千早「暇ですね」貴音「左様ですか…」 (61)


千早「……はぁ」

貴音「おや千早、ため息などついて、どうかなさいましたか?」

千早「あっ、四条さん…お疲れさまです」

貴音「ふむ、何やら元気が無さそうな様子…何か悩み事でも?」

千早「そうですね…正直、無いと言えば嘘になるのかもしれません」

貴音「そうですか…わたくしで良ければ相談に乗りますが」

千早「いいんですか?……ではお言葉に甘えて、実は私」

貴音「はい」

千早「とても暇なんです」

貴音「なるほど、千早は暇なのですね……えっ?」

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千早「四条さん、私は今とても暇をしています」

貴音「そうですか」

千早「とても、とても暇を持て余しています」

貴音「なるほど」

千早「こんなとき私は一体どうすればいいのでしょうか?」

貴音「そうですね…千早、実はわたくしも」

千早「お願いします四条さん、私に何か妙案を授けて下さい」

貴音「ですから千早」

千早「困りました…まさかこんなにも暇になるだなんて」

貴音「千早、わたくしの話を」


千早「この展開は想定外です、予想外です、なんということでしょう」

貴音「千早、落ち着いてください」

千早「本当に困りました、暇過ぎです、暇過ぎてどうにかなってしまいそう」

貴音「千早、それは分かりました、ですから落ち着いてください」

千早「あら、四条さんは私が落ち着いていないとでも?」

貴音「えぇ、どこからどう見ても落ち着いていないように見えますが」

千早「その通りです、私は落ち着いていません、よくぞ見破りましたね」

貴音「はい、分かっております」

千早「なんと…!分かっていたと言うのですか」

貴音「見れば分かります」


千早「すみません、お見苦しいところをお見せしてしまって」

貴音「落ち着きましたか?」

千早「いいえ、残念ながらまだ私は落ち着いていません」

貴音「おや…そうですか、それでは早く落ち着いてください」

千早「しかし千早は混乱している」

貴音「何ということでしょう…千早、大丈夫ですか?」

千早「千早はようやく混乱から立ち直った」

貴音「ふむ、もう大丈夫そうですか?」

千早「はい、おかげさまで、まあ実を言うと最初から落ち着いていたんですけどね」

貴音「何と…それでは、あれは演技であったと」


千早「はい、失礼ながら四条さんに私の演技が通用するか試させてもらいました」

貴音「そういうことでしたか」

千早「演技に精通した四条さん相手に、どこまでやれるか自分を試したかったのです」

貴音「なるほど、ならば千早の試みは無事成功したということになりますね」

千早「本当ですか?」

貴音「えぇ、まんまと引っかかってしまいました」

千早「では私は四条さんを見事に騙すことが出来たと、そういうことですね」

貴音「まさか、このような事になろうとは…千早も中々侮れませんね」

千早「私の演技も捨てたものではないようですね」

貴音「まあ、実のところを申し上げますと全て見抜いていたのですがね」


千早「では私の演技に引っかかったというのは、嘘だったのですか?」

貴音「はい、真っ赤な嘘にございます」

千早「私の演技は何一つ通用していなかったと、そういうことですか?」

貴音「えぇ、真に残念ですが大根役者そのものでありました」

千早「やはり私には演技というものは不向きだったようですね」

貴音「そう悲観するものではありません、大根は大根なりに味があるものです」

千早「ありがとうございます、それ絶対褒めてませんよね?」

貴音「しかしながら、このような形でやられっぱなしというのも面白くありませんね」

千早「ふむ、四条さんも意外に負けず嫌いなところがあるんですね」

貴音「この仕返しはすぐにでもさせていただくとしましょう…ふふっ」


千早「それで四条さん、何か私に言いかけていませんでしたか?」

貴音「えぇ千早、実はわたくしも…」

千早「はい」

貴音「……」

千早「……」

貴音「えぇと、千早」

千早「はい、なんでしょうか?」

