暦「全員のを、揉んでみるか……」(416)

「……は、はあ?」
羽川が顔を上げた。

季節は夏。
僕が戦場ヶ原に監禁されたり、
ファイヤーシスターズが色々とトラブルを起こしたりした、少し後の話である。

「え? ああ、ごめん羽川。 独り言だよ」

場所は阿良々木家の、僕の部屋。
いつも通り受験勉強の真っ最中である。
そう、僕は真面目な受験生なのだ。


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真面目な受験生らしく勉強はしているけれど、
もしかしたら、無意識に溜まったストレスによって
良からぬ発言をしてしまうことも、たまにはあるかもしれない。
いつだったか、「ツイッターだけはやるな」みたいなことを言われたことがあったなあ。

「あのね、私には『全員のを揉んでみるか』って聞こえたんだけど」

「いやいや、そう聞こえたのかもしれないけれど、だから、僕の独り言だって」

「独り言でもどっちにしろ危険な台詞だと思うんだけど………。」

「どこを揉むって?」

しかも言ったことを否定しないんだね、と羽川。

激しく期待してる

「……あー、羽川。 僕勉強しすぎて疲れちゃったよ」

「え?」

「ちょっと八九寺と会ってくる」

「待ちなさい」
がしっ。
羽川クロー。
勉強机を跨いだ猫の爪が、僕のシャツに食い込む。
おいおい羽川、随分と行儀が悪いなあ。

「ど、どうしたのですか羽川さん。」
口調が普段と違っておりますが、どうかなされたのでしょうか?
僕は極めて冷静に、いつも通り答えた。

「……様子がおかしいのはどう見ても阿良々木くんだよね。 嫌な予感しかしないんだけど」

「だって休憩をとることも効率を上げるにはいい手段だって、羽川が」

羽川翼。
僕の家庭教師の役目を担っている。
素晴らしい頭脳と、あと胸を持った委員長である。
今は机を乗り越えて僕に掴みかかっているため、やや前傾下姿勢である。
ぶっちゃけると胸元が見えるのだ………なんていうことはなかった。
流石に僕の考えなんて予想済みなのだろう。
露出が少ない、色気のない服装である、ちくしょう。

「勉強に休憩は必要なものとして阿良々木くん。 確認するね?」

「ああ」

「阿良々木くんは、八九寺ちゃんに会いに行きます」 

「そうだ。 たまに無償に喋りたくなるんだ。 大事な友達だしな。」

「うん、いいことだけど」

「この前なんか夜中に布団に入ったものの――、ほら、たまにあるじゃん。 眠れない時、ってさ。」

みんな寝てる時間だけど八九寺ならもしかしたら、と思って
パジャマのまま夜の町を彷徨ってみたんだ。

「なんていうか、随分追いつめられてるんだね阿良々木くん………」

「その時は真っ暗だから流石に会えなかったけどな………」

「うーん。 寝てたのかもしれないね、八九寺ちゃん」

「会いたかったなあ。」

夜は寝てるものなのだろうか、八九寺は。
いやいや、寝ている状態の八九寺にも会いたいけど。
寝ているってことは、何をしてもいいってこ………
おほん。
失礼した。

「それで……真宵ちゃんに会ってどうするの? どこを触るの」

「そりゃまあ、頭を撫でてあげたり。」
比較的無難な発言である。

「頭を撫でたり、ね。」

ものすごく疑ってる羽川さん。
超ジト目。

ていうか羽川、パジャマのまま夜の町に乗り出すなんてお前だってやってるじゃないか………、
と言おうとしたところで僕は思いとどまった。
羽川は怪異の、あの猫の影響でそうなってしまったわけで。

「私の事情よりもひどいんじゃかな。 女子小学生と遊ぶだけのために、パジャマ姿で徘徊するなんて。」

読まれてた。

「羽川。 僕は小学生と楽しい会話をして癒されたいだけなのさ」

他意はない。
楽しく遊ぶ過程でほんの少し胸を触ったりしてしまうだけなのだ。
僕は真摯な気持ちで訴えた。

「それはそうと羽川。 最近の小学生と地域のつながりについてどう思う?」 
「え?」

少し考え直し、言葉を選ぶ。
話をコロコロ変えるのも疲れるが、小学生繋がりということで。

「例えばさあ、『女子小学生に声を掛ける事案が発生』なんていうこともニュースになったし」

「ああ……、それは確かに問題だよね。 現代社会の、世間の考え方、捉え方が。」

要するに、大人が子供に何かをやった時点で犯罪行為扱いされてしまうのである。
女性の社会的立場が高くなったことや
ロリコンという存在、危険性が世間に知れ渡った結果。
それは、とても正論ではあるのだろうけれど。

「道を尋ねただけでも犯罪者扱いされるのは、流石に同情するよね……………」

「そうだよなあ………、こんなの、通学路とか地域の人たち全員を信用できなくなるじゃないか」

「私は阿良々木くんを信用したいな」

「おお、羽川は僕を信用してくれるのか」

「さっきの発言がなかったらね」

なおもジト目である。

というかさっきから、
羽川と小学生について話していると、頭にノイズが走るんだが………。
僕自身もよくわからない。
よくわからないが……………

( つるぺた羽川最高ーっ! )

んん?
なんだったっけこのフレーズ。
なんか、何かで聞いたような、いや、これから言う………?

( すげー ぺったんこだー )

んん?
なんだろう、とにかく意味もなく、頭をよぎった台詞だった。
僕としては、つるぺた羽川なんて想像もつかないが。

支援

まあいいや。

「とにかく羽川、そういうことなんだよ」
「えっと………どういうことなの?」

つまりだな、小学生に会うと言っただけで僕が犯罪に手を染めるのではないかと、
そう思ってしまう羽川。
お前は社会に毒されているんじゃないか?
うん、毒されているよ。
もっと純粋な羽川に。
真っ白な羽川に戻ってくれ。

「う、ううん………」

さっきから疑い過ぎである。
羽川。
え、何? 僕ってそんなに信用ならない?

羽川は僕の目を見ずに

「信用するよ。 阿良々木くん、治らないもんそういうところ。」

いつも通り丁寧な口調だったけれど、投げやりにそう言った。
これ以上疑い続けても無駄だと思ったのか、
それともこの男はもう駄目だと思ったのか、
さてどちらだろう。
それともどちらでもないのか。

「でも私たちが本当に困っている時には………」

その後は聞き取れなかった。
なんだろう。

羽川が何故か横を向いてしまったので、僕は話題を探す。

「ああ―――、そういやお菓子をもらったとか親が言ってたなあ、ちょっと持ってくるよ」

「え? 気持ちはありがたいけれど、いいよそんな。」

「お茶も入れてくる。 休憩、休憩。 でっかいほうの妹に任せると危なっかしいんだよなー」 

「阿良々木くん」

「お茶を入れたまま階段登るとか、できないんだよあいつ。
 能力的にできないんじゃなくて、無駄にアレンジすんだよ。
 お盆を頭に載せて運べるか――、とかさ」

無駄というか無謀というか。

「とにかく、僕が休憩したいだけだよ」

「阿良々木くんがそう言うのなら………、いただこうかな。」

羽川が姿勢を緩める。

「ああ、あいつらと仲良いだろ? ゆっくりお茶していけよ。」

ファイヤーシスターズとお茶ねえ………、放火後ティータイムである。
ううん。あんまり面白くないなあ。

「え? 火憐ちゃんには任せられないんじゃ?」

「ん? ああ―――、そうだったな」

僕は羽川と曖昧なあいさつを交わし、下の階へ降りて行った。

「え? 兄ちゃんがそんなこと言ってたの? 私がお盆を頭に載せてお茶を運ぶ?」

「まさかぁ。 いやいや、できるよもちろん。 それくらい朝飯前だって」

「実戦担当だからね。 ボディコントロールも重要だし、初歩だよ初歩。」

「だけどお客さんの前ではもちろん、礼節を重んじるよ。」

「だからこうやって普通にお茶を持って来たんだし。 あ、このお菓子美味しいよ」

「月火ちゃんもそろそろ帰って来るってさ」

「え? 兄ちゃん?」

「ああ――、なんか、『羽川がお前たちと話したいらしい』とか言ってたけど」

「え? 言ってない? 変だなあ………」

「うん? うん、なんか友達と遊んでくるってさ」

「なんか怖かったな兄ちゃん………。 普通を装ってたけど、これから犯罪に手を染めるような」

「いや、お兄ちゃんはそんな鬼畜じゃないと思うんだけど、雰囲気がおかしくてさ」

「ブツブツと独り言を言って………、しきりに『モンデミルカ』『ゼンインノヲ』とか」

「なんだろうね? 呪文? ああ、そっか。 最近流行りのモンハンに出てくるモンスターの名前



「阿良々木くん!!!!!!」



その日、僕はどうやら、羽川を捲いた。
というわけで、
暦「全員のを、揉んでみるか……」
はじまり、はじまり。

今日はここまでです。

おつ

期待してるよ!

楽しみだがお前の名前はツッコミ待ちかそれ

これは期待せざるを得ない

パンツが飛び散った

さすがのちくびさんクオリティやで

おつ
細かいことを言うと、羽川さんは制服で、火憐ちゃんは頭にお盆を載せても運べると思うの

腹にのっけてブリッジしながら来そうでもあるな

名前の件ですが、以前募集したところ「まどちくび一択」と言われてしまったので
今までそうしていたのですが
なんか、もっとこう………
クールでかっこいい名前ください

パイニスト

テクノブレイク

黒き漆黒の深淵

まどちくにー

アンリミテッド

おまいら・・・

じゃあ『まだちくび』で

まだちくわ

合わせてみよう
『黒き漆黒の深淵のアンリミテッドパイニスト』

難しいな。
まあまた考えておこう。
最近「ギャグ漫画日和」読んでるんだけどコレから名前もらおうかな

イナフちくび

ていうか羽川は制服だな確かに。 失念してた

始まってない!早くしろ寒い

早くしてください
パンツ履けないじゃないですか

この時期、靴下とネクタイだけじゃキツイっすよ……。

まあ、そんなこんなで僕は家を抜け出した。
その過程で、あの羽川を捲いた。

………いや、捲いたなどという言い方だと羽川を上手く出し抜いたような感じに聞こえるが、
裏切った、が正しい表現である。
だが、それでもなお。
恩人を裏切ってでもやらなければならないことが、男にはあるのではなかろうか。
そう。 
これはつまり――――、

「………大切な人を裏切る勇気ッ!」

ついこの前放送されたアニメの時と同じテンションで僕は声を上げた。
このように「勇気」という言葉を加味することによりどんな行動も格好良くなると言うことを、
僕は身を持って知ったのだった。

僕の住む田舎町を練り歩く。
歩く歩く。
歩いて、「小学生にしては発育がいい方」とされるおっぱいを探す。

「しかし、変だな………。」
感じた違和感を、素直に口に出す。

おかしいなあ。
そろそろ遭遇してもいいはずなんだが、あのピンクのリュックサックと。
………要するに、八九寺真宵のことなのだが、説明の順番が若干違うような。
今日の僕は様子がおかしい、と羽川が言っていたがまあ否定はできない。

「……………暑いな。」

夏休み。
夏休みである。
午前から勉強を始め、それなりに問題をこなしてから、家を出てきた(正確には脱出だが)。
昼食を食べていないから空腹感を覚えるかと予想していたが、
まず、ひたすら暑い。

「アイス売ってるところ、近くに合ったかな。」

そこで、ふと考える。
八九寺は気温を感じるのだろうか、と

「だとしたらあいつ、日陰に避難したりとか、してるのかな………」

夏は幽霊の季節、というイメージがある。
夜の墓場で肝試し、とかね。
ああ、お盆があるのも重要な要素か。

そんな風に夏が大好きな幽霊でも、暑さとか感じたりするのかなあ。
ああ、でも本来は夜になると出てくるもんだもんな、幽霊って。

最近は少なくなったよな、心霊スポットを訪れる番組とかも。
ロマンだよなあ。
あの手の番組とかUMAとか怪奇現象とか宇宙人とか特命リサーチ200Xとか
奇跡体験アンビリーバボーとかビートたけしとか。

うわあ、あの頃に戻りてえ!


ていうか、こういう話は一人で考えるもんじゃないよな。
むなしいよ。
八九寺と楽しくお喋りしたい。
ちくしょう、八九寺どこだよ………。

とにかく、僕は。
これ以上暑いアスファルトの上を歩いても無駄なのではと考え
最寄りのコンビニにでも立ち寄ろう、と180°ターンした。

ターンする直前に、僕は「アイスで八九寺を釣る」という方法を思いつき、
その作戦の肉付けをしてみようと思って頭を回し始めていたのだが、
それを考える必要はなくなった。

大きなピンクのリュックサックが。
脇道に素早く逃げ込む様子を、一瞬だったが見ることができたのだ。

今のはほぼ間違いなく八九寺だった。
あんなでっかいピンクの塊が他にあってたまるか。
カービィでももう少し小さいぞ、多分だけど。

道を歩いていて、180°ターンしたら八九寺が脇道に隠れた、ということは
おそらくずっと?僕の後ろに張り付き尾行していたのだろう。
道理で、探しても見つからないわけだ。
灯台もと暗しとは違うが、僕は「八九寺が僕を見つけていない」と信じ込んでいた。

「ふむ。」

僕はそのまま歩き出す。

八九寺(ほぼ確実)が逃げ込んだ道に入り込むという手も、もちろんある。
ていうか今すぐ走って追いかけて全力で抱きしめてハグしたいところではあるが、
そこは歯を食いしばって耐えた。
さっきまで通った道を逆走する。
もちろん走ってなどいない、さっきまでと同じペースで。

……オーケー、
冷静にだ。
クールにいこうぜ、僕!

2分だろうか3分だろうか、歩く。
僕は歩きながら後方に気を回した。
「神経を研ぎ澄ます」というほどの格好いいものではないが、
意識すれば追跡者がいることをなんとなく感じ取れる。

アップを開始した。
歩きながらでもできる程度の、両肩の柔軟運動。
軽くジャンプ。
これから、ちょっとだけ激しい運動をするためのウォーミングアップ。
怪しまれるかなあ。
でもまあ、しっかりやっとかないとね。

そしてT字路に差しかかる。
設置されているミラーがあることを確認すると、僕はそこを、右側の道に折れた。

曲がってからすぐに振り返り、本来は交通事故の防止のために役立てられるそのミラーを
凝視しながら、僕はクラウチングスタートの体勢を取った。
高い位置にある丸い鏡に、
ぴこぴことツインテールを動かして走って来る小学生が映りこんだのを確認する。

だ、駄目だ………。
まだ、笑うな……………!


僕はスタートを切った。
――と同時に、普段より慎重に行動している様子の八九寺真宵が、
それでも僕を追うため軽く小走りになって道を曲がって来た。

「やっと会えたな八九寺ぃいいいいい!!!!」

「ぎゃああああああああ!!!!!??」

勘違いして欲しくないのは、今までのように「背後から襲いかかる」というような
卑劣な方法ではない、という点である。
僕はあくまで正々堂々と、正面から八九寺に駆け寄りしっかりと捕獲した。
後ろめたいところなんて、どこにもないじゃないか。

今日はここまで。

乙乙!
まどちくびのスレやっぱり落ちちゃった?

乙乙

「八九寺いぃ! 探してもなかなか見つからないから、もうどうしようかと思ったぞ!」

「きゃああああ!」

「まさか僕を後ろから尾行しているとはなあ! 盲点だったぜ! お前、新パターンだな! どうしたんだ今日は!」

「きゃああああ!」

「パンツには可愛いウサギさんが描いてあるのかな? どれどれぇえ?」

「ぎゃああああああああああああああああああ!!」

がぶり。

痛え! 何すんだこいつ!

