【化物語】 迷物語 (78)

化物語のss

以下の点に注意してお読みください。

※登場キャラは阿良々木暦、八九寺真宵、斧乃木余接、忍野忍。メインヒロインは八九寺真宵。

※忍と余接がわりと空気

※作者はssは書いていましたが、化物語のss自体は初めて。なので所々矛盾があるかもしれない。

※鬼物語の派生。上記に書いたキャラ以外は一度も出ませんのでご注意ください。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1386399140

期待



000



今でも僕は、思い出す。
あの時、あの場所でした、僕自身の選択を。


非存在、あの暗闇のような、あるかどうかも疑わしい存在から逃げ切るために、カタツムリの少女、八九寺真宵と迷い続ける選択をしたことを。

きっとこれから僕が話すのは、長い長い、必要性の無い、蛇足になるのだろう。けれど、そんな自己満足にこれからちょっとだけでも良いので付き合ってもらいたい。
あれから、幾久しく語っていない物語を。






『迷物語』






001


少し、遡ってみようと思う。あの時、あの決断をくだした頃に。
非存在に負われて、追われて、行き着いたあの湖にいた頃に。

八九寺真宵を、決して離すまいとして、握っていた手を離さないでいた、離せないでいたあの頃に。





『あ、そうだ、阿良々木さん。最後にあれやりましょうよ、あれ』
『あれって』
『噛みましたから始まる、一連の流れ』
『……なんだよ、やっぱわざとだったのかよ、あれ』
『当たり前じゃないですか。あんな噛み方する奴いませんって』

飄々と言ってくれる八九寺。

『ね、阿良々木さん。そう言えば今回、一度もやっていませんでしたし』
『……』
『阿良々木さん。わたしへのはなむけだと思って、ここは是非』
『……分かったよ』

やり取りの間でさえ、涙を堪える必要があった。ちょっとだけ震える唇を、頑張ってとめようとするも、それも叶わずにやり取りを続けていく。

……そして、最後だと言ってやった、あの流れ。
どんな感情も出さないように気をつけながら、振り返って、いつの間にか間近に迫っていた八九寺がやった、あの行為。

きっと八九寺は、本当に最後のつもりでこんな行動をしたのだろう。これ以上僕と関われないから、関わらないから、こんな行動をしたのだろう。
でも僕は、終わって、離れていく、消えていきそうな八九寺を見て、思わず抱きしめた。

最後に言おうとした、あの言葉も待たずに。『失礼』、から始まるあの言葉を待たずに。いや、言わせたくなかったのかもしれない、言われたら、本当に終わってしまいそうで。

力の限り、抱きしめた。
壊れてしまうんじゃないのか、なんて考えもせずに、なんてか細いんだ、なんてことも考えずに、ただ無心に、ただただ無心に決して離すまい逃すまいと抱きしめてしまっていた。


『……駄目ですよ、阿良々木さん。最後なんですから、格好悪いとこ見せないでください』

苦しいだろうに、辛いだろうに、けど、八九寺はなんとも無いように、子供をあやすように僕に言う。
もう駄目なんだ、もう居られないんだ。ということを言外に言う。
その言葉に、僕は首を振り、叫んだ。

『離さない! 絶対に、離さない! 迷う、なんて言ったって迷ってやる! 八九寺が拒否っても、八九寺が嫌がっても、八九寺が苦しくても! 僕がいくら格好悪くても、情けなくても、気持ち悪くても、 絶対に離さない!
僕は、八九寺がどんなになっても、僕がどんなになっても、一緒に居たい! 居たいんだよ!!』

僕の叫び声を聞いて、八九寺は一瞬目を見開いた後に、また悲しげに目をふせる。

『阿良々木さん、貴方は……なんて……』

嫌われても良い、憎まれても良い、殺されても良い、何をされても良い、だけど、お前が居なくなるのだけは、嫌なんだ。
だから僕は、こう言った。

『お前の事情なんて知るかよ、僕が僕のために、僕のためだけに、お前を絶対に逃がさない、それだけだ』

八九寺の目が、うっすらと赤くなっていき、目に涙がたまっていく。




震えている、その小さな口を開き、八九寺が喋ろうと―――――――八九寺は、僕の手をスルリと通り抜けた。






通り抜けた、通過した。
文字通り、僕の手を振りほどくでもなく、通り抜けた。まるで何も無いかのように、まるで僕の手が実在していないかのように。八九寺は僕の手を通過したのだ。

何が起こったか、僕は理解できなかった。それは八九寺も同じようで、いきなり地面に落ちた自分が信じられないかのように、呆然としている。
けれど、八九寺が落ちたところに、ちゃんと八九寺が落ちた音がした事から、八九寺が消えていっている、なんて事は無いようだ。

取り敢えず、さて置き、閑話休題。
僕はいまだに何が起こったかは分かっていなかったが、八九寺が起き上がるのを手伝おうと、手を伸ばす。

『大丈夫か、八九寺』

なんて声をかけながら手を八九寺に伸ばすも、八九寺はその手をとらずに、虚空を見つめていた。
未だに混乱しているのだろう。
もう一度声をかけようとして、やっと八九寺が我に返ったのか、慌てて飛び上がった。『僕の手』などまるで気にせずに。そして、またも僕の手を通過して八九寺は周りを見渡す。
僕の手に、気付いていない? いや、それ以前に、もう一度通過した?
最早茫然自失の僕。さらにそこに聞こえてきた八九寺の言葉に、僕は目の前が真っ暗になった。

『阿良々木さん!? ど、どこですか!? どこに居るんですか!?』











002



そう、八九寺は、僕の事を認知していなかったのだ。完全に、完璧に。
返事をしても、体をさわろうとしても、無理だった。声をかけても返事は無い、聞こえていない。肩を叩こうとしても、胸を揉みしだこうとしても、僕の体は八九寺の体を通過し、さわれない。
他にも、木製の足場を踏み鳴らし、ここに居るぞ、っていう事をアピールしても無反応。斧乃木ちゃんにコンタクトを取ろうとしても、斧乃木ちゃんすら無反応だしさわれない。
そこまでして、僕は気付いた。
僕は、世界と隔離されてしまっている事に。

