モバP「Happy New Year, Happy Birthday」 (31)

 鷹富士茄子さんのSSです。特にオチや山場はない、のんびりとしたものです。
 以前書いた作品である”モバP「七人目の正直」”の設定を少し引き継いでいます。
 初見の方でも問題ないように書いているつもりではありますが、分かりにくい所があれば申しわけありません。
 都合上、茄子さんのPに対する呼び方が『Pさん』になっておりますので、その点ご注意ください。
 

モバP「七人目の正直」
モバP「七人目の正直」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1370974673/)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1388524114


 静寂。もう、枯葉一枚さえない、冬の装いの木々を見上げながら、小さく息を吐きます。

 そうして吐いたゆっくりと広がる白い吐息は、ふわり、ふわりと舞う粉雪に溶け込み、消えてしまいます。

 辺りにはじじ、と明滅する電燈が一本立っているだけで、他に人はいません。まあ、それも仕方のないことだと思います。

 きっと皆さん、ご自宅のおこたに入っているか、あるいはお蕎麦をゆでている頃でしょう。

 そんな中、なぜ私はここに居るのか。ええ、もちろん、私だっておこたに入って、ぬくぬくしたいです。でも、そういうわけにはいきません。

『……遅い、なあ』

 思わず、言葉が零れてしまいます。こんなに待ち遠しいなんて、本当に久しぶり。このところ、ずっとずっと忙しかったのですから。

 まだかな、まだかな。自分でも、子供っぽいとは思います。それでも、楽しみで仕方がないのは、止めることはできません。

 なぜって?