痛いのも。

何すんだこいつも、いつも通り、しっかり僕だった。

「待て八九寺! 落ち着いて、普通に考えてくれ!
好きでもない女の子のスカートをめくるわけがないだろう!」

「わあああああ!!」

「好きだからパンツが見たいんだろ!? そうだろ? 僕は八九寺のパンツが、」

「わああああああああああああああ!!」

もうちょっと、くんずほぐれつみたいな流れを期待したが、爪でガリガリ引っ掻かれるせいで、
ただひたすら痛いだけだ。

まあ、スレッドタイトルで僕自身が宣言した目的をおろそかにして、
目の前にある布切れに心を奪われてしまった僕にも非はあるけど。

「非の感じ方がおかしいです! 阿良々木さんはもう、すべてが非です!」

「いやいや、でもさ。 この世に必要ないものなんてないんだよ八九寺。 みんな違って、みんないい。
胸には胸の、パンツにはパンツの良さがあるんだよ」

「前半は賛成ですが、後半はまさに阿良々木さんと言う感じの理屈なので嫌いです!」

「ところで八九寺。 今日は噛まないのか?」

「えっ? 何がでしょうか」

「いや、だからさ………『ありゃりゃぎさん』とか言ってるだろいつも。 お前の持ちネタだよ」

「ああ、はい………。 ありましたねえ、そんなの」

「なんだ、テンション低いな」

「いやあ、今回は確かにいつもと違うんですよ、先程阿良々木さんが仰ったように。
今回は阿良々木さんが見えない位置から突然現れたわけではありませんでしたので。
ああ、阿良々木さんだ、と思いながら尾行していたのですから。 私は」

「ああ、そっか。 サプライズ性が低いと噛まなくなるのかな」

「尾行してたんだな」

「お恥ずかしながら、尾行させていただきました」

「えっと………なんでそんなことを? 見かけたら、話しかけてくださいよぉ。」

さみしいじゃん。

「いや、確かに声をお掛けした方が良いとは思ったのですが、今日の阿良々木さんは
いつもより怖いと言いますか………、もう『近づいたら揉まれるな』と思いました。
いつにも増して、ひどいことをされそうな、そんな得体の知れない雰囲気がありました」

「ははは、想像力豊かな奴だなあ。 僕がそんなひどい男に見えるかあ?」

「見えますね。」

鋭い、迷いのない発音だった。
なんだよ、蝸牛のくせに。

いくら僕でも、全員のを揉んでみようなんて、そんなこと思ってるはずないじゃないか。

「………」

八九寺が間合いを取った。

僕から目を離さず、しっかりと見張りながら。

僕の中の何かを警戒したようだ。

心外である。 感のいいガキは嫌いだよ。

「時に、阿良々木さん。」

変な緊張感が失せ、口調を変えた。 話題を変える様だ。

「『staple stable』と『二言目』って似てますよね」

「ん? ああ、戦場ヶ原が歌ってるオープニングか」

似てるって言うのはまあ、曲調の話だろう。
確かに僕も思っていたことだが。

「ああ、確かに似ているが………あんまり変わりすぎても変だしな」

戦場ヶ原は戦場ヶ原だ。 
少しずつ変わってはいるみたいだけど、三つ子の魂百まで、だ。
そんな簡単に変わってたまるか。

「ああ、のろけ話になりそうなので彼女さんの話題は禁止です」

………禁止された。
あれ? じゃあ今の話の意味は?
単なる適当な雑談なのか?

「私が言いたいことはですね阿良々木さん。 パターン的に、私が以前熱唱したキュートな
神オープニングである『帰り道』。 これ似た曲調の曲が出てくるはずだと、そういうことです」

「ああー。 なるほど」

しかしこの小学生、自分のこと好き過ぎだろ。
自分の可愛さを自覚してやがる。
でも、そこが生意気で可愛いなあ
一心不乱に揉みしだきたいなあ。

「なあ八九寺、お前もう新しい曲歌ったのか?」

「歌う準備はできています。 毎晩ボイストレーニングをしてますから」

どうやらまだキャラソンの話は来ていないらしい。
いや、ぶっちゃけると僕も、八九寺には歌って欲しいんだけど。
楽しみではあるのだが、しかし偽物語は妹たちがメインなのだ。
うーん。 12話のうち、第4話の時点で戦場ヶ原と火憐だけが歌っている。
あとは月火が確実として………あとはどうなる?
なんか、初代阿良々木ハーレムのメンツが大体チョイ役になっているからなあ。

いや、でもチョイ役でもチャンスはある。

もはや立派な社会現象と化した軽音楽部の日常アニメ『けいおん!」でも
唯の妹である憂(けいおん部でもなんでもない)や、生徒会に所属しているだけの和のキャラソンが出ているのだ。

「需要はあると思うぜ」

適当に褒めておいた。

「当然です!」

何故だろう。
八九寺との雑談は確かに楽しいけど。
今日の僕は歌のことなんて割とどうでもいい。
僕は何かに取りつかれでもしてしまったのだろうか。

今日はここまで

おっつん

つん

乙!

まだか

あげんな
来たかと思ったじゃねぇか

まだかな

アニメの話しいいです

まだかなー

「………今日はお出かけですか?」

「まあ、家から出てるわけだからな」

何らかの大いなる意志によって僕は心を奮い立たされ、町に飛び出したのさ。
部屋で勉強することも大切だけど。
人生において本当に大切なことは、座学だけじゃ身につかない、とか
どこかの偉い人がたぶん、昔言ってくれていただろう。

「だからと言って何をしても軽蔑されないわけではないんですよ阿良々木さん」

「もし僕が偉い人になったら、そうだな………『女子はスカートを適度に揺らすこと』とか」

「邪な目的で名言を作らないでください」

「謙虚でいい願いじゃないか。 揉ませろって言ってるわけじゃあるまいし」

「いつもの阿良々木さんは有無を言わさず揉んできますけどね」

「なんだ八九寺、揉んで欲しいのか」

「………阿良々木さん、今日はシラフですか?」

僕はいつも通り平常運転だけどな。

「変な怪異とかに取り憑かれてないですか?」

「ん? そんなことないよ」

まあ、自覚がないだけかもしれないが。
既に吸血鬼になっているとはいえ、追加で怪異に取り憑かれるというケースも、一応あり得るか

きたー

「まあ、阿良々木さん自身が『怪異に取り憑かれている』と喚かないだけマシでしょうか」

「え? なんで?」

「えーとですね………」

こほん。と作ったような咳をして、考える八九寺。
少し長い文章を喋るつもりらしい。

「阿良々木さんが欲望に任せて阿良々木ハーレムのメンバーの胸を揉んで回ったとします」

「うん」

「ああ、否定しないんですね………」

「いや、全部聞いてから否定するかどうか、決めるよ」

「そうですか……」


「………揉んで回って、最終的にみんなから怒られます」

「怒られないように揉む方法を考えるよ」

「少し黙っててください。 ――そして、みんなから怒られた阿良々木さんが言うのです。
『違うんだ。 これは僕のせいじゃない。 怪異に取り憑かれてやったんだ』と」

「………」

「『だから許せ』と。 」

「………………………………」

「まあ、そういう事を言わないだけ阿良々木さんは常識人ですよ」

「……………………………………………………………」

「あのー、阿良々木さん?」

「なあ、しかし八九寺。 僕も身を持って知っているけど、実際に怪異は存在するんだよ」

「まさか実行する気ですか!? 私が説明した方法を!」

「いやいや、そのままパクリはしないさ。 仮に実行するにしてもアレンジはするから安心しろよ」

「ちっとも安心できません! 妹さんたちに言いつけますよ!」

む。 それは困る……。
が、しかし

「ああ、でも妹たちは怪異のことを知らないんだったか」

今のところ、囲い火蜂のことも怪異だと気付いていないはずである。

「そう言えば――」

八九寺が斜め上の空間を眺めて、呟く。

「阿良々木さんの妹さん………。 火憐さんでしたっけ」

「ん?――ああ」

突然出てきた思いがけない名前に、僕は反応する。
あれ?
僕、火憐のこと、名前までお前に教えたっけ?
「妹がいる」とは言った気がするけど
ああそっか。
八九寺と初めて会ったときから妹のことを話してたのか、僕。

「阿良々木さんより若干背が高くて、キリッとした吊り目。
 ジャージが似合っていて、――いえ、むしろ彼女に着られるためにジャージがデザインされたかのような」

「ああ――、それなら火憐ちゃんだな」

この後「そして逆立ちで町を徘徊する」だとか、あんまり耳に入れたくない台詞が続きそうだったので
僕は八九寺の台詞を途中で遮った。

「そして、歯磨きがお好きなんですよね」

「それは間違いなくお前には教えてないよな!」

どこから仕入れたんだよその情報。

「風の噂ですよ」

閑話休題。
話を戻そう。

「話を戻すも何も、本筋が果たして存在するのかという気もしますが」

「それで八九寺………、その、火憐がどうしたんだ?」

「先程、走っていかれましたよ。 阿良々木さんは気がつかなかったようですが」

「うん?」

火憐が?
それはちょっとおかしいな。 家にいたはずなのに。
そして、羽川を捲くのに利用したはずなのに。
なんでだろ。

「パトロールじゃないですか?」

「アンパンマンかよ」

あいつが来ると事態がややこしくなるだけなんだがな。
最近は八九寺を襲撃している男子高校生の存在にも感づいてるみたいだし………
僕からすれば都合が悪いことこの上ないのだ。
ふう、世の中やりづらいったらないぜ。

「やはり火憐さんはこの町に必要です………」
八九寺が目を細める。
この軽蔑するような視線も、慣れると気持ちいいのだ。

「阿良々木さんの危険性を試すために、テストをしてみましょう」

「うん? テスト?」

「『いわけなし』の意味は?」

「……えっと、それは、古文の問題か」

「そうでもありますね」

『いわけなし』、か。
僕も受験生だし、答えたいところだけど………
あれー、『いとおかし』とは違うんだろ?
うーん………。あんまり覚えようとした記憶がない。

「八九寺、正解は?」

「『幼い』ですね」

「………お前それ、僕なら絶対に答えられるだろうと信じて出したんだな?」

「ええ。 古文の問題であるとともに、真のロリコンであるかを試すテストでもあったのです」

「答えられなくてよかったよ………」

僕はロリコンじゃないし。
普通だし。

「おっと」

携帯電話が振動した。

電話である。

ええと……僕に今電話をかけてきそうな奴は……

「出ないんですか?」

「ああ。 たぶん羽川だな……僕の動向を把握したいはずだ」

「すまない八九寺。 早めに終わらせるか……ら…」

しかし表示されている名前は予想とは違っていた。

一応、なんの用なのかは聞いておくか。

「神原駿河だ」

……。

「神原駿河。 エロ分野で尊敬している人物は阿良々木暦氏だ」

「普通に尊敬しろ!」

「おお。 その突っ込みは阿良々木先輩だな。」

僕以外との電話ではその自己紹介やめてくれよ。

「はあ……。 それで神原、今日は何の用だ。 僕はせっかく八九寺と会えたところだから、急用がないなら――」

「それが……羽川先輩から電話があってだな」

ぎくり。
しまった……羽川じゃないから少しホッとしてた。
まさか羽川、神原に電話を入れたってことは……僕を止めるのではなく
そっちを。
女子に連絡網をまわしてるのか?

しかし神原の口調は僕の予想とはかなり違った。

「阿良々木先輩が忙しいと言うのなら後にしてもいい……大した話ではなかったからな」

「ん? そうなのか………他に何か、羽川と話しなかったのか?」

「少しばかり雑談を……ええと、めだかボックスがアニメ化するという話とか」

「西尾維新の回し者か」

「回し者というより、もっとすごい立場なのだが……あ、
済まない阿良々木先輩。 少し待ってくれ」

ここで神原が受話器から少し離れ、誰かと会話する。
神原の女友達だろうか?

電話の向こうの、女子二人の会話。

『―――ないか? 兄ちゃんだったら無言で切ってくれても構わないんだぜ、神原さん』

「おいおい、二人だけの時は。 下の名前」

『あ、ご、ごめんなさい……駿河、さん』

「ふふふ。 さん付けもしなくていいよ。 少しずつ覚えていこう、火憐。」

『んー、そろそろ教えてよ。 これって、どんな意味あるんだ?』

「だから、悪の組織に拷問された時に、ちゃんと耐えられるようにしないといけないと」

『い、いや、確かにそうかもしれないけれど、でもなんか………ヘンだよぉ、これ………」

「ほほう………、ヘンになってきたか。 そこを我慢だ。」

『本当にへんだよ……。 痛いとかじゃなくて………』

「ふむふむ。 どのように、ヘンなのか言ってみようか」

『だ、だから………』

『痛いのともちょっと違うし、本当に、わからないって』

「身体が熱くなって来るのがわかるだろう?」

「う、うん………」

「電話が終わったら、歯磨きよりすごいことを教えてあげよう。 きっと人生観が変わるぞ」



「―――ああ、お待たせしたな阿良々木先輩。 話を戻すが、」

「待て神原! 話を戻すな! ちょっ………、お、お前ら今どこにいる!?」

落ち着いていられる事態ではない。

「なんだ先輩。 めだかボックスは面白くなかったか? 
それともラノベばかり読むタイプなのだろうか。
ああ、断っておくが別に阿良々木先輩をオタク扱いしているわけではないぞ。 
面白いと思ったものを読むのが正しいのだ。
私もBL以外のものを結構読んでいるのだが、最近のオススメは、……はは、あれ?
済まない。 オススメが全部BLモノだった」

「本の話じゃねえよ! 今何をしているかだ!」

「今か。 今? 今は………、阿良々木先輩と電話中だ。」

「妹だ! 火憐がだよ! 僕の妹が今どうなってるのかをだ! それを言え!」

今日はここまで
最近書いてなくてごめんなさい

乙したー



楽しみー

乙です

ついに神原の自制心がwwww

おちゅ

「火憐のことなら心配しなくていいぞ。 阿良々木先輩が揉む前に、私が先に可愛がっておくとしよう。」

「人の妹になんてことをしてるんだお前は!」

そして火憐って呼び捨てかよ。
旦那にでもなったつもりか。
お前にウチの妹はやらんぞ!

