六花とイーラとオムライス (127)

イーラ「よう」

六花「あ、あなた! どうしてうちに!?」

イーラ「別に僕がどこにいようが勝手だろ」

イーラ「そんなことより腹減った」

六花「ちょっと! 勝手に入らないでって……、ああもう、待ってよ!」

イーラ「この前の黄色いやつな」

六花「当然のようにソファで寛いでいるし……。この前の黄色いやつって、オムライスのこと?」

イーラ「そういう名前なのか? まあ名前はなんでもいいや」

六花「私も晩御飯まだだから良いけど。材料二人分あったかな」

イーラ「二人分なかったら僕の分だけでいいぞ」

六花「良いわけないでしょ!」

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六花「はい、できたわよ」

イーラ「へへへ。じゃあ早速――」

六花「待ちなさい」

イーラ「ん? なんだよ」

六花「食べる前に、いただきます、よ」

イーラ「いいよ、そんなの」

六花「だーめ。言わないと食べさせないから」

イーラ「えー、なんだよ。面倒くさいなぁ」

六花「はい、手を合わせて」

イーラ「僕に命令するなよな」

六花「いただきます」

イーラ「……きます」

六花「聞こえません」

イーラ「いただきます!!」

六花「はい、どうぞ」

六花「どう? 美味しい?」

イーラ「んー。普通」

六花「なによそれ」

イーラ「じゃあ、まあまあ」

六花「ご馳走し甲斐の無い人ね……」

イーラ「ふん」

六花「……」

イーラ「……」

六花「……」

イーラ「……」

六花「……」

イーラ「……」

六花「……」

イーラ「――なんだよ」

六花「ふふ。その食べっぷりからすると美味しいみたいだなって思って」

イーラ「うるせーや」

六花「あ、飲み物もいるわね。お茶と牛乳どっちがいい?」

イーラ「コーラ」

六花「お茶か牛乳しかないの」

イーラ「買ってこればあるだろ」

六花「今から!? さすがにもう外に出るつもりは無いわよ」

イーラ「我儘なやつだな」

六花「どっちがよ! 牛乳でいい?」

イーラ「んー」

六花「はい、どうぞ」

イーラ「ん」

六花「それで」

イーラ「なんだよ」

六花「あなた、記憶戻ってるのよね?」

イーラ「見りゃわかんだろ」

六花「じゃあどうしてうちに来たの?」

イーラ「さっき言っただろ」

六花「え?」

イーラ「腹減ったって」

六花「……それだけ?」

イーラ「ああ」

六花「オムライス、気に入ったの?」

イーラ「――別に」

イーラ「ふぅ、食った食った」

六花「こら」

イーラ「今度はなんだよ」

六花「食べ終わったら、ごちそうさまでした、よ」

イーラ「いやだね」

六花「じゃあもう作ってあげない」

イーラ「おい! それはずるいだろ!」

六花「ふーん」

イーラ「ちっ」

六花「……」

イーラ「……ごちそうさまでした」

六花「はい、お粗末さまでした」

イーラ「よし、腹が膨れたし帰るか」

六花「本当に食べに来ただけなのね」

イーラ「そう言っただろ」

六花「まあ、そうなんだけど……」

六花「ねえ」

イーラ「なんだよ」

六花「あなた、――もう私の敵なのよね?」

イーラ「ああ、そうだ」

六花「……」

六花「でも、御飯は食べにくるのね」

イーラ「気が向いたらな」

六花「本当に、自分勝手なんだから……」

イーラ「ジコチューだからな」

イーラ「よう」

六花「こんばんは」

六花「また来たのね」

イーラ「腹が減って、気が向いたからな」

六花「来るときはあらかじめ言ってくれれば材料揃えておけるのに」

イーラ「そんなん知らねーや」

六花「まったく」

六花「あ、ちょっと勝手に入らないでってば!」

六花「今日は親子丼ね」

イーラ「オムライス」

六花「いや、親子丼」

イーラ「オムライス」

六花「……親子丼」

イーラ「オムライス」

六花「はぁ……、わかったわよ」

六花「オムライスなら材料そのまま使えるから良いか」

六花「どうぞ」

イーラ「おい。スプーンがないぞ」

六花「ここにあります」

イーラ「また食わせてくれるのか?」

六花「ち、違うわよ!」

