浜面「一方通行×絹旗とかどうだろう?」(829)
浜面「…何を言ってるんだ俺は」
絹旗「本当に何を言ってるんですかこの超浜面は」
絹旗「何でそんな意味不明なこと言いだしたんです?」
浜面「お前の能力について考えてたら、つい…な」
絹旗「いや、超ワケ分かんないんですけど」
浜面「だって、お前の能力って一方通行と関係あんだろ?暗闇の五月計画ってヤツで―」
絹旗「待ってください。何で浜面がそのこと知ってるんです??」
浜面「え?そ、そう!滝壺に教えてもらったんだよ!!」
絹旗「彼女に教えた覚えはありませんけど」
浜面「墓穴を掘っちまったぜい」
絹旗「どういうことです?そんな超プライベートな情報なんて、暗部経由でもない限り…」
浜面「すまん。その“暗部経由”なんだ」
絹旗「そういう浜面の正直なとこ、超好きですよ」
浜面「告白してくれたわりには目が笑ってないぞ絹旗?」
絹旗「で。誰から私のこと聞きだしたんです?そもそも、なんでそんな情報を聞き出そうと
思ったんです??何でそんな浅はかな思考に辿り着いちゃったんですか?答えてください
超キモくて間抜け面の害虫脳無しバカ面野郎」
浜面(死の気配を感じる)
浜面「この前よ…。俺、お前にコキ使われただろうが」
絹旗「いつものことじゃないですか」
浜面「うるせえ!!確かに俺はアイテムの下っ端要員だが…最近のお前はちょっと勝手すぎたッ!!」
絹旗「まさかとは思いますが…そのストレス発散法として、私の弱味でも握ろうと思ったんですか?」
浜面「そうだ!!だから暗部のヤツ…土御門ってやつに、お前の過去について聞き出した…!!」
絹旗「その対価として何円、その土御門さんとやらに支払ったんです?」
浜面「い…1万円」
絹旗「本当にバカですね浜面」
浜面「正直、今では後悔してる」
絹旗「でしょうね」
浜面「弱味も聞き出せなかった」
絹旗「まあ…浜面のその落胆した顔を見れば分かります」
浜面「ぼったくられた」
絹旗「だって1万円ですもんね」
浜面「俺は学んだよ。一時の感情に任せたらロクなことがないってな」
絹旗「良い勉強になりましたね」
絹旗「で、聞き出せた情報が“五月計画”であると」
浜面「…そうだな。それで、お前の窒素装甲ってのが一方通行の反射を元にして作られたってことを知った」
絹旗「なるほど。だから冒頭のようなイミフなことを言い出したんですね」
浜面「おう」
絹旗「いや、待ってください」
浜面「?」
絹旗「確かに、私の能力と一方通行に関係性があるのは超事実です」
浜面「うん」
絹旗「そこから、一体どういう化学変化が起こって“カップリング”なる概念が生まれたんです??」
絹旗「一体どういう因果関係があって、そんな発想になったんですか??私には超理解不能です」
浜面「自分自身も、何でそんなこと言い出したのか分かんないんだ」
絹旗「アホ面の脳内は常人では理解しきれないということですか。誰かここに第5位でも連れてきてください」
浜面「んなくだらんことで常盤台のお嬢様を呼ぶなっつうの…」
絹旗「冗談です。にしても、イラストが公開されて以来、彼女の人気は超ウナギ登りのようですね」
浜面「みたいだな。なんせ今までは心理掌握って能力名だけで、本名すら分かってなかったんだからな」
絹旗「なんか話がズレてませんか?」
浜面「本当だ」
絹旗「で、話は元に戻るわけですけど」
浜面「なんつーか、つまり魔が差したってやつなんだろうな」
絹旗「は?」
浜面「関係があるから結びつけた、ただそれだけの話よ」
絹旗「それがカップリングになっちゃうんですか」
浜面「魔が差したって言ったろ?そこに明確な理由などねえよ」
絹旗「…そうですね。これ以上考えるのはやめましょう。頭が超痛くなってきました」
浜面「まぁ、言ったのは本当に出まかせだったんだけどよ。実際のとこはどうなんだ?」
絹旗「いや、実際も何もまともに話したことすらないですし」
浜面「そうじゃなくて。共通項をもつ能力者同士、気にはならないのかって聞いてるんだよ」
絹旗「まあ、能力に類似性があるという点においては、全く気にならないと言えばウソになりますが。
かといって、とりわけ一方通行のことを超知りたいというわけでもないですけど」
浜面「実は、ここに一方通行の電話番号とメルアドがある」
絹旗「へ?」
浜面「というわけで、早速やつに電話だ!」ピッ
絹旗「え?ちょ、浜面―」
??『おかけになッた電話はァ、電波の届かないとこにー』
浜面「いきなり居留守かよ!」
一方通行『テメェか。何の用だ』
絹旗「って、わたし無視されてるし」
浜面「今ヒマか?」
一方通行『何の用だって聞いてンだよボケ。くだらねェ用事だったらぶち殺す』
浜面「え、ええーっと、その、何だ、暗部について分かったことがあるんでな!」
絹旗「そんなに必死に要件を捏造してまで、一体浜面は何がしたいんですか…」
一方通行『暗部…?それは今、ここじゃ話せねェのか?』
浜面「あ、ああ。できれば、お前と会ってじっくり話したい内容なんだ」
一方通行『チッ、面倒な野郎だな。俺はどこへ行けばいいんだァ?』
浜面「お!来てくれるか!じゃあ…」
……
浜面「というわけで段取りはついた。今から近くの公園に向かうぞ!」
絹旗「へえ。そうですか。超行ってらっしゃい」
浜面「超行ってらっしゃいじゃねえよ。お前も来るんDA!」グイッ
絹旗「ちょ、ちょっと!無理やり引っ張らないでください!!本当にどうしちゃったんですか浜面!?」
浜面「こ、こら!じたばたすんな…!あっ」
ムニュッ
絹旗「……」
浜面「……」
絹旗「世に言うラッキースケベってやつですね。触ってみての感想は…?」
浜面「そ、その…小さな胸だけど…。柔らかくて気持ちよかった―」
絹旗「バカ正直に答えくれてありがとうございます浜面。もちろん、超死ぬ準備はできてますよね?」
浜面「滝壺のためにも、俺はまだ死ねないんだよォォォォォォォォォォォ!!!!!!」ドドドドトドドドド
絹旗「逃げるんですかバカ面ッ!?」
浜面が外へ逃走してから5分後
絹旗「私としたことが…見失いました。確かにヤツはこのへんで消えたはずなのですが…」
一方通行「ン?テメェは…」
絹旗「!」
浜面(やった!待ち合い場所の公園に誘い込むことに成功ッ!!SE☆I☆KO☆U!)←木の茂みから
浜面(これで絹旗からも逃げられるし、うまく一方通行と鉢合わせさせることもできた。一石二鳥!)
絹旗「え、ええっと…」
一方通行「……」
浜面(くくく…これが俺のストレス発散法さ絹旗ッ!せいぜい一方通行の前で緊張したり取り乱したりして
無様な姿を観察者であるこの俺の眼前にさらけ出すがいい!!俺は、静かにここで見守るとするぜ…!)ワクワク
一方通行「お前…」
絹旗「な、なんでしょう…?」
一方通行「このへんで金髪のアホ面したバカ男を見なかッたか?」
絹旗「!罵倒語を一文に2語も混ぜるなんて、あなた中々できますね!」
浜面(変なとこで共感すんじゃねえよ!?)
一方通行「お前、面白ェな。罵倒の言葉が批難されることはあっても、褒められるとは思わなかッたぜ」
絹旗「どういたしまして♪」
浜面(何これ)
一方通行「しっかし公園には俺とお前の二人ときた。呼び出した張本人はどこにいるンだかァ…」
絹旗「浜面なら来ませんよ」
一方通行「?今何て言ッた?」
絹旗「実は私、浜面の代わりにあなたに謝りにきたんです。彼、来れなくなっちゃったみたいで」
一方通行「ほォ…そうか。まさかのドタキャンですかァ。っつうことは、大事な用ってのも嘘かァ!!」ビキビキ
絹旗「だから空いた時間、私が付き合ってあげますよ」
一方通行「…なンだと?」
浜面(おお。ちょっと予想外だが、これは面白いもんが見れそうだな!)ワクワク
一方通行「っつうか、今気付いた。お前、以前黒夜と戦ッたとき吹っ飛ばされてたヤツだろ?」
絹旗「なんと。覚えててくれたんですね」
一方通行「そりゃあんなマヌケな姿を見せられたらなァ」
絹旗「口の悪さは筋金入りですね」
一方通行「そんな口が悪いヤツと、お前はこれからどこに行こうってワケ?」
絹旗「考えてませんでした。どうしましょう?」
一方通行「…帰る」
絹旗「つれない人ですね。遊具を引っこ抜いて投げちゃいますよ?」
一方通行「投げてもいいがァ、抜いた時点で警備ロボが来るからやめとけ」
絹旗「それもそうですね」
10分後
一方通行「…で、いつまでお前はついてくるんだァ?」
絹旗「いやぁ、私も暇なんで」
一方通行「じゃあヨソにでも行け」
絹旗「うーん」
一方通行「何か理由でもあンのか」
絹旗「強いて言うなら、ちょっと気になったってとこですかね」
一方通行「気になったァ?」
絹旗「この窒素装甲ってあなたの反射を元に作られてんですよ。ほら、この能力です。
窒素でそばにあるこの自動車だって、楽々持ち上げられます♪もちろん投げられます!」ブンッ!
一方通行「…能力を披露するのは勝手だが、人様の車をぶん投げるたぁ、見上げたヤツだなァお前」
一方通行「チッ」
電極にスイッチを入れる一方通行。ベクトル操作で宙に浮いた車を定位置に戻す。
絹旗「おお!傷一つ付けずに着地させた!?」
一方通行「くだらねェことに能力使わせんじゃねェクソガキ!!」
絹旗「何で能力使っちゃったんですか?」
一方通行「そんなにアンチスキルやジャッジメントに捕まりたいかお前」
絹旗「というわけで、これが私の窒素装甲です」
一方通行「あぁ、そう」
絹旗「どうでもよさげな返事ですねェ」
一方通行「無理もねェ」
絹旗「というわけで、これが私の窒素装甲です」
一方通行「二度も言わなくていいから。とりあえず俺とテメェに関係があるってことだけは分かッた。
暗闇の五月計画ってヤツだろ。そンくらい俺も知ってる。だから気になってついてきたッってか」
絹旗「最初はそうでしたけど、今はぶっちゃけその理由はどうでもいいです」
一方通行「どうでもいいのに車を投げたのか」
絹旗「いやぁ、たまに車を投げたくなる時って超ありません?」
一方通行「ねェよ」
絹旗「ある!」
一方通行「ドヤ顔で言われても困る」
絹旗「とにかく。私があなたを気になってる理由…それは―」
上条「お!一方通行じゃん!久しぶりだなー。元気にしてたか?」
一方通行「!」
上条「それと、そちらの方もこんにちは。はじめまして、上条当麻って言います」
絹旗「こんにちは。絹旗最愛って言います。最も愛すると書いて、最愛って言います!」
上条「なんとー!?そりゃ凄く良い名前ですね!」
絹旗「ですよねっ!」
一方通行「おうおう、良い遊び相手が見つかってよかったなァ。じゃ、俺は帰る」
絹旗「ちょ、どこ行くんですか一方通行!?」
上条「…あの、もしかして俺、お邪魔でした?で、デートの途中だったとか…」
一方通行「待て待て待て待てッ!!テメェ何勘違いしてンだ!?これは―」
絹旗「そうですねー。うん、じゃあデートってことにしときましょうか♪」
一方通行「!?!」
上条「や、やっぱりそうだったのですか…。
一方通行、彼女は大切にしてあげるんだぞ。上条さんからのお約束です!」
一方通行「約束も何も、そもそも彼女でも何でもねェんだよこいつはァ!!?
というか、何でお前妙に上から目線なワケ!??」
上条「上から目線だって…?むしろ逆だぜ一方通行。俺は、彼女のいるお前が純粋に羨ましいんだよ」
一方通行「だからそれは―」
上条「くー!上条さんだってモテたいのに!!神様はいつだって不公平だ…
俺にも出会いってやつがほしいですよ。出会いがほしい…!」
一方通行「……」
一方通行(自覚がねェってのは、恐ろしいことだなァ)
上条「というわけだから、そんな照れて否定しなくてもいいんだぞ!このことは誰にも言わないからさ」
一方通行(もうダメだ…バカ女はもちろンだが、このバカ男にも付ける薬がねェ)
浜面(あれ?いつのまにか凄い展開になってる。もしかして全部俺のせい?)←絶賛ストーカー中
上条「じゃあなお前ら!末永く爆発しろよ!」
そう言い残し、二人から立ち去っていく上条当麻。
絹旗「爆発しろとのことです」
一方通行「平然とリピートしてンじゃねェッ!!!!!
どういうことだコラァ!!?なぜあんな嘘をついたッ!?!」
絹旗「いやぁ、そのほうが盛り上がるかなと思いまして。つまり空気を読んだというわけです」
一方通行「俺にとっては最大のKYだッ!!!!!」
絹旗「話を元に戻しますね」
一方通行「ハァ!?戻すってどこに!!?」
絹旗「落ち着いてくださいよ。ほら、私があなたを気になってる理由について、です。
さっき言いかけたじゃないですか」
一方通行「そンなこともあったな」遠い目で
絹旗「それはズバリ、あなたの口の悪さです」
一方通行「あの、本気で帰っていいか?」
絹旗「待ってください!今のは本心なんです!」
一方通行「本心だとしても意味分からンから帰る」
絹旗「実は、私もあなた同様、相当口が悪い部類に入ります」
一方通行「…ほォ」
絹旗「だからですかね。どことなく親近感を覚えるってのはあります。ちなみに、
これも能力による影響だって言われてますよ。証拠に…黒夜の口調だってぶっ飛んでたじゃないですか」
一方通行「俺の攻撃性を取り入れたのが、あいつの窒素爆槍だったか」
絹旗「そうです。お分かりいただけましたか?」
一方通行「分かった。じゃあな」
浜面(まずい!一方通行の野郎、完全に冷めてやがる!これじゃせっかくの楽しい観察タイムも終焉を…!)
絹旗(さーて、どうしましょうか…)
……
絹旗(浜面にやったような手段が、一方通行にも通じるでしょうか?…やってみる価値はありそうですね)
絹旗「一方通行!」
一方通行「ア?だから、もうテメェはお呼びじゃねェんだっつう―」
絹旗「///」ヒラヒラ
一方通行「」
絹旗「どうです…?パンツは極力見えないようにしてるつもりですが…///」ヒラヒラ
一方通行「」
ワンピースの裾をヒラヒラさせる。
浜面(絹旗のヤツなんてことをッ!い、いかん…鼻血がッ!!いいぞ!!もっとやれ!!!)ヨッシャアアアアアアアアアア
一方通行「…オイ、絹旗とか言ったか?」
絹旗「ようやく名前で呼んでくれましたね!」
一方通行「ちょっとこっち来いや」
絹旗「え?ちょ、ちょっと、どこへ…!?」
路地裏へと引きずり込まれていく絹旗
浜面(な!?一方通行の野郎、絹旗に何をするつもりだ!!?
まさか…あのヒラヒラで発情でもしちまったか!?こ、この展開はまずいぞッ!!)
絹旗「一方通行…?」
一方通行「黙ってろ」
絹旗「!?」ガツン
絹旗は壁を背に。顔の真横には一方通行の左手が、その壁へと突き出される構図となっている。
絹旗(せ…迫られてる…!?)
顔を近づけていく一方通行。キスするとも受け取られかねない事態だったが…肝心の相方は顔を背けなかった。
一方通行「……」
一方通行(何でこいつ、顔を背けたり逃げたりしねェんだ…?)
絹旗「…っ」
一方通行(あまりにしつこすぎるから、こんなことでもやりゃァ
ドン引きして逃げていくとか勝手に思ってたが)
……
一方通行(認識が甘すぎたか…?本当に何なンだこの女はよォッ!!?)
浜面(二人をつけてたことがバレたら俺は間違いなくフルボッコだが…今はそんなこと言ってらんねえ!
性欲という悪魔に憑かれた哀れな若人を止められるのは俺しかいねえんだッ!!)
浜面が一方通行と絹旗の前に飛び出そうとした…瞬間だった
??「そ、そこの人!一体何をやってるんですか!?」
一方通行「ンぁ?」
絹旗「はれ?」
浜面(え?誰だ?)
声のした方向へと振り返る3人
初春「じゃ、ジャッジメントです!そこの髪の白い人!今女性に何をしようとしてたんです!?///」
一方通行(あぁ…アレか。つまりレイプだと見なされてると。まぁ状況だけ見りゃそうなるわァな)
佐天「待った待った初春!まだ黒だと決めつけるのは早いよ!」
初春「え?どういうことです??」
佐天「キスされそうだった女性の顔を見てた?普通に受け入れてたように、私には思えたよ?
これって双方が合意ならセーフだよね。まぁ、当たり前だけどさっ」
初春「あ…!そ、そうなんですか!?」
初春は絹旗へと尋ねる。
絹旗「そうも何も、この人わたしの彼氏なんで…!」
一方通行「」
佐天「あちゃー。初春、恥ずかしい勘違いしちゃったね!」
初春「そ、そうだったんですか!!///じゃ、邪魔してすみませんでしたぁぁ…」グスグス
佐天「あーもう。落ち込まない落ち込まない!そんなドジっコ初春も可愛いな♪」ギュッ
初春「こ、こんな状況で抱きつかないでくださいーー!!」
そそくさと、その場から立ち去っていく初春&佐天。
浜面(今のコたち、なにげにレベル高かったな…。い、いかん!俺には滝壺という大事な彼女がッ!!)
一方通行「とりあえずだ、絹旗最愛」
絹旗「おお、今度はフルネームで呼んでくれましたね」
一方通行「どうしても今日、俺から離れる気はねェんだな?」
絹旗「んー、なんか、あなたといると楽しいんですよね」
一方通行「何がそんなに楽しいンだ…??」
絹旗「カオスさが!」
浜面(言い得て妙だな!)
一方通行「…ハァ。勝手にしやがれ」
ついに一方通行は考えることをやめた
一方通行「どっか、行きたいとことかあるか」
絹旗「ついに開き直ったんですか?」
一方通行「お前がそうさせたンだろうが」
絹旗「さも私を原因のように…」
一方通行「つっこまねェぞ」
絹旗「そーですね。じゃあ映画館に行きたいです」
一方通行「そんな見たいモンがあるのか?」
絹旗「どっちかと言うと、この映画を見て、あなたがどういう反応をするのかってほうが気になります」
一方通行「そォか。じゃ、行くか」
浜面(やけに淡々としてるな。まさか一方通行のやつも満更じゃ…)
絹旗「着きました。ここですよ」
一方通行「…随分と辺境なとこに来たもンだな。もっとでかいのかと思ってたが」
絹旗「メディアにバンバン載るA級映画ならともかく、私が好んで見るのはB級やC級モノですからね。
となると、こういう小さいトコぐらいでしかやってないわけですよ」
一方通行「変わってンなお前」
絹旗「マニアに向かって“変わってる”は褒め言葉です」
一方通行「タイトルは何だ?」
絹旗「『マジ怪奇1000%』です」
一方通行「ぶっ飛んでンな」
絹旗「独創的とも言えますね。とにかく中へ入りましょう」
一方通行「そして中には人もいねェな」
絹旗「所詮BC級ですから。私たち以外は4人だけですね」
一方通行「怪奇って言うからには、ホラーものかァ」
絹旗「絶叫系とは限りませんよ。サスペンスの可能性だってあります」
一方通行「そうだな。…ン?あいつは…」
御坂美琴がいた
一方通行(見なかったことにしよう)
美琴「黒子!話が違うじゃない!?私は可愛い動物ファンタジーものって聞いてここに来たのよ!?」
黒子「まぁまぁ。たまにはこういう世にも奇妙な物語も、一興というものですわよお姉さま!」
美琴「まさかあんた、始めから騙すつもりでここに連れてきたのね!?」
黒子「そ、そんな滅相もない!私はただ、お姉さまと仲睦まじく映画を見たかっただけで…!」
黒子(そして暗がりの中で怖がって抱きついてくるお姉さまを…!グフフフフフ!!)
浜面(何か、隣の女の子から邪悪な気配を感じる。マジ怪奇1000%)
映画が始まる
絹旗「そうそう、これはショートストーリーものなので、数10分しかありません。
どうか噛みしめてご覧になっちゃってください」
一方通行「おう」
……
美琴「こ、怖いよおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!!」
黒子「お、お姉さまが私の肌にぃ!私の肌にぃ!!」
削板「なんのその!!これしきの恐怖、このナンバーセブンには通用しないぞ!!正義は勝つ!!HAHAHA!!」
一方通行(愉快な劇場だなァ)
そして映画は終了した
絹旗「どうでしたか?」
一方通行「とりあえず、怖ェとは思わなかった」
これまで幾度となく死と隣り合わせの体験をしてきた一方通行にとって、その反応は当然とも言えた。
一方通行「だが、“不気味さ”は感じた」
絹旗「それは興味深い感想ですね。恐怖は感じなかったわけですよね?どういうことです?」
一方通行「最後の殺人。結局、あの犯人は分からンままだったろ」
絹旗「え?犯人はあの共犯者じゃ?」
一方通行「…ありゃミスリードだなァ。あいつが殺したって証拠はどこにもねェし、
第一あれ以上殺人を犯す必要もなかったハズだ」
絹旗「じゃあ誰が…」
一方通行「殺人劇のドサクサに紛れて、他の誰かが犯人たちの意図とは別に殺っちまったか。
あるいはこの世のもンじゃねェ、何かしらの力が働いて死んだとかオカルトめいたもンかもしれねェなァ。
なんにせよ、そのへんは視聴者の想像に任せると言ったとこか」
絹旗「なるほど…。終盤のあの薄気味悪さは、そういうことだったんですね」
絹旗「しかし、本当によく考察しながら見てたんですね!こんな状況下ながら…尊敬します!!」
一方通行「こんな状況下?あぁ、そういや奴らの声を、
途中からシャットアウトしてたンだっけか。そろそろ解除しねェとな」
絹旗「え?もしかして映画を見てる最中ずっと能力を使ってたんですか?電池を消耗させてまでも!?」
一方通行「使用したのは本当に終わりの大事なトコだけだ。
それに、噛みしめてご覧になれって言ったのはテメェだろうが」
絹旗「…そんな些細なことでも守ってくれたんですね。私は、超嬉しいですよ」
一方通行「別に感謝するほどのことじゃねェ。じゃ、解除と」カチッ
美琴「怖かったぁぁぁぁぁぁッ!!もう二度と暖炉のある部屋に行けない…っ!!!」
黒子「お姉さま!!そういうときはいつでもこの黒子を呼んでくださいまし!!」グヘヘヘヘ
削板「Aが最後に死んだのはナゼだ!?どうしてあいつが死ななきゃならなかったんだ!!?
理不尽すぎる!!!この映画に続編はないのか!!?あるなら、ヤツは絶対蘇らすべきだ!!!
俺のスーパーパワーを使ってでもッ!!!!あ!そうか!!念じればいいんだなッ!!?
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!」
一方通行「確かに、これは凄い状況だァ」
浜面(あの絶叫男のせいで全然映画見れんかった…)
映画館を出る二人
絹旗「それにしても、本当に良い反応でしたよ一方通行!」
一方通行「良い反応も何も、ただ思ったことを口にしただけだが」
絹旗「見くびってたわけではないんですが…。正直、一方通行なら一言感想で済ませてもおかしくないと
思ってました。それをあんなに超考察してくれたってのは私にとって、超想定外だったんですね。
…私が映画好きなのは、さっき話しましたよね?」
一方通行「あぁ」
絹旗「これは私に限ったことではないと思うのですが。人ってのは、自分の好きなものを
懸命に見てくれたり、聴いてくれたり、考えたりしてくれるって行為は、やっぱ超嬉しいもんなんですよ」
一方通行「…そういうもンか?」
絹旗「超そういうもンです。あなたは、何か好きなものとかないんですか?」
一方通行「好きなものって…趣味ってことか?」
絹旗「そうですね」
一方通行「考えたこともなかったなァそういうの」
絹旗「これから見つけていけたらいいですね」
一方通行「そう…だな」
絹旗「今日は私のワガママに付き合ってくれて、超ありがとうございました!」
一方通行「ン?そういやもう夕方か」
絹旗「時間の経過は早いですねー」
一方通行「たそがれてやがンのか」
絹旗「そうかもしれませんね」
一方通行「……」
一体どういう心境の変化か。最初はあれだけ絹旗を鬱陶しく、避けようとしてた一方通行だったが。
いざ別れとなると、どうにも素直に喜べない自分がいた。
一方通行(…どうしちまったんだァ?俺はよォ)
絹旗「じゃあ、私はこれで…!」
一方通行「…おう」
そして、同時に一方通行は絹旗自身にも違和感を覚えた。何か様子がよそよそしい…気がした。
と、そのとき。1台の車が絹旗の横を通過した。そして―
バシャンッ!
絹旗「……」ポタッ
一方通行「……」
絹旗「……」ポタッポタッ
あろうことに車が水たまりをはね、絹旗は全身にその水しぶきを受けてしまっていた。
無論、上も下もびしょびしょとなる。
一方通行「お、オイ、大丈夫かー」
絹旗「…あンの車ァ…ッ!!」
一方通行「っ??」
絹旗「待てこらァッ!!!」
絹旗「…はっ」
一方通行「お、おう…」
絹旗「つい、地が出ちゃいました…」
一方通行「…お前が言った言葉は本当だったンだな」
絹旗「そうですね…。キレたりすると、つい…無意識にこうなっちゃいます」
能力に類似性があるため、口調まで一方通行の影響を受けているという話は本当だった。
絹旗「幻滅しましたか…?こんな叫び声だしちゃって…」
一方通行「は、ハァ??」
絹旗「こんな情けない姿も見せてしまうし…最悪です…!」
そう言って絹旗はその場を立ち去ろうとする。
一方通行「オイ!話はまだ終わっちゃいねェぞ!!?」
能力を発動し、一瞬で絹旗まで距離を縮める一方通行。そのまま彼女を抱きとめる。
絹旗「な、何を…!」
一方通行「お前ずぶ濡れなンだろ!?口調や見てくれを気にする前に、まずテメェの体を心配しろ!!
肌を冷やしたまま、家まで直行するつもりだったのかお前は??正気とは思えねェぞ…」
絹旗「…ッ」
一方通行「服に吸いついた水分、とってやるからじっとしてろ」
そう言うと一方通行は、一瞬にして彼女のまとっていた服を濡れる前の状態に戻す。
一方通行「まったくお前ってやつはァ…」
絹旗「…ありがとうございます。それと、…見えました?」
一方通行「…ァ?」
絹旗「透けてて、中が見えたりしましたか…?」
一方通行「……」
そういやブラの輪郭が見えてたような気もするが…。今は余計なことは考えないようにした。
絹旗「取り乱したりして…超すみませんでした。でも、分かってください。女の子として、
あんな口調も見てくれも…あなたには見られたくなかったんです。くだらない女の子の意地ってやつです」
一方通行「…スカートをヒラヒラさせてたのは、どこのどいつだァ?」
絹旗「あのときとは…状況が違うんです。意識してしまってるんですよ」
一方通行「……」
その後、各々の家へと戻った二人だったが…。どうも一方通行の心は“ここに有らず”のようだった。
一方通行「……」
そして、そんな一方通行を陰から覗く女性4人組。
芳川「どう?一方通行の様子は?」
黄泉川「どうも何か、いつもとは様子がおかしいじゃんな」
番外個体「キャハハハハハハ!!何なのあの一方通行の呆けた顔!?超受けるっ!!!」
打ち止め「も、もしかしてもしかして…」
黄泉川「どうした打ち止め?」
打ち止め「もしかしたら恋煩いかも!?ってミサカはミサカは大胆予想してみたり!!」
芳川「あ、あの一方通行が恋煩い…??」
番外個体「最終信号ちゃん、ついに狂っちゃった!?それだけは絶対ないわー。
あんな女心も分からないような男が恋とか、笑わせるのもいい加減にしてほしいよっ!!アハハハハ」
打ち止め「ち、違うもん!一方通行はいざとなったら女の子のことも…ちゃんと考えてくれる、
そんな頼りになる人!ってミサカはミサカは胸を張ってここに堂々と宣言してみる!!」
番外個体「おーおー、必死必死っ!」
黄泉川「二人とも落ち着くじゃん?あんま大声で話してたら一方通行に気付かれるじゃん」
打ち止め「ううー」
番外個体「そんなに言うなら、じゃあ賭けてみるっ?」
芳川「ちょっと番外個体。お金の賭けごとはダメだからね」
番外個体「安心しなさいなー。そんな非常識なこと、いくらミサカでも言わないからっ!」
打ち止め「番外個体がそれを言っても説得力ないかも…
ってミサカはミサカは黄泉川と芳川の心境を代弁してみたり」
黄泉川・芳川「うんうん」
番外個体「どんだけ信用ないのさミサカってー?まっ、いいや。賭けがオヤツなら、問題ないっしょ?」
打ち止め「オヤツ?」
番外個体「そうねー、一週間分のオヤツってことで、ここは一つ!
敗者は勝者にそのオヤツ全部割譲ってことでっ!」
打ち止め「う…地味にそれ結構痛いかもって、ミサカはミサカは素直に思ったことを口にしてみたり」
番外個体「あっれー?でも、要はこれって勝てばいい問題だよね。そんなに最終信号ちゃんは
自分の言葉に自信がもてないのかなぁ?一方通行が女の子のこともちゃんと考えてくれるっていう、
あれは嘘だったのかっ!だよねー!あんな自分勝手な奴がそんな思考できるわけ―」
打ち止め「一方通行はそんな人じゃないもん!いいよ、そこまで言うならミサカだって、
全力でオヤツを賭けてあなたと戦ってみせる!!ってミサカはミサカはここに宣戦布告をしてみる!!」
番外個体「そうこなくっちゃ♪」
芳川「うーん、相手を思いやる気持ちがあったって、それが恋煩いとは限らないと思うんだけど。
二人とも、いつのまにか論点が変わっちゃってるわね…」
黄泉川「まぁ、こういうのもいいじゃん?見てる側はすっげー面白いじゃん♪」
芳川「愛穂って本当に楽天的よね」
同じ頃、この騒動の首謀者HAMADURAは
浜面(結局あいつら、あの後どうなったんだろう…)
ナンバーセブン削板軍覇の妨害により(本人に悪気はないが)映画を集中して見れなかった浜面は
それが癪だったらしく、その後も映画館に残って一人『マジ怪奇1000%』を観賞していたのであった。
浜面(うーむ。変なプライドにとらわれず、尾行を続けてた方がよかったかも)
滝壺「ところでさ、浜面」
浜面「ん?何だ?」
滝壺「今日はどこへ行ってたの?携帯に鳴らしても出てくれなかったし…」
浜面「え?そ、それはだな、つまり…」
浜面(…もし本当のことなんて言ってみろ。間違いなく俺は、
あまりの行動のくだらなさに!!滝壺に幻滅されることになるであろう!!よって言わない)
浜面「く、車だよ車!ヤボ用で手に入れた中古車の改造に忙しくてよ!なるべく低コストで
スピートを出せるタイプにしようと思っててな!そうだ、完成したらお前にも乗せてやるよっ!」
滝壺「…?なんか怪しい気がするけど、まぁいいや。そうそう、絹旗についても聞きたかったんだけど」
浜面「え…?」
滝壺「麦野から連絡があったんだよ。何か絹旗の様子がおかしいって」
浜面「なんと」
滝壺「本人は『何でもないです!』って言ってるみたいだけど、どうも普段とは違うんだって」
浜面「そ、そうか…」
浜面(まさか、本当に仲が進展しちまったんじゃないだろうな?
相手があの一方通行なだけに、そんなことは有り得ねえと高をくくってたが…)
滝壺「私にも麦野にも心当たりがないし、浜面なら何か知ってるのかなって」
浜面「い、いや、俺も何も。たまたま体調が悪かったとかそういうオチだろ?
人間なんだし、たまにはそういうこともあるって!」
滝壺「そういうもんなのかな」
浜面「そうだそうだ!」
滝壺「何か浜面強引」
浜面「俺はいつだってワイルドだぜ?」
滝壺「はいはい」
そして翌日
一方通行「……」
一方通行(…なぜか寝付けンかった。いよいよ重症だなァこりゃ…何が重症なのかは知らねェが)
携帯に目を移す一方通行
一方通行(どうも、あまり気分の良くない別れ方だったなありゃ。
心残りってのはこういうことか…。かといって、俺はヤツと連絡を取る手段もない)
……
一方通行「…まァ、ないこともないか」
Prrrrrrrrrrrrrrrr、ガチャッ
浜面「朝っぱらから誰だよ…もうちょい寝かせてくれや…zzz」
一方通行『…俺だが』
浜面「へ!?一方通行ッ!!?お前からかけるとか、ど、どういう風の吹きまわしだ??」
一方通行『ちょっと頼みたいことがあるンだが』
……
一方通行『…というわけでヨロシクな』
浜面「そ、そりゃ別に構わないが…。な、なあ、お前ホントに何があった??」
一方通行『さァな。自分でも分かんねぇンだ。テメェに分かる道理もねェ。じゃ、切るぞ』
浜面「お、おう」
ガチャッ
浜面「……」
浜面(今の、確かに一方通行だったよな?)
……
浜面(まさか、あいつが絹旗と喫茶店で会えるよう、セッティングを頼んでくるとは…)
浜面「とにかく絹旗にも連絡しねえと」
Prrrrrrrrrrrrrrr、ガチャッ
絹旗『もしもし?…なんだ浜面ですか』
浜面「明らかに今、俺が相手でテンション下がったよな」
絹旗『そりゃ誰だって好き好んで、朝っぱらから浜面ごとき声など聞きたくありませんよ』
浜面「滝壺」
絹旗『…切っていいですかァ?』
浜面「わー!ちょっと待て!お前には伝えにゃならんことがあるんだよ!!」
絹旗『手短にお願いしますね』
浜面「今日の朝10時、いつもの喫茶店で待ち合わせな」
絹旗『え、今日アイテムで何かあるんですか?麦野は何も言ってませんでしたけど…』
浜面「相手はいつもの面々じゃねえよ。一方通行が、お前に会いたいんだってさ」
ガッシャアアアアーン!
浜面「!?ちょ、どうした絹旗!?」
絹旗『す、すみませんイスから転げ落ちてしまいました…。だ、誰が私に会いたいって…??』
浜面「聞こえてなかったのかよ。一方通行だよ一方通行」
絹旗『あの、マジで言ってるんですか?』
浜面「俺も信じられんが、これはマジなんだ」
絹旗『…朝の10時ですよね?』
浜面「そうだぞ」
絹旗『あああー!!どうしましょう浜面!?私、身支度全然整ってませんよ!!?』
浜面「お、落ち着け絹旗!まだ時間は8時だぞ!?十分間に合うじゃねえか??」
絹旗『そういう問題ではなく、心の準備が…!』
浜面「…とにかく、健闘を祈る」
絹旗『ちょ、浜面―』
ガチャンッ
浜面「ふう…」
……
浜面「1つ、分かったことがある」
浜面「(なぜか)良い雰囲気だ」
そういうわけで2時間後
絹旗「……」
一方通行「……」
絹旗「き、昨日はどうも…」
一方通行「お、おう…」
一方通行(何やってんだァ俺は…。呼び出した本人がこれじゃ、示しがつかねェぞ?)
絹旗「あ、あの!」一方通行「あのよォ…!」
絹旗&一方通行「あっ…」
一方通行「そ、そっちからでいいぜ?」
一方通行(ダメダメじゃねェか俺)
絹旗「あ、じゃあ、ええっと。昨日はすみませんでした…」
一方通行「?何で謝るンだ…?」
絹旗「だって…。私、逃げるようにして帰っちゃったじゃないですか。
しかも助けてもらったにもかかわらず。超最悪です」
一方通行「…別に気にしてねェよ。女は女で、何か考えるところがあったンだろ?
だったら、それ以上問い詰める理由、俺にはねェ」
絹旗「超優しいです一方通行」
一方通行「そういう言葉は、俺以外の全人類に言ってやれ」
絹旗「相変わらずそういうところは頑なですね。…で、あなたが言おうとしてたことは何です?」
一方通行「…昨日は楽しかったか」
絹旗「?もちろん超楽しかったですよ?」
一方通行「俺なんかと一緒にいてか?」
絹旗「『なんか』っていうのやめてください。私は“一方通行”といられて、本当に超楽しかったんですから」
一方通行「…変わってンなお前も」
絹旗「また言われちゃいました♪」
絹旗「そうだ。せっかくですし、電話番号とメルアド交換しましょうよ!
これで、あの超浜面を経由せずに一方通行に連絡を取ることができます!!」
一方通行(経由…)
一方通行「そういや俺らって、あいつがいなきゃ、
そもそも黒夜の一件以来、会えたかどうかも分かんねェンだよな」
絹旗「…確かにそうですね。それは認めます。浜面ごときですが、まさに感謝ってやつですね」
一方通行「だな。じゃ、送信するぜ?」
絹旗「はい。超受信します」
一方通行「…前から思ってたが、お前って随分とまぁ独特な『超』の使い回しするよな。
その『超受信』ってのは、『受信』と何が違うんだァ?」
絹旗「つまり、思いっきり受信するってことですよ!」
一方通行「気持ち多めにってか」
絹旗「そういうことです♪」
時は遡り午前9時。視点は浜面へと帰する。
浜面「というわけで、二人には集まってもらったわけだが!」
滝壺「怒ってるわけじゃないけど。何で昨日の時点で言ってくれなかったの?」
浜面「それはすまんかったな…。互いに意識してんなと思ったのが
今日の朝だったんだよ!だから、許してくれな」
滝壺「まぁ、いいけど」
麦野「しっかし、まさか絹旗のヤツが本気で第1位に熱をあげてたとはねぇ…。
正直、それ聞いたときは面喰ったよ」
滝壺「でも、本気の恋なら応援してあげたいよね」
麦野「まぁ…ね。相手が第1位ってのが気に食わないけど、そこは気にしないようにする」
浜面「二人とも良い奴だな」
滝壺「浜面だって同じ考えだからこそ、私たちを呼んだんでしょ?」
浜面「話が早くて助かるぜ!実はとある作戦を立ててきたんだがな…」
……
麦野「却下あああああああああああああッ!!!」
浜面「ど、どうして却下なんだ!?ってか、何で怒ってるんだ!!?」
滝壺「いや、そりゃ麦野が怒るのも無理ないと思うよ…」
麦野「私がマスクかぶって絹旗を人質にとって、それを一方通行が助けるって状況を演出するだぁ!!?
