甲賀忍法帖秘話(バジリスク)(45)

其ノ壹 破瓜



甲賀卍谷の如月きょうだいは、ともに忍びである。

兄左衛門とお胡夷は歳こそ離れているが、仲が良い。

両親を早くに亡くした妹を気遣って、兄の左衛門はお胡夷をひどく可愛がった。

お胡夷もなにかにつけては、兄さま兄さまと左衛門につきまとい、二人はいつも

一緒にいる。

しかし、哀しきかな、忍びの世界。常の人よりも、早く大人にならなければ、

忍びとしての生き方を全うはできぬ。わずか十を少し出たばかりの頃には、

クナイを握った手を血に染めなければならない。

その身体もまだ膨らみきっていないというのに、妹は早や、破瓜を迎えねば

ならないのであった。

おなごの忍びは、暗殺任務のなかで敵の男と褥(しとね)を供にすることもある。

己の持つ魅力を理解し、それを自在に操り、手練手管で男を翻弄してこそ一人前の

くノ一になりうるのだ。

さて、先の如月きょうだいだが、兄の左衛門はとうの昔に女を知っている。床の中で、

どこをどうすれば、女が喜ぶか、を知り尽くしている。だからこそ、己の妹をどこかの

男が同じようにするのか、と思うと鬱鬱とした気分になってくるのだ。

これは期待

(こいつがのう…果たして男を悦ばせることができるのだろうか…)

夕餉の後、行儀悪くも囲炉裏端でごろんと転がり、惰眠を貪っている妹を見ながら、

左衛門は顔を顰めた。

お胡夷は、誰に似たのか、大きな目大きな口で良く笑う。直情的で、すぐに怒り、

よく泣きもする。溌剌とした気質のお胡夷が、男と同衾して淫婦と化すなどと想像

だにできない。

しかし、これも忍びの定め。甲賀卍谷の頭領である弾正から、妹の破瓜を行う相手を

決めろ、とせっつかれているのだ。

(さて…困ったことよのう…)

白湯を啜りながら、左衛門はある一人の女を思い出した。その昔、左衛門に破瓜を

直々に頼んできた変わった女だった。何故俺に、と問う左衛門に、女は俯きながら

答えた。

『左衛門殿は、姿形を変えるのが得意と聞き及んでおりまする。どうか、私の想い人

になって破瓜を執り行ってくださいませ』

くだらない女の感傷と一笑に付すこともできたが、かたく強張った女の白い面(おもて)

を見ているうちに、否、と言えずじまいだった。

左衛門は女ではないから、破瓜が女にとってどんな意味を持つのかはわからない。

ただ、忍びとしての生き方を全うするならば、破瓜の面影を引きずって敵と褥を

供にするのはひどく情けないような気がする。女の感傷を弱さと嘲笑う一方で、

自分の意に沿わぬ男に身体を任せなければならない女の悲哀を哀れに思ったのも

事実だ。

『これで良いか?』

破瓜の床で、左衛門は、つるり、と顔を撫でて女に見せると、女は僅かに目を

見開いて、深々と頭を下げた。

初めは固くきごちなかった女は、徐々に乱れて、しまいには自らの脚を左衛門の腰に

絡めて喘いだのであった。

事が済んだあと、身仕舞いをした女がするり、と床を滑り出て、畳の縁に指をついた。

左衛門を見上げるその顔にはなにかしら晴れ晴れとしたような明るさが灯っており、

左衛門はひどく居心地の悪い思いをしたのを覚えている。

(おなごは怖いのう…)

名も聞かず仕舞いだったその女の白い顔を思い出して、思わず左衛門はぶるり、と

身を震わせた。

相変わらず、お胡夷は手足を投げ出したまま、行儀悪く寝入っている。

(さあて…どうしたものか…)

破瓜にあたるのは、経験豊富な年嵩の忍びと相場が決まってはいるが、醜悪な年寄り

どもに妹の破瓜を明け渡すのも、兄としての意地が邪魔をする。できるだけ、お胡夷が

傷つかない破瓜であって欲しい。左衛門にできるのはそう祈ることくらいだ。

「…あに、さま…」

お胡夷が寝返りを打ちながら、何事か呟く。

左衛門は腕を組んだまま、思案に暮れていた。

(いっそお胡夷に好いた男でもいればのう…)

