金ぴかのシールを貯めて、タイムウォッチを貰った話 (30)

「ええ、私は運命を信じてますよ。死にながら生きてる猫ととおんなじくらいに。」


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1日目
残ったのは、あと5日だけ。
物語のように、最後に全部思い出せるなんて事はないみたいだ。だから、ぼくは今までのことを書いて残すことにした。

これは、

結局大人になれなかったぼくたちのお話
タイムウォッチと玩具ラムネ、黄色い手持ち花火についての覚え書き
ひとつの回転覗き絵ゾートロープの風景

そんなところ。

期待だよ

こんな雰囲気見たことがある
あおぞらの人だろうか?違ってたら申し訳ない

何から書き始めたらいいかわからないから、まずぼくのことを話そうと思う。

日本人の平均的な顔に少し高めの鼻をつけて、そこにメタルフレームのメガネを引っ掛け、右の頬にバツ印の火傷の痕を付け加えれば、ぼくから誤差10%の外見が完成する。

この痕がついた理由と、その原因の女の子については後で話そう

背は高くも低くもなければ、太っても痩せてもいない。健康診断のグラフではいつも「標準」を突っ走ってきた。

それでも、「ぼく」は端的に言って「優等生」だった。
子供の母親が説教のときよい例として引き合いに出すような、生徒が全部あいつみたいだったらなぁって先生がつぶやく様な、そんな人間だったんだ。

小学校と中学校を一番の成績で卒業して、地元で一番の進学校に合格。一度も部活はやらなかったけど、友達は多い方だった。アルバムを開けば、いつでも友達の笑顔に囲まれた「ぼく」がいる。
そして、高校でそれなりの青春ってやつを謳歌して、都会の国立大学に合格、そろそろ一年生も終わろうかという今、バイトをしながらの一人暮らし。前途洋々の若者、定期試験の頼れるヤツ

ぼくの略歴はこんなもんだ。

いつでもクラスの中心にたって、先生の信頼も厚く、生徒からも好かれる優等生。
友達の輪の真ん中にいて、どんなやつらとも気軽にしゃべれる人気者。
空色の絵の具で描かれた人生。

謙遜って美徳を無視して申し訳ないけど、「ぼく」の他人の評価はこんなもんだったと思う。
実際、その頃のぼくはだいぶ傲慢だったんだ。人を見下していたとは言わないけど、少なくとも自分の方が優れているとは思っていた。後で話すけど、なんてったってぼくはいつでもやり直せるんだからね。

次に、彼女について。恥ずかしいけど、ほれた女の子のことを話すんだ、少し現実から浮いていたとしても見逃してほしい。

彼女は、いつでも前から三番目の座席に座っていた。

どんなに眠い講義でも定規顔負けの姿勢の良さでノートをとり、疑問に思うときは控えめな声で、でも躊躇わずに質問を挟み、それなのにその不器用さが災いしてテストではいつも中の上くらい。

大体ワンピースや丈の長いスカートを履いていて、その格好と彼女はいつもしっくりと合っていた。
なんというか、自分の領地の特徴をはっきりと理解している名君、みたいな。

でも、頭にはいつも「最先端!」って折り紙がついているようなヘッドホンを乗っけていて、それが彼女の与える印象をちぐはぐなものにしていたんだ。

ぼくとは違って、現実に即した学問を学んでいる彼女は、壊れた機械を直すことが得意だ。
ヘッドホンからは、大体27クラブ入りした人たちの音楽が流れてる。
趣味は図書館を巡ることと、精巧な模型を集めることで、彼女の蒐集箱ではフォークが宙に浮いたナポリタンも、1/700に縮まった戦艦も同じものとして扱われた。
単語と単語の間が炎天下でとけたアイス同士みたいにくっついた、すこし不思議な喋り方をする。
ロングピースとかショートホープなんて重いタバコを、時々思い出したように吹かしては咳き込む。

猫みたいに丸まって眠る。笑ったときに細くなる目とえくぼがとてもかわいい。

とりあえず、彼女についてはこんなところかな。
こうやって書くと、いろいろと思い出すもんだ。

さっき「ぼくと違って」、と言ったけど、ぼくは大昔に誰かが書いた書物を、その誰かさんも含めてああでもないこうでもないと難癖をつける、そんなところに所属している。

だから、ぼくが彼女をみかけるのは週に何回かの一般教養の時間だけだった。
一度も話したことのないどころか、多分むこうには認識すらされてないのに、ぼくは彼女の横顔をみるだけで胸が騒いだんだ。
そのときのぼくはまだ、初恋ってこんなものかなぁ、なんて思っていただけだった。

話をもどそう。もう少しだけ前置きが必要なんだ。

それで、どうやらぼくの勉強仲間の頭の中は、要領よく単位を取ること、遊ぶこと、アルコールのこと、大体この三つで占められているらしかった。

そりゃ最初は楽しかったさ。お酒なんて今まであまり呑んだこともなかったし。
でも、しばらく経つうちにそれがひどく面倒くさくなってきた。

だってぼくは元々、根が暗くて、空気が読めなくて、気の利いた答えなんてなかなか出来ない人間だから。

一回の飲み会を大体これでいいか、って思える結果にするのに、平均で15回くらいやり直さなきゃならなかったんだ。想像してみれば分かると思うけど、これってなかなかしんどい。