貴音「先ほど、わたくしは何を言おうとしていたのでしょうか?」

千早「……はい?」

貴音「申し訳ございません、少々ど忘れをしてしまいまして」


千早「ど忘れですか…四条さんらしくありませんね」

貴音「はい、実は最近物忘れが少々ひどく…」

千早「そうなんですか?」

貴音「最近など、今朝食べた物の内容さえ忘れてしまう始末」

千早「四条さんが食べ物のことを忘れるだなんて」

貴音「今朝食べたらぁめんが豚骨なのか、醤油なのかが思い出せないのです」

千早「それ以前の問題として、朝からラーメンですか?」

貴音「はい、朝かららぁめん、略して朝らぁにございます」

千早「よく朝からそんなヘビーなものが食べられますね」

貴音「わたくしにとってはこの程度、朝飯前ですよ…朝だけに、どやぁ」


千早「ふむ……」

貴音「おや、どうかしましたか千早?」

千早「四条さん」

貴音「はい、なんでしょうか?」

千早「それ激ヤバです、面白すぎます」

貴音「おや、それは真ですか?」

千早「大爆笑です、世が世なら大流行間違いなしのレベルですよ」

貴音「そんなに褒めないでください、照れるではありませんか」

千早「特に最初から最後までを無表情で言い放つ辺りが特にツボです」

貴音「わたくしの笑いの感性もそう捨てたものではないようですね」


千早「それはそうと、四条さんの物忘れ、思いのほか重症のようですね」

貴音「あとはそうですね……あの方の名前をよく忘れがちになります」

千早「あの方?」

貴音「えぇと、あそこの机に座っておられる緑色のご婦人のことですね」

千早「緑色……ピッコロさんのことですか?」

貴音「千早、それはご婦人ではありません」

千早「しかし四条さん、ナメック星人に性別という概念は無かったはずです」

貴音「おや、そうでしたか?」

千早「確かそうであったように思います」

貴音「しかしそれ以前の問題として、それは実在する方ではございませんよ」


千早「となると…あぁ、分かりました、音無さんのことですね」

貴音「あぁ、そうでした…小鳥嬢でしたね、つい忘れてしまっておりました」

千早「それにしても四条さん、言うに事欠いて緑色のご婦人とは」

貴音「申し訳ございません、他に良い例えが思い浮かばなかったもので」

千早「確かに言い得て妙ではあったと思いますけれど」

貴音「そうでしょう?ならば、仕方のないことです」

千早「それでは今度音無さんに言いつけておきますね」

貴音「千早、それだけはやめてください」

千早「まぁ、冗談なのですけれど」

貴音「なんといけずな……あとはそうですね、あの者の名もよく忘れがちになります」


千早「今度は誰です?」

貴音「この事務所で唯一の男性アイドルのことなのですが」

千早「……はい?」

貴音「とても凛々しい顔立ちをした青年です」

千早「四条さん、この事務所に男性アイドルはいません」

貴音「はて……そうだったでしょうか?」

千早「はい、間違いありません」

貴音「ふむ……わたくしの思い違いなのでしょうか、ですがあれは紛れもなく」

千早「誰のことかは容易に想像できますが、あの子は男性ではありませんよ」

貴音「しかしながらあの風体、紛れもない男性のそれではないかと」


千早「四条さん、それは菊地真のことですね?」

貴音「言われてみればそのような名であったかと」

千早「四条さん、真はれっきとした女の子ですよ」

貴音「ふむ……そういえばそうでしたね、菊地真…思い出しました」

千早「最早、物忘れを通り越して暴言ですね」

貴音「悪気は無かったのですが」

千早「悪意しか感じませんでしたが」

貴音「ちょっとした出来心、というやつですよ」

千早「今度こそ、本人に言いつけておきますね」

貴音「千早、そのような意地悪を言わないでください」


千早「いいえ、申し訳ありませんが言いつけさせていただきます」

貴音「ふむ……本当によろしいのですか、千早?」

千早「どういう意味でしょう?」

貴音「わたくしの言葉に対し、千早は真っ先に真の名を挙げましたね?」

千早「何が言いたいのでしょう?」

貴音「聡明な千早なら皆まで言わずとも分かるでしょう」

千早「私を巻き添えにしようというのですか…ひどいです四条さん」

