とある科学の偽聖痕使い(禁書目録・超電磁砲 再構成) (1000)
少年は不幸だった。
『疫病神』
周囲の人間は少年のことをそのように蔑んでいた。
少年が傍にやってくると周りまで不幸になる。
そんな俗話を信じて、近所の子供達は少年に向かって石を投げつけた。
大人達もそれを止めることをしなかった。
少年の身体にできた傷を見ても、悲しむどころか逆に嘲笑うだけ。
まるでもっと酷い傷を負わせないかと、急き立てるように……。
ある日、少年は借金を背負った男に追い回された挙句に包丁で刺された。
マスコミは霊能番組とかこつけて、少年の顔を映して化け物であるかのように扱った。
優しかった少年の両親も既に限界に陥っていた。
少年を救う方法を必死に探し求める日々。
そして少年の両親が辿り着いたのは、最も忌避していた筈のオカルトだった。
世界には『聖人』と呼ばれる、まるで神に愛されたかのように幸福な人間が存在するらしい。
その『聖人』に人工的になれる方法が存在するというのだ。
もちろん胡散臭い話だということは少年の両親にも分かっていた。
それでも少年の両親は愛する息子を何としてでも救いたかった。
しかし結果は失敗。
その反動で大きな傷を負った少年は、最先端の科学が集う街の人間によって保護される。
何とか一命と取り留めたものの、やはり少年の不幸が消えることはなかった。
そしてそのまま少年は科学の街である『学園都市』で暮らすこととなる。
だがその時、少年はまだ知らなかった。
『聖人』になることはできなかったものの、己が身の内に宿す莫大な力の一端を意図的に引き出せるようになっていたことを。
幻想を殺す右手に偽りの『聖痕』を宿す少年は、今日も平穏で不幸な一日を送っている。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1389713560
注意書き
・とある魔術の禁書目録・とある科学の超電磁砲の上条さん魔改造による再構成ss
・このssを書こうと思った経緯
そろそろ中条さんの出番を期待
→新約9巻でも全く出番がなくて落胆
→何となくPSPを手に取り群奏活劇を久しぶりにプレイする
→パンタグルエル強いなって思う
→別に魔術的に聖人のパラメーターを入力しなくても、肉体を直接改造して聖人の特徴を備え付けられるんじゃないかと妄想
→上条さん魔改造を思いつく
・基本的に原作に沿った形で進んでいく予定
・ただし禁書目録・超電磁砲で時期が重なっている事件などはご都合主義で時系列が変化する予定
・主要ヒロインは美琴とねーちん
・ただしねーちんの出番はかなり先
・カップリング要素がどこまで入ってくるかは未定だが、あるとしたら上琴中心
明日の深夜から本編の投下を開始する予定です
ss初心者なので、アドバイスなどがあったらお願いします
期待
乙
期待
原作がヒロイン多い作品で主要ヒロイン決めると読む人減るんじゃね?
とか要らん世話か。
酉付けておくれやす
等間隔で空行があるし、情報を詰めすぎで読みにくい。
注意書きが長い。
明日の深夜から始めるなら、明日の深夜にスレ立てればよかったんじゃないの。
ねーちんも主要ヒロインなら個人的には上裂にして欲しいけど…メイン張るだけ有り難いと思うべきか
期待の声、ありがとうございます
>>6
基本的に科学側の事件には美琴が、魔術側の事件にはねーちんが関わることになります
各巻のヒロインは普通に登場する予定です
>>7
これで大丈夫かな?
駄目だったら次も試してみます
>>8
確かに注意書きがくどかったですね
書き方については初めてなので試行錯誤していきたいと思います
見にくかったりしたら、また指摘してください
>>8の仰る通り、立ててから投下まで時間が空きすぎだと思うので書けたとこまで少しですが投下したいと思います
何でこんなことになってしまったんだろう?
青白い火花を散らしながら目の前に迫る雷撃を見て、上条は現状に至った経緯を思い返す。
それは今から数年前、ちょっとした事件を通じてある少女と知り合いになったのが始まりだった。
少女の名前は御坂美琴、上条より二つ年下の今では女子中学生だ。
何故か妙に美琴から懐かれた上条は、美琴の姿が年下の従妹と重なったこともあり、何だかんだ今まで妹のように接していた。
親元から離れて暮らさなければならない学園都市で、こうやって知り合ったのも何かの縁だろうと……。
だが美琴は上条が尊敬するくらい努力家で……想像を絶するほど負けず嫌いだった。
学園都市でも能力開発において五本の指に入る名門・常盤台中学に入学した美琴はメキメキとその頭角を現し、今や学園都市に七人しかいない超能力者《レベル5》の第三位にまで上り詰めている。
だが上条はそんな美琴に一度も負けたことがない。
--無能力者《レベル0》であるにも拘らず。
尤も上条はその右手にある力を宿しているため完全な無能力者とは言えず、美琴も上条の持つ力のことを知っている。
だから美琴はレベル0の人間に勝てないということよりも、上条個人に勝てないことが気に入らないのだ。
そもそも美琴はレベル5に至るまで努力したことに誇りを持っていても、レベル5ということ自体にはあまり執着がないように見える。
レベル5になってもこのように能力研鑽を名目とした上条との手合わせを続けているのがその証拠だろう。
しかしだからといって、レベル5である美琴の相手をするのが上条にとって非常に骨が折れることだというのに変わりはなく……。
「不幸だあぁぁーーーー!!」
思わず上げたそんな叫びと共に、上条は右手で雷撃の槍を受け止める。
美琴は発電能力者の頂点に立つ最強の電撃使いで、雷撃の槍は美琴が数多く持つ技の中でも最もオーソドックスなものだ。
その威力は最大10億ボルトにも達し、直撃したら普通の人間など一溜まりもない。
人に向ける時は手加減している美琴は言っているが……。
きっと美琴の言葉は本当だろう--というより本当だと信じたい。
完全に涙目な上条だったが、上条の右手に触れた瞬間、美琴の放った雷撃の槍は霧散するように掻き消されてしまう。
幻想殺し--それが異能の力なら超能力者が使う電撃であろうと、神様の奇跡であろうと問答無用で打ち消してしまう上条の右手に宿った異質な力。
しかし自ら放った電撃が打ち消されるのを見ても、美琴に動じた様子はない。
「……まあ、これだけじゃいつもと変わらないものね。 だから今日は新技をいくわよっ!!」
「新技っ!?」
しかし上条が抗議する間もなく、美琴の周囲に黒い砂状の物質が集まり始めた。
それは美琴の放つ電磁力によって掻き集められた砂鉄だ。
大量の砂鉄は美琴の手の中で収束し、一振りの剣の形を成す。
「ちょっ……お前、得物を使うのはズルいんじゃっ!?」
「能力で作ったんだから問題なし!! それとこの剣、砂鉄が振動してチェーンソーみたいになってるんだけど」
「サラッと恐ろしいこと言ってるんじゃねえよっ!!」
「大丈夫よ、今は能力で完全に固定してるから。 当たっても打撲程度で済むんじゃないの?」
「それは安心してもいいんでせうか?」
「今日こそ絶対アンタに勝ってみせるんだからっ!!」
その掛け声と共に、美琴は砂鉄の剣を使って斬り掛かってくる。
美琴の剣撃は素人とは思えないほど鋭く、持ち前の身体能力の高さも相まって上条を追い詰めていく。
しかし身体能力がいくら高いといっても、所詮は二つ年下の女子中学生だ。
スキルアウトに追い回されることによって鍛えられているのか、上条も自分の運動神経にはちょっとした自信がある。
最初こそ美琴の振るう砂鉄の剣をギリギリのラインでしか躱せなかったものの、徐々に上条の動きにも余裕が出てきた。
そして何とか美琴から距離を取ることに成功したものの……。
「ちょこまか逃げ回ったって、コイツにはこういう使い方もできるのよっ!!」
「なっ、剣が伸びっ!?」
最初はせいぜい1m程度しかなかった砂鉄の剣が、まるで鞭のようにしなりながら上条に向かってくる。
しかし正面から向かってくるだけなら雷撃の槍と同じく対処は容易い。
上条が砂鉄の剣に触れた瞬間、美琴の能力が解かれたのか剣はサラサラとただの砂鉄へと戻っていった。
しかし、
「掛かったわね!!」
空中で分解し風に乗っていた多量の砂鉄が、美琴の能力によって再び収束し始める。
そしてかなりの質量を持つ砂鉄の塊が上条に襲い掛かった。
「こんなこと何度やったって同じ結果じゃねーか!!」
だがそれすらも上条にとっては何の問題もない攻撃だ。
砂鉄の剣と同様に、押し潰される直前で上条は易々と砂鉄の塊を右手で元の状態へと解除した。
しかし多量の砂鉄が目の前で降り注いだことにより、上条の視界が一瞬だけ遮られる。
(これが狙いか!?)
今や週末の恒例となっている美琴との手合わせ。
既に何十回と美琴と対峙してきた上条は、美琴の攻撃パターンが頭にではなく身体に刻み込まれていた。
だから美琴の些細な動きでも、次にどのような動きに出るか体が勝手に反応する。
しかしそれはあくまでも美琴が視界に映っていたらの話だ。
今までになかった攻撃に加えて美琴の姿が見えない今、彼女がどのような動きをしているのか全く予測がつかない。
そして上条が取った行動は……。
「え?」
本能的に上条が背後を振り返ると、そこには自分に向かって手を伸ばしてくる美琴の姿があった。
これまで遠距離からの少女の電撃を上条は一度も食らったことはない。
恐らくそれを踏まえて、美琴は直接上条の身体に電気を流し込もうとしていたのだろう。
しかし美琴の手が上条の身体に触れるよりも早く、上条自身が右手で美琴の手を掴み取っていた。
「痛っ!?」
そして上条が美琴の額に向けて放ったのは、左手による渾身のデコピン。
それが今回の手合わせの終了の合図だった。
「……今回も勝てなかった」
「勝たれたら、上条さんもタダじゃ済まないですけどね」
先ほどまで手合わせをしていた川原から場所を移して、ここは第七学区にある公園。
基本的に用があって上条が美琴と会う時は、ここで会うのが通例になっている。
「ほら」
上条が美琴の好物であるヤシの実サイダーを差し出すと、美琴はベンチに座ったまま一気に飲み干す。
そして何が気に入らないのか、美琴は不機嫌そうな表情で上条のことを睨み付けてきた。
「な、何でせうか?」
「……べ、別に」
やはり機嫌があまりよろしくないらしい。
上条と目が合うと、美琴はすぐに視線を逸らしてしまう。
顔を赤くするほど今回も負けたことが気に入らないのだろう。
そんな美琴を見て上条は嘆息するしかない。
この手合わせだって美琴に頼まれて行っているだけで、上条がやりたくてやっている訳ではなかった。
ただ宿題を手伝ってもらったり、いつもの不幸によって財布を失くした時は少しお金を借りたりと、上条が美琴の世話になることも数多くある。
年下の女の子に頼るには情けないことばかりだが、何にしろ普段から世話になりっぱなしの身としては美琴の頼みを無下に断ることはできない。
「それよりずっと気になってたんだけど……」
「ん?」
少し物思いに耽っていた上条は機嫌が悪いはずの美琴に話しかけられ少し驚く。
そのまま再び美琴の方に目を向けると、美琴は上条の右手を見つめているようだった。
「……言っておくけど、お前の相手をするのは一週間に一度だけだからな。 良い子のみこっちゃんに、お兄さんからのお約束だ」
「そ、そんなの分かってるわよっ!! っていうか、誰がみこっちゃんで、誰がお兄さんよ? 馬鹿にするのもいい加減にしなさい!!」
「はいはい、それでどうした?」
「その傷……」
「ああ、そういうことか」
上条は美琴が何を言いたいか理解する。
上条の右手には何かに貫かれたかのように掌と手の甲の両方に大きな傷があった。
本当に今更な話だと思うが、その傷が今になって美琴は気になっているらしい。
「言っておくけど、これは能力とかで傷ついたもんじゃねえからな」
「そ、そうなの?」
「お前は俺の右手が能力じゃ傷つかないことを誰よりも知ってるだろうが? 今までお前がどんだけ俺に電撃浴びせてきたと思ってんだ?」
「うっ……」
「話したことがなかったけど、大怪我をガキの頃にとんでもない大怪我をしてな。 他の傷は綺麗に消えたんだけど、ここの傷だけはこうやって残っちまったんだよ」
「大怪我って大丈夫だったの?」
「……まあな。 っつうか、お前に怪我の心配をされるとは思わなかった」
「わ、私だって、アンタに怪我をさせようと思ってこんなことやってるわけじゃ……」
「へー」
「何よ、その遠い目は!? ほ、ホントだってば!!」
「だったら、何ていうかもっと若者らしい青春を謳歌しないか?」
「へ?」
それは上条がかつてから思っていたことだった。
別に今になって美琴とこうやって手合わせをするのを拒否するつもりはない。
ただこれも青春と言えなくないのだろうが、何となく周りとは少し違う気がする。
「わ、若者らしい青春って何をするのよ?」
「いや、そんなマジになって聞かれても困るんですが。 そりゃ普通にどっか遊びに行ったり……」
「そ、それって、で、デー」
「ってもうこんな時間じゃねえか!?」
公園にある時計に目をやると、思った以上に時間が経っていたようだ。
このままではタイムセールの特売に遅れてしまう。
「悪いけど、俺はもう行くな。 来週も今日と同じ時間でいいか?」
「え、あ、あの……」
「じゃあ、また来週な!!」
何か言いたそうにしている美琴は気になったが、このままでは本当に特売を逃してしまう。
レベル0で奨学金が少ない上条にとって、特売は今後の生活が左右される戦場だ。
何があっても今日の目玉商品である1パック58円の卵を逃すわけにはいかない。
上条は少し離れた場所にあるスーパーに向かって走り始めるのだった。
「……不幸だ」
結局卵を始めとするお買い得商品全てを買い逃した上条は意気消沈した様子で帰路についていた。
学園都市では学生の六割弱が上条と同じ無能力者で、こういったタイムセールを狙って買い物する人間は多い。
完全なる敗者である上条の背中には哀愁が漂っていた。
すると突然、上条の携帯が鳴る。
携帯をポケットから取り出すとメールの着信で、差出人は美琴だった。
何となく不幸の予感に囚われながらも中身を確認すると、
『明日10:30 セブンスミスト前』
普段と比べても、えらく淡白なメールだった。
「これは不幸なのか?」
いつもの待ち合わせ場所と違うのを見ると、どうやら能力開発のための手合わせとは用件が違うらしい。
確かセブンスミストというのは第七学区にある服屋だったはずだ。
折角の休日をゆっくりと過ごしたいという思いもあるが、残念ながら断る理由も見つからない。
了解、とだけ上条は短いメールを返すのだった。
短いですが以上です
>>9
すみません、自分もねーちんは大好きなんですけどね
まあカップリング要素はおまけ程度になると思うんで、目を瞑ってくれると嬉しいです
やはり最初は虚空爆破事件か
それと上条さんは聖人みたいに常時身体能力が高いわけじゃないのかな?
何にしろ期待
乙!!
上琴描写少ないと言いつつも、いきなりご馳走様です
まあこの段階じゃ原作ほどじゃないにしろ、まだ上条さんがみこっちゃんのことを面倒臭く思ってそうなんで、今後はどうなるのかな?
乙
これは完全にカップリングは上琴として期待していいのかな?
乙
上条さんを魔改造することで原作に沿いつつどの程度オリジナリティ出していくのか楽しみ
何で上条さんが魔術寄りの能力なのにゴミ坂がヒロインなの?
どう考えたって、ねーちんかインデックスが妥当だろうが
妙にゴミ坂が美化されてるし、何で上琴厨はこうも都合よくゴミを美化できるかな?
マジで気持ち悪いから、さっさと削除依頼しとけよ
乙です
頑張れ
乙‼
ねーちんわっほい。
これは
木山先生 VS 上条&美琴
が期待できるか?
期待
ねーちんとくっ付いて欲しいなぁ
好き勝手言うやつ多いな
それだけ期待してるってことだろ?
期待できるからこそ、自分の望む結末になって欲しいと思うんだろうし
周りを気にせず最後まで頑張ってください
ねーちんなんかは主要ヒロインって言ってるからまだ分かるけど、>>24なんか全く名前が出てなかったキャラって点で色々とね
上条さんが被害者に触るだけで幻想御手事件は解決しちまうんじゃねーの?
あれは音楽で強制的に脳波を一定にしてるだけだから、幻想殺しで触っても解決しない
ただ幻想猛獣自体は上条さんが触れた瞬間にそげぶする可能性は高い
>>33
たぶんそのままソゲブしただけじゃイノケンと同じく再生すると思う
まあいたら色々楽になるのは確かだな
中に三角柱みたいな核があった筈
それを破壊しなきゃいけない
猛獣の中に入ったら無限1upみたいになんのかな
面白いよ
期待
はよ
今日の昼前に投下します
>>1乙
待ってる
少し遅くなりましたが投下します
感想本当にありがとうございます
ご期待に添えるような形になるか分かりませんが、頑張っていきたいと思います
やってしまった。
送ったメールの文面を見て美琴は頭を抱える。
『明日10:30 セブンスミスト前』
普段から女の子らしいメールを打っているとは美琴も思ってないが、それでも流石にこれはない。
これではまるでスパイか何かに対する任務の指令のようだ。
メールを打つだけなのに妙に緊張して、気付くとこの文面のまま送ってしまった。
上条と出会ってからおよそ二年。
とある事件をキッカケに知り合った上条のことを、兄弟のいない美琴は兄のように慕っていた。
そしてそれと同時に美琴にとって上条は小さな子供が憧れるようなまさにヒーローのような存在でもあって。
誰にでも優しく分け隔てなく接する上条の姿は、美琴の憧れであり理想だった。
しかしそれが変わってしまったのはいつからだったろう。
自分にとってヒーローだった少年が思った以上にだらしなく、ヒーローの持つ人間臭さに親近感を持った時だったか。
それとも自分以外の女の子が彼の隣にいるのに対し、小さな嫉妬を覚えた時だったか。
いつしか上条は美琴にとって単なるヒーローではなく、隣に並んで立ちたい存在になっていた。
週末の恒例になっている能力研鑽を目的とした手合わせは、そのためにはうってつけだった。
どれだけ上条に近付くことができたか明確に分かるし、何より彼と一緒に過ごす時間ができる。
それがどういう感情から来るものかは分からないが、上条と過ごす時間は美琴にとって何にも代え難いものだった。
『了解』
それから三分も経たずに、上条からのメールが返ってきた。
普段は返事が数時間も遅れたり、酷い時には気付かなかったと完全にスルーされたことすらある。
悪気がないのは分かっていても、そんな上条の態度にモヤモヤさせられることも多い。
しかし今回はすぐにメールが返ってきて、それもOKの返事。
上条からのメールも美琴に負けず劣らず味気ないものだったが、それでも美琴は自然と頬が緩むのを感じた。
送ったメールの中身があれだったのだ、本来なら断られていてもおかしくない。
上条の隣に立って対等な立場でありたいと願いながらも、偶にはこんな我侭で上条に甘えたいとも思っている。
自分の中の矛盾に気付きながらも、不思議と美琴はそれを嫌なものだとは感じなかった。
自然と湧き上がる二つの想い、それは両方とも上条に対して抱く素直な感情だったから。
しかし実際に上条と顔を合わせると対等であろうとするあまり、つい尖った態度を美琴は取ってしまう。
そんな自分に対して美琴は少し嫌悪感を抱くものの、いつか本当に上条の隣に立てるようになったら何か変わるかもしれない。
そして携帯をしまい込むと、美琴は気持ちを新たにする。
とにかく今は明日に備えなければならない。
今まであの少年と一緒にどこかに行くことがあっても、偶々顔を合わせた流れで適当に遊んだくらいだ。
こうやって予め約束をして出掛けるというのは初めてかもしれない。
妙に昂る気持ちを抑えながら、美琴は明日の予定を綿密に練り始めるのだった。
(それがどうしてこうなった?)
時間は10:50。
約束の時間を既に20分過ぎているが、約束している少年は未だ待ち合わせ場所に現れない。
その代わり、美琴の隣にいるのは……。
「いやー、御坂さんもこんな普通のチェーン店で買い物するんですね!!」
「ま、まあね。 常盤台は外に出るときも制服着用が義務付けられてるから、あんまり服装に拘らない人も多いし。 それに今日は……」
「ふぇ、ふぇ、ふぇくしゅん!!」
「う、初春さんは風邪の方は大丈夫?」
「ふぁ、ふぁい、すみません」
美琴と違って私服を着た二人の少女だった。
彼女達の名前は佐天涙子と初春飾利、美琴より一つ年下の中学一年生。
後輩の白井黒子が初春と同じ風紀委員だという縁で、その友人である佐天とも知り合いになった。
常盤台ではレベル5として少し浮いた立場にある美琴にとって、佐天も初春も今では気兼ねなく付き合える大切な友人だ。
ただ今の状況で出くわすことは、少しだけ間が悪いとしか言いようがない。
「それでどうします? あたし達は少し早いけど、水着でも見てみようかなって」
「えっと、私は……」
そもそも美琴は特に目的があってセブンスミストに来たわけではなかった。
上条に送ったメールの待ち合わせ場所がセブンスミストだっただけで、これから先は昨日の夜に必死に考えた計画がある。
だが美琴は上条と待ち合わせしてるということを、中々二人に切り出せない。
別に隠すようなことでもないのだが、妙な気恥ずかしさが先行してしまうのだ。
(そもそもアイツが時間通りに来ないのが悪いのよ)
上条が待ち合わせの時間に遅れるのは最早デフォと言っても過言でないのだが、それでもこっちは待ち合わせの30分前からここに来ている。
それが自分の勝手だということは分かっていても、美琴は上条に対する理不尽な怒りを抑えきれなかった。
「やー、すみませんでした。 いつもの不幸のせいで――ってあれ?」
それから更に5分経って、ようやく上条は美琴達の前に姿を現した。
一応申し訳なく思ってはいるのか、両手を合わせて頭を下げている。
しかし美琴は上条がやって来たことよりも、今後の対応に頭を悩ませていた。
恐る恐る隣に目をやると案の定、友人二人が瞳を輝かせてこちらを見ている。
「み、御坂さん、もしかしてその人って!!」
「ち、違うわよ、コイツは……」
「大丈夫ですよ、御坂さん。 この件に関しては白井さんじゃなくて絶対に御坂さんの味方ですから!!」
「えっと、どういう状況?」
一人だけ状況を掴めない上条が、少し間の抜けた表情で尋ねてくる。
そんな上条を見て、美琴は再び頭を抱えた。
佐天と初春が何を考えているのかは言われずとも分かる。
だが自分と目の前の少年は実際にそんな関係ではない。
確かにいつかそんな関係になれたらいいと心のどこかで思ってはいるが……。
しかしそういう甘酸っぱい関係になるよりも、今はこの少年に対等な存在として認めてもらいたい。
そんな美琴の思いを知る筈もなく、上条は目を輝かせる佐天と初春を前にタジタジになっている。
とにかく今は誤解を解くために上条との関係を二人に説明しなければならない。
しかし有りのままに、憧れの存在で隣に立ちたいなどと言ってしまえば余計に誤解が深まるのは明白だ。
それに上条本人を前にそんなことを言えるはずがない。
どうしようかと美琴が悩んでいると、
「あ、トキワダイのおねーちゃんだ!!」
「あれっ、この間の?」
上条の後ろから一人の女の子がひょこっと顔を出す。
先日、初春が忘れた腕章が原因で風紀委員と勘違いされた際に知り合った女の子だった。
「今日はどうしたの?」
「あのね、オシャレなひとはここにくるってテレビでいってたの。 わたしもオシャレするんだもん」
「んで、俺はこの子がセブンスミストを探してるっていうから案内したってわけだ」
「なるほどね」
本当にコイツは……。
相変わらずの上条を前に思わず美琴は苦笑いを浮かべる。
別に上条が待ち合わせに他の女の子を連れてきたことに呆れているわけではない。
相手は小さな女の子だし、困っている人になら誰にでも手を差し伸べるのがこの少年の魅力の一つだということは分かっている。
ただ上条はそういう困っている人と出会う確率がビックリするくらい高かった。
かく言う自分も危機に陥った際にこの少年に救われた人間の一人なので、そのことに決して文句は言えないが。
そしてそれが女の子の場合、フラグが立つ可能性も異常に高い。
流石にこんな小さな女の子を相手にそれはないと思うが、絶対にないと言い切れないのが上条当麻という人間だ。
「トキワダイのおねーちゃんはなにをかいにきたの?」
「……そうね、せっかく来たんだから寝巻きでも見ていこうかな」
そして今更他に用事があるとも言えず、美琴は予定していた計画を諦める。
別に焦る必要はない。
時間などこれからいくらでも作れるのだから。
短いけど今は以上です。
多分夕方から夜にかけて、もう一回くると思います。
少しずつですが強化された上条さんが介入することによるオリジナリティを出していけたらなと思っています。
ではまた後で
乙
いちゃいちゃもいいけど、この距離感もいいね
超電磁砲4人娘にとってのお兄さんになりそうだな。
期待してたのに、ゴミがヒロインな上に気持ち悪くて仕方ないわ
こんな綺麗なゴミがいるわけないだろ
あんま上条さん介入すっと
みこっちゃんのヒーロー
ポジションが喰われるのよね
それがいいんじゃないか>
あ、別に悪い意味じゃないよ?
>>50も>>51も嫌なら見なきゃいいんじゃないの?
>>50は論外として、>>51もヒーローのみこっちゃんが見たいなら漫画だけ読んでりゃいいんだし
上条さんの前じゃ美琴も一人の女の子でヒロインなんだからさ
アニレー組は暗に上条さんdisって原作無視するにわかが多くて嫌になる
どっちも触れるな、危険
面白い。
地の文でうまく状況を説明してるし、設定が原作小説や漫画と比べても違和感がない。
キャラ崩壊もせず原作の性格を否定してるところもないし、続きが楽しみ。
続きを投下します
中には自分には不相応な感想までいただき嬉しいです
今回も少なめで話が殆ど進みませんが、よろしくお願いします
……気まずい。
上条はその場の空気に馴染めずに、一人居心地の悪さを感じていた。
男一人にあとの四人は女の子だけ。
一人はまだ小学生とはいえ、この人数の女の子に囲まれていては男子である上条に立つ瀬はない。
先ほどまで出会ったばかりの少女達に美琴との関係をやたらと追及され、上条は半ばゲンナリとしていた。
二年前に偶然知り合って以来の腐れ縁だと説明したのだが、何故か二人とも納得してくれた様子はない。
後でもっと詳しい話を聞かせてもらいます、と逃げ道を塞がれた状況だった。
そして上条達が現在いるのはセブンスミストの婦人服コーナー。
いよいよもって上条に対するアウェイ感は高まっていく。
「初春、こんなのどうじゃ?」
「はい!? 無理無理無理です、そんなの穿けるわけないじゃないですか!!」
先ほど上条を厳しく言及してきた佐天と初春の会話が聞こえてくる。
何の話かは様子を見ていないためサッパリ分からないが、万が一にもそちらの方を見たらきっと何かが終わってしまう。
そして美琴は上条が佐天と初春の方を見ることがないように、険しい表情で上条のことを見張っている。
そこまでするくらいなら、さっさと解放してくれればいいのに。
美琴が何の用で呼んだか結局分からないまま、上条はそのまま女の子達の体のいい荷物持ちになっている。
あの会話の後のメールだったので、少しは甘い展開があるのではと期待していたのだが……。
年上の男子を友人達の荷物持ちに使うとは、お嬢様恐るべし。
「じゃあそろそろ御坂さんのパジャマでも見にいきましょうか」
「確か寝巻きはあっちの方に……」
年頃の男子高校生なら前を通るだけで気まずい下着売り場からようやく離れ、上条は女子三人の後についていく。
ちなみに上条の右手には先ほど会った女の子、硲舎佳茄の手が握られていた。
流石に小学生の佳茄には女性用の下着など必要なく、女子中学生三人の買い物が終わるのを上条と一緒に待っていたのだ。
「ごめんね、待たせちゃって。 これが終わったら一緒に佳茄ちゃんのお洋服見に行こうね」
「うん!!」
すると美琴が少し歩くスピードを落として、佳茄の隣に並ぶ。
何だかんだ面倒見のいい美琴は小さい子供達からも慕われやすい。
上条もこれまで美琴が小さい子供の面倒を見ているのを何回か見たことがあった。
……どちらかといえば遊んであげているというより、一緒になって遊んでいるという印象の方が強かったが。
知り合ってから二年も経つが、上条は未だに御坂美琴という少女がどのような人間なのか掴みきれていない。
レベル5として後輩に慕われる頼れる先輩、子供達と一緒になって遊ぶ無邪気な少女、そして負けず嫌いで意地っ張りな努力家。
多面的とでも言うのだろうか、きっとそのどれもが美琴の本当の姿なんだろう。
普段の姿だけを見ているとあまりお近づきになりたいタイプとは思わないのだが、何故か上条は美琴のことを放っておくことができない。
そしてそんな美琴と一緒に過ごす時間を心地よいと思っている自分が確かに存在する。
上条にとって美琴は本当に訳の分からない少女だった。
「色々回ってるんだけど、あんまいいのが置いてないのよねー」
そのまま上条は美琴達に続いて寝巻きが置いてある一角に足を踏み入れる。
下着売り場と違って、ここなら上条も普通に入り込むことができた。
そして前を行く女子中学生三人が展示されている一着の寝巻きの前で足を止める。
「ね、ね、コレかわ……」
「アハハ、見てよ初春、このパジャマ!! こんな子供っぽいの、いまどき着る人いないっしょ?」
「小学生の時までは、こういうの着てましたけどねー」
それはピンクの花柄のパジャマだった。
しかし一人を除いて女子中学生達には不評だったらしい。
「そ、そうよね! 中学生にもなってこれはないわよね」
「ですよねー。 何か御坂さんの気に入るようなものはありましたか?」
「う、うーん、どうかしら?」
「良く見たら水着コーナーもこのフロアにあるみたいなんですよね。 佳茄ちゃん悪いけど、先に水着を見てきてもいいかな?」
「うん、いいよー」
「ありがとうね。 良い子の佳茄ちゃんには後でお姉さんがジュースを買ってあげよう」
「ホント!!」
「それじゃあ、御坂さん。 あたしたちは先に水着コーナーに行ってますけど」
「わ、私はもう少しだけ、ここら辺を見てくわ」
佐天と初春は佳茄を引き連れて、そのまま水着コーナーへと向かう。
そして残された上条と美琴は……、
「って、何でアンタがここに残ってるのよ!?」
「上条さんに女性用の水着コーナーに突撃しろと?」
「さっきみたいに外で待ってればいいじゃない!!」
「さっきから横暴だな、おいっ!! っていうか気に入ったなら、さっさと買えばいいじゃねえか?」
「べ、別に私は……」
尚も否定する美琴だったが、付き合いがそれなりに長い上条には美琴がその寝巻きを気に入ったことが嫌でも分かってしまう。
上条には分からない世界だが、女子には女子の見栄や外聞というのも存在するのだろう。
しかしそもそも寝巻きなんて人に見せるようなものでもないし、本当に気に入ったらなら好きなものを買えばいい。
そんな旨を上条が伝えると、ようやく美琴も素直になったようだ。
自分のサイズに合ったものを選んで、レジへと運んでいく。
「良かったな、気に入ったものが買えて」
「い、一応、お礼は言っとくわ。 あ、ありがとう」
「別に礼を言われるようなことをした覚えはねえけどな」
妙に律儀な態度に出る美琴を前に、上条は少し戸惑った様子で頭を掻く。
普段は突っ撥ねた態度ばっかりなのに、時々こうやって素直になられるから対応に困る。
俗に言うツンデレというやつだろうか?
一瞬そんな考えが頭を過ぎったが、すぐにそれを上条は否定する。
美琴は素直になることはあっても、デレたことなど一度もない。
きっとツンデレではなくて、反抗期の妹といった感じだろう。
「それにあんなカエルのグッズを中学生にもなって集めてるんだから、いまさら子供っぽいも何も……」
「……」
「あれー、御坂さん?」
しかし途端に美琴の表情はみるみる険しいものへと変わっていく。
どうやら何か地雷を踏んでしまったらしい。
怒髪天を衝く様子の美琴を前に、上条は恐る恐るお伺いを立てる。
「な、何を怒ってらっしゃるんでせうか?」
「アンタは未だにゲコ太やケロヨンのことをカエル呼ばわりするのね?」
「いや、だって実際にあれはカエ……」
「何度言ったら分かるのよ!! ゲコ太はゲコ太でケロヨンはケロヨン、ピョン子はピョン子って言ってるでしょうが!! カエルなんて単語で一括りにしないでくれる?」
「えー? だったただの1Pカラーと2Pカラーじゃ」
「……」
もはや美琴は上条に対して有無を言わせる気はないらしい。
本当に訳が分からない。
子供扱いされるのを嫌ったりする癖に、こうやって極端に子供っぽくなったりする。
完全にスイッチが入ってしまった様子の美琴を前に上条は溜息を吐くことしかできない。
ただ美琴がこうやって本当に全てを曝け出すのが自分の前だけだということを、上条は知らないのだった。
短いですが、以上になります
上条さん強化ssなのに、そんな描写が全くない
実は単に強化した上条さんの戦闘シーンが書きたかったりする
こんな感じで短いですが、ちょくちょく投下していきたいと思います
乙 次も楽しみに待つ
ツンデレという単語が頭に浮かんだにもかかわらず、それを否定する上条クオリティ
何だか逆に安心してしまうwww
そして完全に上琴のラブコメ
タイトルで上琴だって思ってない人もいるだろうから、上琴好きに宣伝したいくらいだ
こういう日常描写をしてこそバトルが光ると思うから、この調子で頑張って
この上条さんは保護者の気質が強くなってる気がする
美琴とは二年前から知り合いだったって設定だしな
完全に妹扱いだから、ここからみこっちゃんがどう巻き返すのか楽しみにしてる
ところでここの上条さんは説明を読むに魔術サイドよりの能力を持ってるみたいだけど、科学と魔術の協定みたいなのは問題ないの?
カス条厨は死ね
他のss荒らしてて恥ずかしくないの?
ついでにゴミ坂厨も死んでください
上条と美琴の信頼感がいいねえ。
恋愛感情はまだ薄そうだが、仲のいい兄妹って感じだ。
美琴かわいいw
乙です
こういう感じもいいな
原作の上条さんも多少ここと似たような部分もあると思う
>>67
聖痕を植え付ける手術をしたってだけだから魔術サイドとの関わりは今のところないだろ
しかも手術失敗してるし
手術したのが魔術側の人間だとして一般人使って勝手に実験したって程度か、もしくはオカルトに傾倒しただけの一般の整形外科医(美容整形?)だろうし
問題は失敗したかに見えたそれが後々ある程度機能しちゃうことだな
まだー
まだかなー?
上条さんの記憶力がまだ失われてないってことはぁ、当然私との面識力もあるってことよねぇ?
多分今日の夜に続きを投下できると思います
また短めですが
本当にいつも感想ありがとうございます
ちょっとだけ話が出てるようなので、ここの上条さん設定について返レス
>>67さん>>73さん
今やってる次の話、イン○○○○が出てくる話で上条さんの立ち位置について少し説明が入ると思います
ちょっとそこら辺はややこしいことにしようかなと
最初は傭兵崩れのごろつきに救助されて、その縁で騎士団に入団
騎士派のスパイとして学園都市にいるという構想をしていたのですが、
完全に魔術サイドの人間にしてしまうと科学側の事件に基本的に首を突っ込めない
どうしても展開が難しくなってしまうのでこの設定にしました
>>76さん
出したいんですけどね
キャラを下手に増やすと、どうしても当て馬的な部分が出てきちゃう
案外原作の二人の関係はここの上条さんとみこっちゃんみたいだったのかなって今の段階で妄想してます
面白い、続きも期待
>>1のペースで頑張ってくれ
食蜂はまだ分かってることが少ないからね
どうせ原作と最初の設定から違うんだし、出したいなら>>1の好きな形で出していいかも
このssが終わってからでいいから、最初の設定のssも読んでみたいかも
乙
楽しみにしてるよ
> 最初は傭兵崩れのごろつきに救助されて、その縁で騎士団に入団
> 騎士派のスパイとして学園都市にいるという構想をしていたのですが、
いや、その設定そのまんまなSSが現行であるから(汗
とあるローマの幻想殺し 第二章 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1374118352/)
それ言ったら、以前にも上条さんが魔術サイド出身のssがあるんだが
別に実際に書いてるわけでもないし、内容が同じようになるとも限らない
何で仮の話しただけで、ケチつけるような真似するんだ?
ましてやあっちは更新が遅いから>>1が知らない可能性だってあるだろうに
もしかして強引な宣伝だったりする?
ageんな
ごめんなさい、ケチつけるつもりなんてまったく無かったんです。
URLを書いたのも宣伝のつもりじゃなくて「どのSSか教えてくれ」って言われるだろうことを見越して書いただけなんです。
当方の言葉が足りなくて気を悪くして申し訳なかったです。
>>1さん、このSSは面白いですから気にせず続けてください。
とりあえずまだー?
>>81さん
いえいえ、お気になさらず
雑談程度なら全然OKですので
実は上条さんが魔術サイドのssって結構あるんですよね
個人的には上条さんがイギリス清教に所属してロンドン在住のssが好きでした
ヒロインは美琴でしたが、シェリーさんが良い味を出してた
続きを楽しみにしてたのですが、残念ながら途中で終わってしまいました
ちなみに自分もローマの幻想殺しを読んでます
同じ作者さんが書いてる上条さんssも好きです
それとなんか最近禁書ss界隈が妙に殺気立ってる気がします
まあ色々と理由はあるんでしょうが、自分は特定のキャラを貶めるようなことは好きじゃありません
だから正直>>68や>>69のような書き込みにはイラッとします
でも皆さんも綺麗にスルーしてくださっているようなので助かります
そして、すみません
今日は早くあがれる筈だったのが、結局残業になってしまいました
そのため投下する分がえらく短い上に中途半端になってます
基本トイレでの話
では投下します
「……疲れた」
そんな愚痴と共に上条は店内に置かれたソファーにドサっと腰を下ろす。
大して何かした訳でもないのに、妙な疲労感に苛まれていた。
まさか女の子の買い物に付き合うのが、これほど大変だったとは。
やたらと時間は掛かるし、返答に困るようなことは聞かれるし、踏んだり蹴ったりな一日だ。
それでも特に不幸な目に遭ったりしたわけではないので、いつもに比べたらマシな日だったのだろう。
「おにーちゃん」
するとジュースを片手に持った佳茄が上条のところに走り寄ってくる。
「おねーちゃんたちにかってもらった!!」
「おー、良かったな」
しかし肝心の女子中学生三人の姿が見当たらない。
「お姉ちゃん達はどうした?」
「おトイレだって」
やはりトイレにゾロゾロ行くのは女の子の特権らしい。
するとトイレという単語を聞いたためか、上条も急に尿意が催してきた。
「悪い、佳茄ちゃん。 俺も少しトイレに行ってくるから、お姉ちゃん達と一緒にここで待っててくれ」
「うん、わかった」
上条は佳茄がソファーに座ってジュースを飲み出したのを確認すると、男子トイレへと向かう。
そしてトイレに着くと、上条は用を足しながら今日一日のことを振り返っていた。
今日初めて会った美琴の友達だという佐天と初春。
彼女達も美琴に負けず劣らず、年相応に活発で明るい女の子達だった。
美琴の後輩で風紀委員でもある白井を通して知り合ったらしいが、特に自分のことを毛嫌いしている様子はない。
少なくとも、意味も分からずに理不尽な暴力を振るわれるようなことはなかった。
二人とも学年の違いはあるが美琴と気兼ねない友人と接しているようだ。
美琴がレベル5であるために、常盤台で少し浮いた存在だということは上条も薄々感づいていた。
強者ゆえの孤独。
そういえば聞こえが良いかもしれないが、まだ十四歳の中学生に過ぎない美琴には酷なことだと思う。
美琴に対等な友人ができたことは上条にとっても嬉しいことだった。
しかし美琴に超能力者ゆえの悩みがあるように、佐天にも無能力者ゆえのコンプレックスがあるようだ。
直接口に出していたわけではないものの、今日の会話だけでも言葉の節々に能力者への羨望が滲み出ていた。
学園都市ではレベルの高さが、そのまま学生の価値へと繋がっている。
単純に支給される奨学金だけ見ても、超能力者と無能力者ではその金額が桁違いだ。
同じく無能力者である上条も、その扱いの違いは嫌というほど分かっている。
ただ自分では佐天が抱える悩みを本当に理解することはできないことも上条は良く分かっていた。
無能力者が抱えるコンプレックスは待遇における不満だけでなく、能力そのものへの憧れも大きい。
それに対して上条は無能力者の烙印を押されてはいるものの、人にはない特殊な力を有していた。
幻想殺し、そして外部の研究機関で植え付けられた制御不能な正体不明の力。
例え認められることがなくとも、それらは能力至上主義とも言える学園都市で少なからず上条の心の支えになっている。
同じ無能力者でも上条と佐天が抱える悩みの大きさが雲泥の差だということは明白だった。
「何にしろ、二人がこのままずっと仲良くしていけりゃあいいんだけど」
そして上条は学園都市における境遇に大きな違いがある二人の少女に思いを馳せる。
超能力者である美琴と無能力者である佐天。
二人の置かれた立場の違いが、二人の間に亀裂を生んでしまうことがあるかもしれない。
友人だからこそ、時に喧嘩するのは構わない。
ただ超能力者とか無能力者とか、そんなくだらないことで二人の関係が変わってしまうようなことにはなって欲しくない。
「って、俺がとやかく心配するようなことじゃねえよな」
いかんいかんと、上条は首を横に振る。
確かに二人の関係については心配だが、少なくともそれは自分が口を挟むようなことではない。
ましてや今の二人の関係は良好なものなのに、悪化するのを想定するなど以ての外だ。
どうも持ち前の不幸体質ゆえか考えがネガティブになってる気がする。
戻ったら下手に態度に出さないよう気持ちを切り替えなければ、と上条が思っていると……。
『緊急警報 緊急警報 お客様にお知らせします 当店にて連続爆破事件の予兆と思われる重力子の爆発的加速が観測されました お客様は店員ならびに警備員・風紀委員に避難誘導に従って 一階入口までお急ぎください 慌てずに指示に従って……』
そんなアナウンスと共に人の危機感を煽るような店内に警報音が響き渡る。
連続爆破事件。
一般人の上条は本来詳しいことを知るよしもないのだが、美琴が白井から聞いた話によると『量子変速』の能力者による仕業らしい。
『量子変速』、端的に言えばアルミを爆弾に変える能力。
だから正確には連続爆破事件ではなく連続虚空爆破《グラビトン》事件。
学園都市を今最も騒がせている事件で、警備員と風紀委員が総力を挙げて捜査に当たっている。
しかし爆発の規模と一致するレベルの能力者が書庫に登録されていないらしく、犯人の特定には至っていないとのことだった。
「くそっ、何でこんな場所でっ!!」
今は週末の真昼間、いつもに比べて店内にいる客の数も恐らく多いだろう。
その分、全員が避難するのに時間が掛かってしまうかもしれない。
そして上条は自分の右手を見つめる。
爆発が能力によるものなら、この右手も役に立つはずだ。
風紀委員である初春を通せば、警備員に協力を申し出ることもできる。
美琴達のことも心配だった上条は、取り合えず皆と合流するために走り出すのだった。
以上です
ここの上条さんの考えは基本的に原作一巻準拠
違和感があったりしたらすみません
なるべくキャラクターは原作に則って大事にしていきたいと思います
今回は異常に短かったので、次はもっと短い間隔で投下したいです
では
乙 期待
あー、出来ればでいいんですけど、今の行間だと少し読み辛いんで、あけてくれると嬉しいです
>>93
そうか?
そんな読みづらいって思わないけど
何で読んでる?
>>94
androidの2chmateだよ?
二人とも、とりあえずsageような
>>1乙
続きも楽しみにしてる
個人的に自分はこのままで良いと思うよ
見える見えるぞ
佐天さんがコンプレックスから幻想御手を使い、挙句の果てに上条さんにフラグが立てられる未来が
それはそうと少し今回の上条さんに違和感を感じて一巻を読み直したら、確かに上条さんって幻想殺しを心の拠り所にしてるって感じなんだな
あの上条さんですらそうなんだから、確かに学園都市はレベル0にとってキツイ場所なのかもしれない
上琴のいちゃいちゃ早よ
くそっ、完全に上条さんが超電磁砲四人を囲む展開じゃねーか
爆発しろ!!
日常描写いいな
初見だが確かに詰まって見辛いような
あと個人的にはカプはあんまいらないです
カプを絡め始めるとほかのヒロインズとの関係難しいし
。このssではみこっちゃんとねーちん二人って言ってるから、片方とくっついたとき余計に荒れそうだから
そもそもバトル物とか再構成好きだけどカプ全般嫌いな人もいるし
まあ今みたいな原作みたいな感じならいいと思う
長文失礼しました
なんで>>2ではっきり注意書きしてあるのに
ごちゃごちゃ注文つける人がいるんだ?
作者が最初に明言したことを捻じ曲げて自分が好きな展開に誘導しようとする人はいい加減自重しなよ
期待できるからこそ、どうしても自分の好む展開を望んじゃうんだろうな
今後はどういう風になっていくか分からないけど、自分は今の状況の上条さんとみこっちゃんの関係は凄く好きです
カップリング要素が強いにしろ弱いにしろ、今のみこっちゃんの上条さんへの想いは下手にベタ惚れよりも自然な感じ
変化があるとしたら原作三巻の再構成以降になるのかな?
書き方については次回の投下で一回試してみてから決めればいいと思います
次回も楽しみにしてます
一応恋心はあるみたいだな
でもそれ以上に上条さんと対等な存在として隣に立ちたいと
特にキャラ崩壊もせずにいい感じ
期待
乙です
続きも楽しみにしてます
感想いつもありがとうございます
書き方については次の投稿で地の文を一行開ける形で試してみます
今日の昼前に続きを投下する予定です
よろしくお願いします
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
来た来た! 楽しみだ!
ご期待の声、本当にありがとうございます
実際にメインで書こうと思ってる戦闘シーンをまだ一回も書いてないのに不安ではありますが
では投下します
「ちょっとアンタ、どこ行ってたのよ!?」
上条が佳茄と待ち合わせしていた場所に向かうと、心配した様子で美琴達が待っていた。
しかしそこに佳茄の姿はない。
「あれっ、佳茄ちゃんは?」
「えっ、上条さんと一緒だったんじゃ?」
「いや、俺はトイレに行くから待っててくれって」
美琴達は佳茄が上条と一緒にいると思っていたのだろう。
その表情に不安が広がっていく。
「こんな状況で小さな女の子が一人でいたんだ。 親切な人が一緒に避難してくれたのかもしれない」
「でも、もし迷子にでもなってたらっ!!」
佐天は半ばパニックを起こしたような状態で金切り声を上げていた。
確かに学園都市では能力者の起こす事件が度々起こるが、ここまで大規模なものに巻き込まれるような人間は殆どいないだろう。
そんな状況で知り合いの女の子が行方不明になっているのだ。
普通の一般人である佐天が取り乱すのも無理はなかった。
「そうですね、楽観視するのは確かに危険だと思います。 とにかく上条さんと佐天さんは急いで避難を!! そして佳茄ちゃんが無事に避難してるかどうか確認してきてくれませんか?」
「う、うん、そうだね」
緊張のため表情が強張っているものの、初春は上条と佐天に向かって適切な指示を飛ばす。
確かにこの状況で無能力者にできることは少ないだろう。
初春も能力のレベルが高いわけではないが、こういう事態に備えて風紀委員としての訓練を積んでいる。
しかし例え素人や無能力者という烙印が押されていたとしても、上条にはできることがあった。
「悪いけど、それは佐天一人に任せていいか? 俺は佳茄ちゃんがいないかどうか店内を見て回ってくるから」
「な、何を言ってるんですか!? もし爆発に巻き込まれでもしたらっ!!」
「爆発の前兆が観測されてから、実際に爆発が起こるまではどれくらいの猶予があるんだ?」
「まだ多少の余裕はあるはずですけど、そんな悠長にしてる時間はないはずです」
「応援の警備員や風紀委員が到着するまでまだ時間が掛かるんだろ? だったら俺が佳茄ちゃんを探して」
「だからそれは一般人の上条さんがする仕事じゃありませんっ!! 佳茄ちゃんは私が避難誘導をしながら探しますから、上条さんは……」
「初春さん、佳茄ちゃんを探すのはコイツに任せましょ」
「御坂さんっ!?」
「いきなりこんなことを言われても困ると思うけど、コイツのことは信用しても大丈夫だから、ね?」
レベル5である美琴の言葉ということもあったのだろう。
困惑した様子ながらも、初春は美琴の言葉に頷く。
自分ではこんなに早く納得させられなかったと、代わりに初春を説得してくれた美琴に上条は感謝するのだった。
「佐天さんも佳茄ちゃんが避難できてるかどうか、確認をよろしくね」
「は、はい!!」
美琴の言葉に頷くと、佐天は避難する人々に混じって店外へと避難を始める。
「初春さん、私も避難誘導を手伝うわ」
「ありがとうございます」
「アンタも無茶するんじゃないわよ!!」
「分かってるって。 そっちこそ気をつけろよ」
「うん、お互いに何かあったら連絡するってことで」
「ああっ!!」
そして上条は佳茄の捜索に、美琴と初春は未だ混乱が続く客達の避難を誘導するために走り始めるのだった。
「やっぱり、ちゃんと避難できてるのか?」
既に店内の殆どを佳茄を探して走り回っていたが、上条はまだ佳茄の姿を見つけることができずにいた。
あれだけ多くの客がいたのだ。
外で佳茄が避難できたか確認しているはずの佐天も、佳茄を見つけられずにいるのかもしれない。
ただ万が一ということもありえるため上条が再び店内の捜索を始めようとしたその時、携帯が着信を伝えるメロディを鳴らした。
『もしもし?』
「美琴か?」
『うん。 佳茄ちゃんなんだけど、こっちで保護したから』
「マジか?」
佳茄が店内にいたのは確かだったようだが、あれだけ走り回って行き違いになってしまっていたらしい。
無事に越したことはないのだが、体から力がドッと抜けるのを上条は感じる。
『他のお客さん達も無事に避難が終わったみたいだから、私達もさっさと外に出ましょ?』
「……そうだな」
本当は爆発が起こる前に、爆弾として利用されているアルミ製品を見つけられれば良かったのだが。
店側には申し訳ないと思うものの、こればかりは仕方ない。
一般人である自分が下手に巻き添えを食って、協力を受け入れくれた初春に責任が及ぶようなことは避けなければならなかった。
『こっちもこのまま外に出……』
上条が角を曲がると、通路のずっと先に美琴達の姿が確認できた。
しかし様子がおかしい。
美琴との通話は途切れて、初春が佳茄を何かから庇うように抱きかかえている。
そして美琴のスカートのポケットから何かが落ちると同時に、店内に凄まじい爆発音が響き渡った。
「ククク……。 スゴイッ! スバラシイぞ、僕の力!! 徐々に強い力を使いこなせるようになってきたッ!!」
メガネを掛けた少年は狂気じみた笑みを浮かべて、人通りのない路地裏を進んでいく。
「もうすぐだ! あと少し数をこなせば無能な風紀委員もアイツラもみんなまとめて吹き飛ばッ……!?」
しかし少年の言葉が最後まで続くことはなく、凄まじい威力で背中から衝撃を受けた少年は路地裏を転がってゴミ箱に突っ込んでいった。
「なっ、一体何が……!?」
そして少年が顔を上げた先にいたのは、不自然なまでに満面の笑みを浮かべた常盤台の制服を着た少女――御坂美琴だった。
「用件は言われなくても分かるわよね、爆弾魔さん」
「な、何のことだか僕にはさっぱり……」
「まあ確かに威力はたいしたもんよね。 でも残念、死傷者どころか誰一つカスリ傷一つ負ってないわよ」
「なっ、そんなバカなっ!! 僕の最大出力だぞ!!」
「ほう」
美琴は佐天や初春達と買い物をしていた最中、この少年を店内で目撃していた。
この少年が持っていたヌイグルミをゲコ太と勘違いしたため、妙に印象に残っていたのだ。
そして爆弾のカモフラージュとして使われていたヌイグルミ。
一日に二回見かけたヌイグルミが、あまり趣味が良いとは思えない造形の同じものだった。
これを偶然と言い切ることはできないだろう。
そして極めつけは今の少年の発言だった。
「い、いや、外から見てもスゴイ爆発だったんで、中の人はとても助からないんじゃないかと……」
尚もシラを切ろうとする少年に、美琴は苛立ちを隠せない。
そして後ろに手を回して少年が何かしようとしているのも丸見えだった。
一閃。
少年が手に取ったアルミのスプーンを美琴の放った電撃が撃ち抜く。
「と、常盤台の『超電磁砲』!?」
美琴の正体に気付いた少年が逃げ出そうとするよりも早く、美琴は少年の手を捻り上げて地面に叩き伏せていた。
「暴れてもいいけど、今の私に手加減できる自信はないわよ」
「ハッ、今度は常盤台のエース様か」
「は?」
「いつもこうだ、何をやっても僕は地面に……ねじ伏せられる」
そう言った瞬間、少年の表情が激変した。
「殺してやるッ、お前みたいなのが悪いんだよ!! 風紀委員だってッ……力のある奴はみんなそうなんだろうが!!」
激しい憎悪。
この少年が風紀委員を狙って事件を起こしていたことは既に知っている。
こんな事件を起こしてしまうほど、少年が精神的に追い詰められていたのは確かだろう。
しかし、
「で?」
少年が浴びせた憎悪の言葉も美琴には全く響かない。
美琴はより一層、少年の腕を捻り上げる手に力を込める。
「があっ!?」
「きっとアンタにも事情があったんだろうし、それはもしかしたら同情できるようなものなのかもしれない。 でも例えそうだったとしても、私はアンタがやったことを許せない。 アンタが風紀委員に何か恨みがあるのは分かったけど、だったら何で関係ない人やあんな小さな女の子まで巻き込むような真似してんのよっ!!」
今回の爆破事件のターゲットは初春で、その初春に爆弾となったヌイグルミを届けたのが佳茄だった。
この少年の言葉から察するに、強い力を持つ人間に憎悪を持っているのは間違いない。
実際は強い意志は持っていても強い力など初春は持っていないのだが、風紀委員全体に少年はそういった印象を持っているのだろう。
しかし例えそうであったとしても、佳茄は別だ。
どこからどう見ても、佳茄は普通の小学生の女の子だった。
美琴も含めて今回の爆破事件で全員が無事だったのは結果論に過ぎない。
確かにあの爆発の威力は凄まじく、一歩間違えれば確実に死者が出ていたはずだ。
強者に憎悪を抱いているにも拘らず、自分より弱者を巻き添えにすることは厭わない。
少年が抱えている矛盾は、どうあっても美琴にとって受け入れられるものではなかった。
「くそっ!!」
「とにかく今はちゃんと罪を償いなさい。 それでもどうしても駄目な時は相談に乗るから」
少年も美琴の言葉で自分の矛盾に気付いたのか、それ以上罵るような言葉を発することはなかった。
そして美琴は連絡を受けて駆けつけた警備員に少年を引き渡すのだった。
「お姉様、犯人逮捕のご協力を感謝しますの」
警備員の特殊車両に少年が連行されるのを美琴が見届けていると、突然隣に空間移動によって一人の少女が現れる。
白井黒子、常盤台の後輩でルームメイトでもある風紀委員に所属する少女だ。
「あれっ? 今回は一般人がー、って怒らないの?」
「今回は犯人の顔を見ていたのがお姉様だけだから特別ですの。 しかしくれぐれも無茶はなさいませんように」
「分かってるって。 それよりもお店の方の状況は?」
「正直かなり酷い状況ですの。 再開までは時間が掛かるかもしれません」
「……そっか」
しかし今回は怪我人も出ていない。
今までの事件も店舗の被害や怪我人こそ出たものの、幸いにも死者は出ていなかった。
あの少年がしたことは決して許せるようなことではないが、今ならまだやり直せるはずだ。
被害にあった店や風紀委員への償いも含めて、今はしっかりと反省してもらわなければならない。
しかし白井から出た次の言葉に、美琴は耳を疑った。
「負傷者一名の病院への搬送も済みましたし、これで虚空爆破事件も完全に解決ですわね」
「え?」
負傷者?
あの時爆発が起こった現場にいたのは初春、佳茄、そして自分と上条だけのはずだ。
爆発が起こる直前、爆弾そのものを吹き飛ばそうとした美琴のレールガンは弾丸となるコインを零し落としてしまったため間に合わなかった。
しかし美琴達と爆発の間に入り込むようにして駆けつけてくれた上条のお陰で、怪我人も出ずに事なきを得たのだ。
自分達がいた場所とは反対の方向に誰かいたのだろうか?
「そんな、せっかくアイツが……」
「やはり爆発からお姉様や初春達を救ったのはあの類人猿なのですね?」
「……気付いてたんだ」
「いくらお姉様といえども、事故現場があのような状態になるとは思えませんから」
爆発が起こったフロアでは、実際に爆発が起こった地点を中心として周囲に酷い被害が広がっていた。
しかしある地点を始点として、まるでバリケードか何かで爆発の進入が防がれたかのように被害が及んでいない一角が存在した。
そこは初春達が保護されたまさにその場所で、何者かによって彼女達が守られたのは明白だ。
白井は上条の能力のことを知っているため、それが誰の手によるものかすぐに分かったのだろう。
「心配なさいませんな、お姉様。 あの類人猿はしっかりと淑女達を守るという責務を果たしてますから」
「どういうこと?」
「今回の爆発事件による負傷者は一人もおりませんの」
「ちょっと、意味が全然分からないんだけど」
白井の言葉は先ほどのものと矛盾している。
負傷者が一名、病院に搬送されたと言ったばかりではないか。
「負傷者の名前は上条当麻」
「え?」
その言葉に美琴は頭が真っ白になる。
上条によって爆発から救われると、美琴はすぐに犯人の少年を探して外へと飛び出した。
もしかして爆発によって傷んだ天井か何かの崩落に巻き込まれてしまったのだろうか?
美琴は犯人を捕まえることだけに頭がいっぱいになっていた自分の迂闊さに嫌悪感を覚える。
それこそ自分の力があれば、それくらいなら防げたはずだ。
力を使う上で何よりも大切なのは誰かを守ることだと、他ならぬあの少年から教わっていたはずなのに。
「症状を診察するに、肉離れで間違いありませんの」
「肉離れって――はぁ!?」
以上になります
前にも言いましたがカップリングはあくまでもオマケ程度になります
ただ美琴がこのssに一番深く関わるのは間違いありません
次点でねーちん、インデックスって形になるのかな?
また美琴の登場回数が多いのに従って、超電磁砲組の出番も増えると思います
では
すみません、追記
書き方について直したり、改善した方が言い点があったらその都度言っていただけると助かります
できればこれまでの書き方と今回の書き方、どっちが良かったかも言っていただけると幸いです。
乙です。
書き方は余り気にならなかったかな?俺は読みにくいとか分かりにくいってのはなかったと思う。
しかし黒子……美琴と2年来の付き合いでも類人猿と呼ばれるのか。
乙!!
今回も楽しかった
介旅に対する美琴の言葉はまさにその通りだと思う
社会に対する不満から通り魔事件起こす奴と何ら違いがないからな
上条さんと美琴の信頼関係も良い感じ
戦闘描写の方も期待してると、プレッシャーをかけてみるw
正直、どっちでも読みやすさは特に変わらないと思う。
ただ、俺はフルハイビジョンモニタで閲覧してるから気にならないけど、スマホみたいな小さい画面で読むときは
改行が多いとスクロールをこまめにすることになって読みにくいんじゃないかと思う。
あと、
「心配なさいませんな、お姉様。 あの類人猿はしっかりと淑女達を守るという責務を果たしてますから」
ここに記入ミスがあったのがちょっと気になったかな。
色々言ったけど、今回も面白かったので次も期待してます。
ただ、肉離れを起こした上条さんがリタイアして事件に関われなくなるなんて展開になったら興ざめかも。
>>123さん
すみません、学が足りないもので
「心配なさいませんな」じゃなくて、「心配なさりませんな」ってことですかね?
ここは妙に長文レス多いな
乙
改行については今回の方が自分的には見やすいかなーっと思う
iPod touchなんだが、改行が少ないとギチギチして読むのがキツい
長文が改行なしにずらっと並んでると読む気でなくて飛ばしちゃうからそのままでもいいと思うよ
2chMate 0.8.6/SHARP/SHL22/4.2.2/LR
今のままでおk
上条さんが肉離れ起こしたのは、やっぱり聖人の力を使ったからなのかな?
爆発が起こる直前はまだかなり遠くにいたみたいだし
>>124
「心配ありませんわ」もしくは「心配なさらないでくださいな」じゃないか?
男でちょっと古風な話し方をするキャラなら「心配なさりますな」という言い方もありかもしれないが。
>>130さん、ありがとうございます
この手の言葉使いは使い慣れないどころか聞きなれないため、正直難しかったりします
あのあとネットで調べてみた結果、「ご心配なさいませんよう」っていうのが一番しっくりきた気がします
まあ何にしろ今回の投下で、黒子の言葉使いが自分にとっての鬼門だったことがはっきりしましたw
皆さんの話を聞くとこの形での投下がいいみたいなので、今後はこの形式に統一したいと思います
あと今日の深夜から明日の朝にかけて、続きを投下したいと思います
よろしくお願いします
おつ
次の投下も楽しみにしてる
すみません、やっぱり少し遅くなりそうです
明日の昼前に続きを投下します
乙です
肉離れってどれくらいで治るんだ
面白いな
ただSS投下する前に、ヒロインは◯◯ですよ、
って最初に決めるのはもったいねえと思うな
予想の範疇は残して欲しかったというか
でも後からわかると必ず文句言う人がでるからね
乙 続き待ってる
>>134
冥土返しがいるから、肉離れくらいは1日で治りそう。
普通ならどのくらいだ?1~2週間かかる気がするけど、1月はかからんよな?
少し遅くなりましたが続きを投下します
カップリングは>>136さんの言うとおり、中には嫌悪感を持つ方もいらっしゃると注意書きのつもりで書きました
自分は上琴が一番好きですが基本的によほど変なものでない限り何でも読めます
ただ禁書ファンの方々は割とカップリングの有無を気にする人が多いようなので
ではまた短いですが、投下します
「肉離れなんて、普通は自然治癒するのを待つしかねえんだけど。 ここは流石学園都市って言うべきなんだろうな」
セブンスミストで起きた虚空爆破事件の後、肉離れを起こした上条は第七学区の病院へと搬送された。
そこでいつも世話になっているカエル顔の医者から治療を受けると、今日だけは安静にしていろと今は病室のベッドで横になっている。
今日一日だけ入院して、明日の朝には普通に学校に行けるらしい。
基本的に置き勉を心がけている上条は教科書類などの忘れ物は心配ないのだが、今日は休日なため着ているのは普通のTシャツに普通のチノパン。
わざわざ制服に着替えるために、早朝に寮に戻らなければならないのは少々面倒くさかった。
「ということで白井様!! どうか私めの制服を寮から取ってきていただけないでしょうか?」
「嫌ですの」
即答だった。
上条が入院することになった病室には現在四人の少女がいる。
一緒に虚空爆破事件に巻き込まれた美琴、佐天、初春。
そして風紀委員として事情聴取も兼ねてお見舞いに来ている白井。
しかし他の三人はともかく、白井の態度は見舞いにきた人間のものとは思えない。
ちなみに佳茄はすぐに暮らしている寮の寮母さんが迎えにきたため、そのまま帰っていた。
「そもそもあなたが普段からしっかり運動なさっていれば、肉離れなんて起こさなかったんじゃないですの?」
「うぐっ」
まるで余計な仕事が増やされたと言わんばかりの辛辣な言葉。
ただ白井のこういった態度が実は表面的なものだけで、実際は正義感の強い優しい少女だということを上条は知っている。
だから本当は怪我したこと自体は心配してくれているのも分かっていたので、上条も笑っていられた。
最初は佐天と初春はこんな二人のやり取りにハラハラしていたようだったが、二人と仲がいい美琴が特に何も言わないのを見て何となく二人の関係を察したのだろう。
そしてそんな舌戦、というよりは上条が一方的に捲し立てられている間に、初春がおずおずと入り込んできた。
「あの、上条さん。 色々と説明してもらいたいことがあるんですが」
「あー、そうだったな」
初春達を爆発から守った時のことを話すには、どうしても自分の力についても話さなければならない。
本当は自分の力をあまり公にするつもりはないのだが、上条は事件現場で負傷し風紀委員に病院に搬入してもらっている。
特に初春には無理を言って協力を申し出たため、事実を話さなければならないだろう。
「……まず最初に確認しますが、私達を助けてくれたのはやっぱり上条さんだったんですか?」
「ああ」
「でも上条さんは無能力者なんじゃ?」
そう疑問の声を上げたのは佐天だった。
別に嘘を吐いたわけではないのだが最初に無能力者だと自己紹介してしまった手前、何となく上条は自分の能力について説明しづらい。
しかしいつまでも黙っているわけにもいかず、上条は自らの右手に宿る力について説明を始めた。
「俺の右手にはどんな異能も打ち消す『幻想殺し』って力が備わってるんだよ」
「それってもしかして都市伝説の?」
「都市伝説?」
「はい、学園都市にはどんな能力もきかない能力を持つ男がいるって」
「……多分、俺のことだろうな」
そう答えた上条の右手を佐天は興味津々といった様子で眺めてくる。
別に深い意味がないというのは分かっているが、流石に少し照れくさい。
「でもそんな凄い能力を持ってるのに、どうしてレベル0という判定なんでしょうか?」
「まあ俺自身は炎や雷を出せるわけでもねえしな。 力の特性上、どうやったって学園都市の身体検査じゃ引っかからないんだよ」
初春の言葉に上条は苦笑を浮かべる。
あらゆる異能を打ち消すといっても、それは打ち消す対象がなければ意味をなさない。
そして上条の右手が必要だという時は、今回の爆破事件のように大抵は危機的状況にある時だ。
何か危険がなければ殆ど意味をなさない力。
言い換えれば上条が必要とされるのは誰かに危険が迫ってる時だけなのだ。
そのことを上条は何となく皮肉に思う。
「でもそんな力を持ってるなんて、やっぱり凄いなー」
しかしそれはあくまでも上条の主観によるものだ。
正真正銘の無能力者である佐天は上条の話を聞いて、羨ましそうな表情を浮かべている。
確かに上条の考えは実際は能力を持ってるからこそ言える贅沢なのかもしれない。
だから上条はそれ以上、自分の能力について語るようなことはしなかった。
そして白井と初春からその後もちょっとした事情聴取を受けて、上条はようやく解放される。
「まあ何にしろ、怪我も酷くなくて良かったわね」
「全く、類人猿のくせにお姉様に心配かけるようなことをして」
「それはアンタが紛らわしい言い方をするからでしょうがっ!!」
そう言って美琴は白井の頭に拳骨を加える。
そして涙目になった白井を見て、佐天と初春が笑っていた。
きっとこれは上条の知らない彼女達の日常なんだろう。
この光景を守れただけで多少の怪我をした甲斐はあるというものだ。
例えそれがリスクを伴う力を使った結果だとしても……。
「おやおや、もう随分と元気がいいみたいだね」
すると上条達が騒いでる病室にカエル顔の医者が入ってくる。
今まで特に気にしたことはなかったのだが、胸元のIDカードにアマガエルのシールが張ってあるのを見るに、やはり本人もその自覚があるのだろうか?
