モバP「学生だし、恋愛くらいするさ」 (63)

「プロデューサーさんは、学生時代とかに好きな人とかいました?」

 書類整理をしていると、暇だったのかノートの清書をしている彼女から唐突に聞かれた。

「好きな人、いたよ」

「そうですか、意外ですね」

「意外とはなんだ意外とは」

 ちょっと強く言う。窓から見る空は、曇っていた。

「プロデューサーさんはてっきり恋愛に縁のない人かと」

「学生だし、恋愛くらいするさ」

 思春期だ。恋愛の一つや二つ当たり前だと思う。


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「彼女とか、いたんですか?」

 無言。事務所の中に静寂が訪れる。

「余計なこと聞いたみたいですね」

「あぁ、余計だったな」

 そう言うと彼女は微笑んだ。

「好きな人、どんな人だったんですか?」

「んー、そうだな。言うと、子供らしい人かな」

「子供らしい、ですか」

「あ、いや、別にロリコンとかそういうのじゃなくてだな」

 訝しげな目でこちらを見る彼女に慌てて説明する。

「とりあえず、話してくださいよ」

「といっても、ただの昔話になるぞ? えーっと、第一印象は大人っぽい空気を持っている女性でな————」



*   *   *


 彼女は、とても大人のような空気を持っている女性だった。

 初めて彼女を目にしたのは、高校2年の時の春。進級し、クラス替えで同じクラスになったときだ。

 生徒数が多いからか、あまり同学年の生徒を把握はしていなかった。

 偶然にも、隣の席になった時、「なんか、大人っぽい人だなぁ」と感じた。

 凛とした空気、可愛いより美人、何よりも物腰が柔らかかった。

「これから、よろしくお願いします」

 そう言われた時は、律儀な人だなぁとしか思えなかった。

 進級して、数週間経って、彼女はあまり活発なタイプではないということがわかった。

 グループで会話していると、一歩引いて笑っているイメージといえばわかるかな。
 控えめで、それでいてクール。そんな印象が自分の中で固まっていたんだ。

 それで、時が巡って、あーいつだったかな。文化祭かなんかの準備の時だったかな。

 とりあえず何かの用事で教室に残ってたんだよ、俺が。

 そしたら、彼女の方も何か仕事を任せられてたみたいで、二人きりで放課後の教室にいたことがあったんだ。

 無言で、二人で別々の作業をやってたんだけど、隣からぼそっと声が聞こえたんだ。

「ノリが悪い糊。ふふっ」

 今でこそ、くっそ面白く無い駄洒落だってことくらいわかるんだが、無言で作業してる中そんなこと言われてみろ。思わず吹き出しちゃってさ、彼女が目を丸くしながらこっちを見るんだ。

