男「たんてい部……?」 (19)
「えぇ。あなたには是非、我が探偵部に協力して欲しいの」
男「……」
「失礼、自己紹介がまだでした。私はここの部長であり、探偵! の氷口 真矢です。よろしく」
男「……はぁ」
真矢「遠慮せずに、ソファーに座ってくれたまえ」
男「……」
真矢「どうぞ。シロップとミルクはいるかね?」
男「いえ……って、俺の分だけ?」
真矢「私は……いいの。気分じゃないから」
男「……そうですか」
真矢「さ、遠慮せず、挽きたてマイルドコーヒーを飲みたまえ」
男「いただきます……」ズズー
真矢「どうかね?」
男「……おいしいです。ブラックで飲んだの初めてですけど、香りがよくて」
真矢「いえ、そうではなく。協力の件なのだが」
男「その……やっぱり俺は迷惑をかけるだけなので……」
真矢「いいえ! あなたには探偵の素質があります!」
男「……例えば?」
真矢「え? えー……っと」
男「……探していますよね」
真矢「そ、そんなことないわよ? えっと……。そう、賢そうなのよ!」
男「……用事があるので失礼します」
真矢「ま、待って! 遠回りでは時間がかかりすぎるから、単刀直入に言うわ!」
男「なんですか……?」
真矢「たんてい部に協力しなさい!」
男「最初と変わらないじゃないですか」
真矢「さぁ、事件現場へ行くわよ!」
男「ちょっ、離してください!」
***「……ジー」
……
…
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真矢「ここが事件現場よ」
男「……」
真矢「被害者は、この学校——大王子学園に通う1年の男子生徒。
後頭部を何者かに殴打され、現在保健室で昏睡状態が続いている」
男「え!? 昏睡状態なのに保健室にいるんですか!?」
真矢「それがなにか?」
男「いや……病院へは……」
真矢「そのうち目を覚ますでしょう。それより現場検証するから、手伝ってくれるかしら」
男「……」
真矢「どうしたの? 顔色が悪いようだけど」
男「……いえ」
真矢「まずは検証をして、それから証拠探しを……」
pipipipipipipi
真矢「おっと、電話だ……失礼」
男「……」
ピッ
真矢「もしもし。……うん、……良かった」
男「……」
真矢「……私一人で平気よ。報告ありがとう、トラ。それじゃあね」
プツッ
真矢「ちょうど今、彼の意識が戻ったようです」
男「そう……ですか」
真矢「それより、現場検証を始めます」
男「……」
真矢「被害者はこの場所で襲われた」
男「……」
真矢「凶器は各教室に備えられている花瓶。
これにより、各教室を調べた結果、被害者のクラスの花瓶が紛失している」
男「……動機はなんでしょう」
真矢「そう。問題はそこだ。突発的犯行か、それとも計画的犯行なのか……」
男「1年生の教室はここから離れていますから……。花瓶の水を取り替えるにしては不自然ですね」
真矢「そうね、被害者の教室はここから遠い……ということは、計画的犯行によるものという線が濃厚か……」
男「……恨まれていたんでしょうか」
真矢「それは、彼から聞いてからにしましょう。まずはこの現場に残っていると思われる証拠を探します」
男「証拠……?」
真矢「えぇ。犯人が残した、決定的な証拠があるはず」
男「大体片付けられてますから、望みが薄いのでは?」
真矢「いいえ。この狭い廊下での犯行だから、きっと見落としがあるはずよ」
男「花瓶の破片とか……ですか?」
真矢「破片は証拠にならないわ。ほとんど回収してあるし、指紋も割られた際に水に濡れて消えてしまっている」
男「指紋……採取できるんですか……?」
真矢「えぇ。探偵としてその技術は必須ですから。……とりあえず、探してみましょう」
男「それじゃ、俺はあっちを……」
真矢「あ、そこはいいから、向こうをお願い。物の陰になっているところも徹底的にお願いするわね」
男「わ、分かりました」
真矢「えーっと、あれでもないこれでもない」
男「……ぁ」
男「…………」サッ
真矢「ほら、邪魔よ」
***「——ドム」
男「どうかしましたか?」
真矢「い、いいえ〜なんでもぉ。そっちは何か見つかりました?」
男「特には……」
真矢「…………。それじゃ、保健室へ行きましょうか」
男「……え?」
真矢「被害者から直接聞き取りをしましょう」