「検診の時間だから、お嬢さん方は少し外に出ていてくれるかな?」
「それじゃあ私達はこれくらいで失礼しますね」
そう言って初春は上条に向かって頭を下げた。
確かに上条が病院に搬送されてからそれなりに時間が経っている。
事情聴取も済んだ今、四人をこれ以上ここに留めておく理由はないだろう。
「おう、今日はお疲れさん」
「上条さんもお大事に」
そして初春と佐天は再び上条に向かって軽く会釈すると病室の外に出る。
しかし何故か病室に残った美琴は、少し頬を染めて上条に向かって手を突き出していた。
「えっと、美琴さん。 それは一体どういう?」
「さっさと部屋の鍵を渡しなさいよ。 制服なら取ってきてあげるから」
「マジで!!」
上条はポケットから部屋の鍵を取り出すと、美琴の手のひらに乗せる。
「でも何か悪いな、無理強いをするつもりはなかったんだけど」
「べ、別に大した手間じゃないわよ。 黒子に送ってもらえばあっという間だし」
「えっ、でも白井は……」
「お姉様に頼まれれば話は別ですの」
「……サンキューな」
何だかんだ風紀委員に所属している白井も面倒見がいい少女だ。
さっきはああ言っていたが、本当は最初から制服を届けてくれるつもりだったのかもしれない。
そして上条はもう一つ白井に頼まなければならないことがあった。
「それと白井、今日の件なんだけど」
「分かってますの、調書の件は適当に誤魔化しておきますわ。 初春にもその辺は伝えておきますので」
上条は自分の力についてあまり広めようとは思わないものの、別に隠しているわけではない。
その証拠に先ほど佐天が話していた都市伝説にも上条の話が加わってるくらいだ。
ただ風紀委員などによる調査で自分の力が多くの人間の目に付くようなことはやはり避けたい。
上条にも幻想殺しが少々特殊な力だという自覚くらいはある。
自分の意思で突っ込むならともかく、面倒ごとに巻き込まれるのは嫌だった。
「じゃあ後でまた来るからね」
「ああ、よろしくな」
そして美琴と白井も病室を出て行く。
病室に残されたのは上条とカエル顔の医者だけだ。
「うん、実にモテモテだね」
「そんなんじゃないですよ」
上条は体の向きを変えてベッドから足を下ろすと、カエル顔の医者から触診を受ける。
まだ両足に違和感は感じるものの、既に普通に動かせるくらいには回復している。
「またあの力を使ったんだね?」
「……すみません」
「今回は事情が事情だったから、とやかく言うつもりはない。 でもこれだけで済んだのは本当に運が良かっただけなんだ。 そのことはしっかり自覚しているね?」
「はい」
そう今回は本当に運が良かっただけだった。
例え足全体それも両足が重度の肉離れを起こしたのだとしても、それだけで済んだのは本当に幸運なことなのだ。
「僕は君が初めて学園都市に来たあの日、君の両親が浮かべていた表情を今でもはっきりと覚えている」
「……」
「まだ子供の君に言っても実感は沸かないかもしれないけど、君の命、君という存在は色々なものに支えられて成り立っている。 だから例え何があったとしても、君は自分の存在を軽んじてはならないよ」
「……はい」
「ふむ、何だか説教臭くなってしまったね。 辛気臭い話はここまでだ。 とにかく今後も極力無茶は控えるように」
カエル顔の医者は上条の足にテーピングを巻き終えると、パシッとその足を叩く。
電流を流されたかのような鋭い痛みに上条は身体を仰け反らせるが、カエル顔の医者はそれを見て笑っているだけだった。
「ところで一つだけ聞いていいかい?」
「……なんですか?」
「結局どの子が本命なのかな?」
「はぁ?」
「常盤台の二人は今まで見たことがあったけど、他の二人は初めてだよね? 男たるもの色々な女性に目がいってしまうのは仕方ないとは思うけど、青少年は青少年らしい健全な付き合いを……」
「いきなり何言ってんだ、アンタは!? っていうか、アイツラ全員まだ中学生ですよっ!!」
「年が二つ三つ違うくらいは問題ないと思うけどね」
「そりゃ年齢がある程度いってたらそうなんだろうけど、中学生に手を出すのは色々とアウトなの! アウトなんだよアウトなんです三段活用!!」
「そうなのかい? となると、しょっちゅう病院に運ばれてくる君はもしかして看護婦さん属性なのかな?」
「話が飛躍し過ぎだっ!! 別に俺は特定の属性は持ち合わせてねえよっ!!」
「そうなのかい? せっかく同好の士ができたと思ったのにね?」
何故かカエル顔の医者は悲しそうな顔をして、帰るとだけ言い残して病室を出て行った。
学園都市に来てから随分と長い付き合いになるが、未だ上条はあの医者が何を考えているかよく分からない。
世話になっているのは違いないので、本当ならあまり大きな態度には出れないのだが。
カエル顔の医者との会話のせいでドッと気疲れしたのか、上条は布団に潜り込むと美琴達が帰ってくるまで眠りに就くのだった。
以上です
次は少し遅くなるかもしれません
また目処が立ったら投下予告します
では
すみません、少しだけ修正
>>146
「そうなのかい? せっかく同好の士ができたと思ったのにね?」
→「……そう、せっかく同好の士ができたと思ったのにね?」
まさかの上冥とは珍しい
期待
乙
そうだよなあ、やっぱり他人の目から見ればJC4人をはべらせてるハーレム男にしか見えんよなあ。
カエルワロタ
本当キレイにキャラ書いてるな
キャラ崩壊とかもなくて読みやすい
冥土帰しも良いキャラしてるし
上条さん強化ssとはいえ、無双にもならなそうで安心してる
ってか今回の怪我で運が良かったんだとしたら、運が悪かったらどうなっちまうんだ?
>>153
筋肉及び腱の断裂、粉砕骨折くらいいくんじゃね?
普通の人間の体で、聖人の動きを再現するようなもんだろ?下手すりゃチギレ飛ぶんじゃ。
聖人は生まれてからすぐに自己防衛本能から力を安定させる術を実践してるらしい
ただ上条さんは中の人の力を後天的に使えるようになったから、力の制御の仕方を知らない
普通の聖人と色々違う部分はあるけど、基本的な力の使い方をねーちんに教わるのかもな
上条さんが魔術はともかく七教七刃みたいな天草式の技を使うこともあるかもしれない
確かにそんな展開になったら胸熱だが、あんまり展開を好き勝手予測すると>>1が書きづらくなるだろうから自重しよう
乙!!
何か思ったよりも筆が早く進んだので、多分今日の夜(PM)に続きを投下できると思います
よろしくお願いします
木山せんせーと上条さんの対面シーンに期待。
脱ぎ女とフラグ男が交差するとき、美琴のビリビリが爆発する。
待ってるの~
すみません、少し遅くなりそうです
1時前には投下します
すみません、遅くなりました
今から続きを投下します
まさか自分のssで展開予測をしてもらえるようなことがあるとは思いませんでした
中にはドキリとするようなことも書いてあったりして、嬉しかったりどうしようか悩んだりします
どんな内容であれ、やはり感想レスをもらえるとモチベーションが上がりますね
では投下します
「ねえ、黒子はどう思う?」
「それは先ほど見つけた如何わしい本のことですの? それともお姉様が今手にとっている類人猿のパン……」
「ち、違うわよ!!」
美琴は現在、白井と共に上条が暮らす寮の部屋にいた。
上条に頼まれた制服を取りにきたのだ。
そのついでに下着の替えも必要だろうと、仕方なくタンスに入っていた下着を手に取っている。
別に変な意図や意味など全くない。
ちなみに如何わしい本というのも決して家捜しをしたわけではなく、堂々と机の上に置いてあったのだ。
男子高校生が持つには不適切なものであり、ついでに中身が非常に気に入らなかったので今は黒焦げになって処分済みだが。
「そうじゃなくて、アイツの今回の怪我について!!」
「確かに気に掛かる点はありますわね。 あの頑丈さが取り柄のような類人猿が少し動いただけで、あんなに酷い肉離れを起こすとは思えませんの」
「そうなのよね。 アイツがしょっちゅう怪我をしてるのは知ってるけど、肉離れっていうのはどうも違和感があって」
上条が普段から大なり小なり色々な厄介ごとに首を突っ込んでいるのは、美琴も白井もよく知っている。
美琴としては、そのことを知るのが殆どは事件が解決した後というのが非常に腹立たしいが。
とにかく上条はそういった厄介ごとに巻き込まれているせいか、身体がかなり頑丈だった。
そんな上条が少し無理な動きをしたくらいで、あそこまで重度な肉離れを起こすとは考えにくい。
「体を動かしたのとは別に、何か負荷が掛かったということでしょうか?」
「何にしろ無茶なことをしてなきゃいいんだけど」
「……認めたくはありませんけど、お姉様とあの類人猿はよく似ていますの」
「え?」
「基本的に周りの人間の心配など気にせずに無茶ばかりする。 近くにいる人間はこれでも結構大変ですの」
「うっ!? わ、悪かったわね」
「いえ、それがお姉様の魅力の一つだということも分かっていますから。 ただお姉様があの類人猿の隣に立ちたいと願っているように、黒子がお姉様のことを支えたいと思ってることも忘れないでくださいまし」
「……うん、ありがとう。 黒子は私の大事なパートナーだからね」
「そう、お姉様のパートナーはわたくしですの。 ですからパートナーとしての親睦を深めるために、二人だけでめくるめく愛の世界へと!!」
「って、結局アンタはそれかいっ!!」
空間移動を使って突然抱きついてきた白井を美琴は電撃を使って撃退する。
普段の白井が本当に良い子だというのは理解しているのだが、こういったノリにだけは残念ながらついていけない。
自分は至ってノーマルで、できれば将来一緒になりたいと思っている相手もいる。
そして白井の過激なスキンシップから美琴は何とか逃れたものの……。
「あっ」
上条の部屋に置いてある家電のいくつかが煙を上げてショートしていた。
(これって私が悪いのよね? ……うん、私が悪い。 だからちゃんと弁償するために、アイツと一緒に家電量販店に行かないと)
そうして美琴はこの件は自分の責任だと結論付ける。
しかし出費が嵩むことになったにも拘らず、何故か美琴の表情には笑顔が浮かんでいたのだった。
「……不幸だ」
翌日、上条はそう呟きながら学校に向かう道をトボトボと歩いていた。
病室に戻ってきた美琴から聞かされた、家電のいくつかをお陀仏させてしまったというカミングアウト。
弁償してくれるとは言っているものの、貧乏性の上条は例え自分のお金でなくとも余計な出費を好まない。
それも制服を取りに行ってくれと自分で頼んだ結果なので、美琴に全て弁償させるのも悪い気がする。
本当に生活に必要なもの以外は、しばらく我慢するのは仕方ないだろう。
「カーミやん!!」
すると突然後ろから声を掛けられると同時に背中を叩かれる。
上条が振り向いた先にいたのは、金髪にサングラスという格好で身長は180cm程度の長身の男だった。
「何かあったのかにゃー、カミやん? いつもに増して辛気臭い顔してるぜよ」
「何だ、土御門か」
彼の名前は土御門元春。
上条のクラスメイトで基本的にいつもつるんでる悪友の一人だ。
「別に大したことはありませんことよ。 普段と変わらぬ不幸を嘆いていただけだ」
「まあカミやんの不幸は筋金入りだからにゃー。 でも不幸不幸言う割には、ちゃっかり美味しい思いもしてると思うんだけどにゃー」
「美味しい思いって、いつそんなラッキーイベントが上条さんにあったんだよ?」
「またまたー、女の子を四人も侍らせて買い物してたのはとっくに把握済みぜよ」
「もしかして昨日のことか? ありゃ侍らせてたんじゃなくて、逆に荷物持ちとしていいように使われてたんだよ」
「女の子に使われるって、そんなに美味しいイベントは他にないと思うけどにゃー」
「青ピと違って、俺にそんな特殊な属性はねえっつうの!! っていうか見てたなら声を掛けてくれりゃ良かったのに」
女の子四人に囲まれて、上条は実際にかなり気まずい思いをしていた。
そこに友人が一人でも加われば、掛かった心労も幾分か減ったように思う。
「純真無垢な俺にあの空間に突撃するような勇気はないんだぜい」
「まあ童貞捨てるために金髪にしてるとか言いつつ、リアル義妹にラブなシスコン軍曹だからな」
「キサマ、その名で俺を呼ぶな!! 大体何の根拠があってそんなことを言う!?」
「おい、妙な口調がなくなってるぞ。 法律で許されるからって、何をやってもいいわけじゃねえだろ、な?」
「や!? や、ややややヤルって、な、何を? ナニを!?」
「本気であの薄っぺらい壁の寮で隣部屋の俺に気付かれてないとでも思ってたのか? お前はともかく、次の日に舞夏と出会った時の気まずさっていったら……」
「人の義妹を呼び捨てにするなーーーー!!!!」
そして変なポイントで突然キレ始めた土御門を相手に上条は取っ組み合いの乱闘を始める。
他所から見れば本当にくだらないただの馬鹿騒ぎ。
ただ当人達にとっては、そんなくだらない騒ぎも掛け替えのない大切な日常なのだった。
「ねえ、カミやん。 幻想御手って知ってる?」
時間は少し流れて、三限目と四限目の間の休み時間。
二限目の途中、上条はふと今日の昼食を用意してないことに気が付いた。
今日は馬鹿みたいに混む購買か、完全にキャパ不足な食堂のどちらかで猛者達を掻き分けて昼食を取らなければならないと落ち込んでいたのだが、上条の不幸はそこで終わらない。
残金を確認すると残り98円。
残念ながら購買の最安商品であるコッペパンにも2円足りない。
本当は昨日の段階でお金が絶望的に少ないのは気付いていたのだが、ATMでお金を下ろす前に連続爆発事件に巻き込まれ、そのことをすっかりと忘れてしまっていた。
自業自得と言えなくもないが、爆発事件に巻き込まれたことを考えれば、やはり不幸に含まれるだろう。
そして必然的に午後はパックジュースだけで乗り切らなければならないことが決まっていたため、無駄な体力の消耗を抑えようと机に向かって突っ伏してしたのだが……。
「れべるあっぱー?」
「そう、幻想御手《レベルアッパー》。 巷じゃ結構噂になってるんやけど、知らへん?」
上条が顔を上げた先にいたのは青髪にピアスという、土御門に負けず劣らず奇抜なセンスの大男だった。
あだ名は見た目通り青髪ピアス。
土御門と同様に上条の悪友の一人で、三人揃ってクラスの三バカ《デルタフォース》などと不名誉な名前で呼ばれている。
「そういえば、佐天がそんな話をしてたような……」
確か能力のレベルを簡単に引き上げられるとかいう話だった気がする。
本人があくまでもネット上の都市伝説みたいなものに過ぎないと言っていたので、上条もあまり気にしてはいなかったのだが。
「佐天って……また女の子の知り合いかいな、このフラグ野郎!!」
「何でお前はいきなりキレてるのっ!? っていうか、佐天が女の子だなんて言ってないよな?」
「カミやんから知らない名前が出る時は殆どが女の子やないか!! 女の子って言っとけば十中八九は正解やろ」
「何じゃそりゃ」
「それで男と女の子、結局どっちなん?」
「そりゃ女の子だけど……」
「……」
そして上条を襲ったのは無言のまま放たれた拳。
椅子に座って机に頬杖をついていた上条に当然避けられるはずもなく……。
「痛ってーな!? 何しやがる、このエセ関西弁!!」
「これは世の中のモテない男子全員の想いを乗せた拳やっ!! ただでさえ世の中っていうのは女の子に比べて男の比率が高いってゆうのに、カミやんのせいでどれだけ泣く男子が出るか自覚はあるんかっ!?」
もはや意味が分からない。
今までモテた経験など一度もなく、生まれてこのかた彼女すらできたことがない。
フラグフラグ言われても、仮に立っているとするならば、それは駄フラグばかりに決まってる。
教室を見渡すと何故か男子達は青髪ピアスに同意するかのように恨めしい視線を向けてくるが、女子に至っては顔すら合わせてくれない。
この状況のどこをどう見れば、人がモテるなどという妄言が吐けるのだろうか?
「漫画かラノベの鈍感系主人公かっ!! 今日という今日は、お天道様に代わって僕が天誅を……」
そう言って構えを取った青髪ピアスを迎え撃つべく、上条も構えを取ったものの……。
「やかましいっ!!」
そんな怒鳴り声と共に、青髪ピアスの顔面に拳が突き刺さり、上条には強烈な頭突きが見舞われる。
青髪ピアスに殴られたのとは違って、正真正銘の激痛。
上条は額に手を当てて悶絶しながら、突然の暴力を振るった主を確認する。
「貴様達は一人欠けてたとしても、充分に騒がしいわね」
「ふ、吹寄」
そこに立っていたのはクラスメイトの一人、吹寄制理だった。
またの名を、美人なのにちっとも色っぽくない鉄壁の女。
確かに美人で夏服のためか持ち前のスタイルの良さが一段と際立っているが、全く色気のようなものは感じない。
雰囲気から既に堅物のオーラが漂っており、まさに委員長気質といった感じだ。
実際にクラスの学級委員を務めているのは今しがた吹寄から手痛い制裁を食らった青髪ピアスの方なのだが。
クラスで馬鹿ばっかりやっているデルタフォースを生徒の中で唯一完全に沈黙させられる存在としても吹寄は一目置かれている。
一人欠けているというのはもちろん土御門のことで、どうやらトイレか何かに行っているらしい。
「全く、馬鹿騒ぎで周りに迷惑掛けてるんじゃないわよ」
「す、すみません」
吹寄にはデルタフォースの誰一人として逆らうことができないため、上条と青髪ピアスはひたすら平謝りするしかない。
「それで一体何が原因であんな馬鹿騒ぎしてたのよ」
「……あれ?」
そもそも何の話をしていたのか、上条はすっかり頭の中から抜けてしまっていた。
何処から話が脱線したのか、上条は必死に青髪ピアスとの会話を辿っていく。
早く答えないと、吹寄から再び手痛いお仕置きを食らってしまいそうだ。
そして佐天が女の子かどうかという話の前に話題に上がったのは……。
「そうそう、レベルアッパー。 レベルアッパーだよ!!」
「……幻想御手って、あの能力を上げるっていう?」
「あれ、吹寄はんも知ってはるの?」
「ちょとくらいはね」
「どっかの学者が残した論文とか料理の料理のレシピとか色んな噂があるんやけど、中々本物には辿りつけないんや」
「ふーん」
興味がないわけではないが、上条にはあまり関係のない話だった。
例えその幻想御手とやらを使っても、幻想殺しがパワーアップするとは考えにくい。
「別にレベルの高さ自体にはあんまり興味はあらへんけど、レベルが上がって奨学金が増えればちょっとは贅沢できるんやないかって」
「それはやめといた方がいいと思うだにゃー」
するといつから居たのか、土御門が会話の中に加わってくる。
「上手い話には裏があるっていうのが世の常ぜよ。 人間地道が一番。 あんまりおいそれと得体の知れないものに手を出して、しっぺ返しを食らってからじゃ遅いんだにゃー」
「……」
「確かにそうかもしれへんね」
「それに差し当たっての問題はレベルを上げることなんかより、次は移動教室なのに殆ど時間がないってことじゃないかにゃー?」
「げっ!?」
教室に掛かった時計を見ると、次の授業まで残り二分しかない。
よく見るとクラスメイトは既に移動の準備を済ませて、教室を出て行くところだった。
そして上条以外の三人もちゃっかりと授業の仕度を済ませている。
「それじゃあ、カミやん。 先に行ってるにゃー」
「くそ、薄情者!!」
そう言って教室を先に出て行った土御門と青髪ピアスに対して上条は毒づく。
そして上条も急いで教室を移動する準備を始めるのだが……。
「ねえ、上条」
「あれっ、吹寄まだ残ってたのか? 俺のことはいいから先に……」
「上条は幻想御手についてどう思う?」
「どうした、急に?」
「ほら、土御門がさっき言ってたじゃない? 人間地道が一番だって」
「……俺は別に簡単にレベルを上げるってこと自体はそこまで否定的じゃないかな?」
「そうなの?」
「俺の知り合いにレベル1からレベル5にまでなった奴がいるんだけどさ」
「それって常盤台の御坂さんのこと?」
「あれっ、美琴のことを知ってるのか?」
「レベル1からレベル5になったって、常盤台の『超電磁砲』は能力の開発における模範として有名じゃない」
「へー」
随分と長い付き合いになるのに、美琴がそんな風に周りから見られているのを上条は知らなかった。
もしかしたらそれは上条が『超電磁砲』としての御坂美琴ではなく、普通の女の子として美琴に接してきたからかもしれない。
それ以上に能力開発の授業の大半を上条が聞き流してたという部分も大きいのだが。
とにかく美琴が単にレベル5としてではなく、その努力が認められているというのは上条も嬉しかった。
「んで話を元に戻すけど、俺は美琴とそれなりに長い付き合いなんだよ。 それで俺は美琴が能力を伸ばすのに一生懸命努力してるのを間近で見てたわけだ。 ただふとした時に思っちまったんだよ、これだけ努力してるのにもし報われなかったらどうなっちまうんだろうってな」
「……」
「美琴はそのまま能力を上手く伸ばしていったけど、中には同じように努力してるのに報われない人間がいるかもしれない。 外で見てただけの俺がそう思うくらいなんだから、本人からしたら絶対に悔しいに決まってる」
「確かにそれはちょっと理解できるわね」
上条は吹寄もその努力家の一人だということを知っていた。
普段から勉強は真面目に取り組んでいたし、能力上昇パンという薬のようなパンを手に取りつつ能力開発も熱心に受けている。
しかし能力開発に関しては芳しい成果を挙げられているとは言えないだろう。
「まあ同じ努力をしたって、同じ結果を得られないのはスポーツなんかと同じだ。 そりゃ人には才能ってもんもあるだろうし。 ただ努力を続けてる人間が少しだけでも報われるような結果があってもいいんじゃないかって」
「でもそれで誰も彼もが能力を上げちゃうんじゃ意味がないんじゃない?」
「ははっ、そりゃそうだ。 でも俺みたいに普段からサボってる奴はともかく、真面目な奴に芽が出るのはいいことだと思うけどな」
「……そうかもね」
「まあ土御門の言う通り得体の知れないものっていうのは確かだろうから、不用意に手を付けるような真似はやめた方がいいのは確かだろ」
「悪かったわね、変なこと聞いて」
「別に気にすることねえよ……って、そんなことより遅刻!?」
「それじゃあ、お先!!」
「おいっ!!」
そして上条も急いで準備を済ませ次の授業が行われる教室に急ぐのだが、不幸なことに廊下を走ってるところを生活指導の災誤に咎められたり、絶対に必要な教材を教室に忘れたことを途中で気付いたりと完全に授業に遅刻してしまう。
どうやら吹寄はギリギリ間に合ったらしく、上条は一人で担当の教師から昼休みまで小言を食らう羽目になるのだった。
以上になります
次回は上条さんとみこっちゃんの絡みが増えると思います
では
荵吶↑繧翫¢繧九?
どうやらみこっちゃんが上条さんの部屋の家電を壊す味を覚えたようです
それにしてもカップリングがあるって書かれてるのに、ここの上条さんは原作ばりに誰かとくっ付く姿が想像できないなw
モブ男子(上条爆発しろ!!)
やっぱりクラスでの日常描写もいいな
今回のヒロインは吹寄なのかな?
>男子高校生が持つには不適切なものであり、ついでに中身が非常に気に入らなかったので今は黒焦げになって処分済みだが。
巨乳もののエロ本だったのですねわかります。
とりあえず禁書が好きってことは伝わってくるssだな
期待
乙です
土御門、お前って奴は…
そりゃ上条さんだって、エロ本の一つや二つなきゃやってらんないわ
みこっちゃんはその…頑張れ
おつおつ
如何わしい本を机の上に堂々と放置している上条さんは漢の鏡
吹寄に少しでもスポットが当たってくれることに期待
カップリングが上琴って明記されてるからカップリングに拘りがある人はあれだけど、普通の人から見たらカップリング関係なしに楽しめる内容だからな
日常の描写も禁書っぽいノリの再現率が高いと思うから、この調子で頑張って
そろそろ上琴描写が欲しい
カップリング描写に力入れるとせっかくの原作っぽい雰囲気が
壊れるかもしれんので>>1のいう通りあくまでおまけ要素でいいんじゃないかね
書き手がどういう物語を書こうって絵図がはっきりと決めて書いてるようだしそうそうブレる事は無いと思うから安心して読める
肉付け部分で少しそれっぽいシーンが長く書かれるとかそんくらいはあるだろうけど
なんで美琴だけで解決できる事件にカス条を介入させるの
ホント、カス条厨は節操がなくて気持ち悪い
さっさと死ねばいいのに
>>188
だったら見んなよ
超電磁砲再構成なんだから上条さんが介入したっていいだろ
俺は正直超電磁砲見てる時でも上条さん出てくるの待ってたし
イチャイチャはよ
マジで主人公補正でしか勝てないカス条はどうしようもない
一方通行の方が遥かに主人公らしいし、浜面が麦野に勝った時の方が遥かに納得できる
カス条と戦う度に弱体化される敵が可哀想で仕方ない
原作で主人公補正でしか勝てないからって、強化するようなセコイ真似してるんじゃねえよ
お前誰と戦ってんの?
>>191
かまちーじゃね
神ならぬ身にて天上の意思に喧嘩を売る者
一人で2ちゃんも含めた色んなスレ出張とは大変だな
何か色んなスレが大変なことに
まあ>>188さんが言ってることはもっともなので、そこら辺は少し工夫したいと思います
今日の恐らく21時から23時の間に着ます
美琴と上条の二人でコンビを組んで事件を解決するというのがこのSSの魅力なんだから、
上琴コンビTSUEEEE!! どの敵も瞬殺!! てなことにならなければそれでいい。
荒らしの言うことをまともに取り合わないほうがいいと思うぞ。
そもそも上条さんが出なかったら、原作漫画とどう展開が違うんだ? ってことになるし。
>>188
死ね
色んなスレに湧いて毒電波撒き散らしてんじゃねぇよ
>>190
一方通行と浜面も主人公補正半端ないぞ?
お前本当に原作読んでんの?
>>195
この糞野郎、色んなスレに湧いてるただの荒らしだよ
上条さんがメインのスレに湧いてる所を見るに性質の悪い上条アンチ
まともに相手しなさんな
まともに相手しなさんなってそれに触りながら言う滑稽さ
今回は何とか予告通りの時間に投下できそうです
原作に近い雰囲気とか言ってもらえると、こんなssにはもったいない言葉だと思いつつも嬉しいです
まあ原作に近い雰囲気っていうのも、原作を参考にしてる部分が大きいからのような気がします
自分は二次創作っていうのは原作ありきのものだと思ってるんで、原作を踏まえつつ少しはオリジナリティを出していけるよう頑張りたいです
では投下します
「何でアンタまで付いてきてるのよ?」
「お姉様とあの類人猿を二人きりでデートさせるわけにはいきませんの」
「で、デート!? こ、これは壊しちゃった家電を弁償するだけで、べ、別にデートってわけじゃ!!」
「おーい、配送の手続き終わったぞ」
美琴と白井が攻めと牽制の入り乱れた女同士の熾烈を極める争いをしてることなど露知らず、上条は呑気な様子で二人の間に割って入る。
放課後、上条は壊れた家電の代わりを探しに美琴と白井と一緒に家電量販店にやって来ていた。
そして値段が安い割に高性能な品を既に購入済みである。
尤も気に入った商品は不幸なことに全て品切れで、数日後の発送となっていたが。
そこら辺は流石と言うべきか、今日も上条の不幸は通常運転だった。
「ところで白井、俺達に話したいことって何だよ?」
「あれっ、アンタ最初からコイツに用があったの?」
「昨日の虚空爆破事件で、お二人に確認したいことがありましたの。 ここではなんですので、少し場所を移しましょうか?」
そういって歩き始める白井の後に上条も美琴もついて行くのだが……。
「このクソ暑いのに、わざわざ外じゃなくても」
「う、うるさいですわね。 遠くから見えたカキ氷が美味しそうだったのがいけませんの!!」
「カキ氷だったら、カロリーとか気にしなくてもいいもんね?」
「お、お姉様っ!!」
「私は気にする必要なんて全然ないと思うんだけど、アンタはどう思う?」
「そこで俺に振るっ!?」
今も美琴に食いついている白井を上条は横目で見る。
美琴の言うとおり、ダイエットが必要な体型には思えない。
強いて言うならば、ある部分は寧ろもう少しボリュームがあった方がいいのではと思った瞬間、
「ぶごっ!?」
もう何回目になるか分からない、もはやお馴染みになった後頭部への衝撃。
それが空間移動して白井が放ったドロップキックだと理解する間もなく、上条は前のめりに地面へと倒れ込む。
そしてその背中を再び空間移動した白井が踏み付けた。
「な、何しやがるっ!?」
「いえ、非常に邪なことを考えていたようですので」
「……」
確かに上条の考えていたことは、とてもでないが本人に聞かせられるようなものではない。
こう言われてしまうと、上条も黙ることしかできなかった。
そして上条がふと顔を上げると、何故か美琴までもが不機嫌そうな表情で仁王立ちしている。
「あのー、何であなた様までもが不機嫌になってるんでせうか?」
「何か妙に私も馬鹿にされた気分になってね」
「いくらなんでも、それは被害妄想だろっ!!」
そして何やかんや二人から糾弾されること十数分。
カキ氷を食べる美琴と白井の前で正座する形で、上条は昨日の虚空爆破事件について二人と話し始めた。
「では、お姉様。 まず最初に大前提としての質問をさせていただきますの」
「ええ」
「昨日の虚空爆破事件、犯人はお姉様が捕まえた男で間違いないんですの?」
「そうだけど」
「……では類人猿」
「こんな時くらい類人猿はやめて欲しいんだが」
「そんな些細なことはどうでもいいですの」
「……」
白井と知り合ってから数ヶ月。
最初こそ白井も『上条さん』と年上に対する最低限の礼儀を持って上条に接していたものの、今では完全に類人猿という呼び名が定着してしまっている。
それがいつからだったか思い返すと、白井が風紀委員として担当していた事件に美琴と一緒に首を突っ込んだ時がキッカケだったように思う。
首を突っ込んだと言っても事件を解決へと導いたのは殆ど美琴で、上条は偶々その場に居合わせただけのようなものだったが。
それ以前からトラブルの現場で上条は白井と鉢合わせたことが数回あり、その時はまだここまで一方的に嫌われてはいなかった気がする。
そして美琴と白井の関係も今とは違い、ただ同じ学校の先輩後輩といった感じだった。
それがその事件を通して急激に変化し、今では白井は美琴のことをお姉様と猛烈に敬愛し、上条に対してはご覧の有様である。
別に邪険にされることは構わないのだが、やはり年下の女の子に類人猿と呼ばれるのには少し抵抗があった。
「昨日の事件の爆発はどれくらいの威力でしたの?」
「どれくらいの威力って言われてもなあ……。 俺は量子変速の能力について詳しいわけじゃないから何とも言えないけど、かなり高位の能力者じゃなきゃあの威力は出せないじゃねえの?」
「そうね、大能力者クラスの威力はあったと思うわ」
「……実はお姉様が昨日確保した容疑者の『書庫』に登録されたレベルは異能力《レベル2》判定となってますの」
「え?」
「お二人の仰る通り事件現場を検証しても、あの爆発はレベル4クラスの能力者が起こしたと見て間違いありませんの。 ただ容疑者のレベルと食い違っているため、風紀委員や警備員でも混乱しておりまして」
「犯人の登録されたレベルと被害の状況が食い違ってるってことか……」
そうなると考えられるのは最も最近に行われた身体検査から急激に能力を伸ばしたという可能性だが、本当にそんなことがありえるのだろうか?
上条自身は無能力者で能力開発にも真面目に取り組んでいるわけではないが、能力開発が年単位の時間を掛けてゆっくり行われるものだということは知っている。
ただ今日の日中に学校で聞いた噂話と今回の事件、どうもタイミングが良すぎる気がした。
「なあ、昨日の佐天の話を覚えてるか?」
「昨日の佐天さんの話って……ああっ、あのレベルを簡単に上げられるっていう」
「何の話ですの?」
上条は昨日の佐天との会話と教室で聞いた話を含めて、白井に幻想御手について広まっている噂話を説明する。
しかし白井にとってはやはり簡単には信じ難いものらしく、訝しげな表情を浮かべていた。
「使うだけで簡単に能力のレベルを引き上げられる? 本当にそんなものが存在しますの?」
「まあ俺も噂話を聞いただけだし。 ただこのタイミングで出てきた話を偶然で済ますわけにはいかねえだろ?」
「それでどうする? 情報を探るにしても、私達じゃ知らないことが殆どだし」
「その噂話を探ってるというご学友から話は聞けませんの?」
「呼べば飛んでくるだろうけど。 いいのか、そいつって青ピのことだぞ?」
「げっ!?」
その名前を聞いた瞬間、白井の表情がまるで不快なものでも目の当たりにしたように歪む。
青髪ピアスが今年度に入ってから風紀委員に職務質問された回数は実に19回。
そしてその八割以上が白井が行ったものだった。
やがて職務質問を重ねる内に青髪ピアスの持つかなり特殊な性癖が徐々に露呈していき、今では姿を見かけるだけで衝動的にしょっぴきそうになってしまうらしい。
上条から見ればどちらも大差ないように思えるのだが、以前そのことを口にした際は白井によって酷い目に遭わされていた。
「それは絶対に遠慮いたしますのっ!!」
「となると、私達の知り合いでその話に詳しい人っていえば……」
「あれっ、御坂さんと白井さんじゃないですか?」
そして非常にタイミングが良いことに、上条と美琴がまさに思い浮かべた少女が公園に現れる。
佐天涙子、まさに上条達が幻想御手を知るキッカケとなった少女だった。
「それに上条さんも、って何で地べたで正座してるんですかっ?」
「これには深い事情がありまして……」
女子中学生に哀れみを込めた視線を向けられるとは。
上条は何とも言えない虚しい気分になるが、今はそんなことを言っている場合ではない。
簡単な事情を説明した上で更に幻想御手について詳しい情報を持っていないか、上条達は佐天に尋ねた。
「すみません、あたしも別に幻想御手について詳しいわけじゃなくて。 聞いたことがある噂も上条さんのお友達の話と殆ど違いはないですね」
「そっか」
「あっ、そういえば」
「何か他にも知っていることがあるんですの?」
「あんまり当てになるか分かりませんけど、ネットに幻想御手を使ったって連中が書き込みをしてるんですよね。 ただ怪しい連中っていうか不良っぽいのばっかで、イマイチ信用性がないっていうか」
「でも他に情報がない以上、当たってみるしかねえんじゃねえか?」
「そうですわね」
「ありがとうね、佐天さん!!」
「いえ、こんなことでお役に立てたかどうか」
上条達は互いに顔合わせをすると、情報の真偽を確かめるべく行動を開始する。
「……それにしても幻想御手ってマジモンなの?」
そして残された佐天は一人そう呟くのだった。
「……常盤台っていうのは、ああいう演技の仕方まで教えんのか?」
「少なくとも、ああいった殿方への対応を習うことはありませんの」
場所を移して、ここは第七学区にあるBennysというファミレス。
上条はまるでこの世の奇妙奇天烈を目の当たりにしたような表情で、そして白井は半ば茫然自失といった様子で目の前で繰り広げられている光景に聞き耳を立てている。
佐天から幻想御手に関するネットの書き込みについて聞いた上条達は、早速学園都市内で立てられている掲示板で情報を探ってみた。
すると思ったよりも簡単に該当する書き込みが見つかる。
それも実名を使って書き込まれていた。
まさにネット初心者。
すぐに該当する人間が存在するか『書庫』と照会すると、佐天の言葉通りに素行のよくないグループの人間ばかりのようだった。
怪しさは拭いきれないものの、幻想御手についての情報は必ず手に入れなければならない。
そして上条達は掲示板に書き込んでいる人間達にコンタクトを取るべく作戦を考えたのだが、
「ダメだダメだ、ガキはもう寝んねの時間だぜ」
「え~~、私そんな子供じゃないよぉ」
「ブーッ」
飲んでいた飲み物を盛大に吹き出した白井に、上条は無言でおしぼりを手渡す。
確かに上条の目から見ても、目の前で繰り広げられている光景は中々衝撃的なものだった。
現在幻想御手の情報を持っていると思われる不良達に接触しているのは美琴だ。
風紀委員である白井は顔が割れている可能性もあるし、男子である上条よりも美琴の方が情報を引き出しやすいという判断だった。
「お父さんはさりげなく電話で身体検査の結果を聞いてくるし、お母さんはあなたはやればできる子なんだからって」
「あー、それわかる……」
「期待に応えなきゃって思うけど、どうしようもなくて、思わず嘘吐いちゃって……。 そんな時にお兄さん達のことを知って、もう幻想御手した頼れるものがなくて」
「い、いや、そんなこと言われても」
「だから……ダメかな?」
よくもまあ、あれだけ口から出まかせを。
そして男の本能を刺激するような、女の子特有の可愛らしさを前面に押し出した態度。
現にスキンヘッドの男は美琴を前に陥落する寸前のようだ。
「ん?」
その時、上条は何か妙な違和感を感じる。
しかしその原因を探ってる暇もなく、どうやら幻想御手を巡る交渉は大詰めに入ったらしい。
「こんなところで泣かれても、メンドクセー。 金額しだいで教えてやるよ」
「本当ですか?」
「ああ。 だがここじゃ人の目があるからな。 少し場所を移すが構わねえか?」
「はい!!」
そして席を立った不良達と美琴は会計を済ませて、そのまま外へと出て行ってしまう。
上条と白井も急いでその後を追うと、辿り着いたのは薄暗い路地裏の行き止まりだった。
「悪いな、こんな場所まで移動させて。 だがそれなりに価値のある情報なんで、念には念を入れてってな」
「全然平気です。 それで幻想御手は?」
「焦るなって、念には念をって言ったろ? この奥に俺らの隠れ家があるからよ」
上条達が目を凝らすと、どうやら路地裏の行き止まりにどこかへ続く扉があるようだ。
しかし中に入られてしまっては面倒なことになる。
中の構造が分からないため白井の空間移動にも危険が伴い、扉に鍵でも掛けられてしまっては中に入る手段がない。
何より中は不良の巣窟。
普段なら美琴一人いれば不良の制圧などわけないが、考慮しなければならないのは不良達が幻想御手を使用している可能性だった。
「流石のお姉様でも、爆発魔クラスの能力者が何人もいては……」
そして白井の言葉が終わるよりも早く、上条は思わず不良達の前に飛び出していた。
「何やってるんだ、テメエらっ!!」
「えっ、何でっ!?」
突然乱入してきた上条に美琴は驚いた表情を浮かべるが、上条は構わず言葉を続けた。
「大の男が三人掛かりで一人の女の子を囲んで、恥ずかしくねえのかよ?」
「あぁっ!? テメエには関係ないだろうがっ!!」
「お前らみたいに群れなきゃ女の子一人相手にできない奴はムカつくんだよっ!!」
自分でも無茶苦茶なことを言っているのは分かっている。
事情を知らないならまだしも、美琴が不良達に近付いているのは幻想御手の情報を手に入れるためだ。
こんな真似をしては折角の計画が水の泡と化してしまう。
しかしそれでも上条は飛び出さずにはいられなかった。
「くっ、言わせておけばっ!? おいっ、お前ら! こんな奴、一気に畳んじまうぞ!!」
そう言って男達は上条に対して構えを取る。
相手は三人。
少々厳しい状況ではあるが、何とかなるだろう。
そして上条が男達に向かっていこうとしたその時、
「おいおい、何の騒ぎだ?」
奥の扉が開くと中から男達がゾロゾロと湧き出てくる。
その数、実に20人。
ここが不良の巣窟の目の前だということを完全に失念していた。
「これだけの人数を相手にしようって言うのか? 今なら有り金を全部出して謝るなら許して……」
そして上条が大人数の不良達を前にして取った行動は、
「って、あれだけの啖呵を切っておいて逃げやがった!?」
「舐めやがって、絶対に逃がすなっ!!」
上条と総勢20人を超える不良達との壮絶な鬼ごっこが始まった。
走り去る上条達を他所に、美琴は唖然とした表情で一人ポツンとその場に取り残されていた。
そして上条達の姿が見えなくなって、ようやく美琴は我へと返る。
「何やってるのよ、あの馬鹿はっ!!」
あんな恥ずかしい真似までしたのに、これでは全てが台無しだ。
「大丈夫ですの、お姉様っ!?」
すると白井が空間移動で美琴のすぐ隣へと現れる。
「私は大丈夫だけど、何でアイツはいきなり……」
いくら異能の力を全て打ち消す右手を持つと言っても、基本的に上条が普通の男子高校生と比べても大きな力の差がないことを美琴はよく知っていた。
あの人数を相手にしたら勝てるわけがないし、それどころか身の危険さえある。
上条の持久力と足のスピードなら酒と煙草で身体を壊した不良に捕まることはないだろうが、それでも絶対とは言い切れない。
「……お姉様は本当にその理由が分かりませんの?」
「え?」
「これは僥倖と言うべきなのでしょうか? しかしいずれはわたくしにも同じことが起こる可能性も捨て切れませんし」
「だから何の話をしてるのよ?」
「……あの類人猿はお姉様を心配して飛び出していったんですの」
「私を心配って、あんな不良を相手に私が遅れを取るわけ……」
「あの不良達が爆発魔と同じように能力が強化されている可能性もありますの。 確かにそれでもお姉様が不覚を取るようなことはないと思いますが、だからといって心配しない理由にはなりませんの」
「……」
「それにしても、あの類人猿。 本当ならわたくしが幻想御手の情報を手に入れた上で、お姉様をお助けする筈だったのにっ!! 一人で勝手に先走って許せませんの!!」
「……とにかく今は早くアイツを追いかけないと」
美琴の言葉に白井も頷く。
そして二人は不良に追いかけられている筈の上条を追って、夜の街を走り始めるのだった。
以上です
少しペースを上げないと書きたいと思ってる場面まで中々辿りつけない
といいつつも恐らく今くらいのペースでのんびり進めていくと思うので、これからもよろしくお願いします
おつ!
乙
自分のペースで頑張って
何だかんだ上条さんが加わっても、綺麗に話が進行してるんだよな
基本的に上条さん視点だから、デルタフォースとの絡みとかも楽しい
乙!!
上条さんが感じた違和感って一体?
ラッキースケベ製造マシーンの木山先生を前にして上条さんはどんな反応をするのだろうか・・・
上条さんが心の中で思ったこと、それも黒子に対してなのに反応するなんて
みこっちゃん半端ないw
それにしても薄れているとはいえ、初期の頃のみこっちゃんの傲慢さは一応残ってるんだな
そこら辺は完全に原作無視じゃなくて、やっぱり上手いなって思う
期待
ゴミ坂が気持ち悪い
マジで死ね
作者のアレンジが好みだわ~
乙!
荒らしに負けずに頑張ってね
どうせならデルタフォースと超電磁組の絡みが見たいかも
すみません
色々と忙しくて、恐らくあと一週間くらいは投下できません
その分、次の投下はなるべく量を増やせるよう頑張ります
乙です
楽しみに待つさ
待ってます
楽しみに待ってます
はよ
キャラ崩壊もせず、一応納得ができるような上条さんの強化
楽しみに待ってます
今日の夜(PM)10:00頃に続きを投下します
……間が開いてしまうから多めに投下すると言いつつ、今回も短めです
すみません
まってる
待ってます。
すみません、遅くなりました
今から投下します
いつも感想や乙の言葉をありがとうございます
おかげでモチベーションも下がらずに続けることができます
「……不幸だ」
まさか二日連続で朝からこの言葉を口にするとは。
昨日の晩に『幻想御手』の情報をふいにしてしまってから、上条はひとまず寮へと帰って休んでいた。
そして今日は普通に授業があるため、いつも通りに学校に向かって歩いている。
しかし上条の住む寮から学校までは距離が結構あり、既に初夏を過ぎている朝の蒸し暑さが上条の体を蝕んでいた。
本当なら学校指定のスクールバスか電車を使えばいいのだが、電車の二分の一のスピードで走るにも拘らず三倍の運賃を取るバスを利用する気にはなれない。
そして昨日の財布の中身からも分かる通り、今の上条は金欠だ。
学校までの距離が二駅分と徒歩で通えなくもない場所にあるため、このように電車も使わずにできる限り節約をしている状態だった。
だが上条が嘆いている不幸は金欠でも、夏の暑さでもない。
「何でアイツはあんなに怒ってたのかね?」
時間は遡って、昨日の深夜近く。
不良達に追いかけられ始めてから一時間近く経って、上条は追ってくる不良達の足が途中でピタリと途絶えたことに気が付いた。
そして上条の後を追うように現れたのは不良達ではなく美琴と白井。
どうやら二人が不良を追っ払ってくれたらしい。
しかしどんな理由があれ『幻想御手』の情報を手に入れる機会を溝に捨てたのは自分だったので、何となく二人と顔を合わせるのが気まずい。
二人の顔を見ると案の定、あまり機嫌が良ろしくないようだ。
「すみませんでしたーーーー!!!! 不肖たる私めの勝手な行動のせいで、せっかくの情報を」
「何でアンタが謝ってるのよっ!!」
上条が最後まで謝罪の言葉を口にする前に、それは美琴の怒鳴り声で遮られる。
しかし謝るなと言いつつも、美琴が怒ってるのは明らかだ。
「えーと、でもあなた様は明らかに怒ってらっしゃいますよね? だとすれば一体何がお気に召さなかったんでせうか?」
「うるさいっ!! それくらい自分の胸に聞きなさいよっ!!」
「えー?」
いくら何でもそれは理不尽だ。
確かに『幻想御手』の情報を手に入れるのを邪魔してしまったのは申し訳なく思うが、特にそれ以外に何かした覚えはない。
上条は助けを求めるように白井へ視線を移すが、白井はただ肩を竦めただけだった。
「とにかく情報を得られなかった以上、いつまでもここでグダグダしていても仕方ありませんの。 今日のところは解散ということでよろしいのでは、お姉様?」
「うっ、もう門限を過ぎてる」
「……今日は潔く覚悟を決めるしかありませんの」
上条は直接会ったことはないが、常盤台の学生寮の寮監はとても恐ろしいという話だった。
先ほどまでの勢いはどこに行ったのか、恐怖のせいか美琴も完全に意気消沈している。
しかしこればかりは無関係な上条ではどうしようもない。
「それで明日からはどうするんだ?」
「噂の真偽すら分かっていない今の状況では個人的に調査を進めるしかありませんの。 ただ例の爆発魔の取り調べも進んでいるでしょうし、もしかしたらそちらの方で何か進展があるかもしれませんわね」
「とりあえず今は現状維持ってことか」
一刻も早く『幻想御手』の真偽を確かめなければならないという思いはあるが、白井の言う通り今はそうするより他はないだろう。
しかし虚空爆破事件のように、『幻想御手』を使用したかもしれない人間が犯罪を起こす可能性だけは気掛かりだった。
「その点については警備員や風紀委員に任せてもらうしかありませんの。 幸いとは言えませんが、虚空爆破事件もあって警備の面は色々と強化されていますので」
「そうだな」
全く不安がないわけではないが、これ以上の被害が出ぬよう今は警備員や風紀委員に任せるしかない。
そして彼らの負担を少しでも減らすためにできることは、一刻も早く『幻想御手』の真実に辿り着くことだけだ。
確かに今はできることが限られているものの、それでも何もできない訳じゃない。
「話の内容的に、多分こっちの学校の方が常盤台なんかと比べれば情報が手に入りやすいと思う。 俺の方でも色々と探ってみるよ」
「こちらでも何か進展があったら一応連絡くらいは差し上げますわ。 ひとまず今日は解散ということにいたしますの」
そして上条はそのまま美琴と白井と別れる。
しかし結局、最後まで美琴が怒っている理由は分からないままなのだった。
「わけわかんねえ」
そして教室に着いてからも上条は美琴が怒っていた原因を思い返していた。
しかしいくら考えても、その理由が思いつかない。
中学校に入学した辺りから、美琴はこうやって突然機嫌が悪くなるようなことが多くなった気がする。
「思春期ゆえの葛藤ってやつかね?」
自分も思春期真っ只中ということを棚に上げて、上条は妙に年長者ぶった結論を付ける。
確かにそれなりの付き合いになるものの、それでも上条が美琴の全てを知っているわけではない。
今まで妹のように接してきたが、中には男女の違いゆえに相談できないようなこともあるだろう。
美琴が抱える悩みが気にならない言えば嘘になるが、いちいちそんな些細なことを気にしていてはキリがない。
そしてひとまず美琴のことは置いておき、上条は今優先しなければならない『幻想御手』について考えを移す。
学校に着く時間がギリギリになってしまったため、まだ青髪ピアスや吹寄からも話を聞いていなかった。
(青ピは土御門と話し中か)
青髪ピアスの姿を探すと土御門と一緒におり、何やら二人で近寄りがたい空間を作り出している。
朝からあの中に突撃するほどテンションは高くないので代わりに吹寄を探すが、珍しくまだ学校に来ていないらしい。
吹寄は今まで無遅刻無早退無欠席で、上条が学校に来る頃にはいつも席に着いて授業が始まるのを待っていた。
この時間になっても吹寄が教室にいないのは初めてのことだ。
しかしいくら通販などで健康グッズを集めるほど健康志向な吹寄とはいえ、たまには体調を崩すことくらいあるだろう。
確かに心配ではあるものの、クラスメイトの一人が休むくらいは特に珍しいことでもない。
ただ一つ、その理由が意識不明の状態で病院に運ばれたということを除いては。
虚空爆破事件の犯人である介旅が取調べ中に倒れたという連絡を白井から受けて、美琴は急いで介旅が搬送された病院へと向かった。
身体のどこにも異常はなく、ただ意識だけが失われている状態。
病院に医師でも手の施しようがないこの状態に、今は大脳生理学の専門チームが招かれているらしい。
今は美琴達にできることは何もないので、二人で検査の結果を待っている状況だった。
「ねえ、黒子。 これってやっぱり……」
「今のところは情報不足で何とも言えませんの。 ただ『幻想御手』が絡んでいる可能性はやはり高いかと」
「そうなると事態は思ったよりも深刻よね」
今まで美琴達が『幻想御手』について調べていた理由は、能力のレベルが急激に上がった人間による犯罪の真相を突き止めるという意味合いが大きかった。
しかしここに来て『幻想御手』を使用すること自体にも副作用がある可能性が浮上している。
使用するだけで簡単に能力のレベルを引き上げられるという『幻想御手』
高位能力者である美琴と白井でも、それが学園都市の学生達にとってどれだけ魅力的な話かくらいは分かるつもりだ。
今まで見てきた『幻想御手』を使用したと思われる人間達は犯罪者や不良達ばかりだったが、すでに一般の学生達の間でも広まっていると考えておいたほうがいいだろう。
現に医師の話によると、ここ一週間で介旅と同じ症状の人間が何人も運ばれてきているらしい。
「アイツに連絡は?」
「さきほどメールで済ませましたの」
このことはやはり上条にも伝えておかなければならない。
本当は自分で連絡すればいいのだが、昨日の今日なので美琴は少し上条と顔を合わせることに抵抗があった。
昨日の晩に危険を省みず、自分を助けるために不良達の間に割って入った上条。
それが自分の身を心配してくれてということは分かっているのだが、美琴は素直に喜ぶことができない。
確かに上条には届かないかもしれないが、それでも自分は学園都市のレベル5だ。
ましてやあの人数を相手にするならば、上条よりも自分の力の方がずっと適している。
上条の隣に立ちたいと願っている美琴にとって昨晩の出来事は、上条に心配してもらって嬉しく思うと同時に悔しいものでもあった。
「あれっ、何でお前らがここに?」
それからほどなくして、待合室で待っていた二人の前に上条が現れる。
肩で息をしているのを見るに、どうやらよほど急いでやって来たらしい。
ただその表情は何か憂い事があるかのように悲壮感が漂っている。
それによく考えると白井から連絡を受けて来たのならば、上条が二人を見て驚いているのはおかしかった。
「メールを見て来たんじゃないの?」
「メール? いや、俺は……」
やはり上条は白井から連絡を受けて病院に来たわけじゃないらしい。
だがそうなると上条は何の理由で病院にやって来たのだろうか?
見たところ、上条本人は怪我や病気をしているようには見えないが。
「ようやく来たね」
すると上条を迎えに来たのか、カエル顔の医者もその場に姿を現す。
「先生、吹寄はっ!?」
「こっちだ、付いてきなさい」
カエル顔の医者に付いて行く上条を前にして美琴と白井はどうすべきか悩むが、カエル顔の医者から一緒に来るよう促されて二人の後に続く。
そして四人がやって来たのは、いくつかの機器が並ぶ治療室だった。
そこにあるベッドの上で一人の少女が横たわっている。
「吹寄……」
きっと少女の名前だろう。
治療室の窓から眺めるようにして、上条は心配そうに少女の名前を呟く。
「それじゃあ、お願いできるかな?」
「はい」
そして上条はカエル顔の医者に続いて治療室の中へと足を踏み入れる。
基本的に対策はされている筈だが、万が一にも自分の放つ電磁波が治療機器に悪影響を及ぼすとも限らないので、美琴は白井と一緒に外から治療室の中の様子を窺っていた。
治療室の中に入った上条は少女に近づくと、その額に右手を添える。
カエル顔の医者はその様子を、少女の状態が示されているモニターと一緒に眺めていた。
それを見て美琴と白井も二人が何をしようとしているのか理解する。
少女がどんな理由で意識を失っているのか、話を聞いていない美琴達には分からない。
ただカエル顔の医者はそれが能力者の仕業である可能性を考慮して、上条に協力を申請したのだろう。
もし何らかの能力によって意識を失っているのならば、上条の右手で触れれば何らかの変化が見られる筈だ。
しかし結局、上条が右手で触れても少女の意識が戻ることはなかった。
「……」
治療室から出てきても無言でいる上条に美琴は声を掛けることができない。
少女の名前を知っていたことからも、恐らくクラスメイトか何かなのだろう。
「やはり能力によるものではなかったみたいだね。 あちらの方で何か進展があればいいんだが」
「あちらの方って?」
「外部から大脳生理学の専門家を呼んでいてね。 詳しくは彼女達から聞いた方がいいんじゃないかな?」
そう言ってカエル顔の医者は上条から美琴達の方へと視線を移す。
どうやらあの少女も意識不明の状態に陥っている他の患者達と同じ症状らしい。
そのことを少女の友人であろう上条に話すのは美琴にも躊躇われる。
しかし現状を打開するためにも、美琴は上条に今起きていることの全てを話すのだった。
「ってことは吹寄も『幻想御手』を使ったってことか!?」
「断言はできませんが、可能性は十分にありますの」
「くそっ、全部俺のせいだっ!!」
虚空爆破事件の犯人を初めとして、『幻想御手』を使ったと思われる人間が意識不明の状態に陥っている。
それを聞いた上条は思わず病院の壁を叩き付けていた。
「ちょっと落ち着きなさいよ!! クラスメイトが心配なのは分かるけど、それはアンタに責任があるわけじゃ……」
「違うんだ、俺が吹寄に余計なことを言っちまったせいで」
「余計なこと?」
昨日学校で上条は吹寄に『幻想御手』を肯定するようなことを口にしていた。
努力し続ける人間が少しでも報われる結果があってもいいんじゃないかと。
今にして思えば『幻想御手』を使用した後ろめたさから、吹寄は『幻想御手』の是非について尋ねてきたのかもしれない。
それに気付かず、上条は安易に『幻想御手』の効果を肯定してしまった。
あの時はっきりと『幻想御手』を否定しておけば……。
「しかし今までの状況から『幻想御手』を使用してすぐに意識不明になるとは考えにくいですの。 例えあなたが昨日の段階で『幻想御手』について否定していたとしても、いずれは……」
「そんなの誰にも分からねえじゃねえか!! まだ『幻想御手』っていうのが、どういうもんかすら突き止められてない。 もしかしたら昨日の内に『幻想御手』を使うのを止めておけば、吹寄もこんなことにならなかったかもしれない。 あんまり無責任なことを言ってんじゃ」
しかし最後まで言い終える前に、頬に感じた衝撃で上条は言葉を止める。
「いい加減にしなさいっ!!」
「み、美琴?」
頬に感じた衝撃、それは美琴によって放たれた平手打ちによるものだった。
「クラスメイトがこんなことになって動揺するのは仕方ないと思うけど、黒子に八つ当たりするような真似してるんじゃないわよっ!! そんなことしてる暇があるなら、他にやるべきことがあるでしょうがっ!!」
その言葉に上条はハッと我に返る。
多くの人間が意識不明に陥っている原因が能力でなかった以上、今の段階で上条では彼らを救うことはできない。
ただそれでも何もできないわけではなかった。
彼らが意識不明になってしまった原因を探るためにも、一刻も早く『幻想御手』の真相に辿り着く。
それが今、上条にできる唯一のことだ。
「……悪い」
「あの人を助けるためにも、アンタがしっかりしなくてどうするのよ?」
「ははっ、そうだな。 白井もすまなかった」
「いえ、ご友人があんな状態になられてしまった心中はお察ししますの」
普段はあんな態度の白井にまで気を遣われている。
自分では分からなかったが、それだけ取り乱していたということだろう。
年下の女の子に怒鳴り散らしたり、何をすべきか諭されたり。
そんな自分を上条は少し恥ずかしく思う。
だが二人のお陰で、上条が今するべきことはしっかりと定まった。
上条が美琴と白井の二人に視線を向けると、二人とも上条に同意するよう力強く頷く。
「君達が担当の風紀委員かな?」
そして決意を固めた三人の前に、白衣を纏った一人の女性が姿を現す。
その女性との出会いを経て、この事件は急速に加速していくことになるのだった。
以上です
今回からシリアスパートに突入
……いつまで続くかは分かりませんが
書いてると思った以上に黒子の口調が難しい
書き始める前はとりあえず~の、を付けとけばいいと思ってた
モンスターズ2がキリのいいとこまで進めば、早めに投下できると思います
多分土日に一回は投下できるかと
感想などをいただけたら嬉しいです
では
ねえねえ、こんな糞ss書いてて楽しい?
カス条厨が自己投影したオリキャラに近いカス条ってマジで気持ち悪いよな
よっこらしょ。
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乙です
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乙!
超面白いよ
シリアスは軽めが良いな|・д・)チラッ
先の展開がたのしみ
乙です
ここにも荒しがきましたか
色んなトコに出没してるだけなんで、気にせず頑張ってください
何だろう、この三人のトリオは見てて凄く落ち着く
巡回してる禁書SSがどれもこれも荒らしの餌食になっちまってやがる・・・
乙です、木山テンテーにフラグは立つの?
上条に子供扱いされたくない、上条と対等になりたいという
思春期の女の子らしい美琴の悩みがうまく表現されてるな。
ただのビリビリ女じゃないってことが良く分かる。
ぶりぶり女?
超電磁砲の事件に上条さんが介入したら、女性キャラに続々とフラグを立てそう。
レベルアッパー事件だけでも、木山、佐天、初春と上条さんがフラグを立てそうな女性が目白押しだしな。
しかもこのSSの展開によっては対カミジョー属性最後の砦すらも陥落しそうだし。
乙
できれば原作でフラグの立っていないキャラにフラグを立てるのはやめてほしい
カップリング要素もおまけですし、少なくていいと思う
このssはキャラが原作に近いので、キャラが崩壊して、おかしくなるのはもったいない
まあ、>>1の自由なんですが
二次創作に何を求めてるの?
上条は自分に責任がある場合八つ当たりするより自分一人で抱え込むタイプなんだがな
>>267
お前は本当に読んだ上で物を言ってるのか?
ここの上条さんも自分が無責任なことを言ったことに関しては完全に抱えこんでるだろ?
それが自分の責任じゃないって言われたことに対して反論してるだけ
八つ当たりっていうのは、単に御坂の主観にすぎない
文盲か何かなのか?
原作でフラグの建っていないキャラにフラグを建ててほしくないって言うのがよく分からん
別によくね?
ていうか原作との差異を楽しむのも二次創作の醍醐味の一つだろ?
何もかも原作設定を守ると、新鮮味がないじゃん
ここはほんと長文レスの臭い奴多いな
うっわ、カス条厨が互いを罵りあってるwww
本当に気持ち悪い奴らだなwww
よっこらしょ。
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ありがとうございました
もう書き込まないでください
池沼たん大激怒の巻
ssなんだから深く考えなさんなや
ここの>>1何かしたん?
いくら何でも可哀想なんだが
倒れた吹寄を見て取り乱した上条に平手打ちをして冷静にさせたんだから、
もう美琴は上条と対等と呼べるくらいには成長してると思う。
やっぱりいい組み合わせだよなこの二人。
確かに八つ当たりっていうよりは、単に取り乱してたって感じだな
上琴はカップリングでイチャイチャしてるのも好きだけど、こういう自然な感じも好きだわ
ところでpsyrenとのクロスはどうなってるの?
上条さんがちょっと幼稚、というか子供っぽいような気がする。
吹寄が倒れる原因を作った相手に説教するならともかく、関係ない相手、それも中2の黒子に怒鳴りつけるとか
年上の男の威厳なくなっちゃうだろ。
冷静な美琴のほうがよっぽどお姉さんっぽいぞ。
本当に注文多いな
黙ってることができないのか?
