ほむら「ラムダ・ドライバ?」 (418)

魔法少女まどか☆マギカ×フルメタル・パニック!クロスSSになります

注意点
・まどかの本編がベース

・フルメタは原作終了数ヶ月後の設定

・都合よく改変されてる部分あり(TDDもレーバテインも健在)

・文章力が残念+地の文

などなどになります


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1357745374

「任務、ですか」
宗介は読んでいる雑誌から目を離し、顔をあげた。

「はい、サガラさん。
以前の様に日本で、護衛の任務です」

目の前にいるのはテレサ・テスタロッサ[大佐]だ。愛称はテッサ。

あどけない顔立ちにそれ相応の年齢。しかしながら、ウィスパードと呼ばれたある「特殊な」事情により類稀なる頭脳で今現在、宗介達の搭乗している超大型潜水艦「トゥアハー・デ・ダナン」を一人で設計したなど、階級に相応しい人物でもある。

「TAROSも未だ健在。
レーバテインの修理も概ね完了しています。そして、ラムダ・ドライバも使用可能。
もっとも、カナメさんの時のように過酷な戦闘が起こるとも思えませんし、問題はないかと」

スラスラと聞き慣れない単語を並べる。
しかし、宗介にしてみれば数ヶ月前まではかなり馴染み深いものであった。

メリダ島での決戦から半年。
宗介は所属のない軍隊「ミスリル」での活動は以前程ではないが続けていた。

レーバテイン。

正式には「ARX-8レーバテイン」
ミスリルが有する「ある特殊な装置」を搭載したただ一つのAS。

その特殊な装置ーーーーラムダ・ドライバーーーーはTAROSと深く関係しているのだが、てっきり宗介は使用ができなくなったと思っていた。

「待ってください、大佐殿
TAROSはメリダ島での決戦で壊されたはずでは」

宗介はテッサに疑問を口にした。

「そうですね。
てっきり私もあの時に損傷が酷かったものですから、てっきり壊れてしまったものだと」

これは、艦の中でも私しか知らないですけどね、とあっさりと付け加えるテッサ。

「それでも、「ささやき声」が聞こえなくなったなら意味はないはずです」

そして、ウィスパード。
ある特定のタイミングで生まれた人々がもつ力で、頭の中で突然ささやき声が聞こえるようになるのだ。
そのささやき声は所謂ブラックテクノロジーについてなどが多く、このトゥアハー・デ・ダナンもそのささやき声によって作られた部分も多い。

これらの宗介の疑問は当然の事だ。

ウィスパード、TAROS、ラムダ・ドライバ、、、
これらは全て密接に関係しているためどれか一つが使えなくなると、そのどれもが意味をなさなくなってしまう。

それに加え、メリダ島での決戦でテッサはウィスパードではなくなったはずで、さらにTAROSシステムも壊れ、レーバテインも損傷が激しかったため、なくなったと知らされていたからだ。

「それが、、、一週間ほど前からまた聞こえるようになったんです」
声のトーンが暗くなった様に宗介は感じた。

「それでも、以前のようなブラックテクノロジーについてではありません。
今回の任務は、そのささやき声に言われているんです」

突然、再び聞こえるようになったささやき声。
そして、伝えられた任務。
宗介は部下として、何より共に戦った仲間として聞かない訳にはいかなかった。

「それで、任務の詳細をお願いします」

テッサはその声を聞いて表情を明るくさせた。

「日本のミタキハラという場所で、マドカ・カナメという人物の護衛です」

見滝原中学校門前

またこのパターンか、と内心で宗介はげっそりしていた。
護衛対象は女子中学生、宗介はその生徒と同じ中学に転校して護衛をしろ、とのことだった。

流石に、中学生になるのは無理がある。

ぼんやりと任務について考えながら、宗介は校門を潜ろうとした、その時。

校門の先に並べられた机の数々。
周囲を見渡した宗介の目に入ったものは「手荷物検査実施」とだけ書かれた貼り紙であった。

硬直。
しかし、このまま止まっているのは不自然過ぎる。
不意に視線を感じた。
(いかん、テロリストに勘付かれたか、、、!?)

思わず拳銃を取り出したい衝動に駆られる。
だが、それらしい人物は見当たらず、代わりに自分よりも幾分か小柄な黒髪の少女と目があった。

(とりあえずは、問題ない筈だ)
宗介は、手荷物検査場に向かって行った。

朝のホームルーム。

(結局ほとんどの武器は没収されてしまった)
陣代高校に転校した時にもあったように、宗介はどうも手荷物検査のタイミングが悪いのだと思った。
その時、教室から声が聞こえた。
「目玉焼きとは、半熟ですか!完熟ですか!?はい、中沢くん!」
「えぇっ!ど、どっちでもいいんじゃないかと、、、」

実にどうでもいいやり取り。
そんな事よりも気がかりだったのが。
(なんだ、こいつは、、、)

担任の早乙女教諭に案内させられた際に、先に教室前で待機していた、先程校門で目が合った長い黒髪の少女。

宗介の方が先に手荷物検査へ向かった筈だが、没収されるものが多かった為に先を越されていたのだ。

先程から両者とも一言も話そうとすらしない。
(最近の女子中学生とは、こんなに無口で、、、戦士の様な目をするもなのか)

そんな考えが頭をよぎったが、すぐに自分で否定した。
かつて陣代高校でのクラスメイトだった友人たちが、その考えを許さなかった。

宗介がどことなく気まずさを感じると、声がかかった。
無論、真横に立つ少女ではなく教室からだ。

「それじゃあ、入ってきて〜」

どこか、間の抜けた声が宗介の中で神楽坂教諭を思い出させた。

宗介は無言で教室内に入る。

「じゃあ、自己紹介いってみましょう!」

自己紹介をするように促される。
「相良宗介『軍曹』であります」
言ってしまった後に宗介はしまったと思った。
これでは陣代高校の自己紹介の二の舞になる。
案の定、クラスからざわめきが漏れ始めている。
「サルガッソーっす、ケゲンそうな、、、な訳ないよね、、、」
クラスの奥の方の席、青髪の少女の声がいやに良く聞こえてしまった。

「すみません、軍曹は忘れて下さい。相良宗介です」

「趣味は何?」
目の前の席から、質問される。
声に聞き覚えがあったのは、先程目玉焼きについて質問されていた少年だったからであろう。

「読書と釣りです。
読書は特にAS関連のものを購読しています。
日本のASファンも大変興味深い内容で、、、」

教室から、あぁやっぱりか、というような声が聞こえた気がして、宗介はまたやってしまった、と考える

「すみません、忘れて下さい」

いけない、このままでは本格的に陣代高校と同じだ。

「どこの出身なんですかー?」
出身を聞かれる。

「アフガンに、ロシア、アメリカ、日本にもいた事もありますが、どの国にも長く滞在した事はありません」

宗介は思わず即答してしまった。

「相良くんは所謂、本物の帰国子女なのです」

あまりに悲惨だと思ったのか、横で大人しく聞いていた早乙女教諭がフォローを入れた。

「そういう事です。よろしくお願いします」

宗介は窮地を救われたような気分だった。

「好きな音楽とかはあるの?」

時間的に最後の質問になるであろう質問。
声を辿ると、桃色の髪の少女だった。
鹿目まどか。
今回の任務の護衛対象だ。

そこまで考えて、宗介は質問に集中した。

(そういえば、クルーゾー大尉がオススメしていたな)
「ClariSです」

そういった後に後悔をした。
クルーゾーは重度のアニメファンである事を思い出したからだ。

「誰、それ、、、」

「すみません、忘れて下さい」

宗介は最後の最後まで地雷を踏んでしまったようで、クルーゾーを少し恨んだ。

この男は何者なのだろうか。
暁美ほむらは今までの時間の中で一度たりとも会ったことのない、謎の転校生に警戒していた。

第一、手荷物検査実施など、繰り返した時間の中でこの学校がしていた試しがない。

そして、その手荷物検査に物の見事に引っかかっていたのが、目の前で自己紹介を終えた「相良宗介『軍曹』」であり、ほむらはその一部始終を目撃していた。

時間は少し戻って、手荷物検査実施場。


ほむらはこの手荷物検査に戸惑っていた。

(こんな事は今までなかった筈)

その横を見慣れない男が通り過ぎる。
いくら時間を繰り返し続けたと言えど、全校生徒など覚えている訳がない。

だが、ほむらの目には止まってしまった。

なにしろ、一般的な男子中学生と言うには苦しくさえ思える身長に、見事に伸びた軍人のような姿勢。そして、顎の左脇にある平和とは程遠いような十字の傷跡。

思わずほむらは凝視してしまう。
不意に、その男が軽く振り向いた。
目が、合ってしまった。
何となく気まずさを感じて目を逸らす。
向こうの方もすぐに手荷物検査へ歩き出した。

が。

急に作った措置と言わんばかりに適当に並べられた長テーブルに、その男子生徒は鞄の中身をぶちまける。

出てきた物は、拳銃にサブマシンガン、C4爆薬、ハンドグレネード、バリスティックナイフなどなど。
おおよそ男子中学生が持っている筈のない物だ。

周りからみたら、モデルガンやら何やらに思えるのだろう。

だが、ほむらとこの銃器の所有者は違った。

(間違いない、アレは本物、、、!)

都合上で銃器を使う羽目になっているほむらは、その数々の危険性を熟知していた。

その男も、没収されたら危険だと分かっているのか、弁明をしている。
だが、それも虚しく全て仕舞われてしまった。

所有者の生徒はげっそりとしながら校舎へ向かってしまう。

(流石に、あんな物を大人とは言え危険なしに触れるのは無理ね)

特に手榴弾だ。
何かの拍子でピンが外れてしまいかねない。

そう思ったほむらは一旦物陰に隠れ、変身する。
そして、時間停止。

迷いなど一切ない動きで没収された銃器を盾に仕舞い込む。

恐らく紛失してもモデルガンか何かと思われているのだから、大事にはなるまい。

回収を手早く終えて、物陰へ。
変身を解き、自分も手荷物検査を済ませて校舎へ向かった。

時間は戻って自己紹介を促される。

「暁美ほむらです。よろしくお願いします」
それだけ言うと、「暁美ほ」まで名前を書いていた早乙女教諭からペンをとり「むら」と付け加えて席へ進んだ。

休み時間になると、ほむらは女子生徒たちからの質問攻めを受けていた。

前はどの学校にいたのー、だとか、髪がどうだとか。

しかし、ほむらの頭の中は今朝の事で心ここにあらずといった状態で、質問には適当に答えていた。

「ごめんなさい、ちょっと緊張したみたいで、、、保健室に行かせて貰うわ。
係の人にお願いするから、お構いなく」

少し無愛想だっただろうか。

ぼんやりと考えながら、保健係である鹿目まどかの元へ。
周りには美樹さやかと志筑仁美。
そちらへ向かうのに気が付いたのか、ほむらへ振り向いた。

「鹿目まどかさん。あなたがこのクラスの保健係よね。
連れていってもらえる?保健室」

同じ時に宗介は男子生徒から質問攻めにあっていた。
前はどの学校にいただとか、傷だとか、今朝の手荷物検査などだ。

「学校は都立陣代高こ、、、陣代中学だ」

「この傷は正直、よく覚えていない」

「銃器を没収されてしまったのはミスだった。あれだけの量は危険過ぎる」

正直に話してしまいそうなところを、ギリギリで誤魔化していた。

その時、視界の隅で今朝の少女ーーーー暁美ほむらーーーー
がまどかを連れ出すのが見えた。

(いかん、護衛対象を追わねば)

「みんな、すまない。少しだけ席を外すぞ」

それだけ言うと、鹿目まどかたちと話していた少女たちに声を掛ける。自己紹介の時の青髪の少女と、恐らくその友人であろう。

「初めまして、相良宗介だ。
今はクラスメイト達一人一人に挨拶をしようと思って話し掛けさせてもらった」

あたり触りのない内容で話し掛けてみる。

「あぁ、あたしは美樹さやかだよ。気軽に『さやか』って呼んでね」

「私は志筑仁美ですわ。
仁美と呼んでくださいませ」

どこか千鳥かなめを連想させるような元気に溢れた少女の美樹さやかと、どこかの令嬢なのだろう、上品な言葉使いの志筑仁美。

宗介はどこか不思議な組み合わせだと感じた。

「こちらこそ、宜しく頼む。
ところで、先程まで一緒に居た桃色の髪の女子生徒なんだが、、、」

「まどかだね。
なんか、もう一人の転校生に保健室連れてって案内を頼まれたみたいだよー」

宗介が続きをいう前に、先に聞きたい事を答えてくれた。

「そうか、すまない。助かった」

それだけ言うと、宗介は駆け足で教室を後にした。

「まどかも、転校生二人にモテモテだねぇー。ね、仁美」

「そうですわね」

仁美はそれだけ言うとにっこりと笑った。
その際に全力で廊下を駆け抜ける宗介の姿が、さやかの視界に映った

宗介は廊下を駆け抜ける。

事前に入手した地図で保健室への道は完全に頭に入っている為、迷う事は一切なかった。

それに、この全面ガラス張りの校舎だ。
すぐに目標を確認する。

渡り廊下、二人きりで向き合っている。

(なんだ、保健室への道だが行く気がないのか)

宗介の頭の中で不安がよぎる。

もし、この状況でほむらが銃をまどかへ突き付けたなら。

この距離だ、宗介に止める事はできない。
持っている武器も、制服の裏に掛けたグロック19一丁のみ。

(クソッ!油断していた!)

より一層、宗介は早く走り、懐から銃を抜く。

あと少し、少しだけだ。
距離が近づいてくる。

(ここならば、いける、、、!)

この距離ならば射程圏内だ。
トリガーをいつでも引けるように構える。

「動くな!両手を挙げろ!!」

構えたままさらに接近する。

突然の大声にまどかは肩をビクリとさせる。
ほむらは唖然としていた。

「少しでも不審な動きをしてみろ、眉間に穴があくぞ」

ほむらへ銃口を向けた、その瞬間背後から衝撃をうける

「黙らっしゃーい!!」

美樹さやかの声だ。

「何が眉間に穴があくよ、このバカ転校生!
様子が変だったから、追ってきてみて正解だわ!」

それとともにどこからともなく取り出したハリセンで頭をはたかれる。

「痛いじゃないか」

銃口がほむらから外れ、安堵の息がほむらから漏れる。

「助かったわ、美樹さやか」

「え、えぇっ、うん、別にモテルガンでしょ?そんなに礼を言わなくても良いって」

モデルガン。
この認識の甘さがここは日本だと伝えてくれるように感じた。

「そうか、悪意はなかったようだな。すまない、謝罪しよう」

そう言って頭を下げた。

「ず、随分素直なのね、、、」

ほむらはまた唖然とする。

「まぁ、いいわ、鹿目まどか」

「ふぇ!?」

まどかは、いきなり話題を振られて素っ頓狂な声をあげた。

「さっきの忠告覚えておいて。
それから、相良宗介。
あなたに少しだけ用があるの、付いてきて」

校舎のひっそりとした一人として人の気配を感じない廊下。

「単刀直入に聞くわ。
あなた、何者なの」

ほむらは既に宗介を一般人と認識はしていなかった。

拳銃の構え方や、銃口を向けた時の動揺のなさ。
明らかにプロフェッショナルのものであったからだ。

それは、宗介も同様で先程は不意をついたものの、今のほむらからは油断を感じず、隙が見当たらない。

彼女もまた戦士なのだろう。

それゆえに、無駄に隠す意味はないと正直に話す。
もしかしたら、協力者になりうるかもしれないと思ったからだ。

「名前は相良宗介。
階級は軍曹。
<ミスリル>作戦部西太平洋戦隊<トゥアハー・デ・ダナン>所属」

所属をはっきりと述べる

「そう。それで、その軍曹さんがこんな学校にいる目的は?」

これは、言うべきなのだろうか。
こちらはグロックが一丁。
対応できるかは五分と五分だ。

「あぁ、そう。正直に話したらこれは返すわ」

そう言って変身。
盾から宗介の装備を取り出す。

その変身だけでも、宗介には驚きを与えたのに、没収された装備まで出てくるのだから、完全に不意をつかれた。

形勢は逆転した。
素直に話しておこう。

「任務は鹿目まどかの護衛だ。
理由は伝えられていない」

結局ほむらは、この日の授業はうわの空で受ける羽目となる。

数学では符号を付け間違え、体育では辛うじて走り高跳びの記録は例の「県内記録」を叩き出せたものの、ランニングで足を挫いてしまう始末だ。

頭の中で反復する。

鹿目まどかの護衛だ。

その一言が、ほむらに希望を持たせつつも、多大なる不安を押し付けていた。

(やはり、イレギュラーね)

普段なら早く排除してしまいたいところだが、今回ははっきりと協力者であると明言されている。

それに、名前も知らなかったような軍隊に、今までの時間軸では存在すらしなかったAS(アーム・スレイブ)と呼ばれる人型強襲兵器。

もしかすると、良い方向に働いているのではないか。

だが、もしもそうでなかったとしたら。
先程の会話を思い出し、迂闊だったと言わざるを得ない。

時間は少し戻り、ひと気のない廊下


「鹿目まどかの護衛だ。
理由は伝えられていない」

宗介がそう、はっきりと言うとほむらは眩暈がするような気分に陥った。

鹿目まどかの護衛。
まるで、自分と同じではないか。
約束をして、何度も繰り返す。

できるだけ、あの世界に足を踏み込ませないように。

ほむらの様子がおかしいと勘付いたのか、宗介は声を掛ける。

「おい、大丈夫か」

その声でほむらは、ハッと意識を戻す。

「えぇ、すこし呆けてたみたい。問題ないわ」

本当はまだ少し落ち着けていないが、無理に冷静な声を出す。

「そうか、だが無理は良くない」

やはり、暴露ている。
しかし、そんなものは関係ないと割り切り話し出す。

「聞いていないでしょうけど、聞いてもらうわ」

「構わない」

「私の目的も鹿目まどかの護衛」

その一言で今度は宗介が動揺したが、その素振りは見せなかった。

「何故だ。この平和な街で、何一つ危険とは関わりそうにない少女を護衛する?
正直に言うと、俺もその必要は感じない」

珍しく饒舌になり、宗介はまくしたてる。

「色々あるのよ。
そんな任務を出すだなんて現実的に感じないけど、貴方の上官って、女性で、しかも年端もいかない少女でしょう?」

ほむらは聞いてみる。
やはり、図星だったようだ。
少しだけ、こめかみがピクリと動いたのをほむらは見逃さない。

「ここでは関係のない事だ」

宗介は答えようとしなかった。

「そうね。
目的が同じなら、私たちで同盟を組まない?」

学校付近のビル、屋上

「何やってんだ、ソースケの奴」

宗介の部隊の仲間である、ウルズ6のコールサインを持つクルツ・ウェーバー曹長は、ECS(電磁迷彩)をオンにしたM9の狙撃用スコープから宗介の周辺を見張っていた。

「何かあったの?」

同じく宗介の部隊の仲間で、ウルズ2のメリッサ・マオはクルツに様子を聞く。

「なーんか、女の子と二人きりで良さげな空気。
でも別にエンジェルじゃあないみたいだ。特徴がまるで合わない」

エンジェル。
この任務における、鹿目まどかの事だ。
ミスリル側が特定を避ける為に護衛対象につけるコールサイン。
かつて、千鳥かなめにも付けられたサインであった。

「ま、こっからじゃあ何を言ってるのかなんて分からないか。
俺はもう少しここにいるよ、姐さん」

「了解。ウルズ2オーバー」

本日はここまで

見てる人がいるかわからないけど、これから細々と更新する予定ですので、よろしくお願いします

乙ー

OZ

期待!

乙!

乙です!
フルメタまたスパロボに参戦してくれないかなぁ…今度はレーバテイン込で

乙です、超期待!
今度のUXには原作版で参戦する作品もあるし、期待を捨てずにいれば何時かは……

>>1です
こんなに期待されるとは思わなんだw

スパロボに出れるとしたら
地形空A
移動後射程1〜6
初期火力5000
スロット4
が実現してしまいそうなw

取り敢えず次も昨日と同じ位の時間に投下予定です。

注意書きで忘れてたのですが、おりこ☆マギカ出ます

あと、結界という都合上レーバテインの出番は少なめです。
それと「アクティブな防弾衣」無双と、ボン太くんがASレベルの性能なら、防弾衣も許される
だろうと思い若干胡散臭い設定を付けざるを得なくなってしまいました、、、

これらが許容できるというTDDクルー達は生温かい目で見てやって下さい

生身の人間がどうやって魔女と戦うんだよ?
ASを使ったらただの蹂躙になるだけだし
開始早々から糞ssになる事しか想像できない

ほむほむがふもふも言い始めるのか……胸が熱くなるな
こんな面白い設定なんだ、エタらせずに納得いく形で書き終えてほしいぜ

>>30
そのためのボン太くんだ

>>1です、某60秒バーガーのバイトから帰還したので再開します。

まどか本編との進行度合いをわかりやすくする為、フルメタ風のサブタイを付けようと思うのですが大丈夫でしょうか。
「前半まどかタイトル+後半フルメタサブタイの英単語3つ」
みたいな感じで

それではスタート

夢中のボーイ・ミーツ・ガール(後)

下校のチャイムが鳴り響く。

今日一日だけで、宗介は異様に疲れが溜まっていた。

わけの分からない護衛の任務と、その理由。

あまりにファンタジーで突飛な話について行けなかったのも一つだが、そのどれもがどこか信頼できるように聞こえた。

魔法少女。

突然すぎる。そんな日本のアニメーションのようなもの、クルーゾーの方が食いつきそうだとさえ感じた。

あの時、同盟を持ちかけられ、今は保留をした。
だが、その護衛の意味だけはほむらから教えてもらった。

魔法少女、魔女、契約、そしてキュゥべえと名乗る宇宙生物インキュベーター。
契約によりどんな願いでも一つだけ叶う事。
魔法少女はやがて魔女になる関係だという事。

そして、鹿目まどかが契約した時の圧倒的な力と魔女になれば地球が滅びる事まで。

何故知っているかは、ほむらは答えなかった。

以前ならば、あり得ないの一言で一蹴したであろう。

だが、宗介は既にラムダ・ドライバという現実的にあり得ない装置を幾度となく使用してきた。

その事が、更に信頼性を増したのかもしれない。

(参ったな、、、想像以上に大事だ)

今は一目散にセーフハウスへ戻り、本部へ連絡を入れるべきだろう。

だが、宗介はほむらと共に、事実を確認できると言われた場所へと向かっていた。

学校を後にして15分程度
近場のショッピングモールへと。

(居た、鹿目だ)

ショッピングモールの中のCDショップの中にまどかの姿を確認する。

声を掛けるべきか。

悩んでいると、ほむらに引っ張られてショッピングモールの未改装エリアへと消えていった。

「それにしても、貴方そのコートが似合わないわね」

宗介はコートを羽織っていた。

「仕方ないだろう。便利な物なんだ」

かつてテッサの兄であるレナード・テスタロッサが使っていた「アクティブな防弾衣」を改良した物だ。
デザインはかつてのキザったらしいコートではなく、フード付きの普段着のジャケットとしても扱えそうに変更。

そして、内部AIを移し替えて、宗介の相棒の「アル」のサポートを受けられるようにされている。

「アル、周囲の状態の報告を」

宗介が独り言のように指示を出す。
「ラージャ。
小型の熱源を一つ確認。接近してきます」

アルが熱源を探知。
宗介は銃を構えた。
ほむらもそれに続く。

そして、暗闇から現れた物は宗介の予想を裏切る可愛らしいものであった。

「なんだこいつは」

「インキュベーターよ」

ほむらは即答する。
そして、それを憎んでいるかの様な表情で拳銃を強く構える。

その直後、発砲音。
インキュベーターの目と目の間に綺麗に穴が空いていた。

「これで任務は達成だな」

宗介のグロックの銃口から煙が立ち込めている。即座に発砲したのは宗介であった。

「これで終わるなら、楽なのだけど」

そう言うや否や、新しいインキュベーターが現れる。

「やれやれ、どういうつもりか分からないけど、勿体無いじゃないか」

宗介はまだ銃を構えている。

「それと、僕は君と契約した記憶はないよ、暁美ほむら。
それに、僕が見える男性なんて初めてだ、相良宗介」

あくまでインキュベーターも無表情で語る。

「ええ、私は貴方たちの言うところのイレギュラーよ。
そして、その目論見も、貴方と契約した者の末路も全て知っている」

銃を構えたまま威圧する。
感情がないのだから、恐れはしないのは分かっていた。
だが、ほむらにはこうする他に苛立ちをぶつける手段がなかった。

「目論見だなんて、酷い言い草だなぁ。
これでも僕たちは、君たちが家畜を扱うよりもずっと譲歩をしているよ」

「軍曹。攻撃してもよろしいでしょうか」

インキュベーターが言い終える前に、アルがコートから声をあげる。

「肯定だ。しかし、お前に攻撃手段はあるのか」

宗介の許可を得ると同時に「アクティブな防弾衣」の裾から機械腕が現れインキュベーターにダガーを高速で投擲した。
恐らくAS用対戦車ヒートダガーを小型化したものであろう。
刺さった後にその刃は爆発した。

「こちらも、肯定です」

抑揚のない声だが、少し満足しているように聞こえた。

まさか、改良されたとはいえここまで「アクティブ」だとは思いもしなかった。

「ああ、中々だ」

そんなやり取りをしている間にも次のインキュベーターが現れ、ほむらと宗介の間を走り抜けて行った。

「まずい、このままでは鹿目まどかが奴と遭遇してしまうわ」

今の光景を呆然と見つめていたほむらは我に返りインキュベーターを追いかけはじめる。

宗介もその後ろに続いた。

「まさか、お前一人で攻撃を仕掛けられるとはな」

追いかけながらも、宗介はアルに話しかける。

「あの時に言ったでしょう。
『私は人間ですか?』と。その答えが見えてきたのです」

「そうか」

落ち着いた声だが、相棒の進歩に宗介は心を弾ませていた。

CDショップ内

(助けて、、、!まどか、、、!)

幻聴なのだろうか。

まどかはCDショップの試聴用のヘッドホンを外すが、その声は頭から離れなかった。

(誰かが、呼んでる、、、?)

声が段々と強くなってくる。
その声のする方向へフラフラと進み、まどかは未改装エリアへと進んでしまった。

「誰?誰なの?」

人がいなくなった事を確認して声を出して捜索を開始する。

更に少し進むと頭上からズタズタになった白い動物のようなものが降ってきた。

慌ててまどかは駆け寄り、抱き上げる。

「酷い怪我、、、!」

見た事もない生き物だったが、素人目に見ても瀕死なのはまどかも理解していた。

ガラガラと物音。

目の前を見ると、この生き物が降ってきた場所から少しだけ見覚えのある人物が二人ほど降りてきた。

暁美ほむらと相良宗介だ。

「そいつから、離れ
「鹿目!離れろ!危険だ、そいつは生物爆弾だ!」

ほむらが警告するよりも早く、宗介は叫んでいた。

「ふえっ!?」
まどかも驚いて、インキュベーターから手を離す。

しかし、爆発など起こる訳もなかった。当然だ、別に爆弾な訳ではない。

だが、その一瞬を宗介は見落とさなかった。

落とされたインキュベーターを一瞬の早業で掴み取り、まどかに気が付かれないように手榴弾引っ掛けて全力で投げ捨てる。







爆発。
暑い風と衝撃波がその周囲を襲った。

ほむらと宗介には慣れた、まどかは慣れているはずもない爆風だ。


「危なかったな、鹿目。
あんな可愛げのある生き物を利用するとは、恐ろしい連中だ」

宗介は冷や汗を手で拭った。

これで当面の危機は去った、、、ように思えたが、まどかはその光景を目の当たりにしてポロポロと涙を零した。

「そんな、、、酷い、酷すぎるよぉ、、、」

この状況は宗介も対応できなかった。

「軍曹。流石に今のは女子中学生にはショッキングだったのでは」

アルは機械音声で語りかける。

「か、鹿目まどか。落ち着いて。
貴女は何も悪くないの。悪いのは、そう、あの生き物を爆弾に仕上げだテロリストなのよ、、、」

宗介に続いて、ほむらも居もしないテロリストをでっち上げる事にした。

「それでも、、、」

「こぉぉぉらぁぁぁあ!!」

この声は、美樹さやかだ。
「今度はまどかの様子がおかしいと思ったら、また相良か!この戦争バカ!」

駆け付けるタイミングが悪かった。さやかには、二人がまどかに悪事を働こうと見えていたに違いない。

「さやかちゃん、違うの、、、」

まどかが説明しようとする。
が、突然目の前の景色が歪み崩れ去った。

「こんな時に、、、!」

「こんな時に、、、!」

ほむらは焦っていた。
魔女だ。それも一般人であるまどかとさやかがいる状況で。
流石の宗介も魔女に遭遇するのは初めての筈だ。
ここは、全員で退却するのが賢明か。

「鹿目、美樹!おしゃべりは後だ走るぞ!!」

初めて結界に巻き込まれたにも関わらず臆せず、二人を奮い立たせる。

「相良宗介。手持ちの武装は?」

「グロックが一丁とサブマシンガン2丁。
SMGの予備マガジンは2つにアップルが4つだ」

鞄の中身は全て把握していた。

「わかった。ここから美樹さやかと鹿目まどかを連れて脱出するわ」

既に鋏と髭の使い魔に半ば囲まれている4人だが、なんとかまどかとさやかを立たせる事は出来た。

「何これ、まどか、ねぇ悪い夢でも見てるんだよね!まどかぁ!」

さやかは目の前の異常な景色に狼狽した。

宗介は冷静に銃を構える。
そして、発砲、発砲、発砲、投擲、爆発。

躊躇いもなく銃を撃ち、手榴弾を投げる宗介は、今度は鞄の中からサブマシンガンを二丁取り出した。

「暁美!これを使え!!」
サブマシンガンを地面に滑らせ、ほむらに一丁を渡す。

ほむらはそれを受け取り、やはり躊躇もなく発砲した。

「出口は!?」

「正面よ!」

無駄のない会話。
二人はその方向へ同時に向き直り発砲。

「一点突破するぞ!
鹿目、美樹、絶対に離れるな!」

障害になる使い魔は片付いた。
後は走るだけだ。
その刹那、全ての使い魔が吹き飛ぶ。

出口から一人の人影。
ゆっくりと歩いて近づく。
宗介は警戒をして銃を向ける。

「危なかった、、、って訳でもないようね。
でも、逃げなくても平気よ。もう大丈夫」

宗介の銃に臆する事なく歩み寄る金髪の少女。

「その制服、貴方たちも見滝原中の生徒?」

まどかを見ながら問いかける。

「あ、あなたは、、、?」

「そうそう、自己紹介しなくちゃね。でも、その前に!」

その少女が髪と同じ色の宝石を目の前にかざす。

(彼女もこの街の魔法少女よ。
名前は巴マミ)

一人で話を進める為、置いてけぼりになった宗介にほむらはテレパシーで補足する。

その際にマミは変身を終えて、大量のマスケットを召喚し、一斉射撃を使い魔の残党に見舞う。

その一撃で結界は消滅した。
コラージュ・アートの様な世界が崩れ去り、景色が帰ってくる。

元の世界に戻るとほむらは変身を解く。

マミは変身を解かなかった。

「聞きたい事は多いでしょうけど、先に聞かせて」

マミはまどかとさやかに向き直った。ほむらと宗介には一睨みするだけであった。

「なんで、こんな所に居たのから」

優しく微笑みながら、しかし咎める様な声で問いかける。

「声が、、、聞こえたんです。
あの子、私の名前を呼んで助けてって」

「そう、優しいのね。ありがとう。
それと、貴方たち」

今度は宗介とほむらへ向き返り、睨みながら、冷たい声で呼びかける。

「貴方たちね、キュゥべえに乱暴をしたのは」

実際のところは乱暴などのレベルを越えたものであったが、人間を散々利用しようという連中だ。

「誤解だ。あのインキュベ、、、キュゥべえには何者かが爆弾を括り付けて鹿目を暗殺しようとしていた」

宗介は悪い事をしたとは思わなかったが、とりあえず弁明する事にした。

「でもこの子は傷だらけで私に助けを求めてきたの」

そう言うマミの肩の上にインキュベーターがちょこんと乗る。
無傷で新品のぬいぐるの様なそれが。

「傷は私が治しておいたわ。あのままじゃ、危険だったから」

インキュベーターは肩の上で尻尾を揺らしながら、無表情な瞳で二人を見つめた。
マミの言う傷は騙す為にわざと付けた物だろう。
三匹目には手出しせず、新品のまま逃がした筈だ。

「この子は言ってたの。
十字の傷の男と、黒い魔法少女に襲われたって。
爆弾が本当だとしても、やったのは貴方たちじゃないのかしら」

酷い言い掛かりだ、と宗介は感じた。
今になって、爆殺したのは失敗だったと思う。

「勘違いだ。
俺は君たちと敵対行動をとるつもりはない」

攻撃の意思がない事を全員に伝える。

「私もね」

ほむらもそれに続いた。

その際もマミの二人に対する不信感は募っていた。

「一度冷静になって話し合いましょう。今日のところは私たちは帰らせてもらうわ」

ほむらはこれ以上は無駄だと判断した様だ。

「また学校で会いましょう、巴マミ」

そうとだけ言い切るとほむらは先に消えてしまった。

「話し合い、、、」

マミはぼそりと呟く。

「信じてくれ。俺は攻撃を君たちにするつもりはない」

宗介もそれだけ言って去ろうとした。

「それはどうかしら、ね!」

言うと同時にマスケットを一丁召喚し、宗介に向けて発砲。

風は吹いていなかった。
だが、魔弾が届く直前に突如として宗介のコートがはためき、弾丸を阻んだ。
コートのファーがほんの少しだけ熱を持った気がした。

「だが、俺はスペシャリストだ。テロリスト相手になら容赦はしない」

少し、キザ過ぎただろうか。
あんな去り方は不安を与えかねない。

そんな事を考えながら宗介はショッピングモールを後にして、ほむらとも解散をした。

「軍曹殿」

歩いていると、アルに呼ばれる。

「何だ」

流石にコート相手に喋るので、宗介は小声で返した。

「先程の少女のマスケットによる攻撃ですが、微弱ながらもラムダ・ドライバに限りなく近い力を検出しました」

予想外の報告。
まさか、今になってまた関わるとは思いもしなかった。
だが、「アクティブな防弾衣」には傷一つ付いていなかった。

「アル、損傷報告を」

「損傷無し。
こちらも、弾丸を受ける際に微弱なラムダ・ドライバを発生させました」

やはりか。
さっきの防御の際、空間が歪み力場が発生した感じは正しかったのだ。

アルが搭載されていると言う事でこのコートはラムダ・ドライバを発生させられる事が証明された。

すなわち、この「アクティブな防弾衣」そのものが、レーバテインをモデルに人間サイズに縮めた物なのだろう。それならば、隠し腕が飛び出たのにも納得がいく。

「ラムダ・ドライバは発生させれましたが、ASに搭載されている物よりは弱くなります」

「何故だ」

アルはそのまま報告を続けた。

「それについては理由が二つ。
一つは単純にASと比べ、モデルサイズが極端に小さい事。
もう一つはコートの排熱機構が小型化しているため、大掛かりな使用は装備者に対する負担になる為です。
ですが、ASレベルのサイズ換算にしますと、レーバテインのそれと同レベル出力になります」

ASとコートを比べるのはどうなのか、と思うがそれだけ高性能な品なのだろう。

「それと、このラムダ・ドライバは軍曹殿の意思は関係なく、私単体で発動するのも弱い原因だと思われます。
その為に最大出力を出す事はできません」

あの時、半壊したレーバテインの中でアルは一人でラムダ・ドライバを発動させた。
それも重なって、この程度の規格ならば発動させられるのだろうか。

そうこう考えている内に、セーフハウスに辿り着いた。

できるだけ護衛がスムーズに行えるように、鹿目家の付近のアパートをセーフハウスとして提供されていた。

部屋の扉を開ける前に拳銃を抜き出し、顔を出さないように扉を開ける。
室内の安全確認。

(よし、誰もいないな)

生活感がまるでない部屋の中心に置かれた通信機をとる。
本日の状況の報告をするのだ。

その前に時計を確認。
ほむらと解散してから、もう一時間程経過していた。

本部へ合わせて通信。

「こちらウルズ7。たった今セーフハウスに帰還しました」

少しノイズ混じりにスピーカーから声が送られてくる。

「こちらアンスズ。状況の報告をお願いします」

直接通信に出たのはテッサだった。

宗介はこの一日の出来事を全て報告する事にした。

学校での事、魔法少女、魔女、使い魔、インキュベーター、、、

それら全てを説明すると、テッサは通信越しの声でもわかるくらいに半信半疑であった。

「そうですか、、、サガラさん、もしかして疲れてますか?」

「いえ、そのような事は断じてありません。睡眠も充分にとれていますし、戦場の様なストレスもないです」

宗介は即答する。

「それらの全てはこの目で確認しました。
それと、アルのダメージデータの方も送信します。
恐らく、それを見れば信じるに値するものだと」

確かに、いきなり報告するには突飛過ぎる話だ。疑う方が当然の反応だろう。

だからこそ、データには信憑性がある。

そう結論付けた宗介はデータを提出する事にした。

(せめて、もう一人目撃者がいれば信じてもらえそうではあるが、、、)

そう思った時に、インターホンが鳴り響く。

「すみません、大佐殿。
少し待っててもらえますか」

念の為、拳銃を手に玄関へ。
少しだけドアを開けると、そこには見知った顔が二人。
クルツとマオだ。

「よ、ソースケ。
上がってもいいか?」

この二人もこの任務に就いていたのか。

「ああ、構わない」

扉を全て開けるともう一人の姿が。

(しまった、迂闊過ぎた、、、!)

そう思うと即座にドアを乱暴に開け放ち、銃を向ける。

そしてその銃口の先には、暁美ほむらが立っていた。

「今晩は、相良宗介」

「それで、大佐殿。
目撃者が3人ほど増えたのですが」

宗介は通信途中の通信機を持ち直して声を掛ける。

「あら、任務に就いているのはサガラさんとウェーバーさんにメリッサだけでしたが」

宗介が3人と言ったのでテッサは困惑した。

「一人は、こちらの民間人で協力者です」

協力者です、と宗介は言い淀みなく言った。

「サガラさんは顔が広いんですね」

皮肉でもなく、単に感心したようにテッサ。

「いえ、会ってから一日も経っていません」

もしかしたら、これでは納得しない気がした。

「まぁ、そちらでの行動は全てサガラさんに任せるつもりです。
こちらではデータ解析などのサポートをしますので、自由にしてください」

機嫌を損ねるかと懸念したが、そんな事はなかったようだ。

「ウェーバーさんとメリッサの報告はまた後日に、個別でお願いします」

「ウルズ2了解」
「ウルズ6も了解」

そこで、通信が切れた。
宗介が通信機から手を離すと、3人に向き直った。

「なんだ、3人とも面識があったのか」

仏頂面で宗介が問いかける。

「こいつが道を聞くフリをして近づこうとした。
胡散臭過ぎて、一発で暴露たけど」

クルツに聞いた所をマオが答える。

「なんで鹿目ではなく暁美に?」

「お前らが学校で二人きりになってたから、何かあるんだろうって踏んだ訳さ」

つまり、学校でのやり取りは全て見られていたという事だ。
あの全面ガラス張り校舎なら外部からでも確かに丸見えである。

「やはり、防犯性がまるでない校舎だな」

的外れな感想を述べる。

「いいんじゃないか?見た所平和そうな街なんだから」

「見た所は、ね」

突然ほむらが口を開く。

「そう、魔女とかいう得体の知れない化物だっけか。
そんなもんがいるんじゃ、危なっかしい世の中だぜ」

クルツが続けた。

「そこまで聞いていたか」

「貴方の同僚なのを知ったから、彼らには貴方と同じ事を伝えたわ。
情報の違いは、実際に遭遇したかどうかの差」

髪をかき上げながらほむらが補足した。

「なっ、早速出たの!?」

話に聞いただけだと、あまり魔女は人前に現れないらしい。
それなのに転校初日に遭遇したものだからか、マオに驚かれた。

「あぁ、魔女とやらの手下だったがな。
銃で撃てば死ぬ。交戦するに当たっての問題は大してなかったぞ」

慌てる事ではない、とでも言うように説明した。

「化物の感想にドライ過ぎ!」

思わずクルツがツッコミを入れる。

「そうね、使い魔はともかく魔女は元々人間なのだから、人と大して変わりないわ」

ほむらも宗介に賛同をする。

「サラッとおっかない事を言う子ね、、、」

「魔女の情報はこんなものだ」

ほむらから伝えられた情報と差異がない事を確認して、二人は納得する。

「私から話す事は特にないわ。
元々来たのも、お二人に誘われたから」

顔合わせが終わったからか、ほむらは帰りの支度をする。

「俺らも個別報告って言われたしお暇しますか」

クルツもそれに乗り、立ち上がって大掛かりな荷物を掴む。
恐らく、荷物の中身は分解済みの狙撃銃だろう。

「そうね。
これからはあたしたちは4人のチームって事でいいの?ソースケ」

マオもそれに賛同し、準備をしながらも宗介に聞く。

「そうだな、直接的な護衛は俺と暁美が引き受けよう」

自分のするべき役割を告げる。

「俺らは学校なんか入れねえから、バックアップを担当させてもらうわ。テッサからもそう言われたし」

バックアップ担当。
基本的に楽天的な男のクルツだが、狙撃に関しては天才的でこれほど心強いバックアップはそうないであろう。

マオも豪快な性格の人物だが、電子戦のスペシャリストであり、こちらもかなり心強いバックアップだ。

「じゃあ、新生ウルズチームって訳ね。ホムラはウルズ11って所かしら」

実際のSRTのコールサインは10までで、その幾つかは欠番になっているため、マオはあえて11と指定した。

「ウルズ、、、11、、、」

ほむらは自分に付けられたサインを呟く。

「了解しました。
これからよろしくお願いします」

歳上に対する態度は弁えているのか、珍しくほむらは敬語を使った。

「じゃ、よろしくな、ホムラちゃん」

クルツは馴れ馴れしく名前で呼ぶ。

コールサインを使うのは基本的に通信や作戦時のみだ。
こうして顔を合わせている時は、本名で呼び合う事にしている。

「暁美。クルツにセクハラされそうになったら迷わず殴って構わんぞ」

クルツがマオにセクハラをしようとして、それを殴られるのはある意味ウルズチームの日常茶飯事でもあるからか、宗介はほむらに注意を告げる。

「わかったわ」

頷いた。

クルツは不服そうな顔をしている。

「それが嫌ならセクハラなんて働かないことね」

マオに杭を刺されてクルツは唸るしか出来なかった。

「それじゃあ、また明日ね。相良宗介」

「宗介で構わない。
フルネームで呼ばれる方が違和感がある」

「わかったわ。おやすみなさい、宗介」

3人が部屋から立ち去り、扉がバタンと音を立てて閉まった。

一方その頃、何処かの孤島。


以前の基地があったメリダ島は放射能汚染が酷く、住める場所ではなくなってしまったので、西太平洋戦隊のメンバーは別の孤島を作戦部としていた。

テッサは何時の間にか侵入していた白い生き物をひっ掴んで廊下を進んでいた。

少しこめかみには冷や汗が浮かんでいる。
マデューカスやヤンに聞いてみたが、この生き物が見えないらしい。


恐らく、宗介の報告にあったインキュベーターなのだろう。


こんな可愛らしい見た目をして、空恐ろしい奴。
そう思ったテッサは報告を個別報告として早く切り上げていたのだ。

「すみません、マデューカスさん。
気分転換に散歩へ行ってきます」

「アイアイ・マム」

横を歩いているマデューカスはやはり、インキュベーターは見えていないようだった。

建物を出るとテッサは駆け足で走り出す。

海岸に着くと、手に持ったインキュベーターをなんの躊躇いもなく海へ投げ捨てた。

「ぬいぐるみとしては欲しかったんですけどね」

誰に言う訳でもなく呟いて、やや満足気に基地へと戻るテッサなのであった。

少し短いですが今回はここまで。

ちなみに、まどか側ですがほむらが宗介宅にお邪魔している時間に、
マミさんの家にお邪魔して魔法少女とかの説明を受けてます(本編2話冒頭の回想シーン)

それと、やっぱり使い魔との交戦もちゃっちい物になってしまいました、、、
銃撃の描写だのは難しいです、、、

普通に倒せてたのは、ワルプルの使い魔をほむらが軽機関銃で仕留めてたのを見て
「あれ?これならもっと格下の使い魔ならSMGくらいでもでいけるんじゃね?」
とか思ってたからです。
薔薇園の使い魔なんて鋏のイメージしかなかったもので、、、

最後に。
なんで宗介がキュゥべえとか魔女が見えるんだよって突っ込みがありそうですが、それは次回にでも説明を入れます。
次回はすこし短編風な話にしようなどと考えております。

それでは、おやすみなさい!

流石に世界観に差がありすぎる二作品のクロスオーバーだから、違和感が半端ない
でも両作品とも好きだし、面白い挑戦だと思うから頑張って

うお、ミスってた
>>42

> 三匹目には手出しせず、新品のまま逃がした筈だ。

とありますが実際は

三匹目は爆破し、四匹目は見掛けていないため、新品の筈だ。

です
失礼しました

三点リーダ使わないのはなぜ?

魔法少女でもない一般人に銃を発砲したり、何も知らない後輩を咎めるとかマミさんはやらないだろ
キャラsageが酷すぎるわ

本編でも突っ走って死ぬしそんなもんだろ

それでもここまではやらないよ
ちゃんとそのキャラのファンの事を考えるてのかな?
特定のキャラをageて特定のキャラをsageる最低は嫌ですよ

自分で書けよw

>>55
三点リーダーはiPhoneから投下してる都合上変換し辛かったからという、>>1の横着です、読みにくくて申し訳ないです。

次の投下からは三点リーダーに変更しますので、ご容赦を

>>58
>>56

確かにマミさんファンには失礼な事をしました、申し訳ないです…
実際に書いておいてアレですが自分でも酷いもんだと反省しております。

次回以降の投下では特定のageやsageのないように心掛けます。

マミさんファンの方々、本当に申し訳ありませんでした。

>>30
亀レスですが

可能な限り、極端にパワーバランスが偏ったりしないよう注意はしてみます。

できるだけは納得のいく形に落ち着けたらと思いますので、酷い場合はどんどん指摘して下さい!

データ吹っ飛んで書き直ししてたので遅れました。
投下再開します

とっても嬉しい一匹狼?(前)


転校から二日目、セーフハウス。


宗介は適当に部屋のテーブルで朝食をとっていた。

相変わらず通信用の機材が面積の殆どを占めている為、まるで生活感がない。

その中でも特に異質感を放つ着ぐるみ。
犬なんだかネズミなんだかわからない頭部に茶色のボディ。
胴にはタクティカルジャケットを着込み、頭には緑色の帽子、胸には蝶ネクタイを締め、様々な銃器で武装している。

宗介曰く「現代戦の様相を一変させる可能性のある装備」であり、宗介の持つ最も高価な「服」だ。

現代戦の様相を一変させる。と言うのもあながち間違いではなく、一見はただの着ぐるみだが外装は「超アラミド繊維」に変更。
指向性マイク・サーマルセンサー・暗視システムを組み込み、内部からのカメラは6画面、挙句には戦術支援AIさえも搭載された、人間サイズのASと言うに相応しい改造が為されている。

(こいつを使う機会があるかもしれないな)

実のところ、改造される前からこの着ぐるみ「ボン太くん」の事を気に入っていた。

そこまで考えながら、朝食を終える。
食事はできるだけ迅速に済ませるのは教訓であった。

準備を進めようと時計を見る。
登校の時間にはまだ早いが、宗介は陣代高校の頃から護衛をスムーズにする為、かなり早い時間に登校していた。

今回もその為に早く登校をしよう。
銃器の手入れは済んでいる。

洗面所へ向かい歯を磨く。
最後に適当に鞄の中にカロリーメイト(フルーツ味)を詰め込んみ、「アクティブな防弾衣」を着込み家を出た。

別段、防寒着が必要な気温ではないが、各地を転々としている事になっている。

それならば、気温の変化に敏感だとか言えば許可くらいはもらえるだろう。

ほむら宅


いつも通りの時間に、機械的に目を覚ましたほむらは、朝食の準備をしていた。
言っても、食パンをトースターに放り込んだだけだが。

こちらの部屋は宗介の部屋と違う意味で生活感がまるでない。

真っ白な床に、円を描く様に配置されたテーブルと椅子。
そして巨大な振り子。
壁には大量の魔女のデータが病的なまでに並べられている。

パンが焼けるまでの時間さえも惜しく感じるほむらは自室に向かい、銃器の手入れを進める。

トースターが鳴ったようだ。

今度は部屋を後にして、朝食をとる。
焼いた食パンに適当にマーガリンを塗り、口に運ぶ。
随分と簡単な朝食だが、魔法少女であるほむらにはあまり関係のない事だ。

5分程度で食事を終える。

顔を洗い、歯を磨いた後に時計を確認した。

(登校には後1時間近い余裕があるわね)

そう思うとほむらは結局、遅刻寸前まで銃器の手入れと、パイプ爆弾の製作に励んだ。

そして、カロリーメイト(フルーツ味)を鞄に詰め込んで学校へ向かったのであった。

マミ宅


昨日の放課後の出来事。
一夜明けたがマミは未だに反省していた。

自分とした事が、訳も知らずに結界に踏み込んでしまった少女を言い咎めるだなんて。
どうかしている。
彼女たちには悪い事をしてしまった。
昨日の夕方に家に誘った時も気まずく感じて、説明しかできなかった。
謝る事ができなかったのだ。
学校で何とか会って謝ろう。

そして、名も知らなかった十字の傷の彼。
後からキュゥべえから聞いたら相良宗介と言うらしい。
魔法少女でもないのに、発砲してしまうとは。
普段の自分ならばあり得ない事だ。
やってはいけない事だった。
人に危害を加えるなど。

契約してすぐの頃に救えなかった子供を思い出す。
その事をきっかけに、人々を助けようと戦っていたのに。
自分が手を出してしまった。
これではあの子供に顔向けなど到底できない。
キュゥべえが攻撃されて血が上っていたとは言え、自分が許せなく感じる。

一緒にいた黒い魔法少女もそうだ。彼女にも冷たく当たってしまった。
第一、他の魔法少女からしたならば生きていく為に新たな魔法少女の誕生が避けたいのは当然の事だ。
魔法少女だってライバルかもしれないが、人なのには変わりないのだ。
目に映る人々を救いたいのに、敵対視してしまうだなんて、やはり冷静になるべきだ。

謝ろう。

あの時、結界に踏み込んでしまった少女たちに。
あの時、発砲してしまった彼に。
あの時、敵だと思い込んでしまった魔法少女に。

理想の自分である為に。
決意を無駄にしない為にも。

通学路


この通学路を歩くのは、宗介には苦行であった。

街を歩くのには問題ないが、学校付近の必ず通らないとならない道がある。

原因はそこにあった。
左手に小川、右手には木々が生い茂る場所だ。

初日は急いでいた為にペイヴ・メアで急送されたから、こんな道は通らなかった。

(クソッ!ゲリラが潜むのには最適過ぎる!)

その道の手前で、宗介は立ち往生する羽目になっている。
道行く人にはわからない悩み。

結局ここで45分も足止めをされている。

既にその道を歩く生徒は多くなってくる時間だ。

(いかん、このままでは遅刻だ、、、!)