「いや、しかしだな阿良々木先輩。 阿良々木先輩が火憐ちゃんの胸を揉むと、近親相姦になってしまうだろう。
ならば、私が先に揉みしだいておいた方が健全ではないだろうか?」

「ああ………、そう来たか。 自分にとって都合の言い様に取るのな」

健全でもなんでもねえよ。
それはお前が揉みたいだけだろうが。

「つーか、神原。 その理屈で言ったらお前はもう先を越されてるぜ。 先客がいる」

「なんと。 いや……確かにその可能性もあるのでは、とは思っていたが。
先輩の妹には彼氏がいるのか?」

「いるらしい」

「いるらしい、とは噂の域なのか? では彼氏に揉まれていると火憐ちゃんが言ったのか」

「いや、彼氏とはピュアな関係を築いてるそうだぜ。 ちっちゃい方から聞いたんだがな」

「うん? しかし最低でもパイタッチはしたのだろう?」

「しっかり勘違いをしているお前と話しているのも、まあ楽しいんだがな」

「はあ……」

「はっきり言おう。 よく聞け神原」 

「もちろんだ。 よく聞いている。 阿良々木先輩のお言葉はいつでも正座で拝聴するぐらいの心づもりだ」

「妹のおっぱいは僕が揉んだ」

「」

いや、黙るなよ……。
お前変態で百合って設定なら、ここはちゃんと興奮しろよ。

「――ああ、そうか。 まあ家族なら身体が偶然接触する機会は多いだろうが」

「いや、偶然とか、そういうのじゃなくてな。 この前も目の前にあったから、ちょっと揉んでみたし」

「そんな気安さで!?」

リアクションが誰かさんと同じだ。
いや、でもこいつ運動部の後輩とか、そっちにかなり手を出してなかったか?
それなら妹の胸を揉むくらい、大した話では………。

ん。
そういや神原は一人っ子なのか。

「なあ神原。 妹の胸を揉むのはお前の夢か」

「夢にまで見たシチュエーションだ!」

「いやいや、妹のおっぱいとか、マジでないから。 興奮しないから」

「私は興奮する! 興奮したい!」

マジでないから。
家族に興奮とかしないし。
うーん、でも妹がいない奴って、みんな憧れるのかな。

「阿良々木先輩は妹に毎朝起こしてもらって、しかも毎朝触らせてもらえるのだな!?」

「そんな都合のいい世界じゃねえよ!」

朝は結構、死を覚悟してるんだぜ。
どんな起こされ方されてるかお前は知らないから言えるんだ。

「阿良々木先輩は、私がしたくてしたくてしょうがなかったことを、
したくてしたくてしょうがなかったのにあきらめたことを
まるで当然のようにやっていたのだ!」

「その台詞、もっといい使い道あっただろ!」

とにかく。
とにかくだ。

「神原、妹に手を出すな」

「ええぇー………。」

神原はがっかりした。
ていうか、引いていた。
神原に引かれた。

「阿良々木先輩、私じゃあ駄目なのだろうか」

「僕は妹の味方だ」

説得力がアニメの時よりかなり落ちてるが、言ってみた。

「阿良々木先輩はスキンシップにも程度があると、わきまえろと言っているのだな」

「そうだよ! 自分の欲望をの吐け口にするために年下の女の子の
身体を弄ぶなんて、人として最低の行いだよ!」

僕はさながらギャグ漫画日和に登場するキャラクターであるところの
クマ吉くんのように、極めて正しい意見を
『ああ、そういえば電話に夢中で忘れてたけど横に八九寺がいるんだった』と思い出して目をやり
その女子小学生が僕を冷やかな目で見つめていることを確認して少し興奮しながらも、
堂々と言い放ったのだった。

今日はここまで。

やはり紳士はこうでなくてはな

興奮するなし

そんなこんなでくだらない漫才を楽しんだ後、適当に神原との電話を終わらせた。

「そういうわけだ、八九寺」

「ええと……どういうわけでしょうか? 阿良々木さんは人として最低という話ですか?」

「妹を助けなくちゃ、だ。 悪いが僕は行くぜ」

とにかく、神原家に急ごう。
妹の貞操が危ない。

あれ、神原の家ってどっちだったっけ。
町をかなり適当に彷徨っていたので少し考える。

「私は神原さんのお宅を存じません。 しかし阿良々木さんの御自宅ならば、あちらの方でしょう」

八九寺が僕の後方を指す。

「え? どこ?」

「ですから、あちらの方向だということしかわかりませんって!」

「もうちょっと手を挙げて」

「挙げてますよ。 指差してます」

僕は八九寺に近づく。

「ん。 あっちか………、サンキュー八九寺」

僕は携帯をポケットに納めて、八九寺の背後に回って胸を揉んで、それから神原の家に向かって走り出した。

「―――ぎゃ、ぎゃああああっ!?」

「悪い八九寺! 本当はもっとゆっくり揉みたかったんだが、後でまた来るから!」

「揉むために来るんですか!?」

「基本的にはそれであってるぜ!」

二度と来ないでください!と背後から聞こえたが、世の中はお前の思い通りにはならないのさ!
これからもお前は僕に揉まれるし、揉まれた方が大きくなるしでメリットも大きいじゃないか。

神原の家に着くと、すぐさまプロレスが始まった。

「大丈夫だ阿良々木先輩。 あなたの妹はまだバージンだぞ」

「当たり前だ! 今すぐ僕の妹から離れろ変態!」

「変態と言ったか!? そんなに褒めても何も出ないぞ!
私には阿良々木先輩が喜ぶような素晴らしいものは持ち合わせていない!」

今の神原には言葉が通じるかどうかわからない。
せいぜい下ネタしか届かない。
だからこその肉体言語であるが、身体能力でこいつと勝負するのは、僕の吸血鬼の性質を持ってしても
なかなかに骨が折れる行為だった。

さらっと揉みやがったww

しかし阿良々木くんは平常運転にしか見えない不思議

おちゅ


うん、この阿良々木君は確かに本人だ

>>114
うんこの阿良々木君なんて……下品!

「羽川先輩から電話があってだな。 阿良々木先輩に何かこう………変態的な行為をされる恐れがあるから気をつけろ、といった内容だった」

神原は、柔道だかプロレスだか知らないが、何らかの寝技で僕の身体を拘束しながら回想を始めた。

「いや、回想するなら拘束外してから回想しろよ! 苦しいわ!」

情けないが、女子に力で抑えつけられる屈辱感。 

「いや、痛いだけではないだろう阿良々木先輩。 胸だ。 ほら、胸だ。」

「ああ! 確かに胸が当たっているよ! 当たっているけどストレスがたまる一方だ!」

寝技。
寝技である。
寝技ということは、必然的に身体が密着するわけだから、まあつまり胸が当たるのも自然の成り行きである。
しかし、今の僕に感触を楽しむ余裕はなかった。

「痛いもんは痛いんだよ! 楽しませろ!」

「だからこうして胸を当てているではないか!」

「僕は自分で揉むのがいいんだよ! そこにロマンが発生するんだ! 無理やり揉まされても、なんか………それは違うんだよ!」

僕は懸命に叫んだ。

羽川の連絡網は神原とも繋がっているらしかった。
ん? いや、あいつらってお互いのメルアド知ってるのかな………。
いや、知っていなくとも、火憐の携帯を使わせてもらった可能性もあるのか。

………とにかく、「阿良々木暦が胸を揉んでくるかもしれないから気をつけろ」という感じのことを
やんわりと伝えたのだろう。

しかし、そこは変態の神原。
「やっと目覚めてくれたのか阿良々木先輩!」
といった発想しか持つことができず、
羽川も匙を投げたらしい。
それで、火憐ちゃんを走らせて神原に知らせた。

羽川よりも火憐ちゃんの方が、神原と仲がいい。
もしかしたら話が通じやすいかも、と思っての行動だろう。
もしくは、二人でいた方が安全性が高くなりそうだとでも思ったのだろうか?
なんだようちの妹は。飛脚か。

ていうか、なんだな………
僕はこの物語で一番の常識人なんだぜ?
今度発売されるゲームでは主人公兼ツッコミ役だよ、っていう紹介されてるらしいし。
要するに僕は、安全なんだよ。


「うむ。 確かに、私に比べると阿良々木先輩は常識人であるからなっ」

ああ、そうか。
こいつは普段僕が八九寺に何をしているかとか、全然知らないもんな。
まあ、その方が色々と都合がいいけれど。

「まあそんな時に火憐ちゃんが来たので最初はテンションが上がったのだが、
羽川先輩が何か言っていた事を思い出してな。
ええと、なんだったか。
『阿良々木先輩が来る………だから、胸を揉ませてあげろ』………だったかな?
いや、それだと逆効果ではないか。
せっかく来てくれた火憐ちゃんに悪い。
『阿良々木先輩に揉まれる前に火憐ちゃんの胸を揉んでおけ』
これが正解だ! 羽川先輩の仰っていたことはそういうことだったのだ!」


「正解じゃねえ!」

「ふふふ……。 性的な、解」

「兄ちゃん、さっきからケータイずっと鳴ってるんだけど」

と、火憐。
神原との戦闘中にケータイがポケットから落ちたらしい。
誰からだろう。

「ていうか助けろよ、火憐ちゃん!」

「えっと、いや、ていうかあたしは兄ちゃんが怒ってる意味がよくわかんないんだけど」

「え?」

いや、だから、この神原がお前に危害を加えたからしたから僕は怒ってるわけで………

「ああ、電話の時のあれは、ちょっとストレッチしていただけだぞ」

「紛らわしい真似すんなや!」

今日はここまで

おつ

乙!

このスレおもしろいね~ まゆしぃは次の投稿がたのしみに候。

[ピーーー]糞ガキ

まだかなー
おっぱいまだかなー

随分間が空いたような気もするが、絶賛寝技掛けられ中である。
なんだこの技。

「し、しかし神原、お前柔道かレスリングの心得もあるのか?」

「いやいや、習っていたとか、そういう経験はないのだが………。
阿良々木先輩も取っ組み合いの喧嘩をすると言っていたではないか。
ああそうだ、火憐もどうだ? 阿良々木先輩に寝技を掛ける遊びなのだが」

「えっ、いいの?」

「いや、良くないだろ。 何もかも良くないよ。 そして火憐って呼び捨てはやめろ。」

「まあとにかく、格闘技は実戦を繰り返しているうちにある程度は慣れたのだ」

「……実戦?」

キテター


僕も中学時代は生傷の絶えない日々を送ったりしていたわけだけど、
というか今も危ない目にはかなりあってるわけだけれど、
冷静に考えると神原も、僕の知らないところで何かしらの活動をやっていたのだろうか。
と、少し真面目に考えてみたりした。

「いや、全裸合宿とかで」

真面目に考えた僕が馬鹿だった。

「中学時代は戦場ヶ原先輩に………あぁ、あまり喋りすぎると殺されてしまうかもしれないが」

「あいつも一枚噛んでんのかよ……」

「戦場ヶ原先輩はこういう攻撃技を作るのが非常に上手だった。 非情にそれに長けていた。」

それは知ってるよ。 しかし格闘技まで手を出していたとは………。

「時には共同で新しい寝技の開発などをしていた。」

「そうかよ………。 そうするとなにか? 今、僕に掛けているこの技もそれなのか」

「戦場固めと名付けた技だ。」

「なんて面倒な技を作りやがったんだあの女は」

「ああ、そういや千石が……。 いや、まあいいか。 この話は」

「うん? 何故ここで千石ちゃんの名前が出るのだ?」

「いや、全然大したことじゃないんだけど」

「次に遊びに来る時、寝技を教えて欲しいって言われてな」

まあ、冗談の一種なんだろうけど、不覚にもドキッとしてしまったり、な。
どんな意図があったのだろう。
女子は体育で柔道をやらないことが多いから、知らない世界というか、興味をそそられることも
あるのかもしれない。

神原は軽くテンションを崩された様子で呟き始める。

「あの子は本当にブレないな………、いや、既に針がブレ過ぎて振り切っていると言った方が正しいのか………」

「え? 何?」 

「気にしないでくれ。 阿良々木先輩はしっかりライトノベルの主人公しているという話だ。」

「はあ」

ここでいきなり、火憐が無言で絡んできた。
神原の隣に移動して同じように身体を絡めてきた。

「にーちゃんがシカトしてくるから」

というのが理由らしいことはまあ、なんとなくわかる。
ゴメンな、神原と二人で盛り上がって。
僕、基本的に一対一でしか喋れないんだよ。
なんか、原作では割とそうなんだよ。

「罰として技掛けるから。 いろんな、使っちゃいけない系のやつ。」

「やってみるのは結構だが、後悔することになるぞ」

「………なんだか自信ありげだが兄ちゃん、動けないだろ?」

「お前は既に負けている」


「どういうことだ、兄ちゃ………あッ」

一瞬固まった。
あれれー? どうしたんだろ火憐ちゃん、変な声出しちゃったよー?

「ちょ、兄ちゃん、変なとこ触らないでよ!」

「んー、なんのことだ?」

僕は平常心を保ちながら揉み続ける。
菩薩の心が大切なのだ。

「あっ!ずるいぞ阿良々木先輩!」

「ずるくないさ。 正当防衛だよ」

お前が僕に密着して寝技を掛けてくるのを狙っていたのさ。もみもみ。

「な、なにぃ!………ぐうっ!」

「待て! 阿良々木先輩が右を揉むなら左は私が担当しよう!」

いや、その理屈はおかしいと思うぞ神原後輩。両方僕のだもみもみ。

「ぐああああ………! は、離せー! 訴えるぞ、兄ちゃん!」

「む、それは困る。もみもみ。」

「阿良々木先輩、その迷いのなさはどこから来るのだ………」

自然に揉むなwww

お巡りさんあなたの息子です

流石暦 歪みない変態だなww

「うう………月火ちゃんに言いつけてやる」

そんなこんなで火憐が畳の上で撃沈して熱中症患者のようになったのを見計らって
自分の携帯を拾う。
うつ伏せになってる火憐。
その背中に座り、携帯を開く僕。
鬼畜の所業である。
鬼畜なお兄やん。
………影縫さん、どうしてるかなあ。
なんて思いながら、とりあえず着信履歴の確認をする。
最初に捲いた羽川が何か言ってくるかと思っていたが、短いメールだけだった。

『影縫さんのも、揉めるの?』

………あー、あの人は、例外。
揉める気しないもん。
揉んだ瞬間にクロスカウンターで、僕は肉片になりそうだもん。

「………例外もアリだとしよう」

ていうか、他に羽川から言伝はなかったのがびっくりだった。
うーむ………。
アレだな、僕が胸を揉んでいくという行動についてはもう諦めてるところがあるのかもしれない。

まあ、原作を読んでいる限り、これこそが阿良々木暦なんだから、仕方がないのだろう。
僕はこれからも阿良々木暦らしく、女の子にセクハラ行為を繰り返していくことを誓おう。
そういう存在であろう。

「というわけだ神原、妹をたのむ。」

「どういうわけだかはわからないが阿良々木先輩、行くんだな?」

「ああ」

電話には着信も何件かあった。

「あ、暦お兄ちゃん。 わー、やっと電話に出てくれた。」

「用事? ちょうど映画のDVD借りてきたんだよ。」

「見るよね? うん、そうなの。 怖い映画だから、撫子一人じゃ見れないと思う」

「面白いんだよきっと! 暦お兄ちゃんが好きそうな映画を選んできたんだよ」

「どれがいい?」

「どれがいいっていうか、厳選して25本くらいまで絞ったんだけど」

「うん。そうだよ? ううん、一応全部借りてきたけど」

「えへへ………、確かにお金がね………。 でも、そんなことはどうでもいいよね」

「見るよね? 見に来てくれるよね? 早く来るんだよ!」



「………お、おう。」

履歴は約一名が完全に占拠していた。

今日はここまで。

もっと速く書けるように頑張りたいです

まどちさん乙

> 早く来るんだよ!

