男「なんだお前」幽霊「幽霊ですけどっ」 (50)

男「ほ、ほお…幽霊…」

幽霊「えぇそうですとも! 幽霊で、お化けで、あやかしですよ!」

男「…」

幽霊「おや信用されてませんね」

男「…いや、まぁ、白昼堂々と屋上に出てこられても些か…」

幽霊「まぁなんと失礼な方でしょうか! わたくし、ここまで幽霊としてコケにされたのは初めてですよ! ぷんすかです!」

男「そうですか…」

幽霊「こーんなにも薄っすら薄々の希薄な姿ですのに、なんなんですかもう。目見えてらっしゃいます?」

男「見えてるけど、つか、全然薄くもないし幽霊っぽくないけど…」

幽霊「なんですと? 何言ってるんですか、わたくしが薄くないとでも──薄くなってない!」

男(なんだこの娘)

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なんかごめん

面白そう
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続きはよ

ブルッくみたいな奴かと思いきや女か

数分後

幽霊「いやはや…驚かせてしまってすみません! いや、驚かせるつもりで現れたんですけどね!」

男「はぁ」

幽霊「はじめましてこんにちわ。わたくし、ちょっと幽霊しているものです?」

男「俺に訊くなよ」

幽霊「あはは。あれ? ちょっと待って下さい、んんー? あれれ?」

男「…なんだよ」

幽霊「もしかしてあなた…ぼっちですか? 学校の屋上で一人お昼ごはん、いやはや、これはまさしくぼっちという…」

男「少し、待ってくれ。色々と話しを順序良く話そうじゃないか」

幽霊「どうぞどうぞ」

男「…。あのよ、お前は本当に幽霊なのか?」

幽霊「もちろんですよ!」

男「じゃあ証拠は」

幽霊「証拠…? それは貴方が人間だという証拠を見せてくれ、なんて、言っていることと同じことですけど?」

男「帰る」すっ

幽霊「まっでぐだざいーぃ! じょうだんでずっでーぇ!」ぎゅううう

男(うざったい…)

幽霊「あらら? あなた、なぜかわたくしでも掴めますね…?」

男「…あのよ」

幽霊「なんでしょう?」

男「俺、あんまりそういった冗談…すきじゃないから、その、からかってんならやめてくれ」

幽霊「なるほど。こういったコミュニケーションは苦手なんですね、だからぼっちだと」

男「…怒るぞ」

幽霊「怒れるんですか?」

男「な、なんだよ…いきなり…」

幽霊「いえ、ただの戯言ですよ。ただわたくしの唯一無二の得意ごとと言いますか」

幽霊「──触れている相手の思考を読めるんです! ばばばぁーん!」

男(そろそろ本気で帰りたい…)