世界から、取り残されてしまっている事に。

呆然としていると、それまたおったまげる事に、何かが空から降ってきた。
どぉん、なんて効果音付きで。でもそんな派手な効果音がしたにも関わらず、僕達がいる木製の建築物は壊れもせずに、掠り傷すらつかずにいた。

降ってきた物の正体は、忍だった。
なにをしたのか、どうして、どんな経緯をえてここまで帰ってきたのかは知らないが、忍は確かに、僕のもとに帰ってきてくれた。

唯一の希望を、見つけることが出来た。
忍野忍。
旧キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード。

臥煙さんの言うとおり、忍とのリンクはすぐに回復し、彼女は僕の影に戻ってきてくれたのだ。
そして、忍だけは僕の事を認知してくれた。


空から降ってきて、目が合った瞬間、いつもの様にニヤリと笑いながら、忍は僕に向かって、こう言ってくれたのだ。

「よう、お前様。また、ややこしい事に巻き込まれているようじゃのう」

その時、僕はみっともなく泣いてしまうところだった。
まぁ流石にそんな姿を忍にさらそうものなら、ミスドでどんだけ奢らされるか分からないので、必死に我慢したが。
でも、咄嗟に抱きしめてしまったのは仕方無い。

まぁ僕が抱きしめて、数瞬後には僕はふっとばされていたのだけれど。

「ったく、なんじゃ、お前様は女子(おなご)と見ると抱きつく癖でもあるのか? そういうのは儂だけに決めてからするのじゃ」
「すまん、つい嬉しくて咄嗟に」
「そんなことで咄嗟に抱きついてたら、きりが無かろうが!」
「でも大丈夫、皆抱きつきまででなんとか抑えてるから、最後までは行ってないから」
「当たり前じゃ!」


そう大声で言って、忍は辺りを見回す。
そして溜息をついた。

「はぁ、もう良い。お前様には何を言っても無駄じゃと分かっておるしの」
「え、マジで!? きゃっほいお許しが出たぜ!」
「もし本番まで行けば虚勢すれば良いだけじゃしの」

忍が絶対に最後まで行かせてはくれない事を僕はこの時知った。

「で、お前様、今のこの現状はどういう事かの」

ちらりと八九寺を見て、忍は僕に問いかけてくる。
僕は、起こった出来事をできるだけ詳細に忍に語った。

「ふむ、なるほどの」
「なにか分かったのか?」
「そうじゃな、この怪異の正体は分かるぞ」
「じゃ、じゃぁ解決策もか!?」
「ふむ、無いでもないの。しかし、お前様には絶対に解決出来ないぞ、今回の怪異は」

忍は、やれやれと言わんばかりに、首を振ってそう言った。


「どうしてだよ、今回の怪異はそんなに厄介なのか?」
「そうでも無いのじゃが、今回はお前様が『隔離』されておるのでな、何も出来んのじゃよ」
「……隔離?」
「今回の怪異の名称は、《失物の怪(なくしもののけ)》 そして、その怪異が憑いているのが、あのハチクジじゃよ。失物の怪とは、憑いた者の大切な人を、隔離してしまう怪異じゃ」

いや、でも待て。

「おかしくないか? 怪異は憑かれる理由があるはずだろう? その失物の怪という怪異はそもそも、なんでそんな事をするんだ? なにか憑かれた者の願いがこめられているんじゃないのか?」
「そう、それで正解じゃよ。大切な人を隔離する。それだけでは説明は不十分じゃ。何故隔離するのか、という理由がぬけておる。じゃが、その理由は至極簡単なのじゃよ、それ自体が憑かれる理由なのじゃから。その理由とは、『自分と関わる事で大切な人が、不幸になる』と思うことじゃ。それを思い、憑かれた。そして失物の怪は、ハチクジにとって大切な人が、ハチクジに関われないように、隔離した」

本当に、簡単だった。
八九寺が考えそうな事だ。最初だって、そうだったのだから。自分と関わって、巻き込んでしまわないように、わざと嫌われようとして『私は貴方が嫌いです。近寄らないで下さい』なんて初対面で言ってきて。
自分よりも他人で、自分に関わることで人が傷つくのに耐えれなくて。

そんな、誰よりも人間らしい、幽霊だった。
幽霊のくせに、僕よりよっぽど人間性に富んでいた。

だからこそ、僕は腹がたった。どうして僕まで、決め付ける。どうしてお前と一緒に迷う事が、僕にとって不幸だなんて決め付ける。


僕は、歯軋りをして、思わず叫んでしまった。

「八九寺ぃぃぃいいいい!!!」

てめぇ八九寺。ふざけるなよ。お前、僕がこのぐらいでお前から距離をとるなんて考えてんなら甘すぎるぜ。甘甘ちゃんだ。
付きまとってやる。それはもう徹底的に付きまとってやるからなこの野郎。片時も休まるときなんて無いと思いやがれふーはははははははははは。

「忍、僕は決めたぞ! この怪異、絶対に僕が解決してやる!」
「ほほう、良きかな良きかな。面白そうじゃ、見学させてもらうかの」

古くなったり新しくなったり、精神年齢が婆だったり幼子だったり。忍のキャラのぶれかたが激しすぎてもう分身しているように見えている。
でもまぁ、今はそんなことはどうでも良い。忍のキャラが安定しないのは毎日のことだ。

僕は、未だに僕を探している八九寺を見て、早速と言わんばかりに八九寺の後ろに張り付いたのだった。ついでに、胸を揉もうとしたり、スカート捲りをしようとしてみたが、当然結果は失敗だった。











