P「雪ほるよるに」 (28)
雪誕SSのつもりで書いたのですが間に合いませんでした。
前半部分のみ本日中に投下、後半はできしだい投下します。
ごめんよ雪歩
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1387893024
12月23日、雪のふる日。
雪歩「……き、今日は来てくださって、ありがとうございました」
ある都市外れの山奥の山地。埋まらない客席。
アイドル活動を始めて一ヶ月経った頃、私は初ライブを終えていました。
雪歩「萩原雪歩16歳です。765プロ所属です」
手ごたえのほうはというと、正直芳しいものではありませんでした。
練習の甲斐あってか失敗そのものは特になかったんですけど、
客席のほうは明らかに白けていて、結果としては失敗だったのかもしれません。
まだまだ無名の765プロと私でしたから、それは当然だったのでしょう。
でも私は、短い期間でしたが、ライブまでの間それなりに頑張ったつもりでした。
それだけに目の前の現実に不満……というより、やるせなさを感じていました。
雪歩(やっぱり、私なんか……)
用意していた自己紹介文を暗唱しながら思考が悪いほうに流れていると、
雪歩「……華もなくてちんちくりんだし、穴を掘って埋まっていますぅー!!」
まるで何かが乗り移ったかのように勝手に出た叫びと静まる会場。
雪歩「えっ……あ……」
さっきまでばらばらだった客席の視線が、驚きを込めて私のところに集中したとき、
私はその叫びを自分が言ったのだと気付きました。
雪歩「あの……その」
ライブよりはるかに熱くなるの顔。
本当ならすぐにでもステージ袖に逃げ出したいのですが、パニックになった体はまったく動こうとしません。
雪歩(落ち着かなきゃ。落ち着かなきゃ。落ち着かなきゃ。
こ、こんなときこそ真ちゃんに教わったあれを……『真』って字を掌に三回書いて飲むんだっけ?)
ステージ上にいることも忘れて、私はマイクを持っていた右手の人差し指を伸ばし、
左手の掌に持って行こうとしたところで、
「ワン!」
客席から私が苦手なあの動物の声が聞こえました。
「ワンワン!」
聞き間違えなんかじゃありません。
熱くなった顔から一気に血の気が引いていくのを感じ、
雪歩「い、い……犬ぅぅぅぅーーーーー!!」
そのあまりの恐怖にただでさえあっぷあっぷだった私の意識は一瞬でなくなり、
次に気が付いたときにはライブが終わっていました。
P・雪歩「申し訳ありませんでした!」
私が目を覚めた後、はじめの仕事はやはり謝りに回ることでした。
監督「ああ、いいよいいよ。どうせステージも終わりだったし。
俺も最後にいい思い出ができたわ」
まず最初に私たちが行ったのは現場監督さんのところ。
今回のライブを企画した人でもあるそうです。
監督「さすがに穴をあけ始めた時は俺も慌てたが、観客の興味は今日一番ひきつけられていたんじゃないか?
なんだかんだで忘れられるような無難さで終わるよりかはよかったよ」
私は頭を下げていたので顔はみえません。
ですが駄目な私でも、これは皮肉だ。そう思いました。ですが、
監督「……もう少し。もう少し、俺に力があればもっと盛り上げられたのかねえ……」
監督さんの声からは悔しさというより、虚しさ。
最後のステージを飾れなかった無念がこぼれていました。
P「……本日は本当に申し訳ありませんでした」
雪歩「も、申し訳ありませんでした……!」
ここに来る前から降り始めていた雪は未だにやまず、
せっかくライブ前に見えていた地面も埋もれていました。
一通り謝り終わった後、プロデューサーは会場の後片づけ、
私はその手伝い……というか自分で掘ってしまった(らしい)穴を片付けました。
P「……雪歩待たせたな」
雪歩「い、いえ」
穴埋め後、プロデューサーのほうも手伝おうと思ったのですが、
すぐに終わるからと控室で帰り支度をして待っているとプロデューサーが来ました。