はまづらあああぁぁぁぁぁ!!テメェふざけてんのか!!?そんなに私には悪人がお似合いかぁッ!!?」
浜面「だ、誰もそんなことは言ってねえだろ!?ただよ…二人を一気にくっつけるには奴を、
一方通行をヒーローに仕立てる演出も悪くねえと思ったんだよ…」
滝壺「百歩譲ってその考え方がアリだとしても」
麦野「百歩譲らなくてもナシッ!!!」
滝壺「麦野と絹旗の付き合いは長いんだよ?いくらマスク等使って顔をごまかしたとしても、
声や体格、雰囲気ですぐ麦野だってバレちゃうと思うの。そしたら、その時点でこの作戦は終了だよね。
だって身内が絹旗を捕まえたところで、絹旗自身『何やってんの?』程度にしか思わないだろうし、
そんな状況で一方通行がヒーローに映えるような、緊迫した環境が作り出せるわけがないもんね」
浜面「まことにもって反論の余地もありません。的確な指摘ありがとうございます滝壺様」
麦野「そもそも、何で襲う役があたしなのよ!??テメェが自分でやりゃいい話だろ!!?」
浜面「あのなぁ麦野。俺みたいなレベル0が、レベル4の窒素装甲女を
まともに抑えつけられるとでも思ってんのか?」
麦野「納得」
滝壺「確かに浜面の場合、すぐ逆襲くらって終わりそうだよね」
浜面「悲しいが、まあそういうことだな。同じ理由で滝壺もダメだ。
だから、この役はレベル5の麦野にしか任せられねえと思ったんだよ」
滝壺「私としては、仮に麦野がこの作戦に賛成だったとしても、私は麦野にその役はやらせたくないかな」
浜面「え…?」
滝壺「浜面さ、絹旗のことばかり考えてるけど、それを助けるのは一方通行っていう、
学園都市最強の第1位なんだよ?もし、何かの拍子で麦野が大ケガでもしたら―」
麦野「待って滝壺。その発言はちょっと見逃せないねえ?第1位だから危ないだぁ??
はっ!!私が本気出したら、あんな奴一人くらいひねり潰して―」
浜面「第2位にすら手も足も出なかったヤツが何言ってんだ…」
麦野「……」
麦野「ならもう一回第2位にリベンジさせろおッ!!?今度こそ絶対私が勝つッ!!!」
浜面「落ち着け麦野!第2位の未元物質はもうこの世にはいないんDA!」
滝壺「体の一部分は冷蔵庫に保存してあるって聞いたことあるけど…。とにかく麦野落ち着いて」
麦野「くっ…」
浜面「しっかしありがとな滝壺。もしお前が指摘してくれなかったら、この危ない役、麦野に任すとこだった」
滝壺「今度から気をつけてね浜面」
浜面「けど、これで話はふりだしに戻っちまった。襲うのに適任なやつ、誰かいねえかな」
滝壺「その『襲う』って作戦自体を見直す考えはないんだね」
麦野「そもそも第1位を、ケガするからとかいう理由で引き合いに出してたら、その作戦自体、
実行不可でしょうが。第1位と対抗し得る力をもち、且つこんな見返りもない…リスクしか背負わないような
作戦を引き受けるくらいのとんだお人好し。こんな破格な条件そろえた人間とか、この世界にいるのかよ」
浜面「…いや、待て。第1位と対抗し得る力をもち、且つとんだお人好しの人間が、いた」
麦野「え?マジで?」
浜面「そうと決まれば早速電話だ!」ピッ
Prrrrrrrrrrrrrrrrrrr
……
上条「というわけで、上条さんはここへとやって来たわけですが…」
麦野(なるほど、こいつがいたか)
滝壺(灯台もと暗し)
上条「まずは…皆さんおはよう!麦野さんと滝壺さんは会うの初めてだよな。よろしく!上条当麻です!」
麦野「麦野でいいよ。よろしくね」
滝壺「滝壺です。同じくよろしくお願いします」
上条「あなたがその…浜面の彼女さんですか?」
滝壺「はい。夫がいつもお世話になってます」
上条「え!?浜面!お前、結婚してたのか!?」
浜面「滝壺さんよぉ…。こいつ、あんま冗談が通じねえんだ。極力からかわないでくれな…」
滝壺「ごめんね浜面」
上条「そ、そうかウソだったのか。けど彼女だよな…。くうー!
一方通行といい浜面といい、上条さんはとても羨ましいんですよ」
浜面(何でこいつ、自分がモテてるって気付かねえんだろう)
浜面「ところで、さっきから上条の後ろにもう一人いるみたいなんだが…」
美琴「ど、どうも…」
麦野「だ、だ、第3位!!?」
滝壺「麦野動揺しすぎだって」
麦野「これが落ち着いていられるかあッ!!?第3位ィ!あのときの決着はまだついちゃいな―」
浜面「麦野、頼むから今は黙っててくれ。余計に事態が混乱する」
麦野「はい…」シュン
滝壺「おー、麦野いいコいいコー」ナデナデ
美琴(第4位にこんな側面があったなんて??)
浜面「で、何で超電磁砲までついてきてんだよ上条…」
上条「じ…実はだな」
……
浜面「つまり俺の家まで全速力で走ってたら、それを超電磁砲に見つかってしまったと」
上条「あぁ…。それでワケを話したら、『私も行く!』って言われたんだ」
美琴「だってそうでしょう!?いくら二人をくっつけるためとはいえ、
あの一方通行と対峙させるなんて…。そんな危険なこと、こいつには任せられないわ!!」
上条「でも俺、一方通行に勝ったこともあるじゃねえか。だから、なんとかなるって!」
美琴「当たり前のように言わないの!あのときだって、一歩間違ってたらあんた死んじゃってたんだから…っ」
上条「御坂…」
浜面(すぐ近くにこんな心配してくれる奴がいんのに、自覚がないのが上条当麻なんだよなぁー)
麦野「文句言うためだけに来たんならさぁ、あんたがその役やりゃいいんじゃない?第3位」
美琴「え…」
麦野「それとも何か、過去のトラウマでもあって第1位とは戦えないってか」
美琴「そ、それは…!」
上条「麦野さん!!いや、麦野でいいんだっけか。こいつの過去は、そんな他人が軽く扱っていいほど
薄いもんじゃねえんだ。だから、そこは…理解してやってくんねえかな?」
麦野「な、何ムキになってんのさ…。わ、分かったよ。言わなきゃいいんでしょ!」シュン
滝壺「むぎのん、今日はテンションの落差激しいね」ヨシヨシ
浜面「上条、やっぱこの作戦はいいわ」
上条「え?何言って―」
浜面「今までが今までだ。お前ならなんとかなると思って安易に役をお願いしたが…。もうちょっと、
自分を心配してくれる人間のことも考えろっての。そうまでして、俺はお前に強いたりはしねえよ」
上条「浜面…」
浜面「もっとも、襲う役といっても…そんなに危険なものとは、俺自身思ってないんだぜ。
もし絹旗を抑えつける能力があるんなら、俺が買って出てるさ。今の一方通行が人を殺す、ましてや
それが知人なら尚更。大ケガさせるような真似、やらかすとは思えんからな。そこは…奴を信用してる。
だが、そこの超電磁砲はいまだそれを信じ切れていない。ただ、それだけの話だ」
麦野「第3位…。あんたさぁ、まだ一方通行のことは許してないわけ?」
滝壺(復活が早いのも、麦野の良いところだね)
美琴「私だって…そんなに強情じゃないわよ。あいつ(一方通行)の活躍はこいつ(上条)から
随分聞かせてもらったし、あいつが…今と昔じゃ全然違うんだってことも知ってる。頭じゃ分かってるの。
けど、こいつが万が一にもケガしたら嫌だ…。そんな可能性を考えてしまう時点で、いまだ私は一方通行
のことを完全には信じ切っていない…ってことなのかもしれないわね。そういう自分にも嫌になるけど」
滝壺「じゃあさ、二人で一緒にやればいいんじゃない?」
上条&美琴「え」
滝壺「絹旗と一方通行、二人をくっつけるのがこの作戦の目的だけど…。
別に、そこだけに固執しなくてもいいんじゃないかな。だって、浜面が考えた作戦なんだよ?」
浜面「滝壺…言うようになったな」シクシク
滝壺「今の一方通行が、実際にどういう人間なのかが分かるって点においても、この作戦は
御坂さんにとって…彼を知る良い機会になると思うの。…と、偉そうなこと言ってごめんなさい」
美琴「いや、確かに滝壺さんの言う通りね」
上条「御坂??」
美琴「いつまでも、あいつのことを知らないまま生きるってのもどうかと思ってた頃だから…!」
上条「そっか…。よし!じゃあ、よろしく頼むぜ御坂!」
美琴「ええ!同時に、あんたが無茶しないようキッチリ監視もしておくから!」
上条「やっぱそうなるのね…」
浜面「じゃ、そうと決まれば早速作戦会議だ!」
麦野「張り切ってるところ悪いけどさぁ、もう浜面は作戦立案からクビにして、
参謀は滝壺先生に任せちゃった方がいいんじゃない?さっきから的確なこと言ってんのは彼女なんだし」
浜面「全く反論できないのが悔しい…ッ」
滝壺「大丈夫。私はそんな浜面を応援してる」
それから3時間後の午前11時。喫茶店にて。
一方通行「…そろそろ出るか?」
絹旗「そうですね。ちょうど良い頃合いですし」
一方通行「しかし、まさかお前に携帯のメール機能について教わることになるとはなァ」
絹旗「これで絵文字や顔文字が超打てますね♪」
一方通行「超が付くぐらい、俺が使う日が来れば、の話だがなァ…」
絹旗「じゃあ、私に今度そういうメールしちゃってください!超期待してますから♪」
一方通行「そォかそォか。まぁ考えとくぜ」
一方通行(今日初めて会ったときと比べたら、随分会話がはずむようになりやがった。
こいつが積極的だからってのも、もちろんあるが…。これも慣れってやつなんですかねェ)
二人は喫茶店を出る。
絹旗「さて。この後どうしましょう?ちなみに、私に用事はないですよ」
一方通行「奇遇だなァ。俺もなかったところだ」
絹旗「そうですか!じゃあ、とりあえずは…」
??「き、絹旗絹旗!ちょっとこっちに来てくれないか??」
絹旗「え…?は、浜面??ど、どうしてここに??」
浜面「いいからこっちに来てくれ!大事な話があるんだ!」
絹旗「で、でも…」チラッ
一方通行「ン?俺はここで待ってっから、さっさと行ってこい」
絹旗「あ、はい!すぐ戻りますね!」
……
絹旗「浜面のヤツはホントにもう…。こんなところで一体何の用なんです!!?って、いない…?
変ですね。確かにこっちの曲がり角に来たと思ったのですが…。ちょっと浜面!?隠れてるなら怒りま―」
ガシッ
絹旗「!?」
??「ゴメンな…ちょっと動かないでいてもらおうか」
マスクをかぶった男にいきなり右手を掴まれ、後ろから拘束される形となる絹旗。
絹旗(何のつもりは知りませんが、バカな奴もいたもんですね…。
私が右手から窒素を出せば、その瞬間こいつは一本背負い―)
そこで絹旗は異変に気付く
絹旗(!?窒素が出ない??)
それもそのはず。その手を幻想殺しの右手に掴まれているのだから。
上条(自分でしていて何だけど、結構こういう役って良心にくるもんだな…。マジ、ゴメン絹旗!)
もちろん絹旗は、背後の人物が、内心では謝り倒してることなど知るよしもない。
絹旗(なら、左手で…!)
そう思ってた矢先、今度は左手をも誰かに掴まれる。
絹旗「ッ!?」
??「今ここからゼロ距離で億単位のボルトを流されたら。さすがの“窒素の壁”も、防ぎようがないわよね」
瞬間、絹旗はこれが脅しではないことに気付いた。レベル4として、そしてこれまでの実戦経験からの直感。
この左後方の人物が、麦野と同じレベル5相当であることを瞬時に彼女は読み取ったのだ。
となると、そんな超能力者で電気を扱う人間は、この学園都市には一人しかいない。
絹旗「超電磁砲…?何のつもりですか…!?」
美琴「とにかく、今は私たちの言うことを聞いて」
美琴(ってか正体バレちゃったじゃない!!?せっかく恥ずかしい
思いをしてまでマスクかぶって出てきたっていうのに!!)
もちろん絹旗は、背後のもう一人の人物が、内心では超恥ずかしがってることに気付いていない。
絹旗「…っ」
背後二人の心境はともかく。こうなってしまうと、絹旗もただの“中学生”である。
絹旗(完全に動きを封じられてしまいました。情けない限りです…)
一人が超電磁砲ということは、もう一人もレベル5相当であることは間違いないはず。
そんな二人に後ろから拘束されてるという状況を、改めて認識した絹旗。そして当たり前だが、
どうにもその二人からは友好的な空気は感じられない。話し合ってなんとかなるものでもなさそうだった。
絹旗(…っ!)
それを強く認識したせいか、わずかではあるが自分の体が震えてることに気付く絹旗。
絹旗(本当に情けないですね…。仮にも暗部だった人間が、なんたるザマですか…)
認めたくはなかったが、これはたぶん“恐怖”という感情なのだろうなと…。そう考えざるを得なかった。
……
一方通行「…遅ェな」
絹旗が路地裏に消えて5分が経過していた。まだ5分、と言われればそれまでだが、
どうも先ほどの『すぐ戻ります!』を鑑みる限り、5分というのは少し長いようにも感じた。
一方通行(絹旗…?)
そして後ろのマスクの男が、ここで意味不明なことを言い出す。
上条「おい。ただちに『助けて!』って大声で叫ぶんだ」
絹旗「…え?」
驚くのも無理はない。そんなことをしたら助けがきてしまうではないか。
だとしたら、それは彼らの首を絞めるだけ。なのに、なぜこんな命令を…
美琴「…命令が聞けないようね。なら、ちょっとこっちのほうを見なさい」
抑えられてた体の向きを、わずかにずらされる。そこで絹旗が目にした光景は―
絹旗(!!?麦野!!浜面ッ!?)
道路の端で。二人がうつぶせになって倒れてるのを発見する。そして…。追い打ちがかかる。
上条「まだあの二人には息がある。だが、今すぐ命令が聞けないようなら…。
今ここで、奴らの息の根を止めてやってもいい」
絹旗(そんな…っ!!)
上条(はぁ…。いつまで上条さんは、こんな下衆な悪役務めればいいんでせうか)
美琴(後ちょっとなんだから頑張りなさいよ!)
絹旗(麦野をも倒すなんて、やっぱりこいつら尋常じゃない…っ!!)
絹旗「……っ!!」
絹旗(なぜ二人組があんな命令を下したのかは分からない。その意図も分からない…。けど!!
今はこれに従う他ない!!そうしないと麦野と浜面は…ッ!!それに一方通行なら…!
きっと駆けつけて、そして助けてくれる!!!)
そう信じた瞬間だった
絹旗「一方通行!!!助けてっ!!!!」
一方通行「!?」
一方通行(クソがァ…ッ!!嫌な予感が当たりやがったか!!?)
すぐさま、絹旗が向かっていった路地へと入りこむ一方通行。
一方通行「ッ!」
絹旗「一方通行…っ!」
上条「やっとお出ましか。遅かったぞ」
一方通行「テメェら…ッ!!?絹旗に何してやがるッ!?!」
上条「何してるって、見ての通りさ。で、君はどうするつもりかね。このコを助けるのか?」
一方通行「あぁ??助けるとか助けないとか、それ以前に。とりあえずテメェらの八つ裂きは決定だがなァ」
上条「ひ!?ひいいいいいいいいいいいいっ!!?」
美琴(ちょ、ちょっと!何、地を出してんのよ!?私だって怖いのすっごく我慢してんのにッ!!!)
絹旗(あれ?後ろの人たちから、急に小物臭が…)
一方通行「っつうわけで、覚悟しろや…!!」
ベクトル操作を足にかけ、瞬く間に上条の真横へと出現する一方通行。
上条(相変わらず速ぇなオイ!!?)
美琴(浜面!!早くッ!!)
浜面(言われなくても分かってる!!半蔵特製の、この火薬兼けむり爆弾を喰らえ!!)
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン
上条(この爆発は!一方通行が俺らを倒す過程で起こったものだと…絹旗に認識させるもの!!)
美琴(そして、私たちはこの煙に紛れて逃走する!!)
浜面(俺たちの命も助かるし、この爆発の衝撃で敵が吹っ飛んだと絹旗に認識させれば…!)
麦野(作戦はこれにて完了ね!!)
しかし、そうは問屋が卸さなかった。
一方通行「オイオイ…なんだこりゃァ?目くらましのつもりかよ」
上条「!!」
美琴「予想以上に煙が晴れるのが早いっ!!?」
浜面「やっぱ一方通行のベクトル操作はすげえなぁ!さすが第1位!!」
麦野「感心してる場合かよ!?」
浜面「ってか、よく考えたら死んだふりしてた俺らは逃げる必要なかったんじゃね??」
麦野「!しまった!」
美琴(それって作戦前に何度も滝壺さんが言ってたことだと思うけど…。
浜面はともかく、第4位さんもドジっコだったのね…)
上条「お、おい!御坂!!危ねえッ!!!!」
美琴「え…!?」
一方通行「逃がさねえぞオラアァッ!!!!」
マスクをかぶってるため、一方通行には彼女が美琴だとは分からない。彼の攻撃が…直撃しようとしていた。
美琴(…やるしかないっ!!!)
バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!!!!!!!!!!!
一方通行「おォ!?」
突然の頭上からの雷に、思わず体を翻す一方通行。美琴はスレスレのところで、直撃を免れた。
美琴(…最大出力の不意打ちなんて、こんな珍芸…おそらく最初で最後でしょうね。
そのまま向かってきても奴にはびくともしなかったでしょうけど。さすが、一方通行も人間ね。
不意打ちで動物のもつ反射意識を発動させて、わずかながらでも体を回避の方向へともっていくことに
成功した…!おかげで角度がずれ、直撃だけは免れたわ…っ。今更ながらゾッとするわね)
一方通行「お前…ッ!?」
そう、一方通行も気付いてしまっただろう。なんせこんな雷クラスの電撃、
この学園都市では一人しか心当たりがないからだ。
美琴(なら、もうこのマスクも用済みね)
マスクを脱ぎ、素顔をさらけだす美琴。9982号、そして10032号のとき以来…。
超電磁砲と一方通行が3度目に対峙した瞬間だった。
一方通行「…テメェ、何をやってやがる」
美琴「……」
一方通行「何をやってンのかって、聞いてんだよ超電磁砲ッ!!!?」
美琴「何するもなにも、あなたが見ての通りよ」
一方通行「…ァ?」
美琴「絹旗さんを襲おうとした。ただ、それだけ」
一方通行「テメェ…」
美琴「だから、私はあなたに罰を受ける必要がある」
一方通行「何を言っていやがる…?」
美琴「あたがそれにふさわしいと思う攻撃を、私にちょうだい。私は…逃げも隠れも、避けもしないわ」
そう言って美琴は両手を水平に広げ、大の字に立つ。
上条「み、御坂!!何やってんだあいつ!!?止め―」
麦野「やめな上条当麻!!第3位の意志を無駄にするつもり!??
そういうのは、一番近くにいるあんたがてっきり理解してるもんだとばかり思ってたけど」
上条「ぁ…」
麦野「そう。最初の、この作戦の趣旨でもあったはずよ。第3位は…この極限状態という状況下で
敢えて自分を逃げられないようにしてる。全てはそんな自分と、一方通行を試すためにね」
上条「御坂…っ!!」
一方通行「はァ…。そうか、そうですかァ。じゃあ、やりたいようにやるが、いいンだな?」
美琴「…ええ」
一方通行「本当にいいンだなァ!!!?」
美琴「…な、何でも、き、きなさい…よっ!!」
美琴(絶対に逃げない…!!)
一方通行「ヒャハハハハハハハ!!!!!!!!」
高速で、無防備な超電磁砲へと近づく一方通行。そして―
一方通行「ひと思いに死ねやコラアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!」
美琴「!!!!!」
上条(御坂ッ!!!!)
一方通行「なぁんて、言うとでも思ったか?このバカが」
美琴「へ…?い、痛!」ビシッ
一方通行「あれぐらいで俺が逆上すると思ったら、大間違いだバカタレ。
そんな卑小な自分は、とっくの昔に殺してきたっての」
美琴「今のって…。え?で、デコピン??」
一方通行「お前がふさわしい攻撃って言ったんだろが」
美琴「今のが…ふさわしい、攻撃??」
一方通行「どうせ絹旗を襲った…。いや、襲おうとしたのも、何かくだらない理由のためって、
そんなオチなンだろ?んなふざけたガキにはデコピンで十分だ」
美琴「…どうしてそう思ったの?」
一方通行「かつて。どうしようもねェ腐った野郎に立ち向かい、大勢の命を…テメェの命を
投げ出してでも救おうとした。そんな人間が、悪意をもって何かするはずがねェもンな」
美琴「一方通行…っ」
一方通行「まぁ、それでも…俺が怒ってるってことには、変わりはねェんだけどなァ!!?」
美琴「!!?」
一方通行「こんな茶番に付き合わせやがってえッ!!!覚悟はできてンだろうなお前らァァ!!!?」
滝壺(まー、そうなるよね)←陰から見てた
Prrrrrrrrrrrrrrrrrrrr、ガチャッ
一方通行「お、ちょっと頼みたいことがあるンだけどよォ。とりあえず全速力でいつもの喫茶店の、
すぐ近くの道路のわき道へと来てくれね? ア?抽象的すぎて分からねェだァ?テメェのテレポートなら
何十個場所の候補があろうが、1分もかからずゴールインできるだろうが。じゃ、頼むぜ」ピッ
??「なんて人づかいが荒い暴君なのこいつは…」
一方通行「おォ?10秒もせずにご到着ときたぜ」
結標「2ヶ所目で運よくここが当てられたのよ…。ってか、
人を便利屋みたいに呼んでんじゃないわよ!!?今度は何ッ??」
一方通行「ちょっとこいつらをさァ、…そうだな、近くの公園でいっか。
全員そこまで飛ばしてくれねェか。あァ、俺も含めてな」
結標「あなたらしい全くもって意味不明な展開だけど、どうせその理由を尋ねたところで不毛そうね…。
分かったわ。飛ばせばいいんでしょ?」
一方通行「話が早くて助かるゼ」
結標「あんたは…!調子にのってると、いつか事故装ってコンクリの中へと突っ込ませてやるんだから!!」
一方通行「お前には本当に感謝してる」
結標「言動の不一致が凄まじいわね」
結標「あら。ねえ一方通行。幻想殺しはどうしたらいいの?能力打ち消すせいで、彼は飛ばせないんだけど」
一方通行「お前、公園まで走れ」
上条「俺だけ不幸だああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
一方通行「というわけで、最後に俺もよろしく」
結標「はいはい。勝手な依頼も、これで最後にしてほしいものね」
……
公園にて
一方通行「っつうわけで、絹旗除くお前ら全員、そこで正座」
浜面「結局こういうオチになるのか…」
滝壺「というか、この作戦自体、もともと成功率はゼロに近かったんだけど」
浜面「失敗するの前提でこれやったんか!?」
滝壺「そもそも“暴力的手段”で絹旗と一方通行をくっつけるって考え自体無茶だったから。
私が浜面の原案をかなり弄って、ようやく失敗率が95%に下がったかな?って感じ」
浜面「なんかもう、ホントに申し訳ございません滝壺先生…」
公園の中央で5人が正座させられている光景は、それはそれは異様だった。
子供「ママー。あの人たち何をやってるの?」
母「しっ!見ちゃいけません!」
浜面「あーもう。本当に散々だ」
絹旗「…しかし。浜面はともかく、まさか麦野や滝壺たちまでこんなくだらない茶番に噛んでたとは…」
麦野「いやー、二人の恋を応援してあげよう!!って思っただけなんだってば絹旗!」
一方通行「こ、恋だァ!?」
滝壺「麦野。彼そっち方面に免疫なさそうだから、ダイレクトにそんな言葉発しちゃまずいってば」
絹旗「まあ…そういうことなら、気持ちだけでも受け取っておきます。超ありがとうです//」
一方通行「テメェもテメェで、何照れてンだ??」
上条「いやぁ…。なんというか、疲れたな?御坂さんや」
美琴「なんで爺さん口調になってんのよ…まぁ気持ちは分かるけどさ」
美琴「ねえ、一方通行」
一方通行「ァ?」
美琴「とりあえずさ…今のあんたがどういう人間なのかってのは分かったわ。
それでも、まだ友達という段階までは…いけない。そうなるには、まだ少し時間がかかると思うの」
一方通行「…はっ。そうかよ」
美琴「でも、これだけは言っておく。絹旗さんのために頑張ってたあんたは、カッコよかった」
一方通行「テメェなんぞに褒められても嬉しくねェ」
美琴「その調子で、これからもあんたの周りの人間を…守ってやってね」
一方通行「…おう」
上条(御坂…よかったな)
麦野「ありゃりゃ。なんか良い雰囲気だね。しばらく二人っきりにさせておくか?」
絹旗「あれ!?いつのまにか作戦の趣旨が変わっちゃってる??」
滝壺「まさかの強力なライバル出現。絹旗の運命やいかに」
浜面(麦野も滝壺も楽しんでんなぁ)
一方通行「もういいわ。解散だクソッタレ。お前らの酔狂にこれ以上付き合ってられっか」
麦野「なるほどなるほど。第1位はこれから絹旗とあんなことやこんなことをしたくてたまらないと」
一方通行「第4位だったか…?今すぐテメェの首と体を分離させてやってもいいンだぜ?」
麦野「あぁ!?上等だよ第1位ィイ!!!貴様とはいつか本気でやりあってみたかったのさッ!!!」
上条「さて、じゃあ俺たちは帰るか」
美琴「そうね」
浜面「ちょ!そこで帰るか!?誰かこの人格破綻者たちの争い止めてくれよ!!?」
滝壺「心配しなくても大丈夫。絹旗がなんとかしてくれる」
絹旗「あの、一方通行。今すぐ遊びに行きたいんですが…ダメですか?」
一方通行「チッ。しょうがねェな。第4位、この戦いはお預けだ」
滝壺「ほらね?」
浜面「二人ともラブラブじゃねえか」
……
一方通行「というわけで、ようやく二人っきりになれたなァ」
絹旗「ここまでかかるのに長かったですね」
一方通行「騒がしいってレベルじゃなかったぞアイツら」
絹旗「でも、ちょっと超楽しかったです!」
一方通行「…今日本語おかしくなかったか?」
絹旗「気分が高揚してるとおかしくなっちゃうんですよ!」
一方通行「そォかそォか」
絹旗「では改めまして。どこへ行きます?」
一方通行「そうだなァ…ぶっちゃけあんなことがあった後だ。ぶっとんだ楽しみ方はできねェかもだなァ」
絹旗「ま、そんな気分ですよね。じゃぁちょっと遊ぶ程度にしましょうか。ゲーセンとかどうです?」
一方通行「別に構わねェ。何か好きなゲームとかあンのか?」
絹旗「いえ、ゲームが目的ではないんです」
一方通行「あン?」
一方通行「…まさか、俺がこんなものに触れる日が来ようとはなァ…」
絹旗「あれ。プリクラ嫌いですか?」
一方通行「そうじゃねェが…。なんかこう慣れねェっていうか、俺にとって新世界すぎるっていうか…!」
絹旗「ニューワールドですか?じゃあ私と一緒にそのニューワールドへ突撃しましょう!」
一方通行「お、押すなっての!ちゃんと中に入るからよォ…」
慣れない環境に戸惑いを隠せない一方通行だった。
絹旗「一方通行?もうちょっとこっちへ寄ってください!」ドサッ
一方通行「お、おう…?!」
一方通行(近ェ!ってか肌が触れ合ってるじゃねェか??
…なンでだ?以前こいつに顔近付けたときは、なんとも感じなかったのによ?)
そこで一方通行は、昨日の彼女の言葉を思い出す。
絹旗『あのときとは…状況が違うんです。意識してしまってるんですよ』
一方通行(…俺も意識しちまってるってか?いよいよ病気だなァこりゃ)
一方通行(って今気付いたが)
一方通行「目の前の画面、俺たちの姿が映ってンだな」
絹旗「そりゃ当たり前ですよ。じゃなきゃ、自分たちがどんな顔してるか分からないじゃないですか!」
一方通行「そ、そうだな…」
一方通行「……」
一方通行(俺って、こんな無愛想な顔してたのかァ…?
自分の顔見るってのは、あんま気分の良いもんじゃねェな…)
機械「では撮影します。3、2…」
絹旗「一枚目撮りますよ一方通行っ!」
一方通行「え?ァ」パシャッ
撮られた画像を、目の前で確認する二人。
絹旗「ちょ、一方通行どこを向いてるんですか!?」
一方通行(本当だ…。何で俺、絹旗とは逆方向斜め下向いてンだ)
絹旗「ちゃんとカメラのほうを見てもらわないと困りますよ。それとも、何か見えちゃったんですか?」
一方通行「床に幽霊がいるとは思えねェな」
絹旗「分かりませんよ?プリクラに未練を残して、ここで命を絶った自縛霊だったのかも…?」
一方通行「どんな未練だよ」
絹旗「じゃあ、なぜ幽霊が…」
一方通行「だから幽霊から離れろっての!!単にカメラに注意がいってなかっただけだ!」
絹旗「じゃあ、今度こそはうまく撮りますよ!」
機械「撮影します。3、2、1」パシャッ
一方通行「今度は上手に撮れたンじゃねェか?」
絹旗「確かに目線はいいですけど…。一方通行、もうちょっと笑ってください!」
一方通行「え」
一方通行(俺に… 笑 え 、だと!?)
絹旗「そういう一方通行の顔も見てみたいんです。それに、せっかく一緒に映るんです…」
一方通行「……」
一方通行(…どうやら覚悟を決める必要があるようだなァ)
絹旗「あ、分かりました。もっと密着させればいいんですねっ!」ギュッ
一方通行「お、オイ…!?」
絹旗「男の人って、こういうことすると超喜ぶって聞いたんですが…!」
一方通行「いや、これは…ッ」
確かに、笑顔にはなるかもしれない。だが、その笑いとは純粋な笑顔ではなく…単なるニヤケ顔。
一方通行(そんな情けねェ顔した自分など、見たくねえッ!!!!)
必死に顔に力を入れる一方通行。そして、当然ともいえる結果が生まれる。
機械「2、1」パシャッ
絹旗「……」
一方通行「……」
絹旗「一方通行…。さすがにこれは、顔が引きつりすぎです…」
一方通行「プリクラってのは難しいなァ」
絹旗「次が最後の一枚ですよ一方通行!」
一方通行「も、もうラストかァ…?」
一方通行(マズイ、自分としてもちょっと油断しすぎてた…。次こそはバッチリ決めねェとッ!?)
しかし気合いを入れようとすればするだけ、かえって顔に力が入るだけだった。
一方通行(どうすりゃいいンだァ…??)
絹旗「…一方通行。私はですね、あなたのことを考えながら…映ってましたよ♪さっきから、ずっと」
一方通行「…?」
絹旗「……」
一方通行(何かの…ヒントか?ってことは、何か?俺は俺で、
絹旗のこと考えながら…映りゃァいいのか?そしたら良い顔で撮れるって…)
機械「撮影します」
一方通行(…やるしかねェな。絹旗最愛…か。ヤツは俺にとって…)
3、2
一方通行(大切な…存在―?)
1、パシャッ
二人はゲーセンを出る。
絹旗「今日は超ありがとうございました!」
一方通行「何言ってやがる。もとはと言えば、呼びだしたのは俺だろうが。感謝すンのは俺のほうだ」
絹旗「一方的なのはナシですよ。今日会えるって連絡が浜面からあったとき、私は本当に
超嬉しかったんですから。もっとも、ちょっと急すぎてびっくりしたのも、また事実でしたけどね?」
一方通行「あぁ、確かに急だった。それはすまンかったな。だが、次からはそうはならねェよ」
絹旗「アドレスだって交換しましたもんね。
これで、好きなときに好きなだけ連絡を取り合うことができますからっ」
一方通行「そりゃ言いすぎだっての。風呂入ってるときとか―」
絹旗「私の裸、想像しちゃいました…?」
一方通行「!!?と、突然そんなこと言うンじゃねェ!!想像しちまっただろうがッ!!?」
絹旗「え」
一方通行「あ」
絹旗「…想像しちゃったんですね。一方通行の、エッチ///」
一方通行(くッ…!!!!)
その後。絹旗と別れを済ませた一方通行は…家へと帰宅していた。
一方通行「……」
一方通行(まだ黄泉川と芳川は帰ってねェか)
ふと、携帯の待ち受けを眺める。
一方通行「…俺も、こんな表情できンだなァ…」
プリクラでの、その後の出来事を思い浮かべる。
……
絹旗『一方通行』
一方通行『お、おう』
絹旗『良いです!!これ、すっごく良いですよ一方通行!!』
一方通行『そ、そんなに絶賛するほどかァ?これ』
今までの写真で…最もうまく撮れてることには違いなかったが。そこまで笑顔…というわけでもないはず。
絹旗『自分で自分の表情が分かんないんですか?ほら、ちゃんと見てください!』
絹旗『凄く。優しい目をしてるんですよこれ』
一方通行『そ、そう…なのか??』
どうも、自分ではそのへんの感覚が分からない。だが絹旗がそう言っているということは…
つまりそういうふうに受け止めてもいい、ということなのだろうか。
絹旗『よし!この写真を携帯に転送しましょう!!その前に…落書きですね♪』
一方通行『ラ、落書き…?』
絹旗『撮り終えた写真に、上から自由に落書きできるんですよ!背景だって自由自在です』
一方通行『そんな機能まで付いてたンだな…』
絹旗『本当にプリクラのこと何も知らなかったんですね一方通行は』
一方通行『悪かったな』
絹旗『というわけで超編集タイムですが。一方通行も参加しますか?』
一方通行『いや…。俺は、先に外で待ってるぜ』
絹旗『えー、こういうのも結構楽しいんですけどね。分かりました!ちょっと待っててください♪』
一方通行『焦らなくてイイからな』
絹旗『どのみち制限時間付きですから、すぐ終わります』
一方通行『そ、そォか』
一方通行(…なんつうか、いろいろ勉強になったな)
この一日で随分プリクラに詳しくなった…気がする。今までは触れることもなかった未知の世界。
これからもこいつといれば、もっといろんなことを見たり聴いたり…体験できたりするんだろうか。
絹旗自身はもちろんだが、絹旗と“一緒にいる”こと自体、それだけで何か重要な価値になりそうだった。
一方通行(大切にしねェとな…。あいつとの時間)
……
絹旗『終わりましたよ一方通行!っと、携帯に転送したいんで、あなたの携帯貸してくださいっ』
一方通行『おう、ほらよ』
ティロリン
絹旗『転送終了です♪携帯返しますね。それと…他の撮ったプリクラも渡します。どうぞ!』
一方通行『お前が編集したってヤツか。ご苦労さン。さて、一体どんなふうになって…』
一方通行『……』
絹旗『どうですか?私のアーティスティックな写真は!』
一方通行『何で俺、丸メガネかけてンの?』
絹旗『面白いでしょ?』キラキラ
一方通行『二枚目の写真にいたっては、鼻ヒゲや顎ヒゲだらけだなァ…』
絹旗『私にも注目してくださいよ!ほら、ここ!ツノが二本も生えてます!』
一方通行『そんな生物二人の背景は、宇宙ときましたかァ。お前センスありすぎ』
絹旗『いやいや。私の落書きなどまだまだオーソドックスなほうですよ。
世の中にはもっとカオスな落書きする人だって、いるんですからね』
一方通行『世界は広いンだな』
絹旗『三枚目はどうです?』
一方通行『…俺の口に、吹き出しで“最高!!”って書いてあるな』
絹旗『私の吹き出しには“ですよねー!”と書きました!』
一方通行『コントか』ビシッ
絹旗『はい、突っ込みいただきましたーっ』
一方通行『…ン?最後の四枚目は結構マジメだな』
絹旗『だって。最後の写真は凄く良かったですから…。これにはあまり、変な装飾は入れたくなかったんです』
一方通行(背景は…のどかな草原。空いた空間に“一方通行”と“絹旗最愛”、二人の名前が入ってンな)
絹旗『私、この写真は超大事にします。証拠に…。ジャーン!携帯の待ち受けにもしちゃいました!』
一方通行『仕事早ェなお前!』
絹旗『……』
一方通行『…ン?絹旗?』
その待ち受けを見ながら、彼女は何かを考えてる様子だった。
絹旗『今日、麦野たちが乱入してきたりいろいろありましたけど…。
最後に、こうやって一方通行と形になるもの残せてよかったなって、そう思ってたんです』
一方通行『…そうだな。俺も、お前と一緒に撮れて本当に良かったと思ってる』
絹旗『正直、最後のあの表情は反則でしたけど…』ブツブツ
一方通行『?何か言ったか?』
絹旗『超なんでもないです//』
一方通行「絹旗…」
回想をやめ、もう一度待ち受けを眺めてみる一方通行。
一方通行「あいつに触発されて俺もつい、待ち受けにしちまったが。
…こういう写真ってのも、悪くないもンだな」
感慨にふけていた一方通行だったが…。突如として、そういう時間は終わるものだ。
番外個体「ギャハハハハハ!!一方通行が!一方通行が女の写真見ながら呆けてるっ!!!!♪
あの一方通行がっ!!こりゃキモイってレベルじゃねーぞアハハハハハハハハ!!!」
一方通行「…俺としたことがァ」
不覚。後方に番外個体が迫っていたことに気付かなかった。…絹旗のことを考えていたせいか。
打ち止め「お、女の写真!?一方通行…!!それってどういうことなのかな!?ま、まさかまさか
女の人のエッチな写真でも見てたんじゃ…?!ってミサカはミサカは問い詰めてみたり!!」
一方通行「…だったらどうすンだァ?」
打ち止め「そ、そんなもの見ちゃダメなの!ってミサカはミサカは怒ってみる!!///」
顔を真っ赤にし、彼の携帯を取りあげようとする打ち止め。
一方通行「別に変な写真なンかじゃねェよ」
素直にも、一方通行は見ていた画像を打ち止めへと見せる。
打ち止め「……」
一方通行「ン?どうした黙りこくって?別におかしいもンじゃねえだろ??」
打ち止め「あ、いや…。あまりにも一緒に映ってるあなたが良い表情してるからって、
ミサカはミサカはつい見とれてしまってみたり」
一方通行「なンじゃそりゃ」
番外個体「へえー。一方通行にしては、ちょっといい絵だったりするかも」
同じく写真を眺める番外個体がそう言い放つ。
一方通行「お前まで何言ってンだ」
番外個体「あれ。そういえば、この女は誰!!?」
打ち止め「そ、そうだよ!一緒に映ってるこの人は誰なの!?