貴音「そうそう、男性的と言えば千早の体格も」

千早「私の体格の話は即刻やめていただきましょうか」

貴音「失礼、つい口が滑ってしまいましたね」


千早「というか四条さん」

貴音「はい、なんでしょうか千早?」

千早「それはもう病院に行った方がいいレベルです」

貴音「ご心配ありがとうございます…ですが、それには及びませんよ千早」

千早「おや、なぜでしょうか?」

貴音「なぜなら冗談なのですから」

千早「そうですか冗談ですか、まあ分かってはいましたが」

貴音「はい、全て冗談にございます」

千早「冗談で済むレベルではない発言もあった気もしますが」

貴音「細かいことは気にしてはいけませんよ千早、なんくるないさー」


千早「とにかく、冗談も程ほどにしていただきたいものですね」

貴音「ふふっ、それこそお互い様ではありませんか…先ほどの意趣返しですよ」

千早「なるほど、まんまとしてやられたというわけですね」

貴音「やられたらやり返す、俗に言う倍返しというやつですね」

千早「倍どころの話ではありませんよ、やり過ぎです」

貴音「やるならばとことん、ですよ千早」

千早「それで、本当のところ四条さんは何を言おうとしていたのでしょうか?」

貴音「それなんですが千早、実はわたくしも暇を持て余していたところなのですよ」

千早「そうでしたか……えっ?…はい?」

貴音「ですから千早、わたくしも貴方と同じく暇なのですよ」


千早「なるほど、四条さんも暇だと、そういうことなのですね?」

貴音「えぇ、その通りです」

千早「奇遇ですね」

貴音「えぇ、奇遇です」

千早「あるいは運命なのかもしれませんね」

貴音「運命、ですか…?」

千早「はい、今私たちは二人とも偶然にもこうして暇を持て余しているわけです」

貴音「そうですね」

千早「これはひょっとすると何かの運命、神のおぼし召しなのかもしれません」

貴音「成程、千早は中々にロマンチストなようですね」


千早「ひょっとしたら私たちは運命の赤い糸で結ばれているのかもしれません」

貴音「赤い糸、ですか?」

千早「はい、私たちの小指にはお互いを繋ぐ赤い糸が」

貴音「千早、申し訳ございませんがわたくしにそのような趣味は」

千早「あぁ、でもダメだわ…私には高槻さんがいるもの」

貴音「千早」

千早「そうよ、この小指の赤い糸は高槻さんのためのもの…分かっているわ、えぇ」

貴音「ですから千早」

千早「ごめんなさい四条さん、やはり私たちは結ばれない運命のようですね」

貴音「千早、わたくしの話を聞いてください、そして現実に戻ってきてください」


千早「ということは、四条さんは今日はもう仕事は無いのですか?」

貴音「生憎と今日はもう何も…そういう千早は、どうなのですか?」

千早「えぇ、残念ながら私の方も今日はもう何も」

貴音「ふむ…となると今日はもうお互い何も予定が無い、ということですね」

千早「では、どうして四条さんは事務所に残っているんです?何か用事でも?」

貴音「いえ、そういうわけでは……特に理由などはありませんよ」

千早「ふむ、特に理由は無いと」

貴音「ですがそうですね……強いて何か理由を挙げるとするならば」

千早「するならば?」

貴音「……やはり何もありませんね」


千早「そうですか、何もありませんか」

貴音「えぇ、何もありません……時に千早」

千早「はい、なんでしょうか?」

貴音「今の流れはツッコむ流れですよ」

千早「あら、そうだったんですか」

貴音「はい、理由は無いと告げつつも、やはり何かあるかのような言い回し」

千早「はぁ」

貴音「思わせぶりに言いつつも、結局のところ何も無いという二段階のボケにございます」

千早「なるほどそうだったんですね」

貴音「はい、その通りにございます」


千早「そういうことでしたか…分かりました」

貴音「はい、分かっていただけましたか」

千早「結局何もないのかよっ!」

貴音「……」

千早「……」

貴音「千早」

千早「はい、何でしょう?」

貴音「今更過ぎます、それは完全なボケ殺しというやつですよ」