男「……証拠品は?」
真矢「えぇっと……も、もういいから行きましょう」
男「……」
—— 保健室 ——
『えぇっと……も、もういいから行きましょう』
『……』
「マヤー、そこまでして……」
「理解しかねるわね」
「……不器用か!」
—— 廊下 ——
男「あの……」
真矢「どうしたの?」
男「実は……俺……!」
真矢「待って、被害者……いえ、被疑者の話を聞いてから、あなたの意見を聞きましょう」
男「え? 被疑者……?」
ガラガラッ
真矢「さ、入って」
男「……」
「おうおう、おまえらー、また何かしてんなー? 俺を巻き込むんじゃねーよ」
男「あ、えっと」
真矢「この人は保険医であり、たんてい部、顧問の瀬戸 啓先生です。
顧問がいる。これは部活動に重要な意味を持つので、
よく覚えておいてください。ちなみに瀬戸先生が重要な訳ではないので、間違えないように」
男「……はぁ」
啓「おいこらぁ、後半の紹介で俺の評価が下がっちまったじゃねえか」
「ケイは日頃の行いが悪いから、しょうがないよー」
「ちなみに、一番下の引き出しに隠してあったお酒、全て台所から下水へ流れていきましたから」
啓「えっ!? うそでしょ!?」
ガラガラ
啓「流れていったんじゃなくて、[スペランカー]井ぃ…お前が流したんだろうがぁ……あぁ、幻のお酒ぇ……」シクシク
男「……」
—— 廊下 ——
男「あの……」
真矢「どうしたの?」
男「実は……俺……!」
真矢「待って、被害者……いえ、被疑者の話を聞いてから、あなたの意見を聞きましょう」
男「え? 被疑者……?」
ガラガラッ
真矢「さ、入って」
男「……」
「おうおう、おまえらー、また何かしてんなー? 俺を巻き込むんじゃねーよ」
男「あ、えっと」
真矢「この人は保険医であり、たんてい部、顧問の瀬戸 啓先生です。
顧問がいる。これは部活動に重要な意味を持つので、
よく覚えておいてください。ちなみに瀬戸先生が重要な訳ではないので、間違えないように」
男「……はぁ」
啓「おいこらぁ、後半の紹介で俺の評価が下がっちまったじゃねえか」
「ケイは日頃の行いが悪いから、しょうがないよー」
「ちなみに、一番下の引き出しに隠してあったお酒、全て台所から下水へ流れていきましたから」
啓「えっ!? うそでしょ!?」
ガラガラ
啓「流れていったんじゃなくて、多村井ぃ…お前が流したんだろうがぁ……あぁ、幻のお酒ぇ……」シクシク
男「……」
真矢「さて、それでは本題に入りましょう」
「あ、私は2年生の鈴本 トラだよー。よろしくー」
「私は3年、多村井 夏」
「……」
真矢「そして、ここで寝ているのが被害者であり、被疑者の男です」
男「……!」
真矢「事件の全貌はこうだ」
被害疑者(出た、探偵口調)
真矢「被害者である彼は、放課後——時間にして20分前になるが——理由は解らないけど廊下を走っていた」
男「……」
真矢「花瓶を持っていた人物をAさんとしよう。Aさんを走り越したところで、ある不運が彼を襲う」
トラ「バナナの皮を踏んだのです」
男「え……バナナの皮?」
真矢「そう。バナナの皮」
夏「もう捨ててあるから、証拠品として提示できないわ」
真矢「Aさんを走り越し、バナナの皮を踏んで滑った彼——被害者は後頭部から倒れこみ、
Aさんの持っている花瓶に頭をぶつけた」
啓「アホだな」
トラ「だから被疑者でもあるんだよー」
男「……」
被害疑者(ぬぬぬ……)
真矢「幸い致命傷を避けたが、意識を飛ばしてしまう被害者。
倒れた彼にAさんは慌ててしまい、そのまま彼を放置して人を呼ぶため現場を後にする」
男「……」
真矢「しかし、戻ってきて、その場にいたのは被害者ではなく——」
男「たんてい部の部長……氷口 真矢さんがいた」
トラ「これで事件解決だねー」
夏「そうね」
真矢「この事件の被害者であり、犯人はそこで寝ている彼だ!」
被害疑者「……はい、そうです」
真矢「エンドロールの犯人名はきまった。
小牧 鋭太、
君にこの言葉を贈ろう。真実の前に跪け、そして心からの懺悔を」
鋭太「これは事件じゃない! 事故だ! 仰々しくするなよ!」
真矢「うるさいぞ、犯人」
トラ「更迭だー」
鋭太「離せ、トラ! 俺は今日、大事な約束があるんだー!」
夏「ソドム」
ソドム「了解ドム! ファイアー!」
ゴォォオオ!