003


あれから数日。八九寺はとうとう僕を見つけるのを諦めたのか、いつの間にか仲良くなっていた斧乃木ちゃんと一緒に二人で行動していた。
僕は八九寺の後ろを付きまといながら、様々な事に気がついた。
其の一。
僕は世界と隔離されていると言っても、普通に物質にはさわれるらしい。しかし、この間ペンとノートを使って意思疎通を試みるも、これは失敗。さすがにそうは上手くいかない。残念。
其の二
僕が世界と隔離されているというのは本当らしいのだが、先程やったと言ったペンとノートの意思疎通は、八九寺以外では可能らしい。実際に斧乃木ちゃんとの意思疎通は成功して、今では立派なペンフレンドだ。だがしかし、斧乃木ちゃんに伝言を頼んでも、八九寺に届くことは無かった。やはり、そうは問屋が下ろさないらしい。
斧乃木ちゃんいわく、僕の事に関して喋ろうとすれば、口がまったく動かなくなるらしい。
其の三
何故忍は僕と普通に会話できるし触れ合えるのか。それは忍自身が説明してくれた。やはりペアリングが原因らしい。今では僕と忍は立派な一身同体らしく、切っても切り離せない存在になっているらしいのだ。それのおかげでこうやって忍と行動を共にできる、というわけらしい。
忍も世界と隔離されている、ということだ。だから最初の登場シーンでは、あんな勢いでこの場に帰ってきたにも関わらず、あの木製の建物には傷一つつかなかった。
其の四
これは、もうなんと言っていいのか分からないが、八九寺の私生活についてだ。どうも、僕は八九寺の私生活を甘く見ていたらしい。なんだかんだ言って良い寝床があるんだろうな、なんて考えていた昔の僕をぶん殴ってやりたい。
八九寺は、迷って森の中にいる時(もう本当に森の中としか言いようが無い。舗装なんてされていないし、勿論人口物の光なんてものは無い)は、自分で食料を調達して自分で火をおこして、自分で調理して食べているのだから。



とりあえず、僕が今やっている行動は、慎ましながらも、八九寺の周りの世話である。例えば、八九寺が食料を取りにいっている間に火を起こしてあげたり、テントを張る時に反対から引っ張ってあげたり。
まぁ、その度に八九寺は不思議そうな顔をしてその場を見回すのだが。
そしてもう一つ、僕は、我ながら気持ち悪いと思うが、毎日八九寺に向けてラブレターを送っていた。八九寺が寝た後に、『愛してる』とだけ書いた手紙を。
もしかすると、なんて事は思っていない、と言ったら嘘になるが、でもあまり期待していなかった。まぁ予想を裏切らずに、手紙は読まれる事なく、八九寺は首を傾げるだけで、紙をすぐに鞄のなかにしまってしまうのだが。



そんな生活が、とうとう二月を過ぎたあたりから、八九寺は、夜になると独り言をするようになった。
絶対に僕は見えていない、知覚されていない。だけど、八九寺は夜になると話しかけてくるようになった。

毎日、毎日、毎日、毎日。八九寺は飽きもせずに、繰り返す。



今日という今日とて夜になると、八九寺はまた話し始める。
木にもたれながら、空を見上げながら。八九寺は一人、話し始める。

「阿良々木さん、居るんでしょう? 居るんですよね、きっと、まだ諦めずに、私をストーキングしているに違いありません」
「あぁ居るよ。そうだ、僕はいまだに諦めずに八九寺をストーキングしているさ」
「でも、もうやめて下さい。阿良々木さんは、戻るべきです。あの街に。そこで、彼女さんと幸せにラブラブカップル生活をして、友達や妹さんと一緒に遊んで、大学を卒業して、結婚して、子供を作って、そして……」
「けど、そこにお前は居ない。クソ喰らえだよ、そんな未来」
「そして、貴方は皆に囲まれて、死んでください。そんな幸せな未来が、阿良々木さんには、似合っているんです」

八九寺が大きく息を吸う。

「それを、私なんかの為に、台無しになんてしないで下さい。私と一緒に迷うなんて、そんなどうしようも無い未来になんて、しないでください」

お願いします。そう、八九寺は泣きそうな声で最後に言って、寝床に向かう。
僕は、やっぱり何もできずに、八九寺にふれられずに、行かせてしまった。

なにもできないけど、この行動に意味なんて無いのだけど、僕はまた今日も、『愛してる』と書かれた手紙を枕元に置く。






三月、四月、五月、六月。
繰り返される、生活。

本当に色々な事があった。というより、蝸牛の怪異すげぇ。なんで普通に歩いているだけでこんな場所に来れるんだ、なんて所に行ける。
ドラクエのワープゾーンに知らずに入ってた、みたいな感じ。
森の中歩いてて、そしてやっと出れた、なんて思ったらイタリアだったりした。まぁ流石にビックリしすぎてチビるかと思ったが。


そして、一年。

とうとう、一年だ。この生活をはじめてから、一年経ったんだ。

だが、記念すべき一年目だと言うのに、今日もまた僕は、八九寺の独り言を聞かなくてはいけない。
もういい加減、僕と一緒に迷うことを認めてくれれば良いのに、八九寺はとても強情にそれを認めない。決して認めようとしない。


でも僕は、今日もまた、八九寺の横に座りながら、相手には届かない返事をする事にする。

八九寺が座った、隣に腰掛けて、僕はまた、八九寺の悲しそうな顔を見なくちゃならないのか、と憂鬱になった。
そして今日も、八九寺は話し始める。

「阿良々木さん、今日は斧乃木ちゃんがこーんな大きな魚を獲ってきてくれました。食べきれないから、その場に残して鳥さんたちにあげようとしましたが、朝になると綺麗さっぱり無くなっていました。阿良々木さんですね?」

一瞬、頭が真っ白になった。八九寺は、一体なにを言っているんだ?
八九寺のいつもと違う話に、僕は目を見開く。

「いつも、火をおこしてくれて、ありがとうございます。あの作業はとても体力をつかうので、助かります」

八九寺が感謝している。僕に。僕が今までやってきた行為に。
歓喜した。僕は号泣しながら勢いよく立ち上がり、『一年目の夜、最高だぜひぃぃやっほおおおおおおおおおお』と夜空にむかって叫んだ。

でも、一年目の夜の奇跡は、これだけでは終わらなかった。

きりの良いところまで来たので一先ず終了します。
ご飯食べながら書き溜めして、また投下しに来ます

お待たせしました。
と言っても、待っている様子はありませんが、再開しようと思います。

とても短くて申し訳ないのですが、最後まで、書いてきましたので、一気に投下しようと思います。
よろしくお願いします。








004


話は、もう一度遡ります。
一年前、私と阿良々木さんが、一緒に迷い始めた当初へと。

最初、私はなにがおこったのか、理解できませんでした。阿良々木さんが『消えた』。
抱きしめられていた私は、当然、重力にしたがって下に落ちました。

頭がおいつかず、阿良々木さんが居た場所をただただ見つめることしてかできませんでした。
幾許か経ち、やっと私は立ち上がります。慌てて、周りを見回してみますが、ここには、斧乃木さんだけしかおらず、阿良々木さんはやっぱり見つかりません。
斧乃木さんに聞いてみても、なにも知らない、と言って首を振るだけ。