幽霊「勿論帰られてもいいですけど、いやいや、運命とは本当に罪なことをしますねぇ」

男「…え」

幽霊「どうかなされました? だから言ったじゃないですか、あなたの思考は読めてますよって」

男「は、離れろ…っ」ぐいっ

幽霊「おやおやぁ? さっきまでの威勢の良さは何処へ言ったんです? くひひ、怯えちゃって可愛いですぶはぁ!?」ドタリ

男「はぁ…はぁ…あ、思わず殴ってしまった…」

幽霊「…お、おお……なんなんですかあなた…なぜわたくしを殴れるんです…?」

男「本当に…お前は幽霊だったりするのか…?」

幽霊「ま、待ってください…まだこちらの質問をお返しになってもらってないです…っ」ぐぐぐ

男「いや殴ったことは謝るけど…女を殴ることに躊躇いがないわけじゃないぞ…」

幽霊「そういったことじゃーないんですよ! 幽霊ですよ幽霊! 幽霊サワレナイ、どんとタッチゆー! パードゥンッ?」

男「お、おお?」

幽霊「はぁっ…はぁっ…い、いえ、ここで意味のない争いを始めても無駄です……まずはそう! わたくしのお話しを聞いてください!」

男「…お話し?」

幽霊「ええそうです! わたくしのトークを聞いて欲しく、こうやってあなたの前に現れたということです!」

男「……」

幽霊「じゃあもう直球で聞きますけど、悩み、ありますか?」

男「いきなりだな、悩み…?」

幽霊「はい。悩みです悩み、過去や未来にわたって人間が発して止まない苦悩…それをお持ちになられてますか?」

男「…別に」

幽霊「嘘下手くそですね」

男「さ、触るなっ」

幽霊「触ってないですよ。顔みてればわかりました、えーほんっと、みてればわかりましたよ」

男「…な、なんだよ…なにが言いたいんだ…」

幽霊「食べさせてください」

男「は?」

幽霊「ですから、あなたの悩み、食べさせてください」

男「…食べるの?」

幽霊「食べますよ? ぱっくりざっくり、がりがりっと」

男「……」

幽霊「そういったことをしちゃう幽霊なんです、わたくし。どうです? すごいでしょー?」

幽霊「さあさあ!早く悩みを聞かせていただきたウィッシュ!!」

男「(なんだよこのテンションウゼェ)」

幽霊「うざくなんてありませんよ、さあさあ早く聞かせておくんなまし!」

男「・・・しょうがないな、なら一つだけお前に聞いてもらうとするか」

幽霊「話が早い!さすがはあなたです!」

男「さすがは俺か?」

幽霊「ええ、あなたはさすがです」

男「そうか、俺はさすがか・・・」

幽霊「そうですとも」

男「お前馬鹿だろ」

幽霊「お前に合わせたんだ」

男「聞いたこともないな…そんな幽霊なんて…」

幽霊「そりゃないでしょうね。わたくしだって、知りませんしお仲間なんて」

男「…そうなのか」

幽霊「そんなことよりも。悩みがあるならどーか食べさせてもらってもヨロシイでしょうか?」

男「えっ? いや、その…悩みを食べるってどういうことなんだ…?」

幽霊「それはあなたがどうなるか、という質問ですか?」

男「…おう」

幽霊「食べられた悩みは消えますよ勿論。綺麗サッパリ、あなたの悩みがポーンと何処かへ消えてなくなります」

男「…凄いじゃないか」

幽霊「ですよね! だからぜひ! 食べさせてくださいよ!」

男「…」

幽霊「うっ…なんですその疑っている視線…」

男「…なんか嘘ついてるだろお前」

幽霊「な、なんとまぁ酷いことを! こ、こんなにも可愛らしい幽霊っ子が嘘なんてつくはずがありません!」

男「じゃあひとつだけ、正直に話してくれ。それを答えてくれたら信用してやる」

幽霊「…ど、どうぞ?」

男「食べられた後、俺は正気でいられるのか」

幽霊「ぴゅーぴゅー」

男「帰る」

幽霊「ぎゃー!! ごめんなさいー! 実は記憶障害で一時的に頭おかしい人になるだけですぅー!」

男「…大事じゃねえか!」

幽霊「そ、そんなことないですよ? 一時的ですし、数年ぐらいですし…」

男「大事じゃねえか…」

幽霊「ううっ…人間ってどうしてこうも時間の概念に厳しいんでしょうか…」

なんかidコロコロ変わってるすまん

ニャルコちゃんみたい

男「…もう帰ってもいいか」

幽霊「だ、駄目です! ほ、ほんのちょっぴり…だめ?」

男「ダメだ」

幽霊「ええええ! いいじゃないですかぁー!」

男「…コレ以上おかしな事になりたくないからな」

幽霊「コレ以上?」

男「…俺の生活が、だ」

幽霊「……」