イーラ「じゃあなんだよ」

六花「はい、手を合わせてー」

イーラ「またそれかよ」

六花「いただきます」

イーラ「……いただきます」

六花「前回と味付けを変えてみたんだけど、どうかな」

イーラ「普通」

六花「またそれ?」

イーラ「まあまあ」

六花「それも前回と同じじゃない」

イーラ「ふん」

六花「美味しそうに食べてくれてるし、良いけどね」

イーラ「……」

イーラ「ふぅ」

六花「……」

イーラ「……」

六花「……」

イーラ「……」

六花「なんて言うんだっけ?」

イーラ「……ちっ」

六花「……」

イーラ「ごちそうさまでした」

六花「はい、お粗末さまでした」


六花「洗い物は――、手伝ってくれるわけないわね」

イーラ「わかってんじゃないか」

六花「ええ、そうね」

イーラ「じゃあな」

六花「今回も食べに来ただけね」

イーラ「これからもな」

六花「気が向いた時に?」

イーラ「僕の気が向いた時に、だ」

六花「相変わらず自分勝手なんだから」

イーラ「ジコチューだからな」

イーラ「よう」

六花「こんばんは」

イーラ「腹減った」

六花「はいはい。どうぞ。あがって」

イーラ「入れてくれんのか」

六花「どうせ勝手に入るんでしょ?」

イーラ「わかってんじゃん」

六花「はぁ……」

六花「今日の献立なんだけど――」

イーラ「オムライス」

六花「そう言うとは思ってたわ」

六花「でもたまには違う料理も」

イーラ「オムライス」

六花「……」

イーラ「オムライス」

六花「他のも美味しいのよ?」

イーラ「……」

イーラ「オムライス」

六花「ちょっと迷った?」

イーラ「うっさい」

六花「はい、できましたっと」

六花「おかげさまでオムライスの作り方だけ日々上達していくわ」

イーラ「感謝しろよ」

六花「皮肉よ」

イーラ「ふん」

六花「じゃあ食べましょうか」

イーラ「いただきます」

六花「いただきます」

六花「今日は鶏肉じゃなくて豚肉にしてみたの」

イーラ「ふーん」

六花「ニンニクの香りを移したオリーブオイルで炒めてみたんだ」

六花「こうすると香ばしくなって食欲をそそるって聞いたんだけど、どうかな」

イーラ「いつもより普通」

六花「そっか! 良かった」

イーラ「……普通だっつってんだろ」

六花「はいはい」

イーラ「ごちそうさま」

六花「お粗末さまでした」

イーラ「よっこいしょっと」

六花「食べてすぐ寝ると体に良くないわよ」

六花「って、あら? 今日はすぐ帰らないの?」

イーラ「動くのだるい」

六花「奔放というか、自由というか……」

六花「私は洗い物をしてるわ」

六花「暇だったらテレビを観てても良いわよ」

イーラ「へいへーい」

イーラ「なー」

六花「なあに?」

イーラ「テレビつまんねえ」

六花「私に言われても……」

イーラ「面白くしろ」

六花「いや、だから私に言われても……」

イーラ「……」

六花「……」

イーラ「……」

六花「わっ!? なによ、急に覗き込んできて?」

六花「ていうか、音もなく背後に立たないでよ。びっくりするじゃない」

イーラ「暇なんだよ」

六花「えー……。じゃあ一緒に洗い物をする?」

イーラ「なんで僕が。面倒くさいから嫌だ」

六花「そういうと思ったわ」

六花「でも、お話ししながらやれば暇潰しにはなるわよ?」

イーラ「ちっ」

六花「私が洗ったのをここに置くから、水で泡をすすいで水切籠に置いてくれる?」

イーラ「飽きたら放り出すからな」

六花「はいはい」

六花「……!?」

六花「ちょっと! まだ泡だらけじゃない!」

イーラ「えー? こんくらい別に良いだろ」

六花「だめよ。やり直し」

イーラ「嫌だね」

六花「じゃあそのお皿はあなた用ね」

イーラ「……このまま使うとどうなるんだよ?」

六花「味も臭いも洗剤っぽくなって、せっかくのオムライスも台無しね」

イーラ「げ」

六花「体にも良くないんじゃないかな」

イーラ「そんな皿で食わすなんてひどいやつだな」

六花「ちゃんとすすいでくれたらそんなことはしません」

イーラ「ちっ! わかったよ」

六花「うん、終わり!」

