ぼく「ドアノブに変えられてしまったのか」 (3)

午前6時4分。
夜を明かした人間にとっては気怠い一日の終わりで、ぱちくりと目を覚ましたばかりの人間にとっては気怠い一日の始まりである。
もちろん前者のぼくは、夜勤明けであろう隣の部屋の住民が帰宅する足音を聞いてそろそろ眠りにつこうと考えていた。
寝る前にゴミを出そうと思い、玄関のドアノブを握ると声が聞こえた。
「もう寝るのかい」
「ああ寝るよ」
思わず、返事をしてしまった。

少女の声色で囁くように語りかけてきたのは、たった今ぼくが握っているドアノブだった。
「そうか。鍵かけてくれよ」
ドアノブは短くそう喋ると、ぼくに鍵をかけるよう促した。
「ゴミ出しに行くだけだから。すぐもどるよ」
ぼくはパンパンに膨らんだゴミ袋を片手に投げやりに答えた。
ぼくの部屋からゴミ捨て場までは歩いて三分。往復六分。
その六分の間に泥棒が入る確率は、ぼくが宝くじを一枚買って一等を当てる確率と同じくらいだと思う。ちなみにぼくは宝くじは買わない。

「いやいや、こまるよ。万が一空き巣に入られでもしたら」
それもそうだと思ったが、それは万が一である。万分の一を引き当てるほど、ぼくはアンラッキーな人間ではないはずだ。
ぼくはサンダルを履いて後ろ手にドアノブ閉めて部屋を出た。
「あー、待って待ってよう」
ドアノブがうるさい。

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