鋭太「あっつ! あつっ!! やめろ凶器ロボット!」
真矢「ほら、逃げないで、部室に行くわよ。今日は大事な映画鑑賞をする日なんだから」
鋭太「今日じゃなくていいだろ!」
真矢「今日が返済日なのよ。返却お願いね、鋭太」
鋭太「ふざけっ」
夏「ソドム」
ソドム「ファイアー!!」
ゴォォォオオオ!
鋭太「熱いッ!!!!」
啓「コラァ! 保健室で火吐いてんじゃねーよ!」
ソドム「なんだとぉ? このヤブ医者がぁ」
夏「やめなさいソドム。部室に帰るわよ」
ソドム「了解ドム!」
啓「あの機械め、今度間違えて油の代わりに醤油差してやる」
鋭太「それ、俺も加担します」
啓「うっしっし」
鋭太「ひっひっひ」
真矢「ほら、帰るわよ!」
鋭太「痛い痛い! 耳をひっぱるな!」
トラ「キミも一緒にどう? コーヒー淹れてあげるよ?」
男「あ、……いえ」
トラ「うん。困ったことがあったら、いつでもたんてい部に来てね〜」
ガラガラッ
啓「暴れるだけ暴れやがって、あいつら……」
男「あの……」
啓「いや、お前は気にすんな。小牧の不運に巻き込まれただけだからな」
男「……」
啓「それより、ちゃんと見つかったか?」
男「え……そこまで……?」
啓「大事なものだってのは分かってたんだ。だが、お前にも疑いがあったからな。
小牧が目を覚めるまでの時間稼ぎとして氷口と一緒にいてもらったと言う訳だ」
男「……そうですか」
啓「まぁ、本当に気にするな。状況が状況だったからな」
男「……はい。祖母の大事な形見……みつかって良かった」
—— 探偵部 ——
鋭太「『探偵! の氷口 真矢です』の『探偵!』の部分が無駄に強調されてて面白かったなー」
真矢「はいはい。って、なんで知ってるのよ!」
夏「ソドムを通してリアルタイムで観察していたから」
ソドム「そうドム!」
真矢「な、なんですって!?」
鋭太「マジで夏さんの発明能力って、外国のスパイに狙われるレベルだよね」
トラ「はい、エイタ。コーヒーをどうぞー」
鋭太「さんきゅー、トラ」
トラ「はい、ナツ」
夏「ありがとう」
トラ「ねぇねぇ、マヤー。今日はおやつ持って来てないのー?」
真矢「な、ないわよそんなの」
夏「今、食器棚の下のほうに視線が動いた」
真矢「ちょ、やめて!」
鋭太「なんだよ、また一人占めか?」
真矢「ち、違うわよ! あのケーキは……そう! 来客用なの!」
夏「ケーキが入っているのね」
真矢「だから、違ウマス!」
鋭太「違うますって、動揺しすぎだろ」
トラ「あー、あれねー。午後の体育の授業でお腹空いちゃって〜」
真矢「た、食べちゃったの!?」
トラ「えへへー。いつもマヤーの持ってきてくれるケーキはおいしいねー」
真矢「あぁ…楽しみにしてたのに…朝早くに並んでようやくゲットした入手困難なケーキのに……ぁああ! うわあああああん!!」
鋭太「マジ泣きだ……」
夏「ソドム、充電するからこっちに来て」
ソドム「了解ドム!」
トラ「ごめんねー、マヤ。ちゃんと買ってくるからね」
真矢「うわあああああん!!」
鋭太「ほらほら、泣くな泣くな」
コンコン
鋭太「ん? 客か?」
真矢「ぐすん……」
トラ「はいはーい」
ガチャッ
男「あのー」
真矢「どうかしたのかね?」
鋭太(立ち直った……)