行かねば、進まねばならない。
足を動かすように頭に命令する。

だが、本能はそれを拒否していた。
ふと冷や汗が流れ始める。

長さにしてみれば50m程度なのだろう。
だが、その50mが宗介にはあの世への道にさえ見えた。

一歩踏み出そうとする、その時。
背後から声をかけられた。

「何をしてるのかしら」

ほむらだ。全く気が付かなかった。
普段から警戒を怠らない宗介だが、今回はそれ程に焦っていた。

そして、ほむらは遅刻寸前の時間に出発をしている。
つまり、追いつかれたという事は、時間的にマズイのだろう。

「この道なのだが、、、」

冷や汗を浮かべたまま問題の道を指差す。
ほむらは訳がわからない様子で首を傾げた。

「見ろ、左側には小川、右側には木々が生い茂っている。
どちらとも、ゲリラの待ち伏せにはもってこいだ、危険過ぎる」

至って真剣な顔でほむらに説明した。
ほむらは真面目に聞くのはバカバカしいと思い先に進む。

「先に行くわよ」

「待て!暁美、危険だと言っただろう!」

肩を掴んでほむらを止める。

「急がなければ、遅刻してしまうのだけど」

ほむらは宗介の手を肩から退けて、その手首を掴んだ。

「行きましょう。無意味に目立ちたくないわ」

手首を掴んだまま宗介を引っ張り、例の道を進む。

当然の事だが、ゲリラなど現れる訳もなかった、が。

「お!転校生2人組!
朝から熱々ですなぁー」

後ろから美樹さやかの大きな声が聞こえた。
転校生2人組とはほむらと宗介の事だろう。

「さやかちゃん、声が大き
「っ!敵だ!!」

後から聞こえたのはまどかの声だろうか。
そんな事をほむらが考えている内に宗介は行動をした。
反射的に自分の手首を掴んだほむら諸共、小川に飛び込む。

着水。

派手に水飛沫をあげながら、宗介はグロックを取り出して威嚇射撃をする。勿論実弾だ。

聞き慣れない音に通学路から悲鳴が漏れた。
素早く周囲を確認し、小川から上がる。
テロリストやゲリラと思わしき影は見えなかった。

「暁美、大丈夫だテロリストはいなかった」

当のほむらは安心どころかプルプルと肩を震わせながら、無言で宗介の顎にアッパーカットを決めた。



ちなみに、翌日から目に見えて木の本数が減るのはまた別の話である。

教室


朝の騒動のお陰で制服がびしょ濡れになってしまった。
ほむらと宗介はそれを乾かす為に体操着で授業や受けていた。

濡れたせいか、ほむらは少し肌寒く感じる。

幸いな事に天気は快晴だ。
その上全面ガラス張り校舎だ。
置いておくだけで、否が応でも日光に当たる。
放課後までには制服は乾くだろう。
だが、昼休みまでには乾かないかもしれない。

今は3限目だ。
科目は現代文。
宗介にとってこの学校の授業のレベルは高過ぎるが、特に酷い成績を残した古文の科目がないのは幸運だった。

だが、現代文とは言えども俳句については学ぶものなのだ。

『古池や 蛙飛び込む 水の音』だ。

この俳句を知ってからかなりの時が過ぎたが、未だに宗介には「古い池にカエルが飛び込んで水の音がした」という意味でしか取れない。

水の音がしたからなんだと言うのだ。

以前は「カエルが飛び込んで水の音がした。それに驚いた新兵が声をあげ、敵部隊に発見され自部隊は大損害を被った」と最もらしい(宗介の中では)事を答えたのだが、ふざけているのだと勘違いされた。

今回はそんなヘマをする訳には行かない。

椅子にに掛けてあるアルに聞こうとも考えたが、それは所謂「カンニング(チート行為)」であり、それ以前に人前でアルに喋らせるのは色々問題がある。

アルが一人でに検索をした時は、余韻がどうとかでポエムの傑作だと言っていた。
だが、余韻などどうでもいいと思った。
きっと作者はもっと違う事をこの17字に意味を詰め込んだはずだ。

宗介は配布されたプリントにこう書く事にした。

「作戦は失敗し、撤退の最中。
敵の追撃部隊に追われていて万事休すだったが、カエルが池に飛び込んだ音で、敵部隊の新兵が驚いた。
その隙をついて隊長格を射殺し、自分の部隊は撤退に成功した」

これならばどうだろう。
以前の答えと違い、敵に損害を与える事に成功している。
その上、撤退に成功までしているのだ。
前半の失敗した作戦は他の部隊のミスだと信じたい。

「よし、じゃあ相良。
この俳句の意味を答えてみろ」

現代文の担任に指名される。

「はい。
こそ俳句の意味は
『作戦は失敗し、撤退の最中。
敵の追撃部隊に追われていて万事休すだったが、カエルが池に飛び込んだ音で、敵部隊の新兵が驚いた。
その隙をついて隊長格を射殺し、自分の部隊は撤退に成功した』
であります!」

自信満々に答える。
これならば正解には近いだろう。

だが反応は真逆だった。
教室からは苦笑いが漏れ、教諭からは溜息が漏れた。

「相良。ふざけながら授業を受けいるのか」

屋上


現代文の授業は散々だった。
答えは間違いだったらしく、更にふざけていると判断された宗介は説教までされる事になった。

その事は忘れよう。

現代文の次は体育であった。

前日の夜中に体育がある事を把握していた宗介は、部外者が侵入するのに使えそうな校庭への道に地雷を仕掛けておいたのだ。

(体育は安全なはずだ)

体育の内容はサッカー。
女子は校庭でソフトボール。

宗介が地雷を仕掛けた理由も、女子も校庭での授業だからだ。

女子を監視しながら、サッカーをする。
男子生徒の蹴ったボールが脇道へそれてしまった様だが、監視に忙しい宗介はそれを見逃していた。

飛ばされたボールが地面に落ちる。
落ちた地点は地雷原だ。

爆音。

校庭は一瞬にしてパニックに包まれた。

その中で、ほむらだけは怒りの形相を浮かべて宗介を殴り飛ばしていた。

そして、授業が台無しになり今に至る。

この屋上にいるのは宗介とほむらだけだ。
話があるらしく二人だけで、と。

まどかとさやかは別の棟の屋上にいるようだ。

「話があるんだろう」

カロリーメイトを齧りながら宗介は要件を聞く。

「今日の夕方、昨日の使い魔の本体の魔女が現れる。
この付近の廃ビルよ」

同じくカロリーメイトを齧るほむら。

「何故わかる」

「統計よ」

「そうか」

聞いても教えないだろうし、聞く必要もあまりないと感じて宗介は追求しなかった。

「そして、そこには巴マミが狩りにくる。鹿目まどかと美樹さやかを連れて」

宗介には不思議でならなかった。
なぜ、戦力になどならない二人を戦場へ連れて行くのか。
足で纏いになるだけだ。

「そこに、私たちも向かうわ。
彼女は仲間を欲しているの。
上手く危害はないとわからせて、共闘関係を結ぶ。
そうすれば、あの二人を無理に引き込む事もなくなるはずよ」

一般人を巻き込んで仲間にしようとは。
宗介は納得がいかない様子だった。

「その他にも、魔法少女についてわかってもらいたいのもあるみたいね。
魔法少女体験コース、だそうよ」

「そんなもの、暁美に聞いた方が早いだろう」

宗介は既に魔法少女と魔女の関係を全て聞いていた。
魔女が魔法少女の末路だという事も。
つまり、ほむらの情報量ならば結界内部に入らずとも充分過ぎる事を伝えられる

「あの子たちに私の口から説明するのは恐らく無理ね。
昨日の事で、私たちはインキュベーターを襲う危険人物だと認定されているわ。
昨日助けた分はある程度は信頼されているみたいだけど、魔法少女の事については巴マミの方を信じると思う」

ほむらは手に持っていたカロリーメイトの1ブロックの最期の一口を放り込みながら言った。

「だが、インキュベーターは少女たちを魔女にしようとしている。
そんな胡散臭い奴を攻撃しても問題はないんじゃないか」

宗介も残りの一口を放り込んだ。

「まさか。
あいつは都合の悪い事は言わないわ。
だから、彼女たちが知っている魔法少女は魔女と戦うだけの正義の味方よ。
私たちはその正義の味方を邪魔する悪人でしかないの」

それはそうか、と思う。
確かに、最初から魔女になってくれ!などと言われたら願い事一つで契約するには無理がある。

少ない餌で大きな利益を得ようとするやり方だ。

「なるほど。
だからこそ、早い内に巴と共闘関係を築かねばならないのか」

正義の味方、という響きは懐かしくも感じた。
以前から<ミスリル>は正義の味方気取りとよく言われていたものだ。

「そう。
それを今日の狩りで何とか証明しなければならないの。
これ以上長引かせたら、彼女たちは後戻りできなくなってしまう」

ほむらは珍しく表情に影を落とした。

「できるのか?」

「わからないわ」

宗介の質問は曖昧な形に即答された。

「私たちの武器は、どう見ても信頼できる正義の味方なんてものじゃないわ。
警戒の原因の一つかもしれないわね」

信頼できないと言われる。
宗介はそれに反論する。

「最近の銃器の信頼性はかなり高く仕上がっている。
寒冷地でも砂漠地でも扱えるものを選んでいるぞ」

このグロック19もそうだ、とちらつかせる。

「そう言う意味じゃないのら、
確かにその銃の信頼性は非常に高いわ。でも違うの。
彼女は魔法で戦ってる、現代兵器を使う魔法少女なんて恐らく私だけよ。
つまりビジュアルの問題」

確かに銃と魔法はかけ離れ過ぎている。
以前にラムダ・ドライバを魔法と称された気もするが、宗介も流石にラムダ・ドライバを現代兵器とは言えない。

「そうか、外見だな。
それなら俺に秘策がある。
魔女が現れるまでの時間は下校からどれ位だ」

「丁度1時間程度よ」

秘策がある、と断言した。
その顔はやけに自信に満ちている。

「ならば、問題はないな」

そう言うとほむらがくしゃみをした。
朝からこの格好なのだ、冷えてしまったのだろう。

宗介は羽織っている防弾衣をほむらに掛けてやる。

「悪いわね」

「いえ、それほどでも」

何故かアルが即答した。

「お前に言った訳ではないだろう」

そのやり取りでほむらはくすりと笑った。

「そう言えば軍曹殿。
私が昨日、何故軍曹殿がインキュベーター野郎と魔女が見えるかを考えたのですが」

突然考察を話し出す。

「なんだ、言ってみろ」

「ラージャ。
ホムラ殿は魔法少女の素質は「二次成長期の少女で、人との因果が一定以上と言っていましたね」

アルがほむらに確認をとる。

「ええ、そうね。
私が貴方に話した記憶はないけれど」

ほむらが同意する。

「それについては軍曹殿から聞きました。
軍曹殿は二次成長期でも少女でも勿論ありませんが、人との因果の部分が極端に当てはまるのだと思われます」

宗介と、その周りの人々との因果。
考えてみれば、関わってきた人の数ならば歳以上のものになるだろう。

「人との因果だと?」

だが、それでも年齢と性別の条件を超えるとは宗介には思えなかった。

「考えてみてください。
ガウルンなども含めアマルガムとその周辺を。
世界に数えれる程しかいない「ウィスパード」の知り合いが貴方にはどれだけいますか?」

宗介はザッと考える。
宗介を人間らしく変えてくれた少女、千鳥かなめ
上官であり、仲間でTDD艦長のテレサ・テスタロッサ
その双子の兄で敵として対峙したレナード・テスタロッサ
以前に流れ着いた町でクロスボウの自分が死なせてしまった、ナミもそうかもしれない。
最後に、レーバテインの開発に携わったり、手紙とある動画のデータを渡してくれたクダン・ミラ。

これだけで、5人。
世界中でも数少ないと言われているのにだ。

「多かったでしょう?
それに、軍曹殿はこの世界の改変を止めて見せたのです。
ある意味では世界中の人との因果があります」

TARTAROS破壊の一件の事だ。
ある意味それは、かなめがやったに近いものがあるのだが。

「そうか、それなら僕が見えるなら納得がいくね」

何処からともなくインキュベーターが現れた。
一連の流れを聞いていたらしい。

「そうか」

既に相手にしても意味がないとわかった宗介は興味なさげだ。

「それと相良宗介。
学校中に罠を張られると困るんだよね。
ここに来るまでに、幾つ個体を減らされたか。
問題はないけど、勿体無いじゃないか」

どうやら、正規の道から入ってこなかったようで、地雷の餌食になっていたらしい。

「お前が訓練不足なのはよくわかった。
俺から話す事はない、失せろ」

新しいカロリーメイトを開けて、ブロックを咥えながらグロックを向ける。

インキュベーターは「やれやれ」といった様子で去って行った。

「ところで宗介。
それは何味?」

魔法少女について話す事がなくなったからか、他愛もない事を聞くほむら。

「フルーツだ」

「奇遇ね。私もフルーツ派よ」

そう言いながらほむらは立ち上がる。

「何処へ行くんだ?」

「別の棟の屋上に、美樹さやかと鹿目まどかと話にね。
貴方も行くのよ、宗介」

それだけ言うと先に歩き始めてしまった。
宗介は新しいカロリーメイトの最期の1ブロックを咥えながら後ろから付いて行く事にした。

別の棟・屋上

さやかはフェンス越しに病院を見つめながら呟いた。
「やっぱりさ、あたしたち馬鹿なんだよ。平和馬鹿。
別に何も珍しいモンじゃなくて。
本当にチャンスが欲しい人間なんて幾らでもいるのにさ。
なんであたしたちなんだろう」

それが、さやかが思いを寄せている少年の事だとまどかはすぐに理解した。

「そうだな。
だが、お前たちがわざわざ戦場に赴く必要性はない」

突然扉が開き、宗介とほむらが現れる。
宗介は、さやかの呟きに答えた。

「鹿目まどか。昨日の忠告、覚えているかしら」

ほむらはまどかに話し掛ける事にした。
まどかは遠慮がちに頷く。

「ならいいわ」

そこで会話が途切れた。

「あんたに何がわかるのさ、、、!」

さやかは語気を強めて、宗介のその答えに食ってかかった。
ほむらとまどかはそれを見つめる。

「何もわからないな。
何しろ、会ってから二日だ。
だが願いが叶うとしても、死と隣り合わせだけなら安過ぎる。
それ相応のリスクが更に付くべきだ、怪しいとは思わないのか?」

死ぬ事と同じレベルのリスク。
宗介はぼかしながら魔女化を伝えようとした。

「何さ、リスクって、、、」

ほむらが言っていた通り、死と隣り合わせ以外は知らないようだ。

「気になっただけだ。
それに、今日話しに来たのはこんな為じゃない」

ほむらからは魔女化を明確に教えるな、と言われている為にこれ以上は触れなかった。
マミのメンタルでは魔女化の事実に耐えられないらしい。
その事が、まどか又はさやかを伝って知ってしまう事を危惧しているのだ。

「そう、そして一番用があるのは巴マミ。
出て来なさい、話があるの」

ほむらは、何処か一点を見つめながら話す。
よく見ればそこにはマミの姿があった。
マミはと近くまでとぼとぼと歩み寄る。

「私たちは、貴方と共闘したい。
その事を伝えに来たの」

淡々と告げる、共闘の願い。

「待って、少し落ち着かせて頂戴。
共闘だったわね、答えるけど、お願い、その前に言わせて」

しどろもどろになりながらも、マミは息を整える。

「ここにいる、全員に言わせて。
相良くんも、暁美さんも、鹿目さんも、美樹さんも」

ここで区切って大きく深呼吸。

「昨日はごめんなさい!」

突然過ぎる謝罪。
聞いていた全員は唖然とした。

「まず、鹿目さんと美樹さん。
あんなに言い咎めるような事をして、ごめんなさい」

まずはまどかとさやかへ。

「そ、そんな、私たちはマミさんに感謝してるんです。
あんな所に入って、助けて貰えたんです。
だから、頭を下げないでください、マミさん」
「そうですよ、マミさん。
あんな未改装の場所に入ったのはあたしたちなんです。
危ない所を助けてくれたマミさんには迷惑まで掛けちゃったんです、謝りたいのはこっちですよ」

謝られた二人は本心から言っているようだ。
歳上だからなどの謙遜は全くない。

「ありがとう、二人とも……」

本来はたかだか14.5の歳なのだ。
無理に気張って一人きりで戦い続けるには辛過ぎる。
すっかり責められるものだと覚悟していたマミは、すこし涙ぐんでいた。

「次に相良くん。
頭に血が上っていたとは言え、発砲するなんてどうかしていたわ。
少し違えていたら怪我までさせていたかもしれない。
本当に、ごめんなさい」

次に宗介へ。

「こちらこそすまない。
まず、対話をするのならばこちらから武装解除するべきだった。
慣れない環境だったのでな、こちらも焦っていた」

宗介も本心から告げる。
確かに、サブマシンガンと手榴弾で武装した男に動揺するなと言う方が無理がある。

「それに、都合上撃たれる事もよくある。気にしないでくれ」

気にしないでくれ、は撃った事を気にするなという意味なのか、都合の事を気にするな、なのかは分からないが励ましているらしい。

「ありがとう、相良くんも。
最後に暁美さん。
貴女の行動は、魔法少女としては、っ、当然だと思…
「無理に謝らなくてもいいわ。
とりあえず、泣き止んで頂戴」

マミが話そうとしているのを遮り、ハンカチを手渡す。
何故こうも二人とも不器用なのだろうか、とさやかは思った。

あれは、ほむらなりの気遣いなのだろう。

「謝らなければならないのは、むしろこちらよ。巴マミ。
契約を阻止したいとは言え、強引が過ぎたわ、こう見えても反省しているの」

「俺もだ」

爆破した張本人として、宗介も便乗する。

「二人とも、凄く無表情…」

まどかがこの様子を見てぼそりとこぼす。

「む。そうか…
こういう時にどんな顔をすればいいのか、わからなくてな」

こうしている内に、マミは少し落ち着いたようだ。

「暁美さん…ごめんなさい…
そして、共闘の方は…っ…」

謝罪はできたが、次の答えでつっかえてしまう。

再びほむらはハンカチを手渡そうとする。

「転校生。こういう時は、待つものなの」

さやかもほむらが不器用なのは気が付いていたのか、その行動を止めた。

「なんだ、俺がどうした」

転校生の単語に宗介まで反応する。

「宗介じゃねーよ……」

脇で見ていたマミとまどかが思わず噴き出した。

「これなら言えそうね。
共闘の方、こちらこそお願い」

そう言いながらマミはほむらに右手を差し出した。

ほむらは微笑みながら、その右手をとった。

「一件落着、なのかな…?」
と、まどか。

「そのようだな。
いい事だ」
宗介も続く。

「うんうん、これでこそ青春だね〜」
さやかは冷やかすように。

一連のやりとりの青臭さに気が付いたのか、マミとほむらは揃えて顔を赤くした。

宗介の小型通信機に信号が入る。
『こちらウルズ6。羨ましい任務なもんだねぇ』

クルツからも冷やかすような声が届くが、宗介には何の事かわからなかった。

「…?何の事だ」

クルツに通信している間に何やら話が進んでいたらしい。

「そういえば、クッキーを焼いてきたんだけども…
皆で食べない?お昼休みもまだまだ長いし」

この提案は、全員が賛成だった。

放課後、セーフハウス


マミのクッキーの出来は素晴らしいものだった。
あまり食べ物には関心のない宗介がそう感じるのだ、ほかの皆もそうだったのだろう。

結局、あの後にマミの口からまどか、さやかの両名を結界に連れて行く事は辞める事を言い渡された。
やはり、平和でいられるならばそれが一番だ、との事だ。

まどかはそれに快諾した。

悩んでいたさやかも、少し唸った後に納得したようだった。


そして、今はセーフハウス。
一旦装備を取りに戻るとして、帰宅する事にしたのだ。
玄関の前には制服に着替え直したほむらが待っている。

宗介の任務はまどかの護衛だが、魔女の結界は少ない方が良い。
その方が危険性が減らせる。

「まだかしら?」

外から声がかかる。

「もう少し待ってくれ」

宗介は今まさに、ボン太くんを装着している最中だった。

カメラの起動。
バイラテラル角の設定。
その他探知機能の起動確認。
装備確認。
そして、ボイスチェンジャー。

翻訳者が必要になるため、ヘッドセットを一つ持ってゆく。
これは、ボイスチェンジャーに拾われる前の宗介の声を届かせるための物だ。

ボン太くんはどこか故障したらしく、ボイスチェンジャーをオフにすると、全ての機能がシャットダウンされてしまう。

準備は完了だ。

「ふもっふ!」

今回はここまでになります。
マミさん挽回になったかはわかりませんが、和解をやりたかったので前回はあんな事になっていまいました。

それと、まどかとさやかの出番が少ないですね、これも申し訳ないです。

杏子の登場はこのペースで進めるため当分先になります。こちらも非常に申し訳ない。

次の投下で本編2話目終了と並ぶくらいの進行になります。
それでは、おやすみなさい

うおあ!
癖で、、、と読みやすくしようとした……が入り乱れてる!!
余計読みづらくなってしまいました、ごめんなさい

乙!ふもっふ!

ふもっふ!

違和感の理由がわかった
全編シリアスのまどマギと、ギャグシリアスがしっかり別れてるフルメタじゃ、そのままただ組み合わせても違和感しかないわ
どっちかに寄せた方がいいんじゃねえか?

>>88
ご指摘ありがとうございます!
これから短編寄りの話を続けた後、まどか本編の要所要所はシリアス風…
みたいな感じで進行してみます。

それこそ、ワルプルギスまでコメディ調で
「クルツが狙撃したら当たりどころが良くて、ワルプルギス即死」
みたいな事をしたら、それはそれでマズそうなので…

まどかのシリアスさ加減をフルメタのぶっ飛びっぷりで相[ピーーー]る位で良いとも思うけどな
全部が全部そうであれとは言わないけどまどかの鬱フラグを火薬と弾薬とASでまとめて吹き飛ばす宗介を見てみたい

>>90

×まどかのシリアスさ加減をフルメタのぶっ飛びっぷりで相[ピーーー]る

○まどかのシリアスさ加減をフルメタのぶっ飛びっぷりで相殺する

キュゥべえが動物爆弾にされててワロタwww

>>91
ウルズチームのメンタルと火力なら鬱も何とかなりそうな感じですね

しかしレーバテインがECS搭載なしの都合上凄く出しにくいのですw


あ、それと>>1はiPhoneからの投下なのでIDがコロコロ変わる可能性があるのであしからず

>>92
あんな奴木っ端微塵になってしまえばいいんです!

たった今、今回分できたので投下開始します!

急ピッチ作業だったので、誤字脱字があるかもしれないです。

とっても嬉しい一匹狼?(後)

集合場所

「ねぇ、宗介。
やっぱりふざけているの?」

「ふも、ふもっふもっふ」
(違う、そんな事はないぞほむら)

ヘッドセットを付けたほむらの耳に宗介の声とボン太くんの声が聞こえてくる。

ふざけているようにしか感じないほむらは溜息を吐いた。

そこにマミが到着する。

「……暁美さん、魔女退治をふざけているのかしら?」

ボン太くんの姿を確認すると、ほむらと同じくやはりふざけていると感じた。

「私は真面目よ。
ふざけているのは、こいつ」

「ふもっ」
(真面目だ)

マイク越しに声が伝わる。

「本人は大真面目らしいけれど」

ほむらは意訳して伝える。

「中身は誰なのかしら…?」

おおよそ検討はついていたが、とりあえず確認しておく。
もっとも、魔女退治にくるのはマミ、ほむら、宗介のメンバーの予定だ。
それならばこの場にいない宗介が妥当であろう。

「ふもも、ふもっふ」
(相良宗介だ)

「……相良宗介だ」

面倒臭そうにほむらは翻訳する。
何故自分がわけのわからない着ぐるみの翻訳をしなければならないのか。

「せめて、そのボイスチェンジャーだけでもどうにかならないの?」

翻訳が面倒になると感じたほむらはボイスチェンジャーを切る提案をする。

「ふももふ、ふもっふもっふ」
(それはできない相談だな)

「何故かしら?変なこだわりならその着ぐるみから引っぺがすわよ」

翻訳する事もせずに、ほむらとボン太くんは会話をする。
当然、マミには会話の流れがわからなかった。

「ふももふもふもふ、ふもっふもっふふももっふ、ふも」
(故障が原因でボイスチェンジャーを切ると、全てのシステムがダウンしてしまう)

ボン太くん語で話し続ける宗介。

「ならその着ぐるみを使わなければいいじゃない!」

思わず大きな声を出してしまった。
ほむらはボン太くんについて、ある程度の説明は受けている。
これが、ある種ASに近い物だとも聞いたが実感はなかった。
ただの着ぐるみにしか見えない。

「ふもももふもっ、ふもっふ」
(そういう訳にはいかない)

ほむらとボン太くんは論争を続ける。
マミにはやはり会話の内容が全くわからなかった。
しかし、これだけは言っておこう。

「あの…二人とも?
結構目立っちゃってるわよ?」

苦笑を顔に貼り付けたマミが二人に告げた。

裏路地


ここならば目立つまい、とマミはボン太くんとほむらを誘導した。

もう長い間一人で戦ってきたため、こういった人が来ない場所は網羅している。

「それで、相良くんは何がなんでもその格好でくるのかしら」

「ふも」

「そうだ、と言っているわ」

人目に晒されてようやく冷静になったほむらは翻訳を再開した。

「そう。なら、仕方ないわね。
でも、私は必ずしもフォローできるとは限らないの。
それでも構わないなら、その装備でついてきても構わないわ」

意外な事に、ボン太くんを認めたのは誰よりも魔女の厳しさを知っているマミだった。

「貴女、正気なの?」

「だって彼、来るなって言っても来るでしょう?」

マミはそう言いながら微笑む。

「ふもっふ」
(勿論だ)

ボン太くんは即答する。
心なしか、ボン太くんの表情が真面目になった気がした。(勿論着ぐるみのため、そんな事はない)

「…仕方ないわね……」

はぁっ、と一つ大きな溜息を吐いて、ほむらも承認した。

「それでも、今回で危険だと判断したらそれは着せないわ。
それでもいい?」

最大限に譲歩する。
流石に自業自得であっても、目の前で死なれては後味が悪い。

「ふもっふ」
(肯定だ)

「そう。なら行きましょう」

条件を飲み込んでくれてほむらは、ほっとした。
そして、翻訳を忘れてしまう。

「……今のふもっふはどっちだったのかしら」

「面倒ね、これ」

ほむらはやはり面倒臭そうに翻訳をするのだった。

街路


三人は、歩きながら魔女を探していた。
ほむらは場所を知っているらしい事を宗介は聞いたが、なぜ知っているかは教えてくれなかった。
そして、その魔女の事をマミには伝えていない。

事情がある。とだけ言われて宗介はそれ以上の追求をしようとは思わなかった。

その事実が知られたくないのか、ほむらはさりげなく魔女の居場所へと誘導する。

それにしても、何と奇妙な一行なのだろうか。
女子中学生二人に、着ぐるみが一匹。
自然と周りの目は集まっていた。

そして何より。
「ふもっ!ふもっ!」
(寄るな!散れ!)

人目につくのを嫌がるボン太くんは拳銃を片手に持ち騒ぎ立てる。
それを、後ろにいるマミは抑えていた。

何発かの銃声が漏れる。

抑えきれずに、引き鉄を絞らせてしまったのだ。
その銃声は明らかにエアガンやらガスガンやらだと言い訳するには苦しいほどの火薬の爆発音を響かせた。

幸い、銃口は真上を向いていたために怪我人はでなかった。

流石に耐えきれなくなったほむらは無言で頭をはたいた。

「ふもっふ…」
(痛いじゃないか)

だが、これに驚き周辺から人が逃げ去ったのは僥倖であった。

『あーあー、こちらウルズ2
明らかに様子のおかしいOLさん発見。
ソースケたちの近くの廃ビル付近ね。あとはよろしく、オーバー』

えらく適当な通信が入る。
恐らく魔女にターゲットにされたのだろう。

「ふもっもっふふもふも、ふもっ!」
(魔女が現れたらしい、行くぞ!)

通信を聞いた宗介は声を挙げる。

「わかったわ!」

ほむらは内容を理解したが、マミには聞こえていない。
マミからしたらただ騒いでいるようだ。

「えっ?どうしたの?」

マミは様子が変わったほむらに問おうとするが、既にボン太くんと共に走り出していた。

「ちょ、ちょっと!待ってよー!!」

遅れて事態を理解したマミは、二人の後ろを追いかける形で走り出した。

廃ビル付近


ボン太くんは、その短い足から想像もつかないほどに俊敏だった。

同時に走り出したほむらも、遅れてほむらに並んだマミもそれなりに後方で走っている。

先にボン太くん一人で到着していたのだ。

ほむらもマミも、女子中学生とはいえ魔法少女だ。
一般人の走りとは比較にならない速さで駆け抜けていたはずだが、ASに近い構造のボン太くんには敵わなかった。

「なんて出鱈目な速さなのよ…」

肩で息をしながらほむらが感心する。

「ふもっふ、ふもふもも〜」
(どうだ、中々の性能だろう)

一方ボン太くんふほむらとマミよりも速かったにも関わらず、息が一つも乱れていない。

踏んだ場数もさることながら、ボン太くんの性能のお陰でもある。
もっとも、バイラテラル角をかなり急に設定しているため、宗介自身の動きはかなり少なかったのだが。

「『どうだ、中々の性能だろう』
そうね、見直したわ」

「見直すどころか、驚いたわ」

流石は魔法少女といったところか、驚くべき事に二人の息ももう整っていた。
恐るべきベテラン達である。

「!?あれは…!」

マミは廃ビルを指差す。
釣られてボン太くんとほむらも見上げる。
そこには虚ろな瞳をしたOLが今にも飛び降りようとしていた。
あと、三歩、二歩、一歩。
そして、最後の一歩もなんの躊躇いもなく踏み出した。

それを見てマミは高速で変身する。

「っ!」

そして、腕を伸ばすと何もない空間からリボンが出現する。

OLはリボンに絡め取られ、事なきを得た。

静かに降ろすと、飛び降りた反動でなのか失神しているようだ。

マミは素早く首筋を確認する。
唇の形をした、歪なマーキング。

「間違いない、魔女の仕業ね」

確認を終えるとマミは素早く立ち上がり、ビルへと向かう。
ほむらとボン太くんもそれに続いた。

勢いよく三人は突入する。が、いきなり行き止まりにつく。

「入り口ね」

ほむらが、そっと呟く。
マミは小さく頷いた。

確かに、行き止まりの壁には大きく紋様が描かれている。
よくみれば、先程のマーキングと似た意匠にも見える。

「ふももっふもっ」
(これが入り口か)

「そうよ。行きましょう」
ほむらは先行して進入する。

「ふもっ!」
(了解!)
ボン太くんもそれに続く。

「……何て言ってたのかしら」
釈然としないまま、マミも続いた

結界


相変わらず結界の中はコラージュ・アートのようで、現実からかけ離れていた。

これが危険な空間とは思えんな。

ボン太くんもとい宗介の育った「危険」はもっと殺伐としていた戦場だ。
それぞれの「危険」に差異が生まれるのは当然である。

(だが、危険には変わりないな)

ボン太くんはその可愛らしい見た目に似合わない散弾銃を構えている。

ほむらはその後ろに機銃を、マミは武器を具現化はしていなかった。

目の前に動作。

ボン太くんは素早く髭の使い魔に発砲。

ッポン!と軽快な音と共にラバーボール弾が発射される。















ぐ し ゃ っ 。








鈍く不快感の強い何かが潰れる音が響く。

何か、ではなく確実に使い魔なのだが。

見事に潰れていた。

訓練弾と言えど、改造を施された弾は使い魔を一撃てひしゃげさせたのだ。

これにはマミもほむらも苦笑いする。

「ふもっふ」
(やわだな)

その後も、ボン太くんの戦果は凄まじいものであった。

化け物であろうが、戦闘には変わりないのだろうか。

サーチアンドデストロイ

まさにその単語を示すように、的確に敵を文字通り「潰して」いった。

発見次第に速射。
ひと塊りとなっている使い魔には確実にロケットランチャーを放ち木っ端微塵に。

対応出来ない数でも、例の素早さが最大の武器ともなった。

勿論、マミとほむらもベテランの力を思う存分に発揮した。
むしろ、ボン太くんの立ち回り方が良かったのかもしれない。

今がまさにそんな状況である。

「ふも〜ふも〜!ふもっふふもふも!」
(暁美!巴!後ろの奴を頼む!)

ボン太くんはそれなりの数の使い魔に追われていた。

実際は囮になっているのかもしれないが、あの外見だと追われているようにしか見えない。

時に後ろに発砲。ぐしゃ。
前を阻む浮遊型と思しき使い魔は殴り飛ばす。

「『後ろを頼む』って。
巴さん、やるわよ」
「ええ、任せて!」

何時の間にかほむらはマミの呼び方を変えていた。
フルネーム呼びよりも、優しく感じるからだそうな。

「始めるわ」
そういって軽機銃を構える。
魔法とは程遠い見た目。
ボン太くんを追い回す使い魔に照準を合わせ。
掃射。
ズガガガガガガガガ、と凶悪な発射音。
ボン太くんの散弾銃とは比べ物にならない破壊力だ。
こちらは潰れるどころではない、粉々だ。

「こっちもやるわよ!」
マミは意気揚々と大量のマスケットを召喚。
一斉に放つ。
魔法で出来た物だ、出現した時から銃口は全て使い魔へと向いている。
こちらの破壊力も中々際どいものだ。
恐らく、この結界と同じ材質(?)のような敵でなければ、肉片と化しているかのような爆裂。

だ。
恐らく、この結界と同じ材質(?)のような敵でなければ、肉片と化しているかのような爆裂。



数分後、三人の連携によって使い魔は粗方消滅させる事に成功した。

「ふもっ!ふもっ!ふもっ!」
ふもふもと言いながら最後の一体を弾の節約のためにストンピングやら、銃底打撃で攻撃する。
可愛らしい見た目に反して、かなりエグい攻撃方法だ。
既に使い魔は原型をとどめていない。

このボイスチェンジャーは軽い吐息までも感知してボン太くん語として喋ってしまう。
この「ふもふも」はただの息だ。

「ふも〜、ふもふもっふふもふも」
(ふう、これで片付いたか)

「『ふう、これで片付いたか』だそうよ。
後は魔女だけね」

「油断はしちゃダメよ。
蓋を開けないからには、中身もわからないし、どんな危険な奴が現れるかもわからないから」

翻訳を聞いたマミが油断せぬように、注意する。

「そうね。確かに油断は死に直結するわ。
絶対に気を抜かないで」

さらに厳重に注意を呼び掛けるほむら。

「ふもっふ」
(勿論だ)

油断が死に直結する。
どんな戦場であっても、変わりのない事だ。
そして、死はどんな有能な戦士にも訪れる事も熟知している。

「それじゃあ、行くわよ!」
そう言ってマミは勢いよく最後の両開き大型の扉を蹴破った。

結界最深部

細い通路を抜ける。
目の前には円形の広い空間。
地面はかなり下にあるため、この通路から飛び降りたら退却は至難だろう。

そして中央には魔女。
これまたかなりのサイズのコラージュ・アートの塊のような姿をしている。

むしろ、使い魔よりも遥かにどんな形状なのか判別がし難く感じる。
使い魔は頭部(?)から直接手足が生えたような、一頭身生命体であることはわかった。

だが、こいつはなんだ。
なにか、植物でも模しているのだろうか。

ボン太くんがそんな事を考えている内に、マミとほむらは飛び降りてしまったようだ。

「先手必勝よ。反撃なんてさせるつもりはないわ」
軽機銃を乱射しながらほむら。
的が大きい分当たりやすいのだろうか、照準は大雑把だ。

「ふっ!」
マミはマスケットを召喚し、踊るような動きで連射。
隙だらけに見えるが、確実に攻撃は回避している。
しかし、その銃撃は幾つか外れ、壁や地面に穴を残した。

最後にボン太くん。
「ふもっふふもふもっふ!!」
(グレネードランチャーで牽制する!)
「グレネードランチャーを使うそうよ!巴さん!巻き込まれないように注意して!」
ほむらは素早く翻訳する。
そうとだけ言うと、ボン太くんは何処からともなく六連装グレネードランチャーを取り出す。
そして、構え、発射。



ポン、ポン、ポン、ポン、ポン、ポン。



ガーン、ガーン、ガーン、ガーン、ガーン、ガーン。



間抜けな発射音と、強烈な爆発音。

全てが魔女に向かい確実に命中する。

これには魔女もたまらなかったのか、仰け反りながらも回避しようと壁を走り回る。

その間に、三人の足元には小さな使い魔が接近していた。
そして、集合した使い魔は一本の蔓になり、三人を束縛しようとする。

ボン太くんだけは、蔓になる前に使い魔を踏み潰した。
ぐしゃ。
見た目とのギャップが激し過ぎるため、何をしてもえげつないな、とほむらは吊るされながら思った。

(あれ?このままじゃマズイかしら?)
捕まってからほむらは考える。

しかし、その心配は必要ないようであった。
マミの銃撃が残した穴から、リボンが生え始める。
それは、急速に伸びて行き、魔女の体を縛り上げた。

マミは自由になった腕で胸元のリボンを外し、それで蔦を切り裂く。

ほむらは同じく自由になった腕で盾からナイフを取り出し、蔦を裂いた。

二人が、ボン太くんを中心にするように着地する。

ほむらとボン太くんはそれぞれRPGを構え、マミは魔法で巨大な大砲を作り上げた。

「喰らいなさい」
「ふもっふ〜〜〜〜!!!!!」
「ティロ!フィナーレ!!!」

三者三様同時に叫びながらそれぞれの獲物を魔女に向けて放った。

勿論、木っ端微塵である。

次の瞬間、結界は消滅した。
廃ビルの中に戻ってくる。

「ふもっふふもふも」
(任務完了か)

廃ビル外

三人が廃ビルから出ると、被害者のOLが丁度目を冷ました。

マミの姿を確認すると、自分のした事を思い出し、怯え始める。

「やだっ、私、なんでこんな事…」

震えながらマミに抱きつく。

マミはそっと抱き締めながら、落ち着かせる。

「大丈夫ですよ、ちょっと悪い夢を見ていただけですから」

そんなに抱き締めたら胸で窒息させてしまうのではないか、とほむらは恨めしく思い、自分の胸を凝視した。

見事な平坦。
溜息を吐くが、まあ仕方のないことだろう。

出てくるタイミングを完全に失っていたボン太くんも励まそうと近寄る。

「ふもっふ、ふもふも、もふっふもふも」

何かを励まそうと声を掛けたのだろうか。
ほむらは結界消滅と共にヘッドセットを外して首に掛けていたため、実際になんと言ったのかを知る人はいなくかった。

ボン太くんなりに、優しさを見せたのだろうか。
だが、それは仇となった。

それもそうだ。
顔を挙げたらいきなり巨大な着ぐるみの顔があれば誰でも驚く。

「きゃあああああああ!!!!!」

自分のした事に怯えていたOLだ、そんなに周囲に気を遣う余裕などは一切なかったようだ。

一連の流れを見て、マミとほむらは久しぶりに幸せな気分を味わえた。

一方その頃、何処かの孤島


テッサは莫大な資料に目を通していた。

アマルガムについての報告。
数ヶ月前の決戦に勝利したとは言えど、アマルガムは構造はかなりタフな組織だ。
更に、今の構成員など発足当初のメンバーの理想には遠く及ばない。
ただの危険な技術を持ち合わせたテロ集団に変わりない。

テッサが今、手に持っているのは関係者のある程度のリスト。

その中の一つに目が留まる。

既に故人となっているが、その最終の住所がチラリと見えたからだ。

日本○○県見滝原市

宗介が任務に赴いている地ではないか。

名前を確認する。
















美国議員


















下の名前は、削除されていた。

今回はここまでになります。
進行度は丁度2話終了あたりです。

ちなみにサブタイトルのとっても嬉しい〜ですが、それはとっても嬉しいなって、の名言を残したまどかは全く出てきてません。
強いて言うならば、マミさん達の変えるべき場所になれた事を嬉しく思ってるとか、そんな感じです。
書いてないですけどw


それと最後の部分

結構迷ったんですが、逆にまどか系列のキャラからフルメタに関わらせて見ようと挑戦してみました。

微妙に抵抗がある人、申し訳ないです…


あと、まどマギキャラで一番役得なのはマミさんに抱き締めて貰えた2話のOLさん

ふもっふ!ふもふも……ふもふもふもっふ?
(乙!久臣氏ェ……織莉子クルー?)

今回分書き終えましたので、投下再開します。

※この話は織莉子とキリカが出会う、又はメインの番外編な話です。
それと、見滝原周辺の日常を取り巻く環境もです。
短めで、本編キャラは余り出番なしです。
連続して出番のない、まどか、さやかファンの方すまない!

サイドアーム
それが、愛でしょう




美国宅付近


「まったく、なんであたしがこんな事を…」

目的地を近くにして、メリッサ・マオはぼやいていた。

昨日の夜中にテッサから連絡があったのだ。
その指令は、兵隊の任務とは無関係と言っても過言ではない。

ある人物のメンタルケアだと言う。

しかも、子供の。

その少女の父親はアムルガムとの関係があったらしく、殺害された。
もっとも、表向きの報道は自殺となっているが。
しかも、自殺の要因を作る為に死後に汚職まで着せられたある種悲劇の人物。

聞くところによると、その少女は14だか15だか。
例の魔法少女とやらの素質があるらしい。
そして、それの阻止の為のメンタルケア。
下手に契約などされては、宗介の任務の障害となりかねない。

そんな名目で見ず知らずの少女のメンタルケアをしろとの事だ。

そうこう考える内に目的地に到着。
建物を見ると、感想をこぼした。

「面倒な事になったわね…」

大層な家だが、窓が割れ、塀には大量の落書きがされている。
海兵隊で育ったマオは、こういった遠回しの手段が嫌いだった。

「行くしかないか…」
と、溜息。

この任務は自分には向いていない。

そこで黒髪セミショートの少女がこの家を見上げている事に気が付いた。

髪型が何処となく自分と似ているな、とマオは思う。

だが自分には関係ないと思い、美国宅へ入ろうとする。

が、声を掛けられた。
家を見ていた少女だ。

「あ、あの…この家の…知り合いの方…ですか…?」

口下手なのだろうか、凄く途切れ途切れに少女は訪ねてきた。

「いや、違うよ」

「…………」

訪ねてきた事に答えたら、今度は喋らなくなるのはどうなんだ。
そう思って、マオが口を開いた。

「どうしたの?」

「あの…付いて行っても…いいですか…?」

やはり、この任務は自分には向いていない。

見滝原中学校


ボン太くんが多大な戦果を挙げた魔女との戦いから5日、転校からは丁度一週間を宗介は迎えた。

だが、相変わらず宗介はこの校舎に慣れていない。
構造の問題ではない。
この全面ガラス張りデザインがダメなのだ。

(これではいつ狙撃されるかなど、分かったものではない…)

実際にはこの街が平和である事、クルツがついている事を考えれば狙撃などあり得ない事ではあるが。

いっそ、自分の教室の窓をコンクリートで固めてしまいたい気もしたが、それを実行したが最後、ほむらとさやかに殴られ、早乙女教諭には怒られ、まどかに愛想を尽かされるのは目に見えていた。
そうなってしまえば、任務の達成は困難だ。

だからこうして、大いなるストレスに耐えながら勉学に励んでいた。


キーンコーンカーンコーン


チャイムが鳴り響いた。

「はい、じゃあ授業はここまで!
後で皆はノートをまとめること!」

そうとだけ言い残して担当の教師は去って行く。

昼休みの時間だ。

あたりは騒がしくなり、ある生徒は購買へ。またある生徒はは弁当を広げた。

宗介は魔女狩りのメンバーのマミ、ほむらに加え、まどか、さやか、仁美の計六人で屋上へ向かった。

屋上


周りに異性しかいないという状況は、宗介には慣れない環境だ。
おそらく、クルツは狙撃砲のスコープからその様子を覗いているのだろうが。

マミ、まどか、さやか、仁美はそれぞれ弁当を広げる。
相変わらず食べ物に無頓着なほむらと宗介はカロリーメイトを当然の様に取り出した。

これでも、陣代高校の最初期に比べたらマシな昼食だ。

そのころは、軍用レーションやら得体の知れない干し肉を無言で貪っていたのだから。

だが、一般中学生の感性からしたらカロリーメイトは昼食には当てはまらないようであった。

「相良くん、ほむらちゃん……それ……」

最初に気になってしまったのは、まどかだった。

「?フルーツ味だ」
「私もよ」

宗介もほむらも、味を聞かれたものだと勘違いして答える。

「そうじゃなくて、まどかが言いたいのは、それで足りるのかって心配でしょ」

続きが言えなかったまどかの言葉をさやかが代弁する。
流石は幼馴染。互いに理解しあっている。

「美樹、侮ってはいけないぞ。
カロリーメイトはこのサイズですぐに食べられる。その上、必要な栄養が揃っている点もかなり評価できる」

宗介はカロリーメイトの利点をざっと並べる。

「栄養じゃなくて、量の問題じゃないのかしら…」
と、更にさやかの言葉をマミが引き継ぐ。

「量なら問題ないわ。
4ブロック入りを二箱も取れば、それなりの満腹感は得られるもの」

今度はほむらがカロリーメイトを語る。
宗介は横で頷いていた。

「二人とも面白い方ですのね」
と仁美。

この中で唯一魔女魔法少女を知らない、本当の意味での一般人。
マミはこんな平和を守る為に戦っていたと行っても間違いではない。

「でも、相良くんは体も大きいし、そうもいかないんじゃないのかなって」
そう言いながら、まどかは宗介とほむらの手元を見る。

ほむらが一箱、宗介は二箱しか持ち合わせていなかった。

「しかも、二人とも自分等で言ってる量より少ないし…」

と、さやかが突っ込む。

「あぁ、昨日の夜に買いだめしようと思っていたら、フルーツ味が売り切れていてな」
「奇遇ね、私もよ」

どうしてこの二人はこう、変なところで共通点があるのだろうか。

「私の弁当を分けるわよ?
って言いたいところだけど、流石に二人ともそれでも足りないわよね…」

マミが分ける提案をする。

「私のも良いよ!」
「あたしのも食いなよ!」
「わたくしのも、どうぞ」

それを皮切りに三人も二人にわけようとする。

「ありがとう、みんな。
でも、そうすると貴女達の方が少なくなってしまうわ」

四人の申し出は素直に嬉しかったが、流石にカロリーメイトしか持っていないのが理由で減らしてしまうのは申し訳ない。

「それじゃあさ!購買に行ってみなよ!
案外イケてるんだよ、あそこのパン」

さやかは更に提案をする。

「コッペパンは人気がないけどね…」
と苦笑いで補足するまどか。

「でも、二人とも言ったことがないんじゃないのかしら」
とマミ。

確かに、二人は転校してから一週間だ。
ほむらも、購買を利用した事は一度もなかった。
二人とも、その間の昼食は全てカロリーメイトで済ませている。

「なら、このさやかちゃんが付いてあげようではないか!」

購買前


「ほら、ここでデカイ声で」

購買の前は生徒で溢れかえっていた。

確かに、始めて訪れるにしては辛いものがあったかもしれない。

「大声を出すのは苦手なのだけど」

ほむらはこんな環境には慣れていない。

「よし、美樹。ありがとう。
あとは俺と暁美で大丈夫だ」

「本当に?」

「ああ、問題ない」

そう言うと、さやかは屋上へ戻って行った。

「大丈夫なの?」
と心配そうにほむら。

「こう見えて、前の学校では購買の販売員もした事がある」

そう言いながらも、宗介は鞄から二丁拳銃を取り出し、一丁をほむらに手渡して耳打ちする。

二人は激戦区のやや後ろに立った。
今回は、ほむらは宗介の案に乗ったのだ。

そして、拳銃を真上に構える。

同時に、発砲。

パァン、と派手な音が響き購買周辺は急に静かになり、二人は注目を浴びる。

「「コッペパンを要求する!!!!」」

再び、屋上


「このバカ転校生ズ!!!」

いきなり宗介はさやかに頭をシバかれた。

先程の銃声は平和な学校にとっては大き過ぎたのだ。
屋上には余裕で届いていたらしい。

「だが、戦利品は得れたぞ」
「そうよ、さやか」

二人は満足気にコッペパンを前に掲げた。

「コッペパンなら問題なく買えたんじゃないかな…って」
遠慮がちにまどかは呟く。

「まぁ、何にせよ買えたようですし、わたくし達も食べましょうか」

仁美がそう言うと、全員ほむらと宗介の帰還待ちだったのか、昼食を再開する。

コッペパンとカロリーメイトだけであったが、ほむらと宗介にとっては久しぶりに色のある昼食となった。

美国宅


マオは目的の家の中に入ることに成功したようだ。
家の前にいた少女の名前は呉キリカと言うらしい。

「それで、何か御用でしょうか…」

そう聞かれてマオはハッとする。
そう言えばメンタルケアとだけ言われて、口実も何も考えていなかった。

「い、いやー、目の前を通りかかったもんだからさ。
家の落書きとか、窓とかを見たわけ。ひでえ事をするファッキング・シットも居たもんだ、と。
何かの政治家の娘さんなんだっけ、この家、ニュースで見たよ。」

咄嗟に言い訳が飛び出し、普段の汚い言葉遣いが出てしまう。
織莉子は、あぁ、この人もか。と少し落胆した。

「あー、あと家にいきなり押しかけたんだから、自己紹介は要るよね。あたしはメリッサ・マオ。
名前の通り中国系のアメリカ人でニューヨークの出身。
今はニホンに住んでるの」

余計な事を聞かれてボロが出る前に必要そうな自己紹介をしてしまう。

「私は、呉キリカ…です」

キリカも名乗る。

「私は…………美国……織莉子と申します」

苗字と名前の間に妙な間があった。

「そう、じゃあオリコって呼ぶわね」

マオは基本的に人の事は名前で呼ぶ事にしている。
織莉子も例外ではなかった。

そして、基本的に名前で呼ばれる事はなかった織莉子は意外そうな表情をする。
事情を知っている人間は皆、美国議員の娘、としか認識しなかったからだ。


美国さんの娘は…
美国さん…美国さん……
誇れる娘さんですな…………


嫌な事ばかり思い出した。
別に、父が嫌いではない。むしろ大好きだ。
汚職など、信じていない。嘘っぱちだ。

そう考えていると、暗い顔になってしまったのか声を掛けられる。

「……大丈夫…?」

意外にも声を掛けたのは、どちらかと言うと積極的にコミュニケーションを取らなそうなキリカだ。


「ええ、少し考え事をしてたみたいです、気にしないでください」

織莉子は硬い言葉遣いはそのままに微笑んだ。
キリカも緊張が和らいだようだ。

「それで、その…今日はお礼に来て……」

「?」

お礼と言われて織莉子は首を傾げた。

「この間、コンビニで……」

「あの時の小銭の事かしら?
お礼をする程の事でもないのにわざわざ……いい人なんですね、キリカさん」

「お礼…言い忘れてたから…」

なんと律義な少女なのだろうか。
礼を言い忘れただけで、自宅まで追ってくるとは。

「それで、ここに来させてもらった理由なんだけど」

見滝原中学校、放課後


魔女の探索は基本的に放課後だが、今日は少しだけ休む事にした。

そこで、さやかの提案でクラスメイトの上條という少年に見舞いを兼ねて宗介とほむらの挨拶に行く事にした。
ついでなのでマミも付いてくる。
仁美は習い事の用事で先に帰ってしまった。

「それじゃあ行こうか。
恭介のいる病院はそう遠くはないよ」

「私が元々いた病院ね」

「ほむらちゃんはそれで休学してたんだね」

「あら、暁美さんは体が弱かったのかしら。そんなイメージは余りないけど」

「その体であれだけ動けるとはな。中々の根性があるようだ」

こうして見ると、この面々で宗介は明らかに浮いていた。
一人だけ男だから、だけでは説明がつかない程に。
育った環境なのか、雰囲気が違う。
魔法少女のベテランであるマミもほむらも普段ならば、普通の女子中学生と変わらない。
こんな平和な街中を警戒しながら歩くのは、宗介くらいだ。

「見舞いの品も持ったし、早いとこ行っちゃいますか!」
と、さやかは元気良くはしゃいでいる。

「そんなに急がなくても、まだ探索の時間にはならないわよ、美樹さん」
マミはそう言ってさやかを落ち着かせる。

「だが、目標行動は迅速にこなすものだ」

「そんな目標じゃないって…て言いたいけど、面会時間は短いからね」

まどかは宗介に突っ込もうとするが、宗介の意見には賛成だった。

「ええ、それじゃあ急ぎましょう。
見滝原総合病院へ」

美国宅


「白い生き物?」

「そ、契約がなんとかって迫ってくるこんな奴」

マオはインキュベーターについての説明をしていた。

「それ…私は見た事ある」

織莉子はわからなかったらしいが、キリカは見た事があるらしい。

「願い事が叶うとか……そんな事言ってて、その時は…疲れてるんだと思ってすぐに寝た」

確かに、あんな小動物が願い事を叶えてくれるなど、あり得ない事だ。
マオはインキュベーターが見えるような歳ではない。
もしも見えたとしても、疲れているんだと酒を飲んで寝てしまうだろう。

「願い事、ですか」

織莉子が食いつく。

マオはそれに傾かない様に注意を呼びかける。

「でもそんなの絶対にダメ。
あいつら、大事な事を隠して理不尽な契約をするらしいから」

「大事な事?」
キリカは疑問をだした。

願い事を叶える。その代わり、怪物と戦う。
これならばかなりフェアかもしれない。

「そうね…知り合いから聞いたんだけど、魔法少女の最後なんて、良くて誰かが見てる所でぶっ殺される。普通で誰も見てない所でぶっ殺される。最悪だと、化け物になる…らしいよ」

全部これらは、ほむらの受け売りだ。
ここまで聞けば、契約などしようとは思わないだろう。

「それでも、もしチャンスがあれば……」

「やめておいた方が良いと思う」

織莉子の声を遮ったのは、キリカだった。

「そんな願い事なんか叶わなくたって、生きていける。
自分を大事に思ってくれる人を裏切る様な事になる。

私は……もし大事な人が死んだり、化け物になったら悲しい」

キリカは自分の思いをぶつける。

「それでも!私は自分の生きる意味を知りたい!」

織莉子も自分の意思を伝えようとする。

「生きる意味なんて、そこらの女子中学生がわかるわけねーっつーの」

その主張にマオは口を開いた。

「そんななぁ、意味のわからねー契約なんぞで知る意味なんて糞喰らえだ。
人はみんな自分で知っていくものなの、そういうのは!」

珍しくマオは語気を強める。

「第一、そんな願いで神様に「海老を採れ」なんて言われたらどうするの?」

神様のお告げで海老を採れと言うのは宗介の前任者の事だ。

「そんな…私の事を大事に思う人なんていないですし……」

織莉子はマオに言われて軽率が過ぎたと反省するが、キリカの言葉の意味を見出せない。

マオはマオでこんな子供に大声を出した事を反省した。

「居るよ。少なくとも…私は織莉子を大事だと思う…………
初めて、あんな些細な事だけど……私に親切にしてくれたの……織莉子だけだから……」

織莉子はそんな理由で?とも思うが、それだけの為に家まで訪ねたのだ。
本当に織莉子が大切だと思うのだろう。

「だから……お願い…少しでも力にならせて欲しい……
大切に思う人が居ないなんて…言わないで欲しい」


マオはこの流れには割り込めず、脇で(青春だなー)などと考えていた。

そこで、時計をチラリと見る。
中学校はとっくに終わっている時間だろうか。

「じゃ、キリカが愛の告白をした所で、家の落書きでも消そうか。
ほら、行くよ!」

突然何を言い出すかと思えば。
それを聞いて、キリカは顔を赤くした。

「!?
それじゃあ、そ、掃除道具を持って来ますね!」

少なからず、織莉子も動揺しているようだった。
それと、掃除の申し出にも驚いているようで、逃げるように掃除道具を取りに行った。

総合病院、病室前


さやか達は病室の前に到着した。
ノックをする。

「どうぞ」

男の声とは思えないか細さ。

「お邪魔しまーす」
そう間延びした声を出しながら、さやかは扉を開く。

「こんにちは、上條くん」
「初めまして。新しいクラスメイトの暁美ほむらです、よろしく」
「同じく、相良宗介だ」
「美樹さんの先輩の巴マミよ、よろしくね」

それぞれ挨拶をしながら病室に入る。

「上條恭介です。よろしく、暁美さん。相良くん。巴先輩。
それと久しぶりだね、鹿目さん。
さやかは、いつもありがとう」

声は明るくしようとしているようだが、もうにも表情が暗い。

ほむらと宗介は転校生だと伝えた。
今日の目的はある意味ではこれで終わりだ。

それからは、他愛もない世間話で時間を潰した。
クラスの事、転校生二人の事、趣味の事。
そして、上條がかつては天才バイオリニストと謳われ、今では左腕が動かない事も。
その事は意外にも上條の口から語られた。

楽しい時間は続いた。
ある話題に触れるまでは。


「そう言えばさ、恭介はさっき何を聴いてたの?」

この一言を聞くと、上條の表情がピクリと動き引き攣ったのを、さやかとまどか以外は見逃さなかった。

「…………亜麻色の髪の乙女」

「あぁ、ドビュッシー?
いい曲だよね!
あたしさ、ほらこんなだから、たまーに曲名とか当てると驚かれたりしちゃって……」

表面上は何の問題もないやりとり。
だが、どこか危険を孕んだやりとりのようにも聞こえた。

「さやかはさ……僕を苛めているのかい?」

やはり、地雷であったようだ。

「何で今でも音楽なんて聞かせるんだ」

上條の声は明らかに怒りを含んでいる。

「だって、恭介は音楽が好きだから……」

さやかは、こんな反応が返ってくるとは思わずに狼狽する。

「もう聴きたくなんかないんだ、こんな、自分で弾けもしない曲なんて!!!」

そう言って、上條は、動かなくなった左腕を、CDプレイヤーに、叩き…………………











叩きつける事はできなかった。











動きを事前に察知した宗介に手首を掴まれた。

「やめろ、上條。
それを破壊して何になる」

宗介は珍しくまともな事を言った。

それよりも、今のやり取りに怒りを覚えたのは。
他でもない。





暁美ほむらだ。

ほむらは、自分がどんどん怒っているのが分かった。

こんな男の為に……………………
毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も…………………

美樹さんは魔女になっていたと言うのか…………

(ふざけるな、冗談ではない!!)


