岡部「……俺が、ラウンダーじゃない?」(378)

※このSSを見る前に、暗黒次元のハイドを知らない人は先にそれを見ることを推奨。



ダイバージェンス2.615074%

男「ぐ…っ! あ……っ!」ビチャッ

岡部「……」

男「……う、あ…」ドサ

岡部「……」

男「わた、しは……」

岡部「……っ!」グサッ!

男「ぎ…!」

男「………」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1344575733

岡部「M4。任務は完了したと、FBに伝えておいてくれ」

萌郁「了解、した」

岡部「……くっ」

岡部「何度やっても、人殺しは慣れんな……」

岡部「(……人殺しに理性なんていらない。だというのにいつも邪魔をしてくる)」

岡部「(……俺は、鳳凰院凶真。いかなる時も独善的であり、世界に混沌を齎す者)」

岡部「(そのためには、無関係な数多の命が散ろうと、知ったことではない)」

岡部「(俺がやる事は決して、FBのためでもSERNのためでもない)」

岡部「(全ては自分のために。この俺の邪魔をする者なら、たとえラボメンであろうと容赦はしない)」

糞スレ立てんな

萌郁「ええ。そう。……他にいる? え? 次の作戦……?」

萌郁「了解……」

岡部「………」

萌郁「M3」

岡部「任務は成功したというのに、浮かない顔だな」

萌郁「…え、ええ。その、FBから伝言……」

岡部「言ってみろ」

萌郁「今殺したこいつは、ユーロポールの捜査官じゃない」

岡部「成程な。FBもとんだミスをしてくれる。それじゃなんだ? こいつを殺した意味は全くなかったってことか?」

萌郁「そうでもない。ユーロポールの捜査官と繋がりがあるのは、確か」

岡部「でも捜査官じゃないんだろう? それじゃあ、意味がない」

岡部「それにお前はこいつはユーロポールの捜査官と繋がりがあると言ったな?」

萌郁「ええ」

岡部「こいつが全く無関係の、一般市民ならまだしも。それじゃあ、相手に警戒されるだろう」

萌郁「だから、明日にでも任務を遂行する」

岡部「……。FBは他に何を?」

萌郁「捜査官の居場所は掴んだ、らしい。だから私達は、明日、尾行をしタイミングを見計らって暗殺する」

岡部「つまり、今行った事とまるっきり同じってことだな? 明日の何時だ?」

萌郁「朝、六時」

岡部「それだけの情報があれば充分だ。ユーロポールの捜査官さえ殺しちまえば、後はどうにでもなる」

萌郁「場所は―――」

岡部「……チッ」

岡部「(人殺しの後だからシャワーにでも浴びたかったが……、仕方ない)」

岡部「(一応、服は着替え、血も落としたが……。まあいい。今日はやるべきことがある)」

岡部「(ユーロポールの件はどうにでもなるとして……)」

岡部「(今日はラボメンが集まり、電話レンジの放電現象について調べなくてはならん)」

岡部「(……本当はこんなお遊びに付き合っている暇はないが)」

岡部「(だが、牧瀬と橋田は使える。実際に、電話レンジで過去にメールを送れた例は何度かあった)」

岡部「(奴らを信じ込ませ、うまく使えるかどうかが問題だ。当面は、電話レンジの放電現象について、だが)」

岡部「(……ま、だが、俺の予想では、電話レンジの存在がSERNに知られている以上、奴らがそれを野放しにしておくとも思えん)」

岡部「(電話レンジを奪取する役目を俺に任せるかもしれんな)」

岡部「(状況から考えれば、そうなる可能性は高いが……)」

岡部「……皮肉だな」

ルカ「お、岡部さん!」

岡部「……ルカか。どうした?」

ルカ「い、いえ。今日はまゆりさんのお見舞いは……?」

岡部「ああ、行くぞ。ルカも来るのか?」

ルカ「は、はい」

ルカ「………」

岡部「他に用はないのか」

ルカ「す、すみません」

岡部「俺は忙しい。あまり無意味に話しかけるなよ」

ルカ「あ、はい……。そ、その、まゆりさんは、岡部さんが来てくれると喜ぶので、是非、今日も来て下さいね……」

岡部「言われなくても分かっている。俺が来れない日はお前に任せるぞ、ルカ」

ルカ「は、はいっ!」

ルカ「岡部さんはこれからどこへ?」

岡部「どこって、お前……。今日は電話レンジの事について話すと昨日辺りに言っていたではないか」

ルカ「あ、そうでしたね。僕はちょっと用事があるので顔は出せませんが」

岡部「気にするな。わざわざ用事を潰してまで来る必要はない。暇になったら顔を出せ」

ルカ「はい。それでは、岡部さん。また」

岡部「ああ」

岡部「………」

岡部「(となると、今日集合するラボメンは、牧瀬と橋田と鈴羽ぐらいか。フェイリスはバイトがあると言っていたしな)」

岡部「(……過去に遅れるメール、か。実にくだらないな。俺が望むのはそんなちっぽけなものではない)」

岡部「だが、電話レンジは良い踏み台になりそうだ」

岡部「(電話レンジを奪取しろ、という任務を任せれたのなら、俺は躊躇いなどしない)」

紅莉栖「あ、岡部……。あんたも丁度今来たところ?」

岡部「ああ」

紅莉栖「そうなんだ。それじゃ、一緒に行きましょ」

岡部「……」コツコツコツ

--ラボ--

紅莉栖「……夜になったら放電現象はなくなるのよね。これって一体、どういうことなのかしら」

ダル「さあ。電話レンジを作った僕が言うのもなんだけど、全く分からないお」

ダル「そもそも、電話レンジも本来は遠隔操作できるレンジなだけで、まさかタイムマシンになるとは思ってもなかったお」

岡部「偶然の産物とはいえ、偶然だからこそ電話レンジの構造が理解できないのは腹立たしいな」

鈴羽「放電現象が起こった時を完璧に再現しても、あれ以降は成功しなかった」

岡部「(……ふむ。電話レンジの周りにいる人間、置かれた物……。そういうのを全て再現しなくては放電現象が起こらないとすると……、電話レンジはただのガラクタに成り下がる)」

岡部「(できればそういう考え方はしたくないな。もっと何か、別の考え方あるはずだ)」

岡部「もう一度まとめよう。なぜあの時だけ放電現象が起き、あれ以降は放電現象が起きなかったか。何らかの条件が一致して起きた現象なのは分かりきっていることだが……」

紅莉栖「条件の一致……ねぇ」

岡部「(待てよ……。単純だからあまり気付かなかったが……)」

岡部「……時間、か?」

紅莉栖「え?」

岡部「放電現象が起こるのは限られた時間の間のみ、という考え方はできるか? 夜は全く放電現象は起きなかったが、昼間は起きた……」

鈴羽「なるほど。単純すぎて、逆に誰も思いつかなかったね。確かにその考えでいくと、夜は駄目で昼間は可能ってこと?」

ダル「じゃあ、今も使えるんじゃね?」

紅莉栖「! さ、早速実験よ!」

紅莉栖「メールの内容はどうでもいいわ。橋田、適当な内容を岡部のメールに送って」

ダル「オーキードーキー」

紅莉栖「電話レンジ設定OK。……後は、可動」

電話レンジ「ブゥゥゥン」

ダル「送信!」

岡部「……」

紅莉栖「……」

鈴羽「……」

電話レンジ「チン」

岡部「橋田からメールが来ていない。これじゃ前と同じ結果だ」

紅莉栖「そんな……。それじゃあ、時間は関係なし、ってこと?」

鈴羽「……いや、諦めるのはまだ早いよ。前と同じ時間にもう一度実験しよう」

岡部「……っ!」

紅莉栖「岡部?」

岡部「(な、なんだ? 急に頭が痛く……っ)」

岡部「ぐ、あ……!」

紅莉栖「ちょっと岡部! あんた大丈夫!? ま、まさか、今の放電現象で何か影響が……!」

鈴羽「落ち付いて。もしそうだとしたなら、あたしたちも無事じゃない」

紅莉栖「だったら!」

岡部「(……一階のブラウン管工房?)」

岡部「……大丈夫だ。少し頭痛がしただけで問題ない」

紅莉栖「でも……」

岡部「それより鈴羽」

鈴羽「なに?」

岡部「一階のブラウン管工房、今日は開いているか?」

鈴羽「いや。用事があるらしくて、今日は休み」

岡部「なるほどな……」

ダル「岡部? 何か分かったのかお?」

岡部「ああ。自分でも半信半疑だが、この状況ではそれをわざわざ隠しておく必要もない」

紅莉栖「岡部?」

岡部「電話レンジによってマイクロブラックホールが生成され、特異点が発生する」

岡部「どれも偶然の一致だがな」

岡部「そして、電話レンジがなぜこの時間帯、もしくは夜に使えないというのは」

岡部「一階の42型ブラウン管テレビがリフターの役目をしている」

鈴羽「それ、本当? 突拍子もないこと言いだすから、こっちも半信半疑だけど」

岡部「待っていろ。今、42型ブラウン管テレビのスイッチを入れてくる」

鈴羽「だから店は閉まっているって――」

岡部「どうにかなる」ガチャ、バタン。

岡部「(……ピッキングでどうにかなるか。この程度の鍵なら数分もいらん)」

岡部「(……それにしても。さっきの記憶はなんだったんだ?)」

岡部「(自分で自分の言っている事が半信半疑とは、とんだ失態だ)」

岡部「(まあいい。今は余計な事に考えを回している暇はないしな)」

--ラボ--

岡部「42型ブラウン管テレビの電源を入れた。もう一度、さっきと同じ事をしてみろ」

鈴羽「どうやって中に入ったの?」

岡部「秘密だ」

鈴羽「………」

紅莉栖「電話レンジ、設定OK。可動」

ダル「メール送信……」

電話レンジ「チーン」

岡部「……ふ。やはりな」

紅莉栖「え、どういうことよ!?」

岡部「成功だ。まさか42型ブラウン管テレビがリフターの役目をしているなど、とんだ盲点だ」

鈴羽「岡部倫太郎。どういうことか説明してくれる?」

岡部「今さっき、懇切丁寧に説明したが?」

鈴羽「君さ、まるで最初から知っていたかのような顔をして喋るからさ。もしかしたら、今まで黙っていただけ、なんて考えが浮かんだだけだよ」

岡部「なに。そんな筈はないだろう。単純に、昼間のみ電話レンジが使えて、夜になると使えなくなる」

岡部「十八時……、から十九時頃辺りから電話レンジは全く使えなくなる。大体、ブラウン管工房の閉店時だな」

岡部「そして今日何故、Dメール実験に成功しなかったというのは、今日はブラウン管工房は休みということ」

岡部「こんなこと、口にするまでもないが。半信半疑というのは俺もまさかと思っていたからな」


鈴羽「へえ……。ま、信じてあげるよ」

岡部「さて、謎が解けたところで今日は解散とする」

紅莉栖「なんでよ」

岡部「その前から電話レンジのせいで、寝不足が続いていただろう。俺も機械じゃないんだ。休まないと身体を壊す」

紅莉栖「それも、そうね……。私も久しぶりにゆっくりしようかな」

ダル「んじゃ、僕はメイクイーン+ニャン2にでも……」

岡部「その前に助手よ」

紅莉栖「は?」

岡部「……ん?」

紅莉栖「今あんた、なんて……?」

岡部「……え、いや」

岡部「(口癖のように何か口走ってしまったが……、覚えていない。まあいい。どうせくだらんことだ)」

岡部「なんでもない。牧瀬、身体を休めたら、電話レンジの構造をラボメンにも分かるように説明してもらいたい」

紅莉栖「……ん。分かったけど」

岡部「俺は帰る。後はよろしく頼む」ガチャ

鈴羽「……今日の岡部倫太郎さ。妙だったね」

ダル「と、言いますと?」

鈴羽「いーや、別に」

紅莉栖「そ、それより、岡部、さっき私の事変な名前で呼ばなかった?」

ダル「そーいや、助手、とか言ってなかったっけ」

紅莉栖「そ、そうよそれ! あ、あいつがあんなこと言うとは思ってなかったから、私の聞き間違いかと思ってたわ」

ダル「ま、牧瀬氏は岡部の助手にも見えなくもないお」

鈴羽「あいつの考えている事は、本当に分からないね」

紅莉栖「じょ、助手、か……。わ、悪くないな……」ゴニョゴニョ

ダル「どったん? 牧瀬氏」

紅莉栖「な、なんでもないわよ! そ、それじゃ、私も帰るから!」

岡部「ええ。はい。電話レンジはほぼ完成しましたが」

岡部「は? ……ええ、ですが」

岡部「……反論する気はありませんが……」

岡部「分かりました。つくづくあなたも分からない人だ」

岡部「了解」ピッ

--病院--

岡部「まゆり、調子はどうだ?」

まゆり「岡部くん。来てくれたんだ」

岡部「ああ」

まゆり「調子は、まずまず、かな? もう歩いたりするだけで精一杯だけど、えっへへ……」

岡部「頑張れよ」

まゆり「うん。岡部くんがそう言ってくれるから、まゆしぃは生きれるのです」

岡部「大袈裟な奴だな。その様子を見るからに、今日は元気か」

岡部「ルカは来たか?」

まゆり「ううん」


岡部「そうか。では、じきにルカが来るだろう。俺は用事があるから、家に帰るな」

まゆり「もう行っちゃうの?」

岡部「ああ。悪いな、顔を見せるだけで大して会話できなくて。明日、来れたら来る」

まゆり「うん。またね、岡部くん」

バタン

岡部「(もってクリスマスまで、か。自分の死が見えているというのに、まゆりはなぜああも冷静でいられるのだろう)」

岡部「(やりたいことはあるか? と言っても決まって首を横に振るだけだ。今はルカの言う通りたびたび顔を見せればいいだろう)」

フェイリス「あ、倫太郎ニャ。帰りかニャ?」

岡部「ああそうだが……」

岡部「お前はどうしてここにいる?バイトがあるだとか言っていたではないか」

フェイリス「ニャハハ。もう終わったのニャ。今日は予想以上に早く終われてニャ」

岡部「そうか。まゆりが一人で寂しがっているから、行ってやれ」

フェイリス「倫太郎は?」

岡部「用事がある」

フェイリス「そっか。それじゃ、また今度ニャー」

岡部「ああ。後その鬱陶しい喋り方はいい加減直せ」

フェイリス「ニャ? ニャンのことニャ?」

岡部「もういい」

フェイリス「ニャハハハハ」

岡部「……はあ。疲れる。さっさと帰ろう」

岡部「……。糞暑いな。少し休憩するか」

岡部「……」プシュ

岡部「んぐ」

岡部「……ふう。やはり、この暑いのにはマウテンジューが必須だな」

萌郁「……M3」

岡部「………」

岡部「気配を消す能力に関しては、お前には勝ち目がなさそうだな。どうかしたか」

萌郁「ケバブ、買った。お腹空いているかな、と思って」

岡部「もらうとしよう」

―――

岡部「……腹の足しにはなったな」

萌郁「それ、で」

岡部「電話レンジのことか? ああ、完成した。あれは全部偶然の一致で出来あがったとはいえ、性能は中々のものだ」

岡部「きっとSERNも喉から手が出るほど欲しがっているに違いない」

萌郁「……」

岡部「……FBから任務完了次第、待機しろと命令があった。どうやら今回は休む暇もくれないらしい」

萌郁「そう……」

岡部「どうかしたか。言いたい事があるなら言え」


萌郁「いえ……。偽りでも、あなたは未来ガジェット研究の仲間たちと一緒にいた……、だから」

岡部「情が移って、お前らを裏切るとでも思ったか」

萌郁「……」

岡部「案ずるな。あいつらは最初から興味がない。必要なら道具として使わせてもらうが、情が移るような馬鹿な事はしない」

岡部「邪魔をするなら躊躇いなく殺せる」

萌郁「そう。私は、M3。あなたに従う」

岡部「今日は別れよう。明日また、指定位置で合流だ」

萌郁「ええ。分かったわ」



岡部「(……ラボメンと過ごしてきた日々を感慨深く思わないのかと問われれば、否定はできない)」

岡部「(紅莉栖やまゆり、鈴羽にフェイリスにルカに橋田)」

岡部「(邪魔をしてくるなら殺すつもりだが、躊躇いが皆無という訳でもない)」

岡部「(俺は、自分のためにやるだけ)」

岡部「(俺は機械ではない。だから、多少とはいえ、ラボメンを裏切っていることは少しばかりか心が痛む)」

岡部「(だが躊躇などしない。邪魔をすれば殺す。ラボメン全員を俺は、裏切る)」

岡部「今更何を……。もう俺の手は血で染まっている」

岡部「取り返しのつかないところまで来ている事は、とっくに分かっているのにな。フ、ククク……」

ーガード下ー

岡部「……っ!」

男「むぐっ!? んー!! ぐっ!」

岡部「っ! く!」グサ!

男「んぐー! む、が、ぅううあ!!!」

岡部「ふん」サッ

男「が、あ……、き、さ、ま……」ドサ

岡部「終わりだ。呆気ない人生だったな」ヒュン

男「ぐ……っ!」グサ ピシャッ!

岡部「……次こそはユーロポールの捜査官なんだろうな」

萌郁「ええ、そう。FBの予想通り、相手はユーロポールの捜査官だった」

萌郁「大丈夫。始末した。目標αはガード下」

萌郁「そう。死体、ある。了解」ピッ

萌郁「M3。目標αは間違いなく捜査官」

岡部「そうか。後始末は他の連中に任せるとして、後はFBの言う通り待機するか」

萌郁「ええ」

コト……。

岡部「……?」

紅莉栖「……っ!」

岡部「な、あいつ……」

萌郁「どうしたの?」

岡部「現場を目撃された」

萌郁「大丈夫。死体の後始末はすぐに済むし、たとえ証拠が残っていても警察に圧力をかけるから、問題にはならない」

岡部「いや、なるな。現場を目撃したのは牧瀬紅莉栖……。ラボメンの一人だ」

萌郁「な……」

岡部「次の任務に支障が出るかもしれない。一応、拘束しておこう」

萌郁「独断は、ダメ」

岡部「拘束してから、許可をもらう。それと一応、考えがあるからな。血まみれの服は頼む」

岡部「車を用意しておいてくれ、場所は――」

紅莉栖「(な、なんで……。ひ、人が、血まみれになって倒れていて……)」

紅莉栖「(お、岡部も血まみれで、手に刃物があって……)」

紅莉栖「お、落ちつけ、私……」

紅莉栖「(あの状況は、間違いなく……)」

紅莉栖「(隣にいた女は? 後始末は他の連中に任せるって、岡部は一体何を言っているの?)」

紅莉栖「(岡部が? あの岡部が人殺しを?)」

紅莉栖「(そんな、はず、ない。何かの見間違え、そうに決まっている)」

紅莉栖「(でも本当だったら?)」

紅莉栖「(な、何を馬鹿な……。でも、岡部が殺人を犯してないとしても、死体を前に岡部は冷静だった)」

紅莉栖「(まるで慣れているような、何度もしているような風に)」

紅莉栖「(……まさか、本当に? 岡部が、人を殺して……)」

岡部「探すのに手間がかかったな、牧瀬」

紅莉栖「っ!」

紅莉栖「お、岡部っ!」

岡部「そう怒鳴るな」

紅莉栖「さ、さっきのは、一体どういう事よ……っ!」

岡部「さっき? 一体何の事を言っているのかさっぱりだが」

紅莉栖「何よそれ…! ガード下で、血まみれのあんたと、死体が……っ! それに、あんた、ナイフを持って……」

岡部「妄想と現実をごっちゃにでもしたか? 最近疲れていたしな、ゆっくり休んだ方が良い。ホテルまで送ってやろう」

紅莉栖「さ、触らないで。あくまでシラを切る気? あ、あれが私の妄想とは思えない。岡部、あんた、何を隠してるの?」

岡部「………」


紅莉栖「何かの間違いよね? 偶然、あの場所に居ただけなんでしょ? じ、実はあんたも被害者、とか……」

岡部「滑稽だな、牧瀬紅莉栖」

紅莉栖「え……」

岡部「あの光景を見て尚、俺を信用しているのか? 実に愚かだ。頭の回転は速いが、如何せんこういうところは愚鈍なんだな」

紅莉栖「どう、いうことよ」

岡部「分からないか? 俺が殺したんだよ、あの男をな」

紅莉栖「……っ!」

紅莉栖「……嘘よ」

岡部「事実だ。お前も見ただろう?」

紅莉栖「………」

紅莉栖「……信じていた」

岡部「ん?」

紅莉栖「私、岡部を信じていた! だから、さっきのも何かの間違えだって思って、なのに、あんたって人は……っ!」

紅莉栖「人を殺したのに、罪悪感の欠片もなく、いつものようにヘラヘラして……」

紅莉栖「岡部、あんた、最低よ」

岡部「………」

岡部「その気概は褒めてやる。だが仮にもお前は殺人鬼を目の前にしている訳だが、何か言いたい事でもあるか」

紅莉栖「……殺すの?」

紅莉栖「あの男を殺したように、私も殺すのっ!?」

岡部「……」

紅莉栖「いいわよ、殺しなさいよっ!」

紅莉栖「ほんと、私は馬鹿だった……っ! あんたみたいな最低な人間を信用したなんて、一瞬でも良い奴だなんて思ってしまって!」

紅莉栖「馬鹿よ! 私も、あんたも! 私はあんたに少し好意を持っていた! あんたはいつも冷たいけど、そんなことする人間じゃないと思っていた……っ!」

紅莉栖「……私は、岡部を、信頼していたのよ……」

紅莉栖「……ねえ、おかべ…。違うん、でしょ?」

岡部「………」

紅莉栖「何か言いなさいよ! やってないんでしょう!? あんたが考えた冗談なんでしょ!?」

岡部「……」

紅莉栖「……何か、言え、ってのに……」

紅莉栖「あんたの言っている事が本当だったら……」

紅莉栖「……まゆりが、気の毒ね」

岡部「……」

岡部「言いたい事はそれだけか」

紅莉栖「くっ……!」

紅莉栖「これから、どうするのよ……」

岡部「相変わらず愚鈍だな、牧瀬紅莉栖よ」

岡部「ならばヒントをやろう。お前を拘束する理由をな」

紅莉栖「拘束……?」

岡部「俺はまだやるべきことがある。そのやるべきことに、お前がいると邪魔だからな。そういえば、電話レンジ、完成したしな」

岡部「(余計な事を喋っているのは自覚している。いつもなら、無駄なく気絶させているはずだが)」

岡部「(……俺もまだまだ、ということか)」

紅莉栖「まさか、あんた……」

岡部「そのまさかだ。Dメールを使い、牧瀬紅莉栖に見られた、という過去をなかった事にする」

紅莉栖「お、岡部ぇぇぇ!!」

岡部「だから、しばらくは寝てろ」バチバチバチ!!!