「今の、面白かったですか?」

「あ、はい。雰囲気と合わさってとても」

そう返すと凄い嬉しそうな顔しながら「ありがとうございます」なんて言ってきて、そこから彼女が好きになったのかな。

彼女、凄いギャグが好きらしくて、友達に言ってウザがられたことがあるらしくあまり人前で言わないようにしてたんだって。

それから、彼女は何かと俺に喋りかけてきて駄洒落を言うようになってな。

普段大人びている彼女が子供のように嬉しそうに駄洒落をいう姿は凄い微笑ましくて、面白くない駄洒落でも凄い楽しく感じてたよ。

そんなギャップに惹かれて、好きになったんだなぁって。

*   *   *

「……それだけですか?」

「お、おう」

「告白とかは?」

「あ、いや、してない」

「ヘタレですね」

「誰がヘタレだ誰が」

 自称カワイイは溜め息をつきながらペンをこちらに向けてきた。

「プロデューサーさん、カワイイボクのプロデューサーをやるくらいならもっと自信と度胸を持たないと許しませんよ!」

「そうは言ってもだな」

 当時の俺よりかは格段と度胸も自信も付いているつもりだが。

「それで、その後の彼女は一体どうしたんですか?」

「あぁ、それならそろそろ——」

 言いかけると、事務所の扉が開く。

「ただいま帰りました」

「おかえりなさい。仕事、どうでした?」

「問題なくできました。スタッフさんから踊り、良かったって褒めて頂いて」

「なら良かった」

 帰ってきた彼女と会話していると、自称カワイイが話しかけてくる。

「プロデューサーさん、もしかして好きな相手って高垣さ——」

「幸子、少し口を閉じようね」

 今更になって、なんでコイツに自分の恋物語を教えたのかと後悔し始めてきた。

「え? プロデューサーの恋バナですか?」

「あ、いや、楓さん。なんでもないですから」

「むぅ、じゃあプロデューサー、今夜一杯どうですか?」

 拗ねた顔をしつつ、呑みに誘ってくる彼女。純粋に可愛いと思った。


「良いですね、ちひろさんや川島さんも呼びましょうか」

 流石にアイドルと二人きりは、マズい。

「たまには、二人きりでも良いと思いますよ?」

 その一言にドキリとする。
 困ったもんだ。まだ俺の恋心は覚めていないらしい。

「……今回、だけですからね?」

「ふふふっ、やった」

 小声でそういう彼女、昔から変わっていない。

「それじゃ、書類の方片付けようかな」

 喜ぶ楓さんと、拗ねる幸子、二人を放っておき、デスクに向き合う。

 ふと窓を見ると。太陽が雲から覗いていた。今夜は晴れそうだ。

くぅ疲(棒

書き終わってめちゃくちゃ短いことに気付きました。2000文字弱。
何が書きたかったんだ。

早く続きを書く作業に戻るんだ(迫真)

>>9
シチュエーションが浮かばない(白目)