 単純なことです。だって――。

「ぜっ、はっ……。済まない、茄子っ! 遅れた……っ!」

 刹那、私の耳に声と、足音が聞こえます。一気に、心が、体が温かくなります。頬が緩み、駆け寄りたくなります。

 ですが、そこはぐっとこらえ、私は少し不機嫌そうな顔を作ると、口をとがらせ、

『遅いですよ、Pさんっ』

 と、少し拗ねてみせます。同時に、電燈の下に人影が走り込んできては、その身を照らしました。

 そこにいたのは、紛れもなく私のプロデューサーで、私の大好きな人。ぷい、とそっぽを向いた私に、Pさんは、

「済まない、茄子さん。抜けて来るのに、少し手間取った。他の子たちがなかなか解放してくれなくてね」

 と、少しマフラーに積もった雪を払いながら言います。

『つまり、Pさんは私よりも、他の子の方が大事だったんですね?』

「いや、そういうわけじゃないが……。ああ、もう。そんなこと言わずに、機嫌直してくれ、茄子さん」

 少し意地悪が過ぎたかな? そう思って、ちょっとだけPさんの方を見ます。彼は、少し困った表情で私を見ていました。

『……えへへ、冗談ですよっ! 怒ってなんていません♪』

 私は笑顔を浮かべると、Pさんへと抱きつきます。外は寒いけれど、じんわりと心があったかくなって、そして嬉しくなりました。

「あっ、こらっ! だ、誰かに見られたらどうするんだっ」

『平気ですよっ! みなさんきっと、家の中でおこたに包まって、ぬくぬくしている頃ですから』

 そのまま、私はPさんの腕を取り、早く早く、と急かします。私たちの目の前には、寂れた雰囲気を醸し出す、一つの石段。

 それが、ぽつ、ぽつとぼんやり光る灯篭に導かれ、奥の方へと延びています。

「結構久しぶりだ、ここも。夏祭りの、帰り道に寄った時が最後かな」

『そう、ですね。あの時のPさん、可愛かったですよー?』

「まったく、そうやってすぐ人をからかう。その……、茄子さんの方が可愛いに決まってるだろ」

 そんな風に、少し照れながら言ってくれるPさんの横顔は、この夜の中でもはっきり分かるほど真っ赤でした。

 まあ、その。私も、なのですが……。

『う、そっ、そんなこと言っても、誤魔化されませんよーっ!』

「はは、いや、その、なんだ。早く茄子さんをトップアイドルにしたくてたまらないんだよ」

 俺のみ込んだ人が、トップアイドルになれないわけがない。そんな風にPさんは言ってくれます。

 こんな、Pさんの正直者なところが、私は大好きです。そして、私を気遣って自分の巻いていたマフラーを巻いてくれる、優しい所も。

「それに、いい加減俺の理性も持ちそうにないしな」

『理性、ですか?』

「ああ、いや。こっちの話」

 そういうと、Pさんは少しばつの悪そうな顔をして、苦笑します。また、社長さんに何か言われたのかな、と思いますが、あまり深くは追及はしません。

 きっと、アイドルとプロデューサーでの恋愛なんて、ご法度なのでしょう。……まあ、それでも私は、Pさんのことが大好きです。それは変わりませんねっ♪

「とりあえず、行こう。もうすぐ日付も変わる」

『そうですねっ』

 私とPさんは、顔を見合わせると少し笑い、そのまま石段を登り始めます。合わせて二十段もない、小さな石段ですが、Pさんと登るとその段数以上に、とても短く感じます。

 やはり好きな人と一緒に何かをすると、時間は短く感じます。出会ってから二度目の冬を迎えていますが、今までの時間はとても、とても早く過ぎたように思います。

 今ではそれなりに名前の売れたアイドルにはなりましたが、やはりまだまだトップアイドルとは言えません。

 きっと、Pさんもトップアイドルになることを期待してくれています。だから、私は頑張ります。Pさんが、私を信じてくれていますから。

 だから私は、いくらでも頑張れるんですっ♪

「足元が暗い、茄子さん。気を付けて」

『はいっ♪』

 しっかりと、Pさんの腕を掴んだまま、ゆっくりと登り切りました。ざり、という玉砂利を踏みしめる音が、梢を通り抜ける風の音に混ざります。

 そして、その先にあるのは、ぽう、と微かな光に照らされた――神社の本殿でした。

今回の更新は以上です。本日中に完結予定ですので、後程再開をさせていただきます。
遅くても夜までには更新を再開させたいと思っております。
それでは、ここまで読んで下さりありがとうございました。

 相変らず、寂れた神社だ。罰当たりなことではあるが、そう思う。だが、俺と茄子さんの思い出の場所だ。

 二年前の、ある日。ここで俺と茄子さんは出会った。本当に奇跡だった。初めて会った時から、きっと惚れていたのだろう。

 その場でスカウトし、でも俺の身勝手で彼女を傷つけ、それでも彼女は俺を許してくれた。もちろん、今の社長にも頭は上がらない。

(ぶっ飛んでる人だけど、基本的にはいい人なんだよな……)

 俺を含め、他のプロデューサーたちに関しても、効率重視、実利重視の姿勢を貫いているが、それらの関わらないところではだいぶ、というよりとんでもなく自由な人だ。何せ――。

(半分、俺らの仲を認めてるんだから、ホント頭が上がらねえよ)

