俺「なんだこの病院……」 (17)
俺「なんか出歩いてると医者にとっ捕まえられるし……」
俺「看護士の対応は事務的だし……入院する病院間違えたかな……」
じいさん「おう、おはよう、俺くん」
俺「あ、おはようございます、今日も絵を書いてるんですか?」
じいさん「ああ、私の唯一の趣味だからね、やめられんよ」
俺「打ち込める趣味があるっていいですね、それじゃまた」
じいさん「ああ、また」
俺(415号室のあのじいさんはいいひとだな……紳士的だし)
俺(患者の方がまともな人間が多いってやっぱり絶対この病院おかしいよなぁ)
看護士A「ねぇ……聞いた? 415号室の……さんのこと?」ヒソヒソ
看護士B「……で絵を描いてるんでしょう? 私あの人のお世話するのやだなぁ……」ヒソヒソ
俺(なんだこのビッチ共は……あのじいさんの何が気に入らないって言うんだ……)
俺「どいてください! そこで話されていると病室に帰れません!」
看護士A「あっごめんなさい俺くん、でも病室は――」
俺「いいですよ、一人で帰れますから――」フラッ
病室
俺(あれ……天井?)
医者「気がつきましたか?」
俺「あ……はい。あの……俺はその……どうしたんですか?」
医者「てんかんを起こして倒れたんです。もう少し自分の症状のことを自覚してくださらないと困ります」
俺「……はい、すいません。以後気をつけます」
医者「では私は巡回がありますのでこれで……Aさん後はお願いしますね」
看護師A「はい、分かりました、俺くん、大丈夫?」
俺「ほっといてくださいよ……もう。今は誰ともしゃべりたくありません」
看護師A「そっか、じゃあなにかあったらナースコールで呼んでね、いつでも来るから」
俺(あのじいさんのこと悪く言う看護師なんて信用できるかよ……)
女の子「大変そうですね」
俺「え? 何、君」
女の子「この病院の患者です、初めまして、俺くん」
俺「見たことないけどなぁ……つーかなんで俺の名前知ってんの?」
女の子「ベッドのネームプレートに書いてありますから」
俺「そっか、そりゃそーだよな、君は……名前は?」
女の子「……です。可愛い名前だと思いませんか?」
俺「そうかもしれない。同年代の子なんか珍しいから君みたいな子がいてよかったよ」
女の子「私も俺くんがいてくれてよかった……」スッチュッ
俺「うわっ……いきなりなにすんの」
女の子「キスだけど……嫌だった?」
俺「嫌とかそういうのじゃなくて……初めて会ったのにこういうことするのは慣れてないっていうか……」
女の子「そっか。向こうだとこういうのは普通なんだけどな」
俺「向こう?」
女の子「私、この間までヨーロッパにいたの。で、日本に帰ってきたとたん風邪ひいて入院」
俺「……そっか、いろいろ大変なんだね」
女の子「俺くん、なんか落ち込んでる? 心配しなくても私、処女だから安心して? じゃあねっ☆」
俺「いっちゃった……なんだったんだ、あの子」
看護師B「……」
俺(うわ……俺が女の子にからかわれたからってあんな白い目でみなくてもいいのに……なんなんだよ、くそっ)
中庭
俺「はぁあ……」
女の子「おーれーくん!」パッ
俺「うわぁっ、誰だよ、後ろから抱きつくな! って君か……」
女の子「昼食残したらダメだよ? 入院期間長引いちゃうんだから」
俺「別に俺の勝手だろ……いつ退院できるかなんてわからないし、君はどれくらい入院してるの?」
女の子「私は……俺くんと同じくらいかな、私が入院したあとですぐ、俺くん見かけるようになったから」
俺「そっか……早く退院したいよなぁ……」
女の子「私は……そうでもないかな」
俺「えっ? なんで? こんなところにいるより外出たほうがゼッタイ楽しいって。ヤブ医者とお局看護師しかいないしさ」
女の子「でも……病院の外に出ると俺くんと会えないから」
俺「そんなこと……ないよ。退院してからも連絡取り合えばいいじゃないか」
