P「いちにち」 (26)

「……ん」

朝、アラームの音で目を覚ます。
薄暗い部屋の中、寝ぼけた眼で時計を探し、アラームを止める。

「ふわぁ……」

ベッドから身を起こし、大きく伸びをする。

「……はぁ」

台所に向かい、ちょうど一食分だけあるご飯と味噌汁をよそい、冷蔵庫にあるおかずをチンして朝食の用意。
その後、テレビを見ながら食べる。

「お、美希じゃん」

美希のCMが流れていた。
最近、皆もかなり有名になった……そばで支えてきた者としてはとても嬉しい。
だがその反面、少し寂しくも感じる。なんだか皆が遠くへ行ってしまう気がして。

「……駄目だ、こんなことを考えちゃ」

担当アイドルの成功を素直に喜べないようじゃあ、プロデューサー失格だな……。

朝食を済ませたら、洗面所へ。
顔を洗い、髭を剃り、歯を磨く。
社会人として身なりに気をつかうのは当然のことだ。

「よし、今日も頑張ろう」


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家を出て、車で事務所へ。
今の家は事務所に大分近いから楽だ。
以前は、色々事情があって何度か引っ越したりしていたが、最近はもうそんなことはしない。
住めば都……そう思うことにした。

「おはようございまーす」

「おはようございます、プロデューサーさん」

「おはようございます、プロデューサー」

事務所に入り、音無さんと律子に挨拶をする。
基本的に、アイドルの皆はまだこの時間には来ていない。
結局早退するとしても、できるだけ学校に行ってもらいたいからだ。
学校での経験は大切だからな。

あずささんには学校はないが、この時間にはまず来ない。本人曰わく、この時間に既に出発はしているそうだが。
それと、貴音も何故か来ない。以前聞いてみたが、答えは『とっぷしぃくれっと』だった。
まあ、別に早く来る必要もないからいいんだが。

「えっと、今日の予定はっと……」

「はいどうぞ、プロデューサーさん」

「ありがとうございます」

自分のデスクで今日の予定を確認していると、音無さんがコーヒーを持ってきてくれた。
昔はお茶だったのだが、最近はコーヒーだ。お茶は雪歩の担当になったらしい。
俺としても、いい眠気覚ましになるからありがたい。

「……ふう」

「プロデューサー? 随分と眠そうですけど……大丈夫ですか?」

「ああ、もちろん」

「……ならいいんですけど。あんまり無理しないでくださいね?」

「分かってるよ。ありがとう」

余程疲れているように見えたのだろうか……律子に心配されてしまった。
最近、少し夜寝るのが遅いからかな?
これでも、以前よりは大分マシになったんだがな。

「おはようございまーす!」

しばらくすると、私服の春香が来た。
今日は早い仕事が入っているから、学校は休んだのだろう。
春香の通勤は、かなりの負担だと思うのだが、彼女は愚痴一つこぼさない……大した奴だ。

「おはよう、春香」

「おはようございますプロデューサーさん……あっ、そうだ。これどうぞ!」

「お、今日はクッキーか」

「はい!」

「いつもありがとうな、春香」

「えへへ」

春香は、よくお菓子を作って持ってきてくれる。
その腕前は大したもので、いつも驚くほど美味しい。

「早速一ついただくよ」

「どうぞどうぞ」

可愛らしい包装をほどき、薄紅色のクッキーを手にとり、口に入れる。
最近、春香はたまにこんな風な赤や黄の色付きのクッキーを作ってくる。
果物の味がするので、恐らくその辺りの何かで着色されているのだろう。