「『学生だし、恋愛くらいするさ』」

「は?」

 もうすぐ春になる3月の末。未だに肌寒く、天気もここのところ悪かった。

「プロデューサーさんが前に言った言葉ですよ」

 来る日も来る日も増えていく書類たちと格闘しながら、雑談に花を咲かせる。

「あー、“あの時”のね」

「何か、進展はあったんですか?」

 そこにいる自称カワイイがこちらも見ずに言う。彼女が熱心に書き込んでいるノートをちらりと覗くと、綺麗な文字達が綴られていた。

「いや、何も。そもそも恋愛はご法度だ」

 もう過ぎ去ったこと、そう思わざるを得ない風体で言い放つ。

「アイドルに、恋愛はご法度」

「ああ」

「カワイイボクでも、ご法度」

「ああ」

「『学生だし、恋愛くらいするさ』」

「ああ。……ん?」

「ボクだって、学生ですからね」

 彼女が寂しげに言う。ちょっとまて、幸子。

「お前、好きな奴でもいるのか……?」

 恐る恐る聞いてみる。

 彼女はこちらをみて、眼を細めると。ふぅと溜め息をついて笑った。

「フフーン! ボクのお眼鏡に叶う男性なんてそうそういませんよ!」

「そうか、なら良かった」

 彼女は、また寂しげな顔をする。

 時間が流れる。長いような時間だった。十分、一時間、いや、もしかしたら五分も経っていないのかもしれない。

 不意に、彼女が立ち上がった。

「どこかいくのか?」

「少し」

「どこにいくんだ?」

「……お手洗いですよ、察してください」

 彼女が早足でトイレまで向かう。こういうところが自分の女性経験の無さが恨めしい。

 キーボードを叩く音だけが聞こえる。カタカタと小気味良い音。喋る相手がいないとこんなにも静かなのかとも思う。

 この事務所は、言うほど小さくはない。かと言って、大きいわけでもない。所属人数はそこそこあるし、デビューアイドルもそこそこの人気だ。

 幸子も、今じゃスカイダイビングをライブで行うくらいには売れているし、楓さんだってドラマや旅番組のレギュラー番組もある。他のアイドルもそうだ。

 なのに、何故こんなにも静かなのだろう。と、感傷的になったところで、殆どが仕事で出払っているからだ。

 大抵、仕事の合間か打ち合わせの時くらいにしか事務所にはいないだろう。

 幸子は、オフの日でもまめに来る。来てもノートを一生懸命書き込んでいるだけなのだが。一体何しにきているのだろうか。

「ただいま帰りました」

 そうこう考えていると、楓さんが帰ってきた。

「あ、おかえりなさい。仕事、どうでした?」

「いつも通りですね」

「なら、良かった」

 彼女がソファーに座る。

「あ、お茶淹れて来ますね」

 キーボードから手を離し、立ち上がる。

 給湯室に向かう途中、幸子とすれ違った。

「あ、幸子。お茶淹れるんだが飲むか?」

「ええ、お願いします。ボクにピッタリの美味しいお茶を頼みますよ」

「ああ、かしこまり」

 彼女らしいと言えば彼女らしい小言を貰う。

 紅茶葉が足りそうも無いので緑茶にしよう。そう思ってヤカンに火をかける。

 この、お茶を淹れるときのお湯を沸かす時間というものが嫌に苦手だ。

 別に、待つのが苦手というわけではない。自身、あまり活発な方でもないため静かな時間も嫌いではない。だが、この時間は嫌に苦手だ。

 急須に茶こしを入れ、茶葉をティースプーン二杯分入れる。
 カタコトとヤカンがなりだしたあたりで、火を止める。
 お湯を急須に淹れ、待つこと2分。湯のみに濃さが均等になるように淹れていく。

 お茶を淹れるというものは、慣れるまでが中々に面倒だ。電気ポットのお湯で淹れて、蒸らさず淹れてしまうとあまり美味しいとは言い難いものになる。

 トレイに湯のみを3つ載せ、給湯室を出ようとすると彼女たちの会話が聞こえた。

「————高垣さんは、プロデューサーさんのことが好きなんですか?」

 幸子の声だ。随分ストライクに聞いたものだ。だけれども、興味の湧く話題だった。

「幸子ちゃんと、同じ好き、かな?」

 そんな楓さんの声が聞こえてくる。どういうことだろうか。

 そう思慮を巡らせながら、二人のいるところまで行くと、こちらを見て目を丸くした幸子が急に立ち上がった。

「すいません、今日はもう帰ります」

「ちょ、幸子、お茶淹れたばかりだぞ」

 俺の呼びかけも虚しく、幸子はそのまま事務所を出て行った。

 横目に見えたその顔は、とても紅かった。

くぅ疲(棒

やっぱり短い。1500字くらい。
さっちゃんカワイイよさっちゃん。

http://i.imgur.com/8esvp6x.jpg
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輿水幸子(14)

http://i.imgur.com/wHAt2vL.jpg
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高垣楓(25)

ζ*'ヮ')ζ<3日ぶりの更新ですー!

「『俺は昔の甘い考えと全く、別人になってしまいました』」

「どうしたんですか、いきなり」

「いえ、前に二人に呑みに行った時にプロデューサーが言った言葉が忘れられなくて」

 楓さんは、緑茶をすすりながら答える。俺は酒の席では恥ずかしいことを言うらしい。

「それで、その言葉がどうしたっていうんです?」

「いえ、プロデューサーは、学生時代と変わってしまったのかなと思いまして」

 そう言うと、じっとこちらを見つめてくる。やめてください、照れてしまいます。

「……やっぱり、変わってないですね、プロデューサーは」

「そうですかねぇ」

二人でお茶をすする。

「ところで、幸子ちゃんのノートどうします?」

 楓さんが指を指す。その先には先程まで幸子が書き込んでいたノートがあった。急いで幸子は出て行ってしまったが、いつも持っているものを忘れるくらいに急ぐことでもあったのだろうか。

