白菊ほたる「裕美さんとプロデューサーさんと少し不幸な私」 (35)

「やっと帰ってこれました…」

事務所のソファに横になってゆったりする私。

長かったスペインツアーも終わり、私たちはやっと日本に帰ってこれました。

そして、自分の居場所に帰ってきた安心感と知らず知らずのうちに溜まっていた疲れから

私の瞼はだんだん重くなり、私の意識は次第に遠ざかっていきました。

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「ほたるちゃんお休み中?」

聞き慣れた声がします。

私は寝ぼけ眼を擦り、起き上がろうとします。

「結構長めのツアーだったから疲れてるんだろ」

「起こさないように静かにな」

最初の声より少し低い声、これはプロデューサーさん…?

「うん、分かってる」

そんな声量を抑えた小さな囁きが聞こえた後に

少し鈍い足音が私から少しずつ遠ざかって行きます。

その後に何かを漁るような音が聞こえた後に

今度は私に先ほどの足音が近づいて来ます。

…どうしましょう。

お布団まで掛けてもらってしまうと起きるタイミングを逃してしまった気がします。

これも不幸なのでしょうか。

「この布団本当に清潔なの…?」

「そもそもずっと使ってないから清潔っちゃ清潔だと…思うんだが…」

少し自信のない声を出すプロデューサーさん。

確かに少しほこりっぽい気がします。

「…自分が使う訳じゃないからってそういう適当なの良くないよ?」

「はぁ、ほたるちゃん可哀想…」

裕美さんの少し呆れたような声。

「う…後できちんと洗っておくから…」

「きちんと洗った後にお陽様で干さなくちゃダメだよ?」

「あ、あぁ…」

裕美さんに頭が上がらないプロデューサーさん。

今の私は目を閉じたまま少し笑ってしまっているかもしれません。

「…裕美は疲れてないのか?」

「スペインツアーのこと?」

やっぱりスペインは遠いです。私はヘトヘトです。

「私はあれかな、むしろスペインで元気分けてもらった感じかな?」

…裕美さんは確かにスペインツアーから変わった気がします。

「みんなにアピール…イェイッ!だっけか?」

「やっ、やめてよっ!」

「あれはちょっと…空気に当てられちゃったっていうか…」

目を閉じていても裕美さんの今赤面しているであろう顔が易易と頭に浮かんできます。

「ははっ、随分満喫できたみたいで良かったよ」

プロデューサーさんは心なしか嬉しそうに話します。

「得るものは一杯あった…かな…?」

羨ましい話です。

私はスペインの情熱とは真逆の存在ですから…。

「うん、それに楽しかった」

でも……

そうですね。楽しかったです。

「スペインで一番はしゃいでたのは裕美かもな」

…そうかもしれません。

私も色々引っ張り回されました。それも楽しかったですけど。

「向こうに居る間はずっと色んな所駆けまわってたもんな」

裕美さんにグルメ旅行もいいかも…。

と目を輝かせて言われた時は少し困りましたね。プロデューサーさん。

「私を子供っぽいみたいに言わないでよ…」

少し拗ねたような声で裕美さんはプロデューサーさんにそう返します。

「でもちょっとはしゃぎすぎちゃったかも…」

「ほたるちゃん、引っ張り回しちゃって私のこと迷惑とか思ってないかな…?」

とんでもないです。

私こそ裕美さんにはお世話になってばっかりですから。

「はは、ほたるが迷惑とか思うわけないだろ?」

私の心の中を代弁するように

プロデューサーさんがキッパリと否定してくれます。

「あいつもなんだかんだ楽しそうに見えたよ」

「裕美とやったLiveも、一緒に行った観光も」

…私のこと、きちんと見ててくれたんですね。

ありがとうございます。プロデューサーさん。

「むしろほたるは自分が迷惑掛けなかったかって考えてるんじゃないか?」

うっ、その通りです…。

私そんなに分かりやすいでしょうか…?

「…そうかな?」

「…楽しかったって思っててくれたらいいな」

私、この話を聞いてしまって良かったのでしょうか…?

