佐天「クリスマス・イヴを一人寂しく過ごす能力、かぁ…」 (2)

「…ただいまー」

と、言っても誰が答えるわけでもない。むなしく私の声が響くだけだ。
家賃3万のボロアパート。暗く、冷たいその部屋に明かりを点ける。
「あー、寒い寒い…まずはこたつの電源入れないとねー」
寒さを凌ぐ道具はこたつしかない。繋ぎっぱなしのコンセントを見ながら、スイッチを入れる。
こたつが暖まるまで、夕食の準備をする。…といっても、買ってきたのは、カップラーメンだが。
コンビニでお湯を注いできたカップラーメンをこたつの上に置き、ファミチキ1つと、小さなショートケーキを取り出す。
「…クリスマス・イヴだし、今日くらいは豪華にしなくちゃねー」
独り言なのに明るく振舞う…そんな自分に、ふと、猛烈に悲しい気持ちが押し寄せてきた。
中学時代、結局、レベルが0のままだった私は、学園都市を去った。高校は実家の近くの女子高に通った。
最初は初春や白井さん、御坂さん…アケミ達と連絡を取り合ったりもしたが、いつの間にか疎遠になってしまっていた。
自分はやはり無能力者…その現実がはっきりとわかって、私は少し、荒れていた。高校時代は、友人と呼べる人は一人も居なかった。
その寂しさを紛らわすために勉学に励み、有名大学へ進学したが、必修であったゼミの仲間達からの疎外感からか、2年の春にやめてしまった。
…それから1年半…未だに両親には告げていない。両親からすれば私は、後4ヶ月で卒業…就職することになっている。
バイトすらせず、生活費は全て両親からの仕送りで賄っている。自分でももはや、どうしたらいいかわからなくなっている。
そんなどうしようもない時に、クリスマス・イヴだから少し豪華な夕食を、なんてコンビニに買いに行った自分…。
ああ、自分は一体何をしているんだろう。どうしてこうなってしまったのだろう。…やり直したい、けれど、やり直せないのはわかっている…。
…TVを点ける。どの局もクリスマス特集ばかりだ。映し出されるのは煌びやかなイルミネーションの中を歩く、幸せそうなカップル達。
妬ましい、と思うよりも、羨ましい、と思う自分がいる。自分もせめて…彼氏じゃなくてもいい、友人…家族でもいい。
「………誰かと、一緒に過ごしたかったなぁ。…あ、あはは…」
不意に頬を涙が伝う。皆は楽しそうに笑うクリスマス・イヴ。けれど私は泣いている。
目の前には、お湯が入ったカップラーメン、ファミチキ、安売りのショートケーキ。そう、これが現実だ。これが今の私の現実。
変えようの無い、現実。…どんなに望んでも、今さら誰かとクリスマス・イヴを過ごすことは無い。去年もそうだった。
…このままでは来年も…その先もずっと……いや、そもそも、自分の人生そのものがどうなるかわからない。
今のままでは、まともな人生なんて送れない、ということだけははっきりしているが…。
「…やめよう。思考が悪いほうへ悪循環してる。やめやめ、何の得にもならないよね」
…独り言で自分に対する言い訳…言ってて虚しくなる。けれどやはり、私は私なのだ。現実から目を逸らすしか出来ない…弱い私。
「さて、カップラーメン食べるかな………あ」
考え事をしていたせいか、少しふやけていた。…小さな溜息をつき、私はそれを、啜った。…涙はもう出なかった。

永井産業

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