男「だからダメなもんはダメだ。いいから幽霊なら幽霊らしく、どっか消えてくれ」

幽霊「…そうですね、でも最後にひとつだけ聞かせてください」

男「…なんだよ」

幽霊「──悩みって、なんなんです?」

男「そんなのお前には関係ないだろう」

幽霊「関係なくても気になるのが人間ってもんでしょうが!」

男「お前幽霊だろ」

幽霊「それはあなたも同じでしょ!」

男「・・・あ?」

幽霊「・・・あ」

男「いまなんて・・・?」

幽霊「ぴゅーぴゅー」

男「おい、今なんていったんだよ」

幽霊「・・・あなた本当に気がついていなかったんですか、ご自身のこと」

男「…悩みは悩みだ」

幽霊「へ?」

男「昔からの悪いクセで、考えだすと…止まらなくなって」

男「ぐるぐると同じことを悩み続けて、いいところで落とし所を見つけるのが下手くそで」

男「……答えを出すのが苦手なんだ」

幽霊「…」

男「もう、今はそういったクセは無くなったが……代わりに……」

幽霊「代わりに?」

男「……。なんで話さなくちゃいけないんだ、いいから何処かにいってくれ!」

幽霊「あわわっ」

男「…行かないなら俺が出て行く」すっ

幽霊「あ…」

男「じゃあな」

きぃ ぱたん

幽霊「…ふむふむ」


放課後

男(今日は頭のおかしいやつに出会ったな…屋上に行くのは控えよう)

男「さて、帰るか…」

教師「お。男、いいところにいた」

男「え、あ、はい」

教師「ちょっと今から職員室に来てくれないか」

男「…え、今からバイトがあって…」

教師「すぐ済む。すまんが来てくれ」

男「…はい」

~~~

教師「呼び止めてすまんな。ちょっとお前に頼みたいことがあるんだ」

男「…頼みたいこと、ですか」

教師「ああ、この──日誌のことなんだが」

男「…」

教師「今日は日直の田中が休みだろ? 相方も部活で忙しいらしくてな、お前に書いてもらえないかと想って」

男「お、俺に?」

教師「ああ。出来ればお前にやってほしい、部活もやってないだろ? 暇そうだしな…」

男「え? いやだから、バイトが…」

教師「ん? なんだ? あーバイトか、別に今日中に終わらせなくてもいいぞ」

男「…えっと」

教師「お前にしか頼めないことなんだ。どうだ、やってくれるか…?」

教師頼める人少なすぎワロタ

男「あの…」

男(どうして俺に頼んだ? 他に部活やってないのは居るだろ…)

男(俺が普段から大人しいからか。なんでも頼めばやってくれそうだからか)

男(でも頼られてるってことなのか、これって。別に成績も不良でもないしな)

男(だが成績と都合のいいやつとは違うだろ…これってただいいように使われてるだけじゃ)

男(でも困ってるしな。いや、だけど俺だってバイト遅れそうで困ってるし──)


男(──ああ、嫌だ嫌だ嫌だ…またこの感覚だ…)ズキン


男(ぐちゃぐちゃで、考えがまとまらない。なにが正解でなにが間違いなのか)

男(本音がどれで、嘘はどれで、自分はなにを思ってるのかわからなくなって…)

男(───そうして『ここ』にたどり着く)


男「…わかりました。じゃ、今日中に書き上げます」

期待してるぞ

~~~

男「…終わった」パタン

男「ふぅー、今の時間は…ああとっくにバイトの時間過ぎてるな」

男(またクビかな。これで何度目だろう、もう数えんのも面倒くさい…)

男「なにやってんだろ…俺…」


「悩んじゃってますねぇ!」


男「うぉおっ!?」

幽霊「──うふっふ! どうもどうもー! お久しぶりですか、違いますよね、これはまた開いましたですよね!」

男「お、お前…!」

幽霊「なんですっ?」

男「普通にドアから入ってくるんだな…」

幽霊「ツッコミどころ違いますよねぇー! あはは、案外おもしろいじゃないですか貴方」

男「…また来たのか」

幽霊「勿論ですよ。あなたには、どうもわたくしが付いていないとダメみたいですし」

男「意味がわからないぞ…」

幽霊「幽霊ですからね。人間に底を知られたとなっては、面目丸つぶれですから」

男「…そういうもんなのか」

幽霊「そういうもんです。それで、悩んじゃってますよね?」

男「…たべたいのか」

幽霊「食べさせてくれるんですか!?」

男「おい、底が見えたぞ今…」

幽霊「じゅるる!」

男「…なぁどうしてそうも悩みを食べたいんだ」

幽霊「お腹が空くからです。当たり前じゃないですか」

お前さっきテレビでステキな金縛り見ただろ?

