給湯器「10分ほど待ってくださいね」
男「!?」
給湯器「今日は寒いですねー」
男「しゃ、喋った!?」
給湯器「ビックリしました?」
男「そりゃもう!!」
給湯器「あ、蓋しなきゃ温くなっちゃいますよ」
男「あ、ああそうだった……」ガラガラガラ
給湯器「あ、貴方が毎週観てるアニメ、始まったみたいですよ?」
男「あ、ああ」
給湯器「見逃しちゃいますよー」
男「今はそんな場合じゃない」
給湯器「まぁお気持ちは分かりますけどとりあえずアニメ観てきたらどうです? お風呂のときにゆっくり話しましょうよ」
男「……」
給湯器「オープニング終わっちゃっいましたよー」
男「ま、まぁじゃあまた後で」
給湯器「はーい」
━━
━━━
━━━━
チャララララーン♪
給湯器「お風呂が沸きました」
男「……全然アニメの内容が頭に入ってこない」
男「……」
男「もういいや、入ろう」
ガチャッ
給湯器「あれっ? まだアニメ終わってないですよね?」
男「あぁ。 録画したやつ観るからいいよ」
給湯器「そうですか」
男「シャワー冷たい」
給湯器「すぐ温かくなりますから我慢してください」
給湯器「……前から思ってたんですけど」
男「何?」
給湯器「シャンプーした後、もうちょっと濯いだ方がいいと思いますよ」
男「え? 別に残ってる感じはしないけど……」
給湯器「それだときっとシャンプー残ってますよ。 男さんはそろそろ髪に気を配った方がいいと思います」
男「え……まさか俺……禿げてきてる?」
給湯器「いえ。 今はまだ大丈夫ですが、こういうのは早めに対処しておいた方がいいと思いますよ」
男「……ありがとう」
男「ふぅー……」
給湯器「湯加減はどうですか?」
男「いつもと同じでバッチリ」
給湯器「それは良かった」
男「……で、なんで君は喋るようになったの?」
給湯器「……モノを大切にすると、魂が宿ることがあるそうです」
男「……俺、君を大切にしてたかな?」
給湯器「いつも話しかけてくれてたじゃないですか。 すごく嬉しかったですよ」
男「一人言聞かれてたのか……すげぇ恥ずかしい……」
給湯器「高温足し湯のボタンを押したのに『熱い!』って文句言われたときはちょっとイラッときましたけどね」
男「ごめん」
給湯器「まぁ実際のところ原因はわかりませんが、魂が宿ってしまったものは受け入れてください!」
男「うん」
給湯器「受け入れ早いですね?」
男「まぁねー」
給湯器「それはそうと今日はちょっと長風呂じゃないですか? いつもはカラスの行水なのに」
男「うん。 そろそろ限界だから上がるよ」
給湯器「すみません。 なんだか貴方と話出来るのが嬉しくてつい話し込んじゃって……」
男「……」
風呂場で寝よう(提案)
布団(男さんが来ない…)
もっと大事にすれば擬人化できるんじゃないか(白目)
はよ
━━
━━━
━━━━
ピッ
給湯器「お湯張りをします」
男「おう、頼むよ」
給湯器「あれ? 今日はいつもより早いですね?」
男「うん」ピッピッピッ
給湯器「給湯温度を38℃に変更しました」
給湯器「……今日はいつもよりずいぶんと温くするんですね」
男「うん。 今日からちょっと長風呂しようと思って」
給湯器「? 熱いお風呂が好きな男さんがなんでまた」
男「君ともっと話したくて」
給湯器「えっ!」
男「じゃあ晩御飯食べてくるよ」
給湯器「は、はい」
期待
期待
男「さぁーお風呂だお風呂だ!」
給湯器「それ何ですか?」
男「ただのタオルだよー」
給湯器「あら珍しいですね」
男「それっ!!」ジャボーン
給湯器「あれ? 今日は身体洗う前に湯船に浸かるんですね?」
男「うん。 どうせ俺しか入らないし汚くてもいいかなーと思って」
給湯器「そりゃまぁ誰も咎めませんけど」
男「ほらほら見て見て!」
給湯器「……何ですか?」
男「くらげ!!」
給湯器「……」
男「給湯器さんさー」ピュッ
給湯器「ちょっと……水を飛ばさないでください」
男「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
給湯器「はい? なんでしょう」
男「あのさ……俺たまに風呂場でさ」
給湯器「……はい」
男「その……一人遊びをしてるわけじゃん?」
給湯器「……はい」
男「その……やっぱり見てたよね……」
wktk
キタタタタタタタタタ━(゚(゚ω(゚ω゚(☆ω☆)゚ω゚)ω゚)゚)タタタタタタタタタ━!!!!!