トラ「さっきの人だねー。コーヒー淹れるから座ってまっててー」
鋭太「中へどうぞ。探偵部に改めて依頼でも?」
男「いえ……さっきの——」
真矢「さ、これに記入を」
鋭太「おい……それ入部届けじゃないか」
男「すいません、入部希望じゃなくて、ひとつだけ訊きたいことが……」
真矢「…………助手の鋭太、代わりに答えておいて」
鋭太「おい、部長としてのやる気を出せ」
男「鋭太君では答えられないと思いますけど……」
トラ「んー? どういうことー?」
男「訊きたいのは、どうして事故の状況をあんなに詳しく知っていたのか……。
まるで見ていたかのような推理力だったので」
夏「バナナの皮。それだけの物的証拠があれば充分」
男「え……?」
真矢「彼の異名を知っておいでだろうか」
鋭太(真矢の口調が探偵モード……?)
男「鋭太君の……異名?」
真矢「そう。彼のもう一つの名は……『避雷針』」
トラ「エイタはね、不運に見守られてるの」
夏「不運の星の下に生まれた、ある意味魅力的な子よ」
鋭太「夏さんは相変わらず俺の不運を面白がってますね」
真矢「鋭太がバナナの皮を踏まなかったら、あなたが転んでケガをしていたかもしれない」
男「だから……『避雷針』」
夏「現場にバナナの皮と倒れている鋭太。これだけで何が起こったのか理解できる」
鋭太「……そうですか、なんだか複雑です」
真矢「これは推理というより……『あぁ、またか』といった日常のワンシーンなのだよ」
男「…………バナナの皮を片付けたのは氷口さん?」
夏「へぇ……」
真矢「ちがうわ」
男「……それじゃ、どうして」
トラ「マヤは私たちが電話連絡するまで知らなかったよー」
鋭太「そうなの?」
夏「真矢が知っていた情報は二つ。
【鋭太が花瓶で頭を殴られたこと】……正しくは仰向けに倒れた時に自らぶつけた。だけど。
そして、各教室を周って【花瓶が持ち出された教室】を突き止めただけ」
鋭太「……で、トラからの連絡【バナナの皮】で真矢は事件ではなく事故だと判断したわけか」
真矢「…………そうよ……」
鋭太「どうして、トラと夏さんはすぐに教えなかったの?」
真矢「わぁーーー!!!」
鋭太「な、なんだよ! うるさいな!」
男「?」
トラ「マヤはねー。鋭太が殴られたと早合点して犯人を特定するために各教室を急いで周りに行ったんだよー」
鋭太「……なぜ?」
夏「犯人が許せなかったのね」
真矢「ち、違うわよ!! 私は鋭太のことなんか心配していなかったんだからね!」
夏「鋭太が誰かに恨みを買うようなことしない、と?」
真矢「うん……教室を周ってる途中でそれに気づいて……って、この流れ嫌!」
鋭太「俺を運んだのは誰だ?」
トラ「“彼”だよー」
鋭太「あ、アイツか。後で礼でも言っておくか」
男「…………なるほど」
真矢「コホン。……部長である探偵! の私の偉業を確認したところで……さ、これに記入を」
男「すいません、もう部活には入っているので……」
真矢「構いません。偶に顔を出してくれれば。そのついでに…——…なんかを持って来てくれれば」
鋭太「え? 聞き取れなかった、なんだって?」
真矢「黙ってなさい、鋭太。さ、記入を」
トラ「マヤー、悪質な訪問販売みたいだよー?」
男「えっと……、これから用事があるので失礼します!」
ガチャ! バタン!