「……どうですか?」

「いつも通り、美味しいよ」

「そうですか? 喜んでもらえてよかったです!」

「こんなに上手なら、アイドルを引退した後も、パティシエとしてやっていけるな」

「そ、そんな……言いすぎですよぅ」

「そんなことないぞ? 春香ならなれる」

「私がパティシエですか……どんな感じなんでしょうかね?」

「そうだな……」

町中で人気の立派な店を持ってて、みんなに愛されてて……。

「うーん……」

だが……どうしてもドジって店を火事にするイメージしかできない。

「……まあ、きっと大丈夫だろう」

「は、はい?」

怒られてしまうからな、本人にはさすがに言えない。


「おはようございます」

春香が仕事に向かった後、千早がやって来た。

「おはよう千早」

「あ、おはようございますプロデューサー」

「千早の今日の仕事は……グラビア撮影だったな」

「……はい」

突然、千早の表情が暗くなる。

「どうした?」

「……いえ、別に」

「……嫌か? この仕事」

千早は、以前ほど歌以外の仕事を嫌うことはなくなってきた。
それでもやはり嫌がる仕事はある……グラビアはその代表例だ。

「……正直、あまりやりたくはありません」

「……そうか。だがな千早──」

「分かっています、こういう仕事も大事だということは。ですが、どうしても抵抗があって……」

「どうしてそんなに抵抗があるんだ?」

「そ、それは……その……」

……大方理由は分かる。
千早は何故か自分のビジュアルを過小評価しがちなのだ。
まあ、うちの事務所はビジュアルのいい子ばかりだからな。
自意識の低いやつがこうなるのは、しょうがないといえばしょうがないのだが……。

「なあ千早、お前はあまり自分の容姿に自信を持っていないようだが、もっと自信を持ってもいいんだぞ?」

「……何故ですか?」

「お前が前撮ったグラビアだがな……実は、人気は事務所のみんなの中でもかなり上位なんだ」

「ほ、本当ですか?」

「ああ、だからもっと自信を持っていいぞ? お前が誇れるのは、歌だけじゃない」

「……分かりました。私、頑張りたいと思います」

「その意気だ」

……まあ、今のはあくまで着衣のグラビアの話であって、水着のグラビアの人気はかなり下なんだけどな。
知らぬが仏だ。


「おっはようございまーす!」

千早が仕事現場に向かった後、真がやって来た。

「元気そうだな……おはよう、真」

「あっ、プロデューサー! おはようございます!」

「真は、今日は雪歩と一緒にラジオの仕事だったな」

「はい! ……あっそうだ。プロデューサー、今日のラジオなんですけど……」

「ん? なんだ?」

「女の子っぽくやってもいいですか?」

「駄目」

真は、何故かたまに女の子っぽく振る舞いたがる。
そのままでも充分可愛いのだが、本人に自覚はないようだ。

「えー、なんでですか」

「……例えば、876の涼くんいるだろ? あの子が男だとする」

「はい」

「男であるにも関わらずあの顔じゃあ、女の子みたいと言われて男性人気があってもおかしくないよな?」

「まあそうですね」

「だが、涼くんとしてはもっと男らしくなって、かっこいいと言われたいわけだ」

「それはそうでしょう……男子が可愛いって言われても嬉しくないでしょうし」

「そこで、涼くんは考えた。筋肉をつければ、男らしくなれるのでは?……と」

「なるほど」

「お前、涼くんが筋肉モリモリマッチョマンになったら……どう思う?」

「ぶっちゃけキモいです」

「お前がやろうとしているのはそういうことだ」

「うっ……そう言われると、女の子っぽく振る舞うのやめたくなってきました……」

「だろ? ……安心しろ、真は今のままで充分可愛いよ」

「ええっ!?」

「ん? どうかしたか?」

「い、いえ……」

「そうか。じゃあ、仕事頑張れよ?」

「はい! ありがとうございます!」

……うちの事務所の子達は大抵、適当な説得で納得してしまう。
扱いやすくていいのだが、若干心配にもなるんだよなぁ。

       , - ―‐ - 、

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     /    ∧ ∧  ,   ヽ
    ./  l\:/- ∨ -∨、! , ',  さあみんな集まってー!
   / ハ.|/          ∨|,、ヘ   作者の自己満足ssが始まるよー
  |ヽ' ヽ     ●  ●    ノ! l
. 〈「!ヽハ._    __    _.lノ |