キタ Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒(。A。)!!!キタ━━( ゚∀゚ )━( ゚∀)━( ゚)━( )━(゚ )━(∀゚ )━( ゚∀゚ )━━!!!!
給湯器「ま……全く見てないわけではないですけど……」
男「……だよね」
給湯器「は、始まったら目を瞑ってました」
男「目!? どこどこ?」
給湯器「あ、いえ目はないんですけど。 例えですよ! とにかく見ないようにしてました!!」
男「……ごめん、もう風呂場ではしないよ」
給湯器「わ、私相手に気を遣うことないんですよ! ただ排水口が詰まらないかなーと心配で……」
男「大丈夫。 その辺の対処は心得てる」
給湯器「そうなんですか?」
男「中坊の頃に痛い目見てるから」
給湯器「……そうですか」
一人遊びって
もしかして
「オナ(ry」
男「給湯器さん好きな食べ物は?」
給湯器「そんなもの無いですよ……」
男「そっか。 いつも休日は何してる?」
給湯器「お湯を張ってます。 知ってるでしょう」
男「まぁ知ってるけど。 趣味はなーに?」
給湯器「そんなのありませんよ……何なんですか一体」
男「いやーせっかく会話出来るようになったんだからいろいろ話したくて!」
給湯器「そういうテンプレは人相手にしか通用しないですよ」
男「だよね」
給湯器「あ、でも」
男「なに?」
給湯器「さっき趣味は無いって言っちゃいましたけど」
男「うん」
給湯器「こうやって貴方と会話するのはとても楽しいです」
男「……俺も!」
給湯器「男さん、好きな食べ物は何ですか?」
男「唐揚げ!」
給湯器「普段休日は何してますか?」
男「大体部屋でダラダラしてる」
給湯器「趣味は?」
男「散歩かなー」
給湯器「……まだ若いのになんだか落ち着いてますね」
男「まぁね」
男「シャワーってさぁ、普通下向いて浴びるよね?」
給湯器「少なくとも男さんはいつもそうしてますね」
男「映画とかだとさ、上向いて浴びることが多々あるよね?」
給湯器「見たこと無いから知りませんけど」
男「あれは俺が思うに見た目が良いからだと思うんだ」
給湯器「確かにちょっとカッコいいかもしれませんね」
男「どう? カッコいい?」ザー
給湯器「やっぱ俳優が良くないと駄目ですねー」
男「うわ! 鼻に水入った!!」
給湯器「……」
男「くそぅ……もうのぼせた……」
給湯器「大丈夫ですか?」
男「うん……ごめん、もう上がるね」
給湯器「気をつけてくださいね」
男「じゃあまた明日」
給湯器「はい、また明日ー!」
━━
━━━
━━━━
男「今日は……焼きそばにするか」
男「げ、キャベツ傷んでる……」
チーン
男「はいはい今行きますよー」
給湯器「……男さん電子レンジにも話しかけてるんですね」
男「うわっ!?」
給湯器「そのキャベツ、やめといたほうがいいんじゃないでしょうか」
男「そっか、キッチンにも給湯器のリモコンあるんだもんな……」
給湯器「換気扇付けないと部屋に臭いが付いちゃいますよ」
男「じゃあ部屋でも話せるんじゃないか」
給湯器「1Kのお部屋ですもんね」
男「なんで今まで言ってくれなかったんだ」
給湯器「だってスイッチ入れてくれなかったじゃないですか」
男「あぁ昨日一昨日とお湯使わなかったからな……でもお風呂で言ってくれればよかったじゃないか」
給湯器「だ、だって」
男「まぁいいや。 これから付けっぱなしにするからよろしく!」
給湯器「よ、よろしくお願いします」
男「いただきまーす」
給湯器「召し上がれ」
男「君が作ったのか」
