櫻子「……私も、私も向日葵のことが――」 (22)


向日葵「お久しぶりですわね」

櫻子「う、うん」

向日葵「……よく似合ってますわよ」

櫻子「と、当然じゃん!だって私だもん」

向日葵「くすっ」

櫻子「?」

向日葵「櫻子は、相変わらずですわね」

櫻子「な、なんだと」

向日葵「ふふ」

櫻子(……なんか変、やっぱ変)

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向日葵「あ、赤座さんと吉川さん?」

あかり「あ、向日葵ちゃんと櫻子ちゃん!」

ちなつ「久しぶり~」

あかり「なんだか向日葵ちゃん、キレイになったね」

向日葵「ありがとう。赤座さんもとっても素敵ですわ」

あかり「えへへ」

ちなつ「櫻子ちゃんも大人っぽくなったね」

櫻子「そりゃ、二十歳ですしぃ!大人の色気もばっちりっしょ」

ちなつ「……中身は昔のまんまだね」

向日葵「ふふ」

あかり「あ、みんなで写真撮ろうよ!成人式の記念に」

ちなつ「いいね」

櫻子「撮ろう撮ろう!」


 
向日葵と再会したのは、東京に住むお姉ちゃんのところに遊びに行った時だった。
 

花子「迷ったし?」

櫻子「迷ってねーし」

花子「はぁ」

櫻子「これがあれで、あれがこれだから……うん、間違いないはず!」

花子「信用できないし」

櫻子「む……あ、そこにいる人に聞けばいいんじゃん」

櫻子「すいませーん」ダダッ

花子「あっ!……櫻子のやつ……」

??「はい?」

櫻子(うあぁ……美人)

??「あら?」

櫻子「あ、あの……道を」

??「櫻子?」

櫻子「……え?」


??「やっぱり櫻子ですわね」

櫻子「……ひ、向日葵?」

花子「はぁはぁ……櫻子は後先考えずに走り出すくせ止めろし」

向日葵「花子ちゃんも」

花子「え、え?」

向日葵「ふふ、久しぶりですわね」

花子「ひま姉?」


あの日、偶然、私は向日葵と再会した。
すぐに向日葵だってわかんなかった。


 
向日葵「撫子さんのところに遊びに来たんですね」

花子「案の定迷子だし」

向日葵「櫻子らしいですわね」

櫻子「むっ」

向日葵「ふふふ♪……櫻子は相変わらずですわね」

櫻子「喧嘩売ってる?」

向日葵「変わってなくて安心したんですわ」

櫻子「……向日葵は」

向日葵「え?」

櫻子「……なんでもない」

向日葵は、変わっちゃったの?
なんて、怖くて聞けなかった。
何ビビってんだろ?私らしくない。


 
向日葵「なんだかんだで、中学校の卒業式以来だったかしら?」

櫻子「そーかも」

向日葵「私がいなくても大丈夫みたいですわね」

櫻子「?……初めっから向日葵の助けなんかなくても大丈夫だったし」

向日葵「……そうですわね」

高校は別々に進学した。
向日葵は家からちょっと遠い進学校。
私は家から1番近い高校。
朝、家を出る時間も、方向も、下校時間も……全部違ってしまったのが高校時代だった。

その時、ふと思ったことがある。

――私、向日葵がいなくてもやっていけるんだなぁ、と。

 
 
 
 



向日葵「ここを曲がったところですわね」

花子「はぁーやっと着いたし」

櫻子「向日葵は」

向日葵「私はこれから用事があるんですの」

櫻子「……そっか」

向日葵「でも、成人式で会えますわ」

櫻子「ん」

向日葵「じゃあ、失礼します。撫子さんによろしくとお伝えください」



思えば、あの時、どこかおかしいなって感じてた。
久しぶりだったせいだって気にしないようにしていたけど、たぶん違った。



 
成人式で再会した向日葵はやっぱり別人に思えた。


あかり「うぅ~……今度、みんなで遊ぼうねぇ」

ちなつ「ほら、あかりちゃん、しっかり立って」

あかり「立ってるよぅ、ちなつちゃん」

ちなつ「お酒弱いのに、あんなに飲むからだよ」

あかり「ごめんねぇ」

ちなつ「じゃあ、私、あかりちゃんを送って帰るから」

向日葵「はい」

ちなつ「あかりちゃんも言ってるけど、また4人で集まって遊ぼうね」

櫻子「……」

向日葵「櫻子?」

櫻子「もっちろん!」

ちなつ「うん、じゃあまたね」

あかり「えぇー、あかりもっとみんなといたいよぅ」

ちなつ「酔っ払いが何を言うか」ポコッ

 
櫻子「……」

向日葵「赤座さんって変わっていませんね」

櫻子「うん」

向日葵「私達も帰りましょうか」

櫻子「うん」

向日葵「ふふ、久しぶりですわね」

櫻子「?」

向日葵「あなたとこうやって帰るのは」

櫻子「……向日葵、何か変」

向日葵「アルコールのせいですね」

櫻子「そういうのじゃなくて」

向日葵「……ふふ」

櫻子「!」

昔みたいに言い争いをすることはないけど、向日葵の態度や物腰は同じで。
なんだか悔しいし、悲しい。
私だけ置いて行かれちゃったような気がした。


 
向日葵「ねぇ、櫻子」

櫻子「ん?」

向日葵「中学校の卒業式、覚えてる?」

櫻子「……」

向日葵「……」

櫻子「あ、あかりちゃんがゴーキューしちゃって大変だったよね」

向日葵「ええ」

櫻子「そんなあかりちゃんにつられてちなつちゃんも泣いてたっけ」

向日葵「ええ」

櫻子「それと、うーっと……」

向日葵「櫻子」

櫻子「っ」ビクッ

向日葵「私ね、あなたに言っていない事があるんですの」




――聞きたくない。
  

 
櫻子「ね、ひま」

向日葵「私ね、昔、あなたのことが好きでした」


櫻子「……」



 
 