読者様は別に来る必要はないよ
>>286
薄情な言い方かもしれんが、美琴が冷静だったのは吹寄が「赤の他人」だったからだと思う。
病院に運ばれたのが佐天だったら美琴もここまで冷静じゃいられなかったはずだし、むしろ
上条がなだめる側になってたはず。
それにたまには上条さんに守られるばかりじゃない美琴の凛々しい姿を披露したっていいじゃないか。
超電磁砲漫画やアニメでは黒子や初春に対して先輩としてかっこよく振舞っているのに、
ここでは上条さんの出番が増えてるために妹的ポジションになってるんだから。
妹なミコっちゃんもかわいいけどね。
議論したいなら他所でやれ
禁書・超電磁砲ss雑談スレ6
禁書・超電磁砲ss雑談スレ6 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1392298695/)
この長文レス同じやつなんだろうな
なんでそんなに必死で議論したいの
俺は悪くねー
某聖なる焔の叫びを思い出した
明日の昼前に投下します
楽しみにしてるよ
すみません、書き直ししてるんでやっぱり夜に投下します
本当にすみません
夜が楽しみだ
(ノ*゚ω゚)ノワショーィワショーイ
感想いつもありがとうございます
とても励みになっています
中には色々とアドバイスまでいただいて
内容が変わるわけではありませんが、参考にしてなるべく原作のキャラに近づけていきたいと思います
では投下します
「えっと、あなたは……」
不思議な印象を与える女性だった。
容姿はとても整っており、白衣を纏った姿は知的な科学者を思わせる。
ただ目の下にある隈のせいか、何処か不健康そうにも見えた。
「先ほど先生が仰っていた、大脳生理学を研究なさってる方ですの」
「改めて自己紹介しておこうか? 私は木山春生、大脳生理学を研究している。 専攻はAIM拡散力場。 能力者が無自覚に放出している力のことだが、常盤台の学生には要らぬ説明……」
すると木山と名乗った女性はそこで言葉を止める。
そして美琴と白井までもが何か憐れむような目で上条の方を振り返っていた。
「いやいや、上条さんだってAIM拡散力場くらいは知ってますことよっ!? ほら、えーと、あれだその……」
「はぁー」
完全に言い淀んでいる上条を前に、美琴は大きく溜息を吐く。
そして年下であるにも拘らず、美琴はまるで小さい弟に言い聞かせるかのようにAIM拡散力場について説明を始めた。
「私が無意識の内に微弱な電磁波を体から発してるのは知ってるわよね?」
「あ、ああ」
その話は以前に聞いたことがあった。
美琴はその電磁波が物体に当たって反射することを利用して、死角なく周囲の状況を把握できるらしい。
上条はそれを聞いて便利なものだと思っていたが、美琴自身はそのせいで子猫などといった動物に近付くこともできないと愚痴をよく漏らしていた。
「要するにAIM拡散力場っていうのは、私が発してるその電磁波のこと。 私は発電能力者だから発するのが電磁波だけど、発火能力なら熱量、念動力なら圧力を周囲に展開してるって感じかしらね」
「へー」
「この程度の知識なら、一般の中学校でも習っている筈ですの」
「うっ」
明らかに侮蔑が込められた白井の言葉に上条は思わずたじろぐ。
常盤台の生徒とはいえ、中学生を相手にこれでは年上として立つ瀬がない。
「まあAIM拡散力場について本格的に学び始めるのは高校の過程に入ってからだから、特に気にすることはないと思うがね」
「……ありがとうございます」
そんな上条を気遣ってくれたのか、木山は上条に対してそんな言葉を掛ける。
会ったばかりの人間にまで同情されるのは何となく心苦しいが、それでも上条は木山の優しさに感謝するのだった。
「それにしても常盤台で発電能力者というと、もしかして君が御坂美琴か?」
「私のことをご存知なんですか?」
「ああ、レベル5ともなると有名人だからね」
美琴のことを流石だと称える白井を横目に、上条は改めて木山に向き直る。
「あの、それで昏睡してる人達について何か分かったことはあったんですか?」
「今の所は何も言えないね。 ここで採取したデータを持ち帰って、研究所で調査を進めるつもりだ」
「そうですか」
そんなに早く解決するとはもちろん思っていなかったが、どうしても焦る気持ちが上条の中で募っていく。
今はまだ意識を失っているだけで命に別状はないものの、昏睡の原因が分かっていない以上これから先はどうなるか分からない。
やはり今はこの事件に関わっている可能性が高い『幻想御手』の真相を追うしかなさそうだ。
「あの、お尋ねしたいことがあるのですが?」
「何だね?」
「『幻想御手』というものをご存知でしょうか?」
すると突然、白井が木山に『幻想御手』について尋ねる。
しかし警備員と風紀委員では『幻想御手』に関する情報の開示を見送ったという話だった。
まだ実在の確認も取れてない上に、情報を開示することによって被害が拡大してしまう恐れもある。
最初から関わっていた上条や美琴は別として、一般人に軽々と話していいことではない筈だ。
「おい、いいのか?」
「『幻想御手』が能力を高めるものならば、脳に干渉するシステムである可能性は高いですの。 ですから大脳生理学の研究者である木山さんに協力を頼もうかと」
「なるほど」
小声で話す白井の言葉に上条は頷く。
美琴や白井が一般的な中学生と比べて遥かに優秀とはいえ、専門的な知識が必要となれば流石に心許ない部分もあるだろう。
確かに専門家に協力を要請するのは、事件を解決するのに必要なことだった。
「……使っただけで簡単に能力のレベルを引き上げられる『幻想御手』か。 それはどういったシステムなんだ?」
「いえ、それはまだ……」
「形状は? どうやって使う?」
「分かりませんの」
「……流石にそれでは何とも言えないな」
現状で分かっている『幻想御手』の情報について木山に伝えるが、やはりそれだけでは何も分からないようだった。
木山に協力を仰ぐにしても、まずは『幻想御手』そのものを手に入れなければ話にならない。
「しかし興味深い話ではある。 『幻想御手』が見つかったら、私が調査をすればいいのかな?」
「お願いできますか?」
「構わんよ、むしろこちらから協力をお願いしたいくらいだ」
「ありがとうございます」
木山が快く引き受けてくれたことに、上条達は深く頭を下げる。
大脳生理学の専門家である木山の協力があれば、上条達だけでは分からない落とし穴も見つかるかもしれない。
「ここで立ち話もなんだ。 場所を移して、もう少し詳しい話を聞かせてもらおうか?」
「はい」
そして上条達はゆっくり話せる場所を探して移動を始める。
しかし間が悪いことに、病院の食堂は利用者でいっぱいだった。
そのため近くの喫茶店に行こうと病院の出口に向かったその時、
「あっ」
ジュースを持って走っていた少女が勢いよく木山に激突した。
そしてジュースは派手にぶち撒けられ、そのまま木山のストッキングへと降りかかる。
「大丈夫?」
すると美琴がすぐに尻餅をついた少女に手を差し伸べる。
「う、うん」
「危ないですから、病院の中で走り回ってはいけませんわよ」
「ごめんなさい。 あの、大丈夫ですか?」
美琴の手を取って立ち上がった少女は、そのまま木山に対して頭を下げる。
「いや、私の方は大丈夫だ。 君のほうこそ怪我はないかい?」
「うん」
「良かった。 子供は元気なのが一番だが、お姉さんの言うとおり場所は選ばなくてはな」
そう言って木山は少ししゃがむと、少女の頭を撫でる。
その姿は凄く優しさに満ちたもので、少女も頭を撫でられて嬉しそうにしていた。
あまり木山に対して子供好きというイメージは湧かなかったが、それは完全に偏見だったようだ。
「それにしても君はどうして病院に? 具合が悪そうには見えないが」
本来は病院にいる人間に症状を聞くのはご法度だが、確かに少女はどこも具合が悪そうに見えない。
服装は夏の暑さに合わせた薄着、元気に走り回っていたため怪我などをしているわけでもなさそうだ。
「えっとね、友達と友達のお兄ちゃんが一緒に倒れちゃったからお見舞いに来たの」
「っ!?」
それを聞いた瞬間、上条達全員の表情が歪む。
確証があるわけではない。
ただ今の状況で倒れた人間となると、『幻想御手』の被害者を連想せずにはいられなかった。
「でもカエル先生が絶対に良くなるって」
「そうだな。 あの先生がそう言ったなら絶対に大丈夫だ」
「うん!!」
この病院でカエル先生と言えば、いつも世話になっているあの医者しかいないだろう。
今はまだ彼でさえも患者の回復の手掛かりを得られていない状況だが、不安を煽らぬよう上条も少女に対して微笑みかける。
「これで新しいジュースを買うといい」
「いいの!?」
「ただし、今度は走っちゃ駄目だぞ」
「はーい!!」
木山から小銭を受け取った少女は、そのまま近くの自販機へと戻っていく。
「あんな小さな子供の友達まで、被害を受けてるのか」
「兄弟で一緒に『幻想御手』を使ったのかもしれないわね」
学園都市では年齢に関わらず、入学した時点で能力の開発が始まる。
だから兄が手に入れた『幻想御手』を弟か妹が一緒に使っていても何らおかしなことはない。
情報を開示しないことによって『幻想御手』の拡大を規制することもできるが、逆にこのように危険性を知らぬまま知り合いを通じて『幻想御手』が広がってしまう可能性もある。
そのジレンマに悩みつつも、今は警備員や風紀委員の判断を信じるしかなかった。
「酷く顔色が悪いようですが、大丈夫ですの?」
白井の言葉に、上条と美琴は少女から木山のほうに視線を移す。
すると木山の顔色は青白くなっており、冷や汗が浮かび上がっていた。
「あ、ああ」
「本当に大丈夫ですか? やっぱり外に行くのはやめて、ここで席が空くのを待った方が……」
「いや、本当に大丈夫だ。 昔、あれくらいの子供を相手に教鞭をふるっていたことがあったんだよ。 あの子の友達というと同じくらいの年頃のはずだから、どうしても昔の教え子達の面影がチラついてしまってね」
「そうだったんですか」
教師をやっていたならば、木山のあの少女に対する態度も頷ける。
普段の木山の態度は一見ぶっきらぼうなものにも見えるが、少女に見せた穏やかな笑顔。
きっと当時は優しい先生だったのだろう。
「しかし何にしろ、濡れたままというわけには……」
「いや、ジュースが掛かったのはストッキングだけだから脱いでしまえば」
「は?」
木山はそう言った瞬間、スカートを下ろしてストッキングに手を掛ける。
当然それは上条の位置からも丸見えで……。
「ふんっ!!」
「があっ!?」
しかしベージュの布地が目に入った瞬間、上条の視界は一瞬で暗転する。
「目が、目がああぁぁっ!!!!」
「大丈夫なのか、彼は?」
「そんなことよりも、人前で女性が下着を見せるような真似をしてはいけませんのっ!!」
「そうなのか?」
「当たり前でしょーがっ!!」
上条からは見えないが、どうやら木山の突然の行動に周囲もかなりざわついているようだ。
美琴と白井の怒鳴り声に、何故か疑問の声音が含まれる木山の声も聞こえる。
結局それからも色々とあり、病院の外に出たのはそれから十分後のことであった。
以上です
少し量が少ないですかね
このままのペースで投下するか、もう少し書き溜めてから投下するか
投下するたびに前回のようなことになって、他のスレにまで迷惑を掛けるのは心苦しいです
やっぱり量を増やして投下の回数を少なくした方がいいんでしょうか?
いつも感想ありがとうございます
最初にも書きましたが、そのおかげで色々あってもモチベーションを下げずにいられます
それと雑談スレで聞いたpsyrenとのクロスssまで期待してくださっている方がいるのは非常に嬉しいです
幻想御手編が終わって余裕があれば、そちらの方も進めていきたいと思います
では
乙です
頑張ってください
④です
乙です。
この上条さんが幻想猛獣相手にどんな決め台詞をかましてくれるのか楽しみです。
脱ぎ女=子供助けたい先生
だっけ?
そうだよ
さんくす
別人かと思ってた
迷惑かけたって自覚があるのに、こんな糞ss続けるの?
依頼出しといてやろうか?
乙です
投下はスレ主さんの進めやすいようにするのが一番だと思うよ
そっか、木山先生は昏睡状態になっている教え子たちを助けたいからレベルアッパーを開発したのに、
そのせいで教え子たちと同じくらいの年齢の子供たちを昏睡状態にする結果になってるんだよな。
なるべくたびたび読みたいので、ある程度書き貯めができたらその都度投下してほしい。
でも、どういう投下ペースであっても、必ず読み続けますんで。
最近禁書系スレは軒並み荒らされてるから
荒れる荒れないは気にしないでいたほうがいいかも
上がった時にお客さんが来てるみたいだからしばらくsage進行するとかでいいと思う
別にsage進行にする必要もないんじゃないの?
ageてくれた方がチェックしやすいし
ってか、さりげなくまたお客さんが来てたんだな
復活キター
はよはよ
(どうせまだ復活しないだろうと高を括ってPSYRENとのクロスを書き溜めてたなんて言えない)
中途半端になると思いますが、ss速報が復活したので明後日の夜に続きを投下したいと思います
そしてPSYRENとのクロスですが、そっちは支部の方に投下していきたいと思います
支部にはこれを少し手直ししたverも載せてあります
手直ししたと言っても、誤字脱字を修正したくらいですが
では
待ちかねたよー
待ってるよー
乙です
支部も探すわ
正直渋の小説閲覧機能は使いづらい(長編は特に)
あくまでイラストサイトだししょうがないけど
ちょっと家庭の事情で急用が入ったため、今日の投下は無理そうです
今週の土日に投下します
待ってるわ
今日の夕方4時に投下します
まだかな~
遅くなってすみません
投下します
「……そうか、それは気の毒だったね」
「……」
木山に『幻想御手』についての情報を話す中で、上条は吹寄のことについても触れていた。
自分の軽はずみな言葉のせいで、吹寄は倒れてしまったのかもしれない。
美琴と白井のお陰で事件を解決するのに前向きにはなれたものの、そのことはまだ上条の心に重くのしかかっている。
「私もできる限りの協力はする。 気に病むなとは言わないが、彼女のためにも今は自分がすべきことをしないとな」
「はい」
やはり教師をしていたということも大きいのだろう。
担任の小萌とはまた違ったタイプだが、木山に対しても上条は年上に対する安心感のようなものを感じていた。
「それにしても『幻想御手』か。 本当にそんなものがあったなら、学園都市が根本から覆りかねないな」
「能力が上がるだけならまだしも、それに乗じて罪を犯すような輩を放っておくわけにはいきませんの。 何より『幻想御手』に副作用がある可能性が高い以上、被害が広がる前に何としてでも真相を突き止めなければなりませんわ」
白井の言葉に上条も美琴も頷く。
先日の虚空爆破事件のような『幻想御手』の使用者と思われる人間が起こした事件。
そして吹寄のように『幻想御手』を使用したことによって倒れてしまった人達。
この現状を打開するためにも、今は『幻想御手』の真実へと辿りつかなければならない。
「すまないが、私はただの研究者に過ぎないから『幻想御手』を手に入れる手伝いはできないだろう」
「そっちは私達に任せてください。 だから木山先生は『幻想御手』が手に入ったら、その解析をお願いします」
「ああ、任せてくれ。 ……それにしても木山先生か」
「あっ、すみません。 木山さんが先生みたいで、つい……」
木山の言葉に美琴は頬を染める。
木山は教師をしていたのだから別に間違ったことを言ったわけではないのだろうが、本人としては恥ずかしかったらしい。
「いや、構わないよ。 私としても君達と話していると、教鞭をふるっていた頃を思い出して楽しいからね」
「それじゃあこれからは木山先生ってことで」
どうやら木山も先生と呼ばれたことが満更でもなかったらしい。
上条の言葉に、自然と四人の間で笑みが零れる。
「……ところでさっきから気になっていたんだが、あの子達は知り合いかね?」
すると木山が突然、窓の方に向かって指を差す。
上条達が揃ってそちらの方に顔を向けると、佐天と初春が笑顔でこちらを覗き込んでいた。
「いやー、御坂さん達ったら全然気付いてくれなくて困りましたよ」
「はははっ、ごめんなさい」
それから佐天と初春を加えて、上条達は六人で会話を続けていた。
少し席が狭くなったので、上条と木山は隣のテーブルに移っている。
しかしそんな中で上条一人だけは、どこか気まずそうな表情を浮かべていた。。
(これはこの前の二の舞なんじゃ)
二日前、上条はセブンスミストで今と非常に良く似た状況に陥っていた。
セブンスミストでは遠目から買い物してるのを眺めていれば良いだけだったが、今はあちら側からも会話を振られてくる。
あの時は佳茄の保護者という建前があったことを考えれば、今の方が状況は悪いかもしれない。
「それでこれが夏の新作なんですけど」
「へー」
恐らくファッション雑誌か何かだろう。
佐天が開いたページを美琴達は四人で覗き込んでいる。
本当は『幻想御手』の件で服どころではないのだが、そこは華の女子中学生。
初春はともかく一般人である佐天に詳しい話をするわけにもいかないので、今は美琴も白井も一時の休息を楽しんでいる。
すると積極的に会話に加わるわけではないが、木山が微笑ましそうに四人を眺めていることに上条は気がついた。
「どうかしたかい?」
「いや、何だか楽しそうだなって」
「楽しそう、私がか?」
上条の言葉が意外だったのか、木山は少し驚いた表情を浮かべる。
そしてその表情は単に驚いているだけでなく、何かに戸惑っているようにも見えた。
「どうしました?」
「……」
上条の問いかけにも木山は答えない。
何か拙いことを言ってしまったのかと上条が不安に思っていると、少し間を置いてから木山はおもむろに語り始めた。
「……私が以前教師をしていたことは話したね」
「は、はい」
「教師をすることになったきっかけは、前に務めていた研究所の上司からの命令だったんだよ。 たまたま取得単位で教員免許を持っていたから、何事も経験だとね」
「そうだったんですか」
「本当のことを言うと、私はあまり子供が好きではない。 騒がしいし、デリカシーがないし、失礼だし、悪戯するし、論理的じゃないし、理由を挙げれば数え切れないほどな」
「そ、そうですか」
まるで早口のように子供が好きでない理由を挙げる木山に、上条は少したじろぐ。
しかし木山がその言葉通り子供を嫌っているわけでないことは、今日一日一緒に過ごしただけでも明らかだ。
だから上条はそれ以上は口を挟まずに、黙って木山の言葉を待っていた。
「だが何の遠慮もなしに懐に飛び込んでくる子供達を煩わしく思うことも多かったが、私にとってもいつしか彼らと過ごす時間は有意義なものへと変わっていた。 元々研究するしか能のない人間だったから、無邪気に懐いてくる彼らに私自身が依存していたのかもしれない。 ……しかし私は結局、良い教師になることはできなかった」
「……」
「先ほどは久しぶりに先生と呼ばれたことに浮かれて、教師を気取っていた自分に対する自己嫌悪に陥っていただけだ。 私に教師を語る資格などないというのに」
そう語る木山に対して、上条は何と声を掛ければいいか分からない。
教師をしている時に何かあったのは間違いないだろう。
しかし上条はそのことについて何も知らないし、きっと不用意に踏み込んで良いことでもない筈だ。
「すまなかったね、つまらない話を聞かせて」
「あの……」
ただ例え木山の過去に何があったか知らなくても、今日見せた木山の顔が偽りだったということはない筈だ。
病院で少女に見せた笑顔、そして吹寄の件で悩む上条に対するアドバイス。
そこにあったのは間違いなく教師としての木山の姿だった。
「事情を知らない俺が何を言っても、他人の戯言にしか聞こえないかもしれません。 でも病院で女の子とぶつかった時、あなたは昔の教え子を思い出したって言ってましたよね?」
「ああ、それがどうかしたかい?」
「担任だった先生が自分のことを覚えてくれてるって、生徒からしたら結構嬉しいことだと思うんですねよ。 そして今の状況で真っ先に思い出すくらいに、あなたは昔の教え子達を心配してる。 人からそう想ってもらえるのは、幸せなことなんじゃないかって」
それはかつてから不幸を経験している上条ならではの言葉だった。
今でも時々夢で見るほどの、おぞましい記憶。
しかしその過去を乗り越えてこられたのは、他ならぬ両親のお陰だ。
例え何があっても味方でいてくれた両親の存在がなければ、上条は今頃壊れていてしまったかもしれない。
そして学園都市に来てからも、担任である小萌やクラスメイト、美琴といった周りの人間に支えられている。
上条当麻という人間が見舞われる不幸という現実は変わらない。
ただそこには不幸だけでなく、幸福も確かに存在した。
「その子達のことを想い続けていれば、木山先生はやっぱり今でもその子達の先生なんだと思います」
これが偽善だということは上条も自覚している。
事情を知らない上条が何を言っても、それは木山自身に告げたように他人の言葉にしかならない。
しかしそれでも木山春生という人間に教師としての姿を見ていた上条はそう告げずにはいられなかった。
「ふふふ、君はまるで神父みたいだな」
「す、すみません、俺みたいなガキが偉そうなこと言って」
「君を前にするとつい余計なことを口走ってしまう。 その上、年上である私が気を遣われていては世話がないな。 だが君のお陰で色々と踏ん切りがついた。 君に言ったように、私自身も今は自分にできることをしなければ」
木山の顔に少し笑顔が戻ったことに上条は安堵する。
恐らく『幻想御手』を手に入れた後に、上条にできることは殆どないだろう。
その後は木山を初めとする専門家の解析や、病院で今も治療を続けているカエル顔の医者に任せるしかない筈だ。
自分の言葉が少しでも木山の力になれればそれに越したことはないと上条は思う。
その日はそこで解散ということになり、上条達は喫茶店を後にする。
白井の活躍もあり、『幻想御手』はその日の内にすんなりと手に入った。
これで『幻想御手』の解析さえ終われば、昏睡している人達はひとまず回復する。
後は『幻想御手』を作り出し、それをばら撒いた大元を探し出せばいいだけだ。
上条達の誰もがそう思っていた。
しかし事件はそこで終わらない。
上条の身近な人間を更に巻き込んで、この事件はますます混迷を極めていくこととなるのだった。
短いけど以上です
今回は殆ど上条さんと木山先生との絡み
佐天と初春を出した意味はというツッコミは、単に今回の二人の会話から美琴と白井を遠ざけるため
はい、すみません
何か少し自分の書くペースが崩れちゃった気が
これからは更新を少し早めていきたいと思います
……今回は完全に誰条さんですね
上条さんの年上に対する敬語は割と難しい
小萌先生は親しい間柄で参考にならないし、どこか参考にできる場所があったら教えてください
これは完全に木山先生にフラグが立つね
苦悩してる木山先生の描写も良い感じ
乙
乙
上条さんはそこまで違和感ないからいいと思う
フラグ立つとか言ってる人何なの? 面白くないからやめてほしい
乙
いちいち人の感想にケチつけんな
まあまあフラグ立つくらい、いいでないの
カップリングは上琴って明言されてるんだし
支部を覗いたらPSYRENの方も上琴ってタグ付けされてたから、特に心配する必要はないと思うよ
乙でした。
毎回キャラの心情が深く描写されていて読み応えがあるな。
上条さんの言葉がいいね
乙です
しかしこの後木原先生がしでかすことを考えると、上条さんも大変だな
吹寄の時も基本的に良いこと言ってるのに、それが却って上条さんに重荷を背負わせることになってしまった
確かにある意味ではここの上条さんも不幸だよな
すまん、木原先生じゃなくて木山先生だった
か、加群先生もいるし
忘れられているけど、登場すれば神裂もメインヒロインになるんだぞ?
……ダメだ、いつ出てくるんだろう……
漫画版のエピソードだけなら、ねーちんの登場もそう遠くないはずだが、
アニメ版エピソードまですべて回収しようものならねーちんもインさんも出番がはるか遠くに……
ただ、漫画版ストーリーだけだと木山先生が救われないままになっちゃうので、
置き去りたちを助けるまで話を進めてほしいとも思う。
トールが好きです、でもステイルはもーっと好きです(性的な意味ではない)
オイラも早く一巻の内容に進みたいんだよ
大体原作五巻くらいまでの展開は考えてるんですけど、それを中々文章にすることができません
あと話としては科学→魔術→科学→魔術って感じで進んでいきます
まあ要するに次の話は魔術サイドの話になります
ねーちんの活躍はその時をお楽しみに
ただその後は>>2で書いたようにご都合主義で原作と話が前後する部分があります
明日のこれくらいの時間に続きを投下します
楽しみにしてます
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| J( 'ー`)し |
| ( ) | ( 'A`)
| 幸 | | | 辛 ノ( ヘヘ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
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| J( 'ー`)し |
| o一o | ( 'A`)
| 辛 〈 〈 .| 辛 ノ( ヘヘ
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| | 'ー,`)し
| |o一o ( 'A`)
| 辛 | U 辛 ノ( ヘヘ
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| J( 'ー`)し |
| ( ) | ミ Σ ('A` )
| 辛 | レ | 幸 ノ( ヘヘ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
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| ガンバルノヨ ドクチャン | ヽ(゚∀゚)ノ
| J( 'ー`)し | ( )
| 辛 ノ( ヘヘ. | 幸 | |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
何で一方アンチがこのスレ荒らしてるんだよ
上条は原作からして敬語ほとんど使ってないし、無理に敬語にしなくていいんじゃないの?
キャ-リサにすら、少ししゃべったら敬語取っ払われてるし
>>350
成りすましだからに決まってるだろ
触んな
多くの感想ありがとうございます
こうやって皆さんの感想レスを見ると、俄然やる気が出てきます
中には自分には勿体無いようなものまであって
とにかく何があっても最後までは完結させたいと思います
そして上条さんの口調に対するアドバイスもありがとうございます
基本的にssを書く時は原作を読み直して参考にしてることが多いんですけど
その中で思ったのは上条さんの周りには本当に大人といえる雰囲気の人間が少ないんですよね
小萌先生なんかも上条さんにとっては完全に頼れる大人ですが
どうしても外見や普段の態度からも完全な大人のようには受け止めづらい
強いて言うなら親船親子なんかは大人のイメージが強いです
要するに上条さんの周りに木山先生のようなタイプの人間がいないんですよね
確かに上条さんが敬語を使うってイメージはないですけど
逆に木山先生のようなタイプの人間にはタメ口ってイメージも湧かなくて
アドバイスを求めておきながら勝手ですが、そこら辺は自分の妄想に沿って書かせていただきます
では投下します
「初春、あれから何か進展はありましたの?」
「いえ、木山先生の方でもまだ解析の糸口が見つかってないらしくて」
「……困りましたわね」
白井が『幻想御手』を入手してから早三日、『幻想御手』を発端とした一連の事件は未だに解決への道筋すら見えずにいる。
『幻想御手』の取り引きを行っていたスキルアウトを締め上げて、白井が手に入れた『幻想御手』の正体は何の変哲もない音声ファイルだった。
そしてそれが何の変哲もない音声ファイルだった故に、事件の捜査も『幻想御手』の解析も完全に行き詰まってしまっている。
「そもそも、本当にこれが『幻想御手』なんですかね?」
『幻想御手』のファイルが入っている音楽プレイヤーを見て初春が呟く。
確かにそれは白井も疑わしく思っていた。
能力のレベルを引き上げるということは、『幻想御手』には何らかの脳に影響を与えるシステムが使われていることになる。
木山の話によると、確かに年単位の時間を掛けてゆっくり行われる能力開発にも例外はあるらしい。
『学習装置』--短期間で大量の電気的信号を入力するための特殊な機器。
しかしそれは視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚といった五感全てに働きかけるもので、その分危険性も高いとのことだった。
そして『幻想御手』の正体は単なる音楽ファイル。
PVなどの映像データも全く含まれていない音声データだけで、『学習装置』と同じ働きをするのは困難だと木山は話していた。
「しかしあの後いくつか手に入れた『幻想御手』も全て同一のデータでしたの。 そして入手元の人間も昏睡状態に陥っている。 やはり無関係とは考えられませんわ」
「それは分かってるんですけど、どうしても見当違いの方に進んでるんじゃないかって不安になって」
「……」
白井も初春が不安に思う気持ちは理解できる。
『幻想御手』そのものを手に入れられれば、自然と事件は収束に向かう。
確かにそう楽観視してる部分があった。
しかし実際は何も進展しておらず、今も被害者が増え続けているだけ。
これでは焦りが募るのも無理はない。
だが例え先が見えない状況でも、風紀委員として白井達にはやらねばならぬことがあった。
「とにかく今はこれ以上『幻想御手』の被害が広がぬよう、拡散するのを食い止めるしかないんですの」
『幻想御手』がアップされていたサイトは閉鎖したものの、今は人の手によって直接『幻想御手』が広まってしまっている。
そしてその取り引きはネットを介してなされており、白井達は指定された取り引き場所に出向いて『幻想御手』を回収している状態だった。
「早く情報の開示する許可が出ればいいんですけど」
「そうですわね」
最初は無用な被害を食い止めるため『幻想御手』の情報を開示していなかったが、このような状況になってはそうも言ってられない。
『幻想御手』の危険性を一般の生徒にも知らせるために、白井達は『幻想御手』の情報の公開を上に申請していた。
しかしその許可が中々下りず、今も風紀委員の先輩である固法美偉に掛け合ってもらっている。
「どうして上は頑なに首を縦に振らないんですかね?」
「最終的な決定権は警備員の方にありますの。 それに現場に出ている方々はともかく、上の立場の人間というのは総じて保守的な人間が多いものですわ」
ただいくら何でもこの対応の遅さは白井も気にはなっていた。
警備員の仕事にはもちろん能力者の犯罪を取り締まることも含まれるが、それ以上に子供の安全を守ることが優先とされている。
にも拘らず、既に被害者が多数出ているというのに警備員の上層部の人間は重い腰を上げようとしない。
そのことに白井は何か引っ掛かるものを感じていたが、風紀委員に所属する多数の委員の一人に過ぎない白井にできることは少なかった。
「……取り合えず、今日の分のリストを」
「は、はい」
白井の言葉に初春は机の上にあった書類を白井に手渡す。
そこにはネット上に書かれていた今日行われる予定の『幻想御手』の取り引き場所が記載されていた。
「今日も随分と多いですわね」
「大丈夫ですか?」
「まあ、あの類人猿と分担すれば問題ないでしょう」
「……白井さん、一つ聞いていいですか?」
「何ですの?」
「白井さんって、妙なとこで偉そうで、人に仕事を押し付けたり、始末書書くの手伝わせたり、その上変態で……」
「喧嘩を売ってますのかしら?」
「でも一線は弁えているっていうか、少なくても一般人に危険が及ぶようなことは絶対にしませんよね。 それなのに上条さんに対しては特に気遣ってる様子すら見えないような気がして」
「それもそうですわね」
初春の言葉を白井はすんなりと肯定する。
今まで意識したことはなかったが、確かに最近は美琴だけでなく上条とも一緒に事件を解決するために動いていることが多かった。
もちろん意図的に上条や美琴を巻き込んでいるわけではない。
ただあの二人は意図せずとも、勝手に事件に首を突っ込んでいることが異常なほど多いのだ。
それはまるで推理漫画の主人公さながらである。
「確かに上条さんに不思議な力があることは分かります。 でも上条さんも御坂さんも一般人であることは変わらないのに、それを気にしないのは白井さんらしくないと思います」
初春らしい正義感に溢れ、そして真っ直ぐな言葉だった。
そんな初春を白井は黙って見据え返す。
確かに風紀委員として、一般人に危険が及ぶようなことは極力避けなければならない。
いくら上条と美琴が事件に巻き込まれることが多いといっても、本来ならばそれが分かった時点で現場から遠ざけなければならない筈だ。
白井がやっていることは風紀委員としては失格だろう。
「初春はわたくしとお姉様の愛の溢れる未来設計は知ってますわよね?」
「えっ、それは白井さんが勝手に吹聴してるただの妄そ……」
「その計画の最大の障害になっているのが、あの類人猿の存在ですの」
「ま、まさか事件に託けて、上条さんを亡き者にしようとしてるんじゃっ!?」
「違いますわよっ!! ……あなたとは一回じっくり話し合う必要がありそうですわね」
「やだなー、冗談に決まってるじゃないですか。 でもそれじゃあ一体どういう意味なんです?」
「わたくしの目標は常にお姉様の隣に立っていることですの。 そしてお姉様はあの類人猿を目標としている。 必然的にわたくしもあの類人猿に追いつかなければならないということですわ」
「つまり白井さんも上条さんを目標としていて、上条さんは乗り越えなければならない壁だと?」
「そんな大層なものではありませんの。 ただ単に目指す先に立っている道標のようなものというか……」
「でも白井さんが上条さんのことをそんな風に思ってるなんて意外でした。 てっきり上条さんのことを嫌ってるとばかり思ってましたから」
「いえ、実際に嫌ってますわよ。 ただ少なからず学ぶべき点もあるというか……。 例えば初春、あなたは風紀委員という仕事についてどう思ってますの?」
「どう思ってるっていきなり聞かれても。 でもやりがいがあって、風紀委員ということに誇りは持ってるつもりです」
「そうですわね、わたくしもそれは同じですわ。 しかし中からでは分からない、外からしか見えないこともありますの」
風紀委員として白井は今までも厳しい訓練に耐え、学園都市の治安を守るために働いてきた。
空間移動という高位能力者でもある白井の活躍は風紀委員の中でもずば抜けていると言っても過言ではない。
しかし高位能力者であるが故に、気付けないことも数多くあった。
例えばスキルアウト、無能力者の人間で構成される学校をドロップアウトした不良の集まり。
白井から見て、彼らは最後まで努力を続けることもせずに人に迷惑ばかり掛ける傍迷惑な存在に過ぎなかった。
だが彼らには彼らなりの白井達は知らない悩みがある。
無能力者故の学園都市での扱いの不遇や、周りの能力者から向けられる蔑まされたような視線。
そんなコンプレックスに悩む人間が能力者だけで構成される風紀委員に取り締まられればどうなるか。
常盤台というエリート校に在籍し、高位能力者としての力を存分に振るってきた白井。
そんな白井がスキルアウトが抱える悩みを簡単に理解できる筈もなかった。
次第と高位能力者特有の傲慢さが顔を覗かせるようになり、今になって振り返れば白井自身も当時の態度は相当酷いものだったように思う。
そしてその傲慢とも言える態度だった白井を諭したのが上条だった。
『幻想殺し』を持つ上条は本当の意味で無能力とは言えないかもしれない。
しかしそれでも無能力者が抱える悩みに対する理解は深かった
正直今も白井のスキルアウトに対する認識が大きく変わったわけではない。
いくら悩みを抱えていようと、それが人に害を与える理由にはならないからだ。
ただ上条によって諭されたことによって、今では取り調べの際などに相手を気遣う余裕が生まれていた。
「確かに言われてみれば、その通りですね。 でもやっぱり一般人を巻き込む理由にはならないような気がします」
「もちろんそれはそうですわ。 危険に巻き込んでしまうだけでなく、一般人が自分の正義感に則って自由に動くというのは危険なことですから」
風紀委員は単に基礎的な体力を鍛えたり、事件があった際のマニュアルを叩き込んでいるだけではない。
他の人間を取り締まる権利を持つということは、それに伴って重大な責任も抱えることになる。
その責任も理解せずに一般人が自分の正義感にだけ則って自由に行動していたら、それは逆に大きな危険が生まれる可能性もあるだろう。
「しかし人が自分の正義感に則って正しいことをしようとする意思は誰にも止められませんわ。 特にあの二人はいざとなると頭より体が動く人間ですから。 それならばいっそ最初から手綱を握っていた方が安全ですの」
「うーん、言ってることは分かるんですけど」
「これは単にわたくしの我侭ですわ。 でもあの二人が間違った方向に進むことはないと確信してますの。 そして万が一にもそんなことがあったら、それを正すのがわたくしの役目なんですの」
「……そうですね。 風紀委員として友達として、私も御坂さんや上条さんを信じます。 だから私にも白井さんの手伝いをさせてくださいね」
「頼りにしてますわよ」
「ところでさっき上条さんと分担するって言ってましたけど、今日は御坂さんは一緒じゃないんですか?」
「お姉様なら、今日は木山先生のところに行ってますの。 何でも最高位の電撃使いであるお姉様の意見も参考にしたいことがあるとかないとか」
「確かに脳波も要は電気信号ですからね。 あっちでも何か進展があればいいんですけど」
今日はここまで
今回は少し上条さんと白井の関係の掘り下げ
多分これから先もあんまり書く機会がないように思うので
上条さんが主人公なのに全く登場してないという
ではまた近い内に
乙です
乙です
上条さんと黒子の理想的な関係だわ
原作黒子は、美琴にとって上条の存在がどれだけ大きいか理解してる良い子だよな
乙です。
やっぱり上条さんはいい先輩でありいいお兄さんだ。
乙
黒子は原作じゃ本当に良い子なのに、アニレーじゃどうしてああなった?
確かにここの上条さんと黒子の関係は理想
変に美琴を諦めてるわけでもなくて、上条さんのことを恋敵としては嫌っててもちゃんと認めてる
おつ
なるほど上条と美琴はコ○ン君だったのか。乙。
>>364
言い得て妙だと思う
あっちも別に自分で事件を起こしてるわけじゃないからな、一応
乙
乙
続きも楽しみにしてる
「偽聖痕使い」ってどう読めばいいのかな?
フォックススティグマ?
明日の昼前に続きを投下します
まさかほぼ同じタイミングでレスしてくれる方がいるとは
ちょっと恥ずかしいんですけどpixivの画像じゃ偽聖痕使い『フェイクスティグマスター』とルビを振ってます
……うん、凄く恥ずかしい
今までも文句なしに楽しい
上条さん強化ssの中ではキャラ崩壊も殆どなくて、一番期待できる
ただ最初に上琴ってあったから、メインじゃなくて少しでいいからそんな描写が欲しい
あんまりどっぷりとしたイチャラブ描写ってのはいらないけど淡い感じならむしろ見たいっていうか
いまの感じでも充分上琴的な雰囲気あると思うけど個人の感じ方なのかな
とにかく明日の投下も楽しみに待ってるよ~
神裂もヒロインって言ってるし、今のままでも結構上琴になってるし、これ以上はいらん
十分だから路線変更しないで頑張って下さい
すみません、急遽出掛けることになりました
午後の二時前に投下します
ちょと間に合いそうにないので、スマホから初投下
いつも感想ありがとうございます
本当に皆さんの感想レスが励みになっています
少し話に出た上琴描写ですが、特に比率を変える予定はありません
というよりも変える必要がないと思います
今はシリアスパートに入ってますが、基本的に上条さんの日常の中には美琴がいます
多分日常描写で上琴成分は補完できると思います
このssにおいて美琴が特別な位置にいるのは間違いないので
ねーちんも早く出せたらいいな
では投下します
「すまなかったね、今日一日付き合わせてしまって」
「いえ、私は全然大丈夫です」
木山の淹れたコーヒーを片手に、美琴は笑顔を浮かべる。
美琴がいるのは木山の私室。
木山から『幻想御手』の解析の手伝いを頼まれた美琴は、先ほどまで昏睡状態に陥った人間の脳波が映されたモニターと向かいあっていた。
しかしいくら原因を探ろうとしても、手掛かりはまるでなし。
同じ症状で倒れているのだから何か共通する脳波のパターンが見つかっても良さそうだが、それすらも見つからない状態だった。
「本当は食峰に協力してもらえれば良かったんですけど」
「食峰操祈、常盤台の女王か」
食峰操祈、常盤台が誇る美琴に並ぶレベル5の第五位。
常盤台において最大の派閥を有する食峰は周りの人間から「女王」の名で呼ばれている。
そして食峰が有する力の名前は『心理掌握』、学園都市最高位の精神系能力だ。
その力も美琴が電撃を放つのと同様に電流や電磁場を介しており、脳に干渉するというだけなら美琴より遥かに優れている。
しかしはっきり言って美琴は食峰のことがあまり好きではない。
単に食峰の力が悪用しやすいというだけでなく、食峰自身がその力を何の躊躇いもなく理不尽な理由で使っているからだ。
人格破綻者ばかりが集まるというレベル5。
自分が特別まともな人間だと美琴も思っているわけではないが、食峰はその中でも群を抜いているように思う。
ただその食峰に関する考えが、自分の偏見だけで成り立っているということも美琴は自覚していた。
もちろん元来の性格の反りが合わないという部分も大きいだろう。
だが食峰のことが嫌いであるということ以上に、美琴は彼女について何も知らない。
(それにどういう訳かアイツのことも知ってるみたいなのよね)
そして食峰は何故か上条についても知っているような口ぶりだった。
しかし美琴が上条と知り合ってからそれなりに経つが、上条自身から食峰の話は聞いたことがない。
上条が食峰によって精神操作されている可能性も疑ったが、上条の右手を使っても何の変化もなかった。
もしかしたら『心理掌握』で他の人間を操っている時に出会ったのかもしれない。
「まあ連絡が取れなかったものは仕方ない。 私としては君が手伝いにきてくれただけで大助かりだからな」
「結局、何の役にも立てなかったですけど」
「……そんなことはないさ。 凝り固まった大人の視点からでは気付かないこともある。 出来れば事件が解決するまでは、これからも手伝いにきて欲しい」
「私でよければ喜んで」
まだ被害者の回復の見込みも立っていない状況で楽観視するわけにはいかないが、美琴としてはこういう形で事件の解決に協力できるのは喜ばしいことだった。
レベル5になってからというもの、どうも物事を解決する際は力ずくということが多くなってしまっている。
もちろん美琴自身が望んでいるわけではないし、そうでなければ解決できないことも数多くあった。
しかし上条を目標とする美琴は単に事件を解決するためではなく、本当は誰かを助けるために力を使いたいと思っている。
確かに両者の目的あるいは最終的に成し遂げなければならないことが重なることは多い。
ただこうやって破壊などを必要とせず、純粋に人のために力を使えることが美琴は嬉しかった。
すると美琴の脳裏には、遠い昔に筋ジストロフィーの治療を目的としてDNAマップを提供した時のことが思い出される。
あの時はまだ幼かったため、ただ病気の人の役に立てればと研究者の言葉に従っただけだった。
そのせいか、今の今まで特にその研究の成果に目を向けたことがなかった気がする。
折を見て幼かった自分の善意がどのように役立っているか確認してみるのもいいかもしれない。
「最近の若者は色々と怠慢だと聞くが、君や上条君を見ているとそうとは思えないな」
「最近の若者って、木山先生だってまだ十分若いじゃないですか?」
「いやいや、私はもうおばさんだよ」
そう言う木山の顔を美琴はジッと見つめた。
確かに化粧っけなどはなく、白衣ばかり着ているせいか華やかさは感じられない。
しかし例え化粧などをしていなくとも、見ただけで木山がまだ若いことは十分に窺える。
顔立ちも非常に整っており、スタイルも申し分ない。
グラマーというよりもスレンダーな体型であることに、美琴は一層親近感を感じていた。
「何か失礼なことを思われていた気がするんだが」
「そ、そんなことないですよ!!」
やはり女性はそういうことに敏感らしい。
美琴自身は親近感を感じていただけなのだが、確かに女性にとっては褒め言葉にはならないだろう。
「それに私もアイツもそんなしっかりした人間じゃないですよ。 アイツなんて一人じゃ全然勉強もしないし、しょっちゅう財布は無くすし」
「君と上条君は付き合いが長いのかい?」
「えっ、あ、はい。 もうすぐ知り合ってから三年くらいになるかな」
「こういう言い方はなんだが、上条君の通ってる高校のレベルはそんなに高い場所ではないだろ? 常盤台に通うようなお嬢様と接点ができるとは思えないんだが」
「私がアイツと出会ったのは小学生の頃だから、それはあんまり関係ありませんよ。 それにその時はまだ私もレベルが低かったし」
「そうか、確か君は常盤台に入ってからレベル5になったんだったね」
「はい。 あの頃は何としてでも能力を伸ばしたくて」
当時がむしゃらになって能力開発に勤しんでいたのはまだ美琴の中でも記憶に新しい。
自分を助けてくれた憧れのヒーロー。
彼のようになりたくて、彼の力になりたくて。
決して上条が能力で人の優劣をつけるような人間でないことは分かっていたのだが、それでも常に誰かのために走り回っている上条の隣に立つには無力なままではいられない。
それが当時の美琴が能力開発に没頭する大きな理由になっていた。
今では色々と駄目な面も見えるようになってしまったが、それでも上条の隣に立つという美琴の目標は今も昔も変わらない。
「ふふ、何となく君の中に上条君が大きく息づいていることは分かったよ」
「にゃ、にゃにを言って!?」
「本来は君のような子供に向ける言葉ではないが、力を持つ人間にとって理解者というのは何にも代えがたい存在だ。 もし上条君が君の支えになっているのなら、君も何かあった時は上条君の力になってあげるといい」
「……はい」
木山の言葉は痛いほど良く分かった。
レベル5という大きなステータスは、逆に美琴から人を遠ざけるフィルターにもなっている。
同級生にも決して友達がいないわけではないが、親友と呼べるような存在は一人もいない。
食峰のように派閥を作ってどうこうというのも、美琴の性には合わない。
孤独というよりは孤高。
そう言えば聞こえがいいかもしれないが、まだ十四歳の中学生に過ぎない美琴には酷なことも多かった。
それでも何とか耐えてこれたのは、やはり上条の存在が大きい。
学園都市の中では唯一自分をありのままに曝け出せる相手。
何か辛いことがあると特に慰めてくれるわけではないが、黙って傍にいてくれた。
それに今年に入ってから知り合った今のルームメイトである白井、他校の生徒である佐天や初春。
年齢の違いからか堅苦しい部分はあるものの、今では掛け替えのない大切な友達だ。
上条だけでなく、彼女達の存在も知らずの内に美琴の中で大きな支えになっている。
「何か色々とありがとうございます。 木山先生って本当優しいですね」
学校の教師でもここまで親身になってくれる人間は少ない。
レベル5としてではなく、ただの子供として接してくれる大人の女性。
目の前の木山もまた、美琴にとって信頼できる存在となっていた。
だからこそ美琴は気付かない。
「いや、こちらこそ君にはこれからも力になってもらわないといけないからね」
美琴が目にしていた脳波のカルテが全て健全な人間のものに差し替えられていたことを。
そして木山が解析を進める間ずっと流していた音楽の正体も……。
今回も短いけど以上です
とりあえず言い訳を一言
美琴はこのまま退場するわけじゃないんで、今は完全に無理やりな展開ですが勘弁してください
関係者が幻想御手を聞けないということを逆手に取ったっていうことで
ちゃんと美琴にもヒーローをさせますんで
ではまた近い内に
乙
乙
そんなに無理な展開じゃないと思うよ
確かに美琴は幻想御手の副作用を知ってるから、どんな音楽かは知らないだろうし
しかし食蜂さんとの和解?フラグもあれだけど、マジで美琴は人間不信になっちゃいそうだな
カス条厨が書いた糞ss
わざわざ美琴を馬鹿みたいに弱体化させたり無力化させるのはアニレーの改悪と何ら違いがない
これだからカス条厨は手に負えない
美琴の人気に便乗して上琴とかほざきやがる
マジで死ねよ
乙
細かいかもしれないけど食『蜂』だからね
そもそもカプによるいちゃいちゃがメインのSSでもないので現時点でもかなり満腹レベルの上琴状態だと思うわww
物語もまだまだ序盤なのに二人の距離かなり近い関係になってるしね
乙です。
続きが気になる展開だな。上条さんが聖人パワーでどう活躍するのか楽しみだ。
追いついた
最初っからずっと読んできて好きなところは吹寄とのレベルアッパー談義だな
ちょっと先の話になるだろうけど美琴強制覚醒編に入った時の上条さんの役割がどんなふうに変わっていくのか楽しみ
やっぱりみさきちと上条さんの関係は、みさきちが一方的に知っているだけで
知り合いや友達ってわけじゃないのか。
ここから食蜂様が登場して華麗に活躍してくれるのかな?
何で急に食蜂の流れになってるん?
別にみさきちはメインで出張ってこなくても構わないわ
食蜂がメインヒロインのSSならともかく、原作で過去に上条とどんな出会いをしたか
明かされてないキャラにあまり大きな役を与えるのはどうかと思う。
つーか、脳波を操れる食蜂が出張ってきたら幻想御手事件が一発解決しちゃうから
面白くもなんともないし。
いつも感想ありがとうございます
明日の23:00くらいに続きを投下します
楽しみにしてます
これで吹寄に続いて美琴まで昏睡状態になったら
上条さん怒りのあまりドラゴンストライク発動しかねないな。
原作キャラにオリ能力持たせちゃった時点でもはや別人
>>1の気持ち悪い自己投影が透けて見える
>>398
他のスレでも作者批判して気持ち悪いって言ってたね、君
鏡でも見ちゃったんじゃないの
頭のネジが外れちゃった可哀想な人だからそっとしておいてあげてください
今日も投下予告時間から遅れましたが、続きを投下したいと思います
いつも感想ありがとうございます
本当に励みになっております
>>387さん
まさかの変換ミス
なるべく気をつけるようにはしてるのですが
pixivでまとめを投下する際には修正しておきたいと思います
ご指摘ありがとうございました
そして食蜂さんについてですが
確かに扱いに困るんですよね
原作でもまだ上条さんとの関係が明白になってないし
ただここは一から原作と設定が異なる部分もあるので、原作の様子を見ながら適当に辻褄合わせをしていきたいと思います
では投下します
(どうすっかな?)
上条は心の中で思わず愚痴に近い呟きを漏らしていた。
目の前には明らかに目が血走っている男とその取り巻きが二人。
三人揃いも揃って上条のことを敵愾心溢れる目付きで睨み付けている。
「ふざけた真似しやがって。 せっかくの実験体も逃げちまいやがったしよ」
実験体というのは先ほどまでこの場にいた小太りな少年のことだろう。
上条が駆け付けた際には、目の前の男達がその少年相手に能力を試そうとしていたところだった。
今まで何箇所か『幻想御手』の取り引き場所を回ってきたが、どうやらここは『ハズレ』だったらしい。
「だから何回も言ってるだろ? 『幻想御手』には副作用があるから、すぐに風紀委員か警備員に保護してもらった方が良いって」
取り引き現場を回る過程で、上条はこのように危険性を伝えることで『幻想御手』を使うことを止めるよう訴えかけている。
これは白井が考えた方法だった。
上から『幻想御手』の情報を漏らさぬよう命令を受けている白井は、例え被害を食い止めるためでも『幻想御手』の危険性について無闇に話すことができない。
だが風紀委員ではない一般人の上条なら話は別だ。
少し調べれば上条と白井の関係などすぐに分かるだろうが、それくらいならいくらでも誤魔化しようがあるらしい。
それに何かあった際に直接制圧する手段が殆どない上条にとって、話し合いで解決を図るのは有効な方法だった。
実際これまでも大抵はこの方法で上手くいっている。
しかし今回に限ってはそうもいかないようだ。
「こっちは手に入れた力を試したくてウズウズしてるんだ。 代わりにテメエが相手になってくれるってことでいいのか?」
「どうせ断っても、逃がす気なんてねえくせに」
「ハハッ、分かってんじゃねえかっ!!」
次の瞬間、上条に向かって複数の鉄パイプが遅い掛かった。
どうやら男達のターゲットは少年から上条へと完全に移ってしまったらしい。
咄嗟に上条はバックステップを踏んで後方へと距離を取るものの、完全に空振った筈の鉄パイプは尚も上条の後を追尾するように迫ってくる。
「くそっ!?」
鉄パイプが正確に上条を狙って飛んでくるのを見る限り、直接物体を操作する念動力、あるいは鉄という材質からして美琴と同じ電撃使いか。
何にしろ凄まじいスピードで迫ってくる鉄パイプに激突すれば、上条もただでは済まない。
そしてこのまま逃げ回っていても、いずれ鉄パイプの餌食になるのは確実だった。
「殺す気かよ、この野郎っ!!」
「偉そうに吼えてた割には、随分と必死じゃねえか?」
顔面に向かってきた鉄パイプを首を捻ることによって命辛々躱した上条に対して、男は余裕のある笑みを浮かべる。
飛んでくる鉄パイプはかなりの数であり、これだけの質量の物体を自在に操っているとなるとレベル3相当には能力が強化されているかもしれない。
ただ上条にとって幸いだったのは他の男達が高みの見物に徹底しており、また対峙している男が上条に対して能力を使った攻撃しかしてこないことだった。
「舐めるなっ!!」
上条は体を横に逸らしながら、体を掠めた鉄パイプを受け流すようにして右手で触れる。
その瞬間、鉄パイプは完全に勢いを無くして甲高い金属音と共に地面へと転がった。
己の力の制御から外れた鉄パイプを見て、余裕の笑みを浮かべていた男の表情は訝しげなものへと変わる。
それだけでなく他の鉄パイプまでもが、先ほどまでの勢いを失っていた。
「くそっ、どうなってんだ!?」
明らかに焦った様子の男に向かって、このチャンスを逃がすまいと上条は一気に距離を詰める。
上条が右手に宿す『幻想殺し』という特異な力。
この力について何も知らない人間が上条と対峙しても、初見でその力をすぐに理解するのは難しいだろう。
ましてや今の相手は『幻想御手』を使って暫定的に能力が強化されているに過ぎない。
いくら強大な力を得ていようと、その力をまるで使い慣れていないのだ。
案の定、少し動揺しただけで男は力の制御ができなくなっている。
「がぁっ!?」
男を殴り飛ばした上条はすかさず他の二人へと向き直る。
二人ともまだ目の前で何が起こったか理解が追いついてないようだ。
長引かせればするほど状況は不利。
ただでさえ数的に劣っている状態で、畳み掛けるなら今しかない。
チョビ髭を生やした男へ距離を詰めると、上条は男の顎へとアッパーを叩き込む。
そして宙に浮いた男が地面へと落ちる前に、最後の一人へと拳を叩き込んだ。
「は?」
しかし完全に男の顔面を捉えた筈の右手は、虚しく宙を切る。
その代わりに上条の右手には、いつも美琴の電撃を打ち消す時と同様の感覚が残されていた。
そして男の姿が描き消えると同時に、上条は酷い悪寒に襲われる。
「良い勘してやがるな」
逃げるようにして大きく距離を取った上条の左頬を何か生温かいものが伝う。
頬に手を添えると、その手は血で真っ赤に染まっていた。
「どんな力を持ってるか分からねえが、随分喧嘩慣れしてやがるじゃねーか? カカカカカッ、面白え」
そして上条が顔を上げた先には、ナイフに付着した血を舐め取るようにして舌を這わせている男の姿があった。
そんな男を見て上条を襲う悪寒は一層深まっていく。
今は偶々避けることができたが、男のナイフは躊躇なく上条に向かって振り下ろされていた。
今の狂気じみた姿もそうだが、それ以上に何の躊躇いもなくナイフを振るえる男の精神に上条は恐怖を覚える。
(どうする?)
別に上条は争うために『幻想御手』の取り引き現場にやってきたわけではない。
忠告を受け入れて貰えず半ば強制的に男達と喧嘩する羽目になってしまったが、『幻想御手』を買い取ろうとしていた少年がいない以上ここに留まる理由はなかった。
だが目の前の男は能力が向上したか確かめるためだけに、無力な人間をいたぶろうとしていた人間だ。
この男をここで止めなければ、これから先も同じようなことが続くかもしれない。
何より『幻想御手』を使用しているであろうこの男は、いずれ他の被害者達と同様に昏睡状態に陥ってしまう。
正当防衛とはいえ既に手を出してしまってはいたが、それでも上条はこの男達を放っておけなかった。
「おっ、ヤル気になったってわけか?」
再び右拳を握り締めた上条に対して、男は挑発的な笑みを浮かべる。
こうなってしまった以上、話し合いで解決するのは難しいだろう。
しかし最後に一度だけ、上条は男との対話を試みた。
「さっきの話は本当だ。 このままじゃいつどこで倒れるか分からない。 だから予め警備員か風紀委員に……」
「オレ達はよ--」
しかし上条の言葉が最後まで続く前に、男の声が割って入った。
「盗みや暴行、恐喝にクスリ。 他にもいろいろ悪どい事して楽しんできたけどよ。 最後はいつも風紀委員や警備員に追われてな。 ウザってー目に遭わされてきたんだ」
「それはお前達の自業自得じゃねえか」
「確かにそーかもな。 だが無能力者のオレ達に他にどんな生き方がある? 能力が使えねーだけで落ちこぼれの烙印を押されて、周りからも蔑んだ目でしか見られないオレ達によ?」
「レベル0でも真面目に生きてる人間はいくらでもいるだろうがっ!!」
「カカカッ、笑わせるな。 良い子ちゃんぶって真面目に生きろだって? お前の言う真面目なレベル0だって、腹ん中はオレ達と変わりゃあしねーよ。 ただ臆病風に吹かれて、糞みてーな現実から目を背けてるだけだ。 それに風紀委員や警備員だって高いところから見下しやがって。 何があろーと、正義の味方ぶったあいつらの世話になるなんてごめんだぜ」
ここまで学園都市に根付いた無能力者が抱く劣等感は大きいのか。
そう思いながらも、上条は男の言葉を全て否定することができなかった。
レベルが上がらなくとも最後まで努力し続けられる人間と、そうでない人間。
上条はそのどちらも否定するつもりはない。
能力の優劣だけが学生の価値ではない。
例え挫折しても違う道を探せばいい。
しかしそれが殆ど許されないのも学園都市の現実だった。
スポーツにしても能力が使われるのは当たり前だし、単純な成績よりも能力のレベルが評価される。
強大な力を使うために高い演算力が求められる高位の能力者には学力の成績が良い人間が多いのも事実だが、それを抜きに
しても優秀な学生は数多くいる筈だ。
だがそういう面で評価された人間の話は聞いたことがない。
「副作用? 上等じゃねーか。 ならぶっ倒れる前にオレ達を見下してきた奴らを、ギッタギタにしてやるぜ。 まずは善人ヅラした、偽善者のオマエからなっ!!」
「っ!?」
ナイフを片手に男は上条に襲い掛かってきた。
恐怖で足が竦むのを感じながらも、上条は迎え撃つべく構えを取る。
男の動きは直線的で単調なものであり、普通だったらナイフにさえ注視していれば対処は容易い筈だ。
だが目に見える位置に本当に男がいるとは限らない。
男の力の効力は既に凡そ分かっていた。
自分の居場所を相手に誤認させる能力。
右手が触れた瞬間に男の姿が消えたことからも、恐らく直接脳に働き掛けるようなものではない。
ホログラムのように自分の姿を別の位置に映し出しているのだろう。
ただ問題なのは男の正確な位置が上条から見えないことだった。
目に見える男の姿に気を取られていると、別の位置から攻撃がくる。
一撃耐え抜いて反撃に出るという手もあるが、ナイフを持っている男を相手にするにはリスクが大きすぎる。
そして上条が取った行動は……。
「なっ、逃げやがるのかよっ!?」
上条は構えを解いて男に背を向けると、一目散にその場から駆け出す。
『幻想殺し』は基本的にどんな異能に対しても絶対的な力を持つが、能力の特性を考えても上条とこの男の相性は最悪に近い。
例え『幻想殺し』で男の能力を打ち消しても、その瞬間に死角から攻撃されたらおしまいだ。
恐らく点と点の間で物体を移動させる白井の『空間移動』も、男の位置が正確に分からなければ汎用性は一気に減るだろう。
男の能力に対して優位に立てる能力を挙げるとするならば、やはり美琴のような電撃使い。
電磁波によって相手の位置は把握できるし、全方位に向かって攻撃も行える。
しかし今日に限って美琴は一緒にいないので、無い物ねだりをしても仕方ない。
ここに来たのが白井でなくて良かったと思いつつも、今は上条自身が何とかしてこの場を切り抜けなければならなかった。
(とにかく今はアイツから距離を取らねえと)
男の姿が消えたすぐ側からナイフが迫ってきたことからも、目に見える男の位置と実際にいる位置はそう離れてはいない筈だ。
だが男との正確な間合いが分からないということに違いはないので、できる限り男との距離を空けておきたい。
上条はすぐ近くにあった廃ビルに逃げ込むが、その後を男の足音が追ってくる。
明らかに身の危険が迫った状況で上条一人で男の相手をするメリットはない。
しかし警備員や風紀委員を呼ぼうにも、上条の身元が割れれば白井の独断専行に責任が及んでしまう可能性がある。
今までは自主的に『幻想御手』の使用者に警備員の詰所に行ってもらっていたため問題にならなかったが、我侭を言って事件の解決に協力している以上、なるべくなら白井に迷惑が掛かるようなことは避けたい。
尤もその心遣いのせいで自分が怪我をしてしまっては元も子もないことは上条も分かっているのだが。
ただ男はまるで風紀委員や警備員にも恨みがあるような口ぶりだった。
このまま警備員や風紀委員に救援を求めれば、彼らにも危険が及ぶかもしれない。
身勝手な我侭だということは自覚しつつも、上条は何とか一人で男を無力化する術を考える。
「しかし身を隠せるような場所も全然ねえじゃねえか」
全てを見て回ったわけではないが、ビルの中には什器のようなものがまるでなかった。
どうやら解体業者か何かによって完全に撤去されてしまったらしい。
こうなっては上条も覚悟を決めるしかなかった。
今も後ろからカツンカツンと迫ってくる足音。
相手の位置を探ったり、即座に逃走することができるような手段を持たない上条は、走りながらも男との距離を一定に保っていた。
足音を頼りに男との距離を測り、逆に足音が聞こえなくなったら男はどこかで立ち止まっているということだ。
そうなると男が上条を待ち伏せしている可能性も高くなる。
ただしこれは相手にも同様に上条の動きが読まれていることを意味していた。
奇襲を掛けるか、待ち伏せするか、正面から戦うか。
しかしいくら考えようと、決め手を欠ける上条に残された選択肢は殆ど無い。
カツンカツンと足音が響き渡る中、上条はその足を止めた。
「おーおー、まさか馬鹿正直に正面から向かってくるとはな」
感心しているのか、嘲っているのか。
上条に追いついた男は愉快そうに顔を歪める。
例え奇襲を掛けても、男に攻撃が通るとは限らない。
待ち伏せできるような隠れる場所もない。
ならばリスクを背負ってでも、より確実に男を無力化できる方法を選ぶしかない。
勝負は一瞬。
そこで決められなければ、恐らく上条にもう勝機が訪れることはないだろう。
上条は決着を付けるべく、男に向かって走り始める。
「カカカカカッ、ヤケになりやがったか」
正直、男にどうしてそんな余裕があるのか上条には分からない。
確かにナイフが頬を掠めていたが、決定的な一撃を食らったわけでもない。
『幻想殺し』の力について完全に理解しているわけでもなさそうだった。
そこに妙な違和感を覚えつつも、上条は男へと直進する。
結局上条は男を無力化する有効的な方法を思いつかなかった。
そして最後に残されたのは、一番最初に思いついた策のみ。
(問題はタイミング)
一撃を耐え抜いた上で反撃する。
ナイフを持った男相手にはあまりにも危険な方法だが、上条にはそれを実行する力があった。
右手に秘められた力の解放。
上条は右手の傷跡に意識を集中することによって、強大な身体能力を得ることができる。
絶対に間に合わないタイミングだった虚空爆破事件の爆発から美琴達を守れたのもその力のお陰だった。
そしてその力は単に身体能力を向上させるだけでなく、身体の強度までもが格段に跳ね上がる。
それこそナイフによる攻撃なら簡単に受け止められる程に。
しかし強大な力には大きな副作用が付き物で、今まで力を使った際は必ず身体に酷い負荷が掛かっていた。
この間の肉離れを初め、酷い時には生死の境を彷徨ったことすらある。
普段から使うにはあまりにもリスキーな力。
ただ虚空爆破事件で力を使った時から、上条の中で何か変化が起こり始めていた。
カエル顔の医者が言っていた通り、肉離れ程度で済んだのは確かに運が良かっただけなのかもしれない。
だがまるで幸運から見放されたように不幸な上条に、そう都合よく幸運が訪れるだろうか?
運が良かったのではなく、上条自身の力によってその結果を引き寄せていたのだとしたら?
(一気に解放するんじゃなく、少しずつ小出しにする感じで)
男に向かっていくに当たって、一番危険なのは目に見える位置よりも男が手前にいることだった。
力を早めに解放して自滅しては元も子もないが、力を解放する前にナイフで襲われても完全にアウトだ。
しかし男の力の特性を考えると、危険を冒すような真似をするとは考えにくい。
それに鉄パイプを操っていた男達と比べれば遥かに喧嘩慣れもしているようだが、『幻想御手』を使っているならば能力の使用に関しては素人ということは変わらないだろう。
狙ってくるとすれば、上条が虚像に辿り着いた絶対のタイミング。
そして自分の直感を信じた上条の選択は正しかった。
「なっ!?」
バキンッ!!
男の姿が上条の右手によって掻き消された瞬間、上条の左肩を狙ってナイフが振り下ろされる。
しかしそのナイフは上条の身体を抉ることなく、刃の部分から折れて宙を舞った。
そして上条の右拳が驚愕に歪む男の顔面を打ち抜く。
大きく吹き飛んだ男の身体はそのまま床を転がり、両者の戦いは雌雄を決した。
「……悪い」
上条は気を失って倒れている男を見下ろして、思わずそう口にする。
いくら救うことが目的だと口にしても、上条がやったことは結局暴力を振るったことには変わりない。
そして上条は男が口にした言葉を無意識の内に反芻していた。
偽善者。
まさに自分はその言葉通りの人間だと上条は思う。
いざとなったら戦うという選択肢しか取れない人間。
本当の善人がいるとするならば、例えどんな状況でも戦わないことを選択できる人間だろう。
きっと自分はこれからもそういう人間にはなれない。
自分の善意を押し付けるために拳を振るい続けるのだろう。
心の中で自分のことを偽善使い《フォックスワード》と自嘲しながら、上条はひとまずこれからどうするか考える。
元々ここに来た目的は『幻想御手』の拡散を食い止め、使用した人間を保護することだ。
「やっぱり警備員が風紀委員に連絡するのが一番だよな」
上条は電話を掛けようと携帯を取り出すが、ビルの下が何やら騒がしいことに気が付いた。
「あれって警備員か?」
上条が窓からビルの下を覗くと、三叉の矛のシンボルが施された防護服を着ている大人達が辺りを警戒するように見回っている。
しかし上条はまだ警備員に連絡は取っておらず、どうやら他の誰かが通報を行ったらしい。
そして上条の脳裏に思い浮かんだのは一人の少女の姿だった。
三人の男達と彼らの能力の実験体にされそうになっていた少年。
実は他にもその場にいた人物が存在した。
上条は警備員に見つからないように、その強い正義感を持った少女を探して走り始めるのだった。
「……悪い」
上条は気を失って倒れている男を見下ろして、思わずそう口にする。
いくら救うことが目的だと口にしても、上条がやったことは結局暴力を振るったことには変わりない。
そして上条は男が口にした言葉を無意識の内に反芻していた。
偽善者。
まさに自分はその言葉通りの人間だと上条は思う。
いざとなったら戦うという選択肢しか取れない人間。
本当の善人がいるとするならば、例えどんな状況でも戦わないことを選択できる人間だろう。
きっと自分はこれからもそういう人間にはなれない。
自分の善意を押し付けるために拳を振るい続けるのだろう。
心の中で自分のことを偽善使い《フォックスワード》と自嘲しながら、上条はひとまずこれからどうするか考える。
元々ここに来た目的は『幻想御手』の拡散を食い止め、使用した人間を保護することだ。
「やっぱり警備員が風紀委員に連絡するのが一番だよな」
上条は電話を掛けようと携帯を取り出すが、ビルの下が何やら騒がしいことに気が付いた。
「あれって警備員か?」
上条が窓からビルの下を覗くと、三叉の矛のシンボルが施された防護服を着ている大人達が辺りを警戒するように見回っている。
しかし上条はまだ警備員に連絡は取っておらず、どうやら他の誰かが通報を行ったらしい。
そして上条の脳裏に思い浮かんだのは一人の少女の姿だった。
三人の男達と彼らの能力の実験体にされそうになっていた少年。
実は他にもその場にいた人物が存在した。
上条は警備員に見つからないように、その強い正義感を持った少女を探して走り始めるのだった。
以上になります
初めての本格的な戦闘描写
……はい、すみません
あくまでもこのssは上条さんの強化ssなので、これから少しずつ精進していきます
多分この三連休の内にもう一回これると思います
では近い内に
追記
白井さんの出番を食うような真似をしてすみませんでした
乙でした
上条さん、かっこいい
おつおつ
乙です
描写が丁寧で戦闘シーンが目に浮かぶよ
上条さんかっこいい!