普段冷静なほむらは、この時だけはその激情に身を任せた。


次の瞬間、ほむらは上條に強烈な平手打ちをした。

さやかとまどかはその光景を呆然と見つめる。
マミは、やれやれ、と言ったような様子だ。
宗介は相変わらず、ムッツリ顔にへの字口。

そのまま、ほむらは上條の胸倉を掴んだ。

「ふざけないで!!!
美樹さんは貴方をどれだけ大切に思っているの!?!?
腕が動かない!?そんなの知らな……」

そこで肩を掴まれる。
マミと宗介だ。

「暁美、そこまでにしておけ。
それとなくお前が腹を立てるのはわかるが、他の病室に迷惑になるぞ」

「そうよ、暁美さん。
貴女の言ってる事の方が正しいかもしれないけど、迷惑を掛けちゃったらいけないじゃない?」

二人にそう言われると、ほむらはようやく冷静さを取り戻した。

「ご、ごめん……あたし、全然恭介の事を考えてなかった。
腕がそんなに深刻だったって事も、何もかも……
今日は、帰らせてもらうね……
本当にごめん……」

先程の和気あいあいとした空間はどこへやら。

「さ、さやかちゃん……」

まどかも、さやかを追って居なくなってしまう。

ほむらも無言で立ち去ろうとする。

「暁美さん…」

その背中にマミが声を掛けた。

「ごめんなさい、ここにいたら私はどうにかなってしまいそう。
まどか達とは病院の外で合流して待って居るわ」

それだけ言い残すと、ほむらは立ち去ってしまう。

マミと宗介と上條だけになった。
この部屋の主の上條はともかく、マミと宗介が残っているのは、中々にメンタルが強い。


「教えてください、先輩」

「何かしら?」

「何でさやかは、バイオリンも弾けなくなった僕に今でも優しくしてくれるんですか?」

この短い時間で、宗介が唐変木である事を察したのか、上條はマミに聞いた。

マミはそれを聞いて微笑みながら、こう言った。














それが、愛でしょう












今回はここまでです!

上條の腕ですが、この時間軸では既にお医者さんに「奇跡か魔法でもないと治らない」と言われたと思ってください。

それと、中盤は織莉子とキリカのガール・ミーツ・ガールがテーマです。

それと上條をゲス條にし過ぎました。

コッペパンの下りはアニキャラ個別板のほむらスレにだいぶ昔にあった絵より。

最後は
「それが、愛でしょう」がしたかっただけですw

うーん微妙なクロスだな
キャラの調和性が…

ごめんなさい、本日の分の投下はなしです…

また明日にでもこの時間に投下予定ですのでよろしくお願いします

千鳥は元気かな・・・

>>141
できる限りキャラ崩壊がなく、かつできる限り調和するように努力してみますので、生暖かい目で見てやって下さい…
既に若干マミさんとほむらは崩壊気味ですが…

>>143
実は既に出てくるメドはありますので!
絡みがあるかはわからないですが

奇跡と魔法のワン・ナイト・スタンド


「なんでこんな事をしているのかしら…」

誰に言うわけでもなく、ほむらは壁をデッキブラシで擦りながら呟いた。

あまりの怒りに病院から出たあと、マミと宗介と合流した。
そこまではよかった。

その次に宗介は何と言ったか。


マオから連絡が来た。
至急援護に来てくれとの事だ。


宗介はそう言ったのだ。
援護だとか物騒な言い方に、ほむらとマミは魔女が出現したと思い込み、快く頷いた。
そして、まどかとさやかには帰らせようとした。
だが、人数が多い方が都合が良いと、結局残った。

それがどうした事だろうか。

なぜ掃除をしているのだろう。
それも、あの美国織莉子の家の落書きを。

しかも病院からのメンバーに加え、狙撃手のクルツまで来ている。

ある者は雑巾を、ある者はデッキブラシを持ち、一心不乱に擦っている。

とりわけ真面目なのはマミと宗介の二人だ。

この二人は融通が効かない分、どんな事にも誠実にこなそうとする。
もっとも、宗介の場合はその誠実さが空回りする事が殆どだが。

まどかとさやかは純粋に可哀想だと思い、それなりに真剣に取り組んでいる。

クルツは「この後にかわい子ちゃんとお茶を飲む為…」と念仏のように唱えながら雑巾で拭き続ける。

その横ではマオが睨みながらも擦る。

そのマオの奥にいるのは、織莉子と…キリカ……なのだろうか。

外見は以前と変わって居ないのだが、様子が違い過ぎる。
ほむらの知るキリカは愛が何だとか、無限だか有限だかの講釈を垂れ流すアクティブ人間だからだ。

しかし、このキリカはどうもアクティブとは正反対に控え目に見える。
他と比べて一歩引いている感じだ。


そして、自分もなんだかんだで割と真面目に壁を擦っている。


あ、ようやく汚れが落ちた。


そんな事を考えながらもひたすらにこすり続けた。

全員が黙々と擦っていたのは、クルツ、マオ、織莉子、キリカを除けば恐らく先程の病院の一件が原因にあるだろう。

腹が立ったとは言え、いきなりビンタは軽率だった。
さやかの想い人を、さやかの目の前で、全力で。

それからは気まずくてさやかとは話せていない。
マミと宗介は気にするなと言っていた。
まどかも「さやかちゃんの事、そんなに思っててくれて、ほむらちゃんは優しいんだね」と。

てっきり責められると思っていた分、余計に後味が悪く感じてしまった。

その場にいなかった四人は、どうも雰囲気がおかしな事を察したらしく、あえて聞くような真似はしなかった。

そうこうしている内に掃除が終わる。
何だかんだで2時間近くかかってしまったようだ。

「皆さん、本当にありがとうございます」

織莉子は全員の前で深々と頭を下げる。
別にそんな礼が欲しい訳ではなかった。
彼女には、契約しないでいてくれればそれでいい。
今までの「経験」ではそんな事はあり得なかったが。

織莉子はタイムリープをする事に当たってイレギュラーな存在だ。

居る時間軸もあれば、現れない時間軸もある。
居る時はキリカもセットだ。
そして契約をすると大抵が未来予知の魔法を得て、まどかの殺害に移る。
キリカはそんな織莉子を狂愛しており、まどか殺害やインキュベーターの注目を離す為の、魔法少女虐殺さえも何の疑問にさえ思わず実行する。

ほむらの認識では、この二人はこんなもので、危険人物だ。

だが、どうだろう。
このイレギュラーの塊のような時間は。

相良宗介と言う謎の転校生。
その正体はどこの国にも属さない軍隊<ミスリル>所属の兵士。
任務は何故か「鹿目まどかの護衛」


この男を取り巻く人たち。
クルツ・ウェーバー
凄腕の狙撃手らしいが、ほむらはその腕を未だに見ていない。
よってほむらからしたら楽観的で、部隊のムードメーカーのような人物像だ。
宗介のサポートに来ているらしい。


メリッサ・マオは宗介たちの指揮を担当する事が多いらしい。
何よりもこの大人特有の達観した面と、サバサバとした姐御肌。
ある意味では、マオのお陰で契約前の織莉子とキリカとも出会えたようなものだ。


彼らはこの時間軸ではほむらの最初の仲間だ。
そして、宗介の協力もありマミとも和解、更にはまどかとさやかとも好意的に思われている。
織莉子とキリカはどう思っているかわからないが、こうして共同の作業をしたのだ、悪くは思われていないと信じたい。


結論として、ほむらはこの時間軸で起こる奇跡を信じる事にした。

美国邸


「お待たせしました」

そう言いながらお盆に人数分の紅茶を載せた織莉子は慣れた手つきで全員の前へ運んで来た。

それぞれの目の前に紅茶を置く。
その動作は、なんだかとても優雅に思えた。

心なしか、紅茶を配る織莉子も楽しそうだ。

実際にそうなのかもしれないが。

ここにいる面々は、自分が美国議員の娘、という扱いではなく、美国織莉子という一人の人間として見てくれるのだから。


そして、自分をそんな存在にしてしまった父は汚職発覚により自殺。突如として見放され、突き放されるのだ。

そんな時に、インキュベーターが現れてしまうのならば。
契約してしまうのは無理もない事だろう、とほむらは思う。

ある意味、繰り返した時間の中でもっとも悲劇的な契約を果たしている人物なのかもしれない。

だからこそ、奇跡に賭けて優しくなろうと考えた。

それならば、折角のチャンスを失うわけにはいかない。
早くさやかに謝ってしまおう。

幸いにも、テーブルを挟んで問面にさやかは座っている。

「美樹さやか…」
「さやか」
「へっ?」

謝ろうと名前を呼んだ矢先に先制される。

「さやかって呼んでよ。
まどかはまどか、だしマミさんは巴さん。
あたしだけフルネームだと何か慣れないしさ。
どうせ、さっきの事を謝るとかそんな事考えてたんでしょ?あんた優しいからさ。
だから、名前で呼ぶようにしてくれたら、こう言うのも変だけど許すよ」

恐ろしく饒舌に捲し立てる。
そして、例による勘の鋭さ。

その早口にほむらは目を丸くする。

「わかったわ、さやか」

ほむらは微笑みながら認める。
こうしてみると、さやかは本当に心優しく、真っ直ぐで純粋なのだ。
また少しだけ、この時間に期待してしまう。

周りはこのやり取りで和んだようだ。
先程までのギクシャクとした空気はなくなる。

守るべき人と、友人と、仲間と、そしていつかの敵。
そのいつかが訪れるかどうかは、誰にも分からない。

それら全ての人々と過ごす時間は楽しいものとなった。

チラリと時計を見る。
お茶を始めてから30分程度経過した頃に、ほむらは席を立った。

「ごめんなさい、病気の事で少し病院に行かないといけないの。
本当はもう少し居たいけれど、今日のところは失礼するわ」

前半は嘘だ。
だが、まどかやさやかに心配は掛けたくない。

後半は本当の事だ。
最初は不本意だったものの、今ではさる事に名残惜しさを感じる。
久々に本来の中学生らしい事をしているな、と。


だが。
こんな平和を守る為にも、マミを「アレ」に会わせる訳には行かなかった。

病院前


あった。
やはり「アレ」の出現はいつも通りらしい。

お菓子の魔女だ。
厳密にはお菓子の魔女が産まれるグリーフシード。
しかも、何故か孵化寸前で駐輪場に刺さっている。

もう孵化するところなのだろう、激しく点滅を開始する。

最後に眩しく輝き、ほむらの姿は駐輪場から消えた。



お菓子の魔女結界


こうすれば、魔女を探索して見つけた時と違い、いきなり最深部に潜り込む事ができる。
だが、ほむらは焦っていた。

(他に人が居る…!?)

明らかに、自分と魔女以外の気配がする。
周囲を見渡すと見覚えのある姿が。
いや、つい数時間前にビンタをした記憶がある。

上條だ。

恐らく、精神が参っていたのだろうか魔女に狙われてしまったらしい。

さやかとの事が原因なのか、ビンタが原因なのかはわからない。
もし後者が原因なのならば、酷く弱いメンタルだと思えるが。

(出来れば人を巻き込みたくなかった…さっさと倒すしかないわね)

一般人がいる以上は迅速に
ほむらにとっては、この魔女は油断さえしなければ問題にもならないほどに相性が良い。
逆に、一撃で決めに掛かるマミとは非情なまでに相性が悪いのだが。

上空から、可愛らしいぬいぐるみの様な物が降ってくる。

「見つけた」

それを発見したほむらは軽機銃を取り出して接近。
ぬいぐるみの様なソレを蹴り飛ばし、軽機銃を乱射して追撃。

(っ!来る!)

だが、ぬいぐるみの様なソレは本体ではない。
その口から太巻きの様な物体が飛び出して首を喰らいに突進して来る。

わかっていれば、恐れる事はない。
だが知らなければ必殺の一撃であるだろう。
これだからマミと相性が良くない。

そう考えながら後ろに跳んで回避。
太巻きの様な物体の口にお手製のパイプ爆弾を放り込む。

後は、その繰り返しだ。





おかしい。
何故倒れないのだ、この魔女は。
経験上必要な数よりも多くの爆弾を喰わせた筈だ。

ほむらは自分が動揺しているのを感じた。

足場から足場へ飛び移る。
そして、その口の中に爆弾を放り込む。

このサイクルを何度繰り返したのだろうか。

魔女は倒れず、ほむらの集中はだんだんと削げてきた。

次の足場に飛び移る時に、踏み外してしまう。

(しまった……!!)

だが無情にもその顔と口はほむらの眼前にまで迫ってきていた。

盾に手をかざして時間を停止しようとする。
停止が間に合うかどうかはわからない。
やるしかないのだ。

その時、目前まで迫った口に見覚えのあるリボンが巻かれる。

マミのリボンだ。

そして、もう一つ声が聞こえる

「おおー!見える見える!流石テッサお手製の「妖精の目」だぜ!」

自分は幻聴でも聞いて、幻覚でも見ているのだろうか。

だが、次の瞬間それは現実だと悟る。

「はあああああああああああ!!!!!」

マミの叫び声。
咆哮と言った方が似合うかもしれない怒号と共に、お菓子の魔女は弾き飛ばされた。


弾き飛ばされた魔女を76mm狙撃砲の弾丸が襲う。
この大口径はAS規格の物だ。

まさか、と思いほむらが振り返るとそこには。

ECSを解除したM9ガーンズバックが姿を現した。
半透明なのは、ECS解除直後だからだろうか。

ASごと結界に侵入出来るとは思わなかったほむらは絶句する。

「ウルズ11!ぼさっとするな!あいつの弱点は!?」

M9の外部スピーカーからクルツの声が響いた。
真剣な声が、いつものクルツとは別人のようだと感じるが、きっと本来はこちらなのだろう。

魔女は起き上がり、再び突進しようと構える。

「おそらくは、太長い部分よ!
根元の人形は多分フェイク!」

素早い突進。
手痛い打撃を与えてきたM9を脅威だと認識したのか、そちらに向かった。

間一髪のところでクルツは回避機動をとることに成功する。

「危ねえ!なんだこいつは!」

クルツの反応が遅れたのは、魔女が本来は見えないものだからだろう。

M9に搭載された、ラムダ・ドライバを視認する為の装置「妖精の目」を使用して強引に認識しているのだから、無理もない。

おそらくは、アルが言っていた「魔法とラムダ・ドライバが限りなく近い反応」を実証している為に、「妖精の目」で魔法の存在である魔女が見えているのだ。

「くそっ!反撃できねえぞ!?」

お菓子の魔女は執拗にクルツを追い回す。

「ウルズ6、援護するわ」

ほむらはそう言いながら横からRPGを撃ち込んだ。
命中。
派手な爆発と共に魔女が怯む。

「レガーレ・ヴァスタアリア!」

マミが技名と思しきものを叫ぶと無数のリボンで強引に拘束する。

魔女は強引に引きちぎろうと身を捩る。
あの調子では10秒と持たないだろう。

「二人とも!M9の肩に乗れ!」

クルツが叫んだ。
ほむらとマミは素早く反応して乗り移る。
プチリプチリとリボンが千切れ始める。

拘束力が弱まり、千切れるペースが上がる。

二人と一機は一箇所に固まっている為に狙いはM9のままであろう。

「やれるの?」
マミが問う。

「俺にはやれるの!」

短い時間で応答の直後、拘束が解け魔女はM9に突撃する。

まだだ。まだ、待つんだ。

魔女はどんどん接近する。

クルツは「あるタイミング」を測る。

もう少し…………………

時間がスローに感じる。
今だ、いける。

引鉄を引くと、強烈な火薬の爆発音で現実に引き戻される。

クルツは、魔女の体が一直線になるタイミングを狙っていたのだ。
そして、常人の反応では不可能に近い超至近距離「狙撃」をやってのけた。

弾丸が魔女の体を貫く。
それは、太巻きの様な物体と、最終地点にいる可愛らしいぬいぐるみの様な物体をも貫通した。

瞬発火力の高い散弾砲でもこの貫通力を持たない為に出来ない。
クルツの能力と狙撃砲だからできた芸当だ。
その一撃で魔女は動かなくなる。

結界は崩壊を始め、徐々に入り口の駐輪場が帰ってくる。
「やべえ!」

それだけ言うとM9はECSを起動して姿を消した。
この平和な街中で見られるのはマズイのだろう。


病院前、駐輪場


そういえば忘れていた。
上條の事だ、結界に迷い込んでいた。

「世話の掛かる奴ね…
巴さん、手伝って貰えるかしら」
「もちろん」

流石に女子中学生一人が男子生徒を軽々しく抱きかかえていたら疑問に思われてしまうだろう。
そう考えると、ほむらはマミに協力を頼んだ。

この少年も病院生活が長かったのか、えらく軽い。

例のビンタのお陰で罪悪感の残るほむらは早く運んでしまおうと決意した。


いったん切ります。
また一時間後位に再開予定です

同時刻、セーフハウス


「もしもし、千鳥か?宗介だ」

[あー、ソースケ?任務って大丈夫なの?怪我は?]

「ああ、何も問題はない。
このままいけば来月には戻れるだろう」

[あ、それなんだけどさ、今ソースケは見滝原にいるんだっけ?
凄いよねー、あそこ。
同じ日本とは思えない位、街が発展してるよねー。
でさ、近い内に行く事になったからさ、その時はよろしく]

「何?見滝原に訪れるのか?」

[そーゆーこと!]

「そうか、了解した」

[会えるの、楽しみにしてるからねー。
それを伝えたかったから、切るね!]

最後の方はやや一方的に切られてしまった。
声がやや上ずっていたのは気のせいだろうか。
そう考えていると、今度は通信機の方が鳴った。

嫌な予感がしたが出ない訳にはいかない。

「こちらウルズ7」

[あ、サガラさん?
連絡なんですけど、近い内に調査でミタキハラに行く事になったのでよろしくお願いします]

ガチャ、ツー…ツー…ツー…

またもや一方的に切られてしまった。

マズイ事になった……

増援を……至急増援を要求する!!

翌日


結論から言ってしまうと、美樹さやかは契約してしまった。
いろいろ有ったが、やはり病院の出来事が大きいらしい。

ほむらはできる限りは契約をしないよう説得したが、最後は本人に任せる事にした。
魂を抜き取られ、本体がソウルジェムである事はマミとさやかに伝えた。
それを合意の上での契約だった。
魔女化の事は、言えなかった。

「見滝原の平和は、あたし達がガンガン守っちゃいますからねー!」

ほむらの気苦労も知らずに、いつも通りのさやかだ。
いや、むしろいつも通りでいて欲しい。
いつぞやの時間のように、努力がどんどん裏目に出て沈んでいく様は見ていて辛いものがあった。

今はマミもいて、自分とも友好的でいてくれるのだ、そこまでの心配はない筈だが。

見滝原中学校、屋上

いつものようにカロリーメイトを食べながら、ほむらは物思いに耽っていた。

この悩みが分かってくれるのは、おそらく全てを知っているウルズチームだけだろう。

「そういえば暁美さん!
昨日のウルズ11とか6って何かしら!」

そこでマミが目を輝かせながら聞いてくる。

「あれは…その、色々あって」

「?昨日はクルツといたのか?」

そういえば昨日のクルツは解散になった後にすぐ居なくなってしまった。
マミもだ。

「ええ、昨日の病院の帰りで魔女を見つけて」

この場所では魔女の話題はそう出ない。
普段は一般人の仁美が居るからだ。
だが、今日は仁美は学校を休んでいる。風邪らしい。
そして、まどかとさやかだが二人になりたいとの事で、別棟の屋上にいる。

「最初は一人で戦ってたんだけど、途中からマミとクルツさんが駆け付けてくれて」

「あそこを通ったのはたまたまだけどね。そこに急いで向うところを、クルツさんが見てたみたいで合流したの」

その時にコールサインを使ったのか、と宗介は納得した。

「ウルズチームのコールサインだ。11やら6やらは。
もっとも、11は使われていないナンバーを俺たちが勝手に付けたものだがな」

マミはこういった事には強く興味を示す。
厨二病だとか、そんな風に言われてしまう事もあるが、既に異世界に踏み入れているのだから、おかしくはあるまい。

「相良くんも、凄腕だけどクルツさんも凄いのね。
ウルズチームってそんなに凄いものなのかしら」

「ああ、マオは電子戦のスペシャリスト、見滝原にはきていないがウルズ1は格闘戦のスペシャリストだ」

ウルズ1
ベルファンガン・クルーゾー大尉
ウルズチームの中で唯一D系列のM9を扱う人物だ。
趣味………………アニメ鑑賞。

「凄いのね…憧れちゃうわ」

おおよそ女子中学生が憧れるべきのものではないな、とほむらは思った。

「そうそう、それは置いておいて。
キュゥべえ、居るんでしょ?出てきなさい、聞きたい事があるの」

ほむらがそう言うと、音もなくインキュベーターが現れる。

「君から呼ぶなんて、珍しいじゃないか」

「聞きたい事があるって言ったでしょ。
昨日の魔女なんだけど、嫌にタフじゃなかったかしら」

そうだ。昨日はマミとクルツに助けられたが、本来では起こり得ない事だ。

「そうかい?あの魔女は元からあんなものだ。
君は長いのを本体だと思っていたようだけど、半分はハズレだよ。
あれは、どっちも本体なんだ」

そう言う事か、とほむらは一人で納得する。
要するに、いつもはマミのティロ・フィナーレの後に爆破している。
今回は、ティロ・フィナーレがなかった分の体力の差だったのだろう。

「わかったわ、用が済んだし帰ってもいいわよ」

放課後、夜

この日はこれといった魔女の出現もなく平和な一日で終わる筈だった。

だが。

沿岸沿いには、不吉な影が迫っていた。

工場地帯付近

まどかは家路の途中で仁美を見つけた。
どうも様子がおかしい。

首筋には、謎の模様が張り付いていた。
(あれってもしかして……ほむらちゃん達が言ってた…魔女の口づけ!?)

「仁美ちゃん?どうしたの!しっかりして!?」

揺さぶるが、歩みを止めない。
まどかは、ほむら達に連絡する事にした。

ほむら宅


「わかったわ、すぐに向う」

たまたま、魔法少女3人と宗介は今後の話し合いの為に集まっていた。
それが幸いして、同時に向う事ができた。

「さやか、焦らないで。
貴女は始めて戦うんだから、そっちに集中しないと危険よ」

我先にと出発せんところのさやかをほむらは落ち着かせる。

だが、宗介は静止を待たずに行ってしまった。

(くっ!間に合ってくれ…!)

任務の護衛対象がまさかこんな事になるとは予想外だったのだ。

結局、全員全速力でまどかの救助に向う事になる。

廃工場

まどかは絶体絶命の状態だった。
まさに万事休す。

今まさに、魔女のターゲットにされた人々が、集団自殺をしようと所謂「混ぜるな危険」と書かれた2種類の洗剤を混ぜようとしている。
自分は虚しい事に。
仁美に押さえつけられて見ている事しか出来ない。

あぁ、もうだめだ。
そう思った。

次の瞬間、爆音が工場内に響く。
宗介はC4爆薬を使い、強行突破したようだ。

「仁美、ごめんなさい」

それだけ言うと、ほむらは仁美の首の裏を軽く叩き気絶させ、まどかを工場の外へ出す。

周りの人はゾンビかと言わんばかりに呻き声をあげて宗介達に襲いかかる。

「えっ…………」

まどかは目を疑った。
爆破された方とは反対側の、沿岸側。
赤い巨人。
この工場地帯へと向かっているのが見えた。

「あれは……?なに……」

「鹿目、どうした?」

襲いくる人々をあしらいながら宗介もそれを見る。

「あれは……!!」

見間違える事はない。
だが、なぜここにアレがいるのだ…

ベヘモスが……

他の仲間もそれを釣られて見てしまった。
こちらに向かってくる。

向こうを何とかしたいが、魔女もまずい。
板挟みだ。
まずは近くの魔女と、それに操られた人を何とかせねば。

だが、気持ちは焦る。

また一人、スタンガンで気絶させる。
残りの数ならば、一人で捌けるだろう。

「暁美!美樹!魔女を叩け!」

有無を言わさず大声で叫ぶ。

昨日の魔女戦で、魔女に妖精の目が効いたならば……
一か八かだ。その逆もいけるはず。

「巴、コレを。通信機だ。
おそらくマオもクルツもアレに気が付いている。
彼らに合流してくれ。
お前の魔法ならばアレのラムダ・ドライバを貫通できると思う。
頼んだ、さあ、行くんだ!」

こちらも有無を言わさずに行かせる。

目の前には、操られた人の集団が迫っていた。

結界

さやかは敵を視認した。
パソコンを模した魔女。
仁美を操った魔女。
倒すべき、敵。

ほむらはアサルトライフルをマネキンの様な使い魔に撃ち込む。

さやかはパソコンに突撃する。

連続で斬撃を浴びせる。
打ち上げる。
そして

「これで、トドメだあああぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

剣で勢いよく斬りつけ、そのまま刀身を射出。
地面に叩きつけられた魔女はあっけなく結界を崩壊させた。

工場地帯付近

「くそっ、なんだあいつ!
力場が全体に伸びて全く動かねえ!」

「ぼやいても仕方ない!
接近してみるから、隙間を探して!」

上手く撃ち抜けば一撃なのだが、ラムダ・ドライバの防壁のお陰でそうもいかない。

[ウルズチームの皆さん!
聞こえますか!?巴マミです!
おそらく、魔法による攻撃ならばラムダ・ドライバ?を貫通するそうで……きゃっ!?」

マミの通信を終える前に、発信器を辿り、マオが回収する。

マミはちょこんとM9の肩に乗っている。

「それ本当か!?
でも、試すしかなさそうだな、いけるか、マミちゃん!」

クルツもマミを確認した。

「いけます!]

本当の声と通信の声がどちらも聞こえるお陰でいやに大声に聞こえるのは気のせいだろうか。

「それじゃあ、3カウントで撃つぞ、同時に合わせてくれ」

「マミ、ベヘモスの攻撃はあたしに任せて、クルツと同時ポイントの攻撃に集中して。
チャンスは一回だけよ」

「眉間を狙うぞ!
スリー!」
クルツがカウントを始める。

「ツー!」
マオが続ける。

「ティロ!」
「「ワン!」」
マミは大砲を出現させる。
クルツは引き金に指を掛ける。


「フィナーレ!!」
「ファイヤ!!!」

同時に爆音がした。

夜空に一筋の光が走り、怪物の眉間に直撃する。

そして、ガラガラと音を立てて崩壊した。

廃工場

「魔女は仕留めたようだな」

ほむらとさやかを視認して宗介は告げる。

宗介の足元には、大量の人が倒れている。

「そうね。上手くいったわ」


廃工場付近

「おお、やるねえマミ」

マオは素直に感心した声をあげる。
だが、何故ベヘモスが現れたのか。
なにか絶対に理由があるはずだ。

それよりも今は、緊張の後に腰が抜けてしまったマミが優先だろう。

「まぁ、なにはともあれ、何とかなったみたいだし、よかったよかった。
マミちゃんも、流石だねえ」

クルツもマミを褒める。
まさか本当にベヘモスを倒してしまうとは。


この大きさだが、崩れて沈んだことと場所を考えれば目撃者はそう多くはないだろう。

マミは後ろを振り返る。

見滝原の街は、平和だった。

ここまでになります。

次回からは割とASとかアマルガムも絡んできます。
それと>>1の中では

魔女には通常兵器が効く(魔法による攻撃程ではない。お菓子の魔女が倒せたのは、ほむらの爆弾による蓄積と狙撃砲がそれを差し引いても強力な為)
魔女は「妖精の目」で見える(ただし、漫画版の『つづくオン・マイ・オウン』での、ベヘモス狙撃時の様なシルエットのみ)
魔法による攻撃は強さによるがラムダ・ドライバを貫通する
魔女に対してのラムダ・ドライバは魔法と同等ほどの有効打になる

などの独自解釈を含みます。

おつ

乙です!
フルーツ味のカロリーメイトと聞いてどこぞのコロニーの工作員がアップを始めたようですw
まぁあれはスパロボオリジナル設定なんだけど。

何時の間にか復活してますね、SS速報。
続きを短めですが投下します

後悔できない二死満塁?


セーフハウス


今日はトラブルが多すぎた。
突然の魔女に、それに巻き込まれた仁美。
そして、ベヘモスの襲撃。
装備は有明の時とは違い、大量の火砲を積んでいた。
おそらくメリダ島を襲撃した時の仕様だ。
明らかにあれは廃工場地帯に向かっていた。
事実こちらに向けて発砲してきたのだから。
距離が離れていて助かった。
個人が完全に捕捉できる間合いならば、確実に死人が出ていただろう。

問題はそこではない。
何故現れたかが問題なのだ。

あの機体が現れたと言うことは、少なからずアマルガムが動き出したと言うこと。

狙うとしたならば…
散々アマルガムを苦しめたレーバテインの操縦兵である、宗介か……考えたくはないが。


鹿目まどかだ。


<ミスリル>の任務で宗介はまどかを護衛している。
理由はわからないが、ウィスパードが関係しているのは確実なのだろう。
テッサが聞こえたならば、他の元ウィスパード達もまどかの存在を知っていたとしても不自然ではないのだ。

狙いがそのどちらだとしても、何故場所が割れていたのかは、全くの不明である。

宗介は帰宅と共に本部へ連絡をして、その全ての出来事を伝えた。
それにより、増援の派遣を決定。
テッサはすぐにでも見滝原に訪れてまどかと接触をするそうだ。

それに、ここにはかなめも訪れるそうだ。
その時にささやき声の確認をしよう。

鹿目宅

朝を迎えたが、その陽射しはまどかにとっては気持ちの良いものではなかった。

(寝不足…かな…)

昨日の出来事が原因で寝れなかったかと言われると、そうではない。
勿論それも要因の一つには入るのだが。

何よりも二週間ほど前より聞こえる、幻聴のようなささやき声。
これがだんだんと強く感じてきたのだ。
何を言っているのかはまだまどかにはわからない。

だが、魔法少女に関わる事なのかもしれないのは何となく分かった。

ほむら達には、まだ相談していない。
ただでさえ魔法少女の事を知っているのに、契約すらせず戦いもしない。
自分が役立たずに思えて仕方ない。
それなのに心配は掛けたくない一心なのだ。

このささやき声の内容が気になるが、心の奥底にしまっておく事にした。

いつものように、今日も過ごすんだ。
いつものように…いつものように…

「おはよう、パパ」

通学路


いつもと変わらない通学路。
何も変わらない街並み。
それでも、まどかの世界は先週をキッカケに全く違う物に見えてしまう。

ぼーっと考えながら道を歩く。

こうして何も集中していない時が、一番よくささやき声が聞き取れる。それでも単語が幾らか、といった程度であるが。

何かわからない、そのもどかしさがまどかを突き動かし、聞き取らせようとする。

契約……エントロピー……宇宙…寿命………………

だめだ、やはり単語がぶつ切りで聞こえる。
だけども最初よりもクリアに聞き取る事はできるようになってきた。

「まーどか!」
「まどかさん」

後ろから声を掛けられる。

「ふぇ!?」

聞き取る事に没頭していたまどかは少し驚いた。

一気に現実に引き戻されたお陰で、ささやき声は今は全く聞こえないほどに意識の外へと切り離された。

そうだ、こんないつも通りの風景でいられるだけでいいんだ…

まどかはささやき声について考える事をやめて、楽しく談笑しながら登校する事にした。

教室


着いた頃には、既にほむらも宗介も居た。
心なしか二人とも疲れているように見えるが、昨日の事を考えれば当然の事だ。

それを差し置いても、宗介は異常なまでに周囲を警戒していた。
普段鈍感なまどかでさえもそれは分かった。

チャイムが鳴る。
ホームルームの時間だ。

早乙女先生が教室に入ってくる。

ここまできて、まどかは「あれ?」と思う。
ついこの間体験していたような、既視感。

それが本当ならば次は
『目玉焼きには醤油ですか!?ソースですか!?はい、相良くん!』だ。

そして…

口を重々しく開き。

「目玉焼きには醤油ですか!?ソースですか!?はい、相良くん!」

的中したしまった。
あまり信じたくないのだが、デジャヴュと言うやつなのだろうか。


その先も鮮明に覚えている。

「調味料を使用して食事できるだけでも、幸せであります!先生殿!!」

あたった。あたってしまった。

ならば、次に起こる事は…
新しく更に転校生が来る。

「はい、じゃあ入ってきてー!」

まさか。
二週間で三人目の転校生。
常識的にあり得ない事なので、これは外れると思っていた。
いや、外れて欲しかった。

そして、その転校生の名前は……

「テレサ・テスタロッサです」

昼休み、屋上


テレサ・テスタロッサ。
愛称はテッサで、交換留学生として二週間ほど見滝原に滞在するらしい。

今はテッサも加えた、いつものメンバーで屋上で昼食をとっていた。

そういえば仁美は昨日の一件の事で、精密検査があるらしく早退してしまった。

なのでテッサを除いた全員は魔法少女に関連のある人物だ。

テッサは何やら宗介に耳打ちしている。
宗介が何度か頷くと、テッサは突然立ち上がった。

「ごめんなさい、皆さん。
交換留学生と言うのは、嘘です」

まどかはキョトンとした。
いきなり何を言い出すのか。

「いえ、魔法少女の皆さん。
私は魔法少女の調査も兼ねてココに訪れました。その事を先に謝ります」

突然過ぎる告白。
周りからは、えっ、と声が漏れた。
まどかも例外ではない。

「まぁ、今はそれだけなんですけどね」

それだけ言うと、テッサは昼食を再開し始めた。

魔法少女を知っている、とその一言がマミとほむらを警戒させてしまったようだ。
新人のさやかは、魔法少女同士のいがみ合いを知らない為に何もないらしい。

チャイムが鳴る。

次の授業が始まってしまう。
急いで屋上から教室へ。
その最中のまどかの肩をテッサが叩いた。

「マドカさん、少しだけいいですか?」

ほむらとマミが一気に警戒を高めるが、宗介が耳打ちで
「俺の上司だ、信頼できる」
と告げて、なだめた。

授業前、屋上

宗介やほむら達は先に教室に戻ってしまった。
このテッサという転校生が話があるらしい。

「単刀直入に聞いて申し訳ないんですけど、ここ最近に変なささやき声が聞こえたりしますか?」

「どうして、それを…?」

今朝から悩んでいた事をいきなり言い当てられ動揺する。

「私もだからですよ、マドカさん。
ちなみに、なんて言ってるかは聞き取る事ができたりはしますか?」

まさか自分と同じく、ささやき声が聞こえる人物が現れるとは予想だにしなかったまどかは密かに喜んでいた。

「契約と……エントロピー?……宇宙の……寿命…とか、そんな事が聞こえたりします」

それを聞くと、今度はテッサが驚く番になる。
自分と聞こえている事が違うではないか。

かつてのウィスパードも聞こえる事は人によって分野が違った。

ちなみに、今のテッサに聞こえるささやき声はまどかを助けるように、だけだ。
言っては悪い気がするが、考えようによれば「はい、そうですか」と無視さえもできる内容なのだ。

ところがまどかの聞くささやき声は。
断片的に聞いただけでも何かを意味しているように思える。
魔法に関係する事なのだろうか。

「わかりました。
では、約束してください。そのささやき声を無理に聞き取ろうとしないで」

それだけ言うとテッサは踵を返して戻ろうとするが…
転んでしまった。先程までの威厳はどこへやら。
結局二人は仲良く授業に遅刻した。

放課後

「ごめんね、みんな。
今日はちょっとテッサちゃんとお話したい事があるから、ついていけないの」

ほむらは珍しいと思った。
まどかは基本的に行動に自主性がなく、誰かについて行く事が多いからだ。
そんなまどかが、自分からテッサと二人きりで話したいと切り出したのだから、何か重要な話なのかもしれない。

宗介だけは、この中で先にテッサに知らされている為、話す事の内容を知っていた。

「俺たちはどうする」

特に魔女の探索までの時間をどうするかは決めていなかった。

「そうね、どうしましょうか」

マミも何も考えていなかったようだ。

そこで、ほむらが重そうに口を開く。

「そうね……なら、上條くんの…お見舞いでも行ってみましょう」

この提案には誰もが目を丸くした。
つい二日前にビンタの事もあり、会おうなどと言うとは、誰も予想していなかった。

「いいの?ほむら?」

やはり一番心配そうな声を出したのはさやかだ。
確かにあの場面では上條にあからさまな非があったが、それでもビンタをされて嬉しい訳ではない。

ーーーーほむらが自分を大切に思ってくれてると知れたのは嬉しかったが。

「それじゃあ行こうか、病院」

病院


実のところさやかは、元より病院に向かう予定だった。
上條の腕が治ったので、あるサプライズを用意していたのだ。

まさか、ほむらから病院に行く事を切り出すとは思わなかった為に大所帯となってしまったが、問題はないだろう。

それに、そのサプライズに関しては人が多い方が良いかもしれない。

今から待ちきれない思いに囚われるが、グッと堪えた。

「さやか、何をニヤニヤしているの」

しまった、思わず表情に出ていたらしい。

「い、いやぁ!なんでもないよ!」

そうだ、変にバレる位なら早く行こう。

病室


コンコン、とノックをする。

「どうぞ」
部屋の主から許可が得られた。
扉を開く。
相変わらずベッドに上條はもたれかかっていた。
だが、以前訪れた時とは違い、表情が段違いに明るい。

「お邪魔しまーす」
務めて明るい声を出す。
できるだけ、いつも通りにサプライズに勘付かれぬように。

「こんにちは、上條くん」
と、さやかの後ろからほむらが現れる。
上條の顔が少し引き攣ったのを、もちろん宗介は見逃さなかった。

「どうした、上條。
何を恐れている」
引き攣ったのを見逃してはいないが、なぜ引き攣ったかは宗介には理解できていなかったらしい。

「相良くんは唐変木キャラなのかしら…?
上條くんは二日ぶりね」
と、最後にマミが入室する。

そして、二日前のように談笑をする。
前回のような危うさを孕んだやりとりはない。
さやかの願いで、上條の腕が治ったからだ。

「本当に、さやかには悪い事をしちゃったね…いくら気が滅入ってたとはいえ、ごめん」

「い、いやあ、気にしないで!
ある意味では悪いのはあたしなんだから」

あくまで自分を下げる言い方に、ほむらは少しだけムッとした。
さやかに非は全く無かったと言うのに。
上條もなぜそれを否定しないのか、不思議に思えた。

「それと、暁美さん。
この前のビンタ、ありがとう」

「っ!!??」
ほむらはその一言でさやかの後ろに隠れた。

「べ、別にそんな意味じゃないんだ!
あの時、あんな自分をしっかりと怒ってくれる。
間違いを正してくれた事に感謝してるんだ」
誤解を解く為か、やけに早口になる。

「そ、そう…
別にそんなつもりは無かったわよ。ただ、本当にムカついただけなのだから」

ほむらは割と本心から言った。

「あと、相良くん。
僕の腕を止めてくれてありがとう。
お陰でさやかとの思い出を壊さずに済んだ」
次に宗介へ感謝を示す。

「後悔するようならばやらない事だ。
その時の状況判断もまともに出来ん兵士は生き残れない」

感謝について、宗介は微妙に的外れな答えを出す。

「最後に巴先輩も、ありがとうございました。
あの言葉の意味もしっかり考えさせてもらいます」

あの言葉とは、きっとほむらが怒って去った直後のやり取りの「それが、愛でしょう」の事だろう。

「そう、それはよかったわ」

これを知っているのは、宗介とマミ、そして言われた本人である上條だけだ。

「あ、恭介、みんな。
外の空気、吸いにいこっか」

凄く唐突だが、上條以外はおそらくは先程のニヤつきと関係しているのだろうと考え了承する。
上條は何も知らない様子で「どうしたの?」と聞きながらも賛成のようだ。

屋上への階段


いくら病院が大きいとはいえ、5人でエレベーターはキツかった。
ましてや一人は車椅子なのだから。
結局宗介とほむらは階段で登る事にした。

病室から屋上までは、さほどの高低差は無い為、階段でも苦しくはないだろう。
もっとも、ほむらも階段で来た訳は、宗介に聞きたい事があったからだが。

「まどかがテッサさんと話している事って、貴方は知っているのね」

「あぁ、おそらくはこの任務に関係してもくるだろう」

ほむらが重々しく口を開いた。
宗介もそれについて答える。

あまり、ウィスパードについて口外するべきではないとは分かっているが、ほむらになら教えても問題は無いはずだ。

「以前にラムダ・ドライバなどのブラックテクノロジーについては説明したな。
それに関係しているかもしれない」

「ささやき声、だったかしら。
それとまどかが、どう関係するの?」

当然の疑問だ。
今までもまどかにはそんな声は聞こえていなかった。
イレギュラーな時間だからこそ、何があるかわからないのはほむらも理解はしていた。

「二週間ほど前から、テッサにまた聞こえるようになったそうだが、その内容が」

そこで、一度言葉を区切る。
やはり言わない方が良かっただろうか。

「鹿目まどかを助けてくれ、と」
重々しく、そう言った。

屋上


マミとさやか、上條は先に屋上についていたが当然だろう。

宗介の警戒のペースに合わせたのだ。移動が速いと言えども、遅れはする。
それでも、驚異的なペースで階段を駆け上がっていたが。

「あ、来た。
それじゃ、行こっか」

さやかは、ほむらと宗介を見るとそう言いながら車椅子を押しながら歩き始めた。
屋上の中央に出る。

数人の看護婦と、見知らぬ中年。

その中年は何らかのケースを持っている。
サイズとしては、サブマシンガン程度なら軽く入るだろう。

(いかん!)