裕美さんもプロデューサーさんもそれっきり喋らなくなってしまいました。

プロデューサーさんが時々ボールペンをカチカチと鳴らす音だけが響きます。

……そろそろ起きても大丈夫でしょうか?

私は掛けて貰った布団をゆっくり持ち上げます。

すると、布団からファサッっと軽く埃が舞います。

私が借りたんですから後できちんと洗って、干しておきましょう。

自然と苦笑いが溢れます。

舞い上がった埃は私の鼻元を通り過ぎます。

「…っ!」

なんだか鼻の奥のほうがむずむずします。

これはマズいです。

な、なんとか抑えなくっちゃ…。

「っきゅんっ!」

…どうしましょう。

抑えようとして物凄く高い音のくしゃみが出てしまいました。

私は恥ずかしくなって持ち上げた布団を今度は頭から被ります。

「っきゅっ!」

…なんで頭から被ってしまったんでしょう。

さっきと同じ高い音のくしゃみがもう一度出ます。

凄く恥ずかしいです。

「…ほたるちゃん?」

薄目を開けて少しだけ布団を持ち上げると裕美さんがこちらに歩いてくるのが見えました。

「すぅ…すぅ…」

私は頭から被った布団を固く押さえてわざとらしい寝息を立てます。

「……」

裕美さんは何も言わずにパタパタと足音を立ててプロデューサーさんの元に戻って行ったようです。

「まだほたるちゃん寝てたよ」

「ん、そうか」

良かった、バレませんでした。

…何やってるんでしょうか私。

裕美さんとプロデューサーさんがポツリ、ポツリと会話を交わしているのが聞こえます。

頭から布団を被っている私には会話の内容までは分かりませんでした。

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白菊ほたる(13)

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関裕美(14)





暗闇というのは不思議なもので、本人の眠気の有無とは別に、人を眠りに誘います。

そして、それは頭から布団を被った私も例外では無かったみたいです。

まさか狸寝入りから本当に寝てしまうなんて…。

「可哀想だから起こしたくないって…」

「寮までどうやって運ぶの?」

私は誰かの話し声で意識を薄っすらと覚醒させる。

「どうするかな…」

何の話でしょうか?

「まぁ、とりあえず布団ごとって訳にはいかないからな…」

そう言ってプロデューサーさんはそっと私が被っていた布団を取り上げます。

私の視界に強烈な蛍光灯の光が飛び込んできます。

私は反射的に強く瞼に力を込めてしっかりと目を閉じます。

「良かった、起こさなくて」

プロデューサーさんの心底安心したような声。

ごめんなさい。本当は起きてます。

また起き上がるタイミングを失った気がします。

唐突に私の太ももと肩のあたりにプロデューサーさんの腕が伸ばされます。

「よいしょっと」

その一言と共に私の体が浮き上がる感触。

ど、ど、ど、どういうことなんでしょうかぁ!?

「まぁ、車までだから大丈夫だろう」

「よくお姫様だっこなんて出来るね…」

冷静な裕美さんの一言。

わ、私お姫様だっこされてるんですかっ!?

スペインツアーの関ちゃんは可愛かったなぁ…

支援

「まだまだお前らも子供だしこのぐらいの重さなら余裕だな」

「俺も子供の頃は居間で寝てる所を父親にこうやって移されたな」

楽しそうに話すプロデューサーさん。

子供の頃のプロデューサーさん…想像出来ません。

「…そういう意味じゃないんだけど」

裕美さんきちんとこの格好恥ずかしいって言って下さい…。

うぅ…。

「うーん、私も付いていってもいいかな?」

「いいけど…寮まで車出すだけだぞ?」

「私も今日はお仕事終わったし…」

「それにプロデューサーさん困ったことになるかもしれないよ?」

「困ったこと?」

プロデューサーさんの不思議そうな声。

「眠ってる女の子をお姫様抱っこで車に担ぎ込む男の人」

…なんか凄く犯罪っぽいです…!