千早「なんと、それは失礼を…私のツッコミが至らないばかりに四条さんに恥を…」

貴音「いえいえ、謝るほどのことでもありませんが」


千早「ということは本当に四条さんは理由もなく事務所に残っていたと?」

貴音「そうですね……敢えて言うならば、居心地が良いから、でしょうか」

千早「あぁ、分かります、その気持ち」

貴音「ところで千早」

千早「なんでしょうか?」

貴音「わたくしが言えた事ではないのですが、そういう千早はなぜ事務所に?」

千早「私もこれといって何かあるわけではないんですが…そうですね、強いて言うなら」

貴音「言うなら?」

千早「……特に理由はありませんね」

貴音「そうですか、ありませんか」


千早「四条さん」

貴音「はい、なんでしょうか千早」

千早「どうしてツッコんでくれないんですか?」

貴音「はて、一体千早は何を言っているのでしょうか?」

千早「先ほど四条さんが言っていた流れをそのまま再現させていただいたのですが」

貴音「なんと……言われてみればそうですね」

千早「自分の作ったネタを自分でぶち壊すとは、本末転倒ではないでしょうか?」

貴音「……千早、とても申し上げにくいのですが」

千早「なんでしょう?」

貴音「わたくしはどちらかと言えば、ボケる方が得意なのでございます」


千早「確かに、四条さんは確実にツッコミよりはボケが合いそうですが」

貴音「はい、その通りにございます」

千早「なるほど、そういうことでしたら仕方ありませんね…まぁ、なんでも、いいですけど」

貴音「それで、話は戻りますが…千早はなぜ事務所に?」

千早「あぁ、その件ですか…実はですね」

貴音「はい」

千早「実は、少しばかり音無さんの机にイタズラでもして帰ろうかと思いまして」

貴音「なんと…最近小鳥嬢が悪戯が増えたと嘆いておりましたが、千早の仕業でしたか」

千早「その通りです、私の仕業なのですよ」

貴音「ふむ……ですが小鳥嬢は最近、机の周りに罠を設置していという噂ですよ」


千早「そうなんですか?」

貴音「最近増加する悪戯への対策だそうです、ゆえに今はやめた方が無難かと」

千早「本当ですね、机の周辺にまきびしが撒かれていますね」

貴音「千早は小鳥嬢に相当に警戒されているようですね」

千早「まあ実は、このまきびし撒いたの私なんですけどね」

貴音「なんと…そうだったのですか」

千早「ですが、少々やり過ぎてしまったことも事実…決め手はやはりアレでしょうね」

貴音「あれ、とは?」

千早「以前、四条さんの袋麺を砕いて机の中に放り込んだことがあったのですが」

貴音「……千早、そのようなことを」


千早「もしくはアレが問題だったのかもしれません」

貴音「まだ何かあるというのですか?」

千早「この間、四条さんのカップ麺を勝手に食べたんですが、私には量が多く…」

貴音「……」

千早「中途半端に残してしまいまして、残りを小鳥さんの机に放置したことがありまして」

貴音「……千早、あとでお話があります、屋上へ来ていただけますね?」

千早「四条さん目がマジすぎて恐いです、冗談です」

貴音「……本当に冗談なのですね?」

千早「はい本当です、ですからそのような猛禽類のような目で見ないでください」

貴音「ならば良いでしょう、ですがこのような悪質な冗談、次はありませんよ?」


千早「それでは改めて、私たち二人はこの暇な時間をどう過ごすべきでしょうか」

貴音「ふむ、それなんですが千早」

千早「はい」

貴音「わたくしに一つ、妙案がございます」

千早「あら、それは何でしょうか?」

貴音「ここはわたくしたち二人で、らぁめんを食そうではありませんか」

千早「……はぁ?えっ、なんですか?」

貴音「ですから、わたくしたち二人でらぁめんを食すのです」

千早「なんでやねん!」

貴音「……おや千早、急にどうしたのです?」


千早「てっきりツッコミをする流れだと思ったんですが」

貴音「千早、わたくしは別にツッコミなど求めておりませんが」

千早「ですが、今のは完全にツッコミをする流れですよね?」

貴音「えっ」

千早「えっ?」

貴音「……」

千早「……」

貴音「はて…千早は一体何を言っているのでしょう?」