咄嗟に宗介は腰の後ろに隠していたグロックを引き抜き、中年の足下に発砲した。

周りから悲鳴が飛び交う。

「うわっ!何だ!」

「それ以上迂闊な動きをしてみろ。言え、そのケースの中身は…」

言葉の途中で鈍い音が響く。
ほむらに殴られたらしい。

「空気を読みなさい、バカ!」

「だが……」

「もう一発ほしいの?」

有無を言わさぬ物言いに、宗介は黙る。

「申し訳ありませんでした」

そう言ってほむらは腰を折り曲げ、深く頭を下げる。

その体勢から宗介の後頭部を引っ掴み、強引に宗介の頭も下げる。

「すまないと思っている」
「もっと真面目に」

「すみませんでした」

一件落着かどうかは怪しいところだが、とりあえずの騒ぎは収まったようだ。

「お前には、これを捨てるように言われたが……私は捨てる事ができなかった……」

そう言って、中年の男は上條にケースを手渡す。

「武器を簡単に病院内に持ち込める程のエージェントが、捨てる事をためらう程の……
一体何が……」

小声で宗介はほむらに聞く。

「あの人は上條くんの父よ。エージェント何かじゃないわ。
中身はバイオリンでしょ、多分」

ほむらが言ったとおり、中からはバイオリンが出てきた。

「さぁ、弾いてごらん。
何も怖がらなくていい」

そのバイオリンを受け取った上條は、それを構える。

そして、演奏を始める。

曲目はアヴェ・マリア

さやかはそれを聴いて涙ぐんでいる。

正直、宗介にはこれといった感想は出せそうに無かったが、純粋に「綺麗な音だ」とは思う。

ほむらやマミはどうだろうか。
さやか程では無かったが、両者とも感動をしているのかもしれない。
少なからず、集中して聴いているのはわかった。


演奏が終わる。
自然と周りから拍手が出る。

さやかは、本当に嬉しそうであった。

何処かのタワー

「なーんだ、どいつもこいつも、チョロそうじゃん。マミの奴もさ」

赤髪の少女と、緑髪の少女はタワーの頂上階の展望スペースにいた。

赤髪の少女ーーーー佐倉杏子ーーーーは望遠鏡から目を離しながら言った。

マミの名前が出て来た事から察するに、病院の屋上を観察していたのだろうか。

緑髪の幼い少女ーーーー千歳ゆまーーーーはずっと杏子の服の裾を掴んでいる。

実のところ、二人とも魔法少女として契約をしている。
ゆまはつい先日までは一般人だったのだが、契約してしまった。

その原因が自分にもある負い目として、杏子はゆまと一緒にいるのだ。
そうでなければ、昔の姿はどうであれ今は現実主義者の杏子は子供を連れて狩りは行わないだろう。

その事もあって、杏子はグリーフシードが足らなくなってきている。
もともと狩場にしていあ風見野は魔女の数が少ないのだ。
そして、隣町の見滝原は急激な都市開発などで住民に差が生まれ、魔女のターゲットになるような人が多い。
その為に、魔女の数が圧倒的に多いのだ。

杏子は再び望遠鏡に目を戻す。
青髪の少女が車椅子の少年を押している。
その少年と対峙する形で立っているのは、その少年の父親だろうか。
何かのケースを渡そうとしている。

そして、その後ろから現れたざんばら髪の少年が。
あろう事か、拳銃を抜き出し。

父親と思わしき男の足下に発砲した。
モデルガンかと思ったが、着弾点の弾痕から察するにおそらくは本物だ。モデルガンであんな威力はまず出るはずが無い。

「うわっ!何だよ、あいつめちゃくちゃじゃないか」

咄嗟にゆまの教育に良くないと思ったのか、杏子は見ては行けないと、ゆまには見えないようにする。

その体勢のまま再三望遠鏡を覗き込む。
ざんばら髪の少年は長い黒髪の少女に頭を抑えられ、強引に謝罪の体勢をとらされていた。

そして、車椅子の少年が撃たれた男からケースの中身を受け取る。

バイオリンだ。

演奏を始めると、周りはピタリと動きを止めて聴き入る。

例の少年は拳銃を後ろ手に持ったまま休めの体勢で直立不動だ。

(マミの奴もエライのとつるんでるねぇ…)

車椅子を押していた青髪は涙を流して聴いている。
その手を見ると、指にはソウルジェムと思わしき指環がはめられていた。

(さてはあいつ……あの坊やの為に契約したな……)

杏子も人の為に願う事から始まった。それは結果としては裏切られて終わる願いになってしまったが。
横にいるゆまは、杏子を助ける為に契約をした。
皮肉な事だろう。
杏子は、人の為に願う事の愚かさを身に沁みるほどに知っているのに。
この子は、自分の為に契約してしまったのだから。

「あーあ、ソースケの奴羨ましいねえ。
女の子に囲まれて、天才バイオリニストのバイオリンまで聴けるなんて役得な任務だぜ」

不意に、横から声が聞こえた。
まるで人の居ないタワーだが公共の建造物だ、他に人が居てもおかしくはない。

だが、その男は魔法少女である杏子にすら、異様に見えた。
覗き込むのは、望遠鏡ではなく、狙撃銃。

これを見た杏子は「見滝原は物騒な街だな」などと思いながらも、やはりゆまの教育に良くないと動き出す。

「おい、あんた。
ちぃーっと、物騒過ぎやしないかな、ソレ。
あの子の教育に悪いからしまってくれたら嬉しいんだけど」

狙撃銃を指差しながら、指摘する。
流石に子供に見せるべきではない。ましてや、つい先日に両親を失った子供には。

「おおっと!すまねえ、嬢ちゃん!」

そう言うと慣れな手つきで分解して、あっという間に鞄に仕舞い込む。

「悪いね、邪魔したみたいで」

「いやいや、気にしないでくれよ。
あんな物騒なもんぶら下げてる方が邪魔者だから」

それだけ言うと、その男はそそくさと降りて行ってしまった。

「じゃ、ゆま。あたし達も行こっか」

「うん!」

そう言うと、続くようにタワーを降りた。
いざ、見滝原へ。




病院から出たあと、宗介はいったんセーフハウスへ戻り、ボン太くんとなって探索に戻ってきた。

メンバーはほむら、マミ、さやか、そしてボン太くんである。

まどかはまだテッサと話をしているようだ。

「ソースケ…なにそれ…」

「そう言えばさやかはボン太くんを見るのは初めてよね」

ボン太くんを初めて見るさやかは絶句する。
明らかに魔女退治に向いてるとは思えない着ぐるみだからだ。

「ふもっふ!ふも!ふもふふももふふもふも」
(安心しろ、美樹。これの性能なら魔女も安全に戦える)

ふもふもと言いながらボン太くんは説明するが、翻訳なしでのボン太くん語はさやかに意味が伝わらない。

「『安心しろ、美樹。これの性能なら魔女も安全に戦える』だそうよ。
大丈夫、ボン太くんの性能なら私たちも保証するわ」

訳を伝えるほむら。
いたって真面目そうに言うものだから、さやかは何とも言えない気分になる。

「まぁ、それについては私も見てるから大丈夫よ、美樹さん。
それよりも、みんな気付いてるわね?」

そう言うとマミはソウルジェムを前に差し出す。
微弱ながらも、反応を示していた。

「ええ、これは使い魔ね。
危ないから、仕留めるけど」

ほむらが言うと、全員それに同意した。

「ほむら、マミさん。
訓練も兼ねて、私に戦わせてもらっていいですか?」

示された裏路地の入り口に立ちながらさやかは提案する。

「そうね、賛成よ。
さやかには早く一人前になってもらわないといけないから」

四人は、さやかを先頭に裏路地に進んだ。

裏路地

魔女の結界のような安定感のない、現実と異世界がごちゃごちゃになった不安定な結界が展開されている。

やはり使い魔のものだ。
だが、危険には変わりないのでマミ達は基本的に使い魔も倒す事にしている。

「それじゃあ、やっちゃいます!」

さやかはそう叫ぶと変身する。
そして、終わると同時に大量に剣を出現させ使い魔に向けて投げつける。

誰もがその命中を確信した。

だが

それは何者かの「槍」によって阻まれた。
佐倉杏子だ。

「なっ!」

「あんた、見てわかんないの?
ありゃ魔女じゃなくて使い魔だよ」

そう言って杏子はさやかと使い魔の間に割り込むように着地した。

「それと、マミ。
あんたはまだ使い魔まで狩ってるんだな。大事な後輩ちゃんを死なせたいのか?」

「ふもっ!」
(いかん!)

杏子の説教の最中にボン太くんは突然割り込むと、逃げ去ろうとする使い魔に散弾銃を撃ち込む。

ッポン! ぐ し ゃ っ

使い魔は物の見事に潰れた。

「あ、あぁ〜………」

それを見てしまった杏子は残念そうに声をあげる。

「なんなんだ、この着ぐるみ野郎!」

槍の穂先は、さやかからボン太くんへ。
その槍を振るおうとするが。

「キョーコ!ボン太くんに乱暴しちゃだめ!!」

後ろから現れた幼い少女に阻まれた。

「ゆ、ゆま!」

ゆまに掴まれて杏子は槍を降ろす。

「それで、佐倉さん。
やっぱり、貴女は魔女だけを狙っているのかしら?」

マミは少し悲しそうな表情と声で聞いた。

無言で杏子は頷く。

「それじゃあ、ここにきた理由は…」

悲しみの他に宿った、微かな敵対心。
言葉が先程よりも重く感じる。
そして、眼光は鋭く杏子を捉える。
縄張り争いならば魔法少女ではよくある事なのだから、警戒心が生まれたのだろう。
かつてのコンビとはいえ。

「えぇーい!」

そこまで考えると陽気な声が響いた。
先程までボン太くんを庇っていたゆまだ。
ゆまは知らぬ間にマミに歩み寄り、あろう事か。
スカートを思い切りめくった。

「えっ、ちょっ!」

完全な不意打ちにマミは動揺している。
恥ずかしさで涙が出てきてしまった。

「キョーコは悪い子じゃないもん!
キョーコをいじめるなら、ゆまがやっつけてやる!」

威勢良くゆまは叫んだ。
どうやら何か勘違いをしているらしい。

「ゆま、別にいじめられてる訳じゃないから……
あぁー、マミの奴マジ泣きじゃんか…」

こんな事になると予想していなかった杏子も反応に困る。

さやかはスカートめくりを直接見てしまい硬直していた。

後ろで見ていたほむらは、「杏子ってこんなキャラだったっけ」と思いながら、動かなかった。

ボン太くんはこういう時に直視するとロクな事にならない事を知っているので、後ろを向いて見なかった事にした。


そんな状態で最初に動き出したのは、意外にもボン太くん。

この姿ならあまり警戒されないのをいい事に、ゆまを抱きかかえてマミから引き剥がす。

「そ、それでだな……見滝原に来た理由なんだけど……」

杏子は、先程の下りで完全に毒気を抜かれてしまったようだ。

「縄張り争いをしようって訳じゃない。
少しだけ、見滝原でも狩りをさせて欲しいんだ」



今回はここまでです。
ゆまも登場で本編ベースだと杏子が書きにくい事この上ないです、若干崩壊気味サーセン!

それと、これで5話と同じ位の進行ですかね……

>>1はまどかの劇場版を5回づつ観たりしてたんで、少しだけ何話かあやふやなのですw
話の数と進行が噛み合わなくなるかもしれないですorz

今回の補足は
ゆまが何故契約済みか。
これは、織莉子が契約してなくても、ゆまと杏子が出会いさえすれば杏子の為に契約するかもって所です。
ちなみに願いはおりこ☆マギカと同じく「杏子を助けたい」的なものになっています。

それでは読んでくれた方々、雪道にはお気をつけておやすみなさい!

おつ

乙です!
なんでだろう…あの一件の後なのにやりとりが脳内で再生してしまうwww
やはりソースケはこうでなくては。

アヴェ・マリア
ゲイツ先生が楽しそうに歌ってたっけ。

今回分ようやくできたので投下します。

※ほぼモブですが、物語を進める為にオリ魔法少女が出ます。役割的にはおりこ☆マギカでの織莉子。名前すらないですが、抵抗のある方はすまぬ……

それと、話の都合で若干のキャラ崩壊とご都合主義かも。

それでは、投下します

契約のオン・マイ・オウン


何処かの戦場


異空間が崩れ去る。
彼女は魔女を倒すことに成功した。
だが、異空間から出ても危険は去らない。
出口は、戦場に繋がっているのだから。


世界は、狭いものだ。
時にそれを強く実感することもあるのかもしれない。

二つの危険な世界を行き来する人間がいてもおかしくない。

現に宗介は今こそは現代の戦場には赴かないが、普段は兵士として過ごし、そして学生になりすまし、魔女の結界で魔法少女と共に戦っている。

ならば、現代の戦場と魔女の結界を日常として行き来しながら生きる少女がいても不思議ではないのだ。

「やぁ、君に会うのは久しぶりだね」

どうやら、戦闘は継続しているよで銃弾が飛び交っている。
そこには、戦場には似合わない可愛らしい白い影。

「君に、お願いがあって来たんだ」



「君にとっても悪い条件じゃない筈だよ」




「よかった、引き受けてくれるんだね」




話しているのは、全てインキュベーターだ。
所々は銃声で聞き取れない。
だが重要な部分はしっかりと聞き取れていたようだ。


















「鹿目まどかの拉致を」




















学校屋上


なんやかんやで、マミたちは杏子が見滝原で狩りを行う事を許可したようだ。
元より見滝原は魔女が多く、四人では少し手が余る程の数の魔女が人々を脅かしている。

魔女のみを狙う杏子が居るだけでも、助かる程に。

魔法少女からしてみれば、最高の環境だろう。
宗介からしてみれば、はた迷惑なのだが。

そんな中、ほむらだけは異常を感じていた。

(この時間は、イレギュラー過ぎる)

織莉子とキリカがいる。
それは、他の時間でも稀に現れた。

宗介はどうだろう。
この時間で初めて出会う人物だ。
そして、その仲間も。
兵器すら、ASと言うこの世界には馴染み深く、ほむらにとっては未知としか言えないものが存在する。

何よりイレギュラーだと感じるのは、見滝原に圧倒的なまでの量の魔女が巣食っている事だ。

ここ最近は毎日のように狩りを行い、そして毎回魔女に遭遇している。
グリーフシードに困らないのは良いのだが、まどかの護衛に支障が出る。
その点では、ほむらと宗介は同じ悩みを抱えているようだった。

「それで、なんで貴女がこの学校にいるのかしら?杏子」

どうも出来ない事で悩んでいても仕方ないと、ほむらは目の前の悩みを解決する事にした。

「そんなん決まってんじゃん、マミの飯を貰いに来たんだよ。
毎日ジャンクフードじゃゆまの健康に良くないしな」

今は昼休みだ。
杏子はマミから昼食を貰おうと学校に侵入したらしい。ゆまも一緒だ

「そんな事だと思って、お弁当を余分に作っておいたわよ、佐倉さん。ゆまちゃんの分も勿論あるわ」

流石の元師匠と言うべきなのか、杏子がどう出るかをマミは把握していたようだ。
マミの弁当はサンドイッチだからか、数の調整はしっかりとしている。

そんな中で、ほむらと宗介は相変わらずカロリーメイトを齧っている。

「あんたらはいつもソレだね……」
と、さやかはほむらと宗介を指す。

さやかとまどかは、ごく一般的な弁当だ。

テッサは今日はTDDに戻ったらしく、この場にはいない。

そして、つい最近になって登校するようになったキリカは。

「あ……織莉子から弁当貰い忘れた……」

弁当を忘れてしまったらしい。
しかも、愛妻とまではいかなくとも、手作りを。

「なら呉さんもどう?
三人分にしては多くし過ぎたみたいで」

そう言うとマミはキリカにサンドイッチを差し出す。
無言のままキリカはそれを口に運んだ。


ほむらと宗介はこうして過ごす平和な昼休みが好きだった。
他のみんなもそうかもしれない。
恐らく、マミとさやかは少なからずそうだろう。

この時間が終われば、また死と隣り合わせの魔女狩りなのだから。

「そういえば、相良くん最近はあのコート着てないね」

ふと、まどかが尋ねてきた。

「あぁ、気候的に不要だと判断した」

気候的に不要だと言うのは本当の事だが、真の理由はベヘモスの出現によりいつでも<レーバテイン>を出せる準備の為に、アルを機体に戻したからだ。
なので、今はアルが搭載されたコートではなく、元々のキザったらしいデザインのアクティブな防弾衣となっている。
それでも宗介は大型の鞄の中に銃器や教科書ノートと共に忍ばせているのだが。

「暑そうだったからねぇ、あれ」
と、さやかの感想。

この中では、杏子とキリカだけは見た事がない。

「へえ、てっきりボン太くんしか変なモンは着てねえと思ってたけど、そんな季節外れのコートまで着てたのか」
杏子はサンドイッチに噛り付きながら笑っている。

「むぅ……キョーコ!ボン太くんは変なのじゃない!」
変なところに敏感なゆまは杏子に反論する。

「そうだぞ佐倉。
ボン太くんはあのサイズでアレだけの戦術性を持っている。
なんなら量産型を一つ譲るが」

「ソースケも!ボン太くんはそんなのじゃないの!!」

純粋にボン太くんが好きらしいゆまの苦悩は絶えなかった。


そんな平和なやり取りを見て、ほむらは「あぁ、こんな時間がいつまでも続けばいいのに」と思ってしまった。

一時間程戻って、美国宅


マオは最近の拠点をこの家にしていた。
嫌々でやっていた織莉子のメンタルケアだが、なんだか放っておけなくなり、今では広過ぎる家に居座っている。
ちなみに、テッサもこの家に居候している。

ふと、テーブルを見ると弁当が一つ置かれていた。
だが、今は織莉子は学校に通っていない為に弁当は必要ない筈だが。

そこまで考えるとマオは今朝立ち寄ったキリカに渡すものだと結論づける。

「おーい、オリコー。
キリカが弁当忘れてんよー!」

大きめの声で織莉子が聞こえるように言うと外の薔薇園から「えっ!」と声が聞こえた。

ドタドタと音を立てながら織莉子は外から入ってくる。

「ほら、コレ」

「っ!?」

織莉子は驚愕した。
机に渡す筈の弁当が置かれていたからだ。

「いや、そんなに驚く事でもないでしょ……」

大きすぎるリアクション。
思わずマオはツッコミを入れる。

織莉子は時間を確認するが、まだ昼前だ。学校に持って行けばかなり余裕で間に合うだろう。

弁当をひっ掴むと織莉子は玄関へと向かう。

「外に出て平気なの、オリコ?」

マオは心配をした。
当然だ、つい先日まで家の塀に落書きされる程には嫌われ者となってしまっているのだから。

「ええ、何をするにしてもこの家から出られなければ。
そうでなくてはキリカに申し訳ないですから」

そう言う織莉子はにっこりと笑って、つい先日までのような暗い表情は影もなかった。

「わかった。気を付けなよ」

そう言うとマオは手を振って見送った。
織莉子は確実に良くなってきている。
そう思うとマオは少しだけ頬が緩んだ。

見滝原駅


「んんー!はるばるやって来たぞ、ミタキハラ!!!」

駅に一人、艶やかな黒髪で長髪の少女が降り立つ。
千鳥かなめだ。
人がいないからか、つい一人で叫んでしまう。

「とは言え、こんな時間からどうしようか……」

時刻は平日の昼間。
人も居なければ、宗介が何処にいるかもわからない。
そうだ、通信機に連絡しよう。

かなめは鞄から今時の女子高生とは思えないような大型の電話のような物を取り出す。
実はこれ、電話ではなく宗介から渡された通信機だ。

「あ、ソースケ?いま何してんの?」

『む、千鳥か。今は学校だ』

「え?学校?」

かなめは任務としか聞かされていなかった。
何故学校にいるのかはわからない。

『そうだ。何か用があったか?』

「見滝原に着いたんだけど、どうしようかなーって」

『そうか。ならば今から指定する住所に向かうといい。マオがいる筈だ』


そう言われると、かなめはとりあえず指定された住所へと向かった。

美国宅前


「うっわー、でっかい家」

目的地に着くと、その外観を見てかなめは感想を思わず漏らした。

だが、所々窓が修復された形跡がある。
表札を見ると<美国>と書かれていた。
何となくでしかニュースを見ないかなめは「あ、なんかやらかした議員の人か」程度にしか思わない。

インターホンを押そうと一歩進んだ所で、いかにもお嬢様といった感じの少女が出てきた。

「?」

目が合うと首を傾げられた。

「あの、どちら様で?」

至極当然の質問だ。

「あ、あのー、ここに居るって人に用があったんですけど……メリッサ・マオって人、居ませんよね……?」

かなめはどう考えてもマオが居るとは思えなかった。

「あぁ、マオさんのお知り合いでしたか。
中に居ますよ。どうぞ、上がって下さいな」

本当にいるのかよ!とかなめは心の中で突っ込む。

「あ、ありがとうございます。
あ、そうだ。あたしは千鳥かなめ。ここで会ったのも何かの縁かもしれないから、よろしくお願いしますね」

礼儀の正しい挨拶をする。
あまり自分には合わないな、とかなめは自嘲しそうになる。

「私は、美国織莉子です。
多分、千鳥さんより歳下ですので敬語は使わなくて平気ですよ」

こちらの内心を見透かしたように言ってきた。

「ありゃ、そうなの?ありがとう。
あたしにも、敬語なんて使わなくて平気だよ」

と言いながら少しだけ腕時計を確認する。
まだ昼前だ。
なのに織莉子は弁当を持って出かけようとしている。

「ささ、どうぞ上がって?」

そう言って疑問を口に出す前に上がるように勧められた。
織莉子は出かけようとしていたが、かなめを家に上げると自分も上がった。

「ごめんね?
どっか出掛けるんだったんでしょ?」

心底申し訳なさそうにかなめが言う。

「いえ、ただ弁当を渡し忘れたから学校に向かおうとしてたんですが…まだ早そうなので、もう少し家に居ますよ」

織莉子は丁寧な言葉遣いで説明した。
かなめは薄々「この子は敬語を使うのに慣れているんだな」と気がつき、追求をするような事はしなかった。
まだ子供なのに、学校に行かない事も聞こうとは全く思わなかった。

美国宅


「お!カナメ!久しぶりね」

「こっちこそ、久しぶりです」

二人はそう言うと、軽く挨拶代わりのハグをした。

マオはアメリカ育ちで、かなめもアメリカで生活していた時期があるため割と普通の挨拶だと思っている。

だが、純日本人の織莉子には異文化としか言いようがなく、誤解を招いてしまったようだ。

「……えっ?お二人はそう言う関係で……?」

少しだけ顔が引き攣っている。

「ん?まぁカナメとは友達よ?」

マオはケロっとしている。

「あぁー……織莉子?別にあたし達はレズじゃないよ?」

マオは何故引いているのかわかってなかったようなので、かなめが説明する。
あまりにストレートな物言いに思わず織莉子は噴き出した。

「え、えぇ、良かった……」


それからマオは、かなめに宗介の任務と魔法少女と魔女について知っている事を教えた。
色々とこの街は危なっかしい事と、あまり魔法少女の事には首を突っ込まない方がいい事も。


「そうですか……ありがとう、メリッサさん」

「いいって事!
それよりオリコ、時間いいのかい?そろそろ昼飯渡さないとヤバイんじゃない?」

そう言われて織莉子はチラリと時計を見る。
時間は昼休みの15分前を指していた。

「!?大変、早く行かないと!!」

「だから驚き過ぎだって…」

同じ内容を二度目のツッコミを入れる。

「それじゃあ、キリカにお弁当を渡しに行ってきます!」

「あ、待って織莉子!
あたしも一緒に行っていい?」

学校に行けば宗介に会えるかもと考えて、着いて行く事を提案する。

「構いませんよ?
それでは、行きましょう千鳥さん」

「うん。
それじゃあ、行ってくるねメリッサさん。また後で戻ってくるよ」

そう言うと二人は足早に学校へ向かった。

何処かのビル、屋上


「まさかな……本格的にやる気らしいな」

クルツはM9の狙撃砲のスコープから3機のベヘモスを確認した。
学校へと向かっている。

「やべえぞ……恐らく、コダールもエリゴールも居るだろうな……姐さんに知らせねえと!」

再び、美国宅


マオにクルツからの連絡が来たのは、織莉子とかなめが出発して丁度15分程経った頃だった。
恐らく二人は学校に到着しているだろう。

『こちらウルズ6!
ベヘモス3機を確認!
繰り返す、ベヘモス3機が学校に向かってる!』

恐らくTDDにも回線を繋いでいるのだろう。
クルツは真面目な口調だ。

「こちらウルズ2、あたしもM9で向かう!」

『こちら、アンスズ。こちらもミタキハラの近海に居るので援護に向かいます』

『こちらウルズ7、了解。
レーバテインを指定ポイントに発射を要請します。
ポイントは発信器を辿って校舎脇の校庭』

やはりこの回線は宗介も聞いていたようだ。

『了解。ポイント確認。
レーバテインは5分後に到着予定です』

「それと、ソースケ。
そっちにカナメとオリコが行ってるらしい。絶対にヘマはするんじゃないよ!」

『千鳥が…?』

見滝原に着いた事は知っていたが、何故学校に来たのかはわからない様子だ。

「オリコが弁当を届けるってから、それに着いて行ったみたいね。
それじゃあ、また後で」

それだけ伝えると、マオは通信を切りM9に乗り込んだ。

学校、屋上


「暁美、マズイ事になった」

宗介は小声でほむらにだけ伝える。

「廃工場での大型ASが3機、ここに向かっているらしい。
恐らくその他のASも潜伏している可能性がある。
テレパシーで魔法少女にだけ伝えてくれ」

ほむらは表情を変えずに頷く。

(ここにいる魔法少女に伝えるわ。
まどか、キリカには言わないで頂戴。
この間の大型ASその他がここに向かっているわ。
二人をそれとなく避難させて、私たちはそれに備えるわ)


これで、マミさやか杏子には伝えられた筈だ。
ベヘモスを知らない杏子には後からマミにでも説明してもらおう。

放送が鳴り響く。

『3年◯組の呉キリカさん。3年◯組の呉キリカさん。
一般用昇降口に弁当を届けてくれた美国織莉子さんと、千鳥かなめさんがいらっしゃいました。
至急、一般用昇降口に来て下さい』

ピンポンパンポーン。と軽い音と共に放送は途切れた。
平和な学校だ。
だが、ここにいる魔法少女と宗介はここが戦場になるかもしれない、と焦っていた。

「織莉子……来てくれたんだ…」

キリカは今の放送を聞いてニヤニヤしている。

「もう片方は俺の知り合いだ。
すまないが俺も降りるぞ」

あたりを見ると、まだ食事中だ。
まどかに知られずに校舎内に入れるのは難しいかもしれない。

通信が入る。

『こちらウルズ2。
放送室の回線を少しだけ使えるようにしたから、屋上からエンジェルを校舎に戻すよ』

そう言って通信が切れると、再び放送が流れた。

『えーと、あ、光化学スモッグ警報発令。
屋上の生徒は至急校舎内に戻るように!以上!!』

その口調は明らかに教職員のものではないし、声はマオのものだったがまどかを信用させるには充分だった。

この放送で、魔法少女たちは「本当の事だ」と緊張を高める。

「それじゃあ、校舎に戻りましょう」

とほむらが立ち上がる。

「そうね。美樹さん、鹿目さん、行きましょう」

そう言ってマミは二人を立たせる。

既にキリカと織莉子は校舎に降りていた。
ほむらは、まだ降りていない。

「そうですね。
ほら、まどか。行こっ!」

さやかはまどかに手を差し伸べる。
まどかはその手を受け取った。

そして屋上には、ほむら、ゆま、杏子が残っている。

「二人とも。これは魔法少女には関係のない戦いよ。
死ぬ事はあっても、報酬なんてない。グリーフシードなんてもっての外だわ。
風見野に一旦戻った方がいいと思う」

それだけ言うと、足早に校舎に降りて行った。

一般用昇降口

宗介とキリカはできる限りの駆け足で降りて来たようだ。

「ソースケ!」

その姿を確認して、かなめが名前を呼ぶ。
織莉子はキリカに弁当を渡した。
その時だった。

放送が入る。
ピンポンパンポーン。

『この学校にいる皆さん、こんにちは』

少しだけカタコトの日本語。
放送用のテレビに一人、少女が映る。手にはソウルジェムを持っているのは、ワザと見せているのだろう。

『この学校は我々が占拠しました。
これから皆さんを殺します。
要求は特にありません。
それではさようなら』

それだけで、放送は途切れた。

(侵攻が思っているよりも早い)

宗介は既に学校の中にアマルガムが入り込んでいるとは考えていたが、これ程とは。

「千鳥、美国、呉!!
事情が変わった!走るぞ!!」

校舎内から悲鳴が聞こえる。
ふと、遠くの校舎を見ると視界が歪んだ。
(まさか…魔女を使っているのか!?)

しかも、校舎の至る所で。
視認しただけでも3ヶ所だ。
南棟、北棟、そして、校舎東側。


外出ればASの脅威に晒される。

「宗介っ!」
後ろからほむらたち、魔法少女全員とまどかが駆けつけた。

「すまない、暁美!この三人を頼んだ!」

宗介はそれだけ言うと、三人をほむらに押し付けて外へと駆け出した。

「中も危険だが、外はかなり危険だ。
魔女の方はなんとかできるか?」

「やらなきゃならないんでしょう?」

校舎の外へ出ようとする。
その前に、向き直りかなめにアクティブな防弾衣とイヤリングを渡す。

「千鳥、これを」

「このコート……レナードのあれ?」

「そうだ。それと、イヤリングには小型の爆弾を仕込んである」

説明を終えると、外へと向かう。
その時。
巨大な人型が遮った。
アマルガムが量産するラムダ・ドライバ搭載型AS
形式上の名前は確か…

「コダールか…!」

そのモノアイは宗介ではなく、校舎のまどかやほむらたちを捉えていた。

「マズイっ……!」

AS規格のアサルトライフルがそこに向けられる瞬間に。

黒い影が乗りかかり、<コダール>は沈黙した。
黒い影の正体はM9だ。
そして、黒いカラーリングにクルツやマオの物とは違う頭部の形状。

「ファルケ…………!クルーゾー大尉か!」

ファルケのスピーカーがオープンになる。

『久しぶりだな、サガラ。
アルはすぐに到着する』

すぐにファルケは大きく跳躍して姿を消した。

「すまない……巻き込むつもりはなかった」

そう言うと今度こそ宗介は校舎から飛び出した。

そして、その先の校庭に。

爆音と共に「何か」が着陸した。

<レーバテイン>だ


その周囲には既にもう一機<コダール>が迫る。
今から走って乗り込むのには間に合わない。

攻撃される…!
そう思ったが、<レーバテイン>は無事だった。
<コダール>は攻撃されるよりも先に、何処からかの狙撃を受けたらしい。

(クルツか…!)

その隙に宗介は<レーバテイン>に搭乗する。
武装はいつも通りの設定だった。

「おかえりなさい、軍曹殿」
アルが機械音声で話す。

「あぁ、まずは敵を殲滅するぞ」

「ラージャ。付近の敵機は…」

数を聞く。
想像以上の数だが退くわけにはいかなかった。

「行くぞ、アル!」

「ラージャ」

生き抜く為、そして守り抜く為に。
宗介とアルは疾走を開始する。

校舎内

既に校舎の殆どは魔女の結界に巻き込まれてしまったようだ。

宗介に押し付けられた三人は魔女の結界に入った事こそ無いが、その存在は知っているらしい。

軽く自己紹介を済ませると、移動を始める。

早く魔女を何とかしなければ、死者が大量に出てしまう。

手始めに、近くの南棟から倒しに行こう。
戦えないまどか、織莉子、キリカ、かなめは簡易の防護結界を作って階段の裏の発見されにくい位置に留まるようにした。
使い魔程度には破れないだろう。

『北側の魔女はあたしたちに任せな』

突然ほむらの頭の中でテレパシーが届く。
杏子の声だ。
さやかとマミも聞こえているらしい。

(わかったわ。そっちはお願い)

(私からもお願いするわ、佐倉さん)

(ありがとう、杏子!)

三人はテレパシーで三様に感謝を伝える。

ほむらは走りながらチラリと上の階、転校初日にまどかに警告をした渡り廊下を見上げる。

見覚えのない魔法少女がいた。
見覚えがないと言うと、嘘になる。先ほどテレビに写り込んでいた、首謀者なのだから。

「巴さん!さやか!
そこにいる魔女をお願い!」

そう言うとすぐにほむらは通路から逸れて階段を駆け上がった。

「ほむらは!?」

「上の階に首謀者を見つけた!私が行くから魔女を!」

叫びながら姿を消した。

(その位置で待つなんて…………随分と馬鹿にしてくれるじゃない)

願いの為、仲間の為に。
それぞれの魔法少女は、疾走を開始する。

昇降口付近、階段裏

まどか、織莉子、キリカ、かなめは隠れていた。
尤も、結界の中の為他の生徒よりも比較的安全だが。

しかし、実のところかなめは結界が作られる際に四人が入り切らないと分かっていたために、結界の外にいるのだ。

「だいじょーぶだって、マドカ!自分を責めない!」

その事を知ったまどかは負い目を感じていた。

「第一、あんな鈍感お化けなんかに見つからないって!」

本当は少しだけ怖いような気がした。
膝が震えるのは、武者震いなのだと自分に言い聞かせて誤魔化す。

自分には、この子たちよりも安全なように装備を渡されている。
先ほどのアクティブな防弾衣と、爆弾が仕込まれたイヤリング。
既に防弾衣は着ている。
イヤリングも、勿体無い気がするがいざとなれば、使うつもりだ。

「ごめんなさい、千鳥さん……」

人間不信気味の、キリカも申し訳なく思っているようだ。

「平気だって!そこから出なければ問題ないんだから」

三人を元気付けるようにかなめは励ます。

その時だった。
階段のすぐそばから悲鳴が聞こえたのは。

出ないように言われたが、ここで助けない方がいけない!

千鳥かなめは塔の上で泣いて迎えを待つお姫様ではないのだ。

近くの菱形が連なった棒状のオブジェクトを引っこ抜き、階段から飛び出る。

「うおりゃああああああ!!!」

気合を入れて、女子生徒を襲っていた使い魔を棒で殴り飛ばす。
いつも、宗介にツッコミをいれていたように。


通路が結界から出なくともその気になれば見える位置なのは不幸だったかもしれない。
その光景を結界内の三人も見てしまった。

それだけならば良かったかもしれない。
だが、その他にも大量に襲われる生徒の数々。
あまりに、多過ぎたのだ。

かなめは、襲われていた一人を連れて階段の裏に隠れさせる。

「か、かなり多い……」

どんな時でも反抗してみせたかなめも、流石に少しだけ弱気になる。


織莉子は自分の世界をまた破壊される様な気持ちだった。

この人たちは、自分を美国議員の娘ではなく、一人の人間として見てくれる。
それなのに、わけの分からない理由で。
破壊される。



















壊されてしまう。


















「キュゥべえ!!!居るんでしょう!!!!」

気が付いたら、織莉子は叫んでいた。

「やぁ、大変そうだね。それで、何か用かい?」

可愛らしい外見だが、憎たらしいやつだと織莉子は思った。
こんな奴に利用されるのは癪に触る。
それでも守らなければならない。

父が愛した、平和の為にも。
その平和を守る為にも。


「契約よ…………
私は、私を必要としてくれたこの……父の愛した世界を守りたい」


言ってしまった。
その契約がどれだけ理不尽な物かは知っていた。
それでも、織莉子には必要だったのだ。この願いが。

「生きる意味なんて、どうでもいいの。だから私は……」

「いいだろう、織莉子。契約は成立だ」

辺りが、白い輝きに包まれる。
織莉子の「私の世界を守りたい」という願いが叶ったのだ。

無力な生徒に飛び掛ろうとした使い魔は弾き飛ばされ、使い魔に襲われ怪我を負った生徒はその怪我が一瞬にして治る。

そして、織莉子の姿は元に着ていた服ではなく、白を基調とした魔法少女としての衣装となっていた。
頭の大きな白いハットが特徴的だ。

「……守ります…!!」

織莉子は右手を挙げる。
そうすると周囲に拳程度の大きさの水晶が大量に現れた。

「行きなさいっ!!」
次にその右手を振り下ろす。
大量の水晶は使い魔へと向かって行く。

命中すると、それらは大きく爆発を起こし使い魔を次々と殲滅してゆく。

当然、水晶は織莉子とは別々に動く。
攻撃は水晶に任せて、生徒たちを起こしに近づく。

「もう大丈夫ですよ。
さあ、こちらは安全ですよ」

できる限り落ち着いて、階段の裏へと生徒を迎える。
救世主の如く現れた彼女とて、初陣なのだ。
完全に落ち着ける訳がない。

それでも、魔法の使い方の要領は分かってきた。

辺りを避難させて一ヶ所に。
そして、ほむらたちが掛けた簡易の防護結界よりも強固な物を作り上げる。

そして、まだ助けを求める生徒の為に。
織莉子は疾走を開始する。

織莉子の去った階段の裏


キリカは助かったにも関わらず、絶望的な気分だった。
愛と言っても過言ではない程の好意を寄せていた織莉子は、自分の意思で契約して、この場所を守ったのだ。

それなのに、自分は。

なぜ、彼女は見知らぬ誰かを助ける為に校舎を駆け抜けているのに自分はこんなところで迷っているのだ。

こんなのは嫌だった。
織莉子を必要とし、織莉子に必要とされたいのに。

ここから走って行く織莉子の後姿は遠くなり、自分の手の届かないところへ行ってしまうのではないかと。本当に、そう思えた。

情けない。

織莉子が、居なくなってしまう。
そこの角を曲がったら永遠の別れになってしまう、そんな気がする。

その時になってだった。
頭にあの事が過ったのは。
私にも、魔法少女になる資格があるという事を。

圧倒的に不利で理不尽な契約。
魂を抜き取られ、最期は死ぬか化け物に成り果てるか。

それでも、織莉子の為ならば。


「キュゥべえ……いるんだろう……?」

キリカは俯いたままボソリと口を開く。

「呼んだかい?」

やはり、まだ居たらしくインキュベーターはすぐに現れる。

「私も、契約しよう。
こんな私は、嫌なんだ……」

尚も俯いたまま続ける。

「これが私の…っ……願いなんだ」

なんて情けないのだろうか、とキリカは自分で思う。

覚悟を決めたのに、今更涙が流れる。
願い事までこんな私は嫌だと言ってしまえた事が、何より悲しく思えた。

「いいだろう、それが君の願いなんだね」

そして、辺りが光に包まれる。

魔法少女としての、新たなるキリカの誕生だ。

結界の内側のキリカは呆けた表情をしていた。

「……あれ?何で私は泣いて…?あぁ、そうか、そんなあれか、何だ、些細な事でか」

そう言って表情を引き締めると、一歩前に踏み出す。
先程までは、あんなに踏み込む事のできなかった一歩を。

織莉子の作った結界は、人ならば出入り自由なようだが、無論使い魔は入る事が出来ないらしく、周囲に張り付いて中の人々を脅かしていた。

「邪魔なんだよね、私と、織莉子の」

そう言って鉤爪を展開すると、一瞬の下に結界に張り付く使い魔を斬り捨てた。

「さぁ、待っててね、織莉子。今行くから!」

少しだけ狂気じみた笑みを浮かべると、愛する織莉子の為に。
キリカは疾走を開始する。



今回はここまでになります。

所謂、おりこ☆マギカでの最後の学校襲撃イベントです。

未契約だった織莉子とキリカも契約。
しかしまぁ、織莉子は原作とは違う願いになってしまい誰おま状態に……

キリカはそれっぽくできたらなぁ、と思います

乙です

楽しく読ませてもらってます

重箱の隅突付くようでスマンが、
>>197
現に宗介は今こそは
多分これ「今でこそ」の間違いじゃないかと思うんだが。

>>222
!?
その通りです……なんというミスをw
すまぬ、すまぬ……

大変申し訳ないくらい遅れました。

今回分終わったので投下します。

ちなみにオリジナルな展開多めのわかりにくい話となってしまいました。

立ち向かうデスパレート・スクール・ライフ


北棟


佐倉杏子は、苦戦していた。
本来の実力を発揮できていないと言った方が正しいのかもしれないが。
別に、その本来の実力は幻惑の魔法を指している訳ではなく、いつもの踏ん切りの良さも、戦闘での技術も発揮できないのだ。

「クソッタレ!よりにもよってこの魔女かよ!?」


結界に踏み込むまでは良かったのだが、それからはどんどん顔色が悪くなっていったのは、幼いゆまでも分かった。

そして、今に至る。

「ビビるな……あいつの攻撃は知っているんだ…!」

異形の存在と相対して、自分に言い聞かせる。
目の前にいるのは。

「蘭・卵・覧・乱♪」

ゆまが、この世界に踏み込んだ原因第二号だ。
一号は、ゆまの両親を食った魔女。
今、杏子と向かい合うこの魔女は以前、杏子に致命傷を与えた。
その傷を治す為に、ゆまは契約して結果的に杏子は助かったがゆまを巻き込んでしまった。

「キョーコには、乱暴させない!」

そしてゆまは、契約するよりも前に杏子に助けられている。
その事には恩義を感じているのだ。

だからこそ、ゆまは杏子に依存して、そして何よりも守りたいと思っている。

「ゆま!危ないから下がってろ!」

ハンマーを振るいながら前に出ようとするゆまを杏子は制した。

「前衛はあたしだ。ゆまは治療を頼むよ。
ゆまがやられたら、あたしだって危ないんだから」

二カッと笑ってみせて、ゆまを安心させる。
この子を危険な目に会わせたくない、そう杏子も思っていた。

しかし、安心させたところで決め手がない。

少しだけトラウマになりそうな四肢切断を思い出し、吐き気が込み上げるが気合で押しのける。
やるしかないのだ。

「そんじゃあ、いっちょ行きますかっ!」

戦闘は開始される。

南棟


「こんなところで、リベンジになるとはね……」

巴マミは、少なからず動揺していた。
目の前にいるバイクを模した様な魔女は、マミが新米だった頃に目の前で無力な子供を殺した魔女と同一の物だ。

じっとりと脂汗が滲む。
嫌な汗だ。

あの事は今でも忘れない。
自分が弱かった為に、逃げる事しか出来ず、子供を見殺しにした。
無様に結界から逃げて、生き延びた。
公園には子供の母親が、二度と帰らない子供の名前を呼び続けた。
その事をマミはこれからもずっと忘れないだろう。

仕方がない事とは言え、マミはその事がきっかけで強くなろうと、正義の魔法少女であろうと誓った。

今は、違う。
守りたい世界があって、目に映る人だけでも救う力もある。

この魔女は自分で倒さなければ。
ケジメでもある。

「美樹さん。
この魔女は、私に任せてもらえないかしら」

少し語気を強めて決意する。

「え?」

勿論、さやかはそんなマミの過去を知らない。
戦うならば、二人の方が良いのは当然の事だ。

「ごめんなさい、私のわがまま聞いてくれるかしら。
この魔女は私が倒さないと、あの子に顔向けできないから」

早口になるように言い切る。
マミの鼓動は、どんどんと早くなる。

そんなマミの表情を見て、声を聞き。

「わかりました、マミさん。
あたしは、校舎に残ってる人たちを助けてくるよ!」

マミに余計な心配を掛けまいと、すぐに回れ右をして結界から去る。

「さぁ、この個体なのかはわからないけど……
あの子の仇、討たせてもらうわよッ!!!」

巴マミは闘争を開始する。

東側廊下

織莉子、織莉子、織莉子………

すれ違う使い魔を次々と切り刻みながら、キリカの頭の中はこの事しか考えていなかった。

次だ、次の角を曲がれば追いつく。

「邪魔ッッだっ!」

飛び掛る使い魔には目もくれずに蹴り飛ばす。
そして進路に落ちたところに爪を突き刺し、その死体に魔力を込めて他の使い魔に投げつける。
命中。爆発。
込められた魔力が爆発した。
即席の爆弾だ。

キリカは正直なところ、使い魔など無視して走って織莉子の元へ行きたいのだが、そうすると織莉子はきっと悲しんでしまう。

(織莉子が悲しむ顔なんて、見たくはないからね)

その一心で、出来るだけ速く駆け抜け、そして使い魔は全て斬り伏せている。

もう少しだ、追いつける。

角を曲がる。

キリカは目を疑った。

(そんな……)

元々、織莉子の攻撃ではこの数の使い魔を凌ぐには足りなかったのだ。
キリカの視界の先で。
織莉子が。

血を流し。


うつ伏せに倒れている。

その周囲には、おびただしい数の使い魔。

キリカの中で、何かが切れた。

「貴様ら………貴様らああぁぁぁぁ!!!」

次の瞬間、世界はキリカだけを取り残してしまったかの様にスローモーションになる。
キリカだけが、いつもの速度で動けた。

(なんだ…これは……!?)

そう思いつつも、最大速度で織莉子の元へ。
頭で思うよりも、身体が先に理解した。

(そうか、これが私の力か…織莉子を守る為の!)

指一本でも織莉子に触れさせるものか。
それ位の心意気で、織莉子の近くの使い魔から凪払う。

「私と!織莉子の!!邪魔をするんじゃあないっ!!!」

初めての戦闘とは思えない程、恐怖を感じない。
むしろ、織莉子を助けられるなら命など幾らでも掛けれる。
それ程のまでの愛の前には、使い魔は全くの無力だ。

「全ては、愛だ!!無限の愛の、有限として貴様らは!!消えろ!」

突然、愛について語りたくなった。
この、命を奪うだけの怪物に必要はないのだろうとは理解している。
それでも、叫ばずにはいられなかった。

恐ろしい程の速度で使い魔を殲滅するキリカ。
このまま一方的に終わるのかと思えた。
その矢先に。

世界が、色を戻す。

時間切れだ。
グリーフシードのストックも無しに使い続けるには限度があった。
そこに気を取られ、キリカの反応は一瞬だけ遅れる。

(っ…後っ…!)

振り向きざまに凪払う。
だが、使い魔の捨て身の一撃はキリカに届いた。

隙ができる。
再び現れる大量の使い魔がキリカに迫る。
形成逆転。
先程の攻勢から打って変わっての絶対絶命。

(せめて、織莉子だけでも…!)

この期に及んで、キリカは最期まで織莉子を優先しようとした。


「さ…せ…る…かああああぁぁぁあ!!!!!!」

まさにその時、聞き覚えのある声と目の前に映る蒼い閃光。

マミたちと行動をしていたはずのさやかが、キリカと織莉子の眼前に現れた。

完全に体に負担がかかるであろう速度で、反応で、使い魔を吹き飛ばす。

「ふぅ…間一髪ってところ?
それでも、これはマズイね…一旦退きます」

そう言うや否や、さやかは倒れる織莉子を抱きかかえ、キリカの元へ。

「すまない、助かったよ」

当面の危機は去り、一先ず礼を。

「困ったらお互い様ですよ!
それよりも……」

そう言うと、織莉子を地面に降ろし手をかざす。
さやかは癒しの願いで契約した魔法少女だ。
その魔法は回復にこそ真価を発揮する。
青白い光に織莉子の身体が包まれる。

「んっ……すみません、助かりました…」

すぐに織莉子は目を覚ました。
幸いな事に、傷は浅かったようだ。

「気にしないでくださいって!」

「ありがとう!美樹さやか!!君は本当に……恩人だ!!」

傷が治ると、真っ先に感謝を伝えたのはキリカだった。

「き、キリカさん、落ち着いて……
当然の事をしたまでですから」

「それでもだ!私は君に感謝をしなければならない!私の愛を守ってくれたのは他ならない君なんだから!!」

身を乗り出しながらもキリカは熱弁をする。
ここでさやかは疑問を感じた。
呉キリカという人物はこんなに饒舌で、愛を語る様な人物であっただろうか。

「キリカさん、熱でもあります…?」

「さやかは何を言っているんだい?
普通だよ……と言いたいけれど、この性格は契約で頼んだものだね。さっきまでと違うのはこういう理由さ。
織莉子が戦っているのに、私は何も出来ない。『こんな自分は、嫌だ』って願ったのさ」

さやかは成る程な、と思った。
だが、あの大人しく人間不信気味の少女がそれを願うのはかなりの勇気が必要だったのかもしれない。
それならば、この何も恐れはしないような人物が本来の呉キリカなのではないだろうか。

「そうですか…あ、コレ使ってください」

そう言ってさやかは予備のグリーフシードをキリカと織莉子に二つづつ手渡す。

「でも、これは貴重な物なんじゃ」

「いいんですよ、あたしたち仲間なんですから!」

キリカが遠慮しようとしたのを遮る。

「織莉子さんは、何を願ったんですか?」

ある種、この質問はタブーだと分かってはいたが、聞かない訳にはいかなかった。
性格上気になってしまった事もあるのだが、二人は少なからずとも30分前までは一般人だったのだから。

「私は、『私の世界を守りたい』と。
私の、と付けたのはエゴなのかもしれないですね」

エゴなものか、とさやかは思う。
この願いは、人生の全てを投げ打ってようやく叶うのだ。

むしろ世界を守りたいとは、人の為に動くだけの覚悟では言えないはずだ。

「エゴなんかじゃないですよ。
人の為に戦いに行けるなんて……凄いです」

「あら?そう言う美樹さんも、人の為に願いを叶えているでしょう?」

さやかは動揺した。
確かに、さやかは自分が思いを寄せる少年の腕を治す為に契約した。
それは果たして、本当に彼の為だったのだろうか。

(恭介の腕が治って、バイオリンがまた聴けて……それで、あたしは……
だめだ、今は考えないようにしよう!)

結局、自分の答えを見出せずに考えを中断する。

「……樹さん?美樹さん!?」

そこで、ようやく織莉子が名前を呼んでいる事に気がつく。

「えっ?あ、はい、どうしました?」

「どうしたもこうしたも、君が織莉子の呼び掛けに気が付かなかっただけだよ!」

それ程までに、あの短い考えに没頭してしまっていたらしい。

「よかった、ただ聞こえてなかっただけみたいですね。
本当はまだ少し話したい事もあるんですが……
魔女がもう来るみたいですね」

織莉子は少し残念そうに告げる。
だが、魔女を倒せばまた少し平穏に近づく。

「あれ、織莉子さん何で魔女が来るって分かったんですか?」

先程からさやかは疑問を抱き続けている。

「あ、それは私の魔法が未来視だからですよ」

そう言ってニッコリと笑った直後に魔女の結界に飲み込まれる。

キリカは先程さやかが何かを考えていた時に、さやかのソウルジェムが濁ったのを見逃していなかった。

(まずいね……
織莉子は気が付いてないみたいだけど、確実にさやかの地雷を踏んでしまったみたいだ。
些細な事だと思っておこう…それより)

「織莉子!!さやか!
全ては無限で有限な愛の為に戦おう!」

それぞれの想いを胸に、戦いが始まる。

一般用昇降口

「私って、やっぱり卑怯…ですよね……」

おもむろにまどかが口を開くと、出てきた言葉はこんなものだった。

「え?なんで?」

この結界に残っているのは、大多数の生徒とまどか、そしてかなめだ。
かなめはまどかの呟きに思わず反応した。

「私って、キュゥべえから契約すれば誰よりも強いって…そう言われてるんです。
それなのに、私、いざこんな事になると怖くて……織莉子さんも、キリカさんもこんな中で契約したのに……」

そう言ったまどかの声は震えていた。
よく見れば、目に涙を浮かべてもいる。

「だからって、なんでマドカが契約するの?
みんなは、守りたい物があって今ここで見つけられた。
それだけの違いなんだよ」

かなめは呆れ顔だ。

「ホムラちゃんも、サヤカちゃんも、みんなみんな、まどかの事を守りたいんだよ。勿論、ここにいる皆も守りたいだろうけど。
そんなに守りたいのに、まどかがわざわざ戦いに行くのは、違うんじゃないのかな?」

かなめはそう続けた。

「それだからって…ただ見てるだけでいいんですか……?」

まどかはそんな事を言えるかなめが羨ましく感じる。

「違うって。マドカは皆が帰ってこれる場所になってあげなきゃいけないんだよ。
あたしもね、前にソースケにずっと助けられてたの。
それなのにあたしは、自分でも何かしなきゃって必死になって。
それで、結果的にはソースケを助ける事もあった。
それでも、違うの。
その時にできる事があるなら、そうすればいいの。
誰もマドカが契約したり、戦って欲しいとは思ってないんだからさ」

思い直してみれば少し恥かしい位に饒舌になっていた。

「皆が、帰ってこれる場所に……」

まどかはかなめの語った事を反復する。

「い、いや、全然魔法少女の事なんてわからないあたしが言うのも変だよね。ウ、ウハハハハ!」

かなめのこの笑い方は、この話はもうやめよう、と言う意味があるらしい。
出会ってから間もないまどかが知っている訳がなかった。

「ありがとうございます、かなめさん。
私、少しだけど自信がつきまし……え……なに…これ……?」

かなめに礼を言おうとした、その時。
まどかの頭の中のささやき声が急に大きくなり始めた。

「ッ……!」

かなめも様子がおかしくなる。
彼女は、かなり特殊なウィスパードだったのだから、例に漏れずこのささやき声が再び聞こえている。
ささやき声が強く聞こえるのは、かなめも同じ様だが明らかにまどかの苦しみ方は訳が違った。

「痛いっ……!頭が、割れそうで…!!やだ、なに…か……見える……?」

そう言うとまどかは気絶してしまった。

校庭


宗介たちの戦いは、魔女とは違い目の前の敵となのだ。
既に戦闘は始まっている。

(数が多い…!こいつら、一体何の為に……)

それなりの時間は経過し、かなりの敵を撃墜した筈だ。
それなのに、次から次へと湧き出るようにアマルガムのASは現れた。

ラムダ・ドライバを有効的に敗れるのはラムダ・ドライバのみ。
だが、敵の数と比べればこちらがラムダ・ドライバを扱えるのは<レーバテイン>のみ。
圧倒的に不利だ。
<ベリアル>がいなくなった今は、<レーバテイン>は間違いなく最強のASだ。
それでも、この数には苦戦する。
既に10機は落としている筈だ。

「これで…!」
『11!』

宗介の<レーバテイン>が放った散弾砲ボクサー2が敵の<エリゴール>に直撃する。
見事にラムダ・ドライバを貫通したようだ。

『<コダール>タイプ、背後から接近』

警告。
だが<レーバテイン>は振り向かない。

「やれ!アル!」
『ラージャ』

<レーバテイン>の脇から隠し腕が伸びる。
鋭い風切り音と共にヒートダガーが投擲される。

<レーバテイン>に乗る宗介とアルの強いラムダ・ドライバは防げなかったようだ。
貫通してコックピットに突き刺さり、爆散する。

「これで12!」

[全機警告!<エリゴール>タイプ2機が前方より接近!
α、βの識別データを全機に送信する。
ウルズ7はβを、俺たちはαを叩くぞ!]

接近する2機の<エリゴール>
宗介は識別βを迎撃する態勢に入る。

『軍曹。ターゲットβ進路が校舎側へ急変』

βの<エリゴール>の進路は突如ウルズチームから離れるように校舎へ。

「誘導されている…?」
『おそらくは。
あの位置なら周囲の被害を考えて散弾砲の使用が危険になります』

そうしている内にも<エリゴール>は校舎側へと近づく。
ここでECSを使われれば不意討ちをされる危険が伴う。

「こちらウルズ7!進路変更をしたβを追撃する!」

「ウルズ1、了解。
あまり深追いし過ぎるなよ」

クルーゾー、マオ、クルツは宗介が追撃に走り去るのを見届ける。

「ウルズ1より、2、6!連携で仕留めるぞ!」

[ウルズ6、了解!]
そう言うとクルツはすぐさまECSを起動して姿を消す。

[ウルズ2も!
行くわよ、野郎ども!準備はいい!?]