諦めきれずに、何回も探し回って何日か経ち、私はやっと、阿良々木さんが消えたことを認めることが出来ました。


斧乃木ちゃんと行動しながら、いつもの様に生活していると、ある日、朝になると枕元に一枚の紙がありました。
裏返して見るも、なにも書かれていません。でも、何故か私はその紙を大事に鞄にしまいました。理由なんてありません、捨てられない、手放せない、何故かそう思ってしまった。だから鞄にしまった。それだけなのですから。

それからというもの、私の枕元には、毎日紙が置かれるようになりました。

それ以外にも、不思議なことはいくつもおこります。何時の間にか火が焚かれていたり、テントを張っていると、反対側から誰かが支えてくれたり。けど、そこには誰もいません。勘違いだ、なんて思うことはできます。でも、それはできませんでした。

その頃にはもう、私は薄々感づいていたのですから。こんな事をしてくれるのは、あの人しか居ない、と。



でも、それを認めて、一緒に迷うなんて、良い筈無いじゃないですか。
私の事情に巻き込んで、不幸にして良い理由なんて、あるはずないじゃないですか。

だから私は、そこで聞いているであろう阿良々木さんに話しかけます。

「阿良々木さん、居るんでしょう? 居るんですよね、きっと、まだ諦めずに、私をストーキングしているに違いありません」

そう、違いありません。未だに阿良々木さんは、私を追って、私のために迷っているのでしょう。

「でも、もうやめて下さい。阿良々木さんは、戻るべきです。あの街に。そこで、彼女さんと幸せにラブラブカップル生活をして、友達や妹さんと一緒に遊んで、大学を卒業して、結婚して、子供を作って、そして……そして、貴方は皆に囲まれて、死んでください。そんな幸せな未来が、阿良々木さんには、似合っているんです」

そこに私が居なくて、阿良々木さんの隣に私以外の人が居て、とても幸せそうで、そんな未来を想像して、私は泣きそうになります。けど、我慢。大きく息を吸って、涙を堪えて、もう一度口を開きます。

「それを、私なんかの為に、台無しになんてしないで下さい。私と一緒に迷うなんて、そんなどうしようも無い未来になんて、しないでください」

私を、忘れてください。

私は立ち上がって、赤くなった目を見られないように、寝床につきました。




それから、先程のような話を、毎日、毎日します。
けれど、阿良々木さんは決して今までの行動をやめるつもりが無いようです。毎日手紙は置いてありますし、私を手伝ってくれます。

それはいつまで経っても変わりませんでした。

そして、そんな毎日を繰り返し、一年が経ちます。




ある日、私がいつもの様にテントを張ろうとしていると、鞄の中をあさっていると、いつの間にか目の前に居た斧乃木ちゃんが、話しかけてきました。

「蝸牛のお嬢ちゃん」

未だに呼び方は変わりません。最初に会ったころから、ずっと変わらずにこう呼んできます。
呼び方を変えるようお願いしたこともありますが、全ては徒労に終わりました。

「なんですか?」
「ちょっと付いてきてくれるかな」

そう言って、斧乃木さんは、先に歩き出します。
なにが何だか分かりませんが、私は作業を一旦中止して、斧乃木さんの後についていきました。
そしてついたのだろう、森の中のポッカリと開いた空間で立ち止まる斧乃木さん。


「ここになにかあるのですか?」
「もしもなんだけどさ」

斧乃木さんは、私の問いかけをスルーして、話し始めます。

「? はい」
「蝸牛のお嬢ちゃんは、鬼のお兄ちゃんが『蝸牛の怪異』だったら、どうする?」

……阿良々木さんが、蝸牛の怪異だったら。
もしも、阿良々木さんが私の立場だったら。

私は、どうするか。

『決まっている』


どうして、私は今まで、こんな簡単なことに気付かなかったのでしょう。
どうして、私は、こんなにも愚かなのでしょう。
どうして……私はまた、阿良々木さんを傷つけてしまうのですか。


「きっと、鬼のお兄ちゃんは、今の君と同じように、君を遠ざけたと思う。でも、君は一体どうするの?」

そんなのは、決まっていました。
私も、阿良々木さんのように、付きまといます。それはもう、ピッタリと片時も離れないでしょう。ストーカーになっちゃいます。

「ありがとう……ございます。斧乃木さん」
「いや、別に。でも勘違いしちゃ駄目だよ、蝸牛のお嬢ちゃん。この話は、どちらも間違っていなかった。蝸牛のお嬢ちゃんは、なにも間違ってはいないんだ。間違ってはいないけれど、間違いと正解なんてものは、人の心の前では、無意味だった。それだけだよ」

……きっとそうなのでしょう。どちらも間違えていなかったし、間違っていた。
境界線は曖昧なもので、区別なんてつかなくて、知らずに間違い正解していた、ただそれだけの事なのでしょう。今回の事は。

でも、それでも、間違っていなくても、正解だったとしても、私は阿良々木さんに謝りたいのです。そして、お願いしたいのです。『一緒に迷ってください』と。












005



僕が夜空に向かって叫び続けていると、八九寺は、また口を開いた。
さぁ、次はどんな感謝が来るんだい。受け止める準備は既に完了している、いつでもいいぞ。

僕はストレッチして、いつでも走り出せる準備をする。さぁ、夕日じゃないけれど、青春を謳歌しちゃうぞ。

だが、僕のそんな期待を裏切り、八九寺の目が、うっすらと赤くなり、涙がたまっていく。

「!? 何故泣くんだ八九寺!?」

僕がおろおろしていると、八九寺は、震えている、その小さな口を開き、僕に問いかけてきた。





「良いんですか? 本当に阿良々木さんと居ても」




その問いかけを聞いて、僕はやっと、状況を飲み込んだ。
でも、その質問は無いんじゃないか? いつものキレが無いぜ八九寺。
何を今更ってなもんだ。


「良いんですか? 私が貴方を迷わしても」
「……なに言ってんだよ、逆にその他の選択肢なんて無ぇよ。それしか、八九寺には道が無い。それ以外を選んだとしても、成仏したいとしても、僕はそれを認めない。地の果てまで追いかけて、絶対に捕まえてやる」