鋭太「逃げたか……」
真矢「あぁ! 探偵部専属のパティシエがッ!!」
鋭太「なんだよ、パティシエって?」
夏「彼は、スウィーツ部に所属してる」
トラ「バニラエッセンスの匂いがしてたよー」
鋭太「あぁ……だから入部しろとしつこく……って、探偵部専属じゃなくて真矢専属じゃないか!」
真矢「帰る」
鋭太「おい! 映画鑑賞はどうなった!?」
真矢「帰ってから観る。鋭太とトラと夏さんが犯人を言い当てるから、面白みに欠けるんだもん」
鋭太「そういう趣旨の映画鑑賞じゃないの!?」
夏「今から帰って観ると返すのが面倒になる」
真矢「た、確かに」
鋭太「じゃあ観なきゃいけないだろ?」
トラ「あれ? エイタは今日、用事があったんじゃなかったの?」
鋭太「あ、えっと……予定を延期にしてもらったから、平気」
真矢「ほら、さっさと再生準備して」
鋭太「コキ使うなよ! ……しょうがねえな」
真矢「ついでにお菓子も買ってきて」
鋭太「えー!? DVDを挿入するついでになりませんけど!?」
トラ「まーまー、トラも付き合うから、ね?」
鋭太「……お、おう?」
真矢「……」
夏「私、いつもの」
鋭太「……いいですけど。真矢もいつものでいいんだな」
真矢「…………えぇ」
トラ「それじゃー、行ってきまーす」
バタン
鋭太「どうしてトラまで付いてきたんだ? 一人で充分だぞ?」
トラ「エイタ、マヤの推理はどう思う?」
鋭太「さっきの事故か? 真矢は行動力があるから現場に落ちてた万年筆を見つけられたし、
花瓶が無くなった教室をすぐに突き止められたんだろう。
いつもと同じパターンだけど……でも、いつもより冴えてた感じだな」
トラ「んー。そうなんだけどねー」
鋭太「違うのか?」
トラ「えっとねー。“彼”とナツがエイタを保健室に運んでいる間ね、トラが後片付けしてたのー」
鋭太「そうか。ありがとう、トラ」
トラ「どういたしまして。それでね、破片を拾ってるところへマヤが来たの。
ちなみに、ナツがバナナの皮を捨てたんだよ」
鋭太「……うん、何が言いたいんだ、トラ?」
トラ「トラと、ナツは事故だと思ったから、現場に【エイタの他に誰かがいた】かどうかなんて考えてなかったんだよ」
鋭太「…………偶然、じゃないのか?」
トラ「エイタは言ったよね。『いつもより冴えていた』って」
鋭太「…………うん」
トラ「【仰向けに倒れているエイタ】、【割れた花瓶】、この二つだけでマヤは事件性を捨てなかったんだよ」
鋭太「捨てていたら、どうなっていた?」
トラ「あの人、エイタの不運に巻き込まれた被害者は今でも罪悪感に苛まされていたでしょう」
鋭太「う……」
トラ「そして、気分が沈んだまま、誰かの誕生日に出席していたのかもしれないねー」
鋭太「誕生日?」
トラ「うん。あの人と万年筆からバニラエッセンスの匂いがしたんだよー」
鋭太「トラの嗅覚は信じられるけど、だからといって誕生日ってこと…………そうか、昼休みに作ってあったのか」
トラ「うん。わざわざ放課後に食べるなんてしないよね、スウィーツ部は作るのが目的だよね」
鋭太「なるほど、事件性と事故の両方を持っていたから万年筆を現場に置いたのか。
そして証拠探しとして協力させ、事故だと連絡を受けたから、自らみつけさせた、と」
トラ「マヤは不器用だねー」
鋭太「……だな」
トラ「マヤは優しいねー」
鋭太「……優しい人はパシリなんかさせないだろ」
トラ「そうだね〜♪」
鋭太(トラと夏さんの助言を受けてないんだよな……。一人で……行動したのか……)
鋭太「なあ、トラ」
トラ「なあに?」
鋭太「真矢のあの行動力は俺のため?」
トラ「さっき、ナツがからかい気味に言ってたけど、そうなんじゃないかな?」
鋭太「そうか……」