  
中学校の卒業式の帰り道。


  
 
 
向日葵「とりあえず櫻子が高校になんとか合格できてよかったですわ」


櫻子「櫻子様が本気を出せばこんなのちょれーし」

向日葵「はぁ……あなたはまったく……」

櫻子「へっへーん」

向日葵「余裕ぶっているみたいですけど」

櫻子「?」

向日葵「高校では朝迎えに行ったり、宿題を見せたりはないんですからね」

櫻子「余裕余裕!」

向日葵「私がいなくても櫻子はやっていけるのでしょうかって心配ですわ」

櫻子「ふんっ!高校は別々だからせいせいするし!!」

櫻子(それはこっちのセリフですわ)

向日葵「……」

櫻子(って言うんじゃねーのかよ)
 

 
向日葵「……」

櫻子「ひ、向日葵?」

向日葵「」チュッ

櫻子「!」

向日葵「……」ダダダッ

櫻子「……」

櫻子「え……い、今のって」

櫻子(キ、キス……?)


あの時の向日葵も、向日葵であって向日葵じゃなかった。
なんか気まずくて、高校が別なのを理由に会う機会はどんどん減っちゃったんだ。

 

 
向日葵「あの時は、いきなりキスなんかしちゃってごめんなさい」

櫻子「……」

向日葵「櫻子?」

櫻子(この向日葵って本当に本物の向日葵?)

向日葵「あ、着きましたわね」

櫻子「……」

向日葵「昔はもっと長く感じたのに、不思議ですわ」

櫻子「……」

向日葵「じゃあね、さく」

櫻子「……」ギュッ

向日葵「櫻子?」

櫻子「今日、泊まってもいい?」

向日葵「……」

櫻子(なに言ってるんだろう)

向日葵「仕方ないですわね」

櫻子「……うん」

櫻子(私も変になってるみたいじゃん)


 

本当はね、分かってるよ。

私達の関係が昔と違うってこと。

「好きでした」も「泊まってもいい?」も昔の私達ならありえない。

私さ、向日葵。
向日葵がいなくてもやっていける自分に気付いた時、どうだ!っていう自慢の気持ちより、寂しい気持ちの方が大きかったんだ。
ちょっとだけだけど。


櫻子「ね、向日葵」


変わってしまった関係を本当は否定したい。
昔のままの私達でいたい。

でも、もうそんなの無理。
だって向日葵も、向日葵との関係も変わっちゃったんだ。

 

  

櫻子「あ、のさ……」

変わってしまった関係を受け入れる魔法の言葉。
私達が未来に向かって歩き出すために必要な言葉。

言わないと……。

向日葵は言ってくれたから……だから……。


もし、あの時、向日葵のキスをちゃんと考えてたら……。
告白されていたら……何か変わっていたのかな。
ううん、あの頃の私は、そんな素直に受け入れられない。
たぶん、今よりもっと気まずくしてた。

だからね、向日葵。
これで、いいんだよね……?


櫻子「……私……私も昔、向日葵のことが――――――――」


  


 
 
二十歳の古谷向日葵様


こんにちは。中学3年生の古谷向日葵です。
二十歳というと今頃私は大学生でしょうか。
今の私からは想像がつきません。
二十歳の私お隣には、変わらずあの子がいるでしょうか。
私は変わらず、あの子の隣にいるでしょうか。

私は、卒業式の日に櫻子に告白しようと思っています。
今までの関係が壊れてしまう不安があったから、進学先は別にしました。
でも……でも、それでも変わらず、私達は一緒にいられるのでしょうか。

これを読んでいる私はもう知っているのでしょう。
告白の結果も。二十歳の私と櫻子の関係も。

……好きだと自覚してしまったあの日から、ずっとずっと悩んできました。
面倒見て、嫌いだと言い合って、今まではそれが楽しかったのに、
いつの間にか胸が張り裂けそうで、楽しいはずなのに涙が出そうで……。

たぶん、もう、このままじゃいられない……。
上でこの関係が壊れるのが怖いと書きましたが、もう、私の中では壊れてしまったんですね。
もう戻れなくて、今のままじゃいられない……だから……。

だけど、変わらず隣にいたいなって本当は思っています。
ねぇ、二十歳の私。

恋人でも、ただの幼馴染でも構わないです。
今、あなたの隣にあの子はいますか?

もしいるのなら、告白の結果がどうあれ、私はとても幸せです。


中学3年生の古谷向日葵より


 

 

向日葵(ねぇ、中学3年生の私……。)

向日葵(あの日、私は告白はできませんでしたわ)

櫻子「……」zzz

向日葵(今になってやっと言えました)

向日葵(あの頃ほどの重さはなくて……だけど……)

向日葵(あの頃の必死さもない……)

櫻子「……んん……」zzz

向日葵(ただ好きと、それだけでいいと……)

向日葵「ねぇ、櫻子」

向日葵「もし、もし……あの卒業式の日」

向日葵「ちゃんとあなたに告白出来ていたら、何か変わっていたのでしょうか」

向日葵「……なんて……たぶん、無理でしょうね」

向日葵(中学3年生の私……)

向日葵(今、私の隣にあの子がいます)

向日葵(……だから、とっても幸せです)



おわり

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