伊織「確かに、それなら今すぐにでも船を出したいのですけれども…奥のお客様も二、三日前からここに御逗留しておられます。先にあなた様方を船に乗せるということはさすがに出来かねます…もう少しだけ待っていただけませぬか?」
春香「黙れ黙れ!私の言うことが聞けないって言うの!…はは~ん、わかった。あんた達平家の人間でしょ!」
伊織「な!?なぜそのような言いがかりを!」
愛「それなら義経由縁の者ですか!!!」
伊織「そ、そのようなことは…!」
春香「それならさっさと奥の客のところまで案内しなさい!!あんた達が借りる船を私達によこせって直接言ってやる!!」
伊織「お、おやめください!」
春香「それならさっさと船を出しなさい!!」
伊織「そ、それは…」
春香「さあ!」
伊織「さあ…」
はるいお「さあさあさあ!!」
春香「女返事はナナなんと!!」
愛「早く案内しなさい!!!」
春香「これ以上は我慢の限界だよ!!こうなったら無理やりにでも!!」
伊織「何をなさるのです!や、やめて!」
「お待ちなさい!」
春香「痛い!」
愛「うわ!?」
春香「ぶ、武士に向かって何をする!」
やよい「いえ、何も致しませぬ。女にあのような仕打ちをするとは随分と大人げない人達ですね。私はこの船宿の主、渡海屋銀平でござりまする。なぜこのような事をなされたのですか?」
春香「私は相模五郎と申す者!義経主従討手のために九州まで船を使って行こうと思ったけど、ここ最近の雨のせいで船が借りられなくてね。それで奥の客が借りる予定の船を私達が借りようとしてたところだったのよ」
やよい「なるほど、わかりました…他のお客が借りようとしている船を無理に借りようとするなんて、いくらなんでも道理が立ちませんよ。お客様の居るお座敷へ踏み込まれてはこの宿の亭主である私の顔が立ちません。残念ですが、今日はもうお帰りくださいませ」
春香「武士に向かってよくもそのような口を…力づくでも船を借りてやる!丹蔵!」
愛「ははぁ!!!」
やよい「…もう了見なりません!!!」
春香「痛い!!」
愛「わあ!!」
やよい「町人の家は武士の城郭と同じなんです!!!その敷居の中へ無理矢理入ってきたと思ったら、今度はその刀で誰を斬るつもりですか!!!平家の余類だ、義経の縁だと旅人を脅すんですか?さあ、ビクとでも動いてみなさい!!素頭みじんに走らかし、命をとり楫この世の出船!きりきりここを立去りおろう!!!」
春香「うわあ!?」
やよい「ふん!!!」
春香「よくも、よくも酷い目にあわせたな…」
愛「ものの見事に投げられましたね」
春香「投げられた?な、投げられてなんかないよ!えっと…こ、この敷居につまずいて転んだだけ!!」
愛「そ、そうですか…」
春香「こうなったら、この刀で真っ二つに!…あれ、刀がない。ど、どこに…」
愛「お刀やーい!!!」
春香「ふざけてないで早く見つけて!!」
愛「あっ!!ありましたよ!!!」
春香「ありがとう…ってあいつ武士の魂を、こんな釣り針みたいに曲げて…あのまっちょちょんめ!!!くそぅ…ちょっと石持ってきて」
愛「はい?…これでいいですか?」
春香「これでいいよ…これをこうして…叩いて…鞘に入れてっと」
愛「納まっておめでとうござりまする!!!」
春香「銀平!!…いやさ、ぎんぽうさんまめ!いわしておけばいい蛸思い、さめざめのあんこう雑言、いなだぶりだとあなごって、よく酷い目ざしにあわびだな!」
愛「さばあさりながら、なまこのわたにけいずというのはにくじらしい!せめてものはら伊勢エビに、この一太刀魚!かましてやりイカ!!!」
春香「アコレ!シャチほこばって、めばるなめばるな!」
愛「そいじゃこ申して!」
春香「かれこち言わずに、はぜまぁ鯉鯉。この返報は必ずキスと!」
やよい「どうしたと!!」
