大臣「村の再建に行ってもらえんか?」
役人「はっ。……は?」
大臣「ずいぶんとひどい有様のようでな」
役人「あそこは村長制のはずですが……」
大臣「村長が亡くなった」
役人「そ、それに私は文書管理くらいしか出来ませんで……」
大臣「政務課の資料室くらい入っただろう」
役人「はあ、それはそうですが」
大臣「命令だぞ」
役人「はっ、了解しました」
役人(……おいおい)
大臣「あー、そうだ。人手が足りんからな」
大臣「兵をつけることはできんのでな」
役人「はっ」
役人(なんかの刑罰か)
大臣「魔物が活発化しておるからな」
役人「魔物討伐隊も組織しなければなりませんね」
大臣「アレは廃止した」
役人「……」
大臣「今度から、勇者制度を採用することにしたから」
大臣「北の村で勇者が来たら、よくもてなすように」
役人「……はっ」
――街道。
役人「うむ、いい天気だな」
役人「この調子なら夜になる前にたどり着けるだろう」
役人「……盗賊に捕まらなければな」
盗賊「何言ってんだぁ~~? お役人様よぉ~~」
役人「何も言ってません」
盗賊「ぎゃははははっ!」
役人(何が面白いんだ)
盗賊「よーし、お前ら! がっぽりもってけよ!」
盗賊団『うーす!』
役人(しこたま殴られてこのざまだ)
役人(荷物も奪われたし、どうしたものかな……)
――北の村。
役人「なんとか辿りつけたな」
役人「一先ずゆっくり休んで、明日から政務に励みたいものだ」
役人「……拘束されてなければな」
村人「何言ってやがる、化け物め!」
役人「私のどこが化け物に見えるんだ」
村人「うるせぇ! 一人でふらふらやってきて、同じ手が通用するとでも思ったか!」
役人(……なるほど、魔物が傷ついた人間のふりをして村に入り込んだのか)
役人(うん……どうしよう)
村人「みんなぁ!! 魔物を捕まえたぞぉ~~!!」
ゾロゾロ。
役人(死んだかな)
――村長宅。
村人1「い、いやぁ、まさかお役人様でしたとは」
村人2「すっかり騙されてしまいましたよ」
役人「……いえ」
役人(頭がガンガンする)
村人1「それでそのう、何か御用で」
役人「村長が亡くなりましたこと、まずはお悔やみ申し上げます」
役人(やべぇ、口の中、めっちゃいてぇ)
村人2「そんなそんな! とんでもねぇです」
役人「いえ……それで、しばらく私がこの町の税を取り仕切ることになりまして」
村人『!』
役人「村の再建と、そうですね、村長の再選をして、引き継ぐということで」
村人1「は、はあ……そうですか」
村人2「それはそれは……」
役人(歓迎されてないな、当たり前だが)
役人「……一応、魔物に襲われた田畑の補償もする予定です」
村人1「ほ、ホントですか!?」
役人「はい。そのためにも、被害を調査する必要がありますし」
役人「まあ、とにかく、しばらく任せてください」
村人2「はぁ、分かりました」
役人「それと、今後は魔物討伐隊が……」
村人1「は?」
役人(言わなくていいか)
役人「とにかく、疲れてますので、また明日お話します」
村人2「はあ、分かりました」
村人1「……」
役人「短い間になると思いますので、よろしくお願いします」
村人2「それじゃあ、ともかくしばらくは村長の家を使ってくだせぇ」
役人「ありがとうございます」
役人「そういえば、村長さんのご家族は……?」
村人2「えっ?」
村人1「ああ、村長と一緒にね、魔物に襲われたんだよ」
役人(なんだって?)