思わずインなんとかさんを想像してしまった

マハラギさんが変態すぎるのだが、これが誇張でないってのが凄いな


「いらっしゃい羽川さん。 どうぞ上がって」
「お邪魔します…」

ここは民暮荘の二○一号室。
木造建築の六畳一間。

「つまりこの私、物語シリーズにおけるメインヒロインをやらせてもらっている
戦場ヶ原ひたぎの根城よ。」

「わー、戦場ヶ原さん格好いいー。 ぱちぱちぱち」

「そんなに褒めないで羽川さん、照れるわ」

「う、うん……」

今ので照れるんだ……。

「さて、今日は特別ゲストの羽川さんよりお便りを頂いています。」

「はい」

「お便りっていうかさっき届いたメール………まあ、同じですね。 読みます。
『阿良々木くんが勉強からエスケープして街に繰り出してしまいました』
と、ありますが羽川さん? これは。」

「そのままの意味です。 あと、何やら不穏な発言もしていたので、
どこかの女の子に何らかの………その、何かをしていないか、心配です」

「ふむ。」

目を閉じて息を吐き出す戦場ヶ原さん。

「あの男には基本的に厳しく接したほうがいいわよ羽川さん。
定期的に虐待するくらいのことはしないと。」

「うーん、私にはちょっと真似できないな………」

「厳しくしないと彼、『全員のおっぱいを揉みしだいてやるぜ、ぐへへ………』とか
言い出しかねないわよ」

「あぁ………うん、当たってる。
え? もしかして阿良々木くんからメールとかあった?」

「え? いえ、別に」

「勘で言い当てるのはすごいな………」

やっぱりなんだかんだで、阿良々木君のことを知り尽くしているのかな。

「………え? 本当に『ぐへへ』とか不気味な笑い方をしていたの?」

「いや、笑い方は普通だったけど」

「あらそう、それなら良かった」

「うん。  ………いや、全然良くないよ。 揉むって言ってたから。 揉む気満々なんだよあの男。
そこが一番の問題でしょう?」

「ふむ。 それで、羽川さんはもう揉まれたのかしら?」

「………ううん、まだだけど」

「あら、そうなの? そうね、羽川さんだしね」

「?」

「わかったわ、じゃあこうしましょう? 私が羽川さんの胸を揉み揉みするから、

「揉むから何なのよそれで何がどうなるっていうの!?」

「ええと、そうしたら彼は悔しがるんじゃないかなーって」

「本末転倒だよ………胸から離れようよ………」

「まあ、冗談はさて置き、彼がのこのこ現れたら懲らしめてやりましょう。
遠慮なくやっていいわ。 彼、女子に踏まれたりすると喜ぶから」

「どう足掻いても阿良々木くんは喜んでしまうのか………」

完璧な対処法は果たしてあるのだろうか。
彼の将来が心配だ。

「厳しくされるのが好きっていうの、私はピンと来ないんだけど……」

「スパイスなのよ、彼からすれば。 お寿司にわさびが入っていた方がいいっていうのと
原理は同じよ」

「そんなものかなあ………」

「そんなものよ。 そんな………   あっ!」

「え? 何?」

「思いついたわ!」

「ええと………何を?」

「虐待。 拷問の方法。 新しいアイデアよ」

「えぇー………」

「羽川さんも、わさびで鼻がツーンってなったことあるでしょう?」

「それはあるね。 でも、それがまた乙だって思うよね」

「そうよ。 だから、阿良々木くんの口にわさびのチューブを突っ込むの」

「目をキラキラさせながらとんでもないことを言い出した!?」

「ホッチキスよりは良心的な拷問よ。 チューブの先がのどちんこに到達したあたりで、チューブをギュって絞って

「痛い痛い痛い!」

「『のどちんこ』に到達したあたりで」

「どうして強調するの!?」


「いや、羽川さんもノリで『のどちんこ』って言ってくれないかな、と期待して」

「言いません!」

いくらなんでもキャラ崩しすぎだよ戦場ヶ原さん。
おそらく、アレかなぁ。
阿良々木くんの影響かなあ。
なんだかちょっと似てきたしなあ。

「恥ずかしがらずに言ってみましょうよ羽川さん」

「言いません」

解説しよう!
羽川おっぱいさんに味方はいない

揃って変態じゃねえかww

それでも原作もこんなんだからな彼


ここで携帯電話が振動した。
ええと、誰からだろう。
阿良々木くんからの返事かな?
さっき送ったところだし。
………あっ。

「メールよ戦場ヶ原さん。 阿良々木くんからメールが届いたわ」

「なんですって?」

「ええと………、これは、悪質なメールだよ!」


――――本文

羽川へ。
きょうお前の部屋に入って、胸を揉みしだいてやるぞ
ぐへ
ぐへへへへへ

アラキチ

――――


「これは………! 悪質だわ!」

「悪質だね」

悪質すぎてびっくりした
ありゃりゃぎさんだった
なんだ普通だ

頭を抱える私。
自分がこれまでの人生で得た知識が、
この男の前では一切役に立たないもののように思える。

「アラキチ、と言うのがよくわからないけれど多分阿良々木君のことで合ってるのかしら?
頑張ってね、ニャン美ちゃん」

「誰がニャン美ちゃんよ………」

ていうか、阿良々木くんが私の胸を触りに来るのはスルーなの?

「そうねえ………、浮気には寛容だって言っちゃったから」

彼女としてどうなんだろう、その考えは。

「それに、そんなこと言い出したら私だって揉みたいし」

このカップルは変なところだけ似ているようだ。

――――さて、僕のメールは届いただろうか。
はい、場面変わります。
阿良々木暦です。
神原の家を後にした僕は、移動のついでに羽川にメールを送った。
火憐の世話は神原に任せておいた。
ちょっと心配な気もするが………、神原が妹に手を出さないかどうか。
いや、でも偽物語の時点で二人は親交があるし、
僕がとやかく言うことはないだろう。

………えっ?
僕の方が妹に手を出してるって?
馬鹿を言っちゃいけないよ。
あんなの日常茶飯事のスキンシップさ。


それはさて置き僕は今、千石の家に向かっている。
千石撫子。
千石撫子である。

夏からかどうか知らないが、彼女は前髪を上げた。
髪型が変わったことに賛否両論あるようだが、しっかりと僕を見ようとする意志を感じるので、
いいなあ。と思う。
恥ずかしがり屋ではあるが、僕に対しては素顔を見せる気になっているのようだ。
警戒はされていない。
………ていうか、千石の方から呼び出されたんだから、当たり前か。

「いらっしゃい、暦お兄ちゃん。 さ、中に入って。 暑かったよね?」
「おお。 じゃ、お邪魔するぞ千石」

千石家の玄関。
夏だということで、薄着の千石が僕を迎える。
ピンクのキャミソールだが、以前より白っぽく透明感がある気がする。
やっぱり女の子だし、服は多めに持っているのだろうか。
………大丈夫か?
薄着すぎないか?
日光を浴びていると透けて肌が見えるくらいの勢いだった。
目のやり場に困って斜め上を見ながらお邪魔する。




「あー、千石。 外に出るときはもっと服を重ね着というか………ちゃんと着たほうがいいぞ」

「そうかな?」

千石家の廊下を歩きながら、腰のあたりの生地をつまむ千石。
………うわ、布が薄い。 弾力性がある和紙かと思ってしまう。
女物の服って、根本的なところから違うよなぁ。

「………えーと、映画を見るんだったっけ、千石」

「うん。 録画したものも結構あるんだ」

さて、タイトルは「全員のを揉んでみるか」となっている。
なってはいるけどね。
当然、「お前はこんな大人しい少女に危害を加えるのか」という話になってくるわけだ。

僕もそこまで鬼じゃない。
吸血鬼だけれど。
あれは口から出まかせのようなもので。
いくら僕でも千石みたいな子に対して狼藉を働く気にはならない。

そりゃあ、千石は可愛い。
可愛いよ?
可愛いけど、だからこそ僕みたいな奴の影響を受けるのはいけないと思ってしまう。
僕みたいな人間になって欲しくはないな、と。
思ってしまう紳士の僕である。

「ああ、そういえば………」

羽川が神原に連絡を入れていたのなら、千石も何か言われているかもしれない。
僕が何かしてくるだろうから気をつけろ、とか。
いや、もちろん千石はそういう対象ではなく可愛い妹のような存在なのだけれど。

「なあ、千石。 最近僕について………、電話とかメールとかあった?」

「えっ!? な、なんのことかな。 ええと、なんで?」

「いや………、なかったなら別にいいんだけど」

「ないよ! 羽川さんから何も言われなかったよ!」

「ん、そうか………」

どうやら僕の杞憂だったようだ。

そんなこんなで千石の部屋に案内された僕は、ベッドに座らされた。
がちゃり。
部屋の鍵はしっかりとロックされる。
戸締りをしっかりする癖はいつも通りだな。

「あれ、でも千石の部屋にテレビってないよな?」

「あ、うん。 これ、DVDプレイヤーがあるから大丈夫。」

「へえ………」

千石が手にしているのはレンタルビデオ店のレジ近くで見かけるような画面、
DVDプレイヤー。
もう電源が入って画面にロゴが移り出しているそれを、ベッド近くの机に置く。

「あれ、でもそれだったら今とかにあるテレビで見たほうが………」

「………あそこはベッドがないから」

「え?なんて?」

「なんでもないよ、暦お兄ちゃん。」

「ホラー映画から見よっか。 夏はやっぱり、怖い話だよね」

「ん、ああ。 そうだな」

「あ、怖い話なら、暗くしたほうがいいよね?」

「………ああ」

かちゃり。
かちゃり。

部屋の蛍光灯から垂れる紐を引っ張った音である。
ピンク色の部屋が暗くなり、DVDプレイヤーの画面の白光だけが辺りを照らす。

女の子の部屋のベッドに座らされて部屋の電気が消えた。
うーん、でも映画を観るんだし仕方ないかあ。


「しかし、結構突然だな」

「え?」

「映画見よう、なんてさ」

「えと………怖くて見れなさそうだったから」

「ははは、そうか」

あれ?でもそれだったら

「映画だったら映画館でもいいんじゃあ………」

「そ、それじゃまるで、ほら………デー、トみたいだし」

ん? ああ、そうかなあ

「恥ずかしいし………」

そんなもんかな。
映画館で人目を気にするとか、相当なものだと思うけど。

「それに、周りに人がいるとたぶん、上手くいかないっていうか」

「いや………でもその時はみんな映画見てるだろ。 映画館なんだから」

「映画館だとあんまり、この部屋と違って、大したことできないから。」

「………?」

やっぱり千石の言うことはわかりにくいな。

今日はここまで

ざんねん!!
はねかわさんには へやが なかった!!
あららぎくんの ぼうけんは これで おわってしまった!!

なんと はねかわは しんきょで へやを てにいれた!

ワロタ

ラスボスさんは相変わらずだなww

はねかわって書くと
ほねかわって見えるな

ごめんねアララギ君
このssは3人ようなの

ちょっと関係ないですが「電波女と青春男」全巻読みました
すげーニヤニヤできるコレ

ほう

(´・ω・`)

ミスをした。
重要なミスをしたと、
僕はそう思った。
羽川の『部屋』にわずかでも触れてしまったこと。
自分の携帯を見つめながら、思った。

………だが、許される気もした。
僕が羽川の部屋を詳しく知っているはずがない。
本来なら。
僕が羽川の部屋に入っているはずがないのだ。

羽川は知らないはずだ。
僕が羽川の家を調べたことを。
不法侵入。
犯罪である。
………黙ってればバレないと思うけど。


………にしたって、ミスだよなあ。
あんなメール送らなけりゃよかった。
いつも通りにふざけていたつもりなのに。
これじゃ、楽しさが薄れる。

「映画館には、マナーがあるんだよ? 暦お兄ちゃん」

ああ、そうだな。
触れない方がよかったな………。
ん?

その声は羽川のものではないことに気づき、我に返る。
そうだ、今は千石の部屋にいるんだった。

「それ、電源、消して?」

「ん?」

なんのことかと思った。
千石は、僕が手に持っている携帯電話を見ていた。

「映画館では携帯電話の使用はご遠慮ください、だよ」

「ん………ああ、そうか」

確かにその通りである。
僕は携帯の電源ボタンを数秒間押し続けて、画面を黒くした。

「そういえば千石、怖い映画見るとか言ってたけどさ、ホラー物なのか?」

「うん。 違うのがいい?」

「いや、そうじゃないけど」

乙!

このスレタイ見るたび、おっぱい揉みたくなるよな

まだー


「洋画か。」

ホラー映画。
始まって
近々取り壊し予定の古い小児病院で、怪奇現象が起きるという内容だった。

「うん。 病院とホラーの組み合わせは鉄板だよね」

「千石、お前この映画はもう、見たのか?」

「ううん。 一人じゃ怖くって」

「そうか………」


健全な男子高校生なら友達と見に行ったりもするのかもしれないが、僕は
友達強度を上げるために余計なものを捨て去った身である。
………千石も、友達みんなで、っていうタイプには見えないな。

「千石、友達同士で映画とか、よく見るのか?」

「え? ええと………月火ちゃんとかと、見たりするけど。」

「ああ、そうか………。 ホラー系か?」

「うん。 あ、いや………ええと、色々。」

「色々か」

僕の妹が有害な映画を見せたりしてないか、心配である。

映画が始まって数分。
DVDプレイヤーの画面で子供が叫び声を上げたので、僕はそちらに意識を戻した。
そこでは、小学生になったかどうかという年齢の子供の、
骨が、折れた。
折られた。
叫び声ではなく痛みだった。

………えぐい。 
こういうの好きなのか?
「千石………」
小声で話しかける。
千石は画面から目を離して、怯えていた。
………僕にしがみついて。

英語でキャストが流れる。
冒頭のオープニングが始まったようだ。

「結構怖そうだな………これ」
「う、うん………。」

確かに千石みたいな子供が一人で見るには厳しい内容かもしれない。

「千石、寒くないか?」

画面の光に照らされた千石の薄着を見てからの、素直な感想である。
もう一枚、何か羽織ったほうが………

「え? ええっと………じゃあ布団かけるね?」
「ん? ああ、それでもいいか」

こうして、僕と千石は同じ布団の中に入った。

同じ布団にwwww

「きゃ、きゃあああああーーー(棒読み)!」

「お、おい千石……」

それからは怖いシーンがあるたびに千石が僕に抱きついて来るものだから、
僕はヒヤヒヤものだった。
しかし年上らしい対応をしなければなるまい。

「怖いよぅ(棒読み)、暦お兄ちゃん………」

ううむ。 無防備だ。 本当に困った奴だなあ。
保護欲をそそられる。

しかし暦お兄ちゃんは大人だから、千石の体に触れても
いやらしい気持ちにはならないのである。

たとえ偶然、千石の胸に手が当たってしまっても、
抱きついた弾みにその太ももが僕の腹に乗っていたりしても、
暦お兄ちゃんはいやらしい気持ちにならないように努めるのだ。


ううむ。
しかし、無防備すぎる存在は犯罪を助長する恐れがある。
無防備は、それもまた罪。
こういうことをしていると、大抵の男子は勘違いを起こしてしまうということを、教えたほうが
いいのだろうか。

「なあ、千石。 その………、お前は本当に怖がりなんだなあ」

さて、なんといって聞かせるべきか。

「うん。 暦お兄ちゃんがいてくれるから安心だよ」

千石は僕の腹筋を太ももで撫でながら、目線を合わせた。

舌舐めずりをする蛇。
………じゃなくて千石撫子に、教えることを、伝えるべき事柄を整理する。

僕は千石の体をゆっくり押し返す。

「千石、その、あまりくっつくのはやめよう」

「………どうして?」

「どうしてってお前………」

「嫌だった?」

「そうじゃなくて! そんなことはないけど………いいか千石、映画を見ているだけだ

。 そう、映画を観るんだ」

「見てるよ?」

………うん。まあ。

もんだれー

これもう揉んだらそのまま…

暦「僕はは千石の胸をモミモミしたら最後までヤらないと気が済まない人なんだ」キリッ

多分、暦が気が付いたら千石に幽閉されてるルート。

グッドエンドか

撫子が望む永遠……


((゜Д゜;))ガクブル マナマナ……

俺得展開だな

nice boat

うむ

マダー?

「なんだか、」

戦場ヶ原さんが不意に呟いた。

「………えらいことになってる気がするわ。 阿良々木くんが。」

「阿良々木くんが?」

「阿良々木くんが他の女と仲良くしている気がする」

「ええと………」

私は反応に困る。
これは冗談なのかな。
ヶ原ジョーク?


