『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の二次SSです
総合スレでは、1レス劇場でお世話になっています
久しぶりというか、気ままに長めのSSを書きたくなってスレを立てました
お気楽にお付き合いいただければと……
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1365252791
あやせが交通事故に遭ったと知らせを受けたのは、学校から帰宅した直後のことだ。
桐乃が明らかに取り乱している様子が、携帯を通して俺にも伝わってくる。
「しっかりしろ桐乃! それで、救急車は呼んだのか?」
『う、うん、呼んだ。……ど、どうしよう。あたし、どうすればいいの!?』
こんなときこそ、俺が冷静にならなくちゃいけない。
親友のあやせが事故に遭い、動揺している桐乃をますます不安に陥れるだけだ。
「あやせはどんな具合なんだ? ちゃんと息はしてるんだよな?」
嫌な予感が一瞬俺の脳裏をかすめたが、訊かないわけにはいかなかった。
桐乃との会話に混じってあやせの名を叫ぶ声の主は、たぶん来栖加奈子に違いない。
携帯を通してしか状況がわからないのがなんとももどかしい。
『息はしてる。でも、目を閉じたまま全然動かないの』
「どっか怪我をしてるようなことは? 出血とかしてるのか?」
『わかんないけど、どっからも血は出てない』
怪我をした様子はないが意識がないということは、頭を打っているのかも……。
しかし、俺に医学的な知識があるわけじゃないし確信はない。
「おまえに怪我はなかったのか? 他に誰か怪我をしたヤツはいるのか?」
『あたしは転んでちょっと擦りむいただけ。加奈子も大丈夫』
あやせが路上に身を横たえ、加奈子が叫び、桐乃が携帯にしがみ付いている様が目に浮かぶ。
こんなときに、俺は何もしてやれない己の無力さを痛感するしかなかった。
「あやせは頭を打ってるかもしれねえから、そのまま動かさない方がいい」
『わかった。それからどうすればいい?』
「救急車は、まだ来ないのか?」
桐乃との会話が一旦途切れ、携帯から聞こえるのは周囲のざわめきだけ。
「桐乃? どうかしたのか?」
『ちょっと待って。……あっ、救急車のサイレンかも!?』
携帯越しに微かに救急車のサイレンが俺の耳にも届いていた。
聞き覚えのあるその音は、やがて周囲のざわめきを掻き消し、そして止まった。
救急隊員とおぼしき男性の声がして、それに受け答えをしている桐乃の声が聞こえる。
どうやら、桐乃と加奈子も救急車に同乗して病院へ向かうらしい。
「桐乃、聞いてるか? 今話せるか? 搬送先の病院がわかったらすぐに連絡してくれ」
『うん、わかった。……絶対に来てよね。約束だからね』
「わかった。すぐに駆けつけるから」
『あっ、そうだ。あやせの家の人にも連絡しなきゃ』
「それは俺がやっとくから心配すんな。それよりもあやせを早く病院へ」
桐乃にそう言って携帯を切ったものの、俺は重大なことを忘れていた。
あやせの家の電話番号……。
考えている暇はなかった。こうなったら、一か八かあやせの家に直接行くしかない。
俺は制服を着替えるのも忘れ、携帯を掴んだまま家を飛び出した。
◇
あやせが交通事故に遭ってから丸一日が経過した。
幸いにも桐乃の方は軽傷だったお蔭で、簡単な治療だけでその場で帰宅が許された。
しかし、あやせはいまだに入院したままだ。
自室の椅子に座って考えごとをしていると、階段を上ってくる足音が聞こえて来る。
足音の主は桐乃に違いないが、自分の部屋へ向かうことなく俺の部屋のドアの前で止まった。
「桐乃だろ? 入って来てもいいぞ」
俺の部屋に足を踏み入れた桐乃の顔には、見るからに疲れの色が滲み出ている。
右手の甲と肘、それと両膝にも滅菌ガーゼを貼り、その上からネット包帯を巻いた姿が痛々しい。
俺は、ベッドの上をチラリと見てから桐乃に声をかけた。
「あやせの病院へ寄って来たのか?」
「うん」
「どんな具合だった?」
「あやせのお母さんが付きっ切りで看病してるんだけど、まだ意識が戻んなくて……」
「そっか」
「容態は安定してるって言うし、意識が戻るのも時間の問題らしいんだけど……」