春香「あ、ああ…ハヤサヨリナラ」
愛「酷い目にあいましたね」
春香「はあ…もうやだ…帰ろう」
愛「そうですね…」
やよい「口ほどにもない弱い侍だったね…でも、さすがにこれ以上奥のお客様をここに泊めてはおけませんね…そろそろ天気も良くなるころでしょう。私は出船の支度をしてくるから、その事をお客様へ言っておいてね」
伊織「ええ、わかったわ」
やよい「頼んだよ…」
伊織「…もう出てきても構いませんよ」
貴音「…ありがとうございました。銀平のおかげでなんとか西国へ下れそうです。褒美の一つもあげたいところですが、今わたくしは兄頼朝から追われる身…あるに甲斐なき身の上ですね…無念です…」
伊織「ありがたきそのお言葉、夫が聞けばさぞ喜ぶことでしょう…先程のような追手が来る前に早く船に乗るのが良いでしょう」
貴音「ですが、この天気で船を出して大丈夫なのですか?」
伊織「大丈夫よ。船と日和を見ることは夫の仕事だもの。夫が晴れるといえば晴れるし、雨が降るといえば降るっていうくらい、夫の日和見は当たるのよ。船と日和を見る事に関しては大名人って言っていいわね!にひひっ!」
貴音「本当に仲が良いのですね」
伊織「えっ…あ、当り前よ!…ちょっと無駄話をしすぎたみたい…そろそろ準備も出来るころだから、船場まで案内させましょう」
貴音「では、船場へ行きましょう」
伊織「大切な御身の上、暫しの内もお姿を…」
貴音「そちが情に義経が、身のかくれ笠隠れ蓑、心遣い忘れはしません」
伊織「随分共に、ご機嫌よろしゅう」
貴音「過分なるぞよ…」
伊織「……行ったわね……お安、お安」
かすみ「はい」
伊織「今日お父さんは侍衆を船に乗せる仕事があるの。だから寝るまでここにいなさい…準備が出来たら早く行きなさいよ。銀平殿…」
やよい「……渡海屋銀平とは仮の名前、新中納言知盛と今ぞ実名明かす上は、今こそ計画を実行に移す時…乳母である典侍の局を女房と言い、安徳天皇を我が娘と呼び奉り、時節を待っていましたが、ついにその時が来ました。今宵こそ怨敵、源九郎判官義経を討ち取る好機、この時をどれだけ待ったか…喜ばしい限りです!」
伊織「知盛、仕損じるんじゃないわよ」
やよい「大丈夫です。さっきの北条の家来の二人は実は私の手の者、全ては義経を油断させ、船中にて討ち取るための策略。でも、知盛が生きていて義経を討ったとなると、頼朝を討つ際に色々と面倒になります。ですから、このような死装束を着て、義経を討ったのは知盛の怨霊であると信じ込ませるのです。計画は万全です…ですが、もし船の提灯松明が消えた時は私が討死したと思ってください。その時は…」
伊織「わかってるわ…その覚悟はもう出来てる」
かすみ「知盛早う」
やよい「ははぁ!!!」
伊織「目出度き門出、祝って一さし」
やよい「はい…あれを見よ不思議やな…」
〽あれを見よ不思議やな 味方の軍兵の旗の上に 千手観音の光を放って虚空に飛来し 鬼神の上に乱れ落つれば 悉く矢先にかかって 鬼神は残らず討たれりけり
やよい「早おさらば!!!」
伊織「知盛、負けるんじゃないわよ…帝、私達も行きましょう…戦場に…」
第二場 大物浦の場
春香「御注進!御注進!」
伊織「待ちかねたわよ、相模五郎…戦況は?」
春香「かねて主君の手立の如く、船を出し義経が乗る船へ襲いかかりましたが、敵の反撃にあい味方の大半は既に討ち取られた様子…私はこれより、主君知盛卿の元へ行かなければなりません。おさらば!!!」
伊織「あの注進の様子じゃ、負けはもう決定的ね…知盛、無事でいて…沖の様子は…あれが味方の船…松明が消えた!?…知盛…」
愛「典侍の局…典侍の局…」
伊織「入江丹蔵ね、戦況は?」
愛「はい…既にお味方の負けは決定的…知盛卿も、海へ身を投げ出された様子…あたしはこれより御主君の、冥途の魁仕まつらん…」