上条さんの聖痕能力が初めて本格的に描写されたな。面白かった。
こりゃ俺ン時も愉快に素敵にキメてくれそォだな、三下ァ!!
ロリコンがどうやらボコボコにされる未来を悟ったようです
だんだん力使いこなしてってる感じもいいね
明日の夕方に短いですが続きを投下します
あと今回投下した戦闘描写ですが、何かアドバイスなどがあれば教えていただけると幸いです
そして今更ですが、少し修正
最初の方の投下で上条さんと美琴が出会っておよそ二年と書かれてますが、三年がこのssの正しい設定になります
>>207に書いてあった「妙な違和感」ってのはこれから説明があるんですよね?
夕方っていつからいつのことを言うんですかね?
取り合えず今から投下します
いつも感想ありがとうございます
本当に励みになってます
そして不安があった戦闘描写ですが、思ったよりも好評で安心してます
ただせっかく上条さん強化ssを書いてるので、これからもそういう描写には力を入れていきたいと思います
少し改善した方が良いと思った点でもいいので、アドバイスを頂けたら嬉しいです
>>423さん
一応それは何の関係もない部分ではありませんが、特にストーリーにおいて重要なことというわけではありません
そのことについて触れるのも相当先だと思うので、気長にお待ちください
では投下します
(イヤだな、この気持ち)
警備員が廃ビルのあった敷地内に入っていくのを確認して、佐天は一人その場を後にしていた。
たまたま遭遇した『幻想御手』の取り引き現場。
そこで目撃したのはスキルアウトと思われる男達に嬲られようとしている少年の姿だった。
何の力もない自分では何もできない。
そんなことは分かりきっていたのに、気付くと佐天は少年を庇うように男達の間に割って入ってしまっていた。
もし上条が助けに入ってくれていなければ。
そのことを想像しただけで、佐天の足は恐怖で震えてしまう。
そして恐怖に怯える以上に、佐天は助けてくれた筈の上条に対して複雑な思いを抱いていた。
(いくら上条さんが無能力者って言っても、あたしとは全然違う。 無能力者って評価でも全然構わないから、あたしにも特別な力があればなぁ)
無能力者が抱えるコンプレックスには大きく分けて二種類ある。
一つ目は学園都市における待遇への不満。
実際はレベル0もレベル1も大差はないと言われているが、周りが見る目は明らかに変わる。
それはスキルアウトのように学校をドロップアウトする人間の殆どがレベル0であることからも明らかだろう。
そして二つ目は能力そのものへの羨望。
やはり学園都市に来た以上、能力への憧れを抱く人間は多い。
特に佐天はその能力への憧れが大きい少女だった。
自分の能力って何だろう?
自分にはどんな力が秘められているのだろう?
そんな夢を持ってやって来た学園都市。
しかしそこで佐天を待っていたのは、全く才能がないという残酷な現実だった。
だから例えレベル0という烙印を押されていても『幻想殺し』という特殊な才能を持つ上条への嫉妬が佐天の中で渦巻いている。
(助けてくれた人をこんな風に思うなんて、あたし最低だ)
同じレベル0なのに。
却って上条が高位の能力者とされていた方が、こんな感情は抱かなかったかもしれない。
だが特別な力を持つにも拘らず、いかにも自分はレベル0だという顔をしている上条のことを佐天を憎らしくさえ思ってしまっていた。
「よっ!!」
そしてそんな佐天の心の内を知ってか知らずか、佐天の後を追ってくる人間がいた。
後ろから声を掛けられる形だったが今まさに思い描いていた人物の声だったので、振り返らずとも声の主が誰かは分かる。
佐天は平静を装って後ろを振り返るが、
「上条さん、血がっ!?」
振り返った先にいた上条の頬には血がべっとりとこびり付き、ワイシャツまでもが血で赤く染まっていた。
そんな上条の姿に佐天は軽い眩暈を覚えながらも、当の上条は特に何事もなかったように平然としている。
「悪いな、こんな状態で。 でも血の方はもう止まってるから大丈夫だ」
「すみません、あたしのせいで……」
「別に佐天さんのせいじゃないって」
そう言って上条はにこやかに笑う。
しかし今の佐天には、その笑顔すらも力を持つ人間の余裕の表情に映ってしまっていた。
「えっと、警備員を呼んでくれたのって佐天さんだろ? サンキュー」
「別にあたしにできることはこれくらいしかありませんから」
「一緒に逃げたアイツは大丈夫だったか?」
「ええ。 無能力者にできることは何もないって、とっくに逃げ去りましたけど」
「そ、そうか」
佐天の言葉に棘があることに気付いたのか、上条も少し気まずそうな表情を浮かべている。
本当ならまず最初に助けてもらったことにお礼を言わなければならないのに。
心の中ではそう思っているのものの、その思いとは裏腹に佐天の口から出てくる言葉は毒のあるものばかりになっていた。
「でもそんな怪我をしてまで人助けなんて、上条さんって本当に凄いですよね」
「別にそんなことは……」
「そうですか? あたしは十分立派だと思うけどなー」
「あのー、何か怒ってらっしゃる?」
「そんなこと全然ないですよ。 でもやっぱり力がある人は違うなって」
そこまで言って、佐天はようやく言い過ぎたことに気が付いた。
これではまるで上条が力があるから助けてくれたと言っているようなものだ。
力とは関係なしに、助けてくれたのは上条だということに違いはないのに。
佐天が上条の顔を恐る恐る覗き込むと、案の定その表情は険しいものに変わっていた。
「す、すみません」
「いや、まあそう言われても仕方ねえよな」
だが上条は苦笑いを浮かべているものの、すぐに穏やかな表情へと戻る。
そんな上条の様子を見て、佐天はますます自己嫌悪に苛まされるのだった。
「本当にごめんなさい、あたし……」
「いいって、いいって。 溜まってるもんがあるなら、吐き出しちまった方が楽になることもあるし」
上条の態度は先ほどとそう変わったわけでもないが、佐天の中で渦巻いていた感情は収まりつつあった。
自己嫌悪に陥ったことで少し落ち着いたのと、上条の言葉が純粋な善意からくるものだと悟ったからだろう。
「俺でよければ話くらいは聞くからさ」
酷いことを言ったのに、上条は今もそう言ってくれている。
そんな上条の優しさに甘えてしまっていいのか?
佐天は自問自答を繰り返すが、佐天の悩みはあまり友人に聞かれたくないものだった。
それに比べて上条はまだ知り合ったばかりで、単に話を聞いてもらうだけならちょうど良い距離感かもしれない。
「……なるほど」
少し場所を移して、佐天と上条はとある公園のベンチに腰掛けている。
あれから佐天は自分の悩みをありのままに上条にぶつけていた。
能力者を夢見て学園都市に来たこと。
しかし才能がないと、今の今までずっとレベル0のままだということ。
そして先ほどの態度の謝罪も含めて、同じレベル0でも特別な力を持つ上条に嫉妬していたということも……。
「すみません、こんな話聞かせちゃって」
「いや、全然構わねえよ。 でも確かに俺じゃあ佐天さんの悩みを本当に理解してあげることはできないかもな」
「……そうですよね」
「ただ俺からすれば、佐天さんの方がよっぽど凄いと思うけど」
「何の力もないあたしのどこが凄いって言うんですかっ!!」
上条の言葉に落ち着いていた筈の佐天の感情は再び爆発する。
上条に悩みを聞いてもらったのは下手な慰めが欲しかったわけではない。
ただ自分の悩みをぶつけたかっただけだ。
悩みを相談しておいて非常に身勝手な言い分だということは佐天も理解している。
しかし根拠のない励ましはやはり今の佐天に受け入れられるようなものではなかった。
だがそんな佐天を前にしても、上条は動じた様子もなく言葉を続ける。
「だって佐天さんは自分が無力なことを知ってても、誰かのために行動できたんだろ?」
「え?」
「俺は少しでも自分にできることがあることを知ってたから、こうやって事件を解決するために協力してる。 そういう意味じゃ力を持った人間の傲慢や偽善だって思われても仕方ないと思う。 それに力がなくても同じことができたかって聞かれたら、やっぱり難しいんじゃねえかな?」
「そ、そんなことないですよ!! 上条さんは例え力がなくたって変わらないと思います」
「ははっ、何だか俺の方が励まされちまってるな。 まあ取り合えず俺のことは置いておくとして、話を元に戻すぞ」
「は、はい」
「俺は自分にできることをやってるだけだけど、佐天さんは自分の身を省みず誰かのために行動できる。 俺から見たら、そっちの方が凄いことだと思うんだよな」
「でも実際は何もできなかったわけですし」
「……まあな。 周りからは結果に至るまでの過程は中々見えないもんで、評価されるのは結果だけってことが多いのは俺も分かるよ。 能力開発だって同じだ。 評価されるのは目に見えるレベルだけで、いくら努力したってレベルが上がらなきゃ見向きもされない」
「……そうですね」
「でも少なくても俺は佐天さんが誰かのために動ける人間だってことを知ってる」
「っ!?」
「俺なんかに評価されても嬉しくも何ともないと思うけど、きっと能力のレベルなんか関係なく佐天さんの良い所を知ってる人間は他にもいると思うぞ」
「あ、ありがとうございます」
まさか正面からこんな恥ずかしいことを言われるとは佐天も思っていなかった。
そして上条の顔を見ればその言葉が決して慰めなどではなく、本心から言ってるということが嫌でも分かる。
友達付き合い一つにしても、能力の優劣が付いて回る学園都市。
そこで出会って間もない人間から能力など関係なしに評価して貰えるのは嬉しいものだった。
「これが俺の本心だけど、佐天さんから見たらやっぱり上から目線になっちまうのかな? だとしたら、悪い」
(そういえばあたしが上条さんに嫉妬したのが原因でこんな話になったんだった!!)
上条の言葉の最後の付け足しに、佐天はハッと我に返る。
せっかく良い話で終わりそうだったのに。
今も能力に対する憧れや嫉妬が完全になくなったわけではないが、少なくとも上条の言葉によって佐天の心は軽くなっていた。
だから今は上条に感謝こそすれ、恨み節などを言うつもりは毛頭ない。
このままでは上条が負い目を感じたまま話が終わってしまう。
「自分の心で決着をつけなきゃいけない部分もあるとは思う。 でも俺で良ければこれからも愚痴くらいは聞くからさ」
そう言って笑う上条に釣られて、佐天の顔にも思わず笑みが零れる。
何となく言い繕うのも嫌だったので、佐天はその笑顔で上条に応えたものとした。
そして佐天はそのまま上条のことを正面から見据える。
上条は自分には力があるからできることをやっているだけだと言っていた。
しかし例え特別な力がなくとも、きっと上条という人間は変わらない。
今は本当にそうだと佐天は確信している。
そんな上条だからこそ、彼の右手に不思議な力が宿ったのではないか?
「ふふ、じゃあお言葉に甘えて」
能力など関係なしに自分を見てくれる知り合いができた。
そのことはレベル0ということで悩んでいた佐天の心を少しだけ明るくする。
これからも学園都市で暮らしていく以上、レベルの問題はいつまでも付き纏うだろう。
だがきっとそれだけに佐天の心が囚われることはもうない。
そして佐天は音楽プレイヤーに入っていた音楽の一つをそっと消すのだった。
今回は佐天さんパートです
このssのカップリングは最初に書いた通り、上琴です
ただしあまりキャラ崩壊はさせないように気を付けてます
多少美化してる部分はあると思いますが
そしてあまりキャラ崩壊させないようにしてると、上条さんに無意識にこんなことを言わせちゃいます
仕方ないよね、上条さんだもん
できれば明日、短いですがキリの良い所(pixivで一話としてまとめる所)まで進めたいと思います
ではまた近い内に
乙
乙
乙
なんで上琴ってカップリングがあるのに、他キャラにまでフラグ立てるような真似させるの?
それじゃ他キャラが完全に咬ませ犬じゃん
単に>>1が上条に自己投影してハーレム路線に変更したの?
何か上条厨のハーレム志向が透けて見えて気持ち悪いわ
なんでもかんでもフラグだと思う人こそハーレム志向
乙です
佐天さんもこれでコンプレックスから解放されて救われたわけか
黒子パートもだけど各キャラと上条さんの関係が理想的だなー
今日の22:00くらいに続きを投下します
投下ペース早くて嬉しい
上条さんマジ兄条さん。
期待
ちょっと早いけど続きを投下します
いつも感想ありがとうございます
確かにここの上条さんは超電磁砲組のお兄さん的存在になってます
メインヒロインのはずの美琴もまだ妹って感じが強いですし
ここからどう関係性が変化していくのか
ただ自分の中で妹キャラとして理想なのは初春と絹旗
絹旗は暗部の人間だから別としても、できれば上条さんと初春の絡みを書きたい
ただ初春って何だかんだ禁書キャラでも屈指のしっかり者ですよね
殆ど上条さんの必要性がないですね
では投下します
「共感覚性?」
『幻想御手』の拡散を食い止めるために上条が廃ビルでスキルアウトの男を相手に喧嘩してから数日後。
上条は風紀委員第一七七支部、白井や初春が拠点としている風紀委員の詰め所の一つに集まっていた。
本来なら風紀委員以外の一般生徒は出入りが禁止されているのだが、上条は美琴と一緒に何食わぬ顔で椅子に座っている。
そして聞きなれぬ言葉を耳にして、上条は確認するようにその言葉を繰り返した。
「例えば赤系の色を見れば暖かく感じたり、青系の色を見れば冷たく感じたりするでしょ?」
「ああ。 でもそれがどうしたんだよ?」
「はぁー、これだから類人猿は。 少しはお頭を使うことを覚えた方が良いんではなくて?」
「おい、白井。 上条さんもそろそろ本気で怒るぞ」
「あれだけ無茶はするなと言っておいたのに、頬を五針も縫うような怪我をしてくる方にそんなこと言われたくありませんの」
「うっ」
血は止まっていたものの佐天から病院に行くことを約束させられた上条は、あの後すぐに病院へと向かっていた。
そこでいつものようにカエル顔の医者から治療を受けていた上条だったが、どこから聞きつけたのか美琴と白井がすぐに駆けつけてきた。
そして案の定、二人から手痛い説教を受けたわけである。
特に美琴の怒り方は尋常ではなく、思わずその場にいたカエル顔の医者が止めに入ったほどだ。
今も白井の言葉でそのことを思い出したのか、美琴の方に目をやると険しい目つきになっている。
上条も二人に心配を掛けたことは本当に申し訳なく思っていたが、個人的には得たものがなかったわけではない。
今まで全く制御できなかった右手の力の解放。
それが少しずつだが確実に使いこなせるようになってきている。
力さえあれば、もうあんな思いは……。
(あんな思い?)
すると上条は突然自分の中で湧き起こった感情に戸惑いを覚える。
上条自身が佐天に言っていたように、上条は目に見える力が全てなどとは思っていない。
だがそんな思いとは裏腹に、上条は無意識の内に確固たる力を求めていた。
そしてその力を求める理由が自分の中でハッキリしないのだ。
自分の中に自分の知らない未知の部分が存在する。
そのことに上条は妙な不安を感じるのだった。
「上条さん、大丈夫ですか?」
「あ、ああ」
初春に声を掛けられて、上条はようやく我に返る。
初春だけでなく美琴と白井も心配そうに上条の顔を覗き込んでいた。
「それでその共通覚性ってやつがどうかしたのか?」
「木山先生が言ってたでしょ? 五感に訴えかけることによって能力開発を行う『学習装置』って機器があるって」
「それがどう関係あるんだよ?」
「本当に鈍いですわね。 つまり五感の一つだけで他の感覚にも影響を与える共感覚性を利用すれば、音声データのように聴覚に作用するものだけでも『学習装置』のような効果が得られる可能性があるということですの」
「それってやっぱりあの音声データが『幻想御手』の正体だったってことかっ!?」
「まだ確証はないけどね。 私が思いついたのも昨日の夜だったし、これから木山先生に連絡してみないと」
「さすが御坂さんですっ!!」
まだ美琴の推論が正しいと証明されたわけでもないし、事件の解決に向けて大きく進展があったわけでもない。
しかし今まで解決の糸口がまるで見つからなかった状況で、それは四人にとって一筋の光明となる。
「しかし共感覚性なんてもんまで知ってるなんて、やっぱり大したもんだな」
「本当にそう思うんだったら、アンタもこれからは少しは勉強も頑張りなさいよね」
「ぜ、善処します」
……そう、光明となるはずだった。
「あ……、れ?」
「おい、大丈夫か?」
突然椅子に座った美琴の体が大きく揺らめいて、慌てて上条は美琴に駆け寄る。
「お姉様、大丈夫ですのっ!?」
「み、御坂さん!!」
「こ……れ、てもし……かし、て。 で、も……わた、し……のち、からじゃ」
「おい、美琴しっかりしろっ!!」
「おね、が……い、きや」
そして何かを託すような眼差しを向けて、美琴は上条の胸の中へと倒れこむ。
「お姉様、お姉様っ!!」
「落ち着けっ、白井っ!!」
自分の腕の中で意識を失っている美琴を揺さぶる白井に対して、上条は落ち着くよう大きな声を上げる。
本当は上条も意識を失った美琴を前にして、どうしようもないほど気が動転していた。
それでも上条が冷静でいられたのは、何よりも美琴を救わなければならないという思いが強かったからかもしれない。
そして吹寄が倒れて動揺していた上条が美琴から言われた言葉。
『そんなことをしてる暇があるなら、他にやるべきことがあるでしょうがっ!!』
『あの人を助けるためにも、アンタがしっかりしなくてどうするのよ?』
そう、今は美琴を助けるためにも取り乱している暇などない。
上条は美琴を抱きかかえると近くにあったソファーに横向きになるよう横たわらせた。
意識はないものの、美琴の脈と呼吸は落ち着いているようだ。
「初春さん、すぐに救急車を!!」
「は、はい!!」
初春が電話を掛け始めたのを見届けると、上条は白井へと向き直る。
「怒鳴り声を上げるような真似して悪かったな」
「い、いえ、わたくしこそ風紀委員ですのに取り乱してしまって」
白井も顔は青ざめているものの、幾分か落ち着いたようだ。
そして上条は今後どうすべきか頭の中を整理していく。
上条達では美琴が今どのような状態にあるか正確には分からない。
上条は美琴の両親と面識があり、連絡先も知っている。
考えただけでも身の毛がよだつが、本来ならば万が一に備えて真っ先に連絡を取らなければならないだろう。
だがやはり引っ掛かるのはこのタイミング。
先ほどまで元気だった美琴が、何の前兆もなく突然倒れた。
それがどうしても今起きている『幻想御手』による被害と重なる。
(それに美琴は何かを伝えたがってた)
既に美琴の意識も絶え絶えだったためか、上条は美琴が何を言っているのかハッキリと聞き取ることができなかった。
意識を失う直前になってまでも、美琴がどうしても伝えたかったこと。
それが何かは分からないが、きっと何か意味がある筈だ。
「とりあえず今は木山先生にも連絡しねえと」
これから美琴は木山のところに向かう予定だった。
美琴が倒れたこともそうだが、事件を解決したいという美琴の思いを成し遂げるためにも共感覚性について話しておかなければならない。
『もしもし、上条君かい?』
「はい、あの、お伝えしなきゃいけないことが……」
しかし上条は美琴が倒れたという現実を言葉にすることができない。
何だかんだこの三年間、上条の日常の中に常に居たと言っても過言でない少女。
美琴が倒れたことは、やはり内面では上条を大きく動揺させていた。
『何かあったのか?』
「……美琴が倒れました」
自分で口にした言葉に上条は大きな衝撃を受ける。
だが美琴を救うためにも、今は足踏みをしているわけにはいかない。
しかし次に木山から発せられた言葉が、それ以上に大きな衝撃を上条に与える。
『……そうか、すまない』
「え?」
なぜ木山は謝っているのか?
何に対して木山は謝っているのか?
上条はその理由が思い浮かばない、正確には理解しようとしない。
なぜなら上条が木山に伝えたことは美琴が倒れたということだけなのだから。
「木山先生、それってどういうっ!?」
だが既に電話は切られており、携帯から聞こえてくるのは空しい不通音だけ。
「くそっ、どうなってんだっ!!」
「どうかしたんですか?」
上条の尋常でない様子に気付いたのか、白井と初春が上条のところに寄ってくる。
だが説明しようにも、上条自身もまだ状況がハッキリと飲み込めていない。
そして動揺している上条を更に揺さぶるように携帯の着信音が鳴り響く。
しかしその着信は木山からのものではなく、上条が先生と呼ぶもう一人の慣れ親しんだ人物からだった。
「先生っ!!」
『御坂君が倒れたと連絡を受けてね。 その様子だと君もそのことはもう知っているのかな?』
「はい、一緒にいます」
『受け入れの準備はすでにできている。 彼女のことは僕に任せなさい』
カエル顔の医者のその言葉は上条を落ち着かせるのに十分なものだった。
恐らく上条はあの医者の腕を学園都市の誰よりも知っている。
ひとまず美琴のことは彼に任せるしかない。
『それと他にもう一つ、君に伝えておかなければならないことがある』
電話越しであるにも拘らず、空気が変わったことを上条はヒリヒリと感じる。
そしてこれから告げられる言葉が決して良いものではないことも。
『僕は職業柄、色々と新しいセキュリティを構築していてね。 その中の一つに人間の脳波をキーにするロックがあるんだよ』
「それがどうかしたんですか?」
『そこに登録されてるある人物の脳波が、昏睡状態の患者全てと同じものになっていてね』
「ちょっと、それはおかしいですの!! お姉様は患者の脳波に共通するパターンはなかったと」
携帯をスピーカーフォンに切り替える形で通話していた上条の間に割り込む形で白井が声を上げる。
確かに上条も美琴からそんな話は聞いていた。
患者の脳波にも共通するパターンが見つからないから、『幻想御手』の解析に苦労していると。
だが美琴が目にするカルテを簡単にすり替えられる人間が存在する。
上条の中にあった疑念は既に完全に形を帯びたものへとなっていた。
「……先生、その人物ってもしかして?」
『……君の想像通りだろうね。 彼女の名前は木山春生、恐らく彼女がこの事件の真犯人だ』
ここから先に善も悪も、正義も大義も存在しない。
ただ自分の大切なものを守るために。
己のエゴを貫き通すための戦いが始まる。
以上になります
幻想御手編もようやく佳境
正直早く原作一巻の内容が書きたいのだ
だから早く原作一巻の内容にいけるように書き溜めを進めたいと思います
ちなみに投下スピードが遅いって思った時は>>1が何らかしらのゲームをやってる時です
4月10日に第三次スパロボzが発売されるので、それ以降はきっとまたペースが落ちます
それまでにできる限り進めなければ
ではまた近い内に
マジでカス条が御坂の活躍食ってるだけじゃん
オリ能力持たせて自己投影したカス条を書いてシコシコしてんのかね?
これだからカス条厨は本当に死ねばいいのに
原作でも主人公補正でしか勝てないカス条より一方通行や浜面の方がよっぽど魅力的だわ
乙です
原作に入ったら三沢塾はやるのかな
乙
超電磁砲と深くかかわったこと+能力の差異で禁書原作も違う進みになったら面白いな
なるほど、ここで吹寄が倒れた時のことが伏線として生きてきたわけか。
よくストーリーを練ってあるな。
上条さんの過去が気になる
美琴がレベルアッパーを聞いたら、漫画版超電磁砲みたいにレベル6になるかと思ったんだが、
さすがにそれはなかったか。
これ読み始めてから超電磁砲の漫画の続きが早く見たくてしょうがなくなった
ちなみにこの>>1はコミック派かな?
おいらもスパロボ楽しみだよ
特にフルメタの参戦が嬉しい
こういう場面で上条さんが美琴のことをどう思ってるか描写があると、やっぱり上琴好きとしとは嬉しいな
続きも楽しむにしてます
明日の23:00に続きを投下します
楽しみにしてる
描写が上手くて面白いです。頑張って下さい
続きを投下します
感想いつもありがとうございます
本当にいつも感謝してます
三沢塾の話はやります
流れも少し変わります、主に>>1の都合がいいように
吹寄さんの件は伏線というほどではないですが、あとでこのような形で上条に影響を与えることは決めてました
上条さんの過去はこのssの最初の設定を見ても分かるように、大きく捏造してます
きっとその話がいつか出てくると思います
今月の超電磁砲は熱かった
そして>>390さんのレスで何となく展開考えてたら見事に被った
なんとなくかっこよく見える男の行動って共通してるのかもしれない
自分はデビルガンダムでのシーンで思いつきましたが
まあ何にしろまだまだ先なので、しっかりと構想を練りたいと思います
>>1はコミックとアニメ両方派です
両方派っていうより都合のいい場所だけくりぬくって感じですが
まさかフルメタ好きな方がいるとは
Wのヒイロと宗助の絡みは最高だった
今回も刹那を交えての会話が楽しみですが、せっちゃんはもう完全に大人ですね
自分も上琴好きなので、ところどころでそういう感じの場面を出していきたいです
では投下します
「脳波のネットワーク?」
「僕も専門家じゃないからハッキリとは断言できないけどね。 恐らく同一の脳波を持つ人達の脳波の波形パターンを電気信号に変換することで、その人達の脳と脳を繋ぐネットワークのようなものを構築しているんだろう」
「それが『幻想御手』の正体ということですの?」
カエル顔の医者から説明された『幻想御手』の正体。
それは単に使用者の能力のレベルを引き上げるというものではなかった。
同じ脳波のネットワークに取り込まれることで生じる能力の幅の拡大と演算能力の上昇。
一人では弱い能力しか使えない人間でも、ネットワークと一体化することで能力の処理能力が向上する。
それに加えて同系統の能力者の思考パターンが共有されることで、より効率的に能力を扱えるようになる。
これらが相まって能力のレベルが飛躍的に上がるというのが『幻想御手』の仕組みの全容だった。
「……だけど使用者は他人の脳波を強要されることで、身体の自由が奪われちまってるってことか」
上条が廃ビルで戦った男に対して感じた違和感もこのためかもしれない。
あの時すでに男はネットワークに半ば取り込まれていたのだろう。
だから上条という未知の脅威を目の前にしても、自分で正常な判断を下すことができなかった。
「お姉様は恐らく木山春生のところで『幻想御手』の解析の手伝いをしてる時に『幻想御手』の曲を聞かされたのでしょう。 『幻想御手』の危険性を知っていて、絶対に『幻想御手』の中身を耳にしていないことの裏をかかれたんですわ」
「そうだろうな」
それにしても木山春生か。
白井が木山のことを呼び捨てにするのを聞いて、上条は心の中でそう呟く。
確かに木山がこの事件の犯人であることはもう間違いなく、美琴を慕う白井にとっては仇に当たるかもしれない。
上条にも木山を許せない気持ちはもちろんある。
しかしそれ以上に木山がなぜこんな事件を引き起こしたのか?
その疑問が上条の中で大きく膨れ上がっていた。
「御坂君が倒れる直前まで自分の思考を保ってられたのは、もしかしたら異変に気が付いて自分の能力で脳波が固定されるのに抵抗していたのかもしれないね」
しかし最後は美琴もネットワークに取り込まれて昏睡状態に陥ってしまった。
いくら美琴が発電能力者の頂点に立つ最強の電撃使いと言っても、その能力は脳波を細かに弄れるようなものではない。
「しかし木山春生はなぜそんなことを?」
「そればかりは本人に聞いてみるしかないね? ただ確認されてる『幻想御手』の被害者は一万人近くに昇っている。 それだけの人数の脳を掌握しているのだとしたら、彼女の得た演算能力はかなりのものになるだろう。 もしかしたらそこに彼女の本当の目的が隠されているのかもしれないね」
確かに木山の本意を知るためには、本人に直接会うしかない。
すると一人パソコンに向かい合っていた初春が声を上げた。
「警備員からの通信です。 AIM解析研究所に到着したようですが、やっぱり木山先生は行方不明みたいです。 他の研究員達も何も知らされておらず、木山先生の行く先も目的も知らないと」
「初春さん、本当に大丈夫なのか? 警備員の通信を傍受するような真似して」
「これくらい朝飯前です。 ここまで大規模な事件となると風紀委員に入ってくる情報は限られてしまいますから」
子供達を危険に晒さない、危険を蹴散らすだけの力を持たせないという理由から風紀委員が持つ権限は警備員に比べて小さくなっている。
それゆえに本来は風紀委員がここまで大規模な事件に関わる任務に就くことは殆どない。
それでも白井達が『幻想御手』の事件に深く関わってこれたのは、事件が大規模になる前から調査を開始しており、それに見合うだけの実力と実績があったからだ。
しかし今は被疑者が確定されており、それも相手はただの研究者。
あとは警備員によって木山が確保されるの待つだけだった。
「でも上条さんは自分の手で木山先生を捕まえたいと思ってるんじゃないですか?」
「いや、それは……」
「隠さなくても大丈夫ですよ。 上条さんは木山先生をまだ信じてるんですよね?」
「……ああ、俺は今でも木山先生が悪人だとは思えない。 だから取り返しがつかなくなる前に、木山先生がこんなことをした理由が知りたいんだ」
先ほどから上条は言いようがない嫌な予感に囚われていた。
具体的に何が起こるかは分からない。
しかし漠然としているものの、このままでは絶対に良くないことが起こるという確信めいた予感。
無意識にその不安が、取り返しがつかないという言葉になって口から出たのかもしれない。
「私も上条さんの気持ちは分かります。 だから私にもお手伝いさせてください」
「初春さん……」
「ちょっとお待ちなさい。 初春、あなたは本当に自分の言ってることの意味を理解してますの?」
「白井さん?」
「確かにわたくし達は今まで何回も風紀委員の権限を超える越権行為をしてきましたわ。 しかし今回は既に警備員が被疑者を特定しており、逮捕に向けて動き出している。 ここに介入することは組織間の問題に発展しかねませんの」
白井の言うことは尤もだった。
いざという時、正義感の強い白井は自分の身や立場を辞さずに行動できる少女だったが、すでに事件は収束に向かっている。
木山の行方は未だ分からぬままだが、人工衛星に搭載された監視カメラで常に見張られている学園都市で逃げ切ることはできないだろう。
このまま風紀委員である二人が事件に介入すれば、風紀委員という組織自体にも責任が及びかねない。
「初春さん、白井の言う通りだ。 あとは俺が一人で……」
「白井さん、言ってましたよね? 警備員の上層部が『幻想御手』の情報開示に踏み込まなかったのは保守的な人間が多いからだって」
「それがどうかしましたの?」
「でも『幻想御手』の被害者は確認されてるだけでも一万人近くに昇ってる。 いくらなんでも保守的という理由だけでは説明がつかないと思うんです」
「……つまりあなたは警備員を疑ってると?」
「確証があるわけじゃありません。 ただ事件の被疑者と敢えて事件を放置していたかもしれない組織、このまま放っておいていいんでしょうか?」
「……」
「もちろん風紀委員のみんなに迷惑を掛けるわけにもいきませんから、これを」
そう言って初春はカバンから一枚の封筒を取り出す。
そこには大きく辞表届けと書かれていた。
「初春さん、それはっ!?」
「さっき簡略式ですが書いといたんです。 判子とかを用意する暇はなかったんですけど、読心能力者に調べてもらえば私が書いたものだって証明できますから」
「……本気ですの?」
「白井さんが訓練の時に教えてくれた風紀委員の心得を覚えてますか?」
「己の信念に従い……」
「正しいと感じた行動をとるべし! この決断も私なりの信念に従った結果です!!」
「……はぁー、全くあなたは人の気も知らないで」
白井は大きく溜息を吐くと、自分のカバンの中へと手を突っ込む。
そして白井の手に握られていたのは、初春のものと全く同じ文字が書かれていた封筒だった。
「白井さんっ!!」
「わたくしも木山春生に関しては色々と思うところがありますの。 お姉様を騙したことはもちろん許せませんが、やはりお姉様のためにも彼女の真意は知っておかなければなりませんわ」
「おいおい、お前ら……」
自分を置いとけぼりにする形で決意を固める二人に、上条は何とか踏み止まらせようと声を掛ける。
しかしそんな上条を制止するように、カエル顔の医者が上条の肩に手を置いた。
「多分、君が何を言っても無駄だと思うよ」
「でも……」
「君自身いつだって自分の感情に従って行動してきたんじゃないか? それと同じように彼女達の決断は他ならぬ彼女達のものだ。 周りが彼女達の決意に対して、とやかう言う資格はないと思うけどね」
「……」
「でも医者として大人として、危険に足を突っ込もうとしてる子供達を放っておくことはできないね」
カエル顔の医者はそう言うと、木山の行方を追っているのだろうか、パソコンに向かっている白井と初春の下へと歩み寄る。
それに気付いたのか、二人ともパソコンから目を離してカエル顔の医者へと顔を向けた。
「君達のその正義感とそれに則った行動力は、大人として尊ぶべきものなんだろう。 だがやはり年長者としては、子供達が危険な目に遭うのを放っておくわけにはいかないね」
「しかし今回は警備員より早く木山春生を確保することで、危険があるわけでは……」
「それでも万が一という可能性はある。 それに今回に限らず、これから先も危ない目に遭うことはあるかもしれない」
「でも私達は何としてでも木山先生の本当の気持ちを聞かなきゃいけないんですっ!!」
「……そうだね、いくら言っても君達の決意が変わらないことは分かってる。 だから一つだけ約束してほしい。 これから先何があっても、まずは自分の身体を一番に考えるということ。 大抵の怪我や病気なら僕も治してやれる自信があるけど、中には取り返しがつかないこともある。 君達が傷つくことによって他にも傷つく人がいることを絶対に忘れないように」
「はいっ!!」
二人が返事をするのを確認すると、カエル顔の医者は上条へと視線を向けた。
それに対して上条は苦笑を浮かべるしかない。
カエル顔の医者が白井と初春に向けた言葉は、上条がこれまでも耳にたこができるほど聞かされていた言葉と同じものだ。
それゆえにカエル顔の医者の言葉が自分に向けたものでもあることは嫌でも分かるので、上条はカエル顔の医者へと頷き返すのだった。
それから数分後
「見つけました!! 木山先生が乗ってる車です!!」
初春のその言葉と共に、上条達もモニターを覗き込む。
どうやら監視カメラの映像をジャックしたもののようで、確かに画像には車を運転している木山の姿が見えた。
「っていうか、いくらなんでも見つけるの早すぎだろっ!? 何者なんだ、初春さんって?」
「この手の技術に関しては、学園都市に初春の隣に立つ人間は存在しませんの」
「やだなー、白井さん。 それは流石に言いすぎですよ」
白井の言葉に照れながらも、初春は映像が録画された時間から木山の現在位置を逆算していく。
しかしその場所は病院からかなりの距離があり、徒歩で向かうことは難しそうだ。
「わたくしが『空間移動』で先行しますの!! 初春はバックアップを!!」
「はいっ!!」
「って、俺はどうするんだよっ!? 白井の力じゃ俺は一緒に移動できないし」
白井の『空間移動』は自身だけでなく触れたものも瞬時に移動させることができる。
しかし『幻想殺し』を右手に宿す上条は例外で、白井の能力で上条を移動させることはできない。
そのためどうやっても『空間移動』で移動する白井に上条が追いつけるわけもなく……。
「手段は何だって構いませんの。 とにかく後から追ってきてくださいな」
「そうするしか方法がねえのは分かってるけど、さっきの先生の話は忘れるなよ」
「言われなくても分かってますわっ!!」
「拙いっ!? 白井さん、急いでください!! どうやら警備員も木山先生の位置を捕捉したみたいです」
「では行きますのっ!!」
その掛け声と共に白井は姿を消す。
そして残された上条も白井の後を追うように、急いで部屋を飛び出すのだった。
以上になります
描写が丁寧だと言ってもらえるととても嬉しいです
素人なりに今後も読みやすいssを目指していきたいです
ではまた近い内に
ここみたいにメインじゃないキャラも魅力的に書かれてるssは名作が多い
現行で一番期待してるssだから、最後まで頑張ってください
おつです
みんなかっけー
乙
乙
乙
乙
楽しみにしてる
カス条厨が書いた糞ss
2ヶ月近く粘着していただき誠に有難う御座います
ここの>>1って何かやらかしたのか?
特にスレ内じゃ変な部分は見当たらないけど
何もしてない
キャラアンチの人はいろんなスレで粘着してるから気にするな
まだか?
早漏すぎや
面白いから続きが気になる気持ちはわかるww
明日の22:00くらいに続きを投下します
>>467
>しかしそんな上条を制止するように、カエル顔の医者が上条の肩に手を置いた。
風紀委員の詰所にいたはずなのに、いつの間に病院に来たんだ?
普通に読めば、美琴が病院に運ばれた時に付いてきたくらいは分かる気がするがな
いくらなんでも読解力がなさすぎ
そもそもその前から、カエル顔の医者のセリフがある
確かにここは完成度が高いから色々と求めるのは分かるが、所詮二次創作
バカみたいなツッコミをするくらいなら見るのやめれば?
おっふ、寝る前に覗いたら少し嫌な雰囲気になりそうなので一言
>>484さん
どうもすみません
完全に描写不足でした
基本的には>>485さんの仰ってる通りです
何となく>>1の頭の中では美琴が病院に運ばれて、そこで冥土帰しと話してる気になってました
どうも漫画を読みながらだと描写が抜ける部分が出てきてしまって
ちなみに初春が病院でパソコンを使ってるのは……気にしないでください
冥土帰しと上条さんがこのssでは割と親しい関係なので、厚意で貸してくれたってことで
それと関係ない話ですが、冥土帰しってあの病院の院長なんですかね?
>>485さん
えっと、色々とありがとうございます
最近はここも含め禁書ss関連全体の空気が悪いですよね
まあ自分も色々と言われるとイラッとすることがあります
ただ>>484さんはただ単にこのssにおけるおかしな点を指摘しただけで、
自分もpixivにて手直しを加えたものを投稿する際には役に立ちます
まあ少し荒れてるssの>>1が言うのもなんですが、ほんわか行きましょう
こんなネットを介しての荒らしも喧嘩もくだらないので
基本的にこのssは雑談なんかも。とんでもない長さになんなければ全然OKです
ただ喧嘩腰にならないでいただけると>>1の精神的に助かります
それじゃ私からもひとつ。
初春が「辞表届け」を用意してますけど、こういう言い方は普通しないんじゃないですか?
単に「辞表」、あるいは「退職届け」「退職願い」「辞職届け」「辞職願い」というのが普通だと思います。
風紀委員の場合は「職業」じゃなく委員会もしくは部活動みたいな感じだと思うので、「辞任届け」が適切かな?
最後に、面白いし続きを楽しみにしてますんで頑張って書いてください。
こまけえことは(ry
自分の無知が恥ずかしいです
そもそもカス条厨の自分がこんな糞ssを書こうとしたのが間違いでした
馬鹿は馬鹿らしく、ここでこの糞ssを終わらせたいと思います
今までこんなカスに付き合っていただき、ありがとうございました
>>490
またお前かwwwwwwww
お前もう特定されてるよ
お前もだよ
各禁書スレに現れて煽りの真似事してんだろ
少し遅くなりました、続きを投下します。
感想いつもありがとうございます。
>>488さん、ご指摘ありがとうございます
pixivにて手直しをしたものを投稿する際には>>484さんの分も合わせて修正させていただきたいと思います。
それと投下前の自分のレスを見て非常に痛いことに気付きました。
これからは最低限のレス返しに控えさせていただきます。
では投下します
ヒュン、ヒュンと小刻みな空を裂く音と共に、白井は『空間移動』を繰り返しながら木山の下へと急いでいた。
既に警備員が木山に追いついてしまったという連絡を受け、その表情には焦りが滲み出ている。
せめて木山が警備員に連行される前に少しでも話ができないか?
木山はこれだけ大規模な事件を引き起こした犯人だ。
逮捕されてしまえば、風紀委員の権限を使っても面会することは難しいだろう。
そもそも辞表を提出している白井はこの事件が解決する頃には風紀委員でなくなっているわけだが。
辞表は初春と共に風紀委員の本部に届け出てもらうようカエル顔の医者に預けていた。
prrrrprrrr
すると空気を裂く音に混じって、着信を知らせる携帯の音が鳴り響く。
『空間移動』による移動を続けたまま白井が電話に出ると、やはり初春からだった。
『白井さん、何だか様子が変です』
「どうかしましたの?」
白井は既に木山が包囲されている場所のすぐ近くにまで迫っている。
目の前の大きく弧を描いた高架道のカーブの先で木山は警備員によって取り囲まれている筈だ。
このまま『空間移動』を続ければ、ものの数秒で辿り着くはずだが……。
「なっ!?」
突然の凄まじい爆発音によって、演算を乱された白井の『空間移動』は強制的にキャンセルされる。
そして地面に足を着いた白井の目に入ってきたのは、木山達がいる場所から上がる爆煙だった。
「何事ですのっ!?」
『わ、分かりませんっ!! でもこれは……木山先生が能力を使ってる!?』
「木山春生は能力者だったということですの?」
『いえ、『書庫』には先生が能力開発を受けたという情報はありません。 それにこれは複数の能力を使っているようにしか……』
「それこそありえませんわっ!! 能力は一人に一つだけ、このことに例外はありませんのっ!!」
白井は『空間移動』による移動を取り止め、目的地へ向かって走り始めた。
『空間移動』には普段は三次元的に捉えているこの世界を十一次元上の理論値に置き換える前提が必要であり、それに伴う高度な演算が求められる。
そのため先ほどの爆発音のように突然演算を乱されると、力が働くなってしまうこともあるのだ。
それに『空間移動』は強力な力だが、それだけ能力の使用には大きな危険が付いて回る。
何が起こるか分からない今の状況で、白井が自身の身体を転移させる『空間移動』を止めたのは懸命な判断だろう。
そして白井は能力の使用に必要だった演算を別の方向へと向けた。
『幻想御手』によって昏睡状態に陥っている学生の数は一万人近くに上っている。
それもただの学生ではない、学園都市で脳開発を受けた能力者達だ。
昏睡している学生の大半がレベル0とはいえ、彼らも全く能力がないわけではない。
よく勘違いされがちだが、レベル0の人間もその殆どが微弱ながらも何らかの能力を有している。
その一万人近くの能力者の脳とネットワークという名のシナプスでできた『一つの巨大な脳』。
木山春生がこれを掌握しているのだとしたら、普通の人間の脳ではありえないことも起こしうるかもしれない。
先ほどは反射的に初春の言葉を否定してしまったが、そもそもこんな事態そのものが通常なら考えられないことだった。
(それにしても、これが木山春生の本当の目的ですの?)
初春から随時伝わってくる木山の力は凄まじいの一言だった。
それはまだ白井自身の目には見えないが、聞こえてくる轟音や時折揺れる高架道によって嫌でもヒシヒシと肌に伝わってくる。
『多重能力者』、実現不可能と言われてきたこの力を手にすることが木山の本当の目的だったのだろうか?
『白井さん、一人じゃ危険ですっ!! 上条さんや他の警備員がやってくるのを待たないとっ!!』
「その間に木山春生に逃げられては元も子もありませんのっ!!」
そして白井が辿り着いた先で見たのは……。
「木山春生っ!!」
煙と埃が立ち込め、警備員達が地面に倒れ伏す中で一人佇む木山の姿だった。
「やあ、君か」
しかし当の木山は周りの惨状など全く気に留めた様子も無く、平然とした表情で白井を迎える。
ただ木山の目は赤く変色しており、彼女に何らかしらの異常が起こっていることを窺わせた。
「すまないな、こんな事態になってしまって。 風紀委員の君には迷惑を掛けることになってしまった」
「そんなことはどうでもいいですのっ!! なぜ貴女はこんな真似をっ!?」
「こんな真似とはどのことだい? 『幻想御手』をばら撒いたこと? 多くの人間を昏睡状態に陥らせたこと? このように警備員を圧倒的な力で蹴散らしたこと? ……それとも御坂美琴を騙したことか?」
ギリッと白井は奥歯を噛んで歯軋りをする。
鏡を見なくとも自分の顔が酷く歪んでいることが、白井には嫌でも分かった。
白井にとって木山は敬愛する美琴を騙しただけでなく、美琴を昏睡状態に陥らせた憎き相手。
木山を前にして白井はできるだけ冷静でいようと努めていたが、やはり溢れ出す感情を完全に抑えきることはできない。
「話は貴女を無力化させてから聞かせていただきますの」
「それが君にできると?」
「舐めないでくださいましっ!! ……それに一つ言い忘れてましたが」
白井は太ももに装着したホルダーから金属矢を抜き出し、両手へと構える。
「わたくしはもう風紀委員ではありませんのっ!! だから少々強引に行かせてもらいますわよっ!!」
先手必勝と言えば聞こえがいいが、それを実行するためにはそれなりの実力が要される。
特に気をつけなければならないのはカウンター。
学園都市では多種多様な能力が開発されており、相手の情報を何も知らずに突っ込むのは自殺に等しい。
単に力の優劣だけではなく、未知の力というのは簡単に実力差を覆してしまう。
しかし白井の実力は確かなものであり、また白井の能力の『空間移動』は例え相手がどんな力を持っていようと臨機応変に対応できる力だった。
白井が跳んだ先は、高架道から数えておよそ20m先の空中。
その位置はちょうど木山の真上に当たる。
白井が『空間移動』で跳べる最大飛距離は約80mで、これだけの距離を縦横無尽に移動できるとなれば相手から姿を晦ますのは容易い。
そして人間というのは前後左右からの不意打ちにはある程度対応できても、普段はあまり注意を払うことがない上方からの攻撃には中々反応できないものだ。
これは風紀委員で積んだ白井の経験が実証している。
その例に漏れず、木山も白井の跳んだ先に気付いた様子はない。
そして白井は手に持った金属矢を木山に向かって跳ばした。
狙った先は木山の肩口。
本来なら白井は『空間移動』そのものを使って相手を傷つけるような真似は絶対にしない。
金属矢を用いるのも相手を拘束する時だけだ。
だが木山はまだ理屈ははっきりしていないが、いくつもの能力を操る『多重能力者』という情報がある。
そんな木山に対して接近戦を仕掛けるのはあまりにリスクが高い。
そういう点で『空間移動』を用いた変幻自在の体術や遠距離からの攻撃を行える白井の力は万能と言える。
ただ状況が状況なので、私怨も込めて木山には多少は痛い思いをさせなければならない。
「えっ?」
しかし白井の放った金属矢が木山に命中することはなかった。
ほんの僅かなタイムラグを置いて聞こえてきたのは、金属か何かが地面へとぶつかる音。
だがそれが何なのか白井の目からは見えない。
その代わりに白井の目に入ってきたのは、上を見上げて白井の姿をしっかりと捉えている木山の姿だった。
(拙いですのっ!?)
木山の目を見て、白井は木山から身を隠すべく咄嗟に『空間移動』を発動させる。
金属矢が当たらなかったことに動揺したわけではない。
そもそも『多重能力』を持つ木山を簡単に無力化できるとは思っていなかった。
何らかの能力を用いて木山は白井の攻撃を避けたのだろう。
ただ問題はなのは突然の不意打ちに対しても、木山にまるで動じた様子がなかったことだ。
すぐには白井の動きを追えていなかったことからも、木山が白井の行動全てを読んでいるわけではない筈だ。
にも拘らず、まるで全て予定調和内だとでもいうようなあの態度。
今までも強敵や格上と呼べる存在とは対峙したことがある。
しかしその時とはまったく別の悪寒が白井のことを襲っていた。
「君が私の前に立ち塞がることはある程度予測していた」
白井は木山から隠れるように警備員が用いている装甲車の陰へと身を潜める。
まずは木山が金属矢を避けるために用いた能力を探らなければならない。
「だから君への対策も少しは練ってある。 まず最初に『空間移動』の特性上、君が能力を使うには対象が目に見える位置にいなければならない」
「なっ!?」
木山のその声と共に、白井の姿を隠していた装甲車が宙へと浮き上がる。
それだけではない。
大小合わせて十台近くあった警備員の車両全てが宙に浮かんでいた。
「念動力というのは学園都市でも最もポピュラーな能力の一つだ。 しかしその平凡さ故にコンプレックスを抱く学生も多い。 必然的に『幻想御手』に手を出した学生も多くなったのだろうな」
そして白井の姿は木山から丸見えの状態となる。
このままでは車両全てを叩きつけられると思った白井は、今度は木山から距離を取ろうと演算を始めるが……。
白井の耳を襲ったのは凄まじい爆発音。
先ほどと同様に集中力を乱された白井の『空間移動』はまたしてもキャンセルされる。
「二つ目に『空間移動』系の能力は総じて高度な演算が必要で、少しでも集中力を乱せば正確な能力使用は難しくなる」
本当に木山は白井と対峙することを想定していだのだろう。
木山の行動はまるで『空間移動』の能力者を相手にする手本のようだ。
だが完全に隙を作った白井に対して、警備員の車両が襲い来るようなことにはならなかった。
宙に浮いた車両はそのまま高架道の脇へと放り捨てられる。
「なぜわたくしを攻撃してこないんですの?」
「一つ勘違いしているようだが、私は必要以上に誰かを傷つけるつもりはない。 用が済めば『幻想御手』に囚われている学生達の脳も解放することを約束する。 だから今は私を見逃してくれないか?」
「そんな言葉を信じられると思ってるんですのっ!?」
「……そうか、仕方ないな。 知り合い、それも子供を傷つけるようなことはしたくないのだが、私の前に立ち塞がるなら遠慮はしない」
そう宣言した木山が突き出した両手の前には大量の水が集まっていく。
(本当にいくつもの能力が使えるんですわね)
様々な力を高位能力者のレベルで使用できる木山の力は、白井の想像に遥かに超えるものだった。
だが木山が他の能力を使っている今の状況は白井にとってチャンスとなりうる。
今なら『空間移動』による攻撃が通じるかもしれない。
一撃で相手を無力化できる攻撃を叩き込む。
それが圧倒的な力を持つ木山を前に白井にできる最善の策だった。
しかし金属矢を用いる一撃で相手を無力化できるような攻撃は、木山の命に関わる可能性もある。
よって白井が選択したのは……。
「これで終わらせますのっ!!」
『空間移動』を用いた木山の頭部に向かって放つドロップキック。
先ほどは木山がどんな能力を用いてくるか分からなかったため接近戦は控えていたが、今は目に見える形で木山が能力を使っている。
しかしいくら渾身の力でドロップキックを放ったとしても、白井の体重では決定打にはなりづらい。
だが木山は女性で線も細く、例え一撃で決められなくとも演算を乱すことくらいはできるだろう。
そうなれば普段から鍛えている白井にも勝機が訪れる。
しかし、
「複数の能力を同時に使うことはできないと踏んでいたのかね?」
木山の身体を白井の脚がすり抜けた瞬間、白井の身体は大量の水の中に囚われていた。
「ゴポッ!?」
もちろん水の中で息ができるはずもなく、窒息状態に陥った白井の頭はパニックに陥る。
こんな状態では『空間移動』のための演算も行えるわけがなかった。
「殺すつもりはない。 だが確実に意識は刈り取らせてもらうよ」
そう言う木山の表情は酷く冷淡なものだった。
しかしその不自然なまでに感情を見せない木山の表情に白井は違和感を感じる。
(この女の本当の目的は一体っ!?)
しかしそれを知ろうにも今の白井にできることは何もなかった。
次第に意識は遠のいていき、身体の感覚までもが失われていく。
自分では結局何もできなかった。
一人で先走った後悔を最後に、白井の意識が完全に途絶えそうになったその時、
「かはっ!?」
突然肺の中に入った空気に咳き込むようにして、白井は地面へと膝をつく。
何が起こったか理解が追いつかない。
だが何者かの影が自分を庇うようにして、木山の前に立ち塞がっていることに白井は気付く。
「やはり君も来ると思っていたよ、上条君」
そして白井が顔を上げた先にあったのは、肩で荒い息をする上条の後姿だった。
以上になります。
何回も重ねて言いますが、いつも本当に感想ありがとうございます。
おかげでリアルで何かあっても、モチベーションを下げずに進められます。
筆が進めば明日にも続きを投下できるかもしれません。
少なくても火曜には絶対続きを投下できると思います。
ではまた近い内に
以上になります。
何回も重ねて言いますが、いつも本当に感想ありがとうございます。
おかげでリアルで何かあっても、モチベーションを下げずに進められます。
筆が進めば明日にも続きを投下できるかもしれません。
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ではまた近い内に
以上になります。
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筆が進めば明日にも続きを投下できるかもしれません。
少なくても火曜には絶対続きを投下できると思います。
ではまた近い内に
エラーって出てても書き込めてるんですね
連投すみません
乙、今回もバトルが熱かった
てっきりすぐに黒子退場って思ってたけど、どうなるのかな?
続きも楽しみにしてます
上条さん、マジヒーロー
上条さん、マジヒーロー
乙
乙です!かっこよかったです!
差し出がましい様ですが違和感を感じるという表現は重複してるので
~がある、~を覚える が正しいらしいです!
1さん素敵な文章を書いているので、小さな点が逆に目立ってしまいますよね
続きまってます!
乙
黒子が偏光能力と戦わずに済んだから、負傷しなくてラッキーだと思ってたのに
ここで同じ能力で木山に攻撃を避けられてしまうという弊害が出てしまったか。
上黒コンビのバトルですか。あまり見ない組み合わせですね。
この二人が幻想猛獣にどうやって立ち向かうのか楽しみにしてます。
>>495
何が起こるか分からない今の状況で、白井が自身の身体を転移させる『空間移動』を止めたのは懸命な判断だろう。
ここは「賢明」な判断と書くのが正しいと思いますよ。
なんかもう粗探しをしてるようにしか見えないな
もちろん>>1がいいなら構わないんだろうけど
悪い、ageた上に余計なこと言った
しばらくROMります
やっぱり今日は来れないのかね
上条さん対策もしてそうだな木山先生
出番を取られた御坂……。 代わりにこの先、幻想御手編並みの活躍があるんだよね?
やっぱり幻想猛獣は努力で超能力者になった御坂に倒してほしかった
まあ、これからに期待して乙
ってことは、ここからみこっちゃんがまだ活躍するってことか
楽しみ!
ってことは、ここからみこっちゃんがまだ活躍するってことか
楽しみ!
やっぱり一日じゃ無理でした
明日の22:00に投下します
そして一言
最初に前提として上条さんを魔改造したと書いてありますが、魔改造は上条さんに留まりません
物語が進むにつれ、色々な形で魔改造されたキャラクターが出てくると思います
そして幻想御手編にも魔改造されたキャラクター?が出てきます
上条さんと原作のあるキャラクターを並べると色々と推察できるかも?
ではまた明日
楽しみに待ってる
おk、楽しみに待ってます。
続きを投下します
いつも感想ありがとうございます
>>509さん、>>512さん、ご指摘ありがとうございます
pixivに投下する際は修正しておきます
投下する前には誤字脱字や言葉の誤用などは一応見直してるんですが
これからもおかしな点があったらご指摘お願いします
>>517さん
たぶん>>518さんが言ってる通り、このまま事件が解決するまで美琴が蚊帳の外ってことはないと思います
ただ活躍って感じの描写を自分ができるかはわかりませんが
では投下します
(どうなってんだよ、くそっ!!)
木山が複数の能力を使っている。
その木山と白井が戦闘を開始した。
初春からそう連絡を受けた上条はできる限りのスピードで木山の下へと向かう。
本当は右手の力を解放して移動した方が早く着いたのだろうが、あの力はまだ完全に制御できているわけではない。
下手をすると二人の下に辿り着く前に自分の身体が壊れてしまう可能性があるので、上条は病院に備え付けられていた自転車で移動せざるをえなかった。
そして上条が辿り着いた先で目にしたのは、何らかの力で水の中に囚われている白井の姿だった。
上条は自転車を乗り捨てると右手の力を解放。
瞬時に白井の下へ移動すると、右手を使って白井を水の中から救い出す。
「やはり君も来ると思っていたよ、上条君」
そしてその場にいたもう一人の人物、一連の事件の犯人である木山と向き合った。
「る、るいじんえん?」
「おいおい、こんな時まで類人猿はねえだろ?」
しかし白井は酷く衰弱した様子であり、白井が近くにいる状態のまま戦闘に入るのは拙い。
上条は白井を抱きかかえると、再び右手の力を解放する。
そして木山から大きく距離を取ったのを確認して、高架道の塀を背もたれにするようにして白井を座らせた。
「あ、あなた、その力は一体?」
「その話は後だ。 それよりも大丈夫か?」
「こ、これくらい何ともないですの」
確かに白井の意識ははっきりしており、命の別状はないらしい。
だがすぐに動けるようにはならないだろう。
そして上条は白井の状態を気に掛けながらも、後方で佇んでいる木山への警戒を怠らなかった。
しかし木山も今は攻撃などを仕掛けてくるつもりがないらしく、静かに上条と白井の方を見つめている。
「後は俺が何とかするから、ゆっくり休んでろ」
「木山春生がどれだけの種類の能力を保有してるか分かりませんが、彼女は同時に複数の能力を扱えるようですわ。 あなたの右手でも対処は難しいかもしれませんの」
「そうか」
「……彼女はきっと何かを抱えてるんですの。 だからあなたの手で彼女のことを救ってあげてくださいませ」
「ああっ!!」
止めるのではなく、救う。
美琴が昏睡状態に陥らされたことで白井は少なからず木山に対して恨みを持っていた筈だ。
その白井が木山のことを救って欲しいと言っている。
木山と戦う中で、白井もきっと何かを感じ取ったのだろう。
上条は白井の言葉に力強く頷く。
「君は無能力者と聞いていたんだがね」
上条が白井から離れて木山の下へ戻ると、彼女は興味深そうに呟いた。
しかしそこには親愛の情などは感じられない。
ただひたすら、まるで実験動物にでも語り掛けるような冷淡な口調。
「先ほど彼女を救った力といい、今の移動スピードといい、興味深いな」
「興味深いか……。 それが木山先生、アンタの研究者としての顔ってことか?」
「別に研究者としての顔というわけではない、これが私本来の姿なんだがね」
「……」
「君達に近づいたのも、本当の目的は御坂美琴を無力化させるのが狙いさ。 彼女が様々な事件に首を突っ込んで解決してるのは有名な話だからね。 関わってしまった以上、必ずどこかで私の障害になることは分かっていた。 しかし少し親身になっただけで、あんなに簡単に騙されてくれるとは。 レベル5とはいえ、所詮は世間知らずのお嬢さ……」
「虚勢を張るのはそこまでにしねえか?」
「……虚勢とはどういう意味だ?」
「どうも何もそのままの意味だ。 確かにアンタが俺達に近づいたのは美琴を無力化させるのが目的だったのかもしれない。 でもそれがアンタの全てだなんて嘘が俺達に通じると思ってんのか?」
「……」
「俺だけじゃない。 白井だって初春さんだってアンタが本当はどんな人か知ってるから、アンタのことを救おうって必死になってる。 今更アンタが悪人ぶったって、俺達は騙されねえよ」
「……やれやれ、君は彼女達に比べたら少しは大人だと思っていたんだが。 やはり汚いことは何も知らない表の人間ということか」
「表の人間? どういう意味だよ?」
「これ以上はいくら語っても意味はないだろう。 君達が私のことをどう評価し、何を語ろうと、私がやるべきことは変わらないのだから」
「くっ!?」
木山がそう言うと同時に、破壊された道の無数の破片が上条に襲い掛かる。
とても避けきれるような数ではなく、かといって『幻想殺し』で対処できるようなものでもない。
異能の力なら例外なく打ち消す『幻想殺し』だが、その力には少々変わった特性があった。
効果が及ぶ範囲が右手首の先だけであるため、異能による攻撃でも手数で攻めてくるようなものは迎撃しきれない。
逆に異能の一部に触れただけでも効果が炎のように広がっていくため、どんなに広い効果範囲を持つ異能でもまとめて打ち消すことができる。
つまり同じ多方面からによる飽和攻撃でも手数の多さによる点的な攻撃と単に範囲が広い面的な攻撃では使い勝手が全く異なるのだ。
そして不規則に上条を襲うコンクリートの破片は恐らく前者によるものだった。
大きな力でまとめて破片を操っているわけではなく、破片一つ一つを独立して操っている。
かつて鉄パイプを操って襲ってきた男のように、動揺を誘えるかと破片の一つに右手で触れるが……。
「なるほど、先ほど彼女を救ったのはその力というわけか。 人の制御下にある能力でも問答無用で打ち消す、非常に興味深い」
破片の一つが地面に転がるのを見ても木山に動揺した様子はまるでない。
それどころか冷静に上条の力を観察しているようだった。
(やっぱりそう上手くはいかねえか)
ただ能力を試したかっただけの男とは違い、木山には何らかしらの大きな目的がある。
先ほどのやり取りから木山の決意が固いことは上条にも分かっていた。
そして強い信念を持つ人間はそう簡単には揺るがない。
「ぐっ!?」
避けられるものは躱して、右手で触れるものは確実に対処する。
そうやって木山の操るコンクリートの破片を回避し続けてきた上条だったが、脇腹に感じた鈍い痛みに呻きを上げた。
どうやら意識の外にあった位置から飛んできた破片が直撃したらしい。
上条の力を見て動揺しなかったにしても、木山の能力に対する慣れ方は異常だ。
今までも上条は念動力を操る能力者と何回か対峙したことがある。
しかし単純な力の強度は抜きにしても、木山の能力の扱いは彼らより優れていた。
それは『幻想御手』のネットワークによる力の相乗効果だけでなく、木山自身の能力に関する理解が深いことを意味している。
「しかし能力を打ち消せるのは右手だけのようだな」
(くそっ、完全にバレてやがるじゃねえかっ!?)
ただでさえ分が悪い状況で『幻想殺し』が効果を発揮する範囲まで見極められてしまっている。
そうなればその弱点を突かれるのが道理というものだ。
今まで基本的にコンクリートの破片が飛んでくるのは正面からのみだったが、まるで逃げ場を封じるかのように無数の破片が上条を取り囲む。
そして無数の破片が一斉に上条に襲い掛かった。
「……すまない。 だが私にはどうしても退けない理由が」
「だったら、その理由を聞かせてもらおうじゃねえか!!」
しかし上条は破片が直撃する直前に右手の力を解放する。
凄まじい衝撃を何とか耐え抜いた上条は、その勢いのまま木山に向かって直進した。
木山はそれを見て驚いた表情を浮かべていたが、すぐにその表情から感情が消え去る。
今までと同様に、ひたすら冷静に上条の力を観察しているような眼差し。
また上条自身もどうやって木山の力に対処するか迷っていた。
(このまま力を使った状態で殴ったりしたら、木山先生がただじゃ済まない。 かといって力を使わなきゃ、この攻撃に耐え切れそうもねえし)
今もまだ上条に向かってコンクリートの破片が襲い掛かっていた。
それだけでなく今度は火や水といった異能も同時に迫ってくる。
やはり少しコツを掴んだのか、力を使い続けても上条の身体はまだ壊れていない。
しかし身体に掛かる負荷は確かにあるし、いつまで保つかは分からない状態だ。
身体能力の向上によって木山の攻撃に余裕を持って対処できているが、それもきっと長くは続かないだろう。
そしてそれ以上に上条は暴力によってこの事件を解決することに躊躇いを感じていた。
木山に何らかしらの理由があるのは分かっていたし、何より木山と過ごした時間が上条の中に迷いを生んでいる。
それが一気に木山に攻め込めない原因となっていた。
だが結局、上条には拳を振るうという選択肢以外存在しないのだ。
この膠着状態を続けてもジリ貧になるだけだし、木山の真意を知ることもできない。
先ほどのやり取りからも、安っぽい説得では木山を止められないことも分かっていた。
だから今は戦って木山を無力化させるしか道はない。
「うおおおおぉぉぉぉ!!!!」
覚悟を決めた上条は拳が届くギリギリの距離まで力を解放したまま突進する。
その途中でいくつものコンクリートの破片が叩きつけられたが、上条が止まることはない。
そして木山に拳が届く位置で上条は溢れ出た力を押し留める。
いくら木山が多数の能力を操り上条を追い詰めようとも女性であることには違いない。
一撃でも叩き込めさえすれば、労せずとも木山の優位に立てる筈だった。
だが上条が右拳を木山に放った瞬間、木山の姿は掻き消えてしまう。
それは恐らく廃ビルで上条が対峙した男と同じ能力。
しかし上条もそこまでは予測を立てていた。
これだけの能力を操れる木山が何の対策もなしにただ突っ立っている筈はないと。
その対策が上条の知っている能力だったのは幸運だったかもしれない。
打ち消された木山の姿の陰から不意打ちのように上条の顔面を目がけて破片が飛んでくるが、上条は右手を使ってこれを難なく撃退。
そしてあの男の時と同様にすぐ傍に現れた木山の実体に向かって、上条は空いた左拳を叩き込んだ。
「がああああああぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!????」
しかし上条の拳が木山に届くことはなかった。
身体を襲った凄まじい熱と痛みに上条は膝を着く。
そして倒れこんだ上条の鳩尾を躊躇することなく、木山の爪先が蹴り抜いた。
「君を相手に彼女の力を使うような真似はしたくなかったんだがね」
とても女性に蹴られたとは思えない勢いで、上条の身体は地面を転がっていく。
そして薄れゆく意識を必死に押し留めながら上条が顔を上げた先にあったのは、青い雷電を身に纏っている木山の姿だった。
「能力を打ち消す右手に、凄まじい身体強化。 なぜ君が無能力者という扱いなのかは理解できないが、力を見極めてさえしまえば対処は容易い」
上条の顔面に向かって飛んできた破片は直接攻撃するためのものではなく、右手を使わせるための囮だった。
あの段階で力の解放を止めていたことを木山に見破られていたとは思えないが、例え破片が激突する衝撃に耐えられたとしても、不意打ちしかも顔面に向かってきたものには反射的に反応してしまうだろう。
そして実際は追い込まれている立場だった上条は、勝負を急いてすぐ傍に現れた木山に空いた左手で攻撃してしまった。
そこで上条を待っていたのは電撃によるカウンター。
どこまでが木山の掌の上だったのかは分からないが、結果として上条はその策にまんまと嵌ってしまったのだ。
「私としてもこれ以上は足止めを食ってる暇はない。 最後にもう一度だけ言う。 私のことを見逃して、このまま退いてくれないか?」
今の上条には木山の言葉に答える気力もない。
しかし例え言葉にして答える気力はなくとも、ボロボロになってもなお立ち上がった上条の瞳がその答えを物語っていた。
「……そうか、ならば仕方ない」
木山は残念そうに溜息を吐くと、纏った白衣のポケットに手を突っ込む。
そこから木山は一枚のコインを取り出すと、それを宙に向かって弾いた。
「ところで君はレールガンという言葉を知ってるかい?」
そして木山の言葉を理解するよりも早く、上条の目の前にはオレンジ色の閃光が迫っていた。
以上になります
黒子の活躍はご期待に添えなくてごめんなさい
ただ多分、黒子の出番も終わってないと思います
感想いつもありがとうございます
感想レスが付くとモチベーションが一気に高まります
ではまた近い内に
ああああ気になるところでええええ
乙!