P「そっちもお疲れさん。はいお茶」
雪歩「ありがとうございます」
男の人が苦手な私に気を使ってくれたのでしょう。
プロデューサーは腕を伸ばしなるべく距離をあけるようにして緑茶のペットボトルを手渡してくれました。
そのことに安心とやはり申し訳なさを覚えます。
P「まあ、所詮市販のだから味はいつも雪歩のお茶に及ばいがそれで許してくれ。
それともやっぱりいやか……?」
雪歩「だ、大丈夫です。私、ペットボトルのお茶も好きですから……」
それが顔に出ていたのでしょう。
勘違いしてしまったプロデューサーを慌てて否定して、これ以上勘違いされないよう早めに言わなければいけないと思いました。
雪歩(……謝らなきゃ)
控室で待っている間私はずっと考えていました。
後片付けのとき、今回出た他の事務所のプロデューサーさんやアイドル、マネージャーさんたちの姿はありませんでした。
それは別に後片づけから逃げたのではなくて、今回のライブ会場にはスッタフの人たちがいたから。
スタッフの人がいるのにプロデューサーが後片付けをしていたのは、きっとそういうことなのでしょう。
ほんのり温かいペットボトルを両手で抱いて、私は決意を固めたのですが、
P「雪歩、今日のライブはどうだった?」
雪歩「えっ?」
プロデューサーに先を越されてしまいました。
P「ライブの感想だよ。お前の初ライブだったけど、手応えはあったか?」
雪歩「手応えですか? えっと……緊張しました」
謝ることでいっぱいだった私の頭はもちろんそんなことを考えている暇はなくて、無難なこたえに逃げました。
P「緊張したか。そうか、そうか……」
雪歩(こ、今度こそ!)
P「それで他にはどうだった? リハーサルに比べて音源が聞こえにくいとかなかったか?」
雪歩「え、えーと……」
結局、この場では謝ることはできませんでした。
遠ざかるライブ会場をプロデューサーの運転する車の中から見送りました。
時間が経つほど積もる雪は道を隠し、車のワイパーがせわしく動いています。
ラジオをBGMに効き始めたエアコンが少しづつ車内を暖めていきました。
P「嫌な予感がする……」
車内の空気と外気が窓に白いカーテンをつくっています。
小さいころはよくこの白いキャンパスに指で書いていたのを思い出しました。
今そんなことをするのは年齢的な抵抗あってできません。
真美ちゃん、亜美ちゃんならしそうかな……?
響ちゃんとかもこっそりしてそうかも。
P「これは確かめた方がいいな」
携帯には皆からメッセージが届いていました。
文面はそれぞれ違いましたが内容は皆同じで、今日のライブのこと。
たとえ内容は一緒でも皆がメールをくれることに、私を気にかけてくれていることに
嬉しくて返信するのですが、今日のライブの様子を思い返すと、お茶を濁すような返事しかできません。
P「ここらへんなら……雪歩」
やっぱり私なんかが765プロを代表してライブに出るなんて無理だったのかな。
画面を触れる指が重くなったように感じました。
疲れたから……かな?
P「おーい、雪歩?」
雪歩「あ……はいっ……!?」
運転席のプロデューサーが私のほうに振り返っていました。
いつの間にか車はとまっています。
雪歩「ど、どうかしましたか……?」
P「いや、どうかしたと聞きたいのは俺のほうだが、大丈夫か? やっぱり疲れたか?」
雪歩「い、いえ……大丈夫です」
P「それならいいが。……ちょっと外に出るから待っててくれ」
そう言うとプロデューサーは私の返事も待たずに外に出ました。
この後は帰るだけだと思っていた私はどうしたらいいのかわかりません。
とりあえず私はプロデューサーを待つことにしました。
P「ここらへんなら……雪歩」
やっぱり私なんかが765プロを代表してライブに出るなんて無理だったのかな。
画面を触れる指が重くなったように感じました。
疲れたから……かな?