千早「えっ、今のはボケではないんですか?」

貴音「千早、どこをどう解釈したら先ほどのわたくしの発言がボケになるのです」


千早「違うというのですか?」

貴音「違うに決まっているでしょう」

千早「ボケていなかったんですか?」

貴音「ボケてなどおりませんよ、わたくしは極めて真面目に発言をしました」

千早「むしろ、あれが真面目な発言だったことに驚きです」

貴音「ふむ…千早が何を言っているのか、わたくしには分かりかねます」

千早「いいですか四条さん」

貴音「はい、何でしょうか?」

千早「いきなりあのような突飛な発言をされては、普通は戸惑いを隠せません」

貴音「ふむ……そういうものですか?」


千早「そういうものです、ボケだと勘違いしても仕方がないかと」

貴音「そうでしたか、勘違いをさせてしまったようですね……時に千早」

千早「はい?」

貴音「『なんでやねん』の発音が少々違っておりましたよ」

千早「……はぁ、えっ?……えっ?」

貴音「……」

千早「……おかしかったですか?」

貴音「はい、真に失礼かとは思いますが、えせ関西弁そのものでした」

千早「まさかそんなところを指摘されるとは思ってもいませんでした」

貴音「次回から使う際は気をつけた方が良いかと」


千早「それはそれとして、何故ラーメンなのですか?」

貴音「ふむ…千早はよくこういった話を耳にしませんか?」

千早「どのような話でしょうか?」

貴音「昔々あるところに」

千早「……」

貴音「おじいさんとおばあさんが……千早」

千早「はい、なんですか?」

貴音「まさに今ここが、ツッコミを入れる流れだったはずですよ」

千早「なるほど、そうとは気づきませんでした」

貴音「先ほどからわたくしのボケをことごとく潰していますが、何か恨みでもあるのですか?」


千早「それで、四条さんは一体何を言おうとしていたんですか?」

貴音「そうでしたね……えぇと」

千早「……」

貴音「……千早」

千早「はい、なんですか?」

貴音「わたくしは今、何を言おうとしていたのでしょう?」

千早「四条さん」

貴音「わたくし少々ど忘れを……千早、人の話の途中に割って入らないでください」

千早「四条さん、同じネタの使い回しはご遠慮ください」

貴音「千早、扱いが少々雑になってきておりますよ」


千早「四条さん、話を先に進めてもらえますか?」

貴音「分かりました、おそらくこれは誰しもが当てはまることだと思うのですが」

千早「はい」

貴音「楽しいことをしていると、時間が経つことさえ忘れてしまう、とよく言いませんか?」

千早「確かにそういった話はよく聞きますが」

貴音「わたくしにとっては、らぁめんを食す時間がまさにそれ、というわけです」

千早「なるほど、そういうことでしたか」

貴音「ゆえに、わたくしはこう思ったのです」

千早「はぁ」

貴音「らぁめんを食している間は、暇な時間など意に介さないのではないかと」


千早「お言葉ですが、それは四条さんにしか通用しない理屈だと思います」

貴音「なんと…千早はらぁめんがお嫌いと言うのですか?」

千早「いえ、そういったわけではありませんが」

貴音「ちなみにわたくしは、らぁめんと名の付くものは全て好きでございますよ」

千早「そうですか」

貴音「豚骨、魚介、醤油、塩、味噌、あるいはこれらを合わせたもの」

千早「四条さん」

貴音「そのどれもがわたくしの心を揺さぶり、躍らせ、高鳴らせるのです…あぁ、らぁめん」

千早「四条さん、少し落ち着いてください」

貴音「失礼しました、つい熱くなってしまいましたね」


千早「しかし、先ほど四条さんが言っていたこともあながち否定は出来ませんね」

貴音「ほう」

千早「楽しいことをして過ごせば時間が経つのも忘れる、一理あります」

貴音「そうでしょう、そうでしょう」

千早「確かにそれは選択肢としては間違ってはいないでしょう」

貴音「ふむ…ならば、千早はどのようにしてこの暇な時間を過ごそうというのですか?」

千早「私にとっての楽しい時間……それはズバリ、高槻さんです」

貴音「やよい、ですか?」

千早「はい、高槻さんのことを考えているだけで私の頭の中は幸せで満たされるのです」

