穂乃果「メアリー・スー……?」 (128)
絵里「ええ。来週、音ノ木坂に転校してくるそうよ」
凛「変わった名前だにゃー」
真姫「何者なの?その子」
絵里「アメリカから日本に移住してくるらしいんだけど、詳しいことは私も聞かされていないの。ただ……」
にこ「ニコ達には関係ない話でしょ。そんなことより、さっさと練習……」
希「それが、そうでもないらしいんや」
海未「どういうことですか……?」
絵里「……実はその子、向こうではちょっとしたアイドル活動をしていたらしいのよ」
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穂乃果「!!アイドル……?」
にこ「それは聞き捨てならないわね」
絵里「さっきも言ったとおり、詳しいことは分からないんだけど、歌やダンスの実力は確かなようよ」
花陽「エンターテイメントの本場、アメリカのアイドル……!」
真姫「へえ、面白そうじゃない」
穂乃果「アメリカかぁ……」
ことり「何年生なんですか?」
絵里「2年の、穂乃果たちとは違う方のクラスに入るみたいね」
海未「同学年ですか……」
穂乃果「……そうだ!ねえねえ、その子もμ'sに勧誘してみようよ!」
絵里「えっ?」
ことり「μ'sに……?」
穂乃果「うん!そんなに凄い子なら、きっと頼りになるよ!」
にこ「ちょっとちょっと、あんた本気で言ってるの?そんなどこの馬の骨とも知れない人間、μ'sに入れられるわけないじゃない」
穂乃果「でも、歌もダンスも上手なんでしょ?」
絵里「一応、そう聞いてるけど……」
海未「確かに実力はあるのかも知れませんが、μ'sの歌や踊りは一人でできるものではありませんから……」
真姫「それはそうね。私たちは何ヶ月もかけてダンスを合わせる練習をしてるわけだし、コーラスだって……。そこに後から入って来ても、上手く出来るとは思えないわ」
にこ「当たり前でしょ。アメリカだか何だか知らないけど、ニコたちのレベルについて来られるわけないじゃない。ラブライブ出場のかかった大事な時期に、足を引っ張られるのはごめんよ」
穂乃果「ええー。せっかく新戦力が来てくれるかも知れないのに……」
希「まあまあ穂乃果ちゃん。ここは確かに、にこっちの言うとおりや」
絵里「グループでのパフォーマンスに磨きをかけるという意味では、いま新メンバーを入れるのは得策とは言い難いわね。たとえ実力が確かだとしても」
にこ「その実力とやらも怪しいものよ。どうせこけおどしに決まってるわ」
凛「凛は英語が苦手だから、あまり気が進まないにゃー」
希「……それに、メンバーが10人になっちゃったら、μ'sって言うグループ名も考え直さなあかんね」
ことり「衣装が一人分増えちゃうのもちょっと大変かな……」
穂乃果「うー。みんながそこまで言うなら……」
海未「……穂乃果。私たちにはラブライブ出場という大事な目標があるのですし、まずは目の前のライブに集中しましょう」
穂乃果「……そうだね、海未ちゃん。分かったよ」
凛「よーし!そうと決まったら早速練習……」
穂乃果「……」
希「ん?穂乃果ちゃん、どうしたん?」
穂乃果「え?……ああ、部屋の中に蝶が迷い込んできてるなぁって……。ほら、あそこ」
絵里「あら、本当。秋も深いのに珍しいわね」
真姫「そんなことはどうでもいいでしょ。練習始めるわよ」
にこ「ほらほら、ぼーっとしてないで屋上に行った行った」
一同「はーい」
ー翌週。
花陽「凛ちゃん、見た……?例の転校生……」
凛「見た見たー!すっごい美人だったねー!」
花陽「私、ちょっとびっくりしちゃった……」
凛「おまけに、スタイルも抜群……!さすがアメリカ人だにゃー」
ことり「……二人とも、転校生の話題で盛り上がってるみたいだね」
花陽「あっ、海未ちゃん、ことりちゃん」
海未「私とことりもさっきたまたま廊下で見かけたのですが……」
ことり「あんなかわいい子がいるなんて、まだ信じられないよ……」
海未「あれは……はっきり言って、想像をはるかに超えていましたね」
真姫「そんなに凄いの?私はまだ見てないんだけど、ちょっと大げさすぎるんじゃない」
花陽「真姫ちゃんも、実物を見たら分かるよ……」
穂乃果「なになにー?何の話?」
ことり「穂乃果ちゃんは、まだ見てないの……?隣のクラスの転校生……」
穂乃果「うん、まだなんだ。でも、噂だとすっごくかわいい子みたいだね」
にこ「噂なんてあてになんないわよ。どうせ物珍しさにはしゃいでるだけでしょ、みんな」
海未「私も実際この目で見るまでは、そんなところだろうと思っていたのですが……」
凛「あ、それと日本語もペラペラだったよー。凛も安心だにゃー」
にこ「ふ、ふん。だとしても、きっと性格は悪いに決まってるわ。美貌を鼻にかけて、お高くとまってるんじゃないの?ねえ、真姫」
真姫「な、なんで私にふるのよ」
ことり「……そんな風には見えなかったけど……」
花陽「一年生のあいだでは、誰とでも分け隔てなく気さくに接してくれるって、評判になってるみたいでした」
にこ「な、何よそれ……。あんたたち、外ヅラのよさに騙されてるんじゃないの」
穂乃果「でも、そんな子だったらきっとμ'sに誘ってもうまくやっていけそうだよね」
真姫「呆れた。まだ言ってるの?昨日その話はやめにしようって言ったじゃない」
穂乃果「だってえー……」
にこ「だってもへったくれもないわよ。μ'sは、このメンバーでラブライブ出場を目指していくんだから」
カチャリ
絵里「……みんな、ちょっといいかしら」
海未「絵里、それに希……」
真姫「どうしたの?表情が冴えないみたいだけど」
希「……実は、ちょっと厄介なことになったんや」
一同「……?」
* * * *
穂乃果「7日間連続ライブ……?」
絵里「ええ、さっき例の転校生から、講堂の利用申請があったの」