「命に別状がなかっただけでも不幸中の幸いかもな」
「今はそう思うしかないもんね。あたし、明日も学校の帰りに寄ってみる」
桐乃はそれだけ言うと、力なく俺の部屋を出て行った。
俺は静かにそっと椅子から立ち上がり、足音を忍ばせてドアに耳を当て廊下の様子を窺う。
桐乃の部屋のドアが開き、続いて閉じる音を確認して俺はベッドに向き直った。
「どうするつもりなんだよ」
「わたしだって、自分でもどうしていいのかわからないんです」
「取り敢えず、俺のベッドの上で飛び跳ねるのはやめろ」
「桐乃もわたしの姿は見えないみたいですね」
「普通の人間だったら見えないのが当然なんだよ」
「どうしてお兄さんにだけ見えるんでしょうか」
「それは俺の方が知りてえよ」
この状況を誰かが見ていたら、俺がベッドに向かって独り言を呟いているようにしか見えないだろう。
しかし、俺の目に映っているのは、交通事故に遭い今も意識不明のはずのあやせだった。
幽体離脱。まさに肉体と魂が遊離した状態のあやせが俺の目の前にいるわけだ。
あやせは不満そうな顔で床へ飛び降り、そのままベッドに腰を下ろした。
「わたしも午前中に病院へ行って来たんです」
「自分が入院している病院へ自分で見舞いに行って来たわけか」
「そういうことになるんですけど、なんだか不思議な感じでした」
「だったらそのまま体に戻りゃあよかったじゃねえかよ」
桐乃から二度目の連絡をもらい、あやせのお袋さんとともに病院へ駆けつけたのが昨日のこと。
あやせは救命救急センターへと運ばれ、俺も桐乃も会うことはできなかった。
桐乃は動揺が激しく、帰りの道すがら俺がなんとかなだめながら家に帰りつくのが精一杯だった。
あやせの命に別状はないと、あやせのお袋さんから連絡をもらったのが昨夜遅く。
それを聞いて桐乃も安堵したのか、俺が部屋まで連れて行ってやると、そのまま眠りに落ちた。
「それにしても、なんでおまえは選りにもよって俺の部屋にいたんだよ」
「わたし、お兄さんに説明しませんでしたか?」
「おまえの姿を見た途端に気絶しちまったんだよ」
「今朝も説明しましたけど」
「俺は幻聴幻覚だと思って、一切おまえの方は見ないようにしてたんだよ」
俺が朝になって目を覚ましたとき、この部屋にあやせがいたことは確かだ。
しかし、まさかそれがあやせの幽体だなんて考えもしなかった。
「わたしだって、好き好んでお兄さんの部屋にいるわけじゃありません」
「だったらせめて自分の家に帰るとか、棲みつくとかすりゃあいいじゃねえか」
「家の中に入れないんです」
「どういうことなんだよ」
あやせは眉間に少しだけしわを寄せ、忌々しそうに呟いた。
「たぶん御札のせいだと思うんです。わたしの家にある御札がいけないんです」
「御札? 御札って、神社とかでもらう御札のことか?」
「その御札です。いつだったかお父さんの後援会の人が、必勝祈願だと言って置いていったんです」
「選挙絡みってわけか……。ていうか、御札があると家に入れないって!?」
「なんですか? 何が言いたいんですか?」
「いや、そういうのって悪霊の類じゃねえのか?」
「お兄さん、二度とそういうことを言ったらブチ殺しますよ!」
今のあやせなら、本当に俺をブチ殺そうが呪い殺そうが自由自在かもしれない。
はたして、俺の目の前にいるあやせは幽体なのか悪霊なのか……。
唯一の救いは、見た目だけはセーラー服を着た可愛い美少女だということ。
本日の更新はここまでです
次回は、一週間後くらいにできれば……頑張ります
乙
待ってるよ
気づかれなかったら京介の色んなシーンを覗き見れたのに・・・
乙です。
あやせメインは嬉しい、期待して待ってます。
これは期待ですね
あやせは俺が目を離した隙に、勝手に俺の机の引き出しを開けようと悪戦苦闘していた。
引き出しに手を掛けたはいいが、どうやらそのまま手が素通りしてしまうようだ。
「なにやってんだよ」
「お兄さんが、いかがわしい物を隠していないか検査しようかと」
「ところでさ、今見てて思ったんだけど……」
「なんですか?」
机の引き出しが開けられないあやせを見ていて、俺の頭にふとある疑問が浮かんだ。
