【艦これ】 時雨「いい雨だね」 (109)


*注意

・地の文つきSSです。苦手な方はご容赦ください。
・まったり進行の予定なので、速度は期待しないで下さると嬉しいです。
・嫁ステマなSSですが、別に提督といちゃいちゃしたりとかそんなんじゃないです。


SS速報も久々なのでお見苦しい天なるかもですが、どうぞよろしく

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 コンクリートの濡れる香りが、風に乗って運ばれてくる。

 ぽつぽつと降り始めた雨が、地面を濡らしていく。

 勢いこそ強くはないが、空を見る限りしばらく止みそうにない。

 波も穏やかで、風もゆるやか。

 曇った空が水面に映り、あたり一面、色素を失ったようにみえる。

「…………いい雨だね」

 執務室の小さな窓から見える、変わらない鎮守府の景色。

 普段より少しだけ静かな外を眺め、彼女はそう呟いた。

 妙にボーキサイトの減りの激しい資材報告書を睨んでいた提督は、その声につられるように、彼女へと目をやる。

 三つ編みにした綺麗な黒髪と、跳ねるアホ毛が特徴的な彼女は、窓の向こうをじっと見ていた。

「時雨?」

 提督の呼びかけに、時雨はゆっくりと振り返る。


「どうかしたか?」

「ううん。なんでもないよ、提督。なんとなく、そんな気がしただけさ」

「そ、そうか」

 真意を見せず、ただ口元を緩めるだけの時雨に、提督はぽかんとするしかなかった。

「提督。僕の名前、知ってるかい?」

「いくらなんでも俺はそこまでボケてないぞ? 確かに、任務受領しないまま出撃させて二度手間になったことはあるけどさ」

 馬鹿にするなよ、とちょっとだけ不満そうな顔で時雨に言い返す。

 艦娘にどうもナメられ気味な提督としては、こんな扱いは慣れたものだったりするのだが、それでもなけなしのプライドというものもある。

 慕ってくれるのは嬉しいが、一応司令官なんだぞ、と思わなくもない。

「そうじゃなくてさ。僕の名前……『時雨』の意味、知ってるかな」

「意味、か」

 辞書的意味、なんてものは知らないが、なんとなくイメージしているものはある。

「ちょうど、いまみたいな雨の事か? 調べたことはないけど」


「……そうだね。季節的にはちょっと早いけど。こんな雨のことさ」

 時雨はまた窓の外を見る。

 その碧い目は、鎮守府の景色でも、波の様子でも、雨でもなく、どこか遠くを見ているようだった。

「…………」

「ふふっ……僕が『いい雨だね』なんて言うと、まるで自分を褒めてるみたいだね。なんだか急に恥ずかしくなってきたよ」

 照れくさそうに頬をかき、彼女はまた口元を緩める。

 それから、『ちょっと席をはずすね』と言い残し、時雨は執務室を出て行った。

「…………」

 何も言えなかった。

 時雨の出て行った扉をしばらく見つめた後、思い出したかのように机の上の書類へと目を戻す。

「雨……か。あのときもそうだったな」

 丁度、ひと月ほど前だったか。時雨がこの鎮守府にやって来た日。


 その日もポツポツとした雨が一日降っていた。

『雨は、いつか止むさ』

 彼女が言っていた言葉だ。

 最初からどこか厭世的な子ではあった。

 まだまだ幼い姿に似合わない、悟ったような態度が気になったものだ。

 あのときの彼女の言葉がなにを意味しているのかなんて、考えたことはなかった。

「この雨も、いつかは止むんだよな」

 ギシリ、と。静かな執務室に椅子の音が響く。

 提督はさっきまで時雨のいた場所へ立つと、窓の外を、時雨の見ていた景色をその目におさめる。

 この雨が『時雨』だとするならば、彼女の言葉は何を意味してるのだろう。

 降りしきる雨を見つつ、提督はふぅと息を吐いた。

 肺の中いっぱいに雨の匂いを取り込んだような気分だった。

「いい子だからな」

 そんな事は提督自身が一番知っている。

 もちろん、他の艦娘たちだってそう。

 はじめは不安で仕方がなかった提督という重荷も、個性豊かな彼女らに囲まれ、いつだったか楽しむようにさえなっていた。

 だからこそ。

 そんな彼女らを戦地に赴かせなければならないからこそ。

 せめて鎮守府にいる間は、彼女らにいつも笑顔でいて欲しい。

 仲良く楽しくいて欲しい。

 常々考えていたことだ。

「なんとかしないとな」

 出て行った時雨を追いかけることはまだ出来ない。

 彼女のあぁいったところがダメというわけではないし、否定するわけでもない。

 それでも、少女らしく笑って欲しい。

「まだ、何をどうしていいか分からないけど、さ」

 独白は雨音に吸い込まれ、誰にも聞かれることなく消えていく。


 止まない雨はない。

 それでも。

 あの雨だけは。

 止まないようにしよう。




「とりあえず、あいつらにも手伝ってもらうかな」

 個性豊かなこの鎮守府の艦娘たち。

 個性豊か過ぎて一抹の不安もあるが、まぁなんとかなるだろう。

「明日から騒がしくなるかな」

 やり残した仕事に戻るべく、提督は山積みの資料の置かれた机へと戻った。


とりあえず、序章ってことで。


提督と愉快な艦娘たちが、厭世的な時雨ちゃんにちょっかいだしつつ、なんやかんやする話にしたいと思ってます。
この娘との絡みが見たいとかあればどうぞ。
ご期待に添えるかは分かりませんが、頑張ってみようと思います。

それでは、多くの時雨提督とお会いできることを祈りつつ、また今度。

加賀「ここは譲れません」
時雨「ここは譲れない」
だし似てるのかな

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