 そう、内心呟く。もちろん実際に公認しているわけじゃないのだろうが、それにつけても早くくっつけと言わんばかりにせっついてくる。

 それを躱しつつ、茄子さんにはプロデューサーとして接するように努力はしているが、実際のところそれも限界が来てたりする。

 俺も男だ。こんな可愛くて、思いやりがあって、しかも俺なんかを立ててくれる女性が傍にいて、しかも好いてくれている。

 もし耐えられる男が居るなら、そいつは間違いなく同性愛者か、悟りを開いた釈迦か何かだろう。あるいは全身合金でできたサイボーグかもしれない。

「どうか、したんですか、Pさん?」

『ああ、いや。なんでもない。……そろそろ時間だな』

 俺は内心抱き寄せたい衝動にかられながらも、そうするわけにはいかない葛藤を抱きつつ、彼女を導く。石畳の上を歩き、そして全く変わらない、寂れた本殿の前へと立つ。

 そういえば、ここの管理は誰がしているのだろうか。結構きれいにされているし、灯篭には火が燈っている。

 まあ、それにしてもこんな日にもかかわらず、誰もいないのは少し驚いた。何組かぐらいは居るものだと思ってはいたのだが……。

「Pさん、あと何分ですか?」

『ええと……』

 俺は、腕時計を見る。時間は十一時と五十七分。もう、間もなくだ。

『あと、三分だ』

「わあっ、もうすぐですねっ♪」

 そんな調子で、とても楽しそうに、そして嬉しそうに笑う茄子さんは、少し子供っぽくもあり、そして純粋無垢だった。

 こんな子が、俺の隣に居ても良い物だろうか、と思ってしまうときがある。それは、やましいことがあると言う事ではない。

 単純に、幸せすぎる。それに尽きていた。この幸せを失うのが怖い。彼女に見限られるのが怖い。それはどうしても抱いてしまう。

(惚れた弱みってやつかな)

 内心苦笑すると、また腕時計を見る。後、一分と少しだった。そうして、そのまましばらく静寂が辺りを包む。

 はらり、はらりと僅かに舞う粉雪が、地面を薄く彩り始める。彼女の着ている、ベージュのコートには良く映える、純白の粉雪だ。

 やがて、時間が迫る。あと、十秒。九、八、七、六。

『あと、五秒』

「よん、さんっ」

『二、一……』

 次の瞬間、同時に俺たちは声を出す。

 “あけまして、おめでとうございます!”