ってミサカはミサカは全力で問い正してみたり!!」
一方通行「今更そこに気が付いたのかお前ら」
……
一方通行「…というワケだ」
番外個体「ミサカ、分かんない~!」
一方通行「二度は説明しねェぞ」
打ち止め「この絹旗さんって人については、とりあえず分かったけれど…」
一方通行「どォした?何か不満か」
打ち止め「この人とはどういう関係なのかなって、ミサカはミサカはつい聞いてみたり…」
一方通行「あン?どういう関係も何も、最近知り合った女ってだけだがァ…」
番外個体「いやいやいや、それはないねえー!!だってだって~!何でもない女の前で、
一方通行がこんな表情するわけないもんねえ??しかもプリクラを一緒に撮る仲ときたッ!!」
打ち止め「そうだよ一方通行。もしかして…彼女さんだったり?」
一方通行「彼女だァ!?それは違―」
番外個体「彼女!?一方通行に彼女ッ!!そんなの、天地がひっくり返ってもナイナイ!!♪
だってあの一方通行だよ??こんな奴、彼女の『か』の字も…って、あれ?二人っきりで写真を撮る、
そういう関係を世間一般じゃ恋人って言うんだっけ??じゃあまさか本当に彼女!!?信じらんねえ!!」
一方通行「誰かこいつを黙らせろ…」
打ち止め「そうだよ番外個体。少し静かにしてほしいかもって、ミサカはミサカはお願いしてみる!」
番外個体「んな悠長なこと言ってる場合じゃないっつーの!!もしそうだとしたら、
昨日こいつの様子がおかしかったのは本当に恋煩いだったってワケー!?
うわああああああ!!一週間分のオヤツが!!ミサカとしたことがぁ…!!」
打ち止め「はっ、そうだった!?やったー!オヤツはいただき!!
ってミサカはミサカは空前絶後の大勝利にお祭り騒ぎをしてみるっ!!!」
番外個体「!?もしかして今の、私が言わなきゃ最終信号は賭け自体忘れてた!?
な、なんということを私ってば、しちゃったの~!??もう、ミサカってばドジっコなんだから~♪」
打ち止め「あー。番外個体が一週間オヤツが食べられない苦しみから現実逃避して気分がハイに
なっちゃってるのって、ミサカはミサカは勝者としての余裕を含みながら彼女を分析してみたり!!」
一方通行「…自分の部屋に戻るとするかァ」
打ち止め「あ!ま、待って一方通行!あ、あの…っ」
一方通行「まだ何かあンのか」
番外個体「これから一週間ミサカはどうやって生きよー!?ってミサカは空想してみたり~♪」
打ち止め「と、とりあえずあそこで壊れてる番外個体は置いとくとして…」
打ち止め「あの写真の絹旗さん、とても楽しそうな顔してたって…ミサカはミサカは告げてみる」
一方通行「…まぁ、確かにヤツは楽しそうだったが」
打ち止め「楽しそうっていうか、幸せそうな顔だったかな。一方通行は彼女のことどう思ってるの?」
一方通行「どうって…。少なくとも、どうでもいいとかは思っちゃいねェがなァ」
打ち止め「もっと具体的に!ってミサカはミサカはさらに追究してみる!」
一方通行「具体的ィ?!っていうか、何でそンなことまでお前に教えなきゃなンねェんだよ??」
打ち止め「あなたの口からそれを聞きたいの。絹旗さんのことを…。どう思ってるのか」
一方通行「……」
いつになく真剣な眼差しで見つめる打ち止め。そんな彼女に、一方通行は渋々答えてやることにした。
一方通行「まぁ…大切かなとは思ってるが」
打ち止め「そ、そっか…!そうなんだね」
一方通行「…?」
打ち止め「それって…。私や番外個体、黄泉川や芳川と同じ“大切”って意味なのかな」
一方通行「それは―」
同じ、と言おうとした一方通行だったが…。どうもその言葉の手前で、彼は違和感を覚えた。
一方通行(…同じ?絹旗が、打ち止め・番外個体・黄泉川・芳川と“同じ”…?)
ここの家に住む4人に対して。彼女たちは自分にとって大切な存在であり、なくてはならない存在。
その事実は変わらない。今でもその考えは変わらない。だが…絹旗に対してはどうなのだろうか。
確かに彼女も、“大切な存在”であることには違いない…のだが。
一方通行(俺は…)
ここで一方通行は気付いてしまった。4人への感情にはない、ある決定的に異なったものに。
一方通行(俺は絹旗に…“それ以上”を求めちまってる…??)
目の前にいる打ち止めを…見据える一方通行。
一方通行「……」
打ち止め「…?一方通行…?」
一方通行「…っ」
今まで多々あった危機の中でも、特に自分の命を投げ出しまで守ってきた…この打ち止めという存在。
大切な存在。そんな彼女に、彼は一度として“それ以上”の関係を望んだことがあっただろうか。
もちたいと思ったことがあっただろうか。そんな気持ちを一度でも抱いたことがあっただろうか。
一方通行「……」
一方通行「打ち止め。抱きしめてもいいか?」
打ち止め「え?」
ギュッ
打ち止め「え!?ちょ、一方通行!?ど、どうしちゃったの急に??///」
一方通行「……」
打ち止め「一方通行…//」
一方通行「……っ」
一方通行(こいつといると、心が落ち着くンだよな…)
……
しばらくして、一方通行は打ち止めを離す。
一方通行「打ち止め。さっきの答えだけどなァ」
打ち止め「!う、うん」
一方通行「その“大切”ってのは、違う大切だ」
打ち止め「…っ。そっか。あなたの気持ち…ミサカにちゃんと伝わったよっ」
一方通行(さっきの…わずかな時間。俺に、“それ以上”の欲求はなかった。それで…。十分だったンだ)
打ち止め「……」
一方通行「……」
打ち止め「一方通行って…」
一方通行「…ン?」
打ち止め「変わったよね。良い意味で。ミサカはミサカは素直にそう思ってみたり」
一方通行「…?」
打ち止め「絹旗さん、大事にしてあげて。ミサカは信じてる。今のあなたにならそれができる!
ってミサカはミサカは自信満々にズバッと言い放ってみたり!!」
一方通行「打ち止め…」
打ち止め「そして、やっぱりミサカの思った通りだった!」
打ち止め『一方通行はいざとなったら女の子のことも…ちゃんと考えてくれる、そんな頼りになる人!』
打ち止め「ミサカはね、実は昨日番外個体と賭けをしてたんだよ。あなたがボーッとしてるのを見て、
もしかしたらそれは恋煩いなんじゃないかって。そして見事にそれは当たり、
ミサカは勝者となったのであった!!ってミサカはミサカはあなたに戦勝報告をしてみる!!」
一方通行「…何かこそこそ話してンなと思ったら、ンなくだらねェことやってたンかい」
一方通行「…まぁ実際は番外個体のヤツも、それはそれで正しかったンだろうがな」
打ち止め「?どういうこと?」
一方通行「あいつ、天の邪鬼だろォ。逆の意見を言いたかったンだとしたら、
それは打ち止めの予想したもンと同じになるだろがよ」
打ち止め「え、ええぇ!!まぁ、た、確かにそうなるけど…何か強引のような―」
番外個体「聞いーちゃった♪聞いちゃった♪というわけで最終信号?この賭けは引き分けってことで♪」
打ち止め「う、うっそおおおお!?せっかくの戦勝報告の後で、その流れは無いかも!!
正直無いかも!!ってミサカはミサカは猛抗議してみるッ!!」
一方通行「ていうか、いつのまに復活してたンだよお前」
番外個体「ん?実は結構前から。ところで、話は聞かせてもらったよ?」ニヤリ
一方通行「え」
番外個体「いやぁ、びっくりしたねぇ!最終信号に抱きついたときは、さすがに
“このロリコンまじ無いわぁマジきもいドン引き~”状態だったんだけどねン?そこでそれを口に出すほど、
ミサカもKYではなかったってワケ♪あんたの覚悟は、確かに伝わったよ。…最終信号同様に、ね。
ま、だから。後はあんたの好きなようにやればいいんじゃないかなーん?もっとも、それで上手くいくと
思ったら大間違い~!!あんたの恋路を邪魔することが、ミサカの生きがいなんだからねッ!!♪」
一方通行「よく舌が回るヤツだなァ」
一方通行(二人とも…ありがとな)
……
黄泉川「というわけで、今日はすき焼きじゃんよ!!」
打ち止め「えー!?冬でもないのにすき焼きなの??ってミサカはミサカは驚いてみる!」
黄泉川「何言ってんじゃんよー。食べ物に、暑さも季節も関係ない!!」
一方通行「いや、それはおかしいだろ」
芳川「さすがに今のはね。でも、すき焼きがいつ食べてもおいしい定番食なのは、確かよ?」
打ち止め「へえー、そうなんだね!」
番外個体「そんなのどうでもいいから、ミサカお腹すいた~!!」
黄泉川「今から作るじゃんよ!!というわけでテーブルの上、片づけた片づけた!食器並べるじゃん!?」
打ち止め「はーい!」
番外個体「ミサカはお腹減って動けない~」
一方通行「……」
打ち止め「?どうしたの一方通行?」
一方通行「あ、いや、なンでもねェ」
一方通行(らしくもねェ。この団らんに、しみじみとしてましたなンて…言えるワケもねェ)
番外個体「あれー?どうったのー?♪もしかして!早速 き・ぬ・は・た・ちゃんのことでも考えてた?♪
わー!!わー!!一方通行が女の子のこと考えてるぅー!!好きなコのこと考えてるぅー!!」
一方通行「ッ!?お前さっきまでの元気の無さはどこ逝った!!?」
芳川「ん?好きなコ?今好きなコって、確かにそう言ったわよね?」
黄泉川「おぉ!?ついに一方通行に女の話!?詳しく聞かせるじゃんッ!?」
打ち止め「あ、そういえば、今絹旗さんとはどこまで仲は進展してるの?ってミサカはミサカは―」
一方通行「テメェら…すき焼きの準備はどうしたァァァァァァァァァァァァァァッ!?!?」
黄泉川家の、とある日常であった。
翌朝
一方通行「……」
……
一方通行「体が重い」
一方通行(はァ…)
体が重いと言っても、別に病気にかかってるわけでも、ましてやケガをしているわけでもない。
一方通行(まさに、心労ってヤツだぜ…ッ)
※心労とは、あれこれ心配して心を使うこと。また、それによる精神的な疲れ。気苦労。気疲れ。
一方通行(黄泉川たちに根掘り葉掘り聞かれまくったってのもあるが…。正直、極めつけは)
……
一方通行「俺が、絹旗のことを“好き”だって、自覚しちまったことだよなァ…」
昨日の打ち止めとの掛け合いで、ようやく自分の気持ちを知るに至った一方通行。
一方通行「まぁ自覚したからといって、何がどうなるってわけでもねェが…。どうも調子狂うぞオイ」
一方通行(…ン?)
一方通行「メールが来てやがる。何々…?」
メール『よっ!元気してたか一方通行?突然だが、今日の9時にいつものファミレスに集合ってことで。
結標や海原も呼んである。じゃ、よろしく頼むにゃ~!from土御門元春』
一方通行「土御門?誰だったか」
……
一方通行「と、誰もいねェのにボケ入れてもしょうがねェな。ったく、急すぎんぞ土御門ォ…
テメェのことだから、どうせ9時ってのも午後じゃなくて午前のほうなンだろうがよォ?」
まだ時間は8時。とりあえず外へ出る身支度をする一方通行。
一方通行(しっかし、見事に面々が“グループ”ときた。なんだァ?また暗部に首でも突っ込もうってか?)
面倒に巻き込むンじゃねェよと考える一方通行だったが
一方通行(…最近は絹旗のことばっか考えてたからなァ…。たまには違う空気入れるのも悪くねェ)
あくまでポジティブに。一方通行はその指定場所へと向かうことにした。
そして午前9時。例のファミレスにて。
土御門「久しぶりだにゃー!一方通行!」
一方通行「はっ、相変わらずだなテメェはよ。エイワスの一件以来、てっきりくたばったとばかり思ってたが」
土御門「俺を見くびってもらっちゃ困るぜぇ!妹舞夏のためにも、俺はまだまだ死ねないんだにゃーっ」
海原「僕も同じく、まだまだまだ死ねないんですよ!」キラキラ
一方通行「…うぜェ野郎どもだ。…結標さんよォ。俺が来るまで、こいつらのお相手ご苦労」
結標「別に。ただ、男ってのはバカで低俗な生き物だってのが改めて分かっただけだから」
一方通行「おォ?なかなか達観してらっしゃるな」
結標「…これも、事あるごとに便利屋扱いされてきた賜物なのかもねえ…?
ねえ??一方通行さん…?おかげでそりゃ、随分と忍耐力はついたものよ?」
一方通行「忍耐力ついたンか。よかったな結標」
結標「好きでつけたわけじゃないわよッ!」
一方通行「で、用事ってのは何だ土御門。こんなバカ話するために集まったわけじゃねーンだろ?」
土御門「そうだな。事態はもっと深刻だ。正直、こんなバカ話をしてられる余裕はない」
一方通行「ほォ…。相当切羽詰まってンのな」
一方通行(チッ。糞が)
また、この学園都市で面倒なことでも起きてしまうのか。自分の周りの…“大切な存在”。
彼女たちを巻き込まずに…。なんとかして、速攻で事態の収拾を図れりゃいいんだが。
そう考えていた一方通行だったが
土御門「本当に深刻だ。あの一方通行に、 好 き な 人 ができたっていうんだからな…」
海原「これは由々しき事態ですよ本当に…」
一方通行「……」
……
一方通行「バカ話じゃねェかッ!!?」
結標「ごめんなさい一方通行…」
一方通行「あァ!?」
結標「実は昨日…。あの後気になって、あなた達の後をつけてたの」
一方通行「……」
結標「そういうわけで、公園で一部始終は聞かせてもらったの。だから―」
一方通行「うっかり土御門や海原に口を滑らしてしまったと!?そういうことかァ結標ェ!!?」
結標「な、何よ!!そりゃ話しちゃったのは悪かったと思ってるけど…!
もとはと言えば、あの場に私を呼んだあんたが悪いんでしょ!!?」
一方通行「うぐ…」
確かに結標の言う通りだ。散々便利屋として活用してきたそのツケが。ここへきて返ってきてしまった。
土御門「というわけで今日のグループの議題は!『一方通行の恋の行方について』、だにゃ!」
一方通行「」
一方通行「帰る!!全力で帰るッ!!」
海原「ちょ、落ち着いてください一方通行!僕たちはただ、あなたの恋を応援してるだけなんです!!」
結標「“たち”って、私もその中に入ってるの?」
土御門「当たり前だろ結標。それとも何か?お前は一方通行の“絹旗ちゃんLOVE”を応援できないってのか?」
一方通行「土御門、後で殺す」
結標「誰もそんなことは言ってないでしょ!?ただ、そこまで興味もないっていうか…」
土御門「んー?何か無理してるように見えるのは気のせいかにゃぁ?」
海原「まさか結標さん。ここにきて“一方通行のことが好き”とか、そんなオチでは―」
結標「一方通行。こいつら殺しましょう」
一方通行「手っ取り早く済まそうぜ」
土御門「ま、待て待て待て!別に、今のは冗談でも何でもないんだぜい!?」
海原「そうですよ!っていうか薄々と、前々から思ってたことなんです。あなたがそれを否定するなら…。
ならば、どうして結標さんは毎回毎回、一方通行の傍若無人ともいえる呼び出しに従ってたんですか?
あなたが一方通行に何か弱味を握られていた、という覚えもありません。彼の命令を実行したところで、
あなたへのメリットはほとんどないはずです」
結標「…っ!それはただ、私が見返りを求めない…とっても親切な女の子ってだけの話。私の協力がなかったら
一方通行、何もできないんだもんね。分かった?私はあいつに、ただ慈悲の手を差し伸べてるってだけなのよ」
土御門「一方通行。結標のことを、一度たりとも“菩薩”のように感じたことはあったか?」
一方通行「ねェ」
結標「即答!!?」
一方通行「まぁ、感謝してるってのは本当だけどよォ」
結標「…はぁ。少しはそれを行動で示してよね…」
海原「一方通行。彼女が行動で示してほしい、と言ってますよ」
結標「え?ちょ、海原何言って―」
土御門「お姫様がお待ちだぞ一方通行。ここはとりあえず!キスしてみるとかどうかにゃー!?」
結標&一方通行「!!?!?」
一方通行「ダメだ。もうバカどもには付き合ってらンねェ。結標、店出るぞ」
そう言って一方通行は結標淡希の手をつかむ。
結標「やっ…!」
一方通行「…ァ?」
予想外のことが起こった。結標が、彼のつかんだ手を振りほどいてしまっていた。
一方通行「ど、どうしたァ?」
結標「あ、ご、ゴメンなさい。何でもないの…//」
一方通行「顔が赤いぞ?熱でもあるンじゃねェか」
結標「な、ないない!そんなのないから!っていうか、何らしくもなく
心配しちゃってるのよ!?そういうのはね、余計なお節介って言うのッ!!」
一方通行「そ、そォか…」
結標の突然の気迫に圧され、黙ってしまう一方通行。
結標「ってか、あんたたちバカ二人(土御門と海原)は一方通行と絹旗さんの恋を
応援してたんじゃなかったの!!?なに急にふざけて、こんなバカなことしてんのよッ!?」
海原「すみません。つい面白くて」土御門「見てて面白かったんだにゃ」
結標「最悪だこの人たち」
海原(結標さんが俗に言う“ツンデレ”ってことは分かりました)
結標「今あらぬことを考えなかった?」
海原「気のせいです」
土御門「とにかく、絹旗ちゃんについて話を元に戻すとだな―」
一方通行「テメェが脱線させたンだろうが。ってか“ちゃん”付けやめろ。マジで殺す」
土御門「一方通行。付き合う上で一番大事なことは…何か分かるか?」
一方通行「…は?いきなり何言ってンだお前―」
土御門「俺は真面目な話をしてるつもりだぜい?一方通行。ぶっちゃけ、
そのことが分かってないと、恋愛ってのはうまくいかないもんなんだぜ」
一方通行「…そうですかァそうですかァ。…何でテメェなんぞに恋愛論を説かれなきゃなンねェんだ…」
結標「まぁ、聞くだけ聞いてみましょ。このバカの言うことも」
土御門「それはだな。相手の思考や状態を察知して、絶えずその欲求に応えてあげることだ」
一方通行(…あン?まともなこと言ってるような気がすンのは)
結標(気のせいかしら)
海原「まぁ、当たり前といえば当たり前のことなんですけどね」
土御門「その常々言われてる“当たり前”ってのをなかなか実行できないのが、人間ってものなんだにゃぁ」
一方通行「…言うねェ土御門ォ」
土御門「言ったろ?『俺は真面目な話をしてるつもりだ』ってな」
海原「さっきはふざけすぎてしまったんで、ココからはシリアスモードです」
結標「最初からシリアスモードでいてほしかったわ…」
土御門「…そうだな。具体例を挙げれば、例えば絹旗が喉渇いてそうだったらどうする?」
一方通行「ア?そりゃあジュース買ってきたり、どっか飲み物のある場所へ移動したりすンだろ」
海原「模範的回答ですね。じゃあ、疲れてそうなときは?」
一方通行「休める場所へ行きゃいいンじゃね」
土御門「そうだな。だが、現実ってのはそういう“状態”に加えて、“思考”が混じってくるから厄介だ」
一方通行「…?」
結標「…なるほどね。あんたたちの言わんとしてることは分かったわ。
例えばね一方通行。絹旗さんが“疲れてそうに見えなかったら”。どうする?」
一方通行「どうするって、それなら問題はねぇンじゃねェか」
結標「そう考えがちよね。でもいつもそうであるとは限らない。
もし絹旗さんが実際には疲れてても、“疲れていないようなフリ”をしてるだけだったら」
一方通行「は?」
結標「あんたに心配をかけたくない。だから、“疲れていないようなフリ”をする」
一方通行「あァ、そういうことか。そりゃまた面倒な展開だな」
海原「そういうあなたも。実際には疲弊してるところを、
他人にはそう感じさせないよう振る舞ったことがあるのではないですか?」
一方通行「……」
ふいに打ち止めの姿が浮かぶ。
一方通行「なるほど、テメェらが言ってた“思考”ってのはこういうことか」
海原「お分かりいただけましたか」
土御門「さて、ここで問題だにゃ一方通行。相手のそんな“状態”を見抜くには、どうしたらいいと思う?」
一方通行「…こりゃまた難しい問題がきたもンだ」
一方通行「相手がどういう人間なのか、それを把握することから始めねェとな…
行動や思考パターンをつかむためにも、まずはそれが必要だァ」
土御門「良いこと言うねえ一方通行。じゃあ、お前は絹旗最愛について、今現在どれだけ知ってる?」
一方通行「絹旗について…だと?そりゃァ…」
一方通行「……」
一方通行(いざそう問われるとォ困るな)
結標「あのさぁ土御門。彼女と一方通行は、まだ出会ってから数日しか経ってないのよ?
そんな彼に、この質問は酷なんじゃない?」
一方通行「…映画が好きってのと、独特な口癖くらいしか分かンねェな…」
土御門「何でもいいんだぜ一方通行。見た目でもいいし、なんとなく感じた性格でもいい」
一方通行「性格は…わりと、いや、かなり積極的なほうだなァ。ンで明るい。見た目は小さいヤツとしか…」
土御門「そっか…小さいのか。結標!残念だったな…」
結標「!?ちょっ、どこ見て言ってんのよ!?/// あんたって…変態ね」
すかさず自分の胸を隠す結標。
海原「結標さん、気をつけてください。世の中には“変態”と呼ばれて喜ぶ殿方もいます」
結標「シリアスモードは!?ねえッ!シリアスモードはどこへ逝っちゃったの!!?」
結標「ねえ一方通行…。こいつらをセクハラで訴えてもいいわよね?」
一方通行「いいンじゃね」
海原「それにしても小さい女の子ですか。一方通行ってやっぱり…」
土御門「アクセロリ―」
一方通行「オイ結標。刑事告発しなくていいから、こいつら殺せ」
結標「逆鱗に触れたのは分かるから!分かったから落ち着ついて一方通行!」
土御門「そうだぜ一方通行。みっともないぜ」
結標「殺したいのは私も同じだけどね」
海原「怖いですよ結標さん…」
土御門「ええっと、話を元に戻すぜい」
結標「逃げたわね」
土御門「というわけでだ。一方通行は、絹旗最愛のことをまだよく知らない」
一方通行「…違いねェ」
土御門「じゃあ、どうやってそれを知るかってことなんだが…」
海原「一番早い近道は、とにかく“相手と一緒に時間を共有する”ことです。できれば二人っきりがいいですが、
別に誰か一緒でも大勢でも構いません。ただ、あなたの近くに彼女がいて、その仕草や言動が眺められれば、
それだけで絹旗さんの像について近づけるプラス材料となり得るはずですからね」
一方通行「時間を共有しろ…か」
昨日、喫茶店からゲーセンにいたるまでの彼女との時間を思い出す一方通行。
一方通行(そういう時間の積み重ねが、絹旗についても知ることにつながってくンだな)
海原「もちろん、無理に誘いすぎてもいけません。うざがられて逆効果となり得ることもあります」
結標「あんたがそれ言っても説得力ないわよね」
土御門「でも一方通行の話だと、その絹旗ってコは一方通行に対して…
かなり積極的な性格してんだろ?なら、そのへんは問題なさそうだな」
結標「後はそうね。できれば絹旗さんの周りの人、友達ともコンタクトを取っておいたらいいかも。
知人を通して、彼女のことを知ったりすることもできるはずだから」
一方通行(…浜面がそうか。それと滝壺理后だったか?第4位もいたな)
海原「白井黒子…」
結標「え?」
海原「い、いえ、なんでもないです」
結標「…?ただし、あまり異性と近づきすぎることがないようにね。本命を知ろうとして近づいて、
かえってそれが本命に不信感を抱かれるってトラブルが、現実じゃ結構起こってたりするもの」
一方通行「…リアルだな。気をつけとく」
一方通行(まァ、滝壺や第4位なら大丈夫そうだけどな)
海原(そもそも相手がジャッジメントなだけに、迂闊に近づけませんね…)
土御門「相手のことをよく知らなくても、だ。刹那的な仕草や表情を見逃さないってだけで、
大体の心中は推察できるもんだにゃー。だが、あまり濫用はせんようにな。一方通行なら尚更だぜい」
一方通行「…?どういう意味だァ?」
結標「あんたがじっくり相手の顔を見ることと、“ガンを飛ばす”は同義だから」
あァ!?と言いたいところだったが、やめた。悲しいことだが、自分の目つきが悪いってのは、
自分が一番よく知っている。特に第4位の顔を凝視した日にゃ、その瞬間ゴングが鳴る自信がある。
結標「といっても、あくまでそれは向こうが普通の知人だったらって話。
もし絹旗さんがすでに一方通行にベタ惚れなんだとしたら、あまり気にする必要はないかもね」
一方通行「はっ。さすがに、そんな虫のよすぎる展開はねェよ」
結標(いや…公園で一部始終見てたけど、絹旗さんルンルンだったわよ…?)
海原(自分も、そんな虫のよすぎる展開になりたいです)
土御門「だから、絹旗最愛のことをよく知るためにも!これをお前にプレゼントするぜい!!」
と言って、土御門が差し出したものは
一方通行「なんじゃこりゃァ」
土御門「見て分からないか?つい最近、この辺りでオープンした水族館のチケットだよ。
それも、ペア用のフリーパスチケットだぜ。絹旗誘って、一緒に行ってきたらどうだ」
一方通行「…オイオイ、いいのかよこれ。フリーだろ、結構したンじゃねェか?
あんま、テメェに借りをつくるような真似はしたくないンだがなァ…」
土御門「ははっ、気にすんなって。ちょうど臨時収入があってな。それに充てさせてもらっただけだ!」
※臨時収入=浜面から騙し取った1万円
一方通行「…そうかよ。じゃァ、受け取っとくぜ。ありがとな」
結標「!一方通行がちゃんとお礼を言えるなんて!?」
海原「成長したんですねえ。彼も」
一方通行「ガキですかァ?俺は?」
結標「にしても、何で水族館なの?」
土御門「特に理由はないんだけどにゃぁ。単に近々オープンするから目移りしたってだけで。
敢えて利点を挙げるなら、落ち着いて回れるってとこか?絹旗のことも、ゆっくり観察しながら
デートを楽しめる。相手のことも分かって一石二鳥だぜい!それとも、一方通行はアクション全開の
ジェットコースターや抱きつきイベント発生のお化け屋敷付き遊園地のほうが良かったかにゃー?」
一方通行「いや…特にこだわりはねェから水族館でいいわ」(元暗部の人間が…お化けを怖がって抱きつき??)
土御門「オープン自体は明日からするんだが、それから1週間以内なら有効だからな。
絹旗と都合のいい日でも見繕って、デートしてきちゃってくれ!幸運を祈るぜい!」
海原「というわけで今日の議題、『一方通行の恋の行方について』は終わりです」
結標「え?終わり?」
土御門「解散!」
一方通行「潔いなオイ!」
結標「チケット渡したら、元々解散する予定だったってことね…」
土御門「ここからは一方通行しだいだからにゃー。俺たちが力になれることは、もうないのさ」
海原「大体の恋愛講座は…チケット渡す前に粗方終わりましたからね。
結標さんのご協力もあって、実に円滑に進めることができました!」
結標「弄んだだけでしょ」
土御門「それは違うぞ結標。俺たちはただ、面白かったんだにゃ!」
結標「それを弄んだっていうのよッ!??」
そういうわけで、ドタバタしながらも
『一方通行の恋の行方について』会議(土御門・海原主催)は閉幕となった。
ファミレスから帰る途中。一方通行は公園に立ち寄り、ベンチへと腰掛ける。
一方通行「思い立ったが吉日って言うからなァ。早速電話してみっか」
Prrrrrrrrrrrrrrrr、ガチャッ
一方通行「よォ絹旗。俺だ」
絹旗『あ、一方通行!?あなたから電話をくれるなんて…というか、初めての電話ですね!』
一方通行「ン?そういやそうだな」
絹旗『えっと…何かあったんですか?』
一方通行「用ってのはなァ」
……
絹旗『それは良いですね!私も超行きたいです!あ、でも…』
一方通行「?」
絹旗『明日はちょっと用事があって…。明後日はダメですか?』
一方通行「あン?全然いいぞ」
絹旗『よ、良かったです!じゃあ明後日、超楽しみにしときます!』
一方通行「おう。待ち合わせは…駅の券売機近くでいいか?」
絹旗『了解です!』
一方通行「ン。伝えたいことは以上だ。じゃァ―」
絹旗『あ、あのっ』
一方通行「?まだ聞き足りないことでもあったか?」
絹旗『そうではないんですけど…。今日の夜にでも、っていうか1日に1回だけでも、その』
一方通行「…?」
絹旗『メール、しませんか?』
一方通行「…そういや、そういう約束してたよな。
すまねェ、すっかり忘れてた。昨日にでもすりゃァよかったな」
絹旗『あ、いえ!私のほうこそ、昨日はボーッとしててメールするの忘れちゃって…』
一方通行「そォか。…じゃァ、今日こそはメールしような」
絹旗『はい!』
一方通行「新規作成…っと」
夜。夕食を食べ終えた一方通行は、早速携帯を取り出していた。
一方通行「とはいえ、なンてメールすっかな」
とりあえず…明後日のことを書けばいいだろうか?まぁ無難と言えば無難である。
一方通行「そォだ。せっかくだし、顔文字も使ってみるかァ…。似合わねェことこの上ねーけどよォ」
というわけでメールを打った。
メール『明後日が楽しみだな\(^o^)/そういえばお前、魚とか好きなんか?/^o^\』
一方通行「顔文字はこんなンでいいだろ。楽しさを表現するには十分なはずだァ」
転送する一方通行。そして、数分も経たないうちにメールが返ってくる。
一方通行「早ェな。やっぱ女ってのは、メール打つのも速いンですかねェ。何々…?」
返信『超楽しみです!d(≧▽≦*d)
海の生き物って、可愛いのも不思議なのもいますから好きです♪♪(*´▽`*)ノ゛』
一方通行「いいね。好感触だったみたいだァ」
番外個体「くっくっく…!!ギャハハハハハハハハハ!!!!!」
一方通行「な、何だァ!?ってかお前、またしても後ろにいたのか」
番外個体「うっくっ、こりゃ笑わずにはいられないよ!!ギャハハハハハハハハ♪」
一方通行「…何がそんなにおかしンんだァ?」
番外個体「途中までは我慢して見てたんだけどっ。やっぱダメだアハハハハハハハハハハ!!!」
一方通行「どうしちまったんだお前はよォ…」
番外個体「あんたが打ってたその顔文字!“オワタ”と“フッジッサーン”なんだよねー!♪」
一方通行「は?」
打ち止め「実はそれ二つとも、人生終わったって意味なんだよ!ってミサカはミサカは宣告してみたり!」
一方通行「」
番外個体「好きな人に向かって『オワタ』!?笑いが止まんないよキャハハハハハハハハハハハッ!!!♪」
一方通行「ま、待てよオイ?!だが絹旗は返信で、その意味にゃ触れちゃいなかったぞ!?」
番外個体「そりゃぁ、初めてのメールってことで大目に見てくれたんじゃない?♪」
一方通行「なンだと…」
打ち止め「でも、人によってはオワタを『楽しい』って解釈する人もいるみたいだから
案外絹旗さんも大丈夫な人だったんじゃないかな?ってミサカはミサカは予想してみたり♪」
一方通行「くッ…!笑ってる顔だからって、安易に選んだのが間違いだったってか…?!」
一方通行(顔文字ってのは奥が深いゼ…)
番外個体「オワタ♪オワタ♪」
一方通行「うるせェ!!!」
打ち止め「ところで、絹旗さんとどこかへ行くの?ってミサカはミサカは尋ねてみる!」
一方通行「ン?あぁ。ちょっとな」
番外個体「デート♪デート♪」
一方通行「さっきからうるせェよお前はッ!!?」
そういうわけで。この日は終了したのであった。
そして。
一方通行「時が経つのは早ェな…」
気付けば、もう当日だった。
一方通行「特に何かを準備したってわけでもねェが。まァ、あんま気負ってもしょうがねェもンな」
一方通行(さて、そろそろ出るとしますかァ)
家を出て、マンションの一階へと降りる一方通行。そんな彼を…遠くのとある高層ビルから見守る影が一つ。
海原「こちら海原。ターゲットが家を出ました」
土御門『了解!今から結標をそっちに送るから、お前も駅まで来るんだにゃー!』
海原「分かりました!では」ピッ
結標「というわけでやってきたわよ」
海原「駅まで座標移動お願いしますね」
結標「何で私たちこんなことやってるのかしら…」
海原「あなたは、“一方通行のデート”が気にはならないんですか?」
結標「そりゃ気にならないと言えばウソになるけど…。だからって、こんな跡をつけるような真似…」
海原「僕はそういうの慣れっこですよ?」
結標「あんたが特殊なだけだからそれ!!」
海原「ならば。ここで作戦を降りますか?結標さん。僕としては別に構わないのですが」
結標「……」
結標「ま、まぁ、ちょっとくらいなら。覗いてもいいわよ…ね?」
海原「なんだ。実はノリノリなんじゃないですか。まったく、あなたときたら…」
結標「は、はぁ!?何勘違いしてんのよ??別に、ノリノリなんかじゃない…し」
海原(ツンデレな結標さんもまた一興です)
数十分後。
一方通行「…ォ」
絹旗「あ、一方通行!おはようございます!」
一方通行「ン、おはよォ」
絹旗「もしかして、超待たせちゃいましたか?」
一方通行「いや。今来たとこだ」
絹旗「それはよかったです!」
一方通行「おう。じゃ、切符買ってこい。ここで待ってっから」
絹旗「はい♪」
そんな二人を、驚愕の表情で見つめる男が二人。
海原「…これは驚きました」
土御門「まさか、素で『いや、今来たとこだ』を言う人間がいるとはな…」
海原「人生で言ってみたいベスト3に入っててもおかしくない言葉をあんな…。
やはり、一方通行は学園都市最強というだけあって、どこか人とはズレてるんでしょうか?」
結標「あんたたちのこだわりなんて知らないわよ…」
電車に乗り、目的地へと着く二人。お目当ての水族館は、わりと駅から近かった。
一方通行「着いたな。早速入ろうぜ」
絹旗「どんな生き物がいるのか超楽しみです!」
フリーパスを見せ、中へと入っていく一方通行と絹旗。
結標「あ、そういやお金出さなきゃいけないんだっけ」
土御門「その必要はないぜェ結標」
海原「これをあなたに渡します」
結標「水族館の…見取り図」
土御門「というわけでよろしく頼む!」
海原「座標移動の出番ですよ結標さん!」
結標「…1000円ですら払いたくないの??ホントあんたたちって汚いわね…発想がガキレベル」
土御門「手段を選ばないのが、俺たち“グループ”のやり方さ!」
結標「その中に私は含めないでね」
一旦離脱して昼過ぎに来ようと思います。所々でキャラの口調について指摘してくれた人には
感謝です。保守や支援の方もお疲れ様です。もし保守してくれる方がいたらとても嬉しいです。
二次創作から元の作品に入っていくのってどれ位いるんだろうな
禁書SSが楽しくて原作全巻まとめ買いした俺が通りますよっと
保守
起きました。保守本当にありがとうございます。ただ、今から風呂と昼食とってきますので
ちょっと待ってください。少なくとも2~3時の間には始めます。
>>251>>269
自分もアニメしか見てなかったんですが、SSやMADに触発されて原作買いました。
内容が良いのはもちろんなんですが、浜面や麦野、垣根といったキャラが気になって仕方ないっていうのもありました。
この水族館にはB1Fもあるということで、一方通行たちは下から上へと順に展示物を見ていくことにした。
というわけでまずは地下1階。
一方通行「…ペンギンプールか」
絹旗「なんか凄いみたいですよここ。亜南極圏の環境を再現してるみたいです!!
…ところで“亜南極”って何です?」
一方通行「知らないのに感極まってたのか」
絹旗「つい勢いで…!」
一方通行「…はァ。場所にもよるみてェだが…南極ってよりはオセアニアに近ェらしいから、
そこまで極寒ってわけではないらしいゼ。南米の下にある、フォークランド諸島って有名な島があンだろ?
あれも確か亜南極の地理に入ッてたはずだ。それ以外にも島はたくさんある…挙げたらキリないがなァ」
絹旗「なるほど!よく分かりません…」
一方通行「つまり、南のちょっと寒い地域ってことだ」
絹旗「超分かりました!」
結標(ぶっちゃけたわね一方通行…)
土御門「亜南極といえばオークランド諸島!いつか舞夏も連れて旅行したいぜ!」
結標「どこなのそれ」
絹旗「それにしても、ペンギンって可愛いですね!あの歩き方といい泳ぎ方といい♪」
一方通行「名前はすげェけどな」
絹旗「?あ、ここのペンギンって、キングペンギンっていうんですね。…キング?」
一方通行「大型種だからだろ。ペンギンの中じゃァ2番目にでかいらしいぜ」
絹旗「そりゃ凄いですね!え、じゃあ1番目は?」
一方通行「ここの看板に載ってる。コウテイペンギンっていうらしい」
絹旗「皇帝ですか??ふむ…。じゃあ、一方通行はコウテイニンゲン?」
一方通行「何がどうなってそうなったンだ…?」
絹旗「人類最強だから…?」
一方通行「勝手に俺を人類代表にすンな。しかもそれ、大きさとは全然関係ねェよな」
絹旗「じゃあ、あなたのことはどう命名すれば?エンペラー?」
一方通行「頼むからペンギンから離れてくれ」
ペンギンをじっくりと観賞し終えた二人は、一階へと上がった。
一方通行「ン?そういや一階には水槽はねェのか」
絹旗「あり…ませんね。出入り口に近いから、そのへんの環境も関係してるのかもしれないです」
一方通行「その代わりイルカやアシカのショーをやってンな。見に行くか?」
絹旗「そうですね!行きましょう」
ステージのある部屋へと移動する二人。
海原「…おかしいですね」
結標「どうしたの?」
海原「一方通行にしては、あまりにも デ ー ト が 順 調 す ぎ る とは思いませんか?」
結標「いや、何もそこまで強調して言わなくても…」
土御門「何かハプニングでも起こるかとワクワクしてたんだけどにゃー。正直期待はずれだぜい」
海原「というわけで、僕たちは二階の展示物でも見てきます。サンゴ礁でも見たい気分になってきました」
結標「何しにきたのあんたたちは」
一方通行「おうおう、ちょうどやってンな」
絹旗「と思ったら」
一方通行「終わっちまったぜ…」
結標(え、ここにきてハプニング??)