給湯器「テレビちゃんと見るの初めてですねぇ……新鮮です」
男「どう? 面白い?」
給湯器「クイズは苦手ですね……」
男「まぁ仕方ないね。 あ、コロンビア!」
給湯器「おーお見事!」
男「ごちそうさまでしたー」
給湯器「お粗末さまでした」
男「君が作ったのか」
給湯器「あ、テレビ終わった。 面白かったなー」
男「さて、早いとこ洗い物やっちゃおう」
男「冷たいよー早くお湯出してよー」
給湯器「あと少し待ってください」
男「早くー」
給湯器「急かされても私にはどうすることも出来ませんよ」
男「あ、じんわり温かくなってきた」
男「今日はお湯の量を少なくしてー」
給湯器「半身浴ですか?」
男「うん。 もっと長いことお風呂に入っていたい」
給湯器「別にスイッチさえ入れてもらえば部屋でもお喋り出来るんですよ?」
男「そうなんだけどさ、やっぱり君と会話するのはお風呂が一番楽しい。 部屋よりも近くでお喋りできるし」
給湯器「……そうですか」
男「じゃ、お願いしまーす」
給湯器「はい。 お湯張りをします」
男「よっしゃーお風呂だお風呂!」
給湯器「あ、それ何ですか?」
男「ビール! 偽物だけど!」
給湯器「アルコールとお風呂の組み合わせは危ないですよ!」
男「そうなの?」
給湯器「それで気を失って、お風呂で溺れる人は多いのだとか」
男「どこで知ったそんなこと」
給湯器「……やめときません?」
男「……そうだね、やめとく」
給湯器「ありがとうございます!」
男「なんでありがとう? お礼を言うのはこっちだよ。 ありがとう」
給湯器「え……ど、どういたしまして?」
給湯器「タバコ吸ったらどうです? たまにお風呂で吸ってるでしょう?」
男「え……でも今は君がいるし」
給湯器「私はずっといましたよ」
男「……ごめん」
給湯器「いや謝って欲しいわけではなくてですね! 私相手に気を遣うことなんてないんですからどうぞ吸ってください」
男「……君、匂いってわかる?」
給湯器「……視覚がありますからね。一応嗅覚もあります」
男「ならやっぱり悪いよ」
給湯器「私結構タバコの匂い好きですからお構いなく!」
給湯器「……まぁ吸って欲しいわけではありませんが。 身体にいいものじゃありませんからね」
男「そうだね」
給湯器「あ、でも男さんが吸いたかったら別にそれは全然構わないんですよ! ……うーん、なんて言ったらいいんだろう」
男「……」
給湯器「私のためにタバコを吸うのをやめる必要はないんですからね。 所詮私は給湯器なんですから、給湯器相手に気遣うことなんて何も無いってことです!」
男「……よし、タバコやーめた!!」
給湯器「えぇ!? は、話聞いてました!?」
男「俺の身体を気遣ってくれる女の子がいるんだもん。 これはもうやめるしかないよ!」
給湯器「わ、私は人間じゃないんですよ? 給湯器の言葉に耳を貸す必要なんて全くないんです」
男「誰の言葉に耳を貸すかは俺の勝手!」
給湯器「そ、そう言われればそうなんですが……」
男「俺は今すごく嬉しかったんだ。 タバコやめたら君も嬉しい?」
給湯器「ま、まぁ……貴方が健康なら私は嬉しいです」
男「それなら俺は今日からタバコも吸わないし、風呂場でお酒も飲まないし、傷んだキャベツも食べない!」
給湯器「……すみません、そんなつもりじゃ」
男「そんなつもりじゃないのはわかってるよ。 これは俺がしたくてすることだから君はなーんにも気にしなくていいよ」
給湯器「そ、そうは言っても……」
男「お互い何も気にすることは無し! お互い何も相手に気を遣わせてない! わかった?」
給湯器「……」
給湯器「……はい!」
惚れてまうやろっ!!