この手のSSは何十・・・何百・・・いや何千と見てきたぞ

男「幽霊でもお腹が空くんだな」

幽霊「貴方もお腹は減るでしょう? この世に存在するものは、すべからく、なにかを摂取しなければ生きていけませんからね」

男「…そうだな」

幽霊「わたくしはただ、それが悩みだというだけの話です。お腹が減ったら──」

幽霊「──人間から悩みをぱくり、ですよっ」

男「…」

幽霊「ふんふん、それでそれで…あなた、本当にお人好しって奴ですね」

男「お人好し? ああ、そう見えるのか俺って」

幽霊「お人好しでしょう。誰もがそう認めるでしょうね、あなたの今の姿を見れば」

男「…別に俺はそんなことを」

幽霊「思ってなくとも、周りにはそう思われるんですよ。あなたの行動は」

男「…」

幽霊「そこまでして人によく思われたいんですか? わかりませんねぇ、わたくし幽霊ですし」

男「…別に思っちゃいない、言っただろ」

幽霊「ですが、悩みの果てに──人から好かれたい選択をなされてるじゃないですか」

男「ッ!」

幽霊「怒るんですか?」

男「…ッ…」

幽霊「ほらまたそうやって決めつけた。答えはこれだけなんだって、貴方の中で自己完結してしまっている」

幽霊「──自分が負えば、すべてが解決になるとお思いなんて、馬鹿らしい考えですねぇ」

男「……」

幽霊「悩み続けるのが──悩みでしたっけ? なるほどぉ、だから答えを用意したんですねぇ」

幽霊「悩み続けるぐらいなら、自分が背負って終わらせる。はいはい、よくできた計算式をお持ちなことで」

男「…何が言いたい」

幽霊「べっつにーわたくし幽霊ですし、人間にとやかく説教臭いことのんべんだらりと語る趣味はないので」

男「…言ってるじゃないか」

幽霊「説教のつもりなんてありませんよ。ただ、わたくしは幽霊としてちょっと──怒ってるだけです」

男「は? 幽霊として…?」

幽霊「苦悩を喰う幽霊として、ですけどね。わたくしは憤慨しておりますよ?」

幽霊「──貴方が常に思っているその苦悩は素晴らしいことなのに」

男「素晴らしい? この、はっ…ははっ…何いってんだ…?」

男「このバカらしい程に悩む自分が…素晴らしいって?」

幽霊「はい。わたくしは本当にそう思っていますよ」

男「なにが…なにが良いんだこんなの…! ちゃんと答えを決められない、こんな惨めな俺が…っ」

幽霊「なぜ惨めだと決め付けるんでしょうか。わたくしは、そこまで考えられるあなたを褒めたいというのに」

男「ほめ…?」

幽霊「わたくし、長年幽霊をやっていますけど。ここ最近の人間たちは特に酷いですよ」

幽霊「いや何時も酷いんですけどね。そこをつつき出したら話は終わらないんで、簡略に話しますけれど」

幽霊「──答えを躊躇がなさすぎですよ」

男「躊躇いがないことは…いいことだろ…」

幽霊「そうですね。けれど、悩むこと自体がダメだと思われる風潮があるじゃないですか」

幽霊「自分はこうしたい、ああもうしたい、だけど周りが認めてくれるわけじゃない、云々」

幽霊「全ては人の為。己の行動すら他人の価値観に当てはめ、吐出するものは除外し、平らに収めようとする」

幽霊「悩んでも無駄だと決めつけてしまう。こうなのだからと、勝手に考えをまとめてしまう」

幽霊「……そんな人達が増えすぎなんですよ、本当に」

男「…周りから変だと思われば、嫌なことだろ?」

幽霊「嫌だってことは誰が決めたんです? 外れていれば、ダメだとあなたが決めたんですか?」

男「人が人とうまい関係を作れなかったら…社会不適合者、なんて呼ばれるじゃないか」

幽霊「それは価値観の問題です。そういった物差しでしか測れないようでは、そこまでの範囲で物事を見れないんでしょうね」