にこ「ちょ、ちょっと、どういうことよそれ。その子一人でライブやるってこと?」
希「そうみたいや」
花陽「ま、まさか彼女もラブライブ出場を目指して……?」
絵里「いえ、そのつもりはないらしいんだけど……。ただ、向こうでずっとアイドル活動をやってたから、日本のみんなにも見てもらいたいと、そういうことのようよ」
真姫「それにしても7日間単独とは思い切ったことをするわね。よっぽど自信があるってこと?」
希「たぶん、そうやろうね」
ピラッ
海未「これは……?」
希「あの子の経歴や」
絵里「初めに聞いていた以上に、とんでもないキャリアの持ち主だったわ」
花陽「ふんふん……え?『アメリカンアイドル』優勝って……あの有名なオーディション番組の?」
にこ「そ、それだけじゃないわよ。母親はグラミー賞歌手、父親はハリウッドの有名プロデューサー……。超サラブレッドじゃない!」
穂乃果「よくわかんないけど、それってそんなにすごいの?」
真姫「凄いなんてもんじゃないわ」
ことり「そんな人が、どうして日本に……。しかも音ノ木坂なんかに」
希「その辺は、確かによう分からへんね」
にこ「そ、それで、もちろん断ったんでしょうね。講堂の使用は」
絵里「まさか。ちゃんと正規の手続きを踏んで行われた申請を、理由もなく却下するわけには行かないわ」
にこ「そんな……」
凛「……凛たちはどうなっちゃうの……?」
にこ「べ、別に関係ないわよそんなの。音ノ木坂のスクールアイドルは、これまでもこれからもμ'sだけなんだから」
真姫「確かに、関係ないかも知れないわね」
絵里「……」
真姫「なんせ向こうは、正真正銘のアイドルと言っても過言じゃないわけだから……」
ー下校時。
海未「穂乃果……どう思います?さっきの話……」
穂乃果「例の、転校生のライブのこと……?」
海未「はい……」
ことり「あんなに凄い子だったなんて……」
海未「こうなってくるともう、μ'sに加入してもらうかどうかという話ではなくなってしまいましたね……」
穂乃果「一人で7日間ライブやるくらいなんだもんね」
ことり「穂乃果ちゃん……」
穂乃果「……ほんとのところ、まだよく分かってなかったりするんだけど……。でも、気にしててもしょうがないんじゃないかな」
海未「……」
穂乃果「真姫ちゃんも言ってたけど、穂乃果たちはスクールアイドルなんだから、芸能人とは違うわけだし……」
海未「……そうですね」
穂乃果「私たちは私たちで、ラブライブ出場に向けて頑張って行こうよ……!」
ことり「そうだね……!」
海未「ええ、その通りです穂乃果。頑張りましょう」
穂乃果「うん……!」
ーそして、7日間ライブ初日。
真姫「……ちょっと。いま講堂の前通ってきたんだけど、すごい列ができてたわよ。あれ、ほとんど満員になるんじゃないかしら」
穂乃果「そんなに……」
にこ「ちっ、面白くないわね」
ことり「あはは……。ことりたちのファーストライブとは、ずいぶん違うね……」
海未「……」
にこ「で、どうすんのよ」
希「どうするって……?」
にこ「決まってんでしょ。敵情視察よ、敵情視察」
花陽「に、にこちゃん見に行くつもりなんだ……」
にこ「あたりまえじゃない。どうせ大したことないだろうけど、相手の手の内は知っとかないとね」
真姫「ブーイングとか、あまり品のない真似はやめてよね。μ'sの沽券に関わるから……」
にこ「な、何よ真姫。あんた悔しくないの?μ'sのお膝元で好き勝手されてんのよ!?」
真姫「それは、思うところもないではないけど……」
絵里「確かに見たい気もするけど、私たちがあまりぞろぞろと顔を出すのもね……」
海未「かなり目立ってしまいますね」
にこ「……いいわ。じゃあ、ニコ一人で行ってくる。それなら文句ないでしょ」
凛「また変装して行くのー?」
にこ「そうね。あれならニコだとは気づかれないはず……」
凛「どうだかにゃー……?」
にこ「な、何よ。何が言いたいのよ」
凛「別にー?」
にこ「と、とにかく。あんたたちはいつも通り練習してなさいよ。どうせこんなのは一時の騒ぎで、すぐにみんなの注目はμ'sに戻ってくるんだから……!」
―数時間後。
希「にこっち、遅いね……」
絵里「ライブが長引いているのかしら……」
カチャッ
にこ「……」
花陽「!!にこちゃん……!」
真姫「どうしたの?目が虚ろよ……?」
にこ「アイドル……あれが……アイドル……本物の……」
ブツブツ
ことり「ちょ、ちょっとにこちゃん?大丈夫……?」
にこ「ニコは……ニコたちのやってきたことは……」
ブツブツブツ
穂乃果「にこちゃん……?」
にこ「……」
ガクッ
希「!!にこっち……」
にこ「……」
花陽「大丈夫……?」
にこ「……悪いけど、今日は帰るわ。ちょっと疲れちゃった……」
真姫「え?ライブの感想は?」
凛「やっぱり大したことなかったのかにゃ……?」
にこ「……それはまた、おいおい話すわ。じゃ、お疲れ……」
穂乃果「にこちゃん……」
* * * *
希「どう思う?さっきのにこっちの様子……」
真姫「はっきりとは口にしなかったけど、あれは……」
絵里「転校生のライブに、かなりの衝撃を受けたようね」
ことり「そんなにすごいなんて……」
希「あの負けず嫌いのにこっちがあそこまで打ちのめされる言うんは、相当やね」
花陽「……」
真姫「で、どうするの……?」
絵里「……ここで私たちがあれこれ考えても仕方ないわ。私たちは今までどおり、やれることをやりましょう」
真姫「そうね。それしかないわね……」
絵里「とりあえず、今日はもう遅いから解散しましょう。明日はまた、いつもどおりの練習メニューということで……。それでいいわね?穂乃果」
穂乃果「……」
絵里「穂乃果?」
穂乃果「え?……ああ、うん、そうだね」
ー7日間ライブ2日目。