萌郁「車、用意した」

岡部「こいつを、お前のマンションに連れてけ」

萌郁「了解した」

岡部「M4。睡眠薬だ。帰ったらこれをこいつに打て。目を覚まされると困るしな」

萌郁「FBの許可は……?」

岡部「今から取るところだ」

萌郁「……分かった」

岡部「……」ピッピッピ プルルルル

FB『……』

岡部「M3だ」

FB『任務遂行次第、待機しろと命令した筈だがな』

岡部「事情が変わった。牧瀬紅莉栖に現場を見られた」

FB『牧瀬……? ほう。ラボメン、だったか。で? それはお前のミスだろう。それと俺に電話したのとどう繋がりがあるんだ?』

岡部「独断で申し訳ないが、牧瀬紅莉栖は拘束した」

FB『……俺はお前を高く買っている。ある程度は大目に見るが、今回はそう行く訳にもならねえな』

FB『M3。どういうことか説明しろ』


岡部「今後の作戦に支障をきたすと思いましてね。電話レンジを使い、牧瀬紅莉栖に見られたという過去をなかった事にする」

岡部「それが俺の目的ですよ、FB」

FB『………』

岡部「あなたが、それを許可しない理由はない。仮に過去を変える事ができたら、あなたにはデメリットなんてない。
だがまあ、電話レンジの性能は俺を含めラボメンしか知らないので、信用はできないでしょうけど」

FB『………はっ』

FB『お前は分からねえ奴だ』

FB『牧瀬紅莉栖に見られた過去をなかった事にできるなら、わざわざ俺のところに電話を入れる必要はねえ』

岡部「そういえばそうですね。一応、あなたのことは信用しているということですよ」

FB『はっ。構わねえ、好きにやっちまえ。過去がなかったことになるなら、俺の独断でも俺の首が飛ぶ事はねえしな』

岡部「あなたのそういうところを好いていますよ、FB。では」ピッ


岡部「後は、ラボにいけばいいか」

--ラボ--

岡部「(誰もいない……。好都合だ。42型ブラウン管テレビのスイッチはいれてあるし、問題はない)」

岡部「(……Dメールの内容は…、限られた文字数で過去の俺が理解するようにかかなければならんな)」

岡部「(殺す場所を変えろ。牧瀬に見られる……、こんな感じでいいだろう)」

岡部「(入力よし、設定よし……、後は……)」

鈴羽「なーにしてんの? 岡部倫太郎」

岡部「っ!?」

鈴羽「ひとりで電話レンジいじって、実験でもする気?」

岡部「ああ、そうだが」

鈴羽「こそこそ隠れて、よからぬことでもしようとしてたんじゃない?」

岡部「おいおい勘違いするなよ。フェイリスにDメールを送ろうと思っただけさ。驚かせてやろうと思ってな」

鈴羽「へえ。そういうキャラだっけ? 君って」

岡部「(鈴羽め……。前々からにおうとは思っていたが……、ここに来て邪魔をするか)」

岡部「(下手な行動はとれない。様子見しか……)」

岡部「お前は何をしに来たんだ? 鈴羽」

鈴羽「ん? 君がラボに入っていくのを見たから、後を追っただけだけど」

岡部「(……前々から、こいつは俺にたいして殺気らしいものを持っていた)」

岡部「(単なる逆恨みかと思っていたが……)」

岡部「そうか。俺は実験を行う。見ていたければ見ていろ」

鈴羽「そういう訳にもいかないんだよね。君さ、仲間を裏切って心痛めたりしないの?」

岡部「……貴様」

鈴羽「あたし、全部知ってるよ。君が今さっきユーロポールの捜査官を殺した事、それを偶然目撃した牧瀬紅莉栖を拘束した事もね」


鈴羽「だから君はひょっとして、牧瀬紅莉栖に見られたという過去をなくすために、今こうして電話レンジをいじっているんじゃないのかな」

岡部「とんだ妄想だな、鈴羽。俺が殺人を犯す訳ないだろう。みんなは大切な仲間だ」

鈴羽「君、心が欺瞞に満ちているね。本当のさ、岡部倫太郎って一体誰?」

鈴羽「みんなの前で、笑っている岡部倫太郎? 椎名まゆりの前で見せているあの悲しい顔が岡部倫太郎? 人を殺しているというのに、全く取り乱さずに冷静に、酷薄な君が岡部倫太郎?」

岡部「さあな。そういうのを全部ひっくるめて、俺が出来上がるんじゃないか?」

鈴羽「そうだね。……再確認した。君って、最低な人間だよ」

岡部「……阿万音鈴羽。お前には全部お見通しってことか」

鈴羽「そう考えてもらって構わない。それに、じきに警察がラボに押し寄せてくるんじゃない?」

岡部「通報したか」

鈴羽「あたしはしてないよ。ただ、牧瀬紅莉栖がするかもしれないって言っただけ」

岡部「…………」

鈴羽「そう睨まないでよ。桐生萌郁は一応、殺してはないからさ」

岡部「………」

鈴羽「はーあ……。君と会った時は、最初は良い奴なのかもしれないって、勘違いしていた頃のあたしが馬鹿だ」

岡部「なに……?」

岡部「(出会った時からあんなに殺気丸だしだったと言うのに、俺が良い奴だと勘違いしていただと……?)」

岡部「(……俺が、良い奴、か)」

―――
「ジョン・タイターってさ、実はあたしなんだよね」「それは知ってる」「岡部倫太郎じゃん、うぃーっす」
「SERNのディストピア化を防ぐために、2036年から来たんだ」
「2036年ではさ、形だけでは平和何だけど、みんな死んだような目をしているんだよね」
「岡部倫太郎さ……、君って良いヤツだよね」
               「……さようなら」
―――


岡部「――っ!?」

鈴羽「っ!」

岡部「(頭が、割れそうだ……。世界が揺れている。焦点が合わない……)」

岡部「(無数の針が脳に刺さっているような気分だ……。何なんだ今のは)」

岡部「(眩暈は、ひいたが……)」

鈴羽「どうかした? 岡部倫太郎。急に頭なんか抑えちゃってさ」

岡部「(悠長にしている暇はなさそうだ)」

岡部「……お前には、隠しても無駄のようだな」

鈴羽「どうしたの? 急に開き直っちゃって」

岡部「黙れ。お前が2036年から来た事は知っている」

鈴羽「な――っ!」

鈴羽「……どうやって知った」

岡部「さあな。お前が俺の事を知っているように、俺もお前の事を知っているというわけだ」

鈴羽「何それ。あたしは君に素性を知られるようなヘマをした覚えはないんだけど」

岡部「お前がここにいるということは、未来に不満があるということか」

鈴羽「当たり前だよ。あんな未来、なくなってしまえばいい。岡部倫太郎、君はじきにラボメンを地獄に追いやる」

鈴羽「自分の野望の為にね。みんなを裏切るんだよ。……いや、もう裏切っていると言ったほうが正しいか」

岡部「お前は俺の願望を邪魔する為に未来からはるばるやってきた、か」

鈴羽「そうだよ。あたしは、お前だけは赦せないからね、絶対……」

岡部「しかしお前も回りくどい事をする。さっさと俺の本性をみんなにばらしてしまえばいいものの」


鈴羽「あたしもそれがしたくてたまらなかったよ。だけど、過去を無暗に変えたりはできない。バタフライ効果って言葉くらい知ってんでしょ?どうせ、岡部倫太郎の本性はみんなに知られる。だからあたしは黙っているだけ」

岡部「お前がやけに俺を邪見していたのはそれか」

鈴羽「岡部……、いや、鳳凰院凶真。お前は2036年、自身を神格化させ、300人委員会のトップに立った。極悪非道な人間だよ、君って」

岡部「口が軽いな。そんなことまで喋っていいのか?」

鈴羽「別に。未来を変えるためにあたしは来たんだからね。この世界じゃ、あんな未来はもう存在しないし」

岡部「まだ確定もしていない事を、よく言う。だが残念だな、阿万音鈴羽」

岡部「今回は、お前の負けだ」ポチ

電話レンジ「ブウウウゥン」

鈴羽「ま、まさかっ! もう設定して……っ!」

岡部「次があったら、期待しておこう」

鈴羽「さ、させるかっ!」

岡部「もう遅い」ピッ




                    送信しました。





              ダイバージェンス 0.459074%

疲れた。今日はここまで。見てくれてる人がいるかどうかわかりませんが、一応最後までかくつもりです。
今日の夜ごろ、また投下する予定です。ここまで読んでくれた人がいたらありがとうございます。

乙です
ハイドは面白い設定だったのに短すぎた


いいね。個人的には気になる話。

おつおつ
これは期待せざるを得ない。

ハイドの逆バージョンか、期待。

vipではシュタゲss最近ほとんど見なくなったけど、ss速報ではまだ結構やってて嬉しい

すいません。予定が出来たので、今日投下することは多分出来ないかもです。
一応、シナリオは頭の中に浮かんでいるので、書こうと思えばいつでもかけるので、また後日。

>>62
完結させるなら問題無い
あと酉をつけたほうがいいと思う

>>63
サンクス。>>1です。

ダイバージェンス 0.459074%

岡部「(ぐ……、世界が揺れているような気分だ)」

岡部「(何が起きた……。脳みそがシェイクされているような錯覚……。耳鳴りが酷い)」

岡部「(足もとがしっかりしない。倒れそうだ……)」

岡部「……ぐ」フラ

紅莉栖「ちょ、岡部っ!?」ガシ

紅莉栖「いきなり倒れて……、まさか熱中症とか脱水症状とか言わないわよね!?」

岡部「(この眩暈や耳鳴り……、おかしな記憶を思い出した時に酷く似ている)」

岡部「……だ、大丈夫だ」

紅莉栖「無理してない? 最近、電話レンジのせいで夜更かしが続いたから、体調崩したの?」

岡部「……平気だ。さっきまで眩暈が酷かったが、収まった。心配かけたな」

ダル「オカリン? なんか様子おかしくね?」

紅莉栖「岡部……」

まゆり「オカリン?」

岡部「な……っ! ま、まゆり……!?」

岡部「どうしてお前が此処にいる……っ!」ガシッ

まゆり「え? あーうー、まゆしぃーはぁ、ずっと、前から、ここにいたよー」

紅莉栖「ちょっと岡部。まゆりが……」

岡部「……入院してないのか?」

ダル「オカリンなに言っとるん? まゆ氏はどこも悪いとこないお」


岡部「そんな筈がないだろう……っ! ついさっきまでは、お前は病院に居たはずだ!」

岡部「俺が見舞いに来ただろう!? その後に、フェイリスも来た筈だ! 忘れたのか!?」

紅莉栖「ちょっと、岡部。いつもの妄想なら、いい加減にしなさいよね」

岡部「く……っ」


岡部「どういう、ことだ……」

岡部「(駄目だ。現状を理解できない。脳が処理しきれない。何が起きている? 何が起きた?)」

岡部「(Dメールを送った瞬間、まるで瞬間移動でもしたかのように紅莉栖たちがラボに現れた)」

岡部「(原因は、Dメールか……。あれを送ったせいで、世界線を跨いでしまったとでもいうのか?)」

岡部「(何を馬鹿な。世界線を跨ぐこと自体は珍しくないらしいが、因果に支配されているあらゆる生物は、世界線の変動に気づけない筈だ)」

岡部「(世界線の変動に誰しもが気づいてしまうなら、矛盾が発生する……)」

岡部「(意味が分からない……。こんな状況で、冷静に物事を処理できる訳ないだろう……っ!)」

紅莉栖「酷い汗。ほら、タオル」

岡部「……」

紅莉栖「……受け取れよ」

ダル「オカリンは、牧瀬氏に吹いてもらいたいという訳ですね、分かります。ハァハァ」

紅莉栖「なぁっ!? 何考えているのよ、このHENTAI!」

岡部「……耳障りだ、少し黙ってくれ」

紅莉栖「ちょっと、いくらなんでもそんな言い方はないんじゃない?」

岡部「何がだ」

紅莉栖「あー…もう……」

まゆり「オカリン?」

岡部「(……オカリンとは、俺の事か……?)」

岡部「なんだ」

まゆり「まゆしぃがオカリンに特別、ジューシーからあげを分けてあげるのです」

岡部「……いや、遠慮しておく」

まゆり「オカリン……」

岡部「………」

紅莉栖「岡部……、あんた本当に疲れてるのね。あんだけ暑いのにいつも、狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真だ! なんて飽きずに叫んでいるからついに身体壊したのよ」

岡部「鳳凰院、凶真……だと!?」

~~~~

鈴羽『岡部……、いや、鳳凰院凶真。お前は2036年、自身を神格化させ、300人委員会のトップに立った。極悪非道な人間だよ、君って』

~~~~

岡部「その名を何処で聞いた!?」ガシッ!

紅莉栖「ちょ、岡部……っ、痛い……っ!」

岡部「どこで聞いた! なぜ貴様が鳳凰院凶真という名を知っている!?」

紅莉栖「や、やめて……っ! い、痛いってば、岡部……っ!」

ダル「ちょ、オカリン。いつも自分で、俺が鳳凰院凶真だ! とか叫んでただろ」

岡部「俺が? それより橋田、さっきからずっと思っていたがなんだそのオカリン、とかいうふざけたあだ名は。俺を馬鹿にしてるのか?」

ダル「へ? ずっと前からこう呼んでただろ、常考。つーか橋田って」

まゆり「……オカリン?」

岡部「なんだ、まゆり……。お前も俺の事をオカリン、だなんてふざけた名で呼ぶんだな」

まゆり「オカリン……。まゆしぃはね、いつでもオカリンの人質なんだからね」

岡部「人質? なんのことだ」

まゆり「だから、何か悩み事があったら、いつでもまゆしぃに相談してね。何にも役にたたないかもしれないけど、オカリンが辛そうにしている顔は、まゆしぃは見たくないのです」

岡部「俺が……辛そう、だと……」

紅莉栖「あんた今、ひっどい顔してるわよ。鏡でも見てきたら?」

岡部「余計な御世話だ」

紅莉栖「ほんと、あんたって素直じゃない」

ダル「それ、牧瀬氏も人の事言えないような」

紅莉栖「なんか言った?」

ダル「な、なんにも言ってません」

岡部「(……間違いない。この世界は、俺の知っている世界ではない)」

紅莉栖「喉乾いたでしょ? あんたのお気に入りを持ってきてあげるから、それで元気出しなさい」

岡部「(……感情は、とうの昔に消してしまったつもりだったんだがな。こんなに取り乱して叫んだのはいつ以来だろうか……)」

岡部「ク、フフフ……」

岡部「(俺は気でも触れてしまったのだろうか)」

岡部「いや……」

岡部「(こういう場合、取り乱したり混乱すると余計ドツボに嵌まる)」

岡部「(まずは周りの状況を冷静に読みとり、現状を理解しなくてはならない)」

岡部「く……」

岡部「(落ちつけ。俺なら出来る筈だ……。ラウンダーとして生きてきた頃はもっと衝撃的なことはいくらでもあった)」

岡部「(それと比べれば……)」



紅莉栖「はい。ドクペ。これでも飲んで、気を落ち着かせなさい」

岡部「ドクペ……? なんでこんなものを」

紅莉栖「あんた、好きでしょ? ドクペ」

岡部「………」

岡部「(そもそも飲んだ事がない。俺と言えばマウテンデューだというのに、そんなことも忘れているのかコイツは)」

岡部「(まあいい。喉が渇いていたし、牧瀬の言う通り気を落ち着かせなくてはならん)」

岡部「……」プシュ

岡部「んぐ……」

岡部「が、っげほっ! な、なんだ、このクソまずい飲み物は!?」

ダル「オ、オカリンどったん? 大好きなドクペを自分自ら否定するなんて、オカリンらしくないお……」

岡部「橋田。そのオカリン、だとかいう馬鹿げた名前いい加減やめろ。お前にその名で呼ばれると無償に腹が立つ」

ダル「……いや、今更すぎね? つーかオカリンもなんだよそれ。橋田、って呼び方」

岡部「……もういい。そんな細かいことに気にしているよりやるべき事がある……」

紅莉栖「………」

紅莉栖「ね、橋田、まゆり。今日は岡部が疲れているようだし、解散にしない?」

まゆり「えー……、オカリンが心配だよぅ……」

紅莉栖「でも、今日ぐらいは岡部にゆっくり休んでもらった方がいいんじゃない? ほら、見るからに疲労困憊、だし」

ダル「左に同じく。僕も今日はメイクイーン+ニャン2に行くお。まゆ氏も来る?」

まゆり「……えーと。うん……」

紅莉栖「じゃ、先帰ってて。私は電話レンジの事でもう少し残ってないといけないから」



岡部「(ラボから鈴羽が消えている。牧瀬が俺を見ても怯えない。この二つの事実からして考えるに、Dメールは成功したということ)」

岡部「(俺は牧瀬紅莉栖に現場を見られなかった過去を望んでいたというのに、過去は思った以上に変貌した)」

岡部「(バタフライ効果……。だがその考え方だとおかしい。たかだか牧瀬紅莉栖に殺人現場を目撃されなかったという過去に改竄しただけでここまで世界は変わるものなのか?)」

岡部「(鈴羽は2036年から2010年にタイムトラベルしている。だが、世界は変貌したりはしなかった。多少世界線に変動があったのかもしれないが、そんなのは数字にすれば0.0001%程度だ)」

岡部「(それと比べれば、俺がやったDメール程度で世界線が大幅に変動するなんてありえない)」

岡部「(……いや、その考え方は駄目だ。間違いなく俺が送ったDメールで世界は変わったんだ)」

岡部「(原因は、全てあのDメールということ)」

紅莉栖「はい、お茶。喉が渇いているのに炭酸飲料を渡したのは気が効かなかったわね」

岡部「……ああ、悪い」

紅莉栖「本当に大丈夫なの?」

岡部「ああ」

紅莉栖「目を見て言って。私にだけは、嘘、つかないでよ」

岡部「(……なんだ? この世界での牧瀬はどこかおかしい。妙に好かれているというか……)」

岡部「眩暈や頭痛は治まった。これは本当だ」

紅莉栖「……そう。よかった」ホッ

岡部「(解せないな。ついさっき、俺はお前を気絶させ、拘束させたというのに、なぜそんなに馴れ馴れしく俺と会話しているのだろう?)」

岡部「(いや、こいつは俺の知っている牧瀬ではない。だから、ついさっき拘束した牧瀬とは別人。こいつにその時の記憶は、ない……)」

紅莉栖「で?」

岡部「で、と言われても、何を言えばいい」

紅莉栖「あんた、何か面倒な事でもしたの?」

岡部「面倒な事……? は、間違ってないな。確かにとんでもなく面倒な事をしてしまった」

岡部「(自業自得とはいえ、これは骨が折れる)」

紅莉栖「岡部……、まさかと思うけど、あんた未来からタイムリープしてきたの?」

岡部「タイムリープだと? なんだそれは」

紅莉栖「記憶を情報化させ、過去の自分に未来の記憶を思い出せる。散々言ったでしょ」

岡部「……それは、電話レンジで可能なのか?」

紅莉栖「(仮)って言わないのね……。そうよ。実質のタイムトラベルはできないけど、それに近い事は可能になる」

岡部「……タイムリープマシンか」

岡部「(ここまで電話レンジを改良して、今だSERNの奴らが黙っている理由は何だ? この世界でもSERNが存在するなら、ラボが襲撃されるのも遠い未来ではないはずだ)」