一体どうやって、あやせは俺の部屋に入って来たんだと。
もしかしたら、今のあやせには壁を通り抜けることくらい、いとも簡単なことなんじゃないかと。
「お兄さんの考えてる通りです」
「俺が考えてることがわかるのか!?」
「はっきりとわかるわけじゃないんですが、なんとなく伝わってくるんです」
「なるほどな。……そういうことだったのか」
「そういうことって、どういうことなんですか?」
「簡単に言うと、俺の波長とあやせの波長が偶然にも一致してるってことさ」
「波長がですか? それじゃあ、わたしの姿がお兄さんにだけ見えるのも……」
あながち俺の推論は、間違っちゃいないと思う。
例えて言うなら、あやせが常人には見えない電波なら、俺はその受信機といったところ。
しかし、当のあやせにしてみれば……。
「とっても気持ち悪いです。なんで選りにもよってお兄さんと波長が合うんですか!?」
「俺に怒ったってしょうがねえだろ」
「でも、そうですよね。もし、お兄さんとも波長が合わなかったら……」
「いいじゃねえか。今はこうして、俺だけでもおまえの姿が見えるんだからさ」
もし、俺とも波長が合わなかったら、あやせは今頃どうしていただろうか。
あやせに誰一人として気づく者はなく、行く当てもなく虚空を彷徨っていたかもしれない。
たぶんそこのところは、あやせ自身が一番わかっているはずだ。
「お兄さんのおっしゃる通りですけど、それにしてもなんでお兄さんと……」
「俺の心を勝手に読むんじゃねえよ」
「お兄さんの思考が勝手にわたしの頭に入ってくるんです」
「そういうことなら仕方ねえか……。ところでさ、ずっと気になってることがあるんだよ」
「どうして事故に遭ったのか、ですよね?」
「まあそんなところだ」
俺はずっと疑問に思っていたんだ。なぜ桐乃たちが事故に巻き込まれてしまったのかと。
かつて俺も通った通学路を思い浮かべてみても、それほど危険な箇所があるとは思えない。
「……わたしがいけなかったんです」
「どういうことだ?」
「わたしが、ちょっと考え事をしていて、ぼうっとしていたのがいけなかったんです」
「あやせらしくもねえな。それで?」
あやせは事故当時の記憶が蘇ったのか、唇を噛み締めて今にも泣き出しそうな顔になった。
俺としては、別にあやせを問い詰めようなんて意図はまったくない。
「お兄さんがわたしに聞きたいことはわかっています」
「あいつ、俺がいくら聞いても詳しいことを話してくれなくてさ」
「桐乃の怪我は、わたしのせいなんです。桐乃がわたしを庇って……」
あやせから一通りの話を聞いて俺も納得がいく。
幸い擦り傷で済んだとはいえ、自らも怪我を負ってしまった桐乃。
しかし、自分の怪我よりも親友を守りきれなかったという自責の念が、今も桐乃の表情を曇らせていた。
桐乃はそういうやつなんだ。
「わたし、桐乃には本当に申し訳ないことをしたと思っています」
「そう落ち込むなって。桐乃はおまえと違って軽傷で済んだんだから」
「もしあのとき、桐乃がいてくれなかったら、わたし今頃……」
「幽霊になって彷徨ってるかもな」
「ということは、今とあまり変わらないということですか?」
「まだ死んだわけじゃないんだろ」
「そうですよね。わたしの意識、いつかは戻りますよね」
「それを俺に聞かれても困るんだよ」
◇
いつの間にか窓の外が夕闇に包まれた頃、階下からお袋の呼ぶ声がした。
俺の家の夕飯の時間は、今も昔も変わることがなかった。
親父も帰宅し、既に風呂にも入ったに違いない。あやせに夕飯はどうするんだと尋ねると、
「わたしがご飯を食べられると思っているんですか?」
「意識不明だったもんな。それで腹が減ることはないのか?」
「お腹が空くことはありません。あ、でもお水をもらえると嬉しいです」
「水だけでいいのか? 頭からかけるとか?」
「わたし、お墓じゃありませんから」
確か冷蔵庫の中に、桐乃が買ったミネラルウォーターがまだ入っていたはずだ。
水だけで存在できるなんて、なんとも安上がりなあやせだった。
書き溜めてチェックが済んだ分だけでも投下しようかと……
次回は、本当に一週間後くらいで
乙。なんかきまぐれオレンジロードの小説版っぽいな。期待してる。
乙!