「仕事が終わったら届けますよ。それまでに取りに来ればそれはそれで良しとして」

「じゃあ、私も仕事終わるまで待ってますね」

「あれ、今日はもう上りなはずじゃ?」

 期待を込めて言ってみる。

「いえ、お暇なのでプロデューサーを待っていようかと」

「中々に、嬉しいことを言ってくれますね」

 顔が熱くなる。そんな顔を見せないようにPCに向き合う。

 カタカタと小気味良い音が響く。時折、楓さんの読んでいる雑誌がめくれる音と合わさり、それもまた心地良かった。

 暫く時間が経つと、自分の携帯から着信音がなる。メロディ的に、メールだろう。

 確認すると、紗南からメールが届いていた。

『プロデューサー、まだ事務所にいるよね? さっちゃんがノート忘れたらしいからあたしが代わりに取りにいくね! というかもう事務所つくからね!』

「楓さん、幸子のノート、紗南が取りに来るらしいです」

「紗南ちゃんが……」

「ええ」

 そうこうしていると、勢い良くドアが開く。

「ただいま帰りましたー! プロデューサー、ノートどこ?」

「おう、おかえり。ノートならそこだ、楓さんの前」

 そう支持すると、紗南はあっと声をあげる。

「楓さん、珍しいね。あんまりあたしと事務所で会わないから」

「ええ、今はプロデューサーが仕事終わるの待ってるだけだから」

 その言葉に紗南は驚いたようだ。

「プロデューサー! これ、フラグ立ってるよ!」

「紗南、いくらなんでもそれは楓さんに失礼だ」

 当の本人はきょとんとした顔で「フラグ……?」とつぶやいている。

「そういえば紗南、どうして幸子が自分で取りに来なかったんだ?」

「んー、あたしもそう言ったんだけどね。断られちゃった」

「ノートを取るのをノーと言う、ふふっ」

 一人でギャグを言っている楓さんは放っておこう。ほら紗南、可哀想な目を向けるのはやめなさい。

「それじゃ、あたしこのままさっちゃんに届けた後直帰するね!」

「おう、幸子によろしく伝えておいてくれ」

「わかった。じゃあね! ——って、プロデューサー、今度一緒にゲームする約束忘れないでね!」

 そう元気よく飛び出る紗南。その姿は歳相応、14歳の少女だった。

「うちの14歳組は面白い奴ばっかですねぇ」

「ところで、プロデューサーは学生の時に好きな人とかいました?」

 気管にお茶が入る。咽ないわけがない。

「げほっ、ごほっ」

「だ、大丈夫ですか?」

「た、タオルを」

 楓さんにタオルを頼むと、パタパタと給湯室まで走っていった。いきなり何を言い出すんだ彼女は。

 しばらくして、タオルが差し出される。口周りとテーブルを吹いて一息つく。

「一体、いきなりどうしたんですか」

「ちょっと気になっちゃいまして」

「そういうのは素面の時に話すものじゃないですよ……」

 小さい子を怒るような口調で言い聞かす。彼女はシュンとした顔になり「ごめんなさい」と呟く。

「あ、でも話を戻しますけど、いたんですか?」

「それ、先日幸子にも聞かれましたよ」

 『学生だし、恋愛くらいするさ』そういったのは紛れもなく自分だった。

「じゃあ、幸子ちゃんにはなんて言ったんですか?」

「あー、まぁ俺みたいな奴でも片思いはしてた、と言いましたね」

 嘘ではない。ただ10を伝えるのはかなり厳しい。幸子にまたヘタレとどやされるのかなぁ。

「片思い、ですか」

「ええ、片思いですね」

「ということは雨の日だったということですか?」

「へ?」

「雨にフラれた、恋だけに。ふふっ」

 変化球にもほどがある。

「あー、いや別にフラれたわけじゃないですね、はい」

「もしかして、意気地なし」

「Google先生みたいに言うのはやめてください」

 妙なコントをして二人して笑う。こういうところは昔から変わっていない。

「そういう楓さんこそ、恋してたんですか?」

 冗談めかして言うが、中々に踏み込んだ気がする。気分はビグ・ザムに突撃するスレッガーさんだ。

「んー、してました、かな?」

 冷や汗が出る。そういえば放課後に一緒に遊んだことも無かったな、なんて思い返し「もしかして彼氏がいたんじゃないか」なんて嫌な妄想が膨らんできた。

 むしろ、何故今まで楓さんのような可愛い、美人な人に恋人がいないと思ってたんだ自分は。自分に酔いすぎだろう。

「へ、へー。ま、まさか隣のクラスのあのイケメンくんだったり?」

 平静を、平静を保つんだ。プロデューサーとして、アイドルの前で慌てた仕草を取るのはいけないとあれほど学んできただろう……ッ!!