穂乃果「部室に行く前に、ちょっと講堂の様子を見てこようかな……」
穂乃果「!!」
穂乃果「すごい人だかり……。あれがみんな転校生のライブに……?」
穂乃果「穂乃果たちがあれだけのお客さんを集めるのに、あとどれだけ頑張ればいいんだろう……」
穂乃果「……」
トボトボ
カチャッ
穂乃果「みんな、遅くなってごめん……」
一同「……」
穂乃果「……?どうしたのみんな……って、あれ?にこちゃんは?」
真姫「にこちゃんならいないわ」
穂乃果「今日もお休みなんだ。体調が戻らなかったのかな……」
希「そうやないんや」
絵里「……穂乃果。にこは、μ'sを脱退したわ。昨日限りでね」
穂乃果「え!?」
一同「……」
穂乃果「じょ、冗談だよね?にこちゃんが、一番長くアイドル活動をやってたにこちゃんが、そんなわけ……」
海未「いえ。にこは、アイドル活動そのものを辞めたわけではありません」
穂乃果「……?それってどういうこと……」
希「うちと絵里ちのところに言いにきたんや。にこっちは今日から、あの転校生と一緒にやる、って」
穂乃果「……!!」
絵里「昨日あの後、転校生に声をかけられたそうよ。一緒にやって欲しいって……」
海未「向こうは向こうで、一人よりも多人数での活動に興味があり、メンバーを探していたみたいです。それで、昨日ライブに来ていたにこに気づいて……」
穂乃果「そんな……」
真姫「……私、にこちゃんを見損なったわ。ずっと苦労を共にしてきたのに、こんなにあっさり……」
希「まあにこっちは、一人で活動してた期間も長いからね。μ'sに入ったのだって、アイドルへの想いがあってこその話やろうし……」
絵里「にこの想いによりふさわしい受け皿が見つかったということでしょうね……」
穂乃果「……」
ことり「μ's、8人になっちゃったね……」
凛「……練習、どうするの……?」
絵里「それはいつもどおり……と言いたいところだけど、この様子だとちょっと難しいかも知れないわね……」
一同「……」
希「……絵里ち。ほな、今日はうちらで行ってみよか?例の転校生のライブ」
絵里「え……?」
希「気にせえへん、って言うてももう気にせざるを得ない状況になってしもたし、どれほどのもんかはうちらも知っといた方が……」
絵里「……そうね。私たちも自分の目で見ておいた方がいいのかも……」
凛「大丈夫かにゃー……?」
希「別に、ちょっと見に行くだけや」
絵里「じゃあ、今日はこれで解散ということで。明日からまた気分を入れ替えて練習よ……!」
一同「はーい……」
ー3日目。
穂乃果「……」
カチャッ
ことり「あっ、穂乃果ちゃん……」
穂乃果「あれ……?3年生は……?」
海未「……」
花陽「それが……」
凛「誰も……来ないんだにゃ……」
穂乃果「え……?絵里ちゃんも、希ちゃんも……?」
海未「はい……」
真姫「昨日のライブ終了後、転校生が絵里と希に声をかけるところが目撃されたそうよ」
穂乃果「それって……」
海未「つまり、そういうこと……でしょうね」
穂乃果「そんな……絵里ちゃんに希ちゃんまで……」
真姫「……あの二人は最後に入ってきて、在籍期間も一番短かったしね。言うほど、μ'sへの思い入れもなかったのかも……」
穂乃果「そんな!そんなはず、ないよ……!」
真姫「じゃあ、これはどう説明すればいいのよ」
穂乃果「それは……」
真姫「とにかく、今日は私も行ってみる。そしてライブが終わった頃を見計らって、3年生組を説得してみるわ。もう遅いかも知れないけど……」
花陽「うまくいくんでしょうか……」
真姫「わかんないわよ。でも、こうしてじっと待ってても始まらないじゃない。じゃ、私行ってくるから」
穂乃果「……」
ー4日目。
一同「……」
凛「真姫ちゃんが……来ないにゃ……」
花陽「だ、誰か助けて……!」
海未「まあ、半ば覚悟していたことではありますが……」
ことり「そんな……」
海未「別に、真姫のことを悪くいうつもりではありませんが……。これまでの状況からすると、真姫も……」
ことり「どうしよう、穂乃果ちゃん……?」
穂乃果「……花陽ちゃんたちは、どうするの?」
花陽「えっ……?」
穂乃果「アイドル好きの花陽ちゃんのことだし、気になってるんでしょ?転校生のステージ」
花陽「それは……」
穂乃果「だったら見ておいでよ。じゃないと、きっと後悔しちゃうよ」
ことり「穂乃果ちゃん、いいの……?」
穂乃果「……うん。素晴らしいライブを見ておくことだって、あとあと、ミュ、μ'sの活動に役立つだろうし……」
花陽「凛ちゃん、どうする……?」
凛「で、でも、見るだけだったら別に……」
花陽「!そ、そうだよね、見るだけなんだし……」
凛「うん、見るだけ見るだけ……!」
穂乃果「そ、そうだよ。見るだけなんだから見ておいでよ……!」
花陽「じゃあ、私たちちょっと行ってきますね……!」
* * * *
海未「穂乃果……あの子たち、戻ってくると思いますか……?」
穂乃果「わかんないよ……そんなの」
ことり「穂乃果ちゃん……」
穂乃果「でも、花陽ちゃんすごく例のライブに行きたそうだったし……。そりゃそうだよね、見に行った誰もが魅了されちゃうような、そんなライブなんだもん。行かせてあげないと可哀想だよ……」
海未「穂乃果、あなたそこまで気を使って……」
穂乃果「そ、それに明日になったらさ。凛ちゃんと花陽ちゃんだってちゃんと顔を出してくれるかも知れないし、ひょっとしたら他のみんなも……」
ことり「……」
海未「7日間ライブは残り3日……。それが終わったとき、私たちは……」
穂乃果「……」
ー5日目。
海未「凛と花陽は、やはり姿を見せませんか……」
穂乃果「……結局、この3人だけになっちゃったね……」
ことり「そう……だね」
海未「……」
穂乃果「あはは、なんか3人だと、部室がすっごく広いね」
海未「穂乃果、あの……」