男「…政治家にもなれってか…」

幽霊「いいんじゃないでしょうか。これで一歩、範囲が広がりましたね」

男「……」

幽霊「ようは狭いんですよ。考えの幅が、ここまでだと思ってしまっている」

幽霊「可能性を不可能だと割り切り、自分とは小さき人間だと思い込もうとしている」

幽霊「ああ…なんて可哀想な人間たちなんでしょうか…」

男「…幽霊だからなんとでも言えるな…」

幽霊「幽霊だから言えるんです。幽霊だから、望みを高らかにうたえるんです」

どうでもいい事を悩む→なんか妙な答えを出す→変態扱いされてる今の俺の状況

幽霊「だって幽霊ですよ? あなた達とは違う、環境も生き方も全て異なっている…だから言ってるんです」

幽霊「生きてるクセに、なんでそんな弱気なんだって」

男「…っ…」

幽霊「人は可能性に満ち溢れてますよ。行きたいと思えば何処にだって行けます」

幽霊「わたくしはどこも行けません。せいぜい、学校周辺まででしょう」

幽霊「わたくしと人間には──簡単に言ってもここまでの制限がある」

男「…そう、なんだな」

幽霊「そうなんですよ。だから、あなたは勿体無い」

幽霊「──他人とは違った、多種多様の考えを瞬時に悩める」

幽霊「ここまで良いと割りきってしまう範囲を飛び越え、収拾が付かない処理速度で物事を捉え──」

幽霊「答えを導き出そうと思考する。これが、なにが悪いことなんですか」

幽霊「そして仮に、そこで導き出した答えが──間違っててなんなんです?」

幽霊「他人はそれを、おかしいことだと決め付けることが出来るのでしょうか」

幽霊「何故己の物差しで、他人の価値を陥れなくてはいけないのでしょうか」

幽霊「個人とは有です。そこに存在するだけで、この世にとっては意味があるんですから」

幽霊「わたくしは思うんですよ。あなたの悩みは、良いことなんだって、凄いことなんだって」

幽霊「広げ見てください。あなたは小さい世界で足掻いてるだけです。みっともないと勘違いしているだけです」

幽霊「──すべてはあなたの選択でしかないんですよ?」

男「……」

幽霊「わたくしは間違っていると思います」すっ

男「あ…」

幽霊「この日誌を手にしたあなたは、きっと、間違ってるって」

男「…間違ってる…」

幽霊「悩んでもいいんです。ずっとずっと悩んで、考え続けていいんですよ」

男「……」

幽霊「あなたがもしかわれたのであれば──その時、またお伺いします」

男「えっ?」

幽霊「わたくしは悩みを食べる幽霊。人が苦悩し、考え、導き出すその努力を──」

幽霊「──糧として存在する幽霊なのですから」


ふわり…


男「…ぇ…あ…?」

男「き、消えた…?」

男「…言いたいことを言いたいだけ言いやがって…くそ…」

男(悩み続けることが…いいこと…)

~~~

男「…先生」

教師「ん? おお、なんだ男……ああ日誌か」

男「は、はい」

教師「こんな時間までかかったのか」

男「…えっと、今日のところじゃなくって、別の日も書かれてなかったりしたので」

教師「書いてくれたのか? 本当か、すまん、ありがたい」

男「……」

教師「そうか、本当に迷惑かけてすまなかったな──あとそれと一つお願いがあるんだが」

男「え、はい」

教師「その日誌のことなんだが、すまん……当分お前が書いてくれないか?」

男「……え?」

教師「ほら、この時期は大会が続くだろう? 日直の仕事は結構負担になりやすいんだ」

男「いや、でも…」

教師「悪いようにはしない。そうだ、学校の評価にも良い風にしてやるぞ。受験で役に立つはずだ」

男「……っ…」