岡部「残念だが、お前の考えているようなことは起きていない。タイムリープをしてきた記憶はないからな」

紅莉栖「じゃあ、何よ。その変貌っぷりは」

岡部「何がだ? 変わったか? 俺は」

紅莉栖「大違い。さっきまで、フゥーハハハ! とか高笑いしてたじゃない」

岡部「………」

岡部「お前の言う通り、俺は体調を崩していた。悪い、心配かけたな」

紅莉栖「し、心配なんてしてないわよっ! い、一応、電話レンジの改良には岡部が必要になるから、無理されると困るだけで……」

岡部「(会話をしていて気味が悪いな。牧瀬が、まるで存在しないもう一人の俺に話しかけているような、訳の分からない嫌悪感)」

岡部「(もといた世界に戻るならば、俺はここで、今さっき確かに存在していた岡部倫太郎を知る)」

岡部「(そうして、原因が解明したのならば、すぐにこの世界とはおさらばだ)」

紅莉栖「あ、岡部もいる? ポテチ」ハイ

岡部「あ、ああ。悪いな」

岡部「……」

岡部「(……俺は、また裏切るのか)」

紅莉栖「明日からは、しゃんとしなさいよ? まゆりも橋田も一応、あんたのことを心配してるから」

紅莉栖「わ、私も、その、あんたには早く良くなってほしいと思っているし……、だ、だから元気出しなさいよね。何があったか知らないけど」

岡部「(……間違いなく、この世界の牧瀬は俺に好意を抱いている)」

岡部「(それを、裏切るのか。また裏切ってしまうのか……)」

岡部「牧瀬。悪いが、お茶をもう一杯」

紅莉栖「オーケー……って、何よそれ」

岡部「? 牧瀬?」

紅莉栖「それよ、それ」

岡部「悪いが言っている意味が分からない。とにかく、お茶を取ってくれ」

紅莉栖「あーもう! そうじゃなくて! 牧瀬、って呼び方よ! 何よそれ。どうしていきなり他人のような呼び方するの?」

岡部「い、今までこう呼んではなかったのか?」

紅莉栖「……あんた、本当に暑さで頭やられた?」

岡部「……く、紅莉栖?」

紅莉栖「な……っ// と、突然だな、私の名前をまともに呼ぶなんて」

岡部「(牧瀬でも紅莉栖でもなければ、一体俺はこいつのことをなんと呼んでいたんだ?)」

紅莉栖「それにしても、本当にあんたは……」ペチャクチャ

岡部「(っと……、またどうでもいい事を考えていた。今は名前云々ではなく、やるべきことがある)」

岡部「……」ピッ

岡部「(もし、俺の嫌な予感が当たらなければ、電話帳にM4の電話番号があるはず)」

紅莉栖「ちょっと岡部」パシ

岡部「……何をする」

紅莉栖「私、前にも言ったはずなんだけど。人が喋っている最中に携帯いじる人、私は嫌い」

岡部「知った事か。今はお前と雑談しているほど余裕はない。いいから携帯を返せ」

紅莉栖「はあ? 上から目線なのは相変わらずだけど、その態度、なんか気に食わない」

岡部「………」

岡部「お前が気に障ったなら謝る。だから携帯を返してくれ」

紅莉栖「何よそれ……、何なの? いつもなら「その携帯には重要な情報が入っている」だなんて言いそうなのに、どうして……」

岡部「言っただろう。調子が悪い、と。それにその携帯に重要な情報が入っているのは間違いない」

紅莉栖「え?」

岡部「何度かDメール実験をしただろう? 未来から届いたメールは重要な実験結果だ」

紅莉栖「………」

岡部「分かったなら返せ」パシ

岡部「(アドレス帳……)」ピ、ピッピ

岡部「(……やはり、ないか。そもそもパスワードもかかっていない。現状は俺が考えているより絶望的なのかもしれないな)」

岡部「……それよりなんだ。この、バイト戦士だとか指圧師だとか、助手ってのは……」

紅莉栖「え? 呼んだ…?」

岡部「は?」

紅莉栖「いや、だから。今あんた、私のこと……」

岡部「いや、誰もお前の名など呼んでいない」

紅莉栖「言ったじゃない。助手って」

岡部「助手? お前が? お前も暑さで頭がやられたのか?」

紅莉栖「は、はあ? 私の事を助手って呼んでたのはあんたでしょーが」

岡部「知らんな。俺はお前の事を牧瀬と呼び続けているし、これからそれを変えるつもりも一切ない」

岡部「というより助手とは一体何の事だ? 俺の助手、にでもなりたいのか?」

紅莉栖「だ、誰がなるかっ! あんたが勝手に私の事を助手にしたんでしょ!」

岡部「(……。仮にもこの世界にさっきまで存在していた岡部倫太郎は、性格が違えども俺だ。この世界の俺は一体何をしていたんだ?)」

岡部「ならば、今後はそのようなあだ名で呼ぶ事はやめにしよう」

紅莉栖「え?」

岡部「お前は18歳で論文が載ったほどの天才だ。年下とはいえ敬意の意味も込めて、お前の事は牧瀬と呼ばせてもらう」

紅莉栖「ど、どうせいつもの厨二病なんでしょ? は、はいはい妄想乙」

紅莉栖「で、でも同じラボメンなんだし、そ、そんな他人のような呼び方しなくても、いいんじゃない……?」

岡部「悪いが、お前の言っている事は理解できない」

岡部「同じラボメンだからどうした? お前も俺の事を岡部と呼んでいるだろう。俺達はラボメンであり、それ以上でもそれ以下でもない」

岡部「お前とは必要以上に親しむつもりはない」

紅莉栖「……っ」

紅莉栖「……どうして?」

紅莉栖「そんな、冷たいこと言うの……」

岡部「タイムリープマシン、だったか? もう完成しているのか?」

紅莉栖「………」

岡部「牧瀬?」

紅莉栖「……完成は、まだしていない」

岡部「分かった。だがなるべく早めに完成させてくれ」

岡部「(場合によれば、タイムリープマシンを必要する時が来るかもしれない)」

岡部「俺は出かける」

紅莉栖「ま、待ってっ! 岡部……っ!」

岡部「……どうした?」

紅莉栖「……青森には、一緒に来てくれるのよね……?」

岡部「(青森……?)」

岡部「………」

岡部「ああ、当たり前だろ」

紅莉栖「そ、そうよね……っ! え、えっと、呼びとめてごめん」

岡部「……ああ」ガチャ

岡部「(くそ、俺らしくない……。青森に一緒に行くだなんて件は全くと言っていいほど意味が分からない)」

岡部「(……ならば、思った通り「なんのことだ?」と言ってやればよかった)」

岡部「(この世界の岡部倫太郎を知っておく必要はあるが、牧瀬にこれ以上好かれると、今後に支障が出るかもしれない)」

岡部「(……だというのに。俺は無意識に、牧瀬紅莉栖を傷つけないよう考慮した言葉を口から出していた)」

岡部「……俺は、牧瀬紅莉栖が悲しむ姿を見たくないのか……?」

岡部「(何を馬鹿な。俺は俺のために動き、それは決してSERNのためでもラボメンのためでもない)」

岡部「(この世界に来てから、自分の存在が不安定になっている)」

岡部「……俺は、鳳凰院凶真だ。いかなる時でも独善的であり、目的のためなら誰が死のうと知った事じゃない」

岡部「(それは、この世界でも揺らぐ事なんて有り得ない――)」

鈴羽「あ、うぃーっす。岡部倫太郎じゃん。どうしたの? 辛気臭そうな顔してるけど」

岡部「す、鈴羽っ!?」

鈴羽「人の顔を見てそんなに驚かれるなんて心外だなぁ」

鈴羽「って。初めてまともにあたしの名前を呼んだね」

岡部「……き、気味が悪いな、お前」

鈴羽「え? うっそぉ! それ、いくらなんでも酷くない? 確かにあたしはいつも挙動不審だけどさ、せめて言葉ぐらい選んでほしいんだけど」

岡部「(……以前は、俺にたいして嫌悪感丸だしだったというのに…)」

岡部「(いや、嫌悪というより憎悪か)」

鈴羽「岡部倫太郎? 思い詰めた顔して、どうしたの?」

岡部「(……殺気を隠しているとも思えない。俺が未来で300人委員会のトップに立つという事を、こいつは知らないのか?)」

岡部「(いや、その情報も鈴羽から聞いたものだから、信憑性などゼロに近いが)」

鈴羽「おーい? おーかーべーりーんーたーろー」ブンブン

岡部「……いや、少し考え事を」

鈴羽「ん? 今気づいたけど、なんか、君っていつもと雰囲気違うね」

岡部「どういう意味だ?」

鈴羽「なんていうんだろ。いつもより、冷たくなった……とか」

岡部「ああ…、今日は少し体調が悪くてな。あまり気にしなくていい」

鈴羽「君が? うわ、明日雪でも降りそう」

岡部「失敬な。俺の事をなんだと思っている」

鈴羽「えーと……、あたしが岡部倫太郎をどう思っている…?」

鈴羽「個人的には、あたしは岡部倫太郎の事は好きだよ」

岡部「は?」

鈴羽「いや、勘違いしないでほしいけど、恋愛的な意味ではないから」

鈴羽「君ってさ、なんだかんだ言って〝良いやつだしね〝」

岡部「……俺が?」

鈴羽「うん。君以外誰がいんのさ」

岡部「(……、なんだ、この既視感は)」

鈴羽「って、うわ。あたし今、恥ずかしい事をサラっと言わなかった?」

岡部「……いや。恥じる必要はない」

岡部「(……吐き出しそうなほどの気持ちが悪い会話だ。鈴羽の言っている事が一つも理解できない)」

岡部「(あれだけ俺を憎んでいた鈴羽が、俺を好いている? 何の冗談だ。お前の両親や、お前の仲間たちを殺したのは、俺だというのに)」

岡部「(いや、まだ俺は殺してはいないが、そういう未来があったからこそ鈴羽はタイムトラベルしてきた)」

岡部「もう一度訊くが、本当に俺の事が好きなのか?」

鈴羽「え……、や、やめてよ岡部倫太郎。勘違いしないでもらいたけど、恋愛的な意味じゃないよ」

岡部「そういう事を言いたいんじゃない。お前は本当に俺に好意を持っているのかということだ」

鈴羽「岡部倫太郎という人間は、あたしは個人的に好き。って……、二度も言わせないでくれない? 一応、あたしも恥ずかしいんだけど」

岡部「そうか……。天と地がひっくり返ってもそれだけはありえないと思っていたんだが……」

鈴羽「ひっどぉ! せっかく人が褒めてやってんのに、その言い草はないんじゃない?」

岡部「………」

岡部「それより鈴羽。お前はどうしてここにいる?」

鈴羽「へ? いや、どうしてもなにも、あたし、バイトあるし。今日は店長がいないから夕方まで店を任されているんだけどね」

岡部「そういうことじゃない。お前が現代にいる理由だ」

鈴羽「………」

鈴羽「どういう、意味?」

岡部「(鈴羽が現代にタイムトラベルしてきた理由は、未来の鳳凰院凶真と名乗る俺が300人委員会のトップに立ち、世界を地獄に陥れる)」

岡部「(それを阻止するため。だがそれを知らない鈴羽は何のためにこの時代にいる?)」

岡部「どういう意味も何もない。お前なら分かっているはずだろう」

鈴羽「………」

岡部「鈴羽?」

鈴羽「あたし、君の言っていること、よく分かんないなぁ。一応店も任されているし、こんなとこでサボってたら店長にどやされちゃうや」

鈴羽「だから、ごめん岡部倫太郎。話はまた暇な時に聞いてあげるからさっ」

岡部「待て! 鈴羽!」ガシッ

鈴羽「痛っ! は、放してよ」

岡部「まだシラを切るつもりか。お前は未来からタイムトラベルしてきたはずだ。理由を教えろ。どうしてお前は未来から来た?」

岡部「まさか観光しに来たなんてふざけたことは言わないよな。何か理由があるはずだ」

鈴羽「………。どうして、それ知ってるの?」

岡部「(この世界の阿万音鈴羽も、未来からタイムトラベルしてきているというわけか)」

岡部「(いや、そうでないと困る)」

岡部「お前は2036年からタイムトラベルしてきた。間違ってないな?」

鈴羽「………」

岡部「無言は肯定と見なすぞ」

鈴羽「……そうだよ。間違ってない」

岡部「その理由は、SERNが絡んでいるのか?」

鈴羽「……っ」

鈴羽「うん」

岡部「(どういう事だ……。俺の知っている阿万音鈴羽も、SERN絡みで過去を変えに2010年にとんできた)」

岡部「(……唯一違う面があるとするなら)」

岡部「俺は、誰だ?」

鈴羽「は?」

岡部「いいから、質問に答えてくれ」

鈴羽「岡部倫太郎でしょ? それ以外に誰だって言うのさ」

岡部「俺を恨んでいないのか?」

鈴羽「そんな訳ない。君には感謝したいくらいだよ」

岡部「俺を殺してやりたいと思った事は」

鈴羽「ある訳ない」

岡部「……ラウンダーという組織を知っているか」

鈴羽「岡部倫太郎。君はどうしてそこまで知っているの?」

岡部「阿万音鈴羽。これから先に起こる事を、説明してくれないか」

鈴羽「……どうして?」

岡部「知っておきたいんだ。お前が俺達に接触してきたのも、何か理由があるんだろう?」

岡部「それならば、俺にだって知る権利はある」

鈴羽「……はあ」

鈴羽「どうしてか知らないけど、あたしのことも未来の事もSERNのことも大方理解しているんだ」

鈴羽「そこまで知っているなら、いいよ。教えてあげる」

岡部「……恩に着る」

鈴羽「店に入って。あまり人に聞かれたくない」

岡部「ああ」

―――――

鈴羽「この話は…」

岡部「分かっている。誰にもするつもりはない。迷惑かけたな」

………

岡部「(未来は、俺がもと居た世界と殆ど大差はない)」

岡部「(SERNによるタイムマシン開発によって、世界は形だけの殺伐とした平和が出来あがる。SERNによるディストピア化……)」

岡部「(鈴羽はそれを防ぐために現在にとんできた)」

岡部「(……俺の知っている阿万音鈴羽と、この世界の阿万音鈴羽も目的は殆ど変わらない)」

岡部「(どちらとも、未来を変えるために過去に来た)」

岡部「問題は……」ピッ

岡部「(アドレス帳にFBやM4の電話番号はない。メールBOXもごく普通なメールしか残されていない)」

岡部「(この世界でもラウンダーは確かに存在する。俺の知っている人間は一人もいなくなってしまったが、物理的に消えたわけではない)」

岡部「(それならば、関係はどうであれM4もFBもこの世界に存在しているはずだ)」

岡部「(……ああ、それさえ知れれば後はどうにでもなる)」

岡部「(FBやM4にこの事を話すかどうかは悩みどころだが、タイムリープマシンが完成すれば、それほど事態は絶望的ではなくなる)」

岡部「(いっそのこと、前の世界に戻らずにこの世界でラウンダーとして生きていくのもありかもしれない)」

岡部「………」

岡部「(問題は、一つだけある)」

岡部「(この時間なら、M4からの定時報告、もしくはFBからの今後どう動くか命令が入るはずだ)」

岡部「(それが全くない。電話は微動だにしない。アドレス帳にはM4やFBの連絡先が登録されていない)」

岡部「(考えたくないが、この世界は……)」




岡部「……俺が、ラウンダーじゃない?」

今日はここまで! 見てくれた人がいたらありがとうございます。
おぼんが始まりましたので、自分もそれなりにハメをはずして遊ぶつもりです。
なので、次はもう少し時間をおいてからかくかもしれませんので、申し訳ありません。早ければ二日後、遅ければ五日後に載せる予定です。

乙です

萌郁との遭遇が楽しみだ

おつん

Γ世界線のオカリンの目的って何だったんだろうね



>>123
おれは勝手にまゆりを救うためだと思ってた。

γは面白かったなあ

かなり期待

--ラボ--

紅莉栖「……」

紅莉栖「ふう。クーラーのない部屋で、細かい作業をするのはきついな……」

紅莉栖「お茶でも飲も」

紅莉栖「……」コト


紅莉栖「(やっと冷静になれて考えてみたけど、今日の岡部はやっぱり様子がおかしい)」

紅莉栖「(なんだろう……。岡部なのは間違いないんだけど、私が知っている岡部じゃないような……)」

紅莉栖「(数年ぶりに会った友達が、私の知っているような友達じゃなくなった的な)」

紅莉栖「あーもう。考えている事が曖昧になってる」

紅莉栖「急に頭を抱えたと思えば、そこからやけに様子がおかしくなったのよね……」

携帯「~♪」

紅莉栖「ひゃっ!? ……って、着信か」

紅莉栖「まゆりから……?」

紅莉栖「はろー」ピッ

まゆり『もしもし? クリスちゃん?』

紅莉栖「うん。何か用?」

まゆり『あ……、えと。オカリンのことなんだけど』

紅莉栖「………」

まゆり『今日のオカリンね、様子がおかしくなかったかな』

紅莉栖「まゆりもそう思う? 私も同感よ」

まゆり『……クリスちゃんは何か心辺りとかあるかな?』

紅莉栖「ないわ。あいつはいつも突然おかしなことをしだすけど、今日は……、なんて言うんだろう」

紅莉栖「あいつも、ふざけてやっている訳じゃないと思う」

まゆり『そっか……』

まゆり『オカリンは、辛い事も、悲しい事も、全部自分で背負っちゃうから、まゆしぃは心配なのです……』

紅莉栖「同感。あいつは自分で何とかしようと一人で頑張るような奴だし、どうせ私達に心配をかけたくないとか思っているんでしょ」

紅莉栖「……ほんとっ、良い迷惑……っ!」

まゆり『クリスちゃん……』

紅莉栖「まずは相談しろっての……っ! あのバカ。何のためのラボメンよ……」

まゆり『オカリン、大丈夫かなー……』

紅莉栖「そんなに知りたければ聞いたらどう? 答えてくれるとは思わないけど」

まゆり『え、えっと、まゆしぃもそう考えてみたんだけど、今日のオカリンは、何だか近寄りがたいのです……』

まゆり『け、決して、嫌いになった訳じゃないんだけどね…、その……』

紅莉栖「(……分からなくもない。確かに今日の岡部は、近寄りがたい。それに何より、話していても明らかに拒絶の意が見えている)」

紅莉栖「まゆり? あなたがへこんでどうするのよ? あの馬鹿にがつんと言ってやれるのは、他の誰でもないあなただけなんだから」

紅莉栖「流石の岡部も、まゆりに怒られたら言い返せないでしょーし」

まゆり『ク、クリスちゃん。ま、まゆしぃはオカリンに怒ることなんてできないよ~』

紅莉栖「なら、いつも通り元気にしてなさい。岡部もなんだかんだいってまゆりの事は大切に想っているんだろうし、理不尽に怒鳴ってくる事もないでしょ」

まゆり『それでいいのかな…?』

紅莉栖「ええ。私達がギクシャクしてどうするのよ。余計に気まずくなっちゃうだけでしょ?」

紅莉栖「それにあの馬鹿は、問い詰めても貝のように口を開かないと思うしね」

紅莉栖「いつか、自分の力だけではどうしようもないって理解した時に、きっと私達に相談してくれると信じてる」

紅莉栖「(現実に私は、辛い過去を誰にも話さずにずっと一人で背負っていた)」

紅莉栖「(岡部のあの一言で、私は岡部に相談した。パパのことは岡部とは全く関係のない事だけど、相談して後悔なんてしていない)」

紅莉栖「(……口では言わないけど、私を励ましてくれた岡部には本当に感謝している)」

紅莉栖「(なのにあの馬鹿は。自分の悩みを人に相談もしないで、勝手に背負って……)」

まゆり『クリスちゃん?』

紅莉栖「あ、な、何?」

まゆり『まゆしぃは、いつものようにしていればいいんだよね?』

紅莉栖「ええ」

まゆり『……うん。クリスちゃんに相談して良かった。それじゃあ、もうそろそろ切るね』

紅莉栖「ふふ。ええ、分かった。それじゃあね、まゆり」ピッ

紅莉栖「……はあ」

紅莉栖「あの馬鹿……、まゆりを悲しませてんじゃないわよ……」

鈴羽「……」ガチャ

紅莉栖「っ!?」

鈴羽「牧瀬紅莉栖? いるのは君だけ?」

紅莉栖「阿万音さん……? 何か用?」キッ

鈴羽「……不本意だけど、岡部倫太郎の事について話しに来た」

紅莉栖「え?」





ザワザワザワ

岡部「……」プシュッ

岡部「……」ゴクゴク

岡部「はあ……」

岡部「(暑いのが原因だろうか。眩暈が酷い)」

岡部「(あんなにも慣れ親しんだ秋葉も、まるで別の街のように錯覚する)」

岡部「(ラウンダーだった俺は、常に周囲に気配を張り巡らせていた)」

岡部「(だが今は、それをする必要もない)」

岡部「……くそっ!」

岡部「訳が分からない。悪い夢なら覚めてくれ……」

岡部「(まるで俺という存在が世界に否定されたかのようだ)」

岡部「(ラウンダーとして生きてきた俺を、な……)」

岡部「(M4やFBの連絡先は覚えている。その通りボタンを叩けば、繋がるかもしれないが……)」

岡部「(繋がってどうする? 別の世界での俺はラウンダーだったが、過去に送れるメールを送ったせいで俺がラウンダーではないこの世界に飛ばされてきた)」

岡部「(そんな馬鹿げた説明をしろと?)」

岡部「(警戒心の強い奴らだ。そもそも相手にされないだろうし、ラウンダーだった事を証明する為に、ラウンダーしか知りえないことを口にすれば、消される恐れだって充分あり得る)」