一方通行「仕方ねェ。二階へ行くか?」
絹旗「あ、ちょっと待ってください!?ステージ以外の時間でも、見ること自体は自由らしいです」
一方通行「見るって…あァ、イルカが泳いでやがンな」
絹旗「ちょうどイルカも自由な時間なんですね。優雅そうに泳いでますよ♪」
一方通行「ほォ…」
一方通行「……」
なんとも、リラックスして泳いでンなァと一方通行は感じた。ショーから解放されたせいだろうか。
絹旗「こういう海の生き物は、映画では結構何度か見たことあるんですが。
やっぱり間近で見ると超違いますね。躍動感みたいなのを感じますよ」
そう言って、絹旗は一方通行の方を振り向く。
一方通行「…?」
絹旗「どっかの誰かさんも、実際に間近で見てみたら違ったってことです」
一方通行「?」
絹旗「っと、語弊がありましたね。見ただけでは分かりませんでした。話してみてようやく超分かったんです!」
相変わらず、一方通行の目を見て彼女は言う。それに気付いたのか
一方通行「…なァ。もしかしてそれ、俺のことか?」
絹旗「そうとも言います!」
一方通行「そうとしか言えねェだろ」
それもそのはずだ。こんな悪人面の形相、誰だって見ただけでは、
“学園都市最強のレベル5として聞いてたイメージ”と合致してもおかしくない。
一方通行「……」
絹旗「!あ、勘違いしないでくださいね!?別に、見た目がダメとかそういうことを言ってるんじゃないです」
一方通行「お世辞はいらねェぞ。自覚してっから」
絹旗「本当に違うんです!今では私、それも含めてあなたのこと…」
結標(…え?まさか―)
絹旗(はっ!)
絹旗「そ、それも含めて!私は一方通行のことを良いと思ってるんですよっ!!」
一方通行「そ、そうか…?」
絹旗「そ、そうです!」
絹旗(今、私は何を言おうとしてたんですかね…)
結標(…ま、まぁ、さすがにここで急展開はないわよね)
絹旗「とにかく、この場所はもう十分に堪能しました!次の階に行きましょう一方通行!」
一方通行「お、おう…?」
何か心に引っかかった一方通行だったが。気にせず、絹旗の言う通り二階へと行くことにした。
……
一方通行「……」
絹旗「?一方通行?」
一方通行「なんだこりゃァ」
絹旗「あっ、クラゲですね」
一方通行「超、不思議な形してやがる…」
絹旗「超が付くくらい、超興味関心もっちゃいましたか?」
一方通行「なンつうか、こんな透明な傘した生き物が動いてンだなァと」
絹旗「確かに感慨深いですね。ミズクラゲっていうみたいです」
土御門(…ジュルリ)
結標「え?」
土御門「おいしそうだにゃぁ…」
結標「いや、それ水族館じゃ禁句だから」
海原「ミズクラゲは食べられませんが、エチゼンクラゲやビゼンクラゲなら食べることができます」
結標「何でそんなどうでもいいこと知ってるの?」
海原「以前クラゲが食べたいと思ったことがありまして。個人的に調べておいたんです」
土御門「海原。それ、どこへ行ったら食べれる?」
海原「タダ…では教えられませんね。それなりの対価は支払ってもらわなくては」
結標(もう嫌だこの集団)
絹旗「!見てください一方通行!カブトガニですよ!!」
一方通行「おォ。甲羅背負って歩いてンな。ってか、何でそんな興奮してンだ?」
絹旗「知らないんですか??カブトガニって、今じゃ日本では絶滅危惧種に認定されてるんですっ」
一方通行「あー、そういやそうだったか。レアな生き物なンだなァ」
絹旗(…。一方通行のほうが、人間としてはよっぽどレアな生き物だと思いますけどね…能力的な意味で)
土御門「んー。あれはちょっと硬くて食べられないかにゃー」
結標「土御門?次食べるとかいったらサメのいる水槽へ座標移動させるから」
土御門「ふっ。結標、この水族館にサメはいないんだぜい」
結標「じゃあ向こうにいる人食いナマズでいいわ」
土御門「は?そんなのいるわけ…って、ホントにいるし!?」
海原「というか、食べたくても食べられませんよ土御門。あれは絶滅危惧種なんです。もし食用にでもすれば
“絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律”に抵触、罰則を受けますよ」
結標「本当に詳しいのね海原。ドン引きするくらいに」
海原「少しでも多くの知識を蓄え…。僕は、御坂さんにおいしい料理を味わってもらいたいんです…っ!」
結標(海原…っ。過去に超電磁砲を、魚料理のお店に誘って失敗したことを…。今でも悔やんでるのね…っ)
海原「とはいえ、カブトガニは正確には魚介類ではないんですけどね。クモやサソリに近い生き物なんです」
土御門「危なかったぜい!さすがの俺もクモやサソリは食べたくないからにゃぁ」
結標「そしてこの空気に戻るのね」
……
絹旗「一方通行!そろそろお昼にしませんか?」
一方通行「あぁ、もうこんな時間か。ン?そういやこの建物ン中に食べるところあったか?」
絹旗「屋上が開いてるそうですよ。ただし持ち込み付きですけど」
一方通行「…しまった。ここ来る前に、何か弁当でも買ってくりゃァよかったな…」
絹旗「あ、マジですか。ちょうどよかったです!」
一方通行「あン?」
絹旗「…あなたの分のお弁当も、つくってきたんです」
一方通行「…そ、そうなのかァ!ありがとよ…」
そのとき。一方通行の中で異変が起こった。
一方通行(こいつ…。こんなに可愛かったか…??)
尽くされた、と感じたからだろうか。気付けば一方通行のトキメキ度はMAXだった。
一方通行「そ、そうと決まれば早速屋上だァ!!」
この瞬間だけは。絹旗の顔を見ることは叶わなかった。またしても、前みたく意識してしまったのだ…
一方通行(不意討ちすぎンぞ畜生…!)
おそらく赤くなってるであろう顔がバレないよう、そそくさと屋上へと向かう一方通行だった。
……
一方通行「ご丁寧にベンチや椅子、テーブルまで置いてやがる。食べるにはもってこいの場所だなァ」
絹旗「景色も超いいですね。海や船舶が一目で見渡せます」
一方通行「じゃ、適当なとこ座って食べるか」
さすがに屋上に上がる頃には、例の熱も引いていた。いつまでも意識してはいられない。
絹旗「というわけで、これです!」
一方通行「こ、これは…」
大きめのタッパーが二つ差し出される。一方の絹旗の分はというと、一つ。
単純計算にして自身の2倍以上もの量を、彼女はつくってきてくれたことになる。
絹旗「男の人って、女の倍は食べますよね。浜面の食事を見てれば、そういうのは一目瞭然でした」
一方通行「…いいのか?こんなに食べてよォ」
絹旗「いや、むしろ食べてくれないと私困りますよ。超いろんな意味で…」
…確かに。せっかく自分のために一生懸命つくってくれたのだから。それを断るようなら、万死に値するだろう。
一方通行「…そうだな。じゃァ、ありがたくいただくとするぜ」
そう言い、タッパーのふたを開く一方通行。
一方通行「こりゃァまた…。お前、本当に頑張ったンだな」
まず一つ目のタッパー。そこには唐揚げや肉団子、卵焼きといった
お弁当おかずの定番が…ギッシリ詰まっていた。
絹旗「本当は、もうちょっとおかずの種類増やしたかったんですが…!
思った以上に一つ一つの料理に手間かかっちゃって。手際が悪くてすみません…」
一方通行「は、はァ??何言ってやがンだテメェは…?!
俺の目が節穴じゃなけりゃァ、十分種類は揃ってるように思うぞ…?」
そうなのである。それに、量も申し分ない。
一方通行「…今すぐにでもかぶりつきてェとこだが、まだもう一つあったよな」
もう一つ。一方通行は二つ目のタッパーを開ける。
一方通行「…なるほど。さっきのやつにはご飯がねェと思ったら、こっちにあったンだな」
絹旗「そりゃそうですよ!洋食ならともかく、和食でおかずだけって超ありえませんからね」
そこには。なんとも大きいサイズの三角おにぎりが三つ。ノリやフリカケ等、種類も異なっていた。
絹旗「以上が、私のつくってきたお弁当です。お気に召してもらえばいいのですが」
割り箸を手渡される一方通行。何から食べようか迷ったが…。とりあえずは、卵焼きから食べることにした。
一方通行「……」モグモグ
一方通行「……」
絹旗「ど…どうですかね?」
一方通行「普通にウマイ」
絹旗「ほ、本当ですか!?」
一方通行「ウソ言ってどうする。食感も柔らかかったし、味もちゃンと甘かった」
絹旗「よかったです…。マズイぞ絹旗ァ!!とか言われた日にゃどうしようかと思ってました…」
一方通行「言うわけねェだろンなこと」
一方通行(…あくまで平静を装ってる自分だが。俺のために…こんなウマイもんをつくってくれた絹旗。
俺のために。その事実だけで…っ!!正直涙が出そうなくらい嬉しいのは、全力で隠すッ!!)
つまり、静かに彼は感動していたのであった。
……
海原「なんか、見ててお腹すいてきました」
土御門「me,too!結標ー、何かつくってきてない?」
結標「ツッコミは入れないから」
結標(にしても、弁当…か。絹旗さんも本気なのね)
……
昼食を終える一方通行と絹旗。
一方通行「ごちそうさまでしたァ…!」
絹旗「お粗末さまでした…!」
一方通行「マジで美味かった。正直、また食いてェ」
絹旗「朝から頑張った甲斐がありましたよ…。そう言ってもらえて、超嬉しいです!」
また絹旗の料理が食べられる(かもしれない)。ますます心が躍る一方通行であった。
一方通行「じゃ、食べ終わったところで行くかァ」
絹旗「次は三階へ行ってみましょう」
……
海原(結局、外のコンビニへ座標移動で買い出しに行くハメになりました。トホホ)
一方通行「…なんだァこのトゲトゲの生き物は」
絹旗「ポーキュパインフィッシュ…?」
一方通行「さすがの俺も分かンねェ…」
絹旗「学園都市最強でも知らないことはあるんですね?」
一方通行「そりゃ当たり前ェだろ」
絹旗「あ、ここに書いてありますね。ハリセンボンの仲間だそうです」
一方通行「あー、そう言われりゃ分かる」
絹旗「そしてフグだそうです」
一方通行「どっちなんだァ!?」
絹旗「自分で言ってて混乱してきました…。
フグっていうカテゴリーの中に、ハリセンボンという種が属してるってことじゃないですか?」
一方通行「ややこしいなオイ」
海原「土御門。朗報です。ハリセンボンは食べられますよ」
土御門「本当か海原!!」
結標「…あれ。フグって毒があるんじゃなかったっけ…?調理師免許もってないとダメとか―」
海原「フグの仲間ですが、毒は持ってないんで食べられます」キリッ
結標「もうあんた料理人になったら?」
海原「それもいいかもしれません」
土御門「じゃあ、今度魚料理をごちそうしてくれにゃー!」
海原「お安いご用ですよ」
子供「ママー??あの人たち、お魚を食べるとか言ってるよぉ!?
ここにいる魚さんたち可愛いのに、食べちゃうなんて可哀相だよぉっ!」
母「しっ!見ちゃいけません!あの人たちはね、ちょっとおかしい人たちなの」
結標(あぁ…恐れていた事態が。ってか私も同類の目で見られてる。正直死にたい)
……
一方通行「…すげェな。この階には海中トンネルまであったのか」
絹旗「わぁ…本当に海の中みたいです」
一方通行「散歩してみっか」
絹旗「はい!」
絹旗「なんというか凄いですね!」
一方通行「おォ。すげェ量の魚だ」
絹旗「あの魚、よく見かけますよ。なんて言いましたっけ…」
一方通行「ここには説明の看板もねェからなァ。たぶんだが、イワシじゃねェのか」
絹旗「イワシってこんなに綺麗な泳ぎ方するんですか!?いや、魚なら大体はそうなんでしょうけど…。
食卓に添えられたイメージが強かったので、ちょっとびっくりです」
一方通行「確かに、イワシって食されるイメージだからなァ…」
絹旗「イワシも生きてるんだなぁって実感しました!」
一方通行「イワシについて、一つ勉強になったなァ!」
絹旗「はい!」
一方通行(何でイワシ談義してンだ俺ら)
土御門「……」
結標「食べたいとか言わないでね」ギラリ
土御門「海原ぁ!さっきから結標が怖ぇよぉぉ!!」
絹旗「…あっ」
一方通行「?どうしたァ?」
絹旗「上ばかり見てましたけど、よく見たら下にもいるんですね」
一方通行「下?って、地面しかねェが…」
絹旗「砂から何か覗いてますよ」
一方通行「…そういやなンかいるな」
絹旗「何でしょうねあれ?」
一方通行「さすがにあの断片だけじゃなァ…」
絹旗「なんとかして砂から引きずり出せませんかね。あ、そうだ。原始的方法ですが―」
バンバンバンバンバンバンバン!!!!
一方通行「ッ!?」
絹旗「こうやって窓を叩けば!振動で超動き出すかも!?」
一方通行「ガキかテメェは!?」
一方通行「ってか、今一瞬ヒヤヒヤしたぞ…。窒素装甲でガラスを叩き始めたのかと思った」
絹旗「いや、いくらなんでもそれはないですよ。そしたら最後、この水族館は水没しちゃうじゃないですか」
一方通行「実際にそうなるわけだから。お前って恐ろしいヤツだよなァ」
絹旗(あなたにだけは言われたくないです)
絹旗「って、本当に動き出しましたよ!?」
一方通行「ほォ。あんな方法でも、どうにかなるンだな」
絹旗「こ、これは…!?平べったい…ですね?」
一方通行「そうだな」
絹旗「超平べったいですね」
一方通行「そうだな」
絹旗「何なんですかこの生き物?!」
一方通行「エイだろ」
絹旗「映…?」(画?)
一方通行「何を想像したかは知らねェが、片仮名の“エイ”だからな」
絹旗「そんな妙な魚がいるんですか?」
一方通行「いるから、実際にここにいンだろ」
絹旗「そうですけど。そっか…。世界は超広いんですね!!」
一方通行「いや、普通に日本で獲れる」
絹旗「世界は超狭かったです…」
絹旗「って、獲れるって、これ食べられるんですか??」
一方通行「一部地域じゃ郷土料理にもなってるらしい」
絹旗「!じゃあ、おいしいんですか??」
一方通行「それはどォだろう」
絹旗「じゃあ今度、一緒にエイ料理のお店にでも行きません!?どんな味なのか超気になりますッ!!」
一方通行「残念だが、そんな店は聞いたことがねェな…」
……
海原「なるほど、エイ店ですか。それは盲点でした」
結標「まさか出店する気じゃないわよね…?」
海中トンネルを通った後も、くまなく展示物を見て回っていた二人だったが。気付けば夕方となっていた。
絹旗「あ…。もうすぐ閉館時間ですね」
一方通行「もうそんな時間か」
当初は。見て回るだけの水族館を、若干ではあったが不安視してた一方通行だったが…
終わってみるとあっけなかった。むしろ、もっといても良いくらいだった。
絹旗「あの、今日は誘ってくれてありがとうございました!超楽しかったです!!」
一方通行「…そォか。そりゃよかった」
絹旗が喜んでくれた。それだけで、ここへ誘った甲斐があったというもの。
…もっとも、自分自身もいろんな不思議系動物を見て、内心かなり楽しんでいたのは秘密だが。
絹旗「…。この後、時間はありますか?」
一方通行「…ン?特に何もねェけどよ」
そういえば、この後の予定を全く考えていなかった。
絹旗「ちょっと、散歩でもしませんか?」
一方通行「?構わねェが」
絹旗に言われるがまま。後をついていく一方通行。
土御門「対象が移動を開始したぜい!追いかけ―」
結標「土御門。もう、やめましょ」
土御門「え?」
結標「二人っきりにさせてあげて」
海原「…良いんですか?」
結標「良いも悪いも、元々私たちは部外者でしょう??野次馬は…去らなきゃね」
海原「…。土御門、彼女は本気のようですよ。どうします?」
土御門「んー。じゃあ、今日はこのへんでお開きにするかにゃー?十分俺らも楽しんだしなッ!」
結標「私を除く、ね」
海原「では。一方通行たちの進展を祈って…。ここで解散としますかね」
結標「ええ」
……
結標(百聞は一見に如かず…か。今日来てみてよかったかも。…頑張ってね一方通行)
去り際に土御門と海原が見た彼女の表情。…良い顔をしてるように思えた。
海岸線に沿って歩く絹旗と一方通行。
……
絹旗「海…ですね」
一方通行「あ、あァ…?」
そりゃ、海岸線に沿って歩いているのだから。海が見えるのは当然だろう。
絹旗「夕方の海は。どうですか?」
一方通行「…?」
どうも先ほどから彼女の意図がつかめないのだが。とりあえず答えるとする。
一方通行「夕日に赤く照らされてンな」
絹旗「そう…ですね。超綺麗ですよね」
絹旗(さっきから何をやってるんでしょう私は…)
しばらく散歩をしていると、右側にファミレスが見えてきた。
絹旗「…どうせだから夕食も食べていきません?」
一方通行「そうだなァ…」
いつもなら、黄泉川たちと一緒に食事をとっているのだが。
黄泉川『今日は一方通行除いた4人で外へ食べに行くじゃん!!』
一方通行『な、何で俺だけハブられンだよ?!』
芳川『絹旗さんとデートなんでしょ?打ち止めたちが言ってたわ』
黄泉川『一緒にどっかで食べてきたらいいじゃんよ!』
一方通行『チッ。余計な気ィ使いやがって』
というわけで、今日に限っては大丈夫なのだった。
……
しかし店に入ったからといって、さっきと比較して会話がはずむ。というわけでもない。
絹旗「……」
一方通行(…どうしたンだろうな絹旗のヤツ。何か考え事でもしてンのか…?)
一体絹旗はどうしてしまったのか。
……
実は二日前。時は“一方通行が初メールをした”時間に遡る。
絹旗「……」
絹旗(オワタの顔文字を使ってくるとは。一方通行もなかなか面白い趣向をしてますね。
これは予想以上に、彼という人間は超面白いのかもしれません…!?)
というか、薄々そんな予感はしていた。
絹旗(明後日の水族館へのお誘いにしてもそうですよ。会ってまだ日も浅いのに、
実質デートともいえるこの提案。周りの働きかけももしかしたらあったにせよ、
本人がそれを私に伝えてきた以上…彼にもそういう意思があったというのは、見て間違いないでしょう)
……
絹旗「一方通行って、案外積極的だったんですね」
まったく。彼氏彼女の関係なくせ、いまだにヘタレな浜面には見習わせてやりたいくらいだ。
絹旗(むしろ、私の方からどこかへと誘おうと思っていたのですが。すっかり先手を打たれてしまいましたね)
実は、“明日ある用事”というのは、そのために設けたものだった。それは―
絹旗(明日、滝壺や麦野と一緒に。浴衣を買いに行くんですよね)
今週日曜にある花火大会。そこに新しい浴衣を着ていき、一方通行を誘うという算段。
もっとも。そこに麦野を呼ぶのには…若干の苦労を要したものだが。
麦野『…は?あんたたちだけで行けばいいじゃない』
絹旗『何言ってんですか。一緒に行きましょうよ麦野!』
麦野『絹旗あんた…状況を分かって言ってんの??』
絹旗『え』
麦野『滝壺は浜面を誘う。そして、あんたは一方通行を誘うんでしょ。そこに私が加わったら…
どうみたってダブルデートの邪魔だろうがぁぁぁぁぁッ!!!!私はいらない人間なんだよぉぉぉッ!!!!』
滝壺『そんなことないよ麦野』
麦野『た…滝壺?』
滝壺『単に、いつものアイテムのメンバーに一方通行が加わるだけ。そんなに重たく考える必要はないんだよ』
麦野『…?そう…なの?』
滝壺『うん。確かに浜面のことも大事だけど、このお祭りはみんなで楽しみたいと思ってるから。ダメ…かな?』
麦野『…絹旗も?』
絹旗『私も、大体そんな感じです』
絹旗(一方通行と二人でいたい、という気持ちも無くは無いですが。それでも、
麦野を除け者にして自分だけ楽しむような真似はしたくないですし、そんな展開は超望んでません)
麦野『…そこまで言うなら、付き合ってやる』ボソボソ
滝壺『これにて一件落着だね』
そういうわけで、無事みんなで行けることになった。
そして翌日。浴衣を買いに行く日。
絹旗「明日は一方通行と水族館でデート…超楽しみです」
麦野「絹旗ぁ、心の声が外にダダ漏れ」
絹旗「はっ!」
滝壺「もうお店、着いちゃったよ」
なんたる不覚。とりあえず、今は浴衣選びに集中するとしよう。
絹旗「ところで、麦野たちはどういうのを買うのかもう決めてんですか?」
麦野「一応見て決めるけどさー。黒系がいいかな」
滝壺「私はピンク…かな」
絹旗「二人ともらしいと言えばらしいですね」
絹旗(私はどうしましょうか)
??「この黄色い帯なんかどうです御坂さん!」
??「へぇー、こんなのもあるんだ。結構よさそうね」
絹旗「ん?」
美琴「あ」
麦野「え」
佐天「い?」
滝壺「う」
絹旗「お、じゃない!!何ゆえア行を超連発してんですか!?」
佐天「いやぁー、つい釣られちゃって♪」
滝壺「私は空気を読んだだけ。そういう絹旗も言ってたじゃない」
絹旗「ノリってのは恐ろしいです…」
麦野「そんなコントはどうでもいいッ!!第3位!!?何で貴様こんなところに―」
美琴「何でって、浴衣を買いにきただけなんだけど…」
麦野「うぐっ」
滝壺「そりゃそうだよね」
絹旗「あなたたちも花火大会に行くんですか?」
佐天「あったり前じゃないですかーっ!だって祭りですもん!」
美琴「その様子だと、絹旗さんたちもそうなのね」
ちなみに、黒子と初春がいないのは風紀委員で来れないかららしい。
佐天「ところで御坂さん。この人たちとはお知り合いですか?」
美琴「あ、そうだった。そういや佐天さんは初めてだったよね。紹介するわ」
絹旗(あの黒髪ロングの人、どっかで見たような…)
……
佐天「レベル4が二人に…この麦野さんって方は、レベル5の第4位!??」
絹旗「そんなに気負わなくていいですよ。だって麦野ですし」
麦野「絹旗ァ?それどういう意味―」
滝壺「よろしくね佐天さん」
麦野「滝壺もそこは突っ込まねぇのかよッ!?」
……
美琴「そっか。みんな大体何色にしようかとか決めてんだ」
絹旗「御坂さんはどうなんです?」
美琴「んー、実は黄色の浴衣一着もってるんだけど。ちょっと気分変えて、緑にでもしようかなぁと思って」
美琴(決してゲコ太のイメージカラーに影響されたわけじゃないんだからね!?…ちょっとだけだし)
佐天「っていうか、みんな浴衣買うんですね。まぁ当たり前といえば
当たり前なんですけど!帯だけ買いにきた私が浮いてるな~…」
麦野「どういう浴衣もってんの?」
佐天「水色に、黄色の花柄のあるやつです。以前は赤の帯してたんですけど…
御坂さん同様気分変えたくなっちゃって。赤以外に似合いそうな色はないかなぁと」
滝壺「そうなんだ。でも、それなら自由に選んでいいかもね。水色って何にでも合うし」
佐天「だからこそ、何買えばいいか迷うんですよねー」
麦野「いっそラメ感のあるゴールドとかどうよ?柄とも同色系統だし、結構いいんでなーい?」
絹旗「いや、何でも合うといってもさすがにそれは…」
滝壺「麦野くらいしか似合わないよ。良い意味でも悪い意味でも」
麦野「さっきから、あんたらは私をどういう目で見てんのよ…」
絹旗「まぁ実際問題。麦野は黒系を選ぶんですから、ゴールドは似合うと思いますよ」
佐天「なんて大人っぽい色の組み合わせ…麦野さんだからこそできるってやつですね」
麦野「でも…。私もたまにはそういうのじゃなく“可愛い系”も演出してみたいっていうか…」
美琴(…第4位も複雑なお年頃なのね)
佐天「まぁゴールドはともかく、黄色なら選んでも良いかも!」
美琴「佐天さんらしい元気な色ね」
佐天「そういう御坂さんだって元気の塊なんですから、黄色とか考えてもいいんじゃないですか?」
美琴「緑の浴衣に黄色の帯…か」
滝壺「いいんじゃない?」
麦野「緑だったら、白や黒も合うわね。大人っぽさを出せるって点なら。
もっとも、第3位にはそんなの似合わないかぁ!!アハハハハハ!!!」
美琴(あいつだったら…何色が似合うっていうのかな。やっぱ黄色なのかな…)ブツブツ
麦野「こいつも滝壺や絹旗と同類か。あーヤダヤダ。佐天って言ったっけ?なんかあんたには親近感沸いてきた」
佐天「え?」(どゆこと??)
絹旗(私もいい加減、どんな色や柄にするのか目安くらいはつけないと…)
美琴「店員さんに聞いてきた!黄色は緑に合わせる定番且つ明るいイメージを出せるみたいだから…
やっぱ帯は黄色系にする!そうと決まれば、後は緑の浴衣選びね…」
佐天「じゃあ、各々探していくとしますか!」
というわけでみんな点々となった。
……
美琴「あ」
絹旗「…?あぁ、御坂さん」
偶然にも第3位さんと会った。
美琴「絹旗さんも緑の浴衣見にこっちに来たの?」
絹旗「あ、いえ。実はまだ決まってなくて。いろいろ見て彷徨ってるうちに、こっちに来ちゃったんです」
美琴「そっか。…ねえ、絹旗さん」
絹旗「はい?」
美琴「やっぱその…。あいつと一緒にお祭り行くの?」
“あいつ”とは、一方通行のことだろう。
絹旗「そうですね。そのつもりですよ」
美琴「やっぱそうなんだ。仲が良きことで」
絹旗「別に、まだそんなんじゃないですよ」
美琴「…あのさ。前から気になってたんだけど」
絹旗「?」
美琴「絹旗さんはさ、一方通行のどこが好きになったのかなぁって」
絹旗「え?そりゃぁもちろん―」
……
そういや何でだ?
絹旗「……」
いざそう聞かれると答えられない。一体、何がきっかけとなって彼を好きになったのだろう。いや、そもそも…
絹旗(私は本当に一方通行のことが“好き”…なんでしょうか…?)
絹旗「……」
美琴「あ、ゴメン、もしかして変なこと聞いちゃった…?」
絹旗「い、いえ、全然そんなことはないです」
そう。本来なら全然たいしたことのない質問だったはず。それがこうなってるのは…
絹旗(私が、一方通行について真剣に考えたことがなかったから、ですね…)
それに尽きる。
別に彼のことが嫌いというわけではない。むしろ好きな部類には入ってるはずだ。そうでもなければ
明日や祭りのことではしゃいでる自分は、一体何だということになる。ただ…それが男女の“好き”を
意味するのか。単に反応を窺うのが楽しいだけではないか。彼の意外な人間性が斬新なだけではないか。
もしかしたら、浜面という男友達の延長線上として彼を見ているだけではないか?そう思えて―
絹旗(いや…)
訂正。アホ面とは違う。少なくともヤツと一方通行とでは…。
接してるときの私の態度、感じ方は全然違う。それは私自身把握している。
絹旗(じゃあ、この感情の正体は…?)
答えは出なかった。…その代わり。一方通行のことを考えていたせいか。思いもよらない別の答えが出てきた。
絹旗「…白」
美琴「え?」
絹旗「そ、そうそう!白ですよ!白の浴衣なんか超どうかなぁと思いまして!!」
美琴「白…か。良いんじゃない?純白な感じがして。絹旗さんにも似合うと思う!」
絹旗「そうですか?じゃ、じゃぁ…白地のを探してみるとしますっ」
突然出てきた“白”という色。その理由は非常に単純。
絹旗(だって、一方通行といえば白ですもんね…)
彼のことを考えるうちに、つい顔を思い浮かべてしまっていた。白い髪に、薄白い綺麗な肌。
もっとも、それだけで浴衣に白を選んだわけではないが…。自分にも合うかどうか考えて、そして決めた。
美琴「ただ、白だけだとちょっと寂しいかもだから、柄はちょっと派手なくらいでちょうどいいかもね」
絹旗「そうですね。それなりに映えそうなのを選ぼうと思います。あ、そういえば」
美琴「どうしたの?」
絹旗「御坂さんこそ。上条当麻さんは誘わないんですか?」
美琴「!?」
一方通行のことを聞かれたせいか。向こうの“事情”も聞きたくなってしまった。
美琴「な、な…!何でここで、あの『バカ』が出てくんのよ!!?」
…分かりやすい反応だ。まさか、隠してるつもりなのだろうか。
絹旗「だって仲良さそうですし♪で、誘わないんですか?」
美琴「いや、あいつは誘うとか誘わないとかそれ以前に…!私、佐天さんたちと一緒に回る約束してるから!」
絹旗「それ言えば私だって麦野や滝壺たちと回りますよ。そこに上条さんも加えてあげたらどうです?」
美琴「…そうね。か、考えておくわ。機会があったら、ね」
絹旗(相変わらず素直じゃないなぁ)
つくづくそう思った。
……
一通り着付けも終わった頃。
滝壺「あれ。麦野、ゴールドはやめたの?」
麦野「言ったろ?今回の私は“可愛い系”も演出したいって」
絹旗「…確かに、これでキラキラ系だったら、ちょっと大人すぎたかもしれませんね」
黒地に白・紫の蝶柄が入った浴衣。そこに赤色の帯を加えることで、
若干ではあるが大人っぽさを緩和している。
佐天「か、カッコいいです…」
美琴「悔しいけど、よく似合ってると言わざるを得ないわね…」
麦野「テメェに褒められても嬉しくねえよ第3位。そっちこそ、様になってんじゃん」
美琴「そ、そうかしら…?」
緑色に白の花柄を添えた浴衣。黄色の帯も相まって、超電磁砲の美琴らしい元気な姿を醸し出していた。
麦野「それにしても絹旗…」
絹旗「?何ですか麦野?」
麦野「あんたさ、あまりに可愛っぽさ出しすぎじゃない??ちょっと心配なんだけど」
絹旗「さ、さすがにやりすぎですかね…?」
滝壺「そんなことないよ。むしろ、可愛すぎて嫉妬したくなるレベル」
佐天「ですよねー。うっかり抱きしめちゃいそうです!」
美琴「こらこら佐天さん。そういうのは初春さんだけにしときなさい」
麦野「ダメとは言わないけど。あんたって童顔だからさぁ。ちょっと幼く見えるかも。
逆に、滝壺は思ったより大人っぽいの選んだね。ちょっと意外」
滝壺「そうたいして意識したつもりはないけど」
赤紫の花柄を添えたピンクの浴衣に、紫の帯をした滝壺。ピンクというパステル色だけなら、
それはそれで滝壺に合った歳相応の可愛らしさを演出してたとも言えるが。
そこに紫系の柄や帯を混ぜることで、若干の大人っぽさが加わった形となっている。
一方の絹旗はというと。白地に赤の金魚柄が入った浴衣に、黄色の帯をしている。ただしこの帯は
佐天や美琴が選んだ無地の黄色とは異なり、黄とオレンジが交互に入った横シマ模様を成していた。
金魚柄もそうだが、そんな帯の色彩も手伝ってカラフルさを引き立て、無個性になりがちな白の浴衣を見事に
ドレスアップしていたと言えた。反面、可愛さや幼さを前面に出しすぎた組み合わせだったかもしれないが。
佐天「みんな綺麗だなぁ。私もケチらず、新しい浴衣買えばよかったかも」
美琴「ええっと…。足らないようなら、出そっか??」
佐天「いえいえ、お構いなく!その代わり、祭りには水色浴衣に黄色帯で!全力で楽しみますから!」
麦野「絹旗ー」
絹旗「何ですか麦野。まだ難癖つけるつもりですか?」
麦野「そうじゃないけどぉ。白ってさぁ、確かに清純で可憐なイメージも合って良いかもだけど。
反面、汚れやすいってデメリットもあるし、汗で透けちゃったりするかもよ?
それでも良いっていうなら、別にいいんだけどさ」
滝壺「絹旗のこと心配してる麦野、優しい」
麦野「べ、別にそんなんじゃねぇよ」
美琴「第4位…あんた良い人だったのね。…そうだ。今度からは第4位じゃなく、麦野って呼んでいい?」
麦野「ちょ!?お、オイ滝壺!!第3位のヤツなんか勘違いして―」
滝壺「良い機会。あなたもいい加減、御坂さんのこと名前で呼んであげたら?」
麦野「滝壺まで…んなワケわかんねえことを」
美琴「ダメかな?麦野」
麦野「軽々しく人の名前呼ぶんじゃねぇよ!…はっ、好きにしろよ。…御坂」
佐天「…??なんかよく分かんないけど、良い展開っぽい?!」
滝壺(よかったねむぎのん)
絹旗「……」
先ほど麦野から言われたことを、絹旗は考えていた。
絹旗(確かに…白には汚れやすいという欠点もあります。けれど)
二日前だったか。映画館を出た後…。車に水をひっかけられた時のことを思い出す。
……
絹旗『な、何を…!』
一方通行『お前ずぶ濡れなンだろ!?口調や見てくれを気にする前に、まずテメエの体を心配しろ!!
肌を冷やしたまま、家まで直行するつもりだったのかお前は??正気とは思えねェぞ…』
絹旗『…ッ』
一方通行『服に吸いついた水分、とってやるからじっとしてろ』
そう言うと一方通行は、一瞬にして彼女のまとっていた服を濡れる前の状態に戻す。
一方通行『まったくお前ってやつはァ…』
……
絹旗(だから、仮に服が汚れたとしても。一方通行がいれば大丈夫です。
…人任せというのも情けないですが。それくらい、一方通行という人は優しい。優しいから…
ついつい頼りたくなっちゃうんです。そういえばあのときの一方通行は…超カッコよかったです)
絹旗「…ぁ」
そこで絹旗は気付いた。
絹旗(あのとき助けてくれたことも。一方通行のことが気になってる“理由の一つ”なのかもしれませんね)
そう。そもそも発想提起の時点でおかしかった。Aというたった一つの理由で彼を好きになったわけではなく。A、B、C、D…といったいくつもの小さな、されど大事な要因が幾多も重なって、それが結果として“好き”
という感情の形成を促したんだと、今ようやく分かった。というか、よく考えれば当たり前だった。
たった一つの理由で誰かを好きになるほど、世の中ってのは単純じゃない。
絹旗(そう考えれば“理由”はいくつもあります。映画について真摯に感想を述べてくれたこともそうですし、
服を綺麗にしてくれたことはもちろん、プリクラでとても良い表情をしてくれたのもそうでした。
あと、狂言とはいえ上条さんや御坂さんに捕らわれた私を超全力で助け出してくれたのもそうですね)
今思えば…。最初の時点では、私は一方通行に対する斬新さ・意外さという、いわゆる好奇心だけで
彼に接していたように思う。というか、それが全てだった。そんなありふれた好奇心で…
面白おかしく彼に接しているうちに、いつのまにか一方通行に対する見方も変わってしまっていた。
絹旗(そういや一方通行に顔を押し付けられ、無理やりキスされそうになったこともありました。
彼が本当にそんなことをやるとは思ってませんでしたから、抵抗はしなかったんですけど。
ただ自分でも疑問なのが、どうして“彼はそんなことをしない”って、あの段階ですでに信じていられたのか。
能力的に近いがゆえの、あるいは暗部の人間としてのシンパシー?分かりません。ただ、そういう事実があった。
そういう意味では、もしかしたら、“気”自体はあのときからあったのかもしれませんね)
と、いろいろと頭の中では考えてみたものの。結局、絹旗の一方通行に対する“好き”は親友に対しての
ものなのか。それとも、恋愛感情から発生する異性に対してのものなのか。前者以上の“好き”であること
には間違いないのだが、かといって後者の方を断言できるほど…。絹旗にはまだその自信はなかった。
絹旗(ま、そういうわけで。汚れたのと同様に、透けたとしても一方通行の能力で…)
……
透ける?