穂乃果「でも、元はと言えば穂乃果と、海未ちゃんと、ことりちゃんの3人で始めたμ'sなんだし……。それが元に戻っただけだよ」
ことり「……」
海未「穂乃果、私は……」
穂乃果「大丈夫。3人いればなんとかなるよ。だから頑張ろう、海未ちゃん、ことりちゃん」
ことり「うん……」
海未「……」
穂乃果「今日はお店の手伝いがあるから、穂乃果は先に帰るね。じゃ、また明日」
カチャッ
バタン
ー穂乃果邸。
穂乃果「みんないなくなっちゃったけど……」
穂乃果「海未ちゃんとことりちゃんがいてくれれば、穂乃果は大丈夫」
穂乃果「三人からの再スタートだけど、頑張ろう……!」
穂乃果「!あれっ……?携帯がない……」
穂乃果「部室に忘れちゃったのかな……取りに戻らないと」
穂乃果「何だか……空が暗い。早く行かないと、雨が降ってきそう……」
ー学校。
穂乃果「部室の灯りがついてる……。海未ちゃんたち、まだいるのかな?」
ヒソヒソ
穂乃果(中から話し声……)
穂乃果(でも、ちょっと様子がおかしいような……?)
ことり「雨が降り出したみたいだよ。海未ちゃん……」
海未「そのようですね……」
ことり「……」
海未「……ことりは、どう思いますか……?」
ことり「どうって……」
海未「もう、答えは出ているのでしょう?」
ことり「でも、穂乃果ちゃんに悪くて……」
穂乃果(え……?何の話……?)
海未「ことりの気持ちは分かります。私だって辛いですから……」
ことり「……」
海未「しかし、あのライブを見てしまっては……」
ことり「μ'sのみんなも、本当に楽しそうに歌ってたね……」
穂乃果(!!二人も、転校生のライブに行ったんだ……!)
海未「彼女たちはもう「μ's」ではありませんよ、ことり」
ことり「あ……」
海未「しかし、私たちμ'sがやろうとしていたことを、あの転校生はもっとずっと上手く成し遂げようとしているのかも知れません……」
ことり「……」
海未「考えてみれば、元々μ'sを始めた目的は、スクールアイドル活動を通じて音ノ木坂学院の人気を上げ、廃校を回避するため……」
ことり「今日のあのライブの感じなら、音ノ木坂に来たいと思う子もぐっと増えるよね……」
海未「ええ。おそらく、μ'sではどんなにがんばっても集められないほどの生徒が……」
ことり「そう……だね……」
海未「冷静に考えれば……答えは一つです」
ことり「ことりたちも……あの転校生のところへ……」
穂乃果(……!!)
海未「穂乃果には、私の方から話しておきます。ちゃんと説明すれば、きっと分かってくれるでしょう」
ことり「穂乃果ちゃんは、どうするのかな……」
海未「それは分かりません……穂乃果が決めることですから」
ことり「うん……」
海未「穂乃果はもともと、転校生を新メンバーに入れようとしていたわけですから、考えようによっては、形こそ違えど同じ結果になったと言えるのかも知れません。ただ……」
ことり「……」
海未「この場合、もう「μ's」という存在は、この世から消えてなくなってしまうわけですが……」
穂乃果(……!!!)
ダッ
ガシャン
ことり「!!……誰?」
海未「穂乃果……?」
ことり「待って、穂乃果ちゃん……!」
ザァァァァ………
バシャバシャバシャッ
ハアッハアッ
穂乃果「……海未ちゃんに、ことりちゃんまで……」
穂乃果「みんな、いなくなっちゃう……」
穂乃果「μ'sが……μ'sがなくなっちゃう……!」
穂乃果「どうしたらいいの……」
ザァァァァァ…………
続きは後ほど
なんという惨状w
ちょっと様子見ます
なんという惨状w
ちょっと様子見ます
ー翌日。7日間ライブ6日目。
シトシト
穂乃果「雨……止まないな……」
穂乃果「どうしよう。部室に行くのが怖い……」
穂乃果「でも、穂乃果が行かないと、μ'sは……」
穂乃果「……」
穂乃果「……もしかしたら、みんな戻ってきてるかも知れないよね……」
穂乃果「みんなは無理でも、海未ちゃんやことりちゃんは、きっと……」
穂乃果「お願い、誰か……!」
カチャッ
シーン……
穂乃果「あはは……」
穂乃果「そうだよね」
穂乃果「誰も、いるわけないよね……」
ポツーン
穂乃果「とうとう、穂乃果ひとりになっちゃった……」
穂乃果「ついこの間までみんなの笑い声であふれてたこの部屋が、一人だとこんなに寂しい……」
ウルッ
ボロボロボロ
穂乃果「泣いちゃ……泣いちゃ駄目だよ……。一人でも頑張らないと……」
穂乃果「でも、何を頑張るの……?」
穂乃果「海未ちゃんの言うとおり、転校生の新しいアイドルグループの方が、きっと音ノ木坂のためになる……」
穂乃果「じゃあ、穂乃果も一緒にグループに入れてもらって……」
穂乃果「……入れてもらって、どうするの?穂乃果には何が出来るの?」
穂乃果「絵里ちゃんや希ちゃんみたいに、みんなの面倒を見ることもできない」
穂乃果「にこちゃんみたいにキャラづくりを考えたりできない。真姫ちゃんみたいに曲も作れない」
穂乃果「凛ちゃんほど運動神経も良くないし、花陽ちゃんほどアイドルに詳しくもない」
穂乃果「海未ちゃんみたいに歌詞も書けないし、ことりちゃんみたいに衣装も作れない」
穂乃果「穂乃果に出来ることなんか、何もない……」
穂乃果「転校生の子は歌も踊りもうまくて、可愛くて、みんなからも好かれて……なんでも出来るっていうのに」
穂乃果「あはは。私の居場所なんて、どこにもないんだ……」
穂乃果「私の居場所は……μ'sは、もうどこにもないんだ……」
ボロボロボロ
穂乃果「……」
穂乃果「……」
穂乃果「……あれ?ここ、どこだろう……」
穂乃果「真っ暗で何も見えないよ。それに、なんだかとっても寒い……」
???「……穂乃果」
穂乃果「……?」
???「穂乃果」
穂乃果(誰だろう?すごくきれいな声……)
穂乃果「……誰?どこにいるの?」
