双葉杏「明日を落としても」 (36)
・キャラ崩壊注意
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メーデーメーデーメーデーメーデー…
杏「疲れた…もう一生分働いた…」
この1ヶ月、プロデューサーが四六時中張り付いていてレッスンお仕事ライブとホント死ぬかと思ったよ…
杏「しかし、このアニバーサリーライブをもって、私は永遠の眠りにつくぞ…」
ああ、お布団が!コタツが!私を待っている!
行きつく先が我が家なら、疲れていても足取りは軽いってものよ。
しかし、後ろの方からドタドタと凄い勢いで私に何かが近づいてくる。
きらり「あーんずちゅぁああああああん!!!!」
思わず振り向くと、とんでもない勢いで私に近づいてくるきらり。
杏「ちょっ!きらりストップ!」
きらり「うきゃー!うきゃー!」ギュゥゥゥゥ
げふっ、今の状態できらりんはぐは洒落にならないよ…
杏「き、きらり…力…緩めて…」
きらり「杏ちゃん!杏ちゃん!今日はさいっこうだったにぃ~!!」メリメリッ
あっ、ヤバイ。今のきらりはリミッターが外れたフルパワーきらりだこれ。
杏「はな…せ…」
きらり「もうもうもう☆超☆おっすおっすばっちし☆って感じだったにぃ!!!」メリメリメリッ
あーヤバイ、疲労とかなんだーかんだーでマジで意識飛ぶ。
杏「 」ガクッ
きらり「もううきゃーうきゃー☆って感じで―って、杏ちゃん?杏ちゃん!?」ガクガク
あーなんか眠くなってきた、まぁ寝ちゃってもいいやもう終わったんだし。
きらり「杏ちゃん!?あんずちゃあああん!?!?」
あーなんで私ここにいるんだっけ、なんでアイドルやってるんだっけ。
なんでだったっけ…
…
私は昔からこの体型だった。
小学校から変わらぬこのプロポーションを維持していた。
別に好きで維持していたわけじゃないけど。
単純に成長しなかったんだよね、身体だけ。
まぁつらい事ばっかりだったよね、正直。
どうしようもないからさ、色々とあきらめてきたけどね。
何をするにもこの体型が足を引っ張った。
運動も、恋愛も。
激しい運動するとすぐに息切れを起こし同世代の子達には追いつけなかった。
恋愛なんてもってのほか。
私に近寄ってくるのは小さな子供か大きな子供しかいなかったよ。
特に大きな子供は厄介だったなー。
まぁロリコンのことなんだけどね。
おかげで対処法を学べて今有効活用できてるって感じだけどねー。
私から人を好きになったこともあったかもしれない。
けれども、こんな私を同世代で受け入れてくれる人なんているはずもなかったよ。
本当、つらい事ばっかりだった。
心も枯れて、あきらめるのにも慣れて。
自分のことを他人のように見るようになったよ。
元々のめんどくさがりだった性格も相まって、友達はいなかったよ。
というかイジメられてたね、あれは多分。
あの頃は人にも自分にもあんまり興味がなかったから憶測だけどね。
色々物がよく無くなってたし、この体型のこととかでからかわれてたし。
運動もできないし、勉強も最低ラインを下回らなきゃいいって感じで勉強もやらなかったし。
あの頃はコミ障の塊みたいな感じだったからなー。
あれだな、厨二病って奴だな。
蘭子とは違うタイプの。
イジメられるのは当然かなーって。
今以上に冷めてたからなー、あの時は。
私だったら絶対関わりたくない人種だね、自分のことだけど。
先生にすら匙投げられて、機械みたいな声でサヨナラ宣言されたっけ。
流石にあれは何か傷ついたなー。
けれどもあの頃はまだ学校ちゃんと通ってたんだよねー。
今の私じゃ考えられないよ。
なんで学校行かなくなったんだっけ…?