絹旗(さすがに、透けるはないですね…)
汚れならまだともかく。透けた下着を“さっき好きだと自覚した人間”に対して見せられるほど、
絹旗にはそんな度胸はない。もっとも、そんな度胸などいらないのだが。
絹旗(スカートヒラヒラも…。とりあえず、一方通行の前ではしばらくできないですね。
いや、しばらくどころか…予定自体超考えてませんけども。けど、もし彼が『やれ』と言ってきたら。そのとき
私はどうすれば…!?いやいやいや、何をバカなこと言ってんですか私??彼はそんな変態ではないはずです)
…気を取り直して。
絹旗(今度の祭りの日までに、透けても見えないような色のパンツ…。そうですね、
ベージュ色のパンツでも、どこかで買っておくとしましょう。スリップだけでは不安ですからね)
絹旗「麦野。忠告、確かに受け取りました。助言ありがとうございますね」
麦野「別に、礼を言うほどのことじゃねえっつうの」
それでも感謝だ。もし麦野のこの助言がなければ…
自分は超恥ずかしい思いをしてしまっていたかもしれないのだから。
……
浴衣を買い終え、家に戻ってきた絹旗。
絹旗「さて…いよいよ明日ですか。一方通行とのデート、どんな感じになるんでしょうね」
そういえば水族館というスポット自体、行くのも久しぶりな気がする。
絹旗「そもそも何で水族館?他にもカラオケ、ボーリング、ショッピング、遊園地、プールなど
候補はいくらでもあるはずですよね。まぁ…どれも一方通行には似合わないんですけど」
だからこそ一方通行と行動を共にするのは楽しい。時間を共有するだけ、新しい彼を発見できるのだから。
絹旗「……」
デートに行く前に。恋愛経験が自分より深い(であろう)先輩に、
ちょっと相談してみようかなと思った絹旗だった。
Prrrrrrrrrrrrrrrrrrr、ガチャッ
??『もしもし。どうしたの絹旗?』
絹旗「滝壺滝壺!ちょっと聞いてくださいっ」
滝壺『絹旗の“ちょっと”って、いっつもちょっとじゃないんだよね』
絹旗「まぁまぁ、そう言わずに。一つ頼みますよ先輩」
……
滝壺『…好きかどうかが分からない?』
絹旗「いえ、好きなのは間違いないんです。ただ、その“好き”っていうのが
果たして恋愛感情の好きなのかどうか…私自身どうしても確証がもてなくて」
滝壺『そうだね…』
絹旗「そういえば滝壺はこういうこと考えたことあるんですか?」
滝壺『ないよ』
絹旗「これはまた、あっさり言い切りましたね」
滝壺『状況が状況だったっていうのあるかも』
絹旗「ま、まぁ確かに」
日常の中で悩む自分と、命を失いかねない状況だった滝壺とを比較して考えること自体無茶だった。
滝壺『…絹旗はさ。ちょっと難しく考えすぎなんじゃないかな』
絹旗「難しく…ですか?」
滝壺『好きと感じたら好き。少なくとも、私はそうだったよ』
滝壺『そして。私はそのことを全く後悔してない。浜面のこと、好きになって本当に良かったと思ってる』
絹旗「まぁ…それは滝壺と浜面の関係を見てれば分かります」
滝壺『つまり、そういうこと』
絹旗「そういうことと言われても…。私はどうすればいいんです?フィーリングでいけばいいんですか?」
滝壺『そもそも、絹旗は一方通行とどうなりたいの?』
絹旗「え…」
滝壺『私にとって浜面はかけがえのない大切な人。だからいつも一緒にいたかった。だから…恋人になった』
絹旗「……」
滝壺『絹旗にとって、一方通行はどんな人?』
絹旗「どんな人って…」
さすがに、今の段階では滝壺の言った“かけがえのない大切な人”とまでは言いきれない。けれど…。
少なくとも、今彼が蒸発されたら私が悲しむのは確かだろう。それだけ感情を寄せているのも事実だ。
絹旗「分かりません…ただ、一緒にいたい。時間を共有したいとは思ってます」
これは実際に、電話をかける前に考えていたことだった。
滝壺『なら、そうすればいいんじゃないかな』
絹旗「え?」
滝壺『今絹旗が言ったこと。それはウソじゃないんだよね?』
絹旗「そ、そりゃそうですよ!何でこんなところで滝壺にウソつかなきゃならないんですか??」
滝壺『それなら。その言葉は“絹旗にとっての真実”だよ。その通りに行動すればいいと思う』
絹旗「その通りに…?」
滝壺『そうすることで見えてくるものもあると思う。私はそうやって浜面を好きになった。
好きになろうとして好きになったんじゃなくて。いつのまにか好きになってたんだ』
絹旗「…明日、一方通行と会ってきます」
滝壺『知ってる』
絹旗「彼と、一緒にいたいと思います」
滝壺『うん』
絹旗「…そっか。やることは超単純だったんですね」
滝壺『明日のデート、楽しんできてね』
絹旗「はい!」
滝壺にお礼を言って、電話を切る。
絹旗(…難しく考えるのはナシです。明日はとにかく超楽しまねば)
ということはつまり
絹旗「いつも通りの私で。いや、むしろ一方通行をからかうくらいの勢いでいいのかもしれませんね!」
そうすればきっと、滝壺の言った通り何かが見えてくる…はず。
絹旗「……」
絹旗「ぁ」
そうだ。ふと思いついた。
絹旗(お弁当なんてつくってみるのはどうだろう…?)
これこそまさにデートの定番ではないか。それに、万が一にも彼に喜んでもらえたら。
私自身も嬉しいし、ますます楽しい日になるはずだ。
絹旗(とはいえ、人のために弁当をつくるなんて初めての試みですね…)
若干の不安がよぎる。
絹旗「いやいや、考える前からあきらめてしまっては超ダメですね。
とりあえず軽くメニューは考えて、明日早起きしてつくるとしましょう」
寝過ごさないよう、目覚まし時計には厳重にタイマーをかける。
絹旗(…明日が良い日になりますように)
そして―
……
絹旗(楽しかった…はずなんです)
時間は戻る。絹旗が一方通行と一緒に水族館を出て、海岸線を歩き、そしてファミレスへと入ったあの時間帯に。
絹旗(楽しかったです。一方通行と一緒にいた時間は…超楽しかったです。
魚を見ながらバカ話をしたり、一緒にお弁当を食べたり―)
だが
後になって付いてくると思ってた“感情”が。付いてこなかった。
絹旗「……」
確かに、一方通行とは会ってまだ日も浅い。変化を求めることに、自分が焦りすぎてるという自覚はある。
けれどその一方で…。得体の知れない不安を抱えている自分にも気付く。
『自分は一方通行のことが好きではないのではないか』
……
一方通行(どうすりゃいいンだろうなァ俺は)
思えば、彼の周りにはいつも打ち止めや番外個体といった、良い意味でも悪い意味でも騒がしい
人間たちがいた。絹旗最愛もその例外ではない。だからこそ彼女とも難なく付き合ってこれた。
では、そんなカテゴリーからはずれてしまった今の絹旗に対しては?どうすればいい?
一方通行(困ったな)
現実を逃避する形で、外の景色へと目を向ける一方通行。そこには海があった。
一方通行「…ン?」
一方通行(コレが、俺がさっき見ていた…海?)
いつもなら海程度に驚く一方通行ではなかったろうが。比較してしまったなら話は別だ。
一方通行(夕方ンときはあんなに赤く照らされて綺麗な感じだった海がよ、
夜になった今は海そのものが闇と同化して、何か引きずり込まれるようなオゾマシサを覚えるゼ)
夜の海は怖いと聞いたことがあるが、なんとなくその感じが分かった。
一方通行(見様によっちゃ、一つのもンでも全然違って見えてくるもんだなァ)
つい感心する。本当は感心している場合ではないというのに。
一方通行「……」
今の絹旗がまさにそうか。しかし時間帯によって見た目が変わる海とは違って、
絹旗は別に夜になったからといって口数が変化したわけではない。当たり前だが。
では、何が原因で彼女はこうなってしまったのか。
一方通行(!!ま、まさか…ッ!!)
嫌な予感がした。結標との、ある会話を思い出してしまった。
結標『例えばね一方通行。絹旗さんが“疲れてそうに見えなかったら”。どうする?』
一方通行『どうするって、それなら問題はねぇンじゃねェか』
結標『そう考えがちよね。でもいつもそうであるとは限らない。
もし絹旗さんが実際には疲れてても、“疲れていないようなフリ”をしてるだけだったら』
一方通行『は?』
結標『あんたに心配をかけたくない。だから、“疲れていないようなフリ”をする』
……
まさか、そういうことなのか??本当は体調が優れなくて、だが傍に俺がいるせいで
無理して平静を装ってるだけ。疲れていないようなフリをしてる…だけ!!?
一方通行(ッ!やべェぞ!?もしそれが事実なら、どうして俺はそれに早く気付いてやれなかった!!?)
彼は立ち上がる。そして―
一方通行「絹旗ァ!!帰るぞッ!!」
絹旗「!?」
一方通行「食事は粗方済んだろッ!?だから帰るぞォ!!」
絹旗「え、ちょ―!?」
会計を済ませ、絹旗を連れて無理やり店を後にする一方通行だった。
絹旗「あ、あの!?一体どうしたんですか一方通行!?」
一方通行「いいからテメェは早く家帰って休め!!!」
絹旗「??」
一方通行「まったく無理しやがって…体調が悪化したらどうするつもりだったンだァ??」
ご覧の通り、実は一方通行もこのとき暴走していた。あくまで可能性の一つでしかないのに、彼は結標の
言っていた“疲れていないようなフリ”を、いつのまにか確定要因として思いこんでしまっていたのである。
なぜ彼は冷静さを失ってしまっているのか?
一方通行(人が苦しむ様ってのはなァ、見たくねェんだよ…)
エイワスに『ロシアに行け』と言われて以来、打ち止めが助かるその瞬間まで、
彼女の看護や警護に勤しんできた一方通行。そういった過去が、この突発的とも言える
行動の根底にあるのは間違いなかった。そんな一方通行に彼女は―
絹旗「ま、待ってください一方通行!!手を離してくださいっ!!」
直感で思った。このままでは、彼の能力をもって比喩抜きで“高速”で家まで召還されるであろうことを。
何で一方通行がこんなことになってるのかは分からないが、こんな意味不明な状況で家まで直行はまずいと
本能が告げている。間違いなく、次一方通行と会うとき顔を合わせられなくなる。それだけは嫌だった。
一方通行「手を離せだァ!?早く帰るって言ってンだろォが!!?」
絹旗「!そ、そうだッ!トイレです!トイレに…超行きたいんですっ!だから、手を…離してください!」
一方通行「なんだとォ!?ト、トイレなら仕方ねェな…」
絹旗(ごめんなさい一方通行…ウソなんです)
先ほどまでいたファミレスの中へと走っていく絹旗。
ではなかった。ファミレスの中へと走っていくフリをして、外のすぐそばにある横道へと入っていく絹旗。
絹旗「……」
絹旗「と、とりあえずここなら落ち着けますね。トイレだと言って
逃げてきちゃいましたから…あまり待たせてもまずいとは思いますが」
言葉通り自分を落ち着かせ、思考を取り戻す。
絹旗「それにしても、何だって一方通行はいきなりあんな…。体調がどうたら言ってましたね」
……
絹旗「…もしかしてアレですか。黙っちゃった私のことを、気分が悪いと思った…?
だとしたら辻褄が合います。ちょっと行動が強引すぎましたけど…」
しかし…そう思われるような原因をつくったのは自分なんだから、
彼の行動にいちゃもんをつけられる資格、私にはない。
絹旗(むしろ感謝しなくちゃいけない場面ですよねこれって…)
今みたいにすぐ暴走して勘違いしたり、不器用だったり、口が悪かったり、顔文字の使い方も知らなかったり。
でも、そんな一方通行だからこそ私は…
優しい人―
絹旗「……」
絹旗は携帯を取り出す。そして電話をかけた。そして、なぜかこのとき…とてもイライラしていた。
Prrrrrrrrrrrrrrrr
絹旗(出てくれればいいんですが…っ)
…ガチャッ
??『…絹旗?』
絹旗「滝壺!」
またしても私は…彼女へと電話をかけていた。
滝壺『…?もうデートは終わったの?』
絹旗「滝壺…っ!」
そして私は、思ったことをそのまま吐露した。いや…吐露していた。
絹旗「私…っ、もう自分のことが分かりません…っ!!」
本当に分からなかった。
滝壺『どうしたの絹旗?…大丈夫?』
心配してくれる彼女の優しい声が…電話の向こう側から聞こえる。
絹旗「私、今とてもイライラしてんです…っ!!」
滝壺『……』
何を言ってるんだ私は。こんなことを滝壺に言ってどうするつもりだ…?というより、
何で私はこんなに苛立ってるんだ?その原因が分からないことが、さらにその感情の波を悪化させた。
絹旗「私は…っ!一方通行と今日一緒にいて楽しかった!なのに…なのに…っ。それでもどうしても
得られないんです…。私が一方通行のことを“好き”だという確証が…!!何でですか…!?
私はこんなにも一方通行のことが好きなのに!!どうしてそれさえ分からないんですか…!?
どうしてこんなに一緒にいて、分からないんですか…ッ!!?」
もはや支離滅裂だった。自分で自分が何を言ってるのか分からない。
滝壺『……』
こんな私であっても彼女は静かに話を聞いてくれていた。そして―
滝壺『…呆れた』
当然ともいえる反応が―返ってきた。
絹旗(ははっ…そりゃこうなりますよね)
滝壺『…あのさ絹旗』
しかし次の瞬間、その“呆れた”は自分の思ってた意味とは異なることを知る。
滝壺『もう答え、出てるよ』
絹旗「…え?」
今滝壺は何と言ったのか。答えが…出てる?答えって何の??っていうか主語は??誰が出した答えなの??
絹旗「…??」
混乱している私に、滝壺は語りかけるようにして教えてくれる。
滝壺『絹旗が。自分で出してたじゃない』
絹旗「……」
何を言っているのだろうか。一体いつ、私が“答え”なんてものを出した。
滝壺『私の耳が悪くなければ。確かに絹旗は、さっき一方通行のことを“好き”だって言ってたよ』
絹旗「…ぁ」
『私はこんなにも一方通行のことが好きなのに!!』
絹旗「ま、待ってください滝壺!あれはほぼ勢いみたいなもんで…
私自身言ったことすらよく覚えてないくらいで…!」
滝壺『ってことは、無意識のうちにそう思ってるってことだよね』
絹旗「……」
滝壺『…絹旗。怖い?』
絹旗「え?」
滝壺『“好き”って認めることが、怖い?』
絹旗「こ、怖いって…??な、何を言ってるんですか滝壺は」
滝壺『だって、後は絹旗がそれを認めるかどうかだから』
絹旗「…??」
滝壺『“好き”っていう確証が得られないって言ってたけど、そんな分かりやすいものがあると思ってる?
絹旗がたまに見るようなサスペンス映画に出てくる、“物的証拠”とはワケが違うんだよ?』
絹旗「ば、バカにしてんですか!?さすがにそれくらい分かってます…っ!!」
滝壺『だったら、後はその感情を。勇気をもって認めるだけ』
…勇気?
滝壺『本気で人を好きになること自体、絹旗にとって初めてだもんね。…大丈夫。初めてだけど、怖くないよ』
絹旗「……」
怖い。その表現はある意味当たっていたのかもしれない。
絹旗「向こう側にある感情が…私には分からなかったんです」
滝壺『うん』
絹旗「分からないものだから…。どこかで構えていたのかもしれません」
滝壺『…うん』
絹旗「心の中で…ブレーキをかけてたのかもしれません」
“その感情”に近づけない。分からないから近づけない。いや、分からないからこそ近づきたくなかった。
それは結局、滝壺の言ってた“怖い”という感情の裏返しなんだろう。
滝壺『…大丈夫。絹旗なら大丈夫って、私は信じてるよ』
絹旗(私は…っ)
そのとき―
何かが吹っ切れたような気がした。
絹旗「……」
以前、浜面に『絹旗は知り合いに依存するタイプだ』と言われたことがある。あぁ、確かにそうだなと思った。
自分の感情の整理すら満足にできず、挙句の果てに今この瞬間、こうやって滝壺に頼ってしまったのだから。
絹旗「…滝壺。一方通行を待たせてるんで、もう切りますね」
滝壺『そっか。やっぱりまだデートの途中だったんだね。…もう私にかけてきちゃダメだよ?』
絹旗「あはは、滝壺も厳しいですね」
滝壺『厳しくもします』
絹旗「大丈夫ですよ滝壺。私は、もう超大丈夫ですから!」
滝壺『超が付くくらい大丈夫なら、もう心配はいらないね』
絹旗「じゃ、切りますね。…ありがとう滝壺」
滝壺『うん。どういたしまして』
…電話を終える。
絹旗「……」
絹旗「…よしっ!!」
……
一方通行「絹旗のヤツ…大丈夫なンだろうな??」
トイレに行ったということは、やっぱり絹旗は調子が悪かったというわけで―
一方通行(チッ!どうして早く、ヤツの身体の不調に気付いてやれなかった!?)
なぜ気付けなかった…。もしかしたら、自分自身絹旗とのデートに浮かれすぎていたのではないか。
だから気付けなかった…?だとしたら、なんとお粗末な展開だろうか。
…まぁ、実際には絹旗は体調が悪いわけではなかったから。一方通行が知覚できなかったのも
当然といえば当然なのであるが…。というか、ないものに一体どうやって反応しろという話だ。
絹旗「一方通行!」
そして自分を責めてる間に、彼女は戻ってきた。意外に早かった。
一方通行「おォ!ン?お前…もう大丈夫なのか?」
というのも。絹旗の顔が、先ほどファミレスで沈んでたような表情とは打って変わって明るくなっていたから。
絹旗「少し休めば超元気になっちゃいました!」
語尾にも力が入ってる。どうやら本当に復活したらしい。
一方通行「そォか。本当に良かった…。ゴメンな早く気付いてやれなくて」
絹旗「ッ!いやいやいや!むしろ心配してくれて超ありがとうなんですよ…っ」
まさか、本当は何でもなく“友達と電話してただけ”なんて、申し訳なさすぎて言えない絹旗だった。
絹旗「また散歩しませんか?」
一方通行「って、またかよ…お前ホント歩くの好きだなァ」
絹旗「歩くのが好きなんじゃなくて… 一方通行と一緒にいるのが好きなんですっ!」
そう言って彼女は一方通行の腕を取る。
一方通行「オ、オイ!?」
絹旗「ダメ…ですか?//」
一方通行「く…ッ!!!」
なんだこの上目づかいは。反則じゃねェかこン畜生ッ!
絹旗「今度はただ海岸線歩くだけじゃなくて下に降りてみましょうよ。砂浜の上を歩いてみたいんです」
一方通行「い、いいけどよォ…」
どうも左腕の行方が気になる。
一方通行(なんか“当たってる”ような気がすンだが…?気のせいだと思うことにするぞ俺はァ!!!)
心の中でシャウトする一方通行だった。
……
絹旗「うわー。海って夜になるとこんなにも真っ暗なんですね!」
一方通行「あんまり海に近づくンじゃねェぞ。足元だって暗ェんだからな」
絹旗「でも、万一何かあっても一方通行が助けてくれますよね?」
一方通行「人任せかよ。タチ悪ィなオイ」
だが自分を慕ってくれる絹旗に、同時に嬉しくも思う。
絹旗「あ、波がきてますね」
一方通行「そォだな」
絹旗「引いていきますね」
一方通行「そォだな」
絹旗「えへへ。一方通行♪///」ピトッ
体を密着させる絹旗。
一方通行(女ってのは意味分かンねェ!?)
絹旗「一方通行!」
一方通行「な、なんだァ」
絹旗「私の周りには“窒素の壁”が展開されてます!」
一方通行「みてェだな」
絹旗「窒素は水に溶けません!」
一方通行「正しくは“溶けにくい”な…で、何が言いてェんだお前は」
絹旗「っつーわけで、満を持して飛び込みます!!」
一方通行「は?」
絹旗「とぅおおおおおおおッ!!!」
一方通行「バッカ!?ちょ―」
バッシャーン
海へとダイブする絹旗。
一方通行「荒ぶってるってレベルじゃねェぞ!!?」
一方通行「オ、オイ!?大丈夫かよ??」
彼女が飛び込んだほうへと急いで向かう一方通行。
絹旗「……」ビショビショ
一方通行「き、絹旗…?」
ずぶ濡れの絹旗がそこにいた。
絹旗「…なんで。私濡れてんですか?」
一方通行「いや、当たり前ェだろ」
絹旗「窒素があるのに…」
一方通行「それでもあのダイブはない」
やれやれといった感じで絹旗に近づく一方通行。能力を使って、以前と同じく乾かしてやろうとしたところ―
一方通行「って、」
一方通行「何で逃げンだコラァァァァァァァァァッ!!?」
絹旗「怖い人が追っかけてきます♪」
ずぶ濡れのまま逃走を開始する絹旗。とても 楽 し そ う だった。
一方通行「何考えてンだあいつは…」
呆れながらも、急いでその後を追おうとする一方通行。能力を発動して一気に間合いを詰めようとするが―
絹旗「こっちですよー!一方通行!」
一方通行「……」
なんか、能力使ったら負けのような気がしたんで、自力で絹旗に追いつくことにした。
絹旗「わー!わー!」
一方通行「ガキかテメェは!?こんなことしてて恥ずかしくないンかァァァァァァァァ!!?」
悲痛な叫びをとばす一方通行。
絹旗「だってガキですから♪」
一方通行「クソがァァァァ!!!」
幸いにも、一方通行はすぐに彼女を捕まえることができた。
服の濡れた重さで、絹旗の足が鈍っていたというのもある。
絹旗「変な人に捕まっちゃいました!」
一方通行「…はァ」
ため息をつきながらも…彼女を波の来ない安全な場所へと移し、服を乾かす一方通行だった。
一方通行「……」
ところが。そうは問屋が卸さなかった。
一方通行(下着ってどうすンだ…??)
以前、車に水をひっかけられたときは表面上の服だけで済んだ。
だが、今回は言葉通りのずぶ濡れである。ということは下着から水分を取るためには―
一方通行(その下着に触れなきゃいけねェってことだよな…)
……
一方通行(できるかあああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!)
彼は心の中で思う。さすがにそれは許されない、と。
そして同じ頃―
絹旗(滝壺…っ!私、自分の欲求に従って素直に行動してただけなんです!!
濡れても、別に一方通行に乾かしてもらえばいいや、みたいな軽い気持ちで後先考えず突っ走ってたら…
下着のことを超すっかり忘れてました!?これって一方通行にその… されるってことですよね?!///)
二人とも絶賛大混乱だった。
しかし。肝心の肌に触れる下着がこれでは、絹旗は風邪をひいてしまうかもしれない。
一方通行(だからといってこれは…ッ)
途方もない葛藤と闘っていた一方通行だった。
絹旗「あ、あの、一方通行…」
一方通行「な、何だァ!?」
絹旗「その…。下着も、乾かしてください///」
一方通行「」
一方通行「すまん。思考がとンでた。で、何だって?」
絹旗「だ、だから下着も…お願いしたいんです///」
一方通行「」
一方通行(うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!!)
と、叫んで現実逃避してる場合じゃない。
絹旗「そ、その、ちょっと触れるだけで直せるんですよね?!だったらそれで…//」
一方通行「!」
我に返る一方通行。
一方通行(そうだった。一瞬でいいンだ!一瞬だけでも触れれば、それだけで直せる…ッ!!)
そうだ。たかが一瞬じゃないか。そう思うことにした。というか、そうでも思わないとやってられない。
絹旗「じゃあ、あ、あの…ブラからでいいですか?//」
一方通行「お、おう…」
絹旗(は、恥ずかしいです…っ)
静かに…ゆっくりと上着をめくり、下着姿の上半身をさらけだす絹旗。その顔は真っ赤だった。
絹旗(あっ!!?//)
そこで“失態”に気付く。
絹旗(一瞬だけなら、後ろだけをチラッと見せればよかったのでは!!?私ってば何をやって…!?)
一方通行(俺は乾燥機、俺は乾燥機、俺は乾燥機、俺は乾燥機、俺は乾燥機…!!)
もっとも、仕切り直せばよかっただけの話なのだが…。パニクってたのか、絹旗にその選択肢はなかった。
一方通行「じゃァ、触るからな…ッ」
絹旗「は、はい…//」
…さすがに一方通行もブラのことは分かっていた様子。後ろの布面積の小さな箇所を、指でちょこんとつつく。
一方通行「…完了ォ」
絹旗(一方通行が賢くて助かりました…っ)
一方通行「じゃ、次は下のほうだなァ…」
絹旗「え!?も、もうですか!?//」
一方通行「早ければ早いだけいいだろうがよォ…!」
絹旗「そ、そうですよね…っ!」
絹旗(こんな状況でも一方通行は淡々としてるんですか…?さすが学園都市最強のレベル5です…。
精神力も並大抵ではないということですね。でも、ちょっとは私の体にあたふたしてほしかった…
って何を言ってんですか私は!?//いけない!こういうとき、無駄なことは考えちゃダメですね…///)
一方通行(俺は乾燥機、俺は乾燥機―)
絹旗「じゃ、じゃぁ一方通行…//」
一方通行「あァ」
さすがにさっきのようなミスはしない。スカートを若干ずらし、パンツをチラ見せする絹旗。
絹旗(―っ!パンツを意識して見せるのって凄く恥ずかしいです…っ///)
緊張で頭がおかしくなりそうな絹旗をヨソに、一方通行は淡々とその手を腰の横あたりへと伸ばす。
前は局部、後ろはお尻。だとしたら、触れるべきは側面しかない。そこは一方通行も冷静だった。
一方通行「…終わったぜ」
絹旗「あ、ありがとうございました…」
…気まずい空気が流れる。
絹旗「あ、あの、一方通行」
一方通行「何だァ…?」
絹旗「もしかして、嬉しいハプニングとか超期待しちゃったりしましたか…?//」
一方通行「……」
一方通行(ンな余裕すらなかったっての…乾燥機と冷蔵庫が闘う幻覚が見えたくらいだ)
絹旗「あの…本当にありがとうございました一方通行。
やっぱ普通の状態ってのはいいですね。濡れてる服は動いてて気持ち悪かったですから…」
一方通行「自分から濡らしておいて、さらに逃げておいて何言ってんだテメェ」
絹旗「…もしかして怒ってます?」
一方通行「当たり前ェだろッ!?ったく…。時間が時間だ。今日はもう帰るぞ」
絹旗「っ!!ま、待ってください!怒ってるのなら謝ります!謝りますから…っ!!」
一方通行「別に怒ってねェよ。これ以上遅くなったら、そっちも困るだろうが」
絹旗「私は…そんなことないです」
一方通行「―は?」
絹旗「……」
一方通行「…バカなこと言ってねェで帰るぞ」
後ろを振り向き、歩きだそうとしたその瞬間―
絹旗「一方通行…っ!」
その叫び声とともに、背後から抱きしめられる。
一方通行「…ァ?」
絹旗「……」
一方通行「何やってンだお前」
絹旗「ごめんなさい…っ」
一方通行「お前…」
絹旗「私、調子にのっちゃって…っ!!一方通行のいろんな反応を見るのが超楽しくて…
でも、やりすぎちゃって…!だから、ごめんなさい…っ」
一方通行「…バカが」
そう言って絹旗の方を振り返る一方通行。そして―
絹旗「っ!?」
一方通行「だから、怒ってねェって言ってンだろが…バカが」
そっと、絹旗を抱きしめ返す一方通行。その腕に力を込める。
一方通行(むしろ、ずっとお前とこんなふうになりたかったとか…
恥ずかしくて言えるワケがねェだろうが…!!)
絹旗「く、苦しいです一方通行…っ!」
一方通行「わ、悪ィ…ッ」
いけない。力を入れすぎてしまった。
絹旗「一方通行って…。意外に大胆ですよね。さっきだって、無理やり私を連れ帰そうとしましたし…」
一方通行「……」
絹旗「でも。そういうところ、嫌いじゃないです」
チュッ
一方通行「!?」
絹旗「…こんなことをするくらい。私は、あなたのことが嫌いじゃないってことです…っ!///」
大事な人の頬に。私はキスをした。
一方通行「お、お前…!?」
絹旗「私…。今、凄く緊張したんですよ…?胸がバクバク言って…超苦しいです…っ」
一方通行「絹旗…っ」
絹旗「何から何まで初めてだらけで…。さっきから私、胸が痛いんです…」
一方通行「……」
絹旗「鼓動も凄い速くて…まるで自分のものじゃないみたいなんです。
そんな自分ですけど…、それでも!私は、一方通行に伝えたいことがあるんです…っ」
一方通行「伝えたい…コト…」
絹旗「一方通行。これから私が言うこと、聞いてくれますか?」
一方通行「……」
一方通行「ダメだ」
絹旗「え…?」
一方通行「これ以上、お前に辛ェ思いはさせられねェ…
そんな泣きそうな顔されたら、それを見てるこっちのほうが辛ェんだよ…っ!」
だから―
一方通行「俺から言わせてくれねェか」
絹旗最愛。こいつとはいろいろあったな。
『罵倒語を一文に2語も混ぜるなんて、あなた中々できますね!』
『いやぁ、たまに車を投げたくなる時って超ありません?』
『実は、私もあなた同様、相当口が悪い部類に入ります』
『気分が高揚してるとおかしくなっちゃうんですよ!』
『ニューワールドですか?じゃあ私と一緒にそのニューワールドへ突撃しましょう!』
……
見事に変なことだらけだった。
だが。それがこいつの面白いところでもある。
一方通行「絹旗最愛…か」
絹旗「…?」
一方通行「いや、よく考えたら“最愛”って凄ェ名前だなと思ってよ」
絹旗「…今更その話題ですか?最愛については、とっくに上条さんが突っ込んでましたよ」
一方通行「ンなこともあったっけなァ」
絹旗「…あの、言ってくれるんじゃなかったんですか?私、いい加減胸が苦しくて―」
一方通行「最愛」
絹旗「!?さ、最愛って…」
一方通行「最も愛する…か。良い名前だよなァ」
絹旗「…っ」
一方通行「お前の名前を…思い浮かべながら言わせてもらうわ」
絹旗「……」
一方通行「最愛」
絹旗「…はい」
一方通行「好きだァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!」
絹旗「……」
一方通行「……」
絹旗「…すみません。笑ってもいいですか?」
一方通行「ちょ―!?テメェ、どういうことだッ!!?」
絹旗「だ、だって!あまりにも告白がストレートすぎて…っ!」
一方通行「…ッ!悪かったなァ!!不器用なンだ…!察しろ」
絹旗「別に悪いだなんて思ってません。超ストレートなのが、一方通行の良いところですもんね」
一方通行「…っ」
絹旗「私も。一方通行のこと、超好きですよ」
彼を見上げ、絹旗は目を閉じる
一方通行「……」
つまり、これはそういうことなんだろう
一方通行「最愛…好きだ」
そう言って彼は、最愛と口づけを交わす
絹旗「…//」
一方通行「…っ」
絹旗「1回じゃ…嫌です」
一方通行「…そォかよ」
再びキスをする
絹旗「もっと…もっと一方通行とキスしたいです…っ!」
一方通行「…いいのか?俺は止められねェぞ…っ」
“最愛を自分のものにしたい”という衝動が、もはや一方通行の中で抑えきれなくなっていた
一方通行(最愛…ッ!!)
そして―
絹旗「んンっ!??」
一方通行「っ!!」
絹旗「ん…っ!?ちょ、待っ…!!」
自分の舌を突き出し、最愛のそれと絡め合わせていた
絹旗(ここでディープですか!?)
突然の“性行為”に頭の中が真っ白になる絹旗だったが…受け入れようと思った
だって、相手は自分の好きな一方通行なのだから
一方通行(最愛ッ!!)
絹旗「はぁ…っ!ん…っ、む…う…っ!!」
舌が舌を舐め回す くちゃくちゃといやらしい音が鳴っていた
何分続いたのだろうか それさえ分からなくなるくらい、二人はその行為に没頭していた
絹旗(苦しい…ですっ…!!)
心拍数がおかしなことになっていた それは一方通行も同様だったが…彼女はもう限界だった
それに気付いた一方通行は… 心残りはあるものの、一旦唇を絹旗のそれから離した
絹旗「はぁ…はぁ…、はぁ…っ!」
唾液の糸が口からひいていた そんな彼女の頬は紅潮しきっており、とろんとた目で彼を見つめている
一方通行(何でコイツ…こんなにエロいンだよ…!?やべェ…抑えられねェ…っ!!)
そして 気付いたときには、再び絹旗は抱きしめられていた それも物凄い力で
絹旗「っ!!?」
一方通行「最愛…もう俺…ッ!!」
絹旗「い、息が…く、苦し…っ!!や、やめて…!あぁ…っ!ぁ…っ!!」
衝撃に耐えられなくなっていたのか 絹旗は泣き出しそうになっていた
涙声で訴えられ、ようやく我に返る
一方通行「!!す、すまねェ…っ!!」
絹旗「はぁ、はぁ…っ!」
一方通行「最愛…!」
絹旗「ひ、ひどいです…よ!!いきなりこんな…っ!!」
さらに涙声で言われる
一方通行「最愛…俺っ…」
自分のとっさの行動で彼女を怖がらせてしまった… そう思うと、心が痛んだ
絹旗「もうちょっと…!優しく…してください…っ」
一方通行「分かった…ゴメンな」
今度は傷つけないように 彼は精一杯の優しさで、彼女に軽くキスをした
絹旗「…ゴメンなさい」
一方通行「?何で謝ンだよ…?」
絹旗「だって、もっとキスしたいって言ったのは私なのに…!
それなのにやめてとか言ったりして、本当に自分勝手だなと思ったんです…っ」
一方通行「いや。俺がやりすぎたンだ。お前が気にする必要はねェ」
絹旗「……」
一方通行の左手をとる絹旗
一方通行「…?」
そして― それを自分の胸に押し付ける
一方通行「!?お、お前、何を…ッ!!?」
絹旗「…分かりますか一方通行?私、こんなにもドキドキしてたんですよ…?」
ドクッ、ドクッ、ドクッ、と… 確かにその高鳴りは、一方通行の指先へと伝わっていた
絹旗「でも、この鼓動…。私、嫌いじゃないんです。そりゃきつかったです…!
きつかったですけど、それはまだ…慣れてないからだと思うから。慣れればきっと、
この高鳴りだって心地良いものになるって…私はそう思ってるんです…っ」
一方通行「最愛…」
一方通行(お前の気持ちは分かったよ。少しずつ慣らしていこうな…)
ここにきて、ようやくお互いの意志疎通ができたような気がした 良い雰囲気だった
…はずだった
ムニュッ
絹旗「っ!!?///」
一方通行(ァァァァ!??)
事故だった 彼が胸から手を離そうとしたところ… 予想以上に、絹旗が力を込めて彼の腕をつかんでいた
ということもあって動きがずれ、どういうわけか彼女の胸を揉む形となってしまっていた
絹旗「一方通行って…。硬派ぶってて、実は超スケベなんですね…っ///」
一方通行「」
もはや弁明する気も起こらなかった というか、そんなことを考える余裕すらなかった なぜなら―
一方通行(や、柔らけェ…っ)
彼女のこの小さな膨らみに… 一方通行は“快感”ともいえるものを感じていたから
一方通行(!いやいや!これはマズイッ!!)
すぐさま我に返る。こんなワケの分からない感覚に浸食されたままでは…絶対大変なことになると、
直感でそう思った。どう大変になるのかは分からないが…っ。とにかく、このままではマズイと思った。
絹旗「…っ」
一方通行(嗚呼。これはもう、ドン引き間違いなしの展開だなァ…)
一体どんな暴言罵倒を言われるのか。最悪、窒素装甲も喰らうかもしれない…と思った。が―
絹旗「一方通行の…エッチっ!!///」
一方通行「!」
一方通行(可愛すぎンだろうが…ッ!!畜生!!)
彼女から発せられた言葉はひどく甘く、官能的なものだった
そして、それだけでは終わらなかった
絹旗「ちょ、ちょっとだけなら…」
一方通行「え?」
絹旗「ちょっとだけなら…いいです…っ」
一方通行「……」
今、この娘は何と言った?
一方通行「お前…なンてこと言ってんだ!?恥ずかしくは…ねェのかよ…っ」
絹旗「恥ずかしいですよ…超恥ずかしいに決まってるじゃないですかっ!!
でも、あなたが…その、触りたそうだったから…っ」
一方通行(なン…だと?)