六花「ありがとう。助かったわ」

イーラ「へーへー」

六花「さて、洗い物も終わったしどうしようか」

イーラ「帰る」

イーラ「じゃあな」

六花「うん」

六花「……今日、すぐ帰らなかったのは洗い物を手伝ってくれるため?」

イーラ「そんなわけねーだろ」

イーラ「すぐ動くのがだるかっただけだ」

六花「そっか」

イーラ「次も僕に手伝ってもらえるとか勘違いするんじゃないぞ」

六花「わかったわ」

イーラ「僕は自分の腹が膨れたら、それだけで良いんだ」

六花「やっぱり、自分勝手なのね」

イーラ「ジコチューだからな」

イーラ「あれ?」

イーラ「おい」

イーラ「いないのか?」

イーラ「なんだよ、せっかく来てやったのに」

イーラ「ちっ」

イーラ「……帰るか」

イーラ「……」

六花「今日は遅くなったなぁ」

六花「今日も来てるのかしら……」

六花「いつもより大分遅いし、来てても帰っちゃったかな」

六花「……」

六花「――あ」

イーラ「遅い!」

六花「こんばんは」

イーラ「僕を待たせるなんてどういうつもりだ!」

六花「待たせるもなにも約束してないでしょ」

六花「私を待っててくれたの?」

イーラ「……そんなわけねーだろ」

六花「でもさっき――」

イーラ「うるさい」

六花「せっかく待っててもらったけど、今日はオムライスが作れないの」

イーラ「だからお前なんか待ってねーよ」

イーラ「……なんだって?」

六花「今日は卵がないからオムライスを作れないの」

イーラ「なんで準備しておかないんだよ!」

六花「しょうがないじゃない。あなた来るのが不定期なんだもん」

六花「常備しておくつもりでも、切らしちゃうことはあるわ」

六花「だから今日は別の――」

イーラ「オムライス」

六花「そう来ると思ってたわ」

イーラ「オムライス」

六花「はいはい。じゃあ卵を買いに行きましょうか」

イーラ「早くしろよ?」

六花「何言ってるの。あなたも来るのよ」

イーラ「なんで僕が!」

六花「じゃあここで待ってるの?」

イーラ「ソファで寝てる」

六花「却下」

六花「はい、行くわよ」

イーラ「おい、やめろ! 手を引っ張るな! 離せ!」

六花「離してもちゃんとついてくる?」

イーラ「行くわけねーだろ」

六花「さ、行きましょうか」

イーラ「おい、引っ張るなっての!」

六花「そんなに遠くないスーパーだから、閉店までには行けるかな」

イーラ「ああ、そうかい」

イーラ「いい加減、手を離せよ」

六花「振りほどけば良いじゃない。そんなに強く握ってないわ」

イーラ「嫌だね。僕に命令すんな」

イーラ「お前が離せ」

六花「む……、なによ、その言い方」

六花「嫌よ。あなたが振りほどきなさい」

イーラ「なんだと」

六花「なによ」

イーラ「腹立つな。お前が、離させてください、ってお願いするまで離してやんねえ」

六花「私だって、あなたが、振りほどかせてください、ってお願いするまで離してあげないんだから」

イーラ「ふん」

六花「ふん」

六花「到着っと」

六花「買い物籠を持ってくれる?」

イーラ「なんで僕がそんなこと」

六花「私は片手が塞がっているもの」

六花「それとも、振りほどかせてください、ってお願いする?」

イーラ「絶対に言うもんか!」

六花「まずは卵」

六花「はい」

イーラ「ん」

六花「飲み物も欲しいかな」

イーラ「コーラ」

六花「オムライスに? 合うのかしら……」

六花「はい」

イーラ「ん」

六花「私は牛乳にしようっと」

六花「はい」

イーラ「ん」

イーラ「おい、重いぞ」

六花「まだ3つしか入れてないじゃない……」

六花「今日はサラダも作ろうかな」

イーラ「僕は食わないぞ」

六花「残したらもう作ってあげないからね」

イーラ「お前はすぐそれだな!」

六花「ふふん。なんとでも言いなさい」

六花「あなたは料理はできないの?」

イーラ「しねーよ。面倒くさい」

六花「今日は時間ないけど、次は一緒に作ろうか?」

イーラ「けっ! そんなのごめんだね」

六花「片手じゃお金を取り出しづらいわね……」

イーラ「手を離させてください、ってお願いさせてやっても良いんだぜ?」