???「あなたこそ誰なの?穂乃果」
穂乃果「……?穂乃果は、穂乃果だよ」
???「……あなたは行かないの?」
穂乃果「行くって……どこに?」
???「みんなのところに」
穂乃果「みんなはもう行っちゃったよ」
???「なら、追いかけないと」
穂乃果「無理だよ。もう、穂乃果の追いつけないところに行っちゃったから……」
???「……」
穂乃果「みんなはそこで、新しい居場所を見つけたみたい……。穂乃果がいなくなっても、みんなは何も困らないよ。穂乃果がいなくなっても、もう、誰も……」
???「……だから諦めるの?」
穂乃果「だって、しょうがないよ……!穂乃果がみんなを惹きつけられるところなんて、何にもないんだから……。歌も、踊りも、見た目も、スタイルも」
???「それは、あなたの欲しいものなのかしら」
穂乃果「そりゃそうだよ。誰だって、上手く歌いたいし踊りたいし、顔やスタイルだって……」
???「誰か、ではなくてあなたの欲しいものを聞いてるのよ。穂乃果」
穂乃果「私の……?」
???「あなたの本当に欲しいものは何なの、穂乃果……?」
穂乃果「穂乃果が……欲しいもの……」
???「本当はもう、気づいているはずよ」
穂乃果「穂乃果は……」
???「……」
穂乃果「……」
穂乃果「……!」
パチッ
穂乃果「……ここは……」
キョロキョロ
穂乃果「部室……?」
穂乃果「いつの間にか、眠っちゃってたんだ……」
穂乃果「何か夢を見てたような気がするけど、よく思い出せない……」
チラッ
穂乃果「雨は……止んでるみたい」
穂乃果「今日のライブはもう終わったのかな」
穂乃果「帰ろう……」
ー穂乃果邸。
穂乃果「……ただいま」
雪穂「あっお姉ちゃん!おかえり!」
穂乃果「どうしたの、雪穂?そんなにはしゃいで」
雪穂「えへへ。それが……」
雪穂「明日、音ノ木坂にライブを見に行くことになったの!!」
穂乃果「!!!」
雪穂「すごく綺麗な人が転校してきたんだってね?お姉ちゃんも一緒に歌うの?」
穂乃果「私は……」
雪穂「μ'sの人たちも、一緒にステージに立ってるって聞いたよ?」
穂乃果「……私は、歌わないから」
ダッ
雪穂「あっ……お姉ちゃん?」
穂乃果「……」
カチャッ
バタン
雪穂「……部屋に閉じこもっちゃった」
雪穂「お姉ちゃん、どうしたのかな……」
穂乃果「……」
穂乃果「どうしよう……雪穂に悪いことしちゃった」
穂乃果「……あんなに楽しみにしてるのに……」
穂乃果「ううん。雪穂だけじゃない。みんな、明日が待ち遠しいんだよね……」
穂乃果「クラスの子たち……いや、音ノ木坂の、全ての生徒たち」
穂乃果「雪穂や亜里沙ちゃんみたいな、これから音ノ木坂に入ってくる子たち」
穂乃果「そして、μ'sのみんな……」
穂乃果「……誰もが、明日のライブを楽しみにしてる」
穂乃果「穂乃果以外の、誰もが……」
穂乃果「……」
チラッ
穂乃果「……明日の日曜日は、いよいよ最終日……」
穂乃果「海未ちゃん……ことりちゃん……μ'sのみんな……」
穂乃果「……」
穂乃果「よし」
穂乃果「……明日は、穂乃果も見に行こう」
穂乃果「そして、笑顔で応援してこよう」
穂乃果「そうしないと、みんな気持ち良くμ'sとお別れできないよね……」
チラッ
穂乃果「ことりちゃんの作ってくれた衣装……。ちょっときつかったりもしたけれど」
チラッ
穂乃果「海未ちゃんが置いて行った、歌詞ノート……。一人で読むと、なんだか恥ずかしかったりするけれど」
チラッ
穂乃果「合宿で撮った、みんなの……μ'sの写真。つい昨日のことみたいに思い出せるけど」
穂乃果「だけど……だけど、みんなお別れなんだ」
穂乃果「これでお別れなんだ……」
ボロボロボロ
穂乃果「泣いちゃだめ……泣いちゃだめだよ、穂乃果」
穂乃果「みんなを、みんなの新しい出発を……ちゃんと、見届けないと……」
ーそして、7日間ライブ最終日の朝。
穂乃果「みんなー!おはよう!」
海未「!穂乃果……」
ことり「穂乃果ちゃん……」
穂乃果「今日がライブ最終日だね。穂乃果も見に来たよー!」
にこ「あんた……ニコたちのことを責めないわけ?」
穂乃果「……それは、みんなの決めたことだから……。みんなが選んだ道だったら、穂乃果は応援するよ」
絵里「穂乃果、私たちは……」
ことり「穂乃果ちゃん。穂乃果ちゃんも一緒に……」
穂乃果「……ううん」
海未「穂乃果……」
穂乃果「穂乃果の役割は、もう終わったから……。ほら、みんなのライブを見に、お客さんだってこんなに……」
ガヤガヤ
客A「今日のライブ楽しみだね……!」
客B「昨日も来たけど、すっごく良かったよ」
ガヤガヤ
絵里「……」
穂乃果「すごいよ、みんなも……転校生の子も……。穂乃果だったら、とてもここまで……」
海未「……」
にこ「……そう。じゃあ、ニコたちも無理にとは言わないわ」
絵里「残念ね……」
穂乃果「……ほらほら。もうすぐ始まっちゃうよ?こんなところでぐずぐずしてちゃだめだよ、みんな」
ことり「うん……」
穂乃果「じゃあ、客席から応援してるからねー!みんな、ファイトだよ……!」
穂乃果「……」
穂乃果「これで、良かったんだよね……」
ウルッ
穂乃果「だ、駄目だよ……。まだ泣いちゃ駄目……。みんなのステージが、涙で見えなくなっちゃう……」
ーライブ会場。
穂乃果「すごいお客さん……。満員どころか、立ち見まで出てる……」
穂乃果「クラスのみんな……。あっ、雪穂と亜里沙ちゃんもあそこに」
穂乃果「あっちには、ことりちゃんや真姫ちゃんのお母さんたち……」
穂乃果「ここにいる人たちみんな、このライブを見るためにやって来たんだ……」
穂乃果「μ’sのライブも、こんな満員のお客さんの前でやってみたかったな……」
ガヤガヤ
周りの客「始まるよ……!」
ワァァァァ……!!!