貴音「左様ですか」


千早「高槻さん……あぁ高槻さんかわいいわ、高槻さん!高槻さん!」

貴音「千早」

千早「高槻さん……たかつきさん!たかつきさん!……たっかつきすわぁーん!」

貴音「千早、落ち着いてください」

千早「失礼しました……お見苦しいところをお見せしました」

貴音「いえ、確かにやよいは非常に愛らしいです…千早の気持ちも分かります」

千早「そうでしょう?というわけで四条さんも一緒に」

貴音「いいえ千早、それには及びません」

千早「それはどういうことですか?」

貴音「千早にとって、やよいがいるように、わたくしにも愛でるに値する人物がおりますゆえ」


千早「四条さん、まさかそれは」

貴音「はい、わたくしにとって愛でる対象、それは響です」

千早「やはりそうでしたか」

貴音「はい、あの愛らしい姿を思い浮かべる度、わたくしは幸せな気持ちになれるのです」

千早「分かります、我那覇さんかわいいですものね」

貴音「というわけでわたくしは響のことを考えながら時間を過ごすとしましょう」

千早「それは却下です」

貴音「なぜですか」

千早「なぜなら我那覇さんも私が愛でるからです」

貴音「おや、それは聞き捨てなりませんね」


千早「あら、不満があるというのですか?」

貴音「不満も何も、千早にはやよいがいるではありませんか」

千早「はい、私には高槻さんがいます」

貴音「ならば響は諦めなさい、二兎を追う者は一兎をも得ず、ですよ」

千早「いいえ、私は我那覇さんを諦めません……諦めません、絶対に」

貴音「千早、あなたという人は……」

千早「四条さん、昔の偉い人がこう言う格言を残したことをご存じですか?」

貴音「一体、何の話でしょうか?」

千早「高槻さんは私のもの……我那覇さんも私のもの!」

貴音「到底承服できる内容ではありませんね」


千早「おや、それではどうするというのです?」

貴音「どうもこうもありません、諦めてもらう他ありません」

千早「それは出来ません、私の方が我那覇さんを愛してやまないのですから」

貴音「いいえ、わたくしの方が響を愛してやまないですよ」

千早「いやいや私の方が」

貴音「わたくしの方が」

千早「ところがどっこい、私の方が!」

貴音「そう見せかけてわたくしの方が!」

千早「なんでやねん!」

貴音「それはわたくしの台詞にございます」


千早「あくまでも引くつもりはないと?」

貴音「生憎と、これに関しては引き下がるつもりはございません」

千早「ぐぬぬ……」

貴音「むぅ……」

千早「……」

貴音「……」

千早「やめましょうか、こんな不毛な争いをしても我那覇さんが悲しむだけです」

貴音「そうですね……ここは引き分けという形で手を打ちましょう」

千早「はい、我那覇さんへの愛に優劣を付けるだなんて間違っていました」

貴音「どちらも響を愛してやまない、ならばそれで良いではありませんか」


千早「実にナイスファイトでしたね、四条さん」

貴音「えぇ、そうですね……時に千早、話は少々飛びますが」

千早「なんでしょうか」

貴音「わたくし、先ほど給湯室で信じがたい光景を目の当たりにしました」

千早「はぁ」

貴音「出来ればわたくしの見間違いであって欲しかったのですが…」

千早「ですから、なんのことでしょうか?」

貴音「給湯室のゴミ箱に、なぜかカップ麺の空き容器が捨てられておりました」

千早「別になんてことはない、普通の光景だと思いますが」

貴音「果たしてそうでしょうか?」


千早「あら、四条さんは一体何が言いたいのでしょうか?」

貴音「千早、本日は小鳥嬢は休暇を取っております、ゆえに事務所にはおりません」

千早「そうですね」

貴音「そしてプロデューサーもまた、本日は外回り等で事務所にはおりません」

千早「はい、その通りです」

貴音「律子嬢も同様です」

千早「ですから、一体何が言いたいんです?」

貴音「本日、この事務所には常駐している人間がいない状態なのです」

千早「そうですね、それが何か?」

貴音「千早、ならばあのカップ麺は誰が食したのでしょうか?」


千早「さぁ、誰でしょうね」