岡部「(SERNにとってラウンダーなんて所詮は捨て駒。下手な行動はとれない)」

岡部「……なんだよ、これ」

岡部「(俺が考える限り、打開策など一つも浮かばない……)」

岡部「(方法はいくらでもあるが、どれも危険な賭けだ。それに託すなど、賢明な判断とは言えないだろう)」

岡部「………」

岡部「(M4なら、あるいは――)」

ルカ「岡部さん?」

岡部「ん…?」

フェイリス「あ、キョーマニャー! こんな所で何しているのニャ?」

岡部「ルカにフェイリスか……。珍しい組み合わせだな」

フェイリス「ニャニャニャ? 凶真が珍しく元気がないのニャ」

岡部「(凶真……、とは俺の事だろう)」

ルカ「岡部さん…?」

岡部「……どうした」

ルカ「顔色、悪いですよ? 体調が優れないんですか?」

岡部「そんなところだ。お前らこそここで何をしているんだ?」

フェイリス「ニャハハハ。実は……」

フェイリス「聞いて驚けキョーマ! フェイリスはルカニャンを、メイクイーン+ニャン2の猫耳メイドに――」

岡部「……神聖な巫女に何をしているんだ、お前は」

フェイリス「ニャハハ。実はさっきルカニャンにもそう怒られたところなのニャ……」

岡部「自業自得だ。お前は見境がないぞ」

ルカ「あ、岡部さん。別に僕もそんなに嫌がっていた訳ではないので……」

岡部「……なあ、ルカにフェイリス」

ルカ「はい?」

フェイリス「ニャン」

岡部「お前らから見て、俺ってどういう人間に見えた?」

フェイリス「ニャ、ニャニャ? キョーマは突然何を言い出すのニャ?」

ルカ「え、え? そ、それって僕が岡部さんをどう思っているかを言えばいいのでしょうか……」アタフタ

岡部「違う。……いやまあ、あってはいるが、俺ってそこらにいる普通の人間と変わりないか?」

フェイリス「キョーマ~。凶真が周りの目を気にしだすなんて、凶真らしくニャいニャ~」

ルカ「お、岡部さんは、ふ、普通だと思いますよ」

岡部「……それは、本当にか?」

ルカ「え、ええと、あの…、その」

フェイリス「……」

フェイリス「聞いてキョーマ!」

岡部「なんだ」

フェイリス「今さっき入手した情報ニャンだけど、秋葉がついに萌えの大魔王キュートニャンニャンに侵略され――」

岡部「……?」

フェイリス「このままじゃ秋葉だけじゃ被害は治まらず、日本――いや、世界中がキュートニャンニャンに征服されちゃうのも時間の問題ニャー!」

岡部「……」

フェイリス「キョーマ~! 凶真が反応してくれないと、フェイリス、アホの子みたいなのニャ~っ!」

岡部「……いや、悪いが何を言っているのかさっぱり分からん」

ルカ「あ、あはは。す、すいません、僕も……」

フェイリス「ニャーッ! ニャンだか気に食わないニャッ! フェイリスだけがおかしなことを言っているみたいニャーッ!」

岡部「事実だろう」

フェイリス「いつもなら乗ってくれるのにーっ!」

岡部「何? 俺が?」

フェイリス「ニャッ」コク

岡部「……いや、俺はそんなに能天気で痛い奴など知らん」

フェイリス「今サラっとフェイリスの事も馬鹿にしたかニャーッ!?」

岡部「考え過ぎた。…あ、いや。俺はそんな奴だったのか?」

フェイリス「だっていつも、狂気のマッドサイエンティストの鳳凰院凶真だ―っ! って叫んでたニャン」

フェイリス「証拠メールもあるニャ」ピッピ

送信者:鳳凰院凶真

件名:まさか貴様、機関の一味か……っ!?

本文:先程の精神攻撃は、まさか貴様の一件だったのか!? なるほど、道理で見た事があるような技だった……。
その技が使えるとは貴様まさか、害なす魔の杖(レーヴァテイン)も扱える可能性が高いな。くそ……っ! 
まさか機関にそれほどの腕を持った人間が身近にいるとはな……っ!

フェイリス「いつもはノリノリニャのにー」

岡部「………」

岡部「(読んでいて吐き気がした。このふざけた文章を俺が書いただと? 笑えない冗談だ)」

岡部「(はっ。そんな事を大声で叫んでいる奴が、途端に冷静になれば、誰だって俺の様子がおかしいと思うはずだ)」

ルカ「で、でもすごいですよね。このれヴぁーてぃん? とか、格好良いですし」

岡部「レーヴァテインだ」

ルカ「す、すいませんっ」

フェイリス「というより、どうして急にこんなこと聞くのかニャ?」

岡部「………」

岡部「(………)」

岡部「いや、何となく、な」

フェイリス「まるで記憶喪失にでもなったみたいニャ。自分の事について聞くニャンて」

ルカ「そ、そんな……っ! お、岡部さん!? だ、大丈夫なんですか!?」

岡部「……っ」

岡部「い、いや……。き、機関からの精神攻撃を受けた、だけだ」

フェイリス「? ニャンだ。いつもの凶真ニャー。機関の攻撃を受け、記憶喪失となった鳳凰院凶真っ! そこに現れるネコ耳の不思議少女!?」

ルカ「あ、あはは。フェイリスさん、機嫌が良いですね」

フェイリス「ちょっと心配だったのニャ。だけど、いつものキョーマだったのニャン」

ルカ「そうですね。少し、顔色悪いですけど、今日はゆっくり休んでくださいね」

岡部「あ、ああ……」

フェイリス「それじゃ、フェイリス達は帰るのニャー! 凶真も帰り道には気をつけるのニャぞ! キュートニャンニャンはもう確実に秋葉を支配しつつあるのニャー!」

ルカ「岡部さん。調子が悪いのにお騒がせしてすいません」ペコ

岡部「………」

フェイリス「ほら、早く着いてくるのニャー。神社まで送ってあげるニャ」

ルカ「フ、フェイリスさんっ! ま、待ってください……っ!」タッタッタ

岡部「………」

岡部「く、屈辱の、極みだ……」

岡部「(と、とてもじゃないが、この世界の岡部倫太郎はこれ以上知る必要はないだろう)」

岡部「(仮にも、この世界の岡部倫太郎も俺だったとはいえ、それは考えたくもない……)」

岡部「……余計な時間を食ったな」

岡部「(なんだ俺は。さっきから失敗を繰り返してばかりじゃないか)」

岡部「(……それもこれも。全部ラボメンの所為だ。みんな妙に馴れ馴れしい……)」

岡部「(それよりも……)」

岡部「これからどう動くか、考えないとな……」




岡部「(このまま動かずにラボメンとして生活していれば、確実にSERNがラボに襲撃を掛けてくる)」

岡部「(電話レンジの奪取だ。俺がいた世界でもその計画は進められていたんだ)」

岡部「(この世界ではどうか知らないが、その事も頭に入れておくと……)」

岡部「(俺も電話レンジ開発者として、拘束される恐れがある)」

岡部「(そうなればもう元の世界に戻るどころの話ではなくなる)」

岡部「(……今日中にどうにかしてなくてはならない)」

岡部「電話レンジの奪取……?」

岡部「待て……。そうか。元の世界に戻るより優先すべきは、居場所を確保しなくてはいけない」

岡部「(分かりきっていることだが、時間が必要になる。ならば……)」

岡部「……なっ!?」

萌郁「……」スタスタ

岡部「M4……っ!?」

萌郁「……」スタスタ

岡部「……くっ、おいっ! そこのお前、待てっ!」

萌郁「……?」ピタ

萌郁「……」

萌郁「……」スタスタ

岡部「お前だって言っているだろう……っ!」ガシ

萌郁「岡部くん……? どう したの?」

岡部「な……っ! お、お前、俺の事を知っているのか?」

萌郁「?」

岡部「(どういうことだ? 俺がラウンダーでないなら、この世界の俺はM4と接点がないはず……)」

携帯「~♪」

岡部「……メール?」ピッ




送信者:閃光の指圧師

件名:どうしたの?

本文:いきなりどうしたの? ちょっと顔色が悪いけど大丈夫? もしかしてIBN5100の場所が分かったとか!?
それなら早く教えて教えて♪


岡部「……なんだ、これは。お前が送ったのか?」

萌郁「……」コク

岡部「……理解不能だ。お前は一体どうしてしまったんだ? らしくないぞ」

萌郁「……」ピッピ

携帯「~♪」

岡部「く……っ」ピッ




送信者:閃光の指圧師

件名:言っている意味が良く分からないよ~

本文:らしくないって言う言葉、そのままお返しするね。いつもより冷静っていうのかな? ちょっと焦ってるみたいだけど、何か厄介事にでも巻き込まれた?
そんなことより、IBN5100はどうしたの?


岡部「(IBN5100? 確か、1975年にIBNが市場に初めて投入したデスクトップコンピューター……)」

岡部「(確か、独自のプログラミング言語が導入されている……)」

岡部「(だが、2000年クラッシュでIBN5100も含め殆どのPCが吹っ飛んだ。ワクチンにより、回復を見せるPCもあったが、IBN5100のようなレトロPCは、)」

萌郁「……?」

岡部「……お前は、IBN5100の行方を探っているのか?」

携帯「~♪」



送信者:閃光の指圧師

件名:なし

本文:前々からずっと言ってきたけど。それで、行方は分かったの?

岡部「(……確か、前の世界線でも一応、IBN5100の回収をラウンダーが任されていたような……)」

岡部「(だが、2000年クラッシュでIBN5100などというクソ古いPCは即使いものにならなくなった)」

岡部「………」

岡部「だがIBN5100を入手してお前はどうするんだ? 2000年クラッシュでただの鉄の塊になってしまっただろう」

萌郁「?」

携帯「~♪」



送信者:閃光の指圧師

件名:2000年クラッシュって?

本文:2000年クラッシュって何かな? 大魔王が降りてくる年のこと? でも2000年には何もなかったよ?

岡部「……はあ? お前、知らないのか? 世間で散々騒がれただろう? コンピューターが誤作動を起こして世界中が大パニックになったではないか」

萌郁「そんな こと 起こってない」

岡部「おいおい……、暑さで頭がやられたか? 2000年問題なんて、世界中の誰でも知っているぞ」

萌郁「……」ピッピ

岡部「(それにしてもなんだこいつは。この世界のM4はやたら携帯を操作するのが好きらしい。面と向かってメールで会話など馬鹿げている)」

萌郁「見て」

岡部「……ん?」

岡部「……2000年問題は、生活に直結するほどの大きな混乱は一切起きず、ほぼ杞憂で終わった……だと?」

岡部「……馬鹿な」

岡部「(待て待て待て……。2000年問題がなかったことになっている? 馬鹿な。ありえない)」

岡部「(Dメールを送ったせいで、ラボメンやラウンダーとの関係が変わる程度ならまだしも、世界規模で起きた大問題がなかったことになった?)」

岡部「(たった、ひとつのメールで?)」

岡部「馬鹿にするな。2000年クラッシュは確かにあっただろう」

萌郁「起きて ない。それに、コンピューターがクラッシュしてしまったなら、IBN5100 も あまり 必要が なくなるから」

萌郁「私が 探す 意味がない」

岡部「(……反論できない。間違っていない。ラウンダーがわざわざそんな無駄な事に人員をさく訳ない)」

岡部「(前の世界線でも、IBN5100の回収は新入りに任せていた。一応、M4の戦闘能力は高く評価できる)」

岡部「(この世界で2000年クラッシュが起きていれば、鉄の塊の回収程度でM4に任せるなんて、馬鹿な話……)」

岡部「(まさか、本当に……)」

岡部(たったひとつのメールで、世界が変わったとでもいうのか?)」

岡部「(……たった、ひとつのメール。牧瀬紅莉栖に見られなかったと過去を改竄した)」

岡部「(それが原因で、世界そのものが変わってしまった……?)」

岡部「……ク、ククク……」

岡部「ははははっ! ふははは……っ! 馬鹿げた話だ!」

岡部「面白い。面白すぎる。たったひとつのメールで、牧瀬に現場を見られないという過去に変えただけで、世界を揺らがせる大問題が起きない世界になっただと?」

岡部「そして俺がラウンダーじゃなくなった。ラボメンはみんな俺の事を好いている」

萌郁「……っ!?」

岡部「きっと、この世界の俺は人を一人も殺していない……。殺してなんかいない!」

岡部「ははははっ! おかしすぎる!」

萌郁「岡部くん……。なんで、 ラウンダーを知って……」

岡部「知りたいか? 知りたいのかよ」

岡部「俺は、ラウンダーだったんだよM4!」

萌郁「……どうして、私のコードネームを」

岡部「俺は世界に否定された。俺が生きてきた十九年間をなかったことにされた」

岡部「人を殺した。殺し尽くした。絶望に陥れた。ラウンダーとして生きてきたのは全部、他の誰でもない自分のためだった」

岡部「ラウンダーのためでも、SERNのためでも、ラボメンのためでもなく、俺のために」

岡部「それが、なかっただと? なかったことになった?」

岡部「……ああ。これが、罪か? 今まで人を殺してきた代償か?」

萌郁「岡部くん……?」

岡部「(もうどうやっても無理だ。俺がもと居た世界に戻る事なんて不可能だ)」

岡部「(Dメールやタイムマシンが使っても不可能。どう過去を変えれば、あの世界に戻れる?)」

岡部「(牧瀬に見られたという過去を受け入れればいい? どうしろと? この世界での俺はラウンダーではない)」

岡部「(つまり俺は、チェックメイトされたも同然。どうしようもない。どうすることもできない)」

岡部「(そもそも世界規模で変わってしまったんだ。ラウンダーやラボメンとの関係が変わっただけではなく、世界そのものが変わってしまったんだ)」

岡部「(全ては偶然の一致に起きた事だろう。ありえないぐらいの奇跡が起きて、偶然世界線が変わってしまった)」

岡部「(……もう、戻れない)」

岡部「(俺は、この世界で生きていくことしかできない)」

岡部「……だとしたら、残された手は一つか」

岡部「M4」

萌郁「……答えて。どうして私のコードネームをあなたが知っているの?」

岡部「FBに会わせてくれ。話したい事がある」

萌郁「っ!? な、なんでFBのことも……っ!」

岡部「俺は、お前の知る岡部倫太郎ではない。別の世界から来たんだ」

萌郁「……」

岡部「阿保らしいな。馬鹿げているな。だが、お前らラウンダーがSERNの捨て駒というのも知っているし」

岡部「M4、お前は全てをなくして生きる意味を持てなくなったところを、俺……いや、この世界はFBにでも救われたのか?」

萌郁「……っ」

岡部「ラウンダーであるお前にしか知りえない事もまだある。この世界ではもうユーロポールの捜査官は暗殺したのか?」

萌郁「……」

岡部「殺していないのか? だがどの道する事になるだろう。SERNのタイムマシン開発にとって非常に邪魔な存在になるからな」

岡部「M4。今後俺と話す時は、携帯は一切使うな。口で話せ」

萌郁「……岡部、くん?」

岡部「それと、俺の事はM3と呼べ……」

岡部「お前は、俺のパートナーだ。忘れたとは言わせない、M4」

萌郁「……」

岡部「俺は、FBと会ってくる」

萌郁「……M3っ!」

岡部「なっ……。お前、今何て言った?」

萌郁「……あ、どうして、私は……」

岡部「(なるほど……。別の世界線の記憶を持っているのは俺だけではないという事か?)」

岡部「(ここまではっきり覚えている俺はイレギュラーだろうが、何かキッカケがあれば別の世界線の自分を思い出す事もありえる……)」

岡部「……FBと会ってくる」

萌郁「……FBに会う……? でも、私はあの人の居場所は……」

岡部「天王寺裕吾。FBの正体だ」

萌郁「え……?」

――――――
――――
―――

岡部「……俺は」

岡部「……この世界線でも、ラボメンを裏切る」

岡部「…………」

岡部「……は、はは。裏切る事ができるのか、俺は。ラボメンを」

岡部「(この世界線の俺は、みんなに好かれるような存在だったらしい)」

岡部「(たとえ、性格は違えど、本質は変わらない)」

岡部「(……牧瀬紅莉栖を裏切った時の、あの顔は脳裏にこびり付いて消えてくれない)」

岡部「(……信じていた、か)」

岡部「(この世界線の牧瀬紅莉栖も、きっと俺の事を信じて疑わない)」

岡部「(俺が裏切るなんて、思ってもいないだろう……)」

岡部「……だけど俺は。これ以外にどうやって生きていけというんだ……っ!」

岡部「俺はラウンダーとして生きていく事を決めた。だから人を殺した」

岡部「……なのになんで、手が震えてるんだよ」

岡部「くそが……。怯えてるなら、初めからやらなければよかったじゃないか……」

岡部「だけどもう……、手遅れだ」

岡部「(あの頃の俺は、幼すぎたんだ……っ!)」

岡部「初めは、ラウンダーの収入で、まゆりを救うのが生きがいだった」

岡部「あいつの病気はもう末期だった。それなら最期に、俺に生きがいを見つけてくれたお前のために、最期まで俺は仮面を被っていた」

岡部「ラウンダーとして生き、人を殺して収入を得て、まゆりのためにその金を使った」

岡部「……は、はは。人を殺した金で? 俺は、とんだ最低な奴じゃないか」

岡部「人を殺しているという罪悪感から逃れたいがための、現実逃避に過ぎない」

岡部「(気づけよ、岡部倫太郎。お前は、ラウンダーとして生きてくのが、愉しかったんだろ……?)」

岡部「……全部、間違っていたのかもしれない。初めから、何もかもが」

岡部「俺はもう、ラウンダー以外では生きがいを持てない」

岡部「……そのためなら、ラボメンであろうと、裏切る」

岡部「なのにどうして、手が震えてるんだよ」

岡部「俺は、俺のために。鳳凰院凶真は、いかなるときも独善的でなくちゃいけないんだよ……っ!」

岡部「……だから、この世界でもそれは変わらない。変わるはずがない」

岡部「……まずは、FBに会わないと……」

岡部「(……夜にした方がいいか……。陽が出ているうちは何かと目立つ)」

岡部「もう、これからどう動くかなんて、決めてある……」

今日はここまでです。毎度ながらこんなSSを読んでくれる人がいてくれて嬉しい限りです。
なので、中途半端にやめず、最後までかくつもりです。とりあえず、SSを載せるのはまた後日。
ここまで読んでくれた人は本当にありがとうございます。次は、三日後か五日後くらいに載せる予定。



γ線では萌郁はミスターブラウンがFBであることはしっているのか?


楽しみにしてる

乙!

乙! 凄く続きが気になるでござる

>>192

電話かかってきてなかったっけ?