「いえ、違いますよ。というか、プロデューサーには内緒ですっ」

 その一言で嬉しいような、悲しいような。俺に内緒? 何故? 恥ずかしいから? もしかして、俺の友人だから気を使って?

 そうこう考えるとグニャアと視界が歪む。幻聴だろうか、「ざわ・・・ざわ・・・」と音が聞こえる。

「でも、プロデューサーは本当に片思いだったんですか?」

 彼女の口から出た言葉にハッと我に返る。

「片思いでしたよ。自分、あまり目立つようなタイプじゃなかったし、現にプロデューサーという裏方もやっている。そんな人にファンなんてできるわけがありません」

「本当に、そうでしょうか」

 楓さんがじっと目を見つめてくる。妙に力強い。

「逆に、今アイドルをやっている楓さんなんて相当人気がありましたよ。今も昔も、ファンは多いです」

「でも、プロデューサーという職を身近に感じられるのは、アイドルだけですよ?」

 まだ、じっと目を見つめてくる。その頬は少し赤く、瞳も艶やかだ。

「え、それは、どういう」

 聞き返そうとしたところに、携帯の着信がなる。今度は電話だ。

「あー、すいません。ちょっと電話出てきます」

「はい、ごゆっくり」

 なんてタイミングの悪さなんだ、そう心のなかでぼやきつつ携帯を開く。

 ディスプレイを見ると、発信源は「輿水幸子」。先ほど出て行った彼女だった。

くぅ疲(棒

最近、くぅ疲を使うのは甘えだと感じてくるお年ごろになりました。
明日はエイプリルフールですね。別名「社畜が増える日」です。

あと1回か2回の投稿で完結まで持っていけるかなーと思っています。

「うわっ、さみぃ」

 外に出ると、日が落ちたからなのか気温がだいぶ低かった。朝方は暖かい方だったが、この時期は急激な温度変化に気をつけなければアイドル達も風邪を引いてしまうだろう。

 幸子からの電話は「今すぐ寮まで来てください」というものだった。一体何かあったのだろうか。

 楓さんには幸子のところに行くので先に帰っててくださいとは伝えてはあるものの、留守にするのは良くないとかなんとか言っていたので多分残っているのじゃないかと予想を立てる。なるべく早く帰らなくては。