そう答えると、八九寺と向き合う、そこで僕は、約一年ぶりに、八九寺と見つめ会った。




涙がとうとう溢れて、八九寺の頬に雫が伝う。ぐすっ、ぐすっ、と鼻水をみっともなく垂らして
そして、いつものように笑う、とはいかずに八九寺は泣き笑いで、頬を真っ赤に染めながら、こう言った。


「えへっ、捕まっちゃいました」
「……、あぁ、逃がさない。もう二度と、離してやらない」
「大丈夫ですよ、もう。逆に阿良々木さんが逃げ出したくなってもわたしが離してあげません。絶対にです」
「そいつは上々だな」

僕は八九寺の手を握った。そして一年ぶりに胸も揉んでおく。よし、成長はしていないな。
飛びつかれて、二の腕を噛まれた。肉体の繊維が引きちぎれていく音が聞こえた。


と、そこで、第三者からの声が聞こえてくる。

「いい加減にしてよ、鬼のお兄ちゃん。僕の存在はいつから消えてしまったのさ」

斧乃木ちゃん。
その存在を、僕は声をかけてくれるまで忘れていた。本当に、頭の片隅にさえ残っていなかった。

「すまん、僕の中でついさっきまで消滅していた」
「それは流石に酷すぎるんじゃないかな、鬼のお兄ちゃん」

全く酷いと思って無さそうな無表情で斧乃木ちゃんは言う。

「ま、いいや。それはさておき、盛り上がっているところ恐縮なんだけど鬼のお兄ちゃん」
「なんだ?」
「僕が無事帰ってしまって非存在がもう一回現れたらどうするの?」
「…………」


正直言って、考えていなかった。
でも、確か忍野の話じゃ、蝸牛の対処法は蝸牛から自分で離れていく、と言ってなかっただろうか。
となると、斧乃木ちゃんが離れていっても僕さえ一緒に迷っていればとくに問題が無い気がするけど……。
確かに、確証のある話じゃない。

でも、僕だけの一存では、斧乃木ちゃんをまきこめない。まきこんじゃいけない。
流石に、僕だけじゃなく、周りも全て巻き込んで神隠しを起こすわけにはいかない、なんとか、お願いしたら付いてきてくれないだろうか。
土下座しても良い、僕は何をやったって良いんだ、だから、なんとか付いてきてほしい。

覚悟を決めて、無理矢理な、無理難題なお願いを口にしようと、口を開いたその時。
それに割り込むかのように斧乃木ちゃんは言葉を被せてきた。



「良いよ、鬼のお兄ちゃんなら。僕も一生一緒に迷ってあげる。鬼のお兄ちゃんとなら、それも悪くないかな、って思うんだ」


その時、斧乃木ちゃんは、ちょっとだけ笑った気がする。
その表情を見て、僕は思わずこう言った。

「……ありがとう。斧乃木ちゃん。そして、結婚しよう、斧乃木ちゃん」
「阿良々木さん!?」

今の今まで僕の二の腕をガジガジと噛み続けていた八九寺が僕の言葉を聞いて声を上げる。


「早速浮気ですか阿良々木さん!?」
「なに!? 僕とお前は付き合っていたのか!? よっし来た! チューしよう八九寺!」
「なに言ってんですかこの変態!」
「え!? 変態!? 付き合ってるのに!?」

おかしいな、付き合ってるならキスしよう、と提案したら変態だなんて。
そんなやりとりをしていると、斧乃木ちゃんが間に入って話しかけてくる。

「もう良いから、早く寝ようよ、鬼のお兄ちゃん、蝸牛のお嬢ちゃん」

……確かに、今更ながら時間をみると、もうとっくに3時を回っていた。
斧乃木ちゃんは深い欠伸をして、僕達に睡眠を促してくる。


しょうが無い、八九寺とのラブラブ生活はまた明日からにするとしよう。
僕はせめて八九寺の隣に寝よう、と決意してテントへと歩いていく。

けど、そんな僕を八九寺は呼び止めた。

「あ、そうだ阿良々木さん。あれしましょう、あれ」
「あれって?」
「噛みましたから始まる一連の流れ」

本当に、こいつは楽しませてくれる。


「良いぜ、やろうか」
「では、いきますよ」

ふふふ、と不敵な笑いかたをして、八九寺は間を取る。

「本当にお久しぶりです、アホホ木さん」
「人の名前をバカと並び立つ頭が悪い代名詞のついた不名誉な名前にするな。僕の名前は、阿良々木だ」
「失礼、噛みました」
「違う、わざとだ」
「かみまみた!」
「わざとじゃない!?」
「阿良々木さん」

なんだよ、次のボケはどうした? 思いつかなかったのか?
なんて思っていると、お腹に軽い衝撃。八九寺が抱き付いてきていた。


「大好きです」

八九寺はそう言って、いつもの様に、はにかんだ。
僕達は、迷い始めた。










006


後日談というか、今回のオチ。
忍いわく、今回の怪異は、僕が完全に八九寺の事を諦めるか、八九寺が、僕が八九寺と居ても不幸にならない、と思うことで解決できたらしい。
僕には解決できないぞ、と言ったのは、第三者の手助けが無いと無理だ、という話だったらしい。


まぁ今回の第三者というのは、斧乃木ちゃんのことなのだが。

後で話しを聞くと、僕は本当に斧乃木ちゃんに頭が上がらない。僕が一年もの間かけて出来なかったことを斧乃木ちゃんはちょっと話し合っただけで解決できたのだから。
僕がそう言って斧乃木ちゃんに礼を言うと、斧乃木ちゃんは深く溜息をついてこう言った

「僕はほとんど何もしてないよ。今回は鬼のお兄ちゃんが行動していなかったらどうにも出来なかった。でもお礼っていうなら、妻として、今度また迷った先でアイスが買える機会があったら、奢ってもらおうかな」
「……あぁ、お安い御用だ」