村人1「そんなわけで、逆におかまいできないですが、いいですかね」
役人「……そうですね。仮詰め所として使わせていただければ」
村人2「どうぞうどうぞ!」
役人(ふうん、一家皆殺しってことか? 家の中はキレイだが)
――翌日。
役人「ふわぁ」
役人「……」
役人「よし、気合を入れていくか」
役人「まずは荷物のチェックだ」
役人「といっても盗賊に奪われたんだがな」
役人「……胸に忍ばせておいた辞令と、書類の印はあるが」
役人「食料なし、金目の武器はまるごと取られた」
役人「被害調査をするための測定機器も取られてしまったな」
役人「……」
役人「手詰まりじゃないか」
役人「そもそも金がないから食料を入手することも出来ないぞ」
役人「うーむ。村長の家から使えそうなものを探すか」
役人「それから、王宮に、盗賊に襲われた報告と警備の強化の進言と、輸送隊を派遣してもらう依頼書を書くことにしよう」
役人「道具を揃えてからだな。今後の方針については」
役人「ええと……それじゃ何か食い物食い物……」ゴソゴソ。
役人(空き巣みたいだな……)
役人「うーん、ない」
役人「食い物がないぞ」
役人「まあ、魔物に襲われたんだし、死んだ人間の家の蓄えを残しておくはずがないか」
役人「そうなると金目のものや道具も持って行かれたか……?」
役人「村人たちに返却させるように言うか」
役人「いや、信頼に欠けた状態だと反発を食らうな」
役人「おっ、ものさしだ」
役人「スコップもあるぞ」
役人「ペン……紙……」
役人「なんだ、このくらいは残ってるもんだな」
役人「服は……うん、ない」
役人「……『北の村へ向かう途中において、盗賊の襲撃にあい』」
役人「『至急物資の輸送とともに、盗賊に対する警備の強化をお願いしたく』……」
役人「うーん」
役人「『あわせて被害補償予算の追加的な措置の検討と』……」
役人「こんなところか」
役人「……」
役人「とりあえず村にいる冒険者にでも頼むか」
役人「それが済んだら、今後の方針を決めることにしよう」
役人「さてと」
役人「まず方針についてだ。私がここへ赴任してきた目的はひとつだ」
役人「村の再建、これは亡くなった村長の再選と、魔物に襲われた村の被害補償を判定することだ」
役人「合わせて、魔物に襲われたとなれば、コレを討伐しなくてはなるまい」
役人「魔王が復活したとの専らの噂だが、身近な脅威を取り除くことが再建のためにも必要だ」
役人「だが、兵が割けない」
役人「そこで、勇者制度によって訪れた勇者をもてなし、魔物の退治に向かわせる」
役人「おそらく主流としてはこんなところだろう」
役人「……」
役人「ずいぶんたくさん任せられた気がする」
役人「つまり、大目的は村の再建、そのために三つを取り組む必要がある」
役人「村長の再選。村長の家族がいればそこに任せるのが当然だと思ったのだが……」
役人「国法では国の担当者立会の元に、選ぶというだけで、方法は決まっていない」
役人「村人の話を聞くべきだろうな」
役人(しかし、妙だな)
役人「……村の被害補償。田畑と亡くなった村人を、被害の段階に応じて支援する必要がある」
役人「無税というわけにはいかないからな。休耕地は土地の力が衰える」
役人「そのためには、調査が必要なのだが……」
役人「まさか事前に調べた資料を盗られるとはな」
役人「……。一応、複写を輸送隊にお願いすることにしたが」
役人「村長の家を探そう。帳簿があるかもしれない」
役人「そこと突き合わせて、測定するしかない」
役人「最後に、魔物の討伐か……」
役人「まずいな、魔物はこちらの都合に合わせて襲撃してくるわけではない」
役人「仕事の途中に再襲撃でも起きたら困るしな」
役人「とにかく、村人に自衛を促しつつ、勇者制度による増援を待つしかないな」
役人「そのために、歓待のお願いも出さねばならんか」
役人「……」
役人「魔物はどこから来たんだ?」
役人「そういえば、人間に化けて、等と言っていたな」
役人「なるほど、この辺の情報収集が必要だ」
役人「うむ……」
役人(めんどくせぇよ)
――宿屋。
役人「こんにちは」
宿屋「あらぁ、お役人様」
役人「しばらく厄介になります」
宿屋「とんでもねぇ、なにもないところですが、ゆっくりしていってください」
役人(好意的だな)
役人「なかなか良さそうなお店ですね」
宿屋「古いだけが自慢の宿だもんで」
役人(ふーむ)
宿屋「あのう、それでなにか」
役人「いや、おかみさんのところは大丈夫でしたか」
宿屋「え? 何が?」
役人「魔物の襲撃ですよ」
宿屋「ああー! はいはい」
宿屋「あのね、あそこのね、扉のとこに穴があいちまったんです」
役人「ほうほう」
宿屋「旦那が頑張ってそこでこう……鍋を持ってねぇ」
役人「それは勇敢な」
宿屋「そうなんですよ~」ぽっ
役人「ご主人は……そういえば姿が見えませんが、お怪我でも?」
宿屋「ぎっくり腰で」
役人「大変でしたね」
役人「どんな魔物でしたか?」
宿屋「いやあ、逃げまわるのに必死で、そこまでは知らなんだよ」
宿屋「なんだったら旦那に聞きましょうか?」
役人「ああ、調子を崩されているようなら、また後にしましょう」
役人「ええと、扉の穴、と」カキカキ
宿屋「あの……?」
役人「はい。襲撃の結果を調査してるんです。被害の規模に応じて国から補償が行われますので」
宿屋「本当ですか!?」
役人「ええ。代わりに、その、お願いしたいことがあります」
宿屋「なんでもいいですよ!」
役人「実は、これから勇者制度といって、国で魔王を討伐する勇者を募る予定でして」
宿屋「はぁ」
役人「その際に、認定証を持っている勇者には、格安で宿を提供してほしいということなんです」
宿屋「はぁ、そんなんでいいですか?」
役人「ええ。お願いできますか?」
宿屋「別に構わねぇですよ」
役人(ただし、魔物討伐隊が来ない)
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