トラ「あ、“彼”だよ」
鋭太「ん?」
「やぁ、鋭太くん。お目覚めですか」
鋭太「よう、アツシ。俺を保健室まで運んでくれたんだってな、サンキュー」
アツシ「いえいえ。小さいころからずっと傍に居たボクたちじゃないですか。お礼なんて不要ですよ」
鋭太「その言い回しやめてくれ」
アツシ「鋭太くんをお姫様抱っこするのはボクの役目ですからね」
鋭太「行こうぜトラ——って」
「エイター、はやくー」
鋭太「置いていかないで!?」
……
…
『今日からこの無人島で5日間も過ごすのか……』
『綺麗な場所ね〜』
ガチャ
鋭太「ただいまーって、再生してる!?」
トラ「買ってきたよー」
真矢「おかえり」
夏「まだ序盤で犯人も出てきていないから、安心して」
鋭太「え、夏さん、この作品観た事あるんですか?」
夏「観てない。ネットで調べただけ」
鋭太「ん? 犯行が行われていないじゃなくて、出ていない……?」
真矢「どうしたの?」
鋭太「この面子で出ていないってことはネタバレしてますけど!?」
夏「気づいたのね」
鋭太「あぁー、犯人分かったかもしれない。なんか損したぁ!」
真矢「うん……?」
トラ「はい、マヤ。紅茶だよ」
真矢「ありがとう、トラ」
鋭太「まぁ、いいや。犯行トリックを解いてみせよう」
夏「先に解いた方が鋭太を一回扱き使う券を貰えるってのはどう?」
真矢「いいわね!」
トラ「よーし!」
鋭太「なにその券……。俺が先に解いたらどうなるの?」
夏「さぁ? 自分の好きなように過ごせばいいんじゃない?」
鋭太「当たり前の日常が遠のいていく気がする……」
夏「まずは早押しの要領で解答権を得てから推理を発表しましょう」
鋭太「夏さん、トリックは知ってるの?」
夏「いいえ。犯人の役者だけ」
鋭太「不利なのは真矢だけか……って、なんで俺を扱き使うの……」
真矢「えっ、私以外のみんな、犯人を知ってるの!?」
トラ「うんー。聞いちゃったー」
鋭太「不本意だけど知ってる」
夏「真矢が解いたら鋭太を一日扱き使う券を発行するから、公平よね」
真矢「一回じゃなくて一日……うん、それなら頑張れる」
鋭太「俺が不公平なんですけどー!?」
『こ、これは!?』
『きゃぁぁああ』
トラ「あ、シリアスシーンだよ」
夏「それじゃ、開始」
真矢「鋭太に何をさせようかな……」
鋭太(画面見ろよ……。でも、『いつもより冴えていた』か……)
真矢「やっぱり、あのケーキを——」
鋭太「なぁ、真矢」
真矢「え?」
鋭太「ありがとな」
真矢「……」
鋭太「…………」
真矢「気持ち悪っ! 拾い食いしたのね鋭太!」
鋭太「なんだよそれ! 失礼だろ!?」
真矢「突然変なこと言うからじゃない! 保健室行って来なさい!」
鋭太「俺のために走ったんじゃないのかよ! そのお礼だよ!」
真矢「か、勘違いしないでよね! 私は探偵として事件を解決しただけなんだから!」
ピンポーン
ソドム「ご主人様、答えをどうぞドム!」
夏「犯人は氷と熱を使って密室を作り上げた」
ソドム「正解ドム!」
鋭太真矢「「 え? 」」
トラ「二人が言い争ってる間に事件が起こったんだよー」
夏「鋭太を一回扱き使うことができる券、げっと」
真矢「馬鹿鋭太! 鋭太を扱き使えなくなっちゃったじゃない!」
鋭太「え…えぇーー……」
トラ「今日も平和だねー」
—— 終わり ——
短いですがこれで終わりです。
PSPソフト『たんていぶ』のssでした。
http://www.asgard-japan.com/booston/02tantei/
ありがとうございました。
たんてい部のssとか初めて見た
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