予想よりはるかに木山先生が強いじゃないか・・・
この強敵にどうやって勝つのか展開がすごく楽しみだ。
上条さん強化ssなのに無双してないとこが逆に好みだわ
ただ最終的なカップリングが上琴だとしても最初に書いとかなくても良かったかも
それだけ色んな人にお勧めしたいレベル
この後に幻想猛獣が控えてるけど、上条さんは大丈夫なのかね?
乙
上条さん強化ssなのに無双してないとこが逆に好みだわ
ただ最終的なカップリングが上琴だとしても最初に書いとかなくても良かったかも
それだけ色んな人にお勧めしたいレベル
この後に幻想猛獣が控えてるけど、上条さんは大丈夫なのかね?
乙
上条さん強化ssなのに無双してないとこが逆に好みだわ
ただ最終的なカップリングが上琴だとしても最初に書いとかなくても良かったかも
それだけ色んな人にお勧めしたいレベル
この後に幻想猛獣が控えてるけど、上条さんは大丈夫なのかね?
乙
乙
乙
続きも楽しみ
乙
乙
乙ー!!
しかし胎児の化け物って上条さんの右手で触れるだけであっさり消滅するんだよなぁ…
どう展開していくやら。
上裂を期待してたが上琴路線になったのか・・・
とりあえずねーちんはよ
最初からカップリングは上琴って書かれてたじゃねーか
何を言ってるんだ、今更?
乙
>>541
風斬が幻想殺しについて詳しく知らないにもかかわらず、上条のことをなんとなく苦手だと思っていたから、
AIM拡散力場の生命体は本能的に幻想殺しに警戒感を持つことになると思う。
幻想猛獣は戦う前に上条から逃げ出すんじゃないか?
あっさり消滅するにせよ、一目散に逃げるにせよ、激しく盛り上がりに欠ける展開になっちまいそうだ。
別に展開予測するのは構わないけど、盛り上がりが欠けるとかはあんまり言わない方がいいと思うけどな
まあみこっちゃんが活躍するってことからも、まずそんな展開はないんだろうが
この苦戦具合は順当だろうな
ちゃんと上条さんの弱点を突いた上での結果だからね
本当に面白いわ
前兆予知もこの頃なかっただろうし
今日の23:00に続きを投下します
今日の23:00に続きを投下します
待ってます
少し遅くなりましたが、続きを投下します
いつも感想ありがとうございます
今後の展開についてですが、少なくともあっさり終わることはないような気がします
少し自己解釈が入ってくると思いますが、少しでも強化された上条さんがいることによるオリジナリティを出せたらと思っています
では投下します
レールガン――美琴の能力名『超電磁砲』の由来ともなっている兵器の名前。
実際の兵器とは仕組みが少し異なるらしいが、美琴の放つ『超電磁砲』の威力は凄まじいものだった。
そして今まさに、その『超電磁砲』が上条のことを吹き飛ばそうとしている。
今まで上条は美琴との手合わせを続けてきたが、『超電磁砲』は受け止めたことがない。
だが所詮は異能の力。
右手で触れさえすれば打ち消せるはずだったのだが……。
(右腕が上がらないっ!?)
何とか立ち上がりはしたものの、上条の身体は麻痺したように痺れが残っている。
木山から食らった電撃は想像以上に上条に深刻なダメージを与えていた。
右腕に関しては手首から先だけ感覚が残っているという状態で、それが却って上条に違和感を与える。
(くそっ!!)
これで終わってしまうのか?
木山がこのまま突き進めば、彼女に待っているのはきっと破滅だ。
例えどんな理由があろうと、木山がやったことが認められることは決してない。
このまま事態が好転しなければ、学園都市がどんな手で木山を止めに掛かるかも分からない。
そして白井と初春の言う通り、今回の事件に関して警備員には怪しい点もある。
何もせずまま木山を警備員に逮捕させてはいけないという予感。
しかしそれを防ぐためには何としてでも今ここで、上条の手によって木山を止めなければならなかった。
「何でだよ?」
そして大きなダメージを受けたことによって揺らいでいた上条の意志は再び確固たるものへと変わる。
木山の放ったレールガンが上条を撃ち抜くことなく、その横ギリギリのラインを突き抜けていったのだ。
「アンタの言う通りなら、今ここで俺にトドメを刺さない理由はない筈だ!! それができないっていうのは、アンタがまだ心の何処かで迷ってるってことじゃねえのかよっ!!」
「……別に迷いなんてないさ。 君は酷く諦めが悪いようだが、圧倒的な力を見せつければ少しは考えが変わると思ったんだがね」
「そんなことで諦められるわけねえだろうがっ!! 俺は何としてでもアンタのことを止めてみせる!!」
「そうか、君には搦め手は通じないようだな。 それならこちらも攻め方を変えよう」
木山の言葉に、上条はボロボロになった身体を引き摺って迎撃する構えを取る。
しかしその言葉とは裏腹に、木山は上条を攻撃するような素振りを見せなかった。
「何のつもりだ?」
「これから私が語ることを聞いて、私を止めることが本当に正しいのか君自身が判断するといい」
そして木山は語り始める。
上条が知らない世界、しかし学園都市ではありふれた小さな悲劇の話を……。
女は学園都市を探せばどこにでもいるような何の変哲もない普通の研究者だった。
研究以外にはまるで関心がなく、他人に対しても全く興味がない。
そんな彼女がある日、研究所の上司からある役職を任されることとなった。
研究の被験者である子供達の詳細な成長データを取るために、教師として彼らの面倒を見る。
ふざけた冗談にしか聞こえなかったが、どうやら上司は本気らしい。
気が進まなかったが統括理事会肝入りという実験をチラつかされ、彼女は仕方なく教師という役割を引き受けるのだった。
実験を成功させるまでの辛抱、自分にそう言い聞かせて。
彼女が担当することとなったのは置き去りと呼ばれる子供達だった。
何らかの事情で学園都市に捨てられた身寄りのない少年少女達。
彼女は彼らの担任をすることになってからも、子供をあまり好きにはなれなかった。
騒がしいし、デリカシーがないし、失礼だし、悪戯するし、論理的じゃないし。
ただ親に捨てられたという過去を持ちながらも、彼らは皆明るかった。
明確な目的などを持っているわけではないのだろうが、とにかく毎日を懸命に生きていた。
その姿に彼女も色々と感じるものがあったのかもしれない。
気付くと研究の時間を割いてでも、彼女が生徒達と過ごす時間が多くなっていた。
馴れ馴れしいし、すぐ懐いてくるし。
彼女はやはり子供があまり好きではない。
だがそんな思いとは裏腹に研究漬けで色褪せていた彼女の世界は、他ならぬ子供達の手によって明るいものへと変わっていく。
そしてその変化を彼女自身も次第に心地よく感じるようになっていた。
しかしこの時、彼女はまだ知らなかった。
この学園都市という街の本当の姿を……。
彼女が最後に生徒達の笑顔を見たのは、かつてから計画されていた実験が始まる直前だった。
この実験が終われば教師ごっこも終わり。
そのことに何処か寂しさを感じながらも、彼女は自分を信頼して笑顔を浮かべる子供達を実験の機器へと繋ぐ。
だが彼女と生徒達との別れは全く予期せぬものとなってしまった。
長い期間を掛けて何度も計算を繰り返し、念入りに準備してきた実験。
本来ならば失敗するはずがなかった。
しかし実際に彼女の目の前にあるのは、大きく脳を損傷し血の気のない子供達の姿。
これは初めから期待されていた結果だった。
彼女が進めていた実験の名は『AIM拡散力場制御実験』
そして実際に行われた実験の正体は『暴走能力の法則解析用誘爆実験』
初めから子供達は使い捨てのモルモットにされる予定だったのだ。
彼女は今も上司がその時に発した言葉が忘れられない。
『科学の発展に犠牲はつきものだ』
科学の発展の裏には多くの犠牲が存在する。
確かにそれは歴史が証明していた。
しかしそういった事実や理屈など関係なしに、彼女の心を深い闇が蝕んでいく。
かつて生徒の一人である少女が言っていた。
自分達は学園都市に育ててもらっているから、高位の能力者になってこの街の役に立ちたいと。
この結末は学園都市の役に立ちたいという少女の願いにそぐうものだろうか?
いや、少女の願いなど関係ない。
彼女自身がこの現実を認めることができなかった。
このような悲劇を二度と繰り返してはならない。
こんな実験を発案した科学者、こんな実験を容認している学園都市、そして何も知らずに実験に協力してしまった自分自身。
これら全てに対する憎しみを抱え込み、彼女は数年の時を掛けて生徒達を救うための計画を進めてきたのだった。
「それじゃあ木山先生、アンタの目的は……」
「今も昔も私がしたいのは意識不明の状態にある生徒達を救うことだけだ」
「でもそんなことがあったなら、それこそ警備員に……」
「23回。 あの子達の快復手段を探るため、そしてあの事故の原因を究明するシミュレーションを行うために『樹形図の設計者』の使用許可を申請して却下された回数だ。 これがどういう意味か分かるかね?」
「……」
「つまり統括理事会もグルというわけだ、警備員が動くわけがない。 だから私は『樹形図の設計者』の代わりとなる演算機器が必要だったということさ」
「それが『幻想御手』を利用した脳波のネットワークってことか」
「一万人ほど集まったから、演算力に関しては多分問題ないだろう。 『多重能力』、いや実現不可能とされているあれとは方式がまるで違うから、言うなれば『多才能力』といったところか。 この力はその過程で生まれた副産物に過ぎない。 まあ副産物と言っても、こうやって追ってくる連中を蹴散らすのには役に立ってるがね」
木山に何か深い事情があることは最初から分かっていたが、それを抜きにしても木山の話が上条に与えた衝撃は大きかった。
確かに学生による大掛かりな喧嘩・犯罪など、お世辞にも学園都市の治安が良いとは言えない。
それこそ上条も美琴達が知らない場所で、とんでもない事件に巻き込まれたこともある。
しかしそれでも上条は幼い頃から過ごしてきたこの街に少なからず愛着を持っていた。
学園都市に来たからこそ出会えた大切な人達と過ごした日々。
それは間違いなく上条にとって掛け替えのないものとなっている。
だがそんな思い出とは別に、木山の話によって上条の中には学園都市に対する不信、疑念といった感情が芽生え始めていた。
「何度も言っているが、望む結果が得られたら学生達は解放する。 後遺症はない、全て元に戻る、誰も犠牲にならない。 これを聞いても君には私を止める理由があるのかい?」
恐らく木山の言ってることは殆ど正しい。
昏睡状態に陥っている学生達も元に戻るし、木山が救いたいと願っている子供達も救われる。
ほんの少しだけ木山に時間を与えるだけ。
それだけでほぼ完璧なハッピーエンドを迎えることができる。
だが完璧なハッピーエンドとなるためには決定的に足りないピースが存在した。
「確かにアンタの言ってることが、今できる最善の方法なんだと思う」
「分かってくれたか。 それならそこを……」
「でもアンタ自身はどうなるんだよっ!!」
「全てが終わったら警備員に出頭するさ。 ちゃんと犯した罪は償うつもりだ」
「本当にそれだけで済むのか?」
「……どういう意味だ?」
「『樹形図の設計者』の使用許可が下りなかったっていうのは、それだけ統括理事会の連中に知られちゃ拙いことがあったってことだろ? それをこんな方法で無理やり解明して、アンタの身の安全は本当に保障されるのかよ!?」
木山の言う通りなら、例の実験と統括理事会の間には何らかしらの関係性が存在する。
そして木山の解明したい実験の真相には、統括理事会にとって都合が悪い秘密が隠されているのは間違いない。
仮に木山がその実験の真相を知り学園都市に身柄を拘束されることになったら、そのような実験を容認する人間に人道的な対応を望めるだろうか?
「……私自身はどうなってもいい。 私の身一つであの子達を救えるならな」
「……」
「君に私がまだあの子達の先生だと言ってもらえた時は嬉しかったよ。 これは私があの子達の先生としてやらなければならない最後の仕事だ。 だからそこを退いてくれ」
「馬鹿野郎っ!! アンタがその子達の先生だって言うなら、アンタがしなきゃなんねえのは自分の身を犠牲にすることなんかじゃねえ!! その子達の目が覚めた時に笑顔で迎えてやることだろうがっ!!」
「ならば他に方法があるのか? 何の代案もなしに綺麗ごとを言うだけなら、どんな愚者にだってできる。 君の言っていることは現実を知らない子供のただの戯言にしか過ぎないっ!!」
「それはっ!!」
「君の心遣いは素直に嬉しく思う。 だが子供の言葉一つで止まれるほど、私の背負ったものは小さくない。 君が尚も立ち塞がるというのなら、私は今度こそ君を殺してでも先に進むぞ」
先ほどまでの無表情とは違う。
今の木山の表情には絶対に目的を成し遂げなければならないという強い意志が感じられる。
そしてその意志は障害となっている上条に対して、殺気という形で向けられていた。
もう何があっても木山は止まらない。
上条も自分の言っていることが綺麗ごとに過ぎないことは自覚していた。
何の知識もなく力もない自分では本当の意味で木山を救うことはできない。
もし木山と同じ立場だったら、自分も同じ道を選んでいたかもしれない。
しかしそれでも上条が木山の前から退くことはなかった。
例え木山がそれを望んでも、彼女が欠けていては本当のハッピーエンドを迎えることはできないと思ったから。
酷い独善に塗れた決意を持って、上条は再び木山と激突する。
短いですが以上になります
ここからは少しペースを上げて、来週中には幻想御手編の少なくても戦闘パートは全て終わらせたい
多分投下間隔が短くなるので投下予告はしないと思います
ではまた近い内に
乙
上条さん説教全然だな。言い負かされてる
確かに木山先生には説教は通じないな
誰かを助けたいっていうのは闇咲なんかと一緒だけど、今回は上条さんに助ける手段がない
そりゃ木山先生からしたら子供の戯言にしか聞こえないわな
そういう点で例え原作の上条さんでも、木山先生は相性が悪い相手って言える
前に書いてあったエゴを貫き通すための戦いっていうのも納得
本当に流れが綺麗で上手いと思う
毎度毎度楽しませてもらってます
てゆか学園都市なら目覚めた子供たち生かしちゃおかないかも
木山さん、甘いっすよ
自分も助かって子供たち守るくらいの気概じゃなきゃ
上条さん主体の物語でも上条さんが絶対ってわけではなく、こうやって駄目な部分は駄目って論破するのは納得しながら読み続けられる
期待
さすがに美琴みたいに脳内の記憶を直接読み取ることはできないから、口頭で説明することに
なるだろうと予想してたし、そうなると木山先生の過去エピソードだけでまるまる投下1回が
費やされてしまうんじゃないかと危惧してたけど、2レスでうまくまとめてくれたな。
やっぱ1は文章をつくるのがうまいな。
正直原作上条さんの説得も何回かこういう反論食らう言論の穴はあったしな
これはトールと同じ「強固な信念を持った相手」だな。上条さんが勝てないタイプだ。
厨二もいいけど、こっちも早く投下して欲しい
今日の22:00に投下します
今日の22:00に投下します
待ってる
今から投下します
皆さんの仰る通り、木山先生は原作でも上条さんの説教が通じない数少ない人間だと思います
その木山先生を相手に上条さんがどういう選択をするのか
では投下します
木山の戦い方は先ほどと比べて一変していた。
手数によって攻めるのではなく、圧倒的な力による制圧。
それは絶対に成し遂げなければならない目的の完全な障害となった上条に己の全ての感情をぶつけているようにも見えた。
辺り一帯の重力でも操ったのだろうか、木山を中心として高架道が円形を描いて崩落する。
この高さから落ちればただでは済まないため、上条も咄嗟に力を解放。
しかし着地した上条の目の前には、凄まじいスピードで迫る木山の姿があった。
「ぐっ!?」
繰り出された拳を上条は両腕を交差してガードするものの、その衝撃にその身体は大きく後方に吹き飛ぶ。
女性の腕力ではとても考えられない重い拳だった。
高架道の上で蹴り飛ばされた時もそうだが、恐らく木山は身体強化系の能力を使用している。
そして吹き飛んだ上条に追い打ちを掛けるように雷撃の槍が迫っていた。
美琴と手合わせしている時とは違い、恐らく人を殺せるだけの力を持った雷撃。
咄嗟に右手を突き出して雷撃の槍を打ち消すものの、再び追撃してきた木山が隙のできた上条の右側頭部に向かって回し蹴りを放つ。
これを上条は身を屈めて回避すると、軸となっている木山の右脚に向かって足払いを掛けた。
体勢を崩した木山に上条は追い打ちを掛けようとするが、それを念動力によって操られた無数の石によって阻まれる。
(このままじゃ木山先生を止められない)
ただでさえ強力な『多才能力』に美琴の全力に近いであろう電撃、それに加えて身体能力まで木山は強化されている。
身体能力だけ見れば恐らく力を解放した上条の方が上だろうが、総合的な力で比べれば最早相手にならないレベルだった。
そして上条が今の状況を打開するためには、
(ギアをもう一段階上げるしかねえっ!!)
この場合のギアを上げるというのは、解放する力の量を増やすということだ。
ただしそれにはそれ相応のリスクが伴う。
虚空爆破事件以来、上条は少しずつ力を使うコツを掴んできた。
しかしそれはあくまでも身体を壊さないギリギリのラインまで力を抑えた上である。
恐らく今以上に解放する力の上限を上げれば、上条の身体は保たない。
(それでもやるしかないっ!!)
考えれば単純なことだった。
例えどんなに偽善であろうと、独善であろうと、そして助けたい人間と戦うという矛盾を抱えていようと。
木山春生を助けたい、上条の思いはただそれだけだ。
木山の言う通り、上条には木山の教え子達を救う手段などない。
きっとここで木山を止めることは木山自身を傷つけることになる。
それでも上条は木山が破滅の道へ歩んでいくのをみすみす見過ごすことはできない。
今までだってそうやって生きてきた。
『偽善使い』――それが上条当麻という人間の本質なのだから。
そして決意を固めた上条と木山の戦いの決着は一瞬だった。
「何っ!?」
爆発音に似た轟音が鳴り響いた時には、木山の前から上条の姿は消え去っていた。
木山が確認できたのは上条に向かって飛ばした無数の石が、何らかの衝撃によって粉々に砕け散ったことだけ。
体感的に目で追うことすら困難な、人体の限界を超えた超速。
上条が取った戦法は、ただ木山に向かって全力で直進するという至ってシンプルなものだった。
しかし知覚すらできない圧倒的なスピードを前に、例えどんな力を持っていようと対応できるはずがない。
そして木山が上条の姿を再び視認したのは、上条の掌底が木山の顎を打ち抜く瞬間だった。
「酷い男だな、君は」
地面に仰向けに倒れる木山は恨めし気に上条に向かってそう呟いた。
それに対して上条は何も答えることはできない。
上条が木山に放った掌底によって二人の勝敗は一瞬で決した。
もちろん掌底を放った瞬間は上条も力の解放を止めており、木山にも目立った外傷は見当たらない。
だが上条の掌底は木山の脳を激しく揺さぶり、意識はあっても木山は身体を動かせない状態だった。
「これは単なる自己犠牲などではない、私なりのあの子達に対する償いだ。 それを君は自分勝手な理由で踏みにじった。 このまま私が捕まるということが何を意味するか理解してるのか?」
「……」
「『幻想御手』をアンインストールする治療用のプログラムは予め用意してある。 こうなってしまった以上、私もそれを破棄するようなつもりはない。 だがそうなればネットワークは私の手から離れ、あの子達を取り戻すことも快復させることも叶わなくなる。 君は本来は加害者であるはずの私を庇って、何の罪もない子供達の未来を奪ったんだぞっ!!」
その言葉の一つ一つが上条の独善を激しく非難するものだった。
今回の結末は上条が背負わなければならない責任。
だが上条にはその責任を果たすだけの力がない。
そのことを上条は誰よりも痛感している。
しかし無力だったからこそ、木山が見ることができなかった別の選択肢が上条には見えていた。
「……確かに木山先生の言う通り、俺がやってることは無力な餓鬼が自分勝手に喚いてるようなもんなんだと思う。 でも、それでも俺は先生を放っておくことができなかった」
「その気持ちには感謝していると伝えた。 だが君は本当にその選択が正しかったと思っているのかっ!?」
今まで見てきた木山の姿からは想像できないほど、感情が溢れかえった言葉。
子供達を救う道を閉ざした上条に対する憎しみがヒシヒシと伝わってくる。
慕っていた人間からこのような感情をぶつけられるのは、上条にとっても辛いことだった。
だが木山のその憎しみとも向き合わなければ、上条が目指す先には進むことができない。
「今の段階で俺には先生の教え子達を救う手段なんて考えつかない。 ……だから俺は皆に助けを求めてみようと思うんだ」
「皆に助けを求める?」
「ああ」
木山の言葉に上条は頷く。
今の上条に子供達を救えるような知識はないし、それどころか学校の成績すらお世辞にも優秀とは言えない。
だが例え上条自身に知識がなくとも、上条の周りには色々と頼れる優秀な人間がたくさんいた。
カエル顔の医者や小萌先生といった大人達に、美琴や白井のような優秀な学生。
そしてそこには当然、木山も含まれている。
「それでも足りなきゃ、他にも協力してくれる人を絶対に探してくる」
「それは自分の責任を他人に押し付けてるだけじゃないのか?」
「そう言われても仕方ないとは思う。 もちろん俺もこれからは真面目に勉強するつもりだけど、実際に俺なんかが役に立てるかは分からないしな。 でも例えそれが卑怯な方法であっても、俺は今回の自分の責任と向き合っていくつもりだ」
「……すまない。 『幻想御手』を使って他人を巻き込んでいた私が言えるようなことではないな」
「邪魔をした俺が言うのもなんだけど、先生にも力を貸して欲しい」
「独りよがりに他人を巻き込んだ私と、最初から周りに助けを求めようとしている君。 成果が上がるかはまだ分からないが、どちらが正しい選択かは明白だ」
「俺は馬鹿だからさ。 最初からこうするしか方法がなかっただけだよ」
「礼を言うのはあの子達を救った後にしなければならないが、ぜひ私にも協力させてくれ。 ……その前に罪は償わなければならないがな」
「……」
確かにこれだけの事件を引き起こした木山はこのまま無罪放免というわけにはいかない。
どのような刑罰が下されるかは分からないが、すぐに合流することはできないだろう。
だから木山が帰ってくるまでに、上条も自分にできることをいなければならない。
(あれっ?)
しかしそこで上条は何か妙な違和感を感じる。
一応とはいえ木山との和解を果たし、これから先しなければならないことが沢山あるはずなのに。
そんな未来へと続く道に何か決定的な落とし穴があるような悪寒。
だがそのことについて深く考える間もなく、木山に異変が起きる。
「ぎ゛ッ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」
「木山先生っ!?」
「がッ……ぐ、ネットワークの……暴走? いやっ、これは……AIM……の」
気を失った木山から抜け出したように、何か靄のようなものが空中に漂い始める。
そしてその靄は一点に集まると、やがて一つの形を成した。
「な、何だよ、これっ!?」
それは彼女なりの最後の抵抗だったのかもしれない。
『幻想御手』とは使用者の脳波のパターンを一定に整え、それを電気信号に変換して一人の人間へと収束させるためのシステムだ。
そして『幻想御手』の利用者は外部から脳波を強要されることにより、昏睡状態へと陥ってしまう。
だが仮に外部からの強制ではなく、自ずから脳波を同調させることが可能だったとしたら?
もちろんそう簡単にできることではなく、現に彼女も成功はせずにネットワークに取り込まれてしまっている。
しかしそれは完全に取り込まれてしまったわけではなく、彼女の意識は半ば保たれた状態だった。
それはネットワークとは別の場所に位置する、糸電話の糸に近い状態だったのかもしれない。
そして彼女は自分の目とは違う視線から、ある戦いの一部始終を見届けていた。
今回の事件を引き起こした犯人の想い、そしてその犯人を止めるために戦った少年の決意。
しかし本当の異変は彼らの戦いが終わった後に起こった。
実際に何が起きたのかは彼女にも分からない。
ネットワークが犯人の手から離れると同時に、彼女と繋がっていた回線も断ち切られてしまったからだ。
だがきっと良くないことが起きている、それだけは彼女にも分かった。
そしてあの少年はきっとまだ戦っている。
「私も行かなきゃ!!」
ネットワークが解き放たれると同時に目を覚ました彼女は自分も少年の力になるべく、病院から飛び出すのだった。
うん、最後は自分で書いてても良く分かりませんでした
っていうか、いまいち『幻想御手』の仕組み自体も自分は理解できてません
脳波を電気信号に変換してネットワークを作る?
でも発電能力者じゃなきゃ、その変換された電気信号を木山に向かって発信できないような?
要するに何が言いたいかというと完全なご都合主義です
すみません
もう片方の方がこっちの筆が止まってる時に投下してます
つまりあっちが投下されてる時はこっちが全然進んでない時です
明後日の23:00に続きを投下します
577は恐らく御坂視点ですよね?(違ったらすまぬ
個人的には視点変更が急すぎて分かりづらいだけで、
最初から視点を意識すればそこまでよく分からん文章でもないと思いますが
なんにせよ乙! です
乙
俺は木山がテレパシー系、もしくは電気系能力を使える状態になっていて
他人の脳波を送受信する中継基地のような役割をしていると思ってる。
乙
乙!
乙
楽しみに待ってる
少し遅くなりましたが、続きを投下します
いつも感想ありがとうございます
>>579さん
分かりづらくてすみません
仰る通り、あそこは別の人物の視点になります
今までは基本的に一回の投下で同じ人物の視点でしか投下してなかったんですが
Pixivとかはそういう場面でページを変えられるんで便利ですね
>>581
なるほど木山先生自身が受信アンテナのようになってたってことですか
確かに発電能力者の美琴が他人の記憶を少なからず読み取れるんだからその可能性は高いですね
色々と説明ありがとうございます
では投下します
「どうなってんだよ、これっ!?」
木山の身体が抜け出した靄が一点に集まって形成したもの。
それは胎児の姿をした『何か』
胎児と呼ぶにはあまりにも歪だが、しかしそれ以外に言い表しようがない『何か』
その頭に当たる部分には、まるで天使のような輪が浮かんでいる。
『キオィィィィアアァァァァ!!!!!!』
そして泣き声のような甲高い咆哮と共に、その『何か』から飛び出した触手が辺り一帯に破壊を撒き散らす。
上条はその真下にいた木山を咄嗟に抱きかかえると、すぐにその場からの離脱を図る。
左脚は肉離れを起こしているのか言うことを聞かない状態だったが、力を解放して右脚で思い切り地面を蹴ることによって大きく距離を取った。
しかしそれだけでは満足とは言えず、触手は上条の背中に迫ってくる。
この『何か』が一体どんなものであるかは分からない。
だがきっと超能力に関係したものであると、上条は半ば本能的に後方から迫ってくる触手に向かって右腕を突き出した。
「よしっ!!」
パキィンという能力を打ち消した音と共に、その触手は大きく削り取られる。
しかし打ち消せたのは触手のみで、その『何か』の本体にまで影響を及ぼしたようには見えない。
それどころか寧ろどんどん大きくなっているように見える。
『ぎっ? ぎ? キィヤアアアアァァァァ!!!!』
そして『何か』の目に当たる部分が上条の姿をしっかりと捉えた。
その瞬間、今まではただ感情のようなものを爆発させているようにしか見えなかった『何か』に変化が起きる。
(怯えてる?)
目に見える形で『何か』の表情に表れたわけではない。
しかし上条には『何か』が自分に対して向ける怯えに似た感情をはっきりと感じ取っていた。
「大丈夫ですの!?」
そして距離を取って『何か』と対峙している上条の下に、ヒュンという空気を裂く音と共に白井が現れる。
どうやら普通に『空間移動』を使える程度には回復したらしい。
「どうなってますの、あの怪物みたいな胎児はっ!?」
「そんなの俺だって分からねえよ!!」
上条達の視線の先では今もなお『何か』は膨張を続けていた。
それはもはや胎児と呼べるような姿形はしておらず、ただ元の姿と全体的な雰囲気からそう表現できるだけだ。
何か出来の悪い怪獣映画を見ているような気になるが、全身を襲う痛みに上条はこれが現実だということを嫌でも思い知らされる。
「あれは恐らく虚数学区が実体化したものだ」
「木山先生、目が覚めたのか?」
目を覚ました木山に促されて、上条は木山を地面へと下ろす。
「白井君も一緒か。 先ほどはすまなかったな」
「そのことについては取りあえず後回しですわ。 それよりあれが虚数学区が実体化したものとはどういう意味ですの?」
虚数学区、その都市伝説なら上条も聞いたことがある。
恐らく上条でなくても、学園都市に住む人間なら一度は耳にしたことがある筈だ。
『虚数学区とは学園都市内の始まりの研究所であり、その関連施設を増設した結果が学園都市である』
という話を元としており、学園都市における都市伝説の元を辿ると殆どが虚数学区の噂に結びつくらしい。
「だがその実体は巷に流れる噂とは全く違ったわけだがね。 虚数学区とはAIM拡散力場の集合体だったんだ。 アレも恐らく原理は同じAIM拡散力場で構成された……『幻想猛獣』とでも呼んでおこうか」
「『幻想猛獣』……」
「『幻想御手』のネットワークによって束ねられた一万人のAIM拡散力場が触媒となって生まれ、学園都市のAIM拡散力場を取り込んで成長しようとしているのだろう。 そんなものに自我があるとは思えないが、ネットワークの核となっていた私の感情に影響されて暴走しているのかもしれないな。 そしてアレはどうやら上条君、君のことを恐れているようだ」
「俺を?」
「能力を打ち消す右手を持った君は、アレにとってまさに天敵だろうからね」
「そういうことか」
上条が触手を打ち消した際に、『幻想猛獣』は上条の力に触れている。
『幻想猛獣』が何か怯えていると上条が感じ取ったのはそのためだろう。
実際に今も『幻想猛獣』は襲ってくるようなことはないが、警戒するようにその眼は上条の姿を捉えていた。
しかし襲ってこないこと以上に、今も膨張を続けるその姿に不気味さを感じずにはいられない。
「でも要するに俺が右手で触れれば、それで片が付くんだろ?」
「理論的にはね。 だが天敵の君が近づけは、当然アレも抵抗してくる」
「……」
どうするべきかと上条は悩む。
もちろんやるべきことは決まっているのだが、単純にそれを成し遂げるまでのプロセスが見えてこない。
今の上条はまさに満身創痍という状態であり、本音を言えば立っているのもやっとの状態だ。
この状態のまま突っ込んだとしても、反撃に遭えば『幻想猛獣』の下まで辿り着くのは難しいだろう。
だが『幻想猛獣』の動きが止まっている今の状況は千載一遇のチャンスだし、『幻想猛獣』がこのまま巨大化し続ければどうなるか分からない。
無理でもやるしかないと、上条が決意を固めたその時。
「撃てぇ!!!!」
その号令の直後に聞こえてきたのは激しい銃声。
上条達の位置からは見えないが、どうやら高架道の上から『幻想猛獣』に対して銃撃が行われているようだ。
「まだ動ける警備員がいたようだな」
少しずつだが銃弾によって体が削られていく幻想猛獣を見て木山が呟いた。
彼女なりに何か思うところがあるのだろう、木山の表情には言い得ぬ感情が浮かび上がっている。
「しかしあの程度の攻撃では殆ど意味はなさそうですわね」
白井の言葉に上条は再び幻想猛獣に目をやる。
確かに銃弾が『幻想猛獣』の体を削り取る以上に、『幻想猛獣』が膨張していくスピードの方が遥かに早い。
最初は上条よりも小さかった『幻想猛獣』の体は今や高架道よりも高くなっていた。
「やるなら今の内しかなさそうだな」
『幻想猛獣』の注意は警備員の方へと向かっている。
警備員を囮にするようで悪いが、これ以上の好機がこれから先あるか分からない。
「白井君、警備員の通信機器がある車両まで運んでくれないか?」
「何をするつもりですの?」
「ここに『幻想御手』のアンインストール用のプログラムがある。 これを使ってネットワークを破壊すれば、アレの暴走も止まるかもしれない」
自衛による本能なのか『幻想猛獣』は再び暴れ始め、その矛先は攻撃を行った警備員へと向かっていた。
この状況を打開するためにも、手は多いに越したことはない。
「それじゃあ、木山先生のことを頼むな」
「あなたこそ無理はなさいませんよう」
「分かってるって」
上条も自分の身体が限界に近いことは分かっているので、白井の言葉を素直に受け取る。
しかし『幻想殺し』が現状における切り札であることに違いはないので、多少の無理は通さなければならないかもしれないが。
「君にはあの子達のためにも色々とやってもらわなければならないことがある。 だから絶対に無事に帰ってきてくれ」
「はい!!」
そして木山の言葉は上条にとって嬉しいものだった。
信念を貫き通そうとした者と、その信念を打ち砕いた者。
本当に和解するのは目的を達成してからにしなければならないが、今はこの言葉だけで十分だ。
そして白井が木山と共に跳ぶと同時に、上条は『幻想猛獣』に向かって走り始める。
しかし勇んで『幻想猛獣』に立ち向かっていったまでは良かったものの、上条は早くもその決断を後悔することとなっていた。
(警備員の攻撃は完全に無視で、ターゲットは完全に俺ってわけかよっ!?)
警備員の攻撃に『幻想猛獣』が気を取られている内に近づく作戦だったのだが、それも空しく上条は『幻想猛獣』による猛反撃に全く近づけないでいる。
上条に襲い掛かってくるのは触手だけでなく、炎の塊や氷の柱といった能力の数々。
どうやら『幻想猛獣』も先ほどまでの木山と同様に、『多才能力』を操れるらしい。
木山ほど使いこなせている感じはしないが、驚くべきはその物量だ。
全方位から同時に迫ってくる触手や炎を上条は命からがら躱している状態だった。
「そこの少年、馬鹿やってないでさっさと逃げるじゃんよっ!!」
どこかで聞いたことがある声が拡声器を通して響いてくるが、上条はそれに対して思わず舌打ちする。
冗談じゃない。
今や『幻想猛獣』のターゲットは完全に上条になっている。
仮にこのまま逃げたとしても、『幻想殺し』という脅威を持つ上条を『幻想猛獣』はどこまでも追ってくるだろう。
そうなれば自然と被害が広がるのは明白だった。
(それにしてもいきなり潰しに掛かってくるなんてな)
自分に向かって放たれる圧倒的な攻撃を前に、上条は心の中でそう呟いた。
目の前に脅威が迫った際に、殆どの生物は二種類の対応を取る。
1つは脅威そのものに対する隷属。
脅威を目の前にして生じる恐怖という感情によって、大半の動物は逃げるという選択肢を取らざるを得ない。
強者に対する服従というのも恐らくこれに含まれるだろう。
そして2つ目は今まさに上条が目の当たりにしている脅威に対する反撃だ。
窮鼠猫を噛むという言葉が古くからあるように、本当に追い込まれた際に残される選択肢とは戦うこと以外にない。
だが実際のところ上条は『幻想猛獣』に対して、決定的となるようなことはまだ何もできていなかった。
にも拘らず『幻想猛獣』は上条を絶対的な脅威として排除すべく狙ってくる。
その様子は単に本能から上条を恐れているだけでなく、まるで最初から……。
「っ!?」
『幻想猛獣』の様子を疑問に思う間もなく、上条に飛び散った石が襲い掛かった。
能力によって操られたものではなく、触手が地面を抉った際に撒き散らされた多くの石。
まだ力を解放した状態を何とかキープできているため大きなダメージにはならないが、それは一瞬の間だけ上条の視界を遮る目晦ましとなる。
そしてその一瞬はこの戦いにおいて致命的な間でもあった。
「があっ!?」
足を触手に絡め取られた上条は、そのまま地面へと叩きつけられる。
その威力は力を解放している上条に対しても十分なダメージを与えるものだった。
肺の中の空気が全て吐き出され、上条の視界は暗転する。
だが『幻想猛獣』の攻撃はそれだけに留まらず、抵抗する暇を与えぬよう何度も地面へと上条の身体を叩きつけた。
(これはヤバい)
薄れゆく意識の中でこのままでは間違いなく死を迎えることを上条は自覚した。
しかし抵抗しようにも、もはや身体を動かすという思考さえ働かない。
どこか遠くから声が聞こえてくるような気もしたが、それが誰のものかも分からない。
元々木山との戦いで限界を迎えていた上条は、本来は『幻想猛獣』と戦うような力は残されていなかった。
それでも上条が戦いに臨んだ理由は何か?
具体的には上条自身にも分からないが、きっと何か守りたいものがあったんだと思う。
子供達を救いたいという木山の想い、上条自身の決意。
他にも美琴や白井など、様々な人間の想いが今回の事件には含まれていた。
それをこんな訳の分からない形で壊されるわけにはいかない。
だが今の上条にはこの状況を打破するような力がなかった。
木山との約束とは違う、既に詰んでしまっている状態だ。
(くそっ、こんなところで)
きっと上条自身がいなくなっても、上条の想いは白井達が引き継いでくれる。
しかしだからといってこんな場所で終わってしまうのを、上条も認めることはできなかった。
そして脳裏に浮かぶのはカエル顔の医者から聞かされたあの言葉。
『君の命、君という存在は色々なものに支えられて成り立っている。 だから例え何があったとしても、君は自分の存在を軽んじてはならないよ』
例えこの先に命を懸けなければならないことがあったとしても、それは絶対にこんな場所で無意味に捨てることではないはずだ。
まだ死ぬわけにはいかない。
だがそんな想いも空しく、実際に今の上条にできることは何もなくて。
上条が最後に見るのは目の前に広がる青い空になるはずだった。
『キ゛オ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!!!???』
しかし地面に思い切り叩きつけられる筈だった上条の身体は勢いを失い、その身体は地面ではなく別の何か柔らかいものに支えられる。
「ったく、アンタには聞きたいことも文句を言わなきゃいけないことも山ほどあるんだから。 こんなところで私以外の誰かにやられてるんじゃないわよっ!!」
ヒーローを助けられる存在、それは一体誰か?
ヒロインという言葉は単に物語の中心となる女性を意味するだけではない。
それはヒーローと同じ意味を持つ物語の主人公に与えられる称号。
「寝てた分、私も少し暴れさせてもらいましょうか?」
上条当麻≪ヒーロー≫を救うべく、御坂美琴≪ヒロイン≫が戦場へと立つ。
以上になります
すみません、投下ペースを上げると言っておきながらこの有り様です
これからも取りあえず週に二回は投下できるよう続けていきたいと思います
その時によって投下量は少なくなったりするかもしれませんが
いつも感想ありがとうございます
感想をいただけるとモチベーションが本当に上がります
(その分、投下スピードが速くなるかも?)
ではまた近い内に
何か少しずつ伏線が張られてる気がするな
しかし毎度ながら本当に面白い
最後の美琴の登場も良い感じ
そしてやはりツンを崩さないみこっちゃん可愛い
何か投下してもレスつかないし、見てる人もいるか分からないんでここでの投下はやめます
今までありがとうございました
まあ実際に書いててレス付かないのは読む側も面白くないって思ってるのと同義だからね
俺は毎回楽しみにしてるけど、この板には合わないのかもしれない
pixivや投稿掲示板で続けた方がいいかもね
そうだね、依頼出してくるわ
おいおい、楽しみにしてんだから続けてくれよ
って荒らしの自演か?
まあわざわざ投下時間宣言してるのにレスが付かないんじゃモチベーションが上がらないのも仕方ないわ
まあ真面目に書いててつまらないものほどレスがつきにくいものはない
あとはどう判断するかだな
まあわざわざ投下時間宣言してるのにレスが付かないんじゃモチベーションが上がらないのも仕方ないわ
まあ真面目に書いててつまらないものほどレスがつきにくいものはない
あとはどう判断するかだな
荒らしだろー
>>580-あたりでもいっぱいレスあるじゃん
トリも付いてないのに真に受けるな
やめないでくれえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
馬鹿しかいないのかよ
みこっちゃんきたああ
救われヒロインとしての美琴も主人公としてのヒロインな美琴も好き
こういう展開は胸熱でほんとに好きだわ
へんな荒しに水を差されて腹が立つけど、>>1さん頑張ってくれ
幻想御手編クライマックス楽しみに待ってます
スパロボに夢中で覗いてなかったら変なことに
土曜の昼前に投下します
待ってるよ~
ヒロイン(上条さん)がピンチのときに登場するヒーロー(みこっちゃん)というわけですね。
同じ上条さん強化でも明らかな格上に理由もなく無双するあっちより、各キャラに見せ場を作ってくれるこっちの方が好印象だな
期待
いつもの人だからスルー推奨
よかった、美琴が復帰してくれた。
上条が一人で幻想猛獣をそげぶしてたら、ネットワークに取り込まれたうちの半数が女生徒だったとして
5000人にフラグを立ててたところだった。
少し遅くなりましたが、続きを投下します
言いたいことがないと言えば嘘になりますが、気にせず投下していきたいと思います
電話の先から聞こえてきた白井の声は、普段の気丈なものとはかけ離れたものだった。
焦燥や恐怖によってかその声は震えており、それ以上に普段は類人猿と罵っている上条のことを普通に名前で呼んでいたことからも事態の深刻さが窺える。
そして美琴が高架道の上に辿り着いた先で見たのは、『幻想猛獣』と呼ばれる化け物によって蹂躙される上条の姿だった。
「お姉様っ!!」
美琴の姿を確認した白井がすぐに駆け寄ってくる。
傍にいた木山も何か言いたそうにしていたが、今はそれどころでない。
「黒子、お願いっ!!」
その言葉だけで白井にも全て伝わったのか、美琴の視界は一瞬で切り替わっていた。
視界が切り替わった先で美琴が目にしたのは『幻想猛獣』と今まさに地面に叩きつけられようとしている上条の姿。
しかし電撃で直接攻撃しようにも、普通の電撃では触手によって足を絡め取られている上条まで感電してしまうかもしれない。
だが高架道の上から見た時にそのことは既に分かっていたので、美琴の決断は早かった。
ザザザザザという何か重い物を引きずるような音と共に、美琴の下に大量の砂鉄が掻き集められる。
その大量に集められた砂鉄によって形作られたのは一振りの剣。
しかし上条に向けたものとは大きく違う。
チェーンソーのように振動した刃は当たれば確実に獲物を切り裂く凶器となっている。
そして鞭のようにしなやかに伸びた砂鉄の剣は上条を捉えていた触手を切り裂いた。
『キ゛オ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!!!???』
突如現れた美琴に対する威嚇か、それとも痛覚のようなものが存在するのか?
触手を引き裂かれた『幻想猛獣』は甲高い咆哮を上げる。
そして触手から解き放たれた上条の身体は大きく宙を飛んだ。
それを見て美琴は咄嗟に走り出すと、上条の身体が地面に叩きつけられる直前に何とか受け止めることに成功する。
「……何でお前がここに?」
意識は朦朧としてるようだったが、上条の目はしっかりと美琴の顔を捉えていた。
無事とは言い難い状態であるものの、そんな上条の様子を見て美琴はホッと息を吐く。
間に合って良かった。
もう少し遅れていたら取り返しのつかないことになっていたかもしれない。
「ったく、アンタには聞きたいことも文句を言わなきゃいけないことも山ほどあるんだから。 こんなところで私以外の誰かにやられてるんじゃないわよっ!!」
上条は理解が追い付いてない様子だったが、ひとまず美琴は上条を地面へと横たわらせる。
しかし二人に休まる暇など当然なく、動けない状態の上条を狙って『幻想猛獣』の触手が襲い掛かってきた。
だが上条に届く前に、触手は内側から破裂するように弾け飛ぶ。
美琴の正真正銘の全力である10億Vもの出力を誇る電撃。
それが迫りくる大小無数の触手を一瞬にして吹き飛ばしていった。
「コイツがこんな目に遭わされて黙ってられるほど大人じゃないのよね。 寝てた分、私も少し暴れさせてもらいましょうか?」
美琴がそう言うと同時に、電磁力によって操られた砂鉄の波が『幻想御手』を呑み込む。
そして『幻想御手』を取り囲んだ大量の砂鉄はそのまま渦を作るように回転を開始。
まるで竜巻のようになった砂鉄が『幻想御手』の体表を切り刻んでいく。
しかし、
「流石にデタラメ過ぎるでしょっ!?」
『幻想猛獣』は砂鉄による牢獄を打ち破るように、更に巨大化を続けた。
恐らく巨大化しただけでなく、外部からの攻撃を防ぐように何らかの力によって形成された力場が体の表面を覆っている。
「それならっ!!」
そして美琴が『幻想猛獣』に向けたのは先ほどと同じ自身の全力となる電撃。
しかしそれも『幻想猛獣』の身体を覆った何らかの力によって周囲へと拡散されてしまう。
誘電力場のようなものだろうか?
だが自身の能力が防がれるのを見ても美琴が慌てることはなかった。
(別にアイツみたいに電撃そのものを打ち消されてるわけじゃないっ!!)
電圧ではなく放出する電流そのものの量を美琴は一気に押し上げた。
圧倒的な電流による電撃は高い熱を生じ、それが『幻想猛獣』の体表を消し飛ばしていく。
『ぎぅ、きゃあ』
『幻想猛獣』は抵抗を試みるように触手を伸ばしてくるが、美琴はそれを歯牙にも掛けない。
先ほどと同様に操った砂鉄によって、それを難なく切断。
今度は『多才能力』によって生み出された鋭利な氷の柱が何本も襲い掛かるが、これも全て砂鉄によって防ぎきる。
『ntst欲kgd』『kg苦s』『n憤kd』『dknr歎yjtnj』『w羨』『ki遭bgnq』『g助sm』
それは漠然としたもので、ハッキリとした意味までは分からない。
だが『幻想御手』のネットワークに取り込まれた人間の負の感情だということだけは感じ取れた。
『幻想御手』に頼らざるをえなかった人達の羨望、後悔、無念、嫌悪、嫉妬、そして絶望。
それはレベル5という選ばれた力を持つ美琴には理解できないであろう苦悩だ。
しかし例えそれが傲慢であろうと、美琴は躊躇うことなく言い放つ。
「AIM拡散力場の集合体……か。 悪いけど『自分だけの現実』を他人に委ねるような人達に負ける気はしないわ」
きっと才能は元々あった。
その点で自分は周りと比べて恵まれていた。
それでも才能という一言に、過去の努力が全て否定されるわけではない。
単純な力ではなく今まで積み重ねてきた努力によって裏付けされた美琴の自信。
それはまだ遥か先にいるであろう上条を目指すことによって、これからも更に増していく。
「だからこんなとこで苦しんでないで、とっとと帰んなさい」
そして美琴の放つ電撃の閃光が『幻想猛獣』の全身を包み込む。
それは単に『幻想猛獣』を倒すことだけを目的としたものではなく、『幻想御手』のネットワークに取り込まれた人達が元の場所に帰るのを手助けする優しい光。
『幻想猛獣』の体は再生が間に合わないほどの速度で削り取られていき、やがて全身が焼き焦げた状態で沈黙した。
「大丈夫かっ!?」
タイミングを見計らったように、警備員達もこちらに駆け寄ってくる。
街の治安を守るべき警備員にしては少し対応が遅い気もするが、それを責めることはできないだろう。
『幻想猛獣』、はっきり言ってアレは普通の人間が対処できるようなものではなかった。
レベル5という強大な力を持つ美琴だからこそ、何とか『幻想猛獣』を倒すことに成功している。
美琴が今まで続けてきた上条との手合わせは、今のところ0勝全敗。
しかしこれは別に美琴の力が上条に劣っていることを示しているわけではない。
そもそも上条との手合わせは一応勝敗を決める形となっているが、本当の目的は能力を研鑽して高めていくことだった。
単純に勝つことだけを考えれば、人間が耐えきれない質量の物体を上からぶつければいいだけだ。
尤も木山の目を通して見ていた上条の力を考えれば、それも通じるかどうか分からないが。
「……」
そして治療を始めた警備員に並んで、美琴は気を失っている上条の頬をそっと撫でる。
木山との戦いの中で上条が見せた凄まじい身体能力。
上条がその力について黙っていたことに腹立たしく思う部分もあるが、それでも美琴が上条に抱く想いは変わらない。
今回もボロボロになるまで誰かのために戦って。
美琴が目標とするのは単に戦力として上条の隣に立つことだけではない。
上条が持つ心の強さ、それが美琴の本当の目標だった。
『まだだっ!!』
しかし事件を解決した余韻に浸る暇もなく、遠くから聞こえてきたその叫びが美琴達を再び緊張の渦へと押し返す。
『AIM拡散力場の塊であるソレには普通の生物の常識は通用しないっ!! 体表にいくらダメージを与えようと本質に影響しないんだ』
それは拡声器を通じた木山の声だった。
恐らく高架道の上にいた時点で警備員のすぐ傍にいたため、今は拘束されてこちらに来れなかったのだろう。
そして木山の声に美琴は沈黙していた『幻想猛獣』へと目を向ける。
すると木山の言葉通り、『幻想猛獣』の体の表面がボコボコと泡を立てるように膨張していく。
『恐らく力場を自立させてる核のようなものがある筈。 それを破壊できればっ!!』
美琴は上条や警備員を庇うように、前へと進み出る。
だが美琴の前では奇妙なことが起こっていた。
そのまま膨張するかと思われた『幻想猛獣』の体がみるみる縮んでいく。
「え?」
だが『幻想猛獣』の変化を見届けることなく、その場にいた全員に絶望が降りかかる。
それを言葉に表すことはできない。
ただ例えどんな力を用いようとも、それを防ぐことは不可能だということを美琴は本能的に察していた。
そして辺り一帯を絶望という名の眩い光が包み込んだ。
(どうなったの?)
何が起こったか分からぬまま、美琴は強烈な光によって閉じていた目をゆっくりと開ける。
感覚的には身体に異常は見当たらない。
目の前に広がる光景も先ほどとあまり変わらないものだった。
ただ一つ右腕が変な方向に捻じ曲がり、地面に膝をついている少年の姿を除けば。
それだけで美琴は上条によって救われたことを理解する。
後ろに目を向けると、どうやら白井や警備員も無事なようだった。
そして美琴は上条が上空のある一点を見つけていることに気付く。
その上条の視線の先を追うように美琴も顔を上げると、
「な、に、あれ?」
それは真っ白な子供だった。
少年か少女かは分からない。
ただその特徴を一言で表すとするならば、
「てんし?」
そう一言で表すなら、それは天使だった。
頭の上に浮かんだ輪に、どこか神々しさを感じる威圧感。
ただ神話に出てくるような天使と比べて違うのは、その天使の背中にある翼だった。
生物的な白い翼ではなく、何らかの力が凝縮した無機質さを感じさせる翼。
本来はオカルトの産物であるはずの天使を科学によって再現したような歪さ。
そしてその歪な天使は戸惑う美琴達に対して圧倒的な敵意を振くのだった。
今回の投下に関する説明については次回の投下で入ってくると思います
少しネタバレをすると>>521で言ってた魔改造されるキャラは幻想猛獣で
原作のあるキャラとは風斬さんです
いつも感想ありがとうございます
今回のようなことになったのは自分がレス乞食をしたせいかもしれませんが
本当に皆さんの感想レスはやる気に繋がります
ではまた近い内に
何か少しサーバーが重くなってる?
書き込んだ後にエラーが出ないわけでもなく、書き込み場面から先に進まない
書き忘れましたが今回の投下は以上になります
リアルタイムで来てた! お疲れ様です、次も楽しみにしてます!
乙でした! どんどんバトルのスケールが大きくなって面白い!
乙!
これは幻想猛獣がヒューズ化したって感じかな?
上条さんが強化されてる筈なのに敵がそれ以上に強くなってるっていうw
この上条さんが原作どおりに動いたら敵キャラ圧倒しちゃうことも少なくないだろうし敵の魔改造は致し方ない
あれだね、ステイルさんだけは合掌だね
緊迫感がすごいなあ
いつも面白いです
乙です
上条さんと美琴の描写は恋愛色薄いのに何故か甘酸っぱくなる
敵の魔改造はしょうがないよな
本来幻想猛獣は美琴一人で倒せるんだし
乙です!描写が上手くて羨ましいです
なるほど、聖人上条+美琴の組み合わせでバトルさせるためには
相手もそれなりに強化しないと瞬殺展開になってしまって盛り上がらないってわけね。
偽聖痕使いってなんて読むんだ?
過去に>>1が恥ずかしい思いをしてまで書いてくれたのに、お前って奴は
今日の23:00に投下します
待ってマッスル
すみません、酉付け忘れてました
わたし待つわ
すみません
キリが悪くなりそうなんで、今日の投下は中止します
本当に申し訳ありません
明日の今日と同じ予告時間に続きを投下します
恐らく幻想御手編のエピローグを除いて全部投下できると思います
本当にすみません
いつまでも待つわ
たとえあなたが
振り向いてくれなくても
お待たせしました、続きを投下したいと思います
いつも感想ありがとうございます
上条さんだけでなく対峙する相手の魔改造も思ったより受け入れてもらって良かったです
まあ二次創作で言うのもなんですが、単に無双するんじゃなくて少しは緊迫感があるものが書きたかったので
ただこれから先、相手を魔改造することで少しイージーモードになる可能性も
偽聖痕使いの読み方については……恥ずかしい
では続きを投下します
「白井っ、今すぐ全員どこかに避難させろっ!!」
今まで遭遇したことがない絶望的な危機を前に上条は思わず怒鳴り声を上げていた。
自分に向けられた敵意だけで上条は石のように固まってしまっている。
まるで周囲の空気が数倍にも膨れ上がったような威圧感。
なぜ『幻想猛獣』はあのような姿になったのか?
その理由は全く以って分からなかったが、今の『幻想猛獣』が先ほどとは比べ物にならないほどの力を秘めていることは嫌でも分かった。
「何やってるんだ、早くしろっ!!」
しかしあまりの事態に混乱してしまっているせいか、白井は中々行動に移らない。
白井が『空間移動』によって跳ばせる総質量はおよそ130kg。
大の大人なら二人程度が限界だった。
それに対してこの場にいるのは警備員五人に美琴と白井を合わせた七人。
一刻も早くこの場から避難しなければ、命の保証はできない。
だが白井が避難を始めるよりも早く、事態は悪い方向へと転換していく。
それはまさに天災にも等しい破壊。
ドン!!という轟音と共に、『幻想猛獣』は恐らく半径数km程度なら一瞬にして荒地に変えてしまうであろう力の波動を振り撒いた。
上条の右腕は天使のような姿になった『幻想猛獣』の初撃を受け止めた際に、その圧力に耐え切れずに折れてしまっている。
いつものように異能の力を打ち消している感覚はあった。
にも拘らず異能の力に対して上条の右腕が押し負けたのは、単純にその力に対して『幻想殺し』の処理能力が追い付かなかったからだ。
物量だけじゃない、それはまるで同時にいくつもの異能を打ち消しているかのような感覚。
もしかしたら『多才能力』を操る『幻想猛獣』は、その力を同時に合わせて使っているのかもしれない。
しかしその理屈はどうであれ、『幻想殺し』で異能を完全に打ち消せないのは上条にとって初めてのことだった。
「ぐっ!?」
そして上条は左手で支える形でその力を『幻想殺し』で受け止めた。
触れただけで激痛が奔る上に、今の上条の右腕に掛かる負担は計り知れない。
少し気を緩めれば、それだけで意識が飛びそうになる。
だが例え何があろうと、上条がこの場から退くことはできなかった。
その力は均等に周囲に広がっていくものだったのか、上条のいる位置を基点として周囲への被害は食い止められている。
しかし上条が倒れたら最後、それは絶望となって学園都市を襲うだろう。
「っ、やばっ……い」
だが強い意志に反して、上条の身体は本当にもう限界だった。
木山から受けた電撃はまだ身体全体に痺れを残しているし、肉離れを起こしている左脚は殆ど踏ん張りが利かない。
折れている右腕だけでなく、鈍い痛みが全身を襲っている。
そして踏ん張りが利かなくなった左脚から上条の身体はガクンと崩れ落ちそうになったが、
「しっかりしなさいっ!!」
良く知る少女の声と共に、どこか優しい温もりが上条の背中を支える。
「何でさっさと逃げなかった? 白井は何をやってんだよっ!!」
振り返る余裕はなかった。
だから後ろのいる人間達が今どのような状況にあるのか上条からは分からない。
「黒子達ならちゃんと避難したわよ」
「だったら何でお前はっ!?」
「この状況じゃどこに逃げても安全なんて言いきれない。 それならここでアンタと一緒に戦う方が生き残れる可能性は高いでしょ?」
「お、前なぁ」
今まで潜り抜けてきた修羅場と比べても圧倒的な危機。
しかしそんな絶望的な状況にあるにも拘らず、普段と変わらぬ美琴の声音に上条は思わず脱力しそうになる。
「レベル5を舐めるんじゃないわよ。 私だって戦える、私だってアンタの力になれるっ!! だから少しは私を頼りなさいよっ!!」
「……そんなの言われなくても分かってる」
「え?」
記憶は曖昧だが、『幻想猛獣』にやられて絶体絶命の危機に陥っていた自分を助けてくれたのが美琴であることは上条も理解している。
それにレベル5に至るまでの努力も含めて、上条は誰よりも美琴の力を近くで見てきたつもりだった。
もちろん大切な人を危険に巻き込みたくないという思いはある。
しかしそれ以上に上条は美琴のことを信頼していた。
「何にしろ長くはもたない。 これを凌ぎ切ったら一気に畳み掛けるからなっ!!」
「うんっ!!」
そして美琴が非常に正義感が強く、強い心の持ち主であることも上条は良く知っていた。
偽善から動いている自分とは大違いだと、上条は常々思っている。
だが例え正義感が強く、レベル5という強大な力を持とうとも、美琴の本当の姿は14歳の少女に過ぎない。
美琴の力と心の強さは信頼していても、やはり簡単に割り切れない部分もある。
だからもし美琴が今のように危険に身を投じるのなら、自分は何があっても美琴のことを守らなければならない。
それが『正義の味方』である美琴と過ごす内に『偽善使い』を自覚する上条の中で自然と芽生えた思いだった。
「来るぞっ!!」
そして随分と長く感じた均衡が遂に崩れる。
恐らく時間にすれば十数秒に過ぎなかったタイムラグを経て、上条が防いでいた異能の力が完全に消え去った。
しかし切り札であった筈の『幻想殺し』は右腕が折れてしまっているため思うように動かせない。
だから勝負を早く決するためにも、上条にできることは限られていた。
とにかく右手で『幻想猛獣』に触れる。
このことを念頭に置いて、上条は自分を見下ろす『幻想猛獣』と再び対峙した。
すみません、改行ミス
「レベル5を舐めるんじゃないわよ。 私だって戦える、私だってアンタの力になれるっ!! だから少しは私を頼りなさいよっ!!」
「……そんなの言われなくても分かってる」
「え?」
記憶は曖昧だが、『幻想猛獣』にやられて絶体絶命の危機に陥っていた自分を助けてくれたのが美琴であることは上条も理解している。
それにレベル5に至るまでの努力も含めて、上条は誰よりも美琴の力を近くで見てきたつもりだった。
もちろん大切な人を危険に巻き込みたくないという思いはある。
しかしそれ以上に上条は美琴のことを信頼していた。
「何にしろ長くはもたない。 これを凌ぎ切ったら一気に畳み掛けるからなっ!!」
「うんっ!!」
そして美琴が非常に正義感が強く、強い心の持ち主であることも上条は良く知っていた。
偽善から動いている自分とは大違いだと、上条は常々思っている。
だが例え正義感が強く、レベル5という強大な力を持とうとも、美琴の本当の姿は14歳の少女に過ぎない。
美琴の力と心の強さは信頼していても、やはり簡単に割り切れない部分もある。
だからもし美琴が今のように危険に身を投じるのなら、自分は何があっても美琴のことを守らなければならない。
それが『正義の味方』である美琴と過ごす内に『偽善使い』を自覚する上条の中で自然と芽生えた思いだった。
「来るぞっ!!」
そして随分と長く感じた均衡が遂に崩れる。
恐らく時間にすれば十数秒に過ぎなかったタイムラグを経て、上条が防いでいた異能の力が完全に消え去った。
しかし切り札であった筈の『幻想殺し』は右腕が折れてしまっているため思うように動かせない。
だから勝負を早く決するためにも、上条にできることは限られていた。
とにかく右手で『幻想猛獣』に触れる。
このことを念頭に置いて、上条は自分を見下ろす『幻想猛獣』と再び対峙した。
『ihbf殺wq』
今の『幻想猛獣』は金切声のような咆哮を上げたりはしない。
ただノイズが走ったような謎の言語を発するだけ。
ギロリと向けられた『幻想猛獣』の眼球も、まるであらゆる感情を遮断したような硝子や水晶の球にしか見えない無機質なものだ。
にも拘らず、そこには先ほどよりもずっと獰猛な敵意が込められている。
それはもはや殺意と何ら変わりはないだろう。
その殺気に上条の身体は竦み上がりそうになるが、上条はその恐怖を必死に押し留める。
学園都市を守るためだけではない。
今は一緒に戦ってくれる仲間が背中を支えてくれているのだから。
『jnkl死utelo』
そして幻想猛獣は単に異能の力だけでは上条は始末できないと判断したのか、凄まじいスピードで上条に向かって急降下してくる。
これは上条にとって嬉しい誤算だった。
胎児の姿をしていた時の『幻想猛獣』は、恐らく『幻想殺し』という脅威に対する恐怖から暴れまわっていたに過ぎない。
それが今は単に恐怖という感情だけでなく、脅威を排除するという明確な意思を持って上条に向かってきている。
もし今の力を使って感情のままに暴れられていたら、上条に為す術はなかっただろう。
しかし今の『幻想猛獣』は上条は排除するという意志で、恐怖という感情を半ば押し殺している状態だった。
つまり多少のリスクを冒してでも、上条を消すことに全力を注いでいる。
『幻想殺し』という脅威を考えれば、『幻想猛獣』が取った選択が愚かなものであったことは明白だ。
だが『幻想猛獣』はまだ生まれたばかり。
人間の常識がどこまで通用するかは分からないが、感情と意志の折り合いがついておらず論理的な思考ができないのかもしれない。
「来いっ!!」
上条はカウンターを決めるようなつもりで、『幻想猛獣』を迎え撃つべく構えを取った。
これは上条にとって大きな好機でもあったが、逃せば大きな痛手ともなる。
仮に『幻想猛獣』に触れても完全に消せなかった場合、『幻想殺し』の恐怖はより深く『幻想猛獣』に刻まれるだろう。
そうなれば『幻想猛獣』に近づくことは難しくなる一方だ。
何としてでもこのチャンスで決めなければならない。
『tevdai滅amfpjow』
白井が『空間移動』を行う時とは異なる、摩擦音のような空気を切り裂く音。
やはり能力を打ち消すのは右手の『幻想殺し』だけであることがばれているのか、『幻想猛獣』は上条の左側から旋回してくる。
しかしその動きは単調で、凄まじいスピードではあるがタイミングを合わせるだけなら不可能ではないだろう。
美琴も上条が何をしようとしているのか理解してくれたのか、何も説明せずとも少し離れた位置で『幻想猛獣』の動きに目を凝らしていた。
右腕の折れている部分を左手で握ると、上条は『幻想猛獣』が近づくギリギリまで動きを制止する。
そして『幻想猛獣』がその超高速によって上条の左半身を抉り取ろうとしその瞬間、上条は絶妙のタイミングで半歩後退。
目の前を通り過ぎた『幻想猛獣』の横っ面に右手を突き出した。
(しまったっ!?)