えーっと…
…
そうだ、確か。
誘拐されたからだったっけ。
なんだっけ、連続小学生婦女暴行犯だっけ。
私、そのとき中学生3年だったけど。
まぁ私服だったし間違えるのも無理はないかな。
学校の帰りに急に知らない人が着いてくるなーと思ってたら首筋になんか当てられて。
いやーあの時の痛みは今でも覚えてるねーなんとなくだけど。
火傷の痕があったからスタンガンだろうって確か医者は言ってたっけ。
それで次目が覚めた時には知らない部屋にいたっけ。
特に何もされていなかったっけ、手足縛られてる訳でもなく。
まぁ相手が女子小学生だから力でどうとでもなると思ってたんだろーね。
とりあえず状況を確認して寝たふりしてトイレに行ったときに逃げ出したんだっけ。
ドアノブが下げれないように固定して逃げたんだっけ。
この時、持たされていただけで一回も通話を使わなかったケータイが初めて役に立った瞬間だったよ。
初めてすぎて通話の仕方が分からなかったけど。
寝てた時に色々されてたらヤバかっただろうねー。
そのあと私は警察に保護されて犯人は逮捕。
事情聴取がめんどーだったなー。
それからだっけ、私が学校に行かなくなったのは。
外が怖かったとかそういうのじゃないんだよね、確か。
色々あきらめたんだよね、確か。
外に出れば嫌なことしかないし。
もう、いいかなって。
親もあんなことがあったから特に何も言わなかったし。
こうして私は悠々自適なニート生活を手に入れたのだった。
いやー最高だったね、寝て起きて寝て起きてネットしてゲームして寝て起きてご飯食べて寝て。
もう心が枯れるを通り越して腐っていくのが分かったね。
もう起きるのが億劫で、息するのが億劫で。
特にしたいこともなく、なにもする気がなかったし、
こんな自分にも愛想が尽きてたし。
もう無理して生きていることないんじゃないかなとか思ってたよ。
だからずっと寝てた、ただただ寝てた。
眠るってことは意識を切り離されるってことで、死と同じだと思う。
だから私は生きながらただひたすら死んでいた。
今ここで私が明日を落としても、誰も拾ってはくれないだろうなーとか考えたり。
それで良かったんだけどなぁ。
こうやってうまく自分をごまかして楽に生きていくつもりだったんだけどなー。
そんな生活を2年過ごしてたら、ある日急に親が私の部屋へと入ってきた。
「杏ちゃん、アイドルになるわよ」
久々に顔を合わせて言った第一声がこれで、あぁついに頭が…とか思っちゃったよ。
いや、だってねぇ…
その時の私の反応は、
杏「…?ぁ…?」
って感じだったっけ。
いやー、人って年単位で喋ってないと上手く喋れなくなるもんだねー。
とりあえずパソコン使ってチャット形式で意思疎通を取ったよ。
syrup16gか……(悪い予感)
杏『何いきなり訳の分からないこと言ってるの?』
「それがね、東京に住んでる妹がね杏ちゃんの昔の写真をアイドルを募集していた事務所に送ってみたらしいのよ」
なんということをしてくれたんだ、あの殆ど会ったことのない叔母さんは。
「そしたらね、受かっちゃったみたいなのよ!それで一度会いに来てくれませんか?って言われて!」
杏『いやいやいや、杏の断りなしに?!』
人権侵害だー、まぁニートに人権はないかもしれないけど。
「まぁちょっと受けてみましょうよ!交通費は向こう持ちだし」
この時は本気で叔母さん恨んだなー。
まぁ行く前に社会復帰(リハビリ)の為に1か月かかったんだけどねー。
いやー喋れるようになるのと歩くのがあんなに辛いとは思わなかったよ。
それで荷物のように抱えられて東京の芸能事務所まで行ったんだっけ。
それで面接とか言って今の事務所の社長とプロデューサーが居たんだっけ。
で、まぁ私を見るなり写真通りだ!とか色々言ってきたねー確か。
親と社長はもうノリノリで話してた横で私は他人事のようにボーっとしてたような気がする。
すると、プロデューサーが私に話しかけてきたんだっけ。
「君、ずいぶんと関心がなさそうだけど、アイドルになる気はないのかい?」
親以外に久々に話しかけられたなーとか思って、つい返答しちゃったよ。
杏「どうでもいいからね、それよりも私は帰って寝たいよ」
そういうとプロデューサーは驚いたような顔をしてたね。
そりゃそうだ、推薦とは言え事務所まで来たアイドル候補がこんなこと言ってきたら驚くだろうね普通。
「履歴書は見せてもらったけど、杏ちゃんは所謂ニートって奴なのかい?」
履歴書なんてあるんだ、誰が書いたんだろねー。
杏「そうだよ、私はずっと寝て過ごすっていう今の生活が理想の生活なんだー」
そう、理想の生活。
だけど、なんだろうこのもやもやは。
プロデューサーがふーむ、と言って腕組んで考え事してる。
「でもさ、ずっと寝て過ごすって今はいいけど段々できなくなってくると思うよ?」
そんなことは知っている、だけど今更どうしろというんだ。
こんな身体の、ただのニートに何ができるというのだ。
杏「まぁねー、ま、なんとかなるんじゃない?とりあえず働きたくはない」
どうでもいい、今のことも、先のことも。
つらい事ばかりで 心も枯れて あきらめるのにも慣れて
したいことも無くて する気もないなら 無理して生きている事も無い
明日を落としても 誰も 拾ってくれないよ それでいいよ
「じゃあさ、ちょっとアイドルなってみない?」
…何を言っているんだ、こいつは。