穂乃果「……あれが、噂の転校生……!!」
穂乃果「すごい……。ステージからこんなに離れてても、オーラが伝わってくるみたい」
穂乃果「ダンスのキレも、本当にプロ並み……。穂乃果が何度練習してもうまく出来なかったターンも、あんなに簡単に……」
穂乃果「!!あんな高音、穂乃果には出せなかったな……」
穂乃果「ああ、それにしても、なんてきれいな声なんだろ……」
穂乃果(……?でも、なんだか不思議……。今日初めて聞くはずなのに、あの声をどこかで聞いたことがあるような……)
穂乃果(……だめだ。思い出せないよ)
客A「やっぱり凄いよね、あの子」
客B「だけど、全体的にレベル高いよ。他の子たちも」
客A「あれって、スクールアイドルやってた子たちだよね。こんなに凄かったんだ」
穂乃果「みんな……」
穂乃果「こんな風に、客席から見るのは初めてだけど……。やっぱり、みんなすごい……!」
穂乃果「海未ちゃんも、ことりちゃんも……」
穂乃果「絵里ちゃん、希ちゃん、にこちゃんも」
穂乃果「そして真姫ちゃんに凛ちゃん、花陽ちゃんも」
穂乃果「みんな、きらきら輝いてる」
穂乃果「ついこの間まで、穂乃果もあの中で一緒に……」
穂乃果「……」
* * * *
客A「ああ、すごかったね……」
客B「次が、最後の曲だよ」
ザワザワザワ
穂乃果「……このメンバーなら、きっと音ノ木坂も注目されて、たくさん生徒を集められるよね」
穂乃果「それだけじゃない。ラブライブ出場、ううん、優勝だって……」
穂乃果「……おめでとう、みんな。穂乃果も、陰ながら応援してるね……」
???「……本当にそれでいいの?」
穂乃果「えっ?」
穂乃果「今の声……誰?」
キョロキョロ
穂乃果「周りのお客さんは、みんなライブに夢中……」
穂乃果「じゃあ、誰が……?」
穂乃果「……」
穂乃果「それでいいの、って言われても……」
穂乃果「仕方ないよ……」
穂乃果「……」
バチバチバチバチ
ワァァァァァァ……
穂乃果(でも、本当に、本当にいいの……?)
穂乃果(……ううん。いいも悪いもないよ)
穂乃果(だって、穂乃果がいなくても、みんなはあんなに輝いて……)
穂乃果(……)
アンコール……!アンコール……!
穂乃果(でも)
穂乃果(でも、穂乃果の気持ちは……?)
穂乃果(穂乃果は、みんなと同じステージに立ちたくないの……?)
穂乃果(どうなの……?)
穂乃果「……」
ワァァァァァァ……!
穂乃果「……歌いたい」
ボソッ
周りの客「……?」
穂乃果「踊りたい……。みんなと一緒に、ステージに立ちたい……!」
ワァァァ……ワァァァ……
穂乃果「確かに穂乃果がいなくても、みんなにとっては何も変わらないかも知れない」
穂乃果「それどころか、みんなの足を引っ張っちゃうだけかも知れない」
ワァァァァァ……
穂乃果「でも」
穂乃果「……穂乃果は歌いたい。踊りたい。みんなと一緒に、μ'sとして……ステージに立ちたい」
穂乃果「この気持ちだけは……消せない!!」
ワァァァァァァァァァァァ……!!
穂乃果「何で……何で今まで気づかなかったんだろう。こんなに単純なことなのに」
穂乃果「もう遅すぎるかな……」
穂乃果「……でも、今諦めたら……穂乃果のこの気持ちは、世界から消えてなくなっちゃう」
穂乃果「それだけは……絶対にいやだ……!」
穂乃果「……よし」
スーッ
穂乃果「……」
キッ
穂乃果「―みんなー!!μ’sのみんなー!!!!」
ワァァァ……ワァァァ……
穂乃果「もう一度、穂乃果と一緒に……」
ワァァァ……!!
穂乃果「だめ……歓声にかき消されて、声が届かない……!」
穂乃果「すみません、ちょっと通して……。前に行かせてください!!」
ワァァァ……ワァァァ……!
穂乃果「μ’sのみんな……!やっぱり穂乃果は、みんなと一緒にアイドルがしたいの」
穂乃果「これからも、ずっとμ’sとしてやって行きたいの……!だから、みんな……」
ワァァァァァァァ……!!!