>>174で十九年間ってかいてありますけど、岡部18歳でした。ミス。

いや岡部は19才でしょう

岡部はまゆりを殺せるのか?

果たしてどうなるのやら。。

>>200
自分もそう思ってたんですけど、よく調べてみると、19歳だとつじつまが合わなくなるので、18歳だとか。

岡部19
紅莉栖18
じゃないの?

           YES → 【ヒットした?】 ─ YES → なら聞くなよ。[ピーーー]。
         /                \  
【検索した?】                     NO → なら、ねぇよ。[ピーーー]。

         \                   
            NO → [ピーーー]。

カオスヘッド&シュタゲの科学アドベンチャーシリーズアニマックスにそう書いてありましたが、まあ、細かいところは目を瞑ってもあえるとありがたいです。一応、予定より早く出来たので再開します。

--ラボ--

紅莉栖「岡部のこと……?」

紅莉栖「どうしてあなたがそれを聞きたがるか分からないんだけど」

鈴羽「今日の岡部倫太郎は、どこか様子がおかしかった」

紅莉栖「な……っ」

鈴羽「心当たり、あるんだね」


紅莉栖「………」

鈴羽「君たち、たしかタイムマシンを作っている、なんてこと言ってたよね。岡部倫太郎がそれを使った可能性は?」

紅莉栖「………」

紅莉栖「質問ばかりね。それをあなたに話す必要はないと、私は考えているけど」

鈴羽「……はあ。そうだよね。確かにそれをあたしに丁寧に説明する必要はないね」

鈴羽「どうしよ……」

紅莉栖「勝手に悩まないでもらえる? 凄く居心地が悪いんですけど」

鈴羽「事態が事態だし……、牧瀬紅莉栖にそれを話すことで未来が変わる恐れは……。いやでも…」

紅莉栖「無視?」

鈴羽「あ、ごめんごめん。無視するつもりはなかったんだ」

鈴羽「ちょっと考え事を」

紅莉栖「考えるのは勝手だけど、阿万音さんと同じ空間にいるのは居心地が悪いって、さっき言いましたが」

鈴羽「そりゃそうだろうね。あたし、君の事が嫌いだし」

紅莉栖「言われなくても気づいてたわよ」

紅莉栖「ま、そういう私も、初対面だってのに逆恨みされて、礼儀もなってない人は嫌いだけど」

鈴羽「……」ム

紅莉栖「……」フン

鈴羽「……じゃなくて。あたしは牧瀬紅莉栖と喧嘩をしたいがために来た訳じゃない」

紅莉栖「あらそう。喧嘩を売って来たのはそっちだってのに」

鈴羽「……。牧瀬紅莉栖に話すのは不本意だけど」

紅莉栖「あなた喧嘩売ってるでしょ?」

鈴羽「ベ、別にそんなつもりはないよ。ある程度は考慮しているつもりだし」

鈴羽「岡部倫太郎に一番近くて、岡部倫太郎の理解者は君だけだったからさ」

紅莉栖「ち、近いって……」

鈴羽「それに、牧瀬紅莉栖は物理学とかを専門に研鑽しているんでしょ? なら、頭も良いだろうし、ある程度の話は理解してくれそうだから」

紅莉栖「研鑽? ……ああ、そういうこと。物理学? まあ、昔から物理には興味あったし、今も学んで……、って、私は物理学専門じゃなーい!!」

鈴羽「えぇっ!?」

紅莉栖「脳科学専攻ですけどなにか?」

鈴羽「……さ、流石に今のは驚愕だよ。脳科学専門のくせに、タイムマシンの開発をしているんだ」

紅莉栖「一応、物理は得意分野。って、話はどこへ向かっているのやら」

鈴羽「……っと、そうだった。牧瀬紅莉栖が脳科学だとかそんなのはどうでもいいんだ」

紅莉栖「そんなの、とは随分な物言いね」

鈴羽「いちいち突っかかってこないでよ。話が進まないじゃん」

紅莉栖「……はいはい。言いたい事があるならどーぞ」

鈴羽「………」

紅莉栖「な、何よ。言いたいことあるなら言いなさいよ」

鈴羽「いや、現状からして楽観なんてしてられないな、って」

紅莉栖「ああもう、イライラするわね……っ! 言いたいことあるなら言えっての!」

鈴羽「……そうだね。あたし、これはできるだけ誰にも話さないつもりでいたんだけど」

鈴羽「牧瀬紅莉栖には、話すよ」

紅莉栖「話すって、何を……」

鈴羽「あたしの正体を、君に明かす。これからの未来を、君に教える」

鈴羽「信じてなんて言わないよ。ただ、あたしは真実しか言わないよ。――いや、事実かな」

紅莉栖「え…と? 言っている意味が理解できないんだけど」

鈴羽「こう言えば分かる? 岡部倫太郎の様子がおかしくなった理由を説明する、って。完璧には説明できないけどね」

紅莉栖「……どういう意味?」

鈴羽「そのままの意味だよ。君は聞いてくれているだけでいい」

鈴羽「……あたしが、全部とは言えないけど、納得してくれるところまでは話すから」

紅莉栖「納得、ねえ。ふうん。それじゃ、私を嫌っている理由も話してくれるとか」

鈴羽「それは、どうだろ。あはは、無理かも」

鈴羽「あたしが話せるのは、あたし自身のことと未来のこと、SERNのこと、岡部倫太郎のこと」

紅莉栖「SERN? 未来? あなた、何言って……」

鈴羽「あたしは、2036年からタイムトラベルしてきたんだ―――」


―――――――
――――
――

紅莉栖「とてもじゃないけど、信じがたい話ね」

鈴羽「全て事実だよ。あたしは、未来を変えるためにとんできたの」

紅莉栖「……まあ、信じるかどうか、なんて話は置いておきましょう」

紅莉栖「あなたが話してくれた事を踏まえたうえで、何か話したい事があるんでしょ?」

紅莉栖「一応、あなたがこんな無意味な冗談を言うような人ではないと思っているから」

鈴羽「思ったより冷静だね。もう少し驚いてくれることを期待してたんだけど」

紅莉栖「ごめんなさいね。昔からこういう性格なので」

鈴羽「まいいや。君が物分かりが良くて助かったよ」

紅莉栖「それで、あなたが話してくれた事と岡部がどう関係しているのか、合点がいかないんだけど」

鈴羽「……岡部倫太郎が、世界線を跨いでも記憶を継続できる能力を持っている事は、知ってる?」

紅莉栖「知ってるけど半信半疑」

鈴羽「あ、あはは。実はあたしも最初は疑ったよ。だけど、多分本当だと思う」

鈴羽「岡部倫太郎はさ、きっと無意味に人を傷つけたり、騙したりすることはしないと思うし」

紅莉栖「………、」

鈴羽「岡部倫太郎がその能力を持っている事を証明することはできない。だけど、信じる事はできる」

紅莉栖「はあ。あなたって、意外に岡部の事を好いてたのね……」

鈴羽「あー、話脱線してる! あたしが言いたいのはそーゆーことじゃなくて!」

紅莉栖「……岡部の様子がおかしくなったことと、それが関係している訳?」

鈴羽「そう。この世界線の岡部倫太郎が、何らかの原因で別の世界線の岡部倫太郎に上書きされた、なんて仮説が立てられる」

紅莉栖「ふうん。岡部と少し話して、様子がおかしいって思っただけでしょ? なのにどうしてそこまで考えているワケ?」

鈴羽「えっとね……。それは先に色々と理解してくれないとできないかな。まず、世界の構造は、」

紅莉栖「……用は、ネットに書いてあったことが全部本当ってわけでしょ?」

鈴羽「あ、見てたんだ」

紅莉栖「え? あ、ぐ、偶然よ。偶然」

鈴羽「それなら話が早いよ。いちいち細かい事を説明しなくて済むし」

紅莉栖「それで?」コホン

鈴羽「ああ、あと、多世界解釈ってのはフェイクだよ」

紅莉栖「え?」

鈴羽「あ、気付かなかったんだ。牧瀬紅莉栖ならとっくに気付いていると思ってたんだけど」

紅莉栖「どういうことよ」

鈴羽「よく見れば気づくと思うんだけどなぁ」

鈴羽「多世界解釈により、祖父のパラドックスは回避できるって言った後に、因果律は矛盾を許さず、世界は再構成されるって書いたでしょ?」

紅莉栖「……あ」

鈴羽「この時点で矛盾発生だし」

紅莉栖「ってなると、コペンハーゲン解釈が有力になる。世界は無数の並行世界のうちの一つではない、か」

鈴羽「アトラクトフィールド理論。世界線は最初から一本しか存在しないんだ」

鈴羽「この世界線では、過去から未来まですべての出来事が決定している」

紅莉栖「決定論……? 待って、それじゃあ、過去に来たって未来を変える事なんてできないでしょ?」

鈴羽「この世界線ではね。でも、世界線は常に変動していて、何らかののきっかけで別の世界線に移ることがあるんだ」

鈴羽「その世界線では、SERNによるディストピア化が決定していない可能性が生まれる」

鈴羽「つまり、あたしはそのきっかけを作る為に過去にとんできたんだよ」

紅莉栖「……あなたに百言いたい事があるけれど、今は黙っておく」

紅莉栖「それより、岡部の事を説明して」

鈴羽「世界線の変動には誰も気づけない。気づいてしまったら矛盾が発生するから」

鈴羽「何らかのきっかけで、世界線が変われば、元の世界線は消滅し、新しい世界線のみしか存在しなくなる」

鈴羽「あたしは、岡部倫太郎が別の世界線の岡部倫太郎の可能性を考えている」

紅莉栖「……リーディング・シュタイナーだっけ。岡部が特殊能力を持っていることも考えてか」

鈴羽「そう。岡部倫太郎のみ世界線の変動に気づけるとしたのなら、可能性は高いよ」

紅莉栖「……」

紅莉栖「ごめん。あなたの言っている事は理解しているつもりだけど、岡部の様子がおかしいというだけで、どうしてそこまで考えているの?」

鈴羽「それは――」

鈴羽「………」

紅莉栖「……言えない? それとも勘、とか言わないわよね」

鈴羽「(……それは、本来なら知りえない情報を岡部倫太郎が知り得ていたから)」

鈴羽「(それは本当に岡部倫太郎のみが知るものなのか、確かめないといけない)」

鈴羽「牧瀬紅莉栖。ラウンダーという組織を知ってる?」

紅莉栖「ラウンダー…? 聞いたことないわ」

鈴羽「(……岡部倫太郎だけがその組織を知っていた? どうして?)」

鈴羽「(SERNにハッキングをかけた、とか言っていたけど、あたしはその時に知り得た情報だと思ってばかりいた)」

鈴羽「(……たとえ、ハッキングの際にラウンダーという単語を知っても、よく意味が分からずに調べもしないはず…)」

鈴羽「(仮に調べたのなら、牧瀬紅莉栖が知っていてもおかしくない)」

鈴羽「(どうして、岡部倫太郎がラウンダーを……?)」

鈴羽「(……考えられる要因は、やはり岡部倫太郎は別の世界線の……)」

鈴羽「岡部倫太郎が、あたしを見て何を言ったと思う?」

紅莉栖「そ、そんなの分かる訳ないじゃない」

鈴羽「俺を憎んでいないか、って」

鈴羽「俺を殺してやりたいと思った事はないか、って」

鈴羽「冷たい目で、あたしにそう言ってきたんだよ」

紅莉栖「え……? どういう、意味……?」

鈴羽「あたしが言えるのは、あくまで可能性の話」

鈴羽「……牧瀬紅莉栖。岡部倫太郎には、気をつけて」

鈴羽「あいつの言う事は、もう信用しちゃダメ」

紅莉栖「それ、本気で言ってるの?」

鈴羽「うん。あいつが別の世界線の岡部倫太郎なら、もう信用なんて出来ない」

鈴羽「(ラウンダーという組織を知っている時点で)」

紅莉栖「……ふざけるのもいい加減にして。いきなりラボに来て何を言い出すのかと思えば、」

紅莉栖「岡部を信用するなだって? なんなの? もしかして未来とかの話は全部ウソで、私を馬鹿にしてる?」

鈴羽「そういうつもりじゃないよ。ただ、確信があるんだ。岡部倫太郎を信用できない、確信が」

紅莉栖「……確信?」

鈴羽「岡部倫太郎は、既にあたしが未来から来ていた事を気づいていた」

紅莉栖「な……」

鈴羽「それに、岡部倫太郎が本来知っている筈の無い事まで知っていたんだよ」

紅莉栖「………。でも、それだけで別の世界線の岡部とまで考えなくても」

鈴羽「まだあるよ」

鈴羽「元の岡部倫太郎じゃない、決定的な事があるよ」

鈴羽「あたしと話していた時の岡部倫太郎の目は、2036年の、あたし達が戦ってきた奴らと同じ目をしている」

鈴羽「人を殺す事に躊躇いを持たない。自分の目的のためなら、誰を不幸にしたって構わない」

鈴羽「あたしの仲間たちを殺してきた奴と、全く同じ目を――」

紅莉栖「……っ!」


パシンッ!