P「おーい、雪歩?」
雪歩「あ……はいっ……!?」
運転席のプロデューサーが私のほうに振り返っていました。
いつの間にか車はとまっています。
雪歩「ど、どうかしましたか……?」
P「いや、どうかしたと聞きたいのは俺のほうだが、大丈夫か? やっぱり疲れたか?」
雪歩「い、いえ……大丈夫です」
P「それならいいが。……ちょっと外に出るから待っててくれ」
そう言うとプロデューサーは私の返事も待たずに外に出ました。
この後は帰るだけだと思っていた私はどうしたらいいのかわかりません。
とりあえず私はプロデューサーを待つことにしました。
皆への返事を送り終えると手持ちぶさたになり、外の景色を眺めました。
P「社長、申し訳ございませんが…………」
山奥だからでしょうか。
見えるところは全て雪化粧がほどこされていて、建物から漏れる光が雪を優しく照らしています。
P「…………も、もちろん萩原さんの娘さんは責任持って……」
プロデューサーはどこかに電話をかけているみたいだったのですが、
あちこちに電話かけているみたいで、着ている服やマフラーに雪がついていくのが見えます。
車のエアコンは動いていましたが、お茶はもう温かさをなくしていました。
P「監督、お願いさせていただきたいことがあるんですが……」
私の胸がドキリと鳴ったのを感じました。
今日お世話になった監督さんは今回の他プロダクションとの合同ライブの企画の立ち上げ人であると同時に
この日で現役を引退することが決まっていたそうです。
私自身はアイドルになったばかりなので一緒にお仕事をさせていただいたことはないのですが、
社長の昔からのお知り合いということで、765プロの代表として参加させていただいたのですが……
雪歩「……」
私は携帯から音楽を長し、イヤホンを耳につけ、外への意識を遮断しました。
選曲は適当だったので何が流れるか決めていなかったのですが、曲のイントロが始まったらすぐにわかりました。
なぜならそれは最近何度も聞いていた曲、私が今日ステージで歌った曲なのですから。
一瞬、曲を変えようと思いました。
でもなんとなくこのままでいいやと思いそのまま流し続けます。
曲を聞いて思い返すのは今日のステージ……というより、今日までのレッスンの日々。
P「……ほ、雪歩……!?」
雪歩「ひぇ……?」
外から戻ってきたプロデューサーが心配そうに私を見ていました。
それより、私の声なんかおかしい……?
P「本当に大丈夫か? なんかあったか?」
雪歩「……じょ、どうしてそんなこと?」
P「涙」
雪歩「えぁ……?」
P「涙が出ているぞ。それと鼻水も」
プロデューサーが助手席からティッシュを差し出してくれました。
言われて気付いた私はひったくるようにそれをとると、中身を数枚とって顔全体をおさえます。
はずかしくてしばらくはティッシュで顔を隠さなければなりません。
P「すぐに泣きやめそうか?」
そもそもどうして泣いたのかわからない状態です。わかるはずがありません。
私は首を横に振ってこたえました。
P「そうか。まあでもちょっと急がないといけないから車を発進させるぞ。
十五分ぐらいあるが、無理そうだったらティッシュで押さえたままでいいから」
車が再び発進したのを振動の感覚で知りました。
泣き止めるかなあ……?
心配したかいなく、理由もなく出た涙は理由もなく終わり、私とプロデューサーはある場所に来ていました。
P「すみません、空いている部屋ってありますか?」
その場所というのはホテル……というより民宿。
村の出入り口の一番近くにある建物で、木と畳の匂いが香る、
私の家の部屋と似たような雰囲気をもつところでした。
女将「一泊ですね? 少々お待ちください。
今日はお客様みたいなかたが多くて……」
本当なら今日どこかに泊まることなんてなくそのまま帰るつもりでした。
ですが、今も降り続いている雪の影響で今日来た道がつかえなくなったみたいで、
明日まで待機しないといけなくなったみたいで、社長とお父さんにはそのことを連絡し、
監督さんに今いる宿を紹介してもらったみたいです。
みたいと推定ばっかりなのはそれがプロデューサーの事後報告だったからです。
車で流れていたラジオには道路が閉鎖したというニュースはあったらしいのですが、
他のことに気をとられていた私には聞こえていませんでした。
女将「お部屋ですが、あるにはあるのですが……」
それでここで一泊しなければいけないことをプロデューサーに聞かされて、当然驚いたし困ったのですが、
私のせいで会場の後片付けをすることがなければその前に帰れたんじゃないか、
私のせいでプロデューサーが足止めをくらったと思うと、わがままを言うわけにもいきません。
だ、大丈夫……一日、そう! 一日だけ、だから……!
私も女なんだから、ここは腹をくくらなきゃ!