本来なら、処女(おとめ)と女を知らぬ男を引き合わせることは赦されてはいないが、

そこはこの兄の技量でなんとか計らってやっても良い。お胡夷に好いた男がいて、その

男が女を知らないのであれば、どのみち通過しなければいけない道であるのだから、

左衛門がこっそり手引きをすることくらい容易いことであるのだ。

「…あにさまぁ…」

寝汚い妹を見ながら、左衛門は大きなため息をついた。明日あたりには、弾正に申し上げを

しなければなるまい。

囲炉裏の火がばちっと大きな音を立てた。炭が弾けて、火の粉が舞い上がる。

「ふぇ…あにさま…」

お胡夷が寝ぼけ眼(まなこ)で、囲炉裏の火越しに左衛門を見ている。

「なんじゃお胡夷」

「お胡夷は兄さまが大好きでございまする」

それだけを言うと、にっこり笑ってお胡夷は再びまぶたを閉じた。次の瞬間には、規則正しい

寝息が聞こえてきた。

左衛門は腕を組み替えながら、囲炉裏の火を見つめた。ゆらゆらと揺れる火の向こうには、

妹のあどけない寝顔がある。

(いっそ…他の男に渡すくらいなら…いっそ、この俺が…)

(いやいや、待て、何をそんな馬鹿なことを)

慌てて頭(かぶり)を振りながら、囲炉裏の火を火かき棒でかきたてる。

ぱちぱちと、炭が爆ぜ、左衛門の胸に浮かんだ一つの考えを後押しするかのように、

囲炉裏の火がごう、と勢いよく燃え上がった。


其ノ貳 掌中の珠


室賀豹馬は甲賀弦之介の叔父にあたる。

豹馬の姉が弦之介を産み、すぐに死んだので弦之介は母の顔を知らない。

ただ、弦之介はもれなく甲賀の血を色濃く残した顔であると同時に、豹馬とも

似ているので、きっと母と豹馬も似ているのだろうと思っている。

両親を亡くした弦之介は祖父である弾正に連れられ、叔父にあたる豹馬に

引き合わされた。この豹馬から瞳術を学ぶように、とだけ言い置いて、祖父は

弦之介と豹馬を二人残してどこかへ行ってしまった。

幼い弦之介は豹馬の顔をしげしげと眺める。伏せた目は睫毛が長く、男らしい

太い唇は精悍に引き締まっている。眉間に寄せた皺が時折、ぴくり、と動くのが

子ども心に面白い。

まじまじと眺めていたら、豹馬が口を開いた。

「…それがしの顔に何かついておいでか」

盲目(めしい)だと聞いていた叔父がすばり、と言い当てたので、弦之介は、

驚きのあまり、その場に尻餅をついてしまった。

「えーっと…その…叔父上は見えるのでございますか?」

その途端、豹馬の眉がぴくり、と跳ねあがった。

「…弦之介さま。今なんとおっしゃいましたかな?」

低い声に怒りが滲んでいるのを感じ取った弦之介はひっ、と身を竦める。

初対面の叔父に対して、なにか粗相をしでかしたのであろうか。

「あ、あの…叔父上…と…」

「なりませぬ!」

厳しい口調で豹馬が叱る。

「弦之介さまは、この里の跡継ぎ。いずれは卍谷の頭領となられるお方。ここにいるのは
忍びの師匠であって、あなたさまの叔父ではございませぬ!」

有無を言わさない強い口調で申し渡すと、子どもがひくっと声を立てたのが聞こえた。

続けてしゃっくり上げる嗚咽。少々、手厳しく言い過ぎたか。まあ、無理もなかろう。

まだ年端もゆかぬ子どもなのだ。父にも母にも甘えることができない哀れな子どもは、

母に近しい人間と思って、期待を込めてその名を呼んできたのであろう。だが、豹馬に

託された時期頭領の養育には、そんな甘ったるい情は無用である。里の命運を託すに

値するだけの熾烈な精神と技量をもった忍びを育て上げねばならないのだ。

(だが…やりすぎたかもしれぬな…)

そっとため息をつくと、豹馬は幾分か口調を和らげて話しかける。

「しかしながら、弦之介さま。それがしは今日からあなたさまの師匠。わからぬことはなんでも、
この豹馬にお尋ねくださいませ。それがしは、この身の全てをあなたさまに捧げる覚悟でお仕え
いたしまする」