紅莉栖「帰って……。あなたがそんな人だとは思ってもなかった」

鈴羽「……」ヒリヒリ

鈴羽「……確かに、あたしがそう言っても信用できないか…」

鈴羽「でも、警告はしたよ。君たちがSERNに関わっている時点で、もうこれは遊びでは赦さない範囲まで来ている」

鈴羽「○○だからそんなことは絶対にあり得ない……、そんな考えは捨てた方が良いと思う」

紅莉栖「いいから帰って……っ!」

鈴羽「……。ごめんね、牧瀬紅莉栖」

紅莉栖「………」

鈴羽「帰るね」

紅莉栖「待って。どうして、私にそんな話をしたの?」

鈴羽「………」

鈴羽「……うん、なんでだろ。君に話したところで、君があたしの話を信用してくれるとは思ってもなかったのにさ、なのになんであたしは話したんだろ」

鈴羽「ああ……、そっか」

鈴羽「信じていた仲間に裏切られるのって、本当に辛い事なんだ」

鈴羽「だから、あたしは――」

紅莉栖「……もう、いい」

鈴羽「……うん」ガチャ

バタン

鈴羽「は~あ……。完全、悪者じゃん、あたし」

鈴羽「ま、確かにサイテーなことを言ったのは自覚してるけどさ……」

鈴羽「……そりゃ、いきなり信じろなんて無理な話だよね」

鈴羽「あーあ……、とんだ失態。牧瀬紅莉栖に話す必要はなかったのに、ほんと、どうして話したんだろう」

鈴羽「あ、もう、陽が沈んでたんだ……」

鈴羽「(そもそも、あたしは牧瀬紅莉栖が嫌いだった。岡部倫太郎にも牧瀬紅莉栖には気をつけろって言った覚えがあるけど……)」

鈴羽「(……牧瀬紅莉栖は、きっと岡部倫太郎を裏切らないだろうなぁ…。人のためにあんなに怒るひと、現代(ここ)に来て初めて見た)」

鈴羽「(目を見れば、基本その人の事は理解できる)」

鈴羽「その点に関しては……、今日の岡部倫太郎は」

鈴羽「(岡部倫太郎に、あの冷たい目で見られた時、あたしの中で芽生えた感情は恐怖でも違和感でもなかった)」

鈴羽「(……分からないけど、あの時あたしは、激しい憎しみを抱いていた)」

鈴羽「既視感って、別の世界線の自分を思い出しているって言うけど……」

鈴羽「あたしも、別の世界線のあたしのことを思い出したのかな」

鈴羽「やな感情……」




--深夜--

天王寺「こんな夜遅くに呼びだすとは良い御身分だな」

岡部「……ええ。申し訳ない」

天王寺「別にいいけどよ。なんでこんな人気ねえ所を選んだんだ? まさか俺を殺すとか言わねえよな」ハッハッハ

岡部「言う訳ないじゃないですか」

天王寺「ならなんだってんだ? くだらねえことだと、家賃一万円上げるからな」

岡部「くだらないことではないですよ。あなたにとっては、充分面白い話ですから」

岡部「ところで訊きたいことがあるんですが」

天王寺「なんだ? 家賃を下げろみたいな頼みは、聞く耳持たねえが」

岡部「俺とあなたの関係って、なんでしたっけ?」

天王寺「はあ? 気持ち悪ぃこと言いだすなオイ。大家と住居人だろうが。それ以外に何があるんだってんだ」

岡部「く、ふふ……。そうですよね。俺とあなたはそれだけの関係でしかない」

岡部「それ以上でも、それ以下でも」

天王寺「オイ、お前。どうした」

岡部「と言いますと?」

天王寺「……いや。お前らしくもねえ。まるで別人のように錯覚しただけだ」

岡部「(……流石に、人を見る目はあるな。この世界でもそれは変わりないか)」

天王寺「それで、そろそろ要件を言ってくれねえか。綯を一人にさせていることが、気にかかってるんだよ」

岡部「それは失礼。ですが、少し長話になると思いますが」

天王寺「だとしたら、明日にしろ。こんな夜遅くにふざけるなよな。お前、家賃一万円値上げだからな、覚えとけ」

天王寺「……」スタスタ

岡部「待ってもらえるでしょうか、―――FB」

天王寺「……」ピタ

天王寺「お前……」ギロ

岡部「そう睨まないでください。俺はあなたに危害を加えるつもりはない」

天王寺「……なるほどな。この違和感は、間違っちゃいねえ。お前、何者だ?」

岡部「岡部倫太郎ですよ。それ以外に誰に見えるというんですか?」

天王寺「……確かにお前は岡部倫太郎だ。だが、何か違う」

天王寺「岡部はいつも笑ってやがるが、そんな糞みてぇな笑い方はしねえ」

岡部「……確かに、俺は岡部倫太郎でありながら、あなたの知っている岡部倫太郎ではない」

岡部「だが、俺は岡部倫太郎だ」

天王寺「はあ? 言っている意味が分からねえよ。前言で否定しておきながら、また肯定してやがる」

岡部「FB。俺はあなたに頼みがあって来た」

天王寺「……チッ。なんで、バレてるのか知らねえが、」

天王寺「お前の頼みは聞けねえな」

岡部「………」

岡部「ユーロポールの捜査官はもう暗殺されたのか」

天王寺「……」

岡部「M4、M7、M2、M5、M8、M6。ラウンダーのブラボーチームだ。元気でやっているのか、聞きたくてね」

天王寺「……なぜお前がそれを知っている」

岡部「FB。よく聞いてください。俺は、あなたに救われた。2000年クラッシュで両親が死に、途方にくれた俺をあなたが救ってくれた」

岡部「俺のコードネームはM3。ほかでもないあなたがつけてくれたんですよ」

天王寺「どういうことか、説明――」

岡部「SERNとかいう大組織は、タイムマシン開発をしているんですよね」

岡部「それと別件で、確か秋葉原でもタイムマシンに似たようなものが製作されており、SERNから問題視されている」

天王寺「………」

岡部「未来ガジェット研究部。確か俺達のラボで製作されているものだ」

岡部「呼称は電話レンジと呼んでいますが、過去に送れるメール。それを改良し、記憶の情報化によって、過去に未来の自分を思い出させる機械」

岡部「SERNも300人委員会もそれを見逃す訳ない」

岡部「FB。あなたのところにはとっくに、ラボ襲撃の命令がはいっているはずだ」

岡部「それをしないのは――」

岡部「(……FBは、酷薄な人間だが、根は優しい人間だ。ラボを襲撃しない理由……)」

岡部「たとえば、ラボメンが完成させたタイムリープマシンをきちんとした研究所に渡す、なんて言ったら、もう行動に移すしかないですね」

天王寺「………」

天王寺「お前は、どうしてそこまで知ってやがる。本来ならラウンダーですら知りえないことだ」

岡部「(それは、前の世界線での俺はFBに気にいられていたこともあるし、ある程度の情報は渡された)」

岡部「(Dメールを送る、なんて独断を許してくれたんだよ、あなたは)」

天王寺「何が目的なんだ」

岡部「俺は、電話レンジを使ってこの世界に来てしまった」

岡部「信じられないような話でしょうけど、信じてもらえるようにFBにしか知りえないことを話しました」

岡部「……俺は、ラウンダーだったんだ。コードネームはM3。M4と共に行動していた」

岡部「これは取引です、FB。あなたのような警戒心の強い人が、やすやす俺を招いてくれるとは思ってもいない」

岡部「ですから、一時的に俺をラウンダーにさせてもらえませんか」

天王寺「なんだと?」

岡部「俺は、あなた達に常に情報を提供する。電話レンジの仕組みも丁寧に説明します」

天王寺「……」

岡部「あなたにとっては悪くない取引ですが、同時に危険性もあるはずです」

岡部「俺が裏切れば、あなたの首も飛んでしまう」

岡部「ですが、あなたには俺が信じるに値するか、先程証明しました」

岡部「俺が少しでも不審な行動を取れば殺してしまえばいい」

岡部「別に正式なラウンダーになる訳じゃない」

岡部「……期間は、ラボ襲撃を終えるまででどうでしょうか」

天王寺「なんだと? お前は何を企んでいやがる」

岡部「けじめですよ。俺がラウンダーになるということは、ラボメンのみんなを裏切ること」

岡部「俺に、ラボ襲撃を任せてください」

天王寺「……いや、まだ危険性はある。タイムリープマシン、だったか? それが完成しているなら、お前が過去へ戻る恐れも充分に――」

岡部「ですから、こんなことは口にするまでもない。FBやラウンダー、SERNのことも全部知っている。ある程度だが、本来は知りえないこと」

岡部「俺がラウンダーを裏切る前提で協力した時のメリットなんて見当たらない」

岡部「……それに、そんなに心配ならあなたの工房にある42型ブラウン管テレビのスイッチを切ればいい」

天王寺「どういう意味だ?」

岡部「あれが、リフターの役割をしているんですよ。まあ、この説明は追々として」

岡部「俺を、ラウンダーにさせてもらえるだろうか」

天王寺「……俺は、表向きでは天王寺裕吾として、一般的な生活を送っているように見せかけている」

天王寺「だが裏では、人殺しを部下に任せるクソったれな仕事も、平然と行う」

天王寺「こちらが有利になる手があるなら、それを掴まない訳がない」

岡部「……ということは、」

天王寺「だが、なんで〝お前なんだ〝? 岡部」

岡部「……は?」

天王寺「それが分からねえ。お前が俺達ラウンダーと戦うなら、俺も容赦するつもりはなかった。だが、そんなお前がなぜ俺らに手を貸そうとする?」

岡部「言ったではないですか。別の世界線から来たと。記憶を引き継いでいるのは、なんらかのイレギュラーでしょうけど」

岡部「それに、もと居た世界で俺をラウンダーにしてくれたのはあなただ、FB」

天王寺「……は」

天王寺「お前を今ここで殺す事はできねえ」

天王寺「そんなことしちまえば、ラボ襲撃の任務に支障が出るからな」

天王寺「だからといって、お前の取引に応じない事も出来ない」

天王寺「なぜか知らねえが、本来知りえない情報を知っているお前を野放しにする事は出来ねえしな」

天王寺「これは、お前を見張るという意味でもあるが……」

岡部「ふむ。一応は応じた、という意味で捉えてくれて構わない、という様子か」

天王寺「ああ。お前は今を持ってラウンダーだ。コードネームは、M3だったか」

岡部「ふ。そうですよ。……それにしても、あなたも巧妙な人だ」

天王寺「ああん?」

岡部「あなたの言い文では、ラボ襲撃の任務が遂行したと同時に、俺を生かしておく必要がなくなるということだ」

天王寺「そこまで分かっているなら、問題ねえ。それを承知でラウンダーになることを希望したんだろ」

岡部「それで、構いません。俺が今必要なのは、時間ですから」

天王寺「……お前の携帯アドレスは、聞かなくても分かる」

岡部「そうですか。確かに、俺の携帯アドレスを手に入れることぐらいあなたなら簡単だ」

天王寺「……」スタスタ

岡部「その前に、FB」

天王寺「……」ピタ

岡部「タイムリープマシンの開発が成功すれば、俺の予想ではあいつらは正式な研究所に譲渡しようとするだろう」

岡部「タイムリープマシンの実験結果は予測できたものじゃないからな」

岡部「……ですから、事態はどうであれ、タイムリープマシンが完成した日の夜十八時以降に襲撃を」

天王寺「……部下が指揮官に命令するなんて、とんだ命知らずがいたもんだ」

岡部「いえ。決断に迷っていたようでしたので。指揮官を助けるのも部下の役目と思いますが」

天王寺「お前には敵わねえよ。この話はこれで終わりだ」

岡部「ええ。それでは、お元気で、FB」

天王寺「ああ。お前の顔見てよく分かったよ。とっくに覚悟決めてんだな」スタスタ

岡部「言われなくとも」

岡部「覚悟は、とっくに……」

岡部「(……これで、居場所は確保できた)」

岡部「(後は、タイムリープマシンを完成させなくてはいけない)」

岡部「(前の世界線のように、ラボメンに気づかれるような下手な行動はとれないな)」

岡部「(しばらくは、大人しくしておくか)」

岡部「………」

岡部「……これで、いいんだよな」

今日はここまでです。次回は少し遅くなるかもしれませんが……、まあ五日以内には載せる予定です。
読んでくれている人は、もうくどいくらい言っていますが、本当にありがとうございます。

おつ

乙ん

おつ

おー更新してたのかー
完結までがんばってやってくれそうで嬉しい
γオカリンの行く末はどっちだ……!
投下乙です

ところで1レスにもう少し詰め込んだほうが見やすいかも

>>267
アドバイスありがとう。了解しました!
一応、完結まで書いたんで、後はそれなりに修正した後に投下するので、
多分、今日の昼か夜には投下します。PCが古いせいか、最近ネットのつながりが悪いので、予定通りに行くかわかりませんが。

>>1乙!
γ世界線ベースはやっぱおもろいな
アンダーリンもおもろかったし

今日か期待してる

アンダーリン面白いのか
丁度最終巻っぽいのが昨日出たみたいだし今度まとめて買うかな

--翌日--

岡部「――以上だ」

萌郁「………」

岡部「安心しろ。お前を裏切るつもりはない。ラウンダーになるとは言ったものの、ラボ襲撃を終えたらどうなるか分からないしな」

萌郁「どう して」

岡部「さあな。できれば、俺が聞きたいぐらいなんだ」

萌郁「……一応、FBから連絡 入ってる。岡部倫太郎が一時的にラウンダーに加入……、ラボ襲撃の際に内部から援護をする…」

岡部「コードネームはM3だ。今後はそう呼べ」

岡部「俺に任された任務はラボ襲撃のみだ。IBN5100とかいうレトロPCの探索は任されていない」

岡部「……つまり、タイムリープマシンが完成するまで俺はいつも通りにしている」

萌郁「待って。どうして、おかべく…、M3はラウンダーに……」

岡部「……、気紛れだ」コツコツ

萌郁「………」

岡部「(……気紛れ、ね)」

岡部「(経緯はどうであれ、ラボ襲撃の任務はもう目の前まで迫っている)」

岡部「(後は俺が、ラボメンを裏切る覚悟ができればいいだけのことだ)」

岡部「チッ……」

岡部「いっそのこと、タイムリープマシンが完成するまではラボに顔を出さない手もあるが……」

電話「~♪」

岡部「……メールか」

送信者:助手

件名:今どこにいるの?

本文:いつもなら、あんたが一番早くラボについてるのにどうして今日に限っていないの?
電話レンジの改良で一番興奮してたのはあんただってのに。ラボ設立者が遅れてどーすんのよ(笑)
待ってるから、早く来なさいよね。来なかったら死刑!



岡部「助手……、牧瀬のことか」

岡部「ったく、あいつは……」

岡部「(この内容からして、寂しいから早く来いと言っているようなものではないか……)」

岡部「……まあいいか。下手にラボに顔を出さないでいると不審に思われるしな」

まゆり「あーっ、オカリンだ~♪」

岡部「……まゆりか。どうしたんだ」

まゆり「オカリンがラボに来るのが遅かったので、迎えに来たのです」

岡部「……いやまあ、行く途中だったのだがな」

まゆり「クリスちゃんがね、オカリンが来なくて心配してたんだよ~?」

岡部「あいつが?」

まゆり「うん」

岡部「ふ、たかだが二時間程度遅れただけではないか。その程度で寂しがるなど、あいつは俺にゾッコンなのか?」

まゆり「えっへへー。オカリンとクリスちゃんはものすごく仲が良いので、きっとそうなんじゃないかなー?」

岡部「……冗談のつもりだったんだが」

まゆり「ねえねえ。オカリンはクリスちゃんのこと好き?」

岡部「………」

岡部「好きかどうかと言われてもな、あいつは我がラボにとって貴重な人材なだけで、そこに特別な感情を抱いたりはしない」

まゆり「そっかー」

まゆり「じゃ、オカリンは仲間思いなんだね」

岡部「さあな」

まゆり「ラボも、賑やかになったよね」

岡部「そうか?」

まゆり「春ごろは、ラボメンは二人しかいなかったのです。それでもまゆしぃは、オカリンと二人で話しているのは楽しかったなぁ」

岡部「………」

まゆり「でもでも、今みたいな賑やかなのも嫌いじゃないんだけど、時々、春ごろのラボを思い出すと懐かしく思えて」

まゆり「それに、今のオカリンはいつも楽しそうな顔をしているので、まゆしぃは見ていて気分が良いのです」

岡部「そうか。良かったな」

まゆり「……もう、まゆしぃはオカリンの人質じゃなくてもいいかもね」

岡部「……どういう、意味だ?」

まゆり「えっへへー」

岡部「無駄に元気が良いな。その調子じゃ、いきなり病気になって入院する事も考えられない」

岡部「……良かったな」

まゆり「んー?」

岡部「……っと、着いたか。今日はなんだったか、電話レンジの改良の件だったか?」

まゆり「……えーと。まゆしぃは、あまりよく分からないけど、多分そうだと思うよ」

岡部「そうか。……ん? なんだ、あの自転車」

岡部「(MTB……? どうして、ブラウン管工房の前に?)」

まゆり「あれはスズちゃんのだよ?」

岡部「あ、ああ、そうか。鈴羽のか……」

岡部「あれで、サイクリングでも……、……っ!?」

『東京に来たのは、10日前が初めてなんだよねー』

岡部「……? な、なんだ、この記憶……」

まゆり「オカリン?」

岡部「い、いや、大丈夫だ。ちょっと頭痛がしただけで……」

『理由? 父さんを捜索するため、かな。もう何年も会ってなくて。この街にいるのは分かってるんだけどさ』
『ただ、一回だけチャンスがあるの』
『そのチャンスを逃したら、あたしもうこの街を離れなきゃいけない』
『行かなきゃいけないところがあるからさ。あたしも多忙なわけよ』

岡部「……っ!?」

岡部「……っ、あ……! く、そ、なんだってんだっ!」

まゆり「オカリン!?」

岡部「(頭が割れそうだ。動悸が激しい…)」

岡部「……く」




―――君ってさ、イイ奴だよね。

―――なんか、ちょっとだけ……楽になったかも。


岡部「……この、感じ」

岡部「(前の世界線にいた時、稀に思い出すおかしな記憶)」

岡部「(……そういえば、前に俺は牧瀬の事を助手と呼ばなかったか?)」

岡部「(どうして、俺は牧瀬の事を助手と? それに、42型ブラウン管テレビがリフターの役割をしているのも、なぜか俺は知っていた)」

岡部「(……それに、今の記憶は、阿万音鈴羽と……?)」

岡部「(何が起きているんだ。訳が分からない)」

まゆり「オカリン? どうしたの? 大丈夫?」

岡部「だ、大丈夫だ。ちょっと、疲れが溜まっていたのかもしれない」

まゆり「無理、しちゃダメだよ?」

岡部「ああ、無理はしてない。だから安心しろ」

まゆり「オカリン……」

--ラボ--



紅莉栖「お、岡部……っ!」

岡部「な、なんだ。俺が登場した程度で、何をそう嬉しがっているのか理解できないんだが」

紅莉栖「う、嬉しがってなんかないわよ! バカ!」

岡部「……いやまあ、いいんだが」

岡部「ところで牧瀬、電話レンジの改良の方はどうなった?」

紅莉栖「また、その呼び方……」

岡部「ん?」

紅莉栖「もう少しね。岡部も来た事だし、今から再開するけど」

岡部「ああ、頼む」

ダル「にしても、記憶の情報化……。まるでSF世界の話だお」

岡部「その考えは電話レンジの改良と共に覆される。タイムマシンには遠く及ばないが、それに似た事は可能になる訳だ」

ダル「36バイト+αまで圧縮、それって記憶だからできるんでしょ? 人間をタイムトラベルさせるには、どうすればいんだろうなあ」

紅莉栖「SERNも何年研究してもタイムマシンの開発は成功していない。私たちみたいなちっぽけな研究所が、タイムマシンを開発しようったって、」

紅莉栖「予算、部品、施設、人員、欠落しているものが多すぎるわ」

岡部「……?」

岡部「……となると、この電話レンジは全て偶然の一致によって出来あがったもの」

岡部「……偶然にしちゃ、できすぎている気もするが」

紅莉栖「……それに関しては同感。過去の自分に未来の記憶を思い出させる事ができるなんて、本当に橋田の言う通り、どこのSFよ」

岡部「となると、電話レンジの改良が終われば、世界初とも言える時間移動が可能になるってことか」

ダル「いや、世界初はSERNだろ」

岡部「な、なに?」

岡部「SERNがどうしたって?」

ダル「いやだから。時間移動を可能にしたのはSERNが最初だろ、常考」

ダル「つっても、物理的なタイムトラベルをすれば、ゼリーマンになっちゃうんだけど」

紅莉栖「じ、常識的なの?」

岡部「………」

岡部「まあいい。電話レンジ改良後は後々考えればいい。時間はいくらでもある」

まゆり「じゃあじゃあ、まずは名前を考えるべきだと思うなー」

ダル「おお。その発想はなかった。確かに電話レンジの改良は牧瀬氏に任せてるし、僕らやることないし、」

ダル「電話レンジを改良したそいつの名前を考えるのもアリじゃね」

岡部「ほう、名前か。悪くない案だな」

まゆり「帽子付き電話レンジちゃん」

岡部「な、なぜ帽子……?」

ダル「ああ、ヘッドギアのことじゃね? なんか、牧瀬氏から聞いたけど、ヘッドギアが必要になるとか」

岡部「……なるほど」

ダル「となると僕は、電話レンジ 2nd edition version1.21」

岡部「長い。却下」

まゆり「せこん? えでーしょん?」

ダル「じゃあ、オカリン。なんか案あるん?」

岡部「無難にタイムリープマシンでいいだろう」

ダル「これはひどい」

岡部「お前にだけは言われたくないな」

紅莉栖「って、ちょっとちょっと! なに私抜きで、楽しそうにしてんのよ!」

岡部「混ざりたいのか?」

紅莉栖「そ、そんな、別に混ざりたいってわけじゃ――」

ダル「じゃあ、牧瀬氏はなんか名前とかあるん? 電話レンジ改良してんの、基本牧瀬氏が中心だし」

岡部「親に近い存在だな。それなら、ちゃんとした名前がつけられそうなものだが」

まゆり「ワクワク」

紅莉栖「ふぇ!? え、えっと……」

紅莉栖「……タイムリープマシン」

ダル「これはひどい」

岡部「……いや、酷い答えが返ってくるのは予想していたが」

ダル「まさかのコピペ」

紅莉栖「う、うっさい!」

ダル「にしてもオカリンが、タイムリープマシンって言ったのは意外だったお」

岡部「どうしてだ?」

ダル「オカリンの事だから、堕ちた堕天使とか言いそうだったし」

紅莉栖「堕ちた天使とかいて堕天使。それ、かぶってる」

岡部「いや…、まともなものを作ってる時ぐらいは俺もまともでいようと思ってな」

ダル「納得いかね。それじゃオカリンじゃないじゃん! まともなオカリンって何!?」

紅莉栖「HENTAI紳士は橋田で、岡部がまともになり、私とまゆりは元からまともなので、変なのは橋田だけね」

ダル「ふ、ふん。僕は二次元にいっぱい彼女いるし、フェイリスたんもいるから平気だお」

紅莉栖「どう見ても現実逃避です、本当にありがとうございました」

ダル「え?」

紅莉栖「はっ!」

ダル「今思ったけどさ、牧瀬氏が一番、変じゃね?」

岡部「同感」

紅莉栖「な、岡部まで!? ま、まゆりは!?」

まゆり「もぐもぐ。ふぇー? なにー?」

紅莉栖「あが……、からあげくっとるし……」

岡部「って、牧瀬。手が止まってる」

紅莉栖「あ、ごめ――って、なんで私が謝らなきゃいけないワケ?」

岡部「いいから作れ」

紅莉栖「納得いかない……」ウー

ダル「と、言いつつも電話レンジの改良を再開する牧瀬氏であった」

―――――――
―――――
―――


まゆり「オカリンオカリン」

岡部「なんだ? まゆり」

まゆり「これをね、持っててくれないかな? こうして、びろーんって広げて」

ダル「まゆ氏、今のびろーんをもう一度」

まゆり「びろーん」

ダル「びろーん、いただきました」

紅莉栖「もうやだこのHENTAI」

岡部「さっきから何を作っているんだ? まゆり」

まゆり「えっとねー、コスプレの衣装だよー。もうすぐコミマだし、気合い入れて作ってるんだ~」

岡部「ほう……。なんだ? 牧瀬にでも着せるのか」

紅莉栖「ぶはっ!」ゴホンゴホン

紅莉栖「だだだ、誰が着るかこのHENTAI!」

ダル「でも牧瀬氏なら案外似合いそうだよな」

岡部「確かに。牧瀬はスタイルだけはいいからな」

紅莉栖「だけは、って何よ」

ダル「つまり性格に問題があるということですね、分かります」

紅莉栖「開頭して海馬に電極ぶっ刺すぞ」

ダル「嘘ですごめんなさいゆるしてください」

岡部「はあ。何してるんだお前ら」

まゆり「でーきたー!」

まゆり「完成♪」

紅莉栖「あ、負けたわ……。でもこっちももう完成」

岡部「な、で、できたのか!?」ガタ

紅莉栖「ええ。微調整も済んだし、完璧」

ダル「マジでできたん!?」

紅莉栖「ええ、マジよ」

ダル「マジでか……。ぶっちゃけ過去の自分に未来の自分の記憶を思い出させるなんて、」

ダル「無理だろ常識的に考えて、とか思ってたし」

まゆり「でもねでもね。過去の自分に未来の自分を思い出させるって、なんだか凄い気がするなー」

岡部「……いや、実際に凄いんだよ」

岡部「牧瀬」

紅莉栖「へ? な、何よ、そんな真剣な顔しちゃって……」

岡部「改めてお前の頭脳には驚かされた。18歳で論文に載ったという件も含めて、お前の事は尊敬している」

紅莉栖「な、何よ、今更……」

岡部「確かに条件は揃っていたが、俺達だけではどうしようもできなかっただろう」

岡部「感謝している」

紅莉栖「……と、当然でしょっ!? そ、それにあんたに感謝されるとかプライド傷つくんでやめてくれない!?」

岡部「……酷い言いようだな」

ダル「ツンデレ乙、とだけ言わせてもらおう」

紅莉栖「それで、実験はどうするの? 自分ではこれ以上にないってくらいの出来だけど、実際使ってみたらどうなるかは予測できない」

岡部「そのヘッドギアを被ればいいんだな?」

紅莉栖「そうよ。後は時間指定。電話レンジと殆ど操作は変わらない」

ダル「で、でもさ、使うってたって、失敗したらどうなるん?」

紅莉栖「……人格障害、記憶障害、因果の輪から外れたことにより、その者の存在すら消されてしまう恐れも考えられる」

ダル「テラヤバス」

岡部「(実験するのは賢明ではないな……)」

岡部「実験はしない」

紅莉栖「え?」

岡部「え? じゃないだろ。それだけの危険性があってまで、実験する必要はないと考えるが」

岡部「失敗したらどうする? 因果律は矛盾を許さない。仮に俺が実験したとして、世界から俺の存在が否定されたらどうなるんだ?」

紅莉栖「それ、は……」

岡部「そうなれば、世界は再構成され、お前らの記憶からも消えるから罪悪感なんて欠片もないだろう」

岡部「だが、記憶障害や人格障害が出た場合はどうなるんだ? それこそ取り返しがつかなくなるだろう」

ダル「じゃ、じゃあ、そこでDメールを使って、タイムリープマシンの実験をやめろ! って送ればよくね?」

岡部「それも無理だ。Dメールは異なる世界線には送れない」

紅莉栖「……っ!」

ダル「せ、世界線? なんのこと?」

岡部「とにかく、実験はしない。リスクが多すぎる上に大きすぎる。それでいいな? みんなは」

まゆり「まゆしぃは、よく分からないから、みんなに任せるけど…」

ダル「ま、まあ、僕はやりたくないし、それで良いと思われ」

岡部「牧瀬は?」

紅莉栖「………」

岡部「牧瀬?」

紅莉栖「ふぇ? あ、えっと、うん、良いと思うわよ」

岡部「それじゃ、決まりだ」

ダル「じゃ、これどうするん?」

岡部「これはきちんとした研究機関に託そう。俺達の手に終えたものじゃないからな」

ダル「オカリンはそれでいいの?」

岡部「無論だ。こんなもの、俺達のような一介の大学生が持っていていいものじゃない」

岡部「明日にでも、研究機関に託そう」

岡部「……」ピッピ

ダル「オカリン? メール?」

岡部「…ん?」

岡部「ああ……」

岡部「………」

岡部「タイムリープマシンも完成した事だし、状況を報告してるんだ」

ダル「あ、いつもの妄想ですね、分かります」

本文:タイムリープマシン。開発に成功。実験はせず、ラボのメンバーには研究機関に譲渡すると報告。そちらからの
命令次第で動ける。指示があるまで待機中。

岡部「……」ピッ


送信しました。

紅莉栖「にしても、なんでメール? いつもは携帯を耳に当てて『俺だ…・・』とか言ってるじゃない」

岡部「ふ。電話は直接喋るものだから、聞かれたくない奴らに聞かれる恐れがある。だがメールならば事前に知らせておいた暗号を書き込めるだろう?」

紅莉栖「なんだいつもの厨二病か」

ダル「牧瀬氏が厨二病を知っている件について」

紅莉栖「た、たまたま。そう、勘違いしないでよ」

ダル「牧瀬氏、いまの『たまたま』、もう一度」

紅莉栖「黙れHENTAI」


携帯「~♪」

岡部「……」ピッ

送信者:FB

件名:なし

本文:現在時刻から三時間後の18時以降にラボ襲撃の任務を開始する。秋葉原の指定された位置に仲間は待機しているが、位置はお前に教える必要はない。
ブラボー部隊が武装して、ラボに襲撃。M3の役目は、他の奴らを抑えつけておくことだ。それと、場合によっては抵抗
する人間は射殺しろ。
ただし、牧瀬紅莉栖と橋田至の二人は拘束目的だ。騒ぐようなら眠らせても構わないが、殺しはするな。