だからぼくは方向性を変えて、「真面目な文学青年」を気取ることにしたんだ。今時珍しい、ちゃんと勉強するために大学へ来た、って言う人間に。

それでも話せば面白い人間、って評価を作るのは続けた。悲しいかな、このあたりがぼくの人間性ってやつなんだろうね。

さて、次がやっと、きっかけの話だ。結局全てをたどっていくと、不親切な名刺、そのたった一枚がぼくの人生をがらりと変えてしまった、ってことになる。

そう考えると、つくづく神様ってやつがいるとしたら、その向こうずねをおもいっきり蹴っ飛ばしてやりたいと思うね。

まぁ、そんなこんなで桜が散ってからひと月も過ぎた。一人暮らしのあれやこれやを楽しんで、図書館に通い詰め、少しお酒の種類も覚えてきた頃、サークルの先輩たちと5、6人でお昼ご飯を食べにいったことがあったんだ。

講義があるから、とみんな勝手に解散していくうち、気づくとぼくはツルバミって先輩と二人きりになっていた。

この先輩ってのが地に足がついてない、って言葉を体現したような人で、専攻は哲学なのになぜか理系の大学院に受かって、また勉強づけかぁ、なんて嘆きながら卒業式に出た後に卒業するには単位が足らないってことにようやく気づいて、結局ここでタバコを吹かすことにした、という武勇伝を持っている。

そのまま身のない会話を続けていると、突然先輩が真剣な調子になって、君ってどれくらい本が好きなの、と聞いてきたんだ。

ぼくは頬をかいて、まぁ、三度の飯は無理ですが、一度分の飯と交換するくらいには、と答えた。
先輩の丸眼鏡の奥の目がニヤリ、と細められた。

んー、ちょっと考えさせて、と言ったあと、いったいなんだろうと不思議がるぼくを放置してまるまる一本分タバコを吸いきった先輩は、ここ、行ってみない、と一枚の名刺サイズの紙を取り出した。
そこに万年筆で何か書き付けて、

そろそろ俺も後進に身を譲ろうと思ってたんだけど、なっかなかいいのが見つかんなくてね。てなわけで、君を見込んで託すことにするよ。

そこに行ったら郵便受けにこの紙を放り込んで、鍵が出てきたら合格。
すっげー不親切な地図だけど、見つからなかったらそれまで、悪いけど質問はナシ。
一枚しかないから気をつけてね、それじゃ、健闘をー。

ぽかん、とするぼくにその紙っ切れを押し付けて、先輩はどこかへとふらふらと消えていった。

(1日目 おわりです。来週中には 2日目 あげる予定ですので、よかったらどうぞ)

乙続きが気になるな

ぼくと彼女が出会う前に、いまぼくが居る場所のことを少し話そう。

大学から20分くらい歩いたところにある雑居ビル。なぜかエレベーターが5階までしか動いていないから、7階のそこに行くにはのせると赤い錆がつく手すりがついた螺旋階段を2階分上がらなくてはならない。

最上階まで上ると、ベニヤ板に黒いペンキで「喫茶 913.6」と書いてある看板そばに立てかけられた、無愛想な重いドアがある。
目一杯あけて手を離すと、途中でしばらく止まった後にガン、っていって閉じるタイプのやつ

どこからみても、客商売を意図していないその扉を鍵で開けると、見事な銀髪のじい様と、ちょっと笑いそうなくらいの量の本が出迎えてくれる。

なにしろ、空いてるスペースのほとんど全てが本棚なんだ。

訂正 2日目 が抜けてました…

普通の一軒家くらいある広さの店を覆う壁は、天井まで全部が本で埋め尽くされ、店の中央には巨大な回転式の本棚が置いてある。
徹底したことにカウンターの下のスペースまで本棚に改造されて、隙間無く大きさの不揃いな本が差してあるんだ。

入り口から奥に進むにつれ、置いてある本の年代もどんどん古くなっていって、そのどん詰まり、一番奥には煮染めた様な色の古本に囲まれて店主が座っている。

この爺さんについて分かってることはかなり少ない。

夏であろうと、常にビシッとした三つ揃えを来ていること。
30分に1回は屋上にタバコを吹かしにいくこと。(この店の中では、本を痛める様な行為は全て御法度)
ビルのオーナーで、道楽でこの店をやっていること。

1年にはちょっと満たないくらいのあいだ、3日とあけず通って、たったこれだけ。

メニューはコーヒー(砂糖もミルクもなし、500円)とホットドック(この上なくシンプル、500円)、水(とんでもなく古い冷蔵庫から、これまた古ぼけた瓶に入ってでてくる、無料)これだけ。

注文したところで品物をテーブルまで届ける、なんて気の利いたことをこの店主はしてくれない。だから、時間を見計らって自分で取りにいかなきゃいけない。

そんな素敵なお店だ

昨日はずっとこの店で、家にあった昔のキャンパスノートに安いボールペンでガリガリと書き殴っていた。

ずっと本を読んでいたこの場所こそ、何かぼくのコトを書くにはちょうどいいと思えたんだ。

今思えば不思議だ。

いまぼくがここにいる直接の原因も、むかしぼくがここにいたから、なんだから。

そう、昨日の最後に書いた、先輩の紙っ切れに載ってた場所ってのは、この「913.6」なんだ。
この店たどり着くまでにはいろいろな苦労があったけど、それはまた別の話。

さて、長い前置きはやっとおしまい。


ぼくと彼女の出会いは、なんというか、かなりベタなものだった。

(もうちょっと推敲したら投下します。今週末頃予定、早まるかも)

乙乙
待ってるよー

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