本気でそう思ったね。
杏「いやいや、働きたくないって今言ったばっかりなんだけど」
「大丈夫大丈夫!杏ちゃんなら絶対にアイドルで成功するって!」
何を根拠にそんなこと言うんだこいつは。
だけど、人にこんなに期待されたのは初めてだ。根拠の無い期待だけど。
だから、ちょっとドキドキしていた。
「いやーアイドルっていいもんだよーたとえばうちのアイドルで~」
なんかすごい勢いで私にアイドルがどれだけ素晴らしいかの話をしてくる。
杏「いや、ないからね、私が働くなんてありえないからね、興味ないし、どーでもいいよ」
そう言って うまくすり抜けて そう言って うまくごまかして
そう言って 楽になれること そう言って いつの間にか気づいていた
そんなこと言ってもプロデューサーの話は止まらない。
今だったらはいはい営業トーク営業トークって言って受け流せるけど。
この時の私は自分にこんなに熱心に話しかけてくれる人が初めてで戸惑っていた。
「い、いやだっ! 私は働かないぞっ! アイドルだろうとなんだろうと…お断りだーっ!!」
こんなこと言っても、私の心の奥底ではアイドルになることは本気では嫌がってなかった。
しかし自分の中にあるニート=働いたら負け的なあってないようなニート的プライドでアイドルになることを口では否定していた。
ただ、きっかけがあれば十分だった。
「それに、もし歌を出して売れれば印税で一生生活できたりするよ」
そして、そのきっかけがやってきた。
杏「…え? アイドルになれば印税で一生楽に生きていける? ほ、本当? …は、話を聞かせてもらおうじゃないか」
あとはもう流れる様に私はアイドルになっていった。
東京で寮に入って一人暮らしをはじめて。
あれだね、監視付き一人暮らしはニート更生プログラムに持ってこいだね。
プロデューサーには起こされて無理やりレッスンに連れて行かれるわ。
事務所入ってすぐに一方的に仲良くなったきらりに拉致されて仕事に行かされるわ。
いつの間にかCDデビューすることになるわ。
これだけじゃ印税生活はできないと分かって憤慨もしたっけ。
けど、まぁ、楽しかったよ。
あのまま死んでいる生活しているよりも、ずっと。
今アイドルやっていることに感謝しているよ。
けど恥ずかしいからさ、今でもニートキャラを盾に飴くれなきゃ働かないって言ってるけどさ。
自分に嘘ついて何もせず楽になってる時よりも、今みたいに正直に生きて辛くてしんどいほうが楽しいよ。
…
杏「んぁ…」
目が覚める、目の前には見慣れない天井。
「お、目が覚めたか」
スーツ姿の男性が私に話しかける。
杏「…プロデューサー?どしたの?」
P「いやいやお前がきらりに絞め落されたって聞いたから救護室で寝かせてたんだよ」
杏「ふーん、きらりは?」
P「そこにいるぞ」
きらり「ううん…杏ちゃん…」
そこには私のベッドに寄りかかる様に寝ているきらりの姿があった。
P「先に帰ってろって言ったんだがな、杏が起きるまで待つ―って言って聞かなくてな」
きらりの身体には毛布がかかっている、きっとプロデューサーの仕業だろう。
相変わらずだね、こういうところは。
杏「ねぇ、プロデューサー」
P「んーなんだー?」
コーヒーをずずっと飲みながらこっちを向く。
杏「色々と、今までありがとう」
P「…えっ」
あ、手に持ってるマグカップが傾いていく。
P「あっちぃ!!」
杏「ばーか」
P「ちょ、今の言葉もう一回言ってみて!」
杏「ばーか」
P「違う!その前その前!」
杏「もう言わないよっ」
そう言って布団を顔から被る。
あー顔が熱い、慣れないことなんて言うもんじゃないな。
きらり「ふひひ☆杏ちゃんかーわいい♪」
杏「!?」
きらり、起きてたのかっ!
きらり「杏ちゃん、さっきはごめんね?」
杏「別に気にしてないよ…いつものことだし」
杏「それより、今見たこと聞いたことは忘れろ」
きらり「んー♪どうしよっかなー☆」
くそ、一生の不覚だ。
きらり「杏ちゃんはーもうちょーっとPちゃんに素直になってもいいんじゃないかにぃ?」
杏「うるさいよきらり、もう寝る!」
きらり「うきゃー!うきゃー!照れる杏ちゃんかーわいいー♪」
あー言うんじゃなかった、あんなこと。
けど本当に感謝しているんだよ。
誰も拾ってくれなかった杏の明日を拾ってくれて。
誰も愛せなくて愛されなかった杏を愛してくれて。
終わり
良かった…乙
以上です、ありがとうございました。
杏があんなに飴で働くのかとか、なんでニートになったのかとか、
久々にSyrup 16gを聞きながら考えてたらこんな感じになりました。
明日を落としてもは全てを受け止める歌だと思っています。
そこから落ちるのか上がるのか、それはその人受け止め方次第だと思っております。
明日を落としても Syrup 16g
http://www.youtube.com/watch?v=ZfQzBk4C4YQ
乙
まさにシンデレラストーリー
あんきらうぜえな
作者[ピーーー]ばいいのに
乙にゃあ
<<28
公式運営が死ぬんですがそれは
やっぱりPがうらやましすぎる
乙
杏ちゃんやー!ありがてえ、ありがてえ!
でも切なすぎるおん
乙。
軽くても重くてもそれでも変わらない感じのするそんな杏が好き
おつ
杏はあの態度の裏に結構どえらい物抱えてそう
このSSまとめへのコメント
杏で容姿が幼いから~とか言ってたら若葉はどうなるんだよ。