大臣「北の村が魔物に襲われたんだが」役人「さようで」(19)

大臣「村の再建に行ってもらえんか?」

役人「はっ。……は?」

大臣「ずいぶんとひどい有様のようでな」

役人「あそこは村長制のはずですが……」

大臣「村長が亡くなった」

役人「そ、それに私は文書管理くらいしか出来ませんで……」

大臣「政務課の資料室くらい入っただろう」

役人「はあ、それはそうですが」

大臣「命令だぞ」

役人「はっ、了解しました」

役人(……おいおい)

大臣「あー、そうだ。人手が足りんからな」

大臣「兵をつけることはできんのでな」

役人「はっ」

役人(なんかの刑罰か)

大臣「魔物が活発化しておるからな」

役人「魔物討伐隊も組織しなければなりませんね」

大臣「アレは廃止した」

役人「……」

大臣「今度から、勇者制度を採用することにしたから」

大臣「北の村で勇者が来たら、よくもてなすように」

役人「……はっ」

――街道。

役人「うむ、いい天気だな」

役人「この調子なら夜になる前にたどり着けるだろう」

役人「……盗賊に捕まらなければな」

盗賊「何言ってんだぁ~~? お役人様よぉ~~」

役人「何も言ってません」

盗賊「ぎゃははははっ!」

役人(何が面白いんだ)

盗賊「よーし、お前ら! がっぽりもってけよ!」

盗賊団『うーす!』

役人(しこたま殴られてこのざまだ)

役人(荷物も奪われたし、どうしたものかな……)

――北の村。

役人「なんとか辿りつけたな」

役人「一先ずゆっくり休んで、明日から政務に励みたいものだ」

役人「……拘束されてなければな」

村人「何言ってやがる、化け物め!」

役人「私のどこが化け物に見えるんだ」

村人「うるせぇ! 一人でふらふらやってきて、同じ手が通用するとでも思ったか!」

役人(……なるほど、魔物が傷ついた人間のふりをして村に入り込んだのか)

役人(うん……どうしよう)

村人「みんなぁ!! 魔物を捕まえたぞぉ~~!!」

ゾロゾロ。


役人(死んだかな)

――村長宅。

村人1「い、いやぁ、まさかお役人様でしたとは」

村人2「すっかり騙されてしまいましたよ」

役人「……いえ」

役人(頭がガンガンする)

村人1「それでそのう、何か御用で」

役人「村長が亡くなりましたこと、まずはお悔やみ申し上げます」

役人(やべぇ、口の中、めっちゃいてぇ)

村人2「そんなそんな! とんでもねぇです」

役人「いえ……それで、しばらく私がこの町の税を取り仕切ることになりまして」

村人『!』

役人「村の再建と、そうですね、村長の再選をして、引き継ぐということで」

村人1「は、はあ……そうですか」

村人2「それはそれは……」

役人(歓迎されてないな、当たり前だが)

役人「……一応、魔物に襲われた田畑の補償もする予定です」

村人1「ほ、ホントですか!?」

役人「はい。そのためにも、被害を調査する必要がありますし」

役人「まあ、とにかく、しばらく任せてください」

村人2「はぁ、分かりました」

役人「それと、今後は魔物討伐隊が……」

村人1「は?」

役人(言わなくていいか)

役人「とにかく、疲れてますので、また明日お話します」

村人2「はあ、分かりました」

村人1「……」

役人「短い間になると思いますので、よろしくお願いします」

村人2「それじゃあ、ともかくしばらくは村長の家を使ってくだせぇ」

役人「ありがとうございます」

役人「そういえば、村長さんのご家族は……?」

村人2「えっ?」

村人1「ああ、村長と一緒にね、魔物に襲われたんだよ」

役人(なんだって?)

村人1「そんなわけで、逆におかまいできないですが、いいですかね」

役人「……そうですね。仮詰め所として使わせていただければ」

村人2「どうぞうどうぞ!」

役人(ふうん、一家皆殺しってことか? 家の中はキレイだが)

――翌日。

役人「ふわぁ」

役人「……」

役人「よし、気合を入れていくか」

役人「まずは荷物のチェックだ」

役人「といっても盗賊に奪われたんだがな」

役人「……胸に忍ばせておいた辞令と、書類の印はあるが」

役人「食料なし、金目の武器はまるごと取られた」

役人「被害調査をするための測定機器も取られてしまったな」

役人「……」

役人「手詰まりじゃないか」

役人「そもそも金がないから食料を入手することも出来ないぞ」

役人「うーむ。村長の家から使えそうなものを探すか」

役人「それから、王宮に、盗賊に襲われた報告と警備の強化の進言と、輸送隊を派遣してもらう依頼書を書くことにしよう」

役人「道具を揃えてからだな。今後の方針については」

役人「ええと……それじゃ何か食い物食い物……」ゴソゴソ。

役人(空き巣みたいだな……)