そう決意したのですが、
女将「生憎一部屋しか空いてなくて……」
雪歩「え?」
女将「それにお布団のほうも一組しか使えそうにないんです」
雪歩「ええー!?」
そ、それってつまりプロデューサーと……
プロデューサーが優しい人だということは知っています。
私みたいなダメダメな子を見捨てないでいてくれるし、見守っていてくれます。
でも、いつからあるかわからない私の男の人嫌いはその優しさを簡単に忘れさせ、
未だにプロデューサーが直接手を触れることを拒みます。
だからプロデューサーと一緒の部屋に泊まるということを想像するだけで、
私の体はこわばり、寒さとは違う震えが襲ってきます。
P「雪歩」
プロデューサーに呼ばれて私はハッとしました。
そうです。私はこれ以上プロデューサーに迷惑をかけるわけにはいかないのです。
でも、私がパニックになって部屋に穴をあけちゃったらそれ以上の迷惑が……はっ、穴!
雪歩「プロデューサー!」
パッと出たひらめきは私を救うものでした。
普段はダメダメな私ですがこれならいけると確信しました。
前半終了
訂正
≫3
ライブよりはるかに熱くなるの顔。
↓
ライブよりはるかに熱くなる顔。
なるべく今日中に終わらせてー
民宿のお風呂は屋根つきの露天風呂で、雪に染まった山々が見えました。
雪歩「ふぅ……」
ライブの汗を流し終えた私は足から湯船につかります。
家のお風呂も大きさは同じぐらいありますけど、
やはり住んでいる場所が場所なだけに露天にするわけにはいきません。
だからこういう開放感に溢れたところに来ると人並みに嬉しさを感じたりします。
雪歩「お夕飯は8時、明日の朝ごはんは7時。出発は8時だから……」
暗くなっていく空を見上げながらこれからの予定を整理しました。
今ここにいるのは私一人だけでしたので少々声を出しても問題はありません。
雪はようやくやんできて、わずかに夕日がさしていましたけど、
雪歩「はぁ……やっぱり私はダメダメですぅ」
私の気持ちはさっぱり晴れません。
私の案はプロデューサーに採用されることはありませんでした。
私の考えとしてはプロデューサーをこの民宿に泊め、私は外に穴を掘って過ごす。
そんな感じのわれながらナイスアイディアと思ったのですが、プロデューサーは人の土地に勝手に穴を掘ってはいけないと
ごくごく当然の正論に反論にできずあっさり廃案となりました。
そして結局私がこの民宿に泊まることになったのです。
雪歩「プロデューサー、他の当てをあたるって言ってましたけど……」
たとえ他の案がなくてもなんとかプロデューサーをここに泊めさせようとした私に、
プロデューサーは監督に紹介してもらった他の宿に行くと言っていました。
けど、たぶんそれは……
雪歩「嘘ですよね」
私は今度こそ確信していました。
だって早くに宿を見つけたいのなら普通は近場の宿からまわっていきます。
しかし、ここの宿があるのは村の出入り口。
つまり複数候補をあげられたとしてもその中から手当たり次第で探すには
一番最後に回されるべき場所なのです。
それでもプロデューサーが一目散にここに来たのはおそらく
ここ以外の宿は私たちと同じような人たちで埋まっているとわかっていたからでしょう。
と、今となってはわかったように言えますけど、実際に気付いたのはさっきで、
とっくにプロデューサーは車に乗ってどこかに行った後でした。
少女「あー、お姉ちゃんだ!」
日も完全に見えなくなって室内や屋外の電灯が眩しくなった頃、
露天風呂に小さな影が姿をあらわしました。
少女「お母さん、お母さん。お姉ちゃんがいたよ!」
女の子は元気いっぱいの可愛らしい声で脱衣所のほうに声をかけています。
一方の私は女の子がお姉ちゃんと呼ぶ人物を探してみるのですが、私のほかに人はみあたりません。
そうなるとあの子が言っているお姉ちゃんって……
雪歩「私?」
脱衣所のほうから女の子の面影を持った、本来は女の子のほうが似ている
というべきなんでしょうけど、女性が出てきました。
母「あらあら~本当ね。こんばんわ~」
ややふくよかな体型に優しそうな目、そのうえおっとりした口調は
あずささんに少し似ていましたけど、たぶん他人の空似でしょう。
雪歩「こ、こんばんわ」
母「ほら、少女もお姉ちゃんに挨拶して」
少女「うん、こんばんわ!」
雪歩「こんばんわ」
母「わざわざありがとうございます。……萩原雪歩さん、でしたよね?
