提督「心から愛しい羽黒に捧ぐ。」 (42)

私は横須賀に着任した。

 まだ右も左もわからぬ若造の自分には艦娘たちはただの兵器という認識であった。

 戦争の明暗は私にかかっている。

 私は真っ白い士官服に袖を通し、士官帽をかぶる。

 駆逐艦と軽巡洋艦で近海を平定し、沖ノ島へと進軍した私には怖いものなど何もなかった。

 霧島、筑摩、赤城、高翌雄、そして、羽黒。

 この5人の勇士がいれば私には怖いものなどない。

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期待 しかし早速誤字ってる件について それともこれであってるのだろうか?

 私は彼女たちを初めは兵器としか見てはいなかった。

 今の私からは考えられないほど冷酷であったと思う。

 雷と電はよく文句も言わずに私に従ったものだ。

 私が彼女たちを異性として意識したのは、何よりも羽黒の存在のおかげだ。

 引っ込み思案だが強い芯。大和刀のようなその雰囲気に私は惹かれていた。

>>2
ごめんなさい。狙ってないです




もちろん、当時は彼女に対しても冷酷であったはずだ。

 だが、今では羽黒の泣き出しそうな笑みしか浮かんでこない。

 沖ノ島へと進軍する前日、私は特に荒れていた。

 初めて艦娘を喪い、満身創痍で撤退をさせた自分自身に腹が立っていた。

 執務室で浴びるように酒を飲み、私を見つめて沈んでいった駆逐艦、響に対して涙を流した。

 これは戦争だと分かっていたのに。

 そんな時、執務室の扉が控えめに叩かれた。

 私は反射的にどうぞといったはずだ。そして、扉を開いた彼女に驚愕した。

「あ、えっと……ごめんなさい……」

 常に控えめな彼女は目を伏せていた。

 私は士官帽を目深にかぶり直して言葉を紡ぐ。

「響のことは残念だった。私の認識の甘さ故だ」

 最後の方は泣き出しそうな声色でやっと言葉を紡ぐ。

「私を罵倒したければしたまえ。君には、君たちにはその権利がある」
 
「……提督は職務を全うしました。私はそう思います」

 杯に残った酒を一気に飲み干して私は羽黒の瞳を見つめた。

 いつものおどおどした瞳とは違う、凛とした瞳が私を見つめていた。

「優しいな、君は。私は君達に優しくしたことなど無いのに」

「提督はお優しいかたです。こうして沈んだ艦のために泣いているのですから」

 じわりと視界がにじみ私は嗚咽を噛み殺した。

「……ごめんなさい、報告は後日行います」

 声を震わせて羽黒は扉を閉めた。

 私は士官帽を涙でぬらしながら啜り泣いた。

 私は、それ以来彼女を頻繁に執務室に呼びつけるようになった。

 互いに他愛もない話をするだけの純情な交わりが私達には似合っていた。
 時には文学を語らい、時には芸術を語らい、時には戦術を語らった。

 余談ではあるが、高雄と日向を囮にして霧島が致命打を与える作戦の立案者は羽黒である。

 さて、ひとしきり語らったあとはどちらからともなく互いを抱き寄せる。

 私が彼女を抱き寄せたこともあるし、彼女が私を抱き寄せたこともある。

抱きしめたあとは接吻と愛撫を繰り返した。

 唇をなぞり、首を食み、手首に舌をはわせた。

 そうして肌を重ねているうちにどちらからともなく離れてゆく。

 私は童貞のまま、しかし、悪い気分ではない。

 鉄底海峡。

 私に与えられた地で私は指揮をとった。

 いつもの5人は相変わらず私に従い、そして着実に戦果を挙げていた。