「そんな気がしただけよ。 どこかの女が阿良々木くんに良からぬことをしているよう

な気がしたもので、つい」

「そんな気って」

嫌な直感だなぁ。
物騒でさえある。
でもそんな気がしたならもっと慌てたりするものだと思うけど………。

「それがデフォルトよ。彼は………そう、『いつも違う女の子を連れている』って言われてたし。 ………誰でも助けるし」

うーん………、否定できない。

「さて、そろそろ神原に電話してみましょう」

「そうだね。火憐ちゃんはもう着いてるはずだし」

「阿良々木くんを捕獲できているかしら」

戦場ヶ原さんが携帯電話を耳に当てたまま呟く。

「火憐ちゃんもいるし、多分大丈夫だよ」

「………電話、なかなか出ないわね。神原」

「何かあったのかな?」

「私を待たせるなんていい度胸だわ。 何かしらの拷問が必要ね」

「沸点が低いよ………」

『ああ、戦場ヶ原先輩――? 戦場ヶ原先輩か?
『ザザッ』
『携帯電話を探すのに手こずってしまった。 失礼した。 本当に失礼した。
ええと、お詫びに何か、面白いことを言うから………あ!
オスプレイオスプレイって、最近のニュースはエロいワードを多用する傾向にあるようだが―――私はオス同士の』

「下らない茶番はいいわ、神原。 ニュースを見ていたとき、あなただったら絶対に反応するだろうなと思っていたけれど………、それで軽くイラついていたのだけれど。
阿良々木くんはどうしたの? そこにいる?」

『うむ。その冷たい態度は戦場ヶ原先輩だな! 間違いない!』

「………あなたと話していると、何が失礼かわからなくなるわね」

『阿良々木先輩? え………?
いや、阿良々木先輩なら先ほど、電話で呼ばれて………
戦場ヶ原先輩の家に向かっているのでは?」

「してないわよ電話なんて。 羽川さんはした?」

「メールなら………」

「呼んだの? 阿良々木くんを」

「ううん、してない。 言っても無駄な気がするというか、躱される気がしたから」

「そう………、呼んでいないそうよ、神原」

『あれ? それではどうして………私はてっきり戦場ヶ原先輩か、羽川先輩に呼ばれたのだろうと、
そう思っていたのだが』


「阿良々木くんはあなたの家に来たのね?」

『ああ、私が呼んだような形だったが………、それで着信が溜まっていたようで、火憐

ちゃんの胸を揉んだ後に出かけられたのだが――――』

「そこは止めなさいよ」

『目の保養になったので………』

「神原の家を出たそうよ。 火憐ちゃんの方にも聞いてみましょうか」

「待って、もう電話かけてる」

『あ、羽川さん?』

火憐ちゃんに電話がつながった。
車が走る音と、セミの泣き声がする。

『ごめん! 兄ちゃん見失った』

「大丈夫? 変なことされなかった?」

『いやいいんだ! あたしとしたことが、兄ちゃんを見張れっていう羽川さんからの指令を全うできなかった! あたしのことはいいんだ!』

「いや、いいのよ。それより阿良々木くんの行き先に心当たり無い?」

『行き先? 今慌てて追いかけて、それで町内にいるけどわかんない。
あと、ええと………あのー、羽川さん。
言いにくいんだけど、兄ちゃんを見張れっていうのは、重要なのか?』

「え?」

『あまり重要じゃないんなら、その………』

「火憐ちゃん、他にやることがあるの?」

「うん………」

少し言いにくそうに答えた。

「それならいいの。 できれば居場所を知りたいっていうだけだから」

火憐ちゃんの仕事を増やしすぎるのは良くない。
私がなんとかしないと

「そっか、じゃあ兄ちゃんは後回しで」

「ちなみにやる事って? 夏休みの宿題とか?」

「ううん。 そういうのじゃなくて………ついさっき。
犯罪者が出たっていう連絡が、友達伝いに来たから、そっちのほうが緊急性が高いと思って」

「………犯罪者?」

穏やかじゃない話だ。

犯罪者か………。
阿良々木くんを連れ戻して説教しなきゃいけないっていうこんな時に、なんで……。


『目撃されたのはこれが初めてじゃないんだけど………』

「危ないよ………」

『危なくはねーよ。 ………あ、ないよ。 拳銃を持ってるとかなら話は違うけど、
基本的に一体一に持ち込めば負けないよ。
ただの変態だから』

「そう………。で、どんな犯罪なの?」

『小学生を襲ったっていうんだ。 卑劣でしょ?』

「小学生を?」

『そうなんだ。それで、またツインテールの女の子の背後に回って、後ろから抱きつい

て胸を揉んだかと思うと、すぐさま逃げ去ったらしいんだ』

「………………………………………ああ、そう」

『そう、またなんだよ。 以前にも目撃例があって………その子、目立つリュックサックだから前と同じ子だってわかったらしいんだけど、放っておけないだろ?』

「そうだね」

『その、犯人の男は逃げるときに『また揉みに来るから』とか大声で叫んでいたらしいんだ』

「そんなことまでしてるの!?」

「………わかったわ火憐ちゃん。 その男を追いかけて」

『わかった。 なんとしてでもとっ捕まえて、警察に突き出してやるよ!』

面倒になった私は、投げ出すように電話を切る。

「――――羽川さん、どうしたの? 突っ伏したりして」

「頭が痛い」

「頭痛って………まさか、あの怪異の、猫の? 大変だわ!」

「違うの………、もっとくだらない理由で頭が痛いの」

今日はここまで。

※このSSは犯罪を助長する目的で書かれているわけではありません。
むやみに胸を揉むのはやめましょう。

最後wwwwwwwwww

あれ?デュララ木さん以外は家に帰りたくない人しか八九寺見れないんじゃなかった?

帰りたくなかったんだろ

羽川は家嫌いじゃなかった?

あらら

>>218-219
羽川はともかくとして
見える人は家が嫌いな人限定じゃなかったか?

なにがおかしいのかわからない

たまたま親とケンカした家出中学生がファイヤーシスターズと仲がよかったんだろ

家に帰るか、八九寺と遊ぶかだったらどっちがいい?
八九寺のパンツをめくったりするほうが楽しいでしょ?
そういうことですよ

スカートじゃなくてパンツめくるのかよ……

火憐ちゃんの話?八九寺と遊んでパンツめくればいいと思うよ

パンツめくって中身を見るのか



ゴクリ・・・・・

八九寺がパンツ脱がされるシーンマダー?

一月

随分と時間が長く感じられた。
千石の家でホラー映画の鑑賞を始めて、一時間半は過ぎただろうか。
―――いや、マジで怖い。
ストーリーもクライマックスに差し掛かり、本気で怖がらせにかかっている。
内容について、ネタバレは避けたいところだが、なんというか………女って怖いと思った。

ホラー映画に出てくる幽霊って、女性が多いよな。
あれはなんでだろう。

「―――ッ!」

声にならない叫びを上げているのは僕だけではなかった。
千石もしっかり怖がってるようだ。
ホラー映画を怖がるのは微笑ましい。
しっかりホラー映画を楽しんでるようで、見ているこっちも妙に気分が良くなる。

その点では気分は良かったが、しかし僕の身体は悲鳴を上げ始めていた。
千石が僕の体に絡みついているのだ。

最初は、『ああ、映画が怖くて僕にしがみついているんだ、女の子らしくて可愛らしい

なあ』と思ったりもしたのだ。
本来は、そう思えるのだろう。

だが、なんというか―――これが意外としんどい。
しがみついてくるのではなく、絡みついてくるのだ。
しがみついているのではなく、絡みついているのだ。

僕の背中に回りこむ細い腕。
その爪が脇腹に食い込んだ状態が何分も続くと、なかなかの精神的負担がかかる。
昔、妹と取っ組み合いの喧嘩をしたときなんかは痛い思いもしたけど、あの時よりも疲労のレベルが高いというか、消耗が激しい。

僕の足にしっかりと巻き付く千石の足は、姿勢の変更も許さない。
吸血鬼の身体能力を持つ僕だが、こうも拘束されると厳しい。
そして緩める気配が皆無である。
なんでだよ。

身体を引き離したほうがいいと判断したが、ふと、自分の部屋に千石が来た時のことを
思い出す。

神社での―――、失敗のことも。

―――蛇切縄。
蛇切縄だった。

しがみついてくるのなら、多少の引き際はある。
だが絡みつかれると、逃げるという選択肢を完全に封じられるのだ。
改めて、千石の苦しみを知ったような気がした。

BGMが、SEが大きくなってきたのに気づく。
映画は終盤に差し掛かって主人公の女性は必死である。

千石は何を思ったか、僕の首を両手で掴んだ。

「………?」

最初は絡み付きの延長かと思ったが、ぎゅぎゅっ、と首を絞められた。

「けっ………けほ、ケッホォ!」

僕は奇怪な鳴き声をあげ、千石を突き飛ばそうとする。

「きゃっ!?」

巻き付いた身体を引き離すのに思いのほか手こずった僕は、息を荒げていた。

「―――痛いだろうが!」

っていうか、死ぬだろうが。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめん

なさい、ごめんな、さい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい

、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめ………」

謝り続ける千石を見て、僕はそれ以上怒鳴りはしなかった。
が、心臓がばくばく言ってる。

「ご、めん、なさい」

「なあ、千石。 僕は怒ってるわけじゃないんだ。 ちょっと死にそうになっただけで………」

「殺すつもりはなかったんだよ………」

「当たり前だろ!?」

なんだこの会話。
千石の意図が読み切れない。
いや………映画で興奮してうっかり手に力が入ったということなのだろうか。
うむ、その線が妥当だ。
千石は、その―――程度というものを、よくわかっていないところがあるだけだろう。

「許して、暦お兄ちゃん―――許してくれたら撫子、なんでもするよ?」

「ん?」

僕は顎を上げた。
反射的に。

つづけて

聞き捨てならない発言である。

「何でもするって言ったか? 千石」

「う、うん」

両手をぐっと握りしめて僕を見る千石。

「何でもするというのなら………そうだな、僕の命令をよく聞くんだ。」

「うん!」


「千石。 男に対して―――、いいか? どんな男に対してでも『許してくれたらなんでもする』だなんて、言っちゃ
駄目だ」

「………うん」

「これだけだ。」

「これだけ………こ、これだけ!? え、あの、命令」

「いや、だから今のが命令なんだって」

千石の瞳からゆっくりと光が消失した。

ふらりと、
千石の手が動く。
ゆっくりと、さまようような動きだった。
近くのテーブルにはコップが置いてあった。
「あっ………」
僕は反射的にコップを取ろうとする。
いや、間に合わない。

コップは倒された。
―――映画というのは、ひとつの作品で2時間くらいの尺がある。
だからこそ、その際に何らかの飲み物は欠かせないというか、手元にあるのは自然だと思う。
この時も例外ではない。

映画を見るときはコーラとポップコーンだと、相場は決まっている。
もちろんそれは人それぞれで、誰が何を飲もうと勝手なのだけれど―――。
とにかく、テーブルの上にコーラがこぼれた。
それはテーブルどころではなく、その下のカーペットも濡らしたのかもしれないけど、

室内は暗くてよく見えなかった。

優先順位というか、重要な点は―――、咄嗟に手を伸ばした僕の手、そして僕の服にコーラがかかったということだろう。



別に僕が受けた被害にだけ、とやかく言いたいわけではない。
そういうつもりではない。
むしろ最初に声を上げたのは、僕ではなく千石だった。

「あ、あああ、何か、拭くもの―――タオル、」

「いや、対して濡れてないよ。 気をつけろよ千石。」

千石はふらふらと、あたふたと立ち上がり―――、ベッドの上で膝立ちになって辺りを見回す。
視界に何か、拭くものがないかと一通り確認してから、
「こっ………、これで!」
と言って、タオルケットをずいっと差し出してきた。

まあベッドの上に、近くにあったから仕方ない判断かもしれないがそれはないだろ………。
今晩お前、何で寝るつもりだよ。
僕はティッシュを何枚か頂いて、服に押し付けた。

床もちゃんと拭いた。
あまり濡れていないようだったので助かった。

しかし服に飲み物を零す―――、その服をそのまま着続けるというのはまあ、たぶん女

子なら強い抵抗を感じるのだろうか、とにかく千石は気に病んでいる様子だった。
僕はまあ、こういうこともあるかという程度の認識だが。

千石は立ち上がって―――暗くてはっきりとは見えないがクローゼットの方に向かう。
僕はそれをなんとなく目で追った。
なるほど、クローゼットならタオルどころか着替えもあるだろう。

ぴたり、と。
千石はクローゼットの前で停止した。
クローゼットの鍵を開けようとしたところで思いとどまったといった様子だった。

「どうした、千石………」

「―――え、えっと」

「僕のことなら大丈夫だって。 大したことないから」

「でも、そのままじゃ、」

「大丈夫大丈夫、大体、拭き取れたから」


僕の顔色を伺いながら、クローゼットから離れて戻ってきた様子の千石は、ふと視線を上にやり、つまりは何かを考えてから僕の前に立ちはだかった。
そして言った。

「服を脱いだらどうかな?」

「え?」

「洗濯するから」

「………それはマズイだろ」

「不味くなんてないよ。どちらかというと美味しいよこの展開は。脱いだほうがいいよ
。撫子の前で裸になってよ」

「いや、でも脱いだってどうしようにも………洗濯してる間、僕はどうすんだよ」

「お風呂に入ったりすればいいんじゃないかな、あったまるし」

「何故そんなことに………いや、なにか着替えたりさ」

ここで気づく。 ようやく気づく。
千石から着替えを借りたとしても、千石の服を僕が着れる訳がない。
サイズ的にも、絵的にもたぶん、不味い展開である。

それにちょっと千石には悪いが、オイトマしなければならない時間である。
一箇所に長く留まっていると、羽川とか、妹たちだとかの追っ手に捕まってしまう可能性があるのだ。
そう、みなさん忘れている方々もいるのではないかと心配になるが、僕は追われている身なのだ。

とにかく、追っ手がいるなら、僕を捕まえようとしてくるなら上手く躱したいところだ。
ひょいひょいと、諸星あたるの如く。
いや、逃げるのが上手いという点ではルパン三世の右に出る者はいないな。

「ううん、暦お兄ちゃんはお風呂場に行くしかないよ。
シャワーを浴びてしまえば、後はもう、どうにでもなるんだよ。
完全にこっちのものだよ」

「いや、僕はもう行かなくちゃならないんだ。
こわーいお姉さんが追いかけてくるからな」

カリオストロの令嬢を相手にした際のような大人の優しさを見せた。
決まった、ような気がしたが千石が接近。
また絡んできそうだったので、物理的に絡んできそうだったので僕は反射的に手を前に出した。

「えいっ」

「ひゃ!?」

千石の胸にタッチ。

背筋をぴんと伸ばして。
千石は固まった。
硬直した。
メデューサに睨まれたらこうなるのかもしれないってくらいに。

しかし千石にセクハラを多用するのは気が引けるので手を引いた。
すぐに離れた。

「ごめん。 世話になったな千石。 映画面白かったよ」

そんなこんなで部屋のドアを開け、千石の家から逃げ出した。
鍵の解除に苦労した―――かといえばそれほどでもなかった。
内側から開けるのなら一瞬だ。

更新来てたか

遅くてすみません
あ、よつぎドール発売しましたね


僕は千石の家から脱出した。
玄関のドアを開けて、夏の熱気に飛び込む。
暗い部屋にずっといたせいか、眩しい。

「しかし、誰にも見つからなかったってのは意外だな………」

思わず呟く。
八九寺の胸を揉んで逃走し、神原の家に押し掛けて、だとしたら僕の残りの行き先は大体予想されてしまうだろう―――特に羽川には。
羽川の指令で火憐が待機していてもおかしくなかった。
その場合逮捕はされないだろうが、捕獲拘束ぐらいならされるだろう。

僕が縛られて連れて行かれて、そう、羽川の前に連れて行かれて―――、
それで身動きが取れない僕は、お仕置きとかされるのだろう。
羽川先生にお仕置きされてしまうのだろう。
そうであってほしい。
そうでなければ話にならないくらいである。
よだれが止まらない。

「おっと、そういえば携帯………」
電源、切っていたんだった。
僕はまた、羽川にラブコールでもしようかなと考えながら電源ボタンを押す。
羽川からメールが来ているという可能性もある。

その時、携帯が振動した。
これは………、メールじゃなくて電話だ。
―――すごい奴だ。
狙ったようなタイミングで電話することができる人物………!
そんなの、一人しかいないぜ!
僕は素早く電話に出て啖呵を切る。

「先生! お仕置きはお尻百叩きでお願いします!」

「はあ? ―――何言ってんの、お兄ちゃん」

ん?
あれれ、この声は………

声の主はすぐにわかった。
いや、聞いた瞬間にわかってはいたのだけれど。
近くを車が通り過ぎた。
それをなんとなく目で追って、ついでに歩道を見て、そこで僕と同じように携帯を耳に当てて話している着物姿の女子を見つけたのだ。

「あっ」

月火ちゃんは叫んだ。

『あっ』

こちらは携帯から聞こえた声だ。

阿良々木月火。
ファイヤーシスターズの参謀担当にして、僕のちっちゃい方の妹である。
最新巻でも出番がそこそこ多いと聞く生意気な中学二年生である。

「なんだよ月火ちゃんか………。 僕はてっきり、羽川だと思って応対してしまったじゃないか」

「えー………、何言ってるの、この人」

月火ちゃんドン引き。


「ああ、そうか。 応対っていうのは相手の話に応じて対応するって意味だから―――
、さっきの僕のは、少し違うということか」

「いや、そういう問題じゃないと思う。 そんなテストに出てきそうな、日本語の使い方なんかよりも真っ先に恥じる
点があると思うよ、お兄ちゃんには」

「恥の多い人生を送ってきたからな………。 羽川にお仕置きを受ける権利くらいはあるよ」

「人間失格だね………」


僕は携帯をポケットに仕舞おうとして、しかし月火ちゃんが耳に携帯を当てたままだというのに気づく。
もう通話は切ったのに。
そういうノリで行くつもりなのか。
近距離電話バトルか。
面白い―――。
いや、そこまで面白くもないのでは―――と思ったが、ここは兄として、妹の遊びに付き合ってやるとしよう。
携帯を耳に当てて話し続ける。
向かい合う月火ちゃんとの距離は、三メートルといったところか。

「あんまり羽川さんに迷惑かけちゃ駄目だよお兄ちゃん」

「その台詞、そっくりそのまま返すぜ」

アニメでファイヤーシスターズと羽川、組んでただろ。

おつおつ

繧ゅa繧ゅa

まだかい?