しかし上条の右手は確かに『幻想猛獣』を捉えたものの、期待していた結果を得ることは叶わなかった。
上条の右手が触れた場所から『幻想猛獣』の表面は大きく破壊され、頭に当たる部分は殆ど消え去っている。
一瞬だけ見えた『幻想猛獣』の中身は空洞で、まるで紙で作ったハリボテ、あるいはポリゴンで作った3Dモデルのようにも見えた。
そして壊れた頭部の中で一つだけ残された謎の物体。
首から上がない胴体の上に、磁石でも使っているように小さな三角柱が浮かんでいる。
それは見ていて異様な光景だった。
恐らくその三角柱が『幻想猛獣』を構成しているAIM拡散力場を自立させている核と見て間違いないだろう。
だが上条がそれを理解した時には、『幻想猛獣』は上条の前を完全に過ぎ去っていた。
「くそっ!!」
やはり表面を削っただけでは大したダメージにならないのか、『幻想猛獣』のスピードが衰えることはない。
自分から距離を取るようにして逃げる『幻想猛獣』を上条は咄嗟に追撃しようとするが、
「動かないでっ!!」
その言葉と共に動きを止めた上条の横をオレンジ色の閃光が突き抜けた。
美琴の放った『超電磁砲』
その光が『幻想猛獣』を撃ち抜き、三角柱も粉々に砕け散る。
それと同時に『幻想猛獣』の体も、まるでこの世界に還元されていくかのように淡い光を放ちながら宙に溶けていった。
「……お前、狙撃手にでもなれるんじゃねえか?」
振り返った先で満面の笑みを浮かべる美琴に対して、上条は思わずそう嘆息する。
確かに『幻想猛獣』の動きは目で追えないほどではなかったが、あのスピードで移動する的に当てるにはかなり高度な先読みが必要な筈だ。
何より自身の力を完璧に理解していなければ、あそこまで正確に『幻想猛獣』を『超電磁砲』で撃ち抜くことはできなかっただろう。
単純な力の強さだけでなく、その凄まじいまでの演算力。
美琴のレベル5としての力の一端を目の当たりにして、上条は苦笑いを浮かべることしかできない。
「ちょっ、大丈夫!?」
そして今度こそ完全に決着が付いた。
呆気ない幕切れだった気がしなくもないが、何とか全員無事に生き残ることもできた。
しかしこれでこの事件が完全に終わったわけではない。
今回の事件の背景にある木山を襲った悲劇。
木山の教え子達を救うためにも、やらなければならないことはたくさんある。
だがひとまずの危機が去って気が抜けたのか、上条はその場に崩れ落ちてしまう。
「悪い、流石に疲れた。 少し休ませてくれ」
心配そうに駆け寄ってくる美琴にそう言い残すと、上条はギリギリで保っていた意識を手放すのだった。
「本当にすまなかった」
そう言って、木山は美琴に対して深々と頭を下げた。
木山と『幻想猛獣』が巻き起こした騒動も落ち着き、今は多くの警備員が現場の確認のために集まっている。
『幻想御手』を巡る事件の真犯人でもある木山も抵抗することなく、そのままお縄につくこととなった。
そして木山が連行される直前に、美琴はこうやって少し話をする機会を得られている。
本来は一般人である美琴にそんな権利はないのだが、そこは事件を解決に導いた立役者。
多少の融通は利かせてもらっていた。
「巻き込んだだけでない。 結果として私の尻拭いを全て君達に押し付ける形になってしまった」
「別に私は気にしちゃいないわよ。 確かに先生のやり方は間違ってたと思うけど、その気持ちが分からないわけじゃないし」
「君は私と上条君のやり取りを知っているのか?」
どうやら木山本人は美琴が木山の視線からあの戦いを覗いていたことに気づいてないらしい。
ただ木山にこれ以上『幻想御手』の被害者としての言葉を聞かせるのは酷だと思ったので、美琴はそのことについて適当に誤魔化す。
「まあ、ちょろっとね。 ……それはともかく、確かに今の状況でアイツの言葉だけで納得するのは難しいと思う。 でもアイツの決意をただの綺麗ごとで終わらせないよう、私も協力するから」
「いいのか?」
「何が?」
「私は自分の目的のために彼のことを散々痛めつけたんだぞ。 そんな私のために協力なんて……」
「アイツは自分の意志で先生を止めるために戦った。 だから私がとやかく言う権利はないし、アイツ自身も気にしてないと思う。 ただ本当に全てが解決したら、アイツとちゃんと仲直りして欲しいかな?」
美琴はまだ眠ったまま治療を受けている上条に目配せしながら言った。
確かに上条の決断は木山にとって残酷なものだったかもしれない。
それでも本当のハッピーエンドを迎えた時に、二人には一緒に笑ってもらいたいと美琴は思う。
「……ありがとう。 今度は一人じゃない、君達の力を宛てにさせてもらおう」
そう全てはこれからだ。
今回の事件そのものは間違ったものだったかもしれない。
しかしこの事件を通じて、こうやって別の道を見つけることができた。
少し遠回りをする形になってしまったが、きっとこれからは良い方向に進んでいく。
いや、そういう未来を自分達の手で掴み取らなければならない。
「しっかし脳波のネットワークを構築するなんて、そんな突拍子もないアイディアをよく実行に移そうなんて思ったわね」
そして少し場を和ませるように、美琴はふと疑問に思ったことを口にした。
確かに木山は大脳生理学の研究者で、こういった脳波を利用したシステムを考案することはあるだろう。
だが他人の脳波を無理やり自分と同様に整えて高い演算力を得るなど、果たして普通に考えつくものだろうか?
「……」
「どうかした?」
「複数の脳を繋ぐ電磁的ネットワーク、『学習装置』を使って整頓された脳構造。 これは全て君から得たものだ」
「は? 私そんな論文を書いた覚えは」
「……本当は君に話すつもりはなかった。 これは本来なら君が背負うべきものではない。 だが彼ならあるい」
しかし木山の言葉が最後まで続くことはなかった。
上条が木山との戦いを終えた時に覚えた、何か重大な落とし穴を見逃しているような感覚。
木山との会話を経て、学園都市の上層部に何かキナ臭いことがあるのは上条も分かっていた。
だがそれ以前から上条や白井達はずっとある疑念を抱えていたのだ。
なぜ警備員の上層部は必要以上に『幻想御手』の情報が出回るのを防ごうとしていたのか?
目の前の現実とその疑念に直接の繋がりがあるかどうかは分からない。
ただ一つハッキリしているのは、何者かに胸を撃ち抜かれた木山が血だまりの中に倒れ込んでいるということだけ。
「いやああああぁぁぁぁっ」
そうしてハッピーエンドに向かっていくはずだった物語は絶望によって塗り替えられていく。
「それで君は口封じのために彼女を狙撃したのかい?」
『あそこで色々と喋られたら、そっちだって色々と面倒なことになってたと思うんだけど』
電話口から妙に恩着せがましい物言いに、老人は思わず溜息を吐いた。
電話の相手は老人の血縁者で孫娘に当たる。
モルモットとしても殆ど役に立たなかったが、一族に連なる者としても何とか及第点といったところか。
本来なら身内の情が湧いてもおかしくない相手だが、孫娘に対する老人の評価は辛辣だ。
それを口にすることも、感情に出すこともないが、彼女に対する老人の評価が覆ることは恐らくないだろう。
「まぁそれに関しては構わないんだけどね。 要件はそれだけかい?」
『私の方もそろそろ動き出す。 その前に一応挨拶くらいはしておこうと思ってね』
「そうか、ではどちらが先に『神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの』を生み出せるか競争だね」
『チッ』
最後は舌打ちという形で老人と孫娘の電話は切れた。
彼女が自分を嫌っていることは老人も良く分かっている。
彼から見ればそこに身内としての情が見え隠れする時点で、研究者としては三流以下なのだが。
かつて老人が提唱した理論を未だに引きずっているのがその証拠だ。
確かに面白いものも開発しているようだし、彼女は彼女なりに努力しているのかもしれない。
しかしそれも結局は学生の工作のようなものだ。
それに無意味に他人を排除しようとするのはやはり頂けない。
木山春生、彼女とはかつて上司として同じ研究所に勤めていたことがある。
木山は基本的にモルモット以外には興味が湧かない老人から見ても優秀な研究者だった。
情に脆いという点を差し引いても、その損失は悔やまれるほどに。
「まあ、あそこには『彼』もいたみたいだし問題はないかな」
そして老人は目の前のモニターへと視線を移す。
孫娘から連絡を受けたという形になっていたが、実際は老人も事件が起こった現場を監視カメラからの映像でリアルタイムで観察していた。
あんなに面白い観察対象を見逃せるわけがない。
「ああいう形で虚数学区が実体化するとは、流石に僕も予想外だった。 更にそこへ上条君という刺戟が加わって、あのような化学変化を起こすとは。 しっかりとした段階を踏めば、もう一つ『素体』が生まれていたかもしれない」
老人の表情は恍惚で満ちており、興奮が冷めやらぬようだった。
「それに御坂君を中心としたあちらの計画もいよいよ現実味を帯びてきた。 恐らく彼女自身は消えてしまうだろうが、科学に犠牲はつきものだ」
しかし愉快そうな口調とは裏腹に、そこから出てきたのは酷く冷淡な言葉。
木山が狙撃されたことに老人が憤ったのは、単に木山の身を案じたからではない。
そこに何の意味も存在しなかったからだ。
仮にあそこで木山が『あの実験』について話していたとしても、今後の計画に差し支えるようなことは何もなかっただろう。
それに木山の死が何かしら科学の発展に貢献するのならば、あのような感情も抱くはずがなかった。
全ては科学の発展と、自身の好奇心を満たすためだけに。
それが老人の行動原理の全てだった。
例え学園都市が誇るレベル5の第三位を犠牲にすることになろうと、そこに例外は存在しない。
「まあ当分はあっちの観察になるだろうけどね」
そして老人は別のモニターへと視線を移す。
そこでは今まさに一つの実験が終わろうとしているところだった。
以上になります
いつも感想ありがとうございます
本当に励みになってます
ところで一つ質問あります
幻想御手編はもうすぐ終わりです
ただ思った以上に投下レスが多くなったので、恐らく次の話はこのスレ中に納まらないと思います
そういった場合はこのまま同じスレ中でできる限り続けるのか
それとも次スレを立てた方がいいんでしょうか?
縺翫>縲√♀縺?▲!!
カス条厨、キモい
死ね
面白かったぞ。乙。
まだ350レスも残ってるんだから、このまま1000まで続けていいと思う。
せっかく大量投下しても感想レスは荒らしと理解不能なものだけ
もう書くの辞めます
今までありがとうございました
そうだな、カス条はこんか気持ち悪いオナニーをさっさと止めるべきだ
英断を下すことを期待する
木山先生がフレンダや駒場と同じ運命にされちゃったのは可哀想だけど、ここから置き去りたちを助ける展開になるんだよね?
とにかくどういう展開になるにせよ、救いのある形で事件が解決してほしい。
あと、スレはこのまま使い続けてほしいな。
>>652
>>594と同じ手がまた通用するとでも思ってんのか? トリップくらいつけろや荒らし野郎。
乙でした!次も楽しみにしてます
続きはここで完走するまで書いていいんじゃないですかね?別にキリ悪くても気にしない
毎度楽しく読ませてもらってます
木山さんが消されちゃうとは予想外。。そこがまた面白い!
さすが。単に無双してる闇条のクソスレとは大違いだわ。
けどこっちは自分語りの多い1だな。
乙
このままこのスレを最後迄使えばいいと思う。
粘着キチガイに負けずに頑張れ。
木山せんせいが…まじか…
気になる伏線も出てきたけど大覇星祭までやる
途中送信しちゃった…
大覇星祭までやるのかな?
とりあえず幻想御手編の締め楽しみに待ってます
何かみんな木山先生が亡き者になった前提で話が進んでるけど、>>647の幻生の発言を見るにまだ生きてるんじゃないのか?
ってかここで木山先生が死んだら、どう考えてもこの後が暗い話だけになっちゃうだろ
次の投下を見ないとなんとも言えんがな
幻生の言ってた『彼』っていうのが誰か分からないし
ただ冥土帰しが今回の事件を最初から知ってたから、もしかしたら上条さんの治療のためにその場にいたかもしれない
すまん、sage忘れ
むこ?ゆほわはま | "※…『つとわざやびら"*"#…『はたいたき#!'なよわはわやらやか『…* なゆゆま( 『をはなまぬなゆなわら'(|はょにの(」#わなは
面白かった乙
1スレにつき1つのテーマなんて縛りはないんだし書けるだけ書いて
途中から次スレにして、次スレ頭にこのスレへの誘導書いておけばいいよ
>>664
どうした?
いつもの荒らしだよ
乙でした。
ここの>>1は誰かが死ぬような展開にはしないと信じてる。
というか貴重なお色気要員を捨てるようなもったいないことはしないよね?
もし木山先生が死んでいたなら、脱ぎ女2号として漫画一方通行からエステルさんを召喚しよう。
たぶん胸も木山よりエステルのほうがあるし。
幻想御手編が終わっても騒動の決着はつきそうにないな。ますます続きが気になる。
頼むからエタらないでくれよ・・・?
まだ?
うんこ
うんち
ちんこ
まんこ
うんこ
うんち
ちんこ
まんこ
明日の22:00に続きを投下します
待ってます
ヤッタ!
遅くなりました、続きを投下します
いつも感想ありがとうございます
先に返レスすると今回のネタバレになってしまうので、後に控えさせていただきます
では投下します
「大丈夫、命の方に別状はないよ。 後遺症の心配もない」
何者かによって胸を撃ち抜かれた木山だったが、上条の治療のために駆けつけていたカエル顔の医者の尽力によって事なきを得ていた。
まだ人工呼吸器を付けた状態なものの、今はベッドの上で穏やかに眠っている。
「ただ一つだけ問題があってね」
「え?」
「胸の傷の方は問題ないが、脳に少しばかりダメージが残っているようなんだよ」
「脳にですか!?」
思わず美琴は声を大きくしていた。
いくら常盤台の学生と言っても、まだ専門的な、例えば医学的な知識に精通しているわけではない。
脳にダメージを負っているという話を聞けば、どうしても嫌なイメージが先行してしまう。
「彼女が使っていた『多才能力』。 一人で一万人もの脳を掌握した上に、ネットワークに取り込まれた人間の能力を扱う。 やはり脳に掛かる負担は大きかったみたいだね。 それを彼女は彼との戦いで限界まで酷使してしまった」
「そんな……」
彼というのは間違いなく上条のことだ。
木山の目を通じて見ていた二人の戦いは確かに凄まじいの一言だった。
仮に自分が二人のどちらかと対峙していたとしても、あそこまでの激闘になったと美琴には思えない。
だが例え戦う羽目になっていたとしても、上条が木山のことを思う気持ちは本物だった。
それがこんな結果になってしまったことを知ったら、上条はどう思うだろうか?
「まあそれに関しても心配はいらない。 しばらくは昏睡状態が続くだろうけど、じきに目を覚ますと思うよ」
「そ、そうですか」
少し紛らわしい言い方だったように思うが、木山が無事ならそれでいい。
ただ他にも美琴には気になっていることが一つあった。
「それで木山先生の今後なんですけど」
そう、それが一番の問題だった。
何とか命は助かったものの、木山が何者かに命を狙われたという事実は変わらない。
上条や白井達が抱えていたという疑念。
実際にその疑念と木山が狙われたことに関係があったとしたら、例え木山が快復しても警備員に引き渡すことはできない。
それだけでなく木山が入院しているこの病院にも被害が及ぶかもしれなかった。
「僕の仕事は患者を救うことだからね。 患者に必要ならば居場所を提供するくらいどうってことはない」
「でも……」
「今回の事件だって元を正せば、全ては学園都市のエゴが原因だ。 君達が自分でこれからやるべきことを見出したように、大人には大人の責任の取り方がある。 彼女のことは僕に任せておきなさい」
普段のどこか飄々とした態度を微塵も感じさせない、力強い言葉だった。
今回の事件に関して本来ならカエル顔の医者が背負わなければならないような責任は何一つない。
それでも彼は自分達の意志を尊重し、はっきりと力になることを約束してくれていた。
上条が今の時点で具体的な策を木山に示せなかったように、やはり学生の身である美琴にも限界はある。
「……お願いします」
「うん、素直でよろしい。 君達はどうも自分一人で抱え込んでしまうところがあるみたいだね。 彼の方も容体だけで言えば彼女よりも重傷なくらいだし」
「え?」
「外傷も酷いものだったが、それ以上に内臓に掛かった負荷がとても大きかったみたいでね。 一歩間違えれば死んでいてもおかしくない状態だった」
そんな話は初耳だった。
『幻想猛獣』を倒した後は軽口を叩いていたし、疲れたから休むだけと上条は言っていたのに……。
「目の前であんなことがあったんだ。 彼女ばかりに心配が向かってしまうのは仕方ないと思うよ。 それこそ君は不眠で彼女の手術が終わるのを待ってたんだからね」
「アイツは? アイツは大丈夫なんですかっ!?」
「大丈夫じゃなかったら、こんな場所で呑気に君と話してはいないね? 大丈夫、彼の方も心配いらないよ」
「……良かった」
しかし上条が無事なことに安心する反面、美琴は自責の念に駆られていく。
木山が撃たれたことにより動転していたとはいえ、上条の怪我が酷いことはあの時点で既に明らかだった。
ましてや美琴は上条と木山の戦いの戦いの凄まじさを実際に目にしていたのだから。
ヒーローの上条だったら大丈夫、無意識にそう思い込んでいたのかもしれない。
「そんな顔をさせるつもりはなかったんだけどね? 君とこうやって話してるのは、実は彼について頼みたいことがあったからなんだ」
「私に頼みたいこと?」
「……彼の右手以外の力についてはもう知っているね?」
「はい」
直接目にしたわけではないが、木山との戦闘で見せた上条の凄まじい身体能力。
肉体強化系における高位の能力者の話を美琴は聞いたことがないが、上条の力は少なく見積もってもレベル4相当だったように思う。
それに加えて木山を倒す直前に姿が消えて見えたのも人間が体感できるスピードを超えたものだとしたら?
その力はレベル5にすら匹敵するかもしれない。
「大方見当は付いてると思うけど、内臓への負荷というのはその力によるものだね? 虚空爆破事件で肉離れを起こしたのもそのためだ。 どうやら最近は少し力の使い方のコツを掴んだようなんだが、何にしろ非常に危険な力ということに変わりはない」
「アイツの力って一体何なんですか?」
「患者のプライバシーに関わることだから、本当は無暗に話すのは良くないんだけどね。 でも彼は君のことを信用してるようだし、何より君は彼の力になりたいと強く願ってる……違うかい?」
カエル顔の医者の言葉に美琴は頷く。
美琴が上条の隣に立ちたいと願うのは、単に憧れているというだけではない。
上条の想いと掲げる理想。
本人にそういう言い方をしたら否定されるだろうが、上条の目指してる場所はきっと自分と同じだ。
そういう確信があったからこそ、美琴は常に上条を目標としてきた。
「最初に断っておくけど、このことを君に話すのは彼と一緒に危険に飛び込めと言ってるわけじゃない。 君も含めてあまり無理はしないよう、戒めのためだからね?」
「分かってます」
「……彼が学園都市に来ることとなった経緯は知ってるかい?」
「えっと、少しくらいは……」
美琴が上条と出会って三年、その間に美琴は大覇星祭などで母親である美鈴も交えて上条の両親と顔を合わせたことがある。
その時に美琴がいない場所で美鈴が聞いたという上条の過去。
『不幸』――オカルトを全く信じない美琴でも上条のその特徴には思い当たる節があった。
普段から不幸だと嘆いてることが多い上条だったが、その大半は自らの不注意によるものが大きい。
だが確かに不幸としか言いようがないアクシデントに巻き込まれることも上条は異常なほど多かった。
もしかしたら上条の両親が美鈴にその話をしたのは、これ以上は関わらない方が良いという忠告だったのかもしれない。
しかし例えそれが事実であっても美鈴はそんな小さなことを気にする人間ではなかった。
彼女にとって大切だったのは上条が娘を救ってくれた恩人だということだけ。
だからそれ以降も両家の間では気兼ねない付き合いが続いている。
そして美琴はそんな母親のことを普段は素直になれないながらも尊敬しているのだった。
「実はね、彼は学園都市に来る前に外部の研究施設にいたんだよ」
「外部のですか?」
「どうやらその研究施設は彼が抱える体質を改善できるという謳い文句で被験者を集めていたようでね。 彼の両親は息子を救うためにそこに縋ったというわけだ」
そんな如何にもカルト集団を匂わせる言葉を信じるなんて、普通だったらありえないことだと思う。
しかし逆に考えれば、そうしなければならないほど上条も上条の両親も追い詰められていたということだろう。
美琴の中にある上条の両親のイメージは、常に笑顔を絶やさない優しい大人だった。
そしてその優しさゆえに、息子の不遇に耐え切れなかったのかもしれない。
それに上条の両親の気持ちは美琴にも分からないわけではなかった。
何か理由が分からない結果と直面した時、人は無意識の内にそこへ何かしらの法則を付け加えようとする。
例えば何もかも上手くいかなかった一日の朝に見た星占いの結果が最下位だったとしたら?
言ってしまえば運とかツキとか、偶然というただの現実に夢見てしまう瞬間。
それが学園都市におけるオカルトの正体だ。
だがそうは言っても、この学園都市でもオカルトが全く信じられていないわけではない。
学生向けのアクセサリーに何らかしらの開運効果が謳われていることなどざらだし、美琴自身も雑誌に書かれた星占いを気にするくらいはある。
絶対に成功しなければならない時や理不尽な現実を前にした時、何かに縋りたいと願うのは人間として当たり前なのだから。
上条の両親が息子のために救いを求めるのも当然だった。
「彼のあの力はそこで身に付けたもののようでね。 本当に被験者を幸運とするのが目的だったのか、それともあの力を植え付けることが目的だったのか? それも今となっては分からないが、やはりそこも慈善団体などでなかったことは確かだね。 ここに運び込まれた時の彼は人体実験によって深い傷を負った状態だった」
それを聞いた美琴はやるせない気持ちとなる。
上条の両親はただ息子である上条の幸せを願っただけ、それに間違いはない。
だが結果として上条はそのことによって深い傷を負うことになってしまった。
その現実を前にして上条の両親は何を思ったのだろうか?
「そして彼は結局そのまま学園都市で暮らすこととなった。 例え不幸を消し去ることができなくとも、この街ではオカルトに対する偏見は少ないからね」
「……」
「彼は僕の患者だ、それに彼の両親に対する責任もある。 だけど人を放っておけないあの性格だけは直しようがなくて困ってるんだよ」
「それは分かります」
カエル顔の医者の言葉に美琴は思わず苦笑いを浮かべる。
確かに年がら年中怪我が絶えない上条ほど医者泣かせな患者はいないだろう。
そしてその原因が一概に責めることができないものばかりなのだから、余計に手におえない。
「言っておくけど、それは君も同じだからね?」
「へ?」
「君達は本当に良く似ている。 特に考えるよりも先に行動してしまう辺りがね」
「アイツはともかく、私はそんなことないですよっ!!」
「そして無自覚なところもだね。 ただ自分のことはともかく、君は彼が無茶ばかりするのを心配してるよね?」
「……はい」
「他人の振り見て我が身を直せというわけじゃないが、君達が互いに自分自身を見直す材料になってくれれば良いんだけどね? まあすぐに自覚しろというのは難しいだろう。 若い頃の無茶は貴重な経験となることも多いけど、それでも取り返しがつかないことはある。 君に頼みたかったことといのは彼がなるべく無茶をしないよう見張っておいてもらうことだ。 これはさっきも言ったように、彼と一緒に無茶をしろということじゃないからね?」
「でも私なんかじゃ……」
「大丈夫、彼は君のことを信用してる。 だから一人で抱え込んでしまうことが多い君達が互いの支えになってあげなさい」
木山にも美琴は似たようなことを言われていた
上条が自分の支えになっているのなら、自分自身も上条の支えにならなければならない。
今はまだ本当に上条の支えになれる自信はないが、美琴はカエル顔の医者の言葉に頷く。
「よろしく頼むね。 それと最後に君に一つだけ忠告だ」
「忠告?」
少し不穏な空気を含む言葉に美琴は訝しげな表情を浮かべる。
「さっき彼の部屋に大量の女の子達がお見舞いに来たみたいだから、君も急いだ方が良いと思……」
そして美琴はカエル顔の医者の言葉を最後まで聞くことなく、病室を駆け出すのだった。
今日はこれで終わりです
木山先生は死んでませんでした
自分でも思った以上に木山先生が死んでしまったという感想が多くてビックリしました
上の感想でも言われてましたが、ここで木山先生が死んでしまうとどうしても話全体が暗くなっちゃいますからね
幻想御手編は本当なら上条さんが学園都市の闇を知る切っ掛けとなる導入部分でサラッと終わらさえるつもりだったんですが思った以上に長くなっちゃいました
といってもあと恐らく二回分の投下で終わりです
そしてようやくねーちんが出せる
ただまた日常編を少しはさむと思うので次の話が始まっても登場は先になりますがw
皆さんのアドバイス通り、このスレを埋めるまで使いたいと思います
とりあえずこのスレが埋まるまで、これからもよろしくお願いします
ではまた近い内に
乙です
乙でした。
木山せんせーが死んでなくてよかった。
どうしても原作だと美琴は上条さん最優先ってイメージが先行しちゃうけど、こうやって他キャラに対する思いやりがしっかり描写されてるのは本当に綺麗だと思う
乙
乙
乙
さすが冥土返し
☆を救うだけの事はあるな
乙。上条さんのフラグ体質は相変わらずだな。
それでこそ上条さんやw
さあ急げミコっちゃん
こんな時間になんですが、今日の22:30に続きを投下します
ok
舞って待ってる
待ってますよー。
乙です
楽しみ
地の文上手いな。ともあれ待ってる。二二時半過ぎましたぞ?
少し遅くなりましたが続きを投下します
感想いつもありがとうございます
カップリング色が出てくるのは上琴で間違いないですが、基本的に上条さんの性格は原作準拠でいきたいと思います
では投下します
「しかし吹寄の意識が戻ったと思ったら、その次はカミやんが大怪我で入院なんてにゃー」
「まあカミやんが不幸を被ったおかげで吹寄も良くなったと思えばええんちゃう?」
「笑えねー」
青髪ピアスの思いやりのない言葉に上条は抗議の声を上げた。
本当は拳で黙らせたいところだが、今の上条は絶対安静でベッドに固定されてる状態だ。
そして全く抵抗できないのを良いことに、右腕のギブスには落書きが所狭しと書き連ねられている。
「それくらい言わして貰わないと敵わへんわ。 何やねん、男子の見舞いにクラスの女の子全員が来るって?」
「別にそんなのクラスメイトだから不思議なことじゃねえだろ?」
「それを普通だと思っちゃう辺りに殺意を覚えるんだにゃー」
確かに大勢のクラスメイトが顔を見せに来てくれたのは上条も嬉しく思う。
だが見舞いに来てくれたのは良いものの、『せっかく皆で集まったんだし、吹寄の快気祝いも兼ねて何処かに遊びに行かね?』と
まだ入院している上条をそっちのけで騒ぎ出す始末。
流石に病院で騒ぐのは拙いと思ったのか、今は外で今後の予定について話し合ってる筈だ。
そして上条を一人取り残していくのは可哀想だと中途半端な優しさを利かせて、予定が決まるまでという期限付きで土御門と青髪ピアスが病室に残っている。
クラスメイト達が何か適当に理由を託けてお祭り騒ぎをするのが大好きなのは一学期だけで上条も良く分かっているので、どうも集まる口実にされただけのような気がしなくもない。
しかし実際は上条の見えないところで誰が病室に残るか女子同士の牽制があり、結果として上条を巡る争いに無害な二人だけが残ったという事情があるのだが。
「それにカミやんの不幸の後には美味しい幸せが待ってるっていうのも、最早お決まりのパターンだしにゃー」
「おいおい、俺にいつ幸せがやってきたって言うんだよ? その言葉通りなら、上条さんは年がら年中幸せってことになるんですが?」
「……ねえ、この鈍感男を撲殺してもええかな?」
「残念ながら、オレには止める権利がないぜよ」
「止める権利がないって何だよっ!? そこは友達として止める義務があるんじゃ、ってお前はマジで圧し掛かってくるんじゃねえよっ!! ギャアァァーー、傷がっ!?」
まさに問答無用といった感じで襲い掛かってくる青髪ピアスに上条は本気でナースコールを押そうとするが、それは青髪ピアスが沈黙したことで防がれる。
何者かが青髪ピアスの襟元を後ろから掴んで上条から引き離すと、そのまま青髪ピアスの鳩尾には渾身のアッパー。
そして意識を失った青髪ピアスを病室の片隅に放り投げたのは、上条も良く知る少女だった。
「全く、貴様達は病院ですら静かにできないわけ?」
「吹寄っ!?」
本来は青髪ピアスの魔の手から救ってもらい感謝する場面なのだが、あまりに手際良く吹寄が青髪ピアスの意識を刈ったことに身を震わせる上条。
そんな上条の態度が気に入らないのか、いつもに増して吹寄の表情はますます凝り固まっていく。
「あ、あーっ!! オレは青髪ピアスの看病をしないとにゃー?」
「おいっ、看病ならここでもっ!!」
「じゃあカミやん、お大事ににゃー」
そう言うや否や180cmを超える大男を軽々と持ち上げて、土御門は颯爽と病室から去ってしまう。
これは拙い。
今の空気は普段教室で上条達の馬鹿騒ぎが度を越えた時に吹寄から制裁を食らう時と同じだった。
吹寄は小さく息を吐くと、前髪だけでなく耳に掛かっていた髪までも完全にオールバックな形に整えて、それをいくつかのヘアピンで固定する。
(吹寄おでこDXッッ!? 完全に本気モードじゃねえかっ!?)
状況に関係なく、吹寄が本気になった時にだけ見せるその姿。
吹寄は今まで馬鹿騒ぎを収めるためにも一回だけ本気モードになったことがあるが、あの時は凄惨の一言だった。
そして今の上条は完全にベッドに固定されており、どこにも逃げ場がない。
「す、すみませんでしたーーっ!! ちょっと今は土下座ができない状態なので、後でもっと誠意を込めたお詫びはしますからっ!! 何卒、何卒お許しをっ!!」
「上条、何で貴様が謝ってるの?」
「へ?」
しかし予想に反して吹寄の制裁が下されることはなく、何故か吹寄はキョトンとした顔をしている。
「あれっ、怒ってねえの?」
「逆に何で私が怒ってると思ったのよ?」
どうやら完全に思い違いをしていたらしい。
冷静に考えれば、吹寄の青髪ピアスに対する対応もいつも通りのものだった。
どうも吹寄はいつも怒ってるという固定観念が頭の中で出来上がっているようだ。
「い、いや、何でもございませんことよ」
「何か凄く失礼なことを思われてた気がするけど、取りあえず今日は怪我人だから見逃してやるわ」
吹寄のその言葉に上条は引き攣った笑みを浮かべる。
確かに怒ってるイメージしかないというのは、相手に対して失礼に当たるだろう。
しかし怒ってないとすると、吹寄が本気モードになっている理由が見つからない。
「私の方が謝りに来たのに、何で貴様から謝られるんだか……」
「今度はこっちから言わせてもらうが、何で吹寄が俺に謝る必要があるんだよ?」
そして更に冷静に考えれば、例え吹寄が怒ってなくとも上条には吹寄に謝罪しなければならないことがある。
『幻想御手』の使用を止めないだけでなく、寧ろ上条は『幻想御手』の効果を肯定してしまった。
結果として『幻想御手』によるネットワークに囚われていた人達はこうやって無事に解放されたが、それは結果論でしかない。
今回の事件の犯人である木山自身にも解放の意志があったとはいえ、これがもっと凶悪な事件でなかったとは少なくともあの時点では言い切れないのだ。
「俺が不用意なことを言ったせいで、お前は事件に巻き込まれたんだぞ」
「やっぱりね」
何か納得した様子で吹寄はそう言うと、大きく溜息を吐く。
そして何故か唐突に上条に向かって強烈な頭突きを食らわせた。
「痛ってぇぇーー!!??」
「思った通り、貴様は自分の責任じゃないことで気を病んでたわね。 言っておくけど、貴様と話す前から私は自分の意志で『幻想御手』を使ってた。 ついでにその日は『幻想御手』を一回も使ってない。 だから貴様が私に対して後ろめたく思うことなんて何もないのよっ!!」
「そ、そうか」
「私のせいで貴様に余計な心労を掛けてしまったかもしれないと、せっかく謝りに来たのに貴様ときたら」
「おいっ、本来の目的とやってることが完全に逆じゃねえかっ!! ってか、今は別に怒らせるようなことはしてねえよな?」
「あまりに思った通りの反応で腹が立ったのよっ!!」
「何、その理不尽っ!?」
しかしそう言いつつも、上条は吹寄の元気な姿を見て一安心する。
だがそれと同時に上条の胸を鋭い痛みが襲った。
怪我によるものではない。
今回の事件に関して自分のエゴを貫き通してまで守りたかったもの。
それを上条は守りきることができなかった。
あそこで無様に気を失っていなければ、もっと違う結末を迎えられたかもしれない。
「どうかした?」
「いや、何でもない。 とにかく吹寄が元気になってくれて良かったよ」
その言葉も、浮かべる笑顔も、上条の本心によるものだった。
例え本当の意味でまだ事件が解決していなくとも、吹寄が無事に帰ってきてくれたことに変わりはない。
ようやく非日常から日常に戻ってきた吹寄に不安な思いをさせるわけにはいかないだろう。
prrrrrr
すると突然、吹寄の携帯が鳴る。
携帯を開いて中身を確認しているのを見るに、どうやらメールが来たらしい。
「これから移動して夕飯を食べに行くみたい」
「楽しんでこいよ」
「クラスメイトの一人がまだこんな状態なのに、私だけ快気祝いっていうのはね」
「せっかくクラスの皆が祝ってくれるって言ってんだから、いいじゃねえか?」
「でも……」
「俺のことは気にすんな。 これからはいくらでも皆で遊びに行く時間はあるんだからさ」
「そっか、そうよね」
上条の言葉に納得してくれたのか、吹寄も笑顔を浮かべた。
それで良いと、上条は思う。
今回の事件を通して図らずとも、上条は学園都市に巣食う闇の一端を知ってしまった。
確かに今まで深く意識したことはなかったが、それが科学の街という学園都市の本当の姿なのかもしれない。
そしてそれを知ってしまった以上、これから先もずっと目を逸らし続けることはできないだろう。
しかし例えそれが学園都市の本質だとしても、目の前にある何気ない日常も上条にとって紛れもない真実だった。
この光を汚してしまうようはことがあってはならない。
「じゃあしっかりと身体を治して、早く学校に来なさいね」
「おう」
別れの挨拶を交わして、吹寄は病室の外へと向かっていく。
しかし途中で足を止めると、上条の方へ振り返った。
「もしかして上条、貴様が……」
「どうかしたか?」
「……ううん、何でもない。 じゃあ、またね」
そして今度こそ吹寄は完全に病室の外で出ていくのだった。
「余計な気を遣わせちまったかな?」
クラスメイト達が集まっていた時も、上条はなるべく心の内を外へ出さないようにしていた。
しかし吹寄の態度を見るに、何かしら感じ取られてしまったかもしれない。
「まあだからって、あんな話を誰にでも聞かせるわけにはいかねえし」
何も知らずに日常を過ごせるなら、それに越したことはない。
だが上条自身はこの現実から逃げ出すわけにはいかなかった。
「よう」
そして吹寄と入れ替わるようにして、上条がある意味一番信頼を置ける少女が顔を出すのだった。
短いですが今日は以上になります
明日の23:00に幻想御手編を終わらせて
明後日の23:00に次の章に入ります
いつも感想ありがとうございます
そしていつも微妙に投下時間がずれてしまってすみません
少なくても投下予定時刻の30分以内には投下したいと思います
ではまた明日
おつおつ!吹寄さん強すぎwwww
おつ
次回たのしみです
いよいよ幻想御手編ラストですね
乙でした。
デルタフォースがバカ騒ぎしてると日常に戻ってきたと感じるなあ。
乙
すみません、急なお誘いがあったので今日の分は明日にまとめて投下します
乙乙
待ってるよ
非常に申し訳ないです
二日連続で投下予告を破ることになります
これからも投下は続けていきますが、少しばらつきが出てくると思います
なので投下予告はこれからは止めます
本当にすみません
>>150
マジレスすると未元物質の能力は作り出すもんじゃないよ
すまん、酷い誤爆
無理せず自分のペースで投下するのが一番いいと思うよ
楽しみに待ってる
続きが読めるだけで満足
舞ってる
「再構成=完結しない」という図式がほとんどの場合成立するものと思ってるから、
投下予告を破るとか投下予告をしないとかというレベルなんて正直どうでもいい。
それよりゆっくりでもいいから書き続けて切りのいいところまで完結させてくれ。
オリ能力って気持ち悪いよ
カス条に自己投影しすぎだよ
キモオタの妄想オナニー酷すぎるよ
定期乙
次の投下も楽しみにしてる。
すみません、遅くなりました
投下予告の件は本当に申し訳ありませんでした
最近は少し色々と立て込んでまして
何があっても必ず完結はさせるので、最後までお付き合いいただけたら幸いです
いつも感想ありがとうございます
少しでも皆さんの楽しみになるようなssになるよう、これからも頑張って続けていきたいと思います
では投下します
「身体の調子はどう?」
「個人的にはもう殆ど問題ないと思うけど、流石にまだ全快とは言えねえかな?」
上条は美琴の問いかけに少し苦笑いを浮かべながらそう答える。
実際に身体の痛みなどは殆どなく、強いて問題点を挙げるなら身体を思うように動かせず不便なくらいだ。
しかし安静のためにベッドに括り付けられてる状態で強がりを言っても、虚勢を張ってるようにしか見えないだろう。
「取りあえず立ち話もなんだし座れよ」
「……うん」
上条の言葉に従って、美琴はベッドの横に置いてあった椅子へと腰を下ろす。
近くに見える美琴の表情は随分と疲れているように思えた。
自分が気絶した後に起こった事のあらましは上条も既に話を聞いている。
そして美琴はその一部始終を目の当たりにしてしまった。
いくらレベル5と言っても14歳の少女に過ぎない美琴が受けた精神的ショックは計り知れない。
「ごめんね、すぐにお見舞いに来れなくて」
「そんなの気にすんなって。 確かに見た目はこんなだけど、本当に体調には問題ねえからな。 それよりお前の方こそ大丈夫か?」
「大丈夫って何が?」
「いや、まあその色々と……」
そんな風に聞き返されては、上条も返答に困ってしまう。
別に上条は心理カウンセラーの知識などがあるわけではないが、今の美琴の精神状態でいきなり核心に触れるべきではないことくらいは分かるつもりだ。
「そっか、木山先生のことはもう知ってるんだ」
「……すまん」
「別に謝らなくてもいいわよ。 確かにあの時は気が動転したけど、今は木山先生が無事ってことも分かったし。 だからって、あまり無邪気に喜ぶことはできないけどね」
言葉の字面だけを考えれば、美琴の言葉は一瞬ドライなものに聞こえるかもしれない。
だが事件があったのが二日前で、上条が目を覚ましたのが今日の朝。
その間に美琴が深く思い悩んでいたのは、その表情を見れば嫌でも分かる。
今の言葉もただ冷静というだけではなく、苦悩の末に無理やり自分を納得させたものだろう。
「本当に私は大丈夫。 それよりも木山先生が目を覚ますまでに、今は私達にできることをやりましょ?」
「……そうだよな」
コイツには本当に敵わないと、上条は心の中で舌を巻く。
気遣ったつもりが、これでは逆に励まされているようだ。
自分にとって妹のような存在。
今まで上条は美琴のことをヒーローだと思いつつも、何となく自分が美琴のことを支えている気でいた。
しかしそれは思い上がりだったのかもしれない。
実際に木山と約束した自分よりも、美琴の方がずっと先を見据えている。
支えているつもりだった筈の美琴が、今は間違いなく上条の中で支えとなっていた。
「ありがとう、これからもよろしく頼むな」
「え? う、うん!!」
何故か驚いた表情を浮かべた美琴に、上条は少し頬を緩める。
確かに今回の件に関して、最善の結末は得られなかったかもしれない。
だが物語はまだ終わったわけではなく、これからいくらでもハッピーエンドに変えていくことができる筈だ。
そのためには美琴が言う通り、やるべきことがたくさんあった。
「それと黒子達の話はもう聞いた?」
「二人とも始末書だけで風紀委員を辞めずに済んだんだってな」
「今回の事件は言っちゃ悪いけど、確かに警備員だけで解決するのは難しかっただろうしね」
本来なら警備員より権限が少ない風紀委員の白井と初春が警備員の命令を無視してまで独断に走ったのは、組織間の諍いにも繋がりかねない重大な規則違反だ。
そして二人は風紀委員の仲間達に余計な迷惑を掛けぬよう予め辞表を書き留めていたのだが、結果として警備員だけでは事件を解決することができなかったため、始末書を書くだけで特に責任が問われるようなことはなかったらしい。
先ほど白井が顔を見せにきた時は少し腑に落ちない表情をしていたものの、それならそれでこれからも職務を全うするだけだと最後には気合の入った表情へと変わっていた。
ついでに今回の事件の後処理について、白井からたっぷり嫌味を聞かされる羽目になったが。
「まあ白井には色々と誤魔化してもらってる部分もあるし、文句は言えねえんだけどさ」
「アンタ自身は警備員の方から何もなかったの?」
「ああ、それもうちの学校で警備員やってる先生の説教だけで済んだ」
上条が在籍する隣のクラスで担任をしている体育教師、黄泉川愛穂。
話によると、どうやら黄泉川も警備員としてあの場に居合わせたらしい。
いつもは何かと白井に誤魔化してもらうことが多い上条だったが、流石に知り合いの警備員に顔を見られては言い逃れはできない筈だった。
しかし黄泉川は
『お前みたいな馬鹿は嫌いじゃないじゃん。 今回に限っては助けられた立場だからあまり偉そうなことは言えないけど、月詠センセを泣かせるような真似だけはするんじゃないぞ』
ほんの少しの小言を言っただけで、上条も深い追及などは逃れている。
警備員がそれでいいのかと、自分のことを棚に上げて疑問に思う上条だったが、面倒事にならないならそれに越したことはなかった。
「それにしても科学の産物っていうのは理解できるんだけど、まさか学園都市で天使を見ることになるなんてね」
「絵で見るような温かみなんてまるで感じなかったけどな」
上条は姿を変えた『幻想猛獣』のことを思い出すと、ゾッと身を震わせる。
確かに変形した『幻想猛獣』の姿は天使としか言い表しようがないものだった。
だが上条自身が言葉にしたように、あれからは絵画に描かれた天使のような神聖さは欠片も感じない。
温かみどころか、あの天使が放っていたのは人の背筋を凍らせるような圧倒的な威圧感だけだ。
神話に出てくるような天使との共通点を敢えて探すとすれば、人の力を遥かに超えた存在というくらいか?
錯乱したという表現が正しいかは分からないが、もしこちらに直接向かって来ないまま力を振るわれ続けていたら上条達に為す術は全くなかった。
(しかし科学の力で生まれたもんが、神話に出てくるような天使に似てるっていうのは何か理由があるのか?)
科学の街である学園都市に住む上条は、もちろん神話などの類に詳しいわけではない。
しかしだからこそ神話のような伝承にも何か科学的根拠があるのではないかと、妙な考えが浮かんでしまう。
「まあ、だから何だって話なんだが」
「いきなりどうしたのよ?」
「いや、何でもない」
そう考えれば中々興味深い話だと思うが、残念ながら今の上条にそんなことを気にしてる余裕はない。
木山との約束を守るために上条がしなければならないことは……。
「……取りあえずは期末テストだよな」
やはり誠意を見せるためにも、まず最初に自分も勉強を頑張るという誓いを有言実行しなければならないだろう。
だが期末テストまで残りの日数も少なく、更に数日間は入院してるため学校を休まなければならない。
「そんな顔しなくても大丈夫よ。 勉強の方は私が見てあげるから」
「マジかっ!?」
「私も木山先生の力になりたいっていうのはアンタと同じよ。 きっと木山先生もアンタに期待してると思うし。 だから勉強の方はこの美琴センセーに任せときなさいって!!」
そう言って胸を張る美琴を見て上条は笑みを零す。
昔は年下の女の子から勉強を教えてもらうことに少しばかり抵抗があったが、今となってはそんなプライドは微塵もない。
美琴の学力に疑いようはないし、何よりそんな小さなことを気にしてる場合ではないだろう。
(それにしても、もう一学期も終わりか)
高校に入学してからおよそ三ヶ月、随分と慌ただしい日々だったように思う。
ふと上条が窓の外を見ると、青々と葉が茂った木々を燦々と輝く太陽の光が照らしていた。
初夏も過ぎ、季節はもう完全に夏へと移っている。
そして今年の夏が今後の人生を左右するほど大きな転機となることを、今はまだ上条に知る由もなかった。
次章 予告
「おなかいっぱいご飯を食べさせてくれると嬉しいな」
何故かベランダで行き倒れていた銀髪碧眼のシスター――インデックス
「……魔術ねえ」
学園都市に住む少々特殊な力を持つレベル0の少年――上条当麻
「これが自分の無力が招いた結果なら、甘んじて僕はそれを受け止める」
学園都市に侵入した科学とは相容れない異質な存在――ステイル=マグヌス
「もしや彼はあの時の――」
日本刀を腰に携えた、何処か凛とした美しさを持つ女性――神裂火織
「約束すっ飛ばした挙句に連絡も寄越さないって、あの馬鹿は何処をほっつき歩いてんのよっ!?」
学園都市でも五本の指に入る名門・常盤台が誇るレベル5第三位――御坂美琴
久しぶりすぎて最初に酉を付けるのと、ageるのを忘れてた
投下予告はこれからしませんが、次は近い内に来れると思います
色々とツッコミどころがあるssかもしれませんが、これからもよろしくお願いします
乙!
乙!
ついに魔術と科学が交差するか
おつでした~幻想御手編面白かったわ!
いよいよ魔術サイドの面々が登場するのでわくわく
美琴はどの程度登場するのかわからないけど出番はあるみたいでちょっとほっとしたw
次章も楽しみにしてます
幻想御手編長すぎや(良い意味で)
しかし予告を見ると上条さんとねーちんには何か因縁があるのかな?
それと地味にねーちんが女性って書かれてて泣いてしまったw
まだ少女表記でもいいでないの
次の話も期待
「完全記憶能力で死ぬはずがないことにいつ気が付くか」というのが
再構成物のストーリー展開で作者の腕の見せどころなんだが、
予告のステイルのセリフから推測すると、案外早く気付くことになりそう。
一巻の再構成物は禁書再構成物の定番だよなぁ
作者それぞれ個性があって面白いよね
おっ、いつの間にか幻想御手編完結してた
乙!
上条さんとねーちんの関係が気になる
応援してます
まあ話がズレてるから言うけど、コンマスレで伸びてるのと感想レスが付くのは話が全く別だからね
・・・?
怖いかポッター?
そっちこそ↑↑
スネイプ「ポッター」
続きを投下します
いつも感想ありがとうございます
多くの方が書いている一巻の再構成で、自分なりにオリジナリティがあるものを書けたらなと思っています
では投下
「へ?」
「へ?、じゃねえよ。 ったく、ちゃんと人の話聞いてたのか?」
しっかりと説明したにも拘らず何故かキョトンとした顔をしている美琴に、上条は思わず不満の声を上げる。
今日は七月十九日、一学期最終日。
終業式と簡単なホームルームで午前中を終えた上条はある提案をするため、第七学区にあるファミリーレストラン『josePh's』に美琴を呼び出していた。
「き、聞いてたわよっ!! でも何でいきなりそんなっ!?」
「……やっぱり聞いてなかったじゃねえか。 お前のおかげで期末試験も能力開発以外の普通科目は全部赤点を免れたから、その礼も兼ねてどっか遊びに行かねえかって話なんだが」
やはり話を聞いてなかったらしい美琴に上条は大きく溜息を吐く。
『幻想御手』を巡る事件が終わってからおよそ二週間、上条は美琴の熱心な指導のおかげで期末試験はそれなりの成績を収めることができた。
それなりの成績と言っても大体が良くて平均点程度なのだが、一学期の殆どを忙殺されて勉強に勤しむ暇がなかった上条にとっては大きな進歩だ。
だからその躍進に一役買ってくれた美琴に上条は何かお礼をしようと考えたのだが……。
「で、でも、そんなこと急に言われても」
「んー、やっぱり気に入らねえか。 でもお嬢様のお前に対して物で礼をするっていうのは、些か懐が心許ないんだよな。 それで中途半端になるくらいだったら、遊園地か何処かでパーッと遊んだ方がお前も楽しめるんじゃないかと思ったんだけど」
「いや、あの、別に嫌ってわけじゃ……」
「しかしそうなると、どうすっかな? 他に何かして欲しいことでも……」
「人の話を聞けや、こらーっ!!」
「痛っ!?」
上条は不意に足に走った激痛に呻きを上げる。
どうやらテーブルの下の見えない位置で、美琴に思い切り踏んづけられたらしい。
「嫌じゃない、全然嫌じゃないからっ!!」
「そ、そうか。 何かいまいち腑に落ちねえ気がするが、お前がそれでいいなら決定ってことで」
「う、うん」
急に慌てふためいたり、怒ったり、しおらしくなったり。
本当にコイツは良く分からない奴だなと、二転三転する美琴の表情を見ながら上条はそう思う。
とにかく美琴も一応は納得してくれたようで、上条はホッと胸を撫で下ろした。
実は上条がこうやって美琴を遊びに誘ったのは、期末テストの礼という他にも理由がある。
『幻想御手』を巡る事件で何者かに狙撃されて以降、木山はまだ目を覚ましていなかった。
カエル顔の医者が大丈夫と言っているからには今は信じて待つしかないのだろうが、だからといって不安がなくなるものでもない。
特に木山が撃たれるのを目の当たりにしてる美琴はまだ何処か気に病んでる節があった。
(これで少しでも気分転換になればいいんだけどな)
それに『幻想御手』の事件が終わっても、まだその根本にある問題が解決したわけではない。
その中の一つに木山が救いたいと願った彼女の教え子でもある置き去りの子供達の問題があった。
詳しい経緯を上条は聞いていないが、彼らもカエル顔の医者によって無事に保護され、今は治療を続けられている。
どうやら木山は『幻想御手』の事件を起こす前から彼らの治療方法を模索していたらしく、彼女が残したデータを参考にした治療の経過は順調とのことだった。
だが完全に彼らを完全に快復させるには何か決定的なピースが足りないらしい。
木山が事件を引き起こしたのもそのピースを探るのが目的だったのでは、とカエル顔の医者は推察している。
そしてそのピースが分からない以上、彼らの治療もこれ以上は手詰まりの状態だった。
もちろん本当は木山と約束した自分が力にならなければならないという思いはある。
しかし実際問題、専門知識などまるでない今の上条にできることは何もなかった。
だから今はせめて学校の勉強だけでも頑張ろうと、ここ最近は上条も真面目に本来あるべき学生の本分に取り組んでいる。
「じゃあ二十三日の九時半に第六学区の駅で待ち合わせね」
「了解」
その後も二人で互いの予定について確認した結果、四日後の夏休み四日目に遊びに行くことが決まった。
本当はもっと早めに行ければ良かったのだが、残念ながら夏休み最初の三日間は能力開発の補習がある。
こればかりはいくら努力しても無駄だと分かっているものの、それを馬鹿正直に話しても補習を免れることはできないだろう。
そしてひとまずの用事が済んだ上条は美琴と別れてファミレスを後にする。
しかし美琴の笑顔がいつもと少し違ったり、心なしか足取りが軽い理由に最後まで上条が気付くことはなかった。
一月二十日から二月十八日生まれの水瓶座のアナタは恋も仕事もお金も最強運!
まったくありえない事にどう転がってもイイ事しか起こらないので宝くじでも買ってみろ!
あんまりモテモテちゃうからって三股四股に挑戦、なんてのはダメダメなんだぞ♪
「……前から思ってたんだけど、いくら何でもこの占いって適当過ぎねえか? まったくありえない事って自分で全否定しちゃってるし。 まあそんなこと言ったら星占い自体が、どんだけの人数を大雑把に占ってんのって話なんだが」
たまたま目にしていた番組で流れた星占いを見て、上条はそんな身も蓋もない無粋な独り言を呟く。
今日は七月二十日、夏休み初日。
しかし夏休みに入ったと言っても最初の三日間は補習があるため、気分は一学期とそう変わらない。
「しっかし占いが一位の時の方が却って不幸に対する気構えできるっていうのも笑えるよな」
そして今日の自分の運勢が一位だと聞いて、上条は思わず自嘲的な笑みを浮かべていた。
上条自身が言ったように、そもそも星占いなんて科学の街である学園都市で信じてる人間は殆どいない筈だ。
だが例え本気で信じていなくとも、良い結果を聞けば何となくその一日に期待が生まれるし、かといって悪い結果でも自暴自棄になるようなことはない。
そういう意味で毎日決まった時間に流れる星占いは、人のモチベーションを保つのに少しは役に立っているのだろう。
しかし『常に』自分の運勢がある程度決まっている上条はそうもいかなかった。
良い占いは必ず外れ、おまじないも成功した例しがない。
それ故に占いの結果が良かったりすると、逆に変な期待を持たないよう身構えてしまう。
それが上条当麻という人間の日常で、端的に言えば上条は不幸だった。
(でも不幸不幸とばっかり言ってもらんねえか)
しかしそんな上条にも最近になって心境の変化が起こり始めている。
今まで知らなかった学園都市の裏に隠された悲劇は上条の不幸という価値観を覆しかねないものだった。
確かに上条は二分化すれば間違いなく不幸に属する人間で、幼少期の壮絶な経験は普通の人間には想像することすら難しいだろう。
だが親から捨てられた挙句に使い捨てのモルモットにされた置き去りの子供達に、自分の身を犠牲にしてまで彼らを救おうとした木山。
上条は両親と離れて暮らしているが決して疎遠なわけでもなく、今は特に不自由な生活をしているわけでもない。
そんな自分を本当に不幸と呼べるのだろうか?
人の幸福や不幸などは結局、当人の捉え方一つで決まってしまう。
だから上条もこれからは少しでも前向きに生きようと思っていたのだが……。
「あっ」
上条の足の裏で何かがパキンと音を立てて砕ける。
足を上げて確認した先にあったのは、真っ二つに割れたキャッシュカードだった。
「……取りあえず、銀行に行かねえとな」
何となくいきなり出鼻を挫かれた気分になる上条。
しかし今のは自分の不注意のせいだと強く言い聞かせて、思考を無理やりポジティブな方へと切り替えていく。
上条は元々運に頼ることがなかったため、その行動力は周りと比べても頭一つばかり群を抜いて高い。
「天気も良いみたいだし、布団でも干しとくか」
取りあえずそんなことを口にできるくらい気持ちを持ち直すと、上条はベランダに繋がる網戸を開ける。
2mもない先にある隣のビル壁が嫌な圧迫感を放っているが、敢えてそこは無視することにした。
そしてベッドの上から布団を抱えてベランダに出た上条は、そこで妙なものを目にすることになる。
「何だ、あれ?」
それは一瞬、白い布団のように見えた。
しかしここは学生寮と言っても造りはワンルームマンションと変わりなく、上条は一人暮らしだ。
だから上条以外にこのベランダに布団を干すような人間はおらず、上条も他の布団を干したような記憶はない。
そして良く目を凝らすと、やはりそれは布団などではなかった。
――干してあったのは、白い服を着た少女だった。
「はぁ!?」
その正体に気付いた上条の腕から布団がばさりと落ちた。
謎だ、意味不明だ、そしてこれは異常事態だ。
少女は腰の辺りをベランダの手すりに押し付けて、体を折り曲げた状態で両手両足をだらりと下に曲げている。
その姿はまるで小中学校の鉄棒で遊んでいる子供のようにも見えるが、上条の部屋があるのは建物の七階。
一歩間違えれば大惨事になりかねない。
何故こんな状況になっているのか全く理解が追い付かない上条だったが、とにかくこのまま放っておくわけにはいかないだろう。
過去の経験から成り立つ警鐘が最大限に鳴っているのを無視して、上条は少女へと近づいていく。
「うわ、本物のシスターさんだ……いや妹ではなく」
誰に対する説明か分からない独り言を呟きながら、上条は改めて少女の様子を確認する。
歳は十四か十五くらいか、上条よりも少し年下といった感じだ。
外国人らしく肌は純白で、髪の毛も白髪――ではなく銀髪だろう。
長い髪が逆さになった頭を完全に覆い隠していて、上条からは顔が見えない。
そして外国人という以上に、その服装が少女の異質さを際立たせていた。
修道服といったか、足首まである長いワンピースに、頭には帽子とは少し違う一枚布のフード。
ただし上条の知っている修道服とは少し異なり、その色は『漆黒』ではなく『純白』だった。
要所要所に織り込まれた金の刺繍が、何処か成金趣味のティーカップを連想させる。
「うっ」
そして上条が少女のことをベランダに引きずり上げようと手を伸ばした瞬間、小さな呻きと共に少女の指先がピクリと動いた。
それと同時に垂れ下がっていた首がゆっくりと上がり、カーテンでも開くように左右に分かれた髪の間から少女の顔が現れる。
(うわっ!)
上条が目にした少女の顔は非常に可愛らしいものだった。
外国人ということで少し気後れしてることを抜きにしても、美少女であることに間違いない。
あまり外国人との接点がない上条には、少女がまるで人形のように思えた。
だが上条が狼狽えているのはそんなことではない。
そもそも少女は完全に外国人で、上条には少女とコミュニケーションを取る手段が全くなかった。
一応中学校は卒業しているとはいえ、普通の中学校で習う英語がこの状況で役に立つことはないだろう。
「ォ、――――」
「え?」
「おなかへった」
上条は少女が何を言ったのかすぐに理解できない。
もしかして何か外国語を自分の中で勝手に翻訳してしまったのだろうか?
ちょうど少し前に見たバラエティ番組の外国語が日本語に聞こえるという空耳のコーナーが上条の中で思い起こされる。
「おなかへった」
「……」
「おなかへった」
「…………」
「おなかへった、って言ってるんだよ」
「え? あ、うん」
どうやら聞き間違えではなかったらしい。
まさかこの状況で行き倒れとでも言うのだろうか?
先ほどとは違う意味で混乱し始めた上条だったが、何にしろ少女をこのまま放置しておくわけにはいかない。
上条は少女の脇に手を差し込むと、そのまま持ち上げてベランダへと招き入れる。
「おなかいっぱいご飯を食べさせてくれると嬉しいな」
「いや、その前にまず事情を……」
しかし最後まで言い終える前に、更なる異常事態が上条が襲う。
何がどうしてそうなったのかは分からない。
どういう訳かいきなり、プレゼントのリボンをほどくようにして少女の着ていた修道服がストンと落ちた。
そして上条の目の前には頭に被さったフード以外、完全無欠に全裸になった少女の姿が……。
こうして少年と少女は出会い、科学と魔術が交差する物語の幕が上がる。
以上になります
やっとこさ新しい章に入りました
これからもよろしくお願いします
禁書目録編始まった! 超期待!!
さあ、もうすぐネーチンの出番だ!
毎回楽しんでます!頑張ってください
乙です
いきなり全裸披露きたw
よく考えると不法侵入+初対面で飯くれってスゲー台詞だよな。普通なら通報するわw
制限つき聖人の上条さんがついに本物の聖人と出会うのか。楽しみだ。
乙です
ねーちんは上条さんの力に気付くのかな
続きを投下します
いつも感想ありがとうございます
いよいよもう一人のメインヒロインであるねーちんの登場する話に入りました
しかしそれに伴い美琴の登場回数は少なくなります
ただ最初に書いてある注意書きがぶれることはないので、上琴目当てで来てる方も最後まで付き合っていただけると幸いです
では投下します
「……あの、そろそろ事情をお聞かせ願えますか?」
「……」
上条は少女の機嫌を窺うように腰を低くして状況の説明を求める。
しかし衝撃的な出会いを果たしてから数十分、未だ少女からの返事はない。
少女の声の代わりに聞こえてくるのは、ガツガツと少女が食事を進める音だけ。
「そもそもさっきのは100%俺が悪かったんでせう?」
「……」
「はぁー」
やはり返事をしない少女に上条は大きく溜息を吐く。
何故か素っ裸になってしまった少女をベランダに残していくわけにもいかず、上条はそのまま少女を部屋へと招き入れていた。
どうやら少女もかなり困惑していたようで悲鳴を上げるようなことはなく、幸い騒ぎを聞きつけた人間に取り押さえられる事態にはなっていない。
そして上条の部屋に入った少女が最初に始めたのが、バラバラになってしまった修道服の修復だった。
何処からか見つけてきた安全ピンで繋ぎ合わされた複数の布は、今は何とか修道服の形を取り戻している。
ただし何十本もの安全ピンがギラギラと光ったままだが……。
「それでまだ食うおつもりですか?」
上条の問いかけにコクンと頷いた少女を見て、上条は思わず苦笑いを浮かべる。
少女が修道服を修繕している間、上条は最初に彼女から要望があった通り簡単な食事を作っていた。
そもそも原因が自分にあるのかすら定かではないが、やはり裸を見てしまったという後ろめたさはある。
そこでちょっとしたお詫びも兼ねて食事を出したのだが、もしかしたらその対応が間違いだったのかもしれない。
上条が少女に料理を作って運ぶのを繰り返すこと既に七回。
見た目に反して、少女の食欲は凄まじいものだった。
(だけど本当に幸せそうに食べるんだよな)
初対面の相手に少女の態度は少々無遠慮すぎる気はする。
しかし適当に作った料理をここまで嬉しそうに食べているのを見ると、どうもこの少女を憎めそうにない。
『お客様の笑顔を見るのが仕事のやりがいです』という飲食店のインタビューをよく見かけるが、彼らもこんな気持ちなのだろうか?
「ふぅー、もう満足なんだよ」
「それはようござんした。 それでいい加減、事情を聞かせてもらえるんだろうな?」
そして八皿目を綺麗に平らげたところで、ようやく少女のお腹も満足したらしい。
一人暮らしの上条は元々あまり買いだめをしない方なのだが、何とか冷蔵庫の中身だけで足りたようだ。
これで少女の機嫌も少しは直ったかと、上条は改めて少女に事情を尋ねる。
「うん、本当にありがとう。 まずは自己紹介しなくちゃいけないね。 私の名前はね、インデックスって言うんだよ」
「……俺が凄く舐められてることだけは良く分かった。 そりゃ裸見たのは悪いと思ってるけど、自己紹介があからさまな偽名はねえだろ?」
「な、何でそこでその話を蒸し返すのかな? せっかく記憶の奥底に封じ込めてたのに」
「ってか、あれって本当に俺が悪かったのか? 少し触っただけで服がバラバラになるって、もしかしてそういうプレイを楽しんでたんじゃ……」
「そんなはずあるわけないんだよっ!! 大体この『歩く教会』はトリノ聖骸布――ロンギヌスの槍に貫かれた聖人を包み込んだ布地を正確にコピーしたものだから、強度は法王級なんだよ? それこそ聖ジョージのドラゴンでも再来しない限り法王級の結界が破られるなんて」
するとインデックスと名乗った少女は何やらブツブツと呟いて自分だけの世界に入ってしまう。
これは本格的に拙いかもしれない。
そもそもこの少女は学園都市の住民なのだろうか?