六花「……嫌よ」

六花「お財布を持ってくれる?」

イーラ「へーへー」

六花「よし、買い物終わり」

イーラ「腹減った」

六花「帰ったらすぐに作るわ」

六花「買い物袋が2つあるから、1つ持ってくれる?」

イーラ「自分で持てば良いだろ」

六花「誰かさんが意地を張ってるから片手が塞がってるのよ」

六花「それとも、手を振りほどかせてください、って――」

イーラ「わかったよ! よこせ!」

六花「あ、そっちは重い方よ。こっちを持ってくれれば良いわ」

イーラ「うるさい。こっちには僕のコーラが入っているんだ」

イーラ「誰にも渡さないぞ」

六花「そう」

六花「ありがとう」

イーラ「……ふん」

六花「さて、もうすぐ家なんだけど……」

イーラ「あん?」

六花「この手、どうしようか」

イーラ「お前がお願いすれば良いだろ」

六花「ここまで来たら意地なのよね」

六花「だから、同時に離しましょう?」

イーラ「いいや、お前が僕にお願いして離せ」

六花「そんなこと言うと私も意地を張るわ」

六花「そうすると、オムライスが作れないけど良い?」

イーラ「……」

イーラ「ちっ」

六花「じゃあ、せーの、で離すわよ」

イーラ「へいへい」

六花「いくわよ」

六花「せーの――」

六花「あ、あれ?」

六花「ちょっと! 私は離したわよ?」

イーラ「ふふん」

六花「あ、引っ張らないで!」

イーラ「最初のお返しだい」

六花「あん、もう!」

六花「結局手を繋いだままじゃないの」

イーラ「へへん」

イーラ「僕の勝ちだな」

六花「そんな理由で手を繋いでいるの?」

イーラ「……当たり前だろ」

六花「自分勝手な人ね」

イーラ「ジコチューだからな」

イーラ「よう」

六花「こんばんは」

イーラ「腹減った」

六花「もう少し気が利いた挨拶はないの?」

イーラ「腹減った!」

六花「はいはい」

六花「さて」

イーラ「ん?」

六花「今日もオムライス?」

イーラ「オムライス」

六花「はい。では今日は一緒に作ります」

イーラ「……はぁ?」

六花「次は一緒に作ろうかって言ったでしょ?」

イーラ「僕はやるなんて一言も言ってないぞ!」

六花「手伝わないなら今日の御飯は白米とふりかけね」

イーラ「……」

イーラ「で? 僕はなにすりゃ良いんだよ」

六花「うーん」

イーラ「あん?」

六花「エプロン、似合うわね」

イーラ「うるっせえよ!」

六花「ご飯は炊き上がってるから、野菜を切りましょうか」

六花「人参、玉ねぎ、ピーマン……」

六花「あなた、うちで食べる以外にちゃんと野菜をとってる?」

イーラ「全然」

イーラ「好きなときに好きなものだけ食ってる」

六花「はぁ……。そうだと思ったわ」

六花「野菜を多めに食べさせた方が良さそうね」

六花「玉ねぎの切り方わかる?」

イーラ「知らねえ」

六花「みじん切りにするの」

六花「両端を落として、皮を剥いて」

六花「半分にしてから縦に切れ目を……って聞いてる?」

イーラ「聞いてねえ」

イーラ「要は切り刻めばいいんだろ」

六花「あ、ちょっと! そんな乱暴にやると……」

イーラ「乱暴だろうが腹に入れば一緒だろ」

六花「いや、そういう意味じゃなく……」

イーラ「ん?」

イーラ「おい、何でそんな離れて――」

イーラ「いっ……痛え! 目が痛え!!」

イーラ「なんだこれ!? 涙が!」

六花「あ、その手で眼をこするとますます痛くなるわよ」

イーラ「うぎゃあ!?」

イーラ「言うの遅えよ!」

六花「大丈夫?」

イーラ「大丈夫じゃない!」

イーラ「なんだあれ……!」

六花「玉ねぎを切ると催涙物質が出てくるのよ」

六花「丁寧に切れば飛び散る量を抑えられるんだけどね」

イーラ「そういうことは早く言えよ!」

六花「言おうとしたのに、勝手に切り刻み始めたじゃない」

六花「じゃあ、玉ねぎは私がやるから他の野菜を切ってくれる?」

イーラ「まだやらせるのかよ」

六花「他の野菜はこんなことはないから」

イーラ「嘘だったら許さないからな」

六花「大丈夫だってば」

六花「よし、あとはケチャップで完成」