岡部「(……よく言う。秋葉原の指定された位置にラウンダーが待機? ようは裏切っても、捕まるから脳なしな行動はやめておけってことか)」

岡部「(……場合によって、抵抗する人間は射殺か)」

岡部「(皮肉だな。自分で自ら選んだ事とはいえ、別の世界に来てまでラボを襲撃するとはな)」

岡部「(……現在時刻から三時間後……。つまり今日か。とりあえず、ラボ襲撃の任務を遂行したら、次は……)」

ダル「今まで電話レンジのことで徹夜続いたりしていたし、それに解放されるってことで久々にぱーっとパーティでもしない?」

岡部「な、何を呑気に……」

紅莉栖「いいわね、それ」

まゆり「まゆしぃもいいよー。えっへへー、楽しみだなぁ」

岡部「……仕方ないな」

紅莉栖「何よ? 乗り気じゃないの?」

岡部「いや、丁度良いし、俺も混ぜてもらおう」

紅莉栖「丁度いい? つーか、あんたが参加しないでどーすんのよ」

まゆり「そうだよー。オカリンがいなきゃ意味ないんだからね」

岡部「わ、分かった分かった。それで、飯はどうするんだ」

紅莉栖「買い出しにしましょ? まゆりとダルはできるだけ、ラボメンを集めて頂戴」

紅莉栖「買い出しは私達二人で行ってくるから」

岡部「二人? 誰の事だ?」

紅莉栖「あんたしかいねーだろうが!」

岡部「はは、冗談だ。お前から誘ってくるなんて、何か話したい事でもあるのか?」

紅莉栖「別に。ただ、あんたが本調子じゃないから励ましてやろうかなあ、って思っただけよ」

ダル「デレ期キター!」

紅莉栖「黙れHENTAI」

ダル「最近、牧瀬氏が酷く怖くなったお……」

まゆり「よしよし」

紅莉栖「じゃ、行きましょ」

岡部「わ、分かったから引っ張るな!」

ダル「行ってらっさい。そして爆せろ、二人とも!」

まゆり「行ってらっしゃーい」

まゆり「えっへへー、手を繋いで仲がいいねぇ」

ダル「オカリン! マジで爆発しろよっ!」

--外--


紅莉栖「さて、せっかくぱーっとやるんだから、岡部、なんか買いたいものある?」

岡部「俺は特にないが」

紅莉栖「そ? なんでそんなに乗り気じゃないのよ。ほら、行きましょ」

岡部「ひ、引っ張るな。……ったく」

紅莉栖「………」

岡部「このまま行く気か?」

紅莉栖「え?」

岡部「手を放せって」

紅莉栖「あ……、そうね」

岡部「全く、一体どうしたんだ? まゆり達から逃げるように出てきて」

紅莉栖「別に……。ちょっと、あんたが心配なだけ」

岡部「……熱でもあるのか?」

紅莉栖「ねーよ! 人が心配してんのに、何よその態度は!」

岡部「で? 俺の事を心配している理由は?」

紅莉栖「……っ」

紅莉栖「えっと……、お、岡部は……っ」

岡部「……どうした? 歯切れが悪い。全く、いつもの助手らしくないな」

紅莉栖「え……っ!?」

岡部「ん……?」

クリスティーナがダルって……橋田じゃないのか

紅莉栖「あ、あんた今、私のこと……」

岡部「……いや、待て。どうして俺は……」

岡部「………」

岡部「聞き間違えた。気にするな」

紅莉栖「……私の名前は、何?」

岡部「な、なんだ突然。記憶喪失にでもなったか? 牧瀬紅莉栖、間違いないだろう」

紅莉栖「いつものようなヘンテコなあだ名は?」

岡部「……知らん」

紅莉栖「……岡部」

紅莉栖「……ねえ。前にメールで言ったでしょ? 私にだけは、嘘、つかないでって」

岡部「………」

紅莉栖「岡部、あんた私達に何か隠してること、あるでしょ?」

岡部「………」

紅莉栖「私、あんたを信用して、いいんだよね…?」

岡部「………」

紅莉栖「何か、言いなさいよ……」

>>302 ミスです。すみません。



~~~~~

紅莉栖『……信じていた』

紅莉栖『私、岡部を信じていた! だから、さっきのも何かの間違えだって思って、なのに、あんたって人は……っ!』

紅莉栖『ほんと、私は馬鹿だった……っ! あんたみたいな最低な人間を信用したなんて、一瞬でも良い奴だなんて思ってしまって!』

紅莉栖『馬鹿よ! 私も、あんたも! 私はあんたに少し好意を持っていた! あんたはいつも冷たいけど、そんなことする人間じゃないと
思っていた……っ!』

紅莉栖『……私は、岡部を、信頼していたのよ……』

紅莉栖『……ねえ、おかべ…。違うん、でしょ?』

紅莉栖『何か言いなさいよ! やってないんでしょう!? あんたが考えた冗談なんでしょ!?』

紅莉栖『……何か、言え、ってのに……』

~~~~~

岡部「……くっ!」

岡部「(なんで、よりによってこの記憶を思い出してしまうんだ!)」

岡部「(……くそ、くそくそっ! そんな顔で俺を見るな)」

岡部「(悲しそうな顔をして、俺を見るな……っ!)」

岡部「(俺はお前たちを裏切っているんだ。だから恨めよ、憎めよ……っ!)」

紅莉栖「―――私は、岡部を信じている」

岡部「……っ!」

岡部「こ、この世界でもお前は、相変わらず愚鈍、なのだな」

紅莉栖「え?」

岡部「こ、滑稽だ。笑いがこみあげてくる。な、なんだその様は。根拠もないのに人を信じるなど、愚かすぎるぞ牧瀬紅莉栖……っ!」

紅莉栖「岡部……」

紅莉栖「どうして」

紅莉栖「どうして、そんなに悲しそうな顔、してるの?」

岡部「な……に……? 俺が、悲しそうな顔を? 馬鹿げている。俺が悲しい思いをする必要などない」

岡部「俺が決めた事だ。俺が選んだ道だ。お前にどうこう言われる筋合いはない。覚悟はとっくに決まっているし――」


―――全ては、運命石の扉の選択だ。


岡部「(……ああ、なるほど。この記憶は……、そうか。この世界でいたはずの岡部倫太郎の記憶だったんだな……)」

紅莉栖「………」

岡部「………」

紅莉栖「買い出し、急ぎましょ? 橋田やまゆりが待ちくたびれてると思うし、急ごっか」

岡部「……ああ」

紅莉栖「………」

紅莉栖「――ねえ、岡部」

紅莉栖「……いつの日か、言ってくれたでしょ。辛いこと、悲しいこと、嫌になったら全部吐いてしまえって」

紅莉栖「それを、みんなは拒絶しないって。だから、あんたも辛いことを一人で抱えて潰されない前に、私に相談しなさいよ」

紅莉栖「私達は、ラボメンなんだから――――」

--ラボ--



まゆり「えっへへー、こういうのってなんだかワクワクするよね、オカリン」

岡部「そう、だな」

ダル「結局、誰も集められなかったお。阿万音氏とフェイリスたんとるか氏は用事があるからこれないって」

岡部「……そうか」

紅莉栖「でも、良いんじゃない? このメンバーで、ワイワイやるのも」

ダル「牧瀬氏の言う通りでもある」

まゆり「ジュースもあるし、ご飯もあるし、おかしもあるし、何だかまゆしぃはワクワクがとまらないのです」

岡部「………」

紅莉栖「岡部? ほら、元気出しなさいよ。せっかくみんなでワイワイ楽しくやるんだから」

紅莉栖「あんたが、元気なくしてどうすんの!」

岡部「そうだな……」

岡部「って……、橋田。ピザ全種同じ味なのか」

ダル「この味以外は受け付けないお。つーか、これマジウマイから食べるべし」

紅莉栖「こんなことなら、買い出しの際になんか買ってくるべきだった……」

ダル「ま、ピザは太るしね! 牧瀬氏はウェスト気にして食えんだろうし、僕が全部美味しく頂いて――」

紅莉栖「……」キリキリ

ダル「ちょっ! 牧瀬氏!? カッターは反則! って、洒落にならんって! オカリンヘルプ!」

まゆり「喧嘩しないしない♪ せっかくのお夕飯なんだから、美味しく食べよう」

ダル「ナイス援護まゆ氏。後五秒遅れてたら、開頭されてたお……」

紅莉栖「減らず口ね」

岡部「ははは、相変わらず騒がしい奴らだな」

紅莉栖「……ふふ」

岡部「な、何を笑っている? 気味が悪いな」

紅莉栖「な、なんでもないわよ! つ、つーか、こっちみんな……」

岡部「……な、なんで顔を赤くしている」

紅莉栖「してないわよっ! はいはい妄想乙! だからこっちみんな!」

岡部「……無茶な」

ダル「爆発しろ」

岡部「なんだ、唐突に」

まゆり「えっへへー。オカリン、いつもみたいに元気になってよかったね~。クリスちゃん、ずっと心配してたんだよ?」

紅莉栖「な、まゆり、バカっ……!」

ダル「典型的なツンデレですね、分かります」

岡部「……はあ、全く」

ダル「クールなオカリン! そこにシビれる! 憧れる!」

岡部「ほら、さっさと支度しろって。あんまりペチャクチャ喋ってると、ピザが腐るぞ」

ダル「あるあ……ねーよ」

岡部「どうでもいいから、さっさとしろっての。口だけはぺちゃくちゃ動くのに、肝心な手が動いていないではないか」

まゆり「オカリンも手が動いてないよ~?」

岡部「っと……、確かにそうだな」

ダル「今日のお前が言うなスレはここですか?」

岡部「うるさい、自重しろ」

紅莉栖「……こんなもんかしらね。あんまり気合い入れて派手にする必要性もなし。これでいいんじゃない?」

岡部「……そうだな」

ダル「でもまだ飯早くね?」

まゆり「じゃあじゃあ、その間ちょっとだけおしゃべりしようよ」

岡部「お喋り?」

まゆり「うんうん。さっき、コスプレの衣装をクリスちゃんが着るかどうかって話になったでしょ~?」

紅莉栖「着ない」

まゆり「まだ何にも言ってないのに……」

ダル「あ、牧瀬氏。まゆ氏を泣かせた」

紅莉栖「いや、どこからどう見ても泣いてないのだが」

岡部「……牧瀬のコスプレ姿か、一見の価値はありそうだな」

ダル「右に同じく」

まゆり「はーい。まゆしぃも、クリスちゃんのコスプレ姿を見てみたいのです」

紅莉栖「ちょ、あんたら……っ! じ、冗談じゃないわよ! それに、コミマって人ばっかりでしょ?」

紅莉栖「息つまるし、みんなに見られるのって恥ずかしいし」

岡部「別にコミマに行って来いとは言ってないのだがな。行きたいなら好きにするといい」

紅莉栖「い、行かないわよ!」

岡部「俺達だけにでもいいから、見せてくれないか、という話をしているんだ」

紅莉栖「な……っ//」

ダル「おお、オカリン積極的」

ダル「そこにシビれる、憧れるぅ」

紅莉栖「か、考えとくわ」

まゆり「やった~」

まゆり「じゃあじゃあ、どれがいいかな?」

ダル「断然、このキャラでしょ」

岡部「下着が丸見えではないか」

紅莉栖「嘘っ!? し、信じらんない、何着せようとしてんのよ、このHENTAI!」バシンッ!

ダル「痛っ!」

ダル「もっとお願いします」ザザザー

紅莉栖「HENTAI! ち、近寄んなっ!」バシン!

ダル「もう少し、強めに」

岡部「橋田、自重しろ。キャラが崩壊してるぞ」

ダル「流石に自分でもやっていて、痛いと思ったお」

紅莉栖「恥じるべきはそこか……っ!?」

岡部「ほら、鼻血」

ダル「ティッシュティッシュ……」

岡部「愉快すぎるな。我がラボメンは」ハハ

紅莉栖「うんうん」コクコク

岡部「……いや、何頷いてるんだ、お前は」

紅莉栖「別に? 岡部の調子が戻ってきて嬉しくなったとかそういう訳じゃないけどな」

岡部「……どういうことだ? 橋田」

ダル「いやだから、本人が全部言った訳なのだが」

岡部「……ほう。なるほど、そんなに俺を心配してくれたのか」

紅莉栖「か、勘違いすんなっ! 自意識過剰も程々にしなさいよね……っ!」

ダル「ツンデレ乙」

まゆり「つんでれおーつ」

紅莉栖「な、まゆりまで!?」

岡部「アウェーだな、牧瀬。観念しろ」

紅莉栖「み、認めろと? 私がツンデレと認めろと?」

ダル「認めな。そうすれば、楽になれるぜお譲ちゃん」

紅莉栖「だ、誰だそのキャラ……」

ダル「……いや、自覚しているツンデレに価値なんてないお……」

岡部「はあ」ヤレヤレ

携帯「~♪」

岡部「っ!?」

携帯「~~♪」

紅莉栖「岡部? 携帯、鳴ってるわよ」

岡部「わ、分かってる」

岡部「(俺は……、なぜ)」

岡部「……」ピッ




送信者:FB

件名:なし

本文:作戦開始だ。ブラボー部隊が突入するまで、待機しろ。独断は許されない。


だから今~

岡部「……っ」ドクン

岡部「(なぜ、忘れていたんだ……っ!)」

岡部「(俺はラウンダーだ。コードネームはM3。そんなこと分かりきっている!)」

岡部「(なのになぜ……、今この瞬間までそのことを忘れていた……?)」

岡部「(理解できない。意味が分からない。なに楽しそうにラボメンと呑気に話していたんだ?)」

紅莉栖「……岡部?」

テレビ「ピンポーン」

まゆり「……わわ、電車が止まっちゃったよ~」

ダル「まじでか。帰れないじゃん! 爆破予告? なんだソレ」

岡部「(……爆破テロ予告で山手線、総武線、京浜東北線の全線が運転見合わせ……)」

岡部「(作戦開始……とは、このことか……っ!)」

岡部「……く」ギリ

岡部「……ど、どうして」

岡部「俺は、手が……」

岡部「(震えて……?)」

岡部「……」スゥ、ハア、スゥ、ハア。

岡部「(落ちつけ。そうだ、俺は目的のためにラボメンを裏切るんだ)」

岡部「(俺の目的は、元の世界に戻る事。不可能だった場合、この世界でラウンダーとして生きていく)」

岡部「(覚悟は、できているはずだ……っ!)」

岡部「(散々人を殺してきたくせに、たかだが仲間を裏切る程度で何を怯える必要がある?)」

岡部「(初めて人を殺した時から、もう手遅れなんだ。今更、この程度の事で罪悪感を抱いてどうする!)」

岡部「(俺は、鳳凰院凶真だ。いかなる時も独善的であり、目的のためなら手段は選ばない)」

岡部「(誰のためでもなく、自分のために)」

岡部「(それは、今も変わるはずがない―――)」

紅莉栖「……どうしたのよ、岡部。顔が真っ青……」

岡部「……気にするな。ただ、終わりの時間が来ただけの事だ」

紅莉栖「え? 何言って……」

岡部「案ずるな。全て、成功させる。世界は、闇の秘密結社によって支配される」

岡部「それは、この世界でも変わらない」

ダル「いつものやつ? オカリンの言っている事はよく分からないお」

岡部「決定論。俺がどんなに足掻こうが、この世界線では未来は変わりえない」

紅莉栖「……岡部」

岡部「……は、ははは」

岡部「(来いよ、ラウンダー。俺はお前達に全力で手を貸してやる)」

岡部「(俺は、今を持って鳳凰院凶真の名を名乗る!)」

岡部「(それは、揺るがない――!)」

まゆり「オカリン……?」ギュ

岡部「ま、まゆり? ど、どうしたんだ?」

まゆり「無理、しないでね」

岡部「む、無理などしていない」

岡部「(……くそ、邪魔をするな。心配などするな。今は恨みの声の方がよっぽど、役にたつ)」

岡部「(そんな声をかけられたら、俺は、俺は――)」

岡部「(鳳凰院凶真になりきれない)」

岡部「(……俺は――っ!)」


ドドドド、バタン!


ラウンダー「動くな! 全員両手を挙げろっ!」

ラウンダー「抵抗はするな!」

ダル「な、なんぞ!?」

紅莉栖「え、え……っ!?」

岡部「…………」

紅莉栖「ちょっと、岡部! あんた何、ぼけっとしてんのよ……っ!」

岡部「……」スウ、ハア……

萌郁「……」スタスタ

紅莉栖「え? も、萌郁さん……っ!? ど、どうして、あなたがここに……っ!」

萌郁「……抵抗は許されない」

萌郁「あなた達は私の指示に従って」

紅莉栖「ど、どういう意味よ……! こ、答えて」

萌郁「答える必要はない。抵抗をするなら……」チャキ

ダル「ひっ! け、拳銃……っ!?」

萌郁「……怪我をしたくないなら来て」

岡部「……時間、通りか」

岡部「流石はラウンダーの指揮官。FBもこの世界じゃ、その腕は健在か」

紅莉栖「お、岡部! 何ブツブツ言ってんのよ! 今そんなふざけたことしてる場合じゃないでしょ!?」

紅莉栖「お願いだから、あいつらの言う通りに……っ!」

萌郁「M3」

岡部「了解だ、M4。武器を」スタスタ

紅莉栖「……え?」

岡部「弾丸は?」

萌郁「装填してある。一応、12発あるけど 必要に応じて 発砲して。いちいち、許可はいらない」

岡部「分かっている。前の世界でもそうだったからな。ラウンダーは、目的のためなら手段を選ばない、そうだろ?」

紅莉栖「ちょっと、岡部……。あんた、何してんの……?」

岡部「M6、M5、目標Bと目標Cの確保を任せる。抵抗するなら……」

ラウンダー「新入りが。言われなくても分かってんだよ」

まゆり「オ、オカリン……? え、えっと、ま、まゆしぃ、馬鹿だから、オカリンがやっていること、よく分かんないなーって……」

萌郁「FBから命令された。椎名まゆりは必要ない」

萌郁「目標Aは始末していい」

萌郁「その役目を、あなたが、M3」

岡部「な、なんだと……?」

ラウンダー「目標B、目標C、確保した」

ダル「ひ、ひぇぇ!」

紅莉栖「痛っ、は、放しなさい……よっ!」

岡部「(……これは、俺が選んだ道だ。俺が、決めた……道だ……っ!)」

岡部「……」カチャ

まゆり「……、オカ、リン?」

紅莉栖「ちょ、岡部っ! あんた、何してんのっ! なんで、まゆりに銃を向けて……っ! ふ、ふざけんな! ふざけんな!」

紅莉栖「私は、あんたを信用してるっ! そんなことするやつじゃないって、だからこれも、作戦のうちなんでしょ!?」

ラウンダー「おい、黙れ」

紅莉栖「く、は、放しなさいよ……っ! あいつに、一発ガツンとかましてやらないと……っ!」

ラウンダー「くっ! 抵抗するなっ!」ガツン

紅莉栖「あ……ぅっ!」

岡部「(……まゆりは、死ぬ)」

岡部「(それは、世界が死を承認したから。だから、俺の手でまゆりを殺す)」

岡部「(全ては、俺が決めた道。最初から、俺が選んだ道)」

萌郁「M3。目標を始末して」

岡部「(――だから)」

鈴羽はよ

岡部「――ごめんな、まゆり」

岡部「俺は、この世界でも、お前を救えない―――」


紅莉栖「おか、べ……っ!」

岡部「……」カチャ

紅莉栖「や、やめ……っ!」

バンッ!