2期も始まってまたWktkの日々が始まるんだな
ラブリーマイエンジェルあやせたん!
書き溜め尽きるのは仕方ないし、毎日うpでも長編だから完結まで1週間かかるなら納得
だが次回うpまで1週間とか意味がわからんが何故なんだ?
どんなにクソ忙しくてもうp出来るだろ
読者様は黙ってNG
ss書けばわかるよ
>>21
申し訳ありません。総合の1レス劇場と掛け持ちしてるもんで
今もあやせのホラー書いてました。こっちに専念します
義務で書いてるわけじゃないんだし一ヶ月音沙汰無しで落ちるスレも一杯あるのに一週間すら待てないのか、VIP感覚なのかな?
この作者は総合スレでも1スレSS書いてるから消える心配は無いと思うんだが
>>24
気にする必要ないと思うよ
黙って更新停止してスレ放置してるわけでなし、
マイペースに進めればいいんじゃないかな
楽しみにしてます!
いつものお袋の世間話にも適当に相槌を打ちつつ、手早く夕飯を済ませる。
食器を流しに置いてから冷蔵庫を開け、麦茶を飲むふりをしながらミネラルウォーターを一本拝借。
これで、あやせに頼まれた水も確保した。
俺がキッチンを出ようとしたとき、桐乃も自分の食器を手に持って立ち上がった。
親父は晩飯のおかずを酒の肴にして、まだ晩酌の最中だ。
「桐乃、新垣議員の娘さんの容態は、どんな具合なんだ?」
「あ、うん。……まだ意識が戻んないみたい」
親父が桐乃にあやせの容態を尋ねている隙に、俺はさり気なくその場から立ち去った。
◇
「お兄さん、ペットボトルのキャップはちゃんと取ってくださいね」
「わかってるって、今取ってやるから」
「キャップを取ったら、そのまま机の上に置いてください」
「これでいいのか?」
あやせの言うままにペットボトルを机の上に置いたはいいが、これでどうやって飲むんだろう。
手に持って飲むわけじゃないだろうし、何だったら俺が飲ませてやっても……。
「あんた、さっきから誰と話してんの? まさか、この部屋で猫でも飼ってんじゃないでしょうね」
声のした方角を恐る恐る振り向くと、そこには疑いの目で俺を見る桐乃が立っていた。
俺の寿命が一年、いや明らかに十年は縮んだ気がする。
勘のいい桐乃を前にして、俺が惚け切れるもんじゃないことはわかっている。
しかし、実はこの部屋にあやせの幽体がいると言ったところで、桐乃が素直に信じるわけがない。
俺がふざけて言っていると思って怒り出すことくらい容易に想像がつく。
「な、なんだ、おまえも飯食い終わってたのか」
「そんなことどうでもいいっての。それより、あたしに何か隠してない?」
「おまえに何を隠してるって言うんだよ」
「さっきからあんた、怪しすぎるんだっての」
「この部屋で猫なんか飼ってねえし、おまえだって見りゃわかんだろうが」
猫ならまだ可愛いもんさ。
何しろ桐乃にはあやせが見えねえんだから、俺だって説明のしようがない。
「だから俺のベッドの上で飛び跳ねるなって言ってんだろうが!」
「誰が飛び跳ねてるって? あんたが何か隠してるって、あたしにはわかるんだからね」
こういうときは、無理やりにでも話題を変えるに限る。
親父は刑事課の警察官で管轄が違うとはいえ、そこは同じ警察組織に属する人間。
所轄署の交通課に親父を知る人がいて、事故のあらましは親父も聞いていた。
「ところでさ、俺も親父からある程度聞いて知ってんだけど……」
「事故のこと? それがどうかしたの?」
桐乃たちが登下校に使っている通学路に、最近になって新しくコンビニが出来た。
俺も何度か行ったことがあるし、店内で飲食も出来るようになっている。
「おまえたち、下校途中にコンビニに寄ってたのか?」
「そうだけど、いけなかった?」
「おまえや加奈子ならわかんだけど、あやせまで買い食いっていうのもな」
あやせのお袋さんは言わずと知れたPTAの会長だし、親父さんも名のある議員だ。
その娘であるあやせが、下校途中で買い食いなんてちょっと想像しがたい。
「買い食いじゃないっての」
「だったら、何の用があってコンビニなんかに?」
「あたしも加奈子も、あやせの買物に付き合おうとしてたんだって」
