幼馴染「私には秘密があります」(15)

私には過去の記憶と言うのがない

正確には、15歳から下の記憶がない

「なんだよ秘密って」

「まさかHIVとか言うのか?」

私の親友であり、大好きな彼は冗談めかして言う

そんな簡単な話じゃないのに

「どんな秘密があってもいいけど、ずっと傍にいてくれよ」

いつも言ってくれる一言
今日に限って酷く憂鬱な言葉だった

私が彼と出逢ったのは今から12年前

そう、記憶もなくフラフラとしていたところに
彼は笑顔で話し掛けた

「こんな真夜中に何で泣いてるの?」

私は泣いていたらしい
その時は理由なんてわからなかった

「あ、ごめんね」

「迷惑だったよね」

彼は謝りながらも私の心配をしてくれた

あとで聞けば、家出した猫を探していたと言う

そんな中、泣いてる私を見つけてくれた

次の日から私は彼の実家に住まわせてもらった

お互い年頃だったのか、私達が意識し始めるのは遠くなかった

3年ほどが過ぎ、高校を卒業した彼が突然

「遊びにいこう」

そう言われ、唐突に腕を引っ張られた

昔から彼は恥ずかしい話は決まってあの場所にいた

「ミケがいなくなったときさ」

彼は3年前に家出したミケ猫の話をした

私は嬉しかった

「いつもここに遊びに来てたからもしかして……って思ったんだよ」

「そしたら代わりにお前がいたんだ」

代わりなんて言い方ひどい
私だって偶然いた訳じゃないのに

「何でかな、その時に妙に安心しちゃってさ」

「ってこの話は別にいいんだよ」

彼は締まりのない顔を器用に端正な顔立ちに変えた


そして、やっと告白された

ある日、と言うより彼と出逢った1年後あたりに私はするべきことを思い出した

言ってしまえば記憶が戻ったのだ

薄々はわかっていた事実
なぜ私がこうなったのか、真相はわからない

いや、まだわからなくていい

「買い出しいくぞー」

彼と結婚し、半年ほどたった

告白された時から、私達はずっと一緒にいた
交際から3年、プロポーズされた

嬉しかった、嬉しかったのに
無性に哀しかった

決して裕福な暮らしではなかったが、それ以上に幸せな毎日

無理だとわかっているのに、私はこの幸せを願っていた

休日に私達はよく出掛けた
映画、水族館、旅行、劇場、海外……

数えきれない程の場所を共にした

彼も疲れているのに私のわがままに付き合ってくれた

結婚後、4年が過ぎた
夜中私と出逢ってから10年経っていた

若い頃に結婚した私達に婚約指輪を買うお金はなかった

そんなことよりも、私は彼との10年があまりにも幸せだった

それと同時に、酷く憂鬱だった

「最近痩せてきたな」

「大丈夫?」

優しい言葉をかけてくれる彼は、本当に愛しいかった

大丈夫だよ、平気だよ

そんな言葉を連ねたのを覚えてる

もう、お婆ちゃんなのにね

「久しぶりに遠出しよう」

「ボーナスも出たし、有給も使ってさ」

日に日に痩せていく私を見かねたのか、旅行に誘ってくれた

私はそこで、全てを言わないまでも、出来る限り話すことを決めた

夜中出逢った私との、最期の旅行

「楽しみだね」

楽しみだね、そしてごめんね

旅行に来て1日、2日……本当に楽しい日々は過ぎていった

そして、夜景とても綺麗で、素敵な丘に夜出掛けた

「遅くなってごめん」

彼はそう言うと、小さい箱から1つのダイヤを取り出した

よく見るとリングもついてる

「こんな遅くなって本当にごめん」

「今更だけど、愛してるよ」

頬に熱いものが流れた
柄にもなく声をあげた

ありがとう……ありがとう……


それから暫しの沈黙のあと、無理くり笑顔を作り私はこう言った

幼馴染「私には秘密があります」

……少しだけ、さわりだけ伝えるつもりだった

なのに、全てを伝えてしまった
こんな馬鹿げた話を彼は正面から受け止めてくれた

「そうだと思ってたよ」

「……あれ? 泣くほど辛かったの?」

「そんなの気にしなくてもいいのに……」

気にするよ、気にするに決まってるじゃん
嫌われるかもしれないのに

「今生の別れみたいな顔してたから焦ったよ、大丈夫?」

……肝心なところをわかってくれなかった

「ほら、この指輪ブカブカだし、首から下げときなよ」

痩せていく私に指輪をつけるとすぐ取れてしまうからか、ネックレスのようにしてくれた

「さ、冷えてきたし戻ろう」

彼は大事なところを理解してなかった
彼に忘れられたくなくて、私はヒントともとれる言葉を残した

幼馴染「私の栗色の目、覚えていてね」

彼は不思議そうな顔をして、笑いながら頷いた

―――
彼女が先に帰れと言って戻ったが
未だに彼女は戻ってこない

最後の告白を思いだし、僕はすぐさま外に出た

何が栗色の目を覚えていてね、だよ

何が秘密があります、だよ

それ以上に、彼女の言葉の意味を理解しなかった僕自信に腹が立つ

「……ミケ」

彼女に指輪を渡した場所に戻ると、そこには誰もいなかった

僕は回りを探したが、人っ子一人見当たらない

愕然とその場に座り込むと月明かりに反射して光るものがゆらゆらと浮いていた

と言ってもオカルトではなく、ある1匹の猫の首から下げられていた

「そうか、そうだよな」

「そうなったってことは、また会えるかもってことだよな」

「久しぶりだな、ミケ」

10年前に家出した猫が、今しがた愛する妻に送った指輪をつけて鳴いている

僕は微笑みながらミケを抱き上げ、部屋へと戻った


終わり

最後になりましたけど、陽だまりの彼女を少しだけ内容を変えただけです

ネタバレ含みなので、
アカンと思ったら閉じてください

読んでくれてどうも

こういう短編いいね

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年08月22日 (金) 20:07:39   ID: UvVY2R1w

クズスギチャン

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