この街に住む人間だからこそ分かる学園都市独特の臭いのようなものを、この少女から全く感じないのだ。
インデックスという訳のわからない偽名といい、ドラゴンとかファンタジーな空想話といい、何やら胡散臭い点が多すぎる。
ただ一つだけ、少女の発した言葉の中で上条は気になることがあった。
「聖人ってもしかしてやたらと幸運に恵まれまくるっていうアレか?」
「確かに聖人は神の子に似た身体的特徴を持ってるから神様から受ける加護も大きいけど、幸運であることがだけが聖人の特徴じゃないんだよ。 それよりも君って聖人のことを知ってるの?」
「……いーや、前にそんな胡散臭い話をしてる連中に会ったことがあるだけだ」
聖人――その言葉を口にすると、上条は少しだけ胸に痛みを覚えた。
両親と別れて学園都市に来る切っ掛けとなったあの事件。
当時のことを上条は殆ど覚えていないが、『疫病神』と呼ばれていたあの頃に突然家に押しかけてきた連中がいたことは薄っすらと記憶にある。
そしてその連中が自分を『聖人』にするという名目で人体実験を施した挙句に大怪我させ、ただでさえ自分の不幸で悩んでいた両親により深い心の傷を負わせたことも……。
別に学園都市に来たこと自体を不幸だと思ったことは殆どないし、純粋に自分の幸せを願ってくれた両親のことを恨んでもいない。
しかしその事が自分達家族の歯車を大きく狂わせたことだけは間違いなかった。
「むー、別に聖人は胡散臭い話なんかじゃないんだよ。 確かに数は少ないけど今も世界中で20人くらいは確認されてるし、そもそも聖人っていうのは身体的特徴が神の子に似てる他にも色々と特徴が……」
「はいはい、取りあえず聖人ってやつの説明はいいから。 とにかくまずはお前の事情を説明してくれ」
「……何か怒ってる?」
「別に何も怒ってねえよ」
上条はそう答えて、少女の言う通り本当は少し苛立っていた自分を落ち着かせる。
自分の過去に大きく関わっている『聖人』というワード。
その言葉を知っていた以上、もしかしたらこの少女はあの連中と何らかしらの関係があるのかもしれない。
だが何も根拠がないにも拘らず、上条はその可能性を否定していた。
まだ出会ってさほど時間も経っていないし、二人の間に流れる空気も険悪なまま。
しかし少女が時折浮かべる笑顔は、見る人全てが幸せになれるような優しい笑顔だった。
そんな少女が人の思いを踏みにじるような人間達と同じだとは思いたくない。
「本当に?」
「ああ、本当だ。 だから話だけでも聞かせてくれよ」
しかしそれも結局は偽善に過ぎないことを上条は自覚している。
例え上条に直接害を与える人間でなくとも、この少女が訳ありなのは明白だ。
出会ったばかりの少女のために無償で危険を冒せるかと聞かれれば、上条はすぐに返事をすることができない。
かといって、このまま何もなかったことにするのも無理だった。
だから予防線として話だけは聞く。
何も解決にならないことは知っていても、『何かをやった』という慰めだけは欲しい。
その前提が『偽善使い』と『ヒーロー』との境なのだろう。
「えっと見ての通り教会の者です、ここ重要。 あ、バチカンの方じゃなくてイギリス清教の方だね」
「教会っていうと、やっぱり信者や献金を集めるために学園都市にやって来たのか?」
「……ううん、違うんだよ」
すると一瞬だけ、少女はこれまで見せなかった表情を浮かべる。
それはどこか儚げな、自嘲的な微笑み。
その表情が言わずとも少女が抱えている何かの大きさを物語っていた。
「ごめんね、これ以上話したら君を巻き込んじゃうかもしれない」
「おいっ!!」
「ありがとう、こんなに良くしてもらったのは初めてだから嬉しかったんだよ。 君って何だかお兄さんみたいだね」
「だから待てって!!」
そのまま何も言わずに立ち去ろうとした少女の腕を上条は咄嗟に掴む。
そしてその時の少女の顔は、本当に本当にただの女の子にしか見えなくて……。
「じゃあ、私と一緒に地獄の底までついてきてくれる?」
こんな状況でも少女が浮かべる表情は笑顔だった。
それはあまりにも辛そうな笑顔。
優しい言葉で少女は暗に上条をこれ以上巻き込むまいと拒絶していた。
そしてその優しさが却って上条の神経を逆撫でする。
まだ何も話を聞いていないため、少女がどんな事情を抱えているか上条は全く知らない。
ただ少女が自分の辛い気持ちを押し殺して赤の他人を気遣える優しい女の子だということだけは嫌でも分かった。
(くそっ、ヒーローに憧れるような歳でもねえのに)
まだ十五歳の高校生とはいえ、世の中に自分の力ではどうしようもないことがあるのを上条は知っている。
先日もその壁に突き当たったばかりだ。
それなのに上条は少女の腕を放すことができなかった。
「いくら何でも出会ったばかりの女の子のために地獄へ一緒に行くようなヒーローに俺はなれねえよ。 でもそんな顔をしてる奴を放っておけるような薄情な人間にもなりたくない。 だからお前がどうしても地獄に行くって言うなら、その前に引きずり上げてやるっ!!」
かつての自分なら迷わずにこんな決断を下すことはできなかったと上条は思う。
分かっていることなど殆どないにも拘らず、上条の本能はこれから起こりうる不幸に対して最大級の警報を鳴らしていた。
それでも上条が迷わず少女に手を差し伸べられたのは、きっとある少女の影響が大きいのだろう。
まだ年相応に幼い部分を残しながらも、彼女は間違いなくヒーロー足りうる強さを持っている。
そしてそんな彼女と過ごしてきた時間が長いからこそ、上条は本当に必要な時に『偽善使い』と『ヒーロー』の境界を飛び越えることができた。
短めですが以上になります
ちょっとここからは原作と被る部分が出てきます
そういう場合ってバッサリと切った方がいいんですかね?
それもありだと思います
早く続きを読みたいから、原作通りの部分は簡単に済ませてもいいと思う。
乙です
原作通りの部分は飛ばしてもいいかな
分かりにくいなら簡単な説明をいれるとか
前から思ってたけど、今回のインデックスみたいにキャラ崩壊させない上で綺麗に書いてくれるのは嬉しい
メイン張るキャラ以外も魅力的に書かれたssは名作が多いから、これからも頑張って
このSSに足りないものは何か?
……そう、おっぱいだ!
というわけでねーちんを早く登場させてくれ。
よく読むと美琴は上条さんにヒーローみたいに憧れて隣に立ちたいって思ってるけど、逆に上条さんは自分は偽善使いで美琴の方がヒーローだと思ってるんだな
お互いに影響を与えてるのか
ご意見ありがとうございます
とりあえず前後の繋がりが分かるように、地の文で補完しながらやっていきたいと思います
どうしても魔術の説明を二人の会話でやろうとすると、原作まんまになってしまって
>>1のやり方に従います。
おつおつ
お疲れおもしろいよー
気付いたら前の投下から一週間も経ってた
間を空けてすみません、今から投下します
たくさんアドバイスありがとうございます
とりあえず皆さんに原作の知識があることを前提として、飛ばせる部分は飛ばしていきたいと思います
では投下します
「……魔術ねえ」
インデックスが語った俄かには信じがたい話に、上条は溜息を洩らした。
魔術――異世界の法則を無理矢理現世界に適用し、様々な超常現象を引き起こす技術。
そしてその魔術を扱う魔術師にインデックスは追われていると言う。
しかしそんな突拍子もない話を聞かされても、流石にすぐには信じることはできない。
ただインデックスが七階にある上条の部屋のベランダに引っ掛かっていたのは紛れもない事実で、彼女が何らかしらのトラブルに巻き込まれているのは間違いないだろう。
魔術の真偽は別としてインデックスが何者かに追われているのだとしたら、いつまでも部屋でのんびりしているわけにはいかない。
だが部屋から出る以前に、上条はある問題と直面していた。
「えっと、インデックスさん? そろそろ部屋から出た方が賢明だと思うですが」
インデックスは上条の服の裾を掴みながら、嗚咽を殺して涙ぐんでいた。
恐らく声を上げて泣くまいと必死に堪えているのだろうが、それも空しくインデックスの目元に浮かんだ涙はみるみる大きくなっていく。
上条がはっきりとインデックスの力になると宣言した時、彼女が浮かべたのは戸惑いの表情だった。
まるで上条が何を言っているか理解できないといった表情。
別に上条は何か特別なことを言ったつもりはない。
だがその前にインデックスは確かに言っていた。
――こんなに良くしてもらったのは初めてだと。
その言葉とまるで堰を切ったように涙を流す姿を見れば、今までインデックスがどんな生活を送ってきたか想像するのは難しくなかった。
「……大丈夫、俺が何とかしてやるから」
こんな言葉さえ今の今までインデックスは掛けてもらうことがなかったのだろう。
そして今も泣いているインデックスに上条は先ほどまで自問自答を繰り返していた『不幸』という言葉を重ねる。
上条はインデックスが魔術師に追われているという話は聞いたが、まだその理由を聞いていない。
そのことに話題が及んだ時に見せたインデックスの表情が、上条にそれ以上の言及を留まらせていた。
本当なら今後のためにもしっかりと事情を聞いておかなければならないのは上条にも分かっている。
だがそれはきっとインデックスの見えない傷を抉ることになって、上条はそんなことをしたくない。
それに例え話を聞かなくとも、今回のゴールははっきりしていた。
「とりあえず教会まで行けばなんとかなるんだよな?」
「……うん。 でもね、単純に十字教って言っても色々種類があるんだよ」
「へ?」
「まずは旧教と新教。 さらに私の属する旧教でも、さっき言ったようにバチカンを中心とするローマ正教や聖ジョージ大聖堂を核とするイギリス清教って感じで色々あるの」
「……間違って他の教会に入っちまった場合はどうなるんだ?」
「門前払い」
思っていたよりも遥かに雲行きは怪しそうだ。
確か第一二学区には神学系の学校が集まっており、多分探せば教会の一つや二つは学園都市でも見つかると思う。
だが旧教や新教、ローマ正教やイギリス清教など、その違いが上条にはさっぱり分からない。
「ごめんね、最初に言っておかなくて。 イギリス清教はそれぞれの国の中にしかないから、日本でイギリス清教の教会っていうのは珍しいんだよ」
もしかしたらインデックスはここに辿り着く前に、何度も教会を訪れていたのかもしれない。
そしてその度に門前払いを食らっていたのだとしたら、彼女はどんな気持ちで今まで逃げ続けていたんだろうか?
「ありがとう、本当にもうその気持ちだけで十分なんだよ。 英国式の教会を見つけるまでの勝負だから、ここからは私一人でも……」
「あれだけ人ん家で厚かましく飯を食っときながら、今さらそんな小さなことで気を遣ってるんじゃねえよ。 見えなくてもゴールははっきりしてるんだ。 必ず俺がお前をそこまで届けてやるから」
「どうして、どうして君はそこまでしてくれるの?」
「……年下の女の子にばっかヒーローをやらせとくのも、男として情けねえからな。 偶には俺がヒーローの代役を務めたって罰は当たらねえだろ?」
上条が何のことを言っているのか分からないのか、目を赤くしたままインデックスは小首を傾げる。
別に上条も本気でヒーローになりたいと思ってるわけではない。
ただ目の前で困っている女の子を放っておくことができない程度にはお人好しというだけだ。
「とにかく今は学園都市のどこに教会があるのか確認しないとな」
そう言って上条は携帯を取り出すと、学園都市のみで使われている検索サイトに『教会』というワードを入力する。
学園都市に住む人間は基本的に外部に出ることが殆どないため必然的に必要な情報も限られてくるのだが、このサイトを使えば外の情報を省いた上で必要な学園都市内部の情報を探すことができた。
要は地方の観光サイトと同じものだが、そこはあちらこちらに最先端の科学技術が散りばめられている学園都市。
このサイトは学園都市内部で製造された機種でしか利用できず、もちろん機密漏洩に繋がるような情報が表示されることもない。
だが教会のように一般に公開されているような建物を検索するには十分だった。
「へー、この近くにも教会なんてあったんだな」
上条は検索して出てきた画像をインデックスの前に差し出す。
やはり学園都市で教会といえば、神学やユング心理学といった教育施設が殆どだった。
それでも学園都市には留学生も多いためか普通の教会もいくつか存在するようで、その中の一つが第七学区にもあるらしい。
そして手っ取り早くインデックスに第七学区の教会が英国式のものか確認してもらおうと思ったのだが、当のインデックスは何やら訝しげな表情を浮かべていた。
「やっぱり英国式のじゃなかったのか?」
「……分からない」
「どういうことだ?」
「えっとね、この写真に写ってる教会には見た限り魔術的符号が一つも見つからないんだよ」
「いや、そりゃ普通の教会に魔術なんて怪しいもんが関わってるわけねえだろ?」
「むー、やっぱりまだ魔術のことは信じてくれてないんだね。 確かに教会では宗教と魔術は別物って区別されてるけど、そんなのは建前でどの宗派も魔術との関係は切っても切れないんだよ。 それなのにこの教会には各宗派の特徴とも言える魔術的符号が不自然なくらいに全く見つからない」
「よーするに、この写真だけじゃ英国式の教会かすら判断できないってことか」
「うん」
それから学園都市内の他の教会の写真を見せても、インデックスから返ってきた答えは全て同じだった。
だがここで問題なのは教会が英国式と完全に違うというわけではなく、インデックスでも見分けがつかないということだ。
この時点で可能性は低いと思うが、万が一にもこの中に英国式の教会がないとは限らない。
もしもの時は学園都市の外で英国式の教会を探すか、あるいは何とかしてインデックスをイギリスまで届けるか。
しかし現実的に考えて、そのどちらも安易に実行するのは難しいだろう。
レベル0とはいえ学園都市を出るのにはそれなりに手続きが必要だし、強行突破すれば学園都市からも追われることになる。
それに独力で海外に渡る術など普通の高校生の上条にある筈がない。
最終的にそうせざる得なくなったとしても、それは学園都市でやれることを全てやった後だ。
「とりあえず今は学園都市の教会を見て回るとしますか」
そして上条はまだ何処か戸惑った表情をしているインデックスの手を取って、部屋の外へと繰り出すのだった。
「~~~~ッ! 何か変なのがうろついてるっ!?」
「ありゃただの清掃ロボだ。 ここは学園都市だからな。 こんなん街中に散らばってるよ」
目の前を通り過ぎたドラム型の清掃ロボを見て肩をビクつかせているインデックスに、上条は思わず苦笑いを浮かべた。
外に出てからというもの、先ほどからインデックスはずっとこの調子だ。
清掃ロボを見て驚くのはまだしも、見るもの全てが珍しいといった様子でインデックスは辺りをキョロキョロ見渡している。
初めは内心インデックスが産業スパイか何かではないかと上条は疑っていたのだが、この様子を見るにその線は完全にないだろう。
スパイに必要な技術など全く知らないが、少なくてもこんな挙動不審にしている人間に務まるとは思えない。
(しかしそうなると、こいつはどうやって学園都市に入ったんだろうな?)
無邪気に前を歩くインデックスを眺めながら上条はインデックスの『正体』に考えを巡らせる。
インデックスが外部の人間だということは恐らくもう間違いない。
ただ外部の人間だとしても、どうも腑に落ちない点が多い気がした。
確かに外より二、三十年は技術が進んでるとされる学園都市で物珍しいものが多いのは分かるが、それにしてもインデックスの反応は大げさすぎる。
その様子はまるで山奥か何処かで世俗から隔離されて生活していたかのようだ。
そしてその姿を見ていると、やはりインデックスが正規のルートで学園都市に入ってきたと上条には思えなかった。
ちゃんとした手続きを済ませて学園都市にいるならば、少なくても学園都市がどんな街かくらいは予備知識があるだろう。
「なあ、インデックス。 お前って学園都市のIDは持ってんのか?」
「あいでぃー?」
これは今までとは違った意味で問題があるかもしれない。
ここは街中を無数の監視カメラが見張り、宙には絶えず街を監視する人工衛星が三基もあるほど警備が厳重な学園都市だ。
ゲートの出入りも完全にスキャンされ、もしデータと符合しない不審者がいればすぐに警備員や風紀委員が飛んでくる。
あまり深く考えてなかったが、本来はこうやってインデックス≪侵入者≫と歩いてるだけで警備員にしょっ引かれてもおかしくないのだが……。
「そういや、さっきからあまり人を見ないな」
上条はふと気付いた違和感に足を止めた。
まだ早い時間とはいえ夏休みの初日にしては人通りが少なすぎる気がする。
元々この近くには足を運ばないため普段の様子は分からないが、今は周りに人の気配すらしない。
それはまるで別世界に迷い込んでしまったかのような錯覚。
そしていつの間にか通りの少し先に目的地だった教会が佇んでいるのが見えた。
「これって?」
すると前を歩いていたインデックスが急に足を止め、辺りをキョロキョロと見渡し始める。
明らかに不自然な様子だったが、どうやら教会を見つけたからではないらしい。
「どうかしたか?」
「どうしよう、私っ!?」
「……まさかこちら側にやってくるとは思わなかったよ」
そして上条とインデックスの間に割って入る声。
教会の入り口から出てくる何者かの姿が見えた。
「君ならこの程度の人払いなんてすぐに見破れたはずだろう? もしかして罠の探り合いという意味で偶然にも僕達が君に勝ったということかな? ……まさか久しぶりに触れた人の情に、魔道図書館たる君が浮かれていたということはないよね?」
教会から出てきた人物は男だった。
まだ顔に幼さを残すことから少年と言った方が正しいかもしれない。
だがそんな違いなど目の前の異質と比べたら些細なことだ。
2mを超える身長は外国人特有のもので、男が着ているのはインデックスの服装と対になるような漆黒の修道服。
その服だけを見れば神父と呼べるかもしれないが、この男を見て『神父さん』と呼ぶ人間は一人もいないだろう。
相手が風上に立っているせいか15m以上も距離があるにも拘らず、甘ったるい香水の匂いが漂ってきた。
肩まである金髪は夕焼けを思わせる赤色に染め上げられ、左右十本の指には銀の指輪がメリケンのようにギラリと並んでいる。
口の端では火のついた煙草が揺れて、極めつけには右目の下に刻み込まれたバーコードの形をした刺青。
インデックスがこの学園都市における異質ならば、目の前の男はこの世界そのものに対して異質な存在だった。
そして例え名乗らずとも目の前の男の正体は……。
「魔術師っ!!」
インデックスの言葉に、『魔術師』は口元を歪めて笑みを作った。
新約6巻に出てきた「科学と魔術の領分を冒さないようにきっちり線を引いた宗教施設」ってわけか。
以上になります
今回出てきた検索サイトは適当に考えたオリジナル設定です
あんまり深く考えないでいただけると幸いです
また今回の話にはあまり関係ありませんが、とある施設の場所が原作と変わってます
原作ではなくとある魔術の禁書目録ノ全テと漫画の美琴のセリフを基準にしてます
オティヌスと麦のん見ても何も思わなかったのに、エヴァQ見たら唐突に隻眼の一方通行が思い浮かんだ
>>781
×不自然
○不審
ああ、三沢塾の近くにあるほうの教会だったか。
乙
おつ
糞スレ
わざわざ再構成としてやる内容とは思えない
インデックスが怪我しなくて済みそうでうれしい。
ああ・・・どの再構成SSでも当て馬確定なステイルが強化上条さんと出会ってしまった・・・
ステイルさんのご冥福をお祈りします。
乙
ステイルの髪って赤じゃなかったっけ?
今回ステイルの容姿について書かれてることが、ほぼそのまんま原作にも書かれてる
それによるとやっぱり金髪を赤に染めてるらしい
そして今回も敵側で魔改造が出るとしたら、ステイルだと期待してる
つまり当て馬にはならないと信じたい
美琴が一緒じゃなくて良かったなステイル。
美琴がいたらかませ犬どころか瞬殺だったところだぞ。
美琴とステイルにそこまでの差があるか?
大丈夫、ステイルさんなら、一回は上条さんをぎゃふんと言わせてくれるはず!
乙
すみません、次に来るのが少し遅れるかも
早ければ土日中に投下できると思いますが、時間がかかるとあと一週間くらいかかりそうです
>>797了解なの。続きを楽しみにしてるの
偽聖痕は全然面白くないだろ
わざわざ再構成やるような内容かよ
戦闘描写が下手
強化上条さんならルーンの紙を無効化するまでもなくステイルを殴り倒しそうだな。
よほどステイルを魔改造しないと雑魚キャラ扱いは避けられないぞ。
雑魚なりに頑張っているというのもステイルの魅力ではあるけど。
まあ原作よりはスムーズに進んで欲しいところではある
上条のアドバンテージが流れにどう影響するかも見どころだし
>>800
原作からしてそこそこ雑魚なんですが
元々身体能力はもやしだからな
そういえばステイルと一方さんってどっちが身体能力高いんだろう
>>803
それはさすがにステイルだろ。
結構走ってるし
打撃のタフさなら一方さんじゃないか?
高校生の打撃一発でKOされたステイルと
アクティブサイエンティスト木原さんにぼこられても立ちあがる一方さん
この上条さんの場合ステイルマジで瞬殺されかねないから
木山先生みたいに若干強化すればいいんじゃね
いきなりトリプルイノケン出してきたりして。
>>805
一方通行は美琴の電撃で足元ふらふら拳へろへろの上条さんに殴られてKOされたぞ
>>808
その前にも一方さんはそげぶパンチを何発か食らってただろ。
一発KOされたステイルよりは耐久力あると思うぞ。
そもそも一通さんは新約10巻で上条さんの本気パンチくらってもピンピンしてたぞ?
マジレスするとステイルは魔術のために体力や接近戦能力を犠牲にしてて
一方通行は自分の能力に依存してたため、旧約三巻の時点じゃかなり貧弱なモヤシだったと解釈してます
ただステイルが既に身体能力を犠牲にしてるのに対して、一方通行はまだ巻き返す余地があった
能力が完全に使えなくなったことに加え、暗部などでの実戦経験が最新巻に結びついたのではないかと
でも旧約三巻での上条さんは美琴から相当のダメージを負った状態なので、少なくてもその時点では単純に比較はできなんじゃないでしょうか?
雑談は禁書関係の話題でお互いを罵りあうようなことさえなければ全然OKです
ただこれから次スレに移る時などは誘導のために少しだけ残しといてください
火曜の夜には続きを投下します
おk
了解。
すみません、今日の22:00で
続きを投下します
いつも感想ありがとうございます
……戦闘描写はセンスとしか言いようがないですよね
どうも書いてて臨場感というかスピード感というか、自分のssには色々と足りないことを痛感しております
取りあえず数をこなせばその内少しはマシになるだろうという温かい目で見守ってください
ステイルはある程度の強さを持つ相手には初見では勝てないけど
色々と対策を練って戦力差を覆す頭脳派タイプだと信じてる
では続きを投下します
上条が魔術師に対して感じたのは恐怖というよりも戸惑いや不安だった。
目の前の男には今まで培ってきた常識など全く通用しない。
まるで異世界に放り込まれて、まったくもって別のルールに支配されているような感覚が上条を襲う。
さきほどまで上条はインデックスの話す魔術について欠片も信じていなかった。
にも拘らず、魔術師という未知への不安によって上条の身体は石のように固まっている。
「逃げてっ!!」
上条を我へと返したのは隣に立つ少女の叫び。
まだ魔術師との距離は15m以上ある。
魔術という未知の力が本当に存在するならば、何も知らぬまま戦うのは得策ではない。
インデックスの話にまともに取り合わなかった過去の自分を後悔しながらも、上条はインデックスの手を取って来た道を逃げようとしたが……。
「逃がすと思うかい?」
行く手を阻むようにして出現した炎の壁を前に上条は思わず足を止める。
両腕で顔を庇わなければ直視できないほど、炎の放つ熱と閃光は凄まじい。
そして逃げる方向を変える間もなく炎は燃え広がっていき、辺り一面を炎によって形成されたドームが包み込んだ。
これでは逃げ場がない。
「最初に言っておくけど、この炎は既に僕の意志を完全に離れているから強制詠唱は役に立たないよ」
スペルインターセプト?
魔術師が何のことを言っているか上条には全く理解できないが、隣に立つインデックスは悔しそうに表情を歪めている。
その様子を見るに何かインデックスの切り札のようなものだったのかもしれない。
しかし言葉の意味が理解できるかどうかという以前に、インデックスと魔術師を中心とした空間は完全に異世界と化していた。
そこに上条が入り込めるような隙間など存在しない。
「そしてこの状況では魔滅の声も殆ど効果はないだろうね」
「随分と私のことについて調べてるんだね?」
「……君を捕まえようというのに、何の対策もしてこないような愚かな魔術師がいると思うかい?」
「……」
「さて、そちらのナイト君も大人しくそれをこちらに渡してくれるかな? 出来れば一般人を殺すような真似はしたくないからね」
すると今までこの場にもう一人存在することなどまるで気に留めている様子がなかった魔術師が唐突に上条へ意識を向ける。
それは特に感情の起伏などは見られない穏やかな口調だった。
しかしだからこそ上条は寒気を感じずにはいられない。
きっとその言葉通りにインデックスを引き渡せば、魔術師は何事もなく見逃してくれる。
そして断れば、何の躊躇いもなく殺しに掛かるだろう。
例え上条がどんな選択をしようと、魔術師にとっての結末は変わらないのだ。
「誰がテメェみたいな得体の知れねえ奴にインデックスを渡せるかよっ!! それに街中でこんな騒ぎを起こせばすぐに警備員が」
「助けならこないよ」
「なにっ!?」
「僕達は非公式とはいえ許可を得てこの街に滞在している。 もちろんこちら側とは基本的に不干渉ということに変わりはないから、この街の人間が僕達に加勢するということはないけどね。 だが説得をした上で僕達の妨害をする人間がいるなら、例えここの住民でも殺して構わないと言われている。 そして恐らく君達はイギリス清教を当てにしようとしたんだろうけど、英国式の教会はこの街に存在しない。 つまりいくら足掻こうと、君達はもう詰んでいるということさ」
学園都市に英国式の教会は存在しない。
想定していた範囲内とはいえ、魔術師の言葉に上条は焦燥を募らせる。
もちろんインデックスを教会に届けてそれでおしまいというつもりはなかったが、教会を見つけることができれば何か事態が好転するのではという淡い期待はあった。
「それにしても得体の知れない連中ね。 君は魔術師にとってそれが抱える十万三千冊の魔道書がどれだけ貴重なものか理解してないのかな?」
「十万三千冊の魔道書?」
「何だ、その顔は? 君も魔道図書館たるそれが抱える『禁書目録』について知らないわけじゃないだろう?」
魔道図書館、魔術師は初めにもインデックスのことをそう呼んでいた。
魔道書というのは恐らくRPGなどで良く出てくる魔法の本のことだろう。
しかしそれらがインデックスと何らかしらの関係があることは分かっても、魔術師が何を言いたいのかまでは理解できない。
魔術師の言葉に訝しげな表情を浮かべるだけの上条だったが、その代わりに大きな反応を示したのは隣に立つインデックスだ。
インデックスは肩をビクッと振るわせると、何かを恐れているような表情で上条の顔を覗く。
そして魔術師はそんなインデックスを見て、心底楽しそうに声を上げて笑った。
「はははははっ、まさか本当に何も事情を知らない一般人をここまで引っ張って来てたのかい?」
「そ、それは……」
「優しくしてくれた人間に自分が本当はどういう存在か知られて、拒絶されるのが怖かったというわけだ。 十万三千冊の魔道書という穢れを一身に背負う君に、まだそんな人間らしい感情が残っていたなんてね」
魔術師の言葉にインデックスは表情を歪めた。
完全に蚊帳の外にいる上条には、やはり二人が何の話をしているかイマイチ要領を得ない。
ただ間違いなく魔術師はインデックスを見えない部分で傷つけており、そしてそれは上条が傷つけなくないと願ったものだ。
例えどんなにこの状況で自分が場違いな存在だったとしても、上条にも譲れないものがあった。
「穢れとか、人間らしい感情とか、テメェは人のことを何だと思ってるんだ!? 十万三千冊の魔道書か何か知らねえけど、そんなもんが人を傷つける理由になる筈ねえだろうがっ!!」
「何も人を傷つける理由にはならないか……まるで正義の味方みたいな物言いだね。 しかし何も事情を知らない君がいくら喚いたところで、それがどんなに正論だとしても僕には陳腐なものにしか聞こえない。 いや、君のような人間だからこそ都合の良いナイト役にはピッタリだったのかな?」
「インデックスはずっと俺を巻き込まないように気を遣ってた。 インデックスに手を貸すって決めたのは俺自身の意志だっ!!」
魔術師だけじゃない、上条は今のインデックスの態度も気に入らなかった。
無関係な人間を巻き込んでしまったことを心から悔いるような表情。
冗談じゃない。
上条はこれまで誰かのために戦ったことなど一度もなかった。
誰かのためではなく、いつも自分の感情に従って上条は拳を振るう。
だからこそ自分の行いは全て偽善であって、自分が決して善人になれないことを上条は自覚していた。
この間の木山との戦いが良い例だろう。
木山の思いを全て踏みにじって、上条は自分のエゴを貫くために戦ったのだから。
そしてそれは今回も同じだ。
インデックスを助けるためではなく、インデックスを助けたいという自分の意志で上条はこの場に立っている。
「ふーん」
すると上条の言葉が何か琴線に触れたのか、魔術師の上条を見る目がハッキリと変わる。
今まで魔術師が自分に対して路傍の石と変わらぬ程度の興味しか持っていないことは上条にも伝わっていた。
それが今はインデックスではなく上条のことを魔術師は真っ直ぐに見据えている。
しかし魔術師が向ける感情がどのようなものかまでは上条も分からない。
敵意を持たれてるようにも感じるし、その目を見ていると何やら品定めされているようにも思えた。
「その安っぽい正義感ごと捻り潰してやりたい思いはあるけど、流石に何も知らない人間をこのまま殺すのは目覚めが悪い。 殺すのが許されてるのはあくまでも説得をした上でだしね。 だから全て知っても尚、そんな言葉が吐けるか試させてもらうよ」
それは上条だけでなく、インデックスに対する言葉でもあったのだろう。
インデックスが異議を唱えないのを確認すると、魔術師は静かに語り始める。
上条の知らない世界、そしてインデックスという少女が背負ったものの大きさを……。
この世界には教会が『目を通しただけで魂まで穢れる』と指定した邪本悪本が数多く存在するらしい。
そしてそれらのリストを纏めたのが禁書目録――正式名称「Index-Librorum-Prohibitorum」
その十万三千冊にも及ぶ、一般人が読めば廃人確定という魔道書の数々をインデックスは抱えていると魔術師は語った。
「でもそんな大量の本がどこにあるんだよ? 図書館か何処かの鍵をインデックスが持ってるってことか?」
「ううん、全部私の頭の中にあるんだよ」
上条の疑問に答えたのは魔術師ではなくインデックスだった。
これまでずっと何処か後ろめたそうな様子だったのが、今は何か決意を固めたような表情を浮かべている。
「完全記憶能力って言ってね。 私が読んだ魔道書は一字一句洩らさず私の記憶の中にあるの」
「人間スキャナと言ったところかな? もっともそれは僕達みたいな魔術≪オカルト≫でも君達みたいな超能力≪SF≫でもなく、単なる体質だと聞いているけど。 とにかく経緯はどうであれ、かくしてそれは十万三千冊の魔道書という毒書の坩堝となったわけだ」
インデックスの言葉に付け加えるように魔術師は語る。
十万三千冊の魔道書に加えて、それを全て脳に記憶することが可能だという完全記憶能力。
とてもすぐには信じられないような話だが、問題なのは実際にそれを狙った魔術師が目の前に存在するということだった。
いくら荒唐無稽な話であろうと、それを信じる人間にとってそれは紛れもない現実なのだ。
それは偶に世間を騒がせるカルト集団と同じだろう。
ただ一つ違う点があるとすれば、この魔術師にそんな夢物語を詐欺を使わずに現実だと思わせるだけの力が本当にあるということだろうか?
(これって下手すりゃレベル5相当の力があるんじゃ?)
上条は魔術師とインデックスの話を聞きながら、周囲を取り囲む炎に目を向ける。
炎の壁は今も衰えることなく、上条達の退路を阻み続けていた。
上条も今まで何回か学園都市の発火能力者と対峙したことがあるが、この炎は彼らの力を遥かに超えている。
そして恐らく最低でもレベル4以上の力があることに加え、この炎には上条の常識が通じない奇妙な点があった。
学園都市で開発される超能力。
確かにこの力も外の人間から見れば、オカルトとそう変わらないかもしれない。
いくら科学的に開発されたといっても、超能力が異能の力であることに違いはないのだから。
だが例え外からすればオカルトでしかなくとも、実際の超能力は全て既存の法則に基づいている。
一見とんでもない不可思議な現象に見えても、それらは全て決まったルールからはみ出すことがない。
そんな常識があるからこそ、上条は自分達を取り囲む炎の正体が掴めなかった。
これだけの炎であれば消費される酸素の量も多大の筈なのに、まるで息苦しさを感じないのだ。
凄まじい熱気による呼吸の弊害はあるが、本来ならば酸素の欠乏と二酸化炭素中毒によって既に気を失っていてもおかしくない。
ただの炎でこんな現象を起こす事は不可能だし、仮にレベル5相当の発火能力者が存在しても酸素の消費まで操るような芸当ができるかどうか。
そんな中で思い起こされるのは、やはり魔術という言葉しかなかった。
「私は魔力を練れないからこの力≪知識≫を魔術として扱うことはできないけど、十万三千冊の魔道書を『使える』人間に渡すわけにはいかないんだよ。 この力を全て使えば世界の全てを例外なく捻じ曲げることができる。 私達はそれを魔神と呼んでるの」
世界の全てを捻じ曲げられるという魔神。
普段なら間違いなく一笑に付してるところだが、この常識が通じない炎を見ると上条は笑うことすらできなくなっていた。
非現実≪ファンタジー≫な言葉が、却ってこの現実を確固たるものへと変えていく。
「でもその魔道書にそんな力があるんだったら、どうして教会はお前一人にそんなもんを押し付けるような真似をしてるんだよっ!? いくら完全記憶能力っていうのがあるにしたって、お前に危険が降りかかるのは明らかじゃねえかっ!!」
本当に十万三千冊の魔道書を使って世界の全てを捻じ曲げることが可能ならば、それを抱えるインデックスの価値も計り知れない。
そして価値が高ければ高いほど、それに伴う危険も増していく。
上条は教会というものに詳しいわけではないが、少なくとも一人の少女にこんなものを背負わせるのが正しいとは思えなかった。
現に今も魔術師がこうやって目の前に立ち塞がっているのだ。
それなのにインデックスを守るような教会の人間は存在しない。
「……」
しかしインデックスが上条の問いに答えることはなかった。
ただ先ほどまでの後ろめたそうな様子とは違い、何か戸惑っている感じだ。
「答えたくとも答えられないんだよ、それは。 何せそれには一年以上前の記憶がないんだから」
「は?」
「実は一年前に僕達はそれを捕縛することに成功していてね。 だけど魔道書の知識を抜き出す筈が、どうやら手順を間違ったのか誤って記憶を消してしまってね。 しかし記憶を失ったそれを追い詰めるのにまた一年も掛かるとは。 流石、魔道図書館といったところかな?」
そう言って魔術師は笑っていた。
インデックスはそのことを初めて知ったのか、青褪めた表情で震えている。
何だこれは?
上条は理解が追い付かない。
魔術という得体の知れない力ではなく、このどうしようもない現実とそれを作り出す人間に。
もはや上条の中に未知に対する不安はなく、代わりに別の感情が渦巻いていた。
「何なんだよっ、お前はっ!?」
「魔術師だけど? そして君が相手にしようとしてるのは、自分の目的のためならばどんなことも辞さないイカレタ存在ということは理解したかな?」
それは挑発しているのか、それともこれ以上関わるなと忠告しているのか?
だがそれが何であろうと、上条の答えは既に決まっていた。
しかし一歩前に出た上条の服の裾をインデックスが掴んで引き留める。
「もういい、もういいんだよっ!! 君のような人はもう私達に関わっちゃいけない!! ごめんなさい、本当はすぐに私が出ていかなきゃいけなかったのに……。 だけどこんな話をして」
インデックスの声はどんどん小さくなっていき、しかしインデックスが最後に何と言ったか上条にはハッキリ聞き取れていた。
上条はそんなインデックスの頭にポンと手を置く。
「馬鹿野郎が」
殆ど泣き出しそうなインデックスだったが、それはきっと自分の不遇を悲しんでいるだけではない。
最初から変わらない、殆ど他人である上条を気遣っての思い。
そしてその中にほんの少しだけ混じった少女が自分に向けるもう一つの本音が上条を奮い立たせる。
「十万三千冊の魔道書とか完全記憶能力とか、そんな小さなことはどうでもいいんだよ。 ただ他にはお前にいってやらなきゃ気が済まねえことがたくさんあるから、今は取りあえずあの糞野郎をブッ飛ばすぞ」
インデックスが洩らしたのは上条に嫌われたくなかったという本音。
それは上条を気遣ってばかりだったインデックスからようやく聞けた年相応の少女らしい言葉だった。
そして上条は魔術師に向かって一気に加速する。
しかし一気にスピードを上げた上条を見ても、魔術師の笑みが崩れることはなかった。
以上になります
ステイルが作った炎の壁はキングダムハーツ2序盤のアクセルとロクサスの戦いをイメージしていただければと
赤髪に黒服、そして炎を使う
一見性格も似てないように見えるけど、この二人の根幹にあるものも似てる気がします
完全に関係ありませんがソラもやることが裏目に出て新約の上条さんみたいに悩んでる時期があるんですよね
ちょっと前回から間が空きすぎたので、次は早めに投下したいと思います
ではまた近い内に
乙~
問答無用で殺しにかかるのではなくまず説得とは、このステイルは割と紳士的?
乙
確かに紳士的にも見えるが、それ以上にトチ狂ってるように見えるんだが
何かステイルがただの噛ませにならない気がする
期待
乙、ステイルさん…ここから先は一方通行だ
今すぐ回れ右して元の居場所に引き換えしやがれ(#゚Д゚)
上条「右ストレートでぶっとばす
真っすぐいってぶっとばす」
ダメだ、どう考えてもステイルがあっさりボコられる未来しか見えない。
sageてないレスって絶対>>1の自演だよな
そうか、全部>>1の自演だったのか
屑だな
遅くなりましたが続きを投下します
(とりあえず取り押さえて色々と吐かせねえと)
十万三千冊の魔道書の知識を得るためにインデックスの記憶を消し去ったという魔術師。
あまりに身勝手なその行いに腸わたが煮えくり返りそうな上条だったが、それが本当ならばインデックス本人すら知らない何らかの情報を持っている可能性も高い。
できることならこの状況を把握するために、少しでも情報を手に入れておきたかった。
ただ問題なのは魔術師が持つ力の大きさだ。
不可思議な炎もそうだが、何より目の前の男は学園都市に対して何らかの交渉手段を持っているらしい。
初めはその話もブラフだと考えていたのだが、上条が魔術師と出会ってから既にそれなりの時間が経っている。
常に衛星カメラなど監視の目が行き届いている学園都市で未だ警備員が駆けつけないのを見るに、魔術師が学園都市の許可を得てここにいるというのも本当なのだろう。
一応は日本の一都市という建前を持つ学園都市だが、その実態は独立国家とそう変わらない。
それどころか外に比べて二、三十年は先を行くと言われる科学技術が学園都市を強国と呼ばれる先進国と同等の立場にまで押し上げていた。
そんな学園都市に対して普通の人間なら交渉を持ちかけることすらまずできない。
(それだけコイツのバックにあるものが大きいってことか?)
確かに魔術師が使う力は得体の知れないものだったが、個人の力で学園都市と話をつけることが可能とは考えにくい。
それに魔術師は言っていた、上条達がこちら側にやって来るとは思わなかったと。
その言葉から推察するに魔術師は別のルートへと誘導するために分かりやすい罠を張ったのだが、予想に反して上条とインデックスはここへ来てしまった。
だとすれば魔術師が誘導したかった場所に、最低でももう一人何者かが待ち構えていることになる。
確証があるわけではないが、この魔術師の背後には何らかの大きな組織が存在すると上条は睨んでいた。
そして相手が組織的にインデックスを狙っているのだとしたら、それこそ上条一人の力ではインデックスを守るのにも限界がある。
しかしこれからどうするにせよ、今はこの場を切り抜けるのが先決だった。
(ここだっ!!)
右手に意識を集中し力を解放した上条のスピードは人間の限界を優に超える。
やはり力の使い方のコツを掴んできているのか、力をセーブした状態ではあるものの身体に異変は感じられない。
魔術師は上条の動きを追えていないのか、反応する素振りすらまるでなかった。
回り込むようにして魔術師の背後に立った上条は、その無防備な背中へと躍りかかるが……。
「くっ!?」
魔術師まで残り数歩という距離まで迫った上条だったが、突如襲い掛かった悪寒にバックステップを踏んで距離を取る。
そして一瞬の間もなく上条がいた場所で、轟っという唸りと共に凄まじい炎柱が吹き上がった。
まるでカウンターを狙っていたかのようなタイミング。
直感に従わずにそのまま進んでいたら消し炭になっていたのは間違いない。
肌を焦がす熱気に怯みながらも、このまま立ち止まっているのは拙いと上条は再び移動を開始。
先ほどより力のギアを上げた上条のスピードは、まさに目に止まらぬものとなっている。
だが恐らく殆ど視覚できていないであろう上条の動きを前にしても魔術師の余裕は崩れなかった。
「無駄だよ」
今の上条のスピードをもってしても魔術師に近づくことすら叶わない。
知覚してから反応するのでは到底間に合わない絶妙なタイミングで、どこから攻めようと幾重にも噴き出す炎の柱が上条の行く手を阻んでいた。
「これは神裂の動きにも対応できるよう設定してある。 尤もいくら対応できたところで、『聖人』が相手じゃこんな炎は足止めにもならないけどね」
魔術師の言葉に上条は顔を歪める。
まさか今になって『聖人』という言葉を一日に何度も聞くことになるとは思わなかった。
過去の出来事とは全て折り合いをつけた気でいたのだが、その言葉を聞いただけで正体不明の怒りが上条の中に込み上げてくる。
しかし今すべきことはインデックスと共にこの場を切り抜けることで、そんなことで集中を欠いても仕方ない。
『聖人』という言葉を頭の片隅に追いやると、未だ余裕の表情が崩れない魔術師に正面から対峙した。
「それにしてもこの程度の力であんな啖呵を切ったのかい? こちらからはまだ攻撃すら仕掛けてないんだが」
悔しいが魔術師の言う通り、上条の不利は否めない。
現状で上条に魔術師が操る炎を破る術はなく、それは魔術師を倒すどころか、炎の壁で囲われたこの場から逃げ出すことができないことも意味していた。
(くそっ、魔術ってやつに『幻想殺し』が通用しさえすればっ)
どんな異能の力も問答無用で打ち消す『幻想殺し』
それは学園都市における最上級の能力者レベル5の力であろうと例外はない。
しかしどんな異能の力と言っても、上条はこれまで学園都市で開発された超能力以外に異能の力を目にしたことがなかった。
つまり魔術という得体の知れない力に試したことなどなく、本当に通用するかどうか確信が持てない。
もし効かなかった場合に辿る末路を想像するのは難しくないだろう。
何の確証もないままあの凄まじい炎に触れるのはあまりにもリスクが大き過ぎる。
「さて、僕もあんまりのんびりしてる暇はないんでね。 ――Fortis931」
理解できない単語と数字の羅列。
それを口にした瞬間、魔術師の放つ空気が変わった。
「魔法名だよ、聞き慣れないかな? 僕には理解できないけど、魔術師には魔術を使う際に真名を名乗ってはいけないという古い因習があるのさ。 Fortis――日本語では強者と言った所だが、語源はどうでもいい。 重要なのはここで僕がこの名を名乗ったことでね。 僕達の間では魔術を使うためというよりも、寧ろ――殺し名というのが専らだ!!」
殺気だ。
先ほどまで上条を相手にしていたのも、魔術師にとって遊びと変わらなかったのだろう。
しかし今向けられているのは肌を凍らせるような明確な敵意。
魔術師は咥えていた煙草を手に取ると、指で弾いて横合いへと投げ捨てる。
すると妙にスローモーションに見えた煙草の後を追って、まるで残像のようにオレンジ色の軌跡が宙へと描かれた。
「炎よ――」
そして魔術師が呟いた瞬間、オレンジ色の軌跡が爆発した。
魔術師の手に現れたのは一直線に伸びた炎の剣。
剣先が触れた道が焦げるのではなく溶けていることからも、炎剣の持つ凄まじい熱が窺える。
「dedicatus545――周囲へ拡散せよ」
しかし上条が炎剣の威力を目にすることはなかった。
突如割り込むようにして響いたインデックスの声。
その瞬間、魔術師の手にあった炎剣は弾け飛ぶようにして爆散する。
そしてその使い手である筈の魔術師を凄まじい炎が包み込んだ。
「私のことをしっかりと調べている割に、そんな魔術を使うなんて迂闊なんじゃないかな? そこまで直接的な指令を必要とする魔術だったら、強制詠唱も十分に役に立つんだよ」
ちょうど魔術師を挟んで上条の反対側にいるインデックスがそう言い放つ。
それは上条がインデックスに抱いていた印象とは大分異なる、何処か傲慢さすら感じさせる口調だった。
「あなたが使用してるのはルーンを使用した北欧系術式のアレンジだね。 普通だったらこの規模の術式は十年単位の仕込みがないと難しい筈だけど、それでも術式の仕組みさえ分かっちゃえば対処は難しくないんだよ」
言ってる内容は全く理解できないが、恐らくそれは魔術師に対する称賛ともとれる言葉。
しかしその魔術師の力をインデックスは一瞬で無へと帰す。
それが十万三千冊の魔道書を抱える魔道図書館としての力なのだろうか?
上条は今になってようやくインデックスが本当に別世界の人間だということを認識した。
そしてそれと同時に今起こった現実にようやく理解が追い付く。
「いくらなんでもやりすぎだろっ!!」
直接攻撃されたという訳ではないものの、確かに魔術師の使っていた力は簡単に人を殺せるものだった。
それにインデックスには記憶を消されたという許しがたい恨みもある。
そういう意味でこの結末は自業自得と呼べるものなのかもしれないが、炎に焼かれる人間を目の前にそんな一言で簡単に納得できる筈などなかった。
こうなってしまっては無駄だと理解しつつも、上条は万が一の可能性に賭けて炎に包まれる魔術師の下に駆け寄るが……。
「駄目っ!!」
インデックスの制止する声と同時に、上条の耳には別の人間の声が入ってくる。
「――その名は炎、その役は剣 顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ」
魔術師を包み込む炎を大きく膨らんだかと思った瞬間、『それ』は上条達の前に出現する。
魔術師が扱う炎は元より上条の常識が通じないものだったが、その非常識を覆すほど『それ』は異質なものだった。
それはただの炎の塊ではない。
真紅に燃え盛る炎の中で、重油のような黒くドロドロしたものが芯になっている。
その姿はまさに炎の巨人。
2mを超す人の姿を模した炎が圧倒的な存在感を持って顕現した。
「危ねえっ!!」
そしてその巨人が狙ったのは上条ではなかった。
今も魔術師を燃やす炎を挟んだ向かい側で、炎の巨人がインデックスへと襲い掛かった。
上条は咄嗟に右手へ意識を集中すると再び力を解放。
二つの炎を跳び越えるように大きく跳躍すると、今まさに燃え盛る巨人の手が掴み取ろうとしていたインデックスを攫い出す。
「流石は禁書目録といったところか、ただ事態を傍観してるだけではなかったようだね。 迂闊だったよ、時間が押してるから事を急いてしまった。 でもこの『魔女狩りの王』はそう易々と制御を奪わせたりはしない。 これで君達も完全に終わりだ」
上条がインデックスを抱えたまま可能な限り二つの炎から距離を取ると、魔術師を包み込んでいた方の炎が急速に萎んでいく。
その中から再び姿を現した魔術師の表情は先ほどと変わらぬままだった。
神父服の所々は焼け焦げ、顔にも火傷の痕が見られるが、特に魔術師に動じた様子はない。
「テメェ、何でインデックスまで殺そうとしやがった?」
そして上条は魔術師の行動に違和感を感じる。
今も魔術師の後ろで佇む炎の巨人。
そのマグマのような手に捕まれば、人間など唯では済まない筈だ。
魔術師はインデックスの頭の中にある十万三千冊の魔道書を狙っているというのに、インデックス自身を殺してしまっては元も子もない。
「いや、僕も最初はできることなら紳士的に済ませたかったんだよ。 でも無理に生かしておかなくても、脳から情報を抜き出すくらいは可能だからね。 まあ、損傷の度合いには気を付けなくちゃいけないけど」
その言葉に上条の背中は凍りついた。
魔術師は十万三千冊の魔道書を手に入れることだけを目的とし、インデックスという少女に対する情のようなものは何一つ存在しない。
そもそもこの魔術師に人間らしい感情など存在するのだろうか?
目の前に立つ存在が人の姿をしていることが、却って上条の悪寒を駆り立てる。
しかしこんな状況であるにも拘らず、隣に立つインデックスにもまるで動揺した様子が見られなかった。
記憶を奪われた挙句に、こうやって命まで狙われて。
きっとここまで気丈に振る舞っていられるのは、これまでも上条には想像がつかにような修羅場を潜り抜けてきているからだろう。
「しかし本来ならこんな無粋な真似はできなかった筈なんだけどね。 まったく何の因果で『歩く教会』が砕けるような羽目になったのか。 まさかこの街に聖ジョージのドラゴンが再来したなんて冗談はあるまいに」
そう言って溜息を吐く魔術師に対して、上条は聞き覚えのある話に眉を顰める。
確か『歩く教会』というのはインデックスが着ている修道服のことだ。
あの時はまだインデックスと会話すらまともにできておらず、インデックスが一人でブツブツ呟いていただけだったので気にも留めていなかった。
「なあ、インデックス? もしかしてその『歩く教会』にも魔術が使われてたりするのか?」
「最初にちゃんと説明したんだよ? これはトリノ聖骸布といってロンギヌスの槍に貫かれた……」
「詳しい話は後でいい!! とにかく魔術が使われてるってことで良いんだよな?」
「う、うん」
もしインデックスや魔術師の言葉通り本当に『歩く教会』にとてつもなく強固な防御性能があり、本来なら壊れる筈がないものだったとしたら?
そして『歩く教会』を縫っている糸という糸が解けてバラバラになる前に上条がしたことはなんだったか?
「ははははははっ」
もう自分にできることは何もないかもしれないと思っていた。
完全に別世界の諍いに対して、自分の存在は無力でしかないと。
しかし実際はこの状況を簡単にひっくり返すだけの力を上条は右手に秘めていた。
突然笑い出した上条に魔術師だけでなく、インデックスも驚いた表情を浮かべる。
「どうした、ついに気が狂ったのかい? それを引き渡しさえすれば、今ならまだ……」
「ふざけんな、どうしてテメェみたいな奴にインデックスを渡さなくちゃならねえんだよ?」
「何っ?」
「何てことはない、状況を打開するための切り札は最初からここにあったんじゃねえかっ!!」
そう吠えた上条はグッと自らの右手を握りしめた。
もちろん魔術という未知の力に対して、殆どぶっつけ本番で当たっていかなければならないという恐怖はある。
しかしそれ以上に自分が無力なせいで誰かが傷つくのを見るのはもうご免だった。
「テメェが自分のためなら何をしても構わないっていうなら、まずはその身勝手な幻想をぶち殺すっ!!」
上条は正面から魔術師に向かって走り出す。
もう後ろから取り押さえるようなまどろっこしい真似をするつもりはない。
まずは一発殴ってやらなければ気が済まなかった。
正面から見据える魔術師は自殺行為だと言わんばかりに呆れた表情を浮かべている。
インデックスが後ろから何か叫んだのが聞こえると同時に、上条の目の前には今まで何度も行く手を阻んだ炎の壁が出現した。
だがこれまでと違い上条の足は止まることなく、そのまま炎へと突っ込んでいく。
右手を前に突き出して。
そして上条の右手が炎の壁に触れた瞬間、今まで何度も打ち消してきた異能の力と同様に炎は完全に打ち消された。
「なっ!?」
そこでようやく魔術師の表情が変わる。
まるで信じられないものを見たかのような驚きの表情。
上条のすぐ後ろで炎が再び出現し背中に凄まじい熱を感じるが、上条は立ち止まらない。
「ウオオオォォォっ!!」
だが魔術師の顔面に上条の右拳が突き刺さる直前、急に上条は訝しげな表情を浮かべる。
殴り飛ばされる直前であるにも拘らず、魔術師が笑ったのだ。
魔術師が笑うと同時に口にした言葉も上条はハッキリと聞き取っていた。
しかしだからといって上条が止まるわけにはいかない。
上条が振り抜いた右拳は魔術師の顔面をしっかりと捉え、その勢いのまま魔術師の身体は大きく吹き飛ばされる。
そして魔術師が地面に転がると同時に、炎でできた巨人も壁も一瞬で消え去った。
「ハァ、ハァ」
完全に意識を失っている魔術師を見下ろしながら上条は荒い息を吐く。
力を解放していたわけではないので大事には至ってない筈だ。
体力的というよりも精神的疲労に見舞われる戦いだった。
そして魔術師が最後に残した言葉が上条に妙な違和感を残している。
「そうだ、インデックス。 だいじょう……」
嫌な感覚が残ったままだが、魔術師の意識がない今はどうすることもできない。
上条はインデックスの安否を確認しようとするが、振り返ろうとした瞬間に上条の頭部を激痛が襲った。
「痛゛て゛え゛え゛ぇ゛ぇ゛!?」
どうやらインデックスに頭部を思い切り噛みつかれているらしい。
大胆というか、とんでもない暴挙というか、何と言えばいいか分からない状況に上条は戸惑いを隠せなかった。
「い、いきなりどうしたんでせうか?」
「何であんな無茶したの? 魔術に関して素人の君が一人で突っ走って、普通だったらどうなってたか分からないんだよっ!? もし君に何かあったら……」
どうやら心配してくれていたようだ。
確かにインデックスの言うことは尤もな気もするが、あの状況で自分には『幻想殺し』という力があることを説明するのも間抜けな気がする。
しかし普段から年下の女の子を相手にすることが多いせいか、直感で下手なことを言うと碌な目に遭わないことを上条は悟っていた。
「悪かったな、心配かけて」
「後で詳しい話を聞かせて欲しいかも。 それよりこれからどうするの?」
少しは落ち着いてくれたのか、上条の背中から下りたインデックスの視線の先には倒れたままの魔術師がいる。
先ほどの違和感も含めて魔術師に聞かなければならないことはたくさんあった。
しかしまだ仲間がいる可能性を考えると、他にもたくさん人が住む寮に連れ帰るのは躊躇われる。
体勢を整えるために魔術師から身を隠すにしても、寮以外の場所が望ましい。
「……久しぶりにあそこに行ってみるか」
上条の中で一つの妙案が浮かび上がり、ひとまず魔術師を連れてこの場を後にすることを決める。
そして魔術師に手を伸ばした瞬間、上条の背中に嫌な汗が伝った。
「彼を渡してもらえますか?」
後ろから聞こえてきたのは女の声だった。
今の今まで気配など全く感じなかったのに。
コツコツと上条の横を何者かが通り過ぎていく足音が響き渡る。
そして倒れている魔術師を挟んで上条の正面に声の主が立った。
腰まで届く長い黒髪をポニーテールに纏め、腰には2mを超す長さの日本刀が鞘に収まっている。
身長は上条よりも高い長身だが、一目で日本人だということは分かった。
美人としか言い表しようがない美貌の持ち主だが、彼女を日本美人と呼ぶのは少し抵抗があるだろう。
着古したジーンズに白い半袖のTシャツ。
そのどちらもが妙にアレンジされており、ジーンズは左脚の方だけ太ももの根本からバッサリ切られ、Tシャツは脇腹の部分で余計な布地を縛ってヘソが丸見えになっている。
膝まであるブーツや日本刀が差されている革のベルトを見ると、西部劇のガンマンに見えなくもなかった。
「今日のところは退きます。 しかしいずれ彼女のことを必ず渡してもらうことだけは、お忘れなきよう」
有無を言わさぬ言葉だった。
上条が動けずにいる前で、女は魔術師を連れて姿を消してしまう。
あまりに一瞬の出来事に空間移動に似た力を使ったのではないかと思ったが、消える際の轟音と何か凄まじい力によって破壊された道がそれを否定していた。
「だ、大丈夫?」
「あ、ああ」
恐らくあの女は力まかせに地面を蹴って生み出された推進力により一瞬でこの場から立ち去ったのだろう。
力を解放することによって人間を遥かに超える身体能力を得ることが可能な上条だからこそ一つハッキリしたことがある。
勝てない。
魔術といった異能の力など関係なしに、もしあの女と正面から敵対することになったら今の上条では絶対にインデックスを守りきることは不可能だ。
「多分、今の女の人は『聖人』だと思う」
「あの女が『聖人』?」
「さっきは聞いてもらえなかったけど『聖人』っていうのはね、生まれながらにして神の子に似た身体的特徴と魔術的記号を持ってるんだよ。 だから偶像の理論によって莫大な天使の力が……」
その後もインデックスは丁寧に『聖人』について説明してくれたが、結局話の半分程度しか上条に理解することはできなかった。
ただ一つだけハッキリしたのは上条が過去に受けた人体実験はあの女のような人間を目指して行われたということだ。
そしてインデックスとの出会いを皮切りに、過去の因縁も含めて自分の何かが動き始めたことを上条は無意識の内に悟っていた。
以上になります
私事になりますがpixivでまとめを掲載していたのをarcadiaに移動しました
もしまとめて読みたいという方がいらっしゃったら、そちらで読むのもいいかもしれません
更に宣伝ですがそちらに禁書と他作品のクロスオーバーの投稿も始めました
まだほんの少ししか書いてないのであれですが、暇があったら覗いてやってください
こりゃエタるな、間違いない
乙
乙ですー
そちらも見に行きます
乙
上条さんはステイルをどこに連れて行こうとしたんだろう?
この上条さんは小萌先生とか無関係な人間は巻き込まなそう
インデックスも怪我してないし
しかし予告を見ると美琴も蚊帳の外っぽいしな
はて、どこに行くのか
ようやく生活が元のペースに戻って、書くペースも何とかなりそうです
明日の昼頃に投下します
了解しました
いつも感想ありがとうございます
続きを投下します
今から五年ほど前になるだろうか?
まだ小学生だった上条には仲の良い友達がいた。
いや、本当に友達と言っていいのかは分からない。
何せ上条はその友達が何処の学校に通ってるかどころか、彼の名前すら知らなかったのだから。
彼自身のことについて聞こうとしても、何処かニヒリズムを感じさせる笑みが返ってくるだけ。
今にして思えばちゃんと話を聞いておけば良かったと思うのだが、良くも悪くも友達になるのに理由など必要ない年頃だった。
同い年の筈なのに、ずっと大人びて見えた少し気障な少年。
そんな彼と上条には二人だけの秘密としていた秘密基地があった。
素っ気ない書置きと共に少年が姿を消した今も、上条は少年との再会を期待して秘密基地の鍵を持ち続けている。
「しかし良く考えると餓鬼の時からこんな場所を持ってたなんて、やっぱり高位能力者だったのかな?」
そして上条はその『秘密基地』をインデックスと共に訪れていた。
再開発に失敗し古臭い街並みが続く第一九学区に佇む一つの廃ビル。
その三階の目立たない一角に、古めかしく偽装されているが厳重なセキュリティが施された部屋が存在する。
そこが上条が友達と遊び場にしていた『秘密基地』だった。
「うわぁ、君の部屋よりずっと広いかも!」
「余計なお世話だっ!!」
久しぶりに入った秘密基地は部屋というよりは、一つの空間となっていた。
玄関のようなものは存在せず、広い空間にはいくつかの家具がまばらに置かれている。
インデックスの言葉に地味に傷つく上条だったが、確かに上条の暮らす部屋とは比べ物にならないほど広いだろう。
最後に訪れたのが今年の初めだから、およそ半年ぶりか。
以前と比べてここに来る間隔が長くなっていることに上条は少し寂寥感を覚える。
(でもアイツも時々ここに来てるみたいなんだよな)
テーブルの上を指で拭うと、そこには埃が溜まっていた。
だが半年間ほったらかしにされていた程ではない。
上条がここに来ると必ずしているように、他の誰かもこの場所を掃除しているのだ。
それが誰かまでは分からないが、上条の脳裏には自然とあの少年の姿が浮かび上がった。
あの少年と別れ別れになった後も、上条だって何もしてこなかった訳じゃない。
秘密基地に来る度に連絡先は置いて行ったし、少年が姿を見せるのを張り込みして待っていたこともある。
しかし結局最後に別れた時以来、上条が少年の姿を見ることはなかった。
「ねぇ、どうしたの?」
しばし物思いに耽っていた上条だったが、インデックスに声を掛けられ我へと返った。
色々と気に掛かることも多かったが、今は何よりも優先すべきことがある。
取りあえずの隠れ場所としてここを選んだものの、状況は何も進展していなかった。
あの魔術師の言う通りなら学園都市にイギリス清教の教会は存在せず、学園都市に保護を求めることもできない。
そうなると残された道はインデックスを学園都市の外に連れ出すことだが、その具体的な方法が何も思いつかなかった。
学園都市の外でイギリスに渡る手段を探すか、それとも第二三学区から直接イギリスに飛ぶか?
しかし現実的に考えてそのどちらも難しいだろう。
外で頼れる人間といえば両親くらいだが、魔術師なんて得体の知れない連中との争いに巻き込むなんて当然できない。
かといって警備の厳重な学園都市で、何の準備もなく海外に渡るのも不可能だ。
悔しいがあの魔術師の言う通り、上条達は殆ど詰んだ状態だった。
「あの……」
「どうかしたか?」
「君にはちゃんと全部話しておこうと思って」
インデックスの顔を見ると、何処か辛そうな表情をしていた。
話というのは恐らく魔術師が言っていたことだろう。
十万三千冊の魔道書とか魔道図書館とか。
だが魔術師の話で大まかな状況は大体把握できていたので、辛そうな顔をさせてまでインデックスから話を聞こうとは思わなかった。
「別に無理しなくていいんだぞ」
「ううん、君には私の口から話しておきたいの」
「そっか」
インデックス自身が決めたことなら、上条も止めることはできない。
上条が頷いたのを確認すると、インデックスは静かに語り始める。
政治と宗教が混ざったことにより各国の交流が途絶え、それにより元々は同じ宗教も各国独自の進化を遂げていったこと。
その中でイギリスは魔女狩りや異端狩り、宗教裁判など対魔術師用の文化・技術が発達しているということ。
インデックスが所属している『必要悪の教会』という組織がその専門部署であること。
そしてインデックスが抱える十万三千冊の魔道書が敵対する魔術師への備えとして最たるものであるということ。
「ごめんね。 本当は最初に君が助けるって言ってくれた時に全部話しておかなくちゃいけなかったんだけど……」
「それに関しては、いきなりこんな話を聞かされても信じられなかっただろうしな。 今は実際に魔術ってもんを見てるから、こうやって冷静に話を聞けてるんだろうし」
「ううん、それだけじゃないの」
「ん?」
「魔術を知らない人にこんな話をしても、信じてもらえないことは分かってるんだよ。 でも君は大して事情も知らないのに、見ず知らずの私を助けるって言ってくれた。 だから君にその……嫌われたくなくて」
その言葉は魔術師と対峙した時にも聞いていた。
一年前に記憶を失ってから、ずっと一人で魔術師から逃げ続けてきたというインデックス。
決して自惚れではなく、自分はその中でようやく見つけた頼りにできる人間なのだろう。
実はインデックスと出会ってから、上条はまだ一度も助けてと言われたことがない。
「一緒に地獄の底までついてきてくれる?」というもの助けを求めたものではなく、寧ろ上条を巻き込まないよう気遣ってのものだった。
だから不謹慎ではあるが他人を気遣ってばかりだったインデックスがこうやって素直に感情を吐き出してくれるのは上条としても少し嬉しい。
「見くびんなよ、その程度のことで気持ち悪いとかそんなこと思う訳ねえだろうが?」
「……ありがとう」
そう言ってインデックスは微笑む。
最初に食事をした時以外で初めて見せた心からの笑顔だった。
「それとね、私も君に一つ聞きたいことがあるんだけど?」
「俺に?」
「私、君の名前を聞いてない」
「あれー、そうだっけ?」
そういえばインデックスと出会ってから色々なことが急に起こりすぎて、確かに名乗った記憶がない。
「えっと、上条当麻だ。 改めてよろしくな、インデックス!」
「うん!! よろしくね、とうま!」
再び笑顔を見せたインデックスだったが、上条としては何か気恥ずかしい。
海外では普通のことなのかもしれないが、下の名前をそれも呼び捨てで呼ばれるのは妙にむず痒かった。
だがそんな女の子とのやり取りにドギマギする上条の幻想をインデックスの次の言葉がぶち殺す。
「うーん、胸の閊えが消えたら何だかお腹が減ってきたかも」
「……腹ぺこキャラは素なんだな」
普段あまり会わない親戚の女の子を相手にしているような気分に陥る上条。
しかし食事の件も含めて、これからどうするか真剣に考えなくてはならない。
ここに籠城したままというわけにもいかないし、何とかしてインデックスをイギリスまで送り届けなければ。
だがいくら考えても良い方法は思い浮かばず、何故か代わりに浮かんできたのは魔術師が殴られる直前に発した言葉だった。
『そういうことだったのか』
何か納得したのか、魔術師は満足そうに笑っていた。
しかしあの状況で納得するようなことがあるのか、上条にはさっぱり分からない。
あの魔術師が何かまだ隠しているような気がして、どうにも落ち着かない気分になる。
もう一度対峙するようなことがあれば、今度こそ魔術師が知っている情報を聞き出さなければならない。
だがその時は『聖人』だというあの女とも戦う可能性がある。
少し見ただけにも拘らず、あの女に勝てないことを上条は直感的に悟っていた。
そして『聖人』という少なからず因縁のある相手に、上条は右手の傷跡に感じる妙な疼きを抑えきれずにいるのだった。
「……上条当麻ですか」
神裂火織という名の女魔術師は学園都市側から渡された情報を手に呟いた。
しかしそこから分かるのは自分達に立ち向かってきた少年の名前だけで、彼がどんな力を持っているかまでは分からない。
もちろん大まかに世界を二分すれば神裂達と学園都市は決して相容れない存在なのだから、正確な情報が渡されないのは当たり前だ。
ただ超能力者量産機関と呼ぶべき側面を持つこの街で、あの少年が無能力者≪レベル0≫に分類されているのは腑に落ちない。
同僚のステイルが扱う魔術を打ち消した謎の力。
確かにこれを自分達に対して公にできないのは理解できる。
下手をすれば学園都市を頭とする科学サイド、そして自分達が所属する魔術サイドにおける火種になりかねない。
そしてあの力が今回の件について欠かすことのできない重要なキーとなるのは間違いなかった。
だがそれとは別に少年が見せた凄まじい身体能力。
炎の中で行われたステイルと少年の攻防の一部始終を、神裂は外から『視』ていた。
『聖人』と呼ばれる普通の人間を遥かに超えた存在である神裂から見ても、あの少年の力は人間の限界を大きく超えている。
魔術師である神裂に超能力者のランク付けの仕様は理解できないが、あれだけ目に見える形で力を持った少年がレベル0とされることがあるだろうか?
そんな中、神裂の頭に浮かんだのは一つの忌々しい過去だった。
「もしや彼はあの時の――」
神裂が忘れられない、いや決して忘れてはならない過去。
もしあの少年があの時の生き残りだとしたら?