「電話に出て話す相手を確認せずにエロトークを始めるなんて。
誰に教わったの、お兄ちゃん」
「別に教わったわけではないけど………」

似ただけだ。
いや、あいつに似るのはいけない。
こういうものは癖になってしまっては僕の評判はガタ落ちだ。
もう恥はさんざん見せたと思うが、それでも程度はわきまえよう。
こんな僕でも、教室ではクールキャラで通っているからな。
驚くべきことに。

電話を持ったまま近づく月火ちゃん。
そのまま何気なく口を開く。

「神原さんって、エロいよね」
「えっ!?」
僕は素っ頓狂な声を上げる。
こいつ、それを知ってるのか。
どこまで知っているんだ。
ていうか神原と、どの程度くだけた話をしたんだ、こいつ。
何を吹き込んだんだ、神原。

「そ、そうか?僕の普通の後輩だと思うが………」
「普通の人なんて、いないと思うよ、そんなの………いや、違うかな。普通の人はみんなエロい、という方が正解かも」
「あまり同調したくない意見が………人間だからな」
中学生にしてその域に達するとは………。
いや、中学生だからこそか。

「神原と、そんなに話したのか?」
「んーん」
と、首を振る。
歩いてきた月火ちゃんはもう、僕の目の前に迫っている。
「ただ、お兄ちゃんの友達だし、火憐ちゃんの師匠だから多分変態かなって」
「………なるほど」
自然な理屈である。
自然であってはよくないが。

「ていうか携帯は閉じようよ、お兄ちゃん」
と月火ちゃん。
「………ん、そうか。そうだな」
これを使って何か面白いことをやる流れかと思ったが、結局思いつかなかった。
確かに、片手がふさがっていると色々とやりづらいからな。
胸を揉む時とかに。
僕は携帯を閉じて仕舞った。

「………なんか今、よこしまな理由で仕舞わなかった?」
「え?なんでそう思うんだ?」
「いや、なんとなくだけど、私の勘違いかな」
「………ていうかお前はなんで閉じようって言ったんだ」
「え?料金がもったいないからじゃあ、ないの?」
「………なるほど。そういう理由もあるか」
「………」
なんだか場の空気がいびつである。

キテター

ちりんちりん、と音が聞こえて、ちょっとした障害が入ったことを知る。
僕と月火ちゃんはそちらに振り向く。

障害と呼ぶレベルではない。
自転車が走ってきて、歩道に二人で立っている僕と月火に対してベルを鳴らしたのだ。
乗っていたのは普通の、大学生風の男だったように思うが、僕は大して記憶に残さずに
月火ちゃんと顔を見合わせる。

この町の歩道はそんなに広くない。
僕と月火ちゃんが二人並んで立っていると、それでもう、自転車が通るには邪魔である。
いや、それが一般的なこの国の交通事情だろう。
海外では道が広いものだから、譲るという文化があまりないらしいが。

邪魔である僕は、月火ちゃんに目で合図して、一緒に自転車を避けようとした。
その時。
「ん」
と、月火ちゃんは言った。
え、なに?なんだって?
「ん」
と、言いながら僕をじっとりと睨み、顎を軽く揺らすジェスチャー。
棒立ちで、地面に根を張っているように動こうとしない。

僕は呆れた。
この妹、人を顎で使おうとしているのだ。
兄に対して「退け」と言っているのだ。
いや、言いもしない。
言わずに退けと言っている。
激怒を通り越して呆れた。


映像化されないと、僕のこのイラつき具合は伝わりにくいかもしれない。
いや、映像化されてはいけない。
人気投票で不利になるだけだ。

中学生くらいの年頃は、確かに不良振りたい時もあるが、自分の意思を示したいと思うのは大切だが
、これはただ単に生意気で失礼な奴である。
本当の不良は美学を持っているものだ。

この妹は本当に、何なんだ。
兄という、人生の先輩に対してなんていう態度だ。
その人生の先輩は、家庭内で妹を押し倒し胸を揉んだり唇を奪うなどの過去を持つ失礼な奴というか、
もう卑劣と呼ばれても言い返せない立場ではあるが、それでも僕はこの妹を
何とかしなければという責任感に駆られた。


とにかく、この女はなんという………、どれだけ人間ができていないんだ。
短慮なんだ。愚かなんだ。
着物なんて着ておいて、日本人女性らしさがまるでない。
女として未熟………、妹。

まだ中学生だから、だから今は、多分失敗を重ねる時期なんだろう。
それも必要だろう。
だが。
妹はそうだとしても。
僕は僕で、兄の務めを果たさなければなるまい。

僕はこの妹を道の真ん中からどかすべく、両手を前に出したが、そこで止める。
妹は浴衣。浴衣である。
僕は考える。
女物の着物の構造はよく知らないが………無理に引っ張ると肌蹴てしまうのではないか。

あ、いや………浴衣と着物は別物か。
着るのが難しい方が着物だったっけ?
とにかく、家の中では知ったこっちゃないが、実際に肌蹴まくって半裸で取っ組み合いをした記憶
もあるにはあるのだが、町中でそういうことはするまい。
浴衣の脱がしやすさを僕はよく知っている。
回数を重ねるごとに、脱がすコツも掴んできた。

上げたまま行き場を失った僕の両手。
その立ち姿はさながらファイティングポーズのようだったが、再び移動させて妹の頭部
を抱擁する。
浴衣を避けて掴んだ結果だった。

「え、な、何………?」
月火ちゃんが戸惑いの声を上げるのもわかる。
僕自身、これからどうするかわからない。
予想がつかない。
月火ちゃんと見つめ合いながら考える。
いや、月火ちゃんが目を泳がせ始めた。
髪に隠れている耳に触れた。


かつて発明王のトーマスは、少年時代に新聞配達のアルバイトをしていたらしい。
配達というよりは配布だろうか。
主に電車や駅で配っていたそうだ。

彼はある日、電車が出発するときにまだ駅にいて、乗り遅れそうになった。
彼の上司は電車の最後尾にいて、走り出す電車を追いかけるトーマスを見つけると、何

とかして電車に乗せようとした。
電車に追いつきそうなトーマスに両手を伸ばす。
そのまま手をつなげればよかったのだろうが、トーマスは新聞を抱えたまま走っていた。
商売道具を捨てるわけにはいかない。
上司はやむを得ず、トーマスの体をとにかく無闇に掴んで、持ち上げた。

その時からトーマスは耳を悪くした。
持ち上げた際に、耳を強く引っ張ってしまったことが原因らしい。

可哀想なトーマス。
だが、乗り遅れた彼にも責任はある。
それでも後に大成した。

偉大な発明家に思いを馳せながら、月火ちゃんの両耳を撫でる。

「ちょ、ちょっとお兄ちゃん………」
妹は路上での兄の奇行に戸惑いを隠せないようだ。
「こんな、人目につくところでなんて………もう、本当に恥ずかしい人だなあ」

「ほら、今回だけだからね」
と言って。
目を閉じ、唇を上げる月火ちゃん。
耳の温度が上昇し始めるのを感じた。
何をやっているんだ、この妹は。

車輪の音がする。
自転車だ。
そうだ、自転車を避けようとしていただけなのに、何を遊んでいるんだ僕は。
早く退かないと迷惑だ。

だがどうする、この妹を。
耳を掴んでしまったら、トーマスの二の舞だ。
怪我をしない方法を考えなければ………。

考え始めたところで、考えなくてもいいことに気づく。
考える必要なんてなかった。
月火ちゃんは怪我などしない。
そう、怪我なんて―――全部消える。
消えた。
だって、僕の妹は不死身だから。
不死身の怪異、不死鳥だから。

「じゃあ胸でいいか」
僕は瞬時に両手を動かし、妹の両胸を鷲掴みにしてそのまま引きずった。
ざりざり、という地面との摩擦音を聞きながら、道路脇に寄せる。
妹の呻き声が耳に届いた時は流石に心が痛み、後悔した。

自転車に乗った通行人はおそらく、見た光景を忘れようという意志を込めて視線を泳がせ、
通り過ぎていった………はずだ。
僕は月火ちゃんの顔を気にしていたから、よくわからない。
見ると妹は両目の淵に涙を貯めていた。
「………正座」
かつてないほど低いその声に、僕は黙って従うしかなかった。

僕は夏のアスファルトに正座し、妹から平手打ちを食らった。


「いや、違うんだ!僕だって最初からこうしようと思ったわけじゃない!」
「当たり前でしょ!なんでこうしようと思うの!思ったの!」
「これは、やむを得ない事情によって仕方なく………」
「どんな事情があったら妹をおっぱいで引きずるの!?兄どころか、人としてどうかっ
ていう問題だよ!」
「いや、だってトーマスみたいになるのは良くないし………」
「なんでそこでエジソンが出てくるの!?」
「いや、そもそも元はと言えば、お前の態度がだなあ………!」
平手打ちを連続で喰らいながらも、罵り合った。

今日はここまで

ちょっとやり過ぎた

乙更新待ってます

あららぎさんも狂ってるが月火ちゃんもなかなかおかしいwww

こよこよ、残念だがそれは揉んだうちには入らない。
状況に流されて掴んで引っ張っただけだ。
揉むっていうのはね誰にも邪魔されず自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ 二人きりで静かで豊かで……
やり直し!! take2!!

おつおつ!

かれかれ!

月火ちゃんのダメージの程を心配したが、彼女が今こうして僕をひっぱたいている以上、
その心配はないように見える。
彼女に人間の常識は通用しない。
細胞単位で違う。
ips細胞どころの話ではない。
治療すら必要ないのだ。

「あーもう、本当に痛かったのは私なんだからね………」
そうつぶやく月火ちゃん。
「えっ、まだ痛い?」
「当たり前でしょ」

「兄ちゃんさ、あたしの胸をなんだと思ってるの?」
「普通の胸よりもHPが高い感じの胸だと思っている」
「どんな胸なの、それ………」
「しかしそんなに痛むのはおかしいな………ちょっと見せてよ」
「嫌だよ。今後一切、お兄ちゃんにおっぱいは見せないから」
「いや、何も脱げとは言ってないよ」
今後一切見せないだと?
有り得ないね。
賭けてもいい。
そんなの有り得ないね。

「どの辺?ここ?」
「違う、もうちょっとこっち」
「この辺か………痛いの痛いの、飛んでけー」
「馬鹿じゃないの」
「病は気からだ」
「するならするで、もうちょっと優しくしてよ」
「わ、わかったよ………いたいのいたいの、」
「もうちょっと優しく触って」
「ええっと、こう?」
「そう、もうちょっと、包むみたいにして………」

「あんっ、違うって」
「ああ、こっちに動かすと痛いのか」
「そうそう、ようやくわかってきたみたいだね、愚かなお兄ちゃんにも」
「当たり前だよ。僕を誰だと思ってるんだ」
「誰だって、そんなのお兄ちゃんでしょ………ていうか、必要異常に上手かったらどうしようかと思った」
「え?下手か、僕」
「下手」
「マジか………」

まあ、ご近所に知れ渡ると色々と良くないのでこれくらいにしておこう。
「もう手遅れだと思うよ、その点はもはやフォローしきれないよ。お兄ちゃん」
と、うなだれる月火ちゃん。
「そんなことないだろ。日頃の行いが良ければ、多少のミスは大目に見てもらえるさ」
だからその日頃の行いが悪いのだが、八九寺と会った時なんかはテンションが上がって
仕方がないのだ。

「もうちょっと人目を考えようよ、お兄ちゃん。お兄ちゃんを心配して言ってるんだよ」
「そうだな。できるだけ家の中ですることにしよう」

やっぱりこの兄妹は狂ってるよ!!

月火ちゃんカワユス

さすがや

ちょっと関係ないですがエヴァンゲリオンQ、見てきました。
難しい話ですね。
もう一回見ようかな………。

なんか評判悪い気が

「いやいや、でも月火ちゃんが浴衣を着ているのも悪いんだよ」
「悪くないね。お兄ちゃんが変態なのが悪いね。そこは一歩も譲らないから」
そう言って、無い胸を張るちっちゃい妹。

ド突かれた。
「………痛いよ。何するんだよ、痛いじゃないか」
「失礼な思考を感じたから」
「思考を感じただけで………」
思想の自由もないのか、この妹の前では。


「男に対してセクハラだのなんだのいう女性は多いけどさ、そういう事件はあるけどさ、多くは
その女性の服装にも問題があると思うんだ」
「うっわ、なんだか痴漢の現行犯みたいなことを言いだしたよ、お兄ちゃん」

「だって、浴衣って無防備じゃん」
「無防備じゃないよ。日本の伝統的な民族衣装を無防備の一言で片付けないでよ」
「いや、正直な話、日本の伝統的な文化って大体無防備じゃないか?」
「そうかな」
「そうだよ。浴衣もそうだし、神原の家なんかは屋敷だからわかりやすいな。
襖だの障子だの、とにかく施錠という文化がないじゃないか」
「その例えは極端すぎると思うけどなあ」

「ていうか兄ちゃんさ、仮に浴衣が無防備だったとしても、兄ちゃんが脱がしたりしなければ、何の問題もないんだよ」
「………むう」
正論である。
あれ、でも待てよ?