女の子「ううん、そんなの、できないよ。できないようになってるもん」
俺「なんだよそれ……もしかして、親が厳しい家なの」
女の子「うん……そんな感じかな……またね、俺くん!」
俺「ああ、じゃあね……はぁ。……あ、またあのじいさん今日は庭で絵書いてんのか、なんか洒落てんなぁ」
病室
俺「あのー質問してもいいですか?」
医者「どうぞ、ただし手短にお願いします。回診時間の都合もありますから」
俺「……俺っていつごろ退院できるんですか?」
医者「……薬が効き次第、すぐにでも、です。一週間後かもしれないし、一ヶ月後かもしれない」
俺「そんな……そんなんじゃいつでれるかもわからないじゃないですか!」
医者「すぐに快方に向かいます。心の持ちようが大事ですよ。それでは」
俺「あっちょっと待ってくださいよ! なんだってあの人は俺の話をまともに聞いてくれないんだよっ!」
看護師A「……」ヒソヒソ
看護師B「……」ヒソヒソ
俺「黙れよ!」
看護師A・B「……」ビクッ
俺「俺のことをそんな目で見るのはやめろ! 俺のことを見ながらヒソヒソ話すのはやめろよ!」
看護師たち「……」スタスタ
俺「くそっ……なんなんだよ、あいつら……」
女の子「……大変みたいだね」
俺「……ちゃん、もう俺わけわかんないよ……」
女の子「俺くんは悪くないよ、悪いのは俺くんの話をちゃんと聞いてくれないお医者さんと看護師さん」
女の子「そうでしょ?」
俺「うん……そうだよね、俺は悪くない……おかしいのはあいつらの方だよ」
女の子「そうそう、だから元気出して、ね?」チュッ
俺「……ぷはぁ。うんありがとう……ちゃん」チュッ
女の子「ふふ、やっと俺くんからキスしてくれたね」
俺「そりゃあ俺だってキスくらい自分からできるよ……ただ今まではやらなかっただけ」
女の子「そうだね……俺くんはさぁ、キスの続き、したくない?」
俺「え? キスの……続き?」
女の子「うん、私とじゃ、イヤ?」
俺「別に嫌じゃないけど……でもここ病院だよ? 誰が見ているかわからないのに……そんなことできないよ」
女の子「いいじゃん、あんなやつらに見られたってさ。どうせ私たちのことなんか全然気にしてない、イヤな人たちじゃん」
俺「でも……恥ずかしいよ」
女の子「恥ずかしくなんかないよセックスなんて人間にとって自然な行為だしそれを見て恥ずかしいことしてるって思う人たちの方が恥ずかしいんだよ俺くんもそういう人たちに騙されちゃダメでもっとちゃんと私とのセックスのこと真面目に考えてだからセックスしよ?」
俺「……ちゃん?」
女の子「ね? セックスしよ? いいじゃん、動物になれば。セックスする動物になっちゃえばいいんだよ。どうせみんな俺くんや私のことなんか人間扱いしてないんだから」
俺「……そんなことないよ。ちゃんと、俺のこと心配してくれて、考えて治療してくれてるよ」
女の子「でも俺くんが言ってたことでしょ? あの看護師さんたちが嫌な目で見てくるって。お医者さんが冷たい態度をとって来るって! 俺くんの言ってること矛盾してるよ」
俺「でも俺は……やっぱりできないよ。人前で裸になって、セックスしてる顔を見られて恥ずかしいと思わないなんて、やっぱりおかしいよ」
女の子「……私と一緒にはなりたくないってこと?」
俺「そういうわけじゃないけど……ここで君と一緒になるのは……やっぱり無理だよ」
女の子「そっか、俺くんはそういう人なのか……なーんだ、せっかく一緒にいられると思ったんだけどな」
俺「……ちゃん?」
女の子「ううん、なんでもない。今日いったことは忘れて?」
俺「……うん。それはいいんだけど、なんか、顔色悪いけど、大丈夫?」
女の子「ヘーキヘーキ。それじゃあ――バイバイ、俺くん」
俺「うん、また今度」
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