穂乃果「お願い、もう一度、穂乃果と一緒に……」
ワァァァァァァァァァァァ……!!!
穂乃果(ああ、なんて遠いの……)
穂乃果(ステージの上の光はこんなにも眩しくて、手を伸ばせばすぐに届きそうに見えるのに……)
穂乃果(それなのに、こんなにも遠い……)
穂乃果(お願い、あの光に、届いて……)
穂乃果(私の……)
穂乃果「……私たちの、μ’sの、夢……」
穂乃果「みんな……!!!」
???「……ちゃん。穂乃果ちゃん」
穂乃果「ん……」
ことり「穂乃果ちゃん。大丈夫?」
穂乃果「……あ、あれ……?」
にこ「まったく。やっと目が覚めたのね」
穂乃果「ここは……?」
にこ「部室に決まってるじゃない。なに寝ぼけてんのよ」
海未「大丈夫ですか?かなりうなされていたようですが……」
穂乃果「えっと……」
絵里「練習が終わってここでお喋りしていたら、穂乃果だけいつの間にか居眠り」
希「最近はハードな練習が続いてたし、みんなで起こさんとこう言うて、そっとしといたんや」
穂乃果「そう……なの?」
穂乃果(じゃあ、ずっと夢だったんだ)
穂乃果(なんだか、夢の中でも夢を見てたような気がするし、変な気分……)
凛「ねえねえ、どんな夢を見てたのー?」
真姫「相当ひどいうなされようだったわよ」
希「なんやったら、うちが夢占いしたげよか?」
穂乃果「うーんと……。話せば長くなるんだけど……」
カクカクシカジカ
花陽「へぇー……」
にこ「ふーん」
真姫「なるほどね」
穂乃果「すごく……怖かった。でも、夢でよかったよ……」
凛「穂乃果ちゃんの代わりに、完璧なアイドルが現れる夢……かぁ」
穂乃果「うん……」
希「あれ……?」
絵里「……?どうしたの、希?」
希「いや、気付いたら、うちの肩に蝶々がとまってたんや」
穂乃果(え……?)
穂乃果(あの蝶、どこかで……)
絵里「あら、本当。秋も深いのに珍しいわね」
穂乃果(そうだ……!確かに、さっきの夢の中で……)
穂乃果(じゃあ、ここは……?)
真姫「でも、実際、そんな完璧なアイドル、見てみたいわね」
凛「……穂乃果ちゃんとはだいぶ違うにゃー」
にこ「正直、穂乃果ってなーんの取り柄もないからねー」
絵里「確かに、ね」
穂乃果(え……?みんな……え……?)
花陽「……海未ちゃんみたいに作詞も出来ませんし……」
真姫「もちろん曲も作れない」
希「ことりちゃんと違って衣装も作れられへんし」
絵里「はっきり言って、ダンスもまだまだね」
穂乃果(やっぱり、まだ夢から醒めてないの……?)
穂乃果(それとも……それとも)
穂乃果(お願い。悪い夢なら早く醒めて……)
にこ「ほーんと、いくら考えても、なにひとつ、思いつかないのよねー」
穂乃果(助けて。助けて……!)
希「穂乃果ちゃんが欠けただけで、μ'sがμ'sじゃなくなっちゃうような……」
絵里「私たちが私たちではなくなってしまうような……」
にこ「……そんな気持ちにさせられちゃう、理由ってのが、ね」
穂乃果「……」
穂乃果「……え?」
真姫「まったく、おかしなものよね」
にこ「つくづく不思議で仕方ないわ、我ながら」
穂乃果「みんな……?」
希「なにひとつ、っていうのはさすがに言い過ぎちゃう?にこっち」
凛「そうだよー。穂乃果ちゃんのおかげで凛たちはμ'sでいられるんだから……」
にこ「だから、それが不思議だって言ってんのよ」
真姫「まあこの話は、センターを誰にするかで揉めたときも、さんざん議論したけどね」
穂乃果「ほ、穂乃果は……」
穂乃果(夢……じゃない?それとも夢なの……?ああ、もう何がなんだか……)
にこ「……それにしても、笑っちゃうわね」
穂乃果「……?」
にこ「容姿端麗で、歌もダンスも性格も完璧な美少女って……。で、そいつのもとにニコたちが?」
穂乃果「で、でも……。もしあの子を目の当たりにしたら、絶対みんなも……」
絵里「ふふっ。かも知れないわね」
穂乃果「絵里ちゃん!どうして笑うの?」
絵里「ごめんなさい、穂乃果。でも、他でもないあなたがそんな夢を見るなんて、何だかおかしくて」
穂乃果「穂乃果にも、よく分からないけど……」
希「たぶん、夢の中のその子は、穂乃果ちゃんの理想の女の子やったんやろなあ」
穂乃果「……凄いアイドルなんだよ?何もかも完璧なんだよ?誰だって、憧れちゃうよ……」
絵里「でも、もしその子が穂乃果だったら、私たちは……μ'sは、果たしてこんな風に集まっていたかしら?」
真姫「……どうかしらね」
凛「うーん……」
花陽「ちょっと違うような……」
穂乃果「……みんな、穂乃果に気を使ってくれなくてもいいよ。今はそう言ってくれるけど、あんな凄い子が現れたら、きっと……」
にこ「はっ。あんた、ほんっとに分かってないのね」
穂乃果「にこちゃん……?」
絵里「ねえ穂乃果。私は思うんだけど」
穂乃果「……」
絵里「私の中にも、確かに理想の自分がいるわ。でも、結局それって、単なるイメージや言葉に過ぎないの」
にこ「分かる?そんなのじゃ、ダメなのよ……!」
穂乃果「……?」
希「穂乃果ちゃん……ほんとに欲しいものっていうんはな。そんな風に簡単にイメージできたり、言葉にできたりするもんやないと思うんや」
穂乃果「……!」
絵里「もっと繊細で、あいまいで、もやもやとしていて……でもそれに向かって手を伸ばさずにはいられない、そんな何か……」