 事務所の車に乗り、発進する。寮までは車で20分もしないだろう。寮住まいのアイドルはバスで大体30分程度で来るから、大体20分程度だ。

 一人で乗る車はもの寂しく、気を紛らすために音楽を流す。流れてくるそれは今度発売する、幸子の初シングル曲だ。


 CD発売が決まった時の幸子の様子を思い出す。いつもなら

「フフーン! ボクのCDが出るなんてあたりまえじゃないですか! むしろ遅すぎるくらいですね! そうですよね、プロデューサーさん!」

なんて大口を叩くと思ったが、まさか無言で泣き出すとは思わなかった。

 それほどまでに、幸子の喜びと、嬉しさと、夢が詰まった良いCDだと思う。

 発売日は、5月15日だったかな。菜々さんや茜と同じ発売日ということも記憶にある。

 そんなこんなで感傷に浸っていると女子寮の前まで付いた。車を脇に止め、幸子に電話をかける。

 コールして、1秒、2秒、ガチャリ。出るの早くないか。

「おー幸子、ついたぞ」

「今からいきます。待っていてください」

 そして切れる。どうしたっていうんだ。



 風が吹く。頬撫でる冷気は身を震わせるのに申し分ないものだった。

 陽は完全に落ち、月が輝く。満月だった。

 都会では星は滅多に見えない。街から放たれる光によって消されてしまうからだ。

「すいません、待ちましたか?」

「いいや、今来たところだよ」

「付いたって電話が来てから10分は待ってるはずですが」

「わかってるのなら聞くんじゃない」

 いつになく殊勝だ。それほどまでに寒いというわけでもないが、一体どうしたというのだろう。

「それで、どうしたんだ?」

「一つ、踏ん切りが付いたので」

「踏ん切り?」

「ええ」

 彼女の踏ん切り。CDデビューのことか? それともアイドルとしての活動としてか? それとも————。

「『学生だし、恋をするさ』」

「ボクだって学生です。14歳の少女です。あ、カワイイ少女です」

「ボクだって、ボクだって、恋愛くらいします」

 彼女の独白に、口を挟むことはできなかった。

「プロデューサーさんは、まだ高垣さんのことが、好きですよね?」

「返事は、しなくて大丈夫です。わかっていますから」

「プロデューサーさんが高垣さんと御学友というのを聞いた時は、驚きました」

「————そして、諦めの気持ちが大きくなりました」

 彼女は、笑う。

「昼間、ボクが高垣さんに『プロデューサーさんのことが好きなんですか?』と聞いたのを、盗み聞きしてましたよね?」

 それを聞いて「うっ」と変な声が出る。これはバツが悪い。

「別に、盗み聞きをしていたのはどうでもいいんです」

「高垣さんは『ボクと同じ好き』と言ってくれました」

 ここまで来て、察することができた。なんて、なんて自分はバカなやつなんだ。

 14歳の、まだ思春期に入ったばかりの少女がこんな辛いことをしようとしているのか。

 でも、止めることはできない。それが彼女なりの想いだからだ。

「だから、プロデューサーさんのためにも、高垣さんのためにも、何よりボクのためにも言わせてください」




「ボクは、プロデューサーさんが大好きです」



「いつもワガママばかり言うボクに優しくしてくれるプロデューサーさん」

「いつもボクを支えてくれるプロデューサーさん」

「いつもボクが何をしても笑ってくれるプロデューサーさん」



「そんな貴方に、恋をしました」

 彼女の告白、独白。静寂に包まれる。声が出なかった。

「高垣さんも、ボクと同じ気持ちです。だから、言ってあげてください」

「プロデューサーさんの想いを、伝えてあげてください」

 彼女は、笑っていた。

「ボクは大丈夫ですから。カワイイボクなら、なんだってへっちゃらですから」

 そんな彼女の笑顔が、悲痛だった。

「わざわざ時間をかけて来てもらってありがとうございました」

「また、明日からプロデュースよろしくお願いします、プロデューサーさん」

 そういって彼女が振り返る。そのまま、寮に戻るつもりだろう。

 幸子の小さな後ろ姿を見て、胸が張り裂けそうになる。

 息を吸って、口を開ける。

「————っ!!」



今日は以上!

 さっちゃん可愛すぎ! 
  ガチャ更新待機! 
   ラブライブ最終回最高!


 トントントンと、ハンドルを指で叩く。前の車は動かない。

 寮から離れ、事務所に戻ろうとしたところを渋滞に巻き込まれた。楓さんがすでに帰ってしまったかどうかが頭を占めていた。

 あんなに先に帰ってくださいよ、と言っていたのに心変わりとはなんとも早いものだ。————幸子には、感謝しないといけないな。


 それから一時間、ようやく渋滞から抜けることができ事務所に戻ることができそうだ。

 なんでも、ラジオによるとかなり大きい事故があったらしい。被害者が被害者で、なんと芸能人だったそうな。名前が公表されていないあたり、ファンが多い流行りの人間なのかもしれない。