校舎付近


<レーバテイン>のパワーならば<エリゴール>に追い付くのは容易だが、離れた距離を縮めるにはまだ時間が足りなかった。

<エリゴール>は突然停止する。
これならば、追い付ける。

だが、追いついたとしても場所が悪い。

ここで散弾砲を使えば確実に校舎や中の生徒に被害が及ぶ。

その場所は、あの転校初日での渡り廊下だった。

廊下をチラリと見る。
宗介は誰もいないようにと願っていたが、そうもいかないようだ。

(あれは…!暁美!)

それを確認した直後に<エリゴール>は単分子カッターを抜き放ち、渡り廊下を引き裂いた。

ほむらを狙った訳ではないようだ。
ほむらがもと来た道であろう退路が遮断される。

たちまち切断された渡り廊下は重みに耐えられず傾き始める。

(まずい!)
<レーバテイン>は傾いた廊下を支える事を優先した。

ほむらは迷う事なく前進して渡り廊下を抜ける。
そのまま何かに取り憑かれたように廊下を駆け抜け、宗介が視認できない位置へと入ってしまった。

振り向くと、<エリゴール>は既に姿を消していた。

「奴らの目的は……?
アル、追えるか?」

『ネガティヴ。反応をロスト』

仕方なく、宗介は一般用昇降口付近の校庭へ戻る事にした。

渡り廊下

時間は少し遡る。


首謀者を捕捉したほむらは、渡り廊下へと可能な限り全速力で向かっていた。

勿論使い魔を見逃しはしない。

「邪魔よ!」

大量の弾丸をばら撒きながら駆け抜ける。
階段を登り切り、渡り廊下に出る。

だが、そこには目的の影はなかった。

(やはり罠…!)

ほむらは渡り廊下に立ち気配を探す事に集中する為に立ち止まる。

真横の外で<エリゴール>が単分子カッターで渡り廊下を裂こうとしているのには、無駄に高い防音性と集中力で気がつかなかった。

単分子カッターが廊下に触れる。


異常なまでの揺れと音にほむらも気が付いた。

後ろを振り向くと巨大な刃物が退路を断ち切っている。

完全に単分子カッターが廊下を切り抜けた。
激しい振動。

「……ッ!」

これで進む事しか出来なくなった。

(急がないと……手遅れになるかもしれない)

そう思った瞬間には既に走り出していた。
一度、一般用昇降口へ戻ろう。

???

君に、少しだけ魔法で叶った戦いのない素晴らしい日々を見せてあげよう。



意識が覚醒し、鹿目まどかは目を覚ます。
いつもの帰り道のようだ。
隣にはさやかがいて、ほむらがいる。
ほむらは三つ編みのお下げ髪にメガネをしている。

「……それでさー、恭介の奴か…」

ここでまどかは「あぁ、そうか」と思う。
いつも通りの放課後。
親友のさやかと、心臓の病気で身体が弱く、つい最近になって復学した転校生のほむらと一緒に帰っているんだった。

「もう、さやかちゃんたらー!」

これがいつも通りだ。
きっと、毎日が素晴らしいに決まっている。
だが、まどかは気が付いてしまった。思い出してしまった。

あの危険な魔女や使い魔は?
危なかったところを助けてくれた、もう一人の転校生の相良宗介は?
いつも優しくしてくれた正義の魔法少女で先輩の巴マミは?
いつも守ってくれたほむらは、本当にこの子なの?
隣町からやって来ていた佐倉杏子は?
そこにいつもついて歩いた千歳ゆまは?
【ついさっき】人々を守るために戦っていた美国織莉子と呉キリカは?


危険など潜んでいないこの優しい世界には、居なかった。

突然寒気が襲いくるような気した。
確かめなければ!

「あれ?そう言えば今日はマミさんは?」

さやかに聞いてみる。

「マミさん?誰それ?」

さやかの答えではっきりしてきまった。
ここは、いつも通りの世界のようで違う場所なのだ。

何か、手掛かりがある筈だ。
(そうだ、マミさんは事故にあったのがきっかけで契約したんだ。
その事故の事を調べれば……!)

少し、不謹慎な気がしたが今は構ってられない。

「さやかちゃん!ほむらちゃん、ごめん!
用事を思い出しちゃったから今日は帰るね!」

そう言ってまどかは図書館へ駆け出した。
保管されている新聞を調べれば…!


図書館へ着くと、まどかは古新聞を大量に掴み取る。

(確か、マミさんが契約した日は…!)

その時期の新聞を広げる。

「これじゃない、これでもない……」

そして、まどかの手が止まる。

記事を見つけた。
そこに書かれていた事は。


【高速道路事故。
被害者は巴さん一家三名。
救急車が駆けつけた時には、既に……】

「やめて……!」

見る事が耐えられなくなり、涙目で記事を閉じる。
被害を受けて亡くなった人の名前に、巴マミと書かれていたのだから。

他にも記事を探した。

【教会神父、一家心中か】

【大物議員、汚職ばれ自殺。娘も後追いか】

次々と現れる悲劇のような記事。

こんなのは、違う。

ささやき声が聞こえる。

これはまどかが少しだけ望んだ、魔法少女も居なくて、魔法もない世界なのだ、と。

だけど、それはまどかの周りの悲劇を食い止めるためではなく、全てを失うものだった。

「こんなの……やっぱり、おかしいよ!」

そう言い放った途端、世界にヒビが入り本当の姿を見せた。

一般用昇降口

「マドカ!マドカ!!」

かなめは必死にまどかの肩を揺らして呼びかけた。

「あ……」

まどかは目を覚ます。
そこはあの絶望的な学校であったにも関わらず、まどかは安心した。
ここには、みんながそれぞれいる。
私はみんなの帰る場所になれるのかな?

「ごめんなさい、心配をかけちゃって……
どれくらい倒れてました?」

まだ様子からして決着はしていないようだ。

「5分くらいじゃないのかな?」

思っていたより短い時間だった。
やはり夢だったのだろうか。

そう言えばささやき声は聞こえなくなっている。

契約をそそのかす様なソレは、諦めたのだろうか。

だが、契約をしない事を密かにまどかは決意していた。

「ありがとうございます。
じゃあ、ここでみんなを待ちましょうか。
私は、もう大丈夫ですから」

そして、みんなの帰る場所になろうとも決意した。

南棟、魔女結界


黒い靄のかかったバイクを模した様な魔女。
その魔女の高速突進を間一髪のところでマミは回避し続けた。

(これじゃ、防戦一方ね…)

射撃主体のマミにとっては相性が悪かった。
だが退く事はできない。

突進に合わせてリボンを展開。
正面から受け止める。

「ぐっ…!!」

やはり、サイズによるパワーが違い過ぎる。

「負ける……ものですかっ!!」

それでも、マミは正面から強引にかち合う。

「ぁぁあああああ!!!!」

やはり、吹き飛ばされる。
だが、それは魔女も同じだった。

魔法少女の力は感情に左右される。
闘争本能と仇討、様々な闘志が漲るマミの力は強力だ。

先に起き上がったのはマミ。
魔女は未だに転倒している。

先程の衝撃でバリアの役を果たしていた靄が消えている。

(今ならッ!!)

確信と共にマミは飛び上がる。
そして、地面で転倒している魔女に向けて大量のマスケットを召喚する。

「喰らいなさいッ!!無限の魔弾をッ!!!」

次々と放たれる強力無比な弾丸が魔女の身体を穿った。

巨大な爆発音と共に結界が崩れる。

マミは魔女を倒したのだ。

だが、学校は未だに危険に晒されている。
マミは東棟へと向かう事にした。

北棟、魔女結界


杏子の戦いは、割と順調なものであった。
だが、恐れからかやはり決定打が撃てない。

おそらく、次に攻撃を当てれば例のハズレと共に四肢を切断にくるだろう。
食らった事があるとは言え、何をされたかは分からなかった。

むしろ来るとわかる分余計に恐怖を増幅させる。

「ゆま!援護を頼む!」

杏子にとってゆまは守るべき存在であり、共に戦う仲間だ。
幼いながらも、その治療魔法は一級品なのだから。

「わかった!」

ゆまが叫ぶと同時に杏子は槍を構え突進する。

「喰らいやがれえええ!!!」

槍が魔女を貫通する。
以前はここで倒したと思い、不意討ちをくらった。

今回は違う。

(どこだ、どこからくる……!?)

気配を感じ取る。

(まさかっ!)

魔女の狙いは、杏子ではなく。
ゆまだった。

「ゆま!上だ、避けろっ!!」

ゆまの反応が遅れた。
間に合わない。

自分の槍も、どうしても届かない。

(ゆまだけは……やらせるか…!!
守ってやるって、決めたんだ!!)

今までとは違う魔法の使い道。
昔の様に、自分の為ではなく人の為につかうのだと。

そう強く思う。その途端。

槍が、魔女を貫いた。
だが杏子の手にある槍ではない。

もう一人の杏子が魔女のそばに突如として出現し、貫いたのだ。

(ありゃあ、まさか……
ロッソ・ファンタズマ……なのか…?)

かつて杏子が自分の願いを否定して失った魔法。
人を守りたい。その一心で蘇ったのかもしれない。

今度こそ魔女の身体は貫かれて動かなくなった。

もう一人の杏子はそれと共に消え去る。

結界が崩壊した。


だが魔女はまだ残っている。

杏子も、近くの東棟へと向かう事にした。

東棟、魔女結界


さやか、織莉子、キリカが飲み込まれた結界の中は、影絵の様な世界だった。

そして、細い一直線の橋の先には魔女が祈るような態勢で背を向けていた。
今までの怪物とは違い、多少なりとも人の姿を残しているようだ。

「先手必勝!」

さやかはそう言いながら無防備な魔女を目掛けて突撃する。

「こっちも行くよ、織莉子!」

キリカもそれに続いた。

大量に蛇の影絵の様な使い魔が四方八方から生えてくる。

「美樹さん!上から3体、その後は左右から2体づつ!!
キリカは正面から5!!」

織莉子は未来予知でそれを支援する。
理想的な連携だ。

さやかは上からの三体は落ちてくるタイミングに合わせてスピードを上げて回避。
左右から2体づつは両手に剣を持ち、腕を広げて大きく回転切りをする事で凪払う。

キリカは正面からの5体に対して遅延の魔法を掛ける。
この魔法は書ける対象を選べる事が発覚したらしい。
スローになった5体の突進をぎりぎりのところで全て突っ込みながら回避する。
そのまま速度を上げて根元から斬り捨てる。

「このまま突っ込む!」

「合わせるぞ、さやか!」

勢いを付けた二人はそのままトドメを誘うと加速する。

「いけない!二人とも下がって!!」

悪い未来を察知したらしい織莉子が二人に知らせるが、間に合わない。

前方から大量の使い魔。

キリカは、その群れに遅延の魔法を掛けた。
動きが遅くなる。だが、捌き切れない。

その中にさやかは果敢に斬りかかった。
使い魔の攻撃も当たり、さやかは次々と血を流す。
使い魔の数もかなり減らしたが、さやかの消耗は激しい。

キリカも捨て身の覚悟で群れを食い止める。

「お願い!二人とも一旦退いて!!」

だが、二人は退こうとはしなかった。
キリカは不敵な笑みを浮かべる。

「ここで下がったら、織莉子が喰らうんだろう?そんなのは、ダメだ」

だが、目に見えて前衛の二人は押されている。
水晶を飛ばすが、それでは援護の足しにすらならなかった。

(このままじゃ……!)

織莉子は少しだけ諦めそうになる。

「よくも私の後輩を酷い目に遭わせてくれたものね」

焦る織莉子の後ろから、マミの声が聞こえた。

「織莉子さん、もう大丈夫よ。

二人とも、後ろに下がって!!
射撃に巻き込まれるわよ!?」

マミが叫ぶと、助けが来たのだと確信して二人は下がる。

「ティロ・フィナーレ!」

巨大な大砲は細い橋を埋め尽くすほどのレーザーを放つ。

退避したさやかは、自分とキリカに治療を掛けた。

マミの一撃で使い魔は一掃される。

「美樹さん、呉さん、織莉子さん。トドメ、お願いするわね?」

ニッコリと笑って残りを託す。

「勿論ッ!」
キリカは大声で反応すると、鉤爪を巨大化させた。

「援護するわね、キリカ」

織莉子は使い魔の出現ポイントを予測して先に水晶を放つ。

「任せてくださいっ!」

さやかは、クラウチングスタートの態勢から急速の突進を繰り出す。

「はああああああ!!!」

一瞬で魔女との距離を詰めて一刀両断する。
だが、魔女は力尽きていなかった。
さやかの後ろから、キリカが飛び出る。

そのキリカを使い魔が襲うが、それは織莉子の水晶によって阻まれた。

「全ては、愛の為に!死ね!!」

キリカは巨大な鉤爪を振り下ろす。
この一撃で魔女は力尽きたようだ。

結界は消滅した。

戻ってきた学校は、完全に結界のない元の風景を取り戻した。


校庭以外は………………

そこに走って現れる赤い影と小さな緑。

「おーい!マミ!こっちは倒したぞー!」

杏子とゆまも自分たちの場所にいた魔女を倒したらしい。

「魔女は全て倒したみたいね。
急いで鹿目さんのところに戻りましょう」

マミの提案に、全員が賛成だった。



一般用昇降口


「あ、ほむらちゃん!」

まどかとかなめはほむらを視認する。

「おかえり、ホムラ」

「ええ、ただいま。
待っててくれてありがとう、まどか。キリカさんと織莉子さんは?
それと、この結界……」

ほむらはすぐにこの結界が自分で展開したものよりも遥かに大きくて強固な物だとわかった。

「それは、私が掛け直した物です」

不意に後ろから声が聞こえた。
織莉子だ。

「えっ……!貴女、まさか契約を?」

これには驚いた。
ほむらの中では彼女は一般人のはずだからだ。
よく見ると、後ろにはキリカ、さやか、マミ、杏子、ゆまもいる。

「あら、暁美さんが一番乗りで帰ったみたいね」

魔法少女たちは、全員無事だったのだ。

「おかえり……!おかえり、みんな!!」

まどかはその事実に嬉しくなり涙を浮かべる。

「でも、まだ戦いは終わっていないね。
外を見ればわかるだろう?」

そう言いながらキリカは外を眺める。
丁度、宗介の<レーバテイン>が目の前に着地した。

「全員無事か!?」
外部スピーカーから宗介の声が響く。

魔法少女は全員無事だ。
だが、未だに外でのAS戦闘は続いていた。

「その通り、ニホンの魔法少女のみなさん。まだ終わりじゃない」

少しだけカタコトの日本語。
勿論、それは彼女たちの声ではない。

首謀者の少女だ。

「全員死んでもらいたいけど、この数はどうしようもない。
そこで、君たちには<エリゴール>、<コダール>、<ベヘモス>の餌になってもらう事にしたよ。
<ミスリル>の連中は結界に閉じ込めてね!!」

そう言い終えると首謀者は気が狂ったように笑出しながら、ソウルジェムを掲げた。

それは真っ黒に濁っていた。

「いけない!みんな、すぐにあいつから離れて!!」

未来を読み取った織莉子は叫ぶ。

全員後ろに飛び下がった。

その直後、ソウルジェムが割れてグリーフシードが姿を現し、結界を展開した。
幸いな事に、その結界には魔法少女「は」巻き込まれなかった。

ほむらは首謀者の言葉を理解し、外を見る。
そこには、<ミスリル>のASは姿を消し、残ったのは悪魔の名前を冠したASのみであった。
姿を消したのは<レーバテイン>も例外ではなかった。

「くっ……どうやら私たちだけでASと戦わなければならないようね…」

悔しそうにほむらは呟きながらロケットランチャーを取り出した。

「そうだね、あたしたちで何とかしなきゃ。
ソウルジェムがグリーフシードになったとか、聞きたい事は多いけどさ。まずは、まどかを守らなきゃ」
と、剣を召喚しながらさやか。

「そうね。私も色々聞かせてもらいたいわ。
例えその結果がなんであったとしても、今まで守ってきた街ですもの。
私は何があっても戦うわ」
マミはマスケットを召喚する。

「私はこの平和を守りたい。その為になら、戦えます」
目を閉じながら水晶を浮かべる織莉子。

「織莉子の為なら、あんなガラクタすぐに分解してみせるよ」

キリカは既に鉤爪を展開して臨戦態勢だ。

「参ったな……利益にならないってわかってるんだけど…やっぱり、あたしは神父の娘なんだね。
そんな名前してうろつかれちゃあ、黙ってる訳にはいかないじゃん?」
杏子は槍を地面に突き立ててASを睨みつける。
余談ではあるが、<アマルガム>のASは全て悪魔の名前からとっているのだ。

「キョーコが頑張るなら、ゆまも頑張る!」
この幼いゆまでさえもが戦う意思を貫き通している。


真実を知る者以外は少なからず動揺したが、今はそれどころではないと覚悟を決めたようだ。


魔法少女7人と、AS2機+巨大AS1機の決戦の火蓋が切って落とされた。

魔女結界

「くっ……結界に巻き込まれたか…!」

宗介は気が付くと<レーバテイン>に登場したまま結界に放り込まれていた。
結界の景色は殺伐とした戦場をモチーフにしているようだ。

「全く、何回来ても慣れないな、これ」
クルツもM9に乗りながら巻き込まれたようだ。

この調子なら、マオとクルーゾーもだろう。

「しっかし、変な所ね」

やはりすぐにマオは姿を現した。

「何だこれは…何か分からんが、油断はできなさそうだな」

そして最後にクルーゾーとその乗機の<ファルケ>


「ええ、テロリストの生物兵器のような物だと思ってください。
それにしても……」

と宗介は周囲を見渡す。
やはり、かなりの生徒も結界に巻き込まれたようだ。


「いかんな……すまない、ウルズ7より、本体は俺が叩く!民間人の防衛を優先してくれ」

「ウルズ1了解」
「ウルズ2、了解!」
「ウルズ6了解。任せたぞ、ソースケ!」

仲間たちはすぐに了解をしてくれた。

「ああ、任せろ」

直接結界の展開に巻き込まれたのだ、本体の魔女は近くにいるはず。
そう思いながら辺りを見渡した宗介の読みは的中した。

(あれか!)

そこには、人魚の様に下半身が魚、上半身は人型で騎士の甲冑を着込んだような魔女。
手には剣を持っている。

大きさはASと変わらないほどに大きい。

周囲にいる使い魔は、見覚えのある姿だ。
人の姿をして、大きさも人と同じ程度。
黒いコートに、長い銀髪。

(レナード…を作ろうとしたのか……?)

だが、宗介が気にするべきはそこではなかった。
生徒を守る為に、魔女を倒す事を優先しなければ。

『軍曹。現在の残弾はデモリッション・ガンが1。
それ以外は弾切れです』

アルの警告。

「了解だ。格闘戦でなんとかしよう」

<レーバテイン>は単分子カッターを引き出すと、臨戦態勢に移った。

魔女とのASの戦いが始まった。

校庭

「流石に火力が違う……わねっ!」

ほむらはぼやきながらも、<エリゴール>に向けてロケットランチャーを放つ。
直撃するその直前。

(まただ、また止められた…!)

ほむらの魔法は特殊な能力に特化している。
その為、武器は近代兵器をちょろまかした物を使う為にラムダ・ドライバとは相性が悪かった。

「だけど……そいつは囮よ」

誰に言う訳でもなく、呟くと魔法を発動。
ロケットランチャーの爆煙が消える前に<エリゴール>の目の前に現れ、そしてグレネードの様な物を<エリゴール>のメインカメラの前で爆発させる。
炸裂した時には、ほむらは既に<エリゴール>の付近から離脱していた。

「EMCよ…火力が通らないなら搦め手を使わせてもらうわ」

ロケットランチャーとEMCを、時間停止を駆使してほぼ同時に仕掛ける。
この連携にはラムダ・ドライバも間に合わなかったようで、EMCの影響か動きが多少鈍くなる。

だが成功したとは言え、所詮は個人携行サイズのEMCだ。
命中しても、本当に足止めになるかならないか程度だろう。

<エリゴール>はほむらに向けてアサルトライフルを構える。

だが、その弾丸は放つ事はできなかった。

「反撃の隙なんて、やらないよ!!」

キリカが既に真正面の懐まで接近していたのだ。
<エリゴール>は攻撃を中断して防御の為に力場を発生させる。

「こんなもの……」

キリカの魔法による鉤爪と<エリゴール>のラムダ・ドライバによる力場は、ほぼ互角だった。

「後ろがガラ空きですよ?」

だが、数では魔法少女の方が有利だ。
織莉子はここまでの展開を読んでいたのか、既に水晶を<エリゴール>の背中に命中させる軌道で放っていた。

前方に集中していた<エリゴール>に水晶による攻撃が命中する。

その一撃で少しだけ力場が弱まった。
キリカが押し始める。

ほむらは、時間停止を使い背後に回り込んでいた。

「今なら……行ける!!」

鉤爪に更に魔力を込めて巨大にする。

「終わりだよっ!!」

<エリゴール>の力場は完全にキリカに押し負けた。
だが、それでもキリカの一撃が軽い損傷で済む程度には弱められていた。

「暁美さん、あとは頼みます!!」
未来を予知した織莉子は勝利を確信する。

「ええ、任せてもらおうかしら」

ほむらはASについて調べておいて良かったと心底思う。

恐らく、あの機体はソ連の<シャドウ>を素に作られているのだろう。ならば……

「弱点は、そこね…!」

ほむらは、ロケットランチャーを再度放つ。
その弾頭は、ASの弱点であるバラジウムリアクターに直撃した。
<エリゴール>はそれにより、完全に沈黙。

「残るのは二体、か」

キリカが満足気に呟くと、織莉子が反応した。

「ええ、はやく援護に行きましょう?」

校庭、ほむらとは反対の位置


マミとさやかは<コダール>と対峙していた。

さやかは剣を構えて<コダール>の足元に突っ込む。
マミはそれを援護するように牽制射撃を仕掛ける。

<コダール>は近づけさせない為にさやかを狙ってアサルトライフルを撃ち込む。

それでもさやかは退こうとはせず、むしろ速度を強引に上げて接近する。
アサルトライフルを多少掠めるが、ギリギリの所で全て避けていた。

懐まで、辿り着く。

「く、ら、ええええええええ!!!!」

足元を切り裂く。

力場に阻まれるが強引に刃を押し込んだ。

ゆっくりと、足に刃が近づく。

だが、力が足りなかった。
先程のマミのように、魔法の力は感情に左右される。

今のさやかは、自分がどうあるべきなのか分からなかった。
援護が今ひとつなのは、マミも同じだったからだ。

(魔法少女は…魔女になるって言うの……?
そんなの、ゾンビどころか本当に化物を抱える様な物じゃ……)

余計な思考は判断を鈍らせる。
<コダール>はさやかを離す為に蹴り飛ばす。

反応が遅れたさやかは避けきれない。

(しまっ!)

まさに直撃しようという、その瞬間にマミがさやかを体当たりで弾き飛ばして身代わりとなる。

「カハッ……!」

大きく吹き飛ばされて、マミは校舎に叩きつけられる。

「マミさんっ!?」

さやかは一気に<コダール>との距離を離しマミに駆け寄り、癒しの魔法を掛けようとする。

「美樹さん、いいの……
私は、ここで正義の魔法少女としてあのASを道連れにするわ…
それが、私にできる最後の正義としての戦いだから。
魔女になんて、なるつもりはないの」

そう言ったマミは、髪留めの役割を果たしている花柄のソウルジェムを取り外し、力を込めた。

市街地


杏子とゆまはベヘモスと向かい合う。

「撹乱するぞ、ゆま!」

幻影を大量に生み出す。
先の戦いで魔法を再び扱える様になった杏子は、既に感覚を取り戻していた。

そして、魔女化を知らなかったメンバーの中では、比較的ショックが少なかったのか本人も驚く程に平常心を保っていた。


幻影を囮に、ゆまと杏子本人は距離を少しづつ進める。

ベヘモスもそれに対抗するように弾幕を展開し、次々と幻影を撃ち抜く。

(これじゃ、ジリ貧だな…)

確かに距離は縮むものの、ソウルジェムの消耗が激しい。

先程の光景が目に浮かび出し、慎重にならざるを得なかった。

「よし、ビル陰に隠れながら進もう」

ベヘモスだけは幸いな事に、校庭よりも遠くの場所にいた。

そこは幸か不幸か市街地の一歩手前。
遮断物は多いが、これ以上近づかれたらマズイ事になる。

それを防ぐ為にも、こちらから接近せねばならなかった。


陰に隠れて進むのは、思ったよりも効果を発揮した。

だが、見滝原は急激な都市化が進んだ街だ。
大幅な道路も数多くある。
そして、それを横断せねば辿り着けない状況に二人は陥った。

「ゆま、一回だけ魔力を多く込めた幻影を囮で渡らせる。
喰いついたら合図をするから走って道路を抜けるんだ。わかったか?」

「うん!だいじょーぶ!」


その返事を聞くと、杏子は槍を地面に突き刺し、両手を祈るように合わせた。

(上手くいけよ…!)
心の中でそう思う。

「行けっ!ロッソ・ファンタズマ!」

叫ぶと同時に幻影が現れる。
その幻影は魔法少女と同じレベルのスピードで駆け抜ける。

物陰から様子を除く。

(喰いつけ、撃て、撃てよ……)

道路の中ほどまで進むと、ベヘモスは気が付いたのか喰らい付いた。

大量の鉛を浴びせられるが、幻影はまだ消滅していない。

鉛の雨が止んだ。

幻影の軌道を変えて、強引に接近させる。
その動きを見て、ベヘモスは砲撃を再開した。

「よし、行け、今だ!ゆま!!」

幻影が囮になる間にゆまと杏子は次の物陰へと移る為に飛び出す。

(いける、これなら!!)

中ほどまで進むと、杏子は違和感を感じた。

(まさか、幻影がやられたか…!
まずい、こうなったら次はあたし達だ…)

先に飛び出したゆまの後ろまで追いつく。
ベヘモスをチラリと見る。
その不気味な顔は、二人を捉えていた。

「ヤバイ!!ゆま、急げ!!」

あと少しなのに。
50mもないはずの距離が、遠く感じる。

砲撃が二人へ向く。
まだ照準は完全に合っていないのか、命中とは遠い。

だが、鉛の嵐は二人へ着実に迫っていた。

(このタイミングなら!)

杏子は後ろからゆまを抱きかかえると、次の物陰へと強引に飛び込む。

「と、ど、けえええええ!!!!」

あと少し、あと、少し。


ぎりぎりの所で、物陰に入れた。
ベヘモスは、目と鼻の先だ。

一息吐いて安心すると、すぐに立ち上がろうとする。

その時、杏子の足に激痛が走った。

「いっ……!!??」

見れば、その足は大量に出血している。

飛び込みの際に脚にだけ弾丸をもらっていたらしい。

「キョーコ!?
いま治すよ!!」

慌ててゆまは駆け寄って治療をする。

「悪いな、ゆま。ヘマをこいちまった…」

治療が終わると、杏子の足は傷一つ残っていなかった。

「だけどゆま。あんまり魔法を使い過ぎちゃダメだぞ。
さっきのアイツみたいな目には合わせたくないよ」

死が近づくと、否が応でもあの光景を思い出す。

ソウルジェムが割れて、グリーフシードに姿を変える瞬間を。

「だいじょーぶだよ、キョーコは魔女になんかならない。
ゆまがそんな事させないもん!」

珍しく杏子の話に強気に出るゆま。

「そうだな…あたし達も、いつかはなるかもしれない。
だけど、いつかは今じゃない。
あたしは最後までゆまを守るよ」

杏子は表情を引き締める。

「それじゃ、最後の一仕事といくか!
ゆま、行くぞ!」

杏子は槍を、ゆまはハンマーを構え直して駆け出した。

物陰を出れば、すぐにベヘモスの足元に辿り着いた。

杏子は棒高跳びの要領でベヘモスに飛び乗る。

「こおおおのおおおお!!!」

ゆまは全力でベヘモスの足にハンマーを叩きつけた。
足にまとわりつく薄い力場はやすやすと貫通した。

その威力の衝撃はベヘモスにしがみつく杏子さえも感じる。

その一撃で事態を重く見たらしいベヘモスは暴れ始める。

「うお!この、暴れんなーー!!」

ゆまを引き離そうとしたこの行為は、どちらかと言うと杏子を苦しめる。

「キョーコをいじめるなー!!!」

その様子を見ると、ゆまは怒ってもう一度ハンマーを叩きつける。
今度はもう片方の脚にだ。

怒りを乗せた一撃は、先程よりも強かった。

ハンマーを叩きつけた部位から脚がひしゃげ始める。

ベヘモスは少し大人しくなる。

暴れるよりも、ラムダ・ドライバによる防御を優先したようだ。

そうなると、ベヘモスの体に槍を突き刺せなくなる。

「なろっ…!!」

槍を突き立てようとした杏子はそれを中断して落下する。

「だが……てめーの武装ももらう!」

落下しながらも杏子は槍をバラし、伸ばす。
そして、ソレを思い切り振り抜く。

(イメージだ……奴の…防御を打ち抜いて…砲台を落とす……!
そうしなければ…ゆまを…守れない……)

振り抜く最中に極限まで集中を高める。
ゆまを守りたいという思いが、その一撃を後押しした。

穂先が力場と衝突する。
競り合い、火花が舞い散る。

(抜けろ…抜けろっ!)

強く念じる。

次の瞬間、その穂先は力場を貫通して砲台を切り落とした。

そこまではよかった。

「あ…やべっ!」

攻撃に集中し過ぎて、既に地面が間近に迫っている事を忘れていた。

このままでは、叩きつけられる。
いくら魔法少女とは言えども、この高さは致命的だ。

(ダメだ、間に合わねえ!)

杏子は半ば諦め掛けた。

地面に。

「キョーコ!」

叩きつけられなかった。

寸前で、杏子と地面の間にゆまが割り込んで抱き留めた。

「ゆま!悪いな、助かった」

だが、安心はできななった。

ベヘモスのその巨大な足の裏が、二人に迫っていた。

「くそっ…!」

杏子は態勢を立て直すと、ゆまを蹴り飛ばす。

「ゆま、すまん!逃げろ!」

これで、足の裏の範囲からゆまは脱した。
杏子は、間に合わない。

(まあ、最後の最後で人助けできて……よかったかな)

せめて、このデカブツは倒したかったと思ったが、それは叶わなかったようだ。

結界


宗介は魔女の飛ばす車輪に苦戦していた。

(軌道は読めるが……数が多い!)

左に跳び、前に進み、上に避け、切り払う。
しかし車輪はキリがなかった。

遠距離からガン・ハウザーモードで仕留めようともしたが、それも車輪に阻まれた。

[こちらウルズ6。狙撃砲で邪魔な車輪を打ち抜いてやる。
その隙に近づけ!]

クルツからの通信。
失敗すれば直撃は免れないだろうが、宗介はこのままジリ貧よりはマシだと判断して前進する。

車輪が飛び出す。前方には3つ。
このまま進めば直撃だろう。
逆に言えば、その3つをどうにかできるならば突破は容易だ。

クルツを信じて、臆せずに進み続ける。

次の瞬間、2つの車輪が木っ端微塵になる。
だが……

[悪い!一つ撃ち漏らした!]

クルツからの悲報。

「アル、やれ!」
『ラージャ』

それを聞いて即座に反応。

<レーバテイン>から隠し腕が伸びる。

ピッ!

風切り音と共に、対戦車ヒートダガーが撃ち出される。
車輪に命中、爆散する。

『軍曹、今です!』

「わかっている!!」

確認すると、全力で駆け抜ける。

「やるぞ、アル!」

宗介の掛け声とともに「ボシュッ」と勢い良く<レーバテイン>の後頭部から放熱索が伸びた。

魔女は<レーバテイン>に車輪を飛ばす。

(これなら…!)

その車輪の全てを宗介は見切る。
切り払い、前転で避け、さらに走り大きく跳躍して魔女に飛び掛る。

「おおおおおおおお!!!!」

逆手で単分子カッターを持ち直し、落下しながら魔女の体に突き刺す。

「アル!ニーカッターだ!」

<レーバテイン>の膝からカッターが飛び出る。
突き刺したカッターを引き抜く。
膝蹴りと共にニーカッターを押し付ける。

「まだだ!」

膝を離して、もう一度右手のカッターを突き刺す。

魔女も抵抗を始める。
手に持った剣で<レーバテイン>を攻撃しようと振り下ろす。

『こちらは任せてください』

再び隠し腕が現れると、今度は魔女の剣に単分子カッターを合わせる。

魔女の攻撃を捌くと、次にもう一本の単分子カッターを左手に持つ。
その左のカッターを突き上げ気味に魔女のわき腹に突き刺す。

「これで!!」

両手のカッターを切り払うように左右に引き抜く。

デモリッション・ガンを取り出して構え、押し付け、引鉄を引く。

その衝撃で魔女との距離が離れた。

「やはり、ラムダ・ドライバを直接ぶつけなければ有効打にならんか」

そう呟くと、右手に意識を集中させ再び魔女との距離を詰める。

魔女も近づけさせまいと、車輪を飛ばす。

銃声が聞こえた。

[行け!ソースケ!!]

クルツの援護だ。
今度は撃ち漏らす事なく、邪魔な車輪を打ち抜く。

「助かる。
よしアル、いけるな!?」

『ラージャ』

意識を集中させた右手に力場が発生する。

「集中しろ、意識を!!」

その右の拳が魔女にぶつかる。

拳を振り抜く事なく、接触の態勢でピタリと止まった。

右手の力が、開放され巨大な力場が発生した。

魔女の巨躯を包み込むほど巨大な力場が。

「右手の一点に、力を集中するイメージ……!!」

力場が消滅する頃には、魔女の姿もなくなっていた。

『敵殲滅確認。索敵モードに移行を?』

「いや、このまま戦闘モードでいい」

宗介は、この結界が崩れたら置かれるであろう戦場に備えた。

校庭



「美樹さん、いいの……
私は、ここで正義の魔法少女としてあのASを道連れにするわ…
それが、私にできる最後の正義としての戦いだから。
魔女になんて、なるつもりはないの」

マミはソウルジェムに力を込めた。

次の瞬間。
乾いた音が響いた。

「何をしているのかしら、巴さん」

気が付けば、マミの眼前にほむらが立っている。
自分がビンタをされたのだと気が付いたのはその後だった。

「正義の味方が自爆しようとしてるの?夢見る子供に後味が悪いと思わないの?」

理論的とは言い難い説教。

「だったら!貴女は私に魔女になれとでも言うの!?」

「ふざけないで!!」

もう一度ほむらはマミの頬をはたく。

「ねえ、巴さん。アレで動揺してるのは貴女だけではないの。
それなのに、貴女は。
見える?
あそこで食い止める為に戦ってる杏子たちが。
学校を守ろうとしているさやかが」

ほむらは指をさして示す。

「みんな、魔女になるつもりなんてないの。
そして自ら命を投げ打ったりしない。
命の尊さなら、貴女が誰よりも知ってるでしょう!?」

命の尊さ。
その一言がマミに堪えたようだ。

契約した日を思い出す。
炎上し、ひしゃげた車の中で契約した時を。

そしてマミは思い出す。
自分の周りで失われた命を。

父と母は死んだ。
自分だけで助かった。

魔女に目の前で殺された少年を。
自分は逃げ延びた。


そんなにしてまで繋いだ醜い命だと、マミは何処かで自分を卑下にしていたのかもしれない。

それなのに、自分を守ろうとしてくれる仲間がいる。


(なんであっても、命は平等なのかも…しれないわね……)

少し前の自分が愚かだったと自嘲する。

「ごめんなさい、暁美さん。心配かけたわね。
でも、もう大丈夫」

そう言ったマミの表情は自信に満ちていた。

「あら、思っよりはやく立ち直ったわね」

少しだけほむらは呆気にとられたようだ。

「ええ、これ以上は美樹さんに負担を掛けれないですもの!」

マミはさやかの場所に向き直る。

「そう、それはよかった。
あ、ちなみに今の会話は全部テレパシーでさやかに筒抜けにしておいてあげたから」

「えっ!?」

なんて恥ずかしいものを…と思う。

「ほら、行ってらっしゃい。
こうしてる間にもさやかはピンチなのよ?」

それだけの事をしておいて、以前としてほむらは飄々としている。

「ぐぬぬ……暁美さん、覚えておく事ね……!」

それだけ言い残すと、ほむらから離れてさやかを助けに向かう。


「美樹さん、待たせたわね!後は……任せて!!」

<コダール>を射程内に捉えるとマミは叫んだ。

「悪いけど……」

巨大な大砲を目の前に二丁召喚する。
マミの代名詞「ティロ・フィナーレ」を二つ作り出したのだろう。

「守るべき人たちの為に、貴方を討つ」

言い終えると、同時に発射。

さやかは、放つ直前に射線から離れた。

二本の光の線が、<コダール>の力場を破り、両脇腹を貫いた。

この損傷ならば、機能は殆ど失われるだろう。

だが、腕は生きていた。
諦めの悪い<コダール>はマミにアサルトライフルを向ける。

「させないっ!!」

今度はさやかが急速で接近して、アサルトライフルを持つ腕を斬り飛ばす。

今度こそ、<コダール>は完全に沈黙した。

市街地


(まあ、最後の最後で人助けできて……よかったかな)

そう思う杏子に、巨大な足の裏は踏み込まれる。

(あれ…凄く…遅く感じる?)

そう思った瞬間には、杏子の真上に足はなかった。
正確には足がなくなったのではなく、自分が大きく動いていた。

「ふう、ギリギリセーフ、だね!」

そう言ってニコニコ笑っているのはキリカだ。

どうやら杏子を抱き締めながらも飛び込んで踏みつけを回避したらしい。

「あと少し遅延が遅れてたら、どうなってたことか。

おーーい!!織莉子ーー!!!間に合った、上手くいったよー!!」

キリカが叫ぶと、物陰から織莉子も歩いて現れた。

「よかった……本当に、よかったです」

「キョーコ!!キョーコぉ!!」

今度はゆまが突進気味で杏子に抱きつく。

「わわ、ゆま落ち着けよ…」

杏子はゆまを引き離す。

「そうだよ、ちびっ子。
まだ目の前に敵はいるんだ。アレをやっつけてからそれぞれの愛を……」

「キリカ、それ以上はゆまちゃんの教育によくないわ」

キリカが語ろうとした所に、織莉子が止める。

「むぅ…織莉子が言うなら仕方ないなぁ」

少しむくれたようにキリカ。

「あら、嫌われちゃったかしら?」

微笑みながら冗談を繋ぐ。

「まさか!大好きだよ、織莉子!!」

キリカは愛を叫ぶと両手に鉤爪を出現させた。

「ゆま、あたしたちもやるぞ」

杏子も槍を構え直す。

「わかった!!」

ゆまもハンマーを持ち直した。

「とりあえず……てっぺんから潰してみっか?
でも、どうやって登るかだな…
それに動かれたら登り切れない」

杏子は悩んでいる。

そこで、ゆまとキリカを交互に見て思いつく。

「ゆま、そのハンマーであたしを思いっきりあいつの頭までかち上げてくれ。
それとキリカはすまないが遅延を使ってあいつの動きをノロくしてくれないか」

かなり急仕上げで強引なプラン。

「キョーコがいいなら、ゆま、やるよ!」

ゆまはハンマーを地面に着けて、打撃用の平面を真上に向ける。

「囮か…やってあげようではないか、面白そうだ」

キリカは舌舐めずりをしながら二本の鉤爪をカチカチと鳴らす。

「私は、水晶を使って奴の攻撃を妨害します」

織莉子も一歩前に出ると水晶を浮かべた。


「じゃあ、やってみるか!」

そう言うと杏子はゆまのハンマーの上にのる。

「よし、行けっ!!」

杏子の合図でゆまはハンマーを思い切り振り上げる。

杏子は弾丸の如く上空に打ち出され、ベヘモスの身長よりも高く飛び上がる。

(よし、捉えた。動くなよ……!!)

ベヘモスは杏子を捉えようと動くが、その動きはかなり緩慢だ。

唯一杏子に向いた砲門は、何処からともなく飛来した水晶によって妨害される。

(よし、この位置!!)

ベヘモスの真上に位置を調整すると、手に持つ槍をベヘモスの頭頂部に投げ込む。

力場と衝突する。

(上手くいけよっ!?)

空いた両手を祈るように合わせる。

普段の槍よりも遥かに巨大な槍が、杏子の背後に現れる。

投げた方の槍は、ほとんど威力を失うが力場を貫通した。

「いけっ!こいつでも、喰らいやがれええええ!!!」

力場を失った頭頂部に、その巨大な槍を叩き込んだ。

その槍を構えたまま、頭頂部を貫通く。

そのまま槍は貫通し、地面に突き刺さる。
今度の杏子は見事に着地に成功した。

ベヘモスは崩れ去っていた。

「上手く、いったみたいだな」

そこまで見届けて、ようやく一息つく事ができた。

「それじゃ、みんな待ってるんだ。
帰ろう、織莉子。それに杏子とゆまも」

校庭

「いやぁー、マミさんの意外な一面?見れて、得しちゃった気分ですよ。
あたしも、色々考えてたけど、アレを聞いちゃったらね…頑張っちゃいますよ!」

さやかも、魔女の事については吹っ切れたようだ。

「美樹さん。あんまり触れない方がいいわよ?」

ニッコリと笑いながらさやかの肩を強く掴む。

「ハイスミマセンデシタマミサン」

あまりの威圧感にさやかはカタコトになる。


「まったく、二人とも……緊張が抜けすぎよ…」

ほむらは呟く。
横には<エリゴール>と<コダール>の操縦兵がマミのリボンで縛られていた。

「本当ならこの人たちも殴ってやりたい気分だけど……色々聞きたいこともあるし、今はやめておいてあげるわ」

誰に言う訳でもなくほむらは呟いた。

「暁美も、捕虜を取るとは中々才能があるんじゃないか」

宗介は既に結界から帰還していた。
他のウルズチームは生徒たちに囲まれている。

「宗介に言われると複雑ね……」

溜息混じりに返す。


「悪い、みんな待たせた!!」

そこにベヘモスを撃破した杏子たちも帰ってくる。

「来たみたいね。
それじゃあ行きましょう?私たちの帰るべき居場所へ」

今回はここまでとなります。
学校襲撃編、完

ご都合展開酷くて申し訳ない。

伏線的な感じですおいておいた、ささやき声とか美国パパとか、テロ少女の願いとか。
そこら辺は次回に説明を挟みます。

あと魔女はさやかの魔女とほぼ同一です。
似たような事が原因で魔女化したとでも思っておいて下さい。

特に深い意味はなくて魔女化

ご都合主義は割りと好き

乙!
見ていて気が付いたけど、千鳥かなめと鹿目まどかって名前で繋がってたんだよな。
ソースケ名字でしか呼ばないから忘れていたわw

あー、それでクロスしたのかww

だいぶ遅くなりました、申し訳ないです。

今回もご都合主義&ただ話してるだけの説明回

やや短めですが投下します

戦士達の休息?


トゥアハー・デ・ダナン 艦長室


「やあ、久しぶりだね、テレサ」

艦長室にはテッサしか居なかった筈だ。
そうなると、声の主は一匹しか思いつかない。

「あら、海に捨てられたのにまた来るとは思いませんでした」

悪びれる様子もなくテッサは返す。

「全く、ここ最近は驚かされる事が多いよ。
君にしてもそうだ。
いきなり海に投げ捨てるなんて、訳がわからないよ」

キュゥべえは相変わらず無表情だ。

「貴方の目的を知ってしまいましたからね。
私はわかってて人を利用するだけして捨てるようなのは嫌いなんですよ」

少しだけ目を細めて睨みつける。
いけない、感情のない相手にムキになっては思う壷だ。

「僕達にはわからない考えだなぁ、それは」

感情がないのだから、余計に煽られているようで腹が立つ。
テッサは怒鳴りたい気持ちを抑えて聞き返した。

「それで、そんな事を聞きに来たんじゃないんでしょう?」

苛立ちを隠しながらも話を早く終わらせようとする。

「人間はこういった無駄な会話が好きだと聞いたけど、違ったみたいだね」

あくまでテッサのペースには乗ろうとしない。

「話すなら早くしてください。
そうしなければまた、海に捨てますよ?」

「それは困るね。
それで、聞きたかった事なんだけど、ここ18年程度で君たちの技術がおかしなくらいに上がってきている。
アーム・スレイブもそうだ。
特に君たちが所有するあの彼が乗っている機体。魔女を圧倒するなんてどうかしてるよ」

あくまで無表情。
そして、一定のペースで告げる。

「貴方に話す義務はないですね」

テッサはもとより、何を聞かれても答えるつもりはなかった。

「僕達は興味があるんだ。
ラムダ・ドライバと言ったかな。
感情をエネルギーにする僕達ですらあんな技術は所有していない。
明らかに人間のテクノロジーとは思えないんだ」

ブラックテクノロジーなのだ。
現在で存在していない筈のテクノロジーだから、人間のテクノロジーに思えないのは当然だろう。

「それは誇らしいですね。でも教えませんよ?
むしろ、こっちも聞きたい事があるんです」

今度はテッサが質問する。

「なんだい?」

「先日の学校襲撃。
情報をリークしたのは、貴方でしょう?インキュベーターさん」

テッサは核心に迫る。

「どうしてそんな事を考えるんだい?」

「質問に質問を返すなら、それは肯定、と言う事でよろしいですね?」

否定したところで、テッサは信じる気があまりなかった。

宗介からの報告だと、敵の目的はまどかの拉致だったらしい。

「まあ、そうなるね。僕達の目的の為にもまどかには是非とも契約して欲しいんだ」

これ以上は無益だと判断したのかキュゥべえはそれだけ言い残すと姿を消した。

「全く……困った生き物ですね」

自分一人になった艦長室でテッサは独りごちた。

「あ、私もミタキハラに行く準備をしないと!」

その後焦って荷物を整理するテッサが転んでいる目撃情報はトゥアハー・デ・ダナンの至る所で流れたのであった。

翌日、見滝原、ほむら宅、居間


魔法少女全員と、まどかとかなめ、それに宗介を含めたウルズチームはほむらの家に集合していた。

「突然なのだけど……2週間後、この街にワルプルギスの夜が訪れる」

本当に突然だった。
知っている者にはある種の死刑宣告にも聞こえたかもしれない。

「ワルプル……え、なんだって?」

こう返したさやかはワルプルギスの夜を知らなかった。

「ワルプルギスの夜よ、美樹さん。超弩級の大物魔女なの」

ベテランのマミは勿論ワルプルギスの夜を知っている。
この中でワルプルギスの夜を知っているのは、ほむら、マミ、杏子の三人である。

「あー、いや、ちょっと待ってくれ。
そのワルプルギスとかってのも重要なんだが、こっちに約一名だけ一から説明を求めてる人が居るんだわ」

そこでクルツは口を挟む。
彼らは戦っていたものは違えども、見滝原中学を守った。
その際に魔女や使い魔が「妖精の目」に映る事があっただろうし、彼らは結界に巻き込まれた。

クルツはお菓子の魔女と交戦、撃破をした事があり、マオは魔女の事は話だけだが知っている。

ただ、クルーゾーだけはアマルガムの迎撃の任務で訪れた為に魔女は全く知らない。
その状態で結界に巻き込まれたのだから知りたくもなるのだろう。

「あぁ、すまないな。こっちの戦闘にまで巻き込んでしまったが、俺も魔女とやらについては知りたい」

至って冷静な声で話すが、クルーゾーはかなり魔女について気になっているようだ。

「そうね。魔女の結界に巻き込んでしまったのは、こちらに落ち度がありますから、説明します」

ほむらが説明を買って出る。

「多分……貴方には見えないでしょうけど、キュゥべえと名乗る生き物がいて……
それと契約したのが、私たち魔法少女です」

そう言ってほむらはソウルジェムを取り出す。

「そして、魂を抜き取られこの宝石に変えられ、魔女との戦いを強いられる。
願いを一つだけ叶える事と引き換えに」

それだけ言うとほむらはソウルジェムを仕舞う。

「そして、最期は魔女に殺されるか、魔女になるか。
クルーゾーさんたちが巻き込まれたのは、その場で魔女となった魔法少女の結界です。
これが私たちの知っている魔法少女の全て」

ほむらは表情を曇らせて黙り込んだ。

「すまない、暁美。俺が説明するべきだった」

やはり、知っていて受け入れたとしても口に出すのは辛いのだろう。
その様子を見かねて宗介はほむらを気遣った。
見渡せば、その場の全員の表情まで落ち込んでいた。

「いいの、私たちはその代償を受け入れてまで、叶えたい願いがあったんだから。それだけの事だから気にしないで」

沈黙を破る様にマミは全員に言った。

「これで魔法少女と魔女については教えたわ。
それで、ここからが本題なのだけれど…」

「ワルプルギス…ねぇ…」

本題自体は先ほどに言ったとおりだ。
杏子がポツリとその名前をこぼす。

「この街に来るってなんでわかるのさ」

「統計よ」

キリカが質問すると、ほむらは即答した。

「それについては、私も保証するわ。私の魔法でそれと思わしき光景は見たので」

「織莉子が言うならそうなんだろうね」

織莉子の補足にキリカは即座に反応する。

「あらあら、キリカったら。
もう少し私以外の事も信じないとダメよ?」

織莉子はキリカを落ち着かせるように言った。

「まあ、私の胡散臭い統計よりも織莉さんの未来予知の方が信頼できるもの。仕方のない事ね」

あまり表情を動かさずにほむらは言うが、明らかに少しだけしょげていた。

「ほ、ほむら、気を落とさないでくれ。悪気があったわけじゃあないんだ。本当だよ、信じてくれ」

その反応を見てキリカは慌てて弁明する。
それを見てほむらは少し笑った。

「冗談よ、キリカさん。そこまで性格は悪くないわ」

「でもほむらは行動に問題があるよね。学校でも拳銃ぶっ放したし」

さやかはこれ見よがしに痛いところを突く。

「あれは…相良くんの提案だった…ような」

まどかがフォローをするように宗介を犠牲にする。

「ソースケ、またそんな事したの!?」

今度はかなめが即刻で食いついた。

「聞いてくれ、千鳥。
あれは最も効果的に…」

宗介がいい終える前にかなめは宗介の頭をハリセンで叩いた。

「すまない」

弁明も意味を成さないとわかりすぐに謝る。

「相変わらず、ソースケはカナメには頭が上がらないわけね」

「えっ?」

今度はそれにまどかが反応する。

「まどかお姉ちゃんも、かなめお姉ちゃんもどっちも名前に【かなめ】ってつくもんねー」

ゆまは無邪気な声で指摘する。

その一言で部屋が沈黙に包まれる。
宗介以外は。

「なんだ。気が付いていなかったのか?」

そんな中でも空気を読まない彼は言ってしまった。

気が付かなかったとしても無理はない。
大半はこの二人と顔を会わせたのは昨日の話で、しかもあんな状況だったのだから。

「い、いやあ、そんな事ないよ?まどかはあたしの嫁なんだから、名前のかぶりを忘れるだなんて、ねぇ?」

だいぶ早口でどもりながらさやかは言うが、嘘なのは見え見えだった。

「さやか、やめとけよ。余計に自滅するぞ」

杏子はその嘘を見抜く。

「うぅ…ぐぬぬ……」

杏子に言われたのが悔しいのか、それとも単純に気が付かなかったが悔しいのかはわからないが歯軋りをしている。

「嫁…だと?」

嫁と言う単語にクルーゾーは引っかかった。

「これはまさか」

「ベンちょっと黙ってて」

メリダ島とアフガンの決戦後は趣味を前面に出すようになったクルーゾーだが、ここではマオに沈黙させられる。

「まああたしはカナメ、マドカはマドカってみんなが呼べばいいんじゃない?」

「そうするか、千鳥」

宗介は癖なのかその提案を一瞬で間違える。

「もう間違えてるし…まあいいけど」

かなめは少し呆れ声だ。

「名前についてはいいかしら?
それで、ワルプルギスなのだけど」

そうほむらが言うと場の和んだ空気から一転、緊張に包まれる。

「無理に一緒に戦って欲しいとは言えない。今から5分だけ私はこの部屋から出ていくわ。
その間に、ワルプルギスとの戦闘に参加しない者はこの家から立ち去って欲しい」

少し言い方が強かっただろうか。
そんな事を考えながら振り向きさえせずに横の部屋へと移る。
残された全員の居る部屋は、ほむらが移動した部屋の他に、玄関へと通じている。