  く´ \.)    ヽ. ノ   (.ノ  ̄
   \ `'ー-、 ___,_ - '´

      ` - 、 ||V V|| \
        | ||   || l\ ヽ


「おはようございますぅ」

しばらくすると、雪歩がやってきた。

「おはよう雪歩」

「あ、おはようございます、プロデューサー」

「今日の仕事は分かってるよな、真があっちで待ってるぞ」

「はい。でもその前に、お茶淹れますね?」

雪歩の淹れるお茶は上手い。
正直、春香が和菓子を作ってきてくれれば、とても幸せになれると思う。
だが和菓子は手間がかかりそうだからなぁ……難しいだろうな。

「ど、どうぞ」

「ありがとう」

差し出された湯呑みを持ち、茶を飲む。

「茶葉変えたのか?」

「あ、はい……分かりますか?」

「ああ、とても美味しいよ」

「よかったぁ……」

「誰かに習ってたりするのか?」

「いえ……自分で美味しい淹れ方を調べたりしてるんです」

「そうか、雪歩は凄いな」

「そ、そんな……私なんて、全然凄くないですよぉ」

うーん……雪歩は自分を卑下しすぎなんだよな。
もう少し自信を持ってもらいたいが……。

「なあ雪歩、お前は自分のお茶のこと、どう思ってる?」

「え?」

「美味しく淹れられていると思わないのか?」

「そ、それは……」

「どうだ?」

「……お、思います」

「だろう? 俺もそう思うし、皆だってそう思う。ということは、そのお茶は凄いわけだ」

「……そうなんですか?」

「そうなんだよ……そして、お茶が凄いということはそれを淹れた人も凄いということだ。つまり、雪歩は凄いんだ」

「なんか違うような……」

「なにも違わない、それが真実だ。だから自信を持て、お前は凄い奴なんだ」

「……えへへ、ありがとうございます」

「うん、じゃあ早く真のところに行ってやれ。多分待ってるぞ」

「はい、じゃあ行ってきますね」

「おう、行ってこい」


「おはようなの……あふぅ」

真と雪歩が出発した後、美希がやってきた。

「おはよう美希」

「あ、ハニー! おはようなの!」

「うおっ!?」

俺を見つけた途端、それまでの眠そうな雰囲気から一転、目を輝かせて抱きついてくる美希。
正直、やめて欲しいんだよな……。
迷惑とかそういうんじゃなくて、単純に美希みたいな子に抱きつかれると、どうしたって意識してしまうんだよ……あれが当たってるのを。

「ほら、離れろ美希。律子が見てるぞ」

「う……分かったの」

素直でよろしい。

「あ、そうそう。あのねハニー、今日見た夢はね……」

最近、美希はその日見た夢を俺に話すようになった。
何故そんなことをしているのかは分からないが、美希の夢はなかなか面白いからまあいいかと思っている。
ただ、悪夢を話すのはやめてほしい。
一度、春香が事務所の屋上から落ちる夢を見たらしく、その様子を落ちる前から落下中、落下後の姿までこと細かに話された時は参った。
情景描写が素晴らしかったおかげで、しばらく春香を直視できなかったからな……。
見る度に思い出しちゃうんだもん。

「……あふぅ」

美希は、一通り話し終わった後、大きな欠伸をした。

「眠いなら、寝てていいぞ? まだ時間あるし」

「うん……分かったの……」

そう言ってソファーに向かい、その上で寝る美希。
しかし、何故あんなに寝るのだろうか?
案外、美希の天才性はああしてよく眠っているからこそ発揮されているものなのかも知れないな。


「……もうこんな時間か」

「私はそろそろ竜宮のみんなを迎えに行ってきますね」

「おう、行ってらっしゃい」

「では、わたくし達も夕食を食べに参りましょうか」

「……いつのまに来てたんだ? 貴音」

「つい先程です」

「そうか……」

全く気づかなかった。
こいつは忍者か何かか?