 そんなハーモニーが、神社の境内に響く。そして二人して顔を見合わせると、どちらからでもなくはにかみ、そして笑い声を上げて笑います。

「ピッタリでしたねっ♪」

『ああ、完璧だった』

 俺はそう言って、歯を見せて笑った。彼女の笑顔を見て、尋常じゃなく胸が高まる。こうして、今年も一年彼女と過ごせる。それが、何よりも嬉しかった。

『お賽銭は、用意してきたか?』

「もちろんですよっ」

 茄子さんは、コートのポケットに手を入れると、小さな小銭入れを取り出す。それを頑張って開けようとしているが、どうも手袋をつけたままなので、開けられないらしい。

『こら、横着はしない』

「えへ、ごめんなさいっ」

 小銭入れの口を、俺が開けてやると、彼女は嬉しそうに笑う。ああもう、可愛いったらありゃしない。こう、愛でたくて仕方がなくなる。

 そうして、俺もポケットから小銭を取り出す。もちろん、五円玉だ。後で札を突っ込むつもりではあるが、最初のお賽銭はこれ、と相場が決まっている。

『よし、じゃあ行くぞ?』

「はいっ」

 二人同時に、五円玉を賽銭箱へ投げ入れる。ちゃりん、ちゃりん、ことん。賽銭箱の中へと五円玉が落ちて行く音が響く。

 そして、どちらから言うわけでもなく、境内に提げられた大きな本坪鈴の綱を手に取り、そして同時に揺らす。

 がらん、ごろん。

 がらん、ごろん。

 少しくぐもった、鈴の音が境内に響く。そして、俺は二度、手を叩いた。ほとんど同じタイミングで、茄子さんも手を叩く。

 また、しばらく静寂が辺りを包む。その静寂さえ、俺の中から消えていく。願うのは、一心に茄子さんの栄達だ。

 彼女がトップアイドルになれますように。きっと、そうなるだろう確信を持った願いではあるが、幸運な彼女に神のご加護とやらが付けば鬼に金棒だ。

 普段から神様の存在を信じてない俺が願うのは、都合がいいことかもしれないが、それでも願う。ついでに、彼女がトップに立つまで俺の理性が持つことも願っておく。

 彼女は俺の好意に気づいているだろう。その上で、好意をぶつけてくれている、と信じているし、信じたい。だからこそ、その好意に甘んじるわけにはいけない。

 俺はプロデューサーなのだ。ただでさえ業界のタブーを犯している。それについて一切の後ろめたさはないが、責務を放り出して私情を優先することは……したくない。

「……Pさん?」

『……え? あ、ああ、すまん。ちょっと考え事してたよ』

 茄子さんに言われて、ふと我に返る。どうも、とっくに茄子さんは願い事を終えていたらしい。それで、いつまでも目を閉じている俺を不思議に見ていたようだ。

 俺は、財布の中から札を別に取出し、それを賽銭箱の中に入れると、財布をポケットに仕舞い込む。

「何をお願いしてたんですか、Pさん?」

『ん? まあ、茄子さんがトップアイドルになれますように、かな』

「それだけ、ですか?」

『……それに付いてコメントは、差し控えさせてもらおうかな』

「……ふふっ、そうですね♪」

 茄子さんは少し嬉しそうに、そして満足したように笑う。ちくしょう、こいつ分かってて聞いてやがる。少し癪なので、

『そういう茄子さんは何を願ったんだ?』

 と尋ねる。

「もちろん、トップアイドルになれますように、ですよっ」

『それだけか?』

 と、予想していた通りの答えに、彼女が俺にしたように意地の悪い質問を投げかける。だが――。

「えっとですね」

 少し彼女は恥ずかしそうにすると、ちょっと小声で、

「……いつか、Pさんと一緒になれますように、です♪」

 なんて言って来るではないか。

『あ、う……』

 クリティカルヒットどころの話じゃない。一撃必殺だった。ああもう、可愛いなあ、もう、くそ。愛おしさが一気にあふれる。

「えへへ、二本とったり、ですねっ」

『やられたな、ほんと。敵わないよ、全く』

 極力平常心でそう答えるが、俺のメンタルはいい意味でボロボロだ。一生彼女には勝てないのではないだろうか。まあ、それでもいい。そう思った。

『……ああ、そうだ。すっかり忘れてた、茄子さん』

 彼女の可愛さにすっかり虜になって、今日のもう一つの目的を忘れるところだった。茄子さんは、少し首を傾げて頭に疑問符を浮かべていた。

『今日は、初詣のためだけじゃないんだ』

 俺は、着ていたコートの中に手を突っ込むと、内ポケットから小さな包みを取り出す。ホントに小さな、掌に収まってしまうような長方形の包み。

 そして、少しだけ笑うと、俺は言う。

『誕生日、おめでとう。茄子さん』

 茄子さんはすぐに理解できなかったようだが、次の瞬間には満面の笑顔になる。そして、

「Pさんっ、嬉しいですっ♪」

 と、抱きついてくる。ああ、もう。勘弁してくれ、俺の理性が持たないから。そう思いつつも、思わず抱きとめ、そして抱き返してしまう。

「覚えていてくれたんですねっ」

『馬鹿いうな、担当アイドルだから当然だ。それに……』

「それに……?」

『……や、なんでもない』

 好きな人の誕生日を忘れるわけがない。そこまで言ってしまいそうになる。が、そこはぐっと堪えてお茶を濁しておく。まあ、ばれているのかも知れないが……。

「うふふ、ありがとうございます、Pさん♪ 開けても大丈夫ですか?」

『ああ、大丈夫だ』

 彼女は丁寧に包み紙を開けると、中からは質素でシンプルな箱が出てくる。その蓋を開けると――。

「わあ……」

 彼女は、目を輝かせて中を見ていた。小さな琥珀のついた、銀のネックレス。意外と値が張ったが、そんなものは些細なことだ。

 俺は、彼女のこの顔が見られただけで満足だ。心から、そう思った。

「Pさん、Pさんっ」

『ん、どうした?』

 彼女が嬉しそうに、箱の中からネックレスを取り出す。そして、

「私に、つけてもらえませんか?」

 そういった。

『構わないが、いいのか?』

「Pさんがいいんですっ」

 彼女は、俺の手にネックレスを渡してくると、髪をかきあげる。少し上気した、白い肌のすらっとした首が、ちらりと見える。思わず、胸が弾む。

 極力平常心を装って、彼女の首にネックレスを巻く。少し緊張で手が震える。まあ、なんというか、男としては許してほしい所だ。

「んっ……」

『……つけたよ、茄子さん』

「どうですか、Pさん?」

『ああ、良く似合ってる。本当に……』

 掻き上げた彼女の髪が降ろされると、首元に微かに、琥珀色が覗く。まるで彼女の瞳と同期したように、それが輝いて見えた。

(本当、何というか、俺にはもったいないくらいに思える)