立ち去るのならば、ほむらとも顔を合わせずに去れるように配慮したのだろう。

隣の部屋


扉を閉めるときさえも、ほむらは他の面子の顔を見ないように後ろ手で扉を閉めた。

扉が閉まると、今度は外から開けられないように鍵を閉める。

完全に干渉される事がなくなったところでほむらは扉に背中からもたれかかる。

(やっぱり、卑怯なやり方…)

小さく溜息を吐くと、そんな事を考えた。
あんな言い方に、去り方。
一人であろうと戦うと言わんばかりの去り方だ。
正義感の強いマミとさやかは勿論参加するのだろう。
願いから考えて、織莉子もそうだ。そして、キリカは織莉子がいるのなら間違いない。
杏子は何だかんだであの親切性だ、きっと参加する。
ゆまも杏子次第といったところだろう。

宗介や<ミスリル>はどうだろうか。
宗介、クルツ、マオの三人は任務の内容からして戦うのだろう。

彼らの隊長でもあるクルーゾーはわからない。
彼はアマルガムの迎撃の為に訪れたと言っていたが、それもまた任務次第だろう。

まどかとかなめは戦う力はないが、性格から残ると思われた。

(あれなら、きっと全員残ってしまうん…でしょうね)

ああ、やはり卑怯なやり方だ。

戦力は欲しい。
だが、誰にも死んで欲しくない。

今までなら切って捨てていたかもしれない可能性と感情でほむらは葛藤している。

時計を見る。

5分経過だ。

行かなければ。

ほむら宅、居間

ほむらは隣の部屋から戻る。

(やはり、そうなるわよね)

予想していた通り、全員が残っている。
あの戦いに参加させる事は利用するようで悪い気がしたが、ある程度は全員の意思で残ったのだ。

それどころか、そんな死地に向かうような悲壮な雰囲気は誰一人として出していない。

織莉子とマミが作ったのであろう紅茶を啜りながら和気あいあいと話し合っている。

まどかは以前の様に暗い雰囲気はなく、さやかたちと対等に話し、さやかは全員と仲良さげに話を振る。
彼女の明るさはこういった場で発揮されやすいようだ。
マミはウルズチームを除けば年長者だからか全員をまとめ、杏子もゆまと楽しそうに茶菓子をつついている。
キリカはなんだか織莉子と二人きりの世界に入っていた。
マオやクルツ、クルーゾーや宗介にかなめもその輪の中で落ち着いている。

自分でも意味のない事をしたな、とほむらは思った。

(みんなして……大馬鹿なんだから)

部屋に一歩入ると全員の視線がほむらに集中する。

なんだか恥ずかしく感じた。

自分を落ち着かせるように、一つだけ咳払いをする。

「じゃあ、対ワルプルギスの作戦会議を始めるわ」

プロの作戦部隊も含めた、魔法少女の作戦会議が開かれた。

一時間後


「以上が対ワルプルギス用の戦術になるわ」

ほむらがそう言うと全員が緊張から解放され楽になる。

「ASの方は…ごめんなさい、私は全然わからないから……」

大小様々な平気に精通するほむらも、この時間で始めて出会ったASの扱いや戦術性は把握できなかった。

「気にするな、俺たちはプロだぜ?」

クルーゾーは励ますようにほむらに言う。

「そうそう、だから俺たちの方は問題ないぜ?前の恵方巻き野郎みたいに撃ち抜いてやるさ」

クルツもそれに同乗した。

「そうね、あたしたちSRTならなんとかできるわよ」

「ああ、俺たちはプロフェッショナルだ」

マオと宗介もそれには同意するようだ。

「それじゃあ、AS部隊の方々はいつも通りに指揮を別々でとって臨機応変でお願いするわ」

ほむらはASの指揮はできない。
その為SRTの能力を存分に活用できるように、別の指揮系統で動いてもらう事にした。

「そんで、あたしとマドカは避難所で応援係ね。大丈夫、絶対に契約なんてさせないよ」

かなめとまどかは戦えない。
避難所で事実を知りながらも、震災やらスーパーセルだと思い込みながら待つ。
その事が二人は悔しく感じたが、ここにいる全員を信じている。
だから、絶対に契約なんてさせないと言い切れた。

「そうか。千鳥、俺は絶対に帰ってくる。心配はさせ………すまん、通信だ」

なんとタイミングの悪い事だろうか。
言い終える直前に通信が入る。

「こちらウルズ7…あ、はい、大佐殿。見滝原に到着…はい、了解しました」

手っ取り早く会話を済ませると通信を切る。
大佐と言った事から、テッサを知る人物は誰からの通信か把握したようだ。

「すまない、千鳥。大佐殿を迎えに行ってくる。15分程度で戻るぞ。
暁美も大佐殿をここに連れてきて問題はないか?」

「ええ、貴方の上官なのでしょう?それならば、彼らも居る事だし構わないわ」

「悪いな」

許可を貰うと宗介は玄関から外へと向った。

15分後


「戻ったぞ」

玄関を開く音と宗介の声が居間に聞こえた。

「おかえり、ソースケ、テッサ」

「お久しぶりです、カナメさん」

久しぶりに再開した二人は軽く挨拶を交わす。

「お、テッサ一週間ぶり!」

その姿を見たさやかが二番目に迎えた。

さやかは一週間ぶりと言った。
宗介はまだその程度の時間しか経っていないのかと思う。

思えば、ここ数日はかなり忙しかった。

廃工場での一件や、アマルガムとその魔法少女の襲撃など。

そのせいもあって非常に毎日が長く感じた。

「ええ、お久しぶりですサヤカさん」

テッサはそれから全員とも挨拶を済ませる。
宗介はその間に元いた位置へと戻る。

テッサが宗介たちに向き直ると、彼らは一斉に敬礼をする。

「あら、そんな堅苦しいことしなくて大丈夫ですよ?」

それを見たテッサはすぐに敬礼をやめさせようとした。

「流石テッサ」

誰よりも早くクルツはそう言いながらも敬礼をやめて椅子に深く座り込む。

全員が敬礼をした光景を見て、ほむらとマミ、かなめ以外は唖然とした。

「えーっと、まさか、宗介たちの上司さんて…テッサなの?」

最初に疑問を口にしたのはさやか。

「ああ、そうだが」

何か不自然か?とでも言いたそうに宗介が返す。

「世の中広い物だね。大佐なんて言うから髭を生やしたゴツイ親父かと思ってたよ」

杏子は素直に感想を述べる。

「私も杏子と同じ事を考えていたようだ」

キリカは杏子に賛同する。

「私も…って言いたいけど、殆どの人がそうじゃないかしら?」

織莉子はしみじみと言いながらもテッサにお辞儀をし直す。

「そ、そんなかしこまらなくていいですよ」

テッサはわたわたと慌てながらも身振り手振りでやめさせようとする。

「でもテッサお姉ちゃんは、ヒゲなんて生えてないよ?キョーコ?」

ゆまは杏子の言葉を変に捉えてしまったようだ。
それを聞いたテッサは凍りついたように動作を止める。

「違うわよ、ゆまちゃん。
テッサさんはヒゲなんてなくたって偉い、優しくて頼りになる人なの」

マミは何とかしようとフォローをいれるがかえって気まずくなってしまう。

「ご、ごほん!それより、話す事があってこちらに来たんですが、お時間は大丈夫ですか?」

テッサが聞くと概ね同意してもらえた。

「幾つかあるんですが、まずはオリコさんに関係する事です」

真剣な声音に変えて、取り直す。

「まず、美国議員の事ですが…」

少しだけ区切る。
織莉子も真剣な表情で次の言葉を待った。

「議員の他にアマルガムの幹部構成員である事がわかりました。
アマルガムは、先日学校に襲撃を仕掛けた組織です」

「私の父がテロリストだったとでも言うんですか?」

それを聞いた織莉子は明らかに悲しんでいる。

「いいえ、話すと長くなってしまうんですが、その逆です。
昔はアマルガムはテロ組織ではなかったように、その本来の姿に戻そうと力を尽くしていたようです。
それが他の幹部には邪魔者とされて………」

そこまで話すとテッサは下を向く。
次の言葉は誰もが予想できただろう。

「抹殺されました」

小声になりながらも、はっきりと言った。

それを聞いて織莉子は崩れ落ちて泣き出してしまう。
キリカがそれを無言で支える。

「汚職うんぬんは、濡れ衣です」

「よかった…」

そこで、織莉子の口から出た言葉は意外なものだった。

「やっぱり、父は悪事など働いていないかったんですね……それが知れて満足しました。ありがとう、テレサさん」

「彼は、自分の信念を貫き通して生きました。その事に私は敬意を払います」

テッサはそう続けると織莉子に近づいて肩を抱き寄せた。

二人の同じ様なアッシュブロンドの髪が揺れる。
横で支えていたキリカも織莉子の体をテッサに任せて立ち上がる。

「悔しいけど、私には織莉子を嬉し泣きさせる事はできなかった。
彼女には感謝をしないとならないね」

誰に言うわけでもなく、キリカは呟いた。

「ちなみに大佐」

「テッサでいいですよ、サガラさん」

「ではテッサ。美国議員の幹部のコードネームは?」

単純に気になってしまって聞いてしまう。

「……ミスタKです」

テッサは再び織莉子をキリカに預けると、少し躊躇ったあとに伝えた。

「っ…!」

ミスタKと言われて宗介は明らかに動揺する。

「ミスタKか……少佐、だよな」

クルツも少しだけ動揺したようだ。
他のウルズチームも少なからず気にかかっている。

「ああ、そうだ。
となると、美国議員殿はその後に現れたんだろう」

宗介は拳を握りしめる。
これも何かの縁なのだろうか。

偶然にも織莉子の父親もその名前で呼ばれ、宗介が親父と呼んだ人物もミスタKと呼ばれていた。

そして、どちらも何らかの信念を抱きながらも散ってしまった。

「だが過去に縛られても仕方が無いな」

ここまで無言で話を聞いていたクルーゾーが口を開く。

「ええ、その通りだ」

宗介も動かずに同意。
他のメンバーも頷いていた。

「すみません…やっぱり、言わない方が良かったですよね」

テッサも申し訳なさそうにしている。

「いえ。これを知れてスッキリしました。ありがとう、テッサ」

そう言って、宗介は織莉子に近づく。
目の前まで歩くと、右手を差し出した。

「生まれた環境も、育った環境もまるで違うが…俺たちは案外、似たもの同士なのかもしれないな。
これからも、よろしく頼む」

慣れない言い回しだからか、少し照れ臭そうにする宗介。

「ええ、こちらこそお願いします」

織莉子はまだ涙で頬が濡れている顔で微笑みながら、その右手を取った。

「これで一件落着かな?」

「ええ、そうね」

遠くから見ていたさやかとほむらがポツリと溢す。

これでまた、先程のように和気あいあいとした空気に戻ると思われたが、そうではなかった。

「それと、もう一つです」

テッサは若干次の用件を言うのに気まずそうにしている。

「皆さんがここで何をしていたかは聞いてて……水をさす様な真似はしたくないんですが……ホムラさん」

テッサが指名する。

「えっ、私ですか?」

ほむらは呆気に取られたように返事をする。

「はい、あの……すごく申し訳ないんですが……その、明後日からワルプルギス出現予想日前日までの間に来て欲しい所があるんです」

それを聞いてほむらはますます訳が分からなくなる。

(まさか……盗んだ兵器が<ミスリル>の物だった…なんてないわよね……)

「悪い事ではありませんので、ご安心を。
まあ、ちょっとしたプレゼントの様なものです」

テッサはにっこりと笑いながら告げるとほむらは安堵した。

そのテッサに宗介が耳打ちをする。

「まさか、あれの修理が終わったのですか?」

「はい、そのまさかです。
でもアレを上手く動作させるには、並外れた集中力が必要になってしまいますので、魔法少女である彼女が適任かと」

テッサも宗介にしか聞こえないように耳打ちで返す。

「わかりました、明後日ですね」

ほむらは急だとは思ったが明日と言われるよりかはマシだと感じた。

「じゃあみんな、明後日からは見滝原の魔女退治は任せるけど、大丈夫かしら?」

「ええ、任せてもらおうかしら」

「見滝原の平和はこのさやかちゃんがガンガン守っちゃいますからねー!」

「別にさやかだけじゃねーだろ」

「キョーコと一緒になら頑張れる!」

「私も父の様に、信念を持って守りますよ」

「織莉子の為なら幾らでも戦おうじゃないか!」

それぞれが声をあげる。

「私は…戦う力なんてないけど、それでも、みんなの為になれるなら……それはとっても嬉しいなって」

「あたしもこっちに用事があったし残ってるよ。
ソースケがそんな危険なものと戦うなら近くに居たいから」

二人のカナメも同じ様に見送る事を決意する。

「まあ、行くのは明後日だから、明日にする事をしといてから行くわ。
覚悟する事ね、さやか」

何故かさやかに向ける。

「え、あたし?」

「ええ、そうよ。
テッサ、明日は自由にしてていいのかしら?」

さやかに言いつつもテッサに確認する。

「はい、用意が特にないなら問題はないですよ。
私も明日は用事がないからこちらで過ごす予定ですし」

それからも、幾らかテッサからの解説があった。

まどか達に聞こえるささやき声とその原因だ。

インキュベーターからの情報だと先日のテロリスト魔法少女の願いが原因の可能性があるらしい。

願いの内容は『あの人の望む世界の礎となりたい』
その少女の前後を探ったところ、あの人はレナードを示していると思われた。
そこについては宗介が見た魔女結界の使い魔の姿からも並々ならぬ感情を抱いていた事もハッキリしている。

その願い故に、オムニ・スフィアは消滅せずに擬似的に他の新たなウィスパードが誕生した事らしい。

ただ、未来のまどか達からブラックテクノロジーが送られてくるのではなく、現在に存在しているブラックテクノロジーについて、いわゆる魔法少女に関係した事だ。

そして、まどかが襲撃の最中に見せられた幻覚のようなもう一つの世界。
それは、その願いに乗じてインキュベーターが見せたものらしい。
『魔法なんてない世界が欲しい』とでも願わせたかったのだろうか。
その世界を【完全に】再現したものを見せた結果、まどかの決意は硬いものとなってしまったが。
本来ならば、魔法によって生きている人もいるご都合世界を見せようとでもしたのだろうか。


それと、最後にアマルガムに襲撃を仕掛けさせた首謀者のこと。

今までインキュベーターを信頼していたマミには少し辛い話だったが、魔女化の真実も知っていることからインキュベーターの差し金だった事も受け入れた様だ。

………………
「うへぇー、疲れたぁー」
一通りの話を聞いたさやかは大きく息を吐きながら椅子にもたれかかる。

時間は既に夜の8時を回っていた。

「じゃあ明日もここに10時に集合でいいかしら?」

この日はもう遅い。
ほむらがそう言うと今日は解散となった。


「あ、宗介はちょっと待って」

同じく帰ろうとする宗介を呼び止める。

「なんだ?」

振り向く宗介以外には聞こえない様にほむらは耳打ちで宗介に何かを伝えた。

「了解だ」



投下、以上になります。

相変わらずのご都合主義万歳。

ここがアレだろとかのツッコミどしどし待ってます。
かなり文も荒くなって申し訳ない……

乙ふもっふ

乙もっふ

>>264
亀レスですが、ありがとうございます!
これからも見ての通りご都合主義展開になりますw

>>265 >>266

実を言うと……その……かなめで被るのは>>1も書き始めてから気が付いてたり……

どっちかって言うと佐倉杏子と常盤恭子の被りのが先に思いついてたり…w

まあ、この先かなめ被りで何かしようかと

恭子ちゃんはぽに夫の話でポニテ強制されても笑顔でした。
心の強い子だと思いました。

その他ボン太君も友情出演ありますよね?先生

もう出たじゃないか
もしかしてボン太くんズ量産機のことか

ちどりかなぬ

うおあああああああ!!!
申し訳ないです、全然書き進まなくて一週間経っても更新できないです………
来週までには更新できると思います、本当にすみません……

ようやく出来ました…
が、相変わらず酷いご都合展開。
私にラブコメなど無理だったのだ…………
投下します!!

魔法少女の割と暇な一日



翌日、午前9時、ほむら宅


「それで、一時間早く呼ばれたから来た訳なのだが……」

宗介はほむらの家の玄関を跨ぐと辺りを見回す。
そこにはさやか以外の面々が揃っていた。

「おはよう、相良くん」

マミと目が合ったからか、挨拶をされた。

「ああ、おはよう」

できるだけ自然な風に挨拶を返す。
更によく見れば魔法少女だけではなく、マオにクルツ、クルーゾーとテッサ、それにかなめまで来ている。

「おはようございます、大佐!」

今度はテッサと目が合ったのでキッチリと敬礼をした。

「サガラさん、別にそんなに硬くならなくていいですって…」

昨日と同じ様にテッサは硬い態度を崩させる。

「はっ、わかりました」

「おはよう、ソースケ」

最後にかなめとも挨拶を交わす。

「……美樹以外の全員いる様だな。
それと、頼まれた物も持ってきたぞ」

そう言う宗介の手にはボン太くんが抱えられている。

「そう、これが借りたかったのよ」

「何故ボン太くんを?」

宗介は疑問を抱く。
宗介自身は普段の戦闘用の装備として扱うが、その見た目からはふざけているようにしか見えないし、第一ほむらは魔法少女だ。
到底ボン太くんが必要だとは思えなかった。

「今日やる事に必要かもしれなかったから。
別に魔女と戦おうって訳じゃないわ」

「ボン太くんは戦闘用の装備だぞ?」

ほむらの答えにすぐに返す。

「ボン太くんはそんなのじゃな〜い!」

その宗介の問いはゆまによって否定されてしまった。

「ソースケ、ボン太くんは子供に人気があるんだからそんな事しないの!」

かなめにまで怒られてしまう。

「そうか……」

かなり高価な改造が施されたボン太くんがボロボロに言われてしまった為か宗介は少し落ち込んでいるようだ。

「それで、俺らまで早く呼んだ理由ってのは?」

それらのやりとりが終わるとクルツも気になっていたらしく、早く呼ばれた用件を聞く。

「見ての通り、さやか以外は早く来てもらったのだけど、その用件ね。
実は協力してもらいたい事があって……」

その場に早めに集められ、昨日の事もあって緊張した空気が流れていたが実に拍子抜けする用件であった。


「その、さやかの恋……と言うか…とにかく後押しするようにフォローするのを………手伝って欲しいなぁっ……て……」

ほむらはとても申し訳なさそうに、本日の任務を伝えたのである。

一時間後、ほむら宅


玄関の予備鈴が鳴り響く。
本日のターゲット(?)のさやかの到着だ。

「開けてくるわね」

ほむらはそう言ってすぐに玄関へ向かう。

「お邪魔しまーす」

さやかの声が聞こえたと思うと、すぐに全員が揃う居間に姿を現した。

「お、おはよう、美樹さん」

またしても最初にマミが声を掛けるが何処かぎこちない。
やはり先程のほむらの一言が気になってしまったのか、笑顔が非常に固い。

「おっす、さやか!」
「おっすー!」

次に声を出したのは杏子とゆま。
こちらはかなり自然な風に聞こえる。
杏子は不自然なマミの脇を肘で軽くつついた。

「おお、恩人じゃないか!」
「おはようございます、美樹さん」

更に妙にハイテンションなキリカと落ち着いた様子の織莉子。

「美樹か」

宗介は挨拶なのかもよくわからない一言。

「おはようございます、サヤカさん」

「おっ、おはよう、サヤカ」

「来たね、サヤカちゃん。今日は……」

クルツが余計な事を滑らせる前にマオはその脇腹に肘打ちを叩き込む。

「グッ……何もそんなに強くやらなくても……」

クルツはその一言を最後に腹を抑えてうずくまり、黙ってしまった。

「美樹か」

「ベン、ソースケとまるで被ってるけど」

クルーゾーも宗介と同じ一言を言うとマオに指摘される。

「お、サヤカ!おはよー!」

ここまで不自然はマミ以外はなかった流れだが、かなめは異常なやけに高いテンションでぶち壊しにしてしまう。

「千鳥、それは不自然だ…」

こういった事に鈍感な宗介でさえも不自然に感じたらしい。

そして最後に……

「おはよう、さやかちゃん」

まどかの、いつもの様な挨拶。
それだけで、妙な不自然さなどなくなってしまうようにさえ思えた。

「おはよー、みんな……ってみんな早いね?どしたの?」

「みんな今さっき来たところよ」

さやかの質問に誰かがボロを出す前にほむらが答えた。

「そうなんだ。それで、今日集まったのは何かの作戦会議?」

今度は用件。
先日の対ワルプルギス作戦会議があったからなのか、さやかはまた作戦会議だと勘違いしている。

「今日は息抜きよ。魔女退治もここ最近は人数が多いから短時間で済むし」

ほむらは提案しながらもさやかを座るように促した。
さやかはそれに応じて椅子に座る。
相変わらず生活感はまるでない部屋だが、人数と賑やかさもあってかとても暖かい空間に感じられた。

「あー、そうなんだ。
でもあたし、今日は夕方から別の用事があるんだ。それまではここに居てもいいかな?」

「勿論よ」

そうは言ってみたものの、さやかの「用事」まではこれといってする事を決めていなかったのを、ほむらは後悔した。

「あ、私は紅茶を淹れてくるわね」

特にする事がなくなったマミはボロを出さないように台所へ避難する。

「マミだけじゃ持ち切れないだろ……あたしも行くけど、誰が手伝ってもらえない?」

動きが異様に硬くなっているマミを心配してなのか杏子もついて行く事にした。

「クルツ、ちょっと行ってきなさい」

マオはクルツをそのお手伝いに行かせようとする。

「はいよ、姐さん」

言われるとすぐに立ち上がり杏子に続く。

「3人じゃ足らんだろう、俺も行ってこよう」

そのままクルーゾーも台所へと姿を消していった。

「キリカ、貴女の紅茶は自分で淹れた方がいいのでは?」

「そうだね、そうしよう」

キリカの紅茶は大量にシロップを入れる物だ。
織莉子は、キリカのそれが他と混ざらないように手伝わせに行かせる。

流石に5人もいれば大丈夫だと思ったのか、立ち上がろうと腰を浮かせていた宗介は何気なく椅子に戻る。

「あれ?そういえばなんで、ほむらの家にボン太くんだっけ?それがあるの?」

ギクリ。
ほむらの肩がピクリと動く。

「あぁ、それなら俺が魔女退治でもするものだと思い込んで持ってきた物だ」

不自然ではなかっただろうか。
そんな風に思いながらも咄嗟に嘘を吐く。

「あ、なるほどねえ」

納得したと言わんばかりにさやかは手をポンッと叩いた。
特に疑われてはいないらしい。

「それにしても、これが本当に戦闘用の装備には…見えないですよね」

「オリコさんもそう思います?
実は私もボン太くんの性能はよく知らないんですよね」

織莉子はボン太くんを眺めながらしみじみと言う。
宗介の上官でもあるテッサも同感しているようだ。

「でも本当に強いのよね、これ。
使い魔も一撃だったし」

その可愛らしい外見から繰り出させるえげつない攻撃の数々を見た事のあるほむらは、その性能を思い出していた。

「ああ、本当に。ゆまに見せたくなかったよ、あんなの」

不意に杏子の声がほむらの頭上から聞こえた。
紅茶を淹れ終えた5人が戻ってきたらしい。
少女に紛れて戻るクルーゾーとクルツは酷く不自然だ。
2人の手にも紅茶の乗ったお盆が握られている。
他の3人よりも紅茶が多いのはそういった配慮なのだろう。

全員揃うと、再び談笑の時間を迎えた。
様々な話題に、笑顔。
くだらない話に噂話も多かったが、魔法少女の彼女たちには妙にリアリティがあるようにさえ感じる物も少なくなかったようだ。
特に、水銀を撒き散らす幼い少女の話はほむらの頬が引き攣っていた。



夕方


さやかはチラリと手首を返して裏側の腕時計を見た。

「じゃあ、あたしは用事があるから帰るね。本当はみんなともまだ居たいんだけどさ」

「無理に残らせはしないわ。
私たちはまだ時間があるもの」

さやかが椅子を立つとほむらは見送るように全員に促す。

玄関へ向かうさやかの後ろを大勢で歩く。

「そうだな。俺たちには、まだ時間がある。超えるんだろう?ワルプルギスとやらを」

その宗介の一言でさやかはハッと思い出す。
ウルズチーム全員にテッサ、それにほむらは明日からワルプルギス当日までは見滝原から離れるのだった。

「そうだよね…うん、頑張ろう!」

「まあ、ソースケは居なくなるけど、あたしは居るから完全に元のメンバーって訳じゃないけどね」

後ろの方からかなめがひょっこりと顔を出した。

「このメンバーで集まれるのは、再来週か……よし、楽しみにしていよう。織莉子のそうだよねっ?」

「ええ、勿論よ」

織莉子とキリカはまた会える事を既に楽しみにしているようだ。

「おう、じゃあさやかも気を付けて行ってこいよ!」

「さやかおねーちゃん、またね!」

「いってらっしゃい、美樹さん」

杏子、ゆま、マミもさやかに一声かける。

「サヤカ、あたしたちがいない間も気を付けなよ」

「そうそう、なんか前のカナメを見てるみたいでハラハラするぜ」

「まだ会ってから間もないが…この街は任せたぞ」

マオ、クルツ、クルーゾーも同じく別れの挨拶を告げる。

「さやかちゃん…行ってらっしゃい」
そして、親友であるまどか。

この後の事を聞かされていて気が気でないのか、少し暗いがしっかりと前を見て見送った。

「それじゃ、行ってくるよ!」

全員の別れを聞くと、さやかは元気よく挨拶をして去って行く。

バタリ、と音を立てて玄関の扉が閉まる。

「よし…と言うのも変だけれど……行ったようね。
それじゃあ、任務を開始するわ」

それと同時にほむらが今日のメインイベントの開始を宣言。

「なあなあ、ソースケ。こーゆー時って、なんて言うべきだっけか?」

「ああ、そうだな。
アイアイ・マム、か?」

「実は私、その台詞を言う側になってみたかったんです」

「テッサ、あんたって娘は…まあいいんじゃないの?ベンはどう思う?」

「俺も構わんぞ」

本来、見滝原の住人ではない彼らは身内でしか通じない話を合わせる。

話が終わると、その5人はほむらに向き直りビシッと敬礼。

「アイアイ・マム!」

ほむらは唖然とする。

「え、ええ、あ、ありがとう…?」

少し間の抜けた返事を返す。
そこでようやく周りからも笑いが零れた。

「ありゃりゃ?俺たちは割と真面目なんだけどな…」

クルツはその反応に困らせられた。

「そうですよね…実際に大の大人が子供にこんなビッチリ敬礼なんて、なんかシュールですもの」

テッサ自分はやられる側であったから感覚が麻痺していたのかもしれない。
他にしてみても、これが恒常的な風景なのだからやはりそちらも麻痺していたらしい。

「それじゃあ、暁美さん。準備始めちゃいましょう?」

マミが声を掛けるとほむらは我に帰ったようだ。

「え、ええ、そうね。織莉子さん、予知をお願いできるかしら?」

「ええ、勿論。
少し待っててくださいね」

ほむらに頼まれて、織莉子は目をつむりながら集中をする。
その間に、ほむらはボン太くんになる事にした。

ファーストフード店前


「やっぱり、織莉子の読み通りだったみたいだな」

杏子はポツリと呟いた。
店の外からほむら一行は店内のさやかの姿を確認する。

「あちらの薄い緑髪の方は?」

「友達で私たちのクラスメイトの
仁美ちゃんだよ」

まどかは織莉子の質問にすぐ答えた。

「ふもふも、ふもふふもふもっふ!」

横ではボン太くんほむらが何かを必死で訴えている。

「それにしても、ほむらは何でそれを着てきたんだ?」

思わず杏子は聞いてしまった。

「ふも!ふもふもっふふもふも!」

そして何かを訴える。

「暁美…お前ならテレパシーでも使ったらどうだ?」

宗介は提案する。
会話を成立させるためのヘッドセットはほむらの家に忘れてしまった為に、素で話されると誰もほむらの言葉を理解できない。

「ふもっふ!」

(そうね、こうした方が楽だわ)

ただし、このテレパシーは魔法少女ではない者には聞こえないのが難点となる。
結局のところ、通訳が必要になってしまった。

「それで、何でそれを着てるんだ?」

先ほどは有耶無耶になってしまったからか、杏子はもう一度聞く。

「ふもっふ、ふも、ふもふもっふ!」

「いやだからテレパシー使えって」

(ほら、私って不器用じゃない?あんな繊細な娘の相手を素でできるわけないじゃない)

ほむらは開き直って説明をした。

「暁美はなんと?」

「シラフじゃ繊細な恋する女の子を励ませない…多分こんな感じ」

が聞くとキリカが意訳して伝えた。

「む、目標Bが店から出るぞ。全員一旦隠れろ」

会話の最中も店を監視していたクルーゾーの報告。

「目標Bってクルーゾーさん…仁美ちゃんが悪いみたいになってますよ…」

まどかはどんよりしながらもツッコむ。

「あ、ああすまん。職業柄、こんな呼び方に慣れてしまってな」

クルーゾーは頭を掻きながらもやや反省しているようだ。

「あ、美樹さんはなんか…元気がないですね、ぐったりしていますよ」

織莉子は店内のさやかの様子を伝える。

(おそらく、仁美に宣戦布告をされたのでしょうね)

「えーと、おそらく、仁美に宣戦布告をされたのでしょうね、だとよ」

杏子はほむらのテレパシーを全く同じように伝える。

「宣戦布告…?敵の内通者とでも言うのか…!」

それを聞いた宗介は懐からグロックを取り出す。

「ふもっ!」

バシーン、と軽快な音が響く。
ほむらボン太くんが宗介の頭を思い切りはたいたようだ。

(言い方が悪かったわね…
要するに、上條くんの取り合いよ)

「ほむら、そっちの方が言い方が悪くないかい?
ああ、要するに、上條くんの取り合いよ、だって。
上條くんとやらは私は知らないがね」

キリカが話しながらも翻訳。

「上條くんは、さやかちゃんの幼馴染。天才バイオリニストらしかったんだけど、怪我をしちゃってたの……それで、言っていいのかな、さやかちゃんの願い」

「どーせ、その腕を治すってとこだろ?あのお人好しの事だ、すぐに分かるよ…」

そう言って杏子は少しだけ表情を暗くした。
かつての自分を思い出しているのだろう。
ゆまはそんな杏子を心配するように体を預ける。

「ふふっ、本当にお二人は姉妹みたいですね」

その光景を見た織莉子は微笑む。

「や、織莉子とキリカも似たようなもんじゃねーの?」

杏子は少し照れ臭そうに返す。

「私と織莉子は愛で結ばれ…」

「キリカ、これ以上はゆまちゃんの教育に良くないわ」

キリカは愛について語り出そうとするのを、織莉子に寸前で止められた。

「お、おいっ、さやかが店から出てくるぞ、隠れろって、ほら、ゆまはもっと詰めて……」

「えー、キョーコこれ以上は無理ぃ!」

押し込む、押し込む。
杏子は見つからないようにと、ゆまを隙間に押し込んでいる。

「……あんたたち、なにやってんの……?」

努力はどうやら、虚しく終わってしまったようだ。

ほむら宅


「で、言い訳を聞こうと思うんだけど」

「ふもっふ」

結局あの後は、さやかに見つかってしまい計画は終わりを迎える事となった。
ほむらは未だにボン太くんとなっている。
他のメンバーはさやかに向かって正座をして反省中だ。

「ボン太くん語はあたしはわからないよ?ほむら?」

「ふももっふ」

ほむらはあくまでボン太くんを脱ごうとしない。

「暁美はなんと言っている?」

ボン太くん語の内容がわからない宗介は近くに居る織莉子に耳打ちで聞いてみる。

「テレパシーが少し漏れてるけど……喋るのが面倒なのでしょうか……ほむほむ…と」

「そうか…」

短い沈黙。

「ほむらに聞いてもわからなそうだから……杏子?なんであんな事してたの?」

「面白そうだったから、反省はしている」

さやかの矛先が杏子に向かうと、杏子はそれを棒読みで返す。

「わかった、反省してないのは良くわかりましたよ、はい」

怒っているという訳ではなさそうだが、さやかは不機嫌だ。

「これ、私たちはいつまで座っていればいいのでしょうね?」

「私は織莉子の隣に居れるなら何時間でも何日でも何ヶ月でも何年でも構わないよ」

「キリカおねーちゃんは織莉子おねーちゃんの事大好きなんだね」

「ゆま、あんまり冷やかすんじゃないよ」

と、織莉子、キリカ、ゆま、杏子。
そろそろ30分近くさやかの目の前で正座をさせられているからか、暇になってしまう。
それぞれでひそひそ話を始めてしまう始末だ。
クルーゾーだけは無言を貫いて逆に不気味だ。
ある意味軍人ならではなのだろう。

「心配するな美樹。
そろそろ到着する筈だ」

「到着って…何よ、ソースケ」

さやかがそう言うと丁度インターホンが鳴り響いた。

ここはほむらの家だ。流石に家主が出なければマズイのだろう。
正座をやめてボン太くんほむらが立ち上がる。

ほむらが部屋から玄関へ向かい、立ち去る。

「お邪魔しま……うわ!暁美さん、まだボン太くんを着ていたの?」

「ふもっ」

玄関からの声が部屋にも聞こえる。
今のはマミの声だ。

「お邪魔しますわ」

ここでさやかは異変を感じる。

「あ、あれ?なんで仁美まで?」

「到着する筈だと言っただろう。時期にもう一人も来るぞ」

なぜあの後すぐに解散した仁美がほむらの家を訪れるのだろうか。
そんな疑問を考えさせる間もなく次の異変が先に起こる。

「おーっす、って、ソース……違うんだった。ただいまホムラちゃん」

「ふもふも」

クルツの声も聞こえてきた。
それと同時に。

「お邪魔します」

何故だろうか。
さやかは自分が精神的に参っているのではないかとすら錯覚してしまう。
幻聴でなければ、なぜ上條恭介の声が聞こえるのだろうか。

「え、えぇ!?きょ、恭介!?」

足音が近くなる。
バラバラで行動していた、マミ、かなめ、クルツ、マオに加えて仁美と恭介までが揃った。

「僕らは暁美さんに呼ばれた…って事で来たんだけれども」

恭介は事情を話す。
さやかはやはりほむらが原因なのだと、理解する。

「ほむら?これは本格的に説明して欲しいんだけど」

「ふもっ!ふもっ!」

ボン太くんほむらは必死で頭を取ろうとするが腕が短過ぎて、取る事ができない。

(キリカさん、悪いのだけど頭を取ってくれないかしら?)

「はいはいっ、と」

テレパシーを受けたキリカはすぐにボン太くんの頭を引っこ抜いた。
キリカを指名したのは単に近くにいたからだろう。

「っぷはぁ、あの中結構蒸してるのね。
結局見つかるのならば着るべきじゃなかったわ」

中から現れたほむらはボン太くんの感想を漏らす。

「ああ、通常のASと違って小型だからな。蒸しやすいのは欠点だ」

宗介はボン太くんの補足をした。

「ボン太くんの事は今はいいの。
なんで仁美と恭介を連れてきたの?嫌がらせ?さっきの尾行してたんだからどうせ内容も知ってるんでしょ?」

さやかはすこし早口になりながら捲し立てる。

「ええ、そうね、それじゃあ言うわ」

ほむらはそう宣言するとひと呼吸。

「えっと、美樹さやか、志筑仁美の大告白たいかーーーい」

無理に変に高いテンションでほむらは高らかに宣言した。
空気が凍りつく。

「あら?時間停止なんて使ったかしら?」

「暁美…………いくらなんでも……それは無いぞ…」

「そうね、変身もなしに魔法なんて使えないわ」

流石の宗介も今の発言が問題なのは気が付いて指摘するが、ほむらの観点はあくまでズレている。

「ホムラ…多分、ソースケが言いたいのは流石に違うと思うよ…?」

「ほむらちゃん…今のって…こんなのってないよ……」

二人のかなめにも責められてしまった。

「ほむらおねーちゃん……すごいね……」

「ゆま、あれは見習っちゃだめだぞ」

幼いゆまにすら呆れられる始末だ。

「ホムラちゃん、結構肝が座ってるな…」

「ホムラ、流石にちょっと…」

「ホムラさん、今のは中々……」

「あ、あぁ、驚いた…」

そして<ミスリル>のメンバー達からも。

「暁美さん、やっていい事と悪い事があると思うの」

「そういう事に疎い私もどうかと思いますよ?」

「織莉子がそう思うなら、まずかったんだろうね。
私自身としては、愛を叫ぶのはいい事だと思うけれど」

年長組からも冷静に指摘される。
全員合わせても、賛同してくれたのはキリカだけだった。

「あの、暁美さん?話が全く見えないんだけど……?」

この異常な状況が飲み込めずに恭介は自分を呼んだほむらに問いかける。

「言った通りの事よ」

「知っているぞ。こういう男をトーヘンボクと言うんだろう?クルツが言っていたぞ」

「そうね、確かにそうとも言うわ」

宗介とほむらの軽いやり取り。
恭介は未だに話が見えていない。

「さやかが告白に……僕が唐変木?
そんな…あり得ないよ」

その一言を聞くとかなめとクルツは同時に天を仰ぎ、額に手を当てて「あちゃー」と言った。

「え…そんな事って」

そうつぶやきながら、恭介はさやかに振り返る。
さやかは涙目になっているではないか。

「ちょっ…さやか?」

恭介は声をかける。
さやかは返事をする事はなく。

「恭介の……バカ…」

そのままさやかは恭介を押し退けて外へと飛び出してしまった。

もう一人の被害者たる仁美は流れに着いて行けずに呆然としている。

「あーあ、追った方がいいんじゃねーの、これ」

杏子はさやかか走り去った事を心配してなのか提案する。

さやかは魔法少女なのだ。
メンタルの負担は少ない方が良いだろう。

「えっ、え…僕が…?」

「いいからさっさと行きやがれ!」

狼狽えるばかりの恭介にいい加減、苛立ってしまったのか珍しくクルツが声を荒げる。

「あ、足ね、はいはい、ゆまが治してあげるよー」

さやかを追うにあたって足の怪我は邪魔になる。
ゆまはいち早くそれを察して変身し、魔法で治す。

「おう、ゆまいい子だ」

目の前で変身などされては余計に恭介に疑問を生んでしまったが、空気がそれを口に出す事を許さない。

「ほら、行きなさい、上條くん」

「ホムラも原因なんだから行った方がいいんじゃない?」

かなめに押される形で結局ほむらと仁美もさやかを追う事になった。
その後ろ姿を見てクルーゾーはポツリとこぼす。

「やはりジ○リ作品の様にはいかないのか…」

街 ほむら視点


まったく、なんで私がこんな事をしなければ…
今、私こと暁美ほむら……と言っても誰が見てもボン太くんなのだけど……は街中で全力疾走の真っ最中よ。
誰もどうせ気にしないのだから、全文私の主観でお送りするわ。

そう言えば仁美と上條くんも一緒に来ている筈だったわね。
………流石に魔法少女の力にボン太くんの機動性に着いてくるのは辛そうにしているわ。

まあ、目的地は伝えてあるのだから先に行ってしまいましょう。

…なんで目的地がわかるかって?そんな声が聞こえた気がするから答えてあげるわ。
簡単な事よ、織莉子さんの魔法で終着点が何処か教えてもらったの。
無駄遣いですって?何を言っているのかしら、さやかは時間によっては恋愛絡みで魔女になってしまうのだから正しい選択よ。

ちなみに場所は駅よ。
夜の駅なんてあの子は本当に縁起が悪いの?
いつもあの場所で魔女になるのだから、冗談では済まされない可能性すらあるわ。

あ、駅が見えてきた。

それと、何であんな告白大会なんて強行策を取ったかって?
それは明日から私や<ミスリル>のメンバー達は見滝原を離れるのだから、留守の間にそれが原因で魔女になられても困るじゃない。

だったら居る内に問題は済ませてしまいたいの。

「ま、待ってください……暁美さん、速いですわ……」

「あ、暁美さん…………速過ぎだよ……」

後ろから仁美と上條くんの声が聞こえるわ。
普段ならもう少しだから頑張ってと言ってあげたいのだけれど…
生憎、今の私は元気良く「ふもっふ!」しか言えないわ。

それにしてもバイラテラル角の設定って便利ね。
軽く走る程度の動きで全力疾走並みの速さよ。
お陰で疲れそうにもないわ。

「ふもっふ!」

あら、駅についたら思わず声を出してしまったわ。

すこし遅れて仁美も横に並んで到着したみたいね。

一息吐こうとする仁美には悪いのだけど急いでいるの。
そのまま私は「着いて来い」とジェスチャーをしてホームへ突入。

改札はそのまま突破しておいたわ。
別に電車を利用する訳じゃないもの、きっと許されるわ。

お二人は丁寧にICカードを改札にかざしているわ。

私はその二人を置いて先にホームへと進む事にするわね。

居たわ、さやかよ。

「ふもっ!」

いけない、つい名前を呼んでしまったわ。
いくら呼んでもボン太くんの言葉しか出ないからみっともないミスね。

「あ…ほむら、来たんだね…」

いけないわ、凄くネガティブな空気。

(仁美と上條くんもすぐに来るわよ)

繰り返さないようにテレパシー。

後ろを振り返れば……ほら、言ったそばから登場よ。

「ごめん、さやか……色々謝らなくちゃいけないよね」

「やめてよ、恭介。謝るも何も、あたし一人で何かしたって訳でもないんだからさ」

なんだか入りにくい空気ね。

とりあえずボン太くん語以外の言葉を話したいわ。

頭を引っこ抜こうかと思ったのだけど、ボン太くんって腕が短いのよね。
自力じゃ難しいわ。

(さやか、悪いのだけど頭を引っこ抜いてくれないかしら)

かといって仁美にはテレパシーを送る事ができないから、消去法で気まずいけれどさやかに頼む。

「はいはい」

テンションが低いわね。
その調子でボン太くんヘッドを取られたら頭がもげてしまいそうだわ。
これ以上は何かNGな気がするから言わないけれど。

「っぷはぁ、この中って結構蒸してるのよ」

「ほむら、それは二回目」

あら、そうだったかしら。

私からは特に言う事なんてないわね。
早いところ三人で結論を出してもらいたいのだけれど。

「それで、上條くんは二人の内どちらを取るのかしら?
それともハーレム?」

本当に鈍感な癖していざって時はウジウジする男ね。
最近のライトノベルの主人公の変な部分だけ切り取ってるみたいだわ。

「ばっ!そ、そんな事!」

「私は明日まで待つとさやかさんには言いましたが…上條くんが決めるのならばそれに従うしかありませんね」

対照的に仁美は堂々としているわね。

「ほら、さやかも何か言ってやんなさい」

「言ってやるとも……だけど、その前にほむら!何で本当にこんな事を!二人に恨みでもあるの!?」

いつまでもネチネチと面倒な子ね。
マオさんの言葉でも借りてこう言わせてもらいたいわ。

「アーイ・ドーント・ギヴ・ア・ファック!!!」

思わず声に出してしまったわ。
確かに、このやり方は無責任だと自覚はある。
でもこれが一番効果的なの。
後押しさえすれば、彼はきっと動くのだから。

それだからこそ、私はこうして「私の知った事か!」と言って……

あら、こんな時に魔女だなんて。
今回ばかりは空気を読んで欲しかったわね。

「え、何…今度はなんだよ!?」

狼狽えているけど、無理もないわね。

せいぜい魔女も利用させてもらうわ。

「こんな時に……恭介も仁美も居るのに…!!」

仁美は、さやかが一般人じゃない事は知っているものね。
先日の学校襲撃で、学校中の人に見られてしまったんだもの。
幸い、上條くんは病院に居たからセーフだったみたいだけど。

「さやか、なら好都合と考えない?」

そう言いながら、私は仁美のこめかみに拳銃を突きつける。

「えっ?」

仁美は硬直してしまうわね、当然だわ。


言いたくはないけれど、結界の中ならば人が亡くなっても死体は残らない。


「さやか、貴女がこう言えば、私は引鉄を引いてあげるわ。
【上條恭介を自分の物にしたい】と」

知っているわ。貴女は正義の味方なんだもの。
そんな台詞は死んでも吐かないと。
それでも、貴女には自分の気持ちと向き合ってもらわないといけないから。
そんな事の為なら悪人になんていくらでもなってあげるわよ。

「ふざけないでよ!」

「なら、そこの化物を私と一緒に倒しましょう?正義の味方として。
上條くんが私たちの事も化物と見るか、正義の味方として見るか。そんな事は知らないけれど」

本当にメンタルが強いのか弱いのかわからない子ね。
こんな状況でも、自分に嘘をついて立ち向かおうとするのだから。

「そう、それが貴女の答えね。
手伝うわ、さやか」

結局こうなってしまうのね。
わかっていたけれども。

私はすぐに拳銃を仁美から離し、迫る使い魔に撃ち放つ。

「軽いジョークみたいなものよ。
本当に撃つつもりなんてないわ」

仁美に弁明しながらも次の武器を。
支援火器支援火器……
盾の中に手を突っ込むと、愛用の軽機関銃を取り出す。

それなりの口径と、大量の鉛玉。
そして個人携行サイズ。
使い魔を蹴散らすにはもってこい。

「貴女は魔女を狙いなさい。露払いはしてあげるわ」

そう言って私は使い魔に銃口を向けて放つ。放つ。
手が痺れる程の反動と速射力。

おおよそ、女子中学生が持つ物ではないわ。
それでも、きっと彼はこの位の歳には扱っていたのかしら。
しかも、人に向けて。

いけない、戦闘中に余計な事は考えないようにしないと。

でも、これだけは言っておかないといけないわね。

「上條恭介。これが、私と、美樹さやかの本当の姿よ。
化物と日夜戦っているの。たった一つの願い事の為に。
あまり言いふらすべきではないんだろうけど、言っておくわ。
私もさやかも、人間ではない。魂なんてとっくの昔に石ころにされてるの。
さやかがそうなったのは、貴方に原因がある。
奇跡だとか、魔法だとかきっとさやかは貴方に言ったでしょうね。
それは、間違いなく、彼女が、自分の……全てを投げ打って起こしたの。
絶対に忘れない事ね。
もしそんな事をしたら貴方はきっと、そうね……大好きなコンサートホールに脳漿でもブチ蒔けるハメになるんじゃないのかしら」

また悪い癖だ。
ついつい余計な事まで言ってしまう。
口が悪いのは<ミスリル>のみんなのせいだと思いたいところなのだけれど。

軽機関銃の内部の弾丸が空に。

撃ってると少なく感じるのは難点ね……
でも、周りの使い魔は消せた。十分過ぎるわ。

「さて、さやか。そろそろお開きにしようと思わない?」

「魔女ももう、倒せそうだって!」

さやかは既に近接戦闘で魔女にまとわりついている。
私はトドメ用にロケットランチャーを盾から取り出した。

「そうね、じゃあ、トドメをいくわ。少し離れてて」

さやかはそれを聞いてすぐに離れてくれる。
こんな指示にも素直に聞いてくれる。
本当に魔法少女になんてなって欲しくない子だわ。

「ロックンロール!!」

魔女の顔面?と思わしき部位に小型のロケット弾を放つ。
使い捨て式で旧式なそれは思い切り豪快な爆発音を立てて、役目を見事に果たした。

「さて、魔女は居なくなったわ」

結界が崩れてなくなるのを確認してから、振り返る。

「貴方の、いえ、貴方達の答えを聞かせて欲しいのだけど」

これは彼女達の問題。
私はこれ以上は介入しようとは思わない。
今なら、全てを彼が知っているのなら……
僅かかもしれない。それでも、私はその希望に託す事にした。

長い入院生活の終わりとほぼ同時に長い長い戦いの日々に身を投じた私には、つい先日まではただの女子中学生だった彼女の気持ちも、常識も何も、わからないのだから。
きっと、正しい選択をしてくれる。

私はそう結論付けて、三人を尻目に、そそくさと脱ぎ散らかしたボン太くんに着替える事にした。

「ふもっふふもふもふふもっふふも」

ああ、いけない。
ボン太くん語しか喋れないのだった。

(これで、私は先に帰るわね。
そろそろ駅員さんも来そうだし。
説教なら後で聞いてあげるわ)

さやかにテレパシーで伝えて、先に帰る事にしましょう。きっと、まどかが待っているわ。

(ううん、怒ってなんかないよ…あたしは、今は感謝してる。
荒っぽくて、不器用なやり方だったけど。
ほむらのお陰で、色々吹っ切れそうだから、さ)

「ふもっふふもっふ」
良かった良かった。

目の前から駅員さんが迫っているから、安心して帰れそうではないけれど。



以上で投下終了になります。
相変わらずのグダグダ…
ちゃっかり地の文をサボる暴挙に出ました。

2月中には完結させたいと思いますので、宜しくお願いします

>>1乙

ぐだぐだどころか面白いとさえ思ってる
続きの投下楽しみにしてる!