 そう考えて、自分の事務所のアイドルではないだろうなとふと頭に浮かぶ。いやいや、その場合俺に真っ先に電話が来るはずだ。その心配はないだろう。

 事務所につき、車から降りる。時間を確認しようとして腕時計を見るが、暗くてよく見えなかった。

 じゃあ、といった感じで携帯を開くが、その瞬間ゾッとした。電源が切れている。

 急いで電源を付け「何もない何もない何もない」と念仏のように唱えていると、10件近くの不在着信と、何件かわからないほどの未開封メールが届いていた。


 階段を駆け登る。冷や汗が止まらない。

 電気は————よし、付いている。

「ただいま戻りましたぁ!」

 勢い良く扉を開け、中に向かって叫ぶように挨拶をする。

「あ、おかえりなさいプロデューサーさん。電話したのに、何処に行ってたんですか?」

 と、ちひろさんが挨拶を返してくれる。不在着信の相手はちひろさんだったか。慌てていて確認できてなかった。それに電話を10件もかけてくるほどの要件が————。

「はぁ、はぁ、ふぅ……。ちひろさん、楓さんはいますか?」

 息を整え、目的の人物がいるか問う。

「楓さんですか? そ、そういえば先ほど————」

 まさか嘘だろ!? 嫌な予想があたってしまったのか。悪寒が止まらなかった。

「ちょっと現場行ってきます!!」

「え、プロデューサーさんちょっと!」

 急いで外に出ようとドアを潜ろうとしたところでドンッと誰かに当たる。

「あ、申し訳ない、って、えっ?」

「いたた、危ないですよプロデューサー」

「いや、えっ、楓さん、事故にあったんじゃ……」

 ぶつかった人物。それは紛れもなく、探していた相手、楓さんだった。

「事故にあう? 鮎が事故にあう、ふふっ」

 一人でボケている彼女をぼうっと見つつ、未だに混乱から抜け出せなかった。

「プロデューサーさん、事故って、誰から聞いたんですか?」

「あ、いや、渋滞の原因がラジオで事故で、芸能人関係者が被害者で、俺の携帯に着信やらメールやらがたくさんあったから、つい」

「えーっと、じゃあ着信履歴をしっかり確認しましたか?」

 そうちひろさんに問われて、ハッとなり確認してみると、着信履歴の3件はちひろさんで。2件が楓さん、5件がまゆからだった。

 ついでにメールを見ると、100件近くあるメールのうち迷惑メールがざっと見た限り2割、7割がまゆで、残り10件近くが楓さんや他のアイドルたちからのメールだった。

「つまり、事故の被害者はうちの子じゃないということですか?」

「はい、今のところそのような連絡は来ていないですね」

 その言葉を聞いた途端、足の力が抜けた。へたっと床に座りつくと溜め息と一緒に声が出た。

「よ、良かったぁ」

 みんな安全だということがわかると、安堵から一気に疲れが押し寄せてきた。この際、まゆからの大量の着信やらメールやらは目をつぶろう。

「それで」

 ちひろさんがニヤニヤしている。

「なんで真っ先に楓さんを心配したんですかね」

 この人が好きなのはお金だけじゃなかったのか。

「純粋に、楓さんのことを想ってたからです」

 いつの間にか一人で笑っていた楓さんが静かになっていた。

「そうですか、それじゃあ私は事務も終わったので先に上がらせてもらいますね」

「え、ちょ」

「それではごゆっくりどうぞプロデューサーさん」

 そう言って扉を閉める。ちひろさんが帰り、事務所には二人しか残っていない状況になった。

 時刻は、20時。

「えっと、あの」

 彼女が少し気まずそうに手に持っていた袋から瓶を取り出す。

「とりあえず、日本酒呑みます?」

————
——

「普通だったら、ダメですけどね」

「まぁまぁ、たまには良いと思いますよ?」

「……今夜だけ、ですよ」

 二人でちびちびとお酒を飲んでいく。つまみは適当に楓さんが買ってきたものだ。

 本来なら事務所で飲酒などやってはいけないことだろう。だがしかし、彼女と二人という誘惑には勝てなかった。

 黙々と二人で飲んでいく。事務所のテレビを見るわけでもなく、語り合うわけでもなく、黙って、静かに、二人して飲んでいた。

 正直言って、気まずい。

 楓さんの様子を伺おうとちらっと顔を見てみると、目があった。気まずさからか目をそらされる。

「さっき、幸子ちゃんからメールが来ました」