 1度目の攻撃は成功し、補給と修復を行ってから私達は再び鉄底海峡へ挑んだ。

 敵の空母と戦艦からの攻撃は熾烈だったが、今まで私が乗り越えてきた修羅場の比ではない。

 しかし、ついに雷撃できる距離まで艦隊は迫った。

 敵の空母と戦艦からの攻撃は熾烈だったが、今まで私が乗り越えてきた修羅場の比ではない。

 しかし、ついに雷撃できる距離まで艦隊は迫った。

 敵から羽黒に向けて2本の魚雷が放たれる。

 沈むはずはないと思っていた。

 彼女は、羽黒なのだから。

 しかし彼女は魚雷を受けてしまった。

 呆然とする私に、彼女は笑う。

「――――」

「羽黒!!」 

 彼女が死に際になんと言ったのか私は聞き取れなかった。

 羽黒は雷撃の水飛沫に溺れ、そして消えた。

 それからどうやって横須賀に帰ったのかは覚えていない。

 ただ、羽黒の最期だけが目に焼き付いている。

 私はまだ死ぬわけにはいかない。

 せめて羽黒に向けて、平和になったといわねばならない。

 私はまだ、横須賀にいる。

 以上です。

 羽黒が轟沈したのでむしゃくしゃして書きました。

 このあとまだポツポツ書く予定です。

轟沈しちゃったのか…
楽しみにしてる

乙。もっと読みたいですよ!
その後が気になる


続きも楽しみにしてます

 夕方の執務室には虚しく軍歌が響く。

 かつては羽黒と共に耳を傾けた音色が虚空に溶ける。

 軍艦行進曲。

 威風堂々とした音色が私の心を締め付ける。

 私は自らを傷めつけるように酒を飲む。
 
 せめて、私も苦しんで羽黒に顔向けをしたかった。

 レコードから流れてきたのが「轟沈」や「戦友」でなくてよかった。

 きっと私は、泣いてしまっただろうから。

 不意に執務室の扉が叩かれ、反射的にどうぞと私は言う。

 杯に残った酒を飲み干してその来客を見やると、我が艦隊の旗艦、霧島であった。

「あぁ、霧島か……私に何か用事でも?」

「お、落ち着いて聞いてくださいね? 他の部隊より鉄底海峡にて羽黒らしき重巡洋艦の姿を見たとの報告がありました」

 その言葉に、たまらず私は笑う。

 なんという残酷な嘘なのだろうか。

「ふふ、そうか……そうだったらどんなに良かったか……」

「信じてください! 今や鉄底海峡は敵味方の入り乱れる混迷の海です! 羽黒が轟沈したという報告が誤報かもしれません!」

 私は空になった杯に酒を注ぎ、また一気に飲み干す。

「羽黒はね、最期に私を見たんだ。雷撃の水飛沫にかき消されて死体は見つからなかったとはいえ、一体彼女はどこにいたというんだね?」

「命からがら逃げて、何処かの島に身を隠しているやもしれません!」

 霧島の必死な言葉に、私は喉を鳴らして笑った。

「君たちは優しいなぁ。君たちのような部下を持てて私は幸せだよ。大丈夫さ。気持ちの整理ぐらいはつけるとも」

 震える手で杯に酒を注ごうとすると、霧島は私の胸ぐらを掴んだ。

「私達は羽黒が轟沈したなどと思ってはいません! 彼女が生きているのなら奇跡でも偶然でもいいんです!! 栄えある『第一艦隊』の希望を笑わないでください!!」

 その言葉に私はたまらず霧島の瞳を見つめた。

 メガネの奥の彼女の瞳は潤んでいた。

 軍艦行進曲のレコードは終わる。

「……そうだなぁ。信じてみるか、『奇跡』という奴を」

 霧島が手を離すと私は両足で立ち上がる。

 霧島は涙を拭い私の瞳を見つめていた。