「ほ、ほんとか…?ひ、ひょう…ま」

「はい。ここにお誓い申し上げましょうぞ」

見えぬ瞼の裏にも、子どもがぱあっと顔を明るく綻ばすのが分かる。さて、当分は、子守りだか修行だか

分からない生活になるのであろうな、と思いながら、手を伸ばして子どもを引き起こす。

子どもの小さな手はすっぽりと豹馬の掌に包まれた。汗ばんで湿った温かなそれが指にしっかりと

絡みついてくる。その感触に、こそばゆいようななんともいえない甘やかなものがじんわりと胸に広がった。

(…悪くない)

先程、甘えるな、と子どもを叱り飛ばしておきながら、自分のこの体(てい)たらくは一体なんだ、と

自分が可笑しい。

(まあ、良い。いずれはこうして手を繋ぐこともなくなろう)

その日は、そのまま手を繋いで帰宅した。


豹馬の予想通り、幾年か後に、弦之介は立派な体躯の忍びに成長した。そろそろ嫁御を、

という話も出始めているようだ。

最後に手を繋いだのはいつだったか…豹馬は己の掌を目の高さまで持ち上げて、繰り返し、開いては閉じてみた。

季節は、晩秋にさしかかっている。冷えた秋の風が豹馬の掌をひんやりと、通り抜けた。


もしここを覗いている伊賀者、甲賀者がいるのならば、希望する話を
書けい。
人物は、甲賀・伊賀問いはせぬ。儂が知らぬ人物の名を書くでないぞ。
儂の気が向いたら、書いてやらんでもないわ。

最萌えが如月・お胡夷兄妹なのだが、追加をお願いしてもよろしいか?
他の者にせいと仰せならば、陽炎を是非。

>>19
ほう…如月きょうだいを書け、とな?
お胡夷ちゃんペロペロもうあの巨乳と幼いロリ顔のギャップがたまらんでなもう!
兄さまラブなところもテラカワユス♡あんな可愛い妹がいたからこりゃたまらんで
イヒヒヒ兄妹の禁断の愛とかもう鼻血が吹き出ますがなゲヘヘへ///だと?

…貴様、なかなか下劣で良い趣味をしているではないか
よかろう!期待に添えるかはわからんがこの儂が書いてやるわ!
しばし待たれい!!!

他の者も、希望があれば遠慮なく書くがいいわ!


(しもうた…名前欄が前スレのままであったわ…不覚)

乙であり申す

学園ぱろでぃといふものを一丁、お願いしたい

念鬼の幼少時代

鼻毛の幼少時代とか誰が萌えるん?

じゃあ雨夜陣五郎の幼少時代

ピュアッピュアな陽炎ちゃんがみたいです><

真面目すぎて申し訳ないが…

和睦が成り、無事結婚
しかしながら伊賀と甲賀の仲は進展しないまま二人には子供ができる
子供は不戦の約条の事も過去の因縁も知らないそんな子供が伊賀と甲賀が手を取り合うよう頑張る話を