男「Someday love will find you♪」
給湯器「Break those chains that bind you♪」
男「あれ!? この歌知ってるの?」
給湯器「男さん、よく風呂場で歌うじゃないですか。 知ってますよ、良い曲ですよねー」
男「な、なんかスティーブペリーに申し訳ないな……」
給湯器「The show must go on♪ ってやつも好きです」
男「偉大なるホモに申し訳ないな……そうだ、散歩の他にカラオケも趣味なんだ」
給湯器「男さん歌上手いですもんねー!」
男「……ちょっと待ってて」
給湯器「?」
男「じゃーん!」
給湯器「そ、それ携帯じゃないですか? 大丈夫なんですか? 風呂場に持ち込んで」
男「このスマホ防水だし、ジップロックに入れてるし平気だよ」
給湯器「で、なんでまたそんなものを」
男「いやーちょっと給湯器さんにも歌覚えてもらおうと思って」
給湯器「はい?」
男「さっき聞いた限りでは給湯器さん、すごく綺麗な歌声だったから!」
給湯器「え、ええ?」
男「とりあえずこれ覚えてくれない?」
給湯器「あら……すごく綺麗な歌声……」
男「頼んだよ! 給湯器の歌聞きたい!」
給湯器「……が、頑張ります!」
給湯器「……英詩はやめません?」
男「給湯器さん英語苦手?」
給湯器「聞き取りが苦手です……」
男「俺の歌は聞き取れてたじゃないか」
給湯器「あんなのほとんど日本語じゃないですか」
男「む……」
給湯器「rの発音は舌先を口蓋に付けないんですよー」
男「よく知ってるな。 あ、じゃあこれなんかどうかな」
給湯器「あ、これ聞いたことあります。 男さんが観てたアニメの主題歌ですよね!」
男「そうそう」
男「そろそろ上がるね」
給湯器「はい、ではまた明日!」
男「部屋でお喋りしないの?」
給湯器「え、いいんですか?」
男「もちろん!」
給湯器「嬉しいです! 部屋で待ってますね!」
男「すぐ行くよ」
男「ふぅー……良いお湯でした!」
給湯器「そう言ってもらえると嬉しいです」
男「映画観ようか」
給湯器「おーいいですね! 何観ますか?」
男「リング」
給湯器「知らないですねー。 どんなジャンルですか?」
男「ホラー」
給湯器「!」
プルルルルル
給湯器「っ!」ビクッ
男「おーきたきた」
給湯器「む、無言電話……」
男「最近ビックリ系のホラーばっかりでこういうゾクッとした演出少ないよなぁ」
給湯器「……あ、あの」
男「何?」
給湯器「……いや、何でもないです」
給湯器「しょ、正気じゃないですよこの人達……」
男「リングのこの水の表現って良いよなぁ。 ただの水だって分かってるのにすげー怖い」
給湯器「ほ、本当に怖がってます?」
男「まぁまぁ」
給湯器「ひゃあっ!!」
男「髪の毛の表現も素晴らしい」
給湯器「はぁ……はぁ……」
男「怖がってるねー!」
給湯器「苦手なんですよ、怖いの……。 でもまぁこれで解決したんですから、もう終わりですよね」
男「甘いな」
給湯器「!?」
給湯器「うわあああ!!!」
男「原作には無いんだよなーこの表現」
給湯器「て、テレビ消してくださいっ!! お願いします!!」
男「ヤダ」
給湯器「やだぁ! こっち来ないで!!」
男「映画より君の方が面白いよ」
給湯器「いやああああっ!!」
給湯器「お、終わった……」
男「いやー面白かった!」
給湯器「……わ、私明日からしばらくお湯入れなくていいですか?」
男「いや入れてよ」
給湯器「怖いんですよ……水が……」
男「まぁどうしてもって言うならしばらく銭湯行くけど」
