貴音「月下の帰り道」 (12)
貴音BirthdaySS
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ハッと目が覚めた。
机上の時計を確認する。0時12分。
「しまった─────」
慌てて充電スタンドに置いてあった携帯に手を伸ばす。その刹那、着信を知らせる電子音が鳴った。
「……………」
ディスプレイには予想通りの名前が表示されていた。
僅かに残っていた缶コーヒーで口を湿らせ、シワになったシャツを申し訳程度に伸ばし、居住まいを正してから、通話ボタンを押した。
「……もしもし」
つい、恐る恐るといった感じの声音になってしまった。
回線の向こうから、透き通るような綺麗な声が聞こえてきた。
「四条と申します。この番号は……いえ、そちらは────様で間違いありませんね?」
四条貴音、俺がプロデュースを担当している765プロのアイドルだ。
期待
「ああ、大丈夫だ。合ってるよ」
このやりとりも数回前から両手では数えられなくなった。
というのに、いまだこの切り出し方なのは、端から見ると妙なのかもしれないが、相手は電子機器に疎い貴音だし、携帯を手に入れたのだって割と最近なので仕方がない。
貴音には自分のペースでゆっくり馴れていってもらいたいと思っている。
確かこの前も律子が使い方を教えていたはずだけど……。
「よかった。先日、律子嬢にお気に入り登録というものを教えていただき、あなた様に電話をかけるのがだいぶわかりやすくなりました」
「そ、そうか」
自分の番号をお気に入りに登録したと、嬉々として報告されるのはどこか気恥ずかしい。
「さて、あなた様」
凛とした声。空間に緊張が走る。自然と背筋が伸びた。
「は、はい」
「私が申し上げたいこと、おわかりですか?」
おわかりです。わかっております。
日付が替わった時計を再度見る。
一月二十一日、今日は貴音の誕生日だ。
“明日は、あなた様の声を一番に聞きたいのです”
昨日、珍しくもじもじと落ち着かない様子だった貴音に声をかけたら、このようにお願いされた。
明日は自分の誕生日だからなどと直接的なことは言わなかったが、貴音の意思は伝わった。
普段わがままを言わない貴音だからこそ俺もつい張り切ってしまって、それなら0時00分に電話をしよう、と約束をしていたのだった。
その約束を確実に達成するために、俺はまだ765プロの事務所にいた。
既に寝るためだけの場と化している自宅に帰った場合、シャワーを浴びた後は習慣的に床に就いてしまい、約束が果たせなくなる恐れがあったからだ。
眠気覚ましに仕事をとデスクにかじりつき、ついでに明日の仕事も減らしておこうと必要以上に頑張ったのがいけなかった。
結局、対策が油断を招き、睡魔に負けた訳である。
「す、すまない貴音。ついうとうとしてしまって……」
あ、しまった。まだ脳が覚醒しきっていないようだ。こんなことを貴音に言ったら────
「あなた様……まさかまだ事務所にいるのでは…………!」
ほら、感付かれた。
「いません」
「あなた様」
「います。ごめんなさい」
流石は貴音だ。声だけでも嘘をつくことはできない。
「あなた様、先日も申し上げたでしょう。その様に無理をなさってはお身体に───!」
「待った待った、待ってくれ貴音。お叱りは後で必ず受けるから」
憤ってまくしたてる貴音を遮る。
「本当は最初にこれを言いたかったんだ」
生まれてきてくれたことへの感謝と祝福を込めて────
「誕生日おめでとう、貴音」
彼女はひとつ息をついて、言った。
「ありがとうございます、あなた様」
あーせめて日付が変わる前にここまでは書いておきたかった…
どうせ間に合わなかったのだからじっくりと書いていきたいと思います
風呂入ってくる
おつ
期待
ほしゅ
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