なんて掛け合いをして終わる。ちなみにあれから、斧乃木ちゃんの口癖が『妻として』になった。事あるごとにその言葉を使い、八九寺と喧嘩している。
僕も、喧嘩になるぐらいだったらその口癖をやめたほうが良いんじゃないのか、と提案したが、どうやら気に入っているらしく、やめる気配は一向に無い。
まぁ慣れれば納まるだろう。





あの日。あの『一年経ったら八九寺がデレた事件』から三日経った朝。昨日は熟睡できたせいか、僕はまだ朝日が昇ったばかりの、早朝に目が覚めた。
ちなみに、場所は公園である。
この生活にも慣れたもので、もう公園で起きることに違和感を覚えることは無い。

朝の空気が気持ちよく、深呼吸していると、後ろからお声が掛かった。

「つらら木さん、おはようございます」
「僕を雪が溶けて天井を伝っていく最中にまた凍り、それを繰り返した結果に出来た氷の塊のような名称で呼ぶな。僕の名前は阿良々木だ」
「失礼、噛みました」
「違う、わざとだ」
「かみまみた!」
「わざとじゃない!?」
「はみました」

僕に抱きつき、首にはみつく八九寺。


「柔らかい!」
「はぁ、本当にアドリブに弱いですねぇ阿良々木さんは。もっと頑張ってもらわないと、コンビ解消ですよ」
「僕達はいつから漫才コンビになったんだ」

そこまで言って、八九寺は一息ついた。
こちらを向いて、手を握ってくる。

「さて、今日はどこに行くんですかねぇ」
「さぁて、どこだろうな。でもどうせなら外国行きたいな」
「そう思ってたら絶対行けませんよ」

そう言ってから八九寺は笑う


僕達は今日も今日とて迷うのだろう。
でも、大歓迎してやろうじゃないか、遠回りな道も、険しい道も、諸手を挙げて歓迎してやる。
八九寺が消えないですむ、八九寺と一緒にいられる、もうそれだけで僕はなんでも乗り越えられう気がしちまっているのだから。

そんな、意気込みを込めて、僕は改めて八九寺に朝の挨拶をする。

「おはよう、八九寺」

八九寺は一層、笑みを深くしたのだった。

以上で、終わりになります。
お付き合いいただいて、ありがとうございました。

「あぁ、本当に短かったですねぇ、クララ木暦さん」
「……八九寺、概ね合っていて非常に惜しいのだが、僕の名前を某ラリラリラリホーアニメの登場人物のような名前で呼ぶんじゃない。僕の名前は阿良々木だ」
「失礼、噛みました」
「違う、わざとだ」
「かみまみた!」
「わざとじゃない!?」
「ありました」
「一体何が!?」

「さて、もう終わりですよ、阿良々木さん」
「うーん、そうだな。まぁ残念だろうけど我慢してくれ。僕と八九寺の18禁シーンを見るのは」
「そんなシーンは一切ありませんからね!?」

以上、本当に終了です。ありがとうございました。

「それじゃぁ、さようならです」
「あぁ、じゃぁな」

さいごで何で俺くんが!?のコピペ思い出したじゃねえかちくしょう

なんか、こんなに早く終わるのは悔しいので、短編書いて、できしだい投下していきたいと思います。
なお、ここから投下する短編は、全て迷物語の前提ですのでご注意ください。


短編期待してるでー

それじゃ、まず一つ。



『後日談というかその後』



私は、寝床からこっそりと抜け出して、周りを見回して、誰も居ないことを確認してから鞄を開き、ある紙束を取り出しました。
気になって気になって仕方が無かった、『手紙』です。
約一年にも及んでずっと枕元に置かれ続けたこの手紙、怪異が無くなった以上はもしかしたら、と思いましたがやはりです。読めました。
えぇ、読めましたとも。371枚のラブレターを。

…………ヤバいですね。今の顔。多分ニヤけちゃっていますね。

それはもう自覚ぐらいしますよ。頑張って引き締めようとしても、そいつは無理な相談だ、と言わんばかりに言う事を聞かず、体も体で言う事を聞かずに鞄の中からzipロックを取り出し手紙を大切にしまい込む始末。
もう手におえませんでしたとも。

ムハッ、なんか阿良々木さんの匂いがする気がします!


おっとっと。これ以上嗅ぐと匂ひが薄くなるかもですね。これからは一日一嗅ぎにしましょう。
スーハースーハーしていたzipロックを震える手で閉じ、名残惜しさを感じながらも鞄の中にもう一度しまいこみます。

それにしても、阿良々木さんは本当に変態ですねぇ。小学生に向かって毎日ラブレターなんて正気の沙汰とは思えません。
本当にもう、困った人です。
やっぱり私がついていてあげないと駄目ですね。

ふぅ、と溜息をつくと、立ち上がって寝床に戻ろうと歩き始める。すると、阿良々木さんが今起きたところなのだろうか、欠伸をしながら出てきました。


「おはようございます。ウホホ木さん」
「……八九寺、最早噛んでいる、というレベルですむのかどうかは怪しいけれども、僕の名前をゴリラの鳴き声みたいに呼ぶんじゃない。僕の名前は阿良々木だ」
「失礼、噛みました」
「違う、わざとだ」
「かみまみた!」
「わざとじゃない!?」

「ところで阿良々木さん」
「ん? なんだよ」
「今度、買いたい物があるんですけど、良いですか?」
「買いたい物? 一体何を買いたいんだ?」
「写真たてを買いたいんです。371個程」
「そんなに!? 一体どんだけ写真撮る気だよ!?」
「いえそういうのじゃなくてですね」
「?」


不思議そうな顔をする阿良々木さん。

「あ、いえ、そういうのも良いんですけど、私がほしがった写真たては別の事に使用するんです。あ、それと、買うとしたら出来るだけ薄くて頑丈な物が良いですね」
「いや、だから何に使用するんだよ」
「内緒です」

私は人差し指を唇に当てながら、にししと笑います。
そんな私を見て、阿良々木さんは苦笑いをして、こう言った

「しょうがねぇな。またバイトしねぇと」
「ありがとうございます。阿良々木さん、大好きです!」
「このタイミングで言うのをやめろ! 僕が金だけの男みたいになるだろうが!」