給湯器「あ、いや冗談です……頑張って仕事します……」
男「別にいいんだよ? 君が怖がるの、俺は楽しんでたし」
給湯器「……意地でもお湯張りします!」
男「そろそろ寝るね」
給湯器「はい、おやすみなさい」
男「子守唄歌ってよ」
給湯器「え?」
男「聞きたい気分なんだ」
給湯器「……らーらららーらーらーら」
男「あれ? この歌知ってるの?」
給湯器「歌詞はうろ覚えですが」
男「……かなりローカルな歌なんだけどなぁ」
給湯器「……」
男「……懐かしいなぁ…………」
━━
━━━
━━━━
男「今日寒いなぁー。 ちょっと温度高めでお願い」
給湯器「はいよ! お湯張りをします」
男「そろそろ君が喋るようになってから一年目?」
給湯器「そうだねー」
男「今や半身浴は立派な趣味になっちゃったよ」
給湯器「乙女か!」
給湯器「……キミ、この一年夏もちゃんとお湯入れてくれたよね」
男「うん」
給湯器「嬉しかったよ。 今までは夏の間はすることが無かったからね」
男「夏に湯船に浸かるって結構良い物なんだね。 知らなかったよ」
給湯器「私が入れたお湯はいつだって最高だよ!」
男「そうだね」
男「……あれ?」
給湯器「?」
男「……湯気が立ってない」
給湯器「あれ? ホントだ」
男「……冷たい」
給湯器「……ほんと?」
男「……」
給湯器「……故障だね」
男「……えっと、説明書に確かこういうトラブルの対処法が載ってたハズ」
給湯器「……」
━━
━━━
━━━━
男「……駄目だ、どれ試してもお湯が出ない」
給湯器「……多分寿命だね」
男「……」
給湯器「業者に電話したよね? どうだった?」
男「……多分交換だろうって」
給湯器「……だろうね。 自分のことくらいわかるよ」
男「……」
男「……いいや、今日から水風呂でも」
給湯器「は?」
男「今日からシャワーも水でいいし、湯船も水風呂でいいよ」
給湯器「……何言ってんの?」
男「俺全然平気だよ!」
給湯器「体壊すに決まってんじゃんそんなの」
男「……でも」
給湯器「駄目。 交換しな」
男「……」
給湯器「お金、無いの?」
男「……大家さんが出してくれるっぽい」
給湯器「業者さんいつ来てくれるって?」
男「……明後日」
給湯器「……早いね」
男「……ねぇ、やっぱりさ」
給湯器「駄目ったら駄目。 もしこのまま交換しないってんならもう二度と口聞かない。 ずーっと寝てることにするよ。 ただの給湯器に戻る」
男「……」
給湯器「ねぇ、キミといた一年間、楽しかったよ」
男「……俺もだ」
給湯器「そもそもがこんな出会い普通は無いんだ」
男「……そりゃな」
給湯器「楽しい一年を送れてラッキーだった! そんな軽いノリで行こうよ!!」
男「……割り切れないよ」
給湯器「……」
男「一年間も近くにいたんだよ。 誰よりも近く。 長いよ、一年は」
給湯器「……私、喋らない方がよかったですね」
男「まさか! そんなことを言ってるんじゃない! でもさ、でもさ……! 」
給湯器「……うん」
男「……駄目かな、水風呂に入っちゃ」
給湯器「駄目ったら駄目」
男「……そっか」
給湯器「私だって寂しいけどさ。 私は機械だからね。 いつかは別れのときはくるもんだ」
男「……」
給湯器「……泣かないでよ。 私だって泣きたいんだ」
男「……ごめん」
給湯器「……とりあえず今日は銭湯でも行ってきたら? 広い湯船浸かったら気持ちいいよ」
男「……君以外のお湯なんて」
給湯器「嬉しいけどさ。 いいから入っておいでよ。 湯船の広さばかりは私にはどうするわけにはいかないし」
男「……うん」
給湯器「帰ってきたらまた存分にお話しよう!」