今日のライブ、見に行きましたよ」
雪歩「! ありがとうございますぅ!」
まさか名前まで覚えてもらえているとは思わず、少し驚きました。
女の子はすぐに私のところにこようとしましたけど、
体を洗ってからと女性に止められて、はやる気持ちで体を洗っては女性に洗いなおしをくらい、
私のほうも女の子が来るのがわかっていたのでゆったり待っていました。
少女「お姉ちゃん、私も今日のお姉ちゃんのライブを見に行ったんだよ!」
洗い終わった後、女の子は屈託のない笑顔で私のところに来ました。
雪歩「ふふ、ありがとうね」
その様子が微笑ましくて自然と私も笑顔でかえします。
少女「あのね、私は東京から来たんだけどね……」
雪歩「へえ、そうなんだあ……」
女の子は身振り手振りをふまえて一生懸命に伝えてくれます。
きっと今日のライブは女の子にとって楽しいと思ってくれたのでしょう。
でもそれだけに、私の心に少女への罪悪感が大きくなります。
かっこわるいところ見せちゃったなあ……
少女「……それでね、……お姉ちゃん……?」
雪歩「……えっ? あ……どうかしたかな?」
一瞬、意識がとんでいました。
少女「私の話ちゃんと聞いてた?」
雪歩「ぅ……ごめんね。もう一回話してくれる?」
少女「しょうがないなあ。じゃあもう一回言うよ?」
雪歩「うん」
今度は聞き逃さないようにしないと。
少女「私ね、アイドルになりたい! アイドルになって皆と一緒に歌いたい」
目を輝かせながら女の子は言いました。
雪歩「……うん、少女ちゃんならきっとなれるよ」
少女「その時はお姉ちゃんも一緒に歌おうね」
雪歩「うん。よろしくね」
私が笑うと女の子も笑顔で返します。
女の子の輝きは初めて会った時の春香ちゃんにも似ていて、きっとこの子なら大丈夫でしょう。
でも私なんかがそれまでアイドルを続けていられる可能性なんて……
少女「えへへ……それでね、私……お姉ちゃんみたいなアイドルになりたい!」
雪歩「えっ……?」
私の表情は固まってしまいました。
少女「お姉ちゃん?」
女の子は私の顔を不思議そうに見つめてきます。
なにか言わないと……
雪歩「……駄目だよ。私なんか目指しちゃ」
力のない笑みを浮かべながら私は言葉を絞り出しました。
雪歩「私なんて無名で、ひんそーでちんちくりんで……」
小さい子に何を言っているのでしょう。
大人げないのはわかっていましたけど、頭の一部がぼうっとしたように言うことをきかず、
自虐の言葉を止めることができません。
失望されるのが怖くて私は女の子の顔を見ることができませんでした。
雪歩「こんなダメダメの私なんか目指しても……」
母「……そんなことないと思いますよ?」
いつの間にか女性が湯船に入り、私たちのほうにきていました。
母「私たちここの母の実家に帰省するんですが、
この子はそのたびに、学校の友達と遊べないってすねるんです。
今年も最初はすねていたんですけどね……」
女の子は女性に抱き着きました。
抱っこするような形だったので顔は見えなかったのですが、
小さな体が小刻みに震えていて泣いているのがわかります。
あ、謝らないと……
その気持ちはすぐにわいてきたのですが、言葉がみつかりません。
母「あなたたちのライブを見に行ってからは笑ってばっかりで、
帰って来た当日に機嫌がよくなったのなんて初めてなんですよ」
女性はゆっくりと女の子の背中をなでていました。
母「少女、アイドル目指すの嫌になった?」
女の子は小さく首を横に振りました。
母「じゃあ、お姉ちゃんのこと嫌いになった?」
それも女の子は横に振りました。
母「そういうことです。自信を持ってください。
あなた自身は自分に満足していないかもしれませんけど、
間違いなく、あなたはこの子にとってのアイドルですよ?」
その言葉は私がアイドルを始めて間違いなく一番嬉しい言葉で、
私は全身が熱くなるのを感じると同時にどこかふわふわとした気分にもなりました。
お礼を言わないと。それと少女ちゃんにも謝って……
母「雪歩ちゃん、あなた……」
言葉を出そうとしました。
けど、頭の中にもやがかかったように鈍くなり、考えがまとまりません。
どうして……? せっかく誰かに褒めてもらえたのに。
母「のぼせているわね」
雪歩「ふぇ……?」
その後、私は女性の介抱を受けながら脱衣所でのぼせを治すことになりました。
後半の前半が終了
後半の後半ができしだい投下します
投下マダカナー
待ってます
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