イーラ「それは僕にやらせろよ」

六花「良いわよ? はいどうぞ」

イーラ「へへへ」

イーラ「できた」

六花「どれどれ」

六花「――あら? あなたの名前を書いたの?」

イーラ「僕が作ったんだから僕のだ」

六花「両方ともあなたの名前になってるんだけど……」

イーラ「両方とも僕が作ったんだから当然だろ?」

六花「ちょっとケチャップ貸して」

イーラ「なにすんだよ?」

六花「……」

六花「よしできた」

イーラ「あ! これお前の名前じゃないか!」

六花「半分は私が作ったんだもの。当然でしょ?」

イーラ「なんで両方に書くんだよ!」

六花「両方とも半分は私が作ったわ」

イーラ「ああ言えばこう言うやつだな!」

六花「じゃあ食べましょう」

六花「……」

イーラ「なんだよ?」

六花「いえ、二人の名前の入ったオムライスを食べるのって、何か気恥ずかしいものがあるなって……」

イーラ「うん?」

六花「なんでもないわ」

六花「いただきます」

イーラ「いただきます」

六花「うん。美味しい」

イーラ「当たり前だ! 僕が作ったんだからな!」

六花「あなたも美味しい?」

イーラ「美味い」

六花「そう。良かった」

六花「ごちそうさまでした」

イーラ「ごちそうさま」

六花「洗い物をするけど、またすすいでくれる?」

イーラ「ちっ」

イーラ「まあ、美味いもの食べて気分も良いし、手伝ってやるよ」

六花「それはそれは」

六花「二人でやるとすぐ終わるわね」

イーラ「ふん」

六花「テレビでも見る?」

イーラ「……腹いっぱいですぐ動きたくないしな」

イーラ「少しだけなら付き合ってやるよ」

六花「はいはい。それはどうもありがとう」

イーラ「お前、だんだん僕の扱いが適当になってきてないか?」

六花「気のせいよ」

六花「ねえ」

イーラ「なんだよ」

六花「ソファの真ん中に座られると私が座れないわ」

イーラ「しらねえよ」

六花「どちらかに寄ってくれない?」

イーラ「嫌だね」

六花「もう……」

六花「じゃあ良いわ。隣に座るから」

イーラ「……」

六花「……」

イーラ「そこは近すぎだろ」

六花「うん……」

イーラ「……」

六花「……」

イーラ「……」

六花「……」

イーラ「……」

六花「どう? 今日は面白い?」

イーラ「この前の映画に比べたらまあまあだな」

六花「この映画って、この前と同じ映画の再放送みたいよ」

イーラ「……」

六花「一人で見るより、二人で見たほうが面白かった?」

イーラ「うるせえっての」

イーラ「帰る」

六花「え?」

イーラ「じゃあな」

六花「待って!」

六花「映画、まだ途中よ?」

イーラ「知ったこっちゃねえや」

六花「一人で見るより、二人で見るほうが楽しかったでしょ?」

イーラ「そんなのどっちだって一緒だろ」

六花「私は、一人で見るより、二人で見るほうが楽しいわ」

イーラ「……」

イーラ「ふん」

イーラ「僕が帰りたくなったんだから、あとのことは知らないね」

六花「やっぱり自分勝手なのね」

イーラ「ジコチューだからな」

イーラ「……よう」

六花「……こんばんは」

イーラ「……」

六花「今日は来ないかと思ってたわ」

イーラ「ふん」

六花「はい、どうぞ」

イーラ「おい」

六花「なあに?」

イーラ「どうして僕が来ないと思ってたのにオムライスは作ってあるんだよ」

六花「今日はオムライスの気分だったのよ」

六花「それに、もし来づらいと思ってる誰かさんがいても、オムライスの匂いがしてたら誘われて来るかなって」

イーラ「僕は野良猫か何かか!」

六花「あら。別にあなたのことだなんて言ってないわ」

イーラ「……けっ」

六花「食べましょうか」

六花「いただきます」

イーラ「いただきます」

イーラ「ん」

イーラ「……ぐ」

イーラ「……」

イーラ「っつ……」

六花「食べにくそうね」

イーラ「誰かさんにやられた傷が痛むんだよ!」

六花「……ごめんなさい」

イーラ「謝るくらいなら最初からすんなよな」

六花「そんな言い方ってないじゃない」

六花「私だって、あなたが街で暴れたりしなければそんなことしなくてすんだのよ」