 レコードを交換し、私は伝令用マイクのスイッチを入れた。

 レコードからは「愛国行進曲」のメロディが流れる。

「第一艦隊全艦に告ぐ! 各員対艦装備を行い鉄底海峡へ進軍せよ! なお、栄えある第一艦隊には1名の欠員の補充が必要である!!」

 愛国行進曲のメロディと共に私は司令を行う。

「今回も5『人』での出撃を行う! 旗艦『霧島』以下『筑摩』! 『高雄』! 『赤城』! そして『日向』!」

 音声が割れるのも気にせず、私はマイクに向けて叫ぶ。

「選りすぐりの精鋭諸君の中でさらに篩い分けられた最精鋭の5名は直ちに執務室へ集合せよ!」

叫ぶだけ叫んで私はマイクのスイッチを乱暴に切る。

「君にマイクチェックをさせてから号令をかけるべきだったかね?」

「いいえ、お似合いの演説でした。掛け値なしに」

 彼方から廊下を走るおとがきこえる。

 最精鋭の5名はきっと、私に付き従ってくれるはずだ。

 私のわがままのために戦争をしてくれるはずだ。

 心が少しだけ、チクリと痛んだ。

 それからはまさに破竹の勢いであった。

 各々が目を爛々と光らせ、目の前の敵を轟沈させてゆく。

 まるで復讐のようだ。

 私もその例外ではない。

 脳内で麻薬でも分泌されているのではないかという程に気分が高まり、冴えていた。

 進軍最中の我が軍は正に一騎当千の働きであり、無傷のまま敵主力を捉えた。

 日向と高雄が敵の攻撃を惹きつけ、霧島の主砲が敵を打ち抜いてゆく。

 ならばと霧島に照準を向けた艦は日向の徹甲弾と赤城の艦載機によって火を吹いた。

 羽黒の考えた作戦が敵を喰らいつくしてゆく。

 私はわけの分からぬ言葉を叫びながら敵を指さし、航路を切り開いてゆく。

 数十分は続いたであろうその砲撃は止み、あたりには動くものは何もなくなった。

 第一艦隊5名のほかには、何も。

「羽黒!」

 私は大海原の彼方に届くような声で愛しの彼女の名前を呼ぶ。

 ポツポツと浮かぶ島にむけて、喉が壊れそうなほどに声を上げる。

 赤城はありったけの艦載機を離陸させ捜索を行い、日向は電探を装備しているため心ばかりの管制の任務を請け負っている。

 高雄と霧島、筑摩はその足で島まで接近し、私に負けないくらいに声を張り上げていた。

 日が沈む。

 すでに私の喉はまともに声を出すことは叶わぬほどに消耗し、艦載機の燃料も底をついた。

 羽黒発見の報告は未だにない。

 きいきいと耳障りなかすれ声で私は最後の島へと足を踏み入れた。

 これが本当の、最後のチャンスだ。

「――――!!」

 すでに声とも呼べないような音で私は叫ぶ。

 艦載機のエンジン音は、もう聞こえない。

 草木の茂みを乱暴にかき分け、私は彼女を探す。

 不意に視界の端で草木が音を立てた気がした。

 私はその音に縋るように走る。

「きゃあっ!?」

 飛び込むように草むらの向こうに飛び出すと、懐かしい声が聞こえた。

「ごめんなさい! ごめんなさい!!」

 頭を抱えてうずくまる彼女の姿をようやく見つけた私は、気が抜けて地面にへたり込んでしまった。

 ひたすらに謝罪の言葉を述べる彼女は、なんの応答もないことに不安になったのかちらりと私を見つめた。

「あ……提督……!!」

「はぐろ」

 耳障りなかすれ声で私はやっと言葉を紡ぐ。

 そして自らの喉を軽く叩き自嘲気味に笑った。

 とりあえずここまでです。

 バッドエンドも考えましたが俺が泣きそうになるのでハッピーエンド目指します

(´;ω;)