そんなことはありえない筈なのに、偶然で片付けるには奇妙な一致が多すぎる。
そして仮にこの推測が事実で、あの力もその時に得たものだった場合……。
すみません
読みづらいかもしれませんが上のレスは数行空いて場面転換したって感じで
「ステイル、もう大丈夫なのですか?」
同僚の魔術師が近づいてきた気配に、神裂は脳裏に浮かんでいた過去のできごとを頭から振り払う。
確かに目を逸らすことはできない問題だが、今は彼女を救うためにも余計なことに気を取られている暇はない。
目の前の解決すべき問題に再び向き直った神裂の隣に、ステイル=マグヌスは煙草を咥えたまま並んだ。
「ああ、もう問題ない」
「また貴方は未成年なのに煙草を吸って」
「もしニコチンとタールがなかったら、この世界は地獄と変わらないさ」
そう言うとステイルは火の切れた煙草を投げ捨て、新しい煙草に火をつける。
思えばここにもう一人加えた三人で行動を共にしていた頃から、ステイルは既に煙草を吸っていた。
そしてそれをいつも彼女に怒られて……。
「そんなこと言ってると、またあの子に怒られますよ?」
「それなら心配いらないかな? これから先、僕があれと必要以上に関わることはないだろうから」
「っ!?」
ステイルの返事に神裂は言葉を詰まらせる。
彼女を救う手立てが見つかった今、もしかしたらステイルの考えが変わるかもしれないと神裂は淡い期待を持っていた。
「……貴方は本当にそれで構わないのですか?」
「何を言っている? 僕がここまで動いてきたのは、あくまであれに対する義理を果たすためだけだ」
「しかし、あの子との約束はっ!?」
「彼女の願いに返事をしたのは君だけだろ? それにあれが僕らの知る彼女といくら似ていようと、彼女はもういない。 これが自分の無力が招いた結果なら、甘んじて僕はそれを受け止める」
ステイルの決意と覚悟がどれほどのものか分かっていた筈なのに……。
ニコチンとタールがない世界は地獄と変わらないとステイルはふざけた口調で言っていたが、今のこの世界だって地獄と殆ど変らない。
まだ十四歳の少年にこれだけのものを背負わせて、本当に世界は歪んでいる。
いくら強大な力を持っていようと、大層な魔法名を名乗ろうと、自分の無力さを神裂は痛感していた。
自分にできることはせいぜい現状に抗うくらいで、世界を変えることなど決してできない。
「それにしても今回ばかりはあの男に感謝しなければならないね。 あれを暫く放っておけと言われた時は何を言っているか理解できなかったが、確かにあのナイトは僕達が目的を達するためには打ってつけの人材だ」
「そうですね」
「……あとは君の決断しだいだ」
「え?」
「僕は自分の目的のために無関係な人間をいくら巻き込もうと構わない。 だが君はそんな簡単に納得できないだろ?」
「……」
「本気で反対されたら、残念だが僕に君を屈服させるだけの力はないからね。 それにいざという時に判断が鈍るようなことがあっても困る。 だから最終的な判断は君に任せるが、あまり悠長にしてる時間はないぞ」
「……分かっています」
用件は済んだのか、ステイルはそのまま踵を返して姿を消してしまう。
恐らく来るべき時に備えて、最後の仕上げに掛かっているのだろう。
ステイルはああ言っていたが、神裂だって今更この方法に異を唱えるつもりなどなかった。
例えあの少年と出会わなくとも、関係ない人間を巻き込んでいた可能性は高いのだから。
そしてそれはステイルの言う通り、全て自分達が無力なのが原因だ。
「あとは私自身がどう決着をつけるかですね」
そんなことをする自覚が自分にないことは神裂も分かっている。
しかし今の心境のままでは、確かに致命的な失敗を犯す可能性も捨てきれなかった。
結局は自分自身を納得させるだけの拠り所が必要なのだ。
無力な上に卑怯者だと自分を侮蔑しながらも、前へと進むために神裂も動き始めるのだった。
以上になります
続きもできれば近い内に
乙です
過去話が気になるー
乙でした。
上条さんの友達って誰だろう・・・
乙です
>>867
> そんなことをする自覚が自分にないことは神裂も分かっている。
「資格」を「自覚」と書き間違えたんですよね?
ありゃ、本当に間違ってる
ご指摘ありがとうございます
仰る通り、自覚→資格の間違いです
この状況になっても頼れる妹分に相談もしなければ助太刀も求めないということに
ちょっと違和感を感じるんだが。
もっとはっきり言うと、みこっちゃんの出番プリーズ。
それより上条ちゃんはどうして先生のところに来ないんですかー?
そんなに先生は頼りがいがありませんかー?
御坂はともかく小萌先生はインデックスが怪我してないし、他に隠れ家もあるから頼る理由がないしな
ただ補習をサボってるから、何か連絡はありそう
それと魔術を知っとかないと姫神が…
すみません、冗談抜きで忙しい
20日までにある程度まとまった量を投下したいと思います
乙
待ってる
舞ってる
待ってる
待ってるぜ
お久しぶりです、投下します
『……それで上条ちゃんは体調を崩して一日寝込んでたと?』
「はい」
何処か怪しむような声音を含む言葉に、上条は内心ビクビクしながら答える。
電話の先にいるのは上条が在籍する一年七組の担任である月詠小萌。
本来なら今日は補習が入っていたのだが、魔術師との戦闘などにより小萌先生からの電話に今まで気付いてなかったのだ。
これは何の連絡もなしにサボりをかました上条への、云わばお説教《ラブコール》のようなものだろう。
『その割には随分と元気のいい声に聞こえるのですけどね?』
「そ、そんなことないですよ。 ゴホッゴホッ!」
上条はそう言って咳き込む真似をするが、電話越しにも拘らず小萌先生の冷たい視線を感じる。
どうやら苦しまぎれの演技も全く通じなかったらしい。
『もしかして何かあったのですか? 困ってることがあるなら、先生でよければ相談に乗りますよ』
「いや、本当に何か問題があったとかいうわけじゃなくて……」
『上条ちゃん』
しかし上条の言葉は小萌先生によって遮られる。
特に声も荒げていない、普段と変わらぬ穏やかな口調。
だが子供のような声にしか聞こえない筈なのに、そこには有無を言わさぬ強制力が働いていた。
『詳しいことは機密情報とかで聞けてませんが、この間の上条ちゃんの大怪我も誰かのために負ったものだということは先生も知ってるのですよ。 そして期末テストの結果を見れば、その時に何か上条ちゃんの人生観を変えるようなことがあったのも想像がつきます。 もちろん怪我をしたことは別ですが、上条ちゃんが真面目に勉強に取り組んでくれるようになったのは先生としても嬉しいです。 でもだからと言って、やっぱり生徒さんが自ら危険に首を突っ込もうとしてるのを黙って見逃すわけにはいきません。 今まで上条ちゃんを引き留められなかった先生が教師として力不足なのは否定できませんけど』
「そ、そんなことないですよ! 先生には世話になりっぱなしで、俺もすごく感謝してます!」
『ふふっ、そう言ってもらえば先生も冥利に尽きます。 親代わりと言っては恩着せがましいかもしれませんが、先生にとっても上条ちゃんは大切な存在なのですよ?』
本当に小萌先生には頭が上がらない。
まるで教師の模範解答のようにも聞こえるが、それが決して口先だけでないことを上条は良く知っている。
例えそれがどんなに馬鹿げた絵空事のように聞こえようと、小萌先生に相談すれば絶対に力になってくれるだろう。
しかしだからこそ不用意に全てを話すわけにはいかなかった。
一回巻き込んでしまうと、その後もずるずると深みまで引きずり込んでしまう気がする。
「あの、本当に今は大丈夫です。 ただ近い内に先生に相談することがあるかも……」
上条が今一番必要としているのはインデックスをイギリスまで送り届ける手段だった。
魔術師について気になる点はいくつかあるものの、何よりも優先しなければならないのはインデックスの安全だ。
上条一人では何も方法が思いつかないものの、小萌先生だったら何とかできるかもしれない。
だが魔術師達が学園都市の許可を得て滞在している以上、敵対した上条の情報が相手側に伝わっている可能性がある。
いくら何でも知り合いというだけで人質に取られるようなことはないと信じたいが、協力者となれば巻き込んでしまう可能性も高くなるだろう。
力になってもらうにしても、まずは安全を確保しなければならなかった。
『……分かりました、何かあったらすぐに先生に相談してください』
「はい」
『大体いつも上条ちゃんは女の子のためとなると無茶ばっかりして。 今からこれでは上条ちゃんの将来が心配です』
「ちょっと、待てい! 何で俺が女の子のために何かしてるって前提で話が進んでるんだよっ!?」
『違うのですか?』
「えっ? いや、それはその……」
電話先から大きな溜息が聞こえる。
担任の先生からいつも女の子のためだけに行動してるように思われるのは流石に心外だ。
……冷静に思い返すと、確かに事件などに巻き込まれる時は何かしら女の子が関わっていることが多いのは否定できない気もするが。
しかし立つのは駄フラグばかりと決まっているので、別にやましい思いがあるわけではない。
『とりあえず補習を休んでいる間は朝昼晩、先生の電話に連絡をくださいね』
「補習を休む連絡だけならまだしも、何故に三回も電話しなきゃいけないんですか?」
『上条ちゃんの無理してないという言葉を鵜呑みにするほど、先生はお馬鹿さんじゃないのです! 上条ちゃんを信用してないわけじゃありませんが、本当に具合が悪いにしろ生徒さんの状態を把握しておくのが先生の義務なんですよ。 今日みたいに連絡がないまま休まれたりしたら、先生も心配しちゃいますからね?』
何処まで小萌先生が勘付いているか分からないが、恐らく上条が無事であることをこまめに確認するためだろう。
このように約束しておけば、連絡がなかった時は上条に何かあったことを小萌先生はすぐに察知することができる。
まだ事態がどのように動くか分からないため、上条としてはあまり都合が良くない要求だ。
ただ下手に断るのは不自然だし、何より小萌先生に余計な心配を掛けたくないという思いもあった。
「……分かりました」
『とにかく上条ちゃんは先生に早く元気な姿を見せること、以上です!』
「はい」
上条はその場で頭を下げると、最後に小萌先生の番号をメモして電話を切る。
最初は色々と聞かれて緊張していた筈なのに、何故か今はホッと心が安らいでいた。
こちらの身を心配してくれつつも、決して全てを抑圧するようなことはない。
こんな言い方をすると偉そうに聞こえるかもしれないが、本当に良い担任の先生に恵まれたと上条は思う。
「電話終わった?」
「ああ」
そして電話をしている間、一人で暇を持て余していたインデックスに上条は目を向ける。
すぐ傍にいた筈なのに、その表情は不安げだ。
自惚れかもしれないが、やっとできた孤独を埋める存在として慕ってくれているのだろう。
ただお互いの立場を考えれば、いずれ別れは必ずやってくる。
(だけど本当にインデックスをこのままイギリスに帰しても大丈夫なのか?)
その目的を第一に行動している筈なのに、妙な不安が上条を襲った。
今はインデックスを狙う魔術師と対峙しているが、元を辿れば全ての原因はインデックス一人に十万三千冊の魔道書という重荷を背負わせたイギリス清教にある。
上条はその十万三千冊の魔道書が持つ価値についていまいち理解しきれていない。
しかし少なくともイギリス清教がインデックスに降りかかるであろう危険を全く予測できなかったということはない筈だ。
記憶を失っているインデックスの言葉だけで全てを推し量ることは難しいが、どうしても上条が知る十字教のイメージに反して人道的な人間の集まりとは思えなかった。
「ねぇ、とうま」
「どうした?」
「さっきの電話、謝ったりしてたけど大丈夫だったの?」
声を掛けられたことにより、上条はインデックスへ意識を戻す。
その顔を良く見ると単に不安そうにしてるだけでなく、何処か申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
小萌先生からの電話は補習をサボったせいであり、確かに何回か謝罪の言葉も口にした気がする。
どうやらインデックスは自分のせいで余計な迷惑を掛けてしまったと気に病んでいるようだ。
補習を欠席した理由がインデックスにないと言えば嘘になるが、別にそんなことは大したことじゃない。
本当なら自分のことで精いっぱいな状況でも、些細なことまで人を気遣うことができる。
十万三千冊の魔道書など関係なく、やはり上条にはインデックスが普通の優しい女の子にしか見えなかった。
「たかが補習をサボっただけだから全然問題ねえよ」
「でも……」
「あー、もう! そんな顔するなって! 美琴のおかげで期末も一般科目は赤点を逃れてるから、補習って言っても意味のない能力開発だけなんだ。 それに俺の担任は出来の悪い生徒ほど可愛いってタイプの人間で、補習をサボったところで本当に何ともないんだよ。 いつでも相談しろとも言われてるし、冗談抜きで進級とかが危なくなっても泣きつけばなんとかなるからさ!」
人の善意をあまりにも都合よく解釈しすぎだという自覚を持ちながらも、上条は努めて明るく言う。
インデックスに巻き込まれたのではない、自分の意志で首を突っ込んだのだ。
それは決してこんな顔を見たかったからではない。
しかしインデックスを励ますつもりの言葉だったのだが、その反応は予想外のものだった。
「みこと?」
「そこに食いつくのっ!? えっと、美琴は俺の知り合いの女の子でな。 幼馴染ってほど長い付き合いなわけじゃないんだが、腐れ縁って感じか?」
そして敢えて今まで考えないようにしてきた少女を上条は思い浮かべる。
上条にとって美琴は年下ながらも頼れる友人で、強い正義感の持ち主だ。
比較するのはどうかと思うが小萌先生と違って、レベル5というある程度の荒事なら何ら問題ない力も備えている。
協力を頼めば魔術師に対する戦力としてだけでなく、色々な面で力になってくれるだろう。
しかし上条はその選択肢を無意識の内に除外していた。
魔術という未知の力を使う相手だからというだけではない。
味方としてこれ以上頼もしい存在はいない筈なのに、上条の根幹にある何かが美琴を巻き込むことを拒絶している。
「……」
「何故に急に不機嫌になられてるんでせうか?」
急にジト目で睨みつけてくるインデックスに上条は思わずたじろぐ。
何か機嫌を損ねるようなことを言っただろうか?
「別に不機嫌になんてなってないかも。 ただとうまにはやっぱり帰る場所があるんだなって」
帰る場所、普段なら気にも留めない言葉だが上条は少し心を痛める。
一年以上前の記憶がないインデックスに恐らく家と呼べるような場所の記憶はないのだろう。
そもそもそれ以前から、十万三千冊の魔道書を抱えるインデックスがどのような生活を送っていたか上条には想像がつかなかった。
上条がさりげなく発した知り合いや腐れ縁という言葉も、インデックスにとっては羨むべきものなのかもしれない。
「何か悪かったな」
「ううん、こっちこそごめんね。 私なんてとうまの優しさに甘えてばっかなのに……」
「気にすんなって。 それに俺達はもうそんな些細なことで謝んなきゃいけないような間柄じゃねえだろ?」
「え?」
「お前が俺のことをどう思ってるか知らないけど、俺にとってお前はもう大切な友達だ。 それはこれから何があろうとずっと変わらない。 友達だったら助け合うのは当たり前だし、辛気臭い顔をしてたら空気だって暗いままだしな。 そうなるくらいだったら俺はインデックスの笑顔を見てたいんだけど?」
「う、うん、分かったんだよ!」
上条の笑顔につられるようにインデックスも笑みを浮かべた。
こんな状況で常に笑っていろというのは難しいかもしれないが、やはりインデックスは笑顔の方がずっと似合っている。
何が不満なのか、「ずっと友達のままか」という呟きは気にしないことにしたが……。
「でも友達にしては、とうまについて知ってることが少なすぎるかも。 今日はとうまの話を色々と聞きたいな?」
「俺の話って、大して面白いことなんてないぞ?」
「どんな話だって良いんだよ!」
「しょうがねえな。 とは言っても何から話せばいいのやら……」
こうして長かった夏休み初日の夜は更けていく。
そして魔術という未知の力との『再会』が上条の今後の人生を大きく変えていくことになるのだった。
今日は以上です
ちょっとリアルが色々と立て込んでるので次にいつ来れるか分かりません
ただなるべく早く来れるようにはしたいと思います
>>874>>875>>876さん
小萌先生は犠牲になったのだ
インデックスも怪我してないし、匿う場所も他にある
大星覇祭の姫神については流石にまだ何にも考えてないので何も言えませんがw
みこっちゃんに関しては二人の関係が大きく変わるエピソードを入れようと思ってます
それまで基本的に誰も巻き込まないって上条さんのスタンスは変わらないかも
では、できればまた近い内に
今日は以上です
ちょっとリアルが色々と立て込んでるので次にいつ来れるか分かりません
ただなるべく早く来れるようにはしたいと思います
>>874>>875>>876さん
小萌先生は犠牲になったのだ
インデックスも怪我してないし、匿う場所も他にある
大星覇祭の姫神については流石にまだ何にも考えてないので何も言えませんがw
みこっちゃんに関しては二人の関係が大きく変わるエピソードを入れようと思ってます
それまで基本的に誰も巻き込まないって上条さんのスタンスは変わらないかも
では、できればまた近い内に
きたー!乙です
> それまで基本的に誰も巻き込まないって上条さんのスタンスは変わらないかも
確かに、安易に美琴に頼るよりこっちのほうが上条さんらしいな。
その代わり、毎回入院するたびにインデックスの噛み付きに加えて美琴の電撃を食らうオチになりそうだが。
乙
乙
死ね
さっそくインさんにもフラグを立てたか。予想通りの展開とはいえさすがは上条さん。
でも魔術側ヒロインはねーちんと決まってるんだよな……
インさんの見せ場も原作1巻エピソード限りか。
原作でもそうだが、インデックスは頭脳労働や後方支援担当のキャラだしな。
どうしてもアクション主体のストーリーだと影が薄くなってしまう。
ペンデックス化しない限り直接戦闘能力は皆無と言っていいし、
上条さんと一緒に戦える女性キャラを選べば必然的にヒロインは
美琴や神裂ということになってしまうだろう。
何か文章の書き方忘れた
もう少しお待ちください
おk いつまでも待ってるよ
sage忘れてた、すまん
次の投下を楽しみに待ってます
みこっちゃんの再登場を心待ちにしています。
投下します
「お風呂に入りたい」
最初はこの非常事態に何を言ってるんだという思いが強かったが、確かにこの状況は女の子にとって少々厳しいものかもしれない。
昨日は魔術師によって灼熱のドーム内に閉じ込められ、おまけに気温が三十度を超える炎天下を移動していた。
男の上条でも掻いた汗の量が気になるくらいで、女の子であるインデックスにそのまま我慢しろというのは酷な気がする。
しかしこの秘密基地には風呂やシャワーは存在せず、身体を拭うためのタオルなども用意していなかった。
「おっふろ♪ おっふろ♪」
そして上条は結局インデックスを連れて近くの銭湯へと向かっている。
別にただインデックスの言葉を聞き入れたからではない。
秘密基地で身を隠すにしても生活に必要なものが不足しており、どうせ外に出るなら必要なことは一回で済ませてしまおうと思ったからだ。
魔術師に狙われている中、インデックスを外に連れ出すリスクが大きいことはもちろん上条も分かっている。
だが自分の目が届かない場所にインデックスを一人残していくのも、やはり危険を孕むことに変わりはないだろう。
その二つのリスクを天秤に掛けた結果、上条の中で少しでもインデックスのために何かしてあげたいという思いが勝っていた。
(それにまだ人もいるし、アイツらも無暗に襲ってくるようなことはないだろうしな)
いくら第一九学区が寂れていると言っても、人が全くいないわけではない。
まだ夏休みの二日目ということもあって、通りには多くの学生達が溢れている。
この人混みの中で人目も憚らずに襲ってくるという可能性は、炎を使う魔術師の態度から考えても恐らく低い。
もちろんインデックスの身の安全のためだけでなく周りの人間を巻き込まないためにも、辺りへの警戒は一瞬たりとも解くことはできないが……。
「とうま、とうま」
「どうした?」
魔術師の襲撃に備えて緊張を張り巡らせていた上条だったが、突然振り返ったインデックスに意識が向いてしまう。
魔術師達への対策として、上条はインデックスから簡単な魔術に関する説明を受けていた。
その中の一つに魔術を扱うための素となる魔力の存在がある。
他にも「天使の力」「世界の力」など魔術に利用できる力が存在するらしいが、正直詳しいことは全く理解できていない。
ただ話によると、インデックスはそれらに対して非常に鋭敏な感覚を持ち合わせているらしい。
素人の上条でも襲撃などには備えることができるが、もし罠などがあった場合はどうしてもインデックスの感覚が頼みになる。
そしてそのインデックスが唐突に振り返ったのだ。
何か異変を感知したのではないかと、上条の表情は自然と強張っていた。
「ううん、何でもない。 用がないのに名前が呼べるって、なんかおもしろいかも」
しかしそんな心配もどうやら杞憂で済んだようだ。
たったそれだけで、まるで初めて遊園地に来た子供のような笑顔を浮かべるインデックス。
そんなインデックスを見て上条は頬を緩めるが、それと同時にあとどれだけインデックスのためにしてあげられることがあるのか思い悩む。
いくら今は近くにいようと、二人は本来なら別世界の住民だ。
科学≪ESP≫側の上条と魔術≪オカルト≫側のインデックス。
そんな括りで隔たれてしまうのは寂しく思うが、やはり二人ともそれぞれに帰るべき場所がある。
どうにかしてインデックスをイギリス清教の教会に送り届けさえすれば、あとはもう上条の出番はない。
(でも本当にそれで終わりでいいのか?)
だが魔術師の存在以上に、上条はイギリス清教への不信感をまだ拭えきれずにいた。
住む世界が違えば、人の持つ価値観も異なるということは分かっている。
科学と魔術という隔たりは、もしかしたら国以上に大きなものなのかもしれない。
インデックス自身もこの状況に対する不安を見せることはあっても、十万三千冊の魔道書を管理する魔道図書館という役割については誇りを持っているように見えた。
住んでいる世界、立っている場所、生きている次元――何もかもが違うインデックスのために他に何かできることがあるのだろうか?
「とうまー、銭湯ってもしかしてあそこ?」
「おっ、着いたみたいだな」
インデックスが指さした先にあるのは、湯壷にそこから沸き上がる湯気を表す三本の線が描かれた看板。
今まで上条も学園都市内のスパと呼ばれるような浴場に足を運んだことはあるが、ここまでローカルな場所は初めてだ。
一体いつの日本文化だと苦笑を洩らしつつ、はしゃぐインデックスの後に続いていく。
「じゃあ俺は外で待ってるから、適当に寛いでこい」
「えっ、とうまは入らないの?」
「何かあった時に、裸のまま女湯に突撃する勇気はないからな」
魔術師達が襲ってくる可能性も考慮して、上条自身は外で待機しているつもりだった。
もしもの時にわざわざ着替えていて取り返しがつかないことになりでもしたら洒落にならない。
……尤も服を着ていようと裸でいようと女湯に突撃した時点で社会的に抹殺されることになるのだが、敢えてそこは深く考えないようにしていた。
「ごめんね、私が我儘ばっかり言ってるせいで……」
「ばーか! どうせ外に出なくちゃならなかったんだから、一々そんなことを気にする必要はねえんだよ。 それにこんな時は何て言えばいいか教えたろ?」
「……うん、ありがとう!」
「よし! 上がったらアイスバーかコーヒー牛乳くらいは買ってやるから」
「コーヒー牛乳って何? カプチーノみたいなもの?」
「……そんなエレガントなモン銭湯にはねえ」
あんまり期待を膨らませるなと念を押して、上条はインデックスに小銭を握らせる。
昨日と今日だけで随分と財布の中身が寂しくなってしまったが、それはもう諦めるしかなかった。
番台のおばちゃんにお金を渡してインデックスが女湯に入って行ったのを見届けると、上条は一人外へと向かう。
既に日が傾き始めているが、外気に触れただけで汗が滲むほど気温はまだ暑い。
この中で待つのは少しばかりしんどそうだと思いながらも、上条は銭湯のちょうど向かい側にある壁に背を預けた。
先ほどまでいた大通りに比べて人は少なくなっているが、時折楽しそうに笑う学生達が上条の前を過ぎ去っていく。
(そういや明日、美琴と約束してたんだっけ?)
期末テストで勉強を手伝ってもらったお礼という名目で、美琴を遊びに誘っていたことを上条は思い出す。
しかしこの状況で、流石に明日遊びに行くことは難しいだろう。
本当は木山先生の件で気に病んでいる美琴を元気づけるのが目的だったのだが、こればかりは仕方ない。
別の日に変えてもらうようメールを打とうと上条は携帯を取り出すが、上条はそこである異変に気がついた。
行き交う学生達の中に一人だけ、明らかに異質な存在が混じっている。
長い髪をポニーテールに括り、Tシャツに片方の裾を根元までぶった切ったジーンズという格好の女。
それに加えて2mを超す長さの日本刀は、日本のみならず現代社会において明らかな異常だ。
刀身は鞘に収まっていて見えないが、歴史を刻んだ漆黒の鞘が『本物』であることを物語っている。
にも拘らず、周りの学生達はその異質を気に留める様子が全くなかった。
まるでそれは上条にしか見えていない幻のようで……。
だが女から放たれるプレッシャーのようなものが、その存在が本物であることを上条に告げていた。
「ついてきていただけますか?」
まだ上条と女の間には多少の距離があるものの、その声ははっきりと上条の耳に届いていた。
凛としたその声音には、小萌先生のものとはまた違った有無を言わさぬ力がある。
しかしその言葉にただ従うことなどできる筈がない。
少なくても相手は二人以上で行動しているのだ。
上条がここを離れたが最後、もう一人の魔術師がインデックスを攫っていくに違いない。
やはり迂闊にインデックスを連れ出すべきではなかった。
自分の考えの甘さを呪いながらも、上条はこの状況を打破すべく女に対して身構える。
「安心しろというのも可笑しな話ですが、今は私もステイルも彼女に手を出すつもりはありません。 それに私がここで力を振るえばどうなるか、あなたは既に分かっているのでは?」
上条の抵抗の意思は、その言葉だけで凍りつかされる。
聖人――それが魔術によるものなのかは知らないが、初めて遭遇した際に女の持つ強大な力を上条は肌で感じ取っていた。
ここで戦うようなことになれば周りへの被害は避けられない。
自分のせいで関係ない人間を巻き込めば、上条自身だけでなくインデックスも傷つくことになる。
今の上条に女の言葉を拒絶する選択肢はなかった。
「……分かった」
そして静かに歩き始めた女の後に上条も続くのだった。
短いけど今日はここまでです
何か投下間隔が長くなりすぎてグダグダになってきているのでモチベーションを保つためにも投下予告
今週の土日のどちらかに続きを投下します
乙です
乙です 楽しみにしてるよ!
乙でした。
魔術側ヒロインの本格参戦を歓迎します。
乙
乙!頑張れ!
とても面白いです。続き楽しみにしてます!
土日って言ってたけどキリが良いところまで行きそうなんで
今日の23時くらいに続きを投下します
すみません、sage忘れ
では投下します
気付くと辺りには誰もいなくなっていた。
いつもは狭く感じる歩道は妙にだだっ広く感じられ、滑走路のような車道には車の一台も走っていない。
まるで異世界に迷い込んだかのようなこの感覚を上条はまだはっきりと肌に残している。
「ステイルが人払いの刻印≪ルーン≫を刻んでいるだけですよ。 この一帯にいる人達に『何故かここには近づこうと思わない』ように集中を逸らしているだけです。 多くの人達は建物の中でしょうから、ご心配はなさらずに」
およそ十mほど離れて対峙した女の言葉を聞いて、上条は安心すると同時に酷い悪寒に襲われた。
わざわざ周囲の人間を遠ざけたということは、これから彼らを巻き込みかねない『何か』が起こりうるということだ。
この状況を話し合いだけで打破できる可能性が低いことは分かっていたし、もしもの時の覚悟は決めていたつもりだった。
それでも自分より圧倒的な力を持つであろう女を前にして、上条は恐怖を感じずにはいられない。
「ここらで良いでしょう」
そのくせ本人からはまるで緊張した様子が感じられなかった。
女魔術師は足を止めて上条と対峙するような形を取るが、何処か世間話をするような気楽さが却って上条の恐怖を駆り立てる。
「神浄の討魔、ですか――良い真名です」
上条は今まで魔術師達に自分の名前を名乗った覚えはない。
言い回しは少し気になったが、やはり学園都市から何かしらの情報が伝わっているのだろう。
不用意に知り合いを頼らなかった判断は正解だったと思いつつも、上条を蝕む緊張はますます大きくなるばかりだ。
「……、テメェは」
「神裂火織、と申します。 ……あまり時間もありませんので率直に言います。 彼女を渡してください」
予想通りだったとはいえ、神裂と名乗った女魔術師の言葉に上条は表情を強張らせる。
いくら話し合いの場を持とうと、上条と魔術師達の立ち位置は既に決まっているのだ。
十万三千冊の魔道書を狙う魔術師達と、その十万三千冊の魔道書を抱えるインデックスを守りたい上条。
その目的が真逆である以上、妥協点のようなものが存在する筈もなかった。
「……嫌だ、と言ったら?」
「もう一つの名を名乗ってから、彼女を保護するまで」
もう一つの名、それを聞いて思い出すのは炎の魔術師が語った言葉だ。
魔法名――魔術師が魔術を使う際に名乗る『殺し名』
それはインデックスを連れ去るためには上条を殺すことも厭わないという神裂の明確な敵意だ。
最初に炎の魔術師と対峙した時と違って、上条がインデックスを守る意志をしっかりと示しているからだろう。
もはや魔術師達に上条を排除することへの躊躇いはない。
(やるしかないか)
しかし単純な身体能力だけを見ても恐らく神裂の力は上条を大きく上回っており、更には魔術という未知の力まである。
いくら『幻想殺し』が魔術に対して有効だと分かっていても、初見でその全てに対応できるかとなれば話は別だ。
インデックスから多少の説明は受けていたものの、まだまだ魔術については知らないことが多すぎた。
そしてこの学園都市でインデックスが頼れる人間は上条以外に存在せず、この戦いの勝敗がそのままインデックスの行く末を決めてしまう。
格上を相手に最初から全力でぶつかっていくか、それとも勝算を見つけるために様子を窺うか?
だがその迷いこそが戦場において命取りになることを上条は知らない。
「敵を前にして考え事をしてる暇などあるのですか?」
真横。
上条が息を呑む暇もなく、神裂は上条の真横に飛び込んでいた。
消えた、そう判断するしかないほどの速度で懐深くに潜り込んだ神裂は頬を横から殴るようにして上条に肘を放つ。
その不意打ちに近い攻撃に反応できたのは偶然に近い。
咄嗟に右手の力を解放し、その一撃を左腕で受け止める上条。
しかしその衝撃までは緩和しきれず、大きく吹き飛んだ上条の身体は街灯の支柱へと激突した。
「がはっ!?」
パラパラ、という音だけか静かな通りに響き渡る。
衝撃によって細かく砕かれた街灯のガラスの破片が、まるで雨のように上条へと降り注いでいた。
「もう一度問います。 魔法名を名乗る前に彼女を保護したいのですが?」
神裂の声に淀みはない。
ただ淡々と実力差を思い知らせることによって、上条の抵抗する意思を削ごうとしている。
「なに言ってやがるっ!? テメェを相手に降参する理由なんて――」
「何度でも問います」
瞬間、神裂の斬撃が襲い掛かってきた。
吹き飛ばされたことによって、今も上条と神裂の距離は先ほどとそう変わらない。
しかし十m以上の距離があるにも拘らず、巨大なレーザーを振り回したかのように上条の頭上スレスレの空気が引き裂かれた。
上条の背後にあった街灯が、まるでバターでも切り裂くように音もなく斜めに切断される。
「くそっ!」
ドズンと轟音を立てて街灯が倒れると同時に、上条は神裂から大きく距離を取る。
だが悪態をついて逃げるような体勢を取りながらも、今の上条は目の前の敵に対してどう対処すべきか冷静さを取り戻しつつあった。
(常識じゃ考えらんねえような切れ味だが、今のはワイヤー≪鋼糸≫か何かを使った間合いの外からの斬撃だ)
神裂の斬撃が放たれる瞬間、日本刀の柄に手を掛けた神裂の右手が何かのバグのようにブレるのを上条の目はしっかりと捉えていた。
それが上条に対する何らかの動作であることに疑いはなく、上条の全神経はその一点へと集中する。
そして居合切りの要領で刀身が抜き放たれると同時に、何か糸状のものが迫ってくるのをはっきりと目にしたのだ。
先ほどの斬撃も動けなかったのではなく、その軌道から自分に当たらないことが上条は分かっていた。
まだ警告という意味合いが強かったのかもしれない。
だから上条はギリギリまで神裂の動きを観察することに徹したのだった。
リアルタイム投下初遭遇に歓喜。
(だけどそんなことが分かったところで、この状況を切り抜けるヴィジョンが全然見えてこない)
だが冷静になればなるほど、上条は神裂との間に絶望的な力の差を感じていた。
斬撃が放たれるのとほぼ同時に聞こえた刀を鞘に収める音。
女の細腕で2mを超える刀を振り回すことにはもはや驚かないが、刀を抜いてから収めるまでの間隔があまりにも短すぎる。
十m以上の射程がある遠距離からの攻撃が可能な神裂に対して、上条にできるのは己の身体を用いた接近戦だけ。
一撃だけなら対処することも可能だろうが、もしあの斬撃を連続で放つことが可能だったとすれば?
その正体が魔術かどうかも分からないため、『幻想殺し』で受け止めるのは危険が大きすぎる。
それに今の一撃がただの警告でしかなかった以上、鋼糸を使った斬撃だけでも他に隠し玉のような仕掛けがあるかもしれない。
「私は魔法名を名乗る前に彼女を保護したいのですが」
再び刀が鞘に収まる音と同時に、轟!という風の唸りと共に恐るべき速度で斬撃が襲い掛かってきた。
それも今度は一つだけでない。
四方八方から巨大なレーザー銃を振り回されたような錯覚。
上条を中心として、地面が、街灯が、街路樹が工事用の水圧カッターで切断されるようにまとめて切り裂かれた。
砕けた拳ほどもあるアスファルトが上条を襲うが、それを受けても上条は微動だにせずジッと斬撃の軌跡を見極める。
斬撃の嵐の後に残されたのは、まるで巨大な獣の爪によって引き裂かれたような七つの直線的な刀傷。
七つという数は上条が目視で確認できた鋼糸の本数と同じだ。
その数が限界なのかはまだ判断できないが、やはり神裂の力は底が知れない。
ただいつまでもこうやって受け身に回っているわけにはいかなかった。
「『七閃』――私が七天七刀を抜くと同時に放たれる鋼糸の斬撃速度は、一瞬と呼ばれる時間に七度殺すレベルです。 人はこれを瞬殺、あるいは必殺と呼びます」
それが強者の余裕というものなのか?
神裂は今の斬撃が鋼糸によるものであるということと、その斬撃が一回で放たれる数をあっさりと告げる。
フェイクという可能性はもちろん捨てきれないが、毅然とした神裂の態度が事実であることを肯定しているような気がした。
そしてあの斬撃が鋼糸による物理的な攻撃である以上、『幻想殺し』は役に立たない。
「何だ、随分と簡単にネタ晴らししてくれるじゃねえか?」
「あなたに対して敬意を感じたからですよ」
「何っ!?」
「命を落としかねない戦場において、あなたは冷静に私の放つ『七閃』に対して観察を続けていた。 逃げるでもなく、無謀に立ち向かってくるわけでもなく、この状況を切り抜けて彼女を救うために……。 何がそこまであなたを駆り立てるのか分かりませんが、その胆力は驚愕に値します」
「……結局は全部、テメェの掌の上ってわけかよ?」
「私はあなたの魔術を無効化するという右手も、常識では考えられないような身体能力も過小評価するつもりはありません。 だからこそ魔法名は名乗らせないでください。 仮に幾重にも渡る『七閃』を切り抜けることが可能だとしても、鋼糸≪トリック≫などではない真説の『唯閃』が待ってます」
仲間の魔術師から聞いたのだろう。
『幻想殺し』も、右手に意識を集中することで得られる力のことも神裂は知っている。
そしてそれらを全て理解した上で、これ以上の抵抗は無駄だと降伏するよう神裂は勧告しているのだ。
中途半端な力を植え付けられただけの紛い物とは違う、本物の『聖人』
なまじ力を持っているがゆえに、上条は神裂との歴然たる力の差を理解してしまっていた。
憎しみにも似た正体不明の感情を抱く相手に、上条は為す術がない。
「ふざけるな!」
……それでも上条は前へ向かって一歩を踏み出す。
「十万三千冊の魔道書か何か知らねえが、一人の女の子をよってたかって追い詰めた挙句に記憶を奪うような奴らに退く理由なんかねえよ!」
『聖人』という過去の因縁だけが理由だったら、恐怖に足が竦んでしまったかもしれない。
しかし今はインデックスを守り抜くという負けられない理由があった。
「そうですか、残念です」
右手の力を解放した上条にとって、十数mという距離は無いに等しいものだ。
だがその一瞬の間に、まるでスローモーションのように神裂が刀に手を掛けたのがはっきりと見えた。
七閃。
それは例えるなら真空刃で作り上げられた巨大な竜巻。
辺りには砕かれた地面や街路樹の細かい破片が砂埃のように漂っている。
そして凄まじい風の唸りと共に、砂埃が上条の目前で八つに切断された。
テクノブレイカーああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
「うおおおぉぉぉっ!!!!」
無意識の内に咆哮を上げた上条は、七つの斬撃が織りなす嵐の中へと足を踏み込んだ。
身体を捻るようにして屈んだ上条の後ろ側にある地面が、アスファルトが削られる轟音と共に刻み抉られていく。
瞬間、上条の左肩から鮮血が舞った。
鋼糸による斬撃の嵐を躱しきれずに、左肩を引き裂かれたのだ。
力を解放して常時に比べて遥かに身体が強化されているにも拘らず、神裂の前では殆ど意味を為さない。
そしてその一撃を耐え抜いても、息つく間もなく第二波が襲い掛かってきた。
上条が神裂に向かって走り始めてから一秒に満たない間で放たれた『七閃』の数は実に十回。
普通の人間の目には上条の身体が一瞬で切り刻まれたようにしか見えないだろう。
致命的な傷こそ何とか避けていたものの、無数の細かい刀傷が上条の身体を血で染め上げる。
しかし身体全体を襲う鋭い痛みに気が遠くなりながらも、前に進み続けた上条の拳は神裂の顔面を捉えていた。
――いや、捉えていた筈だった。
「気は済みましたか?」
気付くと上条は神裂から二十mほど離れた位置に転がっていた。
上条がその直前に見たのは自分に向かって突き出される刀の鞘で、それは向かってくる相手に合わせただけの至極単純なカウンターだ。
だが上条と神裂が居たのは、十分の一秒にも満たない超高速の世界。
その中で的確なカウンターを狙うことは、まさに神業に近い。
テクノブレイカーああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
「ぐっ」
鳩尾に入ったカウンターは上条に酷い吐き気を催していた。
そして同時に上条の身体を激痛が襲う。
右手の力を過剰に解放した反動がきたのだ。
全身に広がる無数の切り傷よりも、今はこの症状の方が深刻だった。
このままでは勝てないどころか、何の抵抗もできぬまま全てが終わってしまう。
「もう十分でしょう?」
未だ立ち上がれぬ上条の前に、コツコツとブーツの底で地面を叩く音を響かせながら神裂は近づいてくる。
ここまで上条を痛めつけた張本人の筈なのに、その声は寧ろ痛々しく小さなものだった。
「あなたが彼女のためにそこまでする理由はない筈です。 本来ならこちら側に何の関わりも持たぬあなたがこれ以上傷つく必要はありません」
神裂は上条の目の前でしゃがみ込むと、血で濡れたその頬を優しく撫でる。
明らかにやっていることと矛盾した言葉。
しかし上条の目に映る神裂の姿はまるで聖女のようで……。
その言葉が偽りのない本心だということが真っ直ぐに伝わってきた。
「何でだよっ!?」
だからこそ上条は神裂のことが理解できず、許せない。
上条は神裂の手を払いのけると、ボロボロの身体を引き摺るようにして立ち上がる。
「アンタは結局最後まで魔法名ってやつを名乗らなかった。 アンタらの邪魔をしてる筈の俺を気遣えるのに、何でそれを少しでもインデックスに向けてやれないんだよ? 俺はまだインデックスと会って少ししか経ってないけど、アイツが底抜けに優しい女の子だってことくらいは分かる。 アンタらが抱える事情や、十万三千冊の魔道書については確かに良く知らない。 それでも本当はアンタだって、インデックスが傷つけられていいような人間じゃないってことは分かってるんじゃねえのか?」
上条が立ち上がっても、神裂はしゃがみ込んだまま動かないでいた。
俯けたその顔からは、表情を窺い知ることはできない。
「別に俺は聖人君子ってわけじゃないけど、インデックスは身体を張ってでも助けるべき人間だと思ってる。 アンタがどれだけ御託を並べようと、俺は絶対に退かない。 だから悪いが今は手段を選んでなんかいらねえぞ!」
そして上条は無防備な神裂へと拳を振り下ろす。
どんなに卑怯だっていい。
今はインデックスを救うために、自分が倒れるわけにはいかないのだから……。
「そうですね、あなたの言う通り彼女は何があっても傷つけられるべき人間ではない」
だが上条の渾身の一撃も、パシッという乾いた音と共にいとも容易く受け止められる。
凄まじい神裂の握力によって掴まれた拳はピクリとも動かすことが叶わない。
「まだ私はあなたを心の何処かで侮っていたようです。 あなたの意志は紛れもない本物だった。 しかし私達にも退けない理由がある。 だから少しだけ残酷なネタ晴らしをしましょうか?」
何かがおかしい。
根本的な部分にある何かが食い違ってしまっているような違和感。
神裂の放つ空気が変わると同時に、上条の中で嫌な予感が渦巻き始める。
「私の所属する組織はイギリス清教の中にある必要悪の教会。 彼女は私の同僚にして――大切な親友なんですよ」
それを聞いた瞬間、上条の世界が凍りついた。
以上になります
少しノッてきたので、このままペースを崩さぬよう頑張ります
できれば日曜日、最低でも一週間以内に続きを投下したいと思います
ではまた近い内に
乙です
おつ
乙です
いつもながら描写が丁寧ですね
乙です。
やっぱりねーちんが出るとバトルに迫力が出るな。
乙
乙乙乙
今日の日付が変わるまでには投下します
了解
ねーちんをかっこよく書いてくれることを期待してます。
すみません
急遽お呼ばれしたんで、明日の夜に延期します
遅くなりましたが、続きを投下します
「な、何を言って?」
意味が分からなかった。
初めは痛みのあまり、幻聴でも聞いてしまったのかと勘違いするほどに……。
魔術師に追われてイギリス清教の教会へ逃げ込もうとしていたインデックス。
しかし本当はインデックスを追いかけていた魔術師自身がイギリス清教の人間だった。
そんなことありえる筈がない。
「完全記憶能力という彼女の体質は既にご存知ですね?」
神裂は立ち上がると、正面から上条と向かい合う。
凛とした態度は先ほどから変わらないが、今は攻撃を仕掛けてくることはなさそうだ。
真っ直ぐと自分を見つめるその瞳から、上条は目を逸らすことができなかった。
「十万三千冊の魔道書の正体だろ? そんな一度みたもの全てを残さず記憶する能力なんて簡単には信じらんねえよ」
しかしその言葉とは裏腹に、上条の脳裏に浮かぶのは炎の魔術師と対峙した時の一幕だ。
インデックスが口にした謎の符号を耳にした瞬間、魔術師を巻き込むようにして爆発した炎剣。
それがどういう理論で引き起こされたか知らないが、インデックスが魔術に対して精通しているのは間違いないだろう。
そして魔術師達はそんなインデックスを執拗に狙っている。
例え十万三千冊の魔道書という実物が見えなくとも、状況的にその存在を信じざるを得ない。
またインデックスの頭の中に十万三千冊の魔道書が実在するならば、その前提となっている完全記憶能力についても疑う余地はなかった。
「あなたが信じようが信じまいが、彼女が完全記憶能力を持っているという事実は変わりません。 そしてそれを踏まえた上で、あなたの目には彼女がどんな風に映りますか?」
「どんな風って、それはただの女の子にしか……」
「本当に?」
神裂の二度に渡る問いかけに上条は思わず口を噤む。
上条のインデックスに対する印象は良い意味で普通の女の子でしかなかった。
ちょっとしたことで落ち込んだり笑ったり、そして何よりも人のことを思いやれる優しい少女。
しかしそんな印象とは裏腹に、一端とはいえ上条はインデックスの持つ力を目の当たりにしている。
もちろんそんなことでインデックスに対して偏見のようなものが生まれることはない。
ただインデックス個人というよりも、二人が住んでいる世界が違うという現実。
それが常識という名の柵になって、上条の口を塞いでしまっていた。
「嫌な尋ね方をして申し訳ありません。 あなたを見ていれば、あなたの彼女に対する思いが本物だということくらいは分かります。 そもそも初めて関わったであろう魔術という非現実を、何の疑いもなく受け入れられる方がどうかしてるでしょう。 それに私個人としては、それでも彼女を普通の女の子と言ってくれたあなたに感謝しなければならないほどです」
「……アンタ、本当にインデックスの知り合いなのか?」
神裂の話を聞いていると、インデックスと親友だというのも嘘でないように思えてきた。
インデックスを思いやるその言葉には、紛れもない親しい人間に向ける温かみが感じられる。
そして神裂のインデックスに向ける真摯な思いが伝わってくるからこそ、上条の現状に対する混乱は増すばかりだった。
「……さて、いつまでもこんな話をしていても埒があきません。 そろそろ本題に入りましょうか? あなたも知りたいであろう私達が彼女を追う理由――――それは彼女を救うためです」
「……」
上条は神裂の言葉に疑問の声を上げることもできない。
あまりにも現状で分からないことが多すぎる。
上条の沈黙を先を促していると思ったのか、神裂はそのまま言葉を続けた。
「あなたが先ほど彼女をただの女の子と言ったように、私も彼女の美徳や少女らしい一面は良く知っています。 しかし残念ながら彼女の本質はその一言だけで良い表すことは叶いません」
「……完全記憶能力や十万三千冊の魔道書のことか?」
「それらとは関係なしに、彼女は紛れもない天才なんですよ」
「アイツが天才?」
そう言われても、上条はインデックスに対してそのようなイメージはまるで湧かなかった。
確かに完全記憶能力が存在する以上、インデックスは天才と呼ぶべき人間なのかもしれない。
しかしどう見ても、普段のインデックスの姿は天才と呼ばれる人間のそれとは違う気がする。
どちらかと言えば、寧ろ幼い印象だ。
それに加えて完全記憶能力などはインデックスを天才たらしめているものとは関係ないと神裂は言う。
「自分で言うのもなんですが、私はロンドンでも十指に入る実力の魔術師だと自負しています。 ステイルの炎に、私の七閃や唯閃――あなたや私のように異能や魔術に頼ることなく、ただ自分の手や足だけで逃げることが普通の少女に可能だと思いますか?」
魔力を練れないため、インデックス自身は十万三千冊の魔道書に記された魔術が使えない。
上条は炎の魔術師と対峙した際にインデックスが言っていた話を思い出す。
目の前の魔術師の力を上条は身を以て思い知らされていた。
正面から対峙してもまるで敵わなかったし、例え逃げに徹していても結果は大して変わらなかっただろう。
そんな魔術師から一年間も逃げ続けてきたインデックスの異質さに上条はようやく気が付く。
「彼女は単なる知識の宝庫というわけではありません。 相手の魔術を即座に見極め、それに対して瞬時に的確な方法で対処する。 例え魔術が使えなくとも、十万三千冊の魔道書という力を使いこなす魔道図書館。 それが彼女の力の本質なんですよ」
十万三千冊の魔道書という知識に、その知識を十二分に活かす思考のスピード。
それは上条が知らないインデックスの一面、オカルトの世界に属する人間としての顔だ。
インデックスと住む世界が違うということを、今になって上条は本当の意味で痛感させられる。
「扱い方を間違えれば天災となりうるレベルの天才。 教会はそんな彼女のことを恐れているのでしょう」
神裂の言葉に上条は表情を歪ませる。
イギリス清教という組織について知った時、上条がまず最初に覚えたのは不信感だった。
インデックスが記憶喪失であるため、どういう経緯で十万三千冊の魔道書を抱えることになったのかは分からない。
ただ仮にインデックス自身が望んだことであったとしても、それが少女が一人で背負うには重すぎるものだということは明らかだ。
それこそ魔術の世界について何も知らない人間の押し付けなのかもしれないが、周りに誰か止めるような人間はいなかったのだろうか?
「……あなたの言いたいことは分かります。 でも私が初めて会った時には既に彼女は魔道図書館として役割を担っていたんです」
まるで心の内を透かされたかのような神裂の言葉。
その表情に浮かんでいるのは、疑いようのない自責の念だ。
それが事実であるならば、神裂自身にはどうしようもなかったことだろうに……。
もう間違いない。
神裂は本当に心の奥底からインデックスのことを思っている。
それがどうしてこのような現状に繋がっているのかはサッパリ分からないが、神裂の話をしっかりと受け止める覚悟はできていた。
「少し話が逸れましたね。 私は彼女のことを天才と呼びましたが、その一方で現在の彼女の性能は普通の人間とあまり変わりません」
「……?」
「十万三千冊の魔道書は彼女の脳の約85%以上を占めてしまっている。 それでも残る15%をかろうじて動かしている状態でさえ、普通の人間とほぼ変わらないということです」
脳の15%だけを使って生活しているというのがどれほどのことなのか想像もつかないが、その数字だけを見てもきっと凄いことなのだろう。
ただ神裂の話はイマイチ要領が得ない。
わざわざ話をしているということは必要なことなのだろうが、今はもっと先に知りたいことがあった。
「インデックスが本当は凄い奴ってことはもう分かったよ。 アンタ達の組織がそんなインデックスを恐れてるってこともな。 でも仮にも同僚のアンタ達が何でインデックスが悪の魔術結社みたいに思われてるんだよっ!? それにあの魔術師は十万三千冊の魔道書を手に入れようとした時に、間違って記憶を消しちまったって……」
「……私達が彼女の記憶を消したというのは間違いありません」
「どうしてそんなことをっ!?」
「そうしなければ彼女が死んでしまうからですよ」
その答えに、上条はまるで心臓を握り潰されるかのような錯覚を感じる。
インデックスが死んでしまう?
確かに神裂は最初から「彼女を保護したい」と主張していた。
そしてこうやって話を始めてからも、全てはインデックスを救うためだと……。
神裂の言葉は最初から一貫して何も揺らいではいない。
ただそれが一人の少女の命に関わるという何処か現実離れした話が、上条の思考を麻痺させるのだった。
「先ほども言ったように、彼女の脳の85%は魔道書によって埋め尽くされている。 ただでさえ残りの15%でかろうじて動かしている状態なのに、それで普通に生活していればすぐに脳がパンクしてしまうんです」
「でもさっきはそれでも普通の人間と変わらないって言ってたじゃねえか?」
「……しかし彼女には完全記憶能力がある」
上条は息を詰まらせた。
十万三千冊の魔道書、それによって埋め尽くされた脳の領域、そして完全記憶能力。
神裂の言葉によって今まで点でしかなかったキーワードが、上条の中で一つに繋がってしまう。
「アイツは見たもの全てを記憶しちまうから、人より早く脳の容量が……」
「人間の脳の容量は存外に小さい。 それでも百年も動かし続けていられるのは、不要な『記憶』を消去することによって脳を整理しているからです。 しかし完全記憶能力を持つ彼女はそれが自分の力ではできない。 ……だから他の誰かの力を借りて忘れる以外に道はないんですよ」
「くそっ!!」
残酷なネタ晴らし。
その言葉が上条に重く圧し掛かる。
そもそもこれはどういった種類の物語なのか?
初めから本当にヒーローになれるだなんて思っていなかった。
それでも必ず何処かにハッピーエンドに繋がる道があると信じて……。
しかしこれではインデックスだけではない、神裂達にもあまりに救いがなさすぎる。
「でも本当に友達だったなら、誤解なんてさっさと解いてインデックスの傍にいてやれば良かったじゃねえか? アイツがどんな思いでこの一年間を過ごしてきたと思ってるんだよっ!? それどころかあの魔術師はインデックスを傷つけるようなことばかり言いやがって」
「どれだけ私達を罵ろうと構いません。 ですが彼女の命を守るためだったとはいえ、大切な親友を殺さなければならなかった私達の気持ちが本当にあなたは理解できるんですかっ!?」
それは神裂が初めて見せた怒りにも似た感情だった。
今まで上条やインデックスを気遣っていたものとは違う、神裂自身の剥き出しの本心。
インデックスの性格を考えれば、別れというのは死のような苦痛だろう。
それが自分の抱えたもののせいだと知っていれば尚更だ。
だから親友である神裂達はインデックスに残酷な幸福≪出会い≫を与えるより、できうる限り不幸≪別れ≫を軽減する方法を選択した。
その選択が正しいものだと認めることはできないが、絶対に間違っているとは言い切れない。
上条には神裂をそれ以上責めることなどできなかった。
「インデックスの記憶を消すまでにどれだけの期間があるんだ?」
「記憶の消去はきっかり一年周期で行われます。 あと一週間、早すぎても遅すぎても話になりません。 ちょうどその時にならなければ記憶を消すことはできないんです」
インデックスの親友であった神裂達がこの残酷な現実に一度も立ち向かわなかったということはないだろう。
たった一週間という残された時間で、今までとは違う道を見つけられるかどうか?
「今ならあなたの傷も浅くて済む筈です。 お願いです、彼女を渡してください」
「待てよ! 一週間もあるなら、何か別の方法が……」
「私達の信念はもう分かっているのでしょう? ありもしない希望に縋るくらいなら、少しでも彼女の絶望を減らすことを私は選択します」
インデックスと出会って二日の上条と、長い間インデックスのために自分の心を殺し続けてきた神裂。
その信念の重みは比べるまでもなく明らかだ。
しかしそんなものを言い訳にして、目の前の現実から目を逸らすことなどできない。
「確かに俺にはアンタ達の全てを否定することはできない。 でもだからって俺が足掻くのをアンタ達に止められる筋合いはねえよ!」
「あなたがそうであるように、私も退くつもりは毛頭ありません。 私達の間にある力の差はもう理解していただけたと思いますが? それに例え私を倒したところで、背後には必要悪の教会が控えています。 私がロンドンで十本の指に入る魔術師と言っても、それでも上はいるんですよ? 十字教三大宗派の一つイギリス清教、その中でも飛び抜けた力を持つ組織相手に一人で何ができると言うんですか?」
「うるせえ! いちいち言い訳がましく、逃げ道を作るようなこと言いやがって! アンタ達が絶望に押し潰されたんだとしても、俺がそんなもんに負けるって勝手に値踏みしてるんじゃねえぞ!!」
完全記憶能力、そして十万三千冊の魔道書を抱えているがために過酷な道を歩まされてきたインデックス。
しかしいくら強大な力を持とうと、それは決して人間の本質を決めるものではない。
上条はそのことを身近にいる少女を見て良く知っている。
そんなつまらないもので、これから先もインデックスが苦しめられることなどあって良い筈がなかった。
「……それがあなたの答えですか?」
「あぁ」
上条は偽善使いだ。
何の解決にならないことは知っていても、何かやったという慰めだけは欲しい。
ここで退いてしまっては、その慰めすらも得ることはできないだろう。
例え神裂の言う通りこの先にバッドエンドしかないのだとしても、少なくても今はそれを受け入れるべき時ではなかった。
「そうですか」
再び神裂の放つ空気が変わる。
今はもう上条も神裂達のことを敵だなんて思っていなかった。
しかし惨い絶望に直面させられ続けてきたせいか、恐らく話し合いだけで和解するのは難しくなってしまっている。
この状況を切り抜けるために、戦いを避けることはできない。
そして実際問題、上条は先ほどの戦いで神裂に手も足も出せずにいた。
二人の間にある力の差は偶然で覆せるほど生易しいものではない。
だとすれば上条が神裂に勝つ方法はただ一つ。
右手に宿る力を完全に解放する。
そうなれば自分の身体がどうなるか分からないが、神裂に勝つにはその方法しか思い当たらなかった。
「Salvere000――救われぬ者に救いの手を」
魔法名。
神裂が本気で上条を潰すという意志の表れ。
身の危険を感じた上条は全力で後方に向かって大きく跳躍し、神裂と距離を取る。
しかし上条に向かって神裂の追撃が迫ってくるようなことはなかった。
不審に思った上条は既に日も落ち暗くなった道へと目を凝らす。
するとそこには……。
「……どういうつもりだ?」
「お願いします」
どういう訳か上条の視線の先には、上条に向かって深く頭を下げる神裂の姿があった。
「彼女を救うために、あなたの力を貸してください!」
全てが神様が作った奇跡の通りに進んでいく物語。
そんなふざけた幻想をぶち殺すための戦いが始まる。
終了です
ようやく1スレ目の終わりが見えてきました
次の投下が終わったら次スレになりますかね?
とりあえず来週の日曜までにできれば続きを投下します
おつです!
これからどうなんのか…
乙でした。
上条さんがボコボコにされなかったということは、ここからすぐにインデックスの首輪破壊に場面転換か?
乙です
おつおつ
乙
ここにみこっちゃんがいれば、「完全記憶能力のせいで人が死ぬことはない」ってすぐに看破してくれたろうに……
ようやくもうひとりのヒロイン(神裂)の登場なんだから御坂はいない方がいいでしょ
この場面に御坂いらん
幻想御手編と同様、クライマックス場面で颯爽と登場するのが真打ちヒロインにふさわしいと思う。
これだから御坂厨って害悪でしかない
御坂がメインヒロインかつカップリングも上琴って決まってるssで厨とか煽ること言うなや
ただ上琴も楽しみにしてる俺から見ても、ここで美琴が論破するのは興醒めだと思う
ここまで本当に綺麗に書かれてるから、>>1は自分の好きなように最後まで頑張って
問題はここからどう分岐するかだな・・・
乙
>>971
荒らしはスルーしよう
今日の22:00くらいに投下します
酉付け忘れた
待ってた
期待してまってる
投下します
「かおり?」
親友が自分の名前を呼ぶ声に、神裂は髪をとかしていた手を止める。
ここは日本の地方都市にあるホテルの一室。
神裂は『必要悪の教会』の上層部からこの地に巣食う悪質な魔術結社を潰すよう命を受けて、二人の同僚と共にこの都市を訪れたのだった。
今はその仕事も終え、少しばかりの休暇を楽しんでいる最中だ。
尤も今この時を何の翳りもなく心の底から楽しむのは無理があったが……。
「どうかしましたか?」
「ううん、なんでもない」
神裂は親友へいる方へと振り返るが、何故か彼女はそのまま布団に潜ってしまう。
彼女の名前はインデックス。
同じ組織に所属する二人は互いに掛け替えのない親友であると共に、神裂にとってインデックスは護衛対象ともなっている。
そして『今』のインデックスと出会ってから一年近く、例え言葉にしなくとも彼女が何を伝えたいかは大体理解できるようになっていた。
「少しお邪魔しますね」
「か、かおり?」
突然自分の布団に入り込んできた神裂に、インデックスは驚きの声を上げる。
しかし抗議するような目つきで睨みながらも実際は特に抵抗しないのが、彼女の本心の表れだろう。
神裂はそのままインデックスに並ぶようにしてベッドの上に横たわった。
「むー、かおりは意外と強引なとこがあるかも」
「ふふっ、そういうあなたは意外と意地っ張りな部分がありますね」
売り言葉に買い言葉。
だが二人の間に険悪な空気など生まれる筈もなく、自然と笑い声が溢れだす。
インデックスもこれ以上は誤魔化しても無駄だと悟ったのか、神裂の傍へと身を寄せてきた。
「明日は何処に遊びに行きましょうか?」
「私はかおりとステイルが一緒にいれば何処でもいいんだよ」
「そしてできれば美味しいご飯がたくさん食べられるところですよね?」
「えへへ」
まるで照れ隠しするようにはにかんだ微笑みをインデックスは浮かべる。
常に命の危険と隣り合わせの仕事に就きながらも、大切な友人達と一緒に過ごす幸せな日々。
できるならいつまでもこんな日々が続いて欲しい。
しかしそんなささやかな願いすら踏みにじるように、『その時』は刻一刻と迫っていた。
「……ごめんね、かおり」
親友から唐突に発せられた謝罪の言葉に、神裂はしまったと我に返る。
やがて迎えるその時を想像していたのが顔に出てしまっていたのだろう。
自分を殺すことに長けている神裂だったが、それ以上にインデックスは人の機微に敏い部分がある。
今もインデックスは神裂を気遣うように、優しい笑顔を浮かべていた。
「私のせいで二人に辛い思いをさせて」
誰よりも辛いのはインデックス自身である筈なのに、こんな時でも彼女は人の心配ばかりしている。
けれども自分を気遣ってくれている筈の笑顔が、神裂にはとても儚いものに見えて……。
こんな時に何もできない自分の無力さが神裂は何よりも憎い。
いくら世界に二十人もいないとされる『聖人』であろうと、いざという時に大切な親友一人さえ救うことができないのでは何も意味がなかった。
「痛っ!?」
すると突然、インデックスが苦悶の表情を浮かべて蟀谷を押さえつける。
神裂達に残された時間はあと三日。
既にインデックスには限界であることを知らせる兆候の頭痛が起き始めていた。
「大丈夫ですかっ!?」
「う、うん。 もう収まったかも」
しかし今もインデックスの顔色は青褪めたままだ。
逃れようのない別れの時は既に間近まで迫っている。
もう少し早く決断していれば、違う未来を切り開けていたかもしれないのに……。
イギリス清教の監視の目、日本に渡るためのスケジュール調整、外部での協力者の獲得。
神裂達が行おうとしているのは実質的に『必要悪の教会』に対する裏切りと同じで、万が一にも計画が崩れるようなことはあってはならない。
『必要悪の教会』と表だって敵対するようなことになれば、たちまちこの計画は海の藻屑を化してしまうだろう。
確かにこのことを考えれば、今以上に計画を実行に移す最適なタイミングはない筈だ。
だがその理由の一つ一つが、神裂には醜い言い訳にしか思えなかった。
この計画は禁書目録に課せられた残酷なシステムを打ち破るためのものであって、『今』のインデックスを救えるわけではない。
「ごめんなさい」
気付くと神裂は隣で横になるインデックスのことを思い切り抱きしめていた。
腕の中にいるインデックスからは人の温もりがはっきりと伝わってくる。
力がないことは決して罪とは言えない。
ただ己の意志で何か成し遂げようという時に、自分が無力であることを言い訳にするのは絶対に不義だ。
インデックスを救いたいという神裂の揺るぎない意志。
その意志に反して、それだけの力を持たない自分は罪人と変わらないのではないだろうか?
「大丈夫なんだよ」
自然と抱きしめる力が強くなっていた神裂の腕に、インデックスの手が優しく添えられる。
その手から伝わってくるインデックスの温かな心。
今の体勢からインデックスの顔を見ることはできないが、今もきっと笑っているのだろう。
だがこんな時でもインデックスに笑っていさせなければならない自分の非力さに神裂は無性に腹が立つ。
「……何が大丈夫なんですか? 私は今もあなた自身を救うことより、先の問題を解決することを優先している。 それなのに何で私のことを責めないんですかっ!?」
本当に醜い。
こんな時までインデックスのことよりも、自分の感情を優先している。
責められたい、罵られたい、そして楽になりたい。
本来なら全て自分の内で解決しなければならないものを、インデックスに求めてしまっている。
『救われぬ者に救いの手を――Salvere000』
どんなに大層な魔法名を名乗ろうと、自分が他に比べて遥かに弱い人間であることを神裂はここ最近でより痛感させられていた。
「何で私がかおりのことを責めなくちゃいけないの?」
「何でってそれは!」
「私はね、今すっごく幸せなんだよ? かおりとステイル、そして先生。 皆と一緒に過ごした一年間は本当に楽しいことばかりだった。 例えこの先があるとしても、今以上に幸せなことなんて絶対にないに決まってるかも!」
誰が聞いてもインデックスのその言葉が本心であることは間違いなかった。
インデックスがこの一年間を楽しく過ごしてくれていたことは神裂にとっても救いだ。
しかしこれから先があれば、今より幸せなことなどきっと沢山ある。
「かおりの気持ちが分からなくもないけど、私の言ってることは間違いないんだよ? それにね、記憶がなくなったって絶対になくならないものだってある」
「絶対になくならないもの?」
「うん! それは――――」
それからおよそ一年後、親友であった二人は科学の街で再会する。
人の強さ、人の弱さ、そして人の意志。
それらが導く物語を行く末を決めるのは絶対に神様などではない。
そして魔術師達が紡いできた物語に一人の少年が加わる時、物語は終局へ。
以上になります
次回の投下から次スレ
スレを立てたらこちらでも誘導します
今週来週は少し忙しいので次回は二週間後くらいになると思います
ではまた近い内に
修正
>>984
×そして魔術師達が紡いできた物語に一人の少年が加わる時、物語は終局へ。
○そして魔術師達が紡いできた物語に一人の少年が加わる時、物語は終局へと加速していく。
乙です
次スレ
とある科学の偽聖痕使い2(禁書目録・超電磁砲 再構成) - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1409571895/l50)
今後ともよろしくお願いします
新スレ乙です
新スレ乙
続き楽しみにしてます
うめ
乙でした。
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乙乙乙
乙です
乙埋め
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乙埋め
ウメハラ
うめぇ
>1000なら禁書3期放送決定
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