あの二人には幸せになってもらいたい

其ノ参 時雨


「お胡夷が口を利いてくれぬでな。弱っておるのよ」

如月左衛門が困り顔で、地虫十兵衛の屋敷を訪れたのは、ある晴れた日のことである。

地虫と将棋盤を挟んで向かい合った左衛門は、一向に次の手を指そうとしない。

「…のう、地虫殿。どうすればよいかの」

元々が淡泊な表情の左衛門が今日は心底困りきった様子で眉根を寄せているのが面白い。

だが、余り苛めるのも可哀想だ。なにより、地虫の良い話し相手であるお胡夷が臍を曲げているとあっては、地虫もつまらない。

「お胡夷にも困ったものじゃ」

左衛門が、今日幾度めかになる深いため息をつきながら、ぱちり、と駒を進める。

「ふうむ…お胡夷殿がのう…」

地虫から見れば今回のことは、きょうだい喧嘩にも入らぬ他愛もないことであった。

いや、喧嘩ですらない、むしろきょうだいの戯れと言ったほうがましかもしれない。

要は、兄の左衛門に縁談が持ち上がっており、それに悋気を起こしたお胡夷が左衛門と数日間口を効かぬ、ということらしい。

如月の家は、この卍谷でも古くからの名家であり、優れた忍びを数多排出してきたのであった。

それゆえ、男盛りを向かえた左衛門に、縁談が寄せられるのはごく自然なことであり、左衛門自身もいずれは、と考えているのであった。

「お胡夷殿にしても、そろそろ、という年頃なのではないか?」

「いやはや、あの跳ねっ返りを引き取るなどという酔狂な御仁もそうはおるまいよ」

笑いながら左衛門はそう返したが、一度、お胡夷にもそういう話が持ちかけられたことがある。

あのときは、まだ若すぎるという左衛門の判断で断りを入れたのだったが、お胡夷自身の反発も凄まじいものだった。

『嫌じゃ!!誰があのようなヒヒジジイのところへとつぐ』

『嫌じゃ!!誰があのようなヒヒジジイのところへ嫁ぐものか!』

『お胡夷は兄さまの嫁になるんじゃ!』

あのときは、まだ幼い妹の戯言で笑って流したが、今回の左衛門の縁談ではお胡夷の悋気は凄まじい。

『嫌じゃ!!お胡夷は認めませぬ!兄さまが誰かをめとるなどと!』

怒鳴り散らし、家中のものを手当たり次第に投げつけ、仕舞いには泣きながら家を飛び出してまる一晩戻らなかった。

スマホからは書きにくいのう。
今夜はここまでじゃ。

もしかして同時進行のスレいくつかある?

お胡夷ちゃんかわいいprpr

珈琲とやらを飲んだら目がさえて眠れなんだわ!
>>31
…なぜそのようなことを聞く。わしは断じて北斗きょうだいのホモセックスなど描いてはおらんぞ!

>>33
進撃も書いてない?

…カイテマススミマセン

あーやっぱり
ハンジとリコのエロだよな

リコのエロはまあ、私のだ
だが、それがなにか関係あんのか?

部っちゃけ他なんざどうでもいいからとっとと書け太朗

不粋なやつじゃの。
他の作品の話を持ち込んでは興が覚めるわ。

地虫十兵衛の自室からは小ぢんまりとした庭が見える。

綺麗に掃き清められた枯山水に、トンボが止まって羽を休めている。

「いつまでも兄離れできぬふつつかな妹よ」

「…主もそうではないか」

「俺が?」

左衛門の鈍さに痺れを切らした地虫が、煙管をかじりながら突き放すように言う。

「そうよ。妹を手放したくないのはそちのほうではないか」

左衛門が人一倍お胡夷を可愛く思っているのは地虫も当然知っている。

そして、二人で寄り添って生きてきたきょうだいが、血族の情を超えそうな危うい橋を渡ろうとしていることも。

「もういっそ、お胡夷と契ったらどうじゃ」

「なッ!何を言うかっ!」

「妹だろうが兄だろうがもうそんなことはどうでもよいではないか?ホレ、もともとこの谷の衆はみな血が濃いでな」

忍びの谷では、血族結婚は珍しいことではない。

より優れた忍びを育てるためには、父が娘を孕ませ、姉が弟と交わることもかつてはよくあったことだ。

「そう難しい顔をせずとも、そも、このクニに然り、兄神と妹神の交合から生まれたものではないか」

そう言って地虫が、カラカラと笑う。

「…今日はここまでじゃな。俺は帰る」

むっつりと塞ぎこんだ左衛門は、録に暇も告げずに、地虫の自室を後にする。

(さて…今日は口を利いてくれるかの)

屋敷を出ると、いつの間にか、さあっと雨が降りだした。

(…まるでお胡夷の泣き顔のようじゃの)

曇天の下、胸に鬱蒼としたものを抱えた男左衛門が家路を急ぐ。

その足跡を、時雨が一つひとつ、黒い浮き彫りにしていくのだった。



リクエストは順が入れ替わるかもしれんが、徐々に消化していく。
パソが規制中にて、スマホから。
書きにくくてかなわんわ。

さえおこのドエロが検索しても見つからん故、己で書くしかないかのう…

一族千年のエロを約束せん!

このスレは終了しました
お付き合いいただきありがとうこまざいました
リクエスト消化できなくてごめんなさい

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