ハッピーエンド路線は素晴らしい

その調子でバッドエンドを頼む

お久しぶりです。

パソコンを電車に忘れたり郵送の手続きをしたりでなかなか書き込むことができませんでした。

投下していきます。


 それからはあっという間だった。

 怒鳴りすぎて声の出ない私は久しく与えられていない休暇を命じられ、同じく声の出ない第一艦隊の面々も長期の休暇となった。
 
 大破した羽黒は入渠し、その傷と疲れを癒しているのだろう。
 
 私は喉飴を噛み潰しながら執務室で書類の整理を行っている。

 大本営からの贈答品である山ほどの喉飴は有難いが、さすがにキログラム単位で送られてきては過剰だと言わざるを得ない。

 どうせなら敵性言語のレコードの一枚でも送ってくれればいいのにと一人ごちる。

 「星条旗よ永遠なれ」、「チャタヌーガ・チューチュー」、「ラ・マルセイエーズ」。私が欲している音楽は無数にある。

 私はとっておきのレコードをかける。
 
 蓄音機からはドイツの音楽、ケーニヒグレッツ行進曲が執務室に響く。

 かすれた声で旋律をなぞりながら窓の外を見つめると、第二艦隊が演習を行っていた。

 軽巡洋艦、神通を旗艦とした第二艦隊は我が鎮守府の最古参の艦隊だ。

 練度は第一艦隊に劣らず、常に慎重に作戦を完遂する縁の下の力持ち――謳われない英雄。

 火力に任せた殴り合いを行う第一艦隊とは異なる細かく器用なその戦術は鎮守府の、そして私の誇りでもあった。

 再び喉飴を噛み潰して私は演習の様子を見つめる。

 軽巡洋艦と駆逐艦で編成された第二艦隊は演習相手の戦艦に真正面からはぶつからず、常に自分たちに有利な陣形を作って攻撃を加えていた。

 私にはする事が無い。

 私宛の書類は届かなくなり、部下は休暇を満喫している。

 強いてすることを挙げるとするなら、鉄底海峡の動向の調査だろうか。

 我等が横須賀はもとより、果てはラバウルやトラック泊地からも援軍が来ているという話だ。

 私が休暇をもらっていても直に鉄底海峡は掃討されるのだろう。

 やれ困った、と私はまたもや一人ごちる。

 書類も作戦も無いのでは私はただの給料泥棒だ。

 第一艦隊の慰問に行こうにも、きっと彼女たちも山ほどの喉飴を消化しているはずだ。

 ならば、私が話せる相手は一人しかいない。

 私は羽黒に会うために入渠ドックへ歩をすすめる。

 勇壮なドイツの音楽は背後で扉が閉まる音とともにかき消された。

「羽黒はいつ頃出られる?」

 先日より幾分マシになったとはいえ声はまだ耳障りにかすれたまま。
 
 心底申し訳なさそうな声色で私は整備班長に問う。

「羽黒ならさっき仕上がった。こんなことはこれっきりにしてくれよ?」
 
 その言葉に私は曖昧に笑う。

 いたずらに味方を消耗させるつもりは毛頭ないが、これは戦争なのだ。

 大本営か敵か、どちらかが負けを認めなければいつまでも続く戦争なのだ。

 我々は数多の敵を深海に送り、そして敵も我々の艦隊に手痛い被害を与え駆逐艦、響を海底に没せしめた。

「ありがとう班長。喉飴がほしければいつでも言ってくれ」

 そんな言葉を残して私はドックを後にすると、廊下で窓を見つめていた日向と目が合った。

「お疲れ様です、提督」

 なんとも堅苦しい挨拶に溜まらず私は笑みをこぼす。

 日向の声はさほどかすれてはいないが、ありありと顔に疲れが見える。

 数多の航空機の管制を一手に担っていたのだから、それも当然である。

「お疲れ様、日向。君に知らせがある」

 笑みを浮かべたまま私はそのように言葉をつむぐと、日向はびくりと肩を跳ねさせる。

 どうやら、悪い知らせだとでも思い込んでいるのだろう。

「貴鑑を第一艦隊の6番艦に任命したい。正式な通知はまだだが、覚えていてくれると助かる」

 私の言葉に日向はとたんに瞳を輝かせる。

「第一艦隊の面々が復帰し次第、編成を行うつもりだ。それまではゆっくりと休んでくれ」

「提督……! はい!」

 空気を切り裂く音すら聞こえそうなその鋭い敬礼に、私は再び笑みを漏らした。

「お疲れ様、日向。君に知らせがある」

 笑みを浮かべたまま私はそのように言葉をつむぐと、日向はびくりと肩を跳ねさせる。

 どうやら、悪い知らせだとでも思い込んでいるのだろう。

「貴鑑を第一艦隊の6番艦に任命したい。正式な通知はまだだが、覚えていてくれると助かる」

 私の言葉に日向はとたんに瞳を輝かせる。

「第一艦隊の面々が復帰し次第、編成を行うつもりだ。それまではゆっくりと休んでくれ」

「提督……! はい!」

 空気を切り裂く音すら聞こえそうなその鋭い敬礼に、私は再び笑みを漏らした。

しまった二重投稿してしまった・・・


いまいち締まらないですが今回はここまでです。

早く羽黒といちゃいちゃしたいです。

ちなみにバッドエンド路線だと提督の精神が壊れて羽黒の幻影とキャッキャウフフします。

??「早くいちゃらぶしてください」


>バッドエンド路線
目に光のない提督が独り言を言ってるのを憐れみの目で見る鑑娘たちが目に浮かぶようだ

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年07月25日 (土) 01:43:10   ID: ejiqdxX0

高雄

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