役人「うーん、ない」

役人「食い物がないぞ」

役人「まあ、魔物に襲われたんだし、死んだ人間の家の蓄えを残しておくはずがないか」

役人「そうなると金目のものや道具も持って行かれたか……?」

役人「村人たちに返却させるように言うか」

役人「いや、信頼に欠けた状態だと反発を食らうな」

役人「おっ、ものさしだ」

役人「スコップもあるぞ」

役人「ペン……紙……」

役人「なんだ、このくらいは残ってるもんだな」

役人「服は……うん、ない」

役人「……『北の村へ向かう途中において、盗賊の襲撃にあい』」

役人「『至急物資の輸送とともに、盗賊に対する警備の強化をお願いしたく』……」

役人「うーん」

役人「『あわせて被害補償予算の追加的な措置の検討と』……」

役人「こんなところか」

役人「……」

役人「とりあえず村にいる冒険者にでも頼むか」

役人「それが済んだら、今後の方針を決めることにしよう」

役人「さてと」

役人「まず方針についてだ。私がここへ赴任してきた目的はひとつだ」

役人「村の再建、これは亡くなった村長の再選と、魔物に襲われた村の被害補償を判定することだ」

役人「合わせて、魔物に襲われたとなれば、コレを討伐しなくてはなるまい」

役人「魔王が復活したとの専らの噂だが、身近な脅威を取り除くことが再建のためにも必要だ」

役人「だが、兵が割けない」

役人「そこで、勇者制度によって訪れた勇者をもてなし、魔物の退治に向かわせる」

役人「おそらく主流としてはこんなところだろう」

役人「……」

役人「ずいぶんたくさん任せられた気がする」

役人「つまり、大目的は村の再建、そのために三つを取り組む必要がある」

役人「村長の再選。村長の家族がいればそこに任せるのが当然だと思ったのだが……」

役人「国法では国の担当者立会の元に、選ぶというだけで、方法は決まっていない」

役人「村人の話を聞くべきだろうな」

役人(しかし、妙だな)

役人「……村の被害補償。田畑と亡くなった村人を、被害の段階に応じて支援する必要がある」

役人「無税というわけにはいかないからな。休耕地は土地の力が衰える」

役人「そのためには、調査が必要なのだが……」

役人「まさか事前に調べた資料を盗られるとはな」

役人「……。一応、複写を輸送隊にお願いすることにしたが」

役人「村長の家を探そう。帳簿があるかもしれない」

役人「そこと突き合わせて、測定するしかない」

役人「最後に、魔物の討伐か……」

役人「まずいな、魔物はこちらの都合に合わせて襲撃してくるわけではない」

役人「仕事の途中に再襲撃でも起きたら困るしな」

役人「とにかく、村人に自衛を促しつつ、勇者制度による増援を待つしかないな」

役人「そのために、歓待のお願いも出さねばならんか」

役人「……」

役人「魔物はどこから来たんだ?」

役人「そういえば、人間に化けて、等と言っていたな」

役人「なるほど、この辺の情報収集が必要だ」

役人「うむ……」

役人(めんどくせぇよ)

――宿屋。

役人「こんにちは」

宿屋「あらぁ、お役人様」

役人「しばらく厄介になります」

宿屋「とんでもねぇ、なにもないところですが、ゆっくりしていってください」

役人(好意的だな)

役人「なかなか良さそうなお店ですね」

宿屋「古いだけが自慢の宿だもんで」

役人(ふーむ)

宿屋「あのう、それでなにか」

役人「いや、おかみさんのところは大丈夫でしたか」

宿屋「え? 何が?」

役人「魔物の襲撃ですよ」

宿屋「ああー! はいはい」

宿屋「あのね、あそこのね、扉のとこに穴があいちまったんです」

役人「ほうほう」

宿屋「旦那が頑張ってそこでこう……鍋を持ってねぇ」

役人「それは勇敢な」

宿屋「そうなんですよ~」ぽっ

役人「ご主人は……そういえば姿が見えませんが、お怪我でも?」

宿屋「ぎっくり腰で」

役人「大変でしたね」

役人「どんな魔物でしたか?」

宿屋「いやあ、逃げまわるのに必死で、そこまでは知らなんだよ」

宿屋「なんだったら旦那に聞きましょうか?」

役人「ああ、調子を崩されているようなら、また後にしましょう」

役人「ええと、扉の穴、と」カキカキ

宿屋「あの……?」

役人「はい。襲撃の結果を調査してるんです。被害の規模に応じて国から補償が行われますので」

宿屋「本当ですか!?」

役人「ええ。代わりに、その、お願いしたいことがあります」

宿屋「なんでもいいですよ!」

役人「実は、これから勇者制度といって、国で魔王を討伐する勇者を募る予定でして」

宿屋「はぁ」

役人「その際に、認定証を持っている勇者には、格安で宿を提供してほしいということなんです」

宿屋「はぁ、そんなんでいいですか?」

役人「ええ。お願いできますか?」

宿屋「別に構わねぇですよ」

役人(ただし、魔物討伐隊が来ない)

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