それまでベッドの上で飛び跳ねていたあやせは、何を思ったのか桐乃めがけて大ジャンプ。
人間技とは思えない速度で桐乃の背後に回ると、慌てて桐乃の口を塞いだ。
あやせの慌てぶりを見れば、俺に聞かれたくない話だということは一目でわかる。
しかし、なんて無駄なことをしてるんだか。
「何を買うつもりだったんだよ、あやせは」
「話してもいいのかどうか……。でも、あんたにも関係がある話なんだよね」
桐乃の口を塞いでも無駄だとわかったあやせは、今度は俺の耳を塞ぎにかかった。
だからそんなことをしたって無駄だっつーの。
「あのコンビニってさ、ちょっとした小物なんかも置いてあるんだよね」
「それと俺が何か関係があるのか?」
「あ、そうか。やっぱ、初めっから話さないとわかんないよね」
桐乃が話し始めた話は、事故当日の学校での出来事だった。
その日、桐乃たちは家庭科の授業の中で、いくつかの班に分かれてクッキーを作ったそうだ。
桐乃と同じ班には、あやせと加奈子もいたという。
「クッキーを余分に焼いて、加奈子が姉貴に持って帰りたいって言い始めて……」
「それで?」
俺の耳を塞いでも無駄だとわかったあやせは、既に諦めた様子でベッドに腰を下ろしていた。
ちょっと可哀想な気もするが、俺にも関係がある話なら聞かないわけにはいかない。
「同じ班の中にも弟とか妹とかいる人がいてさ、あたしも何となく流れで……」
「もしかしておまえの場合は、俺か?」
「だから流れでそうなったって言ってんじゃん!」
「そう怒るなよ。じゃあ、あやせは誰に? 麻奈実か?」
あやせは麻奈実のことを本当の姉のように慕っているし、流れで言うと当然そうなるわけだ。
「違うっての。加奈子が、あんたにあげればいいじゃんって」
「俺かよ!? 加奈子のヤツ、いい仕事するじゃねえか」
「あやせも初めは嫌がったんだけど、でも結局あんたにあげることになって……」
「それでコンビニ?」
「加奈子はティッシュで包めば十分とか言ったんだけど、それはあやせが嫌がってね」
「それでコンビニって話が出てくるわけか?」
「あのコンビニってさ、小さくてかわいい紙袋とかも売ってるしね」
あやせは、桐乃の思わぬ暴露であえなく撃沈。気の抜けた顔でふわふわと部屋の中を漂っている。
そんな無理をしなくても、俺ならありがたく頂くってのに。
「あんたとあやせってさ、本当は仲がいいの? それとも悪いの?」
「どうなんだかな。あやせが俺をどう思ってるかなんて、俺にはわかんねえし」
「あたし、あやせの気持ちも少しわかるんだよね」
「あやせの気持ちがか?」
「まあね」
◇
あやせの意識はいまだ回復せず、今日で丸二日が経過した。
今日も見舞いに行った桐乃から聞いた話だと、あやせは一般病棟の個室へ移されたらしい。
「個室なんて贅沢じゃねえか」
「わたしがそうして欲しいって言ったわけじゃありませんから」
「別に文句を言ってるわけじゃねえよ。親父さんにすれば、あやせは可愛い一人娘だもんな」
「個室ってどんな感じなんですかね」
「おまえ、見てねえのかよ!? 自分が入院してるんだろうが」
「そうなんですけど、自分が入院している病院なんて行きづらいじゃないですか」
あやせの意識が戻るのは、まだ当分先のことになりそうだ。
俺の部屋にすっかり馴染んでいるあやせには悪いが、このまま居座られたら俺も堪らない。
何より、あやせ自身のためにもならない。
「どうしたんですか? 急に参考書なんて広げて」
「俺もこう見えて受験生なもんでさ、受験勉強しなくちゃなんねえんだよ」
「ふーん。わたしのことは無視するんですね」
「無視なんかしてねえよ。あやせはその辺でも漂うなり適当に遊んでてくれ」
俺が少し強い口調で言うと、あやせは不満げな顔ながらも俺の傍らから離れた。
ちょっと気が引けるが、これもあやせのためだ。
「わたし、このままでもいいかなって、ちょっとだけ思うんです」
「いいわけねえだろうが。元の元気な姿に戻りたいって思わねえのかよ」
「思わないこともないですけど、でも今のままなら……」
「今のままなら、何だっていうんだ?」
「……何でもありません。受験勉強、続けてください」
どうしてあやせがそんなことを言うのか、俺には一向に理解できない。