男(──俺は俺で、やりたいことがあるんだ)

男(学校が全てじゃない。家に帰ってしたい趣味もある、バイトだって新しいのを見つけなくちゃいけない)

男(でも先生が困っている。やれるのは俺だけ? いやもっと適任はいるだろ、でも頼ってくれたのは嬉しい事だ)

男(ああ、時間を気にしてる。次の仕事があるのか、答えを決めないと、だけど俺にだって──)


ズキン


男「…俺は…」

男「…別に時間も開いてるし…別に構わないと…」


ズキン!

(─これでいいじゃないか、こうやって俺は答えを決めてきただろ)

(─これで誰も困らない。今という時間がすぎればそれでいい)

(─あとで後悔するの─だめです!─もよし、ただ今の自分がおかしいやつだと思われなければ)

(─また逃げるんですか─こうやって過ぎる時間も、また今の自分を陥れるだけだ─なにが悪いんですか!)

(─自分はそうやって─逃げてもなにも始まりません!今の自分はなにも考えようとしない、チリ以下の微生物以下です!)


(例え小さな悩みであっても! それを後悔せずにやりきれないで、後の悩みを受け入れることなんてできないんですよ)

男「──っはぁ……!」

男「お、俺は……っ…」

教師「ど、どうした? おい、男っ?」

男「あ、えっと……すみません……!」

教師「大丈夫か? いきなり黙ったからびっくりしたぞ…!」

男「……っ…」

教師「疲れてるんだな? 今日はもうゆっくり休め、明日になってまた答えを──」


(──答えを今! あなたの悩みから生み出した答えを出すんです!)


男「……疲れて、いるんです」

教師「え? お、おおそうだな。だから…」

男「きょ、今日のこと…すごく疲れて、もうやりたくないぐらいに…疲れたんです」

教師「…なに?」

男「日誌を書くなんて、俺の仕事じゃないから…日直の仕事であって、俺だって暇じゃないんです」

教師「それは…」

男「今日が」

教師「、なんだ?」

男「休みなら、明日に田中に書かせればいいじゃないですか」

男「相方も部活が終わらせてから、日誌を書かせればいいでしょう」

教師「…田中もいつ復帰かわからないだろう。それに相方も部活で…」

男「部活がなんなんですか、日誌もかけない奴に、部活で大した成績だせるとは思えないですけどね」

教師「なっ…!」

男「もうひとつ。先生、今までなにしてたんですか、机の上にあった書類も一枚も進んでないですけど」

教師「わ、わたしはだな…!」

男「だけどコーヒーは何杯も飲んでるんですね」チラリ

教師「おい、なにが言いたいんだお前は…っ」

男「今、携帯にメール入りましたよ」

教師「…っ…なに?」

男「携帯にコーヒーの水滴がついてますけど…今日は特に触ってるんですね、携帯」

教師「…ッ…」パカリ

男「田中からでも連絡入りましたか」

教師「み、みるじゃあないッ」

男「見てませんけど」

教師「ッ…!?」

男「田中元気そうですか。それとも、最初から元気なんですかね…絵文字たくさん入ってて、先生、田中とはどんな関係何ですか?」

教師「な、なにを言っているんだお前は…!?」

男「…思ったことを言ってるだけです」

男「思ってることを次々と言ってるだけです。なにも考えてなくって、いや、そうじゃないな…」

男「悩んでることを、言ってるまでです」

教師「お前はッ…」

男「お前は、なんですか?」ピッ

教師「俺をおちょくっているのかっ? そうやって教師をからかって、楽しんでいるのかっ!?」

男「楽しんでないですよ。先生、勘違いしないでください」

教師「なにが勘違いだ! 黙って俺のいうことを聞いてれば…!!」

男「──……黙って?」