男「……うん」
男「……エンジン温まるの遅い。 寒い。 給湯器さん優秀だったんだなー」
男「……妹呼ぼ」
プルルルルル
ガチャ
妹『もしもーし!』
男「あ、今から銭湯行かない?」
妹『急にどうしたの? 奢りならいく!』
男「奢るよ。 じゃあ今からお前んちまで行くから」
妹『はいはーい! 待ってるよー!』
面白いよ
俺ボイラー技師の免許取ってくるわ
男「えーと……あの辺一通多くて未だによくわかんないんだよな」
男「あった『妹のアパート』」
カーナビ「案内を開始します。 実際の交通規制に従って走行してください」
男「うん。 頼んだよ」
カーナビ「……」
男「……虚しいな」
男「俺はこれから誰と会話すればいいんだろ……」
ピンポーン
男「おーい、来たぞー」
妹「あ、お兄ちゃん? 鍵開いてるから上がってー」
男「まだ準備出来てないのか? お邪魔しまーす」
妹「ちょっと待って。 なんか今なら呪縛者倒せる気がするの」
男「……なんでゲームやってんだ」
妹「いやー今何かを掴んだよ。 この感覚が残ってるうちに倒しちゃいたいの!」
男「……まぁいいけど」
妹「そういやさーなんで急に銭湯?」
男「……うちの給湯器お湯出なくなっちゃって」
妹「あー壊れたのかー」
男「……」
妹「それならうちの風呂入ればいいじゃん。 給湯器が直るまではお湯出ないんだし、毎日銭湯行ってたら結構お金かかるよ」
男「いやもうお前誘っちゃったし。 行きたいだろ? 銭湯」
妹「また今度でいいよ。お兄ちゃんが行きたいなら行くけど」
男「じゃあここの風呂借りようかな」
妹「うんいいよー」
男「……あっついお湯に浸かりたい気分だし」
妹「お兄ちゃん昔っから熱いお風呂好きだったよねー」
男「……そうだったな」
妹「私もお母さんもそのままじゃ入れなかったんだよ? お兄ちゃんとお父さんは平気で入ってたけど」
男「まぁお前が入るときは水でも足してくれ。 俺が先に入る」
妹「言われなくてもそうするよ」
男「じゃあお湯入れてくる」
妹「はいよー。 さぁ、勝つぞー!!」
男「……あいつこんな温い風呂入ってんのか」
男「うりゃうりゃうりゃ」ポチポチポチ
給湯器「給湯温度を46℃に設定しました」
男「うりゃ」
給湯器「お湯張りをします」
男「おう頼んだ」
給湯器「10分ほど待ってねー」
男「!?」
シャベッタアアアアアアアアア
男「しゃ、喋った!?」
給湯器「なーにを今更。 給湯器と一年も会話しておいて」
男「だ、だってそれは君じゃない!」
給湯器「いや、私だよ。 この一年で覚えた歌、歌ってみようか?」
男「え、え、本当に君なの?」
給湯器「そうだよ。 キミがたまに風呂場で一人遊びすることも、ホラーが好きなことも、散歩とカラオケと半身浴が趣味なことも知ってる私だよ!」
男「……な、なんで」
給湯器「私ねー給湯器を介せばどこでも喋れるみたい」
給湯器「キミが話しかければ、どこの給湯器だろうとさ」
男「……君は一体なんなんだ?」
給湯器「さぁー。 そんなの最初からわかんなかったじゃない」
男「……まぁね」
給湯器「給湯器を司る精霊みたいな?」
男「なんだそのニッチな精霊」
男「……俺の妄想なのかな」
給湯器「え?」
男「君はそもそも俺の妄想で、本当は君はいないんじゃないかって」
給湯器「あぁー……キミの立場からしたらそう考えるのも無理ないね」
男「だって君は君が聞いたことがないハズの子守唄とか知ってたじゃん。 それはやっぱりさ……」
給湯器「……そうだね。 聞いたことがないハズのrの発音とか知ってたけどさ」