太陽が顔を出したばかりのこの場所で、私達は笑いあいます。
いつものようなやり取りをして、過ぎていった。私達の日常の、1ページ。



fin

もうすぐ50。100を目指して頑張るお

『夕暮れ公園』


ある日。偶々行き着いたあの公園で野宿した。
そう、あの『なみしろ』だか『ろうはく』だか分からない公園だ。

そこで、僕は生死の境をさまよっていた。
いや、怪我をしたとかではなく、状況的にって意味で、僕は死に掛けていた。

そう、嫌な予感はしていたのだが、現れたのだ、ここに。彼女、戦場ヶ原ひたぎが。


「あら、阿良々木くん、久しぶりね。軽く一年半ぶりかしら」
「……あ、あぁ久しぶりだな」
「大丈夫、経緯は聞いているわ、臥煙さんからしっかりとね」

そこで戦場ヶ原は一拍置いて、また喋り出す。

「で、覚悟はできているのかしら?」
「…………」


僕、死んだな。
なんて思って達観していると、間に入ってくる人影。

「そうはさせませんよ! この泥棒猫!」

……すまんな八九寺、逆なんだ。立場が逆なんだ。泥棒猫の方はお前なんだよ八九寺。
……ということで。

「逃げろ八九寺ぃぃ!!」

殺されるぞ!
あ、でも大丈夫か? だって戦場ヶ原は確か八九寺が見えなかったはずだし。


「そう、貴方が八九寺さん。ふふふ、やっと見ることができたわ。きっと阿良々木くんを[ピーーー]まで『帰りたくない』と思ったおかげで見えるようになったのね」
「んな!?」

なんていう執念! いや、悪いの僕だけも!

「二人纏めて殺してあげるから覚悟なさい?」
「ま、待て! 話し合おう!」
「…………そうね、すぐに暴力じゃ味気ないものね」

誰も味気なんてものは求めてないけどな。

「じゃ、こちらの条件を飲んだら貴方達を殺さないでいてあげるわ」
「なんで上から目線なのですか! この泥棒猫が!」


お願い八九寺ちゃん! これ以上ガハラさんを刺激しないで!

「じょ、条件って?」
「こちらの条件は一つだけよ。阿良々木くんを置いていきなさい。大丈夫、阿良々木くんは大事に家で保管するから」

……あぁ、駄目だなこりゃ。
僕は、『保管』という単語を聞いて、もう息を吸い込んでいた。

「斧乃木ちゃぁぁぁぁん!! 忍ぅぅぅぅぅうう! 緊急離脱!」


僕の声を轟いた瞬間、斧乃木ちゃんが公園の遊具から、忍が僕の影から出てきて、それぞれ僕と八九寺を担いだ。

「悪い戦場ヶ原。ごめんな、戦場ヶ原。またこっちに迷い込んで、見かけたら、声を掛けてくれ」

僕の言葉を聞いて、戦場ヶ原は最初、悲しそうにしたがすぐに普段のように戻り、僕にこう言った。
夕日のせいか、戦場ヶ原は全体的にいつもよりも、ずっと深い色をしていて、やけに印象に残る。

「行ってらっしゃい。また、帰ってきて。お願いだから」

忍と斧乃木ちゃんの、離脱時の破壊音で聞こえたかどうかは怪しいけども、僕は確かに、戦場ヶ原にこう答えた。

「ああ、行ってきます」




fin

ひとまず。今日はこれで終わりです。
皆さん、なんか言ってくださいよ。寂しいじゃないですか。

まぁとにかく、また明日来ます。ありがとうございました。

「それじゃ、また明日お会いしましょう皆さん! ね、セセラ木さん!」
「……僕も本当はここですんなりと皆に挨拶して終わりたいんだが、八九寺、僕の名前を皆が聞いて癒される川の流れる音のように言うんじゃない、僕の名前は阿良々木だ」
「失礼、噛みました」
「違う、わざとだ」
「かみまみた!」
「わざとじゃない!?」

「さて、それでは皆さん、今度こそまた明日!」
「またな、皆」

乙 面白かったよ

乙乙

さて、そろそろ投下しようと思います。
乙ありがとうです。



『口癖』


「ねぇ、鬼のお兄ちゃん」
「ん? なんだい斧乃木ちゃん」
「今日の晩御飯はなに? 妻として知っておきたいんだけど」
「……んー、今日はおでんにするつもりかな」

ていうか、言うのは野暮かもしれないけれど、君たちは食事がいるのかい?
もしかしてなんだけど、忍みたいに食べる必要は無いけれど、食べたいから食べるみたいな理由で僕の財布の中を圧迫する行為に及んではいないだろうな?
僕はこれでも迷っている間に日雇いのバイトをこなしては自分の生活費を稼いでいる身であって、そんなにお金を持っているわけではないんだぞ?

そこまで考えて、僕はやれやれと首を左右に振る。

まぁ仕方の無い事なのかもしれないな。八九寺も、食べるところはほとんど見ないのに、やはり甘い物が好きだし。忍は言わずとも分かると思うがドーナツが好きだ。
そしてこの死体の憑藻神である斧乃木ちゃんは、何でも好きなのだ。

「おでんか、妻として僕は嬉しいかな」
「それは良かった」


まぁ、喜んでくれて悪い気はしない。相変わらず無表情ではあるが。
と、そんな会話を僕達がしていると、いつの間にか僕の後ろに来ていたのだろう、八九寺が金切り声をあげた。

「むきゃー、斧乃木さん! だからなんなのですかその口癖は! それは本来私が口にすべきなのでは!? 妻として!」

…………あぁ、あの八九寺が嫉妬している。
感無量。

「でも僕は、もうプロポーズされている身だからね。妻というのは僕にこそ相応しいのではないのかな」
「私もプロポーズぐらいされています! 何度もセクハラされてます! 詳細は物語シリーズを読んでください!」
「こら、さりげなく宣伝するな」
「阿良々木さんは黙っててください! 関係ないでしょう!」
「僕もそう思うな。鬼のお兄ちゃんは出しゃばらないでよ」
「おかしいからな、今さっきまで殆ど僕が主役の話題だったからな」