岡部「(引き金は、想像していたより軽かった)」

岡部「(……瞬間的に、周りがスローモーションのように遅くなる)」

岡部「(まゆりが、銃声と共に膝から崩れ落ちた)」

紅莉栖「……ま、ゆり……? ねえ、なにこれ? 訳が分からない……、どういう、こと?」

ダル「ま、まゆ氏! な、なにやってんだよ! オカリン! なに、やってんだよ……っ!」

紅莉栖「お、岡部ぇぇぇっ! あ、あんた何してんの!? ふざけてんのかっ! 馬鹿!」

紅莉栖「あんたを、最後まで信用していたのにっ! 何、してんだよ、馬鹿……っ!」

岡部「………」

萌郁「目標、まだ息がある。ハートショットを狙ったの? M3。外れて、弾丸は肩をかすっただけ」

岡部「え……?」

岡部「俺が、外した……? この距離で?」

萌郁「M3。目標、ヘッドショットで沈黙させて」

岡部「俺が、外した……? ありえない。ありえない。ありえない……」

萌郁「それは、仕方ない。あなたは、今初めて銃を撃ったから」

岡部「……あ、あ、ああ……」

岡部「……俺は、まゆりを、殺そうと……した」

岡部「(手が、震えてる。尋常じゃないほどに、手が震えだした)」

萌郁「M3?」

岡部「……分かってる」チャキ

まゆり「オカ、リン……? え、えっへへー……、ま、まゆしぃは、ちょっとびっくりしちゃった、かな」

岡部「……まゆり?」

まゆり「大丈夫だよ、オカリン……」ギュッ

まゆり「まゆしぃがいるから、大丈夫だよ……?」




―――もう、まゆしぃはオカリンの人質じゃなくても、いいよね?

―――だって、オカリンはこんなにも、毎日楽しそうにしてるから。

―――だから、まゆしぃは、それを見ているだけで良いんだ。


岡部「……ま、ゆり」

岡部「(何、してんだろう。俺は)」

岡部「(俺は、まゆりを救うためにラウンダーに入って、人生が滅茶苦茶になって)」

岡部「(それでも、最期までまゆりを助けて)」

岡部「(………今、俺はまゆりを殺そうとしている)」

岡部「(……全ては、俺のために? はは、馬鹿げてる)」

岡部「(まゆりのため、とは言えなかった)」

岡部「(人を殺した金でまゆりを救っているなんて、考えたくもなかった)」

岡部「(――あれ? 俺って、何のために生きているんだっけ?)」

岡部「(ラウンダーのため? 違うだろ。俺のため? それはさっき否定した。じゃあ、まゆりのため?)」

岡部「(それもおかしい。だって今、おれはまゆりを裏切ったんだぞ?)」

岡部「(……あれ? 俺、なにしてんだ? 仲間を傷つけて、ラウンダーに手を貸して、一体何をしているんだ?)」

岡部「(元の世界線に戻って、どうするんだ? まゆりが死んだら、俺は壊れると、どこかで予想していた)」

岡部「(壊れて、そしてラウンダーを生きがいに生きて、きっと心も殺して、鈴羽が恨むような人間になってしまう……)」

岡部「(……そんな結果は、俺もまゆりも、みんなも望んでなんていない)」

岡部「(俺が恨むものはただひとつ。俺から全てを奪っていった2000年クラッシュ)」

岡部「(でも……、この世界線ではそれは起きていない)」

岡部「(俺が恨むものなんて一つもない。なのに、俺はどうして銃を手に、ラウンダーになっているんだよ……っ!)」

岡部「(ラウンダーになる意味なんて、初めからないじゃないか……っ!)」

岡部「(どうして俺は、それに気づかなかったんだよ……っ!)」

岡部「……」

ラウンダー「M3! 時間がない、早く目標を始末しろ!」

紅莉栖「岡部っ! 私、最後まで、信じているからなっ! あんたは、絶対……っ! 私達を裏切らないって……っ!」

岡部「(……は、はは)」

岡部「ぐ、愚鈍だな、〝紅莉栖〝。本当にお前は、馬鹿だよ」

紅莉栖「え……?」

岡部「(たった今、俺がまゆりを殺そうとしたのを見ていたくせに、まだ俺を信じる? 馬鹿だな、本当に愚かだな)」

岡部「そうか……、だから俺は、裏切れないのか……」

萌郁「M3?」

岡部「M4、タイムリープマシンの回収を」

萌郁「……了解」

紅莉栖「……っ!」

岡部「(……さて、俺がするべきことはただ一つ)」

岡部「(俺は、誰の為でもない、俺のために、行動する)」

岡部「(…………そのために、俺はまた裏切る)」

岡部「(さあ、裏切ろう。俺の人生には裏切りがつきものだ)

岡部「……っ!」ブン

萌郁「な――っ!」ガツン!

萌郁「あ、が……」バタン

ラウンダー「M4!? くっそ、M3! 裏切りやがったな!」

岡部「そうだ。裏切ったんだ、また……」タッタ

ラウンダー「ぐ……っ!」

ラウンダー「撃てっ!」ダダダダダダ

紅莉栖「いや……、いや、いやああああああああ!!」

ラウンダー「あ……っ!」ガツン!

岡部「(ラウンダーの手に何かが当たった……?)」

鈴羽「―――伏せて!」

ラウンダー「ぐっ! な、なんだこのガキ……っ!」ダダダダダ!!

鈴羽「くっ! てえやっ!」

ラウンダー「ぐ、くそっ! このチビが……っ!」

鈴羽「誰が、チビか……っ!」ガツン!

ラウンダー「ぐ、あ……っ」バタン

鈴羽「目標沈黙、と」

岡部「す、鈴羽……」

鈴羽「……ふん。ラウンダーとはいえ、この武装……。SERNも本気だなぁ」

鈴羽「拳銃、借りるね。どっかの見知らぬ外国人さん」

鈴羽「……さて」

鈴羽「……」カチャ

岡部「な……」

鈴羽「話は全部聞いたよ。君がFBと交渉しているのもね、ばっちりと」

岡部「――はっ、そうか。俺が裏切ることを、お前は知っていたんだな」

鈴羽「当たり前じゃん。昨日から、君の様子がおかしいと思ってたし、もしかしてと思って尾行すれば、」

鈴羽「FBに俺を一時的にラウンダーにさせろ、なんて言いだすからびっくりしちゃったよ」

岡部「……いや、まさか昨日の時点で勘繰られてるとはな」

鈴羽「へへ。伊達に、前線を駆けただけはあるっしょ?」

岡部「……洒落になってないぞ」

鈴羽「時を旅する少女に勝てる訳ないでしょ」

岡部「はっ、一度は負けたくせに」

鈴羽「え?」

岡部「しかし、今回は俺の負けだな」

岡部「前回は、お前の不注意で俺が勝ったんだが、まさかまだ覚えているとは思ってもなかった」

鈴羽「なんのこと? ああ、別の世界線でのことか」

岡部「俺の負けだ、鈴羽」

岡部「前回のようにDメールは使えない。そもそも設定すらしてないからな。どう事態が転ぼうと、俺に勝算はない」

鈴羽「だろうね。あたしも、今回は君に勝たせるつもりはないよ」カチャン

紅莉栖「ま、待って阿万音さん! お、岡部は――」

鈴羽「これは、償いだよ。岡部倫太郎。あたしは君を――」

岡部「ああ……」

バンッ!

紅莉栖「っ! あ、阿万音さん……っ! お、岡部は……っ!」

鈴羽「大丈夫。殺してない。よく見て。弾丸は肩をかすっただけだからさ」

岡部「……はは。お前には敵わないな」

鈴羽「それで、岡部倫太郎。君は、何か心変わりでもしたの?」

岡部「そんなところだ……。ここまで来て愚かにもようやく理解したんだ。俺は、みんなを裏切れない」

岡部「だから、ラウンダーを裏切った。M4を、裏切った……」

鈴羽「そう。その目は、優しいね……。うん、君に任せるよ」

岡部「え?」

鈴羽「42型ブラウン管テレビ点灯済み。君が過去に戻って、罪滅ぼしくらいはできるんじゃないかな」

岡部「恩に着る、鈴羽……っ!」

岡部「………いや、まずは」

岡部「みんなに、言っておかないとな……」

ダル「?」

紅莉栖「な、何を?」

まゆり「オカリン……」

岡部「すまなかった。俺は、お前らを裏切ってしまった」

岡部「本当に、すまなかった……。謝っても許されないとは分かっている。それでも――」

紅莉栖「いいわよ、私はあんたを赦す」

ダル「ま、僕も初めはびっくりしたけど、赦すお」

まゆり「……まゆしぃは、初めからオカリンを信じていたのです。だから、オカリン、別に気にしなくて、いいんだよ?」

岡部「な、お前ら……っ! 正気か!? 俺は裏切ったんだぞ! 現に、まゆりを殺そうとしてしまった! なのにお前らはっ!」

紅莉栖「あーはいはい。言ったでしょ、最後まで信じてるって」

岡部「く、紅莉栖……っ!」

紅莉栖「その呼び方、気にいった」

岡部「……そ、そういう話をしているのではなくて……っ!」

紅莉栖「岡部。あんた、タイムリープするんでしょ? その目見れば、もう分かる。覚悟、してるんだなって」

紅莉栖「だから。あっちに行ったら、まず初めに私達に相談して。一人でなんとかしようなんて、馬鹿な事はしないでよね?」

岡部「……な、何を」

紅莉栖「また、一人で抱え込んだら許さないんだからな!」

鈴羽「岡部倫太郎、時間ないよ。ラウンダーが異変に気づいてる」

岡部「……分かった。紅莉栖、準備をしてくれ」

紅莉栖「オーケー」

紅莉栖「設定よし……、時間は二日前までにして……と」

鈴羽「牧瀬紅莉栖」

紅莉栖「何?」

鈴羽「君の目は、間違ってなかったかもね」

紅莉栖「……ああ、昨日のことね。私もカッとなって、あなたを叩いてしまったけど」

紅莉栖「あなたも冗談を言っているようには見えなかったわ。ごめん、考えもせずに手を出して」

鈴羽「いいよ、今回はあたしが間違っていたみたいだしね」

紅莉栖「……ええ」

岡部「………」

岡部「……まゆり、すまなかった」

まゆり「いいって。気にしてないよ」

岡部「……それでも、俺はお前に銃を突きつけた。あまつさえ、俺は発砲したんだ。それは、赦されない。赦されてはいけない……」

まゆり「……だから、まゆしぃが赦します。えへん」

岡部「まゆり……」

まゆり「だから、オカリンはいつものように元気でいてね? まゆしぃは、オカリンの辛そうな顔は見たくないから」

岡部「……ああ、分かった」

岡部「――橋田」

ダル「いいって。僕はそんなに気にしてないし、後、僕の事をダルって呼んでくれるなら許そう」

岡部「……全く、なんでそんなに偉そうなんだ。分かった、ダル。後で会おうな。その時はよろしく頼む」

ダル「オーキードーキー!」

紅莉栖「準備できたわよっ!」

岡部「分かった。ヘッドギアを取ってくれ」

紅莉栖「はい」

岡部「……よし」フウ

鈴羽「あはは、そんなに心配しなくても、君たちが作ったものだから、きっと大丈夫だと思うよ」

岡部「何を。――鈴羽、今回は負けたが、次がどうなるかは分からないぞ」

鈴羽「あっはは、期待して待ってる」

紅莉栖「……良い? やるわよ?」

岡部「ああ、飛ばしてくれ」

紅莉栖「本当に、良いの?」

岡部「飛ばせ。良い。これが俺の決めた道だ」

紅莉栖「運命石の扉の選択ってか?」

岡部「……はは、そうかもな」

紅莉栖「やるわよ……っ!」

岡部「ああ、飛ばせ……っ!」

グワン、




       8月11日 19時24分

岡部「……が、はあっ!」

紅莉栖「……やっと起きたわね、岡部」

紅莉栖「あんたが気持ちよさそうに寝てるから、帰れなかったじゃない」

岡部「今、何月何日だ?」

紅莉栖「え? 8月11日だけど」

岡部「そ、そうか……、成功、したんだな」

紅莉栖「? 言っている意味がよく分からないけど」

岡部「みんなは?」

紅莉栖「帰っちゃったわよ。今は私とあんたの二人だけ」

紅莉栖「って、二人だからといってHENTAI行為をしたらぶん殴るからなっ!」

岡部「……紅莉栖」ギュ

紅莉栖「って、ひゃあっ!? な、なななな、何して……」


岡部「俺は、お前を、お前たちを助ける」

岡部「もう、絶対に間違えない」

岡部「……絶対に」

紅莉栖「……岡部?」

岡部「……だけど」





岡部「紅莉栖。――俺を、助けてくれ」

―――――


世界線が変わった原因を、今になって考えてみると案外簡単に答えは出てきた。

牧瀬紅莉栖に現場を見られない過去に改変した。

どうしてその程度で、世界が変わってしまったか、だって?

もし、紅莉栖をあの時点で裏切らなかったら、きっとラボ襲撃の時は、同じようにラボメンを裏切られなかったと思う。

紅莉栖に殺人行為を見られてしまったのが原因で、足枷が外れてしまったんだろうな。

俺はその時点で、もうどうやっても紅莉栖たちの元へ戻れないと分かってしまったから、

お前らが恨みの言葉を口にしたから―――

俺は、お前たちを裏切れたのかもしれない。

そして、まゆりの死。そこで多分、俺は壊れたと思う。

きっとその時点で心は壊れて、滅茶苦茶になって、

その時近くに居たのはM4だと思う。だから俺はそれに縋って、ラウンダーとして生きていって、

鈴羽が恨むような人間になったのだろう。

でも、世界は変わった。

過去が変わったように、世界は変わったんだ。

俺が、みんなを裏切れない世界に変わったんだ。

初めから、俺はみんなを好いていた。

まゆりを助けるために、俺はラウンダーとして生きた。

でも、この世界ではどうやらそれは必要がないらしい。

この世界では俺は人を殺していない。だけどそれは間違いだと思う。

俺の中では、もがい苦しんで、必死に助けを懇願する人間を、殺した記憶があるから。

俺は、この罪悪感を背負って生きていかないといけない。

その罪滅ぼしで、みんなを助ける。だけど、その程度じゃ罪は消えないだろう。

きっと、一生……。

紅莉栖「……岡部さん?」

岡部「なんだ?」

紅莉栖「いえ、なんでもないです。ちょっと、悲しそうな顔をしていたから」

岡部「ああ、悪い。それより、お前は今日からラボメンだ。ラボメンナンバー004。歓迎する」

岡部「みんなは愉快な奴らで、癖はちょっとあるけど、きっとお前もすぐに馴染めるさ」

紅莉栖「そう、ですか……。あの、岡部さん!」

岡部「ん?」

紅莉栖「……もう、何度も言ってきましたが、私を助けてくれて、本当にありがとうございます」

岡部「バーカ」

紅莉栖「え?」

岡部「ありがとうを言うのはこっちだ。お前は、俺を助けてくれたからな。その事に関しては、本当に感謝してる」

紅莉栖「えと? あの……」

岡部「はは、分からないならいい」

岡部「ほら、早くラボに行こう。みんなが待ってる」

紅莉栖「は、はい……っ」

雲ひとつない青空。

時間は休まずに進み続けている。

これから先何が起こるか予測はできない。

それでもきっと、俺達は自分で未来を作っていく。

……空は、変わらない。

もし……、もし、あのままDメールを送らない俺がいたなら、一言だけ言ってやりたい。

仲間を信じろ、と。

決して裏切るな、と。

……俺は、ここにいる。

今を生きている。

ラウンダーとして生きてきた記憶も、牧瀬紅莉栖を裏切った記憶も、まゆりを殺そうとしていた記憶も、みんなを裏切った記憶も、

こればかりは、俺だけが知っていて、俺だけが一生背負って行かなくてはいけない。

それが、俺の罪だから。



まゆり「オカリンが来たよ~」

ダル「天才美少女を連れてくるなんて、オカリンテラヤバス!」

ルカ「お、岡部さん、こんにちわ」

フェイリス「キョーマー! その隣にいる女の子は誰かニャー?」

岡部「牧瀬紅莉栖だ。ラボメンナンバー004。俺達の仲間だ。」

紅莉栖「よ、よろしくお願いします」ペコ

岡部「しっかし、えらくかしこまってるな、紅莉栖。もう少し、こう、なんていうんだ」

岡部「ツン? トゲ? あー、分からない。前のお前の性格をどう口にすればいいんだ……」

紅莉栖「?」

天王寺「なに店の前で騒いでんだお前ら」

岡部「ああ、すいません。すぐにラボへ行きますんで」

萌郁「……岡部くん」

岡部「……萌郁か。店長とは仲良くやってるか?」

萌郁「……うん。優しいから」

綯「ねえ、今度は何して遊ぶー?」

萌郁「あ、えと……。そう、だね、何しよっか」

岡部「萌郁」

萌郁「何…?」

岡部「暇があったら、ラボに来いよな。歓迎するぞ」

萌郁「分かった」

岡部「よし」

岡部「――みんな集まった事だし、記念すべき第一回円卓会議を始めよう!」

フェイリス「円卓なんてあるのかニャ?」

ルカ「会議……?」

ダル「ようは、みんなでワイワイガヤガヤ楽しもうってこと」

岡部「(阿万音鈴羽……。きっと生まれて来いよ。お前との勝負は、まだ終わってないからな)」

岡部「さあみんな、これから存分に楽しもう―――」


ダイバージェンス 1.048596%


Fin

終わりです。ここまで読んでくれた方、本当にありがとうございます。
次にまた何か案が出たら書こうと思いますので、その時はよろしくお願いします。
最後まで書けたのもみんなのおかげです。
ありがとうございましたー!

乙!

結局γ世界線のオカリンのままsteinsgate世界線に行ったのか?

>>359
そうなりますね。γ世界線のオカリンのままSG世界線に。

なんかちょっと悲しいなそれは

β世界線のオカリンェ

えっ

乙・プサイ・コンガリィ


面白かった

>>361
まあ……、一応、記憶は少しだけ思い出したりしてるので、一応Happy end

乙乙

始めのDメールにはこんなふうに世界線に作用したのかと納得です
オカリンはやっぱり優しいんだな、と
そんなオカリンがちゃんとまゆしぃの元に戻れてホント良かったです
読んでる途中ちょっとハラハラしました……


良作でしたー

乙!

乙!
面白かったよー

面白かった、面白かったんだけどー
クリスに現場を見られなかったことでなんで
2000年段階で既におきてるクラッシュが
おきていない世界線に移動できたかうんぬんが納得いかなかった
いや純粋に私の理解力が低いだけかもしれないが

もうエレ速にまとめられてた

ごめん……sageれてなかった……ほんとにごめん

>>372
俺も思ったわ
2000年以前にDメールを送るならダイバージェンスが1以上の変化を見せてもいいと思うんだけど
2000年以降に送ってもγ→αへはやっぱり変わんないよな

例え裏切れない云々でダイバージェンスが大きく変化するとしても、



  →→ディストピア・第三次世界大戦無し・2000年問題無し、FBもいない→→δ世界線(だーりん)

→→→→2000年問題→→発生しない→→Dメールが気付かれない→→→→β世界線(第三次世界大戦)
        \            \
          \             →Dメールが気付かれる→→→→→→α世界線(ディストピア)
           \
             →→発生する→Dメールを送らない→→→→→→→→→γ世界線(ラウンダーオカリン)
                       \
                         →Dメールを送る→→→→→→→→→ε世界線(仮)


ってなって、ε世界線になるはず……なんだが
いい作品だっただけにそれだけが気になった
まぁこまけぇことは(ryって言われたらそれまでなんだが

未来で2000年問題が起こらないようにそれ以前に干渉したとか

想像で補え!

ドラマCDでもどんなメールを送ったのか分からんよな
最後はなんかほのぼのしてたからどの世界線かも不明

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年05月03日 (土) 03:53:44   ID: wbLQIc7p

こりゃいいな

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