あやせは自分自身のことだからいいとしても、家族や友だちがみんな心配してるんだ。
何よりも、身を挺してまであやせを庇った桐乃が聞いたらどう思うか。
「お兄さん、高校の数学って、やっぱり難しいですか?」
「まあな。中学の数学とは——って、あやせ! 机の上に首から上だけ出すんじゃねえよ!」
「勉強の邪魔にならないようにと思ったんですけど」
「生首じゃあるまいし、心臓が止まるかと思ったぜ。……今のは、絶対わざとだよな」
「うふっ、どうなんでしょうか」
俺は無駄だとわかっていながら、あやせの頭に数学の参考書を置いてやった。
本日の更新はここまでです
☆今後の展開予想クイズ☆
A.実は、事故に遭ったのはあやせではなく京介で、京介が臨終間際に見た夢だった
B.実は、あやせはこの事故で即死。そのことで精神を病んだ京介の幻覚・幻聴だった
C.実は、これまでの話は黒猫が勝手に思い描いたデスティニー・レコードだった
D.実は、この先の書き溜めがまったくなく、更新がまた一週間後となる
もう(D以外まともな展開)ないじゃん…
どっかでみたことあるような鬱展開だな
でぃ、Dで…
AとBが見たいと思う俺って……
純愛っぽいのでBで
E.京介を黒猫にとられ精神を病んだあやせが将来製作した京介を主人公、自分をヒロインとしたエロゲーのシナリオ、で
F.実は京介の為のサプライズパーティーの余興。
ハッピーエンドが見えないな…
と、投下を…禁断症状が…
やっぱりダメじゃんこの主
やっぱりってお前>>21か
まだ居たのかww
投下をくださいーーーー!!!
桐乃が故意にあやせを押して事故ったとかじゃなくて良かった
G.一週間の予定が諸事情で二週間になる
ということで明日投下ですね分かります
H.じゃ俺が続きを投稿する
>>50
消えろ
当然のこと、参考書はバサッと音を立てて無造作に机の上に落ちる。
その様子をただ黙って目で追うあやせの姿に、なぜか俺は言いようのない既視感を覚えた。
今まで冗談にしても、俺は人の頭に本を乗せるような真似なんかした覚えなどない。
ちょっと不満そうな、それでいてどこか照れているあやせの顔を見てふと気がついた。
桐乃の頭の上に手を乗せてやったときの感覚と一緒なんだと。
「お兄さん? 勉強の手が止まってますけど」
「うるせーよ」
「わたしのこと、心配してくれるんですか?」
「殴ってもいいか?」
「ごめんなさい。……お兄さんの気持ちは、わかっています」
「だったら何で……」
あやせは俺の言葉を遮るように、何も言わずに急に立ち上がった。
机の上にあやせの上半身がいきなり出現したようなもんだが、今さら驚いたりはしなかった。
この机の下がどうなっているかなんて、気に留めていたら俺の精神が持たない。
「もしも、わたしが死んだら……お兄さんは悲しいですか?」
「当たり前だろーが。あやせが死んで悲しまないヤツなんかいるかよ」
「そういう意味で聞いたんじゃないんです」
交通事故に遭ってからというのも、肉体と精神(幽体)が遊離してしまったあやせ。
自宅に貼られた御札のせいで、自分の家に帰ることもままならない。
常識では考えられない状況なのに、俺自身もこの現状をいつの間にか受け入れてしまっていた。
あやせ本人は、今もなお意識不明の状態が続いて入院しているというのに。
「……もしかして、ヤバイのか?」
「やばいって、何がやばいんですか?」
「おまえの容態っていうか、命のロウソクの炎みたいなのが尽きそうだとか……」
「それは全然大丈夫です。桐乃も言ってたじゃないですか、容態は安定しているって」
「じゃあなんで死んだら悲しいかとか、縁起でもねえこと聞くんだよ」
「お兄さんに聞いてみたかったから、というのでは答えになっていませんか?」
「全然なってねえよ」
幽体になったあやせは、俺の心が読めるようになったと言っていた。
何もかもお見通しというわけにはいかないようだが、それでも何となく伝わるらしい。
それに比べて俺は、あやせの心を読むなんて芸当は到底出来るわけがない。
「そうですね。……お兄さんは、不公平だって言いたいんですよね」
「まあ、そういうことだ」