希「うちらはみんな、そんな何かにかき立てられるようにしながら、今もここにいる」
にこ「……あんたと出会う前のニコたちはね。そうやって抑えきれないもやもやを抱えたまま、どっちに向かって歩き出せばいいかも分からずに、ただ立ちつくしていたのよ」
絵里「夢の見方も知らない、子供みたいに……ね」
穂乃果「希ちゃん……にこちゃん……絵里ちゃん」
真姫「穂乃果だって、気づいてるんでしょう?あなたの夢の終わり……」
希「……夢の終わりに、いても立ってもいられなくなった穂乃果ちゃんが必死で伸ばした手の、その先にあった―眩しい光」
絵里「あなたに導かれて、μ'sになった瞬間から……私たちはみんな、その同じ光に向かって歩き始めたのよ。穂乃果」
穂乃果「!!」
絵里「穂乃果、あなたが始めたμ’sはね。もう私たちの一部なの」
にこ「……そういうこと」
花陽「そっか。だから私たちは、一つで……」
凛「だから凛たちは、μ'sなんだにゃー……!」
穂乃果「みんな……!」
絵里「穂乃果がいなくなれば、μ’sはμ’sでなくなり、私たちは私たちではなくなる……」
希「それは、例え話でもなんでもあれへん。文字通りの意味なんよ」
穂乃果「穂乃果は、穂乃果は……!!」
ウルッ
ボロボロボロ
絵里「あらあら」
にこ「まったく。大丈夫?こんなに頼りないリーダーで……」
希「ええんやない?それも穂乃果ちゃんのええとこや」
真姫「……泣くか笑うか、どっちかにしたら?ほんと、めんどくさい人ね。穂乃果って」
希「あれ?あなたがそれを言うん?」
真姫「な、何よ。私は別に……」
凛「そうだよー。真姫ちゃんほどじゃないにゃー」
真姫「り、凛まで……。私のどこがめんどくさいのよ……!」
穂乃果「みんな……みんなと一緒で、よかった……。みんなとμ’sでいれて、ほんとによかった……!!」
絵里「ほらほら。泣くのはまだ早いわよ」
にこ「そうよ。その涙は、ラブライブで優勝するまでとっときなさいよね」
穂乃果「……うん」
グスッ
絵里「……何だか、思いもかけない話になっちゃったわね」
真姫「ねえ、ちょっと暑くない?みんなが熱っぽく話しすぎるから……」
凛「じゃ、窓開けるにゃー」
ガラッ
希「あっ……」
絵里「え……?」
ヒラッ
穂乃果「蝶が……」
凛「飛んでっちゃった……」
穂乃果「……」
穂乃果(どこにもいない)
穂乃果(……不思議だな)
穂乃果(どこからどこまでが、夢だったんだろう)
穂乃果(それとも、まだ夢を見てるのかな……?)
穂乃果(でも)
穂乃果(もし、これが夢だったとしても)
穂乃果(もう迷ったりなんか……しない!!)
穂乃果「……みんな、ごめんね。穂乃果のおかしな夢の話なんかに、付き合ってもらって」
にこ「まったくよ。こんど夢を見る時は、もうちょっとニコにいい役をやらせてよね」
穂乃果「あはは……」
穂乃果「!あ、海未ちゃん、ことりちゃんも……ごめんね、騒がせちゃって」
海未「……」
ことり「……」
穂乃果「え……?」
海未「どうします、ことり……?」
ことり「どうしよう、海未ちゃん」
穂乃果「ど、どうしたの、二人とも?」
海未「穂乃果。私たちは、許しませんよ」
ことり「酷いよ、穂乃果ちゃん。夢の中とはいえ、ことりはそんな……」
海未「私たちが、あなたを見捨てて行ってしまうような人間だと……そんな風に思っていたのですか、穂乃果?」
穂乃果「!!ち、違うよ……!あれはあくまで夢の話で……」
ことり「穂乃果ちゃん……!」
ウルッ
穂乃果「ちょ、ちょっとことりちゃん……?」
海未「ことり。どうやら穂乃果は、私たちをそんな目で見ていたようです」
ことり「悲しい……」
海未「どうでしょう。完璧な転校生は見つからないかも知れませんが、かくなる上は私たちはもうμ'sを離れて……」
ことり「そうだね。仕方ないね……」
穂乃果「な、何言ってるの?」
海未「さようなら、穂乃果」
ことり「穂乃果ちゃんさよなら」
穂乃果「!!!待って!行かないで、二人とも……!!」
海未「……」
ことり「……なーんて、ね」
穂乃果「……?」
海未「冗談ですよ、穂乃果」
穂乃果「な……」
ことり「でも、怒ったのはほんとだよ?穂乃果ちゃん!」
穂乃果「ひ、酷いよ二人とも……!」
海未「ふふ」
ことり「あははっ」
穂乃果「もー!!」
真姫「……まったく。痴話げんかはよそでやって貰えるかしら」
絵里「さあ、それじゃ解散する前に、もう一度今日のおさらいをしましょうか」
凛「えー!?まだやるのかにゃー?」
絵里「当然よ。ほら、屋上へ行った行った……!」
凛「ぶー」
花陽「あはは」
海未「……では、穂乃果。私たちも行きましょうか」
ことり「行こう、穂乃果ちゃん」
海未「ラブライブ出場……」
ことり「そして、その後も」
海未「μ’sは……私たちは一緒ですよ。穂乃果」
ことり「ずーっと、ずーっっと、一緒だよ……!」
穂乃果「うん……!」
穂乃果(……夢で見た、あの光り輝くステージ)
穂乃果(あそこまでたどり着くには、まだまだ先は長いかも知れない)
穂乃果(でも、穂乃果は歩き続ける)
穂乃果(みんなと……μ'sのみんなと一緒に)
穂乃果(いつか……あの光に手が届く、その日まで―)
ーーおしまいーー
最後まで読んでいただき、ありがとうございました
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