イーラ「ちっ」

イーラ「ああもう、いいや!」

イーラ「ごちそうさま」

六花「半分も食べてないじゃない」

イーラ「腕が痛くて食えないんだよ」

六花「もう……」

六花「スプーン貸して」

六花「はい、口を開けて」

イーラ「……」

六花「こうして食べさせてあげるの、あの時以来ね」

イーラ「……」

六花「覚えてる?」

イーラ「ああ」

六花「あの時、あなたは記憶を失って怪我をしていた」

六花「だから放っておけなかった」

六花「今のあなたは記憶は戻っているけど怪我をしている」

六花「だから放っておけない」

六花「でも――」

六花「……」

イーラ「……でも、なんだよ」

六花「記憶があって――」

六花「怪我をしていない――」

六花「そんなあなたとも、私は一緒に御飯を食べているわ」

六花「私を敵だと言う、あなたと……」

イーラ「……」

六花「どうしてなんだろう、って考えることがある」

六花「でも答えは出なくて」

六花「悩ましくて」

六花「苦しいの」

イーラ「……」

六花「あなたと食べるオムライスは、美味しくて、楽しいけれど、私の心をぎゅうって、締め付けるの」

イーラ「……ふん」

イーラ「そんなこと言われても知ったこっちゃないね」

六花「え?」

イーラ「僕は僕のやりたいように、好きなことだけをやる」

イーラ「それでお前が悩もうが苦しもうが、関係ないね」

六花「好きなことだけを?」

イーラ「そうさ」

イーラ「僕は好きなことしかやらない」

六花「そう」

六花「好きなことだけを……」

六花「だから、あなたはこれからもオムライスを食べに来るのね」

イーラ「そうさ」

六花「私が悩んでも、苦しんでも」

イーラ「ああ、関係ないね」

イーラ「僕はここにオムライスを食べに来る」

六花「そっか」

六花「……うん」

六花「あなたはやっぱり」

六花「――素敵なほど自分勝手ね」

イーラ「ジコチューだからな」

イーラ「よう」

六花「こんばんは」

六花「どうぞ、あがって」

イーラ「……」

六花「どうしたの?」

イーラ「いや、なんでもねえよ」

六花「今日はまだ何も準備をしてないの」

六花「急いで作るね」

イーラ「ちっ、ノロマめ」

イーラ「しょうがないじゃないから手伝ってやるよ」

六花「え?」

六花「……」

六花「ありがとう」

イーラ「ただし、玉ねぎのみじん切り以外だぞ」

六花「はいはい」

六花「おかげさまで手早くできました」

イーラ「ふん」

六花「では、いただきます」

イーラ「いただきます」

六花「……」

イーラ「……」

六花「今日のオムライスのお味はいかが?」

六花「いつもと味付けを少し変えてみたの」

イーラ「……美味い」

六花「え」

イーラ「美味いよ」

六花「……そう」

イーラ「ごちそうさま」

六花「ごちそうさまでした」

六花「私は洗い物をするから、あなたはテレビでも――」

イーラ「すすぎは僕がやる」

六花「……」

六花「わかったわ」

六花「お願いね」

イーラ「また映画がやってる」

六花「そうね」

六花「見る?」

イーラ「お前が見るなら終わるまでは付き合ってやる」

六花「そっか」

六花「じゃあ、二人で見ましょう」

六花「ねえ」

イーラ「……映画を見てるんだ。邪魔すんな」

六花「嘘よ」

六花「さっきから全然見てないじゃない」

イーラ「……ちっ」

六花「今日は何かあったの?」

イーラ「……」

イーラ「お前は――」

イーラ「お前は、何だ?」

六花「私?」

六花「どういうこと?」

イーラ「そして、僕は何だ?」

六花「……」

六花「私は、プリキュアよ」

イーラ「そうだ」

六花「そして、あなたはジコチュー」

イーラ「……そうだ」

六花「……」

六花「そういうことなの?」

イーラ「そういうことだ」

六花「……」

イーラ「僕たちは明日、決着をつけるために最後の戦いを仕掛ける」

イーラ「それで僕とお前の――、ジコチューとプリキュアの腐れ縁も終わりだ」

六花「……」

イーラ「なんて顔してんだよ」

六花「……」

イーラ「お前だけなら、僕が――」