まさか、さっきの『や、柔らけェ…っ』が顔に出てしまっていたのか。死にたくなった一方通行だった。
一方通行(だ、だが…ッ!ここで『ハイそうですか』と言って揉むわけにも…ッ)
絹旗「…もしかして」
一方通行「な、何だ??」
絹旗「もしかして、魅力ないん…ですかね?私の胸…。そ、そうですよね、だって小さいですし―」
一方通行「ンなことはねェ!!」
絹旗「え」
一方通行「あ」
ここでの否定の真意。彼は“魅力がない”という、まさにその言葉を否定したかった。
“小さいほう”がいいとか、決してそんなことを思っていたわけではない。
一方通行「お、俺は大きさとか、そんなのは気にしねェって言ってんだよッ!!」
絹旗「そ、そうなんですか…っ!」
一方通行「…オイ」
絹旗「は、はいっ」
一方通行「本当に…触ってもいいンだな?」
確認を取る一方通行。万が一聞き間違いだったとかでは、シャレにならない。
絹旗「だから、ちょっとだけならいいって…言ってるじゃないですか…っ」
一方通行「そォか」
短く言葉を切り、彼は“それ”を実行した。
絹旗「ぁ…っ!//」
一方通行「……」
絹旗「一方通行の手…優しいです//」
揉むのではなく。優しくスライドさせる形で、手を胸に添える一方通行。
一方通行(…さっきは理性を失っちまいやがった。そのせいで、思わず舌を口に入れたり
強く抱きしめたり…散々だった。今度は絶対、そんなミスは犯さねェ)
言ってることはカッコいいが。実態は胸を触るだけなので、やはりカッコよくはなかった。
絹旗「…どうですか一方通行?」
一方通行「凄ェいい」
絹旗「ホントにストレートなんですから…//」
一方通行「……」
呼吸にあわせて胸が上下してるのが分かる。服の上からだったが、体温のようなものも感じられ
妙に生々しかった。いや、実物を触っているのだから当たり前だが。
一方通行「お前は…」
絹旗「何です?」
一方通行「俺みてェな男に触られて、嫌とは思わねェのか?」
絹旗「…呆れました。今更そんなことを言うんですね。好きな人だからこそ、
私も『触っていい』って言ったんじゃないですか…っ。むしろ一方通行じゃないと嫌です…//」
一方通行(嬉しいこと言ってくれるじゃねェか)
一方通行「“ちょっと”だからな。もうやめるぞ」
絹旗「は、はい…」
一方通行「?なンか残念そうだな」
絹旗「ッ!?そ、そんなことないです…」
一方通行「そっか」
絹旗(…別に感じてたわけじゃないんですから…///)
仮にそうだったとしても、そんなことは一方通行には絶対知られたくない絹旗だった。
一方通行「っつーかマジで暗い。そろそろ帰るぞ」
絹旗「あ、そ、その前に…!」
一方通行「ン?」
絹旗「私と一方通行は…付き合ってるんですよね?恋人同士…なんですよね?」
一方通行「そォだな。ついさっきそうなった」
絹旗「…ですよね。変なこと聞いてすみません」
絹旗(一応、本人に聞いて確かめたかったんです…。帰って“夢”だったとかじゃ、嫌すぎるから)
絹旗「ぁ…」フラッ
一方通行「!?お、オイ!!」
転びそうになる絹旗を、とっさに支える一方通行。
一方通行「いきなりどうした??具合でも悪くなったか!?」
絹旗「あ、いえ、そうじゃないんですけど…。安心したせいか、急に疲れが押し寄せてきちゃって…っ」
一方通行「…まァ、そうもなるだろうよ。海にダイブとか、あんなにはしゃいでたんじゃァな」
絹旗「ははっ…そうですね。後、今日は“初めて”のことが多くて、精神的に疲れたというのもあります…」
一方通行「そォか。帰ったらゆっくり休めや」
絹旗「そうします…っ」
夢うつつなのか。今にも眠りそうな絹旗だった。
一方通行(そういえば)
こいつは俺のために弁当をつくってきてくれた。自身の二倍以上の量に加え、あの種類。
相当朝早くから起きて頑張ってたンじゃねェかと…そう思う。だとしたら、眠いのも無理ねェ話…だよな。
一方通行「最愛」
絹旗「う…ま、まだ最愛って呼び名は慣れませんね。慣れるよう超頑張りますけど!で、何ですか?」
一方通行「眠いだろ。俺が数分で家まで届けてやろうか?」
彼の場合、これが嘘ではないから困る。能力的な意味で。
絹旗「そ、そうかもしれないですけど!私はまだ…一方通行と一緒にいたいんです…っ」
少しでも長く一緒にいたい。『普通に駅まで歩いて帰りましょう』ということだろう。
一方通行(かといって、こンな疲れきった最愛を歩かせたくもねェんだよな)
だからこう提案した。
一方通行「俺の背中に乗れ。駅まで背負ってってやるから」
絹旗「え…?!で、でも一方通行…」
一方通行「はっ。杖をついてるから背負えねェって思ってンな?安心しろ。能力は使うから」
絹旗「でも、あなたには能力の制限が…っ。ここから駅まで歩いてたら
少なくとも20分はかかりますし、そんなことしたらあなたの電極のバッテリーが―」
一方通行「でもでもうるせェよ。早歩きで行きゃァいい話だろが…。第一最近は電子部品の改良で
電極の延長時間も伸びてンだ。お前が心配するようなことじゃねェんだよ」
絹旗「…じゃあ、甘えますね一方通行。そんな優しいあなたが…私は超好きですっ//」
背中にオンブの形となる絹旗。
絹旗「…あの、重くないですか?」
一方通行「ァ?ベクトル使用中になに的外れなこと言ってんですかァ?お前はよォ」
そういえばそうだった。彼のベクトル操作に、人間程度の重さなど誤差の範囲だろう。
絹旗「ふふっ、今の一方通行は敵無しですね」
一方通行「口数の減らねェヤツだな。眠いンじゃなかったのか?」
絹旗「そうですね。実は結構やばいです。…あの、ちょっと寝ちゃってもいいですか?」
一方通行「おう、寝ろ寝ろ。駅に着いたら起こしてやっから」
絹旗「ではお言葉に甘えて。…寝てますから、ちょっと変なところ触っても私、気付かないかもしれませんよ?」
一方通行「ガキが意味分かんねぇ挑発してンじゃねェよ」
絹旗「その“ガキ”に、散々誘惑されたのは誰なんですかね。あのときの一方通行、凄い激しかったです///」
一方通行「本当に口数の減らねェヤツだ…」
しばらくして。絹旗は息を立てて寝てしまった。
絹旗「……」スースー
一方通行「…ようやくご就寝ってとこか」
ちらっと振り向き、恋人の寝顔を確認する。
一方通行「……」
一方通行「あンま見ないようにすっか…」
ただでさえ絹旗は可愛いのだから。純真無垢な性質をまとった、彼女の寝顔の“破壊力”は言うまでもない。
見るたびに意識してしまうんじゃお話にもならない。
一方通行(しっかし…)
絹旗「……」スースー
一方通行(話し相手がいるのといないンじゃ、随分と空気も変わっちまうもんなンだなァ…)
寂しさを感じつつも、気を取り直して歩みを進める一方通行だった。
…その頃、絹旗は―
絹旗『…あれ?』
絹旗『ここは…どこ?私、一方通行に背負われてたんじゃ…?』
…何やら変な空間にいた。体も宙に浮いてるから、ここは無重力空間なのか。
絹旗『このフワフワとした感じ…もしかしてこれって―』
??『絹旗の想像通り!ここは“夢の中”って訳よ!』
絹旗『そうか夢の中ですか。それなら納得…って、ちょ―!!?』
フレンダ『なに幽霊でも見たような顔してんのよ』
絹旗『いやいやいや!!あなた超幽霊ですからッ!!』
フレンダ『悲しいなーせっかく会えたのに!夢の中くらい大目に見てよね』
絹旗『…あれ?』バシッ
フレンダ『自分の顔をビンタするなんて…あんたって自虐趣味でもあった訳?』
絹旗『夢かどうか超確かめてたんですッ!!』
痛くなかった。ということは、これはつまり夢の中か。
絹旗『なんというか、本当なら久々に会えての“感動”とかあると思うんですけど、
あまりに非現実的すぎるんで思考停止することにします』
フレンダ『うんうん、深く考えたら負けだよ』
絹旗(あなたがそれを言いますか)
絹旗『で、夢に現れるくらい…私に何か用ですか?』
フレンダ『私が用なんじゃなくて、あんたが私に用があるんでしょって話』
絹旗『え?』
フレンダ『だってさー、よく考えてみてよ。ここって“絹旗最愛”の夢の中なの。
あんたが深層心理?とかいうとこで私を意識したからこそ、こうやって夢に現れたんじゃないのかなー。
私こと、フレンダ=セイヴェルンが!ね』
絹旗『私が…意識してた?』
フレンダ『うんうん。何か私に話したいことがあったんじゃないの?って訳よ!』
絹旗『話したいこと…』
そういえば―
一方通行の背中で眠る前。薄れゆく意識の中で、私はあることを考えていた。
『帰ったら、みんなにこのことを報告しなくちゃですね!!』
“このこと”とは、私が一方通行と恋人の関係になったということ。正式にお付き合いをし始めたということ。
“みんな”とは…。もちろん、私の周りにいる大切な友人たちのこと。滝壺、麦野、浜面…そして―
フレンダ
……
…そっか。そういうことだったんですね。もうこの世にはいないとはいえ、
私の深層意識ではずっとずっと…。“アイテム”としてのフレンダは生きていたんですね…っ。
絹旗『…実はですね!フレンダに報告したいことがあったんです!』
フレンダ『おっ、何々?聞かせて聞かせて!』
絹旗「……がと」
一方通行「…ン?」
絹旗「あり…がとう…フレ…ンダ…っ」
一方通行「……」
一方通行(良い夢でも見てンのかなァ)
私、絹旗最愛にとって。私は…この日を一生忘れません。
見たこと、聞いたこと、触れたこと、感じたこと…絶対忘れない。
友人たちに恵まれ、そしてかけがえのない大切な人に出会えた。
私は…幸せ者です。
「最愛。駅、着いたぜェ」
ありゃりゃ、着いちゃったんですか。もうちょっと夢見心地でいたかったんですけど…
仕方ないですね。あ、そうだ。今週の日曜日!予定があるかどうか聞いておかなくては…!
今日だけじゃなくて。まだまだこれからも、私は一方通行と一緒に超超超楽しみたいんですからっ!!
「というわけで一方通行!花火って好きですか?♪」
Fin
フレンダ『絹旗…よかったね』
……
というわけで
フレンダ『結局、後日談に続くって訳よ!』
後日談
一方通行「……」
浜面「一方通行!楽しみだなぁ!!」
一方通行「……」
浜面「早く滝壺の浴衣姿が見たいっ!!」
一歩通行「…あの、ちょっと黙ってくンね?」
浜面「俺は思うんだ一方通行。俺は、この日のために生きてきたんじゃないかと」
一方通行(付き合ってらンねェ)
浜面を見るのが嫌になって時計を見る。
一方通行(5時か。5時半の電車には…かつがつ間に合いそうだな)
浜面「思えば!!俺と滝壺が出会った日っていうのは―ッ!!」
一方通行「マジで黙ってくンね?」
ここは絹旗の家の前。中で彼女たちが着替え終わるのを一方通行たちは待っている。
一方通行(にしても長ェな。まァ、浴衣ってのは着るのに手間取るもんなンだとは思うが…)
麦野「ハァイ!おまたせ♪」
と思っていたら麦野が外に出てきた。
浜面「おお、麦野―」
浜面「!?///」
一方通行「…ほォ」
麦野「あっれー?顔赤くしてどうしたのかにゃ~ん?♪特には・ま・づ・らっ」
浜面「う、うるせえ!赤くなんかしてないやい!!///」
一方通行(…こりゃァ驚いた。第4位も、飾れば様になるじゃねェか)
白・紫の蝶柄が入った黒浴衣を羽織り、それを赤色帯でコーディネートした第4位こと、麦野沈利。
彼女の思惑通り、黒地+赤で可愛さを演出した作戦は…。見事、浜面仕上には効果抜群だった。
麦野「どう?浜面。なんなら、今からでも私に乗り換えてみるー?♪」
滝壺「は、浜面っ!」
麦野の後ろから飛び出す滝壺。
浜面「ち、違うんだ滝壺ッ!!決して俺は麦野に見とれてなど…って―」
浜面「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!?///」
それはそれは元気な叫び声だった。
一方通行(心の中でならともかく、実際に絶叫するヤツは初めて見た)
浜面「す、凄ぇ良い…ッ!!凄ぇ良いよ滝壺!!めちゃくちゃ可愛いし、その…美人だ///」
赤紫の花柄を添えたピンクの浴衣に、紫色の帯を纏った滝壺。紫を基調とした柄と帯の組み合わせは
ピンクというパステル色特有の可愛さにとどまらず、大人っぽさをも引き出していたと言えた。
一方通行(こいつが“美人”って表現を使ったのも分かるような気がすンな)
滝壺「も、もう!浜面は大げさなんだから…//」
麦野「まぁ分かりきってた結果だけど。いざ目の当たりにすると、結構へこむものね…」ガックシ
滝壺「私は麦野の格好、カッコ可愛くて好きだよ。そういう服が似合うっていうのは…純粋に羨ましいな」ヨシヨシ
麦野「滝壺に頭をなでられたって嬉しくないんだから。グスン」
一方通行(第4位って面白いキャラしてるよなァ)
一方通行「…ところでよォ。肝心の家主さんがまだみてェなんだが」
麦野「んー?“彼女”のことが気になる?」
一方通行「べ、別にそんなンじゃねェよ…」
滝壺「絹旗なら、もうちょっと時間がかかるって言ってた。
あなたに見てほしいと思ってるから…準備に気合いが入ってるんだと思う」
浜面「ってことは!!滝壺も俺のためを思ってその浴衣を―」
滝壺「そうかもね」
浜面「いやっほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおうッ!!!!!!」
一方通行「なァ。さっきからこいつうるさくね?」
麦野「あまりの喜びで自己をコントロールできなくなってるのよ。可哀相だから、大目に見てあげましょ」
絹旗「み、みなさん!!お待たせしてすみません…っ!」
最後の一人。家主こと、絹旗最愛がこちらへと走ってくる。
一方通行「おォ。遅かっ―」
一方通行「!?」
浜面「おおお!!?絹旗もこりゃ…すっげぇ可愛いな///」
滝壺「もう。浜面はすぐこれなんだから…。でも、凄く似合ってるよ。絹旗」
赤の金魚柄を乗せた白浴衣に、黄とオレンジが交互に入った横シマ模様の帯。そんな彼女の色彩構成は、
純白・可愛さ・元気といったそれぞれの色がもつ特色を全面に押し出し、見事なまでの調和を描いている。
ただ…“可愛さ”に特化した配色だったのは否めない。そして事件は起こった―
一方通行「……」
彼は頭の中が真っ白になっていた。
絹旗「こ、こんな浴衣ですけど…っ!ど、どうですかね一方通行?///」
一方通行「……」
絹旗「あ、あの…?一方通行?」
一方通行「……」
滝壺「おーい」
一方通行「……」
麦野「第1位?」
一方通行「……」
浜面「ダメだ。目の前で手をふっても気付かねえ」
一方通行「…っ!」
一方通行(何やってンだ俺は…)
絹旗「一方通行!だ、大丈夫ですか…?!」
一方通行「あ、あァ。ちょっと魔が差しちまってよ」
浜面(魔が差して…気絶…!?)
一方通行「…ンなことよりな、お前のその…そのっ、浴衣が…ッ」
滝壺(頑張れ一方通行!)
麦野(頑張れ第1位!)
一方通行「や、やべェくらいにその…似合ってンだよ…ッ!」
絹旗「ほ…本当ですか!?そう言ってくれて、私超嬉しいです!!///」
ただでさえ可愛い絹旗が…白浴衣効果でますます可愛くなってる。動揺するには十分すぎる理由だった。
絹旗「あ…。もしかして、一方通行の顔が赤いのって私のことを意識してくれてるからですか?///」
一方通行(そして上目づかい!!?うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!?!?)
滝壺「やめてあげてよう絹旗。これ以上の刺激は本当にヤバイかも」
浜面「よし!じゃあみんなも揃ったということで、駅まで行くとしようぜ」
こうして、『アイテム』+一方通行のメンバーは駅へと向かい始めた。
絹旗「一方通行!お祭り楽しみですね♪」
一方通行「あ…あァ」
一方通行(やべェ…まともに顔も見れねェぞ)
滝壺「なんか、さっきからずっと浜面の視線を感じるのは気のせいかなぁ」
浜面「へへへ…むしろずっと見ていたいくらいだぜ!!」
麦野「浜面あんた正直すぎ」
一方通行「……」
一方通行(ヤツの性格が羨ましくなってきた)
浜面「へっへっへ!//」
一方通行(いや、やっぱ羨ましくねェ)
一方通行(まァ、いつまでも意識しちゃいられねェからな。徐々に慣らしていくとすっか)
しかし…。本当に可愛いなと、絹旗を見るたびに思う一方通行だった。
一方通行(それにしても…人多いな)
駅に近づくたび、歩く通行人の数はどんどん増えていってる気がする。
浜面「こんだけ人が多いと、さすが祭りって感じがするよなぁ!」
滝壺「浴衣の人もあちこちに見かけるね」
一方通行「……」
今まで“日常”というものに対し、ほとんど触れることがなかった一方通行だが…
なるほど。これが黄泉川の言っていた“日常”か。もっとも、年に1、2回あるかどうかの祭りを
それに当てはめるのもどうかと思ったが…。自分にとって馴染みのない世界であることは間違いない。
絹旗「電車も凄い混みそうですね…はぐれないようにしましょう!」
そんな彼女を横目で見ながら、これからの“日常”に思いを張り巡らす一方通行だった。
麦野「着いたわね」
電車で駅をまたぐこと数十分。ついに一方通行たちは祭り会場へと着いた。
一方通行(すげェ屋台の数だなァ…)
滝壺「花火が上がるのって、確か8時だよね?」
浜面「あぁ。今は6時だから…それまでの2時間屋台でも回ろうぜ」
絹旗「待ってましたー!」
麦野「そうと決まれば早速行きましょ!」
みんなノリノリだった。
一方通行「……」
絹旗「何ボーッとしてんですか一方通行!行きますよっ!♪」ガシッ
一方通行「お、おう」
彼女に左手をつかまれる一方通行。
一方通行(…そうだな。俺も早くこういう空気に慣れて、こいつと楽しまねェとな)
浜面「じゃあまず最初は―」
麦野「かき氷!」
浜面「えぇ!?いきなり飲み物から入るのか??」
麦野「だって喉渇いたでしょー?家からここまで来るのに、結構私ら歩いたし」
滝壺「確かにそうかも」
絹旗「どうします一方通行?」
一方通行「まぁ、いいンじゃね」
浜面「よし!じゃあ俺がみんなの分買ってきてやるから、ほしい種類言ってくれ!」
浜面(優しい気配りができる俺!ってことで滝壺に高感度アップ大作戦だZE)
絹旗「マジですか?私たちの分まで全部お金支払ってくれるんですか!?浜面って…良い人だったんですねっ」
浜面「いや、持ってくるだけだからッ!!金は自分で払えよッ!!?」(ただし滝壺は除く)
みんなはかき氷屋さんの前に行く。
麦野「へー。やっぱ祭りってこともあって種類は豊富にあるのね~」
滝壺「じゃぁ…私はこれにしようかな。絹旗は決めた?」
絹旗「はい!」
一方通行「俺も大体は決めたぜ」
麦野「同じく♪」
浜面「みんなOKだな?じゃあ言ってくれ!!」
滝壺「イチゴ」
麦野「マンゴー」
絹旗「ブルーハワイ!」
一方通行「メロンー」
浜面「よりにもよって全員違うのかよ…覚えにくいだろうが…っ!」(ただし滝壺のイチゴは覚えた)
なんだかんだでかき氷を買ってくる浜面。
麦野「サンキュー浜面。はい、お金」
一方通行「俺も払っとくぜ」
絹旗「200円、200円と…」
滝壺「ええっと、私も―」
浜面「滝壺は支払わなくていいから!!」
麦野「え~何よそれー。恋人特権ってやつぅ?ブーブー!」
浜面「ブーブー言ってもダメだ!」
絹旗「ガーガー!」
浜面「いや、意味分かんねえから」
滝壺「ベーベー!」
浜面「滝壺なら許す//」
麦野&絹旗「えー」
一方通行(なァにこれ)
麦野「うっめー!喉渇いてたから尚更。祭り効果ってのもあるかも♪」シャリシャリ
浜面「だな。こういうときの飲食ってのは大体そうだ」
一方通行「……」シャリシャリ
表立って顔には出さなかったものの…。一方通行も同様には感じていた。
ただ、それはお祭り特有のにぎやかさっていうよりは―
絹旗「やっぱ祭りといえばかき氷ですよねっ!」
“彼女”の存在が大きかったのかもしれない。
絹旗「あ、そうだ。超いいこと思いついちゃいました~!」
一方通行「?」
絹旗「一方通行!問題です。ブルーハワイとはズバリ、何味でしょうか?♪」
一方通行「あの、何でいきなりクイズが始まってンだ?」
絹旗「いいからいいから!で、分かりますか?」
一方通行「……」
一方通行(分かんねェ…っ)涙目
絹旗「正解は“ソーダに近い味”ですっ!」
一方通行「近い…?」
絹旗「厳密に言えば、“ソーダ味”ではないということですよ。
香料はレモンやオレンジが使われてたりするみたいですしね」
一方通行「そうだったのか。ブルーハワイについて勉強になったぜ」
絹旗「ハワイアンブルーとも言うらしいですよ」
一方通行「また一つ勉強になったぜェ…」
絹旗「意外とこれ、知らない人多いんですよ?『分かんない』って顔してた一方通行は超可愛かったですっ♪」
一方通行「なるほどォ。つまり俺はからかわれたってワケか」ガックシ
絹旗「がっかりしてる一方通行も面白いです♪」
一方通行(…俺はどう反応すりゃいいんだァ?)
困惑する一方通行だったが、こういう絹旗との会話を『嫌』とは思わなかった。
楽しそうにはしゃいでる彼女を見るだけで、そんな感情は吹き飛んでいた。
麦野「さぁて!かき氷の次といえばー?」
滝壺「そろそろ食べ物も欲しくなってきたよね」
絹旗「どれにしましょうか?」
浜面「屋台なんて腐るほどあるからなぁ…。悩んでたら、それだけで日が暮れちまいそうだ」
滝壺「もう日は暮れてるよ?浜面」
浜面「しまった!」
麦野「バカね」
絹旗「バカ面ですね」
一方通行「…はァ」
とりあえず、このままコントをしてても埒が明かない。
一方通行「あのよォ。こういう祭りに定番っていうか、オーソドックスなヤツ頼めばいいンじゃね」
麦野「定番?定番といえば…たこ焼きねッ!!」
浜面「えっ、定番といえば焼きそ―」
絹旗「ですよねー!あっ、たこ焼き屋ならあっちにありますよ!」
滝壺「私もお腹すいてきちゃった。久しぶりのたこ焼き…楽しみだなっ」
浜面「……」
一方通行「その、何だ。元気出せや」
浜面「いいさ。滝壺も欲しいって言ってんだ。俺が反対する理由なんか…どこにもねえよ。ふっ」
そう言って、麦野たちの後を追いかける浜面。その背中は…ひどく寂しく見えた。
……
たこ焼きを買い終えた一行。
絹旗「…ぁ」
一方通行「?どうした?」
絹旗「なんたる失態…っ!」
一方通行「??」
絹旗「先ほどのかき氷、すっかり一方通行に『あ~ん♪』するの忘れてました…」
一方通行「ま、まさか―」(いや、さすがに衆人環視の中それはねェだろう)
絹旗「はい一方通行!アツアツのたこ焼きですよっ!あ~ん♪//」
一方通行「」
麦野「あちゃー。仲までアツアツときちゃったか~」
浜面「くぅ~!俺も滝壺に『あ~ん♪』されたい!ってことで滝壺!ここは一つよろしく頼―」
麦野「滝壺ならいないわよ」
浜面「え?何で?どこ行ったの??」
麦野「慌てなさんなー。すぐ戻ってくるから」
滝壺「浜面っ!」
麦野「ね?」
浜面「ホントだ!?滝壺、お前どこ行って―」
滝壺「…これ。焼きそば」
浜面「え…?ど、どうして??」
滝壺「さっき浜面、定番は焼きそばだー!って言いたかったんでしょ?だから…買ってきたの」
浜面「た、滝壺…お前…っ」
滝壺「浜面にも。好きなもの食べてほしいから///」
浜面「やべ、今までが結構ひどい展開だっただけに涙でそう」
絹旗(滝壺…凄まじいほどの超“気配り上手”ですね。私も見習いたいもんです)
絹旗「というわけで一方通行!あ~ん♪///」
一方通行(こ…これで4個目か…ッ)
うろたえながらも、恋人のそんな愛情表現に…内心は嬉しい一方通行なのであった。
……
一通り食べ終えた後、麦野・絹旗・滝壺の3人はくじ引き屋へと足を運んでいた。
何やら女性陣だけで運試しをしたいらしい。
一方通行(なンというか、解放された感じだな…)
もちろん絹旗と一緒にいることは楽しいし、かけがえのない大切な時間だと思ってる。
ただ、たまには別の空気を入れるのも悪くはないだろう。
浜面「一方通行ー!」
同じく残された悪友、浜面が一方通行へと呼びかける。
浜面「焼きトウモロコシとフランクフルト、どっちがいい?」
一方通行「は?」
浜面「いや、腹が減ってんじゃねえかと思ってさ」
一方通行「……」
一方通行「何で分かった?」
浜面「そりゃお前、男と女じゃ食べる量が違うからなぁ」
一方通行「…まァ、そうだな」
浜面「女の子の食事ペースだと腹は膨れん。かといって、俺らだけ目の前で追加して食うってのも
なんか感じ悪いしな。だから…こういう合間を縫って食べとくって話さ!で、どっちがいい?」
一方通行「焼き鳥で」
浜面「焼き鳥屋はこの辺ねえから!!っつうか、さっきの二択から選べよッ!!?」
一方通行「冗談だバカタレ」
浜面「俺さ、今日バカバカ言われまくってる気がする」
一方通行「フランクフルトで」
浜面「スルーかよ!!」
浜面「っつーわけで、買ってきたぜッ」
一方通行「おォ、サンキューな。500円も渡しとく」
浜面「……」
一方通行「ン?どうした。食べねェのか?」
浜面「いや…お前がまさか“礼”を言えるなんて、いつそんな人徳が具わったんだと」
一方通行「ガキですかァ?俺は?」
一方通行(これ、以前も誰かに言われた気がすンぞ…)
浜面「しかも、さっきは俺に“冗談”も言いやがったし。お前…なんか変わったなっ!」
一方通行「それは褒めてンのか?バカにしてンのか?」
浜面「もちろん良い意味に決まってんだろーがよ!アレか?絹旗の影響か?」
一方通行「それに関しちゃ打ち止めの影響のがでけェよ。ただ…」
浜面「…ただ?」
一方通行「俺が“冗談”なんつうもンを言い出したのは、間違いなくテメェら『アイテム』のせいだ」
浜面「?冗談やボケ、ツッコミが飛び交う愉快なアイテム…?」
一方通行「そうだよこの常時ボケ野郎」
浜面「ま、待ってくれ!別に俺一人がボケってわけじゃない!!麦野だってたまにボケ側にくるッ!!」
一方通行「ンな裏事情どうでもいいわ」モグモグ
浜面「畜生…!お前がそんな態度なら、こっちだってトウモロコシがつがつ食ってやる!!」ガッガッ
そういうわけで、おいしく平らげることができた。
……
そして待つこと数分。
一方通行「…お」
絹旗「一方通行!お待たせしましたーっ!」
麦野「あああぁー!!もうやってらんねぇッ!!」
くじ引きを終えた麦野たちが戻ってくる。
浜面「…?何で麦野は機嫌悪いんだ?」
滝壺「5回やって全部はずれだったから」
浜面「そりゃまた…」
麦野「しかもはずれ賞はポケットティッシュって、なめてんのか?ここはデパートかっつうのッ!!!?」
浜面「本当にお疲れだったな麦野…。滝壺はどうだったんだ?」
滝壺「2等当たっちゃった」
浜面「え、マジで!?」
滝壺「でも側にいた子供にあげちゃった」
浜面「何で!?」
絹旗「なんか子供たちの間で流行ってるカードゲームだったみたいで。
しかも、超レアなカードが入ってたとか入ってないとか!」
滝壺「私はカードゲームしないから…。子供たちに使われた方が、そのカードだって幸せだもんね」
浜面「滝壺さん天使すぎや」
絹旗「私は3等だったんですけど…の割には、ただのこんなお菓子袋です。というわけで一方通行!」
彼にそのお菓子袋を手渡す絹旗。
一方通行「え…?」
絹旗「打ち止めちゃん…お菓子大好きでしたよね?今日のお土産だと思って、超持って帰っちゃってください!」
一方通行「最愛…。分かった。ありがとな」
確かに打ち止めは喜ぶだろう。番外個体とオヤツを賭け、真剣勝負をしてたくらいだ。
一方通行(…ン?ということは、番外個体もお菓子が好き…てことだよな?ヤツにも分けてやるとすっか)
せっかくの祭りだ。他にも打ち止めに買って帰れるものはないか…と辺りを見渡していたところ―
一方通行(おォ、あのお面とかいいかもしれねェ)
売り場に近づき、電気ネズミのお面を手に取る一方通行。
一方通行(別にあいつが電気を発するから、これを買う…ってワケではねェが。
子供たちに人気のキャラクターみてェだし、たぶん気に入るンじゃねェかな)
一方通行「これ、何円だァ?」
店主「1000円だよ」
一方通行(え?高くね??)
だが…打ち止めのためにも背に腹はかえられない。これも祭り価格だと思ってあきらめることにした。
一方通行(さァて、みんなは…ぁン?)
先ほどのお菓子袋にお面を入れ、店を出た一方通行だが…4人の姿がない。いや、“彼女”はすぐ見つかった。
絹旗「あ、一方通行!もう…どこ行ってたんですか?みんなあっちに行っちゃってますよ?」
一方通行(しまった。そういやお面を買いに行くって告げてなかったンだっけか…)
己のミスを反省し。絹旗と一緒に、浜面たちが向かった方へと歩き出そうとした―その瞬間―
絹旗「!一方通行ッ!!」
一方通行「!」
とっさに絹旗の手をつかむ一方通行。
絹旗「あ、危なかったです…っ!思わずはぐれるところでしたっ」
一方通行「何だァ…?この人の多さはよォ??」
人波が凄いことになっていた。祭りだということもあって、元々人が多かったのには違いないが…
一方通行たちが会場に着いた6時代と比較し、人の数はさらにその倍になってるように感じられた。
絹旗「気付かないうちにこんなに人が増えてたんですね…。見てください一方通行」
携帯を突き出す絹旗。その待ち受けには『19:14』と書いてある。
絹旗「花火が上がるのが8時ですから、そう考えたらこの状況も不思議ではないですね」
一方通行「あァ…なるほどな」
祭り最大のイベントとも言える花火を、みんな見に集まってるということだろう。
絹旗「しかし…どうしましょう。麦野たちとはぐれちゃいました」
一方通行「そうだな…」
この人波だ。見つけ出そうと思って見つけ出せるものではない。ましてや、偶然出会う可能性など
ゼロに等しいだろう。では、メールで何か目印となるような場所に集合するよう促すのはどうか?
しかし…それでもどうしてもこの“人波”がネックとなってくる。もうすぐ花火が上がる時間ということも
あって人は増えていく一方。そんな状況で、“その場所”に到達するまで果たして何分かかるのか。
到達したとしても、その人混みで彼女らを見つけ出せるという保障もあるのか。
一方通行(一番手っ取り早ェのは…)
そもそも目印となるような場所といっても、一方通行も浜面もみんなここの周辺地理に詳しいわけではない。
携帯で周辺情報を探って目星をつける方法もあるが、何より花火が上がるまでに時間がない。メールで
やり取りをしてる間に、あるいは探してる最中に『花火が上がってました』という事態だけは避けたい。
となると―
一方通行(電極のスイッチをONにするしかねェ…よな?)
もちろん、ベクトル操作でもって人波を操作するのはご法度だ。以前、第2位の垣根帝督と戦った際、
同じくこのような街中心部で…誰一人としてケガ人が出ないよう、事態を誘導したという前例はある。
これだけの人数でも、一方通行のそんな高等技術をもってすればできないことはない。ただ…個人的に、
“友人と会うため”という、そんなプライベートな理由で大衆を巻き込みたくはなかった一方通行だった。
一方通行(空中移動でもすっか…)
となれば、もはやこれしかない。高速で宙を移動し、上空から連中を見つけるという…
まさに二重の意味で“ぶっとんでる”としか言いようのない、そんなやり方で。ただ、これにも問題はある。
衆人環視の中、空を飛び回るというのは人としてどうなのだろうか。見てる彼らからすれば、せっかくの
お祭り気分が台無しだろう。ある意味物珍しいかもしれないが…。というか、単純に恥ずかしくてできない。
一方通行(いや、ここは恥を捨ててでもやるしかねェのか…?!)
そんな葛藤をしている彼に、絹旗がささやいた。
絹旗「…いいですよ一方通行」
一方通行「ァ…?」
“いい”って何がいいのだろうか。そもそも、その“いい”は肯定の意味なのか否定の意味なのか。
絹旗「今、能力を使ってでも麦野たちと会おうって…そう考えてくれてたんですよね?でも、それはダメです」
一方通行「…??」
言ってることがよく分からない。
絹旗「この花火大会って、毎年数十万規模の人が集まるんです。学園都市の総人口的に考えれば…
その凄さが分かりますよね?となれば、当然悪い奴やら暗部の人間もウヨウヨその中に混ざってるわけです。
ある意味で厳戒態勢とも言える状況なんですよ。その証拠に、あちこちに防護服の人が出張ってると
思いません?何か騒ぎが起こったとき、いつでもそれを迅速に解決できるような態勢になってんです」
一方通行(そういや…所々にアンチスキルがいるのな)
絹旗「つまり何が起こるか分からない。そんな状況で、私はあなたに電極のバッテリーを
消耗してほしくはないんです。もちろん…あなたは超強いし大丈夫だとは思ってます。
それでも…っ!私は、あなたの“彼女”として心配なんです!そこは分かってください…っ」
一方通行「最愛…お前…」
絹旗「だから、麦野たちとは花火が終わった後にでもゆっくり合流するとしましょう!
それまでは…二人でお祭りを楽しみませんか?//」
一方通行「…そこまで心配されちゃ何も言えねェだろが。分かった。しばらくは…二人でいような」
絹旗「はいっ!//」
……
絹旗「あ、向こうにイカ焼き屋があります」
一方通行「イカ焼き好きなのか?」
絹旗「好きではあるんですけど…。さっきたこ焼きを食べたせいですかね?なんか反応しちゃいました」
一方通行「たこ焼きからイカ焼き…?」
絹旗「だって、イカもタコも超似てるじゃないですかっ」
一方通行「確かにそうだな」
絹旗「…!」
一方通行「ン?どォした?」
絹旗「イカとタコって似てるのに、どうしてイカ焼きはたこ焼きほどメジャーになれなかったのかなと…」
一方通行「…そういや何でだァ?」
絹旗「うーん…」
一方通行「うーむ…」
結局、いくら考えても答えは出なかった。
絹旗「…やめましょう。時間の無駄です」
一方通行「だな」
絹旗「他の店も見てみましょうか!」
一方通行「あれ?イカ焼きは買わねェの?」
絹旗「あ、いえ。話題に出しただけで最初から食べようとは思ってませんでしたから」
一方通行「イカ涙目じゃねェか」
絹旗「私…今は甘いものを食べたい気分なんです」
一方通行「屋台で甘いもンって何があったっけか」
絹旗「っと、ちょうどいいところに!リンゴ飴がありました!!」
一方通行「リンゴ飴…?」
絹旗「あ、あの…?まさかリンゴ飴を知らないんですか?」
一方通行「知ってる。リンゴ味の飴なンだろ」
絹旗「いや、それは確かにそうなんですが…。じゃあリンゴ味のペロペロキャンディーもリンゴ飴ですか?」
一方通行「そうなンじゃねェのか」
絹旗「全然違いますよ一方通行…。ほら、ちゃんと実物を見てください!」
そう言って店へと近づく二人。
絹旗「生のリンゴに箸が刺してあって、その周りを飴でコーティングしてあるんです」
一方通行「そうだったのか…」
絹旗「本当に知らなかったんですか!?」
一方通行「どうも、俺はこういう“常識”には弱くてよォ。良い社会見学になッたぜ」
絹旗「もう。しっかりしてくださいね!」
一方通行「おう!」
店員「あの…後ろの人が混んでるんで、早くお金のほうをお願いしたいんですが…」
絹旗「すみません」一方通行「すンません」
そういうわけで、リンゴ飴を買った絹旗。
絹旗「あっまーい♪やっぱお祭りのリンゴ飴は最高ですっ!」ペロペロ
一方通行「良かったなァ」
絹旗「一方通行も買えばよかったのに」
一方通行「あんま、甘いもンは好きじゃなくてな」
絹旗「好き嫌いは超ダメですよ。一方通行も、ほらっ!」
一方通行「お、オイ!?」
口にリンゴ飴を突っ込まれる。
絹旗「どうですか?///」
一方通行「…甘かった。っつうか、これ…っ!」
絹旗「間接キス…ですね//」
一方通行「確信犯かァ!!?」
絹旗「あらあら、一方通行」
一方通行「何いきなり口調変えてンだテメェは」
絹旗「お口の周りが真っ赤♪」
一方通行「え…?」
絹旗「手鏡もってるんで、これで見てみてください!」
言われた通り見てみる。
一方通行「なンじゃこりゃァ!!?」
お口の周りが真っ赤だった。
一方通行「どういうことなンだこれはよ…」
なんだこの鏡に映ってる自分は。ピエロか?
絹旗「リンゴ飴って色付けのために食紅が混ぜてあるんで…。
むしゃぶりついたりすると、こんな感じに超赤くなっちゃうんです」
一方通行「マジか…。今度から注意するぜ―とでも言うと思ったか?突っ込ませたのはお前だよな?」
絹旗「だから、責任もってハンカチでふいてあげますっ!顔をこっちに向けてください///」
一方通行(何このプレイ)
一方通行(でも…悪くなかった)
正直な感想だった。実際、優しく丁寧にふいてくれる絹旗のその仕草は…とても愛くるしいものだった。
彼女にリードを取られてばかりの一方通行だが…。そんな彼女も、同時に魅力的だと感じている自分に気付く。
一方通行(まったく、懐柔されてやがンな俺…)
これからも、このおてんばなお姫様に振り回されンだろうな。つくづくそう思う一方通行だった。
??「なぁ御坂!行きたいところとかあるか?」
??「と…特にない」
??「どこにも行きたくないのか??」
??「そ、そうじゃない…けど!ってか、あああああー!!ちょっと落ち着いて考えさせて!!//」
一方通行(こ、こいつらは…)
どうやらそんな感慨深い時間も終わりそうだった。
目の前にどこぞやで見たツンツン頭と、同じくどこぞやで見た茶髪の少女がいたから。
上条「お!一方通行と絹旗じゃねえか!お前らも祭りに来てたんだなっ!」
そして気付かれた。
絹旗「あっ!御坂さんに上条さんじゃないですか!!」
美琴「き、絹旗さん…!?それと、一方通行!!?」
上条「一方通行は…その様子だとデートみたいだな。絹旗とは上手くやってるか?」
一方通行「テメェに心配される言われはねェ」
上条「相変わらずの一方通行さんですね…」
一方通行「そういうそっちこそ、デートの最中だったンだろうがよ」
絹旗「ですよねー。御坂さん、結局上条さんをデートに誘うの…成功してんじゃないですかっ♪」
美琴「ちょ、今ここでそれは―!?」
上条「え…!?御坂、お前…俺をデートに誘うつもりだったのか…?」
美琴「そ、それは、だ、だからその…っ!!?//」
一方通行「…超電磁砲がテンパってやがンぞ」
絹旗「?どういうことです?デートじゃないんですか?」
美琴「こ、こいつとは!!本当に偶然!偶然出会ったのよッ!!始めは初春さんたちと来てたの!!」
絹旗「でも、現に今は二人っきりじゃないですか」
上条「そ、それはだな、いろいろ複雑な理由があって…っ!」
時間は今から30分前に遡る。
……
7時。とある集団が会場へと着いていた。
青ピ「いや~!やっぱ女の子の浴衣姿ってのは最高やな!!//」
土御門「それだけでも来る価値があるってもんだにゃ~!//」
上条「……」
青ピ「どうしたんカミやん?そんな沈んだ顔して」
土御門「この光景を前に何もリアクション無しとは、ちょっと男としてやばいと思うぜい」
上条「…いや、何で上条さんはこんなところにいるんだろうと自問自答してたところなのですよ…」
土御門「オイオイ、カミやんは何にでも理由を求めるタイプかぁ?それは、祭 り だ か ら だッ!」
青ピ「そうそう!理由なんかそれで十分やでー」
上条「いやいやいやいやッ!!お前らが俺連れてきたのは、どう考えても理不尽な理由だろ!??」
青ピ「カミやんがいたら ナ ン パ の成功率が上がる。これがどないしたん?」
上条「だから…その詐欺まがいなキャッチッフレーズは一体どっからやってきたのかと上条さんはですね…」
土御門「上条建設の誇る名声は、今や天界にまで届いてるんだぜい?自信を持てよ!一級フラグ建築士っ!」
上条「それが意味分かんねえって、もうさっきから何回言ったんだろう…」(というか、上条建設って何…?)