教師「ッ…!」

男「ああ、やっぱり。そうだったんですね、俺って先生にとって扱いやすい都合のいい生徒だったと」

男「薄々感づいてましたけど。いや、思ってただけで答えになってなかったけれど」

教師「なにをブツブツと…! もういい! 帰れ!」

男「わかりました。けれど、ひとつ約束してください」

教師「や、約束だと!?」

男「これからはもう、俺を都合のいいように使わないでください」

男「ただ、それだけを約束してください」

教師「…ッ……そんなのは…!」prrrr

男「今度は電話きてますよ」

教師「え……うっ……わ、わかった! 約束する!」

男「本当ですね?」

教師「あ、ああ…! だからもう帰れ! くそっ…」

男「……」

教師(なにが約束だ、そんな約束なんぞ、ったく、こっちはそれどころじゃないというのに──)

『もしもしー? せんせぇ? こっちお腹いたいよぉー! 昨日はちょっと乱暴にあつかいすぎじゃなーい』

教師「ちょっと待て、あとでまた連絡するから…」

男「…先生」ピッ

教師「な、なんだ!?」

男「録音させて貰いましたから。今までの会話を」フリフリ

教師「…………」

男「もしかしたら、もしかしたらですよ? この約束の会話の中に…」

男「…なにか入ってても、俺は知りません」

教師「あ……」ストン

男「…それじゃあ、これで」

すたすた…


パタン

1週間後

男「じゅるるる…」

男「ぷは……」

男「……色々とあったなぁ」

幽霊「ですねぇ」

男「おう」

幽霊「あれれ? 驚かないんですか?」

男「…来ると思ったんだ」

幽霊「なるほど。流石はお見通しですか」

男「まぁな。最初から狙ってたんだろう、あの先生」

幽霊「ベネ! その通りです、あの教師さんは中々の悩みをお持ちでしたからねぇ!」

男「…悩みか」

幽霊「いやはやモテる人間も大変ですね。あの田中さんも含めて、五人の女子生徒と関係を持ってたなんて」

男「……」

幽霊「しかしまぁ、それについては悩んでらっしゃったようですが。首が回らないといいますか、回りすぎて首が落ちたと言いますか」

男「…だけど良く決心したと思う」

幽霊「自主退職のことですか? んふふ、英断という方もいますがねえ。世間一般では悪人とそう変わりないですよ」

幽霊「──立派な犯罪ですしね、なんといっても」

男「……」

幽霊「わかってらっしゃると思いますが、あの方を、あの教師を──」

男「追い詰めたのは俺だろ。わかってるよ」

幽霊「……」

男「そしてお前はそれが狙いだった。俺ならそれが出来ると、そう算段をつけてたろ」

幽霊「ええ、正解です」

幽霊「随分とまぁ扱いやすかったですよぉ。あなた、ちょちょっと煽れば目的をこなしてくれそうでしたし」

男「…都合よく使われたもんだ、俺も」

幽霊「えへへ」

男「聞かせてくれ。お前が喰う悩みってのは…本当に悩みだけなのか?」

幽霊「違いますね。わたくしが本来摂取するべき部分は悩みではありません」

幽霊「苦悩し、考え、そして導き出した答え──そこに生まれる覚悟を食べるんです」

男「人が生み出す…覚悟…」

幽霊「その覚悟は、莫大なエネルギーを有してるんです。悩みがおおきいほど、決断した強さは比例する」

幽霊「わたくしはその過程を行って、悩みからの覚悟を食べて存在しています」

男「…今回はあの教師だったということか」

幽霊「その通り。五人の女子生徒の関係の悩みを、断ち切る覚悟をした」

幽霊「その味、大きさ、品質。どれも逸品なものでした」

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