イーラ「いや、なんでもねえよ」

イーラ「お前はプリキュアだもんな」

六花「ええ」

六花「もし、あなたが私と――」

六花「いえ、なんでもないわ」

六花「あなたはジコチューだものね」

イーラ「ああ」

イーラ「帰る」

六花「……」

六花「もう少しいても良いのよ?」

イーラ「……」

イーラ「嫌だね」

イーラ「例え一晩中ここにいても、明日は来るんだぜ」

六花「そう、ね」

イーラ「じゃあな」

六花「……」

イーラ「……」

六花「嘘つき」

イーラ「あん?」

六花「あなたは言ったわ」

六花「好きなことしかしないって」

六花「だから私とオムライスを食べるって」

イーラ「……」

六花「もう一緒に、……オムライス、食べられないじゃない……」

イーラ「……」

六花「全然、あなたの、やりたいように、……してないじゃ、ない」

イーラ「ふん……」

イーラ「みっともない顔しやがって」

イーラ「玉ねぎでも切ったのかよ」

六花「こんなときまで、……茶化さないで」

イーラ「……良かったじゃないか」

六花「え?」

イーラ「これでもう、悩まなくてすむだろ」

イーラ「これでもう、苦しまなくてすむだろ」

六花「……」

イーラ「これでもう、心を締め付けられなくてすむだろ」

イーラ「だから、良かったじゃないか」

六花「なによ、それ」

六花「あなたは、私が悩もうが苦しもうが関係ないって言ったじゃない」

六花「それなのにどうして、そんなことを言うの?」

六花「どうして優しい言葉をかけるの?」

六花「最後まで、自分勝手だわ……」

イーラ「そうだ」

イーラ「僕は嘘つきで」

イーラ「ジコチューだからな」

イーラ「じゃあな」

イーラ「――プリキュア」



六花「さようなら」

六花「――ジコチュー」













六花「さようなら」



六花「……」

六花「……」

六花「……」

六花「……!」

六花「……」

六花「風の音、か……」

六花「今日は何を作ろうかな」

六花「久しぶりに麺類も良いわね」

六花「スパゲティ……」

六花「あ、この前習った鮭のムニエル」

六花「うん。それにしよう」

六花「よし、上手くできた」

六花「食べましょうか」

六花「……」

六花「……」

六花「いただきます」

六花「……」

六花「うん、美味しい」

六花「でも半熟で包むのって難しいわね」

六花「……その練習をしたかっただけよ」

六花「鮭のムニエルはまた今度」

六花「美味しかった」

六花「これじゃ自画自賛ね」

六花「……」

六花「普通でもなくて」

六花「まあまあでもなくて」

六花「美味しいのに……」

六花「……」

六花「ごちそうさま」

六花「洗い物しちゃおう」

六花「一人分だとすぐ洗い終わっちゃうわね」

六花「何しようかな」

六花「……」

六花「テレビでも見ようっと」

六花「――あ」

六花「この映画、あの時の……」

六花「うーん」

六花「本当につまらないわね」

六花「どきどきも」

六花「はらはらも」

六花「わくわくもするけど」

六花「……つまらないわ」

六花「……」

六花「……」

六花「……!」

六花「……」

六花「また風だったのかな」

六花「……」

六花「……」

『これでもう、悩まなくてすむだろ』

六花「ええ、そうね」

『これでもう、苦しまなくてすむだろ』

六花「確かにあの悩みはなくなったし、それで苦しむことはないわ」

六花「……」

『これでもう、心を締め付けられなくてすむだろ』

六花「……」

六花「でも、心が締め付けられるのだけは、なくならなかったわ」






六花「本当に嘘つきで」





六花「自分勝手なのね」


六花「……」

六花「……」

六花「……」

六花「……!」

六花「……」

六花「どうせ風よ」

六花「……」

六花「……」

イーラ「よう」

六花「……」

イーラ「腹減った」

六花「……」

イーラ「おい。聞いてるのかよ」

六花「え、……ええ。聞いてるわ」

六花「あなた、なんで……」

イーラ「オムライス」

六花「わかってるわよ!」