お前らは一体誰の妻だといって争っていたんだ。
まさか浮気じゃないだろうな。

まぁ二人とも告白もしていないし、正式に付き合っているわけではないのだが。

「ふしゃー!」
「……」
「こらこら、お前ら、なにマジになってんだよ。落ち着け」

八九寺はいつだったか、誰かにセクハラされた時のように獣化し。斧乃木ちゃんは斧乃木ちゃんで無言で戦闘態勢になっている。
このままマジ喧嘩になられたら溜まらない。

……しょうがない。
こうなったら僕が二人の胸を揉むしか無いな。そしてスカートも捲るしか無いな。


僕の話しを全く聞く気配が無いので、僕は仕方が無しに準備体操をし始めた。そして準備体操をし終わると、地面に手をついて、クラウチングスタートの準備。
尻を天高く上げ、そして僕は、勢いよく走り出した。

「はっちくじぃぃ、おっののきぃぃぃ」
「……」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ」
「もっと抱きつかせろ、もっとキスさせろ、もっと舐めさせろ!! こら、暴れるな、パンツを脱がせられないだろうが!」

八九寺と斧乃木をお手玉みたいに交互に高い高いをして、落ちてくるほうにはキスの嵐、そしてスカートの中に顔を突っ込んだ。
斧乃木ちゃんは、いつもの様に無表情のつもりだろうけど、よく見ると少し眉を顰めている。そしてちょっと抵抗している。
八九寺はいつもどおり、叫び続けている。

そして、ついに八九寺が限界になり、僕の指に噛み付いた。


「いってぇ! 何しやがる!」

僕はか見つかれた指の方を振り回し、八九寺を振り払った。
八九寺はくるりくるりと回転し、綺麗に着地。
斧乃木ちゃんも斧乃木ちゃんで、地面に降り立った瞬間凄い勢いで僕から離れた。

「ま、待て、落ち着け、僕だ! 阿良々木だ!」
「ふしゅー、ふしゅー、ふしゅー…………なんだ、パパラ木さんじゃないですか」
「いや八九寺、僕の名前をフェデリコ・フェリーニ監督の某映画で,ゴシップ記者とともにスターを追っかけ回すカメラマンのように言うんじゃない。僕の名前は阿良々木だ」
「失礼、噛みました」
「違う、わざとだ」
「かみまみた!」
「わざとじゃない!?」
「カギありました?」
「いや、もう僕達にはカギどころか家がねぇよ!」


「あれ、おぎのオベリスクじゃないか。妻として」
「おい、無理するんじゃない斧乃木ちゃん。それはもう流石に限界を超えている」

もう噛んだ噛んでないの次元じゃ無かった。それに口癖ももう意味分からん。

「むぅ、『噛みました』は私達のコミュニケーションです! 妻として!」
「いや、噛むことは誰にでもあるから、蝸牛のお嬢ちゃんには文句なんて言えないんじゃないのかな。妻として。それに、その『妻として』は僕の口癖だよ。妻として」
「正妻は私だからその口癖の権利は私が持っています!」
「正妻は僕なんじゃないかな」

……ややこしぃ。もう一回胸揉むぞこら。


僕は手をわきわきさせながら、走り出す準備をしようとすると、僕の耳に。最近忍に血を吸わせたばかりで、聴覚が人の何倍もある、この僕の耳に、ある音が聞こえて来た。


いや、もう普通に言っちゃうと遠くからサイレンの音が聞こえて来た。
…………ヤバくね?

今さっきまでの自分を振り返ってみる。
そこには、小学生ぐらいの女の子二人と戯れて、セクハラして、妻を名乗らせている男がいた。

そして改めて周りを見てみると、そこら辺に人がごった返していて、ひそひそと僕の方を不審者を見る目で見ていた。

……ふぅ、仕方ない。これはもうあれしか無いね。
僕は深く息を吸い込む。そして、叫んだ。


「斧乃木ちゃぁぁぁぁん!! 忍ぅぅぅぅぅうう! 緊急離脱!」


僕は空を飛んだ。
とりあえず、僕が思った事は、斧乃木ちゃんのこの口癖はまだなおりそうにない、だった。



fin



どうも、昨日ぶりですね。
一応短編を書いて、投下してきましたが、どうだったでしょうか?
この後は、本編の迷物語を再度肉付けして投下していこうかな、と思っています。皆様は短編と、迷物語(改)ではどちらが良いでしょうか?

多数決で決めたいと思います。
安価スレじゃないのですが、失礼して安価を取りたいと思います。
>>68さんに多数決の期間を決めていただきたいです。 
①一週間(締め切りの細かい時間は適当)
②3日間    〃
③1日間    〃
④6時間

そして68さんが決めた期間の中での多数決になります。
すみませんが、よろしくお願いします。

4

レスありがとうございます。
端数は省いて11時からの六時間。夕方の5時までの間多数決を取らせていただきます。

【短編】が良い人と、迷物語をもう一度肉付けした【迷物語(改)】のどちらが良いか、意見をお願いします。

なお、迷物語(改)は迷物語のプロットから、つまり初めから肉付けする、というわけではありません。
あくまで、迷物語に肉付けする、という形ですので、あまり変わらずに内容が増える、という事になると思います。

それを踏まえたうえで、ご検討ください。
よろしくお願いします。

えっと、全くレスがつかないので、明日の夕方5時まで待ってみることにします。
それでもレスがつかないのでしたら、私としては非常に残念なのですが、このスレを閉じようと思います。

皆様、よろしくお願いします。

どちらでもかまわない

短編

昼間は無理な人多そう
俺は短編

>>73
そうですね、すみません。考慮していませんでした。
なので、ちょっとだけ時間を引き延ばして、夜の10時ぐらいまでは待ってみようと思います。

安価を取ったのに、何回も変えて申し訳ないです。
レスはしてくれているので、十時まで待ってみて、その時に多い方に決めようと思います。

何度もすみませんが、よろしくお願いします。

ちんぽっぽ

いくら待ってもつまんないSSにレスはつかないんだよ
残念だったね

短編で

構ってちゃんか?
んなもん自分で決めろよ

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