 それでも、この至宝を俺は、手放す気など毛頭ない。彼女に愛想をつかれない様に、彼女を大切にし続ける。ちょっと格好つけすぎかな、と思うけれど、これが俺の願い。

「Pさん?」

『……え、あ、ああ。すまん、ちょっと見惚れていた』

「も、もう……。お上手なんですからっ」

 少しはにかんだ彼女の姿も、またなかなか乙なものである。また朝になれば、きっと彼女の着物姿も見られるだろう。

 もっとも、その時は『プロデューサーとアイドル』だ。独占できないのは、少しさびしい気もするが――。

「Pさん、Pさん」

『ん、どうしたんだ?』

 茄子さんが寄ってきて、俺の耳に言葉を投げかける。

「実は、もうおせち、作ってあるんです。……あの、だから、寄って行きませんか?」

 一瞬、言葉の意味が理解できなかったが、すぐそれを咀嚼すると、ぼっと頭の中が沸騰しそうになる。

 まあ、冷静沈着が俺の売りと思ってはいたが、なかなか彼女の前ではそうはいかないようだ。

『ば、馬鹿言うんじゃない。誰かに見られたら――』

「大丈夫ですよっ、私は運が良いですから♪ それに、ご飯を食べるだけですし、一年の初めからPさんと一緒に居られたら、とても嬉しいですから」

 そこまで言われてしまうと、俺としてもなかなか言葉を言い返しづらい物がある。俺だって彼女と一緒に過ごしたいから、まあ、当然だ。

『……しょうがないな』

「そういってくれると思いました♪」

 やはり最近は、彼女に上手くやり込められている気がする。まあ、悪い気分ではない。しかし、やっぱりやられっぱなしは癪だと思う。

『じゃあ、行こう』

 俺は、ちょっとした仕返し半分、願望半分で彼女の前に手を差し出す。それを見た茄子さんは、大好きなお菓子を貰った子供のように顔を輝かさせると、

「はいっ♪」

 ぎゅっと、俺の手を握ってくる。冷たい手だ。俺の手で温めてあげなければならない。……自分へ、そう言い聞かせつつ、俺は彼女の手を握る。

『茄子さん』

「Pさん」

 ゆっくりと、同時に踵を返すと、また同時にお互いの名を呼ぶ。そして、一瞬見合わせた後、ほとんど同時に、言葉を紡ぐ。

『これからも、宜しくお願いするよ、茄子さん』

「これからも、宜しくお願いします、Pさんっ」

 体が、熱くなる。同じ言葉、同じ思い。お互いが全く同じことを思っていることを、再びひしひしと感じる。嬉しいこと、この上ない。

「えへへ、また一緒ですね」

『ああ、びっくりするほど、ぴったりだ』

「もちろんですよっ♪ だって私とPさんですからっ」

 茄子さんは満面の笑顔で、俺の手をつないだまま腕に抱き着く。その心地よい重みと、人のぬくもりを俺は感じている。

 玉砂利の踏みしめる音が、俺たちを結び付けてくれた神社の闇に溶けていく。

 ああ、今俺は幸せだ。そして、この幸せは彼女のもたらしてくれたものだ。愛おしさが、溢れる。

「これからも、ずっと、ずーっと幸せにしてあげますからね、Pさんっ」

 ああ。きっと茄子さんのその言葉は、実現するだろう。茄子さんが隣にいてくれるだけで、俺は幸せなのだ。

 だから――。

『――来年には』

 俺は俺なりの決意を彼女に伝える。彼女を支えるようにして、石段を一歩、一歩下っていく。

『茄子さんを幸せにしてみせるからな』

 その言葉に茄子さんは、その琥珀色の瞳と、琥珀色のネックレスを少し揺らして微笑んだ。




「はいっ、きっときっと、私を幸せにしてくださいねっ♪」

短い作品ですが、以上で完結となります。
12%17枚使って引けなかった悲しみの中書き上げましたが、お付き合いいただきありがとうございました。
また、何かの機会に投稿させていただくこともありますので、本年もよろしくお願いいたします。
それでは、このスレはHTML申請を出しておきます。ありがとうございました。

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