青ピ「というわけでー、おおっ!!早速いい女の子発見したで!!」
土御門「でかした!カミやん、臨戦準備は整ったか?」
上条「って、おい!?もうナンパ始めんのかよ!?目が血走りすぎってレベルじゃねえぞッ!??」
土御門「あのなぁカミやん…。俺は昨日、妹に一緒に祭りに行こうと誘い、そして断られた」
上条「…え?いきなり何を語り出して―」
土御門「舞夏はな、言ったんだ。『友達と行くから』って。この…兄の気持ちが分かるかカミやんッ!!?」
上条「いや、分からねえし!!分かろうとも思わねえからっ!!」
土御門「だから…俺は決めた。この持て余したリビドーをッ!今日のナンパで放出してやろう!ってな!!」
上条「なんかそれ、理由としては最低な気がするのは気のせいでせうか?」
青ピ「カミやん」
上条「な、何だ改まって?」
青ピ「ナンパにな、合理性ってもんを求め出したらオシマイやで?」キリッ
上条「犯罪にだけには走らないようにな…」
青ピ「あぁ!!気付けばさっきの女の子たちが…もうあんな遠くに!!」
土御門「残念だが、これ以上カミやんを説得してられる時間はないぜよ!!」
青ピ「どうやらこれは…ワイが切り込み隊長で行くしかないって流れやな…?」
土御門「あ、青髪ピアス…お前…っ!」
青ピ「なぁに、安心し。死にはせんよ。ただ、己の全てをぶつけるだけ…ただそれだけの話や」
土御門「…ふっ」
青ピ「土御門…?」
土御門「お前にだけ良い格好させると思ったか?俺も助太刀するぜ」
青ピ「…いいんか?タダでは戻ってこれんかもしれんのやで?」
土御門「そんなこと、百も承知…っ」
青ピ「!ワイは…良い戦友をもったんかもしれんな…っ」
土御門「さぁ行こうぜ青髪!チャンスの女神は、いつまでも俺たちを待ってはくれないぜい!!」
青ピ「せやな!!ワイらはその瞬間を…ただ光のように全力で生きればいいんや!!」
上条(よくここまで熱くなれるなこの人たち…)
土御門「ところで、青髪はあの4人の中で誰狙いなんだ?」
青ピ「ワイはあの水色浴衣着てる…黒髪ロングのコやな!」
土御門「俺は…頭に花がついてる女の子かにゃー♪」
青ピ「え?花ってお前何言うて…ってホントについとるし!?何やアレ…?」
土御門「青髪。今は“花”なんてどうでもいいんだ。まぁ、興味がないと言えばウソになるがな…。
今俺たちが知らなきゃいけないのは“花”じゃなく、女の子たちのほうだッ!!違うか!!?」
青ピ「…あぁ。まったくもって正論やな土御門!!」
土御門「じゃあ目標が定まったところで…。準備はいいか青髪…?」
青ピ「ワイなら…いつでもOKやで」
土御門「行くか!!」
青ピ「行きましょか!!」
上条(あれ?あそこにいる4人って…)
もはや嫌な予感しかしなかった。
土御門「ちょっと、そこの可愛いお嬢さん方!」
美琴「…え?私たちのこと??」
土御門「こんな祭りだ!もしよければ…俺たちに何かおごらせてくれないか?特に、そこの花の女の子!!」
初春「は、花って私のことですかぁ??」
佐天「こ、これは―!!初春、これはナンパだよ!私たち、ナンパされてんだよ!!//」
青ピ「そうやで!黒髪ロングの美人で可愛いお姉さん!!」
佐天「わっ//美人で可愛いだなんて…//」
黒子「佐天さん!おだてに乗せられてはなりませんわよっ!」
青ピ「何でも俺らに頼んでもらってええんやでぇ!例えば向こうにあるチョコバナナとかどうやろ?」
佐天「ちょ、チョコバナナ…」ゴクッ
黒子「佐天さんッ!」
美琴(…なんかこの二人、どっかで見たことあるんだけど…)
美琴(あ―)
思い出した
美琴(こいつら…!私が海原に絡まれてたとき、上条当麻と一緒に歩いてた…っ!!)
青ピ「チョコバナナがダメなら、あっちのフランクフルトでも―」
美琴「あんたたち…上条当麻の知り合いね?」
土御門「?そうだが、それがどうかしたかにゃぁ?」
青ピ「!もしかしてカミやんのこと知ってんの!?それは話が早い!!カミや~ん!出てくるんや!!」
上条(ば、バカ!!こっちを向くなっ―、って、気付かれたー!!?)
土御門はいざ知らず。青ピは美琴が浴衣姿のため、あのときの常盤台のお嬢様だということに気付いていない。
美琴「やっぱりあんたもいたのね…ッ!」ビリビリビリ
上条「ま、待て!これは誤解だ!俺はこのナンパ劇とは無関係なんだッ!!」
美琴「へー。友達と一緒に祭りにきてて、そのお友達がナンパしてるのに
自分は無関係??随分とまぁ、都合のいいこと言うのね?」ビリリリリリリ
上条「話せばわかるっ!!というわけで土御門に青髪!!こいつらにちゃんと説明を…って、いない…だと?」
蒸発した土御門&青髪ピアス。脈ナシと判断した彼らは、再び新たな出会いに向け旅立っていたのだった。
上条(結局、いつも不幸なのは上条さんってオチなんですね…)
美琴「さぁ!!話してもらうわよっ!!」
……
上条「―ということです。信じてもらえたでせうか?」
美琴「上条建設とか言われても…あんた会社でも経営してたわけ?」
上条(う…話す箇所を間違えたのかもしれない)
佐天「それにしても御坂さん!この人と仲良いんですねっ!」
御坂「は、はぁ!?別に仲良くなんか…ないわよ!」
初春「でも、御坂さんがこんなに男の人と話してるの、私初めて見ましたよ?」
美琴「そ、そんなんじゃ…ない…んだからっ//」
黒子(これしきのことで赤面とは。お姉さまも、かなりこの殿方に入り浸ってるんですわね…はぁ…)
子供「お母さーん!あの緑のお面買ってー!」
母「もう…しょうがないわね」
美琴(えっ…?!緑のお面ってまさか―)
美琴(や、やっぱりそうだ!あのお面はまぎれもなくGE☆KO☆TAだわっ!!)
初春「?どうしたんですか御坂さん?」
美琴「うっ…な、何でもないのよ初春さん」
美琴(まずい…このメンツじゃゲコ太のお面なんて買えないわ!?でも買いたい…一体どうすれば―)
上条「ええっと…。俺はもう帰ってもよろしいでせうか?」
美琴(そうだ!こいつをダシにすれば…っ!!)
美琴「さ、佐天さん。ちょっといいかしら…?」小声で
佐天「?」
美琴「ちょっと私、あいつといろいろとトラブっててね…その辺の話をいい加減キッチリしときたいの。
だから佐天さんたちは向こうのほうへ行って…先に遊んでてくれないかな?私は、後で追い付くからさ!」
佐天「っ!了解です!」
佐天(そっかー!やっぱり御坂さんって上条さんって人のことが好きなんだなぁ。二人っきりになりたいなら、
最初からそう言えばいいのにね。じゃあ…邪魔者は退散するとしますか!ファイトですよ御坂さん!)
“結果的に”空気を読んだ佐天さんであった。
佐天「初春!白井さん!あっちに面白いものがありますよ!行きまshow!!」
ガッ
二人の手を引っ張る佐天さん。
初春「ちょ、ちょっと佐天さん!?急にどうしたんです??」
黒子「面白いものってなんですのー!?」
佐天「よく分かんないけど、とにかく面白いものがあるんですっ!!」
初春「意味分かんないですよ!?」
黒子「ま、待ってくださいですの佐天さん!!お姉さまが置いてけぼりに―!」
佐天「御坂さんもすぐ来るそうですから、私たちは先に行きましょう!」
佐天(ホントは空気読んでもう会わないかもだけどねっ)
黒子「そ、それでも!!私はお姉さまと離れ離れになりたくは…ッ!て、手を離してくださいましー!!」泣
佐天「レッツゴー♪」
彼女に引きずられていく初春と黒子。意外にも佐天さんの腕力は強かった。
美琴「……」
美琴(佐天さんって、なにげに凄いコなのかもしれないわね…。と、とにかく!後でちゃんと感謝しないと!!)
上条「あ、あの…俺はどうすれば―」
美琴「しばらくあっちを向いてなさいッ!!」
上条「なぜ!?」
美琴「いいから!!」
上条「ってか“あっち”ってどっちだよ!?」
美琴「つ…つまり私のほうを見るなってことよっ!!」
訳が分からない上条だったが…。とりあえず美琴の言うことに従うことにした。
美琴(…よし!今がチャンスね!!)
これでやっと念願のゲコ太が…我が手中に…っ!嬉しさを噛みしめながらお面屋へと突撃する美琴。
そして―!
店主「残念だがお嬢ちゃん。さっきの客でゲコ太仮面は売り切れちゃったんだ」
美琴「……」
美琴「は?」
店主「他のお面なら余ってるんだけどね…。良いのあるよ?買ってくかい?」
美琴「い、いえ、いいです…お気づかいありがとうございます…」
店を出る美琴
美琴「……」
美琴(ど う し て こ う な っ た)
頭の中が真っ白になる
美琴「く…っ!」
一瞬泣きそうになるが、その涙はこらえる。無いものは無いのだ…どうしようもない。それより―
美琴(佐天さんたちを探さないと…っ!)
頭を切り替え、彼女らの向かったほうへと駆け出した美琴。しかし…いくら探しても3人は見つからなかった。
周辺部も隈なく探した。なぜだ?この短時間でそんな遠くまで行けるわけないのに…と途方に暮れる美琴だった。
上条(あの、いつまで向こうをむいてればいいんでせうか…?)
そして放置された上条だった。
美琴「……」
美琴「どうして…こんなことになっちゃったのかな…」
ゲコ太も失い、仲間をも失った
美琴(私…全てを失っちゃった)
人の行き交う波の中を ただ茫然と立ちつくす御坂美琴だった
美琴「…っ!」
美琴(そうだ…!あいつなら…まだあの場所に…っ!?)
……
上条「で。やっと戻ってきてくれたんですね御坂さんは」
美琴「…律義にも、あんたはずっとここで待っててくれたのね…っ!」
上条「いや、お前がそう言ったんだろ」
美琴「…え?私は『あっちを向いてて』って言っただけなんだけど…」
上条(!ということは移動は自由だったのか!?しまった!!)
美琴「まだいてくれて…良かった。私、一人になるところだった…//」
上条「御坂…?」
普段勝気な美琴のその涙目に…思わずドキっとする上条。
…そういえば今日の彼女は綺麗だった。白の花柄を添えた緑の浴衣に、それを結んだ黄色の帯。
緑白に共通する“爽やかさ”と緑黄に共通する“健康さ”…そんなイメージをまとった彼女の服装は、
まさに“超電磁砲の御坂美琴”を元気いっぱいに体現していたと言えた。
上条(そういや今日の御坂は浴衣だったんだよな。よく見てみると…凄い可愛い)
美琴「…?どうしたの?」
上条「っ!!な、何でもねぇ…よ」
可愛いと思ってただなんて言えない。
上条(って、なに動揺しちまってんだ俺は…。ここは、明るく言葉をかけて調子を取り戻すとしようっ!)
上条「なぁ御坂!行きたいところとかあるか?」
美琴「と…特にない」
上条「どこにも行きたくないのか??」
美琴「そ、そうじゃない…けど!ってか、あああああー!!ちょっと落ち着いて考えさせて!!//」
上条(…?もしかして御坂も俺のことを意識して…って、何思い上がってんだ俺!?そんなわけないだろう…)
と、そのとき。前方に見慣れた白髪の男と、同じく見慣れた浴衣の少女を見かける。ある意味ギクシャクと
した場を脱すには…二人の存在は助け舟だったのかもしれない。そう考えた上条は、軽く彼らに話しかけた。
上条「お!一方通行と絹旗じゃねえか!お前らも祭りに来てたんだなっ!」
そして話は戻る。
美琴「…ということがあったのよ」
上条「あったんです」
絹旗「それはまた壮絶でしたね」
一方通行「面白い人生歩んでンなお前ら」
美琴「あぁ…ゲコ太…」
上条「っていうか、それ言ったら一方通行だって随分面白い人生を―」
一方通行「ァ?」
上条「なんでもないっす!」
絹旗「それにしても、『デートしよう!』って言って示し合わせたわけでもないのに
こうやって二人っきりになれてるって、凄い奇跡ですよね。人もこんな多い祭りだから尚更そう感じます!」
一方通行「ナンパ相手が知り合いだったっつうのもすげェ奇跡だな」
上条「あっ…!そういえば御坂!さっき言ってた『デート』ってどういうことなんだ??お前本当に…?!」
美琴「そ…そんなわけないでしょ!?だ、誰があんたなんかをデートに…デートに…///」
絹旗「ホント、素直じゃないですねえ」
一方通行「見てるこっちが恥ずかしくなるな」
絹旗「二人は、これから何か予定とかあるんですか?」
上条「さっきもそれ話してたけど全く決まってないんだよなぁ」
絹旗「じゃあ、花火が上がるまで金魚すくいでもどうです?向こうでやってるみたいですよ」
美琴「あ、いいわね!金魚すくいって言えばお祭りの定番だし!」
一方通行(柄に合わねェが…付き合うとすっか)
そういうわけで店の前までやってきた4人。
店主「ん?おお、金魚柄の浴衣着た女の子が来るとは、これも何かの縁かもなぁ」
絹旗「♪」
一方通行「あァ…そういやお前の浴衣って金魚だったか」
絹旗「そうですよ。特に意味はないんですが…この赤模様が超気に入っちゃってっ」
一方通行「そっか。生きた金魚に反応して、その模様が動かねェようにな。仲間だと勘違いするかもしれねェ」
絹旗「この“金魚”って生きてたんですか!?まったく、一方通行も面白いこと言いますね♪//」
美琴「ま、まさか一方通行がこんな冗談を言うなんて…っ!」
上条「今の一方通行なら俺…分かり合える気がする!!というわけで一方通行!今度飲みに行こうぜッ!!」
一方通行「調子乗ってンじゃねェよ三下」
上条「結局こうなるのね…。せっかく人が勇気を出して提案し―」
一方通行「…機会があったら考えといてやる」
上条「上条さんは今猛烈に感動しています」
美琴「あの…なんか店主さんが困ってるっぽいんだけど…」
絹旗「ですね。そろそろ始めるとしましょう」
順番はジャンケンで決めることになり、1位から上条、美琴、一方通行、絹旗の順となった。
上条「あれ?もしかしてこれ勝った人からすんの?」
美琴「私はそのつもりだったけど」
絹旗「上条さん!頑張ってください!」
上条「よ~し!ここは一つ、本気ってやつを見せてやるぜ!」
……
上条「……」
上条「金魚たちは…なぜ追っては逃げ、追っては逃げるのか」
一方通行「いや、当たり前ェだろ」
結局、上条は金魚を一匹も捕まえることができなかった。
上条「!そうか…この幻想殺しの右手があるから金魚たちは…っ!」
一方通行「“金魚すくい”って“異能の力”が関係してたンか。初めて知ったぞオイ」
絹旗「というか、誰が発動してる能力なんですかそれ?店主さんですか?」
店主「え?」
一方通行「いや…案外金魚のほうかもしれねェ」
店主「??」
美琴「こーら!あんたたち店主さんを困らせないの。というわけで、私の出番ね!!」
上条「御坂…俺の分まで頑張ってこいよっ!!」
美琴「ええ!任せといて!!」
……
美琴「……」
美琴「ポイは…なぜすくっては破れ、すくっては破れるのか」
一方通行「単純に要領が悪ィンだろ」
絹旗「すくうのが速すぎな気もするんですけどね…」
美琴「だ、だって!速くすくわないとポイが水に濡れて破けちゃうじゃない!!」
一方通行「だからって、破れる超スピードでポイを魚にぶつけても意味ねェだろが。バカなのかテメェは?」
美琴「ば、バカですって!?そこまで言うからには…っ!もちろん、アンタは上手くできるのよね?」
一方通行「さァて。どうだろォな」
上条「そういや一方通行は金魚すくいやったことあんのか?」
一方通行「ない。これが初めてだァ」
絹旗「だ、大丈夫なんですか一方通行??」
一方通行「俺の推測が正しければ。そうそうミスするこたァねェはずだ」
絹旗「…?」
一方通行「じゃ、始めるとしますかねェ」
……
上条「なん…だと…」
美琴「なん…ですって…」
一方通行「よォし。13匹目ェ」
店主「お、お客さん!これ以上は勘弁だよッ!!」
店側からストップが入る。
一方通行「ン?この店は捕りすぎ禁止みたいな上限でもあンのか?」
店主「じゅ…10匹までがそうでして…」
一方通行「そォか。じゃ、これで終わりにしといてやる」
店主「あ、ありがとうございます…!」
美琴「店側が客にお礼を言う事態って一体…」
絹旗「す、凄いです一方通行!超凄いですよ!!まさかこんなに捕れるだなんて…っ!!」
一方通行「正直、自分でも驚いてる」
美琴「ア、アンタ!ベクトル操作でも使ってズルしたんじゃないの!?」
一方通行「本当にバカなんですかァ?テメェは。電極のスイッチはずっとOFFだったろうがよ」
上条「じゃ、じゃあ、一体どうやってこんな…」
一方通行「俺はただ、“理論的にやった”だけだ」
絹旗「理論的…ですか?」
一方通行「あァ。っても、内容はごく単純だがなァ。まず小さめの魚に目をつけた」
美琴「え?…ぁ」
一方通行「小さいほどポイは破れにくいだろうがよ。ガキでも分かる理屈だ」
美琴「そういえば私、大きい魚ばっか目つけてたかも…変にプライドがあったのね」
一方通行「二つ目ェ。水中じゃなく、水面近くを漂ってる魚。なるべくならポイを水に浸したくはねェからなァ。
三つ目ェ、壁際の魚。壁際なら中心より金魚の動きは予測しやすい、且つ逃げ場も減るってワケだァ。
四つ目ェ、尾からじゃなく頭からすくった。ポイへの衝撃が緩和だ。五つ目ェ、なるべく魚が密集してるとこ
を狙った。こりゃ単に確率論的な問題だな。後は…遅すぎず速すぎずでポイを振ってりゃァどうにでもなる」
絹旗「一方通行…カッコいいですっ!///」
上条「こいつ…本物だッ!!?」
美琴「本物のハンターを見た気がするわ…っ」
一方通行「アホどもが。さっきも言ったが、こりゃガキでも分かる理屈だ。
よォく考えてみろ…。俺、当たり前のことしか言ってねェだろ?何か難しいこと言ってっか?」
上条「た、確かに…そうか」
美琴「…けど、これ初めてなのよね?初めてでここまで頭が回るアンタって一体…あっ!そういやこの人!!
学園都市最強のレベル5だったんだわ!!?慣れ親しんでたせいか…すっかり頭から欠落してたわ…」
絹旗「そういやたまに忘れますけど、あなたって第1位なんですよね」
一方通行「…今のはアレか?俺はバカにされたのか?」
絹旗「ち、違いますよっ!!むしろ逆の意味で言ったんです!!最近のあなたは…とても人間味があったから。
だから、凄く身近に感じてたんです。それくらい…あなたとの距離が超近かったってことなんです」
一方通行「そ、そォか…。そう言ってくれると嬉しいぜ。ありがとな最愛」
上条「なるほど!身近に感じたから、さっき俺は『飲みに行こう!』って衝動に駆られたんだな!!」
一方通行「そりゃァお前が単純なだけだ」
上条「何この扱いの差。どんだけー」
店主「ところであの。金魚のお持ち帰りは―」
一方通行「あン?持ち帰りはしねェ。その代わり、そこの水風船を1個くれねェか」
絹旗「え?金魚はいいんですか?」
一方通行「こンな大量の金魚持って帰ってもな。金魚をすくったってだけで、俺にとっちゃ面白い経験だァ」
絹旗「そうですかっ」
ちなみに。金魚をすくえなかった客には金魚の代わりとして、水風船が1個贈呈される。
上条と美琴がペアルックことペア水風船になっていたのは言うまでもない。
美琴(まぁ…これはこれで良かったかもね//)
上条「じゃあ次は絹旗だな」
絹旗「はい!と言いたいところですが…もう花火が上がる時間なんですよね」
美琴「あ、本当だわ」
絹旗「それに、私は一方通行の“スーパー金魚すくいタイム”を見られただけで…もう十分満足ですっ!」
一方通行「そのネーミングには同調しかねるがァ…。そういうことなら、コレくれてやる」
そう言って、一方通行はさっき手に入れた青色の水風船を絹旗に差し出す。
絹旗「い、いいんですか?」
一方通行「俺が持っててもな。テメェが持ってた方が様になる」
絹旗「じゃあ…もらいますね!ありがとうございます!」
一方通行「おう」
絹旗「これ超楽しいんですよねーっ!♪」
バインバインバインバインバインバインバインバインバインバインバイン
ゴムを手に引っ掛け、掌でバウンドさせまくる絹旗。
一方通行「ガキかよ」
絹旗「そういう様相も含めて、一方通行は『様になる』って言ってくれたんですよね?」
一方通行「…違いねェ」
美琴「さぁて。じゃあ、どこ行って花火を見ようかしら?」
一方通行「そうだなァ…」
絹旗(上条さん上条さん…っ)小声で
上条「?どうしたんだ?」
何やら、絹旗が上条に向かって手招きをしている。
上条(何でせうか?)
絹旗(あの…御坂さんの気持ちには気付いてますか?)
上条(…?何のことだ??)
絹旗(ですよね…気付いてないと思ってましたよ)
一息ついて、絹旗はささやく。
絹旗(上条さん!祭りの定番といえば何だと思いますか?)
上条(…定番?)
絹旗(たこ焼き、クレープ、焼きそば、かき氷…何でもいいんです。
どうか、そこに御坂さんも誘ってあげてください。彼女…きっと喜ぶと思いますからっ)
上条(そっか…。分かった!アドバイスありがとな絹旗!)
美琴「なぁにコソコソ話してんのよアンタらは」
絹旗「あれー。もしかして嫉妬ですか?」
美琴「バッ…!?ちょ、何言ってんのよ!?そんなわけないでしょ!!?///」
絹旗「そんな御坂さんのためにも、今日はここでさよならです!」
美琴「え?」
絹旗「上条さんと二人、仲良くやっちゃってくださいね!♪」
美琴「ええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
一方通行「二手に別れンだな」
上条「…?あぁ、そっか!そういやお前らデートしてたんだっけ。すっかりお邪魔しちゃったなー」
絹旗「そんなことなかったですよ。ただ、御坂さんが上条さんと一緒のが良いって顔をしてたんで…」
美琴「は、はぁ!?どういう顔よそれ!?//」
上条「よく分かんないけど、とにかくここでお前らとはお別れみたいだな。お疲れ!また会おうぜ!!」
一方通行「ン。またな」
絹旗「また今度遊びましょうね」
美琴「ッ!わ、分かったわよ!!こいつと一緒にいればいいんでしょ!?じゃ、じゃあ…二人ともバイバイっ!」
上条「行っちゃったな」
美琴「…そうね」
上条「花火もだけどさ、それが終わったら… 一緒にたこ焼きでも食いに行こう」
美琴(ぁ…)
上条「せっかくの祭りだし、楽しまなきゃ損だもんな。お前も!一緒に楽しもうぜ!!」
美琴(…ホント、このバカときたら…)
上条「どうだ?」
美琴「い、行くに決まってるでしょ!!今日は…いろいろ付き合ってもらうんだから…っ//」
……
絹旗(御坂さん…頑張ってくださいね)
絹旗「さて!どうしましょうか?」
一方通行「どうするも何も、花火のよく見える場所に行きゃァいいンだろ?」
絹旗「ですね。どこか良い場所はないでしょうか?」
一方通行「そうだなァ…この辺なら―」
あの、ちょっと中断します。これから載せるところで
修正したところがちゃんと修正されてなかったっぽいんで
30分くらいお時間をいただけないでしょうか。すみません!
絹旗「あ!あそことか良いんじゃないですか!?」
一方通行「……」
一方通行「まァ、花火はよく見えそうだな」
絹旗「超穴場っぽいですよね!」
一方通行「いや、そりゃァそうだろ」
絹旗「人も誰もいません!」
一方通行「そりゃそうだろうなァ…」
あそことは。ふと近くにあったデパートに備え付けられた、一般人立ち入り禁止の非常階段だった。
一方通行「…いいのか?入って?」
絹旗「元暗部の人間が何言ってんですか?」
一方通行「そこで暗部を出すかお前は」
そのとき。一方通行にある考えが浮かんだ。
一方通行「お前…。どうせなら、もっとイイとこで見てェだろ?」
絹旗「え?」
カチッ
電極のスイッチをONにする一方通行。
絹旗「一方通行…何を??」
一方通行「お前、しっかり俺につかまっとけよ」
絹旗「キャ!?//」
絹旗をお姫様抱っこしたかと思うと、ベクトルの方向を上にかけ…そのまま急上昇する一方通行。
絹旗「あ、あの、どこへ行くんです!?//」
一方通行「非常階段より、もっと高ェとこだ…っと、着いたぜ」
絹旗「な…なるほど」
そこは。デパートの屋上だった。
絹旗「確かに…ここなら思う存分花火を見れそうですっ」
加えて、もうすぐ閉店時間ということで屋上には誰もいなかった。
絹旗「ところで一方通行…っ。あの、いつまでこうやってるんですか…?///」
一方通行「…っ!」
お姫様抱っこの解除を忘れていた一方通行だった。
慌てて彼女を降ろす一方通行。
絹旗「私としては、別にこのままでもよかったんですけど//」
一方通行「ンな状態で花火を見るつもりかテメェは」
絹旗「はいっ」
一方通行「勘弁してくれよ…」
そして―
ドオオオオオオオオオオン
そんな話をしてる間に、一発目の花火が上がった。
絹旗「あっ!もう8時になったんですね!!」
一方通行「みてェだな」
絹旗「うわぁ…綺麗です…っ」
続いて二発目、三発目の花火も上がっていく。
絹旗「光景はもちろんなんですけど、ドンッ!って音もなんか良いですよね。花火だー!って感じがして!」
一方通行「…そォだな。分かる気がする」
普段は意識することすらなかった花火だが。そばにいる“彼女”の存在が…それについて考えさせてくれた。
続いて四発目、五発目…と、ここまでくるともう何発目か分からなくなる。
それくらいに大量の花火が打ち上げられ、漆黒の夜空を彩っていた。
絹旗「たーまやー!♪」
一方通行「……」
絹旗「たーまーやー!!♪」
一方通行(相変わらず元気だなァこいつは)
嬉しいのか何なのか、定番ともいえる掛け声を連発する絹旗。
絹旗「たーま…」
絹旗「……」
一方通行「ン?どうした?」
絹旗「一方通行は言わないのかなぁと思いまして」
一方通行「……」
一方通行「ま、待て。俺も叫ばなきゃダメ…って流れかァ?」
絹旗「はい!ぜひ叫んじゃってください!!」
一方通行「…ターマヤー!」
絹旗「…棒読みだった気がするのは気のせいですか?」
一方通行「きっと気のせいだ」
絹旗「まぁ…いいですけど。でも、いつかは本物の叫びも聞かせてくださいねっ」
一方通行「お、おう」
もっとも。別の叫び声なら、今までだって幾度もしたことあるのだが。
『三下ァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!』
『木ィィィ原クゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!!』
一方通行(…せっかくの興が台無しだァっ)
くだらないことを思い出すのはヤメにした。
絹旗「…あ、そうだ!」ゴソゴソ
一方通行「どうしたァ?」
絹旗「いえ、記念ってことで花火を携帯に収めておこうと!」
一方通行「あァ…それもそうだな」
同じく携帯を取り出し、夜空で炸裂する花火群を撮影する一方通行。花火が綺麗だから…というよりも、
“絹旗と一緒に花火を見た”という思い出を、こうやって写真という形で残しておきたかった。
絹旗「ついでにあなたも♪」パシャッ
一方通行「って、オイ!?」
絹旗「あなたも…記念に撮っておきたかったのでっ」
一方通行「はァ…」
まさに不意討ちとはこのこと。
絹旗「というか、花火を背に一緒に映りましょうよ!!ちょうど今が花火の数的にもピークみたいですし!」
そう言って、彼女は一方通行の手を引っ張り…ちょうど花火が自分たちの背となる場所を選ぶ。
一方通行(マジかよ…)
いや、別に彼女と一緒に映るのが嫌なわけではない。ただ…いまだにこういうのは慣れないというか、
突然『写真を撮るぞ!』と言われても、どうも上手く心の切り替えができない。
そんな困惑した、引きつった顔をした一方通行に…絹旗最愛が一言。
絹旗「…プリクラ」
一方通行「ン??」
絹旗「あのとき撮った、4枚目の写真のこと思い出してください」
一方通行「…ぁ」
絹旗「あのときの一方通行…凄く良い顔してましたよね。今から撮る写真だって、それと同じです♪」
一方通行(あのとき…)
絹旗「ええっと、準備はいいですか?」
一方通行(…あァ。難しく考える必要はねェんだよな。あのときもただ、こいつのことを―)
絹旗「あぁぁぁぁ、花火は待ってくれませんから、いきますよ一方通行っ!」
一方通行(考えてただけだ)
大切な存在―ってな
……
絹旗「…というわけで撮ってみたわけですが」
一方通行「おう」
絹旗「ホント、本番には強いんですね一方通行。撮る直前はあんなにマヌケな顔してたのに…」
一方通行「ほォ。動揺した俺はマヌケ面だったか?そりゃァ、悪かったなァ??!」
絹旗「冗談ですよっ!そんな顔してませんでしたってば。あたふたしてる一方通行可愛い♪と思っただけです」
一方通行「…そっちのが、よっぽどタチ悪い気がするぜェ…」
絹旗「とにかく…。私、この写真は大切にします。後であなたにも送りますねっ」
一方通行「ン。後は、花火終わるまでゆっくり眺めとくとすっか」
絹旗「ですね♪」
こうして。二人は夜空に舞い散る夏の風物詩を…心行くまで堪能したのだった。
……
絹旗「いやー!絶景でしたね!!」
一方通行「あァ。最後の大型花火の連発は、まさにそれだったな」
絹旗「でかい花火ももちろん見応えはあったんですけど、個人的にはハートや星の花火が超印象的でした!」
一方通行「あれには驚いたなァ…花火ってのはあんな形にも映せンだな」
絹旗「UFOの形なんかはちょっと感動しちゃいました。空にUFOってまんまですもんねっ」
一方通行「ン?ありゃァUFOだったのか。てっきり土星だと思ってたぜ」
絹旗「…そう言われれば土星の気もしてきました。どっちなんでしょうね?」
一方通行「好きなほうでいいンじゃねェの」
絹旗「じゃあUFOで!!」
一方通行「俺は土星派だァ」
絹旗「あ、そうだ。忘れないうちに、さっきの写真送っときますね」ティロリン
一方通行「おォ、来た来た。サンキューな」
絹旗「さて…。では、これからどうしましょうか?」
一方通行「そうだなァ。祭り自体はまだ続いてンだし、適当にぶらつくとすっか」
絹旗「そうですね。ちょうど行ってみたい屋台もありましたし」
一方通行「…の前に。まずはこっから降りねェとな」
絹旗「屋上には屋台ありませんからねえ。仕方ないです、下の世界に行くとしましょう!」
一方通行「行くっつうか戻るンだけどな。じゃァ…前みたく、またしっかりつかまれよ」
絹旗「あっ!ちょ、ちょっと!いきなりお姫様抱っこするのはやめてください///」
一方通行「ァ…悪ィ、驚かせちまッたな」
絹旗「べ、別に私はいいんですけど…。なんか、このままじゃ癖になっちゃいそうで//」
一方通行「癖って…この体勢が、か?」
絹旗「は、はい//その…一方通行とも超近いですし…//」
そういえば。持ち上げてるから当たり前なのだが、顔が近い。そしてこれも当たり前なのだが、体に触れている。
一方通行(…思考停止するかァ)
というわけで、何も考えないままに地上へと降りた。いちいち意識してたら…。こんなお姫様抱っこなど
やってられない。特に今日、その彼女は浴衣等で普段の倍可愛く見せてるのだから…尚更だった。
絹旗「また、やってくださいね♪//」
一方通行「…機会があればな」
そう答えるしかなかった。
絹旗「それにしても…?」
一方通行「?どうしたァ?」
絹旗「いえ、なんか周りの人がこっちを見てるような気がして…」
一方通行「いや…そりゃァそうだろ。空からいきなり人が降ってきたンだ。注目もするわ」
絹旗「あぁーなるほど。確かにそうですね」
一方通行「じゃ、歩くとすっか」
絹旗「あ…。ちょ、ちょっと待ってください」
一方通行「まだ何か用か?」
絹旗「その、なにか重要なことを忘れてる気がして…」
一方通行「…あァ、そういや花火終わったらアイツらと合流するンだっけか」
絹旗「そうでした―!!?急いで麦野たちと連絡取らないと…っ!!」
慌てふためき、絹旗は携帯を開く。
絹旗「あ…あれ」
一方通行「今度はどうしたァ?」
絹旗「麦野たちから…メールが来てるみたいなんです。いや、“来てた”みたいなんです!!」
一方通行「…それはつまり、結構前に来てたのに気付かなかったと…そういうことか?」
絹旗「そういうことです…」ガックシ
一方通行「?でもお前…花火見るとき写真撮ってたよなァ。そンときに分からなかったのか」
絹旗「そういえば何かメールがあった気も―」
一方通行「マジか」
絹旗「花火に浮かれてて、全然メールはそっちのけでした…」
一方通行「…まァ、今からでも遅くねェじゃねェか。花火も終わったばっかだしよ。ひとまず内容見てみようぜ」
絹旗「そ、そうですね。特に麦野…怒ってなければいいんですが」
若干の不安を抱きながらも、彼女はメールを開いた。そこにあった三つのメール…それは―
麦野沈利『私たちのことは気にしなくていいからさ。せいぜい楽しめψ(*`ー´)ψケケケ』
滝壺理后『くれぐれも、ハメをはずしちゃダメだよ(´・ω・`)』
浜面仕上『二人とも爆発しやがれ!!そして爆発しやがれ!!ヽ(`Д´)ノ』
……
絹旗「……」
一方通行「……」
絹旗「とりあえず、合流する必要はないそうです」
一方通行「…みたいだなァ」
絹旗「麦野も滝壺も私たちに気を使ってくれて…。私は、本当に嬉しいです…!ありがとう二人とも…っ」
一方通行「…良い仲間に恵まれたな」
絹旗「はいっ!」
一方通行「ところで浜面の野郎―」
絹旗「日本語でおkな人なんか知りません」
一方通行「何が言いたかったンだろうなアイツ…」
絹旗「しかも二回同じこと言ってました」
一方通行「大事なことだから二回言ったのかもな」
絹旗「…ですね。きっとあのメールの真意も、私たちを応援したものだったんですよ」
一方通行「根は良いヤツだからなァ浜面」
絹旗「…はい。あんな超浜面ですが、それでも。私たちの仲間には変わりないですからねっ」
一方通行「良い仲間を持ったな」
絹旗「はい!」
一方通行「よし、じゃァ円満にまとまったところで。さっき行きたい場所があるとか言ってたよな。どこだ?」
絹旗「綿飴屋さんですっ!」
一方通行「あァ…あのフワフワ菓子のことか」
絹旗「また甘いものが食べたくなっちゃって…。というわけで行きましょう!」
一方通行「ン?場所知ってンのか?」
絹旗「はい。屋上からさっき、さりげに調べてたんです。こっちですよ!」
一方通行「まったく…貪欲な奴だなテメェは」
そんな彼女が愛しい一方通行だった。
店に着き、綿飴を購入する絹旗。
絹旗「あ、そういえば一方通行はいらないんですか?」
一方通行「だからリンゴ飴のときも言ったろうがよォ。俺は甘いもンが苦手だってな」
絹旗「そのリンゴ飴のときも思いましたけど…甘いものが苦手って、絶対人生損してると思いますよ?
好き嫌い言ってないで試しに食べてみるべきだって、私は超そう思いますね。
いや~、それにしてもこの綿飴とってもおいしいです。っていうか超甘いです♪」ハグハグ
一方通行「食うなァ…そンなにその綿菓子はうめェか」
絹旗「だから美味いって言ってるじゃないですかぁ。とはいえ、いくら私が力説したって実際これは食べて
みないと分からないと思いますけど。っていうか、一方通行はこの食べ物…“綿菓子”って言うんですね」
一方通行「?綿菓子だろ?」
絹旗「私はさっき“綿飴”って言ってましたよ」
一方通行「……」
一方通行「え?同じもンなんじゃねェの??」
絹旗「さぁて。どうでしょう?♪」
一方通行(…待て、マジで違うもンなのか?綿菓子の中に綿飴って種類があるとか、そんな話じゃねェのか!?)
まさかの綿菓子(綿飴?)に大苦戦する学園都市最強のレベル5だった。
こ、こんなフワフワしたふざけた形のお菓子が分からない。とても悔しい一方通行だった。
絹旗「答えを言ってしまうとですね。基本的には両方同じものを指すんですが、状況や場合によって
呼び名が変わるんだそうです。こういうお祭りのときは“綿飴”。そうじゃないときは、例えば普通に
駄菓子屋なんかで買うときは“綿菓子”になるそうです」
一方通行「あの、一つ聞いていいか。何でそんなどうでもいいこと知ってンだ??」
絹旗「うーん…いわゆる雑学ってやつですよ。たまに『アイテム』で集まったとき、こういうバカ話してんです。そのためのネタ集めってとこですね。もっとも、綿飴ネタを使ったのは…あなたが初めてですけどねっ!♪」
一方通行「“初めて”なのに嬉しくないこの不思議…ッ」
絹旗「あー。一方通行がすねちゃいました」
一方通行「そりゃァすねるわ」
絹旗「しょうがない人ですね…。そんなに綿飴が欲しいんですか?」
一方通行「待て。いつから俺が綿飴が欲しいと錯覚していた?」
絹旗「糖分は頭をリフレッシュしてくれます」
一方通行「科学的説明なンぞ求めてねェ!!」
絹旗「じゃあ、純粋に欲しいんですね♪」
一方通行「もうそれでいいわ」
絹旗「でも…残念。もう遅かったんです」モグモグモグモグ
一方通行「……」
絹旗「超食べちゃいました」
全部なくなってしまった。残ったものは木の箸一本である。
一方通行「お前は一体何がしたかったンだ」
絹旗「やっぱり欲しいですか?」
一方通行「欲しいも何も、その綿飴はもうねェけどな」
絹旗「何でですか?」
一方通行「お前ってヤツは…。そこまでして俺に突っ込みを入れさせてェか…?」
絹旗「ワクワク♪」
一方通行「本性を表しやがったか。じゃァ、ご褒美に突っ込ンでやる。お前が食っちまったンだろうが…ッ!」
絹旗「正解です♪」
一方通行「正解も何も自明だろが」
絹旗「でも…半分不正解です」
一方通行「…は?それどういう―」
絹旗「ちょっと、こっち来てくださいっ」
一方通行「??ど、どうしたンだァ急に?」
引っ張られるがままに、絹旗に付いていく一方通行。
一方通行(…?屋台のほうから遠ざかっていく…?)