六花「わかってるから、あれからずっと作って待ってたわ」

六花「おかげで、オムライスの作り方だけ、馬鹿みたいに上手になったわ、よ」

イーラ「感謝しろよ」

六花「皮肉よ」

イーラ「ひどい顔しやがって」

イーラ「また玉ねぎでも切ってたのか?」

六花「そうよ……。オムライスを、作ってたんだから」

六花「誰かさんが、オムライスの匂いがしてたら、……誘われて来るかなって」

イーラ「僕は野良猫か何かかよ」

六花「誰も、あなたのこと、……だなんて、言ってない、わ」

イーラ「そうかよ」

イーラ「気が向いたら――」

六花「?」

イーラ「玉ねぎは僕が切ってやる」

六花「……」

イーラ「だからそのひどい顔をなんとかしろよ」

六花「そういう時は、泣かないで、って言うのよ」

イーラ「ふん」

イーラ「僕に命令するなよな」

六花「でも、本当にどうして?」

イーラ「さあな」

六花「誤魔化さないで」

イーラ「僕だって本当に知らないんだよ」

イーラ「でも」

六花「でも?」

イーラ「お前は、誰だ?」

六花「私?」

イーラ「そして、僕は誰だ?」

六花「……」

六花「私は、六花よ」

イーラ「そうだ」

六花「そして、あなたはイーラ」

イーラ「そうだ」

六花「……」

六花「そういうことなの?」

イーラ「そういうことなんじゃないか?」

六花「……なにか釈然としないけれど」

六花「嬉しいから、それで良いかな」

イーラ「そうかよ」

六花「あのね」

六花「明日はスーパーに卵を買いに行きましょう」

イーラ「また買い置き切らしてるのかよ!」

六花「牛乳とコーラもついでに買おう?」

イーラ「僕はサラダは食わないぞ」

六花「だめよ」

六花「食べなかったら、もうオムライス作ってあげないんだから」

イーラ「お前はすぐそれだな!」

六花「あとね」

イーラ「なんだよ」

六花「あなたがつまらないって言ってた映画、続編が今映画館でやってるの」

イーラ「それで?」

六花「私は、一人で見るより、二人で見るほうが楽しいのよ」

イーラ「僕は行かないぞ」

六花「どうして?」

イーラ「面倒くさい」

六花「じゃあ無理やり手を引っ張っていくわ」

イーラ「そんなことをしたらお前がお願いするまで離してやらないんだからな」

六花「私だって、あなたがお願いするまで離してあげないんだから」

六花「ねえ」

六花「あなたはこれからどうするの?」

イーラ「オムライスを食う」

六花「そういうことじゃなくて……」

イーラ「そういうことなんだよ」

イーラ「言っただろ? 僕は僕がやりたいことを、好きなことだけをやるって」

イーラ「だから、僕はお前とオムライスを食う」

六花「仮に私が嫌だって言っても?」

イーラ「ふん」

イーラ「そんなの知ったこっちゃないね」




イーラ「だって僕は――」



イーラ「お前が好きなんだから」





六花「どこまでいってもあなたは自分勝手なのね」

六花「でも」



六花「そんなあなたが、私は好きよ」








終わり

>>80
修正

六花「今日はまだ何も準備をしてないの」

六花「急いで作るね」

イーラ「ちっ、ノロマめ」

イーラ「しょうがないから手伝ってやるよ」

六花「え?」

六花「……」

六花「ありがとう」

イーラ「ただし、玉ねぎのみじん切り以外だぞ」

六花「はいはい」

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年02月03日 (月) 23:50:04   ID: FBI11TTy

イラりつ好きの自分にとっては
とても2828できた
GJ!!

2 :  SS好きの774さん   2015年02月03日 (火) 20:00:40   ID: bz95Oh_h

イラりつ好きだあああああ(((
可愛すぎる!

あと、玉ねぎは氷水で冷やせば涙が出なくなるのよ((((((

3 :  SS好きの774さん   2015年04月06日 (月) 22:49:00   ID: 34UauAF1

乙 良かった

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