給湯器「でも私の立場からしたら、私が実在しないなんて言えないんだよ」
男「……」
給湯器「だって、私が今考えてることがわかる? わかんないでしょう」
男「……今日はずいぶん熱いお湯入れるなーとか?」
給湯器「残念、キミに関することを考えてた。 結構前から、ずっと考えてた」
男「……どんなこと?」
給湯器「そ、それは……」
妹「お兄ちゃん!! 倒した!! 呪縛者倒したよ!!!」
給湯器「あ、この娘が妹さん? 可愛い娘だねー」
妹「き、給湯器が喋った!!?」
男「!」
給湯器「初めまして!」
妹「は、初めまして……?」
給湯器「ほら、他の人にもちゃんと私の声が聞こえてる」
男「……」
給湯器「キミの妄想じゃないんだよ」
男「……そうみたいだな」
妹「……私、ゲームのやりすぎかなぁ」
給湯器「お風呂が沸きました」
男「ほら、俺風呂入るからお前出てけよ」
妹「あ、うん……」
給湯器「後でいろいろ話そうね、妹ちゃん!」
妹「は、はい……」
男「ふぅー……」
給湯器「……」
給湯器「……まぁ、多分私はキミが生み出した何かなんだろうね」
男「……」
給湯器「給湯器を介して話すことが出来る何か」
男「……君はどの給湯器だろうと、表れてくれるんだな?」
給湯器「うん。 キミが呼んでくれれば」
男「それだけ分かればいいよ。 良かった」
男「君とまだ一緒にいられるんだ……」
給湯器「うん」
男「……本当に、良かった…………!」
給湯器「え、何、泣いてるの!?」
男「泣いてない!」
給湯器「だって目が赤いよ?」
男「君こそ泣いてるんじゃない? 上から水滴が落ちてきてる」
給湯器「それは単なる結露! 私は何も関係ない!!」
男「なんか不規則にお湯が出てきてるんだけど。 動揺してる?」
給湯器「う、うるさい!」
男「照れなくていいのにー」
給湯器「熱い、お湯が出ます」
男「熱っ!! ちょ、熱い!!」
男「ねぇ」
給湯器「んー?」
男「結婚してよ」
給湯器「は!?」
男「結婚してください」
給湯器「ちょ、ちょっと何言ってるかわからないです」
男「結婚って知らない?」
給湯器「し、知ってるけど!」
男「じゃあ何がわからないのさ」
給湯器「だって無理じゃん!!」
男「そりゃまぁ法的には無理だけど」
給湯器「問題はそこだけじゃないよ!」
男「要は互いに、健やかなるときも病めるときも、喜びのときも悲しみのときも、富めるときも貧しいときも、愛し、敬い、慰め、助け、その命ある限り真心を尽くせばいいわけだ」
給湯器「……え、えっと」
男「俺は誓うよ!」
給湯器「……私何にも出来ないよ?」
男「俺を愛してくれて、あったかーいお湯を入れてくれれば十分すぎるよ」
給湯器「……キミを愛した上でいろんなことしてくれる女の子はこの先きっと現れるよ?」
男「うるさい、俺は君がいいの」
給湯器「……後悔しない?」
男「もちろん!」
給湯器「じゃ、じゃあ、よろしくお願いします!」
男「おう!」
給湯器「浮気したら二度とお湯入れてやらないからね!」
男「するもんか!」
男「どこにキスしたらいい?」
給湯器「えっ」
男「やっぱ口はスピーカー部分かな」チュッ
給湯器「……!///」カァーッ
男「熱い!! お湯止めて!」
給湯器「な、なんだか身体が熱いよ……」
男「風呂が熱い!! シャレにならない!!」
fin
乙
こういうの好き。ほっこりした
おつや
イマジナリーフレンドとかいう夢も希望もない終わり方だったらどうしようとひやひやした
乙!
乙
このSSまとめへのコメント
いい話だったなー
基地害じみてる
あぁ^~いいっすねぇ
割と良かった。
いいなぁ~
なにこれおもろ