全く、まどマギといいフルメタといい
不器用なヤツばかりだよw

短めですが投下します

今月中に終わるか怪しくなってまいりましたが、とりあえずは終盤というか最終章と言うかなので、生暖かい目で見守ってやってください。

あと、できるなら量産型ボン太くんも出そうと思いますので

永遠にスタンド・バイ・ミー(前)



上條恭介は今までにない程のピンチを迎えていた。
別に腕が再び動かなくなった訳でも、目の前にナイフを持った精神異常者が居る訳でもなく、無論テロリストが居るわけでもない。

むしろ一般的に言ってしまえば、羨ましい部類の状況なのだろう。
目の前に居るのは、所謂美少女と呼ばれても間違いではない同級生が自分の言葉を待っているのだから。

数分前にある人物に嵌められてしまい、ある決断を迫られていた。
そして嵌めた人物はネズミなのだか犬なのだかよくわからない着ぐるみになって駅員に追い回されながら逃走してしまったが。

(参ったな……どうしていいのか、全然浮かばない……)

そう思うと同時に、恭介は自分が情けなく感じた。

結局いつも自分は逃げていた。
傷つけない様に、傷つかない様に。

さやかの気持ちも気がついていた。
今思えばその時に答えを出していればこうはならなかったのかも知れない。
その時も、結局逃げる選択を選んでいた。

例えば腕が動かなくなった時も。
事実を受け入れられずに、逃げていた。

自分でよく考えると言いながらも、マミの言葉から逃げていた。

(情けないな、本当に…逃げてたからバチが当たったみたいだ)

逃げの選択が回りに回って、逃げる事ができないところまで来てしまったのか。

(ここは…そうだ、たまには男らしく……腹を括ろう)

自分の中で決意を固めると、恭介はやや下を向いていた顔を正面に上げようとする。

「やっぱり…私では、駄目ですわね」

それよりも先に、声が聞こえてしまった。
仁美の諦めの混じったような、それでもスッキリとしたような声が。

それを聞いて、恭介は呆然としてしまう。

結局、逃げに走らなかったが決意を固めた身としては釈然としないものがあったのだろう。

「え…し、志筑さん…?」

「ほらまた。
私の事は名前では呼びませんもの。
それだけお互いを知らないんですから、さやかさんの方が…」

「やめてよ、そんなの。
あたしだってさ、恭介に釣り合えるような人間じゃないんだよ?
それなのにさ…」

「そんな事ありません。
さっきの事も、上條くんを思って自分を犠牲にしていたんでしょう?
それなのに、そんな事も知らないで私は……」

「だからやめてって。
どれだけ想ってるかなんて、本人しかわからないんだからさ。
ひょっとしたら、仁美はあたしが想ってる以上に恭介の事を考えてるかもしれないでしょ?」

言葉のかぶせ合い。
目の前で行われる会話劇に恭介は自分を責めたくなった。

「あの…僕はどうすれば……」

「恭介はちょっと黙ってて!」
「上條くんは少し黙っててください!」

ハモった。

「は、はぁ…」

この話には自分の介入する余地はないとわかった恭介は終わるのを待つ事にした。

ほむら宅


先程の追走劇を終えたほむらはようやく自宅へ戻る事ができ、一息ついた。

「はぁ…ただいま」

「おかえりなさい、暁美さん」

それをいち早く迎えたのはマミだった。
もう日はとっくに落ちており、時間もそれなりに遅くなっているのにも関わらず、未だに全員がほむらの自宅で待機している。

「みんな律義なのね、待っているなんて」

ほむらは全員を見渡しながらも、部屋に入り椅子に掛ける。

「さやかの方は…多分上手くいったんじゃないかしら」

そう言うと思い出したかのように、携帯電話を取り出してさやかへメールを送る。
事が済んだらほむらの家に来るように伝える為だ。

ある程度投げっ放しにしたとは言え、ほむらも結末を知らないまま留守にするのは気が気でないようだ。

「まあ、何も言わずに飛び出されちゃったからね。
私たちもどうしていいか、わからないところだったんだ」

全員を代表するようにキリカは語る。

「事は急を要していたみたいだから……そこは謝るわ、ごめんなさい」

「誰も気にしてなんかないよ、ホムラ!」

落ち込んでしまったと思ったのか、かなめがフォローしようと声を掛けた。

「えぇ、そうですよ」

織莉子もそれに続く。

この流れは……
ほむらがそう思った頃には始まっていた。

俺もだ
私もよ
あたしもだ
私もです
ゆまもだよっ!
…………などなど
一人が言い始めると、全員がそれに続いてしまう。
話題がない時にはありがちな事なのだが、いかんせんこの人数だなので長くなりがち。
それに座って待っている事も多々ある為にこうなりやすい。

「わかったわ、ありがとう」

ほむらがそう頷くと、再び部屋に沈黙が訪れる。
話題がない事が、こんなにも辛く感じるのは久しぶりに思えた。



そこで、玄関の呼び鈴が鳴った。

「出てくるわね」

内心でこのやり取りを今日だけで何回やっただろうか、などと余計な事を考えながらも玄関のドアを開ける。

そこに立っていたのは、意外な姿だった。

「あら?上條くん?二人はどうしたの?」

さやかと仁美が見当たらない。
まさか逃げてきたのだろうか。

「と、とにかく中に入れてくれっ!二人ともすぐに……」

言い切る事は出来なかった。

ほむらの目に何やら言い合う二人の姿が映る。
それも、結構激しめに。

「わかったわ、入りなさい」

「ありがとうっ…」

ほむらは上條のみを招き入れると、その勢いで入ろうとするさやかと仁美を玄関の前で止めた。

「落ち着きなさい、二人とも。
何があったのかわからないけれども、上條くんが酷く怯えているわ」

数分後



「「本当に申し訳ございませんでした」」

ほむらの家に上がる事が許されたさやかと仁美は何よりも先に恭介に謝罪をした。

後ろに立つほむらはファサっと後ろ髪を掻き上げる。

「二人とも反省してるみたいだから、許してもらえないかしら?」

「僕は許すも何も、怒ってはいないよ…ただ、ちょっとビックリしちゃっただけで」

恭介は少しオロオロしながらも返す。

「良かったわね、二人とも。
それで、話を聞いた限りだと私が居なくなる前から進展してないみたいなんだけど?」

今度は恭介に答えを早く出させようと急かす。
好い加減に答えが出ない事にイライラしてしまったのか、少し語気が強くなってしまった。

「ほ、ほむら…その事なんだけどさ…」

さやかがほむらに申し訳なさそうに顔をあげる。

「なに?どうしたの、さやか?」


「あの、恭介の答えを聞くの……2週間後にって提案したいんだけど」

またほむらは溜息を吐いた。

「別に、私は後押ししただけよ。
貴女たちの事なんだから、貴女たちで決めなさい」

ほむらは三人に背を向けると一番近くの椅子に座る事にした。

(案外、安心して留守にできそうね)

翌日、ほむら宅


結局その後は、さやかたちの答えが曖昧ではあるものの出たという事、それに加えて夜も遅かった為にすぐに解散となった。

ほむらの目の前にあるのは昨夜は賑やかだった部屋とは思えない、ただひたすらに真っ白な空間。
そこに生活感などまるで無く、そこら中に対ワルプルギス資料が掛けられている。

「今度こそ越えてみせるわ、ワルプルギスの夜……!」

ほむらはその中の一番大きな資料である、ワルプルギスの全景が描かれた絵を睨むと決意を新たに、荷物を詰め込んだ鞄を手に家を出た。

「行ってきます、見滝原」

同刻、セーフハウス


宗介も同じ様に準備済みの鞄をひっ掴んで用意を完了していた。
予定の時間には間に合うだろう。

宗介は待ち合わせ場所へ先に向かう事にした。

三日前に襲撃を受け、現在は立ち入り禁止区域となっている見滝原中学へと。

「それでは、行ってくる」

玄関の前に立つと、ボン太くんに敬礼をした。

そのまま回れ右の動きでドアを開けて、外へと踏み出す。

晴れた空はまるで<ミスリル>とほむらの出発を祝福するように晴れ渡り、街は先日の戦闘などは夢であったかのように活気に溢れていた。

「おっす、ソースケ!」
「あら、案外早いね」

セーフハウスとして利用するマンションを出るとクルツとマオの声。
二人も丁度向かっているのだろう。

「大佐と大尉はどうした?」

「あー、ベンね。彼は別にあたしらと同じ任務で来てた訳じゃないから一緒には来ないで、ここに残るそうよ」

「そんでもってテッサは俺らよりも先に待ち合わせ場所に行ってるって。
俺らだけ、ってのも案外久しぶりなんじゃないか?
ここ最近は中学生たちに囲まれてたし」

クルツの言葉になるほど、と思いながら宗介は沈黙。

「確かに、そうかもしれないな」

「どうした?あの子たちが不安か?」

「いや、大丈夫だ。彼女たちの強さは知っている。
それに千鳥もいるしな」

「カナメが?あの子は戦えないでしょ?」

「ああ、だが魔法少女はメンタルも大事だ。
彼女のガッツなら何とかなる気がしてな」

「『何とかなる気がする』か。
お前もだいぶ昔と比べて変わったよな」

「そうだな…変えたのは、彼女だ」

宗介はしみじみとかなめを思い浮かべた。
メリダ島の決戦。
あの時の宣戦布告を思い出し、何とも言えない気分になる。

「ま、カナメのガッツは凄いところがあるわね。
クリスマスのシージャックの時も。
あんなの普通の女子高生じゃ思いつかないね」

マオも以前の事件の数々を思い出しているようだ。
そんないつものような軽いやり取り。

「ほら、見えてきたよ、学校」

まだ戦闘の爪痕を残す校舎が三人の目に入り込む。

その校門にはすでにほむらとテッサが待機していた。
そしてその後ろには輸送ヘリの
ペイヴ・メア着陸している。

「揃ったみたいですね、それじゃあ行きましょう」

テッサの一声で全員はペイヴ・メアに乗り込んだ。

さらば見滝原。

次に訪れる時は救世主となれる事を祈って、ほむらは軽く学校へと敬礼をする。

さらば見滝原

数時間後、見滝原市内


「まったく、ソースケたちめ……人がせっかく送ってやろうと思ってたのに朝っぱらからいなくなるなんて、信じられないっ!」

「まあまあかなめさん、落ちついて…」

二人のカナメは町を歩いていた。
特に理由はないのだが、なんとなく親睦でも深めようと思ったのだろうか。

「でも確かに、ほむらちゃんもいきなり行っちゃうなんてなぁ…」

「でしょ!マドカもそう思うよね」

二人とも何か通じ合う部分があったのか、大人しいまどかと活発なかなめの対照的な二人は意外にも話が合う。

幸いと言っては不謹慎なのだが、先日の襲撃によって学校は未だに再開されていない為か、そこら中に中学生と思わしき子供が休日を満喫している。

まどかは彼らが怪我人も少なく、奇跡的に死者も0だった事が魔法少女と<ミスリル>の活躍だと知っている。
その事が誇らしく思えた。

「しっかしまぁ、学校があんな事になったってのに、よくあんなに普通に休みを楽しめるわね……
学校襲撃なんて、あたしは嫌な思い出しかないわよ」

「かなめさん、他にもあんな事があったんですか?」

「前にね。今はもう狙われてないけど、あたしがいた学校が襲撃をされたのよ。その時あたしはソースケの気持ちもわからずに攫われちゃったけど」

かなめは思い出す。
<アーバレスト>を一瞬にして撃破したあの悪魔のようなASのシルエットを。
<ベリアル>を。

「あー、せっかく久々に平和な外出だってのに、ヤな事思い出しちゃった」

「ご、ごめんなさい、私がそんな事聞くから……」

「なーに言ってるの、勝手にあたしが語って一人で思い出しただけなんだから、マドカのせいじゃないって」

まどかは妙なところで責任を感じやすいらしい。
本当に優しい子なんだな、とかなめはひとりでに決めつけた。

「あんたは本当にいい子だねぇ。
そうそう、あんまり言わないようにって口止めされてたんだけど……」

かなめがそう言いかけた所で景色が歪む。

「えっ…嘘、こんな事って…」

二人が状況を把握する頃には、周囲に街中の景観などは消え失せていた。

魔女の結界に、どうやら誘い込まれてしまったようだ。

「こんな昼間にピンポイントであたしたちだけって……とうとうキュゥべえも胡散臭くなってきたわね……!マドカ、走るよ!」

「は、はいっ!」

幸いな事に、一番近くの使い魔からもそれなりの距離がある。
逃げ切る事もできるだろう。

「やあ、まどか、かなめ。
君たちはつくづく不幸だね」

「うっさい!どうせあんたが仕組んだんでしょ!ムカつくけど利用してやるから大人しくしてなさい!」

「やれやれ、訳がわからないよ」

かなめはそのままインキュベーターの耳と思わしき部位二本を束ねて掴み引きずるように駆ける。

手にはいつかのクリスマスプレゼントのペン。
その中身はスタンガンなのだが、きっと護身用程度にはなるはずだ。

(大丈夫だ、落ち着けあたし……!
あの使い魔とかって化け物だって、学校で一体やったのよっ!?)

無理に冷静になろうと考えるが思考がまとまらない。
今は走る事を優先した。

織莉子宅


「ーーっ!!」

思わず手に持った紅茶を落としてしまった。
別にカップが熱していた訳ではない。
織莉子は定期的に魔法少女に変身して、未来予知の魔法を使うようにしている為に、最悪な未来を見てしまったのだ。

居るべき筈の友人が、二人も。
死ぬ光景を。

「まだ、間に合う…!」

ただ自分だけの力でどうにかなるのだろうか。
他の仲間を呼ぼうにも、時間が掛かってしまう。
最低な事にかなめとまどかが閉じ込められた結界の近くに魔法少女はいなかった。

(まさか、私が単身で魔女に挑む事になるとは)

そう思いながらも携帯電話を操作して仲間へと連絡を。

「もしもし、キリカ!」

【どうしたんだい、織莉子?】

「緊急事態なの!魔女が鹿目さんと千鳥さんを結界に閉じ込めたみたいっ!急いで他の仲間にも伝えて頂戴、私が一番近くなので結界に急行します!!」

【わかった、伝えたら私もすぐに行こう】

電話を切ると周囲の目など気にも掛けずに魔法少女姿のまま家を飛び出す。
おおよそ人の速度とは思えないスピードで市内を駆け巡る。

急がなければ。

魔女結界

「マドカ、まだ走れる!?」

「な、なんとか…!」

まどかとかなめは未だに結界の中を走り回る。

(私、この道が……わかる…?)

まどかの頭によぎる光景。
デジャヴだ。

(わかる、この結界の構造が手に取るようにわかる…!)

既視感と、ささやき声。

以前のウィスパードが科学分野に異様に特化していたように、願いによってその素質を表したまどかは魔法少女についての情報が頭で理解できた。

「かなめさん…!次の……次の扉が…っはぁっ、左から3番目、です…!」

息も絶え絶えになりながらも、まどかは出口までの最短の道をナビゲートする。

「こんのおぉ!」

指定された扉をかなめは勢い良く蹴り飛ばし下手に速度を落とさない。

まどかとの距離は可能な限り離れないようにペースを合わせながら。

「次は!?」

「このまま直進して…十字路も直進…!その後のT字路を右です!
そこの次の区画で、ラスト…!
あと少しですっ!」

まどかはさらに道を示す。

「敵は…オッケー!」

開いた扉の奥には使い魔は待ち伏せしていなかった。
どうやら本当に正解らしい。

それに、使い魔の動く速度はそこまで速くはない。
後ろを振り返ればそれなりに距離が離れている。

それを確認するとかなめは立ち止まった。

「かなめさん…?」

「このイヤリング、結構気に入ってたんだけど……本来の使い方をするしかないみたいね」

この状況で立ち止まる意味が理解できなかったまどかはかなめの名前を呼ぶが、その疑問には答えない。

「こんちくしょー!!」

叫びながらもまどかの後ろ、使い魔の手前に落ちる程度の場所に外したイヤリングを全力投球。

そのイヤリングは地面に落ちるとほぼ同時に爆炎を吹き上げ、木っ端微塵となり煙がその周囲を覆う。

「こーゆーこと!今のうちに逃げちゃいましょ?」

かなめはやや勝ち誇った顔で笑っていた。

唖然とするまどかに手を差し伸べる。

「さあ、ゴールは近いわよ、戦友!」

いつかのクリスマスを思い出す。

太平洋上空


「そろそろだな」

「周りには一面海しかないのに?」

宗介はそろそろだと言ったが、その眼下に広がるのは一面の海。

「あー、そっか、ホムラは初めてだもんね」

「そりゃそうでしょ、姐さん」

「私はどうしましょうか…サガラさん、お願いしてもいいですか?」

「了解であります」

次々と話が進むが、その内容がほむらには一向に見えない。

「じゃあホムラちゃんは俺と一緒に……ぐおっ!」

クルツが言い切る前にボディブローを叩き込まれる。
勿論殴ったのはマオだ。

「あんた、そういう趣味なの?
ホムラはあたしとね。
ソースケはテッサとで、あんたは一人で降りなさい」

「りょ、了解…」

ボディが効いているのか、それとも組み合わせが決められて自分だけ一人なのが堪えているのかはわからないが、クルツはピクピクと震え声で応じた。

「それじゃ、ホムラはこっちに来て」

ほむらは言われた通りにマオの前に立つ。

「それで、あたしの膝に座って。背中を見せるようにね」

それもまた言われた通りにマオの膝に座った。

「よしよし、ちょっと動かないでね」

今度は待っているとガチャガチャと体をマオの体とベルトで固定される。
目にはゴーグルをかぶせられた。

「えぇーっと、これは?」

嫌な予感が働くので聞いてみる事にした。

「まあすぐにわかるよ。
あ、できるだけ叫ばない方がいいよ、舌を噛むから。
喋る時は落ち着いて、冷静にね」

そう言い終える頃には。
ほむらとマオの体はヘリの外へ飛び出していた。

「えっ、きゃ、きゃああああああっ!!!!」

「お、普段大人っぽいホムラも子供っぽい声だせるんだねえ」

飛んでいる。
これまでにない経験であると同時に、あまりに突然な飛び出しも相余って絶叫してしまった。

現在進行形で落下をしているが、案外海面との距離がある事に気がつき、ほむらはすぐに冷静さを取り戻した。

「でも、慣れれば案外気持ちいいですね」

「あら?もう慣れたの?早いねえ」

「慣れたというか、慣れっこですから」

そう言ってほむらは笑うが、顔は真上のマオにはきっと見えたいない。

「大変なんだね、色々と、さ」

「<ミスリル>の皆さん程じゃないですよ」

「そう言って貰えると嬉しいもんだね。やりがいがあるってもんよ」

「私も、自分のやっている事を知ってくれる人がいてくれて、嬉しいです。
ところで、このまま着水したりするんですか?」

「そうだけど…どうかした?
あっ、ほむらの事考えてなかったわ……」

「構いませんよ、大丈夫ですって」

その直後に着水。

説明を忘れていたようだが、この後すぐにダナンに全員は回収された。
任務の帰りのダナンに乗って早く基地へと到着しようという事だったらしい。

ほむらはずぶ濡れのまま<ミスリル>に歓迎される事となる。

魔女結界



「出口っ!見えたよ、マドカ!あと少し頑張って!!」

「は…はいっ…!」

走る二人の後ろには多数の使い魔が迫る。
爆破したまでは良かったものの、他の使い魔が次から次へと合流して、疲れる二人を容赦なく追い回していた。

時に正面からの使い魔を避ける為に迂回をし、飛びかかる使い魔にはスタンガンを浴びせるなど無茶な行動が祟り、二人の体力は既にピークを迎えている。

出口は見えたが、それすら遠く感じる程に。

「君たちには本当に驚かされるよ。
まさか魔法少女でもないただの少女二人で結界から逃げ出せそうだなんてね。
それに、あんな危険物持ち歩いているなんて、カナメ。君は本当にどうかしているよ」

「っ…っはぁ…ったく!うっさい…っての!」

息が乱れる事になると分かっているのにかなめはついつい黙らせようと相手にしてしまう。

そのせいで集中が途切れた。

真横から使い魔が体当たり気味に突っ込んで来るのに気が付くのが遅れてしまう。

「かなめさん、危ないっ!」

まどかが叫ぶ。

間に合わない。
避けられない。

インキュベーターすらもそう思った刹那。

飛びかかる使い魔に衝突したのはかなめの体ではなく。


水晶が衝突した。

「っ!?オリコ!」

その安心感からかなめは名前を呼んだ。


「ぜぇ…はぁっ……ま、間に合い…ましたね……本当によか……ったです……」

どれだけの距離を全力で駆け抜けて来たのだろうか。

救世主の如く現れた織莉子はまどかとかなめの二人よりも辛そうな息遣いをしている。

「はぁ…よし、もう大丈夫ですよ」

息を整えながらも水晶を次々と放つ。
着実に使い魔は減らされてゆく。

直接戦闘向きではない能力とは言えども、使い魔程度には遅れはとらなかった。

それでも、数の暴力と近くて遠い出口。
そして、二人を守る条件がのしかかり織莉子は押され始める。

「まずいですね…二人は下がってください」

二人を庇う様に更に前へと踏み出す。

「私だって、巴さんの弟子でもあるんですから。
あの技だって…!」

目をつむる。

右腕を高く掲げた。

大量に現れる小さな水晶玉。

目を見開く。

右腕を目の前へ振りかざした。

放たれる水晶玉の弾丸。

通路を一掃する様な大量の水晶の雨。
その雨は天から降らずに、真正面から嵐の如く吹き荒らした。

「さあ、もう大丈夫ですよ」

今度こそしっかりと言い切りながら振り返り、織莉子は優雅ににっこりと微笑んだ。

「まったく、織莉子はせっかちさんだなぁ」

「まどか!かなめさん!大丈夫!?」

遅れてさやかとキリカも到着する。

「ええ、せっかちですよ。そのお陰で二人を守れたんですもの、今回は結果オーライと言って欲しいわ」

「本当にありがとうございました、織莉子さん。
キリカさんにさやかちゃんも、心配かけちゃってごめんね」

心の底から安心できたまどかは腰を抜かしてヘロヘロと座り込んでしまった。

「それもこれも、全部は後でこいつに聞かせてもらおうじゃないか」

「そうですね、キリカさん。
それよりも今は」

その一言と共に三人は前を見据える。

「ええ、私たちの親友に手出しをした魔女をどうにかしましょうか」


結局、三人もの魔法少女が集まったのだ。
魔女は危な気なく撃破される事になる。

日本の遥南の島・基地


「さて、私たち<ミスリル>は暁美ほむらさん。貴女を歓迎します」

ほむらは訳もわからないままに連れられて来た基地でどうやら歓迎されている。

「いいじゃんいいじゃん、魔法まで使えちゃうなんて名前の通りって感じじゃねーの?
<ミスリル>って魔法の金属なんだろ?」

クルツは戸惑うほむらに対しても、今までのように楽観的だ。

「とりあえず慣れるために見て回ってください……と、言いたいところなんですが、時間がないのでついて来てください」

テッサに手招きをされると、それについて行く事にした。

「大佐や俺たち以外に言葉が通じないと何かと不便だろう。
俺も一緒に行こう」

後ろからは宗介もついて来る事にいたようだ。
不慣れな場所なのだから、知っている人がいると心強いものだ。

「ホムラさん、こっちです」

そう言われてたどり着いた場所はASの格納庫。

そこには<レーバテイン>やM9が整列している。
<レーバテイン>は一機のみだが。

そこに一つだけ、見慣れないシルエットのASが直立している。

そのASにほむらは目を奪われた。

「見つけたみたいですね。
そのASこそ、貴女へのプレゼントのようなものです」

そのASは。
宗介にしたら嫌な事を思い出させるのかもしれない。

呼ばれていた名は。

<ベリアル>、と。

今回はここまでになります。

おそらくあと2回程度の投下でおしまい…………のはずです。

説明不足ですが、まどかが結界に巻き込まれた理由は勿論キュゥべえが契約させるように誘導したものです。

今回の織莉子がやってた大技的なのはマミさんが1話でやってたアレの水晶バージョンです。
少なからず正義の味方の影響を受けている事に。

あとは御察しと思いますがほむほむベリアルをやらかしてみようかと。
ベリアルのカラーリングって何がベースかって原作で出てましたっけ?
知ってる方がいたら教えてもらいたいですorz

乙!

乙!もう少しで終わりか…
>>343
べリアルのカラーリングは確か無かったはず。
スクラッチビルドとかもほぼ統一でグレー系のカラーリングしか出てなかったと思いますよ。

>>345
あざっす、助かりました!

微妙に誤字脱字がヤバイかもしれないですが、投下します

永遠のスタンド・バイ・ミー(中)


統計によるワルプルギスの夜到達10日前、基地


「んじゃ、俺たちは先に見滝原に行ってるわ」

クルツの声でほむらは我に返る。
ここ最近はずっとこの調子でボーッとしている事が多い。
ついついワルプルギスの事を思い詰めてしまう。

「ええ、気を付けて」

宗介は機体の特殊性の為に当日まで基地で待機となっている。
ほむらもそうだ。

何だかんだで今までの機械いじりと魔女との戦闘、おまけ程度にボン太くんでの活動が功を奏したのか、ASの操縦は素人とは思えない程に扱えた。
だが、そこからが問題だった。
確かにASによる戦闘をウルズチーム程にこなすのは期間的には不可能だろう。

問題は、ラムダ・ドライバだ。

魔法という未知の領域を扱いこなすほむらには作動はできた。

だが、宗介とアル程の強力な力場の発生は難しかった。
おそらく、ほむら自身の魔法自体が弱い事が、ラムダ・ドライバのイメージに影響をしているものと思われた。

これがマミのように一撃に賭ける魔法を扱うのならば、また違った結果になったのかもしれない。

「イメージ…イメージ、ねぇ…」

何となく一人でつぶやいてしまう。

「やはり、あの装置の使い方がわからないか」

誰も居ないと思い、口から漏れたつぶやきは意外な事に聞かれていた。

「あら、いたのね宗介」

「ああ、お前の訓練は同じラムダ・ドライバ搭載機の操縦兵の俺が見てやるように言われているからな。
訓練後なんだ、近くにいてもおかしくはない」

宗介の言う事はもっともだ。

「まあ、見てやれと言われてもアドバイスできる程、俺も詳しくはないがな」

「でも使いこなせている」

その言い方に少しだけつっかかる。

「使わざるを得なかっただけだ」

誇張する訳でも見下す訳でもなく、本当に使わなければならなかった。
それはほむらも同じなのだが、経験が違い過ぎる。

「いや……訓練でも発生させられる分、俺よりも扱いこなせるかもしれないな」

これもお世辞などではなく、本心からだ。

「なんにせよ、アレが扱えたのは今のところお前だけだ。
そいつの力が必要なんだろう?」

「ええ、あの訳のわからない装置を何としても使いこなさなきゃいけないのよ、私は」

ほむらは再び<ベリアル>のコックピットへと乗り込もうと立ち上がる。

「その意気だ。
気力のない兵士は戦場では生き残れん」

後を追うように宗介も立ち上がり、<レーバテイン>のコックピットへ。

「俺も付き合おう」

それぞれのASが立ち上がり、訓練場へと向かった。

「何としても……何としても今度こそは…!」

頭の中で忌々しい巨大な魔女の姿を思い浮かべ、強く意識をする。

ワルプルギスまでに、なんとしてもこの装置を扱いこなさなければならない。

その事がほむらを焦らせた。

訓練場



「とりあえず慣らすぞ。
ターゲットをラムダ・ドライバで破壊するんだ」

<レーバテイン>の外部スピーカーから宗介の声が聞こえた。

前方には訓練用の円形ターゲットが見える。
<ベリアル>はアイザイアン・ボーン・ボウを展開し構えた。

「あの的を…撃ち抜くイメージ!」

その巨大な弓のトリガーのような弦を引く。
指を話すと、そのトリガーはしっかりと弦の役割を果たすように弓本体へと引かれるように戻る。

実際に弓を放つのではなく、力場を超高速射出する兵器なのだ。
だからこそ、弦ではなくトリガーのように頑丈な造りなのだろうか。

肝心の矢となる力場は放たれ、的の中央を貫いた。

「作動しているな」

「でも、これじゃあ威力不足でしょ?」

「ああ」

自分のイメージが武器の威力に直接依存する。
今までほむらは銃に頼っていたのが祟り、そのイメージが確実にできない。

「まだまだ練習あるのみ、ね」

集中を高める。

再び構えた。

「いや待て。ターゲットを変えよう」

もう一度的を射抜こうというところで、宗介から声が掛かる。

「幸い、ここは岩場が多い。
あの岩なんてどうだ?」

<レーバテイン>から送られてきたカメラデータに映された岩をほむらも視認する。

カメラの映像ではわかりにくかったものの、ASよりも一回り大きいくらいのサイズだ。

「やってみるわ」

強くイメージを固める。

(あの岩を、一撃で壊すくらいに…!)

弓を、力場を放つ。

岩が大きく削れる。

だが、まだ出し切れていない。

(また…また違う)

ほむらはその違和感を拭えずにいた。

「さっきよりも強くはなっているな。アル、どう思う?」

【あの岩の損傷と、以前に食らった損傷を比べると1/5程度の威力も出ていません】

「だ、そうだ」

「それは私にもっ…!」

イメージ通りに作動しない苛立ち。

「そうだな…説明だと弓はわかりにくいか。
目標を破壊するだけじゃなくて、武器から放つもののイメージだ。
見ていろ」

そう言うと<レーバテイン>は例の岩へ武器も持たずに走り出す。

そのまま右の拳で岩を殴る。

ピタリ。

その接触の姿勢で止まる。

「拳の一点に…力のイメージ!」

力場は目には見えない。
だが、ほむらはその拳から放たれる力場がどれほど強力であるかは岩の様子と、感覚的に理解できた。

(あの岩が…)

一発で、岩は文字通り木っ端微塵となっていた。

「こっちの方がわかりやすかったかもしれんな」

<レーバテイン>の後頭部から飛び出た放熱索がしまわれると、ほむらに向き直る。

「やってみる?」

「ああ、やってみろ」

同じように拳を別の岩に叩き込む。

「力の…………イメージっ……!!」

拳の先から力場が生まれる。

「ムカつくのよっ!この岩野郎っ!!」

怒りは破壊のイメージの助けにもなる。
ほむらは岩には悪いが怒りの矛先になってもらう事にした。

先程の岩よりも小さく、木っ端微塵とはいかないものの上出来と言える程には岩は砕けていた。

「やはり、こうした方がわかりやすかったか」

何となくだが、コツがわかった気がした。

「この調子で、この弓もいけるかしら」

そう言うとすぐに円形ターゲットへと弓を向ける。

放つ。

岩よりも遥かに小型で耐久性のないターゲットは一撃で木っ端微塵となった。

「アル、今のはどうだった」

【先程とは比較にならない程の威力です。
ですが、出し切れてはいないようです。
計測的には学校で交戦した魔女に対してならば、有効にダメージを与えられるかと】

「まだ出せるわ…ね」

「らしい。だが、そろそろ限界だろう」

宗介の指摘はもっともだ。

既にこの日は数回訓練へ出ている。
慣れないほむらには心身共に負担が大きく掛かるはずだろう。

「今日のところは休むんだな。
続きは明日だ」

そうとだけ言うと<レーバテイン>はすぐに訓練場に背を向け、格納庫へと一直線に戻った。

ほむらも、それに従う事にした。

(この成果は…自信になるわね)

訓練ができる時間はもう長くはない。
だが、ほむらには更に物にできるような気がした。

時は過ぎて統計によるワルプルギスの夜到達2日前、風見野


ボロボロになった教会、杏子だけがこの建物に訪れていた。

杏子はおそらく元は教壇であったであろう、台に祈る体勢で膝をついている。

(父さん、母さん、モモ………
みんなを不幸にしちまった、この碌でもない力だけど……ごめん、あたしは守りたいものの為にもう一度使うよ)

祈りながら、届くはずもない謝罪。

守りたいものは、無論仲間と、そして誰よりもゆまの事だ。

今も契約させてしまった事に罪を感じていた。
それは今でも変わらないが、最初のような一方的な罪滅ぼしではない。
純粋に守りたい。
それが今の杏子の戦う理由だ。

「なんか…重なるんだよなぁ…らしくないけど…」

思っていた事が口から漏れてしまった。

歳が近いからなのだろうか。
何処かでゆまが妹と重なってしまう。
自分の手で失ってしまった妹と。

(もう二度と失うものかって…!そう決めたんだ)

自分を偽っていないか、もう一度だけ確認した後に立ち上がる。
跪いていたからか、膝が汚れているのを手で叩きながら。

「ところで、さ。あんた、覗き見はいい趣味とは言えないんじゃない?」

ポケットから自分の魂を取り出して臨戦態勢をとる。
相手が何者か分からない以上は警戒をするのは当然だ。

「覗き見をしていたつもりはないんだけどね。
気に障ったなら謝ろう」

「いや…ところであんたは、何をしにこんなところに来たんだい?
見ての通り、ここはもう教会の役を果たしちゃいないよ」

かつては自分の家でもあった事から、赤の他人が意味もなく使おうというのには抵抗があった。

「そうか、教会なのか…通りで」

「何が言いたい」

「俺は多分もう死んでるからね。
自分でも分かってる。
とりあえず君たちの事は何となくだけど見てきた。
あの子によろしく言っておいてくれないか?」

「やっぱり覗き見は趣味なんじゃねえのか?
で、あの子って?」

「テッサに、ね」

それだけ言うと、謎の男は長いアッシュブロンドの髪を揺らしながら教会から立ち去ってしまった。

「テッサって…お、おい!」

杏子は呼び止めようと慌てて教会から飛び出る。
入口付近から見渡すが、本当に幽霊であったかのようにその姿は消えていた。

「何だったんだ、あいつ…」

何かを蹴ってしまったようだ。

足元に視線を落とすと、そこには一丁の回転弾倉式の拳銃と真新しい紙切れが落ちていた。
思わず拾い上げる。

そこには、
【統計のズレ。明日に注意。それとこの拳銃はチドリ カナメに渡してくれ】とだけが汚い日本語で書かれていた。

「よろしくだとか、注意に、幽霊ねぇ…本人も死んでるって言ってたし。
本当に奇跡も魔法もあるってか?」

本来の要件は済んだ。

杏子もその拳銃と紙切れを持って教会から去る事にした。

(父さん、母さん、ごめん。あたしは…征くよ)

美国宅


「ただいまー」

玄関の扉を開けると、ゆまが既に待機していた。

「おかえり、キョーコっ!」

そしてタックルのように思い切り抱きつく。

「わわっ、ゆま、危ないだろ?」

杏子とゆまは見滝原の住人ではない。
その為、共闘するにあたって隣町からわざわざ訪れるのは不便なので、織莉子の家で生活を送る事にしている。
もっとも、拠点となっていたほむらの家が留守な事から魔法少女たちは普段からこの家に訪れているのだが。

「あれ、さやかとマミは?」

時刻はまだ正午よりも前。
ゆまがついてこないようにと、教会へ向かったのは早朝の事だ。
戻る頃にはマミとさやか以外は集合していた。

「野暮用だと」

人が少なく、部屋にはキリカとかなめ、そしてまどかしか居ない為に必然的に近くにいたキリカが答える。

「何処に行っていたんだい?」

今度はお返しと言わんばかりに杏子の用事を聞いた。

「ちょっと野暮用だよ」

キリカが身を乗り出して聞いてくるが、具体的には教えない。

過去の事を知られるのがあまり好きではないのだ。

「そうそう、かなめ。
今朝に知らない人からこれを渡してくれって」

幽霊云々はあまり信憑性がない事と、言わなくても良いと判断して知らない人、と言った。

「なになにー?」

かなめは杏子へ歩み寄る。
遠くからでは何かはよく分かっていなかったようだ。

「えっ……う、嘘?これって…」

杏子の手からひったくるようにその拳銃を受け取る。

「やっぱり……あの拳銃…」

「どうしたんですか?」

明らかにかなめはこの拳銃を見てから動揺している。
まどかは心配をして声をかけた。

「い、いや、何でも無いよ、大丈夫。
ねえ、キョーコ?この拳銃を渡してくれたのは、どんな人だった?」

「長い銀髪で、コートを着てた。
日本人には見えなかったね」

「そ、そう…他になんか言ってなかった?」

「この紙を置いてった。あと、テッサによろしくって。伝えようにもここに居ないから伝えられないけどね」


それだけの情報で、かなめの頭の中でその人物が誰かは確定してしまった。

「レナード……なんで?死んだんじゃ……」

憔悴したような表情で俯き、拳銃を凝視する。

「それと、あと…自分はもう死んでるって」

「そうね、幽霊でもなきゃありえないもの」

「知り合い?」

「腐れ縁ね」

杏子の問いに吐き捨てるようにつぶやいた。

渡すように落ちていた拳銃は渡せた。

(明日がどうとかってのは、織莉子に予知をしといてもらおう)

あとは、統計の事についての紙を織莉子に渡そうと杏子は彼女がいるであろう台所へ向かう。

「キョーコ、キリカー!あたしもちょっと出かけてくる!」

「出掛けるって何処に?」

先程の事をテッサ達にも伝えようとかなめは即座に行動を開始した。

「ソースケの家!」

きっとその場にある通信機を使えば宗介やテッサにも連絡が取れるはずだ。

「わかった、気を付けてくれ」

キリカは急ぐかなめの背中を見送ろうとする。

「ん?いや、急ぎの用事なのかい?」

その背中を呼び止めた。

「まあ、それなりにはね」

「ならば送って行こう。
すまない!私も野暮用で出掛けるよ、織莉子に伝えておいてくれ!」

しっかり捕まってくれ、そう言いながら既にキリカはかなめを抱きかかえていた。
女子中学生と、本来ならば高校を卒業している歳のかなめではそれなりの体格差が生じるが、魔法少女の力の前では無いようだ。

そのままキリカは変身すると、高速で織莉子の家から『飛び出した』。

なにかの比喩ではなく、正真正銘その強化された脚力は『跳ぶ』と言うよりも『飛ぶ』と言った方が正しい。

高々度で移動する姿はまず一般人には見られる事が無いが、先日の学校での戦闘で魔法少女は割と明るみに出てしまったので、キリカは見られる事に躊躇いが無いらしい。

「あー、せっかちな奴だ。もう姿が見えねーや。まあいいか」

その二人の姿を見送ると、改めて杏子は織莉子に伝えるべく台所へ歩き始めた。

セーフハウス


「ほら、着いたよ」

飛び出してから5分も経たない内にキリカとかなめはセーフハウスに到着していた。

「し、死ぬかと思った……」

余裕そうなキリカと、その一方でぜぇぜぇと息を荒げるかなめ。
動いていたのはキリカなのだが負担は一般人のかなめの方が大きかった。

「あ、あんた…タマにソースケみたいな無茶するわね…」

「それは褒め言葉として受け取っておこう」

「まぁ…そう思っといて…」

なんだか宗介のように何を考えているのかわからないと感じたかなめは、早々に切り上げて玄関の扉に手を掛ける。

「あれ?鍵が掛かってない?不用心ね」

鍵が掛かっていない事を確認すると、慎重に扉を開く。
罠が仕掛けられていたら堪ったものではないからだ。

「罠は……解除されてないか」

「だが、どうやら先客のようだね」

キリカは何者かが既にいる事に気が付いた。

警戒しながらも、さらに奥へとかなめは進む。
先程から嫌な汗が止まらない。

もう一歩。

部屋の中に入れば全てハッキリするはずだ。

「ごめん、キリカ。もしかしたら面倒な事に巻き込んじゃうかもしれない。
それでも大丈夫なら着いて来て」

「巻き込むも何も、私たちは仲間で友人だろう?
なんの問題もないさ」

「わかった。じゃあ行くよ…!」

キリカは変身したままかなめの後ろに、かなめは例の拳銃を手に部屋のドアを蹴り破った。

「そんな気はしてたけど……なんで、あんたがここに居るのよ!」

的中した予感。
目の前にその男の姿を捉える。

「レナードっ!」

かなめは拳銃を持つ手を、より一層強く握りしめた。

美国宅


「なに?未来が予知できない?」

固有の魔法が機能していない事を知らされて、杏子は首を傾げた。

「ええ、今日の分はできるんですけれど……
明日以降は、テレビに砂嵐が写っているように何も見えなくて」

「ある意味、それが予知なのかもしれねぇな」

そう言いながら杏子は紙切れを取り出す。

「これ、見てみ」

「どれどれ、【統計のズレ。明日に注意】?」

「ちなみに拾ったっていうか、渡されたってのは今日だ」

それを知って織莉子は愕然とした。

織莉子の予知が効かない事から、杏子も冷や汗を流す。

(なんだよ、なんなんだよ統計のズレって…!
統計がほむらのってのなら…ワルプルギスは明日にでも来るってのかよ!)

「これは…早く皆さんに知らせた方がいいかもしれませんね」

織莉子は落ち着いた口調で話すが、やはり杏子と同じように焦りが生まれる。

「善は急げ、だな…!
ゆま!全員に知らせに行くぞ!
まどかはここで織莉子と待っててくれ」

「はーい。杏子ちゃん、気を付けてね」

居間でくつろいでいたゆまにも声を掛ける。
まどかに負担はかけられない為待機してもらう事にした。

「わかった!」

ゆまの手を取るとすぐに玄関の扉を開く。

「うおっとぉ!?」

そのまま先のキリカと同じように飛び出そうとするが、誰かとぶつかった。

「どうした、キョーコ?そんなに焦って」

「あ、マオさんにクルツさんか。
例のワルプルギスだけど、明日に来るかもしれないんだ。
それをマミとさやか、それと、キリカとかなめにも伝えないと…」

「わかった、わかったからとりあえず落ち着いてくれキョーコちゃん」

クルツに言われてようやく気が付く。
自分でも柄に無いほど焦っていた事に。

「焦りは度し難いミスを生むぞ」

その二人の後ろから更にもう一人。
クルーゾーだ。

「それは中佐の受け売りでしょ?」

「そうだ」

焦りに焦っていた杏子とは打って変わって余裕そうに言葉を交わす三人。

「んじゃ、マミちゃんの所は俺が伝えてくるわ」

「サヤカにはあたしとベンで行ってくるよ」

ならば杏子とゆまの選択肢は一つ。
かなめとキリカは同じ場所に居るはずだ。

「じゃあ、あたしらはキリカとかなめだな」

四人とも目的地を決めると足早に解散する。

全員の居る場所は大体目星がついていた。
マミは両親の墓に、さやかはきっと恭介の元にでも居るのだろう。

「じゃ、行ってくる!」

そうと決まればすぐさまに行動するのは杏子の癖のようなものだ。

セーフハウス


「できればソレを下ろして貰えると嬉しいんだけどな」

かなめには拳銃を突き付けられ、キリカは既に鉤爪を展開しているが、レナードはあくまで余裕そうな態度で話をかける。

「あたしは、なんでここに居るのか聞いてんのよ」

「それは俺に言われても困るね。
自分でもよくわかっていないんだから」

レナードは悪びれる様子もなく手をヒラヒラと振る。

「どういう事よ、それ」

「どうもこうも、こっちが聞きたいくらいさ」

どれだけ押し問答をしようと話は並行線だ。

「二人がどういう関係かは知らないが…すまないがそれなりに急いでいるんだ。
敵対者なのか味方なのか、それだけをハッキリさせてくれないか?」

埒があかないとキリカは判断する。
必要事項だけ先に聞く事にした。

「味方だね」

はぐらかす訳でもなくレナードは断言してみせた。

「俺はいつだって君の味方のつもりだよ、カナメ。
そして今は、あの子を利用しようとしたクソッタレな宇宙人の敵だ」

「なによそれ…」

「その言葉は信じても平気かい?」

「勿論。ちなみに有益な情報かな?これは。
君たちが対策し続けたワルプルギスとやらは、明日到達するよ」

杏子に与えた物と、全く同じ情報。

「なんであんたが……ってあんたも未来予知みたいな事ができるんだっけ」

何時の間にかかなめは拳銃を下ろして、普段通りのように会話を進める。

「そんな所さ。
おっと、そろそろ時間みたいだ。また会えるのを楽しみにしてるよ」

それだけ言い残すとレナードの姿は元から何もなかったかのように消滅してしまった。

「消えてしまったね。彼は幽霊か何かかい?」

「まぁ…死んでるはずだったんだけど…」

目の前で人が消えたにも関わらずキリカは驚く様子すらない。
かなめも驚くほどの余裕がなかった。

「そうだ、先にソースケ達に伝えないと!」

突然の連続で考えがまとまらない。

とりあえずかなめはレナードの事を考えるよりも先に、宗介達への連絡を優先した。

基地


「そうか……了解した」

宗介は通信を終了する。

「どうでした?サガラさん」

宗介とほむらはテッサに呼ばれて艦長室まで訪ねていた。
そこで宗介に通信が入る。
相手はかなめだった。

そして今、全ての出来事を聞かされたのだ。

「大佐殿、悪い知らせと、どちらとも言えない知らせがあるのですが…」

「今はテッサでいいですよ。
その二つの知らせ、どちらもお願いします」

テッサはにっこりと微笑む。

「では、悪い知らせからで」

「ワルプルギスの夜の到達が、早まって明日になるそうです」

それを横で聞いていたほむらは驚愕した。

「そんな…」

今まで一度も起こらなかったイレギュラーに怯えざるを得なかった。

「それともう一つが…
レナードが現れた、らしいです」

その言葉を聞くと同時に嬉しくもあり、悪い知らせでもあるな。とテッサは感じる。

実の兄であり、かつて<ミスリル>の最大の敵が生きていたのだから。

「実は続きがありまして、レナードは今は俺たちの敵ではないと言っていたそうです。
インキュベーターの敵である、と」

「そう言う事さ」

宗介の話を即座に肯定する声。

その瞬間に誰よりも速くほむらは真横に腕を伸ばし、突然現れた影に銃を突き付けた。

「なぜ、貴方がここに…?」

その姿を視認してテッサは震える声で問いかける。

「レナード…」

「俺にもわからないんだって。
カナメと同じ反応じゃないか」

かなめの時と同じように悪びれる様子などない。

「わからないだと?」

「気がついたらここに出てきてたのさ」

銃を突き付けられていることから、出来るだけ動こうとはしない。

「それと、銃を下ろしてくれないかな?」

視線だけをほむらに向けて要望する。

「ホムラさん、下ろしてあげてください」

事情が飲み込めないが、ほむらはそれに了承して銃を下ろした。

「ありがとう。
さっきの続きだけど、サガラは知っているだろ?俺はお前の目の前で撃ち殺されたんだから、俺が死んでるってことは」

「肯定だ」

宗介はあの決戦を思い出す。
そして、最後のレナードの願いと、和解しかけたことを。

「それ以降は、自分の意思に関係なく君らの関係する人物の付近に突然出てしまうようになってね」

死者が現れるようになる。

こんな奇跡の様なことは、ほむらには一つしか思い浮かばない。

「出てきなさい、居るんでしょ?インキュベーター!」

全て問い正せばハッキリするはずだ。
この間のテロリストの願いが怪しい。

「いきなり呼び出すなんて、どうしたんだい?」

「聞かせて頂戴、先日のテロリスト魔法少女の本当の願いを!」

どこからともなく現れたインキュベーターに全員の視線が集中する。

「前にも言ったじゃないか。
『彼の役に立ちたい』って。あれは紛れもない事実だよ」

声音一つ変えずに淡々と述べるインキュベーター。

「その結果がどうなるかは、僕の知った事ではないよ。
でも興味深いね。
契約した彼女の中の『役に立ちたい』と、対象の彼の『役に立ちたい』には差異があったからこんな結末なんじゃないかな」

長々と持論を展開される。

「レナード、お前は幽霊にでもなりたかったのか?」

「違うね。死ぬ寸前では、せめて妹を守ってやりたいとは思ったけど」

「テッサさんを守りたいって事の役に立ってしまったわけね。
その結果が守護霊なんて…」

レナードの存在について、二人の中では幽霊だと決まってしまったようだ。

「そう言う事、なのか?」

「それなら、なんて言うかその…」

テッサはそれを聞いてもじもじとする。

「嬉しい、ような……」

消えてしまいそうな小さな声で喜んでいた。

「喜んでもらえて何より」

「半年も前には殺し合うような仲だったのが不思議に思えるな」

あくまで睨むような視線を送る宗介だが、この二人の再開には出来るだけ水を差さないつもりだ。

「別段テロリストがやりたかったんじゃないからな。
まともになりたかったんだ」

「そうだな」

レナードの言い分は、宗介にも理解はよくできた。

「私はお邪魔虫かしら?」

会話について行く事もできないが、雰囲気的に割り込む事もできない事からほむらは退出をするか提案する。

「その必要はないよ。
これから話すのは君にも重要な事なんだ。
<ベリアル>の操縦兵の君に」

レナードはそれを引き止める。

「でも貴方ががいるのなら、あのASも貴方が扱った方がいいんじゃないのかしら?」

「君らで結論付けただろう?俺は幽霊なんだ。無論ASの操縦なんてできやしないよ」

幽霊なんだ。
その一言でレナードの死は揺るぐ事のない事実なのだと突き付けられたような気がして、それがテッサには悲しく思えた。

「そうですか……
サガラさん、ホムラさん。
呼び出しておいて申し訳ないんですが、一度兄と二人きりにさせてもらえないでしょうか?」

「了解しました」

「構わないわ」

レナードには呼び止められたものの、二人きりの話があるようだ。
宗介とほむらはそれを察する。

「すみません、そんなに長くはならないと思うので」

二人が退室したのを確認すると、テッサは扉を閉めた。

防音性の扉の為に、中の会話は外へは聞こえないだろう。

「大事な話なんです。始めましょうか、『兄さん』」

こう呼んだのは何年ぶりなのだろうか。

翌日。統計によるワルプルギスの夜到達前日、事実上のワルプルギスの夜到達日。


結局、その後レナードはほむらの前に姿を現さなかった。

そして最悪の予想が的中となる。

「日本、見滝原で急速に雷雨が発達中との事です」

テッサに呼び出された宗介とほむらは告げられる。
タイムリミットは訪れたのだ。

「お二人は、<レーバテイン>と<ベリアル>でし出撃準備を進めてください。
急展開ブースターは装備済みですので」

「了解しました!」

宗介は敬礼をビシッと決めると、流石は軍人と思わせる様な回れ右をして退室した。

「ホムラさん。不安は多いと思います。
でも、心配はしないで。きっと、あの人が力を貸してくれるから…」

テッサは悲しそうに、儚げにそう言った。

「…なんとかしてみせるわ、今度こそは…!」

力強く、想いを込めて宣言するとほむらも宗介の後を追って走る。

(ごめんなさい…)

テッサの心の中の謝罪は誰へのものだったのだろうか。

格納庫


「<レーバテイン>は以前の決戦仕様、<ベリアル>は逆に固定武装以外はアイザイアン・ボーン・ボウのみか」

宗介は二機のASを見上げる。

燃えるような赤と白の<レーバテイン>は言われなければ一見人型には見えない程の重武装。
サブアームにも武器を搭載している。
その重量故に急展開ブースターも専用の物だ。


反面、色素が無いと言っても過言ではない<ベリアル>はカラーリング以外も<レーバテイン>とは対照的に、軽武装だ。

こちらも、元は企画の違うASの為に既存の急展開ブースターに手を加えた専用装備だ。

「専用の急展開ブースターまで作ってもらえて…ここまで支援してもらえるとは思わなかったわ」

「天災としか扱われないとは言え、街一つ消し飛ばされるのを黙って見ている訳にはいかないらしいな」

ほむらは驚きと共に呟くと真横の宗介が答えた。

「そうね。見滝原を守る為にも、貴方の任務の為にも…やってやりましょう」

ほむらはそう言うと先にASのコックピットへと向かった。
宗介も続く。

首の裏側のハッチを開き、その中へ。

『AS二機は出撃準備完了次第、射出準備に移ります』

艦内のスピーカーからテッサの声が聞こえた。

二人はASを起動すると設定を済ませる。
後はカタパルト射出を待つだけだ。

『カタパルト射出準備、完了しました。カウントダウンを開始します』

カウントが始まる。

決戦までの。

それが喜劇となるのか悲劇となるのかは誰も分からない。

射出が完了すれば、ワルプルギスとの戦闘までも秒読み段階に入るだろう。

「俺が先行する。暁美は続いてくれ」

『5、4、3…』

この間にもカウントは進む。

「わかったわ」

『2、1…射出!』

返事は届いたのだろうか。
言ったとほぼ同時に宗介の機体は高速で空を駆け抜けた。

『続いて<ベリアル>も射出します。
5、4、3、2、1…射出!』


宗介に続くようにほむらの機体も射出される。

「うっ!……っくっ…!」

射出の反動で生まれる凄まじいGがほむらにのしかかる。

だがほむらは意識をハッキリと持ち、飛行に集中する。
安定してしまえば問題はなかった。

速度計の針が揺れる。
数値は今までほむらが体験した事のないような速度を示す。
まだまだ加速は続くようだ。

(速い…わね……もう見えてきたわ)

よく見なくとも、既にワルプルギスは出現していた。
そして、魔法少女と交戦中。
様々な色の閃光。

(もっと急がないと!)

数分前までは速すぎると感じる速度だが、今となっては更に速度を求めてしまう。

ほむらは、機体の変化には気が付いていなかった。

見滝原


天候は最悪。
雷雨が吹き荒れ、辺り一帯には避難警告。

そんな中、避難所である学校以外はほぼ無人と化した街の中、六人の少女と三機のASは怪物と対峙していた。

「まさか、本当に来るとはねえ」

槍を担いだ杏子は口に菓子を加えながら、視線を変えることなく怪物を見続ける。

ワルプルギスの夜と呼ばれている怪物だ。

「ぼやいても仕方ないよ!よし、全員フォーメーションには着いた!?」

魔法少女六人は耳にヘッドセットを付けている。
ASと連携を取る為に。

「狙撃班、準備完了」

ワルプルギスとは少し遠方のビル。
マミとクルツのM9はしっかりとワルプルギスを見据えていた。

「避難所防衛及び後方バックアップ班、準備はOKよ」

マオのM9、さやか、ゆま、織莉子の四人は最前線よりも少し離れた位置で待機。

「前線攻撃班、問題なし」

それよりも前の最前線には、杏子、キリカ、そしてクルーゾーのファルケ。

「さあ行くわよ、野郎ども!準備はいい!?」


『いつでも!』

防衛班の叫び。

『どこでも!』

狙撃班、前線攻撃班の叫びもそれに続いた。

嵐がより一層吹き荒れる。

気配が変わる。

それは、魔法少女だけでなく<ミスリル>の三人にもわかる程に強烈だ。

「………来ます!」

織莉子の予知。


カウントが始まる。

5

4

3

2

1


魔女達の祭典の夜が、幕を開けた。

今回はここまでです。

今月の中旬までには完結させられたらなぁ、と思いながら進めてますので、もう時期完結となります。

色々突っ込みどころが満載過ぎてヤバイですが

乙です!楽しみに待ってます!