「さあ、早く」

「ああ、分かったよ……じゃあ音無さん、留守番お願いしますね」

「はい、行ってらっしゃい」

「よし行くか。ちゃんと変装しろよ?」

「ええ、心得ております」

貴音は最近、俺とよく飯を食べに行くようになった。
不満があるとすれば、毎回ラーメンであることだろうか。
もちろん、俺はラーメンは好きだ。
だが、だからと言って毎日食べたい程ではない。
まあ、こんな風に食べに行けるのも今のうちだし……このぐらい付き合うけどな。


「ただいま戻りましたー」

貴音は、ラーメンを食べた後現場に直接向かった。帰ってきたのは俺一人だ。

「お帰りなさい、プロデューサー」

「なんだ、もう帰ってたのか。じゃあ音無さんは」

「はい、たるき亭でご飯食べてます」

「竜宮のみんなはもう帰したのか?」

「ええ、明日の仕事は朝早いですから」

「……そうか」

律子が竜宮小町を作った辺りから、皆は売れ出した。
同時に、アイドルの皆全員に会う日は少なくなっていった。
今日やよいと真美と響はユニットとして地方に行っている。
他にこれから仕事のある子はいない……後はずっと律子と音無さんとで事務仕事だ。

朝も思ったが、やはり寂しさを感じずにはいられない。
それでも、俺はみんなを応援する。
プロデューサーとして……そして、一人のファンとして。

「よし、頑張るか」

「頑張ってください、みんなのためにも」

「ああ」

「それじゃあ、俺はお先に失礼しますね」

「お疲れ様でした、プロデューサーさん」

「お疲れ様です、プロデューサー」

仕事を終え、帰路につく。
俺だけ先に帰って、二人を残すのはなんとなく抵抗があるのだが、律子に早く帰って休めと言われたので、お言葉に甘えることにした。

「……ふう」

夜風が心地よい。こんな日は散歩がてら歩いて帰りたくなるが、明日の出勤のことを考え、普通に車に乗り込む。

「……お」

車のラジオから、千早の歌が流れてくる。

「……やっぱり、嬉しいな」

俺は、今日一日のことを思い返しながら車を発進させた。

「ただいまー……なんて、言うだけ無駄か」

帰宅し、着替え、風呂を沸かす。
その後、買ってきた弁当を食べ、テレビを見る。
風呂が沸いたら入り、体や頭を洗ってしばらくしてから出る。
風呂をあがってからも少し酒を飲みながらテレビを見る。

「……さて」

そろそろ寝る……と言いたいところだが、ベッドには向かわずにPCを開き、少し仕事をする。
業務時間外だが、みんなのためだ。

「……ん」

まずいな、眠くなってきた。
最近いつもこうだ……電気もPCも点けっぱなしで、机に突っ伏して寝てしまう。
でも、酒を飲むのはやめたくないんだよな……。

「……もうちょっと……」

睡魔と格闘しながら、仕上げにかかる。
眠いからといってミスはしないように気をつける……まあ、どうせ明日またチェックするんだけどな。

「……よし……おわり……」

ああ、駄目だ。
もう限界だ……ベッドに行くのも面倒くさい、ここで寝てしまおう。

「Zzz……」

明日も……頑張らなきゃな──

「…………」

とりあえず短いけど終わりです
後でちょっとだけ追加します

響ェ……

「……ん」

朝、アラームの音で目を覚ます。
薄暗い部屋の中、寝ぼけた眼で時計を探し、アラームを止める。

「ふわぁ……」

ベッドから身を起こし、大きく伸びをする。

「……はあ」

また、いつの間にかベッドで寝ていた。
電気も消えている。
これだけならまだいい。寝ぼけながら自分でやったと思うだけだ。
だが、問題はご飯と味噌汁とおかずが作られていることだ……。

以前は、これが嫌で何度か引っ越ししていたが、何度引っ越してもこうなったので、諦めて事務所に近いここに住むことにした。
まあ、とくに害もないし……気にしないようにすることにしたんだ。
しかし、一体誰がこんなことをしているんだ……?

知りたい……知りたいが、怖い。
カメラでもしかければ一発だろうが、俺はそれをしない……できない。
だって……もしも、俺が相手が誰なのかを知って、さらにそのことを相手が知った時
俺がどうなるのかなんて……簡単に想像できてしまうから──

これで終わりです
見てくださった方、ありがとうございました

乙乙!

これホラーなの?

やるならどっちかに振り切れてほしい。

誰なんだー

あずささんが迷子になってるんだよ…

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