 酔っているからか、または恥ずかしさからなのか、顔が赤い。

「そう、ですか」

 どうやら自分は根っからのヘタレらしい。想い一つ告げるのがこんなにも難しいなんて、幸子に怒られるなぁ。

 昼間、彼女は『幸子の好きと同じ好き』と言っていたのは記憶にあたらしい。それで、幸子が勇気を向けてくれた。だから、きっと楓さんは————。

「楓さん、俺からひとつ、話したいことがあります」


 神妙な顔で、真剣な眼差しで彼女を見据える。

「は、はひっ! なんでしょう!」

 静寂、みるみるうちに赤かった顔が更に真っ赤になっていく。

「そんな緊張されると、俺も緊張しちゃいますよ」

 ははは、と少し笑い、空気を弛ます。

「ご、ごめんなさい。続きどうぞ」

 続きを促され、ふーっと息を吐く。

「俺は貴女のことが好きです。それこそ、学生の頃からの恋でした」


 神妙な顔で、真剣な眼差しで彼女を見据える。

「は、はひっ! なんでしょう!」

 静寂、みるみるうちに赤かった顔が更に真っ赤になっていく。

「そんな緊張されると、俺も緊張しちゃいますよ」

 ははは、と少し笑い、空気を弛ます。

「ご、ごめんなさい。続きどうぞ」

 続きを促され、ふーっと息を吐く。

「俺は貴女のことが好きです。それこそ、学生の頃からの恋でした」

「引退するその日まで、俺がプロデューサーとして一緒にいさせてください」

「えっと、あの。ちょっと話がよくわからないのですが」

「えっ」

「幸子ちゃんからのメール『ボクは負けませんからね!』っていう内容だったので、何を話したのかなぁって聞きたかっただけ、というか」

「えっ」

「だから、その、嬉しいんですが突飛なことすぎてちょっと困惑してます」

 完全に終わったと思った。ここまで早とちりをするなんて末代までの恥だ。もはや末代が自分になりそうなのだが。

「あ、あはは。そうでしたか、申し訳ない。このことは忘れてください、あはは……」

 数分前の自分を殴りたい。凄い殴りたい。恥ずかしすぎて死にたい。

「あ、でも、私忘れませんよ?」

 え? と顔を上げる。いや、今なんて言った。

「私も、プロデューサーが好きですから。ずっとプロデュースしてもらわないと嫌かなって思います」

 餌を貰う鯉のように口をぱくぱくさせていたと思う。餌は恋、なんてくだらない事は口に出さない。

「プロデューサー、鯉みたいですね。恋する鯉、ふふっ」

 一人ボケて、一人で笑う。いつもと違うのは、その顔が真っ赤なことくらいだ。

「えーっと、その、これからもよろしくお願い、します?」

「あ、はい、よろしくお願いします」

 そんなぎこちなさは初めて会話したときを彷彿とさせる。

 そうして、二人でもじもじしてると楓さんが話を切り出してきた。

「そういえば、幸子ちゃんのメールの意味、つまりどういうことなんですか?」

「あぁー」

 そういえばそうだった、また先程の出来事を思い出して赤面しそうになる。

「えーっと、さっき女子寮の方に言って幸子と話をしてきたんですよ。それで、『俺はプロデューサーだしアイドルと恋愛なんて〜』的なことを言ったんですよ。それで幸子は『引退するまでということですよね?』なんて言って何かを思いついたかのように寮に戻ったんですよ」

「その結果がこのメールということですか」

 多分、幸子は『高垣さんが引退するまでにプロデューサーをボクに振り向かせればいいんですね! ボクはカワイイのでそのくらいやってみせますよ!』なんて考えているんだろう。


「まぁ、気にしなくても良いと思いますよ」

「そうですね、プロデューサーはずっと私のプロデューサーですしね」

「……酔うの早すぎやしないですかね」

 日本酒をぐびぐび飲んでいる楓さんを横目に頬を掻く。素面じゃなくても流石に照れる。

 その後、二人で談笑しつつ気がついたら終電を逃したこと、そして楓さんが某伝説のアイドルと同じく電撃引退するのはまた別の話である。


おわれ

短編の続きを無理やり作るのは厳しい(戒め
ということで新生活の荒波に揉まれながら強引に終わらせてしまった。

制服新田ちゃん引いたりURにこにー手に入れたりカムバックのやよい頑張ったりと大変な4月もあと1週間。
お疲れ様でした。

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