「わかりました。これからはわたしも、ちゃんと口に出して言います」
「そうしてくれると有り難い」
「でも、一つだけ条件が……というか、わたしと約束してください」
「どんなことだ?」
「わたしが話したことは、誰にも言ったりしないって」
「誰にも?」
「特に、桐乃には絶対に言わないって約束してください」
あやせが出した条件は、俺にとって別段驚くようなことじゃなかった。
想定内と言えば言い過ぎだが、俺があやせの立場だったなら、同じ条件を出していたかもしれない。
そして、もしこの条件を飲まないならば、本当のことは話さないということも。
「わかった、約束する。ていうか、俺が嘘なんか言ってないことはわかってんだろ?」
「はい。お兄さんは、約束を守る人だってわかっています」
「何だか、急に信用されたもんだな」
「お兄さんのことは、ずっと以前から信用していましたけど」
「何か引っ掛かる物言いじゃねえか。……ま、何よりも信用が第一だからな」
「そうですよ、お兄さんから信用を取ったらただの——って、信用は大切なんです」
「今、ただの何だって言おうとしたんだ?」
「わたし、何か余計なこと言いました? うふっ、お兄さんの聞き違いだと思いますよ」
どうせただの変態だとか、そういう類のことを言い掛けて慌ててやめたくせに。
もし自分が死んだら悲しむのかと、つい今しがた真面目な顔で俺に聞いてきたのが信じられない。
それでも、あやせにいつもの明るさが戻ったのは確かだ。
「笑っているところ悪いんだけどさ、少し移動してくれると有り難いんだが……」
「あ、そうですよね」
あやせも自分の姿のおかしさに気付いたらしく、机から離れて当然のように俺のベッドに腰掛けた。
しかし、あまりにも自然なその振る舞いが、逆に俺の頭に疑問を投げかけた。
机はもちろん、壁だって通り抜けてしまうあやせが、どうしてベッドに腰掛けることが出来るのかってな。
よくよく考えてみると、ベッドの上で飛び跳ねてたのだって道理に合わないじゃねえか。
「俺が聞きたいことは、わかるよな?」
「はい。でもはっきりとした理由は、わたしにもわからないんです」
「壁とかドアは通り抜けられるんだろ? 床とか階段は?」
「床も階段もダメなんです。天井は大丈夫です」
「大丈夫ってことは、通り抜けられるっていうことか?」
「通り抜けられるというか、勝手に通り抜けてしまう感じですね」
あやせの話によれば、通り抜けられるかどうかは、自分の意思とはまったく関係がないらしい。
現に今俺が座っている椅子には、ベッドと同じような感覚で座ることは出来ないという。
「もしかして、試したのか? 他にもわかったことは?」
「見事に転びました。それと自分でも驚いたんですけど、寝ている間は宙に浮いてしまうんです」
俺は頭の中で、ふわふわと気持ち良さそうに空中を漂うあやせを想像してみる。
羨ましい気がしないでもないが、当のあやせは、俺のそんな心を読んで不機嫌な顔になった。
「さっきも話しましたけど、天井は通り抜けてしまうんです」
「そのことで、何か困るわけでも?」
「お兄さんはあの日、朝まで気絶していたからわからないんです」
「何かあったのか?」
「わたし、気が付いたら屋根の上で寝ていたんです」
「それは災難だったな。ていうか、あやせは災難の真っ最中だったよな」
「ですから無闇な所では寝られないんです」
「じゃあ、昨日はどこで寝たんだよ。姿が見えないから、てっきり桐乃の部屋かと思ってたんだが」
「わたし、ずっとそこで寝ていましたけど」
あやせが指差した先は、俺のベッドの下だった。
本日の更新はここまでです
やっと連休に入りました。SSいつ書くの? 今でしょ
それにしても、こんなに書くのが遅かったとはね
おつー
乙
あやせベットの下好きだなwwww
つまり、あやせの上で寝ていたと
ベッドの上で飛び跳ねてるあやせ想像したら悶えた
とりあえず気長に待つよ
これ、どっかの小説投稿サイト(ハーメルンとか)でやって欲しいわ
縺九o縺�>
おつ、これは期待できるssだなww
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