しばらく歩き到達したその先は…人通りの少ない路地裏だった。そこまで中心街から離れているわけではない。
祭りの会場から横道にそれた、通路の狭い小道。誰かが近道で利用する以外は…とても人が歩こうと思うような
道ではない。ゆえに人目にも触れにくい、いわゆる死角ポイントとなっているような場所だった。
一方通行(…何でこンな場所に、最愛は俺を連れ込んだンだ…?)
思考がハテナ状態の一方通行に、絹旗がようやく口を開く。
絹旗「そ、その…口の周りがベトベトで―」
一方通行「ン??」
絹旗「綿飴にかぶりついちゃって…口の周りがベトベトしちゃってるんです。だからその…」
あぁ、なるほどと一方通行は思った。つまり絹旗は“それ”を取りたいから、こうやって死角となる
路地裏に入り…人目のないところでハンカチで拭こうと、そういう算段なのか。って、ちょっと待て―
一方通行「お前…人前でハンカチ使うことすら躊躇ったってか??」
いくらなんでも、それは“シャイ”という言葉で片付けられるレベルではない。
しかも絹旗最愛という女の子が、基本的にはそのカテゴリーには属さない人間なのだから、尚更だった。
一方通行(ぁ…)
自分で言ってて気付いた。そういえば、絹旗のハンカチは俺の口元を拭くために使ったではないか。
リンゴ飴により付着した食紅を取ったのだから、当然そのハンカチは赤くなっているはず。
一方通行「…すまねェ。ハンカチは使えなかったンだよな。となると―」
ここで、少しだが謎が解けた気がした。ハンカチは使えなくとも、毎度お馴染み“一方通行の能力”を
もってすれば…そのベトベトは取れるはず。絹旗の服を乾かすため、中に入った水分や塩分を外へと抽出した
あの方法と原理は全く同じだ。それが“ベトベト”だから、今回はその対象が砂糖になったというだけ。
もしかしたら彼女は、人前で彼が能力を行使することを躊躇ったのかもしれない。だからこんな場所へと
彼を誘い入れた…?もっとも、それだけでは人目に付かない場所に彼女が入り込んだ理由としては弱いが。
先ほどの“ハンカチ”よりは強い理由だろうが、それでも彼女がそんなことを気にする性格には見えない。
それでも、一応そのことについては聞いてみる。いや、いちいち聞くより実際にやったほうが早いか。
一方通行「顔、近付けろ。俺が能力でなんとかしてやっから」
これで解決…と思っていた一方通行だったが。それに対する彼女の返答は意外なものだった。
絹旗「だ、大丈夫です。あなたの能力を使わなくても…なんとかなりますからっ」
一方通行「??」
ますますもって訳が分からなかった。まさか、浴衣の袖を口に擦りつけ…って、そんなバカな話はない。
仮にも女性がそんな真似、それも彼氏の目の前でやることとは思えない。じゃあ…一体どうするというのか。
絹旗「…舌を使えば、なんとかなります」
一方通行「そうきたか」
それならできないことはない…?かもしれない。ただ…ちょっと取るのに大変かもしれないが。
とにかく、そういうことならさっき考えてた理由もクリアできる。というか、そりゃそうだろう。
人前でやるにはあまりにハードルが高すぎる。
一方通行「じゃァ、さっさとやれ。俺は後ろ向いとくからよォ」
人前が嫌なら、俺の前でもそれは同様のはず。そう思って背を向けようとする一方通行だったが―
絹旗「あ、ち、違うんです!」
一方通行「あン?」
絹旗「その…“あなたの舌”で取ってもらえればなって…っ//」
一方通行「……」
一方通行「今、なんつった?」
とりあえず、『何が起こった』と思った
聞き間違いだったのかもしれない。それか、自身の潜在意識下にある願望が引き起こした、
まさかの幻聴か。後者なら自分は病気だろう。
絹旗「あの…してくれないんですか?//」
どうやら聞き間違いでも幻聴でもなかったらしい。
一方通行「お前…何考えてンだ?」
本当に何を考えてるのかと思った。いくら恋人同士とはいえ、さすがにこのシチュエーションはカオスすぎる。
だが…これなら人通りの少ない路地へと招き入れた理由も分かる。最初からこれが狙いだったのか??
そう考えていた一方通行だったが…。次の彼女の言葉で、彼は更なる混乱に陥った。
絹旗「ほ、本気にしないでくださいよっ!冗談ですってば!」
冗…談…??
絹旗「証拠に、ここにもう一枚ハンカチもあるんですからっ。もう一方通行ったら…。
いくらなんでも、そんなふざけた展開はないですよ。すっかり当惑してましたよね」
一方通行(は…?)
じゃあ、さっきの思わせぶりな態度は何だったのか。
騙してからかうためだけに、こんな人通りの少ない場所へと招待したのか。
こんな手を込んだ工作をしてまで…屋台を楽しむ時間を削ってまでも、俺を勘違いさせようとしたのか??
一方通行(こいつ…ッ)
さすがに、これには怒らずにはいられなかった。イタズラにしても悪質すぎる。
そう思った瞬間か― 気付けば、彼は彼女に手を出していた。
絹旗最愛に 手を出していた
絹旗「っ!?」
一方通行「テメェ…ちょっと度が過ぎたなァ…?」
右手で絹旗の顔をつかみ、そして傍にあった壁へと叩きつける。
電極のスイッチがONになっていたのは言うまでもない。
絹旗「!!ま、待っ―!!!」
彼もそこは加減していた。元々絹旗は窒素装甲の自動展開により窒素の壁が形成されてるため、
よほど大きな力で壁に叩きつけない限りは、彼女には傷一つ付かない。不意討ちの銃弾ですら
弾くのが彼女の持つ窒素の壁なのだから。その代わり…“一方通行が攻撃した”という
その揺るぎようのない事実は、彼女の精神に与えるダメージとしては十分すぎたかもしれない。。
そして更に追い討ちをかける一方通行。
一方通行「テメェがさっき言ってた…舌でやるってヤツか?なンなら、今ここでやってもいいンだぜ…
身動きのできねェお前を、口から口へと舐めつくしてやろうか?あァ!?」
もはや完全に悪役だった。いや、客観的に見れば悪人そのものだった。
一方通行(ちったァこれに懲りて反省しろ…)
実は。彼にとって、先ほどからの一連の行動はただの狂言にすぎなかった。
絹旗の口を舐め回す気も更々ない。正確に言えば、これは“攻撃”ではなく“叱り”のつもりだった。
辞書通り、言動のよくない点などを指摘して強くとがめる。そんな一方通行のやり方に彼女は―
絹旗「…っ」
悲しんでるわけでもなく泣いてるわけでもなく。ただ…じっと一方通行の目を捕らえているだけだった。
絹旗「…以前もこんなことありましたよね」
一方通行「…?」
絹旗「ワンピースの裾をヒラヒラさせて、あなたを逆上させたことがあったなって…」
一方通行「あァ…」
浜面に公園に呼び出されて。でもそこにヤツはいなくて…代わりにいたのがこの絹旗で。
気になるとかいう理由で俺の後を付け回し―そして誘惑された。そのときも俺はこいつに迫り…
っつっても“フリ”だったが、途中で風紀委員の奴に見つかってレイプだと勘違いされそうに
なったンだっけか。確かに状況的には似てるかもな、と思った一方通行だった。
一方通行(そういや―)
あのときも絹旗は、そんな状況であっても抵抗らしい抵抗をしなかった。今の絹旗も…こちらを
見つめるだけで抗議の声も唱えないし、ましてや攻撃したり逃げようといった空気も甚だ感じられない。
絹旗「私、あなたが無理やり人をどうこうする人間じゃないって知ってます。あのときはまだ出会って
日も浅かったですから…ほとんど直感だったわけですけど。今は自信をもってそう言えます。
私の口元を舐めつくすっていうのも、ウソなんですよね?私を…ただ叱ってるだけなんですよね」
一方通行(全て見抜いてンのかよ)
だが、ここまで洞察力があるなら俺が激昂するのも予想できたろうに。
なぜヤツはこんな真似を…?と考えていた一方通行に―
絹旗「…すみません。これやったらあなたが怒るだろうなとは思ってたんです。“分かってて”やったんです」
一方通行「分かってて…やった?」
絹旗「怒ったところを、むしろ私のほうからキスしようと思ってたんです…」
一方通行「…は?」
絹旗「確信犯だったんですよ。落としてから、そして持ち上げる…そんな状況でキスしたら
あなたは驚くだろうし、もしかしたら嬉しいかなって…一種のサプライズのつもりだったんです」
一方通行「お前―」
一方通行(“嘘って言ったこと”が嘘だったのかよ)
それはつまり真だ。
絹旗「お祭りって…考えようによっては非日常じゃないですか。だから、こういうことも許されるかな…
って思ってつい調子に乗っちゃったんです…。お祭りだからこそできる、って考えちゃったんですね…」
一方通行「……」
正直呆れた。だが、その言動の根底に“恋人を楽しませる”という意思があったのなら、
一方通行としては彼女を責めることなどできない。
絹旗「ただ、私は浅はかでした。怒るってことは分かってても、“傷つく”ことまで考えてなかったんですよ…
一方通行だから大丈夫っていう、ある種の開き直りといいますか…。でも、一方通行も人間なんです。
学園都市最強のレベル5とはいえ、中身は他の人と同じ…純粋な人間なはずなんです。そんな当たり前の
ことすら忘れ、祭り気分に浮かれ…弄ぶような真似をしてしまって…!本当に超すみませんでした…っ!」
…電極のスイッチをOFFにする一方通行。
一方通行「…まだ遅くねェ」
絹旗「え?」
一方通行「こっちこそ、ついカッとなっちまって…悪かった。だから―」
絹旗の顔を引き寄せる。
絹旗「一方通行…?」
一方通行「最愛…っ」
そのまま、一方通行は彼女に唇を重ねる
絹旗「ん…っ!///」
一方通行「……」
軽く触れ…そして一旦離す
一方通行「…甘かった」
絹旗「…だから言ったじゃないですか。“綿飴”は、まだ残ってるって」
一方通行「お前の唇って綿飴の味がすンだな」
絹旗「今日、限定ですから…っ」
一方通行「…もっと味わってもいいか?」
絹旗「…はいっ」
一方通行「遠慮はしねェからな…」
そう言って、再び口づけを交わす
絹旗「一方通行…///」
一方通行「…次は舐めてやる」
ペロ
絹旗「ひゃ…っ///」
口元に 舌で触れる一方通行
一方通行「…っ」
しだいに、その動きをエスカレートしていく
絹旗「ぁ…っ//」
ペロ、、ペロ、、
絹旗「し、舌の動きが…っ!///や、やらしいですよ一方通行///」
一方通行「舐めとってほしいンだろ?…我慢しろよ」
絹旗「…前から思ってましたけど、絶対一方通行ってSですよね…?」
一方通行「誘惑するテメェが悪い」
ペロッ
絹旗「ひゃぁ…っ//」
一方通行「…気持ちよさそうな声出してンじゃねェよ」
絹旗「だ、だって…!あなたが超変な舐め方するから…っ///」
一方通行「テメェがそンな声出すから、こっちだって止められねェンだろうが…ッ」
ペロ…ペロ…ッ
絹旗「うぅ…っ//一方通行の、エッチ…///」
一方通行「…お前ほどじゃねェけどな。っと、ベタベタしてたのは大体取れたぞ」
絹旗「ホントに取っちゃうなんて…。一方通行は本当にエッチです…//」
一方通行「取れたし、やめるか?」
絹旗「や…やめないでくださいっ」
一方通行「感じてンのかよテメェ…どうしようもねェな」
一方通行「まだお前の口の中…ちゃンとやってなかったよなァ」
そう言って自分の舌を…絹旗の口の中へと入れる
絹旗「ぁ…っ!//」
一方通行(…最後の綿飴まで、綺麗にしてやらねェとな)
絹旗「ん…っ!む…ぅ…っ!ぁ…ん///」
ピシャ…ピシャッ…ッ
唾液と舌が絡み合ういやらしい音が響く
絹旗「はっ…ん…っ!う、うぅ…ぁぁ…っ///」
同時に、彼女の官能的な声も響く
一方通行(やべェ、たまンねェ…っ)
意識すればするほど、舌の動きはめちゃくちゃになった
絹旗「っ!?」
絹旗(は、激しすぎますよ…!一方通行…っ!!///)
めちゃくちゃになればなるほど それだけ彼女の性感帯を刺激した
一方通行(…やべェぞ)
ここで彼に 一つの懸念が生まれた
一方通行(歯止めがきかねェ…っ)
“どこまでならやってもいいのか?”そのボーダーラインがよく分からなくなっていた。
普段の冷静な彼なら有り得ない。それくらいに、頭の中が沸騰していた。
ピチャッ…ピチャッ…
絹旗「ぁ…っん!あ…ぁ…うぅ…ぁっ…///」
それでも舌は止まらない
一方通行(ここは人通りが少ねェ…)
人の目がない。ゆえに、この場所は“背徳的行為を気兼ねなくできる環境”と化してしまってる。
だからこそ…問題があった。そういう行為に適している一方で、その“行為”が激化したとき、
一体誰がそれを止められるのかという深刻な問題が。もちろん当人らの自己判断には期待できない。
こんな密室ともいえる環境下で、理性が感情…性欲に勝てるとはとても思えなかったから。
一方通行(誰もいねェ…のか)
このまま誰も来なければ。自分が絹旗に“それ以上”のことをしてしまいそうで怖い…。
かといって、そんな自分にブレーキをかけることすら今の一方通行には叶わなかった。
一方通行(…ヒーロー…ッ)
叶わなかったせいか。彼は無意識のうちにその単語を呟いていた。
もっとも…ここでの“ヒーロー”という言葉に意味はない。そもそも何を指してるのかも分からない。
よく人は、窮地に陥ったとき神頼みをすることが多々あるが…。彼の場合は、それが“神”ではなく
“ヒーロー”だったというだけ。自分がダメだからという理由で、居るのかどうかも分からない他者…
そんな超自然的存在に向け、一方通行は心のどこかで期待していたのかもしれない。
…まったくもって無責任な期待には違いなかったが。
一方通行(当の最愛は、この状況をどう考えてンだろうなァ…?)
少なくとも嫌がってはいないみたいだが。だが、この先もキスだけで済ませられるという保障は無い。
さらに先の行為へ進んでしまった場合、彼女はどうするのか。拒むのか、あるいは受け入れてくれるのか…?
絹旗「…?一方通行…?」
いや、そもそも“それ以上”の展開を全く想定してない可能性だってある。彼女はさっき言っていた…
『私、あなたが無理やり人をどうこうする人間じゃないって知ってます』と。彼を…信用してくれている。
一方通行(信用してンのに…変なことしちゃァダメだよな)
……
何か分かったような気がする。相手のこともちゃんと考えてあげれば…。
絹旗最愛という存在に真摯になれば、きっと間違いは起こらない。ここに来て、
ようやく彼はそのことに気付いた。よく考えれば簡単であり…そして当たり前なことでもあった。
一方通行(どうやら…今回ばかりはヒーローに助けてもらう必要もなかったみてェだ)
自分で気付けたのだから。
一方通行(ただ、最後に…もう一度こいつとキスしてェ)
改めて絹旗の方へと向き直り、そして―自分が彼女に対し思ってることを…素直なままに伝えた。
少々恥ずかしかったが…。自分にとって“最愛”の人である彼女に告げることを、彼は嫌とは思わなかった。
一方通行「最愛…好きだ」
絹旗「ど、どうしたんですか突然?もちろん…超好きに決まってるじゃないですかっ//」
一方通行(最愛…っ)
これからも互いのことを思い合って…そして生きていこう。そう考えながら
今日最後になるであろう口づけを…絹旗と交わそうとした。
“交わそうとした”
??「ッ!?一方通行…!?こ、ここで何を…!!?」
一方通行「……」
一方通行(…何ですかァ?このどっかで聞いたことのあるバカみてェな声はァ…)
この世界の“ヒーロー”とは、どうやら遅れてやってくるものだったらしい。
それも、“かなり空気の読めてない”ヒーローだと言えた。
上条「って、あぁ…そうか!キスしようとしてたのか!!こ、恋人同士なら当たり前…だよな//」
美琴「そ…そうよ!!恋人同士なら普通にすること…よ//」
一方通行「……」
ヒーロー上条当麻&ヒロイン御坂美琴 IN
絹旗「あっ二人とも!また会いましたね」
美琴「そ、そうね…っ//」
…さっきの二人のやり取りが気になって仕方がない美琴。
一方通行「テメェらよォ…こんなトコで何してる?ってか、何でいンだ??」
絹旗「あぁー、そういえば」
彼の疑問ももっともだった。本来なら上条も美琴もまだ祭りを楽しんでる時間のはず。
それが、どうしてこんな祭りの中心から離れた…屋台もない人気のない場所へと来てしまっているのか。
美琴「そ、そっちこそ何でいんのよ!?」
逆に質問で返された。
一方通行「ァ?そりゃァ…」
絹旗「二人でイチャイチャできるからですよ。人もいないからキスだってし放題ですし…//」
一方通行「正直に言いすぎだテメェ」
絹旗「だって、そうでもないと…こんな何もないところ来ませんよ。ましてや今日は祭りなんだから尚更です」
一方通行「まァ、そうか」
美琴「そ…そうなんだ」
一方通行「で。そっちの来た理由は?」
美琴「そ、それは…っ!」
上条「な、なぁ絹旗。さっき言ってたことは本当なのか??」
絹旗「さっき?」
上条「こんな人通りのない場所なら…ってやつだよ。キスするとか何とか…//」
絹旗「あぁ、そのことですか。そりゃー、そういう理由でもないと来ませんよね!」
上条「そ、そう…だよな!ってことは御坂…お前まさか…っ」
美琴「ちょ―!?バカッ!!勘違いしないでよね!!// な、何で私があんたなんかとその…っ!!//」
一方通行(ン?話の流れ見る限り、この場所へと誘ったのは超電磁砲のほうかァ?)
絹旗「あれー。御坂さん、顔が超赤いですよ。本当は…“私たちと同じ理由”だったんじゃないですか?♪」
美琴「ち、違う!!そんなこと…私考えてないッ!!!///」
美琴(い、言えない…っ!あいつに 告 白 し よ う と し て た とか、絶対に言えない…っ!!!)
上条「御坂!じゃあ、何で俺をこんなところに!?」
美琴「そ、それは―!!」
一方通行「…何なんだァ?」
絹旗「…何なんですか?♪」
美琴「あ…あぁ…ぁぁっ!!」
告白しようと決意しただけでも、すでに美琴の精神状態はあっぷあっぷだった。そんな状態で、
その“告白”についてあれこれ詮索されたら…彼女のような人間は一体どうなるか?言うまでもなく、
彼女の精神は不安や動揺、焦燥感を堰きとめられず崩壊する。結果として、告白相手である上条本人にも
不信感を抱かれてしまったのだから…どうしようもない。というか、もはや告白どころではない。
そんな自己を喪失した彼女がやることはもう決まってる。美琴は“自爆タイマー”のスイッチをONにした。
上条「み、御坂??」
そして爆発した
美琴「うわああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!」ダダダダダダダ
上条「御坂―ッ!!?」
御坂美琴は逃走を開始した。
上条「ちょ!?な、何がどうなってんだッ!??」
絹旗「上条さん!今は彼女を追いかけてあげてください!!」
一方通行「早くしねェと、あいつホントにどっか行っちまうぞ」
上条「そ…そうだな!分かった!!二人とも、またなっ!」
そう言って、上条は急いで美琴の後を追いかけた。
一方通行「…なァ、絹旗」
絹旗「何です?」
一方通行「超電磁砲が取り乱してたのって、ありゃァ間違いなく俺らが原因だよなァ…?」
絹旗「で…ですね…っ」
一方通行「お前が言ってたキスはともかく…。
何か重要なこと言おうとしてアイツをここに誘い込ンだのは違いねェ」
絹旗「告白…といったところでしょうか?」
一方通行「かもなァ」
分かりやすい性格をした美琴なだけに、そんな彼女の心理は二人にはお見通しだった。
絹旗「でも、それってお互い様ですよね」
一方通行「あン?」
絹旗「私たちだって、上条さんと御坂さんが来たせいでその…中断しちゃったんですから」
一方通行「確かに…そうだったなァ」
絹旗「続き。しますか?//」
一方通行「いや…いい。なンか冷めちまったわ」
絹旗「そーですかぁ」
一方通行「しょんぼりすンな。俺らだったら…いつでもキスできるだろ」
絹旗「え!?いつでもキスしてくれるんですか!?一方通行ったら…いつからそんな超大胆に//」
一方通行「“時と場合による”。ここ、めっちゃ重要だぜェ?衆人環視の中でしろとかゴメンだからなァ?!」
絹旗「分かってますよ。というか、そんなことまでしちゃったら…もはやバカップルじゃないですかっ!」
一方通行「すでにバカップルっぽい気がすンのは気のせいか…?自分で言うのもなンだけどよォ…」
絹旗「あー、バレましたか。そうですね、それは知ってました♪」
一方通行「知ってたンかい」
絹旗「あ」
一方通行「ン?どうした?」
絹旗「携帯が落ちてます」
一方通行「……」
一方通行「さっきまではこんなもン…落ちてなかったよなァ?」
絹旗「そう…ですね。ということは―」
一方通行「あのバカ二人のどっちかが落としたもンってワケかよ」
絹旗「どちらのか調べてみます?」
一方通行「まァ、誰のか調べるくれェならプライバシーにも触れねェし、大丈夫だろ」
絹旗「じゃあ、ええっと…。あ、上条さんのみたいですね」
一方通行「あのバカのか」
絹旗「…御坂さんだったら何て言ってたんです?」
一方通行「あのバカのか」
絹旗「どっちもバカなんですね」
一方通行「一応携帯拾っててやるか」
絹旗「というか、まだこの近くにいるかもしれません」
一方通行「今から手渡しで届けろってかァ?」
絹旗「まだ…さっきからそんなに時間も経ってませんし、遠くへは行ってないはずです」
一方通行「そりゃァそうだろうが。ってか、お前そんなに届けてェのか」
絹旗「だって!相手を追いかけるって、鬼ごっこみたいで超楽しくないですか?♪」
一方通行「ガキかテメェは」
絹旗「ガキです!」
一方通行「しまった…テメェにそういう突っ込みがきかねェの、すっかり忘れてた」
絹旗「で、どうするんですか?」
一方通行「どうするも何もお前自身行きたいンだろうがよ」
絹旗「はいっ♪」
一方通行「じゃァ、行くしかねェよな」
一方通行「そうと決まれば速攻で見つけるかァ」
電極のスイッチをONにする。
絹旗「能力使うんですね」
一方通行「当たり前ェだろ。自力で探してたら、最悪日付け変わっちまうぞ」
絹旗「道がいろいろ入り乱れてるのが、この学園都市ですからねぇ」
一方通行「そういやお前はどうすンだ」
絹旗「うーむ。私じゃ、あなたの高速スピードにはついていけませんしね。私を置いて行きますか?」
一方通行「オイオイ…いくらなんでもお前を置いてあのバカを追いかけるほど、奴に義理はねェよ」
絹旗「じゃあ、どうします?♪」
気のせいか。何かを期待しているような目で…彼を見つめる絹旗。
一方通行(置いていけねェとなると一緒に行くしか。となると…)
一方通行「…おんぶするしかねェのか」
絹旗「私は、おんぶよりお姫様抱っこのほうが超いいです♪」
一方通行「最初からそれが狙いかァ!!?」
絹旗「ワクワク♪」
一方通行「却下」
絹旗「えー!?どうしてですか!?!」
一方通行「あのな、お姫様抱っこした人間が高速移動してみろ。おかしいってレベルじゃねェから」
絹旗「レベル6ですか?」
一方通行「あァ。レベル5第1位の俺ですら、この羞恥心には勝てそうにねェ」
絹旗「そんなにおかしいですかねえ」
一方通行「少なくとも、通行人が見てたら腹抱えて笑いだすレベルだァ」
絹旗「そうですか…。そこまで力説されると、私からはもう何も言えません」
一方通行「だから、おんぶで我慢してくれな。まァ、正直おんぶで高速移動も
かなりシュールなンだが…こればっかはしょうがねェ。テメェとは離れたくねェしな」
絹旗「っ!わ、分かりました…おんぶで我慢します//」
一方通行「…?」
絹旗(いきなり『離れたくねェ』とか、反則ですよ一方通行…///)
絹旗「そういえばこの前…。海から帰るときも背負ってくれたんですよね」
一方通行「そうだなァ。ただ、あのときと違って今回は高速で動くワケだから、
振り落とされねェよう…しっかりつかまっとけよ」
絹旗「了解ですっ」
一方通行「あァ、風圧で痛まねェようテメェにも若干ベクトル操作施すからよォ。
移動中…くれぐれも上で変な動きすンじゃねェぞ」
絹旗「なんでです?」
一方通行「単純に気が散る。っつか、そう聞いてきたってことは何かするつもりだったンか」
絹旗「そうですね。顔を擦りつけてみたり、耳に息をふきかけてみたり。あと―」
一方通行「もうええわ…やる気満々じゃねェかお前。いいか?絶対すンなよ?」
絹旗「えー」
一方通行「あのな、お子様にも分かりやすく教えてやる。時速100kや200kのスピードで
壁に衝突でもしたらシャレになんねェから。俺は大丈夫でも、お前の命までは保障できねェから」
絹旗「壁に激突するほど集中力切らすってよっぽどですよ?そんなに…意識しちゃうってことなんですか?//」
一方通行「…悪ィかよ」
絹旗「そんな照れてる一方通行も超可愛いです//」
一方通行「なんかもう、ため息しか出ねェわ」
一方通行「じゃァ、行くぞ。しっかりつかまっとけよ」
絹旗「ええっと、エンジンキーは…」
一方通行「俺は車か」
絹旗「小回りが利く分、車より性能いいですけどね」
一方通行「車から離れろ」
絹旗「じゃあタクシーで!」
一方通行「余計にタチが悪いわッ!!?」
絹旗「私は褒めてたつもりなんですけど…」
一方通行「お前とコントしてたらマジで日付け変わりそうだから、もう行くわ」
絹旗「出発進行ですねっ!」
一方通行「ホント楽しそうだなお前」
そういうわけで、出発進行した。
その頃。上条は、いまだに美琴を追いかけていた。
上条「だから!!何で逃げんだよ御坂!!?」
美琴「一人に…、一人にさせてって!!さっきから言ってるでしょう!??」
上条「ダメだ!!ほっとけねえよッ!!!」
美琴「そ、そんなこと言われたって…!!私は今、あんたの顔を見たくない、っていうか見れない!!!」
上条「御坂…!!お前、俺に何か言おうとしてたんじゃねえのかよ!?」
美琴「え…っ」
上条「もし何か悩みがあるんなら言ってくれよ!?俺は…いつだってお前の味方なんだからなっ!!」
美琴「ちょ…っ///な、なにカッコつけたこと言ってんのよ!!///」
上条「いいから止まれってーッ!!いい加減、俺も足が痛ぇんだってっ!!」
上条(ってかアイツ、何で浴衣姿なのにあんな速く走れんだ??)
浴衣なんて障害にもならない。それくらいに全力疾走してたのが御坂美琴だった。
先ほど爆発してしまったため、頭でまともな思考ができないのは言うまでもない。
ほとぼりが冷めるには…もう少し時間がかかりそうだった。
上条(くっ…!一体どうすれば…っ)
そんな上条少年に近づいてくる影が一つ…いや、二つ。
一方通行「意外に早く見つかったな」
絹旗「…あの、出発してまだ3分も経ってませんよね…?」
一方通行「だな」
絹旗「一方通行のスピードが速いってのもあるんですけど、それ以前の問題なような気がします…。
だって、今走ってる場所って…携帯が落ちてたトコとほとんど離れてないですよね…?」
一方通行「これは俺の推測だが。たぶんアイツら、同じトコをグルグル回ってたンじゃねェのか」
絹旗「えぇ…っ」
一方通行「分かったろ?だからアイツらはバカなンだ」
絹旗「なんというか、面白い人たちですね」
一方通行「愉快な奴らだァ」
絹旗「っと、話してる間にもう上条さんの背中が目の前ですよ。声かけてみたらどうです?」
一方通行「あァ…そうだな」
息を吸い込み、そして叫んだ。
一方通行「三下ァ!!!」
上条「えっ…!?」
一方通行「落とし物だァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!」
上条「!?What??な、何で一方通行がここに!?というか落とし物って何!!?」
一方通行「落とし物は落とし物だ三下ァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!」
上条「意味分かんないですからッ!!?というか、なんか凄い怖い形相してるのは気のせいでせうか!!?」
一方通行「俺に落とし物なンか届けさせやがって、覚悟はできてンだろうな三下ァァァァァァァァァ!!??」
一方通行(お前のせいで俺は絹旗に車扱いされるわ可愛い言われるわ…散々だったンだぞ!?あァ!!?)
上条「よく分かんないけど!!なんか上条さん…とても理不尽な理由でキレられてる気がするんですよ…!?」
絹旗(ぎゃ、逆切れならぬギャクギレータってやつですか…!でも、これもまた一興です♪)
観客気分の絹旗だった。ちなみに…上条さんはあまりの恐怖ゆえ自分の後ろを
振り返れなくなっている。ゆえに、背負われてる絹旗の存在にも気付いていない。
美琴(…??な、何かあったの…?)
そして、さすがの美琴も後ろの喧騒に気付いたらしく…思わず後ろを振り向いた。すると―
上条「俺はまだ死にたくないぞおおおおおおおおおおおおおおおっ!!?!」
美琴「きゃああああああああああああああああああっ!!??!」
鬼の形相をした上条が眼前に迫っていた(ただしくは必死な顔だが、美琴にはそう見えた)。
一方通行「だから、落とし物って言ってンだろうがあああッ!!!!」
上条「落とし物…!?落とし物…ッ!?」
上条(う、上から何かを落として攻撃してくんのか!?)
もはや上条当麻は、“落とし物”を辞書通りの意味で受け取るには不可能な状態となっていた。
上条(だ、だが!俺のこの右手があれば…多少なら上からの落下物も防ぎきれるはず…ッ!!)
そう考え、彼は何かあったときのことを想定し…右手を軽く挙げた状態で走り続けた。
美琴(手…??手なんて挙げて何!?あれは、何かの合図…?!)
そこで、美琴もあらぬことを考え始めた。
美琴(いつもいつも、アイツには私の電撃は通用しなかった。でも…よく考えればそれは全く
効かなかったわけじゃなく、アイツは“手”で打ち消してたような気もする。え?じゃあ何?今アイツが
手を挙げてる意味って…私に電撃を撃ってこいと、そういうことなの??挑発してるってこと!?あれ?
でも今逃げてるのは私のほうよね…?追う側の人間が追われる側の人間に攻撃しろってどういうこと!??
そ、そうか!もしかしてアレはアイツなりの“御坂美琴と勝負しようぜ”の合図なのか!なら納得かも。
私だって、アイツにしょっちゅう勝負をふっかけてるもんね。あ、いや、やっぱりおかしいッ!!
だって、今日はお祭りなのよ!?特別な日なのよ?!アイツとはさっき屋台も回ったし、花火だって見た!!
なんでそんな状況で私に勝負なんて挑んでくんのよ…??こっちは…アンタに一体どうやって告白しようか
って凄く悩んでたっていうのに…っ!!な、何よ!?悩んでた私がバカみたいじゃないの!!?
ええ…分かったわ。アンタがその気なら、私は絶対にアンタには追い付かれないわ!!逃げ切るわ!!
超電磁砲のプライドにかけても、私は…絶対にアンタから逃げ切ってみせる…ッ!!!)
爆発の影響は甚だ残ったままだった。どうやら、ほとぼりが冷めるには今日一日はかかるかもしれない。
絹旗「……」
絹旗「一方通行…?」
一方通行「な、何だァ!?今追いかけるのに忙しいンだ!!」
絹旗「いやぁ…なんか楽しそうだなって思って♪」
一方通行「……」
一方通行「どうしてそう思った?」
絹旗「だって、さっきと比べると明らかにスピード落ちてるじゃないですか」
一方通行「まァな」
絹旗「というか、普通なら上条さんの背中が見えた時点で…すでに追いついてないとおかしいんですよ。
向こうは生身で走ってるのに対し、こっちは体にベクトル操作超かけてんですからね」
一方通行「あァ」
絹旗「二つ目。何でさっきから落とし物落とし物言ってんです?
『携帯を落とした!』って言えばそれで済む話、にもかかわらずですよ」
一方通行「そうだなァ」
絹旗「結論。上条さんと適度な距離を保つことで、一方通行はこの状況を楽しんでるんですよね?♪」
一方通行「かもしれねェ」
絹旗「一体どうしちゃったんですか?」
一方通行「テメェの影響かもな」
絹旗「??これは予想外の返答が来ましたね。私の…影響?」
一方通行「あァ。こういうバカ騒ぎが楽しいと思うようになっちまった」
絹旗「その言い方だと、私がバカっぽいんですけど…」
一方通行「綿飴を口から取ってくれだの。俺を挑発してきたヤツが何言ってやがる」
絹旗「そ、それは…!その、なんというか、祭り特有のそういう雰囲気で…気分が高揚しちゃったんです」
一方通行「だから。俺も同じなンだよ」
絹旗「え…」
一方通行「その祭りってやつで、俺も気分がハイになってンだよ」
絹旗「っ!だからこんな…“鬼ごっこ”をやってんですか?」
一方通行「やってることは凄ェくだらねェけどな…なンか楽しいンだよこういうのがよォ」
絹旗「あらら。すっかり自分に素直になっちゃったんですね」
一方通行「もっと早く気付けばよかったって、今じゃそォ思ってる」
絹旗「…これからつくっていきましょうよ。そういう思い出を!」
一方通行「そうだな。ただ…アイツらにとっちゃ、今この瞬間は忘れてェ思い出かもなァ」
アイツらとはもちろん、目の前を涙目で全力疾走する上条当麻と、頭が絶賛沸騰中の御坂美琴のことである。
絹旗「そんなこともないんじゃないですか?なんだかんだで、二人とも楽しんでると思いますよっ」
上条「だからッ!!何でついてくんだよ一方通行――――――!!!?」
美琴「絶対逃げてやるんだからねっ!!!!!」
一方通行「まァ、充実はしてるっぽいな」
絹旗「全力で青春を謳歌してますよね」
一方通行「っつうか、単に必死なだけだろ」
絹旗「必死にさせてるのはどこの誰ですか?♪」
一方通行「俺だァ」
絹旗「ですよねー。いつまで楽しむつもりなんですか?」
一方通行「あのバカが俺の不自然さに気付きゃァ終わりだよ」
絹旗「不自然さ?」
一方通行「能力使ってるくせにスピードがめっちゃ遅ェってのもあるが…。そもそも絹旗背負って
追いかけてる時点で 異 常 事 態 だろうがよ。普通のヤツなら立ち止まって状況把握に努める」
絹旗「一向に気付く気配がないのが目の前の上条さんなんですけど」
一方通行「それならそれで、いつまでも追い回すだけだァ!!」
絹旗「あちゃー。日付け変わっちゃうかもしれませんね」
一方通行「ま、冗談だがなァ。俺の電池のことだってあるしよォ」
絹旗「……」
一方通行「?何だァ?」
絹旗「いや、まさか花火大会が“こんな展開”になるなんて…予想もしてなかったので!」
一方通行「誰にも予想できねェよこんなワケ分かんねェ展開」
絹旗「第1位ですら演算できなかったんですか?」
一方通行「演算とかそういう問題じゃねェだろ」
絹旗「ですね。今の一方通行は鬼ごっこを楽しむ…ただの一般人です♪」
一方通行「もっとも、鬼の交代はなさそうだぜェ。とんだ“一方通行”な鬼ごっこもあったもンだ」
絹旗「一方通行なだけに…ですか?」
一方通行「『こっから先は一方通行だァ!!』ってやつだな」
絹旗「あぁー!!その名言、私… 一回聞いてみたかったんですよっ!!
うわっ、本当に聞いちゃった。超嬉しいです//」
一方通行「そんな立派な言葉だったンかこれ」
上条「って、あれ…?一方通行の奴、絹旗を背負って何やってんだ…??」
上条が足を止める。
美琴「あ、あれ…?何であいつ、追っかけてこなくなったのよ…っ!」
美琴が足を止める。
一方通行「どうやらゲーム終了のようだぜェ」
絹旗「あれ。終わっちゃったんですか。もう少し長引くと思ってたんですが…」
一方通行「…また、アイツらと遊びてェか?」
絹旗「はいっ!そういう一方通行もですよね?♪」
一方通行「そうかもなァ」
絹旗「そうだ!この際だから、二人と遊ぶ約束取り付けちゃいましょう!!」
一方通行「慌てンな。まずは…あのバカに携帯渡すとこからだァ」
絹旗「ぁ…そういえば、元々はそのために追いかけてたんでしたっけ?!すっかり携帯のこと忘れてました…」
一方通行「心配すンな。俺もさっきまで忘れてた」
絹旗「…一方通行」
一方通行「ン?」
絹旗「今日は。楽しかったですか?」
一方通行「見て分からねェか?楽しかったに決まってンだろ」
絹旗「それを聞くと…。あなたを花火大会に誘って良かったって、そう思いますっ!」
一方通行「来年も来てェよな」
絹旗「はい。一緒に来ましょうね」
とある学園都市の一方通行
とある学園都市の絹旗最愛
一方通行「…俺からも。今度誘っていいか?」
絹旗「あなたからの誘いを断るわけないじゃないですか。だって―」
そんな― とある二人の物語
「私は、一方通行のことが超好きなんですからっ!///」
Fin
終わりです!支援、保守、見てくれた人、ありがとうございました!
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こわかった