「…裕美、付いてきてくれるか?」

「うん、私もほたるちゃんと自分の荷物片付けるから待ってて」

うぅ…。申し訳ないです…。

一旦切ります。
一応長くならない予定。
画像さんありがとうね。

>>18
関ちゃんで一本長いの書いた直後に関ちゃんSR化してアホみたいに喜んでました。

Pの日記のやつだったら
俺が関ちゃんスキーになったのは、間違いなくあれを読んだせい

>>22
それです。
そう言って貰えると励みになります。





私はお姫様抱っこのまま、車の後部座席に横にされました。

「車が揺れた時にほたるちゃんが座席から落ちちゃったら危ないよね」

そう言って裕美さんは私の隣に小さくなって座ります。

ここまでして貰うと罪悪感が酷いです。

「そろそろ出すぞ」

ブロロとエンジンの掛かる音。

無意識のうちに私は座席の端を掴みます。

「安全運転だよ?」

「分かってる」

車の動き出す振動と共に裕美さんは私の肩のあたりを優しく押さえてくれます。

「そういえばさ…」

車の走る音に掻き消されてしまいそうな裕美さんの一言。

「お前らは子供って言ってたけど私も子供…?」

…私が子供なのは決定事項なんでしょうか。

「大人扱いして欲しかったらまず中学卒業からだな」

義務教育が終わったら大人…?

「それから成人して…」

「…はぁ」

プロデューサーさんは深い溜息をつきます。

「…やっぱ俺の年齢追い越したらな」

…え?

ズルいです。一生子供扱いですか。

「…オトナってズルいね」

裕美さんが呆れたような声で言います。

…でも、プロデューサーさんがズルいだけかもしれません。

「…最近親離れし始めた娘を持つ父親の気分だよ」

「いつしか俺もお前らに頼られなくなるのかもな」

「…なーんて色々考えると少し寂しいな」

………そんなの…。

居ても経っても居られなくなり、私はゆっくりと瞼を開きます。

「ここは…」

シートに手をついてゆっくりと立ち上がって

わざとらしくキョロキョロと車の中を見渡す私。

我ながら白々しいです。

「おはよう。ほたるちゃん」

「もうちょっとで寮だから…」

ずっと横になっていたので髪の毛がくしゃくしゃだったのでしょうか。

裕美さんが手櫛で私の髪の毛を直してくれます。

「あ、ありがとうございます…」

どうしても伝えなくちゃいけないことがあったのに出鼻を挫かれた気がします。

「あ、あのっ!プロデューサーさん!」

慌てていたからか思っていたより大きな声が出ます。

「やっと起きたか、ほたる」

プロデューサーさんは目の前の赤信号と睨めっこしながらそう言います。

「あ、はい。おはようございます…」

違う。私が言いたいのはそれじゃない。

「プ、プロデューサーさんは、私の幸福そのものです…!」

言ってしまった。

何でこんなタイミングで言ってしまったんでしょう。

「…へ?」

そうですよね。

寝起きでいきなりこんなこと言う娘なんて変ですよね…。

「で、ですからっ!」

恥ずかしいのをこらえて強引に話を続けます。

「私は、プロデューサーさん離れしなくていいですっ!」

そう言って起き上がった私は運転席に座るプロデューサーのシートの背中に顔を押し付けます。

恥ずかしい。

どうしようもなく恥ずかしいです。

でも言わずにはいられませんでした。

「ふふ、…良かったね、プロデューサーさん」

「頼られなくなって暇になっちゃうことは無さそうだよ?」

裕美さんが心なしか楽しそうに話します。

「…そうだな。一人手の掛かるのが居るみたいだな」

もうこの話やめましょうよぉ…。

恥ずかしがる私をよそに二人は話を続けます。

「裕美、お前はどうなんだ」

プロデューサーさんは寮の前で車を止めてそう言います。

「プロデューサーさんは、私の幸福そのものだからね」

ニコニコしながら私の真似をする裕美さん。

裕美さん、もう許してください。

そんな…



裕美さんとプロデューサーさんと少し不幸な私のお話。

END

終わりです。

見てくれてありがとうね。

再登場して前を向けるようになった二人に色々とやられました。

関ちゃんSR化なんかは嬉しすぎて喜んでたら椅子から落ちました。

ほたるちゃん可愛かった
関ちゃんも可愛かった

乙。

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