「いや、でも今日は脱がしてないじゃん。揉んだだけじゃん。だから別に、悪くないじゃん」
「その台詞がもう普通じゃないってことに、常軌を逸してるってことに気づこうよ………」
額に手を当てて肩を下げる月火ちゃん。
困ってる人って、可愛いよね。

うむ、可愛い

「でも浴衣が無防備で脱がせやすいっていうのは、まあ認めるよ」
「認めるのか」
「認めるよ。でもさ」
「うん」
「そこがいいよね」
「いいよな」
妹と路上でハイタッチした。

「でもお兄ちゃんの好みは違うよね。外国かぶれだよね。デニムとベルト以外に私服がないお兄ちゃん」
「いや、もうちょっと色々あるよ。それくらいのレパートリーはあるよ僕にも」

「そもそもジーパン穿いてるくらいで外国かぶれって、何事だよ」
「ジーパンじゃなくてデニム。………あ、ジーンズのほうがいいか。デニムは女物だった。」
「違いがわからん」
全然わからん。

「次にジーパンとかズボンとか、そういうワードをほざいたら刺すから」
「いや、やめろよ。 なんでそんなことで刺されるんだよ」
沸点が低い。
いつ溢れるかわからない。
頭が沸いている。
まあ、先ほど僕が彼女の胸に行なった仕打ちを思えば、わからなくもないが。

「基礎知識だよ」
「それは果たして、覚える必要あるのか?」
「あるよ。ありありだよ、お兄ちゃんは。 特に戦場ヶ原さんはデニム似合うんだから」
「ん………? あー、ああー………」
突然名前が出たので少し面食らう。
ジーパン、もといデニムの戦場ヶ原を想像する。

「腰の位置が高くてスタイルがいいから似合うって、羽川さんが言ってた」
まあ、確かに足が長いからな。
「腰の高さを分けて欲しいって話で、二人してかなり盛り上がったんだから」
「盛り上がるなよ………」
どうも僕の周りには長身か、もしくは長身願望の女子が多い。
ちょっとやめてほしい。

「そもそも、僕が何着ようが勝手だろ。どうせ誰も見やしないさ」
「見やしないなんてことないよ。嫌でも目に入るんだから、そういうの」
「うーん」
「女子はそういうの、みんな見てるよ」
「いいだろもう。話を戻そう。そうだよ、なんでこんな話してんだよ。
一刻も早く、胸を揉む系統の話に戻ろうよ」
「戻したくないね、ここで食い止めたいね。これ以上ひどいことにならないように、全力で立ちはだかりたいね」

月火ちゃんの 立ち裸・・・

股間が熱くなるな・・・

ふむ。
これ以上ひどいことにならないように―――だと?
この妹、どこまで知ってる?
僕が今日、何をやっていたか知っているのか?
僕が何かにとり憑かれたように、胸を揉んで回っているのを伝え聞いているのか?
しまった。
まさか火憐ちゃんが言い触らしてるのか?
例えそうだとしても、僕の自業自得であることは誰の目から見ても明らかである。

空が赤くなってきたことに気づく。
僕は少し目を細め、さっきまで眩しくて直視できなかった火の玉を眺める。
何故だろう、途端に心が哀愁に満たされた。

「どうしたのお兄ちゃん。 そんな辛気臭い顔して」
「月火ちゃん………、いや、やっぱいい」
「何、気になる」
「いや、いいんだって」
「そんなこと言われたら気になるに決まってるでしょ。悩みがあるなら言ってみなって」
「いや、いいんだ。 本当にくだらないことだから」

「言って。 言わないと刺す」
「沸点が低い!」
突沸起こしまくり。
沸騰石が必要である。
懐かしいな沸騰石。
習ったのは中学の時だったか。
意外と身近な現象なので、コーヒーを電子レンジで温めたりするときは気を付けよう。

「月火ちゃん。僕は思うんだ」
「うん」
「こうして胸を揉んでばかりで、いいのかなって」
「………」
表情が凝固した。


月火ちゃんがスリープモードに移行している。
………僕の台詞が聞き取りづらかったのかな?
「こう」
ぴと。
「いいよわざわざ触らなくても、わかるから!」
手を払われた。
「本当にくだらない!」
「そんなユッキーみたいに突っ込まなくても」
「別に意識してないよ! お兄ちゃん今更何言ってるの? 大丈夫? 熱でもあるの?」
「そこまで心配しなくても………僕ってそういう扱いなんだ」
「お兄ちゃんはそういう悩みを持ったらいけないんだよ! お兄ちゃんがなくなっちゃうよ!」
「無くなりはしないだろ」
お前の中の僕は、一体なんなんだよ。

「いいかい、僕が胸を揉む話。 これだけで、それだけの話で300レスを超えたんだよ。消費したんだよ。
………どう思う?」
「いや、どう思うって言われてもわかんないよ。 気の利く台詞言えないよ。 語彙がなくなっていくような錯覚を
覚えるよ」

「ああ、つまり『こういう時、どんな顔をすればいいかわからないの』という心境であってるんだな」
「………うん。あってる。全然違うって言いたいけど、概ね合ってる」
「エヴァQ見に行った?」
「この前お兄ちゃんと見に行ったじゃん」
「ああ、そういう設定になってる?」
「なってる」

「ちょっと待って。エヴァQネタで盛り上がろうとするのならネタバレは無しだよ」
「ああ、それくらいのマナーは守るだろ普通は」
「うーん。どの程度に語ればいいかな」
「物語の本筋以外のことなら無難じゃないか?」
「えっと………、マリのおっぱいって、結構あるよね」
「だよなあ!」
ハイタッチ。

「私もあれくらい欲しいよ」
「いや、でもプラグスーツ来たら強調されるからな」
「大きく見せるようにデザインされてるのかな」
「そうかもしれない………。 あ、月火ちゃん、14歳か。」
エヴァ乗れるじゃん。

「別に乗りたくないよ。ロボットとか」
「ロボ言うな。 機械じゃないんだよ。 エヴァは心を開かないと乗れないんだよ。
今の一言でどれだけの国民を敵に回したか、お前わかってるのか」
「わからない………どれだけの国民を敵に回したの」
「………たくさん」
「兄ちゃんさ、本当に受験生?」
「ええい、じゃあ例えるなら、例えるならだ。エヴァをロボ扱いするのはデニムをズボンって言うくらいの暴力だと思えばいい」
「………わかりやすい」
「わかりやすかったか」
良かった。

おつおつ

行間あけてくれ


「話を戻すよお兄ちゃん」

「うん? マリのおっぱいについての話か?」

「違う。お兄ちゃんがおっぱいを揉んでいていいのかどうか、という議題」

「ああ、そっちか」

どっちにしろおっぱいだった。
駄目だこりゃ。

「お兄ちゃんは胸を揉みたいのかどうか、迷っているんだね? だから最近、ペースが落ちたんだね?」

「うん………いや、後半は関係ないよ。 それは僕のせいじゃないよ。 天の意思だよ」

「そっか。 ならいいや」

「ならいいのか」

「駄目だよお兄ちゃん、お兄ちゃんがそんなことを言い出すなんて、そんな常識ある人間になろう
だなんて、そんなことを言いだしたら私、どうすればいいのかわかんないよ」

「いや、兄が常識人になったら喜べよ。 そこは安心しろよ」

「ああっ、ほらやっぱり、お兄ちゃんの様子がおかしい。 これは私が何とかしないと」

「何とかする必要はない。 今までがおかしかったんだよ」

「そんなことを言い出すなら、お兄ちゃん、なんで胸を触ったの?」

「うーん………月火ちゃん。 受験生はね、ストレスが溜まるんだよ」

「うん、それはわかるよ。 わかるけど………いや、やっぱりわからない。
だからと言って妹の胸で引きずっていいという道理はないよね」

「引っ張るねえ、その話」

「引っ張るよー? だって引っ張られて引きずられたんもんね」

「月火ちゃん、何時だったか僕に言ったよね? 僕はいい加減、大人になるべきだって」

「………言った、けど」

「僕はもう、胸を揉むのは卒業したんだよ」

「やめて! お兄ちゃんがそんなこと言ったら!」

「そんなこと言ったら?」

「―――物語が終わっちゃうよ!」

「………」

終わっちゃうんだ………。
そんなことで終わっちゃうんだ………。


「ごめん月火ちゃん、僕は今、ちょっと迷ってるんだと思う」

「迷ってもいいよ。 中学生がこんなことを言っても変な感じがするかもしれないけど、そりゃ迷う時もあると思うよ、人間なんだから」

「でも胸を揉むのはよくないじゃん」

「お兄ちゃんはそんなこと言ったら駄目だよ! 早くいつものお兄ちゃんに戻ってよ!」

「月火ちゃん。 僕はね、精神的に大人になったんだよ」

「そんな………」
うろたえる月火ちゃん。

全裸待機は続く…

「お兄ちゃん、キャラがぶれてない?」

「いやいや、月火ちゃん、だっておかしいだろう? 女の子の胸を揉んで回る男なんて。そしてそいつが自分の兄だなんて」

「え?本気でそんなことを言ってるの?」

「本気じゃないさ。ただ、僕はそう………迷っているんだよ」

「………」

「迷走しているんだ。 僕はいろんな人に懺悔したい」

「………懺悔って、何を懺悔するの?」

「とぼけるな。 わかってるだろう?」

「いや、さっきからお兄ちゃんの言ってることはよくわからないっていうか………
本当に迷ってるようには見えるけど」

「………」

「やめてよね。感情的になってめちゃくちゃなことを言うのは、私の役目なんだから」

自覚してたのかよ。


例え自覚していても。
自分の欠点を知っていても。
それをやめては自分が消えてしまうのならば、やめられない。
欠点は自分自身でもある。

「これ以上そんな態度で長引かせるなら、私………、怒るよ?」

「適当な態度ではぐらかすのは、お前もやってることじゃないか………」

怒るよと言われたら、安心してしまう自分がいた。
月火は基本的に、何の前触れもなく怒る。

いや、前触れというか、原因はあるのだろうけど、極めて些細なことで怒る。
ノーモーションで攻撃に移ってくる。
その瞬発力は火憐ちゃんをも凌駕するのだ。

何にしろ、怒らせるのは得策ではない。
だから偽らずに言ってしまおう。

「これは懺悔だ。………懺悔なのか? なあ、月火ちゃん」

「なに?」

「僕は全員の胸を揉んでいていいのかなって」

「………ごめん、なんて?」

「いや、だから、僕が知ってる女子の胸を片っ端から揉んでいいのかなって」

「いいわけないだろ!」

殴打を受けた。

「お兄ちゃん、そんなの、いいことなわけない。 正論じゃ、ない」

「………そうだな」

「でもお兄ちゃんは、正しいとか間違ってるとか、そんなことで行動してるのかな」

「え?」

「さっき、私の胸を掴んで引っ張ったとき、そんな世間体みたいなものを、気にしていたのかな」

「………」

「常識だけで考えて、非常識を避けて。 そういう考え方をしているのかな」

「………僕は」

「違うでしょ? お兄ちゃんは私のことを考えて、本当に色んなことを考えて、頭がぐちゃぐちゃになって、それで、最終的に人として有り得ないようなことをする。
それがお兄ちゃんでしょう?」

「………ああ、僕はそんな、有り得ないことをする人間なんだよ」

「そうだね」

「………」

「でも、お兄ちゃんが選んだことなんでしょう?」

「お兄ちゃんが出した答えで。お兄ちゃんが後悔している。そういう答えなんでしょう?」

「………妹に」

「え?」

「妹に説教をされるくらい、落ちぶれていたなんてな」

「お兄ちゃん」

「月火ちゃん。 どうやら僕は少し、弱気になっていたみたいだ」

「………」

「でも決めた! 常識なんて知らない! やむを得ない事情がある場合は、おっぱいを揉むよ!」

「そうだよ! その意気だよお兄ちゃん! 粋だよ!」

「―――時に、月火ちゃん。 胸はもう痛くないか?」

「たぶん大丈夫。さっきは大騒ぎしたけど、全然痛くないし」

「いやいや、こういう時にたぶんとか危機感が不足した考え方はいけないんだよ。
事故ってさ、後になって痛くなってくるケースが結構あるんだって」

「それは私も聞いたことがあるけど………」

「ちゃんと患部を見せてみなって」

「ちょ、ちょっとお兄ちゃん」

当然のことながら、町中で妹を脱がすような真似はしない。
人目につく場所でそんなことはしない。
僕もそれくらいの良識はある。

だから、暗がりに連れ込んでから脱がそう、そうしよう。

「痛くないよ、痛くないし、自分で見るから」

「お前が大丈夫って言ったら、大抵大丈夫じゃないんだよ。 お前らがやることは大抵

大問題になってるんだよ」

「いや、問題を起こしたのはお兄ちゃんだけどね?」

「だったらなおさらだ。 僕が問題を犯したのなら、僕が責任を取るのが筋ってものじ

ゃないか」

「………何なの? 急に男らしいことを言い出したりして」

「いや別に、揉んだりしないって、確認だって」

「大丈夫だから。 本当に、揉まなくていいから」

「やだね、揉む」

「揉まないで」

「揉む」

「揉まないで」


「―――何やってるの!」

予期せぬ妨害が入り、極めて正しい妨害が入り、僕と月火ちゃんはその声の
する方向に顔を向けた。

今日はここまで

乙!!

乙!
月火ちゃん可愛いなあ

乙!

バ可愛い火憐ちゃんのしっとりと蒸れたぷにまんをゆっくり揉んでマッサージしたいなぁ…

追い付いた

待ってるぜ

月火ちゃんは可愛いなぁ

月火ちゃんぺろぺろ

「いや、違うんだよ羽川。 これは違うんだよ」

真夏のアスファルトに正座する僕。

「そうそう、違うんだよ羽川さん。 違うっていうか、間違っていることがあるとすればそれは、お兄ちゃんなんだよ」

責任転嫁をしつつ、同様に正座する月火ちゃん。
浴衣だけど、膝は熱くないのか。
いや、月火ちゃんの正体のことを思えば、これくらいの苦難は何ともない。
特に熱なんてものは、問題ではないのだろう。

僕はバサ姉の胸を見上げている。
これは互いの位置の関係上、仕方のないことだった。

「………ていうか、私が見つけてすぐに路上に正座するのはやめて。
示し合わせたように二人して座るのはやめて。
見ているこっちが熱くなるから」

「………いや、でも怒られる時には正座と相場が決まっているし」

溜息を付く羽川さん。

来てたか(ガタッ

キタ-

「いや、でもこれは深いわけがあったんだよ羽川。」

「見つけたのが私で本当によかったよ………。警察に職務質問とかされるよりも良かったでしょう?」

「………うん」

「クラスの誰かに見つかる可能性だってあるんだよ?」

正論攻撃が辛い。

「しかしだな羽川、この世には揉まなきゃ解決できない問題だってあるんだ。
たくさんあるんだ。
僕は胸を揉んであげることで、ストレスを和らげているのさ。
揉んで問題を解決してるんだよ。
揉めごと処理屋だよ。」

「………ずいぶん斬新な発想というか、言葉が見当たらないよ」

おつおつ

待ってた

乙~

「さあ、お家に帰るよ阿良々木くん」

「そりゃないぜばっさーん」

「何それ………もはや誰のことだかわかんないんだけど」

「うん………僕もこれはないなと思った」

ノリで場をつなぐのも限界があるな。

「月火ちゃんも、お兄ちゃんがおかしくなったらしっかり注意しないと」

「大丈夫だよ羽川さん。 平手打ちとかしたし」

「暴力を振るえっていう話ではないんだけど………」



「でも羽川さん、いきなり胸を掴まれたら怒るでしょ」

「いやいや羽川、これは深い事情が、そして説明しづらい事情があるんだよ。僕はトーマスの二の足を踏まないようにしただけさ」

「何故そこでエジソンが………」

瞬時にエジソンだとわかってくれる羽川は流石である。
流石というか、ちょっとおかしい。

「でも………そうだね。私も胸なら毎日触ってるし」

「えっ」

「お風呂入るとき」

「………ああー」

来てた
乙!

「なるほどな。いや待てよ。おかしいぞ。卑怯だと思わないか月火ちゃん」

「うん、確かに不公平だと思う。お兄ちゃんが言うとなんだかイラっとくるけれど、私

にも揉む権利はあると思う」

真剣な眼差しで力強く頷く月火ちゃん。
ノリがいいな、こいつ。
しかしどんな時にも僕への攻撃を怠らないあたりは流石である。

「どう思う、羽川」

「羽川さん、最近、胸を持て余していないかな」

阿良々木兄妹のチームワークを発揮したコンビプレーだ。
一たまりもあるまい。

「阿良々木くん、」

「ごめんなさい」

「………まだ何も言ってないでしょう」

やっぱ怖い。
羽川を怒らせるのやっぱり怖い。

「いやもう、本当にごめんなさい。僕が悪かったです調子に乗って」

「やめて阿良々木くん。アスファルトに頬ずりするのやめて」

「土下座は既にしているのでこれ以上の責め苦となると、焼き土下座しか思いつきません」

夏休みのアスファルトは熱い。
もう忘れている人もいると思うけど、設定は夏なんだよね。

「本当に60度近くになったりするんだから、焼き土下座っていうのも間違ってないよ」

「やめてお兄ちゃん、見苦しいよ」

あっ、お前なんで土下座やめてんだよ。
お前も共犯だろ。

「嫌だよ。ほっぺた火傷したら大変だし」

「阿良々木くん、やめて」

「あっ………もうちょっと待っててこれ、癖になるかも」

「えっと………何が癖になるって?」

「ごつごつの鱗に焼かれるような感触がすんごく気持ちいい」

「これ以上異常性癖を増やさないでよお兄ちゃん」

「異常性癖というのもどうなんだろう。前代未聞なんだけど………」

呆れながら周りをキョロキョロと見回す羽川。
まあ当然だが、人目を気にしているらしい。


流石に受験を控えた高校三年生の行動ではない。
妹の教育上も、良くない。
いや、既に性格は姉妹揃って破綻しているから、それなりに諦めてはいるのだけれど。

何事も程度が肝心。
ハメを外すのは程ほどに。

速く走ることを目的としたスポーツカーでも、当然の如くブレーキはついているし
そのブレーキの性能が優れているからこそ
安心してスピードが出せる、遠慮なくアクセルが踏めるいうものである。
自制心を持って生きなければいけない。

人目を気にして周囲を見回している羽川のスカートの中を見上げたら、やめにしよう。

乙!