兵士「ヤア!」
愛「悪いけど…あたしと一緒に冥途に行ってもらいますよ…ふん!!!」
兵士「グワアア!!」
愛「おさらば!!!」
伊織「丹蔵…知盛も、討死…覚悟を決めましょう…」
かすみ「乳母、覚悟覚悟と言って、わたしをどこに連れていくの?」
伊織「…よく聞きなさい、この日本には今、源氏って言う悪い奴らが大勢いるのよ。もうこの国には居られないの…でもあの海の下にはあなたのお父さんやお母さんが居る都がある…だから、私と一緒にその都へ行くの」
かすみ「そなたと一緒なら、どこへでも行くよ」
伊織「ありがとうござりまする…では、行きましょうか…」
「待て!早まるんじゃない!!」
伊織「な!?は、放して!!」
「早まってはいけません、典侍の局」
伊織「あ、あんたは…!」
やよい「はあ…はあ…我が君…典侍の局…」
兵士「ヤア!」
やよい「くっ!…邪魔だ!!」
兵士「グワア!」
やよい「はあ…はあ…我が君…典侍の局…どちらに…」
貴音「知盛卿」
やよい「義経!?いざ尋常に、勝負勝負!!!…くっ…はあ…はあ…」
貴音「知盛卿、死んだと偽ってでも帝を守り、平家一門の恨みを晴らそうとしたその心、天晴れです。帝の御身はこの義経が必ず守護しますから安心しなさい」
やよい「無念です…口惜しや!!!まさか計画が全てばれていたなんて…これも、天命なのかな…せめて一太刀…死んでいった一門への手向けにしてやる!!!」
響「知盛!!」
やよい「!?」
響「もう全部終わったんだ…大人しく諦めろ」
やよい「これは…数珠…私に出家しろとでも言うの?けがらわしい!!!…討っては討たれ、討たれては討つ、これこそ源平のならいのはず!!!生かわり、死かわり…恨み晴らさでおくべきか!!!」
かすみ「…わたしをずっと守ってきてくれたのは知盛の情、今わたしを助けたのは義経の情、義経を恨まないで知盛」
やよい「わ、我が君!?」
伊織「…ぐうっ!!」
やよい「典侍の局!?」
伊織「義経…さっきの言葉忘れるんじゃないわよ…我が君、義経、知盛、先に…行ってるわね…」
やよい「典侍の局…」
伊織「銀平…また…一緒に…」
やよい「……果報はいみじく、一天の主と生まれさせ給えども、西海の波に漂い海に望めど潮にて、水に渇せしはこれ餓鬼道…陸に源平戦うは取りも直さず修羅道の苦しみ…または源氏の陣所陣所に、数多駒の嘶くは畜生道…六道の苦しみを受けるのは、父清盛の悪行の報いか…」
貴音「知盛卿…」
やよい「私は、もう永くない…海の藻屑となって消えることにする…義経、大物浦で義経一行に襲いかかったのは、知盛の怨霊だと伝えてください…義経…」
貴音「君の御身はわたくしが守り抜きます。安心してください」
やよい「…昨日の敵は今日の味方…その言葉が聞けて、嬉しいです…ふふふ…あはははは!」
かすみ「知盛、さらば」
やよい「我が君…おさらば!!!」
やよい「はぁ…はぁ…平家一門の恨みは、私がこの錨と一緒に海の底に沈める…私が全部終わらせる…くっ!はぁ…はぁ…うわああああああ!!!義経!!!」
貴音「知盛!!!」
やよい「さらば!!!」
やよたか「さらば!!!」
やよい「皆、今逝くから…お柳…」
貴音「……知盛卿……さらば……」
響「知盛…凄い奴だったな…自分も義経様の為に…そろそろ行かないと置いてかれちゃうな…ハアッ!!!」
『義経千本桜』<渡海屋・大物浦> 終幕
終わりです。これをやよい誕と言っていいのかな。やよい誕生日おめでとー!!!
おつおつ
このSSまとめへのコメント
歌舞伎、落語、浄瑠璃なんかの古典芸能をアイマスでやるならそのキャラの口調を使って内容を分かりやすくしたほうがいいと思う。
古典芸能は面白いものが多いから、それを題材にしたssは増えてほしいな。