ラムダドライバが使える以上にASが使えることの方がすげえよほむら
ヤンだってあんだけ苦労した挙句たいして扱えなかったんだから

ボン太くん動かせるならASもいけるはず
動かせるのと戦闘できるのとでは大きく違うが

流石にいくら基本的な操縦法が同じとはいえ、素人ヤクザがちょっと訓練して使えるようなボン太君と、10m近い本物のAS、ましてや3世代型を動かすのとは全くの別物だけどな

ごめんなさい、説明不足が過ぎました…
その辺は次あたりに説明します…

ラスト、投下します。
今回で完結です

永遠のスタンド・バイ・ミー(後)


見滝原付近上空


焦りながらもほむらは、不安に押し潰されんばかりの緊張をしていた。

ASでの戦闘などは勿論初めてだ。
それに、そのASの機動も動かせるとは言ったものの、機動にかかっているほむら自体の地力は一割程度なのだから。

残りは強引に魔法でサポートしている。
いつぞやの時間で対空迎撃ミサイルを動かしたように、ほむらは精密機械を動かす為の魔法を習得しているのだ。

実際にほむらの力だけで動かすとなれば、出来る事は歩く程度。
弓を構える事が出来るかどうかすら怪しい。

そこの所を考慮して武装は最小限に抑えられている。

アイザイアン・ボーン・ボウだけならば、最初から握ってしまえば落とさなければ良いのだ。

ここに変に多数の武装が絡めば目も当てられないレベルで自ら武装解除をしてしまいかねない。

だが、この事実はほむら以外は誰も知らない。宗介でさえもだ。

(目の前……真正面…)

そんなインチキ操縦だからか、ほむらは意識を目の前に集中して飛ぶ事だけを考える。

ここでバランスを崩して海上に落下するなどしては、本末転倒もいい所だ。

「……けみ!暁美!聞こえているか!?」

集中が過ぎて通信に気がついていなかった。

「な、なんとか…!」

「レーダーを見ていないのか!?
正面から熱源反応だ、回避機動をとれ!」

「え、えぇっ!?」

機体の正面を見ると、既にワルプルギスが放った火球のような物体が間近まで飛来している。

レーダーも確認。

数は一つだけだ。

しかし今のぎこちない動きしかできないほむらにとってはそれの回避もかなり辛いらしい。

「回避機動、回避機動……」

頭の中で空中戦の回避機動のマニュアルを思い出そうと必死になる。

強引に機体の重心を横にズラす。

火球は高速で横切る。

何とか回避に成功したようだ。

「あ、危なかった……」

「ボヤッとするんじゃない!態勢を立て直せ!」

その一声でハッと気が付く。
海面はもう目と鼻の先だ。

「ちょっ、そんな……」

今度は逆側に重心をズラす。

「お願いだから…上がって!」

何とか海面と水平に持ち直すと更に高度を上げる。

接近する前から目も当てられない惨状だ。

このまま接近すれば弾幕を展開されて見滝原に到着前にほむらは撃墜されてしまう。
そう判断した宗介は。

「アル、速度を上げろ。
俺たちが先行して囮になるぞ!」

加速した。

ほむらが高度を取り直した頃には宗介とはだいぶ距離が離れていた。

「何としても、陸地に着かないと…」

見滝原


「しかしなんだ、デカイな、こいつは。巨大だ。そして煩い」

出現と共にキリカは誰よりも早く懐へと接近していた。

キリカが言った通り、ワルプルギスはとてつもなく巨大で、何故か笑っている。

「更に言うと、何故逆さまなんだ」

クルーゾーのファルケはアサルトライフルを構えながら回り込む様に動く。
ビルが多い場所な為に遮蔽物は多く、好都合に思えた。

その肩には杏子がちょこんと乗っている。

「速くていいねぇ!クルーゾーさん、雑魚の露払いはあたしに任せてくれ!」

その肩の上で杏子は多節槍をバラバラにしてしならせ、鞭の様に豪快に振るった。

その宣言通りに、クルーゾーの機体に群がる人型の使い魔は吹き飛ばされる。

「キリカ!突出し過ぎです!
今すぐにそこから離れて!攻撃に直撃してしまう!」

ヘッドセットからの通信。
織莉子からのものだ。

大規模な戦闘な事から彼女の魔法は重要となる。

「了解だよっ!織莉子!」

それを聞いたキリカは即座にワルプルギスと距離を離す。

そんなキリカに目掛けてビルが飛来する。

咄嗟にキリカは飛来するビルに遅延の魔法を放つ。

目に見えて落下が遅れる。


だが、その質量はあまりに巨大過ぎた。

「クッ……!」

直撃ではないものの、キリカはそれに掠めるように巻き込まれた。

「美樹さん、彼女のフォローをお願いします!」

「ガッテン承知!」

敵との距離が近い仲間の治癒ならば、戦闘もこなせるさやかが適任だ。
状況を素早く判断すると、さやかに頼む事にした。

思い切り地面を振り切り、超高速で瓦礫だらけの道路をさやかは走り抜ける。

「使い魔は私たちに任せてちょうだい!」

そんな声がさやかに届く。

「はいっ!」

それを信じたさやかは剣は作り出さずに一目散にキリカの元へ。

真正面を塞ぐように使い魔が立ちはだかる。

それでもさやかは武器を出さない。

乾いた銃声だけがさやかの耳に響いた。

刹那、その使い魔の一体が消し飛び、弾丸の痕と言うにはあまりに巨大な弾痕が残った。
クルツの狙撃砲だ。

そこに目を奪われていると、次は音もなく使い魔が霧散する。
これはきっと、マミのものだろう。

「うらうらうらうらっ!!ヒャッホォーーーウ!!!」

次々と銃声が無人の街に響き渡る。
そして、無線にはクルツ。

驚くべき事に、さやかが聞いた数の銃声の倍は使い魔が倒されていた。
半分は恐らくマミだろう。


武器を出す事も戦闘する事もなく、さやかは無事にキリカの元へと辿り着いた。

「すまない、世話を掛けたね」

「問題ないですよっ!」

治癒の魔法を掛ける。

「っ!美樹、後ろっ!」

傷付いたキリカはさやかの後ろの影に気が付く。
新たに出現した使い魔だ。

「くそっ、すまない、その位置は撃てねえ!」

この位置の使い魔を狙撃しようものならば、貫通してさやかとキリカまで撃ち抜いてしまう。

「大丈夫ですよ、クルツさん。
あたしだって戦えるんですから」

振り向きながらさやかは自信ありげに言い切った。

振り向く。

そこには、一体の使い魔がさやかに飛び掛らんとしている。

さやかは剣を作り出そうとはしない。
否、この距離なら間に合わない。

それでもさやかは不敵に笑う。

「これはほんの、挨拶代わりだーってね!」

そして飛び掛りに当たると思われた瞬間、さやかの掌はそれよりも速く人型の使い魔の胴に叩き込まれた。

「あの技って」

「ああ、俺が教えたものだ」

ヘッドセット内蔵のカメラから、さやかの様子は全員に行き渡る。

放った技は、恐らくクルーゾー直伝の寸剄。

「武器だけに頼った闘いは、時に隙を作るからな。
特に近接戦だとそうだ。
だから、素手でも反撃できる技を教えてやったのだ」

クルーゾーはアサルトライフルを連射しながらも説明する。

「やるわね、美樹さん。
SRTの方から技術を学んだのは私だけじゃなかったのね」

マミは狙撃を続けながらも、さやかを褒めていた。

「マミも何時の間にそんな風にできるようになったんだ?」

ファルケの肩の上で槍を振るいながらも、杏子はマミの進歩について聞く。

「私だって、この十日間に何もしてなかった訳じゃないのよ、佐倉さん」

それだけで杏子は理解した。

要するに、彼女たちは長所を伸ばすか、短所を補うか。
その為にSRT隊員たちに技術を学んだのだ。

「ついでに言うと私は美樹と共にクルーゾーさんから格闘戦を学んでいた」

復活したキリカは鉤爪で使い魔を切り裂きながら、歩いは掌打やショルダータックルなどの様々な体術を駆使して応戦し、ワルプルギス本体へと再び距離を詰める。

「あたしと織莉子は座学って感じだったな。
マオさんに現場指揮を少しだけど教えてもらってた」

この場で経験の少ない織莉子が指揮を任されているのは、魔法のその特異性からだ。
その力を最大限に引き出す為に指揮能力を学んだのである。

指揮とは逆に、杏子は戦線維持の隊列についてだ。
こちらもその魔法を活かす為に、どう配列するか、どう立ち回るかを重点的に教わり、幻惑を効果的に扱えるまでになった。

必然的に残ったゆまは基本的には杏子について歩き、魔法の効果的な扱いを教わっていた。

ゆまはその幼さ故に訓練の参加はあまり賛成の声があがらなかったからだ。


「つまり、みんな2週間前とは違うって事ね!撃ちまくるわよっ!」

後方支援兼防衛班を指揮するマオの攻撃合図。

「フライデー、支援接続はOK!?」

【肯定】

AIに指示を出し、戦術支援カメラから遠隔操作可能な大小様々な兵器を選択する。

これは、以前から対ワルプルギスの為にほむらが設置した物だ。

それをマオが引き継いで使用する。
恐らく自衛隊の物だろうが、この際<ミスリル>の所有物であるかどうかなど関係はない。

街一つ消し飛ばされるのを防ぐ為なら仕方の無い出費だと考えてもらおう。

「あいつを避難所から引き離す!
照準は!?」

【異常なし、行けます】

対空迎撃用ミサイルから飛来する。
無数の爆薬の塊が、見事に一つとして外す事なくワルプルギスを捉えた。

幾ら現代の兵器が通りにくいとはいえ、この衝撃を受け無傷と言うわけにはいかなかったようだ。

「総攻撃チャンスです!」

未来を読み取る。
雲がかった未来ではあるが、そこにはすぐにワルプルギスが復帰する事は記されていなかった。

「よし!サクラ、クレ!肩に乗れ、連携で仕掛けるぞ!」

ミサイルの爆風の中をファルケは気にもかけずに疾走する。

杏子はその肩に乗ったまま槍を構え直す。

キリカは横切るファルケに素早く飛び乗った。

「狙撃班、そっちに合わせるぜ!」

「後方支援班は接近させる為に露払いと援護よ!」

『了解!』

全員の声が重なる。

「二人とも、しっかり掴まっていろよ!」

それを聞いてクルーゾーはさらに速度を上げる。

「ロックンロール!!」

後方支援班も少しづつ前線を押し上げ、前進しながらも使い魔を掃討してゆく。

「佐倉さんたちの邪魔はさせないわよっ」

狙撃も邪魔になる使い魔は的確に一撃の元に撃ち落とす。

「攻撃範囲内、行くぞっ!」

一声と共にファルケは高く飛翔する。
跳躍したファルケの肩を踏み台に杏子は更に高く。

その杏子の槍を更に踏み台にしてキリカは弾丸の如く飛び込んだ。

「出し惜しみは無しだ。これならっ!一手で十手だ!」

鉤爪をフルパワーに。
普段とは比べ物にならない巨大さと爪の本数。

距離がかなり離れているマミとクルツにも余裕で視認が出来るほど大きな、黒い閃光を薄暗い街に輝かせた。

「呉さん、そのまま下へ!」

攻撃が止まるとそのままワルプルギスの身体を蹴って自由落下を開始する。

攻撃する手がなくなったワルプルギスだが、そんな隙をマミは与えない。

「狙撃だけと思わない事ね!
ティロ・フィナーレ!!」

狙撃の技術と、一撃に賭ける火力。

それは的確にキリカが切り裂いたワルプルギスの歯車に直撃する。

「アハハハハハ」

それでもその巨体は嘲笑を止めない。

「まだまだっ!次はあたしだよ!」

マミが拡大させた大穴に槍を突き立てる。

「おらおら!まだっ!」

突き刺した槍を踏切台にして高く跳ねる。
空中で祈る様に構えると、遥かに巨大な槍を作り出す。

<ベヘモス>に放った大技だ。

「喰らいなよっ!」

槍を突き刺した箇所にもう一度放つ。

その槍は魔法による物だが消える事なく突き刺したままにする。

「ゆまちゃん、ハンマーであたしをあそこまで吹き飛ばせる?」

さやかはそれを見てゆまと連携をしようとする。
ゆまはゆまで、それを見て<ベヘモス>との戦いを思い出した。

「うん!さやかおねーちゃん!」

そう言うと、準備が既にできていたさやかをすぐさま吹き飛ばした。

「これも、ついでだああああああ!!!」

持てる限りの最速力、瞬発力を持ってして剣を突き刺した槍の柄に叩き込む。

「はあああああっ!!!」

槍は更に深く突き刺さる。
推力を無くすと、さやかもキリカに続くように落下する。

「それじゃあ、これも貰っときな!」

ドォォン……
遠くから大き過ぎる銃声が響くと同時に、気が付けばより深く槍は突き刺さる。
クルツは狙撃砲で槍の柄だけを撃ち抜いたのだ。

「これでおしまいだ」

最初に跳んだファルケは最後に現れる。

「おおおおお!」

単分子カッターを引き抜くと、落下の慣性をつけ鋭く切り裂く。
そして、槍まで到達すると、例に洩れず槍に攻撃を加える。

「これが、本物だ」

押し込むように、だが凄まじく衝撃のある一撃。
並のASならば軽く吹き飛ぶであろう打撃は、槍を完全に貫通させた。

ワルプルギスに綺麗に一つ風穴が開く。

つえーなおい

「やったか!?」


織莉子の思考にノイズが走る。


「まだですっ!!みんな、急いで……急いでソイツから離れてええええええ!!」


織莉子の叫びと、全員が吹き飛ばされたのは、ほぼ同時だった。

ワルプルギスは、今も嘲笑していた。

見滝原極付近、上空


ワルプルギスの迎撃行動が止まる。

それは目の前の魔法少女達と三機のASの一斉攻撃に注目が集まったからだ。

その隙に<ベリアル>の速度を上昇させて、ほむらは宗介に追いつく。

「暁美、空中での180度ターンはできるか?」

「え、ええ、多分…」

「よし、ついて来い!」

その直後、ワルプルギスから巨大な光が放たれる。

それは間違いなく宗介やほむらに向けた物ではない。

「っ!」

それでも二人の視界を奪うには十分だった。

目を開くと、一瞬の光によって戦闘が起きていたであろうエリアは。

ほむらの目の前で。

廃墟と化していた。


ほむらの中で焦る心は、確かに怒りへと変貌する。

「暁美!焦るな、まずは奴を市街地から押し出すのが優先だ」

宗介の言い方に不思議な違和感を感じた。

押し出す、とはなんなのだろうか。

考えているうちにすぐに見滝原の真上に到着する。

ワルプルギスは正面だ。

だが、それを宗介は無視するように横切る。
ほむらもそれに続く。

自分でも驚くほどに、ほむらは冷静でいられた。

心の何処かで、全員生きていると信じていたからかもしれない。

勿論、そんな確証は何処にもないが。

それでもとにかく大丈夫だと、そう感じた。

「このままターンをして奴と正面からぶつかるぞ!」

【正気ですか?】

宗介の案にアルは反対のようだ。

【<ベリアル>の軽量さならセーフですが、こちらは重量が違います。下手をすれば空中分解ですが】

「ならば軽くしてやる!ブラックマンバだ!全弾ブチ込め!」

【ラージャ】

急展開ブースターから大量の対空ミサイルが発射される。

ワルプルギスを爆風が包み込んだ。

「このままターンだ!Gなんてどうにかする!」

全てのミサイルを撃ち切り多少軽量化に成功した<レーバテイン>は無茶な態勢でターンを試みる。

その軌道にほむらも続いた。
こちらは問題無いようだ。

「うおおおおおお!」

凄まじい重力が宗介にのしかかる。
それをなんとな跳ね除けるが、ブースターはそうもいかないらしい。

そう思った矢先に、<レーバテイン>の後頭部から放熱索が飛び出す。

どうやらラムダ・ドライバで軽減するようだ。

「空中の方が放熱が楽なんだろう!見ろ、曲がりきってやったぞ」

その宗介の言葉は事実で、二人の眼前にはワルプルギスが佇んでいる。

「アル、全弾くれてやれ。
ゼーロスとGECの照準はお前がやれ!弾は惜しむな、弾薬が尽きた装備からパージしろ!」

【レディ】

「発射ッ!!」

圧倒的に大量の火器がワルプルギスに襲来した。

「私も続くわ!」

飛行しながらも強引な態勢で<ベリアル>もアイザイアン・ボーン・ボウを構える。

「射出!」

鋭い力場が放たれた。

攻撃は一度だけにして武装を収納する。
宗介もメインアームのボクサー2を仕舞うと、両腕を前に突き出す。

「接触するぞ、注意しろ!」

警告をするとすぐさま二機に衝撃が走る。

「このまま押し出す!」

【軍曹殿、それは冗談ですか?】

宗介はアルを無視して更にブースターの出力を引き上げる。

ほむらも同じように加速させた。

「アル、やるぞ!ラムダ・ドライバだ!」

展開されたままの放熱索が更に熱を帯びる。

【ここが空中で助かりました。これならオーバーヒートも心配ありません】

ブースターによる推力と、ラムダ・ドライバによる押し出そうと作用する力場。

かなり強力なものだ。

ワルプルギスの進行も止まる。

だが、それだけだった。

二機の力を持ってしても押し戻せはしない。

「私だって……私だってえええええ!!!!」

ほむらのワルプルギスへの怒りは、確かな破壊衝動へと切り替わる。

その時だった。

機体の異変に気が付いたのは。

「…警告…?何よ、これ」

モニターに大量に映し出される警告。

ほむらはそれを黙読しようとするが、口から漏れ出してしまう。

「オムニ…スフィア……」

確かにそう綴られていた。

「オムニ・スフィア高速連鎖干渉炉……私たちがラムダ・ドライバと言う、それ……」

頭の調子がおかしい。

ほむらはそれを自覚しながらも、今の自分を不気味な程に客観的に捉えていた。

これは、異常だ。

頭が割れそうな痛みが押し寄せる。

この警告を見た瞬間から大量の情報が頭の中に雪崩れ込んてくる。

これはきっと、ラムダ・ドライバの事なのだろう。

「オムニ・スフィアへの直接アクセス…?そんな事が私に…」

ほむらが呟いた事は現実にレナードはやってみせた。

だが、ほむらはウィスパードではない。

いくら通常よりもラムダ・ドライバが引き出せるとは言え、不可能の領域のはずだ。

しかし今のほむらは違った。

その情報量によって意識が朦朧としてしまっているからなのかもしれない。

それでもほむらは、「あぁ、やれるな」と。
単純にそう感じていた。


そう確信した瞬間に意識が覚醒する。

「……いけるわ」

頭の中で強く思い描く。

ワルプルギスを押し返すほどの力を。
ほむらには、それが必要なのだ。

全てを守る為にも。
グリップを握る両手に力が籠る。

「ここから…………ここから、出て行けええええええええええ!!」

発生した力場は両腕から押し出す為の物だけではなかった。
その常識を逸した力場は、<ベリアル>の体を押し出す為の推力も発生させていた。
ワルプルギスの巨体が揺れ動く。

「でかしたぞ、暁美!」

一度動き始めれば簡単な物だった。
加速が始まれば。相手が抵抗しなければ、の話だが。

「アハハハハ!アハ!アハハハ!」

歯車には風穴が開き、無残な姿になっているワルプルギスは、やはり嘲笑を止める事はない。

だが押し出される形で動いているのも事実だ。

そして、減速を始めているのも。

(いかんな…いくら暁美が使いこなせる様になったとは言え、長時間の使用は危険だ)

そう判断した宗介は片腕はワルプルギスに付けたままの態勢で。

あろう事か。

デモリッションガンを取り出した。

「これでも貰っておけ!」

そのまま銃口を突き付け、発砲する。

「ぐっ!」

強烈な反動が宗介自身にも伝わった。

だがワルプルギスの身体からは離れない。

きっと今の一撃の反動で急展開ブースターは長くは無いはずだ。

「損害報告!」

【ブースター両翼に火災発生。
<ベリアル>も同様にラムダ・ドライバの影響で破損しています】

このまま装着したままでは機体にまで被害が及ぶ。

「暁美、合図をしたらブースターを切り離せ」

「了解したわ!」

一息置く。
集中。

「今だ、切り離せ!」

急展開ブースターと機体が離れ、二機は落下を開始する。
本体から離れたブースターは推力を保ったままに、ワルプルギスに直撃した。

更に押し出される。
避難所一歩手前だったソレは、再び湾岸沿いまで戻った。

『ソースケか!?全く、待たせ過ぎじゃねーのか?
俺たちは全員無事だ……けど、ちと戦えそうな状態じゃねぇ。
ゆまちゃんが居なかったらマジでやばかった』

ここまで来て、ようやく仲間の無事を確認できた。

「了解した。暁美、いけるか?」

「勿論」

「だ、そうだ。待たせたな、後は俺たちに任せてくれ!」

同時刻、避難所


「さやかちゃん達、大丈夫なのかな…」

避難所の階段踊り場で、まどかはぼんやりと窓の外を眺める。

大嵐に見舞われる街。
時折起こる地震が不安を助長させた。

「ねぇ、キュゥべえ。さやかちゃん達は、本当に勝てるの…?」

「それを今、僕の口から言ったところで、君はそれを信じるかい?」

呼ぶだけで音もなく、何処からか現れるインキュベーター。

「これだけ強力な魔女なんだ。君ならわかるんじゃないかな」

まどかはインキュベーターの言葉は信じたくなかった。

それは逆に言ってしまえば、真実を話しているように感じるから。

「勿論、まどかが契約すれば確実に全員助かるだろうけどね」

付け足した言葉は、まどかの希望的観測を打ち砕くのには十分過ぎた。

契約すれば全員助かる。
それは、契約しなければ助からないと意味しているのではないだろうか。

言い切ってはいないのに、どんどんとネガティブな方向へと思考が進む。

「マドカ、そう言うのはやめようよ」

思考が打ち切られる。

かなめの声。

「あ……かなめ…さん…」

見られていたと思うと急に罪悪感が押し寄せる。

「少しは自分の事を……いや、自分の事を考えてくれる人の事を考えなさいよ」

目を合わせる事はせずに、歩いてまどかの横まで進む。
そのまま階段の一番上の段に腰掛けた。

「例えば、さ。ホムラとか」

「ほむら…ちゃん……」

かなめの言葉を考える。

いつも何を考えてるのかはよくわからないけれど、いつだって自分を守ってくれた彼女。

「言うなって言われてたけど、やっぱり言うかな」

腰をかけたまま、あくまでまどかを見ようとしない。

レナードでも意識したのだろうか、芝居がかった動作で天井を仰ぎ、重々しく口を開ける。

「ホムラは、さ。ずっとマドカの為に一人きりで戦ってたんだよ」

唐突過ぎる、まどかはそう思いながらも次の言葉を待った。

「あの子は、何回も何回もこの一ヶ月を繰り返し続けてるんだ。
マドカの為に、ずっと」

「なんで……そんな……」

タイムトラベル。
そんな単語がまどかの頭に浮かんだ。

「マドカが誰よりも大切な友達だからだよ。
それで、続きだけど。
あの子はこの時間に全てを賭けてるんだ。
何でかって言うと、もともとホムラが何度も繰り返した世界にはあたし達は居なかったんだって。
ASなんて兵器も、<ミスリル>なんて組織もなかった」

「それとまどかが契約するのは、別の話だと思うな」

説明の途中で口を挟まれる。

「あんたは黙ってなさいよ、詐欺師。
それだけ多くの世界を移動して…それでもマドカを救えなかった。
どれだけ挫けそうになっても、ひたすらマドカの事だけを考えてた。
突拍子過ぎて信じられないよね?でも、これは多分真実」

まどかは言葉を失う。

「それでも行きたいなら、あたしは無理には止めないよ。
でも、それはあたしやソースケ達の意思もお構いなしって事だから」

そう言ってかなめは懐から、例の拳銃を取り出す。

そして銃口側を握り、グリップをまどかの方へ差し出す。

「あたしを撃ってから行きなさい」

まどかの前に立ち塞がった。

あまりに唐突でまどかの思考は停止する。

かなめの提示した条件は、障害になるとは言えないほどだ。
本当に契約するのならば、引き金を引いてしまうだけなのだから。

だが、当然な事にまどかはそんな事は実行できない。
出来るわけがない。

優しい子なのだから。

かなめはそれを知っていてわざとやった。
かつてレナードが自分にしたように。

「そんな……やめてくださいよ…」

まどかの手は震えている。

「できないんでしょ?契約なんてそんなの、全部を投げ打ってやってるのに何も捨てられないんでしょ?」

まだ手は震え続けている。

「マドカは、優しいからさ」

そう言ってかなめは微笑んで、拳銃を取り上げた。

「だから、あたし達に出来る事をしようよ。
ここで、信じて待つ。
それだけの事くらい、あたし達にだってやれるんだから」

そう言いながら立ち上がる。

ふと、拳銃を持っていた手が軽くなる。

見ると、拳銃は手から離れていた。

何時の間にか彼は、インキュベーターの如く音もなく現れた。

「レナード!」

「これは返してもらうけど、いいかい?」

取り敢えず今、かなめはレナードを信用する事にしている。

こくり、と頷いた。

そのままレナードは無言でまどかを通り過ぎる。

まどかの横を通り過ぎて、インキュベーターに発砲していた。

コレに腹を立てていたのは、どうやら彼も同様らしい。

「君達は、ここで待っていてくれ」

まどかは腰を抜かしてへたり込んでいる。
当然だろう。

「あなたは…一体…?」

かなめの怒りは意外な事にもまどかに遮られる。

「今のところは君達の……味方ってところかな。
ちょっとテレサを迎えに行ってくるよ。
あの子の為にも君は契約させない。
カナメはその話の続きでも聞かせてあげてくれ」

それだけ言い残すと、コートをはためかせながら避難所から去って行く。

「言われなくとも」

まどかは安心感のような不安のようなよくわからない感情を持て余しながらも、かなめの話を聞きながら全員の無事を祈って待つ事にした。

時間は遡ってワルプルギス前日、基地


テッサは宗介とほむらを部屋から出すと、レナードと二人きりになった。

「で、大事な話って?」

「その前に一つ聞いてもいいですか?」

兄妹とは思えないような、微妙な距離感での会話。

「構わないよ」

「貴方は、インキュベーターとの契約の内容、その全てを知っていて妨害しているんですか?」

「そうなるね」

「その事を踏まえて、言います。
ごめんなさい、私はその契約をします」

それを聞いたその瞬間にレナードはテッサに掴みかかる。

「君は全部知ってるんだろう?何故そんな事をする」

意外にも、いつだって飄々としていた彼らしくも無い、緊迫した表情。

「大丈夫だという、保証はあります。
どちらかと言えば謝らなければならないのは、契約の内容なのですが……」

「言ってくれ」

「生前の貴方のウィスパードとしての能力を、暁美ほむらさんにそっくりそのまま移す、です」

レナードは、はぁ…と溜息を一つだけつく。

「君はたまに凄い事を言うね。
強引に止めはしないよ、テレサはもう大人な訳だし……
でも二次成長期の少女にしか見えない事を考えると子供かな?」

茶化しながらもその目は真剣そのものだ。

「それで、大丈夫だって確証は?」

「それは…………です…」

消えいるような声で、確かにテッサはレナードにだけ伝えた。

「君にはやっぱり、驚かされるよ」

ふっ、と笑うとレナードは何もなかったかの様に消え去る。

きっとそれは、許可だったのだろう。

「では……インキュベーターさん。出てきてください」

消えたレナードとは対象的に、何も無い空間からインキュベーターが現れる。

「取引をしましょう?」

時間は戻って、見滝原


疾走。瓦礫の山となり無残な街を二機のASが駆け抜ける。

炎のようなその機体は無駄のない、プロの動きで。

色の無い、だが燃える様な怒りと情熱を宿した機体は現実的にあり得ない機動で。

「雑魚には構うな、一気に突破するぞ!」

<レーバテイン>は、嵐の中飛び交うビルを躱し、コラージュアートのような炎を消し去りながら距離を詰める。

<ベリアル>は文字通り浮遊しながら、弓を構え確実に道を阻む使い魔を撃ち抜く。

二機が進む道路。
それを妨害する使い魔は明らかに今までのものとは違ってきている。
見るからに大きい。
ASといい勝負のサイズまで肥大していた。

「流石にサイズ差を消しにきたか…!」

ワルプルギスの使い魔はどうやらこの二機の危険性を再認識したのか、街に破滅をもたらすよりも先に数を減らしてでも落とす事を優先した。

「邪魔をっ……!」

更に集中する。
ほむらは今一度、弓を引き加速する。

放つ、同時に命中。

だが致命的な一撃にはならない。
使い魔はダメージなど全く気にかける様子も、怯む様子も見せずに火球を飛ばす。

(避けられない…ならば…!)

ほむらのAS操縦技術は魔法と兼ねて運用しても、新兵に毛が生えた程度の物だ。

だがここに来てようやく自分の戦い方がわかる。
それはまるでASでの戦闘とはかけ離れていて、生き物としての闘争本能の塊のように直進的だ。

目の前まで火球が迫る。

(盾のイメージ!)

自分の変身した姿を思い浮かべる。
固有の武器は盾。

今までに何度も、こんなコラージュアートの様な火球を防いできたのだ。

力場が目の前に生まれる。
火球はソレに接触すると、速度を失い<ベリアル>に纏わり付くように、だが防水性の材質に水が弾かれた様にそのボディには一寸足りとも触れる事は許されなかった。

(よし、上手く防げた…!)

防ぎ終えると再び使い魔に意識を戻す。
二発目を放とうとしている。
流石のほむらも二回連続は無理があるかもしれない。
先程の押し出しは無意識に近かった。
本人にウィスパードとしての力が移った事など知りはしないから。

「回避機動を…!」

ほむらが素人運転なりの覚悟を決めると。
何か破裂した様な乾いた音が聞こえた。
その次の瞬間に使い魔は蜂の巣と化す。

76mm散弾砲ボクサー。

咄嗟に名称が頭に浮かんだのは、前日までに血眼になって読み続けた資料のお陰なのなろうか。

「ありがとう、助かったわ」

「礼なら後だ、まだ続くぞ!」

先導する様に<レーバテイン>は駆ける。

目の前には更に大量の敵。
しかもご丁寧にサイズはAS級。
サイズ差のアドバンテージは失われているも同然だった。

あげんな

これがワルプルギスの本気なのだろうか。

そう思うと今までは手加減されていたのではないかと、悔しく感じた。

(今はそれどころじゃない!)

自分の心に活を入れると睨む様にモニターに視線を移す。

【支援要請容認、指定ポイントへ投下する。
着弾までのカウント5、4、3、2、1】

通信。

声はマデューカスのもので、ダナンからだ。

受信直後に迷う事なく宗介は停止。
その後ろを追う形だったほむらも停止する。

雨が降り注いだ。

実際に雨ではないソレは地面に着くと爆音と爆風と爆炎を撒き散らし、壊れた街をさらに破壊する。

強烈な赤の閃光に包まれて、ほむらは目を閉じてしまう。

「今だ、突破する!」

目を開くと<レーバテイン>は更に先へ。
道を阻む使い魔は霧散している。

「り、了解っ!」

慌ててそれに続いた。
使い魔を出され続けたらジリ貧、勝ち目は薄くなる。

それならば短期決戦に持ち込むしか無い。

使い魔が再生するよりも早く。

二人の一直線上にはワルプルギスの姿。
ワルプルギスは使い魔を出そうとはせずに、地面から離れてしまったビルを二人に目掛けて飛ばす。
飛ばされたビルはワルプルギスのコラージュアートのような炎を纏う。

二人の左右は行き止まり、逃げ場はなかった。
退いても当たるのなら回避は不可能なのだろう。

「避けられないっ、ならば!」

ほむらは宗介の横まで出ると、二人でビルを受け止める体勢を取った。

<レーバテイン>はかつて、<ベヘモス>の踏み付けを持ち上げた実績を持つ。
真横からのビルを止められると確信する。

【今日はつくづく何かを押し出す事が多いですね】

「黙って集中しろ!」

「言われなくともっ」

「お前じゃない、アルだ!」

【接触!】

接触とは言ったものの、実際には力場に阻まれて接触はしていない。
だがその巨大さを阻むのも時間の問題ではある。

「おおおおおおおおおおっ!!!」

押し戻す、と言うよりは力場で粉砕にかかる。

衝撃。

あまりの反動に目を逸らしたくなるが前を見据える。
ビルは跡形もなくなった。

だが、二人の機体の損傷も激しい。
<レーバテイン>は左腕を、<ベリアル>は右脚を失っていた。

ワルプルギスは目と鼻の先。
守る駒も今はない。

最初で最後のチャンス。

失敗は許されない。

それでも二人の表情には少しも絶望はなかった。

「ラストチャンスだ。行くぞ、暁美、アル!」

少しの間。

「ラムダ・ドライバだ!!」

<レーバテイン>は剥き出しのアスファルトを踏みしめ、<ベリアル>は灰色の空を物理法則など無視して飛んだ。

最後の一撃を見舞う為に。

避難所


まどかは涙を流す。

何も取り柄が無いと思っていた自分を、こんなに大事に思ってくれる人が居た事に。

その嬉しさに。

気が付けなかった不甲斐なさに。

「そんなにズタボロになりながらも、ほむらちゃんは…」

かなめは、ほむらの全てをまどかに話した。

本人からは同情で契約されても困るから、と口止めされていたが結局のところプラス方面に働いたようだ。

かなめもこの話を聞いた時には涙を流した。
何故自分にだけ話してくれたのか、その理由はわからない。

「まぁ、こんな所かな。ここで同情なんかで契約なんてしないよね?」

そう聞くとまどかは、こくこくと小さく、しかしはっきりと頷いた。

「そう…よし、じゃあ中に戻ろっか!みんな心配してるだろうし」

無理に明るい声を作ってかなめはまどかの手を引く。
今居る場所は人通りのない階段手前の廊下だ。

長く居ればまどかの家族たちにも心配をかけてしまいかねない。

避難所のスペースは、意外にもこんな状況でも和んでいた。

肝が座っているな、と感心するがその理由は他にある事にすぐ気がつく。

耳に飛び込む音色。
弱々しく力強いバイオリンのリズム。

上條だ。

かなめは会ったことは一度だけ。
二週間前の騒動で慌てていた記憶しか無いが。

それに割と有名な人物で名前程度は聞いた事がある。

悲劇の天才少年バイオリニスト

そんな見出しをいつだったか新聞て見かけた。

今はその怪我は治っている。

そこの事も聞いている。

彼はきっと、さやかの無事を願っているに違いない。

そんな音色に癒されているのか、避難所の雰囲気は平穏その物だ。


女の子は外で、男の子は内側で。
それぞれ人の為に戦っている。

ロマンチックだと感じた。

男女がそれぞれ逆ならもっとロマンがあったかもしれないが、それは彼と彼女の問題だ。

「おや、まどかはまだここに居たのかい?
いいのかい、こんな所で見ているだけで」

不意に届く不吉な声。
インキュベーター。

「何よ、あんたまた来たの?」

不機嫌丸出しの声で問う。

「友達のピンチにこんな所でのんびりしている子だとは思わなかったな」

かなめを無視して、挑発的に言い放つ。
淡々としている分、まどかは余計に不安に駆られる。

「まどか、こいつの言う事なんて聞いちゃ…」

まどかの様子がおかしい。
暑くない筈なのに、急に大量の汗を流している。

ここに来て、さっきの話を聞かせたのは間違いだったと悟る。

「行かなきゃ……ほむらちゃんたちの所に行かなきゃ…!」

走り出す、その手をすぐにかなめは捕まえた。

「だめよ!ここでマドカが行ったら、本当に何の為に戦ってるのかわかんなくなっちゃう!」

「それでもっ!」

手が振り払われる。

転びそうになりながらも、まどかは走り去る。

なんて事だ。
これは明らかに自分の失敗だ。

そう思うよりも先に、かなめもその後を走って追う。

見送るのは不気味に赤く光る双眸だけ。

この追走劇に気が付いたのは、誰もいなかった。

壊れた街を走る。
あまりに原型をとどめていないからか、まどかは住み慣れた街なのに未視感を覚えた。

ほむらたちを探す。

どれだけ走ったのだろうか。
ひょっとしたら自分の人生の中で一番長い間必死に走っているのではないだろうか。

心臓が悲鳴をあげるが、関係ない。

不意に人型の影が躍り出る。

靄に包まれたその四肢はまどかに一つの単語を思い浮かばせる。

使い魔。

あまりに突然過ぎた。

勿論まどかは戦う術などない。

今になって罠だったんだと理解する。

目の前に迫る。

「何をしてっ!」

そしてもう一度あまりに突然な衝撃。
自分の体が誰かに抱きかかえられてそのまま思い切り転がる。

後ろから追って来ていたかなめだ。
凄まじい行動力。
きっと宗介と共にいたせいなのだろう。

「かなめさん……ご、ごめんなさい…」

「謝るなら後!」

使い魔が再び迫る。

二人は背を向けて走るが、軽快な発砲音がその直後に響いた。

使い魔は崩れ落ちる。

「まったく、君たちは何をしてるんだか」

黒いコートが視界の隅で靡く。

「また、助けられたわね」

「行くんだろう、彼女ところに。案内しよう」

手を差し伸べられた。

てっきり帰れと言われる物だと思っていたから、鳩が豆鉄砲を食らったような表情になる。

「帰れと…と言いたいけれど、そうも言ってられないみたいだし」

まどかはその手を受け取った。

戦闘区域


残弾ゼロ。
全ての武器情報にその警告だけが表示される。
単分子カッターも激しい戦闘で使い物にならなくなった。

だが宗介もほむらもこのチャンスを逃すつもりはなかった。

「行くぞ、アル!」

【ラージャ】

後頭部の放熱索は先程から出たままだ。
これ以上の長時間駆動は危険だろう。
だからこそ、次の一撃に全てを賭ける。

内心では、らしくないな、と考えるがそれでも止まらない。

疾走。

そして、跳躍。

右腕を大きく構える。

不意に声が聞こえた。

驚いているような、それでいて無感動の様な声が。

「あり得ない…!ワルプルギスが人間の兵器に負けるなんて」

ズタズタになったワルプルギスの全身を見たのだろうか。
このリアクションはつまり、まどかに嘘を吐いていたと意味づける。

「君は…君たちは、一体!?」

ざまあみろ、と思う。
人を利用した罰だ。

「知りたいならば教えてやる!
俺は見滝原中学校2年4組出席番号41番、身長は他よりも高めだが転校先でもゴミ係の…相良宗介だ!」

大きく振りかぶった右腕がワルプルギスの逆さまの顔面を捉える。

力場の放出。

だが、倒れない。

<レーバテイン>は落下するが、宗介は確信する。

いける。

だがほむらはプレッシャーに押し潰されそうだ。
心臓の鼓動が早くなる。
未だかつて無いほどに。

「ほむらちゃん!」

ああ、とうとう幻聴まで聞こえた。
そんなに焦っているのだろうか。

「ほむらちゃん!」

もう一度、さっきよりもはっきりと。

声の聞こえた方向を確認する。


幻聴などではなかった。
そこに居るのは間違いなく鹿目まどか。

声を張り上げて自分の名前を呼ぶ。
本人までここに来てしまった。
何故居るのかはわからない。
失敗は確実にできない。

だが不安だ。
それでも彼女の声は自分を助けてくれる。

その声で思い出した。
最高のシチュエーションだ。

持っている武器を確認する。
弓を模した兵器。
アイザイアン・ボーン・ボウ。
弓。

そして、彼女の武器は、弓。

鮮明に思い浮かべる。
彼女は…守るべきあの子は、何度もやってのけたはずなんだ。

何度も自分を守る為にソレを放っていた。
一度位は自分で守りたい。

「ほむらちゃん、頑張って!!!」

聞こえる、その安心と自信。


弓を引き絞る。
イメージする。
彼女の姿とリンクした。
鹿目まどかが何度もやったあの一撃の様に、今度は自分が彼女を守る姿をしっかりと目にした。

「ならば、私は!
見滝原中学校2年4組出席番号42番、来学期はまどかと一緒に保健係になる予定の、暁美ほむらよ!!」

放つ。

鋭く大きく、破壊をもたらすだけの、守る為の純粋な力。

直撃する。

光に包まれる。

確信する。
ほむらは、彼女を守れたのだと。

「アハ、アハハ、アハハハハ………」

耳障りな嘲笑の声は、段々とフェードアウトする。

幾度となく繰り返された悲劇の夜を乗り越えたのだ。

「やったわ、まどか…」

誰にも聞こえない様な小さな声。

守りきれた安心感からか、ほむらは気絶するように意識を失った。

一時間後


「ほむらちゃん、ほむらちゃん!」

体を揺さぶられて目を覚ます。
記憶が少し曖昧だ。

「まと…か…?」

一瞬だけ何で街は崩れているのか、自分が倒れているのか理解できなかったが、すぐに思い出す。

そうだ、ワルプルギスだ。

「あいつは…!?あいつは、奴はどこ!?」

「安心しろ、暁美。あいつならお前が倒した」

横に腰掛け、ヘッドギアを外して自分の手に持った宗介が状況を説明する。

「倒…した…?」

起き上がり、空を見上げる。

意識を失う直前とは全く違う快晴の空。

瓦礫の山となった街とは対照的に、ほむらたちを祝福しているようにさえ思えた。

「よかった…!」

思わず涙が頬を伝った。

「後始末はまだ残ってるけどねー」

相変わらず感動的な空気に水を差すような事をさやかは言ってのける。

「美樹さん、少し空気を読みましょう?」

マミはニコニコしているが、内心はきっと疲れに疲れているだろう。
それは間違いなく全員同じだ。

「マミも、そんなに無理してんじゃねーぞ」

「キョーコもみんなも、お疲れ様!だね〜」

気丈に振舞うマミに対して、杏子は疲れを隠そうともせずに瓦礫に座っている。
ゆまもその隣に座って足をぱたぱたとさせている。

「そうだね、私たちも疲れたよ。
早く帰って織莉子と一緒に寝…」

「キリカ、それ以上はダメよ?」

この二人も相変わらずだ。

そんな二人を見て、最初の頃とはだいぶかわったなぁ…としみじみ感じる。

「じゃあ俺も姐さんと…」

「あんたは生々し過ぎるのよ」

続こうとしたクルツの顔面をマオの裏拳が捉える。

全員と集合するように停止しているそれぞれのASは、どれも目に見えて激しい損傷をしてくたびれていた。

「そんな事の前にしっかりと休暇を取る事だな。
お前たちの戦いはまだまだ続くんだ」

厳しく言い放つクルーゾーも、今ばかりは疲れているのが表情から伺える。

「みんな疲れてるって事ね。
あたしとまどかはここまで走ってきただけなんだけど」

かなめもしっかりとついて来ていた。

「本当にみんな…お疲れ様!
ほむらちゃんも、今までありがとう」

まどかは泣き笑いの様子で全員を労う。

「今まで…って、なんで今になって?」

ほむらはまどかの台詞に違和感を覚える。

「そ、その〜、かなめさんから全部聞いた…から…」

少し申し訳なさそうにして笑う。

ほむらがかなめを見ると、気まずそうに目を逸らされた。

途端になんだか恥ずかしくて、釣られて笑った。

「あ、あの〜、すみません、いい雰囲気なのにちょっとだけいいですか…?」

聞き覚えのある声。

「あら、テッサさんも来ていたんですか?」

マミが第一に気が付く。

「はい、この一連の話に決着を着けに」

見れば、その肩にはインキュベーターが乗っている。

「それでテッサ、話ってなんだい?」

明るい様なよく分からない声で、インキュベーターはテッサに聞く。

「前に言った『取引』の事です」

一呼吸つけると、テッサはこう続けた。

地球上の魔女の消滅と、現存する魔法少女の全ての契約を解除。
契約時の願いはそのままで。
こちらから差し出すのは、ラムダ・ドライバについての資料情報。


文面だけ並べれば、明らかにインキュベーターが損をする様な内容だ。

「やれやれ、君は僕たちを馬鹿にしているのかい?」

当然の切り返しだ。

「そうですか?貴方たちには一生作る事のできない技術ですよ?」

テッサはあくまで譲らない。

「確かに、そうとも言えるね」

「それに貴方がたの目的がエネルギーならば、この技術の応用で賄えるんじゃないでしょうか?」

ラムダ・ドライバは何もない空間に力場を発生させる事ができる。
テッサの言うとおり、上手く応用すれば新たなエネルギー源となるかもしれない。

「まあ、もしここでNOと言えば…そうですね、今ここから魔法少女の殲滅を始めます」

軽い口調で冗談のように言うが目は真剣だ。

全員に緊張が走る。

テッサとインキュベーター、二人が睨み合う。

沈黙。

「やれやれ、僕が降りなければならないようだ」

「理解が早くて助かります」

意外にも、折れたのはインキュベーターだ。

「あのワルプルギスを倒してしまったんだ。
君にはそれを実行するだけの力がある。嘘を言ってる様にも見えなかったよ」

その宣言で緊張から解放された。

「ならば交渉成立ですね。約束は守りますよ」

テッサもようやく表情が落ち着く。

「それじゃあみんな、ソウルジェムを掌に載せてくれ」

全員が言われた通りにソウルジェム取り出す。

インキュベーターが目をつむると、彼女たちの魂は光の粒となって消失した。

「よし、できたよ。魔女ももう居なくなった、君たちは晴れて普通の少女だ」

実にあっさりと終わった。

「それじゃあインキュベーターさんはこっちへ。
こちらからの差し出しを渡しますので」

そう言うとテッサはインキュベーターを肩に乗せて全員に背を向けて去る。

「あの力を、あいつに渡してもよかったの?」

ほむらはこの中で一番詳しそうな宗介に聞く事にする。

「ああ、どうせ上手くは使えんさ」

妙に自信満々に宗介は答える。

「それもそうね」

ほむらは安心すると、元魔法少女たちを見る。

普通の少女となった彼女たちは喜んでいた。
当然だろう。

「私…もう戦わなくても、いいの…?」

マミは号泣している。
この中で最も長く戦っていた反動だろうか。

「さて、魔法が使えなくなってあたしは悪さなんてできなくなっちまったな…」

反対に杏子は自嘲気味に笑う。

「キョーコが危ないことしないなら、ゆまは嬉しいな」

相変わらずゆまは杏子にぴったりとくっついている。

「あたしたちは、マミさんや杏子と比べてキャリアが短いから実感がわかないかも…」

比較的に短期間だった、さやか、キリカ、織莉子は冷静だ。

「何はともあれ、ハッピーエンドって事でいいのかい?」

特に変わる事のない<ミスリル>の四人とかなめは暖かく見守る。

「そう…ね」

ほむらは少し息苦しさを覚える。
魔法がなくなった事によって、持病を抑えられなくなったからだ。

それでも以前よりかはマシだ。

「ほむらちゃん、大丈夫?」

「ええ、問題ないわ」

その場に座ったまま答える。

今はそんな事よりも、この晴れた空を見上げていたかった。

それから時間が過ぎて


平穏を取り戻した彼女たちは、各々のあるべき姿として再び日常を謳歌していた。

巴さんは、一人暮らしと辛い環境でも学校生活を楽しんでいる。
三年生って都合から、会える時間は限られているみたいだけど、本人は楽しそうにしていて何よりだわ。

次にさやか。
彼女も少し前と同じ…契約する以前と同じ様にしている。
唯一変化があったのは、仁美と上條くんの三角関係。
魔法少女としていた時は死活問題だったけれど、今は青春の一ページ、と言った所かしら。

全員の中でも意外な選択をとったのが、杏子。
自分の居場所がない、そう宣言して向かった所は<ミスリル>の訓練キャンプ。
勿論、宗介やクルツさん、マオさんにクルーゾーさんからも反対をされたわ。
「若いんだから人生を無駄にするな」って。
それでも彼女は聞かなかったから、とりあえずは訓練キャンプで適性調査をする事になったの。
この年代にしては経験も豊富だったし、魔法少女の活動で戦闘もこなせていたのだから、チャンスはもしかしたらあるかもしれないわね。

次にキリカさん。
元々は引きこもり気味だったけれど、今はあのテンションのまま学校に再び通うようになったみたい。
学年が同じ巴さんとは上手くやっているようね。
性格もあってなのか、後輩の女子に良くモテるみたいで、噂だとファンクラブが存在しているとか。

次に織莉子さん。
彼女だけは学校が違うけれど、彼女もまた通い始めたよう。
今は父の無実を晴らす為に色々奮闘しているらしいわ。
それと広大過ぎる家に、元の貯蓄もあった事、それと何だかんだで人望があったからか身内の方にも養ってもらえているみたいだから、ゆまちゃんと一緒に生活をしている。
これは生活環境から杏子に責任を押し付けられたような面があったから。

ゆまちゃんは前述の通り美国家の一員となって日々生活の最中。
幼いながらも苦労をしそうではあるわ。

SRTのメンバーは、あの後は少しだけ見滝原に滞在した後は全員に別れを告げて去って行った。
杏子は必死になってそれについて去ってしまった。
最後にクルーゾーさんの言っていた、
「押し出す場面にあの台詞とは……分かっているな、暁美」
とは何だったのだろうか。
その事は正直無我夢中であまり記憶になかったりする。

そして最後に、当の私は。

「ごめーん、ほむらちゃん待たせちゃった?」

「いえ、そんな事はないわ」

少しの息苦しさを時々感じる事もあるけど、心臓病は快方に向かっている。
今日はまどかと出掛ける約束の日だった。

「よかった。今日はどうしようか?」

「まどかに任せるわ」

周囲からはよく、お似合いのカップルだと言われるけれど、どうなのだろうか。
確かに私はまどかの事が好きだけれど、彼女からしたら迷惑なのかもしれない。
決してそんな事を言う子ではないけれど。

「でも、少しだけ休ませてもらってもいいかしら?」

「ほむらちゃん、大丈夫?」

それでも心臓は言う事を聞いてくれない。
今までは魔法でなんとかしていた分、余計に鬱陶しくさえ思える。

「ええ、これがありのままの私なんだから、しっかり受け止めないと」

少しだけ嘘を吐いた。
ありのままではない。
でも昔のようになれるとは思わなかった。
紆余曲折があって、まどかを守る為にやっていた筈なのにこちらが地になってしまったのだから。

「まだ、魔法があるならなぁ…あ、ち、違うよ?別に変な意味じゃないの。ほむらちゃんが辛くないようになればな〜、なんて思ってたりして」

今のはきっと、まどかなりに気を遣ってくれた発言だと思う。
それでも私はしっかりと今を見据える。

「ふふっ、ありがとう、まどか。
でも大丈夫よ」

そこで私は一息だけ置いて次の台詞を用意する。
きっとそれは告白のようで、少し恥ずかしくて痛々しいかもしれない。
けれど、私の本心だから。



「貴方さえいれば、魔法なんて私には要らないから」



この先の未来がどうなるかは、誰にもわからない。
それでもきっと素晴らしい明日があると信じて前へ進んで行こうと、私はそう決意した。


以上でこのSSは終わりになります。
見てくださった方々に感謝。

色々ご都合が激しかったり、終わらせようと言った期間に終わらなかったりしましたが、無事に完結できてよかったです。

ありがとうございました!

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