よくよく考えたら1年以上経ってたな。

おつおつ

追い付いてしまった

「お兄ちゃん」

「うん?」

「くたばれ」

「お前はアジルスか」

「いや、率直な感想を述べたまでなんだけど………。何そのツッコミ。
アジルスって何?」

アニゲラ!ディドゥーーンを知らないのか。
まあ中学二年生で声優ラジオを見てないのは健全と言えるだろうが。

「どっちにしろ勉強はしようよ、お兄ちゃん。展開に行き詰まってるんならシリアス路線に入って見るのもいいと思うよ」

「シリアス路線っていうか、勉強なんて修行編みたいなものじゃないか。
読者が喜ぶとは思えないぞ」

「いや、お兄ちゃんがつらい目にあって、辛酸を舐めてヒイヒイ言っていれば、それなりに面白いよ」

「嫌だよ。あんまり見せたくないんだよ」

こちとら受験生なんだからそういうことは毎日やってるんだ。

月火ちゃんが足を上げたので、僕はそのおみ足の土踏まずのあたりを掴んで、停止させた。

「何をやっているんだ、月火ちゃん」

「お兄ちゃんこそ、なんで妹の足を掴んでいるのかな」

「お前が何かしようとしたから」

「ちょっと足を上げて、下ろすだけだよ。 毎日やってることだよ」

「場所が問題なんだよ。 なんで僕の寝ている上でやるんだよ。お前、とりあえず暴力を振るっておけば面白いと思ってるだろ」

「お兄ちゃんの挙動に誤解を招く成分が含まれているからでしょ?
これからはバールじゃなくてバール・ダオラで起こそうかな」

「超速射付きのライトボウガンで!?」

ネットゲームの武器の知名度っていうのは、果たしてどんなものだろう。

まあなんにしろ、この体勢は負担がかかるので、仮に僕が通常の人間であるなら、女子の力とは言っても体重の乗った踏みつけを片手で押し返すのは明らかにおかしいので、
慎重に月火ちゃんの足を顔の横に置いた。

この時、足を舐めてやろうかとも思ったがしかし、羽川の前でそれをやってしまうと後の表情の変化を見るのが怖いので自重した。

来てた!乙乙


「月火ちゃん、私はお兄ちゃんに用があるから、というよりいつも通りのルーティンと
して問題集に向かわせるから」

「うん、私もいい加減に部屋でゴロゴロしたいし」

「気をつけて帰るんだよ」

「羽川さんも、お兄ちゃんに気をつけてね」


「部屋でゴロゴロか。中学二年生なんて気楽なもんだな」

「阿良々木くんは何してたの?中学二年生の時」

「原作に書いてないから確信は持てないが、遊んでいた」

「正常だよ。子供が遊んでいるんだから」

「羽川も遊んでたのか?」

「たまには遊んでいたよ。図書館が閉まってる日もあるからね」

「真似できないな………」

「あっ、八九寺だ! 襲いたい!」

「えっ」

「隙有り!」

僕は極めて古典的かつ軽く頬を染めてしまうくらいベタな手法で羽川の気を逸らし、地面を蹴って飛ぶように走った。

「じゃあな羽川!」

こんな簡単に脱出できるとは、意外だぜ。

「しまった! でも阿良々木くんなら気合いでやりかねないから、つい!」

後ろから聞き捨てならない説明というか、解説というか、僕に対する分析を投げかけられたが否定できない。
まあ、否定する必要もないが。
八九寺は僕の浪曼であり、人生の目的である。

おつおつ


軽快なダッシュを決める僕。
地面に擦りつけていた頬はまだ熱を持っていたが、痕は残ってないみたいだ。

羽川には悪いが、僕には与えられた使命がある。
深く考えてばかりもいられない。
お勉強シーンばかりでは絵にならないから困るのだ。

と、ふと石塀の角にピンク色のリュックサックが見えた。
二度見した。

「―――っておい、八九寺じゃないかよ!」

なんだよまた出てくるなんて、いや嬉しいけどさ!

蝸牛角上。世界は狭いなあ。
一日一回ルールなんて誰も決めていないわけだし、無視するのも良くないだろう。
声くらいはかけるべきだ。

さあてどうする。
飽きられないために、多少のバリエーション変化は必要である。
とりあえず抱きついてから考えるか。

来てた~ 乙!

「八九寺ぃぃーーっ!」

毎回、趣向を凝らすのが楽しい。
もはやライフワークだ。

新パターンとしてパンツをめくってみようかとか、いや流石に
もう一生口をきいてくれないのは勘弁だなとか、
ギャグマンガ家はそこらへんの基準をどうやって調整しているんだろうとか


日々数学の問題集で鍛えている頭の回転、思考力を惜しげもなく発揮しながら
八九寺のリュックサックに飛びついた僕だけれど、そこで僕は妙な違和感を感じた。

何か違う。
あれ、八九寺のリュックサック………だよな、これ?

それはリュックサックにしがみついた僕に、這うように絡みついてきた。
僕は、それを一瞬蛇かと思ったが、蛇切縄が何かの理由で僕のもとにやってきたのかと思って
固まってしまったが、どうも感触が違う。
生き物が持つ独特の異様な感触、気持ち悪さはなかった。

「―――う、うぉおっ」

間抜けな声を上げている僕に「網目」が襲いかかる。

これは………縄! ロープ!

僕とリュックサックを包んだ縄は、ぐいっと力強く僕の身体を、四肢の動きを封じた。
なんだこれ、トラップ?
それにしては古典的な………昔の漫画に出てきそうだ
忍たま乱太郎とかさ。

「全く、長い出待ちだったわ。いえ、だからこそ私の立ち姿が映えるというものね」

く………、僕が地面に転がっているような体勢であることもあるが、
身長が高い女だ。
そして姿勢いいなお前。

今日はここまで

がはらさんキタ━(゚∀゚)━!

おつおつ

追いついた
えーい、続きはまだか

追い付いた



ひたぎさんwwww

わたし待つわ

たわしま~つ~わ~♪

こんにちは、神原駿河だ!

これから戦場ヶ原先輩と阿良々木先輩のハードな掛け合いが展開されることを期待していたという読者も多いと思うのだが、それを裏切った形になってしまって申し訳ない。
裏切ったし、嘘だった。

これから少しだけ語る私の話は、まあつまらなければ忘れてもらって構わない。
私も面白いとは思わない。
本当は私だって阿良々木先輩の妹たちとハードな遊びを楽しんだりしたいと思うのだが、楽しい日々というものはいつまでも続いてはくれない。
続いてはくれないようだ。

いや、だからこそ楽しいことは、楽しいのだろうか。
そう思えるのだろうか。

小学生の頃から文字通り必死で、誰も殺さないために走ってきた私だが、
猿の手の力を恐れ、襲われる誰かを助けるために、必死で走ってきた私だが、
今日も走っていた。

かなり全力で。
肺が悲鳴を上げるほどに。
肩で息をするくらいに。
地面を見つめて、何がいけなかったのかを考える。

「どうした、神原の忘れ形見。 いや、駿河」

「………」

「俺のことが嫌いなら、見なければいいだろう」

できれば忘れたい話なので、嘘みたいな話なので正確な日付は覚えていない。
ただ、阿良々木先輩が遊びに来た日ではなかったし、町で胸を揉みながら移動する男の怪異が現れた日とも違ったはずだ。
そんな噂が本当かどうかは非常に気になるところだが、まあ置いておこう。
………うん。
まあ、うん。

確かアスファルトが焼けるように暑い夏の日だった。
私は町外れの市民体育館でシュート練習をしていた。

日課、というわけではないが私はよく、バスケットボール部の練習以外でも自主練習をしていた。
それは、その練習自体は部員ならそれほど珍しいことではないのだが、私の場合はこの『手』のこともあり、必須だった。

自分の足は信用できるが、自分の手は信用できない。
それでも、『何かあった』時に少しでもコントロールできるように、という願掛け、
気休めの類だった。

はたから見れば私は、単に努力家の女子運動部員にしか見えないのだろう。
そんな微笑ましい女子になれれば良かったのかもしれないが、可愛らしかったのかもしれないが、ずいぶん離れてしまったものだ。

しかし純粋に、体を動かすのは楽しかった。
ただ、赤いリングにボールを入れる方法を。
いい感じでボードに当てて、いい感じでリングにボールが入り、ネットがたるむ音。

それだけを感じて、考える時間は、唯々、楽しい。
楽しいのだが。

それをはたから見ていた男がいた。

体育館の二階、ギャラリーとは別物だろうか。
いつもランニングで走る体育館の外周部分だが、だから必然的に学校の名前が入ったシャツやユニフォームを見ることが多い場所である。
そこに黒スーツの男が立っていれば、それはもちろん目立つに決まっている。
目を引くに決まっている。

私が取り落としたボールは足に当たって跳ね、あらぬ方向にゆっくりと転がっていった。

貝木泥舟。
なぜあの男が。

すぐさまマイボールを拾い上げ、脇に抱えて階段を駆け上がった。
急がないと取り逃がしてしまうのではないか、という私の心配は杞憂だったようだ。
軽く息を乱している私が馬鹿みたいだった。
いや、憂うべきは逃がすことではないのかもしれないが。

「何をしに来たんだ」

「ここは体育館だ。 体を動かしに来たに決まっているだろう」

「………」

「コートに知った顔がいたから少し観察していただけだ。 深い意味はない。 元気だけは有り余っているようで何よりだ。」

「ま、待て!」

自然に背中を見せて出口に向かって進む。
静かに消えるように進むこの男に向かって、私は―――、私は思わず手を伸ばした。

この後の私の行動は、正直失笑もので、非常に馬鹿げたものだった。
自分の馬鹿さを再確認する作業に移った。

戦場ヶ原先輩がこの私を見てどう思うだろうか。
阿良々木先輩だったら。
ああ、唯々恥ずかしい。
しかし悔いはなかった。


「私と勝負しろ!」


市民体育館の外にある競技用トラックに向かって、この男と並んで歩いていると、一体何がどうしてこうなったのか、というなんとも言い難い気分になった。
私は間違ったことをしたのだろうか。
戦場ヶ原先輩の敵を敵視した私は、何か間違っていたのだろうか。

私は馬鹿なので心情表現など得意ではないのだが、

『あ、ありのまま起こった事を話すぜ………』
とは、おそらくこういう時に使うものなのだろう。

『先輩の敵に偶然出会ったと思ったら、いつの間にか勝負を申し込んでいた』


果たして味わったのは、思い知らされたのは私の無知さの片鱗だったわけだが。

条件は悪くなかった。
日常的に走って移動している私は、崩して履くようなスニーカーではなく屋外用の
ランニングシューズを履いて来ていたし、動きやすい服装だった。

頭に血が登りかけている感はあったが、時間とともに冷静さを取り戻しつつあった。
奴が更衣室で着替えている間に玄関で………じゃない、ロビーか。
誰もいない空間で、一人で肩を怒らせている自分がひどく滑稽に思えて笑ってしまった。

「年を取ると自分の身体を上手く操縦できなくなっていくんだ」

ストレッチをしながら、貝木は呟く。
私はただただ身構えていた。
いや、体が固くならないようにストレッチをしながらではあったが。
この男。
何がどこから嘘なのか、わかったものではない。

「走り回らされる機会が減るわけだから当然のことだがな。
『学校』というものをやめて、そしてすぐには気づけない。
それは騙された時の心境にも似ているが………」

この男、私が勝負だといったことを忘れているのではないか?
随分とまぶたが重そうだ。
そんな目つきをしている。

おつおつ


「俺はここに自主練習に来ただけだ。 だからお前は偶然くっついてくる形になる」

ボールを蹴っている小学生が遠くにいるくらいで、それ以外に邪魔するものがいない。
トラックを眺めながら一人でぼやくような貝木の声は、嫌になるほど鮮明に、ゆっくりと自分の中に染み込んでいく。

「全力になれば、純粋な脚力の競い合いなら、くっついてくるのはお前の方だ」

振り払うように。
たしかそんなことを言い返したと思う。


それからは、ただ背中、背中だった。
ただ、どれだけ追いかけても引き離される。
どれだけ走っても引き離される。
いつからだろう。
随分長い間、走っていても追いつけないという感覚を忘れていた。
初めて『猿の手』に頼った時のことを思い出す。

走るのは、こんなに楽しくないことだったか。

「はっ、っは………は、は」

地面を見ながら呼吸を整える。
整えてどうする?
追いかけて、また離される。
目も霞んできた。

おつおつ

「何が、」

何が悪いのだろう。
私はこんなに………がむしゃらに走ってきたのに。
頑張っているのに。

負けられない理由もあった。
物語の主人公にありがちな「絶対に負けられない理由」を、
私も持っていたのに。

この男と私で、何が違う。
………。
才能か。
才能というものなのか、やはり。

「そう気に病むな。
お前が落ち込もうと俺の知ったことではないが、ひとつ言えることはある。
気に病んでも脚が速くなるなんてことはない、ということだ。
そして俺を睨んでも速くはならない。」

「………ひとつじゃなかったのか、言えること」

「細いやつだな。後半は単なる独り言だ」

「………速い」

私の心境のすべてが溜息のように吐き出された。
気がついたら口にしていた。
私にとって、もはやこの男は単なる詐欺師ではなく。
得意分野で勝てない、目眩を覚えるような存在。
こんなことがあるのか、有りうるのか。

「速いな」

「仕事柄、逃げ足が速くないと面倒なんだ」

「………」

「膝を伸ばしすぎるな」

「………?」

おつおつ

イメージがシュール過ぎる
貝木ダッシュ

「………と、これは独り言だ」

貝木は歩いてグラウンド脇の日陰に向かう。

「逃げるのか!」

「………勝てるのか?」

ただでさえ暑いのに身体の奥底から火が出るように、感情が沸く。

出かかっている言葉をぐっと飲み込む。
喉がカラカラだ。

「………まあ、長引けば若者の方が体力的に有利だ。 俺もいつかは負けるさ。 だから………」

休憩だ、といって貝木は無防備に置いてあったカバンの中から紙袋を取り出す。
どこかで見たことのあるようなカラフルな柄だ。

「お前も食うか? ミスタードーナツだ」

「なんでだよ!」

思わず突っ込んだ。


「走った直後にミスドって!」

「ああ、我ながらよく喉を通るな、といった感じだ。 缶コーヒーを買ってきてくれないか」

「買わないしコーヒーも全力疾走したあとに飲むものじゃないだろ!」

「いや、しかしお茶請けにスポーツドリンクでも出されようものなら、ドーナツの味気がなくなってしまう」

「………だったらもう、コーヒーでもココアでもいい」

そもそも味気とか感じるのか、この男。
これ以上突っ込みのキレを増したら楽しい感じになってしまいそうだったので、諦めた。
クールダウンが必要だ。

「駿河。 もし、時間を無駄にしたくないという意思があるのなら騙されてみないか」

「………そ、」

何を言っているのだろう。
これから私を騙すと言って騙されると、そんなことがあるといっているのだろうか。
いや、この段階からもう詐欺は、話術は始まっているのか?

「そ、それはどういう………」

貝木は、バッグから一冊の本を取り出した。

「お前は俺の話など聞きたくもないだろう」

「………」

全面的に同意。
だが、なんだか悔しい。

「だから、違う人間に騙されてもらう」

おつおつ

暦物語厚い

すみません近いうち書きます

本屋行ったら暦物語売ってた!
いますぐかqqswでrgthj

おう

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