貴音「千早、わたくしの目を見て話をしてください」

千早「四条さん距離が近いです、顔が近いです」

貴音「千早、重ねて申し上げますが、あれはわたくしのカップ麺にございます」

千早「四条さん、ちょっと離れてください、ほぼゼロ距離なんですが」

貴音「あれはわたくしが以前より楽しみにしておいた、秘蔵の品にございます」

千早「四条さん、吐息がかかります、髪が触れてくすぐったいです」

貴音「千早、わたくしの目を見て、正直に申し上げてください」

千早「ひょっとして、四条さんは私がカップ麺を食べたと疑っているのですか?」

貴音「はい、率直に言って、その通りでございます」


千早「失礼ですね、そのような証拠がどこにあると」

貴音「ふむ、あくまで白を切ると…」

千早「証拠もないのに疑われては、たまったものではありませんよ」

貴音「ですが千早、歯にネギがついたままですよ?」

千早「おかしいですね、しっかりと歯は磨いたはずなのですが」

貴音「ほう、食べた痕跡を消すために歯磨きまでしたというのですか」

千早「はい、その通りです……あっ」

貴音「……」

千早「四条さん、今のは無しでお願いします」

貴音「千早、残念ながらもう手遅れでございますよ」


千早「四条さん、目が恐いです、落ち着いてください」

貴音「わたくしは至って冷静ですよ……この通り、落ち着いております」

千早「無表情が逆に恐いですが」

貴音「すると千早、さきほどの悪戯に関する話も、ひょっとすると事実なのでは?」

千早「いえ、あれに関しては確実に冗談です」

貴音「分かりました信じましょう、嘘を言っているようには見えません」

千早「ありがとうございます」

貴音「ですがこの件に関しては別です」

千早「ですよねー」

貴音「千早にはそれなりの報いを受けてもらいましょう」


千早「報いって何ですか、たかだかラーメンではないですか」

貴音「……今、たかだか、と言いましたか今?」

千早「言ってませんね、気のせいです」

貴音「ふむ……何はともあれ、それでは屋上に参りましょうか」

千早「えっ、ちょ…屋上で何をするんですか?」

貴音「それは行ってからのお楽しみですよ、さぁさぁ千早、参りますよ」

千早「ちょっと待ってください四条さん、引っ張らないで」

貴音「怖がることはありませんよ千早、何も怖がる必要など無いのですから」

千早「四条さんお願いだから冷静になってください…四条さん!四条さーんっ!」

貴音「ふふっ……千早、お楽しみはこれからですよ」


――――
―――

春香「ただいま戻りましたー!」

千早「……」

春香「あれれ千早ちゃん?春香さんが帰ってきましたよー?」

千早「あぁ春香……おかえりなさい」

春香「千早ちゃんどうかした?何か様子が変だけど」

千早「別に、どうもしてないけれど」

春香「なんだかすごく元気が無さそうに見えるけど?」

千早「あら、そう見えたかしら?」

春香「うん、元気が無さそうっていうか、なんだか疲れてるみたい」

千早「疲れてる、ね……あながち間違ってはいないわね、でも大丈夫よ、心配ないわ」


春香「そうは言っても心配だなぁー…そうだ!今からご飯食べにいこうよ!」

千早「ご飯?」

春香「うん、疲れてる時は美味しいものを食べて元気を蓄えた方がいいよ!」

千早「そうね…まぁ、それもいいかもしれないわね」

春香「じゃあ決まりだねっ!ちょっと待ってて、すぐ準備するから!」

千早「そんな感じで今日の相手は四条さんだったわけだけれど……やはり強かったわ」

春香「千早ちゃん本当に大丈夫?独り言も何だか勢いが無い感じだよー?」

千早「まさかここまで手強いとはね……これはなんとしてもリベンジしなくては」

春香「はいお待たせっ!春香さん、頑張って千早ちゃんを元気にしちゃうからね!」

千早「ともあれ次の暇つぶしの相手は誰になるか……楽しみと同時に怖くもあるわね」



おわり

はい、というわけでいつもとちょっと違う感じで暇つぶしさせていただきました

ありがとうございました

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